【安価スレ】堕ち行く光 (950)

生きるということは、背負うということ。
道半ばに斃れた仲間の想い、願いを背負い、進むということ。

生きるということは、苦しむということ。
生きている限り、離別と喪失の苦しみは際限なく襲ってくる。
理不尽や不条理の苦しみも、生きている限りは決して終わらない。

生きるということは、奪うということ。
進む道を阻む者の命、希望、心を踏み躙り、断ち切る。
この世に生きる者は皆何かしらを奪い、骸の上に生きている。

苦しむ心を。責任を。全てをかなぐり捨てることが出来たら、どれだけ楽だっただろう。
何も感じない心を持っていれば、どれだけ楽だっただろう。

今までに、どれだけ苦しんだだろう。
これから、どれだけ苦しむのだろう。

そんなことを考えながら、俺は目を閉じた。

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懐かしい夢から目覚め、自室を出る。右腕の包帯を外すと、昨日負ったはずの傷は跡形も無くなっていた。

「…ぷはぁ」

戦利品のワインをラッパ飲みで一息に飲み干す。葡萄が有名な村の名産品なだけあって、下手な酒場で味わったものよりも数段美味だった。
ここまで美味いなら一気飲みするのはもったいないかもしれない、と若干の後悔が生まれたが気にしないことにする。
欲しいならまた奪えば良い。今までそうやってきたのだから、躊躇う必要は無い。

「non dubitabis(汝、躊躇うべからず)…。先人は良い名言を残してくれたものだよ」

jus rem agis(正しい行いをする者よ)、という枕言葉が前にあったはずだが、別に無視していいだろう。人のやりたいことを妨げるのなら、馬に蹴られて死んでも仕方ないものだ。
どうしても妨げたいのなら、力で捻じ伏せるしかあるまい。

そんな思考をしつつ空になったワイン瓶を机に置き、作り置きされていたパンを片手に家を出た。

爛々と照り付ける太陽が眩しい。天気が良いのはいいことだが、限度というものがあるだろう。
未だに散乱したままの瓦礫を破壊しつつ、天気に対する愚痴を漏らす。それで何かが変わるわけではないが、気休めにはなるものだ。

「おはようリヒトくん。私お手製のロイヤルなブレッドのお味はいかがかな?」

「普通。パン窯とかないから最初から味に期待してなかったが」

「お世辞でもいいから褒めてもらいたかったねぇ」

「そこまで俺は気が利かないものでね」

切り株に腰掛けてロイヤルなブレッドを頬張っている、美貌が台無しになっている女性。
彼女の名は『シルヴィア・レイナス』と言う。

流行に疎いリヒトでもその名を知っていたほどに著名な人物で、並び立つ者はいない、と断言されていた大賢者"だった"。
その才故に尊敬を集め、その才故に嫉妬に塗れた。
そして、人の悪意によって、自身を支えていた大いなる翼は奪われた。
今の彼女は、知識だけが取り柄の無力な人間と化している。過去の面影はその姿しか残っていない。

翼を失った大賢者は幽者に救われ、希望を無くした幽者は大賢者に救われた。
その関係とある種のシンパシーが、彼らを繋ぎ留めている。

「アレはどうだ?」

「意気消沈…というか、無気力状態だね。完全にやる気なし子ちゃんだよ」

リヒトがアレと呼ぶ、偶然幽者の目の前を通りがかってしまった不運なキャラバンから強奪した戦利品。人の悪意に故郷を奪われた人ならざる者。
それは、苦しみから逃れるべく心の檻に閉じこもっていた。

「…そうか。ま、しゃーないよな。ちと様子を見てくるわ」

「行ってらっしゃい」

勝手に死なれては大損だと、リヒトはわざとらしく口にしてアレの元に向かった。

「----」

鬱蒼と繁る森の中、それはいた。背中から水晶のような羽を生やし、虚ろな表情で空中を漂っている。
その姿からは生きる気力を感じられず、漏れ出すように紡がれる歌は人には理解出来ず、ただ脳を蝕む。

「んな顔するなよ。生きてたら俺みたいにいいことがあるって」

喉元まで込み上げている嘔気を押し留め、平静を装い声を掛ける。歌は止まり、不快感も治まった。

「…どんないいことがあったの?」

「…まぁ、色々ですね」

いいことなぞ全く無かったので、追及されるのは困りものだ。そんなリヒトの心情を察したのか、それとも興味が無かったのか。
妖精は目を閉じ、後ろを向いた。

嘗て昏迷の森と呼ばれる地域に暮らしていた、という『マナ』と名乗った妖精は、自宅に連れ帰ったや否や近隣の森に逃げ込んだ。
逃げ込んだというよりは、こちらの方が居心地が良い、と言った方が正しいのかもしれない。
彼女ら妖精は、本来人の世に出てこない存在だ。森の奥で、自然と共に在るのが妖精というものだ。
そんな存在であるマナが、人の暮らす家を拒絶するのは道理と言えよう。

空に浮かび、瞑目しているマナを見たリヒトは踵を返す。
何かあったら助けを呼ぶように伝えると、妖精は小さく頷いた。

『なぜ、わたしをたすけたの?』

帰りの道すがら、救出されたマナに問われた言葉を思い出す。頭をガジガジと掻きながら、リヒトは声を漏らした。

「…言えるわけねぇだろ、クソ…」

あんな悲しそうな顔をされたら、目を背けることなんて出来なかった。そんなこと、本人には言えなかった。

自分を誤魔化すように頭を振った後、リヒトは足速に駆けていった。

「さて、ゴミ掃除ついでに作戦会議といこうか」

「ああ」

数百年前に定住を試みた先人が残した家屋。その全ては自然に呑まれて廃墟と化した。

人が文明を築いてから日が浅い現代では未開拓の領域はあまりにも広く、故にこうしてリヒトたちが隠伏生活を行えている。

「私たちの最終目標は何か。はいお答えくださいリヒトくん」

「自分の国を作って皆から愛されたい」

「うんうん。馬鹿正直に自分の願望を言ってくれてありがとう」

くつくつと笑うシルヴィアは揶揄っているのか、リヒトの頬をペチペチと叩く。これっぽっちも痛くないが、気恥ずかしいのでリヒトはそっぽを向いた。

「君は自分の国を作る。私は出生や性差等に囚われない、正しく才能や努力を評価される世界を作る。あとついでに私をこうした奴らを地獄に叩き落とす。という遠大な目標を掲げているわけだ」

人に話せば爆笑の後軽蔑が待っていること確実の、子供でも人に言わないほどの馬鹿馬鹿しい夢を、彼らは本気で、大真面目に成そうとしている。
一人は忌み子である自分でも、愛される権利を持っていることを信じるために。
一人は自身のような者を二度と生まないために。

「で、その過程に何が必要か話し合おうじゃないか。どうせ私が一方的に言うだけだろうけど」

どこから取り出したのか。スリムな眼鏡を付けたシルヴィアは、羊皮紙と羽ペンを片手に瓦礫に座った。

「まず私たちに足りない物は何だと思う?」

「人員。物資。領地。その他諸々」

「つまり全部足りないってわけだ。人手不足なのもそうだけど、物資が足りないのは痛いね。今有る物資も、私たちが数週間食い繋ぐのがやっとの量しかないからね」

「でもさぁ、物資を強奪(うば)っても運ぶ手段が無いじゃん。馬さえいないから俺が全部担ぐしかないし」

「だから、輸送手段が欲しいところだね。龍騎兵(ドラグーン)がベスト…次点で空騎兵(エアライダー)かな」

「最悪騎兵(ライダー)がいれば良いだろ。高望みしたってしょうがない」

「強欲じゃないのは偉いぞリヒトくん。愛されるために国を作ろうとしてる輩とは思えない!」

「忌み子が愛されるのを望んだって別に良いだろ!」

その後、あーでもないこーでもないと議論と言う名の談笑をする二人がいた。

何をするかを↓1にどうぞ。

リヒトはシルヴィアたちより先行し、周囲に危険が無いか偵察していた。
しかし、目ぼしいものは何も見つからない。魔物もいなければ、賊らしき人影や馬車の痕跡すらも見えない。

「もう少し高度を上げるか」

光の玉を二発打ち上げた後に、さらに上へと飛翔する。合図を送ったから、二人もすぐ駆けつけるだろう。

「…む?」

リヒトから見て二時の方向。方角で言えば北西の先に、人工的な何かが一瞬見えた。
好奇心を抑えるつもりは端から無いので、仔細が判明する距離まで接近する。
ある程度近づいてから解ったことなのだが、人工的な何かとは『廃城を構成する見張り塔』だった。放置されて長いのか草木が生い茂り、蔦が表面を覆っていた。
我ながら良く見つけられた、と感心するほどに、風景に同化して分かりにくい。

鬼が出るか蛇が出るか。心躍る廃城探索の始まりだ。
口角を吊り上げたリヒトは、光を三度放った。

廃城前の石碑で合流した幽者御一行はまず、この城がどういうものなのかを調べることにした。
現代では使われていない文字に加えて経年による風化のせいで文字は全く読めなかったが、天才は格が違った。

「『ヴォルグス城』…で間違いないね」

文字を丸写しした羊皮紙を見て、シルヴィアは満足気に頷く。解読に成功したらしい。

「まぁ、私にかかればこんなものさ。早く中を調べようか。どんな書物が遺っているか楽しみでしょうがないよ!」

「わーってる。露払いはお任せあれってな」

聖剣を肩に担ぎ、リヒトは閉ざされた扉に触れる。鉄製の扉は錆び付いており、ビクともしなかった。
立ち塞がる困難は全て、この聖剣たちと共に乗り越えてきた。ならば、今回も同じようにするだけだ。

「…ぉらっ!」

リヒトは、全身全霊の蹴りを叩き込んだ。

「いや斬り捨てなさいよ。聖剣たちがかわいそうじゃないか」

「腕が痺れるからやだ」

轟音を立てて闇へと消えた扉をよそに、シルヴィアは呆れたように頭を抱えた。

『わたしはねてる』

とだけ言い残して木に寄りかかったマナを除いた、リヒトとシルヴィアコンビは意気揚々と廃城を探索する。
長い間人の手が加わっていなかったので内部は荒廃しており、触れただけで崩れ落ちるほど脆い足場もあった。

「………」

虫に食われ、カビが生えてマトモに読めない書物も散乱していた。なんとか読めそうな部分を見つけ出し、シルヴィアに解読を頼むが、溜め息ばかりが返ってくる。

「落書きでも書かれてたのか?」

「住人…正しくは衛兵の手記さ。この城が滅ぶまでの顛末が記されててね」

「へー。普通に重要な情報の気がするが」

「主観の…それも一つの視点で見た情報だけ手に入れても、という話さ。同じ筆者の手記だけを見たって何も得られやしないよ」

シルヴィアは不満そうに本を直し、自身の持つ羊皮紙を取り出した。そして、勢いよくペンを走らせた。

「とはいえ、数少ない情報だ。目に見える形として残せば、筆者も報われるだろう。興味があるなら、何が書かれていたか教えてあげるよ?」

「またの機会で頼む」

興味なさげにリヒトは答え、保存食の干し肉を齧った。

廃城探索 判定↓1コンマ


01~30:宝箱を一つ発見。(安価一回)
31~60:宝箱と新しい手記を一つずつ発見。(安価一回と情報を獲得)
61~99:宝物庫を発見。(安価複数回)
00:???

undefined

扉を開けると暗黒に満ちた宝物庫が姿を見せる。一寸先は闇、と比喩でよく言われるが、実際に現象として目にすることになるとは思わなかった。
見えない。何も見えない。マジで見えない。自分の手を眼前まで近づけても、全く見えないのだ。光の概念がこの場所だけ存在していないのかと錯覚を覚えてしまう。
流石に暗闇の中を手探りで行動するのは無謀だ。二人とも暗視の手段は持っているが、それは星の元でしか使えないし何でもかんでもはっきりと認識出来るわけではないのだ。

リヒトは光の短剣を数本作り、石畳や天井に突き刺した。ほうら明るくなったろう、とでも言いたげだが、数が多すぎて逆に眩しいまである。

「…まぁ、予想はしてたよ。この人たちも辛かっただろうな」

光が戻った視界に映るのは、朽ち果てた衣類と亡骸。そして、大事そうに守られた三つの宝箱。
遺体が身につけている宝飾品からして、亡くなられたのは城主夫妻と、その親衛隊の騎士だということは容易に想像出来た。死因はおそらく餓死。

机に置かれた手記には、臣下を置いて病魔の蝕む地上から逃げたこと。そして、病に苦しむ臣下と共に逝けぬ自分の不甲斐なさなどに対する謝罪と後悔が記されていた。
当時の情勢が分からないので憶測でしかないが、本気で逃げ出すのなら城から出るだけで良かった。
にも関わらず、わざわざ脱出口が無い宝物庫に逃げ込んだということは、そういうことだろう。

「…見捨てることが出来なかったんだろうね。病に苦しむ兵士たちを置いて逃げることが出来ず、かといって同じ苦しみを味わう覚悟が足りず。だから…」

「だから、この人たちはこの場所で、命を終えることを選んだ。同じようには逝けなくとも、せめて、同じ場所で。共に生きてきたこの城で終わりたかったから。…哀しいね」

原因も不明な疫病で国が滅ぶことなど、短い人類の歴史を辿ればままあることだ。集落単位になればなおさら。
だが、これは。こんな終わり方は哀しすぎる。理不尽すぎる。

「まぁ、それはそれとして。お宝を拝見させていただくか」

「ムードもへったくれも無いね。人の心は無いのかい?」

「人の心があるから宝に惹かれるんだろ」

先程までの陰鬱な雰囲気は霧散し、彼らが命を賭して遺した未知のお宝への興味が場を支配する。どこからか、呆れた溜め息が聞こえた気がした。

鍵の掛かった宝箱を開けるのに一番手っ取り早い方法は何か。道行く人々に訊ねれば、様々な答えが返ってくるだろう。
盗賊に頼む。鍛冶屋に頼む。なんかいい感じに鍵だけ壊すなどなど。
幽者の答えはこれだ。

「箱を解体すれば良いんだよぉ!!!!!」

リヒトは聖剣を取り出し、一つ目の宝箱を斬り刻む。幾度も閃光が走り、鞘に収められた瞬間、宝箱はバラバラになって中身を露出させる。
果たして、ヴォルグス城の至宝の正体とは。

「『は ず れ』」

と古代語でデカデカと書かれた羊皮紙が、至宝の正体だったらしい。なるほど、このガッカリ感がお宝というわけか。
お宝をくれた返礼として、この城は跡形もなく滅ぼさなければならない。
聖剣が色を変え魔剣となる緊急事態が発生しているが、シルヴィアは意に介さず残りの宝箱を物色する。パカっと、何の抵抗もなく開いた。

「は?!?」

「最初から鍵は掛かってなかったよ。鍵チェックも無しに実力行使に出るリヒトくんが私は怖いよ」

「いや普通宝箱には鍵が掛かってるって思うだろ!?」

「鍵が空いてたのは事実なんだから逆ギレされても」

雑談の間に、魔剣はまた聖剣へと戻る。ヴォルグス城消滅の危機は避けられた。
シルヴィアの吐息と共に宝箱から取り出されたのは、紫紺に染まった透明な宝珠と、古代語がびっしりと書かれた羊皮紙の束だった。

「おぉっ!なんかそれっぽいやつじゃん!」

「それっぽいっちゃあそれっぽいけどね。君が思ってたであろう金銀財宝とは程遠いよ?」

「この際人を小馬鹿にした書き残しじゃなければなんでもいいわ!」

先程上げて落とされたことに対する恨み節を溢すリヒトは、羊皮紙を手に取る。が、すぐに目を背けた。

「古代語なんて読めねぇよ」

「もし君が読めても興味は無いだろうけどね」

シルヴィアが大事そうにカバンに入れたそれは、ヴォルグス城に伝わる極上料理。そのレシピだった。レシピの題名は『気になるあの人も即死!?胃袋を掴んで離さぬメチャウマビーフシチュー』である。物騒な題名で怖い。
もう一つのお宝は、シルヴィアをしてよく分からんと漏らす謎の魔力が秘められた宝珠だ。彼女が言うには、リヒトの魔力に似た波長を感じるらしい。

「まぁ、たまたま見つけた廃墟での収穫と考えれば悪くはないんじゃないかい?レムカーナはもうすぐだ。早いとこ用事を済ませようじゃないか」

「…その前に、少し時間をくれ」

収穫に満足し宝物庫を出ようとするシルヴィアを、リヒトは決意を秘めた表情で止めた。

「…これでよし」

目に見えた亡骸を全て、ヴォルグス城の中庭に移動させる。
リヒトが光魔法で発破を掛け、ぽっかりと空いた二つの穴に、亡骸を分別して埋めていく。ちなみに、左が城主夫妻を入れた穴で、右がその他の遺体を入れた穴だ。
遺体を入れ終わったら、土で穴を完全に埋める。そして最後に。

『ヴォルグス城の城主、苦楽を共にした臣下と此処に眠る』
『ヴォルグス城に生きた者、敬愛する城主と此処に眠る』

と、リヒトが慣れない手で文字を彫ったお手製の石碑を建て、埋葬は終了した。

「お優しいことで」

「…別にそんなんじゃない。放置してどっか行くのは、墓荒らしみたいな気がして嫌だったんだよ。かといって、城主だけ埋めても中途半端だしな」

所詮これは、ただの自己満足だ。こんなことをしても、犯した罪は消えない。死者の眠りを妨げた事実は変わらない。だけど。

「…俺、この城に来れて良かったと思うよ」

人知れず滅んだヴォルグス城を。滅びゆく中で未知の脅威に怯えながらも、懸命に生きた者の覚悟と生き様を。互いに想い合っていたことを知れたから。

「…そうだね。君がそう思ったら、死んだ人も浮かばれるよ。きっと」

眠ったままの小さな妖精を抱き、二人はヴォルグス城を後にした。

夜な夜な談笑する声が聞こえる廃城を見つけたら、決して近づいてはならない。
死ぬほど美味い(物理)ビーフシチューを振る舞われて、二度と戻ってこれなくなるから。

そんな噂が冒険者の間で広まるのは、また別のお話。

道中イベント 判定↓1コンマ


01~15:魔物の群れが現れた!
16~30:ならず者が現れた!
31~70:何も起きなかった!
71~85:行商人が現れた!
86~99:何かが起きた!(自由枠)
00:???

