北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で はちかいめ」 (35)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「……♪」(藍子に膝枕をされている)

藍子「~~♪」(加蓮に膝枕をしている)


「あ、あの!」


加蓮「!」ビクッ

藍子「あ、あはは……。こんにちは。なんだか、少しだけお久しぶりですね」

藍子「またいらしてくれて、私のことのように嬉しいです♪」


「アッ」
「……おーい、死ぬなー? ホントこいつがいつもすみません」

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レンアイカフェテラスシリーズ第101話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「12月中ごろのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「寒い冬のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「灰を被っていた女の子のお話」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「クリスマスのお散歩を」

藍子「いえいえっ。今日もおふたりなんですね」

藍子「お忙しい時期かもしれませんけれど……ここにいる間は、ゆっくりしていってください♪」

藍子「……あはは、なんてっ。私も、ゆっくりさせてもらっているんですけれど……。仲間ですねっ」


「」
「ほわー……」


加蓮「相変わらずサービス過剰だねぇ」ボソ

藍子「そ、そうでしょうか。ひいきみたいになっちゃったかな……?」

加蓮「……藍子はそのままでいいわよ。っと」オキアガル

藍子「あ……」シュン

「あ、あああの、あの!!」
「ほわー……はっ。そうだった!」


加蓮「ん?」

藍子「もしかして、何かご用だったのかな……?」


「あのえとあのえと、あの、えと!」
「よし、言え! そこで言うんだ!」
「い、いえっさー! か、か、加蓮、さん!」


加蓮「イエッサーって……。え、私? 藍子じゃなくて?」

藍子「みたいですね。ほら、加蓮ちゃん」ズイ

加蓮「こら、押すなっ」

加蓮「私にでいいのー? 今なら藍子が、もっと優しくしてくれるかもよ? ふふっ」


「アッ」
「……すんません。いやホントいつもこいつがすんません。ただ殺さないでやってください」


加蓮「あははっ」

藍子「も、もう。加蓮ちゃんっ」

「はっ。あの、あのあのあのえと、加蓮さん!」
「おー復活した。さあ、チャンスは何度だってあるぞ! 頑張れ!!」
「加蓮さんっ――気に、気にしてませんから! 私! 応援してるの、変わらないですから!」
「よく言った!」


加蓮「藍子ー。なんかだんだん私のついていけない世界になってるー」

藍子「今の加蓮ちゃんなら、ついていけると思いますよ?」

加蓮「……それ真面目に言ってる? だから私そーいうキャラじゃないからね?」

藍子「……。そうですねっ」

加蓮「なんか山ほど言いたいことがありそうだね??」

加蓮「っと、ごめん。えっと……気にしてないって、何が――」

加蓮「……あー、いや、えと。ほら、普段は違うんだよ? むしろ私が甘えさせている側? みたいな?」

加蓮「うん。カフェにいる時だけだし、その、……ね?」


「???」


藍子「……たぶん、伝わっていないと思います。それに向こうが言いたいことも、それではないと思いますよ」

加蓮「あれ、違うんだ。てっきり加蓮ちゃんがごろにゃーしてるのがイメージと違う! みたいな話かなって」

藍子「ごろにゃ~?」

加蓮「何でも無い。違うなら、何のこと?」


「あの……加蓮さんのこと、みなさんが色々言ってること……」

「病院のこととか、加蓮さんのこととか……ひどいこと言ってる人達……同情を誘ってるんじゃないか、偽善者だ、なんて言ってる人達がいること……!」

「私、気にしてませんから!! か、加蓮さんのこと応援してます!」


加蓮「あー、そのこと」

藍子「加蓮ちゃんのこと、心配してくださってたんですね」

加蓮「大丈夫。私も気にしてないし。どうしてもそういう声が嫌だって思っていたら、最初からやってないもん」

藍子「……ふふ」

加蓮「でもありがと。藍子だけじゃなくて私のことまで気にしてくれて。……そうだ。もうクリスマスは終わっちゃったけど、2人にも何かプレゼントあげよっか!」

加蓮「今何かあったかな……? んー、ないなぁ。今度また何か用意しとくね」


「よかったぁ……えっ、えっ、ぷれぜんと!? ……あっ、ああっ、ありがとうございます!」
「おー偉い。ちゃんと言えたね!」


加蓮「あっ。せっかくなら藍子ちゃんと一緒に写真を撮ってあげよっかー? 今はプライベートだし、思いっきりくっついちゃってもいいよー? ほら、こんな風に」(藍子を抱き寄せる)

藍子「わっ」


「」
「……すんません。ホントすんません。もうちょっと手加減してやってください……」


加蓮「はい残念。耐性をつけたらまたおいで? 写真はその時に撮ってあげる」

藍子「あ、あははは……」

<くそう、こいつ相変わらず重いな……! カフェでスイーツばっか食べてるから……!
<アイコサントシャシン...クッツイテシャシン...ウヘヘ...フヘヘ...
<だからその顔はやめなって


加蓮「よし、行った」

藍子「そんな、お邪魔みたいな言い方をしなくても……」

加蓮「邪魔とまでは言わないけど、せっかくの膝枕タイムだもん。あっち行ってくれたってことで――藍子ー、もっかいー♪」

藍子「はいはい。どうぞ」ポンポン

加蓮「お邪魔します」ゴロン

藍子「……♪」ナデナデ

加蓮「えへへっ……おちつくー……」

藍子「……♪」ナデナデ

藍子「今日の加蓮ちゃんは、ずいぶんと甘えんぼさんなんですね」

加蓮「なんかさ、そーいう気分……」

藍子「大丈夫ですよ~。大丈夫。今、ここでなら、誰も見ていませんから」

藍子「今日は、満足いくまでここにいてくださいね~」ナデナデ

加蓮「んー……」

加蓮「……あ、でも、あの子達がまた来たら教えてね? さすがに見せたくないものとかってあるから」

藍子「……、」

加蓮「どうしよっかなーって悩むなっ」

藍子「加蓮ちゃんこそ、耐性ではありませんけれど……慣れちゃうのはどうでしょうか?」

加蓮「む」

藍子「確かに、事務所のみなさんのいるところや、あのおふたりがいるところで……こうするのは、私もちょっぴり気にはなります」

藍子「でも、それに慣れさえしてしまえば――」

藍子「加蓮ちゃんはいつでも、甘えたい時に甘えられるようになるんですよっ」

藍子「ちょっぴり疲れちゃった時や、寂しくなった時とか。ううん。何の理由がなくても!」

加蓮「うぐ……。それは魅力的すぎな提案なんだけど……!」

藍子「ねっ?」ナデナデ

加蓮「や、やだ。私だって譲れないところはあるのっ」ブンブン

藍子「それは残念」

加蓮「今の私だからこそ、その辺はきっちりと……ね?」

藍子「今の加蓮ちゃんだからこそ――」

加蓮「自分で言うのも何だけど、なんか今回のクリスマスの件でさ。色々と吹っ切れたっていうか、色々飛び越えたっていうか……」

加蓮「生きていく上でやらないといけないことや、制限、制約って言うのかな。足枷とか、そういう感じの物。それが一気に壊すことができて、すっごく軽く、自由になった感じ。身も心もねっ」

藍子「うんうんっ」

加蓮「だからこそ、引き締めるところは引き締める的な? オンオフとか、人に頼りすぎないとか」

加蓮「だけど今日は甘えていい日ー」ゴローン

藍子「ふふっ」ナデナデ

藍子「そうですよね。その方が、加蓮ちゃんらしいですよね」

藍子「色んな冗談を言って周りを困らせたりもするけれど、格好いいところは格好良くて、真剣なところでは誰よりも真剣で……」

藍子「今まで、そうやってアイドルをやってきましたもんね。……ごめんなさい。変な提案をしちゃってっ」

加蓮「謝る程のことじゃないし、相変わらずよく分かってるー」

藍子「だって、こんなに近くで見続けていますもん。じ~」

加蓮「……近くって物理的な意味なの?」

藍子「じぃ~」

加蓮「…………」

藍子「じいぃ~」

加蓮「………………言いたいことがあるならどーぞ?」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「はいはい」

