ライナー「エレン、ちょっといいか。話があるんだ」エレン「?」 (20)

エレン「何だよ?」

ライナー「俺達は五年前、美少女Vチューバーとしてデビューした」

エレン「はあ!?」

ライナー「俺が『華部多クル』でベルトルトが『蝶出カイ』だ」

ベルトルト「!?」

エレン「なに言ってるんだよ、お前……」

ベルトルト「な、何を言ってるんだ、ライナー!」

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ライナー「俺達の目的は、誰もが目を奪われていく完璧で究極のアイドルになって、この壁の中の人類全てを虜にする事だ」

ベルトルト「…………」

エレン「はあ!?」

ライナー「だから、エレン。お前もアイドルVチューバーにならないか。お前となら、新しい魅力的なユニットを組めると思うんだ」

ライナー「わかるだろ?」

エレン「いや待て、全然わかんねーぞ!」

ライナー「だから、俺達と一緒に美少女Vチューバーになってくれって言ってんだよ」

エレン「……はあ!?」

ベルトルト「…………」

ライナー「急な話ですまんが、今から一緒に来てくれ」

エレン「今からって……どこに行くんだよ!」

ライナー「そりゃ言えん……。だが……まあ……」

ライナー「俺達の『故郷(バーチャル世界)』ってやつだな」

ライナー「で、どうなんだよ、エレン。悪い話じゃないだろう」

ライナー「こっちに来れば、お前も美少女アイドルとして活躍出来るんだからな」

エレン「…………どうだろうな」



エレン(……参ったな)

エレン(昨日からとっくに頭が限界なんだが……)

【12時間前】


ハンジ「皆、聞いてくれ」

ハンジ「知っての通り、私達、調査兵団の目的は、Vチューバーが性別を偽ってないかの調査だ」

ハンジ「前回の調査では、怪しいと思われていた女性Vチューバーの『芽型打カラ』の正体が『アニ・レオンハート』。つまり、女性だという事が判明し問題はなかった訳だが……」

ハンジ「その調査の過程で別の疑惑が発覚した」

ハンジ「人気Vチューバーアイドルの『華部多クル』、同じく人気Vチューバーアイドルの『蝶出カイ』」

ハンジ「この二人がボイスチェンジャーを使ったバ美肉おじさんではないかという疑惑だ」

ハンジ「何故、その疑惑が出てきたかと言えば、これだ。この配信を見てくれ」ピッ

【再生中】


華部多クル「ハーイ、こんばんはー。究極の美少女アイドル、華部多クルだよー」

蝶出カイ「同じく、究極の美少女アイドル、蝶出カイです。みなさん、元気ですかー?」

華部多クル「今日もー、2人の可愛いとこ、いっぱいいっぱい見せちゃうんでー」

蝶出カイ「楽しみにしていて下さいね、うふっ」

華部多クル「じゃあ、いつもの自己紹介も終わったし早速いってみましょうかー。今日は最近話題になったこの怖いと評判のホラーゲーム。『巨人出口』を2人で」

ガシャンッ!!


「あ、ちょっと! 水!」

「やべ! 機材が!」



ブツッ

ピッ

ハンジ「ここだ。この最後の部分。ほんの一言だけだが、音声が切られる前、確かに野太い声が入ってる」

ハンジ「そして、二人はこの後すぐに配信を切りアーカイブも消去した。今、再生したものは視聴者が録画していたものだ」

ハンジ「そして、この後の配信で、これはスタッフの声が入ったものだと2人は釈明しているが、果たしてそれは本当だろうか」

ハンジ「機材に水がかかった事でボイスチェンジャーが壊れ、本人の声がたまたま入ってしまったという可能性も十分にある」

ハンジ「そこで君達に聞きたい。『華部多クル』と『蝶出カイ』、この二人。本当に女性なのだろうか。意見を聞かせてくれ」

アルミン「そんな、あの二人が実は男かもしれないなんて……」

サシャ「そんな感じは全くありませんでしたよ。そうですよね、ミカサ」

ミカサ「……ええ。違和感みたいなものはありませんでした。特に『華部多クル』は化粧品にも詳しかったですし」

サシャ「そういえば、『蝶出カイ』は痴漢された経験があるって配信で言っていました」

エレン「そうですよ。俺も確かに聞きました。第一、あの二人は本当に完璧なアイドルで! 性格も良いし、人を騙すような人間じゃありません! 絶対に違うと思います!」


ハンジ「そうか……。なるほど」

ハンジ「皆の気持ちはわかった。ただ、こちらにも、二人が男ではないかという証言者がいてね」

エレン「証言者……?」

ハンジ「アニの部屋の隣に住んでいるヒッチという子だ。しかも、そのヒッチの証言によると、あの二人の正体は君達もよく知っている人物という事になる」

アルミン「僕達も良く知っているって……一体誰が」

ハンジ「一人は『ライナー・ブラウン』。もう一人は『ベルトルト・フーバー』」

エレン「そんな……!? まさか……!」

ハンジ「ヒッチの証言によると、その二人は何回かアニの部屋に来た事があるらしい」

ハンジ「それも、布で隠した荷物を二人とも持ってきていたそうだ」

ハンジ「そして、彼ら二人が来た日というのが、調べてみると決まって『芽型打カラ』と『華部多クル』『蝶出カイ』の三人でのオフコラボがある日でね」

ハンジ「しかも、その二人以外はアニの部屋を訪ねた人間は見ていないという」

ハンジ「となるとだ……。そういう事だよ。私の言いたい事はわかるだろう?」

エレン「わかりません! あの二人が『華部多クル』と『蝶出カイ』の正体だなんて、そんなはずがありません!!」

ハンジ「まあ、確かに。彼ら二人の正体がただのスタッフで、本物二人は隠れてアニの部屋に忍び込んだという可能性はあるよ。それは否定出来ない」

ハンジ「ただ、怪しいのは確かだろう。だからこうして皆に聞いているんだ」

ハンジ「アルミンやミカサやサシャはどう思う? 二人の正体がライナーとベルトルトかもしれないと聞いて、何か過去に思い当たる点とかはないかい?」

サシャ「そう言われても……」

ミカサ「……私は、何も」

アルミン「僕も……ありません。大体、ライナーはかなりの機械音痴で、前にみんなでパソコン用品を買いに行った時も、ライナーだけ店に入らず、何も買っていませんでした」

アルミン「だから、ライナーが美少女Vチューバーだなんて考えられ」ハッ‼

ハンジ「どうしたんだい、アルミン? 何か思い出した?」


《じゃあ、ボイスチェンジャーはどこにあるってんだ!》


アルミン「まさか……!」

アルミン「……あの時、コニーが面白そうだからとボイスチェンジャーを探していました」

アルミン「それで、その話を聞いたライナーが俺も手伝ってやると言って、僕にボイスチェンジャーがどこの店にあるのかを聞いてきました……」

アルミン「僕がその店の場所を教えると、ライナーはわざわざメモをして、マルコの方に急いで走っていきました……」

アルミン「だけど、途中でアニとぶつかって……。その拍子にアニの胸に手が当たったとかで、ライナーはアニに投げ飛ばされていました」

アルミン「ですが、ライナーを投げ飛ばした後、アニは急に方向を変えて走っていったんです」

アルミン「もしかしたら、その時、誰にも気付かれずにアニのポケットにメモをこっそり入れて、自分の代わりに買ってきて欲しいと伝える事が出来たかもしれない」

アルミン「……ライナーなら」

エレン「……おい、嘘だろ、アルミン」

アルミン「…………」

エレン「それじゃ、『華部多クル』と『蝶出カイ』の正体が、あのライナーとベルトルトだって言うのか。そんな事、あるはずが……!」

アルミン「あくまで、そうかもしれないっていう可能性の話だよ。そうと決まった訳じゃない……。僕だって、そんなの嘘であって欲しいと思ってる……」

エレン「いや、嘘であって欲しいっていうか、嘘だろ! 俺、『華部多クル』のファンなんだぞ。寝る前、毎日あの子のASMR聞いて寝てるんだからな。それなのに、その正体があのライナーやベルトルトかもしれないだなんて……!」

