【バンドリ】短い話 (70)


※バンドリ3期の先行上映とかを見てパッと思い付いたことを書いたいくつかの短い話です。

 一部キャラ崩壊してます。

 最初の2つ以降の話にバンドリ3期4話目までの若干のネタバレ要素があります。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1579147158


☆ばーん!


――CiRCLE スタジオ――

美竹蘭(ひょんなことから、アフターグロウでこころと一緒に歌うことになった)

蘭(こころ曰く、)

弦巻こころ「たまにはそういうのも楽しくていいわね!」

蘭(とのことで、別にそれはあたしだって全然構わないし、たまにはいいかなって思える)

蘭(けど……こうして練習していると、どうしても気になることがある)

蘭「…………」

宇田川巴「蘭?」

蘭「え?」

巴「どうかしたのか? さっきから何か微妙な顔してるぞ」

蘭「そうかな」

羽沢つぐみ「うん……ちょっと様子がおかしく見えるよ」

青葉モカ「そうだねぇ。スイーツとダイエットを天秤にかけてるひーちゃんみたいな顔になってるよ~」

上原ひまり「えっ、私っていつもそんな感じの顔で悩んでるの?」

蘭「……そっか」


こころ「蘭、全然笑顔じゃないわね。どうかしたのかしら?」

蘭「まぁ……なんだろうな。ちょっと気になることがあるっていうか……その、こころ」

こころ「なにかしら?」

蘭「あのさ……えぇと、なんて言えばいいんだろ」

こころ「遠慮はいらないわ! 気になることがあるなら言ってちょうだい!」

蘭「それじゃあ……もう少し、こう、カッコよく歌えない?」

こころ「カッコよく?」

ひまり「カッコよく……」

つぐみ「うぅん?」

巴「どういうことだ、蘭?」

蘭「……こころがさ、私の後に『Bang!』って歌う場所あるでしょ?」

モカ「歌うね~」

蘭「それがさ、どう頑張って聞いても『Bang!』でも『バーン!』でもなく、『ばーん!』で……なんか、気になるんだ」


ひまり「あー……」

つぐみ「分かるような……」

こころ「……?」

巴「こころは全然分かってねーみたいだぞ」

蘭「うん、まぁ……こころだしそうなると思ってた」

こころ「よく分からないけど、とにかくカッコよく歌えばいいのね!」

蘭「まぁ、そうしてくれるとあたしは嬉しい」

つぐみ「それじゃあ、もう一回やってみよっか」

モカ「おっけ~」

蘭「うん。じゃあ……その前の部分から入りで」

ひまり「りょーかいだよ!」

巴「そんじゃ、行くぞ!」

――カン、カン、カン、カン

蘭「Right here Right now!」

こころ「ばーん!」

つぐみ(なんだろう……)

ひまり(蘭がああ言ってたせいなのかな……)

巴(さっきまで気になってなかったけど……)

つぐみ&ひまり&巴(ふたりの歌声のギャップがすごい気になる……!)

蘭「Right here Right now!」

こころ「ばーん!」

モカ「ば~ん」


―演奏後―

蘭「いや、こころ……変わってない」

こころ「あら、そうかしら?」

ひまり「うん……私も蘭が言ってるの聞いたら、すごい気になってきちゃった……」

巴「アタシも……」

つぐみ「あ、ふたりもなんだ……」

モカ「あたしは全然気にならなかったよ~」

巴「そりゃあモカはなんか、途中から一緒に歌ってたしな……」

蘭「……よし、こうなったら直そう」

ひまり「直す?」

蘭「こころ」

こころ「なにかしら?」

蘭「あたしの後に続いて、同じように『Bang!』って歌ってみて」

こころ「いいわよ!」


蘭「それじゃあ……Bang!」

こころ「ばーん!」

蘭「違う、そうじゃない。Bang!」

こころ「ばーんっ」

蘭「そうじゃないんだって。Bang!」

こころ「ばーん?」

蘭「どうしてそんな疑問形になるの。Bang!」

こころ「バーン!」

蘭「それ。それが少し近い。もう少し寄せて。Bang!」

こころ「ばーん!」

蘭「なんで戻っちゃうの……」

ひまり(なんか、一生懸命ワンちゃんにお座りとか教えてるみたい)

つぐみ(カッコいい声で歌う蘭ちゃんの後の『ばーん!』だからすごい可愛く聞こえてたけど……こうやって見ると蘭ちゃんもなんだか可愛い……)

巴「もうそこだけアタシが歌おうか?」

蘭「いや、大丈夫。これはこころとあたしが歌わなくちゃいけないから」

巴「意地になってんなぁ……」


蘭「Bang!」

こころ「Bang!」

蘭「あ、それ! その調子で……」

モカ「ば~ん」

こころ「ばーん!」

蘭「モカっ!」

モカ「えへへ~、すまんすまん~」

つぐみ(モカちゃん、構って欲しかったのかな)

ひまり(飼い主の作業を邪魔しにくる猫みたい)