藍子「私も、その……ほしいなぁ、って」

加蓮「欲しい?」

藍子「プレゼント……」

加蓮「……? あぁ、クリスマスプレゼント? さっきあの2人に言ったから――って、藍子にはあげたでしょ?」

藍子「ええっ」

加蓮「お散歩に付き合ってあげたじゃん。私だって楽しかったけど、あれって元々藍子へのクリスマスプレゼント代わりって話でしょ?」

加蓮「それに24日の方で事務所に参加したパーティーでも、なんかせこいことしてちゃっかり私のプレゼント掻っ攫ってったし?」

藍子「ぎくっ」

加蓮「あれ実際どうやったの? 絶対何か仕込んでたでしょ」

藍子「そ、そんなこと、私はしてませんよ?」

加蓮「この至近距離で加蓮ちゃんを誤魔化せるって本気で思ってる?」

藍子「う……」

藍子「……その……ぐ、偶然です。本当に偶然なんです。ただ、加蓮ちゃんのプレゼントがすごくほしい、ってお話を、少し前にモバP(以下「P」)さんにしていて……」

藍子「そうしたら、ちょっとだけ細工できるって言われちゃったから」

藍子「……その……」

加蓮「うーっわ、一番やっちゃいけないことやりやがったよこの子。PさんもPさんだけどさぁ」

藍子「そ、それよりも加蓮ちゃん。聞いてくださいっ」

加蓮「何?」

藍子「プレゼント交換の時に、加蓮ちゃんの用意したプレゼントが私に渡ったじゃないですか」

藍子「その時に、色々な方からおめでとうって言ってもらえて……そ、それでちょっぴり良心が痛んだりもしましたけれど……」

藍子「それと一緒に、みなさん、うらやましいって言っていましたよ。きっと、加蓮ちゃんのプレゼントを欲しがってたんだと思いますっ」

藍子「よかったですね、加蓮ちゃん♪」

加蓮「……。入門用ネイル一式、そんなに需要あったんだー」

藍子「えい」ペシ

加蓮「った。痛いんだけどー?」

藍子「違うって分かっていて、言いましたよね?」

加蓮「さーね」

加蓮「とにかく藍子へのプレゼントはあげたでしょ。ネイル一式と、25日のお散歩。2つももらっておいて、まだ足りないの?」

藍子「……」

加蓮「……欲張りだねぇ」

藍子「……よくばりなことを言ってるって、自覚してます」

藍子「でも、さっき加蓮ちゃんが、お2人にも何か渡してあげようって言った時……」

藍子「私も、ほしいなぁ、って」

藍子「ほら、パーティー用のプレゼント交換のプレゼントって、誰に渡ってもいいように用意しましたよね?」

藍子「そういうのではなくて――」

藍子「あの……」

藍子「……わ……」

藍子「わたしのために、なにか用意してほしいなぁ……なんて……」

藍子「…………あぅ」

加蓮「…………すんごい顔真っ赤な様子をこの距離で見せられるって、これ何の罰ゲームよ……」

藍子「そ、そんなこと言われたって! あっ、加蓮ちゃんだって顔赤くなってるじゃないですか! ほら、耳のところも!」ピト

加蓮「~~~~っ!?」

藍子「あっ」

加蓮「~~~っ、あいっ……藍子ちゃあん? いきなり耳たぶを触るってどういうつもりかなぁ? そんなにお仕置きされたいのかなぁ……??」

藍子「ごめんなさい、ついっ。許して~~~っ」

加蓮「もう落ち着いたからいいけど……。冬にそれやるのはホント駄目だよ。いや春でも駄目。どの季節でも駄目。反則」

藍子「は~い……。ごめんなさい、加蓮ちゃんっ」

加蓮「いいよー。……代わりに、いつか同じことで仕返しするからね。それがいつかは教えてあげないけどっ」

藍子「…………そ、そういうのは、やめませんか?」

加蓮「えー」

藍子「だって! それじゃ私は、いつ加蓮ちゃんに敏感な場所を触られるかわからないまま、毎日を過ごさないといけないじゃないですか。そんなの、落ち着かなくなっちゃいます!」

