入学以来トップの成績を修め続けている柏崎星奈が天才であることは、誠に腹立たしいことに事実であることを認めざるを得ない。
そう言った意味では、飛び級を重ねた高山マリアが天才であることも確かであろう。
同様に大企業がこぞってその明晰な頭脳を求める志熊理科が天才であることも周知の事実でありこのことからわかるのは天才を裏付けるのは実績に他ならないということである。
結局、結果が評価に直結するわけだが、その観点から言えば友達作りという分野に限っては、3名はなんら結果を出せぬ落第である。
まあ、この私、三日月夜空も落第生の1人であるので偉そうなことは言えないのであるが。
「なあ、肉」
「なによ、夜空。何を考え込んでるのよ」
「お前たちは不憫だな」
「はあ?」
仮に周囲のレベルがこの3人の天才に匹敵したなら、孤立することはなかっただろうに。
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「なんで憐れまれないといけないのよ」
「そうか。お前は私に憐れまれているように感じるのか。そんなつもりはなかったがな」
不憫であるとは口にしたが、その境遇は周囲の環境のせいであるので別に憐れんだつもりはなかった。ではなんと言うべきだろうか。
「くれぐもテロとか起こすなよ」
「ちょっと! どういう意味よそれ!?」
ああ、これではまるで危険人物扱いしているように取られるわけか。言葉は難しいな。
「この世の中はクソだって思わないのか?」
「思うわよ。でもどうしようもないでしょ」
諦観は私にも当て嵌まり、このクソみたいな世の中がどうしようもないという現実を、今更覆そうという気力なんてまるで湧かない。
「お前が陽キャでないことは救いだな」
「だから、どういう意味よそれ」
テロを起こすのは恐らく、行動力があって社交的で友達を沢山作れる陽キャに違いない。
「ねえ、夜空」
「なんだ?」
「あんたはたぶん世の中をどうにかしようとして失敗したのよね。その結果が今でしょ」
知ったようなことを。まあ、事実なのだが。
「どうせ中学生の時に道理に合わないことをした同級生を論破したらハブられたんでしょ? 聞かなくてもなんとなくわかるわよ」
その通りだった。幼い頃、私は正義の味方に憧れていて、それを実践した結果孤立した。
「あんたは要領が悪いのよ」
「そういうお前は要領が良すぎるが故に周囲から疎まれ、妬まれているではないか」
自分が要領が悪いということは自覚してる。
では要領良く生きれば何もかもが上手くいくわけではないことは柏崎星奈が証明してる。
「少しは周囲に合わせたらどうだ?」
「はあ? なんでこのあたしが周囲の有象無象に合わせなきゃいけないのよ。ついてこれないなら置き去りにするだけよ。あたしは、もっとずっと先に行きたいのよ」
「もっとずっと先、か」
そこに、何があるというのだろう。何かあったとして、それを見つけた喜びを分かち合える存在が居なければ、無意味ではないのか。
「夜空。あんたは考えすぎよ」
「パスカル曰く、人間は考える葦だからな」
たぶん、いま私は遠い目をしているだろう。
そういう目をしていると、周囲の人間は離れていく。彼らは近くしか見ていないからだ。
「考える葦ね。あたしはそんな雑草じゃないわ。言うなれば、考える巨木かしらね」
「ウドの大木の間違いではないか?」
天才である筈の柏崎星奈が頭の悪いことを抜かしたので、すかさず皮肉を口にするも、特に気にしてない風に不敵に口の端を曲げて。
「ふっ……夜空は見たまんま貧相な葦よね」
「うぐっ……どこを見て言ってる、肉!!」
「そっちこそ、このあたしの完璧なプロポーションから目が離せないみたいだけど?」
柏崎星奈は天才な上にスタイルが良かった。
ハーフなので日本人とは骨格や肉質自体が異なっており、その点、私は典型的な日本人。
「男の目を惹くのがそんなに嬉しいのか?」
「見られないよりは、遥かにマシでしょ?」
そうだろうか。鬱陶しいだけではないのか。
「しかし、肉。身体目当ては虚しくないか」
「そんな低俗な男にこの完璧な身体を恵んでやるつもりはないわ。やっぱり見返りが重要だからそれ相応の対応をして貰わないとね」
「それ相応の対応とは、具体的になんだ?」
なんだろう。ロマンチックなシチュエーションや純粋に相手の人柄だろうか。金銭ということはあるまい。この女は金持ちだからな。
