高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「手を握りながらのカフェで」 (32)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「藍子ー、あっためてー♪」

高森藍子「いやです」

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レンアイカフェテラスシリーズ第103話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「灰を被っていた女の子のお話」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「クリスマスのお散歩を」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で はちかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「新年の後のカフェで」

加蓮「えー。冷たくない? ほら、寒い寒い外を必死になって歩いてきて、手も顔も冷たい加蓮ちゃんが凍えてるよ?」

加蓮「ほらほら、こんなにも悲しそうな目をしてるよ。よく見て?」

加蓮「ってことは、もうやることは1つしかないよね?」

藍子「…………。加蓮ちゃん。確かに、加蓮ちゃんの言いたいことや、その気持ちは分かります」

加蓮「でしょ?」

藍子「冬には冬の楽しさがありますけれど、でもやっぱり寒いのは大変ですもんね」

加蓮「ねー」

藍子「最近は、朝お布団から出る時よりも、その後の方が大変だなって思うようになって……」

加蓮「分かる分かる! しかもそういう時に限ってお母さん、キッチンにしかストーブつけてなかったりするんだよね。灯油代がどうこうって」

藍子「ストーブがつくまでの時間は、もう考えたくもありませんよね……。あの時だけは、時間にもっと早く過ぎてほしいって思ってしまいます」

加蓮「ふふっ。もっとゆるふわ時空を上手く操れれば、そんな悩みもなくなっちゃうのにね」

藍子「あはは……。ここは、マンガやドラマの世界ではありませんからっ」

加蓮「さっすが藍子。今日も加蓮ちゃんの気持ちがよーく分かってるねー。じゃ、今加蓮ちゃんがやってほしいことだって分かってるよね?」

藍子「……加蓮ちゃんが、冷たそうな手をどこに伸ばして私をびっくりさせようか考えていなければ、私だって素直に加蓮ちゃんのお願いを聞いています」

加蓮「バレてた!?」

藍子「分かりますよ……」

加蓮「だってさー……。藍子、私が座るなり無言で席の端の方に寄ったでしょ。それのせいで微妙に手が届きづらくて」

加蓮「かといって藍子に合わせて藍子の正面まですり寄ったら、何やろうとしてるか一発でバレちゃうし」

藍子「そんなことしなくてもばればれですっ」

加蓮「ちぇ。ま、だから端っこの方に行ったんだよね」

藍子「ばれているって分かっていても、やるんですね」

加蓮「後には引けないことってあるでしょ?」

藍子「その意思の強さはもっと別の場所で使ってくださいっ」

藍子「……はぁ。加蓮ちゃん。おかしなイタズラをしないって言うのなら――」スッ

加蓮「え、それフリ? 悪戯していいですよーってこと?」

藍子「……………………」ジトー

加蓮「ごめんごめんっ。うん、しないしない。寒くて手が冷たいのもマジ」

藍子「……。加蓮ちゃん」

加蓮「うん。なあに?」

藍子「はい、加蓮ちゃん。手」スッ

加蓮「手」

藍子「ぎゅ~っ♪」

加蓮「おー……」

藍子「本当……。加蓮ちゃんの手、すごく冷たいですね。手袋、つけてこなかったんですか?」

加蓮「カバンの中に入れたつもりだったんだけどね。やっちゃった」

藍子「ふふ。次からは、ちゃんと入れているか確認してから家を出るようにしましょうね」

加蓮「はぁーい」

藍子「どうしても忘れてしまう時は、玄関に手袋やカイロを置いてしまうのも手ですよ」

藍子「靴棚の上……は、ちょっぴり狭いかな……?」

