【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【5頁目】 (999)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
  楠芽吹の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです

目標

諏訪から四国への撤退
生き抜くこと。


安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります

日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
期間は【2018/07/30~2019/08/14】※増減有

戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます

wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに


前スレ

【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【1頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【1頁目】 - SSまとめ速報
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【2頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【2頁目】 - SSまとめ速報
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【3頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【3頁目】 - SSまとめ速報
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【4頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【4頁目】 - SSまとめ速報
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陽乃「勇者が女の子かどうかなんて、今更気にしてられるものでもないし」

そんなことを気にしているなら、

筋肉がついてしまうとか、体が傷ついてしまうとか、顔に傷が出来てしまうとか、

そう言ったことを気にして、戦いに対しての積極性に欠けているのではないかと、陽乃は思う。

だからこそ、そんなことを気にも留めないような人が選ばれた。とか。

「じゃぁ、今この場で勇者装束に着替えてって言われても出来ちゃうの?」

陽乃「必要なら、できるけど……」

「えぇっ!? 男の人もいるのに!?」

陽乃「別に関係ないわ」

男性が居ようが居まいが、

陽乃の装束への着替えは、歌野が行っていたような着替えそのものとは形がまるで異なる。

その中身を見ることもできずに終わるので

人がいても関係ないし、

それが外であろうと関係もない。

陽乃「着替えを見ることは出来ないもの。大丈夫」


「見れないって、どういう……こう、一瞬でぱって着替えれるってこと?」

陽乃「そうね」

「……神様技術?」

陽乃「まぁ……そう。でしょうね」

杏達はそうだろうけれど、

陽乃はそうと言ってもいいのかどうか迷う。

本来の四国の勇者たちは、大社が用意した端末を行使しない限り、

勇者装束を身に纏うことが出来ない。

だけれど、陽乃は違う。

その端末がなくても装束に着替えることができるし、

そもそも、その助力をしているのは神様ではなく、大妖怪ともされている九尾だ。

陽乃「だから平気」

「そうなんだ……あ、ですね」


些細な会話をとても楽し気にする女子高生

少しだけ怒った様子を見せたり、笑ったり、

心配そうな顔をしたり、驚いた顔を見せたり。

あと少しで表情を全部見ることが出来るのではないかと思うくらいに、感情が豊かだ

このバスが、ただの観光バスだと見紛うほどのそれに、

陽乃は目を細めて、顔を背ける。

陽乃「それで? どうして中に戻った方が良いだなんて言ったの? 何かあった?」

「勇者様、休憩の時も見回りに行ってて全然休んでなさそうだったから……」

陽乃「勇者が休んでいたら、いざというときに対処が遅れるわ」

「それはそうだと思うけど……でも、まだ、私達だって起きてるし」

陽乃「だから?」

「……」

少女は、結んだ唇を少しだけきつくする。

「力は、無いし……戦うことなんてできないけど。でも、見張りくらいは、できると思う……」


1、私が信じられない?
2、見ても平気なの? あの怪物を
3、無理をする必要はないわ
4、結構よ。力を借りる気はないわ


↓2


陽乃「無理をする必要はないわ」

「無理してるのは勇者様の方だよ」

陽乃「見ることが出来る? あの日の光景を」

「……」

陽乃「そのうえで、冷静でいることが出来る? 叫ばず、騒がず、それを見て勇者を呼ぶことが出来る?」

普通の人に、それは無理だと陽乃は思っている。

抗う術のない人々が、

あの日の絶望を思い起こさせるようなものを見て、正常でいられるなんて、そうあることではないと。

でなければ、天恐なんてものを発症することはない。

もちろん、人によって強弱はある。

少なからず発症してしまう人もいるだろうけれど、その割合は決して低くはなかった。

だから、難しい。

陽乃「嫌いなものは嫌い。それと同じように、無理なものは無理で構わないし、それを押し退けてまですることを信用できるほど、私は優しくはないのよ」


無理をしてまで頑張ることを認める人もいることだろう。

それを信じて、託す人だって。

多分、歌野であれば信じたはずだ。

無理をすることを案じるだろうけれど、

その意志があるならと、頷いてくれたかもしれない。

けれど、陽乃は違う。

無理を案じることはあっても

その意志を信じることはない。

結局無理かもしれないと、疑ってしまう。

陽乃「その誰でもできるようなことが、最も命取りになるのよ」

「それは、分かってる」

陽乃「だったら、無理してまでやるべきことではないことも分かってると思うのだけど」


見張りが正しく機能してくれなかった場合、対処が遅れる。

その場合、被害は大きくなってしまうのだ。

最悪の場合、被害が出てから対応が始まることになる可能性だってある。

そうなって、責任は取れるのか。

陽乃は、顔を顰めて息をつく。

責任を取らせる気はない。

被害が出るまで気を緩ませた勇者が悪いのだ。

陽乃「一番大事なことよ。一瞬だって気を抜いてはいけないの。その目が見えればできる。そんな簡単な話ではないのよ」

「でも、だって、そうしたら勇者様はずっと気を張ってるってことで、休む暇なんてないってことで、それは……」

陽乃「私は勇者だもの。その程度でくたびれるほど弱くはないわ」

「でも、勇者様……何度か倒れてるって」

陽乃「それは」

「理由があるとしても、勇者様だって倒れることがある。違いますか?」

陽乃「それは誰だって――」

「そう。誰だって。誰だってそう……だったら、勇者様だって同じじゃないですか」


少女は、隣に座る陽乃に詰め寄っていく。

観光用の大型バスとして作られているこのバスは、

座席は比較的広く大きく作られているけれど、

それでも、隣り合った座席だ。

窓際なら逃げ場もないに等しいので、陽乃は追い詰められるばかり。

陽乃「だとしても――」

「だから、困るんです。休めるときに休んでもらわなきゃ。手伝えることは手伝えって言ってくれなきゃ、嫌なんです」

陽乃が倒れても歌野がいる。

けれど、ここは結界の中ではない。

一般の人々を守ってくれるのは歌野だけになったら、ただでさえ難しことがより難しくなって、

守りきることは出来なくなってしまうことだろう。

「出来ることはしたい。それで、少しでも……安全になるなら。それで、力になれるなら」

外に出てまで、何もできないままでいるのは嫌だと彼女は言う。



1、勝手にしなさい
2、それが出来ることならね。
3、結構よ
4、なるほど、自分の身のためにってことね


↓2


陽乃「それが出来ることならね」

「ぅ……」

陽乃「出来ることなら何も問題ないとは思うけれど、出来るとは思えないもの」

「そんなことないよっ」

陽乃「口だけなら何とでも言えるわ」

出来ないことをできると言えるし、

信じていなくても信じていると言えるし、

嫌いでも好きだと言える。

なんとだって言うことは出来てしまうのだ。

そこに結果が伴う保証なんてないのに。

陽乃「実際に惨状を目の当たりにしたのなら……それに、何か嫌なことがあったのなら平常心でいることは出来ないわ」

今平気なのは、バーテックスが表れていないからだ。

歌野が散々頑張ってきたことは見ていただろうけれど、

傷ついて帰ってくる歌野を見ただけで、結界の外でどのようなものが集まり、何が起きていたのか

その目撃をしたわけではない。

陽乃「無理をしてもいいことは何もないわ」


今は平気だからと言って、バーテックスが来るかどうかの見張りをする。

その心意気が悪いとは陽乃も思わない。

けれど、彼女が自分で言っていたように、

それは酷く、気を使う役割だ。

常に緊張感をもって、精神をすり減らしながら対応しなければならない。

バーテックスによる被害を受けたトラウマを持ち、

そして、抗う力のない人々がその役目を担えるとは思えない。

陽乃「病むわよ」

「……でも」

陽乃「他人の為だなんて、高尚な理念は捨ててしまった方が良いわ。世界はもう、変わったのだから」

「だけど、勇者様はみんなのことを守ってくれているじゃないですか」

陽乃「それは白鳥さんであって私ではないわ」

「今だって、私たちのことを考えて……」

陽乃「ないわ」

少し中断いたします

再開は21時半ころから


陽乃「悪いけれど、考えてないわ」

「ううん……勇者様は考えてくれてる。だって、そうじゃなかったら、おばあちゃん達を置いていくのを癒そうな顔しなかったはずだよ」

陽乃「余計な隙を与えることになったからよ。それ以上でも以下でもない」

勇者を責める口実

いや、陽乃個人を責める口実とでもいうべきか

それを与えることになってしまったからだと陽乃は言うが、少女は首を振る

「私達が見てきたようなことを、勇者様だって見てきたはずだよ」

陽乃「だから?」

「私達よりもずっと、立ち向かう怖さを知ってると思う」

あの化け物が降り注いだあの日のできごと

良いことなんて、生きているくらいしかなくて、

何もかもが悪いことでしかなかったあの日

そこからの3年間は、生きながらえたことを喜べるのなんてほんの一握りで、不安ばかりだったことだろう。

そして勇者はそれを、最前線で見てきたのだろう。

なまじ抗う力を得られてしまったばっかりに、

辛い役目を押し付けられて、責任を負わされて、

怖くても不安でも何があっても自分だけが助かればいいと、逃げ出せるようなものではなかったはずだ。

「勇者様には戦う力があるけど、でも、それだけ。だよね? それ以外は、私達と同じはずだよ」


「私は怖い、不安でもある。諏訪にいた時も、今も。ずっと不安で、怖いよ」

彼女は、小さく笑う。

それを恥じるでもなく、堂々としているように感じる表情だ。

「だって、仕方がないじゃない、あんな化け物が襲ってくるんだから」

陽乃「……そうね」

「でも、私達はただ逃げればいい。怖いって言って、助けてって叫んで、一心不乱にそこから逃げ出せばいい。そうしたら、勇者様が助けてくれるから」

彼女は不快そうな表情を浮かべる。

彼女達には、誰かを助ける力はないし、

自分自身の身さえ守れるほどの力がない

けれど、勇者は違う。

そして、そのたった一つの違いから、全てを委ねられる。

「けど、勇者様は違うと思う。怖いって言えないし、一目散に逃げだせるわけでもない。それどころか、立ち向かわなきゃいけない」

その怖さは分からないと、彼女は首を振る

不安も恐怖も緊張も、何一つ……きっと、分かると言ってはいけないと思うとさえ、言う。

「そんなの、あんまりだと思わない? 理不尽だって思わない? 私だったら思っちゃう」


私だったらね。と、繰り返すように言う彼女は、

申し訳なさそうな笑みを零しながら、陽乃を見つめる。

「勇者様……久遠さんは違うかもしれない。そうじゃないかもしれない。でも、だとしたらそれは、誰かを助けたいから勇者になったってことでしょ?」

むしろ、そうなりたくて自ら望んだのであれば、

勇者にされたのではなく勇者になったということだし、

そしてきっと、それは誰かを助けるためだろう。

「自分だけを助けようって人が勇者になんてなれないって私は思う」

3年間で、心変わりをした可能性もあるだろう。

でもだとしたらそれこそ、理不尽な何かがあったからで、

本来は自分ではなく誰かを助けようとしていた勇者という名に偽りのないものだったはずで。

陽乃「そうとは限らないでしょうに」

「そうだけど、でも、私の知ってる勇者様はそうだった」

彼女の知っている勇者というのは、歌野のことだろう。

「私達は、ただ助けてもらうばかりじゃいけないと思う。戦う以外の、努力でどうにかできることはするべきだって思う。トラウマを乗り越えるのだって、その1つなんだよ」

彼女はそう言って、自分があまりにも恥ずかしいことを言っているとでも思ったのか、

熱くなりすぎちゃったけど。と、照れくさそうに笑って。

「戦えないけど、頑張れることは頑張りたいから……だから、手伝ってって一言言ってくれたら私は何だってするよ」


√ 2018年 9月8日目 夕:移動②

↓1コンマ判定 一桁

2 7 8  バーテックス

22 88 進化型①
  77 進化型②


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

では少しずつ


√ 2018年 9月8日目 夕:移動②


陽乃「やっぱり……」

まだ出発してから半日程度。

休憩もはさんでいるし、バスをゆっくりと走らせているというのもあって、

まだ、長野を出てさえいない。

そんな中でも、休憩は取らなければならない。

歌野「今、どの辺りかしら」

陽乃「運転手が言うに、岐阜との県境まで約半分……ほら、木曽町って書いてあるでしょ」

近くの、半ばでへし折れた電柱に付けられていた、どこかのお店の案内表示

そこに書かれている町名だ。

陽乃「岐阜までは……」

陽乃達に取ってはなじみの薄い、紙媒体での地図

検索欄に文字を打ち込むだけで検索してくれるわけではなく、

索引などを使ってようやく見つけた木曽町の付近を指さす。

歌野「まだまだ先は長いわね」

陽乃「そうね。ただ、バーテックスがまるで出てこないのが少し気がかりだわ」


歌野「四国の襲撃に向かったのかしら」

陽乃「その可能性が高いけど、伊予島さん達を追いかけた可能性もあるし、集結して進化型に変わってるのかもしれない」

どちらにせよ、

良い話とは言えないことだろう。

一般人を連れている陽乃達が襲撃を受けるのも良くないことではあるけれど、

それが一切ないことも、勇者としては良いとは言えないのだ

歌野「進化型……」

陽乃「白鳥さんも、丸いバーテックス以外の形も見たことはあるのよね?」

歌野「え、ええ。まぁ……1度だけだけど」

陽乃「それのもう一つ上の段階、場合によっては完成型のバーテックスが出てくる可能性もあるわ」

歌野「……私一人では対応できそうにないわね」

陽乃「心配しなくても、私でもできるとは思ってないわ」


進化型ならともかく、完成されたバーテックスに自分の力が今まで通りに通用するとは思ってない。

多少であれば、効果はあるだろうけど、

一撃で屠れるかと言われれば、無理だと言っておきたいところだ。

陽乃「正直、未知数なのよ」

歌野「そうね……」

陽乃「邪魔がなければ一度くらい戦っておきたいところだけど」

歌野「その時は、私もちゃんと呼んでね」

陽乃「少なくとも、四国に着くまでは縁のない話でありたいわ」

物量で押しつぶされるのも困るけれど、

完成型に遭遇するというのも、嫌な話だ。

その場合、下手に逃げ惑って、広範囲攻撃で丸ごと消し炭にされる可能性もある。

いや、そんなものがあったとしたら、逃げても逃げなくても同じだろうか。

歌野「なんか、嫌な予感がしたのは私だけかしら」

陽乃「そうでしょうね」


1、杏達について
2、2号車の状況
3、見回りに行く
4、人々のところへ
5、水都のところへ


↓2


陽乃「伊予島さん達、どこまで進んでいると思う?」

歌野「そう、言われても」

歌野は難しい顔をして、地図を見つめる。

小さく描かれている日本地図。

それで見れば、四国までの道のりはあっという間に見えるが、見えるだけだ。

歌野「正直、伊予島さん達だけならついていてもおかしくないのよね」

陽乃「そうね」

けれど、昨日の時点でまだ到着していなかった。

約1週間、それはあまりにも長い時間だ。

一般人を率いている陽乃達だって、

バスで移動しているのなら、四国に辿り着くことは可能かもしれない時間だ。

歌野「勇者の足なら、1日でどこまで行けるかしら」

陽乃「私なら半日で着くけど」

歌野「でも、普通なら2日3日……でしょ? 警戒してゆっくり移動したり、何かがあって時間が余計にかかっても、1週間もかからないと思う」


そこには陽乃も同意する。

かかっても、5日程度だったはずだ。

なのに、それを超過している上に、四国への襲撃の開始。

気にしすぎだとは思うけれど、

何かがあって四国にたどり着けない状況にあるというのが陽乃達の考えだ。

歌野「とはいえ、ここに立ち寄った様子はなさそうだわ」

陽乃「あの子たちなら、私達みたいに何もない状態なら、岐阜……愛知にまで入ってる可能性はある」

歌野「途中で休憩を挟んでも?」

陽乃「立ち止まって休憩というより、速度を落として休みながら移動すると思うわ」

正直に言えば、立ち止まっての休憩はリスクが生じる

今回はバス移動であり、

ずっと座ったままというのも逆に酷なために、外に出て休憩する必要があるが、勇者にはその必要はない。

とすれば

陽乃「1日でここまで来ているかもね」

愛知県の、やや北部

その部分を指さした陽乃は、目を細める

この速度差を考えると、追いつくことはまず不可能だ


歌野「今日、着いてると思う?」

陽乃「さぁ? そうだと良いけど」

残念ながら通信手段がないため、

杏達が向こうについていても分からない

襲撃を受けていても分からない。

たどり着いていればいいが、

1週間で到着していなかったのだから、

今日もまだ、到着できていないことを前提としておいた方が良いだろう。

下手に楽観視していると、

そうではなかった時、傷つきやすいからだ。

陽乃「ひとまず、現状ではこのルートを通る予定だから……道中で戦闘の形跡があるかを確認しましょ」

歌野「そうね……あと、休憩場所は」

陽乃「そこは何か確証がない限り時間通りで良いと思うわ。じゃないと、都度止めることになるから」

何時間走ったら休憩する、基本はそれで変わらない。

何か異常が有ったり、杏達がいると確証があったときくらいしか、特例は必要ない。

歌野「2人に会えるかしら」


陽乃「この調子では、難しそうね」

正直に言ってしまうと、無理だ。

諏訪から四国まで向かうルートはいくつかある。

一応、このルートで行くと事前に決めていたものはあるし、

陽乃達は杏達の決めたそのルートを可能な限り負うようにしているが、それだけ。

バーテックスから襲撃を受けたりして、ルート変更するのはあることだ

それがどこで行われたのか

その手掛かりになるのが、戦闘痕やバーテックスの存在だ。

その地点から、ルートが変わっている可能性がある……けれど、

それがまるで見られない。

だから、情報がない

だから、会える可能性も皆無。

陽乃「主要な大きい施設か、病院があったら立ち寄ってみましょ」

今も薬などが使えるとは思えないが、

贅沢は言っていられないと、清潔そうな包帯などを取りに行っているかもしれない。

歌野「そう、ね。そうしましょ」


↓1コンマ判定 一桁

1,4,9 追加イベント

※それ以外は終了


√ 2018年 9月8日目 夜:移動①

↓1コンマ判定 一桁

1 5 0 バーテックス
   2 戦闘痕

11 55 進化型①
  00 完成型


規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

※進化型はなし

√ 2018年 9月8日目 夜:移動①


『主様!』

陽乃「っ」

夜になってからも、屋根上に留まっていた九尾の大きな声が響く。

急いで窓側から身を乗り出し屋根に上がっていくと、

人の形をしている九尾が進行方向を指さして、目を細める。

九尾「このままいけば、あの群れに囲まれることになるぞ」

陽乃「……良く見えるわね」

あの群れと言われても、

陽乃には点々とした、それこそ星のようにしか見えない

だが、目を凝らせばそれがうようよと漂い、生き物のように動いているのが分かる。

それは間違いなく、バーテックスだ。

九尾「主様と白鳥歌野ならば、あの程度なら蹴散らすこともできるやもしれぬが、避けるのが得策じゃろうて」

陽乃「そう……」


勇者しかいないなら気にすることはないし、

四国襲撃の知らせも来ているから、

あれらを掃討して少しでも数を減らしていくというのは間違いではない

けれど、今は一般の人々がいる。

仮に、彼らをどこかに隠れさせ、勇者だけで行くとしても、

護衛の一人も置かずに行くわけにはいかないため、

歌野か陽乃のどちらかだけで戦うことになる。

陽乃「あそこに伊予島さん達がいる可能性は?」

九尾「ふむ……ないとはいえぬが、可能性は低かろう」

見れば、完成型どころか進化型もいないと見える。

であれば、留まっていては摩耗するだけだろうし、

杏達なら突破は可能なはずだからだ。

陽乃「なら……」

九尾「生存者はいるかもしれぬぞ。結界はなくとも、上手く息を潜めていたやも知れぬ」

陽乃「っ」

陽乃はゆっくりとバスを止めるように指示を出して停車させると、

2号車の方から降りてきた歌野を手招きする。


歌野「……なるほど」

他の人々には聞かれないように、バーテックスの群れがいることを歌野に伝え、

それが進行方向であること、そこに杏達がいる可能性は低いが、

生存者がいてもおかしくはないことを話す。

ここからルートを逸れていけば、

あの群れに害されることはないかもしれないが、

大きく逸れることになるだろう。

歌野「生存者がいるなら、救ってあげたい……けど、ここにいるみんなを危険には晒せない」

陽乃「でしょうね。ルートを変えるのが得策だわ」

歌野「けれど、それで良いと言えるかしら。あそこに誰かがいる可能性があって、それを無視したとしたら、私達は、胸を張って勇者と言えるかしら」

陽乃「私は言う気ないけど」

自分が勇者だなんて、胸を張って言えないのは百も承知

そもそも、そんな肩書なんて捨てられるなら捨ててしまいたほどだ。


1、助けたいの? 助けたくないの?
2、いない可能性もあるんだから、気にすることはないわ
3、1人ここに残って、1人戦いに行く。そんな名案もあるのだけど
4、良いじゃないそれでも。勇者だって、救えないものくらいあるでしょう


↓2


陽乃「1人ここに残って、1人戦いに行く。そんな名案もあるのだけど」

歌野「そんな!」

陽乃「普通なら思いつかないいい案だと思わない?」

歌野「普通なら考えないわ!」

茶化すような笑い声を零す陽乃に、歌野は少し強い語気で否定する。

ほんの数匹程度なら考えることもあるだろうが、

群れ……大群と言われるほどの数を相手にそれはただの自殺行為でしかない

普通であれば考えもしないことだろう。

歌野「久遠さんは人を救う気なんてないんでしょう? 自分が大事なんでしょう? なのにどうして」

陽乃「そんな考えがあるのかって?」

陽乃は見透かして答え、また笑みをこぼす。

陽乃「物語に登場する勇者は、得てしてそういうものだからよ。身を粉にして、誰かを助けようとしてくれる」

自分はそうなる気はないと陽乃は首を振って。

陽乃「貴女はどうなの? 白鳥さん」

歌野「私は……」

陽乃「私に、彼らを守って欲しいとお願いをして一人で戦いに行く? それとも、私に行って欲しいってお願いをする?」


歌野「……行って欲しいなんてお願いは、したくない」

陽乃「なら、行く?」

自分も勇者なのに、

陽乃を死地へと送るなんて、あまりにもあんまりだ。

もちろん、陽乃なら何とかしてくれるという信頼はある。

けれど陽乃の力は自分自身をも傷つけてしまう諸刃の剣

使い過ぎれば、倒れてしまう。

歌野「……あそこに生存者がいるかもしれない」

陽乃「ええ」

歌野「だったら」

歌野はゆっくりと目を閉じて、そして、息をつく。

歌野「私が行くわ」

陽乃「無事では済まないわよ」

歌野「だとしても、みんなを置いていけないし、それに、久遠さんの力は温存しておきたいわ」


生存者がいる可能性がある以上は放置できない。

かといって、一般人を連れていくことは出来ないし、

だからと言って、2人しかいない勇者が2人ともバーテックスの群れに突っ込むわけにもいかないだろう。

そして、陽乃は完成型や進化型にも有効な力を持っている。

それを大群だからと言って通常のバーテックス相手に消費してしまうのは勿体ない

――と、考えているのだろう。

歌野「生存者がいるなら助けたい。いなかったとしても、あの大群は放置できない」

だから、私が行く。と、

歌野は覚悟を決めている。

2人で行くのは無理だ。それは絶対である。

今この周囲にバーテックスの気配は感じられないが、

だからと言って絶対に安全とは限らないからだ。

2人が居ない間に襲われでもしたら、ひとたまりもない。


1、良いわ。行ってらっしゃい
2、だったら藤森さんを説得することね
3、でも残念ね。あそこに一番早くたどり着けるのは、私なのよ
4、貴女は、勇者なのね

↓2


陽乃「でも残念ね。あそこに一番早くたどり着けるのは、私なのよ」

歌野「久遠さん?」

陽乃「貴女が、私を温存したいとしても。貴女があの場所にいるとも限らない生存者を救いたいのだとしても」

困惑する歌野の隣で、陽乃は素知らぬ顔で続ける。

陽乃「貴女は、ここに置いて行かれてしまうのよ」

歌野「何を言って……」

陽乃「悔しかったら力をつけることね。その理想を貫き通したいのなら、文句を言わせないほどに強くね」

陽乃は困ったように言って、歌野の体をぐっと押し退ける。

陽乃「九尾!」

九尾「阿呆め!」

どこからともなく、現れる九つの尾を持つ大きな狐。

陽乃に寄り添うように現れたそれを見てしまった人々は悲鳴をあげたり、腰を抜かしたりとやや阿鼻叫喚となって

陽乃はため息をつき、顔を顰めて歌野に微笑む。

陽乃「私は狐だから、跡を濁していくわ。フォローしておいてね」

歌野「待っ――」

歌野をその場に残し、

九尾の力を借りて陽乃は全速力で大群の方へと向かう。

生存者を救いたいのなら、少しでも早くたどり着ける手段を講じるべきである。

ならば最も最良なのは、陽乃が向かうことに他ならない


九尾「主様は救いようのない人間じゃのう」

陽乃「最も確実な手段を取るだけ」

九尾「それが主様が無駄に力を使うことだと?」

陽乃「私は、白鳥さんの力を信用していない。無事で済むとは思えない」

だから。と、陽乃は九尾の首元にしがみついて振り落とされないようにする。

陽乃「私はこんな無駄なことに勇者の1人を使う気はないのよ」

陽乃なら、確実に屠ることが出来る

例え、大群が集結して進化型になったりしてもだ。

陽乃「貴女だって、力を貸してくれるもの」

九尾「……どうなっても知らぬぞ」

陽乃「結果なんて、出てからでしかわからないものだわ」

屁理屈だ。

九尾はやや不満げに鼻を鳴らしたものの、
それ以上は何も言わずに、バーテックスの大群へと向かう。


バーテックスの群れがいるのは、比較的都市部に近い住宅街

多くの建物が無残に崩れ落ちているが、

まだどうにか残っているものも多いといった状態。

人が手を入れているような様子は見られない。

生存者はやはり、いないのかもしれない。

九尾「主様!」

陽乃「分かってる――わよっ!」

九尾の声に引きはがされるような形で飛び降りた陽乃は、

その勢いを残したまま、道路を転がって、

半分崩れた外壁を足場として跳び上がり、向かい来る一匹のバーテックスを殴り飛ばす。

陽乃「来たからにはやるわよ」

九尾「主様……」

怪訝な声を漏らす九尾を横目に、陽乃は息を吐く。

多勢に無勢。

バーテックスは目視できる限りを埋め尽くしかねないほどだ


1、九尾の力
2、イザナミの力


↓2


陽乃「貴女の力を貸して頂戴」

九尾「妾では力不足やも知れぬが」

陽乃「問題ないわ。貴女が戦うんじゃない。貴女の力で私が戦うんだもの。力は十分よ」

九尾「くふふっ、口先だけではないと見せて欲しいものじゃ」

イザナミ様の力を使えば一瞬だけれど、

あれはハイリスクだ。

神様の力を借りている今の陽乃でさえ、

気を失ってしまうほどに。

だから正直なところ、あれは使いたくない

白黒の巫女装束めいた衣装

それを一瞬にして身に纏った陽乃は深く、息を吐いて。

陽乃「さぁ、おいで」

陽乃はバーテックスへと挑発するように、手を向ける。

陽乃「憂さ晴らしさせて貰うわ」


↓1コンマ判定 一桁

01~10 無傷 全滅
11~20 軽傷 全滅
21~30 軽傷 
31~40 無傷 全滅
41~50 中傷 全滅 ※特殊
51~60 無傷 
61~70 軽傷 全滅
71~80 軽傷
81~90 無傷 全滅
91~00 無傷

※全滅ではない場合は、もう一度判定


『憂さ晴らしかや?』

陽乃「そうよっ!」

九尾の問いに答えながら、

また一体のバーテックスを蹴り飛ばす。

陽乃「バスで散々絡まれちゃったから」

バーテックスは、無数と呼べるほどの数がいる

これらがすべて集まれば進化型になるのか、完成型になれてしまうのか

いずれにしろ、脅威になる。

だから――

陽乃「八つ当たり」

陽乃を食い殺そうと集まってくるバーテックスを容赦なく殴り、蹴飛ばし、踏みつぶして、

地面へと叩き落していく。

陽乃の力はバーテックスに対して特効で、その体を一撃で粉砕させてしまう。

ただの白餅なら、本当に容易い敵だ。


陽乃「九尾! 力を少しだけ大きく使うわよ」

体の中に満ちる、九尾の力を体の外側へと広げていき、

それと合わせて、右手に流し込む。

目に見えない力をかき集めた握り拳

開けばすべてが抜けて行ってしまうのではと思っているかのように固く握り込んだ手は、

血が流れそうなほどで。

陽乃「ふぅ……」

息を吐く。

握り拳を解いて、力を抜く。

陽乃に襲い掛かろうとしていたバーテックス達が軒並み、動きを止めて引き返す。

目には見えないけれど、

その肌……と言っていいのかは分からないが、

その表面に感じるものがあるのだろう。

だけれど、離れたところで……だ

陽乃「来ないのなら、私から行くわよ」


力強く地面を踏みこむ。

ひび割れたアスファルトが砕け散り、陽乃は射出されたように跳びあがって、

拳が、バーテックスを射ち貫く。

その勢いは止まることなく複数のバーテックスを吹き飛ばし、

頂点に逃げていたバーテックスを足蹴にして、

今度は大地めがけて雷のように、落ちる。

勢いよく道路を転がり、

跳びあがって、もう一度。

その身を銃弾として――バーテックスの軍勢を屠る。

力の消耗は激しいが、

イザナミの力を借りるほどの疲労は感じない。

何より、ちまちまと殴る蹴るよりはずっと、楽だ。

『主様、加減を怠るでないぞ』

陽乃「問題ないわッ!」

息を吐く。

体が熱を帯びている。

けれど大丈夫だ。意識ははっきりとしている

陽乃「あと1回……ううん、2回。それで片が付く!」


周囲のバーテックスを殲滅した陽乃は、

バーテックス以上に陽乃が叩き割ったでこぼこのアスファルトの上で、膝をつく。

陽乃「はっ……はぁ……っ、けほっ、けほっ」

燃え尽きそうな体の熱がゆっくりと引いていく。

一時的に爆発するかもしれないとさえ思ったけれど、

どうやら、死なずには済みそうだ。

九尾「無茶をする」

陽乃「無茶ではないわ。使える力を使っただけよ」

ちょっと、見誤ったけど。と、

陽乃は苦笑して、肩の辺りを払って立ち上がる。

疲労感はあるが、体にダメージはないし、

血を吐いたり、意識を失いそうな感覚もない。

陽乃「バーテックスは?」

九尾「ここにはもうおらぬ」

陽乃「そう。よかった」

戦闘前に残っていた建物は傷つけないように戦った。

生存者がいたなら、きっと、無事なはずだけれど。


↓1コンマ判定 一桁

2、5、7 生存者あり

ぞろ目 特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


バーテックスが狙い定めているように見えた民家に、人はいなかった。

周辺の建物にも人の気配はなく、

バーテックスは殲滅済みだからと、人がいるかどうか少し大きな声をかけてみたが、

返事はなかった。

九尾「無駄足じゃな」

陽乃「アレが集まって完成型にでもなられたら厄介だったし、無駄ではないわよ」

あえて嫌味を言っただけで、

そのくらい分かっているだろう九尾には見向きもせず、陽乃は民家の一室の扉を開く

生存者は、いない。

けれど、いたのだ。生きていた人は。

部屋の中に " いる " それらに目を向けて、腰を下ろす。

陽乃「辛かった? 苦しかった? 悔しかった? それとも……最期は、幸せを感じられた?」

いくつか欠落し、床に散らばっている2人分の生きていた証。

陽乃はそれを1つ1つ、丁寧にまとめながら、声をかける。

九尾「主様、何をしておる」

陽乃「見つけちゃったし、せっかくだから埋葬してあげるのよ」

九尾「ふむ……そうか」


陽乃「何? 不満?」

九尾「いいや、主様がそうすべきと思うのならば構わぬ」

陽乃「……そうすべきと思う。わけではないけど」

霊感なんて常人には眉唾な感覚を多少持っていると自覚する程度には気配に敏感だが、

別に、ここで放置したからってこの人たちが化けて出るなんてことはないだろう。

むしろ、こうして2人の領域に足を踏み入れたことに対しての恨み言が囁かれてもおかしくない。

けれど、いくつかの骨が欠落していることから察するに、

息絶えた後、まだ残る血肉を荒らしに来た何かがいる。

それらがまた来ることはないと思うけれど、そんな場所に置き去りは、気分が悪い。

陽乃「神社の娘としては、どうにかしたいと思っちゃうのよ」

九尾「念仏でも唱えるかや?」

陽乃「冗談止めてよ」

適当なことを言う九尾を睨んで、

集め終えた骨を持ってゆっくりと立ち上がる

陽乃「庭に埋めるわ」

九尾「あまり時間かけると、より強く叱られるぞ」

陽乃「分かってる……それと、ここの家主に化けないで」

写真でも見たのだろう。

見知らぬ人の姿をしている九尾に一言言って、陽乃は埋葬するために庭へと向かった。


民家の庭先に、綺麗に包んだ遺骨を埋める。

様々なことが不本意だったとは思うけれど、

これで少しは、救われるだろうか。

陽乃「……はぁ」

九尾「くふふっ、滅入っておるのう」

陽乃「別に、白鳥さんが明らかに怒ってるとか、そういうのはどうでもいいのよ」

これだけの距離が離れていると、

さすがに、心の声が伝わってくることはないようだが、

その感情はひしひしと伝わってくる

だが、陽乃のため息の理由はそれではない。

陽乃「貴女とは言え、使えばやっぱり疲れたのよ。血の味はしないし、まだ意識があるし、大丈夫ではあるけど」

九尾「ふむ……体に異常がないならば問題はなかろう。じゃが、あの規模を連日続ければ」

陽乃「分かってるから」

イザナミ様の力を借りるよりはずっと燃費がいいけれど、

それでも力を使い過ぎれば、負荷が蓄積していくことになる。

九尾「言う必要はないと思うが、休んだ方が良かろう」

陽乃「言われなくても、休まされるでしょうね」


九尾の力をもう一度借りて戻ると、

バスは元の場所から動いてはおらず、エンジンもかかってはいなかった。

歌野「久遠さん!」

バスの屋根で周囲を警戒していた歌野が陽乃に気づき、叫ぶ。

陽乃「そんな怒鳴らなくたって、聞こえるから」

歌野「どうして、久遠さんはそうなの!? 助けに行ったりしないって様子だったのに、急に……」

陽乃「貴女に何かあったら私が恨まれるじゃない。嫌よ。私、逆恨みとかそういうの」

かなり心配していたといった様子の歌野に対して、

陽乃は飄々と答えて、小さく鼻で笑う

陽乃「適材適所だったと思うけど」

歌野「久遠さんってば、もう……」

彼らは元々諏訪の住民だ。

長年守ってくれていた歌野の方が、傍にいて心強く感じられるはずである。

歌野「だとしても、あんまりだわ……あんな、さも自分は行かないみたいな口ぶりだったのに……」


1、生存者はいなかったわ
2、何もなかったんだからいいじゃない
3、行かないとは言ってないし、貴女が遅いのよ
4、こっちは何もなかったの?
5、何も言わない


↓2


陽乃「何もなかったんだからいいじゃない」

歌野「なにもって……」

陽乃「ほら、怪我もないし」

生存者もいなかったけれど、それはそもそも可能性の低い話だった

だからあれだけの大群を相手に無傷で帰ってきただけで十分ではないかと、陽乃は誤魔化す。

歌野だってそれなりに戦える。

もしかしたら同じように無傷で生還できた可能性もある。

けれど、そうではなかった可能性もあるのだ。

陽乃「良かったとは言いたくないのかもしれないけど、悪くはなかったでしょ」

歌野「だとしても……危ないことは止めて」

陽乃「貴女がしようとしていたことなのに?」

歌野「それは……でも、あれじゃ話し合う意味がなくなっちゃうわ」

陽乃「確かにね」

陽乃は頷いて、逡巡する。

陽乃「次からは善処するわ」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


歌野「絶対よ? 本当、お願いね」

歌野は心配そうに言って、陽乃の手をぎゅっと握る。

バーテックスを殴り飛ばしたり、

朽ちた建物の一部に触れたりとして汚れてしまっているそれを、

歌野はごしごしと拭って。

歌野「向こうではともかく、ここでは久遠さんも大切に思われてるんだから」

1人で無理している姿を見て、

それが当たり前だなんて思われたりしないし、

そうする責任があるだなんて言われたりしない。

むしろ、そこまでしないでと……断られることもあるだろう。

水都「陽乃さん!」

陽乃「うっ……」

バスから降りてきた水都の、怒鳴るような声

後退りしようとした陽乃の手は歌野が掴んでいるので、逃げられない

水都「今度は、私も一緒に1号車に乗りますっ!」


陽乃「別にその必要は――」

水都「陽乃さんがなんて言おうと、乗ります」

サポートが私の役目なのでと水都は陽乃を見つめる。

出てきたときと比べれば落ち着いて感じる声色だが、

表情には強い不服が表れているので、怒ってはいるのだろう。

歌野「目を離したら、また、勝手にどこかに行っちゃいそうだから」

苦笑いを浮かべる歌野

それとは対照的な表情で詰め寄ってくる、水都

陽乃は歌野に掴まれたままの手を振って、振りほどこうとするが、

存外に、歌野の力は強い。

歌野「農作業で鍛えたこの握力、久遠さんでも簡単には振り解かせないわ」

陽乃「そういうのは農作業にだけ使って頂戴……」

歌野だけでなく、水都にも捕まってしまった陽乃はため息をついて肩を落とす。

本気で振り解こうとすればどうにかなるだろうけれど

陽乃「やることはやったから、逃げないわよ」

諦めて、肩の力を抜く。

逃げ出したい気分ではあるが、それで状況が好転するわけではないのだ


√ 2018年 9月8日目 夜:移動②

↓1コンマ判定 一桁

2 8 バーテックス
  5 戦闘痕

22 進化型①
88 完成型


√ 2018年 9月8日目 夜:移動②


夜、人工的な光がすべて失われた真っ暗な世界を、バスのライトが照らす。

みんなが寝静まるような時間になっても運転手を交代しただけでバスは走り続ける。

そうしなければ、一向に四国にたどり着かないし、

同じ場所に長く留まれば留まるほど、襲撃を受ける可能性が高まってきてしまうからだ。

陽乃「ねぇ、ちょっと……席は余ってるんだから移動したら?」

時折、がたりと揺れる静まり返ったバスの中に、陽乃の小さな声が漏れる。

すぐ隣にいる水都

そして、最初から隣の席だった女子高生の二人からは、首を横に振られてしまう。

わざわざ、補助席まで引っ張り出しての3人席

何が妥協なのか

本来は窓際だったはずの陽乃が真ん中で、その両隣を2人が陣取っている形だ

水都「目を離したら、どこか行きそうなので」

陽乃「この状況でどこに行くって言うのよ……」

「バスの屋根上とか」

陽乃「……」


窓から出て行こうとしたり、逆に乗り込もうとしたり。

何でもありだという女子高生に、

水都も「陽乃さんはあんまり自分を大切にしてくれないんです」と、知ったように言う。

その言い方はあんまりだ……なんて、陽乃は思わない。

残念でもなく、間違っていないのだ。

陽乃「窓から出た方が効率良いじゃない」

水都「……」

「……」

陽乃「2人して見つめてこないで」

あり得ない。と、

口にはせずにじっと見つめてくる2人

向こうでなら、忌避されるだけだった陽乃としては、

この距離感は、気味が悪くも感じてしまう。

2人が悪いわけじゃない。

陽乃が、その距離感に嫌悪感を覚えてしまっているだけだ。

水都「今日はうたのんが担当してくれるので、陽乃さんはゆっくり休んでください」


1、別に、疲れてないのだけど
2、私、こういう感じ嫌いなのよ
3、そうね
4、貴女は、補助席なんて使ってないで、普通に休みなさい


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「私、こういう感じ嫌いなのよ」

水都「陽乃さんが、危ないことしたからです」

陽乃「危ないことって、あれは必要だからしたことだって言ったじゃない」

絶対に必要だったわけじゃないと言われてしまうと、そうではあるのだが、

生存者がいる可能性もあった以上、

陽乃が行かなくても歌野が行ったのは、その時の話からも伺える。

そして、

陽乃が行くにせよ、歌野が行くにせよ

どちらか一人しか行くことが出来なかったのも、避けられない。

その中で、

陽乃が行くことにしただけのことだ。

歌野の隙をついて専行したのは非があるかもしれないけれど、

危ないこと。と言われるような行動については、歌野ではなく陽乃が行ったと言うだけ。

陽乃「白鳥さんが行ってても、同じようにしてるわけ?」


水都「うたのんは、大丈夫じゃないですか……」

力を使ったことによる反動

歌野は今まで、それによって入院が必要になったり、

その場で気絶したりとか、血を吐いたりだとか、

明らかに危険と言えるようなことが起きたことはなかった。

しかし、陽乃は違う。

毎回毎回、そんなことばかり。

歌野とは単純に比較することは出来ない。

水都「陽乃さんは力が強い分、何があるか分からないじゃないですか」

目を離したすきにまた無理を重ねる可能性もあるし、

そうではなく、

時間差でなにかしらの症状が出ないとも限らない。

水都「心配なんです」


「勇者様がかなりの虚弱体質って噂は本当だった……?」

陽乃「嘘よ」

陽乃が弱いのではなく、力が強すぎるのだ。

しかも、

適性があるからその程度で済んでいるのであって、

歌野達が力を使ったとしたら、その程度では済まない。

水都「陽乃さんの力が強いだけですよ。陽乃さん自身は、凄く強いんですけど」

陽乃「そこまででもないわよ。強いなら、そうはならないもの」

「つまり、つよわいってことね」

良く分からないことを言う女子高生を無視して、

陽乃は小さく息を吐く。

今のところ体の調子はいいので、

水都が心配しているようなことにはならないはずだが……

陽乃「だから2人?」

水都「私はそうですけど」

「私は、ゆ……陽乃ちゃんがお疲れだから休むと思って」

休んでいる間に何かが起きたらすぐに知らせる係。と、彼女は笑う


陽乃はわずかに顔を顰めて、彼女を一瞥する。

勇者様と呼ばれるのも好きではないが、

距離感が一気に縮められたかのような"陽乃ちゃん"というのは、少し不愉快だ

陽乃「勇者様はどうしたのよ」

「陽乃さんって呼ばれてるから、良いのかなと思って」

水都に好きにしていいと許したのが悪かったのか、

それが、ここにきて引っかかったようだ。

その時に想像できるわけがないので、仕方がないが。

水都は巫女としての責務を理由にはなれないだろうし、

隣の女子高生は、妹云々を理由に離れたがらないだろう。

なら、陽乃が離れるという手がまだ残されているが、

そこまで避けるべきだろうか。


1、陽乃ちゃんは止めて。嫌いなの
2、勝手にしていいわ。もう。
3、私が別の席に移るわ
4、疲れたから休むわ。邪魔しないでね


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「陽乃ちゃんは止めて。嫌いなの」

水都「はる……っ」

驚いて目を見開いている女子高生

ちゃん付ではないものの、名前で呼んでいる水都も慌てて口を閉ざす。

陽乃が勝手にしろと放っておいてくれているだけで、

正しく許可を貰えているわけではないからだろう。

「……そっか」

やがて、少女が口を開く。

「巫女様だったら、私も呼んでいいのかな?」

陽乃「そういうわけではないわ」

陽乃はすべての人にそれを拒んでいるわけではない。

実際、

おばあちゃん達が呼ぶことには苦言を呈することはなかったし、

水都が呼ぶのだって、放置している。

陽乃「貴女は特に……親しみを込めているのが嫌なの」


本人が実際にそういう意図で使っているかは別として、

陽乃からしてみれば、陽乃 " さん " というのは、まだ敬意があってのものと言えなくもない。

けれど、陽乃ちゃんというのはまるでそれが感じられない。

親しい友人に対してのような呼びかけ。

陽乃は、それが嫌なのだ。

「そう、なんだ」

勇者様だから? と、彼女は聞こうとしたのかもしれない。

しかし、それを実際に問うことはなく飲み込んで、頷く。

「わかった。じゃぁ……勇者様」

彼女は素直に諦める。

「今は、勇者様で我慢しておきます」

いや、素直ではない。

陽乃「今はって何よ」

「だって、いつかは、呼べるかもしれないし……」


陽乃「無理よ」

陽乃は、その楽観的な言葉をバッサリと切り捨てる。

今のところそれを許すつもりは毛頭ないし、

そもそも、四国と諏訪では勇者の扱いが違う。

陽乃が勇者というよりも化け物……バーテックスに近い敵対勢力のような扱いを受けていることは差し引いても

常に身近に感じることが出来ていた諏訪と違い、

四国での勇者は崇敬の対象となっていて、丸亀城のところで共同生活をすることになっている。

陽乃がそうなるとは限らないけれど

いずれにせよ、

陽乃と彼女達が近くで過ごしたり、簡単に会うことが出来るような場所ではない。

陽乃「勇者はその重要性から、大社が管理している場所で共同生活を送るんだもの。貴女が立ち入れるような場所じゃないから」

「……巫女様は?」

陽乃「藤森さんは、どうかしら。でも、巫女ならだれでもというわけではないのは間違いないわね」


今は、誰が担当しているのだろうか。

それさえ分からないけれど、水都は恐らく歌野のそばにいさせて貰えるのではないかと陽乃は目を細める。

たどり着ければの話だが、

歌野は諏訪から来たばかりの勇者。

まだなじみの薄い環境下で、

巫女とさえ切り離されるというのは精神的に辛いだろうと考慮してくれれば。

陽乃「だから無理よ。諦めて頂戴」

「そっかぁ……」

彼女は、残念そうに言いつつも、

その瞳はまだあきらめてはいないようだった。

「なら、この移動中が期限ってことだね……案外、吊り橋効果とか――」

陽乃「寝るわ」

「え、ちょっと――」

解放して貰えないならと、陽乃は会話を一方的に切り上げて目を瞑る。

眠気はないが、目を瞑っていればいつか、眠れるだろう。


√ 2018年 9月9日目 朝:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0 戦闘痕
6 バーテックス 発見
9 バーテックス 襲撃

66 進化型
99 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から


1日のまとめは明日の再開時

では少しだけ


1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(出発、杏達、名案、独断専行、何もない)
・ 藤森水都 : 交流有(出発、独断専行、嫌い、陽乃ちゃん)
・   九尾 : 交流無(力を借りる)

√ 2018/09/08 まとめ

 白鳥歌野との絆 81→82(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 88→89(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 75→76(良好)

鬱積 0%


√ 2018年 9月9日目 朝:移動①


昨日も夜もまた、大した問題が起きることもなかったようで、

帰路としてはとても順調に四国へと向かうことが出来ている。

バーテックスの軍勢を発見したことはあっても、

襲撃を受けたわけではないこと。

まだ初日だったこともあってか、

連れ出した住民たちの様子にはそんな大きな変化は感じられない。

陽乃「……」

「……あ、勇者様起きてる」

陽乃「まだ寝てても問題はないわよ」

時間としては、まだ早朝

運転手が頑張ってくれているものの、

それ以外の住民たちはぐっすりと眠っている。


陽乃も、いつの間にか休むことが出来ていたようで、

昨日の疲れはあんまり残っていない。

体から少しずつ力が抜けていくような感覚は、諏訪を守る結界のものだ。

今はまだいいが、

離れれば離れるほど、その消耗は激しくなっていく。

神樹様が神々の集合体であるように

陽乃も、その体を依り代として、諏訪の神々を宿している。

その陽乃が諏訪から離れた今、

陽乃が結界の維持を放棄すれば、諏訪はあっという間に結界が消失することだろう。

「勇者様は、もう起きるの?」

陽乃「無駄に寝ても疲れるだけだから」

もう1つ隣の水都はまだ、眠っている。


1、外に出る。
2、九尾と話す。
3、歌野に声を送ってみる
4、貴女は、四国でどうするの?