「あたしに好きだって思わせないと、ダメ」
「ちっ……一理あるのがムカつく」
結局、そうした場面で重要なのは好意だ。
行為の前に好意なんて言うとシャレのように聞こえるが、最終的には気分次第なのだ。
「しかし、その完璧な肉体とやらが邪魔をして純粋な好意を見抜くのは難しいだろう」
「見抜く必要なんかないわよ。判断するのはあたしでその時その瞬間、こっちが好きかどうかなんだから。そのくらいわかるでしょ」
「……ビッチが」
「はあっ!? なんでそうなるのよ!?」
こいつの理屈から言えば、たとえば私が小鷹と付き合っていたとして、たまたま小鷹と肉が2人っきりになった際に、こいつが好きだと感じたら貪るということになる。最低だ。
「お前みたいな女がその場の勢いで簡単に股を開いて修羅場を生み出すのだ。この雌豚」
「あ、あたしだって配慮するわよ!?」
反論してきた柏崎星奈を見つめて詰問する。
「本当にそうか? 神に誓えるか?」
「うっ……あ、当たり前でしょ」
「ちなみに私はチャンスが到来したら後先考えずに天井の染みを数える自信があるぞ」
「あんたのほうがビッチじゃないの!?」
何をバカな。女として、生物として当然だ。
「とはいえ、全く想像出来ないがな」
「え? 寝る前とかに妄想しないの?」
「は?」
何を言ってるんだこの女は。追求してみる。
「具体的にどんな妄想をしているんだ?」
「い、言えるわけないでしょ……」
「ほほう? 貴様は夜な夜な人に言えないような卑猥な妄想をしているのか? とんだ変態だな。果たして妄想で済んでいるのだろうか」
「う、うるさいわね! 誰だってそうでしょ」
そんなことはない。私はたまにしかしない。
「あ、あたしはただ、どっかの誰かの性格が丸くなってあたしに優しくしてくれて、ついでに男になったら嬉しいとか思ってないし」
「何を言ってるんだお前は」
特に後半の男になったらという部分が理解不能だ。私も時折自分が男だったら昔みたいに小鷹と親友になれるのではないと思わなくもないが男女だからこそ心が震える時もある。
「あんまりおかしな妄想をしていると特殊な性癖が開花するからほどほどにしておけ」
「よ、余計なお世話よ!?」
やはりこの肉は異常だ。私は至ってノーマルなので永久に分かり合えまい。私はただ、小鷹に頭を撫でて貰って、キ、キスされたら。
「何をニヤけてるのよ」
「……別にニヤけてない」
「ニヤけてたわよ、思いっきり。どうせ人に言えないような卑猥な妄想してたんでしょ」
「違っ……私はキスをしたいだけだ!?」
ついつい挑発に乗って、願望が口から出た。
「ふうん……キスねぇ」
「う、うるさい駄肉め」
にやける柏崎星奈を睨みつけると、不意に。
「あんた、キスしたことある?」
「あ、あるわけないだろう」
「どんな感じなのかしらね」
思わず素で質問に答えると、意外にもこの肉も経験がなかったらしく、何やら妄想して。
「そもそもキスで興奮する仕組みがよくわからないのよね。あれってなんでなのかしら」
「知るか」
「粘膜同士の接触、というよりもパーソナルスペースの喪失によって心理的な負荷がかかる距離間まで接近することで、そのラインを越えたことに対する満足感が快感に変わるのかしら。受け入れたり、受け入れられたり、そんな状態が心地良いのかも知れないわね」
恥ずかしい考察をしている柏崎星奈の唇が物欲しそうに見えた。ふと、小鷹は私とこの女どちらにキスされたいだろうかと考えて。
「……無意味だな」
「え?」
「結局、人間なんてその場面になったら自分のことしか考えられなくなるのだろう」
本能と言ってしまえばそれまで。人は獣だ。
「たぶん、私は理性的すぎるのだろうな」
「それは間違いないわね」
獣になることを恐れるがあまり、なんでもかんでも理屈で理解しようとしているのだ。
もっと楽に、単純になりたいけれど、怖い。
「恐怖心を薄れさせるのは相手に任せるしかない。そのために信頼関係が必要なのだ」
「また理屈で考えようとしてるじゃない」
仕方ないだろう。私は考える葦なのだから。
「あんたは考えてる自分が好きなだけよ」
「そうかも知れないな」
きっとそうなのだろう。どうにかして自己を肯定するために、私はいつでも考えている。
「ま、いいんじゃないの」
「肉……」
「足りない頭で必死に考えてるあんたは、周囲の有象無象よりもいくらかマシだから」
この女はどれだけ高みに居るつもりなんだ。