レムカーナへと至ったリヒトは、まずは教会に向かった。遺体を抱えたまま行動するのは、悪目立ちしてしょうがない。

「…はい。名前は『シルヴァ・レナ』でお願いします。はい。ありがとうございます」

棺を見繕い、金銭を支払う。かなり重い買い物ではあるが、躊躇うものではないので即決で購入した。
棺の受け取り日を決め、教会を出る。あれほど口うるさかった賢者の声が、不思議と今は懐かしく、恋しく感じる。

王亡き都『レムカーナ』。国王と宰相が『不慮の事故で死亡した(リヒトが殺した)』ため、内政が不安定な大都市である。
そのため、ならず者の数が増えスラムが広がり、と治安悪化の一途を辿っているわけだが、リヒトは心底どうでもよかった。

重要なのは、ここで仲間が増えるか否かだ。シルヴィアもそれを望んでこの場所を選んだのだ。
是が非でも仲間を見つけなければならない。

「…人が一人減っただけで、こんなに寂しくなるもんなんだな」

宿屋の食事を食べつつ、リヒトはそんなことを溢した。

何をするかを↓1にどうぞ。

どこの国にも、魔法を研究し学ぶ機関が存在する。魔法の歴史は人類の歴史であり、そこに隠された真理を探究することは、未来を照らす光明と成る。
レムカーナに存在する同様の機関は、邸宅街に設立されている『レムカーナ王立魔法学院』である。
『真理の果てに希望が在る』。この言葉と共に日進月歩していたのだが情勢悪化に伴い形骸化し、その様相は見る影も無くなった。
中には真面目に研究を進めている者もいるが、真理を追い求める魔法使いの集う神聖で高潔な聖域は貴族のお遊び会場になりかけているのが実情だ。

表向きは『才能さえあれば家柄や身分に囚われず探究を行える平等な学院』ということで通っているため、平民や流浪人、果てはスラム街の住人ですら、この学院に籍を置く者もいる。
内情ははっきり言って『クズの掃き溜め』、『現世に顕現した地獄』と呼ばれる程度には終わっているわけだが。

そのため、現状に鬱屈した感情を溜め込んでいる魔法使いはかなりの数に及ぶ。『誰かこのクソみたいな学院を壊してくんねーかな。私は真理を知りたいのであって、金持ちに媚を売りたいわけじゃないんだけど』と考えている人が大多数だ。

故に、リヒトとしても都合の良い場所だった。上手くいけばワンチャン仲間を増やすことが出来る。惜しむらくは。

「俺魔法使いじゃねーからな。どうやって潜入するべ」

そう。リヒトは戦闘の達人であって、魔法使いでは断じてない。普段使っている光魔法も、実際は理論など関係なしに魔力量で取り繕った、俗に言うごり押しで形にしている魔法なのだ。
尤も、その魔法で大概の敵は昇天したわけだが。やはり暴力は全てを解決する。

リヒトが戦争の中で知った真理。それは、力こそパワーであり圧倒的な暴力こそジャスティスだというあまりにもあんまりな結論だった。

レムカーナ王立魔法学院で何をするかを↓1にどうぞ。

BGM:Critical Drive
https://youtu.be/9iMyp7k53Rs

快晴だった空模様が打って変わり、瀑布の如き雷雨が降り注ぐ。その雨はまるで、天が、神々が嘆いているようで。
レムカーナの住人は不安に思いつつ、家に籠もっていた。それでも健気に巡回を続ける兵士たちの愛国心には脱帽する他ない。

そして、雷雨の中を一筋の光が駆けていた。

「…ふぅ」

これから始まるお祭り騒ぎに備え幽者は臓腑に溜まっていた息を吐き出し、魔力を研ぎ澄ます。

もう、後戻りは出来ないのだ。恐れるな。自身の為すべきと思ったことを、為し遂げろ。他人の都合など考えずに、己の意志で。
今までだって、そうしてきたのだろう。
行為の正しさを自問自答し、決意を固める。

シルヴィアがいたなら、大爆笑していただろう。『たった一人の子供のために、またレムカーナを敵に回すのかい。君は頭のネジが外れまくってるねぇ』と。
反論のしようがない。全くもってその通りだ。
だが、こうも言うだろう。『君が望むのならそうしたまえ。才能を摘み取る愚を犯すような学院、滅んだとしても誰も文句は言えないさ』と。

「…くく。つくづく俺は、大切な人を喪ってきたな」

『慈愛の聖女クロエ・フィアリス』。『彼岸の大賢者シルヴィア・レイナス』。他に喪った人は数えきれない。
喪ったものは決して戻らない。だから、その喪失は無駄ではなかったと。必要なものだったと。割り切るしかない。たとえ、割り切ることが出来ない不条理な死だったとしても。
彼女たちの死に意味があったのだと、信じたいから。

「俺はどうせ、地獄に堕ちる。君たちはきっと、天国からここを見てるんだろう。なら、見届けてくれ」

勇者と慕われた者の末路。三流にも劣る悲劇の結末を。もう、会話など交わせない。だから、これが。この無様な生き様こそが餞だ。
漆黒の意志を秘めた双眸が、黒天の空を見上げた。

200年もの由緒ある歴史を持つレムカーナ王立魔法学院。邸宅街の二割の占める敷地を所有している世界でも有数の魔法学院は今、未曾有の危機に瀕していた。
誰もが勘弁してくれと懇願しやつれること必至の、紛う方なき大災害が冗談抜きで突然襲い掛かった。

「ぎゃー!」

剣の一振りで光の奔流が波濤のように押し寄せ、なんとか反撃しようとしたら得物が光の刃で切断される。不可避の理不尽がやりたい放題をしていた。
レムカーナ王立魔法学院の取り壊しという暴挙をやらかしている下手人の配慮なのか、はたまた命の責任を取りたくないだけなのか。
派手に盛大に吹き飛ばされている警備兵や生徒は、目立った外傷も見られず命に別状は無い。ただ全身が痛くて動けないだけだ。

「とっ止めろー!どんな手を使ってもいいからこの大馬鹿野郎を止めるんだー!!!」

貴族の連中があたふたしながら指示を飛ばす。その場にいた全員がマジかよお前といった視線で睨んでいた。
取り巻きの数人がやる気を感じられない魔力の鎖を放つ。リヒトはそれを甘んじて受け入れ。

「ふんっ」

小手先の技など使わず、圧倒的なパゥワーで引き千切った。
貴族に向けられていた呆れを含んだ視線は、何故かリヒトに向けられる。

「無理矢理『魔力の鎖(マジックチェーン)』を引き千切るって…。えぇ…?」

「もしや蛮族か何かでいらっしゃる?」

「こんな蛮族いるわけねぇだろ」

知性を疑う質問を一蹴し、リヒトは作業を再開した。

騒ぎと爆音を聞いて駆け付けた教師陣による高威力の魔法の雨霰。それを光の翼で耐え、カウンターに百を超える光弾をお見舞いする。
知識を身に付け、ただただ研鑽を重ねた強大な魔法は、膨大な魔力量に裏打ちされたごり押しと言う名の暴力で無へと帰した。やはり力は全てを解決する。
増援が到着するや否や、光弾を浴びて地べたに大の字で寝そべっていく光景はいっそ喜劇的に見える。

大講堂が爆発四散し破壊作業が一区切り付いたところで、ある生徒が口を開いた。

「あの剣…勇者が持ってるっていう聖剣なのでは?」

生徒の発言で空気が凍る。リヒトとしては、この行動を起こす時点で正体バレは確定だと思っていたので、特に気にしていない。
寧ろ、肯定した方がより騒動が大きくなり、衛兵たちもやりにくくなるだろうと考えていた。ので、首肯を以って答えとする。

「ゆゆゆ勇者ぁ!?!!!!国王たちを殺したっていうあのイカレポンチじゃないですかぁ!!!」

「無理!そりゃ止められるわけない!」

「貴族の首が欲しいならどうぞ持っていってください!だからどうか私たち一般庶民は見逃して!」

「俺を売るのかよ!?お、俺を殺したって王殺しほどの悪名は得られないぞ!!!」

好き勝手に物を言う観客に辟易し、リヒトは営業スマイルを浮かべて恐怖心を和らげさせるように言う。

「この学院を潰す以外に目的は無いから安心してくれ」

観客が全員、涙を流しながら蜘蛛の子を散らしたように逃散した。寛大な慈悲に感謝していたのだろう。たぶん。

爆音轟音が鳴り止んだ後。保健室をリヒトは訪れる。予想通り、彼女がいた。

「あ、リヒトさん」

素顔を見せたままのリヒトを見て、素性を隠す必要は無いのだと判断したウィンディは、臆することなく名前を呼んだ。

例によって保健医は逃げ出しており、ここなは二人しかいない。絶好の機会と言う他ない。
だが、どう誘えばいいのか。リヒトは頭を悩ませる。
ミェンという失敗例があまりにも大きいため、リヒトの決心は足踏みしていたのだ。

こういう時こそシルヴィアがいればとも思うが、たらればを言っても現実は変わらないことは解っている。

「リヒトさん?」

小動物のように首を傾げる少女と、暗い表情をしている絶賛逃走中の指名手配犯。
誰も関わりたくない光景が、そこにはあった。

ウィンディ勧誘 判定↓1コンマ
本レスよりコンマが高ければ成功です。
また、↓3までにウィンディに投げかけたい言葉を募集します。


願望成功補正:↓1コンマに+20

ちょうど良さそうなのでこの二つで〆にします。
あと、ギムレインは仲間になりません。名前があるだけのモブなので。

「…その、なんだ。俺がここまで来たのは、君と雑談をするわけじゃない。それくらいは見て分かるだろうが」

「…はい。漂っている魔力から解ります。無茶なことをしましたね」

保健室周辺は意図的に攻撃範囲から外していたので傷一つない綺麗な姿を保ったままだが、外はそうもいかない。
勇者と謳われたリヒトの光魔法で、それはもうすごいことになっている。建築者も草葉の陰で嘆いているだろう。
別にリヒトからすれば無茶でもなんでもない、昔を思い出す大立ち回りをしただけなのだが、言うだけ野暮なので黙っておく。

外から足音が少しずつ近づいている。おそらく、姿を消した自分を捜しているのだろう。
余計な会話は省き本題に入らねば。と、意識を切り替える。

「どんな者でも当たり前に愛されることが出来て、出生や性差等に囚われない、正しく才能や努力を評価される世界を作りたい。前半は俺だけど、後半部分は大切な仲間から託された夢なんだ」

忌み子にだって愛される権利がある。ならば、誰にだって愛される権利があるはずだ。
それを形にするべく、自身を心の底から愛するべく、リヒトは行動していた。

出生や性差で差別され、排斥されてきた者たち。それを、彼女は知っていた。
この世に蔓延る理不尽を変革し、誰もが希望を抱けるように。シルヴィアはそう願い、歪んだ世界を正そうとしていた。

「俺は…。俺たちは、その為に戦っている。まあ、今は俺だけなんだけどな」

志半ばに斃れた者がいると、言外に示す。どうやら伝わったようで、ウィンディは沈痛な面持ちをしている。

「今一度、問おう」

剣を床に突き立て、右手を差し伸べる。そして、言葉を紡ぐ。

「変革を願い、狂った幽者と共に茨の道を征く覚悟はあるか?」

過去の希望に満ち溢れていた勇者はいない。絶望に狂った幽者だけがここにいる。それは、本人が一番自覚している。
それでも、彼には背負ったものがある。誓ったものがある。託されたものがある。願ったものがある。
故に、歩みを止めるつもりは無い。たとえ両の脚が折られ、断ち切られようとも。芋虫みたいに這いずってでも進んでみせる。リヒトにはそんな覚悟がある。

「それとも…。天災…そう、天災が学園を蹂躙し、君を虐めている暇も余裕も貴族方からは無くなっただろう。少しは過ごしやすくなるから、このままお別れの方がいいかな?」

自身が歩む修羅の道。鋭い茨に覆われた、数えきれない痛みに苦しみ道を。彼女に歩ませることを強制したくなかった。
己の意志で選ばなかった者を無理矢理連れて行っても邪魔になるだけだし、何より本人が苦しむ。マナは例外もいいところだ。
崩壊した学院の再建、犯人をみすみす取り逃がして失墜した権威の獲得に、貴族は追われることになる。
諸々の問題が解決するまで、ウィンディも学院で堂々と過ごせるだろう。

どちらを選ぶかは彼女次第。目を閉じて選択を待つリヒトの手が、不意に温かくなった。

「…私がここにいたのは、逃げ場が無かったからです。それを作ってくれるのなら、もう未練はありません」

「…これから、迷惑をいっぱい掛けるでしょう。そんな弱々しい私を、護ってくださいね?」

その言葉と笑顔が、何よりの答えだった。

「…ああ、任された」

少女の手を取り、幽者は翼を広げる。
鳥籠に囚われた少女は今、大空へと飛び立った。

何をするかを↓1にどうぞ。
↓1コンマで拠点帰還時のイベント数を判定します。


01~40:0
41~80:1
81~99:2
00:???

速やかに宿屋に帰還し、荷物を纏める。もう長居は無用だ。マナに指示を出し、フード内に匿う。

「え、妖精さん!?」

「ちょっと事故って面倒を見てるだけだ。人畜無害だから安心してくれ」

やる気無さ気にウィンディを見やり、マナは溜め息を吐いた。明らかにどうでもよく思っている。

「まだここにいるの?」

「そろそろ逃げる。まだやることが少しだけあるけどな」

「まだあるんですか?」

ある。地味だがとても重要なことが二つ残っている。
まず一つはシルヴィアの棺の回収。これは何があってもやり遂げなければならない。
もう一つは資金調達。これは帰り道でも出来るが、お金は多いに越したことはない。金の余裕は心の余裕なのだ。
ウィンディには解らないだろうが、リヒトは昔資金不足で非常に苦労したものだ。何度餓死しかけたか、想像しただけで冷や汗が止まらない。

「だからまず、安心出来るだけの金を集める。頑張って頑張って頑張りまくればたぶんどうにかなる!!!」

「根性論…」

最後は根性、成し遂げようとする意志が道を開くことをリヒトは知っている。勇者は意外と泥臭い。

資金調達の方法を↓1にどうぞ。


A:冒険者に成りすまして金稼ぎ
B:盗賊を始末して金品強奪
C:キャラバンを襲撃
D:その他(自由枠)

特級指名手配犯が出現したことが伝わり、レムカーナ全域に大量の兵士が投入された。窓から外を見ただけでも数十名の兵が目視出来、その本気度合いが伺える。

「…あのぅ。これ、本当に逃げられるんですか?」

雷雨の中でも悠々と巡回するドラグーン。空も大地も、どこを通っても警備の目から逃れることは出来無さそうだ。

「大丈夫…だと思う。ウィンディは空を飛べるか?」

自分一人なら余裕なのだが、一番の懸念点はウィンディの存在だ。彼女がどれだけ戦えるかによって、彼女自身の生存率は大きく変わる。

「あ、はい…。私一人なら、全然飛べます」

「なら大丈夫だ」

満足のいく答えが返ってきたので、リヒトは小さく笑った。

「隊長!怪しい人物がそこの宿屋に泊まっているとのタレコミがありました」

「よぅし!なら勧告無しに爆破してしまえぃ!ドラグーンを全騎召集しろ!」

可能な限りの人員を集め、包囲を固める。ここまですればどうにかなると、根拠のない自信を基に。
この程度で捕縛出来るのなら、疾うの昔に処刑出来ているというのに。

宿屋の直上に三騎のドラグーンが待機し、その外側を四騎のドラグーンが囲む。
勇者には飛行能力があることは有名なので、空路を警戒するのは当然のことだ。
だが、何故彼らはリヒトたちが反撃しないと思っているのだろう。
無抵抗のまま捕まる道理など、彼らには無いのに。

「奴を捕らえれば、私は三階級特進…!晴れて将校よ!!!ふははははー!!!」

ドラグーンが駆る火龍の豪炎が、宿屋に降り注ぐ。爆音と共に、爆ぜた。

立ち込める黒煙が、爆発の規模を物語る。尋常の者ならまず、この攻撃を受けて生きてはいまい。
だが、生憎と勇者は尋常の域を超えている存在だ。強大な悪を打ち倒した者が、たかが炎に焼かれた程度で生き絶えるわけがない。

「はははははは!はは…は…?」

勝利は確定したと言わんばかりの大笑がはたと止んだ。黒煙の中に、神々しい光が蠢いているからだ。
突風が吹き煙が霧散する。同時に、空間を閃光が縫う。

「は…ぁ…!??」

不快気に鼻を鳴らす勇者が姿を現した。傷一つ、煤一つ付いていないその姿は微小なダメージすら受けなかったことを示しており、その剣からは光が漏れ出している。

ズン、と数度地面が揺れる。その正体は、墜落した火龍たちだった。出血し完全に沈黙しているが、致命傷ではない。気を失っただけのようだ。
勇者リヒトが放った剣閃は、空を縫い空中の龍たちを撃ち落とすに足る威力を持っていた。
なけなしの慈悲で即死はしていないが、ここで反撃をしていたら、龍の首が飛んでいる。
幸いなことに、一撃で気絶したおかげで一命だけは取り留めているわけだが。生きてるって素晴らしい。

「俺の邪魔をするなら、多少痛い目に遭っても」

勇者は聖剣を掲げ、魔力を解き放つ。

「仕方ないよな?」

言い切った刹那、空から光の剣が降り注いだ。

包囲網を物理的に破ったリヒトたちは、最短経路で教会に向かう。その道すがらで。

「わ、私っていらない子だったんじゃ…」

「そうでもない」

ウィンディの自虐をリヒトは首を振って否定する。ウィンディがいなければ、あそこまで効率よく反撃に転じられなかったのだ。

ウィンディが詠唱した風魔法が、暴風の壁を作り出していた。それによって火龍の吐息は二人に届くことがなかった。
最初は防御から反撃まで全てリヒトが担当する予定だったのだが、これくらいならさせてほしいと助力を願ったので任せてみた。
その結果がコレである。なかなかどうして、素晴らしい才能を持っているようだ。
ウィンディが防御を引き受けてくれたおかげで、リヒトは攻撃にのみ集中出来た。
だというのに、彼女が必要無かったとは口が裂けても言えない。お互いにとって最善の結果である。
リヒトたちにとっても。兵士たちにとっても。

教会に着くとすぐさま、リヒトは扉を蹴破る。ヴォルグス城で同様のことをしてから、すっかり板についてしまった。
先程の戦闘音に怯えていたのか、神父や修道女(シスター)は椅子の影に隠れていた。別に取って食うつもりはないのだが、文句は言えない。

予め棺の受け取り日を決めていたため、既に棺が出されていた。手際が良くて大助かりだ。

「ありがとう」

謝辞を一言だけ述べ、棺を背負う。そのまま、二人は空へと逃走した。

盗賊 判定↓1コンマ


01~30:何も無し
31~70:小規模なアジトを確認
71~95:大規模なアジトを確認
96~99:謎の集落を確認
00:???

棺を背負ったままの逃避行はおよそ半日続き、レムカーナは地平線の果てに消え、疎に生えた雑草と露出した岩肌が彩る荒野に到達していた。

「………」

馬車が踏み慣らした道路を進む。人里からかなり離れてはいるが、人の痕跡は強く残っている。それがありがたい。
人が踏み入れた領域なら、そこまで強力な魔物は現れない。アークミノタウロスの群れは根本的な部分から違っていたため、レムカーナで遭遇してしまったが。

「大丈夫か?」

「はい。魔法で身体を動かすくらいなら、いくらでもへっちゃらです。まぁ、この距離を歩いていたら今頃倒れてましたけど…」

宙に浮いてついて来るウィンディを気にかけるが、特に様子は変わっていない。この調子なら、拠点まで戻れそうだ。

「拠点に行く前に少しだけ寄り道がある。すぐ済む用事だから、寄り道しても構わないか?」

「私に選択権は無いのでご自由にどうぞ」

後ろ向きな返事ばかりする同行者に頭痛がするが、こればかりは本人の気質の問題なので口を出すわけにはいかない。
口下手な自分を恨みつつ、足を進めるリヒトだった。

盗賊への対処を↓1にどうぞ。


A:一人残らず鏖殺する
B:最低限の人数だけ生かす
C:全員捕縛する

すみません。D:自由安価の選択肢も追加でお願いします。

「やぁやぁやぁ。頼み事をしに来ただけなのに、随分と手洗い歓迎じゃないか」

リヒトは例によって営業スマイルを浮かべて極めて平和的な交流を試みる。心から笑えたのはいつだったか、もう憶えてないほど久しい。
作り物の笑顔の方が多いとは、皮肉なものだと自嘲する。

「剣を片手に頼み事とは物騒だねぇ」

荒々しい声をした巨漢が人混みの中から姿を現す。腕前は並。と、リヒトの勘が告げている。
値踏みするような視線に呆れつつ、リヒトは平然と頼み事をした。

「懐が寂しくてとっても困っててな。お前たちのことは見逃してやるから、金になるものをくれ」

ならず者の拠点を見つけたにも関わらず、お目溢ししてやるとは。なんと慈愛に満ちたことだろう。
神様がこの光景を見ていたら、感涙しながら祝福を1ダースほど与えてくれるに違いない。

「ひゃはははははは!!!!面白いこと言うじゃないか兄ちゃん!」

頭領と思しき巨漢は呵呵大笑し、相手をするのも面倒だからあっちに行け、という意思を込めたジェスチャーをする。

「まぁ兄ちゃんは見た目が良いからな。何人かのお相手をすればそれなりに稼げるんじゃないか?ぎゃははは!!!!!」

それは困る。生憎と、自分は同性愛者ではないのだ。リヒトは肩を竦め、剣を振り上げた。

近隣の森から突如立ち上る光の柱。柱と言うにはあまりにも太いそれは、頭上の雲すら突き抜ける。
発生地点にあった生命を悉く焼き尽くし、浄化した粛清の光は、残光を残すことなく消滅する。
後に残ったのは、底の見えない大穴だけだった。

「こんなことになるのは本意じゃないからさ。頼むよ。なっ?」

リヒトは頬をポリポリと掻き、申し訳なさそうに懇願する。

頭領は白目を剥いて卒倒した。

ならず者のお恵み 判定↓1コンマ


01~40:しばらく生活に困らない程度の金品
41~80:+彼らが手に入れた貴重品
81~99:+売りに出す予定だった奴隷
00:???

ならず者が隠し持っていた貴重品を↓1にどうぞ。

「おっお頭ー!見かけによらず超が付くほど小心者のお頭が倒れたー!!!」

「なんであんな化け物がここにいんだよ!?ってかどうにかしろよコイツ目がマジだぞおい!このままじゃ全員ゴートゥヘブンされちまう!!!」

「許してくださいお願いします!まだ私たちは明るく楽しく生きていたいんです!!」

やいのやいのと騒いでいるが、こちらとしては困惑する他ない。出すものさえ出せば見逃すと、初めから言っているではないか。

「本当に見逃してくれるのか!?どれだけ献上しても『これっぽっちかよちょっとお前そこでジャンプしてみろほらまだ音がするじゃねーか全部よこせ』って根こそぎカツアゲする魂胆だろ俺は詳しいんだ!!!!」

「しねーよ!!!!」

勝手に極悪非道なゲス野郎にされ、リヒトは憤慨する。全部奪う気なら、端から交渉なぞしないで全員一息に殺している。
彼らにだって生活が懸かっているから配慮しているのだ。誰も不幸にならない平和な解決を望んでいるのだから、感謝してもらいたい。

「…そこまで言うなら…。どうぞお受け取りくださいませ!そして二度とここに来るんじゃねーぞ来ないでください!!!!!」

相当溜め込んでいたのか、山のように宝石や装飾品が積み上げられる。あまりの量にリヒトは辟易し、金品を一度だけ鷲掴みした。

「これだけでいいよ。しばらく金に困らなければいいんだし」

「何こいつ逆に怖いんだけど」

ひどい言われようだとリヒトは苦笑する。そのまま立ち去ろうとしたが、ならず者に呼び止められた。

「後でいちゃもんを付けられても面倒だからな。これも持ってけ」

ぶん投げられたのは、人の頭くらいの大きさをした赤い果実。『世界樹の果実』というラベルが貼られている。

「いつ食べるか楽しみにしてたんだが、死んだら元も子もない。ここまでしたんだからもうどっか行けよな」

「ありがとう。なら遠慮なく頂くよ」

果物を片手に、リヒトは軽く手を振る。気が向いたらまた来ることも伝えておく。

「絶対に来んなよバーカ!!」

ブーイングの嵐を受けながら、リヒトは笑顔のまま退散した。

道中イベント 判定↓1コンマ


01~15:魔物の群れが現れた!
16~30:ならず者が現れた!
31~70:何も起きなかった!
71~85:行商人が現れた!
86~99:何かが起きた!(自由枠)
00:???

「…何も起きませんでしたね」

長い時間を掛けてとうとう拠点へと帰投した三人。人数は変わらないが、人は変わっている。
リヒトは荷物を下ろして棺を抱える。為すべきことを為すために。

「そういえば、その棺には誰が入ってるんですか?」

「…シルヴィア・レイナス。俺の仲間だった魔法使いだ」

「えっ」

ウィンディの表情が固まった。もう嫌な予感しかしない。

「嘘、ですよね?シルヴィア先生なんですか?本当に!?」

「…嘘か誠かは後で解るよ」

冷淡な声色でそう答え、リヒトは墓地へと向かった。

リヒトが墓地と呼ぶ拠点の一角には、手入れがされている綺麗な墓石が一つある。
墓標の傍には主の愛剣が突き立てられており、色鮮やかな一輪の花が添えられていた。
その隣に新しい墓石を設置し、地面を掘る。何も発することなく、黙々と。ただひたすらに。その間、ウィンディは口を出せずにいた。

「…無力な俺を赦してくれ」

棺を穴に入れ、杖を取り出す。教会の人たちが頑張ってくれたようで、シルヴィアの顔は見違えるように綺麗だった。
そういうことに疎いリヒトですら心を惹かれてしまうような、麗しい笑みを浮かべていた。
釣られて、リヒトも笑顔を浮かべる。気に召してくれるのなら何よりだと。

「あ…や…ぁ…!?」

そんなリヒトとは対照に、ウィンディの顔は青ざめていた。

何をするかを↓1にどうぞ。

体調不良のウィンディを家に連れ戻す。拠点とは言ってもまだ家は一軒しかないので、同居になってしまうが我慢してもらうつもりだ。

「ありがとう…ございます……」

冷水一杯を振る舞うが、ウィンディは呆然とした表情のまま椅子に座ったままだ。口を付ける様子もない。
気持ちはよく解ると、内心でリヒトは同意を示す。親しい者が亡くなった時に襲い掛かる喪失感は果てしないものだ。彼も相当に苦しんだし、今もなお心を侵蝕している。

傷ついた心を癒すのは時間だけだ。今出来るのは、昔話をして気を紛らわせるくらいだろう。もしかしたら逆効果かもしれないが、彼女は意外と芯が強いので乗り越えられるはずだ。

「君さえ良ければ聴かせてくれないか?俺の知らない、シルヴィアの教師時代のことを」

気にかけてくれた先生がいた、という彼女の言とシルヴィアに対する呼称。そして、彼女のお人好しな性格を鑑みるに、ウィンディと文通をして色々と指導していたのはシルヴィアで間違いない。
そういったことをしていたのは初耳だが、同時に彼女ほどの傑物ならそうするだろうな、とも思っていた。
もう、シルヴィアと言葉を交わすことはない。だからせめて、他人と話をして彼女のことを知りたい。
誰にも語り継がれず忘却されることは、存在の消滅と同義だ。彼女が懸命に生きた証を、残し続けたい。

そんな意図を汲み取ったのか、暗い表情ながらもウィンディは口を開いた。

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「最初は、新聞を見て知ったんです。とんでもない魔法使いが『フェルリティア』にいるって」

フェルリティア。レムカーナから遠く離れた魔法都と呼ばれる都市だ。彼女とは、逃避行の果てにそこで出逢った。
あれから一年。長いようで短い時間だったと回顧する。自分はシルヴィアのために何か出来たのか自問するが、何も出来ていないことに落胆する。

「そこで、駄目元で手紙を五通ほど送ったんです。住所なんて分からなかったので、宛先は全部公務庁にして。思えば、公務庁の方には迷惑でしたね」

苦笑するウィンディを見ながら、リヒトは頷く。確かに迷惑だっただろうが、それで二人は面識を持てたのだから結果オーライである。

「…そうですね。それで、シルヴィア先生に手紙が届いたみたいでして。そこから文通で指導を受けたり、お悩み相談だったり、世間話だったりをしてました」

カバンから取り出したのは、保健室でも見たぼろぼろと手紙と書籍だ。どことなく、シルヴィアの私物と似ている気がした。

「手紙は、シルヴィア先生が送ってくれたものです。踏み潰されたりインクを掛けられたりでもうマトモに読めないですけど、それでも、大切な物なので」

今では遺品になっちゃいましたけど。と付け加えるウィンディだが、表情は僅かに明るくなっている。少しずつ心の整理が出来ているのだろう。

「こちらの本は、先生のアドバイスを基に私なりに構築した理論を記載した写本です。先生に一度見てもらいたかったのですが、叶わない夢ですね」

「…すまない」

自分がいたのに護れなかったことを悔やみ謝罪する。それで過去が変わるわけではないが、怒りの矛先を向けるなりして、溜飲が下がるならそれでいい。
ナイフで刺されるくらいは覚悟していたのだが、ウィンディが行動に出ることは終ぞ無かった。

「怒りませんよ。怒る資格なんて無いです。私は、先生に会ったことすら無いんですから。リヒトさんほど強くても、護れなかったくらいに理不尽なことがあったのでしょう。貴方やマナちゃんが生きているなら、先生もきっと喜んでますよ」

「そうか…」

あの時、手遅れになる前に全力を出していたら、シルヴィアが命を散らすことはなかった。
油断していなかったのだが、魔物の力を見誤っていたのは事実だ。彼女の死は不可抗力ではなく、自身の怠慢が生んだ結果だ。
失態を咎められず慰められるだけというのも気分が悪い。これなら、徹底的に扱き下ろされた方が気が楽だ。
そんな思いを込め、リヒトは嘆息する。
ウィンディは遺品の手紙を、愛おしそうに抱き締めた。

何をするかを↓1にどうぞ。

戦利品の赤い果実からラベルを剥がし、小さく切り分ける。中心にあった種はもったいないのでくり抜いて保管しておく。
サクサクと気味の良い音を立てながら切り分けていき、更に並べる。甘い香りが鼻を擽り、食欲を沸き立てる。

「それ、なんですか?」

「世界樹の果実」

リヒトの返答にウィンディは驚く様子を見せず、机に置かれているラベルに目を向ける。

「ただのおっきなリンゴですよね」

「そうとも言う」

世界樹の果実の正体は、アリフで栽培されているリンゴの品種の一つだ。一玉一玉が大きいためあまり数が採れず、結構お高い高級品なのだ。
それを無償で献上してくれたならず者には頭が上がらない。

「ほれ、食ってみろ」

「あむ。…あ、美味しい」

世界樹の果実を齧ったウィンディの顔が綻び、へにゃりとしただらしない表情になる。それだけ美味なのだろうとリヒトも一つ食べてみる。

「美味い」

口に入れた途端に広がる濃密な甘み。それでいて、爽やかな酸味が追い討ちを掛けることによってしつこさは無く、さっぱりとした味わいになっている。
繊維もシャクシャクと水気がありながら、ベタつくことはなく歯切れが良い。いくらでも食べてしまえそうだ。

墓に半分ほどお供えし、残りは三人で味わう。
珍しくマナが食いっ気を出し、三人の中で最も多く平らげた。
小さな身体によく入るものだと、二人は感心した。

何をするかを↓1にどうぞ。

目的地を↓2にどうぞ。


A:荒廃した街 ソルド 道中イベント:2
B:普遍の町 アリフ 道中イベント:0
C:圧政の都 ゴルギュリオ 道中イベント:2

魔物や盗賊に襲われるようなことも無く、平和な旅程でアリフに到着した。そういった手合いが滅多に出ない地域なので、当たり前と言えば当たり前なのだが。

「ほわぁぁぁぁ……」

レムカーナとはまた違った賑やかな町並みに、ウィンディは感嘆の息を漏らしている。
これから色々なものを見るのだからこの程度で驚かれては困る。とリヒトは苦笑し、道具屋へ駆け込む。

「らっしゃい。…おお、リュクスの兄ちゃんじゃないか」

「よぉおっちゃん。早速だがコレの換金頼むよ」

顔馴染みの店主に軽く挨拶をし、金品の詰まった麻袋をカウンターに提示する。
無精髭を摩りながら、店主は口を開いた。

「しかしまぁ。今日はえらい多いな」

「心優しい人が恵んでくれたものでね。ありがたく頂戴したわけだ」

「ほぅ。そんな良い人に俺も出逢いたいねぇ」

「旅でもすればいつか出逢えるんじゃないか?」

「そりゃ無理な話だ。俺にはもうおかみさんがいるから、この町を出られないんでな」

「…なんか、おかみさんが良い人じゃないって言ってるように聞こえるな」

「ばっ…!それ本人に言うなよ!?脳天かち割られちまう!」

「言わないよ、たぶん」

そんな談笑をしつつも、店主は金品の鑑定を進める。鋭い目つきは金品に集中し、僅かな傷すら逃さんとしている。

「…ふむ。ざっとこれくらいだな」

鑑定を終えた店主は、羊皮紙に全て売却した際の金額と内訳を記載する。
それを見たリヒトは満足気に頷き、羊皮紙にサインを書いた。

「契約成立だな。んじゃ、代金を受け取ってくれ」

「いつも助かるよ」

リヒトの謝辞を面倒そうにしながら受け取り、店主は新聞を手に取った。用が済んだなら帰れ、という合図だ。
もちろんリヒトも長居するつもりは無いので、そのまま店を出た。

「ご満悦ですね。そんなに儲かりましたか?」

リヒトの顔を見たウィンディはそう問い掛け、銀貨が詰まった麻袋を見て喉を鳴らした。

何をするかを↓1にどうぞ。
今回は換金がメインなので二回行動したらこの町を出ます。
生活物資への変換は自動で行われます。

懐が潤って大満足なリヒトは、活動に必須な生活物資を一通り買い漁り、青果市場へ来ていた。
昼時なのでそれなりに商品が売れてしまっているが、追加分として先程採れた瑞々しい果物が売りに出されている。

「え?世界樹の果実かい?」

気の良さそうなおばちゃんに、マナががっついた逸品が置いてないか質問する。フードの中に隠れていたマナが、ピクリと動いた。

「置いてるわけないさね。もう今年に採れる分は完売したってそこにも書いてるよ」

おばちゃんが指差した先には、『今年分の世界樹の果実は完売しました。また来年お越しください』と書かれた看板がある。
どうやら、栽培しているのはその出店を所有しているリンゴ農家だけのようだ。
彼女から聞いたのだが世界樹の果実などと大仰な名前が付いてる理由は、品種改良していたらたまたまとんでもない大きさのリンゴが出来てしまい、どうせ本物なんて誰も見たことないんだからと言って名付けたかららしい。
神をも恐れぬ蛮行ではあるが、実際に本物を目にした者はいないので別にいいのだろう。美味いし。

無慈悲な宣告にマナは露骨に気落ちした。耳元で溜め息を十六連射している。普通に耳がくすぐったいので勘弁してもらいたいものだ。
このまま撤退するのはあまりに不憫なので、評判の良い果物をバスケットいっぱいに購入する。これで我慢してもらおう。

市場を出ながら考えていたのだが、ラベルが貼られているような果物が本物の世界樹の果実じゃないことに気づいてしまった。
ラベルを用意する程度には量産しているわけだし、そもそも本物だったらあんなならず者が持っているわけがない。争奪戦という名の戦争が現在進行形で起きていることだろう。
リヒトはまた一つ賢くなった。

何をするかを↓1にどうぞ。

「輸送力が足りない」

「ふぇ?」

採れたて果実をふんだんに使ったフルーツジュースを味わいながら、突然リヒトがそんなことを宣う。
ストローを口に入れたまま、ウィンディは首を傾げた。急に何を言ってるんですか、という目をしている。

「運べる荷物が少ないからな。俺は言うまでもないし、君だって沢山運ぶのは相当しんどいんだろ?」

「まぁ、はい。もう少し身体が頑丈だったら、大丈夫だったんでしょうけど」

同志になるにあたって、彼女の風魔法についてはある程度教えられている。風魔法による物資輸送も出来るらしいが、身体への負担が大きいそうだ。
輸送力は馬車一台分が限度で、輸送を終えたら二日は高熱と倦怠感で寝込んでしまうらしい。代償が大きすぎて、訊いた時は反応に困った。
リヒトは言うまでもなく輸送力が低い。大の大人二人分を持っていけるかどうかである。

「だから、馬か竜を買う!オマケに荷車が付いてくるからお得だしな!」

「お金は足りるんですか?」

「足りる。まぁほとんど使い切っちまうけどな…」

簡単に頭数を揃えられる馬なら二匹、比較的調教が難しい竜なら一匹飼えるくらいの残金だ。財政も厳しいのは本当に困る。0から始めているのだから仕方がないが。

「あとは、野生の馬や龍とかをとっ捕まえるかだな。俺に才能があるか分からんが」

自然界で悠々と暮らしている駿馬や龍種を調伏するには、彼らに認められる必要がある。
それを出来るかどうかは、試してみないと分からない。成功するか。はたまた失敗して骸になるか。それも同じく。
普段何気なく利用している生き物は皆、先人たちの努力と犠牲の賜物なのだ。

どうふるかを↓2にどうぞ。


A:馬をX頭飼う(1か2のどちらかも記入すること)
B:竜を一匹飼う
C:野生のものを捕獲出来るか試す
D:保留


馬と竜の違い


馬より竜の方が輸送力は大きくタフで、戦闘もこなせる。が、その分効果。
馬は比較的安価で数を揃えやすく、非常に従順。


竜と龍の違い


竜は飛行能力を持たず、龍は飛行能力を持つ。というより、地上主体か空中主体かが違う。飛竜種と牙竜種の違いと思ってください。
どちらも主と認めた者にのみ従順になるので調教が大変。故に、龍騎士や龍使いは高級取りである。

ターゲットの強さを設定します。↓1にどうぞ。


A:弱いやつ
B:竜舎で買える程度のやつ
C:強いやつ
D:はちゃめちゃが押し寄せてくるやつ

どれをターゲットにするか↓3まで募集します。
候補内からコンマで後程判定します。
テンプレートを使ってオリジナルの竜をお出ししても大丈夫です。


【テンプレート】
【名前】その名の通り。
【異名】その名の通り。


【名前】グラトルス
【異名】氷雷龍
天貫の霊峰と呼ばれる地域を支配する偉大なる龍。そもそもが人跡未踏の領域なので、氷雷龍に対する情報が少ない。
純白の甲殻に身を包んでおり、凛然とした佇まいが美しかったとだけ文献には記載されている。


【名前】ルシオルム
【異名】冥天竜
喰命のアギトと呼ばれる大穴を縄張りとする高潔なる竜。グラトルスと同じく情報が少ない。
闇の魔力を自身の力とし、領域に踏み入れし愚者を自身の血肉に変える。

厩舎に置いているカタログに目を通すが、リヒトの心は動かない。目が肥えている、と言った方が正しいだろうか。
以前の戦争では、色々な敵と戦ってきた。戦いまくった。戦うしかなかった。
何千もの軍を蹴散らし、空を覆わんばかりの龍の群れを蹴散らし、逆に蹴散らされ。数多の命を喰らい、奪われ。
その果てに戦争は終わった。敵軍の首魁の死を以って。

そんな経験があるため、リヒトの脳内には過去に殺し合った強敵たる龍がウヨウヨいるのだ。そんな奴より俺の方が強いぜ?と自己主張しまくりである。
故に、興味がびっくりするくらいに湧かなかった。言い出しっぺは自分なのに。

「怖そうなのばかりですね…」

対照的に、そんな化け物軍団と戦ったことのない温室育ちの魔法強いは、カタログに載っている竜たちの売り文句を怯えながらも眺めていた。興味を持っているようだが、リヒトにこれらを買う予定は無い。

もっと強く、もっと上を。見ただけで外敵が震え上がるような圧倒的な威を持つ強者を、リヒトは望んでいる。
どうか強そうな奴がいますように。そんな願いを込め、ついさっき購入したドラゴン図鑑を開いた。

「!!!!!」

分厚い図鑑を流し読みしていると、電撃に撃たれたような衝撃が走った。これは運命だと、魂がそう告げる。

「俺はこいつらを捕まえる」

「えぇぇぇっ!!?!!?!!」

リヒトが指差したのは、常人なら挑むどころか触れようともしない、災害級の化け物だった。

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『邪眼竜ゲイザリオン』。光亡(ほろ)ぶ湖沼(こしょう)と呼ばれる、南方に位置する沼地を縄張りとする黒竜だ。
深淵の如き漆黒の鱗が全身を覆い、邪眼竜の名が示す通り、全身の至るところに目玉が存在している。
そのいずれも魔眼と呼ばれる魔力を秘めた瞳であり、見つめられた際にどういった悪影響を及ぼすかは不明だという。
ドラゴンの中でも優れた知性を持ち、人間と遭遇しても攻勢に出ることはまずない。が、試練と称した難癖を付けて弄んでくるらしい。
現在までに確認出来た試練は『不死鳥(フェニックス)の炎で焼いた肉を持ってこい』といったお使いから『冥天竜を狩り殺せ』といった、自身と同格の魔物の討伐まで多岐に渡る。
どの試練も一般人には荷が勝ちすぎており、英雄級の実力があっても躊躇すること請け合いの無理難題、いわゆるクソ問題を押し付けては諦める様を見て愉しんでいる。本人(?)には悪意が無いので尚更タチが悪い。

『彩珍竜ヌ・レオン』。七色に輝く鱗と羽毛に覆われた六脚の竜。先端が割れており、物を掴んだり投擲出来る尻尾が特徴的だ。
普段は深い森の奥で爆睡しているのだが、気まぐれに人里に降りてきては、子供の服を引き裂いて大笑いする傍迷惑なドラゴンである。
それ以外には何をするのか全く予想がつかず、ある時は集落だけを踏み潰して去っていき、またある時は魔物の大移動を先導したり、集落を狙ったならず者を追い払ったりと行動に規則性が無い。
暇つぶしなのか挑発なのか習性なのか判断が付かないため、面倒事にならないように『ヌ・レオンを見たらとりあえず逃げろ』と非常に恐れられている。
本人(?)に悪意は無いのかもしれないが、とにかく迷惑な存在らしい。彼に性癖を歪まされた人もいるのだとか。

『氷雷龍グラトルス』。天貫の霊峰と呼ばれる山地を支配する純白の龍だ。彼の地自体人が踏み入れられるような場所ではないため、目撃情報も非常に少ない。
氷と雷の入り混じった吐息を吐くだの、それらを体表から放出し、環境を変えてくるだの言われているが、真相は不明だ。
だが、目撃者が一様に言っていたことがある。
それは、『凛然とした佇まいは、女王のように偉大で美しかった』ということだ。

独断と偏見により、最初のターゲットはヌ・レオンに決まった。ウィンディの服がビリビリにならないか心配である。

「そうならないように守ってくださいよ!?」

「善処する」

善処はするが、約束は出来ない。もしビリったらごめんと内心で謝罪しておいた。

これからどうするかを↓1にどうぞ。


A:ヌ・レオンの生息地の近くへ突撃
B:別の町で準備とかをする
C:自由安価

強大なドラゴンを従える。そう決心したリヒトの行動は速かった。
今回のターゲットである三匹のドラゴン。その中で最も近郊に棲み着いているヌ・レオンを調伏するべく、三人はひたすらに広大な大地を駆けていた。

「ちょっ、速いですって!」

「善は急げって言うだろ?ほらもっとスピード上げろ!ハリーハリー!!!」

「えぇ…?これっていいことなんですか…?」

手足をシャカシャカ動かして高速移動をする幽者の後続に、風を纏って宙を舞う魔法使いがいる。ひょっとしなくても不審者軍団である。
草原を疾駆する二人組に魔物は手を出せず、関わり合いになりたくないとその場を逃げ出した。

「どうしてだろう。魔物から憐れみの目で見られてる気がします…」

脱兎の如く逃げ出す魔物を尻目に、ウィンディはそんなことを呟いた。

「ようこそ旅の方。安息の村カーナンへ」

家畜がのんびりと放牧されている、のどかな村へ到着する。ここカーナンがヌ・レオンの生息地に最も近い村であり、最もヌ・レオンの暇つぶしの被害が出ている村である。
視線を村中に向けると、潰れて無惨な姿になっている住居が複数見られた。

「ああ、アレですか?…ヌ・レオンの悪ふざけで壊れたんですよ。元々老朽化で壊れそうだったから、被害者は全然気にしてないのはよかったのですがね」

出来れば後始末までしてほしかったと、恨み節が聞こえた。気持ちは分からなくもないが、文明のことを知らないドラゴンにそこまで求めるのは酷というものだろう。

「それにしても、平和な感じですね。ヌ・レオンが近くにいるとは思えません」

「奴に殺された人も怪我させられた人もいないので。動向を警戒はしていますが、存在そのものを脅威と思っていないのですよ」

いつ彩珍竜が蹂躙を始めるか解ったものではないので、無視するわけにはいかないのだろう。だが、それと同時にただの一度も犠牲者が出ていないので、楽観視しているのも事実だ。
彩珍竜の気が変わったりしなければいいが、と不安に駆られたリヒトたちは、間違っていないだろう。

何をするかを↓1にどうぞ。

情報入手 判定↓1コンマ
今回の更新はこれまでです。


01~60:面倒事はやめろってんだろ
61~90:何があっても知らないかんな
91~99:暇なので来ましたー
00:???