蘭「Bang!」

こころ「ばーんっ!」

蘭「ああもう! だからどうしてそんな可愛い歌声になるの!」

巴「あー、なんだ。蘭、ほどほどにな?」

蘭「分かってるよ。Bang!」

こころ「ばーん!」


☆ツインテールと生徒会役員ども


――カラオケボックス――

氷川日菜「ねーねーおねーちゃん! 次はこれ一緒に歌おー!」

氷川紗夜「あなたはさっき歌ったばかりでしょう。次は羽沢さんの番なんだから、もう少し大人しくしていなさい」

つぐみ「よかったら日菜先輩も一緒に歌いますか?」

日菜「うん、歌う歌うー!」

紗夜「すみません、羽沢さん」

つぐみ「いえいえ」

市ヶ谷有咲「…………」

白金燐子「市ヶ谷さん……どうかしましたか……?」

有咲「あ、いえ……別に大したことじゃないんで」

燐子「そうですか……? なんだか不思議そうな顔になっていましたけど……」

有咲「まぁ……なんつーか、ちょっと気になるっていうか……あの、今日のこれって、羽丘の生徒会との親睦会ですよね?」

燐子「はい……」

有咲「……の割には、顔ぶれがいつも通り過ぎて……」

燐子「ああ、そのことですか……。それには……深い理由があるんです……」

有咲「理由?」

燐子「はい……。それを語るには……まず、市ヶ谷さんがあの3人を見てどう思うか……です……」

有咲「あの3人……」


つぐみ「え、あれ、私が入れた曲が変わってるような……」

日菜「みんなの心 ひとつになり キラりん☆ ……ほらほらつぐちゃん、tick-tackしてひゃぁうひゃぁしなくっちゃ!」

つぐみ「えぇと……ひゃぁ、うひゃぁ?」

紗夜「……かわいい」


有咲「日菜さんに振り回される羽沢さんと紗夜先輩の図、ですね」

燐子「それだけですか……?」

有咲「それ以外だと、羽沢さんも大変だなぁー、とかですかね」

燐子「そうですか……」

有咲「他に何か思うことありますか?」

燐子「たくさん……ありますよ……。例えば……」

有咲「例えば?」

燐子「あれを見てください……」


つぐみ「冷ーえーたー手ーをー」

日菜「つーなげばー!」ギュ

つぐみ「あ、あーたーたーかーいー」

日菜「おねーちゃんも!」ギュ

紗夜「ちょっと、日菜……」

つぐみ「きみと、ならば、どんな、事も」

日菜「怖くはないなーい! トゥナイト!!」

紗夜「私はともかく、歌っている羽沢さんの手を取らないの」

つぐみ「だ、大丈夫ですよ。ちょっとびっくりしましたけど……慣れてるので」

日菜「ねー! 羽丘の生徒会室とかでもたまに繋ぐし!」

紗夜「生徒会室で何をやってるのよ、あなたは……」


燐子「……ね?」

有咲「いや、そんな『分かるでしょう?』みたいな顔されても分かりませんよ……」

燐子「……やっぱり、伝えたいことは……言葉にすべきですね……」

有咲「ええ、そうすべきだと」

燐子「単刀直入に言うと……妹さんに振り回されつつもおねーちゃんする氷川さん……」

有咲「はい」

燐子「氷川さんがいてとても嬉しそうにはしゃぐ日菜さん……」

有咲「はい」

燐子「ふたりと仲が良く、とてもいい立ち位置にいる羽沢さん……」

有咲「はい」

燐子「そんな3人がカラオケボックスという、一種の閉鎖空間で仲良くしている……」

有咲「はい」

燐子「素敵な百合の花が……風に揺れていますよね……?」

有咲「ごめんなさい、一から十まで理解不能です」


燐子「実は……この様子を録画してあるんです……」

燐子「これを後日、氷川さんたち抜きで鑑賞するのが……本当の親睦会なんです……」

有咲「ホントごめんなさい、一切理解できません」

燐子「まぁ……それは後日の鑑賞会で理解してもらえれば……」

有咲「すいませんその日は予定入れるんで無理です」

燐子「市ヶ谷さんはツンデレですね……。Poppin'Partyの……みなさんにだけはデレるのかな……ふふっ」

有咲「ツンデレじゃないですし嬉しそうな顔でそんなこと言わないでください」

有咲(すげー今さらだけどヤベーよ花女と羽丘の生徒会役員ども……)

有咲(燐子先輩、『わたしがいる時は……Poppin'Partyのみなさんで……生徒会室を使っていいですよ……』って言ってくれてたけど……なんかもう、それが善意からの言葉に聞こえねー……)


