――おしゃれなカフェ――
高森藍子「加蓮ちゃん」
北条加蓮「ん?」
藍子「左手と右手、どちらかの手の中に、加蓮ちゃんへのプレゼントを入れました」
藍子「勝負ですっ。加蓮ちゃん、当ててみてください!」
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レンアイカフェテラスシリーズ第74話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「写真日和のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「物静かなカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「2人きりのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「しっとり雨模様のカフェで」
加蓮「え、急にどしたの?」
藍子「む~」
加蓮「……」
藍子「む~~」ジー
加蓮「……。ふぅん? 藍子にしては珍しいね。勝負だ! って言い出すなんて。なんかあったの?」
藍子「う~ん。何か、って言うほどではありませんよ? ただ……」
藍子「ほら、この前カフェでご一緒した時に、私の隠し事が、加蓮ちゃんによって簡単に暴かれちゃったじゃないですか」
加蓮「"自分のことをどう思うか"インタビュー的な企画のヤツだよね」
藍子「はい、そうです」
加蓮「そういえばあれ、上手くいったの? 番組とかラジオはチェックしてるつもりだけど、どっかで発表した?」
藍子「ううん、まだです。なんだか、色んな方によって私の印象って違っているみたいで……」
加蓮「へー。ゆるふわだけじゃないんだ」
藍子「ゆるふわだけれど、ゆるふわだけじゃありませんもんっ」
加蓮「ふふっ、ごめんごめん」
藍子「インタビュー結果をモバP(以下「P」)さんに見せたら、ちょっぴり困った顔で、でも、なんだかとっても楽しそうに考えてましたっ」
藍子「どういう風に発表してもらえるのか、私も楽しみなんです」
加蓮「そっか。楽しみだね」
藍子「はいっ。……って言っても、ちょっぴり緊張してしまいますけれどね」
加蓮「Pさんならきっといいようにやってくれるって。……っていうか、それなら失敗したなぁ」
藍子「失敗?」
加蓮「どうせPさんの手にかかればいいとこ探しみたいになっちゃうもん。もうちょっと私がボロカスに言っとけばよかったなー、って」
藍子「…………」
加蓮「あははっ、冗談だから握った手をそのまま前に突き出そうとするのやめよ?」
藍子「む~」
加蓮「さて、話が逸れそうになったけど二者択一ゲームだよね。勝負かー……」
藍子「はい。勝負ですっ」
加蓮「私が勝ったら、そのプレゼントを私にくれるってことなんだね」
藍子「え? ううんっ。加蓮ちゃんが勝っても私が勝っても、これは加蓮ちゃんへのプレゼントですから」
藍子「……、」チラ
加蓮「えー。景品がないと燃えないじゃん。じゃあ、勝ったらもう1つくらい何かくれる?」
藍子「はい。いいですよ。じゃあ、私が勝ったら……そうですね~」
藍子「……か、加蓮ちゃんには、私の家に、1週間くらい泊まりにきてもらおうかなっ」
加蓮「……っ!?」
加蓮「なっ……! アンタまだ私を監禁したいの!?」
藍子「だっ、だから監禁って言い方やめてくださいよ! ちょっと美味しいご飯を食べてもらって、あったかいお風呂に入って、お布団でのんびりしてもらうだけです!」
加蓮「そうやってゆるふわ沼に沈めようとして!」
藍子「ゆるふわ沼!?」
加蓮「これは絶対に負けられない……! ちょっと席外していい? 気分入れ替えたいし」
藍子「いいですよ。早めに戻ってきてくださいねっ」
加蓮「ん」ガタッ
<てくてく...
藍子「……本当に本気の目でした。うぅ、もう自信なくしそう……」
藍子「でも、これで勝ったら、加蓮ちゃんが1週間私の家に来てくれるから……」
藍子「……よ~しっ」
……。
…………。
加蓮「ただいま」
藍子「おかえりなさい。コーヒー、注文しておきましたよ。お砂糖は入れますか?」
加蓮「ううん。今日はブラックで。……確認するけど、時間制限は?」
藍子「では、1時間ってことにしましょう。1時間経ったら、加蓮ちゃんはどっちかを選んでください。あっ、1時間以内に選んでもいいですからね」
加蓮「オッケー」
藍子「まずは、コーヒーをどうぞっ」
加蓮「サンキュ……って、藍子の分は?」
藍子「手が塞がっていますから、飲めませんよ」
加蓮「それもそっか……」ズズ
加蓮「……ところでプレゼントって何?」
藍子「それは……ナイショです」
藍子「そうだっ。もし、それを当てることもできたら……できたら、う~んと……」チラ
藍子「さらに追加で、何か景品をプレゼントしちゃいますっ。何を、っていうのは今は思いつきませんけれど……」
加蓮「オッケー。さすがに難問だけどなんか燃えて来たね。私からの質問はアリなんでしょ?」
藍子「もちろんですっ。それも含めての、勝負ですから」
加蓮「分かってるじゃん。あーでも無制限だと加蓮ちゃんに有利すぎちゃうかなー?」
藍子「そ、そんなことはないと思いますよ~?」
加蓮「あははっ。ま、こういうのは回数制限があった方が緊張感も出るでしょ。何回にしよっか」
藍子「それなら、3回っ。隠している物についての質問は、3回までならオッケーってことにしますっ」
加蓮「3回だね。……それにしても随分本格的なルールになって来たね。クイズコーナーでも作るつもりなの?」
藍子「バラエティで、そういうコーナーがあってもいいかもしれませんね。私じゃ勝てなさそうですけれど……」
加蓮「その時は私が鍛えてあげる。超スパルタでね」
藍子「超スパルタ……。な、なんだかどんなことをされるのか、怖いけれど、ちょっぴり興味もあるような……?」
加蓮「そうだねー。1回負けるごとに、藍子が泣き叫ぶまでくすぐり続けるとか?」
藍子「っ!?」
加蓮「……青い顔してさーっと退かなくてもいいでしょ……。こっちから見てると背もたれに身体をこすりつけてるヤバイ奴になってるわよアンタ……」
藍子「ご、ごほん。加蓮ちゃん。質問はしなくていいんですか?」
加蓮「攻めるねー。じゃあ質問その1。藍子が用意した物は、掌に収まるサイズの物?」
藍子「……? まあ、てのひらに入れているので、収まるとは思いますけれど……」
加蓮「あ、違う違う。なんていうかな。例えば当たりの方に"正解! 景品は店員さんが持ってきてくれるよ!"みたいなこと書いてるくじがあって……とか、そういうパターンかなって」
藍子「そういうことだったんですね。それなら、間違えなくてのひらに収まる物ですっ」
加蓮「オッケー。ってことは結構限られるなぁ……。ネイルの道具でも入りそうにないし。いやオイルとかならいけるかな」
加蓮「違う物で私の好きな物……。ファッション系? ポテト、は無理だし。バッジみたいなの……? それか――」
藍子「か、加蓮ちゃん。このゲームは、"左右どっちの手に、当たりが入っているのかを当てるクイズ"ですよ」
藍子「中身を当てるのは、いわゆるオマケです。まずは、当たりが入っている手を予想してくださいっ」
加蓮「ん? ん。じゃあ右手――」
藍子「ふぇっ?」
加蓮「は、藍子の利き手だよねー」
藍子「……そ、そうですね」
加蓮「私の予想だと、左手――」
藍子「ふぇっ?」
加蓮「に隠す時って、視線誘導が雑になるって話、どこかで聞いたことがあるなぁ。ううん、利き手じゃない方に隠した場合だったかな?」