ミカサ「待ってエレン。どういう事。そんな話、私は聞いてない」

サシャ「私も『蝶出カイ』の料理配信が大好きなんですけど、それがあの二人かもとか……。ええと……ちょっとそれは……」


ハンジ「静かに!」

ハンジ「とにかく、今は議論は後だ。まずはあの二人を尋問するところから始めよう」

ハンジ「ここにいる全員に言っておく。二人を尋問室まで気付かれず誘導する為に、我々が疑いを抱いているという素振りは一切見せるな」

ハンジ「仮に否定したとしても、尋問室にいる間は配信は一切出来ない。つまり、その期間中、『華部多クル』と『蝶出カイ』の二人が配信を行えば、彼らはシロだ。疑いが晴れる」

ハンジ「だが、その期間中、一度も配信がなければ……彼らはクロだと言わざるを得ない」

ハンジ「その時は、素顔や素性などを公開し、過去の恥ずかしい黒歴史なども含めて一切合切全て拡散して、ネット処刑を行う」

ハンジ「奴等は人類の敵だ! 私達を欺き騙しておきながら平然としている極悪非道な人間達だ! 決して許してはいけない! また、許して良いものでもない!」

ハンジ「いいね! 何か異論は?」


シーン……


ハンジ「よし。それじゃ、行くよ!」

【現在】


エレン「お前さ、疲れてるんだよ」ポンッ

ライナー「…………」

エレン「なあ、ベルトルト。そうだろ?」

ベルトルト「あ、ああ。ライナーは疲れているんだ」

エレン「大体なあ、お前が『華部多クル』の正体だって言うんなら、何でそんな相談を俺にしなくちゃなんねえんだ」

エレン「俺が『華部多クル』の大ファンだってお前知ってるよな。スパチャも何度か送ったし、ライブ配信はほぼ全部リアタイしてる。初期の頃からのファンなんだぞ」

エレン「顔も可愛いけど、声と性格が特に可愛いってお前やベルトルトにも話したよな。結婚するなら、こんな子がいいって」

エレン「3D配信のライブなんか最高だったんだぞ。二人ともキラキラ輝いていて、あれで完璧なガチ恋勢になっちまったんだぞ、俺は」

エレン「親父の話もしただろうが。推しのVチューバーがバ美肉おじさんだったと発覚して、それからはショックでろくに仕事もせず、母さんからも見放されて離婚した。だから俺はバ美肉おじさんをこの世から駆逐してやるんだって言ったよな」


エレン「そんな俺が、その話を聞いて、わかった俺もお前達みたいに美少女Vチューバーになるって言う訳がねえだろっ!!」


ライナー「…………!!!」


ベルトルト「…………」

ライナー「…………」

ライナー「……そうか」

ライナー「……その通りだよな」


ライナー「……何を考えてるんだ、俺は」


ライナー「……本当におかしくなっちまったのか」




ベルトルト「…………」


エレン「…………」

ヒュウウー……

ピュオーー……



旗「」バキッ!!


ガタンッ、ガランコロン……








 

ライナー「そうか……」

ライナー「きっと……」


ライナー「ここに長く居すぎてしまったんだ……」


ライナー「馬鹿な奴等に囲まれて、三年も暮らしたせいだ……」


ライナー「俺達はガキで、何一つ知らなかったんだよ」

ライナー「男Vチューバーでも成功してる奴等がいるって知っていれば……俺は」

ライナー「こんな半端な……クソ野郎にならずに済んだのに!」

ライナー「もう俺には、何が正しい事かわからん!」

ライナー「ただ……俺のすべき事は!」

ライナー「自分のした行いや選択に対し!」

ライナー「美少女Vチューバーとして、最後まで責任を果たす事だ!」


エレン「……!!」


ベルトルト「ライナー! 続けるんだな、まだ、アイドルとして!!」


ライナー「ああ! どれだけ炎上しようとも、俺は『華部多クル』として生き続ける!!」

ベルトルト「僕も『蝶出カイ』をやめない!!」




エレン「こんのっ!!! 裏切り者がああああっ!!!」




END

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