紗夜「一つが二つあって 笑い合えたら一つで」

紗夜「二人が分かち合って たった一つの願い」

日菜「ひゅーひゅー! おねーちゃーん!」

つぐみ「紗夜さんの歌声、優しくて素敵だなぁ」

紗夜「悲しみのない世界で 眠って 眠って」

紗夜「明日の事とか それはまた別のお話」


有咲「……私も悲しみのない世界で眠りたい」

燐子「膝枕……しましょうか……?」

有咲「いえ結構でございます」


☆気が合う人たち


――ラーメン屋 カウンター席――

巴「やっぱ人気のお店だけあって混んでるなぁ」

宇田川あこ「ねー! びっくりしちゃった!」

巴「しっかし、本当にラーメンでよかったのか? なんかもっと別の物でもアタシはよかったけど」

あこ「ううん! 今日はラーメンの気分だったし、それにほら、おねーちゃんはここのお店来たがってたでしょ?」

あこ「せっかく一緒にお出かけしてるんだから、おねーちゃんの行きたい場所がいいなって思ってたんだ」

巴「あーもう、あこは本当に良い子だなぁ。おねーちゃんは嬉しいよ」ナデクリナデクリ

あこ「えへへ~♪」


マスキング「……あれ」

巴「うん?」

あこ「あっ、マスキング!」

マスキング「よぉ、宇田川」

巴「……あー、RASのドラムの」

マスキング「佐藤ますきだ。よいしょっと」ガタ

あこ「マスキングもラーメン食べに来たの?」

マスキング「ああ」

巴「あこ、年上なんだしそういう呼び方は……」

マスキング「いいよ、そんなの気にしないで。好きに話してくれ」

巴「そうですか? それじゃあ……」

マスキング「お前も敬語じゃなくていいって。確か同い年だろ」

巴「えっ」

マスキング「えっ、てなんだよ」

巴「いや……てっきりもう成人してんのかと」

マスキング「なんだそりゃ。おかしなやつだな」

巴「ああ、わりぃわりぃ。大人びて見えたからさ。あ、そうだ、自己紹介がまだだったな。アタシは……」

マスキング「宇田川巴。アフターグロウのドラムだろ」

巴「おお、知ってるのか」

マスキング「……まぁな。チュチュがポッピンパーティーとロゼリアをすごく気にしてるからな。あいつらに近いバンドのことも見たりしてるんだ」

巴「そっかそっか」


あこ「この前はライブに招待してくれてありがとうね! マスキングのドラム、こう、ズババーン! って感じですごかったよ!」

マスキング「ああ、サンキュー。それよりチュチュがロックにあんなことして悪かったな」

あこ「ううん! ろっかもバンドが出来て嬉しそうだし、気にしてないよ!」

巴「あんなことって、アレか? なんかライブ中に名指しでスカウトしたとかなんとかって言う」

あこ「それだね! すごかったよー、いきなりろっかにスポットライトが当たって、会場中から注目されて!」

あこ「その時の様子はまるで……闇を切り裂く光の道が……なんかこうバババーン! って感じ!」

マスキング「ああ、そんな感じだったな」

巴「ははっ、そりゃすげーな」

店員さん「ヘイ、チャーシュー麺とネギラーメンお待ちぃ!」

巴「お、来た来た」

店員さん「ごゆっくりぃ!」

あこ「はーい!」

巴「んじゃ、先にいただくぜ」

あこ「お先ー!」

マスキング「ああ」


―食後 帰り道―

巴「そういや、ますきも商店街に住んでんだよな」

マスキング「ああ。銀河青果店がウチん家」

巴「の割には今まで話したことなかったよなぁ」

あこ「学校とかってどんなとこに行ってるの?」

マスキング「あー……まぁ、遠いとこで、堅っ苦しいとこだ」

あこ「へぇ~」

マスキング「私はアフターグロウとかそういうのより前に、巴のことは一応知ってたな」

巴「そうなのか?」

マスキング「ほら、祭りでいつも和太鼓叩いてるだろ。商店街に住んでれば絶対に目に付くし」

あこ「おねーちゃんの和太鼓、カッコいいもんね!」

マスキング「ああ。あのビートはアツいな」

あこ「でしょでしょ~!」

巴「おお……ここにも和太鼓の魅力を分かってくれるやつが……!」

マスキング「やっぱり打楽器はいい。あの腹の底にまで響く重低音は最高にロックだよ」

巴「だろだろ~! へへっ、ますきは良いやつだなぁ!」

あこ「マスキングのドラムもカッコいいよ! シュババーンで、ドバーンって感じで!」

マスキング「そんな風に褒められるのは初めてだよ。ありがとな」


巴「……ちなみに、あこ?」

あこ「どうしたの?」

巴「おねーちゃんのドラムとますきのドラム……どっちがカッコいい?」

あこ「ん~、それはやっぱりおねーちゃん!」

マスキング「なに?」

巴「はー、よかった。ますきのドラム、動画で見たけどすごかったし……でもまだアタシの方があこの中では上なんだな」

マスキング「へぇ、おもしろいじゃねーか。こうなったら勝負だな」

巴「勝負?」

マスキング「何事も負けるのは癪だからな。それがましてや演奏に関してなら尚更だ」

マスキング「巴とは一度勝負する必要があるな」

巴「へへっ、いつだって受けて立つぜ! なんなら和太鼓で勝負にするか!」


マスキング「和太鼓……なるほど、それもいいな。実はあれ、一度も叩いたことないんだよな、私」

あこ「そうなの?」

マスキング「ああ。祭りで使う神聖なものだって教えられたから、勝手に触る訳にもいかねぇし」

巴「なんだよ、それなら早く行ってくれよ。そんなのアタシが許可するから、今度一緒に叩こうぜ」

マスキング「いいのか?」

巴「いいっていいって! 言ってくれればいつだって神社に案内するからさ!」

マスキング「そうか。楽しみにしてるよ」

巴「おう! いやー、和太鼓を分かってくれるやつが増えて嬉しいよ!」

あこ「おお……ここに燃え滾る炎のドラマーたちの闇の……えぇっと」

マスキング「闇の狂宴、とかだな」

あこ「あ、それカッコいい! 闇の狂宴が、幕を開けようとしている……!」

巴「あこの言いたいことが分かるなんて大したもんだな」

マスキング「そういうの、父さんが好きだったからな」

あこ「へぇ~! マスキングのお父さんもゲームとか好きなのかなぁ?」

巴「いや、それはないんじゃないか?」

マスキング「まぁ……ゲームではないな」

あこ「そっかぁ」


巴「っと、アタシたちはこっちの道だな」

マスキング「私ん家はあっちだから、ここまでだな」

あこ「それじゃあまたね、マスキング!」

巴「一緒に叩くの、楽しみにしてるぜ!」

マスキング「ああ。私も楽しみにしてるよ。それじゃあな」フリフリ

あこ「ばいばーい!」

巴「……なんか、あいつとは気が合いそうだな」

あこ「あ、おねーちゃんも? あこもそう思うんだ」

巴「やっぱりあこもか。んー、そうしたらますきに負けないように、ドラムも和太鼓ももっと頑張んなくっちゃな!」

あこ「でもあこはいつだっておねーちゃんが一番だよ!」

巴「ありがとな。アタシもあこが一番だぜ!」

あこ「えへへ~」

巴「あははっ」


☆ポニーテールとシュシュ


――有咲の蔵――

山吹沙綾「ねぇ香澄」

戸山香澄「どしたの、さーや?」

沙綾「ちょっとさ、新曲のことで話したいことがあるんだ」

沙綾「あれさ、あの曲の歌詞なんだけどさ」

香澄「うん」

沙綾「みんなで考えたっていうのはもちろんだけど、それでも最終的には香澄が書き上げた詩だよね?」

香澄「うーん、そういうことになるのかなぁ?」

沙綾「そういうことになるんだよ」

香澄「そっか!」

沙綾「うん」

沙綾「でさ、これ……この部分」ユビサシ

香澄「シュシュをほどいて?」

沙綾「うん。それと、ここ」ユビサシ

香澄「走り出そう?」

沙綾「うん」

沙綾「シュシュと走り出そう」


香澄「それがどうかしたの?」

沙綾「よくよく考えてみたら、これって半分私への歌だよね?」

香澄「え、そうかな? ロックっぽいと思うけど」

沙綾「うん、ロックだとは思う。だけどさ、その裏に、どう頑張っても拭えない私への想いが込められてるよね?」

香澄「……そうかなぁ?」

沙綾「そうだよ」

香澄「そうなんだ!」

沙綾「でさ」

香澄「うん」

沙綾「この曲ってほら、スタンディングじゃん?」

香澄「そうだね」

沙綾「ということは、私が香澄の隣に並ぶってことだよね?」

香澄「うーん……そうなるのかなぁ?」

沙綾「それでしかも“走り出そう”でしょ?」

香澄「うん」

沙綾「これってもうさ、ほとんどラブソングだよね」

香澄「え、そうかな?」

沙綾「そうなんだよ」

香澄「そうなんだ!」


沙綾「ということはつまり、香澄から私への抑えきれない愛が込められてるよね?」

香澄「え?」キョトン

沙綾「えっ」

香澄「さーやのことはもちろん大好きだけど、これはやっぱり」

沙綾「あ、ごめん香澄、ちょっと今のとこもう一回言って?」スマホポチッ

香澄「え? えぇっと、さーやのことはもちろん大好きだけど、これはやっぱり」

沙綾「ありがと」ロクオン ガ カンリョウ シマシタ

香澄「うん。それで、これはやっぱりロックだし、ラブソングじゃないような気がするなぁ」

沙綾「そっか」

香澄「うんっ」

沙綾「香澄がそう言うならそうなんだね」

香澄「だと思うよ!」

沙綾「じゃあ仕方ないね。歌も詩も大切だけど、何より言葉が大切だもん」

香澄「よく分からないけど、そうだね!」

沙綾「香澄が私を大好きで私が香澄を愛してるのに変わりはないもんね」

香澄「うん!」

沙綾「ふふふっ」

香澄「あはは!」



有咲「…………」

牛込りみ「どうかしたの、有咲ちゃん?」

有咲「いや……こういうとこ、燐子先輩には絶対に見せられねーなーって」

花園たえ「あれ、見せたらダメなの?」

有咲「ああ、見せたらマズイ。ヤバい。最悪死ぬかもしれない」

りみ「…………」

たえ「ごめんね、有咲」

有咲「え?」

たえ「燐子先輩に頼まれて、普段の様子を撮った映像、たまに送ってるんだ」

りみ「あの……実は私も、『お姉さんに送る写真の中で、差し支えないところだけ大丈夫なので……見せてください』って頼まれてて……」

有咲「……マジか」

たえ「マジだよ」

有咲「……そっか」

りみ「うん……」

有咲「…………」

有咲「生徒会、辞めようかな……」


☆14歳


――チュチュのスタジオ――

パレオ「その時のパレオはといえば、学校の屋上で空を眺めているばかりでした」


……………………


鳰原れおな(晴るる空)