藍子「そ、そうなんですか?」
加蓮「実は両手ともハズレで正解はテーブルの下――」
藍子「……加蓮ちゃん。私で遊んでいませんか?」ジトー
加蓮「藍子だって私で弄んでるじゃん。悩む加蓮ちゃんを見てニヤニヤしてるくせにー」
藍子「に、にやにやまではしていませんっ」
加蓮「ふふっ。……うーん」
>11 下から3行目の加蓮のセリフを一部修正させてください。
誤:加蓮「違う物で私の好きな物……。
正:加蓮「違う物でプレゼント……。
藍子「じ~」
加蓮「んー……」
藍子「じ~~」
加蓮「んん……」
藍子「……」チラ
加蓮「こういう中身当てクイズで思い出すのは、やっぱり裕子ちゃんかなぁ」
藍子「裕子ちゃん?」
加蓮「ESPカード? だっけ。ほら、色んなマークがついてるカード」
藍子「○と+と、波線と、あとは☆と……□だったかな……?」
加蓮「そうそう。裏にしてマーク当てるのさ、たまーに事務所で流行るよね」
藍子「流行りますよね。この前は、由愛ちゃんとありすちゃんが挑んでいましたよ」
加蓮「由愛ちゃんはともかくありすが乗るのは意外だなぁ。結構負けず嫌いなのは知ってるけど」
加蓮「で、結果は?」
藍子「それが……。2人とも、当てることができなくて、だけど裕子ちゃんも当てることができなかったんです」
加蓮「ふうん。やっぱり超能力とかって簡単には身につかないのかなー」
藍子「そうじゃないんです……。加蓮ちゃん、よく考えてみてください」
加蓮「うん?」
藍子「カードを混ぜて、裏側にして置いたのは、裕子ちゃんなんです」
加蓮「うん」
藍子「その裕子ちゃんも、カードの絵柄を言い当てることができなかったんです。1つも」
加蓮「……1つも?」
藍子「1つも」
加蓮「置いた本人なのに?」
藍子「置いた本人なのに」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」チラ
加蓮「……ところで藍子。正解は右手でしょ」
藍子「……」
加蓮「ちょっとは動じなさいよっ。大根役者でも反応くらいはするでしょ!」
藍子「それなら……わ、わぁ~。さすが加蓮ちゃんですね~?」
加蓮「……、」ゲシ
藍子「いたいっ。蹴らないでくださいっ。口でのバトル以外の行動は、ダメですっ」
加蓮「だってなんかムカついたし」
加蓮「んー……。じゃあさ藍子。質問の2回目を使うってことにしていいから、1つリクエストしていい?」
藍子「はい、いいですよ。……でも内容によりますからね?」
加蓮「大丈夫。簡単なことだし」
加蓮「藍子。"今から10秒考える時間をあげるから、自分のどっちかの手を見て"?」
藍子「……さすが加蓮ちゃんですね。そんな方法があるなんて、思いつきもしませんでした」
加蓮「せっかくだから後ろを向いてカウントしてあげる。いーち、にー」クルッ
藍子「わわっ……!」
加蓮「さーん、しー、ご――」
……。
…………。
加蓮「……じゅう。さて藍子はどっちを見たかな?」クルッ
藍子「…………、」ジー
加蓮「左手かぁ……。ん、もういいよ。好きなところを見なさい」
藍子「は~い」ジー
加蓮「……私をじっと見られても困るんだけど」
藍子「じ~」
加蓮「聞いてないし」
藍子「質問は、あと1回だけですからね~?」
加蓮「オッケー。ところで藍子、せっかくカフェにいるんだし何か食べない?」
藍子「お腹、すいたんですか?」
加蓮「ちょっとはね。メニュー取ってー」
藍子「はいっ――……」ジトー
加蓮「駄目か」
藍子「ダメです」
加蓮「食べたり飲んでる間はノーカンにしよっか。藍子だって喉乾くでしょ?」
加蓮「ほら、私に見えないように、藍子の膝の両方に、こういう感じで手をついてさ」ペタ
加蓮「私はそこを絶対覗き込まない。飲み終わったら、また藍子は同じ手に隠して、両手をテーブルの上に置く。こうすれば藍子も飲めるでしょ?」
藍子「ナイスアイディアですね。私は、もちろんオッケーですよ」
加蓮「何飲もっか。メニューメニュー」テヲノバス
藍子「じゃあ、私は今のうちに、膝の隣に隠して――」スッ
加蓮「新しいメニューはないかー。じゃあ、いつも通りに――」チラ
加蓮「……ふうん。左側を一瞬見るんだ。さっきも左手を見てたよね」
藍子「ふぇっ!? ……かっ、加蓮ちゃんずるいっ!」
加蓮「くくくっ。加蓮ちゃん相手に一瞬でも気を抜く藍子が悪い」
藍子「む~っ」
加蓮「藍子はどうする? ココアとかにする?」
藍子「……勝負してたらちょっぴり疲れちゃいました。ココアにしますね」
加蓮「じゃ私もココアにしよっと。それといつものサンドイッチで。すみませーんっ」
……。
…………。
「「ごちそうさまでした。」」
藍子「はい、加蓮ちゃん。勝負の続きですっ」スッ
加蓮「ふふっ。ホントやる気だね、藍子」
藍子「もちろんですよ! この前の時は、本当に悔しかったですもん……。それに……」
加蓮「それに?」
藍子「いつも、私が加蓮ちゃんの考えていることを言い当てて……ときどきは、加蓮ちゃんが何を考えているのか、分からないことだってありますけれど……」
藍子「その度に、加蓮ちゃん、悔しそうだったり、照れ隠しで蹴ってきたりして」
藍子「でも、そういう時の加蓮ちゃん、嬉しそうだったから――」
藍子「今日は、私の考えてること……私が隠した手の内を、加蓮ちゃんに見破ってほしいなって」
藍子「ふふ。これだけだと、なんだか私が負けたくて勝負しているみたいですね。でも、今回は本当に本気ですからっ。負けませんよ~?」
加蓮「……ホント意外。じゃあ、もうひと勝負しよっか」
藍子「はいっ!」
加蓮「ところで誰が照れ隠しで蹴ってるって?」ゲシ
藍子「いたいっ。今蹴ってるのと同じお話です!」
加蓮「だーれが照れ隠しだってー?」ゲシゲシ
藍子「つま先でぐりぐりしないで~っ」
加蓮「ったく。……じゃあ、こういうのはどう?」スッ
藍子「わ……」
加蓮「藍子。今、私がそっと握った藍子の右手……握るだけじゃ、さすがに分かんないけど」ジー
藍子「……、」ドキドキ
加蓮「ねえ。こっちが正解? それとも、不正解?」
藍子「……どうでしょうね。正解だと思うなら、こっちが正解だと思うっ、って、はっきり言ってくださいね」
加蓮「分かった。そうするね」スッ
加蓮「……隙見せないなぁ」
藍子「ふぅ。どきどきした……」ボソ
加蓮「ところで今日って藍子はいつ頃からここにいるの? メッセージ飛ばした時にはまだ家だったよね?」
藍子「ううん、あの時は外にいました。休日で、レッスンの予定もお仕事のスケジュールも入っていなかったから、いつもの公園をお散歩していて……」
加蓮「それからここに来たんだ」
藍子「はい。ここに座って、この前のことを思い出して、そして、やってみよう! って……」
加蓮「……? あれ? じゃあ、藍子の持ってきた私の好きな何かって、もともとクイズ用に用意した訳じゃないってこと?」
藍子「そうですよ。クイズの景品にしちゃおうって思いついたのは、ここに来てからですから」
加蓮「ふーん……。じゃあ、」
加蓮「……」
加蓮「…………」ンー
藍子「……? じゃあ……何ですか?」
加蓮「……んー」
藍子「焦らさないでくださいよ。そこまで言われると、何を言おうとしたのか気になってしまいます」
加蓮「……」チラ
藍子「……?」
藍子「……」
藍子「……」ジー
加蓮「……じゃあそれって何の為に用意してたの? 私にプレゼントしてくれるとしても、何の記念日でもないよ?」
藍子「確かに、記念日ではありませんね。この前、雑貨屋に見つけた時、そのかっ――……っ!」
加蓮「……くくっ」
藍子「……」ギロ
加蓮「睨んでも怖くないわよー。そっかそっか。なるほどなるほど」
藍子「とっ……とにかく、この前お仕事で訪れた雑貨屋で見つけた物が加蓮ちゃんに似合うと思って、今日渡そうって思ったから持ってきましたっ!」
加蓮「そっか。まだ答えは分かんないけど、さんきゅ。今度お礼に藍子に合う夏コーデなんかを探しておいてあげるね」
藍子「……ありがとうございます、加蓮ちゃん」
加蓮「質問ラスト。これもリクエストになるのかな? "藍子の思いつく「か」から始まる単語を言って"?」
藍子「加蓮ちゃんっ!!」
加蓮「ほらほらー」ニヤニヤ
藍子「ですから、思いついた"「か」から始まる単語"が"加蓮ちゃん"ですっ!」
加蓮「……うっわそー来る。え、それはズルくない?」
藍子「それだけは加蓮ちゃんに言われたくありませんっ」
加蓮「まーね」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「…………」ジー
加蓮「…………んー」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……もう、55分も経ったんですね」
加蓮「ふふっ、そうみたい。藍子と話してるとすぐ時間が経つけど、今日はいつも以上だよ」
藍子「私もですっ」
加蓮「……色々仕掛けてみたけど駄目だなー。もうこれ言うの何回目になるのかな。藍子、ホント手強いね」
藍子「……そんなこと、ありませんよ。私からすれば、ずっと加蓮ちゃんのてのひらの上で踊っちゃった感じでした」
藍子「それに……」
藍子「こういう勝負、今までにも何回かしてきましたよね」
加蓮「そうだね。"秋染め"の時と、藍子の誕生日の時と――」
藍子「やっぱり、加蓮ちゃんは強いですよ。私、ぜんぜん勝てませんもん」
加蓮「……藍子の誕生日の時って、私すごい惨敗した覚えがあるんだけど」
藍子「あれは加蓮ちゃんのことだから! ……って、言い張りたいんですけれど、偶然でもあるんです」
藍子「たまたま、加蓮ちゃんの考えていることに、ぴたっと当てはまった感覚があって……」
加蓮「それでも勝ちは勝ちでしょ。私が言うのも何だけど、こういう話で私に勝てたって、もうちょっと胸張っていいと思うよ?」
藍子「……そうでしょうか?」
加蓮「そうです。何ならライバルに勝ったってことにすればいいんだし。ほら、私も藍子もアイドルでしょ?」
藍子「……、」
加蓮「ま――」
加蓮「そんなこと言いふらせるのは、もっと駆け引きが上手くなってから……だけどねっ!」ガシ
藍子「……っ!?」
加蓮「藍子ー? 正解はこっち、藍子から見て右側の手。でしょ?」
藍子「なんで……っ!」
加蓮「ふふ。藍子、色んな仕込みをして、一貫して演じたのはなかなかだと思うよ」
加蓮「私が手を見てって言った時も左手。ココアを飲む時、膝の横に置いた手を見る時も左手」
加蓮「おかしいと思わない? "手を見て"って言った時、不正解の左手を見るのは分かるよ。
だってそれは演技しろって言われて演じた結果だし、そういう時に正解の方を見れる人ってほとんどいないもんね。
グーを出すって言った人に、パーを出せる人がすごく少ないのと同じで」
加蓮「でも、膝の横に手を置いた時。あれは演技をしてない動作――もっと言えば、素が出なければいけなかった時の出来事だよね」
加蓮「演技をしている時と、素が出なければいけなかった時。両方同じ方を見たってことは――
"演技を全くしていない"か、"ずっと演じ続けている"か」
加蓮「藍子はものすごく張り切ってたよね。この勝負に。だったら勝負の最中も張り切るよね。藍子ってそういう子だもん」
加蓮「つまり左手を見続けていたのは全部演技。それに――」
加蓮「人ってね、肩に力を入れ続けていると、他のところが疎かになっちゃうんだよ」スッ
加蓮「ねー、藍子。どうして、左手に比べて右手だけぎゅっと力を込めて握ってるのかなー?」
藍子「あっ……!」
加蓮「あと、隠してる物って"髪飾り"でしょ」
藍子「!!??」
加蓮「さっきから私の髪をちらちら見すぎ。どういう髪型にして遊んでやろっかなー、って考えてるんでしょ」
藍子「遊ぶとまでは考えてないですっ――って!」
加蓮「うんそーだね。うんうん。どういう髪型にするかまでは考えてるんだね」
藍子「…………」
加蓮「……うん、ちょうど1時間経ったね」
加蓮「藍子。隠しているのは、藍子から見て右手側。隠している物は髪飾り。これで合ってる?」
藍子「……、」
藍子「正解ですっ。うぅ~……」バッ
加蓮「わ、ちっちゃい星の髪飾り。くくる用っていうよりワンポイントアクセサリだね」
加蓮「あははっ、藍子、ちゃんとビニール袋に入れて持ってたんだ」
藍子「……手汗がついちゃダメですもん。うぅ~……」
加蓮「悔しい?」
藍子「悔しいです。……いつもより、ずっと」
加蓮「超スパルタトレーニング、やっとく?」
藍子「それはイヤですっ」
加蓮「ふふっ」
藍子「う~……。絶対に勝って、加蓮ちゃんとお泊まり会しようって気合を入れたのに~……」
加蓮「……監禁しないなら考えてあげるから。それか私の家に来ればいいじゃないの。私は閉じ込めたりしないわよ」
藍子「たまには私の家に来てほしかったんですっ」
加蓮「そ……」
□ ■ □ ■ □
加蓮「あむあむ……」
藍子「もぐもぐ……」
加蓮「……んっ。疲れた時に食べるパフェって美味しいねー」
藍子「……もぐもぐ」
加蓮「パフェ、結局量は元に戻っちゃったんだね」
藍子「……、」ゴクン
藍子「そうみたいですね。前のは、美味しかったけれど、量がちょっと多くて食べるのが大変でしたから……。私は、これくらいがいいな~」
加蓮「やっぱりちょっと食べたいって女子が多かったのかな」
藍子「もしかしたら、量を少なくしてほしいっ、ってご意見があったのかもしれません」
加蓮「店員がこれ持ってくる時、ちょっとだけしょぼんって顔してなかった?」
藍子「そうでしたか? 気づきませんでした」
加蓮「ま、してた気がするってレベルだけどね」
藍子「もぐもぐ……。ん~♪ 美味しいっ。ふんわりとした生クリームと、ちょっぴりビターな感じのあるチョコが、いい感じにミックスしてますっ」
加蓮「む。なら私も藍子に対抗して」モグ
加蓮「えーと、このフルーツパフェは……」モグモグ
加蓮「……美味しいです」ゴクン
藍子「良かったですね、加蓮ちゃんっ」
加蓮「何それー。うまいこと言えなかった私への嫌味?」
藍子「えっ、違います! フルーツパフェが美味しくてよかったねって意味で――」
加蓮「ふふっ。分かってる分かってる。……ごちそうさまでしたっと」パン
加蓮「藍子は、うん。まだ半分しか食べ終わってないね」
藍子「あはは……。急いで食べなきゃっ」
加蓮「いーよ。のんびり食べなさい」
藍子「……それなら、お言葉に甘えて」モグモグ
加蓮「……」フキフキ
加蓮「……うぁー、疲れたっ」
藍子「?」
加蓮「ううん。ほら、私結構ドヤ顔して正解を当てれたけどさ。あれ結構不安だったんだよねー」
藍子「え……? あんなに全部ピッタリ当たっていたのに?」
加蓮「演技してる=緊張して強張ってる、って言うなら、力がこもってるのも不自然じゃないし」
加蓮「あと、藍子って優しいから、私への……っていうより誰かのプレゼントを入れてる側の手は、頑張って力を抜いてるかも……とか思っちゃったんだよね」
加蓮「まぁビニール袋に入れてたみたいだから、それは考え過ぎだった訳だけどさ」ガサゴソ
加蓮「“か”から始まる物だって、“簪”って可能性もあったんだよね」
加蓮「まぁ、藍子は張り切ってたけど、左手の演技以外は騙しに来てたって風に見えなかったから、そこまでひねってはないかな? って予想したけど――」
加蓮「……どう? 似合う?」
藍子「……」モグモグゴクン
藍子「すごく似合いますっ。あ……でも、今の大人っぽい髪型の加蓮ちゃんには、ほんの少し、可愛すぎるかもしれませんね」
加蓮「だよねー。また晴れた日に色々試してみよっか」
藍子「はいっ」
加蓮「クイズかー……。こんなにガチな勝負って、そこまでしたことなかったなぁ」
藍子「……?」モグモグ
加蓮「クイズはあるけどガチなのはね。テレビとかはどうしても台本入るでしょ?」
加蓮「入らないガチっぽいヤツでも、相手が目に見えて手加減してるっていうか、コーナーがちゃんと進行するように誘導してたりするし……」
藍子「あ~……」
加蓮「アイドル以外は……。高校のクラスメイトは、最近あまり話してないの。喧嘩した訳でもないけどさ」
加蓮「もっと小さい頃は――」
加蓮「うん。やっぱり、周りの大人が手加減してたと思う」
加蓮「……手加減っていうより、あれ最早ご機嫌取りっていうレベルだったからね」
藍子「……みなさん、加蓮ちゃんに気を遣っちゃってたんでしょうね」
加蓮「面倒くさいよね。気を遣わせる私も面倒な子供だったんだろーけど」
加蓮「あ、でも1人だけいたなぁ。ごっこ遊びの勝負には全然参加しないのに、ガチになったら立ちはだかってきて、しかも全部私を叩きのめす人」
藍子「そんな方が――あっ、もしかして」
加蓮「そ。前に……サンタさんやった時、私とやり取りしてた看護師の人」
藍子「加蓮ちゃんと、一番仲良しって感じの人でした」
加蓮「仲良しなんてとんでもないわよ! 私が脱走しようとする度に、しかも後一歩ってところでいつも立ち塞がるし! 自分が出れない時は他の人に言伝してさ! どーやっても勝てなくて!」
藍子「……まず、脱走しようとする加蓮ちゃんが悪かったんじゃ」
加蓮「何もしてないのに牢屋に閉じ込められたら藍子だって脱出しようとするでしょ!?」
藍子「あ、あはは……」
加蓮「っと……。あの人とも1回勝負してみたいなぁ。今やっても……ちょっと、まだ勝てる気はしないけど。でもいいところまでは持っていける気がするんだよね」
藍子「…………」モグモグ
藍子「ごちそうさまでした」
加蓮「ごちそうさまでしたっ」
藍子「あっ、店員さん――」
加蓮「ごちそうさま、って言うと来てくれるんだよね。なんだかメイドさんみたいー♪」
藍子「……執事さんの方に憧れてる、んですか?」
加蓮「へー。藍子ー」
藍子「やりませんからね……」
加蓮「ケチ。メイドやったんだから執事だっていいでしょ」
藍子「そうじゃないと思います……。店員さん、空皿ありがとうございますっ」
加蓮「……? なんか早足だねあの人。でも慌ててる感じはないし。なんだろ……?」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「ん?」
藍子「また、やりましょうね。2択当てクイズ。次こそは、私が勝っちゃいますっ」
加蓮「あははっ、100年早いわよ。おばあちゃんになってから来なさい」
藍子「……おばあちゃんになるまで勝負していたら、疲れちゃいそうな」アハハ
藍子「それなら、いつもはのんびりして、ときどき勝負! それくらいにしませんか?」
加蓮「はいはい。仕方ないから付き合ってあげるわよ。……パフェ食べたら苦いコーヒー飲みたくなっちゃった。藍子はどうする?」
藍子「じゃあ、私も頂きますね。すみませ~んっ」
【おしまい】
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