佐天「次元を超える能力かぁ……」 (74)



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初春「次元ですか?」

佐天「うん!ついに私にも能力が発現したんだよ!」

初春「でも、『次元を超える』ってどういう意味なんですかね?」

佐天「うーん…私にもさっぱり」

初春「それじゃまるで佐天さんがなんでもわかるみたいですね!」

佐天「あはは![ピーーー]」

佐天「初春の花むしってたらすっかり下校時刻じゃん」

佐天「早く帰らないと…」タッタッタ

スキルアウト「へっへっへ嬢ちゃん、ちょっと付き合ってくれねぇかなぁ?」

佐天「うわでた」

スキルアウト「いいじゃあねぇかぁ~~ちょっとだけだぜぇーー!」

スキルアウト「お前ら!やっちまぇえええええええぃえい!」

スキルアウトA「イー!」

スキルアウトB「イー!」

スキルアウトC「イー!」

佐天「うわぁーー!今日はじめて能力を授かったあたしだけど、ついこのまえまで無能力だったから自分の身をまもる術を持たないーーーっ!」

スキルアウト「なら好都合だぜ!身ぐるみはがして大通りに放っといてやらぁ!」

スキルアウト「もちろん全裸でなぁーーーーッ!」

佐天「きゃーー」

スキルアウトA「へっへっへ服は畳んどいてやるぜ」

スキルアウトGT「もちろん折り目にそってよぉーーーっ!畳むぜぇーーーーっ!」

佐天「あっあそこに星条旗が!あれに隠れよう!」

スキルアウト「おっとぉー俺たちが襲おうとしたやつぁちょっとおつむが足りねぇようだな…」

スキルアウト「そんなペラっペラな布で何を隠そうと思ったぁーーっ!」

スキルアウト達「バカかこいつぁーー!」

スキルアウト「んなもんで逃れられるなら俺たちはこんなことしてねぇーっつーのぉーー!」ガバッ

スキルアウト「…?いねぇ…いねぇぞ!」

スキルアウト「消えたッ!どこに隠れやがった!」

スキルアウト「チッ…空間移動(テレポーター)かよ、うぶな事を…」

スキルアウト「…じゃなくて…やぼな事…は違う…うぐぐ…鯔な事でもなくて…鯖な事」

佐天「それって味な事?」

スキルアウト「」

スキルアウト「いたぞぉっ!こいつッ!どこから出てきやがった!味な事しやがって!」

スキルアウト「そんくらい知ってんだよぉおおおおお!!喰らいやがれッ!『発火能力<パイロキネシス>』ッ!」

佐天「…」スゥ

スキルアウト(…なんだ?あいつ両手を広げて棒立ちだ!くそ、なめやがって!)

