――おしゃれなカフェ――
高森藍子「~~~♪」モグモグ
北条加蓮「…………」
藍子「~~~♪」モグモグ
藍子「?」
藍子「!」ゴクン
藍子「こんにちは、加蓮ちゃんっ」
加蓮「……う、うん。こんにちは、藍子」
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レンアイカフェテラスシリーズ第85話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「残暑模様のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「雨上がりのカフェで」(+高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「また毎日が始まる日のカフェで」)
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「曇天のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「9月5日のその後に」
藍子「……? どうしてそんな、ぽか~んとした顔をしているんですか?」
加蓮「いや……。美味しそうに食べてるなーって」
藍子「はあ」
加蓮「藍子が」
藍子「私が?」
加蓮「他に誰がいるの……」スワル
加蓮「お団子だー。そんなのメニューにあったっけ?」
藍子「今限定みたいですよ。ほら、9月には十五夜があるじゃないですかっ」
加蓮「…………?」
加蓮「……、そういえばそんなのもあったっけ?」ポンッ
藍子「もうっ。秋の大事な行事です。忘れてしまったら、菜々さんや夕美さんが悲しんでしまいますよ?」
加蓮「ウサミンはともかくなんで夕美?」
藍子「ときどき、うさみみをつけてぴょんぴょんしていますから♪」
加蓮「何してんのあの人」
藍子「それを真似して、事務所の子たちが一緒に跳ねていたりしてっ」
加蓮「じゃあ夕美はリーダーウサギ?」
藍子「ふふ♪ そうそう。菜々さんが、それは自分だ~っ、って言って、すごくぴょんぴょんしていました」
加蓮「リーダーウサギはどっちになるんだろ。あははっ」
藍子「加蓮ちゃんも、参加しなくていいんですか? ほら、うさぎさんのイベントですよ?」
加蓮「は?」
藍子「え?」
加蓮「……はい?」
藍子「あれ、加蓮ちゃん、もしかして伝わってないのかな……。今日の夜に、事務所でお団子パーティーをやるそうです」
藍子「十五夜とはちょっとズレてしまいましたけれど、みなさんの予定に合わせたみたいですね」
加蓮「それはまぁ聞いてるし、一応参加するつもりではいるけど……」
藍子「よかった」
加蓮「そういえばあれ、十五夜だから団子を食べるパーティーなんだ」
藍子「……何のイベントだと思っていたんですか?」
加蓮「団子が食べたいって誰かが言ったとか、誰かが団子を作った話をしたら盛り上がってパーティーしようってなったとか、そういうのかなって思ってた」
藍子「あはは……」
加蓮「……で? ちょーっと聞いてみたいんだけど。なんでウサギのイベントなら私が参加することになるの?」
藍子「? だって、この前のお話で、加蓮ちゃんはうさぎさんだってことになったから――」
加蓮「それ藍子が言ってるだけでしょうが! 違うってば!」
藍子「ひゃわっ」
加蓮「私はウサギじゃないし、ウサミミもつけないし、間違ってもウサミン星人でも、千葉県出身でもないっ!!」
藍子「そういえば、菜々さんがウサミン星人を募集していたみたいですよ~」
加蓮「ウサミン星人を募集ってどういうことなの!?」
藍子「ウサミン星人を募集ということは……」ウーン
藍子「ウサミン星人を募集ってことですねっ」ニコッ
加蓮「だからどういうこと!? というか、あれってそんなに簡単になれる物なの……?」
藍子「菜々さんによると、心にウサミンパワーがあれば、その日からウサミン星人だそうです」
加蓮「そういう物なんだ」
藍子「そういうものらしいです。…………」
加蓮「?」
藍子「ううん。深く質問しちゃったから、私が興味を持っているって思われちゃったのでしょうか。その後、菜々さんからの勧誘を断り続けるのが、ちょっと大変で……」
加蓮「あー……」
藍子「でも、菜々さんはとてもいい人なので、あんまり無理強いはされませんでした。……逆に、ちょっと強く拒否しすぎたのが悪かったかな、なんて思っちゃって……」
加蓮「アンタはそれくらいじゃないと、悪い人にすぐ騙されるよ」
藍子「菜々さんは悪い人じゃないですっ」
加蓮「いーや悪い人だ。藍子を勝手に訳の分からない星人にしようとして! 明日から藍子が急に語尾にミンとかつけだしたりLIVE中にウサミンコールとかやり始めたら1週間は口も利いてやらないっ――」
加蓮「……」
加蓮「……いや、それはちょっと見たいかも」
藍子「え~っと」
藍子「みんみんみんっ、みんみんみんっ、う~さみんっ♪」(withうさ耳ポーズ)
藍子「こんな感じ?」
加蓮「……ウサミンっていうより、蝉かな?」
藍子「ひどいっ」
藍子「それなら、加蓮ちゃんがお手本を見せてくださいよ~」
加蓮「しょうがないね。私の渾身のウサミンコールを、目と耳に焼き付けなさい!」
藍子「わ~」パチパチ
加蓮「……」
加蓮「…………」
加蓮「………………ってやる訳ないでしょーが!」バーン!
