ライラ「大好きな背中」 (46)

デレマスのライラのSSです

(注)
話と描写の都合上、まだ名前のない人物(ライラのメイドさん)にオリジナルで名前を付けています。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1574170806

 夢を見ていました。

 小さい頃の思い出。
 お家の庭でメイドさん達に遊んでもらったあの頃の景色。
 広い芝生の両脇に背の高い木がずらりと並んで、その傍の花壇にはきれいなお花が沢山。
 プールもあって海も近いけれど、いつも行くのはこっちの方。
 私がお外で遊びたいと言ったら、みんながついてきてくれるお家のお庭。
 やることはもちろんライラさんのお気に入り。日本で言うところのかくれんぼ。

 メイドさんが歌い始めて
 その隙にライラさんはネズミになって
 見つからないようこっそりひっそり
 茂みの中へ身を隠す

 もうひとりのメイドさんがネコになって
 歌う主人に頭を垂れる
 主人へネズミを捧げようと
 その目を光らせあっちへこっちへ

 でも、ここならきっと見つからない。
 隠れるのは得意なのですよ。
 
 ネコがこっちへやって来ます。

 ドキドキしながら息を潜めて
 風が吹いて葉っぱが擦れて
 その音に隠して深呼吸



 ……うん、行ってくれた
 きっと今日もライラさんの勝ちなのです。
 

 最後まで生き残ったライラさんは
 ご褒美にネコの背中に跨って
 ゆらり揺れる夕暮れを見て
 いつもより高く遠くまで見えて





 この背中から見える景色が、優しく揺れるこの背中が、ずっとずっと大好きで……

「お~い、ライラ、事務所着いたぞ」


 目を覚ますと、ここは車の中でした。
 お仕事が終わってプロデューサー殿に迎えに来てもらって、車に揺られている間になんだか眠くなってしまったのでした。


「ありがとうございますです、プロデューサー殿」


 助手席のドアを開けると、むわっとした空気がライラさんに襲いかかります。



 今は夏真っ盛り。
 今年の夏は特にすごいと天気予報のお姉さんも言っていたでございます。
 ライラさんの故郷も十分暑かったですが、日本もなかなか暑くてたいへんでございますね。

 クーラーの効いた車内に戻りたい衝動を抑えて玄関へ向かいます。
 ライラさんが働かせてもらっている場所。プロダクションの事務所でございます。

 きっと事務所だって涼しいはず。ライラさんはいそいそと扉を開いたのでした。
 それにクーラーだけが涼しさではありません。


 実は今日のために事務所の冷蔵庫にアイスを入れてあるのでございますよ。

 難しいお顔をしたカナデさんと廊下ですれ違いつつお部屋に入ると、床にぺたんと座り込んだシキさんを見かけました。

 ソファーがあるのにどうしたのかなと思いつつ、そのお顔を覗き込みます。
 シキさんがこんなに疲れたかのようなお顔をするのを初めて見たので、ライラさんは心配になったのでございますよ。
 この暑さのせいでございますか?


 学校は夏休みに入りましたですが、こうしてお仕事は続きます。
 ライラさんとしては、お仕事いっぱいだとお給料もいっぱいで、家賃も払えてごはんもいっぱい。
 大好きなアイスもこうして食べられるです。
 ちょっとした自分へのご褒美。
 ライラさんは幸せ者ですね。

 でも、今年の夏はすごく暑いみたいです。
 故郷でも何回かすごく暑い時がありましたが、それを思い出すのですよ。
 
 事務所のみんなもなんだか疲れてるみたいで
 先週はアキハさんが食欲が無くなったと言ってお昼のおかずを分けてくださいましたが
 アイドルは体が資本だからいろんなものを食べて栄養はしっかり取らないといけません。