れおな(描き直すには大きすぎる、青空が今日も綺麗です)

れおな(……だからこそ、私の心は霞がかってしまう)

れおな(この空の青さを伝えるための言葉を、私は持ち合わせていない)

れおな(この空の青さを伝えたいと思える人を、私は持ち合わせていない)

れおな(良い子だとか、優等生だとか、手のかからない子だとか、利口な子だとか)

れおな(私が私という存在を呈するための言葉は、きっとそんなものだ)

れおな(薄っぺらくて脆く、実存のない空洞の言葉だ)

れおな(本当の私はきっとそんな言葉じゃ言い表せない。言い表したくなんてない)

れおな(だったらどうしてここにいるんだ、今すぐに逃げ出せよ。望んだように生きられないなら死んでいるのと同じだ)

れおな(虚像の中のもうひとりの私が私を怒鳴りつける。それに返す言葉も持ち合わせない)

れおな(私はただ、耳を塞ぎ、言葉を殺し、本心を偽り、ただ“私”を演じるだけ)

れおな(そうまでして縋りつきたい生活もなければ、夢なんてあるはずもない)


れおな(……なんて、それも嘘だ)

れおな(夢もあるにはあるんだ。ただ、私はそれを言葉に出来ないだけ)

れおな(『将来はアイドルになりたいです!』と、いつかにクラスメイトが口にした)

れおな(『将来はお医者さんになりたいです』と、いつかの私が口にした)

れおな(私はそれをどんな気持ちで聞いていたんだろうか。口にしたんだろうか)

れおな(憧憬。嫉妬。羨望。妬心)

れおな(いくつもの似た色がごちゃごちゃに混ざり合った上にのっぺりと分厚く塗り重ねられたのは、きっと『諦観』だ)

れおな(これでいいんだ)

れおな(アイドルみたいになりたいだなんて荒唐無稽な夢を語ってどうする)

れおな(それでいいんだ)

れおな(私に望まれるのはそんな姿じゃない。お利口さんで、聡明そうで、真面目な優等生)

れおな(耳ざわりのいいことを丁寧に話す、大人しい女の子。それが周りの大人やクラスメートたちが描く私だ)

れおな(良いも悪いも多数決で決まるなら、それがきっと私の正しい在り方なんだ)


れおな(ふっ――と、無意識に吐き出したため息が、六月の風に流離う)

れおな(夢なんてない。期待してない。そう嘯く私は、やっぱり無気力の、まるで生きてる死体だ)

れおな(正しさってなんだろう)

れおな(私が私たる正しさって一体何なんだろう)

れおな(本当は、可愛いものが大好きだ)

れおな(動物園だって大好きだし、そういうぬいぐるみも大好きだ)

れおな(アイドルだって大好きだ。可愛い衣装で可愛い歌を歌って、みんなを笑顔にする存在)

れおな(夢に本気で向き合って、それを本気で支えてくれる人がいて、本気で応援してくれる人がいる)

れおな(叶うのならば、私だってそういう存在でありたい)

れおな(だけどそれは夢のまた夢。寝ている時に見る夢の中で見る夢のように、どんなに手を伸ばしたって届かないものだ)

れおな(夜霞の先、どこまで続くか分からない果てしない暗夜航路。その果てを目指すようなものなんだ)

れおな(夢は必ず叶うから。そんな言葉は、夢を叶えたごく一部の天才たちの世迷言だ)

れおな(なのにそんな言葉が世間を我が物顔で風靡するから、“私”の居場所はなくなった)


れおな(いっそのこと燃え尽きて灰になってしまいたい)

れおな(そうして、本当の私の独白なんて、風に吹かれて消えてしまえ)

れおな(そうして、偽りの私の仮面なんて、風に吹かれて消えてしまえ)

れおな(あとに残った僅かな残滓だけでいい。きっとそこにあるのが私だ)

れおな(14歳の、偽りも本当もない、純粋な“私”自身だ)

れおな(そうしたら、灰の歌を空に歌おう)

れおな(虚実を切り裂いて、蒼天を仰いで、永久に飛び立とう)

れおな(苦悩の驟雨も嘲笑の泥濘も関係ない)

れおな(雨雲に幽閉された私自身を、捕縛された暗がりから取り出そう)

れおな(その先にあるものはなんだろうか。本当に欲しかったものを掴めるだろうか。信じたものを掴めるだろうか)

れおな(よしんば掴めたとしても、やっぱりそれはすぐにすり抜けるのかもしれない。信じたものも呆気なく過ぎ去るのかもしれない)

れおな(それでも、それらが残していったその温みだけで、私の人生はやっと“生きる”に値するんだ)

れおな(遠い空には雨雲がある。明日はきっと雨だ)

れおな(でも、生きてさえいれば、死んでさえいなければ、いたみの雨も、失意の濁流もきっと抜けられる)

れおな(その先の曇天から射す一条の光。それがきっと、私が目指す光だ)

れおな(その時になれば、既にもう、雨は上がっているんだ)


――ガチャ

「あ、鳰原さん、ここにいたんだ」

れおな「あ、はい。空が綺麗だったので、ちょっと日向ぼっこしてました」

「鳰原さんらしいね」

れおな「いえいえ……。それで、何かご用でしたか?」

「うん、ちょっと担任の先生が呼んでて……職員室まで来て欲しいんだって」

れおな「分かりました。わざわざありがとうございます♪」

「ううん」

れおな「それじゃあ、ちょっと行ってきますね」


……………………


パレオ「とまぁ、RASに入る前の私は大体こんな感じですかね?」

チュチュ「…………」

マスキング「ふーん」

ロック「な、なんというか……すごい難しいことを考えているんですね……」

パレオ「そんなことないですよ~。ほら、誰だってたまにアンニュイな気分になりますから、そういうアレですよ」

ロック「ほぇ~……」

パレオ「あれ? そういえば、いつの間にかレイヤさんの姿が見えませんが……」

マスキング「ああ、あいつなら『花ちゃんからご飯のお誘いが来た』つってダッシュで出てったぞ」

パレオ「あ~、レイヤさん、花さんのこと大好きですもんね♪」

チュチュ「…………」

ロック「あ、あの、ますきさん」

マスキング「あん?」

ロック「さっきからチュチュさんがすごい怖い顔で黙ってるんですけど……」

マスキング「ああ、そういやそうだな」

ロック「放っておいていいんですか?」

マスキング「まぁ……どうせパレオのこと心配してるだけだから、無視しといて平気だよ」

ロック「え、えぇ~……?」


パレオ「チュチュさまぁ~? さっきからお顔が厳つくなってますけど、どうしたんですか?」

チュチュ「……飛び級って、取り消せるのかしら」

ロック「そ、それは無理なんじゃないですかね……」

チュチュ「Shit!」チッ

ロック(ひえぇ、舌打ちされた……でら怖い……)

