うちの嫁は鬼嫁(168)
男「夫婦でさ、あえて外で待ち合わせするって変な感じしない?」
鬼嫁「そう?」
鬼嫁「私は新鮮な感じがしていいと思うけど」
男「そうなんだけど、なんか照れ臭いってか、初々しいってーか…」
鬼嫁「うふふっ、それが狙いだからねー♪」
男「でも、結婚して最初の結婚記念日に遊園地って…」
鬼嫁「ん?それがどうかした?」
男「いや、いいのかなって」
鬼嫁「いいに決まってるよーぅ!」
鬼嫁「あなたも解ってるデショ?」
鬼嫁「初キスの場所なんだからっ!」
男「…」
鬼嫁「なーんで黙ってんの?」
男「あ、ああ…、あぅ、おうっおうっ////」
鬼嫁「なにオットセイみたいになってんのよっ!」
男「て、照れてんだよっ!////」
男「こ、ここの観覧車のてっぺんでしたんだよな////」
鬼嫁「んふふ、そうそう!」ニコニコ
男「その…まあ、ホントにあの時みたいだな」
男「入口で待ち合わせまでして」
鬼嫁「うん」
鬼嫁「…ここは特別だから」
男「わかってるよ」
鬼嫁「じゃあ、ほらっ!」
ギュッ
鬼嫁「早く行こっ!」グイッグイッ
男「子供じゃないんだから、そんなにはしゃぐなよ」
鬼嫁「いいじゃない!今日は特別な日なんだから!」
男「仕方ないなぁ」
鬼嫁「ふふふっ、行こ!」
―
――
鬼嫁「んーっ!」ノビーッ
鬼嫁「こうやって子供みたいに遊ぶの、久しぶりだったね」
男「そうだな」
鬼嫁「何より、この遊園地が昔と変わってないのが良かった」
男「うん」
男「相変わらず家族連れで賑わってるな」ニコニコ
鬼嫁「…男は嫌だった?」
男「なんで?」
鬼嫁「せっかくの結婚記念日なのに、子供っぽかったかなって…」
男「いや、お前が言った通りここは思い出の場所だから」
鬼嫁「んふふ、男ならそう言ってくれると思ってたよ」
鬼嫁「じゃさ、シメはやっぱり観覧車、よね?」
男「ああ、もちろん!」
鬼嫁「うん!行こっ!」
――
係員「ドア閉めまーす」
ガチャン
ゴウンゴウンゴウン…
鬼嫁「ね?」
男「ん?」
鬼嫁「初めて会った時のこと、覚えてる?」
男「なんだよ急に」
鬼嫁「まあまあ。で、覚えてる?」
男「もう20年ぐらい前になるか…」
男「公園でお互いに紹介されたのが最初だったよな?」
…
……
~幼少期~
男「男っていうんだ」
友「ともだち、幼稚園がいっしょだったんだ」
鬼娘(おにこ、のちの鬼嫁)「私はおにこっていうの!」
友「この子は小学校がいっしょのともだちのおにこ!」
鬼娘「よろしくね、男くんっ!」
男「うん!」
友「じゃあ、なにしてあそぶー?」
友A「ままごと!」
友B「今日は男の子が多いから他のにしようぜ!」
友C「ぶーぶー!」
友D「おにごっこは?」
一同「いいなーそれ!」
友「じゃ、鬼はおにこな!」
鬼娘「えー!?またー?」
鬼娘「こないだも学校でやったとき、私だったじゃんかぁ!」
友「ツノが生えてて、そのまんま鬼だからいいじゃん!」
鬼娘「もー、私が鬼族だからってぇ…」
男「ね、おにこちゃん」
男「いつも鬼、やらされてるの?」
鬼娘「最初はいつもそうなの、ぷむー」ムー
男「なあ、友。それずるくない?」
友「鬼が鬼だからいいじゃん」
男「でも、じゃんけんもなにもしないで鬼を決めるなんて…なんだかなぁ…」
友「いいのいいの!な、おにこっ?」
鬼娘「うーん…いいけどぉ…」
男「ホントにいいの?」
鬼娘「うーん…よくないけどぉ…」
男「そうか…」
男「友っ」
友「ん?なーに?」
男「おれが鬼やるよ」
鬼娘「えっ!?」
男「おにこちゃん、いやがってるしさ」
男「いつもはじめは鬼やらされてるって言ってたし、おれ、なにもしないで決めるのなんかやだもん」
男「おにこちゃん、かわいそーじゃん」
鬼娘「男くん…」
友「いいけど、しらないぜ?」
男「んえ?」
友「おにこ、走るのすんげー速いから」
男「え!?そうなの!?」
友「最初に鬼にしとかないと、ぜーったいつかまらないんだもん!」
鬼娘「えへへー」
男「ええ~…」
友「おとこににごんはないよな?」
男「しかたないか…」
クイックイッ
男「うん?」
鬼娘「男くん」
鬼娘「あの…、鬼、してくれてアリガト」
男「いや、まあ…」
鬼娘「いつも初めから鬼だったからさ」
鬼娘「たまにははじめから思いっきりにげてみたかったの!」
男「うん。そうだよね」
鬼娘「やさしいね、アリガト」ニッコリ
男「あ、えっと、うん////」ドキッ
鬼娘「私、男くん好きかもしんない」ジッ
男「えあっ!? あうっおあっ…!////」
男「な、何言ってんのっ!?////」
鬼娘「あうあうだって。オットセイみたい!」クスクス
男「てれたんだよ…////」
鬼娘「でもね…」ニヤリ
男「え?」
友「おにごっこ…っ!!」
鬼娘「走るの速いのはホントだから…」ニヤニヤリ
友「すたぁーとぉぉーーっ!!」ダダダッ!
鬼娘「てかげんはしなーいよーっ!」
バヒュン!
男「わ!」
男「ホントに速いっ!」
……
…
鬼嫁「それまで、あんな風に庇ってくれた子、いなくてさ」
鬼娘「低学年の子供とは言え、私も女でしょ?」
鬼娘「もーぉ男がカッコよく見えて仕方なかったの」
鬼嫁「ま、それで一気に惚れちゃったんだよねぇ」ニッコニコ
男「おお、あうあう…////」
鬼娘「まーたオットセイみたいになってる!」
男「照れてんだってば!////」
男「で、でもっ、一応幼馴染みではあるけど小学校が違うのに、よくここまで長い付き合いできたよなぁ」
男「よく見る恋愛漫画とかゲームの幼馴染みとはまた違うのにな」
>>15訂正
鬼嫁「そのときまで、あんな風に庇ってくれた子、いなくてさ」
鬼嫁「低学年の子供とは言え、私も女でしょ?」
鬼嫁「もーぉ男がカッコよく見えて仕方なかったの」
鬼嫁「ま、一気に惚れちゃったんだよねぇ」ニッコニコ
男「おお、あうあう…////」
鬼嫁「まーたオットセイみたいになってる!」
男「照れてんだってば!////」
男「で、でもっ、一応幼馴染みではあるけど小学校が違うのに、よくここまで長い付き合いできたよなぁ」
男「よく見る恋愛漫画とかゲームの幼馴染みとはまた違うのにな」
鬼嫁「私の一途さ、知ってるでしょう?」
男「まあ、な」
鬼嫁「それにさ」
鬼嫁「男も嫌な顔せずに、私と会ってくれたじゃない?」
男「そうだな、鬼娘と会うのは嫌じゃなかった」
鬼嫁「不思議と馬が合ってたんだよね」
鬼嫁「でもやっぱり、同じ学校じゃないと会うのに限りがあるでしょう?」
鬼嫁「だから男と同じ中学に通えるようになった時はすごく嬉しかった」
鬼嫁「毎日、顔が見れるんだもん!」
男「ああ…、あの頃はあの頃で大変だったよ…」
…
……
~中学時代~
鬼娘「男ーっ!」
男「おー、鬼娘ぉ」
鬼娘「入学おめでとう!」
男「そっちもな」
鬼娘「友もおんなじ学校だよ」
男「そうなるよな」
男「ここ何年か顔も合わしてないけど、また仲良くできるかなぁ」
鬼娘「昔とった杵柄って言うし、大丈夫なんじゃない?」
男「それ意味ちがうと思うよー」
鬼娘「ありー?」
男「あとで友を探してみるよ」
鬼娘「そうしなよ」
鬼娘「そん、でさ…」
鬼娘「こうしてお互いに中学生になったワケじゃん?」
男「うん。で?」
鬼娘「男っ!好きっ!!」
男「は?」
鬼娘「私と付き合ってっ!!」バアアーン!
男「お、おに…こ?」
男「なんで…何、言ってんだ?」
鬼娘「小さい頃からずっと好きだったんだよ?」
鬼娘「そろそろ男と彼氏彼女のカンケイになって、セイシュンをオーカしたいワケですよ!」ニパー!
