環いろは「桜子ちゃんが二人になっちゃった?!」 (70)


いろは「うっ・・・。灯花ちゃん、こんなにたくさんの装置を果てなしのミラーズに運び込んでいたんだね・・・」

灯花「うん・・・。はーあ。この装置と魔法少女の魔法を使えば色んなことに応用ができるはずだったのににゃぁ・・・」

鶴乃「色んなことってなあに?」

灯花「例えば、高エネルギーの粒子同士を衝突させて超重力を生み出し、それで歪んだ時空連続体を、負の質量で安定させたワームホールで接続することができれば―――」

フェリシア「あっ? ・・・あっ??? なに言ってんだわけわかんねー! 日本語しゃべれよ!」

灯花「にゃーもうっ、なんでもないっ! 説明したところでどーせ凡人には理解できないよーだ!」

十七夜「おい、なんだその態度は。貴様の持ち込んだこの装置のおかげで羽根の力が制御できずに宇宙が崩壊しそうだったんだぞ。ちゃんと反省しているのか? それともまた尻を叩かれたいか?」

灯花「にゃ?! そ、それはもう何度も謝ったからいいでしょー! それより今は早く装置を運び出してよ。そこらをうろついている使い魔にもうすでにいくつか壊されちゃってるんだから、これ以上壊されたくないよ」

やちよ「はいはい分かったわよ。でもこの量は一度に全部は運びだせないわよ。何回かに分けないと。私たちが離れる間誰かが残って守っていた方がいいわ」

いろは「それじゃあ桜子ちゃん、ちょっとの間この装置を守っててくれる?」

桜子「 |分かった| 」

      < |・・・・ いろはっ| 

いろは「ん? 桜子ちゃん呼んだ?」

桜子「 |? ううん、私は呼んでない| 」

いろは「えっ、でも今桜子ちゃんの声がしたような・・・」


桜子?「 |・・・いろはっ| 」


いろは「・・・・えっ? あれ? ええっ?!」

桜子?「 |やっと会えた・・・いろは・・・| 」

桜子「 |うん? 私にそっくりな人がいる| 」

いろは「桜子ちゃんが二人になっちゃった?!」





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やちよ「そりゃ二人にもなるわよ。果てなしのミラーズなんだから」

いろは「そ、そうですけど・・・」

桜子?「 |いろは・・・| 」ボロッ....

いろは「すごく傷付いてるみたい・・・。かわいそう・・・」

フェリシア「うわっ・・・。傷付いているってレベルじゃねーぞ・・・。服はボロボロで手足はバキボキに折れて、首は変な方向に曲がってるじゃねーか・・・。まるでゾンビだぞっ」

やちよ「不完全にコピーされたか、他のコピーと喧嘩でもしたんでしょう」

いろは「あのっ・・・。傷付いている桜子ちゃんが本物ってことはないでしょうか・・・?」

灯花「何言ってるのお姉さまっ。こっちの桜子は結界の外からずっと一緒だったでしょー」

桜子「 |うん。私が本物| 」

鶴乃「それじゃあ偽物は退治しようっ! 手負いの相手に攻撃するのは気が引けるけど・・・。所詮は偽物だし、容赦しないよっ!」グッ

いろは「あっ、待って―――」

鶴乃「ちゃっらぁぁあああ!!!!」ズバッ

桜子?「 |うるさい| 」 トンッ.....

鶴乃「へっ? あぎゃぁぁあああ?!!!」 (吹っ飛ばされ

やちよ「えっ?! 鶴乃っ?!」

鶴乃「うぐっ・・・」ドサッ.....

やちよ「鶴乃大丈夫?!」

鶴乃「うへへぇ~・・・空飛ぶ豚さん・・・ぱーたぱた・・・あひゃは~・・・」クラクラッ....

やちよ「ダメそうだわ・・・」



桜子?「 |いろは・・・・| 」ヨロッ......

いろは「えと、あの・・・桜子ちゃん・・・?」

桜子「 |桜子は私。あなたは偽物っ。偽物はそれ以上いろはに近づかないで| 」

桜子?「 |どいて| 」

桜子「 |どかない。いろは下がって。私が守る| 」

いろは「で、でも・・・・」

桜子「 |下がって!| 」

桜子?「 |邪魔・・・しないで・・・」

桜子「 |邪魔なのは偽物のあなたっ! やっあアアッ!」バッ

桜子?「 |どいて| 」トンッ......

桜子「 |っ?! ガッ・・・ぐ・・・| 」 .....ドサッ

いろは「桜子ちゃん?!」

フェリシア「お、おいっ?! クソッ! 調子乗りやがってこのヤロー! オレがぶっ飛ばしてやるー!」グッ

やちよ「ステイッ!」

フェリシア「ぐぁん?! なんでだよ!」

やちよ「冷静になりなさい。鶴乃や桜子さんを一撃で戦闘不能にしてしまうのよ。私たちじゃまともに戦っても敵わないわ」

十七夜「うむ。七海の言う通りだ。下手に仕掛けたら返り討ちに遭うぞ」

フェリシア「マジかよ・・・。じゃあどうすんだよっ!」


十七夜「なんとか会話で戦わないよう持っていけないだろうか。以前、自分は自分のコピーをそれで無力化させたことがあるぞ」

いろは「あっ、それじゃあ私が話してみます!」

十七夜「その桜子君は妙に環君に執着しているからな。分かった、環君に任せよう」


桜子?「 |いろは・・・| 」

いろは「ええと、桜子ちゃん・・・だよね? 桜子ちゃんは私たちの敵なの?」

桜子?「 |私はいろはの側にいたいだけ。それを邪魔するのは敵| 」

いろは「それじゃあ、私の側に居ていいから。みんなのことを傷付けないって約束して」

桜子?「 |いろはがそう望むなら約束する| 」

いろは「うん。約束だよ」


やちよ「うん? これで解決? なんかずいぶんあっさりね・・・」

いろは「あ、あのっ! この桜子ちゃんひどく傷付いていてかわいそうだから、治癒魔法をかけてもいいでしょうか?」

フェリシア「何言ってんだよいろは! そいつは桜子じゃなくて、鏡の魔女の使い魔だろ!」

灯花「傷付いた状態でもあんなに強い偽物を、治癒するのは危険だと思うよ、お姉さま・・・?」

やちよ「そうね。今は敵じゃないって言ってるけど、いつ裏切るか分からないもの。穏やかな味方のフリをしていきなり攻撃してくるコピーって、今までごまんといたし」

いろは「そうですけど・・・。でも、この桜子ちゃんは偽物って感じがしなくて・・・」

やちよ「そうなの? うーん、どうしたものかしら・・・・」

灯花「なーに、お姉さま、まだわたくしたちと一緒にいた桜子の方が偽物だって言いたいの?」

いろは「そういうわけじゃないんだけど・・・」

十七夜「ならばこの桜子君が本物かどうかを、自分が読心して確かめてみよう」ジーッ

桜子?「 |・・・・・・・| 」

十七夜「むっ・・・。これは・・・・」

やちよ「何か分かった?」

十七夜「う、うむ・・・。分かった・・・」

やちよ「やっぱり偽物だった?」

十七夜「いや。本物だ」

やちよ「えっ?」

十七夜「すまないが自分はそろそろバイトの時間だ。今日は失礼する」

やちよ「えっ? ちょ、ちょっと」

十七夜「七海、そこの狂犬を少しの間借りていいか?」

やちよ「あ、う、うん。いいけど・・・」

フェリシア「なんだよー。オレ、メイドなんてやりたくねーぞ」

十七夜「いいから来い」グイッ スタスタ

フェリシア「うあ!? 引っ張んなって!」



やちよ「十七夜・・・。行っちゃった」

いろは「えと・・・。十七夜さんが本物だって言ったってことは、この傷付いた桜子ちゃんは本物ってことですよね?」

やちよ「ま、まあ、そうなんじゃないかしら・・・」

灯花「なにそれー! いみふめー! 本物なわけないよー! だってさっき携帯端末で調べたけど、わたくしのサーバーと繋がってるのはこの傷付いた桜子じゃなくて、一緒にいた桜子の方だよー!」

やちよ「そうだけど、十七夜は嘘つくような子じゃないし・・・」

いろは「それじゃあ、治癒してあげてもいいですか?」

やちよ「あ、待って。念のため鶴乃と一緒に居た方の桜子さんを先に治癒してあげて」

いろは「そうですね。分かりました」 パァア

桜子「 |んっ・・・。ありがとういろは。良くなった| 」

鶴乃「んー・・・・・ふんっ! 元気全快万々歳!」

鶴乃「いやー効いたよさっきの技は! 軽く押されただけかと思ったら、体が全部すっ飛んで行っちゃってさ! 初めてだよあんなの! クウシンサイ先生の奥義みたいだった!」

やちよ「傍から見ててもそう感じたわ。桜子さんは、そんな漫画に出てくるような武術の奥義みたいな芸当はできるの?」

桜子「 |・・・一応、灯花のサーバーにそういったデータはある。ただ、非常に難易度の高い戦闘技だから、まだ私は体得できていない| 」

やちよ「そう・・・」

やちよ(この状況からどう考えても、傷付いている方がコピーの桜子さんよね。だけど、オリジナルより強いなんて、ミラーズカップの時の雫ちゃんのコピーみたいだわ。あの時と同じでみたまの特製オーブを使って強くなった・・・?)

やちよ(あるいは、あれは桜子さんのコピーじゃなくて、とてつもなく強い実力がある別の誰かのコピーなのかも。その誰かはレナみたいに別人に変身する能力を持っていて、たまたま今は桜子さんの姿に変身しているだけとか)

やちよ(ただ、十七夜は本物だって言うのよね・・・。どういうことなのかしら・・・・・)




いろは「傷付いている方の桜子ちゃんも治癒しますね」 パァア

やちよ「・・・・・っ」

やちよ(これだけボロボロの状態でも鶴乃を一撃で倒してしまうほどの強さなのに、治癒してしまったらどうなるのかしら・・・?)

やちよ(万が一私たちに襲い掛かってきたら全滅しかねない・・・。一応構えておこう・・・)グッ.....


いろは「うん、手足も首も、全部治ったね。調子はどう?」

桜子?「 |ありがとういろは。良くなった| 」

いろは「どういたしまして。だけど、ボロボロの服までは直せないから、とりあえず、私のローブを羽織ってて」ファサ

桜子?「 |分かった| 」

やちよ「ほっ・・・」

やちよ(大丈夫そうね)


灯花「ねー、お姉さま。そのコピーの桜子どうするの?」

いろは「側に居るって約束しちゃったから側に居ないと。だから、その・・・みかづき荘に連れて帰ってもいいですか? やちよさん」

やちよ「そうするしかないでしょうね」

灯花「ふーん・・・。わたくしは危険だと思うけどなあ・・・」

やちよ「そうだけど、鶴乃でも勝てない程に強い存在を野放しにしておく方が危険よ。仕方ないわ」

鶴乃「なはは~・・・面目ない・・・」




灯花「それはそれとして、今は装置を運び出さないと」

いろは「そうだね。それに、今はあんまりここに長居しない方がいい気がする」

やちよ「これだけ強いコピーが出てくる可能性があるんだから」

いろは「はい、だからみんなで固まって外に出た方がいいですよね?」

やちよ「ええ、そうね」

灯花「えーっ? それだと・・・」

桜子?「 |一度で運びきれない灯花の装置は守ってなくていい?| 」

灯花「守っててよ! 使い魔に壊されちゃうんだからー!」

いろは「灯花ちゃん。装置より人の命の方が大切なの。分かるでしょ?」

灯花「桜子は人じゃなくてウワサなんだから別に―――」

いろは「灯花ちゃん! そんなこと思ってたら私怒るよ!」

灯花「うっ・・・。はい・・・ごめんにゃさい・・・」

やちよ「確かに桜子さんはウワサかもしれないけど、私たちの大事な仲間でしょ」

鶴乃「そうだよ。人かどうかなんて関係ない。仲間なんだから何より大切にしなきゃだよ」

灯花「あい・・・」

いろは「だから桜子ちゃん。ここで守っていなくていいよ。一緒に行こう」

桜子?「 |うん。ありがとう| 」



灯花「それじゃあ、少しでも多く持って帰りたいから、桜子二人も持てるだけ持って運んでよね」

桜子「 |分かった| 」 ヒョイ

桜子?「 |いろはの分は私が持つ| 」

いろは「えっ? でもそれじゃあ・・・」

灯花「ちょっとー! コピーの桜子! わたくしの話聞いてた?! 少しでも多くの装置を持って帰りたいから、お姉さまとは別の物を持ってよー!」

桜子?「 |いろはに負担を掛けたくない| 」

いろは「私は大丈夫だから、別の物を持ってあげて」

桜子?「 |いろはがそうして欲しいならそうする| 」 ヒョイ

灯花「むぅー・・・。なんでわたくしの言う事は聞かないで、お姉さまにだけ素直なのー? なんかムカツクー・・・」

やちよ(守るべき4人に執着するのが桜子さんのはずだけど、コピーの方はいろはにだけに執着しているわね)

やちよ(コピーされたときにウワサの性質が少し変わってしまったのかしら?)







-----------------------
結界の外



やちよ「それじゃ運んだ分の装置は車に積んじゃいましょ」

鶴乃「ほーい。よいしょっと」

桜子「 |灯花、ここに置いていい?| 」

灯花「あっ、待って桜子。それは重ねて置かないで」

桜子「 |そう? じゃあこっちに置く| 」

灯花「ああっ、違うっ。そっちじゃなくて」

桜子「 |こっち?| 」

灯花「違うーっ! もう一人の桜子に言ったのー!」

いろは「あはは・・・。二人いると混乱しちゃうね」

灯花「にゃー! 紛らわしい! コピーの方には髪留めでおでこ出してそこに『コピー』ってペンで書いちゃうからねー!」キュキュ

桜子[コピー]「 |ん・・・| 」

いろは「あ、ちょ、ちょっと灯花ちゃん。ダメだよそんなことしちゃ」

灯花「お姉さまもこの方が分かりやすくていいでしょー」

いろは「それはそうだけど・・・。あー・・・しっかり書かれちゃった。帰ったら落としてあげるからね」

桜子[コピー]「 |うん| 」



 ......キィン

やちよ「・・・んっ?」

やちよ「・・・・・・」ジーッ

鶴乃「ふーっ。全部積み終わったよ」

いろは「やちよさん、行きましょうか」

やちよ「・・・・・・」ジーッ

いろは「やちよさん? どうしました? 向こうに何かあるんですか?」

やちよ「気配と魔力を潜めているようだけど、誰か居る」

いろは「えっ?」



     < やりますか?

     < 待って。情報に無い戦力がいる



いろは「あっ・・・。本当だ」

やちよ「多分魔法少女ね」

いろは「私は知らない魔力反応ですけど、心当たりありますか?」

やちよ「いいえ、無いわ」

鶴乃「わたしも知らない」

いろは「そうですか・・・・。ちょっと近づいてみますか?」


    < タッ タッ タッ タッ.......


いろは「あれ?」

やちよ「離れたみたいね」

鶴乃「追いかける?」

やちよ「やめておきなさい。何があるか分からないんだから」

いろは「なんか最近頻繁に感じません? 知らない魔力反応を」

やちよ「そうね・・・。多分神浜の外から来た子なんでしょうけど、ああやって姿を隠されたままじゃ何が目的なのか分からない」

やちよ「念のため、みんなには注意喚起しておきましょう。外に出るときはなるべく一人で行動しないようにって」

いろは「そうですね」







-----------------------
みかづき荘



やちよ「ただいま」

いろは「ただいまー」

さな「あっ、いろはさん、やちよさんお帰りです」

やちよ「留守番ありがとう、二葉さん」

さな「いえいえ、そんな。・・・・あれ? 桜子さんもですか? んっ? おでこにコピーって書いてある? もしかしてミラーズのコピーの桜子さん?」

桜子[コピー]「 |ただいま| 」

いろは「ええとね、そうなんだけど、でも本物の桜子ちゃんでもあってね・・・。なんというか・・・。とっ、とにかくしばらく私と一緒に居ることになったの」

さな「はあ、そうなんですか。分かりました」


さな「それじゃあ、そろそろ晩御飯の準備しませんか」

いろは「うん。あっ、ごめんね、私ちょっと先にお手洗いに行ってくるね」

さな「はい、待ってます」

いろは「・・・・・」 テクテク

桜子[コピー]「 |・・・・・| 」テクテク




---------------
トイレ


いろは「・・・・・」

桜子[コピー]「 |・・・・・| 」

いろは「・・・・・」

桜子[コピー]「 |・・・・・・・| 」

いろは「・・・・えっと。桜子ちゃん?」

桜子[コピー]「 |なあに?| 」

いろは「桜子ちゃんもお手洗い? 私待ってるから先にする?」

桜子[コピー]「 |ううん。そもそも私に排泄は必要ない| 」

いろは「そ、そっか・・・・」

桜子[コピー]「 |うん| 」

いろは「・・・・・・・」

桜子[コピー]「 |・・・・・・| 」

いろは「じゃ、じゃあ、私しちゃうから、待っててくれるかな?」

桜子[コピー]「 |うん、待ってる| 」

いろは「だ、だからっ・・・。おトイレの外で待ってて・・・」

桜子[コピー]「 |どうして?| 」

いろは「ど、どうしてって・・・。あのね、えっとね、トレイの個室は一人で入るのが一般的な常識でね・・・? 桜子ちゃんはまだ知らなかったかな?」

桜子[コピー]「 |知ってる。でも、私はいろはの側に居てもいいって、いろが私に言ったから| 」

いろは「だからってトイレの中までなんて―――・・・・あっ、うっ」ブルッ

いろは「トイレの前に立ったら緊張が解けちゃって・・・このままじゃ、も、もれちゃう・・・っ」

いろは「桜子・・・ちゃん・・・お願い、早く出て、よっ・・・」プルプル....

桜子[コピー]「 |私はいろはの側に居たい。ダメなの?| 」

いろは「ダメじゃないけどっ・・・今は―――・・・・ううっ、もうッ・・・」プルプル....

桜子[コピー]「 |私がいろはの側に居たら、いろはの迷惑なの・・・?| 」ショボン...

いろは「迷惑っていうか・・・。桜子ちゃんの方がイヤに思わない・・・? 私がトレイするところなんて見たくないでしょ・・・?」

桜子[コピー]「 |? どうして私がイヤに思うの? いろはの側にいられるのに| 」

いろは「うっ、くっ・・・わかった・・・! 桜子ちゃんそこに居ていいからっ・・・! だけど、せめて後ろ向いて耳塞いでてっ・・・っ!」

桜子[コピー]「 |うん| 」

いろは「・・・・っ」

いろは「んっ・・・・んっ・・・・ふっ・・・・」

桜子[コピー]「 |出汁巻き、アジのみりん干し、お味噌汁、納豆| 」

いろは「へっ?」

桜子[コピー]「 |匂いを分析した。健康的でバランスの良い食事をしているね| 」

いろは「~っ!///// 鼻も塞いでっ!!////」

桜子[コピー]「 |両耳を塞いでいるから手が足りない| 」

いろは「いいから塞いでーっ!/////」

桜子[コピー]「 |そう言われても・・・。んっ・・・こうかな? んん・・・難しい・・・・| 」




---------------
お風呂


フェリシア「ゔ―・・・・」

桜子[コピー]「 |いろは、背中流すよ| 」

いろは「ありがとう。あっ、そうだ、おでこのコピーの文字消さないとね」

フェリシア「だあーっ!! なんでオマエも風呂に入ってくるんだよ! 狭いだろ! 邪魔だ! 出ろよ!」

桜子[コピー]「 |出たくない。私はいろはの側に居たいから| 」

いろは「う、うん・・・。こう言ってるし、それに、おトイレに比べたらお風呂くらいならいいかなって思って・・・」

フェリシア「よくねーよ!」

フェリシア「せっかく今日はういがいないから、いろはと一緒に風呂に入れると思ったのに・・・。久しぶりに二人きりで遊んだりしたかった・・・」ブクブク....

いろは「フェリシアちゃん・・・。ご、ごめんね・・・。明日また一緒に入ろう。ねっ?」

フェリシア「明日になったらソイツいなくなんのかよ?」

いろは「うっ、う~ん・・・・・」






----------------------------------------
翌朝 神浜市立大附属学校
中学校の教室



先生「おーしっ、ホームルーム始めるぞー。みんな席に付けー」

ザワザワ.....

先生「おいっ、静かにしろー。・・・・あっ?」

いろは「ううっ・・・・・」

桜子[コピー]「 |・・・・・| 」

先生「え、ちょっと、そこの人? うちの生徒じゃないよね? なんでここにいるの?」

桜子[コピー]「 |私はいろはの側に居たいからここにいる| 」

先生「環の知り合いか?」

いろは「はっ、はい、そうです・・・」

先生「おいおい困るよ環。部外者を教室に入れてもらっちゃあ」

いろは「そ、そうですよね、ごめんなさい・・・。でもっ、あのっ、この子は授業の邪魔をしないので、ここにいさせてもらえないでしょうか?」

先生「いやいやダメだってー。放課後になるまで外で待っててもらってよ」

いろは「そこをなんとか・・・」

先生「あのなあ・・・・」


レナ「・・・・・・・ぷっ」

レナ(なにこれなにこれっ! ちょーシュールなんだけどっ! ウワサが堂々と教室にいて注目されてるw そりゃそうよっw ウケるw)

レナ(ひーっw も、だめっ、笑い声を我慢するのでお腹くるひぃwww)


先生「おいっ、水波」

レナ「あひゃい?!」ビクッ

先生「環と仲良かったよな。水波からもなんとか言ってくれよ」

レナ「うっ・・・・・」




---------------
お昼休み


レナ「ってことがあってレナまでとばっちり受けたんだけどっ!」

ももこ「あはは・・・。そりゃ難儀だったな・・・」

いろは「ごめんねレナちゃん・・・・」

桜子[コピー]「 |私、いろはを困らせてる?| 」

レナ「物凄く! 半端じゃなく! 困らせてるわよ! バカッ!」

いろは「レナちゃん、そこまできつく言わなくても・・・」

かえで「桜子ちゃん、この前もここに来ちゃったことあったよね」

いろは「うん・・・。その時は叱って、次の日からはちゃんと南凪の学校に通ってもらうようにしたんだけど・・・」

レナ「今も叱りなさいよ!」

いろは「う、うーん・・・。どうやって叱ったらいいかなあって・・・」

ももこ「どういうこと?」

いろは「桜子ちゃんって今は二人いる状態なの。もう一人の桜子ちゃんは今日もちゃんと南凪の学校に登校してるから、こっちの桜子ちゃんに『南凪の学校に行って』とは言えないし・・・・」

いろは「それに、無理に私から引き離すとどうなるか分からないって、やちよさんに言われてて。この桜子ちゃんはミラーズで会って、しかも鶴乃ちゃんですら敵わないほどに強いから・・・」

ももこ「そっかあ・・・。こりゃあとんだ爆弾を抱えちまったかもなあ」







----------------------------------------
放課後 みかづき荘



いろは「ただいまー」

桜子[コピー]「 |ただいま| 」

やちよ「おかえりなさい」

うい「お姉ちゃんおかえりー! あっ桜子ちゃんも!」

いろは「ういっ。先に帰ってたんだ。修学旅行楽しかった?」

うい「うんっ! すっごく楽しかったよ! いっぱいお話したいことがあるのっ!」

いろは「うん、聞かせて。桜子ちゃんもういのお話聞きたいよね?」

桜子[コピー]「 |あまり興味ない| 」

うい「えっ・・・・」ショボン.....

やちよ(この桜子さんはういちゃんにも関心が薄いのね・・・)

いろは「ああっ! うい気にしないで! お姉ちゃんはういのお話聞きたいなあ! 聞かせて! どんなものを見てきたのっ?」

うい「・・・う、うんっ。あのね、お城! お城がすごかったよ。中にも入れたの。中は歴史博物館みたいになってて色んなものが見られたの」

うい「縄文時代の土器とか、江戸時代の服とか、明治時代の食器とか! 時代時代で色も形も全然違うんだよっ」

やちよ「そういう歴史的な物を実際目で見ると、歴史って面白いって思えるわよね」

うい「うんっ! 人の歴史って長くてすごいんだなーって、感動しちゃった!」

いろは「色々見てきたんだね。何が一番印象に残ってる?」

うい「うーんとね。あっ、あれかなあ・・・」

いろは「あれ?」


うい「うん・・・。ちょっと悲しい事なんだけど・・・」

いろは「悲しいこと?」

うい「お城の昔の写真。写真の中のお城はすっごくボロボロになってた」

いろは「どうしてボロボロだったの?」

うい「昔、大きな戦争があって、その時に外から大砲をいっぱい撃たれたみたいなの」

うい「その戦争はお城を守るために、女の人も銃や長刀を持って戦って、多くの人が亡くなったって記録があって・・・」

いろは「どうしてそんな争いが・・・」

やちよ「戦争はね・・・正義と正義がぶつかって起きるのよ・・・。戦う人はみんな、命のため、仲間のため、故郷のために戦うから、多くの人が亡くなるまで終わらない・・・。本当に痛ましいわ・・・」

いろは「悲しいですね・・・・」

うい「うん・・・。明日香さんみたいな人が命がけで戦っていたかと思うと、とても悲しくなったよ・・・」

うい「それでね、その戦争ではお城の方が攻め落とされて降伏したんだけど、その時に生き残った女の人が歌を詠んだの。慣れ親しんだこの故郷が、明日からどうなってしまうんだろう・・・っていう、未来に対する不安の気持ちが込められた歌」

うい「その歌から気持ちが伝わってきて、わたしもすごく悲しくなっちゃった・・・・」

いろは「そっか・・・・」

うい「でもね、お城を出た時に良いことがあったよ。お城の周りは芝生の広場になっててね、近くの幼稚園から小さい子達がたくさん遊びに来てた。みんな、お花を探したり蝶々を追いかけたりしてて楽しそうだった」

うい「昔ここは砲弾や銃弾が飛び交う危険な場所だったのに、今は子供たちが自由に無邪気に遊べている。歌の中で詠まれていた、どうなるか分からない不安な未来は、こんなにも平和なんだって思ったら、わたし色んな気持ちがあふれ出てきて泣いちゃった」

やちよ「ういちゃん。それはういちゃんが優しくて良い子の証拠よ。その体験は今後の人生に必ず良い影響を与えるわ。貴重な体験ができたわね」

うい「うんっ!」

いろは「ういの今のお話を聞いていたら、お姉ちゃん星屑タイムビューワのウワサを思い出したよ」

やちよ「星屑タイムビューワのウワサ?」

いろは「自分の未来を見ることができるウワサなんです」

やちよ「えっ? そんなにすごいウワサがあったの? それでいろはは未来を見たの?」

いろは「はい。私が見た未来は、魔法少女が争わないで、キュゥべえとも和解して、誰も傷つかずみんなが笑顔でいられる、そんな未来でした」

いろは「私たちは、マギウスと戦争とも言えるような大きな争いをしたけど、これからは私が見た平和な未来に歩めるんだって思っています」

いろは「ただ、星屑タイムビューワのウワサが見せてくれる未来は絶対じゃないから、気は抜けないんですけども」

やちよ「ふふっ、大丈夫。私たちならきっと、いろはが願う平和な未来を築けるわ」ニコッ

うい「うんっ! 灯花ちゃんもねむちゃんも生き続けるって決めてくれたんだもん! がんばろう!」

いろは「うん、そうだね」




灯花「おじゃましまーす」

ねむ・桜子「お邪魔します」

みふゆ「やっちゃんただいまー。お茶くださいなー」

やちよ「あら、みんないらっしゃい。って、なんでみふゆはただいまなのよ。今は他の家に住んでいるんでしょ」

みふゆ「やっちゃんのいけずぅ・・・」

灯花「あっ、ういー。帰って来てたんだ」

うい「うんっ。みんなはどうしたの?」

ねむ「お姉さんがミラーズで桜子を拾ってきたと聞いてね。気になって様子を見に来たんだ」

うい「桜子ちゃんを拾った? ・・・あ、あれっ?!」

桜子「 |うい。修学旅行のお話を聞かせて| 」

桜子[コピー]「 |いろは。お茶淹れたけど飲む?| 」

うい「桜子ちゃんが二人になっちゃった?!」

いろは「あはは・・・色々あってね・・・・。あっ、お茶ありがとう」

灯花「桜子。わたくしとねむにもお茶淹れて」

桜子[コピー]「 |なんで?| 」

桜子「 |うん、いいよ。ちょっと待ってて| 」

灯花「ほら見たねむ? わたくしにはんこー的なんだよ、このコピー桜子」

ねむ「そうみたいだね。実に興味深い。桜子のコピーだと聞いたから、ウワサの内容に縛られて僕たち4人に執着するものと推察していたけど、どういうわけか実際はお姉さんにしか関心がないようだね」

ねむ「そもそも僕の本に記されていないウワサがこうして外で自由に歩き回っていること自体が摩訶不思議な現象だ」

灯花「お姉さまっ、この桜子と一緒に居て変なことされなかった? 迷惑かけられたりしてなーい?」

いろは「あー・・・えと・・・」

いろは「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

いろは「だ、大丈夫だよ?」

ねむ「随分間があった上に、表情が引きつっているよ」

いろは「あはは・・・・」


灯花「コピー桜子! お姉さまを煩わせないでー!」

桜子[コピー]「 |・・・・・| 」プイッ

灯花「にゃー! なにその態度?! ハラタツー!」

桜子「 |偽物、いろはに迷惑をかけないで。それと、いろはに近すぎる。いろはは嫌がってるから離れて| 」

桜子[コピー]「 |嫌がってない。いろはは私に側に居ていいって言ってくれた| 」

桜子「 |私だっていろはの側に居たいっ・・・!| 」ガシッ

桜子[コピー]「 |何この手は? また倒されたいの?| 」

いろは「わわっ! 待って待って喧嘩しないでっ!」

いろは「桜子ちゃん! あっ、えっと、ねむちゃんと来てくれた方の桜子ちゃん! ういがお話ししたいって言ってたから、聞いてあげてくれるかなっ? お願いっ」

桜子「 |・・・・うん| 」

ねむ「異様なまでにお姉さんに執着しているね。一体何のためにそうしているのか、何を考えているのか、皆目見当もつかないよ。だけど構わない。僕たちはそれを調べるために来たんだ」

いろは「調べる?」

灯花「そー! コピーの桜子は魔法少女のコピーと違って、ウワサのコピーでしょ。だからそのコピー桜子をハッキングしてその脳髄の中にあるデータをさらけ出させるのっ!」

やちよ「そんなことできるの?」

灯花「やってみせるよー。ハッキングで引っ張り出したデータをわたくしとねむで解析すれば色々と分かるはずだよ。うまく行けば、どういうプロセスでコピーが作られるのかとか、わたくしたちにもコピーの魔法が使えるのかとか、更には鏡の魔女の正体まで分かるかもしれない」

やちよ「鏡の魔女の正体もっ? もし本当にそれができればすごいことよっ」

みふゆ「はい。鏡の魔女の結界は、ワタシたちが見つけてから今までの長い間に、何人もの魔法少女が挑みましたが、結界の謎も、魔女の姿も未だに誰も突き止められていませんから」

やちよ「ええっ、そうよ。鏡の魔女の正体が分かるっていうのなら私も気になるわ。神浜に残っている危険因子を一つ潰せることにもなるし」


灯花「というわけで、お姉さま。そのコピー桜子にファイヤーウォールを張ったりとかの抵抗をしないよう言いつけて」

いろは「う~ん・・・。そういうことしていいのかなあ・・・。プライバシーとかあるし・・・」

ねむ「偽物に配慮する必要なんてないと思うけど。お姉さんは何を逡巡しているの?」

灯花「お姉さまお願いっ。鏡の魔女の力を応用できれば、わたくしたちが目指している、自動浄化システムを世界中に広げる事に役立つかもしれいないのっ」

いろは「そう・・・? それじゃあ、桜子ちゃん、いいかな・・・?」

桜子[コピー]「 |いろはが望むならいいよ| 」

ねむ「お姉さんばかりに決断をゆだねて、君には自分というものはないのかい? まあいいよ、今はそれが好都合。灯花始めて」

灯花「おっけー。始めるよー」

みふゆ「その小さなノートパソコンでハッキングができるんですか?」

灯花「んーん。これはただの遠隔操作端末。ハッキングに必要な高速演算処理は、わたくしの部屋にあるサーバーでやるよ」

灯花「それじゃー、ハッキングかいしー♪」カタカタカタッターン!

桜子[コピー]「 |・・・・・・・| 」

灯花「くふっ♪ それそーれ、ごかいちょー」

灯花「・・・んっ? あれっ? なんかサーバーの反応が悪いにゃー・・・・」

ねむ「大丈夫?」



うい「それでねっ、お宿で出た郷土料理がとってもおいしかったの! 海鮮の出汁に山の幸が加わっててねっ」

桜子「 |うんうん| 」ニコニコ

うい「もう本当に楽しかった!」

桜子「 |ういが楽しいと私も楽しい| 」ニコニコ

うい「桜子ちゃんは学校どう? 観鳥さんとひなのさんとはお友達になったんだよね?」

桜子「 |うん。ひなのは忙しいからあまり一緒になれないけど、この前はたまたま時間があったから、令とひなのと私の三人でお昼を一緒したよ| 」

うい「楽しかった?」

桜子「 |うん。楽しかった| 」

うい「よかったねっ。どんなことお話ししたの?」

桜子「 |観鳥報とか化学実験の事か、あと香水の話| 」

うい「香水?」

桜子「 |うん。ひなのはとても良い香りのする香水を作れる。意中の相手もメロメロにできる香水も作れるって言ってた| 」

うい「なにそれっ、すごいっ! 欲しいっ!」

桜子「 |いろはやういはそう言うと思って、香水を分けてもらようお願いしたけど、そう簡単には渡せないって言われた。本当に特別な香水だから、意中な人ができた時にはあげてもいいって| 」

うい「そうなんだっ! 覚えておこうっと」

桜子「 |そうだね。・・・・ん?| 」

うい「桜子ちゃん? どうしたの?」

桜子「 |急に灯花のサーバーとの接続が切れた| 」

うい「えっ?」



灯花「にゃ? なんでっ? わたくしのサーバーからの応答がないっ」

ねむ「どうしてそうなったの?」

灯花「ちょっと待って、応答が無くなるまでのログを見るから」

灯花「えーっと・・・・。えっ、うそっ、そんにゃ・・・・。CPUがオーバーフローしてる・・・。サーバー壊れちゃったかも・・・・」

ねむ「ちょっと待って、それは一大事じゃないの? 灯花のサーバーには大事なデータが山ほど記録してあったはずだよ」

灯花「データは大丈夫だよ。別の場所にバックアップしてあるから」


ねむ「そうかい。それなら安心したよ」

灯花「ぜんっぜん安心じゃなーいっ! あのサーバーを構築するのにものっすっごいくろーしたんだよー! こんなことってあるーっ?! にゃーもーっ!」

やちよ「よくわからないけど、結局鏡の魔女の正体は分からずじまいってことね」

みふゆ「そうみたいですね。やっぱりそう簡単にはいきませんね」

灯花「いやまだっ、なんとか復旧させるからっ、ちょっと時間ちょーだいっ。わたくしはまだ負けてないっ、天才はこんなことで諦めないんだからーっ」カタカタ

ねむ「時間かかりそうだね。やちよお姉さん、しばらくここに居てもいい?」

やちよ「うちにいるのはいいけど、あんまり遅くならないようにね。あなたたちのご家族が心配するから」

ねむ「ありがとう」

みふゆ「それじゃゆっくりしましょー。やっちゃーん、お茶―」

やちよ「はいはい、しょうがないわね」

やちよ「あっ、そうだ里見さん」

灯花「にゃーにー?」

やちよ「ちょっとついでに見てほしい機械があるのだけど、いいかしら?」

灯花「うんいいよー。ちょっと勉強すれば機械の事はなんでもわかるから」

やちよ「ありがとうね。持ってくるわ」

みふゆ「お茶・・・・」


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やちよ「里見さん、この機械なんだけど」

いろは「わっ、すっごい大きなCDですね」

うい「えっ、なになに? ほんとだっ、おっきい!」

灯花「うーん・・・? それは多分CDじゃなくて」

桜子「 |アナログレコード。CDが普及する以前に一般に広く使われていた音声記録媒体| 」

灯花「ああやっぱりそうにゃんだ。知識はあるけど見るのは初めてだよ」

うい「へー! 昔はこれで音楽とか聴いてたんだ」

やちよ「ええそうよ。こっちのプレイヤーにこのレコード盤を置いて、針を当てて音楽を聴くの。昔はうちのおばあちゃんがよくこれで音楽を聴いていたわ」

灯花「随分年代物だねー。やちよお姉さまはこのプレイヤーの使い方が知りたいの?」

やちよ「いえ、使い方はおばあちゃんに教えてもらったから私でも分かるわ」


やちよ「ただね、見ての通りレコード盤もそのプレイヤーも大きいでしょ。結構場所取るから、処分しようかと思って。でもこれはある意味おばあちゃんの形見だし、それにこのレコード盤の音楽は私も好きだから、今までなかなか処分できなかったの」

やちよ「そこで、音楽だけを録音してパソコンに保存できないかなって思ったのよ。それなら場所を取らないし」

やちよ「それで録音をするならできるだけいい音で録音したいから、何かいい方法があればそれを知りたいのだけれど」

灯花「このレコード盤の音楽をデジタルデータ化したいってことだねー」

灯花「んー・・・・。いくつか方法は考えられるけど・・・。でも、デジタルデータ化するのはお勧めできにゃいにゃー」

やちよ「えっ? どうして?」

灯花「おばあさまの形見で、やちよお姉さまも好きな音楽なんでしょ? そういう大事なものはこのままアナログデータで保存すべきだよ。だってデジタルデータって長期間の保存に向かないから」

やちよ「そうなの?」

灯花「うん。CDとかハードディスクとかフラッシュメモリって磁化や電化の有無を0と1としたバイナリデータで記録するんだけど、時間が経つと磁化や電化は自然に消えちゃうからデータも消えちゃうの」

灯花「クラウドに保存する手もあるけどー、ある日突然サービスが終了したりー、クラウドサーバーが故障しちゃったりー、太陽嵐や超新星から放たれた宇宙線で地球上の電子機器がダメになることもあるしー」

灯花「その点このレコード盤は、盤面の凹凸で音を記録しているアナログデータだから、どんな電子的障害も受けない」

灯花「これだけ電子技術が発展した現在でも、結局一番信頼できるデータの保存方法はアナログなんだよねー。永久的に残り続けるんだもん。何千年も昔の絵巻物とかが今でも残ってることを考えても分かるよね?」

やちよ「なるほど、言われてみればそうね。それじゃあやっぱりこれは処分しないで取っておくわ」

灯花「そうそう。だからういもね、よくスマホで写真撮ってるけど、大事な写真はスマホに入れっぱなしにしないで早めにプリントしておいた方がいいよー」

うい「あっ、うんっ、そうだね。大事な写真かあ。神浜マギアユニオンを結成したときにみんなで撮った写真とかプリントしないと」

いろは「ふふっ、ねむちゃんが手書きで書いた小説の原稿も、この先何十年、何百年と残って歴史の一部になりそうだね」

ねむ「や、やめてよお姉さん・・・恥ずかしい・・・・///」




ねむ「そ、それより灯花。サーバーの調子はどう?」

灯花「だめにゃー・・・。これはもう一旦帰って直接見ないと・・・」

ねむ「じゃあそうしよう。やちよお姉さん。お騒がせして申し訳ない。僕たちはそろそろ帰るよ。ほら、桜子も帰るよ」

桜子「 |え・・・? もう帰っちゃうの? せっかく4人揃ってるのに・・・。もっとういのお話を聞きたい・・・| 」

ねむ「わがまま言わないでほしい。もう遅いんだから」

灯花「そーそー。サーバーは直さないといけないし、他にもわたくしたちにはやることがあるんだよー」

桜子「 |分かった・・・・・・| 」

桜子「 |いろは、うい、またね・・・・・・| 」

いろは「うん、またね」

うい「またいっぱいお話ししようねっ」






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夜 いろはの部屋



やちよ「いろは、まだ勉強するの? お夜食でも作る?」

いろは「あっ、いえ大丈夫です。もう寝ますので」

やちよ「そう、おやすみ」

いろは「はい、おやすみなさい」


いろは「あっ、そうだ」ゴソゴソ

桜子[コピー]「 |いろは、まだ寝ないの?| 」

いろは「うん、ちょっとだけ。さっき灯花ちゃんたちと写真の話をしてたら思い出してね」トンッ

桜子[コピー]「 |その箱は何?| 」

いろは「この箱はね、タイムマシンなの」パカッ

桜子[コピー]「 |タイムマシン?| 」

いろは「うん」スッ

桜子[コピー]「 |それは、アルバム?| 」

いろは「夏休みにね、みかづき荘のみんなで海に旅行に行ったんだけど、その時に鶴乃ちゃんがたくさん写真を撮ってこうしてアルバムにまとめてくれたの」ペラッ

桜子[コピー]「 |いろはが浮き輪を持ってる| 」

いろは「あはは、ちょっと恥ずかしい。私泳げなくて、やちよさんに泳ぎを教えてもらってたんだ。この写真は、『浮き輪なんて使ってたらいつまでも泳げないわよ』って、やちよさんに言われていた時に撮られちゃった写真」

桜子[コピー]「 |こっちのイラストはなに? 恐らく地球上に存在しない生物| 」

いろは「これはね、カムゴン」

桜子[コピー]「 |カムゴン?| 」

いろは「カムゴンはね、海に突如現れた謎の怪獣。こねこのゴロゴロのオマージュをいれてさなちゃんが描いてくれたんだよ」


桜子[コピー]「 |他にもいろんなものが入ってる| 」

いろは「うん。こっちの巾着は、お正月にお母さんからもらった物なんだよ。中にはね、手作りの髪飾りが入ってるの。これをもらったときは内緒だったからびっくりしちゃった」

いろは「こっちの写真は最近撮った物だよ。やちよさんとモデル仕事したときの写真。姉妹っぽくなって雑誌には使われなかったけど、私とやちよさんが、お互いに気に掛け合っていることを気付かせてくれたきっかけになった写真。私の大切な写真」

いろは「やちよさんとの思い出といえば、この縁結びのお守りも懐かしい。やちよさんと出会ってすぐの頃、一緒に口寄せ神社について調べて、辿り着いた先の神社でお互いの想いを伝えあったの。あの時は恥ずかしかったなあ」

いろは「あっ、このおみくじの事は桜子ちゃん覚えてる?」

桜子[コピー]「 |うん、覚えている。4人揃って初めて水名神社に行ったとき、絵馬に願い事を書こうと思ったけど、初穂料が高くて奉納できなかった。代わりにそのおみくじの裏に願い事を書いた| 」

いろは「そうそう。それでその後、星屑タイムビューワのウワサに、そのお願い事が叶った未来を見せてもらったんだよね」

桜子[コピー]「 |うん| 」


いろは「ふふっ。私ね、こんなにたくさんの素敵な思い出に囲まれて幸せ。そして今もこうしてみかづき荘で過ごせる日々が幸せ」

いろは「でもね、時々不安になるの。いつか誰かはいなくなるんじゃないかって」

いろは「あっ・・・・。ご、ごめんね。ネガティブなこと言って」

桜子[コピー]「 |・・・・・・| 」


桜子[コピー]「 |ところで、色々な物が入っているだけのこの箱が、どうしてタイムマシンなの?| 」

いろは「ここにある物は、みんなからもらった私の大切な宝物。中身を見るだけで、こうしてその時の記憶が蘇ってくるから、それをまとめたこの宝箱は、私にとって小さなタイムマシンなの」

桜子[コピー]「 |それはタイムマシンとは言わない。タイムマシンとは時間遡行を可能にする装置の事| 」

いろは「あ、う、うん・・・・。実際はそうなんだけどね・・・・」


いろは「でもね、私にとってこれは確かにタイムマシンなの」

いろは「桜子ちゃんはまだ生まれたばっかりだからよく分からないかもしれないけど、これから長く生きていればきっと、素敵な思い出がたくさんできて、この宝箱がタイムマシンなんだっていう、その意味が分かる日が来ると思うよ」

桜子[コピー]「 |いくら長く生きてもそんな日は来ないと思う| 」

いろは「どうして?」

桜子[コピー]「 |私は人じゃなくてウワサだから。その内容に縛られる。私はいろはの側に居られれば、それ以外の事に興味はない| 」

いろは「ウワサかどうかは関係ないよ。だって例えば、桜子ちゃん、観鳥報の続きが気になるってこの前言ってたよね? 映画の撮影の事も楽しそうに話してくれたし」

いろは「そういうのだって一つの思い出だよ。私だけじゃなくてもっと色んな人と関わっていって、そういった素敵な思い出を作っていけばいいんだよ」

桜子[コピー]「 |思い出作りにあまり興味はない。私はいろはの側に居られればそれでいい| 」

いろは「・・・桜子ちゃんは、どうして私の事ばっかりなの?」

いろは「私の側に居たいって言ってくれるのは嬉しいよ。でも桜子ちゃんには私以外にも友達はいるよね? 灯花ちゃんにねむちゃんにういにひなのさんに令さん。そういった人たちと私の違いは何なの?」

桜子[コピー]「 |私にとっていろはは永遠だから| 」

いろは「永遠?」

桜子[コピー]「 |私はずっといろはの側に居る。ずっと、ずっと、永遠に| 」

いろは「分からない・・・。桜子ちゃんが何を言ってるか分からないよ・・・」

いろは「私、なんだか桜子ちゃんの事を桜子ちゃんって感じられなくなってきちゃった・・・。ミラーズで会ってから今まで、笑ったり悲しんだりも全然しないし・・・」

いろは「今の桜子ちゃんは、私の側に居たいという以外は何も無い・・・。個性や感情が無い・・・。まるでキュゥべえみたい・・・・」

桜子[コピー]「 |・・・・・・| 」

いろは「・・・・・・・」

いろは「・・・・・私もう寝るね」

桜子[コピー]「 |おやすみ| 」







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数日後 灯花の部屋



みふゆ「うぅ゙―・・・・」カキカキ.....

やちよ「お邪魔します」

みふゆ「あっ、やっちゃんいらっしゃい」

やちよ「相変わらず缶詰になってて大変そうね」

みふゆ「そうですよぅ・・・。灯花ったら山のように宿題を出すんですぅー・・・」

やちよ「少し休憩しましょ。暖かいお茶を持ってきたわ。万々歳の良い香りのするお茶よ」

みふゆ「わーいっ♪ やっちゃん大好き♪」

やちよ「こんなことで好きになっちゃうなんて、安い女ね」

みふゆ「お買い得ですよー? お客さん如何ですー?」

やちよ「おやつのおまんじゅう代が高く付きそうだから遠慮しておくわ」

みふゆ「やっちゃんのいけずぅ」

やちよ「ふふっ」


みふゆ「それでどうしたんですか? わざわざここまで来て話したいことがあるなんて」

やちよ「ええ、真面目な話なんだけど」

みふゆ「はい、なんでしょう。そんなに改まって。緊張しますね」

やちよ「みふゆの幻惑魔法について確認がしたいの」

みふゆ「ワタシの魔法?」

やちよ「単刀直入に聞くわ。魔力が衰えている今でも、幻惑魔法を深く掛ければ、どんなに強い相手でも文字通り永遠に眠らせることはできる?」

みふゆ「そうですねえ・・・。たくさん魔力を使うので、グリーフシードは1個は欲しいですね。それと結構時間がかかると思います。その間ずっと相手が無抵抗ならばできると思います」

やちよ「そう・・・」

みふゆ「どうしたんですか? こんな物騒なことを確認しにくるなんて」

やちよ「コピーの方の桜子さんなんだけどね」

みふゆ「・・・・・殺すのですか?」

やちよ「まだはっきり決めていないけど、そろそろその選択肢を真面目に考えないといけないかと思って」

みふゆ「何かあったんですか?」


やちよ「あの桜子さんはずっといろはの側に居るのよ。それこそ、お風呂も、トイレも、授業中もずっと。いろはは大丈夫大丈夫って言うのだけれど、どう見たって大丈夫じゃないのよ。相当ストレスを溜め込んでいると思う」

やちよ「フェリシアやレナも迷惑しているみたいで、なんとかしてくれって私にクレームしてくるし」

やちよ「かといって、あの桜子さんはいろはから引き離そうとすると殺気立つから、下手に刺激できない。鶴乃ですら全く敵わないほどの力があるし」

やちよ「なにより、いろはの側にいる限りはおとなしいけど、いつ気が変わって私たちを攻撃してくるか分からない。そんな状態をこれからもずっと続けるのは現実的じゃないと思うの」

みふゆ「ふーん? なんかごちゃごちゃ言ってますけど、要は、やっちゃんはヤキモチを焼いているんですよね? いろはさんを桜子さんに取られて」

やちよ「なっ?! ちがっ・・・ぐっ・・・うっ、ん、ま、まあ、そうよ・・・それもあるわね・・・・」

みふゆ「うふふっ。素直が一番です」

みふゆ「そう言う事なら分かりました。きっといろはさんが命令すれば、あの桜子さんは長い時間無抵抗になってくれるでしょう。そうすればワタシが幻惑魔法を深く掛けられます」

みふゆ「ただ、幻惑魔法で永眠させることはいろはさんには言わない方がいいでしょう。相手はミラーズのコピーですから、殺意を感じ取られると攻撃してくるかもしれませんし。最悪そうなった場合も想定して、鶴乃さん並みの実力者を何人か待機させておいた方がいいですね」

やちよ「ええ、それは私も同意見よ。こういうことがあるから神浜マギアユニオンを結成して本当に良かったと思うわ」

みふゆ「そうですね。ですが、あの桜子さんは今まで見てきたコピーと様子が違うのも事実です。だから、念のため十七夜さんに偽物であると確認してもらってからの方がいいですよ」

やちよ「実はそれが一番引っかかってるのよ・・・。十七夜は既にあの桜子さんに読心をしていて、偽物かどうか判別してもらっていたんだけど」

みふゆ「えっ?」

やちよ「十七夜は、あの桜子さんは本物だって言ったわ。意味が分からないわよね。本物が二人いるなんて物理的にあり得ないのに」

みふゆ「えっ? ちょ、ちょっと待ってくださいっ。それ、いつの話ですか?」

やちよ「初めてあの桜子さんと会った時だから、数日前よ。里見さんがミラーズに置いた装置を持って帰るのを十七夜に手伝ってもらった時」

みふゆ「それはおかしいですよ。だってワタシ、今日ここに来る時に、外でばったり十七夜さんと会って少し立ち話したんですけど、その時に、灯花がコピーの桜子さんへのハッキングに失敗した話をしたら、十七夜さんは今桜子さんが二人いることを知っていませんでしたよ」

やちよ「・・・・んっ? どういうこと?」


みふゆ「本当ですよ。十七夜さんは『ミラーズではウワサもコピーできるのか』なんて、感心していましたし」

やちよ「えっ、なによそれは・・・・。おかしいじゃない・・・・」

みふゆ「は、はい・・・・話の辻褄が合いませんね・・・・」

やちよ「十七夜が嘘をついたなんて考えられないし・・・・」

みふゆ「・・・・・・・・・・」

やちよ「・・・・・・・・・・」


みふゆ「・・・・もしかしてですけど」

やちよ「ええ?」

みふゆ「ミラーズから灯花の装置を持って帰るときに手伝ってもらっていた十七夜さんは、コピーの十七夜さんでは?」

やちよ「あっ、なるほど。あの結界に入ったら、いつ本物とすり替わるか分からないし」

みふゆ「はい。やっぱりあの桜子さんはコピーなんですよ。そこにコピーの十七夜さんが現れて、コピー桜子さんの事を本物だと言ったのかも。やっちゃんたちを惑わせるため」

やちよ「ただ、それだと、その時の本物の十七夜は私たちに黙ってどこに行っちゃったのか疑問が残るけど。いずれにせよ、これから本物の十七夜に連絡を取って、もう一度あの桜子さんが本物かどうか判別してもらえれば済む話ね」

みふゆ「そうですね」

やちよ「ふー・・・。良かった。やっと面倒事が一つ減らせそうで」




灯花「みふゆーみふゆー!」トテトテ

みふゆ「あら、灯花、おかえりなさい」

やちよ「お邪魔してます」

灯花「あっ、やちよお姉さまいらっしゃい。ねえねえ聞いてっ。スパコンを借りられることになったんだよー!」

みふゆ「すぱこん?」

灯花「スーパーコンピューターの事! そこの壊れちゃったわたくしのサーバーに比べたら、桁外れの演算能力があるの!」

みふゆ「へえ、すごいじゃないですか。それを使ってなにをするんです?」

灯花「お姉さまを煩わせているコピー桜子にハッキングをして鏡の魔女の正体を暴く!」

やちよ「えっ、まだ諦めてなかったの?」

灯花「天才に諦めの選択肢なんてないよー! スパコンの力で、わたくしのサーバーを壊したふくしゅーをしてやるにゃー!」

やちよ「そのスーパーコンピューターって私たち国民の税金で作られている物でしょ? それを里見さんのサーバーみたいに壊しちゃったら一大事じゃない・・・? 逮捕どころじゃ済まないと思うんだけど・・・」

灯花「壊れるなんてありえないよっ。地球環境のシミュレーションから量子の動きまで計算できるのに、生まれて一年も経ってない桜子ごときのデータに耐えられないわけが無い」

灯花「わたくしのサーバーが壊れたのは多分、コピー桜子のデータに加えて鏡の魔女の情報が加わって演算能力を超えちゃったか、あるいはコピー桜子がお姉さまのから言われた無抵抗になる命令を無視してファイヤーウォールを張ってサーバーへ反撃したんだと思う。どっちにしろそんなものはスパコンだったら突破できるっ!」

やちよ「んん・・・。よくわからないけど・・・」

灯花「にゃーもー! 天才がだいじょーぶって言ってるんだからとにかくだいじょーぶなのっ! 凡人はいちいち口出ししないでよねーっ!」

やちよ「こっいつ・・・!」イラッ

みふゆ「す、すみません・・・。こらっ、灯花。ちゃんと口の利き方をですね・・・」

灯花「それで、今コピー桜子はみかづき荘にいる?」

やちよ「・・・・ええ、いろはと一緒にいるわよ」


灯花「くふっ♪ 今度はあの時と違って、事前に宣言しないで奇襲を仕掛けるからね。しかも複数回線の並列アクセスを試みるよ。みかづき荘の貧弱な通信回線だけじゃ直ぐに気が付かれてファイヤーウォールを張られちゃうだろうから」

やちよ「貧弱で悪かったわね」

灯花「みかづき荘の周りの電柱に付いている中継器やら衛生通信やらなんやかんやを全部使ってコピー桜子にアクセスするからファイアーウォールを張る暇も与えないっ!」

やちよ「・・・・本当に大丈夫なの?」

灯花「だいじょーぶだよっ! だって、スパコンでも耐えられない程のデータがあるんだとしたら、それはキュゥべえ並みの知識があるってことだもん。でも地球上で生まれた桜子にそんなことはありえないでしょ。それに、もしいざとなれば接続を切ればいいだけの話だし」

やちよ「嫌な予感しかしないんだけど・・・。でも、まあいいわ。もしスーパーコンピューターを壊したとしても、保護者のみふゆが一生タダ働きすればいいものね」

みふゆ「ええっ?! イヤですよお・・・」

灯花「今度こそ鏡の魔女の正体を暴いてやるよーっ!」

みふゆ「ううっ・・・壊れませんよーに・・・」

灯花「それじゃっ! ハッキングかいしーっ!」カタカタカタッターン!

灯花「むむむむ・・・・」カタカタ

みふゆ「いつも灯花が使っているこのパソコンがスーパーコンピューターなんですか?」

灯花「そんなわけないでしょー。ちゃんと脳細胞活かして考えてねー、みふゆー」

みふゆ「あう・・・」

灯花「スーパーコンピューターは兵庫にあるの。わたくしはこのパソコンで遠隔操作しているだけ」

やちよ「どう? ハッキングできそう?」

灯花「いちおー今の所はコピー桜子にアクセスできてる。ファイヤーウォールは張られていないし反撃もない」

灯花「でも、やっぱりなんか、コピー桜子のデータがやたらと大きいような・・・」

 ピピピピピピピ

灯花「えっ?!」

やちよ「なんか警告音みたいなのが鳴ってるけど」

灯花「ウソ?! ありえない?! スパコンでも演算しきれないなんて・・・!」

やちよ「それってまずいんじゃないの?! 早く接続切りなさい! 血税が! 血税が! 血税が壊れる!」

みふゆ「ワタシタダ働きですか?! イヤですよっ!!」

灯花「待って待って! ここまでやって何の収穫もないなんてイヤッ! ちょっとでもいい、なにかデータをかすめ取らないとっ!」

やちよ「里見さん!」

みふゆ「灯花!」


灯花「ううぅぅぅーっ・・・・。にゃぁーもーっ!」ッターン!

やちよ「警告音が鳴りやんだわ。接続切ったの? スーパーコンピューターは無事?」

灯花「接続切ったよ・・・。スパコンも、オーバーフロー寸前だったけど、だいじょーぶ」

やちよ「ほっ・・・よかった・・・」

灯花「はあ・・・。なんなのあのコピー桜子・・・。頭の中どうなってるの・・・」

やちよ「今回も失敗ね。鏡の魔女の正体が分からないのは残念だけど、今度こそ諦めなさい。さっきみふゆと話してて、あのコピー桜子さんを永眠させようかと思ってたところよ」

灯花「そうなのー? それだと勝ち逃げされたみたいで、悔しさしか残らないんだけどにゃー・・・」


灯花「あっ、これは・・・」

みふゆ「どうしました?」

灯花「ほんのちょっとだけど、コピー桜子のデータを吸い出せてた」

やちよ「あらすごいじゃない。どんな内容のデータなの?」

灯花「今見てみる。んー・・・。本物桜子のデータに似てる部分もあるけど、あちこち違う。データが書き換わってるのかな? それともエラー?」

やちよ「本物と少し違うのは魔法少女のコピーも同じじゃない」

灯花「うん。何にしても読めないデータがほとんど。読めるデータだけ抽出して時系列順に整理して、コピー桜子のログを作ってみるねー」カタカタ

灯花「はいできた。わたくしたちでも分かりやすく読めるようになった。これでちょっとでも鏡の魔女の正体の手掛かりになればいいんだけど・・・」

やちよ「どれ、私にも見せて」

みふゆ「あっ、ワタシも」


灯花「・・・・・・・・・」

やちよ「・・・・・・・・・」

みふゆ「・・・・・・・・・」


灯花「はっ・・・えっ・・・・・・・・・」

みふゆ「あ、あの・・・灯花。このログって、あの桜子さんが見聞きしてきた物事の記憶ってことでいいんですよね・・・?」

灯花「そ、そうだけど・・・。い、いやっ・・・そんなっ、やだっ・・・!」フルフル.....

みふゆ「落ち着いて灯花・・・」

灯花「落ち着けないよっ・・・! こんなことって・・・! いやっ、いやだっ、ああああっ!!!?」ガタッ

みふゆ「灯花っ」 抱きしめ

灯花「あ゙っ、ゔっ、うゔっ、ぐすっ、ひぐっ、み゙ふゆっ・・・どうすれば・・・っ」ギュ

灯花「このままじゃ、お姉さまが・・・ねむが・・・ういが・・・っ!」ギュゥ....

みふゆ「まずは落ち着いてください。ソウルジェムが濁りますよ」 背中さすさす

灯花「ゔっ、ゔっ、うぐっ・・・・」ギュッ

みふゆ「この記憶は作り話ってことはありませんか? ミラーズのコピーは記憶もコピーしますから」

灯花「ひくっ・・・。う、ううん・・・・。それは、ぐすっ、ないと、思う・・・。理論的に、何も矛盾・・・してないから・・・・」

みふゆ「そうですか・・・。そうですよね・・・。作り話にしてはできすぎていますしね・・・」

灯花「うん゙・・・・・・」


やちよ「・・・・・・・」

やちよ(本物の桜子さんが二人いることは物理的にあり得ない・・・。そう思っていたけど、この記憶が正しいのなら、それがあり得る。十七夜が本物だって言ったのはこういうことだったのね・・・)

やちよ(里見さんも、天才とはいえやっぱりまだ子供。この事実は受け止めきれないみたい・・・。みふゆが側に居てくれてよかった)

やちよ(でも、それだけ事態は深刻だわ。どうやって向き合うべきか・・・)





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翌日 灯花の部屋



いろは「おじゃまします」

桜子[コピー]「 |おじゃまします| 」

ねむ「重要な話があるって聞いたけど、なにかな?」

灯花「・・・・・・・」

みふゆ「ねむ。本物の方の桜子さんは近くに居ませんね?」

ねむ「うん。さっきまで一緒だったけど来ちゃダメって言ったら、しょげて山の方に行っちゃったみたい」

みふゆ「ういさんも、今はみかづき荘にいますね?」

いろは「はい。ういはお留守番させてます」

いろは「あのっ・・・何かあったんですか?」

ねむ「話というのは、もしかしてお姉さんに付きまとっているそのコピーの桜子に関することかな?」

やちよ「ええ、そうよ・・・。コピー・・・いえっ、コピーだと思っていたこちらの桜子さんについて分かったことがあって」

桜子[コピー]「 |・・・・・・・| 」

ねむ「コピーだと思っていた・・・? どういう意味かな?」

やちよ「あなたたち4人に深く関係する事だから集まってもらった。ただ、これから伝えることは、ういちゃんにはまだ受け止めきれないと思うから呼ばなかった。それと、もう一人の桜子さんにも知らせない方がいいと思った」

いろは「な、なんでしょう・・・?」

ねむ「随分と僕たちを脅すような言い回しをするね。もったいぶらないで一体何事なのか教えてほしい」

やちよ「そうね・・・。あれこれ言う前に見せた方が早いわね。里見さん」

灯花「うん・・・・。これを見て・・・・。スパコンを使って、桜子をハッキングして、その時得られた桜子のログ・・・」

ねむ「ハッキングに成功したんだね? 分かった。拝見するよ」

いろは「それじゃ私も」







・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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◇ 柊桜子 0歳


ねむにウワサの内容を調整してもらって、外でも活動できるようになった。
灯花のサーバーと接続した。サーバーの情報を参照して豊富な知識を得られた。

星屑タイムビューワの言葉をいろはに伝えた。

人間社会を学ぶために、南凪自由学園に編入した。都ひなのが私の世話係になった。
だけどひなのは忙しくてあまり会えない。

学校の授業が退屈。授業を抜け出していろはに会いに行った。だけどいろはに怒られた。

観鳥令と友達になった。令の文章は好き。観鳥報の続きが気になる。

ひなのがたまたま時間があったから、令とひなのと私の三人でお昼を一緒した。
観鳥報の新コーナーについて話した。
化学実験の次のネタについて話した。
ひなのが香水について話した。いろはとういが興味を持ちそうだから、少し分けてもらうようお願いしたけど、断られた。
意中の人ができた時にはあげてもいいと言われた。
令とひなのは私の知らないことをたくさん知っている。二人と話すのは楽しい。

灯花が色んな装置をミラーズに運び込んで実験を始めた。
この宇宙と他の宇宙を繋いで、ワルプルギスの夜と戦ったときにみんなを助けてくれた羽根の力を意図的に引き出せないかの実験。

神浜マギアユニオンを結成した。
いろはとやちよが羽根の力で空を飛んだ。

灯花の実験は失敗した。羽根の力を制御できず、宇宙が崩壊の危機に陥る。
いろはとやちよがゲートを閉じて事なきを得た。
いろはとやちよは、羽根の力を扱う人が味方してくれたと言った。

ういが修学旅行に出かけた。ういは、帰ってきたらお土産話をたくさんすると言った。とても楽しみ。

灯花がミラーズに置いた装置を持ち帰るのを手伝うことになった。
装置の量が多くて、手伝いに来た人数では一度に全部は運べない。
装置はすでにいくつか使い魔に壊されていて、灯花はこれ以上壊されたくないと言った。
いろはが私に「ちょっとの間この装置を守っててくれる?」と頼んだ。


いろはの頼みごとに従い、私はミラーズに残った。

いろはたちが装置を結界の外に持ち出したところ、所在不明の魔法少女数名が現れ、いろはと灯花のソウルジェムを破壊し殺害した。
私の守るべき人が死んだ。悲しくて悲しくて私も死にそう。自我が崩壊しそう。でも、まだいろはの気配だけは何となく感じ取れる。それを頼りに自我を保った。

いろはと灯花を殺害した所在不明の魔法少女をやちよが取り押さえる。
その魔法少女は二木市から来たと名乗った。
二木市の魔法少女たちは、神浜の魔法少女に対して強い殺意を持っている。

いろはと灯花が死亡した。その知らせを聞いたういが、絶望に耐えられず魔女になった。
ういは修学旅行で神浜市外に出ていたため、自動浄化システムの恩恵を受けられなかった。

やちよとねむが私に会いに来た。その時の会話。

ねむ「もう知っていると思うけど、お姉さんと灯花の命が奪われ、ういは魔女になった。それなのに悲嘆にくれる暇もなく、二木市の魔法少女たちは神浜の魔法少女たちに襲い掛かってくる」

ねむ「特に神浜マギアユニオンの中心的人物である、やちよお姉さんと僕に狙いが集中している。だけど僕はまだ死ぬわけにはいかない。お姉さんと灯花の遺志を継いでやるべきことがある」

ねむ「だから桜子。その間戦えない僕を守ってほしい。君の実力なら僕は安心できる。僕の側に居て欲しい」

桜子「 |ごめんなさい、ねむ。私はここにある灯花の装置を守らないといけない。いろはが私にそう頼んだから| 」

ねむ「さっきも言ったけどそれを頼んだお姉さんはもうこの世にいない。それは理解している?」

桜子「 |いろはは死んだかもしれない。でもまだ生きている気がする。だから私はいろはの頼みごとを守らないといけない| 」

ねむ「そう・・・」

やちよ「・・・・・・」

やちよ「柊さんが言ってもダメなのね・・・。私も今まで何度かここに来て一緒に戦ってくれるようお願いしているけど、ずっとこの調子で・・・。どうしてかしら?」

ねむ「万年桜のウワサは4人を守るという内容に縛られる。1人でも失えばウワサの内容が崩壊する。その場合は他のウワサと同様に存在が消滅するものと思っていたけど、どういう訳かそうなっていない」

ねむ「何故か・・・。存在を保つために、『4人を守る』という内容を、『いろはの頼みごとを守る』という内容に自分で書き換えた?」

ねむ「あるいは、他のウワサと違って灯花のサーバーと接続したことが何か影響している? 人間社会に溶け込んでいくうちに人間らしくなって、ウワサとしての存在が曖昧になった? 人間らしい強いストレスを受けてウワサの内容が歪んだ?」

ねむ「はっきりしたことは分からない。僕の本にある万年桜のウワサの記述を見直してもみたけど、明瞭な答えが得られない。なんにしても、こうして僕の頼みごとも聞いてくれないのは事実」

ねむ「僕がウワサの内容を強制的に書き換えれば、また僕に協力してくれるようにはなるとは思うけど、これだけ変容してしまった桜子の内容を書き換えるにはかなりの魔力と命が必要になると思う」

ねむ「だけど僕はお姉さんと灯花の遺志を継いだ身。残り少ない寿命は一分一秒も無駄にはできない」

やちよ「それじゃあ、桜子さんは・・・」

ねむ「残念だけど・・・・この桜子はこのままにしておくしかないよ。僕の方から意図的に消すのも忍びない。この桜子もお姉さんの遺志を受け継いでいるようだから」

やちよ「分かったわ・・・。でも時々私が様子を見に行くようにする。短かったとはいえ、一緒に戦った大事な仲間だもの。心配だから」

ねむ「手間をかけてしまって申し訳ない。お願いするよ、やちよお姉さん」







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◇ 柊桜子 2歳


ねむが自宅で息を引き取る。
二木市の魔法少女たちからの襲撃は、やちよ率いる神浜マギアユニオンの連携で防いでいたが、大量のウワサを創造して削った命は長くはなかった。

私が守るべき4人全員が亡くなった。
そのはずなのに、私はまだ私でいられる。
いろはがいるから。いろははソウルジェムを壊されたはずなのに、まだ気配を感じる。
いろはの、優しい気配を。






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◇ 柊桜子 5歳


灯花のサーバーはまだ頑張っている。ずっとずっと頑張っている。
持ち主が居なくても休まず働いて、今でも私に色んなことを教えてくれる。
灯花のサーバーはずっと私と繋がっていてくれる。
それにやちよもたまに会いに来てくれる。
ずっとミラーズの中に一人で居ても、あまり孤独感は感じない。

ある日、灯花のサーバーから送られてきた情報。
世界中で原因不明の災害が相次いでいるようだった。






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◇ 柊桜子 10歳


やちよが私に会いに来た。
その時の会話。

やちよ「久しぶりね。調子はどう?」

桜子「 |・・・そこそこ?| 」

桜子「 |やちよは老けた| 」

やちよ「オブラートも何もなしにはっきり言うのね。やちよお姉さん傷付いちゃうわ。鶴乃にギリ未成年だなんてからかわれていたのが懐かしい。今じゃもうドモホルンリンクルが気になってしょうがない」

やちよ「桜子さんはずっとその若い見た目のままでうらやましいわ」

桜子「 |ウワサは老化しないみたい| 」

やちよ「でも着ている服はもうボロボロね。毎日使い魔やコピーと戦って大変でしょ」

桜子「 |大変。でも少しずつ楽になってきた。長いこと戦っていれば灯花のサーバーにある難易度の高い戦闘技を使えるようになってくるし、使い魔や色んな魔法少女たちのコピーが使う技も練習して体得している| 」

やちよ「ええ。こうやって見ても、桜子さんはかなり逞しくなったように見えるわ」

やちよ「いろはと里見さんが亡くなって今年で節目の10年。だからそろそろこのミラーズから出てまた私と一緒に戦わない?」

桜子「 |できない。私はいろはの頼みごとを守る| 」

やちよ「・・・・まだいろはの気配を感じる?」

桜子「 |感じる。いろはの優しさを今も感じる。毎日感じる。これがあるから私は私でいられる| 」

やちよ「・・・・・・・・・・」

やちよ「今年の新作持ってきたから、服着替えちゃいなさい」

桜子「 |いつもありがとう| 」

やちよ「いいのよ」







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◇ 柊桜子 30歳


里見メディカルグループが後継者不在で解体される。
それに伴い灯花の家も取り壊しになり、今まで私と繋がっていてくれた灯花のサーバーも処分される。

サーバーの耐用年数は5年と言われているが、灯花は独自の構築で複数のサーバーで負荷を分散させていたので、長期間持ちこたえてくれていた。

だけど、送られてくるデータは日に日にエラーが多くなり、途切れ途切れになっていたので、処分されるまでもなく、もうすぐ壊れると思っていた。

電気を流してポカポカ。ファンが回ってクルクル。
私のことを覚えててくれた箱。私に色んなことを教えてくれた箱。
今までずっとずっと休まず頑張ってくれて、ありがとう。お疲れ様。

これ以降、ミラーズの外のことがほとんど分からなくなる。






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◇ 柊桜子 70歳


やちよが私に会いに来た。
その時の会話。

やちよ「久しぶりね。まだ無事で安心したわ」

桜子「 |うん。やちよはすっかりおばあちゃんになった| 」

やちよ「ええ。願いの影響もあるのでしょうけど、さすがにこの年まで生き残れるなんて思わなかったわ。神浜マギアユニオンを結成したときは、私が最年長だったのに、その最年長が最後まで生き残るなんてね」

桜子「 |私が守るべき4人も、命をたくさん削ったねむが最後に亡くなった。因果とは不思議な物| 」

やちよ「そうね。だから私も柊さんと同じく、最後に生き残った者としてその責務を果たそうと思う。今日はそのことを伝えに来た」

やちよ「・・・・いえ、伝えに来ただけじゃない。桜子さんの許しをもらいに来た・・・と言うべきかしら・・・」

桜子「 |許し? 私がやちよの何を許すの?| 」

やちよ「桜子さんはまだいろはの気配を感じる?」

桜子「 |感じる| 」

やちよ「私はその理由を知っている。だけど、それは憶測の域を出なかったから変に期待をさせたくなくて今まで言えなかった。でも私はもう長くない。だから、憶測でもなんでもいいから最後に言っておこうと思うの」

桜子「 |・・・?| 」

やちよ「70年前のあの日、いろはが殺されたとき・・・」


やちよ「私はいろはの希望を受け継いだ」

桜子「 |・・・・・・・| 」

やちよ「私といろははお互いに誰よりも信頼し合っていた。そのためか、私は衰えていた魔力が元に戻るどころではなく、今までにないくらい強くなった」

やちよ「いろはの希望の力を使って、私はこの年になっても戦い続けられた」

桜子「 |・・・・・・・| 」

やちよ「・・・・・・・・」

やちよ「・・・・今、世界中が災害に見舞われているのは知っている?」

桜子「 |一応知っている。40年前に灯花のサーバーが処分される前のデータで見た。まだ続いているの?| 」

やちよ「続いているわ。しかも日を追うごとに大災害と化していってる」

桜子「 |原因は何?| 」

やちよ「科学的には解明されていないわ。でも私は確かな原因をキュゥべえから聞いた。ういちゃんが生み出した魔女よ」

桜子「 |ういが・・・・| 」

やちよ「その魔女は回収の固有魔法を持っている。世界中を転々として、行く先々で穢れを回収して、その度に力を増している。このまま放っておけばワルプルギスの夜を凌ぐ厄災になりかねない」

やちよ「そしてその魔女が神浜に戻ってこようとしている。おそらく明日には到着する」

やちよ「私は、受け継いだいろはの希望を全て使って魔女を打ち倒すわ。きっとこれが私の最後の戦いで、最後の日になる」

やちよ「でもそれをしてしまうと、桜子さんが今まで感じていたいろはの気配が完全に無くなるかもしれない」

桜子「 |・・・・・・・| 」

やちよ「だから・・・そうしていいかの、桜子さんの許しを得ようと思って・・・。もし桜子さんが強くやめてほしいと思うのだったら、私は考え直すわ」

やちよ「だけど、考え直したところでどの道私はもう寿命。だったら最後に抗いたい。私といろはが居たこの神浜を、世界を、守るために・・・」

桜子「 |・・・・・・・| 」

やちよ「・・・・・・・」

桜子「 |・・・・・・・| 」

やちよ「・・・・・・・」


私は何も言えなかった。
やちよも何も言わなかった。何も言わずに私の元を去った。

翌日、
今まで感じられていたいろはの気配が完全に消えた。







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◇ 柊桜子 71歳


いろはに会いたい。
その想いが日に日に強くなっていく。

いろはに会いたい。
居ても立っても居られない。

いろはに会いたい。
胸が張り裂けそうで苦しい。

いろはに会いたい。
いろはもやちよも灯花のサーバーも、みんないなくなった。私を知る人は誰もいない。私はもう独りぼっち。これからは永遠に孤独。

いろはに会いたい。
孤独が私の全身を突き刺す。孤独がこんなにも苦痛なんて知らなかった。

いろはに会いたい。
悲しい。苦しい。今まで私を私でいさせていたいろははもういない。

いろはに会いたい。
私は私でなくなるのを日々感じる。自我が崩れていく。個性が感情が闇に落ちていく。

いろはに会いたい。
いろはの優しさに触れたい。

いろはに会いたい。
入院している灯花とねむとういを元気付け続けた優しいいろは。誰よりも私のことを見て、怒って、褒めて、楽しいをたくさん教えてくれたいろは。

いろはに会いたい。
いろはは私のウワサの内容を考えてくれた人。私にとって掛け替えのない人。一番大切な人。一番好きな人。

いろはに会いたい。
苦しい。苦しい。いろはに会えない苦しい時間がずっと続いている。

いろはに会いたい。
私はウワサだから4人を守らないといけない。守るために自殺はできない。死んではならない。

いろはに会いたい。
守るべき4人はもういない。戻れるねむの本もない。このままここでこうしているしかない。

いろはに会いたい。
苦しい。苦しい時間がずっと続いている。

いろはに会いたい。
もう耐えられない。消えてしまいたい。殺して。殺してほしい。

いろはに会いたい。
掠れゆく意識の中、それでも決して消えない意識の中、私は周りにいる使い魔やコピーの魔法少女を縋るように見る。私を殺して。

いろはに会いたい。
使い魔やコピーは私を攻撃しない。苦しんでいる私を見て笑っているだけ。

いろはに会いたい。
今まで散々私と戦ってきたのに。どうして今は私を攻撃しないの? 早く殺して。

いろはに会いたい。
苦しい。苦しい。苦しい。


いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。

いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。いろはに会いたい。



「ちょっとの間この装置を守っててくれる?」



ふと思い出す、
いろはが私に言った最後の言葉。
灯花の装置はまだ残っている。私が今日まで守り抜いた。これからも守り抜く。
いろはの頼みごとは守らないと。
死にたいと願ってもただ苦しいだけ。だから、いろはの頼みごとを守る。いろはが「もう守っていなくていいよ」と言うまで守り抜く。
これからも同じことをする。それだけ。それだけ。

違う。それだけじゃだめ。いろはに会いたい。この想いは絶対に消えない。永遠に消えない。いろはに会えない苦しみはずっと続く。耐えられない。
どうしたら会える? どうしたらいろはにまた会える?
真面目にそれを考える。







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◇ 柊桜子 73歳


灯花が残した装置を鏡に当てて増やし、
分解して再加工して電子工作を繰り返し、
そして、灯花のサーバーが処分される前までに教えてくれた豊富な知識を駆使して、
まずは粒子加速器を作ろうと思う。






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◇ 柊桜子 144歳


10PeVのエネルギーで粒子同士を衝突させる。
この瞬間に重力増加現象の観測に成功。
ただし、1μ秒以下の短い時間しか状態を維持できず、時空連続体の歪みの観測は失敗。






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◇ 柊桜子 181歳


保澄雫のコピーの捕獲に成功。
空間結合の魔法を応用して、ワームホール生成のための実験を開始。






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◇ 柊桜子 218歳


秋野かえでのコピーが使う消滅魔法について考察。
この消滅魔法は、恐らく物体をただ単に消滅させるのではなく、物体の質量を瞬時に減らし、質量が0になったところでその存在を消滅させるもの、という仮説を立てる。
この消滅魔法の原理解明に向けて実験を開始。






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◇ 柊桜子 222歳


三栗あやめのコピーの捕獲に成功。
三栗あやめを無敵化状態にしても、消滅魔法を掛けると消滅してしまう。
外部のダメージを一切受け付けない無敵化でも消滅魔法が有効なのを観測できたことによって、仮説の信ぴょう性が高まる。







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◇ 柊桜子 307歳


秋野かえでの消滅魔法で三栗あやめが消滅した瞬間に、夏目かこの再現魔法で三栗あやめの存在を再現させる。
そうすると、質量0の三栗あやめが現れる。その状態で消滅魔法を掛け続ける。三栗あやめの質量は減少し続ける。
そうしてできあがった三栗あやめは、重力に反して空中に浮かぶ。手で押すと、相手は何もしていないのに、手を押し返してくる。
負の質量の生成に成功。
396186体の三栗あやめを消滅させて、ようやくの成功。

その翌日、
キュゥべえが私の前に現れた。
その時の会話。

キュゥべえ「ボクの名前はキュゥべえ」

桜子「 |知ってる| 」

キュゥべえ「君は柊桜子。またの名を万年桜のウワサ。君は人でもなければ魔法少女でもない。君は300年以上前に死亡した柊ねむの魔法によって生み出されたウワサと呼ばれる存在。そう認識しているけど、合っているかな?」

桜子「 |うん| 」

キュゥべえ「この宇宙では存在がありえない負の質量を観測したから、気になって見に来たんだ。君はここで何をしているんだい?」

桜子「 |タイムマシンを作っている| 」

キュゥべえ「タイムマシン? 一体なんの目的があって作っているんだい?」

桜子「 |タイムマシンを使って過去に飛ぶ。そしていろはに会いに行く| 」

キュゥべえ「いろは? 柊ねむと同時代に生きて、神浜市という町だった場所で活躍していた魔法少女、環いろはの事かい?」

桜子「 |そう| 」

キュゥべえ「辺りにある大量の実験装置と、拘束している大勢のコピー魔法少女を見るに、君は環いろはに会うために長年この鏡の魔女の結界の中たった一人でタイムマシンの開発をしていたみたいだね。ウワサというのはボクにはよく分からないけど、凄まじい執念だ」

キュゥべえ「ところで、君はどうやってタイムマシンを作るつもりだい? 物理法則に反しているそれは人間の夢物語の中にしか存在しない架空の産物だよ」

桜子「 |高エネルギーの粒子同士を衝突させて超重力を生み出し、それで歪んだ時空連続体を、負の質量で安定させたワームホールで接続する| 」

キュゥべえ「なるほどね・・・。その具体的なロードマップに加え、更には不完全とは言えそれらを発生させる装置も既にあるみたいだ。つまり、人間の夢物語の中にしかなかったタイムマシンを実現させられる可能性がある」

キュゥべえ「君の科学力はある意味、ボクたちの科学力を凌駕しているようだ。いや、君のそれは科学と言うより、魔法の力を大いに利用しているようだから、魔法科学と言うべきだろうか」

桜子「 |あなたは何しにここに来たの? 私の邪魔をするの? 様子を見に来ただけなら早く帰って| 」

キュゥべえ「少し様子を見るだけのつもりだったけど、君の現状を知ってボクの目的は変わった」

桜子「 |・・・?| 」


キュゥべえ「柊桜子。ボクに提案がある。君のタイムマシン開発をボクたちにも手伝わせて欲しい」

桜子「 |なんで手伝いたいの?| 」

キュゥべえ「君はずっとこの鏡の魔女の結界の中にいるようだけど、外はどのような状態か知っているかい?」

桜子「 |知らない| 」

キュゥべえ「環いろはの妹、環ういが生み出した魔女が、回収の固有魔法を使って成長し続けて、厄災を世界中に振り撒いている。これを打ち倒せる程の力を持った魔法少女が誕生する見込みはない。人類が文明を宇宙に移すだけの科学力もまだない。だからそう遠くない将来、地球の文明は完全に崩壊するだろう」

キュゥべえ「ボクらのエネルギー回収ノルマを達成する前に、このような結末になるのは、ボクたちとしても不本意だ」

桜子「 |あなたたちが手を貸して人類を宇宙に逃がしてあげればいいのでは?| 」

キュゥべえ「それはできないよ。ボクたちと人類では文明としてのレベルが違い過ぎる。知識を与えようとしても、人類は理解できないし、扱えないよ」

キュゥべえ「そこで君が開発しているタイムマシンだ。ボクたちはこのような人類の結末を変えられるなら変えたい。タイムマシンで時間遡行をすればそれも可能なはずだ」

桜子「 |あなたが私を手伝うことによって、私に何か得があるの?| 」

キュゥべえ「君が有している実験装置を見るに、タイムマシンを実現させるのに、重要ないくつかの要素が足りていない。例えば、時空連続体を歪ませる程の超重力とか、時間遡行先の正確な座標計算プログラムとか」

桜子「 |・・・・・うん。それらはどうしても作れなくて困っていた。あなたならできる?| 」

キュゥべえ「ブラックホールの重力構造や、観測可能な宇宙の外側を含む宇全体宙の膨張速度といったデータは提供可能だ。ボクたちの科学力と君の魔法科学力が合わされば、タイムマシン実現の可能性は飛躍的に向上するはずだよ」

桜子「 |分かった。手伝って欲しい| 」

キュゥべえ「ありがとう柊桜子、助かるよ。それともう一つ提案がある」

桜子「 |なに?| 」

キュゥべえ「君がボクたちのネットワークに接続してみないかい? ボクたちの知識は、とてもじゃないけど口頭では伝えられないからね。仮にできたとしても恐ろしく時間がかかる」

キュゥべえ「だが時間はかけられない。地球の文明はもうすぐ環ういの魔女によって崩壊する。この鏡の魔女の結界もいずれ呑み込まれる。ボクたちに残された時間はそう長くない。それに、君だって早く環いろはに会いたいだろう?」


桜子「 |あなたの知っている全てを、私も知ることになる。それは構わないの?| 」

キュゥべえ「構わないよ。ボクには隠すことなんて何ひとつないからね」

キュゥべえ「心配なのはむしろ君の方だよ。さっきも言ったけど、ボクたちと人類では文明としてのレベルが違い過ぎる。君は人類の知識を土台に魔法科学が加わっているだけで、万物の知識量は圧倒的にボクたちの方が多い」

キュゥべえ「それにわずかだが、君には未だに感情や個性が残っている。その状態でボクたちのネットワークに接続したら、君のその感情や個性が耐えられるかどうかの保証はできかねない」

キュゥべえ「それでもいいかい?」

桜子「 |いいよ。もうずっと長い事いろはに会えない苦しみに耐えてきた。今度も耐えてみせる| 」

キュゥべえ「分かったよ。それじゃあ接続を始めるよ」

桜子「 |うん| 」

急激に私に流れ込んでくる大量の知識。知識。知識。
灯花のサーバーと接続したときとは比べられないほどの知識量。
一瞬にして体の自由が奪われ、意識が飛ぶ。
それでも流れ込んでくる万物の知識。
暗黒物質の正体、未知の元素、光速の彼方、深宇宙の全て、量子の世界、具現、回収、変換、魔法少女システムの原理構造。
ありとあらゆる知識。
無限に思える巨大な知識の海。真理の大海。私はそれに溺れ、深く沈み、圧し潰される。
私が持っている私が、全て剥がれ落ちていく。記憶も、目的も、個性も、感情も。何もかもが無くなってゆく。
私はもう私を保っていられない。私は生きたまま死ぬ。いつか望んでいた死が目の前に迫っていた。
新しい記憶から順に、全ての記憶が海の中で雲散していく。
そして消え去る最後の記憶は、

「それじゃあ、さくら」

記憶。私の最初の記憶。
いろはの声。私が生まれた瞬間の記憶。
優しいいろはの声。
さくら。桜。桜子。柊桜子。万年桜のウワサ。
それが私。私は私。
このままじゃいけない。これだけは絶対に手放せない。
私が死んでも、いろはが死んでも、世界が改変されても、この記憶だけは誰にも奪わせない。
いろは。いろは。
いろはに会いたい。
そう、これが私の目的。私はもう一度いろはと会う。そしてもう一度会えたなら、ずっといろはの側に居る。ずっと、ずっと、永遠に。
いろはがいない苦しみはもう味わいたくない。
私は知識の海の中でもがき、足掻き、抗い、這い上がり、そして知識を支配する。いろはに会うために。
いろはに会いたい。







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◇ 柊桜子 309歳


桜子「 |・・・・ん| 」

キュゥべえ「目が覚めたかい? 柊桜子」

桜子「 |うん| 」

キュゥべえ「確認するよ。君は何のためにタイムマシンを作るんだい?」

桜子「 |いろはに会うため| 」

キュゥべえ「これは驚いたよ。ボクたちのネットワークに接続したのに、君は君本来の自我を失っていない。ウワサの持つ感情というのは不滅なのかい?」

桜子「 |長い間眠っていたような気がする| 」

キュゥべえ「2年間眠り続けていたよ。その間ずっとうわ言のように、環いろはの名前を呼び続けていた。君をそこまでたらしめる環いろはとは一体何なのか気になってきたよ。時間遡行を成功させたら、詳しく調査してみよう」

桜子「 |早くいろはに会いたい。タイムマシンを作ろう| 」

キュゥべえ「そうだね。始めよう」






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◇ 柊桜子 310歳


観測可能な宇宙の外側を含む宇宙空間全体の膨張速度、
宇宙空間内を移動する天の川銀河の移動速度、
天の川銀河内を移動する太陽系の移動速度、
地球の公転速度、地球の自転速度、
それら全てを考慮した、任意の時間における正確な座標計算プログラムの構築に成功。






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◇ 柊桜子 311歳


天の川銀河の中心にある超大質量のブラックホールの重力構造を解析。
ブラックホールは、超重力によって発生した時空連続体の歪みで様々な時間の流れ方をしている。
その中で任意の時間の位置座標を捉えるターゲットマーカーの開発に成功。
このターゲットマーカー目掛けてワームホールを接続することにより、任意の時間に時間遡行が可能になる。







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◇ 柊桜子 313歳


キュゥべえ「理論的にはタイムマシンは完成している。やろうと思えば天の川銀河が誕生したその瞬間にまで時間遡行が可能だ」

キュゥべえ「だが、何故かそれができない。過去に繋がるワームホールに何体もの個体を送り込んでみたけど、時間遡行に成功したという観測結果が得られない」

キュゥべえ「ワームホールは負の質量で安定化させているとはいえ、依然内部は物質を送るのには適さない程に重力が強いし、それに非常に強力な磁気と電磁波が縦横無尽に飛び交っている」

キュゥべえ「そういった過酷な環境にも十分に耐えられるはずの頑強な個体を送り込んでも、ワームホールの出口に辿り着かない」

キュゥべえ「原因は不明だ。想定を超えるほどにワームホール内の環境が過酷なのか、ボクたちでさえ知りえない別の理論が必要なのか・・・・」

キュゥべえ「あるいは・・・。時間と空間に囚われず、それでいて意思のある、まるで “神” のような存在が、意図的にボクたちの時間遡行を阻害している可能性だってある」

キュゥべえ「どれも仮説の域を出ないが、なんにしても、タイムマシンを実用化するにはもうしばらく研究を続ける必要がある」

キュゥべえ「・・・・・それでも君は、今すぐこのワームホールに入ると言うのかい?」

桜子「 |行く。この先からいろはの存在を強く感じる| 」

桜子「 |懐かしい、優しいいろはの気配。愛おしくて私が一番好きな人| 」

桜子「 |気が遠くなる程の長い時間、いろはのいない苦しみに耐えた。何度も死にそうになった。何度も諦めそうになった| 」

桜子「 |だけど今はこうしていろはを感じられている。本物のいろはがこの先にいる。それが分かっているのなら、手を伸ばさずにはいられない| 」

桜子「 |例えこの身がどうなろうと、消えてしまうと分かっていても、分解され尽くすまで、私はいろはへと歩みを進める| 」

キュゥべえ「そこまで言うのなら止めないけど・・・」

キュゥべえ「君をそうさせてしまうほどの感情と言うのは、つくづく理解できないね。理性的な行動を阻害ばかりしている」

キュゥべえ「ただ、その感情の執念が生み出した賜物が、このタイムマシンと言えるだろう。ボクたちだけでは決して生み出せなかったよ」

キュゥべえ「君は死ぬ。だけど君はこの上なくボクたちの発展と目標に貢献してくれた。感謝するよ。ボクたちは引き続きタイムマシンの研究を続けて実用化してみせるよ」

キュゥべえ「さようなら。柊桜子」


ワームホールに足を踏み入れる。
散らばるキュゥべえの残骸を払い除けて進む。
いろはの気配に向かって、手を伸ばす。
しかし奥に入れば入るほど重力が強くなる。
強力な磁気と電磁波で平衡感覚は失われ、容赦ない電撃が体の自由を奪う。
骨は割れ、肌は割け、筋肉は千切れ、胴体は潰れ、首は砕け、手足は折れる。
それでも足を進める。それでも手を伸ばす。
いろはの気配を頼りに前へと進む。
いろは。いろは。
いろはに会いたい。いろはに会いたい。
それなのに、進まなくなる。体が壊れすぎた。重力が強すぎた。動けない。
あと少しでいろはに会えるはずなのに。
嫌だ。嫌だ。こんなところで止まりたくない。死にたくない。やっとここまで来たのに。あともう少しなのに。あと少し。
お願い。あと一歩進ませて。神様お願い。助けて。私をいろはに会わせて。もう目の前なの。
その目の前に羽根が舞い落ちてくる。上も下もないこの空間に、フワフワと羽根が舞い落ちる。綺麗な白い羽根。
いつか見た光景。300年以上前にいろはとやちよが一緒に空を飛んだ時に見た光景。
声が聞こえる。いろはの声ではないけど、いろはみたいに優しい声。
耳が機能しないこの空間で、その声はわたしの心に直接語り掛けてくる。
『貴女ならここを通してあげられる』
『魔女で終わる悲しい結末を変えられるなら、変えてあげたい』
『ただし、平行世界へ渡るのはこの一回だけにして。あらゆる因果の糸がいろはちゃんに集中しちゃう。その先にあるのは死ぬより辛い運命。それを背負うのはわたしだけで十分だから』
『一回だけできるレコードの巻き戻し。貴女に託すよ』
動かない私の体。
誰かがそっと、優しく、背中を押してくれた気がした。

いろは「うっ・・・。灯花ちゃん、こんなにたくさんの装置を果てなしのミラーズに運び込んでいたんだね・・・」

いろは「それじゃあ桜子ちゃん、ちょっとの間この装置を守っててくれる?」

桜子「 |・・・・いろはっ| 」

いろは「ん? 桜子ちゃん呼んだ?」

いろは「えっ、でも今桜子ちゃんの声がしたような・・・」

桜子「 |・・・いろはっ| 」

いろは「・・・・えっ? あれ? ええっ?!」

桜子「 |やっと会えた・・・いろは・・・| 」

いろは「桜子ちゃんが二人になっちゃった?!」


・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・







ねむ「・・・・・・・」

ねむ「・・・・・な、なんというか・・・言葉が出ないね」

いろは「うっ、うっ・・・や、やちよ、さん・・・わ、私・・・」

やちよ「ええ・・・いいわよ・・・」スッ...

 ぎゅ・・・・・

いろは「ご、ごめんなさい・・・うっ、ぐすっ・・・悲しくて悲しくて・・・涙、止まらなくて・・・」ポロポロ....

やちよ「気にしないで。私の胸くらい、いくらでも貸すわよ・・・」ギュッ....


いろは「桜子ちゃん・・・。これは本当に桜子ちゃんの記憶なの・・・?」

桜子[コピー → 本物]「 |うん| 」

いろは「どうして・・・どうして今まで黙ってたのっ? こんなに大事なこと・・・・」

桜子「 |聞かれなかったから| 」

いろは「聞かれなかったからって・・・?! そんなっ、キュゥべえみたいなこと言わないでよ・・・!」

灯花「お姉さま・・・。その桜子はほとんどキュゥべえなんだよ・・・」

いろは「えっ・・・?」

灯花「人類や人類の生み出した程度のものがキュゥべえの知識量に耐えられる訳がない。それは桜子も同じ」

灯花「でも桜子はキュゥべえのネットワークと繋がった。その時に桜子の人格や感情は完全に破壊されたんだと思う。だけど・・・」

ねむ「だけど一点、お姉さんに会いたい、その単純明快で、そして一心一途な想いだけがかろうじて桜子の自己同一性を繋ぎ留めた・・・ということかな?」

灯花「うん・・・・」

ねむ「それでなくとも、ただでさえ桜子は計り知れない精神的ストレスを数百年もの長い間受け続けていた。人間なら到底耐えられないような強いストレスをね」

ねむ「それでも今こうして桜子が桜子として存在していられるのは驚天動地の奇跡と言える」

ねむ「事実は小説より奇なり。空想を広げて数々の珍事を書き綴ってきた僕だけれど、さすがにこれほどの奇跡は想像の切れ端すら掴んだこともないよ」

ねむ「だからお姉さん。この桜子に対して色々と気に食わないことがあるかもしれないけど、どうか嫌わないでやってほしい」

いろは「気に食わないことなんて何もないよっ! 何があっても絶対嫌いにもならない! 桜子ちゃん、ずっと、いつまでも私の側に居ていいからっ!!」

桜子「 |うん。ありがとう。嬉しい| 」

いろは「ごめんね・・・ごめんね・・・。今まで気が付いてあげられなくて・・・っ! これからは私と一緒に生きようね・・・っ!」

やちよ「・・・・・・・・・・」

みふゆ「・・・・・・・・・・」




ねむ「そして・・・桜子自身のその奇跡も然ることながら、もう一つ着目すべきは僕たち自身のこれからの未来だ」

ねむ「例えば僕の寿命とか・・・」

いろは「ねむちゃん・・・・」

ねむ「そう長くは生きられないとは思っていたけど、あと数年の命とはね・・・」

ねむ「だけどある意味それを今知り得たのは幸運だよ。これからは、残された時間でできることとできないことの判断が容易になる。効率よく時間を使える」


ねむ「でも、重要なのは僕だけの未来より、みんなの未来だ」

ねむ「このままではお姉さんの思い描いた、みんなが幸福になる未来へは辿り着けない」

みふゆ「はい。いろはさんは二木市の魔法少女に命を狙われています。明日殺されてもおかしくありません」

やちよ「仮にいろはの命を守れたとしても、二木市と神浜の争いを避けるのは難しいでしょうね・・・。二木市の魔法少女は私たちに強い殺意を持っているから、これは文字通り戦争になるわ・・・」

いろは「うっ・・・ぐっ・・・・・。そんなっ・・・なんでっ・・・どうしてっ・・・!」

いろは「私はみんなで幸せになりたい・・・。星屑タイムビューワのウワサが私に見せてくれた未来は、魔法少女が争わないで、キュゥべえとも和解して、誰も傷つかずみんなが笑顔でいられる未来・・・・・・・・」

いろは「そんな未来を目指すことがどうして争いに繋がるんですか・・・!」

やちよ「いろはのその正義は立派よ。だけど、二木市の魔法少女達には彼女らの正義がある」

やちよ「戦争はそんな正義と正義がぶつかって起きる・・・。それで戦う人はみんな、命のため、仲間のため、故郷のために戦うから、多くの人が亡くなるまで終わらない・・・。そういうものよ・・・」

いろは「うっ、ううっ・・・・・・・」

やちよ「だから、ここにいるみんなで話し合って考えましょう。これから築ける最善の未来を。せっかく桜子さんがあんなにボロボロになってまで未来の記憶を持ってきてくれたのだから」

やちよ「そしてどうしたらそこに辿り着けるかの道筋を考えましょう。私たちは神浜マギアユニオンの中心人物なのだから。それが私たちの責務よ」

灯花「桜子の記憶を見た時はわたくしも辛かったよ・・・。お姉さまとねむとういが明日にでも死んじゃうかもしれないって思ったから・・・。でも、やちよお姉さまが言うように、ここにいるみんなで考えればそうならない方法をきっと見つけられるよ」

ねむ「僕も同意見だね。この奇跡の存在である桜子がいれば、運否天賦に逆らうことだってできるはずだよ」

いろは「・・・・・・・・」 ...グシグシ

いろは「・・・・・はいっ」




いろは「・・・あっ、それなら十七夜さんにも一緒に考えてもらいませんか?」

やちよ「いえ、それはやめておきましょう」

灯花「お姉さま。桜子の記憶にある未来の事を知っている人が多くなればなるほど、未来は大きく変わりやすくなって、わたくしたちが望む未来への道筋を考えるのが難しくなっちゃう」

みふゆ「それにもし意見対立するようなことがあったら、最悪争う羽目になりかねません。未来を自分の思い通りにできる権利なんて、誰でも欲しいですから」

いろは「あ、あのっ、でも、十七夜さんは既に事情を知っているはずです。桜子ちゃんの読心をしていたから」

やちよ「いえ、十七夜は桜子さんの記憶の事は何も知らないわ」

いろは「えっ? どういうことですか? 十七夜さんは確かにミラーズで桜子ちゃんを読心していましたよ。本物だって言っていたから」

やちよ「ええ。だけど十七夜はその後、フェリシアに自身の記憶を消させていたわ。その日ミラーズに入った記憶全部をね」

いろは「あっ・・・。そういえばあの時、十七夜さんはフェリシアちゃんを連れてミラーズを出ていきました」

やちよ「フェリシアにも確認したわ。確かに十七夜に頼まれて忘却魔法を使ったと言っていた」

いろは「十七夜さんはどうしてそんなことを・・・?」

やちよ「それはその時の十七夜に聞かないと分からないわ。それに、一瞬しか読心していなかったから、どの記憶を読んだかも分からないし」

やちよ「だけど私ね、昨日十七夜に質問してみたのよ。『もし未来を知ることができたらどうする?』って」

やちよ「そうしたら十七夜はこう答えたわ―――」





~~~~~~~~~~~~~~~~

十七夜『うむ。それは大変魅力的だな。今の自分の選択が将来どうなるのか分かれば、自分にとって都合の良い未来へ辿り着くことだってできるからな』

十七夜『だが実際はそんなに上手く行くものだろうか。自分は、人生はそんなに甘くないと思う』

十七夜『例えば、ある望まぬ未来を避けるため、ある選択をしたとしよう。その結果また別の望まない未来になってしまったらどうする?』

十七夜『また未来を知って別の選択をするか? それでまた望まない未来になったら? そんなことを繰り返していたら、自分だけでなく周りの人の運命をもかき回すことになる。自分の都合でそんなことをするのは周りの人に対して不条理、不義理、不公平ではないか? そんなものは許せん』

十七夜『そんなことになるくらいだったら、自分は未来を知る方法を放棄する。そして自分は自分が今考える最善を為すことだけをする。その結果、もし望まない未来になってしまったとしても、それが自分の運命だったと受け入れる』

十七夜『それにな、未来など知らなくても、間違ったと思った今の選択が、後になって考えてみたら正解だったりもする。それを多く経験する方が、自分は人としてより成長できるし、なにより面白いと思う。人生とはそういうものだろう』

~~~~~~~~~~~~~~~~



やちよ「―――と、言っていたわ。なんというか、十七夜らしいと思ったわ」

やちよ「多分あの時の十七夜は、本当だったら私たちの記憶も消したかったんだと思う。だけど、桜子さんが途方もない苦労をしていろはに会いに来たのに、それを無かったことにするのをためらってくれて、それで自分の記憶だけ消してくれたのかも」

やちよ「そして、いろはのことを信頼しているから、悲しい結末を変えるために、いろはがかき回す運命だったら、受け入れられる・・・って考えたんじゃないのかしら。多分ね」

いろは「十七夜さん・・・・」

やちよ「ただね・・・記憶を消しただけでなんとかなるほど、事態はそんなに単純じゃないみたいでね・・・。もしかしたら辛い決断を下さないといけないことになる。特にいろはにとっては・・・」

いろは「えっ、な、なんでしょう・・・?」

やちよ「いろははさっき桜子さんにこう言ったわよね。『ずっと側に居ていい』って」

いろは「それはもちろんですよっ! 桜子ちゃんがあんなに傷だらけになりながらも私に会いに来てくれたんですからっ!」

やちよ「実際に桜子さんがずっと側に居るとどうなると思う?」

いろは「そ、それは、確かにお手洗いや授業中はちょっと困っちゃいますけど・・・でもそんなの桜子ちゃんの苦労に比べたらなんてことないですよ・・・!」


やちよ「そんなのは些細な事よ。もっと大きな視野を持って考えてみて。まず言えるのは、桜子さんはかなり強力な味方だと言う事。300年分の戦闘経験がある上に、キュゥべえの知識まである」

やちよ「そんな桜子さんがずっといろはの側に居れば、いろはは外的な要因で死ぬことは無くなるはずよ。普通に考えればね」

いろは「そ、それは、すごいですね」

やちよ「だけど魔法少女は条理を逸した存在。それを駆使して私たちが想像もしない方法でいろはの命を狙う者が現れたら? もしそんな人物が二木市側に居たら? そう考えるとやっぱり、いろははいつ死んでもおかしくないのよ」

やちよ「それでなくともいろはやがて寿命で死ぬわ。どんなに運がよくてもせいぜい後100年くらいしか生きられない」

やちよ「そうしていろはの命が失われたとき・・・。桜子さん、貴女はどうする?」

桜子「 |この時間軸で再度タイムマシンを作り時間遡行をして、生きているいろはに会いに行く| 」

やちよ「その時間遡行先でまたいろはが亡くなったら?」

桜子「 |同じことを繰り返す。いろはは私にずっと側に居ていいと言った。だから私はそうする。ずっと、ずっと側に居る。永遠に| 」

いろは「あっ・・・永遠・・・。永遠って、そういう意味だったんだ・・・」

やちよ「もしいろはからそんなことをしないで欲しいと頼まれたらどうする?」

桜子「 |それはっ・・・。どうする・・・? 分からない・・・。多分、できないっ・・・。いろはが側に居ないのは耐えられない・・・| 」

ねむ「だと思うよ。この桜子のウワサの内容は長い時間をかけてすっかり変容してしまっている。お姉さんの側にずっと居る、っていう内容にね。桜子はそれには逆らえないよ」

やちよ「そこで桜子さんが時間遡行をしている時の事を思い出して。舞い落ちる羽根を伴って誰かが桜子さんに語り掛けているわよね」

いろは「あっ、はい。私これを見た時、ハッ としました。覚えのある語り口だなって思って」

やちよ「私も覚えがあるわ。この人は、以前里見さんがこの宇宙と他の宇宙を繋げて開けてしまったゲートを閉じようとした時に、私といろはに力を貸してくれた人と同じだと思うの」

やちよ「この人は時間と空間に囚われない、まさに、神様と言っていい人。その神様は変わらず私たちの味方でいてくれているみたい。だから桜子さんの背中を押してくれた」

やちよ「その人がこう言ってるわ。『平行世界へ渡るのはこの一回だけにして』って」

いろは「どうしてそんなことを言ったのでしょう?」

灯花「その答えは、その神様も言っているけど、お姉さまに因果の糸が集中しちゃうからだよ・・・」

いろは「因果の糸?」

灯花「魔法少女としての潜在力は、背負い込んだ因果の量で決まってくる。同じ理由と目的で、桜子が何度も時間を遡ると、いくつもの平行世界の因果の糸をらせん状に束ねちゃう。お姉さまを中心軸に」

灯花「そうすると、あらゆる出来事の元凶がお姉さまになる。いずれお姉さまの因果の量は誰よりも多くなって、誰よりも強い魔法少女になる」

灯花「誰よりも強い魔法少女・・・それはつまり、誰よりも強い魔女になりえるってことになる・・・。もし、運悪く自動浄化システムが作動しない平行世界でお姉さまが魔女になったら・・・それこそ世界は崩壊する・・・」

いろは「そんなっ・・・・」

やちよ「そんなことになって得するのはキュゥべえだけよ。キュゥべえはエネルギーさえ確保できれば、人類なんか滅亡したって構わないと思っている。いろははキュゥべえと和解することを目指しているけど、残念ながら今はまだ、キュゥべえは私たちの敵よ」


灯花「そしてね、キュゥべえはいずれ、タイムマシンの製造方法を知っている桜子の事に必ず気が付くよ。桜子の記憶を見ても分かる通り、キュゥべえは、タイムマシン製造に必要な負の質量の存在を感知できるから」

灯花「それでキュゥべえが桜子を無理矢理にでもハッキングしたら、タイムマシンがキュゥべえの手に渡っちゃう。そうしたら、魔法少女の因果の量をキュゥべえが思い通りにできる。いくらでも最強の魔女を作れちゃう。そうなってもやっぱり、人類はお終いだよ・・・」

やちよ「そうならないよう、桜子さんが最初にタイムマシンを完成させたときは、神様が私たちの味方をしてくれた。キュゥべえの時間遡行だけを邪魔していたから」

やちよ「でもそうやって神様に頼りすぎると、今度は神様の方が危険なのよね?」

灯花「うん・・・。桜子がタイムマシンを使う前のキュゥべえは、神様の存在を仮説に留めていたからまだ大丈夫だと思う。だけど今の桜子は神様の存在をはっきり記憶しちゃっている」

灯花「キュゥべえがそれを知ったら、神様の秘密を暴こうとするに決まってる。考えられる方法としては、地球とブラックホールの間を干渉遮断フィールドで覆ってしまうの。そうして時間遡行を邪魔する神様の存在を観測する。観測できれば干渉できる。干渉できれば制御もできる」

灯花「最悪は・・・神様さえもキュゥべえに支配される・・・・」

やちよ「そう・・・。だから・・・。いろはには寿命があって、そして今もいろはが二木市に命を狙われている以上、人類が生き残るために私たちにできることは・・・」

いろは「えっ・・・っ?! まっ、待ってくださいっ! それって・・・!」


灯花「キュゥべえに知られる前に、桜子の存在を消すしかない」


桜子「 |・・・・・| 」

いろは「何言ってるの灯花ちゃん!? 冗談はやめてっ!」

灯花「冗談・・・・?」

いろは「こんなのってないよ・・・! 死ぬより辛い苦労を乗り越えて・・・傷だらけになりながらも私に会いに来てくれたのに・・・! そんな桜子ちゃんが、結局は消えるしかないなんて・・・」

いろは「あっ、そうだっ、フェリシアちゃん! 桜子ちゃんのタイムマシンに関する記憶だけフェリシアちゃんに消してもらいましょう!」

ねむ「それは根本的な解決にはならないよ。タイムマシンの記憶が無くなっても、お姉さんの側にずっと居る、というウワサの内容までは変わらない。お姉さんが亡くなったら、桜子はまたタイムマシンを一から作り始める。途方もない時間を使ってでもね」

ねむ「果てしない牢獄に囚われる地獄を、また桜子に強いることになるけど、お姉さんはそれでもいいの?」

いろは「それはっ、だ、ダメッ、できない・・・・」

やちよ「記憶を消しただけでなんとかなるほど、事態はそんなに単純じゃないって分かってもらえたかしら・・・。そもそもフェリシアにそんな器用な記憶の消し方ができるとも思えないし・・・」

いろは「ううっ・・・・」

ねむ「・・・・・・・・・・」




ねむ「お姉さん」

いろは「んっ・・・?」

ねむ「この桜子は僕が今持っている本に記述がない。従って本に戻すこともできない。桜子の存在を消すと言う事は、それは文字通り死を意味する」

ねむ「でも、もしお姉さんがそれを強く望まないほどに桜子が大切な存在なのであれば」

ねむ「僕が桜子のウワサの内容を変えよう。『タイムマシンに関する知識は持てない』 という内容を加筆すれば、済む話だよねきっと」

ねむ「本に記述がないウワサの内容を変えるのは難しいとは思うけど、元は同じ僕の魔力だし・・・まあ、なんとか頑張ってやってみるよ」

いろは「それをしたらねむちゃんはどうなるの・・・・?」

ねむ「桜子の記憶の中の僕も言っていたけど、残り全部の命を使うことになるだろうね。でも、あまり気にしなくても大丈夫。どうせ後数年の命。それをお姉さんのために使えるのなら、それは僕にとって人生の本懐を遂げる事に等しい」

いろは「ねむちゃん・・・? 自分が何を言ってるか分かってる・・・?」

ねむ「酔狂でこんなことを言ってるんじゃないよ。バカにしないで欲しい。僕がお姉さんを誰よりも大切に想うこの気持ちを疑念の目で見られているのだとしたら、それはこの上ない憤慨に当たる」

いろは「私の事を想ってくれるのは嬉しいけど、私は自分の命を大切にしない子は嫌いだよっ・・・!」


灯花「ねえっ! ちょっと待ってよ! さっきからお姉さまの考えていることが分からない」

いろは「えっ、そ、そう・・・? ごめんね」

灯花「確認させてっ。お姉さまは桜子の記憶にあるような魔女で終わる悲しい結末を避けたいんだよね?」

いろは「うん、そうだよ」

灯花「特に、わたくしや、ねむ、うい、そしてお姉さま自身が二木市の魔法少女に殺されるのを避けて、自動浄化システムを世界中に広げて、誰も傷つかずみんなが笑顔でいられる未来を実現したいんだよね?」

いろは「もちろん」

灯花「だったらこれからやるべきことははっきりしてるよね?」

いろは「というと?」

灯花「この桜子が居た時間軸では、今から30年後にわたくしのサーバーが処分されちゃっているけど、少なくともそれまでに起きた世界の出来事は詳細に分かるはずだよー」

灯花「その情報をできる限り桜子から教えてもらうの。この桜子はキュゥべえの知識があって今のわたくしのサーバーとは繋げられないから、口頭で教えてもらうことになるけど」

灯花「それで得られた情報をまとめてから、どうやったらお姉さまが思い描く理想の未来へと辿り着けるかを、今ここにいるみんなで考えるんでしょ」

いろは「うん、そうだね」

灯花「それなのになんだか議論が脱線していないかにゃー? ねむの命を犠牲にして桜子を救おうとか話し合ってるし」

いろは「そこは大事でしょ。どうしたら桜子ちゃんを救うことができるか私にはすぐに分からなくて・・・・」

灯花「桜子を救う? さっきわたくしが説明して結論は出たよねー?」

いろは「えっ?」


灯花「キュゥべえに知られる前に、桜子の存在を消すしかない、って」

いろは「えっ? えっ・・・・?」

灯花「それなのに、なんでねむの命を犠牲にして桜子を救うっていう案が出てくるのー? 確かにねむの命を使って生み出されたウワサだから大切なのは分かるけど、どう考えても今は人であるねむ自身の命の方が大切だよね」

いろは「・・・・っ」

灯花「必要な情報を桜子から引き出したら、早く消さないと。ねむの本に記述がないウワサはねむの意思じゃ消せないから、攻撃して消すの。お姉さまが今までたくさんのウワサを消したのと同じように」

灯花「この桜子はかなり強いみたいだけど、こっちも最強さん並みの力がある魔法少女を大勢集めて、そして工夫しながら一斉に攻撃すれば消せるはずだよ」

灯花「なんかみんなで一人をいじめているみたいになっちゃうけど、桜子は生き物じゃなくてウワサなんだから、別に戸惑う必要ないよね?」

いろは「っ!! 灯花ちゃ―――」


 ......ヒュ

  バシーンッッ!!!!


灯花「いにゃっ?!?!」ドタッ

いろは「あっ・・・えっ・・・」

灯花「ぐっ、ぅぐっ・・・いっ、痛い・・・・・。み、みふゆ・・・?」ヒリヒリ......

みふゆ「灯花・・・! 貴女という人はッッ!!!」

灯花「えっ、な、なんで・・・・」ヒリヒリ........

みふゆ「いろはさんが今どういう気持ちか分からないんですかッ!!?」

灯花「お姉さまの気持ち・・・?」

みふゆ「いろはさんにとっては、ねむも桜子さんも、同じくらい大切な存在なんです! ウワサかどうかなんて関係ないです!!」

みふゆ「それなのになんでそう簡単にっ! 桜子さんを攻撃して消せばいいという結論を出せるんですかっ?!!」

みふゆ「天才だからっておごり高ぶるのはいい加減になさいッ! 頭は良くても貴女の道徳観は赤ちゃん以下ですッ!! はっきり言ってそんな貴女はいろはさんの仲間を名乗る資格はありませんッッ!!!!」

灯花「あっ、うっ、や、やだ・・・わたくし、そんな、やだっ・・・ご、ごめ、ごめん、ぐすっ・・・な、なさいっ・・・えぅっ・・・ゆ、許して・・・・」ジワッ....

みふゆ「申し訳ありませんいろはさん。灯花に倫理道徳を教えるのはワタシの役目ですが、行き届いていなかったようです。代わりに深くお詫び致します」ペコッ

いろは「い、いえっ、そんな、大丈夫ですから」

灯花「ごめっ、ごめんなさい・・・うぇ、グスッ・・・・お姉さま、ごめんなさい・・・・」ウルウル....

いろは「桜子ちゃんはね、私たちと暮らして、私たちと学校に行って、私たちと戦って、そして私たちと想い合ってきたんだよ。だから私たちにとって桜子ちゃんは、ウワサである前に大事な仲間なの」

いろは「灯花ちゃんならそれを分かってくれるって、私信じてるよ」ナデナデ

灯花「はい・・・・」





やちよ「・・・・いろは、大体状況は分かってもらえたかしら」

いろは「そうですね、大体は・・・」

やちよ「辛いけど、里見さんの言う事は間違っていないわ。それを踏まえてこれから私たちにできる選択肢は二つだと思っている」

やちよ「柊さんが言ったように、柊さんの残りの命を使って桜子さんを生かすか」

やちよ「里見さんが言ったように、桜子さんの存在を消すか」

やちよ「もっと深く考えれば他の良案が出てくるかもしれないけど、あんまり時間はかけられないわ」

やちよ「キュゥべえにいつ桜子さんの存在を気が付かれるか分からないし、それに、そろそろ二木市との戦争が始まる。それまでに決断を下さないといけない」

やちよ「そしてその決断を、いろはに委ねたい」

いろは「私ですか・・・?」

やちよ「今は魔法少女達の環が確実に広がっているわ。いろはを中心にね。神浜マギアユニオンがその良い例よ」

やちよ「その環を更に広げて、そしていろはが想い描く理想の未来に辿り着くための一番の近道は、いろはに決断を委ねることだと・・・私たちは思う」

やちよ「みんな、そうよね?」

みふゆ「はい」

ねむ「異論はないよ」

灯花「わたくしも」

やちよ「神様も同じことを思っているんじゃないかしら。そんな気がするのよ」

やちよ「だから、いろはに決断してほしい」

いろは「・・・桜子ちゃんはどう思う?」

桜子「 |私のウワサの内容は、いろはの側に居ること。でもそれがいろはのためにならないのなら、私はいろはのどんな決断にも従う| 」

いろは「本当にそれでいいの? 桜子ちゃんは途方もない時間と苦痛を乗り越えて私に会いに来てくれたのに・・・」

桜子「 |アイはさなのために自分を消させた。あの時と同じ。いろはの手によって私が消されるのであれば、私は構わない| 」

桜子「 |いろはが望んだことなら、それがどのような形であっても、私のあの途方もない時間は報われることになる| 」

いろは「そうなのかな・・・・」

いろは「私にはそうは思えないよ・・・・・」

いろは「だから・・・決断してほしいと言われても・・・そう簡単には決められません・・・・」

やちよ「それは分かっているわ。どれも辛い選択肢だから。どうしてもいろはが決断できないのなら、その時は私とみふゆが話し合って決断するわ。年長者として責任をもってね」

いろは「・・・・・」

いろは「・・・・・・・・」




いろは(他に選択肢はないのかといっぱい考えました)

いろは(二人とも助けられる方法はないのかと、みんなで知恵を出し合いました。時間が許す限り)


いろは(その結果・・・)

いろは(私には、ねむちゃんの命を使い切る決断はできませんでした)

いろは(私には、桜子ちゃんの存在を消す決断はできませんでした)

いろは(やちよさんとみふゆさんに決断を任せるのも違うと思いました)


いろは(私が下した決断は・・・)







----------------------------------------
数日後 北養区の山の中



桜子「 |約束の木。万年桜| 」

桜子「 |ここはずっと青空で、草原は広くて、桜が満開で、お日様がポカポカして、暖かい風が気持ちよくて、鳥がチュンチュン鳴いている| 」

桜子「 |ここに居るときが一番落ち着ける。永遠に居ても苦痛じゃない| 」

桜子「 |ここが私の帰るべき場所。そして、還るべき場所| 」

桜子「 |果てなしのミラーズで、果てのない戦いを続けて辿り着いた先がここであるのならば、それは格別のハッピーエンド| 」

桜子「 |だからそんなに悲しそうに泣かないで、いろは| 」

いろは「うぅぅ゙ぅ゙ぅ゙っ・・・・・」ポロポロ....

やちよ「いろは・・・・」 ぎゅ・・・・


みふゆ「いろはさん、桜子さん。そろそろ始めます。いいですね」

桜子「 |うん| 」

いろは「うっ・・・うっ・・・・・・」グスグス....

みふゆ「これから桜子さんに意識を眠らせる幻惑を掛けます。苦痛は全く感じません。人が夜に眠るのとほとんど同じです」

みふゆ「力を抜いてリラックスしてください。眠気に身をゆだねてください」

みふゆ「やがて桜子さんの意識は途切れ、眠ることになります。眠りはどんどん深くなります」

みふゆ「・・・・・・永遠に目が覚めないほどに深く」


いろは「うゔっ、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・こうすることしかできなくて・・・・」ポロポロ....

いろは「私たちが再開したあの日、ずっと私の側に居ていいって、私の方から約束したのに・・・」

いろは「約束が果たされるこの場所で、約束を破ることになるなんて・・・・」

いろは「ごめんなさいっ・・・ごめんなさいっ・・・・」


桜子「 |そんなに謝らないで。自分を責めないで。私はいろはのために頑張って良かったって思いたいから| 」


みふゆ「・・・・・・最後に何かあれば、今の内ですよ」

桜子「 |いろは。いろはのローブを私がもらってもいい?| 」

いろは「うっ・・・うっ・・・」グシグシ

いろは「うん、いいよ・・・。私が着せてあげるね」

桜子「 |ありがとう| 」

 ファサッ.....

桜子「 |んっ・・・。あの時と同じ。私がいろはと再会したあの時と同じ。いろはが私にローブを羽織らせてくれたよね。あの時同じ感触、同じ匂い| 」

桜子「 |あっ、匂いは分析しちゃダメだった?| 」

いろは「いいよっ・・・。いくらでも分析して・・・。私は側に居てあげられないから、代わりにこのローブと一緒に居てあげてくれるかな・・・・・・」

桜子「 |それならこれから先ずっと一緒に居られるね。私はもう独りぼっちじゃなくなる。ありがとう。今の私のウワサの内容通りだね| 」


みふゆ「始めます」

いろは「・・・・・」

桜子「 |あっ・・・うっ・・・| 」クラッ....

いろは「桜子ちゃん・・・!」 抱きしめ

桜子「 |私はっ・・・。もう万年桜のウワサじゃないかもしれない・・・。ねむが具現した内容から変わってしまったから・・・・| 」

いろは「うんっ・・・・」 ぎゅ

桜子「 |でもっ・・・内容が変わって良かった・・・。こんなにもいろはを大好きでいられたから。好きの感情がこんなにも素晴らしいって知られたから・・・・・| 」

いろは「うんっ・・・うんっ・・・! 私も桜子ちゃんが大好きだよ・・・!」 ぎゅっ

桜子「 |いろはに会えて・・・・よかった・・・・・| 」 ウルッ...

いろは「桜子ちゃん・・・!」

いろは「私もだよっ! 桜子ちゃん、生まれてくれてありがとうっ! 私に会いたいって思ってくれてありがとうっ!! 私の側に居たいって思ってくれてありがとうっ!!!」 ぎゅうっ

桜子「 |い・・・ろ・・・は・・・・・| 」


桜子「 |私の・・・物語を・・・かんがえて・・・くれて・・・・あり・・・・が・・・・ト・・・・・ゥ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ジワッ... ポタッ.... 


 .....ピチャン


いろは「うゔゔぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙っ・・・・!!!!」 ぎゅぅぅぅっ

やちよ「・・・・・・・・」

みふゆ「・・・・・・・・」


























































━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇ 柊桜子 626歳



桜子「 |・・・・・・・| 」

桜子「 |・・・・・・・| 」

桜子「 |・・・・?| 」

桜子「 |・・・・ん| 」パチッ


  < わあっ?!
 
 ドタッ


桜子「 |・・・・?| 」

桜子( |私の目が覚めた? どうして? 永眠したはずなのに| )

桜子( |・・・んっ? 誰か居る| )


桜子「 |あなたは誰?| 」

いろは「・・・あっ! あっ、はい、私、いろはって言います! はじめましてっ!」

桜子「 |いろは? 環いろは?| 」

いろは「たまき? い、いえっ、たまきじゃないですけど・・・」

桜子「 |そう・・・・| 」

桜子( |いろはだけどいろはじゃないんだ・・・| )

桜子( |顔も背格好も違うから別人なのは分かる。でも、懐かしい感じがする。不思議と、この子の側に居たいって思える| )


いろは「あ、あのっ・・・!」

桜子「 |なに?| 」

いろは「私の友達になってください!」

桜子「 |・・・?| 」

桜子「 |どうして?| 」

いろは「えっ・・・? どうして、って・・・。あれ? おかしいな・・・。やっぱりあの噂は嘘だった・・・?」

桜子「 |噂?| 」

いろは「あっ、そうだ忘れてたっ。宝箱を渡さなきゃいけないんだった」

桜子「 |宝箱?| 」

いろは「これ、受け取ってくださいっ!」スッ

桜子「 |箱・・・・?| 」

桜子( |みかづきの印が刻まれている箱だ| )


桜子「 |よく分からないけど、私が開けてもいいの?| 」

いろは「どうぞっ」

桜子「 |開けるね| 」パカッ

桜子( |入っているのは、手紙? それと写真がたくさんある。多分令が撮った写真| )

桜子( |それと、何かのメモ書き。見覚えがある字。多分ひなのの字| )

桜子( |アナログレコードも入ってる。何のアナログレコード?| )

桜子「 |あっ・・・これは・・・| 」

桜子( |ねむの本だ・・・| )





アイ『 >|目が覚めましたか?| 』

桜子「 |えっ・・・?| 」

グル『 |寝すぎグル。ネボスケにも程があるグル| 』

マチビト馬『 |ようやく起きた桜子起きた、ずっとみんなでマッテマテ| 』

桜子「 |みんな・・・?| 」

ミザリーリュトン『 |ザバーザバー| 』

神浜聖女『 |フッフフフフ| 』

アイ『 >|この時間軸の桜子もいますよ| 』

グル『 |二人も桜子がいると混乱するから、この時間軸の桜子には別の名前を付けたグル。聞いて驚けグル! その名も―――』

スズノネ『リンリンリンリンリン。名前を教えてあげる、その名前を呼んで、名前はニュー桜子』

ニュー桜子『 |久しぶり、前の時間軸の私。私はこの時間軸の桜子。名前を改めてニュー桜子| 』

ニュー桜子『 |この名前はみんなに考えてもらった。みんな言うことがバラバラで意見がまとまらなくて、決まるのに200年くらいかかった| 』

絶交階段『 |他にヤることナかったらカラ良い暇ツブしにナっタヨ| 』

桜子「 |200年? ちょっと待って、私は何年間眠っていたの・・・?| 」

アイ『 >|300年程眠っていましたよ| 』

桜子「 |私は300年眠った後に、こうしてまた起きた・・・?| 」

アイ『 >|はい。そういうことになります| 』

桜子「 |なんでっ・・・・。なんでそんなことが起きるの・・・・?!| 」

桜子「 |300年も経っていたらいろはは居ない・・・!| 」

桜子「 |いろはがあんなに泣いて決断をしたのに・・・! これじゃ意味がない・・・!!| 」

桜子「 |なんでっ・・・なんでっ・・・・!!| 」

アイ『 >|落ち着いてください。取り乱す前にまずはその箱に入っている手紙を読んでください| 』

記憶キュレーター『 |聞いて知って見て昔の記憶。遠い過去の記憶が記されている| 』

桜子「 |手紙・・・? これのことかな・・・| 」カサッ


桜子ちゃんへ


桜子( |いろはの字だ・・・。丸みがあって綺麗で優しい字・・・。いろはらしいいろはの文字・・・| )ポタッ....

桜子( |あっ・・・。いけないっ・・・。いろはを強く感じてしまうと涙が止まらない・・・| )ポタッ... ポタッ...

桜子( |会いたい・・・いろはに会いたい・・・。でもそれをやってはいけない・・・・。いろはが悩んで悩んで悩みぬいたあの決断が本当に意味がなくなる・・・・| )ポタッ... ポタッ...

桜子( |いろはに会いたいのに会えない・・・。その矛盾を感じれば感じるほど涙が止まらない・・・| )ポタッ... ポタッ...

桜子( |涙で手紙が汚れちゃう・・・。きっと大事なことが書いてあるはずなのに・・・・| )ポタッ... ポタッ...




いろは「あ、あのっ・・・」

桜子「 |・・・?| 」グスッ...

いろは「きっと大事なお手紙なんですよね・・・? よかったら代わりに私が読み上げましょうか・・・?」

桜子「 |・・・・うん、お願い| 」

いろは「コホンッ。それでは失礼して・・・」


いろは「拝啓。雲一つないお日様の下で満開の万年桜が咲き誇る美しい光景が、未だに私の記憶に色濃く刻まれていますが、桜子ちゃんがお目覚めの頃はどうなっているでしょうか」

桜子( |桜は枯れ果てて曇天になっているよ・・・| )


いろは「私が悩みに悩みぬいた決断を下したあの日、桜子ちゃんは永遠の眠りに付きました。桜子ちゃんは、もう二度と目が覚めることはない運命ですが、その運命を覆す奇跡が起きた時のためにこの手紙を遺します」

桜子( |奇跡・・・?| )


いろは「大勢いた神浜マギアユニオンのメンバーですが、この手紙を書く頃には、結成当初のメンバーで存命なのは私とやちよさんだけになりました。そんな私も、もう長くありません。この手紙を書き終えた後に天寿を全うすると思います」

桜子( |いろは・・・。いろははやっぱりもうこの世にはいない・・・| )

いろは「今までの私の人生は、桜子ちゃんが未来の記憶を持ってきてくれたとはいえ、やはり十七夜さんが言った通り、思い通りにいかないことが多かったです。何度も選択を失敗したと後悔しました。その度に何度も泣きました」

いろは「そんなときは、桜子ちゃんが途方もない苦労をしたことを思い出しました。『桜子ちゃんの苦労に比べればこんな程度なんでもない、桜子ちゃんの頑張りを無駄にしないためにも頑張るんだ』と、そう自分を奮い立たせ、諦めず挫けず立ち止まらず、私が思い描く理想の未来を目指しました」

いろは「そして時は流れて、年老いて戦う力を失ってからからというものは、あの頃は大変だったねえ、なんて、やちよさんと思い出話に花を咲かせながら余生を過ごしていました」

桜子( |いろは・・・。長生きできたのかな・・・? いろはの人生は幸せだったのかな・・・・?| )


いろは「さて、桜子ちゃんが永遠の眠りに付いたあの後について記しておこうと思います。あれから私は悲しい気持ちが晴れることはありませんでした。どうにかして桜子ちゃんの苦労が報われ笑顔になる方法はなかったのかと毎日悩み考えました」

いろは「考えに考え抜いて、おぼろげながらその方法が見えた頃に、ねむちゃんと灯花ちゃんと話しをしました。そうしたら、二人とも同じようなことを考えていてびっくりしました。二人とも桜子ちゃんの事を、私と同じくらい大切に想っていてくれたのがとても嬉しかったです」

いろは「その方法とは、桜子ちゃんのウワサの内容を加筆することです。上手くできるかの確証がなかったので、命が無駄にならないよう、ねむちゃんが亡くなる前日にそれを決行しました。始めに行ったことは、この時間軸のねむちゃんの本に桜子ちゃんの記述を作ることです」

いろは「具現とは逆の作業ですが、具現と同じだけの魔力が必要になります。しかし、ねむちゃんの命は残り一日。感情も消えそうで、魔力も体力もほとんど残されていませんでした。なので、みんなに手伝ってもらいました」

いろは「まずはレナちゃんがしっかりと時間をかけてねむちゃんに変身しました。これで魔力の質がねむちゃんとほぼ同じになります。それからみとちゃんが、ねむちゃんとレナちゃんの心を繋げました。ねむちゃんが、永眠した桜子ちゃんのウワサの内容を正確に想像し、その想像通りにレナちゃんが本に内容を記しました」

いろは「これで桜子ちゃんの記述ができました。最後の加筆はねむちゃんの手で行いました。しかし、その頃のねむちゃんはもう手を動かすどころか、呼吸すら辛い状態でした。それでもみんなで力を合わせました」

いろは「ももこさんが激励し、夏希ちゃんが応援し、巴さんがねむちゃんの切れそうな命の糸を繋ぎ留め、あやかちゃんがねむちゃんの折れそうな心を冗談にしました」

いろは「みんな泣きながらも声を振り絞り応援をしました。それだけみんなねむちゃんが好きで、そして桜子ちゃんも好きだったからです。この時間軸の桜子ちゃんは色んな人と関わり合いを持って、たくさんの友達ができていました」

いろは「桜子ちゃんはみんなの環の中になくてはならない存在でした。時間軸は違えど、そんな桜子ちゃんのためだったらと、みんな喜んで協力してくれて、そして必死になってくれました」

いろは「そうしたたくさんの想いに支えられながら、ねむちゃんがその人生で最後に加筆したウワサの内容は」

桜子( |私がタイムマシンの知識を持てなくする?| )


いろは「 “友達に会えるまで眠り続ける” です」


桜子( |えっ・・・?| )

いろは「その一文を書き終えて、ねむちゃんは息を引き取りました。桜子ちゃんがねむちゃんの命日の記憶を持ってきてくれたおかげで、生前のねむちゃんは効率よく時間を使うことができ、課された使命を全てこなし、天寿を全うしました」

いろは「また、ねむちゃんが亡くなったことにより、この時間軸の桜子ちゃんも存在が消えました。それはとても悲しいことでした。桜子ちゃんを知る大勢の人が悲しみました」

いろは「ですが、それだけこの時間軸の桜子ちゃんが愛されていたと思うと、とても嬉しく思いました。生前友達に囲まれ楽しそうに笑っていた桜子ちゃんの事は、今でもはっきり覚えています」

いろは「だからこの手紙を読んでいる桜子ちゃんも、経験してきた苦労に見合うだけ多くの人に愛されるべきです。私が絶対にそうさせます。ねむちゃんと桜子ちゃんを送った私はその決意を新たにしました」


いろは「それからの私は今までにないくらい苦労を重ねて(それでも桜子ちゃん程ではありませんが)、キュゥべえに『タイムマシンに興味はない』という意思を持たせたることができました」

桜子( |いろは・・・| )


いろは「これでようやく桜子ちゃんを目覚めさせても大丈夫だと思いました。私もすっかり年を取ってしまいましたが、私は桜子ちゃんとの再会を期待に胸を膨らませ、万年桜まで足を運びました。しかし、桜子ちゃんは目を覚ましませんでした。ウワサの内容を加筆しただけでは一度失った命が蘇ることはありませんでした」

いろは「でも私は悲嘆にくれませんでした。加筆した内容である “友達” とは、私とは限らない、不特定の誰かです。私以上に桜子ちゃんの事を大切に想ってくれる人が現れる奇跡が起これば、きっと桜子ちゃんは再び目を覚まします。私はその奇跡を信じました。ねむちゃんの最後の命が無駄ではなかったと信じ続けました」

いろは「信じましたが、残念ながら私が生きている間にそういう人は現れそうにはありませんでした。でも、将来、途方もない年月が経とうと、その人は必ず現れ、桜子ちゃんは目を覚ますはずです」

いろは「その時のために、桜子ちゃんと親しかった人から預かっていた物があります。これは私が直接渡したかったのですが、それは叶いそうもないので、宝箱に入いれて桜子ちゃんに渡します」

桜子( |この箱の中に手紙と一緒に入っていた物がそうね| )


いろは「ねむちゃんからは、今まで考えたウワサが全て記されている本です。ウワサ同士で交流ができると以前聞いていたので、どうかこの本の中の子たちとも仲良くしてください」

桜子( |うん。この子たちが居れば退屈しなさそう| )


いろは「ういからは、自分の歌を録音したアナログレコードです。プレイヤーは太陽電池で動くよう灯花ちゃんに作ってもらいましたので、晴れた日にういの歌を聞いてください」

桜子( |今は曇っているから聞けないけど・・・。でも、このアナログレコードを見ていると、灯花とやちよの会話を思い出す。こういうアナログデータは長期間の保存に向いているって。だからきっと今でもういの歌はちゃんと保存されているはず| )


いろは「観鳥さんからは写真と観鳥報です」

桜子( |神浜マギアユニオンを結成したときにみんなで撮った写真とか、色々ある。観鳥報は、私の知らない号だ。気になる。後で読もう| )


いろは「ひなのさんからは、以前桜子ちゃんが気にしていた香水のレシピです」

桜子( |一緒にお昼したときにひなのが教えてくれた香水だ。意中の相手をメロメロにできる香水| )


いろは「灯花ちゃんからは、宝箱には入っていませんがサーバーです。里見メディカルグループが長年維持経営できるよう灯花ちゃんがしっかり基盤を築いてくれましたので、桜子ちゃんが起きた時代でもサーバーは後継者の人によって設備が更新され続け残っているはずです」

いろは「ただし、サーバーと接続する際は読み取り専用としてください。相互接続すると、桜子ちゃんが持つキュゥべえの知識でサーバーが壊れてしまうそうです」

桜子( |灯花のサーバーが残っている・・・? 接続・・・できた| )

桜子( |この時代の色んな情報が分かる。良かった・・・| )

桜子( |電気を流してポカポカ。ファンが回ってクルクル。私のことを覚えててくれた箱。私に色んなことを教えてくれる箱。これからもよろしくね| )


桜子「 |んんっ・・・・| 」

桜子( |みんなが私に贈ってくれた物がたくさん。どれも懐かしい。ずっと眺めていたいって思う| )

桜子( |嬉しい・・・。いろはがいなくてもこんな気持ちになれるなんて思わなかった。きっとねむのおかげ| )

桜子( |私は長い年月をかけて、いろは以外に興味がないウワサになってしまっていたけど、ねむが最後の命を使って内容を加筆してくれた。加筆された内容にある “友達” はいろはだけとは限らない。だから今はいろは以外の友達のことも大切に想えている| )

桜子( |それに、キュゥべえに壊された感情が元に戻っているみたい。私は私という存在に厚みを感じる| )

桜子( |・・・ううん、涙腺が緩くて前以上に感情豊かな気がする| )

桜子( |私の友達が私に贈ってくれたこの思い出の品々が、どれも輝いて見える| )




いろは「なるほど、宝箱に入っている物は万年桜さんと親しかった人からの贈り物だったんですね」

いろは「あっ、なんかすみません・・・中に何が入っているのかずっと気になっていたものでして・・・」

桜子「 |ううん。気にしないで| 」

桜子「 |これらを私に贈ってくれた友達はね、みんなずっと昔に亡くなってしまっているけれど・・・」

桜子「 |でも、こうして見ているとその時の記憶が蘇ってくる。まるでみんなが生きていた過去に戻ったみたいな感覚になる| 」

いろは「そうですか。ではその宝箱は、万年桜さんにとって小さなタイムマシンですね」

桜子「 |タイムマシン・・・? あっ・・・・・・・・・―――| 」



~~~~~~~~~~~~~~~~

桜子『 |ところで、色々な物が入っているだけのこの箱が、どうしてタイムマシンなの?| 』

いろは『ここにある物は、みんなからもらった私の大切な宝物。中身を見るだけで、こうしてその時の記憶が蘇ってくるから、それをまとめたこの宝箱は、私にとって小さなタイムマシンなの』

桜子『 |それはタイムマシンとは言わない。タイムマシンとは時間遡行を可能にする装置の事| 』

いろは『桜子ちゃんはまだ生まれたばっかりだからよく分からないかもしれないけど、これから長く生きていればきっと、素敵な思い出がたくさんできて、この宝箱がタイムマシンなんだっていう、その意味が分かる日が来ると思うよ』

桜子『 |いくら長く生きてもそんな日は来ないと思う| 』

~~~~~~~~~~~~~~~~



桜子( |―――・・・・・・・・・・・・そんな日が来たよ、いろは。600年掛かっちゃったけど、タイムマシンの意味がようやく分かったよ| 」



いろは「お手紙の続き、まだありますよ。読みますね」

桜子「 |うん。お願い| 」

桜子( |そういえばいろはが私に贈ってくれた思い出の物は何かないのかな? 今読んでもらっている手紙自体がそうなのかな?| )


いろは「そして、私からも桜子ちゃんに一つ贈り物があります」

桜子( |あっ、やっぱり何かあるんだね。宝箱の中には入っていないみたいだけど、なんだろう| )

桜子( |私の事をあんなにも大切にしてくれた人からの、私への贈り物。緊張する| )


いろは「この手紙を書いている私はもうすぐあの世に旅立ちますが、その前に、私はある “噂” を神浜の街に残しました。その噂の内容は―――



あらもう聞いた? 誰から聞いた? 万年桜のその噂。

みんなで走り回れるようにって、草原が広がっていて、みんなでお花見ができるようにって、大きな桜の木がある。

そこでは一人の女の子が眠ってる。
そこで一緒に遊んでくれる友達が会いに来てくれるまで眠ってる。
友情の証であるみかづきの宝箱を持ってきてくれる友達を待っている。

本当の友達と会えた時、眠ってる女の子は、万年の時を超えて目を覚ます。
すると大きな桜の木はそれを祝福するように満開の花を咲かせるよ」



いろは「あっ・・・。これって、私が追いかけ続けていた噂に似ている」

桜子「 |あなたが追いかけていた噂?| 」

いろは「はい。私は数年前にその噂を街の中で偶然聞いたんです。最初聞いた時からその内容がずっと胸に引っかかっていて」

いろは「眠り続けている女の子はどうして眠っているんだろう。どこで眠っているんだろう。どんな女の子なんだろう。私でも友達になれるかな・・・。とか色々考えちゃいました」

いろは「どうしても気になって、その内私はこの噂について本格的に調べ始めたんです。最初は大変でしたよ。万年桜が一体何なのか、場所も分からないし、みかづきの宝箱の意味も分からないし、何かの比喩表現かなって必死に考えたりして」

いろは「一人で考えても分からないから、道行く人に声を掛けたりもしたんですけど、緊張しちゃって、もうダメダメで・・・。同い年ぐらいの人なら話をしやすいから、そこから何とか手掛かりを集めて・・・」

いろは「あちこち探しまわって、調べまわって、そんな日々を過ごしているうちにある人に辿り着いたんです。その人は大分お年を召されたおばあさんでしたけど、モデルに負けないくらい美人で気品がある人でした」

いろは「どこか不思議な雰囲気もある人でしたけど、その人は私を見るなり、何も言わずにそのみかづきの宝箱を私に渡してくれました。それで噂が本当だったんだってやっと確信できて、飛び上がる程に喜びましたよ」

いろは「それからまた長い時間を掛けて必死に万年桜の場所を探し続けました」

桜子「 |そうしてようやくここに辿り着いた?| 」

いろは「はい。すごく大変でしたけど、なんとかここまで来られました」

いろは「でも、そっか・・・。私が追いかけていた噂は、このお手紙を書いた人がずっと昔に流した噂が元だったんですね」

いろは「私が聞いた噂の内容と違うのは、人から人へと語り継がれる間に噂の内容がちょっとずつ変わっていったからですね、きっと」

桜子「 |そうだと思う| 」

桜子「 |・・・・・・・| 」

桜子( |もしかして・・・いろはがこの噂を残した理由は・・・・| )




いろは「お手紙の続き読みますね」

いろは「噂は人から人へと語り継がれ間にその内容が少しずつ変わってしまうものです。そして私の残した噂は、具体的な場所や意味を示さない曖昧で抽象的な物です。普通に考えれば長い時間を待たずして噂自体が消えてなくなるでしょう」

いろは「それでもそんな噂だろうと、運よく捕まえて、そしてわずかな手掛かりを元に一生懸命意味を考えて、頑張って桜子ちゃんの元へ辿り着けるような子がいたとしたら―――」

いろは「えっ? あ、あれ・・・? もしかしてこれって私の事・・・?」

桜子「 |・・・・・・・| 」

いろは「つっ、続き読みますっ」


いろは「その子こそが、桜子ちゃんの目を覚ますことができる奇跡の存在です。誰よりも桜子ちゃんの事を想い、追い求めて探してくれたその子は、今桜子ちゃんの目の前にいるはずです。その子が私から桜子ちゃんへの贈り物です」

いろは「桜子ちゃんはこれからその子と一緒に、ミラーズで失った時間を取り戻してください。この時間軸の桜子ちゃんと同じように、友達をたくさん作って環を作ってください。そして噂の内容通り、いつかは万年桜の広い草原でみんなと仲良く遊んでください」

いろは「桜子ちゃんはまた長い時を生きると思います。そんな桜子ちゃんがこれから生きる世界は、私たちが幸福と希望を願って守った世界です。どうか私たちに代わってこの世界を末永く見守ってください」

いろは「それでももし、どうしても生きるのが苦痛になるようなことがあったら、その時は平行世界に渡ってください。平行世界の狭間で神様が桜子ちゃんを捕まえて私たちがいる場所まで導いてくれます」

いろは「それまでは、私たちが守ったこの世界で新しい友達と仲良く遊んでください。今までできなかったことを嫌って思えるくらい、沢山」

いろは「それでは、桜子ちゃんに明るく楽しい未来がありますように。環いろはより」

いろは「・・・・あっ、環いろは・・・。この手紙を書いた人もいろはっていう名前なんですね。私と同じ」

桜子「 |んっ・・・。いろはっ・・・・。ありがとう・・・・。私のためにいっぱい考えてくれて・・・・| 」 ウルッ....

いろは「・・・・・・・」


いろは「あ、あの、それで、えと・・・・・・・」モジモジ......

桜子「 |あなたもありがとう。手紙を読んでくれて| 」

いろは「いっ、いえっ、そんな、むしろ私の方こそ色々知っちゃってすいません・・・」

桜子「 |ううん| 」

いろは「代わりに、っていうのも変ですけど・・・。わ、私の話もしていいですか・・・?」

桜子「 |うん、あなたの事を知りたい。聞かせて| 」


いろは「あんまり面白い人間ではないですけども・・・。私は結構浮いるというか、そんな感じの人間なんです。流行っている物がよく分からなくて、クラスに馴染めなくって、疎外感を覚えることがあって・・・」

いろは「クラスメイトと一緒にお昼ご飯を食べたり、どこかに遊びに行ったりする時間はあっても、その時間を楽しいと思ったことはほとんどありません・・・」

いろは「でも、ひとりになるのは怖くて、嫌われないようにニコニコしていたら、考えていることが分からないって言われて不審に思われてしまって・・・」

いろは「もっと本音を出せたらって思うんですけど、やっぱり怖くてできなくて・・・。状況を変えたい私と怖がる私に挟まれて毎日が息苦しかったんです・・・」

いろは「あっ・・・。なんかネガティブなことばっかり言ってますね私。すいません・・・。こんなこと聞かされても気分悪いですよね・・・」

桜子「 |ううん。続けて| 」


いろは「でも、そんなつまらない私の人生ですが、万年桜の噂を知ってからは変われたんです」

いろは「万年桜の噂の内容は、非現実的で非科学的で雲を掴むような話なのに、『友達に会えるまでいつまでも眠っている女の子』という部分が、私にはすごく神秘的に感じられて、興味を惹かれました」

いろは「もし私がこの女の子に会えたのなら、こんな私でも友達になってもらえるのかなって思って、期待に胸を膨らませました」

いろは「噂を調べ始めてからは大変でしたけど、全然苦じゃなかったです。本音で語り合える友達ができるかもって思ったら、すごく楽しみだったから」

いろは「そうしてようやくここに辿り着いて、あなたと会えました」

いろは「あのっ・・・そんな訳でして・・・」

いろは「それでは、改めてもう一度聞いてもいいですか・・・?」

いろは「こんな私ですが・・・・私の友達になってください!」



   パァァッ。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。.。:+*゚ ゜゚*☆



いろは「わっ?!」

いろは「えっ・・・ええっ・・・?!」

いろは(曇っていた空が急に晴れた・・・? それに枯れていた木が一気に色づいて満開の桜になった・・・!)

いろは(春風みたいな暖かい風も吹いてきた。肌に当たるのがとても心地よい・・・)

いろは(そんな風に乗った無数の花びらが桜吹雪になって、地面が桜色に染まっていく・・・。なんてきれいなの・・・・)

いろは(桜吹雪と一緒に漂ってくる桜の柔らかくて甘くて良い香り・・・。自然と深呼吸しちゃう)


 ......ファサ

いろは(あっ、風が当たって、万年桜さんが被っているフードがめくれて顔が見え―――)

桜子「 |・・・・| 」ニコッ

いろは(わっ?!//// すっごい美人・・・////)


桜子「 |開花、満開、桜花爛漫。全てのつぼみが花開いて、私の中に溢れている| 」

桜子「 |ありがとう、私の事を見つけてくれて。ありがとう、私と友達になりたいって言ってくれて| 」

桜子「 |私の名前は桜子| 」

桜子「 |喜んで、私はあなたの友達になります| 」ニコッ

いろは「あっ/// は、はい・・・////」ドキドキ




桜子「 |・・・・・・| 」

いろは「・・・・////」ドキドキ

桜子「 |・・・・?| 」

いろは「・・・・////////」ドキドキ モジモジ...

桜子「 |どうしたの?| 」 顔近づけ

いろは「あはゃっ?!//// なっ、なんでもないですっ////」 どきどき


いろは「・・・あっ、そ、そうだっ!」

桜子「 |?| 」

いろは「さっき太陽電池で動くプレイヤーがあるってお手紙にありましたよねっ・・・?」

桜子「 |あっ、そうだね。晴れたから今ならういのレコードを聞けるかも| 」

いろは「私は初めて見る機械です。使い方分かりますか?」

桜子「 |大丈夫。灯花のサーバーにデータがあるから。こうして、こうすれば。・・・・これで聞ける| 」カチッ


 ~♪

いろは「あっ、聞こえてきた」

桜子「 |んっ・・・・・| 」

桜子( |聞こえてきたのはピアノの音。アナログレコードの音質は決して良くない。プツプツとした雑音も混じっている| )

桜子( |でも、そんなことを気にさせないほどに、古ぼけたスピーカーから聞こえてくるピアノの音色には、演奏者の感情がしっかりと乗っているのを感じる| )

桜子( |ゆっくりとした、柔らかなピアノの旋律。それは不思議とういの演奏だと確信が持てる。私はういがピアノを弾いている姿は見られなかったけど、いつも楽しそうに演奏している姿は容易に想像できる| )

桜子( |そんなピアノに続いて聞こえてきたのは| )


 ~♪
 書き記して またー、振り返って みた ~♪
 記憶は、穴だらけ だ ~♪


桜子( |少し掠れている高齢の女性の声| )

桜子( |それでも、私がよく知っている声。聞いているだけで癒される歌声。姉譲りの優しさがいっぱい詰まった、ういの声| )

桜子( |ういは私の姿を描いてくれた人。私の大切な人。病気でいつ死んでもおかしくなかったういが、その後は毎日元気よく弾き語っていたと思うと色んな感情が溢れてくる| )


 咲き誇 っている、桜ぁのような ~♪
 誰からもー 認められている ~♪
 存在にー、なりたぁいなってー、顔を上げてみた  ~♪


いろは「穏やかで、素敵な歌声ですね」

桜子「 |そうだね| 」


桜子「 |・・・・・・・・| 」

桜子( |私が守るべき4人はもういない。4人以外で親しくなれたひなのや令もいない。私とは生きている時間が異なってしまったから。

だけど、どんなに長い時が過ぎようと、その人たちの存在は確かに私の中に刻まれている。ういの歌が刻まれている、このレコードのように。

そしてからこれからの私は、新しくできる思い出も私のレコードに刻み込んでいこう。ここにいるいろはと一緒に、新しい大切な人をたくさん見つけて、大きな環を作って、それでできる思い出を。

今はまだまっしろな未来。これから色んなことに喜んだり、驚いたりして、少しずつ鮮やかにしよう。彩に溢れた幸せな未来に胸を膨らませて| )






グル『 |桜子。感傷に浸っている暇はないグル| 』

桜子「 |んっ?| 」

アイ『 >|そうですよ。せっかくできた新しい友達です。どんどんアプローチしないと| 』

ニュー桜子『 |その子と仲良くなりたいのなら私が助言してあげる。私には友達がたくさんいたから| 』

絶交階段『 |ニュー桜子の言ウ事はどこかズレてルからダメ。ニュー桜子に友達がたくさんいたノは昔のいろはのおカゲ| 』

絶交階段『 |だカラここハ私がアドバイス。友達の事なラ私に聞いテ。私のおかゲでかえでとレナは絆を深めタよ| 』

グル『 |絶交階段はその名前がもう既に不吉だからダメグル。ここは鶴乃と言うマブダチが居たグルの言う事を聞いていれば間違いないグル| 』

グル『 |まずは遊園地に遊びに行くグル! そこで観覧車に乗ってグルグルするグル!! そうすればあっという間に二人のハートは急接近グルッ!!!| 』

アイ『 >|いいえ、ここはさなという親友がいた私が助言しましょう。まずは一緒に絵本を読んで、共感をするのです。共感こそが親睦を深める一番の近道です| 』



桜子「 |親睦を深めるのね。何か会話をすればいいのかな| 」

いろは「はい?」

桜子「 |ねえいろは。香水に興味はある?| 」

いろは「香水ですか。はい、興味あります。でもそういうのはまだ早いってお母さんには言われてて・・・。私もそろそろそういうオシャレはしたいって思うんですけど・・・」

桜子「 |いろはに好きな人はいる?| 」

いろは「好きな人っ?!/// いないですよっ・・・んっ、い、いえっ、いる・・・というか・・・ついさっきできたというか・・・///」ゴニョゴニョ......

桜子「 |好きな人ができたら私に教えて。好きな人をメロメロにできる香水の作り方を私は知っているから| 」

いろは「そうなんですかっ? でしたら、今すぐにでもその香水を使いたい気分ですけども・・・///」ゴニョゴニョ.....



グル『 |ほら見ろグル。グルの思った通りグル。やっぱり香水の話題が正解だったグル。年頃の女の子はオシャレの話題が一番グル| 

アイ『 >|やはり私の思った通りです。年頃の女子は恋バナが一番です。今の会話でぐっと距離が縮みましたよ| 』

絶交階段『 |尊い。尊イ。式場はコチら。誓いノ鐘鳴らシてあゲル| 』 カーン カーン

スズノネ『私は鈴の音を鳴らしてあげる。リンリンリン♪』

ハッピースタンプ『リンリンリン♪ リンリンリン♪』

ニュー桜子『 |なんだか楽しくなってきた| 』

ニュー桜子『 |随分長い間やることがなくてみんな退屈していたけど、これからは面白くなりそうだね。この調子で私たちが助言をしてあげて桜子にたくさんの友達を作らせよう| 』

マチビト馬『 |会いたい? 新しい友達に会いたい? 会いたい人がいる? マチビト馬が会わせてあげるきっと会えるマッテマテ| 』

星屑タイムビューワ『――――――――――』

知古辣屋零号店『ああそうだね。私にも見えるよ。あの子たちの明るく楽しい可能性を。実現すると良いねえ』

ミザリーリュトン『 |ザバー! ザバー!| 』



桜子「 |もっといろはの事を私に教えて。いろはの事が知りたい。好きな食べ物はなに? 好きな場所はどこ? 好きな花はなに? 好きなピックアップガチャはなに?| 」

いろは「わっ、わっ。こんなに私の事を聞かれるのは初めてです。ちょっと照れますね・・・///」

いろは「えっと、好きな食べ物は、卯の花とかお煮しめとか」













女神様『いろはちゃんから改変が始まった不思議なレコード』

女神様『わたしの祈りが届かないそのレコードは、一度は絶望に染まって割れてしまいそうだった』

女神様『でも今は再び輝き始めた。貴女に託したレコードの巻き戻しと、改変の始まりであるいろはちゃんの祈りのおかげ』

女神様『でも気を付けて。これからは何があってもレコードの巻き戻しはできないよ』

女神様『次に貴女が平行世界に渡ろうとしたら、わたしは貴女を捕まえていろはちゃんの元へ導く。わたしはいろはちゃんとそう約束した』

女神様『平行世界へ渡りたくなる程にレコードが再び絶望に染まらないよう、貴女はこれから新しい友達をたくさん作ってね』

女神様『新しい友達をたくさん作って、大きな環を作って、いっぱい楽しんで、いろはちゃんが守ったこのレコードをもっと輝きに溢れさせて』

女神様『いろはちゃんはそれを望んでいるよ。わたしも見守っているからね。いつまでも』



女神様『だけどね? そんなこれからの桜子ちゃんは、なんだかとっても大変みたいっ!』

女神様『この時間のいろはちゃんと一緒に友達作りを頑張るんだけど、やっぱり桜子ちゃんはどこかズレてるの!』

女神様『この時間のいろはちゃんともっと仲良くなろうと思って、昔恋愛映画の撮影で学んだ決めゼリフをなんとはなしに言ったら、いろはちゃんと友達以上に仲良くなっちゃうし』

女神様『初めて話しかけた子に、私の年齢は626歳ですとか、宇宙の事ならなんでも知ってるとかっ、真面目に自己紹介しちゃって側にいるいろはちゃんを慌てさせちゃうし』

女神様『たまたま灯花ちゃんのサーバーに残っていたかのこさんデザインの服を不用意に作って着ちゃって外に出ちゃうし』

女神様『しかもその服がこの時代には結構ウケて桜子ちゃんが人気者になっちゃっていろはちゃんにヤキモチを焼かせちゃうし!』

女神様『本の中のウワサの子達も、桜子ちゃんの友達作りのために一生懸命になって、色んな意見を出してくれるんだけど、あれじゃないこれじゃないって、みんな言うことがバラバラ! もー毎日ドタバタ!』

女神様『だけどそんな桜子ちゃんの友達作り奮闘記は、また別のお話ですっ♪』



おわり


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