加蓮「いや言い方」

藍子「そうだっ。加蓮ちゃんが触りたいのなら、今触ってください。それでお互いさまってことにしましょう!」

加蓮「いや言い方――」

藍子「さ、さあっ!」

加蓮「……えーと」

藍子「うぅ……」ドキドキ

加蓮「…………えーっとさ」

藍子「焦らさないでっ……! やるなら、はやくやってっ。覚悟は決めましたから!」

加蓮「………………うん。ごめん。やらないから。だからその、なんかそういうのはやめよ?」

藍子「ふぇ?」

加蓮「分かった。私が悪かったから。やらないから。だからやめよ? やめて?」

藍子「……????」

加蓮「色々理不尽だなぁ……」


□ ■ □ ■ □


藍子「――あっ、店員さん。コーヒー、ありがとうございます♪」

藍子「……加蓮ちゃん? あの、そっぽを向いて顔を隠しても、加蓮ちゃんがそこにいることは店員さんから見えますから」

加蓮「違うの。これはあれなの。藍子の膝の上が心地良すぎて離れられないからで、だから藍子が悪いの!」

藍子「えぇ……。もう、ほら。店員さんも、気にしていませんよ、だって」

加蓮「とにかく違うんだからね……!」

藍子「認めちゃえばいいのに……。店員さん。また後で、加蓮ちゃんの分のコーヒーも注文しますね。加蓮ちゃんが、膝の上から離れられた時に」

加蓮「余計なこと言うなっ」

藍子「……えへ♪」

藍子「コーヒー、いただきますね」ズズ

加蓮「いただいちゃえー」

藍子「~~~♪」

加蓮「……」

藍子「……♪」ズズ

加蓮「……藍子ー」

藍子「はい」コトン

加蓮「頭が寂しい」

藍子「ふふっ……もう。コーヒーを飲んでいる間だけ、我慢してくださいよ~」

藍子「今日の加蓮ちゃんは、本当にどうしちゃったんですか?」

加蓮「甘えるなら思いっきり甘えてやれー、って思っちゃった。甘えていいっていつも言ってるのは藍子でしょー」

藍子「は~い」ナデナデ

藍子「~♪」ズズ

藍子「あっ」コトン

藍子「~~♪」ナデナデ

加蓮「……♪」

加蓮「……気にしてない、か」

藍子「~~……?」

加蓮「ううん。今、ほんのちょっと向こうから声が聞こえてきて……。ほら、あの子達の」

藍子「本当っ。何かお話しているみたいですね」

加蓮「気になる? ひょっとしたら藍子の話をしてるかもよ?」

藍子「それは……もしそうなら気になっちゃいます。でも今は、加蓮ちゃんのお話の続きが聞きたいかな……?」

加蓮「大したことじゃないよ。あの子にさっき言われたこと思い出しちゃった。色々言われてる、っていうアレ」

藍子「……、」コトン

加蓮「うん。事実なんだよね。しかも思ってたより結構言われた」

加蓮「どうせ同情を誘う目的だろとか、偽善者とか。……そういうことだけはしないと信じてたのに、っていう声は……さすがに堪えたかな。覚悟はしてたのにね」

加蓮「Pさんから、今回のことはあまりエゴサしたり気にしたりしない方がいい、って言われてたんだけどさ」

加蓮「そういう声が来ることを覚悟の上で、それでも子供達の為に――そして私の為に受けたことだもん。キツイ声だって、受け止める義理があるよね」

藍子「……もしかして、今日の加蓮ちゃんがすっごく甘えんぼさんな理由って」

加蓮「あ、それとこれとは別ー」

藍子「あはは……。それなら、よかった」ナデナデ

加蓮「そう?」

藍子「嘘でも、気休めでもなくて」

藍子「私もちょっぴり見てみたんですけれど……そんなこと言う人、1人か2人くらいしか見当たりませんでしたよ?」

加蓮「そう?」

藍子「加蓮ちゃんの優しいところが見られた、とか、こういうことまたやってほしい、とか、意外だった、見ていて暖かい気持ちになった、ファンになった……そんな声ばかりでした」

