・シャニマスのSSです。二次創作や解釈違いを敬遠される方はブラウザバックを推奨します。
・途中提示される選択肢からPの行動を安価で決定してお話を進めていく形式です。
・エンディングにたどり着いたら、共通ルートの後からスタートします。
・選択肢による行動のとり方次第では、同じキャラクター相手でも異なったエンディングがあり得ます。
・このSSは
【シャニマス】P「よし、楽しく……」-noctchill編- 【安価】: 【シャニマス】P「よし、楽しく……」-noctchill編- 【安価】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1594223305/)
【シャニマス】P「よし、楽しく……」-Straylight編- 【安価】: 【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】 - SSまとめ速報
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のシリーズのうちの1つです。これらを読まなくても大丈夫だと思いますが、1つでも読んでいると本当の意味がわかるような場面、というのもあるはずです。
また、上記の作品のうち1つ以上を読まれた方々におかれましては、このスレでのネタバレになるようなレスはご遠慮願います。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1625744763
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OS Version 2.8.3.2019313
>……
>……
>……
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キーンコーンカーンコーン
「すぅ……」zzzZZZ
ユサユサ
「んんっ……すぅ……」zzzZZZ
「ありゃ、これはかなりの熟睡度……いつも以上に手ごわいかも」
「……」zzzZZZ
「Pた~ん、もう起きる時間だよ~~?」ユサユサ
P「……っ」
「このままだと、ホームルームで先生に見つかって、名指しで注意されちゃって、Pたんは恥ずかしい思いをすることに~……」
P「わかった……わかったって……っしょっと」ムクリ
「ようやくお目覚め~? ほんと、いつも起こしてあげてる三峰には、もっと感謝してくれなきゃな~~」
P「ん゛んーっ……ふぅ。ああ、いつもありがとうな、結華」
結華「! ……わ、わかってくれればいいのだよ、わかってくれればさー」
P「……」
結華「Pたん? どしたの?」
P「いや……なんでもない」
ガララ
「は~い、それじゃあ、ホームルームはじめますね~」
ガヤガヤ
結華「おっ、はづきち先生の登場だ!」
P「……」
結華「今日も美しいな~。Pたんもそう思わない?」
P「ああ、美しいな……」ボーッ
結華「はぁ……まだまだおねむなPたんであった」
P(学校……いつも通りの朝)
P(俺の日常……)
P(……だよな?)
P「学校……学校か」
結華「? どしたの?」
P「いや、なんでも……」
P「……ちょっと寝ぼけていただけだ」
P(そう)
P(いつも通りに、登校して、ホームルームまで机で寝ていただけ)
P(ここからは、授業受けて、飯食って、授業受けて、帰る――)
P(――それだけだ)
P(どこにでもいる普通の高校生だと思う)
P(何の面白みもない)
結華「授業受ける前に顔でも洗ってきたほうがいいんじゃない?」
P「え?」
結華「今のPたんの顔を見てるとさー、なんていうか……」
結華「……言葉選ばずに言ってもいい?」
P「ああ」
結華「おっけー。まあ、今のPたんの顔を見てると、三峰はため息つきたくなるかなーって、ね」
P(言葉選ばずに、って……それは選んでるって言える気がするが)
P「気が向いたらそうする」
結華「……っはは、そーですかそーですか」
結華「まあ? いつも通りといえば、そうだけど」
P「そのほうが酷いだろ」
P(それこそ、言葉を選んだ意味、だ)
はづき「あのー、そこのお2人さん……?」
結華「……!! す、すみません!」
P「……」
はづき「仲が良いのは素晴らしいですけど、今はホームルーム中ですからね~」
P(先生に注意されたことで、少なくない人数のクラスメイトがこちらに注目し、変な空気になる)
結華「はい……」
結華「……」
P(こういうの、結華は嫌いだろうな)
P「……」
P(結華の方を見て睨まれるのも嫌だし、前を向いていよう)
P(まあ、たぶん見ても睨まれはしないけど)
P(もっと面倒なことになりそうだ)
はづき「今日1日に関する連絡は以上です……が~? まだ、これから先についてのお話があります」
P(……?)
はづき「今日からこのクラスには、新しい仲間が加わります」
ガヤガヤ
P(転校生、か)
P(クラスの騒がしい奴の1人が、男か女か、と聞いた)
はづき「女の子ですよ~」
ザワザワ
P(さらに盛り上がるクラスメイトたち)
P(下世話な話もちらほら耳に届く)
はづき「はいはい、お静かに~……それでは」
はづき「転校生を紹介しますね~。どうぞ……」
P(転校生は教室の黒板側から入ってくるようだった)
P(そちらを見る)
ガララ
「……」
P「……!」
P(人目を引く可愛さ――というのだろう)
P(別に期待していたわけじゃない。そもそも、どんな人が来るかなんてわからなかった)
P(しかし、これは……)
はづき「では、黒板に名前を書いて、自己紹介をお願いします~」
「は、はいっ……! ……わわっ!?」
P(転っ――危な……)
「っとと、……セ~フ」
P(……よ、よかった)
P(転校生が黒板に名前を書いていく)
カッカッ・・・
P(チョークが滑る音が聞こえて、同時に文字が生成されていく)
P(名前は……月岡恋鐘――つきおかこがね――と言うんだな)
「……」
P(書き終わったみたいだ)
「月岡恋鐘ばい! あっ……です!」
恋鐘「よろしくお願いします!」
ワァァァァ
P(名乗ってよろしくと言っただけなのに、拍手と歓声――アイドルのライブみたいだ)
P(まあ、転校生が美少女で、その上……)
P(……あのスタイルならな)
はづき「月岡恋鐘さんは長崎の佐世保出身だそうです~」
はづき「ここから遠い所にいたみたいなので、お互いにいろんなお話をしてあげてくださいね~」
はづき「あ、そうだ。席は……今空いてるのが2つあって――」
P(1つは窓際の最後部、もう1つは――俺の真後ろだ……)
はづき「――どっちでも大丈夫なんですけど、どうします?」
恋鐘「じゃあ、こっちで!」
P「……え」
P(俺の後ろに来るのか)
P(まあ、窓際の最後部よりはマシってだけだろう、たぶん)
ザワザワ
P(後ろから椅子を引いたり荷物を出し入れする音がする)
P(今まで誰もいなかった分、変な感じがするな)
はづき「はい、それでは、ホームルームは以上になります」
はづき「1時間目の準備をしてくださいね~」
はづき スタスタ
ガララ
バタン
ガヤガヤ
P(早速、転校生にクラスメイトたちが群がる)
P(自分の席のすぐ近くだから、なんだか居心地が悪いな)
P(しばらくの辛抱、か)
P「結華は行かなくていいのか」
結華「?」
P「いや、なんていうか……初対面の人でも気にせず話せるんだろうなと」
結華「ああ……でもさ、大勢に質問攻めされるのも大変だろうし、次の授業まで時間ないし、話すならあとでいくらでも時間あるからさー……」
結華「それに、三峰今はそういう気分じゃないんだよね」ボソッ
P「そ、そうか?」
結華「さってと……移動しますかねー」
結華「Pたん、三峰と同じクラスでしょ? 今日は実験室だから移動しないと遅刻だよーん」
P「! そうだったそうだった……」ガサゴソ
P(転校生が来ても、日常は日常……だ)
~学校 化学実験室~
ザワザワ
P(今日の実験は2人1組で行うことになっている)
P(今回のペアは――結華だった)
P(正直、ホームルームで2人揃って注意されてからというものの、どことなく気まずい空気があって、妙なタイミングだなと思った)
P「……」
結華「……」
P(結華も俺も黙々と作業をしていて、本当にどうしたら良いのかわからない)
P(地雷を踏み抜いた記憶はないんだが……)
結華「あ、Pたん、電源装置のコードちょうだい」
P「ああ……これだよな、はい」
結華「サンキュー」
P「……」
P(何か話そう。何か……)
P「……結華がペアだと助かるよ」
結華「えー? どうして」
P「結華は優秀だからな」
結華「……」ピタッ
P(え、今のまずかったか?)
P(いやいや、流石に……)
結華「……」
P「……」ダラダラ
結華「ビリビリーーーッ!!!」
P「うわあぁぁっ!?!?」ビクッ
P(結華は、俺が手渡した電源装置のコードの先をこっちに向けている)
結華「変に無理してるPたんには、このコンセントででんこうせっかをお見舞いしちゃおうかな~?」
P「び、びっくりした……」
結華「まあ、でも、ごめんね? 気を遣わせちゃってるなら、申し訳ないなって」
P「それは別にいいけど……」
結華「Pたんが気にするようなことは何もないから安心してって、三峰は思うのでした」
結華「はぁ……でも、さすがにわかりやすすぎるなー……」ボソッ
P「え?」
結華「はいそこ! 女子の独り言を聞き返さない!」
P「す、すみません……!」
結華「あははっ、わかればいいのですよ」
結華「さて、三峰はこの流れを打破すべく、強引に話題を変えてみようと思います」
P「はい」
結華「今ってさ、そろそろW.I.N.G.出場を意識する子が出てきてもおかしくない時期だよね」
P「W.I.N.G.……」
結華「この学園のイベントの中でも最大級……しかも学園のアイドルの祭典とあっては、もうドルオタ的に無視できないよ!」
P「結華はそういうの好きだよな」
結華「うっわ、思い切り他人事扱いしてるよこの人」
P「すまん……こういうのは疎いってだけなんだ」
結華「学園の美少女たちが集うんだよ? アツくない?」
P「いや、俺も1人の男子として興味がないわけじゃないんだ」
P「ただ、なんというか……こういうイベントにどう向き合うのが自分にとって一番か、わからないっていうかさ」
結華「推しを決めて応援するとかじゃ駄目なの?」
P「推し、か」
P「今年は誰が出場するんだ?」
結華「うーん、新入生の子たちもいるし、まだ、これから5月って時期だからなー」
結華「今からだいたい32週間後くらいに本番で、それまでに体育祭とか文化祭でのアピールもあるだろうから、まだわからないってのが本音」
結華「高3は受験が控えてるから例年だと出る人めったにいないし、三峰たち高2からってのは今のところ情報ナシ」
結華「……ところが。ところが、ですよPたん」
P「おう」
結華「三峰のアンテナには……届いたのです」
結華「高1の新入生に、スポーツ万能学業優秀容姿端麗なモデル系美人がいるという情報が……!」
P「漫画みたいだ……」
結華「三峰も気になって、1年生のエリアに行ってこっそり見てきたんだけど――」
結華「――うん、あれはヤバい」
P「めちゃくちゃ可愛かったと」
結華「いや、結論を急ぐなかれ、だよ」
結華「あれはね、Pたん。王子様だよ」
P「王子?」
結華「立ち居振る舞いがカッコよくて、もう女子にモテモテって感じだった」
結華「まあ、外からちょっと見ただけだから、どんな子なのかはわからないんだけどさー」
結華「噂では、親衛隊が結成されたそうな」
P「早いな……まだ、今年度始まって3週間とかだぞ?」
結華「それだけ影響力があるってことでしょ」
結華「そういうわけで、その美人さんは出場するんじゃないかな」
P「なるほどな」
結華「もしPたんが気になるって言うなら、情報が入り次第三峰が共有してあげるけど?」
P「そうだな……この学園最大のイベントだっていうのに、卒業まで無縁なのもどうかと思うし」
P「それに、アイドル……」
P(……アイドル)
P「うん。それじゃあ、お願いするよ」
結華「おっけー、任せなさい!」ニコッ
結華「三峰をドルオタ仲間にしたこと、後悔はさせませんよ~?」
P「ははっ、頼もしいな」
P(ドルオタかどうかはわからないけど)
P(結華が楽しそうで良かった)
結華「そういえば、過去には中等部の子が出たって話もあるんだよね」
P「中等部か……あっちは少人数体制だし、出場したら目立ちそうだよな」
結華「まあねー。でも、1人、出てもおかしくない子がいるからなー」
P「そうなのか?」
結華「その子の性格的に出場するかはわかんないけど、ビジュアル的には全然アリだと思う!」
P「結華がそこまで言うなら、お目にかかってみたいものだな」
結華「三峰から一方的に与えるだけではPたんも成長しないと思うので、ヒントをあげましょう」
結華「その子に会いたかったら、保健室に行くといいかもしれないよ?」
P「保健室か……用も無く行く所じゃないけどな」
P(ほとんど行ったことはないと思うし、見かけたことがないのは当然か)
結華「まあ、そこは気になるなら頑張ってみてよ」
P「そうだな」
P「色々教えてくれてありがとう、勉強になったよ」
結華「いえいえ、どういたしまして」
結華「まあ? 勉強っていうなら、今は授業中だから実験結果見てノート書かなきゃだけどね?」
P「ははっ……それは結華も同じ――」
P「――じゃ、ないな」
結華「三峰はPたんと話しながらちゃーんと手を動かしてましたよ。実験しながら書くってやれば時短になるし。……ほら」
P(一緒に実験をしながらの会話だったが、いつの間にノートまで……)
結華「そんなに三峰に集中しちゃってたなんて、Pたん三峰のこと好きすぎかな?」
P「面目ない……実験の様子も正直よく覚えてないよ」
結華「しょうがないなぁ……はい、どうぞ」
P(結華が自分のノートを閉じた状態で俺に渡してくる)
結華「今日提出とかじゃないし、あとで適当なタイミングで写しといてよ。今から書いても授業終わっちゃうだろうし」
結華「提出期限の日までには返してね」
P「ありがとう……! 感謝の気持ちでいっぱいだ」
結華 ニコ
休み時間。
~教室~
P(結華のノートを写すか、寝るか、どちらにするべきか)
P「……」
P(ふと、周りを見る)
ガヤガヤ
P(結華は他の友だちと盛り上がってるみたいだし、ノートを写すのを急かしてはこないだろう)
P(というわけで、寝る)
P(おやすm……)
恋鐘「ねえ」ツンツン
P「うわっ!?」ビクッ
恋鐘「ご、ごめんね! 別に、驚かせようとしたわけじゃなか……ないよ?」
P「あ、月岡さん……」
P「俺に何か用……か?」
恋鐘「さっきん授業、アイドルの話b……してたよね?」
P「ああ……W.I.N.G.のことだな」
恋鐘「それ、詳しく聞かせて欲しか!」ズイッ
P(ち、近い、近すぎる)
恋鐘「……あ、聞かせて、欲しいな」スッ
P(いや、気にすべきところはそこじゃないぞ、月岡さん)
P「別にいいけど、俺よりも結華――あそこにいる三峰結華ってやつの方が詳しいぞ?」
P(結華は、今も友だちと話をしている)
P「まあ、今は無理かもしれないけど、後でなら……」
恋鐘「で、でも……」
P「そういうわけだから、うん」
恋鐘「……寝ようとしとったってことはどうせ暇なんやろ」ボソッ
P「なんて?」
恋鐘「だーかーらー! 暇なら知っとる限りんことば教えんね言うたと!!」
P「お、おう……」
恋鐘「なして転校生相手にここまで無関心になるんやろうか、まったく」プンスコ
恋鐘「あ……また訛りが出よった! う~~~」
P「無理に標準語で話そうとしなくてもいいんじゃないか?」
恋鐘「えっ?」
P「俺はその方がいいと思う」
恋鐘「そ、そうなんやろうか……」
P「月岡さんがどういう人なのか、その方が伝わると思うし」
恋鐘「……えへへ、ありがと」
恋鐘「やっぱ標準語は変に緊張して実力を出し切れんもん」
恋鐘「あ、そうだ、まだ名前ば聞いとらんやったばい」
P「俺は――」
(――名乗る)
恋鐘「P、観念してうちに教えるたい!」
P「ははっ、わかったよ。そこまで言われちゃあ、な」
P(俺は、もとから知っていたわずかな知識に、結華から教わったことを加えて、月岡さんにW.I.N.G.に関する説明をした)
P「……と、いう感じなんだ」
恋鐘「……」
P「月岡さん?」
恋鐘「うち、決めたばい」
恋鐘「W.I.N.G.に出る!」
恋鐘「で、Pがよそ見できんくらい釘付けにしちゃるばい!」
恋鐘「よーく見とってね!」
P「ああ、うん――」
P「――応援するよ」
P(それは、本心だったのか、それとも社交辞令だったのか)
P(少なくとも、躊躇いなく出た言葉ではあった)
恋鐘「ほんと!?」ズイッ
P(近い近い……というか)
P(その、大きい)
P(これは視線がそちらにいっても不可抗力というものだろう)
恋鐘「嬉しか~、ファン1号ゲットばい」
P「ははっ……」
キーンコーンカーンコーン
P「予鈴だ」
恋鐘「もう休み時間終わったと!? 早すぎるばい……」
P「次の授業の準備をしないとな」
恋鐘「うん……」
P ガサゴソ
恋鐘「……P」
P「?」
恋鐘「うち、上京してきたばっかやけん、こっちのことはようわからんけん」
恋鐘「だから、いろいろ教えてね?」
P「まあ、月岡さんに教えるのが俺なんかで良ければ」
恋鐘「約束ばい」
P「ああ、わかった」
恋鐘「えっへへー……あ、あと!」
恋鐘「うちのことは恋鐘でよかけん」
P「そうか、じゃあ、改めてよろしく――」
P「――恋鐘」
昼休み。
~教室~
P(転校生は人気者だ。さっきの休み時間で俺が話せたのなんて奇跡みたいなものだったんだろう)
P(月岡さん――恋鐘は、昼休みになるやいなや、複数のクラスメイトたちと食堂に行ったようだった)
P(まあ、行った、というよりは、連れて行かれた、というのが正確な説明かもしれないが)
結華「Pたんは食堂に行かなくて良かったの?」
P「どうしてだ?」
結華「はぁ……わからないかなー」
P「???」
結華「ううん、なんでもない」
結華「さてと、三峰もお昼を食べますかねー」
P「結華はここで食うのか」
結華「まあ、お弁当あるし」
P「自炊派って言ってたもんな。すごいよ」
結華「自分のためだけに自分で作る食事なんて、大したことないない」
結華「Pたんはどうなのさ」
P「朝の争奪戦で勝ち得たこの弁当を食うよ」
P(食堂では、毎朝数量限定で弁当を格安で販売している)
P(これはその戦利品だ)
結華「あーあ、負けちゃえば今頃食堂だったのに、Pたんついてないなー」
P「さっきからどうしたんだ? 俺に食堂に行って欲しいみたいな……」
結華「……おっと、三峰としたことが」ボソッ
結華「こほん。あのねPたん、三峰は別に、食堂に行って欲しいなんて言ってないと思う」
P「そ、そうか」
P(おかしい。化学の時間で気まずい空気は霧散したと思っていたのに。どうしたんだろう)
結華「……ノート、早く返してね」
P「あ、ああ……うん」
P(それから、各々黙々と昼食をとった)
5時間目。
~中庭~
P(5時間目は担当教員の都合で自習となった)
P(代わりに来た監督の先生は生徒たちを監督する気がないようだった。自分の仕事をしていたからだ)
P(教室は騒がしい。せっかくの時間を教室で過ごす必要はない)
P(そういうわけで、中庭の目立たなそうな所に来ている。ここで静かに過ごそう……)
P「……あ」
P(缶コーヒーの1つでもあれば……うん、“良い”な)
P「確か自販機がこっちに……」スタスタ
P「……あった」
P(缶コーヒーといっても色々あるな……)
P(……と、その中でも一際目立つデザインの缶があった)
P「これにするか……」スッ
「おや、アナタもそれが気になるのかい?」
P「え」
「おっと、驚かせてしまったかな」
P(確かに驚いてはいる――色々と)
「すまない。どれを選ぼうか考えているアナタのことを、つい、見てしまってね」
「しかも、私が気になったものと同じ缶を選ぼうとしたものだから」
P「あ、ああ……これか」
P「目立つよな」
「そうだね。とても目立つ。目立つものだから、当然、人目にはつくんだろう。気にかけてくれる人も多いはずだ」
「けれど、その中身にもちゃんと向き合ってくれる人は……果たしているのかな」
P「なるほど、そういう見方もあるのか」
P(缶コーヒーに対してそこまで考えたことはなかったな)
P「そうだな……君に言われて思ったのは、それなら俺が向き合ってやればいい、といったところかな」
P「理解者は多くなくていい。たぶん、少なくてもいいし、1人でもいいから、ちゃんとわかってくれる人がいれば良いんだと思う」
P「だから、その1人に俺はなろうかな」
「……!」
P「って、缶コーヒーで何言ってるんだって感じだよな」
「……いいや、そんなことはないよ。なんだか、今すぐにでもアナタにお礼をいいたいような気分だ」
P「ははっ、なんだそりゃ」
P「って、君はここにいてもいいのか? 教室から抜け出してきた俺が言うのもなんだが」
「実はね、いま、私のクラスは体育なんだ。でも、ちょっと、1人になりたくてね」
「それで、仮病を使って抜け出してきたというわけさ」
P「不良だな」
「そうだとも。アナタと同じ……ね。私たちは互いに同じ罪を犯している」
「それでも、悪い気はしないよ。こんなに良い出会いがあったのだからね」
P「そう言ってもらえるなら、サボりがいがあるってものだな」
P「あ、そうだ。俺は、2年……高2の――」
P(――名乗る)
「おっと、私としたことが、自己紹介もせずに随分と話し込んでしまっていたね」
咲耶「私は咲耶――白瀬咲耶だ。よろしく、P」
キリが良いのでとりあえずここまで。
共通ルートの途中になります。なお、選択肢による分岐は共通ルートの後にあります。
Straylight編(【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1599288272/))の685-687に載せているL'Antica編の予告もあわせて見ていただければと思います。
では。
6時間目、授業中。
~教室~
P(教員が数式を黒板に書いている――今は数学の授業中だ)
P(頑張って板書をノートに取らなくても、中身を理解していれば許される科目……)
P「……」ボーッ
P(俺は、先ほど出会った白瀬咲耶という少女のことを思い出していた)
P『白瀬、咲耶……』
咲耶『アナタより1つ下の学年――1年生だよ』
P『1年生……あ』
P《そういえば、結華が言ってたな》
P《高1の新入生に、スポーツ万能学業優秀容姿端麗なモデル系美人がいる……》
P《立ち居振る舞いが格好良い、女子にモテモテな王子様……》
P『その、噂……というか、君なんじゃないかっていう人物の話を聞いていたから』
咲耶『はは……上級生の間でも有名なんだね』
P『それだけ、君が魅力的だってことだろ』
咲耶『……』
咲耶『……アナタにとっては、どう――かな?」
P『?』
咲耶『今、アナタは私を“魅力的”だと言った。でも、それは、噂話を踏まえた上で他人事を呟くような意見に過ぎないだろう?』
咲耶『アナタの目には、私はどう写っているのか……それが知りたいかな』
P『どうって……』
P『凛として格好良いと思う……確かに惹かれるものがあるんだ――けど』
P『俺は、まだ君のことを知らないから』
P『その質問に答えるには、もっと君のことを知ってからじゃないと……』
咲耶『……! そうか』
咲耶『フフ、なんだか妙なことを聞いてしまったね』
P『質問にちゃんと答えられたのかはよくわからないけど……』
咲耶『いいや、むしろ私の期待以上の答えだったと言っていい』
咲耶『……』
P『?』
咲耶『アナタは私の今までにはない返答をしてくれた』
咲耶『アナタに興味を引かれたよ』ズイ
P《なんだか、距離が近すぎるような……》
咲耶『どうかしたのかい?』
P『い、いや、なんでもない』
キーンコーンカーンコーン
咲耶『……。もっと続いて欲しいと感じる時間ほど、唐突に終わってしまうんだね』ボソッ
P『教室に戻らないと、だな』
咲耶『ああ。……また、こうして話せるかな?』
P『え? あ、ああ……君さえ良ければ』
咲耶『クス。私から提案しているというのに、おかしなことを言うね。じゃあ、また会おう』
咲耶『……それと、私のことは咲耶でいいよ』
>>16 誤植訂正:
咲耶『……アナタにとっては、どう――かな?」
→咲耶『……アナタにとっては、どう――かな?』
何が訂正されたかわからん
機種のあれか?
P「……」
P(白瀬咲耶――――彼女なら、W.I.N.G.に出てもおかしくない)
P(この学園自体、高等部がマンモス校だからライバルも少なくないだろうが……)
P(……それにしても抜きん出た存在であるように感じられた)
P(格好良い王子様として少なくない数のファンが既にいるようだが、果たして彼女の――咲耶の魅力はそれだけだろうか?)
P(そう、例えば可愛――……)
結華「……――たん。……Pたんってば!」
P「え」
結華「問題、前で解けって先生に言われてるよ?」
P「あ……そうか。すまん、ボーっとしてた」
結華「もー、しょうがないなー」
P「すみません、今やります」スタスタ
P(何を考えているんだ、俺は)
P(魅力の引き出し方……なんて)
P(これじゃあ、まるでアイドルのプロデュースじゃないか)
帰りのホームルーム。
~教室~
はづき「はい、席についてくださいね~」
はづき「では、まずは明日の授業に関する連絡から――……」
はづき「……――授業については以上になります。委員会や部活動の情報共有はありますか~?」
シーン
はづき「大丈夫みたいですね~」
はづき「最後に、私から1つお話があります」
はづき「先日、たまたま用事があって夜にセンター街を通ることがあったのですが」
はづき「どう見ても高校生……という子たちが攻めた格好でうろついているのを見ました」
はづき「中には、かなりパンキッシュな格好で、しかも1人でいる女の子も……その時は急いでいて、私から注意をするということはなかったんですけど」
はづき「皆さんも高校生で、怖いものもまだまだ知らないでしょうから、危ないことにならないようくれぐれも気をつけてくださいね~」
はづき「この学園は特に校則も無く自由な環境……だからこそ、善悪の判断をきちんとできるようにしてください」
はづき「私からは以上です~」
キリツ、キヲツケ、レイ
サヨウナラー
P「結華はこれからどうするんだ?」
結華「お、Pたん、三峰と一緒に帰りたい感じかな?」
P「え、それは……」
結華「できるなら……Pたんの愛に応えてあげたい……! けど、今日はちょっとね」
結華「まあ? 三峰、もともと今日の放課後は図書館で勉強していこうって思ってたからさ」
結華「心苦しいですが、今回は三峰のことが大好きなPたんのお誘いを断らなければならないのです……!」
P「いいんだ。気にしないでくれ」
結華「……気にしないでくれ、って何さ」ボソッ
P「こっちこそ予定があったのにすまなかったな。じゃあ、また明日」
結華「うん……じゃあね、Pたん」
>>18
括弧について、
』(2重カギ括弧)
とすべきところを
」(カギ括弧)
としてしまっていたので直しました。
~校内掲示板前~
P「……」
P(1人ぼっちで暇だと、こういうのを特に意味もなく眺めてしまうな)
P「……あ」
P(中等部の実力テストの順位が掲載されているな)
P(まあ、中等部の知り合いなんていないけど)
結華『そういえば、過去には中等部の子が出たって話もあるんだよね』
P(まだ名前を知らないな……)
P(まあ、きっと、この順位表のどこかにいるんだろう)
P「……」
P(例によって、特に意味もなく順位表の名前を眺める)
P(上位から順に)
P「……」
P「……ゆう、こく?」
P(珍しい名字の生徒がいて、目に留まる)
P(幽谷霧子――ゆうこくきりこ、と読むんだろうか)
P(かなり上位にいるな……トップクラスじゃないか)
P(中等部は少人数とはいえ、そもそもうちの学園の中学入試の難易度が非常に高い)
P(高等部とは違うのだ)
P(だから、その中でこれなら、結構すごいんだろう)
P「って、どこの誰かもわからない生徒のことだけど」
P(帰るか……)
P スタスタ
~校門前~
P「……」スタスタ
P「……ん?」
P(前方に女子の集団――)
P(――それは、恋鐘を囲んでいた)
P(転校生に興味を示した女子生徒たちが群がっているんだろう)
P(恋鐘も、たぶん楽しそうに話している)
P「……」スタスタ
P(ふと)
恋鐘「……!」
P(目が合う)
恋鐘 オロオロ
P(こんなとき、どうしていいのか、わからない)
P「……」
P(すぐに女子集団に流され、恋鐘の視線もこちらを向かなくなった)
P「……なんなんだろうな、これ」
P(今日は疲れる1日だ)
ポツ・・・ポツ・・・
P「雨、か……」
翌日。
2時間目。
~渡り廊下~
P「……痛」
P(体育のソフトボール中にスライディングしたら結構擦りむいてしまった……)
P(そのまま気にせず続行するにしては派手な傷口だということで、今は保健室に向かっている)
P「保健室……」
結華『その子に会いたかったら、保健室に行くといいかもしれないよ?』
P(結華曰く、W.I.N.G.に出てもおかしくないレベルの子にエンカウントできるかもしれないのだとか)
~保健室前~
P(ここ……だよな)
P(よく考えたら、今までほとんど来たことがなかったな)
P(まあ、その方が良いのかもしれないが)
P(扉を開けようとすると――)
「ん……と」
「……できました……! ……ふふ、包帯、いつもより上手く巻けたかも……♪」
P(――先客がいるようだった)
P(保健室の養護教諭……にしては雰囲気がそぐわないような)
P ガララ
~保健室~
P「失礼します」
「……あっ……」
P(保健室の中には、女子生徒が1人いるだけだった)
P(そして、目が合う)
P「……」
「……」
P(……あ、いかん。つい見惚れてしまった……)
P「いや、急にすまない。軽く怪我を――傷ができたもので、処置したいんだが」
「……っ! 血が出ちゃってます……!」
「早くなんとかしないと……わたし、消毒とか応急処置とかできるので、そこに座ってください」
P「あ、ありがとう……」
P(そういうのは養護教諭の仕事じゃないのか……? 保健室にいる女子生徒ということは、保健委員とかなんだろうか)
P(でも、今は授業中だしな……)
「これで……、とん……とん……」
P「っ……」
P(消毒液がしみる)
「ご、ごめんなさい。必要なことだから……」
P「いいんだ。気にしないでくれ」
「あとは……包帯、です」
P(ん? 絆創膏とかじゃないのか?)
