【安価】男「異世界転生しちゃった」 (354)



~マンション 屋上


俺の名は男。彼女に浮気され、保証人になってあげた友人に逃げられ、会社をクビにされた俺は生きる事を諦め、マンションの屋上から自殺を図る。

だが落下の最中、目の前に俗に言う異空間の穴が開き、俺はその中へと吸い込まれてしまった。
穴の中は暗闇で、ふわふわと浮いている感覚だ。空を飛ぶってのはこういう物なのかと、呑気な事を考えていた。

暫くすると段々目が開けられないくらいに周りが明るくなり、何かの上に落とされ背中と頭に衝撃が走る。ここは、草むらの上だ。


「いてて……なんだここ」


辺りを見回してみると、昔よくやったゲームの様な世界が広がっている。明らかに現実とは違う場所というのはすぐに理解した。
俺は知っている、この現象を。俺に起きた事を。


「これ、異世界転生じゃね!?マジか!」


ゲームをしなくなった俺はライトノベルをよく読むようになった。
その中でも異世界転生物が好きで、羨ましくて、憧れていた。
だからこそ、今の置かれた状況に困惑する事はなく、むしろ高揚していた。


「定番のアレやってみるか!えーっと……ステータスステータス……あれ?どうやって出すんだ?」


頭の中でステータス表示、ウィンドウオープン、自己解析、メニュー等色々と考えて口に出してみても、何も出ない。


「おかしいな……何も出ない。でも俺って……」


異世界転生の定番とも言える事だが、もしかしたら俺は異世界最強の能力、身体能力、最強魔法等が使えるかもと浮き足立つが、詳細がわからないんじゃどうしようもない。


「う~ん……どうしたもんかな」




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1564972067



「ちょっと試してみるか」


俺はその場から立ち上がり、軽く準備運動を始める。
最近訛ってたから念入りにな。


「よし!」





行動内容。行動によって起きた事柄。行動によって判明した能力。
安価下2



何かを始めようとした時、視界の端にゴブリンらしきモンスターを発見する。


「う、うわ…やばっ……!」


俺は出来るだけ声を殺し、音を立てずに背の高い草にうつ伏せになる。どうやらまだ気付かれてはいないようだ。
漫画やゲームではモンスターが喋るのはそう珍しくない。知能が高いモンスターは喋れるという設定もよく見る。

しかし、あいつは見た感じ全く話が通じそうにない。まだ自分の事もよく分かってないのに、あんな得体の知れないやつと戦えるか。
ここは、静かに逃げよう。


「……そーっとな……そーっと……」


動く度に草が揺れ、その度俺の鼓動が早くなる。
頼むから気付かないでくれよ。とりあえず近くの木の後ろまで行ければ。


「ギギ……ッ!!」


「やぁっ!」


女の声がした。俺は少し顔を上げてゴブリンの姿を確認する。ゴブリンは女の前で倒れている。
死んでる?あの女がやったのか?
すると女は腰から短刀を抜き、ゴブリンの前に蹲って何かをしている。素材でも取っているのか。

この世界の事はまだわからないし、迂闊に人も信用出来ない。
話を聞きたいが、どうするか。


安価下


(怪しまれないように、自然と、愛想よく話しかけよう)


俺は勢いよく立ち上がったせいか、大きな音を立ててしまう。
流石に女も気付き、こちらを振り向く。


「や、やあ。こんな所で何をしてるの?」


「見ての通りだけど」


「あ、そ、そうだよね!」


やべーミスったか。とりあえず何か言わないと。


「それ、君がやったの?凄いね」


「……」


やべぇ、すげぇ怪しまれてる。


「…ふん。これくらい楽勝よ。何?あんた、冒険者?」


(冒険者!その職業があるって事はギルドがあるかな?)


一般的にギルドとは俺の知っている限り2種類あって、ライセンス登録をし、討伐、採取、護衛…etc。様々な依頼を受けたりしてランクを上げる冒険者ギルド。
もう1つは同じ志を持った仲間が集い、組織を立ちあげるギルド。
冒険者という職業があるなら、前者の可能性が高いな。


「そう、そうなんだよ。ちょっと道に迷っちゃって……」


「ふーん……それにしては変な格好ね。装備も無さそうだし……ホントに冒険者?」


や、やっべぇぇぇ!そういや忘れてたけど上下スウェットだ俺!
そりゃそうだわ、こんな冒険者いるわけねぇわ。やべぇじゃん、俺超怪しいじゃん。


「これには少々事情があってね……」


「……あっそ。で、何か用なの」



安価下



「さっき言った様に、道に迷っちゃって……良かったら近くの町まで案内してくれないかな?」


「いやよ」


ほぼ即答だった。こんな右も左もわからない世界で、モンスターの出るフィールドに居るのはまずい。


「そこを何とか……お願いしますっ!」


両手を合わせて懇願する。


「いやよ。私に何の得もないじゃない」


「そ、そんな……」


取り付く島もないとはこの事か。案内が駄目なら道を聞くか、流石にそれは良いよな?


「じゃあ……近くに町はあるかな?道だけでも教えてくれると助かるんだけど」


「……あっち。しばらく歩くと街道があるわ。右はリネル村、左はメリルの町よ」


「あ、ありがとう!」


「別に。こっちもやる事終わったし、消えるわ」


「あ、うん」


女は素早い動きで指した街道とは逆に走っていく。だが、収穫はあった。


「とりあえずは街道だよな……どっち行くか」



安価下



左のメリルの町に行こう。
村という響きは長閑で親切な人が多いと想像するが、今は情報の多そうな町にしよう。

道中モンスターに出くわすことも無く、暫く歩くと街道を見つけた。
俺は女に言われた通り、街道を左に進んでいく。



~メリルの町



「おお……すっげぇ!」


町に入るや否や、俺は感動する。俺の居た世界程の高さはないが、見たことの無い建物、綺麗な街並み、楽しそうに話す町民、武器を背負う冒険者と思われる者達。
様々な店が立ち並び、何処からか香ばしい匂いが俺の鼻を刺激する。
同時に安心したからか、腹が鳴る。

「あ……そういや死のうとしたから何も食べてなかったんだっけ……どうしよ」



安価下



やはりここは酒場だろう。トラクエなら仲間を見つけ、ロマサカなら町を動かすアイテムを教えてくれる。とにかく重要な場所だ。

酒場を探しながら町を歩いていて、分かったことが二つある。
まずは俺の服装だ。周りの町民から奇異の目を向けられ、恥ずかしい想いをした事。
そしてもう一つ。文字が全くわからない。看板には何語?ってレベルの文字が描かれ、俺の世界に存在した文字ではない。
でも、言葉は通じたな。よくわからん。