加蓮「狭いしちょっと暗いから、なんか虫とか寄ってきそうで嫌かも。冬なら大丈夫かな?」

藍子「大丈夫だとは思いますけれど、せっかくですから明るいところに置きましょう」

藍子「玄関に何か小さな棚や椅子のような物を置いて、そこにお出かけセットを準備しておくっていうのはどうでしょうかっ」

加蓮「そしたら出る時に忘れないもんね」

藍子「はいっ♪」

加蓮「カバンにカイロを入れてたことを忘れて2つ入れる、ってことが起きそう? 笑い話になるかも」

藍子「その時は、寒そうにしている周りの方に貸してあげてくださいっ」

加蓮「あ、いいねそういうの」

藍子「でしょ?」

加蓮「恩を売っておけば後々ー、みたいな? カイロをあげるから肉まんよこせー、くらいがちょうど……ふふっ。藍子はそういう考えなんてしないか」

藍子「もうっ」

藍子「玄関には、手袋とカイロと、マフラーと、あとは……そうですね」

藍子「前にお出かけした写真を写真立てに入れて、飾っておくことをおすすめします」

加蓮「写真……?」

藍子「ふふ。写真。ほら、お出かけセットって、お出かけするための物を置く場所じゃないですか」

藍子「お出かけする時用の場所に、お出かけした時のものを置いて……。なんだか友だちや仲間同士でいるみたいで、ちょっと面白くありませんか?」

加蓮「あー。ネイル道具のところにネイルに関係するものを並べたり、髪飾りのところにヘアブラシも置いとくとか、そういうの?」

藍子「そういうことになるのかな……? たぶん、そんな感じです」

加蓮「帰ったらやってみよっと。ああいうのってテキトーに置くとすぐ部屋が汚くなっちゃうもんね」

藍子「部屋や道具の片付けをする時には、まず分類から考えてみるといいと思いますよ。その後は、それをどこに置くかですっ」

加蓮「ね。今度お父さんにそれ聞かせてやろ。藍子が言ってたよー、って教えてやろ」

藍子「私が?」

加蓮「生意気な娘が言うより、素直で可愛い藍子ちゃんのアドバイスって伝えてあげた方が聞いてくれそうかなって思って」

藍子「そんなことないですよ~。ぜひ、加蓮ちゃんの言葉として教えてあげてくださいっ」

加蓮「聞いてくれるかなー」

藍子「お手伝いが必要そうなら、加蓮ちゃん、手伝ってあげたらどうですか?」

藍子「そうしたら……ほらっ。その後に、何か買ってもらえるかもしれませんよ~? 肉まんとかっ」

加蓮「あれっ。藍子が藍子らしからぬことを言ってる」

藍子「えへっ」

加蓮「……たはは。じゃあ、肉まんを2つ分ねだって一緒に食べてあげるフリをして――藍子の家に逃げ込むっ」

藍子「ええっ」

加蓮「お父さんと一緒に食べる分だと思った? これは藍子の分だよ♪」

加蓮「……」

加蓮「……想像したらお父さんがものすごい可哀想だからやめとく」

藍子「そうしてあげてください……」

加蓮「玄関の写真だけどさ。例えばどんな写真を飾るといいと思う?」

藍子「どんな写真でもいいと思いますよ。あっ、自分で撮った写真を飾ると、また撮りに行きたいって思うかもしれませんから、特におすすめですね」

加蓮「実体験?」

藍子「ふふ。ちょっぴり」

加蓮「……はっ。そうやってお散歩したい気持ちにさせて誘わせようと? 相当高度なことやるね、藍子……!」

藍子「……?」

加蓮「あははっ。まぁそっか」

加蓮「あ……。けど、ちょっとタイミングが悪かったな」

藍子「タイミング……」

加蓮「私のスマフォさ、容量がちょっとキツくてこの前まとめて消しちゃったんだよねー」

藍子「残念。加蓮ちゃんの写真も、たまには見せてくださいね」

加蓮「興味ある?」

藍子「加蓮ちゃんの見る世界、見てみたいですから♪」

加蓮「って言っても藍子の見る世界とそんな変わらないと思うけどね……。あと相変わらず風景とか撮るの下手でさ。藍子のと見比べると自信なくしちゃうし?」

藍子「写真は、上手い上手くないだけではありませんよ。それに加蓮ちゃん、一緒に歩いている時も、アイドル活動している時も、私がぜんぜん気がつかなかったり見つけられなかったことに目を向けてるから――」

加蓮「目をって。何それー。お前のことはいっつも見てるぞ、って脅しー?」

藍子「ええっ」

加蓮「これは下手なことできないなー。ちょっと大人しくしなきゃ」

加蓮「それで、誰かにどうしたのって聞かれたら声を潜めてこう言うの。"そこの扉の陰から藍子に見張られてる"」

藍子「私をホラー映画の黒幕みたいにしないでください……」

加蓮「こういうのは小さい子達にやるのが一番いいよね。あっ、今からハロウィン衣装をお手入れし直しとく?」

藍子「やりませんっ」

加蓮「ねね。誰をびっくりさせるのが一番面白いかな。普段大人しい子、ありすとか由愛ちゃんとかいいよね。ううん、逆にいつも元気いっぱいな子が腰を抜かす方を見てみたいかなー?」

藍子「だから、やりません!」

加蓮「えー」

藍子「もう……。そんなこと言うのなら、加蓮ちゃんのこと本当に見張っちゃいますよ。そうすれば加蓮ちゃんも、周りにいたずらをすることもなくなりますね♪」

加蓮「藍子がそういうことするなら私もやるからね。カメラマン系アイドル高森藍子。そのプライベートにカメラを向けてみた! みたいな企画で」

藍子「企画……!?」

加蓮「ふふふふふ……。藍子。今の私がモバP(以下「P」)に頼めば大抵の企画は通るのよ? その意味が分かるかな……?」

藍子「う……」

加蓮「いいのかなー? 歌鈴と話してる時のお姉ちゃん通り越してお母さんっぽさすらある藍子とか、未央と遊んでる時にいつになくはしゃいでる藍子とか、テレビにSNSに大公開だよ?」

藍子「そ、それはその、ちょっと恥ずかしい……あっ! それだったら私だって、Pさんにお願いして、加蓮ちゃんのオフショットをいっぱい撮って、みなさんに見せちゃいます!」

加蓮「ほぉ?」

藍子「私よりも……ううんっ。私も……アイドルですけれど。だけど加蓮ちゃんのオフショットだってみんな見たがってるハズですから!」

加蓮「させないから。藍子がどういう手口で盗撮してくるかはもう研究しつくしてるからね。今度は私が撮る番だよ?」

藍子「そんな、人をいつも隠し撮りする人みたいに言わないでくださいっ。分かっていると言うのなら、新しい方法を編み出してみせます」

加蓮「やれるもんなら――」

藍子「……加蓮ちゃん?」

加蓮「いや……。私がPさんに相談して、藍子も相談したとするじゃん」

藍子「はい」

加蓮「そんなに手間のかかることじゃないし、Pさんのことだから私にも藍子にもオッケーを出してくれると思うんだよね。何ならどうしたら面白くなるかアドバイスもしてくれるかも」