「お前は普段何も考えてないように見える」
「考えなくてもわかるもの」
「だろうな。そこが周囲には理解されない」
柏崎星奈からすれば、何故そんなに考えないと答えを導き出せないのか理解出来ない。
私からすれば何故考えなくても答えを導き出せるのかが理解出来ない。それでも、私は。
「周囲に理解されないお前は、人間らしい」
柏崎星奈の人間らしい部分がわりと好きだ。
「たまに、自分は人間かわからなくなるわ」
「神にでもなったつもりか?」
「そうね。でも、悪魔じみてるあんたを見ると、自分は人間なんだって実感するのよ」
「失礼な奴め」
悪魔とは人聞きが悪い。自覚はあるけど。
「私はお前とは違う。それだけが救いだ」
「……あんたってほんと性格悪いわよね」
「ふん。性格に良し悪しなどあるものか」
「そうね。嫌な人にとっては嫌だし、それが良いって人にとっては良くも思える」
何もわかってない顔をして、全知全能だ。
「だが、自分を全肯定して欲しいかというとそうでもない。どちらかと言えば否定して欲しいと思う。我ながら面倒くさい性分だな」
「ほんと面倒くさいわね」
たとえば小鷹に今の自分を褒められても大して嬉しくないだろう。今の自分の気に入らない部分を上手く修正出来たその時にこそ褒めて欲しいのだ。複雑な承認欲求を自覚する。
「完璧なお前にはわからないだろうな」
「そうでもないわよ。あたしは完璧すぎるが故に、あんまり怒られたことがないから、誰かに叱られるとわりと嬉しかったりするわ」
「面倒くさい肉め」
叱られて喜ぶ神などただの変態ではないか。
「ならば、叱ってやろう」
「へ?」
「叱られたいのだろう?」
柏崎星奈の眼前まで移動して、腕を組んだ。
座っている肉を見下ろすのは、気分が良い。
上目遣いでこちらを睨む柏崎星奈に命じる。
「四つん這いになって尻を向けろ」
「は?」
「悦べ。お尻ペンペンをしてやる」
全知全能の神を躾けるのは、悪魔の役目だ。
「お、お尻ペンペンとか正気……?」
「嫌ならやめておこう」
渋る素振りを見せた柏崎星奈に興味を失い、立ち去ろうとすると、手首を掴まれた。
「ま、待ちなさいよ」
「待たない。待つのは嫌いだ」
「わ、わかったわよ! ペンペンしなさいよ」
わかればいいのだ。まったく。煩わせるな。
「ほら、さっさと尻を出せ」
「パ、パンツも脱ぐの……?」
「いや、ひとまず衣類越しで叩く」
パンッ!
「ふあっ!」
「ほう? なかなか良い鳴き声だな」
日本人離れした柏崎星奈の尻は信じられない弾力があり、叩き応えが抜群だ。腕が鳴る。
パンッ! パンッ!
「あうっ! やっ!」
「嫌じゃないだろう。貴様は悦んでいる」
「よ、悦んでなんか……」
「うるさい。口ごたえするな」
パンッ! パンッ! パンッ!
「あっあっあっ」
「くふっ。なんだその知性を失った人形みたいな声は。考えることを放棄してるのか?」
パンッ! パンッ! パンッ!パンッ!
「いっ……やばい……なんかヘン」
「どこがどう変なんだ?」
「頭、ぼーっとして……考えられない」
「よもや感じているのか? この変態が」
変態め。叩いて感じている私もまた変態だ。
「はあ……はあ……」
「何を休んでいる」
「ちょ、ちょっとは休憩させてくれても」
「馬鹿が。ここからが本番だ」
だらしなく寝そべる柏崎星奈の下着に手をかけて勢いよく下ろした。そして愕然とした。
「おい、貴様……なんだ、このスジは」
「え?」
「用を足したらきちんと拭け!」
スパァンッ!
「痛っ! やめっ……」
「ウンスジ付きの下着を!」
「あうっ!」
「この私に叩かせたのか!?」
「そ、そんなつもりは……」
「じゃあなんだこのウンスジは!?」
「だって、あんたが叩くの上手いから……」
「フハッ!」
瞬間、私は考えるのをやめて、獣になった。
ただひたすらに、一心不乱に、お尻を叩く。
もっとずっと先に何があるのか知りたくて。
「謝れ!」
「ご、ごめん!」
「謝れ!!」
「ご、ごめんなさぁあああああい!?!!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
高らかに愉悦を響かせながら私は理解した。
だから、私には友達が少ないと。それでも。
もっとずっと先で私は悦びを分かち合えた。
【私は友達が少ない】
FIN
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