「まき……まき……♪ ……ふふ」
P「包帯を巻くの、上手なんだな」
「はい……!」
P「絆創膏じゃなくて、包帯なのか」
「この包帯は……特別なんです」
P「お、おう……」
P(医療関係の最新の商品とかなのかな)
「……っしょっと。これで大丈夫です」
P「ありがとう。助かる」
「いえ……そんな」
P(目の前の女子生徒のことを見ていると、あることに気づく。名札をつけていたのだ。すると、そこに書かれた文字が顔を覗かせた――漢字とふりがなのセットで)
P「ゆうこく、きりこ……?」
「あっ……はい。わたしの名前……あ、もしかして、これ……ですか?」
P「ああ、その名札を見てた」
霧子「こうすれば、迷わずわたしの名前が読めるかな……って」
P「確かに、珍しい名字だもんな」
P(珍しいという感想は、今に始まったことではなくて、昨日に掲示板で名前を見かけたときからのものだが)
P「……それじゃあ、授業中だし、戻るとするよ」
霧子「そ、そうですか……。……お大事に」
P「ありがとう」
ガララ
バタン
~渡り廊下~
P スタスタ
P(ミステリアスな雰囲気を醸し出している子だったな。つい、魅了されてしまった。結華が言ってた子は、あの子なんだろうか)
P(なんとなく、照れというか、気恥ずかしさというか、そういう感情でさっさと保健室を後にしてしまったが)
P「……」
P(人生で初めて、保健室のリピーターになりたいと思った……なんて)
P「あ」
P(結局、あの子が授業中なのにあそこにいた理由はわからなかったな)
P「まあ、いいか」
P(とりあえず、自習時間という名の自由時間に行きたいと思う場所が増えた)
放課後。
~教室~
結華「Pたん~、三峰のお願い……聞いて欲しいなっ」
P(今日はテンション高いな)
P「どうしたんだ?」
結華「今日、センター街の方で並びたいグッズの列があるんだけど、それと同時にもう1件行かねばならない戦地があってだね」
結華「ご存知の通り、三峰は分身の能力は有しておりません! なので――」
結華「――Pたんには、お使いをお願いしたいと思います……! もちろん、これは三峰の借りだから! とりあえず、どうかな?」
P「まあ、別に大丈夫だ。承ろう」
結華「やったやったー! ありがとうPたん!!」
P(センター街……か。昨日のはづき先生の話を思い出すな)
とりあえずここまで。依然として共通ルートの途中です。
Pがキャラクターたちと出会うところからなので、もうしばらくは1本道です。いきなり舞台が学園になっているのは……まあ、そのうち……。
~センター街~
P(すごい数の人だな……)
P「っと、どれどれ……」
P(結華のお使いの行き先をスマホで確認する)
P「……あ、そろそろだな」
1時間後。
P「はぁ」
P(長蛇の列に並んで、ようやく結華が欲しいと言っていたものが手に入った)
P(疲れたし、早く帰ろう……)
P「……」
P(行きと違って、疲れはあるものの心には余裕がある)
P(辺りを見回すと、はづき先生の言っていたこともわかるような気がする)
はづき『どう見ても高校生……という子たちが攻めた格好でうろついているのを見ました』
はづき『中には、かなりパンキッシュな格好で、しかも1人でいる女の子も……その時は急いでいて、私から注意をするということはなかったんですけど』
はづき『皆さんも高校生で、怖いものもまだまだ知らないでしょうから、危ないことにならないようくれぐれも気をつけてくださいね~』
P(まさに、そういう感じの子たちが多くいた)
P(中には明らかに不健全な感じを漂わせている人物もちらほら……)
P「……帰るか」
P(俺に何かできることがあるわけでもないだろう)
P(無関心を装うのが一番楽だし安全だ)
コロコロ・・・
P「ん?」
P(ふと、何かが転がる音)
P クルッ
P(何気なく音のした方を見ると、そこには――)
P「!」
P(――結華から頼まれていたグッズの1つが転がっていた)
P(紙袋いっぱいに詰めていたから、小さいキーホルダーが落ちてしまったみたいだ)
P「っと、待て待て……!」
P(丸みを帯びているものだから、どんどん転がっていってしまう)
カラン・・・
P「……」
「?」
P(人の足に当たって、キーホルダーは動きを止めた)
「何これ……」
「キーホルダー……?」
P「あ、それは俺が落とした物なんだ」
P「ありがとう、拾ってくれて」
P(返してもらおうと、手を広げて差し出した)
「……」
P(差し出して……いるのだが)
「……ふふー」ニッ
P「あの……返してくれないか?」
「えー……どうしようかなー」サッ
P(キーホルダーを持ったまま後ろ手を組まれてしまう)
P「おいおい……勘弁してくれよ」
「お兄さんはー、これを返して欲しいって言ってるんですかぁ?」グッ
P(何かを握ったような手をこちらに差し出してきた)
P「ああ、そうだ」
「ふふー……わかりましたぁ。どうぞー」パッ
P「ちょっ、そのまま話したら落ち――……」バッ
P(……――何とかキャッチ――)パシッ
P(――とはならなかった)
P「え」
P(そこには、“何もなかった”)
P(そもそも、“何も落ちてなどいなかった”)
P(俺が掴んだのは――無だ)
「そうですかー、お兄さんは私の握った空気が欲しかったんだぁ」
「変わってますねー」
P「なっ……!」
P(……なんてやつだ)
P(差し出された方とは逆の手が出され、その中にキーホルダーがあるのがわかった)
「ふふー」
P「……」
P「……大切なものなんだ」
「あらら……そうでしたかぁ」
P「ああ。俺にとって、じゃないけどな」
「?」
P「俺はそれを託されただけだ」
P「それを待ってる人がいるから、ちゃんと届けないといけない」
「……」
P「信頼と期待で、任されているから」
P「それに応えたいんだ」
P「たとえ小さいことであっても、な」
「……期待」ボソッ
P「……」
「……わかりましたぁ。しょうがないんで、返しますー」ポイッ
P「わっ……! とと……っよし」パシッ
P(今度こそキャッチすることができた)
P「俺はいいけど、もうこういうイタズラはするんじゃないぞ? タチの悪い奴が相手だったらどうするんだ」
「別にー……、悪い子だし普通ですケドー」
P「悪い子だからって、危ない目に遭っていいわけじゃないんだ」
P(なぜだろう、いつになくお節介だ。まるで、俺じゃないみたいに)
「話は終わりでいいですかぁ? 私、もう行きますねー」
P「あっ、ちょっと待って!」
「……まだ、何か用があるんですかぁ?」
P「もういい時間だし、こんなところに1人で居続けちゃ危ないんだ」
「それ、さっきも似たようなこと言ってましたよねー」
P「ああ。危なくて放っておけないよ」
「……」
「……お兄さん、変わってますねー」
P「普通は心配するよ」
P(これが俺の普通なのだろうか)
「……初めて会った相手に、こんなしつこく叱る人、フツーとは言いませんよー?」
「……」
P「……」
「まぁ、そんなに言うなら、お兄さんに免じて今日は帰ってあげますねー」
P「そ、そうか。それは良かった」
「それではぁ、さよーならぁ」スタスタ
P「……」
P(……駅の方に向かって行ったな。ちゃんと帰宅してくれるといいんだが……)
P「あ、俺も帰らないと」
P(彼女が行った方向に、俺も歩いていく)
P(他人とこれだけ話したのは、いつぶりだろうか)
P(不思議と、彼女とのやり取りで疲れを感じることはなかった)
P(むしろ、それまでの疲れが取れたとすら……)
P「……ははっ」
P(俺は――楽しかった、のか?)
翌日。
~学校 教室~
P「結華。頼まれていたやつだ」
結華「ありがとうPたん~! これで三峰は一片の悔いもありませんよ~~」
P「ははっ……そんな大げさな」
結華「それに……ちょっとオシャレな紙袋だね?」
結華「まるで中身の想像がつかないくらいには、ね」ミミウチ
P「あ、ああ……まあな」
P「そのほうがいいだろ?」
結華「……! うん、そう……だね」
結華「ありがとう、Pたん」
P「どういたしまして」
結華「このお礼は必ずするから……! 三峰、恩を忘れるような人間ではありませんし」
P「わかってるって。まあ、見返りを求めてやったわけじゃないけどさ」
結華「またまた~? お礼されたらPたんだって嬉しいでしょ?」
P「それは……まあ」
P「でも、さ。なんていうか」
P「結華のためにやったってだけなんだ」
P「結華が喜んでくれたし、俺はそれだけでいい」
結華「……!」
結華「Pたん……今のはさぁ……ちょっとさぁ……」
P「えっ、なんだ?」
P(何かまずいこと言ったか……?)
結華「は~……自覚ナシとか……これだから……」
P「す、すまん……?」
結華「そこで謝っちゃうとことかも、ぜーんぜんわかってない……」
結華「Pたんってば、存外タチ悪いよね~」
結華「……これは苦労しそうだなぁ」
2時間目終わり頃。
~廊下~
P スタスタ
P(今日の体育は思ったよりも早く終わったな……どこか適当な場所で休むとしよう)
P スタスタ
「あ、フフ……P」
P「……っとと」
P(誰かに呼び止められた)
「おや、こんなところで、どうしたんだい?」
P「え? いや、その……」
「おっと、いきなりで驚かせてしまったかな。私は――」
咲耶「――白瀬咲耶だ」
P「いや、それはわかる」
P(間違えようがない)
咲耶「覚えてくれていたようで嬉しいよ。なにしろ、まだ一度しか話していなかったからね」
P(むしろ、一度でも話せば忘れなさそうだが)
P「ははっ……そっちこそ、俺なんかのことをよく覚えてたな」
咲耶「俺なんか――などと卑下するものではないよ。アナタはもっと胸を張っていいんだ」
咲耶「それに、“そっち”……ではないだろう? ちゃんと、名前で呼んで欲しい」
P「す、すまん。……咲耶」
咲耶「フフ……なんだい?」
P「あ、その……呼んだだけだ」
咲耶「構わないよ。口実が無くても一緒にいられる関係というのは、心地よいものだからね」
咲耶「あるいは……、一緒にいるために口実を作りたい――そう思える関係性もいい」
P「ああ……」
咲耶「……と、私としたことが配慮に欠けていた」
咲耶「もし先を急いでいたというなら、遠慮なく行くといい。アナタに迷惑をかけて印象を悪くしたくないからね」
P「別に気にしてないよ。単に、体育が早く終わったから、どこで休もうか考えていたところなんだ」
咲耶「良かった。それなら――……」
「おーい!!!」タタタタタ
P「ん? ……って、おいおい……!」
P(ぶつかる……避けられn……)
恋鐘「いぇ~い!」ドンッ
P「うわぁっ!?」ヨロッ
P「……っとと」
P(なんとかバランスを取ることができた)
P「ど、どうしたんだ……恋鐘」
恋鐘「どがんしたっていうか、Pの背中が見えたけん! 挨拶しようと思っただけばい!」
恋鐘「あ、お取り込み中やった? うち、邪魔してしもうたかな?」
咲耶「……いや、気にすることはないさ」
P「悪いな咲耶。いきなり知らないやつが飛び出てきて、驚くのも無理ないよ」
恋鐘「ちょっと~、うちをゲテモノ扱いせんといて! ただ挨拶しただけやろ?」
P「あれは挨拶じゃない。突撃と言うんだ」
恋鐘「Pが相手なら遠慮はいらんばい!」
恋鐘「うちにはわかる! Pははらかいとらん――怒ってないもん!」
P「そりゃ怒ってはいないけど……」
恋鐘「えっへへー、それならよか!」
咲耶「P、2人の世界に浸っているところ悪いが……こちらは?」
P「あ、そうだな。紹介するよ。俺と同じ学年・クラスの月岡恋鐘だ。この前、九州からここに引っ越してきたんだと」
P「恋鐘、1年生の白瀬咲耶だ。もしかしたらもう知っt――」
恋鐘「――ばりかっこよか……」
恋鐘「実際に見ると圧倒されるばい……やっぱり、噂どおりやった」
P「転校生でも知ってるとは……さすがだな、咲耶」
咲耶「フフ、それほどでもないさ」
P(いや、それほどでもあるよ)
恋鐘「W.I.N.G.に出られたら絶対に手ごわかライバルになるって踏んでたんよ」
P(そ、そういうことか……)
咲耶「私は、別にまだエントリーすると決めたわけじゃ……」
恋鐘「あ、うと? それなら安心やね」
恋鐘「Pに無事優勝するうちん姿ば見せられるばい」
咲耶「……今、Pに、と言ったかな?」
恋鐘「そうよ? Pはうちの大事なファン1号やし、Pのために頑張る言うても過言やなかばい!」
恋鐘「それに……頑張るうちば見て、きっと……」
恋鐘「……えへへ」
咲耶「……。……P」
P「どうした?」
咲耶「W.I.N.G.優勝……目指そうと思う」
恋鐘「えぇぇ~~!?」
P「突然だな……なんでまた」
咲耶「それをアナタが聞くのかい? いや、私がW.I.N.G.優勝を志す意味を気づかせてこそ、か……」
咲耶「挨拶が遅れたね。Pとは固い絆で結ばれている、白瀬咲耶だ。よろしく」
P(初めて聞いたぞ。というか、どんな自己紹介だよ)
恋鐘「何を~~!? Pが惚れ込んだアイドル、月岡恋鐘ばい!」
P(なんか、勝手にかなり入れ込んでることにさせられてるんだが)
P(この2人ってこんな感じになるのか……。なんだか、もっと仲良くできる気がするんだけどなぁ)
P(……いや、なんでそんなことわかるんだって話、か)
とりあえずここまで。
>>30 誤植訂正:
恋鐘「あ、うと? それなら安心やね」
→恋鐘「あ、そうと? それなら安心やね」
昼休み。
~教室~
P(昼食後、タイミングを見計らって、結華にノートを返すことにした)
P「結華。これ、借りてたノートだ。ありがとう、助かったよ」
結華「いえいえ、どういたしまして~」
P「ああ」
P(結華にノートを返して、自分の席に座る)
結華「……」
P「……」
結華「…………」
P「…………」
結華「……っはは」
P「ど、どうしたんだ?」
結華「いや、別にー?」
結華「何もすることないならさ、なんかお話しようよ、Pたん」
P「何か……か。そうだな……」
P「W.I.N.G.についてもう少し教えてくれ」
結華「おっ! Pたんもついに“こっち側”かな?」
P「ははっ……そうなれるように頑張るよ」
P「W.I.N.G.のことを知るために、まずは出場する側の視点に立ってみようと思ったんだ」
P「過程を知っているほうがより応援できるんじゃないかって」
結華「いいねいいねー、そうこなくっちゃ」
結華「正確にはね、W.I.N.G.っていうのは最終決戦場みたいなものなんだよ」
P「まずはそこにたどり着く必要があるってことか」
結華「そういうこと」
結華「だから、出場資格を手に入れないといけないのです」
結華「エントリーしてから開催までに4回審査があって、学校生活の中でどれだけアピールできるかが重要なんだけど」
結華「審査までに一定のランクに達してないと……」
P ゴクリ
結華「……なんと! 出場資格を失っちゃう!」
P「厳しい戦いだな……」
P「エントリーした子が1人で乗り越えるのはかなり大変なんじゃないのか?」
結華「そうそう。自分の周りに協力してくれる人がいないとねー」
結華「W.I.N.G.を目指す子だって自分だけじゃ自分をどうアピールしたらいいかなんてわからないかもしれないし」
結華「信頼できる人たちと一緒にゴールを目指すのが王道ってわけ。まさに、プロデュース、プロダクション、ってやつ?」
P「なるほど」
P(恋鐘は転校してきたばかりだけど、その辺は大丈夫なんだろうか)
P(転校生だから周りに人はたくさんいるかもしれないが……)
P(結華の言う通り、信頼できるかどうかは重要だろう)
P(まだここに来て日の浅い恋鐘にそういう人はいるのか……?)
P「……」
P(咲耶は既に人気を確実なものにしているし、おそらく自分の魅せ方もわかっている……W.I.N.G.を目指すのは難しくないのかもしれない)
P(ただ、咲耶のことを応援するだけでなく、見守ることのできる人の存在が必要な気がするな。あの感じだと)
結華「三峰はそんな“アイドル”たちに踏み込んだ所までは行けないけど、推しがいれば精一杯応援しちゃうよ……!」
P(結華はお客さん目線って感じだな)
P「結華のアイドルに対するエネルギーはすごいからな」
P(ふと、結華に出会ったときのことを思い出す)
P《予備校から出たタイミングで降ってくるとは……ツイてないな》
P《どこか雨宿りできそうなところは……あ。あった》
P《よし、ここなら濡れないか……ずいぶん大降りになってきたな》
パシャパシャ
『ひゃーっ、雨とか聞いてないってー!』
『グッズ濡れてないよね? 大丈夫だよね? えっと……』
P《あの子も雨宿りか……》
P《……ん? おおっ、すごいなあのカバン。何かのグッズがぎっしりと詰まっている……アイドルのイベント、だろうか?》
『こっちは平気だし、これも……!』
『……ん、全部おっけー! 良かったぁ』
P『……』
『あ、すみません騒がしくしちゃって! うるさかったです……よね?』
P『え? ああ、いえ。大丈夫ですよ』
『それなら良かったです……』
P『……』
『……』
『……あの。その制服って』
P『これですか? 予備校の帰りで、制服で行ってたので』
『なるほどです! っていうか、あの』
『同じクラス……だよね?』
P『え?』
『……三峰、結華です。聞いたことない?』
P『ああ……』
P《聞いたことはあった。まだ入学してそんなに経ってないっていうのに、もう同じクラスの奴を把握してるのか》
P『俺のこと、知ってたんだな』
結華『そりゃあ、まあ? クラスメイトですし? なんなら席も近いし』
P『そうだったか……』
結華『そうなのですよ』
P『三峰さんはアイドルが好きなのか?』
結華『……! うん! あ、気になりますかー?』
P『すごく大切にしてるみたいだったし、アイドルの印刷が見えたから』
結華『そうそう! 無事手に入れることのできたかけがえのないグッズたちなんだよねー』ガサゴソ
カラン
P『……あ。缶バッジ、落としたぞ』
結華『えっ? あ、ほんとだ! ありがとう……!』
結華『これ限定のやつなんだよね、おかげで助かりました!』
P『ははっ、どういたしまして』
P《――……いい笑顔だなぁ……》
P(今、W.I.N.G.を目指す子たちの話をしている結華もまた、そのときと同じ笑顔だった)
P(本人はファンとして陰ながら応援するつもりなんだろうけど……)
P(……綺麗だ、と――その笑顔を見て思った俺がいる)
結華「どしたの? Pたん」
P「……え、い、いや。なんでもない」
P(ここで「結華も出てみたらどうだ?」と言う勇気や器量は、さすがになかった)
放課後。
P「保健室は……確か、こっち……」
P(同じクラスの保健委員が欠席しているらしく、偶然はづき先生の近くにいた俺は、保健室に運ぶ提出書類の山を運んでいた)
P「……」
P(つい先日に保健室に行ったときの記憶を呼び起こしながら、歩を進める)
~保健室~
P「失礼します……」ガララ
P「……あれ」
P(養護教諭の姿はなかった。代わりにいたのは――)
霧子「……きゅっきゅ♪」
P(――幽谷霧子だった)
霧子「……ごし、ごし♪」
P「……」
霧子「……ふき、ふき――あ」
P「あ」
P(目が合う)
P「……」
P(つい見惚れてしまった……)
P「……えっと、幽谷霧子さん、だよな」
霧子「……! わたしの名前、覚えていてくれたんですね……」
P「ま、まあ……な」
P(運んできた書類を養護教諭のデスクに置いて、一息つく)
P「掃除、してるのか?」
霧子「は、はい……」
霧子「ここに来る人がみんな気持ちよく使えたら、いいなって……」
P「そうだったのか……霧子は優しいな」
P(場所が保健室……なのは気にしないでおこう。清潔なのは良いことだし)
P「あ、すまん。つい、下の名前で呼んでしまった」
霧子「いえ……大丈夫、です」
P「そ、そうか」
霧子「は、はいっ……!」
P(そういえば、さっきから腕を押さえているな)
P「その傷……痛むのか?」
霧子「これは……ケガをしてるわけじゃ……ないんです……」
P「そうなのか……?」
霧子「お、お守りみたいなものなんです……」
霧子「こうしていると、落ち着く……ので……」
P「そ、そうか……」
霧子「はい……自分の良くないところが……隠れるような気がして……」
P「なるほどな……」
P(不思議……というか、自分の世界がある子なのかもしれないな)
P(まだ知り合って間もないし、霧子のことをよく理解しているわけじゃないけど、なんというか、この子を気にかけたい、と感じるな)
P「俺、さ……保健室なんて、ほとんど来たことがなかったんだ。来る理由もなかったし、行きたいと思ったことなんてなかった」
P「でも、霧子がいる保健室なら、なんだか行きたいとすら思えるよ」
霧子「わあ……! 本当、ですか……?」
P「ああ。……って、何言ってるんだろうな、俺は」
P「まあ、霧子にとって迷惑じゃなければ、だけど」
霧子「迷惑だなんて、そんな……。お話できる人がいるのは……わたしも、嬉しい……です♪」
P(それから、下校時刻になるまで霧子と話した。他愛もない会話が繰り広げられただけだったが、保健室という馴染みのない場所にしては悪くない時間を過ごせたと思う)
土日明け。
~通学路 学校前~
P(いつも通りに通学路を歩いて学校に向かう。ただ、今日は少し足取りが重かった)
P「再発行……手続きしないとなぁ」
P(生徒証を無くしたのだ。たまたま使う機会がなかったから、土日になるまで気がつかなかった)
P(どこで落としたのか……それが思い出せない。今日学校で探してなかったら、諦めて再発行手続きをしないといけないな)
P「はぁ……」
バッ
P(突然――)
「ふふー」
P(――暗転。目の前が真っ暗になる)
「私は誰でしょー」
P「誰って……」
P(どこか聞き覚えのある声な気はするが……わからない。結華か恋鐘ならやってきそうだが、明らかに声が違う)
「えー……私のこと、忘れちゃったんですかぁ?」
P(いや、この話し方と声は――)
P「――この前のセンター街の……」
「あたりですー」パッ
P(視界が元に戻る)
P「なんでここに……?」
「なんでって……あの学校に通うために決まってるじゃないですかぁ」
P「いや、制服がうちのじゃ――うちのだな……」
「ふふー。いきなり転校生ですー」
P「な、なんだって……!」
「これのおかげでお兄さんの通う学校がわかりましたぁ。ついでにお兄さんのプライバシーもゲットー……」つ学生証
P「あ! 俺の学生証……! センター街で落としてたのか……」
「そういえばー、まだ名前を言ってませんでしたぁ」
摩美々「私、田中摩美々っていいますー。悪い子なんでー、たくさん迷惑かけてあげますねー」
とりあえずここまで。
P「はぁ……返してくれないか?」
摩美々「えー……どうしようかなー」サッ
P「おいおい……勘弁してk――って、このやり取り、前にもしたな」
摩美々「ふふー、そうかもしれませんねー」
P「学生証は手のひらに握って隠せるようなものじゃない……この前のトリックは通用しないからな!」
P(この前みたいにイタズラをするつもりだろうが、そうはいかないからな)
摩美々「トリックっていうかー……別に、返さないとは言ってないじゃないですかぁ」
摩美々「はい、どうぞー」ポイッ
P「わっ……! とと……っよし」パシッ
P(また投げたな……)
摩美々「お兄さんの困った顔が見れたのでー、もういいですよー」
P「そんなこと言って……前にも言ったが、妙な奴に絡まれてからじゃ遅いだろ?」
P(我ながら――)
P「危ない目に遭ってからじゃ遅いんだって。わからないかなぁ……」
P(――おせっかい、だ)
P(俺はこういう人間だっただろうか……?)
