ほむら「私が悪魔になってからの生活」まどか「目覚めた」 (100)


涼しげな朝

緑の多い並木道を、私はいつものように歩きながら

学び舎へと向かっていた。

小川はそよそよと流れ、小鳥のさえずる声は聞こえ

とても心地の良い朝だ。

私は毎日このようにして歩くのが日課であり、

それをとても心地良く思っている。

「おはよう」

学び舎に着き、教室に入ると、

鹿目まどか。まどかが私に挨拶して話しかけてきた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1552629602


「おはよう。良い天気ね」

「うん。本当だね」

「今日は体操服持って来た?」

「うん。持ってきたよ」

「そう。今日も一日がんばりましょう」

「うん。よろしくね、ほむらちゃん」

まどかと話をしていると、隣から鋭く私を呼ぶ声がする。

「よっ。暁美ほむら。鹿目まどか」

ーーー佐倉杏子。

同じクラスで生活する佐倉杏子は、

朝いつも私に挨拶し、そうしているといつも、もう一人私に挨拶する。

「おっはよ」

気さくに話しかけてくるのは、美樹さやか。

まどかと話をしていると、いつも2人して集まるのだった。

「なぁなぁ。今日のサッカー、チーム戦やるらしいな」

佐倉杏子が机に腰掛けながら、美樹さやかもそれに同調する。

「体育のこと? 楽しみだよね」

まどかは少し心配そうに口にする。

「私は…大丈夫かな。サッカーとか運動はあまり得意じゃないから」

「大丈夫だって。私が一緒のチームでやるからさ」

美樹さやかが、『にこにこ』と笑うと、ありがとう、とまどかは言う。

どうしてかは分からないけれど、

私がまどかと話をするようになってから、

美樹さやかも佐倉杏子も、集まって話をするようになった。

まどかが転校生であり、

暖かく迎えようとする気持ちと、

一緒にお話ししようとする気持ち。

言わば、友達のようにいつしかなったのだった。

そう。ここでは、まどかは転入生。

アメリカから3年ぶりに帰国して、引っ越してきた、俗に言う帰国子女だった。




先生が教室に入ってきて、輪もとけて、

それぞれが席につき始めるなか、私はまどかに聞いた。

「まどか。転入して来てからの、学校生活にはもう慣れた?」

まどかは少し考えるように上の空を見ると、

「うん。」と、にこっとするのだった。

「もう慣れたよ。こうして生活できるのも、ほむらちゃん達のおかげだね」

「そう。それは良かったわ。今日のサッカー、私も同じチームに入っても良いかしら」

「もちろんだよ」

「そう。それじゃあ、よろしくね」

そう言って、私もまどかも、それぞれの席に向かう。


この学び舎には、まどかや美樹さやか、

佐倉杏子の他にも、巴マミがいる。

巴マミは年代が違うので、同じクラスではなく、違うクラスで生活している。

巴マミもなぜか、放課後の帰り道に、

どことなく知り合ったように話をするようになり、

いつも一緒に話をするわけではないけれど、

クラス外では、昼休みなどに5人で集まったりもする。

同じクラスにいるわけでは無いので、

まどかや美樹さやか、佐倉杏子とは違い

いつもどのようにしているのかは分からないけれど、

おそらく元気に生活しているのでしょうね。

体育の時間になり、まどか達と一緒に運動場へと向かう途中、

巴マミに会った。

巴マミは、私達に気がつくと、少し手を上げて言った。

「おはよう。あなたたち」

「おはよー」

美樹さやかが応えると、巴マミは私達の服装を見て言う。

「あら。あなた達、これから体育の授業なの?」

「そうさ。今日はサッカーのチーム戦をやるからな」

佐倉杏子が応えると、

まぁ、楽しそうね。と、巴マミは笑う

「いいわ。体育の授業。私も一緒にサッカーしたくなるわ」

「そういうマミさんは、これから何の授業があるんですか?」

美樹さやかが聞くと、巴マミは

「理科の実験よ」

と言う。

「私達は、少し本格的に理科の授業とかもし始めるから、実験とかもあるの。

それはそれで楽しいんだけど、少し忙しいわ」

「そうなのか。私達、サッカーできていいな」

佐倉杏子が呟くと、巴マミは笑顔で言った。

「今の生活も悪く無いわよ。私もあなた達の学年の時は、サッカーやったから。

思う存分楽しんできなさい」

巴マミが指でVサインをつくると、

佐倉杏子はふっと笑う。

「今日、昼休み、私達と一緒にお弁当食べませんか?」

「いいわね。それじゃあ、あなた達、昼休みにまた会いましょう」

巴マミは、私達に手を振ると、理科の実験があるだろう方向へと歩いていく。

「おっと、私達も行かないとね」

美樹さやかが気がついたように学び舎にある時計を見ると、

「そうだな」

と、佐倉杏子も小走りになり始め

「あぁっ」

と、まどかも早歩きになる。

私もそれについて運動場へと向かうのだった。


随分とのんきね

あら、そう?

楽しそうに学生やってるみたいじゃない

ここは私がつくった世界よ

それに、私は元から学生だったの

今もこうして学生をしているのは当然でしょ?

まどかや美樹さやか、佐倉杏子も、巴マミも皆楽しそうにしているかしら

ええ、楽しそうにしているみたいよ

…そんな会話が、どことなくしているようだった。

「いくよ、まどか」

サッカーの試合中、

美樹さやかがまどかにボールを蹴ると、

まどかは、あたふたとしながら、ボールを受け取ろうとする。

受け取ろうとしながらも、そのボールはコロコロと転がり、

まどかの後ろにそれていく。


もし、また世界が壊れて、まどかと離れ離れになったらどうする?