↓2


寝てても良いって言うくせに。と、

何か聞こえた気がしたが、無視して目を瞑る。

九尾は車内にはおらず、

昨日と同じように屋根の上にいるようだ。

『何用じゃ』

陽乃『どう?』

『ふむ……見通しは悪くない。この様子ならまたしばらくバーテックスとやらはまた現れぬやもしれぬな』

陽乃『そう……』

九尾が言うなら、

本当にこの周辺にバーテックスの気配がないのだろう。

ということは、四国の方に向かったのだろうか。

『小娘共が争ったとも思えぬからのう。主様の力の余波を警戒しておるとも言えよう』

陽乃『私の……?』


いくら陽乃とて、

諏訪からこの辺りまで力の影響を広げることは出来ない。

なのにこの辺りのバーテックスまで逃げるのは違和感がある。

陽乃はそう思ったが、

九尾は喉を鳴らすような笑い声を零して。

『主様の力を感じることは出来たじゃろう』

それに、

陽乃は力を使った際にかなりの数のバーテックスを一緒に消滅させた。

その情報がバーテックス側で共有されている可能性もある。

であれば、これ以降のバーテックスも何らかの理由がない限りすでに四国側に向かっている可能性は高い。

『じゃが、おらぬとは限らぬ』

陽乃『そうね……』

昨日もいたのだ。

今日もいるかもしれない。

そして、

その塊の1つに、杏達がいる可能性もある。


昨日は歌野達にいろいろと言われてしまったが、

やはり、放置することは出来ないだろう。

出来る限りその数が少ないことを願うばかりだ。

陽乃『伊予島さん達が居そうだったりする?』

『知らぬな』

今のところはその様子は全くないらしい。

諏訪を出て1日

ほんの少し通る愛知までも、まだ距離がある。

今日1日で名古屋の辺りにまで行ければ、だいぶ良い方だろうか。

恐らく、行けてその半分だろう。


1、今日も様子を見ててくれるの?
2、ねぇ、四国はどうなってると思う?
3、上里さんを感じることは出来ないの?
4、そろそろ、諏訪の結界を解くべきかしら
5、四国に着いたら、逃げないとね


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


陽乃『上里さんを感じることは出来ないの?』

『出来るわけがなかろう』

諏訪は通信機というつながりがあったが、

今は完全にそう言ったものが喪失している状態だ

四国内部にいるならともかく、

そうではない今は、いくら、力を貸し与えていようとひなたのことを感じ取ることは出来ないようだ。

『じゃが、あの娘が害されることはなかろうて』

ひなたは若葉を見出した巫女として、一般の巫女とは扱いが違っているし、

それだけでなく、元から素質が高かったとされている。

切り離されているため

力が常に供給されているようなことにはなっていないが、

そこに九尾の力が加わっているのだから、巫女としての力は飛躍的に上がっていることだろう。

それなら、きっと、下手な扱いは受けないだろう。

『主様は、身を案じておるのかや?』

陽乃『まさか……私と白鳥さんみたいに状況を知ることが出来ないかと思っただけ』


ひなたから状況が伝わるようになれば、

四国の被害や、杏達が運良くたどり着いているのかどうか

それらの情報を得ることが出来る。

前者は知らされても、バスの速度をあげたりするくらいしかできることはないが、

後者は、余計なことを気にする必要がなくなる

そのメリットは陽乃達にとっては大きい。

だが、やはり、難しいのだ。

陽乃『でも、そうよね。いくら貴女でもそこまでは難しいのよね』

『無論じゃ。妾とて神ではない』

陽乃『そうね。できないことだってあるのよね』

陽乃は笑い交じりに零す。

それはそうだ。

出来たらいいなという程度の話。

元々の計画からは何も変わらない。

陽乃『仕方がないわ。それなら、予定通りあの二人を探しながら進むしかない』


『ふむ……じゃが、この様子じゃと見つけることは叶わぬやもしれぬぞ』

陽乃『そう?』

『あまりにも、何もないのが問題じゃな』

バーテックスがいないから気にせず直進した可能性もあるが、

杏達の時もここまでもぬけの殻だったとは考えにくいのだ

少しはバーテックスもいたはずで、

それであれば、少しくらい何かしらの痕跡があってもいいのに、

それが一切感じられない。

となれば……

陽乃『ルートがすでに変わってる可能性もあるのよね』

『うむ』

2人が別ルートで進んだ場合、

その先のどこかに滞在していても、

陽乃達はそれに気づくことなく素通りしてしまう。

その場合は、やはり、諦めるしかない。


√ 2018年 9月9日目 朝:移動②

↓1コンマ判定 一桁

9 戦闘痕
2 バーテックス 発見
7 バーテックス 襲撃

22 進化型
77 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

√ 2018年 9月9日目 朝:移動②


道中、道や建物の倒壊によって数回のルート変更は必要になったが、

やはり、バーテックスが姿を見せることはなく、

戦闘痕のような形跡も全く見られないまま、

暫くバスを走らせて、次の休憩予定地点に到着する。

歌野は徹夜もあって、まだバスの中で眠っているようだ。

水都「うたのんの方に行ってきますね」

陽乃「好きにしていいわ」

休憩時間だし、

そもそも、唯一の巫女である水都はそのあたり自由だ。

何も問題はない。

「勇者様は任せて!」

陽乃「……」

「へへっ」

陽乃に睨まれても、彼女は笑って誤魔化そうとする。

水都「陽乃さんに無理について言ったりはしないでください。危ないので……ただ、陽乃さん」

陽乃「なによ」

水都「せめて、何をするか。どこに行くのかくらいは伝えてください」


陽乃が彼女に従うとは思っていないようで、

なら重要な連絡は怠らないようにと水都は願っているようだ。

だが、陽乃とてそこまで無鉄砲ではない。

陽乃「ちゃんと伝えるわよ」

水都「約束ですよ」

水都はそう言って、2号車の中に入っていく。

1号車の人々や、

2号車の中で外に出たいと求めた人たちは外に出て、各々休憩している。

窓を開けてはいても、

バスの中にずっといるのと、

外に出てくるのでは、そのストレスも大きく変わってくるだろう。


「勇者様、どこか行きますか?」

陽乃「ついて来る気?」

「出来る限りは」

遠くへの見回りとかならさすがについていけないけど。と、

彼女は窺うように言う。

出来たらそれはなしでお願いしたいといった様子だけれど

しかし、近くならついてくる気のようだ。

陽乃「貴女も暇ね」

「それはそうだよ……まぁ、こんな状況だからね」

休憩するくらいしかやることがない。

だったら、着いていきたいところについていく

それは何らおかしくはない。


1、見回り(近く)
2、見回り(遠く)
3、邪険にされて、良くも離れないわね
4、私の力にあてられて早死にするわよ
5、イベント判定


↓2


↓1のコンマ

01~10 女子高生①
11~20 バーテックス
21~30 痕跡
31~40 九尾
41~50 少年
51~60 子供(良)
61~70 九尾
71~80 女子高生②
81~90 子供(悪)
91~00 痕跡


「あら、2人で逢瀬でもするのかしら」

立ち止まっている2人のもとを訪れる、長身の女性。

いつものように透き通るような金色の長髪、

妖艶さを漂わせる赤い瞳……九尾だ

陽乃「何しに来たの?」

「逢瀬……?」

九尾「勇者様がいたので、これからどうなさるのかと思って」

くすくすと、やや上品さを感じさせるような素振りで笑い声を零す九尾は、

その目を細めて、陽乃の傍らにいる少女を見下ろす。

「……?」

女子高生は不思議そうに首を傾げる

九尾が化けている女性をまじまじと見つめて、

陽乃へと振り返る

「こんな人、いたっけ……」

九尾「何を言っているの――ずっと、いたでしょ」


九尾の赤い瞳が光ったようにも見えた一瞬

はっとした少女は雰囲気をがらりと変えて、照れくさそうに微笑む。

「そうだった! 思い出した……ごめんなさい、勇者様のことばっかり考えてたから……」

ついつい度忘れしちゃった。と、彼女は言う。

陽乃「はぁ……」

九尾「良いのよ。気にしないで」

九尾の力による、改変

いたかもしれないと思わせる程度なら、たやすいことらしい。

陽乃「それで?」

九尾「そうそう。少しお話がしたいの。お時間を頂けないかしら」

陽乃「……それは、彼女がいたらだめな話?」


陽乃はすぐ隣の女子高生を一瞥する。

彼女がいないと内緒話になって

どうせ後で聞き出そうとしてくるだろう。

あとであしらえばいいだけではあるのだが、それは少し、煩わしい。

九尾「ふむ……」

九尾は少し考えるようにして、

少女を見下ろす。

彼女は一般人で、

陽乃の事情も、今話しているのが昨日姿を見せた化け物のような生物ということも知らない。

その阿鼻叫喚が、九尾によってなかったことにされているのも。

九尾「いない方が良いと思うけど」

陽乃「そう……ということだから」

陽乃はそう言って、

女子高生に離れるように言う。

「……分かった」


彼女は離れてくれたが、

陽乃達のことを心配そうに見つめている。

そこからさらに2人で距離を取って、陽乃は九尾へと振り返る。

陽乃「それで?」

九尾「単刀直入に言うけれど、諏訪はもう諦めた方が良いわ」

陽乃「その話なら――」

九尾「今は良いけれど、進めば進むほど力を消耗することになる。今日だって、完全に疲れを取れていなかったでしょう」

昨日、九尾の力を借りて戦闘したのが影響しているが、

だとしても、疲れが残っているのは、勇者としては少し厳しいものがある。

九尾「これからもっと、結界の維持に力を必要とするようになる」

陽乃「だから、絶てって?」

九尾「四国まで持たせるつもり? また、倒れるわ」


1、ええ。やって見せるわ
2、明日までは、続けるわ
3、辛くなるまではつづけるわ
4、そうね。そろそろ、諦めるべきかもしれないわね


↓2


陽乃「ええ。やって見せるわ」

九尾「……本気?」

陽乃「私はいつだって、そうだったじゃない」

陽乃は少しも悩まず

そして、九尾へと笑みを浮かべる。

陽乃「諦めるのが嫌いなのよ。出来ることがあるならやり通す。それが、私」

九尾「死ぬとしても?」

陽乃「死ぬ気はないわ。それも、いつも言っていることだと思うけど」

陽乃はそういうと、近くの石ころを踏みつぶす。

陽乃「……私はたぶん。この世界で一番、諦めの悪い女だわ」

九尾「馬鹿め」

陽乃「そんな私を選んだ貴女が悪いのよ」

女性の姿に似つかわしくない言葉を吐いた九尾

陽乃はいつも九尾がする喉を鳴らすような笑い声を聞かせて

陽乃「貴女が諦める必要のない力をくれたんだから」

九尾「妾には限りがある」

陽乃「ええ。でも、あの瞬間の私には諦めるしかなかった」


3年前のあの日、陽乃には抗う力がなかった。

諦めない力がなかった。

けれど、そこに九尾が力を与えてしまった。

諦めなければ、どうにかなるかもしれない力を与えた。

だから、諦めずにここまで来た。

死んでいたはずの母を守りぬいて、

周囲にどれだけ煙たがられようと、貫き通してきた。

諦める気はないと。

陽乃「諏訪に置いてきた。諦めるしかなかった。でも、こうして結界の維持が出来るのなら、私はまだ諦めなくて済む」

その力を与えてくれたのは九尾ではないけれど、

でも、最初は九尾だったのだ。

陽乃「諦めなくたって、失ってしまうものはあるんだもの。努力でどうにかなるものだけは、どうにかしたいじゃない?」

九尾「そうか」


陽乃「なによ……珍しく、私が本心を教えてあげたって言うのに」

素っ気ないじゃない。と、

陽乃は本気で思っていないような声色で言う。

九尾「それを小娘ども……あの子達にしてあげる気はないの?」

陽乃「ないわ」

歌野にはもう、ほとんど隠し事が出来ない状態になってしまっているため、

その中では特別な立ち位置になるが、

だとしてもそこまで言う気はない。

九尾「信じられない?」

陽乃「信じたくない。特に、勇者でもない人はね」

九尾「そう。なら、白鳥さんは良いの?」

陽乃「ある程度はね」

筒抜けである以上、そこを無理に閉ざす気はない。

その分、力の譲渡が出来て強化が出来ている。

なら、それはそれでいい。

歌野が強くなれば、生存率が高まるからだ


九尾「主様がそれでいいならばいいが……主様と似たような人間もいることを忘れるでないぞ」

陽乃がそうであるように、

陽乃との関係を諦めないような人がいることだってある。

水都も、歌野も、杏達だって

どちらかと言えば完全に陽乃側の人間だ

そしておそらく、

陽乃のそばにいた彼女も。

陽乃「分かってるわよ」

九尾「ならば良い」

九尾は息を吐いて、長い髪を払う。

九尾「そろそろ戻りましょうか。あの子に、変に勘繰られても面倒だもの」

陽乃「ええ」

もう遅いだろうけど。と、陽乃は眉を潜める。

バスでは根掘り葉掘り聞かれそうだ。


√ 2018年 9月9日目 昼:移動①

↓1コンマ判定 一桁

1 戦闘痕
3 バーテックス 発見
8 バーテックス 襲撃

33 進化型
88 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ

√ 2018年 9月9日目 昼:移動①


九尾は比較的若い女性の姿に化けていたため、

理由がない限り1号車に乗ることになっている立場にあったのだけれど、

いつものようにバスの上にいたこともあって、

女子高生は例の女性がいないことを気にしていたが、

陽乃に深く聞いてくるようなことはなかった。

陽乃「……」

陽乃は、車内から外を眺めて息をつく。

本当に何もない。

九尾が言うようにバーテックスが居なければ、杏達も別のルートなのかもしれない。

もちろん、バーテックスに襲撃されないのは助かる。

が、戦闘の痕跡も何もないというのは、困ってしまう。


この調子だと、本当にルートから逸れているということになる。

戦闘痕がないということは、

襲撃を受けて殺されたりしたわけではないはずなので、自分からルートを変えたということになる。

2人が大幅にルートを変えなければならなかったほどの理由があったということだ。

そうなってくると、嫌な予感しかしない

「……何か、心配事?」

陽乃「別に」

「ずっと、外を見てて疲れない?」

陽乃「そんなに弱くはないから」

彼女からの言葉には、素っ気なく返して目を細める。

外は、元々は市街地だったであろう場所に入っていて、

バスは、荒れた車道を走っている。


場所的に、休憩するには悪くないタイミングだろうか

路上にある案内をいくつか目で追ってみると、

近くには小学校や、病院などもあるようだ。

2人がいるとは思えないが、

休憩するニは良い場所ということは、

2人が休憩に選んだ可能性もあるということ。

予定よりは少し早いけれど、休憩を入れてしまう方が良いだろうか。

「勇者様?」

陽乃「……」

陽乃は少し考える。

毎回予定を変えるのは得策ではないが

少しくらいなら、別に、問題はないはずだ。


1、休憩を入れる
2、車内の様子を確認する
3、彼女と話す
4、九尾と話す


↓2


陽乃「この辺りで休憩にしましょ」

「えっ?」

予定よりは早いことを気にする彼女だが、駄目とは思っていないようだ。

「勇者様、疲れてる?」

陽乃「違うわ。場所がちょうど良さそうだからよ」

市街地というのは、

バーテックスが隠れ潜みやすい場所も散見されるけれど、

人が隠れるのにもちょうどいい

……というのは、建前で。

陽乃「大丈夫よ。何か異常があったわけではないわ」

むしろ怖いくらいに順調だ。

陽乃は、運転手と住民に順調に進めていることを話したうえで、

場所も良さそうなので休憩にすることを伝える。

まだ、みんなのストレスは大きくないようで、

すんなりと、受け入れてもらうことが出来た


歌野「そう……大丈夫だったならよかった」

陽乃「本当に何もないわ」

バーテックスの出現も、襲撃も、

杏達の痕跡も、住民たちの不和も。

歌野が眠ってからのことを簡潔に話した陽乃は、

休憩が予定よりも早かったことについて、

歌野は問題ないといった様子だった。

歌野「久遠さんが必要だと思ったならそれでいいと思うし……それに、理由があるんでしょ?」

陽乃「まぁね」

学校や病院など

今でも十分に雨風を凌げるような建物があり、

もしかしたら、太陽光発電などで、電力がわずかにでも残っていたりする可能性だってある。

2人がそう言った場所を休憩地点に選ばないとも限らないのだ。

「勇者様、見回りに行くの?」

陽乃「……」


1、そうよ。ついてこないで
2、……来る?
3、藤森さんと行くから問題ないわ
4、確認に行くだけよ
5、白鳥さんに任せるわ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「そうよ。ついてこないで」

「ぅ……」

歌野「えっと……何があるか分からないか仕方がないわ」

陽乃の突き放す言葉にしゅんっとした女子高生に歌野のフォローが入る。

どこに行くにしても、

バーテックスが突然現れないとも限らないし、

そうでないにしても、

安全を確認していない建物を確認する場合は、倒壊などの危険性もある。

陽乃や歌野なら、足場が崩れて落下したとしても

対応することは可能だけれど、そんな力のない彼女達はそれだけで命にかかわってくる。

陽乃「私、バーテックスは倒すけれど、それ以外は知らないわよ」

「そうだよね……足手まといになっちゃうよね」

彼女はそう言って、

少し、尾を引いたまま笑みを浮かべる。

「分かってる。ちゃんと帰ってきてね」

陽乃「私が戻らないとバスが出られないし、時間までには戻るわ」


歌野「そういうことじゃないような……」

多分だけどと呟く歌野に、陽乃は目を細める。

ちゃんと帰ってきてねと言った彼女の表情を見れば、

それがバスの出発を心配してではないことくらい、陽乃は気づいている。

けれど、だからどうだというのか

ええ。分かってるわ。と、笑顔で返してあげればいいのか

大丈夫よ。心配しないで。とでも言ってあげればいいのか。

そうだろうけれど、陽乃がそう返してあげる理由がない。

むしろ、積極的に避けるべき言葉だ。

親しさや気遣いを感じさせるような言葉なんて、不要なのだ。

陽乃「病院の方に行ってくるわ。時間までに戻ってくるけど……来なかったら察して頂戴」

歌野「駄目よ。必ず戻ってきて」

はっとした歌野は目力を強めて陽乃を見る。

歌野「私には……私達には久遠さんが必要よ」

陽乃「そうね」

陽乃が命を落とした場合、

歌野が勇者として戦えなくなってしまう可能性がある。

それはつまり、全滅を意味するようなものだ。

歌野「そういう意味じゃ、ないわ」

渋い顔をする歌野の突っ込みを聞き逃したふりをして、陽乃は病院の方に向かった。


01~10 痕跡A
23~32 生存者
45~54 痕跡B ※杏達以外  
56~65 野犬
67~76 痕跡A
89~98 遺骨 

↓1のコンマ

※ぞろ目特殊
※それ以外はなし


飛び散ったガラス片

風で運ばれてきただろう砂粒や枯葉などが降り積もっている足場

建物自体はまだ崩れそうにはないが、

どう見ても、人が立ち入った形跡は感じられない。

陽乃「……こういう場所になら、来てると思ったんだけど」

この近辺ではとても目立つ建物だ。

屋上からなら、周囲一帯を見渡すことだってできる。

しかし、1階はもちろん、

九尾の力を借りて上がった屋上にも痕跡はない。

陽乃「素通りしたのかしら」

九尾「ふむ……あ奴らは勇者として行動しておるのじゃろう? ならば、必ずしも都市部で休息を取ったとは限るまい」

陽乃「でも、これまでもまるで何もなかったじゃない」

九尾「主様ではなく、白鳥歌野が移動する場合どこまで進めるのかを確認した方が良いのやもしれぬな」


陽乃であれば、九尾の力を使えば半日で到着できてしまう。

九尾に乗らないままでも、

力が飽和状態にあるとあまり眠れない体質に陥っている陽乃であれば、

みんなよりも大幅に距離を稼げてしまうだろう。

だから、陽乃基準ではなく歌野基準で考えてみるといいと九尾は言う。

陽乃「……一理あるわね」

大きな狐の姿を曝け出している九尾

九つの尾がパタパタと動くたびに、背中を押す強い風が生まれる。

陽乃「とはいえ、問題はその勇者の足でたどり着いていないことなのよ。どこかで足を止めていると思うんだけど」

長期滞在したのか、

移動はしていたがゆっくりだったのか

どちらにしても、その痕跡がどこかに残されているはずなのだ

九尾「学校の方も行くのかや?」

陽乃「当たり前でしょ」


23~32 遺骨  
56~65 痕跡A
89~98 痕跡B ※杏達以外 

↓1のコンマ

※ぞろ目特殊
※それ以外はなし


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃は学校の方にも確認に出てみたが、

そこにも、杏達が来たような痕跡は見られなかった。

陽乃「……分かってはいたけど、全然ね」

杏達の痕跡、生存者の痕跡

何一つ残されていない。

九尾「致し方あるまい」

杏達の痕跡はどこかにあって貰いたいものだが、

生存者に関しては絶望的だ。

3年前のあの襲撃で多くの命が失われてしまったし、

こんな荒れた土地で、守ってくれる存在もないまま生きていくことは不可能に近いからだ

九尾「主様。あ奴らがおらぬならばここにはもう用はなかろう」

陽乃「そうね」

振り返れば自分の足跡が見える。

長く誰も来ていなかったであろう学校。

陽乃が、途中から通うことのできなかった学校。

陽乃「……」

九尾「主様?」


九尾「何かあるのかや?」

陽乃「ううん。何にもないわ」

この場所にも、

陽乃の記憶にも。

小学校は途中までで、中学校はもう、中学と呼べるような状態ではなくて。

陽乃の学生時代は、嫌な思い出ばかりだ。

それもまだ、終わってはいないけれど

陽乃「ちょっと、感傷に浸りそうになっただけよ」

陽乃は嘲笑気味に言って、辺りを見回す。

倒れた下駄箱、朽ちた壁、黒板

そして、

きっと、一瞬は立てこもることも考えたのだろう。

バリケードになりかけの机や椅子がある。

陽乃「戻りましょ」

九尾「主様」

陽乃「なに?」

九尾「早死にするぞ」

陽乃「でも、少なくとも今日は死なないわ」


陽乃が腑抜けているように感じたからなのか、

九尾は唐突に死の宣告をしてきたが、

陽乃はそれをさらりと受け流して、息をつく。

陽乃「なによ……白鳥さん達にでもあてられた?」

九尾「いいや、主様は主様じゃ。その身を失うことは好まぬ」

陽乃「そう……」

九尾の目が細められる。

何かを言いたげで……けれど、

九尾はそれを口にすることなく大きな鼻から勢いよく風を送って陽乃を躓かせる

陽乃「ちょっと!」

九尾「主様、あまり力は使うでないぞ」

陽乃「それは、イザナミ様の話?」

九尾「妾でもじゃ。結界の維持を継続するのであれば、負担は軽い方が良かろう」

陽乃「まぁ、そうだけど」

九尾「……うむ」

九尾の妙な雰囲気に、陽乃は怪訝な表情を浮かべながらも、

追及しても答えてはくれないだろうと、学校の外へと歩き出す。


√ 2018年 9月9日目 昼:移動②

↓1コンマ判定 一桁

5 戦闘痕
7 バーテックス 発見
0 バーテックス 襲撃

77 進化型
00 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

※進化型はなし


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


√ 2018年 9月9日目 昼:移動②


九尾『主様』

陽乃『……来たわね』

バスの上にいる九尾からの呼びかけに、陽乃は目を細める。

何かが近づいてきている気配を感じる

何か……とはいうが、それが何者なのかは、ちゃんとわかるくらいに今の陽乃の感覚は鋭敏だ。

陽乃『進化型はいないようね』

九尾『迎撃するのかや?』

陽乃『それ以外に出来ることがあるの?』

陽乃と歌野、あとは水都くらいだったなら

隠れてやり過ごすことも可能だったかもしれないが、

一般人を連れている以上、それは無理だ。

「ば、化け物が来るぞ!」

バスの右窓際の席にいた男性が叫ぶ

それを皮切りに、全員が声を上げ……ブレーキが力いっぱいに踏み込まれた感覚が乗客を大きく揺らがせる


陽乃「落ち着きなさい!」

騒がしくなっていく人々に向かって、怒鳴る。

騒いだって、悲鳴を上げたって、怖がったって、

出来ることは変わらないし、何も変わらない。

その騒がしさが紛らわせてくれるわけではなく、それを聞いてヒーローが駆けつけてくれるわけでもない。

陽乃「貴方達に出来ることが、そうやって叫んで囮になることなら止めないわ。続けて」

静まった車内に陽乃の冷たい声が残る。

みんなが黙って陽乃を見る。

迫りくる化け物……バーテックスに唯一対抗できる勇者の一人

陽乃は、勇者とは認めていないが。

陽乃「生きたいなら、このバスからは一歩も出ないことね」

バーテックスの数は、昨日に比べて明らかに少ない。

数十程度だろうか。

これなら、たやすいことだ


陽乃がバスから出るのと同時に、

後ろに控えていた2号車からも歌野が降りてくる。

歌野「久遠さん!」

陽乃「見えてるわ」

バーテックスはもう寸前のところまで迫ってきているが、

歌野も、陽乃も

大きく慌てているような素振りも見せない。

陽乃「白鳥さん、頭は平気なの? 目は覚めてる?」

歌野「ええ。問題ないわ」

陽乃「そう……」

陽乃は小さく息をついて、歌野への力の供給を少しだけ強める

歌野「んっ……」

陽乃「貴女1人でも十分だろうけど、余計な荷物があるから私もやるわ。さっさと片付けるわよ」


↓1コンマ判定 一桁

1 歌野
3 九尾
5 水都
7 少女
0 少年


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から


※戦闘に関しては、陽乃と歌野2人のため無傷で勝利しています

遅くなりましたが少しだけ


戦力差が圧倒的な戦闘を終えた陽乃と歌野は、すぐにバスへと戻って、

場所を変えることにした。

殲滅したため、すぐに攻め直してくるとは限らないが、

結界もなしに襲撃を受けた場所に留まり続ける気にはなれない。

陽乃「……」

次から次へと流れていく景色

最初よりも少しだけスピードを上げたのは、早急に離れるためだ。

隣には当たり前のように、水都がいる。

水都「久遠さん……何か気になることでもあるんですか?」

陽乃「……」

戦闘を終えてからというもの

ずっと窓の外を見ていたからだろう。

水都が心配そうに声をかけてくる。

陽乃「別に、ただバーテックスに知能があるのか、少し疑問に思えただけよ」

水都「バーテックスにですか?」

陽乃「だって、こっちに攻めてきたんだもの。貴女なら攻める?」


陽乃の嘲笑交じりの問いかけに、水都は首を横に振る

攻めてきたバーテックスは、

僅かでもバスに近づくことは出来ずにすべて叩き落され、

払い除けられ、殴り飛ばされて殲滅されるに至った。

たった2人に対しては過剰戦力とも言える軍勢ではあったが、

相手は、陽乃と歌野だ。

神の創造物に対する特効を持つ陽乃と、その恩恵を与っている歌野

それを相手にするには、力不足が過ぎた。

もちろん、だからと言って手を抜かなかったのだから

無傷で凌ぐのは容易かった。

水都「ただ群れていたところに陽乃さんが襲撃したことへの意趣返しだったとか……」

陽乃「バーテックスが私を恨んでるって? 面白い冗談ね」

陽乃は口元でさえ笑みを作らずに呟く。

陽乃「先に恨ませたのは……ううん。まぁ、それは分かったものじゃないわよね」

水都「陽乃さんは人類が先に人類に恨みを抱いたって考えているんですか?」

陽乃「さぁ? 始まりが恨みだとは限らないし」


>>207訂正 下から2行目



陽乃の嘲笑交じりの問いかけに、水都は首を横に振る

攻めてきたバーテックスは、

僅かでもバスに近づくことは出来ずにすべて叩き落され、

払い除けられ、殴り飛ばされて殲滅されるに至った。

たった2人に対しては過剰戦力とも言える軍勢ではあったが、

相手は、陽乃と歌野だ。

神の創造物に対する特効を持つ陽乃と、その恩恵を与っている歌野

それを相手にするには、力不足が過ぎた。

もちろん、だからと言って手を抜かなかったのだから

無傷で凌ぐのは容易かった。

水都「ただ群れていたところに陽乃さんが襲撃したことへの意趣返しだったとか……」

陽乃「バーテックスが私を恨んでるって? 面白い冗談ね」

陽乃は口元でさえ笑みを作らずに呟く。

陽乃「先に恨ませたのは……ううん。まぁ、それは分かったものじゃないわよね」

水都「陽乃さんはバーテックスが先に人類に恨みを抱いたって考えているんですか?」

陽乃「さぁ? 始まりが恨みだとは限らないし」


陽乃「なんにせよ、少し疑問は残るわ」

水都「戦力を確認に来たとか」

陽乃「ええ。可能性はあると思う」

陽乃がいることはすでに知られていただろうけれど、

それ以外にいないか、いるのか

そして、それらはどれほどの力を持っているのか。

その確認をしに来たと考えれば、

無謀な襲撃も頷ける

特に、人間のように死んだら終わりというわけではないバーテックスは、

あるかもわからない命を捨てやすい。

陽乃「だとしたら、次はより多く攻めてくるかもしれないわよ」

水都「攻めずに、進化体を出してくる可能性もありますね」

陽乃「全力で足止めしてくることもね」

考え得る可能性はいくつもある。

そのいずれにしても、四国へは極力急いだ方が良いだろう。

なにより、

バーテックスが現れ始めたとなると、いよいよ、杏達の生存率が低くなる

水都「そういえば、今回はうたのんと協力したんですね」


1、それが?
2、そこにいたから利用しただけよ
3、それが確実だったから
4、力を見ておきたかったのよ


↓2


陽乃「力を見ておきたかったのよ」

水都「うたのんの戦い、見たことないんでしたっけ」

陽乃「私、病弱だから」

水都「……そうですね」

水都は少し悩んでから、小さく笑う。

諏訪にいる間、

陽乃は死ぬ一歩手前まで行ったことでさえあり、

ほとんどを療養に費やした。

その間も襲撃はあったが、

対応したのは歌野と杏達で陽乃は参戦していなかったため、

歌野の戦い方は聞いただけでしかなかったのだ。

陽乃「強いとは聞いていたけれど、3年間守ってきただけはあったわ」

やはり、

九尾などの補助を除いた単純な戦闘能力では歌野に分があるとみて間違いない。

もっとも、対バーテックス戦と対人戦では違いが大きく、

歌野の性格からして、その差を埋めるほどの躊躇いがあるかもしれないが。

陽乃「私の力を送っても何も問題なく戦えていたから、戦力としては十分すぎるほどね」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

ではすこしだけ


水都「うたのんに影響は?」

陽乃「今のところはなさそうね」

今回は特に、戦闘に置いて称することを前提とした供給を行っていたため、

供給されるそばから消費し続けることで、

歌野の体への影響は極最小限にとどめられたことだろう

陽乃「この様子なら、戦闘でしっかりと消費してくれれば問題はないと思うわ」

水都「そう……ですか。陽乃さんも本当に体は大丈夫なんですよね?」

陽乃「今回は大して力を使ってないから」

今回は本当に、歌野が頑張っていた。

昨日は陽乃が戦ったということもあったが、

陽乃が力を使うことで倒れることを危惧しての部分が大きいだろうか。

陽乃「使える勇者がいるって言うのは便利ね」

水都「そういうこと言うのは、そろそろなしにしませんか?」


陽乃「そういうこと?」

水都「とぼけないでください」

文句があると顔を顰める水都を陽乃は一瞥する。

確かに言いたいことは分かっているが、

とぼけるような言葉が、その意味しか持たないわけでもないだろう。

聞かなかったことにしておく……とだって、取れるはずだ。

水都「もっとこう、優しい方した方が良いですよ」

陽乃「意外に役立つとか?」

水都「……」

陽乃「冗談よ」

意外だったのは事実だが、

そう言われるべきはむしろ自分の方ではないかとすら思う状態だった。

歌野は頼れる。

それは間違いない。

戦力面で頼れば、陽乃の生存率は飛躍的に高まるはずだ。

陽乃「白鳥さんは優秀よ。絶対に、向こうに連れ帰らないといけないわ」


歌野なら、四国でもみんなからの信頼を得られるはずだ。

諏訪を3年間一人で守ったという実績もある。

それに対する信頼と期待は、もしかしたら若葉達以上のものになる可能性さえある。

それを考えれば、やはり、優しい言葉は不要だ。

陽乃「だからこそ、というのもあるわ」

水都「どういうことですか?」

歌野にとって陽乃と密接な関係があるというのは、

その功績を無に帰すほどの汚点にでさえなりかねない

四国に着いてからのことは、そろそろ決断すべきだろう。

歌野達が見逃してくれるとは思えないが、

だとしても逃げ出すか、

彼女達の愚かな覚悟に従ってあげるべきか。

陽乃「わざわざ傷を負う必要はないってことよ」

陽乃はそう言って、笑みを浮かべる。

歌野は、陽乃が独占していい人間ではない。


√ 2018年 9月9日目 夕:移動①

↓1コンマ判定 一桁

1 戦闘痕
4 バーテックス 発見
9 バーテックス 襲撃

44 進化型
99 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


√ 2018年 9月9日目 夕:移動①


バーテックスが再度攻めてくることも警戒していたが、

幸いにも、それは杞憂だったようだ。

ひとまず、バーテックスの気配が途絶えたところで、休憩に入る。

無傷で問題なく処理で着たとはいえ、

バーテックスによる襲来を受けたため、

住民たちの中には、強い不安を抱いてしまった者もいる。

今回は大丈夫だったが、次も無事だとは限らない

それを考えるなというのは、

力のない一般人には無理な話だからだ。

「勇者様、凄く強かったんだけどな……」

陽乃「……見てたの?」

「出るなとは言われたけど、見るなとは言われなかったから」

へへっと笑う女子高生から目を逸らして、

陽乃は目を細める


陽乃「おぞましいものを見ることになるとは思わなかったの?」

「まさか」

陽乃「偉く自信があるのね」

「だって、勇者様たちは負けないから」

あの時とは違って勇者が、戦っているだけだ

人々が逃げ惑っているわけではないし、

それが、襲われているわけでもなかった。

「勇者様が負けさえしなければ、私達はその悍ましい光景は見なくて済む。むしろ……」

女子高生は、口を閉ざす。

浮かべていた笑みは陰って、少し、ためらいを感じる表情を見せる。

「勇者様って、私達以上に……」

陽乃「なに?」

「……ううん。何でもない。清々したよ。ちょっとだけね」



1、周辺調査に向かう
2、言いたいことがあるなら言ったらどうなの?
3、歌野と合流
4、九尾と話す
5、水都と話す


↓2


陽乃「言いたいことがあるなら、言ったらどうなの?」

「えっと……別に、勇者様を悪く思ってるとかそういう話じゃないよ」

陽乃は言葉こそ不機嫌さを感じさせるものの、

そこには何ら心が籠っているわけではなかった。

けれど、

まだそこまで親しいわけでもない彼女は少しばかり怯えた様子を見せた。

「ただ……これ、見て貰った方が早いかな」

彼女はそう言って、携帯端末を陽乃に向ける。

画面には陽乃の姿が写っていた。

戦闘中の陽乃の姿を、動画と動画から切り取っただろう画像が数枚保存されているようで、

丁度バーテックスを殴り飛ばしている瞬間は、まさかの壁紙になっている。

陽乃「なに? ストーカー宣言?」

「違う……これ。ここ。この勇者様」

彼女は数枚の中にある一枚、陽乃の表情が見えるものを表示させる。

「勇者様、凄い顔してる……まるで、映画で見た復讐に駆られた人みたいな顔」


「だから、もしかしたら勇者様はここにいる誰よりもバーテックスを憎んでるんじゃないかって」

陽乃「……なるほど」

自分で見ることは出来ない瞬間

言われてみれば確かに、

彼女が凄い顔をしていると言うだけあるなと、陽乃は小さく笑う

復讐に駆られているとは、言い得て妙だ

陽乃「復讐なんて空しいから止めるべきとでも?」

「まさか……そんなことを言えるほど、私の人生は深くはないし長くもないし」

復讐したくなる気持ちは、僅かにでも理解がある。

けれど、それを止める理由にはなり得ない。

空しいと断じられる根拠がない。

これが空想であるなら、そんな主人公めいた言葉も言えるだろう。

何かよくわからない理論と勢いで押し切れるだろう。

けれど、これは現実で、意味不明な理論も勢いもない。

「……燃え尽きたりはしないでね」

陽乃「……」

「気が済んだからもう悔いはないとか……そういうのは、止めて欲しいなって」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しずつ


陽乃「私がそうするって?」

「するかもしれないし」

復讐に駆られて、それをやり遂げた人の話なんて、

身近にあるわけもなく、

空想の中でのものでしかない。

けれど、全てを失った虚無感というものは、彼女も経験がある。

それは酷く、形容しがたい感覚だった。

考えるという当たり前のことが出来ない、体を動かすという当たり前のことが出来ない。

自分が呼吸をしているかどうか、それさえも分からない。

それと同じかは分からないが、

似たようなことになるかもしれない。

「……あ、もしかして、私のために生きて。とか言ったら、勇者様頷いてくれたりする?」

陽乃「馬鹿なこと言わないで頂戴」


親しくもない人にそんなことを言われたって、顔を顰めるくらいだ

間違っても頷いたりはしない。

そもそも、陽乃は死ぬ気がないのだ。

陽乃「貴女に言われなくたって、私は死なないわ」

だが、全てを成し遂げた後、

気力を失って燃え尽きないとは限らないし、

それだけの間力を使い続けて生きていけるとも限らない。

陽乃「勝手なこと言わないで」

陽乃は冷たく突き放す。

下手に付きまとわれても困る。

歌野も水都も

そして、この人も。

誰だって、近づくべき人間ではないのだから。

↓1コンマ判定 一桁

7 ぞろ目 特殊

それ以外終了


「ごめんね」

陽乃「……別に、謝って欲しいとも思ってないから」

陽乃は彼女からそっぽを向く。

彼女がそれを二度としないわけではないだろうから、

謝られたところで……と陽乃は思う。

杏達がそうだし、水都と歌野もそう。

女子高生は勇者や巫女ではなくただの人間だが、

その執拗なまでの行動は似たものがある。

きっと、まだ諦めない。

陽乃「変なことをしたり言ったりさえ、しなければね」

「……うん」

陽乃「……」

彼女は、自分の腕に付けているミサンガを、軽く撫でる。

それ以上は、何も言わなかった。


√ 2018年 9月9日目 夕:移動②

↓1コンマ判定 一桁

8 戦闘痕
5 バーテックス 発見
3 バーテックス 襲撃

55 進化型
33 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


√ 2018年 9月9日目 夕:移動②


陽乃「体の方は問題なさそうね」

歌野「ええ。すこぶる調子がいいわ」

陽乃の力を受けて戦っていた歌野だったが、

それから時間が経っても、特別な問題は起きていないようだ。

それどころか、調子がいいと言う。

陽乃は歌野の体をじっくりと観察するように眺めて、目を細める。

陽乃「だいぶ、馴染んだのかしらね」

歌野「久遠さんの力?」

陽乃「戦闘中にずっと力を受け続けていたから、体中に循環したのかも」

歌野「何か、悪いことがある?」

陽乃「さぁ? 最終的には私みたいに死ぬこともあるんじゃないかしら」


陽乃のようにイザナミの力に強く侵されているわけではないため、

死ぬようなことはきっと、無い。

しかし、歌野の体は陽乃の力……所謂、穢れに侵されている。

少なからず何らかの影響が出てくるはずだ。

つながりが強くなったことによる、思考の共有

それとはまた別に、何かがある。

しかし、今は分からない。

歌野「私、久遠さんよりも先に死ぬのかしら」

陽乃「私の力で死ぬのは、私が先よ」

歌野「……嫌な冗談は、止めて欲しいわ」

歌野の心配そうな表情に、陽乃は笑みを浮かべる。

バーテックスとの戦いや、病気などを除いて

単純に陽乃の力だけで考えるなら、

先に死ぬのは、陽乃だろう。

陽乃「冗談だと良いわね」


1、影響を一番強く受けるのは私だから
2、九尾に聞いてみる?
3、ねぇ。私って復讐に駆られているように見えた?
4、伊予島さん達の捜索に向かいましょ

↓2


陽乃「伊予島さん達の捜索に向かいましょ」

歌野「でも、1人は残らないと」

陽乃「そうね……なら、貴女は近場で良いわ」

ある程度、使える場所がないかの確認は行っているが、

使える場所を見つけた段階でそこを休憩所として使うようにしている。

その為、周辺全てを調査しているわけではない。

陽乃「距離のある場所は私が調べに行ってあげるから、近くくらい調べられるでしょ?」

歌野「それくらいなら、やれるわ。というか、いつもやってるけど……」

陽乃「そう?」

歌野「ただ……全く」

陽乃「仕方がないわ。駄目で元々よ」

見つからないこと前提と言ってもいい状態だ。

運が良ければすでに四国に到着しているし、

運が悪ければ、死んでいる


陽乃「ただ、何かしらの痕跡でも見つけたら教えて頂戴」

歌野「ええ。もちろん」

現在、

戦域から離れるためにスピードを上げたこともあって、

想定よりも距離を稼げているため、

愛知県と岐阜県の県境までもう少しと言った場所にまで来ている。

何か問題が起きなければ今日中に愛知県に入って、

明日には琵琶湖の辺りにまで行けそうだ。

これだけ進んでいれば、

そろそろ杏達の痕跡の1つでも見つかったっていいはずだ。

歌野「生存者がいたら?」

陽乃「本人が望むなら連れてきなさい」

歌野「……望まなかったら、置いていくの?」

陽乃「生き残る気のない人なんて、連れて行っても荷物にしかならないもの」


12~21 痕跡A
34~40 生存者   
56~65 痕跡B ※杏達以外
78~87 痕跡A
89~98 遺骨 

↓1のコンマ

※ぞろ目特殊
※それ以外はなし


陽乃「……」

住宅街のはずれにある図書館

一部崩壊してしまっているが、

残りはまだ崩れる心配はなさそうで

雨風を凌ぐくらいなら出来そうな状態だった。

球子は忌避するだろうけれど、

杏なら、ここには喜んで行くかもしれない。

先を急いでいるため、移動するときは諦めるだろう。

しかし、休憩場所に選んでもおかしくない。

陽乃「九尾、どう?」

九尾「ふむ……」

図書館を崩しかねないため、

大きな妖狐ではなく、大人の女性の姿をしている

彼女は、鋭い瞳をより細めながら、

真っ赤な瞳を光らせる。

九尾「僅かに人間の匂いが残っておるな。少し、見てみた方が良かろう」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます。
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


九尾に言われ、中を進んでいく

棚が崩れて、散らばっているほんの一冊を手に取った陽乃は、顔を顰める

陽乃「……まるで地獄ね」

九尾「そうかや?」

陽乃「伊予島さんが見たら気絶しそうだわ」

殆どの本が風化したようにボロボロになってしまっていて、

中には……というより、ほぼ全ての本には敬遠されるような小虫が蠢いていたりして。

読書が好きだと言っていた杏には刺激が強いのではないかと、考えてしまう。

思えば、彼女の部屋にはそう思わせるほどの本があったのだ。

九尾「……」

陽乃「どれも読めそうにはないわね」

九尾「そうじゃな」

利用者が使うテーブルの多くもダメになってしまっていて使い物にならなそうで

杏達に限らず、誰かが使ったような形跡はない。


九尾「主様、こっちじゃ」

九尾の導きに従って進むと、

関係者以外立ち入り禁止の扉を通って、貴重な蔵書などが保管されている部屋に通じている部屋に入る。

扉がしっかりと残っているからか、

部屋の中は余所に比べて、綺麗に整っている。

九尾「ここじゃな」

陽乃「……そう。みたいね」

つい最近、ひとの手が加わっただろう、不可解な小ぎれいさ。

出したら出しっぱなしの本などもなく、

しかし、一部の棚は開けられたことを示すように、手形が残っている。

陽乃「ねぇ、九尾なら指紋とか分かったりする?」

九尾「さすがに、そのような力は持ち合わせておらぬ」

指紋鑑定

過去の透視……なんて

そこまでする力はないと九尾は呆れたように言って、

その姿を、杏へと作り替える。


杏「こうして手を合わせてみれば分かりますよ」

陽乃「少し手が小さいと思う。これ、伊予島さんじゃなくて土居さんの方じゃない?」

杏「ならこっちで」

最初に合わせた手形と比べて、少し大きい手形

そこに、杏の姿を模した九尾が手をかざしてみると、

ぴたりと合う。

陽乃「土居さんの方もやってみて」

杏「……仕方がないなぁ」

面倒くさそうに言いながら、

九尾は一応、球子の姿を使って、もう一方の手にも合わせる。

それも、ぴったりだ。

陽乃「2人が来たのね」

球子「そうみたいだな」

陽乃「そう……」

少なくとも、ここまでは問題なくたどり着いた証

そして、杏達のたどった道を今のところは陽乃達も追えているという証明

陽乃「血のにおいはしない?」

球子「ああ。問題ない」


九尾は淡々と答える。

球子の姿を模しているため声色は球子なのだが、

抑揚のないそれはなんだか、球子のように聞こえない。

陽乃は杏が取ったであろう本を手に取る。

3年前の時点でだいぶ古ぼけていたであろう本

外国の言葉で書かれているので、

翻訳もされていない、貴重な一冊だろうか。

陽乃「何か……残していたりするかしら」

球子「そうだなぁ」

杏達は、陽乃達がこんなにも早く後を追ってくるとは考えていなかっただろうから、

陽乃達に対してのメッセージは何もないだろう。

しかし、いるかもしれない生存者に対して何らかのメッセージは残しているかもしれない。

球子「少しだけ見てみるか」


↓1コンマ判定 一桁

0,9 メッセージ
ぞろ目 特殊


集合時間までのわずかな時間を使って探してみたが、

杏達が残したと思われるメッセージは何も見つからなかった。

陽乃「そろそろ戻るわよ」

九尾「うむ」

見つからないなら見つからないでそれまでだ。

そもそも、駄目で元々だったのだから、

杏達と同じルートを通れていることが分かっただけでも、良いだろう。

陽乃「何日前にここを通ったのか分かればよかったんだけど……」

九尾「そこまでは測りかねるが、1日2日ではあるまい」

陽乃「ええ」

それは、分かっている。

だが、そうだったら……とは、少し思ってしまう

陽乃「まぁいいわ。早く戻りましょ」

送れたらうるさいし。と、

陽乃は嫌そうに呟いて、来た道を戻っていく


√ 2018年 9月9日目 夜:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0 戦闘痕
7 バーテックス 発見
9 バーテックス 襲撃

77 進化型
99 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

※完成型はなし


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


陽乃『九尾……何か不穏なんだけど』

九尾『うむ。主様の想像している通りじゃ』

九尾の、普段と変わらない声

しかし、陽乃の感覚に引っかかる何かの気配はバーテックスのものだと九尾は言う。

九尾から見て気にするほどのものではないような

容易く対処できる程度の戦力なのかもしれないけれど、

その気の抜き方は、危険だ

陽乃『襲撃なら襲撃だって言って頂戴』

九尾『じゃが、この程度なら――』

陽乃『程度の問題じゃないのよ。大事なことだから』

陽乃は少し怒ったように言って、窓を開ける

「勇者様?」

陽乃「襲撃が来たから行くわ。大人しく待ってて」

外は、バスのライトしか明かりがなく真っ暗で、

しかし、遠くの方から、白い何かが向かってくるのが見える。

陽乃「バスを停めて!」

陽乃の指示に、眠っていた人々が目を覚ます。

寝ぼけ眼な彼らに、「騒がず、出てこないように」と言って真っ先に窓から飛び出す。


陽乃「……確かに、少ないみたいだけど」

向かい来るバーテックスを遠くに眺めながら、

陽乃達のいる1号車の後ろ、2号車の中にいる歌野へと声をかける

声をかけると言っても、

勝手に伝わる本心を利用したものなので、声には出さない。

『私も行くわ!』

陽乃「……」

襲撃が来たことを伝えると、

歌野の心が大慌てで飛び込んでくる。

窓が開いて歌野が飛び出そうとしてくるが、

後から延びた手に引き戻されていく

九尾「主様一人でも十分だと思うが」

陽乃「そうね……」

目に見える範囲と、感覚に引っかかる気配で大体の数は分かる。

歌野は昨日も夜間警戒でしっかりと休息を取れていない上に、

昼間には戦闘もあったばかりだ。


1、陽乃単独
2、歌野と協力


↓2


陽乃「九尾、行くわよ」

九尾『良いのか?』

陽乃「小言は後で聞くわ。白鳥さんを浪費するわけにはいかないの」

昨夜の警戒

今日の昼間の戦闘

その時に陽乃の力を流したこともあって、

しっかりと休ませないと、今後に響く可能性が高い。

規模が大きいなら、それでも運用を検討するが、

そうではなく小規模であれば陽乃一人の方が今後のことを考えれば、良い。

……はずだ。

陽乃「イザナミ様の力も借りられないから、貴女で行くわ」

九尾「うむ。そもそも過剰じゃろう」

歌野「久遠さん!」

バスから出てきた歌野に手を向けて、止まるようにジェスチャーする。

陽乃「私が対処するから貴女は控えてて」

歌野「でも!」

陽乃「無理する必要はないわ」


歌野「本当に、大丈夫なの……?」

陽乃「駄目だと思ったら出てきたら良いじゃない」

陽乃は歌野へと目を向けることなく、

そう言い捨てて、九尾の力を借りて装束を身に纏う。

陽乃の体調のこともあって気がかりなのは分かるが、

敵は白餅の形をしたもののみで、

進化型や、その上位型のようなバーテックスは見られない。

これなら、力を強く使わなくても問題なく対処できそうだ

昼に襲撃を受けて、夜に襲撃を受けて。

1日で2回目というのが、不安ではあるけれど。

陽乃「……はぁ」

イザナミ様ではなく、九尾の力だ

きっと、問題はない。

↓1コンマ判定 一桁

01~10 軽傷 
45~54 軽傷
78~87 軽傷

それ以外は無傷


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しずつ


バーテックスの軍勢は数も少なく、

敵に対して特効を持っている陽乃一人でも、何の問題もなく殲滅することが出来た。

幸い、怪我などもなかったため、

もう一人の勇者である歌野や巫女である水都に特別、注意を受けることはなかったのだが、

前回同様、

陽乃の隣には水都が同席することになった。

水都「今のところ、体に違和感はないんですよね?」

陽乃「ないって言ったでしょ」

水都「でも、1日で2戦した分、消耗も大きかったんじゃないですか?」

陽乃「この程度では何も問題はないわ」

陽乃はそう言って、水都から顔を背けるが、

その先には、例のごとく女子高生がいる。

「……無理してない?」

陽乃「貴女も同じことを何度も聞かないで頂戴」


無駄に質問をい繰り返されるといったものぐさな対応を見せる陽乃だが、

2人は不快そうな表情を見せずに、安堵を感じさせる。

女子高生の方は伝え聞いただけになるが、

陽乃は力を使った影響で暫く意識不明だったりなんだりと言った前科があるため、

どうしても、気がかりなのだろう。

陽乃があまり関わられたくないというのは2人も承知している。

だとしても、そこだけは確認しておきたいのだ。

水都「……陽乃さん、隠してそうだから」

「なんか、自分のことだからとか言って隠しそう」

陽乃「隠さないわよ」

隠せないというのが正しい。

水都と女子高生に隠しても

歌野にはその疲労も伝わってしまうだろうから、

隠したところで、歌野から伝わっていく。

そもそも、今までのような状態だと隠せるような症状には収まらない。


陽乃「何か問題がありそうならちゃんと話すから、あまり話しかけてこないで」

水都「……約束ですよ?」

「絶対ですよ?」

陽乃「貴女は関係ないでしょ……」

水都は巫女だが、

もう一人は何も関係のない一般人だ。

伝える道理はない。が、

どうせ、歌野か水都から伝わるし、

バスに乗る以上、否応なく不調は知られることになる。

水都「教えてくれるなら、それでいいです」

水都はまだ心配そうな顔をしながら、ひとまずとそう言う。

水都「夜間警戒はうたのんが引き継ぐので、陽乃さんは休んでくださいね」

陽乃「……別に問題はないんだけど」

水都「駄目です」


1、大人しく休む
2、休んだふりをして、やり過ごす

↓2


陽乃「分かってるわよ」

戦闘がなければ継続して陽乃が担当してもよかったが、

戦闘を行ったとなると、

さすがに、継続して夜間警戒は疲労がたまってしまう。

陽乃が元々危険性があるからというだけではなく

歌野の場合でも、この対応は変わらない

とはいえ、今回は陽乃が単独で対応したからというのもあるけれど。

水都「ちゃんと休んでくださいね」

陽乃「分かってるってば……」

かといって、すぐに休める体ではない。

普通の人間の時は早寝早起きが基本で、

勇者になってからもそれを継続してきてはいたが、

段々と、眠る必要が薄れたように、眠気を感じないことが多い。


陽乃は水都達に休むと言った手前、目を瞑る。

陽乃「……」

出来る限り、心の中は真っ白にする。

2号車にいる歌野には今の陽乃が眠っていないことも伝わっているのだろうけれど、

連絡する手段がなければ水都達には伝わらない。

水都「……」

「……」

2人からの穴が開くほどの視線が陽乃に向かう。

陽乃は顔を顰めたり、寝返りを打ったりとそれを避けようとするが、

少し視線を外したかと思えば、また、目を向けてくる。

そんな時間が暫く続いて、ふと、途切れる。

水都「……今日はもう、何もないと良いな」

「そうだねぇ……勇者様は強いけど、毎回戦ってたらきっと……いつか」

水都「そうならないために、2人で対応してるんです」

水都はそう言って、でも。と、呟く

水都「最悪の場合も、考えておく必要はあるかもしれません」

初日は襲撃こそなかったが、

ここにきて数時間の間はあったものの、襲撃があった。

ここからさらに頻度が増したり数が増えてきたりしたら、最悪の場合はあり得る。


↓1コンマ判定 一桁

0 水都
8 女子高生

ぞろ目特殊

※それ以外は終了


√ 2018年 9月9日目 夜:移動②

↓1コンマ判定 一桁

1 戦闘痕
5 バーテックス 発見
7 バーテックス 襲撃

55 進化型
77 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


√ 2018年 9月9日目 夜:移動②


話声は聞こえず、

けれど、大小さまざまな寝息が聞こえてくる車内。

どこの座席かは分からないが、誰かが「うるさい」と、呟く

生理的なものか、癖か

陽乃はそこまで詳しくはないのだけれど、

いびきが聞こえるというのは、我慢できない人もいるのかもしれない。

陽乃の隣二人は静かに眠っているが、

やや陽乃の方に寄りかかるような形になっている。

眠っている―実際には眠っていなかったが―のをいいことに、

陽乃の手には、左右それぞれ2人の手が触れている。

陽乃「……」

眠ろうと思って、数時間

眠ることが出来ていない陽乃は、薄目を開けて……また閉じる

バスが急停車したりしていないので、

今のところ、何も問題なく進むことが出来ているようだ


歌野が夜間警戒で起きているからだろう。

その心の内側が聞こえてくる。

陽乃が水都達と仲良くしているのか、

ちゃんと休んでいるのか

体は本当に大丈夫なのか

杏達はどこにいるのか、無事なのか

歌野はそれをずっと気にしている。

陽乃「……」

確かに、杏達の居場所は気になる所だ。

現在のルート上に立ち寄った形跡があったため、

今のところあとを追えているようだが、

途中で変更されていたら途絶えてしまうし、

そもそも、どこで詰まったのかが気になる所だ。


1、九尾と会話
2、大人しく眠る
3、杏達について考える
4、四国に着いてからを考える


↓2


陽乃の力で広範囲を一掃し、杏達の帰還

そして、四国への襲撃開始

それがあってなお、陽乃達が1日で2回の襲撃を受けたことを考えると、

杏達はそれ以上の頻度の戦闘を……おそらく、避けて通っているに違いない。

陽乃「……」

戦闘痕が今のところ見られないため、避けているかそもそも敵がいなかったかの二通りになるはずだが、

敵がいなければ約1週間かけてもたどり着かないはずがないので、

戦闘を避けてきたと考えるのが正しいはずだと陽乃は考える。

ある意味、

だからこそ、陽乃達が襲撃を受けたとも考えられる

杏達が戦闘を避け、

そうして残ったバーテックスの襲撃を今受けている……だとしたら。と、陽乃は眉を潜める。

今こうして戦いながら進んでいる道は、

もうすでに、杏達の通ったルートから逸れているのではないだろうか。


とはいえ、そもそも徒歩と車ではルートがまるで変ってくる。

特に、杏達は勇者のためある程度のショートカットも可能としているので、

バスで移動している陽乃達とは、多少なりと道が変わってしまうのは仕方がないことだ。

杏達が、兵庫の方から四国に向かうか

それとも岡山の方から入るかでも変わってくる

杏達なら、おそらくどちらのルートからでも四国に入れるはず。

襲撃で橋が崩れていなければだが。

陽乃達が襲撃を受け、戦闘を回避せずに殲滅しているため、

周囲に杏達がいるなら音を聞きつけて近付いてくることもあるかもしれない。

その場合、

襲撃の規模は途方もないものになる。

杏達が、周囲に隠れていなければならないほどの軍勢

陽乃と歌野がいて

そのうえで杏達が加わるなら、それでも殲滅は可能だろうか?

進化型や完成型がいても?

陽乃はそれを考えて、難しいかもしれないと判断する

少なくとも、一般人含めて犠牲無しは無理だろう。


↓1コンマ判定 一桁

1,7 歌野
3 九尾


歌野『久遠さん、眠れてない……?』

陽乃が色々と考えこんでいたからだろう。

その一部が歌野の方へと流れていたようで、

陽乃が眠れていないのではないかと気にしているようだ。

本心が伝わることは歌野も知っていることだが、

それを用いて会話をする。というような器用さはまだないため、

陽乃がそれに答えてあげる必要はない。

明日、歌野から何か聞かれることになるかもしれないが。

歌野『やっぱり、伊予島さん達のことを気にしているのね……』

陽乃「……」

心外だわ。と、思いかけて陽乃は飲み込む。

それが歌野に伝わると、

眠っていないことまで筒抜けになってしまう。


1、もう休む
2、心外だわ
3、気にはするわよ。今後に関わるんだから
4、必要なことだもの


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

では少しずつ


陽乃は目を開く

前に歌野はいないが、そこにいるかのように細める。

必要なことだから。

杏達の生死は、これからの戦いのみならず、

四国に戻った際の陽乃に対する大社や人々の反応だって左右される。

どうしても、気になってしまうのも無理はないと陽乃は考える

それも歌野に伝わったのだろう。

歌野『……眠れてないんだ』

意外にも。というほどではないが、

歌野から陽乃へと流れてきたのは、杏達を気にしている理由に対してではなく、

眠っているはずの陽乃が起きていることに対してのものだった。

歌野『もしかして、聞こえてるから?』

自分の内側に潜めたものが言葉として伝わっているせいかと歌野は考えたようで

何も考えないようにしないと。と、やや困っているのが伝わってくる。


陽乃は、休息が何も寝るばかりではないと、呆れたように吐露する。

みんなして休め、寝ろ

そう言ってくるが、

寝ることに努めなければならない人だって中にはいるのだ。

聞こえているせいで寝られないなら、

そもそも、ここ数日全く眠れていないことになる。

歌野も陽乃も

伝わることを自覚していながら、それをうまくコントロールすることは出来ていない。

伝える言葉を選ぶ程度なら、どうにかならないこともないけれど、

それを完全にせき止めることは出来ない。

歌野『久遠さん、力使ってばっかりだから……何があるかわからないのに』

まるで病弱な子ども扱いだ。

もっとも、あながち間違いでもないのが痛いところだけれど。


陽乃は、体がダメだったらそれも伝わってしまうと言う。

そこまで来ていないから、何も問題ないとする陽乃の判断

歌野達は、だとしてもと不安なようだ。

諏訪に来てからすぐに倒れ、血を吐き、悪化して、

神様の力を授かったかと思えば、また、気を失って。

諏訪での陽乃は本当に病弱な子供だったし、

陽乃が中々周囲を頼ろうとしないというのが、響いているのだろう。

歌野『伊予島さん達はきっと無事よ』

それはどうだろうか。

運が良ければどちらかだけ生存というのも十分に考えられる。

もちろん、一番いいのは戦闘を避けた結果時間がかかっただけで、

無事に四国にたどり着いていることだ。

しかし、四国にも襲撃があったとなると、

四国周辺には諏訪がそうだったようにバーテックスが無数にいるかもしれない。

歌野『なるほど……そのせいで入ることが出来ない可能性もあるわ。だと良い……良くない、けど、良いのに』


四国周辺にまでたどり着いているが、

四国襲撃をもくろむバーテックスがうじゃうじゃといるために、

その場でとどまっているしかないというのも、可能性としてはないわけではない。

それは決して、良い状況とは言えないが、

2人が生存しているなら、悪くない話だし、

杏と球子を加えた4人

そして、四国周辺なら若葉たちも出て来ることが出来れば、

四国入りはほぼ確実に成功すると言えるだろう。

問題は、進化型や完成型……と思われるまだ見ぬ新種が現れた時だ。

陽乃の力なら善戦は可能かもしれないけれど、無傷で済むとは思えない。

歌野『久遠さん一人じゃないんだから、大丈夫よ。絶対に無理はさせないわ』

歌野は、偽りなくそれを伝えてきて。

歌野『頑張るときは私も一緒。だって、私の力が久遠さんのものなら、私は久遠さんの一部なんだから』

意気込みを、思う。

内側が曝け出されている状態を、

もうすっかりうまく扱えるのではないかと陽乃は訝しんだが、

歌野はそんなことはないと、照れくさそうなものが流れ込んできた。

1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(共闘、陽乃単独、杏達について、必要なこと)
・ 藤森水都 : 交流有(力を見ておきたかった、陽乃単独)
・   九尾 : 交流有(ひなた、結界維持)

√ 2018/09/09 まとめ

 白鳥歌野との絆 82→84(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 89→90(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 76→77(良好)

鬱積 10%


√ 2018年 9月10日目 朝:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0 戦闘痕
3 バーテックス 発見
5 バーテックス 襲撃
9 特殊(再判定)

66 進化型
44 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

戦闘痕規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高


√ 2018年 9月10日目 朝:移動①


翌朝、日が昇ったのかどうかもわからない空模様の中、

気にせずに外へと出ていた九尾から、声がかけられる。

九尾『主様』

陽乃「きゅっ――」

それとほぼ同時に、バスがブレーキを踏まれてゆっくりと停まる。

山間の道はもう過ぎたので、倒木やがけ崩れによる通行止めではないはずだが、

ビルでも倒壊しているのかとバスの正面、大きく視界の開けたところから外を見ると、

明らかに、バーテックスの襲撃以外の痕跡が残っているのが見えた。

陽乃「少し外に出るわ。念のため、他の人はここから出ないで」

水都「私も行きます!」

陽乃「貴女もよ。私と白鳥さんで確認するわ」

一度戦闘のあった場所だ

バーテックスがもう一度来ないとも限らないため、

水都にはバスの中で待機していてもらった方が良い。


陽乃がバスから降りると、

先にバスから降りてきていた歌野が半壊した家屋のそばで振り返る。

歌野「久遠さん。これって、そう……よね?」

陽乃「……おそらく」

歌野「……」

歌野が心配そうな表情を見せたが、陽乃は辺りを見渡して、息をつく

陽乃「この感じだと、戦闘の規模は大したことはなかったはずだわ」

歌野「そう?」

陽乃「2人が私達とは違うにしても、あまりにも街への被害が少なく見えるでしょ」

歌野「言われて、見れば?」

陽乃「分からないなら分からないで良いわよ別に」

戦闘に関係ない建物も多くが崩れたり半壊したりしており、

杏達の戦いによる被害とそうではないもの区別が付きやすいわけではない。

直下に崩れるのではなく、ななめや横に建物の一部が吹き飛んでいたりするものかつ

最近になって中のものが吹きとんだ影響で埃まで消えてたりするものをそうと推測する程度だ。

歌野「でも、だとしたら2人は無事って考えて良いのよね?」

陽乃「ええ、まぁ……」


規模から考えると、

杏達が陽乃のように特効になる力を持っていないとしても、

最悪でも軽傷程度で済んだはずだ。

見た限りでは、進化型のような敵は出てこなかったようにも思えるし、

その程度なら、あの二人なら問題なく対応できたはずだと陽乃は思う。

歌野「……信頼してるのね」

陽乃「冗談はやめて頂戴」

陽乃はきっぱりと言い切って、雑草の生い茂った場所を見て回る。

好き放題に延びている中で、

誰かに踏まれた跡があれば、杏達の戦闘があったという確信が持てる。

生存者の可能性もなくはないが、

どこからか来たわけではないだろうし、近辺に住んでいるなら綺麗に整えられた場所があるはず。

しかし、見当たらないので、生存者の可能性は限りなく低い。

陽乃「あった」

歌野「足跡……伊予島さん達ね」

倒壊した建物の1つに、それはあった。

戦闘中でなりふり構っていられなかったのだろう、

力一杯に踏まれ、蹴りだされた雑草は土と一緒に、飛び散っていた。


今は予定より早く、大垣市の辺りに来ている。

昨日見つけた休憩した痕跡があった場所が1日目の休憩地点かは定かではないが、

距離的にそうだと仮定すると、

ここには2日目でたどり着き、戦闘があったと考えられる。

陽乃「……大したけがはしてないけど」

戦闘があったから先を急ごうと考えたか

それとも、ペースを落として慎重に行動するようにしたか。

球子は急いだ方が良いというかもしれないが

杏は、急がば回れで戦闘回避を選んだかもしれない。

だとすると……

歌野「2人はペースを落としたから時間がかかったのかしら」

陽乃「その可能性もあるわ」

さすがに、それにも限度がある。

2人が勇者とはいえ、食料が尽きれば力尽きることもある。

が、球子が現地調達しないとも限らないので、そこはあまり当てにできない。

陽乃「先を急ぎましょ」

数日前とはいえ、

戦闘があった場所に長居は危険だ。


√ 2018年 9月10日目 朝:移動②

↓1コンマ判定 一桁

8 戦闘痕
0 バーテックス 発見
4 バーテックス 襲撃
7 特殊(再判定)

11 進化型
99 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

√ 2018年 9月10日目 朝:移動②


杏達が戦闘を行ったであろう場所から暫くバスを走らせて、

今は岐阜を抜けて滋賀の琵琶湖付近のところにまで来ている。

先日の戦闘と、今回の戦闘の痕跡を見つけたこと待って、

そこから出来る限り早く離れるためにペースを上げたため、予定よりもだいぶ進んでいるのだ。

陽乃「……バーテックスはいなさそうで何よりだけど」

水都「伊予島さん達の方に向かった可能性もあるんですよね?」

陽乃「そうね」

杏達が戦闘したため、

その先の道にもバーテックスがいる可能性はあったが、幸い、そんなことはなかった。

しかし、

杏達の方に向かった可能性もあるため、

それはそれで安心はできない。

とはいえ、ひとまずは休息を取るべきだろう。

度重なる襲撃もあって、少し、人々にも不安等が広がりつつあるかもしれない。


1、周囲の探索
2、水都と交流
3、歌野と交流
4、九尾と交流
5、住民
6、イベント判定


↓2


「あれ……今日は見回り行かないの?」

陽乃「警戒はしているから問題はないわ」

歌野は昨日、途中から夜間警戒を引き受けてくれたが、

杏達の戦闘の痕跡があったこともあって、

朝はとりあえず警戒に加わってくれるという。

その為、昼間は休むことになるだろうが、

何もなければ、問題はない。

「そっか……じゃぁ、みんなと一緒に休憩?」

陽乃「みんなと……と、言われると困るけど」

ここ最近、一番近くにいる女子高生

彼女が指しているみんなというのは、歌野や水都ではなく

それ以外の住民たちのことだろう。

特に、バスを同じくしている若年層や健康な人々とだ。

同じ空間にいるのに、まったく会話もないことを気遣ってだろうか。


では少し中断いたします
再開は20時ころからを予定しています。


陽乃「そうね。遠くに離れるわけにもいかないし」

「だったら、こんなに離れていないでみんなのところに行こう?」

陽乃「目の届く距離にいれば良いと思うけど」

彼女は陽乃の手首をつかんで引っ張ろうとするが、

陽乃の体は微動だにしない。

「力つっよい……」

陽乃「貴女が弱いのよ」

彼女は力いっぱいなのかもしれない

けれど、一般人の力と陽乃の力ではまるで相手にならない。

「ね? 少しくらい、みんなのところに行ったって」

陽乃「……私が行って、何があるって言うのよ」

3年前から諏訪を守り続けてきた歌野だったなら、

多少……いや、かなり話が弾んだかもしれない。

しかし、陽乃は違う。

いうなれば部外者であり

安全地帯から引っ張り出した陽乃のことは――

「良く思ってないなんてことはないと思うよ」


「勇者様が一生懸命にみんなを守ってくれてることは、十分に伝わってるし」

戦いを間近で見たことのある人は少なく、

あんな子供たちがバーテックスと本当に戦えるのかと信じ切れていない人だっていたかもしれない。

しかし、陽乃達は朝から夜まで

場合によっては夜から朝までだって、寝ないで警戒してくれている。

みんなを置いていけば安全かつ確実に四国に帰ることが出来るはずなのに、

自分の体よりも大きな異形を打倒せる力を持ちながら、

今も、傍にいて守ってくれている。

「きっと、勇者様は高嶺の花なんだよ。話しかけたくても話しかけられないだけ。行ってみよ?」

陽乃「話しかけづらいとは思ってるのね」

「それは、だって……結構つんけんしてるし」

陽乃「そんな私を連れていくつもり?」

「……来てくれるなら」


1、断る
2、良いわよ
3、貴女1人で十分よ
4、貴女は、今の状況をどう思ってる?


↓2


陽乃「良いわよ」

「じゃぁ、いこっ」

手を引く力に抵抗するのを止めて、陽乃は大人しく彼女についていく。

1号車の全員で固まっているわけではなく、

その一部の数人が固まっているといった感じで、

仲のいい人同士で、暇をつぶしている。

陽乃「場違いじゃないの?」

「大丈夫大丈夫」

「……あっ」

座り込んでいた一人が陽乃達が近づいてくるのに気づいて顔を上げて、

その周囲にいた数人が陽乃達の方へと振り向く。

「連れてきちゃった」

陽乃「……」

彼女とは違う、制服を着ていた人達。

今はみんな別の服に着替えているので、

誰がどれを着ていたのかは覚えていないが、陽乃を引っ張る少女と同年代だ


陽乃「お邪魔だったら向こうに戻るけど」

「あ、ううん。全然……驚いちゃって」

「勇者様って、なんというか……近寄りがたかったから」

陽乃「正しいわ」

陽乃はあまり周囲を寄せ付けないようにしている。

それでも突き抜けてくる人達がいるから、仕方がなく付き合っているだけで。

陽乃「私に関わったってあんまりいいことはないから」

「良いことはないって、別に何か欲しいとかは考えてないよ?」

「そうそう。ただ、仲良くしたいなぁってだけで。勇者様と私達って何か違うのかなとか。思うし」

陽乃がそばにいることにもう慣れたのか

彼女達は陽乃のことについて話し始める。

陽乃「どこか違うように見えてる?」

陽乃は淡々と少し冷たい声色で言う

「ううん。見えないよ。見えてないから、そう言うことも考えちゃうんだよね」

「勇者様って結局、選ばれただけの女の子じゃん。とか」

1人はそのことに不満でもあるのか、

顔を顰めながら言うと、「今の勇者様が悪いわけじゃないよ」と首を振る。

「学校であるじゃん。やりたくない委員会業務とか、役割とか。立候補がないと罰ゲームみたいに誰かがやらされるやつ」

そういうのなのかなって。と、首を傾げる


陽乃「だとしたら?」

「だとしたら……」

彼女達は言葉に詰まって、顔を見合わせる。

手伝うなんて、安易に言うことが出来ないのは、

力が及ばないことだとわかりきっているからだろう。

それどころか、足手纏い。

1人が、意を決した様子で陽乃を見る

「だとしても、正直言って大したことは出来ないけど……でもさ、なんか、考え変わると思う」

「もちろん、押し付けられたとかどうとかは関係ないけどね。違うなら違うで率先して勇者になってくれたんだろうし」

陽乃は、自分で選んで進んだ道だ。

その結果、あまりにも酷いことになったが、

けれど、歌野達はそれとは違う。

選ばれ、与えられた力だ

「なんにせよ……ありがとね。それと、ごめんね。足手纏いで」


1、気にすることはないわ
2、指示に従ってくれているだけで十分よ
3、別に感謝されたくてしているわけじゃないのだけど。
4、気持ちは受け取っておいてあげる


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「気持ちは受け取っておいてあげる」

「勇者様そういう態度だと嫌われちゃうよ~?」

「照れ隠しでも、もうちょっとうまくやらなきゃ」

陽乃「別にそう言うわけじゃ……」

陽乃は、自分から選んで勇者としての力を手に入れたため、

無理矢理押し付けられたわけではないし、

巫女ですらない彼女達が何もできないというのは致し方がない話で

それは別に、責めることではないし、

申し訳ないと謝罪して貰いたいとも思わない。

ただ、それだけ。

歌野や水都だったならまたそんなこと言って……と、

分かったようなことを言うけれど、

彼女達は違う。

2人と違って、久遠陽乃という人物を良く知らない


「そう言うところが近寄りがたいって思わせちゃうんだよ」

「久遠さん……だっけ? 普通にしてれば可愛いのに怖い顔ばっかりしてるし」

「雰囲気が怖いよね」

陽乃「足手纏いの癖に、言うだけは言うのね」

「だって、気持ちしかもらってくれないし」

仕方がないよねと言う少女は、演技っぽく笑って見せる。

「だからせめて私達が一般人視点で勇者様が誤解を受けないようにーって、アドバイスをしたいと思って」

陽乃「そんなこと言われても困るんだけど」

「私達は何もできないけど、久遠さんと仲良くさせて欲しいなって」

陽乃をからかうように言う面々の中、

1人が、心配そうに口を開く。

「今は良いけど……勇者様の力が怖いって人も出てきちゃったりしないかな」

陽乃「……どうして?」

「だってあのへんな生き物は普通じゃどうにもできないのに、勇者様はそれを出来るでしょ? それって、考えようによってはどっちも怖がられることだってあるんじゃないかな」


バーテックスはもちろん、

歌野達が授かっている力は神々から与えられたものだとしても、

人の手に余るものという点では、変わりない。

陽乃の力なら、なおのこと。

歌野と違って、

力を使った後に倒れたり何だりするような力を持っている陽乃は、

正直に言えば、恐ろしくも感じるとその少女は言う。

「今の久遠さんは、その中でも凄く目を付けられやすいと思うよ」

危ない力を持っている。

なのに、他者を寄せ付けようとしていないその姿勢は、恐ろしい。

だから、目を付けられる。

「何の力もない私達だけど、怖い人じゃないって思わせる力くらいにはなれるかもしれないし」

陽乃「……そう」

陽乃はため息のように呟いて、

彼女達から目を背ける。

残念ながら、それはとても……危うい話だ


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


勇者としての戦いを目の当たりにしているからこそ、

陽乃や歌野が守ってくれなければ今にでも命を失ってしまいかねないような状態だからこそ

みんな、そう考えられてしまうのかもしれないけれど、

みんなそうだ。

みんな、勝手なことを言う。

陽乃のことをよく知らないから、平気で。

「ほら~久遠さんやっぱり難しい顔してる」

「こっちに責任擦り付けないでよっ、言っても平気って言ったのそっちじゃん!」

「そうだっけ~」

とぼける1人と、それを咎める周囲

女子高生たちの明るい声が建物の中に広がっていく

喧嘩しているような会話だけれど、

そうではなく、仲が良さげな雰囲気

陽乃は居心地が悪そうに目を細める。



1、四国に着いたら解散よ。無駄な話だわ
2、必要ないわ。そういうのは白鳥さんにしてあげて
3、私は怖い人よ。間違ってないわ
4、好きにしたらいいわ。どうせ、四国までの話だもの


↓2


陽乃「必要ないわ。そういうのは白鳥さんにしてあげて」

「白鳥さん?」

「あの子は平気じゃないかなぁ……勘違いされる要素がないって言うか」

「基本的に明るい子だしね~」

彼女達は、歌野のことは問題がないと言いつつ、

でも久遠さんは。と、零す。

「ツンケンすんのやめてくれたら、安心できるんだけどね」

陽乃「そう言われても、そういう性格だから」

「善処しますとか」

陽乃「ないわ」

協調性なんてものは捨てたし、

優しさだの、穏やかさだの、信頼だの

そう言ったものも、過去に置いてきた

そうして出来上がったものだ。

変わってと言われて変われるようなものではない。


陽乃「私は私よ。この私に文句があるなら、大人しく諦めて頂戴」

「冷めたこと言っちゃって~」

陽乃「ちょっ……」

ぐいっと左腕を引かれたかと思えば、

右腕もまた同じように引っ張られて、陽乃はその場にひざを折る。

「別に良いんだよ。そんな"大人らしく"しなくたって」

陽乃「っ」

「まぁ私達役不足だし? 頼れないくせにって思う気持ちは分かるけど」

「役不足ってあってたっけ」

「いいじゃんどっちでも」

無理矢理膝をつかせた陽乃を囲うように、彼女たちが集まる。

引っ張った腕を胸に抱き、

肩に手を置く人もいれば、後ろから抱き着く人もいる。

「勇者様も女の子じゃん。そんなさ、えっと」

「締まらなすぎない?」

「勉強真面目にしないから」

陽乃「なんなのよ……」

「肩ひじを張る必要はないよってこと」


何か言おうとしていた人ではなく、

傍で呆れたように笑っていた女子高生が、陽乃を見つめる。

「なんて、私達もなんだけどね」

「私達の方が年上だし」

「……あれ? 年上だよね?」

大した自己紹介もしたことがなかったため、

陽乃のことを知る機会がなかったからだろう。

今更疑問に思う彼女達に陽乃は「そうよ」と答える

陽乃「中学3年だもの。高校にも進学していないから」

「ならよかった……よかった?」

「良くはないけど、良かったんじゃないかな。私たちお姉さんってことで」

1人がそう言うと、

陽乃を背中から抱きしめる少女が耳元に口を近づける。

「お姉ちゃんって呼んでも良いよ?」

陽乃「……お断りよ」

陽乃はそれを押し退けて拒絶する。

本当の家族ではないし、薄い血の繋がりさえもない。

そんな呼び方をする気はないと、陽乃は首を横に振った


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


では少しだけ


√ 2018年 9月10日目 昼:移動①

↓1コンマ判定 一桁

2 戦闘痕
6 バーテックス 発見
9 バーテックス 襲撃
7 特殊(再判定)

66 進化型
99 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

√ 2018年 9月10日目 昼:移動①


崩れている建物が増え、途中の橋が崩れていたりと

少し問題は増えてきたがそれでも、

少し道を変えれば、どうにか先に進むことが出来ている。

陽乃「……」

バーテックスの気配は感じられないし、

杏達が戦闘を行った様子もない。

やはり、避けて通ろうと慎重になっているのだろうかと、

陽乃は目を細める

「久遠さん久遠さん、起きてる?」

後から、声がかかる。

窓に目を向けると、座席から身を乗り出している女子高生が見える。

朝の休憩時間、関わりを持ってしまったからだろう

陽乃の座席の近くにはいつもの少女のほかに、

複数の高校生年代の少女たちが集まっていた。


水都や、

ずっと隣の席を陣取っている少女がいるだけでも賑やかなのに、

彼女達が加わったことで、少し、騒がしくさえ感じる。

「久遠さんって、好きな子とかいないの?」

陽乃「……」

「久遠さんに好かれる子とか想像つかないなぁ」

陽乃の好みはどんなタイプの男の子なのか

そんなことを身勝手に話し合う周りの女子高生。

外見で選ぶのか

それとも性格で選ぶのか

どちらも取る人もいれば、どちらかだけを重視する人もいて、

けれど、どちらも考えない。なんて人はいないだろうと。

「久遠さんって、顔では選ばなそう」

陽乃「……」


1、なんなの。うるさいわ
2、九尾と話す
3、誰も好きにならないわ
4、緊張感がないわね。怖くはないの?


↓2


陽乃「少し、外に出てくるわ」

「外って、今走って――」

陽乃「何も問題ないわ」

陽乃は、そう言って逃げるように窓から外へと出て行く

バスが停まるのはほんの数分だけれど

その時間も、待っていたくはなかった。

賑やかな空間、

まるで友人のように関わってくる人達。

不快だった、息苦しかった。

一刻も早く、抜け出してしまいたかった。

陽乃「はぁ……」

陽乃はバスの屋根に飛び上って、ため息をつく。

九尾「なんじゃいきなり」


陽乃「窮屈だったのよ」

九尾「ふむ……」

九尾はバスの中で陽乃がどんな目に遭っていたか分かっているはずだけれど、

まるで、分からないかのようにとぼけた表情を見せる。

九尾「そうか」

陽乃「……関わらなければよかった」

九尾「そう言うわけにもいくまい」

陽乃「分かってるわよ。分かってるけど……」

みんな、陽乃のことをよく知らないから

向こうでのことを全く知らないから

だから、平気で距離を縮めようと考えられる。

向こうで何があったのか話せば、みんな引いてくれるだろうか。

向こうでどのような扱いを受けているのか話せば、諦めてくれるだろうか。

九尾「主様が人柱にならぬがゆえの悲劇と騙れば、あるいは変わるやもしれぬぞ?」

九尾はくつくつと、喉を鳴らした笑い声をあげる。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「本気で言ってる?」

九尾「まさか」

ここにいる諏訪の人々にも、四国の人々のような過去がある。

しかし、今、実際に救われる立場にある彼女たちは、

その一角を担っている陽乃が生贄になっていればこうはならなかったかもしれない。とは考えないだろう。

もしかしたら、本当にそうだったかもしれないけれど、

現実として、数多くの人が犠牲になった今もこうなっているのだから、

陽乃一人が生贄になったところでそうならないとは思えないからだ。

九尾「しかし、愉快な人間共ではないか。主様がいくら拒もうとも、近づいておるのじゃろう」

陽乃「……どうにかしたいわ」

ひなた「受け入れてあげたらいいじゃないですか」

陽乃「わざわざ、上里さんに言わせること?」

すぐ横で、いつの間にかひなたの姿になった九尾は、

穏やかな笑みを浮かべる。

ひなた「私だからこそ、言うことが出来ることもあると思います」


ひなた「久遠さんは人が信じられないんですか? それとも、守り切れないことを恐れているんですか?」

あるいは。と、九尾は言う。

ひなた「その両方ですか?」

陽乃「守る気はないわ」

ひなた「いいえ。久遠さんは守ります」

ひなたの小さな手で器を作ると、

その中に、どこからともなく水が湧き出して溜まっていく。

ものの数秒で容量いっぱいになった水はそのままあふれ出し、

ひなたのスカートを濡らし、バスの屋根へと伝って流れる。

ひなた「久遠さんは奪われるトラウマを強く持ちすぎている為、自分の都合のいいように正当化したうえで人々を守るんです。     今だってそうですよね? 白鳥さん達の為、四国での評判の為そう言って守っている」

陽乃「それこそ都合のいい解釈というものよ。私は私が不利益を被りたくないだけ。常に自分本位よ」

ひなた「久遠さんの言う " 自分優先 " はどうあっても、自分を偽っているとしか思えません」

陽乃「何を根拠に――」

ひなた「だったら諏訪を訪れる必要は微塵もなかった」


九尾がそう見せているだけではあるけれど、

ひなたは少し怒ったような表情で、強く主張する。

ひなた「白鳥さんを戦力として欲しかったことについては一理あります」

しかし、とひなたは言う。

それはあくまでも、四国を守るというレベルでの話であり、

陽乃と母親を守るるくらいなら、一人でも十分だったはずだと。

ひなた「少なくとも、自分本位な人間が、その命を脅かしてまで来るほどの価値があったとは思えません」

陽乃「上里さんなら、そんなこと言わないんじゃない?」

ひなた「私だって、たまには言葉に棘を持たせることくらいあります。特に、久遠さんはそうでもしなければ真に受けてもくれないので」

今だってそうでしょう? と、ひなたは悲嘆な笑みを浮かべる。

ひなたの真剣な話に対して、

陽乃は茶化すように全く関係のない一言を返した。

陽乃は否定するか、適当にあしらうか

そればっかりで、真剣に取り合っていくれているというような姿がほとんど見られない。

ひなた「諏訪ではなにも貢献していない? そんなはずがないんです。久遠さんは諏訪に来たんです。
     多くの命を奪ったバーテックスの群がる外の世界から、ただ滅びるばかりだった陸の孤島へと」

歌野達が何度も感謝するように言っていた。

来てくれたことが嬉しかったと、それこそが希望だったと。

たどり着いてから病床に伏せることが多くても、

それだけの苦難を乗り越えてまで来てくれた。と、彼女達には思えてしまう

ひなた「だからこそ、皆さんは久遠さんの"自分本位"を信じられない。だからこそ、どうにかして、受けた恩を返したいと思っているんです」


陽乃「その結果が、今の状態ってわけ?」

ひなた「久遠さんに何があったのかは知らなくても、助けに来てくれるような人格を歪める何かがあったことくらいは想像できるでしょう」

自分本位なことを言ったり、

突っ撥ねるようなことを言ったりする

けれど、それなのに助けに来てくれたり実際に助けてくれるというのはどうにも妙だ。

だから、そうやって拒絶したくなる何かがあったのではないかと考える

ひなた「皆さんは久遠さんがその力ゆえ、恐れられていると考えたのかもしれません。実際、近寄りがたいと思っていたようですから」

陽乃「だったらそのままでいてくれればよかったのに」

ひなた「そのきっかけを与えたのは久遠さんです」

ひなたは言い切って、陽乃を見つめる。

手のひらに溜まっていた水はいつの間にか消えていて、

スカートも、バスの屋根も、濡れた様子さえ跡形もなく消えている。

ひなた「どうしても嫌なら、こう言えばいいんです。 "どうせみんな死んでしまうから仲のいい人はもう要らない"と」

陽乃「……」

ひなた「久遠さんはこれ以上悲しい思いをしたくないと思えば、皆さん、身を引いてくれるはずです」



1、いい手ね
2、同情されそうね
3、まるで悲劇の主人公が、立ち直る前振りのようじゃない
4、嫌よ。なんか、気持ち悪い


↓2


陽乃「まるで悲劇の主人公が、立ち直る前振りのようじゃない」

ひなた「ふふっ、確かに言われてみればそうかもしれませんね」

自信も親しい人々も何もすべてを失って

ただ力だけが残った、辛い過去を持つ主人公

彼は流浪の民となって彷徨うように辺境の村へとたどり着く

そこで人々に触れ、最初のころはトラウマから周囲を強く拒絶するが、

人々の厚い信頼と情に心打たれて、今一度……と奮起した英雄の物語

陽乃は、身震いして膝を抱える

陽乃「止めて頂戴……そんなのは空想だからこそ、どうにかなることなのよ」

その世界の神の神

作家によって作り出された、ハッピーエンドへの過程。

これは現実だ。

ひなた「なるほど……しかし、えぇと。私では少し難しいですね」

ひなたは困ったように言って、その姿を千景へと変質させる。

姿が違うだけで、中身は変わらないはずだが。

千景「だったら、この世界がそれと同じように空想の産物だったとしたらどうかしら。私がやっている、このゲームのように」


千景の手には、ここにはないはずの携帯ゲーム機が握られている。

いつどこで九尾が見たのか分からないが、

アクションゲームのようで、武器を手にしたキャラクターが巨大な怪物に向かっていくところで止まっていた。

千景「これはゲームだけど、そう。例えば、この世界もまたこれのようにゲームの中だったとしたらどうする?」

陽乃「どうすると言われても困るのだけど」

千景「貴女には、全てを失うことが定められていた。主人公の覚醒と似た、カタルシスを得るための舞台装置として」

陽乃「ありえないわ」

千景「けれど、その証明はできないでしょう? 悪魔の証明……だったかしら。私達にはそれを確認も何もできない」

千景は、恨みがましそうに空を睨む。

手を伸ばし、何かを掴んでやろうといった仕草を見せるが、

嘲笑すると、陽乃を一瞥する。

千景「貴女は主人公ではなくて、途中で朽ち果てるお涙頂戴の離脱キャラかもしれないし
    本当に主人公で、この世界を救うことが出来る英雄として設定されているかもしれない」

陽乃「違うわ」

千景「けれど、貴女だけは特別な力を持ってる。それは主人公の特権だわ」


サブキャラクターたちが持つことは出来ない特殊な力を持つのが主人公だという千景は、

憎たらしそうな顔をする。

陽乃が良く見る、憎悪に似た感情を宿した瞳だ。

千景「主人公の対比として存在する同種の力を持った敵かもしれないけれど」

陽乃「その方が可能性としては高いわ」

事実、陽乃の力は勇者に対しても猛毒だ。

勇者の敵になるためにいると言われてもおかしくはない。

千景「それが勇者の格を落としていることが気に喰わないわ。敵か味方かはっきりして」

陽乃の立場は酷くあいまいだ。

人々からは迫害を受ける身としているのもあるが、

陽乃自身が、周囲を拒絶して孤立した状態にある。

その為に、大社の警戒はより強くなって陽乃の勢力を強める要因を排除しようという行いが出てくる。

千景「貴女が私達を信用しないことは勝手だわ。守らないのも自由。けれど、ならそれを徹底して頂戴」

変に距離を取るのではなく、完全に距離を取れと

拒むなら悉くまで突き放せと

守らないのなら、それを徹底して人々を置き去りにしてしまえと、千景は言う。

千景「貴女には "きっかけ" が与えられているのよ。覚醒するか、落ちぶれるか」

千景はそう言うと、見たこともない表情を浮かべて。

千景「……あの時の貴女は1人だったけれど、今は違う。きっと、あの日の繰り返しにはならないわ」


√ 2018年 9月10日目 昼:移動②

↓1コンマ判定 一桁

9 戦闘痕
7 バーテックス 発見
5 イベント
1 特殊(再判定)

77 進化型
47 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

戦闘痕規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


√ 2018年 9月10日目 昼:移動②


琵琶湖に繋がっている矢倉川の上を通るさざなみ街道

一つ目の矢倉小橋が崩れ落ちてしまっていたため、

1つ奥の、矢倉川橋の方から先へと進む。

避難所となったのだろうか。

周辺に比べて、より酷く襲撃を受けたように見える彦根城のそばで、バスが停まる。

「勇者様」

陽乃「どうしたの?」

「この先のビルが崩れて、道を塞いでしまっているんです……道を変えますか?」

運転席の近くに向かって、じっと正面を眺める。

この先にある、高層というほどではないビルが中ほどからへし折れたように倒壊して、道を塞いでいた。

自然に崩れたにしては、形が変だ。

陽乃「……ちょっと待って」

陽乃は少し考えて、歌野に声をかける。

3年前の襲撃によるものにしては、

崩れたビルに対しての自然の発生率が低いように見えたのだ。

陽乃「様子を見てくるから、バスの中から出ないように」


陽乃の声掛けに応じて、外へと出てきた歌野にバスの近くを任せる。

道を塞ぐビルの残骸に向かった陽乃は、その壁面を軽く叩く。

雨ざらしになって、急加速的に風化したりした様子はなく、

まだ芯は残っているように感じる。

陽乃「す……っ!」

息を吸って、力強く残骸の一部をぶん殴ると

コンクリートの部分が砕け散って、芯となっていただろう破片が姿を現す。

陽乃「どう思う?」

九尾「馬鹿力じゃな」

陽乃「そうじゃなくて」

からかうように言う九尾を睨んで、服に着いたコンクリートの破片を払う。

九尾「ふむ……数日中と見て間違いなかろうな。崩れ方からして、何かが衝突したのじゃろう」

陽乃「なにか、ね」

崩れたビルが元々くっついていたであろう部分は、

何か、それなりの大きさの物が衝突した形跡が残っていた。

バーテックスの衝突の場合は、もっと大々的に崩れ落ちるため、

どちらかと言えばもう少し平たい、物質だろう。

陽乃「土居さんがやったのね」


むやみやたらに建物を壊す理由がないので、

バーテックスと戦ったとみて間違いない。

それ以外の建物がそれほど損害を受けていないのを見ると、

規模は大きくはない、むしろ、小規模だったと思われる。

陽乃「この程度だったなら、無傷で済んだはずだけど」

九尾「そうじゃな」

ここからどこに行ったのか。

時間帯から考えて、

付近でまた休憩を取った可能性もあるが、

小規模の襲撃、あるいはバーテックスを発見しての撃退を行ったのなら、

別動隊がどこかにいると考えて即座に遠くまで移動したかもしれない

陽乃「この近くにあの子達いる?」

九尾「おらぬじゃろう」


九尾は周囲を見渡して、答える。

遠くから居場所を把握することが出来るのは、

せいぜいが陽乃や歌野、水都と言った陽乃を経由して繋がりを持っている者のみで、

杏達については、陽乃達ほど知覚することは出来ない

だが、それでも九尾はいないと言う

九尾「この静けさ……居るならばバスとやらの音で着ておるじゃろう」

陽乃「それもそうね」

ただ、ここにきて杏達の戦った形跡などが増えてきたのが気になる。

杏達は、バーテックスを避けて通ることを選んだはず。

たった二人だし、

陽乃や歌野と違って、力を消耗すればするほど余裕がなくなっていく状態だったからだ。

それでも、こうして戦闘の痕跡があると言うことは、

そんなことを言っていられないほどに、バーテックスに阻まれていることが多かった可能性が高い。

陽乃「これから先、もしかしたら戦闘の痕跡が増えるかもしれないわ」

九尾「そうじゃな。小娘どもが生きておればの話じゃが」


歌野「やっぱり、また?」

陽乃「ええ」

大半の話は、

陽乃が意図していなくてもやんわりと歌野に伝わっていたようで、

歌野は心配そうに言う。

考えるような素振りを見せると、歌野は陽乃をまっすぐ見る。

ぶれることのない視線は、陽乃を全く恐れていないからだろう。

歌野「どうする? ルートを変える?」

現在は琵琶湖の近くを通っていく予定だが、

もう少し琵琶湖から離れた、ルートを通るべきかと歌野は確認したいようだ。

杏達の戦闘の痕跡が増えているからだろう。

今からルートを変えるのは簡単だが、

少し遠回りになる。

また時間がかかることになるため、

住民たちに不安が広がるかもしれないし

変えたからと言って、陽乃達に利があるとも限らない


1、変える
2、変えない


↓2


陽乃「そうね。変えておきましょ」

歌野「……伊予島さん達も変えてくれていると良いけど」

陽乃「それはどうかしらね」

杏達は徒歩なので、車よりもルートに幅がある。

車が通れない道も通れるならば、

これで完全に追うことが出来なくなるかもしれない。

陽乃「伊予島さん達を気にする必要はあるけど、最優先は死なないことよ。ほかでもない、私達が」

杏達の戦闘の痕跡が増えてきた

つまり、このルートでは襲撃を受ける可能性が高いともとれる。

縛るもののない杏達は最悪逃げ出せるが、

陽乃と歌野はそう簡単な話ではないため、安全と思われる手段を取らなければならない。

歌野「そうね」

陽乃「ここまで来ていることは分かったし、ここからならあの子達なら2日とかからないはず」

それでもたどり着いていなかった。というのは、気がかりだが。

陽乃「一見、ここから先は何もなさそうなんだけど」


四国の方角を眺める陽乃のそばで、

歌野は陽乃を一瞥すると、悩まし気な表情を浮かべる。

歌野「久遠さん」

陽乃「……それは、別に言う必要のないことよ」

歌野「……」

歌野が何を言おうとしているのかを察して、

陽乃は先手を打って口を閉じさせる。

バスの屋根での九尾との話。

全てではないにせよ、一部は筒抜けだったためか、

歌野はそれについて言いたいことがあるようだ。

だが、言う必要はない。

しかし。

歌野「私は、四国についても久遠さんと一緒にいる」

陽乃「そう」

歌野「みんなは離れることになるかもしれないけど、私が久遠さんを一人にはしないわ」

歌野はそう言って、陽乃を見る。

歌野「なんて、何度も言うと嘘っぽいかしら?」

陽乃「ええ。とっても」


√ 2018年 9月10日目 夕:移動①

↓1コンマ判定 一桁

2 戦闘痕
0 バーテックス 襲撃
19 特殊(再判定)