P(少なくとも、この子を前にすると……注意せずにはいられない)
摩美々「私が危ない目に遭ったら、お兄さんは困るんですかぁ?」
摩美々「迷惑かけるわけじゃないと思いますケドー」
P「それは……」
摩美々「お兄さんは、摩美々の親でも兄弟でもないですしー……ふふー、どうしてそこまで気にしてくれるんですかぁ?」
P「どうして……なんだろうな」
P(本当、どうしてだろう)
P「と、とにかく……! 倫理的にアウトだよ。他人にイタズラするのもそうだし、不健全な場所や時間にふらふらするのもな」
摩美々「倫理ですかー?」
摩美々「お兄さんじゃなくてー?」
摩美々「お兄さんが怒ってくれてるわけじゃないなら、別にどうでもいいっていうかぁ」
P「……」
P(わかった――)
P「――俺が怒ってるよ」
P「摩美々、こういうことはやめなさい」
摩美々「!」
P(やけに大人ぶった口調で言ってしまった……引かれただろうか)
P(いや、ここまでくればヤケだ)
P「いいな。約束は守ってもらうぞ」
摩美々「……」
摩美々「……ふふー」
摩美々「どうですかねー。お兄さん次第かもしれませんねー?」
P(そういえば、転校生って言ってたな)
P「じゃあ、俺が先輩としてしっかりしないとな」
P「よろしく」
摩美々「お兄さんに摩美々がコントロールできますかねー?」
摩美々「まあ、頑張ってくださいー」
P「……ん、いや待て」
P(そういえば、自分の学生証のことに気を取られて忘れていたけど……)
P「転校、と言ったか?」
摩美々「はいー。そうですよー」
摩美々「お兄さんが学生証を落としてくれたのでー、学校を探さずに済みましたぁ」
P「いや、だからってそんな簡単に転校なんて……」
摩美々「それが、まみみにはできるんですよー」
P「なんでだ?」
摩美々「ふふー、知りたいですかぁ?」
P「……いいや」
摩美々「えー、つまんないのー」
P「今は聞かなくていいかなって思ったから」
摩美々「……」
P「……って、話してるうちに下駄箱にまで着いちゃったな」
摩美々「そうですねー……じゃあ、私はこっちなんでー」
P「おう」
摩美々「……あ、そうだ」
摩美々「名前、教えてくださいー」
P(名乗る)
摩美々「ふーん、……P」
P「おいおい先輩に対して呼び捨てかよ、良くないんじゃないのか?」
摩美々「そうやって怒ってもらえるんでいいんですよー」
P「? そ、そうか?」
P(よくわからないやつだ)
摩美々「じゃあ、今度こそ、私行くんでー」
P「ああ、じゃあな」
P「……」
P(まだ授業どころかホームルームの前だっていうのに、えらく長い時間を過ごした感じがするな……)
P(でも、やはり――)
P(――不思議と疲れてはいなかった)
P(どうも、あの後輩――転校生――不良――摩美々を相手にしていると、いつになく気にかけてしまう)
P「はぁ……」
P(教室行くか)
2時間目終わり。
~校舎裏付近~
P(今日はいつもと違う場所での移動教室だったな……)
P(皆が行き来する道をすると教室まで割とかかってしまうが――)
P(――ここから行くと近いんだ)
P タッタッタッ
P(この角を曲がって……――)
霧子「~♪」
P「――っと!?」キキィッ
P(危ない……! 何とか止まれたけど……)
P(……人がいたんだな)
P「って、霧子じゃないか」
霧子「あ、はい……わたしです……」
P「何してるんだ?」
霧子「ナスタチウムさんにお水をあげてるんです……♪」
P「ナスタチウムさん……あ、そこにある花のことか」
P(見覚えがあるような、ないような、そんな黄色とオレンジの花だ)
霧子「暑いところが好きじゃないから……ここはちょうど良くて……」
P「ははっ、花のことをよく考えてあげてるんだな」
霧子「は、はい……!」
霧子「こんど、そこにも別にお花さんを置こうと思ってるんです……」
P(霧子の指差す先を見る)
P「あ……ここ、保健室の目の前だったのか」
P(そういえば、外から保健室を見たことはなかったな)
P(そもそも、普段来るような場所ではなかったし)
P(最近は――霧子と出会ってからは、そうでもないが)
P「花、置くんだな」
P「じゃあ、見に行こうかな」
霧子「ふふ……待って……ますね……」
霧子「……Pさん」
昼休み、昼食後。
~教室~
P(最近、後輩と話してばかりいるな)
P(まあ、だからなんだという話だが)
P(今日は……結華はどこかに出ているみたいだ)
P(恋鐘も……今はここにいない)
P「……」
P(コーヒーでも買いに行くか……)
~旧校舎付近~
P「はぁ……やっと着いた」
P(いつも使ってる自販機の前にはわいわいやってる面倒な連中がいたので、遠いがこっちにある自販機に来た次第だ)
P「今日のこのタイミングに限ってなんでいるかなぁ……」
P「……まあ、気にしても仕方ないけど」
「あれぇー? また会いましたねー」
P「?」クルッ
P「……摩美々か」
摩美々「そうですよー」
P「なんでこんなところにいるんだ……」
摩美々「転校初日だしー、気になるじゃないですかぁ?」
P「ま、まあ……そうなのかな?」
摩美々「Pは何しにこんな遠くに来てるんですかぁ?」
P「ああ……自販機でコーヒーを買いたくてな」
摩美々「? 自販機ならもっと近い中庭のがあった気がしますケドー」
P「ま、まあ、な。気分転換ってやつだよ」
摩美々「ふーん……」
P「摩美々はまだこの辺を探検するのか?」
摩美々「どうですかねー、何でもいいですー」
P「俺はもう戻ろうと思う」
摩美々「じゃあ、まみみもついていきますー……」
摩美々「……あれ?」
P「どうしたんだ? 行かないのか?」
摩美々「いや……あそこに、なんか立ってませんかぁ?」
P(摩美々が指す方向を見て目を凝らす)
P「ああ、なんだろうな」
P(人――に見えるが、あれは……)
P「……像、じゃないか?」
摩美々「私、ちょっと見に行ってきますー」タタタ
P「え、あ……ちょっと待てって」
P(摩美々が足を止めたところまでついてきたが……)
P「……旧校舎のエリアの中なんて歩いたことすらなかったな」
摩美々「これ、女の人みたいですね」
P「ああ……さっき言ってたやつか」
P(やはり、というか……銅像だった)
P(長い髪で上部は左右をリボンでくくっている背の高い女性の姿――その姿勢は、どこか苦しそうにも見える)
摩美々「誰なんですかねー……有名な人?」
P「こういうのは銅像の足元にプレートとかがあるんじゃないのか? どれどれ……」
P(実際、プレートはあった。アルファベットで名前らしきものが刻印されている)
P「……M、A、Y、U、Z、U、M、I?」
P(黛?)
P「人の名前……いや、名字か?」
P(と、考えていたそのとき)
ゴチン
P(俺の頭頂部に鈍い痛みが走る)
摩美々「あ……」
P「……っっってぇ!!」
摩美々「リボンのところいじってたら、とれちゃいましたぁ」
P「取れちゃいましたって……」
P(落下したものを見てみると、どうやら銅像の女性の髪形で左右に出ている房のような部分――その片方だった)
P「というか、こんなところ先生に見られたらヤb――」
「あーっ! 何してるんですか~」
P「――……」
P(ヤバい)
とりあえずここまで。
はづき「これは……壊れちゃってますね~……」
P「……」
P(壊したのは摩美々だ。でも、一緒にいた俺も共犯にならざるを得ない、か……)
P(俺だけがやっていない証拠があれば別だけど、この旧校舎エリアじゃ監視カメラもろくに設置されていないだろうし)
はづき「1人でこんなところで何やってるんですか~もう……」
P「……え」
P(今、「1人で」と言ったか?)
P「いや、別に1人で来たわけじゃ……」クルッ
P「……」
P(振り返ると、そこにいるべき人影がなかった)
P「……逃げられた」ハァ
P(深いため息をついた)
P(銅像の一部によって叩かれた頭をさすりながら、ただただ自分の不運っぷりに呆れるばかりだ)
P「あの、この像って……」
はづき「うーんと……これは、校長面談ですね~」
P「こ、校長面談!?」
P(そんなに重要な銅像だったのか……)
P(まあ、学校のものを破壊したってだけでも問題だし、それが銅像という値段の計り知れないものであれば尚更、か)
摩美々『私、田中摩美々っていいますー。悪い子なんでー、たくさん迷惑かけてあげますねー』
P(ま、摩美々……! そんなこと有言実行しなくていいんだぞ……!)
はづき「この落ちてるのがそうですか」ヒョイ
P(はづき先生は、銅像から落下した一部分を拾い上げた。持ち帰るようだ)
P「先生、俺はこれからどうすれば……」
はづき「後で改めて呼び出しますから」
P「……はい」
P(今日から問題児、か……)
帰りのホームルーム。
~教室~
結華「PたんPたん」
P「なんだ……?」
結華「わお、一目見てわかるほどの落ち込み様。なんかあった?」
P「ああ……ありまくりだ」
結華「まさかPたんが先生に呼び出されるなんてねー。三峰、Pたんはそういうのとは無縁だと思ってたんだけどなー」
P「まったくだ。俺もそう思っていたよ」
結華「ちなみに、なんだけど……結構まずい感じなの?」
P「いや、それもわからないんだ。でも、たぶんまずいんだと思う」
結華「退学……なんてことには――」
P「――ならない、と言いたいんだけどなぁ」
P(あの銅像が学園にとってどれだけ大切なものなのかわからないし)
P(それに、退学か……考えたこともないな)
結華「私、今日はPのこと待ってるよ。一緒に帰ろう?」
P「いいのか? いつ帰れるのかもわからないんだぞ」
結華「うん、いい。待ってるから」
P「そうか……悪いな」
結華「いえいえ、落ち込んでるPたんを励ますくらいのことはできると思うので!」
P「結華……」
結華「なんて……どう? ときめいた?」
P「ああ、そうだな。ありがとう」
結華「ってちょっとちょっと! そこはボケるなりツッコむなり否定するなりしてくれないと!」
結華「ましてや感謝されちゃうなんてさ!」
P「? そうなのか?」
結華「そうですとも」
P「結華が待っててくれて、一緒に帰れる。それなら、これから呼び出されるとしても億劫さは軽減される気がするけどな」
結華「……ずるいなぁ、もう」ボソッ
放課後。
~廊下~
はづき カツッカツッ
P スタスタ
はづき カツッカツッ
P スタスタ
P(校長室なんて入学して初めてだ……そもそも、近くに向かったことすらない)
P スタスタ
P(廊下の窓から外を見る。咲耶が複数人のファンらしき女子生徒たちを相手に談笑していた)
P(こちらには、気づいていない。気づかれたいとは思わないな……)
P スタスタ
P(さらに、歩を進める)
P(廊下の窓から見える景色の中に恋鐘の姿を見た。目立たない体育館の裏の日陰にいる)
P(ダンス……だろうか。踊りの練習をしているように見えた)
P スタスタ
~校長室前~
はづき「着きましたよ~」
P「……はい」
P(ついに、この時が来てしまった)
P(何を言われるんだろうか……)
はづき コンコンコン
「……入りたまえ」
はづき「失礼します」
はづき ガチャ
はづき「では、どうぞ~……」
P(校長室へと進んでいく)
P(足取りは……重い)
P(怒られるかもしれないから……というのとは少し違う)
P(うまく表現できないような――それよりももっと大きな、そういうものが待っているような感じがしていた)
~校長室~
P「失礼します」
P(お決まりの文句を口にして校長室に入った)
P「……」
「お前を待っていたぞ」
はづき「校長室で2人きりだと流石に可哀想なので、私もいますよ~」
P「そ、そうですか……」
P(はづき先生が同席してくれるのは、まあ、ありがたいことだな……)
P「……」
P(校長の方を見る)
校長「……」
P(この学園を束ねる校長……あいかわらずダンディな雰囲気だ)
校長「よく来たな。早速だが、本題に入るとしよう」
P「はい」
校長「旧校舎エリアにある銅像を破壊したとの報告が来ているが、それは本当か?」
P「本当、です……」
校長「……」
P(校長のオーラ――もとい圧で押しつぶされそうだ)
校長「他に関与している者はいるか?」
P「それは……」
P(摩美々のことを言えば多少は俺の罪も軽くなるかもしれない)
P(そのことを自分のためにも言うべきなんだろうけど、何故かその気になれない)
P(摩美々を守ろうという本能のようなものを自分の中に感じる――これはなんだ?)
P(すべてを俺が背負う必要なんてないんだ。そもそも、俺はあの場にいただけで、咎められるようなことは何もしていない)
P(弁明すべき……なのに、どうしてか身体が言うことを聞かないみたいだ)
P(なんだ、これは)
校長「……まあいい。この件で犯人探しなど、どうでもいいことだ」
P「?」
P(犯人はどうでもいい……だって?)
校長「だが、だからと言って無罪放免……というわけにもいかなくてな。あの像自体は重要なものなのでね」
校長「それに、この件はある種の口実でもある」
P「口実……ですか?」
校長「そうだ。言っただろう、お前を待っていたぞ、と」
校長「私はもとよりとある目的のためにお前を呼び出したかったのだ」
校長「銅像の件はそのきっかけとなった。おかげで事がうまく運ぶというものだ」
P(校長の言っていることが、いまいちわからないでいる)
校長「W.I.N.G.については知っているかね」
P「……W.I.N.G.、ですか」
校長「そうだ」
はづき「この学園で最も大きな祭典……」
P「は、はい! 一応、は」
P(俺がW.I.N.G.について知っているすべてのことを話した)
校長「よろしい。知識に不足はないようだな。確認できて良かった」
校長「そこで、だ。まあ、名目としては銅像を破壊したことに対する贖罪ということになるが……」
校長「……まあいい、既に言ったように、それは単なる口実だ。それはさておき」
校長「お前には、そのW.I.N.G.で結果を残してもらう」
はづき「出場する女子生徒たちは、各々自分のサポートをしてくれる味方と一緒に、スケジュールや作戦を立ててるみたいですね~」
校長「有り体に言えば、そう――」
校長「――プロデュースだ」
校長「今はづきが言ったように、W.I.N.G.を目指す女子生徒には味方が必要になる。特に、パートナーとして支える存在が重要になるだろう」
校長「お前の目標はこの学園から1人の女子生徒を選んで、W.I.N.G.優勝に導くことだ」
P「ま、待ってください……! 話が唐突で追いつけていません!」
校長「何か難しいことがあるかね? 銅像の件はこれで目をつむろうと言っているんだが」
P「それがプロデュース……。はい、そのことは理解できているのですが……」
P(もちろん、理屈――原理はわかる。でも、なんでプロデュースなのかがわからない)
校長「まあ、結果次第では内申や進路についても考慮してやろう」
校長「とにかく、輝ける“アイドル”たる存在を見出し、W.I.N.G.を目指すんだ」
P「……」
はづき「精一杯頑張っていきましょ~! 大丈夫です、私もたくさんサポートさせていただきますよ~」
P「……わかりました」
校長「素晴らしい結果を期待させてもらう」
校長「お前とお前の選ぶ“アイドル”がこの学園に名を刻むことになるかもしれない。そんな結果を、な」
校長「まあ、まずは思うようにやってみるといい」
十分後。
~下駄箱付近~
P スタスタ
P(プロデュース……か。俺にそんなことができるんだろうか)
P(それに、そんなことをするからには、校長が言っていたように、俺が女子生徒を1人選ばないといけない)
P「俺が……担当を――」
P「――選ぶ」
~下駄箱エリア~
P ガチャガチャ
P(一体どうすれば……)
結華「あ、Pたんやっと来た~!」タタタ
P「結華……」
結華「もう、待ちくたびれたんだぞ~? ほら、早く帰ろうよ」
P「ああ、待っててくれてありがとうな。すぐに準備するから」
P(結華……か。俺にとっては、今のところ、この学園の中でもっとも距離の近い存在……ということになるけど)
P(正直、結華はW.I.N.G.を目指せると思う。美人だし、ノリも良いし、歌だって上手い。まあ、本人がその気になってくれるかは別問題だけど)
P(結華以外で俺とかかわりがあるのは……――)
P(――恋鐘、咲耶、霧子、そして摩美々)
P(これまでに彼女らと過ごしてきた時間を振り返ってみても……うん、アイドルとしては申し分ない人たちばかりだな……)
P(結華も入れれば5人。この中から、プロデュースする相手を選ぶ……か)
P(俺は……)
1. 恋鐘を選ぶ。
2. 摩美々を選ぶ。
3. 結華を選ぶ。
4. 咲耶を選ぶ。
5. 霧子を選ぶ。
6. ――この選択肢はロックされています――
(とりあえずここまで)
安価指定し忘れてました。
↓1で
P(恋鐘にしよう)
P(元気で、自信満々で……まさにアイドルという感じだ)
恋鐘『うち、決めたばい』
恋鐘『W.I.N.G.に出る!』
P(本人もW.I.N.G.を目指すと言っていたし、その反面転校してきたばかりで頼れる相手も多くはないかもしれない)
P(俺にも、何かできるのなら――)
P「……よし」
P(――やってみよう、プロデュースとやらを)
P(もとより、やらないという選択肢はないんだ)
P(だったら、やれることはやらないとな)
結華「? どしたの? Pたん」
P「いや、何でもないよ」
結華「えー? なんでもなくない気がするけどなー?」
P「な、何でもないんだって……!」
結華「ふーん、まあ、いいけどさー」
結華「……」ジーッ
P「……なんだよ」
結華「今日のPたん、なんだかいつもと違うね」
P「そうか?」
結華「うん。こう、いつもより活き活きとしてるっていうか……」
結華「あ、別に悪く言おうってんじゃないからね? 三峰は良いと思いますよ、ええ」
P「何目線なんだ……」
P(まあ、でも、そうなのか)
P(活き活きとしてるのか、俺)
P「さ、帰ろう。もう遅いからな」
結華「そだね。レッツ帰宅!」
P(さて、明日からどうするかな……)
翌日、2時間目と3時間目の間。
~教室~
P「恋鐘」
恋鐘「わっ! って、Pか~。急やったけん、びっくりしたばい」
P「はは……驚かせてすまない」
P「W.I.N.G.に向けて……その、なんだ」
P「順調か?」
恋鐘「うーん、どうやろ……」
恋鐘「あれからいろいろと噂話ば聞いとるんやけど、1人だけじゃやっぱり厳しゅうて」
恋鐘「友だちん力ば借りて臨むもんなんやって」
P「それで今、力を借りられる相手は……?」
恋鐘「そうやねー……転校して気にかけてくれる人はよういると」
恋鐘「ばってん、W.I.N.G.のことで相談できるのは……」
P「……そうか」
恋鐘「でもね、うち、絶対にアイドルになりたかとよ」
恋鐘「うちはアイドルになるために生まれてきたけん!」
恋鐘「そんためにも、まずはこん大会で自分がアイドルにふさわしかこと……証明したいんよ!」
P「ははっ、そうか。俺も恋鐘はアイドルになれると思うよ」
P(俺はそう信じたい――)
P「この学園の“アイドル”ってだけじゃなくて、皆を笑顔にできるような、そんなアイドルに」
P(――信じてみたいと思ったから)
恋鐘「えへへ……ありがとうね」
恋鐘「地元でうちん夢ば応援してくれとった人はいたばってん、こっちではPがはじめてばい!」
恋鐘「あ、もしかして、PはうちがW.I.N.G.に出とらんでん、もううちに釘付けになっとーと?」
P「え――」
恋鐘『で、Pがよそ見できんくらい釘付けにしちゃるばい!』
恋鐘『よーく見とってね!』
P「――ははっ」
P「そうだ……と言いたいところだが、まだだ」
恋鐘「えぇ!? Pはうちにまだ魅力ば感じとらん!?」
P「いや、そうじゃないんだ」
P「俺は、恋鐘にはまだまだ先を――上を目指して欲しい」
P「この学園のW.I.N.G.だってそうだし、本当にアイドルとしてデビューすることも」
P「そして、いつかはトップに……」
P(トップ)
P(トップって……何だ)
P「だから、俺はまだ満足してないよ」
恋鐘「P……」
恋鐘「そこまで言ってくれるとは思っとらんかった……ばってん――」
恋鐘「――嬉しかばい」
恋鐘「さすがはうちのファン1号!」
P「ははっ、光栄だよ」
P(ファン、か)
P(もちろん、そうだけど――)
P「……恋鐘、よかったら俺に――」
P(――俺は、もっと君を応援したい――)
P「――プロデュースを、させてくれ!」
P(――まるで、俺の知らない俺が心からそう望んでいるような気がしたんだ)
恋鐘「ぷ、ぷろでゅー……す?」
P「あ、いや、その……W.I.N.G.のことで相談できる相手がいないってことだったから」
P「俺なんかでよければ、力になりたいって思ったんだけど」
P「どう……かな?」
恋鐘「……!!!」
P「……」
恋鐘「うん、うん……!」
恋鐘「うち、ばりばり頑張るけん!」
恋鐘「よろしゅう頼むばい! P!」
3時間目、授業中。
~教室~
P(プロデュース、か……)
P(あの後、休み時間が終わるまで、恋鐘と話をしていた)
恋鐘『いや~助かったばい!』
恋鐘『Pがいればうちも安心よ!』
P『自分で言うのもなんだけど、恋鐘は俺を信用しすぎじゃないか?』
P《まだ知り合って間もないのに》
恋鐘『? それ、どがんこと~?』
P『俺のおかげで恋鐘をW.I.N.G.優勝にたどり着けるわけじゃないのにさ』
恋鐘『そがんこと気にせんでよか! うち、見る目はあるんよ!』
恋鐘『Pは信用に値するプロデューサーばい!』
恋鐘『うちん本能がそう言いよーったい。安心してよ』
P『そ、そうか……』
P《これは、俺も頑張んないとな……》
P《ここまで期待されているんだし》
P《期待、あるいは信用、か》
恋鐘『それに……ね』
恋鐘『うちが個人的に……Pにお願いしたかって気持ちもあるんよ』ボソッ
P『え?』
恋鐘『な、なんでもなかばい! 気にせんでおいて!』
P『お、おう……』
P(恋鐘があそこまで頼ってくれているんだ。俺も頑張らないとな)
P「……」
P(正直、心躍る気持ちがどこかにある。この感情は、なんだろう)
P(俺の知らない、俺の気持ち……とでも言えば良いのだろうか)
P(何はともあれ、恋鐘をプロデュースすることに変わりはない)
P(それに、校長との一件もある。頑張らない理由なんてないんだ)
P「はぁ……」
P(ただ、現実問題、俺には知識も経験もない)
P(アイドルについては……圧倒的に結華が詳しいだろうな。俺なんかでは到底敵わない)
P(もちろん、俺が自分で勉強するという手もあるが……)
P「あ……」
はづき『精一杯頑張っていきましょ~! 大丈夫です、私もたくさんサポートさせていただきますよ~』
P(そういえば、そんなこと言ってたな)
P(どうするか)
1. 結華に協力を仰ぐ。
2. はづきのサポートを活用する。
3. 自分でどうにかする。
選択肢↓2
2
>>1です。
選択肢にご協力くださりありがとうございます。「↓2」を拾うまでに時間がかかったので、特に断りもなく更新を区切っていました。
いますぐには更新できないのですが、>>59の結果を元に話を進めていきます(なお、このSSは、安価の結果で話を作っていくものではなく、既に作って分岐有のシナリオを安価による選択を元にたどる形式です)。
テンポが悪くてすみませんが、一旦ここまで。
P(冷静に考えて、先生のサポートを受けられるというのはデカいんじゃないか……?!)
P(まあ、公平のために限度があるのかもしれないけど、それでも……)
P(俺がプロデュースをすることになったのは校長の指示で、まさにそれを言い渡された場面ではづき先生は俺をサポートすると言ったんだ)
P(期待は……していいはずだ)
P(よし、はづき先生のサポートを活用しよう)
P「……」
英語教師「それじゃあこの部分の英訳を――」
P(――俺の名前が呼ばれた)
P「っ?! あ、はい……」
P(そうだ、今は授業中だった……)スタスタ
昼休み。
~職員室付近、面談スペース~
P「……と、言うわけで、はづき先生にもサポートをお願いしたいと思いまして」
はづき「なるほど~、恋鐘さんを選んだんですね~」
P「え? は、はい」
はづき「ふふっ」
はづき「いえ、プロデュースしろだなんて急な無茶ぶりなのに、前向きになってくれて、むしろ感心しているんですよ~」
P「それは……ありがとうございます」
はづき「わかりました。サポートさせていただきますから、頑張ってください!」
P「心強いです。助かります」
はづき「まあ、教員という立場上、限度もありますけどね~」
P「あ……やっぱりそうですよね……」
はづき「表向きはそうですよ。でも――」スッ
P(え、急に近……っ?!)
はづき「――贔屓したい気持ちはありますから」ボソッ
P(……からの耳打ち!)