そんなことにはならないわ。

ここは、私が支配する世界。

私の意識がしっかりしている限り、この世界が壊れることはないわ

でも、この世界でも、湧いた呪いを処理するためには、あの子ウサギが必要みたいだけど

インキュベーターのこと?

…まどかが、追いついたボールを蹴ると、

そのボールは『ぐにゃぐにゃ』と曲がり、空気が抜けたように飛んだ。

「えっ、どうしたの。これ」

まどかが、キョトンとしたように飛んでいくボールを見つめ

周りでどよめきが起こった。

「そう。分かったわ」

私は呟いた。

呪いが発生したのね。

今から行くわ。

この世界に呪いが発生するときは、何か不可思議なことが起こる

まどかが蹴ったボールが『ぐにゃぐにゃっ』と曲がったのも、呪いの仕業でしょう。

「空気が抜けたみたいだ。誰か、新しいボールを持ってきてくれ」

体育の先生の指示があるなか、

私は黙ったままその場に立ち尽くしていた。

体育の授業も終わり、昼休みをむかえ、

まどか達は巴マミと合流するため、学年の違う教室へと向かっていた。

歩きながら、ふと体育でのサッカーの話題になる。

「それにしても、私びっくりしたな。

サッカーボールを蹴ったら、急にあっちこっち曲がり出したから」

「ほんとだよね、空気が抜けたにしても、私もびっくりしちゃった」

まどかと美樹さやかが話していると、佐倉杏子も話をする

「まっ。そういうこともあるっしょ。私は面白かったし、別にいいけど」

「っと。いたぞ」

佐倉杏子の見る先には巴マミがいた。

「おつかれさま。サッカーどうだった?」

巴マミの呼びかけに、佐倉杏子が応える。

「うん。私は楽しかったよ」

「私も。今度はマミさんも一緒にサッカーしましょう」

「うふふ。そうね」

美樹さやかも会話に加わり、巴マミは弁当を手に持ちながら言った。

「お弁当、どこで食べようかしら」

「ごめんなさい」

私は口を挟む。

ごめんなさい、私はやらないといけないことがあるの

「あら。暁美さん、どうかしたの」

「昼ご飯、一緒に食べたいのだけれど、少し用事があったのを思い出しました」

「そう、残念ね。じゃあ暁美さんはまた今度、一緒に食べましょう」

「はい」

「ほむらちゃん?」

きょとんとした顔で聞くまどかに、私はふっと微笑む

「ごめんなさい、まどか。また今度、一緒に食べましょ」

そう言って私は、美樹さやか、佐倉杏子にも手を振ると、その場を後にした。

「呪いが発生したのね、インキュベーター?」

呪いを感知する場所に向かうと、

とあるモヤモヤとした黒い煙と、

煙の前に、インキュベーターが寝転がるように座っていた。

黒い煙。呪いはあなたね

「待ってて、インキュベーター。すぐに終わらせるから」

目を瞑ると、この世界をつくったときの感覚が蘇ってくる

黒い翼が現れ、バサバサっと音を立てた

「今すぐ消えなさい、呪い」

私は黒い煙に向かって翼を打ち立てる

すると、黒い煙はきゅっと小さくなった。

「これで終わりね。後は頼んだわよ、インキュベーター」

私はインキュベーターを摘み上げると、小さくなった煙に、インキュベーターを突きつける。

すると、黒い煙はインキュベーターに吸い込まれていった。

「助かるわ、インキュベーター。いつも」

私はインキュベーターを撫でる

「この世界に湧く呪いの処理にはあなたが必要だから」

インキュベーターは声にならない声でぐふっと咳き込むと、黒い煙を吸い込んでいく

「………」

私はその光景をじっと見る

世界を新たに改ざんしてから、インキュベーターは少しずつ話をしなくなった。

もっとも、呪いというものを吸い込んでいく度に、インキュベーターは疲れていき、

いずれ、疲れ果てて何を喋ることができなくなったのだけれど



魔法少女になる契約を結んで、人間を利用しようとしていたんだもの。

これくらいのことは当然だわ

それに、

「あなたは、人の感情というものが分からないものね。

これくらい平気でしょう。これからもよろしくね、インキュベーター」

私はインキュベーターを摘んだまま、

その場を離れようと歩き出す。

この世界では、私の在り方は2つある。

ひとつは、普通の学生としての生活

もうひとつは、この世界の呪いを処理する生活

いずれも、まどかが明るく生活するためのもの

普通の生活では、転入して来たまどかは学び舎での生活に慣れ

この世界で湧く呪いは、私が世界を改ざんしたときの力で押さえ込んで、

インキュベーターに処理をさせる。

もう、この世界にインキュベーターのようなものは存在せず、

インキュベーターも、力尽きたように、何も話すことも無くなった。


いつか、まどかが私に言ったことを思い出す。

「私がほむらちゃんにも耐えられないこと、耐えられっこないよ。誰とだってお別れしたくない」

「まどか」

まどかの想いは、私が叶えているわ。

あたりに、そよそよと風が吹く

「今日はこうして思い出にひたっていようかしら」

私は原っぱに腰を下ろした。

その横で、インキュベーターは力尽きたように、ぴく、ぴくっと震えるばかりだった。


朝、日差しが額を照らすとともに、私は目を覚ました。

少し風が冷たな、不思議な朝だった。

周りを見渡すと、

ポツンと、インキュベーターが背を向けて座っていた。

「インキュベーター、呪いでも発生したの?」

インキュベーターは背を向けたまま、何も話さない

そういえば、インキュベーターは疲れ果てて、もう何も話さなくなってたわね

「呪いが発生したら、またよろしくお願いするわ」

そう言って、私はインキュベーターの頭を撫でると、学び舎へと向かった。

学び舎へと向かっていると、

ちらっ、ちらっと髪を動かしながら歩く後ろ姿が見えた。

まどかだった。

「おはよう。まどか」

呼びかけると、まどかは振り向いて私を見た。

「おはよう、ほむらちゃん」

まどかは、にこっと笑った。

そう、私はこうしてまどかが笑っていられるように、世界を改ざんしたのだったわ

一緒に歩き出そうとすると、まどかは、ふと心配そうに言った。

「ほむらちゃん昨日どこに行ってたの。

昼休みの後も帰って来ないで早退したって聞いたから心配しちゃった」

「そうね。昨日は用事があったから、早く帰らなければならなくなったの。ちゃんと話せてなくて、ごめんなさい」

「そうだったんだ。

私、てっきりほむらちゃんが具合が悪くなったんじゃないかって思った。昨日他にも早退した人がいたから」

「そうなの?」

「うん。何人かは具合が悪くなったから早退したって聞いたけど、ほむらちゃんのことは聞いてなかったから」

クラスメイトのことを心配そうにするまどかを見ながら、私は少し考えた。

呪いは湧いていないはずだけど、一度に早退することもあるのかしら

「私は風邪を引いたりしていないから、大丈夫よ」

「そうなんだ。それならよかった」

ええ、問題ないわ

「体調を崩さないように、気をつけましょう」

そう言って、私はまどかと共に、学び舎へと向かった。

学び舎に着き、教室に入ると、

確かに、席が空いている机が多かった。

周りを見れば、すぐに空いている席が『ちらちら』と目につくほどだった。

「昨日より多くなってるね」

まどかが隣でそう言った。

「昨日から体調が悪くなって早退した人が多数います。

もし、何かの病が蔓延してるなら、しばらく学校を閉鎖しようと思います。

皆さんはくれぐれも、体を壊さないようにーーー」

先生の話が続くなか、私はじっと物思いにふけっていた。

今まで一度に沢山の生徒が休んだことはなかった

偶に、休む生徒がいることはあったけれど、

すぐに元気になって、学校に来るようになった

休む生徒が沢山出るなら、呪いが発生してもよさそうなものだけど、呪いが発生したような感知はない

こんなことが起きるのは、どうしてかしら

先生の話が終わってから、

1限目の授業が始まるまでの準備をしている間、ふと、鋭い声がした。

「ちぇ。さやかの奴、休みかよ」

佐倉杏子がそう言って、つまらなさそうに腕を組むのだった。

「休むならそうと、連絡しろよな」

そう言いながら、少し怒ったような佐倉杏子は、美樹さやかを心配するような目をしていた。

「連絡できないほど、具合が悪いということなのか?」

私はじっと、その場に座っていた。


「最近風邪が流行ってるみたいね」

昼休みになって、皆で食事をしようと集まるなか、巴マミがふと口にした。

「他のみんなが無事だから良いけど、美樹さん、大丈夫だといいけど」

「私は連絡ないから分かんねぇな。何か聞いてる?」

そう、私とまどかを見る佐倉杏子に、私は、聞いてないわ、と応える。

「私も、何も」

まどかもそう言って応えると、佐倉杏子は腕を組んで、また、心配そうな顔をする。

しばらくそのまま黙っていた佐倉杏子は、少し首を振ったように

「ちっ。まぁアイツのことだから、すぐ元気になってくるさ」

と、言うと、パクッとお弁当の中身を口にするのだった。

「ところで、暁美さん」

巴マミが私を見て言った。

「何でしょう」

「暁美さんは、体調とか崩してない?

