女騎士「おにぎりにぎる」(11)

女騎士「いまからにぎる」

女騎士「たった今、ご飯が炊けた。あっつ熱の、蒸らしたての、コシヒカリが、だ」

ホカァ…

女騎士「火傷しそうな程に熱い白米だ。一粒一粒がしっかり主張している、立っている」

女騎士「これは極上のおにぎりが出来るに違いない」

女騎士「まずは手のひらに塩をまぶすんだ。この塩はただの塩じゃあない。火山地帯に住むオークの汗を煮詰めに煮詰めた極上の塩だ」

女騎士「この塩は、他の塩とは『まろみ』が違う、段違いだ。まろみが何なのかは、謎だが」

女騎士「とにかくこの塩を使えば、おにぎりが格段にレベルアップするってぇシロモノだ」

サッサッ

女騎士「ぐぅぅぅっ…さすがオークの汗から作られた塩…手に染みる…染み渡る」

ジンワリ

女騎士「今、私の手は最高のおにぎりを握るためだけに存在している…さぁ、白米を!」

ムンズ
ジュゥゥゥゥゥ!

女騎士「熱っっっ!」

女騎士「オーク塩と極上の白米が化学反応を起こしている…発生している、発生してしまっている!ありえないキロジュール…いや、メガジュール、ギガジュールが!」

ジュゥゥゥゥゥ!

女騎士「ひ、皮膚が溶ける…」

ズルリ

女騎士「お、おにぎりを握ろうとしただけなのに…こんな事になるとは…」

ズルズルズル

女騎士「焼けただれ…肉焦がす…やがて腐り…」

ボトリ

女騎士「朽ち果てる」

女騎士「くっ…両手が腐り落ちた」

女騎士「これではにぎれない。おにぎりが、にぎれない」

ハッ

女騎士「いや、果たしてそうだろうか?なにもおにぎりは手で握るだけのものではない。そんな法律は無い、常識を疑うんだ…固定概念…ありきたり…壊せ、壊せ、壊せ…」

女騎士「白米…塩…」

女騎士「手のひら…足…空…海…無限大…」

女騎士「大地…宇宙…銀河…」

女騎士「過去…未来…そして、今」

その時。まさにその時である。
女騎士の思考速度は常人の800倍まで加速し
あらゆるおにぎりシミュレーションが試行された。
万、億、京…幾度となく試されては崩れる白米。
握られては崩れ、崩れては握られ。
他の者ならば脳が焼き切れていただろう。
だが、今の女騎士ならば!最適解を導き出せるに違いない!

ブツブツブツ

女騎士「…」

女騎士「大気のマナを白米にコーティングし…いや、それでは芯が…いやまて、水分量…加水率…もちもち…冷ますことで…とんこつ…はりがね…」

女騎士「惑星直列時のエネルギー…エレクトロニクス…とうし…いたします…」

女騎士「駄目だ…また白米が耐えきれず爆発する…根本から変えてまたシミュレーションを…」

女騎士「くっ…!」

・・・・・
それから
それから果てしないほどの時が流れた。
ある銀河では惑星が生まれては消え
生命体は進化し、発展し、滅びた。
神は暇潰しに概念を増やして減らした。
世界は突然現れ、当然に消えた。

女騎士の肉体は既に朽ち果て
意識のみの思念体になっていた。

女騎士「おにぎりを…」

女騎士「おにぎりを握るまで、私は」

女騎士「死ねんタイ!」

女騎士は博多出身だった。

【おしまい】

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