幻術士「幻覚商売」(144)

町外れにある一軒家──

ここに一人の幻術士が暮らしていた。



家の横にある立て看板には、こう書かれている。

『幻術を使ってどんなご相談にも乗ります』



幻術士「うん、いい天気だ」

幻術士「さぁ~て、今日も一日がんばるか!」

第一話『偽りの初デート』



<幻術士の家>

青年「あのぉ……」

幻術士「はい、いらっしゃい」

青年「幻術って……ようするに、幻を見せる術ってことですよね?」

幻術士「そのとおり」

幻術士「幻で昔の思い出を懐かしんだり、幻で敵を惑わせたり……」

幻術士「他にもポジティブな幻で自信をつけたり、なんて使い方が主流かな」

青年「なるほど……」

幻術士「で、私に相談したいことというのは?」

青年「実はボク……今度デートするんです」

幻術士「デート……ねぇ」

幻術士「そうか、幻術でリアルな予行練習をしたいってところか? もちろん可能だよ」

青年「いえ、ちがいます」

青年「幻術士さんに、ボクをイケメンにして欲しいんです!」

幻術士「!?」

幻術士「ちょ、ちょっと待ってくれ。どういうことだ? 私にそんな力はないぞ?」

幻術士「このとおり、オシャレにも自信ないし……」

青年「いえ、そうじゃなくって……」

青年「正確には、相手の女性にボクがイケメンに見える幻術をかけて欲しいんです」

幻術士「君をイケメンに見せる……?」

幻術士「男に褒められても嬉しくないだろうけど、そう悪くない顔立ちだと思うがな」

青年「だけど……よく気弱そうな顔っていわれますし……」

青年「頼りなさそう、とか……男らしさが足りない、とか……」

幻術士(たしかに……それはいえるかも、しれない)

幻術士「それじゃ話を戻すが」

幻術士「仮に君をイケメンに見せても、それって意味あるのか?」

幻術士「むしろ『こんな顔だったっけ』って、かえって混乱させるだけじゃないか?」

青年「それは大丈夫です」

幻術士「どうして?」

青年「なぜなら相手の人とボクは、一度も会ったことがないからです」

幻術士「へ?」

青年「ボクと彼女は文通で知り合ったんですよ」

幻術士(ああ、そういうことか……)

幻術士「だが、初めて会うんなら、なおさら幻術に頼る必要はないんじゃないか?」

青年「ボク……手紙で自分の容姿について……」

青年「どうせ手紙だから、と色々と見栄をはっちゃったんです」

幻術士「……美化してしまったわけか」

青年「はい……」

青年「だから……彼女を失望させたくないんです! お願いします!」ガバッ

幻術士「…………」

幻術士「分かった、引き受けよう」

青年「ありがとうございます!」

幻術士「ところで、デートの日時は?」

青年「三日後の正午、彼女とこの町の公園で待ち合わせています」

幻術士「では前日にどういう顔にするかの希望を書いて、もう一度来てくれ」

幻術士「そこで詳細を打ち合せよう」

青年「はいっ!」

デート前日──

<幻術士の家>

青年「こんにちは」

青年「顔は……こんな感じでお願いします」ペラッ

幻術士「どれどれ」

幻術士(今より鼻を高く、目はぱっちりと、輪郭もがっしり……別人だなこりゃ)

青年「……で、明日は?」

幻術士「私が君についていって、彼女が来た瞬間──」

幻術士「彼女に幻術をかける」

幻術士「君の顔が、彼女にはこの希望通りに映るようにな」

幻術士「あとは予定通り、デートを楽しめばいい」

青年「分かりました! それじゃ、明日はよろしくお願いします!」

幻術士「ああ、デート時間より早めに我々は落ち合うとしよう」

デート当日──

<町の公園>

幻術士「あの噴水が待ち合わせ場所だね?」コソッ…

青年「はい、手紙にどういう服装で来るか書いてくれたので、すぐ分かります」コソッ…

青年「あっ、おそらく向こうからきたあの女の子が──(おおっ、可愛い!)」

幻術士「うっ!」ビクッ

青年「え、どうしました!?」

幻術士「は、腹が……ぐううっ……!」ジタバタ…

青年「幻術士さん!?(手をジタバタさせて……どうしたんだ!?)」

幻術士「ぐうううっ……!」ガクッ…

幻術士「ま、まずい……幻術はかなり精神を集中せねば、使えないんだ……!」

幻術士「今の私では、無理、かも……」

青年「そんなぁ……じゃあ、ボクはどうすればいいんですか!?」

幻術士「す、すまない……」

青年(でも、これは……本当に汗まみれで苦しそうだ。ふざけてるとは思えない)

青年(盲腸かなにかだろうか……?)

青年「こっちこそすみません。とにかく病院に──」

幻術士「い、いや……この近くに病院はある……。一人で大丈夫、だ……」

幻術士「悪い、が……病院へ行ってくるよ……」ヨタッ…

幻術士「ううぅ……」ヨタヨタ…

青年(ああ、行ってしまった……)

青年(だけどしょうがないよな……体調不良じゃ責められない……)

青年(こうなったら、幻術に頼らず──)

青年(行くしかない!)キッ

タタタッ……

青年「あ、あのっ!」

女「はい?」

青年「ボクが……あなたの文通相手です」

女「あら……はじめまして、こんにちは!」

青年「驚いてますよね……ボクが手紙でいっていた顔と全然ちがうんですもん」

女「ええ」

女「だけど……お手紙からにじみ出てる優しさと」

女「今のあなた、とってもマッチしているわ」ニコッ

女「むしろ、想像通りといってもいいくらいよ」

青年「本当ですか!?」

女「フフ……今日はよろしくね」

青年「は、はいっ!」

ガササッ……

幻術士「……うまくいったな」コソッ…

幻術士(私が腹痛のフリをした時にかけた“腹痛でもだえ病院に向かう私”の幻覚で)

幻術士(彼も覚悟が決まったようだ)

幻術士(仮に手紙と全然ちがうとフラれてしまっても、それが本人のためだしな)

幻術士(あとはどうぞお楽しみに、といったところだが……)

幻術士(果たしてこの場合、私は報酬をもらえるのか、もらえないのか?)

幻術士(まぁ……無理だよな。依頼とちがうことしてるんだから)

幻術士(ああ、本当に腹が痛くなってきた、かも)ギュルル…




                                 第一話 おわり

第一話終了です

第二話『真剣勝負』



<闘技場>

剣士「エリート騎士が、闘技場で腕試しを?」

オーナー「うむ……どうだ、相手をしてやってくれんか」

オーナー「多額の金を積まれてな……断れなかったのだ」

剣士「かまいませんよ」

剣士「庶民の剣術のレベルってやつを、お坊ちゃんに思い知らせてやりますよ!」

オーナー「頼んだぞ」

オーナー「騎士に、闘技場のレベルはこんなものかと思われたらかなわんからな」

剣士(あぁ~……めんどくせえなぁ)

剣士(こういう看板を背負う、みたいなのは性に合わねえんだよな)

<幻術士の家>

剣士「──というわけなんだ」

幻術士「というわけっていわれても……」

剣士「俺はさ、なんとしてもこの戦いに勝ちたいんだ! 騎士階級とか大嫌いだしよ!」

剣士「な、だから力を貸してくれ! 親友だろ!?」

幻術士「ようするに、だ」

幻術士「相手が騎士だからって気後れしないよう、幻術で慣れておきたいってことか?」

剣士「いいや、ちがう」

剣士「試合直前に相手に幻術をかけて、俺を勝たせて欲しいんだ」

幻術士「えぇ!?」

幻術士「う~ん……」

幻術士「勝負自体は実力でやらないとダメじゃないか?」

剣士「もちろん、俺だって実力で負けるつもりはねえよ」

剣士「だけど……色んな意味で気乗りしないんだよな、今回の勝負」

剣士「騎士の腕試しってのも気に食わねえし、闘技場を代表するってのも嫌だし」

剣士「普段からお前に頼ってるわけじゃないし、たまにはいいだろ?」

剣士「頼むよ、ね? お願いします! このとおり!」パンッ

幻術士「しょうがないな……」

幻術士「ところで、どんな幻術をかければいいんだ?」

剣士「ああ、それはもう決めてある。実は──」

幻術士「──ええっ、なんだそりゃ!?」

剣士「だってこれなら、相手から棄権してくれるだろ」

剣士「さすがに幻術に惑わされてる相手を倒すってのは、俺の趣味じゃないしよ」

幻術士「まぁ……やってみるか」

剣士「おお、恩に着るよ!」

剣士「じゃあ試合当日は頼んだぜ! じゃな!」

幻術士(剣士……腕は立つのに、あの性格はどうにかならないのか……?)

試合当日──

<闘技場控え室(剣士)>

剣士「フンフ~ン」

係員A「あれ?」

係員A「いつも試合前は鼻息フンフンしてるのに、今日はやけに落ちついてますねぇ」

剣士「まぁな」

剣士「もしかしたら俺の試合、中止になるかもしれないぜ。あっちが棄権してさ」

係員A「まさかぁ~、騎士が棄権なんてしないでしょ」

係員A「なんたって騎士なんてもんは、メンツが大事ですから」

剣士「そう……メンツが大事だからな」

<闘技場控え室(騎士)>

係員B「この人は、あなたのファンだそうです。どうしてもというので……」

幻術士「今日の試合頑張って下さい! 応援してます!」

騎士「それはそれは、ボクのためにわざわざありがとう」

幻術士「…………」サササッ

幻術士(……これでよし、と)

幻術士(この不規則な両手の動きを対象者に見せ、念波を送れば、幻術は完成する)

幻術士(試合開始直前になったら、この騎士に“幻覚”が見え始めるハズだ)

幻術士(気の毒だが……試合が終わったら解除するから、勘弁してくれ)

係員B「では、そろそろ試合の時間です。闘技場へ向かって下さい」

騎士「うん」スクッ

<闘技場廊下>

騎士「さて、ボクの力が闘技場の猛者に通じるか……」ザッ

騎士「……あれ!?」ギョッ

騎士(なんだこれ!?)