20 進化型
00 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


戦闘規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

※完成型補正+20


√ 2018年 9月10日目 夕:移動①


九尾『主様!』

もうしばらくで休憩に入ろうかといったところで、

九尾の鬼気迫る声が陽乃へと届く。

陽乃とは別の方角を見ていた人々も、口々に不安と恐怖を零し始める。

「なんだあれ……」

陽乃『なに?』

九尾『別種のものが向かってきておる!』

陽乃「っ!」

「久遠さ――」

陽乃「邪魔しないで!」

窓から飛び出した陽乃は、

その勢いのあまりに地面を転がって、

全力で地面を蹴って、跳躍する。

バスよりもはるかに高く、遠く――

陽乃「あれは……」

今まで数多く見てきた白餅ではなく、

それが集結した、未完成にも思える骨組みに似たバーテックスでもない。

まさしく、完成型と言えるバーテックスが、陽乃達めがけて向かってきていた。


中央部分に大きな穴が空いており、

正面から後方にまで、細い針のようなものが突き刺さっている

今回のバーテックスは、今までにない形で。

陽乃「!」

そこにある、針のような部分に急激に力が集まっていくのを表すように光が満ちていく

近接的な攻撃をするには、まだはるかに遠く

であれば――

陽乃「遠距離型!」

ここには、近接がメインの勇者しかいないと判断してのことだろう。

バーテックスの勢力は、一定の距離を保った状態で攻めることのできる遠距離型のバーテックスを生み出したのだ。

陽乃「私を……狙ってないっ!」

バーテックスは勇者よりも、

まず、数多くの生命反応を消し去ろうとでも言うかのように、陽乃の眼下にあるバスへと狙いを定めて――

陽乃「っ!」


1、イザナミ様の力を借りる
2、九尾の力を借りる
3、歌野に任せる


↓2


では少し中断いたします。
再開は20時ころから


陽乃「きゅ……」

相手は進化型ではなく、完成型と思われる強力なバーテックスだ。

九尾の力も十分強いけれど、未知の力に対してでは力不足かもしれない。

陽乃「っ――」

祝詞は唱えられない。

今、奉納できるものはない。

どれだけの負荷がかかるか想像もつかない。

陽乃「イザナミ様ッ!」

応えてくれなければ生身でバーテックスに立ち向かうことになるが、

九尾の力とて、完成型の一撃には無事では済まないだろうから、同じこと。

陽乃「!」

体の内側から、力が溢れ出していく

大丈夫、イザナミ様は力を与えてくれている――と、

内臓が燃え尽きそうな熱を感じながら、歯を食いしばって。

そして、バーテックスの光が撃ちだされる

一歩早いバーテックスの一手

陽乃は間に合うか否かを度外視して、叫ぶ

陽乃「九尾! 足場!」

力いっぱいに拳を握る。

九尾「阿呆めッ!」

宙にいる陽乃の背後に九尾が姿を現し、射線をへし折るかのように陽乃を撃ち込む


陽乃「っぁぁぁぁぁあああああああッ!」

バーテックスの一撃は、全てを射ち貫くほどに鋭い光の槍

陽乃はそれに直上から突撃して、跳ねのけようとする力を、全力で叩き伏せる。

単純な力のみではなく、

イザナミ様の、神をも屠る力を叩き付けた拳から流し込んで。

陽乃「!」

光が地面へと叩き込まれた瞬間、

せめて一矢を報いようという力は爆発を引き起こして、陽乃を吹き飛ばし、辺り一帯に轟音をとどろかせる。

陽乃「ぐっ……あ゛っ」

吹き飛んだ陽乃はその勢いのまま建物へと突っ込んで、

残されていた家具をなぎ倒し、ガラス片に皮膚を割かれながら、建物を貫いて地面を転がっていく

陽乃「っぁ……」

体の中がぐちゃぐちゃになってしまったような痛みが湧き上がってくる。

腕も足も血だらけで、口の中は血の味しかしない。

陽乃「っ……げほっ……っ……」

陽乃は血を吐き捨てて、口元を拭う

完成型のバーテックスの攻撃は、

今までのバーテックスのそれとはまるで違う破壊力を持っているのだ。


陽乃「バスは……」

痛みを堪えて建物を飛び越えると、

爆風を直撃しただろうバスは、

九尾の巨大な体と尾によって、難を逃れているのが見えた

陽乃「さすが……」

九尾「主様、生きておるのかや?」

陽乃「私が死ぬわけ、無いでしょ」

腕も足も熱いし痛いし痺れまで感じる。

頭も上手く回っている気がしないし、吐き気がする。

歌野「久遠さ……っ……久遠さんっ!」

陽乃「私は良いからッ!」

歌野「!」

陽乃「私は良いから、貴女はお荷物をどうにかして頂戴」

叫ぶと、胸の奥がキュッとして、血がこみあげてきて、吐いてしまう。

陽乃「けほっ……はっ……アレは、今の貴女じゃ難しいから」

歌野「……っ」


平常時ならともかく、

イザナミ様の力を使っているうえ、初撃を防ぐために無理をしたからだろう。

歌野に回せる力が思っている以上に少ない。

無理矢理に供給することもできるだろうが、

流れるのは恐らく、イザナミ様の影響を受けている力だ。

それを過剰に流した結果、この場を凌ぎ切れても共倒れになる可能性が高い。

それは駄目だ。

何の意味もない。

陽乃「アレは私が、殺す」

歌野「でも」

陽乃「問答の時間はないわ……2度目を同じように防げる自信がない」

次は、死ぬ。

そんな気がすると、陽乃は力一杯に握り拳を作る。

歌野「だったら私も一緒に行く。完成型は久遠さんに任せるけど、それ以外は私がどうにかするわ」


1、無視して向かう
2、分かったわ
3、不要よ。貴女は守るべきものを守りなさい


↓2


陽乃「不要よ。貴女は守るべきものを守りなさい」

歌野「っ……」

歌野と九尾をその場に残し、

陽乃は全速力でバーテックスのもとに向かっていく。

陽乃と歌野で二手に分かれたためか、

バーテックスの一部は歌野の方へととんでいくが、

一番厄介な完成型は、距離を維持したまま第二射の準備に入っている。

陽乃「そこにいて頂戴……良いわ。そのままそこで、私が、全部……っげほっ……」

血を吐いて、ふらついて、

近くの瓦礫に躓きかけて……踏みとどまって、力強く駆け出す。

陽乃「この戦いが終わったら、また寝込むことになりそうだけど」


陽乃の方に向かってきた一番初期のバーテックスは、

陽乃からあふれ出るイザナミの力によって、

その体に触れることなく、消滅していく。

普段はそこまではないが、

ボロボロになってしまって余裕がないからだろうか

力を全く、抑え込むことが出来ていない。

陽乃「っ……はっ……」

目の前にいる巨大なバーテックスが光をため込む。

陽乃でさえ、叩き伏せるので精いっぱいだった一撃

陽乃「さっきの――」

力が収まらないなら、全力で良い。

全てを叩きこんで、使い果たして、それで。

陽乃「お返しッ!」

光り輝く、バーテックスの針のような物を全力でぶん殴って、

陽乃「っ……」

その爆発をまっすぐ受け止めて、もう一度。

陽乃「たぁぁあああああああッ!」

体の欠けた巨大なバーテックスの横っ面に拳を叩きこんで、貫く。

陽乃の、神をも殺せる力の一撃は、

バーテックスを削りとって……消滅させる。


陽乃「っ……げほっ……」

お腹の中のどこかがねじ切れた感覚に、陽乃はその場に膝をつく

地面に膝をついたというだけで、体がばらばらになるほどの衝撃を受けて、

肉の切れた両手足から血が流れ出る。

そして口元からも、ぽたぽたと赤いものが零れ落ちる。

陽乃「不味い……だめ……今は、まだ」

歌野がまだ戦っているかもしれない。

これは陽乃がただ眠るのとは違って、力を使い過ぎたことによる反動だ。

歌野の方にどんな影響があるか分からない。

せめて、戦いが終わってからじゃなければ、ここまでした意味がなくなってしまう。

陽乃「っ……ぁ……ごふっ……」

体を起こしていた腕から力が抜けて、倒れ込む。

腕が動かない。

足が動かない。

瞼が重い。

無理矢理力を引き出したからだろうか――

陽乃「……」

陽乃はその場で、気を失ってしまった


√ 2018年 9月10日目 夜:移動①

↓1コンマ判定 一桁


0 九尾
3 水都
5 
6 女子高生
9 バーテックス 襲撃

19 進化型
99 完成型


※それ以外のぞろ目は特殊


√ 2018年 9月10日目 夜:移動①


普段より、空はバーテックスに埋め尽くされることがなかったはずなのに、

数時間前の戦いの被害は想像以上に大きかった。

九尾が守護したとはいえ、

爆風によってバスの窓ガラスのほとんどが砕け散って切ってしまった人もいれば、

激しい揺れによって座席から転んだりして、頭などを打ってしまった人達も大勢いる。

しかし、一番の被害は――

「久遠さん、容体は?」

水都「もうしばらく時間がかかると思います」

バーテックスに八つ当たりするかの如く奮闘して陽乃のもとに向かった歌野は

戻ってきたときに、陽乃のことを抱きかかえていた。

血だらけで、意識がなくて、心臓も動いていない状態

けれど、不思議と息はあった。

「凄かった。さっき……あんな状態になってまで」

水都「……」

「私達には、何にもできないの?」

陽乃とずっと近くにいた女子高生は、不安そうに水都へと詰め寄る。

散々突っぱねるようなこと言っておきながら、

死んでいてもおかしくないような状態で運ばれてきた陽乃に、彼女達は何かしてあげたいと、辛そうに零す。


では途中ですが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


「看病くらいなら、私達にも」

水都「いえ、正直……刺激が強いと思います」

「っ」

陽乃の体つきが、性的に刺激が強い。なんて、

冗談みたいなことを言っているわけではないのは、みんな分かっている。

一目見ただけで、人によっては嘔吐してしまいかねないほどボロボロだった陽乃

全身に裂傷が見られ、左腕や、肋骨など一部骨折さえしているかもしれないと、同行している医者の一人は言っていた。

近くにあった数件の病院を巡って、

どうにか使えそうな物を探し出し、洗浄し、治療に当たったが、

それでも応急処置と言える程度が限界だった。

今も数十分に1度は包帯を変える必要がある。

酷い高熱で、血まみれで……時々、血を吐くことがある。

水都「気持ちは分かりますが、あまり見ない方が良いかと……」

「見て見ぬふりしろって言うの!?」

「ちょっ……ちょっと!」

1人が耐えられずに怒鳴って、1人が慌てて止めに入る。

「分かってるよ。白鳥さんが抱えてるの見ただけで……。骨が見えてそうな腕だったし、血まみれだった。こんな言い方あれだけど、グロかったと思う」


「でもさ。でもだよ……だから何もしないとか、見ない方が良いとか。なんか……アレじゃん」

嫌だから避ける。

汚いとか、気持ち悪いとか、怖いとか

普通なら、そう言ったものは避けられるなら避けて通りたいと思うものだし、

それを気にかけて関わらないようにさせてくれるのは、正直に言えば、ありがたいことだろう。

けれど。

「落ち着きなって」

「……」

なだめられて、勢いが収まる。

近くにいたもう一人が、それを引き継ぐように水都を見つめて。

「勇者様って、私達のためにあんな風になるまで戦ってくれてるわけで。なのに、グロいから見てられません。って言うのは、なんか失礼じゃない?」

水都「本当に見ていられるんですか? 触れられるんですか? ただの風邪の看病とは話が違うんです」

隔離は出来ないため、

介助等が必要な人達と同じ2号車の一番奥で簡易な仕切りを作った程度の場所を設けているが、

陽乃の状態を考えれば、それ以上不衛生な状態には持ち込むわけにはいかない。

水都「意志でどうにかできることにも限度があると思いますし、耐えられず吐いてしまった。とか、そういうことされたら困るんです」


陽乃の体は、酷く傷ついている。

初撃を力づくで抑え込んだ結果、

爆発が直撃し、吹き飛ばされた建物を貫いたダメージ

そして、元からある神々の力を扱う代償

生死の境を彷徨う陽乃のことを可能な限り休ませたいと水都は考える。

彼女達は善意で行動しようとしているのは分かるが、

だとしても。

水都「……」

水都は、くっと唇をかむ。

水都も何もできないのだ。

医者ではないし看護師でもない。

知識がないから、雑用くらいしか出来ない。

彼女達だって、そうだろう。


↓1コンマ判定 一桁

0,4,8 陽乃


歌野「……っ」

1号車の方でそんなやり取りが行われていることなどつゆ知らず、

引き続き陽乃のいる2号車に残っている歌野は苦しそうに胸元を抑える。

陽乃がやや無理矢理に歌野達を置いて完成型の方に向かってから暫くして、

胸を刺し貫かれたような強烈な痛みに失神しそうになってから、ずっと。

時折、同じ感覚に苛まれる。

歌野「久遠さんの、ほんの一部の痛み……なのよね」

呼吸さえできなくなってしまいそうなほどに苦しく痛い

それが不定期に訪れるため、勇者でさえも死んでしまうのではないかと思うほどだ

歌野「……どうして、無理をしてしまうの?」

体を蝕まれているのが分かる。

あの時、一緒に連れて行ってくれてさえすれば、

もう少し、軽い症状で済んだかもしれないのに。

確かに、バスを守る勇者が必要だった。

明らかに、あのバーテックスは歌野の手には余った。

けれど、それでも……と、歌野は顔を顰める。

胸の痛みがなんだ。

血反吐を吐けもしない痛みなんて、大したことがない。

体温計が壊れるのではないかと感じるほどの高熱が出ていないのだから、

気のせいと言い切れる程度だ。


歌野「……悔しいわ」

歌野はバーテックスと戦うことが出来ていると思っていた。

実際、諏訪を3年間守ることは出来ていたので、

現存している勇者の中ではもっとも強いと言えるだろう。

けれど、それでも歯が立ちそうにない敵がいる。

3年程度の戦闘経験では補いきれない戦力差があった。

陽乃はそれを、自分の命を懸けて埋めた。

歌野「悔しい」

その助力のひとかけらにもなれなかったことが。

その無理を少しでも、させなくて済ませられなかったことが。

以前に比べて、勇者として強くなれたと思っていたが、

勘違いも甚だしい。

歌野「悔しいわ……私……もっと強くなりたい」

強くなりたい。

強くならなければならないと、歌野は手に力を籠める。

九尾「そうか」

歌野「っ!」


いつの間にか隣にいた目立つ金色の髪の女性

つながりを持っているからか、

それがただの人間ではないことをすぐに悟った歌野は、目を細めて……俯く

歌野「このままだと、久遠さんが死んじゃう」

今回は無事でも、次回も無事だとは限らない。

また同じように完成型が出てきたら?

もし、完成型が1体ではなく、2体3体と出てきたら?

歌野「どうにか、ならない?」

九尾「ふむ……そうじゃな」

九尾扮する女性は悩ましげな表情を見せると、

陽乃がいる奥の仕切りの方を眺めて、目を細める。

九尾「お主が求めてやまぬなら、手段を講じよう」

歌野「……えっ?」

九尾「妾とて、愚かな主様が易々とその命を落とすのは望むところではない」

直接同行することは出来ないと九尾は言うが、

おもむろに席を立つと、歌野についてくるよう指示をして、陽乃のもとへと向かう。

歌野「九尾さん?」

何をするのかと不安を覚えつつも、

少しでも何かできることがあるのならと……歌野はそのあとについていった


√ 2018年 9月10日目 夜:移動②

↓1コンマ判定 一桁

8 戦闘痕
1 バーテックス 襲撃
5 特殊(再判定)

41 進化型
11 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

追判定


↓1コンマ判定 一桁

2,7 陽乃

※ぞろ目は陽乃


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


お目覚め

では少しだけ


√ 2018年 9月10日目 夜:移動②


深い、水の底に沈んでいるかのような息苦しさ

体は圧し潰されているみたいに全く動かせる気がせず、

這い上がっていく意識を追い返そうとする節々の痛みと瞼の重さにどうにか抗って、

陽乃は薄く目を開く。

陽乃「……」

いつもと違って、視界は不鮮明だった。

混ぜ込んだ絵の具のようにすべてが入り組み、蜃気楼のごとく揺らめいている。

近くに誰かがいることだけは分かるが、

それが誰だか判別がつかない。

ほんのりと感じ取れる輪郭と、匂い。

そこから推測しようとする気力も、頭の回転もまるでなかった。

陽乃「ぁ……ぁ゛ぇ……?」

誰? と聞いたはずなのに、酷くしわがれた声はまともな言葉になることさえなく消えてしまう。

それでも、すぐそばの誰かは陽乃の声に気づいたようで、

振り返ったか、見下ろしたのか何なのかは定かではないけれど、視線を向けてくれたであろうことだけは分かった。


「・・・・・・」

その誰かは、何かを言っている……ような気がする。程度しかわからない。

口が動いているように見えるだけで、その部位が本当に口なのか

そもそもそこが顔なのかも、今の陽乃には正しく認識が出来ていないのだ。

「ぅ……ぅい?」

この状況で傍にいるのは九尾か、

それか水都……もしくは、女子高生たちだ。

何かが動く。

陽乃は自分に触れているだろうことはなんとなく分かるが、

それ以上のことが何もわからなくて、戸惑う。

自分の状況が分からない

あの後どうなったのか、何があったのか。

どこにいるのか、自分の体がどうなっているのか。

それを考えようとするだけで咎めるように痛む頭に、陽乃は疲弊していく。

歌野『……落ち着て、大丈夫よ』

そんな陽乃の中に、歌野の声が流れ込む。

陽乃の意思に関係なく、散々踏み入ってきていた歌野の心の中は、

力の繋がりによる物の為か、陽乃の体がどれだけ衰弱していようが関係なく鮮明だった。


意外にも、傍にいるのは歌野だったらしい。

勇者は別のバスにいるべきという取り決めがあったはず……と、

陽乃はぼんやりとした頭の中に浮かばせる。

歌野『今はまだ、何も考えずに休んでて』

九尾からの指南でも受けたのかもしれない。

今までと違って、その無意識に共有される声を使いこなしているかのように、

歌野は陽乃へと語りかけてくる。

未だ不鮮明な視界の中の誰かは、

歌野だと思うと、確かにそうかもしれないと見えてくる。

だとしたら顔の部分に触れているのは、歌野の手か。

歌野『もう暫く休んでて……無理しないで』

陽乃が感覚を取り戻そうともがいているのを感じ取ったのか、

歌野はとても不安そうに、そう流れ込んでくる。

混沌とした世界を見せる視覚、何も感じない鼻と肌

内側に直接入ってくるから、特別、自分と歌野の声が聞こえているだけで

それ以外の何一つを拾わない聴覚。

陽乃は、自分の五感が死んだように利かないことを、ようやく……知った。


陽乃は会話をすることは出来ないが、

心の中が伝わっていく為、会話のようなことは成立させられる。

しかし、考えることすらおぼつかない今、

それさえも、どうにもならない。

歌野『久遠さんのおかげで、大事には至らずに済んだから、安心して』

怪我人は多かったが、その程度。

あの襲撃で死人がいなかったのだから、何も問題はなかったとさえいえる。

歌野は陽乃に寄り添って、優しく言う。

外の警戒は九尾が担っている。

休憩する時間はとうに過ぎているから、あとは休むだけだ。

歌野もバーテックスとの戦いで疲弊しているけれど、

どちらか一人は起きていなければいけない。

その役目は、歌野しか出来ない。

歌野『心配しないで、大丈夫だから』

ぼんやりと、歌野が見える。

どこか懐かしい匂いを感じる。

触れられているだろう部分からは、熱を感じる。

死んだように利かない感覚でもそれだけ感じ取れるのは、

歌野との繋がりが強いからだろうか。


歌野から自分自身の力を感じる。

流れる力も多く、水都よりもより濃く感じられるせいだろう。

僅かに安堵を覚えるそれに、陽乃は薄く開いていた瞼を閉じる。

重くて動かない体。

明日は動けるようになるだろうか。

明日もまだ、襲撃を受ける可能性が高い。

今までのように、不調だから動けませんだなんて言っていられない。

なんとしてでも、せめて、動けるくらいにはならなければならないと陽乃は思うが、

それを抑えるように歌野の声が被さる

歌野『余計なことを、考えないで』

休むことだけに集中して欲しい。

歌野のその要求に従うつもりはなかったけれど

眠気と思えるものは一切感じないが、意識が引きずり込まれていく。

歌野『少しでも、早く良くなって』

歌野は、そう思いながら渋い顔をする。

早くよくなって欲しいのに、

良くなったらまた無理をするかもしれないという不安があって、喜べないと分かっているからだ。

歌野「……」


√ 2018年 9月11日目 朝:移動①

↓1コンマ判定 一桁

8 戦闘痕
6 バーテックス 襲撃
3 特殊(再判定)

16 進化型
66 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


戦闘規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高


※ぞろ目特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


前回同様+20のため、規模は「73」になります


では少しだけ

√ 2018年 9月11日目 朝:移動①


歌野「……」

絶望的だと嘆くことが出来るほど、状況に猶予はない。

昨日の襲撃で完成したようなバーテックスがいた時点で、

それ以降も姿を見せる可能性は、歌野の頭にもあった。

けれどまさか翌日になってすぐ、

また新しいバーテックスを生み出してくるとは……流石に、相手も本気が過ぎるのではないかと、歌野は歯を食いしばる。

水都「う、うたのん……っ!」

歌野「みーちゃんは……あぁ、そうね。駄目よね……」

陽乃と歌野の2人体制であれば、

住民たちがこの場から逃げ出せるだけの時間を稼ぐことが出来ただろう。

しかし、今は陽乃が身動きが取れない。

歌野1人で諏訪の住民が逃げ出すだけの時間を稼げるはずもない。

完成型のバーテックスが1体のみならどうにかなるかもしれないが、

それに加えて、複数の初期型のバーテックスがうじゃうじゃといる。

無理だ。駄目だ。

逃げた傍から、それを追いかける初期型と、歌野を襲う完成型とで攻められて全滅する。

歌野「っ」


陽乃が、文字通り命がけで守ってくれたからこそ、乗り越えられた昨日の襲撃

なのに、それを無駄な努力だとあざ笑うようにより大群を引き連れて襲撃してくるとは、

あまりにも、酷い話ではないだろうか。

歌野「……そんなに、久遠さんが恐ろしいの? それとも、人間が憎いの?」

3年前、突如として襲い掛かってきたバーテックス。

目的も何も分からず、ただ勇者だけが対抗することが出来るなどといったファンタジーな展開に戸惑いながらも、

恐怖を押し殺して一生懸命に諏訪を守り、ようやく、つかみ取った希望

それさえも、砕きたいというのか。

歌野「……」

みんなに逃げて―死んで―くださいと言うべきなのか

それとも、ありもしない奇跡を願って、バスに留まってくださいというべきか。

迷っている時間はないのに、答えを決められない

「白鳥さん!」

歌野「!」

「あいつらは私達のことも狙ってるんだよね!?」

考えをまとめられない歌野に向かって、バスから飛び出してきた若い年代の少女たちが叫ぶ。

「私達が逃げれば、少しは数が減るんだよね?」

歌野「っ……それはっ……」

「……それが、私達に出来ることでしょ?」


陽乃は、逃げ出すことは生きることを諦めていないからこその手段というような考えを持っていたが、

彼女達の言うそれは陽乃の考えとは真逆とも言える。

簡潔に言ってしまえば、囮だ。

稼げたとしてもほんの数分程度かもしれない。

おびき寄せられる数はそんなに多くはないかもしれない。

無残な殺され方だってするだろう。

けれど、それでも。

「……白鳥さんに、みんなを託すよ」

逃げ出せない人たちもいる。

彼らが逃げるよりも、彼女たちが逃げた方が時間は――

歌野「駄目……ダメ……それは、絶対にありえないわッ!」

力強く叫んで握りしめた手に血管が浮き出る。

時間が稼げてもほんの一瞬だ。

それでどうにかなる状況でもない。

なにより、もしそれでどうにかなっても、

生き残った陽乃が、きっと、また自分の責任にしてしまうだろうから。

歌野「do my best……何とかして見せる」

歌野は、迫りくるバーテックスの一群を見上げて、大きく息を吐く

陽乃を救うため、その力になるため

九尾の助力を経て、陽乃から引き出す神の力

歌野「お願い……答えて! 宇迦之御魂大神!」


陽乃の実家、その神社で祀られていた神のひと柱。

九尾がそうであるように、

血筋の子として陽乃を寵愛していた宇迦之御魂大神

かの神であれば、歌野にも扱うことは可能だろうと九尾は言った。

実際、すでにかの神は歌野に応えてくれていたし、

だからこそ、歌野は自分の意思に従って陽乃へと言葉を伝えることもできたのだ。

もちろん、ただの人間の身で神を身に纏うのだから、それ相応の代償はある。

だから、なんだというのか。

歌野「っ……」

体にずしりとのしかかってくる重み。

気を抜けば膝から崩れ落ちてしまいそうにもなるが、歌野の意思がそれを拒む。

歯を食いしばる。

かの神によって得られる恩恵は、陽乃が普段使っているような暴力的なものではない。

尽きることなく満ち溢れてくる生命力

それが、宇迦之御魂大神の力。

歌野「ぅ……ごほっ……」

まだ力を使ってもいないのに、その力に圧迫されて……血を吐いてしまう。

けれど瞬く間もなく痛みが引いていくのを感じて、歌野は笑って。

歌野「……死んでも死なない」

歌野は、若草色の輝かしい装束へと変わっていく衣装をそのままに、

いつも手に持っている鞭ではなく、地面から生え延びてきた蔓を引っこ抜いて、力強く振るう。

歌野「誰も死なせたりはしないわ……だって、ここにはまだ、私がいるんだからッ!」


↓1コンマ判定 一桁

01~10 軽傷 全滅
11~20 中傷 ※特殊

21~30 重傷 
31~40 中傷 
41~50 重傷 全滅 ※特殊

51~60 軽傷 
61~70 死亡 全滅 ※歌野死亡
71~80 重傷
81~90 中傷 全滅
91~00 無傷 全滅

※全滅ではない場合は、もう一度判定

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


2回目判定がありますが、力の特性上、ダメージの引継ぎはありません。

遅くなりましたが、少しだけ


前回は遠距離から攻撃するタイプのバーテックスだったが、

今回は、それとはまた別の個体だ

尾のような形状をしたものを持ち、先端には針のように鋭い器官があるバーテックス

半透明の腹部には何かしらの液体のようなものが溜まっており、

そこから伸びる骨に似た何かが、針の方にまで続いている。

歌野「ったぁああああああああッ!!」

歌野は、そのバーテックス率いる軍勢に突撃していく。

普段の何倍もの長さのある蔓は、

さらに、葉は固い棘のようになっており、

歌野の一振りで多数のバーテックスを一網打尽に跳ね飛ばす。

棘が突き刺さった傍から、

力任せに引き裂かれていく通常の個体は、次から次へと消えていく。

しかし、巨大なバーテックスには届かない。


歌野の方だけではなく、

住民たちの元にもバーテックスは向かっていくが、

その全てを歌野は振り払って、弾き飛ばして――

歌野「!」

歌野の攻撃を真似るように、完成型バーテックスは建物ごと歌野の体を横一閃に打ち付ける

歌野「う゛っ」

体の内側からミシリと音がして、砕けた感触が伝わってくる

強烈な衝撃にそのまま吹っ飛ばされかけた歌野だったが、

宇迦之御魂大神の御力の恩恵によって発生した木々をクッションとして、

ぎりぎりでその場に留まって、蔓を振りぬいて初期型のバーテックスはさらに振り払う

歌野「っ……は……」

完成型の一振りで、骨が砕けた。

けれど、もう、痛みはない。

宇迦之御魂大神の恩恵

その尋常ではない回復力は、死にさえしなければ、どうにかなると思わせるほどのものだ

歌野「はっ……はぁ……っ……」

それでも、歌野には疲労がたまっていく。

比較的小型な、初期個体のバーテックスは蹴散らすことが出来ているが、

完成型のバーテックスを屠るには、圧倒的に火力不足だ。


↓1 コンマ

01~10 軽傷  
11~20 中傷 
21~30 重傷 
31~40 中傷 
41~50 重傷 
51~60 軽傷 
61~70 死亡 
71~80 重傷

81~90 中傷 
91~00 無傷


※歌野の状態

2桁目 0~9 で住民被害判定
0127 被害なし
348  軽傷(中)
56   軽傷(大)   
9   死者あり


※ぞろ目奇数 なら被害大
※ぞろ目偶数 なら被害無


バーテックスの猛攻を、歌野はしのぎ切った。

1つ1つの攻撃は決して強くはないが、

死にそうにない歌野の猛攻に耐えかねたバーテックスが、その場から逃げるように去って行ったのだ。

バスが横転させられるようなこともあったりと、

怪我人は決して少なくはなかったが、幸いにも死者を出すことはなく

歌野もまた、軽傷程度の傷が残る程度だ

歌野「っ……」

尾のようなものに薙ぎ払われて、骨が砕けて、内臓が潰れて

針のようなものに腕を裂かれ、わき腹を削られても、

歌野はそのたびに、強引に体を治して……無理矢理に戦い続けた。

水都「うたのん!」

歌野「みーちゃん……」

バーテックスの針に傷つけらた部分は変色し、今にも腐り落ちそうな傷となっている。


痛みと熱に苦し気な表情を見せた歌野は、

蔓で傷を覆って

歌野「みーちゃんは、見ちゃダメ」

水都「えっ」

歌野はどこからともなく草木を発生させて水都の視界を奪うと、

自分の傷に巻きつけた蔓をさらにきつく縛り上げていく。

治った傍から侵されていく……一進一退の体の状態。

力を使い続ければそれで済むが、

力がなくなれば瞬く間に飲み込まれかねないそれは、放っておけない。

歌野「っぅ……あっ……っあぁぁっ!」

刺々しい蔓で、自分の肉を抉る。

傷つけられた箇所を抉りぬいて毒を広げる大もとである傷口をなかったことにし、

治癒能力で強引に、回復させる。

歌野「うっ……っ……」

体力は無尽蔵に回復するが、

精神が回復することはなく、歌野は疲弊しきってその場に崩れる。

歌野が倒れたことで阻む壁がなくなった水都は、慌てて歌野を抱きしめた。

水都「無理しすぎだよ……うたのん……」

歌野の体は、すっかり傷が無くなっている。

けれど、いまだかつてないほどにボロボロになっていたことを、水都達は知っていた。


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


歌野「……だって、そうしなきゃ、誰かが死んじゃうじゃない」

水都「でもっ……だからって!」

歌野「ふふっ。みーちゃんってば、すっごく、言うようになったわね」

水都「うたのんっ!」

以前は、こんなにもはっきりと言葉にすることはなかったのに

陽乃があんまりにも話を聞かない人だったからだろう。

怒っている水都の怒鳴り声にも、歌野は嬉しそうに笑う。

歌野「大丈夫よ。ほら、見て。体に傷1つ残ってないでしょ? 服だって……神聖な装束になっていたから、破れていないわ」

水都「むりやり回復させてただけでしょ!」

歌野「だって、それが私に出来ることだったんだもの」

宇迦之御魂大神の御力は、決して弱いわけではない。

ただ、その力は生命力の増強……つまり、回復力に特化していた。

とはいえ力によって生み出された武器は、広範囲を一気に殲滅できるほどの力があり、

初期個体であれば、たやすく葬り去ることが可能となっている。

しかし、完成型と思われる個体に対しては、あまりにも火力不足だった。

歌野「私はbestを尽くしたかったのよ。そうじゃなくちゃいけなかったのよ」

水都「っ……」

歌野「それもなしに、誰かが犠牲になんてなったら……久遠さんになんて言ったら良いか分からないもの」


歌野「久遠さんのことだから、自分が倒れてさえなければって気に病むわ」

水都「そう、だけど……」

そうだろうけれど。

水都「うたのんが死んじゃったら、もっと苦しいと思う」

歌野「そうかしら……きっと、誰であろうと久遠さんは苦しむはずよ」

戦力とか、関係性とか

ただの一般人よりは重く考えてくれると思うが、

それでも、陽乃は誰が亡くなっても同じように苦しむと歌野は思う。

命懸けで守ったからこそ、今戦うことが出来ていないということを、決して言い訳にはしない。

歌野「だから、私が頑張るのよ。私が頑張らなきゃいけなかったのよ」

水都「死にかけても?」

歌野「私は死なないわ」

実際には死ぬこともあるが、そう簡単には、死ぬことはない。

歌野「久遠さんの心も守りたいから」


水都「その為に、あんな力を?」

水都の不安そうな表情を見ても、

歌野は笑顔を絶やすことなく、そうね。と、呟く

歌野「宇迦之御魂大神様は、食物の神……つまり、農業の神様みたいなものなの」

だから、つまり。

歌野はにこやかなまま、水都を見て。

歌野「私はもはや、農業神! 農業王さえ超えたのよっ!」

水都「……」

元気よく、そして自慢げな歌野に

水都はもう何を言っても無駄ではないかと察して、顔を顰める。

陽乃もそうだが、歌野も大概だ。

もっとも、陽乃よりは緩いけれど。

水都「あまり、多用しないでね」

歌野「……ええ」

歌野は素直に頷いて、早く移動しようと提案する。

またすぐに襲撃してくる可能性もある。

場所を離れなければ……と。

歌野は2号車の方に走って、口元を手で覆う。

歌野「っ……ぅ゛え……」

手のひらが赤く染まる。

力を使った反動も回復させてくれるが、

全てをそうできるわけではなく、解除した後に残ったダメージが来たのだろう。

歌野「っふ……は……はぁ……ごほっ……」

いつか、死ぬだろう。

けれど、それはまだまだ……先の話であるべきだ。


√ 2018年 9月11日目 朝:移動②

↓1コンマ判定 一桁

6 戦闘痕
1 バーテックス 襲撃
9 特殊(再判定)
4 陽乃

11 進化型
91 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

↓1コンマ判定 一桁

特殊判定

0、6 陽乃
1   歌野
2、9 住民
5   2人
4、8 球子
3、7 杏

√ 2018年 9月11日目 朝:移動②


「やっぱり、全部を勇者様に任せるのは良くないと思う」

歌野が襲撃を退けてから暫くして、

1号車の車内では、今後の方針についての話が持ち上がっていた。

先ほども、女子高生たちが逃げることで囮を務めようとしていたけれど、

それは突発的な行動でしかなかった。

結局、歌野に阻まれてしまったし、守られてしまったし、

超常的な力で治癒をしていただけで、

本当なら死んでいるような大怪我をしていたのを、ほとんどの人が目撃した。

「私達だって、怪我をしてすっごく痛かった……けど、勇者様はこんなものじゃなかったんだよ」

バスが横転したことで、多数のけが人が出た。

幸い、死者はいなかったが、中傷程度の怪我人などもいる。

しかし、その程度だと……1人が言う。

人々はそれに異を唱えたりはせず暗い表情で同意するものさえいて、

それはやはり、あの戦いを見ていることしかできなかったことが大きい

「このまま、ずっと勇者様の足手纏いで居るのは良くないな」

「だから、出来ることを考えたい……すぐに、行動できるように」


やはり、少しでも負担を減らすために、

人々が囮として戦力を分散して、

勇者様が少数を相手にして可能な限り、怪我をせずに済むようにするべきではないか。

そういった提案をする人は多いけれど。

「だけど、逃げ回った俺達を勇者様が助けようとする可能性もあるんじゃないか?」

「毎回動かないでくれって言ってくるだろ? 俺達が動き回ると余計に手を煩わせるかもしれないしな」

本当に駄目な時は、逃げ出す必要があるだろう。

けれど、そうではないときは……。

勇者様が求めないときは勝手なことをしない方が良いのではないかという、

慎重派な意見もある。

「じゃぁ、私達には……何もできない?」

「大人しくしてることが、一番いいってこともあると思うけれど」

「だけどっ!」

「そういうとこだろ。冷静にならなきゃダメなんだって」

「……っ」

「気持ちは分かるさ。あんなもん、毎回毎回さ……」


超常的な、化け物による攻撃に目の前でぶつかって……みんなを守って

とても平気そうには見えない大怪我を負いながらも、まだ戦いに向かう陽乃

化け物に囲まれ、傷つく傍から傷を癒し、

まるで……そう、

自分のことを犠牲にするのを何とも思っていないかのように、荒々しい戦いをしていた歌野

そんなものを見せられて、

何もできないことを何とも思わないわけがなかった。

しかし、その戦いの最中、出来ることがあるだろうか。

「やっぱ、できないことは無理しないで出来ることを尽くすべきじゃないか?」

「なら、何が出来るの?」

「身の回りのお世話!」

「久遠さん、超嫌がってストレスになりそうじゃない?」

今は伏せっているため、身の回りのお世話をしても何にも言われないが、

普段は、強く拒否されるに違いない。

それでも傍にいようとする人も中にはいるけれど。

「重荷を背負わせ過ぎないことも、大事だろう」

「そうねぇ。たとえ、なにか不幸があっても勇者様のせいではないって……教えてあげたいわ」


比較的、歳を重ねている男性達の言葉で、車内が静まる。

重荷を背負わせ過ぎないこと。

とても大事なことだ

何かが失われた時、

守れなかったからだと、負い目を感じてしまうかもしれない。

自分たちに余裕がなければ、

しっかりしてくれと、勇者様に不満を抱くかもしれない。

「あんな、年端もいかない女の子に委ねるにはあまりにも……ねぇ」

「でも、言っても……ダメな気がする」

「久遠さんなんて、自分のためにやってるの。なんて言うからね」

ついでに守ると言っていたけれど、だとしたら、昨日の時点で1号車は吹き飛んでいた。

頼られたくないからか。

そんなことを言うのに、守ってくれる。

酷い話だ。

「何かしたいなぁ……」

「無事に四国にたどり着いてから、何かできることがないか探すのはどうかな」

1人が、半ばあきらめたようにそんなことを口にする。

今できることがないから、安全な場所にたどり着いてからの恩返し。

先延ばしのようなその提案に、それはそれとして考えておこう。と、

多くの人が、悩みを抱えていた。


√ 2018年 9月11日目 昼:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0 戦闘痕
7 バーテックス 襲撃
2 特殊(再判定)
9 陽乃

77 進化型
47 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


戦闘規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

√ 2018年 9月11日目 昼:移動①


歌野「これで――フィニッシュッ!」

お昼ごろに襲撃はあったが、

通常状態の歌野でも容易く殲滅できる程度の戦力だった。

歌野は怪我もなく、人々に被害もなかったけれど、

こう、連戦続きだと体は持っても精神的に辛い。

歌野「……はぁ」

宇迦之御魂大神の力で、不死身に近い状態で戦うこともできるとしても、

1人では限界がある。

歌野「でも、私が頑張らなきゃ……」

陽乃なら、完成型でも倒せる

しかし、歌野では撃退がやっとだ。

それは陽乃が伏せっていて、力の供給が殆どなかったからかもしれないけれど。

それ以外の補える部分は自分がどうにかしたいと歌野は意気込む。

歌野「けれど」

本当に、バーテックスが増えてきた。

杏たちはどこにいるのか、無事なのか。

不安は増すばかりだ


歌野は2号車に戻ると、

バスの最後尾、陽乃のもとへと向かう。

歌野「……久遠さん」

まだ高熱が続いており、時々、血だって吐くこともある。

汗でびっしょりな体は何度か拭いてあげているが、

またすぐに、汗だくになる。

陽乃「っ……」

歌野「大丈夫、終わったわ。襲撃って言うほどのものでもなかった」

余裕余裕。と、歌野は笑顔で語る。

出来る限り小さな声で。

何も話さないのもあれだが、大声は、頭に響きそうだ。

歌野「……」

陽乃の手を握る。

同年代で考えれば、少し大きいだろうか。

歌野「お願い。早く良くなって……」

戦って欲しくはない。

けれど、いつまでも苦しんでいる姿を見ていたくはない。

歌野「元気な貴女を、見ていたいの」

心の中で、宇迦之御魂大神へと祈る。

どうか、陽乃を癒してあげて欲しいと。


↓1コンマ判定 一桁

1,3 陽乃
2,6 水都
8  九尾
4,9 住民
5  戦闘痕
7  特殊

※ぞろ目 特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


歌野「久遠さんは、凄いわ」

陽乃が扱っているイザナミ様の力なんて借りようものなら、

歌野はものの数分で全身から血を流して息絶えるだろう。

陽乃はそれを繰り返して、死にかけながらも生き延びている。

宇迦之御魂大神の力を借りることが出来ている歌野も大概ではあるが、

それはあくまで、陽乃と繋がりがあることを前提としてのものだ。

そうでなかったら、最悪力を借りることは出来なかっただろうし、

借りることが出来たとしても、もっと代償が大きかったかもしれない。

歌野「……自信を持っていい。誇っていい。久遠さんは、間違いなく勇者なんだから」

歌野は、陽乃に寄り添いながら、そう声をかける。

穏やかな寝顔ではなく、

悪夢にうなされているかのように苦しんでいる陽乃の額を、タオルで拭う。

歌野「久遠さ――」

突然、バスが停まる。

急ブレーキではなく緩やかなブレーキだったため、

バーテックスの襲撃を受けたわけではないはずと、歌野は陽乃を一瞥して席を立つ

歌野「ちょっと、出てくるわ」


しきりになっているカーテンをくぐって、バスの前方へと向かう。

歌野達がいる2号車が先頭になっているため、

前方にバスは見えない。

歌野「何があったの?」

「それが……」

言い淀む住民の1人。

何が起きたのか、判断に困りつつもひとまず出ようとしたのと同時に、

バスの前方の扉が開く。

杏「白鳥さん!」

歌野「えっ……伊予島さん!?」

長い髪はまとまらずぼさぼさに乱れていて、

身に纏う衣服も、あちこち引き裂かれて、赤黒く汚れている。

陽乃を見ていると、満身創痍という言葉が不適切に思えては来るけれど

杏も、傷だらけだった。

杏「話したいことはたくさんありますけど、時間がありません。今すぐ、バスで付いてきてください」

歌野「伊予島さん?」


ひっ迫した様子の杏の案内に従ってバスを走らせること数分

滋賀県内にある高校へと、移動する。

本校舎は見る影もなく倒壊してしまっているけれど、

校舎から繋がっている道と体育館はまだ残っており、

杏はその体育館へと、みんなを誘導する。

杏「良くご無事で」

歌野「伊予島さんこそ……」

歌野はそこまで言って、はっとする。

歌野「土居さんは? 見回り?」

杏「タマっち先輩は、重傷で動けないんです」

杏の目が向けられた体育館の一角

かき集めただろうカーテンなどを敷いて作られた簡易なベッドがあり、

そこには、杏以上に傷だらけになっている球子が横たわっていた。

歌野「何が、あったの?」

杏「見たこともないバーテックスから奇襲を受けて……それで……っ」

一瞬だったと、杏は言う。

バーテックスが増えてきたことを警戒してルートを変えた後も、

結局、バーテックスの襲撃は絶えることなく続いて、

その最中に、どこからともなく放たれた一撃を球子が受けたのだと、杏は言う。

その反動で杏と球子はその場所から遠く弾き飛ばされたおかげで追撃を受けずに済んだものの、

暫く、身動きを取ることさえできなかったらしい。


杏「見えたのは、矢のようなものを放つ凄く大きな個体で……白鳥さん達は襲われずに済んだんですね」

良かった。と、杏は胸をなでおろす。

そんな個体に襲われたらひとたまりもなく、

住民が無事であるはずがないと考えているのだろうけれど。

歌野は、首を横に振る。

歌野「矢の個体は久遠さんが命がけで倒してくれたわ」

杏「え……あっ、そ、そういえば久遠さんは?」

歌野「……2号車の中で眠ってるわ。力の反動で、暫く動けないの」

杏「そう、ですか」

死亡したとかではなく、

力の反動によって伏せっているという話を聞いて杏は少し安心したように声を漏らしたけれど、

まだまだだと、首を振る。

杏「久遠さんなら、あのバーテックスも倒せるんですね」

歌野「でも、今のままでは確実に死ぬわ。強い力を使い過ぎれば、久遠さんだって無事では済まない」


歌野は苛立ちのようなものを感じさせたが、その気配はすぐにどこかへと消えていく

力不足だ。あまりにも。

宇迦之御魂大神様のお力を借りることで、

普段よりはずっと強い力を使えるけれど、でも、出来ても撃退程度。

倒すには、陽乃に力を使って貰うしかない。

杏「それは、分かってます……でも、あと1体いるんです。サソリみたいな個体が」

歌野「それなら撃退したわ。倒しきれなかったけど、近くにはいないはず」

杏「えっ……」

歌野「だから、移動するなら今の内よ」

杏「……」

歌野「伊予島さん?」

杏「あっ……いえ、すみません……」

神妙な面持ちで、暗く沈んだ雰囲気を醸し出していた杏は、

歌野に声をかけられた途端に、いつもの様子に戻る。

杏「なら、タマっち先輩を寝かせられる場所を――」

歌野「そのことだけど、私がどうにかできるかもしれないわ」


球子は両腕や両足を骨折しており、

右腕にいたっては、手首から先が無くなっていないことが奇跡のような損傷が見える。

意識はあるが、その痛みから六に動くこともできないといった様子の球子は、

歌野の姿を見つけると、強がりな笑みを見せた。

球子「……なんだ……来ちゃったのか」

歌野「ええ。2人が中々到着していないから心配になっちゃって」

球子「悪い……しくじった」

杏「タマっち先輩は何も悪くないよっ……」

歌野は宇迦之御魂大神様に呼びかけて、

その膨大な生命力を借り受ける。

自分を癒すのではなく、他人を癒す。

歌野の生命力が失われていく一方になり、その分が、球子へと流れ込む。

歌野「っ……」

若草色の光が、広がる。

蛍火のような明かりが辺りに漂い始め、

朽ちた床面などから、小さな命が芽を出していく。

歌野「……っ……」

体が熱い。

今にも失神しそうなほどに、苦しい。

歌野は、口の中に血が滲むのを感じながら、それでも球子を癒すために力を使う。

球子が治れば、また少し、楽になれる。

その為ならこの程度。と、歌野は覚悟を決めていた。


力を使い始めてから数分で、球子の体は元通りに回復し、

傍にいた杏の体も癒えて……辺りには雑草が生い茂っていた。

歌野「はぁ……はぁ……っ……」

球子の隣に座っていた歌野は、

呼吸を乱し、ぐっしょりと汗をかき、ゆらりと揺れて――

杏「白鳥さんっ!」

水都「うたのんっ」

杏が歌野の体を抱きとめて、水都が傍に膝をつく。

歌野「だ、大丈夫……ちょっと、疲れただけ」

水都「鼻血が出てる」

水都は分かってるとでも言うように笑みを浮かべて、

歌野の鼻の辺りを袖で拭う。

水都の袖は赤く汚れて、一緒に汗も拭ってしまったのか、濡れてしまっていた。

球子「無理、するなよっ」

歌野「このくらいは、無茶でしかないわ」

球子「けど!」

球子は、自分の体が治ったことを実感しながら、

ばつが悪そうに、歌野へと声を荒げる。

自分を治すために歌野に負担がかかるのは、望まないことだ。

歌野「……my self 気にしないで」

自分の為と、そう言う歌野に杏が顔を顰める

杏「久遠さんみたいなこと言わないでください……そんなの、駄目です」

歌野「ふふっ……ソーリー。でも、本当に、1人では限界があったから、戦力が欲しかったの。本当よ」


緩やかに意識を失っていく歌野を抱きかかえて、

杏と球子は急いでバスへと戻っていく

強力な個体を警戒していたこと

球子が動けない状態だったこと

重なるばかりだった不幸が解消された今、

いつまでも同じ場所に留まっている理由はなかったからだ。

杏「すみません! 不安はあるかもしれませんが、これからは私達も同行します!」

杏は、住民たちにここからは自分たちも守護するといい放って、先導する。

信じて貰えるか不安だったが、

住民たちは誰一人として非難せず、それどころか、杏達を快く受け入れて、

疲弊している歌野達のことは任せて欲しいとまで言う

「伊予島さん達のこと、知ってるからね」

向こうで過ごした時間は、長くはないが短くもない。

だから、みんな知っているのだ。

歌野と陽乃しかいなかった戦力に、球子と杏が加わる。

完成型の前では力不足かもしれないが、

決して、少なくはない戦力だろう。


√ 2018年 9月11日目 昼:移動②

↓1コンマ判定 一桁

3 バーテックス 発見
5 バーテックス 襲撃
8 特殊(再判定)
1 陽乃

58 55 進化型
85 88 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

√ 2018年 9月11日目 昼:移動②


バスは、バーテックスの襲撃を警戒して速度を上げて移動したことで

滋賀を抜けて、京都へと入っていた。

現在は途中にあった比較的大きな病院で休憩を取っている。

杏「もう、四国に襲撃があったなんて……」

水都「諏訪を出る直前までは、軽い程度で済んでいたらしいですが」

今どうなっているのか分からない。

乃木若葉、高嶋友奈、郡千景

三人の勇者によって守られてはいるが、

ここ最近見た完成型が出てきていたとしたら、

多少なり被害が出てしまっているに違いない。

球子「完成型のやつは、ヤバいぞアレ。一撃でタマの腕が持っていかれた」

奇跡的に直撃は免れたが楯は一瞬で砕け、手首から先が消し飛びかけたのだ。

通常の状態というのが正しいかはわからないが、

今の球子たちの力では、足元にも及ばない。

それはたぶん、若葉達だって同じことだろう。

陽乃だってイザナミ様の力を使ったからどうにかなっただけで、

そうでなかったら、最初の一撃を凌ぐこともできなかった恐れがある。


杏「切り札でどうにかなるかな……」

球子「正直、なるとは思えないな」

杏の呟きに球子は首を振る。

勇者に許された、切り札

精霊の力を借り、それを身に纏って強力な力を使うというそれは、

しかし、可能な限り使わないようにするべきだという話がある。

それは、陽乃が常にその状態である可能性があるからだろう。

精霊を身に纏う反動で体が傷ついていく

精神的な作用もないとは言い切れない。

超常的な力である以上、その影響は未知数だ。

しかし、それでさえも力不足かもしれない。

球子「杏だって、あの衝撃波だけでズタボロになったじゃないか」

水都「うたのんも切り札のような力を使って、ようやく撃退できるといった状態だったので、難しいかもしれません」

みんなで力を合わせれば可能性はある。

だが、1人で相手するのは不可能だろう。

では、少し中断いたします
再開は20時ころから


球子「そうだ! あれだあれ! 何だったんだ一体……タマの体があっという間に治ったぞ」

水都「あれは、宇迦之御魂大神様のお力です。久遠さんに協力してくれていた神様の1人らしくて、
    戦闘面での能力は決して高くない分、生命力だけはいずれにも劣らないって話で」

