【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【4頁目】 (1000)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
  楠芽吹の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです

目標

生き抜くこと。


安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります

日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
期間は【2018/07/30~2019/08/14】※増減有

戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます

wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに


前スレ

【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【1頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【1頁目】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1601649576/)
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【2頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【2頁目】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1608299175/)
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【3頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【3頁目】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1615811898/)


陽乃「上里さんを呼んで貰える?」

『上里様……ですか』

陽乃「前にも要望があったと思うけど」

許可してもらえるとは思っていないが、

せっかくだから言うだけ言ってみようと陽乃は要望を出してみる。

陽乃「話、聞いていないの?」

『そのような要望があったことはうかがっております。
 しかし、上里様は巫女の中でもとても重要な役目を担っており、このような場にお連れすることは出来かねます』

陽乃「神託の件で話があっても?」

『私が承ります』

通信担当の男性は、言い切る。

取り付く島もない

陽乃は歌野の方に目を向けてみるが、歌野は肩をすくませて首を振る。

陽乃が言おうが歌野が言おうが

これに関しては対応に変わりがないらしい


陽乃「上里さんじゃないと話にならないのだけど」

『お伝えいたします』

陽乃「そう……」

陽乃はため息交じりに呟く。

話を伝えて貰ったところで、ひなたがここに来てくれなければ話にならない。

九尾の力を一部明け渡されているひなたを九尾が操れたら話が早いのにと考えたけれど、

大社に匿われている……軟禁されている状況では、

操ろうがどうにもならなかっただろう。

陽乃「なら、問題はないのね?」

『上里様でしたら、ご健康に問題はないと伺っております』

陽乃「嘘だったら大変なことになるけど」

『偽りなく、真実でございます』

陽乃「ならいいけど」

『久遠様は、上里様と親しいのですか?』

陽乃「まさか」


向こうでは、ほかの人に比べればかかわった方であることは間違いがないが、

親しいのかと言われると、陽乃は思わず鼻で笑ってしまう。

陽乃「あの子が無事じゃないと、面倒なことになるから気遣ってあげないといけないのよ」

『乃木様の件でしたら、問題はございません。ご了承いただいております』

親しさから考えれば、

ひなたを傷つけた時に一番怖いのは若葉。

だが、陽乃が知る中で一番恐ろしいのは九尾だ。

九尾はひなたを気に入ってしまっている。

それこそ、力を貸し与えて庇護下に置くくらいに

そのひなたが害されたとなれば、九尾が黙っていない。

けれど、それを正直に言うわけにもいかず、

陽乃は「それならいいけど」と話を終わらせた。

『神託の件については、お伝えいたします』

陽乃「期待はしないわ」

信じて貰えるなんて思っていないから。

陽乃の冷たい返しに、通信担当に男性は何も言わなかった。


↓1コンマ判定 一桁

0、9 九尾

※他 終了


√ 2018年 9月2日目 夕:諏訪

05~14 歌野
41~50 九尾
52~61 水都

↓1のコンマ

※それ以外は通常


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

√ 2018年 9月2日目 夕:諏訪


夕方になると、神社に来ていた人々もすっかり姿が見えなくなって、

諏訪大社には静寂が戻ってきていた。

杏と球子が四国へと戻って行ったからか、

いつも以上の寂寥感を感じる雰囲気に包まれる中、

陽乃はいつもと変わらずにみんなの部屋から離れた部屋にいた。

陽乃「……」

出来る限り広範囲をつぶせるように力を使って殲滅した。

その前から、陽乃の力に連れて集まってきていたから、

当初の予定よりも大きく被害を与えることが出来たはずだ。

だけど、二人はその安全圏から離れていく道のり。

無事にたどり着いたとして、

すぐに戦線復帰が可能だろうか。

陽乃「……馬鹿みたい」

これは別に、心配ではないと陽乃はぼやく。

寝起きのような、薄い目で暗がりの窓を見つめる。


1、伊邪那美命について
2、九尾を呼ぶ
3、共用の部屋へ
4、イベント判定


↓2


伊邪那美命が結局どのような存在か認識できなかった。

九尾から、死の力を最も強く神だと言われ、

事実、陽乃は初めての召還において、死にかけた。

そして今回も、

地力が底上げされ、諏訪の神々による恩恵が与えられていてもなお、気を失うほどの消耗

安易に使える力ではないのは、間違いない。

以前見た姿は女性だった。

イザナミ様は、イザナギ様と共に国生みを行ったとされる神世七代に属する、

日本神話においては、原初とも言える天地開闢の代に誕生した神である。

曰く、彼女はカグツチ様を産んだ後遺症で亡くなり、黄泉国に行くことになって

そこで起こったイザナギ様とのトラブルによって、その死の力を強めたという。

陽乃「……なるほど、うってつけなわけね」

だとしたら、これ以上ないほどに彼女の側の人間だと、陽乃は思わず笑ってしまう。

イザナギ様は身内で、陽乃は他人という、決して同列に語れるものではないが、

それでも、反故にされたこと、あまつさえ殺されかけたことは、

強く、イザナギ様の顰蹙を買ったことだろう。

それがまた、より彼女の力を強めている可能性は否定できない。

>>16 誤字修正


伊邪那美命が結局どのような存在か認識できなかった。

九尾から、死の力を最も強く神だと言われ、

事実、陽乃は初めての召還において、死にかけた。

そして今回も、

地力が底上げされ、諏訪の神々による恩恵が与えられていてもなお、気を失うほどの消耗

安易に使える力ではないのは、間違いない。

以前見た姿は女性だった。

イザナミ様は、イザナギ様と共に国生みを行ったとされる神世七代に属する、

日本神話においては、原初とも言える天地開闢の代に誕生した神である。

曰く、彼女はカグツチ様を産んだ後遺症で亡くなり、黄泉国に行くことになって

そこで起こったイザナギ様とのトラブルによって、その死の力を強めたという。

陽乃「……なるほど、うってつけなわけね」

だとしたら、これ以上ないほどに彼女の側の人間だと、陽乃は思わず笑ってしまう。

イザナミ様は身内で、陽乃は他人という、決して同列に語れるものではないが、

それでも、反故にされたこと、あまつさえ殺されかけたことは、

強く、イザナミ様の顰蹙を買ったことだろう。

それがまた、より彼女の力を強めている可能性は否定できない。


九尾の力に対してそうであるように、いずれは耐えることが出来るようになる?

正直に言うと、陽乃は無理だと思っている。

イザナミ様の力に耐えられるようになる頃には、すでにこの世にいない。

勇者の力と、諏訪の神々の恩恵

それによって、傷はすぐに癒える。調子もいい。元気が有り余ってもいる

だけど、蝕まれた感覚はなくならない。

最低でも、力の放出後に意識を失うことは避けられないだろう。

九尾の力、伊邪那美命の力

どちらであっても陽乃は体を傷つけている。

陽乃「早死に、するわよね……」

杏はもちろん、水都も薄々と感じているに違いない。

だから水都はあんなに必死に止めたがるのだ。

人を憎んでいなければ、境遇が違っていれば

イザナミ様の力はもう少し、陽乃にやさしいものだっただろうか。

今からでも、それは変わるだろうか。

陽乃「……変わったって」

蝕む力に相違はない。

陽乃「それに、ありえないわ」

人を信じることも、頼ることも。

損得勘定抜きには、そんなことは起こり得ないと、陽乃は首を振る


陽乃は、テーブルに伏せって目を瞑る。

静かだ。

まるで、自分以外には誰もいないのではないかと思うほどの静けさ。

寂しいとは思わない。

人のぬくもりが欲しいとも思わない。

辛いとも感じない。

陽乃「貴女も、そうじゃなかったの?」

だれもいなくていい。

だれもいらない。

だれも信じられない。

そうやって、黄泉国でただ一人でいたわけではなかったのかと。

陽乃「……」

彼女には、別に、何もいなかったわけではなかったはずで。

陽乃にも、別に、誰もいないわけではなかった。


1、今後はイザナミの力は使わない
2、今後もイザナミの力を使う
3、イザナミを呼ぶ

↓2



陽乃「……ひとまずは」

このまま寿命を縮める結果になってしまうとしても、

最悪の事態を乗り越えるためなら、この力は使っていこうと陽乃は決める。

水都には悪いが、

切り札として、この力はあまりにも優秀だ

周りの勇者にも影響があり、

陽乃自身にも強い副作用があるという問題はあるが、だからこそとも言える。

陽乃「もう少し、お力をお貸しください」

九尾のように答えてくれるわけではないが、

耳には届いているはずだから、願いだけは口にする。

叶えて貰えるとも限らないが。

陽乃「はぁ……」

陽乃は、少し気怠そうなため息を漏らす。

体はいたって健康、力も余っている。

だが、変に脱力感がある。

明らかに、伊邪那美命の力の影響だろう。


今後は、本当に気をつけて使わなければいけない。

水都にせよ、歌野にせよ

力を使う場合は事前に報告は間違いなく必要だ。

何も言わずに力を使って、倒れ、そのままバーテックスに襲撃を受ける可能性も0とは言えないからだ

そうならないくらいの力はあるが、それでも。

陽乃「また、あの子達を喜ばせるんでしょうけど」

信頼されてるだの、頼られているだの

勝手にそう考えて、喜ぶ。

面倒だ。

だけど、自分の身を護るためには、ひと声かけておく必要がある。

陽乃「仕方がない……けど」

二人の喜々とした反応が目に浮かんで。

陽乃は嫌なものを見てしまったように顔を顰める。

陽乃「出来るだけ、使わないようにしたいわ」

声をかけずに済むように

自分の命を削らなくて済むように


√ 2018年 9月2日目 夜:諏訪

01~10 歌野
56~65 九尾
89~98 水都


↓1のコンマ

※それ以外は通常


√ 2018年 9月2日目 夜:諏訪


水都「広くなっちゃいましたね」

陽乃「もともと広かったじゃない。2人減ったところで大差ないわ」

水都「そんなことないですよ。大きいです」

水都は、もう懐かしむような顔で2人がいた場所を眺める。

杏は比較的静かだったが、球子は賑やかだった。

それが、この部屋には満ちていた。

けれどそれは昨日で終わってしまったから、

見た目以上に、部屋は物寂しい感じがする。と、水都は困ったように笑みを浮かべた。

2人は生きている。

これからのために、ここを出て行った。

だけど、ここにはいないから。

歌野「そうね。寂しくないと言えば、嘘になっちゃうわね」

歌野は、水都にほほ笑んで

余った2組の敷布団の上にある枕を手に取る。

片付けるべきだったのに、片付けなかった。


歌野「だから、こうしましょう」

歌野は、ばらけていた3組の布団、陽乃達の分を、すべて並べる。

歌野、陽乃、水都

3人分が、横並びになると、部屋はさらに余りを多くするが、

密着しているその空間は、少し切り離されているように見える。

陽乃「なにしてるのよ」

歌野「良いじゃない。せっかくだから」

陽乃「はぁ?」

せっかくだからとは何なのか。

これだけ部屋を広々と使えるのだから、

2人分くらいの距離を開けて寝るとかならまだ理解もできる

だが、歌野がしたのはその真逆。

歌野はニコニコとしているが、陽乃はそれを睨む。


1、2人でくっついてなさい。私は嫌よ
2、9月とはいえ、まだ暑いのに馬鹿じゃないの
3、勝手にして……もう、面倒だわ
4、何も言わない


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しだけ


陽乃「2人でくっついてなさい。私は嫌よ」

冗談でしょ。とでもいうかのように、

やや引いた目をしながら、陽乃は手で払うような仕草をする。

杏と球子には許していたのに? と言われても困る。

あれだって別に好きでやっていたことではない。

歌野「そんな嫌がらなくたっていいじゃない」

陽乃「嫌なものは嫌」

歌野「……もうっ、久遠さんってば」

陽乃「冗談で言ってるわけでもないんだけど」

歌野は距離を置く態度にめげていない

出会ってから、まだ1年も経っていないのに

半年でさえ経っていないし、無理に言って半月位の関係なのに。

陽乃「私は、できるなら一人になりたいの」

水都「私達とは逆ですね」

陽乃「……」

歌野「久遠さんが一人になりたいのと同じように、私達は久遠さんと一緒にいたいと思ってる」

歌野はそう言って

歌野「一人にしたくないって思ってる」

歌野は陽乃の手を掴もうとして、逃げる手を目で追う。

けれど、距離を詰めても陽乃は後退りして離れて行く。


歌野「だって、久遠さんすっごく、傷つくじゃない」

陽乃「何言ってるのよ。私は独りになりたくて――」

歌野「違う。戦いの話……バーテックスの攻撃じゃなくて、自分の力で傷ついてる。
    だれかを守るために、何かを守るために、何かのために、私達以上に命を懸けてくれてる」

歌野は、悲しそうな顔をする。

陽乃の今は綺麗な手を見て、驚きに戸惑いながら嫌悪感のにじむ顔に目を向けて

陽乃に触れようとしていた手を引っ込めて、自分の胸に当てる

歌野「今日、久遠さんの痛みが私にまで届いたわ。胸の奥に杭を打ち込まれたみたいに、息が止まっちゃうんじゃないかってくらい痛かった」

陽乃「まさか」

否定する陽乃に歌野は首を振って上塗りする。

そんなはずがないと思う気持ちはわかるが、事実痛みがあった。

陽乃から歌野へと力のつながりがあるため、それが伝わったのかもしれない。

歌野「久遠さんはそれ以上の痛みを感じてると思う。なのに、見て見ぬふりなんてできない」

陽乃「私が望んでいても? あんまりにも、独善的だって思わない?」

歌野「だって、久遠さん優しいじゃない。本当に孤独になりたい人は、こんなに優しくないはずだわ」

陽乃「私は優しくなんて」

歌野「じゃぁ、どうしてここにいてくれてるの? 命を懸けてまで諏訪を守ってくれたの? 伊予島さん達の道を作ってくれたの?
    おかしいじゃない……本当に自分だけでいいなら、こんな場所なんて放って四国に帰ってるはずでしょう?」


1、勘違いしないで。余計な争いを避けたかっただけよ
2、ここでしか使えない力を使っておきたかっただけよ
3、ただの気まぐれよ
4、何も言わない


↓2


陽乃は、ぐっと唇を噛んで黙る。

論破できるほどの理由があるだろうか。

無理を通したって争いになるだけだったから?

ここに来た意味そのものを失うことになるから?

ここにはまだやり残したことがあったから?

それが最善策だと思っていたから?

どれもこれも "母親より大事なこと" ではない。

陽乃「別に、守りたいとか、そんな思いは……」

歌野「だけど、結果は守ってくれたの」

陽乃の思惑が何であれ、陽乃の行動の結果は歌野達にとって良いものだった。

守りたかったわけじゃないと言われようが、守ってもらったことに変わりはないし、

見捨てるのを躊躇ったわけじゃないと言われても、見捨てずにいて貰ったことになる。

歌野「……はっきり言うわね? 貴女は私たちの命の恩人よ」

陽乃「……」

歌野「意図したことじゃないとしても、私たちは救われてる。そんな人を、放っておけるわけがないじゃない」


辛くて苦しい過去がある

普通にはありえない闇を抱えている

だから、誰も信じたくないし近寄られたくもないし、独りきりでいたいと思っている。

その気持ちをわかるだなんて歌野は言わない。

その言葉は嘘でしかない。

だけど、思う。

その過去があってもまだ、勇者として結果的にとはいえ人を守っているのに報われないなんてあんまりじゃないかと。

言葉通りに命を懸けて、傷ついて

なのに、感謝の言葉さえも許されないなんて酷いじゃないかと。

裏切られたトラウマは、一生涯その根を絶えることはないかもしれない。

だけど、だからって、傷も、闇も、何もかもをそのまま膝と一緒に抱えている姿を、見て見ぬふりなんてしたくはない。

歌野「嫌いになってくれて構わない。鬱陶しいと思ってくれても構わない。
    それでも私は、いつか久遠さんがこちら側に踏み込んできてくれると信じて近付き続けるわ」

陽乃「……貴女まで」

歌野「久遠さんの行動の結果よ……そうね。因果応報、自業自得かしら」


陽乃「……そんなの、私は貸しだと思わないし、見返りを与えるつもりもなければ、恩返しなんてする気もない。費やした全てが無駄になるとは思わないわけ?」

歌野「思わない」

歌野は考えるまでもないとすぐに答えて首を振った。

歌野「言ったでしょ。私ってば、自分勝手なの」

水都「私も」

ね。と、2人揃う

どうあっても、2人は陽乃をひとりにはしないだろう。

満面の笑みを浮かべて顔を見合わせる2人から、陽乃は一歩引いた位置にいる。

この一歩、遥かな距離のある一線を、構うことなく突き抜けてくる。

歌野「あ、そうだ」

俯きかけた陽乃の顔を上げさせる歌野の明るい声

歌野「もう一つあったわ。一蓮托生! 私達、そうでしょ?」

陽乃の力が歌野の力になる。

陽乃がダメになれば、歌野もダメになる。

その逆は、ないけれど。

歌野「だから、私達をそばにいさせてくれないかしら?」



1、……嫌よ
2、嫌って言ったって、聞く耳持ってくれないじゃない
3、得られるものは何もないわ
4、馬鹿じゃないの


↓2


陽乃「嫌って言ったって、聞く耳持ってくれないじゃない」

歌野「ええ」

陽乃「……最悪だわ」

歌野「でも、もう取り返しなんてつかないんだから」

歌野は、嫌がらせのように笑顔で言う。

力のつながりができている。

もちろん、絶とうと思えば絶つこともできるだろう

だけど、それで陽乃が得られるのは苦労だけだ。

歌野と水都はきっと変わらない。

歌野「過去にどれだけのことがあっても、それで未来まで台無しにするなんて私が許さない」

水都「ごめんなさい。でも、譲れないものもあるんです」

陽乃「死ぬわよ」

歌野「勇者だもの。命がけでしょ」

2人は引かない。

どれだけ深い溝があっても、諦めよう。なんてことは言わない。

どれだけ遠回りすることになるとしても、いつかは、その先に行くことが出来ると信じて疑っていない。


陽乃「どうなったって、知らないから」

責任なんて取れない

約束を破ったとか、信じていたのにとか

そんなこと言われても陽乃は何にもする気はない。

人を殺してしまったことも、

向こうでは散々に嫌われていることも、

何もかもを知ったうえでこれなのだから、

その果てに何があろうと、自己責任というものだ。

陽乃「……」

陽乃は自分の腕をぎゅっと抱きしめて、2人から顔を背ける。

信じない、信じられない

頼らない、頼りたくない

陽乃「自己責任で、自衛しなさい。私は関与しないから」

歌野「久遠さんの力を借りてるのよ? 何も問題ないわ」

陽乃「そう……そう、思っていればいいと思うわ。保証はしないけど」

歌野「ええ。思わせて貰うわねっ」

歌野はそれでも嬉しそうで、一瞥するだけで陽乃はため息をつく。

結局、布団の距離が開くことはなかった。


1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(作戦決行、通信代行、何も言わない、聞く耳を持たない)
・ 藤森水都 : 交流有(作戦前、一緒に、不履行、調子に乗らないで、怒らせたい、特殊1、間違いない、作戦決行、大丈夫だと思った、歌野のところへ)
・ 土居球子 : 交流有(作戦決行)
・ 伊予島杏 : 交流有(作戦決行)
・   九尾 : 交流無()

√ 2018/09/02 まとめ

 白鳥歌野との絆 63→67(良好) ※特殊交流3
 藤森水都との絆 78→81(良好) ※特殊交流8
 土居球子との絆 70→70(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 86→86(良好) ※特殊交流4
   九尾との絆 70→70(良好)


√ 2018年 9月3日目 朝:諏訪

01~10 歌野
24~43 神託
56~65 九尾
89~98 水都

↓1のコンマ

※それ以外は通常
※ぞろ目で特殊


では少し中断いたします
21半頃に再開予定


√ 2018年 9月3日目 朝:諏訪


変わることのない、鳥の声

天井のシミも、傷のような跡も何も変わらない。

なのに、両隣に見える寝顔が違う。

陽乃「……」

昨日までは杏と球子だったのに、今日は、歌野と水都になっている。

陽乃の方に向いている歌野と、普通に仰向けになったままの水都

陽乃は一瞥して、また仰向けに戻る。

5人いた空間も3人になって、やはり、静けさは増したかもしれない。

陽乃「……ん」

時間は、6時頃

歌野達もあと三十分くらいしたら目を覚ますことだろう。


1、沐浴
2、いつもの部屋へ
3、少しお散歩
4、特に何もしない


↓2


陽乃「……」

ゆっくり、布団の中から足を引き抜いて、

2人を起こさないようにと一応は気遣って部屋を出る。

日課の沐浴のために、参集殿の通路を歩いて、いつもの場所へ向かう。

途中の窓から見える景色は、晴れ渡っている空が見えた。

陽乃「天気は良好……ね」

襲撃なんて悪いことが置きそうもないが、その通りになるとは限らない。

陽乃が昨日命がけだったので、今日は歌野が襲撃に備えていることだろう。

とはいえ、陽乃が昨日のうちに神託も何も受けなかったから、ない可能性が高い

けれど、警戒は必要だ。

陽乃「……向こうは、どうなのかしら」

結界の外、もう県は跨いだだろうか。

そこは曇っているのか、晴れているのか

それとも、晴れのちバーテックスなのか。

陽乃「貴女達がたどり着かなかったら、私の立場がないのよ」

四国側に送り返したことを伝えてしまったから、

もし、途中で力尽きたりなんかしたら、大変なことになってしまう。

やっぱり、あれは早計だったのかもしれない。

陽乃「はぁ」

着替えの場所にたどり着いて、タオルなどがあるのを確認してから服を脱いで、中へと入る


温度を確認し、まずは浴槽に溜める分の水を出してから、今度はシャワーの方の水栓を開く

シャワーヘッドから勢いよく吐き出される水をそのまま体で受けると、熱が奪われていくのを感じる。

陽乃「ん……っ」

嫌なことも、悪いことも

何もかもが一緒に奪われていくような感覚

体が冷たくなっていって、一線を超えそうなところからまた熱を持ち始めた。

陽乃「……」

沐浴は、陽乃にとって一番心地のいい時間だ。

水都がいることもあるが、

昨日を除いて、水都は基本静かに取り組んでいるため邪魔になっていないから、

2人だけど1人でいるかのようなこの時間だけは、まっさらで居られるのだ。

今は特に、1人きりだからより安らぐことが出来る。

――はずだった

陽乃「っ……ぅぁっ……」

急に胸の奥がズキズキとした痛みに喘ぎながら力なく頭を垂れると、

排水溝の方に流れていく水に赤みが混ざり始める。

真っ赤になったりはしないが、少しずつ、赤いのが流れていくのを目で遡って。

陽乃「ぅ……げほっ……こほっ」

せき込んだ口を覆った手に血が残って、水で流れる。

陽乃「っ……はぁ……」

諏訪の恩恵があっても、あの力の代償は半日で治りきるのは無理だったようだ。

幸い、痛みはすぐに引いて、水に血が混じることが無くなった。


陽乃「……ん」

水の溜まった浴槽に移って、体を浸す。

水を浴びすぎて温まっている体からまた少し熱が奪われて、

もう一度熱を取り戻していく感覚に目を瞑る。

頭の中に浮かんでくる、これからのことや今までのこと

昨日の2人のことだとか。

何もかもを次から次へと、頭の片隅へと追いやって無になっていく

今は何も考えない

考えたくない。

陽乃「……」

離れてと言っても離れてくれない

こびり付く2人のことなど、身を削ってでもどこかへと追いやってしまおう。

陽乃「……やめてって、言ったのに」

陽乃は、独り言ちる。


↓1コンマ判定 一桁

0,6 水都
2,5 歌野

ぞろ目特殊

※他はなし


沐浴の時間は、静かに過ぎていく。

昨日は陽乃が邪魔する形になったが、

その逆に水都が入ってくることはなく、

ひとりで穏やかに、ひっそりと体を清めることが出来た。

陽乃「……」

もし、水都がいたら吐血するのを見られていただろうから、

イザナミ様の力を使うのは絶対にダメだと念押しされていたに違いない。

今は痛みもないし、体の調子はいいから、

イザナミ様の力を借りた反動の穢れのような何かが、

体から排出されたという感覚だろうか。

陽乃「……大丈夫」

手も足も力が入る、めまいもない

ある程度体の動きを確かめてから出て行こうと、

少しだけストレッチ

広いとはいえ、浴室でのストレッチはいささか異質だったけれど、

2人の目の前で大惨事よりは、マシだと陽乃は切り替えた。


√ 2018年 9月3日目 昼:諏訪

01~10 歌野
23~32 水都
45~54 襲撃
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常
※ぞろ目で特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


天乃の方のおまけを出したかったですが、出せなかったので余裕があるときに詰めて今年中には出せればと思います

では少しだけ


√ 2018年 9月3日目 昼:諏訪


特にこれといった異常もないまま、時間が過ぎていく。

雲の少ない空の青さも、照らす太陽の眩しさも、飛ぶ鳥の影も、

何も変わらない。

朝は吐血したけれど、今はそんな胸の奥の痛みもなく、平穏だった。

陽乃「……」

このままでいいのだろうか。

平和であるのは良いことだと、普通なら思うかもしれないが、

陽乃が昨日行ったのは、陽動作戦だ。

バーテックスを引き付け、あえて諏訪を襲撃させようというもの。

なのに諏訪は襲撃の予兆もなく平和な時間が流れていくだけ。

陽乃は、テーブルに突っ伏したまま顔を横に向ける

陽乃「もう一度、外に出た方が良いかしら」

間違いなく、二人に止められるだろうけれど。



1、外出
2、2人のところへ
3、九尾を呼ぶ
4、イベント判定


↓2


陽乃「じっとしていても仕方がないし……」

結界の外にまで出るかは別として

このまま参集殿の中で呆けているのは違うと、陽乃は思い立って体を起こす。

暫く突っ伏していたせいか、わずかに固まってしまっていた感覚のある体をぐっと伸ばしていく。

体の中に溜まっている活力が仄かに騒めいて、

体中にその熱が染み渡る

陽乃「……こういう時に、土居さんがいればよかったんだけど」

結局一度もすることがなかった模擬戦。

約束して間もなく四国に戻ることが決まってしまったから、仕方がないことではあるのだが、

球子がいれば、気軽に全力を出せるとまではいかないけど、

それなりに力をぶつけてしまえるから、いい運動にはなっただろうに。

陽乃「役立たず……」

どうせ聞かれもしないからと、ボソッと呟いて立ち上がる


参集殿の外に出ると、参道にはぽつぽつと人影が見えた。

おみくじを買ったりはしていないが、お参りをしているようだ。

中には絵馬を書いている人までいるみたいで、

昨日の陽乃の力による不安がここに足を運ばせたのは確認するまでもないだろう。

陽乃「……」

地震があったと、水都は言っていた。

その影響で残っていた前宮の御柱まで倒壊してしまったとのことで、

人々の不安と恐怖は最高潮になっていたに違いない。

水都達の努力の甲斐あって、

今すぐに結界が壊れてしまうことはないと納得して貰えているとは思うが。

「あら、もう外に出てきて平気なの?」

陽乃「……はい。大丈夫です」

参拝に来ていた高齢の女性に声をかけられて、陽乃は努めて笑みを返す。

陽乃「私が誰だか知っているんですね」

「あまりお顔を見せない勇者様だってお話は聞いていたの。タマちゃんが、貴女は人見知りだから。なんて笑いながら話していたから、声をかけるか迷ったのだけど、でも昨日、頑張ってくれたって歌野ちゃん達から聞いたから」

女性は思い返した笑みを携えて穏やかに語ると、ありがとう。と頭を下げる。

陽乃「お礼を言われるようなことをしたつもりはありません」

「そう? どうして?」

陽乃「事情があるからです」


諏訪を守ったつもりはない。

むしろ、危険にさらすようなことをしたつもりだった。

運悪く平穏な時間となってしまっているが、

本来なら今、歌野が勇者としてバーテックスと戦っているべきだ。

自然災害が起き、結界が揺らぎ、

住民はいつ壊れるともしれない不安に震えているのが望ましい結果でさえある。

それを引き起こすことを選んだ陽乃は、やはり、首を横に振る。

陽乃「本当に危機が去ったわけでもないのに、救われたわけでもないのに、感謝されても困ります」

「けれど、貴女の頑張りがあったから、今日があると思わない?」

陽乃の否定を聞いても、女性は優しく諭すように言う。

その瞳もまた優しく、温かいものだった。

「明日には滅ぶかもしれないし、今日の夜に人知れず消えてしまうかもしれないけれど、そんな中でも貴重な1日を守ってくれたのよ」

陽乃「……」

「間違いなく、貴女はこの場所とここで生きている人を救ってくれたわ」

きっと、この人は聞く耳を持ってはくれない。

だとしても救われたのだと、また笑顔で言うのだろう。

そんなつもりはないと言っても、首を横に振っても、ここを襲わせるためだと暴露しても

今日という日があることで、守られたという事実が出来上がってしまっているからだ。


1、地震と御柱倒壊の原因が私であってもですか?
2、蝶のような蛾がいるように、勇者のような別の存在もいるんです
3、煽てても、私は守る気なんてありません
4、こんな世界になった原因が、私にあると言ったらどうしますか?
5、何も言わない

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃がそれに答えることなく半歩後ろへと下がると、

女性は思い出したように笑みを浮かべる

「ごめんなさいね。あんまり好きじゃないって言われていたのに、ついつい。嬉しくなっちゃって」

手招きしているかのようなジェスチャーを交えながら、

困ったものだわと独り言ちる女性

慌ただしかった手が、落ち着いて。

「貴女に会ってみたいって人がいっぱいいたのよ? もちろん、私もすっごく会ってみたかったの。
 タマちゃんたちで言うことが全然違ってたりするんだけど、でもね。みんな、貴女は優しい子だって言ってたのよ」

陽乃「ふざけて言ってるだけです」

「そう?」

陽乃「……そう思ってなさそうですね」

陽乃が伏し目がちに指摘すると、女性はやっぱり、笑い声を挟む。

心底嬉しそうに。

「それはそうだと思わない? だって、みんな貴女の話を聞くことしかできていなかったんだもの」

陽乃「全部信じているんですか?」

「みんなが嘘を言っていたのかしら? それとも言わされてたのかしら? そうは思わなかったけどねぇ」


女性はニコニコとしていて、まるで疑っていない。

陽乃は普段から引きこもりだったから、

周りから聞いた人物像しか抱くことが出来なかった。

めったに会うことのできない勇者様。

見かけた人もいないわけではないが、

どれもこれもが、陽乃が苦しんでいる時期のもの。

陽乃は歌野達と外食に出たこともあるけれど、見られたのはごく少数。

それでいて、昨日は意識不明で運び込まれる始末。

バーテックスとの戦いによるものという話はすでにされていたため、

結局、陽乃はほとんど見ず知らずの人々を守った勇者様だった。

「もう少し、寛容になってもいいと思うわ。もしかしたら、完璧じゃないといけないと思っているのかもしれないけれど、
 歌野ちゃんたちも、貴女も、十分にお役目を果たしてくれていると思っているわ」

陽乃「……」

「……とても、悲しそうな顔をするのね」


言われて、顔を上げる。

そんな顔をしたつもりはなかった。

褒められても、煽てられても、

一喜一憂もなく、淡々と受け流しているつもりだったのに。

陽乃「……」

目の前にいる女性は打って変わって、やや深刻そうな顔をしていて

陽乃は、女性の方が悲しそうな顔をしているはず。と、眉を顰めた。

「私達なんかよりもずっとずっと若い子たちが、命を懸けてくれていることが、申し訳ないわ」

陽乃「そうしないと生きていけないだけです。白鳥さん達はともかく、私は誰かを守っているつもりなんてありません」

「……そうなのね」

女性はそれを否定しなかった。

ただ、表情は口よりも雄弁にその心の内を語っている。

「ええ。それでいいのよ」

陽乃「……」

「私達と貴女達。どっちが長生きするべきかなんて、言わなくても分かっているから」

自分のためでいい

そのついで、その偶然

たまたま取りこぼされなかっただけの命であるとしても自分は構わないと、女性は穏やかに言う。

「もし、私たちのことを守るために昨日のようになっていたんだとしたら……ごめんなさいでもありがとうでも、言葉が足らなくなっちゃうじゃない?」

女性は、陽乃の頬に手を伸ばす。

皴のある、年季を感じる手が頬にざらざらと触れる。

「だから、ここに置いて行って頂戴」

陽乃「まだその話は――」

「いいえ。もう何度も聞いたお話だもの。もう十分。老い先短いものに、いつまでも付き合っていくことはないのよ」



1、楽には死ねないとしてもですか?
2、同情を誘おうなんて無駄です
3、知りません。私には関係のない話です
4、その責任を問われるんです。私達は
5、何も言わない

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


すみませんが、本日はお休みとなります
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


「……あぁ」

女性は感嘆に似た声を漏らす。

悲しく、温かい。

そんな表情を浮かべながら、陽乃の頬に触れる。

「貴女は、優しいのね」

陽乃「……」

「優し過ぎるのね……救うことが出来ないことを、何よりも恐れているのね」

女性は見透かしたように囁く

陽乃は心の内をさらけ出すような表情を浮かべたつもりはなかったのに。

ただ、言葉を選ぶために口を閉ざしただけだったはずなのに

「ごめんなさいね……あんまりにも、酷いことを言ってしまったみたい」

陽乃「私は……」

「……でも、だからこそ、置いていった方が良いわ」

女性は陽乃から手を離して、少しだけ後ろに下がる。

悲しさばかりだった顔には笑みが浮かぶ。

「間違いなく、負担になってしまうわ」


「貴女は命を懸けてくれる」

陽乃「……自分のためです」

「そうね。でも、それが結局は私達のためになるんでしょう?」

会話をしたこともない人がいる

顔を合わせたことがない人もいる

もちろん、名前も知らず、性別さえも知らず

そんな何一つ知らない人のことですら

目の前でその命が奪われかねないとなったら、救おうとしてしまうだろうから。

「普通には歩けない人がいるの。長くは歩けない人もいるの。そんな人たちを連れてはいけないでしょう?」

陽乃「そうですね」

「……嘘ばっかり」

女性は、ほほ笑む

陽乃がそうではないと確信しているかのように。

「"いきたい"と言ったら、絶対に見捨てられない顔をしていたのよ?」

陽乃「気のせいです。私はそんな、立派な勇者ではありません」


女性は何も言わずに笑みを浮かべて見せた。

仕方のない子ね。とでもいうかのようなそれを、

陽乃は一瞥するだけで、視線から外す。

「貴女は勇者だわ。間違いなく、勇者様よ」

陽乃「……」

女性と話す陽乃に気づいた人々が、近づいてくる。

自然には見ることのできない、桜色の髪の少女

ひとたび視界に入ってさえしまえば、

あの子がそうなのかと、悟られてしまう。

「勇者様!」

一人、また一人。

近付いてくる。

その誰もが陽乃を嫌悪せず、昨日のことを案じてさえいる。

「貴女は、勇者様ですよ。久遠陽乃さん」

女性はあえて、そう繰り返した


√ 2018年 9月3日目 夕:諏訪

01~10 水都
23~32 九尾
56~65 歌野

↓1のコンマ

※それ以外は通常


√ 2018年 9月3日目 夕:諏訪


陽乃の周囲の人が集まりだし、

抜け出すこともできないまま、お忍びのアイドルが身バレしたかのような状態にまで発展したが、

通信が終わって出歩こうとしていた水都がその騒ぎに気付いて、

どうにか参集殿へと引き戻された。

今までずっと会うことが出来なくて

なのに、昨日には命がけで戦ってくれた少女のことを、人々は称賛していた。

――のだが。

水都「いいことじゃないですか」

陽乃「……何が」

水都「みんな、会うことが出来なくても思っていてくれたってわかったんですよね?」

陽乃「そんなこと言われても困る」

陽乃がいつも個人的に使う部屋

テーブルに突っ伏す陽乃の耳元で、カチャりと茶器が音を立てる

8割ほど注がれたお茶は、さすがに湯気立っていない


水都「どうして一人で出かけようとしたんですか? 声さえかけて貰えれば……」

陽乃「私が一人になりたいって知ってるでしょう?」

水都「……無理だと思いますよ」

顔を伏せったままの陽乃のぼやきに、

水都は少し考えたように溜めて、笑み交じりに答えた。

水都「外に出てわかったと思いますけど、今は参拝のお客さんも多いですし。
    それに、今日からは久遠さんに会えるって言うことも伝わってしまったでしょうから」

陽乃「……最悪」

水都「そういわなくても」

陽乃「窮屈だわ」

不貞腐れているような陽乃のそばで、水都は一口お茶を含む

水都「少し休みますか? お夕飯の時には起こしますよ?」



1、そうするわ
2、置いて言って欲しいと、言われたわ
3、諏訪を出る予定は決めてあるの?
4、出て行って


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「諏訪を出る予定は決めてあるの?」

水都「え?」

陽乃「聞き返さないで欲しいのだけど」

水都「すみません……話を振ってもらえるとは思っていなくて」

小さな笑い声をこぼす水都は、

手に持っていたお茶の入った茶器をテーブルに置く。

水都「そうですね……元々は9月末付近を考えていました。陽乃さんが諏訪の神様の力を受け取る前ですけど」

陽乃「今は?」

水都「出来る限り早い方がいいとは思ってますが……」

陽乃「私の意見がないと決められない?」

水都「そうですね。最終的な決定は陽乃さんじゃないとできません」

陽乃「……でしょうね」

結界の要である陽乃がどうするか

それがなければ、いつまでには……という要望くらいしか出せない

水都「陽乃さんとうたのんの二人がいれば、たぶん、ここを守りきることは可能だと思います。
    すごく、傷ついてしまうかもしれないけど、どうにかなると思いますし……だから、待つことも、できると思っています」

陽乃「何それ」

水都「……よければ、残りませんか?」


陽乃「本気で言ってる?」

水都「うたのんは、それも悪くないって言ってました」

水都はそういって笑みを浮かべる。

いつ話したのか知らないが、

球子たちがいなくなってからのことだろうから、最近、そう話し合ったのだろう。

陽乃を除いて。

陽乃「また勝手なこと決めたのね」

水都「それもいいなって、思っただけです」

陽乃「そんなに残らせたいの?」

水都「……可能なら」

水都は嘘なんてないと示すように柔らかな表情で頷く

辛いことばかりの向こう

大事な人がいるとは言うが、

戻れなければどうにもならない。

なにより、向こうには5人の勇者がいる

道中の安全が確保され、

向こうから本格的な救援が来るのを待つのも、選択肢の一つだろう


陽乃「勇者の負担が途方もないと思わなかったの? 私なんて、結界の維持をしているのに」

水都「結界の維持に関しては、そこまで影響ないって陽乃さんが言っていたので……」

伺うように言った水都はお茶を一口飲んで、陽乃を見る

歌野とは、ちゃんと話した。

でも、むしろ切り出したのは歌野の方だった。

待とう。なんて、強く言ったわけじゃない

ただ、独り言のように「いっそ待つのもありじゃない?」と、笑っていただけ。

水都「うたのんは、陽乃さんさえいいなら頑張るって言ってました」

陽乃「そう」

だろうなと、陽乃は飲み込む。

歌野は、そう言っていたから

残れるなら残った方が良いと。

そうして欲しいと。

母親が向こうにいると言ったから引いたはずだけれど、

諦めたわけではないらしい



1、お断りするわ
2、救援なんていつになるかわからないわ
3、何考えてるのよ
4、考えておいてあげるわ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


陽乃「救援なんていつになるかわからないわ」

水都「それはそうですけど、でも、結界の要が陽乃さんになった今、以前みたいに期限があるというわけでもないんですよね?」

陽乃「だからって」

水都「だからこそです」

二人にとって、何が一番負担にならないか。

四国にたどり着いてさえしまえば、歌野と陽乃は一般人の警護から解放されるが、

その道のりは険しく長い。

距離は最低でも500km以上

大雑把な計算でも、平均的な時速は3~5kmだろうから、

それが続けられたとして、100時間で300~500km

早ければ休みなし約4日、遅ければそれでも半分程度しか進めない。

当然、休みなしなんて不可能だろうし、

持ち物だって、食料などで重くなるだろうから、移動速度はその遅い計算のさらに半分を前提で考えた方が良い。

それを、勇者である二人は常に気を張って、場合によっては戦い、傷つき、ちゃんとした治療も行えず、

まともな休息をとれないまま、進まなければならない。

水都「はっきり言います……無謀ではなくても無茶です。全員が助かるとは思えませんし……最悪、うたのんか陽乃さんのどちらかが死ぬ可能性さえあります」

陽乃「私が死んだら、白鳥さんも死ぬのは確定だけど」

というよりも、全滅ね。と、陽乃は冗談めかしたように、笑った。


水都「土居さん達がいるなら、2人1組で対応できるのでまだ考える余地がありましたけど、
    2人しかいないなら、私は反対です。それでも行くと言われたら従うほかないですけど……でも、考えて欲しい」

陽乃「本気で言ってる?」

水都「本気です」

陽乃「……」

水都「お母さんが心配なのは当然だと思います。でも、私は陽乃さん自身のことも考えて欲しい」

考えて欲しい。

二回繰り返されたそれは、

たぶん、どちらも後者につながっているのだろう。

水都はとても真剣な表情をしている。

きつく当たられることも恐れていない。

水都「駄目ですか?」

陽乃「駄目かと聞かれてもね」

水都「陽乃さんのことなのにですか?」

陽乃「だって、それが何に対して駄目なのかが分からないし」



1、無謀なのは間違ってないかな
2、そんなに私が心配?
3、本当にそれだけ?
4、帰るわよ。向こうに


↓2


陽乃「帰るわよ。向こうに」

水都「それがどれだけ危険だとしてもですか?」

陽乃「私は、絶対にたどり着ける自信があるから」

水都「……そうですね」

場合によっては陽乃が死ぬ可能性もあると、水都は考えていたが、

確かに、陽乃ならたどり着くことは簡単だと思う。

半日程度でこの距離を走破できる力があるから。

でも。

水都「そうですけど」

それは、陽乃が一人の場合だ

陽乃はきっと、

水都たちがいたら、そのすべてを引き上げられないとしたら、

その、最も安全な手段を使わない。

諏訪の人々に囲まれているのを見てしまった。

その人々が、笑顔なのを見てしまった。

欠けられる言葉が、優しいものであると聞いてしまった。

それが、向けられてしまったとしたら、陽乃は――

水都「……」


↓1コンマ判定 一桁

0,3,7 水都「でも、見捨てられないじゃないですか」
ぞろ目 特殊

※その他 通常


水都は、一度開きかけた口を閉じて、

茶器の底にわずかに残ったお茶で濁す。

水都「本当に、絶対ですか?」

陽乃「ええ」

水都「向こうからこっちに来た時、倒れたのに?」

陽乃「あの時と今では違うもの」

今の体なら、九尾に乗り続けたって

暫く戦っていたって、気を失うほどの影響はないはずだ。

イザナミ様の御力を借りてしまうとその限りではないが、

それを使うのはたぶん、他に誰もいないときに限定するから。

陽乃「なに? 私が死ぬとでも思ってるわけ?」

水都「……思ってると言ったら、怒りますか?」

陽乃「醜態を晒した以上、怒ることは出来ないと思ってるけど」

陽乃はそう言って、水都をじっと見る

陽乃「思われてるのは心外だわ」

水都「仕方がないじゃないですか。今まで、そうだったんですから」


水都「……」

だから無理をして欲しくない。

そう言ったところで、陽乃は止めたりはしてくれない

無理に帰るか、

救援を期待して待つか

どちらが楽かなんて、考えるまでもないことのはずなのに、

陽乃は迷わず、向こうに帰ることを選んだ。

水都「陽乃さん」

陽乃「なに?」

水都「だったら、全員は諦めるしかありませんね」

陽乃「貴女……」

陽乃が目を見開いたのを見て、水都はぐっっと噛んだ唇を放す。

水都「話、聞いたんですね」

水都は、悲し気な笑みを浮かべがら言う。

住民のみんなはもう、四国に行くかどうかの話を聞いている。

何度も話して、考えて貰って、答えを出してくれている。

そこに陽乃のあの姿を見てしまっては、水都達が避けたかった方向で決心してしまう人も少なくなかったはずだ。

水都「以前にもお話しましたけど、ここに残るつもりの人はいました。
    でも、それ以上の人たちまで、自分たちはここに骨を埋めたいんだって、答えを変えて……」

陽乃「……」

水都「無理矢理連れ出しても足を引っ張るだけになると思うので……安全を考えるなら置いていくしかありません」


水都「さっき、囲んでいた人達はみんなそう……陽乃さんとうたのんのことを考えて、ここに残ることを決めた人たち」

陽乃「そう。だから?」

水都「諦められますか?」

陽乃「諦めるの意味が分からない」

陽乃は、まっすぐ水都を見る。

何を言いたいのかと、やや、不機嫌になっているように感じるそれを、

水都は避けることなく、受け止めて。

水都「出て行くってことは置いていくってことなんです。あそこで、話していた人たちを――」

陽乃「本人が望んでるならそれでいいじゃない。諦めてる人達を助けてあげるほど、私は勇者じゃないし」

水都「本当にいいんですか?」

陽乃「……私に聞かないで」

いいかどうか聞かれても困る。

その決定は陽乃にはできない。

本人がそうすると言っているのなら、それまでだ

陽乃「駄目だと思うなら説得したらいいじゃない。任せるわ」

水都「……なら。いつ。戻るつもりなんですか?」


1、9月半ば(9月8日目)
2、9月後半(9月14日目)
3、10月前半(10月1日目)
4、10月半ば(10月8日目)
5、10月後半(10月14日目)
6、その他


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

では少しずつ


陽乃「10月半ば(10月8日目)には、四国に向けてここを発つわ」

水都「1ヶ月の猶予をくれるんですね」

陽乃「実に好意的な解釈ね」

水都「正直、9月中に発つって言うと思ってました」

今はまだ、9月初め

来週、再来週……9月末

今週末と言われる可能性だって、水都は考えていた。

だけど、陽乃は一月後を指定した。

それだけの時間、救援を待つことが出来る

人々を説得することが出来る。

決して長くはないけれど、短くもない。

陽乃「準備する時間だって必要でしょう? 今すぐ発つだなんていわれても困るじゃない」

水都「置いていく気は、ないんですね」

陽乃「言葉の綾よ」

水都「ふふっ……そうですね。言葉の綾です」


水都「陽乃さんの考えは解りました。うたのんにも、その予定で話します……というか、陽乃さんも一緒に話した方が良いですよね? うたのんはたぶん、文句を言ったりはしないと思いますけど、念のため話し合いしましょう」

陽乃「どうせ貴女と変わらないんだから、私が話す意味なんてないんじゃない?」

水都「駄目です」

大雑把に手を振って払う素振りを見せる陽乃に、水都は強く言い返す。

確かに、歌野も水都と考えは似ている。

水都から報告したって、歌野が気を悪くすることもない。

だけど、

ただでさえ話す機会を葬ろうとする中で、

一応は重要な話なのだからと、引っ張り出せるこの話は大事だ

水都「うたのんだって、何か言いたいことがあるかもしれないので」

陽乃「それを聞くのが億劫だって私の気持ちを酌んではくれないのね」

水都「大事な話ですから」

陽乃「……そう」

水都は、相変わらず笑みを浮かべている。

突き放し、拒絶し、

そして今、多くの人々を見捨てる決断をした陽乃を、

しかし、水都は穏やかに見ている。

その好意的な視線を、陽乃は不快に思う。


陽乃「気が向いたら話すわ」

水都「お夕飯の時で良いじゃないですか」

陽乃「嫌よ。食事が美味しくなくなる」

水都「なら、お風呂の時はどうですか?」

陽乃「1人で入るから」

水都「広いんですから、いいじゃないですか」

最低でも、5人6人は入れるような広さの浴室。

1人独占できるというのも気持ちは良いけれど、

仲良く入るのも、修学旅行みたいで楽しいと言ってたのは、球子だったか。

陽乃「貴女ね……私が何も言わないからって、調子に乗らないで」

水都「言われてはいますよ……ただ、めげても仕方がないと思っただけです」

どさくさに紛れて、陽乃さん。と呼び始め、

特に何も言われないから、

そのまま変えていない水都。

それが誤解を生んでいるならと目を鋭くさせた陽乃に、やはり、水都は笑みを浮かべた。

水都「私は、陽乃さんと親しくなりたいです」


√ 2018年 9月3日目 夜:諏訪

01~10 歌野
23~32 水都
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常

√ 2018年 9月3日目 夜:諏訪


陽乃「はぁ……」

陽乃のため息が、湿気に圧し潰されて広い空間に小さく木霊する。

1人で使うには広すぎる浴室。

朝と違って、温かさに包まれているからか、

湯気と湿気に満ちている空間は、

ほんのりと息苦しさを感じさせるが、体に大きな異常は感じられない。

今朝のように、血を吐くことはないだろう。

――だけど。

陽乃「どうしてついてきたのよ」

歌野「良いじゃない。たまには」

陽乃「……確かに貴女が来るのは珍しいけど」

広い浴室に、大きな浴槽

建築資材に詳しくはないので、これが実際にそうなのかは知らないが、

木製の……檜でできているかもしれない縁の部分に、陽乃は爪を立てながら、歌野を一瞥する。

歌野「みーちゃんばっかり相手にして……狡いわ」

陽乃「何言ってるのよ」


歌野「良いじゃない。相手にしてくれたって」

陽乃「……知ってるでしょ。私はそういうの好きじゃないの」

歌野「残った二人の勇者だから、仲良くした方が良いと思うわ」

そうでなくても、力のつながりがある。

歌野が陽乃に依存しているような力関係だが、

陽乃の身体的ダメージの感覚の一部が歌野に伝わっていたりと、

その制御は陽乃自身にもしきれていない節がある。

歌野「久遠さんが人にどれだけ嫌な思いをしたかは知らないけど、でも、私達は二の轍を踏まないって約束する」

歌野はそう言って、

疲れを癒すかのような溜息をこぼしながら、

ずるずると浴槽の中に体を忍ばせていく

歌野「一蓮托生って、言ったじゃない」

陽乃「私は言った覚えないわ」

歌野「そうね」


歌野「10月半ばで、本当にいいの?」

陽乃「遅すぎるって言いたいの?」

歌野「そうじゃないけど、行こうと思えば今月中だって可能だわ。聞いてたとは思うけど、9月末ごろに出る予定で準備していたから」

かなりの規模の行進予定だったから

その分、準備だって早々に始めておく必要があった。

持ち運び出来て、保存も利く

賞味期限に目をつぶるとして、消費期限に重視した携帯食料だとか。

持っていく総量も減少したから、

最悪、今週末と言われてもどうにかなる状態ではあったのだ。

歌野「なのに、一ヶ月も時間をくれたじゃない? 期待はしていないみたいだけど、みーちゃんと私の意を酌んでくれたみたい」

陽乃「……私が準備をしたいだけよ」

歌野「体の調子が悪い?」

陽乃「違うわ」

陽乃の迷わない否定に、歌野は小さな笑い声を上げる。

ばしゃんっと音がしたかと思えば、

歌野の上半身が湯船から出ているのが見えた。

歌野「今朝、ちょっとだけ痛みを感じたの……残念だけど、久遠さんの体について、嘘は通用しないわ」

陽乃「自分のことだとは、まったく思っていないのね」


1、そうよ。まだ少し残ってる
2、気のせいよ。私じゃないわ
3、貴女は聞いたの? 残留希望者の話
4、貴女、鍛練する気はある?
5、そんな話のためについてきたの?


↓2


陽乃「そうよ。まだ残ってる」

陽乃は諦めて、答える

つながりがあって、それが実際に伝わってしまっている以上

ここで嘘をついたところで、何の得にもならない

陽乃「今は平気だけど、朝は血を吐いた」

歌野「どうして、何も言わなかったのよ」

陽乃「いう必要なんてないじゃない。気を失ったわけでもないんだから」

歌野「だけど、体が」

陽乃「今更でしょ」

一応は回復しているし、どこかが壊れたままというわけじゃない。

ただ、まだ残っていた穢れのようなものが、

神聖な儀式によって排出されたようなものだった。

だから、別に、報告が必要なほどのものではないと、陽乃は思って。

歌野「やめて」

陽乃「……」

歌野「そういうの、隠さないで」

陽乃「なによ。能天気な笑顔はどうしたの?」


歌野「久遠さんは私のことをポジティブで、土居さんみたいに快活だって思ってるかもしれないけど。怒るときは怒るし悲しむときは悲しむし、怖いものは怖いし……嫌なものは嫌だって言うのよ」

陽乃「それが今?」

歌野「久遠さん、どこまで自分をないがしろにしているのよ……昨日だってそう、あんな大きな力使って!」

陽乃「必要だから使ったのよ。ないがしろにしてるわけじゃない。現に、こうして無事――」

歌野「血を吐くような体を、無事とは言えないわ!」

歌野が叫び、いきり立つ

湯船が大きく乱れ、波立って、浴槽のふちからお湯が一気に流れていく

どこか後ろめたさを感じたのか、視線をさまよわせながらもう一度湯船につかった歌野は

言えないから。と、小さな声で言う。

陽乃「なに?」

歌野「みーちゃんの気持ちがよーくわかったわ」

陽乃「そう……自覚できてよかったじゃない」

歌野「それはそれ。これはこれだわ。久遠さんは自分をもっと大事にした方が良い」


歌野「だから、もう少し私達を頼って頂戴」

歌野は自分の胸に手をあてて、ぐっっと張って見せる。

陽乃の持っている力に比べれば、確かに他は頼れるものではないかもしれない。

だが、歌野は特に、陽乃とのつながりがある上に、

戦闘の経験でははるかに上回っている。

力の底上げとなる九尾達の力を除いたら、陽乃は歌野に勝ち目がないだろう。

戦力としては申し分ない

むしろ、それに値するから、ここに来たのだ。

だけど、歌野の申し出はその限りではない。

戦力としてはもちろん、

それを関係なく、人として頼って欲しいということだろうと、陽乃は黙る。

少しでも傷つかずに済むために、

少しでも落ち着くことが出来るように

信じ頼って欲しいと歌野は言っている。

そして、水都は言っていた。

歌野「そうしてくれるまで、私達は何度だって繰り返しちゃうんだから」

歌野は、ご要望の笑顔よ。とでもいうかのように笑顔を見せた。



1、お断りよ
2、考えておいてあげる
3、不幸になるわよ
4、何も言わない

↓2


陽乃「不幸になるわよ」

歌野「あら。壺でも買わないとダメかしら」

陽乃「冗談じゃないのだけど」

今はまだいい。

だけど、向こうでも今と同じように陽乃のそばにあり続けるということは、

大衆の意志に反する行為に等しい。

そんな勇者は反感を買う

そんな人々は迫害を受けるかもしれない。

だから、不幸になるのは間違いがないはずなのに。

歌野「知らない」

陽乃「……」

歌野「不幸になんてならない。だって、久遠さんのそばにいられるだけで幸せだもの」

陽乃「馬鹿じゃないの? 分かってるでしょう? 私の境遇」

歌野「私達を連れ帰った実績があれば、久遠さんを守れる。だれにも文句は言わせない。貴女が勇者であることを、誰にも否定させないわ」


陽乃「無理よ」

歌野「だとしても、押し通すわ」

無理だというなら無理かもしれない。

だけど、だからってその歩みを止める気はないと、歌野はきりっとしている。

陽乃が諏訪から人々を連れ帰ってきたという実績さえあれば、

そんな無理など押し通せると信じて疑っていないようだ。

陽乃「……馬鹿みたい」

歌野「馬鹿で良いじゃない。その方が、気が楽になるから」

歌野は楽しいことでもあったかのような笑顔で言って、

ぐぐっと、体を伸ばす。

歌野「久遠さんは真面目過ぎるのよ。たまには、もう知るかーっ! って、叫んでふて寝しちゃったって良いんだから」

陽乃「土居さんを参考にされても困るわ」

歌野「あはははっ土居さんだなんて言ってないのに」

声のトーンは確かに、それっぽくしたけれど。

なんて、歌野は笑う

歌野「私は久遠さんの半身みたいなものよ。だから、頼って頂戴」


明るい雰囲気のままに、

歌野はもう一度、まじめなことを言う。

歌野「その信頼に報いると誓うわ。だって、この力は久遠さんから与えられているものだもの」

陽乃「信頼って言われてもね」

歌野「してくれてないの? こんな裸の付き合いだってしてるのに」

陽乃「したくてしてるわけじゃないから」

勝手についてきて、

勝手に一緒に入っているだけ。

だから、付き合いをしているわけじゃないと陽乃は否定をしたが、

歌野は「ふぅん」と、含みのあるつぶやきを漏らす

歌野「なら、みーちゃんとはしてるってことで良いわよね? 勝手について行ってるわけじゃないんだから」

陽乃「それとこれとはべつよ」

朝の沐浴のことだろうと判断して、陽乃は首を振る

陽乃「あれはそういう考えで行うことじゃないから、関係ないわ」

歌野「もう……またそうやって受け止めてくれないんだから」

歌野はちょっぴり残念そうに、こぼした


↓1コンマ判定 一桁

1,4,9 歌野「嫉妬しちゃうわ」
ぞろ目 特殊


※その他終了


1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(身体ダメージ、不幸になるわよ)
・ 藤森水都 : 交流有(諏訪を出る予定、救援なんて、帰る、10月半ば)
・   九尾 : 交流無()

√ 2018/09/03 まとめ

 白鳥歌野との絆 67→69(良好) ※特殊交流3
 藤森水都との絆 81→83(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 70→70(良好)


10月8日目 諏訪→四国


√ 2018年 9月4日目 朝:諏訪

01~10 歌野
23~32 水都
45~60 襲撃
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常

√ 2018年 9月4日目 朝:諏訪


陽乃は敷布団に横になったまま、天井の木目をじっと見つめて

静寂の中の微かな寝息に目を細める

お風呂にまで一緒してきた歌野も、

布団の中にまではさすがに一緒してくることはなかった。

それでも、変わらず横に並んでいる。

陽乃「……」

タイムリミットは、残り約一ヶ月

歌野は解らないが、水都は住民を説得して四国に連れていくつもりだろう

だが、昨日の話をおもえば、たぶんそれは無理だ

陽乃「……」

みんな足を引っ張りたくないと思っている。

少しでも人が減れば楽になるだろうと決心している。

あれは、説得でどうにかなるものではない

陽乃は、寝返りを打って横を見る

水都の眠る、布団。

枕の上にある頭は横を向いていて、

陽乃には顔を見ることは出来なかった


そろそろ二人も起きる時間だろうか。

陽乃は基本的に二人よりも早く起きて沐浴に向かったり、

いつもの部屋でのんびりと過ごしている

陽乃「……」

今日も、どちらかで良いだろうかと少し考える。

昨日は沐浴に向かった結果吐血してしまったが、

さすがに二日目にもなれば、そうならないはずだろうから。

沐浴などの不浄を祓うような行為ではなかったものの、

歌野と入浴した際は問題なかったので、きっと大丈夫

陽乃「ん……」

ただ、相変わらず襲撃も神託も何もないのが気になる

とはいえ、結界の外に出るのはさすがに危険だろうか



1、もうひとやすみ
2、沐浴
3、いつもの部屋
4、外出


↓2


陽乃は、静かに体を引っ張り出す。

わずかに布団がずれて行ったが、

両隣の二人は気づいてはいないようで、陽乃はこっそりと部屋を抜け出した。

別に気づかれても害はないけれど、

確実についてくるからだ

あとで気づいたら、どうせ近づいてきてしまうけれど。

陽乃「……はぁ」

通路の窓から見えるのは、曇天

打って変わって天気が悪いのは襲撃の前触れのように感じるが、

神託は来ていないから、そうではないはず……と、

陽乃は足を止める

陽乃「神託自体が失われている可能性もないとは言えないわよね……」

陽乃が代理となった影響で、

それを発する効力が失われた可能性もあると、

陽乃は考えを改めて、また奥へと進む。


いつもの部屋にたどり着いて、さっそく窓を開ける

極力虫が入ってこないようにと、虫よけ用のプレートを吊るして

ついでに、蚊取り線香を焚いて……

陽乃「……やっぱり、トラウマになってるのかな」

体中を虫が張っているような感覚

飛び回る羽虫の音

ぽとりぽとりと、落ちていく何か。

陽乃「っ」

びくんっと体を震わせた陽乃は、総毛立った腕を抱き寄せながら摩る。

嫌な過去だ

陽乃「バーテックスくらい大きければ、トラウマも何もないのに」

たかだか、小さい虫なんかに身震いしているなんて、

球子が知ったら笑うだろう。

陽乃「はぁ……」

窓から風が吹き込んでくる。

まきあがる蚊取り線香の香ばしい匂いを感じる

1人だと、本当に穏やかだ



1、九尾を呼ぶ
2、白鳥歌野について
3、何もしない


↓2


では少し早いですが、本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「……九尾、いる?」

九尾はいつも陽乃の影に潜んでいるように現れる。

本当に潜んでいるのか、そう見せているだけなのか

それは、九尾に聞かなければわからない。

『何用じゃ主様』

陽乃「出てこないのね」

『必要がなかろう』

陽乃「まぁ、そうね」

九尾とは直接会話ができる。

最初のころは慣れなかったが、

今ではもうすっかり、常習化していて

不意に声をかけられても、声を上げるようなこともなくなった。

陽乃「……状況は?」

『ふむ……諏訪の周囲に主様の影響が出ておる。きゃつらが近寄らぬのはそれが理由じゃろう』


陽乃「……なら、残りが全部あの子たちの方に行っている可能性があるの?」

『主様の力はある種の結界のようなものじゃ。諏訪を守護しているような、生の力などではないがのう
 その悪しさゆえ、きゃつらも捨て置くことは出来ぬじゃろうて』

陽乃「つまり……なに? どっちなの?」

『何もせぬよりは意味もあったということじゃ』

諏訪に手を出してくることはないけれど、

その周囲にはまだ、バーテックスがいるということらしい

陽乃は窓縁に腕を敷いて、ふっと息を吐く。

蚊取り線香の煙が、体に入ってくる

陽乃「ならいいけど」

『不安かや?』

陽乃「大社にあの子たちのことを伝えてしまった以上、無事にたどり着かなかったら私の責任になるわ。どうせ、無理矢理に連れ出したせいだとか、分かっていかせたとか」

『分かって行かせたのは事実じゃろう』

陽乃「そういうことじゃないってば」


くつくつと九尾が笑う。

陽乃一人なはずの部屋に響く声

はたから見れば不気味だが

よく見ると陽乃から延びる影が、少女のそれではなくなっている。

『本当に戻るのかや?』

陽乃「そのつもりよ。なに? 都合が悪い?」

『妾は構わぬが、よいのか?』

陽乃「良いのよ。いずれはそうすべきだもの」

いつまでもここにはいられない。

陽乃の力で結界の維持は可能だが、

この隔離された土地では限界があるだろう。

向こうだって、広いとはいいがたいけれど、まだ余裕がある。

『……ならよいが』

陽乃「何か気になるの?」

『ゆくならば、一人が良いと思うが』

陽乃「それはできないわ。それをやるわけにはいかないの」



誰も連れて行かない

全てを見捨てる

それは、陽乃が一番嫌いな裏切りに等しい。

確かに足かせになるが、

だとしても、陽乃はそれをできない。

陽乃「白鳥さん一人だから、強行突破はできるけど、でも、それをしたらすべてが台無しになるじゃない」

『そうじゃな』

陽乃「言い訳じゃないわよ」

『何も言うてはおらぬ。言わずとてわかる。白鳥歌野もそうじゃな』

陽乃「白鳥さんに痛みが筒抜けになるのね」

『妾と主様のような関係をおもえばよい。あの娘が主様ほどの素質があれば、余計なことまで知られておったやも知れぬぞ』

陽乃「……私、白鳥さんのこと何もわからないのだけど」

陽乃が退屈そうに言うと、

狐の形の影がうごめいて、陽乃に並ぶ

『主様が何も知ろうとしておらぬだけじゃろうて』


1、どういうこと?
2、白鳥さんのことなんて別に知りたいとは思ってないもの
3、今だって少しは知ろうと思ってるわよ?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「どういうこと?」

『娘が言うておったであろう? 主様のことを考えておったと。勇者として選別される程の素質を持ち、加えて、主様の力は異質で強固な縁となっておるがゆえ、主様から流れ出る力を感じ取れておると見える』

陽乃「それが私にも出来るって言ってるように聞こえたけど」

『うむ。主様ならばたやすいことじゃろうて』

だが、まったくそんな気配がない。

言われてみて、歌野のことを考えてみても感じ取れた様子はなく、

しんっと静まった参集殿のどこかで、かすかに声がしているかな……という程度である。

半信半疑な陽乃の目を見て、九尾はくつくつと喉を鳴らす。

『主様はあの娘に興味がない。知を拒んでおろう? それでなにゆえ、知を得られようか』

陽乃「だって……」

『あの娘は真に主様の知を求めているからこそ、最も強き痛みを共に感じておる。主様も、拒まず受けてみればよかろう。白鳥歌野との間に結ばれた縁を、否定することなく受け入れてみよ』

陽乃「そんなこと言われたって、私は別にそんな変なところにまで気を配ってなんていないわよ」

言葉で拒絶し、態度で拒んでいる

けれど、目に見えないところにまで神経をとがらせているつもりはなかった。

『主様自身が拒もうとしておるのならば、裏も変わらぬ。あの娘どもは、主様の忌み嫌う人間と同じものかや?』


陽乃「忌み嫌ってるわけじゃ……」

あの人たちにだって、

守ってあげたなんて、恩を売ったつもりはなかった。

ただ、自分にはそれをするだけの力があって、

そうしたかったから、そうするべきだと思ったから、

陽乃は人々を守って戦ったし、

それでもなお、救うことのできなかった人々には申し訳ないと思った。

だけど、それさえも塗りつぶすほどに、彼らの行いには絶望したのも事実だ。

そういう家系だから。

だから、問答無用で死んでくれと外に放り出されたあの日。

それを生き延びてなお、親友だと思っていた者にまで忌避され

果てには武器を持って襲い掛かってくる人までいる始末

陽乃「……」

それらと、歌野達は同じか否か。

それはもちろん、考えるまでもないことなのかもしれない。

――けれど

陽乃「色々困るのよ。私が」


陽乃「……守らないといけなくなるじゃない。あんな経験、したくないから」

陽乃は多くのものを失った。

他人、知人、友人、親戚、肉親。

奪われる瞬間のあの声、瞳、音、におい。

何もかもをまだ、鮮明に覚えている。

忘れられない、忘れることが出来ない。

だけど、それがなかったとしても、陽乃は人々の怨嗟の的になっている。

お前が生きているからと、

お前が死ななかったからだと、

ついこの前、人を殺めることになったのだってそれがきっかけだった。

陽乃に味方した人々は、容赦なく押さえつけられていたし、

それは勇者だろうと一般人だろうと関係がなかった。

だから、不幸になる。と、陽乃は嘘みたいなことを本気で言うし、拒む。

陽乃「良いのよ……このままで。その方が気が楽だわ」

『良いのかや?』



1、仕方がないじゃない
2、分かってるのよ。あの子たちは違うって
3、良いのよ
4、良くなかったらどうにかなるの?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「分かってるのよ。あの子たちは違うって」

『ほう……?』

考えに耽るような九尾の吐息交じりの声

陽乃は流し気味に目を向けるが、

そこに見えるのは形の変わった自分の影だ

陽乃「なに?」

『理解していながら、主様はあの態度だったというわけか』

陽乃「笑ってもいいわよ」

『くははっ』

すぐ隣から聞こえてくる笑い声を聞きながら、黄昏る。

九尾は聞かずとも分かっていたことだろうし、

そもそも言われたから笑っているだけで、

本当なら、彼女にとっては一笑の価値もないはずだ。

『主様が望むがままにするがよい。妾は聊か尾が多いゆえ、時折尻尾を挟むこともあるが、主様の望みに反するつもりは、今はない』

陽乃「今は?」

『主様は妾の主様じゃからのう』


陽乃「あの子たちは良い子だわ。私からしたら、面倒くさいけれど、間違いないと思う」

今の陽乃にとっては厄介極まりない人たちだが、

以前の陽乃として思えば悪い子だなんて思うところはない。

積極的で、周りを引っ張って行ってくれるような性格。

杏や水都は今の陽乃あってこその行動力なのだろうけれど、

でも、個人として元空であっても陽乃は否定はしない。

誰にだって弱いところはあるし、マイナスな部分は存在する。

自分がそうだったように、ほかの人だってそうなのだと思えば、

それが強く表に出ているからと言って悪しざまに扱う気も言う気も昔はなかっただろう。

陽乃「こんな私よ? あんなに突き放したのよ? それでもまだいるんだもの」

『だからどうと?』

陽乃「……でも、だから、どうにもならないって思わない?」

『ふむ……そうじゃな』


『今の主様は身に纏う汚れが多すぎる。なのに、それを祓おうものなら怪我をする棘がある。ただではすまぬであろうな』

陽乃「……でしょう?」

ここは良い。

九尾も言っていたが、ここでなら陽乃は生きていきやすい。

わざわざ周囲を拒んで、距離を置こうとする必要なんて、まったくないだろう。

だけど諏訪は永遠に続くような場所ではなく、

いつかは、崩れ去ってしまう可能性のある期間限定の安寧の中にある。

加えて、向こうに置いてきてしまった母親の件もある。

陽乃に残された、唯一の肉親である母を見捨ててのうのうと生きていくことなんて出来ない。

陽乃「向こうに戻ったら今のようにはいられない。針の筵になる。私だけじゃないわ。周りもよ」

みんなはそれを分かっているだなんて言うけれど、

誰も何もわかっていない。

場合によっては、殺されることもある。

そんな環境に置かれるのだ。

全員が全員そんな暴走しているわけではないけれど、少なからずいることに変わりはない。

『いかようにするつもりかや?』


1、変わらないわ
2、そうね。考えておくわ
3、もう任せるわよ。知らないわ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「そうね。考えておくわ」

『戻るのじゃろう? ならば、あまり猶予はなかろう』

陽乃「向こうに戻るのに、最低でも一週間はかかるから」

連れて行くのが元気な若者だけであったとしても、

ほんの数日なんて時間では絶対に足りない。

最低の一週間という期間だって、

頑張りに頑張って最も早くてという話だ。

『戻るまでに、多くが死ぬことになると思うが』

陽乃「……そうならないように、時間をかけるのよ」

可能な限り早く進むのが安全な場合もあるが、

今回に限って言えばそれは適用されない。

陽乃「とはいえ、移動中はそんなこと考える余裕がないのも、事実よね」

『主様』

陽乃「分かってるわよ」

陽乃の持っている力がどれほど強力であろうと

陽乃の気が抜けていては、持ち腐れ

あっという間にバーテックスに嬲り殺されてしまう。

陽乃が自分で設けた一ヶ月の猶予

その間に答えを出すしかない


陽乃「……こんなことになるなら、来るべきじゃなかった」

『どうあっても、主様はここにきておったであろう』

陽乃「そう思う?」

『そうだからこそ、主様は今、悩んでおるのじゃろう?』

ここへ来たのは、

向こうで事件を起こしてしまったことが大きい。

だけど、陽乃はそれ以前から諏訪行きを考えていたし

諏訪の勇者……歌野達の身を案じてもいた。

他の子たちだって気にかけてはいただろうけれど、

あの危険な道のりを、場合によっては単身でも抜けていくというほどではなかったはずだ。

『よいではないか。主様はもともと、人を救うために妾を求めたのだから』

陽乃「……そうだったわね。結局、あの場にいた人も、私の周囲の人も。ほとんど何にも守ることは出来なかったけど」


陽乃は嘲笑交じりに零して、九尾に乗っ取られた自分の影から目を背ける。

本当に、取りこぼしてばっかりだ。

守れたものもあったけれど、

それは手の中から逃げ出していった。

親族は母親1人になってしまったし、

残ったのは、ほんの少し。

陽乃「……自信なんて、もてるわけがないじゃない?」

他の勇者に比べれば、代償が大きい分力が強いのは当然だと言える。

だけど、それだけだ。

陽乃「まぁ、できる限りやるしかないことも分かってはいるから」

『難儀なものじゃな』

陽乃「仕方がないわ。受け入れれば楽なものを、そうしていないんだから」

陽乃は窓の外を眺めながら、呟く。

本当にそう。

いいや、本当にそうなのか。

受け入れないほうが、楽な道なのではないだろうか。

陽乃はそう考えて、目を瞑る。

特に風のない、9月の諏訪は……まだ蒸し暑く感じた


√ 2018年 9月4日目 昼:諏訪

01~10 歌野
12~21 水都
34~50 襲撃
78~83 歌野
91~96 水都

↓1のコンマ

※それ以外は通常


√ 2018年 9月4日目 昼:諏訪


昼になると、歌野は通信のために設備の方に向かう。

同じ参集殿の中にあるため、

どこか遠くに行くわけではないけれど、

その間は、陽乃は近くに控えておく必要がある。

それは、陽乃が待機番だろうとそうでなかろうとだ。

どちらにせよ、陽乃はこの近隣から出て行くことは滅多にないけれど。

水都も、今までは歌野と一緒に通信に参加していたが、

球子たちが出て行ってしまって人でも足りなくなったからか、

参集殿の中にいるが、通信に参加はしていないようだ。

陽乃「………」

出かけられないから、出かけたくはないから、

いつもの部屋で、一人黄昏る。

これではただの時間の浪費だろうか。



1、九尾を呼ぶ
2、イザナミ様を呼ぶ
3、水都のところへ
4、歌野のところへ
5、イベント判定

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「はぁ……」

『何じゃ主様、出かけるのかや?』

陽乃「違うわ。ちょっとね」

1人になれる貴重な部屋を出た陽乃は、

共用で使っている大広間の方に向かう。

今は布団も畳まれているので、

夜に来る時よりもずっと、広く感じるだろう。

球子と杏までいなくなって人気の薄れた参集殿の中出その部屋に向かうのは、

そこに1人分の気配を感じるからだ

諏訪の神々の代役となったことで、

陽乃は、諏訪の勇者である歌野と、水都の居場所くらいならなんとなくつかむことが出来る。

歌野がしているような、

感覚の共有とは無関係な部分だ

部屋の襖を開くと、中にはやはり水都がいた。

水都「陽乃さん?」


水都「どうかしたんですか?」

陽乃が自分から、歌野や水都のいる場所に来るのは珍しい。

一週間に一度でも来たら良い方で

基本的にはいつもの部屋にこもっていることが多い

だからか、水都は驚いた表情を見せたが、

すぐに嬉しそうにほほ笑む。

水都「お茶淹れますね」

陽乃「構わなくていいわ」

水都「お茶菓子、あるんですよ。水ようかん……戴いたんです」

陽乃「そう」

興味なさげに答え、部屋の中に入る。

襖を閉めると、すぐ横でかたんっと箱が崩れたのが見えた。

箱は一つ二つではなく、十個は、積み重なっている。

陽乃「何かあったの?」

水都「陽乃さんの快気祝いだそうです。みんな、会いたがってますよ」


陽乃「快気祝い、ね」

陽乃が外に出て、直接姿を見せてしまった影響だ

あの場で会話した人たち、陽乃の姿を見た人たち。

そこから、あの場にいなかった人たちにまで伝わって

諏訪を守ってくれた勇者様に……都でもなったのだろうか。

ただでさえ余裕がないのにと、以前なら思ったかもしれないが、

今は、陽乃の力の一つのおかげで四国ほどに諏訪は潤っている。

誰かにこうやって大量に送るくらいの余裕も、あるのだろう。

陽乃「……これ、全部私宛なの?」

水都「うたのんの分もあるにはあるけど……ほとんど陽乃さんの分です。あの時、意識不明で運び込まれたのが大きいんだと思います」

諏訪を守ってくれた勇者様。

早く目を覚まして欲しいと、元気になって欲しいと参拝に足を運び、

そこで元気な姿を見ることが出来たから喜びも余っているのかもしれない。

水都「どうぞ」

切り取られた羊羹が三切れ乗った小皿と、湯気の立っていない、冷茶の入った茶器が一つ

水都の分も、一応は用意してある。

陽乃「……」



1、いただく
2、こんなことしている余裕があるの?
3、貴女は、私のことを感じる?
4、四国は諏訪とは違うわ


↓2


陽乃「こんなことしている余裕があるの?」

水都「ない……かもしれません」

水都はそういいつつも、お茶を口に含む。

ゆったりとした所作は、

余裕がないという言葉とはかけ離れていて、

とても、落ち着き払っていた。

水都「でも、焦っても仕方がないんです。もう一度お話させてほしいって集会の依頼は出したので、出欠席の確認が取れてからどうにかしたいと思ってます」

陽乃「説得の言葉も考えているように見えないけど」

水都「……ここまで頑張ったから、最期まで諦めないべきだから、希望はあるから、うたのん達が抱え込んじゃうから。
   もう、言えることは言いつくしたかなとは、思ってたりもするんです」

ここまで頑張ったのに諦めるのなんてもったいない。

確かにそう。だけど、それが周りを危険にさらすなら……と、身を引かれたのだろう。

希望があるのだって、それに縋った結果、

その希望さえも奪う結果になってしまうかもしれない。

陽乃「だから、こんなところでお茶を啜ってるのね」

水都「これは、陽乃さんとお茶がしたかっただけです」


水都「……難しいですね」

本当は死にたくないけど、

そうするしかないって思っているだけなら、

どうにか説得も可能だったかもしれない。

だけど、自らがそうすべきであると決心して

託そうとしてくれている人々。

水都「どれだけ声をかけても、良いんだよ。って、優しく笑うんです」

陽乃「……今日も声をかけたの?」

水都「参拝に来てくださっている方には声を掛けました。けど、大丈夫って」

陽乃「その人達がそう言ってるなら、いいじゃない」

水都「ダメです!」

水都は声を荒げてすぐに首を横に振ると、ダメなんです。と、小さな声で繰り返す。

水都「そんなことになったらうたのんは、なりふり構わなくなっちゃう。陽乃さんだって、気にしていないふりしているだけで、忘れられないはずです」

陽乃「……」

水都「だから、どうにかしたいって……思ってるんですけど」


水都「もちろん、諦めるつもりはないです。どうにかして、説得するつもりです」

陽乃「だったら、考えたら?」

自分は関係ないとでも言うような陽乃の返し。

のんびりしているのはおんなじだが、

悩ましさのある水都とは違って、陽乃は落ち着いている。

そんな態度に、水都はちょっぴりむっとしてしまう。

歌野以外には、あまり見せない表情だ

水都「……あの」

陽乃「嫌よ」

水都「まだ何も言ってないじゃないですか」

陽乃「何を言うか分かってるから言ったのよ」

水都「………」

水都は、押し黙ってパッと顔を上げた

水都「一緒に考えて貰えませんか?」



1、嫌よ
2、私には関係ないことだわ
3、任せたはずだけど?
4、私に人の説得なんてできるわけないじゃない


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「嫌よ」

水都「考えるくらい……駄目ですか?」

陽乃「貴女、私がそんなことすると思ってる?」

水都「……冷たいですね」

陽乃「冷茶だもの」

水都「そういうことじゃないです」

適当なことを言ってそっぽを向く陽乃に、

水都は困ったようにつぶやいて、お茶を飲む。

水都「陽乃さんは、みんなが笑顔で送り出してくれても、平気なんですか?」

陽乃「その人たちが望んだことなら、私には何も言えないわ」

水都「聞きたいのは陽乃さんが、平気かどうかです」

水都は、少しむっとする。

何も言えないというより

何も言いたくないというのは、もうすでに拒絶で分かっている。

水都「さっきも言いましたけど、うたのんは絶対に割り切ることなんて出来ないと思うんです」

陽乃「だったら、白鳥さんと考えたらいいじゃない」

水都「……もう、考えました」


水都「久遠さんは平気なんですか?」

陽乃「……平気よ」

水都「本当に、平気ですか?」

陽乃「私の意志なんて関係ないじゃない」

水都のことなど見ずに、陽乃はぼやく。

陽乃が平気だろうと、そうでなかろうと

水都は歌野のために説得を続けるだろう。

だから無関係、だから無意味。

答えなくたって、何も変わらない

陽乃「私が平気だったらどうなるの? 平気じゃなかったらどうなるの? どっちにしたって、貴女は説得を辞めないでしょう?」

水都「辞めません」

陽乃「だったら、答える気はないわ」


陽乃「事前に言っておくけれど、解釈は自由で構わないわ」

沈黙を肯定と取る人もいる。

平気か否かそれを陽乃が黙秘したからと

水都がやっぱり平気じゃないんだと判断しても

それが自分の意志とは限らないと、陽乃は否定する。

陽乃「私は説得する気はない。本人が、自分の意志でもう生きたくないと言っている以上、生きて欲しいなんて言わない」

水都「陽乃さん」

陽乃「私は、私が生きていたいから戦うの。それを危険にさらすような人たちを、連れて行く気はないのよ」

水都「それで、良いんですか? 悩まずにいられるんですか?」

人々は、笑顔で送り出してくれる。

感謝を述べて、希望を託して、そして、

陽乃が離れていくにつれて弱まっていく諏訪とともに、バーテックスに飲み込まれることだろう。

目の前ではない。

だけど、自分の意思で人々を見殺しにしたようなもの――なんて。

考える人は多くはないかもしれないが。

少なくとも、目の前にいる人は考えてしまうと、水都は思って。

水都「守れなかったこと、今も悔やんでいるんじゃないですか?」


陽乃「はぁ?」

水都「……伊予島さんが、言ってたから」

水都は、少し申し訳なさそうに言う。

水都「陽乃さんが、出て行った後に……伊予島さん達と話す時間があったので」

もちろんちょっとだけですよ。と、

後追いで笑った水都は、人差し指と親指で小さな隙間を作って見せる

陽乃が命がけで陽動に出ていた時間

裏で長話をするわけにはいかなかったから。

陽乃「勘違いよ」

水都「でも、久遠さんは守ることに全力じゃないですか」

生きるために全力で力を使っているだけだというかもしれないが、

それにしては、自傷が過ぎている。

水都「血を吐いて、苦しんで、傷ついて、気を失って……それを生きるためというには、あんまりにも無理だと思いませんか?」

陽乃「……」


1、解釈は自由よ
2、誰も頼れないだけよ
3、だから何なの? 生きる気のない人を生かしてあげるほど、余裕はないわ
4、何も言わない


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


水都「……どうして」

陽乃「……」

水都「別に、何も言ってくれなくても構いませんけど……」

水都は顔を顰めて、陽乃から目を背ける。

テーブルががたんっと揺れて、

陽乃の分のお茶が、少しだけ跳ね飛ぶ。

水都の表情は影に埋まっている。

俯いていて、見えなくて、

けれど、何か悩んでいるのは感じる空気

陽乃「……」

何? と、聞けば答えるかもしれない。

だけど、聞く理由がない

慣れ合う気がないのなら。

このまま、今まで通りつかず離れずなままでいるつもりなら。


↓1コンマ判定 一桁


0,5,9 水都「ダメですよ……」

ぞろ目 特殊


水都「陽乃さんは、もう少し自分に優しくした方が良いと思います」

陽乃「十分、優しくしているつもりだけど」

水都「どこが、優しいんですか」

陽乃「……分からない?」

水都が言うように、

血を吐いたり、傷ついたり、気を失ったり、死にかけたり

虫にまみれながら野宿をしたり。

かなりハードな経験をしてきているが、それでも生きている。

陽乃「私は私のために、死ぬほど辛い思いをしてでも生きることを諦めていないわ」

水都「っ……」

陽乃「それ以上の優しさがあると思う? それを諦めるほど酷い話があると思う?」

水都「でもっ、だったら……」

陽乃「頼って欲しいだなんて、言われても困るわ」

先を言われ、水都は顔を上げる

水都も何度も言ったし、

杏達からも何度か言われているだろうから、察して当然かもしれないけれど。

なら、だからこそ……と、水都は言いたそうな顔をして。

陽乃「自分の命を誰かに委ねるなんて、それこそ自分に厳しい話だわ」


水都「でも、伊予島さん達とはここにまで一緒に来る関係で、うたのんとは、もう、同じ力を共有してるような関係じゃないですか」

陽乃「2人は無理矢理付いてきただけよ。白鳥さんは……その通りだけど」

水都「なら、どうして」

陽乃「でも結局、私とは違うから」

同じ力……のようなものだが、

陽乃が受け取った諏訪の神々の力というだけで、

元から有していた力とは相違がある

陽乃を通したことで、多少は陽乃の力が混じって送られることはあるかもしれないけれど

同様の力、能力を扱えるわけではない。

最も、そうなってしまうと困ってしまうが。

陽乃「伊予島さんも、土居さんも、白鳥さんも。みんな勇者であるとは思うし、力を合わせれば私でさえも殺すことが出来る位だろうとは思ってるわ。だけど、それとこれとは話が変わってくるのよ」

