魔術師「探偵業はじめました」 (31)

魔術師「古い図書館で読んだ異界の探偵小説に触発されて探偵所を開いたものの...」

魔術師「依頼人が全く来ねえ!!」

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剣士「そりゃこんな辺鄙な土地に構えてもねぇ」

魔術師「お、いたのか剣士。いっつも手伝いに来てくれてありがとな」

剣士「いえいえ。俺も魔術師さんの助けになれて嬉しいよ」

剣士「けどさ...そもそもこの国の人達は探偵についてなんにも知らないんじゃないの?」

剣士「人間誰しも未知の職業には懐疑的なんじゃないかなぁ」

魔術師「お前は僕より年下の癖にいけしゃあしゃあとした物言いしかしないよな」

剣士「ソレが俺の取り柄だからね♪」

剣士「でも、まずは何かしらの営業活動をしてみたらどう?このままじゃ魔術師さん、明日の生活も危ういでしょ」

魔術師「失敬な、あと1ヶ月ぐらいは安泰なハズだ!」

魔術師「...まぁそれはそれとして、こういう仕事は最初に1発どでかい案件をこなして、後はその口コミでじわじわと仕事を増やしていくべきだと思うんだよ」

剣士「その“どでかい案件”って奴がすぐにでも来ればいいんだけどね」

魔術師「フラグを立てそうな言い方はやめろ!」

剣士「はーいはいっと。...あれ?なんか馬車の音が聞こえない?」

魔術師「え?...本当だな。ここら一帯には僕達の探偵所しかないから...」

剣士「もしかして!」

魔術師「依頼人!?」

カランカラン...

2人の喜びに共鳴するように、玄関のドアについたベルが音を立てる。

??「こんにちは、ここの探偵さんはご在宅かな?」

魔術師「ああ、僕がここの探偵、魔術師です」スッ

??「そうか、よろしく頼むよ。少し面倒な頼み事があるのだけれど、話を聞いてくれないかい?」

魔術師「勿論!遠路はるばるよく来て下さいました、まずは応接間へどうぞ」

【応接間】

魔術師(通したはいいが...フードを深く被っててイマイチ顔が分かんねーな)

剣士「どうぞ」コトッ

??「コーヒーか、ありがとう。」

??「...ふむ。中々珍しい豆を使っているようだね。私も家で飲んだことがある」

剣士「ふふ、俺、コーヒーには一家言ありますから」

魔術師(...。)

魔術師「そういえば、まだお名前を伺ってませんでしたね。教えて頂いても?」

??「...できれば名前は勘弁してくれないか?依頼に差し支えることはないと思うから」

魔術師「いやぁ、それはちょっと困るな。なんせ一国の王子さま相手となると下手な依頼は受けられねぇ。ましてや名前を隠してまでの頼み事となるとな」

剣士「え?魔術師さん何いって...」

王子「はは、もうバレてしまったか。すまないね、騙すような真似をしてしまって」

王子「けれどこれで君のウデも分かった。安心して頼み事が出来るよ」

剣士「え?え??どういうことさ魔術師さん!」

魔術師「初歩的なことさ、ワトソンくん。僕は魔術師だぜ?それも土魔法が一番得意なんだ」

魔術師「僕ぐらいの魔術師になれば、相手の靴についた土に魔力を流してそれまでの道のりを調べることだって出来る」

魔術師「そして、さっきお前がお出ししたコーヒーはとある王家御用達で有名な豆だろ?」

剣士「あ、確かに...!」

魔術師「そういうこった」ドヤッ

王子「うん。そういうことで遠路はるばる、隣国から城を抜け出してこの探偵所までやってきたんだ」

王子「私のような者は、国内で何かするだけですぐ大ニュースになるからね。できるだけこっそりと用を済ませたかったんで、この隠れ家的な探偵所を選んだのだよ」

魔術師「なるほどな。んで、王子さまがそこまで固執する依頼とは?」

王子「口に出すのも恥ずかしいのだけど...。」

王子「私と一緒に町を回ってくれないか?」

剣士「王子さん...いくら魔術師さんが女顔だからってそれは...。」ジーッ

王子「い、いや!私にそういう趣味がある訳ではないよ!ただ...」

剣士「ただ?」

王子「私は小さい頃から蝶よ花よと育てられてきてね。何をするにも従者と一緒、城で勉強ばかりの日々だったんだ」

王子「しかし私は町の...国民の暮らしについて何も知らない。知識として頭にあっても、実際に触れてみたことはないんだ」

王子「だから、一度でいいから従者抜きで、純粋にただのいち国民として町を見てみたい」

魔術師「ふむふむ。どんな無理難題が飛び出すかと思ったらそういうことか。それなら誠心誠意ご協力させて頂きますよ」

王子「本当かい!?嬉しいよ!」

剣士「というと、具体的な依頼内容は一日いっぱい王子さまの付き添いと人払いってところかな?」

魔術師「そうだな。隣国のとはいえ王族には変わりねぇし、十二分に変装してもらう必要もある」

剣士「あ、それなら任せて!俺ファッションには自信あるから!」

魔術師「お前ってつくづく剣士っぽくねーよな」

【町】

魔術師「さて、ここが僕達の国で一番栄えてる町だ」

剣士「探偵所から馬車で40分。近いとも遠いとも言えない微妙な距離だよね」

魔術師「僕はあの土地が気に入ってるからいーんだよ!」

王子「活気があっていいところだね!」キラキラ

魔術師「まあな。ここは冒険者の集まる酒場で有名なんだ。腕に覚えのある冒険者は、そこに舞い込む魔物の討伐依頼とかで生計を立ててたりする」

王子「冒険者か。本ではよく見るけれど、実際に見たことはないな」

剣士「じゃあ酒場に行ってみる?きっと初めて見るものばかりだよ!」

【酒場】

ガヤガヤ...

王子「こ、ここが酒場か...」

剣士「王子さん、大丈夫?人酔いとかしないように気をつけてね」

魔術師「というか何で剣士は普通に入店してるんだ。お前まだ士官学校の学生だろ?」

剣士「バレなきゃセーフ!」

王子「バレなきゃセーフ」

魔術師「あぁ...バレたらもっとヤバいのが居たか」

戦士「よ~う嬢ちゃん、見たところ結構腕がたちそうだな。どうだ?俺たちとチーム組まないか?」

魔術師「...それはもしかして僕に言ってるのか...??」ワナワナ

剣士(魔術師さんから憤怒のオーラが出ている)

戦士「おおっ?ボクっ娘たぁいい属性もってんなァ。ますます気に入ったよ。」

戦士「どうだ?丁度新聞に楽そうな依頼が載ってたからよ、一緒にソイツを片付けてそのあとは...」

魔術師「僕は!れっきとした!男だッ!!!」ダンッ

戦士「ひっ!?それは失礼した...」ビクビク

魔術師「あーもう、なんだって僕がナンパされなきゃいけねーんだ!むしろ僕がしてーわ!!」

剣士「魔術師さん...」ホロリ

王子「それはそうとさっきの彼、気になることを言っていたね。新聞に依頼がどうとか...」

魔術師「はんっ!大方ただの方便だろうさ」

王子「ここに置いてあるのがそうかな。どれどれ」

新聞『緊急:いなくなった王子を探しています。王宮まで連れ戻してくれた方には報酬金500万G』

王子「ほう、私以外にも失踪した王子がいるんだね。彼とは仲良くなれそうな気がするよ」

魔術師「いや...仲良くも何も、ソレってお前のことじゃないか?」

剣士「ね、ねぇ。入口に居る人達ってまさか」

酒場の入口付近には、見るからに浮いた格好の二人が佇んでいる。

令嬢「わたくしの愛するあの王子はこんな低俗な場所にいらっしゃるのかしら?もっと違う場所を捜索してはどう?」

執事「うーん、あの王子のことだから、興味本位で立ち寄ってしまいそうな気もします」

魔術師「なぁ、王子さんよぉ」コソコソ

王子「な、なんだい?」コソコソ

魔術師「お前って城を無断で抜け出して来たんだよな」

王子「そうだね」

魔術師「そして、もし僕達と一緒にいるのが見つかれば」

王子「君たちは王族誘拐犯として牢屋行きだね...」

魔術師「...。」

魔術師「ここは逃げるぞ!!」

魔術師は慌てていることを悟られないよう、できるだけ平常心で勘定を済ませる。

魔術師「いいか?変な動きをしたら怪しまれる」

魔術師「なんでもないような顔をしてスマートに立ち去るんだ」

剣士「アイアイ、サー!」

魔術師「いくぞ...」スタッ

令嬢「ま、付き合いの長い執事さまの言うことには従いましょうか」

執事「寛大な御心、感謝しますよ」

魔術師(よし、このまま通り過ぎれば!)スタスタ

令嬢「あ、ねぇソコの貴方」

魔術師「な、なんでしょうか?」ギクッ

令嬢「今朝の新聞は見たかしら?わたくし達、とある王子を探しているの」

令嬢「この辺りでそれらしき人物を見かけなかったかしら?」

魔術師「いえ、そのような方は全く」

魔術師「ですが...」

令嬢「あら、何かご存じ?」

魔術師「僕は今、あなたという美しい淑女に出会いました。」スッ

令嬢「はぁ?」

剣士「はぁ?」

王子「???」

魔術師「いいから剣士たちは先に出てろ」コソッ

剣士「は、はあい」コソッ

魔術師「どうです?あてのない王子さまを探すより、もっと身近な白馬の王子を探してみては?」

令嬢「なんですの、その歯の浮くような口説き文句...」ドンビキ

令嬢「どうやら貴方一人しかいないようですし、もう用はありません。さっさとわたくしの視界から消えてくださいな」

魔術師「中々手厳しいな」

魔術師「では僕はこれで。二度と会わないことを祈ってますよ」ヒラヒラ

令嬢「あの男、いったいなんのつもりかしら!由緒正しい貴族のこのわたくしを口説くだなんて!」

執事「まぁまぁ、あの人も本気じゃなかったようですし」

令嬢「それが悔しいの!遊びでわたくしを口説くなんて何様のつもり!」キーッ

執事(おー怖)

【町】

剣士「魔術師さん、きみナンパの才能無さすぎるよ」

王子「流石の私でもちょっと引いたよ」

魔術師「や、アレはもちろん本気じゃないって」

魔術師「あのお嬢様、僕を見逃す時に『貴方一人しかいないようですし』って言ってただろ?」

魔術師「一番最初にあの令嬢の注意を引いた時、軽く幻惑魔法をかけといたんだ」

魔術師「だから、あの令嬢と執事にはお前ら二人の姿は見えてなかった、って訳さ」

剣士「なるほどねぇ。でもわざわざナンパする必要あった?」

魔術師「僕だって...上手くやれば可愛い女の子をひっかけられると思ったんだよ...!」

剣士「やっぱ魔術師さんはナンパの才能ないね」

魔術師「悪かったな!!」

剣士「ね、魔術師さん、ちょっといい?」

魔術師「ん?なんだ剣士」

剣士「王子さま、ちょっと俺たち席を外すね~」

王子「分かった。のんびりまっているとしよう」

王子(ふぅ...今日は夢のような一日だった)

王子(途中で令嬢や執事を見かけた時はとても焦ったけど、魔術師くんが上手くその場をやり過ごしてくれたし)

王子(...楽しかったな)

王子(でも、今日ももう夕暮れだ)

剣士「お待たせ~、待った?」

魔術師「お前は待ち合わせ中の女子か」

王子「いや、全然」

魔術師「お前も無理してノらなくていいんだぞ」

王子「おや、そういうつもりはなかったんだけどね」クスッ

王子「...さて」

王子「これ以上君たちを巻き込む訳にはいかないから、そろそろお開きにしないかい?」

剣士「王子...」

魔術師「そうだな、とりあえず探偵所に帰るか」

【町外れ】

馭者「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!スマイル印の馭者ちゃん運輸でーす!」

魔術師「そんなキャッチコピーあったか?」

馭者「たった今あたしが作ったわ」

剣士「自由だな!」

馭者「だって、さっきからちょくちょく馬車を使ってるのに一向にあたしの出番がこないんだもん」

馭者「数少ない出番だし、うんとアピールしなくちゃ!」

王子「馭者さん、さっきから馬車の運転ありがとう」

馭者「いえいえ~!今後ともご贔屓にして下さるのが一番の報酬です♪」

魔術師「んじゃ、探偵所まで頼む」

馭者「了解。安全運転でぶっぱなすわよ~!」

【探偵所前】

剣士「ただいま我が家~」

魔術師「お前はただの居候だろ?」

剣士「居候でも我が家は我が家!」キリッ

王子「疲れた...」

魔術師「なぁ。王子さま、まだ僕達に言ってない依頼があんだろ」

王子「な、何を言って...」

魔術師「でも、それはもう最初の時点で解決してたぞ。お前は自分の意思で行動してここに来た。」

魔術師「いつも従者や父王の言いなりになっている自分を変えたくて、自分の力で変装して、自分の力で馬車に乗って、自分の力で僕達へ会いに来た」

魔術師「最初っから妙だと思ってたんだよ。町をうろつくだけなら城のお偉いさんに頼み込むか、変装してって周遊するとか、いくらでも方法はあったはずだ」

魔術師「それもしないでこんな隣国の辺鄙な土地に建つ小さな探偵所を尋ねるってことは、それ相応の理由があったんだろう」

王子「ふふっ、これもバレてしまうのか。全く探偵というのは末恐ろしいね」

魔術師「因みにこれは剣士の功績だ。僕は正直こういった人付き合いは得意じゃないんでな」

王子「ああ、だからナンパも下手だったのか」クスッ

魔術師「それはもうやめろ!!」

王子「とにかく、私の密かなお願いごとまでぴたりと当ててしまうなんて思ってもみなかった」

王子「では二人に最後のお願いだ。良ければ私の友達になってくれないか?」

魔術師「勿論だ。今日一日過ごしてきて、結構楽しかったしな」

剣士「俺で良ければ喜んで!いつでも遊びに来ていいからね!」

王子「ありがとう、君たちのおかげで晴れやかに祖国へ帰れそうだ」

魔術師「帰りの足は大丈夫か?」

王子「心配には及ばないよ。さっきの馭者さんが安心安全に祖国へ送り届けてくれるからね」

馭者「呼ばれた気がしたわ」ススッ

魔術師「うわっびっくりした」

馭者「王子、準備は出来た?そろそろ出発しないとお城の閉まる時間に間に合わなくなるかも」

王子「もう大丈夫、いつでも行けるよ」

剣士「じゃあ、またいつか!」

魔術師「また会おうな!」

王子「うん、お元気で!」

それから数日経ったある日・・・

馭者「さーて到着!今後ともぜひぜひご贔屓にぃ!」

??「ありがとう、助かるよ」

馭者「ふふふ、あたしもこんな太客ができて嬉しいわぁ」

??「はは、馭者さんは相変わらず口が上手だね」

馭者「そりゃあこのお仕事はコミュ力必須ですからね!いいからいいから、早くあの人たちに会いにいきなさいな!」

??「うん」

カランカラン...

剣士「お、依頼人かな?はーい!!」

王子「やあ、遊びに来たよ」

魔術師「ああ、王子か」

魔術師「...えっ?王子か!?」

王子「うん、王子さ。あの後思い切って父上に外出許可を頂きにいったら、案外するりと許可が降りてね」

王子「これも全て君たちのおかげさ」

魔術師「またまた、僕達はただちょこっと背中を押すのを手伝っただけだぜ。元々自立できる素質は充分あったんだしな」

剣士「うんうん、王子自身の力だよ」

王子「ふふ、ありがとう。そういうことにしておくよ」

魔術師「とにかくこれで一件落着だな」

剣士「そうだね、コレは魔術師さん的に“どでかい案件”?」

魔術師「もちろん、パーフェクトな“どでかい案件”だ」

魔術師「僕達の今後の生活のためにも、めいっぱいここの評判を宣伝してってくれよな、王子!」

魔術師たちの探偵所から閑古鳥が飛び立つのは、もう少し先の話...。

書き溜めてたのをどばっと投下しただけなので、これで終わりです。お読みいただきありがとうございました!

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