藍子「……ひどいことを言う人は、ほとんど見ませんでした。それで私、安心したのに」

加蓮「おかしいね。私と藍子で違う世界に住んでるのかな?」

藍子「……」

加蓮「……冗談。……ごめん、泣かせそうなこと言って」

藍子「ううん」フルフル

加蓮「ま、あの子達に言ったように気にしてないんだけど。色々覚悟の上なんだし、そんな物とは比べ物にならないほど遥かに大きな物をもらったんだし……」

藍子「きっと、病院のみなさんも、加蓮ちゃんと同じように――ううん。加蓮ちゃん以上に、そう思っているハズです」

加蓮「ふふっ。知ってるー」

藍子「……あははっ。もう、加蓮ちゃんってば」

加蓮「ちょっと不純かもしれないけどさ。こいつら全員LIVEで黙らせてやろう、なんて目標もできちゃったりして――」

加蓮「って、うっかりPさんに言ったら怒られちゃった」

加蓮「怒られた……っていうより、駄目だって言われた。そういうのは加蓮らしくないし、そういう心持ちでいてもファンのみんなは見抜いてくる……って」

加蓮「……見抜かれることを指摘されたのは、すっごく悔しかったなぁ。そういうところで負けるのは、藍子にだけって思ってたし」

藍子「……」ナデナデ

加蓮「こら。今は撫でるタイミングじゃないっ」

藍子「……そうなんですか?」

加蓮「分かってないなー。こういう時の藍子は分かってない」

藍子「じゃあ、もっと加蓮ちゃんのことが分かるようにならなきゃ」

加蓮「これ以上何を見透かすっていうの。また欲張りさんモード?」

藍子「……加蓮ちゃんはどうしてほしいんですかっ」

加蓮「さぁ? ……ふふっ」

加蓮「マイナスの気持ちを持つのはやめるって決めたもんね。うるさい人達のことは放っとく」

加蓮「……あ、でも、信じてくれてた人への信頼だけは取り戻したいかな」

加蓮「時間、かかるよね……。こういうの」

藍子「……大丈夫。加蓮ちゃんが、病院の方々への考えを変えられたように……加蓮ちゃんを信じてた方にもう1回信じてもらうことも、時間をかければ……ねっ?」

加蓮「そうだよね――って、言っとくけど。あいつらのことは嫌いなんだからね?」

藍子「そうでしたね」

加蓮「そうそう、聞いてよ藍子。看護師さんがウザくなってさー」

藍子「どうしたんですか?」

加蓮「25日の夜に1回連絡が来たの。それに丁寧に応えてあげたら、なんか味を占められちゃって」

加蓮「次の日にまた連絡が来て。もしかして何かあったのかなって心配したらさ、なんて言ったと思う?」

藍子「ありがとう、とか?」

加蓮「そんな優しい物ならブロックしてはいさよならで終わるわよ!」

藍子「……それも結構ひどいことをしているような」

加蓮「"身体が弱いのは変わってないんだから、夜は早く寝ましょうね"よ!」

加蓮「何なの? なんで今になっても保護者面できるの?? そしてなんで私が一番ウザいって思うことをピンポイントで言えるの!!??」

藍子「あの看護師さん、加蓮ちゃんのことをいっぱい分かっていましたよね」

加蓮「分かってたなら他のメッセージ寄越しなさいよ!」

藍子「たとえば?」

加蓮「……そもそも寄越すなっての」

藍子「え~。じゃあ、看護師さんはどうしたらいいんですか?」

加蓮「どうもしなくていいから……。メッセージとか心配とか、いらないからっ」

加蓮「……そんなに気になるなら、アイドルやってる時の私を見てくれれば、それで十分だから」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「…………何」

藍子「それを、看護師さんに送ってあげましょ? きっと看護師さんも、その一言が――アイドルの自分を見て、って言葉がほしいんだと思いますよ」

藍子「加蓮ちゃんが、昔を思い出したくないって言っていたのと同じように――」

藍子「看護師さんだって、いつまでも、昔の2人の……看護師さんと加蓮ちゃんの間柄でいたいとは、思っていないのかなって」

藍子「勝手な予想になっちゃいますけれどね。こんなこと言ったら、看護師さんに怒られちゃうかな?」

加蓮「私だって怒るからっ……」

藍子「でも、間違ってはいませんよね?」

加蓮「…………」

藍子「よかった♪」

加蓮「はぁ……。もういいのになぁ。いつまでも私のことなんて見てないで、他の患者のこと見てなって」

藍子「じゃあ、その他の患者さんにも加蓮ちゃんをいっぱい見せてあげるのはどうですか? 看護師さんに、見せてあげて、って言ってあげてっ。みんな、もっと元気になるかもしれませんよ」

加蓮「どーしても私のファンを増やしたいみたいね?」

藍子「はいっ」

加蓮「ふぅん? そんな呑気なことでいいのかなー、アイドルの藍子ちゃん。なんか私より知名度が低いことにショック受けてたみたいだけどー?」

藍子「なっ……! そ、それを言うのは反則です、ひきょうですっ」

加蓮「くくっ。しらない! だってさー」

藍子「もうっ、も~っ! あれはっ……そう。私は、加蓮ちゃんのファンを盗りたいって思っているわけではないので、あれでいいんです。あれでいいんです……」

加蓮「んー? 目がそう言ってないっぽいけど?」

藍子「い、いいんですもん」

加蓮「嘘はよくないよ、藍子。ほらほら、正直に言っちゃいなって」

藍子「うううぅ……!」

藍子「私だって! 私だって、もっといっぱいの人に、笑顔と幸せな時間を贈ってあげたい……っ!」

加蓮「うんうん、その意気!」

加蓮「……もしかしたら、なんだけどさ」

藍子「もしかしたら?」

加蓮「藍子っていつも誰かの幸せを願ってるよね。みんなが笑顔になればいいなって。藍子って、すっごく優しい子だよね」

藍子「そ、そうでしょうか? 私は、ただ私がやりたいからそうしているだけで――」

加蓮「それを他人から見たら優しいって言うの」

藍子「む……。加蓮ちゃんは、他人じゃないもんっ」

加蓮「え? ……いやそういうことじゃなくて、じゃあ周りから見たらって言い換えるけど。それはともかく」

加蓮「それに対して、ほら、昔の私って嫌な物ばっかり見てきたでしょ?」

加蓮「ちいさい頃の加蓮ちゃんからは卒業だー、なんて言ったけど、ひょっとして今もそういうところが残ってるのかも」

加蓮「世界の嫌な部分とか、嫌いなところとか、自分に対するキツイ言葉……」

加蓮「そういうのって、誰でも見たくはない物かもしれないけど」

加蓮「慣れて来ると――それが当たり前の環境にいると、人ってマイナスを求めるようになるの」

加蓮「自分が可哀想じゃないと落ち着かない。不幸せじゃないと自分じゃない。それを自分の価値や、自分の定義として思い込む」

加蓮「やがて環境が変わって、すぐ近くに幸せがあるような場所に移れても……。そういう人って昔の癖のまま、自分が可哀想であることを求め続けることがあるの」

加蓮「もしかしたら今までの私には、そういうところがあったのかもね」

加蓮「……本当にたまに、悩んだことあったもん。私が不幸せだったから藍子が優しくしてくれて、そういう始まりがあったから、今こうしていられるのかな――なんて」

加蓮「ふふっ。さすがにこれは藍子に対して失礼すぎるし、そういう最初の頃――昔の頃なんて考えすぎてもしょうがないし、あと、今の私にはどうしようもないもんね」

加蓮「だから、本当にたまになんだよ?」

藍子「……それくらいのことで、私があなたのことを嫌いだなんて言うと思いますか?」ナデナデ