「…醜いところを見せたな、すまない」

「別に吾輩は気にしておらんよ」

ジュースにお肉にと食事を堪能しているとこらから見るに、全く気にしていないようだ。
彼はただメモ帳の情報を伝えているだけなのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

「気を取り直したところで、魔王に関する情報をもう一つくれてやろう。お口直しというやつだな」

「さっきみたいなのは勘弁だぞ」

「心配ご無用。今度は吾輩も気を遣っているのでな」

と宣言したデュンケル曰く、イルステッド最東端の『イミナの岬』と呼ばれる場所に屋敷があるらしい。
そこの主は『エル・ヒュプティル』。近郊の魔族を統べる女王にして、《眠りの魔王》の異名を持つ。その異名の通りほぼ年中眠りっぱなしで、一年のうち起きている時間は十時間にも満たないとの噂があるが、食事などはどうしてるのか気になるところである。
普段は集合的無意識内を漂い人の見る夢の世界を渡り歩いているらしく、気まぐれに人に預言をしたり悪夢から救ったりしているのだとか。
嘗て、無理に眠りから目覚めさせた魔王がいたらしいが、その後の消息は一切不明と恐ろしい話もある。
『モルちゃん』という名前のバクのぬいぐるみを肌身離さず持ち歩いて(抱きしめて寝て)いるという。

「destani destani dal viaggio infinito(目覚めよ 目覚めよ 終わりなき旅より)。醒めない悪夢に苦しむ時はこの言葉を二度呟くといい。これは魔族間では有名なおまじないでな。これを呟くことで、眠りの魔王が悪夢から救ってくれるのだ。吾輩は悪夢など見たことがない故、使ったことは無いが」

「人間が使っていいのか?」

「良いのではないか?」

半ば投げやりな返答に呆れつつも、リヒトはおまじないの言葉のメモを取る。もしかしたら、本当に効果があるのかもしれない。そんな僅かな希望を込め、ペンを走らせた。

「しかし、人間の料理は美味いな。魔族にも料理上手な者はいるが、割合は比較にならん。どこで食べても一定水準の味が保証されるのは、健啖家な吾輩としては好ましい」

舌鼓を打つデュンケルにリヒトは同意を示す。食事というものには荒んだ心を癒す効能がある。
生きているものは皆腹が減る。どれだけ苦しい環境にいても。どれだけ心が傷ついていても。平等に。
そんな時に食う食事が不味ければ、より心は荒んでいくだろう。逆もまた然り。
故に、人類は料理に対する研鑽を怠らなかった。必ず食事をするのならより美味なものを味わいたい、と考えるのは当然だからだ。

「デュンケルメモにはまだまだ余裕がある。貴殿が望むなら、食事一つで情報を与えよう。等価交換というものだな」

「ならこれとこれとこれを奢るんで情報をください」

「交渉成立である」

メニューから男が好きそうな料理を見繕い、注文する。とりあえず肉料理を選べばなんとかなるものだ。

「美味い」

なんとかなった。

「魔王の更に上の存在…俗に言う大魔王ってのはいるのか?」

リヒトの問いに、口に含んでいたものを飲み込んだデュンケルは答える。メモ帳を見るまでもないようだ。

「全ての魔王が忠誠を誓う、大魔王という者はおらんよ。貴殿ら人類が同じように崇める人がいないようにな」

「なるほど」

「だが、それは今までの話だ。今後も生まれ得ないと誰が言えようか。未来のことは誰にも解らぬ。故に、今後も決して大魔王が生まれない…と断言はしない。もしかしたら、明日にでも出てくるかもしれんな」

国王が頭(こうべ)を垂れる相手がいないように、魔王が忠誠を誓う相手も存在しない。だがそれは現時点の話であり、今後どうなるかは解らないから敢えて断言はしない。
なるほど、至って普通な解答だ。子供でも解ることである。リヒトはまた一つ賢くなった。


「次は…そうだな。人類に友好的な魔族はいるか?」

「変なことを問うものだ。イルステッド内で魔族と敵対していたのはレムカーナの民くらいだろう。他は中立しているか友好的かのどちらかだ」

「まぁその要因は領土争いをしている最中に、魔族まで相手取っていては堪ったものではないからだろうが。自身を脅かす脅威を排除した後に、魔族と変わらず友好的に接するかまでは解らんな」

この世界には、未だどこの領土にも属していない土地が膨大にある。人類意志の統一などは全くされていないため、無数の小国が覇を競っているのが現状だ。ある意味ではリヒトたちもそのうちの一つとも言える。

「手っ取り早く魔族と交流するなら、緋桜郷に向かうが吉だな。あそこの頭領は鬼…魔族の一種族だし、多種多様な人種があの郷で暮らしている。治安も申し分ない」

「行ったことないんだよな俺。素性がアレだし」

魔族を散々殺してきた自分が、魔族の統べる街に行っていいのか。そういう後ろめたさもあって、緋桜郷に足を運んだことは無い。
多少の反感は承知で事を起こすのが、今の自分に必要なものだと言われればそれまでなのだが。未だに二の足を踏んでいるのは、殺めることの重大さを知っているが故か。

デュンケルと会話をしながら、リヒトはそんなことを考えていた。

「あと一つ聴けるんだっけか。んー…なら、やっぱり魔族内でも差別とか迫害ってあるのか?」

「人類がそうするように、魔族でも同様のことはある。弱者は虐げられ淘汰される。それは、自然界でも当然起きていることだ。生命の背負う原罪とも言えよう」

「…されてる側はどうしようもなく辛いものなんだがな」

リヒトはそう呟き、デザートのプリンを口にする。トッピングされていたチェリーはマナに食べさせる。そこまで美味ではなかったのか、僅かに渋面を作っていた。

光の差し込まない部屋。音の聞こえない密室。規則正しい時間にのみ支給される食事。何を言っても。願っても。それは聞き届けられず、閉じ込められた。
忌まわしき記憶を思い出し、リヒトは微かに笑う。あれだけの苦痛によく耐えられたと、過去の自分を褒めちぎりたいくらいだ。

「だから俺は、助けたいと思った」

「虐げられている者を、か?」

首を振り答える。デュンケルは暫しの間黙考し、食事を再開した。その行為の意味をリヒトは考えることはせず、同様に食事を続けた。

デュンケルと何を話すかを↓1にどうぞ。

どういう原理なのか、家の周囲には花が咲き乱れ野菜が栽培されている。ここだけが別世界のようにも見える。
なるほど、聖域と呼ばれるだけはあると、リヒトは感心した。一つ間違えば即死しかねない魔境に接している、脅威無き楽園。安寧のゆりかご。魔なるものが触れることは赦されないその家屋は、聖域そのものだ。
ジャブジャブと音を立てつつ歩みを進め、足場に近づく。すると。

「なにこれ」

謎の言語が書き記された巻物が、家を囲っていた。古代文字のように見えるが、知識の無いリヒトにはそれが何語なのかは判断出来なかった。
達筆なのか下手くそなのか、ミミズが這ったような文字は無秩序に巻物を汚し、独特な紋様を描いている。巻物に囲まれた中に家が建っており、菜園もその中にある。

聖域の部分だけ地面が隆起して陸地を形成しており、そこに家が建てられて巻物が敷かれている形だ。菜園などを含めた聖域の敷地は縦15メートル、横10メートル程。なかなかの広さである。

しかし、何故この場所だけが安全なのか。その理由がこの巻物にあるのは状況的に明らかだが、どういう理屈なのかは見ただけでは分からない。
試しに数度巻物を跨いでみたが、何も変わらない。せいぜい中の空気が美味いくらいだ。
ならば、とそこら辺を泳いでいたサハギンと呼ばれる二足歩行する魚に似た外見をした魔物をとっ捕まえ、聖域内に投擲する。
巻物上を通過した瞬間、サハギンの肉体は光に置換され、消滅した。

「…なるほど。俺の結界と似たタイプの魔法だな。性能は俺のオリジナルと比べるのも失礼なレベルだが」

シルヴィアの魔改造によって難攻不落の要塞と化したリヒトの結界は、当初は酷い有様だった。本当に酷かった。
防御力自体はそれなりにあったのだが、敵も味方も関係なく、発動者であるリヒト自身さえも平等に光で焼いてしまう無差別攻撃だったのだ。
幸いにしてリヒトの結界で味方側に死者が出ることは無かったが、当時はブーイングの嵐を浴びていたことは記憶に新しい。
寝ぼけた頭をスッキリさせるにはちょうどいい、と聖女にフォローされていたが、そんな生優しい威力ではないことを発動者が知らないはずがないので、フォローになっていなかったりする。

そんな魔法に比べたらこの聖域を維持している巻物は月とスッポン。両者を比較しようとするのが恥ずかしくなってしまうほどに、隔絶した差がある。
誰でも使えそうな便利アイテムっぽいので差し支えがなければ後で何個か貰おう、と交渉することを心に決め、門を叩く。すると、ゆっくりと扉は開かれた。

「若い命を無為に散らすな。大人しく回れ右するがいい」

聖域の管理者とご対面すると同時に放たれた言葉がコレだった。この手慣れた感じ、聖域を訪ねた人全員に言っているに違いない。
ケープを羽織った老人の声は嗄れており、服から顔を出している手足は枯れ木のようにやせ細っている。とても弱々しい姿であり、見ているこちらが少し目を離したらぽっくりと逝ってるんじゃないか、と不安になるほどだ。

だが、件の情報からするに、彼が邪眼竜の加護を受けた人物と見て間違いないだろう。そもそも、こんな場所に暮らしている時点で普通ではない。

「遊び半分で邪眼竜に見えるのは辞めておけ。奴はそこまで安い存在ではないし、失礼にあたる。全てを…命さえも捨て去る覚悟を持ち来ることだな」

「それに、貴様は少々実力が足りていないように見える。このまま邪眼竜に謁見しても、その前に野垂れ死ぬか興味が無いと一蹴されるのがオチだ」

本当に酷い言いようである。とはいえ、覚悟云々については反論する余地は無いので大人しく聞くしかなかった。
たしかに、骨を埋める前提で邪眼竜に挑まないのは無礼にもほどがある。が、こちらにも死ねない理由があるのだ。
とも思ったが、それが間違いなのだろう。死ねない理由が万とあろうとも、滅ぶことを懸念し、安全策を講じ、危険と見るやすぐ退散するような輩に邪眼竜や氷雷龍が恭順するとも思えない。

それに、実力不足と断じられるとは思わなかった。死ぬ可能性はある、とは考えていたのだが、勝ち目が無いほどに力が足りていなかったのだろうか。

「足りんな。老いた私と同格程度では、奴に膝を突かせることも敵うまいよ。多く見積もって、勝ち目は二割有れば良い方だろう」

「そんなに」

自身と邪眼竜の実力差もそうだが、眼前の老人の強さに心底驚く。今の自分と、年老いて身体も、心も、魔力も弱った彼が同格とは。
最盛期はどれほど強かったのだろうか。

憩いの守人(ヴィクター・グランハイト)と何を話すかを↓1にどうぞ。

「…せっかくここまで来たのだ。満足のいく物は出せないが、細やかなもてなしをさせていただく」

と気遣ってくれた老人は、その辣腕を存分に振るい食事を作ってくれた。
ラインナップは野菜のスープ、野菜のソテー、野菜炒め、野菜のサラダ。
いくつかジャンルが被っているが、こんな場所で食べれる食事などに大したレパートリーは期待していなかったので問題ない。サハギンの丸焼きとかが出ないだけマシとも言える。
まあ、ゲテモノだろうと何だろうと、食べて死ぬような劇物でなければリヒトは平気で喰うのだが。

「味うっす」

「贅沢を言うな。こんな場所で調味料など手に入るか」

淡白で薄い味が口に広がる。素材の風味を活かした、と言えば聞こえは良いが、ただ単に味付けしていないだけである。
不味いわけでも美味いわけでもない。ただただ薄い。それだけだ。
なので、リヒトは振る舞われた食事全てを平らげた。腐肉を喰らって生きてきた過去に比べれば、この食事はどれだけ上等なのかは言うまでもない。

「…文句を言う割には良い食べっぷりだな」

「文句を言ったつもりはない。ただの感想だ」

リヒトの物言いに老人はしばらく唸り、やがては押し黙った。何やら憐れんでいるように見えたが、こちらに憐れまれる謂れはない、とリヒトは鼻を鳴らす。

「邪眼竜…ゲイザリオンのお題を放棄して逃げた場合って、何かペナルティがあったりするのか?」

「………」

リヒトの問いに老人は口を噤む。無謀な挑戦者に話すことはないのだろうか。そんなことを考えていると、不意に口を開いた。

「…時と場合による。例えば、今のように邪眼竜に見える前に回頭して去るのであれば、何もしてこない。だが、奴に謁見し、遊び半分で試練を受けたのならば」

「ならば?」

「貴様なら死にはしないだろうが、かなり重い呪いを掛けられる。常人なら狂死する程度のな」

「…ノーペナはないよなそりゃ」

邪眼竜の呪い。聞いただけで碌でもないことになるのが目に浮かぶ。全身の皮膚が腐るくらいはしそうだ。リヒトは興味本意で呪いの内容を訊いてみた。

「む…。個人差はあるが、肌荒れや不眠、重度の便秘や頭痛に見舞われることになる」

思ってたのと違う。と、リヒトは老人の返答に脱力するが、真剣な顔で抗議される。

「甘く見るな。便秘で亡くなることは往々にしてあり得ることだ。貴様は知らんだろうが、過去に某国の王が便秘で死に、大混乱が起きたことがある」

「それに、邪眼竜の呪いで狂死する過程で先述した症状が出てくるだけだ。何を施しても快復に向かわないことに精神を病み、呪いそのものがさらに精神を蝕むことで死を迎える」

地味な内容だったが、聖域を管理する彼が言うのなら、あながち嘘と断定は出来ない。
ふと、レムカーナでの騒動を思い出し、腹痛が蘇る。ギムレイン嬢の呪詛魔法も実は、邪眼竜級の力を秘めているのかもしれない。

憩いの守人(ヴィクター・グランハイト)と何を話すかを↓1にどうぞ。
これが終わると、ゲイザリオンに挑戦するかの最終確認が行われます。

どういう方向性で拠点を発展させるかを↓3くらいまで募集します。その中から多数決で後ほど決めます。

キャラが数名思いついたので併記します。どれも元ネタがありますが、たぶん解る人はいない。


【名前】ドラル・スラグナ
【人種】龍人(ドラゴニュート)
【性別】女性
【魔法】無し
龍人の中でも特に希少な鋼龍人種(メタルドラゴニュート)の女性。銀色の髪と角が特徴で、手足は鋼の如き鱗を纏っている。
思慮深く温厚篤実な性格で、激昂することは全く無い。だが逆鱗を十六連打したらさすがにキレる。
鋭い爪を活かした肉弾戦と燃え盛る炎のブレスを巧みに扱うスタイルを好み、鋼龍人種特有の頑丈な体質もあって非常に打たれ強い。
肉よりもスイーツが好きだが野菜は嫌い。背中の羽根が邪魔で仰向けに寝るのが難しいことが最近の悩み。


【名前】サンドラ
【人種】獣人(ハリネズミ)
【性別】女性
【魔法】無し
金髪で各所に針を生やしている獣人の少女。 全身の針は発電と蓄電を司っており、発振させることで電力を生み出し、意志に応じて炸裂させる能力を持つ。落雷が直撃しても平気。
明るい女の子だがとても他人想いで、他人第一で行動するやや危なっかしい一面を持つ。
好きな食べ物はフルーツ全般で、特に葡萄が大好きで乾燥させたものを肌身離さず持ち歩いている。
全身がトゲトゲしているので他人との肌の触れ合いを嫌っているが、偏に他人を傷つけたくないからである。
ジメジメした場所と雨が大嫌い。

【名前】ミリア・サリヴィル
【人種】魔族
【性別】女性
【魔法】回復魔法
他者と主従契約を結ぶことで生命力を分けてもらう、特殊な一族出身の女性。サファイアのような青い髪、アメジストのような紫色の肌が特徴。
本人は非常に出来た性格で優しいのだが、肌色などが人間のそれとは全く違うため敬遠されている。絶賛主人募集中。
誰かに尽くす生き方しか知らないため、普段着はメイド服。獲物は三叉槍(トライデント)だが、サポートが主なのでそこまで得手ではない。
料理洗濯掃除おつかいお守りなんでもござれ。
何があっても、どれだけ悪逆非道を重ねようとも主人を裏切らない、裏切れない、絶対に見捨てないある種の危うさを秘めている。

A

緋桜郷までの道中イベント数は2です。
緋桜郷の支配者とお目付役兼世話役を募集します。こちらでも用意しているので、そちらを使う場合は付けたい名前を記載してください。
次回投稿をするまでを募集期間とします。その中から独断で決めます。


道中イベント 判定↓1コンマ


01~15:魔物の群れが現れた!
16~30:ならず者が現れた!
31~70:何も起きなかった!
71~85:行商人が現れた!
86~99:何かが起きた!(自由枠)
00:???


