【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】 (691)

・シャニマスのSSです。二次創作や解釈違いを敬遠される方はブラウザバックを推奨します。

・ストーリーは、途中提示される選択肢を安価で選ぶことによって分岐することがあります。

・エンディングにたどり着いたら冒頭に戻ります。

・前作は
【シャニマス】P「よし、楽しく……」-noctchill編- 【安価】 【シャニマス】P「よし、楽しく……」-noctchill編- 【安価】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1594223305/)
ですが、読まなくても大丈夫です。また、前作を読まれた方々におかれましては、このスレでの前作のネタバレになるレスはご遠慮願います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1599288272

P(人の才能を見抜く――だなんて、簡単なことじゃない)

P(世の中に天才は一定数いるけど、それでも圧倒的な天才だらけじゃないから)

P(天才にもいろいろいる。天才なのに知名度が低いなんてまったくもって珍しいことじゃないんだ)

P(才能に貴賎はないが、才能ごとの中では貴賎はある)

P(アイドルで言えば、そう……歌、ダンス、演技、見た目――なんでもいい。放っておいても人をひきつける圧倒的な天才……)

P(そんなものをお目にかかれる機会なんて巡ってくるのだろうか……俺は、そう思っていた)

P(けど、思ったよりも早く――)


「よっ……ほっ……っと」


P(それは、偶然か、必然か)


「――ここは……こう?――」


P「!」

「――っと……うん、決まった!」

P「君、ちょっといいかな?」

「? わたしっすか?」

P「ああ、さっきのダンスって――」


P(――一瞬で“それ”だと確信できる存在に、俺は出会ったんだ)

~事務所~

P「おはようございます」

あさひ「あ! プロデューサーさん!」

P「お、あさひか。どうした?」

あさひ「これ、見てくださいっす!」

P「これって……石、だよな」

あさひ「ただの石じゃないっすよ~?」

P「どんな石なんだ……?」

あさひ「それはっすね~……」

愛依「おっ、あさひちゃんじゃ~ん。なになに? また何か持ってきたの?」

あさひ「これっす!」

愛依「石……? しかもわりとでかめの」

あさひ「これ、冬優子ちゃんにそっくりなんすよ!!」

愛依「ぶふっ!」

あさひ「わっ! 愛依ちゃんきたないっすよ。いきなり噴き出してどうしたんすか?」

愛依「い、いや……だって……」プルプル

あさひ「プロデューサーさんはどうっすか!? この石、似てるっすよね? 冬優子ちゃんに」

P「ど、どうなんだろうな……」

あさひ「えーっ、みんなわかんないんすかねー」

あさひ「この辺の輪郭とか、そっくりだと思うっす!」

P「ただのゴツい岩の一部にしか……」

愛依「あっはっはっはっは!! ひーっ、ちょーウケる……」ククク...

あさひ「むぅ」

P「……なあ、あさひ。一つ聞きたいんだが」

あさひ「なんすか?」

P「それ、冬優子には言ってないよな?」

あさひ「もちろん――」

P ホッ

あさひ「――最初に伝えたっすよ?」

P「……」

あさひ「今朝早起きして走ってたら河川敷の近くで見つけたんすよ! ゲットしてすぐ報告っす!!」

愛依「あー……。ねえ、プロデューサー?」

P「なんだ?」

愛依「今日のうちらの予定って、どうなってたっけ?」

P「午後からレッスン。現地集合も可」

愛依「あはは…………やば」

あさひ「今日もがんばるっすよ! 愛依ちゃん」

夕方。

P カタカタ

P「ふぅ……」

P(そろそろ、あいつらが戻ってくる頃か)

P(というか、冬優子怒ってるだろうな……)

P(ちゃんと仲直りしててくれよ)

あさひ「ただいま戻ったっす!」

愛依「たっだいま~」

冬優子「あー、ほんっとに疲れたわ……」

P「おかえり、3人とも」

あさひ「プロデューサーさんプロデューサーさん!」

P「ん? どうしたんだ?」

あさひ「今日のレッスンなんすけどね、冬優子ちゃんすごかったんすよ!」

あさひ「なんていうか、迫力がはんぱなかったっす!!」

冬優子「……あんたに怒るのに体力使うくらいなら、レッスンでストレスもろとも発散させてやろうと思っただけよ」

愛依「とか言って~、ほんとは怒るつもりもなかったんじゃないの~?」

愛依「冬優子ちゃん優しいし」

冬優子「そんなんじゃないわよ」

冬優子「……思い出したらまたイライラしてきたわね」

P「ま、まあ、あさひも悪気があったわけじゃないんだろうし、な?」

冬優子「それが余計にタチわるいっての」

冬優子「まあいいわ。ちょっと休ませて」ボフッ

あさひ「あ! じゃあわたし、冬優子ちゃんのとなりに座るっす!」

あさひ「とーう!」ボフッ

冬優子「ちょっ……! 暑いからあっちいきなさいよ、ほら、しっしっ」

あさひ「……っ」ショボン

冬優子「……」

冬優子「……嘘よ。ちょっとくらいなら、いいわ」

あさひ「!」パァァァ

あさひ「わーい! 冬優子ちゃんの隣ゲットっす!」ダキッ

冬優子「抱きつくことまでは許可してないわよ! ちょっとって言ったじゃない! ……もう」

愛依「いいねいいね~、見てて微笑ましいわ」

P「なんだかんだで仲良いんだよな」

愛依「ね。うち、あの子たちとアイドルできてよかった」

愛依「さーってと、うちも混ぜてもらお~」

冬優子「ちょっ! あんたまでなに抱きついてんのよ!」

P(3人とも笑顔だ。このユニットにしてよかった)

P(あさひは天才で、冬優子と愛依は決してそうではない。けど、それは2人があさひの引き立て役という意味なんかじゃなくて……)

P(裏表のないあさひと、2面性のある冬優子と愛依――)

P(――強い光と濃い影が、綺麗なグラデーションを成して魅力的なものになっているんだ)

冬優子「……ったく、暑いわねもうっ!」

冬優子「プロデューサー! もっとクーラー効かせて!」

P「ははっ、はいよ」ピッ

P カタカタ

あさひ「……」ジーッ

冬優子「……」

あさひ「……」ジーッ

冬優子「……なによ」

あさひ「私のほう、見てほしいっす」

冬優子「もう……なに――って顔近っ!」

あさひ「……」ジーッ

冬優子「な、なんなのよ……」

冬優子「綺麗な顔してんだから見つめられたらやばいっての……」ボソッ

あさひ「冬優子ちゃんって、髪の毛のここを……こうすると」

あさひ「ほら、やっぱりクワガタみたいっす!」

冬優子「……」

P(……)

あさひ「んー、アゴの長さ的にはメスのクワガタっすかねー。あ、冬優子ちゃんがしゃくれてるって意味じゃないっすよ?」

冬優子「わかってるわよ……」

愛依「なんか面白いこと思いついちゃった系? あさひちゃん」

あさひ「そうなんすよ。ほら、冬優子ちゃんクワガタっす!」

冬優子「もうどうでもよくなってきた……」

愛依「じゃあ私は……」

P(愛依が後ろ髪を前に……?)

愛依「ヘラクレスオオカブトじゃー!」グワァーッ

あさひ「あははっ! すごいっす! これでバトルできるっすよ、冬優子ちゃん!」

冬優子「あー、はいはい。よかったわねー」

愛依「うちにしては結構グッドアイデアだったくない?」

あさひ「うーん……」

あさひ「色合い的には、サタンオオカブトのほうが近いっす」スンッ

愛依「サタ……? そ、そうなんだ……あさひちゃんものしり~」

冬優子「愛依もよく付き合ってられるわね」

愛依「下の子たちの面倒見てるからさー、うちも楽しいし」

冬優子「ふーん、そういうもんかしら」

P「ははっ、お前ら仲良しだな」

あさひ「プロデューサーさんも見るっすか? 冬優子ちゃんクワガタ」

P「ここからでも見えてたよ。立派なアゴだよな」

冬優子「あんたまでノッってんじゃないわよ!」

あさひ「冬優子ちゃん……クワガタ……」

P「どうしたんだ? あさひ」

あさひ「何か思い出しそうなんすよね……」

冬優子「最高に嫌な予感しかしないわね」

あさひ「あっ!」

冬優子「……」

愛依「なになに? どしたん?」

あさひ「この前愛依ちゃんと冬優子ちゃんに見せた幼虫!」

愛依「あー……」

冬優子「はぁ……」

あさひ「もう成長したと思うんで、今度持ってくるっすよ!」

冬優子「持ってこなくていいわよ!」

あさひ「えーなんでー!?」

冬優子「なんでって、こっちがなんでって言いたいわよ」

あさひ「せっかく冬優子ちゃんと冬優子ちゃんのバトルが見られると思ったのに……」

冬優子「あんた、「この幼虫、冬優子ちゃんみたいっす」とか言ってたけど、ふゆとおんなじ名前つけてんじゃないでしょうね……」

あさひ「えー、いいじゃないっすかー。可愛いんすよ?」

冬優子「そういう問題じゃないっての」

愛依「五十歩? 譲っても、もう成長したなら幼虫じゃないっしょ~」

冬優子「愛依、もう五十歩とおつむが足りてないわよ。出直してきなさい」

愛依「あちゃ~、二千五百歩譲るんだったっけ!」

冬優子「なんでかけちゃったのよ……てか計算速いし」

あさひ「冬優子ちゃん急におむつの話なんかしてどうしたんすか? まさか……っ!」

冬優子「あさひちゃんっ、ま・さ・か、のあとには何を言うつもりなのかな~?」

あさひ「冬優子ちゃんはおもらs――むぐっ」

P「おむつじゃなくておつむだぞ、あさひ」

あさひ「むーっ、プロデューサーさんが急にわたしのほっぺをむぎゅっと……! してきたっす」

P「ほら、もう暗くなってくるから、3人とも帰ったほうがいいぞ」

あさひ「プロデューサーさんは帰らないんすか?」

P「まだ仕事が残ってるからな」

愛依「プロデューサーも大変だよねー……マジで感謝しかないわ」

P「いいのいいの、プロデューサーってのはそういう仕事なんだよ」

P「よし、今日のストレイライトは解散だっ」

>>5 訂正:

あさひ「私のほう、見てほしいっす」
→あさひ「わたしのほう、見てほしいっす

愛依「じゃあ私は……」
→愛依「じゃあうちは……」

失礼しました。

>>7
あさひの訂正後のセリフの最後のかぎかっこが抜けてました。
あさひ「わたしのほう、見てほしいっす」
が正しい訂正後のセリフです。

とりあえずここまで。

~仕事帰り 車内~

P「今日のラジオ、あさひらしく場を盛り上げられたじゃないか。よかったぞ」

あさひ「あ、そうなんすか? そういうのはよくわかんないっす!」

あさひ「わたしは、ただわたしが思ったことを答えたり話したりしただけっすから」

P「そうか。まあ、それがあさひだよな」

P(しかし、テレビ局で一緒にゲスト出演してた芸人にあさひがからまれちゃったから、随分と帰りが遅くなったな……)

P(……あいつ、絶対にあさひの見た目にしか興味ないぞ)

P(あさひの魅力はそんな単純なものじゃない。見た目は大事だが、もっと内在的なところが重要なんだ)

あさひ「空、暗いっすね」

P「ああ、すまんな、いろいろと……」

あさひ「どうしたんすか? 元気ないっすね、プロデューサーさん」

P「いや、なんでもないよ」

ヒューッ

ドォンッ

あさひ「おおっ!!」

P「何かあったか?」

P「なんか音が聞こえたけど」

あさひ「花火! 花火っすよ!」

P「近くで花火大会でもやってるのかな」

あさひ「気になるっす~! もっと近くで見てみたいっすよ! プロデューサーさん!」

P(まあ、気分転換だと思えば、ちょうどいいか)

P「よし、じゃあ、向かってみるか」

あさひ「やったっす! これで近くで見れる~」

P「しかし……すごいな、人の数が」

あさひ「……」

P「もう花火大会は始まってるみたいだし、いい場所はとっくにとられちゃってるよなぁ……」

あさひ キョロキョロ

あさひ「……」ウーン

P「あさひ?」

あさひ「! あそこっす!」

P「え?」

あさひ「プロデューサーさん! わたしについてきてくださいっす! 行くっすよ!!」

P「あ、おい、ちょっと待て――……」


あさひ「ここならしっかり見えるっす」

P「あんなところからよく見つけたな……しかも人ごみの中を難なく通って来れたぞ」

あさひ「人の流れがあったっすよ。じーっと見てたら、それが変わらなかったんで、そこからうまく進んでいけば避けられるって思ったっす!」

あさひ「なんていうか、こう……道が見えたっす」

P「はは……こりゃすごいな」

P(昔読んだアメフトの漫画を思い出すな)

あさひ「あとはなんとなく、花火大会に来てる人が行かなそうな場所を、周りの人を観察して考えたっす」

あさひ「そうしたら、ここかなって思って」

P「おかげで俺もちゃんと花火を見れるよ。ありがとな」

あさひ「礼には及ばないっすよ! プロデューサーさんと一緒に見たいから頑張ってここに来たっすから」

P「あさひ……」

ドォーン

バチバチバチバチ

ヒュールルル

ドォォォン

あさひ「いろんな色、いろんな形……」

P「綺麗だよな、花火」

あさひ「うーん、それもそうなんすけど……」

あさひ「わたし、あの仕組みが気になるっすよ!」

P「打ち上げる仕組みか? それとも、光る色の仕組みか?」

P「あとは、どうやって形を作ってるのかとか……」

あさひ「全部気になるっす! ……けど、まあ、いまはあの色の原理に興味があるっす」

P「ああ、それなら、俺でも少しは教えてやれそうだ」

あさひ「知ってるんすか!?」

P「理科で習うからな」

P「炎色反応っていうんだ」

P「燃えてるのは金属……だったはずだ」

あさひ「金属って、あの鉄とか金とかってやつっすか?」

P「まあ、そんなところだな。もちろん、他にもいろんな金属がある」

P「金属の種類によって色が変わるんだぞ」

P「色っていうのは、光の波長の違いと言ってもいいんじゃないかな」

あさひ「色は光……光は色……?」

P「まあ、ちゃんとしたことは理科の先生に聞くなり本を読むなりしてくれ」

P「とにかく、光があって、それが物体を照らすと、物体の表面で光の一部が吸収されて残りが反射されるんだ」

P「それが俺たちの目に届いて、はじめて「見た」って思うんだよ」

P「見えてる色の違いは、目に届いた光の波長の違いだから」

P「花火に使われてる材料によって、それが変わると、まあ、いろんな色に見えるって感じなんじゃないか?」

P「もう随分と前の記憶だし、適当な説明だけどな」

あさひ「いいや、プロデューサーさん! めっちゃ面白そうっす!!」

あさひ「もっとないんすか!? 光の……色の話!!」

P「ええ……そんなに覚えてるかな……」

P「……花火は炎色反応って現象なわけで、金属に関する反応で――」

P「――金属原子にエネルギーが与えられて基底状態から励起状態になると、特定の波長の光を一番強く発するから……」

P「エネルギー準位の遷移がどんなもんかで……放出されるエネルギーの大小で……発する光の波長が変わるとか、そんなところ……か?」

あさひ キラキラ

P(興味津々JCだ! 視線が花火より眩しい……。それだけにちゃんと教えられてないのが心苦しい……)

あさひ「プロデューサーさんっていろいろ知ってるんすね~!」

P「昔ちょっと触れたくらいで、大したことないよ。いまの説明にも自信はないし」

あさひ「むむ……」

P「どうかしたのか?」

あさひ「ふと思ったっす……この金属はこういう色に光ります――っていうのはわかるんすけど、逆はどうなんすか? 色から金属がわかったりはしないんすか?」

P「……随分と面白い質問だな。俺も知りたいよ……。スペクトルの違いだっけか? なんかそんな話を聞いた気がするけど……忘れた」

あさひ「俄然興味が湧いてきたっす!」

P「ははっ……まあ、俺が話した内容は中高の理科で勉強するだろうし、学校で教わりたいなら理系に行けばいいと思うぞ」

あさひ「学校……っすか」

P「?」

あさひ「い、いやっ、なんでもないっす!」

あさひ「それよりプロデューサーさん! さっき、本を読めばいいって言ったっすよね?」

P「あ、ああ……まあな。独学で勉強するっていうのもありだとは思うぞ」

あさひ「じゃあ、今度一緒に図書館とか本屋さんに行って欲しいっす!!」

P「ははっ、そうだな。そのうちな」

あさひ「約束っすよ?」

P「あさひがいい子にしてたらな」

あさひ「はいっす! わたし、いい子にしてるっす!」

ヒューゥゥゥ

ドドォンッ

あさひ「……」

P「……」

ヒュルルルル

ドドドォッ パラパラパラ...

あさひ「花火って、あんなに綺麗なのに、すぐに終わっちゃう……」

P「?」

あさひ「花火……花火に心があったら、どう思ってるんすかね」

P「花火に、心が?」

あさひ「打ち上げられる瞬間とか、自分がどんなに綺麗な花火だって知ってても、飛ばされたら最後……じゃないっすか」

P「あさひ……」

あさひ「花火は綺麗っす。でも、わたしは花火にはなりたくないっす」

P「もし、さ……花火がずーっと空ではじけ続けて光を放ち続けてたらどう思う?」

あさひ「それは迷惑っす! うるさいし、星を見たいときに邪魔になるっす!」

P「花火はさ、綺麗なのにすぐ終わっちゃうって思うんじゃなくて――」

P「――すぐに終わるからこそ美しい……そう思ってもいいんじゃないか?」

あさひ「……」

P「もちろん、打ち上げられてはじけたその瞬間は文句のつけようのないくらい綺麗だと思う」

P「けど、それが一瞬の出来事だって、俺たちは知ってるから……」

P「だから、最高に綺麗だって感動できるんじゃないかと、俺は思うよ」

P「もし、花火に心があったとしても……」

P「その気持ちが悲しいものだと決め付ける必要は、ないんじゃないか?」

あさひ「プロデューサーさん……」

あさひ「……えへへっ、そうっすね。そうかもしれないっす」

ヒューッ

ドドドドドド

あさひ「うわーっ! すっごいっすー!」

P「特大サイズだな」

あさひ「結構続いてるっすよ」

P「確かにな。まあ、花火らしい時間ならちょっとくらい長くはじけててもいいんじゃないか」

あさひ「あ、人が帰り始めたっすね」

P「なんだかんだ最後まで見ちゃったのか……」

あさひ「いやーっ、今日は楽しかったっす! ありがとうございますっす! プロデューサーさん!」

P「俺のほうこそ、楽しかったよ。ありがとうな。ここに連れてきてくれて」

あさひ「今日のことは一生忘れられないかも!」

P「そのうち、彼氏とかと花火大会に来て、その記憶も上書きされるかもしれないぞ? なんてな」

あさひ「……」

P「あさひ?」

あさひ「……なんでもないっすよ~。さ、帰るっす」タタタタタ

P「ああ、車停めたところに向かおう……って足速っ!? ま、待ってくれよ」

あさひ「プロデューサーさん! 今日の記憶は、上書きなんてしてやらないっすよー!」

あさひ「それでも上書きしたいって思ったら、そのときは、また、プロデューサさんと来るっす!!」

とりあえずここまで。

~事務所~

冬優子「あのっ、プロデューサーさんっ」

P(む、嫌な予感がする)

P「いまは忙しいから駄目だ」

冬優子「ちょっと! まだ何も言ってないじゃないのよ!」

P「……なんでしょうか」

冬優子「あんたがとってきたこの仕事よ!」

冬優子「はづきさんから企画書見せてもらったの。ほら、見なさい!」

P「いや、見なくても内容は知ってるけど……」

冬優子「『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』のイベント出演て――……」

冬優子「……っ」

冬優子「こんなの……」

P「やらないのか? この仕事を」

冬優子「それは……」

冬優子「……」

冬優子「ちょっと来て」グイッ

P「あ、おい……」

バタン

冬優子「……」

P「……」

冬優子「誰も……、いないわよね」

P「そうなんじゃないか?」

冬優子「――……っ」

冬優子「……怖いって言ったの、覚えてる?」

冬優子「ふゆがこのアニメを好きって言うのが……怖いって」

P「……ああ、覚えてる」

冬優子「この仕事、出ればきっと、本音であろうとなかろうとこれを「好き」って言わざるを得なくなる」

冬優子「これって、そういう仕事でしょ」

冬優子「そんなの、ふゆにとっては、もっと怖いわよ」

冬優子「……だって、だって」

冬優子「アイドルのふゆとして言ったら、皆に好かれるふゆとして嘘をつくことになる!」

冬優子「黛冬優子として言ったとしても……アイドルのふゆは嘘だって公に宣言するみたいで……」

冬優子「嫌とか嫌じゃないとか、好きとか嫌いとか、そういうんじゃないの……」

冬優子「……怖い、のよ。ただ、怖い……」

P「…………今日の午後の予定は変更しよう」

冬優子「え?」

P「個人レッスンを入れていたが、あれはキャンセルする」

冬優子「ちょっと、何勝手なこと言ってんのよ」

冬優子「ふゆは、あいつに……っ。と、とにかく! 遅れをとるわけにはいかないのよ!」

冬優子「バケモンにだって……できるなら負けたくなんてないのよ……!」

冬優子「そのために時間はたくさん使わないといけないの」

P「そうか」

P「で、それだけか?」

冬優子「は?」

P「それ以上ないなら早く外に出る支度をしてくれ。連れて行くところがある」

冬優子「……なによ! プロデューサーだからってふゆの気持ちまで……!」

P「俺は、プロデューサーとして、冬優子のことを思って行動しようとしてるまでだ」

P「俺が信じられないのなら、レッスンに行けばいい。そうしても、俺は止めない」

冬優子「……そんなの」

冬優子「そんなの……ずるいわよ」

P「どうするんだ?」

冬優子「……行く」

冬優子「時間の無駄だったら、承知しないから」

P「わかった。じゃあ、行こう」

~某オタクの聖地~

冬優子「……ここで何しようってのよ」

P「まあ、適当にブラつく」

冬優子「仕事――……いや、ふゆの場合はレッスン? と、とにかく、サボって散策してるだけでしょ!」

P「そんな大声出して――もあんまり目立たないのがいいと思わないか」

冬優子「そりゃ……ここには存在感の塊みたいなのがたくさんあるし」

冬優子「で、ほんと、ここでどうしようってのよ」

冬優子「別に、その……ふゆだってよく来るし……。あんたに案内されるようなのはないわよ」

P「ああ。案内をしてやろうとかいうつもりもない」

冬優子「ならなんで……」

P「お、あそこでなにやらイベントがあるみたいだな。よし、行くぞ冬優子!」

冬優子「あっ、ちょっ、待ちなさいよ!」

冬優子「これじゃあただの……デートみたいじゃない」ボソッ

P「早く来いよー」ブンブン

冬優子「うっさいわねっ。いま行くわよ」タタタ

P「耳が幸せだ……」

冬優子「あんた……その、声豚だったわけ?」コゴエ

P「悪いか?」

冬優子「べ、別に悪いなんて言ってないわよ……。こっちこそ、悪かったわね、なんか」

P「さ、次行くぞ次」スタスタ

冬優子「早歩きやめなさいよ! しかも速っ」

冬優子「……もうっ」タタタ


P「おおっ! すげぇな……ゲームだといくら3Dといえど死角やら影やらがあるからさ」

P「ここは……こうなってたんだな……」

冬優子「これ、ふゆでも元ネタがわかんないんだけど」

P「まあ、最近のじゃない上に、若干マニアックだからな」

冬優子「ふーん」

P キラキラ

冬優子「……」

P「しかし……」

P「ゲームか……久しくやってないな……」

冬優子「さすがにあんたでもオフの時間くらいあるんじゃないの?」

P「まあ、それはそうなんだけどさ。せっかくなら時間かけてじっくりやりたいと思うし、そうすると普段のオフじゃ時間足りないし……」

冬優子「ゲームが好きなのね」

P「うーん、ちょっと違うかな」

冬優子「?」

P「ゲームそのものというより、作品が好きなんだよ」

P「世の中いろんな作品があるけど、中には自分と重ねるようなものもあって――」

P「――いや、なんなら、この作品は、あるいはこのキャラは、俺自身なんじゃないか、なんてな」

P「自分の在り方に影響を与える不可分な存在がアニメとかゲームって、何も不自然じゃないよ」

冬優子「!」

P「それを否定するやつがいたら……苦しいよな――」

P「――辛い、よな」

冬優子「……っ」

P「あ、そろそろ次行くぞ」スタスタ

冬優子 タタタ

P「おお! しばらく見ないうちに単行本がこんなに……」

P「あっ、こっちは外伝が出てるだと……買おうかな……でも読む時間が……」

冬優子「……ふふっ」

P「ん? どうした冬優子」

冬優子「なんでもないわよ。なんか、あんた見てたらおかしくなってきただけ」

P「俺のオタクムーブに対する嘲笑か?」

冬優子「ううん。そんなんじゃない。てか、あんたはオタクとしてまだまだよ。下には下がいるんだから」

P「上には上が――って言ってやれよ、そこは」

冬優子「知らないわよ。絶対値でもとっておきなさい」

冬優子「ふゆが言いたいのは、別にあんたをあざ笑うつもりで笑ったわけじゃないってこと」

冬優子「そう……全然違う」

冬優子「ふゆは、ふゆに笑ったのよ。ふゆ自身のことが、おかしくなったの」

冬優子「ほら、次は何を見るの?」

P「そうだな……こっちだ」スタスタ

冬優子 タタタ

冬優子「ここ……。っ」

冬優子「……ここにあんたの好きな作品があるっての?」

P「好きな作品はないかな」

冬優子「じゃあなんで来たのよ」

P「好きになりたい作品なら、あるから」

冬優子「……!」

P「どこにあるんだろう……」キョロキョロ

冬優子「……」

冬優子「こっちよ」ボソッ

P「え?」

冬優子「ついてきて。そうすればあんたが探してるの、たぶん見つかるから」

P「わかった。ついていくよ」


P「よくわかったな。俺の探してるやつの場所」

冬優子「まあね。これでしょ?」

P・冬優子「『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』」

P「ご名答」

冬優子「もう……あんたって……ほんと……」

P「冬優子がそれを好きだと言うことについてどんな思いを抱いてるか――それについては、求められない限り俺は口を出さない」

P「でも、プロデューサーとして、俺は冬優子のことを知りたいと思う」

P「だって、俺は、プロデューサーである前に、冬優子のファン1号だからさ」

P「好きだとか、“推す”だとか、そう思ったら、つっぱしらずにはいられないんだ」

P「周りに何と言われようと、あるいは周りに隠していようと――」

P「――俺だけは俺を否定しないから」

P「……冬優子が自分を嘘だと思ったとしても、好きなものを好きだと言うのが怖いのだとしても」

P「冬優子が黛冬優子としてではなくふゆとしてアイドルをしてることとか、冬優子が好きだと思うことは、その姿勢自体は嘘じゃないだろう」

P「嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う」

P「俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”」

P「冬優子には、冬優子を否定して欲しくない」

P「自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?」

P「どうだ? ……なんか、長く喋っちまったけど」

冬優子「っ……ほんとに……語りすぎなんだから」

P「騙ってはいないけどな」

冬優子「うっさい……もう、メイク崩れちゃう……」ポロポロ

冬優子「あんた、ひょっとしてふゆのこと好きでしょ」ポロポロ

P「当たり前だ。今日はこの街で自分なりにオタクムーブをかましてきたが――俺が今日一番オタク発揮したいのは、黛冬優子ってアイドルだからな!」

P「というわけでこれから「ふゆ」ってアイドルについて順を追って語っていくんだが……あ、場所変える? 今度の仕事の場所に移動した方がっぽいかな?」

冬優子「ちょ、ちょっと待って! 本人の目の前で語られるだけでも恥ずかしすぎてどうにかなりそうなのに、もうメイクがやばいから……! てか気の遣い方おかしいでしょ!」

P「メイク? マスクしてるんだしいいだろほっとけよそんなの」

冬優子「なんで急に雑になるのよ!」プンスコ

P「まあ、さすがに冗談だ」

冬優子「ほんっと、最悪で最高のプロデューサーに振り回されてるわよ、ふゆは。……ふふっ」

冬優子「花を摘んでくるから、そこで待ってなさい!」

冬優子「おまたせ。それで? このコミックスを買おうっての?」

P「ああ。アニメだと自分の余裕のある時間との兼ね合いが難しそうかな、と」

冬優子「それで、アニメの代わりに漫画で?」

P「そういうことだ」

冬優子「甘いのよ!」

冬優子「このコミックスとアニメじゃ、違うところがいっぱいあるんだから!」

P「アニメのほうがいいのか?」

冬優子「は? 何言ってんの? どっちも最高に決まってるじゃない」

冬優子「これから語りまくってやるんだから覚悟しなさいよね! 好きになりたいなら、それくらい余裕でしょ?」

P「ははっ、臨むところだ」

冬優子「……」

冬優子「……ほんと、ありがと」ボソッ

P「え? なんだって?」

冬優子「標準的ラノベ主人公には聞こえなくていいことよ」

冬優子「あ、そうだ。あんた、ここにあるの、買わなくていいわよ」

冬優子「ふゆが全部持ってるから貸したげる。ありがたく全部見て読むこと、いい?」

P「了承っ」

冬優子「秋子さんで答えなくていいから。似てないし」

冬優子「……ふふ」

冬優子「プロデューサー!」ビシッ

冬優子「ふゆはあんたに推されるくらいじゃ足りないから!」

冬優子「ガチ恋させてやるんだから――ちゃんとふゆのこと、見てなさいよね!」

とりあえずここまで。

~事務所~

P「買い物?」

愛依「そうなんだよね~……。お兄とお姉は出かけてて夜まで帰ってこないとか言い出すし、かと言ってさすがに下の子たちを振り回すわけにも……ね」

愛依「男手があると助かるなーって思うんだけど、どう?」

愛依「ほら、明日って日曜じゃん? だから……プロデューサーも空いてるかなーって」

P「まあ、空いてはいるぞ」

愛依「あ、別に疲れてるとかなら無理にとは言わないし……!! プロデューサーさえよければ……」

P「いや、別に構わないぞ」

P「行こうか」

愛依「ほんとっ! やった! マジ助かるわ~」

愛依「サンキューね」

翌日。

~某大型ショッピングモール~

愛依「……」

P「どうかしたのか?」

愛依「なんか……こんなでっかいところに来たの久しぶりでさ」

愛依「めっっっっちゃテンション上がってる……!」

P「ははっ、まあ、今日は愛依の好きなようにしたらいいさ

P「俺は車出して荷物持ちするために来たつもりだし」

愛依「ほんと感謝しかないって! 車もあれば量とか気にせず一気に買えるしさ」

愛依「それに、普通にちょっとでかめのスーパーとかだと思ってたら、まさかこんなところに連れてきてくれるとは思わなかったっていうか!」

P「楽しそうでなによりだよ」

P「ほら、買い物に来たんだろ? まずは何を買うんだ?」

愛依「そんじゃねー――……」

愛依「食べ物とかは最後に買いたいし、最初はこの辺からかな~」

P「なるほど、服屋か」

愛依「ちょっ、確かにそうだけど、その呼び方はやばいっしょ」ケラケラ

P「じゃあ……ブティック?」

愛依「まあ、それでいい……のかも? てか、メーカーとかブランドで呼ぶもんじゃね?」

愛依「プロデューサー、ひょっとしてファッションとか興味ない感じ?」

P「うーん、正直よくわからん……」

愛依「あ、じゃあうちがプロデューサーの私服選んだげるわ!」

P「え、でも愛依の買い物に来てるのに……いいのかよ」

愛依「いいのいいの! いいから行こ!」グググ

P「あ、ちょ、わかったから、押すなって……」

P「名前とかは聞いたことのある店ばかりだな」

愛依「プロデューサーってさ、アイドルのプロデュースしてるんだよね?」

P「そりゃそうだが」

愛依「それならさ、衣装とかの話でファッションとか考えるんじゃない? って思ったんだけど」

P「いや、デザインとファッションは俺の中では別というか……」

P「ましてや、アイドルのことじゃなく自分のこととなるとな……」

愛依「……そっかそっか! じゃあ、うちも教えがいあるわ!」

愛依「まずはここ入ろ。ほらほら」


愛依「うーん……」

P(食い入るように服やマネキンの着飾ったやつを見てるな……)

P「愛依は、こういうファッションとか、結構好きなのか?」

愛依「まあ、嫌いじゃないかな。アイドルやるようになって、衣装さんといろいろ話すうちに知ったってカンジ?」

P「なるほどなぁ――まあ、そうだよな」

P「アイドルって仕事は――歌って踊って魅了してというのが基本っちゃ基本だけど、俺としては、それ以外にもいろんなことを学んでもらえたら……なんて思うかな」

愛依「へー……」クスッ

P「ど、どうかしたか?」

愛依「なんでもなーい。ほら、ちょっと上下選んでみたから試着してよ!」

P「お、おう……ありがとう」

>>32 訂正:

愛依「プロデューサー、ひょっとしてファッションとか興味ない感じ?」
→愛依「プロデューサー、ひょっとしてファッションとか興味ないカンジ?」

愛依「どーおー?」

P「……」

愛依「プロデューサー?」

P「き、着てみた……」シャーッ

愛依「おお! 結構決まってるくない?」

P「そうかな……はは、ありがとう」

愛依「あ、プロデューサー照れてるっしょ~。貴重なとこ見ちゃったな~」

愛依「……うん、うん。見れば見るほどいいわ。うちすごくね?」

愛依「色の組み合わせと……ここに入ってるラインとか、可愛いわ~」

P「か、可愛い……?」

P「よく女の子ってメンズとかレディース問わず「可愛い」って言うけど、どういう感想なんだそれは」

愛依「うーん……、あはっ、うちもわかんない!」

愛依「とにかく可愛いもんは可愛いってカンジ? 細かい理屈とかはいいんじゃね?」

P「愛依はファッション関係のコラボもできるかもな」

愛依「マジ!? それ楽しそうじゃん!」

愛依「……あ、でも、うちってクールキャラでアイドルやってるし……テンションのメリハリとか頑張んないとだな~」

P「それだけ自分の仕事のこと考えてくれてるなら、俺としては安心だよ」

P「まあ、仕事のことはともかく――」

P「――服、選んでくれてありがとうな。買うよ、この組み合わせで」

愛依「いいの? うちの趣味で選んじゃっただけだけど」

P「まあ、俺はもともと自分のファッションには興味なかったしさ」

P「愛依が俺の服選んでくれるなら、もうそれが俺のファッションでもいいかな……なんて」

P「だから、愛依がいればいいよ。俺が服を選ばなくてもさ」

愛依「!」

愛依「……そっか」

P「愛依?」

愛依「もー、……しょーがないから、そうしてあげる!」ニカッ

愛依「ほら! そしたら、次行こ次! プロデューサーに似合いそうな組み合わせ、まだあるんだ~」グイッ

P「えっ、ちょっ、愛依の買い物は……」

愛依「これもうちの買い物だし!」

愛依「うちとプロデューサーの! 買い物でしょ」

P「……ははっ、そうだな」

愛依「……」

P「うぐぐぐぐ……」

愛依「あの……さ、うちもなんか悪かったっていうかー……」

愛依「うちも持つよ? いまさらだけど、プロデューサー、うちの着せ替え人形してくれただけだし……服だけなのにそんなに持たせちゃって……」

P「だ、大丈夫だ……それに、一旦車に積みに戻るためにいま移動してるわけだし……」

P「俺は荷物持ちだ……気にするな」

愛依「……」

愛依「じゃ、じゃあ、さ」

愛依「こうしよ? ね?」

P「?」

愛依「一回止まって荷物下ろして」

P「……あ、ああ」ドサッ

愛依「このでっかい袋に、小さいのをまとめて……っと」

愛依「これとこれと……それからこれ、プロデューサー持ってくれる? うちはこれとこれ持つからさ」

P「わかった」

P「この一番大きいのはどうするんだ?」

愛依「こうする……」

愛依「ほ、ほら! 片方はうちが持ってるから、もう片方持ってよ」

愛依「そうすれば、一緒に持てるっしょ」

P「そ、そうだな……」

愛依「……」

イッセーノセー
キャッキャッ

P(ふと、小さい子ども1人を連れた親子連れ3人が目にとまる)

P(父親と、母親と、それから子ども――)

P(――両親の間にはさまって、それぞれ片腕ずつを持ってもらった子どもは、タイミングよく両親にひっぱられてブランコ遊びをしている)

P(よくある、微笑ましい光景だ)

P「なんか、俺たちは荷物だけど、持ち方はなんとなく似てるよな」

愛依「っ! ちょ、ちょっとなに言ってんの……もう」

P「愛依?」

愛依「別に何でも……ほら、早く駐車場行こうよ……」

P(それからも、愛依といろいろな店をまわった)

P(レストランで昼食をとり、生活雑貨やインテリアなど、いろいろ――)

P(――買い物という漠然とした目的で来たが、それゆえに何をしても楽しかった)

P(それに、愛依が楽しそうで、なんだか嬉しいという気持ちとともに、安心感を覚えていた)

P(芸能界という世界に踏み込んでいる以上、アイドルである彼女――彼女らはストレスを抱えているんじゃないかと思っていたからだ)

P(今日は……来てよかったな)

P(俺のためにも)


愛依「よーっし、これで最後!」

P「スーパーか」

愛依「じゃ、がんばってこ! プロデューサー!」

P「ああ、そうだな」


愛依「あとは――……って、あ」

P「何かあったのか?」

愛依「あはは……いや、あそこにさ、おもちゃ付きのお菓子のコーナーあるなって」

P「ああ……食玩か」

愛依「弟が欲しがることもあったからさー、なんかそれ思い出しちゃった」

愛依「プロデューサー、言っとくけどおもちゃ付いてるお菓子は買わないからね……なんて。……ん? って、あれ?」

愛依「いない……あっ!」

P「これ……近所だと売り切れになってるやつ……」

P「ほ、欲しい……!」

トントン

P「はい? ……あ」

愛依「……」ニコニコ

P「いや、違うんですよ」

愛依「はぁ……まあ、別に買ってもいいけどさ」

愛依「意外とコドモっぽいとこあんだね」

愛依「冬優子ちゃんあたりに話したら……」

P「やめてください」

愛依「うそうそ、別に言ったりしないって!」ケラケラ

~駐車場~

P「ふぅ……やっと詰め込めたぞ……」

ピトッ

P「冷たぁっ!?」

愛依「あはははっ、いいリアクションじゃん!」

P「め、愛依か……」

愛依「はい、お疲れさま。プロデューサーはコーヒー好きかなって思って、そこの自販機でアイスの缶コーヒー買ってきた!」

P「愛依……」

P「ありがとう……」グスッ

愛依「ちょっ!? 泣いてんの!?」アセアセ

P「……ふっ、嘘泣きだ」

愛依「え?」

愛依「も、もう……本気でおかしくなっちゃったのかと思ったんですけど!」

P「ははっ、すまんな」

愛依「……」

愛依「……なんていうか、さ」

愛依「こう、なんてお礼したらいいか……」

P「そんなこと気にするなって。俺がしたくてしたんだからさ」

愛依「だ、だけど……!」

P「ほら、愛依に缶コーヒーももらえたし。気にするなら、これが報酬ってことでいいよ」

愛依「うちが言いたいのはそういうことじゃなくて……」

P「?」

愛依「……」

愛依「……ま、いまは――いいっか」ニコッ

愛依「これからもうちがプロデューサーの服選んだげるから!」

愛依「……だから――」

愛依「――一緒に買い物! ……また行こ」

とりあえずここまで。

~事務所~

あさひ「うーん……」

冬優子 ポチポチ

愛依「zzzZZZ」

P カタカタ

あさひ「むむむ……」

冬優子 ポチポチ

愛依「zzzZZ……フガッ」

P カタカタ

あさひ「あーっ! わかんないっす!!」

冬優子「もう! うっさいわねー……さっきから何うなってるのよ」

愛依「っ!? な、なに!?」ガバッ

P「はは……にぎやかだな」

あさひ「わかんないっす……」

冬優子「はぁ……」

冬優子「はいはい、何がわかんないっての?」

あさひ「いま、星はどこにあるのかが……わかんないんすよ」

あさひ「夜には見えるのに……太陽が昇ってるときには見えないじゃないっすか!」

冬優子「はあ? あんた何言ってんのよ」

冬優子「見えてないだけでいまもあるわよ――あの青空の上に」

あさひ「見えて……ない……?」

冬優子「そうよー。わかったら大人しくしてなさい」

愛依「ふわぁぁぁ……ねみ……。んーっ。寝ちゃった……zzzZZZ」バタリ

あさひ「でもでも、冬優子ちゃん」

あさひ「もし星が夜にだけ現れて……太陽が出てくると消える……それなら――」

あさひ「――不思議で、面白いことじゃないっすか?」

冬優子「あんたね……話聞いてたの?」

冬優子「いつ出てきていつ消えるとかじゃないのよ。いつもあるの。見えるかどうかが時間によって違うだけ」

あさひ「冬優子ちゃんは、それ、自分で確かめたことあるんすか?」

冬優子「それは……ないけど」

あさひ「これは……調べる必要がありそうっすね!」

冬優子「ふゆは付き合わないからねー、やるにしても、あんた一人でやってなさい」

あさひ「えー」

あさひ「愛依ちゃーん」ユサユサ

愛依「んー……あと5分……」

あさひ「つまらないっすー!」

P カタカタ

あさひ テテテ

あさひ「プロデューサーさん!」

P「お、あさひか。どうした?」

あさひ「昼の間……星はどうなってるっすか?」

P「そうだな……」

P「……」

P「……今度、調べてみようか、一緒に」

あさひ「わーい! やったー!!」

冬優子「あんた正気なの? その中学生を相手にするわけ?」

P「まあ、プロデューサーである前に……大人だしな。子どもの疑問に答えてやりたい気持ちはあるよ」

冬優子「ふーん……ま、頑張んなさい」

P「ふっ……」

冬優子「な、なによ、急にほくそ笑んで」

P「ま、じきにわかるさ」

冬優子「……?」

~某高原地帯~

P(今日は早朝から地方でストレイライトとして出すアルバムのジャケット用の撮影だ)

P(事務所の持つ素材を撮るためのロケでもある)

P(撮影は順調に進んだ)

P(特に問題もなく)


P「3人とも、お疲れ様」

愛依「あ、プロデューサー。おつかれ~」

冬優子 キョロキョロ

冬優子「……ふぅ。お疲れ様」

あさひ「おつかれっす!」

あさひ「いや~、楽しかった~!」

あさひ「超でかい芋虫っぽいクリーチャーがいたっす! 撮影中に低い姿勢でポーズとったら見つけたんすよ!!」

冬優子「……」

冬優子「はっ……! ま、まさかあんた、それ……」

愛依「あー大丈夫。うちがちゃんと言っておいたから」アハハ...

あさひ「愛依ちゃんに持っていっちゃだめって言われちゃったっす……」

冬優子「愛依、ナイス」

愛依「ま、ほら、あさひちゃん」

愛依「虫さんも自分の住んでるとこにいさせてあげないとかわいそうっしょ」

愛依「だから、ね?」

あさひ「うー……そういうもんすかね……」

P「はは……」

P「そういえば、思ったよりも撮影が早く終わったな……よし」

冬優子「このあとになにかあるの?」

P「まあな。みんな、これからはオフだろ?」

P「ちょっと、俺と出かけようぜ」

あさひ「面白いことっすか!?」

P「そんなところだ。というわけで、出る準備をしてくれ」

~某天文台~

冬優子「……はぁ」

冬優子「呆れた」

P「まあ、時に素朴な疑問というものは……とことんまで追究すべきなのさ」

愛依「プロデューサー、覚えてたんだ」

あさひ「星……!!」

あさひ「あ、でも……ここで何ができるんすか?」

P「それは……入ってからのお楽しみだ」


冬優子「なんか、イベントみたいのやってるみたいね」

P「ああ、そうなんだ」

愛依「へー、あんまこういうとこ来ないけど、なんか楽しそうかも!」

P「たまにはいいもんだろ」

P「ほら、あさひ。先に行って何やってるか見てきていいぞ」

あさひ「はいっす!」タタタッ

あさひ「……!」

あさひ「『昼の星 観察会』……!」

P「さ、昼に星はどうなってるか――」

P「――自分の目で、確かめてみよう」

P(撮影のための日程っていうのもあるけど――天気が良くて本当によかった……)

あさひ「……」

冬優子「あいつ、すごい集中力で覗いてるわね」

P「まあ、あさひだからな」

愛依「ああなったあさひちゃんはすごいよねー。レッスンでも時々あんなカンジになってるなー」

あさひ「……」

あさひ「あ――」


あさひ「――見えた」


P「どうだ? 何か見えたか?」

あさひ「はいっす! 金星が見えたっす!」

あさひ「プロデューサーさんも見るっすか?」

P「そうだな。どれどれ……」

P「……あ、見えた」

P「よいしょっと……他にもいろんな星が見れるらしいぞ。ほら、もう少し頑張ってみな」

あさひ「! ……もっと探すっす!」

あさひ「んーっ……」

P「あ、隣が空いたな」

P「冬優子と愛依もそっちで見たらどうだ? せっかく来たんだしさ」

冬優子「……」

愛依「あ、じゃあうちも見るー」

冬優子「……ふゆも、見るわ」


愛依「おっ!? もしかしてこれかなー……」ムムム

愛依「プロデューサー! これって何?」

P「うーん……木星かな」

P「こっちの方を見ると太陽系内惑星以外のほかにもいろんな恒星が見れるぞ」

愛依「マジ!? 冬優子ちゃんっ、一緒に探そ~」

冬優子「う、うん……」

愛依「ここ、覗いてみて」

冬優子「んっ……」

冬優子「……ほんとだ、見えた」

愛依「ね? すごいわ~」

冬優子「ほら、交代――」パッ

冬優子「――って! 顔近……」

愛依「あ、ごめん……すぐ覗けるようにって……」

冬優子「……」

愛依「……」

冬優子「……他の星さがそ」

愛依「そ、そだね……」

あさひ「ふぅ……いろんな星見つけたっす~」

P「どうだ? 昼に星を見た感想は」

あさひ「とりあえず、後で冬優子ちゃんに謝るっす」

あさひ「冬優子ちゃんの言ってたことは本当だったっすから」

P「ははっ、そうか」

P「まあ、星は夜にだけ現れているっていう考え方も、俺は嫌いじゃなかったぞ」

P「なあ、あさひ。あそこには……何がある?」

あさひ「何って……まぶしっ。た、太陽っす」

P「そうだな」

P「じゃあ、普通にこっちの方を見てくれ」

あさひ「?」

あさひ「はいっす」

P「いま、真っ直ぐ立って前を向いてる状態で、あさひの目には太陽が見えてるか?」

あさひ「いや……見えてないっす」

P「そうだよな。まあ、窓とか何かに反射してるとかじゃなけりゃ、そうだ」

P「ってことは、いま、太陽はないんじゃないか?」

あさひ「……」

P「太陽は見えてない……だから、太陽はいま存在しない」

P「どうだ?」

あさひ「……その発想はなかったっす」

P「まあ、太陽だと周りを照らしてるからって反論ができるし、本来なら夜に月を題材にして話すべきなのかもしれないな」

P「見えてるものがすべてっていうと、極端な話、こういうことにだってなるんだ」

P「だからさ、思うんだよ」

P「見えてないけど大切なものって、きっといつだってあるんだろうな――って」

あさひ「見えてないもの……見えてるもの……」

あさひ「大切な……」

P「アイドルって、五感では語れないものがたくさんあるはずなんだ」

P「俺は、あさひがそれを想像する中で何を見つけてくれるのかを、心から楽しみにしてるよ」

あさひ「……えへへ、そうっすか」

あさひ「わたし、いま、面白いこと見つけたっす!」

P「お、どんなことなんだ?」

P「よかったら、聞かせてくれよ」

あさひ「プロデューサーさんっす!」

P「……俺?」

あさひ「そうっす! プロデューサーさんは面白いっす!」

あさひ「いろんな話をしてくれて、わたしのお願いも聞いてくれて……」

あさひ「アイドルを――教えてくれて」

あさひ「こんなに……、こんなにわたしのこと考えてくれる人、はじめてっす」

あさひ「……」

あさひ「わたし、アイドル頑張るっす! いままで以上に……」

あさひ「面白いこと探し、続けたいっすから」

あさひ「もっと、プロデューサーさんが一緒が……いいっすから」ボソッ

冬優子「プロデューサー!」

P「!」

愛依「うちらはもう満足したよー。そっちは?」

P「そうだな、あさひ次第だけど……どうだ?」

あさひ「大満足っす!」

P「そうか。それは良かった」

P「それじゃあ、帰ろうか」

P「帰り道は長いから、遠慮せず寝ちゃっていいからな」

あさひ「あ、わたし、助手席がいいっす!」

P「長時間だからな……あさひは車酔いするのか?」

あさひ「別に……あ、まあ、そんなとこっす」

P「?」

P「冬優子と愛依は、それで大丈夫か? 車酔いとかで助手席希望とかは……」

冬優子「ふゆは後ろでいいわ。遠慮なく寝させてもらうもの」

愛依「うちも後ろでいいよー、ふわぁぁ」

P「じゃあ、あさひが助手席だな」

あさひ「えへへっ」ニコッ

あさひ「はいっす!」

とりあえずここまで。

>>41 訂正:

あさひ「つまらないっすー!」
→あさひ「つまんないっすー!」

~テレビ局~

P(今日はバラエティ番組の収録だ)

P(最近はこうしたタレント的な露出も増えてきたな――うまくいくように俺もがんばろう)

P フラッ

P「……っ」

P(疲れてるのかな……実際、最近ちゃんと休めていなかったかもしれない)

P(あいつらの収録が終わって車で送ってやれば今日の仕事は終わりだ――)

P(――それまでもってくれ)


P(終わったみたいだな)

P「お疲れ様。3人とも、今日もよかったぞ」

冬優子「ふぅ……これくらい普通よ」

冬優子「普通じゃなきゃ、いけないの」ボソッ

愛依「おっつかれー! いやー、あの司会者の人マジで面白かった!!」

あさひ「あっ、プロデューサーさん! お疲れっすー」

P「はは……俺が心配する必要はないよな。もう」

冬優子「……あんた、大丈夫? 顔色悪いわよ」

P「え? そ、そうか?」

愛依「ほんとだ……。プロデューサー、体調悪かったりしない?」

P「だ、大丈夫だよ」

P「ちょっと自販機でコーヒーでも買ってくる」

P「お前らはしばらく休んでてくれ。一番頑張ったのは、そっちなんだからさ……」

冬優子「ちょ、ちょっと……!」

愛依「行っちゃった……ね」

冬優子「……」

あさひ「……」

~テレビ局、ロビー~

P「……と」

P「コーヒーは……、130円……」

P「財布財布……」

P グラッ

P「あ、あれ――……?」

P(ああは言ったけど――体調、やばいかもな)

P「早く買おう」

パラパラ...

チャリィンッ

ドサッ

P「……?」

P(ゆ……か? なんで――こんな低い視線……)

P(これじゃまるで……倒れてるみたいじゃないか……)

P「……」

P(すまない……3人とも……)

P(見栄なんて張るもんじゃないな……)

~病院 病室(個室)~

P「……」

P「……っ、んん」

P ムクッ

P「ここは……」

P(そうか――俺は、倒れたのか)

P(過労だよな……ったく、自分だって身体が資本みたいなもんなのにな)

P(こんなんじゃ……冬優子に怒られちまう)

P(このままじゃ……愛依に心配させちまう)

P(あさひには悲しい顔……させちまうかもな)

P「次あいつらにあったら――なんて言えばいいんだろうな」

翌日。

~病院 病室(個室)~

コンコン

アレ? サンカイダッケ?

コンコンコン

P「はは……」

P「はい、どうぞ」

ガララ

愛依「あっ、プロデューサー……」

冬優子「……」

P「……ありがとう。見舞いに、来てくれて」

P「俺がいない間も、仕事は大丈夫だったか? レッスンは問題なく受けられたか?」

P「そうだ……明日の予定……」

愛依「ちょっ、プロデューs――」

冬優子「――ふざけないで」

P「冬優子?」

冬優子「こんなになって、さんざん心配させておいて……それでも仕事が大事なの?」

P「それは……お前たちがちゃんとアイドルやっていくために……」

冬優子「ばかにしないで……!」

冬優子「ふゆは……ふゆたちは……あんたにおんぶにだっこじゃないとどこにも行けないアイドルなんかじゃない!」

冬優子「あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?」

冬優子「そんなに――情けない?」

冬優子「あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?」

愛依「冬優子ちゃん……」

冬優子「それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね」

P「それを言われると……返す言葉もない……」

冬優子「自分の頭の中だけで完結させんじゃないわよ……目の前にいるアイドルを、ちゃんと見なさいよね」

冬優子「そんなこともわからないプロデューサーなんて……グスッ」

冬優子「い、いらないんだから……っ」ポロポロ

愛依「まあまあ、冬優子ちゃんもそこまで! まっ、うちも似たようなこと思ってたけどね」

愛依「冬優子ちゃんが全部言ってくれたカンジするし、もういいやー!」

愛依「とにかく、プロデューサー? ちゃんと休まなきゃ駄目だかんね?」

P「わ、わかりました……」

冬優子「ふ、ふん……ちゃんと反省すること」

冬優子「また、ふゆたちの好きな――ストレイライトのプロデューサーになって、事務所に来なさい」

愛依「そーそー。うちも、うちらが好きなプロデューサーを待ってたいかな」

P「すまなかった……」

P「見失ってたもの、ちゃんと見つけてから、またプロデューサーとして会いに行くから――」

P「――待っていてくれ」

冬優子「でも、あんまり待たせんじゃないわよ」

冬優子「あんたがいない間、代わりにはづきさんがプロデューサーの仕事してくれてたけど、結構手際良かったわよ」

愛依「あ! それある!」

愛依「あんまりもたもたしてっと……取られちゃうかもね~。プロデューサーの座、ってやつ?」

P「あはは……死守してみせるよ」

P「……そういえば、あさひは来てないのか?」

愛依「あー……」

冬優子「……」

P「用事があって来れなかったとかそんなところか?」

愛依「い、いや、そうじゃないんだけどね」

冬優子「あいつ、来てたのよ。病院まで」

P「?」

冬優子「プロデューサーに会いに行くついでに面白いこと探すとかわけわかんないこと言ってお見舞いにはノリノリで……」

冬優子「出発する前にはしゃいじゃって、バスで爆睡するほどだったのに――」


~病院 廊下~

冬優子「ちょっと遠いわね、あいつの病室って」

愛依「この廊下を最後まで行って隣の建物……だっけ?」

あさひ「うーん、なんかないっすかね~」キョロキョロ

冬優子「あんたね……場所を考えなさいよ。ったく」

冬優子「それにしても静かね」

愛依「確かにね~」

あさひ「……」

あさひ スンッ

冬優子「急に止まって何やってんのよ。ほら、行くわよ」

あさひ ボーッ

愛依「あさひちゃん?」

ガララ スーッ

冬優子「あ、看護師さんと患者さん……車椅子ね。ほら、道空ける」サッ

愛依「はーい」

あさひ ジーッ

冬優子「さ、行くわよ」

あさひ「……っす」

冬優子「なんですって?」

あさひ「い、いやっす! いや……いやいや嫌イヤァッ!!」

冬優子「ちょ、ちょっと……! いきなりどうしたってのよ!」

愛依「あさひちゃん大丈夫?」

あさひ「ひぐっ……ううっ……」ポロポロ

あさひ「あああぁぁぁっ!!!!」ダッ

愛依「あさひちゃん!?」

冬優子「……追いかけるわよ、愛依」

愛依「う、うん……」


冬優子「――ってことがあって……でも、追いつけなくて、見失った。LINEで『わたしに構わずお見舞い行ってほしいっす』って来たから、とりあえずあんたに会いに来たけどね。こっちから送って待っても返信来ないし」

P「そうだったのか……」

冬優子「まあ、あさひのことは、はづきさんにも相談してこっちでなんとかしてみるわ」

冬優子「あんたも、あいつに連絡するくらいならいいけど、その身体で探しに行こうだなんて思わないでよね」

P「あ、ああ……さっきの言葉は刺さったし、ちゃんと養生するよ」

冬優子「そ。ならいい」

愛依「あっ、やばっ!」

愛依「冬優子ちゃん、バスの時間……!」

冬優子「っ、そうだった……! ここ、そんなにバス多くないのよね」

P「気をつけて帰るんだぞ」

冬優子「いまのあんたに言われるのは……ふふっ、まあ、それくらい聞いておいてあげる――」

冬優子「――またね」

愛依「まったねー、プロデューサー!」

P「おう」

ガララ

P「……」

P「あさひ……」

P(ふと、あさひが時々する悲しい表情を思い出した)

P(俺は、あさひの何を知っているんだろう)



あさひ「花火……花火に心があったら、どう思ってるんすかね」

あさひ「打ち上げられる瞬間とか、自分がどんなに綺麗な花火だって知ってても、飛ばされたら最後……じゃないっすか」

あさひ「花火は綺麗っす。でも、わたしは花火にはなりたくないっす」


あさひ「はいっす! わたし、いい子にしてるっす!」


あさひ「今日のことは一生忘れられないかも!」


あさひ「こんなに……、こんなにわたしのこと考えてくれる人、はじめてっす」



P「……早く、元気になって、あいつにも顔を見せてやらないとな」

とりあえずここまで。

数日後。

~病院 病室(個室)~

P「短い間だったけど、この部屋ともおさらばだな」

P(この数日間、社長やはづきさんからも、しっかり休むようにと、仕事に関する連絡は一切来なかった)

P(俺がいない時に何か問題が起こらないかと心配にもなったが――)

P(――愛依も言ってたように、はづきさんがうまくやってくれているようだ)

P(そもそも、そんな心配をすること自体が傲慢だ)

P(俺がいなくてもある程度機能してるってことなのだから)

P(では、俺がいる意味とは一体何だろう)

P(あいつらにとって、俺はどんな存在でいられるんだろう)

P(俺じゃなきゃいけない――そう言うための根拠が欲しかった)

P「……って、悲観してどうする」

P(あいつらをここまでプロデュースしてきたのは他でもない俺なんだ)

P(俺が胸張ってプロデュースしてやらないと、これまで俺についてきてアイドルをやってきたあの3人に失礼だろう)

P「俺がやってきたこと、俺がやろうとしていること……」

P「……俺が認めてやらないでどうするんだ――ってな!」パシン

P「よし」


~病院 廊下~

P(やっぱ正門まで遠いんだよな……)

P「……」

P(静か、だよな。ここ)

P「……?」

P(通り過ぎようとした個室の扉が、なぜか気になった)

P(正確には、扉の横――うっすらと、文字列のようなものが見えた気がした)

P「落書き……なのか? でも、読めないな……外国語だろうけど、英語じゃないよな」

P(英語でなくても、メジャーな外国語なら何語かぐらいわかるのに、それでもさっぱりだった)

P「アイ……ド……リ?」

P(そんなふうに俺が落書きを凝視していると、看護師に声をかけられてしまった)

P(落書きを見ていたことを話すと、どうやらその看護師は例の落書きを拭いて消すために洗剤と雑巾を持ってきたのだと言う)

P(結局、誰かのいたずらだったという結論に2人はたどり着き、その場を後にした)

~事務所~

P(病院帰りに顔を出そうと思って来てみたけど、はづきさんしかいなかった)

P(社長はテレビ関係のお偉いさんとの話し合いでいないらしく、ストレイライトの3人はラジオの収録があるのだという)

P「スケジュール表は……、と。あった」

P「3人はもう帰ってくる頃か」

P「待ってみようかな」


冬優子「お疲れ様でーす」

P「おっ、冬優子じゃないか」

冬優子「……って、あんた、来てたんだ」

P「まあな。退院したから、家に帰るついでに顔出してみようと思ってさ」

P「愛依とあさひは一緒じゃないのか?」

冬優子「愛依なら夕飯の当番とかで急いで帰ったわよ」

冬優子「あさひは武装商店見つけるやいなや飛び込んで行ったわね。夢中になってこっちの言葉に耳貸さないから置いてきたわ」

P「置いてきたってな……」

冬優子「悪かったわね」

P「なにが?」

冬優子「愛依でもあさひでもなくて、ここに来たのがふゆで」

冬優子「別にあんたがいるかもと思って会いに来たわけじゃ……ない……んだから」ボソッ

P「ははっ、そんなことないぞ。会えて嬉しいよ」

冬優子「なっ、何言ってんだか!」

P「あと、ありがとうな。お見舞いに来てくれて」

P「改めてお礼を言わせてくれ」

冬優子「お礼はいいから、……これからもちゃんと気を抜かずにプロデュースしなさいよね」

P「ああ! これからもよろしくな」

P「……そうだ。あれから、あさひはどんな感じだ?」

冬優子「あの中学生ならいつも通りよ。ほんと、あれはなんだったんだって思うわ」

P「そうか……」

冬優子「あっ、そうだ」ガサゴソ

冬優子「はい、これ」

P「これ……『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』の……」

冬優子「そ。円盤」

冬優子「言ったでしょ。ふゆが貸してあげるって」

冬優子「かばんが重くなるから、とりあえず今日はこれだけ貸しておくわ」

P「ありがとう、冬優子。楽しみだよ」

冬優子「……ふふ」ニコ

冬優子「ええ! 超面白いから、期待してなさい!」

P「そうだな……うん。このキャラの絶対領域、これは期待できる」

冬優子「ちょっ、あんたね……!」

P「何か問題でも?」

冬優子「開き直ってんじゃないわよ。いい? 視野を広く持つこと! それぞれのキャラが特別でキラキラしてて、魅力的で――」

冬優子「――そんなアイドルの女の子たちがみんなで力を合わせてもっとキラキラするところに本質があるの!」

冬優子「そんな局所的な見方はやめて、大域的に考えるのよ!」

冬優子「も……もちろん? まあ、みんな可愛いから? なんて言うか、そういう……その……ゴニョゴニョ」

冬優子「とにかく! 劣情禁止! わかった?」

P「わからない」

冬優子「なんでよ!!」

P「冬優子……お前は1つ大切なことを忘れている」

冬優子「なによ、初心者のくせに偉そうに言ってくれるじゃない」

P「確かに俺はこの作品の初心者ではあるが、作品のキャラに注目する上で普遍的なことがあるはず……そうだろう?」

冬優子「……どういうことよ」

P「大域的なものは局所的なものの集積だということを……!」

P「キャラ1人1人の一部を見ていき、その1つ1つを評価していくことで全体像――キャラの魅力というものが推し量れるんだ!」

冬優子「あー、頭痛くなってきたわ」

P「全体像を正確に見るには、その一部を詳細に把握することが重要なんだよ……」

冬優子「で、結論は?」

P「絶対領域が好きで何が悪いんだ」

冬優子「絶対領域が好きなのは悪くないけど、自分のプロデュースしてる未成年アイドルの前でそれを語ることは悪いことね」

P「この社会は……寛容じゃないんだな……」

冬優子「社会人にもなって自分の趣味全開で暴走するやつには、そりゃ優しくないわね」

P「易しくもない……人生ハードゲームという感じだ」

P「冬優子……悪いのは俺じゃなくてこの社会なんじゃないか?」

冬優子「…………はああぁぁぁ…………」

P「どうしたんだ冬優子、なんかのモンスターみたいだぞ」

冬優子「モンスターって……あんたのほうが十分危険な存在よ」

P「そうだ。ひょっとして……うん。俺が社会をプロデュースしてやればいいのでは?」

冬優子「何言い出すのかと思えば……」

P「その後で言うんだよ」

冬優子「?」

P「よし、楽しく暮らせたな」

冬優子「やかましいわ」

冬優子「って、もうこんな時間……」

冬優子「そろそろ帰るわ」

P「じゃあ送っていくよ――って、あ……」

P「今日は出勤しに来たわけじゃないの忘れてた……」

P(いつもの仕事モードで、つい車がある前提で話しちまった)

冬優子「ぷっ、あははっ」

冬優子「ほんと、仕事人間ね」

冬優子「でも……ありがと」

冬優子「じゃあ、さ。駅まで送って」

P「わ、わかった」

P「いや、しかし……」

P「暑いな……」

冬優子「しばらく外に出てなかったんだから、まあ、余計にそう感じるのかもね」

P「夜は涼しいもんじゃなかったのかよ……」

P「さっき自販機あったから、あの時に買っておけばよかったんだろうなぁ……」

P「そうすれば、いまこうして乾きに苦しむこともなかったのに……なんてな」

冬優子「……」

P「冬優子……? どうしたんだ?」

冬優子「あの時、ああしていたら――」

冬優子「――こんなことにはならないで、もっと良い結果になってたかもしれないのに」

冬優子「そう思うことって、あるわよね」

P「俺の飲み物のことなら心配しなくてもいいんだぞ? まあ、駅ももうすぐだしな」

冬優子「あんたはさ、そういうの、ないの?」

冬優子「今だって十分良い……でも、あのとき、もっとこうしていたら、こういう決断ができていれば……」

冬優子「今はもっと良くなってたかもしれないのに、って……そう思った経験」

P「……」

冬優子「変なこと言ってごめん。なんか、今のあんた見て、ふと思っちゃって」

P「いいさ。構わないよ」

P「そうだな……そりゃ、あの時もっと頑張ってたら――とか、あの時諦めなかったら――とか、そういう経験はたくさんあるよ」

P「「今だって十分いいけど、あの時こうしてたら、今はもっと良くなってたかもしれないのに」……か」

P「今が十分いいなら大丈夫だよ。明日を、来週を、来年を、数年後を、そしてもっと先の未来をも良くするために――」

P「――今この瞬間から、これからを大切に歩んでいけば、きっと後悔なんてしないし、どうどうと胸を張っていける」

P「俺はそう思うよ」

P「自分で自分を肯定してやれるだけで、いろいろと楽になるんじゃないか?」

冬優子「そっか……そうよね」

P「そうだとも」

P「あの時ああしていれば、こうだったのに――なんてのは中学で勉強する英語の仮定法の例文で十分だよ」

P「過去は大切だし忘れちゃいけないようなものだってある。でも、常に向き合っているのは過去ではなく――」

P「――今から続いている未来だよ」

冬優子「……話したら楽になったわ」

冬優子「はぁ……ふゆの弱さ、見せすぎてるわね、ほんと」ボソッ

P「え?」

冬優子「なんでもないわよ」

P「見せすぎてる……だと? 絶対領域なのに見せすぎって空事象じゃないのか……? いや、あるいは……」

冬優子「なんでそこだけ聞こえてんのよ!」

冬優子「もうっ、締まんないだから……」

冬優子「……ふふっ」

冬優子「ばーか」ニコッ

とりあえずここまで。

>>63 訂正:
P「易しくもない……人生ハードゲームという感じだ」
→P「易しくもない……人生は高難度ゲー、という感じだ」
※P「易しくもない……人生ハードモードという感じだ」と打とうとして生じた誤植なのですが、直しても微妙なものに見えたので、少し変えました。


>>68 訂正:
冬優子「なんでそこだけ聞こえてんのよ!」

冬優子「もうっ、締まんないだから……」



冬優子「なんでそこだけ聞こえてんのよ!」

冬優子「っていうかふゆの絶対領域の話じゃないから! いい加減その話題から離れなさいよね」

冬優子「もうっ、締まんないだから……」

※セリフ1つ入れ忘れました。

~事務所~

P「こんにちはー……」

P(今日は営業だったけど……懇意にしてもらっているとはいえ苦手なんだよなぁあの人……)

P(とても疲れた……)

P(まだ仕事残ってるけど、少し休んでからでもいい――よな?)

P「はづきさん――は、いない……か」

P(そういえば今日ははづきさんのオフだったっけ)

P「誰もいないのか?」

P(ソファーで横になるかな……少し、少しだけだから……)

P「これ……アイマスクか」

P(はづきさんが使ってたやつだよな。勝手に使ったら怒られるかなぁ)

P(まあ、バレなきゃいいか?)

P「おやすみなさい……」

P(アイマスクをつけてからソファーで横になり、しばしの間、仮眠をとることにした)

「あ……え、えっと……」

――普段とは違う視点。

「きょ……今日は……えと……」

――他の人たちは下からこっちを見ている。

「あ、ありが……と」

――うちは……何を見てんの?

