男「5億人ボタン? 俺が5億人になったところで何の役にも立たないだろ」 (28)

男「いらないよ、こんなボタン」

怪しい男「いえいえ、あなたが増えるボタンではありません」

男「え、そうなの? じゃあ5億人ってなんなの?」

怪しい男「このボタンを押すと、世界の人類の数が5億人になるのです」

男「ああ、そういうことね」

男「……」

男「……ってちょっと待てよ」

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男「今、世界人口ってどのぐらいだっけ?」

怪しい男「ざっと78億人ですね」

男「もし俺がこれを押したら、残りの73億人はどうなるわけ?」

怪しい男「消えます」

男「え」

怪しい男「当然消えることになります」

男「マジかよ」

男「残れる5億人はなにか基準があるの?」

怪しい男「もちろんございます。ランダムで消えるわけではありません」

男「どんな基準?」

怪しい男「一言でいえば“優れた順”です」

男「優れた順……」

怪しい男「ボタンには人類のあらゆる能力……功績や影響力、将来性や遺伝的資質まで含め」

怪しい男「全人類のいわゆる“総合力”を公正公平完璧に判定する機能が備わっています」

怪しい男「その結果、上位5億人が残れるというわけです」

男「ボタンの判定は本当に正しいのかよ?」

怪しい男「その疑問はごもっともですが、こればかりは信用して頂くしかありません」

怪しい男「少なくとも、大多数が納得する結果になることは間違いありません」

男「なるほどね」

男「ってことは、俺が消えることもあるってことか」

怪しい男「その通りです。ボタンは公平です」

男「……」

怪しい男「ではこのボタンは差し上げましょう。押すも押さないもあなたの自由です」

怪しい男「それでは……」

男(消えた……)

男(あれから色々調べてみた……)

男(今の人口78億が多いか少ないかでいえば、間違いなく多い)

男(しかも人口増加は留まる事を知らず、2050年には100億に達する見込みだという)

男(100億なんてなったら住む場所とか、資源とか、争いとか、あらゆる面で人類にとってよろしくないのは間違いない)

男(ならいっそここらで5億人にするってのもありなのでは、と思えてくる)

男(今ここで5億人ボタンを押せば、よりよい“新しい世界”を生み出せるかもしれない)

男(ただここで問題なのは――俺が“ベスト5億”に入れてるかどうかだ)

男(結論からいおう。絶対入れてない。半分から上にいけてるのかも怪しい)

男(つまり、俺が今やるべきことは自分磨きだ)

男(自分を磨いて、5億位以内に入れてると確信を持たなきゃならない)

男(そうと決まれば――)

――――

――

男は見聞を広めるため、世界中を旅した。



男「へぇ~、これがピラミッドか……」

男「大昔にこんな大きいもの作ったなんて、すごいよなぁ……」



男「ハロー!」

外国人「ハロー!」

男(怖がらず、積極的に外国語で会話しないと……)

観光地だけでなく、秘境や紛争地帯まで――



男「はぁ、はぁ、はぁ……酸素が薄い」

男「一度、酸素を……」シュコーッ



ガガガガガ… ドォンッ! ドゴォンッ!

男「うわあああっ! ゲリラの攻撃だっ!」

兵士「早くこっちへ来い!」ガガガガガッ

世界を旅して数年、ただ漠然と旅をしていただけならば、
おそらく得られるものはなかっただろう。

しかし、男には確固たる目的意識があり、貪欲に文化や知識を吸収していった。

その結果、男は大きく成長することができた。





男「充実した旅ができた……世界旅行はこの辺でいいだろう」

次に男は体を鍛えた。

肉体的な強さもなければ、世界のベスト5億には入れないと判断したからだ。



男「ふっ、ふっ、ふっ」グッグッ…

男「シッ、シシッ、シッ!」ボスッボスッ

「すげえ鍛えてんな」 「何してる人?」 「さあ……」



やがて、トップアスリートにも肉薄する肉体を手に入れた。

男(知識と肉体は備わった……後は社会的成功を収めるのみ)

男「となると……やはりビジネスで名を上げるに限る」



男は世界を旅した経験を生かし、グローバルに通じるビジネスを次々と打ち立てた。

需要があることをやる、斬新なことをやる。
男はこの二つをたやすくやってのけた。

瞬く間に大成功を収め、世界を代表する億万長者の一人となった。

秘書「社長、お茶が入りました」

男「ご苦労」

男「……」ゴクッ…

秘書(ああ……お茶を飲む姿さえなんて神々しい……)

男「美味しいお茶をありがとう。お礼に今夜は抱いてあげよう」

秘書「は、はいぃっ!」

男(今の俺は、男としての魅力に溢れ、ビジネス界も席巻したといっていいだろう)

男(となると、次に狙うは……)

――――

――

男「国民の皆様!」

男「私が政治の世界に入ったあかつきには――」

男「老若男女、全ての人を平等に扱い――」

男「“新しい世界”を作ると約束します!」

ウオオオオオオオッ!

世界を知り尽くし、生き馬の目を抜くビジネス社会でもあっさり成功してみせた男にとって、
国民たちの支持を得るなど赤子の手を捻るようなものであった。

政界でもたちまち成功者になったのは言うまでもない。

男「ついに国のトップになった……」

男(今の俺は既に、まず確実に世界のベスト5億に入ってると思う)

男(財力も、権力も、肉体的能力も、俺に敵う奴はほとんどいないだろう)

男(だが、俺の目指す“新しい世界”を作るためには、一国のトップ程度じゃ到底足りない)

男(そう……世界だ)

男(世界の頂点に立たなければ……!)

――

――

男「世界の皆さん!」

男「皆さんのおかげで、今日からこの私が……この地球の最高権力者になることができました!」

男「ありがとうございます!」

ワアァァァァァッ!!!

あらゆる国籍・人種の民が男を見上げる。

男は歴史上誰も成し得たことのない、“地球統一”をやってのけた。

男は地球の王としての邸宅で、一人思いをめぐらす。

男(ついに俺は地球の頂点に立った……)

男(今の俺は、誰がどう判断しても、地球一番の人間に間違いないだろう)

男(さて、俺がやるべきことはあと一つだけ)

男「このボタンを……押すことだけだ」



ポチッ

次の瞬間、ミサイルが世界中にばら撒かれた。

ミサイルは地球上のあらゆる箇所に飛び、人類を瞬く間に蒸発させていった。

どんな僻地に住んでいる人間も逃れることはできない。





男「……これでよし」

男「今、世界で生き残ってる人類は俺だけになってるはずだ」

そこへ――

ヒュルルルルル…



男「おっ、飛んできた……」

男「俺にも……ミサイルが……」

男(さあ始まれ、“新しい世界”よ――)

男は迫るミサイルを笑顔で迎え入れた。

男の望みは“新しい世界”を作ること――

しかし、頂点を極めていく過程で男の望みは少し変わっていた。

男は“自身すら介入することのない新しい世界”を渇望するようになっていったのだ。



男の肉体が消滅した瞬間、ある装置が作動した。

その装置の機能は、“男が亡くなった後に5億人ボタンを押すこと”だった。

押した後、その装置は静かに自爆した。

5億人ボタンの機能は“世界の人類の数を5億人にすること”である。

つまり、もし世界の人口が100億人だったら、95億消すことになる。

そして――
もし“0人”だったなら、新しく5億人追加することになるのだ。



モゾモゾ… モゾモゾ…



世界中に全く新しい人類が“5億人”誕生する――

これこそが男の狙いだった。

新人類A「……」モゾ…

新人類B「……」モゾモゾ

新人類C「……」モゾ…



かくして男の願いは叶った。

新しい5億の人間達は、どのような“新しい世界”を造っていくことになるのだろうか――








END

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