昨日、お弁当を食べるときにわかれたっきり、下校の時も居なかったから」

そう。下校の時も皆で一緒に帰ったのね

「すみません。用事があって帰らなければならなくなったので。私は、特に問題はないです」

「そう。それなら良かったわ。暁美さんまで体調崩したらどうしようかと思ったから」

巴マミは、佐倉杏子、まどか、それから私を見て言った。

「少なくとも、もう私達は体調を崩さないように気をつけましょう。

美樹さんが元気になる前に、私達まで体調を崩すようなことがあったら、私、心配しちゃうから」

「そうだな」

佐倉杏子が頷くと、

「はい」

と、まどかも返事をする

「そうですね」

私もそう返事をすると、まどかが私を見て言った。

「ほむらちゃん。用事があったりするのは仕方ないけど、体調には気をつけてね」

「えぇ」

私は口にした。

「まどかも気をつけて」


体調を崩した生徒が多い原因は分からないけど、

私は湧いた呪いを処理するから

まどかが幸せに思う世界を、私は守るわ

ーーーそのときだった

ゴッ

そう音がしたかと思うと、辺りがぐらぐらと揺れ始めたのだった。

「なに、これ、揺れてる?」

巴マミが慌てたように周りを見ると、揺れは強くなった。

「何か物に隠れろ!すぐにおさまる」

佐倉杏子が強く話すなか、

まどかは、よろめ、ふためいた。

「わっ」

「まどか!」

私をまどかの手をとった。

「大丈夫よ、落ち着いて」

辺りがぐらぐらと揺れるなか、私はきっと視線を凝らした。

呪いが発生したのね。

今から行くわ。

私は沢山の生徒が欠席していることが思い当たった。

今すぐに行った方がいいかもしれない

そう思ったのだ

「まどか、大丈夫よ。心配しなくていいから」

私は呪いが感知する場所へと向かう。

「暁美さん。どこへ行くの?」

その場を離れるとき、巴マミが私を呼ぶ声がした。

しかし、私は、構わず呪いを湧く場所へと向かうのだった。

「インキュベーター。呪いの様子はどうなの?」

呪いが発生した場所へ向かう途中、呼びかけてもインキュベーターからの返事はなかった。

呪いが発生した場所に着くと、

そこにはインキュベーターが背を向けて座っていた。

「ここね」

私は辺りを見渡す

「特に何も見当たらないけれど、確かにここで呪いが発生してるわね。

最近学び舎の方でも変な風邪が流行っているみたいなの。

インキュベーター、何か分からないかしら」

そう聞いても、インキュベーターは何も話そうとしない

そうだった。インキュベーターは疲れ果てて何も話さなくなってたわね。

仕方がない

「しばらくここで様子を見るわ」

私はそう言って辺りを見渡す

しばらくすれば発生するだろう

そう思った。

そして、体制を整えようとした

が、そのときだったーーー

「…よくも」

後ろで何かが喋る声がした。

「えっ」

私はもう一度、その声を聞いた。

「よくも僕もこんな目に合わせてくれたよ」

https://gyazo.com/73891968f031c28aeb388744c7583cc8


その声はどこか聞き覚えのあるような

懐かしいような覚えのある声だった。

そういえば、朝から少し様子が変だった。

私は思い出した。

少しひんやりとした朝

いつも話はしないけど、何となく変だった後ろ姿

まさか、

私は声を出して聞いた。

「…インキュベーター?」

振り返ると、

そこには、インキュベーターが座っていて、

黒い『モヤモヤ』としたものを漂わせていた。

それは、私がいつも、

湧いた呪いを処理するときに戦うものと

一緒のものだった。

支援

「インキュベーター。どうして、黒い煙をまとっているの?

学び舎の生徒が沢山休んだり、学び舎で起こった揺れも、

あなたの仕業だったというの?」

インキュベーターは何も喋ろうとしない

「こたえて!」

インキュベーターは口を開いた。

「僕はね、ほむら。君のせいでとっても酷い目にあったんだ。

呪いというものを吸い込んで、吸い込んで、

僕の存在は、ただ、汚物を吸い込んでいくだけのボロ雑巾のようなものだった」

あなたも、私達をそのような存在にし、私達を利用しようとしていたでしょ

「僕は君たちの願いごとを一つ叶える代わりに、魔法少女になるという約束をしたんだ。

これは、一種の契約だよ」

「違う!」

私は黒い翼を現して、インキュベーターへ打ちつけた。

「僕に湧いた呪いを凝縮して葬り去ろうというのかい。

でも、ほむら、その凝縮させた呪いは、誰が吸い込むんだ」

インキュベーターは黒い『モヤモヤ』を放出し、

それが、私を包み込むように、私を通過していく。

「うっ」

私は胸に強い痛みを感じた。

痛い…

インキュベーターの思いが、わたしに訴えかけてくる

ほむら…苦しい…やめるんだ、ほむら!

そう、インキュベーターの声がした。

「インキュベーター?」

私は黒いモヤモヤに訴えかけた。

インキュベーターの声がしてくるたびに、

私が、インキュベーターを痛みつけていた日々、

インキュベーターに呪いを吸い込ませていた日々が、思い返されてきた。

いたい、やめるんだ ほむら

インキュベーターはそう言っていた

私は恐る恐る、問いかけた。

「インキュベーター…

あなたも、感情というものが芽生えていたというの?」

インキュベーターは、黒い煙をまとったまま、

もう何も聞こえない様子で、私へと向かってくる

「インキュベーター!」

私はインキュベーターに訴えかけた。

「あんたが、こういう結末を迎えたんだ、ほむら」

「えっ」

ふと声がした方を見ると、そこには、美樹さやかが立っていた。

「なぜ、あなたがここにいるの」

「思い出したんだ。あんたが円環の理を、まどかの一部をもぎ取っていったことを。

そして、あんたが起こした行動は、こんな結末を迎えた」

あたりを見渡すと、グラグラと地面が揺れ、世界が揺れ、

少しずつ、建物も崩れ始めていた。

「どうして、世界が崩れているの。

ここは、私が支配する世界。なのに、なぜ」

まどかを思ってつくった世界

まどかが、人間のまどかとして生活していけるための世界

インキュベーターも封じ、

まどかが、学び舎の生徒として、生きていけるための世界

誰にも邪魔されないはずの世界が、今崩れていく。

どうして…

「あんたがやっていたことは、結局、インキュベーターに呪いを募らせ、増大させ、

世界を崩壊させてしまうような事態を引き起こしたんだ」

美樹さやかは、言った。


「ほむら。あんたじゃ、幸せな世界はつくれない」

「くっ」

私は美樹さやかに言った。

「じゃあ、あなたは何。

あなたはどこまで美樹さやかなの。

あなたは何度も何度も死んで、何度も作り直されてきた存在なのよ。

あなたが今生きている世界も、その繰り返しの果てにあるもの。

本当の世界では、あなたはもう、死んだ存在。

あなたは何、どこまで、そのことを知っているの?