騎士(いつの間にか、ボクが全裸になっている!? いったいどうして!?)

騎士(試合時間を遅刻すれば、試合は負けになってしまうし……)

騎士(今から戻って新しい鎧を着てきては、とても間に合わない!)

騎士「くっ……どうすればいいんだ……」



<観客席>

幻術士(今頃、幻術が効いてくる頃だな……。今、彼は自分が全裸に見えているはずだ)

幻術士(こんな方法を考えるなんて……剣士の奴め)

<闘技場>

ワァァァ……! ワァァァ……!

実況『……どうしたんでしょうか? 剣士の対戦相手が出てきません!』

実況『このままでは、剣士は不戦勝ということになりますが……』

剣士(ふん、出てくるわけねえよ)

剣士(お坊ちゃんが、こんな大舞台に裸で出てこられるかっての)

剣士(これで俺は労せずして勝利、不戦勝でもファイトマネーは得られる……)

剣士(ちょろいぜ!)

騎士「お待たせした」ザッ…

実況『おっと! 少々遅れましたが、騎士が入場して参りました!』

剣士(な、なんだと!?)

ワァァァ……! ワァァァ……!

審判「両者、剣を構えて!」

騎士「…………」チャキッ

剣士(なんでだ!? なんで試合に出てこれるんだ!?)

剣士(まさか、幻術士が失敗したってのか!?)チラッ

幻術士(いや、私はちゃんと幻術をかけたぞ!)チラッチラッ

剣士(あの目……成功したみたいだな。幻術士はウソをつく男じゃない)

剣士(じゃあ、どうして!? なんでだよ!?)チャキッ

審判「それでは……始めっ!!!」バッ



──キィンッ!

キィンッ! ギィンッ! キンッ!

剣士「うおおっ!」

騎士「はあっ!」

実況『まったくの互角! ハイレベルな攻防だぁっ! お客さんも大興奮だ!』

幻術士(どっちもすごい……)

幻術士(剣士はもちろん、あの騎士は全裸の幻覚がかかったままなのに……)

ギィンッ!

剣士「ハァ、ハァ、ハァ……」

騎士「フゥ、フゥ、フゥ……」

剣士(こいつ……足がほんのわずか内股になってる。裸が恥ずかしくないわけじゃない)

剣士(だがそんな恥ずかしさよりも、試合放棄の方がよっぽど恥としたんだ!)

剣士(これが真の騎士の誇りってやつか……!)

剣士(俺はこれほどの男に、戦わずして勝とうとしてたなんて……!)

剣士「騎士、ちょっとだけ待ってくれ」スッ

騎士「む?」

剣士「俺も……脱ぐ」ガチャッ

騎士「!」

剣士「男同士……正々堂々とフルチン勝負だ!」プラーン…

キャァァァ……! ワァァ……! ワハハハ……!

幻術士(剣士……!?)

実況『なんだぁ!? 剣士、鎧を全部脱いでしまった! なにやってんだ!?』

審判「コラッ、ふざけてるのか! ちゃんと服を着ろ!」

剣士「やかましい! 俺には……こうしなきゃいけない理由があるんだよ!」

審判(どんな理由だよ!)

騎士「フフフ……ボクのミスに付き合ってくれてありがとう!」

ワァァァァァ……!

翌日──

<幻術士の家>

幻術士「おめでとう」

幻術士「騎士の剣を斬り払って、肩に寸止め、みごとな勝ちだったよ」

剣士「ありがとよ。あそこまで手強い相手は久々だったぜ」

剣士「いずれまた、ちゃんとした試合をやってみたいよ」

幻術士「“本当に”全裸になったことも、とりあえず許してもらえたみたいだしな」

剣士「ああ、古代の闘士には実際に全裸で戦ってたのもいたし」

剣士「それを再現したかったんだろう、みたいな話で収まったよ」

剣士「ただ、一つだけ問題がなぁ」

幻術士「問題?」

<騎士の屋敷>

執事「若! どうか服を着て下さい!」

騎士「いや、これでいいのだ! ボクはこれからはこの格好で生きていく!」プラーン…

執事「若! ならばせめて、股間にこのカエデの葉っぱを!」サッ

騎士「仕方ない。妥協するとしよう」スッ…

………………

…………

……

剣士「──てなことになってるらしい。ネタばらしはしたってのに……」

幻術士「騎士って普段抑圧されてそうだからなぁ……」



                                 第二話 おわり

支援ありがとうございます
第二話終了です

第三話『女魔法使いの挑戦』



<幻術士の家>

幻術士「…………」

幻術士(今日は……なんとなく彼女がやってきそうな予感がする)

バタンッ!

女魔法使い「幻術士、勝負よっ!」

幻術士「やっぱり……」

女魔法使い「やっぱりとはなによ!」

幻術士「女魔法使い、なんで君は私を敵視するんだ?」

女魔法使い「決まってるじゃない!」

女魔法使い「同じ術使いとして、あなたのようないかがわしい存在が許せないからよ!」

女魔法使い「幻術なんて、魔法に比べたらずっとずっとマイナーだし!」

幻術士「はぁ……」

幻術士「そういって、いつもいつも私の幻術に惑わされて帰っていくじゃないか」

女魔法使い「うぐっ……!」ギクッ

女魔法使い「だけど、今日はちがうわ! ちゃんと対策してきたもの!」

女魔法使い「さぁ、表に出なさい!」

女魔法使い「今日こそあなたをやっつけてやる!」

幻術士「……分かったよ」ガタッ

<外>

女魔法使い「さっきもいったけど、今日はいつもの私じゃないわよ」サッ

幻術士「む……」サッ

女魔法使い「炎よ! 全てをさえぎる壁となれ!」バッ

ボワァァッ!

幻術士「うっ……!(炎で自分の前に壁を作った!?)」

女魔法使い(あなたの幻術は、不規則に動かす手指とそこから放たれる念波で完成する!)

女魔法使い(つまり、手を見なければ私の勝ちってわけ!)

女魔法使い(今のうちに回り込めば──)ダッ

女魔法使い「ウフフ、こっちよ!」

幻術士「な……!(いつの間に後ろに!?)」

女魔法使い「さぁ……私の得意魔法である雷で撃たれなくなきゃ降参しなさい!」

幻術士「う、ぐ……っ!」ササッ…

女魔法使い「さぁ、早く!」

幻術士「わ、分かった……降参するよ」

幻術士「参りましたァ! お許し下さい!」ガバッ

女魔法使い「フフフ、まぁ許してあげるわ」

幻術士「ところで、一緒にメシでも食わないか?」

女魔法使い「あら、気が利くじゃない。ちょうどお腹が空いていたのよ」

<幻術士の家>

幻術士「ほら、イチゴのショートケーキだ」コトッ

女魔法使い「私の大好物じゃない! ありがとう!」

女魔法使い「…………」モグッ

女魔法使い「!?」

女魔法使い「な、なにこれ!? なんでキャベツの味がするのよ!?」

幻術士「だってそうした方が、君も“気づくこと”ができるだろう?」

女魔法使い「あっ……! あなた、まさか!」

幻術士「そのまさかだよ」

………………

…………

……

女魔法使い「!」ハッ

女魔法使い「や、やっぱり幻術……。やられたわ……!」ギリッ…

女魔法使い「多分、あなたが参ったしたところから幻覚だったのね!」

幻術士「そのとおり。で、君は現実ではキャベツ炒めを食べていたんだよ」

幻術士「あいにくウチにケーキなんてシャレたもんはないからね」

女魔法使い「むぅ~! またしても私が負けるなんて!」

女魔法使い「…………」モシャモシャ…

女魔法使い「ごちそうさま!」

女魔法使い「次こそ……今度こそあなたの幻術に惑わされず、勝ってみせるわ!」

バタンッ!

幻術士「…………」

幻術士(いや……負けていたのは私の方だ。彼女の戦い方はパーフェクトだった)

女魔法使い『ウフフ、こっちよ!』

幻術士『な……!(いつの間に後ろに!?)』

女魔法使い『さぁ……私の得意魔法である雷で撃たれなくなきゃ降参しなさい!』

幻術士『う、ぐ……っ!』ササッ…



幻術士(あの時、警告してるところに幻術をかけたわけだが……)

幻術士(もし警告なしで後ろから雷を撃たれてたら、私は負けていた)

幻術士(私の魔法耐性は高くないし、無防備なところに魔法を浴びればひとたまりもない)

幻術士(もしかして、それを考慮してわざわざ警告してくれたのだろうか?)