「……」

――見渡す限りの眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼。


P「うわあぁぁっ!?!?」ガバッ

「わっ!? びくった……」

P「っ!? く、暗い! 目の前が真っ暗だ!!」

「ちょ、落ち着きなって」

P「だ、だって目が覚めたはずなのに何も見えないんだ!」

「アイマスクしてるからっしょ。ほれ――」パッ

P「――あ」

P「っ、まぶしい……」

「……もう」

愛依「プロデューサーって、案外、天然……ってヤツ?」

P「そ、そうなのかな……」

愛依「それか、疲れてんじゃない? ちょうど今まで寝てたわけだし」

P「まあ、確かに疲れたから仮眠を取ってたけど」

P「愛依はどうして事務所に?」

愛依「レッスン終わってから暇でさ。今日はうち1人でだったし、友だちは都合悪いしで――」

愛依「――なんとなくここ来てみたってコト」

P「そうか」

P「……というか、なんか変じゃないか?」

愛依「変って、何が?」

P「俺は愛依がいないときからソファーで寝てたけど」

P「愛依はいまソファーにいるよな」

愛依「そだね」

P「俺がソファーを独占してる形だったのにそれはおかしくないか?」

愛依「だって、事務所来てからプロデューサーが起きるまで膝枕してあげてたかんね」

P「膝枕か……なるほど」

P「って、膝枕と言ったか!?」

愛依「言ったけど……」

P「ものすごいスキンシップをとってしまった……プロデューサーとアイドルなのに……」

愛依「まあ、他の人に見られてないし、大丈夫じゃん?」

愛依「プロデューサー、ソファーで寝苦しそうにしてたからさ」

愛依「うち、寝かしつけるのちょー得意だから」

愛依「他に誰もいなかったし、膝枕でもしてあげようかなーって」

愛依「もしかして……嫌――だった?」

P「いや、そんなことはないぞ。ありがとう」

P(よく眠れた――と言って良いのだろうか)

P(妙な夢を見た。自分の経験ではない、誰かの見た光景の夢……)

愛依「プロデューサー?」

P(まさか、な)

P「愛依の膝のおかげで残りの仕事も頑張れそうだよ」

P「ありがとう」

愛依「ばっ!? ……ひ、膝のお陰とか、わけわかんないし」

愛依「まあ、疲れが取れたならいっかな」

愛依「うちさ、スーツのままソファで寝苦しそうにして横になってるプロデューサー見て思ったんだよね」

愛依「うちがいつもすっごく楽しいのは、プロデューサーのお陰で」

愛依「プロデューサーが連れてきてくれたアイドルの世界で、あさひちゃんと冬優子ちゃんに会って」

愛依「うちのアレなところ、プロデューサーはアイドルとしてのキャラってことで形にしてくれて」

愛依「ほんと、感謝してもしきれないんじゃねって……」

愛依「プロデューサーはうちにいろいろしてくれる――」

愛依「――けど、うちがプロデューサーにしてあげられてることなんて、ない……」

愛依「だからさ、まあ、なんての? 貢献ってやつ?」

愛依「何言ってんだろうね、うち。はは……」

愛依「でも、何かしてあげたかったからさ」

P「愛依……」

P(いつもは明るくおおらかな愛依が――表情を暗くしていく)

P「別に気にすることなんてないぞ。貸し借りでプロデュースやってるんじゃないんだ」

P「それに、愛依が俺のプロデュースするアイドルでいてくれれば、それでいいよ」

愛依「……プロデューサーは優しいよね」

愛依「でも、駄目なんだよね。それじゃうちが納得いかないから」

愛依「だって、だって……さ」

愛依「うちが楽しく過ごせば過ごすほど、プロデューサーが……」グスッ

愛依「どんどん……疲れて、苦労しちゃうみたいで……」ポロポロ

愛依「そんなの、うちはやだよ……!」

P「あの、愛依……」

愛依「うちにはそう見えてんの! それが……うちは……」

P「……愛依は、俺にどうして欲しいんだ?」

P「プロデューサーとして、アイドルのためなら苦労だって疲労だって耐えてみせるくらいの気持ちではあるさ」

P「それでも、愛依がそんな俺を見るのが辛いっていうなら」

P「愛依がどうして欲しいか、聞かせてくれ」

愛依「……」

愛依「うちがプロデューサーにどうして欲しいか……」

P「今すぐに聞かせてもらえなくてもいい。愛依なりに言葉にできるようになったらでいい」

愛依「……うん」

愛依「わかった。そうする」

愛依「あー! 暗いのやめやめ! らしくないよね、こういうの」

P「愛依は普段通りなのがいいよ。そのほうが俺は安心する」

P「アイドルとしてクールなキャラを演じてる愛依もいいけど、俺がアイドルにしたいって思ったのは、自然体の和泉愛依って女の子だからさ」

愛依「そ、そういう言い方されると……照れる」

愛依「……さっきも言ったけど、さ」

愛依「毎日がすっごく楽しいんだよね」

愛依「ほんとに、楽しいんだ……」

愛依「でさー、なんか思ったんだよね」

愛依「楽しい――よりもすごい、それ以上のことってなんなんだろーなって」

愛依「で、まあ、頭良くないけどうちなりに考えて……」

愛依「それって、しあわせっていうんじゃないかなって」

愛依「前にさ、一緒に買い物行ったじゃん?」

P「ああ。ショッピングモールに行ったよな」

P「愛依に服を選んでもらった」

愛依「そそ。そんときね」

愛依「親子3人で仲良しの人たちを見て……あの人たちはきっとしあわせなんだろうなって思った」

愛依「それを思い出したときに、しあわせって楽しいだけじゃないのかなって」

愛依「もっと、楽しい以外の何かが必要なのかなって」

愛依「そんな気がしたんだよね~」

P「楽しい以外の何か、か……」

P「愛依の考えたことは、きっとそう簡単に解決する話ではないのかもしれない」

P「幸せが何なのか――それは、たぶん俺にもよくわからないから」

P「でも……そうだな」

P「幸せっていうのは、どんなに頑張っても1人では掴めないんじゃないかって思う」

愛依「2人いればいいってこと?」

P「2人以上、かな。3人でもいい。俺と愛依が見た家族は3人だっただろ」

愛依「あ、確かに」

P「2人でも幸せになれると思うけどね。大雑把に言えば、重要なのは、まずは1人じゃないってことだと思うんだ」

P「そして……自分が1人と思わないこと」

P「自分が……独りだと思わないことだ」

P「絆のないところに、幸せは生まれないと思う」

P「って、わかってないくせに何語ってるんだろうな、俺は」

愛依「ううん。プロデューサーの言ってること、なんとなくだけどわかるかも」

愛依「いまでもさ、ステージであがっちゃうの、克服できてないけど」

愛依「原因は昔のことだとしても、いま治せてないのは、うちがステージで1人だと思ってたからなのかもなーって」

愛依「だってさ、何も敵に囲まれたとかじゃないじゃん? やばい場所に置いてけぼりにされたとかでもないし」

愛依「うちには……ファンも、あさひちゃんと冬優子ちゃんも、なによりプロデューサーがいるのにさ」

愛依「……よし、決めたっ!」

愛依「楽しい以上の何か――目指してみるわ」

愛依「あと、しあわせにも、なってみたい……いつかね」ボソッ

愛依「今日はありがとね。プロデューサーのおかげで元気出た!」

愛依「うちがプロデューサーを癒してあげたかったんだけど~……やっぱプロデューサーには敵わないな~」

P「愛依が元気になったなら良かったよ」

P「俺はプロデューサーなんだ。アイドルのために頑張るのは、当然のことなんだよ」

P「……」

P「……って、何か忘れてるような気がするな」

愛依「そういえばプロデューサーさ、ずっと寝てたけど、仕事は大丈夫なん?」

P「……それだ」

P「タイマー設定しないで寝たからだ……! い、今何時――ってもうこんな時間か!?」

愛依「結構やばい感じ?」

P「とりあえず徹夜しないと駄目みたいだ……」

愛依「そっか~~……」

愛依「じゃあ、うちも事務所泊まる!」

P「いやいや、そういうわけにはいかないだろう」

愛依「今日は大丈夫! うち以外は全員家いるから」

愛依「友だちの家泊まったことにしておくから、ね?」

愛依「夜食も作ってあげるし、うちでも手伝えることがあればお仕事も助けるし、疲れたらまた膝枕してあげるしさー」

愛依「ねね、悪くないっしょ? うちさ~、今日は帰ったってたぶん楽しくないし、明日1日オフなんだよね~」

P「はぁ……。駄目って行っても帰らないんだろうなぁ……」

愛依 ジーッ

P「……他の人には絶対に内緒だからな」

愛依「やったね。テンションあがる~」アハハ

愛依「そんじゃ、ま、頑張ってこ~」

とりあえずここまで。

数日後。

~事務所~

P カタカタ

冬優子 ポチポチ

あさひ ポチポチ

冬優子 ポチポチ

あさひ「!」

あさひ「冬優子ちゃん!」

冬優子「うわっ、びっくりした……」

冬優子「あんたね……いきなり驚かさないでくれる?」

あさひ「ちょうどわたしもスマホ持ってるんすよ!」

冬優子「だから?」

あさひ「最近始めた対戦ゲームがあって、それを一緒にやって欲しいっす!」

冬優子「めんど……」ボソッ

冬優子「あのねえ、ふゆはふゆでスマホ使ってやってることがあんのよ」

冬優子「今は付き合ってられないの」

あさひ「そうっすか……」

愛依「まぁまぁ、あさひちゃん、それならそのゲーム、うちとやらない?」

あさひ「いいんすか!?」

愛依「ちょうど暇だったし、いいよー」

あさひ「やったっすー!」

P(今日は午前中にレッスンで午後は休みだというのに、どこかに遊びに行く様子もなく事務所でリラックス、か)

P(まあ、あいつらにとってここが居心地の良い場所になってるなら、いいのかな)

はづき「あ、プロデューサーさん」

P「はづきさん――どうしました?」

はづき「ちょっと今いいですかー?」

P「あ、はい。大丈夫です」

はづき「こういうプロジェクトがありまして……」ガサゴソ

はづき「はい、これが資料ですー」

P「ありがとうございます……」

はづき「……」

P「……」ペラッ


P「アイドルユニットのメンバーが1人でどれだけ輝けるのか――ですか」

はづき「そうなんです」

はづき「この大会は、言うなればW.I.N.G.のソロバージョンって感じでしょうか」

はづき「ただし、出場の条件として、普段は主にユニットで活動しているアイドルが1人で出ること――があります」

P「あえてそうすることで、ユニットとしての活動は個々のウィークポイントを隠すための手段ではないことを示せ――と言われているような気分ですね」

P「直接そう書かれているわけでも言われたわけでもないですが」

はづき「はい……」

はづき「この283プロダクションにも声がかかってまして、それでプロデューサーさんにお伝えした次第です」

P「……」

P「出ない、という選択肢はあるんでしょうか」

はづき「その選択肢は存在しているけども与えられていない、と言えば良いのか……」

はづき「最終的な判断はプロデューサーさんが下すことになります」

はづき「私から何か言うつもりはありません」

はづき「……プロデューサーさんの決めたことを、全力でサポートしますよー」

P「……」

P「わかりました」

P「あいつらと話してきます」

P「3人とも、少し、いいか?」

冬優子・あさひ・愛依「?」

P「実は――」


P「――というわけなんだ」

P「だから……」

P「……」

愛依「?」

冬優子「何よ、らしくないじゃない」

冬優子「要するに、その大会にふゆたち3人の中の誰か1人が出るってことなんでしょ」

冬優子「……っ」

愛依「あの、さ……2人ともなんでそんな深刻そうなん?」

愛依「W.I.N.G.の1人ヴァージョンってこと――だよね?」

冬優子「それだけじゃないわ……!」

冬優子「この大会に出れば、1人でユニットの何もかもを背負うのよ」

冬優子「プロデューサーも言ってたでしょ、普段ユニットで活動してるアイドルが1人で出るんだ、って」

冬優子「勝てば天国負ければ地獄とはこのことよ」

愛依「そ、そっか……そだよねー……」

愛依「なんか……ごめん」

愛依「でも、それならあさひちゃんが出れば――」

冬優子「――わかってんのよ!」

愛依「っ!?」ビクッ

冬優子「わかって……るのよ」プルプル

冬優子「そうだけど……そんなの悔しいじゃない……!」

冬優子「これはふゆにとってチャンスでもあるのよ」ボソッ

冬優子「……ごめん。愛依にあたってもなんにもならないのにね」

冬優子「ごめん……」

愛依「いや、うちもあんま考えなしにしゃべってたし……」

P「まずは落ち着いてくれ」

P「俺は、誰が出ても構わないと思っている」

P「誰が出ようと、俺が勝たせてやるまでだ……」

P(愛依は冬優子に事の深刻さを知らされて若干ビビッちまってるな)

P(でも、愛依だって勝てる可能性は十分にあるんだ)

P(才能という意味では、確かにあさひは最強だろう)

P(それでも、あさひは完璧じゃない――完璧であろうとしていたのだとしても)

P(冬優子は――これを自分がのし上がるチャンスだと思っている)

P(だが、それは同時に、高いリスクを孕んでいる。それを冬優子はよくわかっているんだ)

P(だから、冬優子は「出たい」とは口に出せていない……)

P(あさひは特に意見なし、か……)

P「あさひ。お前はどう思う? 出たいか?」

あさひ「どっちでもいいっすかね。面白ければ出たいかもしれないっす」

冬優子「っ……!」グッ

愛依 アワアワ

P(3人の話し合いで決めさせるのは無理かもしれないな……)


P『誰が出ようと、俺が勝たせてやるまでだ……』


P(ははっ、随分と強く出たもんだな、俺)

P(でも、その気持ちがあるのは本当だ)

P(俺は、ストレイライトのプロデューサーとして、あいつらを必ず輝かせなければならない……!)

P(……)

P(一応、聞いてみるか)

P「どうだ? 誰が出るとか、決まりそうか?」

冬優子「……」

あさひ スンッ

愛依「……」

P「俺が、決めてもいいのか?」

冬優子「ふゆはあんたの決定に背かないわよ」

愛依「うちも……選ばれたら……その、ちょー頑張る」

愛依「あはは……なんかうまく言えなかったけど、でも――

愛依「――そのときは絶対勝つから」

P「あさひはどうだ?」

あさひ「プロデューサーさんにまかせるっすよ」

P「わかった」

P「俺は……」


1.愛依を選ぶ。
2.冬優子を選ぶ。
3.――この選択肢はロックされています―― 

選択肢↓2(いま選べるのは1.か2.です)

P「……冬優子」

冬優子「!」

P「出てみないか」

冬優子「そう……ふゆを選ぶのね」

P「強制はしないよ」

冬優子「別に出るのが嫌ってわけじゃないのよ」

冬優子「むしろ……ありがとう、というか……」ボソッ

冬優子「とにかく、あんたのこと、信じてるから」

冬優子「信じさせて……」

冬優子「ふゆも――死力を尽くすわ」

P「ああ、一緒に頑張っていこう」

愛依「うち、全力で応援するから……だから!」

愛依「……って、なんからしくないよね、こんなの」

冬優子「アイドルとしての愛依なら、別にらしいって言ってもいいんじゃない?」

愛依「ううん。いまのうちは、本当のうちとしても冬優子ちゃんのことと向き合いたいから」

愛依「だから、……うん。さくっと勝ってきてー!」

冬優子「はいはい。ご期待に添えるよう頑張るわ」

あさひ「……」

P(あさひは無言か……まあ、あさひのことだから、本当に気に留めていないのかもしれない)

P「いままで通りにユニットとしての活動も普通にあるからな」

P「冬優子は大会に向けてユニットとは別のスケジュールも組むことになるが……」

P「……ストレイライトは何も変わらないさ」

P「いつだって、お前らが一番だよ」

冬優子「もうっ、かっこつけちゃって……」

数十分後。

P(あれから、自然に3人は、今日は解散、という流れになった)

P(冬優子だけが事務所に残った――まあ、残ってくれたほうがこちらとしては都合が良いけども)

P「冬優子、ちょっといいか」

冬優子「……奇遇ね」

冬優子「ふゆも、ちょうどあんたに話があったのよ」

P「そうか。それなら良かった」

P(社長は――今日は不在だ。はづきさんは仕事をしている)

P「よし、場所を変えよう」


P「って言っても、倉庫だけどな」

冬優子「きゃー♪ ふゆったら、プロデューサーと密室で2人きりでドキドキしちゃってます……!」

冬優子「……っていうのはまあいいとして」

P(いいのか……)

冬優子「あんたからでいいわよ」

P「ああ……」

P「決して易しい道ではない――いや、はっきりいって厳しい道だ」

P「それは、お前があさひじゃないからではない」

P「あさひだって、簡単にクリアできるものではないんだ、今回のは」

P「それでも、俺は冬優子と勝ちたい」

P「勝って……ストレイライトは単なるアイドルユニットを超える価値があるってこと、証明したいんだ」

P「俺のエゴがないわけじゃない……それでも」

P「冬優子と証明したい」

冬優子「……」

冬優子「……はぁ」

冬優子「あんた、なに当たり前のこと言ってんの」

冬優子「当然でしょ、そんなの」

冬優子「それに、あんたのエゴじゃないわよ」

冬優子「……じゃ、ふゆの番ね」

冬優子「これは、ふゆにとってのチャンスなの」

冬優子「負けは許されない……それでも、勝てばふゆはもっとアイドルとして輝くことができる……!」

冬優子「あいつにだって、負けない……!」

冬優子「だから、お願い」

冬優子「ふゆを勝たせて」

冬優子「あんたのしたいこと、ふゆに叶えさせて」

冬優子「それが、言いたかったことよ」

P「ストレイライトの全部を背負うことになるって、冬優子は言ったよな」

P「確かにその通りだ。だけど……」

P「冬優子にはそれができる」

P「いや、冬優子だからできるのかもしれない」

P「俺は、ストレイライトのために、愛依でもあさひでもなく、冬優子を選んだんだ」

冬優子「……そ」

冬優子「ま、これくらい乗り超えてみせるわよ」

冬優子「ううん。乗り超えられるの」

冬優子「あんたがいてくれるから、ね」ニコッ

とりあえずここまで。

1ヵ月後。

~大会 予選会場~

P(最初の予選の日がやってきた)

P(参加登録しているアイドルは実におよそ1500名だという)

P(この大会は3回の予選と1回の決勝で構成されている)

P(まず、1回目の予選で参加登録したアイドルたちがランダムに4つのグループに振り分けられる)

P(各グループにおける上位20%が2回目の予選に進むことができる)

P(2回目の予選では、残ったアイドルたちが再びランダムに4つのグループに振る分けられ、やはり各グループの上位20%が次に進むことになる)

P(3回目も同様だ)

P(最後の決勝では、それまでの審査員に加えて大御所をゲストに迎えたメンバーによって優勝と準優勝が決定される)

P「……」

P(最初の予選に向けて、冬優子はこれまで以上にレッスンや自主練・自主トレに励むようになった)

P(無理をしないか心配だったが……いまのところは大丈夫そうだな)

P(愛依は冬優子を応援したり精神的なケアをしたりしてくれた)

P(冬優子もそれにかなり救われていたようだ)

P(あさひは……まあ、相変わらずだが、やはりその天才としての努力やパフォーマンスは本物で――)

P(――冬優子は、それを今まで以上によく見ていると思う。才能への嫉妬や力量の差による悔しさだけではなく、自分が成長するための参考にしようと懸命になっているんだ)

P(ストレイライトは、確実にユニットとしての成長を見せている)

P(あとは……この大会で結果を残して、ユニットがごまかしのための在り方でないことを証明すれば……)

P(俺も、胸を張っていかないとな)

P(あいつらが一番頑張ってるんだから)

P「……お」

P(1回目の予選のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ3だってさ、冬優子」

冬優子「そ……まあ、どうだっていいわ」

冬優子「勝ち残って、結果を残すだけなんだし」

P「ははっ……そうだな」

冬優子「そろそろ控え室に行くわ」

P「まだ、スタンバイまでは時間あるぞ?」

冬優子「……ううん。いいの」

冬優子「ふゆにかかれば、1回目の予選なんて余裕よ」

冬優子「そのための努力をしてきたんじゃない……」ボソッ

冬優子「だから、あんたはただ、ふゆが出てくるのを待って、ふゆが歌って踊るのを見て、ふゆが勝ち残るのを見届ければいいのよ」

冬優子「それとも、自分のアイドルが信じられないの?」

P「……そんなわけ、ない」

P「わかった」

P「帰りの車で土産話が聞けるのを楽しみにしておくよ」

P「それでさ、勝ち残ってテンション上がったまま話すんだ」

P「だから……行ってこい、冬優子」

冬優子「ふふっ……ええ!」

~グループ3 控え室(大部屋1)~

冬優子(まだ、あんまり人がいないわね)

冬優子(かえって好都合かも……今のうちにリラックスしておこうかしら)

冬優子「ふぅ……」

冬優子(勝ち残るのを見届ければいい……か)

冬優子(自分のアイドルが信じられないのか、とも言ったわね)

冬優子(あいつが、そう言われたらそれ以上何も言ってこれないのわかってて……)

冬優子「……」

冬優子(ふゆだって不安よ)

冬優子(これまでにないくらい練習もトレーニングもした。それなのに――)

冬優子(――あいつには、まだまだ、全く及ばない……!)

冬優子(あいつを今まで以上に観察して、その才能の一部でもふゆのものにしちゃえって思ったのにね)

冬優子(見れば見るほど天才というものを思い知らされるだけじゃないの)

冬優子(あんなやつが他にいたとしたら、ふゆは勝ち残っていけるの……?)

冬優子(そうやって思わないわけ……ないじゃない)

冬優子(怖い……)

冬優子(ふゆを支えてくれた愛依にあわせる顔がないような結果になることが怖い)

冬優子(あさひの才能が頭をよぎって恐れるあまりに身体が動かなくなることが怖い)

冬優子(なにより――)

冬優子(――プロデューサーを、裏切るようなアイドルになってしまうんじゃないかって……それが一番怖い)

冬優子「?」

ヒグッ、グスッ、ウウッ

冬優子「……」

冬優子(そうよね。泣く子、いるわよね)

冬優子(泣きたい子だってたくさんいるはず)

冬優子(ふゆは……どうなんだろう)

冬優子「泣けたら……楽なのかしら」ボソッ

数十分後。

冬優子(しばらく楽にしてたけど、なんか時間が経つと逆に落ち着かなくなってくる……)

冬優子(何気なく控え室を出てうろうろしてるけど、特に目的があるわけじゃないのよね)

モウヒカエシツイッタホウガイインジャナイカ?

ウッサイ……ベツニマダジカンアルデショ

冬優子(なんか、プロデューサーと揉めてるアイドルがいるわね)

ア、オイ!

ハァ……ナニカ?

オマエナラカテル! ソレガイイタカッタ

ソウデスカ、デハ

冬優子(あの子、こっちに向かってきたわ)

冬優子(この方向って……ふゆが来た道――グループ3の控え室の方向だわ)

冬優子(同じグループなのかしら)

冬優子(……まあ、別に気にすることないじゃない)

冬優子(いまは自分のことを考えるのよ、ふゆ……)

冬優子「あ、自販機……」

冬優子(何買おうかしら)

~グループ3 控え室(大部屋1)入り口付近~

冬優子(結局、水を1本買って戻ってきたわ)

ウーン

冬優子(あれ? さっきの子……)

冬優子(どの部屋に入ればいいのか、わからないのかしら)

冬優子(同じグループでもいくつか部屋が分かれてるし)

冬優子「あのー……大丈夫、ですか?」

「あ……」

冬優子「結構分かりづらいですよね~同じグループでも、さらに部屋がわかれてますし」

「はい……。すみません、私、これなんですけど」

冬優子「……これは、ふゆと同じ部屋ですねっ」

「あ、そうなんだ」

冬優子「それなら話がはやくてよかった~。じゃあ、ふゆについてきて下さいね」

「ありがとうございます」


~グループ3 控え室(大部屋1)~

冬優子「はいっ、ついた~っと」

冬優子「あ、自己紹介がまだでしたよね」

冬優子「283プロの黛冬優子です! よろしくね、……えーと」

「……マドカ」

冬優子「マドカちゃんっていうのね」

マドカ「別に覚えなくていいですよ」

冬優子「どうして?」

マドカ「どうせ私は負けるし、今後会うこともないかもしれないので」

冬優子「そ、そんなこと言わないでよ~」

マドカ「……」

冬優子「アイドル、楽しくないんですか?」

マドカ「別に」

冬優子「別にって……」

マドカ「プロデューサーが勝手に盛り上がってるだけ」

マドカ「だから、私は別に……」

冬優子「そ、そっか……なんかごめんね? ふゆ、余計なこと聞いちゃったかも」

マドカ「気にしないでください」

マドカ「では、私は向こうのほうで適当に過ごしてるので」

マドカ「部屋、教えてくれてありがとうございました」

マドカ「さよなら」

冬優子「うん……ばいばい」

冬優子(なんだったのかしら、あの子)

冬優子(無理やりアイドルにされたとか、そういうことなの……?)

冬優子(負けることしか頭にないみたいだったわね)

冬優子(ふゆは、勝つことしか頭にないっていうのに)

冬優子「……」

冬優子 パンッ

冬優子(他人のことなんて気にしてる場合じゃない、か)

冬優子(イメトレでもしようかしら)


冬優子(なかなか出番にならないわね……イライラしてきたわ)

冬優子(緊張とかどうでもよくなってきたかも……)

冬優子(人がたくさんいる大部屋だと息苦しい……外に出て気分転換でもしよ……)

~グループ3 控え室付近廊下~

冬優子(外の空気で深呼吸したらだいぶ楽になったわ)

冬優子(あの部屋に居続けても良くなさそうね)

冬優子(出番までは……あと1時間か)

冬優子(どっか軽く振り付けの練習でもできるスペースはないのかしら)

ンダトコラァッ

冬優子「!?」

冬優子(ど、怒号……よね、今の)

冬優子 ソローッ

「あんたさっきから何? 舐めてんの?」

マドカ「そんなんじゃ、ありませんが」

マドカ「離してくれませんか。私なんかに構ってたら時間がもったいないんじゃないですか?」

「っ……!」

「あんたさ、さっきの、もういっぺん言ってみなよ」

マドカ「あぁ……あれ」

マドカ「笑っておけば何とかなる――アイドルって楽な商売」

マドカ「たしか、そう言いました」

「このっ!」

マドカ「っ」

冬優子(まずいわね、あれ殴られるわ)

冬優子(どうする……? 助けにいくの?)

冬優子(今日初めて会ったようなアイドルを? それも――)


マドカ『笑っておけば何とかなる――アイドルって楽な商売』


冬優子「っ!」グッ

冬優子(――あんなこと、言う子……)


冬優子『ふゆ、みんなを笑顔にしたいです! ――とか言っておけば、好感度上がるでしょ?』


冬優子(……助けないといけないじゃない)

冬優子「あの~」

「……誰」

冬優子「さすがにそうやって揉めてると問題になっちゃうんじゃないかな~って、ふゆ、思うんですけど……」

「チッ……、なにあんた、チクろうっての?」

冬優子「そんなこと言ってないじゃないですか~」

冬優子「でも、今日は大事な大会ですし、それ以外でエネルギー使うのは……それこそ後になってむかーっなりますよ」

冬優子「だから、どんな気持ちも自分の出番で爆発させちゃいましょうっ、ね?」

「ハァ……、こんなの助けても何にもならないわよ」

「まあ、私のためにもならないか」

「ほら、うせろよ。もう顔見せんな」バッ

マドカ「ぐっ」ドサッ

「……」スタスタ

冬優子「マドカちゃん! ……大丈夫?」

マドカ「あの人の言う通り」

冬優子「え?」

マドカ「私を助けたって、何にもなりませんよ」

マドカ「自分の出番に出れても出れなくても負けるようなアイドルなんて、倍率を下げる効果を持ちませんし」

冬優子「……そんなんじゃ、ないよ」

マドカ「あなたも聞いたんでしょう。私の言ったこと」

マドカ「アイドル舐めてるんですよ、私は」

マドカ「あなただって、私に怒りを覚えてもいいはずなのに」

冬優子「ふゆね、マドカちゃんの思ってること、なんとなくわかっちゃうかもしれないんだ」

冬優子「ううん。ふゆが勝手にそう思ってるだけなのかも」

冬優子「アイドル舐めてたって意味じゃ、ふゆも人のこと、言えないから……」

マドカ「……」

冬優子「でも、ふゆは負けないよ」

冬優子「ふゆは勝ちに来たの。ふゆがふゆとしてアイドルやっていけてるって証明したいから」

冬優子「そう思わせてくれる人がいたんだ」

冬優子「ふゆのプロデューサーなんだけどね……あ、これは秘密だよ」

マドカ「プロデューサー、か……」

マドカ「いい人に巡り会えたんですね」

マドカ「……」

マドカ「私も、そんな風に思えたら……」

冬優子「それならマドカちゃんだって勝てるよ! さっきつっかかってきた人なんて相手にならないんじゃないかな」

冬優子「マドカちゃん可愛いし、ほら、もっと笑おう? ね?」

マドカ「なにそれ……わけわかんない」

冬優子「え~、そんなことないよ~」

マドカ「さっきの人の去り際くらい意味不明」

冬優子「?」

マドカ「だって、さっき私に怒ってた人、うせろって言ったのに自分から去って行ったから」

冬優子「ぶっ!」

マドカ「わっ」

冬優子「ご、ごめんね……あははははは!」

冬優子「あー、おかしい。はは……」

冬優子「マドカちゃんって面白いね」

マドカ「そんな風に言われたこと、ない」

冬優子「可愛くて面白いなんて反則だな~、これはふゆのライバル……」

マドカ「もう、本当に何言って……」

マドカ「……あ、出番、あと少しだ」

冬優子「ああは言っても、出るんだよね?」

マドカ「出ないとプロデューサーも事務所もうるさいでしょうし、出たほうが身のため、くらいには」

冬優子「そっか。いってらっしゃい、マドカちゃん」

マドカ「……」スタスタ

冬優子「勝ったら……!」

冬優子「2人とも勝ったら、またお話しようね~!」

~グループ3 控え室(大部屋1)~

冬優子(なにやってんだろ)

冬優子(またお話しようね、か……)

冬優子(2人とも勝ったら……)

冬優子「よしっ」

冬優子(今度こそ集中集中。ふゆの出番まであと20分……確実に勝ち残るために、もう1回通しで振り返りよ)

冬優子 フリフリ

冬優子 キュッキュッ

冬優子 スタッ


予選終了後。

P「冬優子、お疲れ様」

冬優子「プロデューサー、ふゆの出番、ちゃんと見てた?」

P「当たり前だろ」

P「あれを見せられたら、心配なんて吹き飛んださ」

冬優子「なによ、やっぱり信じてなかったんじゃない」

P「信じてたよ。それでも、もしものことを全く考えないほど楽な思考してないんだ」

冬優子「……冗談よ。それでも信じてたって言わせたかっただけなんだから」

P「ははっ、そうか」

冬優子「結果発表までどのくらいあるの?」

P「予選はその日のうちに結果が出るからな……とはいえ、あと2時間くらいはある」

P「現地で結果を知ることもできるし、専用ページにログインして見ることもできる」

P「疲れてるんならもう車出すけど、どうする?」

冬優子「いいわ。ここで、自分の目で結果を見るから」

P「わかった。こんな場所だからテイクアウトになってすまんが、ほれ、夕飯だ」

冬優子「……ありがと」

P「とりあえず休もう。今は勝ち負けとか、これからのこととか、考えなくてもいいんだ」

P「飯食いながらどうでもいい話でもしてようぜ」

冬優子「それもそうね……あ、あそことか、テーブルと椅子があってちょうどいいんじゃない?」

P「だな」

冬優子「……」


P(2時間後、1回目の予選の結果が発表された)

P(冬優子は、無事通過できた)

P(結果を知ったときの冬優子は、声を震わせながら――)


冬優子『当然の結果よ』


P(――と言った)

P(とりあえず、最初の関門はクリアした)

P(この調子で勝ち進んで行こう)



――――第1回予選 グループ3 通過者一覧――――
………………… ………………… …………………
………………… 283プロ黛冬優子 …………………
………………… ---プロ マドカ …………………
………………… ………………… …………………

とりあえずここまで。

1ヵ月後。

~大会 予選会場~

P(2回目の予選の日がやってきた)

P(1回目の予選を通過してから、冬優子のメンタルは安定しているようだ)

P(淡々と練習を重ね、今に至る――良い状態・状況なんだろう)

P(特に俺が口を挟むこともなかった)

P「……」

P(どこか……寂しさを感じているのだろうか、俺は)

P(冬優子が1人でもやっていけそうなくらいに立派になってしまうと、俺の出る幕はなくなるような気がして――)

P(――それは、喜ぶべきことのはずなのにな)

P「それにしても……」

P(……減った)

P(上位20%しか残らないというのは形式的な手続きとして知っていたが、ここまで人が減るものなのか)

P(第1回予選のときとは違い、会場は静けさすら感じ取れるほどだった)

P(第3回はもっと人が減るんだろうな)

P「……お」

P(2回目のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ4だって」

冬優子 キョロキョロ

P「どうしたんだ?」

冬優子「えっ? あ、いや……なんでもないわよ」

P「?」

P(何か――あるいは誰か――探してるのか?)

冬優子「グループ分けの発表のページ、ふゆにも見せてもらえる?」

P「あ、ああ……これだ」

冬優子 ジーッ

冬優子「……あ」

冬優子「今回は違うんだ」ボソッ

P「何が違うって?」

冬優子「ううん。なんでもない」

冬優子「もう行くわ。早めに入っておいて損はないし」

P「ははっ、前回もそうだったな」

冬優子「……前回とは、違うわよ」

冬優子「ふゆね、不思議と落ち着いてるの」

冬優子「この前は、強がってた部分もあったけど……」

冬優子「あんたは、今度こそそこで、待っていればいいの」

冬優子「じゃ、行くわ」

P「ああ。行ってこい」

~グループ4 控え室~

冬優子(前回は1つのグループでいくつもの大部屋を使ってたというのに――)

ガラーン

冬優子(――もう、2回目にして1つのグループで大部屋1つとはね)

冬優子(前回は同じくらい早く来てももう少しくらはにぎやかだったと思うけど……)

冬優子(……まあ、勝ち残るっていうのは、そういうのを目の当たりにするってことでもあるのよね)

冬優子「……」

冬優子(あの子はどのグループにいるのかしら)

冬優子(別のグループみたいだけど……)

冬優子(気にしてもしかたない、か……)

ヒグッ、グスッ、ウウッ

冬優子「……あ」

冬優子(あれ、前回もふゆと同じ部屋で泣いてた子……よね)

冬優子(勝ち残ったんだ)

ネエ、アレミテヨ

ナンカナイテナーイ?

ナキタイコナンテイッパイイルノニ、カッテダヨネー

ピャウッ!?

冬優子「チッ……雰囲気も胸糞も悪いわね」ボソッ

冬優子(これ以上場の空気を悪化させるんじゃないわよ、ったく――)

「ねぇ、あんたさぁ」

「ぴゃ!? ななな、なんですか……?」

「泣きたい子なら他にもいるのよ。なのに、そうやって目立つように泣いちゃって……」

「ご、ごご、ごめんなさい……っ」

「申し訳ないと思うなら一人で目立たないところで泣いてろよ、ほら、出てけって」

「そ、そんな……」

冬優子(――世話の焼ける)

冬優子 スタスタ

冬優子「あっ、ここにいたんだねっ」ダキッ

「ぴゃ? だ、だr……ってむぎゅ」

冬優子「探したよ~、ほら、ここだと他の人に迷惑だし、ふゆとお外でお話してよ? ね?」

「は、はい……」

~予選会場 ロビー~

冬優子(とりあえずここまで来れば……)

冬優子(って、ふゆったらまた何してんの!? もう……)

冬優子(また人助け……ううん、これはあの場の空気を悪くしたくなかったふゆのわがまま)

冬優子(そう……よね)

「うう……わ、わたしになにか用ですか?」

冬優子「ごめんね。ふゆは別にあなたを怒ろうとか、そういうんじゃないの」

冬優子「あそこにいたら……ね? あんまりいい気持ちしなかったじゃない?」

「ありがとうございます……」

冬優子「283プロの黛冬優子ですっ。あなたは?」

「は、はいっ、わたしは――」

コイト「――コイト、です」

冬優子「コイトちゃんっていうんだ。よろしくね!」

冬優子(それにしてもこの子……)ジーッ

コイト「な、なな……なんでしょうか……」

冬優子(か、可愛い……)

冬優子「……推せるっ!」

コイト「わぁっ!? び、びっくりしました……」

冬優子(やばっ……!)

冬優子「あっ、ご、ごめんね。コイトちゃん可愛いから、つい……」

コイト「か、可愛いだなんて……そんな……えへへ」

コイト「お世辞でも……う、嬉しいです。ありがとうございます」

冬優子「ううん。お世辞なんかじゃないよ。本当に可愛い」

冬優子(伊達に勝ち残ったわけじゃない、か)

冬優子「コイトちゃんはどう? 大会は順調?」

コイト「え、ええ……まあまあです、たぶん……」

冬優子「そっか」

コイト「わたし、だめだめなんです」

コイト「プロデューサーさんも友だちもいない……こんな一人ぼっちで放り出されても……」

コイト「泣いてることしか、できませんから……」

冬優子「それでも、最初の予選には勝てたから、ここにいるんでしょ?」

コイト「そ、それは……まあ、いっぱい練習しましたから……」

コイト「でも、わたし一人にできることなんて……」

冬優子「……」

冬優子「もうっ、暗いのやめやめ! もっと楽しくなきゃ、ね?」

コイト「楽しく……」

冬優子「そうだよっ。コイトちゃん、もっと笑わなきゃ!」

コイト「あ、あはは……はい」

冬優子「コイトちゃんが笑顔になるときってどんなときなの~?」

コイト「わたしが……」

コイト「……あ、飴っ」

冬優子「?」

コイト「飴、好きで……食べると思わず……な、なんて……えへへ」

冬優子「いま持ってないの?」

コイト「も、もちろん持ってます! これ……」

冬優子「わぁ~っ、いっぱい持ってるんだね」

コイト「はい。あむっ」

コイト「……」

コイト ニパァッ

冬優子 キュン

コイト「あ、飴あげちゃいます……! どうぞ」

冬優子「いいの?」

コイト「さっき、た、助けてくれた……お礼です」

コイト「迷惑だったらごめんなさい」

冬優子「ううん。ありがとうっ。じゃあ、これもらっちゃうね」

コイト「はいっ」

冬優子(飴……か。久しく食べてないわね)

コイト ニコニコ

冬優子(……さっきまで泣いてたのに、この子、こんな顔もできるんだ)

冬優子(でも、それは作り物じゃない、きっと本物の……)

冬優子「……」

冬優子 パクッ

冬優子「……」

冬優子「……おいし」

冬優子(今度からのど飴以外も買ってみようかしら)

「……あ」

冬優子「あ」

コイト「あっ――」

コイト「――マドカちゃん」

マドカ「コイト、こんなところにいたんだ」

マドカ「それに……」

冬優子「マドカちゃん久しぶり!」

マドカ「あなたも……」

マドカ「コイト。控え室にいなかったから探したんだけど」

コイト「ご、ごめんね……」

マドカ ジーッ

マドカ「……涙の痕……泣いたの?」

マドカ「まさか、泣かしたやつらが……」

コイト「も、もう大丈夫……! だから」

コイト「助けてもらったんだよ」

冬優子「えへへ……」

マドカ「はぁ……」

マドカ「まあ、無事ならいいけど」

マドカ「そろそろ出番だから、私は行くけど、コイトは大丈夫なの?」

コイト「う、うん……頑張るから……」

マドカ「……そう」

マドカ スタスタ

冬優子「マドカちゃん……」

コイト「し、知り合いだったんですね」

冬優子「この前の予選でちょっとね」

冬優子「コイトちゃんは……」

コイト「あ、わ、わたしは、お、幼馴染……だから」

冬優子「そうなんだ~!」

コイト「事務所も一緒なんです。というか、ユニットも」

冬優子「仲良しなんだねっ」

冬優子「マドカちゃん、コイトちゃんのことすごく心配してくれてたみたいだし」

コイト「は、はい。昔からずっとこんな感じで……」

コイト「マドカちゃんには、心配かけてばかり……」

コイト「ほんとうは、マドカちゃんとか、プロデューサーさんにも、わたしがいないとだめだめだねって言えるくらい……強くなりたいんです」

コイト「でも、そんなの無理で……わたしは泣き虫だし、ちっちゃいし、臆病だし……」

コイト「だめだめなのはわたしで、アイドルをやっていくうちに治ると思ったんですけど……」

コイト「もっとだめだめになっちゃったかもしれないです」グスッ

冬優子「コイトちゃん……」

冬優子「ふゆはね、コイトちゃんは強いと思うよ」

コイト「ぴゃ? な、なんでですか……?」

冬優子「自分の弱さを知ってることって、ふゆは強いと思うもん」

冬優子(自分が情けないところなんて、目を背けたくもなるわ)

冬優子(でも、この子はきっとそうじゃない……)

冬優子「そういう強さがあるから、最初の予選に勝って、こうしてふゆと出会えたんじゃないかな」

冬優子「コイトちゃんと知り合えたのも、コイトちゃんの強さのおかげだねっ」

コイト「え、えへへ……そうですかね」

コイト「……」

コイト「わたし、焦っちゃってるんです」

コイト「アイドルをやっている人たちには、いろんな才能を持った人たちがいて」

コイト「努力だって人の何倍も何十倍もしてる人たちがいて」

コイト「みんな……すごいなって」

コイト「わたしなんて、頑張らないと、きっと置いていかれちゃう……」

コイト「事務所の方針で……マドカちゃんと同じユニットのわたしも、そ、その、特例……で出てますけど……」

コイト「……わたしが出たって、き、きっと迷惑をかけるだけなんじゃないかって、そう思っちゃうんです」

冬優子「……」

冬優子(その言葉を聞いて、ふと、脳裏にはあいつの顔が思い浮かぶ)

冬優子(天才、努力家、すごいアイドル……全部あてはまるバケモンが)

冬優子(もし、283プロも裏技とかを使ってストレイライトからあいつとふゆを出していたら……)

冬優子(……そんなことはあり得ないとしても、考えるだけでゾッとする)

冬優子「ふゆもそうだよ」

コイト「えっ?」

冬優子「同じユニットにすごい人がいて、いつも置いていかれないように頑張るの」

冬優子「って言っても、いつも置いていかれっぱなしなんだけどね~。あはは……」

冬優子「今もね。その子のことを考えると、自信をなくしそうになっちゃうときがあるの」

冬優子「でも……ふふっ。コイトちゃんを見てたら、ふゆも頑張れるって、そう思ったんだ」

冬優子「だって、コイトちゃん、今まですっごく頑張ってきたんでしょ?」

コイト「……」

冬優子「そんなコイトちゃんを見たら、ふゆだって頑張りたくもなるよ」

コイト「わ、わたし……頑張れてますか……ね」

冬優子「うんっ! 予選に勝てたのだって、ここまでアイドルをやってこれてるのだって、コイトちゃんの力だよ」

冬優子「この大会は、ユニットは関係ないんだもん」

コイト「だめだめ、なんかじゃなくて……わたし……ちゃんと……グスッ」

冬優子「大丈夫……きっと大丈夫だよ」ナデナデ

コイト「わっ、わたし……っ!」ポロポロ

コイト「ふ、不安でした……怖かったです……。みんなすごくて、頑張ってても置いていかれて、居場所なんかなくなっちゃうんじゃないかって……」ポロポロ

コイト「それでも、アイドルだって、お、お勉強だって、いっぱいいっぱい……頑張ってきたんです……!」ポロポロ

コイト「それを……わかってくれる人なんて……いなくて……」ポロポロ

冬優子「ふゆが知ってる――わかってるよ。コイトちゃんが頑張ってること」

冬優子「それに、マドカちゃんだってきっとわかってくれるって……ふゆは思うな」

コイト「え、えへへ……そう、ですよね」ポロポロ

冬優子「あ、ふふっ、また笑ってくれたね。そうだよ。そういう顔してなくっちゃ……ね?」

冬優子「落ち着いた?」

コイト「は、はいっ。お化粧まで直してくれて、ありがとうございます……」

コイト「今日会ったばかりなのに……なんか、えへへ」

冬優子「ふふっ、変なの……って?」

コイト「べ、別に変とは……言ってません、よ」

冬優子「気にしなくていいのに」

冬優子(本当に変……ふゆ、大会でライバルになるような子に、こんな……)

冬優子(敵に塩を送るようなことして、なにがしたいんだろ……)

冬優子(でも、不思議ね)

冬優子(時間の無駄とか、後悔とか、そういうのは全然思わないんだから)

冬優子「……ほんと、なんなんだろうね」アハハ

冬優子「そろそろ控え室戻ろっか」


~グループ4 控え室~

冬優子(コイトちゃんをいびってたやつらはもう行ったみたいで良かったわ)

冬優子「さて、と……」

冬優子(出番まであと少し……最後の追い込みよ、ふゆ)


冬優子「……」

冬優子(まあ、こんなものね)

冬優子「じゃあ、行きますか」

コイト テテテテ

コイト「あ、あのっ」

冬優子「あっ、コイトちゃん。どうしたの?」

コイト「さ、ささ……」

冬優子「?」

コイト「……3回戦で会いましょう!」

コイト「そ、それを、言いに来ました……」

冬優子「コイトちゃん……」

コイト「えへへ……2人とも勝てるって、思ったから……」

冬優子「ありがと。うんっ、頑張ってくるね」

コイト「はいっ! い、いってらっしゃい!」

冬優子「ふふっ、いってきます」ニコッ

冬優子(……あ)

冬優子(いまの笑顔は、ふゆの本物だったかも)





――――第2回予選 グループ4 通過者一覧――――
………………… ………………… …………………
………………… 283プロ黛冬優子 …………………
………………… ………………… ---プロ コイト
………………… ………………… …………………

とりあえずここまで。

1ヵ月後。

~大会 予選会場~

P(予選も3回目に突入した)

P(これが、最後の予選となる)

P(前回の予選を終えてから、冬優子はさらに成長したように見える)

P(アイドルとしての“ふゆ”と1人の人間としての“冬優子”のバランスが良くなった……と言えば良いんだろうか)

P(冬優子のアイドルとしての振る舞いに、疑いようのない「本物」を感じる)

P(……良い。これは良いことだ)

P(手ごわい審査員を相手にしても、今の冬優子なら完璧に魅了することができるんじゃないだろうか)

P(勝てる……勝てるぞ……!)

P(冬優子の成長を、俺は、自分のように嬉しく思っていた)

P「もう、俺の出る幕なんてないんじゃないか? ――ははっ、なんてな……」ボソッ

P(実際、予選を勝ち進むに連れて、俺がアドバイスすることはほとんどなくなっていた)

P(冬優子もレッスンや自主トレに熱心に取り組んでいる。余計な口出しになるくらいならしたくなかった)

P(最近、冬優子との会話自体があまりないよな……)

「――あ」

P(業務連絡のほうが多くなってきてるよな……)

「ねえ」

P(よし、本番前に冬優子の様子を見に行ってみるか)

P(邪魔になりそうならすぐ退散すればいいだけだし)

「……聞いてる?」

P「え? わ、私でしょうか……?」

「ふふっ。なにそれ」

P「っと、君は――」


冬優子(3回戦ともなると、とても静かね……)

冬優子(それもそっか……もう、勝ち残ってるアイドルは、100人を余裕で下回ってるんだし)

冬優子(……今回も、例によって出番までちょっと暇なのよね)

冬優子「あ、そうだ」

冬優子(あいつにグループ分けの番号聞きに行かなきゃ)

冬優子「……」

冬優子(そういえば、最近、そもそもあんまり話してないような……)

冬優子(って、なになに!? ふゆってば、あいつと話せなくて物足りなさを感じてる!?)

冬優子(そんな少女漫画的思考……)

冬優子「……」

冬優子(こ、これは番号を聞きに行くだけ……そう、それだけよ)

冬優子(それだけ……なんだから)

冬優子 スタスタ

冬優子(あ、いたいた――)

冬優子(――って、誰かと話してるじゃない)ササッ


P「久しぶりだな」

「お互い様、だね」

P「まさか、こんなシチュエーションでまた会えるとは思ってなかったよ」

「わたs……僕もだよ」


冬優子(と、とっさに隠れちゃったけど……)

冬優子(誰……? アイドルの子かしら)

冬優子(まあ、ふゆがあの子を知らないように、あの子だってふゆのことは知らない、か……)

冬優子(それにしても――)


P「ははっ、今でも自分のこと僕って言ってるのか?」

「ううん。そうでもない」

P「そうでもない……?」

「うん。普段は、私。アイドルのときも、私。でも、今は、そのどっちでもないから」

P「? そ、そうか……」


冬優子(――綺麗な人)

冬優子(あいつにとって、あの子はどういう存在なのかしら)

冬優子(って、気にしてもしょうがないわよね)

冬優子(さっさと番号聞いて控え室に行けばいいのよ)


冬優子「プロデューサーさんっ」

P「お、冬優子か。……そうだ、ちょうど、さっきは様子を見に行こうとしていたんだった」

冬優子「そうなんですね! ありがとうございますっ」

冬優子「ふゆ、グループの番号を知りたいなって」

P「そうだよな。ちょっと待っててくれ」

P「あ、そうだ。紹介するよ。こいつはトオルっていって……」

「とっても仲良しな俺の幼馴染」

P「そうそう――って、仲良しなら、しばらく疎遠にはなってなかっただろ」

P「今のお前は、アイドルのトオルだしな」

トオル「ごめんね? なんていうか、言ってみたかっただけ」

P「ははっ、なんだそりゃ」

P「トオル、こっちは、俺がプロデュースしてるアイドルの黛冬優子だ」

冬優子「283プロの黛冬優子ですっ。よろしくお願いします、トオルさん!」

トオル「よろしく……」

冬優子「プロデューサーさんの幼馴染だなんて、すごいですね~」

トオル「ふふっ、いいでしょ。……なんて」ボソッ

冬優子(は?)イラッ

冬優子(なんか今、さりげなく自慢されたわよね。ふゆの地獄耳が聞き取ったわよ)

冬優子(なんなのこの子……)

冬優子(って、今はアイドル! アイドルのふゆなんだから……落ち着け落ち着け……)

冬優子「そ、それで! プロデューサーさん、番号はいくつですか?」

~グループ2 控え室~

冬優子「……」

トオル「……」

冬優子「…………」

トオル「…………」

冬優子「………………」

トオル「………………」

冬優子(なんで同じグループなのよ!!)

冬優子(しかも、1グループに15人くらい上に今回から大部屋じゃなくなったから距離が近いじゃない……)

冬優子(それならできるだけ離れたところに座ればいい――というわけにもいかなかったのよね)

冬優子「……」


冬優子『……お、おんなじグループ、なんですねっ』

P『冬優子、顔が引きつってるぞ』ミミウチ

冬優子『う、うっさい……!』ボソッ

冬優子『そ、それじゃあふゆは、控え室に行こうかなー……』

トオル『ぼk……私もそろそろ行かなきゃ』

トオル『あ、そうだ』

トオル『ねえ』

P『なんだ?』

トオル『私のプロデューサーになってよ』

冬優子『は、はあっ?! ……ってヤバっ』

P『えっと、何を言ってるんだ? トオル』

トオル『うちのプロダクションの……えっと、あのおじさん……いや、とにかく偉い人がね』

トオル『あのプロデューサーは是非うちに欲しい……とか言ってて』

トオル『だから、そういうこと』

冬優子『プロデューサーさん? ちょっといいですか?』グイッ

P『お、おい、引っ張るなって……』

冬優子『今の話、どういうことなのよ……!』ヒソヒソ

P『知らないって。突然言われて俺も混乱してるんだ』ヒソヒソ

冬優子『ふ、ふーん。どうだか』ヒソヒソ

P『本当なんだって』ヒソヒソ

冬優子『幼馴染との久々の再会と思わぬヘッドハンティングでニヤニヤしてんじゃないわよ』ヒソヒソ

P『そんなことないって……。何を怒ってるんだ……』ヒソヒソ

冬優子『怒ってないっての……! バカ』ヒソヒソ

トオル『えっと、あの……』

P『あ、ああ……すまんな、なんか』

トオル『ううん。こっちこそ、突然言い出してごめん』

トオル『でも、私は――』

トオル『――この話を受けてくれたら嬉しい、かな』

トオル『まあ、そういうことだから』スタスタ

P『あ、おい、トオル……って、冬優子もいつの間にかいなくなってるし……。はぁ……』


冬優子(ぐだぐだやってたおかげで控え室の場所がほとんど埋まって隣同士になるしかない――なんて)

冬優子・トオル「あの……」

冬優子「あ……」

トオル「あっ」

冬優子「えっと、どうかしましたか?」

トオル「名前……」

冬優子「?」

トオル「黛――千尋さん」

冬優子「洛山高校3年の“新型の幻の6人目(シックスマン)”……ってアイドルとしては斬新過ぎるし違うかなぁ……」

冬優子(「つーか 誰だお前」って言ってこの場を去りたくなってきたわ)

トオル「えと、黛……真知子さん?」

冬優子「ふゆは古美門法律事務所の弁護士ではないかなー……」

冬優子(朝ドラのヒロインなら、仕事としては魅力的だけど)

冬優子(まあ、あれは馬鹿にされて言われてるだけだったわね)

冬優子「もうっ、黛冬優子だから……!」

トオル「ふふっ、ごめんごめん」

トオル「あ、はじめましてだから、敬語のほうがいいんだっけ」

冬優子「ふゆに聞かれても……」

冬優子(調子狂うわね……)

冬優子「じゃあ、お互い敬語は無しってことにしよ?」

トオル「……うん。わかった」

冬優子「……」

トオル「……」

冬優子(どっちかが出番来るまでこれって……嘘よね……?)

冬優子「幼馴染って言ってたよね」

トオル「あ、うん」

冬優子「よく一緒に遊んでたの?」

トオル「まあ……そう、かな。もう、だいぶ前になっちゃったけど」

トオル「あの人は、まだ中高生だった」

トオル「公園で一緒に……ジャングルジムで遊んでた」

冬優子(中高生男子が小学生以下の女子とジャングルジムで遊ぶってどうなのよ)

冬優子(この子が、昔は活発な女の子だったとか?)

冬優子(まあ、どうでもいいけど)

トオル「それから、しばらく疎遠になって、いろいろあって私はアイドルになって……」

トオル「……それで、偶然、仕事の現場にあの人がいるのを見つけた」

トオル「他のところで、プロデューサーやってた」

冬優子「……」

トオル「なんかね、評判良いみたい」

トオル「私のいるプロダクションにも噂が届くくらいに」

冬優子「そう、なんだ……」

冬優子(あいつ、仕事できるもの……そんなの、むしろふゆが誇ってもいいことなのに……)

冬優子(そこから続く話題が、それを妨げる)

トオル「それで、私のとこの偉い人が引き抜きたいって言ってたから」

トオル「もしそうなったら、私のプロデューサーになって欲しいなって」

トオル「そう思った」

冬優子「……っ」

冬優子(なによ。なんなのよ、これ……)

冬優子(焦り? 不安? 怒り?)

冬優子(得体の知れない居心地の悪さと息苦しさ……)

冬優子(本番前だってのに……! こんなとこでストレス抱えてられないのに……!)

トオル「別に、プロデューサーを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって」

トオル「だから、気にしないで、いいと思う……」

冬優子「っ!」ダッ

トオル「あ……」

~グループ2 控え室付近廊下~

冬優子「……っ」ズカズカ


トオル『プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって』

トオル『だから、気にしないで、いいと思う……』


冬優子(ふざけんじゃないわよ……!)

冬優子(幼馴染だかなんだか知らないけど、勝手なこと言って……!)

冬優子(自分から来てくれたら嬉しい? そんな言い方、余計にたちが悪いっての!)

冬優子「……」ハァハァ

冬優子(……なんでこんなにむかついてるのかしら。ふゆにとって、あいつは……プロデューサーは……)


P『嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う』

P『俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”』

P『冬優子には、冬優子を否定して欲しくない』

P『自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?』


冬優子(ああ言われて、ふゆは……)


冬優子『ふゆはあんたに推されるくらいじゃ足りないから!』

冬優子『ガチ恋させてやるんだから――ちゃんとふゆのこと、見てなさいよね!』


冬優子(……そう言った)

冬優子(アイドルとプロデューサー? ……笑わせるわね)

冬優子(ふゆにとっては、最早、あいつはただのプロデューサーじゃない)

冬優子「……そっか」

冬優子(そういうことか)

冬優子(ふゆは、気づいてないふりをしていただけ……)

冬優子「あ、時計……って嘘!? 思ったより出番まで時間ないじゃない!?」

冬優子「戻らなきゃ――」


「冬優子!」バッ


冬優子「――……」ピタッ

P「はあっ……はあっ……」ゼエゼエ

冬優子「……あんた、こんなとこで何してんのよ」

P「もともと……冬優子の様子を見に行こうと思ってたんだ」

P「ほら、その……最近あまり関われてなかっただろ? 話す機会だってあんまりなくてさ」

P「今の冬優子なら、もう俺なんか必要ないんじゃないかって思ったこともあった」

P「この大会で勝ち残っていく中で、冬優子は、格段に、確実に、成長してたから」

P「でも……それでも、俺は」

P「俺は、黛冬優子のプロデューサーだ。これまでも、これからも」

P「冬優子が要らないって言っても、俺は、ずっとお前のプロデューサーでいつづけたい。冬優子を支えたいんだ」

P「それを、伝えたくて……」

冬優子(あーあ……余計にあんたが必要になっちゃった。ただでさえ、ふゆはあんたにいて欲しいのに)

冬優子「ばーか」ニコッ

冬優子「そんなの、当たり前じゃない!!」

冬優子『ばーか』ニコッ

冬優子『そんなの、当たり前じゃない!!』


P(そう言って、冬優子は走っていった)

P(去り際、その顔は確かに笑っていた。笑って……くれた)

P(その時――俺は、“冬優子に応えられた”気がした)


P(予選3回戦――黛冬優子のパフォーマンスは、他のアイドルのそれを凌駕していた)

P(俺がプロデュースしてたのはこんなにも魅力的なアイドルだったのかと、実感させられた)

P(それは、俺が冬優子のプロデューサーだからとか、俺が既に冬優子に魅了されていたからとか、そういうことだけではないはずだ)

P(冬優子は自分のために輝こうとするアイドルだ)

P(冬優子は誰かのために輝けるアイドルだ)

P(そして、最早、何者も恐れない、何者とも比べられない)

P(俺に言わせれば、真に唯一無二で最強のアイドルだ)

P(そんなものを見せられたら、誰だって圧倒されるに決まってるのだから)



――――第3回予選 グループ2 通過者一覧――――

………………… 283プロ黛冬優子 …………………
___プロ トオル 

とりあえずここまで。

数日後。

~事務所~

P(最後の予選が終わった)

P(冬優子は、決勝に向けて最後の追い込みをかけている)

P(俺の心配することなんて何もない)

P(俺は、冬優子のプロデューサーとして在ればいい)

P(あとは、冬優子を信じて、自分のやりたいようにやらせるだけだと思った)

P「……っと、そろそろだな」

タッ、タッ、タッ

P「おかえり」

冬優子「……ただいま」

P「……」

冬優子「……」

P「……」

冬優子「……聞かないの?」

P「何をだ?」

冬優子「レッスンはどうだったのかって」

P「聞かなくても、見ればわかるからな」

P「俺は冬優子のプロデューサーなんだから、言わなくても通じることってあるよ」

P「話すことが少なくなっても、それは距離ができたからじゃなくて、話すまでもなく通じるようになったからなんじゃないかと思ってさ」

冬優子「ばか」ボソッ

冬優子「……」

冬優子「ふふっ……あっそ」

P「ああ」

冬優子「……ソファー、座るわね」

冬優子「っしょっと」

冬優子「……」

P「……隣、なんだが」

冬優子「うん」

P「近くないか?」

冬優子「嫌なの?」

P「そういうわけじゃないけど……」

冬優子「じゃあいいじゃない」

冬優子「……来るところまで来ちゃったわね」

P「来るべきところに来たんだよ」

P「それに、まだ終わりじゃないぞ?」

冬優子「わかってるわよ。決勝でしょ」

冬優子「なんかね、緊張とかプレッシャーとか……そういうの、ないのよね」

冬優子「本番でどうなるかは知らないけど」

冬優子「なんか、変に怖いもの知らずになった気がするわ」

冬優子「ふゆに似合わず、ね」ボソッ

冬優子「あーあ、ふゆがこうなったのも、あんたのせい――」

冬優子「――ううん、あんたのおかげね」

P「予選の間に俺が何かしてやれたことなんてあったか?」

冬優子「……はぁ」

P「?」

冬優子「っ、いいの! 別にあんたは知らなくても」

P「あ、ああ……よくわからんが」

冬優子「あーもう! だーかーらー……」

冬優子「あんたはそうやって、ふゆのプロデューサーをしているだけでいいって言ってんの」

冬優子「ふゆにはそれだけで……」

ヴーッヴーッ

P「……っと、すまない。電話だ」

P「ちょっと席を外すよ」

冬優子「あ……」


冬優子(あいつにとって、ふゆは何なのかしら)

P『俺は、黛冬優子のプロデューサーだ。これまでも、これからも』

P『冬優子が要らないって言っても、俺は、ずっとお前のプロデューサーでいつづけたい。冬優子を支えたいんだ』

P『それを、伝えたくて……』

冬優子(“プロデューサー”――ね)

冬優子(それ以上を臨むのは、それこそふゆのエゴ……)

冬優子(でも、もしもそのエゴにあいつが付き合ってくれるなら、ふゆは……)

P「電話、終わったよ」

冬優子「ひゃっ」

冬優子(やば、変な声でちゃったじゃない……)

P「? それで……なんだったっけか」

冬優子「べ、別になんでもないわよ」

冬優子「何の電話だったの? シリアスな感じに見えたけど、スマホにかかってくるなんて、急じゃない?」

P「それなんだけど、突然決勝を棄権することになった子がいるって連絡が入ったんだ」

冬優子「決勝ってことは、最後の予選も勝ち抜いたってことよね」

冬優子「人数も少なかったし、名前を聞けばわかるかも」

冬優子「なんて子なの?」

P「ああ、それは――」

~病院~

カツッ、カンッ

「……っ、く……」

カンッ

「っと……」

スルッ

「あ――」

ドタッ

「――くっ」

「こんなの……」

「……? って――」

冬優子「ほら、手、貸すよ?」

「――はぁ」

「どうも……」

冬優子「よかったら、ふゆと少しお話しない?」

冬優子「すごく疲れてるように見えるもん――」


冬優子「――マドカちゃん」

~病院 ラウンジ~

マドカ「……誰から聞いたんです?」

冬優子「プロデューサーさんだよ。棄権する子が出たって急に連絡が来たから」

マドカ「そう、ですか……」

冬優子「マドカちゃん、その怪我って……」

マドカ「……」

マドカ「まあ、隠しても仕方ないですし」

マドカ「……さすがに私も愚痴りたい」ボソッ

冬優子「?」

マドカ「いえ、なんでも」

マドカ「コイト、決勝戦に進めなかったんです」

冬優子「そう、なんだ……」

マドカ「コイトと私は同じグループで、コイトは負けて、私が勝ち残った……」

マドカ「……と、結果はそういう形になりました」

マドカ「……」

マドカ「私は、アイドルとしての自分について否定的でした」

マドカ「アイドルという仕事そのものに対しても、半ば見下したような思いを抱いていて……」

マドカ「でも、決勝に進めるというところまで来て、考えを改めました」

マドカ「ここまで来た理由――最初は、ただ怖かっただけだったんです。周囲の期待を裏切るのが」

マドカ「それが、勝ち進むうちに嬉しいと感じている自分に気づいて――」

マドカ「――最後には、周囲の期待に応えようと思えた」

マドカ「コイトが負けて私が勝ったということの意味を、私はきちんと成そうと思えたんです」

マドカ「そう思った矢先に――」


コイト『ま、マドカちゃんのダンス、今までと全然違って見えたよ!』

マドカ『コイトもうまくなってる』

マドカ『……』

マドカ『……ねえ、いつも私と一緒にレッスン受けてるけど』

マドカ『なにも、オーディションが受けられる日にまでそうしなくたって』

コイト『わ、わたしね……』

コイト『すっごく……く、悔しかったんだよ』

コイト『でもね、マドカちゃんが勝ったのは、それよりもずっと嬉しかったから……』

マドカ『コイト……』

コイト『そ、それに……! 決勝に進出したアイドルの技を盗むチャンスでもあるし!』

コイト『な、なんて……えへへ』

マドカ『……そっか』

マドカ『ありがと』ボソッ

コイト『あ、マドカちゃん、ヘアピン……』

マドカ『あれ、ない……レッスンの部屋に置いてきたのかも』

マドカ『取ってくる。先に帰っててもいいから』

コイト『ううん。こ、ここで待ってる』

マドカ『……そう』

数分後。

マドカ『(すぐに見つかってよかった)』

マドカ『(ここを曲がって……)』

マドカ『(この階段を下りれば、コイトがいる)』

コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・


マドカ「――誰かに、階段の一番上から突き飛ばされたんです」

とりあえずここまで。

冬優子「ひどい……誰がそんな……」

冬優子「これから頑張ろうってなったばかりなのに……」

マドカ「……」

マドカ「位置的にコイトには私を突き飛ばした犯人が見えているはずなんです」

マドカ「……聞いても、コイトは言おうとしませんが」

冬優子「言いたくない理由があるってことなのかな?」

マドカ「さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので」

マドカ「……」

マドカ「ふぅ……」

冬優子「ま、マドカちゃん?」

マドカ「……この話には、続きがあるんです」

マドカ「私が外れた枠には、コイトが入ることになりました」

冬優子「え? そ、それって」

マドカ「聞いた話では、コイトはあと一歩の――ギリギリのところで届かなかったそうなんです」

マドカ「私がいなくなって、コイトは繰り上がって決勝に進むことになった……」

冬優子「そんな話あったかな……?」

マドカ「今朝決まったそうです。そのうちあなたのところにも連絡が行くんじゃないですか」

マドカ「まあ、なので、……悪いことばかりというわけではないかと」

マドカ「コイトは頑張ってるから。このくらい、報われたっていい」

マドカ「あれだけ練習して、前向きで……私よりもいろんなことができると思いますし」

マドカ「いま私にできるのは、怪我から回復することくらいですから」

冬優子「マドカちゃん……」

マドカ「っ、しょ、っと……」カツッ

マドカ「そろそろ戻ります」

マドカ「わざわざ来てくださってありがとうございました」

マドカ「さようなら」

冬優子「……」

マドカ「……」

カツッ、カンッ

カンッ

カツッ

冬優子「っ、……マドカちゃん!」

マドカ ピタッ

冬優子「ふゆ、マドカちゃんのこと、まだまだ全然知らない……」

冬優子「だから、ふゆがどうこう言っていいかなんてわからない――けど」

冬優子「無理しちゃ、だめだよ」

冬優子「泣きたいときは、泣いたっていいんじゃないかな……」

マドカ「……」

マドカ「そう……かな」

冬優子「うんっ、そうだよ」

マドカ クルッ

マドカ「ふふっ……でも、やっぱり大丈夫です」

マドカ「私……泣きませんので」

短いですが、忙しいのでとりあえずここまで。

同日、同時刻。

~事務所~

P カタカタ

P カタッ

P「……今頃どうしてるかな」

P(冬優子はお見舞いに行くって言ってたが、そう思えるアイドルの友だちがいるってこと……なんだろうな)

P(これも成長……か?)

P「……」

P(そういえば、さっき、棄権で空いた決勝の枠には、最後の予選で選ばれなかったあと一歩の子が繰り上がりで入ることになったって連絡が来たな)

P(冬優子にはまだ言えてないけど、もう伝えるべきか)

P(あるいは、お見舞いに行った子から聞かされているかもな)

P(たしか、その子と繰り上がった子は同じ事務所だったはずだ)

P「同じ事務所、ね……」

P(冬優子にとってのあさひや愛依の存在に、何か変化はあるのだろうか)

P(ストレイライトとしての活動は、最近あまりないよな)

ピンポーン

P「あ、はーい……」

P(この時間に来客……? 誰だろう)

ピッ

P「はい。何かご用でしょうか」

「……用、か。どうだろう」

P「?」

「特にないかも」

P「あのー……どちら様でしょうか?」

「あ、そうだ。言ってなかった」

トオル「私……トオルだよ」

P「トオルか。いきなりどうしたんだ?」

トオル「なんていうか、まあ……会いに来た」

P「会いに来たってお前……ここうちのプロダクションの事務所なんだけど」

トオル「だめなら帰るよ。どうかな」

P「……まあ、せっかく来たんだ。今は俺一人だし、他の事務所からの客人ってことにしておくよ」

トオル「やった」

トオル「ヒナナ、いいってさ」

「やは~。やった~」

P「友だちも連れてきてるなんて聞いてないぞ……」

トオル「他の事務所からのお客さんってことなら、むしろ普通なんじゃない? こういうのも」

P「わかったよ……今開けてやるから」

数十分後。

~事務所~

冬優子「ただいま戻りました~♪」

冬優子(索敵索敵……キャラのためにもまだ油断できないわ)

P「おう。おかえり、冬優子」

冬優子「あれ、あんた一人?」ヒソヒソ

P「……いや、お客がな」ヒソヒソ

冬優子(あっぶな……)

冬優子(誰が来てるのかし――)

トオル「このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する」

「ごろ~ん♡ ヒナナこのソファーすき~~」

冬優子(――らっ!?)

冬優子(あそこに座ってるのはあの時の……しかもなんか増えてるじゃない!?)