杏「じゃぁ、どうやってあんな強いバーテックスを撃退したんですか?」

水都「傷ついた傍から回復して無理矢理攻撃し続けて追い返しただけです」

杏「!」

杏は信じられないとばかりに目を見開いたが、球子は少し分かるといった様子で目を伏せる。

全く同じではないにしても、志は似たようなものがある。

死に物狂いで守るのは陽乃だってそうだし、

命懸けで守りたいものがあるというのは、球子だって同じだった。

球子「そんな力を使って何ともないわけがないよな……」

水都「土居さんが気に病む必要はないですよ。うたのんが悪いんです……無理しないでって言っても、このくらいは平気だって」

杏「久遠さんのそばにいると、感覚が狂っちゃいますよね」


杏の困った笑いが少しだけ響く

無茶は当たり前

下手したら無理だって日常茶飯事な陽乃の生き方。

身も心もすり減らし続けるあれは、

基準にするには度が過ぎているだろう。

杏「白鳥さんも暫くお休みが必要だろうし、私とたまっち先輩でどうにかしないとだね……」

球子「って言ったってなぁ」

砕け散った楯は、

球子が回復したのに合わせて復活してくれたが、

力不足なのは変わっていない。

完成型さえ出てこなければ。というのはあるけれど、

進化型だって、多数出てきたら手に負えない

さっきまでは、勇者が二人いるだけだった。

逃げるも自由で、身軽だった。

しかし、これからはそうもいっていられない。

球子「やれることをやれる限り、最大限やるしかないか」

杏「ううん。それ以上にやらなきゃ駄目だと思う。四国が襲撃を受けているなら、ここから先はもっと、厳しい道のりになると思うから」


球子「若葉たちが全滅させてくれてないかなぁ……」

杏「完成型を作るために、初期個体の多くを消耗してはいるだろうから……どうだろう」

四国の方にも完成型が出ていたら――

それが考えられる中で最も最悪な話になるが、

若葉たちは杏達と違って、神樹様のそばにいる

その力を強く与えて貰えるため、杏達よりは善戦するだろうし、

負傷しても治療を受けられるというのは心強い

なにより、良く体を休めることが出来る。

水都「完成型の1体は久遠さんが討伐、もう1体はうたのんが撃退したので、しばらくはいないと思いたいですね」

居たら困ると三人が口をそろえる。

切り札以上の力を使えるのは、陽乃と歌野

杏と球子は四国に戻るまでは無理だ。

水都「頑張ったんだから……」

杏「本当、凄いです」

球子「あとは任せろっ!」

そう声をあげた球子は、

しゅんっと声を落として、目を逸らす。

球子「自信がないけどな」

杏「たまっち先輩ってばっもうっ」

球子「……強くなりたいだろ? あんずだって」

杏「それはそうだけど……」

四国にたどり着くことさえできなくて、

球子は重傷で、強力な個体がいて……ずっと動けないのではないかと絶望さえしかけたから。

杏「でも、それはそれ。これはこれだと思う。気持ちだけでも強くいたい」

杏は、くっと唇を噛んで答えた。


√ 2018年 9月11日目 夕:移動①

↓1コンマ判定 一桁

1  バーテックス 発見
9  バーテックス 襲撃
8  特殊(再判定)
5,4 陽乃

91 99 進化型
19 11 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

√ 2018年 9月11日目 夕:移動①


時折浮遊感を感じては、がたんっと落ちる。

そんな悪路を走っている感覚が背中を打つ中、陽乃はゆっくりと目を開く。

まだ体の節々は痛みで鈍く、動かせる気がしないが

意識ははっきりとして来ている。

陽乃「っ……」

すぐそばには、歌野がいる。

気を失うまで感じられていた姿かたちとは少し異なって、

同じように疲弊しているように見えるけれど、手は歌野に握られている。

陽乃「ぁ………」

まだ喉は本調子ではないようで、歌野のことを呼べない。

陽乃は言葉を飲み込んで、どうにか横を見る。

歌野からは力を感じる。

今まで陽乃から歌野へと流していくだけだったはずだけれど、

今は、歌野から力が流れ込んできている。

それも穢れの薄い、温もりを感じる力だ


陽乃「……」

普段の歌野の力ではない

明らかに、何か別種のものが混じっていると、陽乃は感じ取って顔を顰める。

きっと、九尾が何か余計なことをしたのだろう

陽乃「っ……」

今は、何時で、何日なのか

そして、どこにいるのか。

歌野がここにいるということは、きっと、バスは2台とも大丈夫なはず

体は動かないし声も出ない。

歌野「ん……」

歌野も疲れているようで、

繋がっている手から力は流れてくるけれど、微弱だ。



1、歌野に声を流す
2、九尾を呼ぶ
3、大人しくしておく
4、イベント判定


↓2


01~10 九尾
11~20 歌野
21~30 水都
31~40 杏
41~50 球子
51~60 女子高生
61~70 九尾
71~80 球子
81~90 歌野
91~00 杏

↓1のコンマ


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


九尾『ようやく目を覚ましおったか』

陽乃『……九尾』

どこからか聞こえてくる声は九尾のもので、

陽乃は、少し遅れて名前を呼ぶ。

陽乃『なにか、あった……?』

九尾『そうじゃな。主様が気にしておった小娘2人が、先刻合流したぞ』

陽乃『2人って、伊予島さん達?』

九尾『うむ』

それ以外にないという九尾に陽乃は驚いた様子もなく、「そう」と呟く

驚いてはいるけれど、

それを表に出すだけの余力がまだなかった。

九尾『幸い、何事もなかったようじゃ』

陽乃『そんなわけないでしょ。遅れた理由があるはずだもの』

九尾『主様が打倒したバーテックスから逃れるために身を潜めていたそうじゃ』


陽乃『あぁ……なるほど』

陽乃はあのバーテックスを撃破することが出来たが、

簡単だったとは思っていないし、

それを恐れて身を潜めていたからって、それを貶したりもしない

むしろ、通常の力で生き延びていたことは称賛さえできる。

あのバーテックスは遠くから狙いすましてくる凶悪な個体で、

距離的にまともに戦えるのは杏だけだが、

普段の杏では、それに対抗しえる力がない。

そして、球子の楯で防げるような攻撃でもなかった。

陽乃『良く生きてたわね……』

九尾『うむ。まぁ、1人は死の境を彷徨ったという話じゃったが、今は主様と白鳥歌野の代理を務めておる』

陽乃『何事もなかったって、嘘じゃない……土居さんかしら』

呆れたように言った陽乃は、

それほどの怪我をしたのなら、杏よりは球子の可能性が高いと考えて、思う。

そもそも、

杏が死にかけていたら、冷静に状況を判断してくれる司令塔がいない

そうなれば、あのバーテックスから確実に逃げ切るというのは容易ではなかっただろう


とはいえ、死にかけているのは陽乃も同じだ。

バーテックスにやられたか

自分でやらかしたかの違いはあるけれど、

身動きが取れなくなったのは同じだ。

今にして思えば、

バスではなく徒歩での移動になっていたら早々に全滅していたかもしれない。

陽乃は、まだ体が鈍いのを感じながら、目を瞑る。

陽乃達のいるバスは1号車の後ろを走っているようで、

先頭を走る1号車からは気を失う前には感じなかった気配を感じる。

2人分の、一般人とはかけ離れた存在感。

それが、杏と球子だろう。

陽乃「っ……」



1、それで。今はどの辺りなの?
2、2人はまだ戦えるの?
3、白鳥さんから妙な力を感じるのだけど
4、貴女なら、私を動けるように出来るわよね?
5、他に何かあった?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃『貴女なら、私を動けるように出来るわよね?』

九尾『ふむ……出来ぬわけではないが、何じゃ主様。死にたいのかや?』

九尾は笑うでもなく、陽乃に問い返す。

宇迦之御魂大神様と違って、九尾は回復させることを主としているわけではない。

他の勇者と同様に、治りが早くなるという程度の恩恵しか与えられないのだ。

しかし、陽乃の体が動けなくなっている原因である部分を "誤魔化して" 動けるようにするくらいは可能である。

陽乃が体を治して欲しいと言わず、

動けるように出来るよね。と問う時点で、後者を求めているのは明らか。

けれど、それは体を酷使することになる。

体の治りは遅くなるし、悪化する。

下手をすればさらに怪我を重ねることもあるだろう。

九尾『止めておけ。主様は別に、死に急いでいるわけではないのじゃろう?』


陽乃『それはもちろん……死にたくなんてないわ』

初期個体のバーテックスや、

進化型のバーテックスが出てくるという程度であれば、

歌野……それに、杏と球子が加わるというなら陽乃は少しくらい楽をしてもいいと思う

しかし、完成型と思われる個体が出てきている。

陽乃でもイザナミ様の力を使ってようやくと言った感じで

歌野や杏、球子では対抗しきれない可能性もある化け物

それが現実のものとなった今、

陽乃は悠長に休んではいられない。

出遅れれば、勇者3人の内1人が命を落とすことになるかもしれないし、

ここまで連れてきた人々の多くが犠牲になることもある。

陽乃『私が生きるために必要なことよ』

九尾『愚かな』

死に急いでいるだけだ。

そう言っても、陽乃は "でも今日は死なない" と言うだけだ。


九尾『手は貸してやってもよいが、四国まで生き延びられる保証は出来ぬぞ』

陽乃『……そう?』

九尾『呆けおって』

呆れたように零す九尾

本当にそんな顔をしているのかと考える陽乃の頭に、九尾の声が響く

九尾『諏訪を捨てれば多少、治りも早くなるやもしれぬぞ』

陽乃『またその話?』

九尾『妾の力で誤魔化すよりは、生き残ることもできよう』

ただでさえ、遠く離れていく諏訪の結界を維持しているというのに、

無理すれば、死ぬ可能性が高い

なら、やはり、もう余分な方は切り捨ててしまうべきだ。

九尾はそう考えている

元々、人間の命なんて久遠家を除けば取るに足らないものと考えているから、

残してきた人間なんて、無意味としか思っていない。



1、諏訪を諦める
2、九尾に頼む
3、ならいいわ。今すぐ必要でもないし


↓2


陽乃『良いわ。貴女がやって』

九尾『主様』

陽乃『貴女に頼むって、言ってるの』

諏訪を切り捨てれば、確かに治りが早まるかもしれない

けれど、それでは遅いかもしれない。

今日の夜襲撃されたとしたら、治りが速いだけでは間に合わない

明日の朝も、きっと。

陽乃『無理に動く必要がなければ、動かなければいいだけでしょ』

九尾『ふむ……』

大人しくしていればいいというものではないけれど、

そうしておけば、いくらかマシではあるだろう。

とはいえ、大人しくしていられるかどうか。

九尾『無理をすれば本当に死ぬことになるぞ』

陽乃『分かってる』

しかし、今のように何一つできないというのは辛い。

声も出せず、指の一本すら動かせない状態は。

陽乃『ちゃんと、分かってるから』

九尾『……まったく、主様は理解のできぬ娘じゃな』


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃『貴女が人のことを理解なんて……する気がないくせに』

九尾『くふふっ』

九尾の笑い声が聞こえる。

肯定と言わんばかりのその声は、

偽りではなく、少しだけ楽しんでいるようにも感じられた。

九尾『主命とあらば、致し方があるまいな』

一瞬、声が途絶えたかと思えば、

どこからともなく九尾が陽乃の上に跨るような形で姿を現す。

狐ではなく女性の姿の為、

九尾本来の毛色を表す長い黄金色の髪が、陽乃の頬を擽る。

陽乃『どうしてそこなのよ』

九尾「そこに娘がおるからじゃ」

陽乃の傍らで、手を握ったまま伏せっている歌野

体を悪くする姿勢のまま眠って動かないからか、

仕切られた空間の床面積はほとんど占有されているらしい

九尾「主様。妾は治してやるわけではないと忘れるでないぞ。"治ったようにみせかける"だけじゃ。よいな」

陽乃『分かってるってば』

何度も注意してくるのは、陽乃が言っても無駄な人間だと考えているからだろう。

人間はともかく陽乃のことは多少、理解してきているのかもしれない。

陽乃『それでも必要なことなのよ』

必要がなければ、大人しくしていればいい

杏と球子、それと歌野にバーテックスは全部任せるのは、諏訪でもしていたことだから。

その頃と大して変わりはない。

嫌な話、慣れていることだ

陽乃『小言は良いから、早くして』

九尾「急くな急くな」

九尾は呆れながら、陽乃へと体を下ろしていく。

長い髪が陽乃の顔を囲い、それなりの膨らみが陽乃の胸元を押しつぶして

真偽不確かな九尾の体温が感じられる。

陽乃『……必要なことなの?』

九尾「うむ」

九尾は嘘っぽく答えると陽乃と体を重ねていき、

九尾の熱がじわじわと広がるにつれて、まるで動く気配のなかった陽乃の手足がぴくんっと反応する。

陽乃「っ……きゅ……きゅう、び」

かすれ声しか出なかった喉も、

痛みも不快感もなく、声が出るようになった。

陽乃「九尾……」

九尾「……ふむ。もう暫くじゃ。数刻も待てぬほどではあるまい」

やり方はおかしいけれど、陽乃の望みを叶えようとはしてくれているようだ


九尾が言う通り、少し経ってから陽乃の体は動くようになった。

重さも痛みも感じない。

苦しんでいたのが嘘のように、何一つ違和感がない

陽乃「……さすがね」

陽乃は歌野に握られっぱなしの右手を一瞥すると、

左手で数回握り拳を作っては開いて、息をつく。

喉の不快感もなさそうだった。

陽乃「完治したみたいだわ」

九尾「何一つ正常なところなどあるまいに」

陽乃「それはそうだけど、気分の問題よ」

九尾「ふむ……まぁよい。それと、可能な限り早く体を治したいならば、極力その娘の傍におると良い」

九尾は歌野を指さす。

眠っている歌野の体は傷1つないけれど、

口元を拭ったであろう袖と、

顔が伏せられているシートの一部には、赤いシミ汚れが出来ている。

陽乃「……私の過剰な力を受けてるの?」

九尾「いや、むしろ主様の力を補っているというべきであろうな。
    ただでさえ消耗しておるのに、阿呆な主様は諏訪を切り捨てぬという。
    そんな状態ではいつまでたっても、体が治ることなどあり得ぬ」


陽乃「……そう」

歌野から力が流れ込んできているのは、ずっと感じている。

それが陽乃に害を及ぼすようなことはなく、

むしろ、気分的には悪くはないことも。

どうして歌野がそんなことが出来るのか、陽乃は分かっていないけれど。

陽乃「白鳥さんに何かした?」

九尾「妾は何も与えてはおらぬ」

陽乃「貴女は、ね」

あえてなのか、

なにかがあると思わせぶりな返答をする九尾を一目見て、

陽乃はまた、歌野へと目を向ける。

陽乃「一緒にいるのは、あまり好きじゃないのだけど」

九尾「主様の意思に反してでも、小娘は付きまとうやもしれぬが」

陽乃「……でしょうね」

陽乃の体を癒せないとしても、

水都や歌野は傍にいたがったりするし、

そこに大義名分が加わったなら、いない理由がないからだ。

陽乃「まぁ、検討はしておくわ」


√ 2018年 9月11日目 夕:移動②
↓1コンマ判定 一桁

3 バーテックス 発見
5 バーテックス 襲撃
7 球子 杏
9 歌野

53 33 進化型
35 55 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


短いですがここまでとさせていただきます。
明日はお昼ごろから再開予定になります。

では少しずつ


√ 2018年 9月11日目 夕:移動②


杏達が合流したことで必要以上に探索をする必要はなくなったこと。

そして、速度を落としていてもバーテックスの襲撃の頻度が増えてきていること。

負傷者の数が多いこと

それらもあって、バスはそれなりの速度で走っていたらしい。

陽乃が無理矢理体を治してからはじめての休憩では、すでに、神戸にまで来ていた。

陽乃「……早いわね」

「久遠さん!」

陽乃「っ!」

陽乃がバスから降りるや否や1号車から降りてきていた女子高生が気付いて声をあげる。

その憩いのまま飛びつこうとしてくるのを、手で制して。

陽乃「まだ本調子ではないの。止めて頂戴」

「そう、なの? そう、だよね……ごめん。つい」

陽乃「……」

陽乃は偽っているだけで酷くボロボロな状態だが、

彼女達もまた、体のいたるところに傷を作っている。

陽乃「貴女も大人しくしていれば?」

「このくらいなら、全然平気だよ。久遠さんも白鳥さんも……これ以上の体でも、無理して戦うでしょ?」

陽乃「一緒にしないで」

「してないよ。できないよ。全然……違うから」


彼女は、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。

陽乃達勇者と、ただの少女である彼女達とでは、大きく違いがある。

彼女はそれを痛感させられてしまったし、

同じだなんて、口が裂けても言えない。

同じ女の子……だったなら、

陽乃達は、逃げ出していたかもしれない

あるいは、

女子高生達はバーテックスに立ち向かっていたかもしれない。

少しは出来ることを尽くそうとしたけれど、

それもできずに、終わったのだ。

「久遠さんも、白鳥さんもさ。無理しすぎだよ」

陽乃「無理しないとどうにもならない世界が悪いのよ。私は悪くないわ」


陽乃はそっぽを向く。

本当に、世界が悪い……何もかも、全部

あの日に始まらなければ何事もなかったのだから。

陽乃「1号車に2人がいるんでしょう? 私よりそっちに構ったら?」

「球子ちゃん達は私達がこうやって近づかなくても平気みたいだし」

陽乃「おせっかいは必要ないって?」

「違う。向こうから話しかけてきてくれたりするってこと」

けれど、陽乃は違う。

相手から近づかないと、近づいてこようとはしない。

近付けば突き放すし、

近付かなければ、それっきり。

そういう人だから、周りが近づいていくだけだ。

陽乃「そう。よかったじゃない」



1、杏と球子と交流
2、歌野と交流
3、水都と交流
4、九尾を呼ぶ
5、私とはもう関わる必要はないでしょ?
6、そこまで、大怪我をした人はいないのね


↓2


陽乃「暫くは私、2号車の方になるから」

「そっか」

しょんぼりとする彼女は、

残念そうに、スカートのポケットをまさぐる。

手に取ったのは画面のひび割れた携帯端末

電源は入るようだが、一部、真っ黒なままだ。

「連絡先交換できても、やり取りできないんだよね」

陽乃「そもそも私、持ってないから」

陽乃は突き放すように言うと、

前方の1号車から杏達が下りてきているのが見えて、目を細める

陽乃「じゃぁ、私はあっちに用事があるから」

「あ、うん……歩いて平気なの?」

陽乃「問題ないわ」

支えようとした彼女に背いて、陽乃は杏達のもとに向かう。


陽乃「久しぶりね」

杏「久遠さん!」

球子「……ほんとに陽乃か? 九尾が化けてるんじゃないか?」

杏「えっ」

駆けだそうとした杏の足が止まって、

球子は怪訝そうに陽乃を見つめる。

以前、九尾の力によって化かされた経験があるからだろう

しかし、今回は正真正銘、陽乃だ。

九尾の力が加わってはいるけれど。

陽乃「そう思うくらい死にかけていたのは認めるけれど、私は私よ。疑うなら、バスの中でも見てきたら?」

今は、陽乃の場所に歌野が横になっている。

九尾は詳しく明かさなかったが、

陽乃のよりは重くはないにせよ、

体の内側を押しつぶされるような経験をしたのだろう。

歌野の体にも少なくない影響が出ているのは目に見えていた。

杏「良かったです……久遠さんが生きていてくれて」

陽乃「私に言える立場なの? まさか生きてるとは思わなかったわ」


杏「確かに、そうです」

球子「正直死ぬかと思った。いや、死んだと思ったけど……歌野に助けられた。怪我を治してくれたんだ」

陽乃「白鳥さんに、ね。」

歌野から感じたあの力は、治癒系統の力だったらしい。

陽乃だけでなく、球子達にまで影響する力となると、

単に、陽乃の力と言うわけではないだろう。

陽乃「……」

悩まし気に息をついた陽乃は、球子を見る。

球子の体にも、怪我1つない。

陽乃「……宇迦之御魂大神」

杏「久遠さん?」

陽乃「こっちの話しよ。気にしないで」

歌野が借り受けられるのは、陽乃の力

であるなら、久遠家の人間として陽乃を愛おしく思う神々のひと柱である、彼女以外にはあり得ないと陽乃は考える。

陽乃「大体の話は聞いたわ。完成型……って、言いたいところだけど、あの新型に襲撃を受けたんでしょう?」

杏「そうなんです……それで、タマっち先輩が大怪我しちゃって」

球子「陽乃にぶん殴られた経験が活きて、どうにか力は逸らせたんだけどな」

それでも、死なないのが精いっぱいだったと、球子は笑う


杏「笑い事じゃないよっ!」

球子「今生きてるんだから、良いだろ」

それに、と、球子は言って

球子「笑わなきゃやってられるかあんなの。何なんだよ」

通常の個体よりも強い進化型のバーテックス

それなら球子や杏でもどうにかできていたが、

あの完成型と思われる個体は、どうにもならないのだ。

球子「大きさも攻撃力も、まるで桁が違ってた」

杏「でも、久遠さんはそのバーテックスを倒せたんですよね?」

陽乃「倒せたといえば倒せたけれど、引き分けのようなものよ」

杏「そのせいで死にかけるほどの反動を受けたのは聞いてます」

だから、戦って欲しいとは言わない

むしろ、戦って欲しくないと思っていると杏は言う。

杏「きっと、私達の切り札も、あれには通用しません」

通用するなら、陽乃の反動はもう少し軽いもので済む。

そうなら、歌野の力でも新型のバーテックスを倒せていたはずだ。

杏「……久遠さんみたいに、もう1つ上の力が必要な気がします」

陽乃「最悪死ぬわよ?」


陽乃の力は特殊過ぎるため、

同レベルの反動があるとは限らないけれど、

それに近いほどの副作用は覚悟する必要があるだろう。

球子「けど、じゃなきゃどうにもならないだろ」

バーテックスは、さらに強力な敵を出してきた。

それはたぶん、陽乃という脅威があるからだ。

しかし、陽乃一人にそのすべてを背負わせるわけにはいかない。

求めなくても、そうしてしまう人だから。

杏「四国に戻ったら、大社に掛け合ってみようと思います」

陽乃「そう」

杏「そこで、あの……可能なら、久遠さんも一緒に行きませんか?」

陽乃「私が? どうして?」

杏は少し考えて

杏「久遠さんも正式に勇者として認めて貰うためにです。このままだと、久遠さんはずっと悪く思われたままですよ」



1、事実なんだから仕方がないでしょ
2、別に良いわよ。そんなの
3、嫌よ。どうなるか分からないんだから
4、掛け合うなんてやめておきなさい
5、無事に戻れたなら、付き合ってあげてもいいわ。1度だけね


↓2


陽乃「無事に戻れたなら、付き合ってあげてもいいわ。1度だけね」

杏「本当ですか!?」

陽乃「戻れたらの話よ」

杏「戻れなかったら、どうせ叶わない話じゃないですか」

半分拒んでいるようにも聞こえるけれど、

戻れたら応じて貰えるなら、それは絶対に応じてくれるといってくれているようなものだと杏は思っている。

戻るのも難しいことだ。

それは、良く分かっている。

陽乃も、だからこそそんなことを言ったのだろうから。

杏「私達が新型に襲われたということは、四国もまた、同じく襲われている可能性があります」

陽乃「そうね」

杏「もし、そうだとしたら……」

最悪壊滅しているかもしれない。

若葉たちの誰かが命を落としているかもしれない。

杏「だから、正直可能性は低いかもしれません」

陽乃「そうよ。だから、その全部が何事もなければ応じてあげるって言ってるのよ」


陽乃「四国に被害が出ていたら、私、どうせまた恨まれることになるから」

球子「そんなことあるか?」

杏「私達が抜けたせいだって、思われることはあると思う」

球子「なんだそれ……」

大社は咎めないこともあるだろう。

しかし、人々はどうだろうか。

人柱を拒み、バーテックスの襲撃を引き起こしたとされる久遠陽乃

つい最近、力のない人間を殺め、

拘束されるとなったら、四国からの逃亡

あろうことか、5人しかいない貴重な戦力である勇者の内、2名を道連れにだ。

その結果、被害が出たと言われる可能性は、残念ながら高い

杏「それも含めてって、ことですよね?」

陽乃「そうねぇ」

正直、それを避けるのは無理と言っていい。

陽乃「大社に拘束される気はないから」

あんな思いは、もうお断りだ。


球子「とは言っても、歌野達を連れ帰れば悪いことばっかりじゃないだろ」

陽乃「その功績が、本当に私のものになるって思ってる?」

諏訪に向かったのは、陽乃だけではない。

今ここにいる杏と球子もそう。

そして、諏訪からの道のりには、諏訪を3年間守り抜いた歌野がいる。

杏「……」

答えを躊躇う杏達を見て、陽乃は小さく笑みを浮かべる。

陽乃「私が、その立役者と言われるわけがないでしょう?」

陽乃はただの逃亡者。

それ以下にはなり得るが、それ以上になることはないかもしれない。

陽乃「そもそも、私は私が死なずに済むための駒が欲しいから諏訪に行ったんだし。名声なんてどうだっていいわ」

球子「だとしても、みんなが無事なのは陽乃の手柄だろ」

杏「久遠さんがなんて言っても、それは変わらないと思います」

四国の誰かがなんて言ったって、

諏訪から連れてきたみんなの言葉は変えられない。

陽乃「私が洗脳したことにされそうね」

杏「あり得そうなので、止めてください」


陽乃「けれどまずは、四国につくことを考えないといけないわ」

杏「そうですね」

陽乃達がバーテックスに襲撃される頻度が増えてきている。

四国を手薄にして陽乃達をつぶしに来ていることも考えられるし、

すでに、2体の完成型と思われる新型のバーテックスに襲撃を受けているのだ。

よそのことを考えている場合じゃない。

陽乃「私と白鳥さんも、襲撃があれば手を出すけれど……極力、手を出させないで頂戴」

球子「……珍しいこと言うな」

陽乃「本調子じゃないのよ。死にたくないって言ってるでしょ」

茶化すような口ぶりの球子を睨んで、陽乃は目を背ける。

本調子どころか、

実際の体は動くことも話すこともままならないほどに、壊れている。

だから、仕方がない

陽乃「白鳥さんも似たようなものだから、尽力して頂戴」

球子「それはもしかして、頼ってるのか?」

陽乃「馬鹿言わないで、ただの忠告よ」


√ 2018年 9月11日目 夜:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0 バーテックス 発見
6 バーテックス 襲撃
2 球子 杏
1 歌野
5 水都

06 00 進化型
60 66 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

√ 2018年 9月11日目 夜:移動①


夜になっても、バスは走る。

杏達は夜になると休息をとっていたため、

その間も移動できるのはありがたいと、球子が零す。

球子「今まで1人態勢だったのは凄いな」

陽乃「貴女達だって変わらないでしょ」

球子「タマ達の場合は、自分たちのことだけ考えればよかったからな」

何より、少人数だった。

たった2人の為、身を隠すのは簡単で、

逃げ切るのも、完成型を除けば難しくなかった。

陽乃「そう」

球子「それに、タマみたいに楯があるわけでもないし」

陽乃「攻撃は最大の防御って言うし、私はそれしかできないもの」

球子「……脳筋ってことか?」

陽乃「私の筋力が知りたいの?」

陽乃は真顔で握り拳を作って見せる。

一見華奢にも見えるが、その力は常軌を逸している。

同じ勇者の球子でも、直撃は耐えられないだろう

陽乃「実績があるって、貴女知ってるくせに」


球子「誇るなよ。そんなこと」

その場には球子もいたため、分かっている。

誇れる内容ではない。

もっとも、陽乃は誇っているのではなく、

自虐しているだけだろうけれど。

球子「……心配してたのか?」

陽乃「はぁ?」

球子「だって、こんなに早く出てくるなんて予定なかっただろ」

球子たちが諏訪を発ってから、約1週間

短いようにも思えるが、陽乃は目を細める

陽乃「貴女達がいつまでたっても四国にたどり着かないから、文句を言われたのよ」

球子「仕方ないじゃないか……あんなやつと鉢合わせするなんて思わなかったんだよ」

無事に逃げられたならそれでよかったが、

初撃を防ぐことさえできなかった。

しかも、そのたった一回で球子が行動不能に陥ったのだから、どうにもならない。


1、鍛え直す必要がありそうね
2、私とどっちが怖いのよ
3、何にせよ、生きているならそれでいいわ
4、貴女達が死んでいたら私の責任になるのよ

↓2


陽乃「何にせよ、生きているならそれでいいわ」

球子「正直に心配だったって言えばいいのに」

陽乃「私の今後は心配だったけど、貴女達は別に」

死んでたら死んでたでそこまでだと思ってたと、陽乃は吐き捨てる。

生きている可能性も死んでいる可能性も

両方とも考えていた。

日が経つにつれて、

どちらかと言えば死んでいる可能性の方が高いのではないかとさえ……。

陽乃「けど、まぁ、寝覚めが悪くはなったと思うわ」

球子「寝覚め?」

陽乃「死んでいるよりは、生きている方が良かった。ということよ」

特に、戦力的には重要だ。

現状、分かっている中では勇者は陽乃を除いて6人しかいない。

歌野を手に入れることが出来たとしても、

その為に2人も犠牲になったのでは、意味がないだろう。


陽乃「今までは人手が足りなかったから相手してたけど、これからは住民の相手を頼むわ」

球子「そんなこと頼むなよ……別に悪い人たちじゃないだろ」

陽乃「嫌よ。私が好きじゃないってよくわかってるでしょ」

貴女達と接しているだけで満足してもらいたいものだわ。と、

陽乃は眉を潜める。

陽乃「苦手なの。ああいうの。私は1人で居たいのよ」

球子「そんなこと言って……隣に歌野がいるくせに」

眠っている歌野。

あれからまだ、一度も目を覚ましていない歌野は、陽乃が使っていた座席に横になっていて

陽乃は、そのすぐ隣の余ったところに座っている。

陽乃「これは必要なことだから」

球子「ふ~ん……必要なことねぇ」

陽乃「そんな顔で見たって、事実は変わらないわ」

本当に、必要なことなのだ

九尾がからかっていなければ。

陽乃「言ったでしょ。本調子じゃないって……白鳥さんの力が必要なのよ」


球子「そうか……完成型が出てきたらどうするんだ?」

球子は神妙な面持ちで陽乃に問う。

歌野でも撃退は出来るらしいけれど、倒しきることが出来るのは陽乃だけだ。

そもそも、歌野だって、今は休養が必要な状態

球子と杏だけでは

残念なことに、完成型の相手は出来ない。

かといって、逃げられるかと言えば、そんなことはない。

バス2台、数十人の人々

通常個体ならともかく、完成型が出てきたら終わりだ。

陽乃「貴女達がどうにかしようとは思わないの?」

球子「出来たらするさ。この命でどうにかできることなら、何だってやってやるさ」

だけど。と、球子は首を振る。

球子「そうじゃないだろ。陽乃とは違って、今のタマじゃ死ぬ気でも敵わない」

分かっている。

無理だ。

悪く言えば、無意味だ。

球子「陽乃の力、タマには扱えないのか? それで、陽乃の代わりに戦うことは出来ないのか?」


1、不可能よ
2、死にたいの?
3、私と契約すれば、力を使えるわよ
4、さぁ? 白鳥さんは使えてるけど、貴女達は無理だと思うわ


↓2


陽乃「死にたいの?」

球子「そう言うわけじゃない……」

声を荒げそうになった球子だが、

ぐっとかみ殺したように顔を顰めると、目を逸らす。

杏はもう少しオブラートに包むだろうけれど、

九尾だったなら、どの口が言うのかと呆れていたことだろう。

球子「けど、そうじゃなきゃこれから先やっていけないと思う。杏だって、そう思ってる」

完成型に歯が立たない。

そんな状態で良いわけがない。

たとえ、大きな反動があるとしても

たとえ、この命が燃え尽きるのだとしても

それほどの力を扱えなければ、どうにもならない。

球子「強くなりたいんだ。ならなくちゃいけないんだ。じゃなきゃ、何も守れない……っ」

自分でさえも。

大切な存在さえも。

球子「このままじゃ、全部、壊される」

球子はそう言って、震える右腕をぎゅっと抑える。

楯が一撃で粉砕された感覚が、残っているのかもしれない。

球子「嫌なんだ……嫌なんだっ、絶対っ」


では途中ですが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「だから私の力を使いたいって? 馬鹿なんじゃないの?」

球子「馬鹿で悪かったな……」

球子はちょっとだけむくれたように言う。

陽乃の力は禁忌と言うにはあまりにも、被害が大きかった。

もちろん、敵にも甚大な被害を齎すことが可能だが、

自分の身にも、大きな傷を残すことになる。

陽乃を見ていれば、それが決して軽く済まないことは明らかだ。

適性のある陽乃でそれなのだから、

そうではない球子は、1度きりでその命を燃やし尽くすことになる可能性もある。

球子「けど、陽乃だって馬鹿だろ。生きたいって言うくせに、自分が一番死にそうなことしてるんだから」

陽乃「私はやるべきことをやっているだけよ。貴女とは話が違うわ」

球子「そうか? なら、陽乃はみんなを助けたいって思ってるってことだな」

陽乃「そもそも、貴女が私の力を使うなんて出来ないと思うけど」

歌野が使えるのは、陽乃が諏訪の神々の代行として歌野に授ける役目を担っているからだ。

それがなかったら、歌野も使うことは出来なかっただろう。


球子「……話逸らしたな」

陽乃「とにかく、無理なものは無理よ。別の方法を探す方が賢明だわ」

自分の力をもっと極めていく……ことが出来るのかは分からないけれど、

力を理解して、使い方をより洗練されたものにしたり、

杏のように、大社への直談判のようなことをするとか。

やれることは、色々とある。

その中の何が実るかは分からないが。

陽乃「私の力が使えるとしても、それは近道でしかないわ。強くなるにも、死ぬことにもね」

球子「だとしても、強くなれるなら……タマはそれを選びたい」

球子は右腕を庇う。

歌野が治してくれて、怪我はしていないのに。

まだ、震えるほどの痛みを感じる

現実は、その痛みが教えてくれている。

球子「だから、もし、タマが死んだら杏のことを守ってやってくれないか?」

陽乃「……本気で言ってる?」

球子「冗談で、言うわけないだろ」

刺し違えてでも勝てるならそうするが、きっとできない。

だけど、力の限りを尽くして、1度くらいはその命を守ってやることは出来るだろうから。

球子「本気だ」

そのあとは、全部、まるっと陽乃に投げてやると、球子は笑って言った



1、嫌よ
2、それは貴女の役目でしょ。責任は持つべきだわ
3、死ぬなら勝手に死になさい。私は関係ないわ
4、貴女、強くなれないでしょうね


↓2


陽乃「貴女、強くなれないでしょうね」

球子「なっ……っ……」

いきり立った球子だったが、

眼下に見えた歌野のおかげか、ぐっと堪えて歯噛みする。

怒鳴り声をあげなかっただけで、

その表情には怒りが感じられる。

球子「なんで、そう言い切れるんだ」

陽乃「何でって……今の貴女は私と正反対だもの」

球子「けど――」

陽乃「勘違いしないで欲しいのだけど」

陽乃は球子を冷めた目で見ると、

ふと息を吐いて、傍らで眠る歌野へと目を向ける。

これならまだ、歌野の方がずっとマシだ。

いいや、歌野の方がはるかに強くなる可能性を秘めている。

陽乃「死んでも守るだなんて……最も無様な死に方だわ」

球子「っ!」

陽乃「まさか、それが美徳だとでも?」

声を荒げない分、

陽乃の胸倉に掴みかかった球子は、その目を細めて、陽乃を睨む。

それが立派ではなかったとしても、無様だと言われたくはない。

陽乃「貴女はどうして伊予島杏を守るのよ。看取って貰う為に守っているの?」


球子「そんなわけないっ……けど、タマが、弱いから」

通常個体なら圧倒できる

進化型にも対抗できるし、十分に戦うことが可能だ。

けれど、その上にはどうにもならない。

手も足も出ないし、楯は打ち砕かれた。

球子「タマに与えられたのは、剣でも鎌でも矢でもなく、楯だった。でも、それが砕かれたんだぞっ」

陽乃「だから?」

球子「っ……だからっ、タマが死んだ後のことも考えなくちゃいけないんだっ」

陽乃「そう。けど、間違ってるわ」

陽乃は淡々と、口を開く

陽乃「あの子を守る貴女が死ぬということは、あの子も死ぬってことよ」

球子「そうならないように陽乃が守って欲しいって言ってるんだ」

陽乃「目の前のものしか殴れないこの手で?」

陽乃は右手で握り拳を作って、球子に見せる。

陽乃の力は確かに強い。

完成型だって、撃ち抜くことのできる力を持っている。

けれど。

陽乃「……あの子のそばにいられるのは貴女でしょう?」


陽乃「私にあの子は守れない。私のこの手は、あの子には届かない。私はそれを、痛いほど知っているの」

守れるものは確かにある

けれど、どうしても守ることが出来ないものも、確かに存在していた。

どれだけ強い力を持っていたとしても、

この手は結局、手でしかないのだ。

だから。

陽乃「本気で伊予島さんを守りたいなら、貴女は死んでも守るんじゃなく、死ぬ気で生きるべきよ」

球子が生きている限り、杏の傍らには球子がいる。

球子がいれば、杏は守られている。

しかし、球子がいなくなってしまったら、身近で守ることのできる存在はない。

球子「……」

球子の手が胸倉を手放して、

座席に腰を下ろした陽乃は小さくため息をつく。

陽乃「どうするかは貴女に任せるわ」

球子「出来るって、思うか?」

陽乃「知らないわよそんなこと。責任を押し付けてこないで」

出来るだなんて無責任なことは言わない。

陽乃に分かるはずがないからだ。

陽乃「それを決めるのは、貴女であって私じゃないもの」


√ 2018年 9月11日目 夜:移動②

↓1コンマ判定 一桁

4 バーテックス 発見
9 バーテックス 襲撃
7 球子 杏(陽乃無し)
8 歌野
3 水都

94 99 進化型
49 44 完成型


少し早いですが、本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から

では少しだけ

√ 2018年 9月11日目 夜:移動②


夜間に走行する際は、基本的に休息を挟まないことになっている。

運転手には頑張ってもらうことにはなるけれど、

観光用のバスであり、通常のバスに比べれば寝苦しさは軽減されるため、

住民たちはその場で眠っていたりするからだ

全員が全員、心地よく休めているかと言えばそうでもないが。

水都「球子さんは……1号車の方に?」

陽乃「ええ」

走行中のバスの窓から飛び出して、専行する1号車の方に逃げて行った球子

陽乃との話もあって、居心地が悪かったのだろう。

陽乃「貴女も行きたければ行っていいのよ」

水都「私にどうしろって言うんですか……」

球子や陽乃が走行中のバスから飛び出せるのは勇者だからでしかない。

命に係わる何かがないなら、

勇者ではない生身の人間がそんなことは出来ない。

水都「それに、今のうたのんは放っておけないです」

陽乃「無理をし過ぎたのよ。しばらくしたら目を覚ますと思うけど、私と似たようなことになってるわ」


陽乃は良く吐血するが、

それは体が悪いのではなく、力を使ったことによって内側から蝕まれている影響だ。

球子達の言う切り札というものが同様の症状を齎すのかは分からないけれど、

少なくとも、陽乃の力は体への負担が大きい。

それと同じように歌野も血に汚れていたこと

そして、にも拘わらず外傷の類が見られないという異質さが、それを思わせた。

陽乃「貴女、止めなかったの?」

水都「うたのんが、止まってくれると思いますか?」

陽乃「……どうかしら」

それを知るのは親しい間柄のようで、

陽乃はとぼけて目を逸らす。

水都はそれを知ってか知らずか、小さく笑った。

水都「うたのんは止まりません。陽乃さんが無事だったら、頼って温存したかもしれないけど……」

陽乃「私が呑気に寝てたのがいけないって?」

水都「そっ、そんなこと言ってませんっ」


陽乃「私は思ってるけれど。だって、一切気づかなかったわけだし」

九尾から話を聞いて知っただけで、その時に意識はなかった。

歌野がどれだけ命を張らなければならなかったのか。

お荷物2台

そして、その他大勢の人々

それと、意識のない役立たず。

陽乃「私だったら躊躇なく置いていくけど、白鳥さんにはできないでしょ」

水都「そうですね」

躊躇なく置いていく人が意識を失うほどに力を使わないとか、

いつもの舌先三寸だとか、水都は飲み込んで、頷く。

前半部分には同意の言葉はないが、

後半に関しては、同意見だった。

水都「でも、球子さん達と合流出来たおかげで少し出来ましたし、休むのは悪くないことだと思います」

水都はそう言って。

水都「陽乃さんも、休んだ方が良いんじゃないですか?」



1、休み過ぎたのよ
2、白鳥さんが邪魔なのよ
3、なら、1人にして頂戴
4、それもそうね


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


では少しだけ


陽乃「それもそうね」

水都「……疲れてるんですか?」

陽乃「たまには意見が合うことだってあるでしょ」

訝しんではいないけれど、

心配そうな表情を見せる水都に、陽乃は突っ撥ねるように言う。

九尾の力のおかげで今は何も問題なく見えているし、

陽乃自身も、まったくの負荷を感じていない

けれど、実際は力を借りる以前のボロボロな状態。

休めるときに休むべきというより、

少しでも回復するように常に休んでいるべきだ

陽乃「……」

水都「何かあったら起こすので、安心して休んでください」

陽乃「貴女は休まないつもり?」

水都「普段、休ませて貰ってるので」

陽乃達が頑張っている間、

水都だって、まったく何もしていないわけではないけれど、

バーテックスと戦ったり、神経をすり減らしながら警戒しているのと比べたら、大したことはしていないと思っているのだろう


陽乃「貴女は貴女で休んでもらわないと、この子が目を覚ました時にうるさくなるんだけど」

陽乃の目線が歌野へと下がったのを見て、

水都は確かにと、僅かに眉を潜める。

けれど、こればっかりは引く気はなかった。

水都「うたのんに怒る権利はないです」

陽乃「そう」

歌野はみんなを守るためにそうせざるを得なかったのだろうから

情状酌量の余地はあるはずだと陽乃は思うが、

あえて、それを口にする気はなかった。

陽乃「けど、貴女はただの一般人ではないってことを忘れないで頂戴」

水都「分かってます」

陽乃「分かっているなら、休めるときに休んでおくべきよ。
    貴女の巫女としての能力はどうであれ、今ここで神託を受ける可能性があるのは貴女なんだから」


陽乃としては、別段、神託などどうだっていい話だが、

重要なことがないとも限らない為、無視は出来ない

陽乃も併せて受けることとなった新型バーテックスについての神託は間違っていなかったし、

信頼を置くことは出来ないにしても、

聞く耳を持つべきだろう。

陽乃「まぁ、貴女がどうしても体力を無駄にしたいというなら好きにしても良いけど」

水都「……眠くなるまでは、起きてます」

陽乃「好きにしなさい」

陽乃はそう言い放って、背もたれに背中を預けて目を瞑る

旅行用の大型バスというのが功を奏して、ある程度リクライニング出来るので、休むのに問題はなさそうだ。

九尾の力のおかげだけれど。

水都「陽乃さん」

陽乃「……なに」

水都「おやすみなさい」

水都の声は、少し、弾んでいるように感じた


√ 2018年 9月12日目 朝:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0 バーテックス 発見
6 バーテックス 襲撃
1 球子 杏(陽乃無し)
3 歌野
5 水都

60 66 進化型
06 00 完成型


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から


1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(戦闘痕、イザナミ、守るべきものを)
・ 藤森水都 : 交流有(戦闘痕、イザナミ)
・   九尾 : 交流有(悲劇の主人公)

√ 2018/09/10 まとめ

 白鳥歌野との絆 84→85(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 90→90(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 77→77(良好)

鬱積 10%


1日のまとめ(諏訪組)

・ 土居球子 : 交流有(無事に戻れたら、生きているならそれでいい、死にたいの? 強くなれない)
・ 伊予島杏 : 交流有(無事に戻れたら)
・ 白鳥歌野 : 交流無()
・ 藤森水都 : 交流有(それもそうね)
・   九尾 : 交流有(貴女なら、頼む)

√ 2018/09/11 まとめ

 土居球子との絆 70→72(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 86→87(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 85→85(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 90→92(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 77→78(良好)