幻術士(あの人も……そう悪い人じゃないのかもしれないな)



                                 第三話 おわり

第三話終了です

第四話『ドレスアップ』



<幻術士の家>

幻術士「えぇと……もう一度いってもらっていいかな?」

女騎士「だから、オシャレをしたいといっているのだ」

幻術士「……すればいいじゃないか」

幻術士「私は幻術士であって、それ以外のことはまったく専門外だよ」

女騎士「だから……」

女騎士「幻術を使って、私にオシャレをさせて欲しいのだ」

幻術士(なぜわざわざ幻術で……)

幻術士「単刀直入に聞くけど、なぜ現実でオシャレをしないんだ?」

女騎士「……私は騎士の家に生まれ、騎士として育てられてきた」

女騎士「騎士団に入ると、女だからと軽んじられることも多かったが」

女騎士「そんな輩は全て、実力でねじ伏せてきた!」

幻術士(たしかに……下手な男よりよっぽど強そうだ)

女騎士「私は男どもに弱みを見せるつもりはない。今までも、そしてこれからも!」

女騎士「だが……一度でいいから、女性らしい恰好をしてみたい」

女騎士「幻の中でもいいから……という考えに至ったわけだ」

女騎士「頼む! 下らぬ頼みとは分かっているが、どうか引き受けてくれまいか!」

幻術士「……分かったよ。引き受けよう!」

女騎士「ありがとう!」

女騎士「ではさっそくだが、ドレスや装飾品のカタログを持ってきたので」ドサッ…

幻術士(こんなに!?)

女騎士「さあ、私に幻術をかけてくれ!」

幻術士「ちょ、ちょっと待ってくれ」

女騎士「なんだ?」

幻術士「さっきもいったけど、私はオシャレの専門家じゃない」

幻術士「着てるのもこんな質素なローブだし、センスにも自信はない」

幻術士「だから、どういう幻覚にするかはあなた自身で決めて欲しい」

女騎士「……ふむ、そういうことか」

女騎士「ならば少々時間をもらおうか」

一時間後──

女騎士「う~ん、これも着てみたいし、このネックレスもつけてみたい……」

幻術士(女性の買い物は長いっていうけど、長い……)イライラ…

幻術士「女騎士さん、ちょっといいかな」

女騎士「なんだ?」

幻術士「このままじゃラチがあかないから──」

幻術士「例えばあなたが“これを着たい”と念じたら」

幻術士「それが幻覚の中で実現するように幻術をかける、ってのはどう?」

女騎士「そんなこともできるのか」

女騎士「ならば、そうさせてもらおうか。ぜひ頼む!」

幻術士(よかった……)ホッ…

幻術士「じゃあ、幻術をかけるよ」サササッ…

女騎士「…………」

幻術士(これで……女騎士さんはオシャレし放題になったハズだ)

幻覚の中──

女騎士(さっそく、このドレスを──)

ボワンッ!

女騎士(おおっ、便利なものだ! 本当に着ることができた!)

女騎士(では、アクセサリーやネックレスも同じように──)

ボワンッ! ボワンッ!

女騎士(これはすごい!)

女騎士(幻術士とやらを怪しんでいた部分もあるが、どうやら本物の術者のようだ)

女騎士(今度は靴を──)

ボワンッ!

女騎士(よし、どんどんカタログのページを開いていこう!)ペラッ…

しかし──

ボワンッ! ボワンッ! ボワンッ!

女騎士「うん!?」

ボワンッ!

女騎士(い、いかん!)

女騎士(この幻の中ではどうやらある程度リアルに念じねば)

女騎士(服や装飾品を身に付けられないようだが──)

女騎士(慣れてきたせいか、写真を見ただけでそれができるようになってしまい)

女騎士(どんどんドレスやらなにやらが体にまとわりついてくる!)

ボワンッ!

女騎士(お、重いっ……!)ズシッ…

ボワンッ!

<幻術士の家>

女騎士「う、ぐう……っ! く、ぐそっ……!」ガクッ

幻術士「ん!?」

幻術士(あ、そうか! もしかして、念じすぎてしまったのか!?)

幻術士(いくら幻覚とはいえ、このままじゃ体に悪影響が出るおそれもある!)

幻術士(すぐ幻術を解除しないと!)パチンッ

女騎士「!」ハッ

女騎士「あ……軽くなった……」

幻術士「すまない、大丈夫か!?」

幻術士「かける幻術の性質を、ちゃんと伝えてなかったから──」

女騎士「いや……これは私の未熟によるものだ」

幻術士「み、未熟……?」

女騎士「衣服の重みで苦しみながら、私は悟った……」

女騎士「オシャレとは決して軟弱なものではなく、一種の鍛錬であるのだと!」

幻術士「鍛錬!?」

女騎士「うむ、己の判断で服を選び、着飾り、町を歩く……」

女騎士「こうして磨き上げたセンスは、戦いなどの緊急事態でも必ず役に立つ!」

女騎士「現に、剣や鎧とて機能だけでなく外観が美しいものもあるではないか!」

幻術士「まぁ……たしかに」

女騎士「ゆえにこれからは、堂々とオシャレをすることにする!」

女騎士「幻覚のおかげでそれに気づけた……これは礼だ」パサッ

幻術士「どうも……毎度あり」

女騎士「ありがとう、世話になった」ザッ…

しばらくして──

<幻術士の家>

客「いやぁ~、こないだ町でスゴイ女性を見ましたよ」

幻術士「ほう、どんな?」

客「華やかな服装で、とても美しい人だったんですけどね」

客「チンピラがその女性にちょっかいをかけたら──」

客「『いい鍛錬になる』って笑って、そのチンピラをブン投げたんですよ!」

客「美しい花にはトゲがあるっていいますけど、ホントなんですねぇ」

幻術士(……まったくだ)



                                 第四話 おわり

第四話終了です

第五話『幻術士の食卓』



<幻術士の家>

幻術士「ふぅ……」

幻術士(昼はライスと小さい焼き魚、だけか)

幻術士(まぁ、最近なにかと出費がかさんだしな……)

幻術士(しばらくは、わびしい食生活になりそうだ……)

幻術士「…………」

幻術士(そうだ!)

幻術士(自分で自分に幻術をかけて、この昼食を少しでも華やかにしよう!)

幻術士(自分に幻術をかけるのは、場合によっては解除困難になることもあるから)

幻術士(原則としてやっちゃいけないことになってるが……)

幻術士(昼ご飯を豪華にするくらいで、そんな心配はいらないだろう)

幻術士(自分の姿が映るものがあれば、自分に幻術をかけるのもたやすいしな!)

幻術士(よぉ~しそうと決まれば、鏡持ってこよう)

幻覚の中──

幻術士「…………」

幻術士「おおっ、出てきた出てきた!」

幻術士「なんてでかいハムだ。下品だが、このままかぶりついてしまえ!」ムシャムシャ…

幻術士「こっちには緑黄色野菜がいっぱいだ! 最近とれてなかったからな~」サクサク…

幻術士「う~ん、濃厚なコーンスープ……」チュル…

幻術士「アツアツのチーズフォンドゥ! 火傷しないようにしないと!」モグッ…

幻術士「トマトの味がよく出ているリゾットだ……」モシャモシャ…

幻術士「飲み物は極上のワイン、ま、幻覚とはいえ程々にしておこう」グビッ

幻術士「──幻術解除」パチンッ

幻術士「……う~ん」

幻術士「幻覚の中での食事はよかったけど……」

幻術士「実際に食べたのは魚一匹と、ライス一皿……あと水」

幻術士「ああ、空しい……」ハァ…

幻術士(たしかにポジティブな幻覚は精神を高揚させる効果があるけれど)

幻術士(これはその場しのぎに過ぎないからな……)

幻術士(しかも幻術にかかる前に、どういう幻覚にするか分かっちゃってるし……)

幻術士(自分で自分にプレゼントを送るようなものだ)

幻術士(あまり楽しいもんじゃ、ないな……)

三日後──

<幻術士の家>

幻術士(臨時収入もあって、今日は久々に豪華な夕食にできたぞ!)

幻術士(肉も野菜もたっぷり買ってきたし、たっぷり食べて体力をつけるとするか!)

幻術士(いや、待てよ?)

幻術士(この間は、豪勢な食事を取る幻覚を見て空しくなったから──)

幻術士(その逆、つまり質素な食事を取る幻覚を見れば)

幻術士(もしかして、ものすごい満足感を得られるんじゃないか!?)

幻術士(よし、やってみよう! 鏡を用意して、と……)

幻覚の中──

幻術士「…………」

幻術士「お、出てきた!」

幻術士「豆とパンと、ほとんど水のようなスープ……」

幻術士「固い豆だ。噛み砕くだけで一苦労だ」ガリッ…

幻術士「ずいぶんとパサパサしたパンだな」モソモソ…

幻術士「全然味がしないスープ……」チュルッ…

幻術士「幻覚とはいえ、ひどいメニューだ……やりすぎたかな」モグモグ…

幻術士「ふぅ、ごちそうさまでした」

幻術士「──幻術解除」パチンッ

幻術士(状況を整理すると)

幻術士(私は幻覚の中で貧しい食事をしたが、実際には豪勢な食事をしていた……)

幻術士(このとおり、腹も膨れている)プクッ

幻術士「…………」

幻術士「なにやってるんだ、私は!?」

幻術士「普通に食べればよかったじゃないか! 豪勢な食事をそのまま! 現実で!」

幻術士「私は何をやっているんだああああああっ!!!」



                                 第五話 おわり

第五話終了です

第六話『“生き方”と“逝き方”』



<民家>

老人「うっ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ! ──ゲホッ、ゴホッ!」

孫娘「おじいちゃん、しっかりして!」

父(またか……頻繁になってきたな。いよいよ覚悟した方がいいってことか)

母「お義父さん! お薬を持ってきますね!」

老人「……死んだ婆さんが呼んでおるようじゃのう」

父「親父……」

老人「なるべく迷惑をかけんよう、静かに逝くから安心せい」

父「縁起でもないこというなよ……親父」

孫娘「そうよ……」

老人「しかし……やり残したことがいっぱいあって困るわい」

孫娘「やり残したこと……?」

老人「ワシは体がこうして寝たきりになるまでは、婆さんと商売一筋で生きてきたが」

老人「剣や魔法を習ってみたかったし」

老人「色んなところを冒険してみたかったし」

老人「食べたいものも、飲みたいものも、いっぱいあった……」

老人「ワシのように後悔せんよう、お前は色々なことにチャレンジするんじゃぞ」

老人「よいな?」ニッ

孫娘「おじいちゃん……」

そんなある日──

孫娘「なんだろ、このチラシ……」ピラッ…

孫娘「『幻術を使ってどんなご相談にも乗ります』か……」

孫娘(幻術ってたしか、すっごく本物みたいな幻を見せる術のことだよね)

孫娘(この人なら──)

孫娘(おじいちゃんがやり残したことを体験させられるかも……!)

