殺し屋「殺し屋はサンタクロース」 (25)

依頼人「この標的をやって欲しい」

殺し屋「なにか条件は?」

依頼人「クリスマスイブの夜、奴が恋人とホテルにいるところを……」

殺し屋「あ、ダメだ。無理だ。その日は予定が入ってる」

依頼人「え、予定?」

殺し屋「ああ、この仕事は引き受けることはできない。断る」

依頼人「なんでだよ!」

殺し屋「いいから他を当たってくれ」

依頼人「くそっ、まさかクリスマスイブにはサンタのコスプレでもするってのか?」

殺し屋「……」ギロッ

依頼人「じょ、冗談だよ冗談。他を当たるよ……」

殺し屋(そのまさかなんだな、それが)

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12月24日 夜――

殺し屋(ついに来たか。年に一度のこの日が!)

殺し屋(この赤い服に身を包めば……)

バサッ

サンタ(俺も立派なサンタクロースってわけだ)

サンタ(サンタは世界中にいる)

サンタ(元締めであるサンタから資質を認められた者のみ、クリスマスイブだけサンタとして活動できる)

サンタ(普段は八百屋のサンタもいるし、サラリーマンのサンタもいる)

サンタ(モデルをやってるサンタもいれば、ニートのサンタだっているらしい)

サンタ(なら……殺し屋のサンタがいたって不思議じゃないだろう?)

サンタ(サンタがいるなら当然トナカイとソリもいる)

サンタ(こいつらも年に一度、この日の夜だけ召喚できる)

サンタ(空を飛べて、目撃されることもない特別製だ。こいつらがいるからサンタ業は成り立つ)

サンタ「今年もよろしくな」

トナカイ「……」コクッ

サンタ「それじゃ出発だ!」

シャンシャンシャン…

サンタ「えぇと、まず最初の子供は……リカちゃん人形か」

サンタ「家はこっちだな」

サンタ(基本的にプレゼントは元締めから配給される)

サンタ(子供ひとりひとりにその子が最も欲しいプレゼントが用意されてる)

サンタ(一体どうやって子供たちの欲しいものを調べてるんだか……よく出来てるもんだ)

サンタ「この家だな」

サンタ(サンタになってる時だけは、俺はあらゆる家に自在に入ることができる。すり抜けるように)

サンタ(この能力があればどんな殺しも楽勝になるなと思ったりもするが、もちろんそんなことはしない)

サンタ(俺にだってサンタとしての誇りがあるからだ)

スゥゥ…

少女「すぅ、すぅ……」

サンタ(よく眠ってるな)

サンタ(枕元に……置いておこう)

少女「むにゃ……」

サンタ(朝になったらきっと大喜びするだろうな)

サンタ(職業が職業だけにめったに笑わない俺だが、この時ばかりは顔がほころんでしまう)

シャンシャンシャン…

サンタ「えぇと、次の子供は……ラジコンのロボットか」

サンタ「ちょっと拝見。今時のオモチャはすげえな。俺が欲しくなっちまうぜ」

サンタ「あのマンションだな」

……

坊主「ぐぅ、ぐぅ……」

サンタ(ほらロボットだ。大切に遊べよ。正月には壊れてるなんてオチは勘弁な)

シャンシャンシャン…

サンタ(この子はゲーム機)



サンタ(ここは……撮影用のカメラ。動画配信でもやるのか?)



サンタ(おおっ、ここは五人兄弟か。親父とお袋が頑張ったんだなぁ)

――――

――

シャンシャンシャン…

サンタ(プレゼント配りももう少しだな)

サンタ「次の子供の希望は……『やさしいパパ』」

サンタ「なんだこりゃ?」

サンタ「まぁいい。行ってみるか」

ある家――

父「このっ!」バシッ

少年「あうっ!」

父「ケッ、このガキめ。いつもビクビクしやがって。ムカつくんだよ!」

少年「……」

父「なんだその目はぁ!? 文句あるのか!?」

少年(どうして、ぼくのパパはこんな人なんだ……)

少年(誰でもいい。ぼくを助けて。神様、仏様、サンタさん――)

サンタ「やめろ」

父「わっ!?」

少年「……!」

サンタ「クリスマスイブの夜更けに子供いじめって、頭おかしいのかよ」

父「誰だてめえ!?」

サンタ「見て分かんねえのかよ。サンタだよ」

父「サンタぁ……!? ふざけんなァ!!!」ブンッ

サンタ「ふん」ゴッ

父「あだぁ! ひ、ひい……血がぁ……!」

サンタ「ちょっと血が出たぐらいで騒ぐな。こっちは真っ赤な服着てんだからよ」

サンタ「聞け」ガシッ

父「ひっ……!」メキメキ…

サンタ「ここでお前をブッ殺しちまうのは簡単だが、それやるとこの子も色々と不便するだろう」

サンタ「だからとりあえず、お前は親でいてやれ。優しい、模範的な親でな」

サンタ「この子が大きくなって独り立ちできるまで、面倒を見てあげるんだ」

サンタ「もしも、それができず、またこの子に暴力振るったり汚い言葉を吐いたら――」

サンタ「必ずお前を殺してやる。オーケー?」

父「は、はい……」

サンタ「俺はいつでもお前を見てる。どこからでも現れる。それを忘れるな」

父「……」ガタガタ

サンタ「坊主」

少年「え……」

サンタ「こんだけ脅しとけばとりあえず大丈夫だろう」

サンタ「こんなクソ親父に頼らず生きていけるように強くなれ!」

少年「は、はい!」

サンタ「ああ、あと……プレゼントをやろう」ゴソゴソ

少年「え……」

サンタ「一人でも友達とも楽しめる最新の携帯ゲームだ。子供は遊ぶのも仕事だからな」

少年「わっ、すごい!」

サンタ(ちなみにこのゲームは自腹。ま、サービスってやつだ)

サンタ「じゃあな」

少年「ありがとう……サンタさん!」

サンタ「メリークリスマス」

シャンシャンシャン…

サンタ(ちょっと時間食っちまった。ペース上げねえとな)

――――

――

12月25日 早朝――

殺し屋「終わった……」

殺し屋「サンタ業務を終えて飲むビールは美味いぜ」グビッ

殺し屋「お前もありがとな」

トナカイ「……」コクッ

殺し屋「また来年も……よろしく頼む。俺が死んでなきゃな」

しばらくして――

殺し屋(ガキの集団か……ん!)

ワイワイ…

友「最近お前明るくなったよなー」

少年「へへ、そうかな!」

友「何があったんだよ」

少年「パパが優しくなったからさー。武道も習い始めたし!」

友「へ~」

殺し屋「……」

友「うわっ!」

少年「ひっ!」

殺し屋「……」

友「い、行こうぜ」

少年「うん……」

友「すげえ目つき。怖そうなおじさんだぜ……」

少年「だけど、どこかで見たことあるような……」

殺し屋「……」

殺し屋(たまにはこんなクリスマスプレゼントもいいよな)

プルルル…

殺し屋「もしもし。新しい仕事? ああ、喜んで引き受けさせてもらう」







― 終 ―

「タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ」よりスレタイを拝借しました

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