町を練り歩いていると、前の建物から昼間から泥酔した男性が仲間に担がれて出てきた。ここが酒場だな。



~酒場


「へぇ……!」


居酒屋とはまた違う、大衆居酒屋とでも言うのか。仕切りは一切無く、木の丸テーブルと、その周りに木の丸椅子が室内に敷き詰められ、正面には店主と思わしき禿頭のおっさんがグラスを拭いている。
奥には階段があり、あそこは店主の寝床だろう。

俺はとりあえず店主の元へと移動する。その際も周りから変な奴が来たなって感じの目で見られた。


「あのー」


「おう、いらっしゃい。変わった格好してんな兄ちゃん」


「そうですよね、ははは……」


「で、なんにするんだ?」


「あ、いや、実は……」


「ん?」



相談内容
安価下



「あ、なんでもないです。お酒をひとつ貰えますか」


「だから何にすんだ?」


「えっと……火酒で」


「火酒か、ちょっと待ってな」


たくさんの異世界転生物を読んだ俺に死角はない。よく使われているであろう異世界の飲み物は火酒とエールだ。
まさか本当にあるとは思ってなかったが、言ってみるもんだ。


「ほらよ、代金は後払いだ」


「ありがとうございます。それと……可愛い女の子にお酌とかって……そういうサービスはあります?」


「なんだ兄ちゃん、女に酌させてぇのか」


「まぁ、はい」


「いいぜ。おーい!エルフ!ちょっとこっちきて兄ちゃんに酌してやれ!」


店主が大声で叫ぶもんだから周囲の目が俺に集まる。凄い恥ずかしい、やめてくれ店主よ。
すぐにエルフという可愛い女の子が近付いてきて、席に案内される。
お猪口を持ち、酒を注がれながらエルフという女の子を見る。
肌が黒いから、ダークエルフかな?それに…

「……耳、長いんだな」


「え?」


やばい、口に出していたか。ただでさえ変な目で見られてるんだ、目立たないようにしないと。


「いや、エルフって耳長いなーって」


「……」


沈黙が流れる。気まずい。変な事言ってしまったのか俺は。


「ぷっ…あはは!何言ってんすかお客さん!当たり前じゃないっすかー!」


「そ、そうだよね!あはは!」


「あはは!変なの!それじゃ私はこれで。ごゆっくりー!」


「あ、うん。ありがとう」


エルフが席から離れていき、俺は酒を飲む。うん、これは焼酎だな。
ただ酒を飲むのは良いが、一つ問題がある。
金が無い。



安価下



そうだ、住み込みで働いてしまえば良い。
そうすれば金も貯まるし、この服装ともおさらば出来る。
うんうん良いな、そうしよう。
俺は火酒を飲み終わると席を立ち、店主の元へと向かう。


「あの、ちょっと良いですか」


「ん?どうしたんだ?」


「実はさっきの続きなんですけど……住み込みで、ここで働かせてくれませんか?」


「はぁ?何言ってんだお前」


「実は、お金を持ってなくて……」


「何ぃ?持ってねぇくせに酒飲んでんのか!いい度胸してんな兄ちゃん!」


「は、ははは……」


上手く行きそうな流れだな。正直に話したのが良かったのか?


「でも駄目だな。金がねぇならさっさと出ていけ、火酒の1杯くらいくれてやるよ。だが、二度と来んなよ。てめぇの面は覚えたからな」


「あ……」


「さっさと行け!もし次来たら憲兵にしょっぴかせるからな!!」


「は、はい…!」


俺は逃げる様にして酒場を出る。周りからは笑い声が聞こえた、恥ずかしい。外に出ると陽は落ちて、すっかり夜になっていた。
もう酒場には行けない。


「何か……違うなぁ……」


空を見上げて俺は呟く。
異世界転生ってもっとこう、転生した俺がモンスターをばったばった倒して、自然と仲間が集まって、強大な敵に挑むもんだと思ってたけど、俺の異世界転生はそんなんじゃないのか。

そういえば、あの時は試せなかったけど、俺って何か能力はあるのかな?それとも、本当に無力な存在なのか。駄目だ、悪い方に考えるな。
さて、夜だけど今日の寝泊まりはどうしよう。火酒だけじゃ腹も満たされない。困ったな。



安価下



野宿、かな。人は減ったとはいえ、表で寝るのは些か気が引ける。
路地裏に行こう、ここなら人目につかない。
近くの路地に入っていくと、建物と建物の間に良い感じのすぺーすがあった。


「はぁ……」


溜息が出る。無理もない、こんなはずじゃなかったんだから。
メリルの町は路地裏も綺麗なのか、横になっても問題なさそうだ。
ちょっと硬いけど、これくらいなら寝れるだろう。


「あんた、何してんのよ」


「え!?」


突然声を掛けられ、俺はあらぬ声を上げる。まさかこんな所に人が居るなんて思いもしなかったからだ。
声を掛けたのは昼間の女。
あの時もそうだが、上半身を濃い茶色のフード付き外套に身を包み、下は短パン、顔は良く見えない。


「依頼から帰ってきたらあんたがいたのよ。何するのかと思ったら路地裏に入ってくし、寝ようとするし……何してんの」


「あぁ~……」


見られてたのか、恥ずかしいな。


「お金が無くてね、仕方なく野宿をしてるんだ」


「あんた、やっぱり冒険者じゃなかったのね。何者なの?見たことも無い格好だし」


「……突拍子も無い話だけど、聞いてみる?」


「聞くわ。宿でね」


「え?」


今なんて言った?宿?



「何て顔してんのよ、宿で聞くって言っただけじゃない」


変な顔してたようだが、今はそんな事気にしてられない。


「いいの?宿」


「良いわよ別に。私があんたの事、気になるだけだし」


良かった。この女のおかげで今日は野宿せずに済みそうだ。
俺は宿に歩き出した女の後に付いて行く。



~宿屋


「……あの」


「何よ?」


「え、同じ部屋?良いの?色んな意味で、いいの?」


「別に良いわよ。か二部屋借りるの勿体ないでしょ」


違うわい!同じ部屋に男女が2人、何も起こらないはずもなく。
ドキドキしてきた!


「そっか。そうだね」


「変なの」


そう言うと女は外套を脱ぐ。やっと女の顔が見れるな。


「え」


俺はその姿を見て、また変な声が出る。


「……?何よ」


女は端正な顔立ちで、頭からは兎の耳のような物が垂れていた。
外套の下は緑のチューブトップで、それなりに胸はあるみたいだ。
珍しいな、これはなんて言う種族なんだろう。


「いや、珍しいなって思って」


「そう?ま、何でもいいけど。話聞かせてよ」


俺はベットの脇に座っていて、女は隣に座る。
え、なにこれ?マジ?良い匂いするんですけど!