孫娘「ようし、行ってみよう!」

<幻術士の家>

幻術士「……なるほど」

幻術士「おじいさんのしたかったことを、幻術で体験させてあげたい、と」

孫娘「はいっ!」

孫娘「だから、あたしのおこづかいを集めてきました!」

孫娘「これでお願いします!」ジャラッ…

幻術士(相場に比べ、だいぶ少ないが……せっかく来てくれたのを断るのもな……)

幻術士「分かった、引き受けよう!」

孫娘「ありがとうございます!」

<民家>

孫娘「おじいちゃん、ただいま~!」

老人「おお、おかえり……」ゴホッ…

老人「おや、その人は?」

孫娘「え、えぇ~と……あたしの家庭教師!」

老人「おお、そうかい、そうかい。どうか孫をよろしく……」ケホッ…

幻術士「はい」チラッ

幻術士(……だいぶ弱っているな)

幻術士(自宅にいるのは病院で最期を迎えるよりは、という判断だろう)

幻術士(不謹慎だが、これなら幻術にかけるのはたやすい……)

幻術士(まずは──)

幻術士「剣や魔法で、冒険する幻覚を見せるとしよう」ボソッ…

孫娘(楽しんできてね、おじいちゃん)

幻術士「では──」ササッ…

幻術士(よし、これで睡眠時の夢に近い感じで、幻覚を見られるはずだ)

老人「おや、どうしたんじゃ? 今のはなにかのまじないかね?」

幻術士「!?」

幻術士(幻術にかかってない……? どういうことだ!?)

幻術士(私は今たしかに、このおじいさんに幻術をかけたはずだが……)

幻術士(なら、他の幻覚だ!)

幻術士(豪華な食べ物!)サササッ…

幻術士(美女!)ササッ…

幻術士(楽園のような島!)サササッ…

老人「さっきから、なにを手をバタバタさせておるんじゃ? ワシは手話は分からんぞ?」

幻術士「!」

幻術士(やはり……効かない……)

幻術士(──ということは……)

幻術士(そうか……そういうことだったのか……)

幻術士「孫娘ちゃん、ちょっと話がある。向こうに行こうか」

孫娘「は、はい」

<孫娘の部屋>

孫娘「どうしたんです? 今日は調子が悪かったんですか?」

幻術士「いや、そうではない」

幻術士「だけど、私ではおじいさんに幻術をかけることはできない。お金も返すよ」

孫娘「ど、どうして!?」

幻術士「幻術──特に本人がやりたいことを見せる幻術というのは」

幻術士「願望や未練といったいわゆる“心の隙”を突いて」

幻術士「幻を見せるという仕組みになるんだけど……」

幻術士「おじいさんにはまったく隙がない」

幻術士「なにかが足りてないと全く思っていない」

幻術士「つまり、本当は奥さんと商売をしてきた今までの人生に悔いはなく──」

幻術士「今も君や家族の方々に囲まれ、心の中は満ち足りているということなんだろう」

孫娘「!」

孫娘「おじいちゃん……」グスッ…

孫娘「おじいちゃん、おじいちゃんっ!」タタタッ…

老人「おお、どうしたんじゃ? 勉強はもうよいのか?」

孫娘「ありがとう、ありがとう……!」グスッ

老人「よう分からんが、悪い気はせんわい。ハハハ……」

孫娘「あたし、絶対おじいちゃんみたいな生き方してみせる!」

老人「ワシのような? フフッ、まぁそれもよかろうて……」



幻術士「…………」

幻術士(それからちょうど二週間後、孫娘ちゃんのおじいさんは亡くなった)

幻術士(差し出がましいとも思ったが、私も葬儀に参列させてもらった)

幻術士(孫娘ちゃんはきっと大泣きしたのだろう。目はほのかに赤かったが)

幻術士(おじいさんと悔いのない思い出を残せたからだろうか)

幻術士(その目はしっかりと前を見据えていた──)



                                 第六話 おわり

第六話終了です

第七話『剣に宿るもの』



<幻術士の家>

剣士「オーッス!」

幻術士「久しぶりだな、剣士」

剣士「さっそくだけどよ、俺の愛剣を見てくれよ。どうよ、これ?」チャッ

幻術士「ずいぶんボロボロだな……。剣には詳しくないけど、全然手入れしてないだろ」

剣士「正解! 俺ってズボラだからなぁ、この剣だって元々拾い物だし」

幻術士(なにしろ、幻術に頼って試合に勝とうとするほどだしな)

剣士「それでもこの剣、かなり丈夫だったんだけど、ついに斬れなくなってきたんだ」

剣士「でもさ、今度大事な仕事があって、このままじゃマズイんだよ」

幻術士「話は分かったが、私にどうしろというんだ?」

幻術士「私には剣を手入れする技術などないし」

幻術士「お前に“剣の切れ味がよくなった幻覚”など見せたら、それこそ危険だ」

幻術士「幻覚では敵を斬ったのに現実では斬ってない、という事態が起こりえるからな」

剣士「甘いな、俺はそんなこと頼もうなんて思ってないぜ」チッチッチッ…

幻術士「じゃあいったい……?」

剣士「幻術ってさ、『お前は強い!』っていう幻覚を見せて、脳みそを騙して」

剣士「普段以上の筋力や反応速度を引き出す、なんてこともできたよな?」

幻術士「そういう使い方もあるが……」

剣士「だからさ、この剣に幻術をかけてくれよ」

剣士「『お前は切れ味がいい!』ってさ。そうすりゃ騙されて切れ味よくなるだろ」

幻術士「はぁ!?」

幻術士「ちょ、ちょっと待て……剣は生き物じゃないんだ」

幻術士「そんなことできるわけないだろう!」

剣士「まぁまぁ、やってみなきゃ分からねえじゃん」

剣士「仮にできなくても、手間賃くらいは払うからさ!」

幻術士(まったく……こいつはどうしていつもこうなんだ)

幻術士(少し前にあった騎士との試合で、少しは変わったかと思いきや)

幻術士(まるで成長していない……)

幻術士(剣の手入れが面倒だからって剣に幻術をかけるなんて発想、普通しないだろ……)

剣士「今はほら」ブンッ

ガッ!

剣士「こんな木の板もまともに斬れない……ナマクラだろ?」

幻術士「だろうな……そこまで刃が食い込んだだけでもすごいよ」

剣士「さ、やってみてくれ!」ゴトッ

幻術士「分かった、分かった。ダメだったらとっとと諦めて剣を手入れしろよ」

幻術士「お前の命にだって関わるんだからな」

幻術士「……はっ!」ササッ…

シ~ン……

幻術士「とりあえず、いつもやってるように幻術をかけてみたが……」

剣士「サンキュー!」チャキッ

剣士「さっそく、さっきの板で試してみるか」チャキッ

幻術士(……試すまでもない。なにも変わってないだろ)

剣士「だりゃ!」ブンッ

スパッ!

剣士「おおっ!」

幻術士「え!?」

剣士「すげえ切れ味! まるで研ぎたてだよ! どうもありがとな!」

剣士「あと、お代はこれくらいでいいんだよな?」パサッ

幻術士「あ、ああ……毎度あり」

剣士「じゃあな!」バタンッ…

幻術士「……どういうことだ」

その後──

<盗賊団アジト>

剣士「どおりゃっ!」シュバッ

ザンッ……!

盗賊「ぐへえっ……!」ドサッ…



傭兵仲間「お前の剣、マジボロボロなのに切れ味やっべぇな! マジやっべぇ!」

剣士「だろ?」

剣士「ま、持つべきものは名剣と親友ってやつよ」チャッ

傭兵仲間「マジ羨ましいんだけどぉ!」

<幻術士の家>

剣士「──とまぁ、絶好調よ! 大活躍したからボーナスまでもらえたしな!」

幻術士「そりゃよかった」

幻術士「だけど、未だに信じられないよ。剣が幻術にかかるだなんて……」

幻術士「私もあれから色んな物に試してみたが、特にそれらしい効果はなかった」

剣士「なんでだろうなぁ……俺の日頃の行いがよかったからとか?」

幻術士(そんなわけ──)



『はい……そのとおりです』



剣士&幻術士「!?」ビクッ

剣士「な、なんだ今の声!?」

幻術士「私の声でも、お前の声でもなかったな……」

『こっちです……』ユラッ…

幻術士(この奇妙な服を着た女の子は、いったい……!?)