パレオ「そうですよ、チュチュ様。いくらパレオと一緒の学校に通いたいからって、飛び級を無しにするのは無理ですよ~」

チュチュ「誰もそうは言ってないでしょ!? 私はただ、パレオが悩みすぎて……えぇと、そう、RASに影響が出ないかって心配になっただけよ!」

パレオ「ふふ、心配してくれたんですね?」

チュチュ「パ、パレオのことじゃなくて、RASでのことよ!? あなたのことだけが心配だったわけじゃないんだから、勘違いしないことねっ!!」

パレオ「チュチュ様のツンデレ、いただきました~♪」

チュチュ「だから! 違うって言ってるでしょう!!」

パレオ「またまたそんなこと言って~♪」


マスキング「ほら、放っておいて平気だろ」

ロック「そ、そうですね……。でもパレオさん、まだ中学生なのにあんなこと考えてるなんて、少し心配になります……」

マスキング「それも大丈夫だろ。あこみたいなもんだし」

ロック「え、あこちゃん?」

マスキング「私も昔やったな。傘で必殺技とか、ドラムの叩き方に技名付けたりとか」

ロック(……中二病とかそういうので片付けてええんか、これ……?)


☆ツインテールと風紀委員長


――花女 生徒会室――

紗夜「市ヶ谷さんは羽丘に行かなかったんですね」

有咲「ええ。こっちにも誰か残ってないと火急の用事に対応できませんし」

紗夜「確かにそうですね」

有咲「はい。それに死んでも親睦会には行きたくなかったので」

紗夜「え?」

有咲「いえ、なんでもないです。それにしても、今日は暇ですね」

紗夜「まぁ……そうね。白金さんたちが羽丘に行くから、ほとんどの仕事は昨日のうちに終わらせてあるものね」

有咲「風紀委員の方で何かやることないんですか? あるなら手伝いますよ」

紗夜「こっちも今はそんなに忙しくありませんから、気持ちだけ受け取っておきます」

有咲「そうですか」

紗夜「はい。……ああ、そうだ、こちらを」

有咲「はい?」

紗夜「クッキーを焼いてきたんですが、よかったら食べませんか?」

有咲「いいんですか?」

紗夜「ええ。ロゼリアでもたまに振る舞っていますが、そこそこ好評を頂いているので、今井さんほどじゃないにしても味は保証できますよ」

有咲「いや、リサさんより上手に作れたらクッキーのお店出せますよ。いただきますね」

紗夜「はい」


―しばらくして―

紗夜「…………」ジーッ

有咲「……あの、紗夜先輩?」

紗夜「はい?」

有咲「なんかさっきからやけに私の口元を見つめてませんか?」

紗夜「ああ、ええ……まぁ」

有咲「あ、もしかしてクッキーついてましたか?」ゴシゴシ

紗夜「いえ、そういう訳ではなく……そうね、ちょっと別のことが気になるのよ」

有咲「別のこと?」

紗夜「ええ。市ヶ谷さん……ちょっと、他人行儀に喋ってみてくれませんか?」

有咲「はい? 他人行儀?」

紗夜「はい、他人行儀、余所行きの声で、です」

有咲「いいですけど……えぇっと」

有咲(……なに喋ればいいんだ? クッキーの感想とかでいいのかなぁ?)

有咲「……紗夜先輩のクッキー、とても美味しく焼けていました」

有咲「今井さんのものとも遜色ないくらいでした。また機会があれば是非食べてみたいですね」

有咲「……こんな感じでいいですか?」


紗夜「…………」

有咲「あの……」

紗夜「……似ている」

有咲「え?」

紗夜「やっぱり似ているわね……」

有咲「え、っと……何がですか?」

紗夜「前に、白金さんがパソコンのゲームを貸してくれたのよ」

紗夜「そのゲームの登場人物と市ヶ谷さんの声が似ているような気がして……こうして聞いてみると、やっぱり似ていますね」

有咲「……あの、ちなみにそのゲームのジャンルとかって……」

紗夜「タイトルは音楽記号で、パッケージには『こそばゆい学園恋愛アドベンチャー』と書いてあったわね」

有咲(がっつりギャルゲーじゃねーか! 友達に何を貸してんだよあの人!?)

有咲「その……似ているってことは、プレイしたんですか?」

紗夜「しました。全部読むのに時間はかかりましたが、案外読み物として面白かったですね」

有咲(全クリ済みかよ! そういや燐子先輩とあこちゃんに教えられて紗夜先輩もNFOにハマってるって聞いたし……でもその次がギャルゲーかよ!!)


紗夜「白金さん、そのシリーズの一番最初のものも貸してくれたわ。今はそれをやってる途中よ」

有咲(なんであの人、紗夜先輩をギャルゲー沼にはめようとして――あ、なんとなく分かっちゃった)

紗夜「最初は『女の子を攻略していくゲーム』と聞いて少し抵抗がありましたが、やってみると面白いものですね」

有咲(やっぱりだよこうやって徐々に女の子との恋愛に違和感なくしてく寸法だよ!!)

紗夜「とりあえず最初は気になった女の子を攻略しようと思い、後輩のワンコみたいな無邪気な子のルートに入ったんですが……」

有咲(うわーワンコみたいな無邪気な後輩キャラって日菜先輩も羽沢さんもかすりそうなチョイス!)

紗夜「そのせいか、最近バナナを見ると涙が出てくるようになってしまって……ミハル……」グスッ

有咲(ていうかそれダ・〇ーポだろ! どのシリーズにも同じ屋根の下に攻略対象の義妹がいるじゃねーか!!)

有咲(どんだけ妹ルートに持っていきたいんだよ!!)


紗夜「つきましては、市ヶ谷さん」

有咲「は、はい……?」

紗夜「……ちょっとアレなお願いだとは重々承知の上ですが」

有咲(頼む、承知してるなら自重してくれ……!)

紗夜「少し拗ね気味な感じで『兄さん』って言ってみてくれませんか?」

有咲「」

有咲(いやもう、ほんっと、そういうとこ!! オタクと呼ばれる人たちの悪いところ!!)

有咲(なんでそんなことを後輩に頼もうって思っちゃうんだよぉ!! 言われた方の気持ちを考えろぉぉ!!)

紗夜「あ、それが駄目なら、ちょっと機嫌よさげに『兄さんは仕方ない人ですね』でも構いませんよ」

有咲(何を根拠にそっちならイケると思ったんだよ!?)

