女友「アンタの体質って何なの?」男「…」 (527)

倉庫

女友「ったく本当に…まんまと捕まっちゃうなんて」

男「…」

女友「ねえアンタ、この街に住んでるなら〝体質〟ぐらい持ってるでしょ」

男「…」

女友「…なら、ここは一先ず脱出する為に協力しなさいよ」

男「むぐぐ」ゴソゴソ

女友「変に声を出すな。見張りの奴にバレたらどうすんのよ」

男「…」

女友「見る限りだと…見張りは三人ね、アタシ一人じゃちょっとキツイかも」

女友「だからアンタに手を貸して欲しいのよ。わかる?」

男「むぐ…」

女友「…とりあえず縄を解いてっと」パラリ

男「…」

女友「なによ。アンタも解いてほしそうな顔ね…ま、協力してくれるならやってあげてもいいケド?」

男「…」コクリ

女友「良い判断。じゃあ解いてあげる」パラリ

男「…?」

女友「なに? 足の拘束だけでも十分でしょ?」

男「…むぐ」

女友「猿轡と腕の拘束はそのままよ。でも、感謝しなさいよね」

女友「さて、じゃあ──」

女友「──大丈夫? 平気? どこか怪我してない?」

「大丈夫、へいき」

女友「…よかった。じゃあ解いてあげるから待ってて」

女「うん」

男「……」

女友「これでよし。さて、これから脱出するわよ」

女「彼のは解いてあげないの?」

女友「良いの。相手は男よ? 一応ハンデは負わせておかないと」

男「……」

女友「それにどうしてここに一緒に捕まってるのか…それも気になるし、嫌な予感もするのよ」

女「わかった。貴方がそういうのなら」

女友「それにしてもやけに警備が多いわね。あの学校──『西林校』は人手が足りてるのかしら」

女「……」

女友「今のところだとアタシたちが通ってる『南火校』と一々揉めてるし、」

女友「…けが人が多くて人手が足りないと思ってたけれど、そうでもないみたいね」

男「むぐ」

女友「なに? ああ、アタシたちは南火校の生徒よ。アンタの制服は、『東風校』みたいね」

女友「あの甘ちゃん共が通ってる共学校…
   …なんでその生徒が西林校生徒に捕まってんのよ」

男「……」

女友「ま、どうでもイイケド。詳しくは聞かないでおくから、とにかく…」

女友「…ここから脱出するから、手助けしなさい」

男「…」コクリ

~~~~

女友「さっきも言ったけど見張りは三人。性別は全員男、西林校は男子校だから当たり前だけど」

女「みんな身体が凄いおおきい」

女友「下手に相手したらこっちも酷い目に合う。だからアンタに活躍してもらうわ」

男「……」

女友「まずアンタがドアを抜けて先に進む。勢い良くね、
   そしたら見張りがそっちに向かうはずだから」

女友「…後は簡単に後ろをとれる。任せなさい、問答無用で見張りの奴らをとっちめてあげるから」

男「……」

女友「だいじょーぶよ。安心して、こっちも〝体質〟持ちだから」

女「相手も体質持ちだったら?」

女友「…その時はもしかしたら、アンタの手助けが必要になるかも」

女「……。わかった、任せて」

女友「じゃあ行くわよ。覚悟はいい? アンタの活躍にかかってるんだからね」

男「…」コクリ

女友「おっけ。それじゃあ──」

女友「──脱出、開始よ」

~~~~

「はぁ~あ。見張り役ってのも退屈だよなぁ」

「だなぁ。最近は南火校とのいざこざも多いしヨォ、変に大将が張り切って大変だぜ」

「にしても、あの南火校の生徒…可愛い子多いよな? さっすが女子校なだけある」

「おいおい。別名鬼ヶ島校って呼ばれてるところだぞ? めちゃくちゃ性格悪いに決まってるじゃん」

「こっちは男子校だ! 女の子と知り合いたい!」

「何いってんだお前は──誰だ!?」

男「むぐぅっ!?」ダダダ!

「お、おいっ! 男が一人逃げていったぞ!?」

男「むぐっ! むぐぅうううううう!!」ダダダ!

ドダァ!!

「あ。コケた!」

「馬鹿だアイツ! おいそこのお前! そいつを捕まえろ!」

「よ、よし! って、待て! 後ろ後ろ! お前ら後ろッ!?」

「えっ?」

女友「ふんッ!」

ビリリリリリリリッ!!!

「んぎゃっ!?」

「なん、」

女友「きゃああ?! ご、ごめんなさい! アタシ…こんなつもりじゃなくって」

「、ってオイ! 何やってるんだ! そのスタンガンは…!?」

女友「ち、違うんですっ! アタシは別に怪我をさせたかったワケじゃなく…!」

「い、いいからそれをよこせ! オイ!」

女友「わ、わかりました…渡せばいいんですね…?」

「お、おう…わかればいいんだよ…」すっ

女友「じゃあスイッチを付けて渡しますから」

「え、ンギャアアアアアアアアア!!!」ビリビリビリビリ!!

女友「…ふぅ」

「お、お前ら! 大丈夫か!? 今から人を呼ぶ──」

女「……」


女「──ふわぁ~……」


「──から…待って…あ…? なんだ…眠気が…」パタリ

男「……っ?!」

女友「これでよしっと、案外簡単に片付いたわね」

女「うん」

男「……」もぞもぞ

女友「アンタも良くやったわ。まさかコケるとは思わなかったケド」

男「むぐ…」

女友「はてさて。見張りはとりあえず放置しておいて、後は脱出するだけね…それと」

女「わたしは大丈夫」

女友「…本当に? 頭が痛いとか、胸が苦しいとか無い?」

女「うん。平気」

女友「そっか。じゃあ行くわよ、騒ぎを聞きつけて来る奴も居るかもしれないし」

男「むぐぐ」

女友「アンタも早く起き上がって!」

~~~

女友「…変ね」

男「…?」

女友「最低でも数人と鉢合わせになると思ったけど、案外…」

女友「…まあいいわ。とにかくもう少しで出れるはずよ、早く急いで!」

女「……」

たったったった

女友「──あのドア! 確かあそこから入れられたハズ!」

男「…!」

女友「このまま行けば上手く出れるはずよ、早く───」


女友「──と、思ったけどやっぱダメ」すっ…


男「?」

ガッ!

男「……ッ!?」ドッサァアア!

男「…ッ? …ッ?」

女友「あっらー派手に転ぶものね。ちょっと足をかけたつもりだったんだケド」

男「…っ!?」

女友「ま、とにかく、なるほどね。西林校生徒が少なかった理由はコレか…」


「おい! ここかよ男どもの巣窟ってのは!」

「らしいよー? ウチラのボス…黒猫さんが言うにはそうらしいねぇー」


男「……?」

女友「このドアの外から聞こえる声……南火校生徒の…」

女友「…そっちに人を送ったってワケか。それじゃあ人も少ないわよねっと」ぐいっ

女「あ…」

女友「逃げるわよ! 南火校の『黒猫組』は最悪中の最悪なんだからッ!」だだっ

男「むぐぅっ!?」

女友「アンタは囮役よ! 黙ってあいつらに捕まってなさい!」

女「ま、待って…」ぎゅっ

女友「良いから! アンタこそあの黒猫組に見つかっちゃアウトなのよっ!?」

女「っ…」

女友「お願いっ…アタシの言うことを聞いて…! ……アンタの体質は絶対にあいつらにバレちゃだめなのよ…?!」

女「……」

女友「…ね? 気持ちもわかるけど、ここは置いていくしか無いの…っ!」ぐいっ

女「……!」

たったったったった


男「……むぐ」


どっかん!!

「やーと開いたぜぇ…ん? 誰だこいつ?」

「…東風校の制服だねぇ? なんで西林校のアジトに居るのかなぁ?」

男「………」

「見たところ縛られてんぞ。捕まったんじゃね?」

「みたいだねぇ。それに、私らにも見つかっちゃったわけだねぇ…ふふふふ」

男「……」

「おーい! オマエラぁ! こっちこい! 珍しい奴がいんぞ!」

「なになにー? お、東風じゃん。めずらーし」

「ったく体でかいだけで弱っちいなぁこいつら」

「ねぇねぇどうするぅ? この子?」

「あー…どうすっか。黒猫さんにはなんら司令もらってないしな」

「…じゃーあ、好きにしちゃおっかぁ?」

男「…むぐ」

「ぎゃははは! おまえってほんとゲスいよなぁ!」

「どうすっべ? 裸にひん剥いて、東地区のどっかにつるしとく?」

「おもしろそー! じゃあじゃあ! 写メ取ってみんなにおくろーよー」

「いいなぁそれ! ぎゃは! おい、おまえ……どうするぅ? くはは、これからちょっと…」

「…おれらの相手してもらおうかって話なんだけどもよぉ?」

男「……」

「まったく運が悪いなぁ…オレら南火校…しかも黒猫組に見つかったからには」

「それなりのご褒美ってのをあげねえとなっ?」

「きゃははは! じゃあ、まずは声をきかせてよぉ? んふふ!」

「おい! オマエオマエ! 確か───『爪が伸びやすい体質』だったよな?」

「そうだよぉん! だからぁ~」

ズズズズ…

ジャキン!

「その猿轡を切ってぇ~」ズバァ!

男「っ……」パラリ

「…貴方の声をきかせて欲しいなぁ?」

「おうおう! 何言うつもりだ? 助けを乞うつもりか? いいぜー! まぁ無視するけどな!」

「ひっでー! ぎゃはははは!」

「きゃはははっはは!!」

男「……はぁ」

男「なんともまぁ──本当に、本当に」

男「──運が悪いというのはこういう事なんだろうな」

「なんだぁ? くひひ、そう悲観すなって! もしかしたらやみつきになっかもよ?」

「楽しい思いさせたげるヨォ~?」

男「……」

男「…いや違う。俺のことを言ってるんじゃあ無いんんだよ」

男「これもまた……〝師匠〟的に言わせれば…

男「運命と思えば──いいんだろうか、わからないが」

男「──女性を泣かせてしまうことになってしまうのだな…」

「…ねぇつまんなーい! もっと泣いてよぉ? 叫んでよぉ?」

「頭が狂ってんじゃねーの? ぎゃははは!」

男「……」

「ねぇ? アンタの言葉を最後に聞いてあげる、後はずっと叫ぶか泣いてるばっかだろうし──」

「──だから、ねぇ? 何か言い残すことはあるかなぁ?」

男「…そうだな」

男「とりあえず形式として聞いておく。なぁお前ら───」



「──下着の色は、何色だ?」

~~~~

教師「神に認められた土地──『黄泉市』」

教師「今から二十年前、この辺り一帯を襲った〝大地震〟がありました」

教師「過去推定最高の震度と言われる地震は、街を壊し、人を襲い、そして命を脅かしました」

教師「生存者はゼロだと推測され、救助隊も政府も絶望に覆われていました」


教師「──しかし、そうではなかったのです」


教師「死亡者は一人も居ない。重傷者も居ない。けが人も皆無」


教師「なんと! この災害による被害は──人の命を取らなかったのです!」


教師「奇跡とは、まさにこのようなことを言うのでしょう。先生も、まさに神を信じました」

教師「後の人々はこの土地を──神が認めた場所として呼び始めるようになりました」

教師「元とあった3つの市を合併し──大きな街を作り上げ」

教師「ここを『黄泉市』と名付けたのです」

教師「しかしながら、奇跡はまだ起こりました」

教師「この大地震の後に、この3つの市に住んでいた人々に──」

教師「──特殊な〝チカラ〟が目覚め始めたのです」

教師「人々は恐れたものの、それは神が授けた力だと言う人もいれば…」

教師「…地震による危険に晒され、人の脳が進化したのだという人も居ます」

教師「政府は全力で研究を重ね──そして昨今、それは〝体質〟と呼ばれるようになりました」

教師「人が起こす奇跡のチカラ──体質は、みなさん生徒にも存在します」

教師「それは人によって多大なものもあれば、小さなものでもある」

教師「しかし、安易にその体質を使ってはいけません」

教師「この黄泉市に東西南北として設立された──」

教師「東風校、西林校、南火校、北山校」

教師「『黄泉市総合病院』を中心に立てられた学校ですが、」

教師「なんとも遺憾な話ですけれども、争いが絶えません」

教師「今から四年前にも、この四校によって行われかけた──」

教師「──〝四校戦争〟と呼ばれるもの」

教師「人を教える身として、教師という肩書きとして、先生はとても悲しい争いだと想います」

教師「ほんとうにっ…うぐっ…ほんとうにっ…先生はぁ…!」


「あーあ、また始まったよ先生の『泣き虫体質』が…」

「先生ー! もうその話何度も聞いて飽きましたー!」


教師「うぐぐ! なんて言い草ですか! 先生は皆さんの心配をしているのですよぉ!?」

「だって何かあるたびにその話するしさー」

「その四校戦争だって、未遂に終わったんでしょ? じゃあいいじゃん」

教師「そういう簡単に済む話ではありませんよぉ!? 先生はひどく悲しんでます!」

教師「あなた方のチカラは争いを生むためのものではありません! 
    人々の暮らしを良くするための、素晴らしいチカラなのですぅ!」

教師「だからぁ…だからですねぇ!」

「せ、せんせぇー! 山田クンの顔が真っ赤です!!」

教師「えっ?」

「『保温体質』みたいですからヤバイんじゃないっすか!?」

教師「な、なんと! 誰かこの中に『雨女体質』か『雨男体質』の生徒は居ますか!?」

「はーい! 私がそうですけどー?」

教師「よ、よかった! なら山田くんを雨で冷やしてあげてください!」

「そうしたいのはやまやまなんですけどー私って勝負事で三回連続で勝たないと、雨が降らせなくって~」

教師「じゃ、じゃあ隣の生徒とジャンケンをするんです! はやく!」

「はーい! じゃんけーん、ぽん!」

「せんせぇー! 山田くんの頭が燃えてます! すっげー燃えてます!」

教師「ぎゃー! し、仕方ありません! 先生の『泣き虫体質』の恩恵──大量の涙で冷やしてあげましょう!」

「じゃんけんぽん! 駄目だまた負けたー!」

「山田ぁー! ぎゃー! 火がカーテンにっ…ぁああああああああ!!!!」


男「……はぁ」


放課後

男「……」

「やぁ。今日はもう帰るのかい?」

男「ああ。今日は用事があるからな」

友「そうなんだ、見たところによると…そうだね眼鏡の修理をすると見た!」

男「見れば分かる話をするな」

友「あはは。ごめんごめん、それで? どうして眼鏡を壊したんだい?」

男「……」

友「実に男らしくないじゃないか。生真面目で、勤勉が取り柄の男が」

友「ここまでこうやって、痛い目を見てるなんてさっ?」

男「…変な言い方をするんじゃあない」

友「そうだね、あはは。ごめんね」

男「……」

友「でも、そっか。用事があるなら仕方ないよね、こっちも誘おうかなって思ってたんだけど」

男「誘う?」

友「そうだよ、クラスの皆が合コン? みたいなの開くんだってさ」

男「…お前が行くのか?」

友「誘われたからにはね。それで、君はどうする? 眼鏡の修理を終えたら来るかい?」

男「……」

友「うそうそ。冗談だってば、君が──」

友「──女の子を謙遜してるのは十分理解しているよ」

男「わかってるなら、冗談でも言うな」

友「うん、そうだね。ボクが悪かったよ」

男「じゃあ俺は行くぞ」がた…

友「うん! …あ、そうそう。そういえば最近、南火校が色々と活発みたいだから気をつけてね」

男「………」

友「四年前の戦争未遂から、南火校のトップ争いが絶えないみたいだよ。
  でも、ここ最近は沈静化してるって話もあるし」

友「どうやらボスが決まりかけてるみたいだね、ボクの予想によるとあの赤髪の彼女が───」

男「その話はするな」

友「──あ、うん。ごめん、余計な話だったね…」

男「…じゃあな」

友「うん、また明日!」

男「……」スタスタ

友「……」

友「…君は本当に四年前から変わったね」

~~~

男「……」

男(メガネ屋は確か、そうか。南地区方面だったか)すたすた

男(…東地区にもメガネ屋があれば便利なのだが、そうも上手くは行かないな)

男「……」

男「コンタクトにするべきか、だが眼鏡は掛けるだけで便利なのだが──」

男「──むっ?」

男(この路地裏──なんだ変に視界に止まる)

男「…まさかな」すたすた

路地裏

男(くさい)

男(なんともまぁ清掃がなってない場所だ。東地区とは全く違う…)

ガサゴソ

男「…?」

男(なんだあれは。ゴミ袋が蠢いている? 犬か? それとも猫か…)

がさぁ!

男「むっ!?」

男「誰だ! 出てこい!」

男(人影が見えた。人だ、なぜこんな所に)

男「三秒数えるぞ。そのうちに出てこい…出て来なければ警察を呼ぶぞ!」

がさ…

男「……」

「もっくもっく…むしゃむしゃ」

男「…?」

「ごくん──おいしい」

男「なんだ…?」

ゴロリ!

男「むぉっ!?」

女「……」

男「っ…!? お、お前…」

女「……」

男「………、……。確か昨日のやつじゃあないか」

女「誰?」

男「…いや憶えてないか? あの倉庫に捕まっていた時に…」

女「……?」

男(まったく記憶残ってないようだ)

女「そんなことよりも、そういったことよりも」

男「なんだ?」

女「ふらんすぱん持ってる?」

男「は?」

女「お腹が空いてるの。けれど、食べきってしまった」

女「美味しそうな匂いに釣られて、ここまで来てしまったけれど」

女「あの量じゃ足りないから」

男「…確かこの周辺にパン屋はあったハズだが」

男「っ…!? ま、まさかお前…! ゴミ箱に捨ててあったパンを…!?」

女「?」もぐもぐ

男「やめろやめろ! 何を食べている! そんな清潔感皆無なものを!」

女「…たべたいの?」

男「いらん! 捨てろ、良いから捨てるんだ!」べしっ

女「あ…」

ポトリ

男「な、なんてやつだ…捨てられたパンを食べるなどと…!」

女「……」

男「…南火校の奴らは、こんな奴らしか居ないのか」

女「……」

男「常識外れすぎるだろう。昨日の、あの女にしろ。俺を襲ったあの連中にしろ…」

女「………」

男「さっきから黙ってどうした。とにかく、いいか捨てられたものを食すなどという──」

女「ひっぐ」

男「──……っ?」

女「ぐすっ」

男「お、おい。何を泣いている…っ?」

女「ふらんすぱんが…」

男「……いや、悲しむなよ。どうせならこの俺が買って、」

女「うううっ」

キィイイイイイイイイン!!!

男(なん、だっ?)

女「ふらんすぱん…ううっ…」


キィイイイイイイイイン!!


男「うっ…あっ…ひっぐ…?!」ボロボロ…

男「どうした、えっ? 急に涙が、なにっ!?」

男(俺の目から涙が出てくる!? それに胸が苦しく、喉が引きつって…!?)

男「ま、まさか…これは…っ」


「──みつけたぁああああああああああ!!!!!」


男「っ!?」

ダダダダダ!!

女友「なにやってる死ねッ!」バッ!!

男「うぅおおッ!?」

ズサァアア……

女友「ちっ! 避けやがったわね…ッ…黙って当たっておきなさいよッ!!」

男「ふ、ふざけるなっ! いきなり飛び蹴りをしてくる奴が在るか!?」

女友「アンタは女を泣かせた! だから蹴る! 常識でしょ!?」

男「違う!非常識だ!」

女「ひっぐ…」

女友「あ、ああっ…だ、大丈夫っ? 泣かないでお願い…ねっ? 大丈夫だから、ほら平気よ?」

女「うん…」

女友「っ…アンタ! この子に何をしたのよっ!?」

男「なにをしたって…」

女友「許せないっ…アンタは一番しちゃいけないことをしたのよッ…!」ギリリッ

男「な、泣かせたのは悪いと思っている…! だ、だが不可抗力だ! 泣かせたかったわけじゃあない!」

女友「犯罪者は皆そういうのよッ! 見てなさいッ…女だからって甘く見てちゃ──」

女友「──怪我するわよッ!」ダダ

男(く、来る! なんでこうなるんだ…!)バッ!

バヂバヂバヂバヂ!!

男「っ……す、スタンガン……!!」

女友「ぉおお!!」ガッ!

男「ッ!?」

男(壁蹴って方向転換、だと!)

バヂィ!

男「むぉっ…!?」

女友「……ふぅ、なによ案外動くわねアンタ…けど! もうアンタの〝弱点〟は見えた!」

男「じゃ、弱点だと…っ?」

女友「ええ、そうよ。アンタの弱点がバッチリ見えた、アンタ…その眼鏡の度があってないわね」

男「…なに?」

女友「だから、そこにつけこませてもらうわ」ゆらり

男(確かに度はあってない、だが、何故バレた──まさか〝体質〟? 一体何の)

女友「ふんッ」バヂィ!

男「ぐっ!?」

女友「…人の視界って不思議よね。確かに見えてるはずなのに、それでも死角ってのが存在してる」

男「はぁっ…はぁっ…くっ…!」

女友「見えないところ。確認できないところ。限界の先にあるのは──意識の隙間」


バヂィ!


男「がぁああッ!?」

男「っ…っ…!?」ドタリ

男(電撃がっ? 何故っ? アイツは動いていない、なのに俺は──)

バヂ! バヂヂヂ!

男(──あ、あれは…地面に置かれた…スタンガン…?)

女友「よくわかってないでしょうから言っておくけど、予めそこに置いておいたの」

女友「アンタが踏むように、ってね。最大出力だから靴底も簡単に貫通するわよ」

男「っ…おま…!」

女友「壁蹴った時に放り投げておいたワケ。その眼鏡の度があってれば、見えてたかもだけど…」

女友「…ともかくチェックメイトよ。この犯罪者ッ」ビリ!!

男「んがぁっ!?」

女友「よくもッ…よくもあの子を泣かしたわね…! あの子は絶対に泣かしちゃいけないのよ…!」

女友「あの子は特別なの…! だから大切にしなくちゃいけない! 誰にも体質を知られちゃいけないッ!」

男「ッ……」

女友「はぁっ…はぁっ…だから、だからあたしは…!」

男「…おま、え…」

女友「っ…なによっ!?」

男「なんだ、以外だな…もっと…大人っぽいと思ってたぞ…」

女友「っ…?」

男「下着くまさん柄なんだな…」

女友「…へ? え、あっ! なななっ!?」

男「気にするな、人それぞれ趣味は在る…ま、俺の趣味ではないがな」

女友「こ、こここここいつッ!!! 死ねっ!!」バッ!

男「……はぁ」


男「『くまさん柄は、抱きつく場面』」

ぐるん!

女友「えっ?」ふわぁ…

男「──理由はわからん。だが、お前が怒っているのはわかった」

女友「んっ」ぎゅっ

男「──だからこそ話をするべきだ。そうだろう、人は会話ができる生き物なのだから」

女友「………」

男「知識在るべき生物は、きちんとした対話がベストだぞ」

女友「…あれ? えっ?」


女友(あたし抱きかかえられてる? 確かこいつをぶっ倒して、)

女友(地面に這いつくばったやつを、背中から電気スタンガンで痛みつけたのに)

女友(一瞬でこいつは立ち上がって、あたしを抱きかかえてて…何時の間に…!?)

ちよっとtoire

男「どうした、男に抱きつかれるのは初めてか」

女友「っ…離しなさいよっ!」ぐいっ

男「…駄目だな。離したら攻撃してくるだろう」

女友「あったりまえじゃない! アンタ一体何をしたのよっ! 目にも止まらない早で立ち上がって…!!」

女友「──急にアタシを拘束してる!! もしかして……そ、それがアンタの〝体質〟ってワケ!?」

男「………」

女友「な、なにか言いなさいよ…!」

男「…そうだ、これが俺の体質だ」

女友「や、やっぱり…だけどねぇ…!? アタシも負けてないわよ!?」

男「抵抗は無意味だぞ。既にお前は、俺のシチュエーションに入ってる」

女友「…は?」

男「……」すっ

女友「…何いってんのよ…?」

男「ほら。攻撃してくればいい」

女友「な、なに余裕ぶっこいてるわけ…? や、やるわよ!? こっちは本気よ!?」

男「いいぞ。こっちも本気だ」

女友「ッ…死んで後悔しろ!」だっ!

男「………」


ふわり


女友「え」

男「…そう何度も見たくないんだがな、お前の下着なんて」

女友「きゃあああ!?」ばばっ

男「──スカートめくりだ。ついでにお前の攻撃も当たらん」

女友「なっ…なんでなんで!? なにが起こってんのよ!?」バッ!

男「…懲りないやつだな」

ふわり!

女友「ぎゃああああー!!」

男「ほら、もう見飽きたぞパンツ」

女友「へ、へへへへ変態! なによそれ! なんなのよ!!」

男「………」

女友「アンタは何者なのよっ!? 一体、そんな体質なんて想像も……!?」

男「…気にしなくていい」

男「これでもだいぶ抑えてる方だ。もし仮に、本気を出したら───」

男「──お前はもう既に、丸裸だぞ」

女友「っ…」ぞくぅ

女友(…やばい、これ本気で言ってる…! じょ、冗談じゃないわ!)

男「……」

女友「…そ、そうなのね。アンタはアタシに手加減してるってワケね」

男「ああ、してる。俺はお前ととりあえず、会話がしたい」

女友「…なるほどね、じゃあお互いにまず自己紹介しましょうよ、ね?」

男「自己紹介?」

女友「そう、今までは確かに啀み合ってた…だけど、会話するならまずはそれからでしょ?」

男「…確かにな」

女友「わかってくれて、ありがたいわ。えっと、あたしの名前は女友よ、南火校の二年生」

男「東風校の男だ。学年はお前と同じ二年」

女友「同年代なんだ、へぇ~。それで、その」

女友「…アンタの体質ってのはなんなのかしら?」

男「随分と直球だな」

女友「い、いいじゃない! 自分の手札を曝け出すのは、潤滑に進む手助けになるでしょっ?」

男「…じゃあまずは、お前から言え」

女友「あ、あたし? あたしはそのー……えっと、あの…」

男「どうした」ずい

女友「っ! わ、わかったわよ! 言うわよ! いえば良いんでしょ?!」

男「ああ」

女友「……く、くず…体質よ…」

男「なんだって?」

女友「っ…く、クズ! クズ体質だって言ってんの!」

男「…なんだそれは? 本気で言ってるのか?」

女友「ほ、本気に決まってるでしょ? 黄泉市総合病院から診断書ももらってるわよ!!」

男「クズ体質……」

女友「な、なによ…」

男「うむ。確かにぴったりな体質だな」

女友「うるさいッ」

女友「ったく……それでっ!? アンタの体質はなんだっていうのよっ!?」

男「………」

女友「アタシも言ったんだから、アンタも言いなさいよ!」

男「…そうだな、きちんと会話するためには言わなければならないな」

男「俺の体質は──」


「ふわぁ」


男&女友「っ……!!?」がくん

男「なん、だっ…急に瞼が…!?」

女友「んっ…!? い、いけない…!」



女「…ふあ~」



女友「だ、ダメ! そんなに〝シンクロ〟させちゃダメよ女!!」

男「ッ…?」

女友「いけない…ッ…薬の効果が切れかけてる…! 早く飲ませてあげなきゃ…!!」ぐら…

男「お、おい……!」

女友「だ、だめ…女……それ以上…」

ドタリ

男「だ、大丈夫か…!? うぐ、駄目だ…視界が暗く…!」

女「むにゃむにゃ」

男(やはり…これは…アイツの体質か…っ!?)

男「薬、とか言っていたなっ…!」ぐぐっ…

男(スマンが少し漁らせて貰うぞ…)ゴソゴソ

男「あった…これか…ぐっ…!」

女「ぐぅー…ぐぅー…」

男「…〝安定剤〟かっ…俺もしばらく重宝させてもらった奴じゃあないか…」ずり…ずり…

男「……」ずりっ

女「すぅー…すぅ…」

男「お前は……」

男「……すまん、ちょっと乱暴に扱うぞ」ぐいっ

女「むぐ…むぐぅ!?」

