「カズマカズマ」
「ん? なんだよ、めぐみん」
「今晩お部屋にお邪魔しても構いませんか?」
季節は冬。
冬将軍が到来して、めっきり寒くなった頃。
倒せば春に近づくとされる雪精を狩るなどという、冬将軍を呼び寄せるリスクに見合わない馬鹿げたクエストなどには出掛けることなく、俺達は屋敷の中でぬくぬく過ごしていた。
本日は俺が食事当番だったので、腕によりをかけて手を抜いて、鍋を作り、先程平らげた。
食い残した分を小さな鍋に移し替えて、明日の朝食の汁物としてキープしてから、俺が空になった大鍋と茶碗を洗っていると、食後にひとっ風呂浴びてホカホカになっためぐみんが、しっとり濡れた黒髪から仄かに良い香りを振りまいて、洗い物をする為に腕まくりしていた袖口をちょいちょい引っ張り、ぽしょぽしょと耳元でこそばゆく囁いてきた。
その内容は、否が応でも期待せざるを得ない。
やれやれ、今晩あたり魔王を倒して世界を救おうかと思っていたのだが、予定変更しなくては。
「ひとまず世界を救うことは諦めた」
「優先順位おかしくないですか!?」
おかしくない。なに、世界は逃げやしないさ。
「それじゃ、お布団温めておいてくださいね」
「おう! 任せとけ!」
スケールの大きすぎる天秤に呆れつつも、なんだかんだで嬉しいらしいめぐみんは照れたようにはにかんで、自室に向かった。準備があるのだろう。
ならばこちらも準備を整えることとしよう。
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「アクア」
「なによ。洗い物なら手伝わないわよ」
たらふく鍋を食って暖炉の前のソファでだらけていた『自称』水の女神をまずは無力化する。
「実は良いしゅわしゅわが手に入ってな……」
「はい! 飲みたいです!」
神を名乗るだけあってこの女は大酒飲みだ。
とはいえ、神とは言いつつも糞の役にも立たず、それだけならばまだしも悉く俺の童貞卒業を阻んでくるので、泥酔させることにした。
「雑炊も食うか?」
「はい! 食べます!」
朝食用に確保していた鍋の残りを惜しげもなく使い冷えたご飯を投入して雑炊にしてやった。
これでこの迷惑な女神は死ぬほど飲む筈だ。
「アクア、おいしいかい?」
「ふぉいひぃへふ!」
「ささ、どうぞどうぞ、もう一杯」
食わせ、飲ませ、ほどなくして酔い潰れた。
「大丈夫かい、アクア?」
「カズマしゃん……わらひ、もう歩けましぇん」
「ほら、ベッドまで運んでやるから掴まれ」
「カズマしゃん……いつもありがとね」
「な、何言ってんだよ、今更」
珍しく素直に感謝されて少々調子が狂う。
ぐでんぐでんに酔っ払ったアクアをおんぶして、なるべく優しくベッドに寝かせると、すぐにスヤスヤと寝息を立て始めた。一丁あがり。
「ダクネス」
「ふへへ……ピカピカだぁ」
厄介な住人は残り1人。
頭のおかしいダクネスは、俺が気まぐれでクリスマスプレゼントとして買ってやった鎧を磨きつつ、よだれを垂らして頬ずりをしていた。
呼びかけてもこちらに気づいていない様子。
ならばと、音もなく背後に忍び寄り。
「ふぅ~っ」
「んにぁああああああっ!?」
俺が耳に息を吹きかけると、ダクネスは奇声をあげて飛び上がった。そこでふと閃いた。
「なあ、ダクネス」
「な、なんだカズマ。いきなりにゃにをする」
「今晩、俺の部屋に来ないか?」
思いつきで誘うと彼女は唖然とした面持ちで。
「へっ? そ、それは、どういう意味だ?」
「言わせんなよ、恥ずかしい」
俺はただ、両手に華を持ちたいだけだ。
本当はめぐみんとエリス様が良かったが、背に腹は代えられない。ダクネスで妥協しよう。
「別に、無理にとは言わないぜ」
「……お前には鎧を貰った恩がある」
「だから?」
「ひ、一晩だけだからな!」
人に良いことをすれば自分に良いことがあるとはよく言ったもので、俺は極上の肉布団を手に入れたわけだが、めぐみんは気に入らなかったらしく、俺と同衾するダクネスを見てキレた。
「どうしてダクネスが居るのですか!?」
「多いに越したことはないと思って」
「わ、私は数合わせの為に呼ばれたのか!?」
そんな一悶着がありつつも、なんとか3人で川の字になってベッドに潜ることに成功した。
とはいえ、計画通りなのはここまでであった。
「くぅ……くぅ……」
3人でベッドに入り、明かりを消してまもなく。
「こいつ、寝やがった……」
速攻で寝息を立て始めためぐみんに戦慄する。
大方、冬ということもあって近頃めっきり寒くなってきたので俺のことを湯たんぽ代わりにしようという魂胆だったのだろう。期待を返せ。
「ど、どうする、カズマ……?」
右隣で爆睡するめぐみんに見切りをつけて、左隣を向くと、モジモジするダクネスと目が合ったが、どうするも何もどうしようもないので。
「俺たちも寝るか」
「ええっ!? な、何もしないのか!?」
「この状況で何をする気だよ」
3人でするならばまだしも、1人が寝ている横でコソコソと致すような特殊な趣味は持ち合わせていないので、俺が目を瞑ると後ろからめぐみんが抱きついてきた。手が冷たくて驚いた。
「むにゃむにゃ……あたたかいです」
「ったく、人の体温奪いやがって……」
どうやら色々と肉付きに乏しいめぐみんは冷え性らしく、ごっそりと体温を持っていかれた俺を見かねて、正面のダクネスがおずおずと。
「カ、カズマ、もし良かったら、その……」
「では、遠慮なく」
「ま、まだ何も言ってない!?」
遠慮なくダクネスを抱きしめて、唯一の取り柄である膨よかな胸元に顔を埋めると、ダクネスは取り乱しつつも、優しく抱き返してきた。
「ダクネスはあったかいな」
「そ、そうか……?」
「知ってるか? 体温が低い人ほど、心があたたかいらしい。つまりお前は薄情者なんだな」
「な、なんだそれは!? どうしてそうなる!」
揶揄うとダクネスの体温がまた上がった。
少し速い鼓動の音が心地良くて、眠くなる。
なんだかんだ言ってもバブみ溢れるクルセイダーの温もりに包まれて、俺は意識を手放した。
「カズマ、起きてください」
「ん……なんだよ、また夜中じゃねぇか」
ふと目を覚ますと、既に深夜だった。
朝までぐっすりかと思ったが、邪魔が入った。
背後でめぐみんが何やらグズっていた。
「本当に、この男ときたら……」
「どうした、めぐみん。なんか用か?」
「私の方を向いて寝てください」
何事かと思えばそんなことだった。
寝返りを打つと、めぐみんは拗ねていた。
半べそをかいて、いじけていた。
「そんなに胸の肉が好きなのですか?」
「当たり前だろうが」
ないよりはあった方がいい。
そんなことは言うまでもなく常識だ。
話は済んだとばかりに再び寝返りを打とうとすると、そうはさせまいとめぐみんが告げた。
「こっちを見てくれたらキスをしてあげます」
「よしきた。ほらどこからでもかかってこい」
胸についた肉には唇は存在しない。
ないよりはあった方がいいのは常識だ。
なのでめぐみんの方を向いて、急かした。
「さあ来い。来ないなら俺から行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
この期に及んで何を待つ必要があるのかわからず、さては焦らすつもりだなと思って、宣言通りに急速にめぐみんに接近すると彼女は慌ててこんなことを口走った。
