【モバマス】P「まゆきらい」 (30)

アイドルマスターシンデレラガールズの佐久間まゆとPの恋愛模様を書いていきます。
SSを書くのは初めてですがよろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1553646641

P「え?担当変更ですか?」

美城「そうだ」

朝早くから上司の美城常務に呼び出された俺は突然の発言に困惑した。

P「そんな急に… 来月の奈緒のライブはどうするんですか?」

俺は現在担当の神谷奈緒のライブを何カ月も前から計画していた。このライブは奈緒が次のステージに上がるのに重要なのだが…

美城「その計画は君の後続のプロデューサーが引き継ぐ。君の後輩の…」

そう言うと常務は後続Pの名前を呼んだ。そいつは俺の後輩でまだこの業界に入りたての新人だったような。

美城「…君には申し訳ないと思っている。しかしこれは決定事項だ、涙を呑んでくれ」

P「は、はぁ」

涙を呑むもなにも上司相手に逆らえる訳がない。俺は苦笑いした。

P「…担当変更の理由は教えてもらえますか?」

美城「話すことは出来ない。しかし『プロジェクトクローネ』にとって重要なことだとは言っておこう」

 プロジェクトクローネは美城常務が立ち上げたプロジェクト。俺はその計画に共感して常務に今までついてきた。俺が奈緒の担当をしていたのもその計画の内だったのだが…

P「…わかりました。プロジェクトの成功のためならば、何でもする所存です」

美城「うむ、君が新しく担当するアイドルは追って報告する」

P「それでは失礼します」

俺は常務室から立ち去った。

奈緒「えー!プロデュースをやめるってどういうことだよ!」

奈緒に担当変更の話をしたら彼女は大声をあげて抗議した。

奈緒「私をトップアイドルにするって言ってたじゃんかぁ!」

P「お前だったら俺がいなくても大丈夫だよ」

奈緒「プロデューサーと一緒じゃなきゃ嫌だ!」

 彼女は珍しく駄々をこねた。と言っても俺も二年も一緒にやってきた奈緒と別れるのは少し寂しい。しかしプロジェクトの為には仕方ない。

P「…俺もお前がトップアイドルになるのをそばで支えていたかったけど仕方ない。上司からの命令なんだからさ」

奈緒「う~」

奈緒は涙をこらえている。目じりに涙がたまっていた。

奈緒「…じゃあ、一ヵ月のライブ見に来てよ」

 そう言うと奈緒は俺にライブのチケットを渡した。確か奈緒には知人用に何枚かチケットを渡していた。

奈緒「客席から成長した私を見てよ、すこしは成長してると思うぜ、ずっと前から一緒にやって来たんだから…」

P「奈緒…」
 
 奈緒の思いやりに俺は心が暖かくなった。

P「うん、いいよ」

 俺はチケットを奈緒から受け取った。奈緒は空いた手で涙をぬぐった。

奈緒「う~やっぱりさみしいよ~」

 泣いている奈緒に俺は手を差し出す。

P「道は別れたけどこれからもお互い、奈緒はトップアイドル、俺は一流プロデューサーを目指して頑張ろうぜ」

 奈緒は泣きながら笑って差し出した俺の手を握った。

奈緒「おう!」

仕事が終わった後、俺は居酒屋にいた。

P「今回の異動ってヒドくないですか、ちひろさーん」

酒も入ってほろ酔いの俺は隣に座っている、一緒に飲みに来ていたちひろさんに愚痴をこぼした。

P「いきなり二年担当していたアイドルを変えられたんですよ?せめて事前に教えてくれればいいのに…」

ちひろ「あはは…」

ちひろさんは少し困ったように笑った。

P「ちひろさんは知らないんですか?担当変更の理由」

俺がそう言うと、ちひろさんは少し考えこんだ。

ちひろ「…うーん、後輩君とその担当アイドルに問題があってそれが原因らしいですけど、詳しくは知りませんね」

俺は口を引きつらせる。プロデューサーとアイドルの問題が常務が最も嫌いそうなことだ。思い返せばあの時常務は少し不機嫌そうに見えた。

ちひろ「おそらく、プロデューサーさんの次の担当はその子だと思いますよ」

ふとちひろさんがそんなことを言った。それってつまり…

P「今回の異動は後輩の尻ぬぐいってことですか」

ちひろ「常務もプロデューサーさんを信頼してるから、その子を後輩君からプロデューサーさんに任せたんですよ」

P「信頼ねぇ」

あの常務が俺のことを信頼している、そう考えれば悪くない。

ちひろ「私もプロデューサーさんに期待してますよ、頑張ってくださいね!」

ちひろさんが俺の肩を叩いた。

P「わかりましたよ」

俺は手に持っていた酒を一気に飲みほした。

同時刻・女子寮

「はぁ…」

少女は壁一面に貼られたおびただしい量の写真を前に身体をくねらせた。