【緋桜郷】

鬼の女性が統治する繁華街。賭場や風俗店、居酒屋や旅館が所狭しと並ぶ享楽の郷であり、娯楽を求めて訪れる人は多い。
誰だろうと平等に迎え入れるため様々な人種が居住しており、鬼が統治しているからなのか、魔族の比率が比較的大きい。
過去に支配を目論み戦争を仕掛けた国があったが、跡形もなく滅んでいる。


【支配者】

【名前】安価で決定します(和名限定)
【人種】鬼
【性別】女性
【魔法】血液魔法
緋桜郷を統治する鬼の女性。まだ鬼の中では若い部類に入るが、それでも100歳は超えている。
艶やかな着物に身を包んでおり、《名刀・血染メ桜》と呼ばれる太刀を所有する。
緋桜郷の発展に尽力しているが、仕事優先で彼氏が出来ないのが最近の悩み。


【お目付役兼世話役】

【名前】安価で決定します(和名限定)
【人種】鬼
【性別】女性
【魔法】氷魔法(忍術)
旅館『牡丹雪』で働く女将。結構歳は行っているのだが見た目は若々しく、子供にしか見えない。
支配者が産まれた時から面倒を見ていたためとても仲良しで、非番の日は様々なことで愚痴っている支配者を慰めながら酒を飲んでいる。
現在は若い人優先で仕事を回しているので出番は少なく、本人がお相手をすることはほとんど無い。
実は荒事に滅法強く、蛮行をやらかす不届き者は彼女によってゴミ捨て場に捨てられるのはある種の名物になっている。

>>1案で
名前は
支配者:彼岸花 紅華(ヒガンバナ ベニカ)
お目付役兼世話役:白樺 涼雪(シラカバ スズユキ)

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「手前味噌やけど、わっちってかなりの別嬪さんやと思うんよね。なんで断ったか訊いてもええ?」

「えー…。初対面の人の告白とか厄ネタでしかないだろ、普通に考えて。いくら貴女が美人だろうと、交際(そんなの)を軽々しく受けるほど馬鹿じゃないつもりだ」

「むむ、そこまで言われると困るなぁ」

それはさておき、と付け加えリヒトは荷物を下ろす。ウィンディはハリゴーディンの後ろに隠れ、チャカを抱き締めている。

「呼ばれておいてなんだが、良い宿を知らないか?しばらくここに滞在する予定だから、ちゃんとしたところを選びたい。貴女がこの郷の長なら、一番この郷のことを知っているはずだ」

「わっちが兄さんらを呼び付けたのも、ちょうどその件に関わることなんよ」

紅華は侍従に指示を出し、酒と簡単な料理を提供してきた。ウィンディはまだお子様なので、甘酒なるノンアルコールの飲料が出されている。

「兄さんの武勇は、ここ緋桜郷にも知れ渡っててな。レムカーナでの弑逆が兄さんの仕業やとゆうのはわっちらくらいしか知らへんけど」

「…そうなのか?レムカーナで特級指名手配されてるから、どこに行ってもお尋ね者になってるかと思っていたんだが…」

「よそはよそ、うちはうちや。レムカーナの王の豹変ぶりはそれ以上に有名やったし、そもそも他国で何やらかそうが、わっちのシマを荒さんなら特に文句は言わんよ」

「レムカーナが勝手に、兄さんを目の敵にしとるだけ。よほどレムカーナと親密な街でもなければ、偽名を使ってまでコソコソする必要はあらへんよ。…少なくとも、この郷にいる間は兄さんたちの安全を保証するわ」

「兄さんを警戒するのは、悪行に身に覚えがある人だけよ。わっちらが滅される道理はあらへんのやから、邪険に扱うなんて馬鹿らしいわぁ」

慣れた手つきで酒を飲む紅華は艶かしく、自身を美人だと褒めるのも当然だと思えるほどに美しい。
促されるままに一杯いただく。緋桜酒独特の風味が喉を焼いた。正直、自分の舌には合わない味だ。
飲めないわけではないので、責任を持って全て飲ませてもらったが。

「変な味ですぅ~…」

ウィンディも、甘酒の個性的な味に四苦八苦していたようだ。
その一部始終を見ていた紅華は、クスクスと笑っていた。

全員が飲み終わったのを確認し、侍従が酒瓶などを回収する。部外者がいなくなった後に、紅華は口を開いた。

「過去に何があろうとも、今の兄さんたちは緋桜郷を訪ねた客人。なら、丁重にもてなすのが道理やろ?」

「そこまで評価してくれるのはありがたい」

僅かに視線を背けつつ、そんな言葉を返す。我ながら素直じゃないな、と心中で吐き捨てた。

「兄さんたちの泊まる宿は既に手配済みや。二番街の旅館『牡丹雪』。わっちの恩人が経営しとる宿でなぁ。サービスの質は桜花衆頭領のお墨付きや」

「宿泊費は桜花衆持ち。各種追加サービスは自己負担やけどそこはご理解いただけると嬉しいわ」

手厚いサービスをしてくれるのはありがたいのだが、そういうことをしてくれるということは、彼女側にも要求があることに他ならない。
何をすれば良いのか、リヒトは訊いてみた。

「察しが良くて助かるわぁ~。わっちらの望みはただ一つ。兄さんたちの活動が成功した暁には、緋桜郷も一枚噛ませてほしいんよ」

「成功するか解らんものに良く賭けられるものだ」

一年経っても何も成し遂げていない、前に進めていない現状。それを知っているが故の自虐。
紅華はそれを気にすることなく、平然と続ける。

「必ず当たる博打をしたって面白ないもんよ。それに、兄さんの眼がとっても綺麗でなぁ。どうしてか手を貸したくなるんよ」

紅華の言葉に、リヒトは返答に困る。
不思議な眼と言われたことはあっても、綺麗だと言われたことは無かった。
家を追われた原因たる紅眼は、どうしても好きになれなかった。自分が、嫌いだったから。
故に、リヒトは何も言えなかった。

急に押し黙ったリヒトを気遣ったのか、紅華はキセルの吸い殻を灰皿に落とし、手を叩く。
合図に合わせて襖が開かれ、女性が部屋に入ってくる。女性と言っていいのか分からないくらい、幼かったが。

「後のことはお雪に任せます。ほなまた」

踵を返した紅華は部屋の奥へ進む。ひとりでに襖が閉じ、姿が見えなくなった。
こほん、と咳払いをした女性は、嫋やかにお辞儀をした。

「わしの名は『お雪』と申します。皆様方が利用される旅館『牡丹雪』の女将を務めてますのでお見知りおきを」

「…私よりちっちゃい」

ウィンディが言う通り、お雪と名乗った女性は小さかった。目測だが、身長は130cmあるかどうかといったところだ。とても大人には見えない。
だが、彼女は少なくとも自分たちの数倍は生きているはずだ。紅華と同じく、鬼の象徴である角が髪の中から見えている。

子供のような顔つきをしているが、とても知的で大人らしく見える。眼鏡を掛けているのもその一因だろうが。

「わしのことが気になるのでしたら、夜に伺いましょうか?」

「んぁ?…あー、いや、大丈夫です」

言葉の意味を咀嚼し、言外に何を示しているのか理解する。そういえば、この郷は"そういう場所"だった。

「?????」

まだまだお子ちゃまのウィンディは話の意味が理解出来ていないようだった。何よりである。

お雪に手を引かれるままに道を行く。二番街と呼ばれる場所は、いわゆる緋桜郷の一等地で、最高級の店舗のみが軒を連ねる激戦区だ。
その中でも『牡丹雪』は特に評判が良く、リピーターもかなり多いのだとか。

牡丹雪に到着するまでの間、お雪と手を繋いでいたわけなのだが。
時折こちらを振り向いては蠱惑的な笑みを浮かべていたのが不思議でしょうがなかった。
何か気になることでもあったのか質問を何度かするも、それとなく躱されてしまい全く追及できなかった。

八階建ての大きな旅館『牡丹雪』。名店が鎬を削る激戦区で、何百年も在り続ける旅館は伊達ではなく、高級感が溢れて入るのも憚られるほどの迫力があった。

「「「おかえりなさい女将さんっ!!!」」」

お雪が中に入ると、着物を着た女性たちが元気にお出迎えをする。
大人から子供まで年齢は様々だが、大人の人は随所にスリットを入れたりして、肌を見せていた。なんとも目に毒だ。

「皆に紹介するよ。この方たちは頭領さんの友人のリヒトさん。これからしばらくの間、牡丹雪預かりとなります。仲良くしてあげてね」

「「「はぁーい!」」」

明るい声で迎えられ、リヒトは何となく顔を背けた。ウィンディは半分放心しており、ハリゴーディンに抱えられていた。
そして、二人は気づく。どう考えてもここは大人の店なのだと。
旅館としての側面を持つ、えっちな店なのだと。

冷や汗を流す二人を見て、お雪はくすりと微笑んだ。

お雪に聞きたいことがあれば↓1にどうぞ。
また、牡丹雪で働く人を数名募集します。彼女たちは何回も交流を重ねれば仲間になる可能性を持っています。

ちなみに、緋桜郷はその性質上、奴隷階級の人たちは桜花衆の傘下か店で働くかの二択を選びます。働く内容も基本的には希望制です。

(板的にも)えっちいことするつもりないんだが普通はそういうこと全くしない客でも泊まれるのか

従業員
【名前】結衣乃(ユイノ)
【人種】鬼
【性別】女性
【魔法】紡績魔法(糸生成・使役)
旅館『牡丹雪』の従業員。夜の接待と衣装制作、修繕担当。ウィンディと同じくらいの歳……らしいがメリハリあるボディはとてもそうとは思えない。
髪型は大元はツインテールにしているが毛先が多方向に跳ねている。
のんびりおっとり、間延び口調で話す。(キレると無口に)
自分を身請けしてくれる素敵な殿方を夢見ているが理想は高い。
使える魔法からアラクネの血が入っていることは確実だが捨て子のため詳しいことはわからない。

お雪に案内されたのは、旅館『牡丹雪』の七階。客人用の客室らしく、広々とした居間が広がっている。
ちなみに、牡丹雪は全室に露天風呂が設置されているらしい。大浴場は男湯、女湯、従業員用浴場の三つに分かれているのだとか。

近辺で採れたどんぐりを食べているチャカは、満足そうにウィンディに抱き抱えられている。
旅館内で粗相をしないか心配だ。もしやらかしたら損害賠償はどれくらいになるのだろうか。身体で払うのだけはしたくないものだ。
ともかく、今は行商人の調教の手腕を信じる他ない。

「この部屋はリヒトさん、こっちの部屋はウィンディちゃんたち。緋桜郷に滞在するうちは、我が家のように扱ってくれて構わないよ」

「我が家、ね」

反射的に言葉を零した、リヒトの表情が微かに曇る。周囲の人には読み取れないほどに些細な変化だし、当の本人も気づいていない。

「食事は毎食お出しするけど、他の子と一緒に食べるかこの部屋で食べるか、それとも外食するかは先に教えてくれると助かるよ。配膳の手間があるからね」

「風呂は大浴場を好きに使っておくれ。夜は掃除でお客さん用の浴場は閉めちゃうから、その時は従業員用のを使うといいよ。お前さんたちが気にしないのなら、昼間でも従業員用浴場は使っても構わないけれど」

「立て看板を作っておくから、一人で入りたい時は入り口に立てておけば他の子は入ってこないよ。昼に入りたいけど一人がいい…って時はこれがおすすめだね。昼も夜も、浴場はお客さんで賑わってるからさ」

「あとは、リヒトさんに対しての注意が一つ。追加サービスを希望するならその子と直接、値段とかを交渉しておくれ」

「はいはい分かりました分かりました」

あーあー聞きたくないと頭を振るリヒト。お雪は微笑し、頭を下げた。

「では、ごゆるりとお寛ぎください。身体と心が癒されること、わしら牡丹雪の一同は願っております」

「…どうも」

屈託のない明るく優しい笑顔に、頬を掻きながらリヒトは答える。何故か頬を上気させていたウィンディは、ぺこぺこと頭を下げていた。

そういえば、今はお昼時とはいえ他の客の姿を一切見なかった。風俗として利用する人はともかくとして、旅館として利用する客すらもいない。

「まっ、今週は定休週だからねー。牡丹雪は月に一度、丸々一週間お店を閉めるのさ」

「曲者!?」

荷物を降ろし、椅子に座って考えごとをしていたら、窓から声が聞こえてきた。
独り言などしていないので単純に心を読まれている。怖い。
カーテンを開けてみると、そこにはポニーテールの曲者がいた。

「曲者とは失敬なぁ!!!わたしは牡丹雪の従業員だよう!」

ぷりぷりと怒っている女性のお山がぶるんぶるん揺れる。着物を緩めているからなのか、ふとした拍子で見えそうで目のやり場に困る。
というより、何故彼女はバルコニーがあるのに窓にへばりついているのだろうか。
この高さから落ちれば常人は無事で済まないどころか間違いなくとんでもないことになるはずだが。

「女将さんが引っ掛けてきた男の人がどんなイケメンか気になってね。顔は及第点、身体つきも上々…というかやばいね!どんだけ鍛えてるのさ!勇者って皆こうなのかな?」

「引っ掛けてって…。俺は他の若い勇者を知らないから比較出来ないんだ、すまない」

「だよねー。わたしもそれなりにここで働いてるけど、勇者様のお相手をしたことは一度も無いからわかんないや」

勝手に窓を開けて転がり込んできた曲者。どうやって開けたのか、そもそも何故あんなことをしていたのかは触れないでおく。

「わたしは霧香(キリカ)。お呼びとあらば即参上!年齢はヒミツのイケイケ鬼ウーマンだよ!どうぞよろしく!」

決めポーズをバッチリ決める霧香改め曲者。
リヒトはただ、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

「ノリが悪いぞ少年ー!」

「きゃー!」

「待て待てー!」

興味深そうにドアの隙間から子供たちが中を観察してきたので、取り込み中でなければ自由に出入りしていいと伝えたところ、リヒトの客室は子供たちの遊び場になってしまった。
五、六階が従業員の区画らしいのだが、そこではしゃいだら他の従業員の迷惑になるのでわざわざここに来たのだろう。

「…羨ましいな」

自分には無かった、子供の時間。自由に遊び笑うひととき。
もし自分にもあったなら。そう夢想しても叶うことはなく、所詮はたらればだと諦めた届かない夢(まやかし)。
何度求め願ったのだろうか。数えきれないほどに欲した人との繋がりは、家を出るまで手にすることは出来なかった。
家を出て聖女に出逢うまでも、地獄に等しき悪夢の中を一人、彷徨い歩いていたが。

不幸の星の下に産まれたのではないか、と自嘲げに嗤う。子供たちにはその姿が見られることはなかったし、見られたくない。
この苦しみは、自分だけが感じていればいい。他人に共有して苦しませても、辛くなるだけだから。

憂いを帯びた瞳で、バルコニーに目を移す。鮮やかな緋桜が、今の自分には眩しかった。

「あの子たちのわがままを聞いてくださってありがとうございます」

「…ん…。礼を言われるようなことじゃないよ」

コトリ、と湯呑みを置きつつ、女の子が謝辞を述べる。
リヒトは視線を女の子に向けつつ答えた。
湯呑みに注がれていたのは温かい水。即ち白湯である。
ゆっくり飲み干してみると、身体の中からぽかぽかと温まる。熱すぎず冷たすぎない、絶妙な温度だった。
ちょうど喉も乾いていたからありがたい。

「雫(シズク)ちゃん、だっけか。しばらく迷惑を掛けるだろうが、ウィンディともどもよろしく頼むよ」

「はいっ!こちらこそよろしくです!」

人懐っこい笑顔を見せる雫は、将来性を感じさせる可愛らしい少女だった。
未来では傾国の美女と呼ばれているかもしれないが、牡丹雪の人は皆同じくらい顔立ちがいいことに気がついた。顔面偏差値のインフレが激しすぎる。

到着して早々、特にやることが無くて暇を持て余したリヒトは、仕入れた荷物の荷運びに勤しんでいた。
子供や女性に重い荷物を持たせて、のんびりするのは気が引けるという個人的事情もある。
こんなことにハリゴーディンを使うのはもったいないにも程があるので、リヒトが荷運びを行なっている。暇つぶしを兼ねているので当たり前のことだが。

まず最初に運んだのは、鮮度が命である食材類。両腕に木箱を担ぎ、樽を背負った姿は傍目には拷問に見えるが、リヒト本人はなんとも思っていない。
床が抜けないように一応浮遊しているが、それはそれで不気味な見た目になっていることにリヒトは気づいていない。

「おかげで助かったよ。ありがとう」

せっせと食材を整理している女性が、そんなことを述べる。
リヒトとしては暇だからやっただけなのだが、感謝はとりあえず受け取っておく。
ぶっきらぼうな態度は今更どうしようもないので、放っておいてもらいたいものだ。

「素直じゃないな、君は」

「素直じゃなくてすみませんね。どうせ俺は天邪鬼なガキンチョですよ」

本当に放っておいてほしい。

「そんな天邪鬼な君にお礼を差し上げよう。他の人には内緒だよ?」

リンと名乗った女性が差し出したのは、見るからに高級そうな魚の煮付けだった。
美味そうな匂いに思わず喉が鳴り、腹の虫が鳴く。
本当にこんな上等な品を食べていいのか訊くと、リンは頷いた。

「構わないとも。本来はお雪さんに食べてもらう試食品だったんだけど。それはまた作ればいいしね。君の感想を聴かせてほしいな」

「美味すぎて美味すぎる。俺の貧弱でゴミクズな語彙力では言葉に出来ません申し訳ない」

「そ、そうかい。そこまで喜んでくれるなら料理人冥利に尽きるよ。あと味が変わるから涙は拭いてくれ」

大粒の涙を流しながら試食をするリヒトに、リンは慌てふためいた。
その後、美味しさの秘訣を訊いてみるも、企業秘密だと躱されてしまったリヒトだった。

次に訪ねたのは医務室。《取扱注意》と書かれた箱を恐る恐る運び込み、机に置く。
薬品の匂いが鼻を突くが、嗅ぎ慣れない匂いはあまり気分の良いものではなかった。

「こんなにいっぱい薬品があると、どれがどれだか分からなくなりそうだな」

空の瓶を手に取り、説明文書に目を通す。専門用語の羅列に処理能力は敗北し、無言で元に戻した。

「知らない人にはそう見えるだけよ。知っていれば、ちゃんと違って見えるの」

カルテの整理をしているのは、牡丹雪唯一の女医である天狗『静音(シズネ)』。
やや短い黒い翼が種族を主張しており、グンバツなスタイルはちょっと子供にはお見せ出来ない色気を放っている。
それでいて、下品さを欠片も感じさせないのは背の高さと彼女の顔立ちの良さが関係しているからだろう。

「今はリヒトくんも、他の子と同じ大切な人だから。もし怪我でもしたらここに来なさい。完治するまで責任を持って看病するから」

「そりゃどうも。もしもの時は頼りにさせてもらうよ」

「約束よ?」

気のない返事をしつつ、リヒトは医務室を後にする。
自分が大怪我を負う時は相当に危険な事態になっている時だ。だから、彼女を頼る日が来ないことを祈った。

「ここでいいのか?」

「大丈夫ですよ~」

着物と生地が詰まった袋を置く。六階の一室に呼ばれたリヒトは、女の子の指示に従い荷物を運んでいた。
女の子の名は結衣乃(ユイノ)。本人曰く『ウィンディと同年代』らしいが、メリハリのあるボディを見る限りとてもそうには見えない。
げに恐ろしき脅威の格差社会である。同年代だからと比較されるウィンディが不憫でならない。彼女の明日はどっちだ。

純年齢が同じくらいなのか、人間に年齢換算すると同じくらいなのかは分からないが、どっちにしても今のウィンディに勝ち目は無い。
可能性に期待するしかないが、同じように結衣乃も成長する可能性を鑑みるとやはり、希望はゼロに等しいのかもしれない。

「ありがとうございます~」

「この量…君が皆の服を担当してるのか?」

リヒトが運んだのは袋が四つ。人数にして数十人の服を賄える量だ。個人の物とは思えない。
結衣乃はリヒトの質問を肯定する。
ちょっとした所作一つで結衣乃のたゆんたゆんが揺れ、その度に目の光を失ったウィンディを幻視する。
悍ましい密度の呪詛を吐いているようにも見えたが、リヒトが見たのは幻なので本人がそうしている可能性は無いだろう。
彼女は他人想いの良い子なのだ。たとえ自分の身体が貧相だからって恵まれた子を羨み恨むなんてことがあるはずがない。

こっそりウィンディの部屋を覗いてみるとそこには、虚な目をしたウィンディが無言で大量の牛乳を飲み干していた。
優しいリヒトは何も言わずその場を後にし、今回のことを忘却した。

亜人の居場所 判定↓1コンマ


01~30:今はもういない
31~99:未だに住んでいる人がいる
00:???


亜人の種族 判定↓2コンマ(上の判定成功時限定)


01~30:獣人
31~60:鬼、天狗
61~90:エルフ
91~99:自由安価
00:???

さて、彼はいったい何者なのだろうか。
武器を持っていること。行動を阻害しない戦闘向きの服を着ていること。荷物に保存食や水が所狭しと敷き詰められていること。
そして、戦闘を日常とする者が放つ特有の雰囲気。
以上を鑑みるに、旅人や修行者の類と見て間違いなさそうだが。

リヒトは自身を『緋桜郷に心身を癒しに来た戦士』ということにして、天狗の男性に質問をする。

「貴方は何をするために旅してるんだ?その旅はどこから始まった?」

蓮武(レンブ)と名乗った男性は少しの間考える素振りを見せ、ゆっくりと口を開く。

「…俺は、剣の道を極めるために各地を放浪している。旅の始まりについては、敢えて黙秘させてもらおう」

ふむ、とリヒトは足を組んだ。語りたがらないのは、そこに後ろめたいこと、忌まわしい過去があるからだと、相場は決まっている。
であれば、深入りは禁物だ。わざわざ藪を突いて蛇を出すこともない。

「求道者ってわけか。果てのない修羅道を征く、その心意気には恐れ入るよ」

闇に身を堕とした者には、あまりにも眩しい道。物怖じせずに突き進む勇士を、幽者は羨望の眼差しで見つめる。
が、その視線には誰も気づかない。

彼のように真っ直ぐな心が残っていれば、俺も違う未来へ進んでいたんだろうか。
そんな独白は、心の闇に溶けて消えた。

今日はここまでです。↓1コンマで勇者本の情報を判定します。


01~20:初版(約200年前の情報までしか載ってない)
21~60:第15版(約50年前の情報まで記載(ヴィクター・グランハイトあたりの世代まで))
61~99:第20版(リヒトがやらかすまでの情報が記載)
00:???