藍子「はい」

加蓮「そしたらさ……。お互いスマフォとかハンディカメラとか持って相手を追っかけることになるじゃん」

藍子「そうなってしまいますね」

加蓮「でさ。どっかでばったり出くわしたりして、その時にどっちもカメラ持ってんの」

加蓮「私はカメラを持った藍子を、藍子はカメラを持った加蓮ちゃんを撮ることになるの? って考えたら」

藍子「うくっ」

加蓮「ちょっと……なんていうか、変だよね」

藍子「あははははっ……! それは確かに、すっごくおかしな光景ですね……っ。あははは……!」

加蓮「……ツボに入っちゃったかぁ」

藍子「あはは……っ!」

加蓮「ま、そういう訳で。そういうのはやめよ? 私もやらないから」

藍子「ふふ。は~いっ」

加蓮「……こっそり自分だけやる、っていうのは無しだからね」

藍子「しませんよ。加蓮ちゃんこそ、やっちゃ駄目ですからね?」

加蓮「もし隠れてやってたら、藍子のこと1ヶ月くらい高森さんって呼んでやるっ」

藍子「やりませんってば。では、もし加蓮ちゃんが隠れてやっていたら――」

加蓮「ぎくっ」

藍子「……やるつもりだったんですね」

加蓮「いやいや。演技。今の演技。やると見せかけてやらない。やらないやらない」

藍子「なんだかすっごくウソっぽいです……」

藍子「では、そうですね。加蓮ちゃんのことはもちろん信じています。いつも色々なことをやる加蓮ちゃんですけれど、こういう時にはやらないでいてくれるって」

加蓮「……なんか微妙に心に来るんだけど??」

藍子「でも、もしも……。本当にもしも、加蓮ちゃんが裏でこっそりPさんに相談して、私のオフショットを撮っているってことになったら――」

藍子「加蓮ちゃんのこと、一生呼び捨てにしちゃいますっ」

加蓮「やめよう」

藍子「私も慣れないかもしれませんけれど、でも大丈夫。いつか慣れる時が来ますよね?」

加蓮「そのネタを使うのそろそろやめよ?」

藍子「こういうのってきっと、アイドルと同じなんです。最初のうちは、激しいダンスやテンポの早い歌がうまくできなかったけれど、練習すればできるようになるのと同じで――」

加蓮「あの、藍子? 盗撮の話とアイドルのマジトークを並べるのってどうかと思うよ??」

藍子「そうだ。加蓮ちゃんもいつかは呼ばれることに慣れられますよね。今から練習してみましょうっ」

加蓮「やだ! 絶対やだ! っていうか私まだ何もしてないじゃん!?」

藍子「加蓮ちゃんのことですもん。明日、ううん、今日にでもPさんに相談して、企画を立てちゃうんですよね?」

加蓮「アンタさっきと言ってること真逆になってない!? 信じてるって話は!!?」

藍子「後になって慣れていないと、困ってしまうかもしれません。それなら、今から慣れた方がいいと思いますよ~」

加蓮「後になって藍子に呼び捨てされるの確定になるっておかしいでしょ! ああもう……しないって言ったらしないわよ。そもそも私がやらなくても、藍子ってプライベート結構見せてる方じゃん!」

藍子「しないんですか?」

加蓮「なんで残念そうにするかな……!」

藍子「さっきも言いましたけれど、私の見る世界と加蓮ちゃんの見る世界は、似ているようで違いますから」

藍子「加蓮ちゃんの目に映る私が、どんな姿をしているか。どんな私のことを、魅力的だと思ってくれるのか……ちょっとだけ、興味があるな、って」

加蓮「……ハァ。そういうことしてほしいなら別件で相談しに来なさい。私にできることならやってあげるから」

藍子「はいっ」


□ ■ □ ■ □


加蓮「話戻すんだけどさ。玄関に飾る分の写真がないから、藍子に何か1枚譲ってほしいなって」

藍子「私の?」

加蓮「うん。何かこういい感じの写真とか……風景写真なんかでもいいや。なんかそういうのって無い?」

藍子「ちょっと探してみますね。え~っと……。これとかどうかな……?」(右手だけ離してスマートフォンを操作しながら)