鬱積 6%

√ 2018年 9月12日目 朝:移動①


諏訪を出てから約4日

当初の予定では京都の辺りにたどり着けていれば良い方だったが、

度重なる襲撃によって移動を早めたりしている為か、

休憩地点の傍らには、姫路城跡が見えていた。

場所は兵庫県姫路市、四国へと続く、瀬戸大橋までもう暫くと言ったところだ。

陽乃「だいぶ、見えてきたわ」

杏「そうですね……諏訪に来る前に見た景色と、変わっているところもありますけど……」

勇者が戦った形跡はないが、

バーテックスが通って行ったであろう被害が見える。

球子「そうか?」

杏「四国襲撃の為に、大移動したのかな……ほら、あの辺り崩れてなかった気がする」

球子「よくそんな細かいところ覚えてるなぁ」

警戒してたからと杏が言うと、

球子は全く覚えてないと首を振る。

陽乃「四国周辺に溜まってないと良いけど」

大量のバーテックス

来る途中に見たのは諏訪周辺でだが、

その逆になっていないことを願いたい。

以前は陽乃と球子、そして杏の3人の勇者だけだったけれど、

ここには多くの住民がいる。

突っ切るのは難しいだろう。


球子「やっぱり、まだまだ本調子ではないってか?」

陽乃「初期個体のバーテックスなら別に何の問題もないわ」

進化型であっても、

九尾の力で十分に殲滅できるはずだ。

だが、それは陽乃の力を借りている歌野でも問題はなし

四国に近づいたなら球子と杏でもどうにかなるだろう。

問題はやはり、完成型だ。

陽乃「完成型が1体でも、1撃は撃たれる」

球子「……だろうな」

完成型を見つけたなら免れる可能性はあるけれど

完成型を含む軍勢に襲撃された場合は避けられない。

以前は陽乃が撃ち落として対処したが、

遠距離型の完成型が出てきた場合の被害は計り知れない。

最悪、住民が全滅することもある。


杏「四国に近づくにつれて、段々と力が増してるように感じるけど、完成型はまだまだ難しいだろうし……」

球子「難しいって言うか、無理だ」

杏「気を引くくらいが限界かな」

住民から、自分達へ。

ターゲットを変更させるくらいが関の山

何の力もない住民たちより、

ちまちまと脇を突いてくる勇者の方が煩わしいに違いない。

球子「とにかく、こっから先はより一層警戒しなきゃいけないな」

どこから襲撃を受けるか分からない。

通常個体も、群れれば脅威になり得るし、

その群れが進化型になればより脅威となって、

それが完成型にまで成れば、さらに一段と厳しいことになっていく。

陽乃「……」

通常個体が人類根絶の為に生み出されたとすれば、

進化型はそれに抗う勇者を討つ為に生み出されたといえるだろう。

であれば、完成型は? と、

陽乃はそこまで考えて眉を潜める。

完成型がいずれ産まれていたとしても、陽乃の力のあまり、早まった可能性が高い。



1、完成型は私に任せて、貴女達は住民を守りなさい
2、貴女達、もっと強くならないと役に立たないわ
3、完成型は、私を殺すために出てきたのかもしれないわ
4、貴女達の切り札ってどの程度なの?
5、歌野・水都と交流


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


陽乃「完成型は私に任せて、貴女達は住民を守りなさい」

杏「でも――」

球子「そうだな。そうするしかない」

杏「タマっち先輩?」

球子「どう考えてもタマ達じゃどうにもならないって言うのはこの前分かったからな。
    出来る奴に任せるのも、必要なことだろ?」

杏「タマっち先輩が久遠さんにそんなこと言うなんて思わなかった……」

球子「何だと~っ!」

馬鹿にしやがって~と、

球子は茶化すような声で言いながら杏の頭をぐりぐりと弄る。

球子「タマだって、ちゃんと考えてるんだ」

陽乃「……」

昨日の夜にした話は、とても真面目なものだった。

いつもの球子らしくなく、

とても、弱気な姿。

今は潜めているそれを見せられた陽乃としては、不思議にも思わないけれど。

杏だって、諏訪を発ってからの数日間で一つや二つの球子の知らなかった姿を見てきたのだろう。

その表情は、少し影がある。

杏「そうだね。タマっち先輩」


杏「でも、久遠さん一人でって言うのは駄目だと思います」

完成型を倒せるのは陽乃一人だが、

倒しきることは出来なくても、

撤退させるくらいのことなら、歌野にもできるという話だ。

杏「白鳥さんを同伴させてください」

陽乃「どうして貴女があの子を出すのよ」

杏「適材適所です」

どちらにも多大な負担のかかることではあるものの、

その二人が共闘するなら、被害はより最小限に抑えられる。

それは、陽乃と歌野の体への反動もだ。

杏「私とタマっち先輩が約束できるのはせいぜいが進化型
  けれど、白鳥さんだって久遠さんに匹敵するかもしれないほどには力があります」

陽乃「……だから連れて行けって? 今のあの子の状態を忘れたの?」

杏「1人1人で戦えば無理をしなければいけないのは久遠さんも白鳥さんも同じはずです」

その結果には大きな差があるが、

2人とも無理を必要としていることは間違いない。

杏「だから、2人で協力して欲しいんです。無茶はする必要があるとしても、今までのように死に際まで行かずに済むかもしれません」


陽乃「私と白鳥さんが対抗手段持ってるとして、それを二手に別けて温存するべきとは考えないの?」

杏「ないですね。温存できる余裕がないので」

どちらか1人が欠けても今後が非常に厳しくなるが、

最優先hまず間違いなく、強力な力を持っている陽乃だ。

完成型を倒しきるだけの力を持っている陽乃を失わないためには、

戦い慣れているうえで、杏達よりも強い力を持っている歌野との共闘がベストだと杏は考える。

被害を最小限に抑え、

万が一連戦になったとしても戦うことのできる状態が望ましい。

杏「それと、久遠さん達には完成型に集中して貰って、私とタマっち先輩で通常個体や進化体を相手にしたいと思ってます」

陽乃「私に、貴女達を信じろと?」

杏「……はい」

陽乃「……」

杏の声に力強さは感じない。

少し、無理しているようにさえ感じる。

球子はやっぱり不安なのか、陽乃が目を向けると

目線を下げてしまう。

通常個体なら2人でどうにでもなる。けれど、進化体まで問題なく倒しきれるだろうか。

それに慢心して背中から1撃を貰いなどしてしまえば、総崩れだ



1、無理ね
2、ならせめてもう少し自信を見せて頂戴
3、話にならないわ
4、私は私のやることやるだけよ

↓2


陽乃「私は私のやることをやるだけよ」

球子達を信じるも信じないもない。

歌野に関しては、色々と深いつながりが出来てしまったし、

力も陽乃と似たようなものの為、

それなりに頼ることにもなってしまうかもしれないけれど、

それはそれ、これはこれだ。

やることに変わりはない。

陽乃「私が信じようが信じまいが、貴女達も貴女達のやることをやればいいのよ
    口であれこれ言うより、やって見せてくれた方が良いわ」

球子「……まぁ、そうだな」

球子は小さく笑って。

球子「やれることはやりつくすさ。そのうえでタマ達はただ、陽乃と歌野を信じて防衛に徹していればいいんだ」

そうだろ? と、球子は杏に問いかける。

自信に満ち溢れたものではない。

諏訪を出るまでの強さを削がれたかのような、弱弱しさ

杏もそれが分かっているから、不安がぬぐい切れていない。

陽乃「……」

完成型の襲撃によって瀕死に陥った土居球子

守り切れなかった球子はもちろん、

その時に何一つできなかった杏もまた、ただでさえ無かっただろう自信を完全に失ったのかもしれない。


陽乃「四国から離れている以上、貴女達が本来の力さえ出せていないのは仕方がないわ」

杏「それはそうですけど……」

戻ったところでどうにかなる相手ではなかった。

きっと、切り札を使ったって。と、杏達は考えている。

確かに、九尾の力に匹敵するだろう切り札を使っても、

完成型を倒すにはまだ力不足なのは陽乃も分かっている。

陽乃の力を警戒して出してきたのなら、それでも仕方がないことだ。

陽乃「正直、私はどうでもいいのだけど……」

陽乃は少し離れた場所で休息をとる住民たちを一瞥する。

歌野はまだもう少しと言った状態だが、陽乃も回復したように見え、

杏と球子という2人の勇者も加わったことで、落ち着きを取り戻しつつある人々。

しかし――

陽乃「勇者がそんな状態だと、住民が騒ぎかねないのよ。迷惑だわ」

球子「っ」

陽乃「勇者なら勇者らしくしていなさいよ。ここまで来たんだから、せめて、辞めるなら四国に戻ってからにして頂戴」

その場合、あの約束はなかったことにするけど。と、

陽乃はちゃっかり言う。

強くなるための直談判

勇者を辞めるなら必要のないことだ。

杏「わ、分かってます。大丈夫です……2人だったら駄目だったかもしれないけど、今は、久遠さんと白鳥さんがいてくれるから」

2人は心強い味方だと、杏はどうにか笑みを浮かべて見せた。


球子「陽乃って、なんか千景に似てるな」

陽乃「止めて、冗談じゃないわ」

陽乃はそこまでの気はなかったが、

向こうは本気で殺しにきたりもしていたのだ。

何か事情があるとしても、

あんなにも容赦のない人と同じとは言われたくないと陽乃は顔を顰める。

杏「ひなたさんが言うに、口下手ってことです」

陽乃「これでも口は上手い方なのよ」

杏「……確かに、久遠さんは口が上手いかもしれません」

無意識的な口下手なのではなく、

意識的にやっているのなら、口が上手いというのも頷ける。

陽乃は言葉こそキツいものがあるが、それだけだ。

杏「私、もっと頑張ります」

球子「……タマも頑張るぞ。うん、頑張るからなっ」

陽乃「なによ。期待してるとでも言えばいいの?」

陽乃の面倒くさそうな物言いに、

杏と球子は言ってくれるのならと零したが、

陽乃は結局、言わなかった。


√ 2018年 9月12日目 朝:移動②

↓1コンマ判定 一桁

5 バーテックス 発見
8 バーテックス 襲撃
2 住民
7 歌野
1 水都

58 55 進化型
85 88 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊

規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

√ 2018年 9月12日目 朝:移動②


九尾『主様、来るぞ』

九尾からの警告に少し遅れる形で、陽乃達の乗る2号車のバスが停車する。

運転手は1号車のバスが……と不安そうに漏らしたが、

陽乃や、車内から外を見ていた住民の一部は何が起こっているのかを察知して声をあげる

「勇者様っ、怪物が!」

陽乃「……っ」

見える範囲、感じ取れる限り

軍勢は中小規模でしかない。

完成型はおろか、進化型もいないような戦力。

また、様子見で戦力を送り込んできたのか

それとも、疲弊させるべく、少しずつ襲撃を重ねていこうと考えているのか。

陽乃「貴女達はバスから出ない……いえ、騒がないで大人しくしていて」

水都「こっちは任せてくださいっ」

2号車は、自力で動けない人が多くいる。

逃げろといっても無駄だ。

そんなバスに同乗する、巫女である水都は陽乃を力強く見つめて。

水都「うたのんが目を覚ましたらすぐに向かわせます。だから、無理はしないでください」

陽乃「そう、無理する状況でもないわ」


水都に2号車と歌野を任せて、外へと出る。

杏「久遠さん!」

すでに迎撃に出ている杏と球子が、

その遠距離武器を駆使して、次々に通常個体のバーテックスを打ち落としていた。

杏「通常個体なら私達で対処可能です! 久遠さんは万が一討ち漏らした場合に対処お願いします!」

出来るのなら、その必要もなくしたい杏だけれど、

慢心は出来ない。

万が一にでも討ち漏らしが発生した場合に、被害が出るのは避けたい

だから、要請する。

球子「っとぉぉぉぉぉりゃぁあああああああッ!」

球子が全力で楯を投擲し、

広範囲を一気に削りとって、比較的近い位置にまで近づいてきている個体を、

杏が撃ち落としていくといった戦い方。

中小規模とはいえ、数としては莫大なそれを、2人はどうにか、凌いでいる。



1、手を貸す
2、杏の作戦に従う


↓2


陽乃「九尾」

九尾「……主様」

陽乃「少しくらいなら平気よ」

イザナミ様ではあるまいし、

ほんの少し力を使った程度で死にはしないと、陽乃は苦笑する。

分かっている。大嘘だ。

九尾が誤魔化してくれている身体は、その力を解除した瞬間に崩れ落ちる。

バーテックスを殴った腕はより傷つくだろうし、

もしかしたら、半ばから変な方向に折れ曲がるかもしれない。

場合によっては、先がなくなる可能性もある。

けれど、万全を期すためには、必要なことだ。

陽乃「少しだから」

九尾「動けぬままの方が、よかったやも知れぬな」

陽乃「そうね。そうかもしれないわね」

九尾の姿が消えて、力が満ちていく

戦闘服へと一瞬のうちに着替えた陽乃は、何度か握り拳を作って頷く。

いつも通りの感覚だ。

陽乃「……さぁ、行くわよ」


↓1コンマ

01~00 ※陽乃の反動

※杏・球子、住民の被害は確定で0


陽乃が戦線に加わったことで、

通常個体のみの軍勢は瞬く間に消滅していき、

あっという間に、殲滅が完了した。

中遠距離を得意とする球子と杏

その攻撃の合間を縫いながら駆け抜け、翻弄し、

隙を見ては殴り飛ばし、蹴り飛ばし、囮を務める陽乃。

近距離が得意で、力も強く狙われやすい陽乃が最前線に出ることで、

球子と杏が狙いやすく、殲滅力をより上げたのが要因と言えるだろう。

しかし――

球子「あんまり無茶するなっ」

陽乃「……なによ」

球子「敵は通常個体だけだったんだから、陽乃が前線に出る必要は無かったはずだっ」

陽乃「その方が手っ取り早いと思っただけよ。実際、手早く終わったでしょう?」

杏「それはそうですけど、強い反動を受けてからまだ日が浅いのに……」

杏達は、不満なようだった。


陽乃「別にこのくらい、大したことないわ」

杏「ですが……」

陽乃「敵が少ないからこそ、短期決戦に努めてすぐに離れるようにするのが最適だと思うけど?」

杏「その意見には賛成ですけど、でも、温存するのも大事です」

バーテックスの数が少ないのは、様子見や、囮

あえて油断を誘う作戦だったりすることもある。

そこに時間をかけてしまうと、増援が来たりして追い込まれてしまうこともあるため、

早急にその場から逃げるべきだ。

杏はその考えを否定する気はない。

杏「相手の狙いが勇者を疲弊させることが狙いだった場合、久遠さんが力を使って消耗した時点で相手の作戦勝ちになってしまいます」

断続的に襲撃し、力を使わせて疲弊させ

満を持して完成型などを送り込んでくる……なんてことをされでもしたら、一気に崩されてしまう。

陽乃「そうならないようにしたらいいだけでしょう?」

杏「でも、久遠さんの力には――」

何かを言いかけた杏の目が、見開かれる。

すぐそばにいた球子の表情までもが驚愕に染まって、

陽乃「……?」

陽乃は、頬を伝っていく涙のような感触に気づいて指で拭う。


陽乃「え……」

触れた指先は赤く染まっていて、視界がだんだんと濁っていく

陽乃「ぁ……っ……ぶっ……」

杏「久遠さん!」

全身の力がふっと途絶えて、陽乃はその場に崩れ落ち、

受け身も取れなかった体に強く衝撃が加わって、思わず喘ぐ。

口の中に広がる、血の味。

陽乃「ちょ……っと……」

杏「久遠さんっ、しっかりしてくださいっ」

すぐに杏に抱き上げられるが、

殆ど体の感覚がなく、薄紅色の視界の中で杏の顔がとても近い位置にあるという程度しかわからない。

陽乃「嘘……でしょ……」

まさかここまでとは思わなかったと、陽乃は薄れる意識の中で歯噛みする。

使ったのは九尾の力だ

それも、本気でではなく、軽い程度のもの。

けれど、それでも意識を失うのは、十分だったのだ。


√ 2018年 9月12日目 昼:移動①

↓1コンマ判定 一桁

4 バーテックス 発見
9 バーテックス 襲撃
1 住民
2 歌野
8 水都
7 杏

49 99 進化型
94 44 完成型

※それ以外のぞろ目は特殊


戦闘規模判定

↓1コンマ

01~00  ※低~高

※ぞろ目の場合、進化型追加


※極小規模の為、被害なし


√ 2018年 9月12日目 昼:移動①


球子「じゃっまっだぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

球子の全力で投げ飛ばされていく楯は、

向かい来る複数の通常個体を真っ二つに引き裂いて、消滅させる。

球子「次ッ!」

杏「今ので最後だよ!」

楯が戻るや否や、振り被った球子の腕を抑えて杏が首を振る。

殆ど間を置くことなく行われた襲撃だったが、

規模はさっきよりも小規模。

球子と杏の二人でなら、難なく対処できる程度だった。

しかし、連戦ということもあって、

2人の額には汗が浮かび、肩での大きな呼吸が目立つ

杏「タマっち先輩はこのまま2号車に、私が1号車を担当する」

球子「りょーかい!」

素早く指示を出し、

バスに戻ってすぐ、運転手に声をかける。

杏「今すぐバスを出してください!」

「わ、分かりました!」

中小規模からの、極小規模の襲撃。

杏「……急がないと、大変なことになる予感がする」


陽乃の症状は治まっているが、意識不明

歌野は体こそ傷1つないが、意識不明

正直に言って、状況は最悪だった。

今のような小規模の襲撃ならどうとでもなるけれど、

ここに複数の進化型や、完成型が加わるとなると絶望的な戦況に陥ってしまう。

四国に近づくに連れて力が戻りつつあるといっても、

完成型には歯が立たないのは変わらないし、

物量で押し切られれば確実に死ぬ

杏「……っ」

しかし、陽乃が目を覚ましたところでどうにかなるとは思えない。

いや、なったとして、杏は陽乃が無事で済むとは思えなかった。

全力を出さず、温存して戦っているのは明らかだったのに、

血を流して倒れ、そのまま意識不明にまで陥った陽乃

九尾は何も語らなかったが、

もしかしたら、感覚を鈍らせて無理矢理に動いていた可能性もあると杏は考える。

でなければあれは説明がつかない。

杏「私達が、弱いから……」

だから、任せてくれない

だから、信じてくれない

だから――

杏「痛っ」

無意識に噛みしめてしまった唇の痛みに、杏ははっとする。

杏「やれることを、やらなくちゃ……」

今戦えるのはたった2人の勇者

心なんて折れてはいられないと、目元を拭った


√ 2018年 9月12日目 昼:移動②

↓1コンマ判定 一桁

0 バーテックス 発見
5 バーテックス 襲撃
2,7 歌野
3,8 陽乃

※それ以外のぞろ目は特殊


√ 2018年 9月12日目 昼:移動②


「……えっと、今この辺りかな」

杏「ありがとうございます」

そこまで見慣れていない地図のため、

現在地を1号車の乗っている男性に教えて貰った杏は、そこから瀬戸大橋までの距離を確認する。

残りは約150km程度の距離

バスはそれなりの速度を出しているが、

最大でも60kmが限度で、それも常にとはいかないし、

場合によっては遠回りをしなければならないルートもあるため、時間はかかってしまう。

杏「私は外に出ます。気にせず運転をお願いしますね」

「……勇者様は屋根上が好きなのか?」

窓から外を覗き、

アグレッシブにもそのまま外へと出て行った杏を横目に見た運転手は困ったように呟く。

「一言言ってくれるだけ、ありがたいが」

何も言わずに窓から飛び出していく勇者もいたためか、

軽くぼやいて、運転に集中する。


杏はバスの屋根に上ると、落ちないように気を付けながら武器を構えて、周囲を見渡す。

バーテックスが接近すればすぐに迎撃に移ることが出来るし、

バスの行く手を阻む遮蔽物が壊せるものなら、あらかじめ壊して無理矢理にでも通ることが出来る。

少しでもリスクを減らし、

かつ、最短で安全圏であるはずの四国に逃げ込むには、それしかないと考えたのだ。

杏「久遠さんが出てこなかったのを温存と見るか、余力がないとみるか……」

杏はバーテックス側の策略を読もうと、頭を働かせる。

中小規模の襲撃、そして、ごく小規模の襲撃

先遣隊である最初の襲撃は、現状の戦力を確認するために行ったものだとして、

次の襲撃は、それによる勇者側への被害状況の確認や、連戦による消耗狙いの可能性がある。

杏は、自分ならその2つのための派兵をしていると、息を飲む。

杏「……次は、最初よりも多くなるかもしれない」

杏と球子の応戦によって、第二派の襲撃は難なく撃退された。

連戦による消耗は果たせたが、状況を探り切れなかった相手は、

それよりも多い軍勢を送り込んで消耗を狙い、あわよくば殲滅しようとしてくることだろう。

杏「急がないと」


イベント判定

↓1コンマ判定 一桁

0 九尾
2 陽乃
4 歌野
7 水都
9 住民

他は球子

※ぞろ目は特殊

少し早いですが、本日はここまでとさせていただきます。
明日は可能であれば通常時間から

陽乃起床


では少しだけ


陽乃「ぅ……っ……」

体がまるで動かない。

九尾に誤魔化して貰う前よりも、

より一層重苦しく感じる空気と、体

声も出せそうになく、呻くので精いっぱいの陽乃の視界には、バス車内の天井が見える。

天井が異様に高く見え、端には座席の一部が見えているため、

きっと、バスの床に横たわっているのだろうと陽乃は察する。

その割には背中は痛くないし、固くもない

もっとも、その感覚さえ、今は失っているだけかもしれないが。

九尾『愚か者め』

陽乃『……仕方がないじゃない』

九尾『妾は言うたはずじゃぞ』

陽乃『そうね』

九尾は何度も無理はするなと言っていた。

だから、無理はしていないつもりだったけれど、

力を使うこと。

それ自体が、多大な負荷のかかる無理だったようだ


陽乃『あの後、どうなったの?』

九尾『主様は二号車じゃったか。その中に運ばれておる。ほれ、体を起こせば傍らに白鳥歌野が見えるはずじゃ』

陽乃『起こせないのを知ってて言うの止めて……悪かったとは思ってるから』

見ろと言われて見られるような体の状態じゃない。

九尾もさすがに腹が立ったようで、意地悪を言ってくるようだ。

いや、意地の悪さは元々だったかもと陽乃は思うが、

この様子だと、もう一度誤魔化してはくれないだろうなと、目を瞑る。

陽乃『それで? あれ以降襲撃は?』

九尾『一度あったが、何も問題はない』

陽乃『怪我も?』

九尾『うむ』

陽乃『また、貴女が何かしたんじゃないでしょうね』

歌野が宇迦之御魂大神の御力を使えるのは偶然ではない。

ましてや、陽乃が力の供給をしきれない状態でどうにかなることではないし、

何もなく、歌野がそれを得るなんてないはずだと陽乃は考えていた。

陽乃『貴女が白鳥さんを唆したんでしょう?』

あの日、陽乃にそうしたように。


そして、それと同じように球子達にも何かしたのではないかと陽乃は思ったが、

九尾はそれは笑って一蹴する

九尾『してやる理由がない』

陽乃『白鳥さんになら、あるって言うの?』

九尾『少なからず繋がりがあるからこそじゃ。でなければ利用価値もあるまい』

九尾はそう吐き捨てるが、

九尾のことだ、使い捨ての道具程度の扱いはするだろう。

歌野の扱いがそのようにも思えるけれど、

きっと、それとは別だ。

陽乃『貴女、白鳥さんも気に入った?』

九尾『いいや』

陽乃『……そう?』

陽乃は宇迦之御魂大神の力を使ったことはないが、

宇迦之御魂大神より、九尾の方が戦闘におけるパワーバランスとしては上になることくらいは分かる。

九尾は特殊だが、宇迦之御魂大神もまた特殊でその力は回復力に特化しているからだ。

借りるなら、九尾の力であるべきだと陽乃は思う。

宇迦之御魂大神では、戦い方が大きく限られてしまうだろうから。

だが、九尾が気に入ったわけではないのなら、反動が大きくある可能性もあるし、無理は出来ない。


1、白鳥さんに力を貸してあげてもいいのよ?
2、あまり、唆さないで
3、ねぇ、もう一度動けるようにして貰えるかしら
4、じゃぁ、貴方のお気に入りは上里さんだけなのね

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃『ねぇ、もう一度動けるようにして貰えるかしら』

九尾『ふっ』

陽乃『……なんで鼻で笑うのよ』

小馬鹿にする九尾の反応に陽乃は不満を感じさせたが、

九尾はそれでも改めて……喉を鳴らして笑う。

九尾『妾は主様のような愚か者ではないからのう。2度も温情をくれてやる気はない』

陽乃『……仕方がないじゃない。あそこまでだなんて思わなかったんだから』

九尾に注意され、

杏達にも止められていながら参戦したあげく、意識不明に陥った陽乃。

笑われるのは当然だろうし、咎められるのも当然だろう。

九尾『次こそ死ぬぞ。それが望みとでもいうのかや?』

陽乃『……そんなわけないじゃない』

九尾『ならば大人しくしておれ』

陽乃は諏訪の結界を維持するために力を消耗し続けており、

諏訪から離れれば離れるほどより消耗することになっていくため、

その分、回復力が著しく低下している。

そのうえで、本来なら動かすことなんて出来ない体を酷使していたのだから

勇者でなければ死んでいてもおかしくない状況だった。


九尾『主様はあまりにも己を軽んじておる。よもや、己自身を悟れぬわけではあるまい』

陽乃『分かってるけど』

九尾『けど。とはなんじゃ、けどとは』

呆れるばかりと言った様子の九尾の声

心の中でむっとする陽乃だが、全面的に悪いのは自分であることは分かっている為、

それを口にはせずに、目を開く

バスの天井が見える。

時折揺れることもあるためか、視界の端に見える座席の一部から手がずるずると落ちてくる。

九尾が嘘をついていなければその手は歌野のものだろう。

陽乃『何か問題がありそうなら、戻してくれるんでしょう?』

九尾『そうせざるを得ない状況ならば致し方あるまい』

動けば死ぬだなんて言っていられる状況じゃなくなった場合には、

もう一度動けるようにすることはあるだろうが、

そうでない限りは、四国に辿りつくまではそのまま回復に努めさせると九尾は言う。

死ぬとさんざん忠告したにも関わらず戦いに出て出血と失神したことを掃討、根に持っているようだ


陽乃『それで、私の回復の頼みの綱の白鳥さんはどうなの?』

九尾『ふむ……初回で力を使い果たすほどに消耗したからじゃろうな。落ち着くまで時間がかかっておる』

陽乃『大丈夫なの?』

陽乃の方が時間はかかっているが、

陽乃は自分自身の力の反動によるものの為、多少は慣れもある。

だが、歌野は間接的に陽乃と同等の力を使っているというだけで、

体を蝕むほどの影響は初めての経験のはず。

それをいきなり使い続けたとなると、相当な負荷がかかったはずだ。

しかし、九尾は少し考えるような間を置くと

問題はないと、応えた。

九尾『身体のみならず、精神も摩耗して眠っているだけじゃ。もうじき目を覚ますじゃろう』

陽乃『……嘘じゃなければ良いけど』

九尾『信じずとも構わぬぞ。妾はのう』

九尾はくつくつと笑う

だからこそ信憑性に欠けるのだが、それを言ったところで九尾は改めないだろう。

陽乃『……はぁ』

後々、球子達にどやされるだろうなと陽乃は憂鬱に、目を瞑った。



√ 2018年 9月12日目 夕:移動①

↓1コンマ判定 一桁

6  バーテックス 発見
1  バーテックス 襲撃
3,9 歌野
0  球子
8  杏

√ 2018年 9月12日目 夕:移動①


陽乃「……」

身動きできない以上、バスの車内にいるのは酷く退屈だ

声を出せるわけでもない為、

本当に、ただゆっくりと療養するしかないといった状態。

せめて片手でも自由なら、

本の一冊でもあればと思えるけれど、それもできない。

1号車では煩わしいほどに周囲に人がいたのに、

賑やかさこそ不要ではあるが、

細やかな雑音でもあればと思うときに、何もないのだから困る。

しかし、九尾に声をかけることは出来る。

歌野が元気なら、歌野にも可能だ。

水都に関しては……難しいけれど。



1、九尾を呼ぶ
2、歌野に声をかける
3、球子達を呼んで貰う
4、水都を呼んで貰う
5、イベント判定


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ



寄るなと言うくせにいざ何もないと呼び出しをかけたりするのなんて

陽乃自身、面倒くさいとは思うけれど。

あんなことがあった後なのにもかかわらず球子たちの誰もいないというのが不安だった。

体の状態的によりどころがないと不安なのではなく、

真っ先に罵倒でもしてきそうな彼女達が何もアクションを起こしてこないからだ。

その鬱憤がたまりにたまっているのではと思うと、

後々がより面倒くさそうで。

陽乃『九尾、お願いがあるんだけど』

九尾『同じ過ちは繰り返すつもりはないぞ』

陽乃『過ちって……』

つながりを辿って声をかけると、

九尾はすぐさま拒絶の姿勢を感じさせる

陽乃『土居さん達を呼んで欲しいのよ。次の休憩の時で良いから』

九尾『ふむ……』

九尾は一拍置いて、「そのくらいなら」と、承諾してくれた。


九尾は言った通り、

道中での休息の際に球子達に声をかけてくれたようだ。

球子「……酷い状態だな」

杏「諏訪での久遠さんの状態と比べると、だいぶ軽いけどね」

球子「そりゃそうだけど、十分酷いって」

敷布を敷き詰められている最後尾のバスの床

そこに横たわる陽乃は、身動き一つできずに球子達を見つめている。

杏が見てきたのは血反吐を吐いてもがき苦しんでいる姿なので、

そのくらいは普通と感じているのかもしれない

杏「本調子じゃないって言ってたのは、本当だったんですね」

球子「走り回ってたと思ったら、急に、あんなことになって……ほんと、何やってんだ」

杏「タマっち先輩ってば……」

球子「気遣う必要なんてないぞ、杏」

こういうのは、甘やかすから駄目なんだと球子は言うけれど、

杏は困ったように笑って、一番甘やかされてないと思うと、陽乃を見つめる


杏「体の方は怪我とかはなさそうでしたけど、やっぱり、反動のせいですか?」

球子「そうだって言ってるぞ」

杏「……久遠さんにあとで怒られるよ」

陽乃が顔を顰めているのを見た杏が球子に忠告する

陽乃は今、話すこともままならない為か、球子は好き勝手に言う。

後で何か言われること、されることは覚悟の上なのだろう。

杏に注意されても、球子は謝罪もなくて。

球子「命を捨てるようなことをした陽乃が悪い」

文句があるなら言ってみろ。と、

むしろ挑発するような球子は、けれど、陽乃の身を案じているような表情を見せるけれど

どちらかと言えば怒っているのは球子のようだった。

球子「あのくらいなら、タマと杏だけで問題なかったはずだ。
    そんなに、タマ達のことが信じられないのか? そんなに、タマ達は弱かったのか?」

杏「タマっち先輩っ」

球子「杏だって、気になってるだろ? なんで、わざわざこんなことになる無理をしたのかって」

杏「それは」



1、答えない
2、信じられないから
3、命を預ける気がないから
4、肯定する
5、文句でもあるの?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しずつ


陽乃「ぅ……」

何を言おうにも、呻き声しか漏れない。

しでかしたことを考えれば言われるがままでも仕方がないことではあるけれど、

球子達は答えを求めている。

これが歌野だったのなら、

このまま話すことが出来なくても伝わるのだが。

陽乃『九尾』

九尾『また面倒なことを』

陽乃『いいから、このくらいは許して頂戴』

前回の裏切り……とも言える行為もあったし、

前向きではない九尾の反応も分かるけれど、

口を開くにも、今は九尾の力が必要だ。

九尾は恨み言を呟いたりはしなかったが、

ため息とともに、九尾の力が流れ込んできた。

九尾『人間を説き伏せるのなら、力を貸してやってもよいぞ』

陽乃『冗談は力だけにして』


球子「陽――」

陽乃「……ええ、そうよ」

陽乃は小さく息を整えてから、声を出す。

2回目ともなると、変に掠れたりしていない声が出せるらしい。

九尾の力は治すのではなく、治ったように錯覚させるだけ。

体に引っ張られる頭を、逆に、頭で体を引っ張っているだけでしかない。

思考さえ奪われなければ、どうにでもなるのかもしれないと、陽乃は企みを飲み込む。

陽乃「貴女にしては良く、分かっているじゃない」

球子「嫌な言い方だな」

陽乃「だってそうでしょう? 私がどうして貴女達を信頼できるのよ。
    どうして、そうして貰えると思うほど、自分に自信があると胸を張ることが出来るのよ」

球子「っ」

陽乃「貴女が自分で言ったんでしょう? 自分は弱いって。ほかでもない私に」


球子「そう、だけど……けど。陽乃が言ったんじゃないか。見せてくれって」

陽乃「あぁ、そうね」

球子「なのに、見せる暇もないのはちょっとズルいんじゃないか?」

陽乃「……見せる暇をあげられるほど、私の余裕がないのよ」

一転攻勢

そこまではいかないものの、

陽乃は素直に答える。

陽乃「貴女達を信じていない。信じられない。あのまま任せても良いといえるほどの余裕がない。見ればわかるでしょ
    本調子じゃないなんて嘘。ほんとは、こんな体だったのよ」

本調子じゃないといえるほど、調子は良くなかった。

指先一つ動かすことは出来ず。

顔を動かすこともできない。

陽乃「たとえ、貴女達が弱いとしても。貴重な勇者を欠くわけにはいかない。その可能性を無視するわけにはいかない」


杏「……動かないんですか? 体」

陽乃「指先一つね」

球子「話せはするんだな」

陽乃「まさか。ここまでの体で正常に会話が出来るわけないじゃない」

九尾の力は話すことにしか作用していないようで、

苦笑しようにも、体がまるで反応してくれず、頬が引き攣る

陽乃「これも九尾の助力があってのこと……でも、駄目ね。思っていた以上に反動が大きかった」

下手に戦うことなく、

日常生活を送るだけだったなら、大丈夫だっただろう。

けれど、正常な体だとしても多少は反動のある力だ

今の体に、それは死にに行くようなものだった

球子「こんな体なら、少しくらいいいじゃないか……信じられなくても、少しは、自分のことを考えたって」

杏「久遠さんはもう少し、自分を大切にするべきです」

陽乃「したからこうなったのよ」

杏「してたらならないです」

球子「なるわけないだろ」

陽乃「……」

2人は睨むように、陽乃を見つめる。


1、それもそうね
2、悪かったとは、思ってるわ
3、なったからこうなってるんじゃない

↓2


陽乃「悪かったとは、思ってるわ」

杏「これで思っていてくれなかったら、本気で怒りますっ」

陽乃「ご立派なことね」

球子「いっつもそうだ。陽乃はタマ達を……」

陽乃「……なによ」

球子「上手い言葉が浮かばないんだよっ」

球子はフイッと顔を背ける。

自分の頭の中に言葉があっても

それを相手に伝えることが出来ないもどかしさからか、歯を食いしばっている。

杏「タマっち先輩、帰ったら本を読もうよ。いいセリフが思いつくかもしれないし」

球子「……考えては、おく」

これは読む気はないなと思う陽乃に、杏が困った笑みを見せる。

同じ考えのようだ。

杏「久遠さんはいつも、遠いんですよ。全部、まるで他人事みたいに受け流そうとしてる」


杏「私達がこうやって怒ってても、ハイハイ。って、受け流してるように感じるんです」

陽乃「……否定はしないわ」

ちゃんと聞き入れているなら、

陽乃が今こうして伏せっているわけがないからだ。

受け止めて、考えて

正しく行動していれば苦痛は少なく済むことだろう。

にもかかわらず、陽乃は最も辛く苦しく

何よりも厳しい道を自ら率先して選んでいく。

周りがそれを改めるように言っても、まるで聞こうとはしない。

杏「生きたいって言うのに、死に急いでしまう。諏訪での生活でも、それは変えられなかったんですか?」

陽乃「死に急いでいるわけではないわ。ただ……ただね。何度だって言うけれど、私は自分以外、信じたくないのよ」

陽乃は、笑いきれない表情を歪ませて、杏に目を向ける。

陽乃「貴女達が自分は大丈夫って言って、たとえそれが真実だと頭が分かっていても、信じたいとは思えない」

杏「……四国で、散々な目に遭ったからですか?」

陽乃「ふふっ……さぁ? どうかしら。
   誰かを信じ、誰かに頼り、そうして傾いた分だけ、まっすぐに立っていられなくなるものだと思う」

球子「陽乃っ」

陽乃は目元に涙を浮かべる。

それに気づいているのは、陽乃以外の2人だけだ

陽乃「私、きっと次は死ぬわ。貴女達を信頼して、その果てに失うことがあったら、私は間違いなく死を選ぶから、誰も信じたくないの」


球子「失うって言うのは、死ぬことも含まれてるのか?」

理性より、感情が前に出るタイプの球子は、

その言葉そのまま受け取ると陽乃は思っていたが、そうではないらしい

陽乃「貴女、意外と賢いわね」

球子「……なんだよ」

むっとする球子をよそに、陽乃の目は杏へと向く

杏は驚いたような表情で、手元にはどこからか出したハンカチがあった。

陽乃「なに?」

杏「私達が強くなれば、失う不安も少しは和らぎますか?」

陽乃「なれると思ってるの? 大社が応えてくれるかしら」

球子は、そう思っていなかった。

それにも限界があって、

いずれ自分は死に、杏を守れないだろうと考えていた。

けれど、杏は大社に相談して何か方法がないか探ろうとまで考えている。

強く慣れるとすれば杏の方だろうか。

杏「その為に、久遠さんには是非にも無事に四国にたどり着いて欲しいんです」


杏はハンカチを握りしめて一部分を人差し指と親指の間から差し出すと、

優しく、陽乃の目元を拭う。

杏「強くなりますよ。今は、まだ頼りにならないですけど」

球子「杏……なれると思うのか?」

杏「体を強くすれば力がつくし、戦術を扱えればより安全な戦いができる。
   自分の武器の特性を理解して、100%……あるいはそれ以上の戦い方を身に付ければ、神樹様の力に限りがあってもできることはあると思う」

球子「それでどうにもならない敵がいたじゃないか」

杏「でも、あれにだってどこか脆い部分があるかもしれない」

球子と杏は一撃で吹き飛ばされたため、

戦いになってすらいなかった。

たった一回の攻撃で戦闘不能に陥るほどの力に、

超常の力抜きで抗うなど、到底無理な話のはずだ。

しかし、杏は諦めていない

杏「白鳥さんが来てくれなかったら、そのままタマっち先輩は死んでて、私一人になってたと思う」

球子「杏……」

杏「その時からずっと、考えてるの。タマっち先輩が死んでいたかもしれないって
  それは、タマっち先輩以外の誰にでもあり得ることなんだって」

杏は唇をかみしめて顔を顰め

それでも、瞳だけはしっかりと前を見据えているように陽乃には見えた。

杏「でも、私が頑張ればそうならないかもしれない。この最悪の時代をどうにか潜り抜けられるかもしれない。
   誰一人も欠けることなく、取り戻せるかもしれない」

陽乃「無謀な話だわ」

杏「そうですね。だから、最初はその手伝いを頑張っているんです。無謀なことを成し遂げようとしている勇者に助力して
  いつの日か行う無謀なことのための、貴重な経験にしようと思ってます」

すみませんが、本日は所用の為ここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「……」

杏は本気だと、陽乃は感じる。

目を細めても杏の瞳は揺らいだりせずに陽乃を見返して

その"無謀な先駆者"が誰のことを指しているのか明らかにしていた。

陽乃「私はやりたいことをやって、出来ることをやっているだけ。死なない程度に」

球子「死にかけてるやつが何言ってるんだ。やりたいことやってるだけだろっ」

杏「しかも、それが諏訪から生存者を連れ帰るなんて勇者でも出来そうにないことなんだよね」

まだ調査さえされていない、バーテックスが蔓延っている結界の外に出て行き、

生存が確認されている諏訪へと向かい、

そこにいた生存者の大多数を引き連れての四国への帰還

やろうとする勇者はいるだろう。

しかし、それを実行に移せるかは別の話。

周りが止めるし、何より、犬死になる未来しか見えないことだ。

どれだけ緻密に計画を練ろうと、無計画と言われるほどのこと。

陽乃「私の目的はあくまで、生存率を上げるために諏訪の勇者を戦力に加えることであって、それ以外は荷物よ」

杏「でも、重いからって途中で捨てたりしないじゃないですか」


高いお金ではなくても、お金を出したりなにか代価を払って手にしたものなら

手放すのは惜しいと感じるものはいくらでもある。

けれど、諏訪の人々はそうではない。

悪い言い方をすれば、押し付けられたものに過ぎない。

命が懸かる状況では、真っ先に見捨ててしまうのも無理はないものだ。

杏は陽乃を、悲しそうに見つめる

杏「でも、久遠さんはあえて命懸けでそれを守るんです」

陽乃「そ――」

杏「それは違う。なんて、この場にいる誰にも通用はしません」

明らかに危険な何かを拳1つで叩き伏せ、

大怪我を負いながらも敵へと向かい、

ただでさえ巨大な異形の怪物のさらに大きな化け物を打ち倒した。

杏達がそれを聞いたのは、諏訪の人々からである。

杏も球子も

そして、諏訪の人々も。

陽乃がどうしようもないほどに、他人を守ってしまうことはもう、分かっていることだった。

杏「知ってますか? まだ私達が合流していない頃、意識を失った久遠さんを白鳥さんが連れてきたとき、諏訪の方々が大騒ぎだったそうです」


粗暴な口ぶりで、付き合いは悪い。

自分のことを最優先だなんだといいながら、

命の危機が迫る強敵を前に逃げ出すことなく、それどころか、

過去の言葉が本心なら見捨てるべき多くの命を守っていた。

疑う余地はない。

気にかけない理由がない。

恐ろしいほどに、勇猛果敢な少女のことを。

陽乃「知らないわ」

杏「そう、ですよね」

倒れていた時のことなんて知るわけがない。

話を聞けばすぐにわかることだが、陽乃はそういうことをする性格ではないからだ。

杏は少し考えて、口を開く。

杏「ここでなら、久遠さんが嫌な扱いをされることは絶対にないって断言できます」

陽乃「貴女の言うそれこそが、私が好まないことだって分かってもらえると助かるのだけど」

杏「……大丈夫です。久遠さんがいて、白鳥さんがいて、タマっち先輩がいて、私がいる。四国よりも戦力がありますから」

誰も死なない。

誰も欠けない。

だから誰も裏切ったりはしないと、杏は言いたいのだろう。


√ 2018年 9月12日目 夕:移動①

↓1コンマ判定 一桁

9 バーテックス 発見
2 バーテックス 襲撃
4、6、8 歌野
1 住民

※それ以外のぞろ目は特殊

√ 2018年 9月12日目 夕:移動①


バーテックスの襲撃頻度が上がってきていたこと

そして、陽乃と歌野が倒れつつも、

杏や球子が合流したことで余分な捜索活動が必要無くなったことや

戦力に余裕が出てきたこともあり、

出発時とは比べ物にならない速度で、バスは移動することが出来ている。

そのおかげで、朝に姫路城付近だった陽乃達一行は、

すでに、兵庫県に入ることが出来ていた。

ここから、通常の状態なら2時間程度で四国に入ることが出来るが、

当然、無理な話だ。

陽乃「四国が以前の諏訪の状態だと仮定しておいた方がよさそうだわ」

陽乃は目を細める。

四国は諏訪と同じように襲撃を受けている状態。

そしてその影響かは分からないが、

近付くにつれて襲撃される頻度が増えてきている。

場合によっては、諏訪の時以上の軍勢を突破しなければならない可能性がある。



1、歌野について
2、陽乃について
3、九尾と交流
4、水都を呼ぶ
5、イベント判定


↓2


↓1のコンマ

※ぞろ目で特殊

01~10 杏
11~20 球子
21~30 九尾
31~40 歌野
41~50 水都
51~60 住民
61~70 特殊:悪
71~80 歌野
81~90 水都
91~00 襲撃


では少し早いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


歌野起床
予定上では13日朝に四国

完成型2回、戦闘7回(先行含む)

では少しだけ


陽乃「ん……」

九尾とは違う別の声が内側に響いて来て、陽乃は目を開く。

自分が意識を失っていたことに戸惑う声。

陽乃の視界の端で垂れていた薄い掛布団がずるずると動いて、陽乃の方に落ちてくる。

歌野「ぁれ……寝ちゃっていたのね……」

視界は布団で塞がってしまったけれど、歌野の声と体を起こした音が聞こえた。

陽乃「……体の方は、痛みがなさそうね」

歌野「えっ?」

歌野の驚いた声がすると、暫くして陽乃の体を覆っていた歌野の使っていた掛布団がめくられる。

ようやく視界が確保された陽乃は目の前に見える歌野をじっと見つめて。

陽乃「貴女、身に余る力を使ったでしょう」

歌野「ええ……久遠さんの力の一部以上の力を借りたわ」

陽乃「その反動で意識を失っていたのよ。感覚的には寝落ちしたように感じるだろうけど、一歩間違えれば死んでいたわ」

歌野「分かってる。けれど、そうする他なかったの。そうしなくちゃ、私は誰も守れなかった」


歌野「……久遠さんも目が覚めてよかったわ。宇迦之御魂大神様の御力なら癒すこともできるといっていたけど、本当だったのね」

陽乃「ええ。まぁ……とはいえ、見てわかるとおりだけど」

歌野「体、動かないの?」

陽乃「ちっとも」

杏と球子だったら誤魔化しもしたかもしれないが、歌野に対しては特別、隠したりはしない

隠したところでバレるだろうし、それなら、初めから素直に教えておいた方が良いからだ。

陽乃「貴女が眠っている間に襲撃があったのよ。で、ちょっと油断してこうなったの」

元々体は動かなかったのに、

九尾の力を借りて無理した結果が、このざまである。

余計に悪化して、指一本動かせない。

本来なら会話もままならないところだが、

そこは九尾の力でどうにか話せるようにしているだけだ。

歌野「……ごめんなさい。久遠さんには無理させたくなかったのに」

陽乃「謝られたって、困るわ」

歌野が戦えなくなるきっかけを作ったのは、

完成型を無理やりにでも倒すための手段を講じたからに過ぎず、その判断は陽乃がしたものだった。

その結果、陽乃が戦闘不能に陥って歌野が1人で戦うことになっため無理をする必要が出てきてしまったのだから



1、ただ、無理はしないで。貴女に死なれると水の泡だわ
2、神様は普通以上に反動が大きいのよ。無理をするものじゃないわ
3、力を使い過ぎない方が良いわ
4、貴女には、私のそばにいて貰うわ


↓2


陽乃「神様は普通以上に反動が大きいのよ。無理をするものじゃないわ」

歌野「身に染みたわ」

歌野はそう言って困ったように笑う。

俗にいう、ゾンビアタックのような戦い方しかできなかった歌野

壊れていく傍から無理矢理に回復させるその戦い方もそうだし、

誰かを癒すために力を使うのも、それなりに死に物狂いだった。

歌野「けれど、必要なの」

陽乃「……どうしても?」

歌野「ええ」

完成型に対抗するには必要不可欠

そして、誰かを助けるのにも、無くてはならない力だったと歌野は思っている。

それがなければ完成型に敗北していただろうし、

どうにか逃げ切った先で杏達に出会っても、球子を救うことは出来なかっただろう。

歌野「私が遭遇した海老とか蠍みたいな形をした個体は、猛毒を持っていたし……瞬く間に体が侵されて、使い物にならなくなる。あれは、普通の勇者では間違いなく致命傷だったわ」

