めぐみん「我が爆裂魔法で神を討つ!!」アクア「討てるもんなら討ってみなさいな」 (7)

「うぃ~いま帰ったぞぉ~」

どうも。皆さん、ご無沙汰しております。
我が名はめぐみん。紅魔の里随一の良い女。
ダストたちと飲んでくると言って出かけた近い将来の夫の帰りを寝ずに待っていました。

「なんだ、こんなとこで寝やがって」

帰宅したカズマを真っ先に出迎えようとしたら、リビングには既に先客がいたらしく。

「起きろ、アクア。飲み直すぞ」
「むにゃむにゃ……カズマしゃん」
「たく。幸せそうな寝顔しやがって」

音を立てずにリビングのドアを開けて隙間から覗き込むと、ソファでだらしなく眠りこけたアクアの肩をカズマが揺らしていました。

「起きろって。起きないと乳を揉むぞ」
「くぅ……くぅ……」
「よーし。そっちがその気ならやってやる」

とても小さな子供には見せられないような指の動きでアクアの胸に接近するカズマ。
止めるべきでしょうか。否。カズマのことはよくわかっています。全年齢対象です。

「アクアの胸揉んでもしゃーないか」
「ゴッドブロォオオオオオオオッ!」
「うごげっ!? オロロロロロロッ!」

起きていたアクアの鉄拳がカズマの鳩尾に炸裂して、盛大に吐瀉物を撒き散らしました。

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「ゲホッゴホッ……お、おまっ、お前なっ! 起きてんなら起きてるって言えよ!?」
「あら、帰ってたの。おかえり」
「おかえりじゃねーよ!? 仮にも女神ならもう少し貞淑に主人の帰りを出迎えろよ!」
「カズマが主人? ぷーっくすくす! あんたごときがこの私の主人を気取るなんて100億万年早いわよ! まずは転生に転生を重ねて原罪を償ってから出直してきなさいな!」
「原罪の塊みたいな自称神がほざくな!」

予想通りの結果にホッとするやら嫉妬するやら。あれ? どうして私は嫉妬しているのか。
アクアとカズマの仲が良いのは今に始まったことではないのに、ここでバーン!とドアを開けて「話は聞かせて貰った!」と登場する勇気がない。勇気。そう、勇気が足りない。

「ていうか、どうしたのよこの惨状は。ははあん。カズマさんったら飲み過ぎて気持ち悪くなっちゃったのね? 仕方ないわね。この優しい女神様が汚い床を浄化してあげるわ」
「お前の仕業だ! ひとのせいにすんな!」
「そーれ! 花鳥諷詠ー!」

ぷしゃーっとアクアが水を撒いてカズマの吐瀉物は綺麗に浄化されました。文句を言いつつも濡れた床を拭くカズマ。すると不意に。

「カズマさんカズマさん」
「なんだ、ようやく謝る気になったか?」
「全部吐いたなら、まだ飲めるでしょ?」

アクアが大事そうに抱えた酒瓶を見て、怒っていた筈のカズマが呆れたように微笑んでいるのを見て、私の胸のモヤモヤが大きくなっていきます。おかしい。私は良い女なのに。

すみません
花鳥諷詠ではなく、花鳥風月でした
以下、続きです

「相変わらず仲が良いな、あの2人は」
「ダ、ダクネス! 盗み見は良くないですよ」
「めぐみんだって同罪だろう?」

背後から声を掛けられてびっくりしました。
盗み見に熱中していて全然気づけず、不覚。
同罪ならば、我々は共犯者です。観察続行。

「ぷはっ! このしゅわしゅわ美味いな!」
「でしょ? 街の市場で見つけてきたのよ!」
「水が良いんだろうな。でかした水の女神」
「ふふん! もっと褒めて崇め奉りなさい!」
「よっ! 日本いち!」
「当たり前でしょ!管理してたんだから!」

はて、"にっぽん"とはなんでしょう。ダクネスに視線で問いを投げかけるも首を傾げてわからない様子。2人の故郷なのでしょうか。

「日本か……懐かしいな」
「早く帰りたいんですけど」
「そうか? まあ、この世界は物騒だからな」

急にしんみりしました。やはり故郷ですか。

「でもなんだかんだ来て良かったと思うよ」
「私は巻き込まれただけなんですけど」
「ありゃお前の自業自得だ」
「女神の業……ふっ。美しさって、罪よね」
「性格の悪さを悔い改めろ」
「誰に向かって悔い改めろって言ったの?」
「罪深き駄女神に向かって言ったんだが?」
「あー!駄女神って言ったからもうしゅわしゅわあげなーい! 宴会芸スキルで一気飲みしてあげるからコールで盛り上げて! 早く!」
「わぁー!やめろ! もったいない! おい! 酒瓶から手を離せ! それは俺が管理する!」
「やーめーて! この子を奪わないで!!」