【名前】嵐月(らんげつ)
【人種】鬼
【性別】男
【魔法】風魔法
桜花衆の中でも幹部的な立ち位置にある、眼光鋭く頬に刀傷のある黒髪長髪の男性。前をはだけた着物を直接素肌に着て、腰には業物と思しき刀を下げている
現在は桜花衆に統合されて存在しないものの、かつては緋桜郷の見回りや用心棒、金を踏み倒すような客への取り立てといった極道的な組織の親分を務めており、その強さと男気から男女問わず憧れられていた
現在でもその武闘派ぶりは健在であり、緋桜郷に勇者であるリヒトがやって来たと聞いて一度戦ってみたいと周囲に漏らしているという
ちなみに戦いで本気になると着物を脱ぎ捨て、背中に彫られた風神の刺青が露わになる
それを見て生きて帰れた者は今まで一人もいないと言われている

>>757
ちょっと文章的におかしい所があったので修正します

【名前】嵐月(らんげつ)
【人種】鬼
【性別】男
【魔法】風魔法
桜花衆の中でも幹部的な立ち位置にある、眼光鋭く頬に刀傷のある黒髪長髪の男性。前をはだけた着物を直接素肌に着て、腰には業物と思しき刀を下げている
現在は桜花衆に統合されて存在しないものの、かつては緋桜郷の見回りや用心棒、金を踏み倒すような客への取り立てといった仕事をこなす極道的な組織の親分を務めており、その強さと男気から男女問わず多くの者達から憧れられていた
現在でもその武闘派ぶりは健在であり、緋桜郷に勇者であるリヒトがやって来たと聞いて一度戦ってみたいと周囲に漏らしているという
ちなみに戦いで本気になると着物を脱ぎ捨て、背中に彫られた風神の刺青が露わになる
それを見て生きて帰れた者は今まで一人もいないと言われている

図書館を見て第一に感じた印象は『古風』だろうか。
緋桜郷特有の木造建築は他の地域の様式と当然のことながら大きく異なり、昔らしさを感じさせる。温かみがあって嫌いではないのだが。
完成して何百年も経っている割には綺麗で、作りもしっかりしている。さぞかし立派な名工が手掛けたのだろう。

まだ午前中だからなのか人は少なく、ざっと見た限りでもご年配の方や真面目な冒険者くらいしか見当たらない。
おそらく娯楽に溢れた緋桜郷の住民は外で遊ぶのだろう。そのような娯楽を必要としない者、知識を求める人がここに集うのだと思われる。

「外に置いてるハリゴーディンがパクられたら敵わん。なるべく手短に済ませて出るか」

「あんなのを盗む物好きいますかね?チャカちゃんは可愛いので盗まれそうですが、アレがリードを持ってるので結局誰も近づかないと思いますけど」

仮にも仲間なのにあんなのとかアレ呼ばわりするウィンディはなかなかイイ性格をしている。
まあ、そんな呼ばれ方をするハリゴーディン側に多大な問題があるので致し方なしである。

30分後くらいに図書館を出るまで自由行動とし、その場は解散することにした。
これで何かしらを得てもらいたいものだと頭の片隅で思いつつ、リヒトは本に手を掛けた。

リヒトが選んだ本は二つ。一つは『緋桜郷妖怪絵巻』なる題名の絵本。もう一つは『これが世界各地の勇者だ!』なる題名のゴシップ誌だ。

緋桜郷妖怪絵巻は、緋桜郷に言い伝えられている妖怪を分かりやすく解説している子供向けの絵本だ。
危険なものはおどろおどろしく、可愛いものは可愛らしく描かれており、いかにも子供が好みそうである。
まあ、その実態は緋桜郷周辺の情報を纏めた魔物図鑑とでも呼ぶべきものなのだが。
先祖代々伝えられる魔物の情報を妖怪として、後世に遺すこの書物の価値は地味に大きい。当時を知る手段にもなる。
たまに本物の妖怪(謎の存在)が紛れ込んでいるのはご愛嬌と言ったところか。

もう一つの本は、当時世界中で観測されていたらしい勇者の情報を収録した勇者図鑑。と本誌は謳っている。
だがその実情は筆者の主観が入りに入ったゴシップ誌と大して変わらない。
数年毎に発刊すると後書きに記載しておきながら、図書館に保存されているのは初版のみ。
発刊したは良いが誰にも買われなかったのか。はたまた売れはしたが信憑性の無い与太話や噂話がありすぎて出版社が焼き討ちでも喰らって絶版になったのか。
真相は定かではないが、二百年前に初版が出たっきりなのでお察しするしかない。話半分で読めば良いだろう。
そう思考に区切りをつけ、本を開いた。

『福呼び様』


昔々、ある村に小さな食堂がありました。子供好きのおばあちゃんが作るご飯はとっても美味しく、村の子供たちに大人気でした。
ですが、その村に病気が流行り、たくさんの人が亡くなってしまいます。
怖くなった人たちはみんな、村を去って出ていきます。
亡くなった子供たちが寂しくないよう、おばあちゃんはたった一人村に残り、何年も何年も、ご飯を作っていました。

ある日、男の子が一人お店にご飯を食べにきました。
その顔は見たことがなく、周りにも家族がいなかったのでおばあちゃんは不思議に思いましたが、お腹を空かせた男の子のためにご飯を作ってあげました。
ご飯を全部食べた男の子は、お辞儀だけをして店を出て行きました。

次の日。何やら店の前が騒がしいとおばあちゃんは朝早くに目が覚めます。
するとなんと、たくさんの行列ができているではありませんか。
お客様に話を聞いてみると、たまたま近くを通りがかった商人が、子供に美味しいご飯屋さんがある、と道案内を受けたというのです。
しかし、もう村には子供はいません。不思議なことが何度もあるなんて、とおばあちゃんは思いますが、お客様のためにご飯を作りました。
それからは、美味しいご飯が食べたいと村に人が戻ってきてお店はとっても繁盛しました。
たくさんの人に囲まれたおばあちゃんは、そのまま幸せに過ごしました。

福呼び様が幸せを呼び込んでくれたおかげで、また一人幸せになれましたとさ。

めでたしめでたし。

著:亀有南斎
絵:脇差ぐねぐね太郎
《緋桜郷妖怪絵巻》より抜粋

何ページか読み進め、リヒトは絵巻を本棚に戻す。福呼び様以外にもいくつか読み込んだが、どれも関わらない方が吉と書かれていた。
ごく一部しか読んでいないので何とも言えないが、ガチモンの妖怪である福呼び様以外はやはり、人類にとって害獣のような存在らしい。
だから、こういった本を使って危ない奴にちょっかいを掛けるな、と警鐘を鳴らしているのだろう。
死が見えているのにわざわざそれに触れる必要は無いのだから。

例えば、ヒオウサンショウウオ。透き通るような淡紅色の身体を持つ、サンショウウオに似た魔物だ。
緋桜郷(ひざくらきょう)の近辺に住むのにヒオウと付いているのが気になるが、湖のヌシと呼ばれる時があるらしいので王と桜のダブルミーニングなのかもしれない。
性格は物静かで温厚。彼側から攻撃をすることは防衛行動以外ではまず無いので、彼の怒りを買うようなことさえしなければ安全らしい。
昼寝中に抱きついても大丈夫らしいが、普段は水底でのんびりしているそうなのでヌメヌメしてそうだ。少なくともリヒトは触りたくないと思っている。
そんなヒオウサンショウウオの怒りを買った不届者はどうなるかと言うと、頭上から局所的な豪雨と落雷が降り注ぐのだという。普通に迷惑で死人が出そうだ。

他にも、ドクロサムライやイナズマミケネコといった魔物も目を引いた。
二又の尻尾を持つ猫型の魔物であるイナズマミケネコは手を出さなければ毛繕いをしたりと可愛らしい姿を見せるが、一度でも手を出せばそれはまさに逆鱗に触れられた龍の如く暴れ始めるらしい。
ただでさえ数mと中型のドラゴン級のサイズを持つ魔物が雷を纏って大暴れするのだから、その被害は想像したくないレベルである。人里まで攻めてこないのがせめてもの救いか。

六本の腕を持つ骸骨の魔物であるドクロサムライに至っては、目が合った瞬間に剣を振るってくるという好戦的にも程がある生態をしている。
宴に興じていた将軍が夜襲を受け、部下と共に惨殺された怨念から生まれた魔物らしい。
悲しい出自の魔物だが危険な存在には変わりなく、殺すのは難しい上に封印も面倒、しかし縄張りである荒れ地からは動こうとしないので、桜花衆側も不干渉に徹しているらしい。
緋桜郷を経由するキャラバン隊にも、荒れ地に接近しないようにとお触れを出しているのだとか。

面白いものが知れた、とリヒトは絵巻の齎した情報に満足する。
ドクロサムライとやらなら、光魔法で存在ごと消し炭にできそうだと物騒な思考をしつつ、次の本に目を通した。

皆様の多大なる要望を経て、本誌が発行できたことを喜ばしく思います。
はい、というわけで始まりました『これが世界各地の勇者だ!』です。好評だったら数年単位で出していこうと思うのでそこんとこよろしく。

えー、まず本誌を出すに至った理由なんですけれども。私は今までに世界各地を旅してバチクソに痛い目に遭ってきましてね。
その時にまあ、目にしたり耳にするわけですよ。勇者のお話とか昔話をね。
んでもって、どれもこれも勇者に至るまでの経歴が違うから面白いって思いましてね。
ならこれを他の人にも知ってもらって、あわよくば印税をガッポガッポ…いやなんでもないです。

何はともあれ、石碑を読み解いたり金を貢いだりしてやっとこさ手に入れた情報ばかりです。
参考にしてくれたら嬉しいです。それでは本題にGo!

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『世界に殺された勇者』

えー。この勇者を初っ端に紹介してええんかと悩んだんですけども。
やっぱり掴みはインパクトが大事!なもんで、現実はそう上手くいくものじゃないよって教えるのも含めて先陣を切っていただきました。本人は首を切られたんですけれども。

彼の名は『ルーク・ファンブルダイス』。冗談みたいな名前ですがマジでこの名前です。ガッチガチに厳重に封印されてた祠の石碑に書かれてたんでたぶんガセじゃないと思います。
もし嘘だったら緋桜の下に埋めてもらって構いません。

彼がどんな勇者だったのか。いつの時代の勇者なのか。についてなんですが。
言ってしまえば遥か昔…そうですねー。ざっと数千年前の時代に存在してたみたいです。
我々が生きるこの世界。文明が長い間続かないのは周知の事実だと思います。ざっくり数百年経ったら綺麗さっぱり滅んで、また新しい国とかできてますしね。
だから世界中に遺跡とかがあるわけです。滅ぶ原因は自然現象だったり戦争だったりとあるわけですが、私は専門家じゃないのでこの話はここまで。

まあつまり、そんな昔に生きていたこの勇者はとにかく強かったんです。とんでもなく強かったんですよ。
少なくとも、魔法の類は一切使えなかったそうですが、そのシンプルにして規格外の強さを以って、世界征服を企んだ魔王をたった一人でぶち殺し、世界を救いました。
しかも、彼は死ぬ瞬間まで何一つ喋らなかったんです。意志も伝えず、ただ黙々と、返礼さえも求めず人を救い続けました。
彼が優しすぎたのか。それとも頭のネジが外れていたのか。何かがあって心を壊したのか。それは情報が無いので何も解りませんけれど。

その力を、行為を恐れた民衆は、世界は、彼の死を望みました。自身を救ってくれた英雄を、ただ怖いというだけで殺そうとしたのです。
しかし、勇者はそれを拒むことなく、首を差し出します。
断頭台に取り付けられ、心無い罵声を浴びせられる中でも、彼は微笑みを浮かべていました。
振り下ろされる大鉈。飛び散る鮮血。
何も求めず、ただひたすらに救い続けた英雄は。人のエゴによって都合良く切り捨てられた英雄は。死してもなお笑っていたのです。

それでもあなたは、勇者になりたいと思いますか?

著:不死鬼 八犬
《これが世界各地の勇者だ!》より抜粋

最初の一人目を読了した時、ぞくりと背筋に氷柱を差し込まれたような感覚がした。
額に手をやると、冷や汗がべったりと付いていた。その理由は考えるまでもなかった。

自分も彼と同じ末路を辿っていたのかもしれない、と、本能が嫌悪感を示したのだ。
何も求めず戦い続けた自分と、何も求めず人を救い続けた彼が、重なって見えてしまった。
厳密に言えば、何も求めなかったわけではないのだが。戦争が終わった後、身を寄せていたフィアリス家への爵位を嘆願した。
その結果、田舎町の名家だったフィアリス家は男爵の爵位を賜り、正式に統治するようになったのは記憶に新しい。

もう戻れない、戻ってはいけない嘗ての故郷に思いを馳せる。
故郷と呼ぶべき場所は三つほどあるが、その中でもフィアリス家が一番居心地が良かった。

「…どうしてあの人は、俺を赦したんだろうな。あれほど俺を恨んでたのに。…憎んでたのに」

護れなかった聖女の父母に会った時。聖女の死を伝えた時。殺される覚悟はしていた。寧ろそれを望んでいた。
なのに、彼らは殺すこともせず見逃した。愛しの娘を見殺しにした大罪人を、裁こうともしなかった。
今でも、その理由は分からない。分かる日はやってくるのだろうか。

光の失せた紅眼が、天井へ向けられる。木材の模様が目に映った。

ニンニン。はじめまして皆の衆。皆大好きシノビマンでござるよ。ニンニン。
さてさて、拙者が此度筆を取った理由でござるが。
どうやら異邦には魔法なる摩訶不思議な妖術があるらしいのでござる。
幸い、魔法への知見を持つ者と対談する機会があったので、魔法に対する見解を述べようと思った次第でござる。
皆もこれを読んで、立派な忍になるでござるよ。シノビマンとの約束でござる。ニンニン!

まず、忍術と魔法の差異について示さねばなるまい。大前提として、どちらも魔力を消費するものであることに変わらぬ。
忍術の場合は、魔力を練りつつ図示したような特定の印を結ぶことで火を吹いたり風の刃を放ったり、と望んだ現象を起こす技術でござる。
しかし、魔法の場合はあら不思議。謎の呪言を呟きながら魔力を練ると、大爆発が起きたり雷が落ちたりするのでござるよ。怖いね。
同じ魔力を使っておきながら、現象を起こすまでの過程がここまで異なるのは驚きでござる。
ここで、拙者はこの差がどう影響を及ぼすのか拙者なりに考察したでござる。少し長くなりまするが刮目して見よ!


著:(自称)忍術マスターシノビマン~
《魔法についての見解》より抜粋

はじめましての方ははじめまして。そうでない方はお久しぶり。千を超える魔法を極めた最強の魔法マスターマジックマンです。
今回は、緋桜郷と呼ばれる地域で何故か大流行している魔法モドキである忍術について独自の見解を交えて話していこうと思います。
つまらなさそうって思った奴は呪うから覚悟しとけよ。何食っても雑草の味しかしないようにしてやるからな。

ゴホン。魔法とは何か。それを説明しようとしたらそれはもうめんどくさいことになるのでそこから知りたいならまずフェルリティアで一年くらい勉強してきてください。
人の生活様式に地域差があるように、魔法の形式にも地域差があります。
解りやすいのは呪詛魔法とかですね。詠唱と触媒を併用するものもあれば、生贄一つで行使するものもあります。

先述した忍術はおそらく、緋桜郷で独自の進化を遂げた魔法だと思います。そうでないとやってられません。
どっちも魔力を使うし現象を起こしてますからね。
だからって、なんであんな痛々しいポーズを取るのか理解できませんが。頭の中が少年時代で止まった奴が考案したのか?

と愚にもつかない推測はさておき。魔法と忍術の明確な違いですが、魔法の方が才能による効果の差が顕著に出ることですね。
忍術の方はやり方さえ知っていれば、ある程度の効果は保証されます。才能絶無の子供がやっても、天才の大人がやっても最低限の効果はあるってわけです。
その分魔力を喰うのでお子ちゃまがやったら最悪死にますけど。

それに対して、魔法の方は全然変わります。天と地ほどの差が出ます。
才能の欠片もない奴が火炎魔法を行使したところで、蝋燭の火くらいしか出ないんですよ。
同じやり方を私がしたら家が消し飛びます。たぶん。危ないからやったことないんで確証はないです。

ざっくりまとめると違いはこんな感じです。

魔法:魔力消費は魔法ごとに調節可能。威力や難易度も同時に変動する。才能があれば際限なしに性能強化。

忍術:魔力消費は忍術ごとに最低値のみ固定。威力や難易度は結ぶ印の数と魔力消費に依存。魔力量の才能のみが性能に影響を及ぼす。

まあこれは私なりの見解なので、絶対にこうだ間違いない、と保証はしてないです。クレームは受け付けないので悪しからず。

著:(自称)魔法マスターマジックマン
《忍術についての見解》より抜粋

二つの本を読み終えたウィンディは人目も憚らずに嘆息した。書き手の個性が出過ぎている。
もっと簡潔に、詳細を書いてほしいのに、ござるだの呪うぞゴラだの余計なことが書かれていて読む気が失せていく。
意地で読了したが、何を書いていたのか半分くらい頭から抜け落ちてしまった。
今からもう一度読み直す気力も時間も価値も無いので、絶対にしないが。

「そろそろ時間ですよリヒトさん。早く外に出ましょう」

「…ああ」

入り口で突っ立っていたリヒトに声を掛ける。が、表情はあまり明るくなかった。
お目当ての本でも無かったのだろうか。

「どうしました?えっちな本でも探したけど見つからなかったんですか?」

「…違うが。ちょっと考え事をしてただけだ」

「なるほど。そういうことにしておきますね」

「だから違うって」

そんな他愛のない会話をして、二人は図書館を出る。
外に出ると、ハリゴーディンはチャカと共に大道芸をしていた。
何がどうしてそうなったのか。二人は考えるのをやめた。

ちなみに見物客は一人もいなかった。見るからに怪しいのだから当たり前である。

何をするかを↓1にどうぞ。
勇者の本は借りてるので読みたい時は行動として選んでください。

幽者の思いつきにより突如始まったスパルタトレーニング(ネズミ駆除大作戦)。
その参加者にして被害者の少女は、この状況にどう立ち向かうか。
幽者は後方にて高みの見物(物理)を決め込んでいるが、限界だと感じたらすぐに魔法をぶっ放すつもりでいる。
まあ、危なくなったらすぐお助け、と今後もしていたらやがて甘えが生まれて成長が見込めなくなるので、初回サービスみたいなものである。
つまり、今回だけは早めに助けるが今後はどうするか全く考えていないのである。行き当たりばったりにも程があった。

さて、ヒャッハァ!新鮮な餌だァ!と言わんばかりに押し寄せてくる人喰いネズミに対し、ウィンディが取った策は。

「風穿(エアロレイト)ッ!!!」

お得意の風魔法を使った迎撃戦法である。思い切りの良さは評価点だが、その戦法を使うには相手の物量が多すぎた。

練り上げられた魔力が風の矢となり、肉を穿ち骨を断つ。ベキ、グチ、と嫌な音が鳴る。
先頭を突っ走っていた一番槍に魔法が直撃。螺旋を描く空気の刃が全身を断裁し、肉と血を周囲にぶち撒けた。

しかし、それだけではネズミの侵攻は止まらない。たかが一匹仲間が死んだところで止まるわけがない。
今の彼らには獲物しか見えていない。今の彼らには腹を満たそうとする欲望しか存在しない。
仲間一匹が死んだからといって、何故躊躇う必要がある。どうせいくらでも産み落とす命。先行投資と思えば安いものだ。

「とは思ってねえか。所詮ネズミだ。ただ本能に突き動かされてるだけだろうな」

空中からウィンディの奮闘を俯瞰するリヒトは、そう溢して目を細める。
誰かに見られている。敵意の無い視線が全身に突き刺さっていた。
その大半は興味本位のものだ。おそらく周辺地域に住んでいる子供が、空に浮かんでいる自分をへんなのがいる!という感じで見ているのだろう。

だが一つ。たった一つだけ、全く毛色の異なる視線が混じっていた。
視線の大元に顔を向ける。遠く離れた家屋の屋根に、年若い青年が立っていた。この郷屈指のイケメン美人ロリボーイ珠樹くんである。
軽く会釈してみると、こちらに認識されたことに驚いたのか少しの間呆気に取られた表情をしていたが、すぐに表情を戻し、綺麗な敬礼を見せてくれた。

仕事熱心で熱意のある若者だと感心する。おそらく彼は、リヒトたちが依頼を受けたことを知り、各所の水門を閉じていたのだろう。
その仕事が終わったから、進捗確認や実力調査も含めて様子見しているのだと思われる。
水路脇で戦闘する以上、ネズミの死骸や血液が水路に混入するのは半ば確定している。
実際、派手にぶち撒けられたネズミの肉と血が水路を流れる温泉に現在進行形で混入している最中である。
なんなら少し前にウィンディが放出したキラキラが温泉に溶け込んでいるわけで。
こんなものが店の温泉に使われたら大惨事どころではない。この世の終わり、地獄の始まりである。
自分だったらそんな温泉に死んでも浸かりたくない。

そんな益体もないことを考えつつ、再度ウィンディに目を向けた。

同胞が一匹天に召したのを無視して、今日のご飯に向けて行軍する人喰いネズミたち。
それに対処すべく、ウィンディは次の魔法の準備を始める。

(私の考案した理論の検証用の魔法だからそんなに効果ないよね解ってましたー…!っていうか人とかに向けて撃ったことなかったから分からなかったけどエグい音出たしあのおっきなネズミがワンパンで死んじゃったしこれ絶対人に向けて撃っていいやつじゃない!!!)

つまり人に向けてはいけない魔法をボコスカ放つであろうリヒトには人の心が無い。
なんならこんな状況に有無を言わさずぶち込んでいる時点でド畜生であった。後でかの邪智暴虐の幽者を呪わねば。ウィンディは決意した。

構えた杖に魔力が集い、大気を震わせる。威力は下がってしまうが詠唱は省略し、魔法の行使だけを最優先とする。

「大嵐流(タービュストローム)!!!!!」

刹那、幾重にも重なった乱気流が、ウィンディの前方に発生した。
周辺への影響を防ぐために範囲は通路ギリギリに抑えているがその分、極小の乱気流を大量に発生させることで威力を補っている。
詠唱省略による威力の減衰は多少なりとも抑えられただろう。

先程の風穿とは比べ物にならない威力の暴力がネズミを襲う。一度乱気流の壁に入ったが最期、全方位から迫り来る風の刃によって細切れにされていった。
しかし、それでも突撃をやめないやめられない。
力押しのごり押ししか能の無いネズミには、どんな障壁が立ち塞がろうと齧り付いて突き破ることしかできないのだ。

二十匹ほど仕留めた頃だろうか。風の威力が弱まり、遂にネズミが乱気流の壁を突き破る。
先に殉職したネズミの死骸が障害となり、空気の流れが弱まったのだ。彼らの死は無駄ではなかった。天国のネズミも喜んでいるだろう。

「お疲れさん。初陣でこれだけやれりゃ充分だよ」

障害を乗り越え、ネズミが獲物に喰らい付こうとしたまさにその時。
瞬きの間にウィンディの前方に移動した幽者は、右腕を突き出した。

「天喰らう白狼は遍く御魂を楽土に導く」

微かに耳に聞こえる魔法の詠唱。その優しい声色とは裏腹に研ぎ澄まされる魔力はあまりに冷たく。

「踊れ。天狼星(シリウス)」

産み落とされた白い狼は、真の捕食者がどちらか。哀れな生贄に現実を思い知らせた。

同刻。牡丹雪にて。

「本日はお越しいただきありがとうございました。またお客様が牡丹雪を訪ねられる日を、心よりお待ちしております」

客を見送り、息を吐く。雫が注いでくれたお茶を飲み、また息を漏らした。

「どったの女将さん。頭領の愚痴を聴きすぎて疲れちゃった?」

「紅ちゃんの愚痴は聴き慣れてるさ。この溜め息はそれとは別件だよ」

「…やっぱ、アレの件かな?」

コクリ、とお雪は頷く。何かを案じているように目は細まっており、表情は芳しくない。

「…まー、腹立つよね。わたしがあの店に入った時、はらわたが煮えくり返ったもん」

普段の明るい表情を隠し、冷徹な目を入り口に向ける。戸は閉められているので、客に見られる心配はない。

「霧香たちが先手を打ってくれたおかげで、奴らが逃げる前に店を取り潰すことができた。…他所からやってきた時点で探りを入れておくべきだったね」

「たらればを言ってもしょうがないよ。あの子たちの安全を確保できただけ良しとしましょ」

「…もう手遅れかもしれないけどね」

手元の書類に一瞬視線を移し、引き出しに戻す。物憂げな表情をした女性の絵が、名前の横に描かれていた。

「…毎度のことだけど、霧香には頭が上がらないよ。こんな役回りばかり任せて申し訳ない」

「んーにゃ。わたしは気にしてないよ。もう慣れたし、辞める気はないから」

「…ごめんね」

絞り出すようなお雪の謝罪に、霧香は気まずそうに腕を組む。柔らかい双丘が形を変え腕を包んだ。

万難を喰らい空へと還る白狼。後に残ったのは血痕だけだった。
こっそり左手に持っていた聖剣も虚空へ戻す。やはりこれがあるのと無いのでは魔法の性能が段違いである。

「………」

ウィンディの方を振り返ってみると、ものすごく不機嫌そうな顔をしていた。私怒ってます。プンプンです。とか言いそうだ。

「ずるです。魔法の勉強してないのにそんな魔法使えるのはどう考えてもずるですよ」

「んなこと言われても。理論とか全然分からないからフィーリングになるが使いたいなら教えるけど?」

「常識的に考えて私が光魔法を使えるわけないですよ。光と闇は希少なんですからね」

「そうなの?メリちゃん最かわ教の化け物どもはポンポン撃ってきてたが」

「それはそのメリちゃん最かわ教の人たちがおかしいだけです」

「そう言われると否定できんな。あいつら揃いも揃って英雄級だったしな…」

当時死闘を演じた猛者を追憶する。
一対一(サシ)で戦り合って辛うじて勝てるかどうかの相手が何人もいたのに、よくメリオゴストーグに一撃入れられたものだと当時の自分を手放しで褒め称えたい。
というか何故攻撃できたのか本当に解らない。同じことをもう一度やれと言われたら即座に首を斬るくらいには無理難題だった。

まあ、何はともあれ戦争は終わったし、今回の依頼も解決した。終わりよければ全てよし。
それでいいではないか、と投げやりになる。
戦うのは二度とごめんです。そんな怨嗟と実感の籠った嘆きが耳に聞こえたが気のせいだろう。

何をするかを↓1にどうぞ。
行動時間はだいたいお昼時くらいの時間帯で、報酬金は自動で受け取ります。安い依頼なのでまだ贅沢はできません。

山奥に隠された小さな集落。
人が営んでいた頃の面影は影も形もなく、骸が無造作に転がっている。
そして、その亡骸は現在進行形で作られている最中だった。

他でもない、幽者自身の手によって。

首を断ち。心臓を穿ち。胴体を両断し。様々な手段で戮殺する幽者には何の感情もなく、何の感傷もない。
楽しくなければ苦しくもない。嫌でもなければ好きでもない。
幽者からすればそれは、ただ金を稼ぐための手段であり、有り余った時間の浪費先でしかなかった。

作業のように消費される命。断頭台に差し出された頭のように、淀みなく断首が行われ、無為に命が消えていく。
剣を取ろうが、逃げ出そうが変わらない。ただただ無慈悲に。ただただ平等に。死へと導いた。

ある者は武器を捨て跪いた。しかし首を刎ねられる。
ある者は自らの全てを差し出すと言った。しかし首を刎ねられる。
男女問わず。老若問わず。皆、平等に死んでいった。

『なんでもするから…!貴方の好きにしていいから…だから殺さないで…!わたしは、まだ、生きていたいの…!!』

今まで散々殺戮と略奪を楽しんでおいて何を言うのか。呆れながら首を落とした。

『俺たちはまだ子供だぞ!?なんでそんな…平気で殺せるんだよ!?』

武器を取った時点で歳や性別など関係ないだろうに。呆れながら首を落とした。

戦闘が始まる前に警告はしていたのに。一回だけ猶予を与えたというのに。
それを拒み、戦うことを選んだのは貴様たちだと。
ならば、全てが終わった後の処遇は自分に委ねられているのだと。
何度目か知れない溜め息と共に、聖剣を振り下ろした。

『今からお前たちを全員ぶち殺して金に換えるわけだが、俺も鬼じゃない。今から10数える間に投降した奴は殺さないでやる。…誰もいない、か。じゃあもう手遅れだ。命乞いしようが泣き叫ぼうが俺は殺すからな。恨むなら判断を誤った愚鈍な自分を恨め』

と、確かに自分は宣言した。別に怒ってなどいない。
ただ宣言通りに事を進めているだけだ。

勝てる見込みのない戦いに勝てると思い込み譲歩を突っぱねておきながら、蹂躙され始めた途端に救命を嘆願するなど。
虫のいい話ではないだろうか。
そんな自分勝手な輩に差し伸べる手などないと、幽者は最後の生き残りの首に剣を添える。

『や…あ……ぁ………』

身体はガタガタと震え、言葉にならない声を絞り出す少女。
端正な顔は恐怖に歪み、色々な液体を垂れ流していてぐちゃぐちゃになっていた。
綺麗な顔が台無しだと思いながら聖剣を振り抜く。ずるりと首が落ち、血が噴水のように噴き出した。

『降ってくれれば殺さないって…警告しただろうが。なのにそんな、悲しそうな顔するなよ』

『まるで、こっちが悪者みたいじゃないか』

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ふと、過去に一仕事した時のことを思い出した。
今回の虐殺劇が、似たような記憶を勝手に引っ張ってきたのかもしれない。
犠牲者の実力こそ天と地ほどの差があるが、どちらの結末も変わらず。
一人残らず。一匹残らず。その尊くもない命を散らした。

「人のためになることをしても敬遠されるとは難儀なものだね」

アークミノタウロスを余さず滅ぼし、首をかき集め、天守閣に提出した。
プロ根性故か受付嬢は笑顔で応対してくれたが、その笑顔は引き攣っていたし、他の人が自身に向ける視線は化け物に向けるそれと同じだった。

盗賊の首をギルドに提出した時よりはマシな反応ではあったが。
その時は本当にひどかった。
生首を見た受付嬢が全員えずいて白目を剥くわ、子供や女の子の生首を見た冒険者が義憤に駆られて道徳心の欠片もないのか、なんて脳内お花畑なバカ理論を展開された。
もちろん投降勧告はしたし、断った場合は誰一人として例外なく殺すと宣言していた。
その上で首を横に振られたのだから生かしておく理由はない、ときっぱり言い放つと、冒険者は絶句していた。

まあ、冒険者の言い分や気絶してしまった受付嬢らの気持ちは分からないものではなかったが。
彼らは冒険者であって傭兵でも兵士でも断じてない。
そんな彼らが人殺しに忌避感を持っているのは当然のことで。
それ故に、盗賊と相対した時も捕縛で済ませるのがほとんどだ。
だから、老若男女関係なく殺めた自分を冒険者は理解できなかったのだろう。
だから、受付嬢たちも人間の死体を、もっと言うなら人間の首など見ることは滅多になく耐性も付いていないのだろう。

「…まあ、今回は俺の見た目も原因だろうが。ちょっと下手を打ったな」

そんなことを呟くリヒトは、全身血塗れだった。
別に大きなダメージを受けたわけではない。
寧ろ、今回の戦闘では無傷だった。完全勝利というやつである。

全身を赤黒く染める血の正体は、アークミノタウロスを盛大にぶっ殺した時に浴びた返り血である。
それはもうバッタバッタと薙ぎ倒したので浴びた血の量もえらいことになっており、見るも無惨でブラッディな姿になっていた。

そんな状態で街の中を歩くものだから人混みは自分を避けて空洞ができるし、周囲からはヒソヒソ声が聞こえてくる。
そして、そんな状態で牡丹雪に入ったものだから。

「おお…おおおお女将さーん!!!!!ブラッディでスプラッタなことになっている重傷者が来ましたーーーーっっっ!!!!!!静音さんをーーっっ!!!衛生兵ーーーーっっっ!!!!」

と、盛大な勘違いをさせてしまった。

汚れを落とすために風呂を浴び、用意されていた着物に着替える。
私服は現在雫が一生懸命洗っているそうなので、しばらく返ってこないようだ。

慣れない肌触りに顔を顰めながら脱衣所を出る。お雪が自分を待っていたのか、そこに立っていた。

「何があったのかは桜花衆から訊いてるよ。お疲れ様…と言いたいとこだけど。あんな姿を見せたリヒトさんにはお説教だよ」

申し訳ないと頭を下げる。聞き分けが良くてもダメだと、どこからか取り出した扇子で頭を叩かれた。
ぺち、と小さな音が鳴る。痛くなど当然ないし、不愉快でもない。
まあ、子供扱いされてる感が気になると言えば気になるが。

それからというもの、晩御飯が冷めてしまったからリヒトの分だけリンが作り直していること。
あんな格好で帰ってきたものだから子供たちが怯えて心配していたことをこんこんとお説教された。
客は全員寝静まっているようなので、他に人がいなかったのが不幸中の幸いか。

「…と、愚にもつかない説教はここまでにして。お前さんに紹介したい人がいてね。…おいで」

お雪の合図を経て、女湯の扉が開かれる。
もう深夜なので温泉は閉められているのだが、反射的に目を背けた自分は正しかったはずだ。
そんな自己弁護を済ませると、お雪の声が聞こえた。

「彼女たちは本日付けで牡丹雪預かりとなった人たちだよ。ほら、挨拶なさい」

意味がわからない、とリヒトは首を傾げる。
あくまで自分は客人であり、牡丹雪所属の用心棒とかでもないのだ。
新人が入ったからといって、自分に紹介する必要などないだろうに。

そんなリヒトの疑問を無視して、桃色の髪をした女性が口を開いた。

「私は桔梗(キキョウ)と言う者だ。桜花衆の仲介により、牡丹雪で用心棒を務めることになった。貴殿のことはお雪殿より聴いている」

「…何と仰ってました?」

「大層腕の立つ猛者だと。どうやら話通りの辣腕を持つご様子で」

お褒めいただき光栄だ、と返して頬を掻く。
こうも素直に褒められては気恥ずかしいものがあるのだ。
照れているリヒトを見つつ、桔梗は一礼する。
凛とした佇まいが印象的な女性だった。

「…私(わたくし)は瑠璃(ルリ)と申します。先日、籍を置いておりました店舗が店を畳んだので、お雪様の口添えもあって牡丹雪に引き取っていただく運びとなりました」

続いて口を開いたのは、艶やかな黒髪を伸ばした女性。
深窓の令嬢、という評価がピッタリ当てはまるような、美しい女性だった。
濡羽色、というのだろうか。微かに青みがかった黒髪は艶めかしく輝き、見る者全てを魅了させる。
紺色の着物も相まってその黒は主張をさらに強め、ふとした瞬間に夜に溶けて消えてしまいそうな儚さを内包している。
誰もが目を奪われ釘付けになってしまう絶世の美女。それがリヒトの抱いた印象だった。
奇しくもそれは、牡丹雪に務める女性全員に抱く印象であり、牡丹雪の顔面偏差値のインフレをこの上なく示していた。

だがしかし、彼女に抱いた好印象は瑠璃の発した言葉によって粉々に砕け散ることとなる。

「…私は見習い故、夜のお勤めは許されておりません。ですのでどうか、貴方様がよろしければ一晩でいいので抱いていただきませんか?誠心誠意尽くしますのでどうか、ご一考いただければ…」

これはヤバい。とんでもない激ヤバウーマンだとリヒトの勘が告げていた。
彼女の誘いに乗ったが最後、ケツの毛までむしり取られて捨てられる気配を感じる。

「………」

これはいったい全体どういうことだと、お雪に目線で尋ねる。
悲しげな表情で首を振られた。
どういうことか分からないが、厄ネタを抱えていることはなんとなく分かった。

「………?」

不安そうにこちらを見る瑠璃。
ここで無言を貫き通すのは簡単だが、それで彼女がどう出るか不明なので選択肢から除外する。
ならば、取るべき選択肢は一つ。

「コノケンハオモチカエリサセテイタダキマス」

全人類が所有する伝家の宝刀。曖昧な返事によるはぐらかし、問題の先送りである。
困った時は未来の自分がなんとかしてくれる、とリヒトは考えることをやめた。

何をするかを↓1にどうぞ。行動順としては夜食→深夜の行動(今回の行動)→朝の行動となります。
他のキャラクターは全員寝ているので、交流できるのはマナ、桔梗、瑠璃、お雪、リンのいずれかのみとなります。

さて、紆余曲折あったが夕食にありつくことができた。
手間暇かけた料理を作り直しさせてしまったのは申し訳なかったが、仕事をしていたなら仕方がない、と許してくれたリンは器が大きい。

食事を済ませて食器を全て洗い終えたリヒトは、お雪の部屋を訪ねていた。

「夜分遅くに何用だい?わしもそろそろ寝たかったんだけどね」

眼鏡を外し印象の変わったお雪がお出迎えする。
寝支度をしていたところを邪魔してしまった形だが、牡丹雪の営業が再開した今、彼女と会話をする機会は限られているのだ。
少しくらい大目に見てほしい、と詫びを入れる。

「そういうことならしょうがないねえ」

と、こちらのわがままに微笑で返してくれたお雪。
本当に優しくて頭が上がらない。

お雪と何をするかを↓1にどうぞ。

座布団の上に座り、お茶請けのせんべいを齧る。甘辛い味付けが口に合った。

「さっきのことについて訊きたいんだが」

単刀直入に話を切り出す。今回は世間話に興じるつもりはないのだ。

「瑠璃さんはさっき、俺に相手してほしいと言っていた。でもその直前には夜のお勤めは許されていない…とも言っていた。どういうことなんだ?」

「…ああ、そういう話か」

目を細めたお雪ははあ、と臓腑の息を吐き出す。
溜め息を吐くと幸せが逃げるらしいが、そこんとこどう思っているのだろうか。

「それはお互い様だよ。お前さんだって溜め息は吐くだろうに」

それを言われると弱い。リヒトは目を逸らし、話題を戻して誤魔化しに入った。

「…彼女は奴隷階級の子でね。数日前までは、違法な店で働かされていたんだよ。違法薬物や異常行為を強要された彼女は、桜花衆の尽力もあって身柄を保護されたわけだけど…。店でどんな扱いをされていたのかは、ご想像にお任せするよ。…ただ、心を壊すには充分すぎる仕打ちを受けたことは、念頭に入れておくれ」

無言で頷き、続きを促す。お雪も首肯で返し、話を続けた。

「桜花衆に救出された瑠璃の処遇についてだが、数度の会議を経て牡丹雪で預かることに決まったんだよ。…あくまで引き取りだから、彼女は未だに奴隷としての身分を捨てれていないがね。それは、彼女を心から愛し、守ってくれる殿方の務めさ。わしの役目ではない」

「引き取った理由は?」

「ここに勤めている間は傷ついた心身の療養に充ててもらいたいのさ。だから、夜のお勤めは禁止しているんだ。…実のところ、瑠璃には見習い期間中のみの措置とは伝えているが彼女が務めを果たす日は来ないよ。たとえ彼女が、殿方と床を同じくするのを望んでいるのだとしても、ね」

「じゃあ、あの申し出は断るべきだな。それを馬鹿正直に言ったらダメかもしれんが」

「そうしてもらえるとありがたい。…が、拒絶し続けてどうなるかは未知数。適度に会話して、お前さんからも瑠璃を気にしてあげてくれると助かるよ」

「俺が?逆にトラウマを刺激したりしないか?」

「彼女が夜伽を頼み込むのは、それしか自身に価値がないと思っているから。それさえできなければ切り捨てられると怯えているからだ。…逆に言えば、身体を重ねている間は自分には生きている価値があると認められ、安心を得られるということでもある。お前さんが乱暴しなければ、大丈夫だと信じているけどね」

人の心は分からないから確証はない、とお雪は悲しげに溢す。

艶やかに咲く桜に照らされる緋桜郷。
強い光が深い影を落とすように、緋桜郷にもまた、深い闇が蠢いている。
皆が笑う陰では泣く人もおり、絶望に心身を苛む人がいるのだと実感する。

奇しくもそれは、過去の自分(勇者と幽者の関係)と似ていた。

お雪と何をするかを↓1にどうぞ。
これで今回の交流は終わりとなります。

一部訂正します。


「桜花衆に救出された瑠璃の処遇についてだが、数度の会議を経て牡丹雪で預かることに決まったんだよ。…あくまで引き取りだから、彼女は未だに奴隷としての身分を捨てれていないがね。それは、彼女を心から愛し、守ってくれる殿方の務めさ。わしの役目ではない」

「引き取った理由は?」

「ここに勤めている間は傷ついた心身の療養に充ててもらいたいのさ。だから、夜のお勤めは禁止しているんだ。…実のところ、瑠璃には見習い期間中のみの措置とは伝えているが彼女が務めを果たす日は来ないよ。たとえ彼女が、殿方と床を同じくするのを望んでいるのだとしても、ね」

「じゃあ、あの申し出は断るべきだな。それを馬鹿正直に言ったらダメかもしれんが」

「そうしてもらえるとありがたい。…が、拒絶し続けてどうなるかは未知数。適度に会話して、お前さんからも瑠璃を気にしてあげてくれると助かるよ」

「俺が?逆にトラウマを刺激したりしないか?」

「彼女が夜伽を頼み込むのは、それしか自身に価値がないと思っているから。それさえできなければ切り捨てられると怯えているからだ。…逆に言えば、身体を重ねている間は自分には生きている価値があると認められ、安心を得られるということでもある。それに、客相手にするのとお前さん相手にするのでは勝手が違うんだよ。普通の客は遊女の心境など知ったこっちゃないが、お前さんは瑠璃のことを今知った。つまり、彼女を慮った言葉を投げかけられるわけだ」

それで解決するかは分からないけれど、とお雪は悲しげに溢す。

艶やかに咲く桜に照らされる緋桜郷。
強い光が深い影を落とすように、緋桜郷にもまた、深い闇が蠢いている。
皆が笑う陰では泣く人もおり、絶望に心身を苛む人がいるのだと実感する。

奇しくもそれは、過去の自分(勇者と幽者の関係)と似ていた。

バリボリと皿に乗っていたせんべいを食べ終える。
わしのお気に入りが…というお雪の小さな嘆きが聞こえた気がするが気のせいだと思われる。

面と面で向かい合う機会はこれからもあるだろう。お互いに息災ならば、きっと。
だが、それでも。言葉にしなければならない、と気を引き締め、口を開く。

「貴女には感謝している。緋桜郷のことなど右も左も解らない俺たちを、文句一つ言わずに迎え入れてくれて。本当に助かった。ありがとうございます」

万感の想いを込めた言葉をぶつけ、頭を下げる。
彼女には、牡丹雪には世話になりっぱなしだ。
寝床を用意してくれて。食事も作ってくれて。
ともすれば、ヒモ扱いされているのではないかと懸念を抱いたことも二度や三度ではない。
実際そうじゃろと言われたらぐうの音も出ないが、とにかく色々と便宜を計ってもらった。
対するお雪の反応は。