鬼娘「一緒にお弁当食べてぇ…」モア
鬼娘「一緒に帰ってぇ…」モアモア
鬼娘「一緒に勉強したりぃ…」モアモアモアモア~
鬼娘「んふふー、ね?」
男「あのぅ、おう、あうあうっ…////」
鬼娘「ぷぷー!男、オットセイみたいっ!」クスクス
男「いきなりそんな事言われて、どんな反応していいかわかんなくなったんだよっ!////」
鬼娘「ぷぷぷぷー!」クスクス
鬼娘「で、返事はどうなの?」
男「へ、返事…」
鬼娘「さあ!さあっ!」
男「えーと…////」
男「あう…えと…////」タジタジ
ピュン!
鬼娘「あっ!」
鬼娘「逃げるなんてズルいっ!」
男「ホント、どうしていいかわかんないよっ!」ダダッ
男「な、なんかゴメン!」ダダダッ
鬼娘「あ、謝んないでよっ!」
鬼娘「だっ、ダメなのーっ!?」
男「そうじゃないけどー、こーんーらーんーちゅーうー!」ダダダッ!
鬼娘「もうっ!」プー
鬼娘「でも、走って逃げるなんてアホよね」ニヤリ
鬼娘「足の速いのは昔から変わってないよっ!」グッ…
鬼娘「捕まえてやるっ!」タッ!
ダダダッ
男「や、やっぱり速いっ!」
鬼娘「ふっ、ふっ!」
ダダダッ!
教師「くぉらぁぁーっ!!!」
教師「入学初日から廊下を走るヤツは誰だぁーっ!!」
男&鬼娘「あひーっ!」
……
…
鬼ごっこの鬼なら安心して読めるな
男&鬼嫁「あはははっ!!」
男「入学初日にセンセーに目ぇつけられてさ」
鬼嫁「それから、よく追いかけっこして叱られたよね」
男「周りの友達からは、『リアル鬼ごっこだ~』とか言われてたし」
鬼嫁「私、本物の鬼ですから」
男「ははは。まんまだよな」
鬼嫁「今思うと、私もよく貴方のこと追い続けたもんだね」
男「その節は色々と手間を掛けさせてすいませんでした」ペコペコ
鬼嫁「結果、付き合ってくれたからいいけどね」
鬼嫁「でもそうしてくれるなら、もっと早くに私を受け入れてくれてもよかったんじゃない?」
男「中学に上がりたての男子なんか、同じ年頃の女の子に比べりゃまだまだガキなんだよ」
男「好きとか付き合うとか彼女とか、実感湧かなかったし…」
男「でも…、高校の進路で別々になるってわかったとき…」
…
……
~再び中学時代~
男「やっぱりそうなるよな」
友「鬼娘は陸上の推薦で高校進学か」
男「あれだけ実績残していれば推薦も受けやすいだろうし」
友「俺たちは普通に公立受験だな」
男「みんな、別々になっちゃうな」
友「お前らのリアル鬼ごっこも今年で見納めかぁ」
男「そう、だな」
友「おんや?」
友「いつもなら『リアル鬼ごっこ言うなっ!』ってツッコむのに…」
男「あ、ああ、うん…」
友「どした?」
男「いや、ずっと近くにいたのにいざ離ればなれになるってわかると、結構な喪失感だなって」
友「ふーん」
友「何とも思ってないって言うと思ってたのに」
男「自分でもそう思う」
友「あいつは、いいヤツだよ」
友「それでいて超一途だ」
男「…わかってる」
友「お前に好きだ好きだ言うのだって、いつも本気なんだぜ?」
友「しかも、小さい頃からずっと」
男「うん、わかってる」
友「だから俺は中学上がる前に鬼娘の事はあきらめた!」
男「え?」
男「ホ、ホントか、それ!?」
友「うん。ホントホント」シレッ
男「知らんかった…」
友「俺と話すときはだいたい男の事聞いてくるし」
男「おぉう…////」
友「中学で一緒の学校に通えるって話すときの鬼娘の嬉しそうな顔ってば…」
男「おうおぅ…////」
友「俺の入り込むスキマはなかったんだよ」
男「友…」
友「だからっ、だ!」ビシッ!
男「!?」
友「お前も鬼娘の事、好きなんだな?」
男「あう…////」
男「好き…だ////」
友「好き好き言われ過ぎて情が移ったとかじゃないよな?」
男「いや、情…なんかじゃない」
男「俺も鬼娘の性格に、いつの間にか惹かれてたんだよな」
友「そかそか」ニコニコ
男「…うん////」コクリ
友「お」チラ
友「陸上部、終わったみたいだぜ」
友「行ってこいよ、鬼娘んとこ」
男「…なあ、友」
友「ん?」
男「お前は鬼娘の事、もういいのか?」
友「アーホ」ペチン
男「あた」
友「とっくに諦めなんかついてるよ」
友「だいたい、俺が鬼娘の事好きだって気づいたのは小4ぐらいの時だもん」
友「諦めるまで、2年くらい」
友「それに比べて鬼娘は、だ」
友「お前ら二人が初めて会った時からずっと男の事が好きだったんだ」
男「…ああ」
友「小学校の間、6年間」
友「それと中学入ってからの2年ちょい」
友「合計8年もお前一筋だった、いや…」
友「今もだな」
友「もう重さってか、そんなんが全然違うだろ?」
男「まあ、そうだけど」
友「俺は大丈夫だから」
男「友…」
友「それに今は別に好きなコいるし…」ポソッ
男「え、そうなんっ!?」
友「やべっ」
男「ちょっ、誰っ?何組?どんなコっ!?」
友「修学旅行の夜か!」
友「俺の事はいいんだよ!」
男「気になるだろ!?」
友「んなモン簡単にバラすわけねぇだろ!」
男「気になるなー」
友「ほらっ、早く行けよ!」
男「わかったよ」
友「お前らがどんな関係になっても」
友「俺はずっと、お前らの友達だから!」
男「おう!」
友「あ、でもっ!」
男「ん?」
友「今は違うけど鬼娘は、『好きだった子』で、男同様大事な友達だ」」
友「半端な事しでかしたら、例えお前でも許さないからな!」
男「おう、約束する」
ガタ
男「じゃ、鬼娘んとこ行ってくる」タタッ…
友(おおー、なんか俺達青春してる~)ジーン
―
――
鬼娘「おー♪」ダッ
鬼娘「とー♪」ダダッ
鬼娘「こーっ♪」ダダダッ
男「鬼娘」
鬼娘「え」ダダダ…
男「え」
ドンッ
鬼娘「ふぎゅ」
男「ぐあっ」
鬼娘「いだいぃ~」ジィィン
男「だ、大丈夫?」
鬼娘「なんで今日は逃げないのぉ?」サスサス
鬼娘「鼻、打っちゃったよーぅ」
男「いや、その…」
鬼娘「やっと私に捕まる気になってくれた?」ニパ
男「そのっ、あうっ、あうあう…////」
鬼娘「あははは」
鬼娘「照れるとオットセイになるクセ、変わんないね!」
男「茶化すなっ!こっちは気合い入れてきたんだっ!!」
鬼娘「え…」
鬼娘「えーと、マジ?」
男「その…、ごめん」
鬼娘「ご、ごめんって…。やっぱり私の事は好きになれない?」
男「いや、違う違う!」
男「逆だよ」
男「ただ散々好き好き言わせておいて、今さら俺も好きだなんて…」
鬼娘「え?」
鬼娘「ええっ!?」
男「なんか、うまく言えないけど、待たせてごめんな」
男「遅くなって…ごめん」
鬼娘「お、男…それホント?」
男「うん…」
男「ほら、鬼娘さ…、推薦で進学するから高校は別々になるだろ?」
鬼娘「うん」
男「俺は俺で、どうしても行きたい高校ってワケじゃんないけど、公立の金のかかんないとこに行くつもりなんだ」
男「それに『一緒に居たい』ってだけで進路決めるのも違うじゃん?」
鬼娘「確かにー」
男「だからどうしても離ればなれになるんだよな、鬼娘と」
鬼娘「…そ、だね」
男「そうなるってわかって、初めて…、俺ん中で存在が大きくなってるのがわかった」
男「今さら、ホントごめん」ペコ
鬼娘「んーん。顔あげてよ、男」
鬼娘「私こそ、いつも追いかけ回してごめんね」
鬼娘「でもっ、好きなんだもん!」
鬼娘「ずっとっ!好きだったんだもん!」
男「…うん」
鬼娘「私でいいの?」
男「それはこっちのセリフ」
鬼娘「当たり前よ!」
鬼娘「こちとらどれだけ一途に追いかけてたと思ってんのよ!」
男「『あの日』から8年ぐらい?」
鬼娘「すごいでしょ!」エヘン
男「すげーな、ホント」
鬼娘「鬼ごっこで私を庇ってくれた優しい男の子は」
鬼娘「それから、学校も違うのに追いかけても嫌な顔一つもしないで私と過ごしてくれて」
鬼娘「もうなんだかねぇ…その子以外目に入んなくなっちゃったのよね」
男「お、おう…////」
鬼娘「そういう照れて、ちょっと可愛いとこも好きよ」
男「あうあう////」
鬼娘「ぷぷー!オットセイ!」
男「こ、こっちだってなぁっ!////」
男「そこまで一途に想われて嬉しくないワケねぇだろ!?」
男「嬉しいやら、恥ずかしいやら!////」
男「ただ、これだけ長い間好き好き言われ続けて、今さらってのもあったし」
男「それに」
男「鬼娘や友との関係も変わってしまうんじゃないかって…」
男「少し怖かったのかもしれない」
鬼娘「相変わらず優しいねぇ」
男「ホント今さらごめんな」
男「…でも」
男「こんな俺でも良かったら…」
男「つ、付き合ってくれませんか?////」
鬼娘「そんなっ!」
鬼娘「私こそ散々追いかけ回して、それでも私の事好きだって言ってくれるんなら」
鬼娘「よろしくお願いします」ペコ
男「…あ、うん…、よろしく////」
鬼娘「えへへー////」
男「お、赤鬼になった!////」
男「珍しいな、鬼娘が照れるの////」
鬼娘「そ、そうだけどぉ…////」
鬼娘「あなたの赤具合に比べたら、マシなんじゃないかな?」
男「そ、そんなに赤い?////」
鬼娘「うん!真っ赤!」クスクス
男「あうぅぅ…////」
鬼娘「あ、そだ!」
男「ど、どした?」
鬼娘「ちょっと待ってね」
ゴソゴソ
鬼娘「鞄の中に…」
ガサゴソ
鬼娘「あった!」スポ
男「制汗スプレー?」
鬼娘「よっ!」ブシュー!