はづき「なので、遠慮なく相談してください!」
P「あ、ありがとうございます……!」ドキドキ
放課後。
~ファミレス~
P「よし、恋鐘。作戦会議だ。今後のことを考えよう」
恋鐘「う、うん……! よーし、頑張るばい!」
P「まず今後の行事予定表を見て欲しいんだが……」
恋鐘「……えっと、そん前に1つ聞いてもよかね?」
P「どうした? 何か気になることでもあるのか?」
恋鐘「気になることっていうか――」
はづき「……」
恋鐘「――なんではづき……先生がここにおると?」
P「なんでって、そりゃあアドバイザーみたいなところあるし」
恋鐘「学校の先生って忙しかやなかと? 授業の準備とか部活動とか……」
はづき「あ、ご心配なく~」
はづき「校長がOKって言ってるんで大丈夫ですよー。この食事も経費で落ちますし」
恋鐘「落ちてしまうんか……」
P「まあ、そういうことだ。ツッコんだら負けだと思うぞ」
P(俺も気づいたら校長に呼び出されてプロデュースしろ素晴らしい結果を期待させてもらうとか言われたし)
P(状況にツッコんでいたらキリがない)
P「既に説明したように、はづき先生は俺たちをサポートしてくれる心強い味方だ」
恋鐘「そりゃあそうかもしれん……ばってん、うちはPと2人でも……」
はづき「男子生徒と女子生徒が2人きりで放課後を過ごしていると――」
P「――今後、恋鐘に男子のファンができたときに面倒になりそうだからな」
P(実際、恋鐘のスタイルに興味を持つ男子生徒だって多いはずだ)
P(ファンを獲得するのはそんなに難しいことじゃないと思うが、問題はその後だ)
P(生徒同士、学校という狭い社会……噂の影響は警戒しないといけない)
P「だから、こうして複数人にしているわけだ」
P「現状、俺たち2人以外に生徒の味方はいないしな……」
P(とりあえず、結華を頼るよりもはづき先生のサポートを選んだわけだし)
恋鐘「そ、そうよね。アイドルに恋愛はご法度やし……」
恋鐘「うぅ~~、ばってんそれやとPとの時間が~~」ボソボソ
はづき「さ、気持ちを切り替えて作戦を練りましょう~」
P「はは……」
P「エントリーは済ませてあるから、その先を考えよう」
P「えっと、W.I.N.G.に向けてアピールできそうな大きめの行事は……」
はづき「6月の球技大会、7月の終業式後のミニステージ、9月の体育祭、11月の文化祭、ですね~」
はづき「いま言った4つのイベントの後にそれぞれ1回ずつ審査がありますよ~」
P「あっ、ありがとうございます」
P「恋鐘、今、はづき先生が言った通りだ。アピールできる大きなイベントは4つ。審査もそれらとほぼ同タイミングだ」
恋鐘「おっけー! ばっちり理解したばい!」
P「球技大会は、素直に競技で活躍してもいいし、間にある長い休憩時間中のエントリー者によるゲリラライブ的なのがあるからそこでアピールしてもいい」
P「終業式の後のミニステージは……これは完全にW.I.N.G.を目指す女子生徒たちを意識した時間だな。短い時間でいかにアピールするかが問われそうだ」
P「体育祭は球技大会と似ているな。球技大会とは違った種目で、別のアプローチができるかもしれない」
P「文化祭にはW.I.N.G.出場をかけた大きなステージがある。エントリーしていて、かつその段階で審査を通過できている女性生徒たちが、各々自由にパフォーマンスをする時間だな。1人あたりのアピールできる時間も一番長い」
恋鐘「か~~っ、どれもばり注目されそうなイベントやね!」
P「ああ。一応、他にもアピールする機会は、小さいながらもあるぞ」
P「W.I.N.G.を目指すにあたって、エントリーした生徒には関係者限定の配信サイトにチャンネルが割り当てられている」
P「PVを作ってもいいし、生配信をしてもいい」
P「日常的なアピールも重要だ」
恋鐘「す、すごかね! 都会の学校にはこんなシステムがあると!?」
P「いや、うちの学園がやたらとこのイベントに力を入れているだけだと思う……」
P(マンモス校だし、学費も安くはないし、お金があるのかもな)
はづき「この学園最大の祭典ですから!」
P「は、はぁ……」
P(まあ、関係者限定のイベントとは言っても、芸能関係の人間の目にも触れているという噂があるし――)
P(――これをきっかけに声がかかったなんて話も聞く)
P(だからこそ……)
恋鐘「うち、ますます燃えてきたばい! えへへ」
P(……将来的にアイドルになりたいという夢を持った恋鐘を、W.I.N.G.の舞台に連れて行ってやりたい)
P「じゃあまず、6月の球技大会をどう過ごすか決めよう――……」
2時間後。
~帰り道~
P「すっかり遅くなっちゃいましたね……」
はづき「確かに……ふふっ」
P「どうかしたんですか?」
はづき「いえ。なんというか、恋鐘さんに悪いな~と思いまして」
P「恋鐘に……?」
はづき「さっき、途中の分かれ道で恋鐘さんだけが別の方向に行かないといけなかったじゃないですか」
はづき「その時の恋鐘さんがとても不満げだったので」
P「あ、ああ……そういうことですか」
はづき「信頼、されてるんですね」
P「ははっ……だと、良いんですが」
はづき「転校して間もない恋鐘さんと、突然プロデュースを命じられた立場で……」
はづき「よくこんな短時間でここまでやろうとしてくれたなって、そう思います」
P「……」
P「不思議なんです」
P「いきなりプロデュースとか言われてわけわかんないはずなのに、次から次へと考えが及んで、行動に移してて」
P「俺の知らない俺が背中を押しているような、そんな感じがするんですよ」
P「って、お前は何を言ってるんだって話ですよね。はは……」
はづき「……いいえ」
はづき「私は良いと思いますよ」
はづき「だって、いま、すごく活き活きしてますから!」
P「!」
P(そういえば、結華にも似たようなことを言われていた)
結華『今日のPたん、なんだかいつもと違うね』
P『そうか?』
結華『うん。こう、いつもより活き活きとしてるっていうか……』
P「……」
1週間後の放課後。
~グラウンド脇~
P スタスタ
P(球技大会では、恋鐘は、競技でとにかく全力を出して、休憩時間中のゲリラで歌を披露することになった)
P(というのも、恋鐘の中で、今一番完成されているのが歌だからだ)
P(あの歌なら、最初の審査も通過できるはず……)
P(さらに磨きをかけるため、放課後ははづき先生によるサポートとともに、歌の練習に励んでもらうことにしている)
P(一方の俺はというと、恋鐘のチャンネルにアップロードするPVの制作に取り組んでいた――)
P(――と、過去形なのは、それが既に完了したタスクだからだ)
P(恋鐘は練習を頑張っているが、俺はどうしたもんかな……)
P(今、俺は自分の出る球技大会の種目のチーム練習を終えて、着替えの後で教室に戻るところだ)
P「真っ直ぐ帰ってもいいけど、時間はあるし、どこか寄り道してもいいな……」
P(恋鐘の出る種目の練習はさっき遠目に見たが、まだ時間がかかりそうだった)
P(どのみち、今は恋鐘と会うことはできない)
P「自分にやれることをやるだけ、なんだがなぁ」
P(さて、どうしようかな)
1. 真っ直ぐ教室に戻る。
2. 中庭で一服する。
3. 旧校舎エリアに行く。
選択肢↓1
(とりあえずここまで)
~中庭~
ガコン
P「っしょ、っと……」
P(いつもの自販機で缶コーヒーを買い――)
プシュ
P(――それを飲んで一服する)
P「……ぷはぁ」
P(何気なく選んだけど、これ、咲耶と初めて会ったときに買ったのと同じものだな)
P「……」
P(人伝に聞いた話だが、咲耶もエントリーしたようだった)
P(きっと、多くの女子ファンに支えられているんだろう)
P(サポーターが多いのは良いよなぁ……恋鐘の陣営はそういう意味じゃ弱小だ)
P(メンバーは、俺と、強いて言えばはづき先生だからだ)
P「はぁ……」
「おや、ため息だなんて。何かあったのかい?」
P「ははっ、何かあったのか、か……。別に、特別何かあったというわけではないんだ」
P「咲耶こそ、ここで何してるんだ?」
咲耶「アナタを見かけたからね。声をかけてみたんだ」
咲耶「迷惑だったらすまない」
P「迷惑だなんてことないよ。ちょうど、1人ぼっちだったところだ」
P「そういえば、咲耶もエントリーしたそうじゃないか。調子はどうだ?」
咲耶「ああ、順調だよ。おかげさまでね」
咲耶「天使たちのサポートは実に頼もしいものさ」
P「はは……それはいいな」
咲耶「……浮かない顔だね」
P「いや、なんていうかさ」
P「俺は恋鐘――同じクラスの月岡恋鐘をサポートしてるんだ。もっと言うと、プロデュースってやつを」
P「恋鐘はわかるよな。この前会っただろ?」
咲耶「ああ、あの時の子だね」
咲耶「そうか……アナタは彼女の側につくというわけか」
P「あ、ああ……」
P「い、いやぁ、でも咲耶はいいじゃないか」
P「俺たちの陣営は弱小もいいところだし」
P「ははっ、その分、俺が頑張んないといけないんだけどな」
咲耶「アナタという人が、一途に応援してくれているだなんて、私からすれば少し羨ましくもあるよ」
P「? そうか?」
咲耶「ああ、そうだとも。アナタはもう少し自分の価値に気づくべきだ」
咲耶「……私はその価値に気づいていたのに」ボソッ
P「咲耶?」
咲耶「なんでもないさ」
咲耶「まあ、これで、私たちは晴れて敵同士、というわけか」
P「お手柔らかに頼むよ」
咲耶「それはどうかな? 手加減はできないかもしれないよ」
P「はは……これは強力なライバルの登場だ」
P(それは、もとよりわかっていたことでもある)
P(咲耶の人気はすごい。はじめからファンが大勢いるなんて、ゲームでいえばチートみたいなものだ)
咲耶「おっと、そろそろ行かないといけないな」
P「わっ、もうこんな時間か。俺もそろそろ戻らないとな」
咲耶「フフ、素敵な時間というものは、あっという間に過ぎ去ってしまう」
P「そうかもしれないな」
咲耶「……」
咲耶「P、断言しようじゃないか」
咲耶「アナタは恋鐘を必ずW.I.N.G.に導く」
咲耶「私もW.I.N.G.に出る」
咲耶「それまで、お互いに健闘しよう」
P「ああ、そうだな」
P「ありがとう、咲耶」
咲耶「どういたしまして」
咲耶「それでは、またの機会に」クルッ
P「ああ、じゃあな」
咲耶 カツカツ
P スタスタ
咲耶 ピタッ
咲耶 クルッ
咲耶「P……確かに私たちは敵同士かもしれないけれど」
咲耶「私という1人の人間は、アナタのことを……」
~校舎裏付近~
P(例によって教室までの近道を行く)
P(そういえば、この前はショートカットしようとして霧子に会ったな)
P(今日もいるのだろうか)
P タッタッタッ
P(この角を曲がって……――)
霧子「~♪」
P「っとと」
P(――聞き覚えある鼻歌が耳に届く)
P「霧子」
霧子「わ……あ、Pさん……ふふっ」
霧子「こんにちは」
霧子「でも……放課後だから……なんて言えばいいんでしょうか」
P「ははっ、まあなんでもいいよ」
P「霧子は、球技大会の練習はいいのか?」
霧子「?」
P(イベントに興味がないのだろうか)
P「あ、えーっと……」
P「……今も、花の世話をしているのか?」
P(この前はそうだったよな)
霧子「それは、ちょうどいま終わったところ……です♪」
P「ナスタチウムって言うんだよな」
霧子「覚えててくれたんですね」
P「まあな」
霧子「そうだ……保健室の中にも、花を生けてみたんです」
霧子「よかったら、見ていきませんか……?」
P(教室に戻るところだけど……)
1.「ああ、見ていくよ」
2.「今は急いでいるんだ(見ていかない)」
選択肢↓1
(とりあえずここまで)
P「ああ、見ていくよ」
霧子「ふふっ……じゃあ、一緒に行きましょう……♪」
~保健室~
P「静かだな」
霧子「えと……はい。……保健室、ですから」
P「それもそうか」
P(なんだか薄暗い――ここはいつもそんな気がする)
P(そして、例によって人はいないみたいだ。今いるのは、俺と霧子だけ……)
P「お、生けた花っていうのは、これのことか」
P(ピンク色の花が一輪ある)
霧子「はいっ……オキザリスさんです」
P「そういう名前なのか」
P(花言葉とか、あるんだろうな。俺は知らないけど)
P「なんだか、いいよな。こういうのって」
P「うまく言えないんだけど、癒されるっていうかさ」
霧子「ふふ……はい♪」
P「ありがとう、霧子。見せてくれて」
霧子「そんな……」
霧子「私も……嬉しいです」
霧子「Pさんとお話ができて……」
P「ははっ……それは照れるな」
P「あ、そうだ」
P「霧子はW.I.N.G.って興味あるか?」
霧子「?」
P「この学園で一番大きいイベントなんだ。学園一のアイドルを目指す大会だよ」
霧子「わあ、アイドル……ですか」
P「俺は月岡恋鐘って子のサポート……いや、プロデュースをすることにしたんだ」
P「よかったら、チェックしてみてくれ。生徒用のサイトからいろいろと情報を見れるからさ」
霧子「わかりました」
P(まあ、これも営業活動の一環……かな?)
~小型スタジオ(兼練習室)~
ガチャッ
P「……っ、はぁっ、はぁっ」ゼェゼェ
P「す、すみません……! 遅くなりました!」
P(のんびり過ごしすぎた……!)
はづき「あ、お疲れ様です~」
P(ガラスの向こうには、マイクの前で歌っている恋鐘の姿が見えた)
P「今やってるのって……」
はづき「実際に収録された自分の声を聞いてもらうために、本格的な機材で録音してるところですよ~」
はづき「恋鐘さんの歌のクオリティは元々高いので、後はいかに磨き上げていくかということを念頭においています」
P「な、なるほど」
P(さすがはづき先生、的確だな……)
P「何から何まですみません……他のお仕事もあるでしょうに」
はづき「いいえ~、私がやりたくてやってるんですから」
はづき「謝る必要なんてないんですよ~」
P「は、はい」
P「じゃあ……こう言わせてください――ありがとうございます」
はづき ニコッ
恋鐘 ムムム・・・
P(恋鐘は今、収録した自分の歌っている音源を聞いているところだ)
恋鐘「……」
恋鐘 パカッ
P(恋鐘がヘッドホンを外す)
恋鐘「こう……自分の声ばこがん近くで聞くとは、なんか変な感じがするばい」
P「どうだったんだ? 聞いてみた感想は」
恋鐘「やっぱうちの歌は日本一やね!」
P「ははっ、そうか。それは良かった」
P「俺にも聴かせてくれないか?」
恋鐘「うん!」
P「……」
P パカッ
P(……プロの音源を聞いてるみたいだった)
P「恋鐘……」
恋鐘「? 何?」
P「お前……」
恋鐘「え、な、何!? うち何かやってしもうた!?」
P「ああ、とんでもないよ」
恋鐘「うぅ~、一体どがん失敗ばしてしもうたんやろ……」
P「いや、失敗だなんてとんでもないよ」
P「すごすぎて言葉を失っていたんだ」
P「恋鐘の歌は既に素人の域をはるかに超えてると思った」
P「はづき先生も、そう思いませんか?」
はづき「はいっ、素敵な歌声だと思います!」
恋鐘「P……はづき……!」
恋鐘「えへへ、ばり嬉しかー……」
P「って、おいおい先生を呼び捨てかよ」
はづき「いいんですよ~」
はづき「呼び捨て、しちゃいます?」
P「い、いえ……俺は」
はづき「え~、そうですか~?」
P「じゃ、じゃあ……はづきさん」
P「それから恋鐘」
恋鐘「?」
P「恋鐘の歌声を、まずは皆に知ってもらう必要がある」
恋鐘「あ、そうやね!」
P「はづきさん、今の音源でいけそうですかね?」
はづき「大丈夫だと思います。一発撮りなのにまったくミスがないですし」
P「じゃあ、一発撮りの音源だということも概要欄に書いておきます!」
P「恋鐘、チャンネルにさっきの歌声を載せるぞ。いいよな?」
恋鐘「もちろんばい! ……~~っ、ついにこん時が来た~~!!」
球技大会一週間前、昼休み。
~教室~
P(あれから――つまり恋鐘の歌声をアップロードしてから、その反響はというと、それはもう大きかった)
P(エントリーしていた女子生徒の中でも、恋鐘の歌のクオリティは群を抜いていたし、そもそも歌で攻めようという人はあまり多くなかったようだ)
P(間違いなく注目を浴びている……勢いのある“アイドル”と言えよう)
P(その後にも何本か映像付きで恋鐘の歌をアップしたが、どれもすごい伸び様だ)
ガヤガヤ
P(恋鐘の周りには多くの生徒が集まっている)
P(恋鐘と比較的仲の良い女子生徒たちが周りにいて、うまくガードの役割を果たしているようだ)
P(実際、下世話な感情から興味を持って近づいてくる生徒だって少なくない。治安維持という意味ではこれを利用しない手はないだろう)
P「……」
P(人が集まっていて、自分の席は居心地が悪いな……恋鐘のちょうど1つ前だし)
P(“プロデューサー”である俺が目立つ必要はないんだ。今はここにいる必要もないだろう)
P(少し外に出るか)
P スタスタ
恋鐘「あ、うちの歌聞いてくれたと? ありがと~!」
恋鐘「W.I.N.G.で優勝ば目指すけん、よろしゅう……ね……」
P スタスタ
ガララ
ピシャリ
恋鐘「……」
恋鐘「……え? なっ、何でもなか!」
~旧校舎エリア~
P「……」スタスタ
P(何気なくこの辺に来てしまったな……)
P(思えば、この先にある銅像を破壊したことがきっかけで――)
P「――いやいや、俺が壊したわけじゃないけど……」
P(それまでは縁のない場所だったのに、急に因縁が……)
P「そういえば、あいつ、どうしてんだろうな」
P(あれ以来、会っていない)
摩美々「ふふー、まみみが気になりますかぁー?」
P「?!」クルッ
P(振り返ると、そこには摩美々がいた)
P「な、なんだよ……びっくりさせるなって」
摩美々「別に驚かせようとしたわけじゃないですしー」
摩美々「Pが勝手にびっくりしたんじゃないですかぁ」
P「それは……って、なんで俺が悪いみたいになってるんだ……」
摩美々「ふふー……たしかにー」
摩美々「悪い子といえば、このまみみなのにー」
P「あっ、そうだよ」
P「結局、あの後、銅像破壊の疑いで大変だったんだからな……!」
摩美々「それはどうもー」
P「気にしてないな……まったく」
P(逃げ足が速いんだもんなぁ)
P「もう、こういうことはするなよ」
摩美々「どうでしょうねー、悪い子なのは変わりないですしー……」
P「摩美々」
摩美々「……っ、な、何急に見つめてるんですかぁ? そういうの、ハラスメントって言うんじゃないですかねー?」
P「摩美々」
摩美々「……」
P「やっていいことと、悪いこと、わからないか?」
摩美々「……」
摩美々「ごめんなさい」
P「ああ、まったくだ」
P「でも、まあ、摩美々には何もないようで良かったよ」
摩美々「?」
P「俺が1回呼び出されただけで済んだんだしさ」
P(それ以外にもあるけど……黙っておこう)
摩美々「Pは、私が先生たちに罪に問われてなくて、安心してるんですかぁ?」
P「まあ、転校してすぐ罪人っていうのもなぁ……ははっ」
P「これからこういうことをしなきゃいいよ」
P「そういう意味では、迷惑かけて、心配もさせて、でも安心してる」
摩美々「っ……そ、そうですかぁ」
P「さて、と」スタスタ
摩美々「え、歩くの早……」
P「あ、早かったか?」
摩美々「あ、いや、別に一緒に歩こうとか思ってないですしー……」ワサワサ
P(摩美々は目を逸らしながら自分の頭の両側にぶらさがった髪をいじっている)
P「ははっ、いいよ、一緒に行こう」
摩美々「だから、そういうつもりじゃないのでー」
P「例の銅像を見ようと思ってさ」
摩美々「?」
P「もう直ってるのかな、とか」
摩美々「興味あるんですかぁ?」
P「まあ、暇だしさ」
摩美々「私も暇ですケドー」
P「直って…………ないな」
摩美々「ですねー」
P(俺らが壊した――いや俺は壊してないが――あの時から恐らくまったく変わっていない)
P(MAYUZUMIと彫られたネームプレートを持つ女性の姿をした銅像は、頭の左右につけた房のうち、片方を失った状態でそこにいた)
P「欠けちゃってるのは……この銅像から見て右か」
P「あれ、そういえばあの時に落ちた部分ってどこにあるんだ?」
摩美々「んー、無いみたいですねー」
P(先生が回収したのか……?)
摩美々 ナデナデ
P「何してるんだ?」
摩美々「頭を撫でてみましたぁ。特に理由はないですけどー」
P「……」
P(なぜだろう、銅像から“覇気”を感じる。気のせいだろうか)
摩美々「ふふー」
P「そろそろ昼休みも終わるし、戻るか」
摩美々「Pが戻るなら戻りますー」
P「ははっ、なんだそりゃ」スタスタ
摩美々 スタスタ
P「……」クルッ
P(銅像の方を一瞥する。あの時と同じで――それは当たり前ではあるけど――苦しそうな姿勢でそこにいた)
摩美々「じゃあ、私はこっちなんでー」
P「ああ、またな」
摩美々 スタスタ
P「……あ、ちょっと待ってくれ!」
摩美々「なんですかぁ?」
P「摩美々はW.I.N.G.って知ってるか?」
摩美々「なんとなくー……聞いたことなら」
P「そうか。それなら、月岡恋鐘をよろしく頼む!」
摩美々「……Pって、アイドルみたいな、そういうのって興味あるんですねー」
P「というか、俺はファンでもあるんだけど、プロデュース的なことをしているんだ」
摩美々「プロデュース……」
P「ああ、だから、恋鐘をW.I.N.G.の舞台に連れて行って、優勝させてやりたいと思ってる」
P「もし、摩美々さえ良ければ……一緒に応援してくれないかなって思ったんだ」
摩美々「……私、そういうのは別にいいんでー」
P「興味……ないか」
摩美々「その恋鐘って人を応援してもなぁって感じですー」
P「そ、そうか……すまない、引きとめて」
摩美々「ふふー、でも――」
摩美々「――Pが何かしてるなら、摩美々は興味あるかもしれませんねー」
P「え、それってどういう……」
摩美々「覚えておきますよー」
摩美々「ではー……」スタスタ
P「っ……俺は本気なんだ!」
摩美々「っ!?」
摩美々 クルッ
P「ははっ、まあ、協力してくれたら俺は嬉しいよ」
P「覚えてもらえているだけでもいい」
P「じゃあ、またな」
P タッタッタッ
摩美々「……」
(選択肢は少し先ですが、とりあえずここまで)
みてるや
>>1です。
>>79 ありがとうございます。
ここ最近忙しすぎて全く更新できていない状況です。すみません。
遠くないうちにタイミングを見計らって続きを投下したいと思いますので、今後も見てくださる方がいましたら、そのときはよろしくです。
球技大会当日、午前。
P(球技大会の日がやってきた)
P(恋鐘には、ここで目立ってもらう必要がある)
P(あの歌があれば最初の審査は問題なく通るだろうけど、その後のことも考えないといけないからな)
P(競技に全力を注いでもらいつつ、休憩中のゲリラライブで学校関係者たちを魅了する――)
P(――それが今日の恋鐘の動きだ。まあ、予定だが)
恋鐘「P!」
P「うおっ……って、恋鐘か。どうした?」
恋鐘「え~? 別にどうということもなかよ?」
恋鐘「特に用はない!」
P「そ、そうか……」
恋鐘「えへへ」
恋鐘「……ほんとは、ちょーっぴり緊張しとったい」
恋鐘「やけん、Pに話しかければなんとかなるかなって」
P「ははっ、そういうことか」
P「大丈夫、恋鐘ならやれるさ」
P「競技は普通に楽しめばいいんだ。その代わり、できるだけ全力で、な」
P「ゲリラライブのことは……まあ、緊張はするだろうけど――」
P「――恋鐘の歌があればきっとうまくいく、俺はそう信じてるよ」
恋鐘「P……」
P「自信を持ってくれ」
恋鐘「誰に言いよーっと? うちはアイドルになるために生まれてきた女やけん、自信ありまくりばい!」
P(胸を張って――慣用句的にも物理的にも――得意げに言う恋鐘)
P「ああ、それでこそだ」
P(今日は、恋鐘の、学園の“アイドル”としての初イベントの日と言っても良いだろう)
P(しかし、不安はない。恋鐘なら、きっと……)
P「……っと、そろそろ始まる時間か」
P(最初の競技は恋鐘が出るやつだったな)
P(俺のはだいぶ後だ)
恋鐘「そうやね。じゃあ、行ってくるばい」
P「ああ、いってらっしゃい」
数十分後。
P(あれから、しばらくの間は恋鐘が競技に出ているのを見ていた)
P(結論から言えば、恋鐘の一挙手一投足が“パフォーマンス”だ)
P(それも、全力で参加しているからだと思うが)
P(あのスタイルで激しい動きをする恋鐘には注目せざるを得ない)
P(さらに、時々転ぶドジな一面も見せている。そこにあざとさはない。……本物だ)
P(期待通り、恋鐘は注目の的となっていた)
P(しかし、この競技というのが、1つあたりの時間が長く、流石に誰が見ても飽きてくるのだ)
P(というわけで、実は今の俺は校内を適当にブラついている)
P(恋鐘を信頼しているからこそ、後はまかせた、という気持ちでいる)
結華「あ、Pたんだ!」
P(この声、この呼び方は――)
P「――結華」
結華「さっきのこがたんはすごかったね~。最初から最後まで目が話せなかったよ~!」
P(そうか、今終わったところか)
P「ははっ、だろ?」
結華「なんでPたんが得意げなのさ~」
P「まあ、これでも、一応あいつをプロデュースしているからな」
結華「っ、そっか。そういえばそうだった」
P「こがたん、って、そうやって呼ぶ仲なのか?」
結華「三峰としてはもっとお近づきになって仲良くなろうかなーってところかな」
P「なるほど」
結華「こがたんとの今後に期待って感じ!」
結華「というか、Pたんは何か重要なことを忘れてはいませんかな?」
P「重要なこと……?」
結華「ドルオタだってことをだよ!」
P「ああ……」
結華「学園のアイドルも三峰の守備範囲だからね~」
結華「気になってるアイドルはあだ名で呼びたいなって思ったり」
P「おお、応援してくれるのか」
結華「今後も注目し続けるかどうかは、Pにかかってるかもね?」
P「ははっ……それは良いプレッシャーだ」
結華「もちろん、Pのことも応援してるからさ」
結華「頑張ってよ」
P「ありがとう、結華」
P「期待に応えられるように努めるつもりだ」
結華「うん……」
結華「あ、私、次の競技に出ないとだった!」
結華「……じゃあ、行くね?」
P「頑張ってな」
結華 タッタッタッ
P「……」
P(もしかして、結華と話すのは久しぶりだったんじゃないか?)
P(恋鐘が転校してきてから、結華と接する時間は短くなったような気がする)
P(気のせい……だろうか)
結華『……じゃあ、行くね?』
P(哀愁漂う表情というのは、ああいう顔のことを言うのだろうか)
P「……移動するか」
P「あれ」
ガヤガヤ
P(人だかりができているな)
P ピョンピョン
P「あ、見えた……」
P(人だかりの中心にいたのは、咲耶だった)
P(恐らく、先ほどの競技――2つめ――も終わったんだろう)
P「きっと、すごく活躍したんだろうな」
P(そういえば、恋鐘も同じ競技に出ていたな)
P(どうやら、欠員が出た分を引き受けて、最初の2つに連続で出場しないといけなくなったらしいのだ)
P(俺はそれを当日、つまり今日に知らされたわけだが)
P「恋鐘はクラスの場所に戻っているかな」
P(俺もそこに戻ることにした)
ガヤガヤ
P(恋鐘のまわりには、咲耶のそれと同じか、あるいはそれ以上の人だかりができていた)
P「こ、これはすごいな……!」
P(全然近づけそうにないぞ)
P(ゲリラライブのことについて最後の打ち合わせをしようと思ったんだがなぁ……)
P(まあ、実のところ、打ち合わせは何度もしているから、今から本番とかでも大丈夫なのかもしれないが)
P(ライブという形式でのアピールは初めてだから、流石に神経質になるというものだ)
P(球技に参加するのとはワケが違う)
P「はぁ……」
P(あの人だかりを崩すのも違うよなぁ)
P(そもそも、俺は裏方として、目立たずに恋鐘を支えるのがベストなんだ)
P「……」
P(恋鐘は次の協議の間休んでいるし、その時でも大丈夫か……)
P スタスタ
P(俺は再び、校内を徘徊することにした)
P(球技大会の喧騒の中、俺は校内をうろついている)
P(自分以外の人間が団結しているのに、こうして勝手なことをするのは、なかなかどうして背徳感があるな……)
P(悪いことをしているわけじゃないんだが)
P(まあ、恋鐘を取り巻く生徒たちがはけるまでの間だけだ)
P「しかし……」
P(恋鐘にとって大事なイベントがある日だと思って、昨日までは落ち着けない自分がいたが)
P(いざ当日になってみれば、思ったよりもすることはないし、気持ちは不思議と平然としている)
P(そう思ってブラブラしていると、死角から出てきたある人と目が合った)
P「はづきさん」
はづき「あ、こんなところで何してるんですか~?」
P「いえ、何、ということもないのですが」
はづき「始まりましたね、本格的に」
P「そうですね。出だしは好調という感じです」
キリが悪いですが、とりあえずここまで。
>>84 誤植訂正:
P(恋鐘は次の協議の間休んでいるし、その時でも大丈夫か……)
→P(恋鐘は、次の競技の間は休んでいるし、その時でも大丈夫か……)
はづき「ふふっ」
P「え?」
はづき「ごめんなさい、つい……」
P「お、俺の顔に何かついてますかね?」
はづき「そうじゃないですよ~」
はづき「なんだかんだ、楽しんでるなと思いまして」
P「そう……なんですかね」
P「やるからにはちゃんとやろうと思っていますけど」
P(でも、確かに――)
P「――想像以上かもしれません。やらされている感じとかはなくて」
P「不思議と、性に合っているように思えるんです」
P(最近はそうだ)
P(自分の知らない自分に出会えているような感覚の連続で)
P(何の面白みもない普通の高校生活には別れを告げたようなものだ)
はづき「はい。私からもそう見えますよ~」
はづき「校長にも、楽しんでる、って伝えておきますね~」
P「そ、それは、なんというか……まあ、はい」
はづき ニコニコ
P(否定はできなかった)
P(それはそうと……)
P ソワソワ
はづき「恋鐘さん、ですか?」
P「えっ?! あ、ええ……」
P「ゲリラライブをする予定じゃないですか。だから、その前にもう一度話しておけたらな、と」
はづき「それなら、ほら――」
P(はづきさんの指差す方向を見ると……)
P「――あ」
P(……こちらに手を振っている恋鐘の姿が見えた)
P「……という感じだ。再生数が一番伸びている歌で勝負、今日はなんと言ってもこれだ」
恋鐘「わかっとーよ。何度も同じ話されたら流石に覚えるばい」
P「まあ、そうなんだが……」
P「すまん。これじゃあ、恋鐘のことを信用し切れてないみたいだよな」
恋鐘「あ、別に全然よかよ? うち、嫌やとは一度も言うとらんけんね」
恋鐘「むしろ、Pとこうして話す時間は……す――」
P「恋鐘?」
恋鐘「――……っ!!」
恋鐘「な、なんでもなか!」
P「そ、そうか」
P「まあ、人前でパフォーマンスをするのはこれが初めてだけど」
P「大きなチャンスでもある。アイドルとしての初ステージと言ってもいい」
P「俺から指示することはほとんどない。ただ、楽しんできてくれ」
P「アイドル月岡恋鐘を、皆に見せてやってくれ」
恋鐘「うん! Pがいるし、うちが怖がるもんはなんもなかよ!」
恋鐘「これもアイドルになるための一歩やけん。大事にしたか」
P「ああ、そうだな」
P「俺からは特にないんだが、恋鐘はどうだ?」
恋鐘「……見てて」
P「?」
恋鐘「うちのこと、見とってね!」
恋鐘「で、よそ見できんくらい釘付けにしちゃるばい!」
P(それは――)
恋鐘『……』
P『月岡さん?』
恋鐘『うち、決めたばい』
恋鐘『W.I.N.G.に出る!』
恋鐘『で、Pがよそ見できんくらい釘付けにしちゃるばい!』
恋鐘『よーく見とってね!』
P『ああ、うん――』
P『――応援するよ』
P(――ついこの間なのに既に懐かしいような、そんな記憶に重なる言葉だった)
~運営側テント前~
P(事前にマイクと音響設備を貸してもらえるように手はずは整えてある……)
P(あとは恋鐘に任せるだけだ)
恋鐘「み~ん~な~~~~~!!!」
フォオォオォオオン
P(やばい、ハウリング……!)