「いや、そんな今生の別れみたいな言い方されてもね。まだここには滞在するんだろう?」

微妙だった。

「…確かに、まだしばらくは滞在するとは思う。だが、こんなご時世だ。いつどこで誰がどう死ぬか分からない。感謝の言葉ってのは後回しにするほど言いにくくなるし、その時お互いに生きてる保証も無い」

あの時言っておけば良かった。そう後悔しないために。
あの時言っておけば良かった。そう後悔してきたから。
だから、敢えてこのタイミングで伝えたのだ。
何も言えず終わるよりは、ずっとずっとマシだから。

聖女にも。大賢者にも。感謝の言葉は伝えず終いだった。
思いがけない事態に陥り、永遠の別れとなってしまった。
言いたいことがたくさん合ったのに、と思えど、時は既に遅く。

人は簡単に死ぬ。散々思い知らされた事実だ。
怪我をすれば死ぬ。病気に罹れば死ぬ。呪いをかけられたら死ぬ。事故に遭ったら死ぬ。
明日、目が覚めた時にお雪がいない可能性は、決してゼロではないのだ。
リヒトがこの世を去っている可能性もまた同様に。
全ては奇跡の上に成り立っている。
この出逢いも。この日常も。全て。数えきれない奇跡が積み重なり、形になったものだ。

その奇跡が残っているうちに、できることはしておきたかった。

「今まで後悔し続けた。ああすればよかったと何度も悔やんだ。だから、こんなタイミングではあるが、感謝の言葉を述べさせていただいた。…同じ思いをするのは嫌だからな」

縁起でもない、というのも解る。
突然結婚すると言ったり、君と出逢えて良かったと言い出したら、その後は決まって不幸に見舞われるものだ。
今リヒトが告げた言葉もその例に漏れず、何故か不幸を呼び寄せてしまう。

だが。

「俺はまだ死ねない理由が山ほどある。だから絶対に死なないよ。何年後だって、何十年後だってまた、ここの温泉に入りに来るさ。絶対にな」

命を懸けて聖女が与えてくれた祝福(呪い)。
死に際に大賢者が遺してくれた願い(責任)。
戦いの最中で受け取り奪い背負った命(十字架)。

それがある限り、勇者(幽者)は決して死なない(死ねない)のだ。

何をするかを↓1にどうぞ。今回の行動は朝になってます。

新しい朝が来た。活気に溢れる希望の朝だ。
そんな朝にやることいったら一つしかない。

「………」

神様へのお祈りである。

天にまします我らが神よ、どうか緋桜郷に更なる繁栄と安寧が在らんことを。

幽者の曇りなき黙祷は神に捧げられ、神々のご加護を齎すだろう。

それはそれとして、こんな眼を持って産まれさせた神に怨念と憎悪の籠った怨嗟をついでに呪詛として振り撒く。
紅眼を授かったが故に勇者と成ったが、人並みの幸せと愛を受け取れるのならば、こんな力は要らなかった。
この眼が碧眼だったなら。家族に愛されブラウダ家で平和に暮らせていたのに。

勇者を経て幽者と成る。その過程で救われた命がある。金銀財宝にも勝る尊い出逢いがある。
だが、それでも。それらを全て手放すとしても、家族にだけは愛されたかった。

もう家族ではなくなった人たちへの微かな郷愁と共に、リヒトは中指を立てる。

「何が神様だふざけやがって。お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだクソがよお!!!!!!」

信仰する神がいない故に為せる蛮行。
狂信者が見たら発狂死ののちに袋叩き待ったなしの無礼を働き、神様の馬鹿野郎!!!!と無言の抗議をここではないどこかへ行った。

何をするかを↓1にどうぞ。

昨晩遅くに夜食の用意や血染め衣類の洗濯等の迷惑をかけたことについて、リンと雫に感謝と謝罪を伝えて菓子折りを贈る

>>855のコンマが偶数なら従業員と交流できるって認識で合ってる?ダメなら安価下でお願いします

>>856、その認識で合っております。
続きは夜からの予定です。

紫炎を纏った凶刃と光を纏った聖剣が、帳の降りた荒れ地というキャンバスを彩る。
二色の光が織りなす光景は美しくも、禍々しい。

入れ替わる攻防の最中、闘争本能が警鐘を鳴らす。
それに従い、大岩を盾にして後退した。

ザン、と鈍い音を立て刃が滑る。
両断された大岩は崩れ落ち、切断面は火に炙られたチーズのように、どろりと熔けていた。

この一撃だけは受けたら不味い。そう理解するのに時間は必要ない。
刃が纏っているのは万象を焼き尽くす復讐の業火だ。
光魔法と聖女の加護があっても、紫炎に焼かれては無事では済まないだろう。

そこで、幽者は一つの鬼札を切った。

「マナ。力を貸してくれ」

この戦いは、アークミノタウロスとの戦いとは理由(わけ)が違う。
乗り越えるべき過去(シルヴィアの死)もなければ、意固地になる必要(自力で打ち倒す必要性)もない。
堂々と、遠慮なく、マナの力を受け容れることができるのだ。

先の戦闘では、彼女の意志で力を貸そうとしてくれた。
それをずっと拒み続けるのは失礼だし何より、嬉しかったのだ。
人を否定し続けていた妖精が自分から歩み寄ってくれた。
それだけで、力を借りる理由としては充分すぎる。

それに、戦いとは本来、どんな手を使ってでも勝たねばならないものだ。
勝つためなら卑怯な手段も上等だし、そもそも共に戦う仲間を頼るのは当たり前だ。
当時頼っていた戦友の力が、妖精の力に変わるだけのこと。

であれば、躊躇う必要はどこにある。
一人でできることなどたかが知れている。
だから人は、生き物は皆、手を取り合うのだ。

「----(あなたに、力を)」

脱線した思考が、妖精の祝詞によって引き戻される。
何と言っているのかは理解できないが、何を言っているのかは理解できた。

沸々と全身の血肉が沸き立ち、力が溢れ出す。
それでいて、思考は絶対零度のように冷え切り、まるで凪いだ海のように静かだった。

雑念が消える。無駄が削ぎ落とされる。
研ぎ澄まされた意識は、蓄積された経験と合わさり、もはや未来予知に近しいものになる。

マナの力添えに謝辞で返し聖剣を構える。
亡霊を討たんとする幽者は今、荒れ地を駆ける流星と成った。

何が、起きた。

中空に弾き出されたドクロサムライは、現在の状況を整理することに努める。
復讐心に塗り潰されていた理性が戻り、本能に上書きされていた思考が再開する。

べき、と骨の砕ける音が聞こえる。
二本の腕が根本から断ち切られ、縦横無尽に空を駆け巡る光剣によって細切れにされていく。
夜を照らす光。あるいは闇を祓う光。
そう形容するしかない神聖な輝きが、怨讐に塗れた穢れた肉体を削り取り、浄土へと送還する。

続けざまに、全身が物理法則を無視して上下左右に吹き飛ばされる。
箱に小物を入れて乱暴に振るったように、身体が弾ける。
その度に、腕や足が壊れていく。
その度に、流星が通り過ぎていく。

四肢が全て離断し、胴体と頭部のみが残る。
全方位から加わる衝撃によって身体が回転し、顔が空を見上げた瞬間。
流星の正体が人だということに気づいた。

ああ、なるほど。

貴殿は私たちを解放するために、来てくれたのか。

無辜の民をこれ以上手にかけないように天が遣わした使者が貴殿なのか。

無様に死んでおきながら、成仏することにさえ他者の力を借りるとは情けなくて仕方がない。

腹を切って詫びたい所存だが、あいにくもう拙者には切れる腹がない。本当に申し訳ない。

だがこれでようやく、皆と共に逝ける。貴殿には感謝してもしきれぬ。

ありがとう。意識が途絶える直前に絞り出したこの言葉は、貴殿に届いたのだろうか。

流星が地に墜ち、凄絶な爆発が発生する。
光が収まった頃には、荒れ地にぽっかりと一つの大きなクレーターができていた。

戦闘の終わりを告げる吐息が漏れる。
空を飛び回っていた光剣は幽者の傍らに集い、霧散した。
骨の一欠片も残さず消滅したドクロサムライ。彼は消滅の直前に何を言っていたのだろうか。
口が動いているのは辛うじて分かったが、どのような言葉を紡いでいたのかは一切分からない。
読唇術の類は習得していないのだから当たり前だが。

まあ、いい。なんにせよドクロサムライは成仏した。
邪悪な気配は完全に消え去ったし、しばらく待ってみても地面から骸骨が這い出てきたりとかもしない。

もしまた復活したらその時はもう一度消し飛ばすだけだ。
何回も何回も何回も何回も何回もボコボコにしてしまえば、やがて心が折れてこの世を去ってくれるだろう。

「おつかれさま」

「ん」

労ってくれたマナに感謝を述べる。
やっと、本当の意味で彼女と友好関係を築けたような気がした。

天守閣に報告に向かったリヒトは、門前の広場に数名の男性が磔にされているのを見つけた。
出発前は無かったはずなので、仕事の最中に設置されたようだ。

全員が全員血を垂れ流しており、痛みに身を捩って呻き声を上げていた。

「はいはーい。一発ぶちかましたい人はこの鉈を使ってなー。頭と首を狙うのは御法度やでー」

と、まるでセールス中の売り子のように声掛けをしている狐耳の男性。
軽い雰囲気で人に渡しているのは錆びて刃毀れした鉈だった。
あまりにアンバランスな光景に、さすがのリヒトも言葉を詰まらせる。
こんなのはウィンディみたいな多感な年頃の女の子には見せられない。

「ん、なんや?兄さんもやりたいん?」

ケロッとした表情で問う青年に、リヒトは首を横に振って答える。
彼らが見せしめにされているのは明白なので、あまり関わりたくないというのが本音だ。

だが、そんなことを知ってか知らでか。お構いなしに青年は口を開いた。

「他所から来た兄さんには物騒だったり非人道的に見えるかもしれんけどな。これが緋桜郷…んにゃ、桜花衆の流儀なんよ。『人の道を外れた外道は、如何なる手を使ってでも罪を贖わせろ』ってな」

ということは、彼らは贖罪の真っ最中ということだろうか。
どう見ても反省しているように見えないが。
寧ろ、今後起きることに絶望しているようにしか見えない。

「そりゃそうよ。こいつらは処刑すると上の人が決めたさかいに。悪行の限りを尽くした外道やから、どんなに苦しんだところでこれっぽっちも同情せんがな」

ほら、と青年が指差した先には、腰の曲がった老夫婦が、怨恨の籠った瞳で磔にされた罪人を睨んでいた。

そして、血のついた鉈で。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁああっっっっっ!!!!!!」

力いっぱい斬りかかり、ノコギリで切り落とすようにゆっくりと鉈を引き抜いた。
殺傷力を削ぎ落とされた鉈は腕を切り落とすこと叶わず、鮮血と肉片を散らせる結果に終わる。

だが、これが目的なのだろう。殺すのではなく苦しめる。だから刃を潰しているのだ。
これはあくまで、被害者の溜飲を下げさせるための手段だと、恨みを晴らすための手段だと、その光景から容易に想像できた。

「お前たちのせいで愛華は…私たちの孫は…!!!!」

涙ながらにそう語りつつ、鉈を振るうのを止めない老人の目は怒りに燃えていた。
どのような悲劇があったのか。それは彼らの様子からしか伺えないが、相当に悲惨だったようだ。

「だが、あんなにザクザク斬らせて大丈夫なのか?これが処刑法だって言うなら俺の指摘は的外れのアホだが、そうじゃないだろ?」

「まあ、せやな。だがご安心を。この磔には特殊な術が仕込んであるから、死にさえしなけりゃすぐ傷が治るんよ。でないと皆が恨みをぶつけれんやろ」

惨いことをする。と桜花衆の容赦のなさに若干の戦慄とシンパシーを覚えつつ、リヒトは天守閣へと入る。

「緋桜郷を楽しんでな。英雄さん」

背を向けた瞬間に投げかけられた青年の言葉から逃げるように、後処理を済ませた。

牡丹雪に戻り、夕食を食べて腹を満たす。
戦いの後に食べる飯は格別なのは言うまでもない。それが、達人の振る舞ってくれる料理となればなおさらだ。

「ごっそさん」

三人前の料理を食べ切り、食器を返却する。
部屋で聖剣の手入れをしていると、不意にドアがノックされた。

「どうぞー」

リヒトが声を上げると、ドアがゆっくり開かれる。果たして、来客の正体とは。

「お疲れ様です~」

ぽわぽわしていてぽよぽよしていてとってもきゅーてぃーな美人の鬼娘結衣乃だった。
属性過積載ではあるが、正直他の面々も同じようなものなので気にならない。気にしたら負けとも言う。

しかし、彼女がここを訪ねてくるとは何か頼みでもあるのだろうか。
そこまで親密ではないはずなのだが。

「ちょっとお願いがありましてですね~。こう、ばんざーい、ってしてくれませんか?」

結衣乃はそんなことを言いながら、背筋をピンと伸ばして両腕を上げる。お山がぶるんと揺れた。

特に断る理由もないので、リヒトは了承して両腕を上げる。

すると。

「そぉーれ~!」

結衣乃の口から吐き出されたか細い糸が、リヒトの腕や胴体、腰に絡みつく。
すわ何事かと目を見開くが、結衣乃の表情に敵意や悪意は介在せず。
別に痛いわけでもないので、どうすればいいのか分からないリヒトは困惑していた。
その間も肌に擦れている糸がくすぐったいのが困りものだが。

待つこと数十秒。ほう、と感嘆の息を漏らした結衣乃は両手をパンと叩き、にっこりと笑った。

「ありがとうございました~。これで採寸は終わりましたので楽にしてくださいね~♪」

気がつくと身体に絡みついていた糸は綺麗さっぱりとなくなっていた。
これにて失礼いたします。とだけ言い残した結衣乃は、上機嫌で部屋を出ていく。

何故か死んだ魚のような目をしたウィンディが枕に頭をぶつけている光景を幻視した。
そんなことをしても成長しないのだと心の中で荒ぶるウィンディを諌め、合掌する。

ウィンディが食事の際に飲む牛乳の量が何故か増えていた。

「…以上が伝書に記載されてた内容ですね。これは大変なことになりました」

手紙を折りたたみ、桐箱に仕舞う女性。
銀髪から見え隠れする耳は尖っており、人外の者だとこの上なく示していた。

「どうしましょう?『黒罰の幽者リヒト』を名乗る人物によってフェルリティアは都を覆う結界ごと崩壊して墜落、貴族の半数は殺され、生き残りは住民を見捨てて逃散…その見捨てられた住民も何割かは難民として各地に流出…と割と笑えない事態な気がしますね~」

などと言いながらあはは、と笑う女性は大概図太かった。
それを聴いている鬼の女性も、険しい表情はしていないのでどっこいどっこいといったところか。

「伝書には難民受け入れ申請も同封されてました。人数はざっと見て数百人程度ですかね。まあ、移動手段は馬車か徒歩しか無いので相当な大所帯だと思いますが」

「…そうですね。護衛に騎士団なりが付いているでしょうが、それでも人数は心許ないでしょう。野盗や奴隷商などに襲撃される可能性はあるかと」

「こちらも部隊を派遣しますか?合流するまでの数日でどれだけの損害が出るのかは不明ですが、緋桜郷の面目は保てますよ」

「…分かりました。ではそのように」

指示を受けた女性は、一礼をして部屋を出ていった。
一服した鬼は白煙を吐きつつ、吸い殻を灰皿に落とす。
傍に待機していた男性が、慣れた手つきでそれを処理した。

人の世は変わりゆくものだ。
定期的に訪れる大きな時代のうねり。それに呑み込まれぬように立ち回るのが長の勤め。
でなければ滅ぶだけだ。長いだけの歴史に胡座を掻いていた魔法都は今、その傲慢のツケを払いあっけなくイルステッド最長の歴史に幕を閉じた。

変わる世界に我々が。貴方がどう立ち回るのか。

「どうなるか見ものやねえ、兄さん?」

彼岸花 紅華は妖しく笑い、一献傾いた。

何をするかを↓1にどうぞ。現在の行動は夜です。今回の行動は牡丹雪のキャラ全員と交流可能です。

とりあえず今来てる質問に返答します。


Q.聖女クロエとシルヴィア、マナは直接の面識はありましたか?

A.ありません。強いて言うなら、シルヴィアが聖女や勇者時代のリヒト活躍を耳にした程度です。

Q.リヒトは「好き」という心理をどのようなものだと考えていますか?

A.過去の経験から恋愛観についてはガバガバにされています。「ずっと傍にいてもいい。たとえ血肉が削ぎ落ち魂が壊れようとも、何があってもその人を護りたい。そう思えるような人に対しての感情が『好き』とか『愛』って言うんじゃないかな?」と、敢えて言葉にするならという前置き付きでお言葉をいただいております。

Q.リヒトは、誰かを好きになることや、それを言葉にすることに忌避感や罪悪感を抱いていますか?

A.どちらも抱いています。忌み子だった事実と人殺しである事実が、どちらも負い目になってます。

Q.リヒト自身は、皆のことが好きだったと心の底から言えるような在り方をどう思っていますか?

A.「そこまで真摯に人と向き合える在り方が羨ましく、そして眩しい。取り返しのつかないことをした俺に、そんな資格はあるのかね?」とのことです。

また、同時に「こんな考えをしながら生きてる奴を愛してくれるような物好きはいないだろう。なら、本気で愛されたいのなら変わる必要があるはずだ。…俺が本気でそう思ってるなら、の話だが」と言ってました。

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来客対応を雫と桔梗に任せたお雪は、リヒトと共に店裏に出る。
辺りから喧騒が聞こえてくるが、誰の視線も通っていない少し薄暗い場所だった。

「…さて。ちょいとばかりお話ししようか」

表でする話じゃないからこんな場所で申し訳ない、とお雪は微笑しつつ謝罪する。
別に構わない、と答えておいた。彼女の懸念も尤もだ。真意を聴いておきたいと思うのも無理はない。

だがまあ、瑠璃の誘いには乗らない、と言ったのだからほんのちょっとくらいは信用してくれてもいいじゃないか、とは思ったが。
お雪がよほど心配性なのか。そもそも自分が微塵も信用されてないか。
このどちらかだろうがもしも、万が一後者だったら普通に悲しくて泣く。

「これでも長く生きてるからね。ここ数日共に暮らして、お前さんの人となりは解ってるつもりだよ。だから質問は一つだけ」

「お前さんは、瑠璃と桔梗を連れて何をするつもりだい?」

「…と言われてもな。二番街や七番街には賭場があるだろ?そこに瑠璃さんを連れて行きたくてな。桔梗さんはその時の護衛役だ。…あ、もちろん代金は俺持ちだからご安心を」

「仮にも女子を連れて行くところが賭場かい。普通、こういう時は洋服とか装飾品とかを買うんじゃないかね。いや、最近の若い子の流行は知らないんだけども」

「二年前まで血で血を洗う戦争やってた奴に期待しないでいただきたい。それに俺にだって一応ちゃんとした考えがあるんだ。弁明させてくださいお願いします」

「どうぞ」

「ありがとうございますお雪様。…で、瑠璃さんを賭場に連れてく理由なんだが。半ば自棄っぱちになってる彼女に、生きる目的を見つけてもらいたいんだよ。楽しいことでも知ってくれれば、身を滅ぼすような真似はしなくなるかな…と」

「それでもしギャンブル狂いになったらどうするつもりだい?博打に費やす金を稼ぐ手段として夜伽をし始めたら、もう何もかも終わりじゃないかな?」

「そこは…彼女の人間性に賭けるしかない。根っこはいい人なはずなんだ。…たぶん」

彼女の人となりが全然分からないので、かなり苦しい言い訳になってしまった。
もう少し交流しておけばよかったかもしれない、と後悔するも後の祭り。

今の自分は破滅へ手招きしている悪魔そのものだ。
塩を撒かれてニンニクを食わされた上に十字架を刺されても文句は言えないだろう。

しかし。

「…でも、このままだとどう転ぶか分からないのも事実…。何かしらの楽しみを見出してくれれば変わるやもしれないし…むー…」

お雪は勝手に悩み始めた。彼女も瑠璃の状況に思うところがあるのかもしれない。

↓1にどんな説得をするかをどうぞ。このレスのコンマを対象のレスのコンマが上回った場合説得成功です。
ダメだった時は回想になりますので、↓2に回想する項目を記載してください。


回想早見表


幼少期(幽閉時代)
少年期(ソルド時代)
少年期(聖女の召使い時代)
青少年期(戦争初期)
青年期(戦争終期)
青年期(ゴルギュリオ滞在時代)
青年期(シルヴィア邂逅時代)

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