手加減ありの模擬戦とはいえ、球子は陽乃に一撃を与えられたし、

向こうに残してきた若葉だって、九尾に切り替わっていたとはいえ撃退した。

だから、集まれば自分でも敵わないだろうことは認めるほかない。

全力で力を使った場合を考えなければだが。

陽乃「なんて言ったら良いのかしら……そうね。語弊が生じるのを承知で簡潔に言うなら、私、臆病なんだわ。きっと。だから、無理なの」

水都「っ……そんな、そんなのっ……」

ごめんなさい。と、陽乃が続けたわけじゃない。

だけど、続いてしまったかのようなその空気を、水都は耐えられなかった。

陽乃「だから、いつだって私は独りになりたいのよ」


√ 2018年 9月4日目 夕:諏訪

01~10 歌野
67~76 歌野

↓1のコンマ


√ 2018年 9月4日目 夕:諏訪


陽乃はまた、いつも通りに自分の部屋のように自由に出入りしている個室で黄昏る。

陽乃「はぁ……」

今日も襲撃はなく、平和だった。

九尾曰く、陽乃の力の影響で二重の結界のようなものが発生してしまっており

それで近づくことが出来ていないということらしいが。

警戒しているだけならいいが、

後回しにされて、向こうに向かわれていたら大変なことになっているかもしれない。

それでも、当初のバーテックスの数よりは減らせているだろうけど。

問題があったとしたら、昼間のことだろうか。

水都と言い争い、喧嘩別れしたわけではないが、

だとしても、あの場の空気は酷く陰鬱なものとなっていた。

陽乃「言い過ぎた……わけでもないし」

今までに比べれば、だいぶ優しく答えてあげた方だ。

突っ撥ねたのは変わらないが、ただそうするのではなく、理由を語ってあげたのだから。


陽乃は窓際に伏せって、蚊取り線香の煙の流れを追いかける。

網戸の外に向かったかと思えば、風に押し返されて、

白い煙はあっという間に霧散して見えなくなって、鼻に来る。

そんな、流されるがままの煙。

陽乃「臆病は、さすがに簡単に言い過ぎたかも……」

失うのも怖ければ、裏切られるのも怖い

守ってやったと恩着せがましく言う気はなかったにしても

それをそのままそっくり仇で返されてきた3年間

あの日、学校の防衛だけに努めていたら、どれだけの非難を受けずに済んだだろうか。

いや、それだったら母親すら失っていただろう。

だけど、人間の悪意に身を焼かれるような思いをせずに済んだかもしれない。

考えることは、暗いことばかり。

起きて忘れる夢は、きっとちっとも良いことではない

陽乃「……生き残ることが優しさだなんて、馬鹿なこと言うものね」

むしろ、死んでしまうのが一番ではないか。と、

陽乃は太陽の見えなくなった空を眺めながら、思う。

死は何も考える必要がなくなる。

善意も悪意も、過去も未来も、

一瞬の激痛を味わうことさえ忘れてしまえば、それ以上に辛いことも苦しいことも何もなくなる。

自分の手を掴む、体を抱く、何かしらの温もりさえなければ……あっという間だ。



1、何もしない(イベント判定)
2、九尾を呼ぶ
3、イザナミ様を呼ぶ
4、外出する

↓2


陽乃「……」

日本において死を司る神とも呼ばれることのある、イザナミ様。

彼女は、死はどういうものであると考えるのか

逆に、生きるとはどういうことなのか。

九尾も人間とは変わった答えを出してくれるかもしれないが、

それを司る神の答えはどのようなものになるのだろう。

好奇心で手を出していいことではない

だけど、今の体の状態で、

そして、戦闘という大きく力を消費するようなものでなければ、

呼んで会話をするだけなら体は持つかも知れない

イザナミ様が、赦されるかは別として。

陽乃「……怒られたら、最悪死ぬけど」

怒りに触れ、祟りなどを返されたら死んでもおかしくない。

さすがに、神々の力を借り受けているため、即死することはないが

寿命が縮むくらいはある。

だけど、愛しいとしてくれていた神だ。

お呼びするくらいは許可してくださるだろうと、

陽乃は深く息を吐いて、神降ろしの儀を行う。

勝手に出てくる九尾とは違って、正式に、正確に、儀式を通して、呼び起こす


↓1コンマ判定 一桁

0,3,4,9 成功

ぞろ目 成功


反応はない。

九尾のように姿を現してはくれない

呼ばなくても出てきたことのあるかの神は、

大きな戦いの場には力を貸し与えてくれたが、

彼女は、こんな場にまで姿を見せてくれるほど軽くはないようだ。

陽乃「正式な手順を踏んだって、関係ないのね」

神様の気分次第。

それは当然であり、人類は受け止めるべき事柄だろうから

今更、それに文句はなかった。

だけど、叶うなら姿を見せて欲しかった。

今なら、もう少しまともに言葉を交わすことが出来たはずだから。

彼女の生死についての考えを聞きたかったというのもあるし、

以前言葉を交わした際の、九尾以上の容赦なさが気になるからだ。

彼女は、そうと決めたら容赦なく人々を殺めてしまう危険がある。

それこそ、

勇者だろうと巫女であろうと関係なく。

そのうえで、陽乃の命まで奪いかねない。

今は、陽乃だけは死なずに済みそうだが。


「無駄じゃぞ。主様」

どこからともなく、陽乃ではない女性の声が部屋に残る。

段々と影が伸びる部屋の暗がりが盛り上がって、

ひたりひたりと、人の形をしたものが陽乃に寄り添うように腰を下ろす。

陽乃「貴女は呼んでない」

九尾「くふふっ、主様の寂寥な姿を見て、寄り添う優しい狐じゃぞ」

陽乃「……どこが」

狐と言いつつ、女性の姿をしている九尾は、

陽乃にまとわりつくように体を密着させる。

花でも果物でもない、甘い香りがする。

九尾「主様、かの神に何を尋ねようというのかや?」

陽乃「人生観というか……生死観」

九尾「くふっ……ふふふっ、そのようなことをかの神に問うてどうする。何が得られる。主様、問答次第では、死ぬぞ?」

陽乃「……」


陽乃が生きるのが辛いと言えば、彼女は陽乃を殺すだろうし

陽乃にそれを思わせたすべてを葬り去ろうとするだろう。

なぜ、生死観を問いたいのか。

その答えが迷いであっても、

場合によっては、殺めていたかもしれない。

九尾「もしや、その命、捨てようと思うてるわけではあるまい?」

陽乃「まさか」

九尾「主様、かの神は安く呼んで良い存在ではない。あの娘のように言うつもりはないが、主様とて、手に余る」

陽乃「分かってるわよ……でも。知りたいじゃない。神様にとっての生と死を」

九尾「あの娘との戯れが、それほどまでに辛いかや?」

陽乃「辛くはないわ」

九尾「ならば何故、思い悩む」


1、臆病だからよ
2、守れると思う?
3、どうにもならないのよ。私の3年間は
4、なら答えて。貴女にとって、どちらの方が楽?


↓2


少し中断いたします
再開は21時ころから


陽乃「臆病だからよ」

九尾「小娘にも言うておったな」

陽乃「ええ。だって、それが一番わかりやすいじゃない?」

九尾「ふむ……」

あの日の光景と、苦痛と、絶望

いまだに忘れることが出来ないそれらに、怯えている

陽乃「取りこぼすのが怖い。でも、何よりも裏切られるのが怖い……だって、ただの人に裏切られるのと、一緒に戦う勇者に裏切られるのとじゃ、わけが違うじゃない?」

九尾「ならば、あの小娘はなんじゃ」

陽乃「白鳥さんが言ったじゃない。あの子もまた勇者だって」

陽乃は、笑みを浮かべて九尾に向き合う。

藤森水都に、バーテックスと戦う力はない。

陽乃なら、故意に与えることは出来るが、

その場合、彼女は死ぬだろうから。

だけど、陽乃は首を振る

陽乃「あの子は勇者よ。だって、人々が恐れるこの私に、何度突き放されようと無力な身一つで向かってきたんだもの」

九尾「ほう?」

陽乃「だから、確信できる。あの子は私を裏切らない。私が守れずに失う側の子だって」


かつて、親友だと思っていた少女は陽乃のことを突き放した。

あの日、彼女だって同じく学校で襲われ目の前で戦う陽乃を見ていたはずなのに、

そんなことがなかったかのように、拒絶を受けたのだ。

だから必要以上の親しさなんていらないと思った。

どうせ何も変わらないと

場合によっては後ろから刺殺される可能性もあると。

だけど、水都は陽乃の悪い側面ばかりを言い聞かせても、

突き放しても、

それでも、陽乃のそばを離れようとしていない。

だから

九尾「あの娘にそれを言うてやればよい」

陽乃「言ってどうにかなると思う? なるわけがないじゃない」

陽乃は、呆れたことを言うものね。と、

苦笑して、九尾から目を背ける。

陽乃「あの子は、きっとこう言うわ。陽乃さんなら大丈夫です信じてますって」

ありえないとでも言うかのように、陽乃はため息をつく


陽乃「冗談じゃないわ……私が、どれだけのものを失ってきたと思ってるのよ」

力を信じられたって、命を任されたって、

多くを取り逃してしまった

どうせ残るのはほんの一握り。

九尾「ゆえに、主様は命を懸けておるのじゃろう?」

陽乃「……」

自分のためというのも嘘ではない。

何一つ頼らず

何一つ巻き込まず、

ただ、自分の全力の力でそれを解決してしまえば、

何一つ、失うことはない。

九尾「主様は人を救うに足る力がある」

陽乃「私の過去がそれを否定してしまうのよ」

いつまでも、どれだけそれが昔のことになっても。


1、私、あの子が嫌いだわ
2、私、あの子のことを気に入ってしまったのね
3、だから、私は生きることを諦めた人を連れて行きたくないのよ
4、この気持ちまで、あの子たちに伝わってしまうのかしら


↓2


陽乃「この気持ちまで、あの子たちに伝わってしまうのかしら」

九尾「ふむ……無理じゃろうな。それほどの力はあるまい」

陽乃「そう」

九尾「伝えることは出来るが?」

陽乃「余計なことをしなくていいわ」

伝わってしまったら困る。

これが伝わってしまったら、

彼女たちは、余地もなく、諦めることをしなくなる。

九尾「ふっ……もう、あの娘は諦める気などなかろう」

陽乃「……でしょうね」

九尾「良いのかや?」

陽乃「どうにもならないと、思うけど」


陽乃がどちらであろうと、人々の説得を諦めることがないように、

陽乃が拒んだって、水都達は諦めてくれない。

陽乃「だからやっぱり、ここに来るんじゃなかったって思う」

九尾「そうか」

二度目の言葉

繰り返すにはやや早いけれど、でも、それ以外にはなくて

陽乃「嫌ね、怖いわ」

手が震える

握った手から、すり抜けて行ったことはない。

だけど、手を取ることが出来なかったものが多い記憶

陽乃「私、きっと束縛すると思う」

九尾「言うてみればよいではないか」

陽乃「片時も離れず傍にいてって? ずっと手を握っていてって? 馬鹿じゃないの? 言うわけないじゃない」

あくまで、そう思うだけだもの。と、

陽乃は、九尾に見せた震える手を、もう一方の手で抑え込む

九尾「主様は、あの娘共を受け入れるのか?」


1、受け入れない
2、受け入れる
3、さぁ? まだ答えは出せないわ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


陽乃「さぁ? まだ答えは出せないわ」

九尾「主様」

陽乃「……なに?」

振り返った陽乃はうっすらとした笑みを浮かべて、九尾を見る。

その言葉は必要ないわ。と、

拒絶するようなその表情に、九尾はため息をつく

九尾「主様がそれでよいならばよいが」

陽乃「良いから、言ったのよ」

九尾「あの小娘に悟られておってもか?」

陽乃は眉をピクリと動かして、九尾から目を背ける

水都の表情、雰囲気、仕草

あれは陽乃から感じ取ったからこそのものだ

その場で無理に付きまとって来なかったのも、だからこそだろう。

陽乃「だとしてもよ」

九尾「主様はなかなかに、正直なものじゃな」


くつくつと喉を鳴らす、少し小ばかにしたような笑い声を溢れさせる九尾をよそに、

陽乃は机に突っ伏して、目を瞑る。

瞼の裏に浮かぶのは、部屋に1人でいる水都の姿。

テーブルのそばに座ったまま、

丸い饅頭を水ようかんの櫛で突いて、小動物にでも分け与えるのかと思うほどにちいさく切り取っている。

陽乃「……ねぇ、九尾」

九尾「なんじゃ」

陽乃「私って、強い?」

九尾「弱い」

陽乃「そっか」

さっきは認めるようなことを言ってくれていたのに、

一度断ったからと、否定する九尾。

やっぱり、彼女は妖狐だ。

陽乃「まぁ、自覚があるからいいわ」

自分だけで手一杯

だから、いつだって、命がけ。

それは変わらない

陽乃「……ままならないものね。勇者になっても」


√ 2018年 9月4日目 夜:諏訪

01~10 歌野
12~21 水都
56~65 歌野
89~98 水都

↓1のコンマ

※それ以外は通常


√ 2018年 9月4日目 夜:諏訪


気付けば、外は真っ暗。

少し離れたところに見えていた木々も、すっかり見えなくなって、

雨が降りそうなにおいだけが、外から流れ込んでくる。

陽乃「……」

夕食の時にも、

水都や歌野が呼びに来ることはなかった。

待っていたわけではないから、自分から向かったけれど、

そのあとも、水都があんまりにも無口だったからか、

歌野もうまく話を見つけられなくて、

今までで一番、暗い夕食になってしまっていたような気がする。

陽乃「……白鳥さんに、何も話していないのかしら」

陽乃がこの部屋にいる間、

2人には話すだけの時間はあったはず。

今だって、陽乃がいないから、内緒話も簡単なはずだけど、

それをしていないのか、しているのか。

感じる気配は近いが、深くは解らない。


さすがに、今回は深く関わりすぎてしまったかもしれないと、

今更、少しだけ後悔する。

水都には、知られ過ぎてしまった。

過去も、今も。

陽乃「……」

過去のほとんどは、杏達からのリークもある。

やっぱり、あの二人は意地でも連れてくるべきではなかったのか。

だが、あの時の陽乃は満身創痍

どうにかできる状態ではなかった。

だからやっぱり、ここに来るべきではなかった。のだけど。

陽乃「後悔も、堂々巡りね」

九尾はいずれにしろ来ていたと言っていたし、

確かに、以前からここに来ることを目標の一つとしていたから、

来るべきではなかった。なんて後悔はたとえ過去に戻ろうとしていただろう。

陽乃「はぁ……」


1、何もしない(イベント判定)
2、共用の部屋に戻る


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


そろそろ時間も時間だろうかと、体を起こす。

どれだけ動かなかったのか、

筋肉が固まったような感覚を覚え、ぐぐっと体を伸ばしていく。

夕食は、食べる時間があるからどうしても気まずさを持続させることになるが、

今は、部屋に戻って寝るくらいだ。

と言っても、憂鬱で。

陽乃はため息をついて、一度は上げた腕を、畳の上に戻す。

陽乃「……布団、こっちに持ってきちゃおうかしら」

私は向こうで寝るから。とでも言って、

さっさと荷物を持って逃げてくる。

バーテックスとも戦うのに、人間からは逃げるというのは聊かひっかりもあるが、

殺すことが出来ない以上、逃亡も致し方ない

なんて思って、顔を顰める

九尾がいたら嘲笑の一つでもあったかもしれない

陽乃「……人を殺すなんて、今更なのにね」

その代わりに、自分で嘲笑する。

あれだけ突き放しておきながら、見る影もないほどに哀れだと。

陽乃は観念したように首を振って、部屋を出て行く


静まり返った参集殿は、夜の帳を纏ってどこかおどろおどろしい雰囲気を感じさせる。

恐らくは檜の、床板がほんの少し軋む。

俗に言われていた、ラップ音のようなそれに、陽乃は怯えることもなく小さく笑う。

陽乃「……」

かつて、陽乃の神社で肝試しをしたいなんて言い出した友人がいた。

神職に携わる身としては、そんな不敬なこと許せないと思ったが、

子供心に増幅された好奇心は思いのほか強く、両親に相談して色々と条件付きで許可を貰ったことがある。

友人数人で泊まり込んだその日、

夜になると、どこからともなく今のようなきしむ音が聞こえて、とても騒がしかったのを、まだ覚えている。

その中で、あの日、生存を確認できたのは1人だけだ。

陽乃「……駄目ね」

変に感傷的になってしまっている。

知らず知らずのうちにぴたりと止まっていた足をもう一度前に進める。

歌野『デッドorアライブ……そうね。みーちゃんも久遠さんも間違ってないと思うわ』

水都『うたのんは、どう思うの?』

歌野『ん~……私だったら "DEAD" その方が優しいって思っちゃうかもしれない。だけど、死んじゃったら終わりでしょう?』


陽乃「……」

まだ話し終わってなかったようで、部屋から声が聞こえてくる。

歌野の答えは陽乃とは逆のようだが、陽乃の答えも分からなくもないと言う。

歌野『その人の命……魂かしら? それに優しいかどうかで久遠さんは考えているのね』

水都『でも、私には……分かりようもないけど、死んだ方がマシな苦しさってあると思う。それが優しさなことだって――』

歌野『みーちゃんは、久遠さんに死んでほしいの?』

水都『ち、違うよっ……違うっ、けどっ……』

歌野『ごめんなさい、意地悪なこと言ったわ』

部屋の中から聞こえてくる声が、歌野のものだけになる。

ごめんねと。何度も繰り返して、

抱いているのか、ただ摩っているだけなのか

寄り添っているのを感じる

水都『私はただ、一人で頑張ってほしくないだけだよ……』

陽乃「……」


1、部屋に入る
2、もうしばらく外にいる
3、別の部屋に戻る


↓2


少し、迷いはしたものの、

床板を少し強く踏み込んでから、襖を開く。

足元がきしんだとたんに、ほんのちょっぴり慌ただしい音が聞こえたが、

気付かなかった風を装って、そのまま中に入る。

歌野「あら、もう戻ってきたの?」

陽乃「何? 戻ってこない方が良かった?」

歌野「そういわけじゃないけど」

陽乃「私は別に、二人が恋愛関係にあろうがなかろうが、看過しないから心配しないで」

歌野「こっ」

さっきまでの話、振り返らない水都の雰囲気

きっと、見られたくない状況にあって、慰めるために寄り添っている。というのは察しがついているが。

ぴたりとくっついている二人を一瞥して、適当に嘯く。

歌野「恋仲って、久遠さん早とちりが過ぎるわ!」

陽乃「別に良いってば、どっちだって」

歌野「その、なんか、否定するほど怪しいみたい言い方止めてっ」


水都はいつも通りではない。

けれど歌野はいつも通り……でもなさそうだ。

返答は明るく、普段の明るさを感じさせるけれど、

壁の境目に残るわずかな影のような暗さが、表情に見えている。

陽乃「気にしないで。もしあれなら、別の部屋に布団を持っていくから」

歌野「久遠さんっ!」

陽乃「……冗談よ」

ちょっぴり声を大きくした歌野だが、

はっとして水都を一瞥すると咳払いをして、少し距離を取る。

水都は相変わらず陽乃に背を向けたままで、

袖でぐっと目元のあたりを拭って、ようやく振り返る

水都「もうお休みになられますか?」

陽乃「そうと言ったら困るのかしら」

水都「そんなことはないですけど……」


1、なによ。はっきりして
2、もう休むわ
3、なに? 別室で良いって言うならそうさせて貰うけど
4、何も言わない


↓2


陽乃「なによ。はっきりして」

水都はそれでも少しためらいを見せて、

歌野が動こうとしたのが見えたのか、首を振って、陽乃を見上げる。

水都「もし、陽乃さんがそうしたいなら別室でもいいと思います」

歌野「みーちゃん?」

水都「その方が、安心できるならその方が良いと思うから」

水都は、そう言って

だけど、少しばかり名残惜しそうな表情を見せる。

陽乃「貴女達が、わざわざ3人並べてたと思うんだけど」

水都「それはそうですけど、でも、すみません」

歌野「久遠さんがその方が良いなら、そうしてもいいんじゃないかって話し合ったの。今は二人しか勇者がいないから、少しでも落ち着けた方が良いと思って」

歌野のとっさのフォローが入る。

少し焦った冷や汗が頬に浮かんでるのが見えたが、

陽乃はそっと視線を横に逸らす。

陽乃「そう」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


ここに来る前に、

少しそんなことを考えていたけれど、

考えを読まれていた……わけではないはずだ。

2人で話し合ったのが本当かどうかはわからないが。

陽乃「話し合ったのね」

歌野「別に、久遠さんが邪魔だとかそういったことは考えていないから安心して頂戴。ただ、それぞれが望むようにした方が良いって思っただけだから」

陽乃「だとしたら、白鳥さん達も、私とは別室が良いって考えてるってことで良い?」

歌野「本音を言えば、このままが良いわ」

歌野はそこで、言葉を止める

……だけど。と、続きそうに思えたけれど、続かなかった。

陽乃「部屋は、いつものあの部屋を使ってもいいのよね?」

水都「そうですね。大丈夫だと思いますよ」


1、なら、そうするわ
2、いいわ。面倒だから


↓2


陽乃「いいわ。面倒だから」

歌野「布団とかを持っていくの確かに面倒よね。もしあれなら手伝っても……」

陽乃「良いってば」

それ以外の時間をあの場に使うからいいのであって、

夜まであそこで過ごすことになったら、

あの部屋は自室のようなものであって、息抜きの場ではなくなる……なんて。

陽乃「今更、生活の場を変えても不都合だから」

歌野「そう……なら、いいけれど」

水都「本当に良いんですか?」

陽乃「……」

水都の伺うような視線とまっすぐ向かい合う。

あんなこと言った後だ。

1人きりになれる話を拒むのは矛盾が生じてしまうかもしれない。

陽乃「良いわよ。手間を増やしたくないから」

だけど、やっぱり。という気にはなれなくて首を振る。

余計に悩ましく乃は、目に見えているから


陽乃「別に変な気遣いなんてしなくていいから」

一人になりたければ、勝手に一人になる。

今回みたいに、無理に一人にしようとされるのは逆に気にかかる

どうせ、放っておけない二人だ。

そうやって気遣うのはかなりの無理をしているように感じる。

陽乃「そんな……」

歌野「?」

陽乃「……なんでもないわ」

水都は、強く顔に出ている。

あの話が影響しているのは間違いがなくて、

恐らくきっと、あの瞬間の自分も似たような顔をしていたのだろうと。陽乃は思って。

顔を顰める

陽乃「もう休むわ。明日だって、朝から襲撃がないとも限らないんだから」

歌野「そう、よね」

九尾は、しばらくバーテックスが近づくことは出来ないと言うようなことを言っていたが、

それが絶対とは、限らない。

なんて、それも、建前かもしれない。


1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(部屋に入る、はっきりして、断る)
・ 藤森水都 : 交流有(余裕、嫌よ、解釈は自由、部屋に入る、はっきりして、断る)
・   九尾 : 交流有(状況、諏訪組とのつながり、分かってる、考えておく、臆病、心まで、答えは出せない)

√ 2018/09/04 まとめ

 白鳥歌野との絆 69→70(良好) ※特殊交流3
 藤森水都との絆 83→83(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 70→73(良好)


√ 2018年 9月5日目 朝:諏訪

01~10 歌野
12~21 水都
45~54 歌野
78~87 水都
89~98 襲撃

↓1のコンマ

※それ以外は通常


√ 2018年 9月5日目 朝:諏訪


朝になると、体中に力が満ちていくのを感じる

もうすっかり、回復したようで、

胸の奥につっかえるような違和感などもない。

それはたぶん、昨日イザナミ様を呼ぶのに失敗したからで

もしも呼ぶことが出来てしまっていたらと、少し思う。

あれは聊か、早まっていた。

陽乃「……ん」

いつもは聞こえる二つの寝息

けれど、今日はまた、1人分で、

もう一方……水都の方からは寝返りを打つ音がした。

水都「……」

言葉はないけれど、でも、起きている。


1、別室へ
2、沐浴へ
3、……昨日のは、忘れてくれていいわ
4、あんなふうに気遣えと言ったつもりはないわよ。
5、少し、付き合いなさい


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「あんなふうに気遣えと言ったつもりはないわよ」

水都「……」

陽乃「一周回って迷惑だった」

水都の反応はなかったが、わずかに呼吸が遅れたのを感じた。

やはり、起きているのだろう。

陽乃「なによ、今更」

諏訪に来てから今まで、

何度、突き放してきたと思っているのか。

それに対して、どれだけ粘り強く突っかかってきたのか。

覚えていないわけがないはずだ。

なのに、今更。

陽乃は、天井で波打つ木目を何の気なしに見つめて、ため息をつく

陽乃「私が、貴女に何を見せたって言うのよ」

微かに、水都側の方から布団が動く音がする。


暫く何も言わないでいてみると、また少しだけ動く音がする。

横を見れば、もしかしたらこっちに目を向けているのかもしれないと陽乃は思ったが、

目を向けることなく、瞼を閉じる。

そうして、ふと、小さな声が聞こえた。

水都「……すみませんでした」

陽乃「なにが」

水都「あんな顔、するとは思っていなくて」

陽乃は苛立ちを堪えるように顔を顰めて、目を開く。

何一つ変わりようのない天井には、

窓から差し込む光のせいで、ほんの少しだけ歪んだ影が映っていた。

水都「本当に、凄く……辛そうだったから」

陽乃「気のせいよ」

水都「そう、なんですか?」


寝起きだからなのか、

それともまだ引き摺っているのか、水都の声は沈んで聞こえる。

水都「……そうですか」

陽乃が答える前に、水都はつぶやく。

本当にそうだなんて、ちっとも思っていな声。

陽乃「不満そうね」

水都「不満なんて、ありません」

陽乃「だったら――」

水都「でも、気のせいだなんて思えなくて」

どこか、笑みを感じる水都の声色は、

けれど、まったく喜びの感じられないもので

水都「……」

水都はそこで、言葉を切ってしまう


1、なのに、一人で頑張ってほしくないだなんて言ったの?
2、だったら、なんなの?
3、言ったでしょう。私は臆病だって
4、赤の他人に、入れ込み過ぎよ
5、何も言わない


↓2


陽乃「なのに、一人で頑張ってほしくないだなんて言ったの?」

水都「え……」

陽乃「聞こえたわ」

昨日の夜、歌野と水都の話だ。

ほとんど何にも聞いていないに等しいが、

割り込む寸前の数回交わされた言葉は聞こえてしまった。

あんな表情と言い、今も引き摺っている

1人になりたいならなってもいい。いまさらそんなことさえ言い出したくせに、

それなのに、一人で頑張ってほしくはないと。

陽乃「矛盾しているわ。一人で頑張って欲しくないって言うってことは、まだ、諦めていないのでしょう?」

水都「でも、迷惑ですよね」

陽乃「そう思うなら、諦めるべきだわ。きっぱりと」


でも諦められない。

それは明白だ。だって、諦められるのなら、ここまで付き合ってはいなかった。

もっと早く、

この約半月の時間もかけずに、そばからいなくなっていたはずなのだ。

だけど、今もいる。

陽乃「……愚かだわ」

陽乃の視界に水都は映っていないけれど、

でも、どんな表情を浮かべているのかがなんとなく分かってしまう。

分からないのは、

泣いているのか、いないのか。

そこに心の強さは関係ない。

水都が、どれだけ……心を許してしまったか。

許せる要素なんて、大して与えた覚えはなかったが。


陽乃「……初めから、私の言った通りにしておけばよかったのよ」

最初から、陽乃は拒絶していた

好きにしたらいいと、自由にさせておいたこともあるし、

それを考えれば、全部が全部水都が悪いというわけではない。

陽乃「不快だわ」

水都「……ごめんなさい」

対面での会話らしい会話ではないから、

呟きも、それとして持っていかれる。

水都の、無理矢理に引っ張り出したような謝罪に、陽乃は本当に不快そうな顔を浮かべて

体を起こして、隣に目を向ける。

歌野はまだ、悠長に眠っていて、

水都は背中を向けたまま

布団を引っ張り上げて、顔を隠している。

陽乃「別に、謝って欲しいだなんて言ってないから」

そう言って、こぼれそうなため息を飲み込んだ


↓1コンマ判定 一桁

1,5,8 水都「……場所を変えませんか?」
ぞろ目特殊

※そのほか、終了


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


√ 2018年 9月5日目 昼:諏訪

01~10 歌野
78~87 歌野
89~98 襲撃

↓1のコンマ

※それ以外は通常


√ 2018年 9月5日目 昼:諏訪


いつもの部屋で、いつものように窓を開け、一人きりの時間に興じる。

朝に部屋から逃げるように出てきてから、水都は結局追ってくることはなかった。

その説明を、歌野が求めてくることもなく、

何事もなかったかのような時間が、流れていく。

陽乃「……」

歌野は今頃、通信を行っている頃だろう。

水都はどうしているだろうか。と思ったが、2人は近しい距離にあるようで、

通信用の部屋に一緒にいるのかもしれない。

陽乃「……別に」

2人の存在感知に対して、ぼやく。

知りたくて感じ取ったわけじゃない。

勝手に、向こう側から伝わってくるだけだ。

力の繋がりによる、存在感知

どこに二人がいるのか、分かってしまうのはプライバシーの侵害にもあたるのでは。

なんて、無駄なことを考える


水都には、聊か冷たく当たりすぎただろうか。

昨日のことでさえ引き摺っているような状態で、

より突き放すようなことを言ったのだから、思い悩んでいるかもしれない。

陽乃「言った通りにしていればよかったのよ」

繰り返す。

初めから自分はそう言っていたのだと。

それを突っ撥ねてきたのは水都で、

だから、自業自得でしかない。

だけど。

陽乃「馬鹿よね……」

水都が傷ついたことにに、心の一部を明け渡してしまっている。

自分のことを、何度も話してしまったからだろうか。

自分が臆病だなんて、言うつもりはなかった。

あれは冗談ではなかったし、嘘でもない。

紛れもない自分自身のことだったから。


自分の行動が、自分のためというのは無理ありませんか? と、問われた時もそう。

口も含めた顔自体が、モノを言ってしまっていたようで、

水都はそれに悩んでいたし、

そのあとはまた、陽乃を気遣うようなものだった。

陽乃「……っ」

自分の頬をつねる。

どれだけ、気を許しているのか。

信じることも、頼ることも。

自分は絶対にしないと思っていたのに、

いつの間にか、ここまで来ている。

陽乃「はぁ……」

水都のことも悩ませているが、陽乃もまた、悩ませている。

やはり、自業自得なのだろう。


1、通信部屋へ
2、外出する
3、九尾を呼ぶ
4、藤森水都について
5、イベント判定

↓2


↓1コンマ判定

01~10 56~65 89~98 球子、杏
34~43 襲撃

※一桁奇数の場合、被害判定


杏達が出てから、約3日

勇者のみの移動ということもあって、そろそろ着いていてもおかしくはない。

着いていたら

あるいは、九尾が言うように危機的状況下にあって襲撃の一つでも起きていれば、

今回の通信でそれに関する連絡があるはず。

陽乃「……別に、藤森さん達に会う目的じゃないけど」

誰への言い訳になるのか。

そんなことを呟いた陽乃は、首を横に振ってため息をつく。

正直、顔を合わせるのは気まずい。

水都も恐らく、そうだろう。

だけど、通信の件は気になるところで、

やはり、行かないわけにはいかないだろうと動く。


いつもの部屋から、通信設備の置いてある部屋へ移動する。

途中の通路から見える神社の境内には、

まだ、まばらに人の姿が見える。

陽乃に会いに来ている……わけではなく、ただの参拝だろう

歌野『では、まだ伊予島さん達は到着されていないんですか?』

部屋に近づくにつれて、

通信相手の声は聞こえないが、歌野の声だけははっきりと聞こえてくる。

歌野『すみません、もう一度……』

通信の状態はあまりよくないようで、歌野は何度か相手に聞き返す。

陽乃「駄目そうね」

襖をを開いて、中に入る。

出入り口のすぐそばにいた水都は驚いて顔を上げたが、

すぐに顔を伏せる。


1、通信を変わる
2、通信設備に力を使う
3、なによ。避けてるの?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば、お昼ごろから

では少しずつ


歌野「久遠さん?」

陽乃の入室に気づいて、歌野が振り返る。

近付いたからか、通信用のマイクを手放そうとしたのを制して、通信機器に手を触れる。

陽乃「……そのままでいいから」

相手側から、久遠さん? という声が聞こえたが、

無視して通信設備の補強に気を回す。

触れている手から、機械へ

指先に力を籠めるようなイメージで、力を流し込んでいく。

『白鳥様?』

歌野「あ、はい。すみません」

『そちらに彼女がおられるのですか?』

歌野「久遠さんのことなら、ついさっき合流しました」

話を再開する歌野に向かって、

自分の耳をゆびさして、ちゃんと聞こえるのかとジェスチャーする。

声には出さず、頷くのを見て少し下がって座る

一応、試みはうまくいったようだ


『先ほどの件ですが、伊予島様、土居様はまだお戻りになられておりません』

歌野「バーテックスの襲撃に関しても起きていないのでしょうか?」

『……そうですね。襲撃の方も確認できておりません』

相手側の声には、

陽乃からの情報に対する、猜疑心のようなものが織り込まれているように感じる。

杏と球子を送ったことも含めて、

真実ではないのではないかと。

言葉にはしていないが、疑われているように感じたのだろう、歌野の顔つきが少し厳しくなる。

歌野「伊予島さんと土居さん両名に関しては、私が見送ったので間違いなくそちらに向かってます」

『そのように伺っておりますが、現在は確認ができておりません』

歌野「襲撃に関しては、調査の方は行われたのでしょうか?」

いつにもまして……というべきか、

明らかに普段とは違う話し方に、少し変なものを覚えつつ耳を傾ける。


『調査は致しましたが、周辺の目視確認のみです。また、異常は確認されませんでした』

陽乃「……」

周辺の目視確認のみ

それでも、バーテックスの一体二体は視界に入る可能性がある。

しかし、辺り一帯が焼け野原ならともかく、

そうではなく、数多くの建物が現存しているため、

どこにでも姿を隠せてしまう。

そうなったら、四国周辺

例えば、大橋の辺りから周辺を見渡した程度だったりでは、

異常なしとなる可能性の方が高いだろう。

歌野「目視確認だけでは、不十分なのでは?」

『しかし、こちらには勇者様は3名しかおりませんので、調査に出て頂いている間に、別方面から襲撃を受けるなどがあった場合、被害が出る可能性があります』

水都「3人……」

3人しかいない。

なら、今までの諏訪の三年間は何だったのか。

そう言いたげな水都の呟きは、向こうには伝わっていない。


1、歌野に任せる
2、上里ひなたについて
3、陽乃の母親について
4、乃木若葉について

↓2


陽乃「ねぇ」

通信相手の方には聞こえないくらいの小声で呼びかけて、

歌野の袖のところを引く。

陽乃「乃木さんのことも確認しておいて」

歌野「……」

驚いた表情を浮かべた歌野だったが、

すぐに笑みを浮かべて、わかったわ。と、頷いて。

歌野「乃木さん……乃木若葉さんはどうしてますか?」

『乃木様に関しましてはリーダーの任を一時解かせて頂き、以降は通常の勇者様と同等に行動して頂いております』

歌野「では、今はだれが勇者のリーダーを? 高嶋さんと郡さんのどちらかですよね?」

『暫定的に、郡様に担って頂いております。郡様は四国に残られた勇者様の中で最も、勇者というものに対しての意欲が高いと認められておりますので』

陽乃「……」

意欲があるからと、リーダーを任せるとは考えにくい。

なにより、千景では友奈との関係性は悪くないが若葉とは絶望的と言ってもよく

多勢に無勢であろうバーテックスとの戦いにおいて重要なチームワークが全く機能しないことさえ、ある

若葉は陽乃達の件で解任

友奈も、どちらかと言えば若葉側……陽乃の味方をしかねないから、任せられなかったと言うだけだろう。


歌野「なら、ぜひ郡さんとお話がしたいのですが。四国と諏訪でリーダー同士、まったくの面識がないというのはどうかと思いますし」

歌野はそう言って、陽乃に目配せをする。

若葉やひなたは難しいが、

もう一度、勇者と対話する機会が得られるかもしれないと。

けれど、千景は駄目である。

いや、いつかは壊すべき壁なのかもしれないが、

正直言って、今は打開策など見えてこない

若葉やひなたじゃなくても、友奈ならまだよかった。

だけれど、千景は無理だ。

『その可否は私には判断できかねますので』

歌野「でも、伝えることくらいは可能ですよね?」

『それが私の担当になりますので。しかし、お約束は出来かねます』

歌野「勇者同士の交流は必要ないのでしょうか」

冷静に、

けれど、今まで以上に詰め寄っていく姿勢を見せる歌野の返答の速さに、

相手側からの声が途絶える。

『……そのことも含めて、ご確認いたします』


歌野「……はぁ」

通信を終えて一息つくと、歌野は仰け反るように体を動かして

歌野「伊予島さん達、大丈夫かしら」

陽乃「さぁ? 途中でおやつになったかもしれないわね」

歌野「おやつって……さすがに不謹慎だわ」

陽乃「実際の問題、到着していないならその可能性は十分あるのよ」

歌野「だとしても、それはあんまりだわ」

歌野は通信に使っていたマイクの頭を軽く撫でて、呟く。

2人も大切な仲間だ。

それほど深くかかわりになりたくなかったとしても、

寝食を共にし、死線を潜り抜けてきた友人だから。

歌野「心配していないの?」

陽乃「心配って」


1、そんなことより、郡さんの件、迷惑なんだけど
2、あの二人がたどり着かなかった責任、誰が背負わされると思ってるのよ
3、郡さんは貴方に任せるから
4、襲撃がないなら、二人の方に向かってる可能性はあるわね


↓2


陽乃「襲撃がないなら、二人の方に向かってる可能性があるわね」

歌野「っ……どうにか」

遥「どうにもできないわよ」

ここから、2人に対してできることなんて何一つない。

今の2人が、諏訪からどれだけ離れた距離にいるのか、

それさえも分からないし、

出発前に話し合っていたルートの通りに進んでいるとも限らない。

できる限り発見されないように。

2人はそう言っていたが、

一度でも見つかってしまったら、芋づる式にバーテックスが出てくる

そうなったら、殲滅以外で逃げ切るのは難しいはずだ。

陽乃「2人、もしくはどちらか1人は死んでるか負傷しているかもありえるわね」

水都「どうにか、できないのかな……」


陽乃「どうにもできないって、言ったはずだけど」

水都「でもっ」

陽乃「2人を助けたいって? 立派な勇者ね」

陽乃は呆れたように言って、首を振る。

どうにもできないものは、できないのだ。

と、言いはしたができることが全くないわけではない。

2人を救うために力を送るとか、

ここから何かして、バーテックスを引き付けるとか、倒すとか

そういうのは無理な話になってしまうけれど。

歌野「向こうに無事着けるように、祈っておくことしかできないのかしら」

陽乃「あら、私に祈ってるの? 残念だけど無理よ」

歌野「久遠さんってば……」

真面目な声色の歌野に対し、

冗談めかして手で払う素振りを見せる陽乃は、どこか自棄になっているようにも見える

陽乃「……」


1、今すぐ諏訪を出るって手もあるけど?
2、どうにもならないものはならないのよ
3、死にはしないわよ


↓2

少し中断します

再開は21時ころから


陽乃「死にはしないわよ」

歌野「そうね……そうよねっ。あの二人だもの」

不安を隠しきれないながらも、

努めて明るい声の歌野

心配そうに曲がった眉を見て見ぬふりをして、陽乃は目を背ける。

球子は一応、陽乃に一手を与えて勝利した勇者だ。

球子と杏は、とても仲のいい二人で、

連携だってうまくとることが出来るはず

問題があるとしたら、二人はどちらも中遠距離で戦う勇者ということくらいだろうか。

その為に、近づかれたらひとたまりもない。

球子が防ぎ、杏が迎撃する

至近距離にまで近づかれた場合の対処法は、それか逃げるかだ。


陽乃「本当なら、模擬戦の1回や2回はしてあげる予定だったんだけど、それもできなかったから不安はぬぐえないけど」

水都「でも、大丈夫だって信じてるんですよね?」

陽乃「まさか」

陽乃は鼻で笑う。

意味もなくどこぞに流れていた目を水都へとむけて、小さな笑みを浮かべる

陽乃「そうじゃないと、困るってだけの話よ」

歌野「確かに、久遠さんが送ったって伝えたから、責任は久遠さんに行くかもしれないけど……」

陽乃「そういうこと」

水都「でも……」

水都は何か言いたげだったが、

けれど、その先のことは言わなかった。

陽のも、追及をしようとはしない。

言わないなら、それまでだ。

言われたところで、大して変わることもないだろうけれど。

陽乃「そもそも、あの子たちだって勇者なんだからそう簡単に死んだりしないわよ」

少なくとも、

自分についてくるような勇者は。と、陽乃はため息をついた


√ 2018年 9月5日目 夕:諏訪

01~10 歌野
12~21 水都
45~54 歌野
78~87 水都
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常