~~~

男「ぐぅ…」

男「……ハッ!?」ババ!

男「ここは…そうだ、俺はたしか南火校と……」

男「居ない…二人共帰ったのか…?」

男「…む」くんくん

男「最悪だ…制服になんて匂いを…」

男「………」

男(しかし、あの女は──……まあ、いい)むくり

男「眼鏡を直しに行くか」

~~~~

女「ん…」

女友「起きた?」

女「…わたし」

女友「ううん、良いの。気にしないで、大丈夫だから」

女「…ごめんなさい。また体質を…」

女友「気にしないでいいから。そうでしょ? それがアンタとアタシの約束じゃない」

女「……」コク

女友「ともかく、そうね。あの東風校の奴…男だったかしら」

女「彼がどうかしたの?」

女友「…これも運命ってやつなのかしらね。アタシたちが求めてるその答えに近づくための」

女「……」

女友「二十年前に起こった大地震。それからずっと続くこの運命とやらは…」

女友「…あたしたちに、ちゃんと奇跡は起こしてくれるのかしら」

女「…」

女友「ほら、行くわよ。寮の門限過ぎちゃうしね」

女「…うん」

女友「絶対にアンタには、危険な目には合わせないから」

女友「…そのためにも」

女「……」

女友「四年前、絶対に収まることのないと言われた〝四校戦争〟を…」

女友「たった一人で止めたという───」

女友「──【東の吸血鬼】には会わなくちゃね」

~~~~

友「やあ、おはよう」

男「ああ」

友「今日もいい天気だねー、あれ? なにかテンション低め?」

男「何故そう思う」

友「何を言ってるのさ。ボクと君との仲じゃないか、顔色を見れば一発だよ」

男「…そうか」

友「なにか悩み事かい」

男「いや、そうじゃあない。気にするな」

友「それは無理な相談だよ。君のことだから、また抱え込むじゃないかって心配するよ」

男「……」

友「男は気にするなって言うかもしれないけれど、ボクはね」

友「凄く感謝しているんだ。君という存在にさ」

男「…気持ち悪い言い方をするんじゃあない」

友「良いから言わせてよ、ね? ボクは君のためにならなんだってするつもりだよ」

友「…それぐらいのことをしてもらったんだ。その過去はなくならないんだよ」

男「忘れろといったはずだ」

友「君はそういうけれど、四年前の四校戦争は…」

友「…なにがあってもなくすことはできないさ」

男「……」

友「ボクだけじゃない、他の人達だって、君の存在を知っている人間ならば──」

友「──誰だって感謝をするはずだよ」

男「………」

友「だって、そうだろう? 君はそういった意味でも英雄と語られていい存在なんだ……」

友「……【東の吸血鬼】と呼ばれた男なんだもの」

男「……」

友「まあ、なんにせよ」

男「…ああ、そうだな」

友「こっ恥ずかしい名前だよね、これ」

男「本当に忘れてほしいな。なぜ、そう呼ばれてるのかさっぱりだ」

友「かっこいいけど、字面的にセンスが飛び抜けてるよ」

男「はじめにこいつを呼んだ奴を殴りたい」

友「あはは。もしそれがボクと言ったらどうするかい?」

男「…問答無用で殴る」

友「おー怖い怖い。安心してよ、ボクが作ったわけじゃないからね」

男「それは安心した」

友(まあ広めたのはボクなんだけどね)

男「…それにしても」

友「うん?」

男「どうして急に昔話を持ちだしたんだ」

友「……」

男「…次からは本気で怒るぞ。俺はもうその名前を捨てたつもりだ」

男「変わったんだ。あの頃の俺はもう居ない、過去の俺とは踏ん切りをつけた」

男「──この体質で全てを牛耳ろうとした、四年前の馬鹿な俺は存在しない」

友「…そうだね」

男「お前ならわかるだろう。だから、」

友「うんわかってるさ。これからはもう、昔の話はしないよ」

男「…そうか」

友「君は変わったんだ。昔とは違う、新しい男だ」

友「ボクはそんな君にも満足しているし。ずっと親友で居たいと思ってる」

友「だからこそ、この話を持ちだした。もうしないって約束するためにね」

男「……」

友「でもね、きっとまた何か起こると思うんだ」

男「なにがだ」

友「君のチカラ──体質が必要となるような運命ってのがさ」

友「ボクはそう予感してる。あはは、君は信用してくれないと思うけれど」

男「…ああ、信用しない」

男「この体質はもう、俺の勝手な都合で使えないものなんだからな」

放課後

男「……」がた

「おーい、男~」

男「む。どうした」

「いやなによ、とにかくこっち来てくれないか」

男「…急にどうした」

東風校裏庭

男「ここまで連れてきてどうするつもり……」

女友「……」

男「だ…なんでここにいる!?」

女友「秘密。とにかくソイツに連れてきてってお願いしたの」

男「お、おい…お前…なんで南火校の生徒の…!」

「うぇっへっっへぇ~! もっと罵ってくださぁ~~~~いい!!!」

男「……」

女友「なんか知らないけれど、こいつ『ドM体質』らいいのよねッ」ゲシ!

「あっひいいいいいいい!!!」

女友「罵ってあげるって言ったら、なんでもいうこと聞いてくれるって言ったわ」

男「…そうか、確かそういえばそうだったな」

「あへあへっ」

女友「ほら、あんたはもう用済みよ。ハウス!」

「きゃいーん!」だだだ

男(なにも四足歩行で行かなくとも…)

女友「…それで、アンタ」

男「な、なんだ」

女友「これから暇でしょ。ていうか、暇っていいなさいよ」

男「おい、なんだその言い草は…」

女友「……お願いがあるのよ」

男「は? お願い?」

~~~~

北地区・喫茶店

カランカラーン

男「…この店を知ってるのか」

女友「有名じゃない。そもそも北地区にはこういった店多いし」

男「俺もよく使わせてもらってる、だが、南地区からは遠いだろう」

女友「アタシを舐めないでくれる? アタシの体質にかかれば、ひと目につかず行動できるわよ」

男「…クズ体質か」

女友「い、いちいち声に出さないでよ!」

男「む。アイツは…」

女友「ったく、ごめんね。待たせちゃった?」

「…大丈夫」

女「時間通りだったから。平気」

女友「そっか」

男「………」

女「………」

女友「なに棒立ちなのよ。早く座りなさいってば」

男「…今日は平気なのか」

女「…この前はごめんなさい。私、薬が切れかけると」

女「…制御ができなくて」

男「………」

女友「…大丈夫よ、今日は薬飲んでるから。心配しないで」

男「…わかった」がた…

女友「……」がた…

男「それで、お願いとはなんだ」

女友「…そのまえに」

男「?」

女友「ごめんなさい。アンタには昨日と、一昨日…迷惑をかけたわ」

男「…随分と下手に出るな」

女友「あたしだって、謝るときは謝るわよ…この体質でもね」

男「……」

女友「これが最善だって思うのよ。アンタには色々と、謝らなくちゃって」

男「…そうか、ならいい。許そう」

女友「本当に?」

男「謝ることは大切だ。出来る人間と出来ない人間、俺は出来る人間のほうが好きだ」

男「だから許す。それだけだ」

女友「…そ、ならイイケド」

女友「…じゃあ本題に映らせてもらうわね」

男「ああ」

女友「アンタ、四校戦争っては知ってる?」

男「…この街に住む奴らは知らないはずは無いだろ」

女友「まあそうよね。じゃあ、その時に──その四校の〝トップ〟の存在は知ってるかしら」

女友「東風、西林、南火、北山」

女「その四校には四年前、【王】と呼ばれる強力な体質持ちが居たことを」

男「…知ってる」

男「北山校には【不動の北】…西林校には【静寂の西】…南火校には【情熱の南】」

男「そして東風には──【東の吸血鬼】」

女友「詳しいわね。知ってるなら話は早いわ」

女友「その四人の【王】によって、四年前──四校戦争が起こりそうになった」

女友「争いの理由──その渦中の原因はただひとつ、〝最強〟は誰か」

女友「そんなくだらない理由で、この街は、黄泉市は、争いの場所になりかけた」

男「…そうだな」

女友「だけど、そうはならなかった。寸前まで行った前線は、たった一人の【王】の存在で…」

女友「…休戦することになる」

男「……」

女友「それを行ったのは当時、中学生と思われる東風校の生徒──」

女友「──【東の吸血鬼】」

男「それが、どうした。なぜその話を急に持ち出す?」

女友「アンタは知ってるかしら。その【東の吸血鬼】の伝説を」

女友「…その存在に出会ったものは〝体質を消される〟って奴」

男「…ただの噂だ」

女友「そうよ噂よ。けれど、何人も見たという証言が在る」

男「信ぴょう性がないだろう。この街にどれほどの馬鹿げた噂があるのか知ってるだろうに」

女友「っ…だけど! 信じるしか無いのよ!」

男「……どうした、急に」

女友「っ…東の吸血鬼…その名前の由来は〝相手の存在意義〟を消し去るって聞いたわ…」

女友「だからこそ…四校の中で最強と恐れられた…東風校の…元の【王】の座を奪ったって…!」

男「………」

女友「そうしなければ、勝てないほどの体質持ちを…倒したんだって…」ぎゅっ

男「…それで、願いとはそのことか?」

女友「そう、そうよ! 四年前に突如、四校戦争を食い止め! そして、一瞬で姿をくらました…!」

女友「東の吸血鬼…ソイツに会わせてほしいのっ」

男「…なぜ俺に訊くんだ。俺にわかるわけがない」

女友「色々と情報を調べたけれど、やっぱり違う学校だと限界があるのよ…!」

男「だからって俺に手助けは無理だ」

女友「調べるだけでいいの! ただ、そんな人物が居なかったか…それだけで…」

男「……無理だ、俺も長くあの学校にいるが」

男「東の吸血鬼と名乗る生徒に──……出会ったことはない」

女友「……」

男「ましてや四年前の話だろう。そもそも本当かどうかもわからん噂だ」

男「…四校戦争も勝手に休戦しただけだ、大人たちもそう言っているだろう」

女友「ち、違う! 絶対に吸血鬼は居るはずよ!」バン!

女「っ…!」びく

女友「あ…ごめんね…びっくりしたわよね…」

男「……」

女「……」

男「…こいつの体質を、消したいのか」

女友「っ……」

男「だからお前は情報を集めているってワケか」

女友「…わかるでしょ、この子の体質はすっごく危険なの…」

男「そうだな。身を持って経験した」

女友「……」

男「…だか薬で抑えられるだろう。安定剤、あれさえあれば───」

女「──効果が短いの」

男「なにっ?」

女「私の〝体質〟に適応する薬が存在しない」

男「…馬鹿な。そんな話など聞いたことも」

女「現在──数千種類の〝体質〟が確認されている」

女「けれど、私の体質は〝UNKNOWN〟…と診断された」

男「なんだと…?」

女「だけどなんとなく理解できる。私の体質はきっと──」


女「──〝シンクロ体質〟」


女「私の感情と体感を、他人に共感させる」

女「この人が泣いたら自分も泣きたくなった───」

女「この人が怒っていると自分も怒りたくなった───」

女「この人が喜ぶと自分も嬉しくなった───」


女「私はそんな人物に成り代わることが出来る」

女「発信源として、他人の心を動かすことが出来る」


男「…ば、馬鹿げている。そんな規格外の体質など…しかし…っ」

女友「…出来るのよ、できちゃうのよこの子には」

男「……」

女「それに薬も効果が短く、それに性格がブレることもある」

女「今は安定してる、けれど、いつまた体質を発症させるか…わからない」

男「…初めて聞いた、そのような体質など」

女友「そうよね。アタシもこの子出会って、すっごく驚いた」

女友「けど、どうしようもないほどに…この子は危険に晒されてる」

女友「…今、南火校でトップ争いが在るのは知ってる?」

男「ああ知っているぞ」

女友「元々、南火校には派閥ってのがあって、それぞれのボスが居るのよ」

女友「…それもここ最近では、一人の強力な体質持ちが牛耳ろうとしているのだけれど」

女友「だけど、一つの派閥が対抗してて───それが通称〝黒猫組〟」

男「ああ、あの西地区にあった倉庫での…」

女友「そう、あの黒猫組のボス…黒猫と呼ばれる生徒」

女友「他校に忌み嫌われてる南火校でも、更に南火校の生徒の中で恐れられてる存在…」

女友「その黒猫が、どうやら強力な体質持ちを探しているのよ」

男「…対向するためにか」

女友「その通り。その黒猫組は酷い噂が絶えなくて…もし仮に…この子の…」

女「……」

女友「この子の体質が彼女にバレてしまったら…」

男「…酷いことになりそうだな。争いがの火種が、更にまた酷くなる」

女友「その通りよ…だから守らなきゃいけないのっ…! この子を、あいつらから…!」

女友「だから、だから…東の吸血鬼をアタシたちは探してる…この子の…体質を消すために…」

toire行ってきます

男「…なるほどな」

女友「…出来ればアンタに手助けをしてもらいたいの、
   何を都合のいいこと言ってるのかって…それはわかってるつもりよ…」

女友「けど…頼れるのは…アンタだけで…」

男「……」

女友「黒猫組の活動も活発になってる…最近は西林校と争いで、だんだんとチカラもつけてるみたいなの…」

女友「もう時間の問題…この子の体質がバレてしまうのも、残り僅かのはず…」

女友「だから…! お願い、この通り…! この子のためを思って、いや、アタシもなんだってするつもりよっ!」

女友「……手助けをして欲しいの」ぐぐっ

男「……」

男「お前はどう思ってるんだ」

女「……」

男「こいつは、お前の為を思って頼んでる。けれど、お前の意思はどうなんだ」

女「…私は」

女「私は…彼女に迷惑はかけたく、ない」

女友「っ…」

女「この体質で…人が傷付く所も…悲しむ所も見たくない…」

女「だから、そのためにできることがあるのなら」

女「──貴方にお願いしたい、です」ぺこ

男「……」

男「…そうか」

男「お前らの気持ちは分かった。どういう状況なのか、どういった理由なのかも分かった」

男「だが、承諾は出来ない」

女友「そんなっ…! 酷いじゃない!こんなにお願いしてるのに…ッ!」

男「無理なものは無理だ。手助けをしたい気持ちはある、だが、ものごとはそう簡単じゃあない」

男「…いいか、体質によって苦しめられてる人間など──この街では沢山いる」

男「やりたくないことも、体質のせいでやってしまう」

男「苦しくて大変でも、それでも人は乗り越えて生きている」

男「ましてや体質を消すなどという──なんら現実味のない噂を鵜呑みにし」

男「…お前はこいつを危険な目に合わせるのが、目的なのか?」

女友「ッ…だけど! それしかもう方法はないのよっ!」

男「それはお前の都合だろう。やり方は在る、この街を出て──研究施設に行けばいい」

女友「なッ…!? あ、あんた! この子にモルモットになれって言ってるわけ!?」

男「それも一つのやり方だ。やれと言ってない、だが、まだそのほうが安全だ」

男「街の外──政府設立の研究所、黒い噂が耐えないが…ここにいるよりはマシだろう」

女友「なんってッ…サイテーの奴! この人でなしッ!」

男「何とでも言え。勝手な都合でしか頭を回せないのならな」

女友「こんなッ…こんな最低なやつだとは思わなかったわ…!」バン!

男「……」

女友「行きましょ! もう顔なんてみたくない…ッ」ぐいっ

男「…世の中はそんな奇跡は存在しない」

女「……」

男「すがる思いは叶わない。それが現実だ…」

女「…わかってる」

男「む…」

女「わかってた。世の中は、そんなに幸せじゃないってことは」

女「奇跡だって、それに神様だって」

女「そんなのはこれっぽっちも凄くないって」

女「──私は知っている」

男「……お前、その言葉…」

女友「もう行くわよ! 死ねッ! 腐れ外道!」ブン!

男「むぉっ!?」

男「……」

男(大した暴れっぷりだ。まるで嵐だな)

男「ふぅ…」

男(…師匠、貴方の言葉を思い出します)

男「世の中は運命で回っている。その運命は、結局は覆せない」

男「──どんな奇跡が起ころうとも、絶対に」

男「……人は神には勝てない」

男「………」

~~~

カランカラーン

男「さて、帰るか」

にゃーん

男「…む」

男「猫だと…野良猫か」

にゃんにゃん

男「……」うずっ

男「……よーしよし。どうだ、気持いいか?」

ゴロゴロ…

男「むむむ。なんて大胆なやつだ、お腹を見せるなど…はしたないな…ふふっ」

にゃーん

男「………」なでなで


「──あらあら、ふふっ」


男「むっ?」

「その子が懐くなんて、いやはや、なんともまぁ不思議なものだわ」

男「……」

「あら? いいのよ、そのまま撫でてて。大いに結構、その子も嬉しがってるはずなのだわ」

男「…気配を消して近づく奴の前で、のんきに触るつもりもない」

「警戒心が強いお方。いいわぁ、好きよそういうのって」

男「…北山校の生徒か、いや、違うな」

「ええ、制服を見てちょうだい。んふふ、わかるでしょう? 真っ赤な色合いで素敵な配色…」

男「…南火校生徒」

「うふふ。そうなのだわ…」

黒猫「…どうもはじめまして、私の名前は──黒猫と呼ばれてますの」

黒猫「気軽に黒猫とお呼びくださいまし」ぺこり

男(っ…! こいつがあの黒猫…?)

黒猫「あらまぁ、もしかしてご存知だったのかしら?」

男「…名前は聞いたことがあるぐらいだ」

黒猫「なるほどぉ。私も有名になったものですねぇ、うふふ」

男「要件はなんだ」

黒猫「んふふ、頭の回転が早い方は素敵ですわぁ。実に好みの男性です」

男「…良いから早く言え」

黒猫「そう焦らずに。いえ、なんともまぁ不可思議な噂を耳にしまして」

黒猫「一昨日、西林校の生徒が屯するアジトを──襲ったのですが」

黒猫「その際に、推定でも七人の生徒が……再起不能状態になっていたのですよぉ」

男「それがどうした、俺になんの関係がある」

黒猫「ですわよねぇ。単純に考えれば、きっとそれは、
    西林校の生徒にやられたと考えるのがベストなのだわって想います」

黒猫「しかし、どうやらそれは東風校の生徒の仕業だという話が出てきてますの」

男「不思議な話だな。なぜ西地区に東風生徒が居るんだろうか」

黒猫「ええ、ええ、私も凄く不思議に思うんです。けれど、なんでしょうかぁ…」

黒猫「…ここ数年、他の地区で〝東風生徒〟を見かけたという話をよく耳にするんですよ」

男「……」

黒猫「まぁ噂の類ですから、なにも信ぴょう性がないのはわかっているのですのよ」

男「そうだな」

黒猫「不思議なものですねぇ…私、こういうのって時々運命を感じづには居られないんですの」

男「…運命?」

黒猫「ええ、ええ、運命ですよ」

黒猫「例えばばったり──仲間を再起不能にさせたかもしれない東風生徒と、」

黒猫「例えばばったり──ここ数年と他の地区を嗅ぎまわっている東風生徒と、」

黒猫「幸運にも、いやはや、相手方には──〝不幸〟にも」

黒猫「会えて、会話して、仲良く慣れるんじゃあ無いかしらって…思うんですのよ?」

男「……」

黒猫「うふふっ」

男「…そうだな、応援しておくよ」

黒猫「ありがとうございます。それで、そのひとつお伺いをしたいのですがぁ」


黒猫「──〝誰を〟お探しになられているのですか?」


男「……」

黒猫「なんて、聞いてみちゃったりしちゃおうかしらって思ってますのぉ」

男「……」

黒猫「いえ、いえいえ、なんら関係はないのです」

黒猫「誰が誰を探そうが、誰が誰を見つけようが、一切として私は関与するつもりはありません」

黒猫「しかしですねぇ…けれどですねぇ…」

黒猫「それがもし仮に、私の活動に支障を来す要因となりえるのであれば───」


黒猫「──容赦なく、ズタボロの雑巾以下にするつもりですの」

男「…そうか、そいつは気をつけるべきだな」

黒猫「ええ、ええ、その通りですわ。きっとその東風校の生徒さんには…」

黒猫「…よくない不幸が訪れるはずでわぁ」

男「そんなヤツが見かけたら注意しておく。わざわざ忠告、すまなかったな」

黒猫「うふふ、いいのだわ。ふふ、さっきから…なんでしょう、不思議ですねぇ」

黒猫「貴方、依然にお会いしたことありませんこと?」

男「馬鹿なことを言うな。もしや口説いてるつもりか」

黒猫「まぁ! そんな…はしたない思惑などありません!」

男「そうか」

黒猫「んふふ、それもいい気がしますけれどねぇ。今日はこのへんとしておきましょう」

にゃーん

黒猫「…この子に気に入られた貴方に、幸運が有らんことを」

男「……」

黒猫「…あ、そうそう。最後にひとつ面白いうわさ話を」

男「どうした」

黒猫「ここ最近、南火の生徒二人組が──なにやら不思議な行動をしているみたいですの」

男「……」

黒猫「なんともまぁ、馬鹿げた話でしょうけれど。笑ってしまうような話でしょうけれど」

黒猫「ですが気になる話ですよねぇ…そう想いませんか?」

男「さあな」

黒猫「ふふ、釣れないお方。ではでは、それでは」

男「………」

男「………ッ…」

ガン!