スキルアウト「『豪華な業火』に身を焼き払われやがれぇええええーーーッ!」ゴオォ

佐天「…」パンッ

佐天「どじゃァ~~ん」

スキルアウト「なにっ!?炎がッ!」

スキルアウト「炎があいつの手によってッ!まるで水をかけられたように消滅したッ!?」

佐天「今ので二つわかったことがある」

佐天「まずお前の国語の成績」

佐天「…1だ」

スキルアウト「!?なんでわかったんだぁーーーーッ!?…しかしぃ!わかったところでなんだっつーんだ!」

スキルアウト「お前の能力は見切ったッ!同じ手はくらわねぇぜ…くらうはずがねぇ!」

スキルアウト「圧倒的…圧倒的な火力によって消炭と化すんだからなぁーーーーーッ!」

スキルアウト「『発火能力』<第二の炎>ーーッ!」

スキルアウト「この能力を食らって生き残ったやつはいねぇ…もしいるとするならば──」

スキルアウト「焼き尽くすまでだッ!!」ゴオオオオオ

佐天「きゃあーー」

スキルアウト「ぎゃはははははははははははははははーーーーーーーッ!」

スキルアウト「…ふぅう」

スキルアウト「へっ…へへっ…本来の目的とはまったく違う方向にずれちまったが…」

スキルアウト「…ストレス発散にはなったな…帰るか…」

─ゴソッ

スキルアウト「っ!?まだいんのかっ!?」

スキルアウト「…いねぇよな…あーあ仲間みんな炭になっちまったぁ」

スキルアウト「この状態に名前付けるとすればぁ──そぉだな」

『いともたやすく行われるえげつない行為』

スキルアウト「…多分なぁーーいままで厄日っていうのは散々あったと思うが…」

スキルアウト「ここまでついてない日っつぅーーのもなかったぜ」

スキルアウト「悪行を働いた代償ってやつかな」




スキルアウト'「…ったく痛ぇな!出てこいクソ女ッ!焼き払ってやらぁ!」

スキルアウト'「まったくなめられたもんだぜ」

スキルアウト'「!…おいお前」

スキルアウト「…」

スキルアウト'「その靴…そのジーンズ…その服…そのニット帽…」

スキルアウト「くるな」

スキルアウト'「……その顔!もしかして」

スキルアウト「くるんじゃあない」

スキルアウト'「まったくの…俺」

スキルアウト「俺の…俺のそばに近寄るなぁーーーーーッ!」

ドンッ!──スキルアウト'「!?」

それはまったくの偶然ッ!必然に起こらず、しかしッ!必然だった!
運命ッ!それしか表す手段を持たない現象ッ!

スキルアウト「!?ぐぁああぁあぁあぁぁぁあぁぁーーーーーっ!」

スキルアウト'「体がッ!体が崩れていくっ!」
ドッバアァァアアァァアアアーーーーーーーーーーッ!

佐天「次元を超えて『お前』を連れてきたッ!」

佐天「『ドッペルゲンガーに会うと死んでしまう』──とはよく言った噂だけど?」

佐天「まさか通じるとはねぇーーっ!」

スキルアウト「く…そ…なんて能力…だ…」

佐天「フン、二つ目は考えてなかったけど特別に教えてあげようかな」

佐天「『Dirty Deeds Done Dirt Cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)』……能力名だよ覚えときな!」

佐天「って言っても消えかけの頭じゃ聞こえないかもねぇーーーッ!」ゲシッ

佐天「完全に消えるまで蹴ったぐってあげる!」ゲシッゲシッゲシッ

佐天「あははははははーーーーーッ!」



初春「」ガクガクガクガク

翌日

初春「昨日の佐天さん怖かったです…まるで性格が変わったみたいに…」

初春「次元がどーとか言ってたけど…まさか暴走…!」

初春「佐天さんに限ってありそうだから怖い…」

固法「ぼーっとしてたら生き残った花もむしるわよーーーっ」

初春「あわわわわわ」

佐天「よーーーっすうーいーはーるー」

初春「!さ、さてんさん…」

佐天「ねぇねぇ聞いて!次元を超えるって意味わかったんだよ!」

初春「そ、そうなんですか(見てたけど…)」

佐天「たとえばこの花!」

佐天「両手で挟むと…」パンッ!

佐天「ほら消えた!」

初春「あーーーーーっ!かろうじて生き残った花もーーーーーっ!」ガーン

初春「もうお嫁にいけないです……」

佐天「髪飾りがない初春も可愛いんじゃない?」

初春「えっ…///」

佐天「それでね!あたし自身も次元を越えられないのかなーって思ってたんだけど」

初春「まさか…」

佐天「そう!できたちゃったんだ!」

初春「」

佐天「初春ちょっとこっちきてー!」

佐天「こーやって初春とソファーであたしを挟むと…」

初春「あわわわわ…///」

初春「ってあれ?消えちゃいました!」

佐天「どじゃァ~~んここにいまーーす」

初春「えっ!すごいですよ佐天さん!レベル4くらいじゃないですか?」

佐天「あははは…ちなみに別次元にもあたしはいるんだけど、この能力持ってるのはあたしだけみたい」

初春「へぇー…じゃあこの私達がいる次元が基本みたいなものなんでしょうか」

佐天「どーなんだろーねぇー」

ガチャ

佐天「あ、白井さん!」

黒子「はぁー今日はいつもよりドッと疲れますのぉー…」

初春「どうしたんですか?」

黒子「例の『大量焼却事件<メニーピーポー>』ですわ」

佐天(当て字のセンス…)

初春「…あぁ、犯人が見つからないとかで」

黒子「レベル4並の発火能力じゃないとあの量の人を焼き払うことなど不可能…しかし、レベル4の発火能力者のアリバイはどれも成立」

佐天「書庫に載ってない能力者の犯行とか?」

黒子「それはありえないですの…ありえないですけども…」

初春「先の『虚空爆破事件』ですねぇ」

黒子「そうですの…前例があるので」

佐天「レベル4以下の能力者も全員調べる…と」

黒子「まだ半分しか終わってませんのーーーーーーー!!!あーー!!!!!!!」ブチッブチッ

初春「痛っ!痛いですって!それ髪の毛ですから!」

飽きた

佐天(罪悪感ぱない)

黒子「昨日も休日出勤ですの…おかげでお姉様とお買い物がパァー」

黒子「犯人見つけたら鉄杭を体内に埋め込むだけじゃ済みませんの!!」

佐天「もしかして消えてるかも…」

黒子「その時は消した輩を上空に飛ばすまでですの!」

佐天「」

プルルルルルルル

初春「はい一七七支部」

初春「…はい…はい…わかりました、それでは」ガチャ

黒子「なんですの?」

初春「『虚空爆破事件』についてです」

黒子「…それで?」イラッ

初春「犯人が昏睡したようです」

黒子「なんですって!」

初春「はい、事情聴取を受けている間に突然気を失って…ということです」

黒子「突然…?前触れもなくですの?」

初春「キャパシティダウン流してたらしいですけど、それのせいでもないらしいです」

初春「検査をすると脳波がある一定に保たれていて、原因は不明、と」

黒子「はぁー次から次へと厄介ごとが…よくもまぁ飽きませんのねぇー」

佐天「大変ですね…」

黒子「でも、それを解決するのが風紀委員ですの、じゃ残りの能力者片付けてきますの」

初春「はーいお気をつけてー」

バタン

初春「やっぱ、幻想御手ってのが関係してるんでしょーかねー」

佐天「レベルアッパー?」

初春「聞くだけでレベルが上がるとかいう代物らしいです、噂だけで実際のところ眉唾ですけど」

佐天「へぇーそんなものがあるんだねぇー」

佐天「もしもあたしが無能力者のままだったら使ってたかもね」

初春「え!だめですよ!絶対!」

佐天「じょーだんだってぇー」

終わり

じゃない!間違えた

佐天「終いにゃ昏倒するよーな物騒なもん使わないって」

初春「よかった…でもなんで幻想御手が最後昏倒するってわかったんですか?」

佐天「えっ、そーなの?勘で言ったんだけど」

初春「いえ、違いますけど…調べる価値はありますね…佐天さん!ありがとうございます!」

佐天「えっ?いや、あはははーー」




数日後

佐天「能力持ったはいいけどそんな使わないよね」

佐天「使い道があるとすれば自分にいたずらすることしか…あ、電話だ」ピッ

初春『わかりましたよ佐天さん!』

佐天「うわ声でかっ!」

初春『あ、すみません、それよりわかったんですよ!詳しくは支部でお話しします!』

佐天「あ、待って!初春!…切れちゃった」

佐天「しょーがないなーいくかー」


支部

初春「先日、佐天さんが『幻想御手を使うと昏倒する』という話をしましたよね?」

初春「あれからまた書庫に載ってない能力者の事件が起きたんです」

初春「幸いすぐに解決したんで良かったですけど、その犯人が『幻想御手を使った』という類の証言をしてたらしいんです!」

佐天「本当に!?」

初春「本当です!」

プルルルルルルルルル

初春「はい、一七七支部…!…はい!わかりました!…それでは」ガチャ

初春「……犯人が昏睡状態に入ったらしいです」