鬼娘「んっ!」ボシュー!
鬼娘「ここもっ!」バシュー!
ブシュー!ブシュー!ブシュー!
鬼娘「ぶぁっ!」
鬼娘「ぐぁっは!ヴェっほっ!ごほっ!」
男「だ、大丈夫?」
鬼娘「こほっ。ふ、噴きすぎちゃった、えほっ」
男「そんなにスプレーして何を…」
鬼娘「ふんふん」クンカクンカ
鬼娘「たぶん汗くさくない」スンスン
男「さっきから何を?」
鬼娘「えへー」
鬼娘「ぎゅって…していい?」
男「えっ!?」
鬼娘「夢じゃないよね?」
鬼娘「ホント、なんだよね?」
鬼娘「男も私の事、好きになってくれたんだよね?」
男「ん、まあ、そのぅ…今さらながら気づいたっつーかなんつーか…////」ポリポリ
鬼娘「男ーっ!」タッ
ドムッ
男「いだっ!」グサッ!
男「きゅ、急に来るからツノが刺さった…」
鬼娘「あ、ごめんっ!」
鬼娘「抱きつく時は要注意だね、えへへ」
男「うん////」
鬼娘「じゃ気を取り直して…」ソソソ…
トム
鬼娘「ずっと、あなたにこうしたかったの」ギュ…
男「遅くなってごめん」ギュ
鬼娘「いいの」
鬼娘「だから、これからは彼氏彼女としていっぱい思い出作って行こうね!」
男「うんっ!」
鬼娘「あ、でも」
男「何?」
鬼娘「私は推薦だからあんまり受験勉強ってしなくていいんだけど」
男「う…」
鬼娘「…大変だね、勉強」
男「あーあ…、これからって時に…」
鬼娘「ふふふ。応援するからがんばってね!」
……
…
鬼嫁「次の日から皆に冷やかされるかなって思ってたら」
鬼嫁「だーれも何にも言わなかったんだよね」
男「後で聞いたら」
男「『お前らがくっつくのなんか、誰でも予想できたわ!』って」
男「『わかりきったこと聞くな』って」
男「そこら中からホント、鬼の首でも獲ったように言われたよな」
鬼嫁「でも皆、おめでとうって言ってくれて見守ってくれて」
鬼嫁「嬉しかったなぁ」ニコニコ
ゴウンゴウンゴウン…
鬼嫁「それから勉強の合間でときどきデートに出掛けて」
鬼嫁「…3回目のデートだったね」
鬼嫁「初キス」
男「うん、そうだな」
鬼嫁「観覧車、もうすぐてっぺんだよ?」
ゴウンゴウンゴウン…
鬼嫁「キス、する?」
男「えっと、そ、そうだな////」スッ
鬼嫁「んっ…」
チュッ
男「…」
鬼嫁「んふふ…」
男「いい大人が何やってんだか…////」カアッ
鬼嫁「ま、いいんでない? せっかくの記念日なんだしさ」ニッコニコ
男「嬉しそうでなによりです」
鬼嫁「キスも慣れたもんだね」
男「そりゃあ夫婦ですから」
鬼嫁「あの時の初キスは」
男「1回目は鼻と鼻がぶつかって失敗」
鬼嫁「そうそう!」
鬼嫁「2回目は私のツノが当たって失敗」
男「うんうん」
鬼嫁「3回目でようやくね」
男「懐かしいな…」
鬼嫁「それからも色々あったよね」
男「うん」
鬼嫁「別々の高校に入学して」
鬼嫁「…ちょっと寂しかったんだよ?」
男「普段はそんな素振り見せないのに、意外と寂しがりなんだよな、鬼娘は」
鬼嫁「私もそれぐらいの事あるわよーぅ」プン
男「まあ、でも」
男「鬼娘は高校の陸上部の短距離新人戦でいきなり優勝するし」
鬼嫁「男が応援してくれたおかげだよ」
男「うん」
鬼嫁「すんごく調子があがったの!」
鬼嫁「それから、大会の時にはいつも応援に来てくれて」
男「他にもお互いの学校の催し物にも行き来したりな」
鬼嫁「文化祭、体育祭…」
男「確かに、いつも隣に居た中学ん時に比べたら少しだけ離れたお付き合いだったけど」
鬼嫁「それでも放課後はほぼ毎日会ってたもんね」
男「少しだけ離れて、じっくり絆を深めていく…」
男「そんな付き合い方も悪くないなって思ってたよ」
男「ずっとこんな風に、関係を築いていくんだなって思ってたけど」
男「まさか、一度別れるなんてな」
男「しかも鬼娘から切り出すなんて…」
鬼嫁「…」フーイ
男「はははっ、目ぇ反らすなよ」
鬼嫁「わっ、私は別れたなんて思ってないもん!」
男「いやぁ、あん時は凹んだ凹んだ…」
鬼嫁「あのっ、そのっ…!」
鬼嫁「あの時はそうするのが一番だって思ってたけど、でもっ…!」
男「ああ、わかってるよ」
鬼嫁「ホントあの時は…」
…
……
~高校時代~
男「俺らも来月から『先輩』になるんだな…」
鬼娘「…うん」
男「お前も陸上部、後輩の面倒見たりとか、大変になるな」
鬼娘「…そだね」
男「元気ないな」
鬼娘「…うん、かな…」
男「どうかしたの?」
男「鬼娘らしくないな。何か悩み事でもあんのか?」
鬼娘「えと、ね…」
鬼娘「私ね、引っ越すの」
男「え…」
鬼娘「パパが昇進するからその関係で」
男「あ、おめでとう」パチパチ
男「あれか? 会社の近くに引っ越すとか?」
鬼娘「んーん」フルフル
鬼娘「転勤になったの」
男「て、転勤!? どこに?」
鬼娘「私達鬼族にとっては栄転って言うのかな…」
鬼娘「鬼ヶ島、なの…」
男「お、鬼ヶ島ぁっ!?」
男「そりゃまた随分と遠い…」
鬼娘「そこの支店全部を統括管理する責任者…、みたいなのになったんだって」
男「そうか…。ん、まあ何にせよ、おめでとう」パチパチ
鬼娘「…うん」
男「いつ、引っ越すの?」
鬼娘「…」
男「?」
鬼娘「…」
男「鬼娘?」
鬼娘「明日」
男「え?」
男「あ、明日ぁっ!?」
鬼娘「明日の朝早くに出発するわ」
鬼娘「もうだいたいの荷物は運んであるの」
男「ちょっ、ちょっとちょっと!?」
男「待て待て待て待て!」
男「転勤なんて、昨日今日で決まるもんじゃないだろっ!?」
男「なんでっ、急にそんな…っ!」
鬼娘「ごめんね」
鬼娘「どうしようかずっと悩んでたら、言うに言えなくて…」
男「悩む?」…ドキ
男「悩むって…、な、何を?」…ドキン
鬼娘「…うん」
鬼娘「別れよう、私達…」
男「わ、別れっ…!?」
鬼娘「だって超遠距離だよっ!?」
鬼娘「会いたいって思っても簡単に会えないんだよ?」
男「いやっ、そうだけどっ…」
男「あ、俺が浮気するかも、とかの心配?」
鬼娘「…」
男「だ、大丈夫だって!」
男「は、はは…あは、あはははっ、アホだなー」
男「い、今まで一度だってそんな素振り見せたことあったか?」
男「心配しなくても俺は… 鬼娘「違うのっ!」
男「!?」
鬼娘「違うの…」
鬼娘「今まで…離れているって言っても、連絡一つですぐに男の顔が見られる距離だった…」
鬼娘「私は、あなたの顔が見られればそれで満足できてた」
鬼娘「でも…今度からは…」
男「鬼娘…」
鬼娘「どれだけ会いたいって願っても、すぐに会いたいって思っても」
鬼娘「何日、何週間…いえ、何ヵ月も会えないほど離れるの」
鬼娘「小さい頃から近くで過ごしすぎた反動っていうのかな」
鬼娘「急に距離が開くなんて私は耐えられない…」
鬼娘「きっと、その事で男にキツく当たる事も出てくると思う」
男「それぐらい俺は大丈夫だって!」
鬼娘「それなら、そんなのになっちゃうなら、いっそ…」
鬼娘「全部無くしてしまえばいい」
鬼娘「そう…、思ったの…」
男「何もそこまで…」
鬼娘「今までだって、私の部活で色々男に時間を合わせてもらってたんだもん」
鬼娘「これ以上、男に迷惑かけられないよ」
男「俺はそんな風に思った事なんてないって!!」
鬼娘「お互い時間の合う、そんなカノジョ探しなよ…」
男「だから…っ!」
鬼娘「私だったらこの機会に、きっとそう考えるわ」
鬼娘「…無理に男に付きまとって、迷惑かけたツケが回ってきたのかな」クスクス
男「迷惑とかツケって…、俺はそんな風に思った事なんか一度も…」
鬼娘「だからね」
鬼娘「男が心配とか信用できないとかじゃないの」
鬼娘「私は…耐えられない」
男「…どうしても?」
鬼娘「会いたくても会えないって、苦しくなるくらいなら」
鬼娘「それで男に、キツくしてしまうくらいなら…」
鬼娘「元を断てばいいって…」
男「そんな…」
鬼娘「私も向こうで頑張るからさ!」
鬼娘「男も頑張ってね!」
ポン
鬼娘「それでさ、早く新しいカノジョ、見つけなよ」
男「!」…ズキン!