紗夜「どうですか?」

有咲「……えぇと、恥ずかしいから嫌だ、って言ったら?」

紗夜「…………」

有咲「…………」

紗夜「二乃はツンデレですね」ニコ

有咲「もうダメだこの生徒会!!」



――同時刻 羽丘・生徒会室――

ディスプレイ<モウダメダコノセイトカイ!!

燐子「……と、現状……花咲川の生徒会室は……このような感じになっています……」

「ほう……」「Oh、ツンデーレ……」「なるほど……」

燐子「先ほどの映像と合わせて……こういったライブカメラをお互いに共有し合うのは……とても有益なことだと……」

「是非もなし」「大義である」「ならばよし!」

燐子「では……そういう方向で進めていきましょう……ふふっ」



(※二乃の参考画像です https://i.imgur.com/p6I2QAJ.jpg


☆カッコいいポーズ


――CiRCLE 事務室――

月島まりな「は~……やっぱり詩船さん(※SPACEのオーナー)、カッコいいなぁ」

まりな「会議だってあの言葉ひとつで方向性を決めちゃうんだもんなぁ、私もそういう頼りになる人になりたいなぁ」

まりな「…………」

まりな「ちょっと真似してみようかな」

まりな「どうせ今の時間は私しかいないし……よしっ」

まりな「アーアー、コホン……」

まりな「……やりきったかい?」

まりな「……うーん、なんか違うなぁ。威厳が足りないというかなんというか……」

まりな「もう少し語調強めで……」

まりな「やりきったかいっ?」

まりな「あー、これも違う……ハロハピ方向だ、こころちゃんになっちゃう」

まりな「やりきった……かい?」

まりな「んー……なんだろう、これじゃあ止めを刺されたライバルキャラの最期って感じ……」

まりな「方向を思いっきり変えて……」

まりな「やりきったかい?」ササヤキ

まりな「……いや、誰だろう私。恋人に愛を囁いてるんじゃないんだから……」


まりな「こうなったらもう、いっそポーズとか決めちゃおうかな」

まりな「薫さんみたく、なんかそれっぽいタメを作って、目も瞑って……」

まりな「前髪をかき上げるような感じに右手を優雅に差し出しつつ……」

――コンコン、ガチャ

スタッフ「まりなさー……」

まりな「やりきったかい?」イケボ

スタッフ「え」

まりな「あ」

スタッフ「…………」

まりな「…………」


スタッフ(あ……ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

「ぼくは 用事があって事務室に来たと思ったら まりなさんが決め顔イケボで「やりきったかい?」と右手を差し出してきていた」

な…… 何を言っているのか わからねーと思うが 

ぼくも 何をされたのか わからなかった……

頭がどうにかなりそうだった…… 催眠術だとか超スピードだとか

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

もっと恐ろしい大ガールズバンド時代の片鱗を 味わったぜ……)


まりな「あ、あああの……!」カァーッ

スタッフ「……失礼しました。ごゆっくりどうぞ」パタン

まりな「待って!! おねがい待って!!!」


☆ツインテールとポニーテール


沙綾「今日、カラオケ行かない?」


有咲(なんてメッセージにふたつ返事で頷いたことに、私はとても後悔していた)

沙綾「最低だ 傲慢だ 君もみんな貪欲だ」

沙綾「ドラマチックな歌も愛もさぁ、馬鹿らしくて仕方がないわ」

有咲(ハイライトが若干消えかけた沙綾を見た瞬間からずっと後悔していた)

沙綾「知っていた 知っていた 君の人生、君のものだ」

沙綾「最低だっていくら叫ぼうが」

有咲(さっきから暗い歌ばかり歌うのを聞きながらずっと後悔していた)

有咲(これ、あれだ。香澄を遊びに誘ったら他の予定があって断られた時のめんどくさい沙綾だ……)


沙綾「偽善も、夜風も、嘘も、君も、僕も、青天井も、何もいらない」

沙綾「……はぁ」

有咲「……なぁ、沙綾?」

沙綾「どうしたの?」

有咲「えぇと……いや、なんでもない」

沙綾「そう? 可笑しな有咲」

有咲(いやおかしいのは沙綾だろ……)

有咲(こういう面倒な時の沙綾とカラオケって選曲にめちゃくちゃ気を遣うんだよ……)

有咲(ラブソングなんてもっての外、失恋ソングもNG、青春的な歌もダメだし、病んでる曲歌うとハイライト消えるし……)

有咲(でもこういう時くらいしか目立ったわがまま言わないから沙綾の意思は尊重したいし……)

有咲(っべー、次の曲、なにを入れればいいんだ……)

沙綾「有咲、入れないの?」

有咲「ああ、ちょっと、な……何歌おうか迷っちゃってさ」

有咲「なんだったら沙綾、もう一回歌ってていいぞ」

沙綾「うん、分かったよ」

有咲「ほっ……」

有咲(これでちょっと時間稼げるな……今のうちに当たり障りのない歌を探して、あとあれだ、香澄に連絡しとこう)


沙綾「『死ぬほどあなたを愛してます』 とかそう言う奴ほど死ねません」

沙綾「会いたい好きです堪りませんとか 誰でも良いのに言っちゃってんのがさ、」

沙綾「……わかんないね」

有咲(えぇっと、なんか適当なアイドルソング入れて……香澄に『今日時間あるか?』ってメッセージ入れて……)



沙綾「夏のバス停で君を待っていたいんだ」

沙綾「負け犬だからさ、想い出しかないんだ」ハイライトオフ

有咲(っべー、っべーって。香澄、早く返事寄越せ)



沙綾「人生に名前をつけるなら 希望って言葉は違うだろ」

沙綾「もう何年待っているんだろう、わからないか」

沙綾「君以外はどうでもいいんだよ それだけはわかっていたんだろう」

有咲(あっ、返事来た!)


香澄『ごめんね~、今日はね、あっちゃんとお買い物してるんだ!』

香澄『あ、でも夕方以降なら時間あるよ!』


有咲(っし、これなら何とかなるな……。えぇと、『それじゃあ夕飯、どっかに食いに行かね? 沙綾といまカラオケにいるから、3人で』……っと、これでよし)



沙綾「もう一回、もう一歩だって歩いたら負けだ」

沙綾「世界平和でも歌うか 早く全部を救えよ、愛とやらで」

有咲(おっし、返信来た。メッセージに気付けば本当に返事はぇーな香澄)


香澄『カラオケ! さーやがさっき誘ってくれたのってそれだったんだ!』


有咲(それは今はいい! 沙綾が歌い終わる前に後半の誘いに頷いてくれ……!)