「お、おトイレがしたいのです!」
こいつ、いつも催してやがるなと、呆れつつもここは俺の部屋で、備えは万全であった。
「ほれ、これにしろ」
「これは……?」
「俺が愛用してる尿瓶だよ」
枕元に常備している尿瓶を手渡すと、めぐみんは顔を赤くしたり青くしたり忙しそうだった。
「し、尿瓶を愛用しているのですか?」
「そうだよ。近頃めっきり冷えるからな」
寒い日は布団から出るのが億劫である。
故に尿瓶が欠かせないのであった。
生前からボトラーであった名残でもある。
「こ、これにしろと……?」
「寒い中、トイレに行くよりもマシだろ?」
「カズマの価値観はおかしいです」
おかしいだろうか。
おかしいのだろう。
おかしくてもいい。
「俺の顔を見ながら尿瓶でおしっこしてくれ」
「こ、この男! ついに本性を現しましたね!」
そうとも、それが俺だ。
俺は佐藤和真。おしっこをこよなく愛する者。
それが本性であり、それこそが本望。
「ほら、俺が持っててやるから」
「そんな気遣い要りませんよ!」
「おい、あんまり騒ぐなよ……」
喚くめぐみんに注意するも、時既に遅く。
「むにゃ……お前たち、何を騒いでいるんだ?」
ダクネスの目が覚めてしまったので、俺は仕方なく、彼女のことも巻き込むことにした。
「ダクネス、これを持ってろ」
「なんだ、これは……?」
「今からその尿瓶にめぐみんがおしっこする」
「は、はあ?」
「しませんからね! 絶対にしませんから!!」
尿瓶をダクネスに持たせて簡潔に状況を説明すると彼女は意味がわからずに困惑して、すかさずめぐみんが断固拒否の立場を表明してきた。
「何がなんだかさっぱりわからないんだが……」
「理解しなくていいから持ってろ。零すなよ」
川の字になって眠っていたので、ダクネスは混乱しつつも手を伸ばして布団の中で尿瓶を構え、間に挟まれる俺はめぐみんを説き伏せた。
「めぐみん」
「な、なんですか……真面目な顔をしてもダメなものはダメですからね。絶対しませんからね」
「尿瓶におしっこしてくれたらキスしてやる」
めぐみんと、背後でダクネスが息を飲む。
「お、おいカズマ、それはおかしい。何ひとつ状況はわからないが、それは絶対おかしい!」
「めぐみん、どうする?」
慌てて止めに入るダクネスに取り合わずに、真っ直ぐめぐみんを見つめて再び問いかけると。
「……キス、してください」
熱に浮かされたように瞳を潤ませためぐみんが本能に負けたことにより俺の勝利が確定した。
「ま、待てめぐみん! 早まるな!!」
「ダクネスは黙っててください」
完全に常軌を逸している展開に狼狽して喚くダクネスをめぐみんは黙らせて、懇願してきた。
「キスして欲しいです、カズマ」
「だったら早く尿瓶におしっこしろ」
「一緒がいいです……ダメですか?」
まるで俺に叱られることを恐れるかのように。
おどおどしながら、そんな風に尋ねられては。
何が正しく何が間違いなのかわからなくなる。
「ダメじゃないさ。むしろそれしかないだろ」
「カズマ……嬉しいです」
「お、おい、めぐみん! 目を覚ませ!?」
ほっとしたようにはにかむめぐみんは狂っていて、それに微笑み返す俺も狂っていて、頭が沸いており、ダクネスの制止など耳に入らずに。
「カズマ……お願いします」
「ああ。ダクネスも頼んだぞ」
「もうやだ……なんで私までこんな目に」
ゆっくり、めぐみんに接近する。
ようやく観念したダクネスがそれに合わせて布団の中で尿瓶をそっとあてがい、唇が触れた。
「はむっ」
ちょろ……ちょろろろろろろろろろろろろんっ!
