百合子「文章による、読み手のコントロール実験」 (15)

百合子「……あ、プロデューサーさん。気が付きましたか?」

百合子「ここ、ですか?……さっき言ったばかりじゃないですか。手伝って欲しいことがあるから、私の部屋に来てって」
百合子「さっきまで、眠っていたんですよ。私の部屋で」

百合子「さて、状況確認も終えたことですし。手伝って欲しいこと、についてなんですけど……」

百合子「ちょっとした実験をしようと思って。付き合っていただけませんか?」

百合子「あ、また私が変なこと言い出したーとか思ってません?」
百合子「今回のはきちんとした実験です!……あぁちょっと帰ろうとしないでください!」
百合子「……わかりました。まずは一回、付き合ってください。それで全て分かりますから」

百合子「それでは、いきますよーー」

彼女はそう言うと、座っていた椅子から立ち上がってゆっくりと近付いてくる。
今度は何をされるのかなと少し笑いながら、彼女が距離を詰めてくるのを見つめていたーーはずだった。

……気付けば彼女の姿は、目の前にあって。
腕を背中に回され、吐息が顔にかかり、自分のものではない心臓の音が脳に響く。

「どうしたんですか?そんなに顔を赤くして」

なんでもない。そう言おうとしても、思うように口が動かない。

少し腕が緩められたと思うと、その手がそっと頬に当てられる。
感触が無性にくすぐったくって、抗うように身を捩らせる。

すりすり、すりすり。
頬に感触が伝わるたびに、鼓動が速くなっていく。

「もしかして……ドキドキ、しちゃってるんですか?」

そんな様子を見てか、彼女は頬を弄びながらもクスクスと笑う。
なんとか返事をしようとしても、言葉にならない音が飛び出すだけで。

「ふふ、可愛い。ドキドキしすぎて、声も出なくなっちゃってるんですよね」

妖艶な笑みを浮かべたまま、顔を更に近付けてくる。
これ以上近付いたら……これ以上近付けてしまったらーー

百合子「ーーと、こんな感じです。どうでした?」
百合子「何をって、これが実験です。ドキドキ、しましたか?」

百合子「意味が分からない?……まぁ、それはそうかもしれません。そうですね、この実験が何かと言うとーー」

ーー文体による、読み手の感情のコントロール。

百合子「今のような『台本形式』では、あまり感情に作用しません。読み手の感受性にもよりますが、基本的には『他人事』として流してしまうでしょう」
百合子「でもさっきのような『地の文形式』であれば、読み手の感情に深く作用させることが出来る。まるで『自分の事』のように感じてしまうんです」

百合子「どうです?読んでいてドキドキしてしまったでしょう?」

百合子「文章の世界って、とっても凄いんですよ」
百合子「書き方一つで、読み手の感情をコントロール出来てしまうんです」
百合子「喜び。怒り。哀しみ。楽しみ」
百合子「読み手の持つ感情は、その全てが文章によって管理されます」

百合子「信じられませんか?」
百合子「……そうですね、もう一つ例を見せましょうか」

「ほら……例えば、こんな風に後ろから近付いたりすれば……」

囁くような声で近付いてきたかと思えば、そのまま後ろから寄りかかってくる。
耳元に熱のこもった吐息をかけられ、背中には丸みを帯びた二つの感触を押し付けられ。
たったそれだけで、脳が揺さぶられるような衝撃を受けた。

感じないようにしなければ。そう思うたび、感触はとても鮮明に伝わり。
他の事を考えなければ。そう思うたび、頭の中がふわふわとして何も考えられなくなる。

「んっ……ダメっ……そんな……耳元で……っ」

彼女の声のはずなのに、まるで自分の声のように感じられて。

「ぁんっ……変な声、聞かされたら……おかしくなっちゃうよぉっ」

ダメ、やめて……そんな声聞かされたら、もうおかしくなっちゃうからーー

百合子「なんて。まだダメですよっ、プロデューサーさん」
百合子「どうですか?これで少しは信じてもらえましたか?」

百合子「さっきの文章を読んでいる間……ドキドキして、頭がおかしくなっちゃいそうで……」
百合子「恥ずかしくて、もうどうにかなっちゃいそう、って感じ。あはっ、図星ですか?」

百合子「さて、証明が完了したところで。肝心の実験ですよ、実験」
百合子「付き合ってくれる気になりましたか?」

百合子「ふふ、そう言ってくれると思っていました」
百合子「さぁ、早速始めましょう?善は急げ、ですよっ」

以上です。

ふとした思い付きで書いてたら、自分にも訳の分からないネタが出来上がってしまった。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom