加蓮「2:00AM」 (61)
・モバマス、北条加蓮のSS
・昨年エタったやつの再掲
・書き溜めあり
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クルー「お持ち帰りでお待ちのお客様ー」
加蓮「あ。はーい」
クルー「お待たせいたしました。ありがとうございましたー」
ベーコンオムレツバーガーとスパムバーガー、フレッシュレモネードが、ふたつ。
加蓮「うん、よし」
袋を手に、事務所へ。
あったかいなー。
加蓮「あ」
夜の闇に雪、はらはらと。ちょっとロマンチック。
Pさんと一緒ならなあ、なーんて。
加蓮「ぜいたく、かなあ」
Pさんが待ってるし。早く戻らなきゃ。
深夜2時。
ほんとなら、もうすっかりおやすみ、の時間。
今日はちょっとだけ、いけないわたし。
夜遅くっても、どこかお店は営業してるし。コンビニだってあるし。
でも、今日の気分は『愛 LIKE ハンバーガー』。
加蓮「わたしは恋を夢見るアメリカンガール」
加蓮「大好きな食べ物はハンバーガー」
加蓮「あ~ 愛しのダーリンどこにいるの……」
事務所にいるけどね。
ふと、口ずさんでみる。
さあ、冷めないうちに。お届けお届け。
がちゃり。
加蓮「Pさーん、買ってきたよー」
P「おう、加蓮……ありがとな」
Pさんは、絶賛残業中。
って言うか。
いっつも遅くまで仕事してない?
加蓮「スパムバーガーと、レモネード、っと。はい」
P「ありがと。……なあ、加蓮」
加蓮「ん? なに?」
P「やっぱり家に帰った方がよくないか? 俺が送るし」
えー。
乙女に帰れって言うの? こんな時間に。
加蓮「もう家に電話しちゃったし。それに」
加蓮「わたしがPさんの仕事、手伝いたいって言ったんだもん」
帰らないよ。だって。
Pさんが心配だもん。
このところPさんががんばってくれたおかげで。凛や奈緒と離れ、ソロの仕事も増えた。
今日も、ソロでテレビの収録。押しまくって遅くなったけど。
なんかね。ぴんと来たの。
Pさんの力になれないかなあって。そう思って。
なーんてね。ただのわがまま。
なんだかんだ理由つけて、一緒にいたいだけ。
気づくはず、ないよね。
加蓮「さ。冷めないうちに召し上がれ!」
P「お、おう。そうだな」
加蓮「早く届けたくて、走って戻ってきたんだから」
P「加蓮……あんまり無理、するなよ?」
Pさん、ありがと。心配してくれるんだ。
でも。
あんまり、心配かけたくない、かな。
来たばかりのころの、身体の弱いわたしじゃないって思ってるけど。
相変わらず、Pさんは心配性。
加蓮「大丈夫大丈夫。もう昔のわたしじゃないもん」
P「そうは言ってもなあ」
加蓮「ねえ、食べよ食べよ。ほら」
Pさんとわたし。ふたりがさがさと、包み紙を開けた。
Pさんにスカウトされて今まで、二人三脚で歩んできた。
体も弱くて根性なしだったわたしを、Pさんは。
あきれもせず、怒りもせず。導いてくれた。
暑苦しい熱血もないし、ただ優しいだけの甘やかしもない。
でも、わたしのことを最初からサポートしてくれた。
大人の、ひと。
好きになっちゃったんだなあ。いつの間にか。
決して、凛が彼女のプロデューサーといい関係に影響されてとか、そういうことはない……って思う。
うん。
たぶん。
P「ん。いつものスパム味だな」
加蓮「スパム味って?」
P「ん? そうだなあ。ちょっと説明は難しいけど」
P「けっこうしょっぱいソーセージ、つか、ハムっつか」
加蓮「えー? わかんないよ、そんなんじゃ」
加蓮「じゃあ、さ。ほ・ら」
わたしはPさんに向かって、口を開けて。
加蓮「あーん」
P「おい加蓮」
加蓮「あーん!」
わたしはおなかがすいた雛鳥なの。Pさんがくれないと死んじゃうの。
ほら。はやく。
P「仕方ないな、ほれ」
Pさんが差し出すそれを、わたしはかじる。
Pさんが口つけたところを。
加蓮「あむ!」
P「あ! おい」
加蓮「ん。んー……これもおいしいね」
Pさんはちょっとあきれてる、けど。
