黒森峰生徒「それでさぁ」ワーワーキャーキャー
まほ「ん? お前たち何を話している?」
エリカ「あ、隊長。最近流行りのオンラインゲームについて話してたんです」
まほ「オンラインゲームか……確かパソコンを使って遊ぶゲームだったか……あまり詳しくは知らないが」
エリカ「はい! そうです。新しくできたガルパンオンラインが面白くってそれで友達と盛り上がっていたんですよ」
まほ「そ、そうか……そんなに人気なのか」
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エリカ「多分黒森峰の生徒ならほとんどの人が名前ぐらいは知ってるんじゃないかと」
まほ(私は今日初めて聞いたんだが)
まほ(いやそれも仕方のない話なのかも知れないな)
まほ(黒森峰の隊長として今まで威厳のある態度で隊員たちに接して来た)
まほ(そのおかげで確固たる団結力やスムーズな隊列などは組めるようになったが)
まほ(その代償として隊員たちには少し怖がられてしまっている)
まほ(現に私が話しかけた途端に隊員たちは緊張した面持ちになっているし)
まほ(気軽に話しかけてくれるのなんて小梅やエリカぐらいのものだ)
まほ(ここはエリカのいうオンラインゲームとやらで親睦を深めたほうがいいのかもしれない)
まほ「そうか。私はパソコンと言えば精々作戦の資料作成に使うものだと考えていたが」
まほ「そういった楽しみ方もあるんだな」
まほ「よければそのゲームについて詳しく教えてくれないか」
まほ「私もやってみたくなった」
エリカ「え、ええ! 私でよければ任せてください!」ドーン
まほルーム
まほ「これがガルパンオンラインか……」
まほ「えーっと確かエリカの言う話だとアカウント登録をして……」カチカチ
まほ「えっとニックネームか……ニックネームはまほまほで良いだろう」カチカチ
まほ「アバターの見た目は少し可愛い感じで」
まほ「ふふっ……完璧だな」
まほ「あとは村を出てモンスターを倒して素材やお金を集めて装備品や装飾品を作る普通のRPGゲームだとエリカは言っていたが」
まほ「私はそもそも普通のRPGをやったことがないからよく分からないな」
まほ「まあ子供でも出来るゲームみたいだしそう難しく考える必要もないだろう」
まほ「お……早速モンスターが現れたな」カチカチ
まほ「これをコマンド選択して倒すんだな」カチカチ
まほ「よ、よし倒したぞ!」
\おめでとう!/ \レベルアップ!/
まほ「わ、わわっ……なんだ?」
まほ「凄い演出と共にステータスが上がったぞ」
まほ「そうかこれがレベルアップってヤツなんだな」
まほ「…………」
まほ「意外と楽しいな……これ」
まほ「今日の訓練はこれで終了とする」
エリカ&小梅「え!?」
エリカ「あ、あのお言葉ですが今日は何だかいつもより終わりのが早いような……」
小梅「いつもは戦車道の時間が終わっても遅くまで訓練していたのに……珍しいですね」
まほ「たまにはこういう日があってもいいと思ってな」
まほ(正直戦車道より早く家に帰ってゲームをやりたいからな)
小梅「そうですね。今日一日ぐらいはいいのかも」
まほ「ところでエリカ。昨日言っていたガルパンオンラインについてだが」
エリカ「あ、どうでしたか? 気に入ってくれたのなら良かったんですけど」
まほ「なかなか面白かったよ。ところでエリカはどこまで進んでいるんだ」
エリカ「私は六章の太陽の遺跡で止まってますね」
まほ(六章……当然と言えば当然だがやはりエリカの方が先に進んでいるな)
まほ「ちなみにレベルは?」
エリカ「127ですね。装備は全部伝説扱で揃えてます」
まほ「でんせつきゅう? 装備は揃えた方が強いのか?」
エリカ「揃えることでボナースステータスが付与されますしスキルコンビネーションも組めますから」
まほ「……ええっとボーナスステータスとスキルコンビネーション?
エリカ「あー……あとで攻略サイトのURL送っておきますね」
まほ「ああ頼む」
まほ「それでは私は自室で休むことにするよ」
まほ「ああそれと……エリカは早急に攻略サイトのURLを送るように」
エリカ「は、はい!」
小梅「エリカさん……隊長が今日早めに訓練を終わらせたのって……」
エリカ「さ、さすがにそれはないでしょ」
エリカ「あの隊長よ? ちゃんと遊びと訓練の程度は弁えているはずよ」
小梅「ははは……ですよね」
まほルーム
まほ「さてURLは……あったあった」
まほ「あとはこれで情報を調べて……」カチカチ
まほ「…………なるほど」カチカチ
まほ「そういえばエリカはレベルは127で六章まで進んでいると言っていたな」
まほ「私も隊長として負けてはいられないな」
まほ「西住流に撤退はない。絶対にエリカを越えてやるぞ」カチカチ
朝
\おめでとう!/ \レベルアップ!/
まほ「これで43……か」
まほ「時間は……もう9時じゃないか!」
まほ「早く準備しなければ学校に遅れてしまう」
まほ「とりあえず一旦ゲームを終了して……」
緊急クエスト発生! 緊急クエスト発生!
まほ「…………」
一週間後
小梅「あの……今日も隊長は……」
エリカ「休み……みたいね」
エリカ「今は副隊長である私が指示してるけどさすがにずっとこのままってわけにはいかないわ」
小梅「一応何度か部屋に訪ねているんですけどね」
小梅「全然……反応なくて」
エリカ「……はぁ。もしかして隊長が引きこもりになったのって私のせいなんじゃ」
小梅「ま、まだそうと決まったわけじゃ」
エリカ「それがね……隊長と直接は会ってないけど……ゲーム内では会ってるのよ」
小梅「えっ……でもゲームのキャラはニックネームだし誰か分からないんじゃ」
エリカ「まほまほ……一週間前に突如として現れて上位ギルドに入った伝説のプレイヤーよ」
エリカ「この独特のネームと隊長がゲームをやり始めた時期」
エリカ「この二つを重ね合わせれば彼女が隊長だってことはほぼ間違いないでしょうね」
小梅「でもまほまほって……さすがにそのまま過ぎる気もしますけど」
小梅「とにかく隊長に直接会ってみないと詳しい話は分かりません」
エリカ「でも何度声を掛けても部屋から出てくれないわ」
エリカ「それどころかイヤホンでもしているのか全く返事もしてくれないし」
小梅「ふふふ……と思ってちゃんと用意してきました! 合鍵です!」ジャーン
エリカ「あ、合鍵って」
小梅「寮の管理人さんに友達が心配だからって言ったら貰うことが出来ました!」
小梅「単にゲームをしているだけなら良いですけど」
小梅「もし何かの病気で動けない状態だと大変ですから」
エリカ「アンタって大人しそうに見えて意外と行動力があるのね」
小梅「そんな私なんて……ただみほさんだったらこうするだろうなぁってそう思っただけです」
エリカ「はぁ……小梅はあの子を過大評価しすぎなのよ」
エリカ「ま、いいけど」
小梅「それじゃ隊長の部屋に尋ねてみましょう!」
まほルーム
小梅「隊長! 私です! 聞こえてますか!」
エリカ「…………」
小梅「…………」
エリカ「分かってはいたけど応答なしね」
小梅「隊長の部屋を無断でというのも気が引けますが仕方ありません」
小梅「無事ならそれで良し一緒に起こられちゃいましょう!」カチャ
小梅「おじゃましまーす」
小梅「えっと何だか薄暗くてちょっと不気味ですね」
エリカ「もう夕方だもの。それにしても電気ぐらい付ければいいのに」
カチカチ……カチカチ……
小梅「あそこから音が……」ガチャ
小梅「あれは……隊長ですよね?」
まほ「…………よし! またレベルが上がった」
まほ「これで8章のボスだって倒せる! 装備品だって整えたしな」
まほ「ふふっ……待っていろ。私が世界を救う勇者なんだ」
小梅「た、隊長?」
まほ「よしみんなも準備が整ったみたいだな」
まほ「それじゃ魔神しぽりんに向かってパンツァーフォー……」
パチッ
まほ「うわ……何だ!? 魔神の攻撃か!?」
エリカ「単に電気を付けただけです! というか何やってるんですか隊長!」
まほ「お前たちは……エリカに小梅か……」カチカチ
まほ「どうしたんだ。悪いが私は忙しいんだ」カチカチ
まほ「話は後にしてくれないか」カチカチ
小梅「忙しいってゲームをしているだけなんじゃ」
まほ「これはゲームであっても遊びではない」キリッ
まほ「私たちが倒さなければ世界は魔神によって滅ぼされてしまう」
まほ「お前たちの為にもこの魔神を倒さないとな」
エリカ&小梅「えぇ……」
エリカ「隊長……戦車道はどうするつもりなんですか?」
エリカ「確かに黒森峰は優秀な学校です。生徒一人一人の練度だって高い」
エリカ「でも練度が高くともそれを纏める頭がいないと意味がありません!」
エリカ「そしてその頭は隊長しかいないと私たちは考えてます!」
小梅「私もエリカさんも……ううん他の黒森峰の生徒だってみんな隊長のことを心配してるんです」
小梅「お願いです。ゲームなんてやらずに私たちのところに戻って来てください」
まほ「…………エリカ」
エリカ「は、はい」
まほ「お前を隊長に任命する」カチカチ
エリカ「……は?」
まほ「私は本日をもって黒森峰の隊長を辞退することにするよ」
エリカ&小梅「え……ええっ!?」
まほ「ようやく気づいたんだ。戦車道は私の進むべき道ではない」
まほ「私の進むべき道はゲーム道なんだ!」カチカチ
まほ「ほら見ろ! 魔神しぽりんを倒したぞ!」
まほ「パーティー仲間も私の活躍を称賛している」
まほ「レベルだって256なんだ。一週間でエリカを追い越したんだぞ?」
エリカ「それは私は節度を弁えてというか空いた時間にしかやってませんから」
まほ「そうだ。一つの道を極めるには何かを犠牲にしなければならない」
まほ「私は戦車道を辞めてこの道で生きていくことにするよ」
エリカ「な、何を言ってるんですか! 前回果たされなかった十連覇の屈辱を果たすために全国制覇するって約束したじゃないですか!」
エリカ「なのにこんなゲームの為に戦車道を辞めるですって?」
エリカ「ふざけないでよ!」
まほ「……エリカ」
まほ「正直に言おう……もうやる気がわかないんだ」
エリカ「……え」
まほ「元々戦車道なんて好きでもなんでもなかったが余計にそれが疎ましく思えてきた」
小梅「疎ましくって……」
まほ「当たり前だ。疎ましいに決まってるじゃないか!」
まほ「戦車道のせいでみほは……」
小梅「…………」
まほ「あの日から元々好きではない戦車道がもっと嫌いになってしまった」
まほ「だからもう良いんだ。あとはお前たちで勝手にしてくれ」カチカチ
小梅「そんな……そんなのって」
小梅「隊長はそれで良いんですか! 全国大会の後……周りが転校して私も塞ぎ込んでいた時に隊長は言っていたじゃないですか!」
小梅「みほのやったことを否定させたくない。だからお前もその為に戦ってくれないかって」
小梅「私……それを聞いて戦車道を辞めたみほさんの為にも戦おうってそう思って今まで頑張って来たんです!」
小梅「なのに……隊長の方が諦めてどうするんですか!」
小梅「今度の全国大会で私たちが勝つことがみほさんに対する精一杯の恩返しじゃないんですか!」
まほ「小梅……少し静かにしてくれないか気が散る」
小梅「……え?」
まほ「今次のクエストに向けてレベルを上げなくちゃいけないんだ」
まほ「それに私は言ったはずだ。勝手にしてくれと」
小梅「…………」
エリカ「……そう。分かりましたそれじゃ勝手にします」
エリカ「行くわよ小梅! こんな人……もう隊長でもなんでもないわ」
小梅「え……でも」
エリカ「いいから!」
小梅「は、はい。でもその前に……」
小梅「隊長……少しでもみほさんのことを思うならまた戻ってください」
小梅「私たちは待ってますから」
エリカ「それじゃ失礼しました」ガチャ
エリカ「小梅……ごめんなさい」
小梅「え? どうしてエリカさんが謝るんですか?」
エリカ「あの時……隊長にゲームを勧めなければって思って」
小梅「エリカさん……」
エリカ「私ね……ずっと隊長が独りぼっちだったこと知ってたのよ」
エリカ「確かに隊長は凄いし尊敬だってされてる」
エリカ「でもそれは理想の上官としてよ」
エリカ「隊長には部下と呼べる存在がいても友人と呼べる存在はいなかった」
エリカ「当然よね。隊長はかの有名な西住流だもの……友達になろうだなんて恐れ多いったらありゃしない」
エリカ「それに隊長自身も普段から感情を表に出すのが苦手で何考えてんのか分かんないところがあるし」
エリカ「だから共通のゲームをやることで話題が広がって私も隊長と仲良くできるし私を通して他の黒森峰の生徒とも気軽に話せるんじゃないかって思ったんだけど」
エリカ「まさかこうなるなんて」
小梅「隊長は普段から真面目で娯楽とかはあんまり知らなかったみたいですし」
小梅「だからこそ……余計にそういったものに没頭しちゃったんだと思います」
エリカ「そうかも……知れないわね」
エリカ「はぁ……それにしてもどうしたものかしら」
エリカ「全国大会だってもうすぐなのに隊長抜きでってなると」
エリカ「プラウダや聖グロに勝てるかどうか……」
小梅「それでも私は諦めません!」
小梅「……隊長だって本当はこのままで良いなんて思ってないと思うんです」
小梅「だから説得を続ければきっと戻ってきてくれると信じてます」
小梅「だから隊長が戻ってきた時にいつでも作戦が遂行できるように練度を上げることが私たちにできる精一杯のことだと思います!」
エリカ「……小梅」
エリカ「そうね。こんなところでへこたれたら転校したアイツにだって笑われちゃうもの!」
エリカ「黒森峰はあの子がいなくても最強だってところみせてやりましょ!」
小梅「はい!」
ブロロロー
エリカ&小梅「ん?」
エリカ「この音って学園艦にヘリが到着した音よね?」
エリカ「しばらくは他校との交流は避けているはずだけど」
小梅「も、もしかしたらスパイとか?」
エリカ「スパイにしては堂々としている気もするけど見てみましょうか」
しほ「…………」
エリカ「え……なんで家元がここに!」
小梅「紅白戦の時に試合を見に来ることはあるけど今日は戦車道の授業だって終わってるはずなのにどうして……」
しほ「あら……貴方たちは確か……副隊長を任されている逸見さんと……赤星さんだったわね」
小梅(副隊長のエリカさんはともかく私が覚えられてるのってやっぱり転落事故の一件があったからだよね……)
小梅「はい! そうです!」
しほ「ちょうど良かったわ。貴方たちの隊長……まほの部屋まで案内して貰える?」
小梅「隊長の部屋に……ですか?」
しほ「一週間も無断欠席していると先生の方から電話があったの」
しほ「何が理由かは分かりませんがこのまま引きこもらせておくわけにはいきません」
しほ「そこで直接話を聞くために伺ったというわけです」
小梅「ど、どうしましょ……エリカさん。あんな隊長の姿を見られたら」
エリカ「だからって隠すわけにもいかないでしょ」
エリカ「家元がここに来た以上。バレるのは必須、覚悟を決めないとね」
エリカ「隊長の部屋はあちらです。案内しますね」テクテク
エリカ「こちらが隊長の部屋となっております」
しほ「そう。それじゃ部屋のキーを貸して貰えるかしら」
小梅(もしかして家元が私たちに声をかけたのって鍵を持っていることに気づいて)
エリカ「持ってること知ってたんですね」
しほ「一瞬だけど見えましたので……」
エリカ「……それじゃ開けますね」ガチャリ
しほ「……」スタスタ
エリカ(黙って歩いているだけなのになんて威圧感なの)
エリカ(前々から厳しい人だとは思っていたけど)
エリカ(今回に限っては怒っているのかものすごい迫力ね)
エリカ(確かに腑抜けた隊長を何とかしてもらいたいのは事実だけど)
エリカ(本当に家元に会わせて良かったのかしら)
まほ「よし! もう少しで九章のダンジョンを攻略でき……」カチカチ
しほ「何をやっているのですか」
まほ「……え?」
まほ「こ、この声は……」ガクガク
しほ「しばらく学校に来ていないから何かと思えばゲームですか」
まほ「お、お母様……」
しほ「西住流はどうしたのですか? 言ったはずですゲームは軟弱者がやるものだと貴方は戦車道をやっていれば良いと」
まほ「ち、違うんです! その……今は疲れていて息抜きで少」
パシーン!
まほ「……え?」
しほ「一体何に疲れているというのですか?」
しほ「戦車道をやった後なら分かります。ですが貴方がやっているのはパソコンの前でただニヤニヤと笑っているだけ」
しほ「それで何が疲れるというのですか!」
バシッ! バキッ! ドコッ!
エリカ「い、家元! やめてください! こんなに殴ったら隊長が死んでしまいます」
しほ「別に構いません」
しほ「このまま西住流を汚すぐらいなら死んでも構いませんよ」
エリカ「なっ……」
しほ「逸見さんも赤星さんもこの子の様子を見せても驚かないのですね」
しほ「あの時鍵を持っていると分かり、てっきりまほのお見舞いに行くところだと思っていましたが」
しほ「お見舞いに行くところではなく行った後だったというわけですか」バキッ
しほ「こんな無様な姿を親だけではなく隊員に見せてどうするのですか」
まほ「ううっ……お母様」
しほ「貴方は西住流を継ぐ以上完璧でなければありません」
しほ「なのに戦車道はおろか学校をサボりあろうことかこんな情けない姿を人前に晒すだなんて!」ドコッ バキッ
まほ「…………ならもういいです」
しほ「はい?」
まほ「私は戦車道を辞めます」
しほ「…………」バキッ ボコッ ギュゥゥ
まほ「か……はっ」
しほ「ごめんなさい。よく聞こえなかったわ……もう一度言ってごらんなさい」
まほ「ぐっ…………ぅ」
小梅「こんなに強く締めたら隊長が死んじゃいますよ!」ヒキハナス
まほ「……う…………げほっ……はぁ…………ぁ」
まほ「だって……お母様は認めて下さらないじゃないですか!」
まほ「私がどれだけ頑張っても貴方の言うことはもっと精進しなさい……それだけ」
まほ「私が幼稚園の頃に戦車を初めて乗れるようになった時も中等部の頃ユースクラスの主将に抜擢された時もお母様は認めて下さらなかった」
まほ「でもゲームは違う。上位ギルドに入って色んなプレイヤーから期待の新人だってそう言われて」
まほ「だから私はゲームに……のめり込んで」
まほ「私はただ……認められたかったのです」
しほ「まほ……」
しほ「貴方の言いたいことはそれだけですか?」
まほ「…………」
しほ「誰かに認めて……褒めて貰わないと何も出来ないとは甘ったれた根性をしていたのですね」
しほ「貴方がそのような情けない娘だとは思いませんでした」
しほ「今日をもって貴方を西住流から破門することにします」
まほ「う……うう」ポロポロ
しほ「貴方もどこかに転校しなさい。もう黒森峰には来なくて結構です」
エリカ「そんな……私のせいで…………」
小梅(こんな時……いつもなら真っ先に声をあげるはずのエリカさんが動けないでいる)
小梅(きっとエリカさんが隊長にゲームを勧めたからそれを負い目に感じて強く出れないんだ)
小梅(このままだとみほさんだけじゃなくて隊長までどこかに転校しちゃうかも知れない)
小梅(あの家元に対して歯向かうなんて本当は怖いけど)
小梅(もう大切な人を転校なんてさせない!)
小梅「待って下さい! 隊長を転校なんてさせません!」
しほ「……これは私とまほ……ひいては西住流の問題です。貴方に口出しする権利はありません」
小梅「いいえ……あります。だってこれは黒森峰の問題……隊長がいなくなれば黒森峰の戦力は大きく落ちます」
小梅「私だって黒森峰の生徒なんです。だから黒森峰の生徒として隊長を転校させるわけにはいきません」
まほ「……小梅」
しほ「今のまほが役に立てるとは思いませんが」
しほ「戦車道はおろか授業は欠席……このような腑抜けた状態で何ができるというのです」
しほ「そもそも彼女が言い出したのではありませんか戦車道を辞めると」
しほ「ならば辞めさせれば良いだけのこと……違いますか」
小梅「た、隊長が戦車道を辞めると言った原因は家元にあるんじゃないですか」
しほ「はい?」ギロッ
小梅(こ、怖い……)
小梅(でもここで退いたら……また大切な人がいなくなっちゃうから)
小梅(言わないとどれだけ怖くても恐ろしくても何もしないままだときっと後悔しちゃうと思うから)
小梅「家元が……貴方が隊長の実力を認めないから……だから隊長は戦車が嫌になったんです」
小梅「確かに貴方は戦車道としては優秀なのかも知れません。けど母親としては最低ですっ!」
小梅「私は黒森峰でみほさんや隊長の戦う姿をずっと見てきました」
小梅「だから分かるんです。二人がどれだけ凄いのかってことも……そして優しい人だったのかってことも」
小梅「私はエリカさんほど努力家でもないしみほさんや隊長みたいに才能があるわけでもない」
小梅「そんな凡人の一生徒である私が二人の良さを見つけることが出来たんです」
小梅「なのに貴方は自分の娘の長所を見つけ認めることが出来なかった」
小梅「そ、それだけ貴方の目は節穴だってことです!」
しほ「…………」
しほ「赤星さん……話があります。ついてきなさい」スタスタ
小梅(表情は変わってないけど……あんな失礼なこと言ったんだもん多分怒られちゃうよね)
小梅(ううん……怒られるならまだ良いけど……)
エリカ「小梅……貴方カッコ良かったわよ」
小梅「い、今のはエリカさんを見習っただけで」
エリカ「でもさっきの言葉は貴方の本心でしょ」
小梅「はい。隊長がみほさんみたいにいなくなるって思うと気持ちが抑えられなくなってつい……」
小梅「このままだと私……転校させられちゃうかも知れませんね」
エリカ「そうね。家元を怒らせちゃったものね」
エリカ「でも安心なさい。その時は私も転校してやるから」
小梅「え……でもエリカさんは黒森峰に憧れて……」
エリカ「私にとって小梅や隊長がいるところが黒森峰よ」
小梅「……エリカさん」
小梅「私……ちゃんと家元と話してきます! それで隊長もエリカさんも素晴らしい人だって伝えて来ますから」
エリカ「わ、私のことは言わなくていいわよ。いいから行きなさい……応援してるから」
小梅「はい!」スタスタ
まほ「…………小梅」
まほ「……どうして小梅は私のために」
エリカ「隊長はそんなことも分からないんですか」
まほ「エリカ……」
エリカ「そんなの隊長が私たちにとって必要な存在だからに決まってるじゃないですか!」
まほ「…………」
エリカ「隊長はさっき言いましたよね。認められたかったのだと」
エリカ「確かに家元は隊長のことを認めてないのかも知れません」
エリカ「でも私たちにとって黒森峰の隊長は貴方だけなんです」
まほ「……エリカ」
まほ「すまなかった。二人のおかげでようやく目が覚めたよ」
まほ「私はずっとどうすればお母様に認めてもらえるのかそれだけをずっと考えて生きてきた」
まほ「でもそんなの必要なかったんだな」
まほ「だって私にはこんなにも頼りになる部下……いや仲間がいたんだ」
エリカ「……隊長」
まほ「……よし」
まほ「エリカ! お母様のところに行くぞ」
まほ「小梅一人に戦わせるわけにはいかないからな」
エリカ「はい! 隊長!」
しほ「…………」
小梅「…………」
小梅(エリカさんの前ではカッコつけてあんなこと言ったけど)
小梅(く、空気が重い……)
小梅(空気に飲まれてどうする赤星小梅。ちゃんと隊長は素晴らしい人だって伝えないと)
小梅「あ、あの……」
しほ「何か飲みたいものとかある? あれだけ叫んだ後なら喉も痛めているでしょう」
小梅「え? ええっと……じゃあお茶で」
小梅(これから怒る相手に飲み物をご馳走するの?)
しほ「……安心して……別に怒るつもりはありませんので」
小梅「……え? 私を転校させたりしないんですか」
しほ「どうしてそんなことをしなければならないのです?」
しほ「ただでさえ……去年の全国大会で多数の生徒が転校して数が減っているというのに更に減らす利点がありません」
しほ「そもそも私にそんな権利はありませんし仮にあったとしても生徒を無理矢理転校などさせたら問題になります」
しほ「西住流は秘密結社でもなんでもないのですよ」
小梅「あ、あはは……」
小梅「その……それで話したいことというのは」
小梅「転校させるでもなく叱るでもない……だとしたら私を呼んだ理由って」
しほ「簡単な話です。貴方は西住流を誤解しているようなので……」
しほ「……これを見てください」スッ
小梅「これは……絵ですか?」
しほ「はい。これは母の日にまほが描いてくれたものです」
しほ「そしてこれがまほがユースクラスの隊長に抜擢された時の写真、こちらは黒森峰に入学した時の写真」
小梅「……え? 貴方は隊長のことを認めていないんじゃ」
しほ「……それはまほの勘違いです。いえ……これも仕方のないことなのかも知れませんね」
しほ「西住流の跡継ぎにするため……それを優先しすぎた結果なのでしょう」
しほ「実際この写真だって使用人に撮ってもらったもの……私が出向いたことなんて一度もありません」
しほ「西住流の家元が娘相手にはしゃぐ姿なんて相応しくありませんから」
小梅「じゃ……じゃあ今日の隊長に暴力を振るったのは……」
しほ「半分はブラフです。西住流の家元である以上ある程度の厳しい教育は必要ですから」
しほ「半分は純粋に怒ってましたし引きこもりを解消するにはこれが最善だと思いましたから……」
しほ「まさかまほにあんなことを言われるとは思いませんでしたが」
しほ「でも今にして思えばそれも当然なのかも知れません」
しほ「私はこうして写真を持って絵を大切にしながらも……一度として面を向かって褒めたことがなかったのですから」
小梅「…………家元」
しほ「情けない母と笑いなさい。十七年も経っているというのに未だに娘にどう接していいのか分からないのです」
小梅(そうか……この人も隊長と同じで不器用なんだ)
小梅(もし家元が本の少しでも器用な人だったのなら)
小梅(表ではともかく自宅では優しくすることも出来たのかも知れない)
小梅(でも彼女は自宅でも母ではなく家元でいようとした)
小梅(だから直接褒められないし叱ることしか出来ないんだ)
小梅「だったら褒めてあげて下さい」
しほ「赤星さん……」
小梅「次の全国大会で私たち黒森峰は必ず優勝してみせます」
小梅「だからその時には今までのように冷たくではなく温かく迎えて下さい」
小梅「隊長もそのことを望んでいるはずです」
しほ「それは分かっています。でも突然褒めると怪しまれるといいますか……」
しほ「気味悪がられないかと心配です」
エリカ「それなら大丈夫です。話は全部聞きましたから」
まほ「…………お母様」
小梅「エリカさんに隊長……どうして二人ともここに!?」
まほ「お前がお母様に責められんじゃないかって心配してな」
まほ「だが二人とも険悪な雰囲気ではなかった。だから隠れて話を聞くことにしたんだよ」
しほ「……まほ」
まほ「お母様……申し訳ありません。ゲームにハマり戦車道を疎かにしてしまって」
しほ「……いえ、悪いのは私の方です。貴方の気持ちを知らずに今まで厳しく接してきました」
しほ「さぞ辛かったでしょう……今まで優しくできず辛い思いをさせてきましたね」
まほ「お母様……」
しほ「その……今まで褒めることが出来なかった分というわけではないのですが」ゴホン
しほ「あ、頭とか撫でてあげましょうか」
まほ「いいのですか……」
まほ「あ……でもみんなが見て……」
エリカ「さ、小梅! 私たちは部屋に戻るわよ」
小梅「え……折角の良いところなのに……」
エリカ「あのね……気を利かせなきゃダメでしょ」
小梅「あはは。分かりました!」スタスタ
エリカ「そ、それでは隊長……ごゆっくり!」スタスタ
まほ「え……えーとそれじゃ少しだけ」ギュッ
しほ「ふふ……良い子ね」
しほ「本当に今までお疲れ様。よく頑張りましたね」
まほ「お……母様……」ポロポロ
数分後
しほ「もう良いのですか?」
まほ「はい。こうして褒めて頭を撫でて頂いて心が満たされました」
まほ「本当はもっと続けたいのですがそれは次に取っておきたいと思います」
しほ「次……?」
まほ「次の全国大会……プラウダや聖グロに勝ち必ず優勝を成し遂げて見せます」
まほ「ですのでその時は……」
しほ「ふふっ……分かりました。その時はうんと褒めますね」
まほ「すまないな……二人とも」
小梅「良いんですか? 折角の機会なんですしもう少し甘えていても……」
まほ「いや……良いんだ」
まほ「お母様に褒めてもらう機会なんてこれからもいくらでもあるさ」
まほ「だって私たち黒森峰は次の全国大会で優勝するんだからな」
小梅「隊長……それって」パァー
まほ「ああ……今日から再び黒森峰の隊長として頑張ったいくつもりだ」
まほ「その……すまなかったな。二人には隊長らしからぬ姿を見せてしまった」
小梅「いえ……いいんです。隊長が戻ってきてくれただけで……私」
エリカ「小梅は甘いわね。私はまだ隊長のこと……許してませんから」
エリカ「だから……勝ちましょう。勝って居なくなったアイツに見せてやるんです」
エリカ「私たち黒森峰はあの娘がいなくても強いんだって」
まほ「そうだな。エリカ小梅……こんな隊長だが最後まで共に戦ってくれるか?」
エリカ&小梅「「はい!」」
まほ(私はずっと一人で戦っているのだとそう思っていた)
まほ(だけどそれは私の勘違いだったんだ)
まほ(私の隣にはエリカがいて小梅がいてくれる)
まほ(だからこそ戦おうと思える)
まほ(西住流のためではなく二人のために優勝したいとそう思えるから)
まほ(みほ……私は見つけたよ。自分の道を)
まほ(だから願わくばお前も見つけて欲しい)
まほ(自分だけの道を)
完
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