加蓮「思わない」

加蓮「私と藍子が見ている物が違うのも――今回のことで、私にはキツイ言葉や優しくない声がたくさん見えたのも、そうなのかもね」

加蓮「藍子は、プラスの言葉をいっぱい見つけることができるのかもしれないけど……私は無意識のうちに、マイナスを探しちゃってたのかな」

加蓮「まだ、心のどこかで私は、無意識のうちに……あるいは自分がそう望んで、自分が可哀想だって言える材料を探してしまっているのかもしれない」

加蓮「だからさ、藍子」

加蓮「んー……何て言うか……」

加蓮「この前はゆるふわは絶対嫌だーなんて言ったけど、私、藍子の優しいところとか、幸せを見つけられるとこに憧れてるかもっ」

藍子「加蓮ちゃん――」

加蓮「でもゆるふわ加蓮ちゃんはやっぱりヤダなぁ。ちょっとそれは私じゃないでしょ」

加蓮「ねー藍子。どうしたらいいと思う? 藍子みたいになる為には、やっぱりゆるふわにならなきゃ駄目?」

藍子「……もうっ。加蓮ちゃん! 私のことを、何だと思っているんですか?」

加蓮「すっごく優しくて、みんなに幸せを分けてあげられてみんなに愛される、すごいアイドル」

藍子「え」

加蓮「? 何だと思っているのかって聞かれたから答えたけどー? あっ、ひょっとしてまだ足りなかった? じゃあ加蓮ちゃんによる"藍子ちゃんはすてきなアイドルだよ!"プレゼンを3時間くらい――」

藍子「しないでいいですしなくていいですっ。……加蓮ちゃん、いつもこういう時、悪口を言ったり、皮肉を言ったりするから。びっくりしちゃいました」

加蓮「そっちを言ってほしかった?」

藍子「違いますけれど……」

加蓮「――あーあ。だからさぁ? 私はこんな話する為にここに来てるんじゃないし、藍子に会ってる訳じゃないの」

加蓮「なかったのになー……。癖って嫌だよね。またやっちゃった」

藍子「……自分を変えるために自分を否定しちゃ、駄目だと思いますよ?」

加蓮「ん……あぁ、そういうことなのかな。この前のことも、今日のことも」

藍子「はい。きっと」

藍子「向かい合いたくない時には、向かい合わないで。未来へ歩いていきたい時は、ゆっくり歩いていって……」

藍子「でも、加蓮ちゃんの中にいるのかもしれない"ちいさい頃の加蓮ちゃん"が表に出たがっている時は、素直に出してあげましょ?」

藍子「その時は、私も一緒に受け止めますから……」

加蓮「ありがと。……でも、私は前を向いてっ。藍子みたいな優しいアイドルを、ほんの少しだけ目指してみることにする」

藍子「あの日の病院の子どもたちみたいに、加蓮ちゃんが色んな方の笑顔をいっぱい増やしていく未来……私も、一緒に見てみたいです」

加蓮「ん。さんきゅ。頑張る」

藍子「ううん。こちらこそ。私もっ」

加蓮「……」

藍子「……♪」ナデナデ

加蓮「……」

藍子「……♪」ナデナデ


「」
「うん。今回の死にどころは私にも分かる。……あはは……これ、聞いてよかったのかな……? ……すごいなぁ……」

加蓮「……よしっ。シリアスモードしゅーりょー! ココアでも注文しよっかっ」

藍子「えっ」

加蓮「え?」

藍子「……も、もうちょっとだけ後にしませんか? あっ、加蓮ちゃんの言うシリアスなお話は終わりでもいいですけれど、ほら……ココアを飲むのなら起き上がらないといけないから……もうちょっとだけ、ね?」

加蓮「何それっ、結局藍子がやりたいってだけじゃん! しょうがないなー」ゴロン

藍子「やったっ。……♪」ナデナデ

加蓮「ふふっ……」


「ハッ! ……アッ」
「……ごめん、そっちの死にどころはちょっと分かんない」


【おしまい】

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