わたしは満足。
加蓮「じゃあ、お礼に。わたしのもどーぞ」
P「いや、まあ」
加蓮「いいから遠慮しないで?」
自分でもとびっきりの笑顔じゃないかな、今。
加蓮「はい、あーん」
P「……」
加蓮「あーん」
P「……」
Pさん、しぶといなあ。
加蓮「こ、こ!」
わたしは、自分が口を付けたところを指さす。
さあ。
さあ。
Pさんは観念して、わたしの指さしたとこをがぶり、と。
P「……ん。うまいな」
加蓮「でしょ?」
Pさんのほころぶ顔を見るだけで、幸せな気持ちになれる。
うれしい。
加蓮「なんか、オムレツのまろやかなのもいいよね」
P「そうだなあ。でも、あれだな」
加蓮「ん?」
P「加蓮はほんと、うまそうに食うよな」
加蓮「……そりゃ、好きだもん。ハンバーガー」
ジャンクなものを、イレギュラーな時間に食べるなんて。
ちょっと気持ちがいい。
Pさんと一緒だから、もっといい。
P「デビュー前のころなんか、すぐねだってきたけどな」
加蓮「あはは。そんなこともあったね」
加蓮「でも、ちゃんと自分のからだのこと、考えてるから」
P「いいことだ。それだけプロらしくなったってことさ」
加蓮「でも、たまーに欲しくなるよね?」
P「いいんじゃないか? それに」
P「たまにありつけるから、うれしいもんさ」
P「しょっちゅう食ってたら、感慨も何もないさ。むしろむなしい」
加蓮「……説得力あるね。Pさん」
P「男の独り暮らしなんて、コンビニとファストフードで支えられてるようなもんさ」
P「いかんなーとは、思うけどなあ」
なら。
加蓮「じゃあ」
お約束のことを言ってみたり。
加蓮「わたしがPさんのご飯、作りに行ってあげる!」
P「ん? 加蓮が?」
Pさんの目が、優しげに映る。
加蓮「うん」
P「……ありがとうな。でも、やめとけ」
加蓮「え? どうして?」
P「……わかるだろ?」
わかるよ、Pさんの言う意味は。
女子が、男の一人暮らしのとこに行くこと。
加蓮「わたしは、気にしないよ?」
わかってて、言ってるんだけどな。
だって、Pさんなら。
P「……とにかく、明日もあるから。仮眠室で寝ておけよ」
加蓮「あー、話そらしたー」
P「まあ、そのうちな。そのうち」
右手をひらひらとさせて、Pさんが話を打ち切った。
ざんねん。
子どもと思われてるのかなあ。
それとも、世間知らずとか。
もぐもぐと。深夜の食事。
P「ん。ごちそうさん。加蓮、ありがとな」
加蓮「ううん。わたしこそ付き合ってくれてありがと」
加蓮「あ、Pさん。お茶かなんか入れる?」
P「そうだなあ。コーヒーもらうか。もう少しがんばりたいから」
加蓮「インスタントでいい?」
P「いいぞー。ブラックで頼む」
加蓮「はーい」
Pさんの机からマグカップを持って。
給湯室の棚をごそごそ。うん、あった。
わたしもなんか飲もうかな。
加蓮「あ、ハイビスカス」
鮮やかな赤もいいかな。これにしよっと。
加蓮「Pさん、お待たせー。はい、これ」
ことり。
P「さんきゅ」
Pさんはパソコンに向かってる。かたかたとキーボードの音。
加蓮「Pさん、なにか手伝えることない?」
P「ん? ああ、この文書作って終わりだから、特にないな」
加蓮「そっか。ざんねん」
P「いや、加蓮が手伝ってくれるって言ってくれるのが、ありがたいさ。それだけでがんばれる」
加蓮「そう?」
P「ああ」
ならよかった。
Pさんは饒舌じゃない。でも欲しい気持ちを、くれる。
ふふっ。
わたしはPさんの隣に座る。
加蓮「ねえ。なに作ってるの?」
P「ん? これか?」
わたしは画面をのぞきこむ。それは、企画書。
加蓮「わたしの、ソロライブ……」
営業先のミニライブとかじゃなく、ホールでのペイライブ、って。
しかもツアー。
加蓮「え? ちょっと」
P「そろそろいい頃合いだと思ってな」
加蓮「むりむり! わたしにはまだ無理だって!」
P「そうか?」
Pさんはこともなげに言うけど。
だってまだソロデビューして間もないし、曲だってひとつしかないよ?
なのに、ツアーって。
P「勢いのあるうちに、さ。こういう企画を出さないとな」
加蓮「んー、でもさー」
P「まあ不安なのはわかる。持ち曲も少ない。経験もない」
加蓮「……うん」
Pさんがわたしのために、って。
わたしを一番に考えて、こうしていろんな仕事を企画してくれてる。
わかってるけど、やっぱり不安。はじめてのことは。
そういえば、初めてPさんにスカウトされた時もそうだった。
うれしいけど、不安ばかりがつのって。
ついつい、ネガティブなこと言っちゃって。
P「でもな。こういう企画はできたからすぐやる、ってもんじゃない」
P「企画を通しても準備に時間がかかるし。ヘタすれば1年後ってのもある」
加蓮「え? そうなんだ……」
P「今のこれも、ステージに加蓮が立つのは、半年先だ」
半年先。
Pさんはわたしの半年先、一年先……それ以上。
そんなずっと先のことを考えてるんだ。
加蓮「ねえPさん」
P「ん?」
加蓮「わたしが今、こうしてソロデビューしたのも」
加蓮「前から、決まっていたことなの?」
P「そりゃそうさ。加蓮のようにユニットからはじめることはあっても」
P「俺たちは、ソロでアイドルさせるためにスカウトしてる」
Pさんはわたしを見て。
そして、ふわっと笑って。
P「プロデューサーとして当然じゃないか?」
そっか。そうだよね。
凛はソロからスタートしてる。
奈緒も、わたしと同じタイミングでソロデビューした。
みんなにそれぞれプロデューサーがついてるんだから、ソロで活動することが前提なんだよね。
たぶん。
凛や奈緒と一緒に過ごすことが気持ちよくて、それが当たり前のことのように感じて。
そんな関係が続くもんだって。思ってた。
加蓮「ねえPさん」
加蓮「どうして、わたしだったの?」
P「どうして、って?」
出会った時から、疑問に思ってたんだ。
加蓮「ほら。わたしなんかよりずっとかわいくて、ずっとアイドルに向いてる子、いっぱいいるじゃない」
加蓮「なんでわたし、なのかなって」
P「ん?」
だって……、って。
そう言いたくなるのをこらえる。
体は弱いし、面倒くさがりだったし。
それに、一丁前のこと言って反抗してたし。
こんなに手がかかる女じゃ、Pさんも嫌な思いしたんじゃないかなって。
P「んー、そうだな……」
Pさんはキーボードの手を止める。
次に出てくる言葉が怖い。
わたし、余計なこと言っちゃったんじゃないかな。
スカウトされたばかりの頃の、自信のなさが首をもたげる。
P「まあ、なんだ。よく社長が言うだろ? ティンときた、って」
加蓮「う、うん……」
P「よくさ、この子はこういうところが魅力的でうんぬん、なんて。知ったようなこと言ったりするプロデューサーがいるけどさ」
P「でも、結局は勘なんだよ、カン。売れるとかそういうの抜きにして、『これだ!』って」
加蓮「……」
P「明確な理由なんかないのさ。こうして一緒に仕事を始めて、やっと方向が見つかることなんて、ざらにある」
加蓮「じゃあ、Pさんは、わたしに……」
加蓮「ティン、ときた、の?」
P「ま、そういうことだな。そして、それ正しいって」
P「今の加蓮が証明してくれてる。ありがたいことさ」
そう言ってPさんはふわりと笑った。
加蓮「そっか……そっかあ」
加蓮「じゃあさ。あのね? 仮に……仮によ? わたしがトップアイドルになったら、さ」
加蓮「そのあとも……わたし、Pさんと一緒にアイドルしていけるの、かなあ……」
気がかり。そのことが、とても。
ううん、気がかりっていうんじゃなくって、不安。
トップっていうのがゴールなんだとしたら、わたし、Pさんと一緒にいられなくなるのかなって。
Pさんの目を、見つめる。
ねえ、Pさん。
加蓮「教えて?」
Pさんは目を細める。
そして、ゆっくりと。
P「……どこまでも、一緒だよ」
ああ。そうなんだあ。
Pさんのその言葉だけで、わたしの顔は、ポーカーフェイス気取れなくなっちゃう。
Pさんはわたしの表情を察して、ぽんぽんって、頭をなでてくれた。