鬼娘「男なら性格良いし、見た目もそれなりだしー」
男「それなりかよ…」
鬼娘「あはは…」
鬼娘「すぐに新しいカノジョできるよ」
鬼娘「ま、元カノの私が言うんだもん」
男「元…、カノっ…」…ズキン
鬼娘「私にしたら、それが一番良い方法だと思うの」
男「鬼娘…」
鬼娘「私はさ、向こうで編入することになった高校が随分陸上競技にも力入れてて」
鬼娘「結構良い環境で練習できるんだよね!」
鬼娘「さっきも言ったけど」
鬼娘「会いたい~ってモヤモヤするより」
鬼娘「陸上一筋に打ち込もうと思うの!」
鬼娘「私は、大丈夫だから…」
男「そ、か…」
鬼娘「…私のワガママでごめんね…」
鬼娘「バイクの後ろに乗せてもらう約束、守れなくてごめんね…」
男「いや…」
男「おじさんの転勤なら仕方ないよ…」
男「正直、別れるなんてツラいけど」
男「おじさんや鬼娘達家族にとっちゃ、スンゴイ喜ばしい事なんだよな」
鬼娘「かもね。パパも張り切ってた」クスクス
男「こっちこそ俺のワガママで鬼娘の枷になるワケにはいかないからな…」
男「鬼娘も…向こうで頑張って」
男「陸上、頑張って」
鬼娘「…ありがと」
鬼娘「いつか『陸上界の期待の新星』っとかって、紹介されるかもね」クスクス
男「最近は若いアスリートが注目浴びやすいからな」
男「楽しみにしておく」ニコ
鬼娘「…うん」
男「…」
鬼娘「…」
男「…」
鬼娘「…じゃ、ね」
鬼娘「変に『最後の思い出に~』とかイチャコラするより、スッパリ行くね」
男「ん」
鬼娘「嫌いになったりとかして別れるワケじゃないから」
鬼娘「連絡、取ろうね」
男「ん」
鬼娘「カノジョ、できたら教えて」
鬼娘「ヘタに親密にしてたら怪しまれるかもしれないし、そこはハッキリしないとね?」
男「ん」
鬼娘「じゃあ、元気で」
男「鬼娘も…元気でな…」
鬼娘「…ん」クルッ
タッ…
男「…」
―――
――
―
―それから3ヶ月と少し―
友「んーっ!」ノビー
男「んーっ!」ノビー
男&友「期末テスト終わったー!」バンザーイ
友「デキはどうでしたか?」
男「今回は…いや!」
男「今回も手応えアリ!」
友「お前中間考査、スゴかったもんな」
友「んで、『今回も』ときたか」
男「まあ、な…」
友「…」
男「…」
友「週末の休み、どうする?」
男「特には予定無いけど」
友「じゃさ、どっか行かね?」
友「プールにナンパとかさ?」ニシシ…
友「それか合コンとかさ?」ニシシシ…
男「友、彼女いるじゃん」
友「アホぅ。お前の為だろ」
男「わざわざそりゃどうも」
男「でもいいよ」
男「友を巻き込んだら悪いし」
友「巻き込むとか、んな事言うなよー」
男「せっかく中学ん時に好きだったコと付き合ってんだからさ」
男「変な誤解、させないようにしなきゃダメだろ」
友「そーだけどー…」
男「俺は、しばらくそーゆーの大丈夫だから」
男「彼女、楽しませてあげろよ」
男「お互い、テストで最近会ってないんだろ?」
友「男…」
男「俺は愛車で、ちょっとツーリングでも行ってくるから」
友「そうか」
友「なあ」
男「ん?」
友「鬼娘とは、どうしてる?」
男「どうしてるも何も別れたからどうもこうも…」
友「いや、ちょっとした連絡とか」
男「…いや、無い」
友「えらくアッサリしたもんだな」
男「まあ向こうから特に連絡もないし、こっちから連絡するのもなぁ」
男「鬼娘は鬼娘で陸上頑張ってるだろうし、連絡しちゃうと邪魔になるかもしれないし」
友「そんなもんかねぇ…」
男「4月のアタマに、住所の連絡きてから一度も連絡してないな」
友「ふーん…」
男「…」
友「…落ち込んでる?」
男「んー、ダイジョブダイジョブ、ヘーキヘーキ」
友「こっちからしちゃあ、静かになったような気がするけど」
男「そーすか?」
友「笑う事も減ったんじゃないか?」
男「そーすか?」
友「だからだろ?」
男「何が?」
友「ムダに勉強してたの」
友「何か忘れようとしてるみたいにな」
男「…」
友「例えば、鬼娘の事とか…」
男「…」
友「だんまりは『はい』と取るぜ?」
男「…」
友「ま、いいんだけどさ」
友「それから…」
友「これは独り言なんですが…」
男「は?」
友「うちの母ちゃんと鬼娘の母ちゃん、小学校ん時のPTA関係からずっと仲良くしてて、今でも時々連絡してるみたいなんだ」
友「こないだチラッと聞いた話なんだけど、鬼娘…調子があんまり良くないんだってさ」
友「どうも上の空ってか、身が入ってないってーか…」
友「友達もできたし、元気は元気なんだけど…」
友「カラ元気って感じで」
友「こっちいた時より大人しい感じらしいし」
友「勉強も部活も、成績は今ひとつらしい」
友「おっと、すまんね。ついつい独り言を…」
男「長い独り言でしたね」
友「まあ、気にするな。独り言だしぃ~」
男「…」
友「んで、週末の休みどうする?」
男「…ツーリング、行く」
友「オ、カッコイイネ!」
友「オニイサン、ドコマデイクノ?」
男「なんでちょっとカタコト!?」
友「キニシナーイ」
男「…」
男「鬼ヶ島にでも行こうかな」
男「行ってどうなるか…正直、わかんないけど」
男「…鬼娘が気になるから、ちょっと様子見てくる」
友「よっ!ストーカー!」
ボカッ
友「いだっ!」
男「誰がストーカーだっ!」
友「ごめん…」
男「ホントに鬼娘が俺の事、なんとも思ってないってならそれでいい」
男「でも、今は友達として…、心配だから直接会ってくる」
友「うん」
男「じゃ、準備するからもう帰るな」
友「気をつけてな」
男「うん。ありがとう」
―――
――
―
―翌日―
男「いってきます」
男父「運転、気をつけてな」ハラハラ
男「うん」
男父「向こうに着いたらすぐに連絡するんだぞ?」ドキドキ
男「うん」
男父「マメに休憩は取るんだぞ?」ハラハラドキドキ
男「うん」
男父「それから…」
男母「ああーっもうっ!」
男母「ちょっとは自分の息子を信用しなさいよっ!」
男父「だ、だって母さん…」
男母「だってもくそもないでしょう!」
男母「青春真っ只中の息子が彼女に会いに行くのにっ、親がやいのやいの言わないの!」
男母「息子の恋路に水を差すようなマネしちゃダメ!」
男父「は、はいぃ…」
男母「もう、心配性なんだから!」
男「ん、ちゃんと気をつけるよ」
男母「男、鬼娘ちゃんや鬼娘ちゃんのお父さんお母さんにもよろしくね」
男「あ、ああ…」
男(母さん達には俺がフラれた事言ってないから、そう言うよな…)
男母「ま、お父さんの言う通り、気をつけるのよ」
男「うん」
キュルルル…
ブォン!