「ほら、早く」


肘でつつかれる。
俺は事の顛末を女に説明した。自殺しようとした事、転生した事、無能かもしれないと言う事。全てを聞き終えた女は、少し悩む素振りをする。


「どう?信じられそう?」


「……まぁ、無理な話よね。でも……」


「でも?」


「あんたが嘘を言ってるようにも見えなかった。これでも嘘を見抜くのは得意なの。だから多分あんたの話は本当なのね」


まさかこんなにあっさりと信じて貰えるとは思ってなかったぞ。
転生した俺に対するご都合展開かな?


「明日からはどうするの?お金、無いんでしょ?」


「それが今の悩みの種だね、戦えればギルドの依頼とか受けたいけど……」


「採取依頼とかは?時間はかかるけど、あんたでも出来るんじゃない?」


確かに、と声が漏れた。集めるだけなら俺でも出来るだろう。
そうか、採取依頼か。良いかもしれない。


「ありがとう。参考にするよ」


「私も面白い話聞けたしね、別に」


女はベットから離れると持ってきた鞄から櫛を取り出して、桃色の髪を梳かしている。寝る前の習慣かな?
そんな事を思っていると、また腹が大きな音を立てる。


「……そういえば、あんた何も食べてなかったんだっけ?」


「うん……こんな事頼むのもアレなんだけど、食べ物ってある……?」


「ちょっと待ちなさい…………ほら、干し肉だけど」


女は鞄から、紙で包まれた干し肉をくれた。
優しさに涙が出そうになったが、我慢する。
俺は包を剥がし、干し肉食べる。滅茶苦茶美味い。


「ありがとう。ほんとに…」


「良いわよ。私はさきに寝るからね、食べたらあんたも寝なさいよ。あと変な事したら[ピーーー]から」


「怖ァ…」


女は隣のベットに潜ると、就寝する。
俺も干し肉を食べ終わり、満腹になると明日の事を考える。
ちゃんと、生きていけるかな。というか浮かれて忘れてたけど、死のうとしたのに生きようとするなんて変な話だな。

まぁ転生なんてしたら死んだも同然か。切り替え切り替え。
ベットに入り、明日に備えてしっかりと寝よう。
おほ~ベット気持ちいいぃ~。


翌朝、女に冒険者ギルドに案内してもらった。女は用事があるらしく、そこで別れる事に。
いつか恩返ししよう。俺はそう心に刻んだ。
とりあえず、ギルドで手続きをしてしまおう。



~冒険者ギルド


ライセンスの発行は手こずったが、何とか取れた。
文字がわからないから、口頭で受付嬢に伝えて書いてもらったのだ。さぁこれで俺も冒険者だ。ちょっとワクワクすっぞ。

まずは依頼だ、施設内の壁に依頼書が乱雑に、大量に貼ってある。
やりたい依頼があったら依頼書を取り、受付嬢に渡すというシステムだ。
さて、どれをやろう。




安価下


採取依頼を探している時、ある依頼書に目が留まる。
それは、ゴブリンに攫われた少女の救出依頼だ。俺はふと、周りの冒険者を見る。

こんなに居るのに、人命が掛かってるというのに、何故誰も依頼を受けないんだ?
俺は元の世界に居る時の事を思い出す。俺が仕事を終え、帰り道を歩いてる時に、目の前の大通りで事故が起きた。

横たわる女性の傍に男性が2人とガードレールに激突した車。恐らく女性が轢かれたんだろうなってすぐ分かった。
だが、それだけ。可哀想だなって思うだけで、俺も、数十人の野次馬も、可哀想だなって思うだけなんだ。

その時は誰かが助けているし、大丈夫だろうとも思った。仮に誰も女性に近寄って、助けて無かったとしても、俺は見捨てるだろう。
俺はこの依頼書を見て、その時の事を何故か思い出してしまった。

俺に出来るのは採取依頼くらいだろう。だけどだ、見知らぬ少女だろうが人の命が掛かってるんだ。
今度こそ俺は、助けを求める声を、見捨てない。
俺は依頼書を剥がし、受付嬢の元へ行く。


「ありがとうございます。救出依頼ですね。少々お待ちください」


受付嬢は何かを書類に書き終えると、俺にバッチを渡してくる。


「これは?」


「救出依頼中という証です。依頼が完了したらお返し下さい」


了承すると、地図を渡される。


「これは……リンネ村の先の森かな?」


メリルの町と街道で繋がるリンネ村。その先には森があり、誘拐先と思われる所に印がある。


「あまり時間はありません。お願いします、男さん」


後ろから受付嬢の声が聞こえ、振り向くと深々と俺に頭を下げていた。そうか、受付嬢も気にしてたんだ。でも、期待に応えられるかな。安心と不安が同時に来る。

弱気になるな。戦おうと思えば戦えるんだ。気合い入れろよ、俺。
パンパンと頬を叩き、俺はメリルの町を出る。

間違えた、リネル村です


~リネル村


歩く事数時間、特に何も無くリネル村に着いた。
想像通り長閑そうな村で、左には大きな畑が沢山ある。
右には民家が建っている。あまり多くはないが。


「そこな御方……もしや冒険者様ですか?」


「え?はい、そうですけど」


ライセンスが後押ししてるのか、俺は堂々と冒険者だと言い張れる。だが、どうして俺が冒険者ってわかったんだろう?
お爺さんが、杖をついて近付いて来た。


「おおお…貴方様が……ありがとうございます。どうか……どうか少女を……お願い致します……」


「まさか……」


俺はバッチを見た。なるほどな、これのおかげで俺が冒険者ってわかったんだな。


「必ず、助け出してきます。安心して待っていて下さい」


「おおお……冒険者様も、どうかお気を付けて……」


俺は村の奥の、もう1つの入口から森へと入っていく。
まず俺は石を何個か広い、適当な大きさの木の枝に掴まり、体重で折る。


「初期の有者ですらもっと良いもん持ってるよなぁ……」


頼りないが、投石用の石数個と木の棒を手に入れた。
俺は地図を取り出し、現在地を大体把握する。
今の位置から南西、北東、東の3箇所に印がある。
どうしようか。



安価下


一旦戻って印の所に心当たりがないか聞いてみよう。
俺は踵を返し、リネル村へと戻る。
戻ると、近くに中年の男性が居る。この人に聞いてみよう。


「すみません、ちょっと聞きたいんですけど」


「ん?なんだい、冒険者さん」


俺は地図を男性に見せる。男性はほうほうと唸ると、すぐに地図を返してくれた。


「冒険者さん、その地図の印は違うねぇ。今奴らの住処はもっと南東にあって、廃村に居るはずだよ」


「え?」


「古かったんじゃないのかい?その辺りは他の冒険者さんが結構前に潰したはずだよ」


「あ、そうだったんですね。情報ありがとうございます」


危なかった。何も知らないでこの3箇所を回ってたら無駄骨も良い所。聞いてみてよかった、今の俺は冴えてるな。

気を取り直して、南東へと向かう。奥へと進んでいくと、なあの男性の言う通りゴブリンらしき足跡があった。
俺は緊張して、何度も深呼吸をする。すると、廃村らしき所が遠目に見えてきた。

草陰に隠れ、廃村が良く見える位置に移動する。
ゴブリン共が荒らしたせいなのか、元々なのか、荒れに荒れている。とてもじゃないが住める様な状態じゃない。ボロボロの家が沢山あるから、それなりに大きい村だったみたいだな。

俺がする事は──



安価、実行出来そうなものは全部実行します
安価下3まで

undefined

なんだこれ、書き直しか

1レスに対して文字量が多すぎるとそうなる(らしい)よ


可能な限り戦闘は避けていこう。今の俺じゃゴブリンの相手は辛過ぎる。
とりあえず草陰から一番近い廃家の裏に着くと、裏口の扉があった。ドアノブを捻ると扉はカンタンに空いた。とりあえず中に潜入完了。

静かに割れた窓から村の中心部を覗き見る。見えるだけでもゴブリンは8匹、他のも考えると是非とも相手にしたくない数だ。

窓から離れ、音を立てずに今居る廃家の中を物色する。ダンボールとエロ本があれば無敵なんだがな。
冗談はさて置き、少女の安否が最優先だが、もしもの時に備えて物色する事に損は無いだろう。

使える物は何でも使わなければ、俺みたいなのは生き残れない。
先ずは冷蔵庫だ、中を開けるが当然腐っていて異臭を放っている。


「ヴォエッ……クッッサ」


あまりの異臭に吐きそうになるが、我慢しろ。我慢だ。
鼻をつまみ、使えそうな物はあるか眺めていると、中身の見えない瓶を発見した。これ、中身なんだろう?

普通に触りたくないが、今はそんな事言っている場合ではない。
瓶を触ると、ネチョッとしていてベタベタだ。
気持ち悪いぃぃ、これも我慢だ。

お次は台所。ここには期待を寄せてしまうよね、台所だし。
異世界転生補正で何かあってくれると良いが。
戸や引き出しを開けるが、何も出てこない。慈悲は無かったようだ。

入っきた裏口から外に出て、廃家に張り付く。
TPSばりの張り付きで覗き込みに挑戦するが、ゲームみたいには行かないね。普通に頭だけで覗いた。

観察していてわかった事が二つ。


まず表のゴブリンで武器を持っているのは3匹。短剣持ち2匹と小弓持ちだ。あいつらから武器を奪えれば俺の戦闘力は跳ね上がるだろうが、奪うのは難しい。というか無理、多すぎる。

そしてもう一つ。
他のゴブリンは焚き火を囲んで座り、何かの動物らしき残骸を貪ったり、寝ていたりする中。小弓のゴブリンだけはここから一番遠い廃家から離れない。

何かを守っているみたいに、な。恐らく少女はあそこの廃家に居る。ただ焦るな、他の所に居る可能性もある。
奥の廃家に行くには間違いなくゴブリン共の注意を逸らす必要がある。

注意を引いてる間に廃家の裏から裏へと回り、あそこまで行くしかない。ただ、どうやって注意を引くか……






安価下


>>35 なるほど、ありがとう


「あ、そうだ」


俺はスウェットのポケットから石を1つ手に取る。当たると痛そうな石、こいつを使おう。
狙うは右の廃家で良いだろう。失敗しないぞ。

「……ふぅ」


石を投げる事はつまり、存在を知らせる事に近い。見つからなければ何事もないが、警戒心が強まってしまう。
俺は何度も、心の中で同じ言葉を反芻する。
俺なら出来る、俺は転生者……と。
自己暗示に近いが、小さいが少しの自信となる。

「……よっ…と」


俺は投げた、投げてやった。さぁもう退けないぞ。やるしかないぞ。
石は派手な音を立て、居眠りしていたゴブリンも起こす。
ゴブリン共は音の出処に注意を払い始め、俺の方を見るゴブリンは居ない。

すかさず俺はゴブリン共との間に廃家を置くように転々と移動していき、目的の廃家に到着する。
先程と同様にこの廃家にも裏口があり、そこから侵入する。


「ギギッ!?」


「ちょ……!」


依頼された少女は居た。ついでにゴブリン1匹。こいつは音に気が付かなかったのか!
仲間に大声で知らされる前にどうにかしなければまずい、まず過ぎる。左手には瓶、右手には木の枝、ポケットには小石が数個。



安価下


落ち着け。たかがゴブリン1匹だ、俺ならやれる。
やるなら一撃必殺だ、下手な攻撃じゃ声を出されてしまう。
俺は木の枝を前に突き出し、ゴブリンの胸を一刺しにする。
俺はそのまま倒れ込み、ゴブリンの上に跨る。

「ギャッ……!」

危ない。油断はしない。断末魔に備えて俺の左腕をゴブリンの口に噛ませる。


「…ってぇ……!」


多少痛みは覚悟していた。初めて生き物を殺傷した。
本心は怖くて、痛くて、今にも泣きそうだ。
でも、隣で気絶している女の子はもっと怖かったはずだ、それなのに俺がここで弱音を吐く訳にはいかない。


「……!!……!!!」


ゴブリンは呻いているが、次第に静かになり絶命した。
噛ませた左手からは血が滲む。クソ痛いけど、我慢できない訳じゃない。
俺は気絶している少女をおんぶして、静かに裏口から逃げる。

ゴブリンがまた定位置に戻ろうとしていたので、また遠くへ小石を投げる。するとまたゴブリン共は音の方へと向かっていった。
こうも扱いが簡単だと逆に拍子抜けだな、腕は痛いけど。

そして俺はリネル村へと帰還した。

息抜きのつもりが結構楽しくなってきました
一旦休憩しますが、良かったまたお付き合いください

前々作【安価】勇者「魔王倒すわ」
【安価】勇者「魔王倒すわ」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1564307071/)
前作【安価】元勇者「復讐するわ」
【安価】元勇者「復讐するわ」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1564588816/)

一応


少女を連れて村に到着すると、住人が気付いたのかお爺さんが駆け寄ってきた。俺はお爺さんに少女をゆっくりと渡す。


「マリア……!よく無事で……!冒険者様も……誠にありがとうございます…!」


「はは……なんとかなりましたよ」


安心したら急に力が抜けてきた。俺は地面に膝から前に倒れ込む。
やべぇ、気ぃ張ってたからかな。


「冒険者様!?……酷い傷だ…誰か!手当を!」


意識が途切れそうだ。でも、依頼は達成したんだ。
ここで寝てても怒られないだろう。お爺さんや住人が何か言ってるけど、聞こえないや。






「……ん」


あれ、ここは何処だ?たしか地面に倒れてた筈だけど。


「あっ!起きた?おじーちゃーーん!冒険者様起きたよー!」


「君は…」


「私?私はマリア!助けてくれてありがと!冒険者様!」


マリアという少女は俺に抱き着いてくる。年はいくつだろうか、俺の居た世界で例えるなら小学2.3年くらいかな?
そして俺は改めてこの子を助けたという実感を得て、ちょっと泣いてしまう。
子供の前で泣くとか、恥ずかしいな。


「冒険者様?泣いてるの?」


「いいや、ちょっと目にゴミが入っただけだよ」


「大丈夫?取ってあげよっか?」


「大丈夫だよ、ありがとう」


そうしている内に、部屋にお爺さんが入ってくる。


「身体の具合はどうですかな?冒険者様」


「大分良いですよ。傷の手当もしてくれてありがとうございます」


俺は軽く左腕を動かして、調子が良い所を見せる。
動かしてもそこまで痛くない、この世界の傷薬かな?


「それは良かった。改めて、冒険者様。本当に孫を助けて頂いてありがとうございました」


「あ、いや、もうお礼は十分ですよ」


深々と頭を下げるお爺さんに俺は困惑する。当然の事をしたまでだ、何度も感謝されるとむず痒い。


「なんと寛大な……冒険者様、ギルドに行けば報酬が貰えるでしょうが、私からも受け取って頂きたい物があります」


「え……それは…」


良いのかな、貰っちゃっても。正直貰えたら嬉しいけど、介抱までして貰ったし。何か悪い気もするけど、やはり貰えるものは貰おう。俺には足りない物が多すぎる。

お爺さんは大きな箱を部屋の脇から引きずって持ってくる。
大きいな、なにが入ってるんだろう。


「……開けても?」


「はい、是非」


「おじーちゃん、これ何が入ってるの?」


「これはな、冒険者様に必要な物が入ってるんだよ」


「……!これは…! 」


有り体に言えば新しい服、剣、瓶に入った赤い液体。
これは嬉しいな、服があれば変な目で見られなくて済む。そして剣。これでやっとまともに戦えるかもしれないな、長さ的にショートソード?なのかな?
赤い瓶は恐らく、いや、間違いなく回復役だな。色で大体相場は決まってるもんだ。


「ありがとうございます。物凄く助かります」


「いえいえ、感謝を形にしただけですよ」


『うわぁぁぁああ!!!』


外から聞こえた男性の叫び声が耳を劈く。


「な、何事か!?」


俺は箱から剣だけを持ち出し、部屋を飛び出る前に2人に警告する。


「絶対にここから出ないで下さいね!良いというまで待っていて下さい!」


そう言い残し、俺は外へと飛び出した。そしてすぐに俺は村に起きた事を理解する。
これは、報復だ。
住人を襲うのはゴブリンだった。恐らくあの部屋に居たゴブリンを見つけて仕返し、と言った所か。
先にやったのはそっちだろうと思うが、考えてもしょうがないので住人を避難させる。


「皆さん!良いと言うまで出てこないで下さい!!戸締りは固く!物を置いたりして、絶対に開けないで!!」


久しぶりに声を張り上げた。だが、これで良い。
ゴブリン共が集まってきた。予想通りとはいえ、やはり緊張する。
格好付けたは良いが、結局はさっきまでの俺にちゃゆとした得物が付いただけだ。普通に足が竦む。


「来いよ。言っとくけど俺はよえーぞ」


こんなに金があるんだ、少し自分にご褒美をあげたっていいだろう。


「あ……でも」


俺は思い出す。少し前にメリルの酒場で無銭飲食をし、見逃してくれる代わりに二度と来ない事を約束したのだ。
金を持ったからって約束を破って良いのか?

いや、待てよ。考え方を変えようじゃないか。
俺は前回の事を、謝りに行こう。うん、これなら不自然じゃないし酒も飲める。まさに天才のそれ。

そうと決まれば酒場に行ってみよう。入った途端に店主に怒られないといいけど。




~酒場


俺は酒場の戸を開け、中に入る。相変わらず活気が良い。
戸に取り付けられた鈴が鳴り、店主や店員の女の子から、元気の良い挨拶が飛び交う。
ここへ来ても視線は相変わらず刺さる。だが、特に俺を睨んで居たのは店主だ。そりゃそうだ。
俺は店主の元まで行き、事情を説明する。


「話はわかったけどよ……兄ちゃん、何したんだ?」


「え?」


「その服……」


店主は顎をさすりながら俺を指差し、マジマジと見てくる。周りからも注目を浴びるしで、なんなんだ。


「……精装束だろ、それ」


「精装束……?」


「まさか兄ちゃん…知らないでそれ着てんのか?」



何だそれは、この服はそんな名前が付く程の代物なのか。あのお爺さんは俺にそんな凄い物をくれたのか、ありがたいな。


「教えてくれます?コレの事」


「……ガハハ!この前もそうだが、兄ちゃんいい度胸してるぜほんとによ!仕方ねぇ、教えてやるよ。座りな」


俺は店主の前のカウンター席に座り、話を聞く。
精装束とは、精霊の魔翌力で縫ったとされる装束。これは本来、王家から認められた者しか着れないらしい。

装束は何十種かあり、俺のは『聖光』と呼ばれる装束。
店主は俺の胸に刻まれた刺繍を指差す。これが何よりの証拠らしい。
ただの模様かと思ってたよ俺は。

店主は、この『聖光』の装束は遥か北にある国、ガーランド王国にあるはずだと言う。


「何処で手に入れたんだよ?」


俺はリネル村で起きた事を店主に語った、もちろん精霊の事は伏せてある。


「そりゃあ大変だったな……だが、あんな辺鄙な村で、そんな服があるとは思えねぇなぁ……まさか偽物か?」


そんな御大層な物を複製するとは思えないが、話の通りならこの地域にあるはずはない。
俺と店主はどうなんだろうね、と言った感じで悩んで居ると、店員の女の子がわらわらと寄ってくる。


「ねぇねぇ!お兄さんって凄い人なの!?」


「あたし知ってるよ、この服は精装束っていうんでしょ!なんか凄い人しか着られないとか!」


「マジ!にーさんめちゃくちゃ凄い人って事じゃん!」


うーん、そんなに引っ付くと俺が幸せになっちまうだろう。そんなにベタベタしないで、もっとして。


「も~、おにーさん困ってるっすよ!離れるっす!」


俺から女の子を引き剥がしたのは、この前俺にお酌してくれたダークエルフだ。なんてひどい事を、この所業は許されないぞ。


手綱を握っているのは執事服を着たお爺さん。お爺さんと言ってもそんなに歳がいっている訳では無さそう。
馬車は俺の前で停止すると、お爺さんが降りてきた。


「おはようございます。そのバッチ…御依頼をお受けになった冒険者様ですね?」


「あ、はい。男です、よろしくお願いします」


俺は立ち上がり、軽く会釈する。


「ありがとうございます。どうか、宜しくお願い致します」


お爺さんは深々とお辞儀をする。執事服のせいか、何処と無く品がある気がする。するだけ。
俺は馬車の客席をチラ見する。この中に俺が守らないといけない要人がいるのか、どんな人なんだろう。


「して……もう1人の御方は、何処に?」


そうだよ、もう1人はどうしたんだ。寝坊か?依頼人より後に来るとか常識ないな。俺もこの世界の常識知らないけど。


「あ、多分……もうすぐ…」






護衛者安価
容姿、服装、得物、性格…etc
ひとつだけでも可、足りない部分は補います

安価下


「あ、あの……!」


門近くの木から女の声がした。もしかしてもう1人の奴か?


「誰だ?」


「あの…冒険者……です……」


木から出てきたのは小柄な赤髪の女の子。目は前髪でがっつり隠れていて、足元が隠れる茶色のローブ、手には杖を持っている。見るからに魔法使いだ。胸にはバッチが見える。
こんな小さい子が冒険者?


「君が、護衛の冒険者なのかな?」


「は、はい…!そうです」


「そっか。遅かったね」


「ず、ずっと居ました……知らない人に話し掛けるのが怖くて……ごめんなさい」


なんだって?ずっと居たの?全然気付かなかったぞ。女の子はトコトコとお爺さんに近寄り、お辞儀をする。


「お、お力になれるかわかりませんが、宜しくお願いしみゃ…!……あっ!します!」


「はっはっは。頼りにしていますよ、小さなお嬢さん」


お爺さんも女の子にお辞儀をし、客席のドアへと手を掛ける。


「遅ればせながら、ご紹介致します」


お爺さんがドアを開けると、中にはいかにもお嬢様という感じの服を、お召し物を?着た女性が足を組んで悪態をついていた。
綺麗な金髪に端整な顔立ちをしていて、街ですれ違ったら目で追ってしまいそうだ。


「我が主、クレア・グランフォード・メリルお嬢様で御座います」


「ふんっ……遅いわよ!何日待ったと思ってるの!」


開口一番に怒鳴られた。そんな理不尽な。
隣の女の子は今の一喝で萎縮しちゃってるじゃないか。


「…ふぅぅ~……」


落ち着け男よ、クールになれ。まずはジャスミンを避難させよう、ここでは巻き込んでしまう。
俺は鞘を腰に戻し、ジャスミンに近付いて抱き上げる。小柄だからか、思ったより全然軽い。


「…何してんだ?」


「…ここじゃジャスミンを巻き込んじまう、少し遠くに運ばせてくれ」


「馬鹿かお前…俺がそれを許すとでも思ってんのか?」


まぁ、そうだな。俺は左肩にジャスミンを担ぎあげ、空いた右手で鞘を抜いて、大きく振り上げ不敵に笑ってみせた。


「なら、無理矢理運ぶさ」


地面に向かって鞘を振り下ろす。爆音と共に一瞬で視界が砂埃に覆われた。俺は右脚を強化して、その力で大きく後ろに跳ぶ。正直どのくらい跳ぶかわかんなかったけど凄いな、この力。
砂埃を抜け、大きな岩の近くまで来たのでジャスミンを裏に隠して、飛び出た方を見ると、中から髭面が埃を割って出てきた。


「兄ちゃんよぉ……悪足掻きはよせ。萎えちまうだろ」


俺はジャスミンと髭面が遠くなる方向へ走り、後ろを振り返ると髭面は俺を見るだけで追って来ていない。
俺は走るのを止め、髭面に向き直す。


「どうした!かかってこいよ!」


安い挑発だ。髭面は何故か装備を外し始め、身軽になると肩を回して低く構えた。
もしかして更に早くなるとかそういうやつ?勘弁してくれ。俺は鞘を振り上げる。


「またそんな事しても意味無いぜ!死ぬ準備しろよ!兄ちゃん!」


髭面が消えた。これでいい、俺はまた鞘を叩きつけて地面から砂埃を発生させる。魔眼も発現させ、些細な砂埃の些細な変化に神経を尖らせる。

高速で向かってくる人影が見える、良く見える……来る!
顔を狙った一撃を側面に交わす。よく見えるよ、お前の動きが!


「何だと!?」


「俺の……価勝ちだ!!」


振り上げた鞘を、髭面の首裏に叩きつける。力が強すぎたのか、髭面は地面から派手な音を上げた。


暫くすると砂埃は消え、視界が鮮明になってくる。勝ったんだな、俺は。改めて、この力と魔眼の凄さに気付かされた。
まだ謎が多いが、もっと使いこなせれば更に強くなれる気がする。

髭面は倒したし、とりあえずジャスミンの様子を見なきゃ。
俺はジャスミンの元へと向かおうとした時────。


「待てよ……兄ちゃん」


「!?」


吃驚した。殺してないとはいえ、意識があるとは思わなかった。俺は再び鞘を抜き、倒れたままの髭面に向かって構える。


「そう構えんな……もう戦う気力もねぇ。俺の負けだ」


「……」


油断するつもりは無いが、たしかに先程までの雰囲気とは違う気がする。俺も鞘を戻し、気になっていた事を聞こうと思った。


「たしか……ダンテだっけ?お前、ただの野盗じゃないだろ」


「なんだ……俺はただの野盗だぜ。そんな事聞いてどうすんだよ…?」


「少し気になったんだ、強いから」


ファンタジーの盗賊や山賊…色々あれど、手強いというイメージが無かったからか、髭面の強さに疑問を持っていた。この力が無ければ間違いなく負けていたしな。


「…そうかい。で、俺を殺さないのか?」


「え?」


何言ってんだこいつ、殺す訳ないだろう。


「おいおい……わかるだろ。俺は野盗だぜ?このまま生かしといて良いのかよ?」


「あぁ…」


そうか、こいつ等を生かしたらまた別の人が被害に遭う。でも、こいつらには兄貴ってのが居るはずだ。こいつを殺しても野盗を根絶出来るわけじゃない。それに俺は人を殺したい訳じゃない、感覚はおかしくなっているが理性はある。

とあるゲームの主人公は人を初めて殺した時にかなり取り乱していたが、それは人を殺したという業を背負う覚悟がないからだ。画面越しの俺はゲームだからと理解しているから、こいつ取り乱しすぎだろとか思っていた。今なら少しは気持ちがわかる。

殺らなければ殺られる、正当防衛、言い方はあれど結局は人殺しだ。背負わなくて良いなら俺だって業を背負いたくはない。ただ、野放しにする事によって被害者が増えるのも好ましくはない。ジャスミンの容態も気になるし、何とかしたいが。








行動安価
安価下


こいつの処遇は後だ、一先ずはジャスミンを確認してこよう。俺は髭面に近付いて、服を脱がし始める。


「おいおい何してんだ…まさかお前──」


「勘違いすんな!ちょっと拘束するだけだ」


脱がせた服を細長く折り畳み、手足を固く縛る。その際、他に何か武器は無いか漁るが特には見つからなかった。今のこいつなら解く力もないだろう。俺は髭面を置いて、ジャスミンの元へと向かう。





あれから少し経ったが、まだジャスミンの意識は戻らない。馬車から落ちた時に怪我をしていないか確認したが、素人目には擦り傷と打撲くらいしか分からなかった。

外傷はそれだけで、死んではいないはず。ノース帝国で医者に診せてやりたいが、まだまだ距離はある。俺はジャスミンの傍で座り込み、この後の事を考えながら時折髭面を見ていた。あれ、あいつ寝てね?まぁいいけど。


「……ん…」


「おっ……ジャスミン?」


良かった、生きてる。


「……?」


「起きた?」


「え……えっ!?」


目を開けたので声を掛けたらめちゃくちゃ驚かれた。ジャスミンは半身を起こして前髪を整えて俺に上半身だけ向ける。


「あれ…あの……私、馬車から落ちて……」


「そう、気絶してたよ」


「気絶……」


そう言うとジャスミンは辺りを見回す。遠くで拘束されているダンテを見つけたのか、一瞬顔が止まり俺とダンテを交互に見やる。多分俺が野盗を倒したと理解してくれた。


「…あの……クレア様達は…?」


「先にノース帝国に行ったよ、俺はジャスミンを助けに馬車を降りたんだ」


「えっ……何…どうして……私なんか…」


俺の頭に稲妻走る。さながらロマサカでいう技習得時の電球がピコーンと音を鳴らすアレが俺の中で起きた。これは言うしかない、言うしかないだろう。まさか俺が言える日が来るとは思わなかった。


「誰かを助けるのに理由がいるの?」


「……」


言えたああああ!選んだ自分で言うのも何だけどこのセリフ最高だな!流石スクエ〇だなぁ!
ジャスミンは少し驚いた後、俯いてしまう。あれ、怒った?ミスった?


「……ありがとう…ございます、男さん」


「…!……ジャスミンが無事で良かった」


顔を上げたジャスミンの口角が上がっていた、顔全体を見なくても嬉しそうにしているのがわかる。俺も嬉しくなる。


「あ、怪我してると思うんだけど大丈夫?痛くない?」


「えっと…左腕が……ちょっと痛いですけど……大丈夫です」


「そっか…無理しないでね」


俺は立ち上がり、ジャスミンに手を差し伸べる。一瞬迷っていたが、ジャスミンは俺の手をとって立ち上がる。俺はそこら辺のヘタレ主人公共とは違って、手を握るくらいじゃ動揺しないぞ。


「これって依頼失敗……かな?」


「…そう……なるんですかね…」


野盗も倒し、ジャスミンも助けたまでは良い。だが、この後の対応がまだ思い付いていない。


「あの……そこで寝てる人は……どうするんですか…?」


「あ……」


たしかに。ノース帝国までの交通手段は後回しにして、あの髭面…ダンテから少し話を聞こう。







俺はいびきを立てて寝ているダンテに跨り、頬をペチペチと往復ビンタする。


「ぐご……んん………なんだぁ?」


「おい、起きろ」


「何だよ兄ちゃんか……やっと殺す気になったか?」


「え……こ、殺す…?」


殺すという単語にジャスミンが反応する。おい、勘違いされるだろ。


「殺さないよ。ちょっと聞きたい事があるんだ、教えてくれよ」


「何だつまらねぇ……教えるのは良いが…退いてくれ、重い」


「そんな重くないだろ!」


俺はダンテから離れ、傍に座り込むとジャスミンも隣に座った。



「で?……聞きたい事って何だよ?」


「ああ…お前をノース帝国に連行したとして、賊の処遇はどうなってるんだ?」


「なるほどな、そう来たか……捕まった賊はアジトの場所を吐くまで拷問されんだよ、それがえらいキツイらしくてなぁ……吐く奴も居れば耐えられずに自害する奴も居るぜ。過剰な拷問で殺しちまう事も良くある」


「拷問……穏やかじゃないな」


賊に対する処遇はとしては妥当かもしれないが、殺してしまう程の拷問とは酷いな。民の為に賊を根絶やしにする……拷問は仕方の無い事かもしれない。


「んで、聞きたい事ってのはそれだけかよ?」


「いや、まだある。この国の法とかはどうなってるんだ?」


「はぁ…?俺に聞くかよそれを」


まぁ、そう言われちゃあそうなんだけど。この国での法があって、俺がいつ侵すかもわからんしな。聞いておいて損はないだろう。


「法も何も、普通に生きてりゃ大丈夫だろ。領主や王族の奴らに歯向かうとかしなけりゃ、普通に生きていける」


「犯罪を犯した奴や賊を取り締まるのは国か?それともそういった機関があるのか?」


「他所者にてめぇの国の問題を任せる訳ねぇだろ。問題が起きれば領主や国王、帝王の私兵が動く。民の支持を得られるからな」


なるほどな、俺の世界で言う警察機関は無いらしい。例えるなら都道府県各県に王様が居て、王様が責任を持って自分の国の犯罪者を私兵で取り締まり、県民から支持を得ていく感じだな。

法に触れるラインも、あまり人道的ではない事をしなければ問題はなさそうだ。偉い奴には頭下げる、そこは現実と変わらんな。



「わかった。じゃあもう1つ質問」


「まだあるのか…お次は何だ?」


「お前の技……あれは何だ?俺にも出来るのか?」


これが一番気になっていた。仮にアレが俺にも出来るなら大いな成長が望める。


「ああ…『魔走』の事か。自分で言うのも何だが……俺の魔走は中々のモンだったろ。魔翌力のある奴なら誰でも出来るが…簡単じゃねぇぜ」


「誰でも……」


俺はジャスミンを見る。魔翌力があるならジャスミンにも可能なのか?俺の視線に気付いたのか、ジャスミンは首を横に振る。


「わ、私には出来ません……」


「そうなんだ?……そうなのか?」


再びダンテに視線を戻して聞く。


「嬢ちゃんは『ノーナ』だからな、出来ねぇのも当然だ」


「ノーナ…?」


「まさか…知らねぇのか?」


「ちょっと世間に疎くて……」


「どんな僻地で育ったんだよ……まぁいい。ノーナってのは魔翌力を放出する事を得意とする奴の総称だ。俺みたいに魔翌力を内に留めるのを得意とするのが『レクタ』って言うんだ」


「へぇ~……」


ノーナとヘクタね…まだまだ知らない事が沢山あるな。


「で、俺にはその魔走は出来るのか?」


「…兄ちゃんには無理だ、魔力がねぇからな」


たしかに凄い力は持っているが、元はただの人間だしな。魔力とかってのは生まれた時からの才能的なやつだろう。俺の力は魔力とかそういう次元ではないと分かっただけでも収穫か。


「そうか……そりゃあ残念だ」


「何言ってんだ、俺の魔走を見切ったんだぞ。魔力なんて無くても兄ちゃんなら問題ねぇだろ」


魔眼のおかげだけどね。俺は何となく周囲を見回した時に、街道に野盗が乗ってきた馬が2匹まだ居るのが見えた。これは使えるぞ。


「……あそこの馬一頭貰ってくぞ」


「馬?……ああ、好きにしろよ」


これでノース帝国までの足を手に入れた。後はこいつの処遇だ。






殺す、解放、連行する、その他


安価下

キレてた野盗は生存。まだ意識は戻らない。
という感じで
安価下


俺は悩んだ挙句、答えを出す。やはり、こいつをここで生かしてはいけない。俺は立ち上がる。


「お、男さん……?」


「なぁダンテ、お前達はこの世界じゃあ有名なのか?」


「ああ?……国に居る賊なんて他国からすりゃゴミみてぇな問題だ。隣国だって俺達の事は知らねぇよ」


「…なるほどな。ジャスミン、ここから一番近い別の大陸ってある?」


「えっ……た、多分…ノース帝国から北西にある港町から…西の大陸に……行けます」


「そっか、ありがとう」


俺は今度は鞘ではなく、剣を抜いた。


「あ…?なんだよ兄ちゃん、やっと[ピーーー]気になったかよ」


「ああ……お前を[ピーーー]よ」


「お、男さん!?な、何を…!」


ジャスミンは止めるでもなく、怖いのか俺から少し離れる。人を殺そうとする奴が近くに居たらそりゃ怖い。


「お前達はここに居ちゃいけないんだ、わかるよな」


「けっ…やるならさっさと殺れよ」


「ああ。そうさせてもらうよ」


俺は剣を逆手に持ち、思いっきり突き刺す。


「……おい、なんの真似だよ」


俺は突き刺した。剣をダンテの顔の真横に。


「ダンテは今ここで俺が殺した。お前は今日からゲールだ」


俺は剣を地面から抜き、鞘にしまう。


「は……?何言っ────」


「ダンテは今、ここで、俺が殺した。お前の名前は今からゲールだ。わかったらあそこのもう1人担いで、さっさと港町に行って西の大陸に行けよ。あ、ぶっ倒れてる奴の名前はお前が考えろよ」


「…おいおい……とんだ甘ちゃんだな、兄ちゃん」


「うっせ、俺達はもう行くからな」


「…またここで野盗してるかもしれねぇぞ?」


「そん時はホントに殺してやるよ」


「……ガーハッハッハ!こいつぁ怖えーな!解いたらさっさと西の大陸に逃げねぇとな!」


「そうだろう。じゃあな、ゲール」


俺は怖がるジャスミンに弁解しまくり、何とか誤解は解けた。クレア達がノース帝国に着くのは夕方、俺達は今から行ったら夜の良い時間になりそうだな。
後ろにジャスミンを乗せ、俺達はノース帝国を目指す。


~街道



「……お、あれかな?」


夕暮れが暗闇に変わりかける頃、とても遠くに大きな街……要塞?が見えた。何かメリルとは全然違うな。


「あ……見えましたね」


「ノース帝国はどんな所なんだろうなぁ…ちょっと楽しみ」


「ここはダーウィン様の領土ですけど…ノース帝国は独立国家なんですよね」


「え?そうなんだ?」


メリルの領土にあるリネル村みたく、領主に統治される訳じゃないのか。独立国家か、領主が怒りそうなもんだけど平気なんだな。


「えと…世界に3つある闘技場の1つがノース帝国にあって……領土が小さくても国としての武力は高い…らしいです」


「へぇ~…」


要は戦闘に長けた猛者が多く滞在してる感じかな。国としての武力って、戦争でもあったりすんのかな。


「あ、ジャスミン疲れたら言ってね。まだまだ距離はあるみたいだし、疲れたら休憩するよ」


「あ……だ、大丈夫です……ありがとうございます、男さん…」


「そっか。なら、飛ばすよー」


言ったは良いが馬の扱いなんて知らんな。困惑していた俺に、ジャスミンが教えてくれた。夕日は沈み、月が2つ。



~ノース帝国


「うわぁ……なにこれぇ……」


俺じゃ形容出来ない程の……なんかもう凄い。FF〇で見た街に似てる気がする。なんだっけ、ミッドガル?
明らかにメリルの町とは使ってる素材が違うと一目でわかる建造物群。お店も入口から沢山見え、まだ営業している様だ。

決して綺麗とは言えない街並みだが、迫力が凄い。中央には巨大な円形の建物、恐らくこれが闘技場だろう。夜だというのに人がまだまだ沢山出歩いている。ここでは普通なのかな。

闘技場の上から…奥にそびえ立つ城みたいなのが見える。帝国というくらいだ、あそこに帝王が居るのは間違いないだろう。
クレアも恐らくは…。


「初めて来ましたけど……凄い、ですね」


「だねぇ……さて……」







☆ノース帝国参考
宿屋、武器屋、防具屋、占い屋、闘技場、王宮、貴族街、貧民街



行動安価
安価下

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