√ 2018年 9月5日目 夕:諏訪


日が傾き、過ぎて月がより明確に見え始める夕方。

雲が多く、夕日も陰ってしまっているのが、どこか不穏な空気を感じさせる。

陽乃「……」

それでも、陽乃は変わらずいつもの部屋に来ている。

静かな部屋

1人きりになることが出来る部屋。

考え事をするには、これ以上ないほどに最適だ。

時々、影の中から姿を見せるモノもいるけれど。

陽乃「悪い想像ね」

歌野達にも話したが、

四国にバーテックスが出現しない理由のことだ。

九尾がでたらめなことを言っただけの可能性もあるが、

そうではないのなら、本当に二人に集中している可能性がある。


陽乃はテーブルに突っ伏しながら、中身の入っていない茶器を指で弾く。

諏訪の周囲にいたバーテックスは、

まず間違いなく陽乃の力で殲滅することが出来た。

その力を呼び水としてバーテックスを集める算段だったが、

陽乃の力の影響があまりにも大きかったために、

バーテックスは諏訪には近づくことが出来なくなっている。

だが、それはそれで問題はない。

驚異的な力がそこにあると、向こうに印象付けることは出来るから。

けれど四国は、陽乃のように神と人とに殺意の高い力による結界を張ることは出来ないはず

諏訪と同じ原因であるとは考えにくい

だから、あの二人の可能性が高く、

そのうえで四国に襲撃がないということは、まだあの二人を仕留められていないとみていい。

もちろん、それも希望的観測に過ぎないが。


1、歌野達のところへ
2、九尾を呼ぶ
3、外出する
4、イベント判定


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


九尾「また、娘のところに行くのかや?」

陽乃「……九尾」

部屋を離れようとした陽乃の背後に、人の形を持った九尾が姿を見せる。

金色の髪に、赤い瞳

陽乃よりも大きな大人の女性としての姿

どこか冷ややかな空気を感じさせる九尾の、鋭い視線を陽乃は仕方がなく見下ろす。

陽乃「やめておいた方が良い?」

九尾「主様があの娘共と深くかかわる気がないのならば、やめておくべきじゃな。情が移っては、切り捨てることもできまい」

陽乃はそれにすぐ答えることは出来ず、目を逸らす。

そんな陽乃の姿に呆れたような吐息を漏らした九尾は、

瞳を細めて、自身の長い髪を手に取る。

九尾「主様がそれでよいならば、妾は構わぬが」

陽乃「……」

九尾「主様の望む結果は得られぬぞ。あの娘共が飽きぬ限りはのう」

陽乃「分かってるわよ……」

九尾「そうか」

九尾は淡々と言って姿を消してしまう。

陽乃「……不満そうね」


九尾の態度も仕方がないものだろうと割り切って、陽乃は部屋を後にする。

2人がいるのは、共用の部屋。

以前は、朝に畑に出ていることもあったが、

最近はここにいることが多い。

昼は定期の連絡

そして、夕方は部屋

2人は基本的にそんな生活だ。

いつものように通路を進むと、二人の声が聞こえる

歌野『電話とか、できるようにならないかしら』

水都『出来たら嬉しいけど、無理だよ……』

歌野『久遠さんの力で、びびびってなったり

水都『いくら久遠さんでも、無理だよ』

本当に、それは不可能である。

ひなたの件は、あくまでひなたに九尾が恩恵を与えているからに過ぎない

それを、諏訪と四国とをつなぐ通信機器を用いて接触しようというだけ。

単体ではどうにもならない


陽乃はそんな無駄話をする二人がいる下手の襖に手をかけ、

少し勢いをつけて開く。

陽乃「残念だけど、不可能よ」

襖の開く音と、陽乃の声

2人は驚いて同時に振り返って、さっと口元を隠す。

隠したって、今までの話は聞こえている。

聞こえていなかったとして、

その仕草はあまりにも怪しいだろうと、陽乃は眉を顰める。

陽乃「私の力はだって、そこまで万能じゃないんだから」

歌野「そう、よね……それは解ってるけど、久遠さんならなんだかできそうな気がして」

陽乃「無理よ」

陽乃は顔を顰めて、首を振る。

陽乃「変な期待しないで」

歌野「ごめんなさい、悪かったわ。つい……」

歌野は本当に申し訳なさそうに言って

歌野「ところで、どうしたの? なにかあった?」


1、早めにここを出れば、途中で合流できる可能性もあるわよ
2、白鳥さん、私と戦う気あるかしら
3、ねぇ、どうして郡さんを呼ぼうだなんて思ったの?
4、私、期待されるのは大嫌いなのよ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「さっきは言わないでおいたけど……」

陽乃はそう前置きをすると、一息挟んで

陽乃「早めにここを出れば、途中で合流できる可能性もあるわよ」

歌野「それは、私も考えなかったわけじゃないわ。でも」

陽乃「住民を置いていくことになっちゃうって?」

水都の説得に応じていない、多くの人々

体が弱かったり、どこかに障害を持っていたり

そもそも、年老いてしまった人達で、

それが他の住民や、勇者である歌野や陽乃の足を引っ張って生存率を下げてしまうのではと危惧し、

自分から、救われる道を辞退したのだ

陽乃「生きることを諦めたのなら、もう、それでいいじゃない」

水都「っ」

歌野「久遠さん。それはさすがに言ったらだめなことだわ」


歌野「みんなだって、諦めたくて諦めたわけじゃない。ううん、諦めてるわけじゃないのよ。でも、私たちのために――」

陽乃「そんなの、余計なお世話だわ」

歌野「……」

歌野の視線が、やや厳しくなる。

声を荒げたりはしていないが、陽乃に対して不快感を覚えているのだろう。

陽乃が見捨てようとしている人々は、

この三年間、歌野とともに生きてきた人々だ。

最初は、そうじゃなかったかもしれない。

けれど、今はついてきてくれている人たち

優しく、温かく、可能な限り力になってくれている存在。

それを、無碍にされたのなら、それだけ心根が優しくても

いいや、優しいからこそ、苛立つだろう。

けれど。

陽乃「私は諦めてだなんて頼んでない。気遣って欲しいとも言ってない。勝手に、自分から無理だって諦めただけじゃない」

歌野「どうして、そんな言い方するの? みんな、久遠さんに嫌われるようなこと……していないのに」


1、私は期待されるのが嫌いないのよ
2、私は自分の命を諦めてるような人が世界で一番大嫌いなのよ
3、それを言って、何が変わるのよ
4、怒りたければ怒ればいいじゃない。私は、答えを変えることはしないけど
5、何も言わない


↓2


陽乃「私は自分の命を諦めてるような人が世界で一番大嫌いなのよ」

歌野「だから、それは」

陽乃「違わないわよ」

違うと言いたがっていた歌野を遮る。

歌野や水都はそうと思っていないのかもしれない。

だけど、陽乃にとっては、

彼らの気遣いなんて余計なお世話でしかないし、

気遣いだなんて優しさはただの建前で、本心は諦念によるものだと思っている。

陽乃「生きるのを諦めているから、私達に守られることしか考えていないのよ」

歌野「仕方がないでしょう? 鍬でバーテックスを殴ったってどうにもならないのよ?」

素手でバーテックスを殴ることもできる陽乃とは、わけが違う。

同じようなスペックを期待しているのかと問いたそうな歌野を、陽乃は睨む。

陽乃「当たり前でしょう? そんなことしたって死ぬだけよ。けれど、バーテックスから逃げることくらいはできるじゃない」

悲鳴が聞こえても、おぞましい音が聞こえてきても

悲しくて、辛くて、息苦しくて、体中が痛んでいても

それでも。

陽乃「死にたくないなら、生きたいなら、諦めていないのなら……たった一歩でも前に進もうとすることが出来るはず」

陽乃は怒りを、握り拳におしとどめる。

怒鳴ったって、意味がない。労力の無駄だ

陽乃「少なくとも、私は、そうやって生きた」


歌野「久遠さん、貴女……」

水都「陽乃さんっ」

陽乃の右方にいた水都が腰を上げて、陽乃の右手を手で包む。

なにを。と、振り払おうとした陽乃の手は、

水都の体ごと引き上げられるだけだった。

陽乃「放して」

水都「待って、お願い……」

水都の弱い力での精一杯が、陽乃の手首をぎゅっと捉える

陽乃が本気で振り払えば、水都の体を跳ね飛ばすこともできるだろう。

とはいえ、その理由がない。

陽乃「何?」

水都「手、凄いことになってるから」

言われてようやく、水都の手首に赤い流れが出来ていることに気づく

その流れのもとは、陽乃の手を包む水都の手の内からだった。

陽乃「とにかくそれすらもしようとしないで、ただ、私たちの足を引っ張るからなんて言い訳をするなんて、諦めてるとしか思えない」

歌野は、悲痛に顔を歪めて息を吐く。

それでも、表情は大して変わらない。

歌野「久遠さんの考えは、わかった……って、言っていいのかしら。いいえ、だめね」


自問自答のように、歌野は勝手に否定して首を振る。

陽乃の手を握って放さない水都の姿を一瞥すると、

もう一度、陽乃へと顔を向けた。

歌野「受け取る人次第だって、よく言うけど、まさにその通り。私にとっては気遣いでも、久遠さんにとってはただの諦めでしかない」

歌野はふっと……息を吐いて、

ゆっくりと、優しく笑みを浮かべる。

歌野「言われてみれば、生きるのを諦めてるから、辞退してくれたとも言える」

陽乃「だったら、わかるでしょ? そんな人たちなんて置いていくべきよ」

歌野「いいえ、違うわ」

歌野は、はっきりと言い切る

歌野「諦めさせなければいい」

陽乃「その説得が、無駄だったって藤森さんからは聞いているけど?」

歌野「ええ。でも、久遠さんに諦めさせたくないわ」

陽乃「私は、諦めてないわよ」

歌野はちょっぴり困った顔をして

歌野「久遠さんが諦めてるのは、自分じゃなくてほかの人のことよ」


歌野「久遠さんは、諦めてるから諦める。でも、逆に諦めていなければ諦めない。でしょう?」

年老いた人々が、

自分の命を諦め、生きようとしていないから陽乃も諦めざるを得ない。

けれど

彼らが命を諦められず、生きるために一歩でも前に進もうとするのなら、

陽乃はその命を、諦めない。

奪われてしまうその瞬間まで、決してあきらめることはない。

と、歌野は考えているのだろう。

歌野「救いましょう。一緒に。久遠さんが、また、そんなに苦しまなくて済むように」

陽乃「これは、違うわ」

水都に簡易的に手当てされた右手

包帯には、またうっすらと血が滲み始めている。

歌野「久遠さんの気持ちが分かるなんて、言えない。だけど……私も、取りこぼした命は少なくないの」

たった一人で守った3年間

当然、外部から逃げてきた人々の中で、救いきれなかった命だって、ある。

歌野「あんな思いはしたくない。二度と、嫌。それはたぶん、久遠さんだって……だから、一緒に説得してくれないかしら?」


1、無理よ。私にはできないわ
2、そんな悠長なことをしていていいの?
3、一度だけよ。それでだめだったら諦めて

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「一度だけよ。それでだめだったら諦めて」

歌野「久遠さんっ!」

いつもなら拒絶する陽乃の承諾に、

歌野は思わず飛びついて手を取ってしまって、陽乃は顔を顰めた

陽乃「痛っ……」

歌野「あっ、ごめんなさい」

陽乃は自由になった右手をかばって、歌野から距離を取る。

傷ついたばかりの手は、

さすがに、まだ治ってはいない。

歌野「1回で良いわ。それだけで、十分よ」

陽乃「言っておくけれど、私の方針は変えるつもりないから」

歌野「ええ。何を言うかは久遠さんに任せる。私達の言葉はもう、出尽くしてるから」

陽乃「そう。ならいいわ」

説得して欲しいとは言われたが、

期待されるようなことは、絶対に言いたくない


水都「陽乃さん。予定していた話し合いは明後日です」

陽乃「明後日? 明日じゃなくて?」

歌野「できる限り全員に参加してもらうために、事前に通知して空けておいてもらわないといけないのよ」

いいのか悪いのか

隔離されたこの世界では畑の世話さえしてしまえば、

何よりも優先しなければならない仕事というものがない

とはいえ、投げだしていいわけでもなく。

だから、急にみんなに話を聞いて貰うなんてことはできないのだ。

陽乃「それは、そうよね」

歌野「明後日なら、みんなが話を聞いてくれるはずだから。久遠さん、頼んだわよ」

陽乃「頼まれても困るわ」

陽乃は歌野の言葉が見えるとでも言うかのように、手で振り払う。

陽乃「私、期待されるの嫌いだから」


↓1コンマ判定 一桁

0、3,9 歌野「ちょっと、付き合って貰えるかしら」

※そのほか終了


√ 2018年 9月5日目 夜:諏訪

01~10 歌野
78~87 水都
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常

√ 2018年 9月5日目 夜:諏訪


水都達の元を離れた陽乃は、いつもの部屋に引きこもる

話し合いが予定されているのは明後日

杏達がここを発ってから数日

今日はまだ未着だったが、

明日になれば到着している可能性もある。

それならそれで構わない。

それでも明後日の話し合いは一応、行うし

それでだめだったなら、やはり、置いていく。

陽乃「……深入りしすぎ、かしら」

一応、来月半ばと期限は設けていたが、

きっとらちが明かない

陽乃「良いのよね、これで」

陽乃はテーブルに突っ伏して、ため息をつく。

右手はもう、血は止まっている。


1、九尾を呼ぶ
2、共用の部屋に戻る
3、この部屋で寝る
4、イベント判定


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


これ以上ここにいても、

今日はもう、何か出てくることはないだろうと陽乃は突っ伏していた顔を上げる。

諏訪への襲撃は陽乃の力の影響もあって、起こることはないはず。

とすれば、

直近で重要なことは、引き受けてしまった説得の件くらい。

それも明日ではなく、明後日。

明日の通信で四国に二人が到達していればよし

していないまま、襲撃があったとしたら悪い知らせ。

陽乃「……私できることなんて」

説得の言葉を考えてあげるだけ。

それだって別に、陽乃は話をするだけで、

どうしてもついてきて欲しいだなんて懇願する気はなく、

いつものように、自分の考えを言うだけだ

これといって、考える必要はない

だから、と、まだ早いが、陽乃は部屋に戻ることにした


歌野「久遠さん、もう布団は敷いておいたわ」

陽乃「……早いわね」

歌野「そろそろ戻ってくるんじゃないかと思って」

いつもなら、寝るのはもう少し遅い時間。

布団を敷くためのスペースは確保してあるものの、

布団の準備はまだいいか。と、ちょっぴりずぼらなこともあったが

今日は早かった。

陽乃「私の居場所、精確に掴めるようになったの?」

歌野「ううん。でも、近づいてる、離れてるっていうのは分かる……というか、なんて言ったら良いかしら」

歌野は悩まし気な顔をして、

ん~……と、あからさまに唸ると、陽乃から少しだけ目を逸らす。

歌野「火に手を近づけたり、離したりしているような感じね。久遠さんが近づいてくると、そんな風に力を感じるわ」

陽乃「そう……特に、力を漏らしている気はないのだけど」

歌野「だって、常に送ってくれているでしょ? そのおかげだと思うわ」


歌野「ただ、屋内だと誤差の範囲ね。集中していないと、まったく違いが感じられない」

陽乃「そういうものなのね」

歌野「そこはきっと、久遠さん自身の力の強さのせいだと思うけど……」

陽乃の力が強いため、

屋内では、常に火に手をかざしているような状態らしい。

それでも陽乃が来ていることに気づいたのは、

陽乃のことを考えていたから……と、歌野はアピールしたいのかもしれないが、

陽乃は気づいていないかのように、流す。

陽乃「それは仕方がないわ。これはどうにもならないし。精確な居場所まで特定されても困るし」

歌野「確かに、お手洗いとか――」

陽乃「単純に、プライバシーの問題よ」


1、もう休むわ
2、藤森さんはどうなの?
3、こっちに襲撃が来る心配はないから、明日は自由で良いわよ
4、明日、力の件で少し時間貰えるかしら


↓2


では短いですが本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「明日、力の件で少し時間を貰えるかしら」

歌野「ええ! 大丈夫!」

陽乃からの誘いだからか、歌野の声は妙に張り切っている。

歌野「ちゃんと話しておかなくちゃいけないことだものね」

陽乃「それもあるけど、いろいろ気になることもあるから」

陽乃が感じた痛みを、感じてしまったり

陽乃もそうだが、互いの居場所を精密さには欠けるものの把握できていたり、

力の繋がりは、その是非はともかくとして、恩恵がある。

今分かっていること以外にも、何かある可能性だってないとは言えなかった。

水都「なら、私はここで待機しておくね」

陽乃「貴女もよ。勇者ではないにしても、巫女なんだから」

水都とだって、繋がりはある。

戦いに加わる歌野と違って

水都とは大して強いつながりを持ってはいないけれど、

諏訪の神々の神託を受ける巫女だったのだから、

いて貰う必要はあるのだ


陽乃「明後日の結果がいずれにしても、いつかはここを出て行くことになるから、時間のあるうちに試しておきたいことがあるわ」

歌野「そうね。今のところ、久遠さんの力を借りた状態でってのは未経験って言ってもいいし」

陽乃「この前、私が気を失ったときは?」

歌野「あの時は、普通に力を使えたわ」

陽乃が失神していても命を落としてさえいなければ、

歌野に力の供給は出来るということなのか、

それとも、歌野に力が蓄積されていたのか

それとも、力の供給にはラグがあって、その分を使っていたのか。

最後のは、おそらく違うだろう。

陽乃「その理由も含めて、確認しておきたいわね」

水都「神託も試すんですか?」

陽乃「できるかどうか知らないけど」


最初は出来るかもしれないと考えたが、

今のところ、陽乃自身に神託のような何かが起こったことがない。

それが、直接水都に流れていくかもしれないし

陽乃が、自分の意思で水都に神託を与えるのかもしれない。

そこもやはり、確認しておくべきだろうか。

陽乃の意思ならば、

知らなければ、水都には何一つ伝わらないままになってしまう。

それこそ、巫女がいる意味がなくなる。

陽乃「ただ、私の痛覚が白鳥さんに伝わっているなら、神託も無意識で共有されそうな気はするけれど」

歌野「私も、みーちゃんみたいな巫女になるのかしら」

水都「そしたら、私いらなくなっちゃうよね」

歌野「そんなことないわ。みーちゃんは必要不可欠よ!」

巫女と勇者兼任

それと、巫女専門

勇者が巫女も兼任できれば、確かに巫女は不要になるかもしれない。

神託をいちいち、連携される必要もなくなるから、

便利でもある。

けれど、もしそれが可能だとしても

あくまで、神々とつながりのある陽乃と繋がっている歌野の特権だ

他の人には無理な話で、やはり、巫女は必要だろう


歌野「明日は朝から時間作るわ」

陽乃「あら、畑は?」

歌野「ん~……久遠さんが手伝ってくれたり」

陽乃「しないわよ」

すぐさま答えを返され、歌野は笑って冗談よ。と首を振る。

別に本気ではなかったようで、ショックを受けている様子はなかった。

歌野「畑はほかの人も手伝ってくれるから、すぐに終わるわ」

陽乃「そう」

水都「お昼は通信もあるし、その内容次第ではほかにやらないといけないこともあるから……やっぱり、朝が良いよね」

歌野「明日は早起きしなきゃ」

いつも早いが、いつも以上に。

そんな歌野達はいつもよりも早く、布団に入る。

陽乃はそれから少し遅れて、電気を消すと

水都と歌野の間、自分の分の布団に入った。

明日は、少しだけ忙しい一日になるだろう。



1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(通信設備、乃木若葉について、襲撃について、死にはしない、早期出立、命を諦めている人、一度だけ、明日の予定)
・ 藤森水都 : 交流有(気遣い、1人で、通信設備、乃木若葉について、襲撃について、死にはしない、早期出立、命を諦めている人、一度だけ、明日の予定)
・   九尾 : 交流無()

√ 2018/09/05 まとめ

 白鳥歌野との絆 70→73(良好) ※特殊交流3
 藤森水都との絆 83→85(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 73→73(良好)


√ 2018年 9月6日目 朝①:諏訪

34~43 歌野
78~87 水都
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は①終了


√ 2018年 9月6日目 朝:諏訪


陽乃「ここなら、平気そうね」

歌野「なにも、わざわざこんな場所じゃなくてもよかったんじゃない?」

陽乃「前とはわけが違うのよ」

以前なら、参集殿の裏だとか、

人気のない場所を適当に選べば、模擬戦の一度や二度くらい問題はなかったが、

今は、参拝に来る人が多すぎるのだ。

出かける時だって、行先に付き添いたがる人もいる。

その為、近づかないようにお触れを出し、

力の調査については、万が一何かが起きてもいいように、諏訪湖の畔で行うことになった。

陽乃「私の力は有毒なの。外に私を助けに来た時に見たはずよ」

歌野「そうね」

陽乃「一般の人は、最悪即死する。私だって別に、無駄に人殺しになる気はないんだから」

体力的に衰えている高齢者なんかは、

陽乃の力の余波で死んでもおかしくはない。

陽乃「それに、屋内だと、貴女がどれくらい私を感知できるか調べようもないじゃない」

歌野「それもそうだわ」

陽乃「まずは、私が対岸に行くから。貴女はここで待っていて」


↓1コンマ判定 一桁

0,3,8 水都「私もついて行っていいですか?」


遅くなりましたが、本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


水都「陽乃さんっ」

陽乃「なに?」

水都「あ、その……気を付けてください」

何か、別のことを言いたかったような表情。

少し前の……陽乃の心根を聞かされる前の水都であれば、

一緒に行っても良いですか。とでも言っていたに違いないと、陽乃は目を細める。

だからと言って、一緒に来る? なんて声をかけることはない。

水都が言わないのなら、何も言う必要はないだろう。

もしかしたら、水都はもっと別のことを考えているかもしれないし、

そもそも、陽乃はそこまでの意欲が喪失している。

陽乃「別に、戦いに行くわけでもないし、気を付けることなんてないと思うけど」

それともない? と、陽乃は諏訪湖の緑がかった水面を見つめる

陽乃「ワニかサメでもいるのかしら。それとも、水棲バーテックス?」

水都「いえ、そういうわけじゃないですけど……」

陽乃「冗談よ」

歌野「大なり小なり力を使うから、また倒れないでってこと」

陽乃「そこまで虚弱じゃないわよ」


水都の代わりに答えた歌野に手で払う素振りを見せて、つま先で地面をつつく。

ここから対岸までの距離は、どの程度だろうか。

目測で測れるほどの知識は陽乃にはないけれど、

向こう岸は見えているから、かなり遠いというほどでもないと陽乃は判断して。

陽乃「九尾」

『よかろう』

普段の女性の姿ではなく、

九尾本来の、九つの尾を持っている狐の姿。

足を折って伏せていても、陽乃よりも高さのある体

陽乃は九尾の体を優しく撫でて、一つ跳びで乗る

陽乃「少し待ってて」

歌野「なら、これ。無線機」

陽乃「玩具じゃないの?」

歌野「玩具だけど、使えたらいいなって思って」

陽乃「使えたら使うわ」

歌野から渡された、小型の無線機。

玩具だとわかりやすい、簡素なつくり。

それをポケットに突っ込んで、九尾と一緒に空へと駆けた


陽乃「……そこまで、遠くなさそうね」

一番距離がありそうなところでも、、五キロあるかどうかという程度

数十キロあるとは思っていなかったが、

聊か物足りないのではと、目を凝らす

陽乃「九尾、向こうの一番遠い方選んで頂戴」

九尾「妾に羽があるとでも思うておるのかや?」

陽乃「できるでしょ。貴女なら」

九尾「……主様が望むならば」

九尾は、ゆっくりと落下していく流れに逆らうことなく、

諏訪湖の水面に足をつけ、そうして、また跳びあがる。

まるで、そこに氷があったかのような動きにも、陽乃は驚かない。

九尾「良いのか? 妾を信じても」

陽乃「貴女はともかく、貴女の力は信じられるわ」

人柄というか、なんというか

九尾のそれは信じられないが、能力だけは本物だ

九尾「そうか」


出発から数分かけて、ようやく対岸へ

歌野達の姿は当然見えず、

けれど、いるであろう方角はしっかりと感じられる。

九尾「主様、その、無線機とやらは繋がっておるのかや?」

陽乃「ん……繋がってる感じしないけど」

電源は入れているが、

歌野からの通信は来ていないし、

陽乃から通信をしてみようとしても、反応がない。

無線機と一緒に貰った、歌野か水都の手書きの説明書

それが間違っていなければ、無線機は使えないようだ。

陽乃「……これにも、力を通せば繋がるのかしら」

九尾「さて、どうかのう」

四国との通信には、

向こう側からも神々の助力がある

だが、これにはそれがない。

陽乃「………」


1、無線機を試す
2、歌野への供給を強める
3、水都への神託を試す
4、九尾にお使いを頼む


↓2


陽乃「……昨日みたいに、したらいいのかしら」

無線機を右手に持って、左手をかざす

昨日のように、無線機に力を送っていく。

いつだったか、何だったか。

どこかで見た超能力者のようなものみたいだと、陽乃は内心、自分のことを嘲笑する。

ほんとかうそか。

学校でも話題になったことがある。

あれの一部も、実は本物だったのではないか。なんて、

今更思いながら、力を籠める。

陽乃「……聞こえる?」

ボタンを押しながら、声をかける。

歌野からの返事はない。

陽乃はもう一度、無線機に手をかざす。

ほんの数キロの距離

歌野に力が伝わっているのは今も感じている。

だから、力が届かないなんてことはないはずなのだ。

足りないとしたらそれは、陽乃の技量だろう。


↓1コンマ判定 一桁

1,4,7,9 通信
ぞろ目 通信

※そのほか、失敗


陽乃「駄目ね。繋がらないわ」

九尾「その機械がダメなのかや?」

陽乃「どう思う?」

陽乃は、答えが分かっているとでも言うかのようにほくそえんで、

傍らに伏せる九尾へと問いかける。

諏訪湖の水面が、風に揺られているのを目で追う九尾

興味なさげな様子ではあったが、

鼻を鳴らすと、陽乃に目を向ける。

九尾「妾は機械など知らぬ。問題があるとすれば、主様じゃろう」

陽乃「……やっぱり?」

九尾「気を落とすことはあるまい。扱い方を知ったばかりの娘が、それを容易に使えてはおかしかろう」

陽乃「それはそうなんだけど」

九尾はくつくつと笑って、

その大きな体を、女性――いいや、少女の姿に変える。

久しく見ていない少女、上里ひなただ

ひなた「少し、それを貸していただけますか?」


陽乃「なんでまた、上里さんなのよ」

ひなた「まぁまぁ、いいじゃないですか」

ひなたらしい……と言えるほどの付き合いはないが、

それでも、普段の九尾とはまるで違う、品を感じる笑い方

ひなた「そんなことよりも、その機械を使えるようにしましょう」

陽乃「できるの?」

ひなた「ええ、おそらくは」

言い切らない。

できるかもしれないしできないかもしれない。

そんな言い方だが、九尾ならできる可能性の方が高い。

断言しないのは、九尾ではなくひなただからだろうか。

ひなた「私がいつも、久遠さんに力を与えているのは存じているかと」

陽乃「もちろん」

ひなた「それができるのは、私がいつも久遠さんの存在を知覚しているからです。そして、四国にいる私と繋がるために、私が通信に出てくれないと困るのは、それが理由でもあります」

陽乃「上里さんで私って言わないでよ」

ひなた「ふふっ。つまりですね、正確に相手を掴む必要があるということですよ」

ひなたはそういって、陽乃に手を出す

ひなた「貸してください」


1、貸す
2、貸さない


↓2


陽乃「壊さないでよ?」

ひなた「任せてください」

ひなたに扮した九尾の手に、無線機を手渡す。

無線機を受け取って、少し悩まし気な顔をしたひなただったが、

すぐに、対岸へと目を向ける。

ひなた「私は久遠さんと繋がっていますが、白鳥さんとは繋がっていません」

陽乃「それでどうにかできるの?」

ひなた「久遠さんを中継します」

九尾から陽乃、陽乃から歌野。

力の流れは、そのような形になっている。

九尾から直接歌野につながりはないが、

陽乃を中継器としてつながることは可能なのだという。

ひなた「私が無理矢理、久遠さんと白鳥さんの繋がりを強くします。少し、違和感があるかと思いますが、我慢してください」

陽乃「違和感って、どんな?」

ひなた「それは自分で感じ取ってください。大事なことなので」


ひなた「いいですか?」

陽乃「良いわよ。好きにして」

ひなた「では」

ひなたは、無線機をそのままに

陽乃が感じる歌野の方角をじっと見つめる。

そして――急激に、力が抜けていくのを感じて、よろめく

陽乃「っ」

ひなた「少し我慢してください」

抜けて行った力が、

全て、歌野の方に向かっていくのを感じる。

際限なく

それこそ、ストッパーの壊れてしまった機械のように、垂れ流しになっていて

歌野とのつながりを強くする分、不快感が強い。

陽乃「なに、これ……」

ひなた「無理矢理ですから。久遠さんがいけないんですよ。気を許す気がなさすぎます」

つながりが深くなるにつれて、不快感は強い倦怠感に切り替わり、

立っていられなくなった陽乃はその場に崩れるように膝をつく。

頭痛がして、耳鳴りがして、目を開けば視界が歪むような状況に陥って……

自分ではない誰かが、悲鳴のような声を上げたのを感じた。


陽乃「ぅ……ぉぇ……」

ひなた「大丈夫ですか?」

答える前に、ひなたを睨む。

こみあげてきたものを吐き出した不快感と、痛み

どうにか唾を飲み込んで、手の甲で口元を拭う。

自分が自分ではないような感覚、

俯いているのに、空を見上げている。

ひなたは自分に触れていないのに、誰かに体を支えられている感覚

陽乃「うっ……」

瞬きした瞬間

景色は変わって、水都の姿が見えたかと思えば

またすぐに、視界が陽乃のものになる。

陽乃「きゅ……」

ひなた「大丈夫です。混乱しているだけですから、すぐに落ち着きますよ」

だんだんと、痛みが治まり始めて視界が揺らがなくなる

陽乃「なんて、こと……」

ひなた「無理矢理した反動で、繋がりすぎてしまったんです。白鳥さんは痛覚のみでしたが、今回は五感が一時的に繋がったかと」

やろうと思えば操ることだってできるかもしれません。と

ひなたは九尾のように笑って、そこまではさすがにできませんけど。と首を振る

ひなた「どうぞ。無線機は繋がってるはずですよ」


少し中断
再開は21時ころを予定しています


陽乃「……繋がってる?」

無線機を持つのも億劫で、地面に置いたままボタンを指先で押し込む。

喉が辛い。

けれど、話すには申し分なさそうだ。

陽乃「白鳥さん、聞こえてるかしら」

言うだけ言って、ボタンから指を放す。

1分ほどの沈黙を経て、無線機から乱れた音が聞こえ

水都『聞こえてます』

音が途切れる。

数秒待って、返答していいのかと、ボタンを押す。

陽乃「白鳥さんは? 何かあった?」

白々しいとは思いつつ、問いかける。

陽乃と無理矢理つながったことによる反動で、歌野も陽乃と似たようなことになったのだろう。

であれば、出られないのも無理はない。

水都『うたのんは、今ちょっと……えっと。出られそうにないので』


陽乃「気持ちは分かるわ」

今は、酷く不快な気分だ

痛みが引いたとはいえ

頭痛と眩暈の余韻はまだ残っている

言葉だって、できれば控えたい状態だ。

陽乃「休憩しましょ」

一言伝えてボタンを放すと、

手慣れてきたのか、すぐに水都からの返事が返ってきた

水都『こちらに戻ってきますか?』

休憩するなら、離れている必要はない

だが、向こうに戻る理由もない。

陽乃「そうねぇ……」


1、合流する
2、合流しない

↓2


陽乃「いいわ。合流しましょ」

無線機を使って伝えて、電源を切る。

この無線機は、太陽光発電なんてご立派なことはしていないので、

有限である電池を消費しきってしまったら、無線機が使えなくなってしまう。

陽乃「九尾」

ひなた「はい」

陽乃「……九尾?」

ひなた「どうぞ?」

九尾は、呼びかけてもひなたの姿のまま。

理由なんてわかっているだろうに、そんな少女の姿のまま、陽乃の前でかがんでいる。

おんぶしてあげる。とでも言っているかのようだ。

陽乃「冗談やめて」

ひなた「良いじゃないですか。この姿だって、久遠さんを背負うくらい造作もありませんよ」

陽乃「怖い話ね……いいから、戻って」


ひなたらしくなく、ぶつくさと何か零した九尾は、

肩をすくめて笑うと、瞬く間に妖狐の姿へと変わる

九尾「乗れ」

陽乃「……悪いけど、ちょっと待って」

九尾の大きな体に、体を預ける。

痛みは引いたし、不快感も薄まった

けれど、まだ、九尾の背中に跨るのは気怠い

九尾「情けないのう」

陽乃「ほんと……こんなに消耗するだなんて思わなかった」

九尾「主様が扱わなかったことを強制的に行った影響じゃ。本来ならば、こうはならぬ」

陽乃「説明してよ。こんなの……最悪失神してたわ」

九尾「してないならばよいではないか」

よくないが、そう言い返すのも面倒だと陽乃は目を瞑る。

すぐに戻るとは言っていないからいいだろう

陽乃「5分だけ。そしたら起こして」

九尾「随分と、扱いが悪くなったものじゃ」

九尾は喉を鳴らして笑ったものの拒否はせず、

しっかりと、5分後には陽乃の支えをなくして、叩き起こした


√ 2018年 9月6日目 昼:諏訪


歌野「酷い目に遭ったわ」

水都「うたのん、しっかり」

水都に寄り添われ、背中を摩られる歌野

陽乃は直接見ていなかったが、

分かれる前と比べると、やつれて見えることから察するに、

やはり、陽乃の想像通りだったのかもしれない。

歌野「久遠さんは大丈夫だったの?」

陽乃「貴女とは出来が違うもの」

歌野「そう……ならいいけど、あれは何をしようとしたの?」

陽乃「無線が使えなかったから、使えるようにしたのよ」

歌野と水都は、驚いた様子で無線機を見る。

使えなかったのは想定内だが、

それを使えるようにした結果の反動が、衝撃的だったのだろう。

歌野「そんな、ことで?」


陽乃「そんなことってわけでもないわ。無線機を使えるようにするのに別の要素が必要だったのよ」

その結果だ。

陽乃が力を扱ううえで技量不足だったこと

歌野に対して気を許すつもりがなかったこと

色々と原因はあるが、それを強引に素通りした結果である。

陽乃「どう? 私のことを感じるかしら?」

歌野「そうね。感じてるわ。すっごく強く」

胸を押さえて、少し苦しげな表情をする。

歌野「正直、吐きそうなくらい」

陽乃「そこまで?」

歌野「栄養過多な野菜の気分だわ」

栄養を与えられすぎた野菜は、枯れてしまうことがある

人のそれは、死だ。

陽乃「……」


1、やっぱり、毒ね
2、九尾を呼ぶ
3、戦いましょ
4、大げさよ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「やっぱり、毒ね」

歌野「毒ってわけじゃ、ないと思うわ」

過ぎれば毒と言うだけでそれ自体が毒なわけじゃない

今回は、歌野の許容量を超えるほどの力が流れこんでしまったせいで、

歌野が酷く苦しむことになった。

陽乃「そんな顔で言われてもね」

歌野「ふふっ……いつもと逆ね」

青ざめた顔、力ない笑み

気を抜けばまた、嘔吐しそうだとでも言うかのような唇の動き

明らかに弱っている

歌野「でも、久遠さんだって使い方を間違えなければ大丈夫よ」

陽乃「今まさに間違えたばっかりなんだけど」

間違えたというか、

九尾に任せたらこうなってしまったのだ。

陽乃「九尾に任せない方が良かったわ」

元々は無線機のための行為

結果的に、歌野とのつながりも試すことが出来たが……散々である


陽乃「眠ったら死ぬと思ってなさい」

歌野「それは、怖いわね」

水都「死んじゃうんですか……?」

陽乃「運が悪ければね。それでも運が良い方だわ」

一言で矛盾させた陽乃は、困ったように苦笑する。

九尾が言うことが間違いないなら

いや、陽乃の地下を受けた結界の外の状態が人にも適用されるなら

間違いなく死ぬ。

だから陽乃の力を過剰に受けて即死していないのは本当に運がいいのだが、

それでも運が悪ければ死んでしまう。

陽乃「どうにかして力を発散させないといけないんだけど……動けるの?」

歌野「ん……勇者としての力を使えば動けるかもしれないわ」

寄りかかっていた体を起こそうとした歌野を、水都が止める

水都「だ、駄目だようたのん!」


歌野「みーちゃん……」

水都「さっきまで何回も吐いたりしてたのに、今、体動かしたら失神しちゃうっ」

歌野「けど」

けどじゃないよ。と、水都に怒られる歌野は苦悶の表情を浮かべながら、

また、水都の肩に頭を乗せる。

歌野の額には汗が浮かび、呼吸も荒い

歌野「はっ……ふぅ……」

陽乃「今なら、私のことも全部分かるんじゃない?」

歌野「残念だけど、そんな余裕がないのよね……」

繋がりは深い

歌野も一応、通常状態でも陽乃の痛覚を感じ取れたりするくらいには力がある

死にかねないほど太いつながりがあるなら、

陽乃のこと分かってしまう。かもしれないが。

歌野は残念そうに、弱弱しく首を振る


1、さっきはどんな状態だった? 私のことは分かった?
2、なら、今度は藤森さんに神託を試す番ね
3、良いから、今すぐ力を使いなさい


↓2


では短いですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「なら、今度は藤森さんに神託を試す番ね」

水都「私、ですか? でも、うたのんが回復してからじゃ駄目ですか?」

陽乃「明日は別のことやる予定があるでしょ」

歌野に対して追加で力を使うわけにはいかないし、

安静にしておかないと今にも死にそうな感じだ。

水都は歌野よりも適性がない。

もっとも、それが高ければ勇者になれるとも限らないが、

高いに越したことはなく、しかし、残念ながら水都は歌野ほどではないのだ。

陽乃「……明日はうまくやれる保証なんてないわよ」

歌野とのつながりは、九尾の助力によるものだ。

それがなければここまでの被害はなかったし

それがなければ力を与えるという感覚をつかむことは出来なかった。

それを忘れないうちに、試しておきたい。

特に、歌野と違って即死しかねない水都に対しては。

陽乃「貴女が死にたければ明日でも構わないけど」


水都「そ、そんなこと言われたら……断れないじゃないですか」

陽乃「あら、死なないかもしれないでしょ?」

水都「久遠さんの力は冗談になりません」

むっとした水都は自分に寄りかかる歌野の笑い声を聞いて、照れくさそうに気迫を失う。

水都「うたのんでもこれだけ苦しむことなら、私はたぶん……本当に死ぬこともあると思います」

陽乃「だから、そうならないように早い段階で確かめましょうって言ってるのよ」

やりたくないならやりたくないでもいいが、

やるなら早くやりましょう。と、陽乃は肩をすくめる。

水都は思案顔で歌野を一瞥する

水都「分かりました。やってみます」

歌野「大丈夫?」

水都「うたのんには言われたくないよ」

水都は笑みを浮かべて、歌野の体に手を添えると、

近くの段差を枕代わりに横に寝かせる。

水都「寝心地悪いだろうけど、我慢して。同じことになったら、うたのん倒れちゃうから」


死ぬかもしれないのに、水都は落ち着いている。

歌野の惨状を目の当たりにしたはずなのに。

陽乃の力に怯えている様子がない。

陽乃「なら、やるわよ」

陽乃はその水都の覚悟には何も言わず、ただ促す。

目の前にいるのだから、水都の体に触れてしまう方が確実だろう

けれど、それでは離れているときでも伝わるとは限らない

陽乃「目は……別に閉じなくてもいいわ」

水都「神託の時は、こうして祈るようにしていた方が感度が良いんです」

陽乃「そう。ならそのままで」

目の前で膝をつき、手を合わせ、頭を垂れて祈る水都。

それが自分に向いているのは、少し、嫌な気分になる。と、陽乃は顔を顰める

陽乃「死ぬときは死ぬって言いなさい」

水都「無理です」


↓1コンマ判定 一桁

0,2,3,5,7,8,9 神託
ぞろ目 特殊

※そのほか、失敗


では短いですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から


では少しだけ


どこかも分からない世界の中で、2人きり。

諏訪湖の畔にいたはずなのに、すぐ傍らにいた歌野の姿さえ見えない。

感じるのは、火よりも熱い身を溶かすような熱

見えるのは、太陽の輝きにも似た瞳を奪うほどの光

それは襲来の神託ではない

新たな敵の誕生を意味する、神託

凶悪な輝きには細々とした星のような光が次々に取り込まれていき、

次第にその輝きはさらに強大なものとなっていく

不意に、水都が自分の体を抱きしめながら、膝から崩れ落ちる

水都「う……」

段々と呼吸が荒くなって、喘いで、体中から汗を噴き出して

そして、倒れこむ。

陽乃「ちょっと!」

力の流入は大したことではなかったはずだ。

歌野に行っていた最小限

九尾が行った最大限

その力の流入の幅から、適切であろう程度に、陽乃は調節したはずだったし、

そもそも、陽乃自身はまだ神託を受けていなかったため、

正式な神託が行われるはずはなかったのだ。

なのに。

これはきっと、陽乃の意思が介入していない神託だ


陽乃「っ!」

力の流入を弱め、切り離す。

その瞬間に光は瞬き、

やがて爆発を起こしたようにすべてが白色に飲まれ、そして、暗闇に包まれる

風を肌に感じ、やや不慣れな水のにおいを感じ

歌野の声が聞こえて、はっとする。

陽乃「ぅ……」

歌野「みーちゃ……みーちゃんっ」

横になっていた歌野は体を起こし、座っていたはずの水都が倒れている。

弱弱しい力で揺さぶられる水都は苦し気に呻いて、頬には汗が浮かんでいた。

陽乃「……ちょっと、待って」

歌野と違って、これは力が過剰に流れたせいではない。

神託を受けたことによる、精神的な部分に強い負荷がかかったからだろう。

歌野「久遠さん、みーちゃんがっ」

陽乃「神託を受けたのよ……それが、ちょっと、重かっただけだわ」

頭痛を感じて額に手を添えると、じっとりとした汗が手のひらに吸い付く。


白い球体に似たものが一つ

それが集結し、別の形をとったものが一つ

バーテックスは、複数種類の形態を持っているとされている。

実際、陽乃も白い球体ではない形状のバーテックスと対峙したことはあるし、

物理的な攻撃から、杏のように遠距離から攻めてくるようなバーテックスとも戦った経験がある。

だが、今回の神託は、またそれらとは別のもが来るだろうことを予見させた。

陽乃「……」

恐らく、陽乃の力が影響している。

バーテックスの側が、陽乃の力は手出しが難しい脅威だと判断し、

今までのものでは力不足であると判断した可能性がある。

歌野「……久遠さんは平気なの?」

陽乃「私は、そんなやわじゃないから」

ようやく呼吸の落ち着いてきた水都のそばで、歌野が心配そうに陽乃を見る。

水都は今眠ってしまっているし、歌野はまだ少し不調を感じさせる。

それと比べれば、軽い偏頭痛くらいで済んでいる陽乃は大したことはない。

歌野「神託、そんなに大変なものなの?」

陽乃「内容? それとも神託の負荷? 負荷なら、比較出来るほどの経験はないわ」

歌野「なら、内容は?」


1、新しい敵よ
2、今はまだ確証がないから言えないわ
3、そういう話は藤森さんが起きてからの方が良いわ


↓2


陽乃「新しい敵よ」

歌野「新しい、敵?」

いつもなら声が上がる場面でも、

疲弊した二人と一人では、何でもないように静かだ。

陽乃「ええ。残念だけど、どんな姿なのかまでは解らなかったけど」

歌野「それが、攻めてくるの?」

陽乃「攻めては来ない。と、思う」

断言できない。

あれがもし、本当に陽乃を討つべく生み出されたものなのであれば

陽乃の力の余波でしかない諏訪の結界の外側を乗り越えてくる可能性がある。

それが出来なくても、

できる可能性はある。と、攻めてくるかもしれない

陽乃「……」

歌野「来たら来たで、今まで通りに追い返すだけよ」


断言しない、断言できない

そんな様子の陽乃に、歌野は囁くような声で言う。

できるなら元気よくしたいが、そうできないもどかしさがあるのだろう。

わずかに顔を顰めて、喉を摩った。

歌野「こんな状態で言っても、信じられないと思うけど」

陽乃「元から信じる気はないわ」

歌野「……もう」

呆れた様子でため息をつく歌野

隣にいる水都はまだ、目を覚まさない

歌野「そろそろ信じて欲しいわ」

陽乃「嫌よ」

考えもせずに拒絶する陽乃だが、

それにも歌野は怒ったりせずに、小さく笑って

歌野「残念……」

落ち込んだように、呟く


陽乃「ただ、信頼は抜きにしても簡単に追い返せるとは思えないわ」

歌野「久遠さんでも?」

陽乃「未知の敵を見下すほど、自分を信じてないもの」

力が強いのは分かっているし、

それが勇者やバーテックスに特化していて、より有効的なのは事実だ

だとしても若葉達が弱いと過小評価はしないし、

初期個体の白く丸い形状のものや、

今思えば未完成にも思える形状のバーテックスなら勝ち目は優にあると思える。

けれど、新たな敵にはそう思えない。

歌野「慎重ね」

陽乃「臆病なだけよ」

歌野「……それを、慎重だって言うのよ」

歌野の言葉に陽乃は目を背ける。

そういうならそうでもいい。相手がそう思うだけなら、関係のないことだ。

そんなことよりも、

その新型が多くの個体が合わさって生み出される存在であることが問題である。


過去に生まれていた、芯の細い進化体のバーテックス

それもまた初期個体の集合体であるが、

今回のさらに上位の進化体は、より多くの初期個体を利用して生み出されるに違いない

だとしたら――

陽乃「……」

歌野「久遠さん?」

陽乃が無口に、神妙な面持ちになっていることに気づいて、歌野が声をかける。

歌野「何かあるなら、話して」

信頼できない以上、抱える秘密もあるだろう。

しかし、

だとしても話すべきことは話して欲しいというような歌野を、一瞥して。


1、何でもないわ
2、ソレが二人の方に出た可能性もあるわ
3、確証が持てたらね


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「ソレが二人の方に出た可能性もあるわ」

歌野「!」

歌野もそれの危険性は分かっているのだろう

驚いて、辛そうに歯噛みする。

歌野「もしその場合、伊予島さん達に勝算はあると思う?」

陽乃「さあ?」

その新たな敵がどのような戦いをするのか

そもそもどのような姿かたちなのかでさえ、まだあやふやな状態だ。

二人が勝てるかどうかなんて、陽乃には判断できない

陽乃「……」

歌野「なら、久遠さんから見て、二人は進化体に苦戦する実力なの?」

陽乃「一人ならともかく、二人でなら苦戦はせずに済むかもしれない……けど」

けれど。

それは進化体のみとの戦いの場合だ。

それ以外に初期個体だったり、他の進化体だったりがいたら苦戦は免れない可能性が高い。


歌野「だったら、新しい進化体には、勝ち目がない可能性もある?」

陽乃「それ以上は、言ったってどうしようもないことだわ」

問い続けようとする歌野を遮るように陽乃は言う。

二人に勝ち目がない。だとして、ここからは何もできない。

今はお昼ちょっと過ぎだから

今すぐに外に出て行くことも可能ではあるが……なんて、これでは同じ話を繰り返すことになる。

陽乃「二人が、諏訪の人と伊予島さん達を天秤にかけて見捨てられるなら別に構わないけど」

歌野「意地悪なこと言うのね」

陽乃「分かっていることでしょ」

陽乃はそう吐き捨てて、水都を見る。

巫女である水都だけは連れていく必要がある

でも、それ以外の一般人は置いて行っても大きな害にはならない。

むしろ連れて行く方が足手まといになる。

だからといって、置いてはいけない。

陽乃「明日の説得次第ね……連れていきたいなら頑張りなさい。もう、猶予はなさそうだから」


歌野「久遠さん次第でもあるわ」

陽乃「……なら、諦めて」

陽乃は、説得できるとは思っていない。

彼らが聞く耳を持たないとかではなく。

歌野「諦めないわ」

歌野は、あえて笑みを浮かべる。

状況は悪い

時間もない。

だけど、それでも。

歌野「諦める気は、ないわ」

陽乃「そう」

あえて宣言する歌野だったが、

しかし、陽乃は素知らぬ顔で振り払う。

歌野「とりあえず……通信があるから帰らないといけないんだけど」

歌野はまだ回復していないし

水都はまだ目を覚ましてすらいない。


1、藤森さんは見といてあげる
2、いいわ、。今日は私が対応してあげる
3、九尾。手伝って


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「九尾。手伝って」

陽乃が声をかけると、どこからともなく妖狐の姿で九尾が姿を現す。

九尾「捨て置けばよかろうに」

陽乃「できるわけないでしょ」

歌野達は陽乃と違って命を狙われるような子ではない

この場に置いていっても何かされる心配はないと思う。

だが、二人の代理として陽乃が通信に出れば、

向こうからまた変な言いがかりをつけられるかもしれない。

陽乃「連れ帰るわ」

九尾「ふむ……よかろう」

九尾は呆れたもの言いながら、姿を人の姿に変える。

ひなたではなく、その相方とも言える人、若葉

歌野「……誰?」

若葉「定期連絡があるんだろう? 時間もないし早めに戻ろう」

陽乃「また、変なことするんだから」


若葉「彼女は私が抱えて行こう」

困惑する歌野に触れた九尾は、

まるで物でも扱うように……とはせず、優しく抱き上げる。

歌野「ちょ、ちょっと!」

若葉「名も知らない人間に、あの娘は委ねたくないだろう?」

歌野「そ、そうじゃなくてっ」

陽乃「方法の問題でしょ」

若葉は、何の躊躇もなく歌野をお姫様抱っこしている。

恐らく、背負ったりするよりはその方がやりやすかっただけなのだろうが、

歌野はそれが気恥ずかしいようだ。

陽乃「少しだけだから我慢しなさい」

歌野「少しって……」

陽乃「藤森さんも、同じようにしてあげるから」

まだ意識のない水都に触れ、少しだけゆする

それでも起きない水都の体を、陽乃は抱き上げて。

陽乃「通信まで時間がないから、さっさと行くわよ」


おとなしい水都と、やや不満そうな歌野

二人を無理矢理に参集殿にまで連れ帰り、水都は部屋に寝かせて

歌野だけを通信用の部屋へと連れ込む。

向こうからの連絡が入っている点滅が、機械には出ていた。

陽乃「どうぞ」

歌野「もう……酷いわ」

道中に、何人もの人に見られたからか

すっかり疲弊した様子の歌野は、通信機を手に取って応答する。

歌野「すみません。遅れました」

『何か問題が?』

歌野「少々、遠くに出かけておりまして」

歌野は一応、嘘をつかずに答えて。

歌野「諏訪には襲撃等はありませんでした」

歌野はそこで、陽乃を見る。

神託の件はどうするかだろうか。


1、伝える
2、伝えない
3、先に四国の状況を聞く


↓2


陽乃は少し考える。

すぐにでも神託のことを言うべきかどうか。

だが、それを水都ではない人物が言ったとして向こうは取り合ってくれるだろうか。

いや、そこは歌野なら問題はないだろう。

水都に対し詳細確認をするだろうから、そこが問題になるかもしれない。

陽乃は首を振ると、通信機をつつくようなそぶりを見せる。

向こうはどうなのかという合図だ。

歌野は思案顔で頷いて。

歌野「そちらの状況は? 伊予島さん達は到着しましたか?」

一番気になる情報を訪ねる

杏達が到着していれば、

神託の新しい敵はともかく、二人の安否についてはある程度安心ができる

そして……襲撃を受けているか否か。


↓1コンマ判定 一桁

0,3 到着

1,4 襲撃

7,9 両方

※被害判定追加

01~65 被害なし 
66~80 被害小
81~95 被害中
96~00 被害大


↓1のコンマ


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


『いいえ、お二方は未だ確認できておりません。ですが、襲撃が行われました』

歌野「被害は?」

『幸いにも乃木様、高嶋様、郡様によって被害なく撃退することが出来ました。問題はありません』

歌野「久遠さん……」

四国に被害がなかったのは、幸いだ。

だが、問題は四国に襲撃が行われたこと

四国と諏訪の間に杏達がいることで襲撃が行われていないのではないかと陽乃達は考えていた。

それに加えて連絡を取ることが出来なかった二人の安否を、

襲撃が行われない=まだ二人は生きている。というものにしていたからだ。

もし、それが確かな話なら、

四国に襲撃を行われたということは、二人はすでに、殺されたことになる。

けれどそれは、あくまで推測

2人が隠れ、やり過ごした可能性もある

歌野「その際に、近くに何か反応があったりは?」

『いいえ、そのような話は伺っておりません』

歌野「……何か変わったことは?」

『そのような話も、聞かされておりません』


二人はまだ、四国の周辺地域にすらたどり着いていないのか。

それとも気づかなかっただけなのか

いくつかの可能性を考えていると、向こうの通信手が口を開く

『本当に、お二人をこちらに送ったのですか?』

歌野「ええ」

『では、お二人は……』

歌野「どちらかにたどり着くまで、確認はできません。誰かが見つけるまで、確認はできません」

生きているとも死んでいるとも言える

可能性としては、圧倒的に後者に傾いてしまった

だが、それでも。

歌野「私は二人が生きていると信じてます」

『お二人がそちらを発たれてから何日目ですか?』

陽乃「約4日ね」

陽乃は横から口を挟んで

陽乃「勇者なら、普通は到着しているような時間だわ」

多少の襲撃はあっても……

いいや、襲撃に遭っていればそれこそ不眠不休で移動し、

それ以上に早く到着していてもおかしくはない


陽乃の半日での到着は異常だが、

球子と杏でも2、3日での到着は可能だったはず。

なのに、4日目の今でも影も形もない

歌野が無事を信じたいのは分かる

しかしながら、陽乃は信じていない。

陽乃「最悪、死んだわね」

歌野「……でも」

陽乃「言いたいことは分かる。けど、向こうが襲撃されたならそれを前提としておいた方が良いわ」

希望は、無駄に傷つくだけだ

信頼は、余計に苦しめられるだけだ

『つまり、貴女がこちらに送ったことでお二人が亡くなったと』

陽乃「ええ、そうなるわね」

否定はできない。

行かせたのも事実だ。そう思いたいなら思って貰って構わない

歌野「久遠さん!」


通信の機械を横に、歌野は陽乃を見る。

怒りか、失望か、悲しさか

複雑そうな表情を見せ、その目を逸らすことなく唇を一瞬だけ噛む。

歌野「諦める人は、嫌いなんでしょう?」

陽乃「結果をありのままに受け止めるのは、諦めとは違うわ」

歌野「久遠さん、二人はまだ生きているはずよ」

『襲撃が二人に際限なく行われていた場合、その可能性は限りなく低い話です』

二人に口を挟んできた通信手。

陽乃の力のおかげで乱れのない言葉は、まだ続く

『そして、勇者様曰く、諏訪から四国までは三日と経たずに到達できるという話でした。1日の猶予を持っても、まだたどり着かない現状、殺されてしまった可能性が非常に高いです』

歌野「でも、誰も確認できていません」

『バーテックスに殺められた人が、確認できると?』

歌野「……」

陽乃「そうよ。確認することなんて出来ないわ」

歌野「少しは否定してっ」

立場が悪くなる一方の向こうからの言葉を肯定する陽乃に、歌野はやや怒った様子で口をとがらせる。



1、そんなことより、神託があったでしょ?
2、二人を捜索に出る気は?
3、私達も、近日中にここを発つわ
4、否定したって無駄だもの


↓2


陽乃「私達も、近日中にここを発つわ」

『どういう、ことです?』

陽乃「諏訪だって長くはないもの。いつかはそっちに行かなければならなかった」

『安全が確保できてもいないのに、人々を連れ出すつもりですか?』

暗に、また人を殺すのか。

そう問われているかのようで、陽乃は小さく笑う。

陽乃「逆に聞くわ。貴女達が確保してくれるの?」

『……』

陽乃「無理でしょう? 少なくとも、もうしばらくは」

いずれは出来るかもしれない。

だが、陽乃はそれを信じて待つような勇者ではない。

なにより、出なければならない理由がある。

陽乃「そもそも、大社はここに救援を出す気なんてなかったじゃない」

『そのようなことは……』

陽乃「馬鹿にしてるの?」

否定をするなとは言わないが、

否定をされるのは、気に喰わなかった。

陽乃「呪い殺すわよ」


陽乃「高嶋さんは頑張るかもしれないし、乃木さんは快く活路を開いてくれるでしょうね。けれど、大社が阻むでしょう?」

若葉は今どうなっているのか。

ひなたは大社の本部に連れていかれたままだろうし、

リーダーの任は完全に解かれ

そして、最悪の場合には軟禁されている可能性もある。

なにせ、捕らえるべき陽乃を捕えなかったどころか、

味方していたのだから。

陽乃「良いわよ。別に。私は期待なんてしていなかったから。信じてもいなかった。だからこうして、今ここにきているんだもの」

阻むものを突っ撥ね、あるいは引き連れ

陽乃は強行突破で諏訪へとやってきた。

力のある勇者を救い、バーテックスとの戦いにおける生存率を高めるために。

なんて……それは建前なのか本音なのか。

陽乃は苦笑して。

陽乃「だからこそ……貴女達には何も言われたくないわ」

『……』

陽乃「道中で何人死んで何人生還しようが。元々、0のつもりだった貴方達にそれを非難する権利はないものね」


歌野「みんなの意見を聞いて、志願者だけを連れていくつもりです。でも、だけど、可能な限り全員を生存させるつもりです」

歌野は、陽乃の言葉を訂正するように言う。

陽乃は偽りなく、希望さえなく、

ただ、ありうる結果だけを述べた

しかし、それではあまりにも心象が悪すぎる

歌野「……私達は限界が近かった。久遠さん達が来てくれなければ今月まで耐えられていたのか、今もこうして通信できていたのかもわかりません」

安全が確保されていないから、危ない。

それは当たり前だ。

自分たちのことを優先して、救助に来ることが出来ない

それは仕方がない。悔しいけれど、理解はできる。

けれど。

歌野「私達の決定を咎められるだけのことを……」

貴方達はしてくれなかった。

そう、歌野は言いかけて首を振る。

その批判は、理不尽だ。

歌野「とにかく、そういうことになります。明日の定期連絡で改めて詳細をお伝えします」

陽乃「あら。明日のお昼にもここにいるつもりなの?」

歌野「……一応、通常より3時間早くを予定して頂ければ」

『……承知いたしました』


√ 2018年 9月6日目 夕:諏訪

34~43 歌野
78~87 水都
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常


√ 2018年 9月6日目 夕:諏訪


陽乃「……」

若葉「良いのか? 藤森さんを放っておいて」

いつものように、部屋で一人物思いにふける陽乃のそばに姿を見せた若葉――九尾は、

その顔を覗くように体を揺らして、息をつく

若葉「どうした」

陽乃「どうもしてないわよ……何にも変わってない」

向こうに襲撃があった。

けれど、それだけ。

杏達は到着していなかった。

歌野が諦めたくない気持ちも陽乃は理解できないわけではないが

さすがに、4日目ともなると生存は絶望的である。

杏と球子は、連携すれば陽のも圧倒できる力はあるかもしれない。

だが、やはりそれでも限界はある。

それこそ、陽乃のように広範囲をせん滅することが出来るような力がない限りは。


陽乃「九尾から見て、二人の生存確率は?」

若葉「限りなく低いな。ここまでくると」

若葉の声で、不安そうに答える。

その声も、表情も、感情も

きっと、若葉がそうするだろうというものでしかなく

九尾自身にその心はないだろう。

若葉「四国が襲撃されたこともそうだが、さすがに時間がな。今はまだ生きているとしても、負傷している可能性がある」

陽乃「動けないほど?」

若葉「ああ」

どれほどの怪我か。

片腕でも吹っ飛ばされたか

片足でも食いちぎられたか

それとも、腹に穴でもあけられたか。

陽乃「そう……不味いわね」


1、歌野達のところへ
2、近付けば、貴女でも居場所を察知できる?
3、遅れたら、死ぬわね
4、何も言わない


↓2


陽乃「近付けば、貴女でも居場所を察知できる?」

若葉「そうだな……できないとは言わないが、久遠さんや白鳥さん、ひなたのように正確に把握することは出来ない」

陽乃はもちろんのこと、

歌野やひなたについては、何らかのつながりがあってこそ正確に察知することが出来ている。

九尾からの干渉や、

陽乃から通じているものがない以上、

その存在を確実に捉えることはいくら九尾とは言え、できないらしい。

陽乃「なら、二人を見つけるにはしらみつぶしにする必要があるってこと?」

力を使い、騒ぎを起こせば向こうからも何か返答があるかもしれない

だが、その場所はごく限られる。

若葉「とりあえず、目的は四国として、伊予島さん達が話し合っていたルートを通るしかないな」

陽乃「そうね……」


若葉「救いたいのか?」

陽乃「それを目的とするつもりはないわ」

若葉「だが、そうするのだろう?」

若葉はもの知り顔で言う。

それが若葉ではなく九尾だと分かっているせいか、

陽乃は少し、眉を顰める

陽乃「……」

若葉「私も、可能ならそうしたいしそうするべきだと思っているが、諏訪の人々を連れて行くなら無理だ」

陽乃「そうね」

若葉「二人を諦めるか、諏訪の人々を諦めるかだ」

陽乃「言われなくても分かってる」

二人を救うなら、足の速さが重要だ

勇者の行動の自由さが重要だ

だが、それを優先しては諏訪の人々を連れていけない。

彼らを置いていくしかない。

陽乃「言われなくても、分かってるのよ……」


どちらも諦めないのは、不可能だ。

九尾に言われなくても分かっている。

どちらも救うのはついでだ。

向こうに帰るついでに連れて帰る

その道中にいるかもしれないから、見つける。

それだけ。

若葉「久遠さんは、どちらを諦める?」

陽乃「私に諦めろって言うの?」

若葉「それ以外のなんといえばいい?」

切り捨てるも、見捨てるも

どちらも同じ

勇者を諦めるか、人々を諦めるか。

今後を考えるなら、勇者を優先するべきだが


1、私が決めることじゃないわ
2、なるようになるわよ
3、目の前にあるもの以外、どうにもならないわ
4、私は、諦めるのは嫌いよ


↓2


陽乃「私は、諦めるのは嫌いよ」

若葉「久遠さん!」

陽乃「分かってるってば!」

若葉の感情で声を張り上げた九尾に、陽乃は怒鳴り返す。

煩わしかった

騒々しかった。

言われなくたって、わかりきっていることだから。

どこかにいる勇者二人

勇者に比べれば体力も力もない人々

その両方をどうにかしようなんて無茶ですらなく、無理な話だ。

そんなことは分かっている。

けれど。

陽乃「私は、諦めたくないの!」

若葉「……」

陽乃「あの日、貴女は何にも感じなかっただろうけど、私は……」


他人のために動くなんて、馬鹿らしいと思っているし

それで報われるだなんて夢みたいなことを信じていないし思ってもいない。

しかし、陽乃は救わずにはいられないし

目の前にある命を、やすやすと手放すことは出来ない

陽乃はもともと、そういった性格だったし、

自分に伸ばされ、届かずに落ちて行った誰かの手

なぜ救ってくれなかったのかと憎しみさえ抱いていそうな瞳

その命が失われるまで、響き続けた声。

陽乃はそれを、忘れられない。

それはある意味、呪いだろう。

陽乃「たくさん、見ちゃったから」

若葉「苦しむぞ」

陽乃「なに? 今以上に落ちるところがあるって言うの?」


陽乃「私は、私のやりたいことをするのよ」

若葉「それが辛い道だと言っている」

陽乃「関係ないわ」

若葉「……」

どうせ、水都と歌野だって似たようなことを言ってくるに違いない。

二人は諦めない

目の前にあるものも、可能性があるものも。

それが完全にその手からすり抜けて、砕け散ってしまうまで。

陽乃「多数決では私の負けよ。なら、初めからその気でいる方がマシだわ」

若葉「……そうか」

陽乃「なに?」

若葉「いいや、なんでもない」

含みを感じる笑みに陽乃は顔を顰めたが、

若葉は首を振って。

若葉「久遠さんがそう決めたならそれでいい。私も、微力ながら手を貸そう」


√ 2018年 9月6日目 夜:諏訪

01~10 歌野
34~43 水都
67~71 歌野
91~95 水都

↓1のコンマ

※それ以外は通常


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


では少しだけ


√ 2018年 9月6日目 夜:諏訪


夜になっても、

陽乃はやや気落ちした様子で、窓際でふて寝していた。

柄にもなく声を張り上げてしまった。

九尾はそれに対してどうこう言ってくる性格ではないし、

尾を引くような物でもないので、構わないが。

自分が、人を救う方向に傾いていることが、気に喰わなかった。

陽乃は諦める人が嫌いだ。

だが、それ以上に自分が諦めるということが嫌いだった。

それは諦めれば死ぬしかなかったこと、諦めれば救えないものがあったこと、

そして諦めなくてもどうにもならなかった経験があったからだ

けれど、陽乃はその諦めなかった果てに母親と自分以外の全てを失うことになって、

他人を救うということは、報われるどころか仇で返されるものだとしか思えない。

なのに、勇者も人々もあきらめないだなんて。

陽乃「……化け狐」

唆されたというか、言いくるめられたというか。

諦めることを嫌う部分をうまく利用されてしまっただけだ。と、

陽乃は思って。

陽乃「どうせ、二人は同じだろうし」


陽乃が、勇者は見捨てると言ったり

邪魔だから足手まといになる人々は置いていくとか言ったところで

歌野と水都の二人はそれに反発してくるに違いない。

ただでさえ時間も戦力も余裕がないときに、

無意味なことで余計な諍いを起こしているわけにはいかない。

それを考えれば、

二人の考え方に則っていても、別に悪いことではないだろう。

陽乃は、思わず身震いする

陽乃「っ……もう……」

なんて酷い、言い訳なのか。

九尾が聞けば嘲笑とともに「屁理屈を並べおって」とでも言っていたかもしれない。

けれども、陽乃はそうするしかなかった。

言動でどれほどまでに取り繕っていようと、

中身はやはり、あの頃の陽乃が残ってしまっている。


力のない人々

ただ逃げ纏うことしかできない人々。

それを連れて歩くというのは、陽乃にとって地獄のような期間になることだろう。

彼らが陽乃を責めるからではなく

彼らが無力で戦う術を持たず、逃げ惑うことしかできないからだ。

陽乃「……っ」

その姿、その声、その足音があの日に被さることは想像に難くない。

陽乃を今もなお苦しめているあのトラウマが、

悪夢としてではなく現実にもう一度姿を見せるかもしれない。

その時冷静でいられるのだろうかと、陽乃は自分の握り拳を額に当てる

陽乃「関係ない……関係ないわ」

ただただ、バーテックスを討ち滅ぼすだけ。

誰かが、何かが、そこにあろうとなかろうと

バーテックスの存在があるのなら、それをぶん殴るだけで良いのだ。

1、共用の部屋へ
2、九尾を呼ぶ
3、歌野に力を通してみる
4、水都に力を通してみる
5、イベント判定

↓2


陽乃は、嫌な考えを放り投げるべく別のことを念頭に置く

最初は、弱り切った様子だった歌野だが、

夕食頃にはもう、すっかり落ち着いた様子で、今はもう、問題はない程に回復している。

初回は九尾に任せてしまったため、

歌野に関しては、繋がりを感じられているだけで、力を通すことについてはまだ未調整

どうせもう寝るだけなのだから

少しくらい、力を通してみようかと、陽乃は歌野のことを捉えようと目を瞑った。

今までも大まかに居場所を特定できたけれど、

今では、より正確に歌野の居場所が分かる……気がする。

陽乃「……」

力はまだ十分に残っているのか、

普段と比べて、元気が有り余っているように感じられる歌野の気配

陽乃は、そうっと……糸を伸ばすように、歌野の方に力を流していく


↓1コンマ判定 一桁

0,9 特殊

ぞろ目 特殊②


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


では少しだけ


前へ前へと流れていく力が、

やがて、何かにぶつかってせき止められるのを感じて、陽乃は目を開く。

今は歌野と繋がっている状態なのか。

これと言って、はっきりとしたものはないが、

けれど、何かがあるのはやんわりと感じられる

そう思っていると、どこからともなく声が聞こえてきた。

『なんだろう。むずむずする……』

一瞬、九尾のものかと陽乃は考えたが、

普段は誰かのことを真似た声を出していないし、違うだろう。

では、誰なのか。

陽乃「……白鳥さん?」

この状況でなら、それ以外になかった。


九尾はほかのだれにも聞かれないように陽乃と直接会話をしたりすることが出来るが、

それと似たようなものなのだろうか。

『久遠さん?』

歌野は戸惑っているようで、色々と陽乃の方に流れ込んでくる。

『何か変な感じ……ちょっと暑い』

彼女の考えも、感じていることも、

もしかしたら、一瞬だけ入れ替わったような感覚を覚えたように、

歌野の視界だって共有できてしまうかもしれない。

陽乃「……」

普段から九尾とつながりがある分、

陽乃は無意味に歌野へと漏らさずに済んでいる状態だろう。

恐らく、陽乃の方からも歌野に対して言葉を伝えたりできるはずだ。


1、体の不調を聞いてみる
2、部屋に来るように言う
3、中断する
4、私は神です。


↓2


陽乃は少し考えて、歌野に力を流すのに似た要領で、

部屋に来て欲しいと、言葉を送り込む。

『えっ? 部屋? えっ?』

完全に困惑している歌野は戸惑い、

そして少ししてから『久遠さんね!』と声高に陽乃に叩き込んでくる。

陽乃「……失敗したかも」

呼ばなければよかったと思ったけれど、

もう時すでに遅い。

多少慌てふためいた足音と、

歌野の気配がどんどん陽乃へと近づいて、

歌野「久遠さん!」

扉が勢いよく、開け放たれた


歌野「一体、どういうこと?」

陽乃「良いから、落ち着いて……うるさいわ」

陽乃は呼んでおいて、煩わしそうに手を振って諫める。

別に体調は悪くないので、

大声で話されても問題はないと言えばないけれど。

『なにかあったのかしら』

歌野の声と考えが陽乃に伝わる。

素の声に比べると、少し変わって聞こえる心

聞き間違えることはなさそうだと安どしつつ、陽乃は歌野を見つめる

陽乃「ここに来たってことは、ちゃんと伝わったのね」

歌野「ええ……びっくりしちゃったわ」

陽乃「私もさすがに、こうなるとは思ってなかったけど」


陽乃は力のつながりを確認したかっただけで、

歌野の心を盗み聞きするつもりはなかったし、

ましてや、そこまでの力があるとも思ってはいなかった。

陽乃「ムズムズするって言ってたけど、平気なの?」

歌野「えっ? あ、えぇっと……」

歌野は驚いて、顔を背ける。

まるで歌野らしくない態度だが、

普段であれば陽乃は鬱陶しいとでも思いつつ、歌野に事情を聴くこともなかっただろう

しかし――

『自分が自分じゃないみたい……なにか、変だわ』

今は、歌野のその内側が漏れ出てしまっている。


陽乃「自分が自分じゃないって?」

歌野「へっ!? あ……久遠さんに聞こえたの?」

びくっとした歌野は、少し気恥しそうに陽乃を見ると……目を伏せて。

歌野「分からないけど、久遠さんを強く感じるわ。まるで、自分が久遠さんになっちゃったみたいに」

もちろん、見た目も雰囲気も力も

陽乃本人と歌野ではまるで違っていて

陽乃の目に見える歌野の姿は、間違いなく歌野である。

だが、歌野はそう感じられていないらしい。

『良いかしら、駄目よね……あ、聞こえちゃう……』

陽乃は歌野の視線を感じたけれど、気づかないふりをする。

完全に、駄々洩れだ。


1、言いたいことあるなら言いなさいよ
2、悪かったわ。次からしないから
3、内側に留めるようにするのよ
4、貴女らしくないわね


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが、
本日は所用のためお休みとさせていただきます

明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「言いたいことがあるならはっきりしなさいよ」

歌野「……怒らない?」

陽乃「その態度に、怒りそうなんだけど」

陽乃は、普段の歌野とは全く違う

どこかうじうじとしているような

そんな態度に対してあからさまに顔を顰めて見せる。

普段の態度は態度で不満があるが、

それよりも気に入らない

そんな様子の陽乃に、歌野は目を向けて。

歌野「私も上手い言葉が見つからないんだけど……その、久遠さんを感じるのよ」

陽乃「さっきからそういう話でしょ?」

歌野「そうじゃなくて……えぇっと、久遠さんの心? みたいな、感情みたいな……そういうのを感じるの」


歌野は、説明が難しいと言いながら、

陽乃の気持ちを感じるのだと繰り返す。

嬉しいとか、苛立っているとか、悲しいだとか

陽乃が意識して歌野を呼んだ時のように

はっきりとした声が聞こえるわけではないが、

感覚的に、陽乃の感情みたいなのが伝わってきていると、歌野は言って。

歌野「だから、私と久遠さんが混ざってる感じがするというか……久遠さんになったみたいって言うか」

『今も、久遠さんが私をどう思ってるかとか感じちゃうし……』

陽乃「私が意識してなくても、色々と伝わってるってことね」

歌野「え、ええ……そうみたい」

恐らく、陽乃が思っている以上に太いつながりが出来ているのだろう。

そのせいで、陽乃が意識していなくても、

力の流れに乗って、陽乃のことが歌野に届いてしまっているのだ


歌野「だから、なんだかドキドキしちゃって」

陽乃「そう。私は別にしてないけど」

歌野は、陽乃のことを知ることが出来て嬉しいのかもしれないが、

陽乃としては、厄介なことでしかない。

歌野ほどに筒抜けになっていないのが、幸いだろう。

『むしろ、嫌がってる……』

陽乃「その通りよ」

歌野「!」

心の声に答える陽乃に、歌野はちょっとだけ困った顔を見せた


1、力の流れを切る
2、私の本心を感じ取ってるんでしょ?
3、水都のことを考えてみる
4、歌野のことを考えてみる
5、嫌に決まってるじゃない。こんなの


↓2


陽乃「私の本心を感じ取ってるんでしょ?」

歌野「そうなのかしら……そうなの、かも?」

歌野は不思議そうに傾げる

陽乃の本心なのかどうかは陽乃にしかわからないが、

無意識に伝わってきているのなら

本心なのかもしれないと歌野は思って。

歌野「久遠さんの本心、気になっちゃうわ」

陽乃「今まで十分伝えてきたと思うんだけど」

振り払ったり、邪険に扱ったり

面倒くさがって、お任せにしたり。

陽乃は、それがすべてとでも言うかのように、歌野を見る

歌野「……」


↓1コンマ判定 一桁

3,6,0 イベント

※それ以外通常


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ
所用で端末が違いますが、問題はありません


歌野は陽乃をじっと見つめたかと思えば、顔を背けて。

『久遠さんの本心……』

歌野の心が、聞こえてきてしまう。

歌野には陽乃の本心が感じ取れてしまっていて、

それはたぶん、歌野の表情を曇らせるようなものなのかもしれない。

歌野「ねぇ、久遠さん」

陽乃「なに?」

歌野「久遠さんは、私たちのことも……失いたくないって思ってくれているの?」

陽乃「はぁ?」

陽乃の冷たい返しに、

歌野はちょっとだけ体を震わせたものの、

だって。と、呟いて。

歌野「言いたいことがあるならはっきりしろって言ったじゃない」


陽乃「そうね、言ったわ」

ついさっきのことだ。

忘れたと言ったところでどうにもならないと、陽乃は素っ気なく頷く

そんな様子も、歌野は困ったように笑う。

きっと、歌野にはその表面とは別のものが伝わっているせいだ

歌野「久遠さんからは、どうにかして突き放さなきゃって感じがするわ」

陽乃「そう」

歌野「でも、それと同時に出来れば離したくない。みたいな……」

そんな感じがする。と、歌野は言う。

陽乃は目を細めて歌野を見たが、嫌味を言うこともなく目を背ける。

突き放さないといけないと思っているのも

できるのなら、誰かのぬくもりが欲しいと思っているのも

事実だ


歌野自身はそれを言葉として受けとっているわけではないため、

やや、自信がなさそうな感じではあったが、

それは間違っていない。

歌野は本当に、陽乃の本心を感じているのだ

歌野「久遠さん、内と外がばらばらになっちゃってるわ」

陽乃「気のせいよ」

歌野「だったら、私のことをどう思っているか言ってみて」

歌野は、悪戯を企んでいるような笑みを浮かべる。

陽乃の本心を感じ取れるから、

何を言ったって見抜いてやろうと考えているのかもしれない



1、普通
2、面倒な人
3、嫌い
4、どうも思ってない
5、悪くは思ってない
6、実は……貴方のことを心から慕っているわ


↓2


陽乃「別に、悪くは思ってないわ」

歌野「……」

陽乃「そんな見つめたって答えは変わらないわよ」

穴をあけそうなほどにまじまじと見つめられた陽乃は、

困ったように言って、歌野の額を指でぐっと押し返す。

『……ほんと』

陽乃「本当よ。嘘じゃないでしょ」

歌野の心の声にも答えた陽乃は、疲れたようにテーブルに突っ伏す。

歌野はそれでも陽乃を見ていたが、

少しして「本当ね」と、頷いて。

歌野「久遠さん……私たちのこと見限ったりはしてなかったのね」

嬉しそうに、笑った


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ
本日も違っていますが問題はありません


歌野「久遠さんから感じるのよ。本当に、悪く思ってないって」

歌野は嬉しそうだが、

どこか寂し気な雰囲気で続ける

歌野「でも、だから。って」

悪く思っている人もいるかもしれないが、

少なくとも歌野達のことを悪く思ってはおらず、

しかし、だからこそ突き放そうとしているように感じるのだと歌野は言う。

歌野「やっぱり、久遠さんは優しい人よ」

陽乃「どこが」

歌野「だって、すっごく……怖がってるでしょ?」

陽乃「……」

歌野「悪くない相手が出来ちゃうこと」


歌野は、陽乃が悪くない相手に対しても、

少しばかり恐怖を感じているように感じると、顔を顰める。

その恐怖はどちらかと言えば不安で、

信じたり、頼ったり

そういうことをしたくないのではないかと、指摘します。

歌野「久遠さん……私のことも怖いのね」

陽乃「別に怖がってないわ」

歌野「ううん、怖がってる。なんて言ったら分からないんだけど……」

歌野は少し困ったように言って、

考え込むように陽乃から目を逸らす。

言葉として聞こえたらいいのにと呟く歌野の心も、

その呟きと全く一緒で、参考にはならない。

そして、歌野は不意に顔を上げて。

歌野「警戒してる? なんていうか、こう……後ろからグサーッってされるみたいなこと」


陽乃「は?」

歌野「ごめんなさい、言葉にしにくくて」

陽乃「なら無理に言わなくたっていいから」

陽乃は別に自分の本心に気づいていないわけじゃない。

むしろ、自分の本心はしっかりとわかっているのだ。

分かった上で、遠ざけたいと思っている。

歌野達はそうじゃないと思っていても、

怖いものは怖いのだ。

陽乃「私のことは私が一番よく分かってるのよ」

歌野「でも、私とみーちゃんは大丈夫よ! 土居さん達だって……だって、一緒に命を懸けてきた仲間なんだから」

陽乃「命をかけてきたからなんだって言うのよ」

その命がかかった状態の相手を助けた結果、

あんな惨劇が起きた上、腫れ物扱いですべてを失ったのだ。


自分の言葉で陽乃の気持ちが悪い方向に揺らいだのを感じたのだろう。

歌野は慌てて謝って、

変なことを言ってしまったと、首を振る。

陽乃「……想像以上に厄介ね」

本心が伝わってしまうのなら、取り繕ったって筒抜けになる。

陽乃が大丈夫と言っても、それが嘘だとバレてしまう。

言葉が伝わらないなら問題ないとは思ったが、

まるで、そんなことはなかった。

歌野「……でも、私たちのことだけでも、信じてくれない?」

それでも歌野は食い下がってくる。

陽乃が表面上で苛立ちを見せても、

苛立ちだけではない陽乃の本心が分かってしまうから、

そこで引くだけでは何も変わらないと分かってしまっているせいだ。

歌野「私達は久遠さんの力のおかげで戦えるのよ? もしあれなら、自分の力の一部だって思ってくれてもいいから」



1、貴女達は貴女達よ
2、嫌よ。
3、やめて……困らせないで
4、そうね。貴方達くらいなら、良いのかもしれないわね


↓2

では短いですがここまでとさせていただきます
明日は恐らくお休みになるかと思います。

再開時は、可能であれば通常時間から


すみませんが、本日もお休みとさせていただきます。

今週の平日はもしかしたら厳しいかもしれませんが、
可能であれば、通常時間から行う予定です。

遅くなりましたが、少しだけ


歌野が言っていることはその通りだ。

歌野は陽乃の力のおかげで戦うことが出来ており、

陽乃の力の一部とも言えなくもないでしょう。

陽乃は小さく息をついて、頷く。

陽乃「そうね。貴方達くらいなら、良いのかもしれないわね」

歌野「!」

陽乃「待って、大声はやめて」

陽乃は心を感じ取って、

歌野がその行動に出るよりも素早く、手を向けて制する。

歌野「ぅ……」

陽乃「私の本心が感じられるなら、分かって頂戴」

陽乃が頷くのがどれだけ難しいことなのか。

陽乃が信じてもいいというのがどれだけのことなのか。

歌野は輝きそうなほどの笑みを、影らせて。

歌野「ええ、分かってる。何があっても、久遠さんを裏切ったりしないわ」


歌野は、迷わず断言します。

それはとても力強く、けれど、大声というほど大きくもない

ただ、芯の通ったもので。

聞こえてくる心も、それを強く意識しているものだった。

陽乃「……分かってる? 今までの貴女のやり方では間違いなくそれを裏切ることになるって」

歌野「ええ……分かってる」

陽乃「どうだか」

全ての人々を守りたいとする歌野の戦い方は、

いつしか、自分を犠牲にして誰かを守り、そして、死んでいくことだろう。

死に方はそれとは別だったとしても、

死んでしまうという時点で、陽乃を裏切ったことになってしまうのだ。

もっとも、死にやすいのは陽乃も同じだが。


歌野「私達が、死んじゃうのが嫌なんでしょ?」

陽乃「私は別に」

歌野「駄目よ……分かっちゃうんだもの」

歌野は、ちょっぴり困ったように笑って

抱きしめたり、当てを握ったり、頭をなでたり

そういったことはしないけれど、

距離だけは、近づいて。

歌野「分かってる。私も……さすがに、全てを救いきるのは理想論でしかないって、分かってるから」

今までは、みんなが諏訪の結界の中にいてくれたから、

全員を守るということが出来ていただけだ。

ここから四国に向かう道中は、そんな安全地帯が存在しない。

残ると言っている人々は体のどこかに不安があって

その人達を連れて行けば、バーテックスに襲撃される可能性が格段に上昇する。

それを自覚している人たちの辞退を、止めることは簡単ではない。

歌野「……無力よね。勇者って言ったって」

だから、歌野は残念そうに言う。


説得出来ないし、

多少は凄い力を持ってはいるが、それだけで

攻撃を受ければ痛いし、死ぬときは死んでしまう。

陽乃「貴女……」

歌野「死ぬ時まで、弱気なんて見せる気はなかったのよ?」

歌野はそう言って困ったように笑う。

歌野「でも、勇者同士なら……ね? 少しくらい弱音を吐いたって、いいじゃない?」

歌野は水都にもあまり弱ったところは見せたくないとは言うけれど、

それは、自分しか勇者がいなかったからで、

自分だけが希望だったからで

そんな姿をひとたび見せてしまえば、みんなが不安になって、壊れて行ってしまうと思っていたからで。

歌野「良いのよ。久遠さんだって、弱音を吐いたって」

誰にも何も見せる気がなかったのは、信頼できなかったから。

けれど、今は。

歌野「それが解決できそうなら、私達が全力で手伝うわ」

歌野達がいる。

歌野「まずは、明日……明日精一杯頑張りましょう」

目下、一番諦めたくないもの

それを諦めずに済むように頑張ろうと、歌野は陽乃に笑みを浮かべる


↓1コンマ判定 一桁


0,3,9,ぞろ目 特殊追加

※それ以外は終了

では短いですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば早い時間から

では少しだけ


それはきっと、つながりが深くなってしまったからだろう。

眠ったことで深層心理までもが絡み合って、

もしかしたら一心同体のような状況に陥っていたのかもしれない。

その日の夜、陽乃は夢を見た。

小学生の女の子が、楽しそうに農作業を手伝っている夢

両親のような人

祖父母のような人

多くの人達と、とても楽しそうに日常を過ごしている夢は、

次第に、壊れて行って

やがて……少女一人になってしまう。

すべてが壊れて、奪われて、一人ぼっちになって。

それでも、彼女は折れることなく立ち向かっていく

そんな夢を、陽乃は見てしまう


陽乃はそれを追体験するというよりも

外側から見ている感じで、

どれだけ手を加えたくても、どうにもならない。

手を伸ばしても、力を使おうとしても、

目を覚まそうとしても、何もできない。

ただ、見ていることしかできない。

明晰夢であるはずなのに、どうにもならないそれはただただ不愉快で

陽乃は早く覚めて欲しいと願って。

けれど、陽乃は暫く、目を覚ますことは出来なかった。


1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(力の供給、毒、新しい敵、杏達、供給テスト、部屋に呼ぶ、言いたいこと、本心、良いのかも、特殊)
・ 藤森水都 : 交流有(神託)
・   九尾 : 交流無(支援、手伝って、杏達の位置、諦めるのは嫌い)