藍子「ひゃわあっ!?」
加蓮「ぜーっ、ぜーっ……。あっぶな……。藍子にまた弱みを握られるところだった……。そんなことになったら事務所に行けなくなる……」
藍子「弱みなんてっ。加蓮ちゃんのウサミンコール、可愛いと思うんだけどなぁ……」
藍子「ほらほら。加蓮ちゃんはうさぎさんなんですから。やってみてくれてもいいじゃないですか~」
加蓮「違うってば」
藍子「でも、加蓮ちゃんは寂しがり屋さんですよね?」
加蓮「違うってばっ」
藍子「よく1人で頑張っていますけれど、ときどき、お相手のいないレッスンルームが広く感じられて、ちょっぴり元気がなくなっちゃったり――」
加蓮「……」
藍子「?」
加蓮「……えーと、アンタはいつ私の自主レッスンを覗いたの?」
藍子「確か……5日くらい前?」
加蓮「うわぁ思ったより最近じゃん……」
藍子「事務所から帰る時に、外が思っていたより暗くなっちゃっていましたから、誰かいないかな? って思って、歩き回っていたら、いつの間にかレッスンルームまでたどり着いていて」
加蓮「お散歩がいつの間にか放浪になってない?」
藍子「そうしたら、加蓮ちゃんを見かけたけれど……一生懸命、自主レッスンをやっているから、邪魔しちゃ悪いかなって思って――」
藍子「しばらく、外で加蓮ちゃんを見ていましたっ」
加蓮「悪いなって思うなら退散しなさいよ! そこで覗く意味がわからないんだけどっ」
藍子「あ、あはは……」
加蓮「……私はあの日はモバP(以下「P」)さんに説教されながら送ってもらったけど、アンタはどしたの? 外、真っ暗だったでしょ」
藍子「大丈夫ですっ。ちゃんと、お父さんに送ってもらいました。お仕事帰りで、近くまで寄っていたみたいなので」
加蓮「そっか」
藍子「……」ジー
加蓮「?」
藍子「……♪」クスッ
加蓮「……ま、今アンタがここで無事なんだし、わざわざ聞く必要もないんだけどね」
藍子「加蓮ちゃんって、」
加蓮「言っとくけど。言っとくけどね? アンタのような子はちょっと油断してたらすぐ悪い大人が騙しに来るのよ?」
加蓮「それにいつもの道とか散歩コースだからって、気を抜きすぎないこと」
加蓮「ファンだってみんながみんな優しいとは限らないんだし、そもそも悪い人とか普通にいるんだからっ」
加蓮「あとは……。とにかくそんな感じ!」
加蓮「いい? 私を覗き見なんてしてないで、外が暗くなったらさっさと帰りなさい。ちょっとでも心配に思ったら誰かを呼ぶこと。相手に悪いとか思うその気持ちが相手にとって不愉快なんだからね?」
藍子「分かりました、加蓮お姉ちゃんっ♪」
加蓮「誰がよ!」ベチ
藍子「痛いっ」
加蓮「そのネタは封印するんじゃなかったの?」
藍子「今の加蓮ちゃんは、どう見てもお姉ちゃんでしたもんっ」
藍子「ずい分、お話が逸れてしまいましたね」
加蓮「いつものことでしょー」
藍子「確か、加蓮ちゃんがうさぎさんで、うさみみをつけるってお話――」
加蓮「そこに戻さなくていいから。そして私はウサギじゃないっ」
藍子「でも、加蓮ちゃんは寂しがり屋さんですよね?」
加蓮「だから違うっ。別パターンを用意しなさいよ別パターンを!」
藍子「えへへ……。は~いっ」
加蓮「私はウサギ役じゃなくて、団子を食べる役だから」
藍子「やっぱり、作る係にはならないんですね」
加蓮「絶対やらない。やだ」
藍子「もうっ。やってみればいいのに」
加蓮「私は一生食べる係だもーん。料理とかお菓子作りとか、誰がするもんかっ」
藍子「え~? でも、加蓮ちゃん、前にバレンタインのお仕事の時――」
加蓮「お団子いただきー♪」ヒョイパク