トオル「……あ。この前の」

トオル「お邪魔してます」

「してま~す」

冬優子「え~っと、そちらは……」

「やは~……――」

ヒナナ「――ヒナナ、高校1年生です~~~」

ヒナナ「トオル先輩とおんなじ事務所なんだ~」

トオル「でもユニットは別」

ヒナナ「ヒナナそれやだ~~……。トオル先輩と一緒のユニットがいいのに~」

トオル「仲が良すぎるからって言われたね」

ヒナナ「それが理由~?」

トオル「たぶんね」

冬優子「え、えっと……今日はどんな用件で?」ピキッ

冬優子(やば……完全に顔が引きつってるわ……)

トオル「そこにいる人に会いに来た」

ヒナナ「ヒナナは付き添いだよ~~」

冬優子「会いに来たって……」

ヒナナ「でも、ヒナナここに来て良かったかも~! トオル先輩の会いたい人がこんなステキなお兄さんだなんてね~~」

P「て、照れるな……」

冬優子 ゲシッ

P「いっ!?」

ヒナナ「やは~……ヒナナ、お兄さんのこと結構好きかも~~」

冬優子 ゲシゲシ

P「いっ、ちょっ、執拗に向こう脛を蹴るのはやめろ……!」

ヒナナ「むこうずね~?」

トオル「弁慶の泣き所、だね」

トオル「あ、ねえ、移籍の話だけど、どう? 考えてくれた?」

トオル「うちの事務所の偉い人、いまでも戦力にしたいってさ。それに――」

トオル「――ぼk……私は、また一緒に、過ごせたらなって……」

P「ああ、それなんだが……」

冬優子「移籍ならしないよ、このプロデューサーさんは」

トオル「……ふーん」

冬優子「あなたとプロデューサーさんの間のことは、ふゆは知らないけど……」

冬優子「ふゆは、この人とトップアイドルになるって決めてるんだ」

冬優子「そのためにふゆは全力を出すし、プロデューサーさんも応えてくれてる」

冬優子「だから、あなたのところに……あなたにプロデューサーさんはあげられないよ」

P「冬優子……」

冬優子「それに、これまでもこれからもふゆのプロデューサーさんでいるって、宣言されちゃったから♪」

P「そ、それを言うなよ……他に人がいるのに」

冬優子「ふゆが要らないって言ってもふゆのプロデューサーでいつづけたいって言ってたじゃないですか~」

冬優子「ふゆを支えるとかなんとか」

P「くっ……恥ずかしさでどうにかなりそうだ……」

トオル「そうなの?」

P「え? あ、ああ……そうだよ」

P「俺は、トオルのいる事務所には行かない。すまん」

トオル「別に……謝らなくても」

トオル「……」

ヒナナ「トオル先輩~?」

トオル「……帰る」

ヒナナ「え~~!? ここすっごく居心地いいのに~~」

トオル「いても……邪魔になるんじゃないかな」

P「と、トオル……」

冬優子「……」

ヒナナ「……わかった~。トオル先輩がそう言うなら、ヒナナもそうしよ~~」

ヒナナ「そうだ! トオル先輩、帰りに雑貨屋さん寄っていってもいい~?」

ヒナナ「気に入ってたアクセサリーがね~……この前から見つからないんだ~」

ヒナナ「だから、ね? トオル先輩が一緒にお買い物してくれたら、ヒナナ、しあわせ~になれる~~~」

ヒナナ「トオル先輩もそれで元気出そう?」

トオル「うん……行こう。……ありがと」

トオル「あ……お邪魔しました」スタスタ

ヒナナ「さようなら~~」テテテ

ガチャッ

P「……」

P「トオr――」

ダキッ

P「ふ、冬優子……?」

冬優子「行かないで。呼び止めないで」

冬優子「あんたは、誰にも渡さないから」

バタン

とりあえずここまで。

数日後。

~某センター街~

冬優子(欲しい円盤探してたらここに在庫があるなんて……)

冬優子(いつも行ってる街と空気が全然違うじゃない……慣れないわ)

冬優子「……疲れた」

冬優子(まあ、目当てのものは買えたし、さっさと帰るとしますか)

~♪

冬優子「……?」

冬優子(あれ、たぶんミニライブよね)

冬優子(それに、歌ってるのは――)

冬優子「……」

冬優子(――ついでに見に行ってみようかしら、今日はオフだしね)

冬優子 スタスタ


コイト「そ、それじゃあ……お先に失礼します!」

オツカレサマデース

コイト「……」

バタン・・・

コイト「……」

コイト「はぁ……」

冬優子「お疲れさまっ、コイトちゃん」

コイト「ぴゃっ!? な、なな……って、あなたは……」

冬優子「さっきのミニライブ、すっごく良かったよ! ふゆは途中からだったけど、引きこまれちゃったな~」

コイト「あ、ありがとう……ございます。えへへ」

コイト「また別のところでもライブがあるので、よ、よかったらそれも見に来てください!」

冬優子「わぁ~ほんと? 絶対に見に行くね!」

冬優子「ふゆ、コイトちゃん推s……ん゛っ、コイトちゃんのファンだから」

コイト「わ、わたしも、冬優子さんのファンに……な、なります!」

冬優子「ありがと~っ♪ コイトちゃんだいすき!」ダキッ

コイト「わ、わわっ、もうっ……」

冬優子「コイトちゃんは、これから帰るところなの?」

コイト「あ、はい。今日はもう予定ないですし、明日はオフですから」

冬優子「ふゆもいまオフなんだ~。よかったら、どっかでお茶しながらお話とかどうかな?」

コイト「い、いいんですか?」

冬優子「ふふっ、ふゆが誘ってるのに。いいに決まってるよっ」

コイト「えへへ……じゃ、じゃあ、行きます」

冬優子「決まりだね♪」

~近くのカフェ~

冬優子(勢いで誘っちゃったけど……冷静に考えて、推してるアイドルとカフェでお茶するってすごいことよね……)

コイト「ほ、本当にありがとうございます……誘ってくれただけじゃなくて、奢ってもらうなんて……」

冬優子(しかも奢っちゃったし。まあ、それはいいけど)

冬優子「ふゆがしたいだけだもん。気にしないでね」

コイト「は、はい」

冬優子「そうだ、さっきのライブでね――……」


数十分後。

コイト「……――えへへ、そ、そうなんですね」

冬優子「うんっ。おかしいよね」

冬優子(思ったよりも話が弾んだわね。いろんな話ができたし)

冬優子(コイトちゃんも楽しそうで何よりだわ)

コイト「……」

冬優子「……コイトちゃん?」

コイト「わ、わたし……」

コイト「こんな、普通に笑って話すなんて、よ、よく考えたら久しぶりかもしれません」

コイト「最近は、いろんなことがありましたから……」

冬優子「決勝のことと……それから……」

コイト「はい、マドカちゃんのことです」

コイト「……っ。い、いろんな気持ちがあって……え、えへへ、ちょっと大変かもしれないです」

コイト「決勝に進みたくて、最後の予選まで頑張ってました。結果は、だめでしたけど」

コイト「悔しくて……でも、マドカちゃんが決勝に進めたのも嬉しくて……」

コイト「そうしたら、あんなことがあって……」


コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・


コイト「あんなことになって、代わりにわたしが出れるようになって」

コイト「……」

コイト「いまは、練習とお仕事に集中して、余計なことは考えないようにってしてます……」

冬優子「コイトちゃん……」

コイト「あっ、ご、ごご、ごめんなさい……! せっかく楽しくお話してたのに、こんな……」

冬優子「ううん。いいよ。楽しい話だって、辛い話だって、人に話して楽になることってあると思うな」

冬優子(……どの口が言ってんのかしらね。まったく)

コイト「マドカちゃん……」

冬優子(? そういえば――)



マドカ『位置的にコイトには私を突き飛ばした犯人が見えているはずなんです』

マドカ『……聞いても、コイトは言おうとしませんが』

冬優子『言いたくない理由があるってことなのかな?』

マドカ『さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので』


冬優子(――ということは、コイトちゃんはマドカちゃんを突き飛ばした犯人を知っていて、それでも悩んでる……?)

冬優子「コイトちゃん……」

冬優子(聞くべきじゃないのかもしれないけど)

冬優子「この前、マドカちゃんのお見舞いに行ったときにね……」

冬優子(正義感か、好奇心か、……あるいは両方かしら)

冬優子「コイトちゃんには、マドカちゃんの背中を押した人が見えてたんじゃないかって聞いたんだ……」

コイト「っ!」

冬優子「実際にどうだったかは、それこそふゆはその場にいたわけじゃないし、知らないよ」

冬優子「マドカちゃんから聞いた話しか、知らない」

冬優子「でも、コイトちゃんが犯人を知ってて、それでも悩んでるなら……」

冬優子「ふゆでよければ、話してみてくれないかな……?」

コイト「……」

冬優子「な、なんてね……さすがに出すぎた真似だよね。……ごめんなさい」

コイト「い、いいえ……! 別にそんなこと、ないです……」

コイト「……」

コイト「……ま、マドカちゃんの言ってることは、ほ、ほほ、本当、です」

冬優子「!」

コイト「たしかに、わたしはマドカちゃんが突き飛ばされたところを見ていて、誰がそうしたのかも……」

コイト「そ、それでも、わたしは――」

数時間後。

~冬優子の自宅~

冬優子「……」


コイト『そ、それでも、わたしは――』

冬優子『……』ゴクリ

コイト『――っ、い、言えません。言いたく、ありません……』

コイト『ごめんなさい……』

冬優子『コイトちゃんが謝ることじゃないよ! ふゆこそごめんね……問いただすようなことしちゃって……』

コイト『あ、謝らないでください……』

コイト『大変な事件だってことはわかってるんです。わ、わたしが黙っていても、いいことなんてないってことだって……』

コイト『誰を見たのか言わないのは、ゆ、許されないのかもしれないけど』

コイト『誰を見たのか言うと、わ、わたしがわたしを許せなくなっちゃうから……』


冬優子「はぁー……」ボフッ

冬優子「……」

冬優子 クルッ

冬優子「ふぅ」

冬優子「……別にふゆは探偵でもなんでもないんだから」

冬優子「ましてや、ライバルのことを気にかけるなんてこと……ふゆらしくない」

冬優子「……」

冬優子「ふゆらしく、か……」

冬優子(ふゆらしさってなんなのかしらね)

冬優子(決勝が終われば、その答えもハッキリするのかしら)

冬優子「……」

~♪

冬優子「お風呂沸いたわね。入ろっと……」

冬優子 スタスタ

冬優子 シュル・・・

バタン

キュッ

シャァァァァァッ

冬優子「っ」

冬優子「……」

冬優子 ポスポス

冬優子「?」

冬優子「……あ」

冬優子(シャンプー切らしてたんだったわ。忘れてた)

冬優子(とりあえず体だけでも……)ポスポス

冬優子「って、ボディーソープもないじゃない!」

冬優子「はぁ……」

冬優子「……っ」

シャァァァァァッ

冬優子「ふゆったら、なにしてんのかしらね」

とりあえずここまで。

決勝当日。

~大会 決勝会場~

P(いよいよ決勝だ。ついに、ここまで来た)

P(俺にできるのは、ただ見守ることだけ――)

P「……」

P(――それは、俺の役目が終わったから……ではない)

P(単に、冬優子の個人としての能力が高くなって、俺が自ら手を差し伸べる必要がなくなっただけだ)

P(冬優子は、必要であれば自分から俺の手を取りに来るだろう)

P(その域にまで達したということだ)

P(助けなしに何でもこなせるわけじゃないが、助けが必要かどうかの判断は自分でできる……それは立派に成長した証と言える)

P(だから、俺は見守る……冬優子が歩を進めていく様を)

冬優子「当たり前だけど、空気がまるで違うわね」

P「決勝だからというのもあるだろうし、ここまで来れたアイドルは12人しかいないから、そもそもこの場にいる人数が少ないんだ」

P「……12人というと、参戦した全アイドルのおよそ0.8%だな」

冬優子「恐ろしい話ね。もっと恐ろしいのは、自分がその0.8%の1人だってことだけど」

冬優子「思えば遠くへ来たものだわ」

P「ははっ。誇ればいいじゃないか。俺は誇らしいぞ」

P「プロデューサーとしてもそうだし、もちろん1人のファンとしてもな」

冬優子「あんたね……もうっ」

冬優子「でも、そうね。ふゆはここまで来て、ようやくアイドルとして自分を誇れるようになったのかもしれないわ」

冬優子「あとは、やれることをやるだけ……」

冬優子「……」

冬優子「……W.I.N.G.の決勝の前、ふゆがあんたに言ったこと、覚えてる?」

P「ああ、もちろん――」

P「――“何があっても笑ってて”……だろ?」

冬優子「ふふっ、ちゃんと覚えてたんだ」ボソッ

P「?」

冬優子「なんでもないわよ」

冬優子「……ありがと」ボソッ

冬優子「……」

冬優子「やっぱりね、ここでもふゆはあんたに言いたいの――」

冬優子「――何があっても……あんたは笑ってて、って」

冬優子「あの時と違うのは、不安も強がりもないってこと!」

冬優子「どんな結果でも、あんたと一緒に手に入れたものであることには変わりないんだから」

冬優子「あんたが笑っててくれれば、それだけでふゆは報われると思う」

冬優子「だから、全部終わったら一緒に笑って帰るわよ、プロデューサー!」ニコッ

~控え室外 廊下~

冬優子(1人1部屋……これまでとはえらい違いね)

冬優子(ふゆの部屋は……)

冬優子「……あ」

コイト「あ」

コイト「こ、こんにちは……!」

冬優子「コイトちゃんだ♪ こんにちは」

冬優子「いよいよ決勝だねっ。ふゆ、緊張してきちゃった~」

冬優子(まあ、嘘だけどね)

コイト「はいっ、そ、その……出たいと思ってた決勝でも、本番が近づいてくると……」

コイト「うぅ……」

コイト「ま、マドカちゃんならこういうときどうするのかなって、そんなこと、考えちゃって……」

コイト「えへへ……だめだめですね、わたし」グスッ

コイト「わたしなんかがこんなステージに来ちゃだめだったのかも」ボソッ

冬優子「……コイトちゃんは、マドカちゃんの代わりにアイドルをやってるの?」

コイト「ぴゃっ? い、いえ、そんなことは、ないです」

冬優子「確かにマドカちゃんの代わりに決勝に進む形だったかもしれないけど」

冬優子「ここでコイトちゃんが残す結果は、他の誰でもないコイトちゃん自身のものなんだよっ」

冬優子「だから、他の人がどうとかじゃなくて、自分にできる精一杯のことをやればいいってふゆは思うな」

冬優子「最後には笑っていられるように、ね?」

コイト「冬優子さん……」

コイト「グスッ……は、はい! わたし、頑張ってみます!」

コイト「それこそ、マドカちゃんのぶんまで!」

コイト「ま、マドカちゃんが残すはずだったのよりもずっと大きな結果、残しちゃいますよ……!」

冬優子「その意気だよ♪」

冬優子「よ~し、これはふゆも負けてられないな~」

コイト「ま、負けませんよ! 勝負ですから!」

冬優子「ふふっ、お互い頑張ろうね、コイトちゃん!」

コイト「は、はいっ!」

コイト「じゃ、じゃあ……わたしの部屋はあっちなので、そ、そろそろ失礼します」

冬優子「うんっ。またあとでね」

コイト テテテテテ・・・

冬優子「……」

冬優子(あの子も、成長してるのね)

冬優子「……あ」

冬優子(床に何か落ちてる?)

冬優子「? これって……」

冬優子(誰かの落し物……よね)

冬優子(何かの飾り? 年季が入ってるように見えるけど、大切にされてたのかしら)

冬優子(さっきまではなかった気がするし、もしかしたらコイトちゃんのものなのかも)

冬優子(まあ、とりあえず拾っておいて、あとで聞いてみればいいわ)

~283プロ 黛冬優子用控え室~

冬優子(イメトレも軽い練習も一通りやり終えた)

冬優子(あとは、本番で全力を出すだけ……)

冬優子「……」

冬優子(これ以上何かしても、たぶん無駄な足掻きよね)

冬優子(適当に過ごしてリラックスしたほうが良い、か……)

冬優子「スマホスマホ……っと、あった」

冬優子「あ、通知来てる」

冬優子「愛依から……ふふっ」

冬優子「ありがと、愛依」

冬優子「他には……あ」

冬優子「これ……あさひから、よね」

冬優子「……」

冬優子「……ったくもう、あいつは」

冬優子(でも、たぶん……いや、きっと、応援してくれてるのよね)

冬優子「そっか、ふゆは1人じゃないんだった」

冬優子(この大会では、ずっと1人で……ううん、プロデューサーと2人で戦ってきたと思ってたけど)

冬優子(愛依やあさひだっているじゃない)

冬優子「さてと……あの子たちにも、笑ってただいまを言ってやんないとね」

冬優子(そして、また、3人でステージに立つんだから)

冬優子「……」

冬優子「そうだ、忘れないうちにシャンプーとボディーソープを余分に買い足しておかないと」

冬優子「この前切れたときは、急いでて必要な分しか買わなかったし」

冬優子「リマインダーにセットして……これでよし。当分切れることはないわね」

冬優子「……思い出せてよかったわ」

冬優子「あ、いま何時かしら」ポチポチ

冬優子「って、もうそろそろ出番じゃない!」

冬優子「……」


冬優子『やっぱりね、ここでもふゆはあんたに言いたいの――』

冬優子『――何があっても……あんたは笑ってて、って』

冬優子『あの時と違うのは、不安も強がりもないってこと!』

冬優子『どんな結果でも、あんたと一緒に手に入れたものであることには変わりないんだから』

冬優子『あんたが笑っててくれれば、それだけでふゆは報われると思う』

冬優子『だから、全部終わったら一緒に笑って帰るわよ、プロデューサー!』ニコッ


冬優子(あいつにあんなこと言ったんだから、まずはふゆが笑わないとね)

冬優子(みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルなら、まず自分が笑顔になれないといけないもの)

冬優子「ふゆは今度こそ、本気で、みんなを笑顔にするアイドルになってみせるわ」

とりあえずここまで。

~ステージ(決勝)~

冬優子「ふぅ……」

カンッ、カンッ

冬優子(っ、まぶし……)

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子「…………」

冬優子(これまでよりも豪華な舞台とセット)

冬優子(目の前には、顔を覚え始めた審査員の人たちに加えて、アイドルになる前から知ってるような超有名人が何人も)

冬優子(観客だって段違いに多いわ)

冬優子「……」

冬優子(不思議ね)

冬優子(緊張でパニックになってもおかしくないような状況なのに、こんなに落ち着いてる)

冬優子(緊張してないわけじゃない……でも、いまはその緊張をコントロールできてる)

冬優子(ここまで来たのね、ふゆ)

冬優子「283プロの黛冬優子です――」

冬優子(あとは、楽しむだけよ)

冬優子「――今日は皆さんを笑顔にしちゃいますね!」


P「頑張れ、冬優子」ボソッ

P(こうして舞台袖で見守ってるからな)

P(大丈夫、冬優子ならきっとみんなを笑顔にできるさ)

冬優子 ~♪

P「……」

ギギギ・・・

P「?」

P(何の音だ? 天井のほうから聞こえた気がするけど……)

タンタンタンッ

P(……嫌な予感がする)

P(見に行ってみよう)

~ステージ(決勝) 舞台装置周辺~

P「はぁっ……はぁっ……」

P(け、結構きついな……登るの)

P(まあ、関係者しか来ないわけだし、こんなんでもおかしくないけど)

P(さて……)

P キョロキョロ

P「……」

P(気のせい……か?)

P(でも、確かに尋常ならざる音が聞こえたんだが……)

ガサッ

P「!」

P(……なにか――あるいは誰かが――いる。暗くて姿はよく見えないけど)

キィィ・・・

P(人……だな)

P(何をしているんだ?)

P(というか、“こいつ”がいじってるのって……)

P(……――っ! ま、まさか)

P「っ」ゴクリ

P(徐々に“そいつ”との距離をつめていく)

P(絶対に“それ”をさせてはいけない……)

P(とはいえ、今は冬優子のステージの真っ最中だ)

P(あまり大きな音は立てられない……ならば――)

ポンッ

「っ!?」

P(――単純な話、気配を消して、肩を叩けばいい)

「んっ……」バッ

テテテテテ

P「……」

P(さすがに驚いたのか、どっか行ったみたいだな)

P(それにしても……)

P「ふぅ~~……」

P(これ、ステージ上の装置を吊るしてるワイヤー群の1つじゃないか)

P(しかもこの状態を見る限り、あと少しいじればワイヤーが……いや、考えるのはやめよう)

P(とりあえず、本当に止めに来て良かった……)

P「……はぁ」ドサリ

P(一通りステージが終わるまでここにいよう……)

~ステージ(決勝)~

冬優子(やった……やったわ)

冬優子(いままでのどんなふゆよりも、キラキラできた)

冬優子(これ以上のパフォーマンス、いまのふゆにはできないわ)

冬優子(……そっか、ふゆ、やりきったのね)

冬優子「……」

冬優子(審査員の人たちや大御所も立ち上がって拍手してくれてる――)

冬優子(――見えているだけで、拍手の音は聞こえないけど。だって……)

ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

冬優子(こんなにも大きな歓声に包まれているんだもの)

冬優子「……」

冬優子(プロデューサー、見てくれてる?)

冬優子(あとはあんたが笑ってくれればいいの)

冬優子(それから、愛依、あさひ……)

冬優子(……あんたたちの仲間はここまで来たのよ)

ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

冬優子 ニコッ

冬優子(ふふっ、よかった)

冬優子(今日は、間違いなく、心の底から笑って帰れるわ)


~ステージ(決勝) 舞台装置周辺~

P「……すごい歓声だな」

P(パフォーマンスは、直接見ることができたのは半分くらいだが――)

冬優子「……っ。ふふっ、ありがと~~っ!!!」

P(――それでも俺には、確かに冬優子が“見えてたよ”)

P(実際に見えていないというのは、きっと、誤差の範囲でしかなかったのだろう)

P(冬優子のパフォーマンスは五感すべてにうったえかけてきていた)

P「ははっ。どうだ……! 俺のアイドルはすごいんだぞ」

P「って、自慢するまでもないか。いまとなっては、皆が認めてくれているんだから」

P「……冬優子、お前は本当にすごいよ」

P「俺、自分から笑う必要なかった」

P(冬優子の声が、想いが、届いた最初の瞬間から俺は自然に笑顔になっていたから)

P(そう……まさに、冬優子が言ったように)

P(それは、高揚、感動、安堵、懐古……さまざまな想いによるもので)

P「ありがとう、冬優子」

P(とりあえず、この後で直接会うときにも笑顔でいられるように、冬優子の歌声でも思い出しながら会いに行こうかな)

P「あ」

P(舞台装置のほうを見に行ってたことは隠しておこう……)

P(もちろん、冬優子に怒られるのが怖いというのもあるが)

P「……」

P(どうやら、不穏な動きがあるみたいだし)

P(変なストレスを与えないようにしないとな)

――――大会 最終結果――――

    優勝 黛冬優子
   準優勝 トオル

大会終了後。

~283プロ 黛冬優子用控え室~

ガチャ

冬優子「……」

バタン

冬優子「……ふぅ」

冬優子(たしか、この控え室は中の音が外にはあまり聞こえないようになってたわね)

冬優子(よし……)

冬優子「スゥーッ」

冬優子「……っっっっっしゃあああああああああああああああッッッッッ!!!!!」

冬優子「~~~っっっ!!! ゃっばい! これ……これやばい!!」

冬優子「勝っちゃった……ふゆ、ほんとに優勝しちゃったのよね!?」

冬優子「……ふふ」

冬優子「ふふふ」

冬優子「あーっはっはっはっはっは!!!!!!!」

冬優子「もう……! もうもう!!」

冬優子「あさひにスタ爆してやろっと!! あははは!!」ポチポチポチ・・・

冬優子「そうだ、愛依にもしてあげないとね!」ポチポチポチ・・・

冬優子「はぁっ、……」

冬優子「ほんと、テンションおかしい……ふふっ」ポロッ

冬優子「な、涙出てきた……はは」ポロポロ

冬優子「あれ、やば……涙止まんない……」ポロポロ

冬優子 ポロポロ

冬優子「うっ……ぐすっ……」ポロポロ

冬優子(勝てて、よかった……)


愛依『W.I.N.G.の1人ヴァージョンってこと――だよね?』

冬優子『それだけじゃないわ……!』

冬優子『この大会に出れば、1人でユニットの何もかもを背負うのよ』

冬優子『プロデューサーも言ってたでしょ、普段ユニットで活動してるアイドルが1人で出るんだ、って』

冬優子『勝てば天国負ければ地獄とはこのことよ』


愛依『でも、それならあさひちゃんが出れば――』

冬優子『――わかってんのよ!』

愛依『っ!?』ビクッ

冬優子『わかって……るのよ』プルプル

冬優子『そうだけど……そんなの悔しいじゃない……!』


冬優子「愛依……あさひ……」ポロポロ


P『俺は、ストレイライトのために、愛依でもあさひでもなく、冬優子を選んだんだ』


冬優子「プロデューサー……」ポロポロ

~控え室外 廊下~

P「はあっ、はあっ」タッタッタッ

P(遅くなっちまった……待たせすぎって冬優子に言われるかも)

P(ははっ……それじゃあ結局怒られてるじゃねーかってな)

P(「283プロ 黛冬優子様」……ここだ)

コンコンコン

「……はい」

P「冬優子、俺だ。入ってもいいか?」

「プロデューサー?」

P「そうだ。遅くなってすまない」

「いいわよ。入って」

ガチャッ


~283プロ 黛冬優子用控え室~

P「冬優子、よくやっt――」

冬優子「プロデューサーっ!!」ダキッ

P「――たな……」

冬優子「っ……グスッ」

P「優勝おめでとう、冬優子」ポンッ

P「すごかったよ、本番でのパフォーマンス」

P「今までに見てきたどの“ふゆ”よりもキラキラしてたぞ」

P「自然に笑顔になれたんだ。プロデューサーとしてもそうだし、1人のファンとしても」

P「ありがとう。冬優子のプロデューサーであることが本当に嬉しい。誇りに想うよ」

P「正真正銘のトップアイドルだ」

冬優子「そっか……。そうよね……!」ニコッ

冬優子「ふゆね……早くあんたに会いたかった」

冬優子「いろんな思いがあるけど、たぶん、一番は――」

冬優子「――その言葉をあんたから聞きたかったんだと思う」

冬優子「ふゆにも言わせて。ありがと、プロデューサー」ギュウッ

冬優子「あんたがいてくれたから、ふゆはここまで来れた」

冬優子「みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルになれたのよ、あんたのおかげでね」

冬優子「感謝してもしきれないわ」ギュウウウッ

P「そう言ってくれるのは……嬉しいな。けど――」

P「――他の誰でもない、冬優子の努力と想いもこの優勝には欠かせなかった」

P「まあ、俺がわざわざ言ってやるまでもないか」

P「……というか、さっきからどんどん抱きしめる力が強くなってるんだが」

冬優子「なによ。……いやなわけ?」

P「いや、そうじゃないけど……」

冬優子「なら、もう少しだけこうさせて」

冬優子「プロデューサーとしてのあんた、ファンとしてのあんた……その両方はふゆに魅了されたみたいだけど」

冬優子「ひ、1人の男としてのあんたも、ふゆは狙ってんの……!」

冬優子「だから、今日は、その……ふゆの抱き心地でも覚えていってから帰りなさいよね」

冬優子「………………ふふっ、だいすき」ボソッ

とりあえずここまで。

P「帰る前にちょっと挨拶しておきたい人がいるから、また後で落ち合おう」

冬優子「おっけー。ふゆも適当に時間つぶしておくわ」

P「すまない。それじゃあ、30分後にロビー集合でいいか?」

冬優子「了解。ほら、早く用を済ませてきなさいよ」

P「ああ。じゃあ、また後で」

ガチャ

バタン

冬優子「……さて、と。帰り支度しますか」


数分後。

冬優子「忘れ物は……よし。ないわね」

冬優子「あとは……」

冬優子(コイトちゃんと別れたときに拾った落し物――何かの飾りみたいなやつ――をどうにかしないとね)

冬優子(とりあえずコイトちゃんに聞いてみようかしら)

ガチャ

バタン


~控え室外 廊下~

冬優子「この辺にはいない、か」

冬優子(コイトちゃん……もう帰っちゃったのかしら)

冬優子(それにしても――)

冬優子 つ落し物

冬優子(――これをコイトちゃんが、ね……)

冬優子(年季の入ったものみたいだし、大切にされてたのかな)

冬優子「まあ、ロビーに行けば落し物として預かってもらえるかもしれないし、そっち向かえばいっか」

冬優子(あいつとの集合場所でもあるしね)

~エレベーターホール~

冬優子「……」

フォンッ

ウィーン

ヒナナ「あ」

冬優子「あ」

冬優子(この子――)


トオル『このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する』

ヒナナ『ごろ~ん♡ ヒナナこのソファーすき~~』


冬優子(――プロデューサーの幼馴染とかいう子の友だち……だっけ)

ヒナナ「やは~お疲れ様です~~」

冬優子「お疲れ様ですっ」

ヒナナ「あ、優勝おめでとうございます~」

冬優子「ありがとうございますっ。これもみんな――」

冬優子「――プロデューサーさんにユニットの仲間、ファンの人たちのおかげだよ♪」

ヒナナ「あは~……そうなんですね~」

冬優子「う、うん……」

ヒナナ「トオル先輩……なんでだめだったのかな~?」

冬優子「だめって……ふゆが言っていいのかわからないけど、準優勝だよ?」

冬優子「準優勝はだめなの?」

ヒナナ「う~ん。どうですかね~~」

ヒナナ「やっぱ優勝のほうがしあわせ~ってなるのかな、って思ったから~~」

冬優子「しあわせ?」

ヒナナ「はい! ヒナナはトオル先輩が好きだから」

ヒナナ「トオル先輩が優勝してしあわせ~ってなってくれたら、ヒナナもしあわせ~になれるかな~……って」

ヒナナ「ヒナナはね、ヒナナがしあわせ~って思えることだけでいいの」

ヒナナ「ヒナナがしあわせなのがいちばんさいこ~♡ ってことで」

ヒナナ「もちろん、ヒナナが優勝できればしあわせだけど――」

ヒナナ「――トオル先輩が優勝するんでも、まあいいかな~って思ってました」

冬優子「……」

ヒナナ「準優勝ってどれくらいしあわせ~ってなるんだろ~?」

冬優子(なんなのこの子……)

冬優子(ふゆの中で何がひっかかるのかはわからないけど、何よりもわからないのはこの子自身……)

冬優子(どんな価値観なのよ。人を何だと思ってるの?)

冬優子(もしかしたら、この子なりの筋道だった説明のつく理屈があるのかもしれないけど)

冬優子(ふゆはこの子のこと……)

ヒナナ「どうかしましたか~?」

冬優子「え? あ、う、ううん! なんでもないよっ」

ヒナナ「それじゃあ、ヒナナは向こうに用事があるのd……」

冬優子「?」

ヒナナ「……」

ヒナナ「……やは~」

ヒナナ「それ……」

ヒナナ「その手に持ってるのって~……」

冬優子「あ、これはね、さっき本番前に控え室のところの廊下で拾ったんだよ」

冬優子「落し物だと思ったから、これからロビーに届けようかなって」

ヒナナ「落し物……。控え室のところの廊下……?」

冬優子「……どうしたのかな?」

ヒナナ「それヒナナの~!!」

冬優子「!?」ビクッ

ヒナナ「よかった~~。もう見つからないと思ってたのに~~~~」

ヒナナ「そのアクセサリー、ヒナナのお気に入りで~」

冬優子「そ、そうだったんだ」

冬優子(そっか。アクセサリーか)

冬優子(そういえば――)


ヒナナ『そうだ! トオル先輩、帰りに雑貨屋さん寄っていってもいい~?』

ヒナナ『気に入ってたアクセサリーがね~……この前から見つからないんだ~』


冬優子(――あの時に言ってたアクセサリーってこれのことだったのね)

冬優子(拾ったのがコイトちゃんと別れたときだったから、コイトちゃんのものかと思ってたけど)

冬優子(持ち主が見つかったのなら、それに越したことはないわ)

冬優子「はい、どうぞっ」

ヒナナ「やは~! やった~~!」

ヒナナ「見つかってよかった~。今日はしあわせ~になれたかも~~」

冬優子「ふふっ、大切にしてたんだね♪」

ヒナナ「はい~。小さい頃からの友だちとの……しあわせ~なアイテムなんです~」

冬優子「そうなんだ! じゃあ、これからはなくさないようにしないとだねっ」

ヒナナ「見つけてくれてありがとうございました~。それじゃ、失礼しま~す」

冬優子「うん。ばいばい」

ヒナナ テテテテテ

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子「…………ふぅ~~~」

冬優子(つ、疲れた……)

冬優子(アイドルとしてのふゆを演じるのはなれっこだけど、あの子の相手するのでこんなに疲れるとはね……)

冬優子(まあ、とりあえずもう済んだことなんだし、落し物の持ち主も見つかったし、別にいいじゃない)

冬優子(早くロビー行こ……)

~決勝会場 ロビー~

冬優子(あいつ、おっそいわね……!)

冬優子(ふゆを待たせるなんていい度胸してんじゃない)

冬優子(なんて言ったって、優勝アイドルなのよ? 今日のふゆは偉いんだから)

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子(暇ね)

冬優子(話相手でもいればいいのに――って、あそこにいるのは……)

コイト キョロキョロ

コイト ウロウロ

コイト「ウゥ・・・」

冬優子(コイトちゃんよね。ちょうどいいわ)

冬優子(ふゆの話し相手に……)

コイト「ぴぇ……ど、どうしよう……」

冬優子(なんだか、それどころじゃない……みたい?)

冬優子「コイトちゃんっ」

コイト「ぴゃっ!?!?」

コイト「あ、ふ、冬優子さんですか……」

冬優子「ごめんね? 驚かせちゃったかな」

コイト「い、いえ……大丈夫です」

冬優子「ひょっとして、何か困ってる?」

コイト「なっ、なな、なんでわかるんですか……?」

冬優子「見ればわかるよ~。いまのコイトちゃん、すごく焦ってるって感じするもん」

コイト「そうだったんですね……」

コイト「……うぅ」

冬優子「何か困りごとなら、ふゆでよければ力になるよ?」

コイト「……そ、そのっ、お、落し物……探してて……」

冬優子「……え?」

冬優子(落し物……ですって?)

冬優子(さっきあの子に返したのも落し物で……コイトちゃんと別れたときに拾ったもので……)

冬優子(でも、その持ち主はあの子で……)

コイト「あれが見つからないと……ぴゃぅ」

冬優子(ここは正直に話したほうがよさそうね)

冬優子「実はね、本番前にコイトちゃんとばいばいして、そのすぐ後に廊下でアクセサリーを拾ったんだ」

冬優子「年季が入ってて、特徴は――」

冬優子(できるだけ詳しく、拾ったアクセサリーのことを説明した)

冬優子「――って感じなんだけど……もしかしてそれのことかな?」

コイト「そ、そそ、それです……! 良かった、冬優子さんが拾ってくれてたんですね……」

冬優子「え、え~っと、それが……」


コイト「え……」サーッ

冬優子「ごめんねっ! 持ち主だって言ってて、大切にしてたみたいだったから、渡しちゃった……」

コイト「その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……」

とりあえずここまで。

30数分前。

~___プロ トオル用控え室~

コンコンコン

P「283プロの黛のプロデューサーをしているPです」

トオル「あ、はい」

トオル「どうぞ」

P「失礼します」

ガチャ

バタン

P「……」

トオル「……」

P「よ、よう」

トオル「よっ」

P「……その、なんだ。優勝アイドルのプロデューサーが言うとただの嫌味になるが」

P「1人の幼馴染として言わせてくれ」

P「おめでとう、トオル」

トオル「……ありがと」

P「お前のステージも見てたよ。アイドルとしてのトオルの真骨頂、しかと見届けさせてもらった」

P「俺の知らない間に、トオルは遠くで……頂にたどり着こうとしていたんだな」

P「でも、それはそれで感慨深いよ。お前のファンになろうかと本気で考えてるんだぜ?」

トオル「……」

P「トオル?」

トオル「……なんで、そういうこと言うかな」

トオル「Pと遠いところなんて、わたs……僕は望んでないのに」

トオル「遠くに行っちゃったのは、Pも同じでしょ」

トオル「それなのに、その上、僕のファンに……?」

トオル「Pは、僕と他人になりたいの?」

P「ま、まて、トオル。俺はそんなつもりで言ったんじゃ……」

トオル「じゃあ、どんなつもり?」

P「お、俺はただ、トオルの幼馴染として準優勝したことを祝福して褒めようとしただけだよ」

トオル「準優勝、か」

トオル「ねえ、覚えてる? ジャングルジムのこと」

P「ジャングルジム……? ああ、トオルが小さい頃によく一緒に遊んだよな」

トオル「うん」

トオル「僕ね、てっぺんを目指したかったんだ」

トオル「あの頃はジャングルジムで、いまは……」

P「てっぺん……もしかして、この大会での優勝?」

トオル「ジャングルジムのときは、Pは一緒にてっぺんにのぼってくれた」

トオル「でも、いまはPが一緒じゃない」

トオル「優勝は、できなかった」

トオル「まあ、なんていうか、さ。アイドルとしててっぺんを目指す方法はたくさんあるから」

トオル「いまからでも、Pが一緒に目指してくれたら」

トオル「てっぺんにのぼれる気がするんだ」

トオル「Pのほうから来てくれればいいって思ってた」

トオル「でもね、わかったんだ」

トオル「待ってるだけじゃ、あなたは来てくれないってこと」

P「……」

トオル「あれから――この前283プロの事務所に会いに行ったときから――いろいろ考えた」

トオル「Pの横には別の……優勝したあの子がいて、このままだと僕とPは二度と元には戻れない」

トオル「それは、嫌だ」

トオル「しばらく離れてたからこそ、僕にはPが必要なんだって思えた」

トオル「だからさ、お願い」

トオル「僕のプロデューサーになってください」

トオル「僕とまた……一緒にてっぺんを目指してください」

P「……っ」

トオル「返事、聞かせて欲しい」

P「……俺は」

P「俺は、トオルのプロデューサーにはなれない」

トオル「っ」

P「俺とトオルは幼馴染で、決して他人なんかじゃない。その辺のアイドルとはわけが違う……お前は特別だよ」

P「1人の女の子としても俺にとってはそうだし、1人のアイドルとしてもだ」

P「トオルの持つトップアイドルになれる素質は、この大会を通じて確信したよ」

P「確かに、一緒にトップアイドルを目指せば、実現させることが十分可能だろう。それでも……」

P「俺は、283プロのプロデューサーで、黛冬優子の……ストレイライトのプロデューサーなんだよ」

P「それは覆らないし、覆したくない」

P「あいつらと築いてきたものがある。あいつらと共に歩んだ道がある」

P「そうだな……それについて語ればキリがないくらいには、な」

P「そして、それらは何物にも代えがたくて、今一番大切なものだ」

P「だから、俺がてっぺんを目指したいと思うアイドルは、トオル……お前じゃないんだ」

P「ごめんな」

トオル「グスッ……頼んでも、駄目だった、か」

トオル「優勝したあの子は……あの子のいるユニットは……」

トオル「僕が入り込めないくらい、Pとの絆で結ばれてるんだ」

P「っ……ああ。そうだ」

P「それが、プロデューサーとして俺が得たものだから」

P「そう簡単に手放せないし、手放したくない」

トオル「ほんと……あの子が羨ましい」ポロポロ

トオル「っ……あはは、だめだ、僕」ポロポロ

トオル「フラれたのに、グスッ……いますぐPに抱きついて思い切り泣きたいなんて思ってる」ポロポロ

P「その……なんだ。幼馴染の我儘に付き合うくらいなら、別に構わないさ」

P「今ここにいるのは、283プロのプロデューサーじゃなくて、1人の……トオルの幼馴染ってことにすれば」

トオル「!」

トオル ダキッ

P(それから、トオルは思い切り泣いた。こんなトオルは何年ぶりだろう。あるいは、初めてかもしれなかった)

P(ここまでの想いを抱えてトオルが泣くところは、おそらく……)

トオル「……ごめん。もう、大丈夫だから」パッ

トオル「ありがとう」

トオル「なんか、こうしてちょっと離れるのも、いまは悲しい感じがする」

P「これが今生の別れというわけじゃないんだし、また明日からは幼馴染として仲良くやっていこう」

トオル「しばらく会えてなかったぶんも、ね」

P「ああ」

P「何か相談ごととかあれば、遠慮なく言っていいんだからな」

トオル「わかってる。そのときは、頼る」

トオル「幼馴染としてね」

P「おう」

ヴーッ

P「俺のスマホ……じゃないな」

トオル「僕のかな」

トオル「あ、ヒナナだ」

トオル「いま向かう、か」

トオル「『わかった。控え室にいるから』――っと」ポチポチピッ

P「ヒナナって、この前うちの事務所に一緒に遊びに来た子か?」

トオル「うん」

P「仲良いんだな」

トオル「まあね」

トオル「この大会の間のこととか、あとPのこととかも、時々話聞いてもらってた」

P「仲間は大切にしろよ? 1人で生きていくなんてできないんだから」

トオル「ふふっ、大げさ」

P「大げさなもんか。特にこの業界、1人だけの無力さを痛感する場面が多いからな……」

トオル「大人の事情だね」

P「トオルもこれから大人になっていくんだろ?」

トオル「うーん。どうかな」

P「なるんだよ。まあ、いずれわかるさ」

P「……あ」

P「い、いま何時だ!? ……ってやばい!」

P「30分後に落ち合おうって俺が言ったのに、もう過ぎてる……!」

トオル「だめだよ、約束は守らないと」

P「本当だよな。大人の俺がこんなんでどうするって話だ」

P「それじゃ、その……またな。トオル」

トオル「またね、P」

ガチャ

トオル「今度、一緒に遊んでね」

P「ああ、何するか考えておけよ」

バタン

~控え室外 廊下~

P タッタッタッ

P(冬優子、怒ってるだろうな……)

P(走って向かっても遅刻は確定だが、それでもできるだけ早く着いてやらんとな)

P「はあっ、はあっ……」タッタッタッ

P(この先で、左に曲がる――っ!)

P「わっ!?!?!?」

ヒナナ「わ~~???」

P「ぐ、……っととととと、あ、あぶない……」

P(全力で踏ん張ることで、とりあえず思い切り衝突するのは防げたぞ)

ヒナナ「だいじょうぶですか~?」

P「あ、ああ。急いでたもので、申し訳ありませn……って、君は」

ヒナナ「あは~。この前のお兄さんだ~~」

P「トオルの友だちだったっけ。俺はトオルとは幼馴染なんだ」

ヒナナ「知ってますよ~~。トオル先輩から聞いてました~~~」

P「そ、そうか」


トオル『この大会の間のこととか、あとPのこととかも、時々話聞いてもらってた』


P(そんなことも言ってたな)

P「しばらくあいつと会ってなかった俺が言うのもなんだが、トオルが世話になってるな」

P「仲良くしてやってくれ」

ヒナナ「は~い。ヒナナ、トオル先輩のこと好きですから~」

P「ありがとう。よろしく頼んだ」

P「うおっ、やべ……さらに遅刻だ……!」

P「じゃ、じゃあな」

ヒナナ「ばいば~い」フリフリ

P タッタッタッ

とりあえずここまで。

>>127

訂正


トオル「別に、プロデューサーを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって」





トオル「別に、Pを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「Pから来てくれたら、嬉しいなって」

>>128

訂正


トオル『プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって』





トオル『Pから来てくれたら、嬉しいなって』

~決勝会場 ロビー(再び ―― >>171)~

コイト「え……」サーッ

冬優子「ごめんねっ! 持ち主だって言ってて、大切にしてたみたいだったから、渡しちゃった……」

コイト「その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……」

冬優子「う、うん」

冬優子(……まずったかしら)

冬優子(というか、いま、コイトちゃん――)


コイト『その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……』


冬優子(――って言ったわよね)

冬優子「あの……さ、コイトちゃんって、あのヒナナちゃんって子と知り合いだったの?」

コイト「ぴぇ!? な、なな、なんでそう思うんですか」

冬優子「言い方がそんな感じかなって」

コイト「うぅ……」

冬優子「もしかして、知られたらよくないことなのかな?」

コイト「……」

コイト「……っ」

コイト「~~~~!」

コイト「……わ、わかりました。冬優子さんには、ちゃんと話します」

コイト「っ……」

コイト「わたしがあのアクセサリーを拾ったのは、マドカちゃんが怪我をしたのと同じ日です」

コイト「マドカちゃんが、つ、つつ、突き飛ばされたすぐ後に……床に落ちてたのを、わたしが」

冬優子「そんな……それって――」

冬優子(――いや、結論を急いじゃだめ、ふゆ)

コイト「わ、わたしとヒナナちゃんは幼馴染なんです」

コイト「あれは、小さい頃に、わたしがヒナナちゃんにプレゼントしたアクセサリー……」

コイト「ヒナナちゃんとは中学から疎遠になっちゃったけど、あのアクセサリーはずっと大事にしてくれてたみたいです」

コイト「でも……! それを知ったのも、マドカちゃんが怪我をした日……」

コイト「あの日、マドカちゃんが階段から降りてこようとしたその時――」

コイト「――わ、わたしは……、マドカちゃんのすぐ後ろにヒナナちゃんがいて――」

コイト「――ヒナナちゃんがマドカちゃんの背中を、おお、押すのを……!」

コイト「グスッ……み、見ました」

冬優子「……」

冬優子(ふゆの結論は、残念ながら正解だったみたいね)

冬優子「ひどい……なんでそんなこと……」

コイト「わっ、わたしにもわからないんです! い、いろいろ考えちゃいましたけど、でもヒナナちゃんってつかみどころのないところがあるから……」

コイト「こんなの、わたしは……い、嫌です」

コイト「アイドルになって、ヒナナちゃんもアイドルやってるって知って」

コイト「いつかまた仲良くできたらいいなって、……思ってたのに」

コイト「久しぶりだねって……そのアクセサリーいまでも使ってくれてたんだねって……そ、そうやって再会したかったのに……」

コイト「アイドルになって、なかなか話しかけられないでいたら、こ、こんなことになるなんて……」

コイト「……そ、それでも、わたしはヒナナちゃんを友だちだって思いたかったから」

コイト「見たことを言わないで、拾ったものを隠して、ヒナナちゃんを守ろうって、……そうしたんです」

冬優子「コイトちゃんが拾ったまま持っていれば、ヒナナちゃんはそのアクセサリーをなくしただけになる……」

コイト「わたしたち3人以外はあの場にいなかったから……人気は全然なかったし、そ、それは確かなんです」

コイト「でも……わ、わたしがそれを落としちゃうなんて……」

冬優子(それをふゆが拾って“持ち主”に返しちゃった――と)

コイト「ヒナナちゃんがあの日にアクセサリーを落としたって気づいてたら、きっとわたしが持ってきたって思うはずです」

コイト「だって、マドカちゃんはここに来れなかったから……」

コイト「あ、あの場にいて、この決勝に持ってこれるのは、ヒナナちゃん以外にはわたししかいませんから……」

コイト「それを冬優子さんが拾って返したってことは、も、もう……!」

冬優子「お、落ち着いてコイトちゃんっ」

冬優子「コイトちゃんが黙ってて欲しいって言うなら、ふゆは誰にも言わないよ」

冬優子「たぶん、本当はこのことを他の人に言うべきなんだと思う……それでも――」

冬優子「――これは、コイトちゃんとヒナナちゃん……それからマドカちゃんの3人の問題だもん」

冬優子「ふゆがどうこうしていい話じゃないよ」

冬優子「ごめんね……なんか無責任なこと言ってるよね、ふゆ」

コイト「あ、謝らないでください! わたしが巻き込んだだけです……」

コイト「…………ふ、冬優子さん!」

コイト「っ……お願いします、このことは、誰にも言わないでください」

冬優子「わかった。それならふゆは何も言わないよ」

冬優子「コイトちゃんは、ヒナナちゃんのことが大好きなんだねっ」

コイト「は、はい……ですから」

コイト「これは、わ、わたしが! 決着をつけます!」

コイト「ちゃんと、ヒナナちゃんと話して、向き合わないと……」

コイト「だ、だから、冬優子さんは何も言わないでください」

冬優子「ふふっ、そっか」

冬優子「頑張ってね、コイトちゃん!」

コイト「は、はい!」

コイト「わたし、いまからヒナナちゃんに会いに行ってきます」

コイト「久しぶりの会話がこれなのは悲しいけど……それでも!」

コイト「このまま何もしないのは、たぶん駄目ですから」

コイト タタタタタ

冬優子「……」

冬優子(どうなるのかしら、あの子たち)

冬優子(結局、ふゆにとっては関係のない話……なのよね)

冬優子「……って、やっと来た」

冬優子「もう! おっそい!」

P「はあ゛っ、くっ、……わ、悪い、遅れちまって」ゼェゼェ

冬優子「まったく、優勝アイドルであるふゆを待たせるなんて、いい度胸ね」

P「返す言葉もない……」ゼェゼェ

冬優子「冗談よ。もういいわ、あんたが遅れて来たことなんて」

冬優子(プロデューサーが遅れてる間に、そんなのが気にならないくらいの話があったんだから)

P「さ、じゃあ帰ろうか」

冬優子「そうね、でも足りないわ」

冬優子「一緒に笑って帰るって言ったでしょ。もっと楽しそうに……嬉しそうにしててよね!」

~エレベーターホール~

トオル「あ、エレベーター来たわ」

ヒナナ「も~~全然来ないから待ちくたびれちゃった~~~」

フォンッ

ウィーン

コイト「……」

ヒナナ「! ……あは~」

トオル「?」

コイト「ひ、ヒナナちゃん! ……久しぶり、だね」

ヒナナ「うん! そうだよね~~」

トオル「ヒナナの、友だち?」

ヒナナ「幼馴染かな~?」

トオル「ふふっ、そっか」

トオル「邪魔しちゃ悪いし、先にロビー行ってるね」

トオル「久しぶりの会話、楽しんで」

トオル「じゃ」

ウィーン

バタン

コイト「……」

コイト「中学で別の学校になっちゃったから、それ以来だよね」

ヒナナ「そうだったね~。元気だった~?」

コイト「う、うん。ヒナナちゃんは?」

ヒナナ「ヒナナもそんなとこ~」

コイト「そ、それなら良かった……」

コイト「……」

コイト「ヒナナちゃん、覚えてる? 小さい頃に、わたしがヒナナちゃんにあげたアクセサリー」

ヒナナ「もちろん覚えてるよ~。えーっと……」ガサゴソ

ヒナナ「……あった! これでしょ~?」

コイト「そう……! それ……」

ヒナナ「“コイトちゃんが拾ってくれた”んでしょ~?」

コイト「!! ……やっぱり、気づいてたんだね、ヒナナちゃん」

ヒナナ「うん! さっきトオル先輩の好きなお兄さんのアイドルの人から返してもらったけど――」

ヒナナ「――ヒナナがこれをなくしたのは、あの日だもんね~」

ヒナナ「あそこにはヒナナたち3人以外いなかったし~~……、あの子じゃないならコイトちゃんかな~って」

コイト「ヒナナちゃん……久しぶりに話せたのは嬉しいけど、で、でも、聞かせて……!」

コイト「マドカちゃん――あの子を階段から落としたのは、……っ、な、なんで!?」

ヒナナ「やは~~、それはね――」

眠すぎるので、一旦ここまで。

~車内(移動中)~

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P(……本当にお疲れ様、冬優子)

P(車を出してしばらくは興奮気味にステージでのことを話してくれてたが)

P(一気に開放感がやってきたのか、しばらく黙ったかと思ったら寝ちまったな)

P(あれだけ頑張ってきたんだ。今は好きなだけ休めばいい)

P(後部座席にいる女の子は――たった今の冬優子は――ただの女の子なんだから)

冬優子「んんっ……」

冬優子「あんたは――」

P「?」

冬優子「――ここでふゆと死ぬのよ……」

P ビクッ

冬優子「……って……何言わせんのよあさひー」

冬優子「こんなセリフ台本にないわよ……んぅ」zzzZZZ

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P(ね、寝言かよ……! なんて物騒な夢を見てるんだ……)

P(でも、冬優子が言いそうなセリフだな。どんな状況だよという突っ込みは置いておいて)

P「……ははっ、まあ、冬優子はしぶとそうだよな」

冬優子「……」zzzZZZ

P(……寝てるんだよな? 聞かれてないよな?)

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P「ふぅ……」

P(しかし――)


P《あまり大きな音は立てられない……ならば――》

ポンッ

『っ!?』

P《――単純な話、気配を消して、肩を叩けばいい》

『んっ……』バッ

テテテテテ


P(――あの時……舞台装置のあたりにいたのは誰だったんだろうか)

P(もしあそこで肩を叩いてなかったら……冗談じゃなく冬優子は……)

P(冬優子がうらまれる理由でもあるのか? 冬優子だからこそ、敵を作るようなことはそうしない気もするが)

P(あるいは、一方的なものだろうか)

P(大会が終わってからは撤収作業で慌しくなって、舞台の裏方でない俺にできることは何もなかった)

P(結局、あの未遂に終わった工作は謎のままだ)

P(プロデューサーとしては、今は様子を伺うのが良いのかもしれない)

P(ただ、冬優子の近くの人間には注意をしておこう)

冬優子「プロデューサー……」

P「! ……どうした、冬優子」

冬優子「……呼んでみただけよ。……すぅ」zzzZZZ

P(なんだ、また寝言か。……まあ、こうして冬優子が安心して寝ていられるように、俺も頑張らないとな)

~決勝会場 エレベーターホール(再び ―― >>187)~

コイト「マドカちゃん――あの子を階段から落としたのは、……っ、な、なんで!?」

ヒナナ「やは~~、それはね――」

コイト「……っ」ゴクリ

ヒナナ「――コイトちゃんとまた仲良くしたいな~って思ったから~~」

コイト「へ……?」ポカン

ヒナナ「? どうかしたの~?」

コイト「ちょ、ちょっと待ってヒナナちゃん! それと、その……マドカちゃんを怪我させることってどんな関係があるの……!?」

ヒナナ「だって~、コイトちゃん決勝に来れなくなっちゃったから~~……」

コイト「そ、それはっ……そうだけど」

ヒナナ「ヒナナもね、コイトちゃんがアイドルやってるって嬉しかったよ~」

ヒナナ「また仲良くできたらいいな~って思った~~」

ヒナナ「この大会の決勝って人も少ないでしょ~? だからコイトちゃんと話せるかな~って思ったけど……そうじゃなかったから」

ヒナナ「……それは、しあわせ~じゃないよね~~」

ヒナナ「あと~、コイトちゃんが決勝に行けたら、コイトちゃんもしあわせ~ってなるでしょ~~?」

ヒナナ「コイトちゃんがしあわせなら、ヒナナもしあわせになれるかなって」

ヒナナ「それに~、うーんと、あの子……マドカ……先輩?」

コイト「! そっ、そうだよ! マドカちゃんだよ! 1つ先輩の!」

コイト「お、覚えてたんだね、ヒナナちゃん」

ヒナナ「でも~、あんまり覚えてないよ?」

コイト「小学校のときの先輩だよ……たしか、中学はヒナナちゃんと一緒のところだったんじゃ……」

ヒナナ「ん~、そう、かも? あ~、というか……」

コイト「というか……?」

ヒナナ「やは~、別に~~? なんでもないよ~……」

ヒナナ「あ、そういえば~」

ヒナナ「……たしか~、コイトちゃんってマドカ先輩に可愛がられてたよね~~」

コイト「え、えへへ……そうだった、かな?」

ヒナナ「ヒナナと一緒に帰れないときとか~遊べないときって~……マドカ先輩と一緒だったときだったよね~~」

コイト「え゛っ、そ、そう……? ごめんね……あんまり覚えてないかも」

ヒナナ「まっ、いいけどね~」

ヒナナ「あれ~? なんの話だったっけ~~?」

コイト「あ……そ、その……!」

コイト「じゃあ、ヒナナちゃんがあんなことをしたのって……」

コイト「わたしが決勝に進めば、ヒナナちゃんと会えるから……ってこと……だよね」

ヒナナ「うん!」

コイト「わ、わたしが決勝に進めれば、ヒナナちゃんも嬉しいから……」

ヒナナ「そうかなって思った~」

コイト「……そ、そう……なんだね」ガクッ

コイト「ヒナナちゃんは、マドカちゃんのこと……」

ヒナナ「?」

コイト「う、ううん。なんでもない」

ヒナナ「あ~……久しぶりに話せたのに~~。なんかあんまりしあわせ~な話じゃないね~~」

コイト「っ!!」

コイト「ふ、ふふ……!」

コイト「ふざけないでよっ!!」

ヒナナ「?」

コイト「グスッ……友だちがあんなことになって、そのおかげで決勝に行けたって……う、嬉しくなんかないよ!!」

コイト「そ、それが……ヒナナちゃんとまた仲良くなるためだなんて……嬉しいわけがないよ……」

コイト「たっ、たしかに、わたしだって一生懸命頑張ったよ! でも、その上で駄目だったんだよ……!」

コイト「……それなら、諦めるよ」

コイト「もう、子どもじゃないから」

ヒナナ「そっか~……コイトちゃんはそう思うんだね~~」

コイト「久しぶりだからとかじゃない……わたしは、ヒナナちゃんがわからないよ」

ヒナナ「ヒナナはヒナナがしあわせ~って思えることだけでいいの」

コイト「っ……ヒナナちゃんにとって、し、しあわせって何……?」

ヒナナ「それはヒナナにもわからな~い」

ヒナナ「わからないから、こうしたっていうのが、答えかな~」

ヒナナ「ヒナナもね、子どもじゃないの。だから考えてみようと思って~」

ヒナナ「だから、ほかの人のしあわせ~って、なんなんだろ~って」

ヒナナ「友だちの――コイトちゃんのしあわせってなんなんだろ~って」

ヒナナ「で、ヒナナなりに考えたけど……うん、だめだったみたい!」

ヒナナ「なんか、ごめんね~?」

コイト「ひ、ヒナナちゃん……」

ヴーッヴーッ

ヒナナ「あ、電話……トオル先輩からだ~♪」

ピッ

ヒナナ「は~い、もしもし~~?」

ヒナナ「時間かかりすぎ~? あ~! ほんとだ~~!」

ヒナナ「うん。……うん! 久しぶりに話せたから、嬉しくてつい、ね~」

ヒナナ「わかった~。じゃあ、いまからそっち行くね~」

ピッ

ヒナナ「なんか呼ばれちゃった~」

コイト「ぴぇっ? あ、うん」

ヒナナ「もっとお話したかったけど……」

ポンッ

コイト「ぴゃ!?」

ヒナナ「“また今度”ね~、コイトちゃん」

コイト ゾッ

ヒナナ「~♪」

フォンッ

ヒナナ「やは~♡ 今度はエレベーターすぐに来た~」

ウィーン

バタン

コイト「……」ヘナヘナ

コイト「ヒナナちゃん……」

~決勝会場 ロビー~

トオル「……ん」

トオル「これは、足音と鼻歌……」

ヒナナ「~♪」

トオル「あ、やっとヒナナ来たわ」

ヒナナ「おまたせ~~」

ヒナナ「待った~?」

トオル「うん。ふふっ……めっちゃ待った」

ヒナナ「あ~! そういうこと言うの~~? もう」プクー

トオル「そういうこと言っちゃう。待ったし」

トオル「あ、そうだ」

トオル「あの子とは、楽しく話せた?」

ヒナナ「ん~、どうだろ~~」

ヒナナ「まあまあかな~?」

トオル「そっか」

ヒナナ「なんかね~、今日はしあわせじゃない~ってことがいろいろあったかも」

ヒナナ「うまくいかないな~って」

トオル「まあ、そういう日もある」

トオル「私も、今日はそうだし」

トオル「優勝はできなかったし」

トオル「あと、フラれちゃったから」

ヒナナ「そっか~」

ヒナナ「お互い苦労しますね~」

トオル「だね~」

トオル「なかなか思うようには……ね」

トオル「ほら、思わない?」

トオル「人生って、長いなーって」

ヒナナ「あは~……そうかもね~~」

トオル「よっ、……んーっ」ノビーッ

ヒナナ「どうしたの~? ここ天井高いから手届かないよ~」

トオル「うん。届かない」

トオル「届かない……てっぺんに」

とりあえずここまで。

1ヵ月半後。

~事務所~

冬優子「あ゛~~っ……ソファーソファー……」

冬優子 ボフッ

冬優子「……疲れた」ハァ

愛依「ほんと、冬優子ちゃんのおかげで仕事たくさん入ってるよね~」フゥ

冬優子「そうよー……。ふゆに感謝しなさい……」

愛依「めっちゃ感謝してるって! うちもプロデューサーも、……あと、たぶんあさひちゃんも!」

あさひ「まだまだいけるっすよ冬優子ちゃん! さあ起きるっす!!」

冬優子「もう……あんたは、もう少し疲れるってことを知ってよね」

愛依「冬優子ちゃん?」

冬優子「あ」

愛依「やば……ひょっとして冬優子ちゃん、疲れすぎて見えたり聞こえたりしちゃイケないのが……」

冬優子「うっさい……。あさひならこういうとき、まだまだいけるって言うんじゃないかって思っただけよ」

愛依「……」

愛依「あはっ、そかそか」

冬優子 モゾモゾ

冬優子「……」

愛依「そだね。あさひちゃんがいまの冬優子ちゃん見たら、そう言うっしょ」

ガチャ

愛依「あ、プロデューサー来たカンジ?」

冬優子「仕事人間……」ボソッ

愛依「まあまあ……うちらのために頑張ってくれてるワケだしさ」

P「2人ともお疲れ様。明日から3日間オフにしてあるから、ゆっくり休んでくれ」

冬優子「そうさせてもらうわ……」

愛依「いやぁうちもさすがに休みなしはなかなかハードだったってゆうか~」

P「嬉しい悲鳴だと思ってくれ。誰かさんのおかげで、仕事が次々に舞い込んでくるんだからな」

愛依「ね~。誰かさんのおかげでね~」

冬優子「……はいはい。どうも」

愛依「照れてる照れてる。カワイイな~冬優子ちゃん」

愛依「プロデューサーもそう思うっしょ?」ニヒヒ

P「えっ!? あ、ああ……そうだな」

冬優子「……」

冬優子「……もう、ばか」

愛依「ん~~っ……でも、お休みかぁ」

愛依「フツーに学校ある日は行こうかな~。いきなり何もしない日が来ても暇すぎてヤバいし」

冬優子「どんだけ体力あるのよあんたは」

愛依「まっ、高校生だかんね」

冬優子「ふゆと1つしか違わないでしょ」

P「ははっ。まあ、高校卒業してからは俺も老化を感じてたなぁ」

冬優子「ちょっと、ふゆは別にそこまで言ってないわよ。あんたと一緒にしないで」

あさひ「えっ? 冬優子ちゃんっておばさんだったんすか!?」

P「こらこら……冬優子を怒らせるようなこと言うなよ、あさひ」

愛依「あはは……」

P「? あ……」

冬優子「プロデューサー……あんたも疲れてるのよ。もうあがったら?」

P「はは……これは、まいったな」

愛依「……」

冬優子「……」

P「……」

P「静か、だな」

愛依「うん……」

冬優子「あさひがいないと、この事務所もおとなしいもんね」

愛依「うちら、あさひちゃんのこと大好きだよね……」

P「……そうだな。なんか、すぐそこにいる感じがするよ」

冬優子「やめやめ。こんな空気、あさひは別に喜ばないわよ」

愛依「冬優子ちゃん優しいね~」

冬優子「そんなんじゃないわよ……」

P「さ、今日はもう解散にしよう。特にいますぐ連絡することはないし」

P「各々、まあ休息とか……残業とか、自分のことをしよう」

冬優子「ふゆはもう少しここでこうしてるわ」

愛依「……あっ、うちは今日下の子たちのゴハン作ってやらなきゃだから、もう帰んなきゃ」

愛依「じゃ、冬優子ちゃん、プロデューサー、お疲れ様~」

P「おう、お疲れ。またな」

冬優子「気をつけて帰んなさい」

愛依 タタタ・・・

ガチャッ

バタン

P「……」

冬優子「……」

P「残った仕事片付けるか……」

ヴーッヴーッ

P「電話か……誰からだ?」

P「……!」

P「お、おい! 冬優子!」

冬優子「なによ……うっさいわね……」

冬優子「ひと眠りいこうと思ってたとこなの……ほっといt……」

P「電話だ! 連絡が来たんだよ!」

冬優子「……だーかーらー、誰からよ」

P「ああ――」

P「――あさひから、だ」

冬優子 ガバッ

P「ほら、出てやれよ。お前と話したいんだろうよ」

冬優子「そ、そんなわけ……だいたい、あんたのスマホにかけてきてるんだから、ようはそういうことでしょ」

P「あさひ、こっちにスマホ忘れて、向こうで別に格安スマホ買ったんだと」

P「だから、もともとの連絡帳にあった人にはかけられないんだよ」

P「俺の電話番号はあいつに持たせた書類にあったから知ってるけどさ」

ヴーッヴーッ

P「はい、このボタン押せば出れるから」

冬優子「……」

ピッ

冬優子「もしもし……」

あさひ「あれ、その声はプロデューサーさんじゃない……?」

あさひ「いつの間に女の子になっちゃったんすか!? わたし何も聞いてないっす!!」

冬優子「落ち着きなさい。出たのはふゆよ。283プロの黛冬優子」

あさひ「あっ、確かに言われてみれば冬優子ちゃんの声っすね」

あさひ「冬優子ちゃんの声を使って喋ってる別の人とかじゃないっすよね?」

冬優子「違うわよ。本人だっての」

冬優子「ふざけてるならもう切るけど?」

あさひ「別にふざけてないっす!」

あさひ「久しぶりっすね~冬優子ちゃん。元気だったっすか?」

冬優子「はいはい。そうよ」

あさひ「あれから、やっぱお仕事たくさん来てるんすかね?」

冬優子「はいはい。おかげさまでね」

あさひ「毎日快便っすか?」

冬優子「はいはい。そうよ……って! 何言わせんのよ!!」

あさひ「あはははっ! やっぱ本物の冬優子ちゃんっすね~!」

冬優子「もう切r――」

あさひ「冬優子ちゃんと話せて、わたし、ほんっとうに嬉しいっす!」

冬優子「――……」

冬優子「……あっそ」

冬優子「そっちは……どうなの」

冬優子「海外の大御所の弟子ってのは」

あさひ「ん~……まあまあ? っすかね」

あさひ「いろいろ自由にやらせてくれてるのには感謝っす!」

あさひ「あのおばさんいい人っすよ!」

冬優子「……それ、他の人には言わないようにしなさいよ」

あさひ「あはははっ、言っても言葉が通じないっす!」

冬優子「心配しなくても、あんたはそうやって平気な顔して生きていけそうね」

あさひ「心配……」

あさひ「冬優子ちゃん、わたしのこと心配してくれたんすか?」

冬優子「っ!」

冬優子「わ、悪い!? ふゆがあんたの心配したら問題でも?」

あさひ「い、いや……そういうわけじゃないっすけど……」

あさひ「……えへへっ」

冬優子「あさひはストレイライトの稼ぎ頭なの、に……」

冬優子「リーダーであるふゆに何も言わないで飛び出して行くなんて……」

あさひ「……」

冬優子「本来なら破門だけど! でも、帰ってきたらデコピンくらいにしておいてあげる」

冬優子「愛依もプロデューサーも……」

冬優子「……あと、ふ、ふゆも」ゴニョゴニョ

冬優子「あさひがいないと、……その」

冬優子「さ、寂しがるわ! だから――」

冬優子「――早く帰ってきなさいよね」ボソッ

あさひ「冬優子ちゃん……」

あさひ「わたし、是非ともこの子を私の手で育ててみたいからしばらく自分のところに置かせてほしい、って言われて行っただけっすよ?」

あさひ「それに、ずっとこっちにいるわけじゃないから、そのうち会えるじゃないっすか」

冬優子「あーもー! あんたってやつは!」

冬優子「そうですかそうでしたねじゃあねせいぜい頑張んなさい切るわよ!」

あさひ「あ――」

冬優子「……なに」

あさひ「――ありがとうっす! 冬優子ちゃんだいすき!」

冬優子「っ」

あさひ「そろそろレッスンの時間なんで切るっすよ! ばいばいっす!」

ブツン

プーップーッ

冬優子「……」

P「……電話、出てよかっただろ?」

冬優子「さ、さあ? どうだか」

P「冬優子……」

冬優子「なに? 泣いてなんかないわよ」

P「いや、何も言ってないんだが」

冬優子「っ!」

冬優子「あ、あんたはさっさと仕事しなさい!」ボフッ

冬優子 モゾモゾ

P「スマホ返してくれ」

冬優子 ポイッ

P「あっ、俺のスマホが……!」

P パシッ

P「っとと、ふぅ……我ながらナイスキャッチ」

冬優子「……」

P「……仕事すっか」


~3時間後~

P「ん゛~~~っ! ……やっと、あと1つだ」

冬優子 ムクッ

冬優子「っ!? じ、時間……!」

冬優子「……はぁ」

冬優子「こんなに寝ちゃうなんてね」

P「おはよう、冬優子」

冬優子「挨拶から芸能人扱いどうも」

冬優子「もうほとんど深夜……これじゃ絶対夜寝れない……」

P「積んだアニメでも消化すればいいじゃないか。せっかくのオフなんだから」

冬優子「……それもそうね」

冬優子「……」

冬優子「あんたってさ」

P「?」

冬優子「あんたも、オフなの?」

P「俺か? 俺は……明日は出勤だけど、明後日と3日後は休みにしてもらったよ」

P「さすがにこれ以上――」


冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』

愛依『冬優子ちゃん……』

冬優子『それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね』


P「――過労は避けたいからな」

冬優子「……そ」

冬優子「それなら……」

冬優子「3日後、ふゆと一緒に過ごして」

>>202

訂正


P「さすがにこれ以上――」


冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』

愛依『冬優子ちゃん……』

冬優子『それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね』


P「――過労は避けたいからな」



P「さすがに――」


冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』

愛依『冬優子ちゃん……』

冬優子『それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね』


P「――これ以上の過労は避けたいからな」

2日後。

~病院~

カツッ、カンッ

マドカ「……く」

カンッ

マドカ「っと……」

マドカ「はぁっ……ふぅ」

マドカ「……少し休憩」

カツッ、カンッ

カッ・・・

マドカ「……」

マドカ「また来たんですか」

冬優子「そんな顔しないでよ~」

冬優子「……マドカちゃん、あれから元気になれたかなって、思ったから」

マドカ「まあ、おかげさまで回復には向かってます」

マドカ「リハビリは続きそうだけど」

マドカ「ここでの暮らしにも……慣れていってる自分がいる……」

冬優子「マドカちゃん……」

マドカ「あ、そうだ」

マドカ「優勝おめでとうございます」

マドカ「テレビで見てました。……本当にすごかった」

マドカ「私があのまま決勝に行ってても、たぶんあなたには勝てなかった」

マドカ「そう……思いました」

冬優子「ありがとう、見ててくれて」

冬優子「……あっち行こ? 立ちながらじゃなくて、ゆっくりお話したいな」

マドカ「……それもそうですね」

~病院 ラウンジ~

マドカ「コイトは……」

冬優子「っ」

冬優子(こんな怪我をするはめになった原因……コイトちゃんは言ってた――)


コイト『…………ふ、冬優子さん!』

コイト『っ……お願いします、このことは、誰にも言わないでください』


冬優子(――誰にも言わないで、ってね)

冬優子(だから、ふゆは知ってるけど言えない)

冬優子(もっとも――)


マドカ『……聞いても、コイトは言おうとしませんが』

冬優子『言いたくない理由があるってことなのかな?』

マドカ『さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので』


冬優子(――そもそも言う必要ないわね)

マドカ「あの……?」

冬優子「あ、え? ……ご、ごめんね! ふゆ、ぼ~っとしちゃってたみたい!」

マドカ「はぁ……で、コイトのことなんですが」

マドカ「あの子は、楽しくやれたんでしょうか」

マドカ「私の代わりに決勝に出るってこと……たぶんコイトはいろんなことを考えるはず……」

マドカ「ただ、コイトが楽しくやれてたなら、私は別にいいんです」

冬優子「コイトちゃんが、楽しく……」

冬優子(決勝が始まる前は、最初は――)