ワルプルギスの夜のことは知ってる?」

「えっ?」

美樹さやかは、少しきょとんとしたような顔をしていた。

「ワルプルギスの…夜」

「くっ」

私は、逃げるようにその場を離れた。

誰も本当の世界を覚えていない

本当は、皆死んで、私が時間を巻き戻して…



…本当の世界は、残酷で、過酷で、

希望なんか無い世界だった


私は、暗い道を走り続けていた。

まどマギか

「はっ…はっ…」

どれくらい走り続けていただろう

「……」

私は走ることをやめ、立ち止まった。

あたりを見ても、誰も見当たらず

そこには、自分一人だけがいるようだった。

「インキュベーターも、美樹さやかも、もう、追っては来てないのね」

私は呼吸を整える

「……」

さっきまで起こっていた揺れは止まり、

崩れかけていた景色も、今は崩れるのをやめ、落ち着いているようだった

私は、さっきまで起こっていたことを整理する

インキュベーターが呪いに染まり、

美樹さやかが、私が世界を再編したときの記憶を取り戻した。

どちらも、私が支配する世界では起こり得ないことのはず

それが起こるということは、

この世界に、私以外の誰かが侵入しようとしている、ということなの

誰が…

「……」

インキュベーターが、湧いた呪いを処理することができなくなって、

この世界では、呪いは増えていく一方

世界はもう、崩壊していくに違いないわ

そして、美樹さやかが、世界を再編したときの記憶を取り戻したということは

美樹さやかが、元居た世界に、また繋がり始めたということ

それは…円環の理

「まどか…」

私は一歩、一歩、歩き始めた。

「だめよ、まどか。

円環の理になったら、また、インキュベーターがあなたを狙いにいく

それに、人間のあなたとしての存在もまた無くなってしまうわ」

私は走り始めていた

まどかのところへ行かないと…

走って、走って、走った。

まどかは学び舎にいるはずだわ

走っていると、少しずつ、学び舎らしきものが見えてきた。

遠くからでも、建物のあちこちにヒビがはえ、

少し崩れかけているのが見えた。

「まどか!」

まどかはどこ?

構内?

運動場?

それとも屋上に?

「はっ…」

ちら、ちら、と髪を動かしているのが見える

見ると、まどかは門の前に、私の方を向いて立っていた。

「まどか!」

「ほむらちゃん!?」

「よかった…無事だだったのね!」

「ほむらちゃん、どこに行ってたの?」

私に呼びかけるまどかの声がしながら、

私は膝に手をつき、呼吸を整える。

よかった、まどかは無事だったわ

円環の理にもなっていないし、何も思い出したりしていない

私は安堵した。

でも、そのとき、私の前からまどかの声ではない、大人っぽい声がした。

「ダメよ」

見ると、巴マミが、まどかを片腕で塞ぎながら、前へと現れる。

「ダメよ、鹿目さん。

この人は、あなたの力の一部を奪っていった人なの。

近づいたら、また何をされるか分からないわ」

「えっ。どういうこと?」

「来たか」

ふと横から鋭い声がして、

見ると、佐倉杏子が槍を構えて立つ

「来ると思ったさ。

お前、一体何のつもりでこんなことをしたんだ。

今度ばっかしは許さねぇぞ」

「えっ、杏子ちゃん?」

まどかはおどおどしたように、巴マミや佐倉杏子を見る

「離れてろまどか、こいつは、このままにしておいたらいけないんだ」

「鹿目さん。この人の言葉にだまされないで」

2人は武器を構えて私を見る。

「2人とも、記憶を取り戻したのね」

私は後退りした。

もう、この世界に私の世界が効かなくなってきている。

「あなた達はどんな世界を望むの?