√ 2018/09/06 まとめ

 白鳥歌野との絆 73→77(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 85→86(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 73→75(良好)


√ 2018年 9月7日目 朝:諏訪


翌朝、目を覚ました陽乃は自分を見ている視線に気づいて隣に目を向ける。

それは水都ではなく、歌野の方からのもので。

陽乃を起こしたのかと、小さな謝罪が彼女の口から洩れる。

歌野「なんか……嫌な、夢を見ちゃって」

歌野の目元には泣きはらしたようなあとがあって、

歌野の動いた手に自分の手が引っ張られていくのを感じた陽乃は、顔を顰める

陽乃「何、してるのよ」

歌野「つい……」

彼女は困ったように笑みを浮かべる。

嫌な夢を見たから、手を握ったのか

普段なら気づいて起きていたかもしれない。

それが出来なかったのは、陽乃も嫌な夢を見ていたからだろう


歌野「凄く嫌な夢だったわ……ねぇ、私……」

もしかして、久遠さんの過去を夢に見ちゃったの? と、

そう続きそうな雰囲気で、歌野は言葉を切る。

夢ともなれば、覚えていないことがほとんどだが、

これは夢と言うよりも、力のつながりによる記憶の伝達みたいなもののため、

殆ど覚えていないのではなく、

殆どを覚えてしまっているのだろう。

歌野は、今までにないほどの暗い顔をしている。

最初は同じだったかもしれない。

沢山失って、守れなくて、けれど、力があるからと頑張ろうとした。

しかし、

歌野は、周りの人々が少しずつ力になってくれた。

陽乃は、周りの人々から悪意を向けられた。

それがとても大きな違いだった。

陽乃は誰も、頼ることが出来なくなってしまったのだ。


歌野はもしかしたら、

その夢が陽乃の過去だと分かってしまったから、

手を握ってきたのかもしれない。

もしくは、陽乃がうなされたりしていたから、

わざわざ手を握ってくれていたのかもしれない。

陽乃「泣いたのね」

歌野「だって、あまりにもあんまりだったわ……」

泣いたのは眠っているときだった

けれど、仕方がなかったと歌野は言う。

頑張っても報われなかった。

歌野は、もし自分がそうだったなら

今ここにいることは出来なかったと首を振る。

歌野「……話に聞いた以上に、辛かったのね」



1、やめて
2、終わった話よ
3、だったら、昨日の話はなかったことにする?
4、なのに、あんな無理強いしてくるんだから


↓2


陽乃「だったら、昨日の話はなかったことにする?」

歌野「冗談じゃないわ」

そんなバカなことはあり得ないと言うように

歌野は陽乃を睨むように見つめる

歌野「逆に、絶対に裏切れないと思った」

歌野は、ゆっくりと体を起こしていく。

まだ横になっている陽乃を見下ろすようにして、

握っていた手の力を強くする。

歌野「……何があっても、一緒にいたいと思った」

力は陽乃から借りているため、

否応なく、一緒にいる必要があるのだが、

歌野は、それでよかったと笑みを浮かべる。

歌野「大義名分があるから、むしろ、久遠さんが嫌でも、一緒にいさせて貰うわ」


一緒にいてくれる人はいたかもしれないが、

それを、信じることが出来なかった。

命を救われたなんて恩義がありながら

裏切ってくる人がいたのだから仕方がないだろう。

それが、どれだけ頑張っても報われることのなかった過去

けれど、今もそうであっていいはずがない。

歌野「久遠さんだって報われるべきだわ」

歌野は、とても優しい声で言う。

陽乃の手を優しく包み、

そして、笑みを浮かべて。

歌野「だって、私達は、久遠さん達のおかげで報われたんだもの」

もちろん、最後まであきらめる気はなかったが、

3年間頑張ったって、

未来を繋げる礎となるだけで

自分たちが生き残ることは出来ないと思っていた。

なのに、そうではなくなった。

希望が出来た。

まだ課題は残っているが、大丈夫だろう。

歌野「久遠さん達は私たちの命の恩人よ……その恩は絶対に返したいの。嫌って言われても」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から


遅くなりましたが、少しだけ


歌野「……動揺してる」

陽乃は顔を顰めていたが、

その内側を歌野は突いて笑みを見せる。

嫌がっているわけではなく、

なにがなんでも離れないと言った歌野の言葉への動揺だ。

歌野はそれを感じ取ったのだろう。

あえて、口にして。

歌野「伊予島さん達の時も、こうだったの?」

陽乃「さぁ?」

歌野「みーちゃんに聞いたことがあるんだけど……」

陽乃「なに?」

歌野「そういう、実は相手のこと考えてくれてるのって、つんでれって言うらしいわ」

歌野の妙な話に、陽乃は目を閉じる。

そんな興味なさそうな反応を見せて。

陽乃「なに、馬鹿なこと言ってるのよ」

陽乃は困ったように呟く


ツンデレがどういうものなのかは、

ある程度本を読んでいれば出てくることもあるし、

小学生時代にも聞いたことがあるので、知らないわけではない。

知らないわけではないから、陽乃は否定する。

陽乃「私はそんなじゃないわ」

歌野「けど、久遠さん……裏切られるのも嫌だけど、巻き込むのも嫌って思ってるでしょ?」

陽乃「はぁ……」

ため息をついた陽乃を、歌野はじっと見つめる。

陽乃の評判はどう頑張ってもいいとは言えない状況で、

その味方をしようものなら、悪と断じられてしまいそうなほどで。

それに巻き込むことも、陽乃は嫌がっていると歌野は見た。

歌野「生半可な気持ちじゃ、久遠さんとは付き合っていけないわ」

陽乃「嫌になった?」

歌野「野菜だって、生半可な気持ちでは美味しく育てることが出来ないわ」




1、私を野菜と同じにしないで
2、そう。せいぜい頑張りなさい
3、あら、私は毒があるわよ?
4、あっそう……ほんと、変わってるわね


↓2


陽乃「あら、私には毒があるわよ」

まだ隣で眠っている水都もそうだが、

歌野も、昨日体験したことだ

下手をしたらもがき苦しんで死ぬことにもなるような猛毒

なのに、歌野はおかしそうに笑う

陽乃「何よ」

歌野「だって、野菜にだって毒があるものもあるわ。ほら、知ってそうなもので言えば、ジャガイモとか」

ちゃんとした処理しないと食中毒を引き起こすことになるし、

最悪場合には死ぬこともあるだろう。

けれど、ちゃんと扱えば何も問題ない。

歌野「農業に携わるうえで、私もみーちゃんもたくさんの毒と向き合ってきた。心配は要らないわ」


陽乃「そう」

歌野「そうよ!」

自信満々に言う歌野を一瞥した陽乃は、

歌野とは別の、隣から視線を感じて目を向けると、水都と目が合う

水都「……うたのん、声大きい」

水都は陽乃の本心が伝わったり、

過去を垣間見るような夢を見ることはなかったなかったのだろう

ただ、話す声が少し大きくなったせいで、

起きてしまったらしい。

歌野「あ、ごめんねみーちゃん」

水都「……何か話してた?」

歌野「ええ。私とみーちゃんは味方だって、説得してた」


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから


では少しだけ


√ 2018年 9月7日目 朝:諏訪

01~10 歌野
34~43 水都
67~76 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常


√ 2018年 9月7日目 朝:諏訪



今日はこの後、ここに残ると言っている人々を説得しなければならない。

陽乃は相変わらず、別に説得らしい説得をする気はないと言うけれど、

歌野は困ったように笑います。

その心の内側では、出来るなら、叶うなら

そう、思っていると伝わってしまっているからでしょう。

水都「……なんだか、うたのんと陽乃さん仲良くなってない?」

歌野「えっ?」

水都「昨日、夜寝る前に出て行ってから、明らかに」

歌野「そう見える?」

水都「……うたのん?」

じっと見つめてくる水都の視線に

歌野は焦った様子で両手を振って、別に何かあるわけじゃないと否定します。


水都「別に何かあっても良いけど……と言うか、あったよね?」

歌野「えっと……」

無理に力を通した結果、

陽乃の本心が伝わるようになってしまった。と言うのは、まだ水都には伝えていない

無理に力を通したことで何か言われるのは目に見えているし、

それで本心が知れるとなったら、

水都は羨ましがるし、

もしかしたら自分にもと言って来ないとも限らないからだ。

歌野から目を向けられて、陽乃は顔を顰める。

そんなアイコンタクトは、あからさますぎるからだ


1、正直に話す
2、何もないわ
3、昨日のアレで、私の過去が筒抜けだったらしいわ


↓2


陽乃「昨日、改めて力を通したのよ」

水都「もしかして、夜にうたのんが変になった時ですか?」

歌野「変って」

水都「変だったよ。すごく」

急にぶつぶつと言いだして、なんだか怖かったと水都は言う。

陽乃「そう。で、その時に余計なものまで伝わるようになっちゃったみたいなのよ」

余計なことをしたわと陽乃は面倒くさそうに言いつつ、

歌野には自分の本心が伝わるようになってしまったのだと正直に話します。

水都「今も、陽乃さんの本心が分かる?」

歌野「なんとなくね。こと馬とかで伝わる感じじゃないの……こう、抽象的な感じで」

水都「神託みたいな感じかな……」


水都は何があったのかを一通り聞いた後、

歌野を一瞥して陽乃に目を向けると、

少し悩んでから、首を横に振る。

水都「私は、無理ですよね?」

陽乃「そうね……」

昨日、歌野にしたのよりもずっと弱くつなげても、

水都は意識を失ってしまうほどの影響があった。

陽乃の本心を知ることのできる最低ラインがそれだとしたら、

水都に同じことをやろうものなら、殺すのと同意義になるだろう。

陽乃「悪いけど無理よ」

水都「ですよね」

陽乃「出来たとしても、嫌よこんなの……困るわ」


残念そうな水都に対しての陽乃の言葉

歌野はそれに対しても感じるものがあったのだろう

どこか嬉しそうに笑みを浮かべていたけれど、

陽乃はそれを睨んで、口を閉ざさせます。

陽乃「余計なこと言ったら失神させるわよ」

歌野「こ、怖いわ……」

物理的な干渉ではなく

力を無理矢理に流し込むことでの失神

最悪死ぬこともあるので、

陽乃が本当にやるとは思っていないが、

それでも、できてしまうから、怖いのだ。

水都「……いいなぁ」

歌野「ねぇ、久遠さんとずっと一緒にいたらみーちゃんの巫女としての適性が上がって、もっと丈夫になったりしないかしら」

陽乃「さぁ?」

出来る可能性はあるが、

歌野と同程度の素質にまで引き上げられたなら

それはもはや巫女ではなく、勇者だろう。


陽乃の力は本当に危険なのだ。

生半可な気持ちで使うのも、受け止めようとするのも

最悪の場合、死に至る。

陽乃「無理をしたって死ぬだけよ」

水都「そう、ですけど」

歌野「久遠さんが素直になればいいんじゃないかしら?」

陽乃「私はずっと素直なんだけど……」

え? と言いたげな歌野を睨んで黙らせ、

陽乃はため息をつく。

こんな余計な話をしている場合ではない。

陽乃「ところで、今日の集まりで駄目だったら終わり。それでいいんでしょう?」

歌野「あ、そうね……ええ。そうするしかないわ」

水都「出来たら諦めたくないけど、刻一刻を争う今、聞いてくれないなら諦めるしかないと思う」


歌野と水都が嫌がったとしても、

もうそれできっぱり諦めて貰うつもりだったが、

杏達の命もかかっている今、

自ら志願して負担を減らそうとしてくれている人たちを無理やり連れて行くわけにはいかないと、思ってくれているようです。

いくら勇者とはいえ、万能ではない

それをわかっているから、

他にもたくさんの守るべき命があるから

限界があることを認めるしかない。

水都「それで、どうしますか? 予定としては10月半ばだったけど……」

歌野「遅くても今月中よね?」

陽乃「今月中なんて、むしろ遅すぎるわよ」

早ければ今日の夜……だが、

それはさすがに連れ出す人々の体力がきつい

とすれば、明日以降になるだろう。

水都「準備に1日取って、明後日にしますか?」

歌野「全員が出来るとは思えないし、準備で2日で明々後日の方が良いんじゃないかしら」


1、明日(9月8日目)
2、明後日(9月9日目)
3、明々後日(9月10日目)
4、末日(9月14日目)

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます。
明日は可能であれば通常時間から。


暫く別端末だったので、変換ミスが多かったかと思います。
明日以降は問題ない予定です。

では少しだけ


陽乃「明日(9月8日目)にしましょ」

歌野「明日!?」

陽乃「行く予定だった人は準備できているだろうし……そもそも、そんな大量の荷物は持っていくことは出来ないわ」

水都「それはそうですけど、難しいと思います」

大量の荷物が難しいというのは事前に告知してあり、

長距離移動する際に邪魔にならない必要最低限にとどめて欲しいと伝えてある。

けれど。

やはり、もう少し時間が欲しいと思うはずだ

水都「どうにかして、バスでも走らせられたら楽になるんですけど……」

歌野「外の状況次第ね」

陽乃「走れるような状況ではなかったわよ。途中で道路がダメになる」

四国から九尾に乗って移動してきた際に、ある程度の確認はしている。

その段階で、途中の道が削られたり、

がたがたになってしまっているのが見えたため、車での長距離移動は出来ない。

歌野「とにかく、明日は急すぎると思うわ」

陽乃「なら、ついでに確認しましょ。明日出発できるかどうか」


急ぎ過ぎているとは、陽乃も思っている。

けれど、そうでなければいけない。

むしろ、今すぐにでも出た方が良いとさえ考えている。

陽乃と歌野、そして水都

この3人だけなら、何も問題ない。

九尾の背中に乗って移動してしまえば、半日で追いつくことが出来る。

しかし、そう言うわけにはいかない。

諏訪に住まう人々を連れて行かなければいかない。

正直に言えば、お荷物だ

だとしても、見捨てていくわけにはいかない。

歌野「……久遠さん」

気付けば、歌野が陽乃の手に触れていて。

その心配そうな視線に、陽乃は顔を顰めて首を振る。

陽乃「大丈夫よ。いつものことだから」

歌野「けど」

陽乃「人間、誰にだって表裏あるのよ。それに、だとしても私は連れていけるだけは連れて行ってあげるわよ」

守るとは約束しない。

ある意味、悪い意味での道連れになるかもしれない。

けれど、生きたいと言い、苦難の道を進もうというなら、陽乃は連れていく。


陽乃の気持ちを酌んでか、歌野は小さく笑みを浮かべる。

本心が伝わってしまうというのは、

やはり、厄介だと陽乃は思うけれど

それもまた、歌野の方には伝わってしまう。

陽乃「取り消さないわよ」

歌野「……もうっ」

ちょっぴりむっとする歌野だったが、

それ以上にもやもやとした気配を感じて、2人で目を向ける

水都「2人で分かり合わないで……」

陽乃「分かり合ってないわよ」

歌野「ごめんね、みーちゃん。つい」

水都「……やっぱりズルい」

そう言われても、水都にこの深いつながりは築けない

そう言うと、

やっぱり素直になったらいいんじゃない? と、話が戻っていく。

陽乃「そろそろ時間でしょ。話に行かなきゃ」

陽乃は適当にそう言って、話を終わらせた。


人々が集められたのは、諏訪市にある公民館のホール

諏訪湖周辺にあり、

大人数を収容できるため、最終的な避難地としても候補に挙がっていたのだという。

陽乃達は、その人々に注目される舞台的な場所の袖にいて、

いよいよだと、ため息をつきます。

陽乃は説得できなくてもいいと思っているが、

水都と歌野は可能なら、できるなら……と、思っている。

歌野「久遠さん、私たちのために無理はしなくていいから」

陽乃「無理なんてしてないわよ」

陽乃はそう言って、人々のところへと向かう。

生きることを諦めたなら

それを諦めずにあがいている人以上に足手まといになる。

救われること前提の人々など、こっちの身が危うくなるだけだ。

陽乃「……してないわよ。無理なんて」

歌野「わかってるわ……ありがと」


1、慎重に説得(選択肢)
2、簡潔に説得(コンマ判定)

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます。
明日は出来ると思うので、可能な限り早い時間から行おうかと思います。

では少しだけ


時間になったのを確認し、

陽乃は2人を引き連れて、壇上に上がっていく

今も結界に守られている諏訪の中で生きている人々、百数十人程度

それでも十分、多い方だろうと陽乃は見つめて。

「あら、今日は陽乃ちゃんもいるのね」

「あの子が陽乃ちゃん?」

「歌野ちゃん達と同じくらいじゃないか……」

ざわざわと、騒がしくなっていく。

歌野がこれから大事な話があるから。と、大きく声を張り上げて、

段々静かになっていくのを陽乃は見守る。

みんなが話を聞いてくれるのも、

ちゃんと指示に従ってくれるのも

歌野が3年間頑張ってきたからこそのものだろう。

やっぱり、自分とは違うと陽乃は首を振る。


陽乃「……やっぱり、貴女がダメなら無理だと思うのだけど」

そんなにも信頼の厚い歌野達で説得できないのに

どうしてほとんど無関係な陽乃が説得できるのか。

出来るわけがないと、陽乃は思ってしまう。

けれど、そんな内側でさえ、

歌野には伝わってしまっているのだろう。

歌野は、大丈夫。というように陽乃に目を向けて。

歌野「良いのよ。久遠さんが言いたいことを言ってくれれば」

陽乃「私が言いたいこと言――」

歌野「正直に」

何を言うか分かっていたのか、

歌野は困った笑みを浮かべながら、きっぱりと遮る。

ただ、正直と言われても。というのが、陽乃の心情だ


本当に、心から生きることを諦めているわけではないはずだが、

それでも、自分たちは足手まといになると考え、

自ら残ろうとしている人達がいる。

そんな人達を無理矢理に連れ出したところで、

それこそ、足手まといになることは目に見えている。

歌野と水都が説得して、けれど駄目だった。

そんな人達に言って意味のあることなんてあるのだろうかと、陽乃は顔を顰める。

人々は、勇者様が守ってくれることを前提にしている。

自分たちを守って死ぬかもしれないと考えている。

けれど、陽乃はそんな気は更々ない。

助けられることを前提にしている人たちなんて、見捨ててしまいたいくらいだ。

もっとも、そうできるかは別の話だけれど。



1、まず、この2人はともかく、私はみんなを守る気はありません。
2、私が知りたいのは、私達とか誰かとか。そういう話ではなく、生きたいのか死にたいのかです
3、私達がここを離れた場合、今まであった結界が消えてしまうのはもう、聞いていますよね?
4、正直、死にたければ死んでくださって結構です。
5、少なくとも私は、誰かを守って死ぬ気はありません。


↓2


陽乃「私が知りたいのは、私達とか誰かとか。そういう話ではなく、生きたいのか死にたいのかです」

陽乃は、壇上にあるマイクを使って、会場全体に声を響かせていく。

聞いた話では、

足手まといな自分たちを守ってくれるから、

そのせいで、勇者たちが傷ついてしまうから、辞退したい

そんな流れだったはず。と、陽乃は頭の中に思い浮かべて。

陽乃「勇者が守ってくれない瞬間に、諦めて目を瞑るのか、全身全霊をかけて足を動かすのか、息を潜めて生き延びられる可能性に縋るのか。どうなんですか?」

足が不自由だから、足手纏い。それは間違いない

体が不自由、寝たきり、病弱……確かに、足手纏いだ

けれど、それでも死にたくない。生きたい

そう思って、あがく気があるのか

だから、自分は無理だと諦めてしまうのか。

陽乃にとって重要なのは、その部分だ。

陽乃「自分が生きたいなら、生きたらいい。足掻いたらいい。その結果、誰かがそれを庇って死ぬかなんて気にする必要なんてない。その誰かは、貴方と違って生きたくなかっただけなのだから。少なくとも、私は……生きたいと思ってます」


少し前、ここに来るために力を使った結果、生死の境を彷徨ったし

ほんの数日前、全力で力を使った結果、意識を失って寝込むことになった。

けれど、それは別に他人のためにしたわけではなく

自分がそうしたいと思ったから

そうする必要があると思ったことだ。

陽乃「勘違いされたら困るんです……私は、私のために戦ってるんです。その反動で体が傷ついてるだけで、誰かのために、死ぬような思いをしてるわけじゃありません」

そんなことしたって、報われるわけじゃない

その結果、化け物だと言われて、石を投げられる。

そんなことしなければならないのは生贄にならなかったからだと、されて、

体が傷ついてい句のは自己責任だとさえ、思われて。

他人なんて……守る価値はない。

歌野「っ……」

陽乃「だから、自分勝手な答えを教えてください。誰かのためにここに残って殺されるのを待つ。なんて偽善は嫌いです。生きたいか、死にたいか。それだけを教えて欲しいです」


陽乃の言葉に、また会場がざわついて。

可能なら生きたい

死にたいわけがない

誰だって生きたいに決まってる

といった言葉が聞こえてきて。

「そんなこと言ったって、足腰が悪い人はどうしろっていうんだい? 他の人に合わせて貰うわけにはいかないだろう?」

1人が、疑問を上げる。

一番大切なことだろう。

1人ではどうにもならない人はどうするのか。

その解決策としては、

やっぱり、徒歩以外の移動手段を用意するしかないけれど、

途中の道が走れなくなっていることをどうにかしなければいけない

ただ、それについては、九尾の力を借りることでどうにかできる可能性はある。

あとは、勇者として力を強化した歌野と陽乃の連携

神様の力すらも借り受けての強化は、大型バスなども少しの間持ち上げて移動することだってできるかもしれない。



1、そんなことはどうでもいいです。生きたいのか、死にたいのか。それだけ教えてください
2、そこは、何とかします。
3、それは……まだ検討中です。
4、分かりません


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

もしかしたらまた別端末からになるかもしれませんが、
特に問題はありません。

遅くなりましたが少しだけ
恐らく安価はありません。


陽乃「そこは、何とかします」

「何とかするって言われても、どうにもならなかったら困るんだよなぁ……」

疑問を投げかけてきた男性は

陽乃の曖昧な返答に難色を示して、すぐに「違う」と続ける

「勇者様を責めるつもりはないんだが、やっぱり、そうだろう?」

その男性の言葉に続くように

近くの男性が頷きながら口を開く

「そうだなぁ」

「やっぱり対応できませんでしたってなっちゃうとねぇ」

別の女性も不安そうに続いて

「陽乃ちゃんは周りは関係ない、生きたいか死にたいかだって言ったけど、その対応が出来なかったら周りに迷惑かけちゃうだろう?」

「その対応だって、そもそも迷惑になる可能性もあるんじゃないか?」

やや体に不安のあるといった様子の人達が口々に不安を呟く


「今だって力を借りて生活しているのに。命が懸かってる場所でまで足を引っ張るわけにはいかないよ」

杖を傍らに備えている最前列の男性が、笑みを浮かべる。

完全に力を借りているわけじゃない。

だとしても、日常のどこかで手を借りなければならない人

それ以上に、力を借りなければ日常生活さえ危ぶまれるような人

それは、決して少なくはない。

あの日に怪我をしてしまった人や

3年の月日を経て衰えてしまった人

医療技術の衰退によって、病状が悪化してしまった人だって、いる。

「勇者様のお気持ちは、ありがたく思います。ですが、貴方達こそ、周りのことなど気にしないべきでしょう」

水都「……っ、でもっ」

歌野「みーちゃんっ」

水都「っ」


陽乃の言葉を借りてのその言葉は、

結局、死を選んでいるだけだ

水都はそれに何かを言いかけたけれど、

歌野がそれを止めて、首を横に振る。

『それを言ったって……どうにもならないわ』

歌野から伝わってくる心の言葉

水都も歌野も説得はしていて、

けれど、上手くいかなかったから陽乃に頼んだのだ

2人は似たような言葉を何度も聞いたのだろう

そしてその数だけ否定して、否定されたのだろう。

陽乃「言ったはずです。私は生きたいと。私は私のために戦うと」


陽乃はやや冷徹さを感じる声色で言ったものの、

年の功というものか、

会場にいるほとんどの人達はそれに怯えるでもなく、穏やかで。

そして、そのうちの一人が口を開く。

「私には息子が居たんだ。勇者様よりも半分……年上の息子が」

その男性は、とても悲し気な笑みを浮かべながら、

雰囲気は優しさを感じさせていて。

「生意気だった。叱っても逆らって、言うことを聞かない。親不孝な息子だった。けれど……そんな子があの日、私を助けてくれたんだ。
散々、悪口を言って暴言を吐いて、いなくなることを望んでいたくせに、助けてくれたんだよ。自分を犠牲にして」

男性は変に語って申し訳ないと言って、陽乃に笑みを浮かべる。

「君はそんな息子にそっくりだ。口では色々言うのに、気にかけてくれている。そんなあの子と雰囲気がそっくりなんだ」

性別が違う。

年齢も違えば、容姿だって違っていて、何もかもが違う。

けれどその雰囲気が似ているのだと男性は言う。

だから、心配なのだと。

「君は自分に言い訳をして、結局助けてくれそうな気がするんだよ。助けてしまいそうな気がするんだよ」

守る価値がないと言っても、

見捨てると言っても

結局、何か理由をつけて庇ってしまったりして、そして。

「だから、私達は置いていくべきだよ。ほかでもなく勇者様と前途あるみんなが生き残っていくために」


陽乃「っ……私はっ……」

歌野の心配そうな視線を感じて、目を背ける。

本心を感じ取っている歌野だからこそ、

その男性の言葉が決して間違っているわけではなく、

陽乃が動揺してしまっていることにも気づいているのだろう。

「それにね? 道中の食糧事情だってあるでしょう? ただでさえ手を借りている人が消費することに不満を持つ人だって出てこないとも限らないと思わない?」

最初の内は、そんな不満なんてないかもしれない。

けれど

常に気を張り巡らせていなければならないし、

襲われた時のストレスなんてそれ以上なのは間違いない。

そんな場面で足を引っ張り続ける人たちへの不満は溜まるだろうし、それが爆発することで無駄な争いが起こる可能性もある。

「そうだ。そういう事情もある」

「ない……とは、言えないよなぁ」

体に不安のある人たちの言葉を受けて、

健康そうに見える人たちも、否定したいようだけれど、否定はできないといった様子で渋々頷く。

そうならなければ、分からない。


では、途中ですがここまでとさせていただきます。
明日は可能であれば少し早い時間から。

再開時に安価になると思います。

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しだけ


流れは完全に、悪い方に進んでいる。

このままでは、結果は変わらないだろう。

それどころか、

場合によっては四国に向かうとしていた人たちの一部まで、残ると言い出しかねない。

四国に残ると言い出した人が増加したのだって、

元々は陽乃が力を使って、倒れたのが原因だったのだから

陽乃が先ほどの男性が言った通りの性格なら

誰かを守って命を落としかねないからだ。

「勇者様だけなら、数日もかからないんだろう?」

「なのに、私達のために倍以上の時間をかけて、命まで懸けてくれるだなんて……申し訳ない」

「やっぱり、私達はついてはいけないわ」

「そうだ。そこまでの迷惑はかけられないよ」

陽乃「……」


1、そう。なら止めないわ
2、死にたいってことで良い?
3、そういうことされると、向こうで私が面倒なことになるんです
4、確かめもせずに、諦めるの?