P「心配すんな。加蓮とはずっと一緒にいてやる」
加蓮「うん……うん」
うん、よかった。なんか安心。
Pさんは頭をなでながら、片手にマグカップを持って、コーヒーをすする。
わたしは、Pさんのぬくもりを感じながら、うつむく。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「ん?」
わたしは上目づかいに、おねだりをした。
加蓮「これからもずっと、わたしに」
それは、わたしがずっと思い描いている、願い。
加蓮「魔法を、かけてね?」
Pさんは、机にことりとマグカップを置いた。
P「……そうだな」
この日この時。
わたしの全部が、ここにあった。
お願い。覚めないで。
―――――
―――
―
※ とりあずここまで ※
続きはのちほど ノシ
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↓ ↓ ↓
スタッフ「北条さーん! 次こっちお願い!」
加蓮「はーい!」
きらびやかなライブステージの裏。わたしは、忙しく走っている。
登場を待つ、ファンの歓声。そして熱気。
自然とわたしも、熱を帯びる。
でも、そこは。
凛「ねえ、加蓮」
加蓮「ん? 準備できた?」
凛「どう、かな」
凛が衣装替えを終えて、袖に戻ってきた。
加蓮「うん、似合ってる。ばっちり」
凛「そっか。よかった」
うん、すっごくきれいだよ。
シンデレラガールの座を射止めて、凛はますますきれいになったね。
それとも。プロデューサーのおかげ、かな?
スタッフ「渋谷さーん、時間でーす! 準備お願いしまーす!」
凛「ねえ! 加蓮」
凛が、わたしを呼ぶ。
加蓮「ん?」
凛「あのさ、加蓮」
凛はわたしの左手を取って、こう言った。
凛「できれば、また……また加蓮と一緒に……」
加蓮「……ありがと」
ほんとにありがとう、凛。わたし、うれしいよ。
でもその言葉に、わたしは首を振る。
加蓮「そのつもりはないんだ。ごめんね」
凛「……加蓮」
悲しげな顔をする彼女に、わたしはこう言った。
加蓮「わたしはもう、魔法使いだから……」
ソロデビューして、わたしのアイドル人生は順調そのもので。
不安を超えて、楽しさしかなくて。
Pさんとどこまでも行ける、そう信じて疑いもしなかった。
好事魔多し。
ソロになって3年目。わたしはステージ後に倒れる。
激痛。
痛い。息ができない。動けない。
Pさん……助けて…… Pさん!
P「加蓮! どうした! 加蓮!」
心の叫びが伝わったみたい。誰よりも早くPさんが抱えてくれる。
わたしを気にかけてくれる声に、返事すらできない。
そのまま救急車に乗せられ、わたしは病院へと運ばれる。
そして。
加蓮「……」
昔、いつか見たような、白い部屋。
病室のベッドで、わたしはぼんやりと壁を見つめている。
P「……大丈夫さ、加蓮。ちょっと休めって、神様のおぼしめしさ」
加蓮「……」
わたしは、入院することに。
気胸。肺に穴が開いたんだって。
P「ゆっくり休んで、英気を養っておこうな。ファンのみんなが、待っててくれる」
うん、Pさん。知ってるよ。
気胸を患っても、アイドルを続けている人たちは、いっぱいいるって。
無理しなければ、あのきらびやかな世界で、やっていけるって。
加蓮「……」
ほほを、温かいものが伝う。
こらえていたのに。涙が、あふれてくる。
加蓮「……ううっ」
もう、止められない。涙が止まらない。
ごめんね、Pさん。わたし、気付いちゃった。
P「……加蓮」
加蓮「……魔法、解けちゃった……解けちゃったよぉ」
12時は、もう過ぎた。シンデレラの時間、終わっちゃった。
加蓮「……Pさん」
涙が止まらないわたしを、Pさんがやさしく、抱きしめてくれる。
加蓮「……ごめんね……Pさん、ごめんね」
誰のせいでもない。きっとPさんなら、そう言うよね。
でもわたしは、謝るしかできないの。
加蓮「……魔法かけてくれたのに……Pさん、ごめんね」
Pさんの顔を見ることができない。
魔法が解けて、ただの女の子になったわたし。シンデレラじゃないから。
Pさんに顔向けが、できないよ。
P「……加蓮、いいんだ……いいんだ」
もうなにも言えないわたしを、Pさんはなでてくれる。
あのときと同じ、ぬくもり。
ねえ、Pさん。
わたし、Pさんと一緒に、歩けない……
何日か経って。わたしはPさんに打ち明ける。
加蓮「……アイドル、やめる」
Pさんは驚いて、わたしをずっと説得してくれる。けど。
これしか、ないの。
加蓮「……魔法が解けちゃったから……アイドルになる気持ちも、なんか解けちゃったみたい」
正直な気持ち。わたしはPさんに、魔法をかけてもらえる資格なんて、ないの。
だから。
P「……」
Pさんの顔が、ゆがむ。ねえ、そんな顔しないで。
わたしが言ったせいだけど、Pさんのつらい顔を見るのは、つらいよ。
P「……わかった。加蓮」
Pさんは絞り出すように、つぶやいた。
うん、ごめんね。だから、諦めて。
加蓮「……うん……だから」
P「……なら、加蓮。俺と一緒に、魔法使いにならないか?」
加蓮「え?」
わたしの瞳を、Pさんの視線が貫いた。
それは厳しくて、とてもやさしい。そんな感じ。
P「加蓮が、アイドルたちに、魔法をかけてあげないか?」
加蓮「……なんで?」
P「いつか約束しただろ? ずっと一緒にいてやる、って」
加蓮「あ」
そうだ。
あのときの、あの風景がよみがえる。
Pさんとふたりきりで、ハンバーガー。
P「お前に魔法をかけられないかもしれないけど、一緒に歩くことは、できるだろ?」
覚えていて、くれたんだ。
あのときの約束、守ってくれるんだ。
加蓮「どうして?」
P「どうしてって?」
加蓮「どうして、あたしなの?」
あのときと同じ。わたしは同じ言葉を、Pさんに投げかける。
Pさんは頭をかいて、言葉をつなぐ。
P「……そりゃあ、ティンときたからさ。それに」
Pさんの表情が、真剣になる。
P「加蓮が、好きだから」
加蓮「……」
え?
どういうこと?
え?
P「好きだよ」
うそ。どうして。
加蓮「……P、さん」
どうして、今なの? その言葉。
あの日から、ううん。そのずっと前から。
願っていたの。その言葉をずっと、願っていたの。
加蓮「……叶った」
P「……」
加蓮「……わたしの願い、叶った」
わたしはPさんの手を取る。そして、わたしの言葉で、告げる。
加蓮「……好き」
P「……」
加蓮「……Pさんが、好き」
もう我慢しなくて、いいんだ。シンデレラじゃなくても、いいんだ。
加蓮「……一緒にいたい……いさせて、Pさん」
Pさんに抱きしめられる。わたしは、もう我慢しない。
加蓮「……好きなの……好き。ずっと一緒に、いて?」
P「……ずっと一緒、な」
あの日から焦がれていたぬくもりが、全身で感じられる。
Pさんが、そう言ってくれるなら。
加蓮「……魔法使いに、して?」
P「うん」
加蓮「……わたしに魔法を、教えて?」
P「うん」
Pさんのぬくもりを、鼓動を、感じながら。
わたしは魔法使いへと変わっていく。
引退して2年。事務所スタッフになった、わたし。
事務所専属のスタイリストになって、がむしゃらに走っている。
わたしが引退の発表をしたとき、凛も奈緒も、事務所のアイドルみんな、わたしを惜しんでくれた。
ううん、今でもこうして、惜しんでくれてる。
加蓮「さあ、凛。ファンのみんな待ってるよ」
凛「加蓮……」
加蓮「わたしのコーデした衣装、みんなに見せつけてよ! 頼むね!」
わたしはそう言って、凛をステージへ送る。
わああ、と。歓声が沸きあがる。
あのきらびやかな場所にもう、わたしはいない。でも。
わたしの想いを乗せた衣装で、アイドルが輝いている。
Pさん。わたし、Pさんの気持ちが、わかるよ。
凛や奈緒や、彼女たちの輝きを観るのは、こんなにうれしいことなんだね。
加蓮「……凛……がんばって」
わたしは確かに、幸せだよ。
―――――
―――