ここで戦って、私を倒したとしても、

また、同じことを繰り返すだけよ」

佐倉杏子は言う。

「はぁ? 何言ってやがる。

あんたをとっつかまえりゃ、また世界は元通りになるんだ」

「違う。あなた達は本当のことに気づいていない。

円環の理というものが現れる前、

あなた達は何度も死んで、同じことを繰り返した。

それは、私が時間を巻き戻したから。

でも、本当はそのどれもこれも、インキュベーターと契約したことで生まれた力。

本当はあなた達はもう亡くなっていて、

私が時間を巻き戻してから先のことはもう、インキュベーターの力による、つくりものの世界の中にいるの」

「よく分からないわね。じゃあ何で、私は今もこうして意識を持っているというの」

巴マミは、ふと口にした。

「あなたの言う、つくりものの世界にいるなら、私も作り出された存在のはずよ。

でも、私はこうして意識を持っている。

あなたと意見も対立する。

これは、どうしてだと言うの?」

「……」

私は言った。

「とにかく、インキュベーターの思い通りにさせてはいけないわ。

戦って、私を倒して、

このまま、またまどかが世界を作り直したとしても、

私達はインキュベーターと契約したその日から、ずっと変わらない」

巴マミと佐倉杏子は、一息ついてから、武器を構える

「とりあえず、あなたを捕まえることが先ね」

巴マミに続き、佐倉杏子も言う。

「話はそれからだな」

「もう…何を言ってもダメみたいね」

私は対抗手段となる武器を取り出す。

ーーーそのときだった。

「みんな、どうして、そんな格好をしてるの。

何で、武器を持ってるの。

私が知ってる皆は、学校の服を着て、

そんな格好はしていなかった。

それは…それは…」

パァッと音がすると、

まどかの目は光だしていた。

「まどか…?」

私はまどかに訴えかける

まどかはどんどん光を放ち始め、

あたりの空間が歪み始めていく。

「まどか、だめ!」

まどかに走りよると、槍で前を塞がれる

「いかせねぇぞ、ほむら」

「もう、勝手なマネはさせない」

佐倉杏子と、巴マミが私の前を塞ぐ

「あなた達!どいて、どきなさいっ」

「だめだ!」

佐倉杏子が言い放ち、後ろへと返される

「ぐぅっ」

ゴゴゴゴッ

という音とともに、あたりが揺れ始める

後ろを見ると、インキュベーターと美樹さやかが、こちらに向かって来ていた。

インキュベーターはとても大きくなっていて、

それは、ワルプルギスの夜の再来のようだった。

美樹さやかが、インキュベーターの攻撃をかわしながら、

牽制を入れている様子が目に映った。

インキュベーターはどんどん迫ってくる。

ああ…

ここが…私の最後

もう何も、どうすることもできない

「まど…か…」

あたりの空間が、どんどんねじれて変わっていく

インキュベーターから、黒い煙が湧き出して、私へと向かってくる

それは、どんどん私に近いて

私は、目を……閉じた


……………………………………………

……………………………………………


辺りは光に包まれていた。

黒い『モヤモヤ』としたものも無く、

明るい世界だった。

「ほむらちゃん」

「!?」

声がした方を見ると、そこにはまどかがいた。

「まどか…まどかなの?」

まどかは、にこにこと笑っていた。

「ほむらちゃん。ひさしぶりだね。

私は、ほむらちゃんが魔法少女になる前のこと、知ってるよ。

学校で仲良くしてたことも、

一緒に遊んだりしたことも、ちゃんと覚えてるよ。

それは、とっても、楽しかった」

「まどか…まどかなのね」

私は涙を流していた。

「少しの間だけ、こうしてほむらちゃんを守ってあげる」

https://gyazo.com/10dd9f2656a35f0964ad3a05b6192e0f

>>51

もう、この世界に私の世界が効かなくなってきている←×

もう、この世界に私の力が効かなくなってきている

以下、51の訂正

「来ると思ったさ。

お前、一体何のつもりでこんなことをしたんだ。

今度ばっかしは許さねぇぞ」

「えっ、杏子ちゃん?」

まどかはおどおどしたように、巴マミや佐倉杏子を見る

「離れてろまどか、こいつは、このままにしておいたらいけないんだ」

「鹿目さん。この人の言葉にだまされないで」

2人は武器を構えて私を見る。

「2人とも、記憶を取り戻したのね」

私は後退りした。

もう、この世界に私の力が効かなくなってきている。

51の訂正終わり。

すみません、私語は控えるつもりでしたが、ミスをしたので。

読んでる方、今日は終わります。

乙 誤字も誤字訂正もエクスキューズもバンバンやっちゃって大丈夫

おつおつ
久々だな

「ほむらちゃん。

私がほむらちゃんを迎えに行ったとき、

どうして、私を引き裂くようなことをしたの?」

「ごめんなさい。

私は魔法少女になってから、

何度も何度も同じ時間を繰り返していくうちに、

あなたや、美樹さやか、佐倉杏子、巴マミ、

それから、みんなが何を考えているか分からなくなっていったの

時間を巻き戻すたびに、皆、覚えていたことも忘れて

違う結末を迎えたりして、

そのうち、何が本当の世界なのか分からなくなっていった。

だから、そんな世界のなかで生まれた、円環の理というあなたの存在に、

そのまま導かれていくことが怖くなったの

私は、何か、大切なものを失ってしまう気がしたから」

まどかはじっと、私の話を聞いていた。

「そうか。そうだったんだね

それは、とても辛かったね」

まどかは私を見て言った。

「でも、私は、ほむらちゃんが魔法少女になる前のことも

なって、何度も何度も時間を繰り返したことも

魔女になってしまったことも

そして、私を引き裂いたことも、全部、知ってるよ」

「えっ」

私はまどかを見る

「どうして、知ってるの」

「私が円環の理という存在なれたのは、キュゥべえの力じゃないんだ」

「どういうこと?」

私はまどかに聞いた。

「キュゥべえにも、円環の理になった私を

理解することはできないところがあった。

それは、キュゥべえには無い、人を救おうとする気持ちがあったから。

それは、魔法ではなく、私たちが持つ心だよ」

まどかは言った。


「今、ほむらちゃんの世界は、

魔法でできた世界と、心でできた世界、2つの空間と繋がっている

ほむらちゃんが、私達の世界を思えば、

私は、ほむらちゃんを助けることができるよ」

そう言うと、まどかは少しずつ遠くなっていく

「待って」

私の声も虚しく、まどかはそのまま見えなくなってしまった。

………………………………………

「はっ…」

気がつけば、私は黒い煙に包まれていた。




「はっ


前を見ると、インキュベーターが私の前に迫って来ていた。

「くっ…」

私はインキュベーターを見て、手に力が入った。

「あなたが…あなたが居なければ!」

あなたが居なければ、みんな、魔法少女になることも無かった

皆、魔法少女という義務を課されることもなく

みんなと離れ離れになることも無かった

「くっ!…くっ!…くっ!………」

私は何度もインキュベーターを叩いていた。

「ほむらちゃん」

まどかの声がする

「私達は、心を持った存在なんだよ」

「はっ…」

インキュベーターの声がする

痛い…やめるんだ、ほむら

「インキュベーター。

あなたも心を持つ存在なら、

もう少し、今と変わった生き方ができるんじゃない」

私は目を瞑った。

何度も同じ時間を繰り返したことが、思い出されて来た。

まどかや、皆と離れ離れになることが怖かった。

でも、私は…

私は目を開けて言った。

「私は魔法に囚われることをやめ、

人としての人生を生きようと思う」

空から沢山の金色の矢が降って来た。

頭上を越え、世界を、建物を、次々と壊し、光で包んでいく

私は、キラキラと光るその光景を、じっと見ていた。

https://gyazo.com/149d3b4c443ec1fcc8d05a55ec3306c3


…………………………………………

「はっ…」

気がつくと、私は座っていた

周りには雨が降っていた

振り返ると、大きな建物があって、人がガヤガヤとしていた。

「私は…」

何をしていたのか、少し思い出せなかった。

でも、少しずつ、時間が動き始めているような気がした

私は…

そう…。私は、何が起きたのか分かった。

「私は戻って来たのね」

この嵐が来た日に

みんなは何処だろう

私は避難所であろう建物へと向かった。

「外は大変危険ですので、建物内でも気をつけてください」

係員の人が呼びかけるなか、

私は大きな建物のなかを回った。

行くところ、行くところ、なかなか行き当たりまで辿り着かなかった。

とても広い場所だった。

私はだんだん駆け足になり、

まだ、人が少なく、静かなところも見て回った。

「まどか?」

「美樹さやか?」

「佐倉杏子?」

「巴マミ?」

私はかつて、魔法少女だった、知っている名前を呼んだ。

人がガヤガヤとしているところでは、声もあまり届かず、

私は一旦探すことをやめ、立ち止まった。

「まだ、避難所に着いていないのかしら」

私は、4人を待つことにした。

その日は、4人に会うことはなかった。

次の日も、また次の日も、4人に会うことはなかった。

私は建物内を歩いていた。

少しずつ、嵐はおさまっていた。

外の情報も建物内に入ってくるようになり、私はその話を聞いた。

「建物がほぼ壊滅したんですって」

「やだ~。うちももうダメそうね」

「よく、この建物は無事だったわ」

行く人、行く人の声を聞きながら、私は歩きだす。

町は、沢山の建物が壊れ、

道も崩れているところがあるようだった。

それほどの災害が、外で起きていたようだった。

…どれほどの嵐だったのだろう

私は少し思い返してみた。

思い返せば、様々なことが蘇って来た。


…そう、

あの日はワルプルギスの夜が来ていた。

そして、町は壊滅状態になった。

まどか達も居なくなってしまった。

だから、何度も時間を巻き戻し、そうなることを避けようとしていた。

今の私にはもう、時間を巻き戻す力はない。

ワルプルギスの夜も見えなかった。

私が時間を巻き戻す前は、まどか達が私を庇って助けてくれた。

だからまどかは…

まどかはもう…

私は黙ったまま歩いていた。

堪えていないと、私は涙が溢れてしまいそうだった。

私はとある情報室に向かう。

大災害で死人も出て、

行方不明の人や、死人を纏めた名簿もあった。

情報室の人は、私に尋ねた。

「なんだね」

「名簿をお見せしていただけませんか」

「だめだよ。これは簡単に見せられるものじゃない」

「私の知り合いの安否を確認したいんです」

そう言うと、情報室の人は少し黙っていたが、

やがて、ため息をついて、言った。

「今回だけだよ」

私は名簿に目を通した。

思った以上に、人が多かった。

名前を辿りながら、私は少しずつ、知っている名前を探していく。

「鹿目まどかだから、『か』…」

『お』から始まる苗字が過ぎ、『か』へと移る。

私は少しずつ、目を落としていった。

……………

そして…

死人の名簿欄の、か行のところに、私が知っている名前はあった。

「………」

私はしばらく黙っていたが、他の名前も探し、

私は、他の知っている人の名前を見て回った。

一人、一人、名前は載っていた。

私は名簿を返し、また、人通りの多い方へと足を戻す。

分かっていたことだった。

私が時間を巻き戻したのも、それが原因だったのだから。

その後も、まどかが存在しなくなった世界ではなく、存在する世界を探し、それに辿り着いた。

それは、もともと、私が時間を巻き戻過ごし前の世界であった。

その世界では、まどかが皆の記憶から居なくなることもなく、まどかは存在していた。

でも、

まどかはもう…

私は少し涙を流した。

「まどかはもう…亡くなっているのね」

>>78以下訂正

分かっていたことだった。

私が時間を巻き戻したのも、それが原因だったのだから。

その後も、まどかが存在しなくなった世界ではなく、存在する世界を探し、それに辿り着いた。

それは、もともと、私が時間を巻き戻す前の世界であった。

その世界では、まどかが皆の記憶から居なくなることもなく、まどかは存在していた。

でも、

まどかはもう…

私は少し涙を流した。

「まどかはもう…亡くなっているのね」

訂正終わり

かなしいなあ

スケジュール的な問題もあり、少し間隔が空きました。
3月中には描き終えようと思います。
読んでる方、ありがとうございます。

わたしまつわ

私はしばらくぼぅっとしていた。

周りには人が沢山居て、ガヤガヤとしていた。

まどかも、美樹さやかも、佐倉杏子も、巴マミも、

皆居るけれど、もう亡くなっていた。

こんな世界は嫌だ、嫌だ、と私は思い。

魔法の力に頼って、私は何度も世界をつくりなおした。

でも、結局、この世界がいいと私は思い、

この世界へと帰ってきたのだった。

「魔法ではなく、人として生きる世界…」

それが、私の思った世界だった。

「魔法ではなく、心ある世界」

まどかはそう言っていた。

でも、その心ある世界に、私は戻って来たけれど、

まどか達はもう亡くなっている。

私はこの世界で、いったいどう生きていけばいいのだろう。

私はその日、ずっと黙ったまま生活していた。

まどかや他の人達のことを思うと、ぐっと涙ぐんでいた。

「まどか、やっぱり私はインキュベーターと契約したその日から何も…」

何も変われないかもしれない。

私はどうすればいいのだろう。

夜、私は寝床につき、じっと目を瞑った。

そのまま何もすることなく、私は1日を終えた。


…………………………………………

…………………………………………

目を開けると、あたりは眩しかった。

『サラサラ』と草が揺れていた。

あたりを見渡すと、後ろから、私を呼ぶ声がした。