藍子「ああっ。それ私のです!」
加蓮「んぐんぐ……美味しーっ。もちもちしてて甘すぎなくて。うん、もう1個♪」ヒョイ
藍子「だめ~っ!」ガード!
加蓮「む。別にいいじゃん」
藍子「食べたいなら加蓮ちゃんも注文すればいいじゃないですか!」
加蓮「えー。今日は頑固だねー、藍子」
藍子「じ~~~~~」
藍子「あっ……そうだ。加蓮ちゃんっ」
加蓮「なんか悪いこと思いついた顔……。はいはい、何?」
藍子「え~――ごほんっ!」
藍子「このお団子は、加蓮ちゃんが自分のことをうさぎさんだと認めれば、食べることを許可しますっ」
加蓮「すみませーん。店員さん、私にもお団子ちょーだいー」
藍子「あああああっ」
加蓮「くくく。その程度で私を出し抜けるとは思わないことね!」
藍子「う~」
加蓮「……ん? この後お団子パーティーなのに、アンタ今からお団子食べてるの?」
藍子「……」ピクッ
加蓮「パーティーいつからだっけ。えーと5時からだから……あと3時間もないよ? お腹いっぱいになるでしょ」
藍子「それは~……」
加蓮「それは?」
藍子「そのぉ~」
加蓮「その?」
藍子「……た、食べ比べです。これは食べ比べなんです。ほら、ええと、私って言えばカフェアイドルじゃないですか。だから、ここのカフェのお団子を食べて、それから事務所でもお団子は食べないといけないんです」
加蓮「あ、そう来るんだ。言ってることは正論だね」
藍子「ですよね! ということで、いただきま――」
加蓮「でもそれさすがに太らない?」
藍子「…………」ピタッ
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「…………」
藍子「…………加蓮ちゃんだって、注文……」
加蓮「私どうせ太らないし。あと私も最早カフェアイドル2号みたいなものだし」
藍子「……」
藍子「…………」
藍子「…………」ウルッ
加蓮「…………ハァ。レッスン、付き合ってあげるから……」ハイドウゾ
藍子「! ありがとう、加蓮ちゃんっ♪」モグモグ
加蓮「あはは……」
藍子「~~~~~~♪」モグモグ
加蓮「ほっぺたにいっぱいお団子頬張ってる藍子の姿、いろんな人に見せてあげたいくらいだね――」
加蓮「って、どうせこの後事務所でも食べることになるんだっけ……」
藍子「~~~~~~~~~~っ♪♪」モグモグ
加蓮「……じゃ、今は独り占めなのかな? ……あははっ」
□ ■ □ ■ □
藍子「ごちそうさまでしたっ」
加蓮「ごちそうさまでした。……ぷぷっ」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「いや、藍子ってばお団子をいくつも頬張ってゆっくり食べるから、その度にほっぺたが膨らんでて……それ思い出して……」プププ
藍子「あ、あんまりじろじろ見ないでくださいっ」
藍子「それは……その、そう食べた方が美味しいってことに気がついて……」
加蓮「一気に2個も3個も食べるなんて、藍子ちゃんは欲張りやだねー?」
藍子「言わないで~~~~っ」
加蓮「あははっ。はー……。私までお腹いっぱいになっちゃったっ。事務所で食べれるかなぁ、お団子」
藍子「きっと、お団子が出てきたら、お腹もすぐに空きますよ」
加蓮「だといいけどね」
加蓮「今気づいたけど、カフェの中、すっかり秋モードだね」
藍子「はい。入り口の横には、紅葉を模した植物模型が置いてあって……」
加蓮「壁紙は秋色一色。扇風機や風鈴は、当然片付けられてあって」