剣士「だ、だれだお前は!?」

精霊『私はこの剣に宿っていた、精霊です……』

幻術士「精霊……!?」

剣士「なぁ、これお前の幻術なのか!?」

幻術士「いや、ちがう。これは紛れもない現実だ。私にも信じがたいが……」

精霊『夢でも幻でもありません……』

精霊『とても長い間使われた剣には、精霊が宿るのです』

精霊『それが具現化した存在が、私なのです』

幻術士&剣士「はぁ……」

幻術士「剣士、お前はそんなに長くこの剣を使ってたのか?」

剣士「いや、せいぜいここ数年ってとこだけど……」

精霊『私はおよそ百年前、あるコンセプトで生まれた剣なのです』

剣士「百年!? ──で、コンセプトってのは?」

精霊『ずばり──手入れのいらない剣!』

幻術士&剣士「手入れのいらない剣!?」

精霊『ええ、正確には研ぐなどの手入れをせずとも長持ちする、ですが』

精霊『特殊な金属を用いて、特殊な製法にて作られたのです』

精霊『製法を知らない人が手入れをすると、逆にたちまち使い物にならなくなります』

幻術士(剣士のズボラな性格が、自然と正解を選んでたってわけか)

剣士「だがよ、今は手入れのいらない剣なんて見ないぞ?」

剣士「そんなもんがあるんなら、俺がとっくに買ってるしな!」

精霊『はい……』

精霊『当時、私は大流行するかと思われたのですが──』

精霊『まもなく“こんなものは邪道だ”という風潮が広がりましてね』

剣士「もったいない……」

精霊『それに自分で手入れできない、というのは』

精霊『剣の製造者に命を預けるようなものですから、その点でも不評だったようです』

幻術士(たしかに自分でいじれない武器というのは)

幻術士(なにか“仕込み”をされてても気づけない、ということだからな)

精霊『こうして我々はあっという間に廃れ──』

精霊『私も色んな人の手に渡りましたが、ついに捨てられてしまいました』

精霊『それを拾って下さったのが、剣士さん、あなただったのです』

剣士「そうだったのか。俺ってつくづくツイてるな!」

精霊『そして、こうして剣として最後の最後まで働くことができました』

精霊『本当に……ありがとうございました』

剣士「ハハハ、こちらこそ」

剣士「ん……ちょっと待てよ。最後ってのはどういう意味だ」

ピシッ……!

幻術士(剣にヒビ!?)

精霊『寿命……がきたのです』

剣士「な!?」

精霊『私は……剣として、生をまっとうすることが……でき、ました……』

精霊『剣士さんのおか、げ、で……』

剣士「ま、待ってくれ!」

剣士「俺は剣を買うのが面倒でアンタを拾って──」

剣士「手入れをしなかったのも、面倒だったからってだけで──」

剣士「礼をいわれるような剣士じゃ全然ないんだ!」

精霊『…………』ニコッ…

パキィンッ! シュゥゥゥ……

幻術士(剣が二つに折れると同時に、精霊も消えた……)

幻術士(そうか、私の幻術にかかっていたのはあの精霊だったんだ……)

剣士「…………」

剣が折れてからしばらくして──

<幻術士の家>

剣士「オーッス!」

幻術士「おお、剣士か。それは新しい剣か?」

剣士「ああ、今度は手入れを怠らないようにしないとな」チャキッ

剣士「なにしろ“手入れがいらない剣”なんかもうないんだからな」

幻術士「ところで、あの折れた剣は? 処分したのか?」

剣士「なんか処分できなくてさ、そっちもまだ持ってるよ。お守りとしてな」スッ…

幻術士「そうか……」

幻術士「しかし、あの時は本当に不思議な体験をさせてもらった」

幻術士「私がいうのもなんだが、今でもあれは幻だったのではと思うほどだ」

剣士「ハハッ、俺もだよ」



                                 第七話 おわり

第七話終了

第八話に続きます

第八話『女魔法使いの憂鬱』



<女魔法使いの家>

女魔法使い「炎よ!」バッ

シ~ン……

女魔法使い「今日もダメか……」

女魔法使い「なんで!? なんでなの!?」

女魔法使い「なんで魔法を撃てなくなっちゃったの~!?」

女魔法使い「どうしてなのよ~!?」

女魔法使い(こうなったら、幻術士に……相談してみようかな)

<幻術士の家>

幻術士「う~ん……。私も専門家じゃないからあまり詳しいことは分からないが」

幻術士「まぁ、スランプってやつだろうな」

女魔法使い「スランプ?」

幻術士「術士がたまになるんだよ。私もなったことがあるし」

女魔法使い「えぇ~!? じゃあ、どうすれば治るのよ!」

幻術士「気にしなくても、そのうち治るさ」

女魔法使い「でも、ここ一週間、ずっとこんな感じなのよ?」

幻術士「一週間もか……じゃあオーソドックスな方法を試してみようか」

女魔法使い「どんな方法?」

幻術士「今から君に“以前のように魔法を撃てるようになる幻覚”を見せる」

幻術士「そうすると、その勢いのまま現実でも撃てるようになることがあるんだ」

女魔法使い「暗示効果みたいなものね……分かったわ、やってちょうだい!」

幻覚の中──

女魔法使い(ここはもう幻覚の中ね。よぉ~し……)

女魔法使い「炎よ!」サッ

ボワッ!

女魔法使い「氷よ!」サッ

パキィンッ!

女魔法使い「雷よ!」バッ

バリバリッ! バチバチッ!

女魔法使い(うん、撃てた! よぉ~し、今の感覚を現実に持っていけば……)

<幻術士の家>

幻術士「──さ、幻術を解いた」

幻術士「今度は現実で魔法を唱えてみるんだ。あ、くれぐれも軽く頼むよ」

女魔法使い「分かったわ」コクッ

女魔法使い「冷気よ!」バッ

シ~ン……

女魔法使い「や、やっぱりダメ……」

女魔法使い「どうして? 幻覚でやったとおりにやったのに!」

女魔法使い「もしかしたら私、このまま一生魔法を使えないんじゃ……!」

幻術士(これは思ったより深刻なのかもしれない……)

幻術士「まだ手はある! もっと色々な幻術を試してみよう!」

三時間後──

幻術士「…………」

女魔法使い「ダメ、だったわ……」

女魔法使い(あ~あ、なんてことなの……)

女魔法使い(いつもやっつけてやるって意気込んでる相手に助けを求めて──)

女魔法使い(みっともないところばかり見せて……)

女魔法使い「私って……なんて情けないんだろう……」グスッ…

女魔法使い「うっ、うっ、うっ……」ヒック…

幻術士「情けなくなんかないって……」

幻術士(いつも強気で勝ち気な彼女の、こんなところを見るのは初めてだ……)

幻術士(かといって、私に励まされても、さらに落ち込むだけだろうな……)

幻術士(なにしろ、女魔法使いは私を倒したがってるんだから──)

幻術士「────!」ハッ

幻術士(つまり……私の言葉が“よく効く”かもしれないってことか!)

幻術士「……ったく、ホント情けないな!」

女魔法使い「!」

幻術士「ま、まったく……私がこれだけ手伝ってやっても調子が回復しないとは……」

幻術士「君には……魔法の才能がなかったんじゃないか!?」

女魔法使い「なんですって……」

幻術士「そんなんじゃ、術者としては私に一生及ばないな!」

幻術士「ア、アハッハッハッハッハ……」

女魔法使い「なにもそんなに笑うことないじゃない!」

幻術士「これが笑わずにいられるか!」

幻術士「悔しかったら私に魔法を撃ってみろ! まぁ、無理だろうがね……」ハハ…

女魔法使い「うっ、ううっ……許せない……!」ヒック…

女魔法使い「うぅぅぅ……わぁぁぁぁぁんっ!!!」バッ

ズガガァンッ!

幻術士「げほっ……」プスプス…

女魔法使い「あ、あれ撃てた……?」

幻術士「お、おめでとう……」ドサッ…

女魔法使い「!」

女魔法使い「大丈夫!? ごっ、ごめんなさい! まさか撃てるなんて──」

幻術士「なぁに……」プスプス…

幻術士「私もそれを狙って、散々挑発したんだしね……おあい、こ……」プスプス…

女魔法使い「しっかりして! すぐ回復魔法をかけるから!」

女魔法使い「ふぅ……痛みはおさまった?」

幻術士「なんとか……」

女魔法使い「だけど私を挑発して焚きつけるにしても」

女魔法使い「そういう幻術をかければ、ケガせずに済んだんじゃないの?」

幻術士「たしかにそれも一瞬頭をよぎったけど──」

幻術士「君にとってもスランプを乗り越えられるかの正念場だったからね」

幻術士「だったら幻術より現実で、と思ったんだよ」

女魔法使い「もう……バカなんだから」

幻術士「ハハハ(ホントだよ……こりゃ今日はもう休業だな……)」

女魔法使い「でも……」

幻術士「?」

女魔法使い「ありがと」



                                 第八話 おわり

第八話終了 第九話に続きます

第九話『おふくろ』



<宿屋>

犯人「オラオラァ! こいつらぶっ殺されたくなきゃ、金持ってこいや!」

犯人「100万ゴールドだ! もちろん逃走用の馬車もつけてな!」

夫(旅行先でこんなことになるなんて……なんてこった……)

妻(だれか助けて……)

子「うぇぇ~ん!」

犯人「泣くんじゃねえ、ガキ……! ナイフで刺されたくなかったらな!」サッ



憲兵(宿泊客を人質にするとは、卑劣な奴め!)

憲兵(しかし、ナイフの刃先は人質の間近にある……うかつな手段は取れん!)

憲兵(やはり、なんとかして説得せねば……!)

タッタッタ……

新米憲兵「た、隊長……」ハァハァ…

憲兵「奴の母親は見つかったのか?」

新米憲兵「それがまだ……あちこち走りまわってるんですが……」

憲兵「なにをやっておる、バカモン!」

憲兵「せっかくあの犯人は、母親には弱いという情報を得たというのに!」

新米憲兵「も……申し訳ありません!」

憲兵(いっそ似てる人間を探すか……。いやさすがにそれは──)ハッ

憲兵(──そうか! なにも本物を探し出さずともよいのだ!)

憲兵「よし、今すぐ幻術士に連絡を取るぞ!」

新米憲兵「幻術士……?」

憲兵「この町の外れに住んでいる幻術使いだ!」

憲兵「彼の術ならば、犯人を母親に会わせることができるかもしれん!」

新米憲兵(んな無茶な!)

<幻術士の家>

憲兵「──というわけなのだ」

憲兵「犯人に母親の幻を見せてやってほしい!」

憲兵「人質の安全を考えると、なんとか犯人から投降させる形にしたいのだ!」

幻術士「……やってみましょう」

新米憲兵「…………」

新米憲兵(幻術か……)

新米憲兵(昔どこだったかで人に幻術をかけるパフォーマンスを見たことあるけど)

新米憲兵(どう見ても“やらせ”だった……)

新米憲兵(この人も全然すごそうじゃないし、本当に大丈夫なんだろうか?)

<宿屋>

犯人「いつまでモタモタしてやがる! 人質の命が惜しくねえのかよ!?」

憲兵「ま、待ってくれ!」

憲兵「お前に会わせたい人がいる。ぜひその人に会ってはくれないか?」

犯人「俺に会わせたい奴!? だれだそりゃ!? とっとと連れてこい!」

新米憲兵「さ、どうぞ!」

幻術士「こんにちは」ザッ…

犯人「だれだてめぇは!? 俺はてめぇなんか知らねえぞ!」

幻術士「いや……覚えていないだけで、君は私を知っているはずだ」

犯人「マ、マジか……!?」

幻術士「私の名前はほら、この両手に書いてある」サッ

犯人「なにも書いてねえじゃ──」

幻術士(今だっ! 幻術にかける!)サササッ…

幻覚の中──

犯人「……あれ? さっきの奴はどこいった!?」

犯人母「アンタ……いったい何をやってるんだい?」ザッ…

犯人「え……お袋!? お袋なのかい!? なんでこんなところに……!?」

犯人母「まったく……こんなバカなことをして……」

犯人母「アタシは悲しくなってしまうよ」

犯人「ごめん、お袋……! なんか、仕事うまくいかなくて借金作っちまって……」

犯人「ヤケクソになって、ついこんなマネを……!」

犯人母「出ておいで、いい子だから」ニコッ

犯人母「アタシはね、アンタがどんなバカなことしたって、アンタの母親なんだから」

犯人「お、お袋……」グスッ…

犯人「すみませんでした……。憲兵さん、逮捕して下さい」ザッザッ…

憲兵「うむ、よい心がけだ」ガチャッ…



ザワザワ……

野次馬A「犯人が涙流して出てきたぞ!」

野次馬B「あの術士がなんかやったら、急にしおらしくなったな?」

野次馬C「さぁ~て、仕事に戻るか……」

ザワザワ……



憲兵「幻術士さん、ご協力ありがとう」

新米憲兵「スゴイです! ビックリしました! あっさり犯人を投降させるなんて!」

幻術士「こういうことが私の仕事ですから」

すると──

犯人母「コラァ! なにやってんだいアンタ!」ドスドス…

犯人「お袋!? なんで怒ってるんだよ!?」

犯人母「憲兵さんたちがアタシを探してるって聞いて、飛んできたのさ!」

犯人母「ったく、人様に迷惑かけるようなことしやがって! このボンクラが!」

犯人母「アタシは恥ずかしいよ! アンタなんかもう息子でもなんでもないよ!」

バシッ!

犯人「いてっ! さ、さっきは珍しく優しかったのに急にどうして……」

犯人母「なにいってんだい! もう一発喰らわすよ!」

バチィンッ!

犯人「おげぇっ!」ドザァッ…



幻術士&憲兵「…………」

新米憲兵「現実は厳しいですね」



                                 第九話 おわり

第九話終了です

最終話『幻覚商売』



<殺風景な部屋>

幻術士(…………)

幻術士(──ん)パチッ

幻術士(うっ……!)ズキッ…

幻術士(椅子に座らされ、両手と体を縛り付けられ……)ギシギシ…

幻術士(頭が痛い……ズキズキする……!)ズキッ…

幻術士(いったいどこなんだ、ここは……?)

幻術士(一つだけ分かるのは……これは夢でも幻でもないということだ)

幻術士(これが幻覚なら、どんなによかったか……)ズキッ…

ガチャッ……

幻術士「!」

ギャングA「よう、幻術士さん……目ぇ覚めたか?」ニヤニヤ…

幻術士「だれだ、お前は?」

ギャングA「まだ寝ぼけてんのか。んじゃ、目ぇ覚まさせてやるよ!」ブンッ

バキィッ!

幻術士「ぐあっ……!」

ギャングA「てめえのせいで仲間はパクられるわ、幻覚草は丸ごと押収されるわ……」

ギャングA「いっとくがな、大商人さんの怒りはこんなもんじゃねえぜ!」

幻術士(大商人……!)

幻術士(思い出した……。そうか、こいつは──)

………………

…………

……

一週間前──

<倉庫>

ワイワイ……

若者A「売ってくれぇ~……。あの草を売ってくれぇ~……」ヨロッ…

若者B「あれがないと、生きていけないよ! イライラして仕方ないんだ!」ボリボリ…

ギャングA「焦るな焦るな、順番に並べって」

ギャングB「草はたっぷりあるからよ」

ワイワイ……

ギャングA「へっへっへ、どんどんジャンキーが増えてくな」

ギャングB「なにせこの幻覚草は噛めば一瞬で幻覚天国、いや地獄行きだからな」

ギャングC「しかも依存性もバッチリ……一度やったらもうやめられねえよ」

ギャングA「どんどん客が増えて、俺らも大商人さんも大儲けってわけだ」

バタンッ!

「そこまでだっ! 全員、動くなっ!」

憲兵「違法植物取引の疑いで逮捕する! 大人しくお縄につけ!」チャキッ

新米憲兵「抵抗するなよ! ……頼むから」チャキッ

ザワザワ…… ドヨドヨ……

ギャングA「憲兵隊!?」

ギャングB「ちっ、マジかよ! どこかでつけられてたのか!」

ギャングC「ビビんな! 腰抜け憲兵なんかに捕まってたまるかよ!」チャキッ

ワァァ……! ワァァ……!

ガキンッ! キンッ! キィンッ!

憲兵「かなりの数だ! しかも手強い!」キンッ

新米憲兵「うひいっ! 幻術士さん、頼みます!」ギンッ

幻術士「…………」スッ

幻術士(幻覚草は危険な植物だ……それで商売するなんて、許せない!)

幻術士(あのギャングたちにも幻覚の恐ろしさを思い知らせてやる!)

ギャングB「景色がドロドロだよぉ~、なにがなんだか分かんねえ!」

ギャングC「あひゃひゃ~……あひゃひゃ~……」

「どうなってんだぁ~?」 「天地がひっくり返ってる~!」 「ぐるぐるぅ~……」



憲兵「よぉし、今の内だ! 売っていた者も、買った者も、全員捕えろ!」

新米憲兵「はいっ!」

幻術士「ふうっ……」

憲兵「幻術士さん、またあなたに助けられてしまったな」



ギャングA(ちくしょう……みんなやられちまった! 草もパーだ!)コソッ…

ギャングA(俺たちは憲兵だって恐れてねえってのに……)

ギャングA(全部あの幻術士ってヤロウのせいだ!)

<憲兵駐屯所>

憲兵「ほう、中毒になった若者たちの治療も可能なのかね!」

幻術士「はい、強力な幻術をかけることで、幻覚草の幻惑効果に上書きし」

幻術士「依存性をかなり薄めることができます」

憲兵「ショック療法というやつか……」

憲兵「では後ほどお願いしたい。むろん、報酬は上から出ることになるだろう」

幻術士「……ところで、憲兵さん」

憲兵「なにかな?」

幻術士「幻覚草をバラまいていた黒幕はいったい……?」

憲兵「う、む……」

憲兵「いやぁ……まだ分かってはおらんのだ。だが、我々に任せておいてくれたまえ」

幻術士「……はい」

その後──

新米憲兵「え、黒幕ですか!?」

新米憲兵「絶対口外するなっていわれてるんですが、特別に教えちゃいましょう!」

幻術士(やっぱり憲兵さんは知ってて話さなかったのか……)

新米憲兵「実はですね……大商人が関わってる可能性が高いです!」

幻術士「大商人!?」

幻術士「一代で財を築いたという、あの大手道具屋の……!?」

新米憲兵「そうなんです、ビックリでしょう!?」

新米憲兵「大商人は表向きにはクリーンな商売人イメージで通っていますが」

新米憲兵「裏ではかなりの悪さをしてるようなんですよ!」

新米憲兵「例えば、さっきのギャング団みたいな犯罪に長けた連中を使って」

新米憲兵「通常ルートじゃとてもさばけない商品を売りさばかせたりしてるようなんです」

新米憲兵「幻覚草も、その一つですね」

幻術士「そこまで分かっていて、なぜ捜査や逮捕をしないんだ?」

新米憲兵「なにしろ大物ですからね……うかつに手を出せないんですよ」

新米憲兵「それに……決定的な証拠もないですし」

新米憲兵「下手に手を出せば、憲兵隊の方が危うくなります」

新米憲兵「仮にさっき捕まえたギャングが繋がりを自白したとしても」

新米憲兵「多分どうにもならないでしょうね」

幻術士(なるほどな……)

幻術士(幻術使いのはしくれとして、ああいった植物を悪用する輩は許せないが……)

幻術士(現状打つ手なし、か……)

それから一週間が経過し──

<幻術士の家>

幻術士(そういえば、今日あたり女魔法使いが来そうだな。私をやっつけてやるって)

幻術士(どれ、お茶でも用意しておこうかな)

ガチャッ……

幻術士「お、ウワサをすれば──」

ギャングA「よう……」ニヤッ

幻術士「!?」

ギャングA「やっと見つけたぜ。こないだはよくもやってくれたな」

幻術士(こいつは……あの時のギャング!?)

ギャングA「オラァッ!」ブンッ



ガツンッ……!

……

…………

………………

<殺風景な部屋>

ギャングA「思い出したか?」

幻術士「一週間前……幻覚草を売りさばいてたギャングの一人だな?」

ギャングA「おうよ。俺はなんとか逃げられたが、仲間はみんなパクられちまった」

ギャングA「あの時てめぇは手を動かして、みんなに術をかけてたが」

ギャングA「そうやって両手を縛られてちゃ、どうしようもねえだろ?」

ギャングA「幻術が使えねえんなら、てめぇなんざただのひょろい兄ちゃんだ」

ギャングA「てめぇんちに乗り込んだ時、ホントはブッ殺してやりたかったが──」

ギャングA「あいにくさらってこいって命令だったんでな」

ギャングA「きっと大商人さんがとんでもねえ処刑方法を考えてるにちがいねえ」

ギャングA「へっへっへ……覚悟するんだな」

幻術士「…………」

ガチャッ……

私兵「オイ、大商人さんがお呼びだ」

私兵「幻術士を大広間まで連れてこい」

ギャングA「へいっ!」

幻術士(ギャングとは一味ちがう……戦闘訓練を受けていそうな男……)

幻術士(大商人は自分の兵隊まで持っているのか……!)

幻術士(仮に憲兵隊が動かぬ証拠を掴んだとしても、これじゃ厳しいだろうな……)

ギャングA「オラッ、とっとと立てや!」グイッ

幻術士「ぐっ……!」

<大広間>

ギャングA「大商人さん、連れてきましたぜ」ブンッ

ドサァッ!

幻術士「あぐっ……!」

大商人「ほっほっほ、あなたが幻術士さんですか。わたくしの屋敷へようこそ」

大商人「先日はわたくし子飼いのギャングたちが、大変お世話になりました」

大商人「このたびのわたくしどもの損害は、1000万ゴールドは下らないでしょう」

大商人「本来なら、せめてここであなたに命を支払ってもらうことになるのですが……」

幻術士「…………」

大商人「あなたにチャンスを与えましょう」

幻術士「……チャンス?」

大商人「ええ、これからはその幻術をわたくしのために役立てて欲しいのです」ニコッ

幻術士「アンタたちのために……?」

大商人「ええ、例えばわたくしの商売敵やジャマな憲兵に幻術にかけてもらったり」

大商人「他にも幻術で商売の手伝いなどをしてもらいたいのです」

大商人「あなたの幻術があれば、どんな商品だって売れるでしょうからねぇ」

大商人「もちろん、わたくしは商人ですから、対価はきっちり支払いますよぉ?」ニコッ

ギャングA「!」

ギャングA「大商人さん、それじゃ俺の気が──」

大商人「黙りなさい」ギロッ

ギャングA「す、すんません……」

大商人「さ、どうです? といっても、選択の余地などありませんがねえ」

幻術士「…………」

幻術士「たしかに……私に選択の余地はないようだな」

幻術士「幻術とは人を惑わす術」

幻術士「幻術で人を陥れても、逆に励ましたとしても、その本質に変わりはない」

幻術士「私だって、幻術で卑怯なことをしたことがないとはいえない」

幻術士「だから私がこれまでやってきた仕事と」

幻術士「アンタと組んでやるであろう仕事に、大した差はないのかもしれない……」

大商人「ほっほっほ、よく分かってるではありませんか」

幻術士「だけどね……私は幻術で商売をすると決めた時、誓ったんだ」

幻術士「どんな仕事は正しい、どんな仕事は間違ってる、などというつもりはないが」

幻術士「どういう仕事はやるか、やらないかをきっちり自分の中で線を引いて」

幻術士「やらないと決めた仕事は、死んでも絶対にやらないと!」

幻術士「大商人、私はアンタと組むつもりはない!」

幻術士「まして幻覚で人々を苦しめるような人間のいうことなど、聞くものかッ!」

大商人「ほっほっほぉ~、なるほど」ニコニコ…

大商人「こうまできっぱり拒絶されるとは思いませんでした……」

大商人「わたくしの経験上、あなたのような方とは交渉しても無駄だと分かっています」

大商人「……ならば仕方ありませんねぇ」チラッ

ギャングA「?」

大商人「この方を1000万ゴールド分痛めつけて、処刑してあげなさい」

ギャングA「……ありがとうございます!」

ギャングA「へへへ……覚悟しろよ」パキポキ…

幻術士「ぐ……!」

ギャングA「まず一発目だ!」ブンッ

バキャッ!

幻術士「ぐあっ!」

ギャングA「オラッ! オラッ! オラァッ!」

ガッ! ガスッ! ドゴッ!

幻術士「うぅ……」

ギャングA「おいおい気絶なんかさせねえぞぉ……?」グイッ

ギャングA「今度は腹だ!」シュッ

ドボォッ!

幻術士「ぐええっ……!」ゲホッ…

ギャングA「へへへ……パクられた奴らの恨み、じっくり晴らしてやるぜ!」

ギャングA「うらぁっ!」ブオンッ

ガゴッ!

幻術士(ぐ、痛い……! 痛すぎる……!)

幻術士(あ~あ、ここで自分に幻術をかけられるのなら)

幻術士(楽しい幻覚を見ながら、楽しく殴り殺されるところなんだけど……)

幻術士(両手が縛られてちゃ、それも無理、だな……)

ガッ!

ギャングA「そらぁっ、もいっちょ! オラァッ!」

ズガッ! ゴッ! ドガッ!

幻術士(意識が……飛びそうだ……。ここまで、か……)

幻術士(でも……最後に意地を張れた、からいいよ、な……)

ドズゥッ!

幻術士「がふっ……!」ガクッ

ギャングA「そろそろあの世が見えてきたんじゃねえか? オラッ、もう一発──」



バリバリバリッ!



ギャングA「ぐぎゃあああああっ!?」

ギャングA「あ……がっ……」ドサッ…

幻術士「え……?」

幻術士(突然なにが……? もしかして……これは幻覚……?)

幻術士(私の痛みに対する拒否反応が脳に作用して、自分に幻覚を……!?)

大商人「な、なんですか!? あなたがたは!」

幻術士(これは……幻覚じゃない! じゃあいったい──)

女魔法使い「しっかりして、幻術士! 死んじゃダメ!」

幻術士(え……? 女魔法使いが、なんで……?)

剣士「ほれ、縄を斬ってやる!」プツッ…

女騎士「まさに間一髪だったな」

幻術士(剣士に、女騎士さんまで……!?)

騎士「あの試合のことは、後に剣士君から聞いたが……」

騎士「ボクを“裸”という境地に目覚めさせてくれた君に礼をしたかったよ!」チャキッ

幻術士(うわっ、股間に葉っぱつけただけかよ、この人!)ギョッ

幻術士(あ、そうだこの人……私が全裸の幻覚をかけた騎士だ!)

幻術士「剣士、これはいったい……?」

剣士「俺たちがここに来れたのは、あの女魔法使いのおかげさ」

ここで時は少し前にさかのぼる──

<幻術士の家>

バタンッ!

女魔法使い「さぁ、今日こそ私が勝つ──」

女魔法使い「あれ、どこにもいない!? なんだぁ、留守かぁ……」

女魔法使い「でも、お茶が入れてあるし、カギもかかってなかったし……おかしいわね」

女魔法使い「!?」ギョッ

女魔法使い(な、なんでこんなところに血が落ちてるのよ……!)

女魔法使い(もしかして、幻術士になにかあったんじゃ……!?)

女魔法使い(なにか事件に巻き込まれたとか……)

<憲兵駐屯所>

女魔法使い「ねえ、そういう事件の心当たりない!?」

新米憲兵「なんでボクに聞くんです!?」

女魔法使い「一番口が軽そうだからよ!」

新米憲兵「なるほど!」

新米憲兵「心当たりといえば、こないだ幻術士さんにも手伝ってもらって」

新米憲兵「違法薬草の取引現場を押さえましたけど」

女魔法使い(きっとそれだわ!)

女魔法使い「ねえ、黒幕はだれ!? そいつらのアジトはどこなの!?」

新米憲兵「それは口が裂けてもいうなって、上からいわれてるんですよ」

女魔法使い「黒焦げにするわよ?」バリバリ…

新米憲兵「……多分、大商人の屋敷じゃないかと」

女魔法使い(大商人……! 魔法使い仲間から黒いウワサを聞いたことがあるわ……)

女魔法使い「分かったわ、ありがとね!」ダッ

女魔法使い(だけど私一人じゃ無謀だわ! せめてもう二人、強い仲間が欲しい!)

<町>

女魔法使い「雷よ!」

バリバリッ! バリバリッ!

「なんだあの魔法使い!?」 「あっぶねぇ!」 「雷を次々落としてやがる!」

女魔法使い「だれか、強さに自信がある人!」バリバリッ

女魔法使い「幻術士の救出を手伝ってぇ~!」バリバリッ

ザワザワ…… ドヨドヨ……



剣士「アイツがピンチなのか!? そりゃ行くっきゃねえ!」ザッ



女騎士「幻術士殿とは縁がある。私も付き合おう」スッ…



騎士「騎士として、ボクも参加させてもらうよ!」チャキッ

<大広間>

剣士「──ってわけだ!」

剣士「確証もなしに大商人の屋敷に乗り込むのは、かなりの賭けだったけどな!」

幻術士「そうか……。あり、が……と……」

女魔法使い「いいわよ、しゃべらないで! 今、魔法で治療するから!」

女騎士「いや……悠長にしていられる余裕はないぞ」

女騎士「どうやらこの屋敷にはまだまだ兵が潜んでいたようだ」



ズラッ……

「あれが侵入者か」 「女もいるぜ、ヒッヒッヒ」 「覚悟しろよォ~?」

私兵「屋敷内の兵とギャング全員に招集をかけました」

大商人「ほっほっほ、ご苦労様」

大商人「さて、不法侵入者の方々、ここまでです」

大商人「あなたたち全員、ここから生きては帰しませんよぉ? ──殺しなさい!」

女魔法使い「炎よ! 焼き払え!」バッ

ボワァッ!

剣士「だりゃっ!」ブンッ

ザシュッ!

女騎士「成敗してくれる!」シュバッ

ザンッ!

騎士「葉っぱ一枚あればいい、ボクのスピードに追いつけるかな?」シュタタッ

ズバァッ!

ワァァ…… ウォォ…… ワァァ…… ウォォ……




私兵「三人ともかなり手強いですね。とはいえ、さすがに多勢に無勢ですが」

大商人「ほっほっほ、これが終わったらまた兵を補充しませんとねぇ」



幻術士(ぐ……数が多すぎる!)

幻術士(しかも大商人にとっては、部下はいくらでも“買えるもの”なんだ……!)

バチバチッ……!

女魔法使い「あれっ!?(魔法の威力が弱まってきてる……!)」

剣士「アンタは下がってろ! 町中でも魔法撃ってるんだから、無理すんな!」

キィンッ! ガキンッ! キンッ!

女騎士「くそっ、質はさほどでないとはいえ、小さな騎士団並みの兵力だ!」

女騎士「民間人がこれほどの戦力を持つとは……信じられん!」ハァハァ…

剣士「金の力ってのはそれだけ恐ろしいってこった!」ゼェゼェ…

騎士「おっと、見せてはいけない部分が葉っぱからはみ出てしまった!」ササッ



幻術士(ま、まずい……)

幻術士(このままじゃ……みんな、やられてしまう……)

幻術士(幻術で、援護しなきゃ……)ググッ…

幻術士(だけど……今の私では、幻術はあと一回が限度だろう……)

幻術士(しかも、私の幻術は……性質がバレている可能性もある……)

幻術士(ただでさえ、この乱戦では……術をかけるのは難しい、のに……)

幻術士(どうする……!?)



ワァァ…… ガッ…… バシィッ…… ワァァ…… ドシュッ……

キンッ…… ウオォォ…… バリバリッ…… ザシュッ…… ギャァァ…… 



幻術士(この一回で……敵全員を惑わせる方法!)

幻術士(どうにかして……敵全員の目を……一方向に向かせれ、ば……)

幻術士(なおかつ私の両手の動作を、敵も気づかないうちに見せる方法が、あれば……)

幻術士(なにかないか……!? 考えろ……!)

幻術士(私の幻覚などではなく、本当に助けに来てくれた四人のためにも……!)

幻術士「!」ハッ

幻術士(そう、だ……! 私はあの時、自分に幻術をかけて食事を……!)ヨタッ…

女魔法使い「動いちゃダメ! ボロボロなんだから!」

幻術士「み、みんな……」

剣士&女騎士「!」

騎士「なにかな?」

幻術士「私が合図した、ら……」

幻術士「女魔法使いは残る魔力で、人の姿がよく映る、キレイな氷を作って……」

幻術士「他のみんなは……その近くに剣を放り投げてくれ……」

剣士「オイオイ、剣を放り投げてどうすんだよ!?」

女騎士「そうだ、投降して助かる相手ではない! 勝算は薄いが、戦わねば!」

幻術士「頼むっ……!」ググッ…

女魔法使い「…………」

女魔法使い「分かったわ、私はやる! キレイな氷を作ればいいんでしょ!?」

剣士「まぁ……いいだろ! なんか考えがあるんだろ、幻術士!?」

女騎士「むう……仕方あるまい。承知した!」

騎士「フッ、ボクも乗らせてもらうよ! おっとまたはみ出た!」ピラッ…

幻術士(もう少し、で……)

キィンッ…… ワァァ…… 

幻術士(この体を動かし……幻術を使えるコンディションになる……)

ウォォ…… ボワァァッ……

幻術士(あと、少し……休めば……)

ザシュッ…… ワァァ……

幻術士(…………)



幻術士「今だっ!!!」

女魔法使い「氷よ!」パキィィン…

剣士「ほらよ、降参だ!」ポイッ

女騎士「やってみるしかあるまい!」ポイッ

騎士「プレゼントだ!」ポイッ

幻術士(ここで、私が動いて──)ダッ



「剣を捨てた!?」 「諦めたか!」 「氷魔法も全然的外れだぜ!」



幻術士(私の手の動きを氷に映すように──幻術ッ!)サササッ…





シ~ン……

大商人「ほっほっほ、諦めて剣を捨てましたか! やっておしまい──」

グニャァ~……

大商人「ほ!? こ、これはっ!? 地面がグルグルと──」ヨロヨロ…

「どうなってんだこれ!?」 「立ってられねえ!」 「うわぁぁぁっ!」ドサッ

大商人「これは……幻覚にちがいない──ううっ! うぉぉぉっ……!」ドザッ…

ドサッ…… ドササッ…… ドザァッ…… ドサッ…… ドササァッ……



幻術士「や、やった……!」ガクッ…

女魔法使い「そうか! 氷を鏡に見立てて、氷に映った手の動きを敵に見せて──」

女魔法使い「さらに念波をも反射させて全員に幻術をかけたのね!」

騎士「剣を捨てさせたのは、みんなの目を氷に向けさせるため、というわけだね」

女騎士「大胆な手を打ったものだ……。失敗してたら丸腰になっていただけだぞ」

だが、その時──

私兵「ならば、術者を殺せばいいっ!」ダッ

幻術士「なっ!?(かかってなかったのがいたのか!)」



ザクッ……!



剣士「お守りに……もう一振り、持っててよかったぜ」チャキッ

私兵「ぐ、くそぉ……!」ドサァッ…



女騎士「今回のことは上に報告しよう。となれば、憲兵隊だけでなく騎士団も動く」

騎士「うん、それがいい。騎士二人の報告があれば、まず大丈夫だろうさ」

幻術士「よ、よかった……。みんな、ありが、とう……」

女魔法使い「ほら、しゃべらないで休んでなさいって! さっさとここを出ましょ!」

………………

…………

……

数日後──

<病院>

幻術士「まったく……入院とは情けない」

女魔法使い「そりゃ死ぬ寸前まで殴られて、しかもあの人数に幻術をかけたんだもの」

女魔法使い「回復魔法も使ったけど、しばらくは安静にしてないと……」

女騎士「そういうことだ」

女騎士「あれからすぐ……憲兵隊と騎士団が合同で、本格的に動き出した」

女騎士「もはや、いくら大商人とてただでは済むまい。逮捕は時間の問題だろう」

女騎士「ゆっくり休むといい」

幻術士「うん……そうさせてもらうよ」

幻術士(女性二人に看病してもらえるとは……)

幻術士(まるで幻術にかかったようなシチュエーションだ)

幻術士(幻覚なら覚めないで欲しい……)

ガチャッ……

剣士「オーッス!」

騎士「やぁ」

幻術士「おお、二人も来てくれたのか。ありがとう」

剣士「入院生活で退屈してんだろ? 俺の武勇伝をたっぷり聞かせてやるよ!」

幻術士「え」

騎士「ボクは君のためにダンスを踊らせてもらうよ! ダンスは騎士の嗜みだからね!」

幻術士「その格好で……!?(おいおい、ケガが悪化しそうだよ……)」

女魔法使い「それじゃ……私たちは行こっか」スッ…

女騎士「う、うむ」スッ…

幻術士「ちょ、ちょっと」

女魔法使い「じゃ、退院したらまた勝負しに行くからね! 待ってなさいよ!」

女騎士「……達者でな」

バタンッ……

剣士「さぁ~て、まずは俺が九歳の頃、ちびっこ剣術大会に出た時の話だ……」

騎士「どうかな、ボクの腰使いは? なかなかエレガントだろう?」フリフリ…

幻術士(あああ……)

幻術士(これが幻術なら、どんなによかったか……!)

幻術士(幻覚なら早く覚めてくれえっ……!)

………………

…………

……

<幻術士の家>

幻術士(楽しかったり、苦しかったりした入院生活だった……)

幻術士(でもやっと退院できたし、今日から商売再開だ!)

ガチャッ……

男「あのぉ~、相談に乗ってもらいたいんですが」

幻術士「はい、どのような?」



家の横にある立て看板には、こう書かれている。

『幻術を使ってどんなご相談にも乗ります』



幻術士の幻覚商売はこれからも続く──





                                 最終話 おわり

最終話終了
というわけで完結です

ありがとうございました!




あと一ヶ所ミスがあったので訂正します

>>128

私兵「三人ともかなり手強いですね。とはいえ、さすがに多勢に無勢ですが」



私兵「四人ともかなり手強いですね。とはいえ、さすがに多勢に無勢ですが」

失礼しました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom