悪魔「それでは契約内容の確認です」男「ちょっと待って」モグモグ (20)

男「これ食べてからね」ムシャムシャ

悪魔「はぁ」

男「あなたもなにか食べます?ほらメニュー」

悪魔「いえ、わたしは」

男「そうでふか」ムシャムシャ

男「けぷっ……ふぅ、お腹いっぱい。コーヒーおいしい」ズズズッ

悪魔「そろそろいいですか?」

男「はいはいどうぞ」

悪魔「こほん、では、本日はご利用いただき……」

男「要件だけ手短にお願いします」

悪魔「……はい」

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悪魔「……改めまして、わたしと契約いただければ、願いを3つまで叶えてさしあげることができます」

悪魔「しかしその代償として、死後の魂を頂戴します」

男「願いってなんでもいいんですか?」

悪魔「叶えられない願いもございます」

男「例えば?」

悪魔「代表的なのは願いを増やすこと。ほかには不死とか。死んでもらわなくては死後の魂を頂けませんので」

男「なるほどなぁ」

男「んじゃお金。お金をください」

悪魔「お金ですか。人気な願いですね。具体的な金額等指定はございますか?」

男「えぇっと、ちょっとまって……あー、3349円、ってそんなに食べたのか……」

悪魔「え、あの……」

男「ん?3349円、日本円です。ダメですか?」

悪魔「……それくらいでしたら」

男「おー、ぴったり。悪魔って本物なんですね」

悪魔「わたしは偽物など見たことがありません」

男「それにちゃんとお札と硬貨混合。ぜんぶ一円玉で出てきたらどうしようかと思いましたよ」

悪魔「ははは」

悪魔「しかし、本当にこんなことでよかったのですか?」

男「え?なんかダメでした?」

悪魔「いえ、とにかく1つ目の願いは承りました。2つ目の願いはいかがいたしましょうか」

男「じゃあ次は……これ飲んでくれます?お腹いっぱいで飲みきれないんですよ。飲みさしだけど、まぁお気になさらず」

悪魔「いただきます」ズズズッ

悪魔「それでは最後の願いですが」

男「そうですね……んじゃ、僕を殺してください」

悪魔「……それはできません」

男「なんでです?なんでも叶えるんでしょう?」

悪魔「そういうルールなんです」

男「契約者を直接殺すことはできない。と、そういうことですね?」

悪魔「さようでございます」

悪魔「なにか他にやりたいことはありませんか?なんでもいいんですよ。例えばタバコとか」

男「喘息なんです」

悪魔「お酒は」

男「下戸でして」

悪魔「食べたいものは」

男「今食べましたよ」

悪魔「でしたら……でしたら女性などいかがでしょう」

男「女性かぁ……あぁ、いいかも」

悪魔「お望みの女性を手配しますよ?」

男「んじゃ、ちょっとまって、スマホスマホ……」ガサゴソ

男「先に聞いときたいんですが、死人でも呼んでいただけますか?」

悪魔「亡くなられているのですか?」

男「えぇ、5日ほど前に。ダメですか?」

悪魔「いえ、構いません」

男「あ、この人です」スッ

悪魔「ちなみにこの女性とはどういったご関係で?」

男「彼女なんですよ。いや、元彼女かな?とにかく大切な人です」

悪魔「愛していらしたんですね」

男「はい、彼女は僕の天使です」

悪魔「……少々お待ちください」

悪魔「……申し訳ありません、この方に関してはお呼び出しできません」

男「なぜ?」

悪魔「お話できません」

男「すでに悪魔と契約しているから?」

悪魔「!」

男「そしてその悪魔とは、あなたではありませんか?」

悪魔「そ、それは……」

男「あぁ、ですよね。だと思ったんですよ、まったく……」

悪魔「なぜ……」

男「僕ね、半月前まで病気だったんです。所謂不治の病というやつで、死ぬ直前だった」

男「なのにある日、突然すっかり健康になってしまったんです」

男「それだけなら奇跡で終わった。しかしそうもいかなかった」

男「僕の病気はそっくり彼女に移っていたんです」

男「元々治す方法の無かった病気ですし、彼女もなぜか覚悟が決まっているようで、長くは保ちませんでした」

男「僕にはずっと謎だった。なぜ彼女に病気が移ったのか」

男「今日、あなたと会って確信しました。あれも悪魔の仕業だったんですね?」

悪魔「……」

男「悪魔の願いというのは、得てして契約者の意図せぬ形で叶うものですからね」

男「おそらく彼女は僕の病気を治すことを願い、その代償に自ら病気を引き受けてしまったのでしょう」

悪魔「……」

男「となると気になることも出てきます。彼女の叶えた3つの願いのうち、1つが僕の病気を治すことなら、残りの2つはなんなんでしょう」

悪魔「他者の契約内容をお教えすることはできません」

男「守秘義務というやつですか。では、当ててみせましょう」

男「慎重な彼女のことです。きっと1つ目の願いはあなたが本物かどうか確かめるために使ったはず」

男「そして残り2つのうち1つは、僕の病気を治すこと」

男「最後の1つ。彼女は僕があなたと契約し、望みを叶えることを願ったのではないですか?」

悪魔「……」

男「沈黙は肯定と受け取りますが?」

悪魔「……」

男「そうとわかれば僕の願いはただひとつ。この命を彼女に返したい」

悪魔「……」

男「僕自身がどうなろうと構わない。この命は本来彼女のもの。それを彼女に返すだけのことです」

悪魔「……」

男「それに僕はね、今日死ぬつもりだったんですよ。この食事も最後の晩餐のつもりだったんです」

男「あ、今こんなファミレスで?って思いませんでした?」

男「ここは彼女と初めてデートした時に来た思い出の場所なんです。付き合いたての頃はお互い高校生でお金もありませんでしたから」

男「というわけで、僕の願い、叶えてくださいますか?」

男「僕が願いを叶えなくては、彼女の魂も手に入らない。だって彼女の最後の願いは僕が願いを叶えることだから、でしょ?」

悪魔「……」

悪魔「……」

悪魔「……」

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女「ふぅ、うまくいったみたいね」

悪魔「はい。あなたの言った通り、彼は思い込みの激しい方のようで」

女「昔からそうよ」

悪魔「勝手に契約内容を曲解して、契約者の意図せぬ形で願いが叶うと信じて疑いませんでした」

女「そういう人なのよ」

悪魔「あなたの1つ目の願いについても勘違いしたままでした」

女「だと思った」

悪魔「そしてあなたの言った通り、自らの命を犠牲にあなたを蘇らせました」

女「でしょうね」

悪魔「1つ目の願いで彼の体を不治の病に犯し」

悪魔「2つ目の願いでその病を自らの体に移し」

悪魔「最後の願いで彼とわたしを契約させる」

悪魔「こんなに回りくどいことはありません。素直に彼を殺してくれと願っていただければそうしましたのに」

女「彼が死ぬだけじゃダメだったのよ。彼の身内も彼とおんなじだもの。毎年命日に手を合わせに行くような人生、私はまっぴらごめんなのよ」

悪魔「彼があなたを蘇らせなかった場合、どうしていたのですか?」

女「そんなことありえないわ。だって彼は私を愛していたもの」

悪魔「彼が自らの命を犠牲にしない方法を選んだ場合、どうしていたのですか?」

女「そんなことありえないわ。だって彼はひどい英雄症候群だもの。そういう所が嫌いなのよね」

悪魔「さようですか……」

女「とにかくこれで私は自由の身。死んだら魂は自由にして頂戴。んじゃね」

悪魔「まったく……」

悪魔「……」

悪魔「……あなたは悪魔のような人だ」

おわり

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