ある日の午後
虹ヶ咲学園 スクールアイドル同好会 部室
ランジュ「大家好!」ガラッ
栞子「こんにちわ、ランジュ」
ランジュ「アラ、栞子だけなの?」
栞子「彼方さんがソファで横になってます」
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彼方「う~ん」ムニャムニャ
栞子「お疲れのようですね、彼方さん」
彼方「うん。彼方ちゃん昨日バイトで頑張ったんだよ~」
栞子「彼方さんはスーパーでアルバイトされてるのですよね。
長時間働かれたのですか?」
彼方「昨日同じシフトの子が来れなくなって、少ない人数で回したんだよ~。
品出ししながらレジもやって彼方ちゃん大変だったよ~」
栞子「それは…急ですね…」
ランジュ「相変わらずみたいね、あなた」
彼方「え?」
ランジュ「そうやって賃労働やってる暇ある?って言ってるの。
時給、どうなのよ?」
彼方「あっ……遥ちゃんから聞いたの?
前より少しは上がってるんだけど、まあ最低賃金ギリギリはギリギリかなあ」
ランジュ「やっぱりそうなのね……
中途半端なのって見ててイライラするの」
ランジュ「いい加減、賃労働なんか止めてもっと自分の人生に向き合ったら?」
栞子「ランジュ」
ランジュ「そうやって甘やかすから良く無いのよ」
栞子「えっ……」
ランジュ「バイトで家計を楽にする。そう言っていたのに、今のあなたは自分の労働を安売りして資本家に富を与えているだけよ」
ランジュ「あなたはそれで満たされたとしても、何も生み出して無いわ」
彼方「どういうこと? 彼方ちゃん、ちゃんと働いてるよ~?」
ランジュ「賃労働者の合理的な行動は資本家の資本増殖を加速する。
そして長期的にはより効率的に資本家に搾取されるという不合理な結果を招く」
栞子「……」
彼方「?? 難しくて彼方ちゃんわからないよ~」
ランジュ「バイトが1人足りないという状況において、あなたは品出ししながらレジも打つと言う行動を選択した。なぜかしら?」
彼方「だってお客さんは待ってるし、品出ししないとお客さんが買えないし……」
ランジュ「そうね、一見合理的な行動だわ。
でもその行動の結果、得をしたのは誰かしら?」
彼方「お客さんかなあ? レジで待つ時間が減ったし、棚に商品も並んでるし」
ランジュ「それで彼方は得したのかしら?」
彼方「うん。お客さんが喜んでくれたらまた来てくれるし」
ランジュ「客が喜ぶと本当にあなたが得するの? スーパーはあなたの物なの?」
彼方「え? 違うよ~。彼方ちゃんはただのバイトだし」
ランジュ「じゃあスーパーは誰のものかしら?」
彼方「う~ん。社員さんかなあ?」
ランジュ「違うわ。スーパーは株主の物、つまり資本家の物よ。
ちなみにあそこのスーパー、三船家も出資してるわよね」
栞子「はい……」
彼方「え? そうだったんだ」
ランジュ「彼方達が頑張った結果、バイトが1人少なくても店を回すことができ、資本家はバイト1人分の賃金を得した」
彼方「まあみんなハッピーになれて良かったんじゃないかなあ?」
ランジュ「ところがこれだけで終わらないわ。
資本家はバイトが1人少なくても店が回る事実を知った。
そうしたら資本家はどうするかしら? 栞子?」
栞子「ランジュ! 私に聞かないでください……」
ランジュ「どうするのかしら?」
栞子「……資本家の目的は資本を増殖すること。その目的に照らし合わせれば、バイトを1名減らします……」
彼方「え~! バイトの人数が減ったら毎回忙しくなっちゃうよ~!
栞子ちゃんひどい!」
栞子「べ、別に私が減らすわけではありませんので誤解しないでください!
ですが一般論としては……」
ランジュ「そう、資本家としては当然の行為。
彼方は合理的な行動をしたのだけど、長期的に見れば自分の首を締めたことになるのよ」
彼方「が~ん」
ランジュ「それだけじゃ無いわ。クビになったバイトは産業予備軍になる」
彼方「産業予備軍?」
栞子「相対的過剰人口、簡単に言うと働きたいけど働いていない人です。
仕事が効率化され職が減ることで発生します」
ランジュ「産業予備軍が仕事を得るには現役労働者のイスを奪わなければならない。
しかしその為には自分の賃金を下げるしか手段が無い」
彼方「?? また難しくなってきた」
ランジュ「彼方の時給が上がらないのはなぜだと思う?」
彼方「え? スーパーで決まってるから」
ランジュ「なぜスーパーはその時給にしているのかしら?」
彼方「そう言われるとなんでだろう?」
ランジュ「その時給でも労働者が集まるからよ。
たとえ彼方が時給に不満を持ってバイトを辞めても産業予備軍が多ければ安い時給でいくらでも人は集められる。
資本家から見れば時給を上げる理由が無い」
彼方「はっ?!」
ランジュ「わかったかしら?」
彼方「彼方ちゃんは良かれと思って休んだバイトさんの穴埋めをした。
でもその行為の結果、バイト人数が減り彼方ちゃんの仕事は増えた。
それだけでなく仕事を求める人が増えたから時給は上がらなくなる……」
ランジュ「その通りよ。
あなたの責任感と善意から来る頑張りは相対的剰余生産と相対的余剰人口を増やして資本家の資本増殖に協力しているだけなの」
彼方「彼方ちゃんは搾取されていた……」
ランジュ「これが資本主義よ。バイトに限らず正社員でも管理職でも同じ。サービス残業なんてその最もたるものね。
彼方が自分の労働力以外に売るものが無い労働者、つまりプロレタリアートならば一生資本家の奴隷よ」
彼方「彼方ちゃんはどうすれば……?」
ランジュ「革命しなさい」
彼方「か、革命~?」
ランジュ「資本家と労働者の差は広がり、階級闘争が発生する。
その結果プロレタリアートが資産階級ブルジョワジーを打倒する革命が起こる」
彼方「打倒…!」
栞子「ちょっとランジュ!
同好会内でオルグするなんて常識的にありえません!」
ランジュ「早速ブルジョワジーが革命を邪魔しに来たわね! 打倒するわよ!」
彼方「うお~!」
栞子「ちょっ、何をするんですか!?
ぐえーーー!!」
ランジュ「ふぅ、ブルジョワジーを1人打倒したわ」
彼方「ありがとう…ランジュちゃんは優しいんだね」
ランジュ「え?」
彼方「ランジュちゃんに言ってもらえたから、今はまだ全然だけど、彼方ちゃん労働支配からの脱出に結構前向きに頑張れそう」
彼方「だから、もし気にしてくれているならばもう少しだけ見ててくれないかな~」
ランジュ「だ、誰が気にしてるなんて言ったのよ!///
もういいわ、バイバイ!」
終劇
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