男「向こうで安いホテルかなんか探して、ゆっくり休んでから帰るようにするから」
男母「うん」
男「ありがとな、泊まり許してくれて」
男父「ホント泊まりなんていいのか、母さん?」
男母「ああああっ! イチイチうるさいわねっ!」
男母「可愛い子には旅をさせよ!」
男母「青春は一度きり!」
男母「色々経験するのも大切な事なのよ!」
男父「は、はいぃ…」
男(こーゆーのが世間一般には『鬼嫁』って言うのかな…)
男「ははは。んじゃ行ってくるわ」
男父&母「気をつけて!」
―
――
―鬼ヶ島―
男(つ、疲れた…)グター
男(さすがに9時間以上のツーリングはキツかったな…)
男(それから…)
男(…俺はアホか!?)
男(鬼娘に連絡のひとつも入れないでいきなり会いに来たって…)
男(友の言う通り、まんまストーカーじゃないか!)
男(とはいえ、鬼娘の事だ)
男(いくら心配して、様子を見に行くっつっても)
男(元気ないだろ?はいそうです、是非元気付けに来てください!、とは言わんだろうし)
男(もし完全に拒絶されたら、俺もそれはそれで吹っ切れるし…)
男(とりあえず…)
ツイツイ…ツイ…ツツイ…
男(『いきなり来てすいません。元気がないって聞いたので様子を見に、ツーリングがてらに寄りました。』)ツイツイ…
男(『無理強いはしませんが、少し話だけでもすれば気が晴れるんではないでしょうか?』)ツツイーツイツイ
男(『返事、待ってます』)ツイツイ
男(送信)ツイッ
男(ホント、俺はなにしてんだ…はあ…)ハァ
ピポポリー!ピポポリー!
男(おわっ!? 電話!?)
「音声着信・鬼娘」
男(お、鬼娘っ!)ドキン…
ピポポリー!
ポチ
男「も、もしもし…?」ドキドキ…
鬼娘『…』
男「あの…、お、鬼娘?」ドキドキ…
鬼娘『…』
男(そりゃ、怒って無言にもなるか…)
男「その…、ごめん…」
鬼娘『どうして来ちゃったのよ』
鬼娘「どうして来ちゃったのよ」
男「え?」
まあそうなるわな
鬼娘『やっと…』
鬼娘「やっと…」
鬼娘『こっちの暮らしにも慣れてきたっていうのに…』
鬼娘「こっちの暮らしにも慣れてきたっていうのに…」
男「お、鬼娘っ!?」
鬼娘『うしろ』
鬼娘「うしろ」
男「!!」クルッ
鬼娘『来るなら、先にメールくらい入れなさいよね』
鬼娘「来るなら、先にメールくらい入れなさいよね」
男「お、おに…こ…」
鬼娘「急に来るなんて」
鬼娘「ズルいよ…」
男「…ごめん」
鬼娘「どういうつもり? 私達、別れたでしょ?」
男「あ、いや…」
男「ちょっと、元気がないって聞いたからツーリングで走りに出たついでに寄っただけで…」
鬼娘「ツーリング?」
鬼娘「こんなに遠くまで?」
男「長距離も慣れておきたくて」
鬼娘「そう…」
鬼娘「てか、今日学校は?」
鬼娘「あ…男んトコの高校は土曜日休みだったね」
男「鬼娘は? 部活帰り?」
鬼娘「そうよ」
鬼娘「土曜日だから授業の後、部活。それでさっき終わったとこ」
男「そか…」
鬼娘「…」
男「…」
鬼娘「あのっ…」
鬼嫁かと思ったらマジの鬼だったw
?「あーっ!! おにこっちが男の子と喋ってる!」
鬼娘「せっ、先輩っ!?」
先輩「ダレダレ?」ウキウキ
先輩「ツノ無いね、島外のヒト?」
男「あ、はい。鬼娘がここに引っ越す前からの知り合いで…」
先輩「おにこぉ~?」
先輩「呼び捨てですかぁ!」
先輩「もしかして、おにこっちの彼氏?」
男「あ、いや…」…ズキン
鬼娘「…」
鬼娘「そうです」
男(え…、鬼…娘?)
鬼娘「しばらく会えてなかったんで、わざわざ会いに来てくれたんですよ」ニコ
先輩「かぁああ~っ! ノロケですか!?」
鬼娘「そ、そんなつもりじゃないんですけど…」
先輩「うっふふふぅ~」
先輩「ま、邪魔しちゃ悪いから私はさっさと退散するわね」ニヤニヤ
先輩「彼氏くん」チョイチョイ
男「はい?」
先輩「おにこっちね、こっちに越してきてから色々と調子悪いみたいなのよ」
男(…友の話、本当だったんだ)
先輩「環境が変わったから大変なんだろね」
先輩「よかったらちょっとフォロー、してあげてね?」ポンポン
男「えっ、俺っすか!?」
先輩「何よー、彼氏なんでしょ?」
男「えっと…、うーむ…」チラ
鬼娘「…」ウツムキー
先輩「ま、親しい仲でしか聞いてあげられない話とかもあるでしょ?」
先輩「任せるわね」ポン
男「…まあ、はい」
先輩「じゃ、おにこっち、お疲れさま!」
タッタッタッ…
鬼娘「おっ、お疲れ様です!」ペコリ
男「…あー、うーむ…」
鬼娘「…」
鬼娘「あちゃー、先輩に見られるなんて…」
男「なかなかのタイミングですな」
鬼娘「学校、すぐ近くなのよ」
男「あ、それで…」
鬼娘「明日色々聞かれるんだろな…、ははは…」
男「それより鬼娘、今…」
鬼娘「…ねぇ?」
男「え?」
鬼娘「…ちょっと、海岸公園のベンチ、行こうか」
鬼嫁「そこで少し話さない?」
男「あ、…うん」
――
ザザーン…
男「ん、コレ」ヒョイ
男「お前の好きなメーカーの紅茶」
鬼娘「覚えててくれたの? ありがと…」
ザーン…ザザーン…
鬼娘「…」カシュ
鬼娘「…ん」クピクピ
鬼娘「…ふぅ」
男「なあ」
鬼娘「うん?」
男「俺達別れたんだよな?」
鬼娘「…」
男「でも、さっき先輩さんには『彼氏』って…」
鬼娘「…ん」
男「嘘をつくと、あとあと取り繕うのが大変じゃないのか?」
鬼娘「うー…ん、」
男「俺が急に来たりしたから、ごめんな」
鬼娘「…嘘じゃないもん」
男「え?」
ザザーン…
鬼娘「嘘なんかついてないもん!」
男「…鬼娘?」
鬼娘「私、ホントにバカだった…!」
鬼娘「離れるのが辛いなら、元を断てばいいって…」ジワッ…
鬼娘「ずっと男の近くで過ごしてきたから、会えないほど離れて付き合うなんて考えられなかった!」ポロポロ…
鬼娘「でもっ、でもぉっ…!」
鬼娘「実際に別れて、改めて実感したのぉっ…」ポロポロ
鬼娘「会える会えないとかうわべだけの事より、私はもっともっと心の奥で」
鬼娘「男とずっと、繋がってたんだって…えぐっ」
鬼娘「ホンドにっ、ひぐっ、何もながっだ…ううっひっく…」
鬼娘「ホントに何も無かった事に…する方がツラいんだっでぇ…」
鬼娘「ああああっ…」
鬼娘「わだじっ、ほんどにっ、バカだったよぅうぅぅ~」ボロボロボロボロ~
鬼娘「わぁぁああああぁーん」ボロボロボロボロ~
男「鬼娘が泣くの、初めて見たな」
鬼娘「おぉ、お、鬼の目にも涙だよぉおおぉぉ~」ボロボロボロボロ~
男「事実そーだけど、意味は違うから!」
鬼娘「ひっく、男…」
男「ん?」
鬼娘「んくっ、別れよ、なんて…無かった事にしてくれない?」
鬼娘「もう一度…わたしと…付き合って」
鬼娘「勝手なこと言ってるの、わかってる…」
鬼娘「でもっ…」
男「いいよ、もう」
男「友から鬼娘が調子悪いって聞いて」
男「ツーリングなんて建前で、ホントは鬼娘が気になって気になって…」
鬼娘「男…」
男「もし鬼娘が俺の事、全部吹っ切れてるなら仕方ないと思ってたけど…」
男「来てよかった」
鬼娘「…もし私が調子悪いって聞いてなかったら?」
鬼娘「…私が引っ越してから連絡もほとんどしてくれないし」
鬼娘「ぐすっ、はくじょうものっ!」プー
男「なっ…!?」
男「連絡しなかったのはお互い様だろ!?」
男「ってか、フラれた立場になってみろっつーの!」
男「ヘタに連絡したら未練があるみたいじゃないか!」
男「ま、まあ…情けない話、未練だらけだったけど」
男「だから何も聞いてなくても、きっと鬼娘に会いに来てたと思うんだ」
男「やっぱり、好きだから」
鬼娘「ひっく、うんっ、うんっ…、ごめんなさい…」
ギュッ…
鬼娘「私も自分で言い出したケジメの手前、簡単に連絡できなかったの…」
ポロポロ…
鬼娘「ほ、ほんどにぃ…ごめっ、ごべんなざいぃいぃ~」
男「泣くなよ」
男「もういいから」
ワシャ
男「いきなり遠距離になるって聞いて、動転したんだよな」
ワシャワシャ
鬼娘「えぐっ、ごめんね、ごめんねぇっ…!!」
男「お前はいつも直球過ぎるんだよ」
男「俺もちゃんと話せば良かったんだけどな」
鬼娘「えぐっ、ひくっ…」
鬼娘「でも男も…思ったより考えなしだね」
鬼娘「ここまで随分遠いのに無理して来てくれてさ?」
男「まあ、これだけの長距離は初めてだったからキツいっちゃキツかったけど」
男「鬼娘に会うためならどうってことないよ」
鬼娘「ありがとう」ギュッ!