佐天「え?それじゃ、私の予想はあってた的な」

初春「そーですよ!佐天さん!すごいです!」

初春「幸い幻想御手のサンプルが手に入ったので私はワクチン作成に取り掛かりますね!」

初春「それでは!」

佐天「おー(なんで呼び出したんだろ…)」

佐天「…」

初春「…」カタカタ

佐天「…」

初春「…」カタカタ

佐天「…」ファー

初春「…」カタカタ

佐天「…」ドジャァーン

初春「…」カタカタ

初春「…」カタカタ

初春「…あれ?佐天さん?」

佐天「ばぁー」

初春「うわっ!もう!驚かさないでくださいよ!」

佐天「上半身しかだしてないのにそんなに驚いてない初春に驚いたよ…」

初春「そりゃいつも見てますからね」

佐天「いつも見てる?」

初春「あっ…」

プルルルルルルルルルルルルルル

初春「あっ電話だ!(よかったぁ~…)」

初春「はい第一七七支部…はい、はい、わかりました。支給伺います」

初春「はい、それでは」ガチャ

佐天「どーしたの?」

初春「例の昏倒の件で、ある専門家に問い合わせたところ、話を聞いてもらえるそうです」

佐天「へぇー」

初春「実際にお会いするのは白井さんですがねー。あーかわいそ」

佐天「大変だねー」

初春「もう大変なんてものじゃないですよぉー」

──その頃。

御坂「ちょ、私寮に帰って寝たいんだけど…」

────

「幻想御手(レベルアッパー)?」

妙齢の女専門家は疑問を呈した。
ここは病院で、御坂と黒子がいた。幻想御手について話を聞くためである。

「それはどういったシステムなんだ?」

「それはまだ…。ですが、音楽ファイルとして出回っていることがわかりましたの」

「音楽ファイル?」

「はい、それを聴いてしまうと、一時的に能力の向上が見受けられますが、昏睡状態に陥ってしまう、と」

「それは関係者からも聞いたよ、学生によると昏睡状態に陥る前に音楽ファイルを聴いたらしいな」

「そうですの…、ですが聴くことと、能力の向上することに関係──って!」

黒子はギョッとした。
専門家がいきなり下着一枚の姿になった。

専門家は、何が起こったかのかという顔だった。
まるで当然かのように、ネクタイをほどき、白衣とブラウスを脱いだ。

「なにいきなりストリップ始めてますの!!」

「なにって、暑いじゃあないか」

「暑いからって往来で脱ぐ方などいませんの!!」

「そうなのか?」

「常識ですの!」

「下着をつけていてもダメなのか…」

黒子は飽きれ顔で専門家の白衣の前を閉じた。




「つづきは何処か涼しいところで聞こう、ここは暑すぎる…」

「はぁ…」


「あたしアイスミルクティーで」

喫茶店である。
ウェイトレスが注文を取り、奥に消えてゆくのを見届けてから専門家は口を開いた。

「で、話の続きだが、」

専門家はこう前置きをし、

「秘部は隠しているのになぜ下着はダメなのか、という話だったかな」

「「全っ然ちがいます」」

ハモった。

「つまり、「幻想御手」なるものがあり、君たちは学生が昏睡したことと関係がある、とそう考えているわけか」

「はい」

いつのまに届いたアイスコーヒーにミルクを注ぎ、混ぜると氷がカラカラ鳴った。

「上の方では、学生に注意を呼びかけるという案も出たのですが、余計な混乱をまねくということで先送りになりました」

「妥当だな」

ストローをおいて言った。

「で、そんな話をなぜ私に?」

「能力を向上させるということは、脳に干渉する可能性が高いと思われます、ですので──」

「私に協力を、という訳か。かまわんよ」

「ご協力感謝します」