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※ とりあえずここまで ※
次で終わります。では ノシ
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加蓮「……ん……んん」
夢を、見た。
よく覚えていないけど、なんだかあったかくて幸せな、夢。
加蓮「うとうと、しちゃった」
外を見ると、雪、はらはらと。
ああ、なんか、思い出しちゃうな。
加蓮「大丈夫かな」
Pさんは「今日は夕飯作らないで」って言ってたけど。
今日も帰りが遅いのかな。ちょっと心配。
加蓮「早く帰ってくると、いいね?」
そんなことをつぶやいていたら、気配が。
がちゃり。
P「ただいま、加蓮」
加蓮「あ! お帰りなさい、Pさん」
Pさんとわたし、ふたりの部屋で。
今日もまた、日常が帰ってくる。
加蓮「今日はちょっと、早かった?」
P「ん、まあ。急いで帰ってきたよ」
加蓮「ふふ、よかった」
Pさんの手に、なにかが。
P「ほれ。今日の夕飯」
加蓮「……ありがと?」
袋を受け取って、中を見る。それは。
ベーコンオムレツバーガーとスパムバーガー。
加蓮「……これ」
P「今日は、なんの日だ?」
加蓮「……あ」
そうだ、あの日。
時間は違うけど、Pさんとわたしの、ふたりだけの日。
加蓮「ふふっ。ふふふっ」
P「……どうした? なんかおかしいこと」
加蓮「ねえ、これじゃあ」
わたしは、袋を持ち上げてこう言うの。
加蓮「夕飯にはちょっと、足りなくない?」
Pさんは頭をかいて、気まずそうにしてる。
でもね、Pさん。
加蓮「……覚えててくれて、うれしい」
そう答えて、Pさんに。
キスをした。
加蓮「足りなかったらさ。外に食べに、いこ?」
P「でも、さ」
加蓮「大丈夫大丈夫。あったかくしてさ、ゆっくり行けばへーき」
P「……そうだな」
Pさんに抱かれていたわたしは、手を解いてキッチンへ。
加蓮「コーヒー、入れるよ」
P「加蓮は?」
加蓮「わたしは、ハイビスカスティー」
あの時と、同じ。でも。
あの時と違うのは。
加蓮「カフェイン摂取は、気をつけてるから、ね」
そう言ってわたしは、自分のおなかを撫でた。
Pさんとわたしの間に授かった、新しい命。
結婚して1年半で、今24週。ちょっとだけ、目立ってきたかも。
Pさんと一緒に仕事をして、いつのまにかPさんとふたりで暮らし始めて。
わたしの全部を、受け取ってもらって。
とても自然に、息をするように、わたしたちは結婚した。
そしてわたしたちのもとへ、コウノトリが愛を運んでくれた。
ねえ、チビPちゃん。あなたのパパはカッコつけだね。
でもそんなパパが、わたしは大好き。
おなかの内側をぽこん、って。キックされる。
加蓮「あ! 今蹴った」
P「え! どれどれ」
Pさんはわたしのおなかをさするけど、ざーんねん。
パパにはまだ、おあずけなのかもね。
加蓮「ふふふっ。Pさんタイミングわるーい!」
P「ちぇ、今日も返事してくれなかったか」
電気ポットのお湯が、もうすぐ沸く。
わたしはPさんのために、ドリッパーをセットする。
粉を入れたら、ちょうどいいタイミングでお湯が沸く。
わたしはティーポットにハイビスカスを。
そして、ドリッパーにはお湯をゆっくりと注いで。
加蓮「ん。いい香り」
ポットにもお湯を注いで、と。ガラスのティーポットに鮮やかな赤が広がる。
加蓮「はーい、お待たせ」
P「おう、ありがとな」
Pさんはにこにこと、マグカップを受け取った。
がさがさと、袋を開けて。ハンバーガーを取り出して。
はい。Pさんはスパムバーガー。わたしは、ベーコンオムレツバーガー。
P「じゃ、いただきます」
加蓮「いただきます」
こんな記念の日だから、ジャンクもいいね。
加蓮「わたしは恋を夢見るアメリカンガール」
加蓮「大好きな食べ物はハンバーガー」
加蓮・P「「あ~ 愛しのダーリンどこにいるの……」」
あ! ちょっと。
Pさん、急に割り込んじゃダメじゃない。
加蓮「ぷっ……くくっ」
P「ははは……はははっ」
加蓮「ふふっ……んふふふっ」
ほら、笑っちゃって食事にならないよ。
でも。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「ん?」
加蓮「どうして、わたしだったの?」
P「……まだそれ、訊くか?」
加蓮「うん」
しょうがないなあという顔をする、Pさん。でも、にやけてるぞ。
P「……ティンときたから」
加蓮「うん……知ってる」
わたしはでれでれ顔で、そう応えたんじゃないかな。
鏡を見なくてもわかる。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「……おう」
加蓮「……ありがと……大好き」
わたしとPさんはまた、どちらともなく近づいて、キスをする。
うれしい。しあわせ。
でもね。
加蓮「やっぱり1個だけじゃ、足りないね」
P「そうだな」
お互いにハンバーガー1個じゃ、あっという間にごちそうさま。
それなら、お外へ出かけましょう。
加蓮「わたし、牛丼もラーメンもいいなー」
P「こらこら。あんまりジャンク続きってものあれだろ?」
加蓮「だっていつもなら、わたしの手料理でしょ? 少しはねぎらってほしいかなー」
P「はい、感謝しております。いつも健康的な食事、ありがとう」
Pさんはぺこりとお辞儀する。
加蓮「うん、よろしい! ならサイゼにしよっか。サラダとかもあるし」
P「家計のことも気にかけてくれて、ありがとう」
加蓮「いやいや、くるしうない! Pさんが稼いでくれるお金だもん。大事に使わなきゃね」
わたしたちふたりは立ち上がって、出かける準備を始めた。
P「加蓮さー。あったかい格好しておけよー」
加蓮「わかってるー」
P「外はちらちらって雪だし、少し冷えるから」
加蓮「はいはい、まったく心配性なんだから」
わたしが着替えてる間、Pさんは戸締りのチェックをする。
よし、準備オッケー。
玄関で待ってるPさんに、わたしは言った。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「なんだ?」
加蓮「わたしにまた、魔法をかけてくれて、ありがと」
そして、ちゅっと。軽いキス。
P「いや、俺は」
加蓮「ううん。ずっとずっとすごい、魔法だよ」
このせいいっぱいの感謝を、Pさんに。
加蓮「Pさんのお嫁さんって、魔法」
わたしは、Pさんに微笑む。Pさんもわたしに、笑みを返す。
アイドルじゃないけど、もっと大きな、Pさんだけのアイドル。
そんなわたしに、なれたの。
P「もうすぐ、パパとママだけどな」
加蓮「うん、だからね」
Pさんの手を握る。
加蓮「ふたりでこの子に、魔法をかけてあげようね」
加蓮「わたしたちは、魔法使いだから」
近い未来の話。
わたしたち3人はたぶん、魔法使い一家として、みんなから注目されるの。
みんなって誰か?
それはたぶん、凛や奈緒や、事務所のみんなや。
お父さんやお母さんや。
ひょっとしたら、まだ見ない、誰か。
P「楽しみだな」
加蓮「うん」
さあ、なに食べよっかなあ。
でもPさんとふたりなら、なんでもおいしいはず。
そして、3人になったら。
がちゃり。ドアの鍵閉めオッケー。
Pさんが左腕を出してくれる。
加蓮「エスコートお願いしますね。王子様?」
P「承りました。お姫様」
Pさんの左腕に手を通して、エスコート。
わたしはまた、シンデレラに、なった。
そして、この先も。
(おわり)
以上です。おつかれさまでした
昨年ネタったことを惜しんでくれた方がいらしたので、再投下と相成りました
読んでくださった皆さんの琴線に少しでも触れたら、うれしいです
でも最後の最後で、誤爆しちゃったよorz
では ノシ
このSSまとめへのコメント
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