「フハッ!」
「きゃあっ!? ちょっと手にかかったぞ!?」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
尿瓶に滴り落ちる、聖なる尿のせせらぎの音。
めぐみんの背後の窓からちらつく雪が見えた。
オフホワイトなメリークリスマスだと思った。
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
なんだろう、この感覚は。
今なら本当に魔王を倒せる気がする。
最弱職の俺が、ようやく真の力に目覚めた。
俺が、俺こそが、魔王だった。
駆け巡る全能感は愉悦となり、高らかに哄笑を響かせた俺はおもむろに立ち上がり宣言した。
「ふぅ……さぁーて、世界を救ってくるか!」
「その前にこの尿瓶の中身を捨ててこい!!」
英雄に野暮な物言いをしたのはダクネスだ。
かなりの量が溜まった尿瓶をちゃぷちゃぷ揺らされたので、仕方なくそれを持って部屋から出ようとすると、めぐみんが恥じらいつつ。
「の、飲まないでくださいね」
その発言で一気に冷静さを取り戻した俺は真顔で頷き、真っ直ぐトイレに向かい尿を流した。
「まったく、誰が飲むかっての……ん?」
悪態を吐きつつ廊下を歩いていると、何やら。
「カズマしゃん……」
アクアの部屋から俺を呼ぶ声が聞こえたので、訝しみながら扉を開けると、寝相が悪い女神は布団をほとんどかけずに寝ていて震えていた。
「カズマしゃん……寒いよぅ」
「ちゃんと布団かけないからだろ」
嘆息しつつ布団をかけ直してやると、不意に。
「いつも、ありがとね」
「だから、やめろってば」
寝言だとはわかっていても調子が狂う。
事実、この女神には手を焼かされていた。
たまにはこうして感謝して然るべきだと思う。
けれど、本当にそれは一方的なものだろうか。
ベッドの傍らに椅子を引き寄せて腰を下ろす。
布団をかけ直すと、アクアは大人しくなった。
端正な顔立ちはまさしく女神に相応しい美貌であり、美しい青い髪に手を伸ばして、やめた。
ダクネスやめぐみんの頭を撫でるのと違う。
この女だけは、いや、この女神様だけは。
気安く触れることは憚られた。何故だろう。
いつもは盛大に頭をひっぱ叩いているのに。
「ん……カズマ」
首を傾げていると、逆に頭を撫でられた。
「カズマさんは……いい子ね」
振り払うつもりだった。
けれど、出来なかった。
何故か涙が溢れてきた。
「やめろよ……駄女神」
どうしてこんなにも嬉しいのだろうか。
「なんだよ、お前ら。ニヤニヤして」
部屋に戻ると、めぐみんとダクネスは起きて待っていて、何やら揃ってにやけ面だった。
「カズマも可愛いところがあるんですね」
「不覚にもきゅんときたぞ」
どうやら先ほどのアクアとのやり取りを目撃されていたらしい。怒鳴ろうかと思ったけど、やめた。
「……あんなの、誰だって嬉しいだろ」
「ほほう? カズマは褒めて欲しいのですか?」
「ならば、私たちも目一杯褒めてやろうか?」
めぐみんやダクネスはわりと褒めてくれる。
ちょくちょく感謝が出来るタイプだった。
けれどあの困った女神はそういうタイプではなく、だからこそ今日のあの態度は反則だった。
「きっとアクアはああ見えて、私たち以上にカズマに感謝しているのだと思いますよ?」
「決して口には出さないだけでな」
そうなのだろうか。
もしそうだとしたら。
それは気持ちが悪かった。
「俺はあいつに感謝なんかされたくないよ」
「おやおや、何を格好つけてるのですか?」
「意地を張るのはやめて、素直になれカズマ」
「そんなんじゃねーよ」
揶揄ってくる2人にこれまで思っていても口に出すことがなかったある仮説を語って聞かせた。
「もしもアクアが本気を出したらどうなる?」
そんなテーマを切り出すと、途端に2人は深刻そうな顔つきとなり、身震いして意見を述べた。
「恐ろしいことになるな」
「町が……いえ、国が滅びかねませんね」
まるで核弾頭のような認識だ。
とはいえ、それはあながち的外れではなく。
本来、アクアが持つ力とは下界に存在してはならないものであることは、明白である。
あんなんだから、ひとまずは無害であるが。
あんなんでも、神の一柱なのである。
しかも、司るのは水。極めて強大な力だった。
「前、アクセルの町を水没させたことがあっただろう? アクアは災害と同じなんだよ」
ちょっと本気を出せば町ひとつが沈む。
そのことを思い出した2人は青ざめた。
彼女達はアクアを神だと崇めていない。
無論、俺だって崇めちゃいないけれど。
それでもあいつは本物の神なのである。
「あいつはバカだから気づいていないだろうけど、水を操れるならほとんどの生物はあいつが触れただけで致命的だからな。何せ俺たち人間の身体の70パーセントは水なんだから」
もし仮に血を水に変えられたら。
ちょっと血流を弄るだけで死ぬ。
水風船のように、ぱちゅんと弾け飛ぶ。
「だから、本来ならあいつさえ居れば俺たちは必要ないんだよ。でも、あいつはバカだ」
アクアは知能が低い。
自らの権能を有効活用出来ないほど。
故に、俺や仲間たちの存在意義が生まれた。
「そんな奴に感謝されても複雑というか、お門違いというか、とにかく気持ち悪いんだよ」
俺が投げやりにそう結論付けると、ダクネスとめぐみんは反論することが出来ずに、黙りこくった。それぞれ思うところがあるのだろう。
「カズマは色々と考えているのですね」
「能天気な自分達が恥ずかしくなるな」
最終的に感心されてしまったのでますます虫の居所が悪くなった俺はふて寝することにした。
「もう寝ようぜ。考えても始まらないだろ」
再び、3人で川の字になって横になる。
今度は3人共仰向けで、物思いに耽った。
考えても始まらないが人間は考える葦である。
死ぬまで、栓なきことを考え続けるのだろう。
「カズマカズマ」
「なんだ?」
「何故アクアはベッドに呼ばないのですか?」
その理由は簡単であり明白だ。
口に出すことすら、憚られる。
だから俺は何も言わなかった。
めぐみんはそれで察したらしい。
「敵いませんね、アクアには」
「ああ、まったくだ」
両隣で苦笑し合うめぐみんとダクネス。
とはいえ、気を落とされても困る。
仮にこの2人まで神となれば俺はどうなる。
3人の女神にヒキニートが1匹なんて笑えない。
「あいつはドジだけど、器用なとこもある」
ぼんやり独り言を口にすると両隣が頷いた。
「たしかに、アクアはいつもやらかしていますが、どうでも良いところで超人的ですよね」
「ああ、宴会芸やら芸術方面やらでは人外だ」
うとうとしながら、思い出に浸る。
初めてアクセルの町にやってきて。
右も左もわからず、女神は頼りにならず。
日銭を稼いで、その日暮らしの毎日。
もともとヒキニートの俺には生活力などなく。
力仕事をすれば、すぐに身体が悲鳴をあげた。
重たい石やら木材を何度も落として叱られた。
アクアは壁にセメントを塗るのが得意だった。
けれどあいつに比べられることはなかった。
それぞれの役割で立ち回り、衝突はなかった。
今から思えばあれはあいつなりの配慮だったのかも知れないと思ったが、流石に考えすぎか。
栓なきことだ。考えても始まらない。けれど。
「ひとつだけ言えることは」
両隣がこちらを向いた。照れつつも、続けた。
「感謝してんのは、こっちの方だってことだ」
あいつのおかげで今、俺はこの世界に居る。
散々世話を焼かされたが、おかげで自立した。
もし仮にあいつが本当に有能な女神であれば、俺はずっとダメな人間のままだっただろう。
「アクアに感謝しないといけませんね」
「そうだな」
なんのことかと首を傾げると、両隣から。
「カズマを立派に育ててくれたことをですよ」
「そうだな。ま、まあ……私としては駄目人間でも全然構わないというか、むしろその方が……」
「台無しですよ、ダクネス」
本当に駄目人間をやめられて良かったと思いつつ、今度こそ朝までぐっすりと俺たちは眠り。
「カ、カズマ! 見て! 今朝起きたら枕元にこれがあったの! 私ってば日頃な行いが良いからきっと地球からサンタさんが来てくれたのよ!」
翌朝。
何やら興奮状態のアクアに起こされて。
昨夜枕元に置いといた、とっておきの高級しゅわしゅわを抱きしめて喜ぶアクアに念を押す。
「良かったな。ちゃんと良い子にするんだぞ」
「うん! わかったわ!」
ちなみにめぐみんの枕元には尿瓶を置いといた。
【この素晴らしい聖なる夜に祝福を!】
FIN
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