鬼娘「ひっく」
鬼娘「ところでさ」
男「ん?」
鬼娘「さっきから思ってたんだけど、男、すごくジャリジャリしてない?」
男「どーゆーこと?」
鬼娘「服がね、ジャリジャリしてんの」
鬼娘「砂かな?」
男「あー、あれだ」
男「来るとき雨に降られたんだ」
鬼娘「どゆこと?」
男「高速道路で降られてさ、前の車が水しぶきあげるだろ」
男「そのしぶきに細かーい砂とか混ざってんだよ」
男「それをミストシャワーよろしく、走りながら浴びるわけ」
鬼娘「あ~…」
男「顔はフルフェイスのヘルメットだからマシなんだけど、身体中もう…」
鬼娘「…ばか」
鬼娘「無理して来るから…」
男「うん…、ごめん」
鬼娘「違う違う、違う違う」フルフル
鬼娘「…そうじゃない」
鬼娘「私のせいだもんね」
鬼娘「ごめんなさい…」シュン
男「ホントに気にするな」
男「結果、こうして鬼娘と元通りになったワケだし」
男「疲れたのは本当だけど、今となっちゃ途中楽しかったのも事実だから」
男「いい経験になったよ」
鬼娘「ぐす…、男はこれからどうするの?」
鬼娘「今から帰るなんて言わないよね?」
男「まーさか!」
男「さすがに一泊していくよ。今からカプセルホテルとかビジネスホテルとか、安い所探そうと思って」
鬼娘「ふーん…」
男「どこか良いとこ知らない?」
鬼娘「あ、ちょっと待ってね」サッ
ツイッツイッ
鬼娘「…」プルルルプルルル…
鬼娘「あ、ママ?」
鬼娘「もうすぐ帰るんだけどね」
鬼娘「男がわざわざ会いに来てくれたの」
鬼娘「うん、うん。うふふー」ニコニコ
男(何だか嬉しそうだな)
鬼娘「でね?」
鬼娘「男に今日、泊まってってもらっていいかな?」
男「はあっ!?」
男「ちょっと待て待て待て!」
鬼娘「(まあまあまあまあ)」
男「いや、まあまあじゃなくて…」
鬼娘「うん、そう。ふんふん」
鬼娘「じゃ、今から連れて行くから」
男「うぉおおーいっ!!」
鬼娘「はいはーい」
プッ
鬼娘「というワケだから」ニコッ
男「有無ぐらい言わせて!」
鬼娘「ごめんなさい」
鬼娘「でも私に今できる事って言ったらこれくらいしか思い浮かばなくて…」
男「鬼娘…」
鬼娘「ママも久しぶりに会えるって喜んでたよ」
鬼娘「だから、ね?」
男「うーん…」
鬼娘「ほらほらっ!」グイッグイッ
男「わっ、ちょっちょっ!」
鬼娘「はい、行きましょ~っ、行きましょお~♪」フンフーン♪
男「元気になりましたね」
鬼娘「そーお?」ニコニコ
鬼娘「気にしない気にしない♪」ニコニコ
グイッグイッ
男「わかった、わかったから!」
男「バイク取りに行かせて!」
――
―
カポーン…ピチョン
男「ふーっ」
鬼娘「男ー、バスタオル、ここに置いとくね」
男「ありがとう」
鬼娘「お風呂あがった後の着替えもパパのだけど、置いておくから」
男「…色々スイマセン」
鬼娘「気にしないで」
鬼娘「カバンの中の着替えまで濡れてたなんて、よっぽど強く雨に降られたのね」
男「本当のところ、ちょっと怖かった」
鬼娘「無理させてごめんね」
男「お前こそ気にするな」
鬼娘「うん…」
男「なあ」
鬼娘「ん?」
男「おばさんには一度別れた事、言ってないみたいだったな」
鬼娘「…うん」
鬼娘「言えないよ」
鬼娘「パパにも言ってないし…」
鬼娘「パパママだけじゃないよ」
鬼娘「誰かに言っちゃうと、全部終わっちゃうみたいで」
男「そうか」
鬼娘「あはは…、ホント、どうしようもないね、私」
鬼娘「自分がどれだけ貴方の事を好きか、解ってたハズなのに」
鬼娘「目先の寂しさだけでバカな判断しちゃって」
男「俺もあの時、もっと必死に説得すれば良かったかなって今さら思うよ」
男「ま、でも…」
男「こうして、本当にお互いが大好きだって再確認できたからヨシとしようよ、な?」
鬼娘「…うん」
鬼娘「自分勝手なことしておいてアレだけど、私の事、離さないでね」
男「うん」
男「ところで鬼娘さん?」
鬼娘「なーに?」
男「そろそろ出たいのですが…」
鬼娘「あー、ごめんごめん」
男「曇りガラスとはいえ、湯船からも出にくいのですよ…」
鬼娘「何なら、拭いてあげようか?」
男「はぁおっ!? ななな何を言うっ!?////」
鬼娘「んふふー、照れたデショ?」
男「えあっ!? あの…あうあう…////」
鬼娘「ふふっ、それもずいぶん久しぶりに感じるなぁ」
男「…むー////」ブクブクブクブク…
鬼娘「ずっと変わらないって、いいね…」シンミリ…
鬼娘「じゃ、洗濯物とかも気にしないでいいから。バスタオルも洗濯機の中に入れておいて」トタトタ…
男「ああ、うん」
>>95さん
レスありがとうございます。引き続きよろしくお願いします
―
――
鬼ママ「やっぱり一人増えるとすごく賑やかな食卓になるわねぇ」
男「すいません。急に来て、ごちそうにもなっちゃって…」
鬼ママ「いいのよぉ!」
鬼ママ「昔はたまにお互いの家で食べてたじゃない?」
鬼ママ「それに何と言っても、一人娘の彼氏よ?」
鬼ママ「その子と久しぶりに一緒の食事だもの」
鬼ママ「私は楽しかったわよ?」
鬼娘「ママご飯作ってるとき、楽しそうだったもんね」
鬼ママ「もちろん鬼娘もね~」
鬼娘「当たり前よっ!!」
鬼娘「愛しい愛しい彼氏に会えて、楽しそうにしない女がいるもんですかっ!」
男「お、おじさんおばさんの前で何を言ってんだよ!?////」
鬼娘&ママ「照れちゃってかわいい~!」ニコニコ
男「うああ~…////」
鬼パパ「しかし、バイクでここまで来るなんてなぁ」
鬼パパ「大変だったろ?」
男「これだけの長距離は初めてでしたからね、そりゃ多少は…」
鬼パパ「小さい頃、ママゴトで鬼娘の言いなりになってた男君がなぁ…」
男「そんな事もありましたね」
鬼娘「言いなりって何よっ!」
鬼娘「男は昔っから優しかったから、私に合わせてくれてただけだもん!」
鬼パパ「子供子供と思っていたが」
鬼パパ「こうも行動を起こすなんてな」
鬼パパ「驚いたよ」
男「そんな大層なもんじゃないですよ」
男「俺自身にとってもいい経験になりましたしね」
男「それに急に来たのに、おじさんおばさんがこんな風に迎えてくれるなんて、俺すっごい恵まれてるなって思ったんです」
鬼娘「男…」
鬼パパ「お前も男君を見習えよ」ポムポム
鬼娘「うるちゃい!!」プン!