P「す、すみません! 音響の調整お願いします!」
フォン、フォン、フォン・・・
・・・
P(び、びっくりした――きっと、誰もがそう思っていることだろう)
恋鐘「びっくりした~!!」
P(それは恋鐘も例外ではなかった、と)
恋鐘「と、とにかく~」
恋鐘「もううちが歌ってる動画は見てくれた?」
オ、オー!
ミタヨー
スゴカッタ!
恋鐘「えへへ……ありがと!」
恋鐘「でも、今日は一味違うばい!」
恋鐘「画面の向こうの動画じゃなく、うちが目の前で歌うとやけん!!」
オォォォォォ!!!
恋鐘「みんなも応援してよ!」
ワァァァァァ!!!!!
P(イントロが始まる)
P(いや、始まったのは曲のイントロだけではない)
P(恋鐘のアイドル人生も、だ)
P(恋鐘が歌って、踊って、ファンたちを魅了して)
P(俺はそんな恋鐘をトップに連れて行く――)
P(――アイドルマスターだ)
球技大会終了後。
~中庭~
P「……お、また伸びてる」
P(恋鐘のゲリラライブは無事終了し大成功を収めた)
P(サビの直前でコケかけた時には肝を冷やしたが……)
P(一番乗りでゲリラを仕掛けたせいか、チャンネルの登録者数も再生数もうなぎのぼりという感じだ)
P(ライブ後は、個人的には恋鐘の周りに人だかりができることを気にしていたんだけど)
P(周りの生徒たちは圧倒されていて、群がることすら忘れているようだった)
P(正気を取り戻す前に恋鐘には隠れてもらったが、あれは正解だったな)
P(はづきさんが用意してくれた小会議室にしばらくの間こもって、ライブの振り返りなどをした)
P(振り返りと言っても、感極まった恋鐘の紡ぐ言葉の数々に耳を傾けていた時間がほとんどだったけど)
P「まあ、それでいいんだろうな」
P(それで、俺はというと、その後に自分の出る種目で適当に過ごして、今はこうして中庭で恋鐘のチャンネルの動向を観察している)
P(裏方であることを実感するな、これは)
P「ははっ……性に合ってる、か」
P(そうなのかもしれない)
咲耶「やあ」
P「お、咲耶か」
咲耶「こんなところでどうしたんだい?」
P「恋鐘のチャンネルの様子をちょっと……な」
咲耶「なるほど……フフ」
P「どうした?」
咲耶「いや、こういう言い方もなんだけど、見るまでもないんじゃないかと思ってね」
咲耶「彼女のあのパフォーマンスを見たら、誰だってまた見たくなる。自ずとチャンネルも伸びるというものさ」
P「ま、まあ、そうなのかもしれないが」
P(そういえば、咲耶は競技中に仕込みの生徒たち――おそらく親衛隊だ――と一緒にダンスをしていたらしいな)
P(していた“らしい”というのは、それが恋鐘とはづきさんとの3人で小会議室にいる間に行われたようだからだ)
P「その、すまん。実は、咲耶のパフォーマンスを見れていないんだ」
咲耶「そうなのかい? それは残念だ……自分で言うのもなんだけど、かなりうまくいったんじゃないかと思うよ」
P「ああ、それは評判を聞く限り、間違いないんだろう」
咲耶「周りの評判はそうだね。あなたからの評価も聞きたかったが」
P「申し訳ない。アーカイブでは見させてもらうから、勘弁してもらえないだろうか……」
咲耶「ああ、アナタはアナタで、自分の担当する子が大事なんだ。それは私もわかっているつもりだよ」
咲耶「無理強いしたみたいになってすまないね」
P「いや、気にしないでくれ」
咲耶「しかし、アナタの担当する子――月岡恋鐘のすごさは、私も身をもって実感したよ」
咲耶「確かに私のダンスパフォーマンスは成功した」
咲耶「けれど、それは想定を下回る盛り上がりを見せたんだ」
P「そうなのか?」
咲耶「前に彼女の歌があれば、ジャンルは違えど比較されてしまうものだろう?」
P「あ、それは……」
咲耶「いいんだ。それ自体にどうこう言うつもりはないさ」
咲耶「あなたのアイドルがすごいんだと、そういうことが言いたかったんだよ」
P「ありがとう。咲耶にそう言ってもらえると、俺としても自信がつくよ」
咲耶「フフ、それはなによりだ」
咲耶「ただ、私としても、このままでいるつもりはないよ」
咲耶「今日みたいなことがあって、今の私は燃えているんだ」
咲耶「今度は、たとえ彼女の後の出番だったとしても、絶対的な輝きをもって、皆を魅了してみせる――とね」
咲耶「もちろん、アナタも、だよ」ズイッ
P「お、おう、楽しみにしてる」
咲耶「ああ、きっと、楽しませてあげるよ……」
P(近い近い! 近いぞ、咲耶)
咲耶「……っと、名残惜しいがここまでか」
P「?」
咲耶「これから、私を応援してくれている子たちと話し合う時間があってね」
咲耶「まあ、所謂陣営というやつだよ」
P「俺たちと同じだな」
P(規模は段違いだけど)
咲耶「それじゃあ、また」
咲耶 スタスタ
P「……」
P「…………ふぅぅぅ」
P(軽く緊張してしまった)
最終下校時刻。
~図書館~
P「……」zzzZZZ
P「すぅ……」zzzZZZ
P「……」zzzZZZ
P「……んあっ?!」
P「はっ、あ、あれ?」
P(やばい、誰もいないし人気(ひとけ)もない!)
P(時刻は――ってもうこんなに経ったのか)
P(恋鐘がはづきさんとみっちり練習をすると聞いて、俺の出番は今日はないだろうからと図書館でなんとなく過ごしていたが……)
P(いつの間にか眠ってしまっていたようだ)
P「帰らないと……」ガサゴソ
P スタスタ
~校門前~
P「はぁ……」
P(どうして、こう、やってしまった感がすごい寝起きというのは、こんなにも重く苦しいんだろうか)
P トボトボ
トントン
P(肩を叩かれた?)
P クルッ
ツンッ
P(あ、指で頬を突かれるありがちなやつだ)
P(そして、それをやった犯人は――)
P「――恋鐘か」
恋鐘「えっへへー。うちよ?」
P「練習は終わったのか?」
恋鐘「うん! ……って言うても、実はもうちょっと前に終わっとって」
恋鐘「Pを待っとったばい」
P「あんまり2人でいるとよくないぞ……」
恋鐘「もう、わかっとーよ。うちもそこまで頭弱くなか」
恋鐘「人気が出るほど、Pと一緒にいるのは良く思われないんやろ?」
P「あ、ああ……」
恋鐘「やけん、今日はうちもPも遅か、チャンスやと思ったんよ」
恋鐘「はづきにも聞いたばい。もううちら以外ん生徒はとーっくに全員帰ってしもうたって」
恋鐘「今日は部活もなか日やし」
P「そうなのか」
P(それなら大丈夫……なのか?)
恋鐘「一緒に帰るくらい……よかやろ?」
P「まあ、それもそうだな」
P「ずっとここにいても変だし、帰ろうか」
恋鐘「うん!」
恋鐘「また分かれ道ばい……」
P(恋鐘はここで俺とは別方向に行かないといけないんだよな)
P(前にも似たようなことがあった)
P(あの時は、はづきさんも一緒だったけど)
恋鐘「Pと話しとったらあっという間についてしもうたばい」
P「ははっ、そうだな」
恋鐘「……」
P「恋鐘?」
P(恋鐘は名残惜しそうにこちらを見ている)
恋鐘「……家まで送らんね」ボソッ
~恋鐘の自宅(一人暮らし)の前~
恋鐘「またあっという間~!」ジタンダ
P「こらこら……まあ、それだけ、楽しいってことだろ?」
恋鐘「! そ、そうやね……! えへへ」
P「もう大丈夫そうか?」
恋鐘「う、うん。ごめんね、付き合わせてしもうて」
P「いいよ。俺も楽しいんだから」
恋鐘「……じゃ、また、ね」
P「おう」
恋鐘「……」スタスタ
恋鐘 クルッ
恋鐘「うちはアイドルになるために生まれてきた女ばい!」
恋鐘「ばってん、うちにとってアイドルになるっていうとは、Pに会うってことで――」
恋鐘「――やけん、うちはPに会うために生まれてきたと思う!!!」
P「!」
恋鐘「じゃ、じゃあ、今度こそおやすみ!!!」ダダダ
P(そうだ。そうだった)
P(俺は――とっくの昔に、月岡恋鐘に魅了されていたのだ)
とりあえずここまで(遅くなりましたが、更新できました)。
7月上旬某日。
~教室~
結華「はぁ、なんかあっという間だねー」
P「急にどうしたんだ?」
結華「いや、ほら、新年度だー新学期だーって思ってたら、もう期末試験が近づいてきてるんだよ?」
結華「このままでは気づけば2学期に……ハロウィンに……はたまたクリスマスになって大晦日が来て年を越しちゃうってもんですよ」
P「それは言いすぎ――」
P(――……どうだろう)
P(確かに、今日まではあっという間だったかもしれない)
P(日常が新鮮さで満ち溢れていても、日常から新鮮さが失われていても……)
P「……気づけば長い時間が過ぎている、か」
結華「だからこそ、1日1日を大切にしなければならないのです」
P「ははっ、なんだよ、それっぽいな」
結華「それっぽいとは失敬な! 大事なことだよ?」
P「まあな」
P(恋鐘のアイドル活動も、俺のプロデュースも、どんどん先へ先へと進んでいる)
P(恋鐘は1つ目の審査を無事乗り越えた)
P(次の舞台は、7月の終業式後にあるミニステージだ)
P(それが2つ目の審査における判断基準とされる)
P(今のところ特に目立った問題もないどころか順調とさえ言えるが……)
P(油断大敵。現状維持もまた敵だ)
P(新しいことを考えるのは……まあ、そう簡単ではないんだけど)
結華「Pたん、今何考えてるのか当ててあげよっか」
P「え? どういうことだよ……」
結華「どういうことも何も、そのままの意味ですよーだ」
結華「こがたんのことなんでしょ?」
P「……そうとも言える」
結華「ふうん? なんだか煮え切らないみたいですが」
P(結華は呆れたような笑顔で俺に言う)
結華「Pたんはさ」
P「?」
結華「どうしてプロデュースをしてるの?」
結華「純粋にそういうことがしてみたかったとか?」
結華「それとも、こたがんだから……?」
P「ゆ、結華……」
P(……校長に言われたから)
P(しかし、果たしてそうだろうか?)
P(きっかけはどうあれ、俺は今の状況を楽しんでいるのではないか?)
P(それは、こういう裏方稼業が好きだからなのだろうか)
P(それとも、結華が最後に言ったように、恋鐘だから……?)
結華「ごめん、いまのナシ。ほんとナシで!」
結華「私ったら何聞いてるんだろうね」
結華「忘れて」
P「結華……」
P(煮え切らないのはお互い様、か)
~保健室~
P(昼休みになったが、あんな会話の後で、なんとなく結華のいる教室には居づらかった)
P(そういうわけで、ここに来ている)
P(相変わらず養護教諭のいない保健室だ)
P(そして、いつも決まって霧子がいる)
霧子「ふふ……オキザリスさん、今日も元気です……♪」
P「それは……この前の時の花か」
霧子「は、はい……そうです」
霧子「……」
P「どうかしたか?」
霧子「あっ、そ、その……」
霧子「……Pさんも、元気そうだな、って……」
P「ははっ、そう見えるか?」
霧子「はい……!」
霧子「お花さんもプロデューサーさんも元気です……」
P「霧子には花の気持ちがわかるのか?」
霧子「どう、でしょうか……でも」
霧子「このオキザリスさん、Pさんに会えて喜んでるみたいです……♪」
霧子「あ、えっと……そんな気がします……」
P「そうか」
P(元気そう……ね)
P(楽しそうとか元気そうとか)
P(最近はそういうのばかりだな、俺)
霧子「……何かいいことでも、あったんですか……?」
P「いいこと……そうだな」
P「アイドルのプロデュースが順調なんだ」
P「ははっ……なんてな」
霧子「アイドル……? プロデュース……」
P「ほら、前に話しただろう?」
P「学園一のアイドルを目指す大会で、この学園で一番大きいイベントなんだ」
P「W.I.N.G.だよ」
霧子「……あ、Pさん、前に言ってました」
P(あんまり興味ないのかな)
P(霧子のビジュアルなら出場も夢じゃないような気もするが)
P(もちろん、歌とかダンスを見ていないから、なんとも言えないとはいえ……)
P「……十分に可能性はある」
霧子「?」
P「あ、すまない。気にしないでくれ」
霧子「はい……」
P「……」
霧子「……あの」
霧子「また、ここに来てください……♪」
~学校前の通り~
P(放課後になった)
P(今日も恋鐘ははづきさんと一緒に練習だ)
P(いや、練習だけではない)
P(今日は収録も行うからだ)
P(そして、まだ披露していない歌の音源を、事前に取っておいた恋鐘の写真や映像とともに……)
P「……家に帰って編集の準備をしないと」
P(帰路についているとはいえ、これから休んでいられるわけでもないんだ)
「ふふー、忙しそうですねー」
P「その声は――摩美々」
摩美々「はいー、摩美々ですー」
摩美々「恋鐘って人のプロデュースですかぁ?」
P「ああ、そうだよ」
摩美々「ふうん……」
摩美々「一生懸命なんですねー……」
P「まあな」
P「やるからにはちゃんとやりたいんだよ」
摩美々「とか言ってー……ちゃんと楽しんでるじゃないですかー」
P「そ、そうだな」
P(俺も変なところで素直じゃないな)
摩美々「Pにプロデュースされるって、どんな感じなんだろー」
P「それを俺に聞いてもな……」
摩美々「えー」
P「……恋鐘に聞いてみればわかるのかもしれないな」
摩美々「そういうことじゃないんですケドー」ボソッ
P「何か言ったか?」
摩美々「別にー……なんでもないですよー」
摩美々「……」
摩美々「もしも」
摩美々「Pがまみみをプロデュースするとしたら」
摩美々「おんなじくらい一生懸命になるんですかぁ?」
P「……」
P(またこの話題だ)
P(俺は何のためにこんなことをしているのか、という)
P(別にいいじゃないか、成り行きでも何でも)
P(そんなに答えが必要なのだろうか)
摩美々「どうなんですかぁ」
P(いや、摩美々は純粋な疑問で聞いているのかもしれない)
P(そうに違いない)
P(今日はたまたま、そういうのが気になる日ってだけなんだ)
P「そうだな……」
1.「もちろん、同じくらい頑張るさ」
2.「……恋鐘だからかもしれない」
選択肢↓1
(とりあえずここまで)
お久しぶりです。>>1です。
例によって多忙ゆえ更新できない状況が続いていますが、とりあえずこのスレを忘れたわけではないという報告まで。
(ストレイライトのときよりも更新頻度が低くなってしまっていますが、続けていきます。)
P「もちろん、同じくらい頑張るさ」
摩美々「へぇー……」
P「な、なんだよ」
摩美々「……んふー、別にー?」
摩美々「まあ、いいこと聞いちゃったかなーとは思いましたケドー」
P「いいことって……」
摩美々 ニィッ
P(何を考えているのか、相変わらずわからないな)
P(ただ、何かを企んでいそうな笑みとともに肩を上下させている)
摩美々「じゃあ、プロデュースするのは私でも良かったんですねー」
P「?」
摩美々「だからぁ、その恋鐘って人である必要はなかったってことですよねー?」
P「そ、そんなわけ――」
摩美々「だって、まみみをプロデュースするとしても同じくらい頑張るって、そういうことじゃないんですかぁ?」
P「――だから、違うって。俺は恋鐘のこと……」
P(……いや、駄目だ。それを言うのは、プロデューサーである以上、いけない)
摩美々「質問には答えてもらわないとー」ケタケタ
P「……」
摩美々「……それなら」
摩美々 グイッ
P「うおっ?!」
P(ね、ネクタイを引っ張られた……?!)
P(摩美々の顔が文字通り目と鼻の先に迫る)
P(互いの息遣いがわかる距離――仕掛けた本人の緊張も伝わってくる)
摩美々「この距離……誤解されそうな感じー」
P「だ、だから止めたほうがいいぞ……」
摩美々「Pは彼女とかいるんですかぁ?」
P「……いない」
摩美々「誤解されても問題なさそー」
P「そ、それはだな」
P「もういいだろ、止めよう、摩美々」
摩美々「止めて欲しかったらー……ふふー、来年はまみみをプロデュースしたいって言ってくださいー」
P「え……」
摩美々「だってー、別にいいじゃないですかぁ」
摩美々「Pがそう言ったんだしー」
P「……」
摩美々「言わないとー……んふっ」
P「言わないと、なんだ?」
摩美々「さあ? ただ、いま私が背伸びをしたら、唇どうしがついちゃいそうだなーって」ニッ
P(摩美々はイタズラのつもりなんだろうが、でも、本当にやりそうでもある)
P(それくらいの距離だから)
P(俺は恋鐘を――……だったら、この状況は良くないに決まってる)
P(誰かに見られでもしたら、噂だって広まるかもしれないし)
P「わかった」
摩美々「早くしてくださいー」
P「……俺は」
P「っ、来年は摩美々をプロデュース……したい……」
摩美々「!」
摩美々「……」
摩美々 チュ
P「……え」
摩美々「ありがとうございますー、来年は期待しておきますねー」
P(何が……起きて……?)
P(目の前にいる少女を見る――摩美々だ――でも、いつもみたいな余裕は感じられない)
P(頭の両側をいじる仕草は時折見受けられるものだが、そうする指先は普段とは違って震えている)
P「まみ、み……?」
摩美々「……ふふー」
P(摩美々は、逸らしていた目を俺の方に向ける――)
P(――否、見ているのは俺ではなかった)
P(そう、俺の後ろのあたりだ)
摩美々「そういうことみたいらしいですー」
P(誰だ……? 摩美々は、誰に話しかけている?)
P(その答えは、俺のすぐ後ろにある。簡単なことだ。振り返ればいいだけなのだから)
P(しかし、簡単な話ではない。何故か、振り返るのが怖い)
P(何か、深刻な事態に陥っているようで……)
P(……目を逸らし続けているわけにもいかず、とうとう後ろを見た)
P(振り返って視界に映ったのは――)
P「――恋鐘……?」
恋鐘「P……こ、こがんとこでなんばしとーと?」
P(そんな……まさか、見られた?)
P(聞かれもしただろうか)
P(いや、そんなことは、恋鐘の反応を見ればわかることだった)
P「違うんだ! これはそういうんじゃなくて……」
P(そういうんじゃなくて、なんなんだろう)
P(今なんて言えば良いのかがわからない)
恋鐘「さ、流石やね~! Pは……もう来年んことまで考えとーなんて!」
P(恋鐘は笑顔だ――同時に、目にたくさんの涙を溜めている)
P「こ、恋鐘……!」
恋鐘「うち、勘違いしてしもうてた。Pにとって、うちは特別なんやなかかと思っとった」
恋鐘「Pにとっても、そうなんやろって、勝手に……」ポロポロ
恋鐘「……そがんわけなかね」
恋鐘「うちの思い込みばい」
P「そんなことはない!」
P(俺は恋鐘のことが――その先が言えない)
P(プロデュースする立場で言っていいことじゃないと思うからだ)
P(言ったとして、見られてみろ、聞かれてみろ、恋鐘の夢を叶えることは途端に難しくなる……!)
P(今だって……ここには摩美々という第3者がいるんだ)
P「……っ」
恋鐘「か、買い物の途中やったばい! はよ用事ば済ませてはづきのとこに戻らんば!!」ダッ
P「恋鐘っ!!」
P(走っていってしまった)
P「……」
P(よりによって恋鐘に見られてしまうだなんて……!)
P「……摩美々」
摩美々「な、なんですかぁ?」
P「……」
摩美々「……そうやって無言で迫られるとー、ドキドキしちゃいますよー?」
摩美々「でも、ちょっと怖いかも」ボソッ
P「冗談を言うつもりなんてない」
P「摩美々にとってはイタズラをしてるだけなんだろうけど」
P「今回ばかりは、っ、流石に……!」
P(流石に、なんだろうか)
P(摩美々が悪いといえばそれはそうなんだが、ここで怒りをぶちまけてどうにかなるものだろうか?)
P「……クソっ」
P(感情が高ぶって荒くなった息の1つ1つが重たく感じる――ただ、それだけだ)
摩美々「……P?」
P「っ、摩美々!!」
摩美々 ビクッ
P「……」ハァッハァッ
摩美々「……」ゴクリ
P「……1人にしてくれ」
摩美々「あ、その、ごめ……」
P「来ないでくれないか……!」
摩美々「……!」
摩美々「……はい、わかりましたぁ……」
P スタスタ
その晩。
P(あれから考えがまとまることもなく、嫌な汗をかきながら自宅の自室で悶々とするだけの時間を過ごした)
P(もうすぐミニステージもあるというのに、どうすればいいんだ……)
P(摩美々の真意はわからない――確実なのは、彼女を責めても何も生まれないということだけだろう)
P(スマホを見るのが怖くてしばらく電源を切っていた。ついさっき電源を入れて確認したら、はづきさんからのメッセージが届いていた)
P(恋鐘は練習に来なかったそうだ)
P(連絡しても出ないので、俺が何か知っているのではないかと思ったらしい)
P「……」
P(一体、何が正解で、何がそうでないのか)
P(まったく、わからない)
P(俺が自分の想いに正直になっていれば良かった……? ……これは考えと行動との乖離が著しい)
P(摩美々のイタズラを無理やりにでもやめさせれば良かった……? ……これはできたはずだ)
P(単に、最初に「恋鐘だからプロデュースを頑張れる」と言うべきだった……? ……)
P「……」
P(スマホをタップしては通知が来ていないことを観測するだけ)
P(時折、ロックを解除してチェインにある恋鐘とのトークを眺める)
P(つい先日まで楽しく会話をしていた相手であるはずなのに、なんだか変な感じだ)
P「……はぁ」
P「このまま何もしないのも、なぁ……」
P(別に、恋鐘のプロデューサーを降りたわけじゃない)
P「そうだ。そうじゃないか」
P(俺の中の何かが変わったわけじゃないはずなんだ、たぶん)
P(だったら……)
P「……っ」
1. 恋鐘に電話をかける。
2. 恋鐘にメッセージを送る。
3. 何もしない。
選択肢↓1
(とりあえずここまで)
P(電話だ)
P(恋鐘に電話をかけよう)
P(逃げちゃいけないんだ……これは)
P(向き合わないと――……そして、解決しなければ)
P ポチポチ
P「……」
P(あとは、このボタンを押せば電話は発信される)
P(この瞬間がとんでもなく苦手だ)
P(押すまでに動く親指がめちゃくちゃ重く感じる)
P「……っ」ポチッ
~♪
P(呼び出し音が流れる――この待ち時間も好きじゃない)
P(特に、呼び出し音が突然に途切れて相手が話し始めるまでの間は)
P「……」
~♪
P「……出ないな」
P(少し時間を空けてから再度試してみるか……?)
P「仕方ない、一旦切r――」
~♪ ――……
P「――っ?!」
P(恋鐘が、出た)
P「……」
P(どうしよう。何を言えばいい?)