加蓮「見せてー」

藍子「はい、どうぞ」

加蓮「さんきゅ。お、綺麗な写真。こういうの………」

藍子「……気に入りませんでしたか?」

加蓮「ううん。藍子らしくていい写真だなって思うよ。でも、綺麗な色の木の写真はちょっと冬っぽくないかなー、なんて」

藍子「それもそうですね。では……これは?」ポチポチ

加蓮「道端のちいさな雪だるまだっ。ちびっこが作ったヤツかな?」

藍子「加蓮ちゃん、ちいさな子どもが好きですから、こういうのがいいかなって♪」

加蓮「いや待ちなさい。いつの間にそんなことに――」

藍子「サンタさんになって、子どもたちにあんなにすてきな笑顔を向けられる加蓮ちゃんが、子どもを嫌いなわけないですよねっ」

加蓮「……絶妙に否定できない言い方するね」

藍子「そういえば、あの時のことをPさんにご報告したら、Pさんが誰か他の人に、サンタさんの加蓮ちゃんのことをお話したみたいで」

加蓮「また余計なことをっ。それで?」

藍子「それから数日して、何人かにずるいって言われてしまいました」

加蓮「……何が?」

藍子「ほら、私あの時に加蓮ちゃんと一緒にいたじゃないですか。そのことだと思いますよ。一緒にサンタさんをやりたかった、って」

加蓮「えぇ……」

藍子「人気者ですね、加蓮ちゃんっ♪」

加蓮「だからそういうのは私が言われる側でしょ……」

藍子「ひょっとしたら、少し前まではそうだったかもしれません。でも、今は私が言われてしまう側です」

藍子「……うふふっ。ずるい、って言われることが嬉しく感じるなんて、なんだか不思議っ」

加蓮「ああもう! とにかく、誰が作ったかわからない雪だるまの写真はいいわよ。もしかしたらお酒で酔っ払ったおじさんが作ったものかもしれないじゃん!」

藍子「ええぇ……」

藍子「これ以外なら……。これとか?」

加蓮「傘に乗った雪の写真――」

藍子「これなら、出かける時に傘を忘れることもなくなるかもしれません」

藍子「それに、今年はまだ雪が降っていないから……」

藍子「せめて写真の中だけでも、冬の気持ちになれるといいな、って!」

加蓮「いやいや。外出たら寒いし普通に冬って感じがするじゃん。っていうか玄関でも十分寒いし」

藍子「む~。それはそうですけれど……」

藍子「他の写真なら――」

加蓮「……、ねえ藍子。なんとなくなんだけど、藍子のスマフォの中には私が気に入る写真がないと思うんだよね」

藍子「そうでしょうか?」
(スマートフォンをテーブルに置いて、左手で加蓮の手を包み込み直す)

加蓮「さっきの藍子の話……ほら、私と藍子で見てる世界が違うっていうヤツ」

加蓮「私はそうは思わない――そうだとなんだか寂しいから同じであってほしいな、なんて思……と、とにかくっ」

加蓮「見てる世界が違うなら、価値観も違って、生き方も違うよね」

藍子「……そうですね。でも……私が言い出したことですけれど、違う違う、なんて言われてしまうと、少しさみしくなっちゃいます」

加蓮「じゃあ、ときどき違うくらいで」

藍子「それくらいにしましょうっ」

加蓮「私達の世界はときどき違って見えるよね。藍子の気に入った風景でも、私にはピンと来ないかもしれない」

加蓮「藍子の好きな写真でも、私には濁って見えるかもしれない」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「だからね、私も藍子も好きになれる風景も、写真も、なかなか見つからないと思うの」

加蓮「……あとは分かるでしょ? こういうのは、藍子の口から聞きたいな」

藍子「……」

加蓮「ねっ?」

藍子「…………」

藍子「……なかなか見つけられないものでも、時間をいっぱいかければ見つかるかもしれません」

加蓮「そうそうっ」

藍子「確かに私たちは違った生き方をしています。でも時には、歩いていく道が交わっている、そんな場所を探してみるのもいいと思います」

加蓮「ふふっ。大げさー」

藍子「……そういえば、今年はまだ、加蓮ちゃんに言っていなかったかな?」

加蓮「そうだね。今年はまだ泊まりに……うん? 言って……??」

藍子「加蓮ちゃん」

藍子「その……。私、ときには加蓮ちゃんを怒らせてしまったり、不機嫌にさせちゃうこともあるかもしれませんけれど――」

藍子「でも、そんな私でも良ければ」

藍子「今年もいっぱい、あなたと一緒の時間を過ごしたいから……その……」

藍子「加蓮ちゃん。今年も、よろしくお願いしますっ」ギュ

加蓮「……………………」

藍子「なんて。ちょっぴり格好つけすぎちゃいましたか……? でも、たまにはいいですよね。こんなことがあっても♪」

加蓮「えーと……藍子ちゃん?」

藍子「はい。藍子ですっ」

加蓮「いやごめん……。なんかごめん……」

藍子「ふぇ?」

加蓮「違うの……。私はただ、"それなら私の家まで来て、気にいる写真を一緒に探してみますか?"って言わせたかっただけなの……」

藍子「……はい?」

加蓮「まさかそんな真面目に捉えるとは思わなくて……。なんかごめん……!」

藍子「…………え~っと」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……い、一緒に写真を探してみますか?」