陽乃「そんなのもいたのね。私の穢れとどっちが強いかしら」

歌野「間違ってもそんな勝負しないで」

陽乃「しないわよ。死にたくないし」


歌野はそうよね。と言うと、

少し間をおいてから「久遠さん」と囁くように言って、手を握る。

歌野「……無断で力を借りたのは申し訳ないと思ってるわ」

それもただの力ではなく、

宇迦之御魂大神様と言う、神様の力だ。

陽乃「私にお願いしたところで借りられる力ではないし、別にいいわよ」

歌野「そうなの?」

陽乃「当たり前でしょう? 私ならともかく、間接的に繋がりがあるだけの貴女が無理矢理力を引き出すことなんて不可能よ」

それでも歌野が力を使うことが出来たのは、

宇迦之御魂大神様が歌野に力を与えることを承諾したからだ。

そうでなければ、歌野は力を使えない。

陽乃「貴女が諏訪で農業に携わっていて、それに対して強い想いがあったからこその賜物でしょうね。宇迦之御魂大神様に気に入られてるわ」

歌野「好きでよかったって、心から思ってる」

歌野は頬を赤らめて、とても嬉しそうに言う。

食物の神で、農業の神としても知られる宇迦之御魂大神様

だから、九尾は歌野を唆したに違いない。

歌野「久遠さんを、助けられるわ」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


歌野を戦力に加えて、生存率を上げるという当初からの目標を考えれば、

歌野のその考えは願ったりかなったりな話だ。

しかし、それでは困る。

陽乃「神様は普通以上に反動が大きいと言ったはずよ。死ぬつもり?」

歌野「そんなつもりは無いわっ」

陽乃「結果的に死ぬと言っているのよ。私がそうするのと貴女がするのでは話が違うの」

陽乃はそう言って、歌野を見つめる。

普通に体が起こせるまで回復している歌野と、寝たきり状態の陽乃では全く説得力のない話にはなってしまうが、

それは扱う力の重さが原因であって、

同じ力を使った結果であれば、陽乃の方が症状は軽く治りは早いだろう。

歌野がもしもイザナミ様の御力を借りていたとしたら、モノの数秒で死に至ることだろう。

陽乃「私が出来ているから貴女もやるなんて言うのは、不可能よ」

歌野「そこまで慢心したりしないわ。久遠さんがとっても遠い人だっていうのは、良く分かっているつもりよ」


陽乃「貴女が精力的に私の生存率を高めてくれることには感謝するけれど、それで犬死されるのはお断りだわ」

歌野を戦力に咥えようと考えていた時は、まだ完成型が出現していなかった。

進化型が明らかに過程のように見えていたけれど、

それ以外には予兆もなかった

だけど、今はそれが出現し、陽乃でさえイザナミ様の力を必要とし、

戦闘経験が豊富な歌野でも、陽乃を通して神様の力を借りられなければ今頃食い殺されていたかもしれない。

球子と杏も今の力では太刀打ちできないため、

歌野が増えたところで実質、戦況は悪化したと言えるだろう。

にもかかわらず、歌野がむやみやたらと命を削ってしまうのは無駄でしかない。

陽乃「土居さん達の戦力差から察するに、乃木さん達も完成型には歯が立たない可能性があるし、その場合は私と貴女しかいないのよ。分かる?」

いずれはどうにかなる力を得られるかもしれない。

ただ、それは希望であって、まだ絶対ではない。

それなのに歌野が命を落とせば、残りの負担はすべてが陽乃に回る。

歌野「だったら、久遠さんも自分を大切にして」

陽乃「だから私と貴女ではそもそも――」

歌野「命が1つしかないのは同じだわ! いいえ、そもそも久遠さんは自分の能力に頼っていつも先陣を切って行ってしまうから一番死にかけているじゃないっ」

むしろ悪い方だわ。と、歌野は辛そうに言う。

歌野「久遠さんが死んでしまったら私も力を失う可能性が高いのよ。分かって……もう、久遠さん一人の命じゃないのよ」



1、なぁにそれ。私と貴女の子供でも産まれてくるのかしら
2、ちゃんとわかってるわ
3、……そうね
4、一蓮托生、ね


↓2


陽乃「……そうね」

歌野「ええ、そうなの。No久遠さん、Noフューチャーよ」

陽乃がいなければ未来はないと歌野は冗談のような言い方をするけれど、

今のところ、完成型を倒せる陽乃がいなければ話にならないのは事実。

望みは薄いけれど、

球子達にも完成型に対抗する手段があって欲しいと思う一方で

それもやはり、同じように命を削る手段になるのではという懸念もある。

歌野は宇迦之御魂大神様に認められている為、比較的反動が軽い方だ。

だが、そうではない状態で力を扱うのなら、

球子達はたったの一度でも、陽乃がイザナミ様の力を使うほどの反動があるかもしれない。

陽乃「リスクばっかりだわ」

歌野「何か心配事?」

陽乃「心配事しかないわよ……まず、体が動かないところから」

歌野「それは、久遠さんが無茶してしまうからいけないのよ」

まさしくその通りだったが、

歌野は困ったように笑って、少しずつ力を送るから。と、陽乃の手を握った。


歌野から流れてくる力は、宇迦之御魂大神様の力。

生命力を膨大にまで高めてくれる上、傷を癒す力がとても強いものだ。

そのおかげで、陽乃の体は少しずつ癒えていくのだが、

傷は多く、力を打ち消してしまう力が陽乃にはあるということもあって、

球子にした時のようにすんなりとはいかない。

とはいえ、1週間かかるはずだった傷が3日程度で治ったり、

3日ほどかかる予定だったものが1日で治癒できると言った大幅な短縮は見込める。

もちろん、歌野が無理をすればその限りではないが、

歌野が疲弊しないようにと考えると、そのあたりが限界だろう。

陽乃「あまり、力を使い過ぎないようにしなさい。病み上がりなんだから」

歌野「……いつも思うことがあるんだけど、言っていいかしら」

陽乃「言わなくても聞こえてるけれど、なに?」

歌野「それ、他人に言えないと思うわ」

陽乃「自覚はしてるわ」

たちが悪い。と、声が聞こえた気がしたが、

陽乃は反応せずに目を閉じる。

もちろん、たちが悪いのだって自覚していた。


√ 2018年 9月12日目 夕:移動②

↓1コンマ判定 一桁

3 バーテックス 発見
8 バーテックス 襲撃
1 住民
6 九尾

※それ以外のぞろ目は特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しだけ


√ 2018年 9月12日目 夕:移動②


あと数時間もすれば夜になる。

夜になればバスは休憩なしで走ることになるので、まただいぶ距離を稼ぐことが出来るだろう

最後の襲撃からまだ数時間

今のところ再度の襲撃は行われていないが、

夜に襲撃される可能性はある。

襲撃を受け始めた四国に近付きつつある今、安全な場所はもうない。

陽乃「……貴女も外に出てきていいのよ」

歌野「良いわ。久遠さんと一緒にいる」

陽乃「ここから先、明日の朝まで外に出られないのよ?」

戦闘がある場合は別だけれど、

殆どの場合、障害物の除去は球子と杏が遠距離から可能となったため、歌野に出番はない。

けれど、歌野は小さく笑って、良いわ。と繰り返す。


歌野「外の空気は窓を開ければ吸えるし、今は久遠さんの体を癒す方が大事なことだわ」

歌野が持つ宇迦之御魂大神様の力

陽乃を癒さなければならないわけではないけれど、

そうしないと、完治までにかなりの時間がかかる。

戦力的にも陽乃を遊ばせている余裕はない。

もちろん、そんな理由がなくても歌野は陽乃を放ってはおけない。

今は、歌野が使っていた場所に陽乃が横になっている。

陽乃から歌野、そしてまた陽乃へと戻った。

陽乃「……ここ、白鳥さんのにおいがするわ」

歌野「えっ!? ぁ、ご、ごめんなさい……」

陽乃「私も似たようなものよ」

歌野「……四国に着いたら、温かいお風呂に入りたいわ。久遠さんが動けなさそうだったら、私が手伝うわ。良いでしょ?」

陽乃「さぁ?」

四国にたどり着いてから、そんな自由があるのかどうか。

歌野達は労われるだろうけれど、陽乃は。

陽乃「そうできたらいいわね」



1、歌野が戦った完成型について
2、四国到着後について
3、先に大社に行かないといけないの
4、四国が滅んでるかもしれないし
5、イベント判定


↓2


↓1のコンマ

01~10 水都
11~20 球子
21~30 杏
31~40 九尾
41~50 住民
51~60 球子
61~70 特殊:悪
71~80 バーテックス
81~90 住民
91~00 九尾


陽乃「今、どの辺りを走っているんだったかしら」

歌野「岡山市だって聞いたわ。普通ならもう2時間も経たずに四国につくことが出来るって話よ」

陽乃「ええ。そうだったわね」

今からでも全力でバスを走らせ、四国に向かってしまうべきではないだろうか。

バーテックスに気づかれる可能性はあるけれど、

勇者が4人いれば、通常個体の襲撃くらいはどうにでもなるし、

進化体なら、まだ平気だ。

歌野「不安なことでもあるの?」

陽乃「完成型……貴女、倒したわけじゃないのよね?」

歌野「撃退が精いっぱいだったけど……完成型との戦闘では私もっ」

陽乃「違うわ。完成型はどこに逃げたのか気になるの」

倒しきれなかったのだから、バーテックスはまだ残っているのは当たり前だ

今向かっている方向に逃げたわけではないのは分かっている

そして、現在進行形で襲撃を受けているであろう四国

逃げた完成型が歌野を含む一団を探して彷徨っている場合でも

そうではなく、四国襲撃に移った場合でも

このバスは、挟み撃ちに遭う可能性があるのではないだろうか。

陽乃「もう一度、完成型と戦闘になる覚悟をした方がよさそうだわ」

歌野「また、無理をするの?」

陽乃「死なない程度にね。心配は要らないわ」


歌野「そんなこと言って……いつも、運よく死なずに済んでいるだけなのに」

完成型との戦闘ではかなりの深手を負ったが、

基本的にはバーテックスの攻撃ではなく

自分の力の反動によって陽乃は傷ついている。

歌野はそんな陽乃の手を優しく握って力を送りながら、

困ったように笑って。

歌野「その時は、私も連れて行ってね」

陽乃「悪いけれど、心中のお誘いはお断りするわ」

歌野「そうじゃなくて、戦うときはって話よ。もうっ……クレイジーだわ」

陽乃が動けないのをいいことに、

むにっと頬を摘まんだ歌野は呆れたように、絶対にね。と言う。

歌野「貴女を守るのが、私の役目だから」

陽乃「大それたことを言ってくれるじゃない」

一番死にやすい役割を引き受けるという歌野

陽乃は茶化すように言って、そして――

九尾『主様!』

陽乃「!」

九尾の叫びが聞こえた瞬間に、バスのすぐ近くで大きな爆発が起こった


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「急に何なのよ……っ!?」

爆発の振動によってバスが激しく揺れた影響で歌野を下敷きにしてしまった陽乃は、

当然、指先一つ動かせないまま、苛立たしそうに怒鳴る。

そんな陽乃を歌野はどうにか抱き上げて椅子に座らせようとしたところで……また、爆発が起こった。

距離は少し遠いが、確実にこちらを狙っているもののようだ

陽乃「九尾、状況!」

九尾『あ奴らが現れおったぞ主様、襲撃じゃ』

陽乃「襲撃ってバーテックス? どこに潜んでたのよ」

休憩地点とする際、周囲の探索は怠っていないはずだった。

陽乃と歌野はそれを行える状況になかったものの、

球子と杏がそれを代わりに行ったはずだ。

それが甘かったと言われれば、叱責するだけでは済まないが……九尾もいてその体たらくはあり得ない。

九尾『辺り一帯から急激に数を増やし、一気呵成に厄介なものを作り上げおった』


話すよりも見て貰う方が早いと判断したのか、

九尾の力が一気に流れ込んできて、体が動くようになっていく。

陽乃「っ……」

歌野「久遠さん?」

陽乃「大丈夫だから、さっさと行くわよ」

歌野の腕を払いのけてバスから飛び出ると

勇者服に着替えた球子と杏が必死に敵の迎撃に移っているのが見えた。

球子は近づきつつある初期個体の迎撃をしていて、

杏はそれとは別の何かを懸命に撃ち落としているが、落としきれずにいくつかが付近で爆発する。

杏「久遠さんっ、白鳥さんっ!」

球子「説明している時間はない! 皆を連れて逃げてくれ!」

杏は振り返る余裕すらなく、球子はかなり慌てた様子で怒鳴る。

杏が撃ち落とす炸裂段のような何かを放つ、巨大なバーテックス

今まで見たことのない形から察するに、あれもまた完成型の1つであることは間違いなかった

しかし、球子達が逃げろと言うのには別の理由がある。

それは……もう1つ、巨大な物体が陽乃達のいる場所に向かってきていたからだった。


四国方面から向かってきた初期個体の集合体である爆弾のようなものを飛ばしてくる完成型

それとは別に、陽乃達が来た方向から向かってくる、針のようなものが見える尻尾のある完成型

ここには2体の完成型が集まりつつあるということだ。

今はまだ近距離を主体とするバーテックスが近づいてきていない為、

球子と杏だけでもどうにかなっている。

だが、完全に挟み撃ちされる形となったら逃げだすことは出来なくなってしまうし、

たった2人ではどうにもならない。

つまり、ここで2人を置いていけば、2人は確実に死ぬだろう。

しかし、陽乃は満身創痍で、歌野は病み上がり。

完成型2体を倒しきれるかと言えば……そうとはいえなかった。

杏「殿は私達が努めます。お二人は逃げてください……そして、万全な状態で立ち向かえるようにしておいてください」

球子「行けッ!」

だから、唯一対抗できる2人を温存し、万全の状態でいつか敵を取ってくれることを願って球子と杏は陽乃達に逃げるように言う。

陽乃と歌野さえ守れれば

その2人が万全な状態になりさえすれば……完成型が2体いようと、どうにかなると信じて。

歌野「久遠さん……」

歌野は陽乃を見て首を振る。

歌野は見捨てたくないようだが、陽乃が逃走を受け入れてしまったら、従うしかない。


1、逃げる
2、逃げない
3、球子と杏に逃げるように言う


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「私達が逃げたってどうしようもないわ。貴女達が逃げなさい」

球子「何言ってんだ!」

陽乃「手で直接触れずに迎撃できる貴女達と、近づかなければならない私達。防衛で最も有効なのはどっちかしら」

今まさに全身全霊で迎撃に集中している2人に考えている余裕なんてないことは分かっているけれど、

考える必要もないことだからこそ、陽乃は意地悪く言って、歌野へと目を向ける。

陽乃「貴女は残るしかないわよ」

歌野「言われなくても」

球子「なにふたっ……っ、このぉぉぉぉッ!」

次から次へと飛んでくる爆弾と、その合間を縫うように近づこうとしてくるバーテックスの猛攻

ギリギリのところで2人はさばいているが、限界も近いことだろう。

陽乃「荷物がなければ守る必要がない。守る必要がなければ、避ければいい。殴るしか能がない私達のメリットはそこにある」

杏「……久遠さん」

杏や球子は、ある程度その場に留まっておかなければ安定性が著しく減少することになる。

けれど、その分遠距離からの攻撃を行うことが出来、比較的安全に防衛が可能となっていて、

それが移動することが可能なバスなら……逃げながら迎撃さえ可能と言うことになる。

陽乃「どうするの? 貴女達は、私に " 協力 " するの?」


球子「んなこと言ったって、そんな体で戦えるのかよっ!」

陽乃「それなりには」

完成型1体くらいなら、今の陽乃でもどうにかなる。

もっとも、あとのことを考えなければという話にはなってしまうけれど、

今回は全かと違って歌野もいるのだから、以前よりは酷くならないかもしれない。

杏「なら、どうにかしてあの遠距離攻撃を仕掛けてくる方を私達が引き付けるので、もう一体……お願いできますか?」

歌野「大丈夫?」

杏「何とかなるかと」

陽乃と歌野が参戦することで、

通常個体のバーテックスも戦力を陽乃達の迎撃へと回すしかなくなるだろうから負担は大幅に減少するだろうし、

そうなれば球子の手が空きやすくなる。

それを有効活用さえできれば……生存率は大幅に上がるだろう。

以前球子の楯を貫いたほどの突貫力は遠距離攻撃を仕掛けてくる方にはないからだ。


杏「久遠さんたちに全部任せる気はありません。協力と言うなら、私達が囮をやります」

陽乃達をただ置き去りにするのではなく、

遠距離型のバーテックスが釣れるまでは何があっても陽乃達に控えて貰い、

その後に、陽乃達がもう一体の針を持つ完成型と戦うという流れだ。

陽乃達は遠くから迎撃することが出来ない為、ただ延々と爆発物を撃ち続けられればじり貧になる。

だからこそ、

それに対抗できる杏達がその完成型に対する囮役を引き受け、

陽乃達には適材適所で、中近距離であろう敵を相手取って貰おうと杏は考えているらしい

杏「それがだめなら、駄目です」

陽乃「……なるほど」

それ以外の作戦は受け付けない。

あくまで、完成型は1体ずつ相手しようということのようで。

陽乃が歌野に目を向けると、歌野は頷く。

今こうしている間も、攻撃は続き、距離は近づいている。



1、分かったわ。それでいい
2、断る


↓2


陽乃「分かったわ。それでいい」

杏「……ありがとうございます」

杏は少し申し訳なさそうに言うと、球子に目を向けて頷く

杏「タマっち先輩っ、思いっきり投げて!」

球子「っおおおおおぉぉぉあぁぁぁぁぁぁッ!!」

杏に従って、球子は全力で楯をぶん投げる。

向かってきていた初期個体のバーテックスを切り裂き、そして、

射出されていた爆発物に接触して弾かれ、球子の手元へと戻ってくる。

杏「もう一回!」

球子「んぐぅぅうううう!」

杏はその間に、陽乃と歌野に待機場所を指示してから、

住民が全員バスに戻っていることを確認し、一瞬だけ躊躇って球子の楯が戻った瞬間に矢を乱れ討つ

杏「タマっち先輩!」

球子「わかった!」

爆発物の迎撃と通常個体の迎撃

それを一時的に球子に一任し、

ダメージが与えられないとしても、射程が長くギリギリ完成型へと攻撃が届く杏がチクチクと挑発を行って、バスと一緒に逃げ出す。

陽乃「……釣れた」

決して強くはないが、煩わしいほどに攻めてくる杏に狙いを定めた遠距離型のバーテックスが体の向きを変え、追う姿勢を見せる。

もう一方、一度は歌野に撃退されたバーテックスはまっすぐ追い詰めに向かってきているのが見えて、歌野は深呼吸する。

歌野「今度こそ」

陽乃「ほどほどにしておきなさいよ」

今回で確実に倒すと意気込む歌野に、陽乃は宥めるように呟いた。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は、可能であればお昼ごろから

では少しずつ


歌野「久遠さんっ、あの針は掠めるのも危険よ。絶対に当たらないようにして」

陽乃「毒がなくてもあんなの受けたくないわ」

陽乃達が相手をする予定の蠍のようなバーテックスは、尾の先に鋭利な針を持っているため、

かすっただけでも、人間の体なら腕が吹っ飛んでもおかしくはない。

だが、歌野は一度戦って生き残った。

撃破ではなく、長時間戦闘による粘り勝ちでの撃退だったこともあって、

どのような攻撃パターンがあり、その攻撃にはどんな危険性があるのかも分かっており、

あのバーテックスと戦ううえで歌野ほど力強い味方はいないだろう。

陽乃「貴女は私のバックアップをお願いね。後ろから指示を頂戴」

歌野「後から? そんなことっ!」

陽乃「貴女なら、全部分かっているんでしょ」

歌野「ええ……でも!」

陽乃「私を死なせたくないなら、向こうがどう動くのか先手を取って教えて」

陽乃はそう言って、自分の頭を人差し指で軽く突く

陽乃「有効活用するわよ」


陽乃と歌野は互いにつながりが強いため、

言葉にしなくても意志を言伝えることが可能な状態になっている。

歌野が完成型バーテックスの動きから繰り出される攻撃を予見し、

それを陽乃に伝えられれば、陽乃が高確率で攻撃を避けられるようになる

イザナミ様にせよ、九尾にせよ

力を使っている間素こそずつダメージを蓄積していく陽乃は、

敵の攻撃1つ1つが致命傷になりかねない

なにより。

陽乃「白鳥さんには私を連れ帰る義務があるわ」

歌野「倒れること、前提なの?」

陽乃「力を使う以上は避けられない。今の私はそういう体なのよ」

かといって、歌野では倒しきることが出来ない

だから、やらなければならない。

陽乃「私がアレを倒すから、貴女がもう一体を撃退するの。出来るでしょう?」

歌野「駄目よ! 駄目……今度こそ死んじゃうわ!」



1、イザナミ様の力を借りる
2、九尾の力を借りる
3、付いて来られるなら、付いて来なさい ※イザナミ様の力
4、なら、一緒に行く? ※九尾の力

↓2


陽乃「いいわ……付いて来られるなら、付いて来なさい」

陽乃がいくら言ったところで

拘束する手段がない以上は、歌野の意志に委ねられる。

歌野は大人しく待っている気はないだろう。

目の届かないところで何度も陽乃に倒れられている経験がある歌野は、

今度こそ、一緒に戦おうとするはずだからだ。

陽乃「ただし、巻き込まれないようにね」

歌野「久遠さん、まさか」

陽乃「今回もイザナミ様の御力をお借りする」

陽乃はあえて、笑顔で言う。

九尾の力よりもずっと反動がある分、遥かに強い力

完成型を確実に屠れるであろうそれを、陽乃は願う

陽乃「かけまくも畏き伊邪那美大神に願い奉る――」

陽乃は神の力をその身に宿すべく、舞を奉納し、祝詞を唱え、

そして、神を降ろす。

陽乃「っ……!」

歌野「久遠さん!」


陽乃「平気……だからっ」

イザナミ様の力を降ろしたその瞬間から、

ただでさえ満身創痍な体に重くのしかかる力の反動に耐えられずふらつき、

歌野に支えられる形でどうにか持ち直した陽乃は、

その体を押し退けて、胸を抑える。

陽乃「時間がないわ。さっさと片付け……っ」

心臓が握り潰されるような感覚

まるで、どこかの臓器を傷つけてしまったかのようにじわじわと熱が広がり、

陽乃は軽く咳込んだだけで、手のひらを赤く染めてしまう。

歌野「っ……分かったわ。短期決着。私も全身全霊で臨むわ!」

歌野は陽乃の体を少しでも癒すために、

あえて、宇迦之御魂大神様の力を最初から借り受けて、装束を身に纏う。

陽乃と同様に反動の重い力だが、

歌野は無理矢理体を癒す性質上、気力さえ持てば倒れることはない。

もちろん、死んでしまったらそこまでだが。

陽乃「私が先陣を切るから、貴女は私に余計な力を使わせないで」

歌野「ええ。絶対、久遠さんを守り抜く!」


↓1コンマ判定 一桁

0,9 持続
4  陽乃 毒
8  歌野 毒
それ以外 陽乃離脱(通常)

ぞろ目 持続


歌野は宣言した通り

先行して駆け抜けていく陽乃に向かおうとする初期個体を蔓で叩き落し、

薙ぎ払ってその道を守り抜いて。

歌野「久遠さんっ!」

目前にまで迫ってきた陽乃達めがけて尾を振り下ろそうとしたバーテックスの動きを察知した歌野が叫び、

上から来るという心の声を聞いた陽乃は直前で横に回避し――

陽乃「っああぁぁぁっ!」

神をも屠る力を込めた一撃をバーテックスへと叩き込む。

陽乃の拳が撃ち込まれたバーテックスの腹部は爆発したように弾け、

その部分から徐々に蝕まれるようにして崩壊し、消えていく。

陽乃は殴った勢いをそのまま抑えられず、地面を転がってそのまま動かなくなってしまう。

歌野「久遠さ……っ、邪魔っ……邪魔しないでッ!」

倒れてしまった陽乃に群がろうとする初期個体と、歌野に向かおうとするのを阻もうとする初期個体。

その軍勢を、歌野は右手の蔓で薙ぎ払い、左手の拳で殴り飛ばし、

突進を受けても踏ん張って、無我夢中で陽乃へとたどり着く


歌野「久遠さん! しっかり!」

勇者装束はすでに解けてしまっていて、

バーテックスの攻撃を受けていないにもかかわらず、

陽乃が倒れている場には、真っ赤な血が広がっていく。

全身から血を流している陽乃は、歌野の呼びかけに薄く目を開いて。

陽乃「……大声、ださないで……」

歌野「待ってて、すぐ治療をするからっ」

陽乃「い、い……からっ……」

反動による体へのダメージ

球子達につられていったバーテックスを除いて歌野が撃破してくれたため、

この周囲は今のところ安全だと言えるだろう。

だが、今度は球子達の方が危険だ。

陽乃「そんな暇があるなら、戻って……」

球子を一瞬で治療できてしまうほどの力があっても、

陽乃にも効果はあるものの、

神をも殺せてしまう力に打ち消されて、ほとんど効果が出ないのだ。

歌野「でもっ」

陽乃「っ……ごほっ……早くッ!」


話をしている間にも、球子と杏はバスでどんどん離れていく。

速度を落とせば通常個体の捨て身の突撃を受けかねない為、

バスはかなり速度で走っている

その上に乗り、通常個体を迎撃しつつ、完成型の飛ばしてくる爆発物を打ち落とし、

あわよくば挑発を行う2人は、完成型を倒せるほどの力がない。

時間が経てば経つほど追い込まれ、

陽乃達が追いつくことが出来なくなる可能性がある。

歌野「っもう!」

歌野は陽乃を抱き上げると、

回復のために力を流し込みながら、全力で杏達のバスを追いかける。

歌野「少し辛いだろうけど、我慢して」

陽乃「……無理……吐く……っ」

歌野「えっ」

多少の問題は起こったが、

歌野の力をかなり温存した状態で杏達と、それを追いかけるバーテックスに追いついた


歌野「土居さん! 伊予島さん!」

球子「歌野! なんでこっちに――」

球子達を追いかけているバーテックスの背後から追いかける形となっていたため、

奇襲を仕掛けようと思えば仕掛けることもできたはずだが、

歌野はバーテックスの側面を駆け抜けて、球子達との合流を優先した。

そうしなければ、陽乃が助からないからだ。

杏「久遠さんの容体は!?」

歌野「さっきまで意識があったけど、気を失っちゃって……でも、大丈夫。生きてる」

球子「そうか……こっちはあとあのでかいやつだけだ」

杏「白鳥さん行けますか?」

歌野「ええ」

球子と杏の粘りで通常個体が消え、残りは完成型1体

しかし、杏と球子の攻撃ではあのバーテックスには大したダメージを与えられない。

だから、歌野に頼るしかない。

杏「私があの爆弾を一つ残らず撃ち落とすので、白鳥さん。すみませんがお願いします」

球子「タマは……仕方ないっこっちは任せとけ」

歌野「任せたわ!」


近接攻撃が主体の蠍のようなバーテックスと1人で戦っていた時と違って、

遠距離攻撃が主体のバーテックスと、杏の助力を得ての戦い。

歌野めがけて爆発物を撃ちだそうとするが、

その傍から杏が撃ち抜いて爆発させている為、歌野には届かない。

届かないから大きな怪我もなく、歌野は全力でバーテックスを撃退することが出来た。

歌野「……」

今回の完成型も、

歌野だけの攻撃力では討伐しきることは出来なかったが、

蠍のようなバーテックスに比べれば手ごたえはあったと、歌野は蔓を握りしめる。

力を使うことで馴染み、

より力を発揮できるのかもしれない。

だとすれば、回復させるための力も協力になって、

陽乃を治せるようにならないだろうか。

歌野「……はぁ」

四国まではあと少し

だが、ここに来ての完成型による襲撃

陽乃はまた力を使って倒れ、回復するだけの余裕もない。

歌野「もうひと踏ん張り」


√ 2018年 9月12日目 夜:移動①

↓1コンマ判定 一桁

3 バーテックス 発見
8 バーテックス 襲撃
5,8 陽乃 

※ぞろ目は陽乃

√ 2018年 9月12日目 夜:移動①


2体の完成型に襲撃を受けるという最悪の状況を脱した歌野達は、

全速力で四国へとバスを走らせていた。

1体を撃破するために力を使い、瀕死の状態の陽乃

瀕死の状態で力を使い、少し治ってまた力を使ってと、

完治する間もなく力を使わなければならないこの状況を一刻も早く何とかしなければならないと考えたからだ。

バスの速度を上げるとそれだけ音が大きくなり、揺れが大きくなり、

バーテックスに再発見される可能性も高まるものの、四国はもう目前だし

なにより、

ゆっくり走らせても発見されるような状況で、

慎重さを選んでいる場合ではなかった。

水都「四国に着いたらまず陽乃さんが絶対安静に出来る場所に連れて行かないと。大社の病院……は、駄目かな……」

歌野「多分」

勇者の怪我に着いて一番知識があるのは大社の息がかかった医療機関なのは間違いない。

しかし、そこに陽乃を連れて行ったら、そこでどのような処遇を受けるのかと思うと、迷ってしまう。

かといって、陽乃が落ち着いて過ごせるような家はない。

歌野「背に腹は代えられない……かしら」

水都「陽乃さんが成し遂げたことは、偉業だよ……勇者だよ。間違いなく。だから、少しは、考え直して貰えないのかな?」

英雄の凱旋だなんて求めない。

ただ、普通に、勇者として迎え入れてあげては貰えないのだろうかと、水都と歌野は傍らで眠る陽乃を見つめる。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます。
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


水都「あのままずっと、陽乃さん達が来ないままの諏訪だったら、すぐに飲み込まれちゃっていたと思う」

陽乃が深く傷ついてばかりで、

安易に感謝するわけにはいかないけれど、

陽乃が行動しなければ球子達も来てはくれず、

たった一人、歌野だけで諏訪を守り、力尽きて――

水都「本来なら、諏訪に助けなんて来なかっただろうし……」

歌野「久遠さんは周りの反対を押し切って、危険なのも承知の上で諏訪に来てくれた。そうしないといけない、理由もあったけど」

陽乃から聞かされた話しか知らない水都と違い、

歌野は陽乃とのつながりの深さのせいで多くを知ってしまったため、

諏訪に来る最後の一歩を踏み出させた原因も、分かってしまっている。

歌野「でも、久遠さんはずっと諏訪のことを考えてくれていたの。助けに行くべきだって」

水都「陽乃さんがそう言ってたの?」

歌野「ううん。ちょっと、知る機会があっただけ」


諏訪に生存者がいると、勇者がいると。

そう聞いて、行くべきではないかと進言していた陽乃は、

自分の生存率を上げるための戦力が欲しいという思惑があることもあったが。

蓋を開けてみれば、みんなを救うことに必死だった。

死ぬ気で頑張るだなんて口先だけのものではなくて、

本当に何度も死にかけた。

今だって、また死にかけている。

歌野「もう目の前まで四国が見えてるし、このまま到着したらいいのに」

水都「私の神託を受ける力が、バーテックスを避けるのに役立てばいいんだけど……」

移動中、まったく神託を受けたことがないと

責任を感じているようなそぶりを見せる水都に、歌野は陽乃を見て。

歌野「それはたぶん、久遠さんが倒れているからじゃないかしら。久遠さんに余力がないから、その力で神託を受けるみーちゃんにも影響が出ているのよ」

実際、陽乃の力で勇者として戦っていた歌野は、

陽乃が正常かどうかで戦闘力に大幅に違いが出ることは確認済みだ。

歌野「私達、久遠さんに頼りっぱなし」

宇迦之御魂大神様の力を得てようやく、歌野は陽乃が倒れていても十分戦えるようになったが、

その力も、陽乃がいたからこそのものだ。

歌野「ほんと、何とかしたいわ」


↓1コンマ判定 一桁


0 球子
3 杏
6 住民
9 九尾


ぞろ目 特殊(悪)

短いですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


杏「やっぱり、私達の攻撃じゃ傷1つつかなかった」

球子「タマの攻撃は届きすらしなかったけど、まぁ、たぶん届いても無駄だな」

球子の楯を砕いた一撃を打ってきたバーテックスは陽乃が相手をしてくれたものの、

それに準じた完成型のバーテックスだったことには変わりがない。

もし仮にあれに球子の楯を貫くだけの攻撃力がなかったとしたら、

その分の力は頑強さに変っていた可能性がある。

その場合はまず間違いなくダメージが通らなかったことだろう。

球子「だからこそ歌野の凄さが分かるし、陽乃のヤバさが分かってくる。あんな、勇者に倒せないやつを一撃でぶっ飛ばせるとか……」

遠くから見ただけだったけれど、

何かが衝突したような音がとどろき、そして、蠍のようなバーテックスが消滅していったのは2人にも見えた。

そのあとに歌野が陽乃をお姫様抱っこして連れてきたのには、酷く驚かされたが。

球子「なぁ、もしもの話……タマ達にもああいう力が使えたらどうなる?」

杏「ああいうって、久遠さんみたいな感じの力?」

球子「それか、歌野みたいな感じのやつ」


今の四国組を含めた中でも一番、勇者としての適性が高いはずの陽乃でさえ、

あんなにもボロボロになるような力。

歌野は比較的無事に思えるが、

歌野が借りている神様の力のおかげでしかなく、

その反動はやっぱり相当なものだろうと二人は考えて、息を飲む。

杏「久遠さんが言うには、内側からボロボロになっていくって感じらしいけど……私達はたぶんそれだけじゃないような気がする」

球子「例えば?」

杏「それは、分からないけど」

そもそも、力を借りるということ自体、あんまりよく分かっていない。

今は神樹様の力を借り、

それを武器に宿すことでそれを行使している。

だが、その状態だと問題がない。

歌野の3年間もきっとそうだったはず。と、杏達は考える。

そうでなければ、ここまで無事で居られたはずがないからだ。


杏「そもそも、どうして普段の力は平気で、精霊……神様かな。そう言う力はこんなにも影響が出てるんだろう」

球子「そりゃ、神様だからじゃないか?」

杏「でも、久遠さんはともかく白鳥さんや私達は本来、神樹様から力を借りているからそれが理由ならかなりの影響が出てるはず」

球子「神様なのが理由じゃないって言うなら、これか?」

球子はそう言って、自分の楯を杏に見せる。

神様の力を宿し、神器としているその武器は、

勇者にそれぞれ見合ったものがあり、戦うために必要不可欠なものだ。

今はそれを経由して力を使っているが、

そうではなく、自分の身に力を宿したとしたら同じような影響が出るのではないかと、球子は顔を顰める。

杏「どうだろう……神樹様が力を絞ってくださっている可能性もあると思う。私達に影響が出ない範囲で力を使えるようにって」

球子「でも、あれだろ? 切り札みたいなのがあるんじゃなかったか?」

長く離れたわけではないけれど、色濃い時間だったし

全く使ったことのない力のことを、あんまり覚えていないといった様子の球子に、杏は困ったように笑って。

杏「それはまた別、じゃないかな……だけど、どれも何の対策もなしにやってはいけないことだって言うことだけは分かる」

それは、陽乃を見ていれば一目瞭然だった。

つかっている力の強さに違いはあるが、

適性が低ければ低いほど、諸刃の剣になり得るものだ。

杏「もしかしたら、精霊についてはもう、若葉さん達が使ってしまっているかもしれないから、話を聞いてみた方がよさそう」

球子「そうだな……」


そのためにはまず、杏達が無事に四国にたどり着く必要があるし、

若葉たちが襲撃を乗り越えて無事で居てくれていることが前提だ。

元々格の違う力を使う陽乃しか倒せず、

その力の一端を使える歌野がどうにか撃退できるといったレベルの敵がいるうえ、

すでに四国付近に出没していたことを考えると、

四国が無傷である可能性は低い。

最悪の場合は、やはり、勇者の内誰かが亡くなっていてもおかしくはない。

杏はそこまで考えて首を振る。

完成型がそう簡単に量産できるとは思えず、

すでに陽乃が2体も撃破したのだから、

現存しているのはあの1体のみで、まだ四国襲撃には参加していないという望みに賭けたかった。

けれど。

球子「ああ。分かってる」

油断はできないという杏に、球子は頷いた。


√ 2018年 9月12日目 夜:移動②

↓1コンマ判定 一桁

9 バーテックス 発見
2 バーテックス 襲撃
4,6 陽乃 
1 住民
7 九尾

※ぞろ目は陽乃


ではここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

陽乃復帰

では少しだけ

√ 2018年 9月12日目 夜:移動②


陽乃「ぅ……っ、げほっ……けほっ……ごほっ……」

意識が覚醒したのと同時に、全身から伝わってくる激痛と、

ぐつぐつに煮込まれたかのような内側から湧き上がってくる何かに陽乃はせき込む。

本来なら体を起こしたり横を向いたりするほどのものなのに、

体が微動だにしないせいで咳込んだ傍から喉奥に戻ってきてまた咳込んで、

喉が傷ついたのか、血が滲んだような熱を感じる。

陽乃「ぁ゛っ……ぅ゛……ごほっ……」

歌野「久遠さ――っ! 落ち着いて……大丈夫、大丈夫だからっ」

寝落ちでもしていたのか、

すぐ隣で蹲っていた歌野が慌てて体を起こし、

陽乃の体を横側へと向けて、

血が口元から流れ出ていくようにしてくれる。

陽乃「ぁっう゛っ……ごほっ、げほっ……っ……」

歌野「頑張ってっ、お願い……ちゃんと吐いてっ」

歌野は陽乃の背中を摩りながら支えて、

口から溢れていく泡立った赤い唾液を何度も拭っていく。


それから数分間、ずっと咳込み続けた陽乃は、

歌野の介抱もあってどうにか持ち直した。

けれど九尾の助力がない今は話すこともままならず、

光の薄れた、弱弱しい目で歌野を見ることしかできていない。

歌野「久遠さん……無理をし過ぎよ……」

さっきはちゃんと相談してくれたし、

それを受け入れたのは歌野だ。

けれど、陽乃が無理をし過ぎているのは変わらない。

歌野「本当に死んでしまうわ。今だって、私がいなかったら窒息していたかもしれない」

たまたま歌野がすぐそばにいたからいいが、

これが休憩中などで車内に誰もいない状況だったりしたら陽乃はそのまま命を落としていた可能性がある。

最も、こんな状態の陽乃を1人にしておくような勇者達ではないけれど。

歌野「完治するまでは大人しくしてて。その分、私が頑張るから」


歌野は一応、完成型とも戦える力を持っている。

とはいえ、歌野も相応の無理は必要となるけれど、

陽乃一人が無理をし過ぎるよりはずっと、軽く済む。

特に、陽乃は力が強すぎるせいで代償が重すぎるのだ。

もちろん、その分完成型と言えど一撃で屠れてしまう為、

言ってしまえば過剰戦力に他ならない。

一般人を守るという理由さえなければ、

陽乃は九尾の力でも完成型と渡り合える可能性は十分にある。

歌野が知らないところで延々と力を使い続けているのも症状のの重さと関係があるが。

歌野「予定では、あと数時間程度で四国に着くわ」

歌野はそう言いながら、

陽乃の額に浮かぶ汗を拭い、

口元を拭って陽乃がまた咳込んだりしないかと様子を見る。

歌野「そうしたら、病院に連れて行こうと思っているんだけど……大丈夫?」


歌野がわざわざそれを聞くのは、陽乃を案じてのことだ。

身を案じてのことなら悩むまでもなく病院に連れていくべきだが、

陽乃の場合は大社に関係のある病院でなければ正しい治療はして貰えないし、

その病院でさえ完全な治療が施すことが出来る保証もない。

ただ、病院に入ればその連絡が大社に行き、陽乃は大社に管理されることになるだろう。

だから、歌野はそれを訪ねる。

陽乃の過去のできごとを知っている以上、

ただ治療に専念して貰いたいというだけで陽乃の自由が奪われるようなことをするわけにはいかなかった。

歌野「口では答えられないだろうから……これ。これを見つめて」

歌野はそう言って、ノートを取り出す。

ノートには、

左側に病院に行くと書かれ、右側に病院には行かないと書かれている。

歌野「これを目で追ってくれるだけで良いわ。どっちがいいのか……やっぱり、体を治すには精神面も重要だと思うから」

手術などで治療する必要があるなら選択肢はない

だが、そうではないなら選ぶ権利はある。


1、病院に行く
2、病院に行かない
3、歌野を見つめる


↓2


陽乃は少しの間歌野を見つめていたものの、その視線をゆっくりと左の方へ向ける。

陽乃から見て左側には病院に行くと書かれており、

歌野は本当にいいのかと確認を取ったが、

陽乃はまた歌野を見て、もう一度左側へと目を向けた。

正直なところ、陽乃は大社に管理されたくはないし、

歌野も大社に任せるのは好ましく思っていなかった。

陽乃の過去を知ってしまったのもそうだし、

仕方がないことだったのかもしれないけれど、

諏訪を完全に切り捨てているような状態だったこともあったからだ。

それでも、陽乃がそれでもいいというなら、歌野は頷く

歌野「分かったわ。そうする」

嫌ではあるものの、

病院が一番、体を治すには最適だ。

だから、それこそ仕方がない。


歌野「でも、久遠さんを1人にしたりはしないから」

1人だけ入院なんてさせないし、

1人だけどこかへと移送なんてこともさせない。

大社がなんて言おうと、

傍には自分か巫女である水都を置いて貰おうと思っていると歌野は言う。

歌野「久遠さんは自由が欲しいだなんて思うかもしれないけど、でも、そのくらいはさせて」

陽乃「……」

心配そうに零し、

陽乃の介護を続ける歌野をじっと見つめていた陽乃は、

何も伝えることなく目を瞑る。

今の陽乃には誰かが必要だった。

九尾はもちろん、

それ以外の誰かの力も。

でなければすぐにでも息絶えてしまうほどに弱っている。

特に、歌野の力がなければ、抜け出ていく力の方が多いのではというくらいに回復が追いついていない。

だから、陽乃は甘んじるしかなかった。


1日のまとめ(諏訪組)

・ 土居球子 : 交流有(完成型は任せて、やることをやるだけ、手を貸す(悪)、肯定、悪かったと思う、球子達を逃がす、共闘)
・ 伊予島杏 : 交流有(完成型は任せて、やることをやるだけ、手を貸す(悪)、肯定、悪かったと思う、球子達を逃がす、共闘)
・ 白鳥歌野 : 交流有(神様の反動、そうね、付いて来られるなら、病院に行く)
・ 藤森水都 : 交流有(深刻なダメージ)
・   九尾 : 交流有(もう一度、球子達)

√ 2018/09/12 まとめ

 土居球子との絆 72→75(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 87→90(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 85→87(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 92→92(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 78→78(良好)