「それで、ずっと気になっていたんだが、」

「はい」

「あの子たちは知り合いかね」

専門家の視線を追いかけると、喫茶店のガラスにこびりついた友人がいた。




「脳の専門家さんなんですかぁー」

「よろしく」

友人は二人いた。こびりついてない方は風紀委員だった。
風紀委員の方は頭に花を積んでいた。頭の中もお花畑なのだろう。
こびりついた方は外見は普通だがきっと頭がおかしい。類は友を呼ぶ、と言ったとこか。

「なぜそのような方をお茶を?あっ、まさか白井さん…ちょ、ごめんなさいむしらないで」

「幻想御手についてお話を聞いていただいてましたの」

こびりついた方は反応した。

この友人は名前を佐天と言った。
佐天は自室で幻想御手を探しているところ、偶然にもそれを見つけてしまったのだった。
そして音楽プレーヤーにダウンロードした。

「幻想御手ですか?」

「ええ」

「それなら私!…」

音楽プレーヤーを取り出そうとしたところ、友人の友人の風紀委員は
とんでもないことを言い出した。

「幻想御手の所有者を捜索して保護することになりますの」

「使用者に副作用がでることと、急激に力をつけた学生が犯罪に走ったと思われる事件が数件確認されるからですの」

血の気が引いた。

「はー…。どうしました?佐天さん」

「え?いや、なんでもない!」

佐天は、テーブルの上まで持ってきた音楽プレーヤーを勢いよくポケットに戻した。
その拍子に、アイスコーヒーのグラスに手が当たり、専門家の太ももに盛大にこぼれてしまった。

「ああ!?」

ここで佐天は自らの能力を思い出した。
何かを挟むことで、物体を別次元に飛ばす能力。ならば、

「どジャアァァ~ン!」

「「!?」」

自らが太ももに覆いかぶさることで、コーヒーを別次元におくったのだった。
別次元ではいきなり太ももにコーヒーがぶっかかるのだろう。

「佐天さん…そういう趣味が…」

「だ、大丈夫よ!こんなんでも生きてるやつだっているし!」

「ん"ま"っ!こんなんとは心外ですの!」

「往来でこんなことするなんて君は大胆だな」

「違います!違いますから!」

とりあえず説明してその場をしのいだが、あらぬ誤解はぬぐいきれず佐天はとてもいずらくなった。

「へぇー佐天さん水流操作だったのね!おめでとう!」

「いや、そうなんですよあははー」

───────

「本日はお忙しい中ありがとうございました」

風紀委員二人は深く礼をした。

「いや、こちらこそいろいろとすまなかったな。教鞭をふるっていた頃を思い出したよ」

「先生だったんですか?」

「昔ね」

御坂は、専門家が意味ありげな顔をしたので、それ以上何も聞かなかった。

「じゃ、私はこれで」

そう言って踵を返し、もうすっかりおちて橙となった陽とは逆の方に向かって歩き出したのだった。

「そういえば、佐天さんなんで嘘ついたんですか?水流操作とか」

「あーだって、嘘ついとかないとあとがこわそうじゃん。だって次元だよ?」

「たしかに他に例がない能力ですからね。研究者が目の色変えてよってきますよ」

「あーこわ」

佐天は凍える仕草でわざとらしく震えた。
そして、佐天はここにくる前のことを思い出して、早急に立ち去るべきだと考えた。

「あ、それt「あ、ゴメン私用事あったんだ!それじゃね!」

「?」

「どうしましたの?」

「さぁ?」

───

佐天涙子は、どこぞの高架下を歩いていた。
いくら夏の日照りといえども、厚いコンクリートにかなわない。まるで世界が分断されたかのように日陰ができていた。
音楽プレーヤーを見つめ、思いを巡らす。