↓2


陽乃「確かめもせずに、諦めるの?」

「そんな余裕は、ないんじゃないか?」

陽乃に対して、男性の一人が答える。

諏訪の住民の中ではそれなりに若い部類に入る人だ

確かめもせずにというのは、確かにそうなのだが、

その確かめる最初の行動によって大損害を被りかねない以上、

確かめるなんて、するわけにはいかない。

何もなく無事に終えられるというのは、理想だ

希望的観測でしかない。

「陽乃ちゃ……いや、勇者様が、俺達みんなを助けてくれようってのは分かるが、どう考えても無謀だ」


健康な人のその発言は、明らかに切り捨てるものだ

本来なら喧嘩にでも発展しそうなものではあるが、

しかし、切り捨てられる側の人々は否定も怒りもせずに、賛同している

「その通りだよ」

「下手をしたら、その初めてのことで陽乃ちゃんか歌野ちゃんかが大怪我をしちゃう可能性だってあるんだよ?」

歌野「……否定は、できないわね」

歌野だって3年間戦い続けて、一度も体が傷つかなかったわけではない。

今でこそ、戦い慣れてけがを負う頻度は極端に減ったし

陽乃の力のおかげで、力そのものも底上げされていることだろう。

けれど、神託の件もある。

油断はできない

陽乃「そう、ですね。否定はできません。だけど、それで諦めるのは嫌いです」


「好き嫌いの問題じゃないんだ。現実として難しいじゃないか」

「陽乃ちゃんの気持ちは嬉しいけどねぇ」

「勇者様として、人ととして、見切りをつけるというのは難しいかもしれないけれど……でも、ね?」

彼らは、望んでいる。

ここに置いて行かれること

陽乃達が少しでも確実に、そして、無事に四国にたどり着けることを

それを危険に晒す自分たちは本当に唯々足手纏いでしかないと考えているだろう。

「どうせ考えるなら、こう考えたらいい。勇者様がいなくなっても、諏訪の神様が私達を守ってくださると」

意外に結界が途絶えたりはせず、

このままここで生きていくことが出来るんじゃないか。

口々にそういうが、陽乃はそれが無理だと知っている。

陽乃「無理です」

「いいや、分からないだろう? "確かめずに諦める"のかい?」


陽乃「そういうのは、いりません」

あえて、陽乃が使った言葉を使ってくる人

間違っていない

けれど、だからこそ意地悪な話だ

無理なものは無理なのだ。

諏訪の神々は陽乃に委ねてしまっているし、

そして、今は諏訪の神々の力があってこそ歌野の力がある。

それを残せば、もちろん、諏訪の結界は持続するだろう

とはいえ、そうしたら結果は変わらない。

歌野も水都も、残った人々も

いずれは結界を食い破られて、蹂躙されてしまう


そして、そうせずに歌野も陽乃も離れていけば、

暫くして結界は効力を失って、消えていく。

バーテックスを阻むことは出来ず、残った人々は食い殺されることになるだろう。

ここで、説得できなければ。

けれど、無理だ。

諦めるのは嫌いだけれど、これは、非常に分が悪い

陽乃「そんなに……」

そんなに、死にたいのか。

そんなわけがない

けれど、誰かを巻き込むくらいなら死んでもいいと考えている

歌野「久遠さん」

陽乃「……やめて、そんな目で見ないで」



1、私達は、そんなに弱くないわ
2、本当に、死んでもいいの?
3、良いから黙って、着いてきて
4、ならいい。もういい


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「私達は、そんなに弱くはないわ」

誰かを守ったくらいで、大怪我するほど

誰かを守って、死ぬほど

弱くはない。

けれど。

「勇者様が強いことは、みんな分かっているよ」

陽乃達が来る前から、ずっと、歌野が頑張っていたのだから

3年間だ

最初はついてきてくれる人なんて殆どいなかったにも関わらず

戦い続けるにはあまりにも長いその時間を、歌野は1人で戦い続けて、守り抜いた

だから、諏訪の人々はよくわかっている。

「分かっているから、それは大切にするべきだと思うんだよ」


自力では逃げ切れないような人々を助けるため

そんなことで怪我をしてしまうことも、

ましてや、失われてしまうなんてあってはならない

「勇者様は……」

たった数人だけを守るのではなく、

より多くの……人類というものを守るために、陽乃達には生き延びて貰わなければならない。

もちろん、戦わずに済むならそれが一番だけれど、

それは無理だろう。

「勇者様は無事に、他の勇者様と合流して貰わないといけないだろう? 少しでも早く、そして確実に」

陽乃「だとしても、数人を連れて行こうが行くまいが、結果は変わりません」

「そうかもしれないが、足手纏いになるようなおいぼれはいない方が良かろう」

陽乃の祖父母の代

それよりももう少し歳を重ねて良そうな男性が、陽乃を見つめる。

「勇者様のお気持ちはありがたい……しかし、もう十分。十分生かして貰えたと思っている人もいる」


年老いて、体力がなくなってしまったような人

元々、体のどこかが悪かった人や

3年前の災厄の被害で、どこかを患ってしまった人

この諏訪という限られた中で、真っ先に切り捨てられてもおかしくなかった人々は、

歌野の奮闘のおかげで、犠牲として選ばれることなく、生きていくことが出来たのだ。

それは、みんなが安全と言えるこの中だからこそ許された " 贅沢 " だと考えるのは悪いことではないはずと、男性はほほ笑む。

老若男女問わずその言葉に賛同する人もいる。

もちろん、可能なら……と、思っているのだろう。

あまり、賛同したくないといった様子の人もいるにはいるが、

否定をしようとはしていない。

「自分で生きていくことが出来ない者が消えていく。それは、こんな世界になる前から、あり得ていたことじゃないか」

水都「だけど……」


水都が小さく呟く。

何か言いたそうで、けれど、言っても仕方がないと分かっているからだろう

ぐっとこらえているような表情を見せていて。

陽乃「……っ」

陽乃も、思わず歯噛みする。

こんな世界になってしまった今、

自力で生きていけない人達をたすけようなんて心のゆとりがある人なんて多くはない

まして、隔離され、閉鎖的な空間となっている状況なのだから

弱者から切り捨てられていくのも仕方がないことだと言える。

そんな中で、これまで生きていくことが出来たのは……贅沢。

残念ながら、その否定は難しいのだ。


歌野「だからって、消えて良い理由にはならない!」

今も昔も、そういう世界だった。

だから何だというのかと、歌野は声をあげる。

昔よりは難しいことかもしれないけれど

だからって、生きることを諦めて良いわけじゃない

歌野「今ここにいるみんなは、生きたかったからここにいるはずです! 辛いことがあっても、苦しいことがあっても……」

歌野は、少し、言葉を躊躇う。

けれど、一瞬だけ俯いただけで、また顔を上げる。

歌野「こんな小娘1人しか希望がなくても、頑張って生きてきたはずです! そうしてきたから、土居さんが、伊予島さんが、そして、久遠さんが来てくれたんですよ!」

3年経って、ようやく訪れた歌野以外の勇者

2人はすでに諏訪を発ってしまっているけれど、それでもまだ1人いる。

もう、1人じゃない。

歌野「少なくとも……この3年間の想いは決して無駄じゃなかった。実ったんです! だから……あともう少しだけ、希望を持ってみてもいいとは思いませんか?」


歌野の、願いのような言葉が響いて……そして、会場となっている室内が静まり返る。

みんながみんな諦めたいわけじゃない

出来るなら、生きていたい。

そう思っている人たちだっているだろう。

けれど、やはり、それが引き金となってより多くの命を奪ってしまったり

勇者という、失われてはいけないものが失われてしまうことを考えると、

その一歩は踏み出せない。

やがて、1人が手をあげる。

会場の椅子ではなく、車いすに座っている子供だ。

「……勇者様にとって、僕達は助ける必要がありますか?」

必要とは、優しい言葉だ。

その子はきっと " 価値 " があるのかと、聞いているのだ


1、さぁ? 分からない
2、あるわ
3、あったって、言わせたらいいんじゃない?
4、あるかもしれないし、無いかもしれない


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「あるわ」

「自分で、歩けなくても?」

陽乃「だとしても」

「……本当に、あるんですか?」

男の子は、執拗に陽乃へと問う。

きっと、その価値は何度も認めて貰った経験があるのだ

何度も、何度も

認めて貰った結果が、きっと。

「それで、自分が死んじゃうとしても」

陽乃「私は死なないわ」

人を守って死ぬなんて、

そんなことには絶対にならないと、陽乃は言う。


陽乃「以前ならともかく、今は神様だっているんでしょう? その足だって、どうにかなるかもしれないじゃない」

陽乃は神様なんて信じてはいないが、

その存在があるのは、もはや周知の事実となっている。

以前は空想の存在でしかなかったものが、

現実のものとなったのだから、

今までは治る可能性がなかったものだって、治るかもしれない

陽乃「それに……周りからの評価なんて、気にするだけ無駄だわ」

陽乃にとっては、

周りから言われる価値なんてろくなものではなかった

それを求めるだけ無駄だ

そんなのは、自分にとって有益ではない。

相手にとってどれだけ有益かなんて、それこそ気にする価値がない


「……しかし、やはり全員は難しいんじゃないか?」

静まり返った中に、男性の声が響く。

それは妥協だろう。

陽乃達があまりにも必死だから

だから、できるのなら可能な限り生存率を上げて欲しいと思う一方で

その意志を挫くようなことをしたくはないとも思う。

「確かに、動けないからと全員が残る必要もないだろうから、若い連中は連れて行ってくれないだろうか」

「そんな!」

「勇者様も言っていたが、いつかは治る可能性もある」

怪我や病気は治る可能性がある

だが、老いは止められない。

無理して連れ帰ったところで、

すでに老いてしまった自分たちは連れ帰るだけ、無駄だと考えているのだろう。

「無駄に足手纏いを連れていくよりは、食料でも持って行った方が良い」


「勇者様、それでいいかい?」

陽乃「……」

自力でどうにかできない人々、全員が残るなんてことはしないが

全員がついていくわけではない

元々、高齢の人々や体に不安のある人全員が残る予定だったことを考えれば、

若い人々だけは一緒に行くとなったのだから

失敗とは言えないかもしれない

けれど、説得が成功したとも言えないだろう。

歌野「……本当に、残るんですか?」

「もう、十分だよ。ありがとう、歌野ちゃん」

彼らは、残る気らしい。

きっと、もう何を言ってもこれ以上は譲歩してくれないだろう。


1、なら、良いわ
2、それでいいなら構いません
3、死にますよ。絶対に


↓1


では短いですが本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「死にますよ。絶対に」

「さぁ? そうとは、限らないだろう?」

残るであろう男性の一人は、陽乃の言葉に対してにこやかに答える。

本当に、死ぬとは思っていないかのような反応。

陽乃達が離れたことで、

結界が弱まり消えていくことは周知している。

けれど、もしかしたら。

この人たちはそんなことを考えているのだろう。

陽乃「……馬鹿な人」

あり得ない。

絶対に無理だ

確実に、死ぬ。

希望なんて……あるはずがないのに。

歌野「っ……」


歌野「久遠さん」

陽乃「……仕方がないわ」

生きる気力がないわけではないのかもしれない。

けれど、

ここを出て行く気がないのなら、

結局、死ぬのと変わらない

諦めているのと一緒だ。

陽乃「それでいいのなら、それで構いません」

陽乃はそう言って、顔を背ける。

陽乃「それと……申し訳ありませんが、出立は明日になります」

「明日だって!?」

陽乃「時間がないんです。このままだと、もっと大変なことになる」

「そう言ったって」

「そりゃぁ……準備くらいはしてるが」

「にしたって明日とは」


今日中に2人が向こうにたどり着いている可能性はある。

けれど、出来ていない可能性はあるし、

そうなった場合、2人の生存はやや絶望的になってくる

いいや、

新規のバーテックスが現れるという神託もあったのだ

正直言ってもう絶望的だろう

本来は死ぬはずだっただろう歌野を連れ帰ることが出来れば、

杏と球子二人の損失はある程度カバーできるかもしれない。

だが、

戦い方として、中遠距離に対応している2人を失うというのは、

単純な戦力低下以上に惜しいものになるだろう


「それで、動けない人達も連れていけるのか?」

「何とかするって言ってたけど……できないんじゃないか?」

「そう、よねぇ……」

明日出発するということは、

準備期間は短いと半日程度くらいしかない。

それで、自力で動けない人たちまで連れていくための準備までできるのかどうか。

人々はそれが不安のようで。

歌野「バスか何かを用意しようと思ってます」

動けばベストだけれど、

最悪、動かなくてもいいと歌野は考えているらしいが、

声には出さない。

動かない車なんて、棺桶だし、ただの荷物だ

そんなものに乗り込むなんて人は、いないだろうから。

歌野「全ての道を車で移動は難しいかもしれませんが、移動できるところは車で移動して時間短縮を図ります」


歌野は、陽乃の代わりに策を話す。

しっかりと話し合ったわけではないけれど、

自力でどうにもできない人を連れていく方法なんて、それ以外にはない。

だから、間違っていない。

歌野「バスなら、食料だってかなり積むことが出来るので、四国に着くまで十分持つと思います」

バスの定員次第ではあるけれど

もしかしたら、1台で全員を連れ出せるかもしれないし

多くても2台くらいでどうにかなる。

それは、残ってくれる人がいるからこそのものだ

「明日の、いつ頃なんだい?」

歌野「そう、ですね」

歌野はちらりと陽乃を見る。

結界が陽乃次第である以上、時間を決めるのは陽乃に任せるといったところだろうか



1、朝
2、昼
3、夕


↓2


陽乃「そうですね。出発は明日の朝の予定です」

「朝か……」

やっぱり、そうなるか。とでも言った反応が返ってくる。

本来は来月だった話が、急に明日となったのだ

緊急なのは明らかなので、

明日の中でも、遅くてもお昼ごろと考えていたのかもしれない。

少し、騒がしくなる人々

周りと相談でもしているかのような短い会話がところどころから聞こえてきて。

「お急ぎ、なんですよね?」

1人が、問う。


常にバーテックスに襲撃されてしまう可能性があり、

いつ食い破られるかも分からない状況なため、

一ヶ月もの前倒しが行われるのも、不思議ではない。

けれど、もし、そうなら。

それだけ、急ぐ必要があるのなら

「本当に、私達を連れていく余裕があるんですか?」

同年代の人に比べると、

体の細さが目立つ、若い女性

彼女は自分で歩くことは出来ない

歌野が言ったように、バスに乗せなければだめだ

明日の朝なんて唐突な出発

それだけ急な話なのに、

余計な荷物を背負う余裕があるのかと。

不安なようだけれど

陽乃「大丈夫です」

さっきまでの話を繰り返すつもりは、無い


陽乃「明日、出て行く想定でさっきの話をしたので――」

「なら、もう少し早く話をすることは出来なかったんだろうか?」

陽乃「明日の出発自体、急な話だったので」

「そうよねぇ」

陽乃「……」

微小とはいえ、四国がすでに襲撃を受けている。

生存者を連れていく以上、

かなりの時間がかかるため、その時間をかけてたどり着いた結果、

大きな被害が出ている可能性だってないとは言えない。

とはいえ、そんな話は出来ない

陽乃「急な話で申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

残る人は減ったけれど、

全員連れていくことは出来なかった。

だからと言って、これ以上の説得は出来ない

あとはもう、四国に向かう予定の人達に声をかけるくらいが限度だ。

歌野「荷造りとか、必要があれば手伝うので気兼ねせず言ってください!」

歌野は、少し無理した声で、そう言った


√ 2018年 9月7日目 昼:諏訪

0、6、9 杏と球子
1、4、8 襲撃


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から


再開時に、襲撃規模
四国側

では少しだけ


四国被害判定

01~45 被害なし
46~75 軽微
76~85 怪我人あり(小)
86~95 怪我人あり(中)  
91~00 被害大


↓1のコンマ

※被害=勇者
※86~は住民被害有

√ 2018年 9月7日目 昼:諏訪


歌野「襲撃!?」

『はい。ですが、今回も被害なく撃退に成功しております』

2回目の四国襲撃

3人の勇者で、無傷で撃退できる程度の襲撃だったようで、

新型のバーテックスが現れたというわけでもないという。

しかし、杏達もまだ到着していない

『伊予島様、土居様に関してはまだ確認できておりません』

歌野「まったく、ですか?」

『そのようです』

戦闘後に、細やかな探索を行ったというが、

しかし、まったく姿かたちは見えなかったらしい。


歌野「……そう、ですか」

杏達がまだこのいつ襲われるか分からない結界の外にいることに、

歌野は顔を顰めて、首を振る。

歌野「何はともあれ、乃木さん達にも被害がなかったのはよかったです」

『ですが、やはりお二人は……』

歌野「そこは、慎重に向かっているだけかもしれません」

歌野はそういうが、

慎重に向かっているとしても、勇者2人だとしたらどう考えても遅すぎる

陽乃「あるいは、道中で生存者を見つけた可能性もあるわ」

限りなく可能性が低い話ではあるけれど、

ない話ではない。

……が。

あまりにも、夢物語

どちらかが負傷し、大きく機動力を削がれた

あるいは

もうすでに2人とも……

という可能性の方がはるかに高いだろう。


『現在は、小規模な襲撃が行われている程度ですが……威力偵察の恐れもあるとみています』

歌野「威力……偵察?」

陽乃「戦力を知るために襲撃してきてるってことよ」

歌野「なるほど!」

元気そうに聞こえる歌野の声とは裏腹に、

陽乃は表情を険しくさせる。

勇者側に被害が出ない程度の襲撃が2度

それが威力偵察であるという大社の考えは、陽乃も異論がない。

というのも、バーテックスは陽乃という、異質な存在と戦った経験があるからだ

同じような存在がいるのかどうか

それを確かめようとするのは当然だと言える。

もちろん、そんな知性があればの話だが。


問題があるとしたら、

本当に威力偵察だったとして、それがいつまで続くかだ

今向こうにいるのは、若葉、友奈、千景の3人のみ。

バーテックス側が、それ以上戦力がいないと判断した場合、

次の段階に移る可能性がある。

単純な白餅型バーテックスだけではなく、

進化型のバーテックス

そして、新型のバーテックス

どこまで出てくるのか

そして、それに対し、たった3人でどれだけ抗えるのか

『そちらに襲撃はありますか?』

歌野「いえ、今現在は行われておりません」

陽乃の力による影響が大きいが、

現在は小規模ですら襲撃は起きていない。


歌野「それと……明日の朝、諏訪を発つ予定です」

『……本当に、こちらに来ると?』

歌野「そのつもりです」

大社の通信手は半信半疑といった様子だが、

そればかりはもう決まったことだ。

変えることは出来ない。

それこそ、諏訪が大規模な襲撃を受けて足止めでもされない限り。

だが、現状はその恐れもないため、確定と言えるだろう。

歌野「その為、明日の定期連絡がなければ出立したと判断して頂ければ……」

残った人々に委ねるという手もあるが、

それは間違いなく悪手だろうから、避けるべきだ

陽乃「……」

つまり、これが最後の通信ということ



1、乃木さんを出して
2、新型のバーテックスが出現する恐れもあるわ
3、大社は、私が遺体で運ばれることを望んでたりするのかしら
4、せいぜい神にでも祈ってなさい


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「大社は、私が遺体で運ばれることを望んでたりするのかしら」

歌野「久遠さん!」

陽乃「騒がないで」

過去を知ってしまったのなら、驚くことでもないだろうと、

陽乃は歌野を制するように言って、もう一度通信手に問う。

死んでいた方が、喜ばしいのではないかと。

『私には断言することは出来ません』

大社が、陽乃にどうなっていて欲しいのか

それを断言することは出来ないと通信手は言うが、

少し間をおいて、口を開く

『ですが、久遠様が消息不明になるのは望ましくないかと思われます』

エロシーンとかある?


陽乃「消息不明なんて、優しい言い方ね」

『諏訪から四国までの道のりを、白鳥様お一人で大移動は難しいと思いますので』

最悪の場合という判断にはなるが、

陽乃だけではなく、誰もたどり着かない可能性もある。

そして、そうならずに歌野達がたどり着いたとしても

遺体を持ち帰れる可能性は限りなく低い……と考えているのかもしれない。

『四国ではすでに2度の襲撃が行われています。 " 3年間なかったはずなのに " 襲撃が起きているのです』

お分かりかもしれませんが。と、

通信手は独り言のような、小さな声で言う。

『一部では、襲撃の要因は久遠様ではないかとも言われているのです』

歌野「それは……大社で、ですか?」

陽乃ではなく、歌野が問う

声は落ち着いているように感じるけれど、

歌野の手は、力強く握り拳を作っている


通信手からの反応は暫くなかったが、

小さな吐息のような音が向こう側から聞こえてきたかと思えば、

一部では。と、繰り返しの言葉が聞こえてきて。

『大社内でも、その可能性がないとは言えない。とのお話は出ていると伺っています』

断言はしていないし、

そんなことはないだろうという話だってもちろん出てきてはいるものの、

陽乃は四国を離れてから日が空いているとはいえ、3年間なかった襲撃がすでに2度も行われたのだ。

陽乃によって何かが行われたのではないかという疑問の声が上がるのも、

陽乃の印象を思えば、無理はなかった。

『一番の問題は、民衆でしょう』

陽乃「それは、聞かなくても分かるけど」

『そうですか』

陽乃に対する人々の怒りや憎しみといった理不尽な感情

それを後押しするような、2度の襲撃

どうなっているのかは、想像に難くない


歌野「どうして、そのような話を?」

『……そうですね』

通信手は、少し悩まし気な声色で答えると、

ほんの数秒、間をおいて

『襲撃の件については、有益な情報を頂くことが出来たかと思っておりますので』

有益な情報を貰った以上

有益ではなかったとしても、何か情報を与えるのは正当だろうし、

定期連絡として、

情報提供は当然なものであるという認識ではあるものの、

だとしたらむしろ、関する情報は提供してしかるべきだろう。

『正直に言いましょう。久遠様はお戻りになるべきではないかと思われます』

陽乃「知ってる」

九尾でさえ、可能ならこっちに残ってしまえというくらいだ。

陽乃個人で言えば、戻るのはデメリットが勝る。

『それでも、お戻りになられると?』


1、そうよ。
2、いずれここは飲み込まれるもの
3、周りなんて知ったことじゃないわ
4、やるべきことがあるのよ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


>>782
分岐によります

では少しだけ


陽乃「いずれここは飲み込まれるもの」

今は、陽乃が結界の要として機能することでどうにか持ち直してはいるものの、

それだって永遠とはいかないだろう。

あと1年もつかもしれないし、持たないかもしれない。

もしかしたら、それ以上に長く持つかもしれないし、

もっと短く限界が来るかもしれない。

少なくとも、陽乃がここに来ていなければ

数ヶ月以内には、結界が食い破られていた可能性がある。

陽乃「そんな場所にいつまでもいる気はないわ。私は、死に場所を求めているわけじゃないんだから」

『ですが……』

陽乃「仮に」

通信手が言い淀んだ隙に、口を挟む。

陽乃「仮に先延ばしにしたとして、何か、いい方向に進むのかしら」


通信手からの答えはなかった。

『………』

それはそうだ

悪化こそするだろうが、

何かが良い方向に進むはずがなかった。

明日になったら、バーテックスが消滅して

世界が解放されるだなんて奇跡でも起きない限り無理だろう。

いや、起きたとしても無理かもしれない。

陽乃「これから、襲撃は頻度を増すかもしれないし、規模を大きくするかもしれない」

今は被害がないが、

いずれは被害が出るようなものへとなっていくだろう。

そんな時に高まった憎悪はまた、どうせ自分に来るだろうと陽乃は思っているのだ。

陽乃「……無駄よ」

時間が解決してくれるだなんて、甘い話。

少なくとも、陽乃を取り巻く環境には、無い。


陽乃「私が一番、分かってるのよ」

約1ヶ月四国を離れていたことになるけれど、

だとしても、

向こうでの自分への非難がどれほどかは陽乃自身が一番良く分かっている。

陽乃「大方、伊予島さん達の不在まで私の責任にされてるんでしょ?」

『………』

その通りなので、

この件に関してはあんまり、言い返す言葉がない

自分は連れてくるつもりはなかったと言いたいところだが、

一度誘いをかけてしまった事実もある。

陽乃「良いのよ。別に、私はそれで」

陽乃は、嘲笑気味に言って。

そうして、小さく笑みを浮かべる。

陽乃「……とにかく、明日にはここを発つわ。まぁ、たどり着かないかもしれないけど」

『……承知しました。お伝えは、しておきます』


通信手の反応から察するに、

四国側の状況は " 被害がない " だけなのは明らかだ。

勇者様に対する期待と信頼に沸く一方で、

この事態を引き起こしたとされる陽乃への憎悪は留まることを知らない。

天恐……天空恐怖症候群を引き起こした身内がいる人なら、より一層、それを強くしたことだろう。

歌野「……久遠さん」

陽乃「なによ。分かり切っていたことでしょ」

浮かない表情を見せる歌野に対して、

陽乃は当事者でありながら、おどけた笑みを見せる。

本当に、分かり切っていたことだ。

ここまで短絡的に目の敵にされるものなのかと思わなくもないが、

ある意味盲目的になっていると思えば、致し方ないことだと言えるだろう。

それくらいに、人々は絶望の淵に立たされているということだ。

もっとも、淵から突き飛ばされた陽乃としては、

それも失笑したくなるけれど。


水都「大丈夫、ですか?」

陽乃「何が?」

水都「だって……」

頑張って、命がけで向こうに帰ったかと思えば、

手酷い歓迎を受けることになるかもしれない。

諏訪の生存者を連れ帰ることで、

ある程度の払拭は出来るかもしれないが、

状況から見て、好転する可能性は……正直低い

陽乃がバーテックスの呼び水となったと考えられているのなら、

生存者を連れ帰ったところで……

水都「向こうに帰ったら……」

陽乃「前と変わらないわよ。少し、風当たりが強くなるくらいだわ」

水都「風当たりって、そんな程度じゃないと思います」

通信手の言い方からして、

その程度で収まるわけがないという水都の反応に、陽乃は肩をすくめる。

歌野「大丈夫。私達がいるわ」


1、そう。
2、向こうについても、そう言えるかしら
3、向こうでは、そういうこと言わないのが身のためよ
4、何が大丈夫なのよ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


陽乃「そう」

また素っ気ない態度で答えたものの、

歌野は仕方がないと言うかのような表情を見せて

歌野「そうよ。向こうにたどり着いても、私達が一緒にいる」

水都「陽乃さんは1人でも大丈夫だって思ってるかもしれないけど、向こうでも、一緒です」

陽乃「たどり着く前提の話はやめて貰いたいものね」

陽乃はやや呆れたように零し、目を細める。

高く見て五分五分といったところか。

陽乃「最悪、全滅するわ」

歌野「そうだけど、でも、私達はたどり着けるって思っていなきゃ。ね?」

陽乃「楽観的ね」

諏訪の生存者を四国に連れ帰るというのも目的の一つだが、

もう一つ、先行している杏達の消息も確かめたいところだ。

そう考えると、

普通に四国に向かうよりも、やや生存率は下がる。

もっとも、どの程度捜索するかというのも関わってくるが


歌野「今までは、そうしなくちゃって思っていたけど……今は、久遠さんがいるから、足して2で割ればちょうどいい感じになるでしょ?」

陽乃「そう思うならそうでもいいけど、油断して足を引っ張らないで」

歌野「ええ」

にっこりと笑みを浮かべる歌野を一瞥もせずに、陽乃は顔を顰める。

陽乃はそうつもりはないが

歌野や水都が希望を持っていること自体は、別に、そうしたいならそれでもいい。

そんなことよりも。

陽乃「2人の捜索について考えをまとめておいた方が良いわ」

水都「2人て……伊予島さん達のことですか?」

歌野「本来通るはずだったルートは私達が把握しているし、ずれていなければ良いけど……」

陽乃「ずれてる可能性は高いでしょ。この状況だと」


ある程度までは予定通りに進んだのは間違いないはずだが、

途中で戦闘が有ったり、

それを避けるためだったり

何らかの理由で予定のルートを逸れているだろう。

奇跡的に逸れることなく進めている可能性もないわけではないけれど、

きっと、そんなことはない。

問題は、どのあたりで逸れてしまったかだ。

歌野「さすがに全域捜索はできないし……」

水都「うたのんや私みたいになんとなく把握するとかはできないんですか?」

陽乃「無理よ。貴女達は特別」

力の繋がりがあるからこその探知だ。

そうではない杏達のことを察知することは出来ない。

歌野「でも、諦めたくないわ」


1、生存者捜索は必要よ
2、無駄に時間を割くことは出来ないわ
3、一般人を四国に届けてから戻るという手もあるけど
4、移動中に、2人が四国につく可能性もあるけど


↓2


陽乃「生存者捜索は必要よ。別に諦めるわけじゃないわ」

そもそも、

明日出発した後に2人が四国にたどり着く可能性だってないわけではない。

その場合、どちらかが怪我をしていたり

あるいは、どちらかしかいなかったりと……しているかもしてれないが。

それ自体は、

陽乃達が2人に合流できたとしても十分あり得ることだ。

むしろ、陽乃達が合流できてしまった方が、悪い状態だってある。

陽乃「ただ、バーテックスが多くて身動きが取れないって程度ならいいけど」

歌野「そうね……戦闘で負傷したとかじゃなければ……」

勇者とはいえ、怪我はする。

場合によっては手足の欠損だってあり得ることだ

杏または球子がそれほどの重傷なら、

いまだ到着していない理由にもなる。

だが、そうであっては困る。

超常的な力があったとしても、

身体的な欠損までは、さすがにどうにもならないからだ


陽乃「とはいえ、時間をかけて捜索することは出来ないから、見限ることも視野に入れて置いて」

歌野「悔しいけど、仕方がないわね」

可能なら、何か情報が得られるまで

出来たら、見つかるまで

2人を探したいという気持ちはあるけれど、

そんなことをしていたら、どれだけの二次被害が発生するか分かったものではないし、

食料も有限で、いつまでも先に進まないことに苛立つこともあるだろう。

人々の精神的な部分を悪い意味で刺激してしまうのは良くない。

勇者の捜索と言えば多少は許されるだろうけれど、

それもほんのひと時だ。

歌野「もしかしたら、私達が諏訪を出た後に向こうに着く可能性もある……わよね?」

陽乃「あるかもしれないわ」

水都「そうだと良いですけど……」

水都は小さく呟いて。

水都「携帯電話が使えたらって思っちゃう」


陽乃「使えないものは使えないわ。言ったって仕方がない」

とはいえ、その便利さを思い知らされる。

連絡を取りやすいし、場所を知ることもできる。

今の状況を簡単に知ることが出来るその便利なものがあれば、

2人の救出だって、容易だった。

水都「伊予島さん達は端末を持ってたけど、あれは連絡できないのかな?」

陽乃「無理よ」

歌野「……」

没収されてしまったままなので陽乃の端末は、ここにはない。

かといって、2人のどちらかに置いて言って貰うなんてことも無理だし、

そもそも、

四国の結界外で連絡を取ることは今のところ出来ない。

出来たら、若葉と連絡を取っていただろう。

陽乃「探せるのは……状況にもよるけれど、せいぜい十数分から長くて一時間以内かしら……それ以上は、ストレスになりそうだわ」

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば、お昼ごろから

では少しずつ


陽乃達しかいないなら、ストレスがどうのと気にする必要もほとんどなくなってくるが、

今回は来る時と違って、勇者ではない一般の人々もいる。

無力だからこそ、外の世界に対する恐怖は人一倍強く

そのせいでただでさえ精神的に消耗しているそんな人達に、

余計にストレスをためさせた場合、崩壊するのは明らかだ。

歌野「大変なのは、やっぱりどこで足止めをされたのかが分からないところだわ」

陽乃「戦闘痕って思ったけれど、よくよく考えれば、街はそもそも襲撃を受けた状態だし……」

多少は、真新しい崩壊の痕も見られるかもしれないが

それこそ、杏達の負傷の形跡でも残っていないと、判別は難しいだろう。

陽乃「なんにせよ、何か証拠でもない限り、生存者の捜索は主要都市に限られるわよ」

歌野「ええ……」

水都「それ以外だったら……」

陽乃「置いていくことになる」

そこまで探していられないと、陽乃は首を振る


都市部なら生存者の可能性は比較的高い

だが、そうではないような場所は、

ただでさえ低い生存率はさらに下がってくる。

そんな場所では、捜索に時間を割くのは難しい。

とはいえ……と、陽乃は少し考えて。

陽乃「休憩という名目で、滞在時間を作ることは出来ると思うわ」

歌野「そ――」

陽乃「ただ」

何か言おうとした歌野をわざと遮る。

出来るとは言ったが、それは喜べる話ではない

陽乃「2人が戦闘後にそこに逃げ込んだのなら、周囲にバーテックスがいる可能性が高い」

水都「つまり、ルート的には避けないといけない?」

陽乃「その通り」


杏達が敵をせん滅して逃げ込んだならいいが、

そうではない……つまり、負傷しての撤退などをしていた場合、

その周囲には確実にバーテックスがいることだろう。

そのルート以外は通ることが出来ない理由でもない限り、

一般人を連れてはいけない

陽乃「だから、運次第ね」

2人が生きていることも、2人を回収できることも

こればかりはどうしようもない。

水都「……陽乃さんって、運は良い方ですか?」

陽乃「聞くだけ無駄だと思わない?」

運が良かったら、今のような状況には陥っていない。

陽乃は、からかうように笑みを浮かべて答えて。

陽乃「少なくとも、良い方ではないと思うわよ」

世界で一番不幸だ。なんて言わないけれど

でも、間違いなく不幸ではあるだろうと、陽乃は思っていた。


√ 2018年 9月7日目 夕:諏訪

01~10 歌野
34~43 水都
67~76 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常
※ぞろ目特殊


√ 2018年 9月7日目 夕:諏訪


人々への説得と、四国との通信

陽乃の力による影響によって襲撃がなくなった諏訪において

役目と呼べるそれらの時間を終えた陽乃はいつものように1人になれる部屋に行こうとしていたが、

歌野に声をかけられて、また、2人の部屋になっていた。

歌野の存在は感じられるため、

避けようと思えば避けることもできるが、それは外での話だ。

参集殿の中では、あまりにも露骨だし、

それはそれで、関係性に響く。

陽乃「バスは探せたの?」

歌野「ええ、まぁ……大型のバスがあったから」

歌野は少し考える素振りを見せて、

歌野「頑張れば、バス1台で全員乗せることが出来ると思う」

陽乃「頑張ればって言うのが、少し不穏なんだけど……」


歌野は、やっぱり? と、

ちょっぴりおどけたような笑いを見せたものの

表情はすぐに、少し硬くなってしまう。

歌野「副座席……? えぇっと、なんて言ったかしら。座席の横にあるアレ」

陽乃「肘置き?」

歌野「その横」

普通、座席の横にあるアレと言われたら、窓かひじ掛け

構造的に考えてシートベルトとか。

そんなものしか思いつかない陽乃だったが。

歌野の心の中では"予備の席"と呟かれて

陽乃「予備の座席を含めないといけないってこと?」

歌野「そう。それ……正式な名前は違ったような気がするけど、とにかくそれを含めれば全員みたい」

その全員とは、自力で逃げられない人と、健康的な人すべてひっくるめてという話だ。

大型のバス2台なら、かなりのゆとりがある

ただ、ゆとりがあるメリットがある分、

歌野と陽乃がそれぞれ分かれて1台ずつ守る必要が出てくる。

全員が歩行だったり、

一部車、一部歩行といったばらけている状態と比べれば、

バス2台も悪い話とは言えない


歌野「久遠さんはどう思う? バス1台に押し込むか、バス2台でゆとりを持つか」

陽乃「言い方からして、貴女は2台の方が良さそうね」

歌野「ええ。そう思ってる」

これは旅行ではない。

望んでいることではあるが、望んでいないことでもある。

そんな中、全員を1台のバスに乗せて余裕がないのはストレスになるのではないか。と、歌野は思っているのだろう。

陽乃「逃げ出すのに余裕が欲しいなんて贅沢だと思うけど」

歌野「そう、だけど……」

陽乃「悩む理由は分かるわ」

男性と女性、子供と大人

それぞれ、我慢の限度というものがある

住民の中には、赤ん坊もいて

時折、声を上げてしまうことだってあるかもしれない。

陽乃「降りてもらうとか」

歌野「思ってもないこと言わないで」

陽乃「……冗談よ」


1、多少の我慢は必要だわ
2、2台にしましょう。仕分けは任せるわ
3、で? 他の人の意見は?


↓2


陽乃「2台にしましょう。仕分けは任せるわ」

歌野「良いの?」

陽乃「良いって、何が」

歌野「……信じて、くれるの?」

歌野の心配そうな問いに、陽乃は眉を潜める

いったい何の心配をしているのか……

その心の内は陽乃に晒されているので、

聞くまでもなく、分かっているが。

陽乃「任せるのは私じゃなくて、諏訪の住民の命でしょ。信じるも何もない」

それに。と、陽乃は目を逸らす。

陽乃「それはむしろ、私の方が気になるわ」

歌野「私達は――」

陽乃「貴女と藤森さんはそうだろうけど、街の人みんなまでそうだと思うほど、私は良い覚えがないのよ」


今回の説得の場としたところでも、

陽乃が外に出てきたあの時も

諏訪の人々は、陽乃に対して非常に好意的だったように思う。

けれど、

それは、今こうして守られているからこそであり、

いざ危機に瀕した時、同じようにいてくれるとは限らない。

実際に陽乃は危機に瀕した結果、

人柱にされそうになったし、

命からがら生き延びた世界での扱いは、あのありさまだ

歌野「けど……大丈夫よ。本当に、大丈夫だから」

陽乃「そう言われてもね」

歌野「……」

歯噛みする歌野を一瞥して、陽乃は小さくため息をつく。

歌野はわずかに体を反応させたが、

別に怒っているわけではないと察したらしい。

言葉としてではなくとも、伝わってしまうのは便利であり不便だ

陽乃「それで、仕分けについてもそれなりに話は聞いているんでしょ?」


明らかな逸らし目的だったが、

歌野は応じて頷くと、いくつかに分かれているという。

歌野「1つは、男女ね。老若関係なく、別けた方が良いのでは? って」

陽乃「どうして?」

歌野「ん~……やっぱり、長い時間同じ空間は嫌だって意見もあるとかないとか」

そして

歌野「もう1つは、手伝いが必要な人とその補助の人……あとはそれ以外」

手伝いが必要な人には、それなりに空間があった方が良い場合もあるだろうし、

それを考えると、

必要最低限に1台を割くのが良いだろう。

補助が必要なのは、十数人程度だけれど、

その補佐を含めれば、1人に1人と考えても、約20人ほどが乗ることになる。

そう考えると、人数比的にはちょうど良さそうな気がする

歌野「あとは……若い人と、おじいさんおばあさん」

陽乃「なるほど」

陽乃はとりあえず頷いて

陽乃「暫定的にはどうなっているの?」


歌野「暫定的には、2番目ね。補助が必要な人とそうでない人」

理由も理由だし、

人数比的にも、申し分ない別け方ができる。

そして、余った場所には可能な限り日用品や食料等を積んだりするという流れだ

陽乃「別にそれでいいんじゃない?」

仕分けは任せるといったし、

内容的にも問題はないだろう。

歌野「久遠さん、どっちに乗る?」

陽乃「どっちでもいいと思うんだけど」

歌野「そうなんだけど、条件上どうしても補助者用のバスにはお話好きなおじいさんおばあさんが偏ると思うから」

どちらにしても賑やかさは出てくるが

根掘り葉掘り聞かれる可能性の高い、そっち側は苦手ではないかと、歌野は思っているようだ


1、別にいいわよ
2、任せるわ
3、なら、厚意を受けてもう1台の方にするわ

↓2


陽乃「任せるわ」

歌野「そう? なら、やっぱり予定通り私がおばあちゃんたちと一緒に乗るわ」

歌野はどこか嬉しそうにそう言って、

任せるという言葉が、歌野にとっては大事なのだと、陽乃に伝わってくる

それは少しこそばゆくて、陽乃は顔を顰める。

陽乃「別に、何でもいいという意味よ?」

歌野「ええ、任せて」

陽乃「……分かってないでしょう?」

歌野「分かってるわ!」

絶対に分かっていなそうな反応ではあるが、

きっと、分かっているのだろう。

やっぱり、厄介だと陽乃は思って。

また、歌野から伝わってくるものが変わったことに気づいて、目を向ける

陽乃「なに?」

歌野「え?」

驚いた歌野だったが、

自分の心が伝わってしまっていることを思い出して、気づいたように頬を赤らめる

歌野「そうよね。聞かれちゃうんだったわ」

少し、困った様子で。

歌野「えぇっと……少しでも、応えてくれた人がいただけよかったと思うわ。だから、自分を責めないで欲しいの」

少し中断します
再開は21時ころから


陽乃「……なにそれ」

歌野「久遠さん、自分のことを責めそうだから」

色々言ってはいたけれど、

でも、全員を説得しきれなかったことは、責任に感じそうだと思っているらしい。

説得できなかった人々は、ここに残る

そして……そのまま、バーテックスに蹂躙されることになる。だろう。

本人がそれで構わないと言っているのだが、

だとしても、陽乃は背負うだろうと。

歌野「本当は四国行きの人数の内、3分の1は残る予定だったの」

もしかしたら、

最終的には、その人達を置いていけないともう少し残る人がいた可能性さえある。

けれど、多くはないが少なくもなく

しかし、

本来は残る予定だった人々を、説得できたのだ

歌野「ここに残る人たちは、戦うのよ。諦めたわけじゃない」

陽乃「詭弁ね」

歌野「だとしても……」

責任に感じないで。と、歌野は言う


陽乃「私は大したこと言ってないわ。むしろ、嫌われるようなことを言った覚えしかない」

歌野「嫌われるようなこと?」

陽乃「……今、笑ったわね」

歌野「っ」

口にはしなかったが、心の中で。

何を言ってるの? と、

つまらない冗談を言われた時のような、

そんな、ささやかな笑いを感じたと、陽乃は目を細める。

歌野「だって、みんなにバレてたじゃない」

陽乃「バレるも何もないわ」

歌野「でも」

陽乃「ないって言ってるでしょ」

陽乃はそう言っても、

間違いなく、そこにはあって。

歌野と違って、その本心を感じ取れない人々にも、

やんわりと察せられてしまっていた。



歌野「久遠さんがどう言っていても、残していってしまうことに変わりはないから」

陽乃「だから?」

歌野「もし、責任を感じるとしても、久遠さん一人だと思わないで」

残していくのは歌野もだ。

それも、諏訪の勇者でありながら、

諏訪の生存者を残していくのだ。

責任を重く受け止めるべきなのは、むしろ、自分の方だと歌野は考えている。

陽乃「そうは言ったって、貴女こそ強制的じゃない」

普通なら、歌野は諏訪の勇者として責任を感じることもあるだろうが、

今はもう、歌野の力は陽乃を経由する形になっている。

陽乃が居なければ勇者としてのお役目を果たすことが出来ないといった状態であるのなら、

否が応でも、置いていくしかない。

歌野「なにより、久遠さんが来てくれたからこそ……こんな責任が生まれてるのよ」


陽乃のせいとでも言うかのような言い方だが、

歌野はそれを、責任を押し付けるために使っているわけではない。

語弊が生じるかもしれないが、

そもそも歌野が言いたいのは " 陽乃のせい " ではなく " 陽乃のおかげ " だ

陽乃達が来てくれたからこそ、

そんなことを悩む余裕が生まれた。

歌野「言ったっけ? それとも、心の中で言った?」

本心を聞かれることをからかうように歌野は笑う。

歌野「久遠さんが来てくれなかったら、私達はみんな死んでた。全滅してたのよ。だれ一人残らず」

勇者である自分が言ってはいけないことだと思いながら、

けれど事実だからと、歌野は考えて。

その全てが、陽乃へと流れ込む。

歌野「もちろん、私は最後まで抗うつもりではあったけど、いずれ力尽きると思ってた」


なのに、乃木若葉から勇者が行くと知らされて、

数日かかると思えば、半日でたどり着いて

弱っていた力を強化してくれたし、

ここ数日の平穏な日々は、陽乃の力によるものが大きい

歌野「それなのに、大多数の人を連れて、四国に連れ出せるまでになったなんて、もう奇跡みたいな話だわ」

諏訪を捨てるというのは、やはり、辛いことではあるが、

今は預けると言うだけだ

いずれまた、ここに戻ってくる

歌野「……何度だって言うわ。感謝してる」

多くの人がここに残るとしても、

それ以上もの人々を救うことが出来る。

歌野「恩返し、させて貰うわ」


1、期待はしないわ
2、好きにしなさい
3、しなくていいわ
4、結果を示してくれればそれで十分よ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「好きにしなさい」

歌野「ええ、好きにさせて貰うわ」

今までも陽乃は、そう言った素っ気なさを感じさせる返しをしていたけれど、

それでも、歌野は普段より嬉しそうだ。

歌野「あの事を知らなくてももちろんだけど……知っちゃった以上は、なおさらね」

陽乃は歌野の過去を夢に見たし、歌野は陽乃の過去を夢に見た

それが、歌野を後押ししているらしい

歌野「久遠さんは、1人にしたくない」

陽乃「私は1人になりたいんだけど」

歌野「それは分かってるけど、ね」

1人になる時間をすべて奪う気はないと歌野は言うけれど、

可能な限り、自分ではなく水都でもいいから、

誰かと一緒にいて欲しいと歌野は考えている


歌野「1人になる時間も大事だとは思うけど、でも、1人だからこそ考えちゃうことだってあると思うし……」

さっき陽乃を呼び止めたのだって、それが理由だった。

けれど、その行動が良いこともあれば悪いこともある。

それをわかっているからだろうか。

歌野は、少し悩まし気に陽乃から目を背ける。

歌野「久遠さんはどちらかといえば邪魔に感じる方でしょ?」

陽乃「どちらかといえばというか」

歌野「……ほらやっぱり」

本心を察知して小さく呟く歌野を陽乃は一瞥する。

陽乃「前々から言ってたことだと思うけど」

歌野「そう、なんだけど」

今回は、普段と違って説得の件という重い話もあったため、

いつものようにというわけにはいかなかったのだ。

なんて、

そんな歌野の葛藤の一部など、陽乃は考える間でもなく、知っている。


陽乃「まぁいいわよ。今更だわ」

ここまで散々、近寄ってきていて、

説得が良くて50%程度の出来だったからって遠慮されても困る。

なにより、その心の内側での葛藤は聞こえるし、

きっと、足を止めたことの後悔だって、聞こえてくるだろう。

陽乃「話したいことだってあったんだから、それでいいじゃない」

歌野「久遠さんって、やっぱり優しいわ」

陽乃「気のせいよ」

別に、励ましたつもりはない。

けれど、歌野はそう感じたようで。

歌野「ほんと、だから……」

少し、悲し気な表情を見せる。

なんであんなことにならなければならなかったのか

どうしてあんな扱いをされなければいけなかったのか

陽乃の過去を憂いているような心のうちに、

陽乃は、顔を顰めて、首を振る

陽乃「同情は嫌いよ」


1、知った気にならないで
2、どういう家柄だっただけのことだわ
3、私は貴女達の方が優しいと思うけど
4、優しいだなんて、私には合わない言葉よ


↓1


では短いですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「私は貴女達の方が優しいと思うけど」

歌野「そうかしら? そんなに優しい?」

歌野は人の嫌がることは極力避けようとしてはいるが、

陽乃に対しては嫌がらせのように距離感が近かった。

実際、陽乃は嫌がっているようなそぶりを何度も見せていたし、

あまり、いい気分ではなかったように思えたのだ。

歌野「本当に?」

陽乃「私よりはね」

陽乃はそう言って、少し、困ったように顔を顰める

陽乃「相手が悪いのよ。優しさは私以外の人に向けてあげるべきよ」

歌野「もちろん、他の人だっておろそかにしたりしないわ」

だけど。と、歌野は言う

歌野「久遠さんはもっと大事だから」


陽乃「大事にしたって、報われることはないわよ」

歌野「そんなことないわ」

勇者としては戦力になるし、

陽乃がいるおかげで歌野も戦うことが出来るし

今までよりも強い力を借り受けることが出来る。

そんな利用価値があるから……なんて、

陽乃は考えたが、

歌野はそれを察してか、首を振る

歌野「久遠さんは、大事な友人よ」

陽乃「友人ね……」

歌野「嫌?」

陽乃「嫌というか、なんていうか」

トラウマだと陽乃はいう気はないが、

友人というものには嫌な思いをしたため、

いまいち、好ましく思うことが出来ないのだ。


陽乃の過去を見てしまった影響だろう。

歌野は自分の言葉にはっとして、少し、表情を影らせる。

歌野「そうね」

赤の他人にも、知人にも、友人にも

陽乃は切り捨てられた。

そのせいで家族を失っているので

家族だというのも少し憚られる……という歌野の心もまた陽乃には筒抜けだ

純度の高いその悩みに、

陽乃は口を閉ざして、目を背ける

陽乃「まぁいいわよ。別に、好きに思ってくれても」

思うのは勝手だ

けれど、それに対して応えるかは別の話



1、報われるとは思わないでおいて
2、ただ、外では言わないで
3、最後まで言えるのかどうか見ものだわ
4、友人? ただの協力者でしょ


↓2


では短いですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


すみませんが本日もお休みとさせていただきます
再開は明日、可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「けど、報われるとは思わないでおいて」

歌野「久遠さんは、あの人たちとは違うわ」

陽乃「だから何?」

報いてくれるとでもいうのか。

そんなわけがないと陽乃は否定する強い口調で返したが、

歌野は笑みを浮かべている。

威圧感を感じさせるようなものだったけれど、

怯んでいるような様子は見えない

歌野「久遠さんは、違うわ」

陽乃「だとしても、分かるでしょ?」

歌野はぐっと歯噛みするそぶりを見せて、

けれど、首を振る。

分かるが、分からないと

歌野「辛い思いをしたのは、知ってる、けれど、それとこれとは話が違うはずよ」


歌野「久遠さんが私やみーちゃん、伊予島さん達を信じられない気持ちは、分かるわ」

信じた人々に裏切られたし、

救った人々の一部にも、それに賛同するような動きも見られていて、

他人なんて誰も信じたくないと思うのは仕方がないことだと歌野も思っている。

歌野「けれど、それは久遠さんの話で私達が信じない理由にはならないし」

なにより

歌野「報われているかどうかなんて、本人次第だって思わないかしら」

歌野は、薄く笑みを浮かべて、

困ったことに。とでも言いたげな様子を見せる。

陽乃と同じ、約3年前の話のできごとのことだろう。

歌野にとっては、意味のあることだったが、

他の人々にとってはそうではなかったようで

なぜ、そんなに頑張るのか

命の危険を冒してまで救って、意味があるのか。

歌野はそれを尋ねられたことがあるのだ

歌野「……ね?」


歌野「久遠さんから何か施しが貰えなくても、向こうで何か嫌な思いをすることになるとしても、私にとって久遠さんが友人であることには変わりがないわ」

陽乃「後悔しても知らないわよ」

歌野「……してもいいわ。別に」

歌野は、少し驚いた表情を見せたが、

すぐに笑みを見せると、そう答えた。

歌野「だって、久遠さんを切り捨てること以上に後悔することなんて、きっとないもの」

陽乃「……」

陽乃は、顔を顰める

歌野は冗談ではなく本気で言っているのは分かっている

その自信満々な答えが気に入らなくて。

けれど、歌野は陽乃の内面を感じてか、少し、悲し気に眉を潜めて。

歌野「久遠さん、どちらかといえば私達が嫌な名遭うことを気にしているでしょ」


陽乃「さぁ?」

陽乃はとぼけて言うが、

その内側が伝わってしまっている影響だろう。

歌野は分かってると言いたげな表情を浮かべていて、

陽乃が不満そうに顔を顰めれば、

歌野は首を振って。

歌野「大丈夫よ。久遠さんはこれから凄いことをするんだから」

陽乃「そうなると良いわね」

陽乃は否定せずに、適当にあしらう。

諏訪から生存者を連れ帰るという偉業

だけれど、それをできる保証はなく、

そして、それ以前に――

歌野「2人は大丈夫」

陽乃「っ」

歌野「あの伊予島さんと土居さんのことだもの。きっと、また会える。ゆっくりしすぎちゃったって、私達が出発した後に連絡があるかもしれないわ」

可能性は低い。

歌野もそれは分かっているようだが、

しかし、陽乃とは違って、希望はあると信じている。

歌野「信じましょ。希望じゃなくて、あの2人を」


√ 2018年 9月7日目 夜:諏訪

23~32 歌野
56~65 水都
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常
※ぞろ目特殊


√ 2018年 9月7日目 夜:諏訪


水都「今日は、早く寝た方が良いと思います」

明日の朝には、諏訪を発つ予定だ

ここにいる間はゆっくりと休息をとることが出来ていたけれど、

ひとたび、諏訪から足を踏み出せば、その時間は極端に減ることになる。

一般の人々だって不安な日々になるだろうし、

歌野と陽乃は、2人で大勢の人々をバーテックスから守らなければならないため、

到着まで、毎日……24時間警戒していなければならない。

日中の警戒も必要なため、

どちらかが寝ずの番などするわけにはいかないので、

数時間交代制で休むことになる。

それが毎日になるのだから、

特に、2人はよく休んでおくべきだ。

水都「うたのん、久遠さんのこと連れ出したりしないでね?」

歌野「えっ」


そんなことを疑われる覚えがないといった様子の歌野だけれど、

歌野が急に距離を詰めたことを訝しんでだろう。

こっそりとなにか話し合いをする……とか、

とにかく、

まだ眠れないからと何かするのではないかと水都は思ったようだ

歌野「どうしたのみーちゃん。久遠さんって」

陽乃さんと呼んでいたのに、久遠さんと呼んだことに歌野が疑問を浮かべたが、

陽乃はさして興味がないといった様子で、

それについて何かを言うことはない。

水都「……別に」

プイッと顔を背けた水都の視線は、

歌野から、陽乃の方へとむく。

若干の疎外感を感じているといったその態度は、

襲来が起こる前の世界で見聞きしたことのあるものだ。


1、貴女の要望に応えるような人間ではないわよ。私
2、そんな顔したって、私は何もしないわよ
3、別に何もないわよ
4、本来の距離感でしょ。問題はないわ
5、別に、白鳥さんを取ったりしないわよ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「そんな顔したって、私は何もしないわよ」