「……」
P「っ、こ、恋鐘……夜遅くにすまん」
「……ううん」
P「恋鐘には、ちゃんと言わないといけないことがあるんだ、だから……」
「それって放課後んことやろ? それならうちはいっちょん気にしとらんばい」
P「……い、いや、でもな?」
「うちには関係んなかことやけんね! Pとあの子が何をしとっても、別に……」
P「だから、それは違うんだ! 俺に、ちゃんと説明をさせてくれないか?」
「……ばってん、うち、どがんしたらよかかわからんばい」
P「……」
P「……いつもの分岐点」
「?」
P「一緒に帰ると恋鐘だけ別方向に行かないといけない場所があるだろ?」
P「そこで待ち合わせよう」
P「会って話したほうがいいと思うんだ」
「……」
「わかったばい」
P「じゃあ、今から向かうぞ」
「うん、うちもそうする」
ピッ
P「……」
P(電話が切れた直後のこの静寂は……案外嫌いじゃないかもだな)
P(思ったよりも早く着いてしまった)
P(恋鐘はまだ来ていない)
P(まあ、女子なら出かける前の準備が多いのだろう)
P「さて、ああは言ったものの……」
P(……具体的に何を言うのか、実はそれをちゃんと思いついていたわけではなかった)
P「誤解を……誤解を解かないとな」
P(摩美々はきっと単なるイタズラであんな行動に出ただけだろう。そうに違いない)
P(今回ばかりは、ただの冗談で済ませることのできるものではないが)
P(起きてしまったことはもう変えられない)
P(今の自分に何ができるか、そしてその結果どのような未来が待っているのか)
P(それが重要だ)
恋鐘「お、おまたせ~」ドタドタ
P「!」
恋鐘「お、遅うなってしもうた~!」
恋鐘「待った?」
P「大丈夫だ。さっき来たばかりだからさ」
恋鐘「そう? それならよかばってん」
P(恋鐘の顔を見る。夜なので街灯と月明かりしか照らすものがないが、それでもわかる――)
P(――薄くてもきちんと化粧をしていて、人前に出れる状態だ)
P(たかが俺1人のために、だ)
恋鐘「P?」
P「……恋鐘」
恋鐘「うん」
P「俺は陰から恋鐘を支えて、W.I.N.G.で……そしてアイドルとしてもトップに連れて行きたいと思っているんだ」
P「そのためにも、俺は目立っちゃいけない」
P「恋鐘にも必要以上に関わってはいけない、執着してはいけない、と」
P「そう、思っていた……んだ」
恋鐘「……うん」
P「今日の放課後――あの場にいた子は摩美々っていう後輩でな、イタズラ好きな奴なんだ」
P「俺はからかわれているだけなんだよ」
P「恋鐘が思っているようなことは、おそらく、何もないんだ」
P「いや、その話は今はとりあえずいらないか、すまん」
P「で、恋鐘でなくとも同じくらい頑張れるとか、来年は摩美々をプロデュースしようと思ってるとか、そういう発言なんだけどな――」
P「――あれは、方便だよ」
P「俺が恋鐘を……その、えっと、だな……」
恋鐘「?」
P(今なら、言えるか)
P「……っ、お、俺が恋鐘を好きだってことが知れたら!」
恋鐘「っ!?」
P「それは……恋鐘がアイドルをやる上で、良くないことなんだ」
P「だから、できるだけ俺が恋鐘にこだわっていないように見せるしかなかった」
P「そう思っていたんだ」
P(言ってしまった……)
P「って、なんだか言い訳じみてるかもな……」
P「格好悪いというかなんというk――」
ギュッ
P「――……」
P(目の前にいた少女が一気に距離を詰めて俺の体をホールドしている)
P(それは飾り気のない表現で、有り体に言えば抱きしめられていた――)
P(――恋鐘によって)
P「こ、恋鐘……」
恋鐘「いまは何も言わんで……」
P「……」
P(こんなところを見られたら――と言おうとしたが)
P(我ながら――そしてまさに自分が当事者でありながら――無粋だったかもしれないと思った)
恋鐘「うちも苦しかったんよ?」
恋鐘「Pとおんなじようなこと思っとった」
恋鐘「アイドルになりたいのはほんとのことやけど……」
恋鐘「……Pのこと、す、すす、好きなんもほんとで」
恋鐘「もうどがんしたらよかかわからんくなっとったばい」
恋鐘「そ、それに……! 何よりも……」
恋鐘「Pがうちんことどう思っとるのかわからなくて」
恋鐘「それで……諦めんばって、そう、思うこともあって……」
恋鐘「そがんときにPが後輩とキスばしとーとば、見てしもうたけん。もうショックでわけわからんくて」
恋鐘「でも……えへへ」
恋鐘「そがんことやったんやね、P」
P「ああ。そうなんだ」
P(もっと早く、言っても良かったのだろうか)
P「ははっ、お互いに空回りしてたのかもな」
P(運の悪さもあるが)
恋鐘「じゃ、じゃあ……!」
恋鐘「うちとP、好きどうしってことばいね!?」
P「そ、そうだな……改めて言われると何だか照れるけど」
恋鐘「えへへ……P」
P「どうした?」
恋鐘「好きばい」
P「お、おう」
恋鐘「え~~っ! もっと嬉しそうにせんね!?」
P「慣れてないんだって、こういうのは……」
恋鐘「……Pからももう1回聞きたか」
P「っ……そうだな」
P(改めて言うとなると、めちゃくちゃ恥ずかしいな)
P「好きだ」
恋鐘「! ……は、はぃ」
P「……」
恋鐘「……」
P「…………」
恋鐘「……………………」
恋鐘「P、うちんほう見て」
P(言われるがまま、下を向く)
チュゥ
P「?!」
P(例によってそれはいきなり訪れるもので……)
恋鐘「ん~~!」
P(唇が離れそうになると、恋鐘が逃がさないようにと必死に口を押し付けてくる)
P「……!!」
P(い、息が……!! 苦しい……!!)
P「ぷはぁっ! ちょ、ちょっと待ってくれ! それじゃあ呼吸ができないぞ……」ハァハァ
恋鐘「ご、ごめん……!」
P「い、いや、別に謝ることじゃない……」
P(突然のことで照れる間もなかったな……)
恋鐘「いくらうちとPが好き合うとったとしても、あん後輩とキスしとったってことは変わらんもん」
恋鐘「やけん……もっとすごかことばしたかねって思って、それで」
恋鐘「……~~~っ」
P(どうやら恋鐘には今更恥ずかしいという感情が襲いかかってきているようだ)
P(思わず頭を撫でてしまう)
恋鐘「ふぇ?」
P「焦る必要はないぞ」
P「これから、まだまだ時間はたくさんあるんだ」
P「今はやるべきこと……目指すべきものもある」
P「その中にやりたいことが加わっただけで」
P「それから、好きという感情もか」
P「これからも、一緒に歩んでいこう」
P「それでいいんじゃないか?」
恋鐘「うん……うち、まだパニックなんかもしれんばい」
恋鐘「Pの言う通りやと思う」
P「大丈夫。恋鐘自身にも、俺たちの未来にも、時間や可能性はいくらでもあるからさ」
P「1つ1つこなしていけばいいよ」
恋鐘「えへへ、ありがとう! P」ニコ
P「今日はもう遅いからな。お互いに早く帰ったほうが良さそうだ」
恋鐘「うちはもう少し一緒におりたかとやけど……」ボソッ
P「どうかしたか?」
恋鐘「う、ううん! なんでもなか!」
P「……そうだなぁ。よし、とりあえず、恋鐘の家まで送ってくよ」
恋鐘「そのまま上がってくれてんよかとに……」ボソッ
P スタスタ
恋鐘 テクテク
P「……いつか」
恋鐘「?」
P「そのうち、迷惑じゃなきゃお邪魔させてもらおうかな」
恋鐘「! うんっ!!」
恋鐘「楽しみにしとーね!」
一旦ここまで(なんかこのままエンディング……っぽい切り方にも見えますが、まだ終わりません)。
夏休みのある日。
恋鐘「うっ……うっ……」
はづき「辛いですよね。よしよし」
恋鐘「ずびっ……、う、うちっ……Pと……Pとぉ……!」
はづき「恋鐘さんの気持ちはわかります。楽しみにしていればしているほど、それが叶わなかったときの悲しみは堪えますよね」
恋鐘「う~~~~…………」
はづき「はいはい」トントン
恋鐘「はづき……」
恋鐘「宿 題 が 終 わ ら ん !」
恋鐘「地元におったときん高校はもっとぬるかったとよ……」
はづき「まあ、うちは大学進学率もそこそこありますからね~」
恋鐘「うう……うちはそこまで望んどらんのに……」
恋鐘「宿題――こんなもん燃やしちゃる~~! 成績なんて知らんばい!!」
はづき「そんなことしたらあの人とのお出かけどころか校内アイドル活動もできなくなっちゃいますよ~」
はづき「学校ですからね~成績はしっかり見られちゃってます」
恋鐘「そ、そがんこと言うても~~……」
恋鐘「Pもなんか反論せんね!」
P「無茶言わないでくれ……」
夏休み開始直後。
P「夏休み……か」
P(夏休み期間中の校内アイドル活動はオンラインに限定される)
P(補習や部活動といった学校本来のあり方を乱さないためだそうだ)
P(9月以降のアピールのための準備期間という話も聞く)
P(当然、俺たちも夏休みが終わった後に備えて、いろいろと考えていかないといけない――)
P「――んだけど、うーん」
P(そうなると、恋鐘には無理のない範囲でコンスタントに練習を継続してもらう他ない)
P(俺が直接口出しするような機会は、今までに比べて、一時的ではあるがかなり減るだろうな……)
P「宿題でもやるか……」
P(俺の学年を担当する教員勢は、今年は当たりだと思ったのだが、夏休みの宿題に関しては想像をはるかに上回る量を課してきた)
P(普段の課題が少なめだっただけに、これはキツい――と思っていた)
P「はぁ……思ったよりも暇なんだよな」
P(手持ち無沙汰な感じに耐え切れなくなった俺は、恋鐘のチャンネルの整備を適当に済ませてから、宿題に取り組み始めた)
P「……んんーっ、割と進んだな」
P(古典の品詞分解の課題をネットの情報を見ながらこなし、気づけばかなりの割合を片付けられていた)
P「……」
P(そこそこ頑張った自分へのご褒美という気持ちでスマホをいじる)
P「あれ、メッセージ来てるな」
P(恋鐘からだ。ほんの数分前に届いたものらしい)
恋鐘<やっほー!
恋鐘<Pの夏休みん予定ばどうなっと?
恋鐘<いきなりごめん!
P<チャンネルの管理と9月以降の方針を考える以外には特にないかな
恋鐘<既読早!笑
P<笑
P<まあ、どちらかと言えば暇だよ
P(自分のメッセージを送って、直後にはスマホをスリープにしてその辺に放る)
P(既読が付いて返信が来るまでの間を眺めるのって、なんだか苦手なんだよな……)
P「あ」
P(すぐにスマホのロック画面が明るくなった)
P(チェインの通知が表示されたからだ)
P「まあ、仕方ないか」
P(ロックを解除して再び恋鐘との個人チャットを開く)
恋鐘<暇なんや!
恋鐘<Pは長崎に行ったことある?
恋鐘<よかったら案内しちゃろうかなって思って
恋鐘<うちとしては帰省もできるし……どがんね?
P「長崎か……」
P(なかなか行く機会がないのは確かだ)
P(それに、恋鐘と出かけられる機会だし)
P「……」
P(今はまだ、恋鐘も、あくまでも学校の中のアイドルなわけで)
P(ましてや俺は何の変哲もない一般人だ)
P(長崎まで行ってしまえば、一時的であるとはいえ、2人で過ごすことができるだろう)
P「……」
P<いいのか?
P<恋鐘さえよければ是非
P(アイドルの息抜きに付き合うのもプロデューサーの仕事……だろうか)
P(よこしまな気持ちは……いやいや)
恋鐘<やったー!!!
恋鐘<じゃあ決定ね!!!!!
P<よろしくな
P<それなら行く時期を決めないとだ
P<泊まる所を探さないといけないし
恋鐘<うん!
恋鐘<うちん実家に泊まってく?笑
P<いやいや、そんな悪いよ
恋鐘<うちは構わんのに~
P「……」
P(なんて返信を続ければいいんだ……?)
P(そう思って入力しては消してを繰り返していたら、数分が過ぎていた)
恋鐘<無理にとは言わんけんね!
恋鐘<ごめん忘れて
P<全然大丈夫
恋鐘<Pはいまなんしよーと?
P「何って――そりゃ」
P<夏休みの宿題
P「長崎か……」
P(なかなか行く機会がないのは確かだ)
P(それに、恋鐘と出かけられる機会だし)
P「……」
P(今はまだ、恋鐘も、あくまでも学校の中のアイドルなわけで)
P(ましてや俺は何の変哲もない一般人だ)
P(長崎まで行ってしまえば、一時的であるとはいえ、2人で過ごすことができるだろう)
P「……」
P<いいのか?
P<恋鐘さえよければ是非
P(アイドルの息抜きに付き合うのもプロデューサーの仕事……だろうか)
P(よこしまな気持ちは……いやいや)
恋鐘<やったー!!!
恋鐘<じゃあ決定ね!!!!!
P<よろしくな
P<それなら行く時期を決めないとだ
P<泊まる所を探さないといけないし
恋鐘<うん!
恋鐘<うちん実家に泊まってく?笑
P<いやいや、そんな悪いよ
恋鐘<うちは構わんのに~
P「……」
P(なんて返信を続ければいいんだ……?)
P(そう思って入力しては消してを繰り返していたら、数分が過ぎていた)
恋鐘<無理にとは言わんけんね!
恋鐘<ごめん忘れて
P<全然大丈夫
恋鐘<Pはいまなんしよーと?
P「何って――そりゃ」
P<夏休みの宿題だよ
現在に戻る(「夏休みのある日。」)。
恋鐘「うっ……うっ……」
P「こうしてはづきさんが応援に来てくれてるわけだし、頑張ろう、恋鐘」
はづき「ファイトですよ~」
P(教員側だから本当に応援してくれるだけなんだな……)
P「俺も手伝うからさ」
恋鐘「ごめん……ありがとう」
P「いいよ。恋鐘がアイドルやれなくなるのは俺も嫌だからな」
P カキカキ
恋鐘 カキカキ
P「……」カキカキ
恋鐘「うー……」
P「……」カキカキ
恋鐘「ふわぁぁぁ」
P「恋鐘」
恋鐘「うわぁっ!? さ、サボろうとしてなんかなかばい!!」
P「あ、いや、そういうつもりじゃなくてだな」
P「いつか行こうな、長崎」
P「楽しみにしてるよ」
恋鐘「……!」
P(2人の時間はお預けになったが)
P(一緒に過ごせていることには違いない)
P(今はこれでもいいのかもしれない)
P(今はこういうのも悪くないと思う)
P(大切なのは、「どこで」ではなく、「どのように」なのだから)
P(こうして、俺たちの夏休みは終わった)
P(明日からは、いよいよ後半戦だ)
P(頑張ろうな、恋鐘)
9月、体育祭前日。放課後。
~???~
P(夏休みは宿題も無事に終わり、始業式が終わってからは専ら体育祭でのアピールのための準備に励んでいた)
P(とはいえ、頑張っているのは恋鐘――とはづきさん――であり、俺は相変わらず裏方で細々とやっている)
P(今も2人は小型スタジオで準備中で……)
P(……俺は――)
P「――っと、忘れないうちにやっておかないと」
P「明日披露する歌の動画の一部をチャンネルで限定公開……これで注目度のアップを図る……」
P(放送委員の無線をジャック――といっても許可は取ってあるから演出だが――しての歌披露だ)
P(このくらい刺激的なほうが見る側も楽しめるというものだろう)
P「これで、よし……っと」
「ひと段落……ですか?」
P「あ、ああ。独り言が多かったかもな。すまん」
「いえ……」
P「体育祭直前で盛り上がってる連中がいて落ち着かないからさ」
P「こうして保健室の居させてくれるのは助かるよ、霧子」
霧子「前に言ってた……アイドルのプロデュース……やってるんですね」
P「そうなんだ。明日の体育祭はW.I.N.G.優勝を目指す子たちにとって大きなイベントの1つになるからな」
P「霧子は見てくれたか? 恋鐘の動画とか、もう結構アップしてきたんだけどさ」
霧子「あ、ごめんなさい……どうやって見ればいいのか……わかりませんでした」
P「そ、そうか」
P(パソコンやスマホを持っていないとかだろうか)
P(学校には情報教室があって開放時間もあるが……あそこで見るのは勇気がいるかもな)
P「よかったら今一緒に見るか?」
霧子「わあ……いいんですか?」
P「ああ、もちろんだ」
P(自分のパソコンに恋鐘の歌っている動画の1つを表示して、霧子のほうに画面を向け、再生ボタンを押した)
霧子「……」
P「……」
霧子「この人が……恋鐘ちゃん……」
P「俺のプロデュースするアイドルなんだ」
P「よかったら応援して欲しい」
P「月岡恋鐘をよろしくな」
霧子「はい……♪」
とりあえずここまで。
>>1です。ただ忙殺されているだけであると(一応)記しておきます。ご了承ください。
いつまでも待ってる…!
霧子「Pさんは……恋鐘ちゃんの、プロデューサーさん……」
P「え? ああ、そうだな」
P(「プロデューサーさん」と呼ばれることに対して、どこか懐かしさのようなものを覚える)
P(あるいはそれはデジャヴであるような感覚)
P「どうしたんだ、改まって」
霧子「プロデューサーさんとアイドルって、どんな関係なんだろうって……思ったんです」
P「?」
霧子「この場合は、普通のアイドルのことじゃなくて――」
霧子「――Pさんと恋鐘ちゃん、みたいな」
霧子「わたしの知ってる“アイドルのプロデューサーさん”って、もっとアイドルからは遠くて、ひょっとしたら別のことをしていそうな」
P「ま、まあ、俺たちは弱小だし、プロデューサーとアイドルとは言っても、高校生が青春の一環でやってるようなものでもあるからなぁ」
P(その割には結構本格的なところも多いが)
P「どうしてそんなことが気になったんだ?」
霧子「えっと……どうしてでしょう……?」
P「ははっ、なんだそれ」
霧子「ふふっ、ごめんなさい」
P「いや、謝るようなことじゃないけどさ」
霧子「でも――」
霧子「――Pさんがわたしを選んだらどうなるんだろう……とは、ちょっと思ったかも」ボソッ
P「えっ?」
霧子「あっ、違うんです!」
霧子「ごめんなさい……」
P「だから謝ることじゃないって」
P(そもそもボソボソ言ってたからよく聞こえなかったし)
霧子「大変なんですか? プロデュース、って」
P「うーん、難しい質問だな。簡単じゃないけど、本当に大変なのは、俺じゃなくて恋鐘だからさ」
P(あとははづきさんの助力もある)
P「大事なのは、大変かどうかよりも、やってて自分が満足できるかどうかだと思う」
霧子「いいな……」
P「いい?」
霧子「はいっ。そこまで考えてもらえてる恋鐘ちゃんも、自分を自分で振り返れてるPさんも」
霧子「いいな、って」
P「ははっ、そうか?」
霧子「いい感じ……♪」
P(なんだろう、この子に見惚れてしまった時の気持ちと純粋な可愛らしさが合わさって――)
P(――霧子に惹かれて、その瞳に吸い込まれそうで……)
P「……って、いかんいかん。俺には恋鐘がいるんだ」
霧子「恋鐘ちゃんが……いる?」
P「あっ、いや、違うんだ」
霧子「恋鐘ちゃんはここにはいません……」
P「は、はは、そうだよな。おかしなことを言ったよ」
霧子「おかしなPさん……ふふっ」
P(危ない危ない。俺と恋鐘が好き合ってるなんてスキャンダルは、W.I.N.G.優勝を目指している以上、致命傷になる)
P(情報源によって被害にも差が出るだろうし、霧子なら口止めもできそうだが)
P(用心するに越したことはない)
P「もうこんな時刻か」
霧子「あ、Pさん……」
霧子「お帰り……ですか?」
P(霧子は眉をひそめて言う。その表情には、どこか寂しさを感じさせるようなものもあって――)
P(――その表情は反則だろう、と思った。が、しかし)
P「そうだな。明日が大切だし、備えるためにも、今日は帰って――できることをやって十分に休むよ」
霧子「こころとからだのおやすみのじかん……ですね♪」
P「そんなところだ」
霧子「切っても切れない、心と身体も、アイドルとプロデューサーさんも、それに……」ボソボソ
P「じゃあな、霧子」
霧子「は、はいっ……」
霧子「……また、いらしてくださいね」
体育祭当日、昼休み直前。
P(午前中の恋鐘はいろいろと凄かった)
P(あのスタイルでドジっ子属性をこれでもかというくらいに発揮してくれていた)
P(当然のことながら、大変注目を浴びていた。人気にも火が……というか火に油を注ぐくらいにはなるかもしれないな……)
P(恋鐘のことが好きだと認めてしまっている今となっては、少しもどかしいというか、なんだか面白くない気分がないとは言い切れないが)
P(今の俺はプロデューサーだ――恋鐘をアイドルとして輝かせるための……)
P「……いや、うん。いいんだ」
P「プロデューサーは裏方。これからが、俺にとっての本番だ」
P(昼休みになったら、放送委員の無線をジャック――する演出で恋鐘に歌を披露してもらう)
P(その歌の一部は、昨日のうちにチャンネルで期間限定公開にして、今は見れなくなっている――)
P(――要するに“伏線”というやつだ)
P「ドジっ子による刺激」
P「楽しみにしてろよ、“お前ら”」
P「ははっ、なんてな」
体育祭当日、昼休み。
放送委員「午前の競技が終わりましたので、現時点での各クラスのスコアについて報告します――」
P(このアナウンスにはもれなく流れてもらう。俺たちのステージは、その後だ)
P(今話してる放送委員と俺たちは“つながってる”)
P(俺の連絡・合図で音楽収録室にいる恋鐘のマイクに回線が切り替わることを、はづきさんとのチェインで確認済みだ)
P(ははっ、学校生活にしては非日常というか……どこか背徳感のある高揚感を覚えるところがあるな)
放送委員「――以上が、クラス対抗スコア合戦の途中経過の報告になります。続きまして、校長先s……の……ント……ジジジッ、ブツッ」
ザワザワ
アレー?
ナンカオカシクネ?
P「よし、ざわめきだしたな――今だ!」ポチッ
P<GOです。
恋鐘「絶対に……W.I.N.G.で優勝する」
ナンダナンダ?
恋鐘「それもそのはずよ、だって――」
恋鐘「――うちは、アイドルになるために生まれてきた女やけん!」
コノコエッテサー
アーモシカシテ!
P(曲のイントロが流れ始めた。このあたりは、チャンネルを見てる人は知ってるような箇所だ)
P(まあ、実は少し構成が違っていたり長くなっていたりしてるんだけどな! ははっ)
恋鐘「み~ん~な~~~~~!!!」
オォォォォォ!!!
P(今日の歌はカッコいい系だ。このジャックもどきの演出にも合ってるだろう)
P(恋鐘がこういう歌を歌うのに、一切の違和感を抱かない自分に、謎の――違和感ではないが既視感のような気持ち――を覚える)
P(ま、まあ、それはいい)
P(しかし、これは――)
ワァァァァァ!!!!!
P(――成功、なんじゃないだろうか)
P(いや、まだ終わりじゃない)
P(この後の流れは、間奏の間に恋鐘が朝礼台にこっそりやってきて、大サビからは皆の前で歌うというものだ)
P(それが全部終わらないと、成功とは言い切れない)
P(来る途中とか壇上に上がる時とかにコケないといいけど……)
P(俺は既に朝礼台の近くに移動して待機をしている)
オー!
スゴカッター!
P(よし、間奏に入った!)
アイカラズスゴイネー
イヤイヤコノキョクハマダオワッテナインダッテ
マジカヨ!?
コガタンマッテルヨー!!!
P(お、見えてきた見えてきた)
P「ここまでは順調、だな」ボソ
P(恋鐘が朝礼台のすぐ近くまで来てる――って、あれは?)
P(俺は、一瞬――いや、本当に一瞬と呼べるくらいしか時間がなかったのだが――目の前の光景を理解できなかった)
P(霧子が、通り過ぎる恋鐘を呼び止めて何やら耳打ちをしたのだ)
P(言伝はすぐに終わり、恋鐘は予定通りにのぼるべき壇上の前にたどり着く)
P(霧子の伝えた内容が気になったが、それを気にしている余裕はなかった)
P(恋鐘が、無線マイクを受け取り、そのまま……って!)
P「こ、恋鐘っ、接続されてるのは有線のマイクのほうだ――」
P(駄目だ、間に合わない……! しかし、裏方の俺が目立ってしまっては……どうしようどうすれば)
P(こんなとき、プロデューサーならどうする!?)
恋鐘「~♪」
P(あ、あれ?)
P(普通に、流れて……る?)
P(同時に、俺は目を見張る光景を前にする)
P(有線マイクの長いケーブルに脚を引っ掛けて転んでいる生徒がいたのだ)
P(自分のことでまったく気づけないでいたのだ)
P(もし無線マイクを受け取っていなかったら……)
P(しかし、恋鐘は何故それを知っていた……?)
恋鐘「えへへ……ありがと!」
恋鐘「みんな~~! ほんなこてありがとう~~~~~!!!」
P(大成功だ)
P(それは間違いないのに)
P(俺は1人……、それは朝礼台の後ろなのかどこなのか、とにかく置いてけぼりになっていた)
P(恋鐘の周りにはギャラリーやファンが押し寄せて近づけそうにない)
P(はづきさんをはじめとする教員の人たちが迫り来る生徒たちを抑えて恋鐘に危険がないよう配慮してくれている)
P(それもそのはずだ。はづきさんに頼んで、そうなるように手配してもらっていたから)
P(でも、俺にとってはそんなこと……“そんなこと”と思えてしまうほど)
P(この成功の裏が気になって仕方なかった)
P「どうせ、しばらく恋鐘には近づけないんだよな」
P(今日は体育祭だ。まだ午後の競技が残っているし、恋鐘ははづきさんと一緒に化粧直しがある)
P(俺は1人、適当に目的もなく校内をぶらついた)
~保健室~
P「ここにたどり着いてしまった……」
P(それは、偶然か、必然か)
P(恋鐘に耳打ちをした霧子の姿があったから、どちらかといえば必然なのかもしれない――)
P(――そんなことを思いながら戸を開ける)
ガラガラ
P「失礼します」
P(相変わらず、どういうわけなのか――いや、今日は体育祭だから本当に別の場所に用があっていないのか――わからないけど)
P(養護教諭はいない。代わりにいたのは……)
P「……霧子」
霧子「あっ、Pさん」
霧子「恋鐘ちゃんのお歌、ちゃんとうまくいきました……♪」
とりあえずここまで。
おつおつ
霧子……
今回の裏は誰が握っているんだ……
万が一にも声優ネタはやめて欲しいけど
>>143 >>144
8ヶ月を超える期間更新できていなかったのに読んでくださってありがとうございます。
>>144
このSSを思いついたのは、例の事件の3~4ヶ月以上は前なので、心配されているようなネタが使われることはないです(事件後でも使いませんが……)。
P「あ、ああ……そうだな。おかげさまでうまくいったよ」
P(一体、“何のおかげさま”なんだろうか)
アナウンス「午後の開始まで、残り5分となりました。午後の最初の競技に出られる方は直ちに……」
P(校内放送が頭に入ってこない)
P(恋鐘が壇上で歌った時からずっとそうだ)
P(別に、このアナウンスが空虚に感じるからじゃない)
霧子「Pさんは、行かなくても……いいんですか?」
P「俺が出る競技まではまだ割りと時間があるからな。大丈夫だ」
P「霧子はどうなんだ?」
P(そうだ。霧子だ)
P(恋鐘に耳打ちをして、トラブルを回避させた――かもしれない――霧子だ)
霧子「わたしは……行かないんです……」
P「午前中で出る競技は全部終わったのか?」
霧子「すみません、何て言えばいいのか……」
P「?」
P「午後は?」
霧子「午後もです」
P「そうか」
P(どういうことなんだろう)
P(どうにも要領を得ないな)
P(単刀直入に聞いてしまおうか)
P「霧子……さ、恋鐘が朝礼台に上がる前に、あいつに何か言ってたよな?」
P「こう、耳打ちする感じで」
霧子「えっ、あっ、は、はい……」
P(それは認めるんだな。いや、認めてまずい事情がなきゃ、そりゃそうなんだろうけど)
P「そ、その――」
P「――恋鐘には、なんて伝えたんだ?」
P(そう、それが俺の知りたいことだ)
霧子「えっと、あのあの……!」
P「うん」
霧子「が、がんばってくださいっ、って……言いました……」
P「へ?」
霧子「Pさんのアイドルさんだから、わたしも応援したいなって思って、それで――」
霧子「――とっさに思いついたのが、あの方法だったんです」
霧子「ご迷惑……でしたか?」
P「い、いや、いやいや! そんなわけないぞ!」
P「そっか……そう、だよ、な……」
P(俺は一体何を気にしていたんだろう――霧子からの、予想だにしない、けれども常識的な回答に、俺は戸惑ってしまっていた)
P(霧子は純粋に応援してくれていただけで、あのマイクの件は単なる偶然で――)
P(――そういう可能性だって、十分にあるじゃないか)
P(というか、普通はそうなんじゃないか?)