しんみりから一転して騒がしくなった2人は戯れ合うように酒瓶を取り合っています。
必死に抵抗するアクアから酒瓶を保護しようとするカズマは半ば抱きしめているようで。

「あんな風に乱暴に抱かれたいものだな」
「っ……見透かしたようなことを言うのはやめて貰おうか。今にも泣いてしまいますよ」

羨ましそうに語るダクネスは嫉妬している私よりも大人で、なんだかみじめな気分です。
羨望と嫉妬は似て非なるものなのですね。

「めぐみんも嫉妬するのだな」
「ダクネスと違って年頃の乙女ですから」
「私も年頃の乙女なのだが?」

ダクネスが年頃の乙女なら、私は妹のこめっこよりも幼い幼女以下の胎児になりますよ。

「出ていかないのか?」
「私は良い女ですから」
「良い女、か」

意地を張ると、ダクネスは優しい眼差しで。

「良い女が男に好かれるわけでもあるまい」

たしかに良い女のダクネスはモテませんね。

「出ていくべきだと思いますか?」
「さてな。私も迷っている」
「ダクネスはもっと出しゃばるべきかと」
「そういう教育を受けていないものでな」

なにをいけしゃあしゃあと。カズマに前に出るなと言われても先陣を切る癖に。こんな時だけ貴族の淑女になるなんて許しませんよ。

「ダクネスが行くなら私も行きます」
「こら、私を盾にするな」
「それがクルセイダーの役割ではないですか? 私のことをしっかり守ってください」
「やれやれ。そう言われると弱いな」

優しいダクネスが私を背中に庇ってドアを開いてくれました。その背中が大きく見えて、私は自分の小ささを自覚します。私は弱い。

「なんだ、ダクネス。起きてたのか」
「めぐみんも居るぞ」
「お、おかえりなさい……カズマ」

もじもじ応じて、カズマの顔が見れません。

「どうした、めぐみん。もじもじして」
「べ、別に……なんでもないですよ」
「ははあん。さてはおしっこしたいんだろ」
「やだもう、カズマさんったらお下品!」
「わはははははは!」
「ぷーっくすくす!」
「こ、こら、2人ともそんなに揶揄うな」

仲睦まじさを見せつけられたこっちの気も知らずゲラゲラ笑い転げる酔っ払い共のあまりにもあんまりなその態度に私はキレました。

「いいだろう! そんなにおしっこがお望みならこの場でぶちまけてやろうじゃないか!」
「お、おい、めぐみん! 落ち着け!」
「離してくださいダクネス! この男に目にもの見せてやらないと私の気が済みません!」

必死に止めようとするダクネスを振り払い、私は自分の男の眼前に立ち、口上を述べる。

「我が名はめぐみん! 紅魔の里随一の悪女にして、自分の男にわからせる者!!」
「わ、わからせるって、何をだよ」
「誰が誰のものかってことをですよ!」
「うわっ! なにしやがる! 離れろ!」

良い女なんて損するだけ。悪女になります。

「黒より瞑く、闇より深き漆黒よ……」
「や、やめっ……もがっ!?」

ズボッ!とカズマの頭をスカートに仕舞ってからアクアに目を向けるとまるで試すような眼差しを返されました。上等です。無詠唱。

「エクスプロージョン!」

ぷしゃーっ!

「フハッ!」
「ふあっ!」

スカートの中で響く愉悦が恥骨に響き渡って思わず腰が引けてしまいそうです。だけどここで引くわけにはいきません。勇気を。そう、宿敵に立ち向かう勇気に出す。アクアにだけは負けたくないのです。だから出し切るっ!

「カズマは私のものです! 渡しません!!」
「ふっ……やっぱり女神の美しさは罪よね」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「嗤っている場合ではないぞ、カズマ……」

ふん。女神がなんですか。偉ければ偉いほど、下克上に燃える。美しければ美しいほど、穢し甲斐がある。我が名は、めぐみん。

「我が爆裂魔法で神を討つ!!」
「討てるもんなら討ってみなさいな」
「ふ、2人とも……ほどほどにな」

魔王と呼ばれようとも、神と敵対する者也。


【この嫉妬に狂った乙女に宿敵を!】


FIN

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