加蓮「今じゃなくて! 言ってほしかったの、今じゃないんだけど!」

藍子「ひゃあっ。加蓮ちゃん、手をぶんぶんしないでっ」

加蓮「あ、ごめん……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……あー……。ごほんっ」

加蓮「こ、今年もよろしくね? 藍子……ちゃん」

藍子「あ、はいっ。……って、加蓮ちゃん。どうしてカフェの入り口の方を見て……? 誰か来て……は、いないみたいですね」

加蓮「……なんか正面から改めて言うのって恥ずかしくて」

藍子「え~。私はちゃんと言いましたもん。今度は、加蓮ちゃんが言う番です。ほら、もう1回っ」

加蓮「いやいいじゃん、もう言ったしっ」

藍子「駄目です。あっ、そうだ。……ごほんっ♪」

藍子「北条さん。今のシーン、もう1回お願いします」キリッ

藍子「……やっぱり、加蓮ちゃんって呼びたいな」

藍子「ごほんっ♪」

藍子「加蓮ちゃん。今のシーン、もう1回行ってみま――行ってみ、みようかっ」キリッ

藍子「……なんてっ」

加蓮「私で遊ぶな! そもそも私は基本1発でOK出せるから撮り直さなくていいでしょ!」

藍子「それはすごいですけれど……。でも、今のは駄目です。NGです。だからほら、もう1回っ。ねっ?」

加蓮「もー……。ああもうなんか顔熱いし……。今の私って絶対顔真っ赤でしょ……」

藍子「大丈夫ですよ。じ~、と見ないと気づかないくらいですから」

加蓮「アンタは即見抜くでしょうがっ」

加蓮「あー……。ん、分かった」

加蓮「私こそ、藍子を傷つけたり怒らせたりすることもあるかもしれないけど……。でも、やっぱり藍子と同じ時間を過ごしたいから。今年も一緒にいてくれたら嬉しいな」

藍子「……加蓮ちゃん」

加蓮「……これでいい?」

藍子「はいっ♪ あ、ううん。撮影の時の雰囲気だから……。ごほんっ♪」

藍子「お、おっけー! ナイス演技でした、北条さん!」

加蓮「演技じゃなくて100%本音なんだけど!!??」

藍子「手をぶんぶんしないでっ」

加蓮「私にリテイク要求するなら藍子にも! ほら、藍子ももう1回言いなさいよ」

藍子「もう1回?」

加蓮「写真を探しに来ますか、ってお誘いセリフ。ほらほらっ」

藍子「ごほんっ。……加蓮ちゃん。よければ、私の家まで来て、一緒に写真を探してみますか?」

加蓮「……ふふっ」

藍子「……あはは……。私まで顔が赤くなってきちゃいます。これでいいですか?」

加蓮「ただ誘うだけなのにー?」

藍子「も、もうっ。そ、そういえばお母さんが久しぶりに加蓮ちゃんに会いたがっていましたから、いい機会かもしれません」

加蓮「藍子のお母さんのせいにするんだ」

藍子「ううぅ~」

加蓮「ふふ。そろそろやめてあげる」

加蓮「そうと決まればお母さんに連絡しとかないと。どうせ誰かさんに暖かい部屋に閉じ込められて、今日は帰れないだろうし?」

藍子「閉じ込めちゃいますよ~。私も、お母さんに連絡しますね。晩ごはん、加蓮ちゃんの分も、って♪」

藍子「……今日は加蓮ちゃんと一緒にご飯を作るってことにしちゃおうかな?」

加蓮「こら。聞こえてる。藍子が作るのはいいけど、私は作らないからね?」

藍子「わ。あ、あははは……」

加蓮「さてっ」グイ

藍子「ひゃ」

加蓮「……あれ?」

藍子「……?」

加蓮「えーとさ」

藍子「はい」

加蓮「あれ?」

藍子「……??」