鬼ママ「うふふ。さて、と」
鬼ママ「そろそろお片付けしましょうかね」
男「あ、俺も手伝います」ガタッ
鬼娘「いいのいいの! 男は疲れてるんだし、座ってて!」
男「でも…」
鬼娘「パパの話相手でもしてあげて!」
鬼娘「いつも男一人だから、今日は嬉しいみたいよ」
鬼パパ「いつもパパだけ浮いてるみたいな言い方やめろよ!」
男「そういうことなら」ストン
鬼パパ「男君も納得するなよ!」
鬼娘「ゆっくりしててね」トタトタ…
鬼パパ「まったく…」
男「あはは…」
鬼パパ「男君」
男「はい」
鬼パパ「色々と迷惑かけてすまんなぁ…」
男「え?」
鬼パパ「俺の都合で二人を引き離すことになってしまって」
男「そ、そんな…!」
男「こればっかりは仕方ないことじゃないっすか!?」
男「むしろ、おじさんにとっちゃ喜ばしいことでっ…!」
男「おじさんが俺に謝る理由なんてないですよっ!」
鬼パパ「君はつくづく優しいな」
鬼パパ「…今日鬼娘な、久しぶりに心底笑ったと思ったんだ」
男「え…」
鬼パパ「あいつは我慢する子だからな。転勤が決まった時も、よかったねって言ってくれてな」
鬼パパ「男君と離れてしまうことが平気なハズないのに、気丈に振る舞って」
鬼パパ「弱味は見せなかった」
男「そう…すか…」
鬼パパ「ただ、俺らも伊達に長年鬼娘の親をやってんじゃないんだ」
鬼パパ「無理してるのぐらいわかるわな」
男「おじさん…」
鬼パパ「君と離れるのが鬼娘にとってどれくらいの負担だったか」
鬼パパ「今日の鬼娘を見れば、一目瞭然だな」
男「鬼娘がそこまで想ってくれてるなら俺としても嬉しい限りっす」
鬼パパ「鬼娘の事、大切にしてくれてありがとうな」
男「いえ、俺も鬼娘にはいつも元気もらってましたから」
男「小さい頃から変わらずずっと…」
鬼パパ「そうだな…」
鬼パパ「昔から何かっちゃあ、君の話ばかりだったな」
男「家でもそうだったんですか!?」
鬼パパ「一人娘が他の男の話をするのは、父親としては複雑だったけどな」
男「なんか、すいません…」
鬼パパ「まあ、実際にこうして長い間付き合ってみて、君を追いかけた鬼娘はいい眼をしてると思ったよ」
男「照れますけど、ありがとうございます////」ポリポリペコリ
鬼パパ「いつか、酒を酌み交わせるといいな」
男「!」
男「は、はいっ!」
―
――
鬼娘「パパの書斎だけどごめんね」
男「いやいや。泊めてもらうのにそんなに気ぃ使ってもらっちゃ困るって」
鬼娘「一緒に寝れたらいいのにね」ニコリ
男「ほぉあっ!?」ドッキーン!!
鬼娘「どうする?」
男「おああっと、えっと、おおわわわっ!?////」
鬼娘「あはははっ! 慌てすぎのオットセイ!」
男「い、一緒に寝るってっ…何言ってんだよ!!」
鬼娘「ごめんごめん」
鬼娘「ちょっとからかっただけよーぅ」
鬼娘「さすがにそれは、ね」
男「あうぅ…、びっくりするからやめてくれ…////」
鬼娘「えへへ…、ごめん」
鬼娘「…嘘じゃ、ないよね?」
男「へ?」
鬼娘「私のために、今日ここに来てくれたこと」
鬼娘「これからも私の傍に居てくれること」
鬼娘「明日、目が覚めたら全部夢だったなんて、ないよね?」
男「…うん」
男「正直、鬼娘に会うまでは本当はどうなんだろって怖かったけど」
男「ちょっとしたすれ違いだけだったから、俺はもう大丈夫だよ」
鬼娘「男っ…!」バッ
ギュウゥゥッ!
男「お、鬼娘!?」
鬼娘「ツラい思いさせてごめんっ…」ポロ…
鬼娘「私は間違ったこと男にしちゃったのに」ポロポロ…
鬼娘「私の事、ぐすっ、許してくれて」
鬼娘「私の事、変わ、らず…ひぐっ、好きでいてくれて…!」
男「もういいって言ったのに」ポムポム
鬼娘「だってぇ~、ひっく…」
男「鬼娘が泣くぐらい思い詰めてたってことは、一番ツラかったのは鬼娘だろ?」
鬼娘「だとしても自業自得だよ…」
男「鬼娘…」
チュッ
鬼娘「はぅ…ん…」
男「もう大丈夫だから、な?」
鬼娘「いきなりなんて珍しいね」
男「あ、や、そのっ…////」
男「安心させてやりたくて…////」
鬼娘「うんっ、うんっ…。ありがとう、男」
男「お前、明日も部活なんだろ?」
男「あんまり泣いてたら、大泣きしてたのバレるぞ?」
鬼娘「そういうワケにはいくまい!」
男「なんだその口調」
鬼娘「ふふふ、ありがとね」
ギュッ
鬼娘「私、男の彼女になれて本当に良かったって思うよ」
男「照れるじゃないすか////」
鬼娘「明日から心機一転、がんばれるよ!」
男「おう、がんばれ!」
鬼娘「おやすみの、ちゅー」チュッ
鬼娘「んふふふ~、おやすみ」
男「あ…うん、おやすみ////」
―
――
男(よっぽど疲れてたんだな…俺)
男(ぐっすり眠れた)
男(しかし…)
男「…すいません、寝坊しました…」
鬼ママ「あらあら、いいのよぅ!」
男「ぐうたらし過ぎました…」
鬼ママ「それだけ疲れていたんでしょ? 気にしないで」
男「はい…」
鬼ママ「朝ごはんだけど、鬼娘がつくっておいたみたいだから、食べてあげて」
ピラッ
男へ
私は部活があるので先に家を出ます
私がいなくてもくつろいでくれてかまわないから
それと男が帰る前にもう一度お話ししたいので、待っていてほしいです
今日は簡単な調整やタイム測定の予定なので午前中には帰れます
朝ごはんは男が変に気を使わなくていいように私が作りました
おにぎりです
ぜひ食べてください
それから
寝顔、かわいいね♪
鬼娘
男「ね、寝顔見てたのか…」
鬼ママ「延々、30分ぐらい。すごくニコニコしながら、鼻歌歌いながら」
男「あうあう…////」
鬼ママ「鬼娘もちゃんと元気になったみたいね」
男「あ、おばさんもそう思いますか?」
鬼ママ「…やっぱりこっちに越してきてから、ずっと我慢してたみたいなのよね」
男「昨日、おじさんも同じようにいってました」
鬼ママ「私達はあの子の親だからね~」
鬼ママ「でも、本当にあの子を元気にしてあげられるのは男くんだけだから」
鬼ママ「ありが 男「お礼なんて言わないで下さい」
鬼ママ「男くん…」
男「ほとんどは俺が鬼娘を諦めきれなくて、未練垂れ流しのままで居たから」
男「鬼娘に会いに来たのだって、俺の勝手な私利私欲の為だったから…」
男「お礼言われるような事なんて…」
鬼ママ「そうだとしても、あの子が元気になったのは事実だから言わせて」
鬼ママ「ありがとう」
男「はい」
鬼ママ「さ、あの子の手料理、って言ってもおにぎりだけど、食べてあげて!」
男「はい! いただきます!」
男(いただきます、鬼娘!)ガッショウ
―
――
鬼娘「んわあーはっはっはっはぁっ!」
男「ごきげんですね」
鬼娘「いやん!」クネクネ
男「くねくねするなよ」
鬼娘「もうね、今までの不調が嘘みたい!」
鬼娘「タイム更新しまくりよ!」サムズアップ!
男「良かったな」
鬼娘「あなたのおかげよっ!」ギュッ
男「わっ! ちょっ、おじさんおばさんの前だしっ…!////」
鬼パパ「まあ、長遠距離だしこれぐらいはいいか…」
鬼ママ「あらパパ、ヤキモチ?」
鬼パパ「男君は気に入ってるんだが、娘とイチャイチャされるとなぁ…」
男「す、すいません…////」
鬼娘「パパには関係ないもん!」
鬼娘「しばらく会えないから抱き貯めしておくんだもん!」ギュムムム~
男「何だよ、抱き貯めって」
鬼ママ「大目に見てあげましょうよ」
鬼パパ「そうだな」
男「急に来たのに、ごちそうになって泊めてもらったりして」
男「ありがとうございました」ペコリ
鬼パパ「いや、こちらこそ鬼娘のためにわざわざすまなかったな」
鬼パパ「いつでも、と言っても、そうそう簡単に来れる距離ではないが…」
鬼パパ「次に来る時もうちに泊まるつもりで来るといい」
男「おじさん…」
鬼パパ「娘のこと、これからも頼むな」
ポン
男「はい!」
男「昨日おじさんが言ってた、いつか一緒に酒でもってやつ」
男「俺も楽しみにしてますから」
鬼ママ「あらあら。それって義理の親子としてってこと?」
男「えっ!?」
鬼パパ「そう、なるかな…?」
男「ええっ!?」
鬼娘「わあああああっ! 男おぉぉぉーっ♪」ギュムムム~!
男「おわっおわっおわっ!////」アセアセ
鬼パパ&ママ「あはははっ」
鬼パパ「じゃあ、帰り、道中気をつけてな」
鬼ママ「またいらっしゃいね」
男「あっ、はい! お世話になりました!」ペコリ
鬼娘「私は少しだけ、見送り行くよ」
男「…うん」
――
―
―
――
男「次は…夏休みには一回ぐらい来ようと思う」
鬼娘「無理はしないでね」
鬼娘「やっぱり事故とか、心配だから」
鬼娘「私はもう大丈夫だから」
鬼娘「心の中でいつもあなたと繋がってるのがわかったから」
男「いつでも、電話でもメールでも、何でもしてこい」
鬼娘「うん」
鬼娘「それと、まだちゃんと決めたワケじゃないけど…」
男「うん?」
鬼娘「私、大学は、きっとそっちの大学を受けると思う」
鬼娘「男の近くに居たいとか、不純な理由じゃなくて…」
鬼娘「あ、もちろん少しはそれもあるんだけどっ…!」
鬼娘「今回の事で、私のしたいこと、少し見えたかもしれないの」
男「将来の夢、か」
鬼娘「うん」
鬼娘「スポーツってさ、心身共に整ってないと良いパフォーマンスできないんだよね」
鬼娘「今回の事で、私は平気なつもりだったんだけど…全然ダメだった」
鬼娘「要はメンタルが弱いって事なんだよね」
鬼娘「だから、そういう精神面からスポーツ選手を助ける仕事がしたいなって思ったの」
男「だけど鬼娘なら、大学でも優秀な成績、残せるんじゃないか?」
鬼娘「…無理だよ。私はメンタルが弱いって気付いちゃったから…」
鬼娘「だからサポートする側に回るの」
鬼娘「もちろん、陸上も好きだから続けるつもりだけど、大学の後の事ね」
男「そうか」
鬼娘「丁度、そっちに良い感じの学部がある大学を見つけたの」
鬼娘「ちょっとレベルが高いけど」
鬼娘「あと一年半、勉強がんばるから!」
男「おお、待ってるから」
鬼娘「約束だよ?」
鬼娘「浮気、しないでね?」
男「信用してないのかよー」プー
鬼娘「これだけ男に迷惑かけちゃったんだもん…」
鬼娘「男を信用してないんじゃなくて、自分に自信が持てないの」
鬼娘「私は…」
男「大丈夫だから!」
鬼娘「男…」
男「もういいっつってんのに」ハァ
男「これからは、これからの事だけ話すようにしよう、な?」ギュ…
鬼娘「…うん、ありがと」
男「じゃあ、そろそろ出るわ」
男「あんまり遅くなると心配だろ?」
鬼娘「そだね」
鬼娘「気をつけてね」
男「鬼娘は部活、がんばれよ」
鬼娘「うん」
男「あ」
鬼娘「どしたの?」
男「朝の鬼娘が作ったおにぎり、めっちゃ美味かった!」
鬼娘「ただ握っただけなんだけど…」
鬼娘「あ…、でもでもっ! 愛情はたっぷり入れたから!」ニコニコ
男「ありがとう」
キュルルル…
ブォン!
男「んしょ…」ヘルメット、カポ!
男「じゃあな」
鬼娘「うん、またね!」バイバイ
ブォン、ブォンブォォォ…!
鬼娘「あっ…!」
チカッ、チカッ、チカッ、チカッ、チカッ!
鬼娘(テールランプ五回…)
鬼娘(昔の歌の有名なフレーズかな…?)
鬼娘(私も、『アイシテル』よ!)
………
……
…
…
……
園内放送『本日はご来園、誠にありがとうございました』
園内放送『間もなく、閉園時間です』
園内放送『今日という日が、皆様の思い出の1ページに花を添える事ができたなら、スタッフ一同大変嬉しく思います』
園内放送『またのご来園、心よりお待ちしております』
園内放送『本日はご来園、誠に……』
ワイワイ
家族連れ「お父さん、また連れてきてね」
家族連れ「おう、また来ような!」
ワイワイワイワイ
男「…」ニコニコ
鬼嫁「男?」
男「あ、うん? 何?」
鬼嫁「なんかすごくニコニコしてるから」
男「ああ、家族連れ見ててさ、ああいうのっていいなっていうか、憧れるっていうか…」
鬼嫁「ほぉ」
男「子供がいるって、大変な事も多いんだろうけど、それ以上に楽しいんだろなと思って」
鬼嫁「ふふふ、きっとそうね」
男「でさ、このあとなんだけど…」
鬼嫁「晩ご飯、食べに行くんでしょ?」
男「そうだよ」
男「鬼娘は、どこか行きたいとこある?」
鬼嫁「うーん…、これといってはないかな…」
男「じゃあさ…」
―――
――
―
―
――
鬼嫁「うわーっ! うわあーっ!」
鬼嫁「部屋からの夜景も綺麗ーっ!」キラキラ!
鬼嫁「私、こんな部屋に泊まるの初めて!」ウキウキ!
鬼嫁「ディナーのフルコースもすごく美味しかったし!」
男「それはよかった」
鬼嫁「でも、いつの間にこんなディナーとホテル、予約してたの?」
男「一週間ほど前に」
鬼嫁「そのぅ…、お値段は…?」
男「無粋だなぁ、んなコト聞くなよー」
鬼嫁「う…ごめん」
男「ま、小遣いをちょいちょいこの日のために貯めておいて、な」
鬼嫁「男…」ジーン…
男「せっかくの記念日だからな」
鬼嫁「ほろり…、おこづかいアップしてあげるわ」
男「おおおおっ!? マジで!?」
男「棚ぼたー!」
鬼嫁「ふふふ」
鬼嫁「改めて見ると…いい雰囲気の部屋ね」
男「プチ贅沢っていうやつだよ」
男「近郊のホテルのちょっといい部屋で一泊するってやつらしいよ」
男「旅費がない分、ホテルを贅沢にできるってワケ」
鬼嫁「とっても素敵なプレゼントよ」
ギュッ
鬼嫁「ありがとう」
男「夫婦の記念日なんだから、お礼なんていいよ」
男「二人で積み重ねてきたんだから」
鬼嫁「貴方と一緒になれて幸せよ…」ギュ
男「俺もだよ」ギュ
鬼嫁「ね?」
男「ん?」
鬼嫁「家族が増えるって、幸せ…幸福だと思う?」
男「今言ったじゃないか。お前と結婚できて幸せだって」
鬼嫁「そうじゃなくて…」
男「え?」
鬼嫁「子供…、ほしくない?」
男「ええっ!?」
鬼嫁「ねぇ?」
男「いや、そりゃほしいけどっ…」
男「ほら、お前言ってたじゃないか」
男「大学の運動部のメンタルアドバイザー、すごくやりがいがあるって!」
男「だから、まだ…」
鬼嫁「赤ちゃんができても、ハードな仕事じゃないから大丈夫よ」
鬼嫁「そりゃあ産まれたらしばらく休みはするけどさ」
鬼嫁「それにね」
鬼嫁「仕事は私個人の満足感とかそういうのだけど、子供は…」
鬼嫁「赤ちゃんは、貴方と私、二人の幸せだと思うから」
男「鬼娘…」
鬼嫁「もう一度聞くね?」
鬼嫁「家族が増えるって、幸せ…幸福だと思う?」
男「うん、もちろん」
鬼嫁「私もそう思うよ」
男「でも、鬼と人間のハーフって、ツノはどうなるんだろな?」
鬼嫁「うーん…」
鬼嫁「私の周りには居ないから詳しくはわかんないや」
男「ま、お前との子供ならツノがあってもなくても何本生えてても、男でも女でも」
男「間違いなくカワイイと思うけどな!」
鬼嫁「もうっ、男ったら…////」
チュウ
男「んっ」
鬼嫁「んんっ…」
男「んん」
鬼嫁「あふぁっ…」
鬼嫁「ね?」
男「うん?」
鬼嫁「赤ちゃんは、幸福、だよね?」
男「ああ」
鬼嫁「じゃあ、さ?」
鬼嫁「今日はいつもと同じじゃなくてさ?」
鬼嫁「最後は『福は内』でお願いネ?」
おわり
最後までお読み頂きありがとうございました
毎度ながら拙い作品ではありますが、少しでも楽しんで頂けたなら嬉しく思います
ありがとうございました
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