P「……」
P(考えすぎというか、俺はどうにかしていたのだろうか)
P(どうして、妙な因果を考えてしまったんだろう)
P(霧子が事前にマイクのことを知っていて、それでトラブルを回避できるように進言していた、だなんて)
P(心のざわめき……この感覚はなんだ)
P(不思議なのは、そんなミステリーじみた体験を記憶のどこかで体験していたような、そんな気もしていることだ)
P(俺は……一体……)
P「……」
霧子「あの」
P「わっ!?」
霧子「ご、ごめんなさい……! なんだか、落ち着かない様子のようなので、それで」
P「あっ、ああ、心配かけたか?」
霧子「ちょっぴり……」
P「ちょっぴりか」
霧子「……実は結構心配してます、ふふっ」
P「ははっ、なんだよ、それ」
P「少し疲れてるのかもしれない」
霧子「体育祭の競技……大変でしたか?」
P「あ、そうじゃなくて、プロデュースのこととか、いろいろ」
P「俺がこんなこと言ってちゃ駄目なのかもしれないけどさ」
霧子「……そんなこと、ありません」
P「霧子?」
霧子「Pさんが無理をしないといけないなんて、そんなこと、ないです」
霧子「だって、だって……! 十分に頑張って、頑張って、……頑張ってるから」
霧子「だから――」
P「――ありがとう、霧子。そこまで言ってくれるだけでも励みになるよ」
霧子「Pさん……」
霧子「救われ……ないのかな」
霧子「大変な人」ボソッ
P「なんだって?」
霧子「なんでも……ありません」
P「俺は大丈夫だよ」
P「まだ、やれると思うんだ」
P「ベストというか、全力というか」
P「全力を尽くしてこそ、俺は心からこう言えるんじゃないかって思う――」
P「――よし、楽しく話せたな」
P ズキッ
P(頭痛!? ……あれ、一瞬でおさまったな)
P「ってさ、ははっ」
霧子「!」
霧子「それは……ううん」
霧子「そう、ですね」
霧子「Pさんなら……できます♪」
P「ああ、やってやるさ!」
体育祭終了後。
~小会議室~
P(体育祭が完全に終了した後、俺と恋鐘と、それからはづきさんの3人で、反省会をしていた)
P(体育祭というイベントを通じてアピールをしたW.I.N.G.エントリー者は恋鐘以外にもいる)
P(特に、やはりというか、白瀬咲耶が強力なライバルだ)
P(俺たちは陣営が弱小な以上、どうしても奇襲のようなやり方に頼ってしまう)
P(技術と演出力でカバーしているつもりだが、それに限界がないわけじゃない)
P(咲耶たちは陣営の大きさを活かして、各競技での振舞いそのものをアピールにしてしまうというやり方をとっていた――)
P(――集団競技では競技そのものを半ば放置して咲耶を中心とする騎馬や隊列を魅せるといった具合に、だ)
P(パフォーマンス後はきちんと競技に戻っているとはいえ、咲耶陣営はその後で生徒部に叱られている)
P(しかし、その叱咤など些事だ。この学校のアイドルイベント・大会は、その程度のことで揺るぐほどお遊びではない)
P(マンモス校で、しかもマジョリティである生徒が主体・味方となって推し進められるものなのだ)
P(むしろ炎上商法としては成功していると言っていい)
P(規模と回数――この2点において、俺たちは負けた。これは事実だ)
P(もちろん、ファンの反応が重要だから、その負けが決定打とはならない――と信じたい――が)
P「ひとまず、今回も審査を通過できるくらいの位置にはいると思いますが……」
はづき「絶対的にはそうなんですけど、相対的にはどうしても咲耶さんが手ごわいですね~」
恋鐘「うう~、やっぱうちん予想は的中しとったばい」
P「……」
P(俺は、咲耶がW.I.N.G.エントリーを決めたその時の出来事を思い出す)
P『あ、そうだな。紹介するよ。俺と同じ学年・クラスの月岡恋鐘だ。この前、九州からここに引っ越してきたんだと』
P『恋鐘、1年生の白瀬咲耶だ。もしかしたらもう知っt――』
恋鐘『――ばりかっこよか……』
恋鐘『実際に見ると圧倒されるばい……やっぱり、噂どおりやった』
P『転校生でも知ってるとは……さすがだな、咲耶』
咲耶『フフ、それほどでもないさ』
恋鐘『W.I.N.G.に出られたら絶対に手ごわかライバルになるって踏んでたんよ』
咲耶『私は、別にまだエントリーすると決めたわけじゃ……』
恋鐘『あ、そうと? それなら安心やね』
恋鐘『Pに無事優勝するうちん姿ば見せられるばい』
咲耶『……今、Pに、と言ったかな?』
恋鐘『そうよ? Pはうちの大事なファン1号やし、Pのために頑張る言うても過言やなかばい!』
恋鐘『それに……頑張るうちば見て、きっと……』
恋鐘『……えへへ』
咲耶『……。……P』
P『どうした?』
咲耶『W.I.N.G.優勝……目指そうと思う』
恋鐘『えぇぇ~~!?』
P『突然だな……なんでまた』
咲耶『それをアナタが聞くのかい? いや、私がW.I.N.G.優勝を志す意味を気づかせてこそ、か……』
P(咲耶は何のためにW.I.N.G.優勝を目指すのか――それが俺にはよくわからなかったが)
P(わかれば咲耶対策というか、恋鐘が優勝できる可能性を少しでも高める良い案が思いつくとかはないだろうか)
はづき「とりあえず、次に第一に考えるべきなのは――」
P「――文化祭の大ステージ、ですね」
はづき「はいっ、その通りです」
P(文化祭であれば、専用のステージが用意されている。言うなれば“合法的”ってことになる)
P(アピール時間だって長い。ただ歌って踊るだけじゃなくて、トークを入れたり寸劇をやったりなんでもありだ)
P(だからこそ……)
P「……恋鐘がどうありたいか、つまりどういうアイドルでいたいかが重要なんだ」
恋鐘「うちが……」
P「俺たち裏方はサポートするだけだからさ」
P「ここからは――いや最初から実際にはそうなんだけど――恋鐘が本当に主役なんだ」
P「もちろん、レールの上を行く台本の上の主役じゃなくて、自分からレールを走る物語の書き手としてな」
恋鐘「どんなアイドルでもうちの右に出るもんはおらん!」
恋鐘「そんなアイドルになってみせるばい!」
P「ああ、そうだ」
P「そのためには、恋鐘はどうしたい?」
P「どうすれば、いい?」
恋鐘「うう~、難しか~。ばってん、大事なことやって、うちもわかってるんよ?」
恋鐘「言葉にするとが難しかっさね」
はづき「そうですね~」
P「……」
はづき「いいんじゃないでしょうか、恋鐘さんは、恋鐘さんで」
恋鐘「?」
P「……ああ」
はづき「ふふ~」
恋鐘「P?」
P「恋鐘は今までにないまったく新しい恋鐘というジャンルのアイドルを目指すんだ」
恋鐘「うちっちゅうアイドル……」
恋鐘「……うん、うん!」
恋鐘「Pがうちならなれる言うんなら、絶対なれるはずばい!」
P「ああ、恋鐘なら誰にも真似できないアイドルになれる!」
P「恋鐘らしさ、一緒に考えていこう……いきましょう!」
はづき「なんですか~、恋鐘さんに席を外してもらってまでしたい話って」
はづき「恋鐘さん、すごく不満そうにしてましたよ」
P「いや、それはそうなんですけど、本人を前にしては言いづらいことでして……」
P(ましてやあの流れならなおさらだ)
P(恋鐘本人にも、あまり聞かせたくはないような類の話だからな)
P(けれども、重要なことだ)
P「恋鐘らしさ、大切ですよね」
はづき「はい、もちろんです」
P「恋鐘が自然に魅力を出せる方法……もちろんいくつかはあるんでしょうけど」
P「やはり自明なのが――露出です」
はづき「不健全ですね~」
P「し、しょうがないじゃないですか! 男子ファンの獲得を意識して、これまでにもこっそりちょっとだけそういう要素がアピールに混ざるようにしてたんですよ」
はづき「それは私も気づいてましたけど~」
P「え、あ、そうなんですか」
はづき「男性の下心に対しては、女性は敏感なものですから」
P「次はせっかくの文化祭における大舞台ですし、これでもかってくらい恋鐘を前面に押し出す良い機会なんです」
P「W.I.N.G.のステージのための練習にもなりますし」
はづき「さっきから、なんだか言い訳をしているように聞こえてしまいますね~」
P「そ、そんなこと……!」
はづき「大丈夫ですよ、わかってますから」
はづき「頑張ってくださいね、“プロデューサーさん”♪」
P「こういう衣装なんてどうだ?」
恋鐘「P、その……露出が多いというか……」
はづき「ちょっと派手ではありますね」
P「そ、そう! 派手なんだ! こうすると、恋鐘の良さは存分に発揮できるぞ!!」
恋鐘「Pがそう言うなら……。あと、振り付けなんやけど――」
P「――こういうのは妖艶さって言って、恋鐘の中でも大人な魅力が伝わるんだ!」
恋鐘「大人なうち……それは良かね!」
P「お、おうよ」
はづき「ふふっ」
とりあえずここまで。
10月。文化祭まで残り1ヶ月と少し。
放課後。
~校舎内 某所~
P(俺は行くあてもなく学校の中を歩いていた)
P(この学校は広い。だから、歩き続けていても同じ景色の中を何度もループするようなことはそうそうない)
P(それでもループしてしまったということに気づいたのは、放課後になって、さらに日が沈んでからのことだった)
P(そのくらいの時間を、俺は考え事をしながら彷徨っていたのだ)
P「はぁ……」
P(何度目のため息だろうか)
P(あと2ヶ月遅ければ、目の前に真っ白な湯気を作っていただろう)
P「結華が言ってたな、4月下旬くらいから約32週間でW.I.N.G.は幕を閉じる――」
P「――2ヶ月も後には、もう結果が出てるってことかよ」
P「いや、その前に最後の審査がある」
P(そう、文化祭だ)
P(今、恋鐘にはダンスのスキルを磨いてもらっている)
P(Vocal、Dance、Visual――なんでこんな発想に至ったかは自分でも不思議なのだが――の3要素に分けるとしたら……)
P「……今の恋鐘は圧倒的にDance不足だ」
P(これまでと違って、文化祭のステージではその辺のごまかしがきかない)
P(リアルタイムでもあるしな。緊張だってするだろう)
P「……」
結華「あっ、Pたんだ。おーい」
P「……」
結華「あれま、無視――とは考えにくいし、これは気づいていなさそうですかな?」
結華「やっほー、大丈夫?」ズイッ
P「わっ! び、びっくりした……」
結華「あっはは、ごめんごめん」
結華「Pたんったら、この三峰が呼んでるというのに無視するんだもん」
P「無視したわけじゃないんだ、ちょっと考え事をしてて……な。悪い」
結華「いいよ、私はわかってるから」
結華「プロデューサーとして、頑張ってるって感じでしょ?」
P「はは……頑張ってるのは恋鐘のほうだけどな」
結華「Pたんだって頑張ってる」
P「そうか?」
結華「そーです。そうですとも」
結華「……」
P「……」
結華「なんかさ、こうやって話すのもなんだか久しぶりだよね」
P「え? 教室では他愛もない話をするじゃないか」
結華「他愛もない話だけじゃ味気ないとは思いませんかね~」
P「っと……うん?」
結華「いーや、なんでもない。ほんと、ほっんとに、なんでもないですから!」
結華「期待しちゃだめだって、わかってるのに、なんだかなぁ」ボソボソ
結華「いつまでしてたんだろ、期待」ボソッ
P「どうしたんだ?」
P「結華のほうこそ、様子がおかしいように見えるけど」
結華「三峰のこと心配してくれるの~? やっさしいなぁ、Pたんは」
結華「へーきへーき! 放課後は図書館で勉強してたから、それで流石にちょっと疲れたってだけですよーだ」
P「なんでちょっといじけた感じなんだよ」
結華「その理由は、今のPたんにはわからないだろうなぁ」
P「ははっ、そうか?」
結華「イエス」
結華「このままご帰宅……とはならなさそうだよね」
P「帰ってもいいんだが、気がかりなことがあってな」
結華「それは残念。不肖三峰、一緒に帰ろ♪ 的なイベントをご用意していたのですが」
P「すまん、また今度で」
結華「今度――か」ボソ
P「?」
結華「ううん、なんでもない! じゃね」
結華「頑張れよ、プロデューサー」ポンッ
P(結華……どこか元気がなさそうだったな)
P(大丈夫だろうか)
P(気になるところではあるが……そろそろ俺は行かないといけない)
P(そろそろ、恋鐘のダンスの練習が終わる時刻だ)
P(レッスンルーム的に使わせてもらってる部屋に行って恋鐘に会いに行こう)
P(不調なときこそ、俺が対話してやらんでどうする)
P(俺は、プロデューサーだ)
~校内アスレチックセンター 多目的ルーム~
P(今日はダンス部が使っていてダンスレッスン場は空いてなかったんだよな)
P(まあ、俺たちは小規模だから、抑えること自体が難易度高めだが)
P「恋鐘、入るぞ。いいか?」コンコンコン
恋鐘「あ、P! よかよ~」
P「失礼します」ガチャ
P「あ、今日ははづきさんはいないんだな」
恋鐘「Pははづきに会うためにここに来たと~?」ムスッ
P「いやいや、そういうんじゃないって」
P(今日は自主レッスンだったというわけか)
P「恋鐘に会いに来たんだよ」
恋鐘「ほんなこて……ほんと!?」パアァッ
P(わかりやすいな。表情とかリアクションとか)
P(それが恋鐘の良いところでもあるんだ)
P(良いところ……好きなところ……)
P(いかんいかん、今はプロデューサーとして接しないと)
P「どうだ? ダンスの調子は」
恋鐘「もちろん、自分でも上達はしとーと思うばい」
恋鐘「ばってん、よう間違えてしまう箇所とか、まだできるようになっとらんステップとか――」
恋鐘「――いろいろと問題があるとよ」
P「そうか……」
P(恋鐘の言う通り、上達はしてる。というか、それに関しては驚くほどのスピードだ)
P(しかし、だからこそ、できない部分が目立っている)
P(残すところあと1ヶ月ちょっと……時間はまだあるほうだと信じたいが、確実にできるようになるという保証もないからな……)
恋鐘「自分の至らんところはわかっとる」
恋鐘「1ヶ月もあればできるようになるかもしれんってことも」
恋鐘「ばってん、大事なのは本番」
恋鐘「これまでは、いろんなやり方で、Pとはづきの助けもあって、うまくいっとったけど」
恋鐘「次んステージで、うちは1人ばい」
恋鐘「これまでのうちん人生――」
恋鐘「――肝心なところでコケてしまうことが多かったばい」
恋鐘「そう思うと……怖くて……」
恋鐘「はづきに相談したら、みんな笑っち許してくれるって……」
恋鐘「……ばってん、ホントにそれでよかとかいなって」
P「恋鐘……」
恋鐘「実際、こん学校ん中でアイドルやってみたら……手ごわいライバルもいて……」
恋鐘「他ん人と比べたら……できんこと、ばっかりで……」
P「不安になってしまったんだな」
P(それはそうだ。なんたって、最大級の相手としてあの白瀬咲耶がいる)
P(ライバルっていうなら、他にもちらほらと)
P「はづきさんの言うこと、俺は間違ってないと思う」
P「ドジをしてしまっても、それは恋鐘の良さなんじゃないか」
P「恋鐘が頑張ろうとするから、そうなってしまうこともある、ってことだろう?」
P「周りの力量と比較する気持ちはわかる」
P「でも、恋鐘には恋鐘の良さがあるんだから、それでいいんだよ」
恋鐘「そう、なんかな……」
P「大事なことを教えてやる」
P「恋鐘にはファンがいるんだぞ?」
恋鐘「ファン……」
P「そうだよ。恋鐘のことを応援してくれる人たちだ」
P「もちろん、俺だってそうだ!」
P(それ以上の気持ちは、今は、抑えて……抑えて……)
P「恋鐘が周りを気にして小さく丸まってしまったら、きっとファンはがっかりする」
恋鐘「Pもがっかりすると?」
P(うっ……そう返してくるか)
P「こ、恋鐘らしくないって、思ってしまうよ」
P(返答になっては……いないよな)
P(と、とにかく)
P「俺を含めたファンのみんなで、どこまでも一生懸命な恋鐘を応援してるんだ」
P「そんな恋鐘が好きだからな」
P(どさくさに紛れて「好き」という言葉を使った)
P(1人のファンとしてではない「好き」が何パーセントか混じってしまっていたかもしれない)
恋鐘「そっか……そうばい」
恋鐘「うち、自分が失敗することばっか考えて、Pもファンのみんなのことも、信じられてなかったんやね」
恋鐘「失敗とか、できんとか、そういうことやなかとよね」
恋鐘「みんなが喜んで……楽しんでくれるかが、一番大事なことやった!」
P「ははっ、気づいたか」
恋鐘「ありがとう、P!!」ギュッ
P「おっ、おい……」
P(ま、まずい、これは、非常に、その……)
P(アイドルとプロデューサーだからとかいう以前に物理的な“ショック”が身体を“包んで”くる……!)
恋鐘「やっぱ、うち、Pと一緒にW.I.N.G.優勝目指してよかったばい!!」ギュウウ
P「こ、恋鐘……」
恋鐘「あっ、つい勢いでPにハグしてしもうた」パッ
P「く、苦しかったけど、悪くはなかったと思います」グッ
恋鐘「?」
P「い、いや、なんでもないぞ。ああ」
P「恋鐘、そういうのは勢いでやっちゃ駄目だからな」
P「恋鐘はアイドルなんだから」
恋鐘「違う違う! うち、Pが相手だから抱きついてしもたのよ!?」
恋鐘「誰にでもするわけじゃなか……」
P「それなら良い……いや良くはないが」
P(校内アイドルとはいえ、この学校の規模を考えると、スキャンダルは絶対にNGだ)
P「とにかく、気をつけるんだぞ」
恋鐘「わ、わかっとる……!」
P「次は文化祭だ! 気を引き締めていこう!!」
恋鐘「お、おー!!」
P「……」
恋鐘「はぁ」
恋鐘「もう……Pはホントにうちんこと好きなんか?」
P「えっ」
恋鐘「さっき、ファンとして~みたいな話はあったけど」
恋鐘「長らくちゃんとPから言ってもらえてない気がするばい」
P「そ、それは――」
恋鐘「――P?」ズイッ
P「……す、好きです」ボソッ
恋鐘「え~?」
P「言ったから! もう、言ったから! はい、今日は終了~!!」
恋鐘「なんか釈然とせん……最近のPはプロデューサー然としててちょっと距離感感じとったんばい」
P「か、勘弁してくれ……」
恋鐘「ふふ~、顔真っ赤やね~! かわいか~」
恋鐘「その反応で今日のところは許しちゃる!」
恋鐘「ん~、こがん感じで話すのも久しぶりやなあ」
P「確かにそうかも――」
結華『なんかさ、こうやって話すのもなんだか久しぶりだよね』
P「――しれないな」
P(俺は、つい、恋鐘に会いに来る直前の出来事を重複させてしまっていた)
P(“久しぶり”の“会話”――両者の間は同音異義語のような温度差があった)
>>159 訂正:
P(“久しぶり”の“会話”――両者の間は同音異義語のような温度差があった)]
→P(“久しぶり”の“会話”――両者の間には、同音異義語のような温度差があった)
とりあえずここまで。
11月。文化祭、アイドルステージ実施日当日。
ステージ開始まで残り数時間。
P(とうとうこの日がやってきた)
P(いや、W.I.N.G.本番とかではないんだが)
P「……」ソワソワ
P(そう、そうなのだ)
P(W.I.N.G.優勝を目指す以上、この文化祭でのステージは、単なる通過点に過ぎない)
P(これまでもどうにかやってきたし、恋鐘のアイドルとしてのスキルだって向上し続けてきた)
P(どうにかなる、まだまだこれからなんだから難しく考えすぎるな、いまできることをやるしかないじゃないか――)
P(――そう自分に言い聞かせるように頭の中で呟く)
P(俺は、難しく考えすぎなのだろうか)
P(もっと、恋鐘みたいに……)
P(……いや、“恋鐘みたいに”だって?)
P「……」
P「ふぅ……」
P「すぅ……はぁ……」
P「……よし」
P(恋鐘のところに行こう)
~ステージ出場者控え室(大部屋)~
P「恋鐘ー!」
恋鐘「……! あ、P!」
P「いよいよ、だな」
P(あまりプレッシャーをかけるなよ、俺)
恋鐘「う、うん! そうやね」
P(やはり緊張してる様子……なのかな)
P(いつもの自信満々の恋鐘、とはいかないみたいだ)
P(この前から、そういう様子は見せはじめていたものな)
P(それに、残り数時間――いや、今からだと3時間半くらいだが――というなんとも言えない長さの待機時間がじれったい)
P(タイムリミットまで余裕があるんだかないんだかわからない状況だと、何をしたらいいのかわからなくなって――)
P(――何ができるのか見失いそうになって、停止してしまう……そんな心理状態は人間ならあるはずだ)
~ステージ出場者控え室(大部屋)付近、廊下の死角~
P「恋鐘」
恋鐘「な、なんね?」
P「楽しめ」
恋鐘「ふぇ?」
P「お前、言ってただろ」
恋鐘『でもね、うち、絶対にアイドルになりたかとよ』
恋鐘『うちはアイドルになるために生まれてきたけん!』
恋鐘『そんためにも、まずはこん大会で自分がアイドルにふさわしかこと……証明したいんよ!』
P「自分はアイドルになりたい、アイドルになるために生まれてきたんだ、って」
P「それで、W.I.N.G.で自分がアイドルにふさわしいということを証明する――そう言ったじゃないか」
P「この学校に来て、恋鐘はアイドルとして動いてきただろ? それは間違いないんだ」
P「どうだ、アイドルは?」
恋鐘「アイドルは……」
P「やってて、どう感じた?」
恋鐘「楽しい……!」
恋鐘「いや、楽しかば超える――そんな何かやったばい!!」
P「そうだ、そうだろ? そうだっただろ?」
P「夢中に、なれてただろ」
P「いや、過去形じゃない」
P「今もなれる。そして、これからも!」
恋鐘「P!」
P「失敗がなんだ! 今できないことがあるからどうした!!」
P「そのための俺なんだ」
P「だから、俺がいる」
P「迷惑がかかるなんて気にしなくていい! むしろたくさんかけろってんだ」
恋鐘「うん、……うんっ!!」
恋鐘「ありがとー……P」
恋鐘「うち、やっぱりPに迷惑かけると思う」
恋鐘「ばってん、その100倍、1000倍、いや10000倍の自信とやる気と笑顔で乗り切ってみせるけん!」
P「ああ、それでこそ恋鐘だ」
P「らしくないのもいい。たまにはな」
P「でも、忘れちゃいけない。自分がどんなだったのかとかな」
P「いいぞ、その調子だ」
P「恋鐘はアイドルになるために生まれてきた――俺もそう思うよ」
P「忘れないでくれ、恋鐘は恋鐘として、今、いろんな人から憧れられているんだ」
恋鐘「そうやんね!」
恋鐘「周りば気にしたり、誰かん真似ばしようとしたり、自信ばのうなかして焦ったり止まったり――」
恋鐘「――そがんのはうちらしくないばいー!」
恋鐘「せっかく、Pと、はづきと、ファンのみんなと……この環境でアイドルになる道に乗せてもろうて」
恋鐘「やりたいようにやらんともったいなかよね!!!」
恋鐘「うち、なんかわかったような気がするばい!」
恋鐘「ホント、Pには感謝してもしきれん」
P「ははっ、じゃあ、是非そのアウトプットはステージ上で頼むぞ?」
恋鐘「まかせとって! 月岡恋鐘ちゅうアイドルば見せつけてやるばい」
恋鐘「こうしちゃおられん、直前まで練習と調整ばせんばね」
P(よし、火をつけることができたみたいだな)
P(プロデューサーとしての仕事は、とりあえずできたってところだろうか)
P(これで……いいんだよな)
P(いや、誰に聞いてるんだって話だが)
P「じゃあ、俺はステージ裏側の文化祭運営の人たちのところに行ってくるよ」
恋鐘「あ、ちょっと待って!」
P「ん?」
P「どうした?」
恋鐘「P、いま「プロデューサーとして」はこれでオーケーみたく考えとったやろ」
P「そ、そうだけど……」
恋鐘「「プロデューサーとして」やなかったら、Pはうちになしてくれたと?」
P「え、そんなこと急に聞かれてもな」
恋鐘「わかっとーばい。今のうちとPはアイドルとプロデューサーやってこと」
恋鐘「ばってん、そうじゃなかったらどうなんか、気になるとは変なことやろうか」
P「……」
P(ここでモチベーションの維持を図るためにも気の利いたことを言うのがプロデューサー――)
P(――だなんて考え方してるってバレたら、恋鐘は怒るかな、はは……)
P「恋鐘が一番安心できる……最も癒され慰められ安らげる……そんな方法があるなら」
P「俺は迷わずそうして、恋鐘を送り出してやりたいって、そう思うよ」
P「その方法ってやつがすぐに見つけられないのは、なんというか、情けない限りかもしれないが」
恋鐘「ううん、それが聞けただけでも、今のうちには十分たい!」
恋鐘「ステージ前やけん、しかも学校やし」ズイッ
P(恋鐘が近づいてきて――)
恋鐘「そがん、目立つようなことは、できんよね」コソッ
P「!?」
P(――耳元で囁かれた)
P(当然、というか、自明に……恋鐘の豊かな双丘が押し当てられてもいる)
P(心拍数が上がっていく――)ドキドキ
P(――しかし、それは恋鐘も一緒らしく、当てられた胸からは鼓動が伝わってくる)ドッドッ
P(まるで、恋鐘の想いが、俺をノックしているかのように)
恋鐘「えっへへ、これもPがうちの背中を押してくれたおかげやね!」
P「ははっ、か、勘弁してくれ……」
P「……まあ、それで元気になってくれるんなら何よりだけどさ」
恋鐘「Pはどうやった?」
P「俺か? ドキドキしっぱなしだよ、本当に」
P「自分の思いに気づかされた」
P「プロデューサーじゃない俺の、な」
恋鐘「それが聞けてよかったー……!」
恋鐘「もう、今はとりあえず満足!」
恋鐘「P、……いや、プロデューサー――」
恋鐘「――行ってくるばい!!」
P「ああ!」
P「行ってらっしゃい、恋鐘!!」
数時間後、文化祭アイドルステージ、月岡恋鐘。
P(俺は、スタッフオンリーのステージ脇のところから、恋鐘のステージを見守った)
P(安定して人気のある歌は何の問題もなく披露された)
P(やはりというか、これは大いに盛り上がって、1曲目に時点で、会場は恋鐘による流れで一気に温まった)
P(トークもあったが、恋鐘のキャラクター性が功を奏したのか、歌とは違う形で会場を沸かせてくれた)
P(与えられた尺――定められた時間内では、歌が数曲と間にいくらかのトーク……)
P(ラストは曲だった)
P(ただの曲じゃない。普通の歌とは言えない)
P(難易度が高めのダンスと一緒に行う歌だ)
P(歌による情緒とダンスによるメリハリ――)
P(――これらが融合して1つのパフォーマンスとして完成する)
P(恋鐘が気にしていた、苦手、あるいはできない振り付けやステップだったが……)
恋鐘「!?」ヨロ・・・
P「くっ、恋鐘……!」
恋鐘「っ」トッ、タタッ
P「即興のステップでミスをミスに見せなかった……だと」
P「そうか、恋鐘には、できたんだな。そういうことも」
P「ははっ、アイドルになるために、生まれてきたんだもんな)
P(……確かに、失敗はしたのかもしれない)
P(しかし、それはお手本通りに行った場合の話だ)
P(何をもって失敗と見なすかなんて、自分で決めることじゃない)
P(相手に成功だと言わせてしまえば、それは正真正銘正解なのだ)
P(文化祭での恋鐘のステージは大成功に終わった)
とりあえずここまで。
11月のその後。
~教室~
P(W.I.N.G.に出場できるかどうかの連絡が来るのは11時前後――)
P(――つまり授業中だ)
P(審査・会議の都合と通達の自動送信システムの都合らしいが、何もそんな中途半端なタイミングで送ってこなくても……)
P(授業の中身は全くと言っていいほど頭に入ってこない)
P(今は恋鐘とW.I.N.G.のことで頭がいっぱいだからだ)
P(そこに学業が入る余地なんて……)
P「……」ソワソワ
P(あと1分くらい……だろうか?)