男「クソッ…!」

男「っ…やはりあの西林の生徒に捕まったのが痛かったか…」

男「厄介な奴に警戒された…これから一人では動きにくくなるッ…」

男「くそ…」

男(本当に…本当に…世の中は上手く回らない…)

男「…神は笑ってるのか、この俺のことを」

男「………」

~~~

次の日南火校

女「……」

女友「ほら、食べなさいって。もとから元気ないアンタが食べないと、死んじゃうわよ」

女「うん」

女友「……大丈夫よ、これからまだ色々と出来るわ。きっと方法は見つかるわよ」

女「……」

女友(…ダメね、昔から表情は乏しかったけれど。ここ最近は本当に酷い…)

女「……」

女友「…アイツが言ってたことなんて気にしないの。馬鹿が言う奴は無視するのが一番なのよ」

女「…ううん、そうじゃない」

女友「え?」

女「きっと彼は正しい。自分で自分のことを責任持てないことに──」

女「──私はきっと甘えているだけだって」

女友「っ…そ、そんなことないわよ! だって、仕方ないじゃないっ」

女「…私はどうにかしたいって思ってるだけで、なにも行動はしてない」

女「貴方や周りに迷惑をかけてるだけ。なにも、出来てない」

女友「違う! そんなことっ…そんなことはない!」

女「……」

女友「アンタは何も出来てないわけじゃない! だって、だってあたしが…あたしが救われてる!」

女「…女友ちゃん」

女友「だからそんなこと言わないでよっ…お願いだから…」

女「…」

女「うん。ごめんね…」

~~~

男「……」

男(来てしまった…極力近づかないよう気をつけていた、レッドゾーン)

男(南火校前…)

男(ここまではスムーズに来れた。人に見つからず、生徒にも見つかっていない)

男(後はあいつらを探すだけなんだが──むっ?)

女友「はぁっ…はぁっ…!」

男「あれは…女友か?」

男(偉く息を切らして出てきたな…丁度いい、声を掛けるか)

男「おい──おいお前!」

女友「っ…!」びくっ!

男「ちょうどいい所に来たな。急にすまない、少し話しを──」

女友「居なくなったっ!!」ぎゅっ!

男「──おおっ?」

女友「あの子がっ…あの子が寮から居なくなって、一人で! 何処かに…!」

男「…なに?」

女友「どうしよう、どうしようどうしよう…! ねぇどうしたらいい!? 私っ…!」

男「待て、落ち着け。もう少し状況を詳しく話せ」

女友「う、うんっ…何時もなら部屋に居るはずなのにっ…居なくて、おかしいなって思ってて…っ」

女友「だけど何処を探しても居なくてっ…聞いたら外に出たって言った子が居て、それでッ…!」

男「外に出たんだな。何処に向かったのかは分かるか?」

女友「っ…わ、わかんないわよ! あの子すぐに色んな場所に行っちゃうしっ…!」

女友「前は書き置きぐらいしてたからっ…! すぐに見つけること出来たけど、今回はまったく…!」

男「……」

女友「どうしよぉっ…だめ、これじゃあ見つかっちゃうっ…薬だって何時までもつかわからないのに…!」

男「…そうか」

女友「ううっ…あたしのせいだっ…もっとあの子を見てあげてれば…っ」

男「……」

男「とりあえず落ち着け、まだ大丈夫だ。きっと間に合う」

女友「ッ…そんなことわかりっこないでしょっ!? アンタになにが分かるのよっ!?」

女友「そ、そうよっ…アンタのせいじゃない! アンタが余計なこと言うからあの子が変に考えてッ」

女友「責任取りなさいよ! アンタのせいであの子がひどい目にあったらっ…!」

男「…わかった、責任を取ろう」

女友「だから…え…?」

男「責任は取る。俺が女を見つけてやる、だから安心しろ」

なでなで

男「…泣くな。可愛い顔が台無しだぞ」

女友「……っ…な、泣いてなんか無いわよっ! ばかっ!」ゴシゴシ

男「そうか、なら行くぞ」

女友「ぐす、なによ…なにか考えがあるってワケ!? アタシでもわからないっていうのに…!」

男「シチュエーションを考える」

女「な、なによそシチュエーションって…前もそんなこと言ってたけど…!」

男「俺の体質だ。それで女を探す、そうだなまずは一つ質問するが──」

男「──女の下着は、何色だ?」

~~~~

女「……」

女(…この世に、神は居る)

女(すべての命を司り、人命も指先一つで消し飛ばせられる存在)

女「…じゃあどうして神は、人にチカラを与えたのだろう」

女「そんなことをしたら神様も…」

女「…」


「──居た!! 待ちなさい女!!」


女「っ…」びく

友女「はぁっ…はぁっ…! なに、してるのよ! ばか!」

女「友女ちゃん…」

友女「心配、したのよ…! ばかばか! 本当にばかぁ!!」

女「……」

友女「っ…どうして黙って居なくなったりしたのよ…! ダメじゃない、アンタがどんな状況かってわかってるの!?」

女「…わかってるよ、わかってる。私がどれだけ迷惑をかけてるかって」

女友「まだそんなことをっ…違うって言ってるじゃない! アンタは誰にも迷惑をかけてない!」

女「……」

女友「アンタは人とは違う、最高のちからを持ってる…! それに、アタシは救われてる!」

女「…違うよ、そんなことはないよ」

女友「わからやずやっ…怒るわよ!? もう怒ってるけど!」

女「…怒っていいよ、もう私はダメだと思う」

女友「なんでっ…」

女「私はダメなんだよ。人に迷惑をかける存在、彼が言ってたとおり──」

女「──自分の問題を乗り越えられる勇気がない」

女「気持ちが無いんだよ…体質以前の問題…私はきっと、本気で願ってない」

女「どうにかしたいっていう気持ちが…本気じゃない…」

女友「そんなこと…!」

女「…じゃなかったら私は、女友ちゃんに任せっぱなしにしないよ」

女友「あたしは好きでやってることよ!」

女「じゃあそれに、感謝してないって言ったら?」

女友「っ……なに言ってるのよ…!」

女「私はね、心に鍵をかけてる」

女「人に対して壁を作ってる。貴方にも、そして全ての人達に」

女「…変われないんだよ、私はそういった人間だってことを」

女友「あ、あんたは…そんな子じゃないわよ…っ!」

女「ううん。きっと、そう」

女「この体質もきっと意味があって…私が抱えるべき問題の一つなんだろうけど」

女「──私はそれさえも、どうでもいいって思ってしまってる」

女「だからね、そんな自分に──嫌悪してる自分が、居るうちに」

女「終わりにしたかったんだ…」

女友「なにを言ってるのよ…?」

女「ありがとうって、言いたかった。けど気持ちが無かった」

女「こんな私の為に頑張ってくれて、本気で言いたかった」

女「けど、私は無理だった。本気で、感謝も気持ちも湧いてはくれない」

女「…こんな偽物じゃ、きっと女友ちゃんも…傷つくだけだから」すっ

女友「ま、待って! そっちは崖が…っ!」

女「私は終わりにする。このまま、この気持があるうちに」

女友「だめぇええ!!」

女「……ごめんね──」



「──それで全てを終わりにするのは、都合が良すぎるだろ」



女「………え?」

「そうは思わないか、なぁ──女よ」

女(いつの間にこんな近くに…!)

男「……」

女「ち、近づかないで! 私はもう終わらせるの!」

男「…なにを恐れてる」

女「わ、私は絶対に周りを不幸にさせる…! だから、だから!」

男「だから死ぬと?」

女「っ…」

男「…駄目だな。なってない、それでも知識在る人間か」

男「死んで終わらせるなど、全く。どんな世代だ、今は平成だぞ」

男「肝っ玉溢れる根性は必要ないだろうに。もっと有意義に使え」

女「……」

男「生きろ。死ぬぐらいならそっちの根性を見せるべきだ」

女「…貴方は言った、奇跡など起きないって」

男「ああ、起きないな」

女「縋る思いもっ…全て叶わないって!」

男「言ったな」

女「ならっ!」

男「……」

女「うっ…私は、私は…! ぐすっ…!」キィイイイイイイイイン!!

男「……」

女「こんな気持じゃ…誰もかもを傷つけるだけだから…っ」

男「…そうか、だがな」

男「──仮言葉で申し訳ないが、ひとつお前に助言をしてやろう」

男「俺が唯一無二、人を尊敬する人物が居る。いや、居たというべきか」

男「その人が言ってくれた言葉をお前に贈ろう」

女「…え」

男「運命とは覆せないものだ。奇跡も起こらない、全ては必然だ」

男「運命を司る──絶対的な神に、人は勝てないと」

女「っ…」

男「だけどな、それは違うんだ」

男「神には勝てないかもしれない。運命に打ち勝つことも不可能かもしれない」

男「けれど──」


男「──その神に喧嘩を売ることは出来るんだ」


女「…喧嘩?」

男「そういうことらしいぞ。何時も言っていた言葉だ」

男「立ち向かうことが出来る。努力をする時間は、きっとあるらしい」

男「そしてそれを俺も、信じている」

女「……」

男「運命とやらがお前を苦しめているのなら、逆に苦しめてやれ」

男「それはお前に出来る特権だ。
  全力で立ち向かう事ができる、お前だけが出来る道だ」

男「信じろ。自分はきっと、喧嘩が出来る筈だと信じこめ」

男「…怖いなら頼れ、近くにいるだろう大切な人間が」

女友「っ…!」

男「死んで逃げるくらいなら、立ち向かえ」

男「…死んでなかったことになるのは、絶対にありえないハズだ」

女「……」

男「…俺はそう信じてる」

女「……喧嘩を売るなんて、そんなこと」

男「……」

女「無理だよ…人は神には勝てないって知ってる…!」

男「…そうだな」

女「こんな体質になった…私の運命は、ぜったいに覆せない…!」

女「だからもうっ───」

男「……」

女「──終わりにする…」ふら…

女友「あ…だめ…!」

男「…はぁ」


「強情なやつだな」


キィン! キィイイイイイイイイイイイイン!!!


女「っ……?」ふわり

男「いいだろう。では、俺が〝喧嘩を売ってやる〟」

女「えっ? あっ?」ふわりふわり

女(身体ゆっくり、下に落ちて、なんで、これは?)

男「全てはそう運命に位置づけられて──それが神の力だというのなら」

男「絶賛俺も喧嘩売り中だぞ。だから、一緒にお前のも背負ってやろう」

男「人は自分の道を進む。それが最善だと思えば、それが最善なんだ」

すたん

男「一先ずお前の死ぬかもしれないという──運命には勝ったみたいだぞ」

男「ふはは、どうだ?」

女「………」

男「む。この崖の下はいい風が吹くようだ──まぁ予想通りなんだがな」

女「え?」

バッサアアアアアア!!

男「ほう。シマシマの縞パンか」

女「あぶぶっ…!?」バッサアアア

男「『縞パンは無事にパンチラチャンス』…ふむ予定通りだ」

ばっさぁああ…

女「………」ぽかーん

男「む。どうしたあっけにとられた顔をして、とりあえずスカートを押させたらどうだ」

女「貴方…一体なにものなの…?」

男「いい事を効くな。ここは自己紹介のタイミングだな」

男「改めて言おう。俺は東風校の──【王】」


男「【東の吸血鬼】こと、男だ」


~~~

北地区 喫茶店

女友「……」ムッスー

女「ずず…」

男「おい、何時までふてくされてるつもりだ」

女友「…なによ、あったりまえじゃない」

男「なにがだ」

女友「あ・ん・たが! 東の吸血鬼だってこと! なんで黙ってたわけ!?」

男「色々と理由はあったんだ。仕方ないだろう」

女友「なによ仕方ないって! こっちは色々とっ…複雑じゃない!」

男「だが良かったな。ちゃんと俺を見つけて」

女友「なによその言い草はっ…!」

男「さて、本題に入るか」

女友「ちょっと! 無視するなっ!」

女「…本当に東の吸血鬼なの?」

男「良い質問だ。しかし、簡単には証明しづらいな」

女友「…じゃあ消したらいいじゃない、そしたら証明にもなるでしょっ」

男「体質をか? すまんがそれ、デマだぞ」

女友「は、はぃいいい!?」

男「だから信用するなと言ったんだ。俺にそんな体質は無い」

男「…そういった似た現象になり得ただけで、本当に消せるわけじゃあない」

女友「な、なによそれっ…じゃ、じゃあ意味ないじゃない…!」

男「いや、そうでもないな」

女友「…へ?」

男「確かに俺は体質を消すチカラは無い」

男「──しかし、制御する方法は知っているぞ」

女友「制御する…方法…?」

男「…ふむ。見せたほうが早いみたいだな」すっ

かちゃ

男「今、俺はなにをした。言ってみろ」

女「えっ? えっと、眼鏡を外した…」

男「そうだな。とりあえず、今の俺は東の吸血鬼と呼べるレベルになってる」

女友「馬鹿にしてんの?」

男「俺は本気だ。じゃあお前、俺に手を伸ばしてみろ」

女友「なんですって?」

男「良いから早く。変にシチュエーションが変わったら面倒だろう」

女友「なによ、まったく…はいはい。手を伸ばせばいいのね、これでいい──」

ぽにょん!

女友「──きゃあああ!? な、なになに!? ど、どっどどおどおおお!?」

女「え、今なにが…」

男「──今起こったのはイベントだ」カチャ

女「イベント?」

男「そう、不意に伸ばされた腕。そして相手が女性、それで起こる──シチュエーション」

男「俺が間違って女友の胸を触るというイベントが発生した」

女「……」

男「信用出来ないか? では、今度はお前に──」

女「し、してる! 大丈夫!」こくこくっ

男「──そうか、ならいい」

女友「ならいいっ…って問題じゃないわよっ…!」

男「そう怒るな、仕方ないだろう。これは俺の体質だぞ」

女友「なによそれっ…! さっきから体質体質って! 意味分かんないわよ!」

女友「東の吸血鬼っ! アンタは一体なんの体質なのよ!?」

男「…そういえば言えてなかったな。すまない、隠すつもりはなかった」

男「特にお前らには隠すつもりはなかった」

女「…どういうこと?」

男「む、いやなに、これもまた必然かと思ってな」

男「まあいい、それよりも──俺の体質を教えよう」

男「四年前の四校戦争を食い止め、最強と謳われた東風校の元【王】を退け…」

男「…東の吸血鬼と呼ばれた、この俺の〝体質〟」

女「…それは…?」


男「──『LS体質』……」


男「そう、『ラッキースケベ体質』だ」

キツイので寝る
落ちてたらそこまでで

昼前には起きると思う

起きた
三十分には戻る

ついでこれは、

男「青信号だな、えっ?」
悪魔「ふぇぇ…死んじゃいますよぉっ」

の続きです。良かったら読んでみてね

今から書く
保守ありがとです

~~~

男「この体質は至って簡単だ」

男「──その場に居るだけで、女性とハプニングが起こる」

男「たただただ、それだけの体質」

男「相手が女性である限り、それは強制的に発動する」


男「例えば──俺が転ぶだけで、服が脱がされ」

男「例えば──俺が歩くだけで、スカートが捲れ」

男「例えば──俺が近づくだけで、着替えを見られる」


男「それが『LS体質』──『ラッキースケベ体質』だ」


女友「……」

女「……」

男「…信用できないか、では、もっと証明してみよう」

女友&女「し、信用してる!」

男「そうか?」

女友「…そ、それがアンタの体質…ってことは…」

男「うむ。以前にお前を目にも止まらない速さで抱きかかえたのも、それだ」

男「ついでに言うと西林地区の倉庫で捕まった時、その体質で切り抜けた」

男「…あの時はまぁ、少し加減をするべきだったと反省している」

女「……」

男「そして、お前を救ったのもこの〝体質〟だ」

女「…それが【東の吸血鬼】」

男「……」

女「一つ、聞かせて欲しい」

男「なんだ」

女「貴方はその〝体質〟で……あの四校戦争を止めたの?」

男「……」

女「とても出来るようなものじゃない気がする…だけど、」

男「そうだな。確かに…そう思っても不思議じゃあない」

男「だが、俺は嘘はついていないぞ。本当に俺はこの体質だけで四校戦争を休戦させた」

男「…すべての【王】に勝ち、そして納得させた」

女「……」

男「──そして俺は、その【東の吸血鬼】としての名を捨てた」

女友「…なんでよ、あれほどのまでの地位を手に入れたのに」

男「それは…気にするな。今は関係ない」

男「しかし、その際に俺が手に入れることができた〝体質を制御する方法〟」

男「それをお前に教えてやろう」

女「…制御する、方法」

男「だがしかし、それには条件がある」

女友「そうだろーっと思ったわよ。昨日はあんだけ言ったのに、急に言い出すもんだから」

男「…む」

女友「いいわよ別に。アタシと、この子ができることなら…なんだってするつもりよ」

女「……」コクリ

男「…そうか」

男「ありがとう。すまない、本当に運命は上手く回らないものだな──」

男「──この体質からは逃げられん。四年前からずっとだ」

男「だからこそ、俺はずっと喧嘩を売り続けている。神に運命に…」

男「……俺は数年前から、一人の女の子を探している」

女友「女の子?」

男「そうだ、名前は知らない。しかし俺と同じ年齢だということはわかっている」

男「その子は俺の師匠──つまり尊敬している人の娘であり、」

男「──俺の唯一の〝希望〟だ」

女「希望…」

女友「その師匠ってのは…思うに体質制御を教えてくれた人ってワケ?」

男「なかなか鋭いな。そうだ、この人は──全てを教えてくれた」

男「自分がいかに自惚れていたか。最強とは、存在しない」

男「…全ては運命によって均衡されている、ただのお伽話にしかならないと」

女友「えらくリアリストね。嫌いだわ、そのタイプの人間って」

男「いや、ばかみたいにカッコつける人だった。多分、この世で誰よりも──希望を信じている人だったな」

女友「ふーん、それで? その師匠って人の娘さんをどうして探してるワケ?」

男「……師匠が言ったんだ」

『──テメーが幸せになりたいと願うなら、好きな女の子を探せ』

男「とな」

女友「…は? それだけ?」

男「ああ、それだけだ。だがそれだけでも、俺は希望となりえると思えた」

男「きっとあの人の娘なら──俺は多分、変われるはずだと」

男「この四年間…全てを捨てようと願い、全てをなくそうと願い…そして制御出来た自分…」

男「そこに…また新しい道を作ってくれるのだと、そう思えたんだ」

女「……」

男「ひどく抽象的な話で、すまない。しかし、俺はその人の娘をずっと探しいている」

男「だがそれも難しくなってきた。あの…黒猫だったか、そいつに釘を刺された」

女「…彼女に会ったの?」

女友「えっ…!?」

男「ああ、あと少しのはずだったんだ…もう少しで彼女を見つけられるはずだった…」

男「…すまない、だからこそお前たちの手助けが欲しい」

男「この俺が変わるために、更に前へと進むために」

女「……」

男「その代わりに俺は──お前に教えよう」

男「その体質であれど、そのチカラの制御の仕方を」

女「…求めるだけじゃない」

男「ああ、そうだ…求めるだけじゃあ希望は見つからない」

女「だからこそ、私と女友ちゃん…そして貴方と協力する必要がある」

男「…ギブアンドテイクだ」

女「……」

男「……」


女「──わかった、貴方を信じる」

男「…ああ、ありがとう。感謝する」

北地区 公園

女友「…それで? ここまで来たけど、なにするつもりなの?」

男「体質制御の説明だ」

女「……」

男「東の吸血鬼こと…俺の『LS体質』は幾分、強力でな」

男「系統を言うのであれば──〝イベント系〟」

女「イベント系…『雨男体質』などに属する系統…」

女友「そうね、確かに。よくもまぁそんな体質を制御できたものね」

男「ああ、正直俺も驚いている。だが、それでも出来たものは出来た」

男「…種を明かせば簡単なんだがな、つまりは───」

男「──この〝眼鏡〟が制御できる理由だ」

女友「……はぁ?」

男「視力検査によると、俺は両方とも正常。眼鏡をかける必要などない」

男「そんな俺が──視界に制約をかけると」

女「…体質が制御出来る、と?」

男「そういうことらしい。つまりはLS体質…視界が起因として発動する」

女友「そんな馬鹿げた話…! で、でも…アンタは本当にそれで…っ?」

男「ああ、制御できた。確かに日常生活には不便が付きまとう」

男「平坦な道でコケることもしばしば、黒板は見えづらい、人にはぶつかる」

男「…他人の顔も見えづらい」

女友「…それであの時、度数があってないと…」

男「そうだな。見破られたときは驚いたが…まぁそれは良い」

男「結論から言おう。体質には人それぞれに〝条件〟がある」

男「雨を降らすのであれば…ジャンケンを行うもの」

男「…イベントを起こすのであれば、見ればいいだけのもの」

男「その条件を、探すんだ」

女「つまりは私のこの『シンクロ体質』が発動する条件を…制約出来れば…?」

男「無論、体質も制御できる」

女友「にわかに信じられないわ…そんな、重大なことをどうして広まってないの…?」

男「それは知らん。師匠が言うには──意図的に隠していると、言ってたがな」

女友「………」

男「その条件は人それぞれだ。俺は視界であったが、お前はなんだろうと思う?」

女「…わからない」

男「だろうな。だからこそ探してやる、お前の条件を」

男「──そして俺が助けてやる。任せろ、東の吸血鬼と言う名は伊達じゃあないぞ」

数時間後

男「………」

女友「…駄目ね」

女「はぁ…はぁ…」

男「そうだな、ひと通り調べてみたが…」

女友「…どうもしっくりこないわよね。なんだったかしら、最初のひとつめは」

男「目を瞑って走る、だな。次は耳をふさいで大声を上げる」

女友「一々感情を高ぶらせて、体質を発動させながらじゃないと確認できないものね…」

男「うむ…」

女「だ、大丈夫…まだやれる…」

女友「ううん、無理はしないで…時間はまだあるじゃない」

女「……」

男「すぐに見つかるとは俺も思っては居ない。だが、きっと見つかる」

女「…うん」

男「無理はするな」

女「わかった、気をつける…」

女友「……」

男「水を飲むか? 少し木陰で休憩をとるのも…」

女「ううん。もう少しだけやらせて、もうちょっとだけ…」トボトボ…

女友「あ…」

男「…俺らはベンチで座っていよう。すぐにアイツも来るだろう」

女友「うん…」

~~~

男「……」

女友「…アンタはさ」

男「む?」

女友「アンタは…その王をやめるとき、どんな気持ちだったの?」

男「唐突だな」

女友「…そうね、けれど。あれほどまでのチカラを…手放す勇気って、なんなのかしらと…思って」

男「……」

女友「四校戦争…あれは本当に酷いことになりそうだった…」

女友「他の学校も、そして南火の生徒も…本気で怖がってた」

女友「争いが起きるって、なにもかもがメチャクチャになるんだって…」

男「…知っているだろう、あれは〝最強〟を決めるだけの争いだったと」

女友「アンタもその…〝最強〟になりたかったというワケ?」

男「…ああ、そうだ。だからこそ四校戦争を止めようとした」

男「──それこそが最強の証だと、信じこんで」

女友「…だけど本当にアンタはその最強になった」

男「かもしれないな」

女友「あの四人の【王】を説得させ、チカラの証明をした…けど、手放した」

男「……」

女友「なんなの、その最強って…意味がなかったの? 納得できるようなものじゃなかったというわけ?」

男「…意味は無くなかったぞ」

男「この街で──黄泉市で、たった一人の最強と歌われ」

男「全てが自分のものだと思えた」

男「まあ体質は『ラッキースケベ体質』だけどな。けれど、それでも俺は…」

男「…確かに強かった」

女友「……」

男「だけどな、強いだけではなにも得られない。全てが最善とはならないんだ」

男「気づけなかったんだ。この体質は…このチカラは」

男「自分の強さを証明するだけのものじゃあないって、ことを」

男「チカラはそれだけで…争いを生む。そして強者を作り、弱者を作る」

男「…簡単に人をが傷つくことを、当時の俺は知らなかった」

女友「…知れて、わかって、だから王をやめた?」

男「まぁ、そうなるな。そして俺は体質を制御した」

女友「…まるで、あれね。そっくりじゃない」

男「……」

女友「だからあの子に、手助けしようと思ったの?」

男「さあな」

女友「…ふふ、素直じゃない奴。きっとあの時も助けたくってしょうがなかったんじゃない? 実は?」

男「……」

女友「喫茶店であたしとあの子、お願いされた時も。ひっどいこと言ってたけど、実はさ?」

男「勘ぐるな。俺はそこまでやさしくはない」

女友「なによ、意固地ね」

男「……」

女友「…だけど、そうね。きっとあの子にも訪れると思う」


女「っ…!」


女友「ああやって努力をするあの子に…奇跡ってものが起こることを」

女友「アンタが知れた現実と、そして救われた奇跡と…同じようにね」

男「…そうだな、起こさせるさ」

女友「期待してるわよ? 東の吸血鬼さん」

男「…あまりその名前で呼ぶな。鳥肌が立つ」

女友「えー? なによ、好きで呼ばれてたんじゃないの?」

男「違う。勝手に誰かが呼び始めただけだ」

女友「そういえばこの名前の由来ってなんなの? 体質を奪う…って感じだと思ってたけど、違うみたいだし」

男「……」

女友「あ、黙った。なになに~? もしかして言いたくない感じ?」

男「…言ってもいいが、多分引く」

女友「いいじゃない。大丈夫、これでもアタシ結構ハート強いし」

男「…そうか、じゃあ言うが」

男「俺の体質によって──純情的思考を奪われた…女子生徒が多くいる」

女友「…どういう意味?」

男「つまりはそう、俺の『LS体質』によって…骨抜きに生った奴らがな」

女友「……」

男「【東の吸血鬼】の所以はそこからだ。魅入られ、取り込まれ、そして再起不能になる」

男「命令すれば為すがまま。俺の下僕となり、全てが俺の思うがままだった」

女友「…へ、へー…そうなんだ…」ささっ

男「ふっ。やはり引いたな、だがそれもいいだろう」カチャ

男「だがそれは過去の俺だ。今の俺には、その度胸がない」

女友「…度胸の問題なの?」

男「ああ、そうだ。昔の俺はなにも知らない──知識の足りない人間だった」

男「今は違う。俺はきちんとした常識を持ち合わせてる」

女友「…よくわかんないけど、当時のアンタに会わなくてほんっと良かったわ」

男「くっく。俺もそう思うよ」

女友「…ふふっ」


「──な、なんてことだっ……!!」

女友「…えっ?」

男「む?」

「お、男が…女の子と…公園で仲良く笑い合って、イチャイチャしているよ!」

女友「いっ…イチャいちゃしてないわよ! 誰!? 馬鹿なこと言う奴は!?」

男「…何故ここにいる、友」

友「はわわっ…!」

女友「へ? 知り合い?」

男「ああ、東風校のやつだ」

友「お、男! 君は一体どうしたんだい!? って、あっ! 南火校の生徒じゃないか!」

男「とりあえず落ち着け、叫ぶな、目立つだろう」

友「ボクは落ち着いてるよ! けれど、なんでなんで!?」

トイレ

いまから書く

男「…説明はする。だが今は」

女友「んっ? あれ? こいつどうして…?」

男「どうした?」

女友「……」じぃー

友「な、なに?」

女友「…アンタもしかして、体質が無いの?」

友「え…」

男「なに、お前まさか…他人の体質が分かるのか?」

女友「あれ? 言ってなかったっけ? アタシの体質は他人の弱点っていうか」

女友「絶対的に強みだと確信している部分を、見破れるのよ」

男「…初耳だぞ」

友「なんなのさこの子!? 君は一体、ここでなにをしているんだ…っ?」

女友「ってか、うるさいわね。アンタは関係ないからどっか行きなさいよ」

友「っ…流石は南火校の生徒…! 別名鬼ヶ島校と言われてるだけあって、口が悪い…!」

友「だけどね、ここは譲れない! 男が何かあった場合はボクが許さないぞ!」

男(ああ、こいつ楽しんでるな)

女友「な、なによ! こいつなんなの!? 意味が分かんないだけどッ?」

男「…簡単に言えば昔の戦友、だと言っておこう」

女友「へっ? それって…その、東の吸血鬼と呼ばれてた頃の?」

男「ああ」

友「ふふん。って、あれ? どうして東の吸血鬼ってバレてるんだい?」

女「…どうかしたの?」

男「いや、なんでもない。待て待て、なぜ言い争っている」

女友「…喧嘩売られるのなら、買うわよ。この体質無し!」

友「ふふふ。安易に行動するのは頂けないなぁ…一辺倒にしか考えられない体質持ちのクセに」

男「…」カチャ

女「あ、眼鏡…」

友「…え? 待って! ごめんごめん! うそうそ! 冗談だから…!」

女友「ぎゃー! なに、またエッチなことするつもり!?」

男「なら大人しくしてろ。話をするから、こっちにこい」

~~

友「──なるほどね、そういうことがあったんだ」

男「…まさにお前の言うとおりだったな」

友「え? あはは、そうだね。あのときは適当に言っただけなんだけどもさ~」

男「……」

女友「…ねえ、こいつ本当にアンタの仲間だったわけ?」

男「外見はそうは見えないが、なかなかの…強者だぞ」

友「あはは。よく女の子に見られるけどね」

女「…貴方は昔から知り合いなの?」

友「うん、そうだよ。男が東風校に入ってきて、それからの付き合いだね」

友「そして四校戦争、元【王】である『黒風の西』と呼ばれた存在を退けた──」

友「──その【東の吸血鬼】とは長い付き合いさ」

男「…一々名前を上げるな」

友「いやースッキリするよね。言わないでおくと溜まっちゃうし」

女友「…んで、納得してくれたワケ? 今の状況ってやつを」

友「まぁそうだね。確かに納得は難しいけれど、男が…女の子と会話している」

友「それだけで十分に理解できるよ。なんだい、頑張ってるんじゃないか、男ってば」

女友「…ねえ、こいつ本当にアンタの仲間だったわけ?」

男「外見はそうは見えないが、なかなかの…強者だぞ」

友「あはは。よく女の子に見られるけどね」

女「…貴方は昔から知り合いなの?」

友「うん、そうだよ。男が東風校に入ってきて、それからの付き合いだね」

友「そして四校戦争、元【王】である『黒風の東』と呼ばれた存在を退けた──」

友「──その【東の吸血鬼】とは長い付き合いさ」

男「…一々名前を上げるな」

友「いやースッキリするよね。言わないでおくと溜まっちゃうし」

女友「…んで、納得してくれたワケ? 今の状況ってやつを」

友「まぁそうだね。確かに納得は難しいけれど、男が…女の子と会話している」

友「それだけで十分に理解できるよ。なんだい、頑張ってるんじゃないか、男ってば」

男「わかったようなことを言うな。お前には関係など無い」

友「わかっているよ。ボクには関係のないこと、うん、十分にわかってる」

友「けれど…そうだね、なにか困ってるのかな」

女「……」

男「少しだけな」

友「見たところによれば、聞いた所によれば、体質条件の詮索かな」

女「そう」コクリ

友「…どうやら苦労しているみたいだね」

女友「…まぁそうだけど、なに?」

友「いや、少しだけなら手助けにならないかなぁって思ってさ」

女友「いきなりなによ。アンタになにが出来るってのよ」

友「勿論、ボクには出来ないよ? だけど、そうだね。わかりやすく言えばだけど」

友「──探す手段を助言することは出来るかも」

数十分後

女友「──じゃあ今日はもう帰るわね。門限もあるし」

男「ああ、気をつけろよ。あの黒猫とやらが…そろそろ感づいてる」

女友「…うん、知ってる。だから時間がない、けれど」

女「……」

女友「きっとうまくいくはず。だから頼んだから」

男「ああ、俺の条件も忘れるなよ」

女「…探してる女の子が南火に居るのは間違いないの?」

男「多分だが、これだけ探しても見つからなければ──そこかしかない」

男「お前たちと同じように、そっちの学校は調べにくいからな」

女「わかった。まかせて、きっと見つけてみせる」

友「……」

男「じゃあなんだ、また明日に」

女「うん。また明日」

女友「待ち合わせ場所は、なんだったかしら?」

友「〝縞パンの像〟だよ」

女友「…〝生命の女神像〟でしょ」

友「あはは」

男「では、気をつけてな」

女「うん」

すたすた…

男「……」

友「…大変だね、それが君の選択なのかい?」

男「…そうなるのが運命だったらしい」

友「なるほど運命だね。あはは、君らしい──言い訳だよ」

男「……」

友「責めるつもりなんて無いさ。君がそうやって変わるために努力するのは素晴らしいことだよ」

友「変わることも十分に素敵なことさ。けどね、忘れることは出来ないんだ」

男「…忘れろといったはずだ」

友「無理な話だよ。東の吸血鬼」

男「……」

友「君がまたこの名を語ると言うのであれば、もう一度覚悟をするべきだよ」

友「『黒風の東』…その【王】を、」

男「やめろ」

友「…忘れてはいけないよ。君はそれが一番だというのだろうけれど」

友「四年前にあったことは変わらない。君がどれだけ努力を重ね、今の君になったとしても」

友「過去は変わらないんだ、君は常に追われ続ける。そのチカラにね」

男「……」

友「さて、難しい話はこれでおしまい。明日から頑張るんだろう? なら、元気を出していかなくちゃね」

男「…ああ、本当にあの方法は上手くいくのか」

友「知らないさ。けど、そうじゃあないのかなって思ってる」

男「……」

友「頑張ってね、明日の──デートをさ!」

~~~

東地区 生命の女神像前

男「……」

女「おまたせ」

男「…む、早かったな」

女「ううん、貴方のほうが早かった」

男「時間にはまず、三十分前行動と心がけているからな」くいっ

女「…生真面目さんなんだね」

男「それが俺だ」

女「……」すっ

男「む。どうした?」

女「これが…生命の女神像…初めて見た」

男「そうか、そうだろうな。東地区ではかなり有名なのだが──」

男「──下着のクロリティーが凄いと」

女「だから友さんも、縞パンの像と言ってたんだ」

男「訳のわからん気合の入れようだ、なぜ石像にパンツの柄を入れ込む必要がある」

女「…南地区にも石像はあるけれど、あっちも凄いよ」

男「時間にはまず、三十分前行動と心がけているからな」くいっ

女「…生真面目さんなんだね」

男「それが俺だ」

女「……」すっ

男「む。どうした?」

女「これが…生命の女神像…初めて見た」

男「そうか、そうだろうな。東地区ではかなり有名なのだが──」

男「──下着のクオリティが凄いとな」

女「だから友さんも、縞パンの像と言ってたんだ」

男「訳のわからん気合の入れようだ、なぜ石像にパンツの柄を入れ込む必要がある」

女「…南地区にも石像はあるけれど、あっちも凄いよ」

女「〝歴戦の悪魔〟と言われてる像があるのだけれど、その像のね…胸が…凄いの…」

男「…胸?」

女「そう。ボンキュッボン、っていうのかな」

女「すっごくだいなまいとぼでぃ…みたいな」

男「なんなのだ。この街にはろくな石像がないな…」

女「くすくす、そうだね。それに西地区と北地区にもあるみたいだけれど…」

女「…いつかは見てみたいなって、思う」

男「そうか、そうなるためにも今日は頑張るぞ」

女「うんっ」

~~~

女友「……」こそっ

友「……ふふっ」

女友「な、なによっ…黙ってなさいっ」

友「いやいや、無理な相談さ。こんなにも楽しいなんて、久しぶりのことだよ」

めしくぅ

ありがと
今から書く

女友「…なんとなくわかってたけど、アンタ大概な性格してるわよね」

友「ありがとう、褒め言葉さ。特にこの街じゃキャラが濃くないと生きていけないんだよ」

女友「…あっそ」

友「それにしても、なんにしても…くすくす。なんだろう、すごいね」

友「あの男が女の子と一緒にデートだなんて。昔の男であっても、今の男であっても」

友「まったくもって想像できなかった光景だよ」

女友「んなわけないでしょうに。アイツの昔は、とんだ女ったらしだったみたいじゃない」

友「ん? なんだそこまで聞いてのかい? あはは、男も随分と口が軽いなぁ」

友「だけど違うよ。女ったらしじゃなくって、男は王様だったんだ」

女友「王様? 確かに王だったけど…」

友「その意味ではなくてね、傲慢で気高くて、そしておおきい」

友「自分の存在が絶対として信じきった、凄い馬鹿げた人間だったんだよ」

友「そうであるのが常識で、そうであったのが普通だった」

友「…なによりも強者として君臨してたんだ」

女友「……」

友「そんな彼が、女の子とデート? 喜ばせるために努力? くっく、あはは、笑っちゃうよ本当に」

女友「…どれほどのもんだったのよ、昔のアイツは…」

友「だから王様さ。誰よりも偉くて強い、王様」

友「だけど、変わったんだ…」

女友「……。まぁ心底昔に会わなくてよかったと思うわ…」

友「そうだね。あ、そろそろ動き出しそうだよ!」そそくさ

女友「あ、待ちなさいよ!」そそっ…

~~~

男「…随分と荷物を持ってるのだな」

女「え? あ、うん。今日はお弁当を持ってきたの」

男「弁当だと…なぜだ」

女「そのほうがデートっぽい、って。女友ちゃんが言ってたの」

男「……」

女「…デートっぽい?」

男「む、そうかもしれないな。うむ」

女「そっか、良かった」にこ

男「………」

女「でも、今日は本当にありがとう…私のために時間を作ってくれて」

男「良い、約束だからな。お前も忘れるなよ」

女「うん。まだ情報は集まらないけれど…きっと見つけてみせるから」

男「…にしても、これで上手くいくのだろうか」

女「……」

男「…日常生活に含まれる行動に、答えはあるなどという…」

女「でも、確かに本当かもしれない。もしかしたら、自分じゃ意識してない部分で条件があるのかも」

男「それを俺が見つければいいのだな」

女「うん。普段の私を確認して、そうかもって思えたら教えて」

女「今は薬を飲んで落ち着いているけれど、いつ発症するかわからない」

女「…絶対に見つけてみせる、私の体質の条件を」

男「…ああ、そうだな」

女「…だから、とりあえずね」

ぎゅっ

男「むっ!?」

女「手、つなご?」

男「な、何故だ…!?」

女「これがデートっぽいと思うから」

男「そ、それもあの女友の入れ知恵かっ!」

女「…ううん、違うよ」

女「私が手を繋ぎたかっただけ、だめ?」

男「っ……だ、だめではない、な」

女「…そっか、ありがとう」ぎゅっ

男「………………」

~~~~~

女友「なにあれっ!? えーっ!? ちょ、女ぁ!? 大胆すぎよ!!」

友「っ…! っ……!!」びくんびくん

女友「あ、アンタも腹抱えて笑うなっ!!」

友「うっ…くっ…! だ、だめだよっ…! おなか、痛い…!」

友「あっははははは!!だめだめ! なにあの表情ぉ! 男っ…マジで…ッ! ひぃー!!」

女友「アンタほんっと酷いやつよね…ったく、なんなのよ」

女友(だけど…あの子の表情、久しぶりに見た。いつもなら無表情なのに、楽しそう…)

女友「…頑張ってよ、応援してるから…」

友「あはははははは! 死んじゃう!!」


~~~~~

男「…………………」

女「どうしたの?」

男「…なれない空気だ」

女「そう? おしゃれなお店だと思うけれど」

男(周りがカップルだらけだぞ…店の装飾もキラキラ、目に悪い)

女「すみません」

女「…この〝ラブラブエキサイトパフェ〟をひとつ、お願いします」

男「………!?」

女「どうかしたの?」

男「ど、どうかした…ではないっ。今なにを注文した…?」

女「ラブラブエキサイトパフェ」

男「なんだその頭の悪そうな名前はっ…!」

女「でも美味しそう」

男「知らん! お前はこれを食べるつもりなのか…!?」

女「デートだから」

男「で、デートであっても…! ここまでは…っ」

女「…じゃあやめるね」しょぼん

男「お、おおっ? む、いや…別に食べたくないと言ってるわけじゃあ…」

女「本当に?」

男(…見かけによらず食欲が強いな、この女)

男(いや、路地裏で出会った時もフランスパンに泣いてたな…)

男「…なあ女」

女「じゅる」

男「おい。ヨダレを拭け」

女「あ、ごめんなさい」フキフキ

男「……。その、なんだ…あんまりにも、だな」

女「?」

男「互いのことを知らないものだと、ふと気づいてだな」

女「私たちのこと?」

男「ああ、確かに出会って間もないが。それでもだ」

女「…知っても楽しくないよ、きっと」

男「ふん、だれだってそうだ。なにも楽しい話ばかりではないだろう」

女「……」

男「人はみなそれぞれ、過去を持っている。それにどう対処するのかも、人それぞれだ」

男「しかし、その努力こそが──人間の真価を発揮する」

男「俺はお前のその、真価を知りたい」

女「…もしかして口説かれてる?」

男「違う」

女「じゃあ好きになりかけてるとか」

男「もっと違う」

女「…デートっぽくない」

男「一体お前はデートになにを求めてるんだ。違う、そういった話じゃあない」

女「……」

男「…っはぁ~、わからん。最初から思っていたが、お前はわからん」

女「…私はわたしだよ」

男「む?」

女「なにも変わらない。ここにいるが、私」

女「心に鍵を掛けていた私も、私。今こうやってデートしているのも、私」

女「全てが本当で、全てが嘘」

女「……私はきっと、結局何処にも居ない」

男「哲学的な話だな」

女「そうじゃないよ、もっと簡単な話だよ」

女「だから知っても楽しくなんかないんだよ…」

男「…難しい女だ。それじゃあモテないぞ」

女「…いいの、私は」

女「それが私って知ってるから」

男「……」

女「……」

「お待たせしました~ラブラブエキサイトパフェでーす」ゴトン!

男「……」

女「……」

「ごゆっくりどうぞ!」

男「…でかいな」

女「…うん」

男「それにストローが、こう、ぐにゃんぐにゃんで絡まってる」

女「そうだね」

男「…食うか」

女「うん」

~~~

友「あれ? なんだか空気がおかしいね」ズゾゾゾ

女友「…そうね空気がちょっと悪い、それにアンタとこの店に入ったことも最悪だわ」

友「あははー気にしないでいいよ?」

女友「ちょっとは気にしないさいよ。ったく…」

友「ねえ、ひとつ聞いてもいいかな」

女友「なーによ」

友「君の体質って『クズ体質』らしいね。男から聞いたんだけれども」

女友「…口が軽いわねアイツもッ…」

友「あはは。話を進めるけれど、それって何のチカラがあるのかな?」

女友「…聞いてどうすんのよ」

友「うん? 決まってるじゃないか、対策を立てるんだよ」

女友「対策?」

友「そうだよ。それがボクの特技っていうのかな、とりあえず──」

友「──相手の力量を図ること、それがボクのちからなんだ」

女友「…アンタ体質無しじゃない、この街じゃ珍しいけど」

友「そうだね。ボクは〝転校生〟だから仕方ないことなんだけれども」

女友「ってか、対策ってなによ。アンタ、アタシになにするつもり?」

友「クセみたいなもんだよ。危害を加えるつもりはないから、安心していいよ?」

女友(全然安心できない…)

女友「…ま、アイツの友達だから信じてあげなくもないけど」

女友「あたしの体質は──『クズ体質』」

女友「例えば──人の弱点を最適化して攻撃できる」

女友「例えば──他人を陥れることを無意識に行動できる」

女友「例えば──心の傷を見破ることが出来るの」


女友「特に人が持つ〝体質〟──それが何処までのものなのか、それを若干把握できる」

女友「相手の心の内側を感じ取り、自分の立場が常に上に立てるように動き回れる」

女友「…それがあたし、『クズ体質』のチカラよ」

友「なるほどね。だから男を選んだんだ」

女友「…え」

友「東風校生徒は気が緩んだ人たちが多いんだ。
  君みたいな体質持ちは、手足のように使える存在がいっぱい居たはずだ」

友「…けれどその中で、男を選んだ」

友「それはつまり、自分にとって最善な存在を見破ったわけだ。その体質で」

女友「……」

友「素晴らしいね、素敵な体質だよ。惚れ惚れしちゃうね」

女友「…なにか言いたそうね」

友「そんなことはないさ。君が行う一つ一つの仕草が、相手を油断させるものだったとしても」

女友「っ……!」

友「ボクはなにもしないよ。するこはないよ、だから──」

友「──安心してね?」にこっ

女友「…条件はなに」

友「うん?」

女友「アンタがそういうやつだってことは…なんとなく、わかってた」

女友「それにこれだけですまないってことも、なんとなくわかる」

友「流石はクズ体質。話が早くて助かるよ」

女友「……」

友「ボクの願いはただひとつさ。男に不幸になってほしくない」

女友「…アイツが?」

友「そうだよ。彼は過去の自分を──乗り越えようとしている」

友「君たちに出会ったこともまさにそれだ。運命として、立ち向かおうとしている」

友「心の傷を見ることが出来る君なら──」

友「──きっと男の意思も知れているだろう?」

女友「……」

友「ま。そこに漬け込んで頼んだんだろうけどね、君はさ」

女友「…なんとでも、言いなさい」

友「怒ってないよ、むしろ感謝してるぐらいだよ」

友「だけどね、それでもね、女友さん」

友「──もし男を不幸にさせたら、殺すから」

トイレ

ありがと
すまんかった

女友「…………」

友「なんてね、嘘だよ冗談さ。あはは」

女友「…どうして、アンタはそこまで」

友「うん? それはね、そこまでのことをしてもらったんだ。彼には──彼女を止めてもらった」

女友「彼女…?」

友「うん、ボクの妹だよ。北山校の──〝不動の北〟の【王】のことさ」


東南方面地区 とある路地裏

「はぁ~あ、どうすんべ」

「どうしようもなっしょー黒猫さんがいうには、まだ動くなって話っすし」

「大変だよなぁ…最近は西林校の奴らも本格的に動き始めたし…」

「南火も派閥もすっかり取り込まれて…」

「うちら黒猫組もかたみが狭いぜ…」

「そうっすね~」

「…もうさ、いっちょ抜けね?」

「えっ? なにってるんすか!?」

「だってよぉ。体質のレベルを上げるために西林と喧嘩」

「…それに南火の体質もちを探しまわってるけどよぉ」

「まあ…ろくに成果が無いっすからね」

「ウチらの場所が亡くならないうちに…あの〝赤髪〟の派閥によぉ…」

「ちょ、先輩っ」

「あ? どうした?」


「──随分とまぁ楽しそうな話をしてるのねぇ、ふふふ」


「っ…!!」

「どうもっす! こんちわっす!」

黒猫「うん、うん、ご機嫌麗しゅう。今日も元気そうでなりよりだわぁ」

「く、黒猫さん…!」

黒猫「一つ聞きたいのだけれどぉ、こんな所でなにをしているのかしら? うん?」

「う、ウチラはただ…そのっ、あの東風生徒の噂で来てまして!」

「は、ハイっす! そのとおりっす!」

黒猫「あら、あら、そうだったのねぇ。お疲れ様、疲れたでしょう、大変だったでしょう?」

「え、ええ…」

「うっ……」

黒猫「いいのだわぁ。きっとそんな頑張ってる人たちには、幸運が訪れるはずねぇ」

「こ、幸運…が…」

「………」

黒猫「そうよー、うふふ」

「そ、それでその…黒猫さんはどうしてこの方面に…?」

黒猫「あらいい質問ね。実は私もついに、ついにだけれども」

黒猫「──幸運が舞い降りたみたいなのよ」

「えっ…!? こ、幸運が…!?」

「そんなわけないっすよ! だって黒猫さんはっ…!」

黒猫「…黒猫さん、は?」

「お、おい! 何いってんだお前!」

「あえぁあっ! す、すんませんっす!」

黒猫「……」

黒猫「いいのよぉ、大丈夫。わかってるからきにしてないのだわ」

黒猫「まぁ幸運っていうのは、こういうことなのだけれどもね」すっ

「…映画のチケット?」

黒猫「そうなのっ! 前から見たかった映画のチケット…さっきくじ引きで当たったのよね!」

「そ、そうなんすか…」

黒猫「しかも四人用よ? いち、にい、さん…ちょうど三人いるみたいだから、どうかしら?」

「ちょうど三人…?」

「え、でも四人用っすよね?」

黒猫「ええそうよ。だからね、こんな幸せな私にはもっと──」

黒猫「──素晴らしい幸運が訪れると思うのよぉ」

「幸運って───」


キキィ! ドン!!