鬱積 12%


√ 2018年 9月13日目 朝:移動①

↓1コンマ判定 一桁

0,5 バーテックス 発見
2,8 バーテックス 襲撃

ぞろ目奇数:悪
ぞろ目偶数:良

※それ以外は四国判定

規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

ぞろ目で完成型
50以上で進化型
70以上で進化型複数 ※一桁の数


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが少しずつ


√ 2018年 9月13日目 朝:移動①


瀬戸大橋がもう目の前と言えるほどの場所にまでたどり着いていた陽乃達だったが、

2台のバスは近くにある建物に隠れるようにしながら停車していた。

ここに来てからさらに慎重になった。のではなく、

ここから先にはそうやすやすと進めないような光景が目の前に広がっていたからだ

球子「瀬戸大橋周辺にいる大量のバーテックスをどうにかしないとバスの1台は吹き飛ばされるぞ」

杏「初期個体だけならともかく、軍勢を率いるみたいに進化個体がまばらにいるので、バスを守りながらは厳しいと思う」

歌野「つまり、誰かが囮を務めないといけないってこと?」

杏「単刀直入に言えばそうなります。ただ、問題は昨日のようにバスの護衛が手を出すことは出来ないっていう点です」

昨日の完成型の襲撃の方が危険度ははるかに高いものの、

蠍のようなバーテックスを陽乃が倒してくれたため、

バスを守る勇者が相手をするのは爆発物を射出するバーテックスと、初期個体のみだった。

そのおかげで、気を惹くこともできた。

だが、今回はそうはならない。

進化型は複数の個体がおり、計10体ほど確認されている。

下手に気を引けば守るべき住民の乗るバスが消し飛ばされることになるからだ


歌野「どうにかあれを回避する術はないかしら」

バスは2台ある。

それを守護し、そのうえで結界の中にまで持ち込むとなる2人は欲しい

だが、ここには4人しかいない。

そのうち1人は死にかけているし、

バスを持ち込むためだけに力を使って貰うなんて出来る状況ではない。

無駄遣いもいいところだ。

かといって、戦わせるわけには――

陽乃「……別に、私が戦っても良いけど」

歌野「久遠さん!」

陽乃「私の力はむしろ、多勢でこそ発揮するものだから」

杏「それは最終手段にさせてください。久遠さんが死んじゃいますから」

球子「って言ったって、どうするんだ? 何かできることはあるのか?」


バーテックスの集団はある程度密集している為、

各個撃破していくなんて先方は取ることが出来ない。

初期個体の1つにでも見つかれば最後

芋づる式にすべてのバーテックスが反応して乱戦になってしまう。

歌野「私の力を使い果たすつもりで使えば何とかなるかもしれないわ」

陽乃「あら、私の代わりに死んでくれるのね」

寝たきりで、九尾の力で無理矢理話しているだけの陽乃が言えたことでは全くないのだが、

実際、歌野が使い果たすつもりで瞬間的に大きく力を使えば、

完成型のいない軍勢なら壊滅させることは出来るはず。

回復特化とはいえ、曲がりなりにも神の力である以上、強力だからだ。

しかし、そうなれば消耗した分を無理矢理に治癒することが出来ずに歌野は死ぬかもしれない。

今の状態の陽乃が力を使う以上に高い確率で。

歌野「だけど、久遠さんだって死ぬ可能性が高いわ。そんな治りきってない体で……さすがに2度目は無理よ」

球子「だったらタマと杏で囮を務めるしかないな」

杏「……」

球子の発現に杏は答えることなく考え込み、

そして、おもむろに顔を上げて。

杏「若葉さん達を呼んでくるのはどうでしょうか」


かなり危険な作戦にはなるが、

2人または1人で進み、

バーテックスに発見されないように四国へと帰還して大社に訴えて勇者を派遣して貰う。

杏はその策を1つ目とし、

もう1つ、可能な限り選ぶべきではないとして代案も上げた。

杏「あのバーテックスの軍勢が侵攻を開始するまで待つという手もあります」

歌野「それは断じてノーよ」

杏「……あくまで代案です」

ここに集まってきているのは侵攻を目的としているからで間違いない。

戦力が集まり次第開始し、四国を落とす腹積だろう。

ここまで戦力を集めている理由として考えられるのは、

ある程度戦力を削れたため、一気に畳みかけるつもりだというのが1つ

戦力が中々削れないため、可能な限り揃えてから侵攻するつもりだというのが1つ

どちらもまるで逆の話で、しかし、あり得る話だ。

杏「ここまで消耗し続けた私達でどうにか対応するか、命がけで救援を呼びに行くか。ですが」

3人とも、どうするべきか迷っているようだ



1、呼んだ方が確実でしょ
2、向こうも安否が分からないし、私達で対処しましょ
3、決まらないなら私が出るわよ


↓2


陽乃「決まらないなら私が出るわよ」

歌野「それはっ」

杏「それなら、私とタマっち先輩、それと白鳥さんの3人で戦いを仕掛けます」

陽乃「……やれるの?」

杏「戦力的にはかなり厳しいのは間違いないです」

元々、多勢に無勢の戦いであり、

ここまで消耗してきている杏達では本来の力を十分に出し切るのは難しい。

だが、四国が近づいたことで諏訪付近に入る頃よりは力を感じられ得るし、

進化型が複数いるものの、戦い慣れしている歌野がいる。

完成型相手では厳しくても、進化型と通常個体だけなら歌野は陽乃に次ぐ過剰戦力と言えるだろう。

それでも、物量に飲み込まれてしまう可能性もある。

杏「でも、希望はあります。目と鼻の先に四国が、神樹様が、若葉さん達がいる。なら、戦闘に気づいて出てきてくれる可能性もある」

球子「なら、ド派手に一発決めるのが良いな」

キャンプファイヤーみたいにと言う球子に、杏は困った顔でそうだけど。と呟く。

陽乃「それこそ私の力を――」

歌野「全てのバーテックスが久遠さんに狙いを定めてしまうからダメよ。本当に駄目だと思ったら出てきて」


バスは影に隠したまま待機させ、その護衛として陽乃を残す。

戦闘域はバスから多少離れた場所を予定し、

最も近くにいるバーテックスの一団を奇襲して壊滅させ、

そのまま中央突破のように進む。

歌野が最前線で戦い、その援護を球子と杏が行う。

杏は可能な限り四国へと近づき、最悪の場合には一人で乗り込んで救援を求めるつもりだ。

陽乃「私の力を使った方が早いのに」

歌野「それが一番なのは分かってるわ。でも、久遠さんの体が心配だから」

陽乃「……馬鹿ね」

歌野「久遠さんがいつも、していることよ」

自分だっていっぱいいっぱいなのに、

周りよりも一歩先に進んで力を使い、戦いに身を投じていく愚かさ。

それはいつも陽乃がやっていることで、

しかし、今回ばかりは歌野達がそれを担う。

陽乃の体は非常に治りが遅く、前回どころか前々回の分も完治しているとは言えない。

そこにさらに傷を負うのは自殺行為に他ならないから。

歌野「大丈夫。何かあれば真っ先に久遠さんを呼ぶわ。それまでは、私達に任せて」

歌野はそう言って陽乃の手を握り、にこりと笑う。

そして、3人はバスの外へと向かった。


↓1コンマ判定 一桁

01~00 バーテックス討伐率

※一桁で被害判定

0、8    被害なし
1、5、3、6 被害小

7、2、9   被害中
4      被害大 

※ぞろ目特殊


歌野達はバスから降りると、まず近接戦を行う必要のある歌野が先行し、

そのあとに続いて杏達がバーテックスの方に向かっていく。

進化型は色んな方向に点在しており、

その間を埋めるかのように無数の初期個体のバーテックスが蠢いているといった状態だった。

逃げられるなら逃げたいと言った状況。

杏も球子も緊張に息を飲むが、歌野だけは力強い表情と、歴戦の勇者と言った背中を2人に見せてくれる。

遥かに遠い陽乃という存在

それよりも近いが、ずっと遠くにあるようにも感じる歌野の姿を杏達は追い駆けて。

杏「っ!」

歌野がある程度バーテックスの群れに近づいたのを見て、杏が先制を仕掛ける。

杏はボウガンをバーテックスではなく上空へと向けてひたすらに撃ち放ち、

それが雨のようにバーテックスの軍勢へと降り注いで大量の初期個体を撃ち落としていく。

攻撃に気づいた進化型は、しかし、

その照準が杏へと向かう前に目の前にまで迫って来ていた歌野に叩き伏せられ、鞭打たれて消滅する。


その奇襲ですべてのバーテックスが反応し、

大量の初期個体が歌野に群がり、進化型が狙いを定める。

杏は四国の方に近づきながら歌野に近づく初期個体を撃ち落とし、

球子は楯を投げ込んで、

歌野を進化型から見えなくなるようにしつつ、初期型を払い飛ばしていく。

歌野はその球子の楯に隠れながらどんどん突き進み、

宇迦之御魂大神様ではなく、通常の力で薙ぎ払う。

通常の力でも、陽乃の力を経由している分強力で、

そこに3年間の戦闘経験が合わされば、杏が考えていた通り圧倒的だった。

歌野「邪魔よッ!」

群がる初期個体を一振りで薙ぎ払い、

二振りで道を切り開き、

三振りで――

歌野「こんなものッ!」

矢のようなものを発生させた進化型の放った一撃を受け流して、

四振り目でその進化型を叩き潰し、完全に消し去ったその足でさらに大群へと突っ込んでいく。

歌野はまるで足を止める様子がない。

多勢に無勢に慣れ切った歌野は、悉くを蹴散らしていく


だが、それでも10体もいた進化型のいくつかの攻撃が戦場を迸って場を荒らし、

蠢く初期個体のバーテックス達が遠くから仕掛けてくる球子達へと戦力を分断して言ったことで、

完全な優勢だったものがだんだんと追い込まれて行ってしまう。

歌野「くっ……」

一番厄介な進化型バーテックスにまで攻撃が通らない。

通らないせいで強力な攻撃が放たれ、杏や球子にまで影響が出るうえ、

一歩間違えば、バスの方向に攻撃が逸れて被害者が出てしまう可能性がある。

杏「っ……やっぱり数が多いっ」

球子「杏っ! 力を貯めてぶっ飛ばせ! 時間はタマが作ってやるッ!」

杏「それじゃ処理が間に合わないよっ!」

球子は広範囲を攻撃出来るけれど、

一度攻撃が通り過ぎてしまった場所から来られたら対処が出来ない。

それを埋めるための杏の攻撃だ。

それがなくなったら完全に押し込まれる。

歌野「っ」

歌野が諦めて宇迦之御魂大神様の力を使おうかとした瞬間――

「勇者ぁぁぁあああああっ、パァアアアアアアアンチ!」

どこからともなく気合いの籠った声が轟き、歌野が目指していた進化型の辺りに何かが落ちる。


歌野「な、なに……?」

その衝撃で周辺の初期個体が吹き飛び、

叩き潰され消滅した進化型の代わりに、その場に佇む少女が歌野の目に映る。

友奈「待たせてごめんね! 助っ人に来たよ!」

歌野「高嶋さん!」

友奈「えっと……あれっ? 私を知ってる?」

友奈はまるで見たことのない新しい勇者。

その歌野が自分の名前を呼んだことに驚く間にも、バーテックスは次から次へと襲い掛かってきて。

歌野「細かい話はあとにしましょう! まずは奴らを薙ぎ払うわ!」

友奈「うんっ! 」

歌野が先に動き、続いて友奈が動く。

歌野が蔓を振るって横一閃に薙ぎ払い、

後ろから現れた友奈が拳1つで殴り込み、衝撃波で跳ね除けた個体を歌野が打ちのめし、

開けた道の先にいる進化型を友奈が殴り飛ばす。

杏達の方にも、誰かが向かってくれたようで、一気に押し返していた。

友奈「向こうにはぐんちゃん達が行ってくれてるから大丈夫! 心配しないで!」

歌野「ええ。心配はしてないわ」

諏訪の勇者である白鳥歌野は、

本来は出会うことすら叶わなかっただろう四国の勇者達の姿を見て、笑みを浮かべる。

本当に、やり遂げられたのだと。


友奈たちが助っ人としてきてくれたことで、

歌野達は軽い怪我をする程度で大量のバーテックスをせん滅し、

バスとその乗客たちを四国へと連れていくことが出来た。

友奈「……久遠さん、大丈夫?」

陽乃「生きてたのね、貴女達」

千景「それはこっちの台詞よ。死んだと思ってたわ。全員」

陽乃はもちろん、杏や球子も。

3人とも諏訪に向かったことは若葉から友奈と千景に伝えられていたが、

生きてたどり着けるとは思っていなかったし

生きて戻ってくるとも思っていなかった。

むしろ、千景の場合は陽乃が死んでおけばよかったとさえ思っているようにも感じる。

若葉「良く戻ってきてくれた。よく、連れ帰ってきてくれた」

陽乃「貴女の目は節穴なの? 連れ帰られたのは私だわ」

寝たきりな陽乃と、先ほどの戦いで傷を負っているだけの歌野達。

普通に考えれば、功績は歌野達のものだろう。

千景「貴女が2人を連れて行ったせいで戦力不足になって、襲撃を受けた際に住民に被害が出たわ」

友奈「ぐんちゃんっ!」

千景「ダメよ。ちゃんと言わなきゃ」

千景は止めようとした友奈を遮り、陽乃を見つめて。

千景「貴女のせいだって声が大きいわ。災いだって……やっぱり貴女を捧げた方が良いんじゃないかって」

陽乃「あら、何にも変わってないってことじゃない。平和で何よりだわ」


千景の嫌味のような言葉にも、陽乃は弱弱しく笑う。

本当に、何も変わっていない。

被害が出ようが出まいが、

この今の状況そのものが久遠家のせいだと言われてきていたし、

なら何も変わっていないと陽乃が言うのも無理はなくて。

杏「とにかく、久遠さんを病院に連れていきます」

若葉「ああ……そうだな」

千景「そうね。そのように大社から連絡が来てるし」

千景はそう言って端末を確認し、陽乃にその端末を見せる。

画面に映っているのは大社からのメールで

諏訪の住民含め、陽乃達を検査のために病院に連れてくるようにと指示が来ているようだ。

バスで避難してきたことも伝わっているからか、

大社からの迎えはなく、そのまま病院へと向かうこととなった。


√ 2018年 9月13日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

01~10 歌野 
23~27 九尾
34~40 友奈
56~60 杏
61~65 球子
67~71 水都
81~85 若葉 

↓1のコンマ

※それ以外は通常


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


四国到着
勇者は現存、陽乃・歌野・若葉・友奈・千景・杏・球子

では少しだけ

√ 2018年 9月13日目 昼:病院


数日ぶりに感じる布団の感触

鎮痛剤のおかげで体の痛みこそ問題はないが、安らげるかというとそうでもない。

若葉も友奈も千景も。

四国に残っていた勇者達はみんな無事ではあったが、

生傷は絶えない様子で、

勇者装束を解いた制服姿の時に見えた彼女たちの体には、傷が多かった。

陽乃達が襲撃を受けていると聞いた後も、

何度も襲撃を受けていた可能性がある。

それで、突破できないからと

バーテックスが戦力を補充しているところに陽乃達が到着して。と言ったところだろうか。

陽乃「……はぁ」

四国は安全ではないことは分かっていたが、

ここまで襲撃を受け始めていることを考えると

実は諏訪の方が安全だったのではないか。とさえ思う。

ならここに来なかったのか。と言われれば首を振るが。


病院に来るまでに聞いた話だけれど、

現在のリーダーはやはり、千景が担っている。

大役を任されてはいるものの、

それに緊張しているというわけでもなく、

むしろ、期待されていることに快く引き受けてそれなりに上手くやっているのだそうだ。

サポートとして友奈がついているというのも大きいかもしれない。

そして、ひなたについては、まだ大社のところにいるとのことで

神託を受けてもそれを直接伝えず、

常駐している別の巫女が連絡を受けて伝えているのだそうだ。

名前は何と言ったか。

九尾はまだ会っていないし、気に入るかは分からないが

ひなたと同じ程。とはいかないだろう。

陽乃は入院が必要なため、お見舞いにでも来てくれる人がいないなら、

陽乃はここで一人で過ごすことになる。

九尾なら呼べば、来てくれるかもしれないけれど。



1、ゆっくり休む
2、九尾を呼ぶ
3、イベント判定

↓2


体を休めるなら動くこともできないし眠ってしまった方が良いのだけれど、

無理に眠ることも出来ないと、陽乃は九尾を呼ぶことにした。

九尾は杏達と違って端末を解せずに連絡が出来るため、

すぐに呼ぶことが出来るからだ。

陽乃「九尾、いる? それとも怒ってる?」

ここに来るまで散々無理をしてきてしまったし、

そっぽを向いて傍にはいないのではと陽乃は問いかけてみたが、

九尾はいてくれていたようで、どこからともなく姿を現した。

九尾「休んでおればよいもの」

陽乃「……眠れないのよ」

九尾「妾に子守歌でも歌えと言うかや? 贅沢な娘じゃ」

陽乃「そんなつもりはなかったけど、それも悪くはないわね」

九尾「悪夢を見たいなら、歌ってやろう」


九尾は冗談めかして言うと、

本当に歌うつもりだとでも言うように、陽乃のそばに椅子を立てて座る。

今は怪しまれない為か、

病院内で使用されている看護婦の制服を着た女性の姿をしている九尾

普通の人は、これが人間ではないだなんて気づかないだろう。

九尾「主様はまず体を休めねば話にならぬぞ。望み通り白鳥歌野を連れてきたのじゃ。主様が無理する必要はあるまい」

陽乃「そう、ね」

九尾「本来はその予定じゃろう? 諏訪の勇者を連れ出し、主様の生存率を上げると。ならば、療養を理由に何もせぬ方が良い」

陽乃「そんな理由がなくたって、この状態じゃ何もできないわよ」

九尾「主様の力ではな」

九尾の力でも、

イザナミ様の力でも。

陽乃はそれを使って無理矢理に動くことが出来る。

体の状態は関係がない。

九尾「主様は延々と力を消耗しておる。治るには時間がかかるぞ」

陽乃「……分かってる」


1、新しい巫女とは仲良くできそう?
2、みんなは?
3、郡さんにリーダーが務まると思う?
4、これからどうなるのかしら

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「ところで、みんなは?」

陽乃は治療のこともあって早々にみんなから引き離されることになってしまったが、

九尾のことだからどうせみんなの方もこっそり様子を見ていたはずだ。

今は看護婦の制服に身を包む女性として姿を見せているけれど、

別に姿を見せていなくても話は出来るし聞くこともできる。

九尾「娘らなら勇者達の住む寮に向かったぞ。新たに白鳥歌野も加わったからのう。案内もせねばなるまい」

陽乃「伊予島さん達は大社に直談判するって話じゃなかったかしら。私がいないから保留なの?」

九尾「ふむ。今日はひとまずと言った様子じゃったな。主様がいずれにせよ、あ奴らは大社に話すつもりじゃろう」

陽乃「……そう」

陽乃が回復するのを待っているような余裕はない。

下手をすれば数ヶ月かかるかもしれないような状況だから、

完治を待ってなんていたら、

完成型や潰しきることのできない物量を持って蹂躙されてしまう可能性があると

杏達も危機感を覚えている。

陽乃だって、今の状況では抗いきれないのは目に見えていた。

陽乃と歌野はともかく、他の勇者達は少しずつ潰されていくことは免れないと。


陽乃「白鳥さんは……まぁ、気にする必要もないわね」

九尾「そうじゃな。主様と違ってあの娘は協調性もある。問題はなかろう」

陽乃「……悪かったわね」

以前は球子もあまり気に入っていないと言った様子だったが、

たくさん話し、諏訪に行き、今では杏と似たようなものだ。

とはいえ、千景は相変わらず陽乃を気に入っていないし、

今では勇者を束ねるリーダーの役割さえ担っている。

今後、上手く関わっていけるという保証はない。

それとは真逆に、歌野は問題がないはずだ。

陽乃乃件もあって、

もしかしたら千景と衝突してしまう可能性も捨てきれないが、

それを抑える理性はある。

陽乃「離れすぎているせいか、今は白鳥さんを感じないし……喧嘩とかしていたら面白いのに」

九尾「ふむ……白鳥歌野はともかく、主様が連れ帰った人間どもは原住民とは相いれぬやもしれぬ」

陽乃「原住民って……でも、どうして?」

九尾「久遠家の悪評はすでに広まり切っておる。今までは控えめだった勇者という存在の活動も秘め事ではなくなり、公のものとなったからのう」


バーテックスによる侵攻が終わりではないことが公表され、

それに抗うべく勇者たちが戦っていて、人々を守っていることが知られている。

そうして、その度重なる襲撃による被害が出た。

勇者達への批判は避けられないと思われたが、

四国を守るべき勇者が2人も不在であること、

その原因が陽乃にあることがどこかから漏れたことで、勇者が全員そろっていれば被害は防げたのではないかという話になり、

結局すべてが "あの人物" のせいだとなった。

今回、杏達が戻ったことで多少緩和されたかもしれないが、

その話は、ここに来たばかりの諏訪住民の耳にさえ入るほど大きな声となっていて、

どうしようもなく、耳に入ってしまった。

だが、諏訪から来た人々は陽乃のことをずっと見てきた。

それこそ、目の前で命懸けで戦っている姿も、それによって死にかけている姿も。

そんな人を非難し、あまつさえすべての元凶だといううわさ話を聞かされて、

快く溶け込めるはずもなかったわけだ。


陽乃「やっぱり、私のことに注意をしておくべきだったってことね」

あまり深いれされないように一線を引いておくべきだったし、

踏み込まれたら踏み込まれたで、

しっかりと突き放しておくべきだった。

杏の両親もそうだが、

諏訪にいた人々を多く連れてきたと言っても、

四国の中では少数の集まりでしかない。

この中では、弾圧だってされかねないし、

この隔離されている世界で乃無意味な争いなんて、やるだけ無駄なことだ。

陽乃「でもまさか、諏訪の人達は暴動でも起こすとか言ってないでしょ?」

九尾「無論、まだ自由に行動できるわけではないからのう」

諏訪の人々は、今のところ大社が用意した住居に住むことになるそうだと九尾は言う。

その状況で下手なことをしても路頭に迷うことになってしまうから、

暫くは何もないだろうとのことだった

陽乃「暫くは、ねぇ」

少し、不安は残ってしまう。


九尾「ところで、主様は白鳥歌野を感じられておるのかや?」

陽乃「えっと……」

歌野達が寮にいるのなら、諏訪で実験したとき以上に距離が開いている。

これだけ開いていると難しいのではと思うが、

九尾がひなたを感じ取れるように、

陽乃も出来る可能性もあると目を瞑ってみると、

いくつか自分から流れ出て言っているのを感じる。

1つは結界を維持するための力で、

1つは水都、もう1つが歌野で、あとは九尾だろう。

その歌野へと繋がっているだろう力を手繰り寄せていけば、

なんとなくだけれど、歌野のことを感じられているような気がしなくもない。

陽乃「たぶん」

九尾「ならば、歌野も呼ぶことは出来るじゃろう。妾のように物理的なことを無視は出来ぬが、会おうとはするじゃろう」

陽乃「それは、遠回しに私の相手したくないって捉えてもいいの?」

陽乃がそう言うと、

九尾は楽しげに笑って、あくまで選択肢の一つだと言った。


√ 2018年 9月13日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

23~32 千景・友奈
56~65 歌野
89~98 大社

↓1のコンマ

※それ以外は通常

√ 2018年 9月13日目 夕:病院


諏訪から四国への大移動の際に口にしていた食事よりも味気のない病院食を食べ終えて、

病室から看護婦がいなくなったのを見送ってから、陽乃は息をつく。

陽乃はまだ体を動かすことが出来ない為、全てのことにおいて人の手が必要だ。

今は食事のために体を起こされている状態だが、

起きているベッドを横に戻すことだって陽乃にはできない。

しばらくしたら就寝前の手入れをし、ベッドを戻してくれる人が来るはず。

だが、それまで陽乃は独りだ。

陽乃「何にもできないって、辛いわ」

九尾のおかげで話すことは出来るが、それだけ。

不自由さは相変わらずである。

特別、くだらない内容が流れ続けるテレビをつけてくれているけれど、

退屈なのは変わらない。

これなら本の読み聞かせでもして貰っていた方がまだいい。

精神的には、やや苦々しいけれど。

もう夕方だ。

本来なら面会時間の縛りもあって歌野が来られるとは思えないが、彼女も勇者だ。

特例が許されるかもしれない。


1、休む
2、九尾を呼ぶ
3、歌野を呼んでみる
4、イベント判定

↓2

↓1のコンマ

01~10 水都
11~20 杏
21~30 九尾
31~40 歌野
41~50 球子
51~60 若葉
61~70 千景
71~80 友奈
81~90 大社
91~00 巫女


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが少しずつ


陽乃が直接呼ぶことが出来るのは歌野と九尾しかいない。

それは、自分の端末を没収されてしまっているからで、

友人とも思っていなかった勇者たちの電話番号が記憶にあるわけもなく、

病院の電話を借りてというわけにもいかなかったからだ。

もっとも、覚えていたところで動くことのできない陽乃にはどうしようもなかったけれど。

そんな中で、少しずつ近づいてくる気配を陽乃は感じて、眉を潜める。

力の繋がりがあるそのぞんざいは、

遠く離れていた場所から少しずつ近づいてきて、

まるで目的地をココとしているように確かな歩みで距離を詰め、

そうして、感じる力が非常に強くなって、声が聞こえるまでになって。

『……ここね』

陽乃の病室の扉が軽く叩かれる。

歌野「久遠さん、入って平気?」

陽乃「……」

『寝ちゃってるのかしら……でも』

歌野「入るわね?」

入らないわけにはいかないと言った様子で入ってきた歌野は、

陽乃の瞳が自分を見ていることに気づいて、困ったように笑った。

歌野「起きてたなら返事をして欲しかったわ」


陽乃「面会時間は過ぎていると思うけど?」

歌野「そもそも面会謝絶だって言うから、こっそり忍び込んじゃった」

歌野はそう言って陽乃のそばに簡易椅子を立てて座ると、

陽乃の額にかかっている前髪をさっと払う。

歌野「久遠さん、以前病院を抜け出したでしょ? それも拘束されている状態から」

陽乃「そんなこともあったわね……」

歌野「だから、凄く警戒されているみたい。また逃げるんじゃないか、また問題を起こすんじゃないかって」

どうやってか逃げ出されてしまうと、責任は病院側に問われる。

拘束もしておいたのにと言っても、

何かを怠ったのだろうと言われれば否定はできない。

陽乃が以前逃亡したのはそんな状況だった。

今回は陽乃が完全に動くことのできない状況の為、

やや緩いけれど、他の勇者の手を借りれば容易に逃げ出せてしまうから、

それを警戒しての面会謝絶だったのだろう。

歌野「……勇者の扱いじゃないわ」

陽乃「なによ、怒ってるの?」

歌野「笑い事じゃ――」

陽乃「貴女はもう、知ってたことでしょ。何をいまさら」


歌野「駄目よ……そんな」

強く感情をあらわにしてはいないが、

不服がにじみ出ている歌野の一方で、

その被害を受けている当人の陽乃は、余裕と言った雰囲気で、笑ってさえいて。

歌野は膝上の手に力を込めて、固い握り拳を作る。

握られたスカートには深いしわが広がっていた。

歌野「久遠さんは私達にとっては英雄よ。間違いなく、死を待つだけだった私達をここまで連れ帰ってくれたんだから」

道中で完全に倒れ伏してしまったと言っても、

そうなるほどに尽力してくれたからこそで、

その1つでも陽乃が担ってくれていなければ、歌野達は杏達と合流もできずに道中で力尽きていたに違いない。

それ以前に、陽乃が自ら四国を飛び出してくれていなかったら、

歌野達は諏訪で滅びていたはずだ。

歌野「なのに、大社は久遠さんに感謝の一言もない」

陽乃「いまさら何言ってるのよ。私に感謝することなんて、彼らにあるわけがないじゃない」

四国に被害が出てしまったのもそうだけれど、

陽乃の存在が四国に不和を招いているのは間違いない。

統一感はややあるものの、あまり善いものでは無いため大社も辟易しているはず。

残念ながら、当然だと言える。


陽乃「私に勇者2人も攫われたなんて醜聞を払拭するために、諏訪への遠征が行われたって話になるし、その功績が貴女達になる。でしょ?」

歌野「……九尾さんから話を聞いたの?」

陽乃「あらかじめ想定していたことよ」

杏達が道中で死亡していれば、その責任を問われ、

生きてたどり着くことのできた歌野達は単なる生還者として英雄視されるし、

そうではなく、全員生きていたなら、

本来の勇者に数えられている杏達が褒め称えられる。

陽乃が原因だという批判は大社の指示ミスであると言われることになるかもしれないが、

幸いにも住民に死者が出たわけではないし、

結果的に勇者を確保できたのだから、

不和に繋がる陽乃に対しての怒りを緩和して、神樹様や大社に対しての信仰心を強められる可能性がある。

陽乃「大社にとって、私の存在はいわば目の上のたん瘤。郡さんもそうだけど、死んでいてくれた方が助かったはず」

歌野「っ……」

陽乃「……厄介ね」

陽乃の言葉が間違いなく本心であることが歌野には分かってしまう。

冗談のような口ぶりで本心を隠しているならそれを指摘できるけれど、

表裏が寸分違わないその卑屈な言葉は、歌野にとっては辛いもののようで。

はっきりと顔に出ているのを見て、陽乃は呟く。




1、それで、何をしに来たの?
2、貴女まで業を背負う必要はないわ
3、その辛気臭い顔止めて頂戴。病人なのよ。私
4、大社からの指示がそんなに不服だったの?


↓2


陽乃「それで、何をしに来たの?」

歌野「何をって……忘れちゃったの? 私がいた方が久遠さんの治りが早くなるって話」

陽乃「てっきり忘れてると思ってたわ」

歌野「忘れるわけないじゃない」

歌野はむっとして否定する。

本当はすぐにでも来たかったが、

色々と話さなければ行けないことや、

面会謝絶だったこともあって、

すぐには来られなかったのだと歌野は言う。

歌野「だから、こうやって忍び込んでまで久遠さんに会いに来たのよ。まぁ……九尾さんの力を借りちゃったけど」

陽乃「でしょうね」

歌野だけでは、ここまで来ることは出来なかったはず。

陽乃が今いる部屋に監視するためのものはなさそうだが、外にはあるはずだし。

もし陽乃のところに誰かが来ているのがばれたら、すぐに人が来るだろう。

歌野「九尾さんも、久遠さんに早く良くなって欲しいって思っているのよ」

陽乃「まさか、治るまでずっとここにいるとは言わないわよね?」

歌野「出来るならそうしたいとは思ってる」


歌野はそう言うけれど、実際には難しいのが現実だ。

ここまで来るのも九尾の力が必要だし、

居続けるにも必要だ。

何より、歌野は諏訪からの生還者として重要な立ち位置にいる。

諏訪と違って、自由に行動できるわけがない。

ある程度は大社に制限を受けることは免れないだろう。

陽乃「でもできない。でしょ?」

歌野「ええ。酷い話……だけど、夜は必ず来ようと思うの」

陽乃「夜? なんで?」

歌野「一緒に寝ようと思って」

陽乃「……は?」

何を言っているのかと陽乃が唖然とした声を漏らすと、

歌野は真剣な表情で「本気よ」と言って。

歌野「夜寝るときから、朝起きるまで。その時間が一番久遠さんと一緒にいられるし、見回りを除いて邪魔が入らない」

陽乃「だからって私の貴重な時間を潰そうって言うの?」

歌野「それで久遠さんの傷が癒えるなら」


歌野「私も、その時間なら朝こっそり戻れば大丈夫なはずだし、寝ていればいいだけだから楽でしょ?」

陽乃「藤森さんは?」

歌野「みーちゃんならいいって。むしろ、自分にもできたらって言ってた」

陽乃「そう……」

歌野が一緒にいないと水都が不安がるのではないかと言えば引くかと思ったが、

それは難しいらしい。

皆と関わらずにいると協調性がないと思われかねないという話も、

夜ならば気にすることはないと一蹴されてしまう。

歌野「嫌でも一緒にいて貰うけど……というより、一緒にいさせて貰うけど……」

歌野は絶対だといった様子で言うと、

少し残念そうな表情で陽乃を見る。

陽乃「なによ……その、何なの?」

心が伝わってしまうので、

歌野の心がもやもやとしているのを聞いて、陽乃は顔を顰めて問う。

歌野「私と一緒は、嫌なの?」

陽乃「貴女ね……」

もしかしたら自分より面倒な女の子なのではないのかと、陽乃はため息をついて。


1、別に嫌ではないわよ
2、そうだと言ったって、貴女はここに居座るんでしょ
3、勇者の中ではそれなりよ


↓2


陽乃「そうだと言ったって、貴女はここに居座るんでしょ」

歌野「……いるけどっ」

ちょっぴりむくれる歌野を一瞥して、

陽乃はため息をつきながら目を閉じる。

歌野はせめて嫌ではないと言われたかったようだけれど、

陽乃はそんなに優しくはない。

というより、そんなに心を許せる人間ではない。

それが分かっていてもといった様子ではあるが、

だから何だというのか。

他に誰もいなかった諏訪ならともかく

ここには杏と球子を除いても数名の勇者がいる

大社があって、多くの人々がいる。

陽乃一人に入れ込む必要はない。

むしろ、そうされたら面倒ごとがさらに増えるだけだ

歌野「久遠さん、面倒くさいって思ってるでしょ」

陽乃「今いる知り合いの中で一番面倒なのは、間違いなく貴女でしょうね」

歌野「えっ」

不本意にも内心が伝わる唯一の勇者

それが面倒くさくないわけがなかった。


√ 2018年 9月13日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

23~32 九尾
89~98 歌野

↓1のコンマ

√ 2018年 9月13日目 夜:病院


歌野は本当に夜を一緒に過ごすつもりのようで、

陽乃のそばの椅子に座ったままだ。

この部屋は個室で、それなりの広さはあるもののベッドは陽乃が使っている一台しかない。

もう一台ベッドを用意して貰うなんて出来ないだろうし、

どうするのかと思えば、歌野は寝袋を持って来ていると鞄から引っ張り出す。

歌野がそんなものを持っているわけはないので、

球子のものだろう。

歌野「ええ。そうなの。土居さん達は事情を知っているから協力してくれるって」

陽乃「……なるほど」

ベッドの横に寝袋を敷いて、そこで寝る予定だそうだ。

歌野「正直、久遠さんと身体的接触をしている方が楽なんだけど、嫌でしょ?」

陽乃「そもそも本当に治りが早くなるのかしら」

歌野「実際に早くなったのに……もう」

そんなに一緒が嫌なの? と、歌野は少し残念そうに言う。


歌野が言うには……と言っても、九尾から聞いた話そのままのようだが、

歌野から陽乃へと力を供給することで消耗を上回ることも重要だけれど、

歌野から陽乃、陽乃から歌野へと、

力を巡らせることで、陽乃の体に溜まっている穢れを歌野が肩代わりし、

陽乃には歌野と宇迦之御魂大神様の力が流れることで

少しでも影響を軽減させることも狙いなのだとか。

陽乃「……浄水器?」

歌野「九尾さんと同じこと言うのね。分かりやすく言えばそんな感じだって」

陽乃「それで貴女は大丈夫なの?」

歌野「う~ん……なんというか、心臓がずきずきするみたいな感じはするわ」

陽乃「その程度で済んで良かったじゃない。普通なら死んでもおかしくないんだから」

陽乃は素っ気なく言うけれど、

歌野に死なれでもしたら本当に困ってしまうので

一応、身を案じている。

歌野もそれを分かっているから、穏やかだ。

歌野「確かにそうだわ」

宇迦之御魂大神様の力で強引に回復しているだけで、

じわじわと毒を飲んでいるような状況だから、最悪死ぬのは間違いない。


宇迦之御魂大神様の力があるとはいえ、

歌野は少しばかり堂々としすぎていると陽乃は思う。

長く一緒にいた陽乃があまりにも死に急いでいるから、

少し、感覚がマヒしたと言われても不思議ではないような気はする。

歌野「力の流れが重要だから、感じやすい身体的接触をしておいた方が良いってこと。バスで久遠さんの手を握っていたのもそれが理由よ」

陽乃「つまり義務感でやってるってことね」

歌野「拗ねた?」

陽乃「馬鹿言わないで」

むしろ義務感でただやってくれている方が良い。

歌野は義務感も多少感じてはいるけれど、それ以上に陽乃のことを意識している。

手を握るのも、

動けない陽乃の代わりに汗を拭ったりするのも、

全部好意あってのことだ

歌野「だから久遠さんさえ良ければ、ベッドで寝たいのだけど、それはさすがに嫌でしょ?」



1、嫌よ
2、義務だもの。仕方がないわ
3、良いわよ。別に
4、貴女、少しは自分のことも考えるべきだわ


↓2


陽乃「貴女、少しは自分のことも考えるべきだわ」

歌野「どういうこと? 久遠さんに食べられちゃうとか?」

陽乃「ある意味ではそうね……私の力で貴女の魂が食い殺される可能性があるんだから」

歌野「命を大事にしろってことね」

陽乃「ええ」

分かっているならと陽乃は思ったが、

歌野はやっぱり、首を振る。

陽乃が言えたことではないからだろう。

大移動の時のように戦闘で傷つくわけでもないし、

それと比べれば影響は軽い方だ。

歌野「久遠さんには言われたくない」

陽乃「……でしょうね。けれど、だからって命を捨てられても困るのよ」

歌野「私は捨てる気なんてないわ。ここまで来たんだもの。全力で生きたいと思ってる。でも、それには久遠さんの力が必要不可欠だわ」

陽乃「方便ね」

歌野「かもしれないけど」

陽乃「私への当てつけなの?」

歌野「そんなつもりはないわ。でも、そう思うなら、久遠さんも大事にして欲しい」


戦闘ならともかく、

こうして陽乃の体を癒す程度なら、反動はそう強いものにはならずに済む。

歌野「戦いでは極力温存するけれど、久遠さんはそもそも暫く戦わないで」

陽乃「……必要なければ戦わないわ」

移動中と違って、

陽乃と歌野以外にも十分に戦力がある。

進化型や通常個体相手なら確実に後れは取らない。

問題としては完成型だ。

その対策が他の勇者にもできれば平気だし、

そうではないなら陽乃が出る必要がある。

陽乃「私だって死ぬ気はないの。生きたいの。だから、無用な心配だわ」

歌野「……お願いね」

歌野の力は陽乃による恩恵が大きい

それがなくなれば大幅な戦力ダウンは否めないし、

きっと、歌野はそうではなくても心から案じている。

歌野「私も気を付けるから」

歌野はそう言って、陽乃の手を取る。

陽乃がゆっくりと目を瞑ると、

温かい力が流れ込んでくるのを感じられ、安らぎを覚えて。

陽乃「そうして貰えると助かるわ。苦労が水の泡になるから」

陽乃はやっぱり、少しだけきつい言い方をした。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


1日のまとめ(諏訪組)

・ 土居球子 : 交流有(帰還)
・ 伊予島杏 : 交流有(帰還)
・ 白鳥歌野 : 交流有(帰還、何をしに来たの?、そうだと言ったって、少しは自分のことも)
・ 藤森水都 : 交流有(帰還)
・   九尾 : 交流有(みんなは?)

・ 乃木若葉 : 交流有(帰還)
・ 高嶋友奈 : 交流有(帰還)
・  郡千景 : 交流有(帰還)
・上里ひなた : 交流無()

√ 2018/09/13 まとめ

 土居球子との絆 75→78(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 90→93(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 87→90(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 92→95(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 78→79(良好)


 乃木若葉との絆 62→72(良好)
上里ひなたとの絆 56→66(普通)
 高嶋友奈との絆 52→62(普通)
  郡千景との絆 21→21(険悪)

※四国勇者+10
※諏訪→四国組+3


√ 2018年 9月14日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

01~10 大社
23~32 千景
45~54 歌野
67~76 巫女

↓1のコンマ

※それ以外は通常

√ 2018年 9月14日目 朝:病院


朝、陽乃が目を覚ました時にはまだ歌野がいたけれど、

歌野はそのすぐ後に、寮に帰るからと言って、病室を出て行った。

病室を出たふりをしたりしているようなそぶりはなく、

本当にまっすぐ、丸亀城へと向かっているのを否応なく感じる陽乃は、

また退屈になったとため息をついて。

けれど、それを払うように扉が叩かれた。

歌野は間違いなく帰ったので、歌野ではない。

水都も、球子と杏も恐らく違う。

大社か、もしくは若葉か友奈

その辺りではないかと睨んだ陽乃の推測を裏切って、巫女が姿を見せた。

陽乃「貴女……」

上里ひなたではない。

彼女の代役として、

リーダーである郡千景の補佐として

数いる巫女の中から選ばれた少女。

美佳「お目にかかるのは初めてかと思います。花本美佳。今現在、勇者様のそば付きの巫女としての役割を頂いております」

花本美佳

郡千景を見出し、彼女の巫女とされているのが、彼女だ。

花本美佳は陽乃の前で一礼すると、

すっと顔を上げた。


美佳「久遠様の件も、一応、伺っております」

陽乃「……それで?」

彼女からは千景ほどの強い敵意は感じられないけれど、

少なくとも好意的な印象は感じられない。

噂をすべて鵜呑みにしているわけではないだろう。

千景が嫌い、悪評に塗れていて、実際に人を殺めてもいる。

だから彼女の心象が非常に悪いのかもしれない。

美佳「久遠様の容態の確認なども私のお役目の1つですから」

陽乃「なら見ての通りよ。身動き一つできやしない……まさか、貴女が介助してくれるってわけでもないでしょ?」

美佳「それは役目ではないので」

ぴしゃりと言い切る花本美佳は、

酷く冷めた目をしている。

悪意も善意もなく、ただの義務感がそこにあるようで。

陽乃は結局退屈に思えてきてしまう。


陽乃「私の体のことなら今話した通りだけど、他に何かあるの? カルテを貰うのに承諾が欲しいって言われた?」

美佳「いえ、それは私のお役目ではないので。ただ、いくつか確認したいことがあって」

陽乃「確認?」

知りたいことなんてもう知りつくされているのではと陽乃は思ったが、

花本美佳は少し考えてから、陽乃があまり突かれたくないことをつついてきた。

美佳「久遠様が人を殺されたというお話は本当なんですか?」

陽乃「……正気で聞いてる?」

美佳「噂をただ信じるのは性に合わないので」

陽乃「だからって本人に聞くことではないと思うのだけど」

陽乃は呆れたように言って、彼女から目を背ける。

何か証拠を映像などで残されていたわけではないだろうから、

あくまで信憑性のないうわさになっているのかもしれない。

嘘をついて、彼女は信じるだろうか。



1、真実よ
2、ただのうわさよ
3、真偽は貴女に任せるわ
4、だとして、何かあるの?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「真実よ」

美佳「……随分と、堂々と答えられるんですね」

陽乃「誤魔化したってどうにもならないことだもの」

美佳「いえ、そう言うわけではなく」

美佳は寝たきりでもまっすぐ見つめ返してくる陽乃を見下ろしながら、微かに眉を潜める。

これが何か些細なことだったなら堂々としているのも分かるが、

人を殺したのか。という問いに対しての反応だ。

罪悪感や後ろめたさと言ったものは一切ないのかと、美佳は思って。

美佳「殺人は犯罪です。秩序が崩れ去り、その残骸をどうにか機能させている現代社会においても、重罪であることには変わりありません」

陽乃「ええ」

美佳「久遠様は未成年だから、勇者だから。その罪から逃れられるとお考えなのですか?」

陽乃「別に逃げる気なんてさらさらないし、もしもそうだったなら私は諏訪に引きこもっていたわ」

諏訪への遠征を果たし、諏訪からの帰還も果たしたという久遠陽乃という"化け物"は、

確かに、本人がその気なら諏訪に残り続けることは出来たはずで、だからこそ、逃れるつもりがないという言葉は確固たる証拠に阻まれる。

そのせいか、黙り込んでしまった美佳を見つめて、陽乃は続ける。

陽乃「あれは正当防衛だと思ってるし、忠告もしたのに馬鹿なことしたあの場にいた人々が悪いって、正直に言えば思ってる」

美佳「街の人々はそんな風には考えていませんし、そんな風には伝わっていませんよ」

陽乃「現代社会の最高機関である大社が真実を覆い隠すのに、国民が真実を語るだなんて、本気で思ってるの? だとしたら名に違わないお花畑ね」


美佳「そういう態度が、郡様の……いえ、勇者全体を貶めているんです。そもそも、人を殺めていながら正当防衛だなんて――」

陽乃「知ったことじゃないわ」

美佳「っ」

陽乃「私を逆上させたいと思っているなら無駄だし、私が何もできないからと好き勝手言いたいだけなら止めておきなさい」

陽乃はそう言って、美佳の影が映るカーテンへと焦点を合わせる。

カーテン自体のゆがみもあるのだろうけれど、

明らかにそうではないものがそこには混ざっていたからだ。

もちろん、花本美佳に尖った耳があるというなら話は別だが、少なくとも陽乃の目には見えていない。

陽乃「はっきり言っておくけど、私は別に貴女達の評価なんてどうでもいいのよ。誰にどう思われようが、私を阻まないのなら放っておくつもりよ」

美佳「郡様の言っている通り、まるで協調性がないんですね」

陽乃「そんなもの、結界の外に捨ててきたわ」

陽乃は淡々と吐き捨てると、

無意味に音声を垂れ流すだけのテレビを一瞥してため息をつく。

それがスイッチだとでも言うかのように、テレビがぷつりと消えて、美佳ははっとして辺りを見渡す。

美佳「久遠様には、特殊な精霊が傍にいるという話を聞いてはいましたが……本当なんですか?」


以前、神社で全員に公表していたため、

そのうちの誰かから話を聞いたのか、それとも大社から直接言われたのか。

後者だったならきつく言われているだろうし、

普通なら警戒して接触してくることすらないはずなのに、

彼女は平然と接してきて、九尾の機嫌を損ねることを平気で口にしている。

陽乃が目までおかしくなっていなければ、九尾は美佳のすぐそばにいる。

監禁されていた際に女性1人を絞め殺そうとしたのを考えれば、

手を出していないのが奇跡といえるだろう。

陽乃「いたとして何か問題があるの? 許しを請われても、私はどうにもできないわよ」

美佳「……その力、他の勇者様にも扱うことは出来ないのかと思っただけです」

美佳は自分の身に危険が迫っている可能性があっても、

淡々とした声色で答えて、陽乃を見つめる。

陽乃が目を細めても、彼女は動じない。

本来は上であるひなたの立場を得られたことで慢心しているようにも感じられないし、

元から、どちらかと言えば冷めた性格なのかもしれない。


1、こう見えても病人だから、休ませてくれるかしら
2、貴女、私のこと嫌いでしょ
3、他の子には無理よ。まぁ、白鳥さんはどうにかできるけど
4、私がいない間、私の情報は探ったりしなかったの?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「私がいない間、私の情報は探ったりしなかったの?」

美佳「当然、久遠様に限ることなく勇者の皆様の情報を収集しました」

美佳は「ですが……」と歯切れ悪く呟く。

美佳「久遠様の情報は、大社ではほとんどすべて抹消されています。実家の場所も家族構成でさえも。久遠様の情報だけが得られなかった」

大社がもともと所持していた各勇者に関する情報

名前や年齢、実家の住所や電話番号、メールアドレス等々

所謂プロフィール的な内容が書かれた資料も美佳は所持している。

だが、陽乃の情報だけが明らかに少なく、

美佳はそれで満足せずに大社が持っていない情報も集めるべく、

連絡を取り合うことのできる友人や、

陽乃と似て神職の関係者……宮司の娘として知り合った人々にも協力を願って、情報収集を行った。

美佳が大社から得た勇者の情報を基に、

その勇者達の地元に可能な限り赴いて貰ったのだ。

美佳「伊予島様のご両親の巻き込まれた事件と、その際に久遠様の起こされたことも伺ってます」


陽乃「別に面白い話でもなかったでしょう」

美佳「ええ。聞くに堪えない話でした。でも、知る必要はあった話かと」

美佳は努めて冷静な声色で答えると、

僅かに顔を顰めて、陽乃から少しだけ視線が外れる。

美佳「ただ、久遠様についてまともに話を聞けたのは伊予島様のご両親からのみで、それ以外は口を閉ざすか、化物か人殺しか……元凶か。あまり良い話は伺えませんでした」

陽乃「でしょうね」

陽乃が当然とばかりに笑みを浮かべると、

美佳は「はっきりいって異常です」と首を振る

美佳「一番の情報源はインターネットになるほどにです」

陽乃「有名人だから仕方がないわ」

美佳「殺人を犯したとはいえ名が伏せられるどころかニュースにすらなっていなかったのに、個人情報さえ転がってるのが有名税なわけがありません」

陽乃「まぁ、そうだけど」

美佳「知っていますか? ネット上では火事で焼失した自宅と神社は笑い物にされ、行けば呪われる廃屋として弄ばれてもいることを」


陽乃「へぇ……知らなかったわ」

陽乃は対して重要でもないことのように言う。

自分のことが晒されていることは知っていたが、

暫く諏訪にいて、昨日帰ってきたばかり。

それ以前から陽乃の端末は没収されたままだったため、

インターネットなんてほとんど活用できていない。

そもそも端末があるからと言って調べたいとも思わないかもしれないが。

美佳は陽乃の興味なさげな雰囲気に、顔を顰める。

美佳「神々の居られる神社に手を出されて、よく平気な顔をしていられますね」

陽乃「3年も前のことだもの。それに……」

そんな被害なんて気にならない程のものに手を出されてしまったし、

住まう神々は消えてしまったわけではなく、陽乃を依り代にして今も身近にいる。

宇迦之御魂大神様に関しては歌野の方だけれど。

陽乃「私が生贄から逃げたって話は聞いた?」

美佳「……お役目から逃げた、とは」

ぴくりと眉を動かした美佳から目を逸らし、

陽乃は小さく笑う。

陽乃「古くから神職に携わる血筋として、与えられていたお役目というものがあったらしいわ。まぁ、それに従ってあげる義理はないし、奉っていた神々はそれを望んでいたわけではないし」

全くの無意味だったんだけど。と、陽乃は失笑してしまう。

陽乃「その様子だと、そこまでは調べられていなかったのね」


美佳「そうですね……ただお役目を全うしなかったという程度しか」

陽乃「私が本当のことを言ってるとも限らないんだけど」

美佳「嘘をついているようには見えませんが」

美佳は陽乃を観察するように見ながら言う。

陽乃の話も一切聞く耳を持たないというわけではないようだが、

その視線はやや冷ややかなものを感じる。

美佳「久遠様の件は、とにかく悪評しか聞こえてきません。唯一話が聞けるのは勇者の身内だけ」

陽乃「それも、伊予島さんの両親だけでしょ」

美佳「そうです」

美佳は静かに頷くと、

ポケットから取り出した懐中時計を一瞥して一礼する。

美佳「そろそろ時間の為、失礼します。暫く時間がかかりそうですし……また来ます」

陽乃「別に来なくたって恨んだりしないから気にしないで頂戴」

美佳「そういうわけにはいきません。 " お役目 " ですから」

美佳はあえてお役目を強調する。

その皮肉のような口ぶりにも、陽乃は興味なさげな反応を見せるだけだった


√ 2018年 9月14日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

01~10 九尾
23~32 大社
45~54 水都
67~76 襲撃

↓1のコンマ

※それ以外は通常


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しだけ

√ 2018年 9月14日目 昼:病院


陽乃「退屈に殺されそう……」

歌野が言っていたけれど、陽乃は普通の手段で会いに来ることが出来ない状態の為、

病院の関係者を除くと基本的には誰もいない。

そのうえ、自力で何もできないから、

陽乃は常に退屈だった。

九尾「休んでいればよかろう」

陽乃「熊のように冬眠でもしろって言うの?」

九尾「人間にはできぬが、妾ならさせてやる事もできるぞ」

陽乃「死ぬわよ」

体のつくり上、そう出来るようなものではない。

病院にいれば、延命のような形でどうにかして貰えるだろうから、

実際には死にはしないが。

陽乃「で、どうだった? 新しい巫女は」

九尾「殺してやってもよかったのじゃぞ」

陽乃「……言うと思った」

茶化すでもなく、真顔で答えた九尾を一瞥し、

陽乃は呆れたように呟く

美佳の影に混ざっていた九尾の動きで察してはいたが、

はっきりと言われてしまうと、困る。

新しい巫女が、陽乃のお見舞い後に行方不明になったり死体で発見されたら陽乃が不味い。


陽乃「あそこまで毛嫌いしてくれる子は久しぶりだったから、私は嬉しかったけど」

九尾「主様は阿呆なのかや?」

陽乃「だって、私が求めていたのはああいう人間関係だもの。誰一人として、私のそばにいない……」

九尾「それでいて、退屈に殺されるとは愚かしいものじゃな」

鼻で笑う九尾を陽乃は睨む。片手でも動かせたなら小突いてやることもできるが、

そうもいかない状態の陽乃は、

傍で愉快そうにしている九尾には恨み言を呟くくらいが関の山だった。

陽乃「それはそれ。これはこれよ」

九尾「じゃが、今の主様にはもう切り離せはせぬであろう」

陽乃「楔が打ち込まれた痕は、それが抜けても消えることはないわ。そして、そこにまた新しく付け替えるだけ。ピアスみたいに」

まだ幼い頃、耳がキラキラとしている大人の女性を見て、

自分もやってみたい。だなんて言った記憶がある。

それを聞いた雇い巫女……確か高校生辺りの女性から、

耳たぶを摘まんで、ここに穴をあけるんだよ。と。自分のピアス穴を見せてきて、

痛みが怖くて泣いたことも、陽乃はなんとなく覚えていた。

陽乃「私の意志に関係なく、勝手にねじ込まれたものなんて抜けない。そうする勇気がない」

九尾「主様の生き方には、主様の望みはあまりにもそりが合わぬ。早々に捨て置くべきであろうな」


陽乃「……親しみを持ったって、努力したって、捨てられるときは捨てられるのよ。なのに、どうして身を寄せなければならないの?」

九尾「その方が死なずに済む。と、言いたいところじゃがのう」

普通なら、

人は己の力が及ばない事柄への対処をするために人の手を借りる。

産まれたばかりの赤子が、救いを求めて泣くように。

狐がトラの威を借るように。

しかし、陽乃は人の輪の中心に率先して留まり続けてきたけれど、

人柱として捧げられ、持ちうるほぼすべてのものを奪われ、

友人知人ですら離れて行った。

そんな陽乃に、生きる術の1つだなんて言葉が通用するわけがない。

九尾は困った様子で、ふむ。と唸る。

九尾「妾は無理にとは言わぬ」

陽乃「なら言わないで頂戴」

とはいえ、

陽乃は他人はどうでもいいといったり、

自分の為とは言うものの、結局は人を守るために何度も死にかけている。

九尾はどうしようもないと言った様子で、ため息をついた。



1、他の勇者の様子を見てきて頂戴
2、白鳥さんは上手くやってる?
3、上里さんは呼べないの?
4、勇者を強化しないと、私が休めないわ
5、イベント判定


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

では少しずつ

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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【6頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【6頁目】 - SSまとめ速報
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このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 18:22:41   ID: S:TiaWd5

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 01:12:35   ID: S:9_5W6K

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3 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 06:28:47   ID: S:iJ2-99

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