P(机の下にスマホを忍ばせてから早20分とちょっと)
P(通知を今か今かと待ち望んでいる)
P(やれることはやったんだ……恋鐘も、俺も)
P(それなら、答えはきっと――)
フォン
P(――メールアプリのポップアップ!?)
P(来た。ついに、来た)
P(通知センターの表示だけでは結果は見えない)
P(ちょうど途切れてしまっている)
P(押せ、押すんだ、俺)
P(アプリのアイコンを……押せ)
P(内容を、仔細を、結果を――)
P(――確認しろ)
P「っ……!」
P(スマホの画面に指が触れることがこれほどまでに緊張をもたらすことがあっただろうか。いや、ない)
P(反語表現。今、目の前で繰り広げられている国語の授業にはちょうどいい)
P(そんなことを考えて余裕ぶり、俺はアイコンをタップした)
ポチッ
P(結果は――)
ガタッ
P「W.I.N.G.出場……決定」
結華「ちょっ、どったのPたん? 急に立ち上がったりして」
国語教師「?」
P「あ、いえ、なんでも……ありま、せん」
P(な、なんでもないわけ、ないだろ!!)
P(出場決定だ! 恋鐘が、W.I.N.G.の舞台に出られるんだ!!)
結華「このタイミング……ははーん、そういうことね」
P「わ、悪い。ガラにもないよな、こんなの」
結華「ううん。いいと思うよ、三峰は」
結華「それが、今のPたんなんだよね」
結華「そういうPたんに、なったんだもんね」
結華「こがたん、W.I.N.G.出れるんでしょ?」ヒソヒソ
P「あ、ああ、そうなんだ」
P(正直、俺がじっとしていられないくらいだ)
P(そうだ、当の本人は――)クルッ
恋鐘「……」zzzZZZ
P「――って寝てる!?」
国語教師「おい、そこ騒がしいぞ。静かにしろ」
P「あっ、すみません……」
国語教師「あと、月岡は起きろよー」
恋鐘「……」zzzZZZ
国語教師「今日はあの辺が浮ついてんな、ったく……」ハァ
国語教師「そこ、月岡起こしてやれ――って言おうとしたけど、もう授業も終わりに近いし」
国語教師「はぁ、面倒だな。いいや、放っておけ。義務教育じゃないから自己責任ってことで」
P(休み時間になったら、俺が真っ先に起こしてやろう)
P(とびきりの朗報とともに)
授業終了後、休み時間。
P「恋鐘! 起きろって!」ユサユサ
恋鐘「ん~? なんね~、P~」
P「W.I.N.G.だ!」
恋鐘「W.I.N.G.~?」ポケー
P「W.I.N.G.への出場が決まったぞ!」
恋鐘「W.I.N.G.……出場……」
恋鐘「……えっ」
恋鐘「えええええええ!?!?」
恋鐘「ほ、ホントに!? うち、W.I.N.G.に出場できるん!?」
P「ああ、間違いない」
P「ちゃんと通知も来てる。ほら」
P(俺はスマホの画面を見せた)
恋鐘「本当だ……」
恋鐘「P、うち……うち……」
恋鐘「やっっっ……たぁぁぁぁぁーーー!!!!!!!」
P(大喜びする恋鐘。周りもそれを見て賞賛の声をかけてくれている)
P「ああ、やったな!」
P「俺も、恋鐘と一緒に……いろんな人の助けを借りながら……」
P「ここまで来れて、嬉しいよ」
P「恋鐘のあらゆる面が、アイドルにふさわしいって、やっぱりそう思えるよ」
P「それに、何より諦めなかった」
P「何があっても元気で諦めなかった恋鐘だからこそ、ここまで来れたんだ」
P「おめでとう、恋鐘! 素晴らしいよ!!」
恋鐘「えへへ~、ありがとー!」
恋鐘「けど、すごいんはうちだけじゃなかよ」
恋鐘「うちがPについていって、Pもうちについてきてくれて」
恋鐘「うちの隣でいつも応援してくれたから、ここまで来れたばい!」
恋鐘「うちと二人三脚で歩んでくれて、ばり感謝しとーよ!」
P「そうか」
P「俺の方こそ、曲がりなりにもプロデュースってのをしてみてるわけだけど」
P「一緒にやってくれて、感謝してる」
P(その言葉、その感情は、決して義務としてのプロデュース――義務感によるものではなかった)
P(俺の素直な気持ちだったのだ)
P「さて、恋鐘」
P「わかってると思うが、W.I.N.G.出場はゴールじゃない」
P「むしろ、ここからが新しいスタートだ」
P「より一層気を引き締めていかないとな!」
恋鐘「わかっとるよー!」
恋鐘「これからW.I.N.G.に向けて猛特訓して――」
恋鐘「――目指すはただ1つ、優勝あるのみたい!」
P「ははっ、その意気だ」
P「最後まで一緒に頑張って、優勝しような」
恋鐘「うん!」
恋鐘「待っとってよ、W.I.N.G.!」
恋鐘「うちとプロデューサーと――」
恋鐘&P(――はづき/はづきさんと――)
恋鐘「――ファンのみんなで」
恋鐘「絶対に」
恋鐘「ぜーったいに優勝しちゃるけんねー!!」
咲耶「……」
咲耶「フフ、やはりそうか」
咲耶「やはり、アナタは恋鐘をW.I.N.G.に導いた」
咲耶「私もそのステージに向かう」
咲耶「これからが楽しみだ」
とりあえずここまで。
もう更新ない感じ?
P(W.I.N.G.出場の切符――それを手にしてからが本番ではあるのだが)
P(長かった……そこに至るまでが、本当に)
P(いろいろなことがあった)
P(はたから見れば、あるいは順調にここまでの道のりを歩んできたように見えるのかもしれない)
P(しかし、俺と恋鐘の間には、確かで濃度の高いプロデュースの軌跡がある)
P(それは、誰かに知られる必要はない)
P(それでも、今を形作るには必要なものだった――)
P(――……そう思うんだ)
P(W.I.N.G.が本格始動してからは、これまでのようなこまめな活動や突拍子もないアピールなどはメインでなくなる)
P(教員や一部生徒・OBOGを含む学園関係者と、学外から特別に招いた人間を含むメンバーによって、構成された審査員たち……)
P(彼らがステージを評価することで、W.I.N.G.の準決勝と決勝は結果が決まる)
P(ある意味……というか、自明にこれまでよりもシンプルだ)
P(ただし、突破する難易度は――どうだろうか)
P(不思議と、心配していない俺がいる)
P(だって、恋鐘は、あそこまで完成されたアイドルになったのだから)
P(もちろん、まだまだ上を目指せるけど)
P(十分に成長したと言えるのではないだろか)
P(あの文化祭でのステージは、それだけのクオリティになっていたのだから)
P「……」
P(俺は、“W.I.N.G.出場”の通知を恋鐘に伝えた時のことを思い出す――)
P『恋鐘! 起きろって!』ユサユサ
恋鐘『ん~? なんね~、P~』
P『W.I.N.G.だ!』
恋鐘『W.I.N.G.~?』ポケー
P『W.I.N.G.への出場が決まったぞ!』
恋鐘『W.I.N.G.……出場……』
恋鐘『……えっ』
恋鐘『えええええええ!?!?』
恋鐘『ほ、ホントに!? うち、W.I.N.G.に出場できるん!?』
P『ああ、間違いない』
P『ちゃんと通知も来てる。ほら』
P《俺はスマホの画面を見せた》
恋鐘『本当だ……』
恋鐘『P、うち……うち……』
恋鐘『やっっっ……たぁぁぁぁぁーーー!!!!!!!』
P(――今度は、あれ以上の喜びを、W.I.N.G.の優勝で分かち合いたいよな)
W.I.N.G.準決勝当日。
本番前。
P「でかいな……」
恋鐘「ふえ?」
P「あ、いや、恋鐘に言ったんじゃないぞ」
P(恋鐘に言っても成立する台詞だったけど)
P(冗談はともかく)
P(俺が言ったのは、W.I.N.G.本番用のステージに対して、だ)
P(W.I.N.G.の準決勝と決勝は、文化祭ステージよりもさらに大きな、学園内アリーナで行われる)
P(下見もリハーサルも済んでいるが、冷静になって見てみると、息を呑んでしまう)
恋鐘「うう~、もうすぐうちの出番やね……」
恋鐘「こげん大きか舞台で歌って踊るって考えっと、緊張するばい……!」
P「ああ、でも恋鐘はこの舞台に出られるだけのアイドルになったんだ」
P(俺が、保証する)
P(恋鐘のファンも、保証してくれるだろう)
P「いつもみたいに自信を持とう」
P(そうだ。恋鐘、お前はアイドルになるために生まれてきたんだろ?)
P「絶対やれるさ」
恋鐘「……そうやね! せっかくの大きか舞台なんやけん……」
恋鐘「緊張していつものうちば見せられんかったら、もったいなかばい!」
恋鐘「せっかくの大舞台やもん」
P「そうだ。だから……」
P・恋鐘「楽しまないと損だ!/楽しまんと損やもんね!」
P「ははっ」
恋鐘「えへへっ」
P「いつもの恋鐘の魅力を、見せつけてこい」
恋鐘「うん!」
恋鐘「うちにばっちりまかせとって!」
恋鐘「それじゃ、行ってくるばい!」
準決勝ステージ終了後。
P「恋鐘……」
P(……やっぱり、言うことなしじゃないか)
恋鐘「P!」
恋鐘「見てくれちょった!?」
恋鐘「やっぱりうちはすごかろー!?」
P「ああ、いつも通り……いや、いつも以上のステージだったよ」
恋鐘「そうやろ、そうやろ!?」
P(文化祭の時からさらに成長していただなんてな)
P(俺は“プロデューサー”なのに、アイドルに驚かされてしまっている)
P(恋鐘のステージを見る審査員のことも、俺は見ていたが、あの反応で準決勝が通過できないわけがないというくらいだった)
P(だから……そう、だよな?)
恋鐘「うちはばりすっごいアイドルやけんね!」
恋鐘「歌も踊りも――」
恋鐘「――学校でのアピールも――」
恋鐘「――いっぱい、いーっぱい頑張ってきたけん」
恋鐘「こんくらい当たり前っちゃよー!」
P(そうだ……そうだよ)
恋鐘「この勢いで決勝も勝つたい!」
P「ああ、恋鐘ならきっとできるさ!」
P「決勝も頑張ろうな」
恋鐘「うん!」
恋鐘「うちの最高のステージ、みんなに見せつけてあげるけんね!」
P「ははっ、そうだな」
P(最高のステージを見せつけてやる、か)
P(お前のステージが最高じゃなかったことなんてないさ)
P(でも、だとしても――)
P(――もっと上を、見せてくれるんだよな?)
P(そうなんだよな? 恋鐘……)
数日後の放課後。
~学園内、校舎中庭~
P「ふう……」
P(いつもの自販機でコーヒーを買い、一服する)
P(買ったのは、例の一際目立つデザインの缶のやつだ)
P「こうして少しは心を落ち着けたいと思うのも、W.I.N.G.決勝前のざわめきというやつなのかな」
P(そう)
P(言ってしまえば予想の範囲内だったが、恋鐘は準決勝を見事通過してみせたのだ)
P(だから、あとは、わずかな間を残して待ち構えている決勝という相手に備えるだけ)
P「はあ……」
「おや、何か悩み事かな?」
P「……咲耶」
P(悩み事、か)
P(その悩みの種はお前だと言ったら、咲耶はどんな反応を示すのだろう)
P「ははっ、どうだろうな」
P(俺はよくわからない返答をしてしまう)
咲耶「私でよければ相談相手に――というわけにもいかないか」
P「お見通し、か」
P(咲耶もW.I.N.G.の準決勝を通過した生徒のうちの1人だ)
P(恋鐘の準決勝通過と同じくらいに想定できたことだ)
P(今度は決勝で、完璧に、白瀬咲耶という人間に対する勝利をおさめないといけない)
P(そう考えると、心のざわめきが、収まるどころか激しくなっていく)
P(準決勝までの自信が一転して不安になってしまいそうになる)
咲耶「大丈夫かい?」
P「あ、ああ……」
P(……大丈夫、なのだろうか)
P(YesともNoとも返事できなかった)
咲耶「いま、この中庭にはアナタと私しかいない」
咲耶「それに、放課後のこの時間帯なら、ここを使って何かしようという者も少ないだろう」
咲耶「この学園の広さと設備を考えれば、集団で何かをするには、別の場所が適しているからね」
P「そうだな……」
咲耶「気分が悪いんじゃないのかい? 顔色がすぐれないよ」
咲耶「アナタの様子も気になるが……1人になりたいのなら、そうしたほうがよいのだろう」
P(……咲耶の言う通り、俺は体調が悪いのだろうか? うーん)
咲耶「私はアナタを尊重したい。席を外そうか?」
1. 「ああ、悪いが1人にしてくれ、咲耶」
2. 「いや、大丈夫だ。ここにいてくれ」
選択肢↓1
(とりあえずここまで)
P「ああ、悪いが1人にしてくれ、咲耶」
咲耶「わかった。アナタのことが心配な気持ちはあるが、そう言うのであれば仕方がない」
咲耶「では、私は失礼するとしよう」
咲耶「次にきちんと顔を合わせるのは……決勝で、かな」
P「……」
咲耶 クルッ
咲耶 スタスタ
P「……」
P フルフル
P(いや、これでいいんだ)
P(咲耶に甘えそうになったけど、今はそうすべきじゃない)
P(自分が誰なのかを思いだせ――)
P(――俺は、月岡恋鐘のプロデューサー、だろ?)
P(それなら、ライバルに依存なんてしてる場合じゃない)
P(咲耶であれば関係なく相談に乗ってくれるのかもしれないが、それはあくまでも友人どうしという間柄で成立するものだ)
P(あくまでも、ライバルアイドルなのだから)
P(乗りかかっていい船じゃない)
P「……よし」
P(落ち着け、俺)
P(当たり前のこと――今できることは、今できることしかない)
P(だから、それをやるんだ)
P(恋鐘のチャンネルと宣伝内容の整理でもしておこう)
P(あとは恋鐘を信じて、決勝のステージを待つのみだろうから)
P「恋鐘もそうだし、俺も、俺を信じてやらないとな」
P(月岡恋鐘という最高のアイドルを選んだ自分って奴を――)
P(――褒めてやらんでどうする)
P「お、恋鐘からチェインか」
P(自主レッスンの様子が送られてきている)
P(俺は、これでもかというくらいに褒めて励ますような返信をした)
W.I.N.G.決勝当日。
本番前。
恋鐘「うちの出番、もうすぐやね……」
恋鐘「よし、うちの最高のパフォーマンスば見せて、完全優勝するたい!」
P「やる気充分だな、恋鐘」
P(まあ、それだけの自信につながるような軌跡を経て今の状態に至ってるわけだしな)
恋鐘「うん!」
恋鐘「見てる人みんなに最っ高のうちを届けるけん……」
恋鐘「Pも一瞬でもうちから目を離したらいかんよ!」
P「ああ、ちゃんと見てるよ」
P(目を離したことなんてないさ)
P(ずっと、心の目で、恋鐘のことを見ていたんだから)
P「ここまできた恋鐘なら、きっと決勝も勝てる」
P「俺は恋鐘の実力を信じてるよ」
恋鐘「んふふ、当たり前っちゃよ」
恋鐘「うち、出し切ってくるけんね!」
恋鐘「よぉーし、やったるばい!」
P(負ける気がしなかった)
結果発表。
優勝:月岡恋鐘
P「……あ」
P「優勝だ」
P「……」
P「そうか、そう、か。ははっ」
P(やった、やったぞ!)
P(結果が出てすぐ後には放心状態になってしまったけど)
P(少し経ってから、全身に喜びがいきわたるような、そんな感覚になった)
P(自分で言うのは照れくさいけど、恋鐘に一途なプロデューサーでいたからこそ、なのかな)
P(自分のことも、やっぱり褒めてやりたい)
P「まあ、でも、一番にはあいつを褒めてやらないとな」
恋鐘 ダダダダダッ
恋鐘「Pー!」
恋鐘「ほら!」
恋鐘「見て!」
恋鐘「うちの優勝やって!」
P「ああ……ああ!」
P「やったな!」
P「恋鐘、本当におめでとう」
P(それ以外なんて言えばいいっていうんだ)
P(他の言葉が見つからない)
恋鐘「うん、ホンットにうれしか!」
恋鐘「うち、このおっきな学園で一番すごいアイドルやって認められたんやね……!」
P「そうだな」
P「優勝にふさわしい、最高のステージだったぞ」
恋鐘「えへへ、そうやろそうやろ!?」
恋鐘「ねえ、プロデューサー……うち、キラキラしとったよね?」
P「ああ」
P「恋鐘の右に出るアイドルはいないくらいに、な」
恋鐘「そう! そうたい!」
恋鐘「うちにアイドルをさせたら右に出るもんはおらんとよー!」
P(それが、アイドルになるために生まれてきた女、月岡恋鐘だ)
P(俺の自慢のプロデュースアイドル……!)
P(ははっ、俺がこんなことを思うようになるなんてな)
P(恋鐘が転校してくる前には想像もつかないような変化だ)
P(そうか、俺は――)
P(――これが本当の……)
恋鐘「どげんしたと? P。ボーっとして」
P「えっ? あ、いや、別に」
表彰後、インタビュー等の時間。
~ステージ外~
P(1人になるとなんだか落ち着かないな)ソワソワ
P(咲耶の親衛隊に見つからないようにだけ気をつけておこう)
はづき「『W.I.N.G.』優勝、本当におめでとうございます!」ヒョコ
P「うわあっ?! びっくりした!!」
はづき「私も会場で見てたんですけど、発表の瞬間、思わず大声を出しちゃいましたよ!」
P(そ、そんなに……)
P(まあ、嬉しいんだけど)
P(はづきさんは恋鐘と2人でトレーニングやレッスンを行うことも多かったし、思うところはいろいろとあったのかもな)
はづき「今もまだ興奮しちゃってて、今日はもう眠れそうにありません!」
P「ありがとうございます、はづきさん!」
P「その気持ちは、俺にもわかります」
校長「本当によくやった」
P「って、校長先生まで?!」
校長「期待以上の結果を出してくれたな」
P「そんな……ありがとうございます」
はづき「ふふ。私と校長も一緒に見てましたけど、すごかったですよ」
はづき「Pさんのプロデュースする恋鐘さんが優勝したってわかった瞬間、校長が泣いてしまって……」
はづき「ステージをほとんど見れていませんでしたから」
校長「こ、こら! 彼の前でそういうことを言うな!」
はづき「それだけ喜んでたってことじゃないですか」
校長「そ、それはそうだが……」
校長「……とにかく」
校長「お前には、もっと祝うべき相手がいるんじゃないか」
P「……そうですね」
P「今日の主役は、他でもない恋鐘ですから」
校長「なら私たちのことは気にせず、早く行ってこい」
はづき「恋鐘さんのこと、いっぱい褒めてあげてくださいねー!」
数十分後。
恋鐘「ふ~、やっと解放されたばい……」
恋鐘「……ただいま~」
P「恋鐘、おかえり」
P「ご両親への報告もできたか?」
恋鐘「……うん。ちょうどお父ちゃんとお母ちゃんに電話しとったんよ」
恋鐘「優勝したって……」
P「そうか」
恋鐘「ホントにうちが優勝したんよね……『W.I.N.G.』で……」
P「ああ……間違いないよ」
P「本当におめでとう! 恋鐘」
恋鐘「……んふ、んふふふ……! えへへ……!」
恋鐘「うち、うち……いつかこげん日が来ると思っとったばい~!」
恋鐘「地元のみんなは間違ってなかった!」
恋鐘「うちはやっぱアイドルになるために生まれてきたとよ~!」
P「ははっ、そうだな」
P(最後まで自分を信じ続けることができたからこそ、恋鐘はここまで来れたんだな……)
P「ああ、俺も恋鐘なら絶対優勝できると思ってたよ」
P「審査員たちだって驚かせてやった」
P「もう、恋鐘はこの学園で収まりきらないようなアイドルになったんだ」
恋鐘「そうやろそうやろ!?」
恋鐘「やっぱり見る人が見れば、うちの才能はわかるってことばい~!」
P「だからこそ、恋鐘には、アイドルの中のアイドルになって欲しいんだ」
P「なるべくしてなれる……そう思うから」
恋鐘「P……」
P「俺、決めたよ」
P「これからも、恋鐘のプロデューサーでありたい」
P「恋鐘が学園から卒業しても、恋鐘をプロデュースする立場でいたいんだ」
P「プロデューサーとアイドルとして!」
恋鐘「そっか、うちとPは、そういう関係……やもんね」ボソッ
恋鐘「アイドルとプロデューサー」
P「?」
恋鐘「ううん! なんでもなか!」
恋鐘「そんなことより! ほらほら、P!」
恋鐘「将来のナンバー1アイドルと握手せんでよかと?」
恋鐘「ほら手出して!」
P「あ、ああ……握手握手……」
恋鐘「うん! よっしゃ~! 万歳もするばい!」
恋鐘「ほら、万歳~! バンザーイ!」
P「お、おお……バンザーイ!」
P(なんだか、恋鐘……取り繕ってるというか無理に盛り上げようとしてないか?)
P(まあ、恋鐘が楽しそうなら、それでいいんだけど)
恋鐘「うん! これでPとは、改めて喜びを分かち合えたばい!」
恋鐘「あとは、地元のみんなにもうちのライブば見て欲しいんよねー」
P「そうだよな。恋鐘を正真正銘のプロのアイドルにしてみせたら、長崎への凱旋ライブだってできるさ」
恋鐘「こっちの仕事が片付いたら絶対にやりたい!」
恋鐘「どっちのみんなも大事やし!」
P「恋鐘……もうお前は立派なアイドルになれてるよ」
P(俺にとっては、アマチュアかプロかなんて些事で)
P(恋鐘が輝いて見えるんだ)
恋鐘「えへへ……褒めてもなんも出んけど」
恋鐘「もっと褒めるばい~……」
P ドキッ
P(か、可愛い……!)
P(そうだよな、俺たち好き合って――)
P(――いや、せっかくの俺たちの夢のためには、その想いは一旦心の中にしまっておこう)
恋鐘「Pがおらんかったら、きっと、うち、途中で迷走してどうにもならんかったと思うばい」
P(そうだ、俺は恋鐘を導く立場として、しっかりしないといけない)
恋鐘「やけん、ホントに感謝してるんよ!」
恋鐘「ホントにホントにありがとーね! P!」
P「ああ、俺もいつも自信たっぷりの恋鐘だったから、自信を持って全力でプロデュースできたんだ……」
P「そんな恋鐘のプロデューサーで本当によかったと思ってる」
P「それで、これからも、そうでありたいんだ」
恋鐘「ええ~? もう……そんなこと面と向かって言われちゃ、うち、えへへ……照れるばい~……」
P(可愛い)
恋鐘「Pに言ってほしい言葉は他にもあるっちゃけど、いまはそこまで欲しがるんは欲張りがすぎるけん」ボソッ
P「え?」
恋鐘「な、なんでもなかよ!」
P「そ、そうか?」
恋鐘「うん!」
P「ははっ」
恋鐘「えへへっ」
P「恋鐘のアイドル活動を支えると何かと退屈しないんだ」
恋鐘「あ! それみんな言うてくれるばい~! うちといると楽しいって!」
恋鐘「それで、そうやってうちを見て楽しんでくれる人をこれからもっともーっと増やしたい思うんよ~!」
P「恋鐘との時間は本当に良いものなんだよ」
P「これが、俺にとっては……仕事になったらもっと充実するんだと思う」
P「だから、そうなれるように、俺はこれから頑張ろうと思うよ」
恋鐘「P、うちのために頑張ってくれると?」
P「もちろんだ」
P「これまでも、これからも!」
恋鐘「日本中、いや世界中を、うちのファンでいっぱいにするばい!!」
P「俺たちはまだ始まったばかりだからな!!!」
月岡恋鐘のノーマルエンド(優勝)にたどり着きました。
共通ルート直後の選択肢に戻ります。
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>Now Loading...
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(>>50~>>51の後から)
P(結華以外で俺とかかわりがあるのは……――)
P(――恋鐘、咲耶、霧子、そして摩美々)
P(これまでに彼女らと過ごしてきた時間を振り返ってみても……うん、アイドルとしては申し分ない人たちばかりだな……)
P(結華も入れれば5人。この中から、プロデュースする相手を選ぶ……か)
P(俺は……)
1. 恋鐘を選ぶ。
2. 摩美々を選ぶ。
3. 結華を選ぶ。
4. 咲耶を選ぶ。
5. 霧子を選ぶ。
6. ――この選択肢はロックされています――
選択肢↓1
(とりあえずここまで)
結華
>>1です。
今回は、>>193の選択肢に対する有効な安価として、>>195を採用します。
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>現在、解放されているのは、以下のエンディングです。
> ・月岡恋鐘のノーマルエンド(W.I.N.G.優勝)エンド
>
>共通ルート直後の選択肢まで戻りました。>>4から>>50までを参照してください。
>
>2回目の選択が行われます。
>……
>選択肢3. が選ばれました。
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取り急ぎ連絡まで。
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>三峰結華をプロデュースするシナリオに入ります。
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よろしくお願いします。
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