「あぁぁ…プロデューサーさん…」

写真に写っているのは全て一人の男。少女は体調の写真のなかの一枚に顔を擦り付けた。

「まゆとプロデューサーさんは…ずぅっと一緒ですよ…♡」

そう言うと彼女は、『佐久間まゆ』は写真に写った男を舐め、恍惚の表情をする。

「はぁ…はぁ…♡」

そのまま彼女は深い闇へと沈んでいった。

前日談はここでおしまいです。
次回から本格的にプロデューサーとまゆの話になります
不定期更新になりますがよろしくお願いします。

前日談はここでおしまいです。
次回から本格的にプロデューサーとまゆの話になります
不定期更新になりますがよろしくお願いします。

※8
ありがとうございます。
すいません素人で… 一から教えていただければ恐縮です。

今から続きを投稿します。楽しめてもらえれば幸いです。

あれから一週間後、俺は自分のオフィスで新しい担当が来るのを待っていた。常務から新しい担当アイドルのことはすでに聞いていたが顔を合わせるのは今日が初めてだ。

P「ふぅ…」

思えば自分がスカウトしたアイドル以外をプロデュースするのは初めてだ、少し緊張する。
俺は新しい担当のプロフィールシートを見た。名前は『佐久間まゆ』元々読者モデルで、一年前に後輩がスカウトしたらしい。半年前にデビューしたがまだ大きな功績は残していない。シートに貼られた写真を見ると読者モデルだっただけあってルックスはいい。
しかし、俺はなぜかこの彼女の写真に魅力を感じていなかった。言い方は悪いがアイドルとして平均的、トップアイドルレベルではないと思う。実際に顔を合わせたら違うのかもしれないが…

P「しかし遅いなぁ」

すでに約束の時間から10分過ぎている。俺はちひろさんに電話を掛けた。

P「もしもしすいません、まだ佐久間さんが来ないんですけど…」

ちひろ「え?おかしいですね…」

電話越しでちひろさんが小さくうなった。

ちひろ「…もしかしたら後輩君のオフィスにいるかも」

俺と後輩のオフィスは確かに違う場所だが、そんな勘違いをするだろうか?

ちひろ「すいません見に行ってもらってもいいですか?私、今は離れられなくて…」

P「あ、わかりました」

面倒だが、ちひろさんに頼まれたら仕方ない。俺は電話を切って後輩のオフィスに向かった。

後輩のオフィスの扉を開けた。

P「おい、佐久間さんこっちに…」

中に入ると後輩のデスクの横に背の低い女の子がこちらに背中を向けて立っていた。あの子が佐久間まゆだろうか?俺の声を聴いて、その女の子がこちらに振り向く。
振り向いた女の子の顔を見た俺は…


言葉を、失った。

確かに写真と顔立ちは変わらない。しかし、写真では白かった頬はほのかにピンクに染まり、唇は艶やかにうるおっていた。
そして、一番写真と違うのはその目。暗く深く吸い込まれそうな瞳は恐ろしいほどに魅力的だった。
あの写真とはまるで違う。写真が蕾なら今、目の前にいる彼女はまさに咲き誇った薔薇のようだ。

しかしその表情をしていたのも一瞬で、俺の顔を見た瞬間に彼女は写真と同じ表情になってしまった。

後輩「あ、ほらまゆちゃん、先輩迎えに来ちゃったよ。すいません先輩、ご迷惑をおかけして」

P「あ、ああ」

後輩が謝るが俺は一瞬見た彼女の顔が目に焼き付いて離れなくて、生返事しかできない。

後輩「じゃあ先輩これからまゆちゃんをこれからお願いします」

P「お、おう、じゃあ佐久間さん行こうか」

俺は佐久間まゆの顔を再び見る、表情は変わらずあの写真と同じままだった、さっきの表情は何だったのだろうか。

まゆ「…はい、それじゃプロデューサーさん、また」

後輩「だから俺はもうプロデューサーじゃないってば…」

苦笑いしている後輩を後にして俺と佐久間まゆは自分のオフィスに戻った。

P「えっと、初めまして。俺は君を今日からプロデュースさせてもらう者だ」

そう言って俺は彼女に名刺を差し出した。彼女はその名刺をチラリと見た。

まゆ「…佐久間まゆです」

俺は彼女の顔とプロフィールシートの写真を見比べる。やはり同じだ。
…やっぱり、見間違いだったのかな。

P「今日は早速レッスンが入っているんだ」

まゆ「…そうなんですか」

彼女は表情を変えずに、何となくつまらなそうに返事をする。
俺の表情は引きつってないだろうか、少し不安になった。

P「…じゃあレッスンルームに向かってくれ。後でレッスン姿を見に行くから、よろしく」

まゆ「…はぁい」

彼女はそう言ってオフィスから立ち去って行った。
俺は深いため息をつく。何故だか知らないが彼女はすこぶる機嫌が悪いらしい。これから2人で上手くやっていけるのだろうか。

P「…前途多難だなこりゃ」

仕事に一段落つけた俺はレッスンルームに向かっていた。今回のレッスンは演技指導だったはず。彼女の演技力はどんな物だろうか、昼と同じような態度でレッスンをしていたら困るのだが…
そんなこんなでレッスンルームに着いた。とりあえず扉を少し開けてこっそりと中を覗いてみる、彼女の自然体の演技を見たかったからだ、決してやましい理由ではない。
中では佐久間まゆがベテラントレーナーに演技指導を受けていた。ベテラントレーナーの言ったお題を自分なりに表現するというトレーニングだ。俺は彼女の演技に目を凝らす。

ベテトレ「かわいく!」

まゆ「えっと…」

彼女はかわいらしく演技をする。なるほど悪くない、アイドルになって一年であの演技力はなかなかだ。

ベテトレ「切なそうに!」

ベテラントレーナーの指示のとおり切なそうに演技をした。やはりいい。俺の心配は無駄な心配だったようだ。

この時、俺は気が緩んでいた。だから次の瞬間起こったことに対応できなかった…いや呑まれてしまったのかもしれない。

ベテトレ「では、そうだな…」

ベテラントレーナーの出した指示とともに…

ベテトレ「恋する乙女に成りきって!」





彼女の雰囲気が、変わった





まゆ「―――♡」

P「…!?」

彼女はあの時一瞬、見せたあの艶やかな表情に少しずつ変わっていく。つまらそうに淀んでいた瞳が、吸い込まれそうなほど暗く深く…美しく輝く。表情だけではない、彼女の周りの雰囲気も妖艶に染まっていく。薔薇の蕾が開くように、蛹から蝶に孵化するように…
俺は佐久間まゆの変貌に動揺する。動揺しながらも俺は無意識に足を一歩前に踏み出していた。

まゆ「『瞼の裏まであなただけ… それくらい好きなの…』」

俺は彼女の演技に圧倒される。昼に俺と会話をしていた彼女と同一人物だとは思えない。彼女の演技に、雰囲気に俺は魅入られる。もっと、もっと近くで彼女を見たい。俺は更に一歩前に踏み出し…

ガタッ!

P「うお!」

気づかないうちに俺は身を寄せすぎていたらしい。ドアに俺の身体が当たって音を立てる。
その音に反応して佐久間まゆとベテラントレーナーは俺のほうへと顔を向けた。

ベテトレ「ん?プロデューサー来ていたのか」

P「あ、はい」

俺は返答もそこそこに佐久間まゆを見る。しかしもうすでにあの演技をしていた彼女はいなく、彼女は俺の顔をきょとんと見返してくる。

まゆ「…どうしたんですか?」

P「いや、あはは、何でもないよ」

俺は慌ててごまかした。覗き見をしてたとは言いづらい。

まゆ「…?そうですか」

P「そ、それじゃあ佐久間さんのトレーニングを見学させてもらおうかな。トレーナーさん、よろしくお願いします」

ベテトレ「わかった。それじゃあ…」

ベテラントレーナーと佐久間まゆがトレーニングを再開する。俺はホッとした。
…俺は期待していた。彼女だったら、あの演技中の彼女だったら、トップアイドルも夢ではないだろう。
もしかしたらもう一度あの彼女が見られるかもしれない。俺は彼女の演技を見逃がさないようにしっかりと見学する。
しかし、俺は結局トレーニング中にあの佐久間まゆをもう一度見ることはできなかった。

夜、俺はまたちひろさんと居酒屋に来ていた。
酒を飲みながらちひろさんと佐久間まゆについて語り合う。

P「佐久間さんってすごく不思議な子ですね」

ちひろ「と言うと?」

ちひろさんはお酒を飲みながら首をかしげた。

P「物凄くポテンシャルがあるんですけど普段は鳴りを潜めているというか…」

昼の彼女のつまらなそうな目、トレーニング中の暗く深い魅力的な目、同じ人間の瞳だとは思えない。あの魅力的な瞳は俺の心から離れなかった。

P「あの子の魅力を引き出す鍵がわかればトップアイドルも夢じゃないと思うんですけど…」

ちひろ「鍵ですか…」

ちひろさんが考え込む。何か知っているのだろうか?

P「ちひろさん?」

ちひろ「…すいません、わかりません」

…?ふと違和感を覚えた。何だろうこの感じ…

ちひろ「まぁ難しいことは考えないで今日は楽しみましょうよ」

ちひろさんが俺にコップを向ける。…頭が回らない、少し酔ってきたようだ。今難しいことを考えても仕方ない。

P「そうですね今日は飲みましょう!」

俺はちひろさんと乾杯した。

同時刻・女子寮

「はぁ…」

少女はため息をついた。

スーツを着た人形の腕に針で糸を通す。決してほどけないように丁寧に。

「プロデューサー、さーん」

鼻歌を歌いながら少女は次にリボンをつけている人形に針を入れて、二つの人形を結びつける。二つの人形が離れないように丁寧に丁寧に。

「ふふふふーん」

少女は二つの人形の結び目を隠すように上からリボンを巻いた。

「完成しましたぁ。…『瞼の裏まであなただけ… それくらい好きなの…』……なぁーんて♡」

そう言って少女はスーツの人形にキスをした。

今日の更新はここまでです。見ていただきありがとうございました。

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