藍子「あと、加蓮ちゃん見ましたか? 店員さんがつけていたエプロンにも、大きな紅葉がプリントされていました!」
加蓮「ふふっ。もちろん気づいてたよー?」
藍子「そこの壁には、大きなお月さまの絵が飾ってありますね」
加蓮「十五夜だもんね。……って、十五夜は少し前に終わっちゃったけど」
藍子「店員さんにお聞きしましたけれど、今月いっぱいは飾り続けておくみたいです」
加蓮「東京じゃこんなに大きな月は見れないよね……。見てみたいなぁ」
加蓮「そして何より――」
藍子「それに、何よりも――」
加蓮「メニューにずらっと並ぶ"お団子"一覧!」
藍子「まさかこんなに違う味付けを用意されているとは思いませんでした。今年の秋は、すごく気合が入っていますねっ」
加蓮「ホントホント。もう今月だけはここはカフェじゃないよ。お団子専門店だよ」
藍子「定番のみたらし団子に、きなこ味に、三色団子に、ごま団子」
加蓮「栗団子とかもあるんだって。あ、ずんだ団子がある。これちょっと気になってたんだよねー」
藍子「注文、しちゃいますか?」
加蓮「ぅ……。いや、今日はやめとく。この後パーティーだし」
藍子「それもそうですねっ」
加蓮「他には……くすっ。りんごって何。写真がもうりんご飴じゃん……!」
藍子「あの……加蓮ちゃん? これ以上このお話をすると、食べたくて我慢できなくなるので、このお話はその辺にしませんか?」
加蓮「……。えーと、きなこ三色ごま栗ずんだ――」
藍子「きゃ~~~~~~っ」ミミフサグ
加蓮「あはははっ」
藍子「…………」プルプル
加蓮「うん。もう言わない。もう言わないから安心しなさい?」パタン
藍子「……」パッ
藍子「これらの限定メニューが、今月いっぱいで終わってしまうのは寂しいですね……」
加蓮「案外来月もお団子やってたりして?」
藍子「もしかしたら、そうなるかもっ」
加蓮「2ヶ月使っても種類多いよね。逆にこれ全部制覇できる人っているのかな」
藍子「それは、毎日ここに通うか、1回でいっぱい食べてしまえば――」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「やだ」
藍子「挑戦しましょうっ」
加蓮「やだ」
藍子「加蓮ちゃんも、お団子、食べたいですよね?」
加蓮「加蓮ちゃんは今日のパーティーで1年分のお団子を食べる予定です」
藍子「では、今年は2年分のお団子を食べましょう!」
加蓮「普通に嫌だよ……」
藍子「…………」ジー
加蓮「…………」ジー
藍子「……」ジー
加蓮「……」ジー
加蓮「……にらめっこなら勝てる、って思わないの」ベシ
藍子「あうっ」
加蓮「……私はさすがにそんなにいらない、ってか食べれないから、藍子が食べればいいよ。私は美味しそうに食べる藍子を見守る係ね」
藍子「今回は、それで譲りますね。……あ、あんまりじろじろ見ないでくださいね?」
加蓮「それはお団子をほおばってる幸せそうな藍子ちゃんを全身くまなく見てくださいっていうこと?」
藍子「違いますっ。それに、食べている姿っていうなら全身を見る必要はないじゃないですか」
加蓮「つまり顔だけじっくり見てろと」
藍子「そういうことで――そういうことでもないですっ」
加蓮「えー?」
……。
…………。
加蓮「ずず……」(コーヒー)
藍子「ずずず……」(紅茶)
加蓮「ふうっ」
藍子「ふ~……♪」
加蓮「……ふと思ったんだけどさ」
藍子「?」
加蓮「すごい気合入れてるよね。今年の秋」
藍子「え~と……。ここのお話ですか?」
加蓮「そう。カフェの話」
加蓮「……言っちゃ悪いけど、そんなに客でいっぱいって訳じゃないのに。今日もほら、空席がいっぱいあるし」