「(いきなり現れた能力、多分この能力がなかったら私は幻想御手を聴いていたんだろう…)」
「(楽して手に入れた能力が褒められたものじゃないってことはわかる)」

歩みは影を抜け出し、脚は日にその姿を晒す。

「(なんなんだろう、この能力)」

数ヶ月前にいきなり発現した能力。
その理由もわからず、日々困惑していた。

しかし、頭の中をめぐる思考は、ある叫びによって乱される。

ビルが建っていた。
打ちこわし予定のビルなのだが、そこに書かれている予定日は大幅に過ぎていた。
今はスキルアウトの溜まり場となり、そこら中に煙草の吸殻だとか、ゴム製のなにかだとかが捨てられていた。
その根元で人が何やら言い争いをしているようだった。

「話が違うじゃないか!十万円を支払えば『幻想御手』を譲渡する約束だ!」

「いまさっき価格変動しましてねぇー。ま、これが欲しけりゃもう十万だな」

「そんな!」

人は4人。そのうち3人は仲間らしい。
1人は小太りでいかにもカツアゲされそうな少年である。

「ふざけるな!ならば、その金を返してくれっ!」

小太りは、ガタイの良さそうな1人から金を奪い返そうとするが、
どちらが喧嘩が強いのか、一目瞭然である。小太りはガタイの膝蹴りをミゾにうけ悶絶した。

「うげぇぇぇぇぇええ!」

「うっせぇなバァァーカ」

ガタイとそれより小さいがガタイは良い小ガタイのリンチが始まった。

「金ねぇんなら帰れカス!」

小太りの痛いだとか悲鳴だとかを塗りつぶすように浴びせる殴打は、もともと悪い顔をいっそう悪くさせた。
クリーチャーと言われれば信じるレベルである。

「うわぁー」

佐天涙子はドン引きした。
ちょうど近くを通りかかったので一部始終をみていたが、見なきゃ良かったと後悔していた。

「オウ、そいつ立たせろ」

3人いるうち1人は、リンチ中の2人を見物していた。
外見はドクを凶悪にした感じである。タバコも吸う。ドクは吸った煙を吐いてこう言った。

「お前らのレベルがどんくらいあがったか試してみろ」

「マジかよ」

さすがに戦慄した。
が、それ以上に、幻想御手でレベルが上がった能力を試すことに興奮さえ覚えた。

「か、勘弁してくれ…」

「しねぇーよバァァーカ」

ムカつくのでもう一発殴った。

「そ、そこまでにしなさい!」

佐天涙子はこの状況をみて逃げ出すほど、人間ができていなかった。
自分の身を守る、という人として第一ができていなかったのだ。

「(能力あるから、能力あるから!)」
「その人怪我してるし、すぐに風紀委員がくるんだから!」

怖さで目の前を直視できなかった。

「ふぅーん」

気づいた時には、すぐそこまで男が迫ってきていた。
そして、佐天の後ろの壁をおもいっきり、そのガタイに見合った力で蹴った。
ビルがきしみ、それから佐天はここに来たことに心底後悔した。

「うっぐぅ…。この野郎、なにが起こりやがった!」

「あら、結構強く蹴ったつもりなのですけど、結構頑丈ですのね」

声のした先、殺意を込めてその方向を振り返ると、
先ほど脅した少女と、風紀委員の腕章をつけた同じくらいの少女が立っていた。

「ジャッジメントですの。暴行恐喝の現行犯で逮捕します」

相手の力量を、外見だけで判断した愚かな2人は早急に退場となった。

「カカカカカッ、空間移動か。初めてみたぜ」

「次はあなたの番ですが…。脇腹はもうよろしいので?」

「あんなん負傷にも入らねぇよ」

単純にバカなのか、それとも能力に自信があるのか、男は風紀委員に襲いかかった。

「はぁ、そんなに怪我したいなら」

風紀委員は空間移動で華麗にかわし、男の背後に立った。

「させてあげますけ──どっ!?」

かのように見えたが、転移先に男の背後はなかった。
代わりに、勢いがついた回し蹴りが襲ってきた。

「白井さん!後ろ!」

とっさに学生カバンでガードしたが、勢いを殺せず、大きく後ずさった。
カバンはへこみ、ローファーは摩擦し地面に痕を残す。

「(後方から?)」

相手から攻撃を受けている今、驚愕や焦りなどは命取りとなる。
深くは考えず、再起不能にすることが重要だ。

まずは、戦意を削ぐため、金属矢を肩に打ち込むが、

「(外したっ!?)」

矢は肩より大きくずれ、デタラメなところに転移した。
男はすぐそこまで迫っていた。ナイフが触れるその一瞬で空間転移する。

「どうした?」

少し血がついたナイフを弄びながら、心底楽しそうに風紀委員を見る。

「俺に怪我させてくれるんじゃあなかったのか?」

「(まずい、照準が狂わされている。恐らくは能力によるものっ!)」

「でかい口叩いてぇーわりにはボロボロじゃねぇか?大丈夫かよー!」

男はジリジリ寄ってきた。それに伴い、焦りも増す。
ここらで覚悟を決めなければ、相手の能力は解せないと。

「(来たっ!)」

ナイフが振るわれた。日光によって、その銀色をキラキラと反射させる。
それが綺麗だと思う隙も、また油断もできず、男の脚は自らを捉えるため振るわれる。

「(カバンで防御すればなんとか!)」

とっさにカバンを、攻撃を受けるであろう部位にあてがう。
が、男の足は防御もなにもしていない脇腹へと舵を取る。

「がっ!」

風紀委員はそのまま衝撃を抱いて、廃ビルのショーウィンドウへ突っ込んだ。

「(来たっ!)」

ナイフが振るわれた。日光によって、その銀色をキラキラと反射させる。
それが綺麗だと思う隙も、また油断もできず、男の脚は自らを捉えるため振るわれる。

「(カバンで防御すればなんとか!)」

とっさにカバンを、攻撃を受けるであろう部位にあてがう。
が、男の足は防御もなにもしていない脇腹へと舵を取る。

「がっ!」

風紀委員はそのまま衝撃を抱いて、廃ビルのショーウィンドウへ突っ込んだ。

ガラスが肩を裂き、ブラウスの袖が血で滲む。

「(たしか支部に替えがあったはずですの……)」

この状況でも、風紀委員は自らの親しい人に心配をかけてしまうことに懸念を抱いていた。
残った金属矢に手をかけ、男にむかって投げるが、むなしく横を通り過ぎるだけ。

「なにやってんだ?能力も使えないほどに消耗したのか?」
「こっちはまだ遊び足りねーんだからよぉー!」

男はまさに、割れたショーウィンドウから殺意をもって襲いかかってくる。
かわって風紀委員は踵を返して、ビル深くへと隠れた。

「なんだ?次は鬼ゴッコかよ」
「だがなぁーゲームにはルールが必要だ。てめぇーが逃げていいのはビル内だけだぜぇー」

「逃げたら人質は[ピーーー]。出てきても[ピーーー]」

どっちにしても鬼有利な鬼畜ゴッコが始まった。

「なんだ?次は鬼ゴッコかよ」
「だがなぁーゲームにはルールが必要だ。てめぇーが逃げていいのはビル内だけだぜぇー」

「逃げたら人質は殺す。出てきても殺す」

どっちにしても鬼有利な鬼畜ゴッコが始まった。

男は佐天の髪を掴み上げ、

掴み上げ、


ようとするが、その手は虚空をつかんだ。

「あ?」

脇腹を衝撃が襲った。

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