沙綾「負け犬なりに後悔ばっか歌って」


香澄『りょうかいだよ! そしたら時間どうしよう?』


沙綾「また夢に負けて 昨日を愛おしんで……」

有咲「っよし、勝った……!」


沙綾「……有咲? どうかしたの?」

有咲「いや、なんでも。それより沙綾」

沙綾「うん?」

有咲「いま、香澄とメッセージしててさ」

沙綾「……うん」

有咲「あいつ、私らと夕飯一緒に食いに行きてーとか言ってるからさ」

沙綾「分かった香澄と連絡しておくから有咲は歌ってて平気だよ任せて!」パァッ

有咲「お、おう……じゃあ頼んだわ」

沙綾「オッケー了解!」

有咲(……よし、これでいつもの……うん、いつものヤベー沙綾に戻るな……)

有咲(つーか、沙綾ってなんでいつも微妙に控えめなんだろうなぁ)

有咲(どうせ『今日は予定ある』って香澄に言われて『そっか』くらいで引いたんだろ。いつも蔵とかじゃあんなにヤベー奴なのに)

沙綾「憧れじゃ終わらせない、一歩近づくんだ」

沙綾「さあ、今~♪」

有咲(さっきと打って変わってすげー上機嫌にスマイリングだし……)

有咲「はぁ、めんどくせーやつだよ……」


☆寸劇ごっこ


――花女 廊下――

若宮イヴ「チュウを持って悪を斬る! 一の太刀、若宮イヴ!」シャキーン

北沢はぐみ「コロッケ、美味しいよ! 二のコロッケ、北沢はぐみ!」シャキーン

たえ「猫よりウサギが好き! 三のウサギ、花園たえ!」シャキーン

イヴ「3人合わせて、」

イヴ「新選組遊撃部隊!」

はぐみ「商店街食品部門!」

たえ「ウサギ!」

有咲「……何やってんだ、お前ら?」


たえ「寸劇だよ、有咲」

はぐみ「今度、薫くんたちと一緒に劇をやるんだ!」

有咲「薫さんと一緒にって、ガッチガチの本職とそんなお遊戯会を一緒にやんのかよ……どんな脚本だよそれ」

たえ「脚本ならないよ」

有咲「え?」

イヴ「アドリブ力、ですよ! 私たちサムライチームとカオルさんたちナイトチームでそれぞれ役割を決めて、その場その場でセリフを考えて劇をするんです!」

はぐみ「ナイトチームは確か……薫くんと麻弥さんと燐子先輩、だったっけ?」

たえ「確かそうだね」

有咲(うわぁ、グダグダになる未来が目に見える……)

有咲「って、燐子先輩?」

イヴ「はいっ! リンコさん、私たちの名乗りを見て、」

燐子『チュウに太刀に猫ですか……ふふ、素敵ですね……』

イヴ「と、褒めてくれました!」

有咲「えぇ……」

有咲(またろくでもないこと考えてるだろあの人……)


有咲「……まぁ生徒会長が知ってんなら別にいいけど、紗夜先輩とかに見つかると注意されるから、あんまはしゃがないように気をつけろよ」

はぐみ「え? 紗夜先輩もさっき見てくれたよ?」

有咲「え、そうなの? 怒られなかったか?」

はぐみ「うん! あのね、」

紗夜『二乃のコロッケ……どんな味がするのかしら』

はぐみ「って言いながら、通り過ぎて行ったよ!」

有咲「……そっか」

有咲(やべーよ生徒会室唯一の良心がどんどん毒されていってるよ、このままじゃ四面楚歌だよ……)

イヴ「アリサさんもご一緒にどうですか? あとひとり入ればサムライ四天王ですっ!」

有咲「ごめん遠慮しとく」


☆それゆけ笑顔パトロール隊


――CiRCLE カフェテリア――

まりな「はぁ~……」

こころ「あら、まりなじゃない!」

まりな「こころちゃん……」

こころ「どうしたのかしら? なんだか疲れた顔をしているわね?」

まりな「うん……ちょっとね。大人になると色々あるんだ」

こころ「んー、よく分からないけど、笑顔じゃないのはいけないわね。……そうだ!」

こころ「まりな、一緒に笑顔パトロールに行きましょう!」

まりな「え?」

こころ「きっとたくさんの笑顔を見つけられれば、まりなも笑顔になるわ! さぁ、行きましょう!」グイ

まりな「ちょ、ちょっとこころちゃん!? 気持ちは嬉しいけど、一応私、まだ仕事中だから!」

黒服「ご安心ください、月島さま。代わりの者をこちらで手配しました」

まりな「えっ」

こころ「ありがとう、黒服の人!」

黒服「では」

まりな「えっ、えっ……!?」

こころ「さぁ、笑顔を探しに行きましょう!」ダッ

まりな「わ、わぁ!?」



まりな(なんて、そんな風にこころちゃんに手を引かれて、私はCiRCLEを飛び出し、街中を駆けていた)

まりな(最初こそ『社会人としてこれはダメでしょう』という抗う気持ちもあったけれど、こころちゃんの無尽蔵なスタミナと明るさに引きずられているうちに、段々色々とどうでもよくなってしまったのは否めない)

まりな(仕事とか、この前の『やりきったかい?』とか、あれから変によそよそしいスタッフくんのこととか)

まりな(そういうものを置き去りにして走る風景はキラキラしていた)

まりな(時刻は15時過ぎ。傾き始めた太陽が、淡いオレンジの街並みに影を落とす)

まりな(その影の中には、遠い昔、知らないうちに置き忘れてしまった大切な何かがあるような気がした)

まりな(気付くと私は、手を引かれるんじゃなく、こころちゃんと並んであちらこちらに向かっていた)


まりな(公園に行けば、)


瀬田薫「ああ、魔王燐子よ! どうしてキミと戦う運命にいなければいけないんだ!」

燐子「それが……世界の選択だから……。だけど、貴女が望むのであれば……わたしは……!」

薫「世界を取るのか、キミを取るのか……選べと言うんだね。キミはやっぱりズルい人だ。私の心を知っていて、そう言うのだから……」

大和麻弥「い、いけませんー、騎士・カオルよー、魔王の甘言に乗ってはなりませんー」

ひまり「きゃー! カッコイイー!」

りみ「薫さん……素敵やわぁ……」


まりな(と、とても楽しそうに演劇をしている子たちがいて、羽沢珈琲店に足を運べば、)


日菜「おねーちゃん、最近遅くまで部屋の明かりが点いてるよね。何してるの?」

紗夜「……ギターの練習と、あとは色々と勉強よ」

日菜「その割にはたまにいろんな人の声が聞こえるような……」

紗夜「気のせいよ。それより日菜、このケーキ美味しいわよ。ほら、あーん」

日菜「わーい! あーん!」

つぐみ「紗夜さん、あんまり根を詰めすぎないように気を付けてくださいね?」

紗夜「ええ、ありがとう。……ところで、羽沢さん。羽沢さんのところでは、チョコバナナクレープなどを置いたりする予定はありませんか?」

つぐみ「え? う、うーん……そういうのはない、ですかね……」

紗夜「……そう」


まりな(なんて、平和にお茶する子たちがいるし、Galaxyに行けば、)