加蓮「あれ、……手、ずっと握ってもらいっぱなしだったっけ?」

藍子「はい、そうですよ?」

加蓮「……無意識だった、てか忘れてた」

藍子「私は、さっき加蓮ちゃんに写真を見せた時に思い出しましたっ」

加蓮「そういえば……。じゃあその時そのまま離せばいいのに。さすがにもう冷たくないよ? 逆にちょっと汗かいてくるくらい」

藍子「そうですね。加蓮ちゃんの手、温かくなってます♪」

加蓮「それ半分以上は藍子の体温だから……。じゃあ、思い出したってことで離して?」

藍子「…………、」ギュー

加蓮「なんで逆に力込めてんのっ」

藍子「つ、ついっ。じゃあ、力を抜きますので、加蓮ちゃんの方から離してください」

加蓮「なんでよ。藍子から握って来たんだから、藍子から離してよ」

藍子「寒いから握ってほしい、って言ったのは加蓮ちゃんですっ」

加蓮「握ってほしいとまで言った覚えはないんだけど!」

藍子「顔に書いてありました!」

加蓮「書いてない文字を勝手に読むの、いい加減やめなさいって!」

藍子「む~っ」

加蓮「ぐぬぬ……。なんか前に足湯のカフェに行った時も同じようなことしたよね」

藍子「しましたね……。それなら、あの時と同じように、いっせーの、で離しませんか?」

加蓮「はいはい。じゃそうしよっか。いっせーの、」

藍子「……、」

加蓮「……、あの時にも同じようなことしたよねぇ藍子!」

藍子「それは加蓮ちゃんもです!」

加蓮「そもそもあの時と違って藍子が手を握ってんだから私がどうこうしても離せないんだし――」スッ

藍子「あ」

加蓮「あっ」

藍子「……振りほどいちゃけましたね」

加蓮「……」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「何」

藍子「さみしい、って顔に書いてます」

加蓮「書いてない」

藍子「ふふっ。今日寝る時は、ぎゅって手を握りながら寝ましょうね♪」

加蓮「書いてないし握らない! 私はそこまで子供じゃないわよ!」

藍子「そうだっ。加蓮ちゃんのオフショットに、また1つ追加しなきゃ。"眠りながらぎゅ~っと手を握る加蓮ちゃん"♪」

加蓮「だから! 寝顔を撮るなって何回も言ってるでしょうがっ」

藍子「寝顔ではなくて、寝ている加蓮ちゃんの手を撮るつもりですよ?」

加蓮「それも駄目! あと、"また1つ"追加って何。また私の知らないところで撮りまくってんの!?」

藍子「あっ……。あ、ああ~っ、そういえばきょうは、おかあさんがいそがしいっていっていたようなきが!」

加蓮「アルバム! この子アルバムに入れてる! やっぱPさんに相談して藍子のプライベート晒しまくってやろ……。私だけ撮られてるの納得いかないし!」

藍子「ま、まあまあ。その、写真は撮っていいですから、落ち着いてくださいっ」

加蓮「うがー!!」



藍子(ちなみに後日、加蓮ちゃんはPさんに相談するも駄目だと言われました)

藍子(……加蓮ちゃん。さすがに、"盗撮をやり返したいからそういう企画をやらせて!"って言うのは、どうかと思いますよ……?)

藍子(ちなみに、盗撮、という部分でPさんが加蓮ちゃんのことをすごく心配してしまって、色々と説明した結果、私もちょっぴりだけ怒られてしまいました。あはは……)


【おしまい】

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