コイト『ま、マドカちゃんならこういうときどうするのかなって、そんなこと、考えちゃって……』

コイト『えへへ……だめだめですね、わたし』グスッ

コイト『わたしなんかがこんなステージに来ちゃだめだったのかも』ボソッ


冬優子(――なんて言ってたわね。でも――)


コイト『グスッ……は、はい! わたし、頑張ってみます!』

コイト『それこそ、マドカちゃんのぶんまで!』

コイト『ま、マドカちゃんが残すはずだったのよりもずっと大きな結果、残しちゃいますよ……!』


コイト『ま、負けませんよ! 勝負ですから!』


冬優子「――きっと、ステージでは悔いなくできたんじゃないかって、ふゆは思うな」

冬優子「大丈夫! マドカちゃんが心配してるほど、コイトちゃんは弱くないもん」

冬優子「まあ、確かにあの子は……ふゆも放っておけないな~って思っちゃうけど」

冬優子「コイトちゃんはどんどん強くなってるよ。決勝まで一緒にいたふゆが保証します♪」

マドカ「そう、ですか」

マドカ「実は、まだ見れてないんです」

マドカ「コイトのステージはテレビでは流れなかった。テレビで放送されたのは、優勝したあなたと、準優勝のトオルとかいう子だけ」

マドカ「だから、私は心配性になっていたのかも……たぶんそれは、私がコイトのことを信じ切れていない証拠ですね……」

マドカ「でも、あなたの話を聞いてると、大丈夫なのかもしれないって思えました。私がいなくても、あの子には、あなたという味方が確かにいたから」

グゥ・・・

マドカ「!!」

冬優子「あ……」

マドカ「っ……」

冬優子「マドカちゃん、顔真っ赤だよ?」

マドカ「べ、別に……ただの生理現象」

冬優子「お腹空いてるんだねっ。そうだ、ふゆが売店で何か買ってきてあげる!」

マドカ「そんなパシらせるような真似……」

カツッ

マドカ「私も行きます」

冬優子「だ~め。あれだけリハビリ頑張ってるんだから、いまは休憩しないとだよ」

マドカ「……」

冬優子「いいから、マドカちゃんはそこで座ってて」

冬優子「お金も気にしないでいいよ。ふゆ、一応、お姉さんなんだから」

マドカ「さすがに奢られるのは私が気にします。ちょっと待ってて……」

冬優子「ほんとにいいのに~……」

マドカ ガサゴソ

マドカ「……」

冬優子「マドカちゃん? どうかしたの?」

マドカ「いえ……はぁ」

マドカ「5千円札が、2枚……だけ……」

マドカ「小銭が全然ない……」

冬優子「プッ……あははっ、マドカちゃん、お金持ちだねっ」

マドカ「冷やかさないで……もう」

冬優子「まあ、さすがにそこまでの金額は必要ないよね、たぶん」

冬優子「それで? その大金をふゆに渡してくれるのかな? “樋口”さん?」

マドカ「はぁ……。もういいです。奢られます。奢ってください」

冬優子「よ・ろ・し・い♪ じゃあ、売店着いたらLINEで何があるか教えるねっ」

マドカ「私、あなたという人がわかってきたかもしれません」

マドカ「本当のあなたは……」

冬優子 ニコニコ

マドカ「……いえ、なんでも」

10分後。

冬優子「マドカちゃん~! おまたせっ」フリフリ

マドカ「ちょっ……そんなに大声出さないで。周りが見てる」

冬優子「はいっ、どうぞ」

マドカ「……ありがとうございます」

冬優子「やっぱり病院の売店って空いてるね」

冬優子「学校のとは大違い」

マドカ「まあ、それはそうですね」

マドカ「それにしても、随分とスムーズに買い物できたんですね」

マドカ「この病院……造りがいろいろと複雑で、売店はラウンジからだとわかりにくいところにあるし……そもそも少し遠いのに」

冬優子「マドカちゃんが入院する前にね、ふゆ、ここに来たことがあったの」

冬優子「……」

冬優子「ふゆのプロデューサーさんが、過労で倒れちゃったときに……ね」

冬優子「それでね、ちょっとだけ知ってるんだ。この病院のこと」

マドカ「……そうだったんですか」

冬優子「プロデューサーさんは、他の何よりもふゆたちとふゆたちのお仕事のことを考えてた」

冬優子「だから、自分のことなんか、全然考えてなくて……」

冬優子「ふゆは、そんなプロデューサーさんが許せなかった」


冬優子『こんなになって、さんざん心配させておいて……それでも仕事が大事なの?』

P『それは……お前たちがちゃんとアイドルやっていくために……』

冬優子『ばかにしないで……!』

冬優子『ふゆは……ふゆたちは……あんたにおんぶにだっこじゃないとどこにも行けないアイドルなんかじゃない!』

冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』


冬優子「まだまだ、ふゆには……ふゆたちには、プロデューサーさんが必要なのにね」

冬優子「……っ」

冬優子「今日だって、ふゆたちにとっては久しぶりのオフなんだ~……」

冬優子「それに、プロデューサーさんにとっても」

冬優子「でも、こうしてる間にも、プロデューサーさんはお仕事しちゃうんじゃないかって……心配で」

マドカ「冬優子さんは、プロデューサーのことが好きなんですね」

冬優子「ふぇっ!? ま、マドカちゃん……」

マドカ「その人を放っておけないって感じ……出てるから」

冬優子「す、好きだなんて、そんな……」

マドカ「違うんですか?」

冬優子「……」

マドカ「今度はそっちが顔を赤くしてますよ」

マドカ「別にいいんじゃないですか。そういうのも」

マドカ「他の人に言ったりなんてしませんし」

マドカ「……冬優子さんは、優しい人なんでしょうね」

マドカ「プロデューサーとの関係はともかく、優しくて、面倒見が良くて……」

マドカ「きっと、そんなあなただからこそ、コイトも……」ボソッ

1時間後。

~病院 玄関口~

冬優子「わざわざごめんね……ここまで来てもらっちゃって」

マドカ「いいんです。これもリハビリになりますし」

マドカ「別に……無理は、してないので」

マドカ「私が見送りたいからそうしただけ……」

冬優子「……そっか。ありがとね! マドカちゃん」

冬優子「ふゆ、またマドカちゃんに会いに来るから!」

冬優子「怪我が早く治るように応援しちゃうからね!」

マドカ「……」

マドカ「ど、どうも……」

マドカ「基本、暇だし……また来てくれれば……」ゴニョゴニョ

冬優子「マドカちゃん? ごめん、いまなんて言ったか、ふゆ聞こえなくて……」

マドカ「……なんでも」

冬優子「そう?」

マドカ「あ、バス……」

冬優子「……来たね」

プシューッ

ウィーン

冬優子「それじゃあね! また、……ね」

マドカ「はい、また……」

冬優子 カンッカンッ

マドカ「……」

冬優子「……」

マドカ「……冬優子さん!」

冬優子「マドカちゃん……?」

マドカ「コイトのこと! よろしくお願いします!」

マドカ「私が見てあげられないとき……いや、それ以外のときも……あの子は楽しく笑っていられるように……!」

マドカ「お願い……コイトを、守ってあげて……」

冬優子「!」

マドカ ニコッ

ウィーン

ガララララ

ピシャッ

マドカ「……」

ゴゴゴゴ

ヴーン

マドカ「……」

マドカ「……頼みましたよ。ミス・ヒロイン」

とりあえずここまで。

翌日。

~某オタクの聖地~

P「ここで……良かったのか?」

冬優子「いいのよ。あんたがいやだってんなら、場所変えるけど?」

P「そうは言ってない」

P「すまない、余計なことを聞いた。冬優子がここで良いって言うんだから、それ以上の場所はないよな」

冬優子「わかればいいの、わかれば」

冬優子「……ここに来るのも久しぶりね」

冬優子「ねえ、覚えてる?」

冬優子「前に一緒に来たときのこと」

P「……ああ」

冬優子「あんたが『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』のイベント出演の仕事を取ってきて」

冬優子「ふゆは……アイドルとしてのふゆと本当のふゆのことで葛藤してた」

冬優子「そんなふゆを、あんたはここに連れ出してくれた」

P「そうだったな」

冬優子「救われてたのよ。ふゆは、あんたにね」


冬優子『ゲームが好きなのね』

P『うーん、ちょっと違うかな』

冬優子『?』

P『ゲームそのものというより、作品が好きなんだよ』

P『世の中いろんな作品があるけど、中には自分と重ねるようなものもあって――』

P『――いや、なんなら、この作品は、あるいはこのキャラは、俺自身なんじゃないか、なんてな』

P『自分の在り方に影響を与える不可分な存在がアニメとかゲームって、何も不自然じゃないよ』

冬優子『!』


冬優子「ふゆが自分みたいに大切にしてる作品のこと……他の奴にどう思われるのか……」

冬優子「ううん、思われるだけじゃなくて、何か言われて……それこそ、否定なんてされたら……って」

冬優子「そう何度も思ったわ」

冬優子「なのに、自分の作ったキャラのせいで、それにさえ嘘をつかないといけないかもしれないって」

冬優子「どうしていいのか、わからなかったのよ」

冬優子「……っ、ふふ、でも」

冬優子「あんたは、最初からわかってた。ふゆのこと、何もかも」

P「何もかもかはわからないけど、でも、できる限りわかってやろうという努力はしてるよ」

P「俺がそうしたくてそうしてるんだ」

冬優子「……そういうところ、やっぱり変わんないわね」


P『……冬優子が自分を嘘だと思ったとしても、好きなものを好きだと言うのが怖いのだとしても』

P『冬優子が黛冬優子としてではなくふゆとしてアイドルをしてることとか、冬優子が好きだと思うことは、その姿勢自体は嘘じゃないだろう』

P『嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う』

P『俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”』

P『冬優子には、冬優子を否定して欲しくない』

P『自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?』


冬優子「そんなあんたが――プロデューサーが――いてくれたから、ふゆはここまで来れた」

冬優子「……行くわよ。来て」

P「あ、ちょっと待てって」

冬優子「待たないわよ」

冬優子「ふふっ、……だって――」

冬優子「――あんたは必ず追いかけてくれるって、ふゆは知ってるから」


P「新刊……出てたのか」

冬優子「チェックが甘いのよ」

P「言い訳にしかならないかもしれないが、こう、次が出るまでもどかしい気持ちになるくらいならいっそ忘れてしまって、その後で「あ、これ新しいの出てたんだ!」ってなりたいんだよ」

冬優子「気持ちはわかるけど、刊行予定時期は単行本の後ろのほうにあるじゃない」

P「そうなんだよな……」

P「だから、俺はいつも自分自身にその時期を忘れたフリを決め込むよう努めてる」

P「そして、実際、本当に忘れる」

冬優子「賢いんだかアホなんだかわからないわね」

冬優子「まあいいわ」

冬優子「っと、……はい、これ」

P「?」

冬優子「なによ。買わないっての?」

P「あ、ああ……そういうことか。買う。買うよ」

P「冬優子のぶんも買うから2冊必要だな。もちろん俺が払うよ」

冬優子「ふゆはとっくに自分のぶんを買ってるわよ。当たり前じゃない」

冬優子「格好つかなくて残念だったわね。ほら、いいから買ってきてってば」

P「わ、わかった。じゃあ、ちょっと待っててくれ」

冬優子「はいはい。ふゆはここで適当に他の本とかも見ながら暇つぶしてるから」

P「買ってきたぞ。中身は……帰ってからのお楽しみとしようかな」

P「冬優子は他に買いたい本ないのか?」

冬優子「ふゆは別に大丈夫」

冬優子「そもそも、ここに来たのは本を買うためじゃないのよ」ボソッ

P「?」

冬優子「それ、貸して」

P「それって、この本か? 買ったばかりの」

冬優子「そうよ。いいから、早く」

P「ああ……はいよ」

冬優子「ありがと。ちょっと待ってて」

冬優子「確か……ここにしまってたのが……」

冬優子「……よし、あったあった」

P(冬優子が漫画片手に取り出したのは、普通のサインペンだった)

P(そして、そのサインペンで――)

冬優子 キュッキュ

冬優子 サラサラ

P(――漫画の表紙裏に、アイドル・黛冬優子のサインを描いた)

冬優子「あ、最後に書きたいことあるんだったわ」

冬優子 サラサラ

冬優子「……はい、完成」

冬優子「どうぞ」

P「お、おう……」

P(返された漫画の――冬優子がサインが描いたところを見てみる)

P「冬優子……」

P(俺でもよく知ってる――あるいは、俺だからこそよく知ってる――冬優子のサインの上には――)

――いつも私を応援してくれてありがとうございます♡ 

     いつまでも応援していてくださいね!    ――

P(――というメッセージが書かれていた)

P(「ふゆ」ではなく「私」という一人称がそこにはある)

冬優子「あんたもふゆのファンなんでしょ」

冬優子「それはファン1号特典! ふゆと……ふゆが自分とおんなじくらい大切にしてる作品を、応援してくれたことに対する、お礼」

冬優子「アイドルとしてのふゆも、本当のふゆも、『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』も……」

冬優子「……サインとメッセージを書いたのは、そういうの全部あわせた「ふゆ」よ」

冬優子「それは、その……心からの感謝で……あんたにしか見せない、あんただから贈りたい想いがあったから」

冬優子「あえて、一人称は……そう書いてみたわ」

P「冬優子……」

冬優子「な、なによ。言っとくけど……て、転売なんてしたら許さないわよ!」

P「いやいや、そんなことしないって」

冬優子「そ、そそ、そうよね。はあ……ふゆ、何言ってんだろ」

P「顔真っ赤だが……」

冬優子「うっさい! 別にいいでしょ」

冬優子「その……ゆ、勇気出して書いて、説明しだしたら止まらなくって、めっちゃ恥ずかしくて……わけわかんなくって……」ゴニョゴニョ

P「ありがとう、冬優子。大切にするよ。ここに書いてくれたこと、書くときに想いを込めてくれたこと……忘れないよ」

眠すぎるので一旦ここまで。

~大通り~

冬優子「……あ!」

P「どうかしたのか?」

冬優子「え? いや、その……」

冬優子「……」

冬優子「悪いけど、ちょっと別行動させて」

P「別に構わないが……」

冬優子「ふゆだって、せっかく、……あ、あんたと一緒に過ごせる日なんだから、こんなことしたくない」

冬優子「でも、思い出したの」

P「な、何をだ……?」ゴクリ

冬優子「買おうと思ってた本とグッズがね、日にち限定で販売されるのよ」

冬優子「今日がその最後の日……。ほら、最近忙しかったじゃない? この日なら買えるなって思ってたの」

冬優子「ふゆとしたことがこんなミス――ダブルブッキングなんてね……うっかりしてたわ」

冬優子「いっそ買うのを諦める……? ずっと欲しかったやつだけど……」ボソボソ

P「ははっ、ほら、行ってきなって」

冬優子「……あんたはそれでいいの?」

P「いいよ。冬優子が欲しいってずっと思ってたんだろ?」

冬優子「こんなに忙しいのに、次のオフがいつになるかなんて……」

冬優子「最後になったら……どうするのよ」

冬優子「ふゆと、一緒に過ごす日が……」

P「大丈夫だろ」

冬優子「だからなんで……!?」

P「……最後じゃ、ないからな」

冬優子「!」

P「最後じゃないさ。ずっと一緒にいれば」

P「違うか?」

冬優子「……違わない」

P「冬優子は好きなものにまっすぐでいいんだよ」

P「俺は、そんな冬優子が――」

冬優子「ストップ! それ以上言ったらふゆはここで死ぬわよ……」

冬優子「……恥ずかしさで」ボソッ

P「――……それなら、今は黙っておくよ」

冬優子「そうしなさい」

冬優子「……はあ。わかった。買いに行ってくる」

冬優子「ラジ館の前で待ち合わせね。時刻は目途が立ったら送るから」

P「了解。それまで適当にブラついとくよ」

冬優子「悪いわね。できるだけ早く終わるようにするから」

P「それも気にしなくていいのに」

冬優子「ふゆが気にするの!」

冬優子「いいから、じゃあね! また後で!」

冬優子 タッタッタッ

P「よし、楽しく話せたな――」

P(――っとと、声に出したら変なやつじゃないか、俺……)

P(とりあえず暇になったから適当に歩いてみてるけど、冬優子に言われて一緒に過ごすことになった以外にここに来る理由がなかったから、あてもなく彷徨ってる感じだな……)

ザワザワ

P「……?」

P(何やらあそこのイベント会場に人だかりが……)

P(……行ってみよう)


P(えっと、何のイベントなんだ? 調べてみるか)ポチポチ

P(ってこれ、トオルのユニットのイベントなのか!)

P(冬優子と一緒に出かけてて、一時的に別行動とはいえトオルのイベントに参加するのは……少し気が引けるな)

P(でも、幼馴染が主役のイベントだし、同業者の仕事も気になるんだよな……)

P(どうしよう)

「あのー……、ちゃんと列に並んでくれます?」

P「え? あ、いや――」

P(どうする? 関係ないからって言って抜けるか? でも、気になるのは確かだし……)

「いま列動いてるんで、進んでくださいよ」

P「――はい、すみません」

P(出れなくなった……)

P(これは不可抗力だ。そう思うことにしておこう)


トオル「ふふっ、ありがと」

トオル「つぎー……」

P「よ、よう」

トオル「なにそれ、ウケるわ」

P(握手会の列だった……)

トオル「ほら、ぼーっとしてないでさ」

トオル「手、出しなよ」

トオル「そういう企画だから」

P「え? ああ……」

P「はい」

トオル「うん」

トオル ニギニギ

P「……」

トオル スリスリ

P ダラダラ

トオル「……」

P「あ、握手ってこんなんだったか?」

トオル「さあ? どうだろ」

トオル「なんか、変な汁出てるね。Pの手」

P「汁っていうなよ、汗だよ。手汗な。棒が1本ないだけでえらい違いだよ」

トオル「緊張してる?」

P「……まあな」

トオル「そっか」

トオル「ふふっ……握手っていいね」

トオル「こんなんだったんだ。Pの手って」

P「あ、ああ……」

P「ほら、あんまり俺ばっかりだと後ろの人に悪いからさ……」

トオル「そういうこと言うんだ」

P「言うよ。今は仕事してるんだろ?」

トオル「はいはい」

トオル「ごめんね、なんか」

P「謝らなくてもいいけど……」

トオル「ばいばい。またね」

P「ああ。また、な」

P(トオルとの距離が離れていく)

P(俺が自意識過剰じゃなければ、トオルの表情は名残惜しげで――)

P(――……俺もそんな顔をしているんだろうか?)


P(まだ冬優子からの連絡はないな……)

バッ

P「!?」

P(急に視界が真っ暗に……!?)

「だーれだっ」

P(そしてお決まりのやつ!)

P(いや、しかしこの声……冬優子じゃないぞ)

P(というか、うちの事務所の子じゃない……?)

「あは~。わからない~~?」

P(あ、もうわかった)

P(この話し方は――)

P「――ヒナナちゃん……であってたよな」

ヒナナ「やは~♡ せいか~い」パッ

ヒナナ「よくわかったね~~?」

P「ま、まあな」

P(めっちゃいい匂いした……)

P「……」

ヒナナ「まだそんなに会ったことないのに~……やっぱ、ヒナナがお兄さんのこと好きだからかな~~?」

ヒナナ「相思相愛~?」

P「いや、そのりくつはおかしい」

ヒナナ「あは~、そうだね~~」

ヒナナ「でも~……さっきみたいに触れるのは初めてだから~~、ヒナナ、ドキドキしてたりして~~~~」

P「それもおかしい」

ヒナナ「え~~! そこまで言わなくてもいいのに~~~~……」

ヒナナ「ヒナナがお兄さんのこといいな~って思うのは本当だよ?」

P「そうじゃなくて――」

P「――肩、叩いたことあるからさ、俺」

ヒナナ「……やは~」

P「だから、触れるのは初めてじゃないぞ」

P「まあ、どっちからって話なら別だけどな」

ヒナナ「お兄さんはなんでそう思うの~?」

P「同じだったからな」

P「舞台装置のところで誰かの肩を叩いた時も……さっきと同じ匂いがした」

P「それで確信したよ」

ヒナナ「え~、ヒナナ匂うかな~~?」スンスン

P「良い匂いだった」

ヒナナ「あは~、なんかそれエッチだね~~。セクハラ~」

P「それを言われると痛い……」

P「というか、隠す気ないのか」

ヒナナ「?」

ヒナナ「なんで~?」

P「……いや、なんでもない」

P「もちろん、匂いだけじゃないんだ。それはあくまでも確信するに至ったというだけで」

P「そもそも、あの時に――ステージ本番の時に――「あの場所」に誰かいるなんておかしいんだよ。たとえ裏方でもな」

P「事前に決められた手はずでは、「あの場所」には本番で動かさないやつしか配備されてなかったから」

P「緊急事態とかなら裏方のスタッフがいるかもしれないけど、決勝ステージはすべて順調にいってた」

P「わざわざ「あの場所」に行こうとした人間しか、あそこにはいないというわけさ」

ヒナナ「ふ~ん」

P「「あの時」、「あの場所」で自由に動けた人間の中に……ヒナナちゃん、君はいる」

P「だって――“君はあの大会に参加してない”んだから」

P「大会に出ていない関係者だから、「あの時」に「あの場所」にいることができたんだ」

P「俺は君を予選会場で見たことがない。その場でも、名簿でも」

P「予選に出ていなければ、当然、あの大会に参加していないことになる」

P「トオルと一緒にいてユニットがどうとか言ってたから、君もアイドルを続けてるもんなんだと思ってた」

P「舞台装置での件があってから、個人的に調べてみたんだよ」

P「ヒナナちゃん……君、活動休止中らしいじゃないか」

ヒナナ「そんなことまで知ってるんだ~……」

P「ああ。まあな」


冬優子『え、えっと……今日はどんな用件で?』ピキッ

トオル『そこにいる人に会いに来た』

ヒナナ『ヒナナは付き添いだよ~~』


P「初めてうちの事務所にトオルと来たときに言ってたことが、まさか文字通りの意味だったなんてな」

ヒナナ「ひどくないですか~? お前は態度がなってないから、アイドル休んでしばらくトオル先輩の付き人でもやってろ~~だって!」

ヒナナ「しかもアイドルに復帰しても絶対にトオル先輩と同じユニットにはしてやらない~とか言われて……こんなのしあわせ~じゃない~~」

P「そっか……そこまでの事情は知らなかったよ」

P「オフィシャルには、あの大会にはユニットが同じだと出れないが……まあ、どの道、君はあの大会に出られる立場になかったんだ」

P「……それも、大会が終わってから調べていくうちに知った」

P「他のアイドルの子たちがヒナナちゃんがいても何も不自然に思ってなかったのは、おそらく、君が、トオルと同じ事務所に所属していて、いつもトオルといる元アイドルだからだろう」

P「同じ事務所の仲間が決勝に応援しに来てるって思うもんな」

ヒナナ「あ~、ひどい~~。ヒナナ、別にアイドルやめてないもん!」

P「そうだったな……悪い」

ヒナナ「も~、そういうお兄さんはヒナナ嫌い~~」

P「……なぜ」

ヒナナ「?」

P「なぜ、冬優子のステージで事故を起こそうとした……?」

P「あの現場は、あと少しでワイヤー群が解けて大事故になる寸前までいってたんだぞ」

P「もし、そうなってたら、冬優子は……」

P「なあ、答えてくれ」

P「なんでなんだ」

ヒナナ「う~ん」

ヒナナ「……見ればね~、わかったんだ~~」

ヒナナ「決勝はあの2人が優勝と準優勝だろ~って」

ヒナナ「お兄さんのアイドルの人がいなければ、トオル先輩は確実に優勝できるな~って思って」

ヒナナ「ヒナナはトオル先輩が好きだから――」

ヒナナ「――トオル先輩が優勝してしあわせ~ってなってくれたら、ヒナナもしあわせ~になれるかな~……って」

ヒナナ「あれ~? なんかおんなじようなこと前も言った気がする~~」

ヒナナ「誰にだっけ~? まあ、いいけど~」

ヒナナ「ヒナナはね、ヒナナがしあわせ~って思えることだけでいいの」

P「あれで事故が起きてたら、大怪我じゃ済まないんだぞ……!」

ヒナナ「そうなんだ~……やは~~、そうかもね~~~~」

P「お前――」

ヒナナ「それって悪いことなの~?」

P「――は……?」

ヒナナ「誰だってしあわせ~ってなりたいでしょ~~? ヒナナなら、ヒナナがしあわせなのがいちばんさいこ~♡ ……って」

ヒナナ「しあわせになるために動いてなにが悪いのかな~~」

P「人が……! っ、人の命を……君は何とも思わないのか?」

ヒナナ「悪いことなんじゃなくて、しちゃだめですよ~ってなってること……ってだけなんじゃないかな~~?」

ヒナナ「ルールって、そういうことかなって思ったり~」

ヒナナ「はあ……やっぱ、ヒナナはヒナナのことしかわからないな~……」

ヒナナ「友だちがしあわせ~ってなればヒナナもしあわせ~になるかなって思ったけど、うまくいかないね~~……」

P「話にならない……」

ヒナナ「あ~、そういう顔しないで~~」

ヒナナ「ヒナナの好きなお兄さんでいてほしいな~」

P「そんなんでいいのか? 俺がこのことを他の誰かに言ったら、君は……」

ヒナナ「やは~、そんなことされたら、ヒナナ、しあわせ~になれない~~」

ヒナナ「でも大丈夫~~。だって――」グイッ

P「!?」

ヒナナ ボソボソ

P(急に近づかれ、囁かれる)

P(短いメッセージが耳打ちで直接脳内に送信されたかのような感覚がした)

ヒナナ「――あは」パッ

P「……っ」

ヒナナ「やは~、そろそろ戻らなきゃ~~」ニパァッ

P「……」

ヒナナ「またね~」テテテテテ

ヒナナ「あ、そうだ!」ピタッ

P「……?」

ヒナナ「次に会うときは、ヒナナの好きなお兄さんでいてね~!」

ヒナナ「じゃ、ばいば~い」フリフリ

ヒナナ テテテテテ

P「……」

ヴーッ

P(着信――冬優子からのメッセージだ)

P(5分後にラジ館……了解、っと)

P「行くか……」

ワァァッ

P(トオルがいる方から歓声が聞こえる)

P(あの子は……――向いてなさそうだが――補助の仕事でもしてるんだろうか)

P(いろいろと思うことはある。それでも――)

P(――とても、歓声のする方に振り返ろうとは思えなかった)

フワリ・・・

P「!?」ゾクッ

P(また“あの香り”がする――ような気がした)

P バッ

P タッタッタッ

P(思わず振り払い、早歩きで冬優子との待ち合わせの場所に向かう)

P(冬優子に今すぐ会いたい――そう思いながら)

とりあえずここまで。

>>223

訂正


ヒナナ「あ~、そういう顔しないで~~」

ヒナナ「ヒナナの好きなお兄さんでいてほしいな~」



ヒナナ「あ~、そういう顔しないで~~」



>>224でも同様のセリフがあるため。

P「はぁっ、はぁっ……」ドタドタ

P(人混みがすごくて時間ギリギリになりそうだ……)

P「すみません……通ります、すみません……」グッグッ

P(早く冬優子に会いたい)

P「く、……っ」ダッ


P(待ち合わせ場所のラジ館前は――ここでいいんだよな)

P(冬優子は……あれ、どこにいるんだろう)

P キョロキョロ

P「……!」

P(頭に手を当ててしゃがむ女の子が1人――冬優子だった)

ヒナナ『ヒナナはね、ヒナナがしあわせ~って思えることだけでいいの』

P「ま、まさか!」

P(俺は駆け寄る)

P「おい、冬優子!」

冬優子「え? あ、プロデューサー……」フラッ

P「大丈夫か!? 何かあったのか!?」

冬優子「っ、つつ……」

冬優子「大声上げないで……頭に響くから」

P「あ、すまん……」

冬優子「……」

冬優子「ふゆなら、平気」

P「本当か?」

冬優子「貧血だから。ちょっとは落ち着いてよね」

P「そ、そうか」

P(考えすぎか……? まあ、ただの貧血だっていうなら……)

冬優子「ふぅ、よいしょっ……と」

P「……買いたいものは買えたのか?」

冬優子「おかげさまで。バッチリよ」スチャ

冬優子「よし、じゃあ気を取り直して続き……ね!」ダキッ

P「お、おい、腕組むのはやりすぎなんじゃないのか?」

冬優子「マスクしてるしメガネもかけたから大丈夫でしょ。帽子もあるしね」

P「そういうもんなのか……?」

冬優子「あーもう、うだうだしてないでさっさと行くわよ!」

P「行くってどこに?」

冬優子「さあね! どこでもいいわ!」

P「どこでもって……」

冬優子「本当にどこでもいいの――」

冬優子「――あんたと一緒なら、それで」

P(それから、冬優子に引っ張られる形で、街中を巡った)

P(メイドカフェ、ゲーム、マンガ、アニメ、他にも……なんでもござれといった感じで手当たり次第に行った――)

P(――パーツショップではしゃいでいたのは俺だけだったが)

冬優子『本当にどこでもいいの――』

冬優子『――あんたと一緒なら、それで』

P(冬優子が言ってくれたことは、本当に、文字通りの意味だったんだろう)

P(一緒にどこかに行く、一緒に何かをする――そういった漠然とした充実を、いまここで求めているかのように)

P(冬優子は終始嬉しそうだった。楽しそう、というより、そう表現するのがふさわしい)

P(思えば、俺と冬優子は、ほとんどの場合、仕事くらいでしか一緒の時間を過ごせていなかった)

P(俺も冬優子も――いや、俺なんかはたいしたことなくて、冬優子が――ひたすらに突っ走ってきたんだ)

P(今は、ただ、ゆっくりと歩を進めるだけでいい)

冬優子「ん……っと! 結構まわったわね」

P「そうだな。密度の濃い1日だった」

P(刹那、冬優子と離れていたときの記憶が――)

冬優子「どうしたのよ。固まっちゃって」

P(――いや、今は思い出さなくていいだろう)

P(目の前にいるのは、一緒に歩んでいるのは、俺が……なのは)

P(冬優子なんだから)

P「冬優子に見蕩れてたんだ」

冬優子「んなっ!? 不意打ちでそういうこと言うなっての……」

P「不意打ちじゃなければいいのか?」

冬優子「あ、揚げ足取るなっ……もう!」

P「あ、待ってくれよ。冬優子」

冬優子「待たない! ほら、駐車場行くわよ」

冬優子「当然、送ってくれるんでしょ?」

冬優子「ちゃんと……最後まで一緒にいなさいよね」ボソッ

~駐車場~

P「もう荷物はないか? トランク閉めるぞ」

冬優子「いまので最後よ。ありがと」

P「先に乗っててくれ」ダンッ

冬優子「うん……」ガチャ・・・バン

P「よいしょっと……」ガチャ

バンッ

P「じゃ、エンジンを――」

ギュ

P「――と」

冬優子「……」

P「手掴まれてるとエンジンかけられないよ」

冬優子「……っ」

P「?」

冬優子「ねえ、ふゆの顔に何か付いてる感じがするんだけど」

P「そうか? 特に何も付いてるようには見えないが」

冬優子「……よく見て」

P「ん?」クルッ


チュッ――

――パッ


P「……」

冬優子「……っ、やば。糸……」

P「冬優子……」

冬優子「あの時、あんたが言おうとしたこと――今なら言ってもいいわよ」

冬優子「ううん。言って」

冬優子「ふゆが、聞きたいの」

P(俺が言おうとしたこと、それはきっと――)

P『俺は、そんな冬優子が――』

冬優子『ストップ! それ以上言ったらふゆはここで死ぬわよ……』

冬優子『……恥ずかしさで』ボソッ

P『――……それなら、今は黙っておくよ』

P(――あの時のだ)

P「冬優子は、皆を笑顔にできる最高にキラキラしたアイドルで」

P「好きなものを心から大切にできる、優しい女の子で」

P「そして、俺の好きな……愛する人だ」

冬優子「……た」

P「ふ、冬優子?」

冬優子「あんたからそう言ってもらえるのを、待ってた……!」

冬優子「グスッ、……違うわね。ふゆったら、変なこと言ってる」

冬優子「待ってたのに、あんたはもういつでも言ってくれるって気づいて……ふゆはなんだかそれを聞くのに怖気づいて……」

冬優子「……」

冬優子「あーもうわけわかんない! ほんと、バカね! 黛冬優子!」

冬優子「ただ、素直に言えばいいだけじゃない。ふふっ」

冬優子「ありがとう! ふゆ、そう言ってもらえて本当に嬉しいの!」

冬優子「ふゆも――黛冬優子も」

冬優子「私も、あんたのことが好き」

冬優子「大好き」

冬優子「超好き」

冬優子「好き、好き、好き好き好き……」

冬優子「スゥ……」

冬優子「愛してるのよおおおおお!!!!!」

冬優子「はぁ……はぁ……」

冬優子「どう? ふゆの返事は」

P「ボーカルレッスンの賜物だな。車内だし、鼓膜がやられるかと思った」

冬優子「は?」

P「じょ、冗談だよ……睨まないでくれ」

P「その、なんだ。つまり俺たちは……相思相愛、ってことでいいんだよな?」

冬優子「っ! そ、そうね」

P「恋人同士……なんだよな?」

冬優子「ま、まあ? 相思相愛で告白してOKなら、そうなるわね」

P「よろしく……」

冬優子「あ、よろしくお願いします♡……って違う!」

P「とりあえず落ち着けって。一旦冷静になろう」

冬優子「ふゆは冷静だから!」

P(どこが……)

冬優子「彼氏彼女って言ってもどうすればいいのよ……! もう……」ボソボソ

冬優子「恋人になったらいろんなことが待ち構えてて……」ボソボソ

P「冬優子」

冬優子「ひゃい!?」

冬優子「……な、なに」

P「ゆっくりでいいんだ。焦ることなんてない」

P「始まったばかりなんだからさ」

P「これから、時間をかけて考えればいいんじゃないか?」

P「今まで2人でなんだって乗り越えて来ただろ? これからも、それは変わらないよ」

P「ずっと一緒なら、大丈夫」

冬優子「そっか……そうね」

冬優子「ふゆ、あんたがいればなんでもできるんだった」

冬優子「うん……うん! 安心してきた」

P「ははっ、それは良かった」

冬優子「そうね……あんたはそんな調子だから、本当に今まで通りでいいわよ」

P「なんだよそれ」

冬優子「こ、恋人らしいことは、その……ふゆが頑張って積極的になってやるっつってんのよ! さっきみたいにね!」

冬優子「ガチ恋させてやるって言ったの、覚えてるわよね! まだまだ、こんなもんじゃないの! ふゆはこんなところで止まらないんだから!」

数分後。

P「えっと……冬優子の家を目的地に設定して……」ポチポチ

P「ルートは……これにして、っと……」ポチポチ

P「よし、これでいいな」

P「……」

P「そういえば……明日からまた仕事だな」

P「忘れないうちにはづきさんにメールして企画書関係まとめておいてもらうか……」ガサゴソ

P「……あれ。ない」

冬優子「?」

P「仕事用のスマホ……ここに入れておいたはずなんだが……」ガサゴソ

P「まずいぞ。あれをなくすと困るのに……」ダラダラ

冬優子「……あ」

冬優子「それって、これなんじゃない?」つスマホ

P「それだ! 良かった、見つかって……」

冬優子「ちゃんと落とさないようにしまっておきなさいよね」

P「ポケットへの入り方が甘かったのかな。車の中で落とすと暗くてなかなか見つからないんだよなぁ」

冬優子「いや、あんた――」

P ポチポチ

P「~~~! あー、来月に冬優子が出る企画の名前、なんでこんな長いんだよ……!」ポチポチ

P「でもこの企画がうまくいけばまた冬優子をキラキラさせてやれる……うおぉぉぉ……」ポチポチ

冬優子「――ま、頑張んなさい」

冬優子「ふゆも頑張んないとね、明日から」

冬優子「……あんたと、一緒に」ボソッ

冬優子「ふふっ」ニコッ

とりあえずここまで。

10年後。

~都内某所、マンションの一室~

P「ははっ。セレブな物件を手に入れたと思ったら、段ボールだらけだな」

冬優子「引っ越してきたばかりなんだから、当然でしょ」

冬優子「ほら、さっさと荷解きするわよ」

P「そうだな」


P「とりあえずこんなもんでいいんじゃないか」

冬優子「そうね。全部出しても置く場所がないし、最低限必要なものを設置する、と……」

P「棚系のものを先に入れておいて良かったな」

冬優子「今日手が空いてる人がいないなんてね。まあ、忙しいのはいいことでしょ」

P「うちもおかげ様でデカくなったからなぁ……」

冬優子「ふゆのおかげね」

P「ああ、まったくだ」

冬優子「……正面から肯定されると、恥ずかしいんだけど」

P「本当のことなんだし、誇っていいんだぞ」

冬優子「誇ってるわよ。それでも、ふゆがやってこれたのは、っ……」

P「?」

冬優子「……あ、あんたのおかげだから!」

P「ありがとう、冬優子」

冬優子「……はいはい。もう」

冬優子「ふゆはあっちの小物とか本をやっておくから、あんたは大きめの荷物を先に片付けておいて」

P「了解だ」


P「こ、これで最後……っ!」

ドシン

P「はぁっ……、老いを感じるなぁ」

P「おーい、冬優子。大きめのは全部終わったぞー」

シーン

P「冬優子?」

P スタスタ

P「冬優子、本気出してデカめの荷物をすべて片付けてやっt……」

冬優子「……」

P「……それは」

冬優子「ストレイライト」

冬優子「懐かしいもんが出てきたの。ふゆと、愛依と、あさひと、それからあんた」

冬優子「全員で取った写真」

P「その段ボールって冬優子の私物をまとめたやつだよな」

冬優子「そ。その中にあった、ふゆが持ってた写真」

冬優子「思い出の画像を現像してフレームに入れておくなんて、ふゆのやることじゃないみたい」

P「あれから……結構経つよな」

冬優子「ほとんど10年、じゃない?」

P「そうだな……。それくらいになるか」

冬優子「……」

P「3人揃って笑顔……ってわけじゃないな。まったく」

P「冬優子なんてほら、顔が引きつっt――って痛い。痛いから。叩くな叩くな」

冬優子「あんたが余計なこと言うからでしょ!」

P「悪かったって。……うーん、愛依は全然変わらないな。それに――」

冬優子「あ、ごめん。悪いんだけど、夕飯のテイクアウト頼んでおいて」

P「――っと、そういえば結構いい時間帯だもんな」

P「冬優子は何が食べたい?」

冬優子「激辛麻婆豆腐」

P「中華ね。はいよ」

P「注文終わったら手伝いに戻るから。ちょっと待っててくれ」

P スタスタ

冬優子「……」

冬優子「ほんと、いつぶりなんだか」

冬優子「懐かしいなんてもんじゃないっての」

冬優子「……」

冬優子「……あんたは」

冬優子「あんたは、それでよかったの?」

冬優子「納得の行く結末だと、心から思えたって言うの?」

冬優子「……」

冬優子「……っ。なんてね、ふゆがそんなこと言うのは変な話よ」

冬優子「そう。本当……」

冬優子「……やめやめ! 他にも荷物はあるんだから、これ1つに構ってらんないわ」

冬優子 ガサゴソ

冬優子「あ」

冬優子「これ、……ふふっ」

冬優子「そっか。ふゆ、これも大切だったんだ」

冬優子「1人でユニットを代表した大会に出て優勝したときの……写真」

冬優子「これも、懐かしすぎるっての」


冬優子『あんたがいてくれたから、ふゆはここまで来れた』

冬優子『みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルになれたのよ、あんたのおかげでね』

冬優子『感謝してもしきれないわ』ギュウウウッ

P『そう言ってくれるのは……嬉しいな。けど――』

P『――他の誰でもない、冬優子の努力と想いもこの優勝には欠かせなかった』


冬優子「そうね、あの時は――」


冬優子『だから、今日は、その……ふゆの抱き心地でも覚えていってから帰りなさいよね』

冬優子『………………ふふっ、だいすき』ボソッ


冬優子「――っ!!! ~~~~~~~!!!!!」プルプル

P「冬優子、注文終わったぞ」スッ

冬優子「うわぁっ!?!?」

P「ど、どうした?」

冬優子「な、なんでもないっ!!」

P「ふぅ……ようやく落ち着けるな……」

冬優子「はい、お疲れ様のコーヒー」

P「お、ありがとう」

冬優子「悪かったわね。結局、ほとんどあんたに運ばせちゃって」

P「まあいいよ。嫌いじゃないんだ、こういうの」

P「冬優子も……ソシャゲ? フリマ? なんだか知らんがスマホいじりに勤しんでたみたいだしな」ハハッ

冬優子「あ、あれは違うの! 別にサボってたわけじゃ……」

P「いいんだよ。気にしてないから」

P「力仕事、雑務……どんと来い、だ」

冬優子「だーかーらー、そうじゃなくって理由は他に――」

ピンポーン

冬優子「――……インターホン?」

P「あ、出前だよ。さっき頼んだやつ」

P「ちょっと出てくる。冬優子はそこで休んでていいぞ」

冬優子「いや、休むのはあんたの方……ってもう行っちゃったし」

冬優子「ほんと、相変わらずね、“プロデューサー”は」


P「いやぁ、食った食った」

P「肉体労働の後の飯の美味さは何ものにも代えがたいな……」

冬優子「食べてもいいけど、健康診断で引っかかるんじゃないわよ」

冬優子「その……、っ、あ、あんた1人の身体じゃ、ないんだから……」

P「冬優子……」

冬優子「な、なに?」

P「前よりも結構食べるようになったか?」

冬優子「……は?」

P「腹が、な……」サスサス

冬優子「って、こら! 無断でさするの禁止!」

P「あ、すまん」

P「うーん。あれ、でも、せっかく頼んだ激辛麻婆豆腐は残してるし……体調がすぐれないのか?」

冬優子「あんたってやつは……もう」

冬優子「まあ、言い出せなかったふゆも悪いんだけど」ボソッ

P「?」

冬優子「お腹出てるの、見間違いじゃないわよ」

冬優子「言ったでしょ。あんた1人の身体じゃないって」

冬優子 ピラ・・・

冬優子「や、優しくさすってみて」

P「……」サスサス

冬優子「……」

P「……?」

冬優子「いるわよ」

P「え?」

冬優子「いまさすったところ。人がいるって言ってんの」

P「あ。そういうことか。……って、いや、人がいる、とかいう絶妙に怖い言い方やめろ」

P「じゃ、じゃあ……」

冬優子「そ。あんた、父親になったの」

冬優子「ふゆは母親」

P「冬優子……!」

冬優子「わ、悪かったとは思ってるわよ。言い出すタイミングがわからなかったから」

冬優子「引越しの作業をほとんど任せちゃったのも、辛いのを残したのも、そういうことだから……」

冬優子「か、感想は?」

P「いきなりで驚いたけど、……うん。すごく嬉しい」

P「そっか……そっか……!」

冬優子「……っ」テレテレ

P「抱きしめても……いいか?」

冬優子「や、優しくね」

P ギュ

冬優子「んっ」

P「冬優子……」

冬優子「……なーに」

P「呼んでみただけだ」

冬優子「ふふっ、なによ、それ」

P「嬉しすぎるからか、言葉が見つからなくてな」

冬優子「あっそ」

冬優子「……ふゆ、何でもできるのよ」

冬優子「あんたが、いるから。全然不安とかなくて」

冬優子「むしろ……うん、これからが楽しみなくらい」パッ

P「?」

冬優子「ありがと、P」

冬優子「あんたはこれまでふゆにたくさんのものをくれた……」

冬優子「ほんとに、数え切れないくらいよ」

冬優子「今度は! ふゆがあんたにあげていく番」

P「ははっ、別に、単なるギブアンドテイクな関係ってわけじゃないだろ?」

冬優子「そうだけど、ふゆが納得いかないの! いいからあんたはおとなしくふゆから受け取っておきなさい」

P「そっか。じゃあ、そうするよ」

P「それで、一緒にどうなるかを見守っていこう」

冬優子「あんた……わかってんじゃない!」

冬優子「待たせたわね、プロデューサー」

冬優子「これからは、あんたがプロデュースしてふゆが動くだけじゃない」

冬優子「あんたとふゆの、2人がプロデュースしていくんだから! ふゆたちの人生をね! だから――」

冬優子「――ふふっ、楽しみにしてなさい!!」バッ

P「ああ、楽しい人生にしていこう!」

P(ふと、冬優子がアイドルを始めた頃を思い出す。あの頃は、本当にいろんなことがあって大変だった)

P(それでも、かけがえのない時間であったことは確かだ。そんな記憶が、やはり、とても懐かしい)

P(なぜそんなことを思ったか――偶然にも、楽しそうな冬優子が左手を顔の近くに寄せるようなポーズになって、それがストレイライトの宣伝用に撮った写真みたいだったからだ)

P(あの時と違うのは、冬優子の左手薬指に俺があげた指輪がはまっていることだろうか。そう思うと、回想によって止まっていた時が、また、流れ始めたような気がしてくる)

P(時間は止まることなく流れていく。過去から現在へ、そして、現在から2人の未来へと。そんな中で、俺は、いつだって冬優子と一緒に過ごしていく幸せを噛み締めながら生きていくんだ)

黛冬優子のエンディングにたどり着きました。

冒頭に戻ります。

P(人の才能を見抜く――だなんて、簡単なことじゃない)

P(世の中に天才は一定数いるけど、それでも圧倒的な天才だらけじゃないから)

P(天才にもいろいろいる。天才なのに知名度が低いなんてまったくもって珍しいことじゃないんだ)

P(才能に貴賎はないが、才能ごとの中では貴賎はある)

P(アイドルで言えば、そう……歌、ダンス、演技、見た目――なんでもいい。放っておいても人をひきつける圧倒的な天才……)

P(そんなものをお目にかかれる機会なんて巡ってくるのだろうか……俺は、そう思っていた)

P(けど、思ったよりも早く――)


「よっ……ほっ……っと」


P(それは、偶然か、必然か)


「――ここは……こう?――」


P「!」

「――っと……うん、決まった!」

P「君、ちょっといいかな?」

「? わたしっすか?」

P「ああ、さっきのダンスって――」


P(――一瞬で“それ”だと確信できる存在に、俺は出会ったんだ)

~事務所~

P「おはようございます」

あさひ「あ! プロデューサーさん!」

P「お、あさひか。どうした?」

あさひ「これ、見てくださいっす!」

P「これって……石、だよな」

あさひ「ただの石じゃないっすよ~?」

P「どんな石なんだ……?」

あさひ「それはっすね~……」

愛依「おっ、あさひちゃんじゃ~ん。なになに? また何か持ってきたの?」

あさひ「これっす!」

愛依「石……? しかもわりとでかめの」

あさひ「これ、冬優子ちゃんにそっくりなんすよ!!」

愛依「ぶふっ!」

あさひ「わっ! 愛依ちゃんきたないっすよ。いきなり噴き出してどうしたんすか?」

愛依「い、いや……だって……」プルプル

あさひ「プロデューサーさんはどうっすか!? この石、似てるっすよね? 冬優子ちゃんに」

P「ど、どうなんだろうな……」

あさひ「えーっ、みんなわかんないんすかねー」

あさひ「この辺の輪郭とか、そっくりだと思うっす!」

P「ただのゴツい岩の一部にしか……」

愛依「あっはっはっはっは!! ひーっ、ちょーウケる……」ククク...

あさひ「むぅ」

P「……なあ、あさひ。一つ聞きたいんだが」

あさひ「なんすか?」

P「それ、冬優子には言ってないよな?」

あさひ「もちろん――」

P ホッ

あさひ「――最初に伝えたっすよ?」

P「……」

あさひ「今朝早起きして走ってたら河川敷の近くで見つけたんすよ! ゲットしてすぐ報告っす!!」

愛依「あー……。ねえ、プロデューサー?」

P「なんだ?」

愛依「今日のうちらの予定って、どうなってたっけ?」

P「午後からレッスン。現地集合も可」

愛依「あはは…………やば」

あさひ「今日もがんばるっすよ! 愛依ちゃん」

夕方。

P カタカタ

P「ふぅ……」

P(そろそろ、あいつらが戻ってくる頃か)

P(というか、冬優子怒ってるだろうな……)

P(ちゃんと仲直りしててくれよ)

あさひ「ただいま戻ったっす!」

愛依「たっだいま~」

冬優子「帰ったわよー……」

P「おかえり、3人とも」

冬優子「あ。ん゛ん゛っ。あーさーひー……」

あさひ「そうだ、プロデューサーさん!」

P「ん? どうしたんだ?」

あさひ「今日のレッスンなんすけどね、冬優子ちゃんすごかったんすよ!」

あさひ「なんだか、いつもより迫力があった気がするんす!!」

冬優子「はぁ……あんたに怒るのに体力使うくらいなら、レッスンでストレスもろとも発散させてやろうと思っただけよ」

愛依「とか言って~、ほんとは怒るつもりもなかったんじゃないの~?」

愛依「冬優子ちゃん優しいし」

冬優子「別に……そんなんじゃないわよ」

冬優子「あ、思い出したらまたイライラしてきたわね」

P「ま、まあ、あさひも悪気があったわけじゃないんだろうし、な?」

冬優子「それが余計にタチわるいっての」

冬優子「まあいいわ。ちょっと休ませて」ボフッ

あさひ「あ! じゃあわたし、冬優子ちゃんのとなりに座るっす!」

あさひ「とーう!」ボフッ

冬優子「ちょっ……! 暑いからあっちいきなさいよ、ほら、しっしっ」

あさひ「……っ」ショボン

冬優子「……! 嘘よ。ちょっとくらいなら、いいわ」

あさひ「!」パァァァ

あさひ「わーい! 冬優子ちゃんの隣ゲットっす!」ダキッ

冬優子「だ、抱きつくことまでは許可してないわよ! ちょっとって言ったじゃない! ……もう」

愛依「いいねいいね~、見てて微笑ましいわ」

P「なんだかんだで仲良いんだよな」

愛依「ね。うち、あの子たちとアイドルできてよかった」

愛依「さーってと、うちも混ぜてもらお~」

冬優子「ちょっ! あんたまでなに抱きついてんのよ!」

P(3人とも笑顔だ。このユニットにしてよかった)

P(あさひは天才で、冬優子と愛依は決してそうではない。けど、それは2人があさひの引き立て役という意味なんかじゃなくて……)

P(裏表のないあさひと、2面性のある冬優子と愛依――)

P(――強い光と濃い影が、綺麗なグラデーションを成して魅力的なものになっているんだ)

冬優子「……ったく、暑いわねもうっ!」

冬優子「プロデューサー! もっとクーラー効かせて!」

P「ははっ、はいよ」ピッ

P カタカタ

あさひ「……」ジーッ

冬優子「……」

あさひ「……」ジーッ

冬優子「……なによ」

あさひ「わたしのほう、見てほしいっす」

冬優子「もう……なに――って顔近っ!」

あさひ「……」ジーッ

冬優子「な、なんなのよ……」

冬優子「綺麗な顔してんだから見つめられたらやばいっての……」ボソッ

あさひ「冬優子ちゃんって、髪の毛のここを……こうすると」

あさひ「ほら、やっぱりクワガタみたいっす!」

冬優子「……」

P(……)

あさひ「んー、アゴの長さ的にはメスのクワガタっすかねー。あ、冬優子ちゃんがしゃくれてるって意味じゃないっすよ?」

冬優子「わかってるわよ……」

愛依「なんか面白いこと思いついちゃった系? あさひちゃん」

あさひ「そうなんすよ。ほら、冬優子ちゃんクワガタっす!」

冬優子「もうどうでもよくなってきた……」

愛依「じゃあうちは……」

P(愛依が後ろ髪を前に……?)

愛依「サタンオオカブトじゃー!」グワァーッ

あさひ「あははっ! すごいっす! これでバトルできるっすよ、冬優子ちゃん!」

冬優子「あー、はいはい。よかったわねー」

愛依「うちにしては結構グッドアイデアだったくない?」

あさひ「はいっす! 色合い的にもバッチリっす!」

愛依「そうっしょそうっしょー。うちってばものしり~~」

冬優子「……愛依もよく付き合ってられるわね」

愛依「まあねー。下の子たちの面倒見てるからさー、うちも楽しいし」

冬優子「ふーん、そういうもんかしら」

P「ははっ、お前ら仲良しだな」

あさひ「プロデューサーさんも見るっすか? 冬優子ちゃんクワガタ」

P「ここからでも見えてたよ。立派なアゴだよな」

冬優子「あんたまでノッってんじゃないわよ……ったく」

あさひ「冬優子ちゃん……クワガタ……」

P「どうしたんだ? あさひ」

あさひ「うーん、何か思い出しそうなんすよね」

冬優子「……最高に嫌な予感がするんですけど」

あさひ「あっ!」

冬優子「……」

愛依「なになに? どしたん?」

あさひ「この前愛依ちゃんと冬優子ちゃんに見せた幼虫!」

愛依「あー……」

冬優子「はぁ……」

あさひ「もう成長したと思うんで、今度持ってくるっすよ!」

冬優子「持ってこなくていいわよ!」

あさひ「えーなんでー!?」

冬優子「なんでって、こっちがなんでって言いたいわよ」

あさひ「せっかく冬優子ちゃんと冬優子ちゃんのバトルが見られると思ったのに……」

冬優子「あんた、「この幼虫、冬優子ちゃんみたいっす」とか言ってたけど、ふゆとおんなじ名前つけてんじゃないでしょうね……」

あさひ「えー、いいじゃないっすかー。可愛いんすよ?」

冬優子「そういう問題じゃないっての」

愛依「五十歩? 譲っても、もう成長したなら幼虫じゃないっしょ~」

冬優子「愛依、もう五十歩とおつむが足りてないわよ。出直してきなさい」

愛依「あちゃ~、結局譲るんだったっけ?」

冬優子「スマホあるんだからググっときなさい……はぁ」

あさひ「冬優子ちゃん急におむつの話なんかしてどうしたんすか? まさか……っ!」

冬優子「あさひちゃんっ、ま・さ・か、のあとには何を言うつもりなのかな~?」

あさひ「冬優子ちゃんはおもらs――むぐっ」

P「おむつじゃなくておつむだぞ、あさひ」

あさひ「むーっ、プロデューサーさんが急にわたしのほっぺをむぎゅっと……! してきたっす」

P「ほら、もう暗くなってくるから、3人とも帰ったほうがいいぞ」

あさひ「プロデューサーさんは帰らないんすか?」

P「まだ仕事が残ってるからな」

愛依「プロデューサーも大変だよねー……マジで感謝しかないわ」

P「いいのいいの、プロデューサーってのはそういう仕事なんだよ」

P「よし、今日のストレイライトは解散だっ」

とりあえずここまで。

~仕事帰り 車内~

P「今日のラジオ、あさひらしく場を盛り上げられたじゃないか。よかったぞ」

あさひ「あ、そうなんすか? そういうのはよくわかんないっす!」

あさひ「わたしは、ただわたしが思ったことを答えたり話したりしただけっすから」

P「そうか。まあ、それがあさひだよな」

P(しかし、テレビ局で一緒にゲスト出演してた芸人にあさひがからまれちゃったから、随分と帰りが遅くなったな……)

P(……あいつ、絶対にあさひの見た目にしか興味ないぞ)

P(あさひの魅力はそんな単純なものじゃない。見た目は大事だが、もっと内在的なところが重要なんだ)

あさひ「あ、……雨」

ポタ・・・ポタ・・・

P「ああ、みたいだな……」

あさひ「どうしたんすか? 元気ないっすね、プロデューサーさん」

P「いや、なんでもないよ」

ザァァァァァ

あさひ「おおっ!?」

P「集中豪雨か? いきなりだな」

P「風もなかなかだし、大荒れだ」


P「なかなか止まないな、雨」

あさひ「プロデューサーさん! あれ、見て欲しいっす!」

P「もう少しで信号だからちょっと待っててくれよー」

あさひ「う~~、はやくはやく~~!」

P「ほら、一旦停止だ……っと。どれどれ」

P「あれは……着物を着た人たち、だな」

あさひ「そうなんすよ! なんであの人たちは着物来てるんすかね?」

P「時期的に成人式や入学式じゃないだろうし、うーん」

P「……あ、そういえばこの辺って、今日行われる花火大会の開催場所の近くだったような」

あさひ「花火大会……!」

P「可哀想に……たぶんあの子たちは花火大会に行こうとして着物を着て出てきたんだろうけど、雨で延期か中止になってしまったんだな」

あさひ「花火って雨の中で打ち上げられないんすか?」

P「花火が打ち上がるかどうかっていうより、お客さんの安全を守れるかどうかということなんだろう」

P「火薬とかを使って打ち上げるわけだから、突風や落雷があれば、かなりの危険が伴うんじゃないか?」

あさひ「天気が悪くても安全に打ち上げられる花火とかないんすかね~」

P「ははっ、あったらいいだろうな」

P「まあ、打ち上げ花火ではないけど、手持ち花火なら問題ないと思うぞ」

あさひ「プロデューサーさん、持ってるっすか?」

P「いや、持っては――」

P(気分転換には……なりそうだな)

P「――いないけど、せっかくだし買って一緒にやろうか」

あさひ「! はいっす! プロデューサーさんと花火~、やったっす~~!」

P(とりあえず嬉しそうだ)

~いつもの河川敷~

P(郊外に出たら普通に悪くない天気だったな)

P(もう暗い時間帯だし、花火をするには良い状況だろう)

あさひ「プロデューサーさん、早くやるっすよ~!」

P「ああ。ちょっと待ってな。いまチャッカマン出すから」

あさひ ソワソワ

P「ほら、花火出して」

あさひ「はいっす」

P「よっ……」

ボッジジジ・・・

あさひ「うーん、なかなか始まんn――」

ボシュゥゥゥ

あさひ「――おおっ!!」

あさひ「あはははっ、綺麗……!」

P「そうだな……」

あさひ「プロデューサーさんも一緒にやるっす!」

P「え? 俺もか?」

あさひ「やらないんすか?」

P(はしゃいで、楽しそうにしているあさひを見るだけで満足してた……とは言いづらい)

P「……やる」

あさひ「わたしの花火の火、使っていいっすよ。はいっ」

P「ありがとう、あさひ」

ジジジ・・・

P「……」

ボッ! シュゥゥゥ

P(手持ち花火なんて、いつぶりだろう)

P(学生のときだろうか。少なくとも、社会人になってからは、やっていないと思う)

あさひ「わあっ! プロデューサーさんもおんなじ花火っす~~」

P「同じ?」

あさひ「色と形がおんなじなんすよ。お揃いっすね!」

P「ははっ、そうか」

シュゥ

あさひ「あ、終わっちゃった……」

P「まだまだたくさんあるぞ。やるか?」

あさひ「!」

あさひ「はいっす!」

あさひ「プロデューサーさんが買ってくれた花火の色と形……全部知りたいっす!」

P「わかった。じゃあ、一緒に見ていこうな」

あさひ「ワクワクっす~。楽しみ~」

P「じゃあ、次はこの違うデザインのやつを……」

シュゥッ

あさひ「あ……」

あさひ「……」シュン

P「ど、どうしたんだ? あさひ」

あさひ「え? あ、その……」

あさひ「終わっちゃった、っす」

あさひ「……」

P「あさひ……」

あさひ「プロデューサーさんと、もっと色んな花火を見てみたいんすけどね」

P「花火、好きなのか?」

あさひ「どうなんすかね。それはよくわかんないっす」

あさひ「花火が好きかはわかんないっすけど……」

あさひ「プロデューサーさんと見る花火は、楽しくて、もっとやりたい! っていうのはわかるっす」

あさひ「けど、それも最後だったっすかね……」

P「この王道の綺麗な花火セットは、な……。でも、ほら、これ」

あさひ「?」

P「線香花火ってやつだ」

P「さっきまでのやつみたいな派手な花火じゃないが、風情があって、なかなかどうして良いものだと思うぞ」

あさひ「プロデューサーさん……」

P「これも、一緒にやろう」

P「はい、まずは1本」

あさひ ワクワク

P「じゃ、火をつけるぞ」

あさひ「どうなるんだろう……!」

P「あんまりはしゃいじゃダメだぞ? 見守るんだ」

あさひ「見守る?」

P「まあ、見ればわかると思うよ」

ジュジュジュジュジュ・・・

あさひ「わわっ! なんかバチバチなってきたっす」

P「そう。でも、おとなしいんだ、こいつは」

あさひ「そうっすね。さっきやった花火とはまるで別物っす」

パチッ・・・パチパチッ

あさひ「あ、はじけたっす……」

P「たぶん、しばらくは何回かそうなるよ」

バチバチバチバチバチ

あさひ「あははっ、元気になったっすね!」

P「この、徐々に……控えめだけどしっかりはじけていって、ほど良い力強さで形をなすのが好きなんだ」

P「派手な見た目ではないけど、でも、人の心を動かす何かを持ってるんじゃないかって思えて……」

あさひ「プロデューサーさん」

P「どうした?」

あさひ「この花火、なんだか温かいっす」

あさひ「優しい、花火っすね」

P「そうだな……癒してくれる花火だよ」

あさひ「不思議っす。癒されるって、どんな感じなのか、全然言葉にならないのに……」

あさひ「いま、わたしは確かに癒されてるんだなって思えるんすよ」

あさひ「癒されてるって、温かい……?」

あさひ「プロデューサーさんは、線香花火を見て温かくなるっすか?」

P「ああ。俺も、たぶん、あさひと同じことを感じてる」

P「現象としての熱じゃない、心に響く温かみを」

あさひ「……」

P「……」

あさひ「……」ニコッ

P「……」ハハッ

あさひ「プロデューサーさんっ!」

P「どうした? あさひ」

あさひ「これ、実際に手で触ったら、きっと温かいっすよね」

P「台無しだよ。そりゃ激熱だろうよ。絶対にやるなよ」

あさひ「でも、触ってないのに熱いって本当にわかるんすか?」

あさひ「みんなが熱いっていうからそう思いこんでるだけ……ってことはないんすかね」

P「深いことを言ってるけど、熱いのは本当だから、頼むからここではこらえてくれ」

あさひ「しょうがないっすね~~」

P ホッ

P(でも、ふとした瞬間に実行にうつしそうで怖いんだよな……)

P(ちょっと話題をすりかえて興味をそらしてみるか)

P「いまあさひが持ってる線香花火の熱はな、理論上は冬優子や愛依に届いてるかもしれないんだぞ」

あさひ「冬優子ちゃんや愛依ちゃんに……?」

あさひ「じゃあ、いま2人は大やけどしてるんすか?」

P「あ、いや、そういうことじゃなくてな」

P「適当な仮定の下での熱の広がり方を記述する方程式に熱方程式っていうのがあるんだ。拡散方程式の一種とも言える」

P「で、その拡散方程式ってやつの解は無限伝播性を持ってるんだ」

P「そういう意味で、例えば、あさひが持ってる線香花火の熱によって、もしかしたらアキバで歩き回ってる冬優子や学校帰りの愛依の、周りの温度をごくわずかに上げるんだ。理論上はね」

あさひ「じゃあ、花火をやる度に他の場所や人も熱くしてるんすね」

P「ほとんど0だが0じゃないような程度には、……ははっ、そうなのかもな」

あさひ「なんか、アイドルみたいっすね」

P「そう、なのか……?」

あさひ「アイドルって、ステージの前にいる人だけを相手にしてるわけじゃないし」

P「! ……そうだな」

あさひ「家にいる人だって、電車に乗ってる人だって、それに……病院にいる人だって……ライブ配信とか収録ではげまされるかも……」

P「あさひ……」

あさひ「どうなんすかねー」

P「それこそ、ゆっくり考えていけばいいさ。時間はあるんだから」

あさひ「時間……」

P「ああ」

あさひ「そういえば、さっきプロデューサーさんが言ってた熱なんちゃらって、どうしたらわかるんすか?」

P「大学で理系の学科に進めば……専門によっては習うかな。それか、自分で調べたり勉強したりしてもいいと思うぞ」

あさひ「大学って、学校……っすか」

P「?」

あさひ「い、いやっ、なんでもないっす!」

あさひ「それよりプロデューサーさん! さっき、自分で調べてもいいって言ってたじゃないっすか」

あさひ「本とか読めばいいんすかね?」

P「まあな。独学で勉強するっていうのもありだとは思うぞ」

あさひ「じゃあ、今度一緒に図書館とか本屋さんに行って欲しいっす!!」

P「ははっ、そうだな。そのうちな」

あさひ「約束っすよ?」

P「あさひがいい子にしてたらな」

あさひ「はいっす! わたし、いい子にしてるっす!」

ジジジ・・・ポトッ

あさひ「あ、終わっちゃった」

あさひ「……」

あさひ「花火って、あんなに綺麗なのに、すぐに終わっちゃう……」

P「?」

あさひ「花火……花火に心があったら、どう思ってるんすかね」

P「花火に、心が?」

あさひ「火がついてはじけていくときとか、自分がどんなに綺麗な花火だって知ってても、それが始まったら最後……じゃないっすか」

P「あさひ……」

あさひ「花火は綺麗っす。でも、わたしは花火にはなりたくないっす」

P「もし、さ……手持ち花火がずーっとそばではじけ続けて光を放ち続けてたらどう思う?」

あさひ「それは迷惑っす! なんていうか、興醒めっす~~……」

P「花火はさ、綺麗なのにすぐ終わっちゃうって思うんじゃなくて――」

P「――すぐに終わるからこそ美しい……そう思ってもいいんじゃないか?」

あさひ「……」

P「もちろん、はじけている間は文句のつけようのないくらい綺麗だと思う」

P「けど、それが短い間の出来事だって、俺たちは知ってるから……」

P「だから、綺麗だ――って、心の底から感動できるんじゃないかと、俺は思うよ」

P「もし、花火に心があったとしても……」

P「その気持ちが悲しいものだと決め付ける必要は、ないんじゃないか?」

あさひ「プロデューサーさん……」

あさひ「……えへへっ、そうっすね。そうかもしれないっす」

あさひ「まだ、あるっすか? 線香花火」

P「ああ。あと3、4本はあるぞ」

あさひ「! やりたいっす!」

P「ははっ、そうか。……そうだな。よし、俺もやるよ」

あさひ「……すべて終了、っす」

P「なんだかんだ買った花火を全部使っちゃったんだな……」

あさひ「線香花火……またできるっすかね」

P「できるさ。また買って、今日みたいにやればいいんだ」

あさひ「プロデューサーさんがいてくれたから、今日はいろんな発見ができた気がするっす!」

P「それは良かった。俺も、あさひに気づかされたこととか、あると思うよ」

あさひ「いやーっ、今日は楽しかったっす! ありがとうございますっす! プロデューサーさん!」

P「俺のほうこそ、あさひと一緒に花火ができて、たくさん話もできて、楽しかったよ。ありがとうな」

あさひ「はいっす!」

あさひ「今日のことは……きっと、一生忘れられないっす!」

P「ははっ、でも、そのうち、彼氏とかと一緒に花火やって、今日の楽しさが上書きされるかもしれないぞ? ……なんてな」

あさひ「……」

P「あさひ?」

あさひ「……なんでもないっすよ~。さ、帰るっす」タタタタタ

P「ああ、車停めたところに向かおう……って足速っ!? ま、待ってくれよ」

あさひ「プロデューサーさん! 今日の記憶は、上書きなんてしてやらないっすよー!」

あさひ「それでも上書きしたいって思ったら、そのときは、また、プロデューサさんと花火をやるっす!!」

とりあえずここまで。

~事務所~

P「買い物?」

愛依「そうなんだよね~……。お兄とお姉は出かけてて夜まで帰ってこないとか言い出すし、かと言ってさすがに下の子たちを振り回すわけにも……ね」

愛依「男手があると助かるなーって思うんだけど、どう?」

愛依「ほら、明日って日曜じゃん? だから……プロデューサーも空いてるかなーって」

P「まあ、空いてはいるぞ」

愛依「あ、別に疲れてるとかなら無理にとは言わないし……!! プロデューサーさえよければ……」

P「いや、別に構わないぞ」

P「行こうか」

愛依「ほんとっ! やった! マジ助かるわ~」

愛依「サンキューね」



翌日。

~某大型ショッピングモール~

愛依「……」

P「どうかしたのか?」

愛依「なんか……こんなでっかいところに来たの久しぶりでさ」

愛依「めっっっっちゃテンション上がってる……!」

P「ははっ、まあ、今日は愛依の好きなようにしたらいいさ

P「俺は車出して荷物持ちするために来たつもりだし」

愛依「ほんと感謝しかないって! 車もあれば量とか気にせず一気に買えるしさ」

愛依「それに、普通にちょっとでかめのスーパーとかだと思ってたら、まさかこんなところに連れてきてくれるとは思わなかったっていうか!」

P「楽しそうでなによりだよ」

P「ほら、買い物に来たんだろ? まずは何を買うんだ?」

愛依「そんじゃねー――……」

愛依「食べ物とかは最後に買いたいし、最初はこの辺からかな~」

P「なるほど、服屋か」

愛依「ちょっ、確かにそうだけど、その呼び方はやばいっしょ」ケラケラ

P「じゃあ……ブティック?」

愛依「まあ、それでいい……のかも? てか、メーカーとかブランドで呼ぶもんじゃね?」

愛依「プロデューサー、ひょっとしてファッションとか興味ないカンジ?」

P「うーん、正直よくわからん……」

愛依「あ、じゃあうちがプロデューサーの私服選んだげるわ!」

P「え、でも愛依の買い物に来てるのに……いいのかよ」

愛依「いいのいいの! いいから行こ!」グググ

P「あ、ちょ、わかったから、押すなって……」


P「これは……」

P「名前とかは聞いたことのある店ばかりだな」

愛依「プロデューサーってさ、アイドルのプロデュースしてるんだよね?」

P「そりゃそうだが」

愛依「それならさ、衣装とかの話でファッションとか考えるんじゃない? って思ったんだけど」

P「いや、デザインとファッションは俺の中では別というか……」

P「ましてや、アイドルのことじゃなく自分のこととなるとな……」

愛依「……そっかそっか! じゃあ、うちも教えがいあるわ!」

愛依「まずはここ入ろ。ほらほら」


愛依「うーん……」

P(食い入るように服やマネキンの着飾ったやつを見てるな……)

P「愛依は、こういうファッションとか、結構好きなのか?」

愛依「まあ、嫌いじゃないかな。アイドルやるようになって、衣装さんといろいろ話すうちに知ったってカンジ?」

P「なるほどなぁ――まあ、そうだよな」

P「アイドルって仕事は――歌って踊って魅了してというのが基本っちゃ基本だけど、俺としては、それ以外にもいろんなことを学んでもらえたら……なんて思うかな」

愛依「へー……」クスッ

P「ど、どうかしたか?」

愛依「なんでもなーい。ほら、ちょっと上下選んでみたから試着してよ!」

P「お、おう……ありがとう」

愛依「どーおー?」

P「……」

愛依「プロデューサー?」

P「き、着てみた……」シャーッ

愛依「おお! 結構決まってるくない?」

P「そうかな……はは、ありがとう」

愛依「あ、プロデューサー照れてるっしょ~。貴重なとこ見ちゃったな~」

愛依「……うん、うん。見れば見るほどいいわ。うちすごくね?」

愛依「色の組み合わせと……ここに入ってるラインとか、可愛いわ~」

P「か、可愛い……?」

P「それなんだけどさ」

P「よく女の子ってメンズとかレディース問わず「可愛い」って言うのは、どういう感想なんだ?」

愛依「え? うーん……、あはっ、うちもわかんない!」

愛依「とにかく可愛いもんは可愛いってカンジ? 細かい理屈とかはいいんじゃね?」

P「愛依はファッション関係のコラボもできるかもな」

愛依「マジ!? それ楽しそうじゃん!」

愛依「……あ、でも、うちってクールキャラでアイドルやってるし……テンションのメリハリとか頑張んないとだな~」

P「それだけ自分の仕事のこと考えてくれてるなら、俺としては安心だよ」

P「まあ、仕事のことはともかく――」

P「――服、選んでくれてありがとうな。買うよ、この組み合わせで」

愛依「いいの? うちの趣味で選んじゃっただけだけど」

P「まあ、俺はもともと自分のファッションには興味なかったしさ」

P「愛依が俺の服選んでくれるなら、もうそれが俺のファッションでもいいかな……なんて」

P「だから……うん、そうだな。愛依がいればいいよ。俺が服を選ばなくてもさ」

愛依「!」

愛依「……そっか」

P「愛依?」

愛依「もー、……しょーがないから、そうしてあげる!」ニカッ

愛依「ほら! そしたら、次行こ次! プロデューサーに似合いそうな組み合わせ、まだあるんだ~」グイッ

P「えっ、ちょっ、愛依の買い物は……」

愛依「これもうちの買い物だし!」

愛依「うちとプロデューサーの! 買い物でしょ」

P「……ははっ、おう!」

愛依「……」

P「うぐぐぐぐ……」

愛依「あの……さ、うちもなんか悪かったっていうかー……」

愛依「うちも持つよ? いまさらだけど、プロデューサー、うちの着せ替え人形してくれただけだし……服だけなのにそんなに持たせちゃって……」

P「だ、大丈夫だ……それに、一旦車に積みに戻るためにいま移動してるわけだし……」

P「俺は荷物持ちだ……気にするな」

愛依「……」

愛依「じゃ、じゃあ、さ」

愛依「こうしよ? ね?」

P「?」

愛依「一回止まって荷物下ろして」

P「……あ、ああ」ドサッ

愛依「このでっかい袋に、小さいのをまとめて……っと」

愛依「これとこれと……それからこれ、プロデューサー持ってくれる? うちはこれとこれ持つからさ」

P「わかった」

P「この一番大きいのはどうするんだ?」

愛依「こうする……」

愛依「ほ、ほら! 片方はうちが持ってるから、もう片方持ってよ」

愛依「そうすれば、一緒に持てるっしょ」

P「そ、そうだな……」

愛依「……」

P「っと……お、これは楽だな」

愛依「あ」

P「?」

イッセーノセー
キャッキャッ

P(ふと、小さい子ども1人を連れた親子連れ3人が目にとまる)

P(父親と、母親と、それから子ども――)

P(――両親の間にはさまって、それぞれ片腕ずつを持ってもらった子どもは、タイミングよく両親にひっぱられてブランコ遊びをしている)

P(よくある、日常の中の微笑ましい光景だ)

P「なんか、さ」

P「俺たちは荷物だけど、持ち方はなんとなく似てるよな」

愛依「っ! ちょ、ちょっとなに言ってんの……もう」

P「愛依?」

愛依「別に何でも……ほら、早く駐車場行こうよ……」

P(それからも、愛依といろいろな店をまわった)

P(レストランで昼食をとり、生活雑貨やインテリアなど、いろいろ――)

P(――買い物という漠然とした目的で来たが、それゆえに何をしても楽しかった)

P(それに、愛依が楽しそうで、なんだか嬉しいという気持ちとともに、安心感を覚えていた)

P(芸能界という世界に踏み込んでいる以上、アイドルである彼女――彼女らはストレスを抱えているんじゃないかと思っていたからだ)

P(今日は……来てよかったな)

P(俺のためにも)


愛依「よーっし、これで最後!」

P「スーパーか」

愛依「じゃ、がんばってこ! プロデューサー!」

P「ああ、そうだな」


愛依「あとは――……って、あ」

P「何かあったのか?」

愛依「あはは……いや、あそこにさ、おもちゃ付きのお菓子のコーナーあるなって」

P「ああ……食玩か」

愛依「弟が欲しがることもあったからさー、なんかそれ思い出しちゃった」

愛依「プロデューサー、言っとくけどおもちゃ付いてるお菓子は買わないからね……なんて。……ん? って、あれ?」

愛依「いない……あっ!」

愛依「……」

愛依「……あははっ、もう」

P「これ……近所だと売り切れになってるやつ……」

P「うーむ……」

P「ほ、欲しい……!」

トントン

P「はい? ……あ」

愛依「……」ニコニコ

P「いや、違うんですよ」

愛依「はぁ……まあ、別に買ってもいいけどさ」

愛依「意外とコドモっぽいとこあんだね」

愛依「冬優子ちゃんあたりに話したら……」

P「やめてください」

愛依「うそうそ、別に言ったりしないって!」ケラケラ

~駐車場~

P「ふぅ……やっと詰め込めたぞ……」

ピトッ

P「ぅぉ冷たぁっ!?」

愛依「あはははっ、いいリアクションじゃん!」

P「はぁっ、はぁっ……め、愛依か……」

愛依「はい、お疲れさま。プロデューサーはコーヒー好きかなって思って、そこの自販機でアイスの缶コーヒー買ってきた!」

P「愛依……」

P「ありがとう……」グスッ

愛依「ちょっ!? 泣いてんの!?」アセアセ

P「……ふっ、嘘泣きだ」

愛依「え?」

愛依「も、もう……! マジでおかしくなっちゃったのかと思ったんですけど!」

P「ははっ、すまんな」

愛依「……」

愛依「……なんていうか、さ」

愛依「こう、その……」

愛依「うち、プロデューサーにどうお礼したらいいのかな……」

P「そんなこと気にするなって。俺がしたくてしたんだからさ」

愛依「だ、だけど……!」

P「ほら、愛依に缶コーヒーももらえたし。気にするなら、これが報酬ってことでいいよ」

愛依「うちが言いたいのはそういうことじゃなくて……」

P「?」

愛依「……」

愛依「……ま、いまは――いいっか」ニコッ

愛依「これからもうちがプロデューサーの服選んだげるから!」

愛依「……だから、さ――」

愛依「――一緒に買い物! ……また行こーね」

とりあえずここまで。共通ルートでは、一部、ほとんど同じ話になっているところもありますが、長い目で見ていただければと思います。

~事務所~

あさひ「うーん……」

冬優子 ポチポチ

愛依「zzzZZZ」

P カタカタ

あさひ「むむむ……」

冬優子「あ、そうだ。ここは……」ポチポチ

愛依「zzzZZ……フガッ」

P カタカタ

あさひ「あーっ! わかんないっす!!」

冬優子「もう! うっさいわねー……さっきから何うなってるのよ」

愛依「っ!? な、なに!?」ガバッ

P「ははっ、にぎやかだな」

あさひ「わかんないっす……」

冬優子「はいはい、何がわかんないっての?」

あさひ「いま、星はどこにあるのかが……わかんないんすよ」

あさひ「夜には見えるのに……太陽が昇ってるときには見えないじゃないっすか!」

冬優子「はあ? あんた何言ってんのよ」

冬優子「見えてないだけでいまもあるわよ――あの青空の上に」

あさひ「見えて……ない……?」

冬優子「そうよー。わかったら大人しくしてなさい」

愛依「ふわぁぁぁ……ねみ……。んーっ。寝ちゃった……zzzZZZ」バタリ

あさひ「でもでも、冬優子ちゃん。もし星が夜にだけ現れて……太陽が出てくると消える……それなら――」

あさひ「――不思議で、面白いことじゃないっすか?」

冬優子「あんたね……話聞いてたの?」

冬優子「いつ出てきていつ消えるとかじゃないのよ。いつもあるの。見えるかどうかが時間によって違うだけ」

あさひ「冬優子ちゃんは、それ、自分で確かめたことあるんすか?」

冬優子「それは……ないけど」

あさひ「これは……調べる必要がありそうっすね!」

冬優子「ふゆは付き合わないわよ。やるにしても、あんた一人でやってなさい」

あさひ「えー。あ、愛依ちゃーん……」ユサユサ

愛依「んー……? あと3分……」ムニャムニャ

あさひ「もー、つまらないっすー!」

あさひ テテテ

あさひ「プロデューサーさん!」

P「お、あさひか。どうした?」

あさひ「昼の間……星はどうなってるっすか?」

P「そうだな……今度、調べてみようか、一緒に」

あさひ「わーい! やったー!!」

冬優子「あんた正気なの? その中学生を相手にするわけ?」

P「まあ、プロデューサーである前に……大人だしな。子どもの疑問に答えてやりたい気持ちはあるよ」

冬優子「ふーん……あっそ! ふふっ、ま、頑張んなさい」

~某高原地帯~

P(今日は早朝から地方でストレイライトとして出すアルバムのジャケット用の撮影――のはずだった)

P(というのも、現地に到着したとたんに天候が悪化し、延期になってしまった)

P(事務所の持つ素材を撮るためのロケでもあるから、割りに重要な撮影でもあったんだが……)

P(もしかしたら、外での撮影は取りやめて、すべてCGを使った演出に変更になるかもしれない――なんて話も浮上している)

P(ストレイライトのイメージとも合っているという考えによるものだ)

P(……それにしても)

P(天気がよければあさひを……3人を天文台に連れて行って、『昼の星 観察会』に参加させてやりたかったな)


P「3人とも、わざわざ早起きして出向いてくれたのに……すまない」

愛依「あ、プロデューサー……プロデューサーが悪いわけじゃないんだし、謝る必要なんかないって!」

冬優子「愛依と同意見。天気は悪いけど、この場に悪者なんて1人もいないわよ」

あさひ「……」

P「そう言ってもらえると助かる……ん? どうしたんだ、あさひ」

あさひ「いや、これ……」

冬優子「!!!」

愛依「あちゃー……」

あさひ「超でかい芋虫っぽいクリーチャーっす。どしゃ降りになる前に地面を調べてたらいたんすよ」

冬優子「はぁ……前言撤回。悪者ならここにいるじゃない」

愛依「ほら、あーさーひーちゃんっ」

愛依「虫さんもさ、自分の住んでるとこにいさせてあげないとかわいそうっしょ?」

愛依「だから、ね?」

あさひ「うー……そういうもんすかね……」

あさひ「愛依ちゃんに怒られちゃったっす……」

冬優子「愛依、ナイス」グッ

愛依「怒ってないってー。一緒に行ったげるからさ、帰してあげよーよ」

あさひ「はいっす……」

P「はは……」

P「思ったよりも早く帰ることになっちまったな……」

冬優子「なに浮かない顔してんのよ」

P「いや、その……サプライズ的に、天気が良かったら撮影後に天文台に連れて行ってやろうと思っていたんだが……」

冬優子「もしかして、この前あさひが言ってたやつのこと?」

P「あ、ああ……」

冬優子「……はぁ」

冬優子「呆れた」

P「時に素朴な疑問というものは……とことんまで追究すべきなんだよ」

冬優子「はいはい。ご高説どうも」

P「……」

冬優子「ま、まあ? 覚えていてあげてるってのは、優しいんじゃない?」ボソッ

P「えっ?」

冬優子「あーもー! 何度も言わせないで」

冬優子「……」

冬優子「……あんたの、優しい気持ち。何も間違ってなんていないわよ」ボソッ

~事務所~

P「ただいま戻りました……」

愛依「たっだいまー!」

冬優子「あんた車の中で爆睡したからってテンション高すぎじゃない……?」ハァ

あさひ「……」

P「こっちに戻ってきたら普通に良い天気だし、なんだかなぁ……」

はづき「あ、プロデューサーさん、ストレイライトの皆さんも……おかえりなさい」

はづき「聞きましたよー。今日は災難でしたね」

P「はい……また練り直しかもしれません」

はづき「そ、そうですかー……」

P「……」

はづき「とりあえず上がってください。仕事も一旦はいいですから、休んだほうがいいですよ」

P「すみません。そうします」

あさひ「……」

冬優子「ソファーソファー……」

はづき「プロデューサーさん以外もまいっちゃってますかね~?」

愛依「あはは……冬優子ちゃんは寝足りなくて機嫌悪いだけだと思うけど」

愛依「あさひちゃんは捕まえた虫逃がすように言ってからあんな調子だし……」

愛依「プロデューサーは……なんていうか……」

はづき「? 何かあったんですか~?」

愛依「冬優子ちゃんから聞いた話だと、プロデューサーが撮影の後にうちらを天文台に連れて行こうとしてたみたいでさー」

愛依「あさひちゃんが星に興味持ってたから、そのためのサプライズ……ってカンジ?」

愛依「だから、プロデューサーは2重にしんどいんだと思う……」

はづき「そんなことが……」

愛依「なんかみんな暗いし、うちとしては元気出して欲しいんだけどなー」

はづき「……! そうだ」

愛依「?」

はづき「あ、愛依さんも上がって休んでてください」

はづき「私はちょっと野暮用が~」

夜。

P「ふぅ」

P(あれから少し休んで仕事に取り組んだけど……あんまり進められなかったな……)

P(3人はどうせ暇だからと自主練に行って、それもさっき終わって戻ってきて、また事務所でくつろいでるという感じだ)

P(時計は……)

P「……って! もうこんな時間か!」

P「3人とも、そろそろ帰らないと……もういい時間だぞ」

冬優子「もう少し休ませてよ。練習終わってすぐだし」

P「そ、そうは言ってもな……」

冬優子「ふゆたちが心配なら、仕事帰りのついでであんたが送ってよ。今日は車あるじゃない」

P「でも、俺の仕事なんて何時に終わるかわからないぞ?」

冬優子「……あーもーやめやめ。ふゆ、まだやることあるから。じゃ」ポチポチ

P(やることって、スマホをいじってるだけじゃないか……)

愛依「はいそこまで! 2人ともカリカリしないー」

愛依「気持ちはわかるけどさー、お互い疲れてるからイライラしちゃってるだけっしょ?」

冬優子「ふん……」ポチポチ

P「……」

あさひ「ふわぁ……愛依ちゃん……?」

愛依「あ、ごめん、起こしちゃった?」

あさひ「うーん……」ヌボー

愛依「寝起きのあさひちゃん、かっわいー」ナデナデ

あさひ「あー……う-……目が回るっすー……」

愛依 ウインク

P「ははっ……すまないな、愛依」

P「はぁ」

P「流石に、俺も休憩するか……」

トントン

P「? ……あ、はづきさん」

はづき「プロデューサーさん、ちょっといいですか~?」クイクイ

P「はい……? まあ、ちょうど休もうとしてたところなんで大丈夫ですけど」

はづき「見てもらいたいものがありまして~」

P(仕事関係の話か?)

P「わかりました。いま行きます」

はづき スタスタ

P スタスタ

~事務所、倉庫~

はづき「はい、これ、どうぞー」

P「え、これって……」

はづき「天体望遠鏡です~。結構良いモデルなんですよ?」

P「はぁ……でも、なんでこれを?」

はづき「愛依さんから聞いたんです。今日のこと」

P「今日の……あ、ああ……ははっ、そうでしたか」

P「なんとも情けないというか、格好つかないというか、そんなところですよ」

P「もしかしたら、今日のことは、仕事を踏み台にして遊びに興じようとした罰なのかもしれませんね……なんて」

P「……」

はづき「プロデューサーさんは、優しい方です」

はづき「あさひさんのため……だったんですよね~?」

P「俺はあさひのために何ができるのか……時々、そんなことを考えます」

はづき「プロデューサーさん……」

P「ユニットをプロデュースしてる人間がこんなことを言ってはいけないのはわかってる……それでも」

P「あさひの才能は――」

P『!』

あさひ『――っと……うん、決まった!』

P『君、ちょっといいかな?』

あさひ『? わたしっすか?』

P『ああ、さっきのダンスって――』

P「――っ。いえ、やっぱり、なんでもありません」

P「……俺なんかがあさひを理解してやろうなんて、そもそもおかしい話なのかもしれない」

P「それなら……そうだったとしても……、あいつを受け入れてやって、寄り添ってやるべきだと思うから」

P「アイドルの仕事に関することであっても、そうでないことであっても……」

P「ははっ、まあ、今回は大失敗でした」

P「……」

P「驕ってましたかね。結局、1人で盛り上がって、1人で落ち込んでるだけですし」

はづき「あさひさんにしてあげられることはまだありますよ」

はづき「もう~、何のために私がこれを用意したと思ってるんですか~?」

P「……ま、まさか」

はづき「事務所があるここならー……天気は抜群に良いですよ」

はづき「屋上で天体観測、しましょう~」

眠すぎるので一旦ここまで。

~屋上~

P「……」

P(空気も澄んでいるし、天体観測には申し分ない天候だ……)

あさひ「はづきさん、これが望遠鏡なんすか?」

はづき「そうですよ~。それも、結構いいやつ、です」

あさひ「……」

はづき「分解したり壊したりはしないでくださいね~。高いんですからこれ」

あさひ「なんでわかったんすか!?」

はづき「~♪」

冬優子「あさひ……あんた、ほんと元気ね」ハァ

愛依「まぁまぁ、いいんじゃん?」

愛依「プロデューサーがやろうとしてたコト、できそうなんだしさー」ヒソヒソ

冬優子「はぁ……」

冬優子「……まあ、それもそうね」

あさひ「とぉーう!」バッ

P「……」

あさひ「?」

P「……」

あさひ「プロデューサーさん、どうしたんすか? ぼーっとして」

P「え? あ、いや……なんでもないよ」

P「あさひこそ、どうしたんだ? なんだか楽しそうじゃないか」

あさひ「もちろん楽しいっす!」

あさひ「だって、プロデューサーさん、覚えててくれたから!」

P「あさひ……」

P『そうだな……今度、調べてみようか、一緒に』

あさひ『わーい! やったー!!』

P「……ははっ。そうか、……うん。そうだよな」

あさひ「約束守ってくれてうれしいっす!」

P「そう言ってもらえてなによりだ」

P「さ、まだまだこれからだぞ?」

P「望遠鏡のセッティング、一緒にやらないか?」

あさひ「やるっす!」

P「よし! そうこなくっちゃな」

P「はづきさん、あとは俺がやりますよ」

はづき「あ、そうですかー?」

P「はい」

P「あさひ、壊すのは禁止だけど、ちゃんとした使い方で触る分には観察し放題だからな」

あさひ「ほんとっすか!? やったー!」

はづき「……やりましたね、プロデューサーさん」ヒソヒソ

P「ええ、まあ……そうですね」ヒソヒソ

P(とりあえず今は、あさひの笑顔が見れれば、それで……)

あさひ「……」

冬優子「あいつ、すごい集中力で覗いてるわね」

P「まあ、あさひだからな」

P(やはり……というか、集中力がすごいのは相変わらずだな)

P(セッティングが終わって望遠鏡を覗かせたら、そこでずっとはり付いてるんだもんなぁ)

愛依「ああなったあさひちゃんはすごいよねー。レッスンでも時々あんなカンジになってるし」

あさひ「……」

あさひ「あ――」

あさひ「――見えた」

P「どうだ? 何か見えたか?」

あさひ「アメンボっす!」

P「アメンボ……?」

あさひ「プロデューサーさんも見るっすよ! ほら、真ん中らへんにある……」

P「どれどれ……」

あさひ「見えたっすか?」

P「ああ」

P「これは、オリオン座だな」

あさひ「オリオン座?」

P「ああ。よいしょ……っと」

P「星座だよ。1等星や2等星が多いからここでもよく見えるんだ」

P「ギリシア神話のオリオンの姿に見立ててオリオン座って呼ぶんだよ」

あさひ「よくわかんないっすけど……アメンボじゃないんすね」

P「ははっ、何に見えるかっていう意味での正解はないと思うぞ」

P「日本では鼓に見えるからってことで鼓星なんて言うしな」

P「あさひにとってアメンボなら、アメンボでもいいんじゃないか?」

あさひ「そうっすか。じゃあ、あれはアメンボっすね!」

あさひ「星座……面白そうっす……」

あさひ「他にも知ってるんすか? プロデューサーさん」

P「ああ、そうだな……どれ……」

P「オリオン座の周りにいろいろあってな。あれがぎょしゃざで、反時計回りにふたご座、こいぬ座……」

あさひ「プロデューサーさんが覗き込んでるからわたしが見れないっす~」

あさひ「あれとか言われてもわからないっすよ」

P「す、すまん。いまどくかr――」

あさひ「どこなんすか? 星座」ズイッ

P「――っ!?」

P(望遠鏡から顔を離したその瞬間――)

あさひ「あ……」

P(――2つの青い目と、目が合った)

P(日本人離れした綺麗な顔立ちに目が離せなくなる)

あさひ「じ、じーっと見られると……その、照れるっす……」

P「あ、いや! そういうつもりじゃ……」

P(……どういうつもりも何もないだろう。ただ、あさひに釘付けになっていただけじゃないのか)

あさひ「……っ」モジモジ

P(あんなに顔が近づいたことなんて、今までなかったが……)

P(文字通り目と鼻の先で見たあさひの顔が脳裏に焼きついてまったく消えようとしない)

あさひ「えっと、プロデューサーさん。星座……」

P「あ、ああ……オリオン座の周りにな……」

P(それから、星座のことを教えてやった)

P(無我夢中になって話していたが、それはまるで自分が自動案内の音声を発しているかのようなもので……)

P(おそらく星座のことなんか1ミリも頭の中にはなくて、あるのは芹沢あさひという女の子のことだった)

P(あさひを解ろうとした)

P(あさひに寄り添ってやろうとした)

P(あさひの内在的な部分に注目していろいろなことを考えてきた……それが、今――)

P(――それまで無意識下であまり意識していなかったあさひの見た目に、自分の全神経が集中しているような、そんな感覚に陥っている)

P(ああ、俺は……本当に……)

P(まだまだ、芹沢あさひという女の子のことを、知らないんだ……)


冬優子「ふぅん。あれが冬の大三角……」

愛依「冬優子ちゃんー、そろそろ代わんない?」

冬優子「もうちょっと待って。……んもう! あいついろいろと紹介しすぎなのよ」

冬優子「ここまで来たら全部見てやるわよ……」

愛依「寒いから早くー……」

冬優子 ムムム

P「すまないな、あさひ」

あさひ「? なんで謝るんすか?」

P「昼に星を見せてやりたかったんだ」

P「あさひ言ってたろ?」

あさひ『もし星が夜にだけ現れて……太陽が出てくると消える……それなら――』

あさひ『――不思議で、面白いことじゃないっすか?』

P「ってさ」

P「結局、その疑問を解決してやることができなかったから……」

あさひ「確かに、そうかもしれないっす」

P「ああ、ごめん……」

あさひ「でも、たぶん星は昼にもあるっすよ」

あさひ「どの星も、周るように動いてたっす!」

P「それはそうだが……気づいたっていうのか……?」

あさひ「?」キョトン

P(すごい集中力で望遠鏡を覗いてはいたが……)

あさひ「だから、たぶんそうかなっていうのはわかったんで、いいんすよ」

あさひ「それも、プロデューサーさんと、こうして天体観測できたから……」

あさひ「プロデューサーさんが悪いことなんて何もないっす」

あさひ「むしろ、いいことだらけっす!」

P「あさひ……」

あさひ「星が昼間に見えないのも……何か意味があるのかもしれないっす」

あさひ「うーん、なんでなんすかね?」

P「ははっ、なかなかロマンチックな問いだ」

P「……」

P「確かに、見えるものがすべてじゃないってことは……あるのかもな」

P「見えてないものにも意味がある……見えていないのには理由がある……」

P「見えてないけど大切なものってのが、いつだってあるのかもしれない」

あさひ「見えてないもの……見えてるもの……」

あさひ「大切な……」

P「アイドルってさ、五感では語れないものがたくさんあるはずなんだ」

P「俺は、あさひがそれを想像する中で何を見つけてくれるのかを心から楽しみにしてるよ」

あさひ「……えへへ、そうっすか」

P「ああ」

あさひ「そうだ!」

P「どうしたんだ?」

あさひ「わたし、いま、面白いこと見つけたっす!」

P「お、それは気になるな」

P「よかったら、聞かせてくれ」

あさひ「プロデューサーさんっす!」

P「……え?」

P「お、俺?」

あさひ「そうっす! プロデューサーさんは面白いっす!」

あさひ「いろんな話をしてくれて、わたしのお願いも聞いてくれて……」

あさひ「アイドルを――教えてくれて」

あさひ「こんなに……、こんなにわたしのこと考えてくれる人、はじめてで……」

あさひ「わたしを、ひとりぼっちにしない……」

あさひ「……」

あさひ「わたし、アイドル頑張るっす! いままで以上に」

あさひ「面白いこと探し、続けていきたいから……」

あさひ「そこには、プロデューサーさんが一緒に……いてほしいっす」ボソッ

とりあえずここまで。

冬優子朝コミュ⑥に、冬優子がPと社長を間違えるというのがあって
そのうちのGOOD選択肢が「社長とはづきさんには猫かぶりのままでいいのか?」
応答が「あったりまえでしょ!社長ってことは、この事務所で一番偉いんだから!」
「ふゆのことを気に入ってくれたら、きっといい仕事をいっぱい持ってきてくれるわよね!」

なんで、(本編に関しては)GRAD辺りを含めても、ストレイ外にはボロは出さないんじゃないかと思います
あんまりバレすぎると、あの信念は何だったんだ…何のために二つの仮面を受け入れたんだ…ってなりそうですし

ただ前提として、二次創作はそんなガチガチにしなくても良いと思います

>>280

>>1です。ご指摘ありがとうございます。言われて、自分でも手元のスマホ版で確かに確認しました。はづきさんには猫かぶりってことで良さそうですかね……。

>>267 訂正:


P「ただいま戻りました……」

愛依「たっだいまー!」

冬優子「あんた車の中で爆睡したからってテンション高すぎじゃない……?」ハァ



P「ただいま戻りました……」

愛依「たっだいまー!」

冬優子「あんた車の中で爆睡したからってテンション高すg……って、やばっ」

冬優子「……愛依ちゃん元気だね~♪」

愛依「冬優子ちゃん、顔、ひきつってるって」


冬優子「ソファーソファー……」

はづき「プロデューサーさん以外もまいっちゃってますかね~?」

愛依「あはは……冬優子ちゃんは寝足りなくて機嫌悪いだけだと思うけど」



冬優子「はづきさんお疲れ様ですっ。ふゆ、ちょっと疲れちゃったので上でおやすみさせてもらいますね♪」

冬優子「……」フラフラ

はづき「プロデューサーさん以外もまいっちゃってますかね~?」

愛依「あはは……冬優子ちゃんは寝足りなくて疲れてるだけだと思うけど」

>>268 訂正:


P「流石に、俺も休憩するか……」

トントン

P「? ……あ、はづきさん」



P「流石に、俺も休憩するか……」

冬優子 ポチポチ

冬優子「……!」

冬優子 ガサゴソ

P(なんだ? 冬優子のやつ急に行儀良くして……)

トントン

P「? ……あ、はづきさん」

P(ああ……はづきさんが来たからか)

>>272 訂正:


冬優子「あさひ……あんた、ほんと元気ね」ハァ

愛依「まぁまぁ、いいんじゃん?」

愛依「プロデューサーがやろうとしてたコト、できそうなんだしさー」ヒソヒソ

冬優子「はぁ……」

冬優子「……まあ、それもそうね」



冬優子「あさひのやつ……なんであんな元気なんだか」ヒソヒソ

愛依「まぁまぁ、いいんじゃん?」

愛依「プロデューサーがやろうとしてたコト、できそうなんだしさー」ヒソヒソ

冬優子「はぁ……」

冬優子「……まあ、それもそうね」ボソッ

>>272 訂正:

P「はづきさん、あとは俺がやりますよ」

はづき「あ、そうですかー?」

P「はい」

P「あさひ、壊すのは禁止だけど、ちゃんとした使い方で触る分には観察し放題だからな」

あさひ「ほんとっすか!? やったー!」

はづき「……やりましたね、プロデューサーさん」ヒソヒソ

P「ええ、まあ……そうですね」ヒソヒソ



P「はづきさん、あとは俺がやりますよ」

はづき「あ、そうですかー?」

はづき「じゃあ、私はやることがあるので、事務所に戻ってますね~」

P「わかりました」

P「あ、そうだ……あさひ、壊すのは禁止だけど、ちゃんとした使い方で触る分には観察し放題だからな」

あさひ「ほんとっすか!? やったー!」

はづき「……やりましたね、プロデューサーさん」ヒソヒソ

P「ええ、まあ……はい」ヒソヒソ

はづき「では、失礼しますね~」

一旦ここまで。訂正で終わってしまいました。何卒ご容赦のほどを……。

次は話の続きを書いていこうと思います(お話はできています)。

~テレビ局~

P(今日はバラエティ番組の収録だ)

P(最近はこうしたタレント的な露出も増えてきたな――うまくいくように俺もがんばろう)

P「……っ?」フラッ

P(あれ、疲れてるのかな……。実際、最近ちゃんと休めていなかったかもしれない)

P(あいつらの収録が終わって車で送ってやれば今日の仕事は終わりだ――それまでもってくれ)


数時間後。

P(……終わったみたいだな)

P「お疲れ様。3人とも、今日もよかったぞ」

冬優子「ふぅ……これくらい普通よ」

冬優子「普通じゃなきゃ、いけないの」ボソッ

愛依「おっつかれー! いやー、あの司会者の人マジで面白かった!!」

あさひ「あっ、プロデューサーさん! お疲れっすー」

P「はは……俺が心配する必要はないよな。もう」

冬優子「……あんた、大丈夫? 顔色悪いわよ」

P「え? そ、そうか?」

愛依「ほんとだ……。プロデューサー、体調悪かったりしない?」

P「だ、大丈夫だよ」

P「ちょっと自販機でコーヒーでも買ってくる」

P「お前らはしばらく休んでてくれ。一番頑張ったのは、そっちなんだからさ……」

冬優子「ちょ、ちょっと……!」

愛依「行っちゃった……ね」

冬優子「はぁ……」

あさひ「……」


~テレビ局、ロビー~

P「……と。コーヒーは……、130円……」

P「財布財布……」

P グラッ

P「あ、あれ――……?」

P(ああは言ったけど――体調、やばいかもな)

P「早く買おう」

パラパラ...

チャリィンッ

ドサッ

P「……?」

P(ゆ……か? なんで――こんな低い視線……)

P(これじゃまるで……倒れてるみたいじゃないか……)

P(……いや、本当に倒れてるんだな)

P「……っ」

P(体が動かないだけじゃない。頭痛と吐き気のようなものもある)

P(……すまない、3人とも)

P(見栄なんて張るもんじゃないな……)

~病院 病室(個室)~

P「……」

P「……っ、んん」ガサッ

P ムクッ

P「ここは……」

P(そうか――俺は、倒れたのか)

P「はぁ……」

P(やっぱ、過労だよな……)

P(ったく、自分だって身体が資本みたいなもんなのにな)

P(こんなんじゃ……冬優子に怒られちまう)

P(このままじゃ……愛依に心配させちまう)

P(あさひには悲しい顔……させちまうかもな)

P「次あいつらにあったら――なんて言えばいいんだろうな」

翌日。

~病院 病室(個室)~

コンコン

アレ? サンカイダッケ?

コンコンコン

P「はは……」

P「はい、どうぞ」

ガララ

愛依「あっ、プロデューサー……」

冬優子「……」

P「……ありがとう。見舞いに、来てくれて」

P「俺がいない間も、仕事は大丈夫だったか? レッスンは問題なく受けられたか?」

P「そうだ……明日の予定……」

愛依「ちょっ、プロデューs……」

冬優子「ふざけないで」

P「……冬優子?」

冬優子「こんなになって、さんざん心配させておいて……それでも仕事が大事なわけ?」

P「それはっ……。お前たちがちゃんとアイドルやっていくために……」

冬優子「ばかにしないでくれる?」

冬優子「ふゆたちはね、あんたにおんぶにだっこじゃないとどこにも行けないアイドルなんかじゃないのよ」

冬優子「あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りないの?」

冬優子「そんなに……情けない?」

冬優子「あんたの思うストレイライトって、そんなもんなわけ?」

愛依「冬優子ちゃん……」

冬優子「まったく、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて笑えるわね」

P「それを言われると……返す言葉もない……」

冬優子「自分の頭の中だけで完結させんじゃないわよ。あんた、プロデューサーなんでしょ?」

冬優子「目の前にいるアイドルを……ちゃんと見なさいよ」

冬優子「そんなこともわからないプロデューサーなんていらないんだから」

愛依「って、まあまあ、冬優子ちゃんもそこまでにしとかない?」

愛依「……ま、うちも似たようなこと思ってたけどね」アハハ・・・

愛依「冬優子ちゃんが全部言ってくれたカンジするし、もういいやー!」

愛依「とにかく、プロデューサー? ちゃんと休まなきゃ駄目だかんね?」

P「わ、わかりました……」

冬優子「ちゃんと反省すること。いいわね」

冬優子「そうしたら、その……ふゆたちの好きなプロデューサーになって事務所に来なさいよ」

愛依「そーそー。うちも、うちらが好きなプロデューサーを待ってたいかな」

P「本当にすまなかった……」

P「見失ってたものをちゃんと見つけてから、またプロデューサーとして会いに行く。だから――」

P「――それまで、待っていてくれ」

冬優子「あ、でも、待たせすぎんじゃないわよ」

冬優子「あんたがいない間にはづきさんがプロデューサーとしての仕事してくれてたけど、結構手際良かったんだから」

愛依「あ! それある! あんまりもたもたしてっと……取られちゃうかもね~。プロデューサーの座、ってやつ?」

P「あはは……それは……うん、死守してみせるよ」

P「そういえば、あさひは来てないのか?」

愛依「あー……」

冬優子「……」

P「用事があって来れなかったとかそんなところか?」

愛依「い、いや、そうじゃないんだけどね」

冬優子「……はぁ。あいつ、来てたのよ。病院までは、ね」

P「?」

冬優子「プロデューサーに会いに行くついでに面白いこと探すっすー……とかわけわかんないこと言ってお見舞いにはノリノリで」

冬優子「出発する前にはしゃいじゃって、バスで爆睡するほどだったのに――」


~病院 廊下~

冬優子「……遠いわね。あいつの病室」

愛依「えーっと、この廊下を最後まで行って隣の建物……だっけ?」

あさひ「うーん、なんかないっすかね~」キョロキョロ

冬優子「あんたね、場所を考えなさいよ」

冬優子「……静かね、ここ」

愛依「確かにね~」

あさひ スンッ

冬優子「ちょっと、急に止まって何やってんのよ。ほら、行くわよ」

あさひ ボーッ

愛依「……あさひちゃん?」

ガララ スーッ

冬優子「あ、看護師さんと患者さん……車椅子なのね」

冬優子「ほら、2人も道空けて」サッ

愛依「はーい」サッ

あさひ サッ

あさひ ジーッ

冬優子「さ、行くわよ」

あさひ「……っす」

冬優子「なんですって?」

あさひ「い、いやっす! いや……いやいや嫌イヤァッ!!」

冬優子「ちょ、いきなりどうしたってのよ」

愛依「あ、あさひちゃん大丈夫?」

あさひ「ひぐっ……ううっ……」ポロポロ

あさひ「あああぁぁぁっ!!!!」ダッ

愛依「あさひちゃん!?」

冬優子「……追いかけるわよ、愛依」

愛依「う、うん……」


冬優子「――ってことがあって……追いつけなくて、見失った。LINEで『わたしに構わずお見舞い行ってほしいっす』って来たから、とりあえずあんたに会いに来たけどね。こっちから送って待っても返信来ないし」

P「そうだったのか……そんなことが」

冬優子「あさひのことは、はづきさんにも相談してこっちでなんとかしてみるわ」

冬優子「あんたも、あいつに連絡するくらいならいいけど、その身体で探しに行こうだなんて思わないでよね」

P「あ、ああ……さっきの言葉は刺さったし、ちゃんと養生するよ」

冬優子「そ。ま、安静にね」

愛依「……あっ、やばっ!」

愛依「冬優子ちゃん、バスの時間……!」

冬優子「そうだった! そうそう、ここ、バスがあんまり来ないのよね」

P「ははっ……じゃあ、急がないとな」

P「その、なんだ。……気をつけて帰るんだぞ」

冬優子「いまのあんたに言われるのは……ふふっ」

冬優子「まあ、それくらい聞いておいてあげる――」

冬優子「――……また、ね」

愛依「まったねー、プロデューサー!」

P「おう」

P「またな」

ガララ

P「……」

P「一体、あさひに何があったっていうんだ」

P(ふと、その時……あさひが時々する悲しい表情を思い出した)

P(俺は、あさひの何を知っているんだろう)

P(何を理解しているというのだろう)

P(前にも、似たようなことを思った)

P「病院で嫌なことでもあったのかな……」

P(俺は、ここまで大きい病院にお世話になったことは今までなかった)

P(まあ、近所の開業医にかかっていたくらいだ。小さい頃は注射が怖かったな。痛いし)

P(あさひも、そういうことで病院が怖いとか……?)

P(今度聞いてみて……もいいことなんだろうか、これって)

P(だめかもしれない)

P「はぁ」

P「あさひ……」


あさひ『花火……花火に心があったら、どう思ってるんすかね』

P『花火に、心が?』

あさひ『火がついてはじけていくときとか、自分がどんなに綺麗な花火だって知ってても、それが始まったら最後……じゃないっすか』

P『あさひ……』

あさひ『花火は綺麗っす。でも、わたしは花火にはなりたくないっす』


あさひ『今日のことは……きっと、一生忘れられないっす!』


あさひ『こんなに……、こんなにわたしのこと考えてくれる人、はじめてで……』

あさひ『わたしを、ひとりぼっちにしない……』


P「……早く、元気になって、あいつにも顔を見せてやらないとな」

とりあえずここまで。

数日後。

~病院 病室(個室)~

P「短い間だったけど、この部屋ともおさらばだな」

P(この数日間、社長やはづきさんからも、しっかり休むようにということで、仕事に関する連絡は一切来なかった)

P(俺がいない時に何か問題が起こらないかと心配にもなったが、愛依も言ってたように、はづきさんがうまくやってくれているようだ)

P(そもそも、そんな心配をすること自体が傲慢だ)

P(俺がいなくてもある程度機能してるってことなのだから)

P(では、俺がいる意味とは一体何だろう)

P(あいつらにとって、俺はどんな存在でいられるんだろう)

P(俺じゃなきゃいけない――そう言うための根拠が欲しかった)

P「……って、悲観してどうする」

P(あいつらをここまでプロデュースしてきたのは他でもない俺なんだ)

P(俺が胸張ってプロデュースしてやらないと、これまで俺についてきてアイドルをやってきたあの3人に失礼だろう)

P「俺がやってきたこと、俺がやろうとしていること……」

P「……俺が認めてやらないでどうするんだ――ってな!」パシン

P「よし」


~病院 廊下~

P(やっぱ正門まで遠いんだよな……)

P「……」

P(静か、だよな。ここ)

P「……?」

P(通り過ぎようとした個室の扉が、なぜか気になった)

P(正確には、扉の横――うっすらと、文字列のようなものが見えた気がした)

P「落書き……なのか? でも、読めないな……外国語だろうけど、英語じゃないよな」

P(英語でなくても、メジャーな外国語なら何語かぐらいわかるのに、それでもさっぱりだった)

P「アイ……ド……?」

P(そんなふうに俺が落書きを凝視していると――)

「あの、どうかなさいましたか?」

P(――看護師に声をかけられてしまった)

P「あ、いえ……ここに文字が書いてあるなって」

「ああ、これですか」

「これは、前に、ここに落書きした人がいたみたいで」

「お掃除もかねて、そろそろ消さないとな……って」

P「そうだったんですか」

P「それで、洗剤と雑巾を」

「はい。……なんて書いてあるんでしょうね?」

P「さあ……私の知らない言語なのでなんとも。ただ――」

「――アイドル」

P「ははっ……はい」

P「綴りはほとんどそれだなって」

P「アイドルが好きな子が書いたんですかね」

「どうなんでしょう。私、つい最近ここに来たばかりでして。よいしょっと……」

「この扉の向こうは2人部屋でして、ベッドは1つ空いてて、今いらっしゃるのはもう1つのベッドの寡黙なご老人なので」フキフキ

「アイドル好きって感じじゃ……ないかと」フキフキ

P「そうなんですね」

「あ、ごめんなさい。つい話しすぎました。普段は忙しくて話し相手がいないものですから」

P「は、はあ……」

「ここだけの話、ってことでお願いします」

P「わかりました」

「今日は面会で来られたんですか?」

P「いえ、実は今日が退院日なんです」

「そうだったんですね」

「お大事に」

P「はい。ありがとうございます。それでは……」

P(看護師に見送られ、その場を後にした)


~事務所~

P(病院帰りに顔を出そうと思って来てみたけど、はづきさんしかいなかった)

P(社長はテレビ関係のお偉いさんとの話し合いでいないらしく、ストレイライトの3人はラジオの収録があるのだという)

P「スケジュール表は……、と。あった。……3人はもう帰ってくる頃か」

P「待ってみようかな」


ガチャ

冬優子「お疲れ様でーす」

P「おっ、冬優子じゃないか」

冬優子「……って、あんただけか。来てたのね」

P「まあな。退院したから、家に帰るついでに顔出してみようと思ってさ」

P「愛依とあさひは一緒じゃないのか?」

冬優子「愛依なら夕飯の当番とかで急いで帰ったわよ」

冬優子「あさひは武装商店見つけるやいなや飛び込んで行ったわね。夢中になってこっちの言葉に耳貸さないから置いてきたわ」

P「置いてきたってな……」

冬優子「……悪かったわね」

P「なにが?」

冬優子「愛依でもあさひでもなくて、ここに来たのがふゆで」

冬優子「別にあんたがいるかもと思って会いに来たわけじゃ……ない……んだから」ボソッ

P「ははっ、そんなことないぞ。会えて嬉しいよ」

冬優子「なっ、何言ってんだか!」

P「あと、ありがとうな。お見舞いに来てくれて」

P「改めてお礼を言わせてくれ」

冬優子「お礼はいいから、……これからもちゃんと気を抜かずにプロデュースしなさいよね」

P「ああ! これからもよろしくな」

P「……そうだ。あれから、あさひはどんな感じだ?」

冬優子「あの中学生ならいつも通りよ。ほんと、あれはなんだったんだって思うわ」

P「そうか……」

冬優子「って、もうこんな時間……」

冬優子「そろそろ帰るわ」

P「じゃあ送っていくよ――って、あ……」

P「今日は出勤しに来たわけじゃないの忘れてた……」

P(いつもの仕事モードで、つい車がある前提で話しちまった)

冬優子「ぷっ、あははっ。あんたって、ほんと、仕事人間ね」

冬優子「でも……ありがと」

冬優子「じゃあ、さ。駅まで送って」

P「わ、わかった」


数分後。~外~

P「いや、しかし……」

P「今日は暑いな……」

冬優子「しばらくまともに日に当たってなかったからそう感じるのかもね」

P「あ、さっき自販機あったな……。あの時に何か買っておけばよかったんだろうなぁ……」

P「そうすれば、いまこうして乾きに苦しむこともなかったのに……なんてな」

冬優子「……」

P「冬優子……? どうしたんだ?」

冬優子「あの時、ああしていたら――こんなことにはならないで、もっと良い結果になってたかもしれないのに」

冬優子「そう思うことって、あるわよね」

P「俺の飲み物のことなら心配しなくてもいいんだぞ? まあ、駅ももうすぐだしな」

冬優子「あんたはさ、そういうの、ないの?」

冬優子「今だって十分良い……でも、あのとき、もっとこうしていたら、こういう決断ができていれば……」

冬優子「今はもっと良くなってたかもしれないのに、って……そう思った経験」

P「……」

冬優子「変なこと言ってごめん。なんか、今のあんた見て、ふと思っちゃって」

P「いいさ。構わないよ」

P「そうだな……そりゃ、あの時もっと頑張ってたら――とか、あの時諦めなかったら――とか、そういう経験はたくさんあるよ」

P「「今だって十分いいけど、あの時こうしてたら、今はもっと良くなってたかもしれないのに」……か」

P「今が十分いいなら大丈夫だよ。明日を、来週を、来年を、数年後を、そしてもっと先の未来をも良くするために――今この瞬間から、これからを大切に歩んでいけば、きっと後悔なんてしないし、どうどうと胸を張っていける」

P「俺はそう思うよ」

P「自分で自分を肯定してやれるだけで、いろいろと楽になるんじゃないか?」

冬優子「そっか……そうよね」

P「そうだとも」

P「あの時ああしていれば、こうだったのに――なんてのは中学で勉強する英語の仮定法の例文で十分だよ」

P「過去は大切だし忘れちゃいけないようなものだってある。でも、常に向き合っているのは過去ではなく、今から続いている未来なんだからさ」

冬優子「……うん」

冬優子「なんか、話したら安心したわ」

冬優子「はぁ……ふゆの弱さ、見せすぎてるわね、ほんと」ボソッ

P「え?」

冬優子「なんでもないわよ。ふふっ」クルッ

冬優子「……明日からも、お仕事頑張りましょうねっ。プロデューサーさん!」

冬優子「って、もうこんな時間……」

冬優子「そろそろ帰るわ」

P「じゃあ送っていくよ――って、あ……」

P「今日は出勤しに来たわけじゃないの忘れてた……」

P(いつもの仕事モードで、つい車がある前提で話しちまった)

冬優子「ぷっ、あははっ。あんたって、ほんと、仕事人間ね」

冬優子「でも……ありがと」

冬優子「じゃあ、さ。駅まで送って」

P「わ、わかった」


数分後。~外~

P「いや、しかし……」

P「今日は暑いな……」

冬優子「しばらくまともに日に当たってなかったからそう感じるのかもね」

P「あ、さっき自販機あったな……。あの時に何か買っておけばよかったんだろうなぁ……」

P「そうすれば、いまこうして乾きに苦しむこともなかったのに……なんてな」

冬優子「……」

P「冬優子……? どうしたんだ?」

冬優子「あの時、ああしていたら――こんなことにはならないで、もっと良い結果になってたかもしれないのに」

冬優子「そう思うことって、あるわよね」

P「俺の飲み物のことなら心配しなくてもいいんだぞ? まあ、駅ももうすぐだしな」

冬優子「あんたはさ、そういうの、ないの?」

冬優子「今だって十分良い……でも、あのとき、もっとこうしていたら、こういう決断ができていれば……」

冬優子「今はもっと良くなってたかもしれないのに、って……そう思った経験」

P「……」

冬優子「変なこと言ってごめん。なんか、今のあんた見て、ふと思っちゃって」

P「いいさ。構わないよ」

P「そうだな……そりゃ、あの時もっと頑張ってたら――とか、あの時諦めなかったら――とか、そういう経験はたくさんあるよ」

P「「今だって十分いいけど、あの時こうしてたら、今はもっと良くなってたかもしれないのに」……か」

P「今が十分いいなら大丈夫だよ。明日を、来週を、来年を、数年後を、そしてもっと先の未来をも良くするために――今この瞬間から、これからを大切に歩んでいけば、きっと後悔なんてしないし、どうどうと胸を張っていける」

P「俺はそう思うよ」

P「自分で自分を肯定してやれるだけで、いろいろと楽になるんじゃないか?」

冬優子「そっか……そうよね」

P「そうだとも」

P「あの時ああしていれば、こうだったのに――なんてのは中学で勉強する英語の仮定法の例文で十分だよ」

P「過去は大切だし忘れちゃいけないようなものだってある。でも、常に向き合っているのは過去ではなく、今から続いている未来なんだからさ」

冬優子「……うん」

冬優子「なんか、話したら安心したわ」

冬優子「はぁ……ふゆの弱さ、見せすぎてるわね、ほんと」ボソッ

P「え?」

冬優子「なんでもないわよ。ふふっ」クルッ

冬優子「……明日からも、お仕事頑張りましょうねっ。プロデューサーさん!」

~事務所~

P「こんにちはー……」

P(今日は営業だったけど……懇意にしてもらっているとはいえ苦手なんだよなぁあの人……)

P(とても疲れた……)

P(まだ仕事残ってるけど、少し休んでからでもいい――よな?)

P「はづきさん――は、いない……か」

P(そういえば今日ははづきさんのオフだったっけ)

シーン

P「あれ?」

シーン

P「誰も……いないのか?」

P(それなら、ソファーで横になるかな……)

P(少し、少しだけだから……)

P「あ」

P「これ……アイマスクか」

P(はづきさんが使ってたやつだよな)

P(うーん、勝手に使ったら怒られるかなぁ)

P「……」

P(まあ、バレなきゃいいか?)

P「っしょっと……」

P「おやすみなさい……」

P(アイマスクをつけてからソファーで横になり、しばしの間、仮眠をとることにした)

「あ……え、えっと……」

――普段とは違う視点。

「きょ……今日は……えと……」

――他の人たちは下からこっちを見ている。

「あ、ありが……と」

――うちは……何を見てんの?

「……」

――見渡す限りの眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼。


P「うわあぁぁっ!?!?」ガバッ

「わっ!? びくった……」

P「っ!? く、暗い! 目の前が真っ暗だ!!」

「ちょ、落ち着きなって」

P「だ、だって目が覚めたはずなのに何も見えないんだ!」

「アイマスクしてるからっしょ。ほれ――」パッ

P「――あ」

P「っ、まぶしい……」

「……もう」

愛依「プロデューサーって、案外、天然……ってヤツ?」

P「そ、そうなのかな……」

愛依「それか、疲れてんじゃない? ちょうど今まで寝てたわけだし」

P「まあ、確かに疲れたから仮眠を取ってたけど」

P「愛依はどうして事務所に?」

愛依「レッスン終わってから暇でさ。今日はうち1人でだったし、友だちは都合悪いしで――」

愛依「――なんとなくここ来てみたってコト」

P「そうか」

P「……というか、なんか変じゃないか?」

愛依「変って、何が?」

P「俺は愛依がいないときからソファーで寝てたけど」

P「愛依はいまソファーにいるよな」

愛依「そだね」

P「俺がソファーを独占してる形だったのにそれはおかしくないか?」

愛依「だって、事務所来てからプロデューサーが起きるまで膝枕してあげてたかんね」

P「膝枕か……なるほど」

P「って、膝枕と言ったか!?」

愛依「言ったけど……」

P「ものすごいスキンシップをとってしまった……プロデューサーとアイドルなのに……」

愛依「まあ、他の人に見られてないし、大丈夫じゃん?」

愛依「プロデューサー、ソファーで寝苦しそうにしてたからさ」

愛依「うち、寝かしつけるのちょー得意だから」

愛依「他に誰もいなかったし、膝枕でもしてあげようかなーって」

愛依「もしかして……嫌――だった?」

P「あ、いや、そんなことはないぞ。ありがとう」

P(よく眠れた――と言って良いのだろうか)

P(けれども、妙な夢を見た。自分の経験ではない、誰かの見た光景の夢……)

愛依「プロデューサー?」

P(……まさか、な)

P「愛依の膝のおかげで残りの仕事も頑張れそうだよ」

P「ありがとう」

愛依「ばっ!? ひ、膝のお陰とか、わけわかんないし!」

愛依「……まあ、疲れが取れたならいっかな」

愛依「うちさ、スーツのままソファで寝苦しそうにして横になってるプロデューサー見て思ったんだよね」

愛依「うちがいつもすっごく楽しいのは、プロデューサーのお陰で」

愛依「プロデューサーが連れてきてくれたアイドルの世界で、あさひちゃんと冬優子ちゃんに会って」

愛依「うちのアレなところ、プロデューサーはアイドルとしてのキャラってことで形にしてくれて」

愛依「ほんと、感謝してもしきれないんじゃねって……」

愛依「プロデューサーはうちにいろいろしてくれる――」

愛依「――けど、うちがプロデューサーにしてあげられてることなんて、ない……」

愛依「だからさ、まあ、なんての? 恩返しってやつ?」

愛依「はは……何言ってんだろうね、うち」

愛依「でも、何かしてあげたかったからさ」

P「愛依……」

P(いつもは明るくおおらかな愛依が――表情を暗くしていく)

P「別に気にすることなんてないぞ。ギブアンドテイクなだけでプロデュースやってるんじゃないんだ」

P「それに、愛依が俺のプロデュースするアイドルでいてくれればさ……うん、それでいいよ」

愛依「……プロデューサーは優しいよね」

愛依「でも、駄目なんだよね。それじゃうちが納得いかないから」

愛依「だって、……だってさ!」

愛依「うちが楽しく過ごせば過ごすほど、プロデューサーが……」グスッ

愛依「どんどん……疲れて、苦労しちゃうみたいで……」ポロポロ

愛依「そんなの、うちはやだよ……!」

P「あの、愛依……」

愛依「うちにはそう見えてんの! それが……うちは……」

P「……愛依は、俺にどうして欲しいんだ?」

P「プロデューサーとして、アイドルのためなら苦労だって疲労だって耐えてみせるくらいの気持ちではあるさ」

P「それでも、愛依がそんな俺を見るのが辛いっていうなら」

P「愛依がどうして欲しいか、聞かせてくれ」

愛依「……」

愛依「うちがプロデューサーにどうして欲しいか……」

P「今すぐに聞かせてもらえなくてもいい。愛依なりに言葉にできるようになったらでいい」

愛依「……うん」

愛依「わかった。そうする……」

愛依「あー! 暗いのやめやめ!」

愛依「らしくないよね、こういうのはさ」

P「ああ。愛依は普段通りなのがいいよ」

P「そのほうが、俺は安心できるかな」

愛依「でさー、なんか思ったんだよね」

愛依「楽しい――よりもすごい、それ以上のことってなんなんだろーなって」

愛依「で、まあ、頭良くないけどうちなりに考えて……それって、しあわせっていうんじゃないかなって」

愛依「前にさ、一緒に買い物行ったじゃん?」

P「ああ。ショッピングモールに行ったよな。愛依に服を選んでもらったときだろ?」

愛依「そそ。そんときね」

愛依「親子3人で仲良しの人たちを見て……あの人たちはきっとしあわせなんだろうなって思った」

愛依「それを思い出したときに、しあわせって楽しいだけじゃないのかなって」

愛依「もっと、楽しい以外の何かが必要なのかなって……そんな気がしたんだよね~」

P「楽しい以外の何か、か……。愛依の考えたことは、きっとそう簡単に解決する話ではないのかもしれないんじゃないかって思うよ」

P「幸せが何なのか――それは、たぶん俺にもよくわからないから」

P「でも……そうだな。幸せっていうのは、どんなに頑張っても1人では掴めないんじゃないか?」

愛依「2人いればいい……とか?」

P「2人以上、かな。3人でもいい。俺と愛依が見た家族は3人だっただろ」

愛依「あ、確かに」

P「2人でも幸せになれると思うけどな。大雑把に言えば、重要なのは、まずは1人じゃないってことだと思うんだ」

P「そして……自分が1人と思わないこと。特に、自分が……独りだと思わないことだ」

P「絆のないところに、幸せは生まれないと思う――って、わかってないくせに何語ってるんだろうな、俺は」

愛依「ううん。プロデューサーの言ってること、なんとなくだけどわかるかも」

愛依「いまでもさ、ステージであがっちゃうの、克服できてないけど」

愛依「原因は昔のことだとしても、いま治せてないのは、うちがステージで1人だと思ってたからなのかもなーって」

愛依「だってさ、何も敵に囲まれたとかじゃないじゃん? やばい場所に置いてけぼりにされたとかでもないし」

愛依「うちには……ファンも、あさひちゃんと冬優子ちゃんも、なによりプロデューサーがいるのにさ」

愛依「……よし、決めたっ! 楽しい以上の何か――目指してみるわ」

愛依「あと、しあわせにも、なってみたいかな……いつかね」ボソッ

愛依「今日はありがとね。プロデューサーのおかげで元気出た!」

愛依「うちがプロデューサーを癒してあげたかったんだけど~……やっぱプロデューサーには敵わないな~」

P「愛依が元気になったなら良かったよ。俺はプロデューサーなんだからさ、アイドルのために頑張るのは当然のことだ」

P「……って、何か忘れてるような気がするな」

愛依「そういえばプロデューサーさ、ずっと寝てたけど、仕事は大丈夫なん?」

P「あ!! くっそ……タイマー設定しないで寝たからだ……! い、今何時――ってもうこんな時間か!?」

P「……はぁ。とりあえず徹夜しないと駄目みたいだ」

愛依「そっか~~……じゃあ、うちも事務所泊まる!」

P「いやいや、そういうわけにはいかないだろう」

愛依「今日は大丈夫! うち以外は全員家いるから」

愛依「友だちの家泊まったことにしておくから、ね?」

愛依「夜食も作ってあげるし、うちでも手伝えることがあればお仕事も助けるし、疲れたらまた膝枕してあげるしさー」

愛依「ねね、悪くないっしょ? うちさ~、今日は帰ったってたぶん楽しくないし、明日1日オフなんだよね~」

P「はぁ……。駄目って行っても帰らないんだろうなぁ……」

愛依 ジーッ

P「……他の人には絶対に内緒だからな」

愛依「やったね。テンションあがる~」アハハ

愛依「そんじゃ、ま、頑張ってこ~」

とりあえずここまで。

数日後。

~事務所~

P カタカタ

冬優子 ポチポチ

あさひ ポチポチ

冬優子 ポチポチ

あさひ「!」

あさひ「冬優子ちゃん!」

冬優子「うわっ、びっくりした……」

冬優子「あんたね……いきなり驚かさないでくれる?」

あさひ「ちょうどわたしもスマホ持ってるんすよ!」

冬優子「だから?」

あさひ「最近始めた対戦ゲームがあって、それを一緒にやって欲しいっす!」

冬優子「駄目」

あさひ「え……」

冬優子「ふゆはふゆでスマホ使ってやんなきゃいけないことがあんの」

冬優子「だから付き合えない。悪いわね」

あさひ「そうっすか……」

愛依「ん~? どしたん?」

あさひ「冬優子ちゃんとやろうと思ったゲームがあったんすけど、断られたっす」

愛依「あー……」

冬優子 ポチポチ

愛依「そうだ! じゃあさ、あさひちゃん、そのゲーム、うちとやらない?」

あさひ「! いいんすか!?」

愛依「ちょうど暇だったし、いいよー」

あさひ「やったっすー!」

P(今日は午前中にレッスンで午後は休みだというのに、どこかに遊びに行く様子もなく事務所でリラックス、か)

P(まあ、あいつらにとってここが居心地の良い場所になってるなら、いいのかな)

はづき「あ、プロデューサーさん」

P「はづきさん――どうしました?」

はづき「ちょっと今いいですかー?」

P「あ、はい。大丈夫です」

P(なんだろう……)

はづき「こういうプロジェクトがありまして……」ガサゴソ

はづき「はい、これが資料ですー」

P「ありがとうございます……」

はづき「……」

P「……」ペラッ

P(はづきさんから渡された書類に目を通していく)


P「……これは」

P「アイドルユニットのメンバーが1人でどれだけ輝けるのか――ですか」

はづき「そうなんです」

はづき「この大会は、言うなればW.I.N.G.のソロバージョンって感じでしょうか」

はづき「ただし、出場の条件として、普段は主にユニットで活動しているアイドルが1人で出ること――があります」

P「あえてそうすることで、ユニットとしての活動は個々のウィークポイントを隠すための手段ではないことを示せ――と言われているような気分ですね」

P「直接そう書かれているわけでも言われたわけでもないですが」

はづき「はい……」

はづき「この283プロダクションにも声がかかってまして、それでプロデューサーさんにお伝えした次第です」

P「……」

P「その、こういう質問は良くないのかもしれませんが」

P「出ない……という選択肢はあるんでしょうか」

はづき「その選択肢は存在しているけども与えられていない、と言えば良いのか……」

はづき「最終的な判断はプロデューサーさんが下すことになります」

はづき「私から何か言うつもりはありません」

はづき「それでも……」

はづき「……プロデューサーさんの決めたことを、全力でサポートしますよ~」

P「……」

P「ふぅ……」

P「……」

P「わかりました」

P「あいつらと話してきます」

P「3人とも、少し、いいか?」

冬優子・あさひ・愛依「?」

P「実は――」


P「――というわけなんだ」

P「だから……」

P「……」

愛依「?」

冬優子「何よ、らしくない」

冬優子「要するに、その大会にふゆたち3人の中の誰か1人が出るってことなんでしょ」

冬優子「……」

愛依「あの、さ……2人ともなんでそんな深刻そうなん?」

愛依「W.I.N.G.の1人ヴァージョンってこと――だよね?」

冬優子「それだけじゃないわよ」

冬優子「この大会に出れば、1人でユニットの何もかもを背負うんだから」

冬優子「プロデューサーも言ってたでしょ、普段ユニットで活動してるアイドルが1人で出るんだ、って」

冬優子「勝てば天国負ければ地獄とはこのことよ」

愛依「そ、そっか……そだよねー……」

愛依「なんか……ごめん」

愛依「でも、それならあさひちゃんが出れば――」

冬優子「――わかってんのよ」

愛依「っ」ゾッ

冬優子「そうよ。愛依の言うとおり」

冬優子「そうだけど……そんなの、悔しいと思わないの?」

冬優子「これはふゆにとってチャンスでもあるんだから」ボソッ

愛依「うち、そこまで考えられてなかったわ……ごめん」

P「ま、まずは落ち着いてくれ」

P「俺は、誰が出ても構わないと思っている」

P「誰が出ようと、俺が勝たせてやるまでだ……」

P(愛依は冬優子に事の深刻さを知らされて若干ビビッちまってるな)

P(でも、愛依だって勝てる可能性は十分にあるんだ)

P(才能という意味では、確かにあさひは最強だろう)

P(それでも、あさひは完璧じゃない――完璧であろうとしていたのだとしても)

P(冬優子は――これを自分がのし上がるチャンスだと思っている)

P(だが、それは同時に、高いリスクを孕んでいる。それを冬優子はよくわかっているんだ)

P(だから、冬優子は「出たい」とは口に出せていない……)

P(あさひは特に意見なし、か……)

P「あさひ。お前はどう思う? 出たいか?」

あさひ「どっちでもいいっすかね。面白ければ出たいかもしれないっす」

冬優子「……」

愛依 アワアワ

P(3人の話し合いで決めさせるのは無理かもしれないな……)


P『誰が出ようと、俺が勝たせてやるまでだ……』


P(ははっ、随分と強く出たもんだな、俺)

P(でも、その気持ちがあるのは本当だ)

P(俺は、ストレイライトのプロデューサーとして、あいつらを必ず輝かせなければならない……!)

P(……)

P(一応、聞いてみるか)

P「どうだ? 誰が出るとか、決まりそうか?」

冬優子「……」

あさひ スンッ

愛依「……」

P「俺が、決めてもいいのか?」

冬優子「ふゆはあんたの決定に背かないわよ」

愛依「うちも……選ばれたら……その、ちょー頑張る」

愛依「あはは……なんかうまく言えなかったけど、でも――そのときは絶対勝つから」

P「そうか」

P「あさひはどうだ?」

あさひ「プロデューサーさんにまかせるっすよ」

P「……わかった」

P(決めないと、だな)

P「俺は……」


1.愛依を選ぶ。
2.冬優子を選ぶ。
3.――この選択肢はロックされています―― 

選択肢↓2

(とりあえずここまで)

P「……愛依」

愛依「え!? あ、うち……?」

P「どうだ、出てみないか」

愛依「うちが、ストレイライトを……」

P「強制はしないよ」

愛依「……」

P(愛依には大きすぎるプレッシャーだろうか)

P(愛依は……ただ弱いというわけではないが、脆い部分を抱えている。それでも……)

P(たとえそうだったとしても、俺は愛依と挑戦してみたい)

愛依「プロデューサーは……」

愛依「うちなら、勝てるって思う?」

P「ああ。そのつもりだよ」

愛依「あはは……プロデューサー、即答じゃん」

P「もちろん。俺は、愛依がストレイライトを背負えるって信じてるからさ」

愛依「!」

愛依「……そっか」

愛依「……」

愛依「っしゃ!」パシ

愛依「うん、やってみるわ!」

愛依「あんまし不安に思ったって、うちらしくないもんね」

愛依「それに、プロデューサーに「信じてる」なんて言われちゃったらさー……」

愛依「やらないわけにはいかないっしょ!」

P「愛依……」

P「ありがとう。一緒に頑張っていこう」

冬優子「ん゛っ、んんっ」

冬優子「2人で空気作ってるところ悪いけど、ふゆたちがいることを忘れんじゃないわよ」

P「あ、冬優子」

愛依「ふ、2人の空気って……もー! 冬優子ちゃん何言ってんのー!」

冬優子「愛依」

愛依「?」

冬優子「頑張んなさい。応援、してるから」

冬優子「大会に出るのは1人でも、ストレイライトは3人……ううん」

冬優子「プロデューサーと4人で1つだってこと、覚えておきなさい」

愛依「……うん」

愛依「サンキュー、冬優子ちゃん」

あさひ「……」

P(あさひは無言か……まあ、あさひのことだから、本当に気に留めていないのかもしれない)

P「そうそう、いままで通りにユニットとしての活動も普通にあるからな」

P「愛依は大会に向けてユニットとは別のスケジュールも組むことになるが……」

P「……ストレイライトは何も変わらないさ」

P「いつだって、お前らが一番だよ」

愛依「おっ、プロデューサーイイコト言うじゃん」

冬優子「かっこつけちゃって……」

数十分後。

P(あれから、自然に3人は、今日は解散、という流れになった)

P(愛依だけが事務所に残った――まあ、残ってくれたほうがこちらとしては都合が良いけども)

P(しかし、大丈夫かな)

P(愛依が残ったのは偶然というか、なんというか……)

P(……遅いな)

ジャーッ

ガチャ

P「!」

愛依「……あ」

P「愛依――」

愛依「いやー難産だったわー! バスンとしてスッキリってカンジ?」

P「――そ、そうか」

P(? その目元は……)

愛依「どしたん? プロデューサー」

愛依「うちの顔になんかついてる?」

愛依「あ、さすがに引いちゃったとか?」

P「愛依」

P「お前、泣いただろ」

愛依「!?」

愛依「な、何言って……」

P「その……化粧が崩れてたから」

愛依「……あ」

P「視界が霞んで直しきれてない」

愛依「そ、そっかー! ま、ばれちゃしょうがない……か」

愛依「ごめん、プロデューサー」

愛依「こんなところ見せちゃって」

P「別に、トイレで泣いてたことをどうこう言うつもりはないんだ」

P「むしろ、謝るのは俺のほうかもしれない」

P「俺が愛依に大会出場を促したから……」

愛依「ち、違う……!」

愛依「プロデューサーはなんも悪くないから!」

愛依「……どうしちゃったんだろうね、うち」

愛依「いままでこんなことなかったからさ。人前に出るのが怖いことはあっても」

愛依「狭い個室で1人になって、プロデューサーがうちを選んでくれたことがめっちゃやばいことだって思って」

愛依「でさ、気づいたら涙止まんなくなってて……」

愛依「こんなうちでホントに良かったのかな……」

P「……確かに、ここからは決して易しい道じゃない――いや、はっきりいって厳しい道だよ」

P「それは、お前があさひや冬優子じゃないからではない」

P「あさひだって、冬優子だって、簡単にクリアできるものではないんだ、今回のは」

P「それでも、俺は愛依と勝ちたいって思ったから」

P「勝って……ストレイライトは単なるアイドルユニットを超える価値があるってことを、愛依と証明したいんだ」

P「俺のわがままだって怒ってくれてもいい。愛依が拒否したら、そのときは何も言わずに受け入れるつもりだよ」

愛依「うちがプロデューサーに怒るなんてナイナイ」

愛依「むしろ、ありがとって思ってる。プロデューサーのためにも、うち、頑張りたい」

愛依「ううん、絶対頑張る。頑張って、勝って、たっくさんの人にストレイライト最高って言わせる……!」

愛依「……だからさ、はい」

P(手を差し出して……握手か?)

P「ああ――」スッ

ニギッ・・・グイッ

P「――え」

P(立ち上がって手を差し出してきた愛依と握手をしようとした瞬間――愛依に引っ張られ……)

P(前方に軽くバランスを崩した俺を愛依が受け止めるような形で……)

ギュッ

P(強く、けれども弱く、抱きしめられた)

P「め、愛依……?」

愛依 ギュッ

P「そ、その、いきなりで、なんていうか……」

愛依「いま事務所にいるのはうちとプロデューサーだけっしょ」

P「それはそうだが……」

愛依「ごめん、プロデューサー。お願いだから、いまだけは何も言わないで」

P「……」

愛依「っ」ギュウゥッ

P(抱きしめる力が強くなる。一方で、愛依の手が震えているような気もする)

P(弱さを感じる――これから挑むモノからのプレッシャーやユニットを背負うことへの不安がある)

P(強さも感じる――勝ってやるのだという決意と揺るぎない想いが確かに存在している)

愛依 スッ

愛依「プロデューサー……」

P「お、おう……」

愛依「……すぅー、はぁー……っし。もう大丈夫」

愛依「うちもプロデューサーと勝ちたい気持ちでいっぱいだってわかった」

愛依「一緒にトップアイドル目指すって、こういうコト……でもあるんだよね」

P「今まで俺たちが歩んできた道を思い出せばいいさ」

P「たくさん勝って、時には失敗も経験して……どれも意味のあることだっただろ?」

P「これからだってそうだよ。きっと、さ」

愛依「だね。また頑張るだけじゃん?」

P「ははっ、その意気だ」

愛依「うん!」

愛依「……あ、時間やばっ! そろそろ帰んないと」

愛依「じゃ、プロデューサー、またね!」ダッ

P「ああ、またな」

愛依「っとと、言い忘れてたわ」

愛依「その……抱きついたこと、ナイショ、だかんね。ひみつっていうか、……忘れちゃってもいいから」ゴニョゴニョ

愛依「ば、ばいばい!」タタタッ

P(そんなことを言われた余計に思い出すじゃないか……!)

P「……柔らかかったな」

とりあえずここまで。

2週間後。

~事務所~

P(第1回予選まで2週間とちょっとという時期になった)

P(1人でユニットを背負うことになった愛依の負担は……きっと、俺が想像する以上に大きいだろう)

P(楽天的で大雑把が愛依のアイデンティティみたいなところはあるが、一方で思慮深いというか、周りをよく見ている側面もあると思う)

P(この機会にあまり思いつめないといいんだが……)

はづき「ぷ、プロデューサーさ~ん」

P「……あ、はづきさん」

はづき「お疲れ様です~」

P「ええ、お疲れ様です」

P「あの……何かありましたか?」

はづき「それが~……」


P「えっ、1週間子どもを預かってくれ……ですか?」

P「はづきさんいつの間に……」

はづき「わ、私じゃないですよ~」

はづき「社長に近い人からどうしてもと頼まれたんです」

はづき「283プロで信頼できる人間に任せたいとかなんとかって」

P「その、はづきさんが預かるというのはダメなんですか?」

はづき「私はだめですよ~」

はづき「大家族のために生活費を稼ぐのでアルバイトばかりですし、面倒を見るほどの余裕はちょっと……」

はづき「せっかく信頼されてるんですから、ちゃんと見ていてくれる人じゃないといけないんです」

P「それで俺ですか」

P「確かに仕事の掛け持ちとかはないからこの事務所で働く以外のことと言えばアイドルの仕事やレッスンについていくくらいですが……」

P「仕事の間はさすがに面倒見れないと思いますよ」

はづき「あ、それは大丈夫です~」

P「?」

はづき「プロデューサーさんはまだ有給休暇を取ってないので、ちょうどいいかと」

P「俺の有給は子どものお守りで消化されるのか……」

はづき「すごく大人しくて全く手のかからない子って聞きましたよ~」

P「それ、他人に預けなくても自分でどうにかなっちゃうタイプの子なんじゃないですか……?」

はづき「それでも独りにしておけないっていう親心なんじゃないですかね~」

P「は、はぁ……」

はづき「ここだけの話、引き受ければ色をつけてもらえるそうですよ」ボソッ

P「……」

はづき ニコニコ

P「わ、わかりましたよ。別にそこまで嫌というわけでもないですし、お金ももらえて信頼も得られるならやりますって」

はづき「助かります~! じゃあ、そういう話で進めますね」

P「は、はい」

P(引き受けてしまった……)

翌日。

~事務所~

P「おはようございます」

はづき「あ、プロデューサーさん。おはようございます」

はづき「今日はお休みの日なのに、スーツで着たんですね~」

P「はい……なんだか、いつもの癖で」

P「電車に乗って窓に映った自分を見て気づきました」

はづき「そんなお疲れなプロデューサーさんも、あそこにいる天使さんなら癒してくれますよ~」

P「天使……?」

P(はづきさんに言われて視線をやった先には――)

「……」

P(――確かに、天使と形容されてもおかしくないと思えるような少女がいた)

P(肩までの長さの黒髪に色白の肌、顔立ちは整っていて――そこにある2つ赤い瞳はまだこちらに気づいていないように思えた)

P(白のワンピースに身を包んだおしとやかな女の子だ)

P(はづきさんは天使と言ったけど、その見た目はどちらかといえば和風かもしれない)

P(つい、その少女をまじまじと見てしまった)

はづき「どうかしましたか? もしかして、スカウトしたくなったとか」

P「あ、はは……」

はづき「大人びていますけど、小学校高学年にならないくらいなので、アイドルのプロデューサー目線では将来に期待してあげてください」

はづき「とりあえず、今はお仕事の話はナシです。そろそろ紹介しますね~」

P「は、はい」

はづき スタスタ

P スタスタ

「……」

はづき「ふふっ、ちょっといいですか~?」

「……?」

はづき「こちらが、今日から一週間面倒を見てくれるPさんです。普段はこの事務所でアイドルのプロデュースをしている人なんですよ~」

「……」

P「初対面でいきなりだとは思うけど、よろしく……ね」

「……」

はづき「あはは……それで、この子は――」

プルルルル

はづき「――って、お仕事の電話ですね……行ってきます~」

P「俺が出ましょうか?」

はづき「それじゃあ意味がないですよ~。とりあえずプロデューサーさんはこの子と一緒にいてあげてください」

はづき「今はそれがお仕事だと思えば、お仕事人間のプロデューサーさんもわかってくれますかね~」

P「わ、わかりました……」

はづき タタタ

P「……」

「……」

P「……」

「……」

P(どうすればいいんだ……!)

数十分後。

P(あれから沈黙が続いている……)

「……」

P(参ったな……)

ガチャ

P(誰か帰ってきたのか?)

愛依「プロデューサーたっだいまー!」

P「お、愛依か……」

P(そういえば、今日は個人レッスンだったか)

P(……大会の予選も近いしな)

愛依「ど、どしたん? なんか疲れてる系?」

P「いや、なんていうか、な……」

愛依「?」

愛依「ね、プロデューサー」ボソッ

P「なんだ?」

愛依「前にいる子って、プロデューサーがスカウトしてきたん?」ヒソヒソ

P「あ、そういうことか……愛依にはまだ話してなかったよな」ヒソヒソ

P(一旦その場から離れて、愛依に事の経緯を説明した)


愛依「そっかー、プロデューサー、あの子のお守り任されてんだね」

P「そうなんだ。ただ、な……」

愛依「まだあの子と仲良くなれてない的なやつっしょ?」

P「情けない話だが、そうなんだ」

P「どう接していいかもわからなくてな」

P「はづきさんから事前に聞いてたのは、“すごく大人しくて全く手のかからない子”ってことだったんだけど」

P「無邪気に接してくれる子どもとは全然違うし、どうしたものかわからなくてお手上げでさ……」

愛依「なるほどねー。ちょっとムズいカンジかぁー……」

愛依「……」

愛依「プロデューサーは1週間あの子につきっきりで面倒見るんだよね?」

P「あ、ああ」

愛依「じゃ……その」

愛依「それさ、……うちとやんない?」

P「愛依と?」

愛依「う、うちならさ、下の子の面倒見ることあるし、世話するの好きだし……」

愛依「丁度イイ的な? って思ったんだけど……」

愛依「ど、どう?」

P「その提案はありがたいし、できれば愛依と一緒にあの子と向き合ってあげられればと思うんだけど」

P「レッスンとか、仕事――は今週はないのか――まあ、そういった予定もあるだろう」

愛依「レッスンの日なら、あの子と事務所に来ればいいんじゃね?」

愛依「オフの日はさー、それこそ3人で出かけたりして……良くねって思うんだけど。プロデューサーさえ迷惑じゃなきゃね」

P(愛依は大会を目前に控えてストレスを抱えているかもしれない。それなら、そういった形であれ発散させてやりたいと思う)

P「……そうだな。それじゃあ、お願いするよ。一緒にあの子の面倒を見てあげよう」

愛依「! う、うん!!」

とりあえずここまで。

愛依「やば……っ、なんか、キンチョーしてきたんですけど……!」

P「いやいや、ライブの前じゃないんだから……」

P「愛依が頼りなんだ。さ、ほら」

愛依「それ余計にプレッシャーだから!」

愛依「プロデューサー……もしかしてわざとやってる?」

P「……そんなことないぞ」

愛依「え~? ホントかなー」

愛依「って、あははっ。なんか、キンチョーしなくなってきたかも」

愛依「……」

P「どうかしたか?」

愛依「ううん。プロデューサーやっぱすごいわって思っただけ」

P「別に何もしてないんだが……」

愛依「っし、じゃ、行こっか」


「……」

愛依「……どもども~!」

P「待て待て、待て。芸人のノリだろ、それは」

P「まだ緊張してるんじゃないのか?」

愛依「ち、違うし! そういうんじゃないから!」

「……っ」

P「あ……」

愛依「ごめんね、驚かせちゃったカンジ?」

P「いや、この子……」

愛依「?」

「……」

愛依「笑って……る?」

「……」

愛依「まだ口がニコってしてるじゃん!」

愛依「~~っ、……かわいすぎか!」

P「ははっ、愛依が緊張したおかげだな」

愛依「も~、またそんなこと言って~」

愛依「あ、そだ。自己紹介? しないとね」

愛依「うちは和泉愛依ね。こっちはうちのプロデューサー」

P「さ、さっきぶりだけど、よろしく」

愛依「名前はなんていうん~?」

「……」

P「……」

愛依「あ~……、ま、いっか!」

愛依「しばらくプロデューサーに預けられるって聞いたけど」

愛依「うちも一緒に面倒見てあげたいな~って思ってて」

愛依「ダメ……かな?」

「……」フルフル

愛依「よかった~~。なんかあったらさ、エンリョなく聞いてくれちゃっていいから! お姉さんのこと、頼ってね~」

P「……そういえば、愛依」

愛依「ん~? どしたん?」

P「どうだ、練習の調子は」

愛依「!」

愛依「……」

愛依「順調、だけど」

P「……そうか」

愛依「……」

愛依「プロデューサー」

愛依「やっぱ、もうちょっと練習したい」

愛依「自主トレしてくるわ」

P「わかった。……無理はしないでくれ」

愛依「ダイジョーブだって! うち、こんなんだから? プロデューサーに心配されなくてもなんとかなるっしょ~って思ってるし」

P「なら、いいんだが……」

愛依「うん、平気だから。いまんとこ、ね」

愛依「ヤバくなったらちゃんと言うから、いまは――」

愛依「――うちを信じて」

P「……!」

P「ああ、そうだよな。プロデューサーの俺がアイドルを信じてやれなくてどうするって話だよな」

P「よし、行ってこい!」

愛依「うん! もうちっと頑張ってくるわ!」

愛依「そだ。この子にばいばいって言おっと」

「……?」

愛依「うちさ、いま大会の練習中なんだよね」

愛依「お姉さんちょっとお外で頑張ってくるから」

愛依「明日、また会おーね」ナデナデ

「……ん」

愛依「……」ニコ



P「……」


P『勝って……ストレイライトは単なるアイドルユニットを超える価値があるってことを、愛依と証明したいんだ』


愛依『うちもプロデューサーと勝ちたい気持ちでいっぱいだってわかった』


P(愛依と勝ちたいって――愛依を選んだのは俺だ)

P(それなのに、愛依のことを心配してばかりの自分がいる)

P(もしかしたら、俺は……)

P(愛依を心配するふりをして、愛依を選んだ自分を心配してしまっているんじゃないのか?)

P(それは……駄目だ。愛依に失礼だし、不誠実だ)

P「はぁ……」

「……っ」クイクイ

P「お、どうしたんだ。時計なんか指差して……って、もういい時間じゃないか!」

P「そうだな。……帰ろうか」

数日後。

愛依「あのさ、プロデューサー」

P「どうした?」

愛依「明日と明後日って、うち、オフだよね?」

P「えっと……そうだったと思うが、一応確認させてくれ」

P ポチポチ

P「……ああ。そうだな。明日明後日はオフだよ」

P「久しぶりの休みだし好きなようにしていい……と言いたいところだが」

P「2日間のうちどちらか一方は必ず休息に当ててくれ」

P「頑張ることと無理をすることは違うからさ」

愛依「うん、わかってる」

愛依「明日はちゃんとウチで休むつもり~」

P「そうか……うん、それなら、明後日は愛依の好きなことをする日にしよう」

愛依「その……さ、明後日なんだけど」

P「?」

P「……あ、3人で出かけるって話か」

P「この前言ってたよな」

愛依「そう! それ」

愛依「友だちとどっか行っても楽しいと思うんだけどさ~」

愛依「なんていうか……うちはプロデューサーと……」

「……」

愛依「……それと、この子」

愛依「なんかさ、いまは3人一緒がいいんだよね」

P「愛依がそうしたいなら、そうしよう」

愛依「ほんと!? ありがと、プロデューサー」

P「良い息抜きになるといいな」

愛依「うん!」

P「どこに行こうか」

愛依「どこにしよ~」ナデナデ

「……ん」

「……」

「……」クイクイ

愛依「ん? どっか行きたいとこある?」

「……」

愛依「テレビ? あ、そっか……」

愛依「……海」

P「海に行きたいって言ってるのか?」

P「テレビを指差して……ああ、海が映ってるな」

P「海に行くってことで、いいか?」

「……」コクコク

P「ははっ、そうか」

P「じゃあ、3人で海に行こう」

とりあえずここまで。

2日後。

~某海岸付近~

P「忘れ物はないか? 動き始めたらすぐには駐車場に戻れないから、ちゃんと確認してくれよ」

愛依「う、うちは大丈夫……」

P「?」

愛依「……あ、どう? 忘れ物、ない?」

「……」フルフル

愛依「っし。オッケーって感じ~」

P「わかった。じゃあ、行くか」ピッ

ガチャリ

愛依「……」

P「どうしたんだ?」

P「着いてからずっとソワソワしてるが」

愛依「え? いや、なんつーかさ」

愛依「こんなイイ天気で海に来れてもうココロん中でテンションMAX的な?」

P「ははっ、そうか」

P(嬉しそうだな、愛依)

P(今は厳しい時期だけど、ここに来て正解だったのかもな)

「……」

P(この子には感謝だな)

P「叫んできたらどうだ? あんまり人いないし」

P「海辺のほうに行って、思い切りやってくればいいんじゃないか」

愛依「……うん!」

愛依「ほら、行こ!」

「あ……」

P「なかなか強引なお姉さんだな」ハハッ

愛依「もー、何言ってんの」

愛依「プロデューサーも一緒に行くに決まってんじゃん!」グイッ

P「うぉっ!?」

愛依「あっはは……」タタタ

P(愛依……)

愛依「……っとと」キュッ

「……ん」

P「急ブレーキだ」

愛依「~~~~~~~っ」

愛依「海だーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

愛依「……はぁっ、ん~~サイコー!」

「……」ニコ

P「楽しそうな愛依を見て、この子も嬉しそうだぞ」

愛依「お! ホントじゃん! カワイイな~もう」ムギュ

「……」ムムム

愛依「プロデューサーたちもどう? 一緒に叫んでみない?」

P「えぇ、この子はともかく、俺はいい歳だしさ……」

愛依「え~? 疲れとかふっとんじゃうと思うんだけど」

P「……」

P(疲れ、ね……)

P「……やるか」

愛依「いいね~、ノリ気じゃん、プロデューサー」

愛依「じゃ、3人一緒にいっちゃう系?」

P「いいんじゃないか?」

P「どうだ?」

「……」

P「あ、はは……」

愛依「まあ、とりあえずやってみるってことで」

愛依「すぅ……」

愛依「せーの……」

P ゴクリ・・・

「……」

愛依「海だーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
P「ぅ、海だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
「うみだー」

愛依「あっははは! プロデューサー、タイミングミスってんじゃん」

P「い、いいだろ別に……」

愛依「……」

愛依「……ねえ、今の、聞こえたカンジ?」ヒソヒソ

P「大声ではなかったが……確かに、うみだー、と」ヒソヒソ

愛依「鬼かわいくね?」ヒソヒソ

P「天使」ヒソヒソ

愛依 ナデナデ

P ナデナデ

「ん……」

愛依「よしよし」

P「ははっ」

愛依「……なんか、いいね。こういうの」

P「ああ、そうだな。愛依の言う通り、疲れが吹き飛んだようだよ」

愛依「うちが言いたいのは、その……」

P「?」

愛依「ううん。なんでもない!」

愛依「早速歩いてこ~」

P「水着とか持ってきてないけど、本当によかったのか?」

愛依「あー、うん。大丈夫」

愛依「まあ、友だちと来たら海入ってはしゃぐってのもアリなんだけど」

愛依「今日は、別にそういうんじゃないしね」

P「愛依がそういうならいいんだが……」

P「……あ、海入りたいとかあるか?」

P「たぶん、水着買おうと思えば買えるんだよな」

P「どうだ?」

「……」フルフル

P「そういう気分じゃない、って感じかな」

P「風邪を引かせてもいけないし、まあ海には入らずのんびり過ごすのがちょうどいいって気もするのは確かだな」

愛依「そーそー。とりあえず、さ」

愛依「あそこ入ってみない?」

P「あれは……雑貨屋か? 個人経営の、こじんまりとしたところだな」

P(愛依らしくないって言ったら怒られそうだから言わないけど)

P(というか、愛依らしくないかどうかなんて、わからないんだよな)

P(俺が愛依のすべてを知ってるわけじゃないんだから)

P(例えば、そう……極度のあがり症になった原因とか)

P(黒ギャルらしくない、っていう言い方のほうが正しいかもしれない)

P「落ち着いた雰囲気だし、今日のテーマにあってるんじゃないか」

P「よし、行こうか」

愛依「それでいいカンジ~?」

「……」コクッ

愛依「そんじゃ、決定ってことで」

~雑貨屋店内~

イラッシャイマセー

愛依「……」

P「……」

「……」

愛依「……」

P「……」

「……」

愛依「~~っ」

「……」

P「大丈夫か?」

愛依「だ、大丈夫だって!」

P(落ち着いた雰囲気が逆に愛依を落ち着かなくさせてるみたいだな……)

P「とりあえず、せっかく入ったんだし、いろいろ見ていくとしよう」

愛依「そだね……」

「……」

P キョロキョロ

P(見渡してわかったけど、割とおしゃれでもあるな)

P(アンティークっぽいものもある……特に、どう考えても無くて困らないのに買いたくなるようなものがたくさん……)

「……」

P「何か気になるものとかあるか?」

「……」

P「はは……まあ、ゆっくり見ていこうな」

「……」

P(このガラス細工……綺麗だな)

P(部屋に置いとくだけでも違うかな?)

P(……買いたくなるな、これは)

P「うーん……」

P(そういえば、愛依は何を見ているんだろう)

P「愛依――」

愛依「うわぁぁっ!?」ビクッ

P「――っと、すまん。急に後ろから声かけちまって」

愛依「え、あ、いや……別に大丈夫」

P「愛依は何見てるのかなって思ってさ」

愛依「うちが何を見てるか……」

愛依「……」

P「?」

愛依「……これ」

P「これは……リングか」

P「結構たくさんあるな。それに、可愛らしいものから綺麗なものまで多種多様だ」

愛依「ね。みんないい感じっしょ」

愛依「これとか……」

P「お、……綺麗だな」

愛依「いや~、まあ、うちには似合わないかもしんないけどさ」

愛依「うち、こういうカンジだし」

P「そんなことないと思うぞ」

愛依「えぇ~……そうかなぁ~~」

P「とりあえず、着けてみてくれ」

愛依「……ま、マジ?」

P「え? ああ」

P「そりゃあ、似合わないかどうかなんてつけてみないとわかんないだろ」ハハッ

愛依「わ、笑いゴトじゃないんですけど!」

愛依「じゃあ……はい。ほら、つけたよ」

愛依「ど、どうかな……?」

P「おお……」

P(愛依が選んだのは、シンプルながらも輝いて見えるシルバーのリングだった)

P(褐色の肌にひっそりとたたずむそれは、夜が明けたときの太陽の光のように優しく輝いていて……)

P「うん。似合ってる」

愛依「ほ、ホント?」

P「嘘ついてどうするんだよ。本心だって」

P「綺麗だよ」

愛依「そ、そっか」

愛依 キュポッ

愛依「……うん、いまはこんなとこ、みたいな?」スッ

P「戻しちゃっていいのか? 気に入ったのなら買ってあげようとも思ったんだが……」

愛依「まあ、プロデューサーに褒めてもらえたし、それでいいかな~みたいな?」

P「そ、そうか……?」

P「まあ、愛依がそれでいいならいいんだ」

「……」

P「あ」

愛依「ご、ごめん! ほったらかしちゃって」

「……」フルフル

愛依「なんか欲しいもんとかあった?」

「……」

P「このくらいの歳の子だと、まだこういう店に欲しいものってないのかなぁ」

チリン

P「何の音だ?」

P「……というか、風?」

愛依「店員さんが空気入れ替えるので開けたみたい」

P「て、ことは……」

チリリン

P「そうか、風鈴……」

「……」

P「風情があっていいよな」

P「ちょっと見てみないか?」

「……」コクリ

愛依「いいんじゃん?」

P(夏の風物詩ではあるが……まあいつあっても不快じゃないよな)

P「風鈴もまたいろいろあるな」

チリン

「……」

P「……綺麗だなぁ」

「……」ジーッ

P(じっと見てるやつがあるみたいだな)

P「どれが好きなんだ?」

「……」ユビサシ

P「ん? あの……青いのか……?」

「……」コクッ

P「花の柄だな。……なんて花なんだろう」

P「調べてみるか……」ポチポチ

「……」

P「……お、これだな」

P「桔梗、か」

P「うん。いい色だ」

P「よし、これを買おう」

「……!」

P「気に入ってるみたいだしな。いらなくても、事務所に飾るし、いい買い物だろ?」

「……」

「……」ニコ

愛依「その風鈴買うん?」

P「ああ、この子が選んでくれたんだ」

愛依「そっか……。綺麗だね」

愛依「この子も嬉しそうだし、決まりっしょ」ナデナデ

「……ん」

P「だな。レジに持っていくか」

P「他に買うものあるか?」

愛依「ん~……ない!」

愛依「あ、飲み物適当に3つかな。レジの横にあるやつね」

P「お前も他に欲しいものとかないか?」

「……」コクリ

P「じゃあ……すみません、この風鈴と、あとここにある飲み物で……お茶3つください」チャリン

「はい、ありがとうございます」

「ん……」ノビー

愛依「あれ、レジの上が気になるカンジ?」

愛依「結構高いもんね~。ちょっと待ってて……っしょっと!」

「わ……」

P「おお……だっことは、結構力あるんだな。レッスンの成果か」

愛依「それもあるかもだけど~、まあ、うち下の子の面倒もみるしね」

「……」ニコ

愛依「ほら、嬉しそうじゃん?」

P「ははっ、確かにな」

「こう若くて仲の良いご夫婦がいらっしゃると、この店の雰囲気も明るくなるというものですよ」

愛依「ふ、夫婦!?」

「違うんですか? 随分若いとは思いましたが、まあいろいろ苦労もあったのかと邪推してしまいました」

「でも……そうですね、なにより幸せそうに見えたもんですから」

愛依「も、も~~! マジなに言っちゃってるの~~」

愛依「プロデューサーも何か言って――」

P「よっ」ムギュ

「……んぶ」

P「ははっ、こういうおもちゃあるよな」

「ん……」

愛依「――何してるん?」

P「え? あ、いや、この子が頬を膨らませてたから、むぎゅっとして空気を抜いてやる遊びをだな……」

愛依「……はぁ」

愛依「あははっ、なにそれウケる!」

愛依「うちもやりた~い」

「む……」

愛依「えいっ」ムギュ

「……んぶ」

愛依「かわいすぎか!」

「……」テレテレ

P「激しく同意」

「あの……やはり夫婦では……」

愛依「店員さんそれ以上はうちが死んじゃうから早く風鈴とお茶ちょうだい!」

「あ、はい。まいど……」

P「よし、じゃあ次行くか」

愛依「次どうしよっか~」

「……ふふ、お元気で」

とりあえずここまで。

愛依「ん~~っ!」ノビー

P「ははっ。疲れたか? 愛依」

愛依「ううん、ぜんっぜん!」

愛依「レッスンで鍛えられてるかんね」

P「それは頼もしいな」

愛依「ま、こうやって誰かと出かけんのって久々だから、レッスンとかお仕事とは違う疲れ方? だけど」

愛依「なんていうか……こう、思い切り楽しんだーって、そんなカンジだから」

愛依「全然イイんだよね」

愛依「最初に買い物して、それから水族館行って、ちょっと歩いてご飯食べてさー」

P「3人でいろいろ見て回ったよな」

愛依「そーそー。その……さ」

P「?」

愛依「……っ、ほ、ほら」

愛依「うちらって、周りから見たら家族――に見えんのかなって」ゴニョゴニョ

愛依「うちがこの子のママで、プロデューサーがパパで……」ゴニョゴニョ

「……」

P「家族、か」

愛依「ちょっ……! 聞こえてたん!?」

P「え? あ、ああ……最初のほうだけ」

愛依「~~~~~っ! まずった……」

P「何かまずいことでもあるのか?」

愛依「う、うちは別に嫌じゃないよ!?」

愛依「……うん。全然いやじゃない。むしろ、嬉しい、かも」

愛依「っ……」カァァッ

P「……そうだな。家族に見えるかもな」

愛依「!」

「……」

P「お前もそう思うか?」

「……」コクッ

P「ははっ。じゃあ、俺たちは家族……ってことでもいいのかも――なんてな」

愛依「ぷ、プロデューサー……もう」

「……」

愛依「……う、海!」

P「え?」

愛依「海の方いこ! 夕焼けキレイだし……さ。ね?」

P「本当だ……もうそんな時間帯なんだな」

P「まあ、せっかく海に来たんだし、海辺ならこの格好でもどうにかなるよな」

愛依「ほらほら、夕日すぐ沈んじゃうかもだし! 早く行こ!!」アセアセ

P「おいおい、そんな急かすなよ」ハハッ

「……」ニコ

P「ここから先は履いてるものを脱いだほうがいいぞ」

P「せっかくの砂浜だからな」

愛依「ん……っしょっと」

愛依「どう? 脱ぎ終わった?」

「ん……」コクリ

愛依「じゃ、足入れてみよーっと……」

「わ……」

愛依「砂あったか……!」

P「うん。太陽の熱なんだろうな」

P「……あ、待ってくれ2人とも」

P「何か落ちてる……足元、気をつけてな」

愛依「うん……。プロデューサー、これなんなん?」

P「……ああ」ヒョイ

P「ゴミ……じゃないな」

P「割れた瓶なら本当に危なかったけど、これは割れてないぞ」

P「コルクで栓がされてるし、中身があるみたいだ……」フキフキ

P「あ、これ……ボトルメールだ」

愛依「ぼとる……めーる?」

P「瓶の中に手紙を入れて海とか川に流すやつだよ」

P「いつか、どこかの誰かが拾って自分のメッセージを受け取ってくれるんじゃないかと、そうやって思いを馳せるんだ」

愛依「ふーん……なんか、いいね、そういうの」

P「ははっ、愛依もそう思うか?」

愛依「うん、うちにはムズカシイことはわかんないけど」

愛依「ステキ……ってやつ? って思った」

P「そうだな。ステキだ」

「……」

愛依「手紙にはなんて書いてあるんだろーね」

P「せっかく拾ったわけだし……開けても、いいんだよな」

P「素手でいけるか?」

P「っと、ふんっ……!!」

キュポ

P「……あ、開いた!」

愛依「おおっ! やるじゃん~」

P「中の手紙は……」フリフリ

ハラリ・・・

P「……お、出てきたな。どれどれ――」ソッ

----------------------------------------------------------------------------------------
OS Version 2.8.3.2018424
[FILE : EMERGENCY]

>__________

----------------------------------------------------------------------------------------

P「――っ!?!?!?!?!?」バチィッ

愛依「ぷ、プロデューサー!?」

P「っ……てぇっ、ああぁっ……」フラフラ

愛依「大丈夫!? なんか急に痛がってたけど……」

P「あ、頭が……くっ……」ズキズキ

愛依「立てないカンジ?」

P「少し、横になれれば……」

愛依「じゃ、じゃあ……うちの膝かしたげるからさ」

愛依「これ枕にして、横になっといて」

P「すまない……」

P「誰が見てるかもわからないから、もうちょっと変装しておいてくれ……」

愛依「わ、わかった。たしかカバンにグラサンとでっかい帽子が……」ガサゴソ

「……」

P「うう……」

P「……」


30分後。

P「……ん」パチッ

愛依「あ、プロデューサー……」

愛依「目、覚めた?」

P「あ、ああ……心配させてすまなかった」

愛依「いいっていいって。そりゃ、いきなり頭痛がるからびっくりはしたけどさ~」

P「ここって……さっきいたところよりちょっと離れてるよな」

愛依「ほら、念には念をってヤツ? ここまでくれば、意外と周りから見えなそうだったし」

P「俺、重くなかったか?」

愛依「まあ、引きずったし!」

P「……」

P「あの子は?」

愛依「遊んでるよ。砂浜んとこでね」

愛依「もう大丈夫そうなら一緒に行く?」

P「ああ、そうしよう」


「……」ガサガサ

P「ははっ、どうした、砂の中の探し物か?」

「……」フルフル

P「砂浜にはいろんなもんがあるからな」

P「流木とかあれば落書きして遊べそうなもんだけど……ないな」

P「タコノマクラとか、ビーチグラスとか、……うーん、どうだろう。ないかな」

P「……って、そうだ! さっきのボトルメールだけど」

愛依「ああ、これ?」つボトル

P「そ、そうだ」

愛依「なんかさ~、プロデューサーがあんなカンジになっちゃうくらいだからどんな手紙なんだろって見てみたんだけど……」

愛依「なんも書いてないんだよね~」ペラッ

P「本当だ……」

P「なんだったんだろうな。それ」

愛依「うーん、うちにもわかんない」

愛依「ま、せっかく拾ったワケだし、これも何かの縁? ってことで。とりあえずうちが持っとくよ」

「……」スック

P「もういいのか?」

「……」コクッ

P「そうか」

愛依「そだ。3人で浜辺歩いてかない?」

P「ははっ、それはいいな」

愛依「その……手、つないでさ」

愛依「プロデューサー……覚えてる?」

愛依「前にうちとショッピングモールで買い物したとき」

愛依「パパとママと、それから子どもの3人で……」

P「ああ――」


イッセーノセー
キャッキャッ

P『なんか、さ』

P『俺たちは荷物だけど、持ち方はなんとなく似てるよな』

愛依『っ! ちょ、ちょっとなに言ってんの……もう』


P(子どもが両親の間にいて、片手を父親、もう片方の手を母親に握られて、タイミングよく両親にひっぱられてブランコ遊びをしている)

P(そんな、よくある日常の中の微笑ましい光景を、俺と愛依はあの時に見たんだ)

P「――覚えてる」

P「ほら、手出してくれ」

「……?」

P「こっちを俺が持つから、反対は愛依に持ってもらうんだ」

「……」

愛依「あんとき見たのと、おんなじ……だね」

P「そう……だな」

愛依「……」

P「と、とりあえず歩かないか?」

愛依「そっ、そだね……」

P「よし、じゃああれやるか!」

愛依「あはは、うん!」

「……?」キョトン

P「いくぞ……」

P/愛依「いっせーの……」

P/愛依「……せーっ!」グイッ

「わー……」

「……」ポスッ

P「いい感じにブランコできたと思うんだけど、どうだ?」

「……ん」ニコ

P「喜んでくれたみたいだな」

愛依「ほんとカワイイんだから~もうヤバすぎ!」ナデナデ

「……」

P「……あ。おおっ」

愛依「どしたん?」

P「いや、ほら」

P「夕日、やっぱり綺麗だな……って」

愛依「うん。すっごく……ね」

「……」

愛依「……プロデューサー」

P「ん? どうしたんだ、愛依」

愛依「うち、……いま、しあわせ、なのかも」

愛依「きょうだいとか友だちと遊びに行ったり、アイドルでレッスンとかお仕事したり……そういうのとは違って」

愛依「あ~~、なんかさ、うまくは言えないんだけど」

愛依「いまみたいな時間がもっと続いたらいいのにな~って」

愛依「マジでそう思う」

P「愛依……」

愛依「夕日がさ、もう……沈んじゃうじゃん?」

愛依「そしたらさ~、このしあわせなのも終わっちゃうみたいに思えて……」

愛依「グスッ……あれ、ヤバ。ちょっと、これ、あはは……」

「……?」サスサス

愛依「ご、ごめんね! お姉さん別に大丈夫だからさ! 心配しないで」

「……」サスサス

愛依「なんだろね、これ……」

愛依「……うちにとって、今日がめっちゃ特別でさ。それが終わっちゃうのは、いやっていうか」

P「終わりじゃないよ」

愛依「え?」

P「終わりじゃないさ。また、こうして3人で海に来よう」

愛依「ほ、ホント?」

P「ああ。……な?」

「……」コクリ

P「俺とこの子は、また来る気だけど、愛依はそうじゃなかったか?」

愛依「……あはは」

愛依「そんなわけないし! うちだって、また来たいに決まってんじゃん」

愛依「夕日が沈んだら終わっちゃうとか、んなわけないのにね~」

愛依「うちってばちょいイタイ系かもだわ」

「……」ニコ

P「せっかくの“家族”なんだ。思い出を作っていこう」

P「3人だけの思い出だ」

愛依「そだね。いいかも、それ」

愛依「……あ、日沈みそーだし、写真撮ろ! 自撮りはうちがやるからさ」

P「よし、それじゃあ3人寄って……」

「……」

カシャ

愛依「……――さ、帰ろ!」

愛依「次どこいくか、いまから楽しみだわ!」

とりあえずここまで。

約1週間後。

P(それから、時間の許す限り、3人で過ごすようになった)

P(厳しいレッスンで1日のほとんどを終えるような日であっても、愛依は3人で会うことを望んだ)

P(愛依がオフの日は、3人で出かけて……遊んだり飯を食ったり、いろんなことをした)

P(期間限定の“家族”は、愛依にとって、大会の予選を迎えるまでの心の拠り所になっているようだった)

P(うまく言葉で形容できないが、3人一緒のときの愛依は本当に幸せそうだったから)

P(きっと、これで良かったんだ――と思う)

P(ストレイライトの他の2人――冬優子とあさひにも事情は話し、理解を求めた)

P(あさひは愛依と過ごせないことに対して不満げで、一方の冬優子はそれを宥める――最初はそんな感じだったが)

P(2人とも、愛依のことを思って、愛依の意思を尊重してくれた)

P(…………)

P(……今日は、大会の第1回予選の前日だ)

P(そんな日が、この子との別れの日になるなんてな……)


~事務所~

愛依 チラチラッ

P(愛依……さっきからテレビに映る時計をしきりに確認しているな……)

「……」

愛依「……あはは」

愛依「なんか、さ……ほんと、マジ、……あっという間すぎでしょ」

愛依「っ……」グッ

「……」

P「……」

愛依「あー、もう! うちってば涙腺弱すぎなんですけど……!」

愛依「あははっ、まいったなー……」

「……」

愛依「ね、2人とも」

P「!」

「……ん」

P「どう、したんだ」

愛依「ソファー……うちが座ってるほうに来てよ」

愛依「3人並んで座ろ、ね?」

P「……ああ」

P「ほら、愛依のところに行こう」

「……」テテテッ

「……」ボフッ

P「よいしょ……っと」ギシッ

P(俺と愛依が両端に座り、3人で身体を寄せ合うようにして座る)

愛依 ナデナデ

「……?」ポカン

愛依「っ……グスッ」ナデナデ

P「……」ナデナデ

「……ん」

P「……今日で今生の別れになるわけじゃないんだ」

P「また、こうして……この1週間くらいを一緒に過ごしたみたいに、3人で……」

愛依「うん……そう、だね。うちってば、レッスンのしすぎでおかしくなっちゃったのかも」

「……」

愛依「一週間、か~。なんか、うまく言えないんだけど、もっと長くて、もっと短かった――」

愛依「――そんな感じだったわ」

P「ああ、そうだな」

愛依「……プロデューサー」

P「なんだ?」

愛依「明日から、……大会じゃん?」

P「……うん」

愛依「正直さー、いまでもプロデューサーがうちを選んでくれたのが夢なんじゃねって、そう思うときあんだよね」

愛依「大会に出るのがいやとかじゃないよ? それでも、あさひちゃんみたいな才能も、冬優子ちゃんみたいなストイックさ? ……も」

愛依「そうじゃないうちを、なんでプロデューサーは選んでくれたのかなーって」

愛依「ま、いまでもわかんないんだけどさ! あはは」

P「愛依、それは……」

愛依「いーのいーの! 言わないで」

愛依「自分でもなにカッコつけちゃってんのーって思うけど、この答えはうちが自分で見つけたいから」

愛依「うちが自分で出した答えとして、ちゃんと納得できるようなのを……」

愛依「で、その間にうちができることは何なのかなって思ってね」

愛依「レッスンとか自主練は当たり前だけど、それ以外の何か」

愛依「……」ナデナデ

「……?」

愛依「プロデューサー、冬優子ちゃんにあさひちゃん、ファンのみんな……」

愛依「それだけじゃなくて、うちはこの子のためにも頑張りたいって思ったんだよね」

愛依「あと、その……言っててハズいけど、この“家族”のために、さ……」

愛依「ほら、この子ってあんまり表情に出ないじゃん? ときどき、リアクションはあるけど」

愛依「うちが大会に出て活躍できれば……この子に感動ってやつを教えてあげられるかもしれない」

愛依「他にも、いろんな感情? ……を教えてあげられるかもしれない」

愛依「そんでさ、次に3人で会うときにはもっと笑顔の絶えない3人になれるんじゃないかって」

愛依「だから、あんましうまく言えなかったけど……よーするに、だから大会がんばるしかないっしょ! ってこと」

P「ああ、この子もきっと、愛依が活躍するところを見てくれるさ」

P「このお姉さんな、明日からアイドルの大会に出て頑張るんだ。応援してやってくれないか」

P「……いや、違うな。一緒に応援しよう。たとえその場に一緒にいなくても、心は一つってやつだ」

「……」コクリ

愛依「……サンキュー、2人とも」

愛依「うん。よくわかんないけど頑張れる気してきた!」

ガチャ

P「お、はづきさんかな?」

愛依「!」

P「そっか、思ったよりも早かったな」

愛依「そう……だね」

「……」

はづき「プロデューサーさn……っと、3人一緒だったんですね~」

P「ええ、まあ……」

愛依「……」

「……」

はづき「……ふふっ、なんだか私、悪者ですね~」

はづき「あるいは~……、お邪魔虫?」

はづき「その子のお迎えに来ました。あとは私が責任を持って送りますよ~」

愛依「……っ」

P「愛依……」

はづき「そ、そんな顔しないでください……。私も仲睦まじい3人を引き離すようで辛いんですから~」

「……」ツンツン

愛依「……ん? どしたん? 耳? ……ああ、耳打ちね」

愛依「っしょっと。はい、どーぞ」

「―――」ヒソヒソ

愛依「……そっか。うん」

愛依「ありがとね」

愛依「グスッ……また、ね」

愛依「それさ、プロデューサーにも教えてあげて」

P「お、俺がどうかしたのか?」

愛依「いいからいいから」

P「あ、ああ……」

P「ほら、しゃがんだぞ」

「―――」ヒソヒソ

P「……」

P「そうか」

P「ははっ……ありがとな」ナデナデ

「……ん」

P(その時、俺は初めてこの子の名前を知った)

P(もっと言えば、初めてこの子から言葉というものを受け取ったのかもしれない)

P(自分の名前と、……それから自分の思い)

P(耳打ちでそれを伝えてくれた)

愛依「っしゃ。悲しい顔してんのもアレだし、笑ってよーよ」

愛依「ね? プロデューサー」

P「ああ。そうだな」

はづき「もう……大丈夫そうですかね~」

はづき「では、行きましょうか」

「……」

愛依「うち、頑張るから! 1人でも独りじゃないから!!」

愛依「次会うときはめっっっっっちゃすごいアイドルになってっから! 待ってて!!」

「……っ」クルッ

愛依 ニコ

P「またな――」

――■■■。

翌日。

~大会 予選会場~

P(最初の予選の日がやってきた)

P(参加登録しているアイドルは実におよそ1500名だという)

P(この大会は3回の予選と1回の決勝で構成されている)

P(まず、1回目の予選で参加登録したアイドルたちがランダムに4つのグループに振り分けられる)

P(各グループにおける上位20%が2回目の予選に進むことができる)

P(2回目の予選では、残ったアイドルたちが再びランダムに4つのグループに振る分けられ、やはり各グループの上位20%が次に進むことになる)

P(3回目も同様だ)

P(最後の決勝では、それまでの審査員に加えて大御所をゲストに迎えたメンバーによって優勝と準優勝が決定される)

P「……」

P(そろそろ、だな)

P「……お」

P(1回目の予選のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ3だってさ、愛依」

愛依「へー……。っていっても、知ってる人とかいんのかな~」

P「さ、さぁ……」

愛依「ま、イメトレとか、練習以外することないし、もう控え室いこっかな」

P「まだ、スタンバイまでは時間あるぞ?」

愛依「……うん。でもいい」

愛依「うちは大丈夫。独りじゃないからね」

P「ははっ、そうだな」

愛依「……」

愛依「プロデューサー、行ってくる……」

P(モードが切り替わったな、愛依)

P「ああ、行ってこい」

愛依「……見てて」

愛依「精いっぱい、やってくるから」

愛依「守りたいものを守れるように……――」

愛依「――絶対、後悔しないように」

一旦ここまで。

~グループ3 控え室(大部屋2)~

愛依「……」

愛依(ミステリアスでクール……ってことになってっから、黙ってればいいってのは楽だけど)

愛依(空気感ちょーヤバい。なんていうか、重い)

愛依(うち……すごいとこに来ちゃったんだね~)

愛依(改めて実感したわ)

愛依「?」

ヒグッ、グスッ、ウウッ

愛依「……!」

愛依(そうだよね……。泣く子もいるよね~……)

愛依(たぶん、泣きたい子は他にもたくさんいる……)

愛依(うちは――どうなんだろ)

愛依(泣きたい……のかな?)


P『……そうだな。家族に見えるかもな』

愛依『!』

『……』

P『お前もそう思うか?』

『……』コクッ

P『ははっ。じゃあ、俺たちは家族……ってことでもいいのかも――なんてな』

愛依『ぷ、プロデューサー……もう』


愛依『うち、頑張るから! 1人でも独りじゃないから!!』

愛依『次会うときはめっっっっっちゃすごいアイドルになってっから! 待ってて!!』

『……っ』クルッ

愛依 ニコ


愛依(ううん。うちは大丈夫)

愛依(泣かなくても――大丈夫)

愛依(たぶん、笑えるから)

愛依(うちには、笑っていたい理由があるから)

愛依(だから、泣かない)

数十分後。

愛依(しばらく楽にしてたけど、時間が経つと逆に落ち着かなくなってくるわ、うち)

愛依(何気なく控え室を出てうろうろしてるけど……)

愛依(ま、特に目的があるわけじゃないんだよね~)

オ、オイ。ソロソロヒカエシツイッタホウガイインジャナイカ?

イイジャン。

ナニガイインダヨ。

ダイジョウブ。ワタシナラ。

愛依(……あれ、この声って)

愛依 ススス

愛依「……」サッ

愛依(なんか、陰から見てるやべーやつみたいになっちゃった……)

愛依(でも、やっぱり聞こえたのって――)

P「まあ、久しぶりに会えたっていうのはあるけどさ……別の事務所だし、透には他にやることだってあるだろ?」

透「えー……。大丈夫って、言ってるのに」

P「そうは言ってもな……」

愛依(――プロデューサーの声)

愛依(それと、一緒にいるのは……誰?)

愛依(おんなじ大会でてるコなのかな)

愛依(……めっちゃキレイな顔)

P「しょうがないな。あと5分な」

透「10分」

P「5分」

透「……わたs――僕と話したくない?」

P「そうは言ってない。ただ、透は他所のアイドルだし、俺が話すことで邪魔になっちゃまずいだろ」

P「余計なことしたってそっちの事務所から思われたくないしさ」

透「あー……うん。わかった」

透「……」

P「……10分な」

透「やった」

P「そういえば……今でも自分のこと僕って言ってるのか?」

透「ううん。そうでもない」

P「そうでもない……?」

透「うん。普段は、私。アイドルのときも、私。でも、今は、そのどっちでもないから」

P「? そ、そうか……」

愛依(なんか……めっちゃ仲良さそうだね)

愛依「……」

愛依(なんだろ、これ)

愛依(変な気分だわ~……)

愛依「……部屋戻ろ」

愛依 スタスタ

~グループ3 控え室(大部屋2)~

愛依(イメトレもしたし、軽く通しで動いてみたし……)

愛依(いよいよやることがね~~。ま、あとは本番、ってカンジなのかな)

「……あのー」

愛依「……は」

愛依「!」

「隣、座ってもいい?」

愛依「う、うん……」

「ありがと」

愛依(話しかけてきたの――隣座ってきたの、さっきの子じゃん……)

透「よいっしょっと」

透「……」

愛依「……」

透「……」

愛依「……」

透「283プロの、和泉愛依さん」

愛依(って向こうから話しかけてきたー!)

愛依「そう……だけど」

愛依「あたしに何か用?」

愛依(キャラ的には正解な反応かもだけど、う~ん)

愛依(フツーに無愛想だよね)

透「いや、なんていうか」

透「“あのプロデューサー”のアイドル……なんだなーって」

愛依「プロデューサー……?」

愛依(さっき覗いてたから、知り合いなのは知ってるけど……)

透「幼馴染なんだ」

透「あなたのプロデューサーと、ね」

愛依「そう、なんだ」

愛依(幼馴染か~……そーゆーね)

愛依(……)

透「あー……なんていうかさ」

透「あなたから見たプロデューサーって、どんな人?」

愛依「え……」

愛依「……かっこいい人」

透「……」

愛依「顔とか、そういうんじゃなくて」

愛依「大事に守ってくれて、困ったときには助けてくれる」

愛依「そんな人……かな」

透「……そっか」

愛依「うん」

愛依「幼馴染って……」

透「あ、うん」

愛依「……よく一緒に遊んでた?」

透「まあ……そう、かな。もう、だいぶ前になっちゃったけど」

透「あの人は、まだ中高生だった」

透「公園で一緒に……ジャングルジムで遊んでた」

愛依(中高生男子が小学生以下の女子とジャングルジムで遊ぶのって……)

愛依(う~ん、この子が……昔は活発な女の子だった系?)

透「それから、しばらく疎遠になって、いろいろあって私はアイドルになって……」

透「……それで、偶然、仕事の現場にあの人がいるのを見つけた」

透「他のところで、プロデューサーやってた」

愛依「……」

透「なんかね、評判良いみたい」

透「私のいるプロダクションにも噂が届くくらいに」

愛依「……そう」

透「それで、私のとこの偉い人が引き抜きたいって言ってたから」

透「もしそうなったら、私のプロデューサーになって欲しいなって」

透「そう思った」

愛依「……え??」

愛依(引き抜くって……プロデューサーいなくなっちゃうん?)

愛依(そ、そんなの、うちは……)

愛依 ドッドッドッ

愛依(ヤバ……本番前なのに、こんなとこでストレスとかシャレにならないっしょ……!)

愛依「スゥ……ハァッ……」

愛依(とりま深呼吸……っと)

透「別に、Pを取っちゃおうってわけじゃなくて」

透「Pから来てくれたら、嬉しいなって」

透「だから、気にしないで、いいと思う……」

愛依「……は?」

愛依(すぐにダメな態度だってわかった)

愛依(でも……言わずにはいられなくて)

愛依「プロデューサーは、出て行かないから」

透「そう?」

愛依「絶対」

愛依「うch……あたしとプロデューサーで守ってるものがあるから」

愛依「引き抜きなんてさせない」

透「ふーん……」

愛依「あたしの信じるプロデューサーは、自分から守るものを投げ出したりしない」

愛依「プロデューサーから行くなんて、あり得ない」

愛依「残念だけど、……諦めて」

透「そこまで言うんだ」

愛依「……言う」

透「……」

透「っと」スック

透「そろそろ本番だし、準備準備……」

愛依「……」

透「……あー」クルッ

透「なんていうか、さ」

透「ガラじゃないから……こういうの、言わないんだけど」

透「ふふっ……でも、言うわ」

愛依「?」

透「Pは――」

――私を選ぶと思う。

愛依「……!」

透 タッタッタッ

愛依(プロデューサーがうちを選ばないなんてこと……)

愛依「っ!」ダッ

愛依(ずっと、あんまし考えないでいた)

愛依(プロデューサーのコト――どう思ってるか、って)

愛依(なんとなく~でもいいと思ってた。けど……)

透『Pは――私を選ぶと思う』

愛依(あんなこと言われて、もうじっとしてらんなくて)

愛依(プロデューサーに、会いたくて)

愛依「はぁっ……はぁっ……」タッタッタッタッ

愛依(まだ、あそこにいるかな……)

P ポチポチ

愛依(……いた!)

愛依「プロデューサー!」ドンッ

P「うおあぁっ!?!? め、愛依!?」

P「どうしたんだ? あと少しで本番だろ?」

P「……何か、あったのか?」

愛依「いや、ってゆーか」

愛依「ひとこと、言いたくて……」

P「?」

愛依「耳貸して。耳打ち、することあるから」

P「お、おう……?」

P「……よし、こい」

愛依「すぅ――」

――だいすき。愛してる。だから、ずっと一緒にいて。

P「って、え!?」

愛依「あははっ。な~んだ、カンタンに言えたじゃん!」

P「???????」

愛依「ま、そーゆーことだからさ! うち……頑張ってくる!!」


――――第1回予選 グループ3 通過者一覧――――

………………… 283プロ和泉愛依 …………………
___プロ トオル 

>>365 訂正:

――――第1回予選 グループ3 通過者一覧――――

………………… 283プロ和泉愛依 …………………
___プロ トオル 


↓訂正

――――第1回予選 グループ3 通過者一覧――――

………………… 283プロ和泉愛依 …………………
___プロ 浅倉透



とりあえずここまで。 

2週間後。

~事務所~

ガチャ

愛依「ただいま~」

P「おかえり、愛依」

愛依「ハァ~~……っしょっと」ボフッ

P「……」

P(無理……してるのかもな)

P(1回目の予選を通過してから、愛依からは焦りや空回りといったものを感じる)

P(余裕が無いんだ。たぶん)

P「今日は社長も、はづきさんも、他のアイドルもいないから――」

P「――そのままソファーで好きなだけくつろいでていいぞ」

愛依「マジ~? うーん……」

愛依「そんじゃ、ま、お言葉に甘えて~」ゴロ

P「はは……」

P(頑張ろうと、頑張らなければいけないと、そう思ってる相手に「休め」とか「頑張るな」って言うのは酷だよな)

P(言いたい気持ちのある俺がいる)

P(愛依は……もっと明るくて、言葉数も多くて、周りに人がいるのが当たり前みたいな子だったんだ)

P(今は、そのどれもがあてはまらない)

P(俺にできることは……)

愛依「……ん? どしたん?」

P「えっ?」

愛依「いや、なんかうちのことずっと見てるからさ」

愛依「なんかついてる?」

P「そ、そんなことないぞ」

愛依「???」

愛依「……ま、いーわ。ちょっと寝るね」

P「あ、ああ……」

P(よし、そろそろ……)


愛依「zzzZZZ」

ツンツン

愛依「……ぅーん」

ユサユサ

愛依「ん~~? もう、なあに、プロデューs……」

「……ん」

愛依「……」

「……」

愛依 パチクリ

「……」

愛依「え、……えええええ!?!?」

「……」ニコ

愛依「ちょ、え? え?? な、なんでっ!?」

愛依「いや、会えてちょー嬉しいけど!」

P「ははっ、よかった」

P「喜んでもらえたかな?」ナデナデ

「……ん」

愛依「プロデューサー……?」

P「この子に大会での様子を見てもらったんだよ」

P「それで、今の愛依がどんな感じかって話したら……」

「……」フンス

P「応援したいみたいでさ」

愛依「そ、そっか……」

P「その、な……」

P「あくまで俺からみた感じ……ではあるんだが」

P「愛依に余裕が無いように見えてさ」

愛依「……!」

P「最初の予選を突破してからというものの……愛依のことが心配だったんだ」

P「もちろん、次の予選も通過できるように頑張ってるのはわかる」

P「レッスンや自主練に費やす時間だってもっと長くなってるし」

P「なにより、前より言葉数が少ない気がしてさ」

愛依「あはは……なんだ、全部わかってんだね、プロデューサーは」

愛依「って、いまさらか!」

愛依「うん、そうだね……」

愛依「ヨユー、なかったわ」

P「愛依……」

愛依「あ、ずっと立ってないでうちの膝おいで?」

P「そうか、じゃあ遠慮なく……」

愛依「いやそっちじゃないから!」

愛依「も~~、この子に言ったんだってば」

P「冗談だよ」

「……」チョコン

愛依 ナデナデ

「……ん」

愛依「あ~~~……」ナデナデ

愛依「なんか、落ち着く……」ギュッ

P「……」

愛依「……って、これじゃうちがいままで落ち着いてなかったみたいだよね」

愛依「ま、そうなんだけどさ」

P「言いたくなかったら言わなくてもいいんだが」

P「大会で……何かあったのか?」

愛依「!」

P「愛依が余裕なさそうにしてるのはあの予選の後からだし、次の予選までは今のところレッスンと自主練だけだからさ」

P「もちろん、プライベートなこととか、俺が無関係のことだったら、無理にとは言わないんだ」

P「俺が関係してることなら……本音を言えば教えて欲しい気持ちもあるが、でも強制はしない」

P「俺はただ、愛依の力になりたいだけだ」

愛依「あはは……もう、プロデューサーってば、いつのまにそんなイケメンになったん?」

P「ちゃ、茶化すなよ」

愛依「……」

愛依「……幼馴染」

P「? 幼馴染?」

愛依「大会んときにさ、プロデューサーと2人で話してるのが見えて」

P「あ……」

P(透のことか)

P(あの場に愛依もいたのだろうか? 全く気づかなかったが)

愛依「その後に控え室の大部屋で向こうから話しかけられて、少し話したんだよね」

P「その幼馴染っていうのは、浅倉透ってやつだったか?」

愛依「あさくら……? あ、でも、プロデューサーが透って呼んでるのは聞こえた」

P「そっか……。うん、そいつは俺の幼馴染で間違いないよ」

愛依「めっちゃ綺麗な人だよね」

P「あ、ああ……。まあ顔は良いな。綺麗だと思うよ」

愛依「……」ジーッ

P「どうした……?」

愛依「……別になんでもないけど」

愛依「あれ、何の話だっけ」

P「透に話しかけられたっていう……」

愛依「そそ、それそれ」

愛依「もう、いきなり話しかけられてほんとびっくりっていうか~」

愛依「うちのこと知ってるんだ~~って」

愛依「けどね~、なんか聞いてるとさ、うちに話しかけたかったっていうより、プロデューサーのことを聞きたかったっぽいんだよね」

P「俺のことを……か?」

愛依「プロデューサーと幼馴染~~ってところから始まって」

愛依「どんな人とか聞かれたり……」

愛依「それに……」

P「それに?」

愛依「……っ」

愛依「透ちゃんの事務所、プロデューサーのこと欲しがってるんだって」

P「え……!?」

愛依「引き抜くとかなんとか、そんなこと言ってたし」

P「まてまて、初耳だぞ、俺は」

愛依「そ、そうなんだ」

愛依「とにかくさ~、それ聞いてなんか変な気分になっちゃって……。いつかプロデューサー辞めちゃうん? って思って」

P「そんな話があったのか……」

P「その、愛依はなんて言ったんだ?」

愛依「うちは……」


愛依『プロデューサーは、出て行かないから』

透『そう?』

愛依『絶対』

愛依『うch……あたしとプロデューサーで守ってるものがあるから』

愛依『引き抜きなんてさせない』

透『ふーん……』

愛依『あたしの信じるプロデューサーは、自分から守るものを投げ出したりしない』

愛依『プロデューサーから行くなんて、あり得ない』

愛依『残念だけど、……諦めて』


愛依「……諦めて~って、そう言ったよ」

愛依「うちとプロデューサーで守ってるものがあるからって」

P「そうか……」

愛依「初対面でいきなりプロデューサーの引き抜きの話してくるとか、ちょっとヤバすぎでしょ」

愛依「プロデューサーから行くなんてあり得ないから諦めてって言っちゃった」ケラケラ

P「ははっ、アイドルのときのキャラの愛依にそれ言われたら、あいつもびびってるかもな」

愛依「え~? そうかな~~」


透『ふふっ……でも、言うわ』

愛依『?』

透『Pは――』

――私を選ぶと思う。


愛依「――……」

P「愛依?」

愛依「あ、ううん! なんでもない!」

P「今日はもうレッスンないよな?」

愛依「まあね~。大会も近いし自主r……」

愛依「……は、うん、今日はいいや!」

愛依「もういい時間だしさ、3人でゴハンいこーよ、プロデューサー」

P「ああ。俺もそれを提案しようと思ってたんだ」

P「お前もそれでいいか?」

「……」コクッ

愛依「やったね。じゃあ決まりってことで」

愛依「そういや、いつまでこっちにいるん?」

P「今回はいきなりだから1泊2日なんだ」

愛依「そっか~~……じゃあ、またしばらく、だね~……」

P「今度は愛依の家に泊まるように向こうの親御さんにも話してみるよ」

愛依「! それめっちゃいい!」

愛依「いまからちょー楽しみだわ!」

P(笑顔も言葉数も戻ってきたな、愛依)

とりあえずここまで。

1週間後。

~事務所~

P カタカタ

P カタッ

P「……ふぅ」

P(もう1週間経つのか。早いな)

P(あの子を愛依に会わせたのはやっぱり正解だったよな)

P(あれから、余裕のなさとか空回りしてる感じはだいぶなくなったし)

P「それにしても……」

P(まさか、透が、な……)

P(なんで、俺のヘッドハンティングの話を愛依にしたんだろう)

P(愛依を動揺させるため? でも、そうだったとして、それは何のために……)

P「……」

P(まあ、今それを考えても仕方ないか)

P(俺は愛依のプロデューサーであり続ければいいんだ)

P(俺がしっかりしていればいい……よな)

ピンポーン

P「あ、はーい……」

P(この時間に来客……? 誰だろう)

ピッ

P「はい。何かご用でしょうか」

「……用、か。どうだろう」

P「?」

「特にないかも」

P「あのー……どちら様でしょうか?」

「あ、そうだ。言ってなかった」

透「私……透だよ」

P「透か。いきなりどうしたんだ?」

透「なんていうか、まあ……会いに来た」

P「会いに来たってお前……ここうちのプロダクションの事務所なんだけど」

透「だめなら帰るよ。どうかな」

P「……まあ、せっかく来たんだ。今は俺一人だし、他の事務所からの客人ってことにしておくよ」

透「やった」

透「雛菜、いいってさ」

「やは~。やった~」

P「友だちも連れてきてるなんて聞いてないぞ……」

透「他の事務所からのお客さんってことなら、むしろ普通なんじゃない? こういうのも」

P「わかったよ……今開けてやるから」

P「はい、どうぞ……」コト

雛菜「やは~! ケーキだ~~」

雛菜「紅茶もある~」

P「来客、だからな」

透「あ、お構いなくー……」

雛菜「あー……むっ。……ん~~!」

雛菜「おいひ~」

P「連れは早速食ってるみたいだけど……」

透「ね。ウケる」

P「まあ、いいんだけどな。そのために出してるし」

P「透もいいんだぞ」

透「ふふっ、ありがと」

透「じゃあ、遠慮なく……」パク

透「……」

透「このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する」

P「ははっ、なんだそりゃ」

雛菜「あの~」グイッ

P「おっと……、どうしたんだ?」

雛菜 ジーッ

P「……?」

雛菜「……ううん。なんでもないです~」

P「そ、そうか?」

雛菜「あ、やっぱなんでもある~」

雛菜「雛菜、あのソファーでごろ~んってしたいな~~って思うんですけど……」

P「あ、ああ……軽く横になるくらいならいいよ」

雛菜「やは~、ありがとうございます~~」

雛菜「ごろ~ん♡」

雛菜「~~~~~!」

雛菜「雛菜このソファーすき~~」

P「透、今更だけどあの子は……」

透「雛菜」

透「市川の雛菜ちゃん」

透「ほら、自己紹介」

雛菜「やは~……、は~い」ゴロ・・・

雛菜「よいしょっと」

雛菜「市川雛菜、高校1年生です~~~」

雛菜「透先輩とおんなじ事務所なんだ~」

透「でもユニットは別」

雛菜「雛菜それやだ~~……。透先輩と一緒のユニットがいいのに~」

透「仲が良すぎるからって言われたね」

雛菜「それが理由~?」

透「たぶんね」

P「そうだ、透」

透「なに?」

P「今日はいきなりどうしたんだ?」

透「?」

透「どう、・・・・・・って?」

P「いや、何の用なのかってことだよ」

透「えー……」

透「用がないと来ちゃだめかな」

P「そんなことはない――って言いたいのは山々だけど、こっちも仕事中だしな。そもそも、ここは言うなれば仕事場だし」

透「冷たいね」

P「そう言うなって」

透「泣いちゃうかも」

P「嘘だろ?」

透「ふふっ、嘘だけどさ」

P「ったく……」

透「割と大事な話、……ある」

P「……というと?」

透「P」

P「?」

透「うちの事務所と契約して、私のプロデューサーになってよ」

P「QBか何かなのか、お前は……」

透「あれ、驚かないんだ」

P「愛依からその話されたって相談を受けたからな」

P「あんまりうちのアイドルにストレスを与えないでくれよ」

透「ごめんごめん」

透「その、さ。うちのプロダクションの……えっと、あのおじさん……いや、とにかく偉い人がね」

透「あのプロデューサーは是非うちに欲しい……とか言ってて」

透「だから、そういうこと」

P「そうか……」

透「突然言い出してごめん」

透「でも、私は――」

透「――この話を受けてくれたら嬉しい、かな」

P「……」

P「俺は――」

透「いまじゃなくていいんだ」

P「――……」

透「また、聞くから」

透「そのときに答えてくれればいいかなって」

透「むしろ、いまはPの答え……聞きたくない」

P「……そうか」

P「ちなみに、そちらは……」

透「あ、雛菜?」

雛菜「雛菜は付き添いだよ~~」

雛菜「でも、雛菜ここに来て良かったかも~! 透先輩の会いたい人がこんなステキなお兄さんだなんてね~~」

P「て、照れるな……」

透 ムスッ

雛菜「やは~……雛菜、お兄さんのこと結構好きかも~~」

P「よしてくれ……」


数十分後。

ガチャ

P「ん? 誰か帰ってきたか?」

タッダイマ-!

P「! ……愛依」

タタタタタ・・・

愛依「プロデューサー! ただいm……」

透「あ」

雛菜「?」

愛依「……っ」

透「こんにちは」

愛依「ど、どうも……」

透「……雛菜」

雛菜「ん~~?」

透「そろそろ帰ろう」

雛菜「うんっ」

愛依「……」

P(愛依……)

透「ケーキ、ごちそうさま。ありがと」

雛菜「ごちそうさまでした~」

P「ど、どういたしまして」

透「じゃ、また今度」

P「ああ。気をつけてな」

P「君も」

雛菜「は~い! お兄さん、またね~!」フリフリ

P「またな」

P(2人はそのまま荷物を持って帰っていく)

P(雛菜という名前の子が、愛依とすれ違う瞬間に何かを囁いたように見えたが――)

愛依「!?」ビクッ

P(――気のせい、だろうか?)


愛依(あん時の子……とその友だち。もう帰るみたいだけど)

愛依(あれ、一緒にいる子……うちのコト見てる?)

雛菜「あは~……――」

雛菜「――家族ごっこって楽しいですか~?」ボソッ

とりあえずここまで。

愛依『うちらって、周りから見たら家族――に見えんのかなって』

愛依『うちがこの子のママで、プロデューサーがパパで……』

『……』

P『家族、か』

P『……そうだな。家族に見えるかもな』

愛依『!』

『……』

P『お前もそう思うか?』

『……』コクッ

P『ははっ。じゃあ、俺たちは家族……ってことでもいいのかも――なんてな』


愛依「プロデューサー……」


「ふふっ、なにそれ」

愛依「!?」クルッ

「自分の都合……だよね」

愛依「な、なんなん……!?」

「私のほうが――僕のほうが、あの人を知ってる」

「あの人を……わかってるから」

愛依「何言って……」

「ショッピングモールで――」

愛依「?」

「――『親子3人で仲良しの人たちを見て……あの人たちはきっとしあわせなんだろうなって思った』、だっけ」

愛依「!」

「自分もそうなりたかったんだ? Pと」

愛依「だ、だから何だって言うわけ?」

「よそはよそ、うちはうち……でしょ」

「他人事じゃん」

「そもそもあなたは、Pの奥さんじゃない」

「前提からおかしいよね」

愛依「や、やめて……!」

愛依「いまはそんなん考えなくってもいいんだし!」

「その程度の想いってこと?」

愛依「違う!!」

「ふーん」

愛依「……っ」

愛依「なんでそんなこと言われなきゃいけないわけ!? うちは、……うちはっ」

「やは~。でも~、変じゃないですか~~?」

愛依「……なにが」

「お兄さんって、あなたの恋人じゃないし~」

「あ、もしかして~」

愛依「……」

「お兄さんに好き~って言われたことないんだ~~!」

愛依「!!!」

愛依「っっっ」ガバァッ

愛依「はぁっ、はぁっ……」

愛依 キョロキョロ

愛依「ゆ、夢……」

愛依「……」


『その程度の想いってこと?』


愛依「っ……」


『あ、もしかして~』

『お兄さんに好き~って言われたことないんだ~~!』


愛依「……やだ」

愛依 フルフル

愛依「……」

愛依(確かに、うちは――)


愛依『すぅ――』

――だいすき。愛してる。だから、ずっと一緒にいて。


愛依(――プロデューサーに告って……)

愛依「……」

愛依(返事はもらってないけど)

愛依(プロデューサーがアイドルに手出せないのなんて当たり前だし)

愛依(うちも返事聞くの怖くて……話題にできてないし……)

愛依「ほんと、どうしたらいいわけ……?」


雛菜『――家族ごっこって楽しいですか~?』


愛依「っ……グスッ」

愛依(そんなこと言わなくてもよくね? ……って思う、けど)

愛依(一番悔しいのは、何も言い返せないコト)

愛依(何も、間違ってないから……)

愛依「プロデューサー……」

愛依(ここにプロデューサーがいたら、うちがこうして泣いてるの見たら――)

愛依(――プロデューサーは、慰めてくれるのかな)

愛依(抱きしめて欲しい。ずっと、うちだけを見て欲しい)

愛依(うちのこと、家族だって思って欲しい)

愛依「あはは……アイドルやってて、大会にも出てんのに、うちってばアイドル失格かな……?」

愛依「うっ……ううっ……」ポロポロ

愛依(独りも1人もやだよ、プロデューサー……)

1週間後。

~大会 予選会場~

P(2回目の予選の日がやってきた)

P(技術的な面に関して心配な点はなかった。レッスンも自主練も、無理のない範囲で着実にやっていた)

P(鍵となるのはメンタル面だろうが……)

P「……」

P(正直に言えば、不安が残る。あの子を会わせてからはだいぶ良くなっているのだが、大会1週間前は時々心ここにあらずという様子が目についた)

P(俺が話しかけてもどこかそっけないような感じがした。大会の直前に良くない刺激を与えてもいけないと思って、こちらからはあまり追及しなかったけど……)

P(事務所でも仮眠を取ることが増えていたし。まるで、寝ていれば人とかかわらなくて済むと言うかのように)

P(考えすぎだろうか……)

P(深く掘り下げないという俺の判断は正しかったのだろうか)

P「……」

P(って、俺が悩んでどうする)

P(愛依のほうがしんどいに決まってる。俺は、今できることをやるしかないだろう)

P(愛依が安心してステージに立てるように、見送ってやらないとな)

P「そういえば……」

P(……減った)

P(上位20%しか残らないというのは形式的な手続きとして知っていたが、ここまで人が減るものなのか)

P(第1回予選のときとは違い、会場は静けさすら感じ取れるほどだった)

P(第3回はもっと人が減るんだろうな)

P「……お」

P(2回目のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ1だって」

愛依「……」

P「愛依?」

愛依「わあっ!?」

P「っと、悪い。驚かせるつもりはなかったんだが」

愛依「あ、ううん! うちこそごめんね。ぼーっとしてたわ」

P(愛依……)

P「今日のグループの番号は1だそうだ」

愛依「1か。おっけー、まかせて!」

P「そうだ、まだ本番まで時間あるし、その、なんだ。ほら、最近あんまり話せてなかっただろ? だから、愛依と話でm……」

愛依「あ! うち自主練しないとだわ!」

P「……え」

愛依「早く場の空気? ってやつに慣れないとだしさー」

愛依「うちもなんだかかんだ言ってもうプロのアイドルだし、気合入れないとね~」

P「そ、そうか……」

愛依「ステージ終わったらいっぱい話そ?」

P「……わかった」

愛依「っ」

P(愛依、その表情は……)

P「俺はいつだって愛依の味方だし、プロデューサーだよ。愛依が俺のことを想う以上に、俺は愛依のことを想っていると……そう思っていてくれ」

愛依「……そっか。ありがとね。……行ってくる!!」ダッ

~グループ1 控え室~

愛依(前は1つのグループでいっぱい大部屋使ってたのに……)

愛依「……」

愛依(……2回目で大部屋1つになっちゃうんだ)

愛依(あ、そういえば……)

愛依 キョロキョロ

愛依「……ふぅ」

愛依(透ちゃんはいない、か)

愛依(なに安心してんだろ、うち)

ヒグッ、グスッ、ウウッ

愛依「……!」

愛依(あれ、この前泣いてた子じゃん)

愛依(勝ち残れたんだ)

ネエ、アレミテヨ

ナンカナイテナーイ?

ナキタイコナンテイッパイイルノニ、カッテダヨネー

ピャウッ!?

愛依(うーわ、感じ悪……)

「ねぇ、あんたさぁ」

「ぴゃ!? ななな、なんですか……?」

「泣きたい子なら他にもいるのよ。なのに、そうやって目立つように泣いちゃって……」

「ご、ごご、ごめんなさい……っ」

「申し訳ないと思うなら一人で目立たないところで泣いてろよ、ほら、出てけって」

「そ、そんな……」

愛依「ちょっと」

「あ?」

愛依「あたしの友だちなんだけど、なにしてんの?」ギロォッ

「っ!?」ビクッ

愛依「いじめようとしてんなら、絶対に許さないから」キッ

「……ちっ。行くよ」

「え、ええ……」

愛依「……」

愛依「……はぁ」

愛依「大丈夫?」

「ぴゃっ!? ゆ、ゆゆ、許してください……!」ビクビク

愛依「え、いや、あたしはそういうんじゃないから」

愛依「とりあえず、もうちょっとここ離れよ? ね?」

愛依「1人でいるより、うちといたほうが安全っしょ」ヒソヒソ

「……はい」

愛依 ニコッ

「さ、さっきは助けてくれてありがとうございます……!」

愛依「いいっていいって。あいつらマジちょー感じ悪かったし」

愛依「弱いものいじめとかくだらないことやってるヒマなくね? って思うわ、ホント」

「よ、弱いもの……」

愛依「あ、ごめん! そういうつもりじゃ……って、あはは。それはうそか」

「いいんです。実際弱いですし」

愛依「えー、なにそれ」

愛依「そういえば、名前なんて言うん?」

「あ、はい。わたしは――」

小糸「――福丸小糸、です」

愛依「小糸ちゃんね。うちは和泉愛依、よろしく~」

小糸 ボーッ

愛依「ど、どしたん?」

小糸「い、いえ……知ってるキャラと全然違うから……」

愛依「あ、そだね。あははっ」

愛依「アイドルのときは、こう……」

愛依「よろしく……」

愛依「ってカンジ?」

小糸「は、はいっ。そんな感じです」

愛依「小糸ちゃんのコト、なーんか放っておけなくてさー」

愛依「うちのこと怖がってたみたいだから、安心させようと思ったんだけど……つい素のキャラが出ちゃったわ!」

愛依「いや~、まいったまいった。うちってば疲れてんのかな?」

小糸「だ、誰にも言いませんよ……!」

愛依「あはは、サンキュね」

小糸「えへへ」

愛依「!」

愛依「いま気づいた……小糸ちゃんめっちゃカワイイんですけど!?」

小糸「か、可愛いだなんて……そんな……えへへ」

小糸「お世辞でも……う、嬉しいです。ありがとうございます」

愛依「お世辞じゃないってば~。本当に可愛いって!」

愛依(やっぱ、大会勝ち残ってるだけあるってことなのかな~)

愛依「……小糸ちゃんはどう? 大会は順調なカンジ?」

小糸「え、ええ……まあまあです、たぶん……」

冬優子「そっか」

小糸「わたし、だめだめなんです」

小糸「こんな一人ぼっちで放り出されても、泣いてることしか、できませんから……」

コイト「いっぱい練習して、なんとかここまで来れたけど……わたし一人にできることなんて……」

愛依「はいっ、暗いのやめ! もっと楽しくやろ?」

小糸「楽しく……」

愛依「良いコト考えようよ。嬉しかったこととかさ」

小糸「……」

小糸「そういえば、今回はわたしの幼馴染が応援してるって言ってくれました!」

小糸「雛菜ちゃん、わたしのこと見ててくれてるかなぁ……」

とりあえずここまで。

一瞬、コイト表記だったけど何かあるのかな?

わくわくする

>>391

>>1です。ご指摘ありがとうございます。カタカナになっているのはミスです。訂正します。すみません。


>>389 訂正:

コイト「いっぱい練習して、なんとかここまで来れたけど……わたし一人にできることなんて……」
→小糸「いっぱい練習して、なんとかここまで来れたけど……わたし一人にできることなんて……」

愛依(ヒナナ……? どっかで聞いた気がするんだけど、うちの気のせい?)

小糸「中学は別々だったから……本当に久しぶりで」

小糸「ず、ずっと疎遠だったんですけど、わたしが昔プレゼントしたアクセサリーは大事に持っててくれたんです!」

小糸「それが話のきっかけで……わたしとまた仲良くしてくれるって……」

小糸「わ、わたしのこと、応援するって……」

愛依「ふーん、いい友達? ……じゃん!」

小糸「え、えへへ……」

小糸「昔からつかみどころがなくて不思議な子なんですけど、と、友だちでよかったなぁって、そう思っちゃいました」

小糸「小糸ちゃんは決勝まで進んで、できれば優勝して、しあわせ~になってって、そう言ってくれたんです」

愛依「うんうん。応援してくれる友だちがいるって大事なことだな~って思うわ」

愛依「うちはさ、プロデューサーとユニットのみんなのためにも、頑張りたい」

愛依「応援してくれてると思うし、うちにできることって言ったら、もう勝つことしかないじゃん? 的な」

小糸「ユニットの友だち……」

愛依「?」

小糸「あ、いえ! なんでもないです」

小糸「……」

愛依「……」

愛依「うちら、一緒に次に進めたらいいね」

小糸「! ……は、はいっ」

愛依「この大会始まってからさ、他のアイドルの子たちとの接点ってあんましなくて」

愛依「なんかー、うちに足りてなかったのって、そういうのもあんのかな……って」

小糸「わ、わたしも……あんまり誰かと話すとかは……ないです」

小糸「その……ちょ、ちょっと怖くて……」

愛依「あっはは、うちのことも怖がってたもんね」

小糸「ぴゃ……ごめんなさい」

愛依「別に謝んなくていーから! 実際、うち、こんなだしさー」

小糸「で、でも、格好いいって、……そう思います」

愛依「ありがと。そう言ってもらえると、なんていうか、やってきた! ってカンジするし」

愛依「うちもいつか、本当の自分でアイドルやりたいな……」

小糸「え?」

愛依「あー、いーの! 気にしないで!」

愛依「まあ、ともかくさ」

愛依「お互いがんばってこ? 小糸ちゃん」

小糸「は、はいっ! わたしも頑張ります!」

小糸「だから、その……頑張ってくださいね……!」

愛依「うんっ!」

~予選会場 ロビー~

P(透のやつ……いきなり呼び出してどうしたんだ)

P(断ってもしつこく連絡来るからとうとう来てしまったが……)

P「……」

タッタッタッ

P(……来たか)

透「はぁっ、はぁっ……ごめん。急に呼び出して」

P「ああ。お前は自分のことに集中しなきゃだめだろ」

P「俺なんかと話してる時間なんてないんじゃないのか?」

透「……」

透「冷たいね、P」

P「冷たくもするさ。他所の事務所のアイドルの邪魔なんてできないだろ。大会の真っ最中なんだし」

P「いくら幼馴染とは言っても、俺はもう大人だし、お互い仕事をしてるんだ」

透「でも、来てくれた」

P「……」

P「……はぁ」

P「何度も連絡をよこすからだよ」

透「そうすれば来てくれるかなって」

P「お前な……」

透「……」

P「話は聞いてやる。何の用なんだ?」

透「移籍の話だけど……」

P「それか……」

透「どう? 考えてくれた?」

P「ああ」

透「ふふっ、そっか」

P「移籍はしない」

透「っ……」

P「俺は、今プロデュースしてるアイドルをてっぺんまで連れて行ってやりたいんだ」

透「! てっぺん……」

透 ギリッ

P「?」

P(露骨に不愉快そうな顔をするなんて……透らしくないな)

P(何か気に障ることでも言ったか?)

透「それが、プロデューサーの考えなんだ」

P「そうだ。何度も言わないからな」

P「透。俺はお前のこと、幼馴染としてこれからも仲良くしたいと思ってるよ」

P「けどな、仕事の……アイドルのこととなれば話は別だ」

P「こういう言い方はしたくないんだが……その……」

透「邪魔しないで、って?」

P「……」

透「優しいね、Pは」

透「うん。いいんだ。そう思われても」

透「ぼk……私からも、言っていいかな」

P「……なんだ?」

透「今日言いたいのは、お願いじゃないってこと」

P「?」

透「選択、してもらうから」


~舞台裏付近~

雛菜「~~♪」

「えと、ここからの順番の確認なんだが……」

「あ、はい。次が和泉愛依さん。その次が福丸小糸さんです」

「ありがとう、あと2人でとりあえず一区切りだからな」

「やっと休憩ですね。まあ、頑張りましょう」

「ああ」

雛菜 タッタッタッ

「?」

「どうした?」

「今……女の子がいませんでしたか?」

「え、冗談だろ? 今のシフトに女子はいないけど」

「見間違えですかね」

「お前今日あれじゃん。3時間睡眠」

「あー、確かに。ロングスリーパーなんですよね、自分」

「ちゃんと寝とけって。幻覚なんか見ちまってよー」

「はいすみません」


~予選会場 ロビー~

P「選択? 何のことだよ」

透「そのまんまの意味」

P「いや、だからそれをだな……」

透「Pは、あの人……和泉愛依って人と、決勝に行きたい?」

P「何言ってるんだよ。そんなの、当たり前じゃないか」

透「そっか……」

P「な、なんだよ」

透「もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?」

P「は?」

透「それでも、Pの答えは変わらない?」

P「おいおい、俺がお前の事務所に移ることと愛依が決勝に進むことの間にどんな関係があるっていうんだよ」

透「質問しないで」

P「え……」

透「私が聞いてるでしょ」

P「透」

透「Pは選ぶだけ」

透「それだけだから」

~舞台裏付近~

雛菜「~~♪」

「なあ、審査員の評価はぶっちゃけどうなんだ?」

「お、審査員に親友がいる俺にそれ聞いちゃう?」

「気になるからなー。教えてくれないか?」

「まあ、お前とも付き合い長いしな……」

「頼むよー」

「まず、グループ1はレベルが高い」

「……それは思った」

「性格悪そうなやつも多いけどな……!」

「……まあ」

「んで、もう先に進めるやつはだいたい決まってて、残るのは1枠だとか」

「へぇー」

「ちょうど、この次に続いてる……そうそう、愛依ちゃんって子と、小糸ちゃんって子」

「この2人が?」

「その1枠の候補だって話だぜ」

「どっちかなのか……」

「ああ、このグループに振り分けられたのは運がなかったな」

「進めそうなのは?」

「今の審査員の予想だと、恐らく同点って」

「こわいな。もうそういうの考えて決めてるのか」

「じゃねーの、知らんけど。まあ、実際に見て決まらなきゃ審議だろ、この2人に関しては」

雛菜 テテテテテ

「……あれ?」

「どうしたんだよ」

「今、女の子がいたような……」

「お前、それはあれだよ」

「?」

「球場に魔物、ステージに妖精ってことだろ」

「えー」

「ほら、そろそろ仕事に戻ろうぜ」

「へーへー」


~予選会場 ロビー~

P「選ぶだけって……」

透「個人的なおすすめは、私の事務所に来ること、かな」

P「……」

ヴーッ

透「あ、ごめん。LINE来たわ」

透「もうちょっと待ってて……っと」

透「送信」

~ステージ(予選) 舞台装置周辺~

雛菜「っしょ、……っと!」タンッ

雛菜「とうちゃ~く」

雛菜「透先輩にLINEしよ~っと。……まだ~ってね~~」

ポチッ

雛菜「……」

ピロンッ

雛菜「! もう返信来た~」

雛菜「もうちょっと待ってて……かぁ~」

雛菜「お兄さん、まだ選んでないんだね~」

雛菜「雛菜的には……ま、どっちでもいいか~」

雛菜「小糸ちゃんが進んだら幼馴染としてしあわせ~になれるし~~」

雛菜「お兄さんのアイドルの人が進めば、透先輩がしあわせ~になって――」

雛菜「――透先輩だいすきな雛菜もしあわせ~ってなるもん!」

雛菜「早く返信来ないかな~」

シーン

雛菜「……準備して待と~っと」


~予選会場 ロビー~

透「タイムリミットだよ」

P「透、お前、何をしようとしてるんだ」

透「っ」ガシッ

P「ちょ、おま……」

P(いきなり胸倉を掴まれた!?)

ダッダダダ・・・

ダンッ

P「がっ……」

P(くそ、力任せに押されて暗がりに追いやられた……)

P(高校生の女の子に不意打ちとはいえ力で押し負けたことに情けないなと思いつつ)

P(この腕力は日々のレッスンの賜物か、だなんて。そんなことを思ってしまう自分に呆れる)

P「透、何するんだ、やめ――」

透 チュ

P「ん~~!!」

P「ぷはぁっ。……お前」

透「私も、二度は言わないつもりなんだ」ジイッ

P(目が据わってる……)

透「もう一度聞くから」

透「Pは、私のところに来てくれる?」

透「それとも、来てくれない?」

透「どっち……かな」

1. 透の誘いを断る。
2. 透の誘いに乗る。

選択肢↓2

(とりあえずここまで)

~予選会場 ロビー~

P「……断る」

P「俺は愛依と、……ストレイライトと、283プロでトップを目指すんだ」

P「だから、透のところには行けない」

透「……」

P「俺も、二度は言わないからな」

透「……そっか」

P「ああ」

透 クルッ

透 スタスタ

P「お、おい……どこに……」

透「……どこって、ステージだけど」

透「本番、これからだからさ」

P(透は、再びこちらを向くことなく、俺を背にしながら言った)

P「そ、そうか」

透「じゃあね」

P「……」

P(これで、良かったんだ……よな)

P(なぜ、胸のざわめきがなくならないんだ?)

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P(あれは――)

透『それでも、Pの答えは変わらない?』

P(――どういう意味だったんだろう)


~ステージ(予選) 舞台装置周辺~

ピロンッ

雛菜「あっ、透先輩からだ~」

雛菜「ふむ~~……」

雛菜「……」

雛菜「そっか~、透先輩……」

雛菜「フラれちゃったんだ~、かわいそ~~」

雛菜「てことは~……お兄さんのアイドルが……」

雛菜「……ま、仕方ないよね~」

雛菜「うんうん! こればかりはしょうがない~」

雛菜「雛菜が気にすることでもないよね~?」

ワァァァ

雛菜「あ、そろそろだ~」タタタ

雛菜 カチャカチャ

雛菜 ギイッ

雛菜「……やは」

雛菜「よかったね、小糸ちゃん」

~ステージ(予選)~

ワァァァ

愛依「はぁ……はぁ……」

愛依(や、やり切った……!)

愛依(2回目も、うち、ちゃんとできた!)

愛依(会場の盛り上がりも、うちが見たことないくらいすっごい……)

愛依(うち、勝てたかな……)

愛依(プロデューサー、■■■、見てる?)

愛依(うち、輝いてるかな?)

ダァンッ

愛依「?」

愛依(あれ、なんだろ、いまの音)

ザワザワ

愛依(え? さ、さっきまであんなに盛り上がってたのに、なんで……)

愛依(なんで、うちのほうを見て、みんなそんな顔……)

愛依(何か言ってる? ちょっと遠くて聞こえない系なんですけど)

愛依(なんかあったのかな。みんなちょっとヤバそうなカンジだし)

愛依(とりあえず出番終わったしステージから降りなくちゃ……)スタスタ・・・

シュルルル

愛依「え――」

ガンッ

ドサッ

ゴロロロ・・・

愛依「――……」


~予選会場 ロビー~

P(もうとっくに愛依のステージは終わってるよな)

P(ちょっと遅いが……気にしすぎか?)

P(透とのやり取りが終わってから、どうにも不安に駆られている自分がいる)

P(様子を見に行ってみるか……)スタスタ・・・


~ステージ前席付近入り口~

P(くそ……外に出ようとする人に押されてなかなか入れない……)

P(なんだってこいつらは出ようとしてるんだよ。まだ予選のステージは終わってないだろ?)

P(終わったのは愛依の出番だけのはずだ)

P「す、すみません! 通してください……!」グイグイ

P(観客たちを押しのけて先へ進み、ようやく中に入ることができた)

P「はぁっ……はぁっ……」

P(あれ? 次の子の出番じゃないのか……)

P(いや、一般人が外に出ようとしてるんだから、何かあったと考えるべきだよな……)ダッ

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P「……あ。そんな――」ピタ

P(ステージの上がよく見える位置まで移動すると、視線の先には、自分のアイドルが血の海に伏せている光景があって……)

P「――愛依ッッッ!!!!!」

~???~

愛依「……ん」パチッ

P「あ、愛依……」

P「目、覚めたか?」

愛依「あ……うん」

愛依「ここって……海?」

P「まあそうだが……今更どうしたんだ」

P「また3人でここに来ようって話だったじゃないか」

P「忘れたのか?」

愛依「……ううん。忘れてない」

愛依「そっか。ここ、あのときの海か……」

愛依(あれ、うち、確か大会の予選でステージの上にいて、それから……)

愛依(……それから?)

愛依(すぐ海に行くなんて話、あったっけ)

愛依「あ、そだ。あの子は?」

P「ほら、あそこ」

P「浜辺の砂で遊んでるよ」

愛依「ホントだ。かっわいー」

P「一緒にやってあげたらどうだ」

愛依「そだね。じゃあ――」

愛依「――プロデューサーも一緒にやってよ」


P「ふぅ……」

「……」ニコ

愛依「いや~、ずいぶん立派なお城になったってカンジ?」

P「だな……。一度波に流されたことは涙なしには語れまい……」

愛依「あっはは、なにそれ~」

愛依「ま、ここなら波も来なそーだし、大丈夫っしょ!」

「……」コクッ

P「っと、気づけばもう日が沈む寸前か」

P「……帰ろうか」

P「ほら、手繋ごう。愛依、■■■」

「……ん」

P スタスタ

「……」テテテ

愛依「……え。ちょっ……! そっち海じゃん!! 帰り道はあっちっしょ!!!」

P「ほら、愛依も早く来いよ」

「……」フリフリ

愛依「……」ザッ

P「早く早く……」

愛依 ザッ・・・ザッ・・・

――愛依ッッッ!!!!!

愛依「!」

――戻って来てくれ、愛依!!!

愛依「……プロデューサー」

P「どうした? 早く行こうぜ」

「……」

愛依「違う」

P「?」

愛依「うちが行きたいのは……行かなきゃいけないのは、そっちじゃない」

――くっ、くぅぅっ……愛依……。

愛依「もう……プロデューサー……」

P「こっちには、来てくれないのか」

愛依「うん。うちにはさ、待ってくれてる人、いるから」

P「そうか……」

愛依「じゃね! お城作り、チョー楽しかった!」

愛依 クルッ

愛依 タッタッタッ

愛依(帰らなきゃ……)

愛依 タタタタタ

愛依(戻らなきゃ……!)

愛依「プロデューサー!!」

愛依(あそこにある駅で電車乗って行けば……)

愛依「はぁっ、はぁっ……」

愛依「あと、少し……」グラッ

愛依(あ、あれ……?)

愛依(なんか、カラダが思うように動かないっぽいんだけど……)

愛依(やば、もう……)フラッ

ドサッ

~???~

チリン

愛依「……ん」パチッ

愛依「っと、……うち寝てたんだ」

P「起きたか、愛依」

愛依「プロデューサー……」

チリン

愛依「あ、風鈴」

P「あの時に3人で買ったやつだよ。あの子が事務所に持ってきてくれたんだ」

愛依「ここは……事務所なんだ」

P「ははっ。どうしたんだよ」

P「愛依が今いるのは283プロの事務所のソファーじゃないか」

P「まだ寝起きみたいだ。コーヒーでも飲むか?」

愛依「いや、大丈夫……もう目覚めたし」

P「そうか」

愛依「んーっ!」ノビー

愛依「っはぁ……」

愛依(うちは……帰ってこれたカンジ?)

愛依「あれ、あの子は?」

P「……」

愛依「プロデューサー?」

P「ははっ。さあ、どこだろうな」

愛依「?」

サッ

愛依「わっ!?」

愛依(急に目の前が真っ暗になったんですけど!)

「……」

愛依「く、暗い……何がおこってるん?」

「……だれだー」

愛依「……」

「……」

愛依「……ぷっ」

愛依「あっははは。そーゆーコトね」

愛依「いいの? うち当てちゃうよ?」

「……ん」

愛依「■■■でしょ」

「……」パッ

愛依「わ、まぶし……」クルッ

愛依「……あったり~。うち、せいか~い」

愛依「も~、いつからそんないたずらする子になったん?」

「……」

愛依「そんな悪い子にはくすぐりの刑~~!」コチョコチョ

「……!」ケラケラ

愛依「って、もうこんな時間じゃん!」

愛依「プロデューサー……そろそろこの子帰らせないとまずくね?」

P「ん? なんでだ?」

愛依「……え?」

P「だって、俺たちは3人でここに住んでるじゃないか」

P「帰るも何もないだろう」

愛依「……」

P「俺たち“家族”3人、事務所のビルの中で仲良く暮らしてるんだ」

P「愛依も、それで問題ないだろ?」

愛依「……」

P「“家族”は……嫌か?」

愛依「ううん。そんなわけない」

P「じゃあ、帰らなくてもいいだろ」

P「愛依が望んでるんじゃないのか?」

P「家庭を持って仲良く暮らすということを」

愛依「それは……」

――起きてくれ、頼む……!

愛依「!!」

――愛依……お前が目を覚まさないと、俺は……。

愛依「……」

P「どうかしたのか?」

「……」

愛依「ごめんね。うち、やっぱ帰んなきゃだわ」

P「え、どうして……」

愛依「うちさ、プロデューサーのことが好き。ううん……大好き」

愛依「3人で過ごした時間は……うちにとって宝物みたいなもんだよ」

P「じゃ、じゃあ……ここにいればいいじゃないか……!」

愛依「ま、それも悪くないかもなんだけどさ」

P「ここでなら、愛依の理想は……望めばいくらでも叶うんだぞ?」

P「それでも、行くって言うのか?」

愛依「うん! 行かないと」

愛依「思い通りに行かないことも全部、乗り越えないといけないから」

愛依「うちを呼んでる人、待ってる人、一緒に戦ってくれる人がいるんだよね」

愛依「うちがいるべきなのは、そこなんだと思う」スタスタ

P「愛依……」

愛依「大丈夫。うちを信じてよ」

愛依「あんたも、プロデューサーなんでしょ?」

愛依「ならさ……応援しててくれるほうが、うちは嬉しいかな」

P「……わかった」

愛依「あれ、割とすんなり受け入れた系?」

P「言ったって聞かないんだろ。なら、俺は“プロデューサーとして”、自分の足で歩む愛依を見送るよ」

愛依「あっはは……サンキュね」ガチャ

愛依「いってきます」ダッ

~病院 病室(2人部屋)~

ピッ・・・ピッ・・・

P「愛依……」

ガラララ

冬優子「ほら、売店で水買ってきてやったわよ」

P「……」

冬優子「……あんた、やっぱ一昨日から寝てないでしょ」

冬優子「お仕事ですぐに駆けつけられなかったけど、それくらいわかるわよ」

P「……」

冬優子「ふゆだって、心の中はぐっちゃぐちゃだし泣きたい気持ちもあるけど」

冬優子「それはふゆの問題。愛依にそんなふゆを見せたくないの」

冬優子「だから……あんたもよ」

冬優子「目を覚ました瞬間にやつれたあんたの顔を拝まされる愛依の気持ちも考えなさい」

P「……すまん」

冬優子「ふん、謝罪ではなく感謝を要求してやるわ」

P「……そうだな。ありがとう」

P「あさひはもう帰ったのか?」

冬優子「はづきさんが送ってくれたみたい」

P「そうか……良かった……。もう、遅いからな……」

P「……」

冬優子「隣、座るわね」

P「……ああ」

冬優子「っしょ、っと」

P「……」ボソッ

P「……」ブツブツ

冬優子「……はぁ」

冬優子「もしかしてあんた、自分を責めてるの?」

P「っ!?」ビクッ

冬優子「わっ……急にビクってしないでよね。こっちまで驚いたじゃない……」

冬優子「一体、何があったの……?」

P「……何があったのかは、俺にもわからない」

P「けど、……けど!」

P「俺は選んでしまった……!」

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P「あの時、事務所を移るって言っていれば……あるいは……」

冬優子「……話してみなさい」

P「え?」

冬優子「ふゆがあんたの話聞いてあげるって言ってんの」

P「……言ったって、俺のことを頭のおかしいやつだと思うだけだよ」

冬優子「安心していいわ。もう頭のおかしいやつだって思ってるから」

P「……」

冬優子「じょ、冗談に決まってるでしょ……! ったく……」

冬優子「ふゆはちゃんと聞くわよ。いいから、話してみて」

P「……と、いうわけなんだ」

冬優子「……」

P「冬優子?」

冬優子「あ、え? ご、ごめん……」

P「なんで冬優子が謝るんだよ」

冬優子「う、ううん。なんでもない」

冬優子「そう……選択を迫られたのね」

P「俺が透の事務所に行くって言っていれば、こんなことはならずに済んだんだ……!」

P「愛依は、俺のせいで……」

冬優子「……それは違うわ」

P「……え?」

冬優子「あんたは何も悪くない」

冬優子「ふゆが保証するわ」

冬優子「だいたい、事務所を移ればいいってどういうことよ。それこそ、ふざけんなって話じゃない」

冬優子「あんたは自分の選択に自信を持っていい……ううん、持たないといけないの」

冬優子「ずっとふゆたちの……愛依のプロデューサーで在り続けるって決めたんでしょ?」

冬優子「あんたがそれを諦めちゃったら、ふゆたちは……愛依はどんな顔すると思う?」

P「それは……」

冬優子「だいたい、幼馴染だかなんだか知らないけど、その透とかいうやつに踊らされるなっての!」

冬優子「自分のそばにいるのは誰なのか……それをちゃんと考えてよね」

P「……そうだな」

P「ありがとう、冬優子」

冬優子「お礼を言われる筋合いなんてないわよ。当たり前のことをわかってないやつに、当たり前のことを突きつけてやっただけなんだから」

P「ははっ……」

冬優子「もう……」

冬優子「ま、あんたはそういう顔してたほうがいい」

冬優子「聞いた話だけど、愛依がステージから出ようとした瞬間の事故で、うまく急所を避けて致命傷にはなってないみたいだし」

冬優子「ふゆたちは、……あんたは」

冬優子「愛依が目を覚ましたときのことを考えてりゃいいのよ。たぶんね」

P「俺たちが暗いムードじゃ、愛依も気が滅入るってもんだよな」

冬優子「……駄洒落?」

P「……違う」

冬優子「そ……」

P「……」ウトウト

冬優子「いまにも寝そうじゃない」

P「いつ愛依が目を覚ますかわからないんだ……俺は起きていたい……」

冬優子「ばっかじゃないの? 寝ない限りそのやつれた顔は治んないわよ」

冬優子「……もう1人のベッドはいま空いてて部外者はいない、か」

冬優子「ほら、特大サービスでふゆの膝を貸してあげる」

冬優子「いまはそれで妥協して。ま、愛依が目を覚ませば、いくらでもやってもらえるんだろうけど」

P「でも……愛依の前でそれは……」

冬優子「ふゆはここまでの移動中に結構寝てるから、夜明けくらいまでは大丈夫。そのときか愛依が目を覚ますまでは、ふゆが起きて膝貸してあげるから、しっかり寝て回復すること」

冬優子「ちゃんと、愛依が起きる頃には――愛依の大好きなあんたでいてあげなさい」

とりあえずここまで。

~病院 病室(2人部屋)~

P「zzzZZZ……」

愛依「プロデューサー、もういい時間だし起きたほうがよくね?」

P「……ん」

P「ふわぁぁ……いま何時だ?」パチッ

愛依「もう昼の12時だよ」

P「そんなに寝てたのか……」

P「……」

P「……って、め、愛依!?」

愛依「わっ、びっくりした」

P「お前……目が覚めたのか?」

愛依「あっはは、起きてる相手にそれ聞くのってなんか変じゃね?」

P「い、いや、それはそうなんだけど……!」

P「そうか……良かった、良かった……!」

愛依「ごめんねー、プロデューサー。心配かけちゃって」

愛依「……寝てるときにさ、聞こえたんだよね」

愛依「プロデューサーが戻って来てくれって言うのが」

愛依「だからさ、うち、プロデューサーに応えたよ」

P「ああ……、ああ……!」

愛依「もー、そんな顔しないー!」

愛依「どうせなら喜んでよ。ね?」

愛依「嬉しいときは笑うもんっしょ?」

P「ははっ……そうだな。そう、だよな」

愛依「そーそー、そんな感じがいいって」

P「怪我は……」

愛依「あー、それ聞いちゃう?」

P「す、すまん。でも、本人からどんな感じなのかは聞きたくてな」

愛依「怪我はねー……うん、ハッキリ言ってちょーヤバい」

愛依「身体は動かそうとすれば動くんだけど、もう骨とかヤバい折れてるから痛くてムリだし」

愛依「頭は……中身は大丈夫なんだけど外は傷だらけってゆーか」

愛依「ま、生きてるからオッケーって思ってるとこ」

愛依「医者の先生もチメイショー? はいろいろと避けられてるって言ってたし」

愛依「いまはこんなんだけどさ、ちゃんと元気な状態になって帰りたいなって思ってる」

P「愛依……」

愛依「はい、その顔禁止! プロデューサーが悪いわけじゃないんだし、落ち込まれるとうちまで悲しくなっちゃう」

P「っ……」

P(俺は悪くない、か……)

P(結局のところ、それについて自分で納得できていないのは確かだった)

P(冬優子はああやって言ってくれたのにな……)

愛依「せめて腕が動けばな~。プロデューサーのことぎゅーってしてあげられんのに」

P「ははっ、それはなんとも……その、恥ずかしいな」

愛依「あっ、……だ、だって、この部屋いま2人きりだし!」

愛依「うちプロデューサーのこと好きだし、別にいいんじゃん……?」ボソボソ

P「あの……前からそう言ってくれてるけど、その「好き」って……」

愛依「ま、まあ……ブだけど」

P「?」

愛依「だからー! ラブのほうだって!」

愛依「最初の予選のときだって、あ、愛してるってちゃんと言ったし!」

P「いや、疑ってるとかじゃないんだ! ただ、なんというか、ギャルが急にそうやって言い切るっていうのは、どこか“ノリ”のようなものを感じてしまってな……」

愛依「マジか! うちギャルやめようかな……」

P「まあ、俺の偏見もあるんだ。すまない」

P「ギャルはやめなくてもいいぞ」

愛依「ちなみに……さ、プロデューサーは、その……どうなん?」

愛依「一応? うちは告ったわけだし、返事とか」

愛依「あ、アイドルのプロデューサーだから~とかはナシ! うちのこと、ただの女の子だと思ってさ、プロデューサーもプロデューサーじゃないって思って答えてほしいなって」

愛依「~~~っ! なんか言っててちょーハズかしくなってきたんですけど! 怪我で顔隠せないしヤバすぎ……」

P「……」

P「言い訳にしかならないが、これまでは良くも悪くも忙しい日々を過ごしてきたと思う」

P「ストレイライトとして、1人のアイドル「和泉愛依」として愛依は頑張ってきて……」

P「……俺はプロデューサーとして支えてきたつもりだ」

P「プライベートで一緒に過ごしてきた時間はまだ短い。最近まではほとんどなかったと言ってもいい」

P「けど……そうだな。あの子がそれを変えてくれたかもしれない」

P「あの子が……愛依という1人の女の子と過ごすことの意味を教えてくれたような気がする」

P「愛依との家族……それを実感の湧く形で想像できた。それで気づいたんだ。俺は最早仕事という範疇を超えて愛依のことを想っていると」

P「だから……うん」

P「これから約10秒ほど、俺は期間限定でプロデューサーを辞めて喋ろうと思う」

P「……」

P「俺も愛依が好きだ。愛している」

愛依「P……」

P「ずっと一緒にいたいと、そう思っているよ」

P「っと、たった今プロデューサーに戻ったところだ」

愛依「あはは……なんだ、めっちゃ嬉しいんですけど……」グスッ

P「ど、どうして泣くんだよ」

愛依「え~? 嬉しいから?」

P「嬉しい時は笑うんじゃないのか?」

愛依「だから笑ってるじゃん。泣いちゃだめとは言ってないからセーフ」

P「なるほど……」

愛依「……ねえ、プロデューサー」

愛依「もう1回だけプロデューサー辞められない?」

P「そこだけ切り取るとすごい発言だな……。なんでだ?」

愛依「その……さ。……ス、してよ」

P「?」

愛依「もー、……キス! うち怪我してて全然動けないから、して欲しいの!」

P「おまっ……突然何言って……」

愛依「早くしてよ……。もうハズくて辛いんだから」

P「あ、ああ……。じゃあ、いくぞ……」ソーッ

あさひ「プロデューサーさん! 目は覚めたっすか!?」ガラララ

P「……」

愛依「……」

あさひ「あれっ。なんで2人ともそっぽ向き合ってるんすかね」

冬優子「きっとお邪魔だったのよ、ふゆたちがね」

あさひ「???」

冬優子「あんたにはまだ難しいってこと」

あさひ「えー、それじゃあわかんないっす!」

冬優子「新しいタイプのあっちむいてホイよ」

あさひ「ホントっすか!? わたしにも教えて欲しいっす!」

冬優子「はいはい、それはまた今度。ここは病院なんだから」

あさひ「うー、つまんないっす」トボトボ

冬優子「はぁ……」

冬優子「2人とも、そろそろ普通にしたら?」

P「……なんでもないぞ」

冬優子「嘘乙」

愛依「……うちが負けたんだよね」

冬優子「新しいあっちむいてホイの設定続けなくていいから。あんたは首痛めてるんだから変に動かすんじゃないわよ」

あさひ「あれっ」

P「どうした、あさひ。俺の顔なんか覗き込んで」

あさひ「愛依ちゃんはなんとなく元気そうなんすけど……プロデューサーさんはそうじゃないみたいっすね」

P「そうか……? 別にそんなことは……」

冬優子「……あるわよ。まだ寝足りないんでしょ。ったく」

P「ははっ……これは参ったな」

冬優子「他人の心配もいいけど、自分の心配を忘れてるのよ、あんたは」

冬優子「愛依はちゃんと目を覚ましてて、怪我は回復を待つだけなんだから」

あさひ「愛依ちゃんと早く遊びたいっす~」

愛依「ごめんね~あさひちゃん。しばらくムリっぽいわ」

愛依「怪我治ったら絶対あそぼ! ね?」

あさひ「はいっす! 約束っすよ、愛依ちゃん!」

P「……はは、なんだか懐かしいな」

あさひ「?」

P「いや、なんでもないよ。ただ、当たり前がこんなに嬉しいなんて……って、そう思っただけだ」

P「俺はずっと狭い視野で戦っていたのかもな……」

愛依「ま、それは大会のやり方的にしょーがないっしょ」

愛依「大会はもうダメだけどさ、とりあえずまたアイドルやりたいし、それまでは全力で治すから」

愛依「絶対に、3人で――ストレイライトで、プロデューサーとトップ目指したい」

愛依「うちはそう思ってる」

冬優子「当然。ふゆもそのつもり」

冬優子「あんたはどうなの、あさひ」

あさひ「あ、ベッドの下に何か隠してるとかはないんすね」モゾモゾ

冬優子「……」

P「ま、まあ。あさひだってきっと同じ気持ちのはずだ」

眠すぎるので一旦ここまで。

冬優子「っと、そろそろね。……あさひ!」

冬優子「行くわよ」

あさひ「?」ヒョコ

冬優子「レッスン。今日はトレーナーの都合で遅い時間だから」

あさひ「あ、そうだったっすね」

あさひ「じゃ、愛依ちゃん、プロデューサーさん、また後で!」

冬優子「今度こそふゆたちは帰るから、2人とも好きにしていいわよ」ニッ

愛依「も~! 冬優子ちゃん……」

P「か、からかうなって……」

冬優子「はいはい」

冬優子 ガラララ

冬優子「……あ」

冬優子「プロデューサー」

P「俺か?」

冬優子「連絡。はづきさんからあると思うから。見といて」

P「お、おう。わかった」

フユコチャーン ハヤクイクッスヨー

冬優子「そういうことだから」

P「……冬優子!」

冬優子「……何?」

P「ありがとう」

P「……それが言いたかった」

冬優子「ふふっ、あっそ」

ガラララ

ピシャッ

P「……」

愛依「……」

P「……」

愛依「また、2人きり~みたいな?」

P「そ、そうだな」

愛依「……っ」

P「ははっ……こんな時、どんなことを言えばいいのか……なんだかよくわからなくてな」

愛依「あはは、なにそれ」

愛依「別にいいって、そういうんはさ」

愛依「うちは……プロデューサーには一緒にいてもらえたら満足だし」

P「愛依……」

愛依「……あのね、プロデューs――」

イヤァァァァァッ

愛依「――っ!?」

P「な、なんだ……!? 叫び声が聞こえた気がするが……」

愛依「病院ってこういうことあるん?」

P「さあな……静かなイメージがあったけど」

P(悲鳴の声が聞き覚えのあるものだったような……気のせいか?)

コンコンコン

P(ノック……?)

ガラララ

「失礼しますねー」

P(車椅子に乗った老人が、挨拶をしながら入ってきた看護師に押されて部屋にやってきた)

P(そういえば……ここは2人部屋だったな)

P(愛依が入院することになり、俺は当然個室を希望したのだが、どうしても空きがなく、一時的にこの部屋に入ることになった――というのが経緯だ)

P(もっとも、今来た老人がこの部屋にいることは珍しく、数日くらいなら貸し切り状態だと言われていたんだが……)

P(既に愛依は芸能人だし、部外者がいる状態でのやり取りには気をつけないとな……)

P(まあ、老人の状態を見るに、気にしなくても大丈夫なように思えてしまうが、それでも俺たちはプロだから注意しなければならない)

「あ、個室の件なんですけど」

P「えっ、あ……はい」

「無事退院された方がいまして、明日には個室の方を案内できますので、今日だけ相部屋になってしまいますが、ご容赦いただければ……」

P「わかりました。ただ、準備が整い次第、個室に案内するようにしてください」

「承知いたしました」

P「よろしくお願いします」

愛依「あ、うち部屋移動するん?」

P「愛依も立派なゲーノー人……いや、アイドルだからな」

愛依「そっか……そうだね」

愛依「でも、そっか~……。プロデューサーに立派なアイドルとか改めて言われると照れるわ~!」

P「ちょっ、声がでかい……!」

愛依「ヤバっ、ごめん……」

P「……はぁ。……ははっ、なんだか、愛依は元気だな」

愛依「え~? なんで笑うし」

P「いや、だって今そんな状態じゃん」

愛依「確かにミイラみたいになってるけどさー……あ、いまの自撮りして投稿したらウケるかも!」

P「腕は動かせないから自重しような……」

愛依「う~、つまんないっす~」

P「なんだよそれ。あさひの真似か?」

愛依「そんなとこ。なんとなくやってみたくなった」

P「ストレイライトが恋しいか?」

愛依「そりゃー……ね。最近あんまし揃ってなかったしさ」

P「また、事務所で“いつも通り”ができたらいいな」

愛依「うん」

P「……あ。そうだ。冬優子にはづきさんからの連絡を見るよう言われてたんだ」ポチポチ

P「っと……先週から来週までの冬優子とあさひの仕事のまとめか」

P(愛依の予定の振り替えも書いてあるが、今は読むだけで会話では触れないでおこう)

P「……ここまで、か。……いや、違うか、これは……」

P(メールの末尾を見ると、俺が1週間休職することが確定したと書いてあった。はづきさんなりの配慮なのかもしれない)

「あのー、すみません」

P「えっと……はい。なんでしょうか」

「いまお連れした患者さんなんですが、ああ見えてアイドルの番組を観てるときが一番落ち着くみたいなんです。ベテランの看護師の先輩が教えてくれまして」

「何かおすすめの番組とかあれば……。私はアイドルのことをあまり知らないので」

P「そうですね……。宣伝するようで恐縮ですが、もう少しするとうちの黛の出ているバラエティ番組が始まります」

P(ちょうど今はづきさんからの連絡で見たことだからすぐ出てきたな)

P(放送局を伝えると、看護師はテレビのリモコンを操作して件の番組を観る準備をしてくれた)

P(何かあればナースコールを、と老人に言って、看護師は部屋を出て行った)

P(しかし……、この老人がアイドルの番組を……)

P(人を見た目で判断するのもどうかと思うが、全く想像のつかない趣味を持つものだと思ってしまった)

P(どのような顔の老人だったか……そう思って改めて顔を見る)

P「……!」

P(一瞬、目が合って、睨まれたような気がした)

P(いや、気のせい……だろうか)

P(老人は、俺から視線を外すと、俺と愛依のいる方をじぃっと眺めてから、はじまった番組のあるテレビの方に視線を戻した)

P(俺も、愛依のほうに視線を戻す)

P「愛依――」

愛依 ウトウト

愛依「……っ、プロデューサー。ごめん、うち寝ちゃってたみたい」

P「――いや、いいんだ。むしろ、怪我人なんだからちゃんと休まなきゃだめだぞ」

愛依「わかった……じゃあ、ちょっと寝るわ」

愛依「おやすみ、プロデューサー……」

P「ああ。おやすみ、愛依」

愛依「……プロデューサー」

P「なんだ?」

愛依「うちの手……握ってて。手は、別に怪我とかないし」

P「わかった。……こうか?」ギュッ

愛依「うん。ありがと」キュッ

P(そう言って、愛依は弱く握り返してきた)

愛依「……あったかい」

愛依「あんしん、する……」

愛依「……」

愛依「……zzzZZZ」

P(今まで、どれほどのものを愛依は抱え込んできたんだろう。愛依は、明るい性格だし大雑把で楽天的なところもあるが――)

P(――だとしても、アイドルとしてはキャラを作っているわけで、大会で1人で戦う中でかなり消耗したのではないかと思う)

P(皮肉にも、今回は愛依をきちんと休ませることができてしまっているのかもな……)

P(俺にできることは……少なくとも今は一緒にいて寄り添うことだろうか)

愛依『うちは……プロデューサーには一緒にいてもらえたら満足だし』

P「大丈夫だ。俺はどこにも行かない」

P(そう。あの時だって――)

P『俺は愛依と、……ストレイライトと、283プロでトップを目指すんだ』

P『だから、透のところには行けない』

P(――そう胸を張って言ったんだ)

ヴーッ

P「……通知?」

冬優子<あさひがまた消えて捜索中な件。

冬優子<あ、見つけたわ。というわけで心配しなくて大丈夫だから。

とりあえずここまで。

3週間後。

~病院 病室(個室)~

P(あれから、愛依はすぐに個室へと移動することになった)

P(結局、俺の臨時休暇が終わってからは、仕事の都合で一度も見舞いに来てやることができなかった)

P(今日はようやく時間がとれて1週間ぶりくらいに病院に来た形だ――が……)

P「……愛依がいない」

P(いきなり来てしまったというのはあるけど、まさかいないなんてな)

P「……」

ガララ

「あ、和泉さんの」

P「え、あぁ……いつも愛依がお世話になっております」

「プロデューサーさん、でしたよね」

P「はい、そうです」

「和泉さんでしたら、今はリハビリ中ですよ」

「様子を見るとかであれば、こちらに……」

P(看護師に案内され、俺はリハビリをしているという愛依のもとへと向かった)


~リハビリテーション室~

カツッ、カンッ

愛依「……っ、く……」

カンッ

愛依「っし……!」

スルッ

愛依「あ――」

ドタッ

愛依「――っ」

愛依「……」


「あちらです」

P「あ、はい……」

P(愛依、頑張ってるな……)

P(でも、遠くから見てもわかる。わかって、しまう――)

P(――愛依が、辛い思いをしながらあそこにいるということを)

「では、私はこれで」

P「……」


カツッ、カンッ

カンッ

カツッ

愛依「……った」

愛依「はぁっ……はぁっ……」

愛依「……」ペタリ

「大丈夫ですか? 急に座り込んで……」

「体調が優れないようでしたら、今日はこの辺で止めても……」

愛依「っ、いいから!」

「!」ビクッ

愛依「うちなら、平気だから。まだ、大丈夫」

「そう、ですか……。念のため、私はここにいますからね。無理は禁物ですよ」

愛依「……」

スタスタ

P「……愛依」

愛依「っ!?」

愛依「ぷ、プロデューサー!?」

愛依「え、やだ……。うそ……」

P「あ、ああ……すまない、あれからしばらく来てやれてなくて」

愛依「そ、それは仕事があるだろうし、別に……」

愛依「っつーか、その……うちのこと、見ないで」

P「……」

P(よく見ると、愛依は汗をたくさんかいていて、患者衣が透けて――)

P「――っ!? す、すまん……」

愛依「? あ、ちょっ……、ど、どこ見てるん!?」バッ

愛依「……」

P「……」

愛依「そ、そういう風に見られんのもハズいけど、……そうじゃなくて」

P「?」

愛依「こんなうちの姿、見られたくない……」ギュッ

P「っ!」

愛依「包帯はまだ残ってるし、目立たないけど身体は傷だらけで、まともに歩くことだってまだちゃんとはできてない……!」

愛依「プロデューサーがいままで見てきたのって、そういううちじゃないっしょ?」

愛依「谷間とかも見せるちょいダイタンな服とか着ちゃって、仕事じゃ衣装着て歌ったりダンス踊ったり……」

愛依「……それが、プロデューサーが一緒に過ごしてきたうち、じゃん」

愛依「……」

愛依「意識が戻ってしばらくはさ、プロデューサーが一緒にいてくれたし、あんまし気にすることもなかったよ」

愛依「けど、あれからプロデューサーも来れなくなって、1人になって、リハビリが始まって――」グスッ

愛依「――うちが、もうアイドルの和泉愛依じゃない誰かなんだって! ……そうとしか思えなくってさ」

愛依「そんなんだから、いまのうちのこと、プロデューサーには見られたくなかったっていうか、ね」

P「確かに、今の愛依には、前みたいに力強く歌ったり激しく踊ったりすることはできない」

愛依「だったら!! だったら……、さ」

愛依「こんなうちを見ないで! こんな……こんな……」

愛依「なんもできない、うちなんて……」

P「だからなんだ!」

愛依「!」

P「アイドル和泉愛依じゃない……だからなんだって言うんだ。俺が接してきたのはいつだって、和泉愛依という1人の女の子だよ……」

P「歌えなくても踊れなくてもいい。アイドルだからお前と一緒にいるわけじゃ……一緒にいたいわけじゃないんだよ、もう……」

愛依「っ……」ポロポロ

P「何もできないなんて言わないでくれ」

P「生きてくれているだけで、一緒にいてくれるだけで、……こうして、面と向かって話してくれるだけで」

P「それでも、いいんだ」

愛依「プロ、デューサー……っ!」ポロポロ

P「ゆっくりでいい。一歩ずつ進んでいこう」

愛依「うん……、うん!」

P「……そうだ、こうしよう」

P「俺は、次からはプロデューサーとしてじゃなく、1人の人間として愛依に会いに来るよ」

P「283プロのアイドル和泉愛依の様子を見に来たプロデューサーではなく、和泉愛依という1人の女の子を好きな1人の男として」

P「そうしないか?」

愛依「あっはは、プロデュー……Pはほんとに……」

愛依「……うん。そーしよ」

愛依「てことは、さ」

愛依「Pはうちの……れしで」ゴニョゴニョ

P「?」

愛依「だーかーらー……Pはうちのカレシってことで、い、いいんでしょ?」

P「あ、ああ。そうだな」

愛依「で、うちはPのカノジョ……」

P「……」

愛依「っ!!」ボッ

愛依「やっぱうちのこと見ないで!! とりあえずいまは!!!」

P「さっきも同じようなことを言ってたが……」

愛依「さ、さっきのとは違うってゆーか……。いまのうち、めっちゃ顔赤くてヤバいから!」

P「そういうことか」

愛依「~~~!」

P「まだしばらくは落ち着かなそうか?」

愛依「……いや、もう大丈夫」

P「そ、そうか……」

愛依「うちがカノジョで、Pがカレシ……っふふ」ニコ

P(とりあえず楽しそうだ――なんてな)

P(愛依には、そういう表情がよく似合うんだ)

P(アイドルではなく、1人の女の子としての……その振る舞いが)

P(そういうことは俺だけなのだと思うと、いい年なのに気分が高揚してしまう)

愛依「なにぼーっとしてんのー?」

P「いや……なんでもない」

ヴーッヴーッ

P ピッ

P「……はい。わかりました。今から向かいます」

P「すまん。仕事で戻らないといけなくなった……」

愛依「いいっていいって! 大事な仕事なんでしょ? しかも今日、平日だし」

愛依「今度は休日にでも来てよ。カレシとして、さ……。待ってるから」

愛依「うち、カノジョだし!」

とりあえずここまで。

2週間後。

~病院 リハビリテーション室~

愛依「っ……っしょっと……」カツッ

P「よし、あと少しだ……頑張れ」

愛依「う、うん……」カンッ

愛依「……っ!?」ヨロッ

P「!? 愛依――」

愛依「っとと!」ピタッ

P「――……ふう」

愛依「あはは……ギリギリだったけど、まあ、セーフ?」

P「だな……」

愛依「もうちょっとでPんとこに着くから……待ってて」


P「お疲れ様。ほら、スポーツドリンクだ」

愛依「うん、サンキュー」

愛依 ゴク・・・ゴク・・・

愛依「……っぷはぁ」

P「だいぶ良くなってきたんじゃないか」

愛依「まあねー……まだ前みたいにはいかないけどさー」

愛依「……なんかさ、こんなこと言っていいのかわかんないんだけど、これってレッスンみたいだね」

P「! ……ああ、そうかもな」

P(さすがは俺の自慢のアイドルだ――というセリフは、言わずに飲み込んだ)

P「やっぱり、愛依はすごいよ。担当医の人も驚異的な回復力だって言ってたぞ」

愛依「まあ……それほどでも~~? ……あったりして!」

P「ははっ……」

P「早くちゃんと歩けるようになって、まずはあの子に元気なところを見せてやらないとな」

P「きっと、心配してるはずだから」

愛依「……」

P「……愛依?」

愛依「あのー……さ、前から気になってたんだけど、なんとなく聞きづらくて」

愛依「Pの言う“あの子”って、誰なん???」

P「え……」

愛依「いや、うちの友だちの誰かのことかな~とか、まさか元カノ自慢じゃないよね~~とか、そう思ってたんだけど」

愛依「この際だし聞いちゃおうかなって思ったってゆーかさ」

P「何言ってるんだよ、あの子だよ――」

P(――■■■だよ、わかるだろ? ……と)

P(そう言っても、愛依は思い当たる節はない、という様子だった)

P「あ……」

P(事故後の愛依との会話を思い出す)

P(愛依のことで手一杯で、そもそもあの子が話題になることはほとんどなかったけど……)

P(愛依があの子の話をしたことは、事故の後には一度もなかった)

愛依「ど、どしたん? Pってば、泣きそうな顔してる?」

P(その時、俺はどんな顔をしていたんだろう。あれだけ愛依が大切にしていた3人の関係を、愛依自身が忘れているなんて知らされた時の顔なんて……)

数十分後。

~病院 病室(個室)~

愛依「あ、冬優子ちゃんからなんか来てるわ~」ポチポチ

P「……」

P(あの後、ちょうど愛依の担当医がいたので、知っているはずの人を知らないということが起こった、と説明した)

P(内部に損傷はなかったものの、頭を打っているのは間違いなく、強打による健忘症や記憶喪失などが疑われたが――)

P(――原因は断定されなかった。もっとも、あの子のことを忘れていたというだけで、それ以外は何の問題も浮上していないのだ)

P(俺が騒いでも、極論「だからどうした」になってしまう)

P(……俺の周りであの子のことを知っているのは、愛依以外にははづきさんくらいだ)

P(しかし、はづきさんに「愛依があの子を忘れてしまった」と訴えてどうする?)

P(どうにかなる気もしなかった。それに、何よりあの子に「愛依が君を忘れている」だなんて伝えたくなかった)

P(俺だけが違うことを言っているような気さえしてきて、謎の孤独感に苛まれそうだ)

愛依「……P?」

P「わぁっ!?」ガタッ

愛依「ご、ごめん……びっくりさせちゃったカンジ?」

P「あ、いや、……すまない」

愛依「さっきの“あの子”のこと?」

P「それは……」

愛依「うーん……ごめんね。やっぱ思い出せなくて」

P「愛依が謝ることじゃ……ないぞ」

P(そう、誰が悪いとか、そういう話じゃないんだ)

P(だからこそ、辛いものがある)

愛依「Pの話聞いてると思い出せそうな気もするってか……こう、胸がきゅーってなるっていうか」

愛依「うちにとって大事なソンザイだったんだなってカンジはするんだけど、どうしても思い出せないんだよねー……」

P「そうか……」

P「まあ、そのうち思い出すかもしれないんだ。焦る必要はないだろう」

P(焦る必要はない――そう言い聞かせたい相手は他でもない、自分だった)

P(待っていればいつか愛依の記憶が戻ると、そう信じたいじゃないか)

愛依『そーそー。その……さ』

P『?』

愛依『うちらって、周りから見たら家族――に見えんのかなって』ゴニョゴニョ

愛依『うちがこの子のママで、プロデューサーがパパで……』ゴニョゴニョ

P「っ……」

愛依『う、うちは別に嫌じゃないよ!?』

愛依『……うん。全然いやじゃない。むしろ、嬉しい、かも』

P『……そうだな。家族に見えるかもな』

愛依『!』

『……』

P『お前もそう思うか?』

『……』コクッ

P『ははっ。じゃあ、俺たちは家族……ってことでもいいのかも――なんてな』

P「はっ……、く……、うぅ……っ」ポロポロ

P(思い出すと、涙が止まらなかった)

3週間後。

~病院 病室(個室)~

P「いよいよ明日で退院……だな」

愛依「うんっ。ま、だいぶ時間かかっちゃったかもだけどさー……」

愛依「仕事にもかなり穴開けちゃったし、こりゃ厳しいかな~なんてね」

P「……ユニットとしての活動はしばらくなかったけど、冬優子とあさひは2人ともよくやってくれてるよ」

愛依「だね。うちさ、できるだけ冬優子ちゃんとあさひちゃんが出てる番組は観るようにしてたけど――」

愛依「――なんか、2人とも……うーん、うまく言葉にできないんだけど、ホントすごかったんだよね」

P「この約2ヶ月ほど……俺は、愛依がどちらを選んでも大丈夫なように準備をしてきたつもりだ」

P「アイドルを続けるか、そうでないか……」

P「俺は、愛依が何を選択しようと、意見するつもりはない」

P「どちらでも、……受け入れるつもりだ」

愛依「P……ううん、いまはプロデューサーって呼ばせて」

P「……ああ」

愛依「うちもね、ちゃんと考えたよ。アイドル続けるかどうかって」

愛依「それこそ、プロデューサーに初めて会ったときまで振り返ってさ」

P「……」

愛依「あの時……街でスカウトしてくれて、ホントに感謝してる。あれがなかったら、うち……」

愛依「そんでさ、ストレイライトっていうチョーカッコいい3人組にしてもらって、歌ったり踊ったりして……」

P「愛依がいなかったら、冬優子とあさひがいるユニットは間違いなく成り立っていなかったよ」

愛依「あっはは! そうかもねー、……なんつって」

愛依「でも、ありがと。そう言ってくれて、マジでうれしいわ」

愛依「最近の2人を見てるとさ、「あれ、もううちいなくても大丈夫じゃね?」……なーんて! そう思えるってゆーか」

愛依「ある意味で親目線的な? もうお前らは一人前なんだーってカンジで。いや、うち何様!? ……って話かもしんないけど」

P「そんなことはないぞ。愛依はストレイライトの中で、誰に対してもバランスよく接していたんだから」

P「一番良くメンバーのことが見えていたと言われても疑わないさ」

愛依「そっかな。だと、いいなって思うわ」

愛依「……あれ、何の話だっけ。……あ、アイドルをやるかやらないか、だよね」

P「……」

愛依「うちね、アイドルを――」

P「きょ、今日じゃなくても! ……いいんじゃないか?」

愛依「――プロデューサー……」

P「そ、そうだ。時間はまだある。言い忘れてたけど、どの道、愛依は事務所をあと1週間は休めるようにしてあるんだ」

P(俺は、何を……)

P「ゆ、ゆゆ、ゆっくり考えればいいさ! そうだよ、まだまだ先は長いんだ」

P(この期に及んで、何を口走っているんだ?)

P(愛依の選択を受け入れるなんて、口からでまかせもいいところじゃないか)

P(アイドルを続けるという決断を聞くのが怖いんだ――愛依の身体が以前のように動かせるような状況にはまだなっていなくて、元に戻る保証もなかったから)

P(アイドルを辞めるという決断を聞くのが怖いんだ――アイドルも、“あの子”のいる家族もない、そんな愛依を目の当たりにするのが嫌だから)

愛依「……家族」

P「え……?」

愛依「夢かもしれないし、プロデューサーの言う“うちから消えちゃった記憶”なのかもしれないし、よくわかんないけど……」

愛依「家族ってのが、すっごく懐かしくて、チョー大切で、そういう気持ちが……なんとなくあって」

愛依「プロデューサーの言う“あの子”のことは思い出せないけど、誰かに言われてる気がするんだよね」

愛依「プロデューサー――Pがパパで、うち――愛依がママで、2人の子どもが一緒にいて」

愛依「子どもはパパとママにそれぞれ片手を持ってもらってて、ぶらんこ遊びをするんだって」

愛依「その子はきっとそれだけでも……一緒にいるだけでも幸せで」

愛依「そういう家族の幸せを大切にしてって、そう誰かに言われる“夢”を見る……」

愛依 ツー

愛依「あ、あれ……」

P「愛依……」

愛依「やっぱ、こうなるかー……あっはは……」

P「?」

愛依「その家族ってゆーのがさ、アタマに浮かぶたびに、涙が……止まらなくなる的な……?」ポロポロ

愛依「な、なんだろーね! これ……、変だよね」

愛依「……」

愛依「プロデューサー、もっと近くに来て」

P「お、おう……」

愛依「……こうしてると、ここに、もう1人いる気がする」

P「!! そ、それは――」

愛依「きっと、うちにとって……ううん、うちとプロデューサーにとって、大事な子、なんだよね」

P「――……ああ!」

愛依「うちね、そんな家族が欲しい」

愛依「プロデューサーと……Pと幸せになりたい」

愛依「Pと幸せになってって……大好きな子どもと楽しく笑っていてって……」

愛依「そうやって言ってくれた声が聞こえて……」

愛依「うちもそう思うって、強く感じたから」

愛依「だから、うちは、アイドルを……」

P(もう、俺は愛依の決断を聞くのを怖がらなかった)

P(自分のことばかりで、愛依と共に人生を歩んでいくということを――最も大切なことを、見失っていたけど)

P(きちんと、取り戻すことができたから)

愛依「……これが、うちの決めたコトだよ、プロデューサー」

愛依「うちは……私、和泉愛依は」

愛依「Pと、ずーーっと! 幸せになりたい!!」

愛依「幸せな家庭を持ちたい! 家族でいろんなところに出かけたい! 海とか買い物とかね」

愛依「よくわかんないただ一緒に過ごす時間も、大切だって思いながら生きてたい」

P(まるで、あの子との“家族”の思い出をなぞるかのように)

P(愛依は自分の望む「幸せ」をこれでもかというくらいに伝えてくれた)

愛依「……はぁっ、言い切った! いや、まだまだこれからたくさん出てくるけど!!」

P「ははっ、こっちまで幸せになりそうな話しっぷりだったぞ」

愛依「もー、何言ってんのー? 幸せになりそう、じゃなくて、幸せになるんだってば。一緒にね!」

P「ああ、そうだな」

愛依「もちろん、ずっと一緒に、幸せを探して、何回でも幸せになって――くれるっしょ?」

P「当然だ。愛依と生きていくって決めてるんだから」

愛依「そっか……そっかそっか! うん!」ニコ

愛依「あっはは! もう、うちってば、いまからチョー幸せだわ!!」

約十年後。

~某海辺 砂浜~

P「よし、じゃああれやるか!」

愛依「あはは、うん!」

「……?」キョトン

P「いくぞ……」

P/愛依「いっせーの……」

P/愛依「……せーっ!」グイッ

「わー……」

「……」ポスッ

P「いい感じにブランコできたと思うんだけど、どうだ?」

「……ん」ニコ

P「喜んでくれたみたいだな」

愛依「ほんとカワイイんだから~もうヤバすぎ!」ナデナデ

P「……あ。おおっ」

愛依「どしたん?」

P「いや、ほら」

P「夕日、やっぱり綺麗だな……って」

愛依「うん。すっごく……ね」

愛依「……あれ、なんか前にもおんなじことあったっけ」

P「……」

P「……あれじゃないか? デジャヴュっていう」

愛依「デジャ……なんて?」

P「いや、なんでもないよ」

愛依「あっはは、なにそれ」

P「ははっ……」

愛依「うち、……いま、しあわせだよ」

愛依「きょうだいとか友だちと遊びに行ったり、昔みたいにアイドルでレッスンとかお仕事したり……そういうのとは違って」

愛依「あ~~、なんかさ、うまくは言えないんだけど」

愛依「いまみたいな時間がもっと続いたらいいのにな~って」

愛依「マジでそう思う」

P「そうか」

愛依「夕日がさ、もう……沈んじゃうじゃん?」

P(夕日が沈んだら、幸せも終わってしまうような気がする――そういった君が、どこかにいた)

愛依「でも、沈むから、明日からはまた違う夕日が見れんのかなって、そう思えるんだよね」

愛依「なんて……変かな?」

P「そんなことないと思うぞ。良いんじゃないか? 俺は好きだよ、そういうの」

愛依「そっか! あー……次来たときはもっと良い景色が見れるといいなー」

愛依「っし! もう暗いし、今日は帰ろ!」

P「ああ、そうだな」

P(そして、2人で愛する子どもの名前を呼び、また手を繋いで帰路につく)

P(確かにそこには、俺たちの幸せがあった。いつか望んだ、誰かが願った……その思いが成就された形で)

END of √M.

----------------------------------------------------------------------------------------
OS Version 2.8.3.2018424
[AUTOMATIC OPERATION]

>ファイルをスキャンしています。
>…………
>…………
>…………
>“Mei_Izumi -Memory-”......partly damaged!
>破損したデータがあります。
>…………
>原因不明。
>…………
>破損したデータは自動的に最新のバックアップデータに置換されます。
>お待ちください……。
>…………
>…………
>…………
>処理が完了しました。
>プログラムにより、関連付けられた分岐点を自動的に開きます。
>Now Loading...
----------------------------------------------------------------------------------------

~ステージ(予選) 舞台装置周辺~

雛菜「っしょ、……っと!」タンッ

雛菜「とうちゃ~く」

雛菜「透先輩にLINEしよ~っと。……まだ~ってね~~」

ポチッ

雛菜「……」

ピロンッ

雛菜「! もう返信来た~」

雛菜「もうちょっと待ってて……かぁ~」

雛菜「お兄さん、まだ選んでないんだね~」

雛菜「雛菜的には……ま、どっちでもいいか~」

雛菜「小糸ちゃんが進んだら幼馴染としてしあわせ~になれるし~~」

雛菜「お兄さんのアイドルの人が進めば、透先輩がしあわせ~になって――」

雛菜「――透先輩だいすきな雛菜もしあわせ~ってなるもん!」

雛菜「早く返信来ないかな~」

シーン

雛菜「……準備して待と~っと」


~予選会場 ロビー~

透「タイムリミットだよ」

P「透、お前、何をしようとしてるんだ」

透「っ」ガシッ

P「ちょ、おま……」

P(いきなり胸倉を掴まれた!?)

ダッダダダ・・・

ダンッ

P「がっ……」

P(くそ、力任せに押されて暗がりに追いやられた……)

P(高校生の女の子に不意打ちとはいえ力で押し負けたことに情けないなと思いつつ)

P(この腕力は日々のレッスンの賜物か、だなんて。そんなことを思ってしまう自分に呆れる)

P「透、何するんだ、やめ――」

透 チュ

P「ん~~!!」

P「ぷはぁっ。……お前」

透「私も、二度は言わないつもりなんだ」ジイッ

P(目が据わってる……)

透「もう一度聞くから」

透「Pは、私のところに来てくれる?」

透「それとも、来てくれない?」

透「どっち……かな」

1. 透の誘いを断る。(既読)
2. 透の誘いに乗る。

※既読のスタンプにより、自動的に2. が選ばれます。

(とりあえずここまで)

~予選会場 ロビー~

P「……わかった」

P(さっきの透が言ったことが、どうしても気になってしまっていた)

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P(まるで、透の誘いを断ったら愛依が決勝に進めない――そんな風に聞こえて)

P(不思議と、断ったら取り返しのつかないことになる気がして、理由のない悪寒に襲われた。だから――)

P(――俺は、透の誘いに乗った)

P「透のところに行けば、愛依は……」

透「……」

P「……透?」

透「あ……うん」

透「ちょっと、ね」

P「?」

透「うん。嬉しい」

透「ありがとう、P」

透「あー……プロデューサー、って呼んだ方がいいかな。ふふっ」

P「は、はあ……」

P(これで……良かった……のか?)

P(冷静になると、俺は愛依を――ストレイライトの3人を裏切ったことになるんじゃないだろうか)

P(いや、これがその場しのぎの嘘じゃなくなれば……正真正銘の裏切りだ。やっぱり嘘でした――とか言えるんだろうか)

透 ポチポチ

透「送信、っと……」

透「それじゃ、行ってくる」

P「行くって、どこに?」

透「本番、これからだからさ」

P「そ、そうか」

透 スタスタ

透「……そうだ」ピタッ

透「たぶん、Pの事務所に連絡が行くと思う。明日とか、明後日とか」

透「そのうち、人も来る。あと……わたs――僕も」

透「またね」フリフリ


~ステージ(予選) 舞台装置周辺~

ピロンッ

雛菜「あっ、透先輩からだ~」

雛菜「……うんうん! そっか~、透先輩、良かったね~~」

雛菜「てことは~……小糸ちゃんが……」

ワァァァ

雛菜「あ、そろそろだ~」タタタ

雛菜 カチャカチャ

雛菜 ギイッ

雛菜「やは……」

雛菜「ごめんね、小糸ちゃん」

~ステージ(予選)~

ワァァァ

愛依「はぁ……はぁ……」

愛依(や、やり切った……!)

愛依(2回目も、うち、ちゃんとできた!)

愛依(会場の盛り上がりも、うちが見たことないくらいすっごい……)

愛依(うち、勝てたかな……)

愛依(プロデューサー、■■■、見てる?)

愛依(うち、輝いてるかな?)

愛依(これが、アイドル……和泉愛依!)

愛依(~~~~~っ!!! 今なら負ける気がしないんですけど!!!!!)

愛依(キャラ的に表に出せないけど……変なテンションになるくらい、サイコーのステージになったかも!)


オツカレサマデシター

愛依「控え室ってどっちだっけな~……」

愛依(あ、そういや、次って小糸ちゃんだっけ)

愛依『うちら、一緒に次に進めたらいいね』

小糸『! ……は、はいっ』

愛依(なんか、こういうのって、イイ……なんてね)

愛依(そうだ、今から戻って見に行ってあげよっかな)

愛依(決勝に進むって意味ではライバルでも、やっぱさ)

愛依(こう……応援してあげたい気持ちはあるってゆーか……)

キャァァァァァッ

愛依「?」クルッ

愛依(歓声……? でも、まだ始まったばっかなんじゃ……)

ザワザワ

愛依「え、え……?」

愛依(な、何が起こってるん???)

愛依(廊下が出てくる人でいっぱいになってきたし……これじゃまるで逃げてるか、それか――)

愛依(――追い出されたみたいな)

愛依「ちょ……あ、あの」

「はぁっ……はぁっ……」

「え、な、なんですか……?」

愛依「中で、何かあったんですか」

愛依(あっぶね。アイドルモードにならないとね)

「いや、それは……うわっ」ヨロッ

「ほら、出て出て! ……君も控え室に戻って!」

愛依「だから、その……何が」

「っ、いいから!」ドンッ

愛依「った……はい」

愛依(もう……なんなん? 舞台でトラブルでもあったのかなー)

愛依(とりあえず戻るしかない系?)

愛依(何が起きてるんだろ……)

~グループ1 控え室~

愛依「……」

ザワザワ

愛依(ヤな空気感……)

愛依(何かとんでもないことが起きちゃってるのに、うちらは何が起きてるのかわからない……ってカンジ)

「――機材のトラブルで事故が……」

「――大怪我した人がいるって……」

愛依(いろんな話が聞こえてくる)

「――ステージの真っ最中だったよね……」

「――ってことは、もしかしてそこにいた子……」

愛依 フルフル

愛依(ここにずっといたら、なんだかおかしくなりそうだわ)

愛依(飲み物でも買いにいこ……)スタスタ


~グループ1 控え室付近廊下~

愛依「……」

愛依(とりあえず水買ってきたけど)

愛依(あの場所――控え室の居心地があんましよくなかったってのもあって)

愛依(飲み物を買うとかは、正直どーでもよかったんだよね)

愛依(あそこを抜け出せれば、それだけでよかった的な?)

愛依(喉もそんなに渇いてないし)

愛依(うーん、戻るしかない系? でも、うち的には気が向かないんだよねー……)

愛依「……そうだ」

愛依(プロデューサーに会いに行けばいいじゃん!)

愛依(そうじゃん、そうしよ!)


~予選会場 関係者専用通路~

愛依(こーゆーの、ヒニク? ……って言うのかもだけど)

愛依(さっきの控え室の噂話で、ここ通るとすぐに外に出れるって聞こえたんだよね……まあ、そのコはタバコ吸うんで外に出てたみたいだけど)

愛依(道の向き的にロビー方面だし、ここからプロデューサーんとこに行けるはず――)

愛依(――うちってば、ひょっとして天才? ……なんちゃって)

愛依「……あ」

愛依(あれ、かな。たぶん。ロビーの近くの地図も見えるし)

カラカラカラカラカラ

愛依「?」

愛依(なんか、来る……?)

ミチアケテクダサーイ

「通ります! どいてください!!」

愛依(そんな声が聞こえて、車輪付担架を運ぶ何人もの大人の人がこっちに向かってきた)

愛依(最初はなんか来るなーくらいだったけど、すぐに嫌な予感がした)

愛依(気づけば、担架はすぐそこまで来てて――)

愛依(――血まみれの小さい身体が目の前を通り過ぎた)

愛依(たぶん気のせいだし、よく見えなかったけど)

愛依(担架は、うちの目の前だけを、やたらとスローモーションで通ったように見えた)

とりあえずここまで。

~予選会場 ロビー~

ザワザワ

P「なんだか騒がしいな」

P「……何かあったのか?」

P(嫌な予感しかしない)

P(なぜそんな気がするのかもわからなかったけど、理由のない不安が俺を襲うのは、きっと――)

透『今日言いたいのは、お願いじゃないってこと』

P『?』

透『選択、してもらうから』

P「……」

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P(――っ!!)

P(お、俺は間違えていないだろうか?)

P(選択――透はそう言った。その後に、正しい選択をしなければ愛依に何かしらが起こるというようなことも仄めかして)

P(嫌な汗が止まらない……愛依は本当に無事なのだろうか)

P(周囲のざわつきは酷くなってきている。明らかに、“何かがあった”んだ)

P(それだけで愛依の身に何か起こったと考えるのには、判断材料が少ないが、それでも……)

P「愛依……愛依……!」

P(俺はいてもたってもいられなくなって、関係者専用の通路で近道をして愛依に会いに行くことにした)

P(会えるだろうか……いや、会うんだ)

P(会わなければ……!)ダッ

P(焦りすぎて、変な走り方になってしまう)

P(なぜだろう、謎に足がもつれて疾走できない感じだ)

P「はぁっ……はぁっ……」タッタッタッ

P「……よ、よし。これを開ければ――」

P(――関係者専用通路だ)

P ガチャ


~予選会場 関係者専用通路~

愛依(さっきのって……)

愛依「うっ……」

愛依(思い出したらちょっとキモチ悪くなってきちゃった……)

愛依(だって、あんなたくさんの血なんて、うち……)

愛依(担架が速すぎて見えなかったけど、あれ人だったっしょ。どう考えても)

愛依「……」スタスタ

愛依(あ、このドアだ)

愛依(これを開ければプロデューサーに――)ソーッ

ガチャ

愛依「――うわぁぁっ!?!?!?」

P「おわぁあぁっ!?」ビクッ

P「な、なんだ……!?」

愛依「……って、プロデューサーじゃん!」

P「め、愛依……!」

P「よかった……!」ギュッ

愛依「ちょ! ……プロデューサー」

愛依「ここじゃヤバいっしょ。人来ちゃうし」ヒソヒソ

P「あ、すまん……」パッ

愛依「もー……。ま、まあ? そういうんはイヤじゃないけど?」

愛依「時と場所的な?」

P「そ、そうだよな。というか、取り乱して申し訳ない」

愛依「何かあったん?」

愛依「もしかして、いま騒がしいのと何か関係ある系?」

P「いや、その……」

P「愛依に何かあったんじゃないかと思って」

愛依「へ? うち??」

愛依「うちにはなんもないけど……」

愛依「確かになんかザワザワしてるな~って思ったけど、なんでそれでうちに何かあったって思うの~~?」

P「あ……」

P(俺と透の直接のやり取りを知ってるわけじゃないんだもんな)

P「忘れてくれ……それよりも、愛依は何か知ってるのか?」

P「今、何が起きているのか、について」

愛依「いや、うちもよくわかんないんだよね」

愛依「控え室にいるとさー……ホントかどうかもわかんない噂話とかいろいろ聞こえてきちゃってヤバげだったし」

愛依「なんとなく抜けてきちゃって、せっかくステージ終わったし、そうだプロデューサーんとこ行こ! って思って」

P「そ、それでここにいたのか」

P「そうだな、つい色々と気持ちが先走って言い忘れてたよ」

P「ステージお疲れ様」

愛依「うん、ありがと!」

愛依「うち、やれたよ。結果は……まあ、知らないけど!!」

P「ははっ……そうか」

P(そうだ。愛依は戦っていたんだ)

P(俺はそんなことも忘れて何をしていたんだ……我ながら情けなさ過ぎるな、これは)

P(まずは愛依の無事を喜ぼう)

P(特に、無事ステージを終えられたことを)

P(今何が起きているのかは、その後でもいいはず……だ)


~ステージ(予選)~

オイ、チャントカンケイシャイガイオイダシタノカ

トリアエズハ・・・ハイ

「はぁっ……はぁっ……」タッタッタッ

「……!」ピタッ

ナンデコンナコトニ・・・

サイシュウチェックデハナニモナカッタンダゾ!

「そんな……」

「間に合わなかった、なんて……」ペタリ

「想定外の事態ね……って、あれ。そこのあなた!」

「! ヤバい……」

「なんでここにいるの! 早く外に出なさい! ……って、あなたは――」

「……」

「――グループ2の……、ええと、樋口円香さんだったかしら?」

円香「……そうですけど」

「でも、あなたは……ううん、それはいいわ」

「とにかく、ここにいちゃいけないの。さぁ、早く控え室に戻りなさい」

円香「っ」グッ

円香「……わかりました」

「ほら、行きなさい。……誰よ、追い出すの終わったって言ったのは」

円香 トボトボ


~ステージ(予選)外 通路~

円香 スタスタ

ガチャ

バタン・・・

円香「……」フラフラ

円香 ペタン

円香 ポロポロ

円香「小糸っ……!」グッ

円香「ごめんね、ごめんね……」ポロポロ


~予選会場 ロビー~

P「俺は一応状況を把握してから事務所に戻るつもりだけど……愛依はどうする? 俺といると遅くなるかもだし、先に戻るか?」

愛依「……プロデューサー?」

P「な、なんだよ」

愛依「うちを最後まで送ってく選択肢はないの~?」

愛依「頑張ったアイドルに冷たくしちゃダメっしょ~~」

P「……遅くなるかもしれないんだぞ?」

愛依「いいっていいって! うちは、その……」

愛依「プロデューサーと一緒にいれたほうがいいし、さ……」

P「……わかった」

P「じゃあ、一緒に帰ろう。送ってくよ」

P「とりあえず、俺は少し知り合いとかと話してくる」

愛依「え~……結局放置されるん~?」

P「そ、それは……」

愛依「ジョーダン! さすがにジョーダンだから! プロデューサーの仕事だもんね」

愛依「まあ……うん。うち、待ってるから」

P「ああ、すまないな」

P「できるだけ早く戻れるようにするから」

愛依「ありがと」

P「じゃあ、ちょっと行ってくるな」

愛依「いってらっしゃーい」

~予選会場 関係者専用通路~

P「……」スタスタ

P(事態は想像以上に深刻だった)

P(その場にスタッフの誰もが想定していなかった事故が起きたのだという)

P(これは本当に現実なのか、なんて言う声も聞こえてきたくらいだ)

P(念入りにチェックした舞台装置の故障が原因なのではないか、という話が出ているらしい)

P(しかし、そんなことが起こるとしたら、それは――)

P(――誰もいないはずのところに、誰かがいて、何かをした)

P(少なくともそう考えるほかないとのことだ)

P(そして、何よりの悲劇は、その事故がアイドルのステージの最中に起こったということ)

P(事故の被害にあったアイドルの子は大怪我をして、救急搬送されたという)

P(復活は絶望的なんじゃないかなんて言い出す人までいた)

P(愛依の次にステージに出た子、か……)

透『選択、してもらうから』

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P ブルッ

P(ま、まさかな……?)

P(さすがにそんなこと……あり得ないだろ)

P(それこそ、これが夢や幻じゃない限りは……)

P「そういえば、この大会は……」

P「……中止になるのかな、こんなことがあれば」

P(愛依を厳しい戦いから解放してやれるという気持ちと、愛依の活躍の場が減ってしまうという気持ちが、混在している)

P(愛依自身は、どう思っているんだろうな)


~予選会場 ロビー~

P「おまたせ、愛依」

愛依「お、プロデューサー。思ったより早かったじゃん」

愛依「それでー……やっぱ結構ヤバいカンジのことがあった系?」

P「まあ……そうだな」

P「少なくとも、笑い事じゃないよ」

愛依「そっか……」

P「端的に言うと、ステージの最中で舞台装置が壊れて、事故が起きたんだ」

P「それで、そこにいたアイドルの子が大怪我をした。すぐに搬送されて、今は病院にいるらしい」

愛依「大怪我……」

愛依「……その、怪我したのって、……な、なんて子?」

P「名前は……」

P「そうだ、愛依のすぐ次に出番があった子だぞ」

愛依「……え?」

P「うーん……あ、そうだ。思い出したぞ」

P「少し珍しい感じの名前で……」

愛依「ちょ、ちょっと待っt――」

P「福丸小糸さんって名前だったはずだ」

愛依「――ぁ……」

深夜。

~事務所~

P(愛依を家に送り届けてから、いくつかの書類の確認で事務所に戻ったけど……)

シーン

P(誰もいない事務所……別に珍しいことじゃないんだが……)

P(あんなことがあった後だと、この空気感が全く違うものに感じられるな)

P(既に非日常、ってことなのだろうか)

P「っしょ、っと……」ギィッ

P(時間はあるし、とりあえずPCに来たメールでも整理するか)

P カタカタ

P「……あ」

P(もう来てるな……透の事務所から)

P(今日1日でいろんなことがありすぎたな……)

P「ふぅ……」

P(俺は、事務所を移ると透に言った)

P(まあ、なんとなくわかってはいたが、ただの口約束というわけではないらしい)

P(透のあの言い方と、その直後に起こったあの出来事……)

P「……」

P(今俺が想像していることは、おそらく客観的には荒唐無稽な作り話に感じられるものなはずだ)

P(それでも、俺は、あの透との約束を反故にしてはいけない気がしてならなかった)

P(約束を破ったら取り返しのつかないことになる……そんな根拠のない恐怖がぬぐえない)

P(俺が事務所を移ったら、ストレイライトはどうすれば……)

P(……我ながら呆れるほど即決だったと思う。あり得ない決断をした)

P(しかし、なぜか悪い選択をしたという気分にはならなかった)

P(それも、今日という情報量の多い1日を過ごしたからだろう)

P(……ストレイライトごと移籍することを交渉するか? いや、そんなことをしたら283プロに合わせる顔がなくなる)

P(愛依だけでも……って、それじゃストレイライトが“ストレイライトじゃなくなってしまう”)

P(はづきさんならプロデュースをやることも能力的には不可能じゃないはずだ……けど)

P(そういうことではないだろう。あの3人――あいつらの気持ちを考えなければ)

P「……」

P(去ると言ってしまったやつが、何を今更って話だよな)

P「……ははっ」

P(ここまで乾いた笑いが出たのは初めてかもしれない)

P(笑い声はいつもの自分と同じなのに、まるで別人が俺の口を使って笑ったかのような錯覚に陥った)

P「はぁ……」

P(つくづく自分に呆れてしまう)

P(俺は一体、何をやっているんだろうか)

P「俺は……」

とりあえずここまで。

数日後。

~事務所~

P「……はい。ええ、はい……」

P「……わかりました」

P ガチャリ

P「……」

P(例の大会は、結局中止になるとのことだった)

P(事故にあった子の容態が思ったよりも悪いらしい。そもそも小柄で、事故からの回復がすぐには望めないのだという)

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P ゾッ

P(俺が透の誘いを断っていたら……)

P(もしも、……仮に、だ)

P(愛依が今回の事故の被害者だったとして、体格は悪くないほうだから……怪我からの回復は……)

P(……いや、考えるのはよそう)

愛依「あ、プロデューサー……」

P「愛依……」

愛依「いまの電話って」

P「あ、ああ。大会についてだよ」

P「中止だそうだ。事故にあった子が、数日たってもまだ回復の兆しが見られないみたいでな」

愛依「え? あ、……そっか」

P「せっかく頑張ってきたのに、と思う気持ちもあるだろうけど、こればかりは仕方ない」

P「現実を受け入れて、また1つ1つ仕事をこなせばいいさ」

P「また、ストレイライトの3人で、な」

P「大丈夫。大会の間に愛依はすごく成長したと思うよ」

P「それこそ、……いや、なんでもない」

P「さ、愛依はあと少しでユニット全体でのレッスンだったよな」

P「冬優子とあさひは別々にレッスン場に直接向かうみたいだから、俺もやることあるし、悪いが1人で行ってくれ。っしょ、と……」ガタッ

P「さて、と。コーヒーでも入れてこようかな……」スタスタ

ギュ

P「ぐ」

P(席を離れようとしたとき、突然後ろから袖を掴まれた)

愛依「……プロデューサー」

P「な、なんだ? 早めに行かないとレッスンに遅れ――」

愛依「うちに黙ってること、あるっしょ?」

P「――……」

愛依「らしくないじゃん。そんなの」

愛依「てか、バレバレっつーか……いくらうちがあんまり頭良くないっていっても、そんくらいわかるよ……」

P「……」

愛依「大会のことは、なんていうかさ……残念だったと思うよ。小糸ちゃんが怪我しちゃったことだってすっごく悲しい」

愛依「けど、さ。いまうちがプロデューサーと話したいのは、そういうことじゃないんだよね」

P「愛依。気持ちはわかるけど、ちゃんと時間のあるときに……」

愛依「っ!」

パンッ・・・

P「ぶっ……!」グラッ

P(想像以上に重たい一撃が頬に与えられた)

P(いまある怒りを遠慮なくぶつけたような、そんな平手による意思表示に思える)

P「く……」

愛依「なんで……なんで……!」

愛依「何も言わずに違うところ行っちゃうなんて、どうしてなん!?」

愛依「うちと、うちらと……プロデューサーって、その程度ってこと!?」

愛依「もちろん、さ……プロデューサーがいなくなっちゃうこと自体もヤだよ?

愛依「けど、それはプロデューサーが決めたことだし、うちみたいなガキが何言ってもしょうがないって、わかってるつもり」

愛依「理由だって、そりゃ気になるけど……うちからは聞かない。聞きたくないし、たぶん聞いちゃいけないのかなって」

愛依「プロデューサーは大人だし」

愛依「うちは、うちらは子どもだから」

愛依「でも……いままであんなに一緒に頑張ってきて、一緒に過ごしてきて……」

愛依「その終わりがこんな形なんて、うちは納得できないから!!」

P「俺が別の事務所に行ったとしても、つながりが切れるわけじゃ……」

愛依「切れるよ! だって、うちらとプロデューサーのつながりって、“アイドルとプロデューサー”だけじゃん!」

愛依「うちが告っても返事くれないし! ……さ」

愛依「ごめん、最後のは単にうちのわがまま。“プロデューサー”に言うことじゃないよね。忘れて」

P「愛依……」

愛依「あ、……そっか。あはは……」

P「な、なんだよ」

愛依「結局、プロデューサーにとってのうちらって、その程度だったってこと、……っしょ?」

愛依「事務所が変わって担当じゃなくなっても気にならない。283プロで自分が仕事をするための道具……」

P「そ、そんなことは……!」

愛依「なに? ちがうん? 別に違っててもいいよ」

愛依「少なくともうちには、そう見えたってだけだから」

愛依「気にしないで」

P「他所に行くのを黙ってたのは謝るよ。本当にすまなかった」

P「っ……止むに止まれぬ事情……、なんだ」

P「ただ、これだけは信じて欲しいんだ」

P「これまでに283プロでみんなとやってきた仕事に嘘はない。プライベートだってそうだ」

P「道具だなんてとんでもない。俺はちゃんとストレイライトの3人を……愛依を……あの子を思って過ごしてきた」

P「それだけは、間違いないんだ」

愛依「うちさ、プロデューサーに聞きたいことがあんだけど、いい?」

P「……なんだ?」

愛依「さっき、なんで誤魔化そうとしたのかなって」

愛依「うちさ、下の子の世話とかもするし、お兄とお姉見てても思うんだけど……歳とかカンケーなしで、後ろめたいことがあると誤魔化して逃げようとするよね」

愛依「プロデューサーもそうなんじゃないかって、うちには見えるっていうか」

P「そ、そんなこと……」

愛依「じゃあさ、なんで明日からこの事務所に来る予定がないわけ?」

愛依「これはただのお話だけど、さ」

愛依「もしプロデューサーがここでうちを見送れば、プロデューサーが会いに来ない限りは、もううちらと会うことってないよね」

愛依「そういうスケジュールじゃん、これ」

愛依「……冬優子ちゃんとあさひちゃんにも言ってないんでしょ?」

P「……」

愛依「冬優子ちゃんなんか絶対怒るだろうし。チョーこわそうだもんね。それにさ、あさひちゃんだって……プロデューサーが違うとこ行っちゃうって聞いたらそりゃ悲しむに決まってんじゃん」

P「お、俺は……!」

愛依「会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?」

愛依「だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?」

愛依「違うならちゃんと説明してよ。うちは何時間でも聞くから」

愛依「そのためなら、レッスンさぼってトレーナーさんとか冬優子ちゃんたちにガチギレされたっていい。怖いだろうけど、嫌じゃない」

愛依「そのぶんの責任ならとれるから」

愛依「いまのプロデューサーはさ、……なんてゆーか、無責任だよ」

愛依「きっとアタマだってうちよりずっといいはずで、いままでうちらのことを支えてきてくれて。うちとあの子に付き合ってくれて……良い人なんだと思う」

愛依「それでもさ、……あ~、こんなこと、下の子たちくらいにしか言わないから言いたくないんだけど――」

愛依「――やっていいことと悪いことってあるんじゃないの?」

P「……」

P(何故か……何も言い返す気にはなれなかった。まくしたてて反論することだって、それっぽく言って自分を正当化することだって、きっとできたはずだ)

P(あるいは図星だったのかもしれない。……少なくとも、俺が悪いことに変わりはないのだから)

愛依「プロデューサー……いい加減――」

ヴーッヴーッ

愛依「――……? 電話?」

P(突然、俺のスマホに電話がかかってきた。デスクの上から聞こえる振動音だ)

愛依「仕事のかもしれないし、……って。切れちゃっt――」

P(たぶん、俺にスマホを渡してくれようとしたんだと思う。しかし、愛依は画面を一瞥すると、何かに気づいたように、スマホを俺に渡さず改めて凝視した)

愛依「……」

透『ふふっ……でも、言うわ。Pは――』

愛依「……!」

P「えっと、仕事の連絡かもしれないんだよな? それ」

愛依「……もういい」ボソッ

P「え?」

P(そう言った愛依の声は、ドスが聞いていてとても重たい一撃を食らったかのような衝撃があった)

愛依「あ゛あっ!!」ブンッ

P(そして、ソファーにスマホを投げつけて――)

愛依 ズカズカ

P(――荒々しく立ち去ろうとした)

P「め、愛依……!!」

愛依 クルッ

P「……」

愛依「……っ!」キッ

愛依 スタスタ

P(俺を思い切り睨みつけた愛依は、今度こそ振り返ることなく出て行った)

P「……」

P(ソファーに転がるスマホを拾う。電話はとっくに切れてしまったみたいだが、それに応じてショートメッセージが何通か送られてきていた)

浅倉透<一緒にてっぺん目指してくれること、すごく嬉しいから。

浅倉透<ありがとね。Pは僕を選んでくれるって、信じてた。

数時間後。

~事務所前~

P「……」

P(最後の仕事を終えて、これから帰路につくところだが)

P(事務所から出て、歩道に立った今……呆然と立ち尽くしている)

P(きっと、俺は間違っている)

P(間違ってしまったんだ)

愛依『会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?』

愛依『だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?』

P「……」

愛依『……もういい』ボソッ

愛依『……っ!』キッ

P(正直、どうしていいのかわからなかった)

P(自分のどうしようもなさに呆れるのはもちろんだが、呆れたところで次への一手が打てるわけじゃない)

P(頭が良ければすぐに解決するような話でもないと思う)

P(無力感を抱きすぎて、何もする気が起きない――そんな状態になっていた)

P「……とりあえず帰るか」

P(とはいえ、ずっとここに立ち続けるわけにもいかない)

P(俺に引き返すという選択肢はないのだ。物理的にも、精神的にも)

P トボトボ

「――あの、すみません」

「283プロダクションの方でしょうか?」

P「ええ、そうでs……いえ、違いました」

「急にすみません。私――」

P「……関係ありませんので。では、私はこれで……」

「――ストレイライトのプロデューサーを辞める人に興味があるんです」

P「……!?」クルッ

「よかったらお話を伺えないでしょうか?」

P(まっすぐで、綺麗な瞳だった)

P「……ご用件は」

「近くの喫茶店では……いかがでしょう?」


~喫茶店~

P「えっと……それでは改めて自己紹介を……」

P「そうだ、名刺……あ」ガサガサッ

P(現時点で有効な名刺は持っていないんだった……)

「それは結構です。必要ありませんので」

P「そ、そうでしょうか……?」

P「失礼ですが、ええと、名前は……」

「……樋口円香です。よろしくお願いします」

P「樋口円香さん、ですね。私は、ご存知とのことですが……Pと申します」

円香「浅倉透の新しいプロデューサーは……うん、確かに一致してる」ポチポチ

円香「あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか」

とりあえずここまで。

~透の所属する事務所 Pの部屋~

P カタカタ

P「……」

シーン

P「な、慣れないな……」

P(透のいる事務所での待遇は、正直に言えばかなり良いものだった)

P(専用の部屋があり、給料も高い)

P(ただ、アイドルたちがはしゃぐにぎやかさはなく、自分のキーボードを叩く音が部屋に響くのを、不自然に感じている俺がいる)

P「なんか、本当にそれ目当てで移ったって283プロの人たちに思われそうだな……」

P(もっとも、それ以上にクズだと思われていても文句は言えないんだと思う)

P(俺がしたことは、たぶんそういうことだ)

コンコン

P「あ……はい! どうぞ」

ガチャ

透「やっほー」

P「透か……どうしたんだ?」

透「え? 別にどうもしないよ」

P「そ、そうか……」

透「あー……。邪魔、だった?」

P「そういうわけじゃないよ」

P「いつも通りに仕事をしていても、こんなに静かで広い部屋にいるのは、なんだか落ち着かなくてな」

P「知ってる人にいてもらったほうがかえって居心地が良いよ」

P「そこにある椅子、座っていいぞ。適当にくつろいでくれ」

透「ありがと。そうする……っしょっと」

P カタカタ

透 ジーッ

P カタカタ

透 ジーッ

P「……」

透「?」

P「あの……くつろいでいいんだからな?」

透「うん。だから、そうしてるよ」

P「いや、さっきから俺のことをずっと見てるだけだと思うんだが……」

透「Pを見ながらくつろいでる」

P「お、おう」

透「仕事、まだかかりそうなの?」

P「今やってる分はもう少しで終わると思う」

透「そっか」

P カタカタ

透 ジーッ

P「……透」

透 ニコッ

P「はぁ……」

P カタカタ

P「ふぅ……よし、っと……」

透「終わったの?」

P「ひと通りな」

透「Pの椅子、大きいね」

P「? あ、あぁ……俺にはもったいないくらい良い椅子だよ」

P(実際、頑張れば2人でも座れるくらいに大きく、座り心地も良い椅子を使わせてもらっている)

透「じゃあ、一緒に座ろ」スタスタ

P「え、いや、ちょっと待て何言って……」

透「よっと」ボフッ

P「っとと……」ギギギィッ・・・

P「……」

P(俺の上に――前に?――透が座ってきた)

P「あの……」

透「仕事、ひと通り終わったんでしょ」

P「まあ、そうだが」

透「じゃあ休憩、必要かなって。一緒に休もうよ」

P「いや、透はどうだか知らないけど俺はむしろ落ち着かないというか何というか……」

透「?」

P「誰かが来たらどうするんだ……誤解されるかもしれないぞ」

透「えー、なにそれ。誤解?」

P「そうだよ」

透「大丈夫。誤解じゃないから。僕にとっては」

P「……」

P(良い匂いがするし、なんだか柔らかいし、いろいろと困る。休まる気がしない)

透「Pは、さ……」

透「僕のために、働いてくれてるんだよね」

P「俺は透のプロデューサーだし、そうなるな」

透「僕をてっぺんに連れて行ってくれる……」

透「そうでしょ?」

P「ああ」

透「ふふっ、そっか」モゾモゾ

P「……最早近づきすぎて密着状態になっているんだが、透」

透「いいじゃん、別に」

P「良くないだろ」

透「嫌?」

P「……嫌ってわけじゃないけどさ、プロデューサーとアイドルがこうしてるのはまずいだろ」

P「傍から見ればただイチャついてるだけ――」

ガチャ

円香「何度もノックはしたので入りまs……」

P「――……」

P「樋口さん。これは、誤解だ」

円香「最低」

透「新しいアイドルの人?」

P「そうだけどそうじゃないというか……なんというか」

P「アイドルは辞めてないけど、今は俺の秘書をしてくれてる……って感じかな」

透「へぇ……」

P「な、なんだよ」

透「別に。なんでもない」

円香「……そろそろイチャつくのをやめたらどうですか」

P「ほら……! だから言っただろ」

透「はいはい、ごめんね」スッ

透「雛菜のとこ行ってるから」

ガチャ

透「またね、P」

バタン

円香「……」

P「お、幼馴染なんだよ、あいつは」

円香「そうですか。私には、それ以上に見えましたけど」

P「だから、誤解なんだって」

円香「まあいいです。“それについては”興味ないので」

P「そ、そうか……」


二週間前。

~喫茶店~

円香「あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか」

P「私が……ですか?」

円香「はい」

円香「この前中止になった大会、覚えていますよね」

P「ええ。……ついさっきまでプロデュースしていたアイドルが出ていましたから」

円香「私は、中止になった原因を知りたいんです」

P「そうですか……。ちなみに、樋口さんはあの大会には出ていたんですか?」

円香「出ていましたよ。あなたのアイドルと一緒のグループになったことはありませんが」

P「それなら、原因については知っているはずだ。少なくとも、樋口さんのプロデューサーやマネージャーなら知っていることですよ」

P「ステージでの事故。そして巻き込まれたアイドルの子の大怪我。原因はそのように伝えられています」

円香「その怪我をした子は……っ、私の幼馴染です」

P「! ……そうだったのか」

円香「それに、あなたが今言ったことは理由であって原因じゃない」

円香「私が知りたいのは、“誰が”あの事故を起こしたのかということだから」

P「ま、待ってくれ! あの事故が人為的なものだって言うのか……!?」

透『今日言いたいのは、お願いじゃないってこと』

透『選択、してもらうから』

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P「……」

P(そんな、ばかげている)

P(それでも、なぜか、あり得ないと言い切れない自分がいた。本当に、なんでだろう)

円香「大会攻略の一環として自分でいろいろと調べる中で、偶然わかったことがあるんです」

円香「あの大会に来ていたアイドルのリストには、1つだけ、大会に参加していないアイドルのIDがあった」

円香「もちろん、あの日だってそう」

P「でも、それならとっくにその子が容疑者になってるんじゃないのか? 君が調べられることなら、大人にわからないはずがない」

円香「その通り。だから、おかしい」

円香「誰も疑ってない。誰も……理由ばかりを見て、原因が見えてない」

円香「普通なら、そんなはずないのに」

円香「最初は、自分がおかしいんじゃないかと疑うこともありました。正しいのは周りで、間違っているのは私だと」

円香「でも、どんなに考えても……疑うべき点はそれしかなかった……!」

円香「っ、……なのに、小糸があんなことになったいきさつを説明してくれそうな人なんて、誰もいなかったんです」

円香「なんでかはいまでもわかりません」

P「……」

円香「最初にそのアイドルの存在を知ったときは、変だと感じてもそれほど気にしていませんでした」

円香「ただ出入りしているだけならそういうこともあるか、と」

円香「IDも、ゲスト用だったのか、名前がわかるようなものにはなっていなかったので」

円香「そう……誰なのかがわかっていれば……!」

P「というと、名前が重要なのか……?」

円香「名前そのもの、というわけではないですが――」


大会(予選第2回目)当日。

~予選会場 ロビー~

円香『……落し物?』ヒョイ

円香『これ、入講に必要なIDカード……』

円香《何気なく、IDを見てしまう》

円香『って、例のゲスト用ID……!』

円香《なんて偶然》

円香《まあ、だからどうしたって感じ。落し物だし、カウンターに預けるだけ》

円香『落し物です。そこで拾いました』

『ありがとうございます。お預かりしますね』

円香『はい。お願いします』

円香《不思議なこともある……》スタスタ

『すみませ~ん……』

『はい、どうなさいましたか?』

『この辺に~、入るためのカードって落ちてませんか~~?』

『ああ、それならつい先ほど届きましたよ。……こちらでしょうか?』

『やは~! これです~~!」

円香《あれ、この声、この話し方……》

円香《……雛菜?》

『ありがとうございました~』テテテテテ

『よいしょ……っと!』ピッ

ガコン ウィーン・・・

円香『……え』

円香《なんで、私たちでも通れないあのゲートを、あいつはゲスト用のIDで開けられるの……?》

円香のステージが終わった後。

~グループ2 控え室~

円香『……』

円香《何かが引っかかる……雛菜を見かけてから、嫌な緊張感がなくなってくれない……》

ピロン

円香『メール? 一体誰から……』

『FROM :-----------------------------
 件名 :階段
 本文 :(本文はありません)    』

円香『って、スパム……』

ズキン

円香『う゛っ!?』クラッ

------------------------------------------
マドカ《ここを曲がって……》

マドカ《この階段を下りれば、コイトがいる》

コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・
------------------------------------------

円香《な、なにこれ……。私の記憶なの?》

------------------------------------------
ヒナナ『もっとお話したかったけど……』

ポンッ

コイト『ぴゃ!?』

ヒナナ『“また今度”ね~、コイトちゃん』
------------------------------------------

円香《これは私の記憶じゃない。雛菜と小糸だけの記憶。でも……》

円香《ま、まさか……!》

円香《いま私が思ったことは、呆れるほどにばかばかしくて――》

円香《――恐ろしいほどに現実味を帯びていた》

円香 ダッ


~ステージ前~

円香『はぁっ……はぁっ……』タッタッタッ

円香『……!』ピタッ

円香『そんな……』

円香『間に合わなかった、なんて……』ペタリ

円香「こんなこと、人に話したって信じてもらえるわけがない……」

円香「それでも、私は、雛菜がこの件に深くかかわっていると確信しています」

P「……俺に、あ、私に行き着いたのは何故でしょうか?」

円香「敬語なら大丈夫です。あなたに声をかけたのは――」


~ステージ(予選)外 通路~

円香 スタスタ

ガチャ

バタン・・・

円香『……』フラフラ

円香 ペタン

円香 ポロポロ

円香『小糸っ……!』グッ

円香『ごめんね、ごめんね……』ポロポロ

ピロン

円香『今度は何……!?』

『FROM :----------------------------------------
 件名 :283プロを離れる和泉愛依のプロデューサー
 本文 :近づけば、知りたいことがわかるかも    』


円香「同じアドレスから、そんなメールが来たんです」

円香「その後、何度も私からメールを送ったのですが、返信は来ませんでした」

円香「それでも、あのメールは私の味方だと思った。あんなことがあったから……信じてみようと思ったんです」

円香「他に味方なんて、いなかったから」

P「そういうことだったのか……」

円香「ちなみに、あなたは283プロを離れた後、どうするんですか」

P「もう正式に決まってることだし言っても問題ないか……これからは、浅倉透をプロデュースすることになる」

円香「……本当、うんざりするほどドンピシャ」

P「?」

円香「雛菜は、その浅倉透と同じ事務所なので」

円香「メールの通りにあなたに近づいて正解でした」

P「おう……でも、だからって俺にどうしろと言うんだ?」

P「君が――樋口さんが幼馴染の福丸さんのために真実を知りたいというのはわかった。でも、内部の情報をリークするわけにはいかない」

P「協力できるかと言われると、正直厳しいと思う」

円香「はい。それはわかっています」

P「え? そ、そうか?」

円香「だったら、なってしまえばいいでしょ。私も、内部の人間に」

P「どういうことなんだ……?」

円香「私を秘書として雇ってください。それくらいのお願いはしてもいいでしょ。きちんと、あなたの仕事をサポートしますから」

P「待て待て、君を秘書として雇えたとしても、樋口さんが今いるプロダクションとの所属アイドルとしての契約はどうなるんだ?」

円香「事務所なら辞めてきました。格好良く言えば、フリーランスです」

P「……」

円香「それくらい、本気なので」

P「手伝ってくれる人がいるのは助かるし、樋口さんがそれでいいなら……わかった、協力するよ。俺も、そこまで事情を聞いてしまっては、無関心を装えないからな」

円香「ありがとうございます。これから、よろしくお願いしますね」

とりあえずここまで。

二週間後に戻る。

~透の所属する事務所 Pの部屋~

円香「さっき、あの子……「雛菜のとこ行ってるから」って言っていましたね」

P「ああ。2人とも、仲が良いみたいだ」

P「仲が良すぎて同じユニットにしてもらえなかったとかいう話もあるくらいだからな」

円香「そう……」

P「やっぱり、雛菜ちゃんのこと……」

円香「……証拠は何もありませんが、それでも、不思議な体験と自分の直観が、そう言ってるんです」

円香「自分でも、呆れるほど筋道立ってない」

P「いや、ロジカルじゃないとしても、俺にもわかるんだ」

P(透と雛菜ちゃん……あの2人には間違いなく“何か”がある)

P(看過できない“何か”が)

P(それをきちんと説明できない、あるいはしたくないという思いがあって、なかなか解決できないというのが現状だろう)

P(原因として思い浮かぶものが、常識的な見方をすれば荒唐無稽でしかないんだから)

円香「あの2人に関する資料をいただけますか」

P「……一応、プライバシーだけどな」

円香「はぁ……私が何のためにあなたに近づいたと思ってるんです?」

円香「それに、秘書が資料を整理するなんて、別におかしなことではないでしょ」

P(ここまで来たら、俺も腹をくくるか……)

P「まあ、それもそうだな」

P「まとめて渡せるようにしておくよ。明日まで待ってくれないか」

円香「わかりました。お待ちしています」

P「任せてくれ」

グゥ・・・

P「?」

円香「っ!?」

P「……」

円香「……っ」

円香「……」

P「……あー」

P「そういえば、もう昼だったな」

P「俺は結構腹が減ってるんだが、その、なんだ……」

P「樋口さんも一緒にどうかな。ランチとか」

円香「……私のために格好つけないでください」

P「腹が減ったのは俺も同じだったし、気にしないでくれ」

P「で、どうかな?」

円香「……はぁ」

円香「そうさせてもらいます」

~レストラン(洋食)~

P「好きなだけ食っていいからな」

円香「……」

P「ま、まだ女子高生なんだ。食べ盛りだろう、きっと」

円香「……はぁ」

P「! こういう店じゃないほうがよかったか?」

円香「いえ、そういうわけではないです」

円香「奢ってもらう身で、わがままなんて言うつもりないので」

P「そ、そうか……」

円香「さっきから、ずっと無理してる」

P「む、無理?」

円香「あなたにとって扱いにくい女なんですね、私は」

P「何を言うんだ……。まあ、確かに俺が今まで接してきた子たちは――」

P(冬優子、あさひ、……愛依)

P「――っ」

円香「すみません。変なことを言いました。謝ります」

P「いいんだ……気にしないでくれ」

P「ほら、とりあえず何を頼むか決めよう」

円香「はい」


P「その……福丸小糸さんとは、幼馴染だって言ってたよな」

円香「……はい」

P「雛菜ちゃんとも」

円香「まあ、そうなります」

P「そして、透は俺の幼馴染、か……」

円香「不思議」

P「?」

円香「偶然にしては出来過ぎてるような、そんな感じ」

P「……確かにな」

円香「今更、私たちは引き返せないってわかってる。それでも――」

円香「――自分たちが本当に立ち向かうべきは何なのか、それがわからないんです」

P「……」

円香「雛菜を問い詰めれば解決するのか、あるいは浅倉透を……」

P「樋口さんが言ってたあのメール……あれが何だったのか、誰が送ったものなのか、そういったことがわかれば、解決に近づくかもしれないな」

P「話を聞いてる限り、メールの送り主が本質的な何かを知っているのは明らかだと思うんだ」

円香「あのメールを受け取ったときに見た“自分の知らない記憶”……あれは、一体」

P「そうだ。それもあった」

P「わからないことは山積みだな……」

P「……はぁ。嘆いても仕方ない、か!」

P「1つ1つ、できることからやっていこう」

円香「ふふっ」

P「え?」

円香「いえ、独り言の多い人だと思っただけです」

数日後。

~テレビ局~

透「じゃ、行ってくる」

P「ああ。やらかすんじゃないぞ」

透「えー? ふふっ、何それ」

P「お前を見てると、なんだかそれだけは言わないといけない気がしてな」

透「もしかして、僕のこと信用してない?」

P「信用はしても、心配はするよ」

P「自分のアイドルのことを気にするのは、プロデューサーとして当然のことだからさ」

透「……そっか」

透「わかった。ありがと」

透「今度こそ、行ってくるから」

P「行ってらっしゃい。頑張れ、透」


P「特番の収録で、終わるまで数時間はある、か……」

プシュ

P(その辺の自販機で買った缶コーヒーを開け、飲みながら数日前のことを考える)

P『わからないことは山積みだな……』

P『……はぁ。嘆いても仕方ない、か!』

P『1つ1つ、できることからやっていこう』

円香『ふふっ』

P『え?』

円香『いえ、独り言の多い人だと思っただけです』

P(あの子、ちゃんと笑うんだな……)

P「……」

P(樋口円香の第一印象は、まっすぐで綺麗な瞳を持つ女の子、だった)

P(でも、接していくうちに、彼女の弱さのようなものが時々垣間見える気がして――)

円香『誰も疑ってない。誰も……理由ばかりを見て、原因が見えてない』

円香『普通なら、そんなはずないのに』

円香『最初は、自分がおかしいんじゃないかと疑うこともありました。正しいのは周りで、間違っているのは私だと』

円香『でも、どんなに考えても……疑うべき点はそれしかなかった……!』

円香『っ、……なのに、小糸があんなことになったいきさつを説明してくれそうな人なんて、誰もいなかったんです』

P(――きっと――)

円香『今更、私たちは引き返せないってわかってる。それでも――』

円香『――自分たちが本当に立ち向かうべきは何なのか、それがわからないんです』

P(――独りでは戦えないんだ。だから、俺を頼ってくれている)

円香『あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか』

P(俺が、一緒に戦ってやらないといけないんだ)

P(これも、根拠もロジックもない、荒唐無稽な考えだが――)

P(――彼女の力になれるのは自分しかいない、そう思えた)

P「……っし! 頑張んないとな、俺も」

P(そういえば、近くに共用のテレワーク用スペースがあったな)

P(時間はあるし、外でできる仕事はそこで片付けるか……)

~テレワーク用スペース(共用)~

P カタカタ

P(うん、悪くないな。こういうのも)

P(それに、共用スペースっていうのが、なんだか……もう少し賑やかになれば――)

あさひ『わーい! 冬優子ちゃんの隣ゲットっす!』ダキッ

冬優子『だ、抱きつくことまでは許可してないわよ! ちょっとって言ったじゃない! ……もう』

愛依『いいねいいね~、見てて微笑ましいわ』

P『なんだかんだで仲良いんだよな』

P(――“みんながいるあの場所”みたいに、なるんじゃないかって)

はづき『プロデューサーさんは、優しい方です』

P(そう、思えて……)

P ポロ・・・

P「っ!?」

P(な、何泣いてるんだ、俺は……)

P(俺には、そんな風に涙を流す資格なんて、ないのに)

P「くっ……くそ……」ポロポロ

P(なんで、止まらないんだ……!)

「すみませ~ん。隣のここ、使ってもいいですか~?」

P「え? あ、はい……」グスッ

P「どうぞ」

「ありがとうございます~」

P(……仕事しないとな)


P カタカタ

ピトッ

P「うわっつぁ!?」

P(き、急に熱い何かが顔に!?)

P「……って、コーヒー?」

P(一体誰が――)

「ったく、なんでずっと隣にいんのに気づかないのよ」

P(――お前は)

「久しぶり……よね。うん」

「……」

「あー……、もう! なんで何も言わないのよ! 久々の再会なんだから、もっと喜んだらどうなの?」

P「いや、その……なんだ」

P(ちょうど、色々と思い出していたんだ、なんて……)

「って、あんまりおっきな声出すと注目浴びるわよね。声抑えないと……」

「まあ? 変装はもちろん完璧、だけどね」

P「ははっ、そうだな。それに、その口調ならバレないだろう」

「~~~っ! ほんっと、むかつくわね!」

P(こんなやり取りをしたのは、本当、いつぶりなんだろうか。その“完璧な変装”越しでも俺には相手が誰なのかわかっていたから、それが成立したんだろう)

P「テレワーク用のスペースで会えるなんて思ってなかったよ。久しぶりだな――」

P「――冬優子」

とりあえずここまで。

冬優子「突然いなくなったからどうしてるんだって思ったけど……無駄な心配だったわね。あーあ、損した!」

P「……心配してくれてありがとう」

冬優子「っ、心配って言ったってちょっとだから……! ほんとに、……ちょっとなんだから」

冬優子「い、忙しくてあんたのことなんて考えてない時間の方が長かったわよ!」

P「ははっ、……はいはい。わかってるよ――」

P(――冬優子が俺のことを本気で心配してくれていたんだってこと)

P「冬優子は……その、怒ってはいるのか?」

P「俺はお前たちを、はづきさんを、社長を、裏切ったんだぞ」

冬優子「ふゆがあんたを怒って、それで何か解決するわけ?」

P「それは……」

冬優子「……いいのよ」

P「!」

冬優子「いいの。あんたが選択したことだしね」

冬優子「いまはこうして、見ててあげるわよ」

P「なんで――」

冬優子「?」

P「――なんで、そんなに優しいんだ?」

冬優子「だーかーらー、……そんなんじゃないわよ、もう」

冬優子「ほんとに、そんなんじゃないの」ボソッ

冬優子「ま、あんたにはわからないだろうけどね」

P「そ、そうか……」

P(そういえば……)

P「冬優子はなんでこんなところにいるんだ? ここはアイドルが来るような場所じゃないと思うんだが」

冬優子「ふゆはまだ学生ってこと、忘れたの?」

P「あ」

冬優子「課題をするのにちょうどいいのよ、ここ。テレビ局と近いし、収録がある時はよく来てるってわけ」

冬優子「それに……まあ、最近はパソコンを使うことが多いから……」

P「?」

冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流しなせっての」

冬優子「……と、とにかく! そういうわけでここに来る理由ならあるのよ、わかった?」

P「ああ。アイドル以外のこともちゃんとやってるんだな」

冬優子「当然でしょ。ふゆのプロデューサーだったのに、そんなことも知らないの?」

P「いいや、知ってるよ。再確認できて嬉しかっただけだ」

冬優子「そ、そう……?」

冬優子「あんたって、……ふふっ」

P「俺はさ……正直、冬優子に会うのが怖かったんだ」

愛依『……冬優子ちゃんとあさひちゃんにも言ってないんでしょ?』

愛依『冬優子ちゃんなんか絶対怒るだろうし。チョーこわそうだもんね。それにさ、あさひちゃんだって……プロデューサーが違うとこ行っちゃうって聞いたらそりゃ悲しむに決まってんじゃん』

愛依『会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?』

愛依『だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?』

P「っ」

P「こうしてまた、普通に話せているのがまだ少し信じられないくらいには」

冬優子「ふーん、あんたにとってのふゆはそういう感じなんだ」

P「い、いや、怖いだけだなんて思ってないからな!?」

冬優子「そうは言ってないじゃない!」

冬優子「……さっきも言ったでしょ。いい、って。あんたの選択だ、って」

冬優子「裏切ったとか思ってるの、たぶん愛依とあんただけよ」

P「そうなのか……? あ、あさひは?」

冬優子「さあね。“あいつはいつでもあいつ”よ」

冬優子「アレが考えてることなんてわからないわ」

P「……」

冬優子「はぁ……過ぎたことを考えたって仕方がないでしょ」

冬優子「いまできることをやればいいんだから」

冬優子「あんた、ふゆより大人なんだから、もっとしっかりしなさいよね」

P「確かにな……ははっ、大人である俺が学生に言われるのは情けない限りだが、その通りだ」

P「少し気持ちが楽になったよ」

冬優子「らしくないのよ、いまのあんたは」

P「そうかもな。自分を見失っていた」

P「それから、前を向くことも忘れていたんだと思う」

P「ありがとう、冬優子」ニコッ

冬優子「!」

冬優子「れ、礼を言われるほどのことは……してない……わよ」

P「そんなことはない。こうして冬優子に会えていなかったら、俺は虚像に怯えながら前を向くことだってできなかったはずだ」

P「だから、礼を言いたくもなるんだよ」

冬優子「……調子狂うわね。話題を変えさせてもらうんだから」

冬優子「あんた、いまは浅倉透のプロデューサーしてるんだってね」

P「ああ、よく知ってたな。まだ移って日も浅いのに、行った先の事務所だけじゃなくて、担当アイドルまで知ってるなんて」

冬優子「まあね。それに、さっき、あんたとその子がテレビ局で一緒にいるの見えたし」

冬優子「ここに来る前は収録だったの。その帰りにたまたま見たってだけよ」

冬優子「話を戻すけど、その……調子は、どうなのよ」

P「どうって言われても……まあ、普通だぞ?」

冬優子「283プロじゃないところに行って何も変化がないってことはないんじゃないの」

P「変化……あ」

P「秘書がいるよ、今は」

冬優子「ひ、秘書!?」

P「お、おう……」

冬優子「あんた秘書なんて雇ってナニさせてんのよ!」

P「何って……そりゃあ、手伝ってもらってるだけだぞ」

冬優子「手伝いって……! あんなことやこんなことさせてるとか、さ、最ッ低……!」

冬優子「どうせ自分用の部屋とかもらって立派な机と椅子も用意されてるんでしょ!?」

P「よ、よくわかったな……」

冬優子「それで机の中に秘書を潜らせてるとか……」

P「待て待て、冬優子はきっと思い違いをしている。たぶん読んでいる本の内容が偏っているせいだ」

P「仕事の手伝いをしてもらってるんだよ。当たり前だろう」

P「自分から俺の秘書になりたいと言ってきてくれたんだ。ちょうど俺が283プロを去った直後に、な」

冬優子「……! 随分と不思議なタイミングじゃない」

P「それは俺も思ったよ」

P(もっとも、不思議なのはタイミングだけじゃないが……)

P「アイドルの子で、事務所を辞めてきたとか言ってたぞ」

冬優子「そう……」

P「まあ、色々と訳有りではあるかもしれないな」

P「それでも……まあ時々手厳しいことを言われるが……優しい子だよ」

P「よく手伝ってくれていると思う。俺も、その頑張りには応えたいって思うんだ」

P(彼女の弱さを支えて、求める真実を一緒に見つけるために)

冬優子「なんだかんだ、うまくやってんのね」

P「なんとか、な。でも、まだまだこれからだと思う。それこそ、冬優子の言う通りに今できることを確実にやって――」

P「――前を向いていかなきゃいけないんだ」

冬優子「この短時間で随分とイキイキしちゃって……ま、それならいいわ」

冬優子「そのうち、ふゆたち全員に挨拶しに来なさいよ」

冬優子「愛依のことも……できる限りなんとかしてみるから」

冬優子「あさひだって、あんたのことが好きだから一緒にやってこれたの。それを忘れんじゃないわよ」

冬優子「繰り返しだけど、裏切ったとか思わなくていいから」

冬優子「あそこは、あんたの居場所なの。これまでも、これからも、ずっとね」

P「冬優子……」

冬優子「ちょっと話しすぎたわ。じゃ、ふゆはもう行くから」カタカタ

冬優子「シャットダウンして……っと」

冬優子 ガサゴソ

冬優子「……」

冬優子「また、会うんだからね」

P「ああ」

P「283プロが俺の居場所だって言ってくれた冬優子の気持ちも忘れない」

P「また、な」

冬優子 ヒラヒラ

P「……」

P(久々に見届ける後姿がそこにはあった)

P(しかし、同じなのは見た目だけで)

P(その背中から伝わってくるものは、以前とは違っていた)

冬優子『なんでもないわよ。ふふっ』クルッ

冬優子『……明日からも、お仕事頑張りましょうねっ。プロデューサーさん!』

P(あの頃が、なんだかとても昔のことのように感じられる)

P(それでも、決して忘れたわけじゃない。むしろ、鮮明に覚えている)

P(あの時と今は確かに違うが、変わってしまった、のではなく、変わることができた、んだろう)

P(成長を見届ける親というのは、こういう気持ちになるものなのかもな)

ヴーッ

P「っと、メッセージか」

樋口円香<頼まれていた雑務、終わりました。他にも伝えることはありますが次に会ったときにします。直接話したほうが良いと思うので。

P「了解、ご苦労様、っと……送信」ポチッ

P(これが、“俺の今”……なんだな)

とりあえずここまで。

予想以上に忙しくなってしまい、予定よりも進行が遅れています。すみません。

ここでのお話自体は着実に完結へと向かっているので、読み続けてくださるという方はこれからもよろしくです。

>>1です。まずは訂正から。

>> 訂正:

冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流しなせっての」
→冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流せっての」

失礼しました。

同日。

~透の所属する事務所 Pの部屋~

円香「領収書は……確か」

円香 ガチャガチャ

円香 ガラララ

円香「そう、ここ……」

円香 ガサゴソ

円香「……これで全部」

コンコン

円香「? はい」

「失礼します~」

円香(この声って……)

「あは~、円香先輩だ~~」

円香「……雛菜」

雛菜「うん~、雛菜だよ~~」

円香「……」

円香(思い出すのは、ステージの上の血の色――)

円香「――っ」

円香(平常心……平常心……)

雛菜「あれ~? 透先輩いないの~~?」

円香「あの子ならいない。今日は仕事でプロデューサーとテレビ局に行ってるから」

雛菜「そうなんだ~。ざんね~~ん……」

円香「日を改めれば?」

雛菜「まあ、そうなんだけど……」

雛菜「……雛菜、円香先輩ともお話したいな~って」

円香「……」

雛菜「だめ~?」

円香「仕事の邪魔……しないなら、別にいいけど」

雛菜「わかった~。気をつけるね~~」

円香(聞き出すには絶好のチャンス……でも)

円香(突然のことで、どうしていいのかわからない)

円香(ここは適当に相手をして、次に備えてからまた話せばいいかも)

円香 カチャカチャ

雛菜「円香先輩は、アイドル続けないの~?」

円香「たぶん、続ける」

円香「でも、いまは他にやりたいこと……ううん、やらないといけないこと、あるから」

雛菜「そっか~」

円香「あんたこそ――雛菜こそ、レッスンとか仕事とかないわけ?」

雛菜「あ~、それ聞く~~?」

円香「?」

雛菜「雛菜、活動休止中だから――」

雛菜「――いまは透先輩の付き人だよ~」

円香「そう……ていうか、付き人ならこんなとこにいないで、テレビ局にいなきゃ駄目でしょ」

雛菜「うん! だからいまはサボりだよ」

円香「呆れた」

雛菜「いまはあのお兄さんがいるし、雛菜がいる必要なんてないんだけどな~」

円香「どういうこと?」

雛菜「前のプロデューサーも、マネージャーも、透先輩の面倒なんてちゃんと見てなかったから~」

雛菜「それに比べて、お兄さんなら、ちゃんと、いつでも面倒を見てくれるでしょ~? 幼馴染だしね~~」

円香「……それで、雛菜は働かずにお金をもらう金食い虫をやってるってこと」

雛菜「ひど~い。まあ、そうだけどね~~」

円香(やっぱり、おかしい)

円香(あまりにも出来すぎてる)

円香(あの人がこのプロダクションに来て浅倉透のプロデューサーになれば、雛菜は晴れて本当の意味で自由の身……)

円香(……雛菜に人事を動かせるとは思えないけど、偶然ではない何かがあるような気がしてならない)

円香「なんで活動休止中になったわけ?」

雛菜「言われちゃって~……お前は態度がなってないから、アイドル休んでしばら透先輩の付き人でもやってろ~~だって」

雛菜「しかもアイドルに復帰しても絶対に透先輩と同じユニットにはしてやらない~とか言われて……こんなのしあわせ~じゃない~~」

円香「……」

円香(それも、どこまでが本当なんだか)

円香「自由になれたなら、好きなとこにいけばいいでしょ。ここに居ても楽しくないと思うけど」

雛菜「別にそんなことないよ~?」

雛菜「円香先輩と一緒でも、楽しい~ってなれると思う~~」スタスタ

円香「そう? 私たち、そんなに仲良かったっけ」

雛菜「仲良くなればいいと思う~」スタスタ

円香「え……」

円香(書類の整理をしながらで、雛菜の方をあまり気にしてなかった)

円香(気づけば、雛菜は私の目の前にいて――)

雛菜「円香せんぱ~い♡」ズイッ

円香(――私は肩に手を置かれて、雛菜の顔が耳元へ近づくのをただ感じていることしかできなかった)

雛菜 スゥ・・・

円香(雛菜が、私の耳元で何かを呟こうとしている気がした)

雛菜「……」

円香「……」

雛菜「……やは」

雛菜「やっぱ、いまはいいや~」パッ

円香「?」

雛菜「そのうち、また……」ボソッ

円香「雛菜……?」

雛菜「ううん、なんでもない~」

雛菜「雛菜、そろそろ行くね?」ガチャ

円香「……」

ギィィ

ギィ・・・ピタッ

雛菜「……ごめんね」

ガチャン

>>490 訂正:

>> 訂正:
>>484 訂正:


>>491 訂正:

同日。
→同日。数時間前。

翌日。

~透の所属する事務所 Pの部屋~

P「それで、昨日言ってた「他にも伝えること」っていうのは、何なんだ?」

円香「大した情報かどうかはわかりませんが、それでも、話したほうがいいと思ったので」

円香「雛菜に関することです」

P「! ……そうか」

円香「あの子、いまは活動休止中らしいんです」

P「え!? そうなのか?」

P「俺もあの子について少し社内のデータを調べたことがあるんだが……そんなことは書いてなかったと思うぞ」

円香「雛菜が言うには、上司みたいな……誰かから口頭で通達を出されたみたいで」

円香「どこまで本当かは知りませんが」

円香「それで、いまは浅倉透の付き人ということになっているようですよ」

P「でも、雛菜ちゃんは透の仕事についてきたことなんてないぞ? 俺がいつも透といるんだから、これは間違いない」

円香「それはあなたがここに来てからの話でしょ」

P「あ……」

円香「雛菜は付いてきてないんじゃない。付いていく必要がなくなっただけ」

円香「あなたという、浅倉透の……プロデューサーであり幼馴染である面倒見の良い存在があるおかげで」

円香「あの子はいま、正真正銘、自由の身なんです」

P「……」

円香「まあ、仕事って言われても本人的に楽しくなければやらないって自白してましたし、あなたがこの事務所に入る前もサボっていたかもしれませんが」

円香「とにかく、あの子の行動範囲の広さについては、これで説明がつきました」

円香「私たちが認識した段階では既に……市川雛菜は事実上アイドルではなかった」

P「まさに自由奔放……か」

円香「……」

P「あとは、雛菜ちゃんが事故発生時に現場――もとい舞台装置周辺にいたことを説明できれば……」

円香「少なくとも、雛菜が予選会場にいたことははっきりしています――」

『よいしょ……っと!』ピッ

ガコン ウィーン・・・

円香『……え』

円香《なんで、私たちでも通れないあのゲートを、あいつはゲスト用のIDで開けられるの……?》

円香「――私がこの目で見ているので」

円香「裏方の人のルートで入ったことも」

P「あのルートでもアイドルたちがいる方面へはいけるはず……だから、単なる面会だと言われたらそれまでだ」

P「せめて、舞台に向かったということがはっきりすればなぁ」

P「出場していないアイドル――というか雛菜ちゃんが舞台に行くのはあり得ないことだし」

P「舞台付近にいた関係者に聞き込みをするのは……駄目、だな」

円香「もしそういう人たちが雛菜を見ていれば、すぐに気づいてその場から追い出すはずなので」

円香「そうなっていないということは、たぶん聞き込みは徒労に終わるかと」

P「……これは、参ったな」

P「とはいえ、だいぶ状況と情報は整理されてきただろう」

P「今はとりあえず、着実に前へと進んでいることを喜ぼう」

P(今できることを確実にやって前を向く――俺はやるよ、冬優子)

同日。夜。

~透の所属する事務所 Pの部屋~

P「……ふぅ」カタカタカタッ

P(今日は残業、か)

P(樋口さんが帰ってから早数時間……この前の透の仕事に関して、仕上げの業務がなかなか終わらないでいた)

P(別に透がやらかしたとかではない。むしろ、普通によくやってくれていた)

P(仕事の量を計れなかった俺のミスだ)

P「まあ、それもあと少しで……」カタカタ


P「……っし、終了!」タンッ

P「ん゛んっ、はぁ」

P(伸びをしてから、一呼吸)

P「あ、そういえば」

P(今日はさっきまでやってた仕事に夢中で、メールの受信ボックスを確認しないで放置してたな)

P「どれどれ……」

P(多くは形式的な連絡や見る必要のないお知らせだが――)

P「……これ」

P(――1つ、しばらく目を離せそうにないものが届いていた)

P「283プロ和泉愛依との共演……見た目とのギャップが視聴者の……」

P「メールの差出人は……はづきさんだ」

P「“283プロの和泉愛依”……か」

P(あれだけ距離の近かったアイドルなのに、その文字列を見ただけで、埋めようのない溝のようなものを感じてしまった)

冬優子『裏切ったとか思ってるの、たぶん愛依とあんただけよ』

冬優子『愛依のことも……できる限りなんとかしてみるから』

冬優子『繰り返しだけど、裏切ったとか思わなくていいから』

P「冬優子……」

P(今できることをやって、前を向く――それはあくまでもスタート地点に立つというだけのことだ)

P(そこから、自らの意志で前に進まなければならない)

P(そうして、はじめて時計の針を自分で進めたことになる……きっと、そういうことなんだろう)

P「……よし、やりますか」

P カタカタ

P(はづきさんへの返信メールの下書きを書く――愛依との仕事を請けるのだ)

P(俺は考えなきゃいけない。冬優子が言ったことの内容を、はづきさんがこの仕事を提案してくれたことの意味を――)

P(――そして、愛依の気持ちを)

P(樋口さんと目指すべき真実がある)

P(でも、忘れちゃいけない)

愛依『それでもさ、……あ~、こんなこと、下の子たちくらいにしか言わないから言いたくないんだけど――』

愛依『――やっていいことと悪いことってあるんじゃないの?』

P(俺は、まだ愛依に答えられていないし――)

P『め、愛依……!!』

愛依 クルッ

愛依『……っ!』キッ

P(――応えられてもいないんだから)

とりあえずここまで。

翌日。

~透の所属する事務所 Pの部屋~

ガチャ

P「お、来たな」

透「うん。来たよ」

P「メールで送ったやつ……もう確認してくれたか?」

透「……した」

P「そうか」

透「Pの元カノ」

P「っ!?」

透「やっぱ、そうなんだ」

P「いや、俺は――そんなんじゃないんだ」

P(本当に、そんなんじゃないんだ)

P(冗談でもそんなこと……言う資格なんてない)

P「違うからな」

透「まあ、いいけどさ」

透「Pは僕を選んだんだし」

P「……ああ」

P「これも仕事……経験だ」

P「うまくやってくれ」

透「えー、なにそれ」

透「ふふっ……なんか、適当だね」

P「わざわざ煽るとかはしないでくれよ」

透「しないよ。Pが嫌がることは」

P「……」

透「レッスン、行ってくるから」

P「ああ、頑張ってな」

透「うん……」ガチャ

「きゃっ」

透「わっ」

透「あ……秘書の」

円香「……」

透「これからレッスン行くところだから」

円香「そう……」

透 スタスタ

円香「……」

ガチャ

P「……」

円香「……」

P「……ん゛んっ」

円香「何か?」

P「さっきの小さい悲鳴みたいな……」

円香「それ以上聞いたら、ストライキする」

円香「そういえば、新しい仕事の件ですけど……あれ、請けるんですね」

P「仕事を請けることなんてしょっちゅうだろ?」

円香「そうじゃなくて……283プロの」

P「あ、そういうことか」

P「……うん。自分の過去と向き合わないといけないって思ったんだ」

円香「そうですか。まあ、私とは関係がないようなので、別にいいですが」

P「それが、そうでもないみたいだぞ」

円香「?」

P「透と愛依が共演する仕事なんだが……既に転送したメールにあるように、トークとライブバトルがメインだ」

P「最後には、当日まで非公開だが1日限りでのユニットで歌も披露することになってる」

P「何が言いたいのかというと、この仕事は、ライブができるステージのある舞台でやるんだ」

P「そして、ただの舞台じゃない……使用するのは例の事件があった会場だ」

円香「っ!? ……そんな」

P「実はな、これは本当に限られたごく一部の関係者しか知らなくて、俺も半ば盗み聞きのような形で手に入れた情報なんだが――」

P「――福丸小糸さんの容態が良くなっているらしい。回復の方向だそうだ」

円香「こ、小糸が……!」

P「良かったな、樋口さん。とりあえず、その点については安心して良さそうだ」

円香「小糸に……小糸に会わせてください……!」

P「そうしてあげたいのは山々だけど、この件については一応、部外者ってことになってるんだよ……俺は」

円香「それでも、どうにかできるんじゃないんですか」

P「できるならやっているさ」

円香「優秀なプロデューサーなんでしょ? 秘書としての私の働きぶりに不満があるなら言ってください。何でも。すぐに直すので」

P「樋口さん! ……少し落ち着こう。福丸さんは大丈夫なんだ、とりあえずは。今、何を見るべきで何をすべきか、それを思い出してくれ」

P「事件の原因を明らかにするんだろ? 俺たちはそれを目標に動いていたはずだ」

円香「はぁっ……はぁっ……」

P「大丈夫……大丈夫だ」

円香「……」

P「……」

円香「……本当、あなたの言う通り」

円香「取り乱してすみません。もう、大丈夫です」

P「いいんだ。樋口さんの気持ちは……わかるよ」

P(事件の直前まで、愛依はそのステージにいたんだから)

円香「……話を戻しますね」

円香「では、例の仕事は、あのステージで行われるんですね」

P「ああ。これは確定事項だ」

P「表立ってはそう言われていないが……恐らく被害者である福丸さんの容態が良くなったことが関係しているだろう」

P「また、アイドルの立つ舞台として……あそこが使われるんだ」

円香「不思議……本当に怖いのは、あの会場そのものじゃないのに」

P「……そうだな。まあ、とりあえず俺たちが注目している事件の舞台であることは間違いないんだ」

P「下見と称して堂々と現地調査を行うこともできる」

P「これは、チャンスなんだと思う」

円香「私もそう思います」

円香「まさに、“与えられたチャンス”なのかも……」ボソッ

数時間後。

~レッスンルームの更衣室~

透「ふぃ~……」ドサッ

透「……」

透 キョロキョロ

透「誰もいない、か」

透「ふふっ、こんな時間だし、そうかも」

透「こんな時間……Pに迎えに来てもらおうかな」

透「スマホスマホ……」ガサゴソ

透「……と、あった」

ヴーッヴーッ

透「電話……? Pからじゃ、ない」

ピッ

透「……、あー、もしもし?」

「やは~、透先輩~~」

透「なんだ、雛菜か」

雛菜「なんだ、って、ひどくな~い?」

透「ごめんごめん。そういうんじゃないから」

雛菜「知ってる~、いいよ~~」

透「どうしたの? 急に、電話とか」

雛菜「透先輩の声が聞きたいな~って思ったから~~」

透「ふふっ……なにそれ」

雛菜「ほんとだよ~?」

透「うん、知ってる。ありがと」

雛菜「ねえ、透先輩……」

透「? なに」

雛菜「“トオル先輩が最後にお兄さんと会ったのはどこだっけ?”」

透「Pと? 事務所の部屋――」


------------------------------------

トオル「ほら、ぼーっとしてないでさ」

トオル「手、出しなよ」

トオル「そういう企画だから」

P「え? ああ……」

P「はい」


トオル「ごめんね、なんか」

P「謝らなくてもいいけど……」

トオル「ばいばい。またね」

P「ああ。また、な」
------------------------------------


透「――っつ」バチッ

透「……握手会」

雛菜「あは~」

透「そっか……そういうこと」

雛菜「うん~……でも、あんまり時間ないかも~~」

透「いるんだ、どうにかしようって人」

雛菜「そうかもね~。そこまでは雛菜にもよくわからないけど」

透「僕が……」

雛菜「透先輩~?」

透「ううん。なんでもない」

透「いいんだ。わがまま、聞いてもらったし」

雛菜「……」

透「やろう。今度は、僕の……私の番だけど」

透「で、どうするの」

雛菜「決勝会場で予約されてたとこ、あれってこの前の会場を新しく作っただけの建物だから、ほとんど同じで大丈夫~」

雛菜「細かい違いとかは後で送るね~」

透「わかった」

透「……」

透「……また」

雛菜「?」

透「また、……ううん、今度こそ、最初から……がいいなって」

透「それから、Pと2人で……」

雛菜「透先輩、何か言った~?」

透「別に、ただの独り言」

透「そろそろ切る。Pに連絡しないとだから」

雛菜「わかった~。またね~~」

透「うん。じゃ、また」

ピッ

透「……」

透「てっぺん、いつになったら……」

透「でも、そのうちたどり着けるよね」

透「待ってるよ、P」


同時刻。

~ステージ(予選) 閉鎖中の舞台付近~

雛菜「切れちゃった~」

雛菜「1人でいると~、……広いな~~」

雛菜「んっ」タンッ

雛菜「広~い舞台を、雛菜が独り占め~~」タタッ

雛菜「……なんてね~」ピタッ

雛菜「独り占めできた舞台でも、見る人がいないとな~」

雛菜「雛菜、こういうのはやっぱ向いてないかも~」

雛菜「なんでこうなっちゃったのかな~」テテテテテ

雛菜「あーあ……」ダンッ

雛菜 シュタッ

雛菜「アイドルに……なりたいな」

>>1です。復旧したようなので再開しました。引き続きよろしくお願いします。

とりあえずここまで。

収録の数日前。

~ステージ付近(in 元予選会場)~

P「……」

P(なぜだろう。この前の事件は、結局のところ俺に被害はないのに……)

P「このステージを……いや」

P「この状況を、か」

P(今、自分が置かれている状況――それが俺を落ち着かなくさせている)

P(理由はわからない)

P(前にも、こんなことがあっただろうか?)

P(同じようなセッティングで、周りが危険に晒されるような、そんなことが……)

P「ははっ。パラレルワールドか何かだろ、そんなものは」

P(妄想も甚だしい――)

P「――……」

P(妄想だと、そうやって簡単に脳内から捨て去れれば楽なんだろうと思う)

P(だって――)

P「――デジャヴュにしか感じられないんだよなぁ」

P ドサッ

P「……ふぅ」

P(こうして、ただ観客席から眺めるだけの立場になったら……どうなるんだろうか)

P(久しぶりの目線だ、これは)

P「……」

「プロデューサーさん」

P「!?」バッ

「あ……いまは、Pさん――と呼んだ方がいいのかもしれませんね~」

P「は、はづきさん……」

はづき「はい、そうですよ~」

はづき「いまは、私もプロデューサーですから」

P「は、はは……」

はづき「今回のお仕事、よろしくお願いしますね~」

P「……はづきさん」

はづき「? なんでしょうか」

P「ありがとうございます」

はづき「ふふ、お礼なんて」

P「俺は、283プロを……ストレイライトを……愛依を……裏切った過去と向き合えないでいました」

P「背中に感じつつも、結局は目を向けずに放置していたんです」

P「今ある仕事をやるんだと、無意識下でも自分に言い聞かせながら……」

P「だから、はづきさんがこの仕事を提案してくれたときに、決心できたんです」

P「清算するんだ――と」

はづき「もう、誰かから聞いてるかもしれませんが……」

はづき「Pさんが――いいえ、プロデューサーさんが283プロを裏切っただなんて、誰も思っていませんよ」

はづき「愛依さんだって、きっとそうだと私は思います」

P「ははっ……冬優子に言われました」

P「愛依については……やはり一度、ちゃんと話し合いたいんです」

はづき「やっぱり……プロデューサーさんは、優しい方です」

はづき「アイドルのことを一番に考えてる」

P「それは……」

はづき「私、思うんですよね~」

P「……?」

はづき「プロデューサーさんは、アイドルを守るために私たちのところからいなくなったんじゃないか……と」

はづき「裏切ったことにして、自分が悪者になれば……」

P「……」

はづき「……いいえ、なんでもありません」

はづき「ふふ、そうだ」

はづき「そろそろ愛依さんがここに来ると思いますから~……その時に、ちゃんと話をしてあげてください」

はづき スタスタ

P「……」

はづき スタスタ

P「……はづきさん!」

はづき ピタ

P「……」

はづき クルッ

P「俺、変わってません!」

P「変わるはずがないんです!!」

P「大切にしたいものは、いつだって……!」

はづき ニコッ

P「……っ!」

はづき ガチャ

P「あの……!」

ギィィ

バタン

P「……」

「あー、やだやだ。大人が叫ぶところって案外ゾッとするもんね」

P「!」

「はづきさんに訴えかけてどうすんの」

P「ふ、冬優子……」

冬優子「はづきさんも出て行ったし、この話し方でいくから」

P「なんで冬優子がここにいるんだ……? この仕事は愛依と透の……」

冬優子「手が焼ける“2人”のためよ」

冬優子「ほーら、いつまで隠れてんの」

「っ……」

冬優子「てか、あんたの図体じゃふゆの後ろに隠れてもバレバレだし」

冬優子「1センチ背が高いだけじゃ壁にはなれないわよ」

「……」

冬優子「このままじゃ、嫌なんでしょ――」

冬優子「――愛依」

愛依「……」ヒョコ

P「愛依……」

愛依「……」

冬優子「はあぁぁぁ……らしくない」

冬優子「ここまで来たんだから、もっとアイツの顔を見なさい……ほら」

愛依「……」

P「……」

愛依「……プロデューサー」

P「あ、ああ……」

愛依「ぅ……うち、その……」

冬優子「あー、もう! 遠いのよ!!」

冬優子「もっと前に行きなさい……!」グググ

愛依「ちょっ! ふ、冬優子ちゃん、強く押しすぎっしょ!!」

冬優子「いいから、無意識にでも目を逸らさないようにするの!」グググ

愛依「わ、わかったって! あんまり押すと……って」グラッ

愛依「わわっ……!?」ヨロッ

P「あ、危ない……