水都「別に、普通ですっ」

陽乃「そう?」

普段の水都と比べると、

少し、しかめっ面なようにも感じるのだが、

本人が普通と言うなら普通なのだろうと陽乃は大して気にも留めていないように言うけれど、

歌野はいやいや、と、割って入る

歌野「みーちゃん、ちょっと怒ってない?」

水都「怒ってないよ」

陽乃「普通って言ってるんだからそれでいいじゃない」

歌野「久遠さんはもうちょっと興味持ってっ」

明らかに普通じゃない

歌野に言われなくても、なんとなく察してはいるが、

それだけだ。

無意味に突っ込む気はない


陽乃「そんなこと言われても困るのだけど」

歌野「久遠さんもちょっと関係あるのに」

陽乃「それは理不尽じゃないかしら」

陽乃としては1人になりたい時間等もあったが、

それを返上させたのは歌野の行動だ

陽乃からそう言ったものを求めた覚えはない

……と、考えた陽乃は、

歌野の視線を感じて、ため息をつく。

1回は陽乃にも責任はある。

陽乃「けど、言った通り私は何もしないわよ」

水都が妬いたような表情を見せていようが

歌野が困った表情を見せていようが

陽乃「特別、こうするって気はないもの」


水都が心配しているようなことは起こらないし、

歌野が期待しているようなこともない。

2人に悪いというべきなのか、水都にはいいというべきなのか。

陽乃「私は今までと変わらないわよ」

水都「周りには、興味を持たない。ですか?」

陽乃「まぁ、そうね」

歌野「それは困るわ」

水都「……」

相変わらず困り顔な歌野と、

やっぱり、どこか怒っているような雰囲気を感じさせる水都。

水都の目は陽乃に向けられていて。

水都「別に、陽乃さんがうたのんに興味を持つのは良いです」

もちろん。ほかの人にも

なんて、意味のないことを付け加えた水都は、伏し目がちに、息を吐いて。

水都「……2人で、秘密ありそうだなって思っただけ」



1、無いわ
2、勇者同士の繋がりなだけよ。特別なことはないわ
3、あったら、なに?
4、否応なしに繋がりが深いのよ。仕方がないでしょ


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は通常時間からできるかと思います

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「否応なしに繋がりが深いのよ。仕方がないでしょ」

水都「そうなの?」

歌野「うん……すっごく」

歌野は、自分の胸に手を宛がって、頷く

照れくささを感じさせるような歌野の雰囲気に、

水都は眉を潜める。

水都「深いって、どんな風に? 体は大丈夫なの?」

歌野「ええ。体に異常はないわ」

体に痛みが有ったり、

陽乃のように毒が回ったような感覚を感じることはない。

水都のように、失神することだってない。

けれど。

歌野「互いに、心を感じるの」

水都「……心?」

歌野「私は、こう、なんていうか、やんわりと感じるんだけど、久遠さんには私の心の声……って言ったら良いのかしら? それが伝わっちゃうみたいなの」


水都「それって、やっぱり勇者だから?」

陽乃「まぁ、そうでしょうね」

水都「……巫女では、難しいですか?」

巫女も勇者も、

神様から力を借り受けていることには変わりがない。

しかし、その許容量がまるで変わってくる。

諏訪の巫女としてより集中的に力を感じていた水都は、

恐らく、四国の巫女と比べて飛躍的にその力は高まっていることだろう。

だけれど、

歌野と同様に繋がりを持つには、巫女では力不足だ。

陽乃「出来るわよ。死ぬと思うけど」

ほんの一瞬

つながりを感じて、その夢心地のまま、命を落とすことになる。


水都「死……っ……」

あまりにもあっさりと飛び出してきた言葉

それほどまでに危険なものなのかと思ったのか、水都は勢いよく歌野に目を向けたが、

陽乃は首を横に振る。

忌々しいことにとは思わないけれど、

さすがにというべきか、歌野はほとんど体に影響が出ていないのだ。

そこに、嘘はない。

陽乃「別に信じろだなんて言わないけど、白鳥さんは平気よ」

水都「信じ、ますけど……」

水都はしょんぼりと、肩を落とす。

歌野の身を案じて焦ったわけではないようで。

歌野「み、みーちゃんにはみーちゃんの利点があるからっ」

水都「……今も、心を感じられるの?」

水都は歌野に訊ねたようだが、

歌野は、陽乃に伺いを立てるように目を向ける



1、普段は何もないわよ
2、常に繋がってるから
3、歌野に任せる
4、寝てるときには過去を盗み見ることもできるわ


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが少しずつ


陽乃「それはそうよ。常に繋がってるから」

水都「私とも、ですか?」

陽乃「当たり前でしょ」

力加減に差はあるが、

諏訪の神々がそうしていたように、

歌野と水都とは常に繋がっている状態にある。

その力加減は本来、陽乃の自由ではあるものの、

先日の実験によって広がりすぎた道は陽乃が思っているよりも多く力を吸い出していく。

水都はその部分が小さいため、

歌野のように、内面が伝わるような状況にまでは至らない

そして、血管に似たその流れを無理矢理に広げてしまえば、死に至る。

それは水都はもちろんのこと、

歌野だってこれ以上は耐えられるとは思えない。

陽乃「白鳥さんも藤森さんも今が限界よ。死にたくなければ、無駄なことはするべきではないわ」


陽乃「そもそも、暴かれるのは不本意だわ。懇願されたって同じようにしたくない」

水都「巫女は勇者と神様のサポートが主な役割なので……」

陽乃「私を人殺しにしたいなら、どうぞ」

陽乃はそう言って、水都へと手を差し出す。

手を繋いだりと言った行為は一切不要だけれど、

それを視覚化するといった意味で、その手は重要だ

陽乃「この手を取る覚悟があるなら殺してあげる」

水都「……」

死に至らしめると分かっていてやることを、人殺しと陽乃は言う。

それだけの覚悟があるのか試している可能性も否定はできないけれど、

行えば死ぬことになるだろう。

しかし、水都がだとしてもというのなら陽乃はやるかもしれない。

そんな焦りが陽乃のもとへと流れ込んで――

歌野「だ、ダメ!」

水都ではなく、歌野がその手を取る。


歌野「みーちゃん、無理は駄目!」

水都「うたのん……」

歌野「久遠さんのことを知りたい気持ちは分かるけど、無理しすぎだわ」

歌野と違って、水都には耐えうるだけの力がない

それが分かっているのなら

これは無茶ではなく無理でしかないし、無駄になる。

歌野「久遠さんも、みーちゃんを煽らないで」

陽乃「別に煽ってないわよ」

歌野「煽ってるってば、もうっ……みーちゃんが久遠さんのこと気にしてるって分かってるくせに」

困り顔の歌野は、陽乃の手をぎゅっと握る。

歌野「さすがに、力は送ってないのね」

陽乃「貴女に送ったって仕方がないじゃない」

それでなくとも、

明日から大変な日々が続くというのに、

力の浪費なんてしていられない。

陽乃「まぁ、藤森さん相手でもしないわよ。無駄だから」


歌野「またそういう言い方する」

歌野は顔を顰める。

無理を続ければ少しは水都の力も強くなるかもしれないし、

適度であれば、無駄になることはない。

無駄になるのは時間と労力だ。

そういうのは、明日に迫っていることが終わってからでいい。

歌野「みーちゃんだって言ったでしょ? 明日は早いから、早く寝ようって」

水都「う、うん」

歌野「そういうことだから、別に、みーちゃんに力を使うのが無駄って話じゃないわっ」

まるで自分の発言だったかのように言う歌野だが、

陽乃の心情を知れていれば、難しくない。

水都「うん……」

あんまり納得いかないといった様子だったが、

水都は頷いて、小さく謝罪を口にする。

水都「……寝よっか」


1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(昨日の話、毒、正直に、明日、説得結果(中)、遺体、任せる、常に)
・ 藤森水都 : 交流有(正直に、明日、説得結果(中)、遺体、任せる、常に)
・   九尾 : 交流無()

√ 2018/09/07 まとめ

 白鳥歌野との絆 77→81(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 86→88(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 75→75(良好)


√ 2018年 9月8日目 朝:諏訪

23~32 歌野
56~65 水都
89~98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常
※ぞろ目で特殊


√ 2018年 9月8日目 朝:諏訪


陽乃「はぁ……」

歌野と水都は出立前の最終確認のために、今は外出中だ。

1人、まだ諏訪大社に残っていた陽乃は天逆鉾の前でため息をつく。

急激に早まった、諏訪出立の日

残念ながら全員を連れ出すことはかなわなかったが、

住民の約6割程度は、陽乃達についてきてくれる。

全員ではなく、一部なのだ。

連れ帰れませんでしたは、許されないだろう。

誰かが許すと言っても

陽乃自身が、それを許すことは出来ない。

陽乃「……!」

神社の境内

その中に人の気配が入り込んできたのを感じて目を向けると、

陽乃と同年代くらいの男の子が辺りを警戒するように歩いていた


記憶が確かなら、四国に避難する住民の一人だったはずだ。

大方、これからの旅路の無事を祈るためにここに来たのだろう。

陽乃「祈ったところで、叶えてあげる気はないけれど」

もちろん、可能な限り無事に連れ帰る気ではあるけれど、

その保証まではしてあげられない

それは神様だってそうだし、勇者だってそう。

絶対ということが出来るような状況ではないのだから。

陽乃「……」

男の子はお守りを買うつもりだったのか、

授与所のところへと向かったが、今、ここにはその対応をしてくれる人はいない。

ここで暫く暮らしていた陽乃なら対応しようと思えばしてあげることもできるが、

してあげる義理は、別にない。



1、対応してあげる
2、対応しない
3、どこかに行く(再安価)

↓2


残留する人々に委ねるために持ち出していた鍵を使って、授与所へと入った陽乃は、

窓口を開いて、立ち止まっている少年に声をかける。

陽乃「今日は、営業してないわよ」

「えっ、あっ!」

急に声をかけたせいか、

驚いて後退りした男の子は、それが巫女や住民ではなく、

勇者の一人だと知ったからだろう、はっとして。

「勇者様!」

陽乃「……お守りが欲しいんでしょ? 特別に売ってあげる」

巫女装束も身に纏っていない、一見ただの女の子と言った風体の陽乃だが、

地元では巫女で

ここでは一応、神々の代行者となっているので、問題はないだろう。

むしろ、陽乃のおかげでお守りにより強い効果があるかもしれない。


「まさか、勇者様がいるなんて」

陽乃「勇者がここで生活していることくらい、周知の事実だったでしょうに。何をいまさら」

「あ、いえ……もうすぐ出発なので」

どこかに行っていると思ったという少年は

思いがけない出会いに困惑し、照れくさそうに顔を伏せる。

陽乃「それで、どのお守りが欲しいの? 悪いけど、値引きは出来ないわよ。してもよさそうだけど」

今後、この神社の管理者は神社とはまるで関係のない人々になる。

そして、それもいつまで持つかもわからないといった世界だ

お守りを無償提供したって、罰には当たらないはず。

とはいえ、それを許すのは神々ではない

「あ、えっと……勇者様はお守り買ったりしないの……ですか?」

陽乃「お守りは授かってるもの。改めて買う必要はないわ」

神々から与えられた力。

お守りが、神の御加護とするのならば、

新調する必要もないだろう。

「そう、ですか」


陽乃「それで、買うの? 買わないの?」

「じゃぁ……心身健全守を1つ」

陽乃に急かされるようにして、少年はお守りを1つだけ購入する

名前の通り、

心と体を守ってくれるとされているお守りで、

金色と銀色の2種類がある。

陽乃「色は?」

「……おすすめで」

陽乃「おすすめって」

そう言われても困ると、

陽乃は適当に手に取って、差し出す。

金色の、心身健全守

金と銀、どちらが良いのかは分からないが、

いいとされているのは、金だろうか。

陽乃「なら、これね」


久遠家の所有していた神社でのものとは色々と違っているが、

代金を受け取って、代わりにお守りを渡す。

「ありがとうございます」

陽乃「良かったわね。勇者様に渡して貰えて」

陽乃は冗談めかして笑うと、小さく息をつく。

お守りなんて気休めでしかない。

その家系の者であり、

神々の力を授かるものとして口にしてはいけないとわかっているが、

やはり、それは当てにできないものだ

陽乃「用が済んだならさっさと戻りなさい。置いて行かれても知らないわよ」

「……」

少年は、陽乃から受け取ったお守りをその手にしたまま、

少し、間をおいて、陽乃に目を向ける。

「勇者様、これを貰って貰えませんか?」

今さっき買ったばかりのお守り。

少年はそれを、陽乃へと差し出した。


1、どうして?
2、結構よ。
3、要らないわ
4、受け取ってあげる
5、渡されたって、優先順位は変わらないわよ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

では少しずつ


陽乃「……なるほど」

陽乃は、少年から差し出されたお守りを手に取る。

渡したばっかりなので、

なんだか、返品されたような気分になってしまうけれど。

陽乃「貴方にとってのお守りは、私だって言いたいわけ?」

「え、あ、いや……別に、そういうわけじゃ……」

陽乃「お守りの方がまだ、ご利益があると思うわ」

陽乃が自分のために戦っていて、

他の誰かのために死ぬような思いをする気はないと言ったことを

この少年だって、聞いているはずだ。

陽乃「今なら、返してあげても良いけど」

「いやっ、それは持っていて欲しい!」

陽乃「っ」

「あ、ごめん……」

急に声を張り上げてしまったことを申し訳なく思った少年は

居心地が悪そうに、陽乃から顔を背ける

「持っていて、欲しいんだ」


「気休めかもしれないけど、無いよりはあった方が良いと思うし」

陽乃「だったら、これは貴方が――」

「自分の分は、もう持ってるから」

今年も無事に1年が過ごせるようにと

年明けにお守りを買っているのだそう。

だから、自分の分はもう持っていると。

陽乃「なら、なに? はじめから、勇者に渡すつもりだったの?」

「……だって、勇者がやられたら終わりだろ」

陽乃「そうね」

「だから……まぁ、無事でいて欲しいっていうか……」

少年は、歯噛みしているような表情を見せる。

俯きがちで全体は見えないが、

何か気に喰わないことがあると言いたげな雰囲気

「こういうことくらいしかできないだろ? 普通の人間なんて」


陽乃「そうね」

なるほどと、陽乃は思う。

本当なら戦いたいが、

戦うだけ無駄なのは過去の惨劇が物語っている。

だから、唯一戦うことのできる勇者に託すし

少しでも無事でいてくれるようにと、祈ろうとする。

ただ、この少年はそれを快く思ってはいない。

それに苛立ちを覚えてさえいるようだ。

陽乃「だったらこれは、白鳥さんにも渡してあげるべきじゃないの?」

「いや、だって、前からいるから」

陽乃「……あぁ」

歌野は諏訪にいたから、持っている

けれど、陽乃は四国から来たから持っていないかもしれない。

だから、陽乃の分だけ買おうと思った。

というところだろうか。

陽乃「そうね。確かに、そうよね」

歌野がお守りを持っているという話を聞いた覚えはないけれど、

そんなこと、いちいち話して聞かせることでもない。


陽乃「分かったわ。ありがたく……貰っておく」

ご利益があるかどうかは別として、

あっても害があるものではないし、くれるというのなら貰っておくのも悪くない。

「あぁ、その……よろしく」

陽乃「逃げるのは貴方達よ。絶対に守るわけでも、守れるわけでもないことを忘れないで」

「分かってる」

少年は、力強く頷く

バーテックスがどんなものなのか分かっている世代

だからこそ

その恐ろしさと、それから逃げる難しさと、立ち向かう勇気がどれほどのものなのか

良く知っているはずだ。

「でも、守ってくれるのは君達だろ? だから、無事でいて欲しい」

陽乃「当たり前でしょ。私は死ぬ気はないわ」

陽乃はそう言って、少年を見つめる。

彼は陽乃の目が向けられるや否や、顔を背けてしまった。

陽乃「なによ。目くらい見たらどうなの」

「そ……そろそろ、戻らないといけないから!」

彼はそう言って、走っていく。


陽乃「……なによあれ」

九尾「くふふっ、良いではないか」

陽乃「貴女、いたのね」

もちろんだとも。と、からかうように九尾は笑う。

今は狐ではなく、陽乃よりも一回り程大人びた雰囲気の女性の姿。

金色の髪に、赤い瞳

明らかに怪しいけれど、はた目にはそう見えないらしい。

九尾「良いものを貰ったのう。肌身離さず持っているがよい」

陽乃「ご利益があると?」

九尾「さて。どうかのう」

九尾は笑う。

何か裏がありそうな笑みだ。

陽乃「……」

少年がくれたお守り。

同じものがたくさんあって、その中の1つを無造作に選んだだけのもの。

特別なことがあるとは思えない。


1、なんなの?
2、せっかくだから持っておく
3、鞄にしまっておくわ


↓2


陽乃「何なの?」

九尾「あの小僧は、主様に無事でいて欲しいそうじゃ」

陽乃「ええ。そう言ってたわね」

彼が自分でそれを口にしていたのだから、

改めて九尾に言われる必要はなかった。

なのに、九尾はつまらなそうな顔をして、

足元の少し大きな小石を草履のような履物で踏みつぶす。

九尾「あの小僧が主様に何を求めてるのか、分からぬのかや?」

陽乃「守ってもらいたい。でしょ?」

九尾「お主……」

陽乃「なによ。それ以外に何かあるの?」

九尾「ふむ……」

悩まし気な九尾の声

何かあるのかと陽乃は訝しむが、

九尾はため息をついたかと思えば、首を横に振る。

九尾「主様、それは本気で言うておるのかや?」


陽乃「なに? どういうこと?」

神様にするように

お守りを捧げものとして、願いをかなえて貰おうとでもいうのか。

例えば、優先的に守って欲しいだとか。

陽乃「なるほど」

だとしたらと、陽乃は頷く。

陽乃「死なないようにできる限りのことをしようとする姿勢が、私みたいだって、言いたいのね?」

九尾「馬鹿め」

陽乃「なんでよ……」

むっとした陽乃の呟きを九尾は聞き流す。

話しても無駄とでも言うかのような九尾の表情

九尾「まぁよい。主様が要であることに変わりはない。その主様を案じることに不思議はなかろうて」

陽乃「でしょ?」

陽乃は答えて 「いや」 と呟く

陽乃「そうは、思わないわ。私はここに馴染みがないもの。案じるべきは白鳥さんであって、私ではないと思うけど」

九尾「存外に、主様は愛されているのやもしれぬぞ」

陽乃「……それは、あまり聞きたくない言葉だわ」

九尾は目を細めると、そうか。と口にするだけだった。

何か思うところはありそうだが、それを語る気は、なさそうだ。

陽乃は貰ったお守りを一瞥する。

鞄にでも、しまっておけばいいだろう。


√ 2018年 9月8日目 朝:諏訪


陽乃が神社でお守りを受け取ってから1時間もせずに、

結界の境界付近で、みんなが集まっていた。

これからバスに乗り込んで、四国へと避難する人々

そして、

これからも諏訪に残って……終わりを待つ人々。

陽乃「これ、諏訪大社の鍵です」

「あぁ、どうもねぇ」

陽乃は鍵を残留する人の代表に手渡す。

「そんな顔、しないの」

陽乃「っ……別に、普通です」

「歌野ちゃんも水都ちゃんも優しい子だから、頼ってもいいんだよ」

陽乃は、自分の顔が見えない

それはもちろん、誰にだって素のままでは見ることが出来ないのだけれど、

それを見ることのできている目の前の人物は、罪悪感を感じる表情で陽乃を見ている。

陽乃「そう、ですか」

「あぁ、そうだよ」


歌野「これから、諏訪を出ます……基本的にはバスで移動します」

移動が難しい経路は勇者の力で先読みして、極力避ける。

どうしても通らなければならず、

勇者の力でどうにかできるような状況であれば、

どうにかして、通る。

それでも無理ならどうするのか……とすれば、徒歩としか言いようがない。

もっとも、勇者が二人いるなら、大抵の無理は押し通せるだろう。

歌野「1号車には久遠さん、2号車には私が同乗します」

水都「巫女の私は、警戒を担当していない方の勇者と同情しますので、何かあればいるときに声をかけて貰えればと思います」

水都はそういうと、

歌野をちらりと見て、何かを言ったようだが、

歌野は聞こえなかったようで、反応を見せなかった。

歌野「かなり厳しい道のりになるとは思いますが……可能な限り、無事に連れ帰りたいと思います」

弱きかな? と、歌野は困ったように笑うが、

住民から非難の声は飛んでこない。

難しさを、分かっているからだろう。

歌野「久遠さんも、ひとことくらい」


1、指示に従って。それ以外は求めないわ
2、良いわ。いうことはない
3、嫌になったなら、嫌と言って頂戴。諦めた人は捨てていくから
4、守る約束はできないけどやることはやるから、1号車の人は不安だろうけど、何もないように祈ってなさい

↓2


陽乃「そうね……」

言いたいことは昨日でそれなりに言ってしまったので、

今更、いうべきこともないのではとは思うけれど、

陽乃は少し考える。

歌野を含め、

みんなが陽乃の言葉を待って沈黙し、静かになる。

陽乃「指示に従って。それ以外は求めないわ」

本当に、その一言に尽きる。

従わなければ、死んだって文句は言えない

陽乃「従わない人はどうなっても知らないし、私達にはどうもできない。特に、子供から目を離さないで」

少し目を離したらどこかに行ってしまった。

そう言われても、助けてあげる気はない。

助けてあげる余裕なんて、無い。

陽乃「道中の責任のほとんどは私達にあるのかもしれないけど、全部じゃないの。自分の守るべきものくらいは自分で守って頂戴」


歌野「……言いたいこと、色々ありそうね」

陽乃「ないわよ。これ以上は」

細かくすればあるかもしれないけれど、

指示に従えという以上のことはない。

陽乃は一歩下がって、歌野を前に出したものの、

人々の目は、陽乃へと向いている。

少し厳しいことを言ってしまったかと陽乃は顔を顰めて、息をつく

悪かったとすれば、言い方だろうか。

歌野「えぇっと、私からもお願いします。私達は乗り越えたいと思っています。出来たら……いいえ、絶対に」

気持ちだけは強く。

そう示すような歌野の大きな声が響く。

歌野「その為には、みんなの協力が必要不可欠です……乗り越えましょう! みんなで!」

歌野の声に、賛同する声が上がる。

そして、

残る人々との別れを惜しむわずかな時間ののちに、

陽乃達が四国にもたどりつくまでの数日の間に飲み込まれてしまうであろう人々の穏やかな見送り

それを受けて、陽乃達は諏訪を出発する。


√ 2018年 9月8日目 昼:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0 3 5  バーテックス

00 33 55 進化型


では少し中断いたします
再開は20時半頃を予定しています。

√ 2018年 9月8日目 昼:移動①


陽乃が力を使ったことによって、

分かりやすく言えば生命力と呼ばれるものが消滅した地域

それはそれで酷いありさまだったが、

それを超えた先の道も、荒れ果てていた。

崩れ落ちている建物が多く、

崩れていない建物も辞崩れそうなほどに脆くなっていたりして、

窓は割れ、扉が外れ、

草木が生い茂っており、人の生活感が全く感じられなくなっている。

全員に外を見せないようにするというのも、難しい話なので、

それらは彼らの目にも見えてしまっている。

唖然呆然としたり、嘆いたり、苛立ちを見せたり。

様々な感情が渦巻くバスの車内で、陽乃は目を瞑る。

もしもこの場の感情を視覚化するとすれば、

宇宙のような抽象画が出来上がるかもしれない。


陽乃「……ここからじゃ、外の確認は難しいわね」

窓から外を眺めて、陽乃は呟く。

陽乃はバスの座席では先頭の左席、窓側に座っている。

右側が見えないし、窓で視野も狭められていて、全体を見ることは出来ないのだ。

陽乃「……」

バスの走る速度は、かなり遅めだ。

時速にして、30km出ているかどうかと言った程度で、

狐の姿をした九尾はもちろんのこと、

力を使っている状態の陽乃達なら並走することもできてしまうかもしれない。

そうしなくても、

バスの上にいることくらいはできるだろう。

「あの、勇者様」

陽乃「?」


陽乃よりも少し歳上に感じる、少女。

高校生半ばと言ったところの少女は、諏訪にある高校の制服を身に纏っている。

学校行事でもないため、私服でも問題はなかったが

せっかくだからと、制服を選んだらしい。

他にも、制服を着ている子供は多いので

やはり、忘れたくはないのだろうと、陽乃は目を細める。

陽乃「なに?」

「心配事ですか?」

陽乃「それが尽きることなんて、きっとないわ」

「……」

陽乃「いつ何があるか分からないんだから、警戒を解くことは出来ないの」

表情を暗くした少女にフォローするように陽乃は続ける。

心配事は尽きない。

諏訪の結界の中でも、四国の結界の中でも

それらの外でも。


「勇者様は、疲れたりしないんですか?」

陽乃「疲れることはもちろんあるけど……普通の人よりは丈夫だから」

体は丈夫だし、力もある。

だからと言って精神面まで強固なわけではないし、

疲弊することだってもちろんあるが。

「そうですか……」

心配そうな声。

勇者が役に立たなくなったことを案じているのか

それとも、単に、勇者の身を案じているのか

陽乃はそんな少女から視線を外し、窓の外に目を向ける。

諏訪を出てから、まだ2時間弱

この距離には杏達もいないだろう。


1、外に出る
2、なに? 不安でもあるの?
3、白鳥さんの方が良かった?
4、疲れるって言ったら、何かしてくれるの?
5、敬語は止めて貰っていい?


↓2


陽乃「何? 不安でもあるの?」

「あ、いえ。そういうわけではないんです」

少女ははっとして身振り手振りを交えながら否定する。

今までは結界の中だったが、それでもバーテックスの襲撃が行われていた。

今は結界の中ではないという違いこそあれ、

常に襲撃の不安があることは以前と変わりがない。

むしろ、勇者が1人から2人になった文、多少の安心感が生まれてさえいる。

「ただ、その、勇者様はまだ子供だから」

陽乃「貴女だって、そう変わりないじゃない」

「そうですね。けど、私はこう見えても高校3年生ですよ。勇者様は、聞いたところ中学生だって言うじゃないですか」

少女……女子高生は、

ふっと、寂しげな笑みを浮かべて、手元へと視線を落とす。

手首には、修繕の痕跡があるミサンガが見えた。

「私にとっては、子供……というか、妹みたいなものなので」


陽乃「妹って……いるの?」

「……ん」

少女は悩みながら呟く。

陽乃に目を向けず、視線は手元へと落ちたまま

ボロボロのミサンガに、もう一方の手を重ねて、目を閉じる。

「3年前、あの子は中学生になったばっかりだったの」

陽乃「そう」

「それで、ちょっとだけつんつんとしてて……喧嘩も多くなってきてた時期だった」

ちょっとしたこと

本当につまらないことで喧嘩をすることが多かったという少女は、

小さく笑みを浮かべる。

「このミサンガは、そうなる前にあの子がくれたものなの。ただクラスで流行ってたからって、だけらしいけど」

陽乃「……そう」


妹がいるいないと答えるのではなく、妹との話をする時点で、察しが付く。

妹がいるならそばにいるはずだ

何か障害を負ってしまったとしても、

ボロボロのミサンガをまだ持っているような姉なら、1人にするはずがない。

だとすれば――

陽乃「貴女が私の死に目にあうことなんて、絶対にありえないわ」

「え……」

陽乃「貴女がそれを考えているのだとしたら、侮辱に他ならないから改めて頂戴」

「勇者様……」

陽乃は視線を感じて、窓の外へと目を向ける。

景色を投下する窓には、

うっすらと、陽乃に目を向ける少女の姿が見えていた。


1、まだ何かあるの?
2、外に出るわ
3、妹と、私は似てるの?
4、私は死ぬ気はないわ


↓2


陽乃「外に出るわ」

「え!?」

陽乃「ここからじゃ全体が見渡せないのよ」

死にはしないから気にしないで。と。

陽乃は運転席の方に向かう。

陽乃「……白鳥さん」

後ろを走る、2号車

そこに乗っている歌野に、意識的に言葉を流し込む。

少女を含めた複数人の視線を感じるが、

陽乃は気にせずに運転手に一時停止を求める。

陽乃「私は上にいるから、気にしないで」

バーテックスは分かりやすいが、杏達が分からない。

少しでも痕跡を見つけるにはやはり、

外にいた方が良いのだ。

別に九尾の背中に乗ってもいいけれど、

一般の人々の前でそれは、あまり良くないだろうと考えて、

陽乃はバスが停車するとそのまま外へと出て、バスの上へと、飛び乗った。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


√ 2018年 9月8日目 昼:移動②

↓1コンマ判定 一桁

1 4 8  バーテックス

11 88 進化型①
   44 進化型②


√ 2018年 9月8日目 昼:移動②


陽乃がバスの屋根に移ってから、またしばらくバスを走らせたが、

荒れ道こそ続いてはいたが、

バーテックスが隠れ潜んでいるような気配を全く感じなかった。

杏達が先行した道をなぞるようなルートを進んでいるので、

杏達が撃退していった可能性も……

『いいや、それはなかろう』

陽乃「そう思う?」

陽乃は、盛り上がり人の形を模していく影を一瞥して問いかける。

浮かび上がった女性――九尾は陽乃のそばで腰掛けて。

九尾「争ったような気配が全く感じられぬからのう。元々いなかったか、あ奴らが巧妙にすり抜けたか……」

陽乃「ここまでたどり着かなかったなんて可能性もないわ」

諏訪を出てから、約3時間ほど。

まだ長野から出ていなければ、

素通りする予定の岐阜県の県境もまだまだ遠いといった距離。

ここからでも、勇者の脚力ならすぐに諏訪に逃げ帰ることが出来る。

そんな2人が、ここまでの道中で力尽きたとは思えない。


考えられるとすれば、

ここにはバーテックスがいなかったパターンと

ここにいたバーテックスは2人が避けたことで残り、

四国襲撃に伴って、移動したか。

前者ならともかく、後者は2人が挟み撃ちにされた可能性も出てくる。

陽乃「九尾はどっちだと思う?」

九尾「さてのう……この道はともかく、近場にはいたと思うが――」

九尾の声が途中で途切れて、ちょうどバスが止まる。

僅かな揺れに体を揺さぶられながらも陽乃は立ち上がって、周辺を見渡す。

生存者もバーテックスも何もいなそうなゴーストタウンと化した街並みが広がっている。

陽乃がいるバスの後ろ、2号車も続いて停車して歌野が下りて来た。

歌野「久遠さん。そろそろ休憩した方が良いと思うわ」

陽乃「そうね」

走り続けて、約3時間

運転手はもちろん、乗っている人たちもバスの中に缶詰めでは息苦しいだろう。

陽乃「休憩しましょ。30分くらい……で、平気かしら」


この近辺には杏達がいる様子も見られないので、

陽乃としては、長居する気はない。

とはいえ、住民の精神的な疲労を考えれば、30分程度は休憩も必要なはずで。

陽乃はバスの屋根から飛び降りると、

1号車の中に入って、休憩にすることを告げる。

運転手はもうしばらく同じ人にお願いすることになるが、

そのあとはちゃんと交代する。

バーテックスが来た時の対応を考えて、余裕をもって朝夕夜、3人交代

全員が全員大型バスの免許があるわけではないけれど、

一応、大型のトラックや、中型のバスの運転経験がある人にお願いをしているので、

不運なことがない限り、大丈夫だろう。

緊急事態なのだ、その程度の違反は許してもらえなければ困る。


崩れそうな建物の中から、

まだ大丈夫そうなものを見つけて、休憩所とする。

電気や水道といったものは死んでしまっているが、

休憩するには十分だ。

陽乃「……全然、平気そうね」

1度経験した野宿

あの時よりは全く、何も問題がないと

陽乃は近くを飛んでいた少し大きな虫を払い飛ばす。

「勇者様って、虫が平気なタイプ……?」

陽乃「諏訪のような環境にいて、むしろ駄目なことが不思議なのだけど」

「農家の子供が必ず野菜好きになるみたいな暴論だよそれは」

バスの中で、陽乃の隣に座っていた女子高生

彼女に左腕を奪われながら、陽乃は顔を顰める。

つまり、野菜が嫌いなのか。


1、周囲の警戒に出る
2、歌野のところへ
3、水都のところへ
4、住民のそばにいる


↓2


陽乃「警戒に出るから、離れて」

「え、危ないのに」

陽乃「勇者が見張りに出ないで、誰が出るのよ」

「そうだけど……」

女子高生は心底不安そうに陽乃を見て、

縋りついていた陽乃の腕を一瞬、強く抱きしめてから、手放す。

「気を付けて」

陽乃「人の心配は良いから、自分のことだけを考えてなさい」

不安を背中に感じながら、陽乃は民家を出て行く。

バーテックスの気配は感じないので、

ここは安全地帯だと思っていいのだろうけれど、

警戒をしておくに越したことはない。


↓1コンマ判定 一桁

0 悪いこと
1 歌野  
3 九尾
9 水都

ぞろ目 特殊


陽乃は付近の調査もかねて、1人で街中を歩いていたが、

バーテックスによって蹂躙されたと思われる痕跡は数多く見られたものの

それによる目も当てられないような惨状が残っていないのは、不幸中の幸いと言ってもいいのだろうか。

陽乃「……」

殆どの建物が、上から降り注いだ " 何か " によって崩れ落ちていて、

まだ残っている建物も、

そこに住まう人がいなくなったせいか、

役目を終えたと言わんばかりに自然にからめとられようとしている。

無事な建物に入っても見たが、

直近で誰かが使ったような痕跡は見当たらない。

杏達はこのルートを通ったのか

それとも、ただ素通りしただけなのか。

勇者の脚力であれば、素通りしたとしても不思議ではない。


九尾「痕跡がないならば、問題はなかろう」

陽乃「まぁ、そうなんだけど……」

生存者がいる……だなんて思ってはいなかった。

諏訪は結界と歌野によって守護されていたから無事だっただけで、

そうではない地域にいる人々が、無事であるとは思えないからだ。

けれど、何かある可能性だってある。

九尾「それとも、有象無象と関わるのが不快かや?」

陽乃「なに? 急に」

九尾「主様、煩わしそうにしておるじゃろう」

隣に座っていた女子高生もそうだが、

みんな、陽乃のことを気にかけている。

九尾「食ろうてやろうか」

女性の姿のまま、ぺろりと唇を舐める九尾を横目に見て陽乃はため息をつく。

陽乃「大騒ぎになるようなことは止めて」


バス1台ずつなら大人数と言えるほどの人数ではないし、

集合の時には点呼を取ることにもなっているので、

1人でも欠ければ、そのとたんに大騒ぎだ

九尾「妾が代わりになってやれば良い。何も問題はなかろう」

陽乃「問題外よ」

九尾の提案を一蹴して、陽乃はまた歩き出す。

そろそろ、バスの方に戻るべき時間。

周りに従えと言っておきながら

自分がそれを破っていては示しがつかない

九尾「主様が望むなら、いくらでも力を貸してやろう」

陽乃「……ええ」

今は、まだ平気だ。

陽乃「必要そうなら、お願いするわ」

バーテックスとの戦い

そして――

陽乃「出来たら、使わないでいたけど」

人を惑わす力を用いての、人々への強制


√ 2018年 9月8日目 夕:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0 3 5 9  バーテックス

00 55 進化型①
  99 進化型②

※襲撃規模は2桁目 0<9


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ

√ 2018年 9月8日目 夕:移動①


休憩をした地点から、またバスを走らせて数時間。

予定していた道が途中で崩れてしまっていたり、

倒木等でふさがれていたりと、

余計な時間を取られることもあったが、どうにか、

何も被害を受けることなく順調に進むことが出来ている。

むしろ、順調すぎて不安になりそうなほどに。

陽乃「……どう思う?」

動き続けるバスの屋根上に座って周囲を見渡す陽乃は、

背中を支えるようにしている九尾に声をかける

九尾「どうと聞かれても困るが」

陽乃「……聞かなくても考えてることをそのまま言ってくれればいいの」

九尾「ふむ……」

九尾は、わざとらしく考えるような声を漏らす。

九尾「小娘らが討伐したわけではなさそうじゃな」

陽乃「そうじゃなくて」

それは分かっている。

聞きたいことはそうではないと、陽乃は九尾へと振り向く

陽乃「バーテックスはどこに行ったと思う?」


九尾「それは妾に問わずとて、主様も気づいておろう」

陽乃「全部の地域にいたわけではないだろうけど、明らかにおかしいわ」

通り過ぎた市町村、そのどこか一ヶ所でくらいいバーテックスの気配を感じ取れても良いものだけれど、

今のところ、それが全くない。

人々にとってはありがたい話なのかもしれないが、

四国の状況と、杏達の行方のことがある陽乃としては朗報とは言えない。

四国を襲撃するために全部が向かった可能性があるし、

杏達に気づいて追跡しているのかもしれないし、

進化型になるべく、集結してしまったのかもしれない。

進化型は、白餅状のバーテックスに比べて非常に手強い

そして、神託で見たそのさらに上位の完成型とみられるバーテックスは、それ以上だろう。

陽乃「完成型なんて、出てこられても困るわ」


陽乃と歌野はそれを警戒しているし、

陽乃に至っては、文字通り死ぬ気になれば完成型だって圧倒できる……はずなので、

どうにか対応もできるだろう。

四国には勇者が3人いるので、

四国に襲撃があったとしても負傷者は出すことになるかもしれないが、対応は可能なはず。

問題は、2人が出会った場合だ。

九尾「心配はなかろう」

陽乃「そう?」

九尾「土居球子はともかく、伊予島杏がいるならば滅多なことはしないじゃろう」

杏がいるなら、見覚えのないバーテックスに戦いを挑むような愚かなことはしないはずだ。

ただ、襲われた場合はその限りではないのだが。

陽乃「それが近くにいて身動きが取れないのかしら」

九尾「ないとはいえまい」


だとすれば、長くはもたないだろう。

立てこもるのにちょうどいい施設があったならいいが

そうではないなら食料が尽きる。

……そこは球子が役立ってくれそうな気もするけれど。

とはいえ、猶予はないとみておく方が良い。

何事もなく、

時間はかかったが四国に到着したならしたで、問題はない。

「勇者様!」

陽乃「……?」

陽乃がいる1号車の窓の1つから顔を覗かせた少女が、陽乃を呼ぶ。

周囲にバーテックスや、不審なものは見られないので、

異常があったわけではなさそうだ。

陽乃「どうしたの?」

「そろそろ、中に戻った方が良いと思います!」

陽乃は、朝以降ずっと外にいる。

休憩の時にも見回りに出ていたりと、少女の視点からでは、陽乃はずっと休んでいないように見えているのだろう。



1、戻る
2、戻らない
3、代わりに外に出てくれるの?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
再開は明日、可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ


九尾「戻るのかや?」

陽乃「ええ」

全体が休憩するまではまだ時間があるけれど、

結界の外に出てから約十時間

殆どずっと外にいてこれまでバーテックスの気配も何も感じられないのだから

少しは体を休められる車内にいても平気なのかもしれない

というのもあるが、

ここで応じておかないと、後々に響きそうだというのもある。

陽乃「暫くは問題がなさそうだから」

九尾「その油断が命取りにならねばよいがのう」

陽乃「油断してるわけじゃ――」

九尾「よいよい」

九尾はくつくつと喉を鳴らして笑うと、

陽乃に対してさっさと行けというように、手で払う素振りを見せる。

九尾「妾がいてやる。主様は少し休め」

陽乃「嫌な優しさね」

九尾「……主様、いまだに結界の維持をしておるじゃろう。いい加減、断ち切ってしまった方が良いぞ」


嫌な優しさと言ったことに対しての嫌味か、

九尾は目を細めて、釘をさす

陽乃は諏訪を離れてもまだ、諏訪を囲う結界の維持に力を割いている。

離れれば離れるほど、結界の維持にかかる労力は増していく

今はまだ、神々の力も借りているために影響がないようにも感じられるが、

このまま続ければ少なからず影響が出てくるだろう。

九尾「主様がいつまでも背負ってやる義理はない」

陽乃「……手向けは必要だわ」

その感覚が本当にあるのかは分からないけれど、

不思議と " 祈られている " と感じる。

だったら、少しは応えてあげるべきだ。

神様だったら応えてはくれないかもしれないが、

陽乃は神様ではない。

陽乃「出来るからやってあげてるの。難しくなったら、それまでだわ」

陽乃はそう言って、屋根の端に移動する。

窓から顔を覗かせている人はいるが、

走行中のバス上の会話を聞くことが出来ているわけではないだろう。


「勇者様、今バス停めて貰いますね」

陽乃「いいわ。そのままで」

「えっ」

車内では、休憩を待っている人たちもいるだろうし、

それを目的としたものではない停車は、下手に気を煽るだけになってしまう可能性がある。

何かあったのかもしれないと。

それを払拭するのはたやすいことだけど、その蓄積は面倒だ

陽乃「窓から離れて……窓際の席を空けて頂戴」

「ちょ、ちょっと!」

少女は慌てたように声を上げて窓から離れ、

そして、勇者様が戻るのでバスを止めてと、叫ぶ。

陽乃「良いって言ったのに」

ゆっくりとバスが停まって、入口になっている扉が開く

「勇者様!」

九尾「くふふっ、ほれ。行くがよい」

九尾に突き落とされるような形で、屋根から降りる

なぜだか嬉しそうな少女はバスから降りて、落とされたばかりの陽乃の手を引く

「早く、バスに乗っちゃってくださいっ」

陽乃「っ、もぅ……なんなのよ……」


少女に引っ張り込まれるような形でバスへと乗り込んで、

運転手には、問題なさそうなので進んで欲しいと頼む。

陽乃「別に止める必要はないって言ったのに」

「駄目ですよ。危ないもの」

勇者である陽乃なら、

走行中のバスの窓から中に入ることなんて簡単なことなのだが、

それをしようというのが、そもそも気に入らなかったようだ

「それに勇者様、スカートだから」

陽乃「だから、なに?」

「なにって、見えちゃうじゃない」

下着が見えてしまうと言いたいようだけれど、

陽乃としては、見えないように乗り込めばいいだけだ

「勇者様も女の子なんだから気にした方が良いと思う」


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【5頁目】
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