「──へっ!? な、なんだっ!?」

「ど、どこかで事故ったみたいっすね!?」

黒猫「……」

黒猫「…あら」

「あ、あれ…あの制服…南火の…」

「生徒っすよね…?」

黒猫「なんて、なんて、まぁ」

黒猫「南火生徒の子が…交通事故に──これは幸運ねっ!」

「え…」

黒猫「この方面では中々、南火の生徒には会えないのに…こうやって出会えた」

黒猫「だけど、残念ね。あの姿じゃあ…映画なんてとても見れないわ」

黒猫「出会えた幸運はあれど、映画を一緒に見ることは出来ない不幸」

黒猫「…本当に、本当に、残念だわだわ」

「こ、これは……」

「うっ…なんて、うそっすよね…これが〝体質〟とでも言うんすか…?」


(──彼女と関わるだけで、運命が狂わされ、不幸になる)


黒猫「ふふふ。さて、行きましょうか…二人共」


(『不幸体質』──南火校の〝黒猫〟……!!)

東地区 映画館前

男「………」

女「どうしたの?」

男「そういえば映画を見ると言っていたな、なんの映画だ?」

女「えっと、猫の一生ってやつだよ」

男「…猫」

女「好きなの?」

男「な、なわないだろう! この俺があの…ぷにぷにの肉球を持ち合わせた、可愛い家畜など!」

女「かわいいよね」

男「な、なんだそのほほ笑みは! やめろ! 違うと言っているだろう!」

女「高校生二人で」

男「むぐぅっ…!」

~~~

男「…映画を見るのは久しぶりだな」

女「そうなの?」

男「ああ、前はよく行っていたが…ここ最近は観に行ってなかった」

女「……」

男「まぁわかると思うが、そんな暇がなかったのでな」

女「きっと見つけるよ、目的の女の子は」

男「…ああ、頼む」

女「うん」

ブィー!

男「始まるみたいだな」

女「……」

男(猫か、ふん! この俺と満足できるものなのか…少し試させてもらうか)

数十分後

男「………」

男「…っ……」うるっ

男(っ…し、しまった。まさかこの俺が……まさか涙腺を緩めるなどと…!)

男(だがそれも仕方ないことなのかもしれん…この映画は素晴らしい)

男(猫と一生だと言ったか。チープなタイトルで疑っていたが…くそ…)

男「………」チラ

女「ぐすっ…」

男(ほぅ。コイツも心に来ているようだな…ふふ、ネコ好きか)

男(確かに、この世に猫嫌いなど居ないだろう。あのふわふわとして可愛らしい存在…)

男(愛くるしい鳴き声…全てが完璧だからな)

男(だが油断はしない。確かに涙腺にダメージはあったが、それはもはや乗り越えた…!)

男(男は泣かない。師匠の言葉だ、ふむ。全力で立ち向かわせてもらおうか!)

男「……」ボロボロ…

男「──ッ…!?」

男(な、なんだ…? 急に涙が!?)


キィイイイイイイイイイイイイン!


男(この感覚……は…)

女「ううっ…ひっぐ…」キィイイイン!

男(体質が発動しているのかっ…まずい、しかし、止めるべきかっ?)

女「ぐす…」

男(人を困らせているだけではない…ただ泣いて、そして共感するべくチカラを使っているだけだ…)

男(…にしても、なんていう体質だ)


「うぉおおおいおいおい!」

「ひっくぐすゅっ! びえええーん!」


男(他の客がところ構わず号泣している…女の体質に反応しているのか…)

男(…しかし、女の姿は客には見えていない。それに、女も客を見ている様子もない)

女「うっぐ…」

男(視界による条件ではないのだろう。しかし、ここまで大きく反応するのであればそれなりの条件が──)


ジリリリリリリリリリリ!!!!


男「むっ!? なんだ!?」

女「…え」


『──火事が発生しました。早急に係員の先導により、非難を行ってください』

男「火事だと…っ?」

女「え…!」

男「珍しいこともあるな、おい、とりあえず非難をするぞ」

女「……」

男「…? どうした、なにをしている? 早く立ち上がれ──」

女「い、いやっ…やだやだ…!」

男「お、おい?」

女「怖い──嫌だ、怖い怖い…!!」

男「どうしたっ!? 急になにが起こって──」


『──薬のせいで性格がブレることも在る』


男「まさかっ…くっ! とりあえず落ち着くんだ、女。大丈夫、怖いことはない!」

女「やだやだっ! 怖いよっ…やだ!」

女「怖い…!」


キィイイイイイイイイイイイイン

男「っ…!」ぞくり

男「なんだ、今のは…急に寒気が、むっ…? 足が震えて、うおっ!?」ドタリ

男「っ…? っ…!? 心臓が痛い…!」

女「っ……!」

男(まさかこれは──恐怖? 女の恐怖が周りに反応して──)


「きゃああああああ! やだあああああ死にたくないいいいいいい!!」

「やめろどけぇ! 俺が先に行くんだ! お前は後から来い!」

「引っ張らないでよ! てめーが先に死ね!!」


男(周りの客が暴れ始めている…!)

男「つっ…おい、落ち着け女!」

女「ううっ…ううっ…」

男「だ、大丈夫だ! なにも怖くはない! 」

男「なにを恐れている! お前を傷つける奴はここには居ない!」

女「……っ……」

男「だから心を静めろ! くそっ…聞こえてないのか女!」

女「…だめだよ…っ」

男「な、なにがだ!」

女「だめ…なにも見えない…声も光も…全然みえない…っ」

女「私はひとりぼっち…誰も見てくれない、誰も私を必要としてくれない…!」

女「だから、だめっ…!」

キィイイイイイイイイイイイイン!!

男(なんだそれはっ…意味がわからん! 一体なんだと言うのだ!)

男「おい、女…! お前がなにが言いたいのかさっぱりだ…っ!」

男「だがな、それでもお前は──希望を見つけるために頑張るんだろう!?」

女「っ…希望…?」

男「ああ、そうだっ…! 希望は確かにあるぞ! だが、小さくて見えないだけだ!」

男「だから探すんだ! お前はきっと見つけられる! だから、くっ…!」

男(周りが暴動を起こしかけているっ…! これは…!)

女「私は…私は…」

男「…っ…」

女「……ううっ…わからないよ…なにをしたらいいのか、わからないんだよ…」

女「やっぱり人はそう簡単に変われないっ…また、私は人を傷つける…!」

男(…コイツ、最初の発動から更にこの状況で体質を発動させてるのか…!?)

男(なんという負の連鎖だ…自分に自信が無いものは、ここまで弱いものなのか…!)

男(コイツの弱さは──弱さは……)

男「……そうか、弱さか」ずりっ

男「今、なんとなくわかった…お前は弱いんだな」

女「ううっ…」

男「…俺は弱いものの気持ちが、わかりずらい」

男「昔から傲慢で、自信家で…そうやって生きてきた」

ずりっ…ずりっ…

男「だからお前の気持ちがわかってやれない」

男「けどな、それでも、俺はわかってやろうとしてやるぞ…」

男「昔の俺とは違う…なにも見えなかった、馬鹿な俺は居ないんだ…」

男「だから──お前の弱さを知ってやる」

ぎゅっ

女「…え…」

男「強くなれ、心を進化させろ。手助けしてやる、この俺が」

女「助けて…くれるの…?」

男「馬鹿言え。助けるはずがない、お前が助かるように努力しろ」

男「俺はただそれに乗っかるだけだ…」

女「……」

男「弱いなら、頑張れ」

女「……」

男「…強くなれ」

女「…強く…なれ」

キィイイイイイイイイイイ……

イイイイ…

女「…………」

男「…ふぅ」


「…あ、あれ? なんで俺…?」

「あ、ああっ! ごめんなさい! 私ってどうして…!」


男(元に戻り始めたな…頭が痛い、くっ! とりあえず非難をしなければ…!)

「──こっちよ! 二人共!」

男「むっ?」

女「あ…」

女友「ごめんなさい…! 助けるが遅くなって! あたしたちもその…っ」

友「動けるかい?」

男「ああ、大丈夫だ。わかってる、みなまで言うな」

女友「…う、うん」

男「さて、行くぞ。映画は見れなかったが、まずは己の命が大切だ」ぐいっ

女「……」

男「掴まれ。背負ってやる」

女「…うん」

友「こっちだよ、早く!」

男「ああ」たったった

女「………」ぎゅっ

東地区 公園

友「ふぅ、一時はどうなるかって思ったよ」

女「…ごめんなさい」

女友「っ…な、なに謝ってるのよ! あれは仕方ないことだったじゃない…!」

友「…あれ、そうかな? 確かに火事は違うかもだけれど、暴動が起きかけたのは彼女のせいじゃないか」

女友「な、なによっ!? 文句あるわけ!? だってそれは…!」

友「ボクは本当のことを言っているだけだよ。それに、君だってわかっているはずだ」

女友「そ、それは…っ」

女「ううん、いいんだよ。友さんの言うとおりだよ」

女友「女…」

女「ありがとう、また庇ってくれて…でもあれは私のせい」

女「私の体質がまた、周りを不幸にさせた…ただ、それだけのことなんだよ」

女友「違う…違うわよ! 仕方ないことじゃない、だってアンタは体質が…っ」


「そいつの体質の条件は〝心の弱さ〟だ」


女友「…え?」

男「やっと分かった。さっきの映画館で、俺はそう判断した」

女「…………」

友「心の弱さ、ってのはどういうことだい?」

男「怯えた時、怖かった時、自信がなかった時──」

男「──それに呼応して、女の『シンクロ体質』は行われる」

女友「それ…本当に…?」

男「ああ、そうだな…」

男「…しかし例外はある。安定剤で〝体質〟を落ち着かせた場合は違うみたいだが」

男「…それでも、きっと、お前の条件は」

女「…心の弱さ」

男「…。お前は自分に自信がないのだろう?」

女「…うん」

男「なにをしても、なにを思っても、それが正しいとは思えない」

男「何時も迷って、考えて、そして──体質によって〝悩み〟を吐き出す」

女「……」

男「それがお前の本質で、条件だ」

女友「…女…」

女「…確かにそうみたい、私もなんだかそんな感じがするんだ」

女「怖いんだよ、前を向くことが。どれだけ正しいことだって、わかってても」

女「…私の心がいうことを聞いてくれない」

女「何時まで経っても独りぼっちで、何処にいても…心にぽっかり穴があいてる」

女「なんでだろう…女友ちゃんみたいな、大切な子がいるっていうのに」

女「……私はいつも、怖かった」

女友「……っ…」

女「それにね、男くん」

男「なんだ」

女「貴方が言ってくれた──喧嘩を売ろうって言葉も」

女「きっと信じきれてない。まだ心の端では疑ったまま」

男「……」

女「貴方の言葉がとても強いことは、わかってた。信じて、その道を進むことも考えた」

女「…貴方に近づけば、私も強くなれるんじゃないかって」

男「そうか、なるほどな。今日はいい大胆さだったぞ」

女「…ありがとう、でもね、やっぱりだめだったみたい」

女「──私の心は、弱いままだった」

女「どうしたらいいんだろう、もうね、疲れちゃった…」

女友「…だめよ、変なことは言わないで…!」

女「…ありがと、女友ちゃん。貴方には本当に助けられてばっかりで」

女友「うっ…」

友「……」

女「だから、それこそ…私は弱いまんまなんだね──」

女「──ねえ、男くん」

男「どうした」

女「私は条件を見つけられた」

男「…ああ、そうだな」

女「この条件は、貴方の考えで…制御できると思う?」

男「……」

男「──無理だ、心の強さに制御など出来るはずがない」

女友「ッ…!」

女「…うん、わかってた。そうだって、思ってた」

男「………」

女友「なん、でよっ…どうしてよっ!? アンタは出来るって言ったじゃない!!」

男「言ったな、だが、無理なものは無理だ」

女友「なにようそつき!! 東の吸血鬼なんでしょ!? 救いなさいよ!! この子を!!」

男「…無理だ、俺には出来ん」

女友「っ…なにそれ…! なんなのよッ!? なに言ってるのよ!?」

女友「アンタはそうやってすぐに逃げるのね!? 出来なかった問題がすぐに目を背ける!!」

友「…」ぴく

女友「だから全てを失うのよ!! 王の座だって、アンタが馬鹿だから失った!!」

男「……すまん」

女友「謝ってほしくなんかないわよ!! このッ…他人の気持ちがわからない──」


友「──おい、黙れ」


女友「っ…な、なによ! アンタは黙ってなさいよっ!」

男「…友落ち着け」

友「ボクは落ち着いてるさ。けれど、彼女は言ってはいけない事を言っている」

友「これが怒る原因になりえることに、君にも文句は言わせない」

男「分かった。だが、落ち着いてくれ…それにお前もだ」

女友「っ…!!」

男「今は争う場合じゃない。女のことを考えるべきだ」

女友「なによっ…考えたって無駄じゃない、アンタにはなにも出来ないじゃない…!」

女「もうやめて、女友ちゃん…彼は悪くないよ」

女友「あ、アンタは黙ってなさい! あたしは絶対に諦めないから!!」

男「……」

女友「心の弱さがなによっ…この子は見つけてみせるわよ! ちゃんと乗り越えてみせるはずよ!!」

男「…そうか、勝手にしろ」すっ

女友「っ……なによ…なんなのよ…!」

男「俺は出来ないと言った。もうソイツに…できることはない」

女「……」

男「すまなかった。やはり人間は、運命に勝てないみたいだな」

男「…こっちの頼みは無しにしていい。ありがとな、では」すたすた

友「……じゃあね、また何か機会があったら」ふりふり

女友「っ……」

女「……」

女友「…ごめんなさい、あたしってば勝手にこんなこと…」

女「ううん、いいんだよ。これでよかったんだよ」

女友「でも、でもっ…あたしは諦めないから…! アンタの心の弱さを、絶対に強くさせてみせるから…っ」

女「…うん、ありがと」

~~~~

友「随分とまぁ、突き放すんだね」

男「事実を言ったまでだ。俺には出来ない、ただそれだけのことだろう」

友「そうだね。心の強さなんて、誰かにできることじゃない」

友「…だってそれは、君がずっと求めてることだものね」

男「……」

友「懐かしい雰囲気だよ。殺伐として、空気が淀んでる」

友「まるで彼女──【黒風の東】が近くに居るみたいだね」

男「……」

友「あれ、怒らないのかい?」

男「…なにが言いたい」

友「君の過ちさ。四年もたったんだ、ここは話そうよ腹を割ってさ」

男「…お前は何度言わせたら気が済むんだ」

友「何度だって言うよ。それがボクが出来ることだって、自負してるつもりだからね」

男「……」

友「君の後悔は、ずっと君を苦しめる」

友「彼女と君の間にあった──あの問題は」

友「男をそこまで変えてしまうほどのトラウマを生んだんだ」

男「…あの時の俺は、なにも知らなかった」


友「だろうね、人は言うかもしれない──そんな単純なことで傷つくなんて」

友「君はもっとも人が単純に乗り越えられるだろう問題を──乗り越えることが出来なかった」


友「それが君の過ちだ」

男「…変えようとしている、今は、乗り越えようと努力している」

友「出来ないくせに、強がるなってば」

男「……」

友「だけど応援はしてるよ。君が新しい自分になることを、ボクは何度だって応援してあげるよ」

友「…けど、忘れることは強さにはならないって思う」

男「…なにが悪い、俺はそれが全てだと思った」

友「だから新しい女の子を探して、また傷つけるのかい?」

男「っ…!!」

友「君は一体なにがしたいんだろうね、ボクにはわからないよ」

男「怒るぞっ…それ以上言うな、本気で怒るからな」

友「怒れるのかい。きっと君が一番理解しているはずなのに」

男「うるさいっ! お前になにが分かる! 知ったようなことを言うなっ!」

友「知ったようなことを言っているのは君のほうさ」

男「ッ…なにを…!」

友「君はなにも分かってない。いや、わかってるんだろうけど目を背けてる」

友「…弱いね、東の吸血鬼。相変わらず君は弱いよ」

友「ねぇ、聞かせてよ。この際だからさ、君はあの時──どう思ったの?」

男「なにがだッ」

友「全てに知ったような口ぶりをして、全ての王から敬意を貰い」

友「傲慢で、王様で、強情だった──完璧の君が…」


友「…どうして、あの【黒風の東】の彼女から──」

友「──好きだって言われただけで、酷く落ちぶれたのかなってさ」

男「………」

友「笑っちゃうよね。どうしてだい、東の吸血鬼さん」

男「…うるさいっ…」

友「君の体質にかかった女の子は皆、君のことを好きになっていたのにさ」

男「黙れっ…黙れと言ってる…!」

友「──どうして彼女だけは、駄目だったんだい? そして、乗り越えられなかったんだい?」

男「黙れ!!」

友「気づいたんだろ、自分の弱さに。きっとその瞬間に」

友「…本気で心を向けてくる人に対して、自分がなにを返せばいいのか」

友「わからなくて、ちっぽけで、馬鹿だったから」

男「っ……」

友「だから君は弱いんだ。本気を知らない、それは──あの女さんと一緒だよ」

男「…うるさいぞ…っ」

友「なにを見てるんだい、君は。また挑戦するために、代わりの女の子を探して」

友「また同じ過ちをするつもりなのかな?」

友「言ってあげるよ。君はまた──失敗する」

友「四年前と一緒だ、東の吸血鬼を捨てたあの時と同じ」

友「…君は更に落ちぶれる」

男「………」

友「変わったのは外見と、その虚勢だけだよ。君は」

男「…なんなのだ、お前は」

友「…」

男「…俺になにを求めてる。俺は、ちゃんと乗り越えようとしている…」

男「あの四年前から…全て、乗り越えてきたつもりだ!」

男「なのにお前はまだ…っ…責めるのか! あの時の俺を!」

男「いいだろうっ…もう、救われていいはずだろ…!」

友「…君は強い人間だ。本当だよ、だからこそ難しいだろうね」

友「人っていうのはどうやって這い上がるのか。もっと簡単に済むはずなんだ」

友「だけど元から君は強かった。だから一旦落ちぶれた時、どうすればいいのか分からない」

友「……師匠とやら見つけても、君は弱いまんまなんだ」

男「……」

友「ボクに言えるのはこれだけなんだよ、男…ごめんね」

友「言っただろう? 人の心は、他人がどうすることも出来ない」

友「もう一度よく考えるんだ。ボクは、ボクはずっと君の幸せを願っているんだから」

友「…君はなにがしたいんだい? 救われたいのかい? 乗り越えたいのかい?」

友「できることなら、ボクも君を……ううん、なんでもないよ」

男「………」

友「希望は何処に在るんだろうね、だけど、ボクはすぐ近くに在ると思うよ」

友「見つけられるといいね、男」

~~~

数時間前

東地区 映画館

ジリリリリリリリリリリ!!

「く、黒猫さん! 逃げましょうよ!!」

「や、やばいっすよ! 火事っすよ!?」

黒猫「もぐもぐ…」

黒猫「馬鹿言わないでくださるぅ? 映画はまだやってるのだわ」

「何いってるんですか…!? 危ないんですよ!?」

「ううっ…やっぱり不幸っすよこれは…っ」

「ば、バカお前! いうなっていただろ!」

黒猫「──不幸? ふふふ、たしかにそうねぇ」

黒猫「確かに今は不幸よねぇ…楽しみにしてた映画が火事で最後まで見れなくて…」

黒猫「なんともまぁ、私ってば不幸なのかしらぁ。うふふ、ふふっ! あははは!」

「っ…もうだめだ! 逃げるぞ!」

「は、はいっす!」

黒猫「あら、あら、もう行っちゃうの?」

「あ、アンタはっ…やっぱりバケモノだ! なにを考えてるのかさっぱりわからないっ!」

黒猫「まあ酷い。そんなこと、親にも言われたことないわ……ぐすん」

黒猫「だけど、いやぁね。そんな私を置いて逃げるなんて…」

黒猫「もしかして貴方──私より幸せになろうって思ってる?」

「え…」

黒猫「この不幸で可哀想な私よりも、幸せだって思ってる?」

黒猫「自分がいちばんかわいいって、なによりも奇跡に溢れてて」

黒猫「すべてのうんめいからすくわれたそんざいかだとおもってるのかしらぁ?」

「…なんだこの人っ…! えっ!?」

黒猫「いやーね、ほんっと」

黒猫「不幸になっちゃえばいいのに」


「人集りがこっちに、やめ、て来ないで──」

ドシン!!!

「ぅぁ…」

黒猫「あら下敷きになっちゃった。もしかして今、不幸?」

黒猫「──ありがとう、今とっても私は幸運よ!」

黒猫「貴方のお陰で運差が変わって、私が一番幸せなの!」

黒猫「嬉しい! これ程嬉しいことなんてないわ! あははは!!」

黒猫「…それに、ね」もぐ

黒猫「良い感じのタイミングで──これほどの最高のタイミングで」


「ほら行くぞ」

「……」


黒猫「ふふふ。なんて素敵な〝体質〟なのかしらね…彼女」

黒猫「──是非ともお仲間に入って欲しい限りだわ、だわ」

次の日 休日

男「……」

男「よく眠れなかったな…」

男(まあ眠れるわけがない、昔のことを随分と思い出した…)

男「…」かちゃ

男「今日一日、どうするか」

東地区 生命の女神像

男「……」

男(この街には4つの像が存在している──東西南北、それぞれには意味があり)

男(…そしてそれは、この街を救った英雄だと言われている)

男「英雄、か」

男「それは…師匠みたいな人を言うんだろうな」

男「…師匠、貴方は今どこにいるのですか」

男「あれから随分と時がたちました…けれど、貴方は帰ってこない」

男「俺は…なにをしているのか…もう……」

男「…なにが正しくて、なにが間違っているのか…」

男「っ……」

「──こーんにちわぁ」

男「むぉっ」

「あら、あら、びっくりさせちゃったかしら?」

男「お、お前は…」

黒猫「お久しぶりねぇ、何時以来なのかしらね」

男「…何故ここにいる、ここは東地区だぞ」

黒猫「いいじゃないですか。だって、この街はみんなの街なのだわ」

黒猫「今日はいい天気ですしねぇ。うん、うん、だからお散歩ですのよ」

男「要件は何だ。手短に…済ませろ」

黒猫「おや、おや、もしかして体調が優れないのかしらぁ?」

男「……」

黒猫「ふふふ。まぁいいですわ、今日は1つだけお話しをしに来ましたの」

男「話だと?」

黒猫「そうですわぁ。うふふ、貴方にとってどれほどの重要さはわかりませんがぁ」

男「…なんだ」

黒猫「あのですねぇ、やっと、やっと! 私にも幸運が訪れたのですわぁ!」

男「な、なんだっ? 幸運…?」

黒猫「そうですの! なんて素晴らしいのでしょうかぁ…私はきっと、誰よりも幸せなのだわ…」

黒猫「…ふふ、見つけましたの。最高の体質もちの方をね」

男「っ……」

黒猫「先日、映画館でお見かけしたのですわ。なんて、傲慢で綺羅びやかなチカラなのかしらと…」

黒猫「…思わずその顔を凝視してしまうぐらいに」

男「…それがどうした」

黒猫「いえ、ね。貴方には色々とご迷惑をかけたかと想いましたので、言いに来たのですよぉ」

黒猫「──もう色々と嗅ぎまわっても、私はなにもしませんわ。っとね」

男「…噂は聞いてる。体質もちを探しまわってるそうだな」

黒猫「ふふふ」

男「それで十分だと判断をくだしたのか。そいつは…それほどの体質持ちだと」

黒猫「どうなんでしょうか、ふふふ」

男「…言いたくなければ、それでいい」

黒猫「ごめんなさいねぇ。これでも、ボスを語ってるものですから」

黒猫「ともかく、なによりも、これだけを伝えに来たかったのですわぁ」

男「……」

黒猫「最後にひとつだけ。知ってますかしら? 幸運は不幸の裏返し、だと」

黒猫「──強まる不幸があるほどに、後に待つ幸運は絶大なチカラを発揮する」

男「…知らんな、宗教論か?」

黒猫「いいえ、私の独自の考えですの」

黒猫「なんとなく分かるのですわ。貴方は何処か、私に関係があるのだと…ね」

男「……」

黒猫「…運命の起こす出来事は、私にきっと幸せを呼ぶでしょう」

黒猫「だからこそ、貴方も私に──絶大なる幸運を、くださいまし」ぺこり

黒猫「では、では、それでは。ご機嫌麗しゅう」


男「…不吉なやつだ」

男(でも、そうか…とうとう見つかったのか。あの時の──映画館で)

男「…なにを考えている、俺」

男(もう関わらないと決めたはずだろうに。俺に、できることはなにもない)

男(出来なかったんだ。今日という日が来ないよう──)

男(──それでも、俺は役立たずだった)

男「アイツに、俺はなにもすることは出来なかったんだ」

男「それが運命だ…」ぎゅっ

男「…本当に、俺は口ばっかりの奴になってしまったな」

男「………」

男(いや、昔から口だけの奴だった。なにも変わっては居ない)

男(強がりで、傲慢で、だけど弱い)

男(…取り返しの付かないほどの、大馬鹿もんなんだ)

男「俺は……なにも出来ない」

東風校 寮

男「…」ガチャ

男「…む。これはなんだ、弁当箱…?」

男「手紙が付いている…」カサ…

『男くんへ』

男「…これは」

カサカサ

『昨日はありがとうございました。お礼を言い忘れてた為に、このような手紙を用意しました』

『この手紙は友さんが無事に届けてくれると、言ってくれましたので。私も安心して書いています』

男「…アイツはいつの間に」

『改めて、お礼とともに貴方には謝罪をしたいと思います』

『私のために、私なんかのために手助けをしてくれて。本当に感謝しています』

『私は貴方のように、強くなれませんでした。そう願っても、なれない自分が離れませんでした』

男「……」

『やはり怖いんです。なにを怖がっているのかをわからないぐらいに』

『私は現実を直視するのが怖いんです。私はだからこそ、この体質に目覚めたのだと想います』

『自分の悩みを周りに伝える。それは、私が出来る唯一の解決方法なんだと想います』

『はた迷惑な話ですよね。私の勝手な都合で、周りが不幸になってしまうのですから』

『ですが、心の弱さは本当に。それほどに強いものなのだと思います』

『そうやって迷惑をかけてしまうほどに。私は弱く、そして強い悩みを抱えている』

『だからこそ、私は強くならなくてはいけません』

『乗り越えなければならないのだと、自分で勝ち取らなければならないのだと』

『私は貴方に出会えて本当に良かったと思っています』

『私は貴方によって、救われました。こう思えた自分を、先に進もうとする自分を』

『本当に本当に、貴方によって変われたのだと思います』

『短い間でしたが、これは運命なのでしょうか。私が否定したい、その運命が』

『貴方と私を引きつけた。なんて、ロマンチックなことを考えたりもしてます』

『だから、私は強くなりたい』

『弱い心に打ち勝ちたい。すべてのしがらみから、私は走り出します』

『運命に躍らされるのはここまでです』

『ありがとうございます。そして、ごめんなさい』

『女より』

男「…………」カサ…

男「…俺はなにもしてないぞ、馬鹿が」

男「お前に言ったことは全て…俺の虚言だ」

男「俺はなにも強くない。そのクセに、弱い奴の心を知ることが出来ない」

男「ただの馬鹿なやつだろう…俺は」

男「……ん、なんだ封筒の中に何か…」ガサ

パラリ

男「写真? なんだこれは──」

男「──女がキッチンで、料理か?」

男(そうか、当たり前だが手作りだったんだな。あの弁当も…)

男「…それにこの弁当。まさかまた作ったのか、わざわざ」

男「………」

キィン!

男「うっ───」

男「なん、だっ…目が痛い…急にどうしたと…!?」

男「っ…」ドクン!

男(この感覚は…なんだ、体質だと!? なぜこのタイミングで…!)

パラリ

男「…写真っ…?」

ドクン!!

男「あ…この写真は…」

ドクン!!

男「女の…ぱ、パン…」

ドクン!!!

男「女のパンチラが見えてるじゃあないか!」

──ドクン!

男「痛ッ…!」

キィイイイン!!

男「はぁっ…はぁっ…今、のはっ?」

男(写真の下着で発動したのは初めてだぞ…いったい何が起こって…イベントは? なにが始まっている?)

男(…下着は縞パン。起こりえるイベントは、俺の予想ではそうあまりないが)

男「しかし近くに…あの女が居ない限りはイベントなど起こるはずは…」

男「むっ?」

かささ! かさ!

男「なん…だと…!?」

男(ほ、ほぁー!? ご、ごき! ゴキブリだと!?)

男「この清潔感タップリッ…この部屋で! ゴキブリ!?」

カササー!

男「待て成敗してくれる!!」だだっ

ガン!

男「痛ぁ!?」ぐらぁ

男「…え?」

男(窓、開いて、落ちる───)

男「うぉおおおッ!?」

ヒューン!

男「し、死!」

ぽすん!

男「………………」

男「たす、かっ……た?」

ブロロロロロ

男「むぉっ!?」

男「こ、これは…トラックの荷台の上か!? 荷物が柔らかくて助かったが…っ」

男「何処へ行く! 待ってくれ、まだ部屋にはゴキがっ!」

ブロロロロロ

男「むぅっ!?」

友「ふんふーん」すたすた

友「…男のやつ、落ち込んでるだろうな」

友「まぁボクのせいなんだろうけれど…うん、だからこそ慰めないと!」

友「今日はボクがご飯を作ってあげようっと───」


ブロロロロロ

男「……」バタババタバタ!!

ブロロロロロ…


友「──えっ?」

友(男がトラックの荷台の上で、腕を組んで仁王立ちして、通り過ぎていった)

友「なにそれ!? ちょ、男ぉ!?」だだっ


~~~

男「れ、冷静になれ…俺…!」

男「ここは大胆に考えるべきだ…! なにも怖がることはない…!」

バタバタ…!

男(うぬっ…風が強い…!)

男「それにスピードも乗っている…飛び降りるのは困難だ…!」

男「どうするべきか…!」

「──おーい、男ぉー!!」

男「…む?」

友「はぁっ…はぁっ…なにやってるのさ!? そんな所で!?」

男「と、とも! すまん助けてくれ!」

友「ちょ、ちょっと待って! 自転車追いつくの結構キツイ…!」

男「ぐぬっ…」

友「と、とにかく! なにやってるの!? そのトラックは──」

友「──〝南方面行き〟だよ!? その会社の名前を見たことがあるから!」

男「…なんだと?」

友「そのままじゃ何処まで行くかっ…信号待ちまで待ってなよ! ボクもすぐ行く!」

男「………」

友「お、男!? 聞こえてるの!?」

男「もしや…これは…」

カチャ

男「…なるほどな。なんともまぁ都合のいい展開だ」

友「っ…?」

男「──イベントなのだな、これは」

男(なにがどう動いているのか。経験上、まったくもって分からないイベントだな)

男(…だが、なんだろうか。不思議と不安はない)

男「初めての感覚…見知らぬイベント…」

男「…ふふ、まるで新しい自分になったみたいだ。笑えるぞ」

男「ふはは…」

男「くっく…ふはははははははは!!」

友(どうしよう、男の頭がおかしくなっちゃった。元からひどかったけど!)

男「おい! 友よ!」

友「な、なにさ!」

男「今の俺はどう見える!? 答えてみろ!」

友「荷台の上で、腕組んで、仁王立ちで、高笑いをする頭のおかしい奴だよ!!」

男「ふははは!! そのとおりだ!!」

男「──その取り過ぎて、笑えるな…くっく」

男「俺は今、なにを望んでいるか。ちっともわからない!」

男「…この先になにが待つ? 俺は一体、なにをしたらいい?」

男「ああ…怖いな、だが! 乗り越えられるのだと自信があるぞ!!」

友「なにをカッコつけてるのさ!? 勢いに任せてはしゃぎ過ぎだよ!?」

男「一時的なテンションだ! 今起こっているこの謎は後で考える!!」

男「友よ!! このトラックはじきに、とある場所に行くはずだ!」

友「う、うん…!」

男「お前は──あいつらを集めろ! 仲間たちを!」

友「仲間って…でも!」

男「断れたら場合はこう言えばいい!!」

男「──東の吸血鬼が、来いといってる。とな!!」

友「……ばかなんじゃないの!?」

男「良いから行け! 場所は多分…くっ…」キイィイン

男「…わかった、港b-13倉庫だ!」

友「えっ…!?」

男「待ってるぞ! 四年前の仲間たちを…絶対に連れてこい!!」

友「お、男っ…! 待ってよ…!!」

男「ああ、待ってるぞ!!」

ブロロロロロ

友「はぁっ…はぁっ…」きぃ…

友「なん、なんなのさ急に…男は…」

友「…んっ…ふふ、まるで昔の君みたいじゃないか」


南地区 b-13倉庫

黒猫「ふーん、ふふん…」

黒猫「たーらら~りらら~るんるん!」

黒猫「──ふぅぅううはぁ~ん……なんて、なんて」

黒猫「幸運なのかしらぁ…私って」

黒猫「素晴らしくて、なんて良い空気なのかしら…ねぇ、そう思わないかしらぁ?」

女「……」

黒猫「ねぇ、ねぇ、どう思う?」

女「…どうも思わない」

黒猫「あん、冷たいわぁ…こんなにも私は幸せなのに…」

女「貴方がどう幸せであっても、私には関係のないことだから」

黒猫「…釣れない子ね、好きよそういうの」

女「……」

黒猫「それにねぇ、貴方…んふふ。そんな潔い所も大好きだわ」

黒猫「──まさか貴方からコチラに訪れてくれるなんて、んふふ。最高に度胸あるわぁ」

女「…どうせ私を連れてくるつもりだったはず」

黒猫「ええ、そうよ…貴方の体質にすっごく興味があるの」

黒猫「先日ね、とある映画館で貴方を見かけた時…ズッキューンと来ちゃったのよ」

黒猫「──貴方のもつ素晴らしい体質に……」すっ

女「……」

黒猫「そんな貴方に、どうか私の手助けをして欲しいの…わかる? わかってくれる?」

女「…手助け?」

黒猫「そう、そうよ! 私はね、トップになりたいの! あの【王】に!」

黒猫「だってぇ凄いじゃあない! なんていったって【王】よっ?」

黒猫「絶対絶対…幸せだわっ…だって凄いんだもの…!」ぎゅうっ…

黒猫「──だけどね、そのためには邪魔がいるのだわ」

黒猫「南火校生徒中、現在。最強と呼ばれる──〝赤髪〟」

黒猫「既に南火校は…アイツを次の【王】だと思ってるわ……」

黒猫「それがッ…最高に不幸…ッ!」

女「……」

黒猫「駄目よ…駄目に決まってるじゃないッ! 私が次の【王】になるはずなのよっ!?」

黒猫「これじゃ私は──不幸不幸不幸不幸不幸不幸不幸不幸不幸ふこぉッ!!」

女「っ……」

黒猫「だと思わないかしら?」くるっ

女「…かもしれない」

黒猫「けれどね、んふふ、違うのよ。今は不幸でも──その先に在る〝幸運〟は凄いことになってる!」

黒猫「不幸という壁があればあるほど! 乗り越えた先にあるのは──絶対的な幸運!!」

黒猫「そして、そしてそれが! あなーたなのよ!」

女「……」

黒猫「つまりは貴方は私の女神! 全ての不幸を跳ね飛ばすほどの素晴らしいチカラを持った人間、そう!!」

黒猫「私の女神様!!」

女「…ありがとう。そこまで言ってくれたのは、貴方ぐらい」

黒猫「うふふ。いいのよ、本当のことなんだから」

女「でも、私になにが出来るのか」

黒猫「あらぁ? 不安なのかしら、きっと大丈夫よ。平気平気、貴方は──」

黒猫「──私の言うとおり動いてくれれば、それだけでいいのぉ……」

女「…」

黒猫「いいわね? それが貴方の最良の選択…もし仮に変なこと考えてたら」

すたすた…

黒猫「こうなるわよ?」ずりっ

女友「うっ…」

女「っ…! 女友ちゃん…!?」

女友「女…だめよ…この女に…」

黒猫「んーまだそんなこと言うのね、残念。あれだけ私の思いを伝えたのに…」

女友「くっ…この化け物がっ…」

黒猫「まだ足りないのかしら、ん?」

女「どうして…なんで貴方が…!」

女友「っ……アンタを守るために決まってるじゃない…!」

女「…どうして…」

女友「あたしはっ…アンタを絶対に守るって、約束したのよ…!」

女友「どんなときもっ…絶対に絶対に…! 守ってみせるって!!」

女「女友ちゃん…」

黒猫「良い、いいわ、すっごくイイ」

黒猫「あなた達はそこまで強い想いで繋がっているのね!」

黒猫「──幸せそう…すっごく幸せそう…ふふ…私よりも」

黒猫「幸せそうで、不幸になればいいのに」

女友「──きゃあっ…!?」

女「女友ちゃん…!?」

黒猫「あら、あら、もしかして…傷が疼いた? まぁまぁなんてこれは、不幸なのかしらねぇ」

黒猫「嫌なタイミングで酷い怪我を意識する…今の状況が絶望的だと理解する…」

黒猫「──もしかして今、不幸かしら?」

黒猫「あっはははははは! ありがとう! 私はその御蔭で貴方よりも──とっても幸せ…」

黒猫「…ねえ貴方、確か女友で。あの赤髪と仲がいいわよねぇ?」ぐいっ

女友「っ…」

黒猫「それに、それにね。貴女があの子の体質を消したいと…色々と動き回ってることもしってるわぁ」

女友「それがッ…なんだっていうのよ…ッ」

黒猫「調べさせてもらったのだわん。貴女、クズ体質らしいわね…んふふ、あはは!」

黒猫「一つ聞きたいのだけれど、貴女って。どうしてあの赤髪頼らなかったわけぇ?」

女友「な、なによ…別に頼る必要がなかったから…」

黒猫「嘘はキラーイ。だから本音を語ってほしいのだわ。女友さん」

黒猫「…あの子は周りに自分の感情をシンクロさせるみたいだけれどもぉ」

黒猫「ねぇ、貴女って最初から彼女の体質を治すつもりなんて、無いんじゃないのかしら?」

女「え…」

黒猫「『クズ体質』…だったかしら、んふふ。実にその体質って…嫌われそうよね」

黒猫「周りからハブられ、距離を取られ、嫌われる」

黒猫「…だけど、あれれ? そうはならなかったみたよねぇ、現在だと?」


黒猫「──良かったわね、彼女に好かれてて。好きだって、周りに広めてもらってね」


女友「……」

黒猫「反論はぁ? 無いのって寂しいわぁ、私…」

女「女友ちゃん…?」

女友「……」

女「え、うそ…違うよね…だって…」

女友「……」

女「救われたって…そんな意味じゃなくって…」

女友「……」

女「…本当はそれが…?」

黒猫「あら、あら、そんな責めないであげて。彼女は頑張ってたのよ?」

黒猫「自分の生活が脅かされる恐怖にかられながらも」

黒猫「貴女という大切な人を守るために、彼女は頑張り続けたのだから……」

黒猫「……ま、全部自分のためでしょうけれど?」

女「っ……」

女友「……ごめん」

女「女友ちゃん…」

女友「そう、全部…コイツが言ったとおりよ…全部全部、その通り」

女友「もっと安全に、アンタを守る手段はいっぱいあった…」

女友「赤髪に頼って…アンタの身柄を守る方法だって…あったはずなの…」

女「……」

女友「…でも、それじゃあ…あたしの側から離れることになる…っ!」

女友「アンタがもうアタシのことを好きになってくれなくなるかもしれない…!」

女友「そうなったらっ…あたしは、あたしはっ…!」

女友「前のようなっ…最悪な人生になるっ…」

女「…うん」

女友「だから、もっと時間を稼いで…アンタと居る時間を増やした…」

女「うん…うん…」

女友「ごめん、ごめんね…結局はアイツ…あの東の吸血鬼が言ったとおりだったわね…」

女友「自分の都合でしか物事を考えられない…本当に、本当に…あたしって…クズよ…」

女「……うん」

黒猫「懺悔は終わったかしら? ふふ、もういい? じゃあね、ちょっと確かめたいことが在るのよぉ」

女「……」

黒猫「貴女の体質って、やつぅ? それを生で見てみたいの! いい? 見せてくれる?」

女「…良い、見せる」すっ…

女友「女…」

女「…あのね女友ちゃん」

女「…私はね、なんとなく気づいてたよ」

女友「え…」

女「だけど、大丈夫。嫌ったりなんかしないよ」

女「私は何時だって、女友ちゃんのこと…大好きだから」

女友「あ、アンタ…何を急に…」

女「貴女も、私と一緒で……心が弱かったんだね」

女「でも、みてて。私、頑張るから」

黒猫「……?」

女「強くなるって、決めたんだよ」すっ


女「──なにもかも打ち勝ってみせるんだって……」

女「──それで運命に勝つために……」

女「──神様に喧嘩を売ってやるんだって、ね」


黒猫「何をしているの、はやく───」

女「…今、みせます」

バッ!

女友「えッ…!?」

女「……」キラ!

黒猫「ナイフ──ッ!? 早く取り上げないさい! あなた達!!」

「えっ? なんで何処に持ってた!」

「わからんが取り上げろ!」

女「──もう遅いよ」

グサ!

女「ッ~~~~~!!?」


キィイイイイイイイイイイイイン!!!


黒猫「ッ……うそ、なに……いたぁあああああああああああああいいッ…!!!」

「ぎゃああああ!!!? 手がっ…手が痛い!? 痛い痛い!!」

「熱い! 痛い! なんでなんでッ!!?」


女「くっ…ふぅ…!」ぐりぐり!

黒猫「ああっ!! 痛い痛い痛い痛い痛いッ!!」

女「これがッ……私の、体質…!!」

女「身を持って知って…! これが私の体質なのっ!!」

女「私と同じ痛みをっ…あなた達にっ…! 共有させるっ…!!」


「ぎゃああああああ!!」

「やめ、痛い痛い!!」

「ああっあああああ!!」


女友「……っ」

女友「アタシは…平気…っ?」

女友「ッ…女! アンタはなんて…!!」

女「か、変わるんだよっ…強くなるんだよ!」

女「全ては私が責任を持つの…! だから、勝つの!!」

女「私が体質が起こした…問題…ッ!」

女「それをっ…私の体質でどうにかしてみせるっ!!」


女「倒れてよ───!!!」ギチッ!


黒猫「ぁ…」

ぱた…

ばた…  ドタ…  バタ…バタ…


女友「黒猫組が…みな倒れて…」

女「はぁっ…はぁっ…うっ…」ドサ!

女友「お、女ぁ!?」

女「へ、平気だよ…大丈夫…女友ちゃんは…?」

女友「こ、こんな血が出て…大丈夫、ほら早く病院に行きましょ…!」

女「…ごめんね、また心配かけちゃったね…」

女友「馬鹿っ…馬鹿馬鹿っ…なにいってんのよ、あたしは…っ」

女「でもよかった…あなたを助けられて…本当に…本当に…」

女友「…馬鹿、ほんっと馬鹿…」ぎゅっ

女「……え」

女友「ど、どうかしたのっ? 怪我痛むとかっ?」


「───うふふ、あはは……」


女友「…嘘」

女「なんで…立ち上がれるの…」



「サイッコーね、マジで最高。ギュンギュンきちゃう…なによれこ、最高に最高にッ…!」


黒猫「ふッ幸じゃないのォオオオオオ!!!」

ギィ!ギィン! ギギギギギギギギィイイイイイイイイン!


黒猫「くっく…あははっ…あひゃひゃ! なによこれ、貴女最高じゃないっ!?」

女「なんて人…あの痛みに…」

女友「化け物ッ…!」

黒猫「あららぁ? 酷い言い草! 私ってばちょーと不幸になったダケじゃないのぉ」

黒猫「知らないの? 痛みっていうのはねぇ、もっとエグくて大変なものなのよぉ?」

黒猫「…傷跡のない痛みなんて、中々スリリングだったけれども」

黒猫「残念ねぇ…もっとその努力は違う人達に使いなさいねぇ」

「ううっ…」

「…すっげー痛かった…」

女友「えっ…そんなっ…!」

女「なんで…」

黒猫「んふふ。舐めないでねん、こっちは黒猫組よ?」

黒猫「傷つき噛み付き、命を喰らう───それがモットー黒猫組っ」

黒猫「気絶させるなら、処女膜ぶち破るぐらいの痛みを持って来なさいね」

女「……っ…」

女友「噂は聞いてたけどっ…ここまで化け物じみた集団だったなんて…!」

黒猫「さてさて」ぽん!

黒猫「…ひどい傷ねぇ…後が残っちゃうかもしれないわぁ」

すたすた

黒猫「けれど、あれね。大切に守られてて、とっても幸せそう」

黒猫「──だからもっと残しなさいッ!」ガッ!

女「っ…あああああ!!」

黒猫「んん~~~いい声、最高。幸せ…!」グリグリ

女「あああっ…ああああ!!!」

女友「やめなさッ」

黒猫「抑えてなさい」

「ういっすー!」

「はいはーいこっちにきてねー」

女友「やめっ…離しなさい! やめて! お願いよ!!」

黒猫「嫌だやーめない」グチュ!

女「ッ~~~~~!!!!」

黒猫「どお? 痛い? 痛いのかしら? ……あっは、きたきたきた。これがシンクロってやつなのかしらっ?」ぞくぞくっ

キィイイイイイイイイイイイイン!

黒猫「ん~~んっは。気持ちいい…痛みだけが来るなんて、最高ね。素晴らしい、貴女を見込んで本当に良かったわぁ」すっ

女「いっぐ…っはぁ…っはぁ…!」

黒猫「これなら十分に戦力となるわよね、そうよね? そうと言ってよお願いだからぁ?」

女「うっ…っは…ぺっ!」

黒猫「…あら」

女「貴女のっ…ちからになるもんか…!」

黒猫「…最高ッ」ぐりっ!

女「きゃああああああああ!?」

黒猫「…ふぅ、すっきり。さてどうしましょう?」

女友「あっ…あっ…あああっ…!!」

黒猫「んふふ。これからもっと──この子は躾けないとね、役に立つ子として…」

黒猫「あはははははははははは!!」

女「はぁ…はぁ…」

女(駄目、だった…やっぱり…なにも出来なかった…)

女(変われなかった…自分の運命を…私は変えることが出来なかった…)

ぎゅっ…

女(だけど、喧嘩は売れた……!)

女(ちゃんと立ち向かえた…怖がるずに、ちゃんと自分で決めて行動ができた…!)

女(やったんだ…! ちゃんと答えを出すことが出来たんだよ…!)

女(出来てっ…出来て、出来て……)

女(…ううっ…ああっ…なんで、なんでなんで! どうして!)

女(ここまでしても駄目なの!? どうして! どうして!?)

女(私は頑張ったのにっ…! ちゃんと強くなろうって、頑張ったのに…!)

女(運命に勝とうと頑張ったのにっ…なんで上手くいかないの…!?)

女(……私はもう…なにも出来ないよっ…)

女(もうっ…もうっ……)

女「…お願い…」

女(今の私には…こうすることしかできない…)

女「助けて…もう、私にはできることがない……」

女(なんでもいいから…どうか、どうか…私と…女友ちゃんを…)

女「助けてよぉ…!!」


「──良いだろう。それがお前の望みであるのであれば」

バッゴォォオオオオオオオン!!


女「…え」


パラパラ…


「──師匠が昔に言っていた。女が泣いているなら、駆けつけ背負って」


男「パンツを見るのが男の宿命だとなっ!!!」びっしいいいい!!


女「……」

男「待たせた。イベントに遅刻は厳禁だが、今回は許せ」

女「なんで…ここに…」

男「ほぅ。中々面白いことを言うな、お前」

男「…パンツを見に来た、ただそれだけだ」

女「………」

男「よっと、すまない。トラックの運転手、このままバックしてくれ」

「あんちゃん無茶すんなよー!」

男「ははは! それは貴方にぜひ言いたい!」

男「──さて、ふむ…」


黒猫「…」

女友「…」

女「……」


男「凄い状況だな、まあ大体は把握した」コクリ

黒猫「…あなた」

男「待て!!」

黒猫「……」

男「少し、待ってくれ。意外とこう見えて俺、テンパっているんだ」

黒猫「…突然トラックでシャッターぶち破り、現れたあなたが? テンパる?」

男「それは俺も予想外だったんだ、しかし、そういったイベントなのだろう」

黒猫「……」


男「なにがこうも強引で、わかりづらい。しかし、声は聞こえた──」

男「──この俺を呼ぶ声がなっ!」


女友「……あ、アンタ! 馬鹿! アンタ何してんの!?」

男「お、おお。大丈夫かお前…」

女友「アタシの心配はどぉおおでもいいのよっ! いきなりなんなの!?」

男「お、俺もわからんのだ…流れ的にここまで来て…」

女友「はぁ!? ばっっかじゃないの!? ばーかばーか!!」

男「なにをそこまで言わなくたっていいだろう!? このクズが!!」

女「…ぷっ」

女友「なによっ! 昨日あれだけ言っておいて結局はホイホイ助けに来たわけ!? ほんっと単純よねアンタって!!」

男「むっ…わ、悪いか! 確かに調子がいいと思われても仕方ないが…」

女友「ばーか!! いいのよっ! もういい!!」

女友「っ…ここまで、来てくれたんでしょ…?! だったら、助けなさいよっ…!」

男「…おう」

女「男くん…」

男「大丈夫か、酷い怪我だ…」ビリ! ぐるぐる…

女「…ありがと」

男「いや、良い。とりあえず……頑張ったんだな、お前」

女「…頑張ったよ」

男「凄いな。本当にお前が決めたことなのか?」

女「…うんっ…自分でどうにかしようって…思ったんだよ…!」ぎゅっ

男「…そうか尊敬するぞ。心からお前のこと、尊敬しよう」

女「ありがとっ…貴方にそう言われるなんて私…本当に嬉しい…っ」

男「…いや、感謝はするな」

女「えっ…?」

男「俺はお前に感謝されるような…強い人間じゃない」

男「お前と一緒で、弱いやつだ」すっ

女「弱い?」

男「ああ、そうだ。四校戦争を止めようとも、東の吸血鬼と呼ばれようとも」

男「──それは単純な飾りでしか無いんだ」

女「……」

男「だから…待ってろ」くるっ

男「もう少しで──お前に追いつく、そして追い越してやるぞ」

男「期待しててくれ、俺が変われるってことを」

女「…うん、わかった」

男「……ふぅ」

パチパチ…パチパチ…

黒猫「なんて、なんて、イイハナシなのかしらぁ。涙がちょちょ切れそう、素敵ね」パチパチ

パチ…

黒猫「努力をしてるのね。頑張ってるのね、立ち向かおうと…しているのね」

黒猫「かっこいいわ。まるでヒーローじゃない…なんて幸せで幸運に満ち溢れた───」

黒猫「──私よりも幸せそうな、人」

がたん!

女友「え──天井から何か落ちて、あぶなッ!」


ズッガァアアアアアアン!!


黒猫「…あら、不幸ね」

黒猫「もしかしてさっきのトラックのせいで、天井の鉄骨が立て付けが悪くなったのかしら?」

黒猫「それもドンピシャ。貴方の真上……んふふ、不幸不幸…なんて不幸!!」

「無駄だ」


ぶぁああ!!


黒猫「──なっ…!」

男「…無駄だ、今はまだイベント中だ」

男「俺が安全に──パンツを見るまでは、怪我一つしない」

黒猫「なにを、いって…! そんな、貴方は確かに不幸になったはずよ!!」

男「不幸? ああ確かに、俺は不幸なのかもな」

男「…未だにパンツが見れてないことに、不幸を感じてるぞ!!」

黒猫「………」

男「しかし、さて──本気を出そうか」

カチャ…

男「並行してイベント消化に挑むとしよう。ああ、そうそう…聞かせてくれ」

男「──お前の下着の色、何色だ?」

黒猫「…言うわけ無いでしょう! あなた達! コイツを捕まえなさい!」

「りょ、了解っす!」

「オラ! 一人でなにが出来るってんだよォ!!」

「オラァああああ!!」


男「……」すっ

男「痛ッ…」コケッ


「馬鹿だ! アイツ転んだぞ! マウント取ってタコ殴りに───」

「──きゃあああ!! お、お前! 服服!!」

「えっ…!?  きぁあああああ! な、なんでウチ裸に…!?」ばばっ


男「…む、すまない。コケた時に脱がしてしまったようだ」

「うっ……うぇえええええん!!」

「ひ、酷い…なんて奴なの…!?」

男「不可抗力だ。そんなこともありえるだろう?」

「無いわ! 死ねッ!」ブオ

男「あ、百円見つけた」ひょい

「うわぁ!?」すぃー!

男「ん、おっと」

ぽすん

男「…大丈夫か? 怪我はしてないようだが」

「えっ…あっ…そのっ…えっと…」

男「あ、すまん。胸を触ってしまってるんだが…」

「っ…きゃああああああ!!!」

男「おおっ?」ずばぁ!

「あああ! …え? なんで服が脱げて!?」

男「…本当にすまん。離した時に引っかかって、脱がしてしまったようだ」

「なんっ…ふぇえええええええんっ!!」

「な、なんだコイツ…! 次々に裸にひん剥いて行くぞ…!?」

「ど、どうするっ? あたし見せられるような下着履いて着てないぞ…!」

男「どうした?」ずぃ

「っ…っ…!」びくん

「き、きた…こっちきた…!」

「やめろ押すな! 押すなって!!」

「ぎゃああああ!! しねええええええええ!」だだっ!

男「……」

男「む。その辺窪みがあって危ないぞ」

「きゃっ!?」コケッ

男「よっと」ぎゅっ

「え…あ、ありがと…」

男「気をつけろよ。それに女の子が…こんなモノ持っていては危ない」

「お、女の子って…ウチそんな…初めて言われた…」

男「なんだと、それは見る目がない奴らだったんだろう」

男「──可愛いぞ、誇っていい」

「……」きゅうん


女友「…ナニアレ」

「いやはや、爽快だねぇーっと」

女友「え、この声…!」

友「どうも。昨日ぶりだね」

女友「アンタ! 来てたの!?」

友「シッ! 静かにしてて…そうだよ、まだ男は気づいてないみたいだけど」

女友「そ、そう…だけど何なのあれ…?」

友「うん? どうみたって【東の吸血鬼】じゃないか、あの英雄のね」

女友「…あれがそうなの?」

友「うーん、見たところによると…少し違うかな」

友「若干、口調が戻りかけてるけれど。今の男にほぼ近いかな」

女友「……えっと」

友「それにね、もっと断言してみれば」

友「──ぜんぜん違うよ、四年前の男とはまったくもって違う」

友「見てごらん」

女友「……」すっ

支援

男「む。そこはさっきの鉄骨で地割れが起きている!」すっ

「きゃっ!」

男「…大丈夫か?」

「おらぁ!!」

男「…そのバット折れかけてるぞ」

「うぉおっ!?」バキ!

男「ほらな。怪我せずに住んだ」ぱしっ


女友「…一々心配してるわね、ってか心配してるのよね? その後裸にひん剥いてるけれど!」

友「凄いよね。あれが【東の吸血鬼】だなんて…ボクは信じられない」

友「昔彼は為すがままに人の心を蹂躙してた。けど、今はそうじゃない」

友「──変わったんだ、ちゃんと」

女友「……」

友「あと、少しだったんだよ。きっとさ」

友「男がなりたかった──希望の自分」

友「あと少しで、どんなのものなのか…形がわかる寸前だったんだ」

友「…けど、その少しが遠かったんだろうね」

友「そんなことに…四年もかかったんだ、本当に君は…不器用な人間だ」

女友「……」


男「あ、すまん! パンツまで脱がして…!」


女友(とても不器用そうには見えないけど…)

友「さて、そろそろここも危険だよ」

女友「えっ? どういうこと…?」

友「西林校の生徒がね。黒猫組討伐隊を組んだそうなんだ」

女友「嘘? 本当にッ?」

友「そうだよ。久しぶりに──他の仲間に連絡をとったんだ」prrrrrr

女友「仲間…?」

友「うん、そうだよ。ボク達の仲間は今、四校それぞれに居るんだ」

女友「えっ!? なにそれ!?」

友「西林校の──【髭面】って知ってるかな? 王の側近の一人なんだけども」

女友「し、知ってる! 有名人じゃない!」

友「今、それから電話が来たよ」ぴっ

『よぉーガッハッッハ!! なんだ久しぶりだなぁ友よぉ!』

友「元気そうで何よりだよ。そっちは?」

『んあー? こっちは相変わらずだなァー! 誰にも気づかれねェー人生歩んでんよォ!』

友「さすがだね、『空気体質』の実力は」

『ガッハハハ! 褒めるな褒めるなぁ! …んで、そっちはどうだ?』

こういうの好き

友「…今は」

友「そうだね、ボクらの英雄が頑張ってる最中さ」

『うぉおおおお!! なんだよなんだよォ! 水クセェなっ! 俺にも見せろよォ!!』

友「それは残念だ。今日だけの特別イベントっぽいからね」

『んだよ~アイツは本当に適当な野郎だなぁ…ったく、こっちに遊びこいって言っとけ!』

友「うん、わかった。それで…そっちの動きは?」

『おっ? ああ、今向かったところだァ。オレの横入れだったしな、一発で大将も動いたぜ!』

友「あの〝自称英雄〟がかい?」

『そう言うな言うな。オレはその大将に使えてる身だぞォ? 悪くはいえん! だがまぁキモイやつだがな!! ガハハハハ!!!』

友「くすくす。とりあえず了解したよ、あとはこっちで済ませるから」

『おうよォ! 元気でなァ戦友!』

友「…さて、そろそろ動き出すよ」

女友「え、ええ…わかった」

~~~

男「…ふぅ」


「ひっぐ…ぐすっ…」

「家にかえりたぁああいいっ…」

「おかあああさああああああ!!」


男「…疲れた、だが、こんなものか」

男「………」

男(これが俺の体質…? いや、違ったはずだ)

男(俺は今までの経験で──下着の色で、なんのイベントが起こるか予測ができた)

男(あくまで経験上での予測だ、しかし、これはそれを超えている──)

男「まるで未来を予知したかのような…」

男「…ッ!?」

ひゅん!

男「…危ないだろう。それはナイフだぞ」

黒猫「……」

男「殺す気か? 学生の身分での重罪は、後に後悔の元になるぞ」

黒猫「…いいじゃなぁい、後悔。それって不幸でしょう?」

黒猫「不幸を時の流れで重ね重ね重ねっ…そしたら大きな不幸になる…」

黒猫「じゃあその後に待つのはぁ!? こううううううううううううんっ!!」

ばっ! バババ!

男「ぐっ…」

黒猫「…あら、あらららら。動きが鈍くなぁい? どうしたの? さっきみたいな動きは?」

男「……っ」

黒猫「なるほどねぇ。やっぱりそうなるんだ…」

男「なにがだ、くそ…なんだ確かにお前の動きが読めない…!」

黒猫「…貴方さっき下着の色を聞いたわよねぇ」

男「ああ、そうだが…それがどうした?」

黒猫「それに、ね。彼女たち…黒猫組の子たちも…貴方瞬時に下着を確認してたでしょう?」

男「………」

黒猫「それが、貴方の体質ぅ? ふふふ、珍しいわぁ…」

黒猫「…下着を確認すると、貴方の動きは凄くなるのぉ?」

男「…前まではそうだったがな」

男「今ちょっと違うみたいだ。確認しなくとも、どうやら俺は──」

男「──予測を超えた予知を出来るらしい」

黒猫「……」

男「だが、ふぅ……お前はなんだ? どうしてだか予知が出来ないのだが…」

黒猫「んふふ、だって履いてないもの」

ノーパンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

キタ━━━(゜∀゜)━━━!!!!

男「…は?」

黒猫「貴方の考えはちょーとだけ間違ってるわん」

黒猫「…確認する必要がなくなった訳じゃなく。履いていれば、体質を起こせるのね」

黒猫「つまりはそう──見るために貴方の『体質』は起こせるようになっている、のしから?」

男「ま、待て! 違うそうじゃないだろう! ここは俺の話は置いておけ!」

黒猫「あらら? どうかしたの?」

男「お、お前…本当に…履いてないのか…?」

黒猫「うん」

男「なっ…ん……だと…!」

男「お、お前! それでも女か! はしたないだろうッ!」

黒猫「やーだ。みたいのかしら?」チラっ

男「や、やめろ!」

ウッヒョォォォ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

黒猫「あはは。おもしろ人、こんなにも彼女たちを裸にひん剥いておいて…」

黒猫「…ノーパンの私に怖がってるのかしら?」

男「ぐっ…」

黒猫「そしーて隙ありよんっ!」

ずばぁ!

男「むぉっ!?」

黒猫「おっしー……んふふ、単純にね。今日は履き忘れちゃったの」

黒猫「それって不幸よねぇ。大変よねぇ、辛いわよねぇ」

黒猫「…でも」

黒猫「今はとっても幸せぇえ!! なんてたって、貴方に挑めるんだからァ!」

男「変態が…!」

黒猫「ふふふ。実に貴方に言われたくなわぁ」


「──そこまでだ!」

男「む…!」

黒猫「…あら」

友「二人共、そこまでだよ。もう決着は付いている」

黒猫「…だぁれ?」

男「来てたのか」

友「うん。それにね、髭面にも連絡をとってる」

男「なにっ? アイツ元気だったか…?」

友「元気だったよ。それに、黒猫さん…貴方にもこの意味がわかるはずだよね」

黒猫「…西林校【静寂の西】の王の側近じゃない」

友「そうだ。彼と連絡をとった──時期にあなた達の討伐隊が訪れる!」

黒猫「……」

友「…出来れば彼女たちを連れて、ここから逃げて欲しい。そうすれば、誰も傷つかない」

何か嫌な予感が

黒猫「…条件はぁ? 今後手を出すなって言う感じなのかしらぁ?」

友「……」

黒猫「ふふふ。そうなの、これは困ったわね…んふふ」

友「…貴方はもう終わりなんだ。既に黒猫組は壊滅状態…あなたは【王】にはなれない…!」

黒猫「……」

男「…友、討伐隊到着はどれくらいだ?」

友「多分、後数分だと思う。だからお願いだ、おとなしく言うことを──」

キラン! ダァン!

友「──っ……!?」

黒猫「あら残念。その可愛い顔を狙って投げたのに…駄目ねぇ、不幸だわぁ」

友「お願いだ、抵抗しちゃ駄目だ! 時間がない…!」

黒猫「えっ? なんだって?」

しぇん

友「くっ…聞こえてるはずだよ!」

黒猫「えぇええ!? なんだってぇええ!?」

友「なんて奴だっ…君は仲間がひどい目にあってもいいというのか!?」

黒猫「うん。いいわよ?」

友「なっ…!」

黒猫「わかってないわねぇ…ほんっと、私【黒猫】よ?」

黒猫「不幸の象徴──黒い猫、不幸で不幸でたまらない私に……」

黒猫「…もっと不幸を与えてどうするのかしらん? んんふふ!」

友「………」

女友「…こんなヤツよ、絶句してないで早く逃げるわ」

友「だ、駄目だ! 見捨てるわけにはいかないよ…!」

女友「無理に決まってるじゃない! こんだけの人数を引っ張って、どう逃げるのよ!?」

友「っ……!!」

女友「黒猫組は置いていく…! あたしたちも巻き込まれないうちに早く…!
    アンタはいつもみたいに人食ったような顔でいればいいじゃない!!」

男「…それ以上責めてやるな」

女友「だって…!」

男「そいつはそう見えて──俺以上に優しい奴なんだ」

友「……っ…」

男「相変わらずお前も甘いな」

友「…だって、仕方ないじゃないか…!」

男「しかし、相手が悪い」

女友「…」

男「だから──俺がなんとしよう」

友「っ……!!」

女友「黒猫組は置いていく…! あたしたちも巻き込まれないうちに早く…!
    アンタはいつもみたいに人食ったような顔でいればいいじゃない!!」

男「…それ以上責めてやるな」

女友「だって…!」

男「そいつはそう見えて──俺以上に甘い奴なんだ」

友「……っ…」

男「相変わらずお前も変わらないな」

友「…だって、仕方ないじゃないか…!」

男「しかし、相手が悪い」

女友「…」

男「だから──俺がなんとしよう」

友「…えっ?」

黒猫「あらあら、かっこつけちゃうの?」

男「つけさえてもらう。お前、改めて思うが中々のゲスさだな」

黒猫「ありがとう! 褒め言葉よそれって!」

男「…気持ちはわかる。そこまで極めれていれば、そう感じるだろうな」

男「だが、そのゲスさ───」

男「──昔の俺も中々だったぞ?」

キィイイイイイイイイイイイイン!!!

黒猫「…なに?」

男「履いてないんだろう。だから俺がイベントを起こせない」

男「…だったら作るしか無いな。イベントを」

黒猫「……」

男「やれるかどうか分からない。初めてする試みだからな、望むなんてことは」

男「やろうと思えばなんだって出来た。そうやって、頂点まで上り詰めたこともある」

黒猫「…あなたやはり」

男「だけどな、自分が本当に欲しいと願って──望んで──」

男「──体質を使うなんて、初めてで凄く興奮するぞ」

黒猫「東の…ふふ、そうなのね。なんて運命なのかしら」

男「覚悟はいいか、黒猫。お前は今日…その立場を失う」

男「──聞いておこう、お前の下着は何色だ?」

黒猫「…ノーパンよ」


キィイイイイイイイイイイイイン!


男「ああ、そうだったな」


ヒュウ……ヒュウゥウウ……ブォオオオオオオオ!!!

女「んっ……」パチ…

女(いつの間に気絶を…えっ?)


ゴォオオオオオ! ブォオオオオオ!!


女「なにこれ…風がっ…強風…!?」


ブォオオオオオオオオオオオ!!!


男「………」

黒猫「………」バタバタバタ!!

男「うむ」

黒猫「…満足?」

男「…ああ」

男「本当に履いてないんだな…」

「風がっ…えっ?」

「く、黒猫さん…!?」

「え、履いてないっていうか…はえ…」


男「お前らよく聞け!」

男「お前らは負けた! 見ろ!! これが証明だ!!」


「く、黒猫さんが負けた…?」

「嘘だ! そんなわけがない!!」


男「本当だ!! この俺が勝った!! そして、この黒猫は…お前らと同じ!!」

男「俺のチカラに負けた!!」

男「気を取り戻せ! 全ては終わった! …次は容赦はしない、この黒猫と同じようになりたい奴は居るか!?」

生えてないキタ━━━(゜∀゜)━━━!!!!

「ひっ…ひぃいいいい!!」

「い、いやだっ…ノーパンで晒し者なんて…!!」

男「そうか、それじゃあお前は!?」

「いやですいやですごめんなさい!!」

男「ハッ! じゃあ逃げろ! お前らは俺には勝てない! 無様に逃げろ!!」

「やだああああ!!」

「家にかえるぅうう!!」

男「…服は風に舞ってるをとれ! 早く着替えないとまた脱がすぞ!?」

男「はぁ…はぁ…」


ごおぉおおおおお……ヒュゥウウウウウ……ヒュウウウウ…


黒猫「…最低」ばたばた…

男「お互い様だろう」

女友「…」ぽかーん

友「…もう目を開けてもいいかな、男」

男「ああ、いいぞ。スカートはめくれてない」

友「うん…無茶苦茶なことするね、君も」すっ

男「良いじゃあないか。これで助かる」

友「…そうだね、ありがと」

男「ああ」


「───なにが助かるのぉ?」


男「…むっ!」


ガキッ! ガキキキキキキ!!!


黒猫「誰が助かるの? もしかして彼女たち? それともあなた達? それとも私?」

女友「これって…」

友「っ…!?」


ガキン!ゴキン! バキバキバキ!!


男「…規格外だな、この倉庫を壊す気か」

黒猫「誰かさんのせいでぇとっても不幸で不幸で堪らないのよぉね…」

男「自業自得だろうに」

黒猫「そぉう? 違うわぁきっと違う! これは私の試練なのぉ!」


べきべきべき!!!


黒猫「…ねぇ? 幸せ? 私のノーパン姿見れて、幸せなの?」

男「……」

黒猫「誰の命も救って…誰も傷つかないように助けて……ああ、ほんっと…」

黒猫「──今、あなたって私より幸せよねぇ?」

ベキンッ!!! ゴガガガガ!!


黒猫「みーんな潰れちゃえばいいのに…」


ガガガガガガガガ!!


女友「やばい…ヤバイヤバイヤバイ! に、逃げるわよ!はやく!」

友「男!! 女さんも早く!!」

男「くっ…来い女! 逃げるぞ!!」

女「う、うん!」

黒猫「駄目ね…失敗失敗…これじゃあ本当に不幸…じゃあみんなも一緒にふーこうー♪」

ドシン!!

男「なっ…!」

女「道が倒れた荷物で…」

男「こっちだ! 早く来い!」ぐいっ

女「きゃっ…!!」ずさぁ…

男「っ…大丈夫か!?」

女「だ、大丈夫…平気だよ…だから男くんは早く先に…っ」

男「なにを言っている! 俺の側にいればお前も安全だ…!」

女「……」

男「なにせこれも…イベントだからな! きっと──」

ガァアアアン!!

男「っ…!?」

女「…良いんだよ、無理しなくて」

男「む、無理などしてない!」

女「そうなの…?」

男「あ、ああっ…俺はお前を救いに来たんだ! だから、だから…!」

女「…ありがとう」ぎゅっ

男「っ…礼はここから脱出してから言ってくれ…!」

ドサ…! ドサドサドサ!!

男(倉庫の中に積まれていたものが…俺らの回りを…!)

男(おい! 本当に、これはイベントで済むのか!? 本当に助かるのか…っ?)

男「…もう一度、イベントを作って…!」

女「……」

男「くっ…だめだ、何の反応もないッ! 体質が発動しないッ!」

女「……ねえ男くん」

男「っ……!」

女「私ね、頑張ったんだ。あなたの言うとおり、頑張ったんだよ」

男「な、なにを急に言い出すんだ…」

女「それにあなたも頑張ってた…それをちゃんと私は見てた」

男「……」

女「…途中で気絶しちゃってたけれどね」

男「そう、か…ありがとうな、俺、かっこよかったか?」


ズシン! ドサササ!!


女「すっごく格好良かったよ…もう惚れちゃうぐらいに」

男「そうか…嬉しい話だ」

女「ねえ、あなたの探してる女の子は…きっと今のあなたを好きになってくれるとおもうよ」

男「っ…」

女「よかった、それだけ言いたくて…」

男「お、おい!」

女「なんだろう。血を流しすぎちゃったのかな…意識が…」

男「しっかりしろ! 駄目だ、気を失うなっ!」

女「…あはは、ごめんなさい」

男「おいっ! おいっ…女!」

女「……」

男「おい…!」


ドサササ!!ズガン!!


男「…なんでこうなった」

男「まだ、まだ足りないっていうのか…努力が…チカラが…!」

男「っ…師匠、どうしたらいいんですか…っ!!」


~~~~
~~

「ひとつ言ってやろう。この世には運命がある!」

男「前に聞きましたけど」

「うるせーな、黙って聞いてろ。あのな? 俺はお前の救ってやったんだぞ、ヒーローだぜ?」

男「……」

「よし。じゃ、続けるぞ」

「運命は神様やらが作ってるらしい。しかし、その神様もどーも性格が悪いんだよ」

男「…まるで神と会ったような口ぶりですね」

「当たり前だ、まだまだ喧嘩してる最中だぜ?」

男「信用出来ません」

「じゃあ信じろ。それだけでテメーの答えになるぜ、神様は居るししかも馬鹿だ」

男(なんて言い草だ)

「勝手に人のことを殺そうとするし、自分の都合で大地震を起こしたりするんだ」

「…なぁ馬鹿だろ?」

男「それ、二十年前の大地震のことですか?」

「うん。あれって俺のせいだし」

男「……」

「んだから本当だって。それに、救ったのも俺だよ。やべぇこの顔全然信用してねえな…」

男「それで?」

「お、おおっ? だからそのー……運命って奴? それに躍らされるのはバカをみるってことだ」

「結局は神様の……つか、様ってつけるの嫌だな。あの神の勝手な都合が運命ってわけだ」

「なんで人はその都合に合わせなくちゃ行けねえんだ? 違うだろ、人は自分の道を進むもんだ」

「運命が決めたことがあろうと、それが納得出来ないんだったら──抵抗しろよ」

「神が絶対だって、誰が決めた? 昔の訳のわからないヒゲモジャ共が勝手に決めたことだろ?」

男「……」

「抵抗していいんだよ。喧嘩だって、なんだって、売ってもいいんだ──神にな」

男「勉強になります」ぺこり

「ちっとも思ってない顔で言うな」

男「そんなことありません、師匠」

「…うむ、その師匠って奴いいな。どんどん呼べ、気に入った」

「──さっきからなに話しているのですか。あなた」

「うおっ! ち、違うんだ。ちょっくらコイツに年配としてのだな…!」

「そうなのですか。あなたが、あなたみたいな存在で」

「…ちょっと口悪くない?」

男「こ、こんにちわ…」

「どうも、こんにちわ。あなたがあの噂の…?」

「そうそう!この街で最強になった奴らしいぜ? すげえよな、俺がいるってのに!」

「…何故対抗意識を燃やしているのですか、はしたない」

「だって…」

男(綺麗な人だ…しかし、なんとも記憶に残らないような…儚さがある)

「んーむ、はてさて。なんと、いきなりだが俺は旅に出る!」

男「はっ?」

「すまんな急に。いやなに、ちょっと──不思議な出会いがあったもんでな」

男「不思議な出会い?」

「ああ、そうだ。俺もにわかに信じられないんだが…ま、あの悪魔がいうからには本当なんだろうけども」

「…またあの悪魔と会ったのですか、どういうつもりなのですか、私のような天使が居るというのに」

「自分で言う? ま、確かにお前は天使だけどさ…」

男(人前でどうどうとイチャイチャと…)

「──とにかく、俺は今日からこの街を離れる」

男「……っ…」

「安心しろ。ちゃんと戻ってきたやるよ、お、そうそう…じゃあ一つ宿題を残してやろう」

男「宿題?」

「ああ、この街に俺と──コイツとの娘がいる。そいつと仲良くしてやってくれ」

男「…娘」

「んだよチキンハートか? 度胸を見せろよ青少年」

男「……」

「仲良くしてくれるだけでいい。お前とはきっと、いい関係になるだろって思う」

男「…俺は」

「だが、好きになるなよ!! いい子だが、お前にはやらん!!」

男「……」

「…あなた」

「お、おう。まぁ良い、それはいいんだ」


「お前、もうちょっと頑張れよ。もっと前を向け、ちゃんと自分を信じろ」

「──そして好きな女を作れ、それだけで、世界が変わるぞ」


男「好きな…?」

「ああ、俺は変われた。そして、世界を救ったぜ?」

男「…そんな馬鹿な話を信じるとでも」

「だーから信じろ。そう思いたいのなら、信じきって通り抜けろ」

「それでももし、こわいんなら。そうだな、やっぱ好きなやつを作ったほうが話が早い」

「──守るべきものが近くにあるんなら、でっかい敵もこわくねーぞ」

男「……」

「さて…行ってくるわ」

「……」

「大丈夫だって、心配してんの? 俺、世界救ったけど?」

「…あっちはどうなってるか分かりません」

「馬鹿な俺が居たほうか? ハッ、大丈夫だよ。一発殴って正気にしてやるから」

「…祈ってます、貴方に」

「ああ、行ってくる」

男「……」

「じゃあな、元気にやってろ。すぐに帰ってくる」

「──おい人間! 貴様は歩くのも生きるのも遅いようじゃのぉ!!」

「うるせぇ悪魔。とっとくたばれ、まだ生きてんのか」

「カカカカ! なんともまぁ傲慢な奴よのぉ…しかしそんな貴様にワシは気に入っておる!」

「ったく…それで? アイツは何処に居るんだ?」

「なーに、先に〝ゲート〟を開いておる。どのような技術だろうなぁ…くっく、流石はワシと言うべきか」

「…お前じゃないだろ」

「まぁ確かにのぉ。あの身体、実に不思議じゃ──魂が人間で、器が悪魔じゃぞ?」

「どうだっていい。とにかく助けて欲しいと呼ばれたんだ、じゃあ救いにいく。それだけだ」

「くっく、いいぞいいぞ! 楽しみじゃ!」

「──さあ、救いに行くか。世界を……じゃあな、お前」


男「………」

~~~

~~

男「…あの人は何時だって…」

男「前を見続けていた…どんな困難も、絶対に救われるのだと…信じ、そして貫いた」


男「その言葉は…きっと、俺が信じれば───」

男「──俺にとっての答えになる」


男「…おい、起きてくれ女!」

女「……う…」

男「まだ意識はあるだろう!? それに俺の声が聞こえてるだろう…!?」

女「……うん…」

男「き、聞いてくれ…俺の言葉を…!」

男「お、俺はだなっ……ずっと、抱えている問題があって…!」

男「そんなものは、普通に乗り越えられる筈だった…!」

女「……」

男「だけど無理だった…! 出来なかった、ずっとずっと抱えたまんまだった…!」

男「俺はっ…怖いんだ、また人を傷つけるのではないかと…怖がっている…!」

男「まったく、お前と一緒で…何も変わらない…!」

女「……」

男「…こんな俺でも、それでも、乗り越えたいと願う理由がある…っ」

女「…それは…?」

男「っ……!!」


男「──人を本気で好きになってみたいんだ…っ!!」


男「相手を好きで好きで堪らなくなってみたい…っ…そして、それを相手に返せるほどの!」

男「ちゃんとした奴になりたいんだよ…っ!」

男「俺はっ…何もわからない、きっと今でもわかってない!」

男「けどっ! それでも! 俺は──人を好きになってみたい…っ…!」

女「……」

男「はぁっ…はぁっ…俺は…ぐすっ…」

男「──変わりたいんだ…あの人が見た世界のような…その景色を見たい…!」

男「この目で同じような世界を…っ…俺の手で…!」

女「……」

男「…す、すまん…急に変なことを行って…急に言いたくなって、だな」

女「…うん」

男「どうしてだが、お前には…言っておきたかったんだ…ぐすっ…なんで、だろうな…っ」

女「…多分、それはね」

ぎゅうっ…

男「…え」

女「こういうことなんじゃないかなって、思う」

男「なん、で…」

女「…どう? 心臓、高なってる?」

男「……」

ドクンドクン…

女「頬が熱い?」

男「…あ」

女「…それに、恥ずかしい?」

男「っ……」

女「…それは私には分かるよ」

男「な、なんだこれは…! 俺は、一体…!」

女「ふふ、本当にわからないんだね」

男「お、教えてくれっ…俺はどうなってしまったんだ…?」

女「…それは言わない」

男「な、なぜだっ」

女「だって、あなたから言って欲しいから」

男「…お、俺から?」

女「いつでもいいよ…あなたが本当に気づけた時、ちゃんと私は聞いてあげる」

女「だから──だから、ね」

女「この大切な時間を…もっともっと、続けなくちゃいけないね」


キィイイイイイイイイイイイイン!


女「──私はそう〝望んで〟いる」

~~~

黒猫「…………ふふっ」

パラパラ…

黒猫「──倉庫はほーかい♪すべーてぺしゃんこ♪」

黒猫「みーんなっ! ふこぉ!」

黒猫「あはははははははは! あースッキリ、したのだわ」

黒猫「にしても…あらあら、私怪我一つなし? 幸せすぎない?」

黒猫「くっく…あははっ…なんてこと、とうとう私も幸せに───」


「──そうだよ、幸せだよ」


黒猫「…ッ!!?」くる


「誰も傷つかない。誰も悲しまない──そして幸せな空間」


女「私がそう〝望んだ〟から。だから誰も、傷つかない」

黒猫「どう、して……ッ!? 貴女は確かに崩壊に巻き込まれてッ…!?」

女「誰も巻き込まれてないよ。そうしないよう──使ったから」

黒猫「使った…ッ?」


女友「イタタ…あれ? 生きてる?」

友「……これは」

「なんすかいきなり…これ、うわわ!? 倉庫がめちゃくちゃ!?」

「体痛、くない? あれ? さっき頭ぶつけたのに…」

「ええええー!? なんだこれ?!」


黒猫「…ま、まさか…これは…」

女「……」

黒猫「し、し……〝シンクロ〟させたとでもいう、の?」

女「……どうなんだろうね」

黒猫「ば、馬鹿なこと…っ! 私の不幸が起因となって、崩壊した瓦礫が…!」

黒猫「誰一人として、人を傷つけないなんて!! そんなの!!」

女「……」

黒猫「あ、貴女はっ…〝運命〟とでもッ…シンクロしたとでも言うの…!!?」

女「わからないよ。私はただ、みんなが…傷つかないと願っただけ」

黒猫「なによそれっ…! もはやそれは〝体質〟じゃない! 神の…神のチカラじゃない!」

黒猫「自分の都合のように世界を変えられるっ! もはやもう、人間じゃ……」

「──失礼なことを言うな、猫」

黒猫「っ…!!」

男「コイツはれっきとした人間だ、勝手に規格外な存在にするじゃあない」

黒猫「っ…なによ…これ……嘘でしょ…私……不幸なの……?」

黒猫「っ…不幸ならみんな不幸になれっ! 一緒に不幸になれ!!」

女「無駄だよ。貴女の…不幸はもう訪れない、少なくともこの場所じゃ」

黒猫「なにも……おこらない………」がくん

女「…もう誰も、傷つけない」

女「だから、もう貴女には誰も傷つけさせない」

黒猫「私は……そんな……」

女「……」

男「…女」

女「うん。わかってる、だけど」

男「……」

女「きっと貴女もちゃんと、一人でも強くなれるよ」

黒猫「……」

女「みんな誰しも悩みを抱えてる。けど、前に進もうって頑張ってる」

女「…ちゃんと前を向いて、また会おうね」くる…

黒猫「……………」

男「…じゃあな、また逢えたら。会おう」



友「…もうすぐ来る。黒猫組はだいたい逃げたけど、彼女は…」

男「良い、あのままにしておけ。どうにかなるだろう」

女友「…いいの?」

男「そんな感じがする。きっと、悪いことは起きない…そうだろう?」

女「うん」

女友「…そう、じゃあ逃げるわよ! あたしの後に付いてきて!」だだっ

女「……」チラ

男「む?」

女「…いこっ?」ぎゅっ

男「…お、おう」

女「……」

たったったった…


~~~~

~~



数日後 東地区 公園

男「……」

友「いやはや、待たせたかな」

男「遅刻はしてない。だが三十分は待った」

友「生真面目すぎるよ。相変わらずだねぇ」

男「…それで? わざわざ公園にまで呼んで、何の用事だ?」

友「事後報告さ。気になっているだろう?」

男「…あれからか」

友「ひとつひとつあげていこうか、まずは南火校の【王】が決まったよ」

男「そうか」

友「まあボクの予想通り──あの〝赤髪〟のようだね、彼女は凄いもの」

男「……」

友「そして数日前の──謎の倉庫崩壊事件、そして西林校による黒猫組討伐隊は」

友「主犯者の黒猫さんを取引に、南火校のボス…つまりは〝赤髪〟だね」

友「休戦を約束したようだよ」

男「…ふむ」

友「西林校の王は元より、争いしたくないと望んでたみたいで」

男「……」

友「いいチャンスだったんじゃないかなって、思ってるじゃないのかな?」

男「…そうか」

友「…反応が鈍いね。やっぱり彼のこと、苦手なのかい?」

男「む」

友「西の王のことだよ。【静寂の西】──〝自称英雄〟」

男「…留年続けまくってる馬鹿が嫌いなだけだ」

友「そう彼に言ってあげなよ。多分、喜ぶんじゃあないかな」

男「……」

友「彼は君のことを──必要以上に好意を寄せてるからね、あはは」

男「…話を続けろ」

友「了解。ってまぁ、これだけなんだけどね。報告ってのは」

男「……」

友「…なんだいその表情は。ボクからは何もいうことはないよ?」

男「…あいつらはどうした」

友「どうしたもなにも、黄泉市総合病院で入院中だろう?」

男「……」

友「…どうしてお見舞いに行ってあげないんだい」

男「む…」

友「君らしくもない。いや、君にしては珍しいかな?」

男「勘ぐるな。良いだろう、俺の勝手だ」

友「ふふ、そうしておこうかな」

男「……」

友「さて、今日はここまで。ボクはちょっと妹の様子見てこなくちゃいけないし…」

男「…俺はもう家に帰るぞ」

友「そっか。じゃ明日また、学校で」

~~~

黒猫「……」パチッ…

黒猫「ここは…」

黒猫(嫌な匂いね…どこかのアジト、かしら)

黒猫「なんともぁ…ふあ~」

黒猫「…眠いわぁ」


「あかんあかんて! 寝てもーたら会話もできひんやん!」


黒猫「……」ぴくっ


「なぁそうやろ? ウチ、黒猫ちゃんと会話したいねんな~」


黒猫「不愉快な方言…その口、閉じてくださる?」

「どっひゃー! ひっどいこと言うわ~…ウチ、黒猫ちゃんを助けてあげてんねんで?」

「そこのあたりのところ感謝ーしてもらわへんと…ウチも悲しいわぁ」

黒猫「……赤髪」

赤髪「よぉーす! 元気ぃ? 目覚めはどないかんじ?」

黒猫「さっきまでは最高だったわぁ…けど、今は超絶不幸よぉ」

赤髪「いっひひ。相変わらず口が悪いなぁ~すっきやで、そういうの」

黒猫「…それで」

赤髪「あん?」

黒猫「南火の王は…貴女になったのかしら?」

赤髪「あ、いやいや。それ、ちゃうよ?」

黒猫「は?」

赤髪「けーしきてきにぃ、そうなっとるだけ。ウチが強いから周りが言いふらしとるだけ、ホンマホンマ」

黒猫「…ふざけないでちょうだい、そんな適当なことで決まるものが【王】などと…!!」

赤髪「しゃーないやん、だってウチより強いのおらへんし」

黒猫「…っ…」

赤髪「みーんなすぐにウチに頭を垂れるさかい、ホンマびっくりやわ~うんうん」

黒猫「……」

赤髪「せやからなぁ? ウチは期待しとったんよ?」

黒猫「…なにを」

赤髪「せやから黒猫ちゃんのことよぉ。何時まであっても反抗的でぇ、傲慢でぇ」


赤髪「たまらんほど──でっかい悪意をウチにぶちまけまくっとったやん?」

赤髪「…これほどまでウチのことを想ってくれてる…それって、つまり〝愛〟やろっ!?」


黒猫「……違うわ」

赤髪「そんなわけあらへん!! 絶対そうや!! ウチのこと愛してくれてるんやろ!?」

黒猫「…………」

赤髪「あっはぁ~~ん…なんていい子なんやろ、好きになっちゃいそうやわ~~言うなれば、」

赤髪「友人以上恋人未満! ってとこか?」

黒猫「…あなたのその、物事の考え方嫌い」

赤髪「ウチは好きよ。だから黒猫ちゃんにも好きなって貰いたいなぁ」

黒猫「…嫌よ」

赤髪「あーんいけずぅーぅ」

赤髪「ま。それはいいけどなっと」ブン!!

黒猫「ごはぁっ!?」ドスン!

赤髪「…おっと。コレぐらいでヘバッちゃあかんで~もうちっと耐えなぁ」

黒猫「なに、をっ…!」

赤髪「せやから、愛しとるって言うたやろ?」

赤髪「だから殴る。友人以上恋人未満ぐらい、殴る」

黒猫「くっ……!!」ばばっ

赤髪「勘違せんといてな? 怒ってへんよ? ウチ、ちょっと不器用なだけなんよ…」

赤髪「黒猫ちゃんのこと好きやし、愛しとる。けれど、そのお返しの仕方が───」


赤髪「──この熱い拳でしか、返せへんのよ」ブン!!


黒猫「きゃあ!?」ズサァアア…

赤髪「いいわぁ…やっっっっっぱいいわぁ…愛し合っとる二人の、ぶつかり合いっ…!」

赤髪「ぞくぞくするわぁ…! なんやの、たまらん! 身体のしんが熱って、熱くなって…!!」

赤髪「ウチの体質っ……『愛し体質』が…ぶちぎれそうやぁ…!!」

赤髪「黒猫ちゃんっ…ウチ、どうしたらいいといいっ…!?」

黒猫「ハッ…死ねば?」

赤髪「さいっこー!」ダン!

黒猫「……あははははは!! 不幸にしてあげる!!!」ダダ!

数時間後

赤髪「…ふぅ、ま、こんなもんやろな」

黒猫「ぁ…ぅ…」

赤髪「黒猫ちゃん。やっぱこの南火で一番の骨のある奴やったわ、うんうん。満足満足」

赤髪「けどな~やっぱ、もうちょっとウチの愛を受け止められるようにならんとな~」

赤髪「──あの【東の吸血鬼】みたいになぁ……ふふ、あれウチの未来の旦那さんやで?」

黒猫「……」

赤髪「黒猫ちゃんも会ったんやろ? かっこええやろ~ウチなんて四年前から一目惚れ中やで?」

赤髪「ほな。これからも、よろしゅう」ふりふり

黒猫「っ……この…バーサーカー系が……」


キィ……パタン!

黒猫「……っ…ふふ、あはは…なんて…!」

黒猫「なんて……私はふこうなのかしら…」

黒猫「なんて…なんで……どうして…─────」

~~~

黄泉市総合病院 十五階

男「っ……ゴクリ」

男「えっと、その、見舞いに来た…んだ」

男「…ち、違うな。こうじゃあないな」

男「よー! 元気そうだな、俺も元気だ!」

男(こんなキャラだったか俺?)

男「ぬぉおっ…どうすればいい? 俺は…俺は…!」

女友「…アンタなにやってんの?」

男「ぬぉおお!? お、おまっ!」

女友「………」

男「そ、そんな不審者を見ような目で見るな…!」

女友「…見るわよ、もすっごく見るわよ」

男「むぅうっ…み、見舞いに来たのだ! なにか文句でもあるのか!?」

女友「…なんで偉そうなわけ? ま、いいけど別に。あの子に用事なら…あたしもあるし」

男「そうなのか?」

女友「うん。そう、最近は交換日記てのを始めてて…それでならあたしも、なんだか本音を書けるのよ」

男「……」

女友「もっとあの子にあたしは…向かい合わないと。この体質もね」

男「…そうか」

女友「って、何言わせてんのよ! はやく開けなさい間抜け!!」

ガラリ!

女「…あ」

男「こ、こら! 蹴るんじゃあない! 服が汚れるだろう!」

女友「うっさいわね! アンタがトロいから悪いんでしょ!?」

女「えっと…」

男「お、おお…えっと、ひさしぶり、だなっ?」

女「数日ぶりだね」

女友「ねえ聞いてよ女、コイツったらドアの前で不審なこと…」

男「むぉっ!? ば、バラすな! 違うぞ女! 俺はなにもしてない!」

女「…くすくす、ごめん。けど声が聞こえてたよ?」

男「うっ…!」ぷっしゅー

女「けど、うん。大丈夫、心配しててくれたんだね」

男「……う、うむ」

女友「わっかりやすい態度よね、アンタって。体質使うまでもないわよ」

男「っ…なにがだぁ!? 言ってみろ! どういうことだ!」

女友「きゃー! 強姦魔ぁー!」

男「なんだと!」

女「…ふふ」

男「う、っとと…すまん…急に声を荒げて…傷には響いてないか?」

女「だから大丈夫だよ。怪我のほうが完治するみたいだし、けど…」

女「…傷はどうしても残るみたい」ぎゅっ

男「…そうか、残るのか」

女「けど、それも平気だよ」

男「むっ?」

女「だって……きっとこの傷は大切な、モノ」

女「私が強くなろうって思った…その証だから」

男「……」

女「この傷を見る度に──私の心は強さを思い出す」

女「そしてこの〝体質〟と…ちゃんと向き合うことが出来る」

男「…その言葉こそが、強くなったものが言える事だ」

女「そうかな?」

男「ああ、そうだ。お前は強い」

女「…ありがと」すっ

ぎゅっ

男「…む?」

女「本当に…本当に、あなたに会えてよかった…」

男「それは俺もだ」ぎゅっ

女「…そっか、嬉しい」

女友「ちょっと」

男&女「っ……!?」ババッ!

女友「…いや別にいいのよ? イチャイチャしても、けど、アタシが居るのよ、わかる?」

女「あはは」

男「む、むぅ…」

女友「ったく、アンタらは一体どうなりたいわけ? 付き合うの?」

男「つ、付き合うだと!? ば、馬鹿な!」

女友「はいはい。アンタには聞いてないから」

女「…まだそんな風にはならないんじゃないかなって思うよ」

女友「どうしてよ、こんなにも丸わかりじゃない」

女「だって、彼がなにも気づいてないから」

女友「…あーそれか、あたしの体質が確信を持てない理由は」

男「…? ……?」

女友「…アンタも大変ね」

女「それは、女友ちゃんもだよ」

女友「……。どうしてそこでアタシが出てくるわけ!?」

女「えっ? 違うの…? だって交換日記で凄く男君の名前が…」

女友「ぎゃー! 何いってんのアンター!!」

男「…ま、まさかお前…交換日記でも俺の悪口を…?」

女友「うるさいばか死ね!」ブン!

男「むぉっ!?」

女「ふふっ」

パラリ…

パラ…パラパラ…

『──この交換日記は私にとって、最初の一歩となると思います』

『なにも知ろうとしなかった私。なにも考えようとしなかった私』

『過去の私は、きっとこんな日記も書こうとしなかったはずです』


パラパラ…


『けれど、運命は変わりました』

『こうやって問題に立ち向かい、人それぞの過去を乗り越えようと頑張っています』

『思い出したくない過去、消し去りたい過去、なかったことにした過去』

『みんなそれを抱えて、それでも前を向いてまっすぐに──』

『──私たちは前へと、進む』

パラ…

『だからこそ、私は望むのだと思います』

『この幸せがずっと続くことを、永遠に』

パタン…

終わりなんだ
支援ありがと保守ありがとう

長くなったのは途中で吹っ切れて好きに書いてやろうと思ったからです


この話は
男「青信号だな、えっ?」
悪魔「ふぇぇ…死んじゃいますよぉっ」

の続きです。
よかった読んでみてください、

それではではノシ

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