巴「おぉ、このケーキめっちゃウマいな!」

あこ「うん! 甘さがすごい絶妙!」

マスキング「ははっ、そうだろ。私の特製スペシャル銀河ケーキだからな」

巴「やー、甘いもんはそこまでって感じだったけど、これならいくらでも食えるなぁ」

あこ「マスキング、これならケーキ屋さん出来るよ!」

マスキング「銀河ケーキ店か……そういうのも悪くねぇな」

六花「あ、あの……どうしてライブハウスのドリンクメニューにケーキが……」


まりな(って、美味しいケーキに舌鼓を打つ子たちがいるし、小高い丘の前に行けば、)


沙綾「丘の前には君がいて 随分久しいねって、笑いながら顔を寄せて」シャラーン

香澄「さぁ、二人で行こうって言うんだ~♪」シャラーン

香澄「……さーや、ギターも弾けるんだね!」

沙綾「ふふ、香澄と合わせるためにこっそり練習してたんだ。この赤いアコースティックギターで」

香澄「へぇ~!」


まりな(なんて風に、ギターの弾き語りをしてる子たちがいて、丘を登れば、)


パレオ「風の向く先には、なんにもない」

パレオ「陽の沈む先には、なんにもない」

パレオ「私が望む答えはきっとないんだ」

パレオ「ただ世界がそこにあるだけ。初めからそこにあるだけ」

パレオ「それなら私が望む本当の私自身もきっとどこにもなくて、でも、もしかしたらそれは一番近く、目に見えないほど近くにあるのかもしれない」

パレオ「ただ、何かを望み、私以外の何者かになりたいと願うからっぽの私」

パレオ「それこそが純然たる私であって、私が本当に求めているものなのかもしれない」

パレオ「からっぽで、透明すぎて、雨に打たれなければその輪郭すら浮かび上がらない私」

パレオ「それこそが本当の――」

チュチュ「パーレーオー!」

パレオ「あ、チュチュ様♪」

チュチュ「貴女、またこんな高い場所で空を見上げて……変なこと考えてたんじゃないでしょうね!?」

パレオ「いいえ、滅相もございません! パレオはいつだってチュチュ様のことを考えてますよ♪」

チュチュ「……そ。それなら、まぁ、いいけど……何かあったらすぐに私に言うのよ」

パレオ「はい!」

チュチュ「さ、行きましょう」

パレオ「……あの日打ち捨てた私自身が、もし生まれ変わったらと漏らした私自身が望んだのは、こんな光なのかもしれない」

チュチュ「What? 何か言ったかしら?」

パレオ「何でもないですよ~♪」


まりな(という感じに仲良さそうにしている子たちがいて、花咲川女子学園の中庭に行けば、)


イヴ「チュウに殉するはホンモウなり! 一の太刀、若宮イヴ!」シャキーン

はぐみ「豚肩ロース100g198円! 二のお肉、北沢はぐみ!」シャキーン

たえ「さすらいウサギ喋るウサ! 三のウサギ、花園たえ!」シャキーン

レイヤ「花ちゃん在るところに私在り! 四の約束、和奏レイ!」シャキーン

イヴ「4人合わせて、」

イヴ「サムライ四天王!」

はぐみ「いきなりコロッケ!」

たえ「ウサギ喫茶!」

レイヤ「花ちゃん親衛隊!」


まりな(って、楽しそうにはしゃぐ子たちがいたりした)


まりな(それらを見ていたら、なんだか小さなことでくよくよ悩む自分がバカみたいに思えた)

まりな(気付けば、私もこころちゃんも、行く先々で出会った女の子たちも、みんな笑顔だった)

まりな(世界は素敵で満ちているんだ。そう、素直に思えた)


――CiRCLE カフェテリア――

こころ「とうちゃーっく! これで街を一周したわね! どうだったかしら、まりな?」

まりな「……ありがとう、こころちゃん。私、忘れていた大切な何かを思い出せた気がするよ」

こころ「あらっ、それは素敵ね!」

まりな「こころちゃんのおかげだよ」

こころ「そんなことないわ。素敵なものを見つけたのは、あなた自身じゃない」

こころ「あたしはただ、いろんな人のいろんな笑顔を見つけただけよ!」

まりな「ふふっ、そうだね」

こころ「ええ! ……あら?」

まりな「うん? あれは、有咲ちゃん?」

こころ「それに蘭とモカもいるわね!」



有咲「はぁ~……紗夜先輩まであっち側になるとはなぁ……」

蘭「まぁ、その……元気出しなよ」

モカ「パン、食べる~?」


こころ「なんだか、さっきまでのまりなみたいな顔になっているわ」

まりな「それはいけないね。有咲ちゃんにも笑顔になってもらわないと」

こころ「ええ、その通りね! よーっし、有咲も連れて、もう一度笑顔パトロールよ!」

まりな「おー!」

こころ「それじゃあ早速……おーい!」

有咲「……ん?」

蘭「あれ、こころ?」

モカ「それにまりなさんも~」

まりな「こんにちは!」

こころ「有咲、浮かない顔をしているわね?」

有咲「ああ、まぁ……生徒会とか、そういうのに色々と疲れて、な……」


まりな「それはよくないね。そういう時は笑顔パトロールだよ!」

有咲「……はい?」

こころ「さぁ、行くわよ有咲!」グイッ

有咲「は、ちょ、まっ!?」

まりな「蘭ちゃんとモカちゃんも!」グイ

蘭「わっ」

モカ「あ~れ~」

こころ「笑顔に向かって全速前進!」

まりな「ヨーソロー!」

有咲「は、はぁ!? いやなんなんだよこれえぇ――……」

蘭「ちょ、ま、まりなさん、そんなに引っ張らな――……」

モカ「おーおー、これも青春の一幕なのですなぁ――……」


―― 一方その頃 CiRCLE・受付カウンター ――

スタッフ「…………」

黒服「…………」

スタッフ「……あの、接客業なので、サングラスは……」

黒服「申し訳ございません、外してはいけない決まりなので」

スタッフ「そ、そうですか……」

黒服「はい」

スタッフ「えっと、似合ってますね、はは……」

黒服「ありがとうございます」

スタッフ「…………」

黒服「…………」

スタッフ(……気まずい! あと黒服さん、威圧感あってちょっと怖い!)

スタッフ(お願いしますまりなさん、もう変に気を遣ってよそよそしくしないから早く帰ってきてください……!!)


なんていうスタッフくんの願いも空しく、こころちゃん&まりなさん率いる笑顔パトロール隊がCiRCLEに帰ってきたのは終業15分前でしたとさ。


おわり


短い話だと特にオチをつけなくてもいいからいいなぁって思いました。それと市ヶ谷さんごめんなさい。

HTML化依頼出してきます。

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