 と、ミクさんが言ってましたです。

 そんなことがありまして、座り込むシキさんを見ていて当時のアキハさんを思い出したのでした。
 
 シキさんの着ている白衣がアキハさんを思い出させたのかもしれませんが
 きっとこの暑さで疲れているけれど食欲がわかなくて困っているのではないかと思ったのです。

 こういう時はアイスが良いでございます。
 疲れていてもアイスを食べると幸せになるのでございます。
 
 今持っているのはライラさんへのご褒美用ではありますが……

 ライラさんとシキさんは同じ白衣仲間です。
 ここは差し上げましょう

 ……一口だけ。




 一旦冷蔵庫の方へ行って、「ライラさん」とマジックで書かれた袋から取り出したアイスをシキさんに差し出しました。

「シキさん、どうしたのでございますか?アイス一口食べるですか?」


 するとシキさんの癖っ毛の一本がピョコンと撥ねて、お顔をこちらに近づけてきます。


「ん~クンカクンカ……いい匂い……くれるの?いただきまーす!」



 パクリとシキさんが齧りつきます。思ったよりも元気そうで何よりです。
 大きく齧ったアイスを頬張り味わうお顔はとても幸せそうで、やっぱりアイスは偉大です


 ……もう半分しか残ってませんですが、ライラさんは気にしないのでございます。




「おや?誰かと思ったらライラちゃんか、疲れたあとのアイスとは気が利くね~ありがとう!」


「どういたしましてですよ~」






 やっぱり相手が嬉しそうにしてくれると、ライラさんも嬉しくなりますね。

 やはり夏にはアイスです。

「ところでシキさんも暑くて疲れてしまったのでございますか?」

「いや~実はそうじゃなくってさ~」


 シキさんが髪の毛をぽりぽりと掻くと、ここではないどこかへと目を泳がせます。


「せっかくお節介してあげたのに怒られちゃったんだよね~志希ちゃんは不服であるー!」

「そうでございましたか……ライラさんも同じようなことがあったですよ」

「そうなの?」



 プロデューサー殿からアイドルにスカウトされるよりも前
 コンビニでアルバイトをしていた時のことでした。

 小さな子がお菓子をどうしてもと欲しがったのであげてしまったら
 店長にものすごく怒られてクビになってしまったことがあったのです。



 そのことをお話しすると志希さんは少し苦笑いをして首を傾げつつも


 「まぁそんな感じかなー」


 と言ってくださいました。






 優しい人なのでございますね。

「そうだライラちゃん、お礼に良いものあげるよ!手を出してー」


 そう言うとシキさんはポケットから小瓶を取り出すとライラさんの掌に白い粉をちょこんと乗せました。


「あたしの自身作なんだ、この夏ピッタリの成分配合でライラちゃんも気に入っちゃうと思うんだよね~!」


 手のひらに乗った一掴の粉。
 シキさんが言うには「元気の塊」なんだそうです。

 小麦粉のような見た目ですが、焼かずにこのまま舐めるみたいでございます?



 人差し指の先にちょこんと付けて、舐めてみようとした、その時でした。

 瞬く間の一瞬

 認識すら追いつかない早業




 ライラさんは慣れっこですが他のみんなはきっと何が起こったかわからず戸惑うことでしょう。


 いつの間にか開いている窓

 ライラさんを守るように立つ後ろ姿

 そして、お顔を見なくてもわかる程のオーガのような表情


 見知った姿のメイドさんが目の前に現れました。


 ライラさんの目の前に突然現れた彼女は、物心ついた時からずっと一緒に暮らしてきた人でした。

 
 ライラさんよりずっと背が高いけど、肌は同じ小麦色。
 きれいな髪は後ろで結んで、すらりとしたうなじと手足。
 緑色のエプロンと、袖まくりした白いシャツ。

 ライラさんについて来てくれた、大事な大事なメイドさん。







 彼女の名前はサラ

 日本へもライラさんと一緒に来てくれた、我が家自慢のメイドさんでございます。


 サラは口元に運ぼうとしたライラさんの手を優しく抑えつつ、シキさんの方を睨みつけています。


 ライラさんが一人で何かしている時、サラはこうして突然現れることがあるのでございます。

 
 薄暗くなった公園で知らないおじさんに「楽しいところに行こう」と手を引かれた時も
 路地裏でお兄さん達何人かに一緒に遊ぼうと誘われた時も
 いつもこうやって突然現れてはそれらのお話は無かったことになってしまうのです。

 あのおじさんやお兄さん達はそれ以来一度もお会いしていません。



 
 お元気なのでございましょうか?

「貴様、ライラ様に何をするつもりだった?怪しげなそれは何だ!」

「ノンノン、危ないオクスリとかじゃないって!ほんのちょ~っと元気になれるかもしれないからここは試しに……」

「そうか、祈りの時間は済ませたな?」

「ちょっとちょっと、スト~ップ!ほんとに違うから!とりあえずお手手のそれしまってよ、ね?」

「ほう……」




 シキさんがなだめていますが、サラのピリピリした雰囲気は全く収まりません。

 それどころか少し増した気がしますです。




 サラが普段から隠し持っているそれ
 今、とても上手く掌に隠しているそれ

 アヤメ殿が小道具に使う物とは比べ物にならないほどに鋭く研がれたそれを
 一呼吸ほどの沈黙の後、隠す手間は不要だと言わんばかりに、投げる前の形に切り替えました。

 ライラさんがお布団に入った後にサラがこっそりお手入れしている鍵型ナイフの刃が、指の間からその身を覗かせます。

 お二人がものすごく険悪になっているのは今のライラさんからでもわかります。

 話している中身はほとんどわからないけど
 サラがここまでするからには、きっと良くないことが起こる気がするのでございます。


 そう、お二人が話しているのは日本語でも英語でもなく、ライラさんの母国語のアラビア語でもありません。






 サラの本当の母国語、ペルシャ語でした。






 ライラさんとしても、小さい頃にほんの少しサラから聞いたことがあるだけで、話せるわけじゃないのですよ。









『サラ、やめて!志希さんは悪い人じゃないよ!』


 急いで止めないといけないと思い、つい母国語で話してしまいました。

 本当はサラとの約束があったのです。

 出身国ができるだけ悟られないように
 早く日本語になれるようにと

 日本に来た当初に結んだサラとの約束で日本ではできる限り日本語で生活するということになっていましたが
 今はそんな事を言っている場合ではありません。


「そうだそうだー!ライラちゃんもっと言ってあげて!」


 シキさんがぶーぶーと唇を尖らせながらライラさんに今度はアラビア語で助けを求めています。

 そうです、ちゃんと説明をすればサラだってわかってくれるはずです。

 サラは相変わらずシキさんへの警戒は緩めていませんが
 同時にこちらにも意識を向けてくれましたです。

 話すなら今がチャンスでございます。


『志希さんは私があげたアイスのお返しにこれをくれたの。

 よくわからないけど、これを食べれば暑い夏でも元気になれるって言ってたよ?

 志希さんは普段からオクスリいっぱい作れるすごい人なの。

 だからきっと悪気があるわけじゃないと思うの!』

 直後、シキさんのお顔がなぜだか汗でいっぱいになりましたです。

 変でございますね。
 開きっぱなしの窓の外が暑いからでございましょうか。

 でもきっとこれでサラも落ち着いてくれるはずですよ。
 サラは本当はとても優しいのでございますから。




 それよりもドアの向こうの皆さんの方が気になります。

 先ほど大きな音で空いた窓とライラさん達の話し声に釣られて
 事務所の皆さんがぞろぞろと集まってきましたです。

 突然だったことと
 ここにいる3人以外誰もわからないだろう言葉と
 何より彼女が事務所に来るのは初めてだろうということと。

 その全部が合わさって皆さんは少しびっくりしていることでございましょう。



「なるほど……よくわかりました。ライラ様、向こうで見ている方達を入らせないようにドアを閉めてきていただけますか?」

『ちょっとサラ、何する気?』

「じっくりと『話し合い』をするだけです、ご安心くださいませ」



 サラはそう言うとナイフをしまってくれました。

 よかった、やっぱりサラは優しいです。
 話し合いは大事。プロデューサー殿もそう言っているでございますから。


 こうした話し合いはサラは得意なのでございます。

 ライラさんも公園で知らない人とよくおしゃべりをしますが
 ただ楽しくておしゃべりしているだけ。

 サラは相手からいろいろなことを教えてもらうのがとても得意なのですよ。


 そろりそろりと後ずさりをしようとしているシキさんでしたが
 サラの視線に気がついてピタリと止まりましたです。

 シキさんはよく打ち合わせからいなくなってしまうという話を聞きますが
 今は少し我慢してくださるみたいですね。

そんな時でした。


「ちょっとちょっと、サラさんじゃないですか、落ち着いてください!」


 季節のことなどお構いなしの年中見慣れた黒スーツ。
 ドアの向こうの人集りをかき分けてプロデューサー殿が現れたのでした。













 プロデューサー殿が来てからは平和的に話が進んで志希さんの誤解も解けて、とりあえずその場は治まりました。サラはシキさんがライラさんに毒か何かを渡そうとしているのではないかと疑っていたみたいで、シキさんや周りの皆さんにごめんなさいしてこの騒動は終わったのでございます。

 いつも通りの帰り道。

 太陽が沈み始めても、ライラさんの額を滴る汗が止む気配はありません。
 お天気お姉さんの言っていたとおり、夜までずっと暑いままだそうです。

 そのせいなのでございましょうか
 隣を歩くサラはというと、なんだかいつもより険しい顔つきに見えたのでした。



「ライラ様、本日はその……」

「いいのですよ。ちゃんと誤解も解けましたですし」

「いえ、実はそのことなのですが……」



 ビルの影にさしかかる。
 すれ違う自転車は遥か後ろへ遠ざかっていく。
 言葉途切れて一呼吸。歩みを止めて、こちらを向く。



「ライラ様、私の出自について同僚の方々にお話したことはございますか?」

「出自……?いいえ、ないでございますよ?」



 そう、メイドさんがいるということは何人かにはお話していました。
 でも、サラの出自のことだなんて、ただの一度も、どなたにもお話したことはありませんでした。
 それどころか、面識があるのはプロデューサー殿だけのはずなのでございます。

 なるほど、きっとサラもそれが気がかりなのでしょう。
 話せる言語の数なんて問題ではないのです。





 なぜ“真っ先にその言語を選択した”のか。





 
 お日様が沈む

 カラスが飛び立つ

 夜が、近づいている





「……とにかく、貰い物とはいえ、見知らぬ物は安易に口にしないように。いいですね?」



 サラはライラさんのことをとても気にかけてくれる優しくて真面目な人なのですが
 たまに今日のように恐い顔をすることがあるのでございます。


 親が子を叱る時のよくある恐い顔とは違うのです。
 外敵をライラさんから追い払わんとする警戒心がそうさせる冷たい目。




 サラはあくまでもライラさんのためにこうしてくれていると
 頭ではわかっているつもりではあるのですが、ライラさんとしては、このことはあまり素直に喜べないのでございます。





 サラは笑うととってもきれいで世話焼きさんで優しくて……

 だから本当はサラにはずっと笑っていてほしくって、あまり恐い顔はしてほしくないのでございますよ。

―翌日―

 ダンスレッスンが終わってミレイさんとストレッチをしている時でした。


「なぁライラ、昨日のアレって何だったんだ?」

「アレ……でございますか?」

「そうそう、あのメイド……さん?ライラの知り合いなのか?」


 ライラさんの正面にぺたりと座りながらこちらをのぞき込むその表情は
 心なしかワクワクしているようで
 いつもの眼帯を外しているせいもあって、いっそうキラキラしているようでした。


「サラといいます。ライラさんと一緒に日本へ来てくれたですよ。」

「そうなのか。へぇー、サラさんっていうのか!爪みたいなの構えるときもキリッとしてかっこよかったぞ!」


 当時、ミレイさんは扉から少し離れた所から見ていたようで
 本人の目の良さでサラのことは見えていたけれど
 さすがに持っていたのが本物の鉤爪だとは気付かなかったようです。





 少し、ホッとしたでございますよ。

でも本当は少し不満だったのです。



 早業やら立ち姿やらは普段から見慣れていましたが
 あんなにも張り詰めた顔のサラは久しぶりで、いつもはもっと穏やかなのです。

 あの暗器だって、一般人の前でそうそう出すものではないのですよ。


 だから本当は
 せっかく知ってもらうなら
 サラの優しいところやきれいなところを見てほしいと思うのでございます。


 でもそれはそれとして
 今のミレイさんが嬉しそうに感想を語っている表情もまた
 ライラさんとしては好きなのも本当で……

 ちょっぴり複雑な気持ちでございます。


 淑女たる者、外向きの顔の一つくらい身につけなさいとパパからも言われてきましたが
 今のライラさんはきっとまだ子供なのでしょう。

 サラの話をきっかけに爪の魅力を再確認中のミレイさんをお邪魔するのも申し訳ないので
 前屈をするふりをして、顔を下に向けたのでした。





「おっと、話が逸れたな。結局、志希さんがまた何かやらかしたのか?」

「いえ、あれは特に危ないものではなかったのですよ。ただ……」

◇ ◆ ◇



 ストレッチも一通り終えて談話室へミレイさんと一緒に戻り
 シキさんへの誤解も解けた頃
 ニナさんがトコトコとこちらへやって来ました。

 今日はネズミさんの着ぐるみで、お尻の先でくるりと一回転したしっぽがぴょこぴょこと揺れています。
 以前にも見たことはありましたが、半袖タイプも持っていたのでございますね。


「みなさんおはよーごぜーます!何のお話でやがりますか?」


 ニナさんは昨日は事務所に来ていなかったようで
 ミレイさんと一緒に昨日のことを含めこれまでの話をしましたですよ。

 実はニナさんには、ライラさんにメイドさんがいることはお話したことがあるのでございます。
 勿論、サラの名前や出自のことなどは話したことはないのですが
 普段お家でいっぱい助けてくれることはよく話していました。

 そのおかげか、短いあらすじでもすんなりわかってくれたみたいです。


 しばらくそうしてお話をしていると


「そうだ、思い出したですよ!ライラおねーさん、久しぶりにアレがやりてーでごぜーます!」


 ニナさんからの鶴の一声。

 お互いちょうど空き時間なのでやってみるのもいいかもですね。
 ミレイさんも一緒にやってくれるようでございます。

 この前ニナさんに教えた遊び
 日本で言うところのかくれんぼ。

 ライラさんの故郷でやっていたようにアレンジは加わっていますが
 おおざっぱにはほぼ同じ。ライラさんの小さいときの思い出なのです。



 遊びのタイトルは、ええっと……

◇ ◆ ◇



 ストレッチも一通り終えて談話室へミレイさんと一緒に戻り
 シキさんへの誤解も解けた頃
 ニナさんがトコトコとこちらへやって来ました。

 今日はネズミさんの着ぐるみで、お尻の先でくるりと一回転したしっぽがぴょこぴょこと揺れています。
 以前にも見たことはありましたが、半袖タイプも持っていたのでございますね。


「みなさんおはよーごぜーます!何のお話でやがりますか?」


 ニナさんは昨日は事務所に来ていなかったようで
 ミレイさんと一緒に昨日のことを含めこれまでの話をしましたですよ。

 実はニナさんには、ライラさんにメイドさんがいることはお話したことがあるのでございます。
 勿論、サラの名前や出自のことなどは話したことはないのですが
 普段お家でいっぱい助けてくれることはよく話していました。

 そのおかげか、短いあらすじでもすんなりわかってくれたみたいです。


 しばらくそうしてお話をしていると


「そうだ、思い出したですよ!ライラおねーさん、久しぶりにアレがやりてーでごぜーます!」


 ニナさんからの鶴の一声。

 お互いちょうど空き時間なのでやってみるのもいいかもですね。
 ミレイさんも一緒にやってくれるようでございます。

 この前ニナさんに教えた遊び
 日本で言うところのかくれんぼ。

 ライラさんの故郷でやっていたようにアレンジは加わっていますが
 おおざっぱにはほぼ同じ。ライラさんの小さいときの思い出なのです。



 遊びのタイトルは、ええっと……



 じゃんけんポンの掛け声と、思い思いのグーチョキパー。
 何回目かの掛け声で、それぞれ役割が決まります。


 日本のかくれんぼと違ってこの遊びでは、役割の種類は3つ
 マスターとネコとネズミでございます。


 マスターがカウントダウンする隙にネズミは散り散りかくれんぼ。

 カウントダウンの間にマスターに目隠しされたネコは
 その後ネズミ達をマスターのところに届けるのが役目です。

 カウントダウン後に目隠しを外し
 マスターがネズミの名前を呼んだら
 それぞれネズミ達は口笛でお返事して
 それをヒントにネコはネズミを探します。

 制限時間までに見つけきれなかったら
 ネコはネズミをおんぶしながらマスターの元へ届けなければなりません。

 これが意外と重たいのですよ。




 小さい時にサラに教えてもらったこの遊び。

 サラもまた故郷で親戚のおじさんに教えてもらったらしいのですよ。


 本当はカウントダウンではなく
 マスターが歌う専用の歌が終わるまでの間に隠れるのですが
 難しいのでカウントダウンということにしたのでございます。

 簡単に説明を済ませたら
 ネコ役のライラさんをマスターのニナさんが目隠しします。
 小さい時はいつもネズミ役ばかりしていたので、なんだか新鮮です。



 真っ暗な世界にニナさんの声とミレイさんの足音。


 10……

 9……

 パタパタパタ……7を過ぎたら、もう何も。

 隠れるネズミに思いを馳せる。

 あの時のサラも、きっとそう。


 5……

 4……
 
 隠れるのなら、きっと段ボール箱の陰。

 周囲の景色を思い出す。

 あの日のサラも、きっとそう。


 2……

 1……






「うぎゃあああああああ!」



 突然、ミレイさんの悲鳴があがりました。

 直後にゴツンという音と、痛みを堪えるような呻き声。



「うわ!?どうしやがったです?」

「行ってみましょう」



 口笛のお返事を聞くまでもなく場所はわかったのでそちらへ向かいます。





 ソファーの下へ頭だけ隠している状態でうずくまっているミレイさんを見つけました。

「痛たたたた……なんでこんなとこで寝てんだよ、ビックリしただろ!」



 涙目でソファーの下を睨みつけながらミレイさんが文句を言っていますです。
 ソファーの下へ隠れようとしたところに何か見つけたのでございましょうか?

 すると
 ミレイさんが睨みつける先からピンク色の大きなウサギの耳がニョキニョキと出てきました。

 これはライラさんにも見覚えがありますです。彼女といえばこのぬいぐるみです。



「んもー、いきなり大声出してどうしたのさー。せっかくサボ……じゃなくて休憩してたってのに」



 眠そうに眼をこすりながらアンズさんが這い出てきました。



「普通こんなとこで人が寝てるだなんて思わないだろ!」

「だからこそいいんじゃんか、見つからないし。美玲ちゃんこそなんでわざわざこんなとこ入ろうとしたのさ?」

「いや、隠れようかと思って」

「え?美玲ちゃんもトレーナーさんから逃げてるの?」

「違うし!ってか“も”ってなんだよ⁉ウチはニナと遊んであげてるだけだぞ」

「遊び?かくれんぼか何か?」

「杏おねーさんもやりやがりますか?」

「え……ここで?」



 アンズさんが困惑しているようなので、3人で遊ぼうとしていたこととこれまでの経緯をライラさんが説明しました。

 杏さんは相変わらずウサギに寝そべりながら
 ふーんとかへーとか相槌を打っていましたが
 説明が終わると少しだけ間を置いて


「ねぇライラ、その遊びって誰から教わったの?」

「我が家のメイドさんからですよー」

「その人って昨日の?」

「そうでございますが……」



 ライラさんが質問に答えると、アンズさんはまた少しの間ぼーっと天井を見つめました。



「なんだ、アンズも昨日あそこにいたのか、気付かなかったぞ」

「うん……まあねー」



 かっこうだけは物凄くだらけていても
 この時だけはお口も閉じて
 目もよく見るとどこか真剣で
 アンズさんが何か考え事をするときのお顔でした。



「あー……そういうことか、あいかわらずだな志希は」



 そう言うとアンズさんはまたソファーの下へずるずると戻ってしましました。



「っておい、また寝るのか!?」

「だってまだ眠たいし。できたら邪魔しないでほしいなーって」

「えー、杏おねーさん一緒にはやらないでごぜーますか?」

「うーん……正直言って、ここでそれやるの向いてないと思うよ?

 ここってそんなに広くないし、口笛とかすぐ響いて居場所バレバレだし、隠れる場所も少ないし」

「あー、言われてみればそうだな。実はウチも隠れる場所に困ってソファーの下覗いたところあるし」

「それなら……また別の機会にいたしましょう、ちょうどいいチャンスもあるのでございますよ」




 そう、実は今週にいいチャンスがあるのですよ。

 この3人とコズエさんとサナさんでキャンプ体験の収録があるのでございます。
 そのときにいたしましょう。


 
 ライラさんとしてもとても楽しみなのですよー。


―数日後―






 キャンプの収録も無事に終了し、テントやら機材やらの片づけが始まりましたです。

 みんなで火をおこしたり星空を眺めたりと
 普段のお仕事ではできない体験がいっぱいで
 みんな楽しそうな笑顔でいっぱい。

 もちろんライラさんもすっごく楽しかったのですよー。

 スタッフさん達へのご挨拶もきちんと済ませて、焚火の跡の片づけが終わった頃
 スタッフさん達やプロデューサーはまだ少し時間がかかるということで、ライラさん達に自由時間をくれたのでした。



「だったら最後にみんなで遊びてーですよ!遊んでてもいいですか、プロデューサー!」



 ニナさんはまだまだ元気いっぱいで遊び足りないようでして
 プロデューサーもそれを察してか
 あまり遠くへは行かずみんなと一緒に遊ぶことという忠告だけを残し
 離れにあるログハウスのウッドデッキの所へディレクターさん達とお仕事の話をしに行ってしまいましたです。



「よし!今度は屋外だしアンズはいないな、隠れたい放題だぞ!ウチはどっちかっていうと狩人側がいいけど!」



 ミレイさんもやる気十分です。しかしライラさんも負けてはいられないのでございます。

 早速役割をそれぞれ決めて、ライラさんは得意のネズミ役。

 サナさんがミレイさんを目隠ししている間に低木の茂みに隠れました。

 その後、名前を呼ばれたので口笛でピーっとお返事したら、ここから先は気が抜けません。


 ライラさんは小さい頃から隠れるのがとても得意で
 メイドのみんなからも一目置かれていたのですよ。えっへん。

 ちょうど死角になる隠れ場所を見つけて、こうやって小さくなって……




「見つけたぞライラ、まずは一人目だな!」


















 ……あれ?

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