藍子「そうですね……。ここに来るお客さんも、ほとんどは常連さんみたいです。最近は、新しくいらした方も増えているみたいですけれど」
加蓮「そんなことまで店員さんに聞いたの?」
藍子「え? いえ、これは私が見て思ったことで……」
加蓮「……見て思ったこと?」
藍子「えっ」
加蓮「え?」
藍子「……カフェに入ったら、どんな方が来ているのかな? って確認しませんか?」
加蓮「いや、しないけど……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……そ、そんなことではカフェアイドルを名乗るには、え~っと……。1年くらい早いですっ」
加蓮「へー、言ってくれるねぇ? 何。勝負する?」
藍子「い、いいですよ~? どうやって勝負しましょうか」
加蓮「……こういうのってどうやって勝負すんの?」
藍子「……さあ?」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……で、藍子ちゃんの分析によると新しいお客さんが増えていると」
藍子「はい。最近はあまり見ない顔の方がよくいるなぁって」
加蓮「ふうん……。元々そういう感じはしなかったんだけどな」
藍子「そういう感じ?」
加蓮「いっぱい客を増やして儲けてやろう! みたいなの。野望って言うの? そういう感じがほとんどしなかったよね」
藍子「確かにそうですね。それよりは、のんびりマイペースにやろうっ、って感じですよね」
加蓮「うん。……なんか思うところがあるのかな。店員さんか、店長さんに」
藍子「心境の変化……でしょうか」
加蓮「それにほら、藍子。店員さんから頼まれてるじゃん。例の子のこと」
藍子「はい」
加蓮「あれも、お客さんに増えてほしい――もっと言えば、新しいお客さんに増えてほしい、ってことじゃないのかなって」
藍子「あ~……」
加蓮「……」
加蓮「……」ズズ
加蓮「……そうしたら、落ち着かなくなっちゃうかな」
藍子「?」
加蓮「私も、今のこのカフェ結構好きだし……。知らない人がいっぱい増えて、賑やかになったら、慣れなくなっちゃうかもって」
藍子「……」ズズ
加蓮「知らない人ばっかりの場所ってどうも落ち着かないんだよね。前にも話したけどさ。私って、昔から良くも悪くも知った人に囲まれてたから――」
加蓮「……って、それは常連も同じか」
藍子「……くすっ。そうですよ~」
加蓮「だよねー」
藍子「それに、加蓮ちゃん。今日、このお話をするまで、常連さんが多くいたことも知らなかったじゃないですか」
加蓮「……悪かったわね。私は藍子と違ってそこまでカフェオタクじゃないわよ」
藍子「ああっ、そういう意味ではないです」
藍子「そうではなくて……。加蓮ちゃんにとっては、常連さんも、知らない方も、そんなに変わらないんじゃないかって――」
加蓮「ん……」
藍子「だからきっと、お客さんが増えても、賑やかになっても。加蓮ちゃんは、大丈夫ですよ」
藍子「加蓮ちゃんも、加蓮ちゃんのペースでいられれば、きっと大丈夫っ」
藍子「なんてっ。それは、加蓮ちゃんにしか分からないことかもしれませんけれど……」
加蓮「……」キョロキョロ
加蓮「……まあ、どうしても落ち着かなくなったらその時は――」
藍子「その時は?」
加蓮「藍子の隣に座るようにしよっかな?」
藍子「それ、私の方が落ち着かなくなっちゃいますっ」
加蓮「えー。藍子ちゃんのペースでいられればきっと大丈夫だよー」
藍子「それはさっき私が言ったことですよ~」
加蓮「たははっ」
加蓮「っていうかさ。ここで他に誰がいるとか常連とか、あんまり気にしたことないんだよね。たまにチラ見するくらいで」
加蓮「騒ぎすぎちゃった時なんかは、周りの目が気になったりするけど……」
加蓮「そっか。よく考えてみれば、このカフェにいる人、他にもいるよね」
藍子「そうですよ。名前も知らない方だけど、カフェ仲間ですっ」
藍子「常連さんは、加蓮ちゃんや私と同じ場所で、同じように、ゆったりとした時間を過ごす仲間……」
藍子「そう考えると、なんだか他人ではないように思えて来ちゃいますね」
加蓮「ふふ。藍子らしい考えだね」
藍子「はいっ。……ううん。それこそ、常連さんだけではなく、このカフェにいる人のみなさんにも言えることです」
加蓮「かもねー……」ズズ
加蓮「……うん。そう考えると、そわそわって感じはしなかったかも」
藍子「よかった。加蓮ちゃん、結局そわそわって感じがしていたんですか?」
加蓮「意識したらちょっとね。そわそわしてた。自分で言うのも変だけど」
藍子「だから"そわそわって感じ"なんですね」
加蓮「そわそわって感じー」
藍子「そういう時はっ」
加蓮「そういう時は?」
藍子「心を落ち着かせるために、ふか~く深呼吸をしましょう……」
加蓮「ふむふむ。深呼吸ね」
藍子「はい、吸って~~~~~……吐いて~~~~~~」
加蓮「すぅー、はぁー……」
藍子「はい。落ち着きましたか?」
加蓮「以上、藍子ちゃんのリラックスコーナーでしたー」
藍子「わ~」パチパチ
加蓮「……いや、藍子のコーナーなんだから。藍子が拍手してどうすんの」
藍子「つい♪」
加蓮「お客さんを増やす為に力を入れた結果が大量のお団子メニューってどうなんだろうね」
藍子「いいじゃないですか~。お団子、美味しいですよ?」
加蓮「美味しいけどこれじゃ"お団子カフェ"じゃん」
藍子「お団子カフェ――」
加蓮「お団子専門カフェ」
藍子「……あっ、忘れていました!」
加蓮「? ……って、まさか」
藍子「秋になったら加蓮ちゃんをお団子カフェに誘おうって思っていたのに!」
加蓮「マジであるの!? お団子専門カフェ!」
藍子「はい! メニューがぜんぶお団子で、内装にも大きなお団子のモニュメントと、あと普通の座席以外にもお団子クッションが置いてあるんです」
藍子「私が行った時には、ちいさな女の子がぽんぽんって跳ねて笑っていて、楽しそうだったなぁ……」
加蓮「お団子だらけだね……」
加蓮「それ、秋しかオープンしてなかったりする?」
藍子「え? いえ、春も夏も冬もやっているみたいですよ」
加蓮「他の時期に需要あるのそれ……? もう団子屋でいいじゃんそれ」
藍子「加蓮ちゃん。お団子屋さんと、お団子カフェは、ぜんぜん別の物なんですよ?」
加蓮「えー。何が違うのそれー」
藍子「そうですね。まずは――ううんっ。こういうのは、お話するよりも実際に見てもらった方が楽しめますよねっ」
藍子「加蓮ちゃん、今度行きましょう。大丈夫です。電車は使いますけど3駅分ですからそんなに疲れませんし、道中にもいろんなお店がありますから。ねっ! 行きましょうよ!」
加蓮「わ、分かったから。ちょっと落ち着こう? 藍子。……ほら、通りかかった店員さんがすごく悲しそうな目で藍子を見ているよ」
藍子「へっ?」
藍子「あ、ええと……。その……」
藍子「ち、ちゃんとここにも来ますよ。加蓮ちゃんと一緒にいっぱい限定のお団子を食べます!」
加蓮「いやだから私は食べてるのを見る係なんだけど……」
加蓮「お団子カフェかー。まっ、せっかく藍子からのデートのお誘いだし? 面白そうだし付き合ってあげる♪」
藍子「ありがとうっ。約束ですからね~?」
加蓮「はいはい。……こら。そんな圧をかけないでよ。なんてことないのに、プレッシャーに感じちゃうじゃん」
藍子「~~~~♪」
……。
…………。
藍子「~~~~♪ あっ、そろそろパーティーのお時間ですね……。加蓮ちゃん、行きますか?」
加蓮「んー……」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「んーー……。うん、行くよ。行くけど……」
藍子「けれど?」
加蓮「……いや、なんだろ。事務所行ってパーティーに参加するでしょ?」
藍子「参加しますね」
加蓮「どうせ大騒ぎになるよね?」
藍子「大騒ぎになってしまいますね」
加蓮「みんな大好き藍子ちゃんのところには、人が集中しちゃうよね」
藍子「あはは……。それは、どうでしょうか」
加蓮「どうせするわよ。もう候補並べるのもメンドイくらいに」
加蓮「藍子と2人でのんびりする時間も、これで終わりかーって考えると、なんか……急に、名残惜しくなっちゃった……」
藍子「加蓮ちゃん……?」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……い、いつもは全っ然気にならないんだよ? ってかむしろ藍子がいつも時間を奪っていくしっ。気づいた時には何この時間!? ってなったりでしょ?」
藍子「……ふふ。ごめんなさいっ」
加蓮「名残惜しいって気持ちもちょっとはあるけど、いつもはあんまり気にならなくて……だけどなんか、今日だけはさ……」
加蓮「……」
藍子「……」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「何?」
藍子「やっぱり、加蓮ちゃんは寂しがり屋さんの、うさぎさんですねっ」
加蓮「あはは、今は否定できないね――いや待って。違うっ。寂しがり屋とかウサギとかじゃなくてっ」
藍子「とかではなくて?」
加蓮「……誰かといたいんじゃなくて、藍子といたいのっ」
加蓮「ほっといたら藍子の周りにはいつも人でいっぱいになるし。……藍子がいろんな人から好かれるのは、見てて嫌いじゃないけどさ」
加蓮「2人でいれる時なんて、ここくらいしかないし……」
加蓮「……」
加蓮「……なんでわざわざこんなこと言ってるの私。これじゃただのウザい女じゃん……」
藍子「……そんなことありませんよ。私だって、加蓮ちゃんとここで一緒にいる時間は、特別な時間ですから」
加蓮「……」
藍子「パーティー、欠席しちゃいますか?」
加蓮「それは駄目! ……駄目っていうか、違うよ。そういうのは違うでしょ……」
藍子「……」
加蓮「そういうのは違うの。ズルっていうか卑怯っていうか。そういうのは……うまく説明できないけどね……。そういうのは、違うの」
藍子「……それなら……加蓮ちゃん」
加蓮「ん」
藍子「またここに、お団子を食べに来ましょうね?」
加蓮「……ん」
加蓮「って、だから藍子が食べるのを見守る係なんだよ? そこは忘れちゃ駄目だからね?」
藍子「ふふっ。は~いっ♪」
<さ、出よっか
<行きましょうっ
<あ、みてみて。レジのところ。すっごく綺麗な紅葉の写真!
<ほんとうっ。すごく綺麗です……! あっ、店員さん。この写真ってどこで撮ったんですか? ふんふん、ええと――
<……おーい? 藍子? 藍子ちゃん? パーティーに遅刻しちゃうよー?
【おしまい】
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