「ほむらちゃん」

振り返ると、そこにはまどかが居た。

「まど…か?」

まどかは私に手を伸ばすと、にこっと笑った。

「ほむらちゃん。着いて来て」

「はっ…」

私はふっとひっぱられると、そのまま、まどかの後を追う。


一緒に走っていると、まどかはふと、口を開いた。

「ほむらちゃん。私たちの世界の方を思ってくれて、ありがとう。

おかげで、私はほむらちゃんを助けることができたよ」

「まどか?」

そうだった。

私は、私の居た世界で何か眩い光に助けられて、

今ここに居るのだったわ。

私はまどかに聞いた。

「インキュベーターはどうなったの?」

「キュゥべえは、今は私たちの世界にいるよ。

魔法の世界とはお別れして、私たちの世界の住人になった」

「インキュベーターが?」

私はまどかに聞いた。

「少し、インキュベーターの様子を見てもいいかしら?」

「うん。いいよ」

まどかは目を瞑ると、光を放ち、周りの空間が歪んでいく

私も目を瞑り、後を追うように思った。

目を開けると、ある広場に着いた。

噴水があり、キラキラと輝いていた。

あたりを見渡すと、インキュベーターらしきものが、ちらっと歩いているのが見えた。

私は近づいた。

「あなたが…インキュベーター?」

インキュベーターは私を見上げた。

インキュベーターの耳にかかっていた輪っかが無くなり、

普通のウサギのような姿になっていた。

「ほむら…ほむら…なの…かい?」

インキュベーターは少し、ぎこちなく、喋った。

私は返事をした。

「ええ、そうよ」

まどかは言った。

「キュゥべえは、私たちの世界に来たばかりで、まだ戸惑っているところがあるんだ。

この世界は魔法というもので、できているわけではないから」

「そうなのね」

私はインキュベーターに言った。

「インキュベーター。

私が改ざんした世界で、あなたを痛めつけていたことは謝るわ。

この世界の住人になったのなら、よろしくね、インキュベーター」

私はそれだけ言うと、振り返って歩き出した。

思うことはいろいろあった。

許せない…

そう思いそうにもなった。

でも、あなたがそのことを思い改めて、この世界で生きるということを決めたのなら、

また、あなたと話すこともあるかもしれないわね。

まどかの周りが、ぱぁっと明るくなり、また辺りが歪み始める。

ふと、後ろから声がした。

「ほむら……ありがとう」

また、明るい場所へと出ると、歩きながら、まどかは言った。

「魔法の世界というものは、ちょっぴり恐ろしいね。

いろいろと便利なこともあるけれど、

大事なことを見失ってしまいそうになる。

何度も何度も時間を巻き戻すことで、

皆の大事な生活も、何度も何度も改変されて、

皆にもいろいろと迷惑がかかってしまった。

時間もいろいろと散り散りになってしまった。

これは、私の世界でも問題になったんだ」

「そう…なのね」

私は俯いたまま、歩く。

「でも、ほむらちゃんの何とかしようという気持ちは、

私に伝わって、私はほむらちゃんのいる世界に助けに行くことができた。

そして、今は時間も元に戻って、皆、平穏に生活しているよ」


私は言った。

「私は…許されるのかしら。

魔法の力に頼ってしまったせいで、

皆の生活も、何度も何度も繰り返されて、

記憶もいろいろと混乱してしまった。

この記憶は、今の皆のなかで、どうなっているの」

「今は皆、忘れているけれど、

やがて、私達が迎えに行って、この世界に帰ってきたときには、皆、思い出すよ。

その時間や記憶がどう繋がるかは、私にも分からないけれど、皆、無事だと思う」

私は聞いた。

「円環の理になったまどかにも、分からないことがあるの?」

まどかは言う。

「そうか。ほむらちゃんはまだ、皆とお別れした世界に居たね。

前も言ったけれど、私が円環の理という存在になれたのは、キュゥべえの力ではなかった。

キュゥべえにも、私のことについて、理解できないところがあった。

それは、私達の心に繋がっている、とっても大きな力が私に働いたからなんだ。

この世界は、大きな存在が、私達を見守ってくださっているんだ」

まどかは私の手を掴んで、走り出す。

「まどか?」

「さやかちゃんも、杏子ちゃんも、マミさんも、

そのうち、この世界に来る。

でも、ほむらちゃん。

ほむらちゃんは、ワルプルギスの夜が来た日、私達が助けたから、私達とお別れした世界にいる。

ほむらちゃん、これだけは覚えていて。

魔法の世界は、私達が住む心の世界の裏側にある。

でも、ほむらちゃんが心の世界を思うなら、

私はほむらちゃんを助けられるから」

「まど…か?」

まどかはにこっと笑った。

「ほむらちゃん。

辛いこともあるかもしれないけれど、がんばってね。

私達は見守っているから。

そうしたら、また、いつか会おうね」

また、いつか…

私は気がつけば笑っていた。

私は、まどかと一緒に居るような気がしたから。

だから、私はまどかを見て言うのだった。

「ええ、いつかまた、会いましょう」

https://gyazo.com/ec62453bb180441fb058408d7f38ae52





辺りはだんだんと眩しくなっていった。

それとともに、私の意識も遠くなっていった。

……………………………………………

……………………………………………

「はっ」

目が覚めると、日差しが額を照らしていた。

小鳥がチュンチュンと鳴いていた。

私は、布団から起き、カーテンを開け、外を見た。

外は明るかった。

建物は崩れていたけれど、

周りを見渡すと、人がたくさん居るなかに、

学び舎で見たことがある人も、ちらほらと居た。

「おはよ~」

という声が周りで聞こえた。

近所の人や、町の人がいろいろと話をしていた。

町を復興しようという話も上がっていた。

まどかは亡くなっていたけれど、

私は外を見上げて、言った。

「ありがとう、まどか…私、頑張るわ。

残り数十年の命、大切に生きようと思う」

おつおつ
楽しい自分の道を見つけて欲しいな

この学び舎には、巴マミもいるけれど、

巴マミは年代が違うので、同じクラスではなく、違うクラスで生活している。

でも、巴マミもなぜか、放課後の帰り道に、

どことなく知り合ったように話をするようになり、

いつも一緒に話をするわけではないけれど、

クラス外では、昼休みなどに5人で集まったりもするようになった。


ピッピーーーッ!

ゴールのホイッスルが鳴り、

みんな、「やったー!」と言った。

「ナイスシュートだったよ、さやかちゃん」

「やったな、さやか」

「えっへへ。みんなありがと」

まどかがふと私を見る。

「ほむらちゃんも、ナイスパスだったよ」

「えっ そ、そう?」

私もそれとなく輪の中へと走っていった。

つづくのか期待

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom