【諸注意】
・何番煎じかもわからないオリロンパスレです
・以下の作品のリメイクとなっております。一部に軽い設定の変更が有ります
『元スレ』
【二次創作】安価で進めるオリロンパ リミックス
【二次創作】安価で進めるオリロンパ リミックス - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1532086400/)
・エタらない事を重視するため、展開等が速いかもしれません
・キャラクターは以下のスレから拝借しましたが、一部に才能や氏名の変更があります
※エタロンパのキャラを書き留めるスレ
『プロローグ~一章まで』
【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】
【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1541335141/)
『二章まで』
【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】Ch.2
【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】ch.2 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1553517832/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1564320430
【彩海学園 生徒名簿】
【女子】
※身長や胸囲はフィーリングなのでおかしい部分は目を瞑ってください
【名前】瀬川 千早希(セガワ チサキ)
【才能】超高校級のコスプレイヤー
【身長】167cm
【胸囲】87cm
【好きなもの】クレープ
【嫌いなもの】カメラ
【名前】天地 りぼん(アマチ --)
【才能】超高校級の家庭教師
【身長】154cm
【胸囲】64cm
【好きなもの】プラネタリウム
【嫌いなもの】宝くじ
【名前】御伽 月乃(オトギ ツキノ)
【才能】超高校級の童話作家
【身長】165cm
【胸囲】95cm
【好きなもの】雲
【嫌いなもの】尖ったもの
【名前】陰陽寺 魔矢(オンミョウジ マヤ)
【才能】超高校級のヒーロー
【身長】160cm
【胸囲】71cm
【好きなもの】竹刀
【嫌いなもの】ハムスター
【名前】古河 ゆめみ(コガ --)
【才能】超高校級のスタイリスト
【身長】170cm
【胸囲】84cm
【好きなもの】流行りもの
【嫌いなもの】水たまり
【名前】臓腑屋 凛々(ゾウフヤ リリ)
【才能】超高校級の家事代行
【身長】163cm
【胸囲】74cm
【好きなもの】干したての布団
【嫌いなもの】火事
【名前】月神 梓(ツキガミ アズサ)
【才能】超高校級のアイドル
【身長】168cm
【胸囲】82cm
【好きなもの】ぬいぐるみ
【嫌いなもの】パクチー
【名前】照星 夕(テルホシ ユウ)
【才能】超高校級の柔道家
【身長】158cm
【胸囲】92cm
【好きなもの】マット運動
【嫌いなもの】避難訓練
【男子】
【名前】御伽 朝日(オトギ アサヒ)
【才能】超高校級のショコラティエ
【身長】170cm
【胸囲】76cm
【好きなもの】ハートマーク
【嫌いなもの】猫
【名前】駆村 沖人(カケムラ オキト)
【才能】超高校級の地域振興委員
【身長】187cm
【好きなもの】時雄島
【嫌いなもの】嵐
【名前】神威 スグル(カムイ --)
【才能】超高校級の???
【身長】160cm
【好きなもの】マカロン
【嫌いなもの】抹茶ラテ
【名前】竹田 紅重(タケダ ベニシゲ)
【才能】超高校級の玩具屋
【身長】196cm
【好きなもの】狩猟
【嫌いなもの】ハイテクノロジー
【名前】吊井座 小牧(ツルイザ コマキ)
【才能】超高校級のイラストレーター
【身長】176cm
【好きなもの】日陰
【嫌いなもの】〆切間近
【名前】デイビット・クルーガー
【才能】超高校級のプロファイラー
【身長】184cm
【好きなもの】統計学
【嫌いなもの】イエダニ
【名前】飛田 弾(トビタ ハズム)
【才能】超高校級のダンサー
【身長】190cm
【好きなもの】美しいもの
【嫌いなもの】もんじゃ焼き
【名前】御影 直斗(ミカゲ ナオト)
【才能】超高校級の幸運
【身長】168cm
【好きなもの】醤油ラーメン
【嫌いなもの】ピーマン
※
頭痛が痛い。……間違えた、頭が痛い
ガンガンとハンマーを打ち付ける様な鈍い衝動。目の奥では、チカチカとした赤が瞬いている
逃げる様にギュッと目を瞑り、布団を頭から被る。……結論から言うと逆効果だった
この痛みは外からじゃなくて中から……私の内側が原因。心の中から響いてくるモノ
逃げ場を失った鼓動は頭の中を反響して、更に強い情動となって私の中を蹂躙していく
悪循環の無限ループ。これを断ち切るには、逃げるよりも根本の原因を探った方が早そうな気がする
……考えるまでも無いか。学級裁判、オシオキ、私はクロである彼女に、確かに親近感を抱いたんだ
自分を偽り続けて、本当の自分を見失う。ゲームや漫画ではよくあるシチュエーションだけど、実際にそんな人はいない
けど、クラス。ひいては社会という大きな一組織の中で生き残る為にはキャラを作るのは必須でもある
臓腑屋さんはきっとそんな人だったんだ。それに、私だって皆には言えない秘密が……
「……今何時?」
小難しい事を考えていたら、とろんとした睡魔の気配を察知する
時計を見ると、短針は九の文字を示している。少し速いけど、もう一眠りしようかな
精神的な疲労から回復するために目を閉じる。眠りに落ちるのは、そう難しい事じゃなかった
※
~学級裁判数時間前~
古河「御影ぇ……きちっと話してもらおか?」
御影「うわぁああ!! 来るんじゃかったー!」
デイビット「ハ、ハ、ハ。お手柔らかに頼もうカ、ここは懇親の場である故にネ」
月神「そうね……ふふっ、皆楽しそうで嬉しいわ」
駆村「………………」
駆村「悪いな、スグル。俺はお前に投票して……」
スグル「い、いえ! 大丈夫ですよ。それに、僕の為を思ってしてくれたんですから」
スグル「それに、駆村さんは秘密が見たいだけなんですよね? 僕が嫌いなんじゃなくて嬉しいです」
駆村「……俺が言える事じゃないが、スグルはもう少し人を疑った方がいいと思うぞ」
スグル「?」
駆村「それで、スグルの秘密なんだが……やっぱり才能の部分は塗り潰されていたからわからないな」
スグル「そうですか……どうして僕だけ才能を隠すんでしょう?」
駆村「さあな……それと、秘密に書かれているものなんだが」
駆村「『新世界プログラム』って、何の事だ?」
スグル「さあ………?」
【Chapter3】
善悪インヤン双方の悲願
※
月神「……………………」
竹田「……………………」
御影「……………………」
古河「……なあ、もうええんと違うか?」
月神「もう少し待ってましょう。もしかしたらそろそろ来るかも……」
古河「もう昼過ぎや! ええ加減にせえ!!!」
ぼん。と大爆発。ゆめみが怒っている。……無理もない
飛田「ぐぅおぅ……! 脳にキーンと来るぞ……!」
古河「じゃかあしいわ! そもそも瀬川はいつまで寝とるんや! おかしいやろ絶対に!」
朝日「あは。きっと疲れちゃったんだねぇ」
竹田「疲れてるの範疇か? 寝付きがいいとかそういう次元じゃねえだろうよ」
古河「もう我慢出来ひん、ウチらだけで新しい階を探索するで!」
……ゆめみは早く探索したいみたい。それを全員で宥めるを、かれこれ数回はやっている
私はそれを傍目で見ながら、お菓子を口の中に詰めていた。今食べているのはお気に入りのマシュマロ
ふわふわとした感触……至福。ついついもう一つ口に運んで……
朝日「月乃ちゃあん。そのマシュマロ、私にも一個欲しいなぁ」
月乃「殺すぞ」
朝日「ふえぇ。酷いよぉ」
月乃「……頭の中に糖分しか貯まってない朝日にはまだ甘い」
朝日「昔は優しかったのにぃ……」
しゅんとした顔の朝日……私の鏡写しの様な姿の兄は、哀しそうに髪を弄る
昔の話は嫌い。昔の兄は、本当に普通の子供だった癖に。でも、小さな頃から家で本を読んでいる事が多かったはず
朝日「月乃ちゃん。皆は探索するみたいだよぉ」
月乃「……流石に、一日中待つのは非現実的」
朝日「ねぇねぇ、一緒に行こうよぉ。月乃ちゃんと二人なら安心するもんねぇ」
月乃「……一人でいって」
自分と同じ顔。自分と全く違う、媚びた性格。甘える様な声にはうんざりする
何時からだっけ。兄を避け、嫌うようになったのは
私も行こう。遅れない内に……
朝日「あれぇ、スグルくぅん。どうしたのぉ?」
スグル「えっと、前までは瀬川さんが一緒に探索に来てくれたんですけど……」
朝日「来てないもんねぇ。ならぁ、私と一緒に行かない? 私も一人なんだぁ」
スグル「本当ですか? ありがとうございます!」
朝日「えへへ、せっかくだから手を繋ごうよぅ。優しく、ぎゅって握ってあげるねぇ」
月乃「……私も行く。全く油断も隙もない」
本当は置いていきたいけど、スグルもいるなら仕方ない
なるべく早く終わらせて、好みのお菓子でも食べていよう……
※
月乃「……ついた」
スグル「はぁ、はぁ……すみません。少しだけ休憩させてください……」
月乃「……軟弱。もっと体力をつけるべき」
朝日「辛いならぁ、私に掴まっててもいいよぉ?」
スグル「だ、大丈夫で……うわっ!?」
朝日「うふふ。バテちゃったんだねぇ、私が支えてあげよっかぁ?」
朝日「ねね。やっぱり私と手を繋ごうよぅ。スグルくんは私の事、好きだもんねぇ~」
スグル「えっと、はい……」
月乃「……付き合わなくていい。無視が一番」
月乃「……朝日には関わらない方がいい。お互いにとってもそれが最善」
朝日「あは。月乃ちゃん、もしかしてスグルくんに嫉妬しているのぉ? 可愛いなぁ~」
月乃「……止めて」
朝日「月乃ちゃんも大好きだよぉ。一緒に手を繋ぐのってぇ、幾つ以来だっけぇ?」
月乃「朝日!」
朝日「ごめんなさぁい……」
スグル「あ、あの……二人とも、僕の事を心配してくださってありがとうございます」
スグル「もう大丈夫ですから……行きましょう」
朝日「えへぇ、どういたしましてぇ~」
月乃「……礼には及ばない。早く行った方がいい」
※
古河「お、珍しいやん。月乃もおるんか?」
月乃「……珍しい?」
飛田「朝日とスグルは仲が良いじゃあないか。他にも千早希とも一緒にいるな」
飛田「何故オレでは無いのだ……ぐぬぅぅぅ……」
古河「オマエウザいからに決まっとるやろ……」
……知らなかった。確かに、私は朝日を避けていた
けど、いつの間に……スグルには後で言おう
朝日「道具がいっぱい置いてあるねぇ。ここは何の部屋なのぉ?」
飛田「工作室だそうだ。月乃もふとした日常で、小道具やインテリアが欲しくなる時があるだろう?」
古河「そん時はここでチャチャッと造ればエエって事やな! DIYとか楽しそうやろ?」
飛田「フッ、日曜大工なんていうみっともない真似死んでもしたくないなぁ」
朝日「私も汚れちゃうしぃ……」
スグル「僕も少し……」
古河「なんなんオマエら!? 幾らなんでも男の癖に非力過ぎるやろ!」
朝日「オトコノコだもん……」
月乃「……わかった。次に行く」
朝日の手を引っ張って外に出る。その後ろをスグルがわたわたとついてきた
※
月神「あら。三人とも、いらっしゃい」
朝日「わぁ、可愛いお洋服……私、ちょっと着てみようかなぁ」
月乃「……着たら二度と服が着られない体にする」
スグル「どういう事ですか……」
御影「ここは被服室だってさ! つまらないよね」
朝日「私は綺麗なお洋服が見れて幸せだよぉ?」
月乃「……服を選ぶ楽しみもわからないの。哀れ」
御影「なんでそこだけ意気投合するのさ!?」
月神「それにしても……今日は、月乃さんも二人と一緒にいるのね」
月乃「……今日は?」
月神「私の主観だけど……普段、朝日君はスグル君と一緒にいる事が多いの」
月神「二人ともとても仲が良くて……見てる私まで笑顔になるわ」
月乃「…………そう」
スグル「あれ? 月乃さん、どうしました?」
月乃「……次に行く。きたかったら好きにして」
朝日「あぁん、待ってよぉ~」
※
駆村「お、今日は月乃もいるのか。珍しいな」
月乃「……いたら悪い?」
駆村「いや、そんな事は無いんだが……」
駆村(なんか……やけに機嫌が悪くないか?)ヒソヒソ
スグル(さあ……?)ヒソヒソ
月乃「……ここは科学室。実験器具が置いてある」
朝日「わぁ~お薬がいっぱいだぁ。ビタミン剤あるかなぁ?」
スグル「ビタミン剤、飲むんですか?」
朝日「栄養価がどうしても偏っちゃうからねぇ。外から摂取しないとダメなんだぁ」
竹田「止めとけ止めとけ。栄養ってのはメシを食わねえと摂った気分にならねえだろ?」
スグル「そういうものなんですか……?」
竹田「それに、ここにあるのは全部劇薬だ。下手に飲むとお陀仏になるぜ」
スグル「そっちを先に言ってください!」
駆村「まあ、ご丁寧にどの毒薬にも対応する解毒薬が置いてあるからな。最悪、ここまで取りに来れば問題は無いか」
竹田「つっても即死寸前まで持っていく奴もあるからな。下手なモンは口にすんなよ?」
朝日「はぁい。わかりましたぁ」
朝日「でもでもぉ、私の作るお菓子は愛情たっぷりだから甘くて美味しいよぉ~」
月乃「……余計な事は言わなくていい」
スグル「あはは……」
※
月乃「……ここで、最後のはず」
朝日「ここはぁ武道館だってねぇ」
スグル「凄いですね……凛とした空気を感じます」
照星「お! スグルんに先輩達、せっかくだしここでお茶でも飲んでいくっすか?」
照星「自分、こう見えても茶道をちろっと習ってたんっすよねー。天地先輩ともそれで仲良く話してたんっすよ!」
スグル「あ……。……ごめんなさい」
照星「別に謝る必要なんてないっすよ! 自分も、先輩達の背中を見てきてるんすから」
照星「もし、先輩達が間違っても自分はそれを理解したいっす……自分頭はよくないっすけどね!」
スグル「そんな事……素晴らしいと思いますよ」
照星「にひひっ! 素晴らしいなんてスグルんらしくない事言うもんじゃないっすよ! わしわし」
スグル「頭を撫でないでくださーい!」
月乃「……ところで、あれは?」
陰陽寺「…………………………」
照星「なんか精神を統一するから話しかけるなって言ってたっすよ。武道家みたいっすね!」
朝日「それ、照星さんが言うのぉ……?」
照星「自分はゆるーくやるタイプっすから!」
月乃「……スタンスは人それぞれ。それを否定するのは良くない事」
朝日「今は多種多様なライフスタイルを尊重する事が大切だもんねぇ」
スグル「多種……えっ?」
照星「ら、らい……? って何っすか?」
月乃「……人の価値観を大切にするべき」
月乃「但し朝日はダメ」
朝日「そんなぁ~……」
月神「皆、そろそろ集まるわよ」
スグル「はい!」
照星「陰陽寺先輩、もう終わりっすよ!」
陰陽寺「……………………」
月乃「……聞いていない」
月神「仕方無いわね……それじゃあ、陰陽寺さんには私から伝えておくわね」
朝日「それじゃあ行こっかぁ。皆が待ってるもんねぇ」
※
駆村「結局、今回も成果は無しか……」
月乃「……モノクマも私達に反撃の手段は与えないはず。そういう意味では価値はあった」
古河「どこがやねん! 無意味やろこんなん!」
飛田「おいスグルッ、さっきから姿が見えないが、魔矢は何処に行った?」
スグル「それが……話を聞いてくれなくて……」
飛田「フン、役立たずめッ! お前の様な素性不明の人間の話を聞く奴がいないのは当然の事!」
飛田「思えば……才能の一つも話せない貴様なぞに頼った我々が間違っていたなッ!」
スグル「ご、ごめんな……」
朝日「飛田くん。それは酷いなって思うよぉ?」
照星「そーっすよ! それに、スグルんだけじゃなくって自分達もいたんすよ?」
竹田「虫の居所が悪いのはわかるけどよ、誰かに当たるのは良くねえよ」
飛田「……クッ!」
……ピリピリしているのが黙っていてもよくわかる
そろそろ他人への不満が噴出する頃。どこかで息抜きをするべきかもしれない
月乃「……朝日。…………朝日?」
朝日「スグルくぅん。大丈夫ぅ?」
スグル「は、はい! 僕の事はご心配なく……」
朝日「心配するよぉ。スグルくん、見てて不安になるんだもん」
スグル「そ、そうですか……?」
朝日「……ねぇ、スグルくんって家族の事は覚えているのぉ?」
スグル「家族……ですか? ええっと……」
スグル「……確か、お姉さん。それと、お兄さんがいた気がします」
朝日「わぁ~! スグルくんって末っ子なんだぁ」
スグル「二人とも、僕にとても優しくしてくれたんです。色々な事を僕に教えてくれて……」
朝日「スグルくん。お兄さんとお姉さんが好きなんだねぇ~」
スグル「はい! ……でも、今は少し寂しいです」
朝日「あは。そうだよね……そうだぁ! 私の事、本当のお兄さんだと思ってもいいよぉ?」
スグル「え……? 朝日さんを、お兄さんに……?」
朝日「私ねぇ、ずーっと弟も欲しいなって思っていたんだぁ。オトコノコなら一緒に色々出来るもん」
朝日「月乃ちゃんもぉ、きっと喜んでくれると思うんだぁ。ね、私達の弟に……」
月乃「……勝手に決めないで」ゴツンッ
朝日「きゅう!?」
スグル「月乃さん!?」
月乃「……変な事を教え込まないで。兄さん」
月乃「……スグル。こっちに来て」
スグル「は、はい……」
月乃「……………………」
スグル「あ、あの……月乃さん……」
スグル「もしご気分を害されたらすみません。僕が変な事を言ったせいで……」
月乃「……スグルが謝る必要は無い。悪いのは、全て私の兄」
月乃「……兄の下らない妄想に付き合わせてしまって、申し訳無い」
スグル「そ、そんな事は無いですよ!」
月乃「……朝日は昔からそうだった。いきなり勝手な事を言い出して……」
月乃「人の事を考えているふりして、結局は自分の事だけが大切なんだ。兄さんは」
スグル「……月乃さん?」
月乃「……なんでもない」
……珍しく熱くなってしまった。少しだけ
朝日「頭痛いよぅ……」
月乃「……自業自得」
スグル「怪我は……してませんね。よかったです」
「あ、あのー……」
瀬川「お、おはようございまーす……」
「「「………………………………」」」
※
瀬川「あ、あはは……」
……視線が痛い。というか身体が若干軋んでる
理由はわかっている。単に同じ姿勢で寝続けていたから。……要は寝過ぎだ
視線の方はもっと単純。”お前何してたの?”という声が聞こえてきそうに呆れられていた
瀬川「その~お腹すいちゃって、今何時かなーって思って起きてきたんだけど……」
月乃「……今、何時?」
瀬川「ん~大体……六時くらい?」
古河「朝のか?」
瀬川「夕方のです……」
駆村「お前この時間まで寝てたのか……?」
瀬川「疲れてたんだもん!」
私だってずっと寝てた訳じゃないし……ただ、”まだ余裕あるかな~”って思ってただけだし!
……二度寝しなきゃよかったかなぁ
月神「ま、まあいいじゃない。ご飯、食べる?」
瀬川「食べる!」
古河「動物かオマエは!」
仕方ないじゃんお腹減ってたんだし! 月神さんの渡してくれたご飯を口に頬張る。美味しい……
空腹に満たされていく幸福感。それに浸っていると聴こえてくるのはノイズの音……ノイズ?
振り向くと、砂嵐の映ったモニターが。それが意味する事を理解すると……がっくりと肩を落とした
※
~~~♪
ハルカ『よい子の皆ー! ココロオドルTVの時間だよー!』
ヨウ『ちゃんとコロシアイ学園生活をエンジョイしているな? 探索も既に終えたみたいだしな』
ハルカ『学園に眠る謎……ドキドキするね!』
ヨウ『それはただの動悸だろ』
ハルカ『動悸息切れには! 救sヨウ『もうそのネタは飽きてるんだよ!』
ハルカ『ちぇ。ならさっそく学級裁判を乗り越えた皆にプレゼントをあげようかな』
ヨウ『疲労も溜まってきたであろう中盤戦。そんなお前らに”大浴場”を解放しておいたぞ』
ハルカ『大浴場は一階の突き当たりにあるからね。すぐにわかると思うけど』
ヨウ『深い湯船にゆっくり浸かって、常日頃のストレスでも解消してくるといい』
ハルカ『それに、裸の付き合いってあるしね! 私も温泉ロケに呼ばれたかった……』
ヨウ『セル画だから水に浸かるとアウトだぞ』
ハルカ『……………………』
ヨウ『……………………』
『『鮮やかな!!!』』
ハルカ『遥かな明日を!』ヨウ『見届けよう!』
ハルカ『バイバーイ! 私も温泉入りたかった!』
※
駆村「で、これからどうするんだ?」
月神「そうね……もう夜のご飯も終わったし、一度皆は部屋に戻って……」
御影「え~せっかくだし大浴場行こうよ~!」
飛田「そうだッ! ここにいる美女達の裸をこの眼に納める使命がオレにはあるッ!」
古河「言うと思うたわ……行くわけあらへんやろ」
月乃「……動機が不純。認めたくない」
竹田「あ~……ちっと待てよ?」
竹田「そもそもの話なんだがよぉ、その大浴場ってどこにあんだ?」
スグル「確かに……見ていないですね」
朝日「瀬川さん。ここに来る時に見たぁ?」
瀬川「え……? ん~……見てないと思うけど……」
少しぽわぽわとしていたけど、流石にそんなモノがあればここに来る時に気づくはずだもん
そもそも、そんな場所あった? 初めて聞いた場所なんだけど……?
照星「じゃあ探しに行くっすよ! もしかしたら、単に見逃しただけかもしれねーっすからね!」
古河「それはありそうやな……瀬川やし」
瀬川「無かったはずなんだけどなぁ……」
※
古河「……で、ちっと歩いたワケやけど」
古河「あるやんけ! あるやんけ! 大浴場目の前にあるやんけ!!」
瀬川「あれ~……? おっかしいなぁ……」
まさか本当にあるとは思っていなかった……というか、何で急に大浴場なんて出てきたの……?
確かにさっき通った時には、こんなものは無かったハズなのに、まるで急に生えてきたみたいな……
御影「まぁまぁいいじゃん細かい事はさ! 早く皆でお風呂入ろうよ!」
古河「入らん言うとるやろ! クドイわ!」
朝日「私はやってみたいなぁ……裸のおつきあい」
月乃「独りでやってろ」
月神「そうね……せっかく解放されたのだし、一度くらいなら入ってみましょう」
御影・飛田「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
月神「ただし、男女は別けさせて貰うわね」
御影・飛田「「うわあああああああああああああああああああ!!!!」」
キーンと耳をつんざく絶叫。この世の終わりみたいなシャウトに、殆どは耳を塞いでいた
照星「あ、頭っ。頭に響くっすぅ……」
竹田「あーこりゃキツいな……うし。んじゃ野郎衆は戻るとするかね。行くぞ坊主共」
男子達が去っていく。残されたのは女の子だけだ
瀬川「……そう言えば、陰陽寺さんはいいの?」
古河「呼んでも来ぇへんやろどうせ」
そりゃそうか。丁度、さっきので変な風に汗もかいちゃったしお風呂に入るにはいいタイミング
大きなお風呂……どんなだろう? 楽しみだなぁ……!
※
御影「……女子の皆はもう入ったかな?」
飛田「そうだな……そろそろ頃合いだろう」
朝日「御影くぅん。何の話をしているのぉ?」
駆村「……まさか、お前たち覗きに行く気か?」
御影「当然だろ! 何のために大浴場が用意されてると思ってるんだよ!」
スグル「えぇ!? そんな事は駄目ですよ!」
飛田「あくまでも崇高なる芸術的探索であり、断じて低俗な目的な覗きではないッ!」
朝日「本当かなぁ?」
御影「で、ボクと飛田クンと駆村クンとスグルクン以外の二人は来るの?」
スグル「ボク達は確定なんですか!? 嫌です!」
御影「ケッ、ノリ悪っ!」
飛田「もういい。貴様の様な男とも女とも取れない未熟な肉体の子供を同行させるのが間違いだッ!」
駆村「……なんだか、やけに仲がいいな」
御影「当たり前だろ! どれだけの時間を過ごしたと思ってるんだよ!」
飛田「オレ達は既に目的を同じとする同士! 仲違いなど起こす理由があるものか!」
御影(いざって時には飛田クンのせいにすればいいしね!)
飛田(仮にバレてもこいつの責任にすればいいだけだしなッ!)
駆村(絶対にろくでもない事を考えているな……)
御影「で、他の二人はどう?」
朝日「遠慮したいかなぁ。皆に悪いしねぇ」
スグル「朝日さんの言う通りですよ!」
朝日「それにぃ、私は女の子よりぃ……ううん。何でもないやぁ」
御影「……ホントに?」
スグル「た、多分……」
竹田「あー……俺も辞めておくわ」
御影「えー!? 何でですか!?」
竹田「いやな……俺も坊主みてぇにまだ若ぇなら、まだ若気の至りで済むんだけどな……」
竹田「今の俺がやると、マジで洒落にならねえ犯罪になるんだよな……」
「「「あぁ……」」」
御影「じゃ、じゃあボクと飛田クンと駆村クンで行く事にしようか!」
駆村「いや、俺も出来ればいきたくないんだが」
飛田「フン、ヘタレが……ッ」
駆村「そうじゃないだろ……今、俺達は共同生活をしているのに相手に不安を与えてどうする?」
駆村「女子達もきっと不安なんだ。それなのに俺達が更に迷惑をかけられないだろ?」
スグル「そうですよ。駆村さんの言う通りです」
御影「うっ……それを言われると……罪悪感が……」
駆村「そもそも、俺には許嫁がいるからそんな事をする訳には……」
朝日「え? 許嫁……?」
駆村「あ」
御影「ちょっとちょっとどういう事だよ!? 駆村クン、彼女いるのかよ!?」
飛田「その話……詳しく聴かせて貰おうッッッ!」
※
瀬川「おお。結構本格的……」
檜のお風呂。でいいのかな……? テレビで見た、旅館みたいなおっきな温泉
ちゃぷんと湯船に手を入れてみると、丁度いい温度のお湯が包み込んでくれた
照星「ひゃー! おっきいっす! 何だか泳ぎたくなっちゃうっすねー!」
月神「ダメよ。お風呂はゆっくり、百まで数えて肩まで浸からないと」
古河「オカンか! そんな長く入ってられんわ!」
月乃「……凄く大きい。胸がドキドキしている」
瀬川「わかりみが深いよ……大きなお風呂って、なんかドキドキしてくるよね!」
心なしか、皆のテンションもハイになっている気がする。私も何だか心が踊るなぁ!
あっ、そうだ。お風呂と言えば、当然あのイベントが起きるはず……
瀬川「そうそう。もし男子の皆が覗きに来たらどうする?」
古河「瀬川突き出しとけばええやろ。エロい自撮り撮るの好きそうやしな」
瀬川「やってないよ! 私は100%健全だもん!」
照星「でも興味はあるんすよね~?」
瀬川「ノーコメントでお願いしまーす……」
エッチな自撮り……やってみたらフォロワー増えるかな? でも身バレした時のリスクがね……
それに、そんな事しなくても私は皆に見て貰える。うん、大丈夫だよ。多分……
月神「うふふ、仲が良いわね。それじゃあゆっくり入りましょう……」
※
瀬川「ふぃ~……」
とぷん。とぷんとお湯に沈む。滑らかなヴェールを纏わせるように、周囲の水を編み込んでいく
身体にまとわりつく感触が心地いい。暖かなお湯に迎えられて、凝り固まった私の意識は解れていった
どろどろになりそうな温度の中、私の意識も、トロトロに溶けていって……
照星「ひゃっほーう!」
瀬川「うぎゃっ!?」
月神「照星さん! 飛び込んじゃダメよ!」
照星「にひひひっ! スゲーっす! 凄くキモチイイっすよ、このお風呂!」
月乃「……同感。でも騒がしいのは止めてほしい」
古河「照星、月乃、お前らこっち来たらシバき倒すから覚悟しとけや」
照星「月乃先輩のおっぱい柔らけーっすね……指が沈んじゃうっすよ」モミモミ
月乃「……夕こそ。弾力とハリがしっかりしてる。健康的な肉体の証」モミモミ
瀬川「うぅ……私もそっち行こっかな……」
古河「瀬川もや。その胸引きちぎるで」
瀬川「ダイレクトに言った!? って痛い痛い痛いそこつねんないで、揉まないで!!」
古河「別にええやろ腹くらい! 見た目と雰囲気がアホっぽいクセに案外締まっとんなお前なぁ!」
なんなのそれ!? 体型が崩れない様に調整するのはレイヤーの嗜み……っておへそ穿らないで!?
月神「み、皆楽しそうね……でもそろそろ止めた方がいいかしら……?」
※
御影「……見える?」
飛田「見えんな」
駆村「くそっ、見れないならもういいだろ……」
御影「そんな事ないよ! 許嫁の事皆にバラしてもいいのかよ!」
飛田「いやぁ驚いた。これが知られたらどんな風に見られるかなぁ?」
駆村「止めてくれよ……」
御影「でもおっかしいなー……なんかやけに湯気が多いと思うんだよな……」
飛田「声もくぐもっていて何を話しているかさっぱり聞こえん。どうなっている……」
「おい」
御影「何だよ駆村クン。バレるだろ!」
飛田「少し黙っていろッ、オレは今崇高な目的の為に全神経をすり減らしているのだッ」
駆村「は? 俺は何も言っていないぞ」
飛田・御影「「は?」」
「おい。もう一度だけ言う」
陰陽寺「邪魔だ、そこをどけ」
「「「…………………………」」」
「ぎゃああああああああああっっっ!?!?!?」
月神「!? な、何!?」
瀬川「今のって……男子の声、だよね?」
古河「アイツら、まさか覗いてたんか!? 絶っ対許せへん!」
月乃「……でも、ならどうして悲鳴を?」
照星「そうっすねー。なんなら見せてあげたっすけどね! いひひ」
瀬川「呑気だね照星さん……」
陰陽寺「……………………」
瀬川「あ、陰陽寺さん来たんだ」
古河「丁度ええわ、外に男子おったやろ? そいつらは誰や」
陰陽寺「知らん。名前なんて覚えていない」
瀬川「結構時間経ってるのに!?」
月神「陰陽寺さん。別に彼らをどうこうするつもりは無いの。教えて頂戴?」
陰陽寺「御影、飛田、駆村だ」
月乃「……スラスラ答えた」
古河「あんのヤロウ……早速ぶちのめしたるわ!」
瀬川「絶対どうこうするつもりだ……あ、私もそろそろ出るね」
月神「そうね……ごめんなさい陰陽寺さん。ゆっくり浸かっていってね」
陰陽寺「言われなくてもそうするつもりだ」
ふいっと素っ気なく顔を背けて、お湯の中に浸かる陰陽寺さん
気のせいかもしれないけど……その顔は普段よりも穏やかに見えた
※
スグル「あの……どうして三人は正座しているんでしょう」
竹田「察してやれ坊主。だが敢えて言ってやるなら見つかっちまったんだろうよ」
朝日「あは、皆恐ぁい。ところでねぇ、これチョコアイスなんだけど、食べてみるぅ?」
スグル「あ、いただきます……」
※
御影・飛田「「こいつが首謀者です」」
古河「そうなんか? 駆村?」
駆村「ふざけるな! 俺は無理矢理付き合わされただけだ!」
月乃「……でも、一緒に私達の裸を見た」
御影「見てないよ! というか見えなかったし!」
飛田「ぐうぅッ、何故あれだけ凝らしても一片も見えなかったのだ……」
照星「反省ゼロっすね。これはアウトっすよ!」
月神「でも、陰陽寺さんと約束したもの。今回の事は不問にするわ」
御影「ほ、ホント!?」
月神「だけど無罪放免にするのは出来ないから、三人は明日食堂の清掃をお願いね?」
飛田「クッ、何故オレがそんな事を……」
駆村「もう諦めろ……泣きたいのは俺の方だよ……」
この後、三人の処遇について一悶着あったけど最終的には月神さんの案で可決された
これ以上の話はまた明日に。という事で、今日の所は解散となった
……なんだか眠たくなってきたのは、お湯に浸かって気持ちよくなったからだと思いたい
月神「皆、お休みなさい。私はもう少しだけ食堂にいようかしら……」
月神「……あら? これは……”勾玉”? いったい誰のものなのかしら……」
※
朝日「スグルくぅん。こっちこっちぃ」
スグル「は、はい……あの、大丈夫なんですか?」
朝日「大丈夫だよぉ。女の子達は、もう入っているんだもん」
朝日「私達オトコノコだって……入っちゃったって問題無いよねぇ」
スグル「ところで……他の方々は?」
朝日「……えへへぇ。実はねぇ、誰にも教えていないんだよぉ」
朝日「私、スグルくんと二人っきりで入りたかったんだもん」
朝日「だから、今夜一緒にお風呂に入った事はぁ私とスグルくんだけの……ひ、み、つ。だよぉ?」
スグル「は、はい……」
朝日「それじゃあ……服、脱がせてあげるねぇ。腕をばんざーいってしてよぉ」
スグル「え……!? そ、それは流石に……!」
竹田「ん……? なんだ坊主か? こんな夜更けに何してんだ」
スグル「た、竹田さん!?」
竹田「おっ、もしかして坊主共も銭湯に用か? 若いのに風情がわかるじゃねえか」
朝日「じゃあ、竹田さんも……」
竹田「応ともよ。デカい銭湯なんざこのご時世、軒並み潰れちまったからなあ」
竹田「俺がまだガキの頃は、あちこちにあったんだけどな……っといけねえいけねえ。無駄話だな」
スグル「あ、あの! 竹田さんも一緒にどうでしょうか?」
竹田「あ? いいのか?」
スグル「はい。朝日さんも……いいですよね?」
朝日「うん。私は構わないよぉ」
竹田「有り難いねぇ。んじゃ、男だけの裸の付き合いでもやるとするか!」
※
朝日「スグルくん。肌すべすべだねぇ」
スグル「そ、そうですか……あの、くすぐったいのでそろそろ……」
朝日「ん~……もうちょっとだけねぇ」
竹田「よっ……と。いい湯加減じゃねえの……痛つ」
スグル「! 竹田さん。その肩、包帯を巻いているじゃないですか……!」
朝日「右腕……怪我しているんですかぁ?」
スグル「もしかして、臓腑屋さんに襲われた時に僕達を庇ったせいで……」
竹田「あー、気にしてんのか? しゃあねえだろ、反応しちまったんだからよ」
竹田「あそこでスグルの坊主らを見殺しにするなんざ大人の面子丸潰れだろ? 大人にはな、無茶してでも見栄を切るべき場面があるもんだ」
竹田「ま、何て言うかね……そんな気にすんなよ。あれは俺が好きでやった事だからよ」
スグル「……はい」
朝日「そういえば、前々から気になっていたんですけれどぉ」
朝日「竹田さんってぇ、どうしてその年で超高校級なんですかぁ?」
スグル「朝日さん、それは……」
竹田「なんだぁ? んな事が聞きたいのか。別に面白くもねえし長くなるぞ?」
竹田「けどまあ気になんなら話さねえ訳にはいかねえわな。百数えるつもりで聞いてくれや……」
竹田「俺も昔は……坊主らと同じくらいの歳の頃は超高校級だったんだぜ?」
竹田「ま、俺の場合は親父の会社継いで発展させただけだからよ。他の連中とは事情が違うわな」
スグル「へぇ……昔から超高校級と呼ばれていたんですね」
竹田「だけどよぉ、親父が急にぽっくり逝っちまってな。今すぐにでも会社を建て直さなきゃならなくなっちまってな」
竹田「学業との両立は、どう考えても不可能だったんだ。だから俺は……」
朝日「学校を辞めて、会社に専念したんだぁ」
竹田「そういうこった。だからまあ高卒だな。俺の最終学歴はよ」
竹田「ん? 社長が高卒でもいいのかって? 俺は学歴よりも肩書きのが重要視されたのさ」
スグル「そうなんですか……」
竹田「……けどまあ、何も不都合が無いとは言え、ずっと高卒ってのはだせえだろ?」
竹田「だから、またここに来たのさ。箔をつけ直す為にな」
竹田「元々超高校級だったのも好都合だったな。鶴の一声で決まったのさ」
朝日「会社は大丈夫なんですかぁ~?」
竹田「信頼のおける奴に任せてある。俺が帰れなくなっても大丈夫な様にな」
竹田「本当は姉貴が継いでくれりゃあ良かったんだがね……」
スグル「お姉さん。いるんですか?」
竹田「応。……ま、数十年くらい会ってねえんだけどよ」
朝日「会ってないのぉ? お姉さんなのにぃ」
竹田「ん……まあな。けど勘違いすんなよ。別に死に別れたって訳じゃあねえ」
竹田「駆け落ちしたのさ。何処の誰とも知れねえ男と、腹に身籠ったガキを連れてな」
竹田「そのせいで、親父もおふくろも姉貴の事は俺に教えてくれなかったな……勘当したらしいしな」
竹田「俺に教えてくれたのは、ガキは女で、育っていれば坊主らと同い年くらいって事しか知らねえ」
竹田「だからよ。姉貴が継げねえ以上は俺がやるしかねえ……仕方ねえ事なのさ」
朝日「でもぉ、駆け落ちするなんてすっごく情熱的なお姉さんなんだねぇ。私には出来ないかなぁ」
竹田「……朝日の坊主は月乃の嬢ちゃんと離ればなれになるの、嫌か?」
朝日「考えた事無かったなぁ……私達はずうーっと一緒にいるんだって思っていたんだもん」
朝日「小さな頃は、二人でよく遊んでたんだぁ。私が王子様で、月乃ちゃんがお姫様……」
朝日「もう、ずっと昔だから……月乃ちゃん。忘れちゃっているかもねぇ」
スグル「……きっと、月乃さんも朝日さんの事が大好きだと思いますよ」
朝日「ありがとぉ~スグルくん、優しいねぇ」
スグル「あはは。そんな事ありませんよ」
竹田「ま。優しい所は坊主の美徳だ……そろそろ上がろうぜ。のぼせちまうと敵わねえからな」
「「は~い」」
※
竹田「よっと、忘れ物はねえよな?」
スグル「はい。僕は大丈夫です」
朝日「私もだよぉ」
竹田「いやあ悪かったな。本当は坊主ら二人、水入らずだったんだろ?」
竹田「それをこんなオッサンが割り込んじまって、迷惑だっただろう?」
朝日「どこも迷惑なんかじゃありませんよぉ。私も楽しかったなぁ~」
スグル「はい! 僕も、貴重なお話が聞けてとても嬉しいです!」
竹田「がっははは! そりゃあ俺も風呂に来た甲斐があるってモンだな!」
「……おい」
竹田「……あ? なんだぁ? 今の声は」
朝日「私も聞こえたけどぉ……だぁれぇ?」
陰陽寺「お前達がここにいたならちょうどいい」
陰陽寺「ここに落とし物があったはずだ。それはどこにある」
スグル「落とし物……? そんなものはありませんでしたけど……」
陰陽寺「………………そうか」
朝日「ねぇ、落とし物って何なのぉ? 私達も手伝うよぉ」
陰陽寺「必要ない。もう帰る」
スグル「あっ……! ……いっちゃいましたね」
竹田「ま、何にせよ話は明日だな……気を付けて帰れよ。坊主共」
朝日「はぁ~い」
※
「……んっ。ふぁああ~」
なんだかよく眠れた気がする……温泉のお陰かな?
時計を見てみると、今は朝の六時を迎えようとしているみたい
まだ少し時間があるし、もう少し眠っていてもいいかな……
「……やっぱり、もう起きてよっと」
……いや、二度寝は間違いなく寝過ごすフラグだ
昨日はそれで酷い目にあったし……また同じ事になるのは避けたい所だ
たまには早起きして、皆を待ってもいいかもね!
そうと決まったらやる事は一つ。手早く髪を解かしていって、顔を洗う
鏡に写った私の顔は、紛れもなく今までの瀬川千早希の顔だった
※
月神「あら……? おはよう。瀬川さん、今日は早いのね」
瀬川「まあ、たまにはいいかなって……」
駆村「せめて昨日にそう思ってほしかったよ……」
瀬川「ごめんなさーい……」
箒を持った駆村君に嫌味を言われた……よく見たら後ろで伸びてるのは御影君と飛田君だ
御影「うぅ……掃除ダルい……」
飛田「こんな地味な事……何故オレがしなければならぬのだ……」
月神「後少しよ、ファイト!」
駆村「そう言って窓拭きから廊下掃除、果ては料理の仕込みまでやらせたじゃないか……!」
瀬川「うわ、スパルタ……」
早起きして良かった。さりげに月神さんの教育方針がおっかない事がわかったんだもん……
三人が掃除しているみたいだし、私がドタバタ動くのも申し訳無いし、座って様子を観察してよう
瀬川「あ、ちょっとお水注いで貰えるかな?」
御影「それくらい自分でやってよ!?」
瀬川「いいじゃんちょっとぐらい……」
月神「あまり頼りすぎもダメよ? はい。お水」
瀬川「あ、ありが……」
「おい」
瀬川「……っ!?」
ゾクリ。声が聞こえた途端背中に嫌な感覚が走る
聞こえてきた声には覚えがあるし、その声自体は何の感情も宿っていない
けど、発言した人……振り向かなくても理解できる程の冷たい殺気を振り撒きながら、進んで来るのがわかる
他の人も、恐る恐る声の主の方を向く。そこにいたのはいつも通りの仏頂面の……
いいや……仏頂面を通り越して怒り心頭有頂天な雰囲気を放出している……!
瀬川「お……陰陽寺、さん……?」
陰陽寺「……………………」
御影「ヒィイイイ!!! な、何なのさ!?」
飛田「おおお落ち着け落ち着くのだ。流石に昨夜の件でオレ達を殺しに来た訳ではがぁぐ!?」
駆村「思いっきり動揺してるじゃないか! 思いっきり舌を噛んでるじゃないか!」
瀬川「あのー……私達に何かご用でも……」
陰陽寺「単刀直入に聞く」スッ
瀬川「単刀直入ってそっちの意味で!? 竹刀をこっちに向けないでよーっ!」
剥き出しの殺気と抜き身の竹刀を突き付けられる様な事をした覚えなんて無いのに!?
陰陽寺「僕の落とし物はどこだ。昨夜大浴場にいたならば、知っているはずだ」
飛田「落とし物……? そんなもの知らんッ」
陰陽寺「あの後、徹底的に学園内を捜索した。お前達が奪い取ったんだ」
御影「勝手に決めつけないでよ!? 本当にそんなモノ知らないってば!」
陰陽寺「嘘をつくな。渡さないつもりなら僕も手段を選ぶつもりはない」
瀬川「話を聞いてよ!? そもそも落とし物って何の事……」
月神「……もしかして、勾玉の事かしら?」
陰陽寺「……!」
月神「キャッ!」
御影「月神さん!?」
陰陽寺「返せ……。それは、僕のものだ……!」
瀬川「お、陰陽寺さん……? 落ち着いて……!」
言うが速いか。目にも止まらぬ速さで距離を縮めたかと思うと、月神さんの首を握り締めている
このままじゃマズイ……下手しなくても月神さんが絞め殺される……!
飛田「ややや止めたままままま……」
駆村「もう飛田は黙っていろ! 陰陽寺、それ以上は見過ごせないぞ……!」
月神「い……今は、持ってきていない、の……」
月神「でも、確かに私が預かっているわ……後で、私の部屋に来てくれれば……!」
陰陽寺「……その言葉。確かに聞いたからな」
満足したのか、手を離す。月神さんは苦しそうに咳き込むと、呼吸を整えて立ち上がった
対する陰陽寺さんは、もうここには用はないとばかりに背中を向けて……
月神「……何処にいくの?」
陰陽寺「用は済んだ。ここに居る価値は無い」
駆村「いいや。陰陽寺にはここにいてもらう」
駆村「重大な話がある……それが終わるまで、食堂で待っていてもらうからな」
瀬川「重大な、話……?」
重苦しそうに切り出す駆村君。陰陽寺さんもその空気を察したのか、手頃な椅子に静かに座った
……早起きは三文の得。という諺が頭を過る
偶々早く来たせいで、何だか物凄い事に巻き込まれちゃった気がする……!
※
瀬川「……”新世界プログラム”?」
食堂に全員が集まって少し、駆村君がおもむろに切り出してきたその単語
語感からして、何かのソフトウェアか、もしかして箱庭的育成ゲームかな……?
皆も聞き覚えが無いみたいで。首を傾げたり捻ったりを繰り返していた
古河「いや、知らんがな。何なんソレ?」
御影「と言うか、何で駆村クンがそんなモノ知っているのさ!」
スグル「それは……僕から説明します」
瀬川「スグル君?」
スグル「まず、先に話しておきたいのは……駆村さんは、僕に投票していたんです」
照星「え!? 駆村先輩はスグルんが嫌いなんっすか!?」
駆村「そんな訳ないだろ! 本当に嫌いならそもそも言い出さなければいいんだぞ!」
照星「それもそうっすね。サーセン!」
月乃「……兎も角、何故その新世界プログラムがスグルの秘密と関係があるの?」
スグル「はい。僕の秘密は……これなんです」
『超高校級の???神威スグルは、新世界プログラムの奪取に関わっている』
瀬川「……? ドユコト?」
これが、スグル君の致命的な秘密……?
スグル「それが……僕にもわからないんです。記憶が曖昧だからだとは思いますが……」
竹田「奪取って事は誰かから奪い取ったんじゃあねえのか? 下手したら超高校級の強盗かもな!」
スグル「それは違う……と、思いたいです……」
照星「スグルんが強盗なんて無理っすよ。雰囲気がふにゃふにゃっすからね! いひひっ!」
スグル「ありがとうございます。照星さん」
古河「言うとくけど、褒められとらんからな」
朝日「でもぉ、そのプログラムがどうしたのぉ?」
駆村「スグルの才能に関する情報だからな。名前も出ているし誰か知っているかと思ったが……」
スグル「知らないなら解らず仕舞いですね……」
しょぼんと肩を落とすスグル君。自分に関わる情報かもしれなかったのに、解らなかったからショックなんだろうな
皆もその態度を見て何て声を掛けていいのかわからない。スグル君を見て哀しそうな顔を浮かべていた
”大丈夫だよ。私がついているから!”って言えば、好感度も上がるかな……よし!
瀬川「大丈夫だよ。私が」
モノクマ「新世界プログラムなら、ボクが説明致しましょう!」
瀬川「ぎゃあっ!?」
スグル「瀬川さん、大丈夫ですか!?」
瀬川「な、何とか致命傷で済んだよ……」
急に出てきたから、椅子からひっくり返っちゃったよ……しかも逆に言われる側になったし!
瀬川「いきなり何なの!? 唐突に現れて唐突に脅かすの止めてよ!」
駆村「瀬川が勝手に驚いたんだろ……」
モノクマ「まあまあそんなに怒らないでよ。新世界プログラムの事について知りたいんでしょ?」
モノクマ「生徒の疑問に答えるのも学園長の大切な役目だからね。ボクが丁寧に解説しましょう!」
陰陽寺「どういう風の吹き回しだ」
飛田「そうだッ貴様の言う事等信じられるかッ!」
月乃「……デタラメを言っても私達には判断が出来ない。聞く価値は無い」
私達にはわからない……そりゃそうだ。モノクマが適当な事を言って私達を混乱させようとしているのかもしれない
月神「……モノクマ、帰って頂戴」
モノクマ「しょぼーん。生徒はいつか旅立つものとはいえ悲しいなぁ……」
モノクマ「あーあ。せっかくオマエラが知りたがる様な情報があるのになぁ」
御影「とっとと帰れよお前!」
全員からのブーイングを身に浴びながら、モノクマはすごすごと退散した
……かと、思っていたんだけど…………
ハルカ『それでは、第一回新世界プログラムについての講義を始めまーす』
瀬川「うわぁ!? なんか始まったよ!?」
古河「シカトやシカト! 放っとけ!」
ヨウ『先に言っておくが、ちゃんと聞かないと毎日流すからな』
照星「メンド臭いっすね!?」
スグル「……仕方無いですね」
ハルカ『まず、新世界プログラムとは何か? という疑問にお答えします』
ハルカ『答えは”現実世界と同じ体験が出来る仮想空間システム”の事なんだよ!』
月神「現実と同じ仮想空間……? そんな事、本当に可能なのかしら」
瀬川「案外有り得るかもね。要はVRの進化系みたいなものでしょ?」
何かのアニメで、ゲームの中で過ごしてハーレムを作ってたのがあったっけ。あれみたいな感じかな
ヨウ『本来の用途はセラピー用らしいな。足の動かない人間に歩く体験をさせたりとかしたらしい』
ハルカ『へー凄く便利だね! そんな便利なものをどうしてスグル君は奪い取っちゃったのかな?』
ヨウ『くっくっく。便利な物には裏があるのさ。この世が光と闇の表裏一体である様に、シロの裏にはクロがある様にな!!』
御影「それはオセロでしょ!?」
古河「はぁ? それ言うんならリバーシやろ!」
月乃「……どっちでもいい」
竹田「静かにしな。そろそろ次みたいだぜ」
ヨウ『このプログラムを作ったのは……超高校級の絶望だ』
ハルカ『え、えぇ~っ!? あ、あの超高校級の絶望だってぇ~!?』
スグル「……っ!?」
月神「スグル君!? どうしたの!?」
スグル「あ、頭が痛いっ……吐き気が……っ!」
飛田「は、吐くんじゃあないぞッ!?」
竹田「無理すんな坊主。そら、床に寝転がってろ」
竹田「俺の羽織で申し訳ねえが、無いよりかは幾分楽だろうよ」
スグル「あ、ありがとうございます……っ!」
脱いだ陣羽織の上に横になるスグル君。加齢臭とかで逆に気分悪くならないかな……とは言わないけど
ヨウ『超高校級の絶望とは、読んで字の如くだな。超高校級に絶望的な連中さ』
ハルカ『やりたい放題やり過ぎたせいで、世界から駆除されちゃったんだよね! ざまーみろ!』
ヨウ『で、その超高校級の絶望からの戦利品がその新世界プログラムという事さ』
ヨウ『本来の新世界プログラムはアバターを使ってコロシアイを行う……謂わばコロシアイシミュレーションと言うべき代物なのさ』
……コロシアイのシミュレーション。要するにデスゲーム系のアニメでよくあるアレなのかな?
某ソードでアートするオンラインゲームとかでもお馴染みの便利な舞台……少しやってみたいかも
ハルカ『なるほどなるほど~……そんな危ない人達が作ったのにこんな平和な使い方が出来るなんて、バカと鋏は使い用って事だね』
ヨウ『そうだな。まあ今の新世界プログラムは安全に安全を重ねて”絶対にコロシアイが出来ない”様にある細工がされているがな』
ハルカ『ふうん。なら安心安全だね! でもそれってどんな細工なの?』
ヨウ『知りたいのか? 別に俺達には関係無いじゃないか』
ハルカ『だって、ここってプログラムのな……』
ハルカ『……………………』
ハルカ『わーーーー!?!?!? どうしようヨウくん! ネタバレだよ!!!』
ヨウ『おおお落ち着け。まだどこがどうネタバレかは言ってないからまだギリギリセーフだろ多分』
ヨウ『ここは別の話題でお茶を濁そう。という訳で新しい校則について説明しておこう』
ハルカ『前回の臓腑屋さんみたいに、全員を皆殺しにしようとするのはこっちとしても困るんだよね』
ヨウ『と言う訳で、今後は【同一のクロが殺せるのは二人まで】というルールが追加されるぞ』
ヨウ『仮に同一のクロが三人以上殺害した場合、校則違反として処刑されるから覚えていてくれ』
ハルカ『はい! 皆はこのルールだけ覚えておいてね! 他は忘れていいからね!』
ヨウ『それじゃあまたな! 絶対に気にするなよ、いいな!』
瀬川「……何だったんだろう。今の」
スグル「さあ……?」
本日ここまで
キャラの作成については後に話します
テレビが終わって、しーんと静まり返る。この無言の沈黙が痛い……
もう、いいかげん誰でもいいから何か話して……。とか考えていたら、竹田さんが口を開いてくれた
竹田「ま、なんだ。要するに一人のクロにつき二人までしか殺すなって事だろうよ」
駆村「そうでしょうね……安心すべきでは無いと、俺は思いますけど」
古河「なんでなん? 殺される数が減るんなら儲けもんやろ!」
月乃「……それは、また事件が起きる前提で話しているから。事件なんて起きない方がいい」
古河「…………せやったわ」
一人につき二人までしか殺せないって言われても、それが殺人の回避に繋がる訳じゃない
毒薬も出てきたし、少なくとも一人の手で皆殺しにされる危険性は無くなったって言えるけど……
月神「……大丈夫よ。もう、皆もコロシアイなんてしないって思っているでしょう?」
月神「コロシアイなんて、もう起きない。四人の為にも、私達はモノクマに負けちゃいけないの」
照星「そうっす! もう自分は負けねーっす、見ててください、自分の頑張り!」
うーん、皆張り切ってるなあ。私も頑張ろっと! 何かを!
……そうだ。いい機会だし、聞いておこっかな?
瀬川「そうだ、月神さんに聞きたいんだけど」
月神「何かしら?」
瀬川「結局、月神さんの秘密って、何なの?」
月神「……えっ?」
瀬川「いや、本当に気になっただけなんだけどね。でも隠し事するのはよくないでしょ?」
朝日「でもぉ、月神さんってぇ、確か自分で自分に投票してって言ってたよねぇ」
駆村「瀬川……お前、誰に投票した?」
瀬川「陰陽寺さんですごめんなさい……」
自爆した……陰陽寺さんの視線が痛い。物理的に
月神「だ、大丈夫よ陰陽寺さん。きっと大した事は書いていないから」
陰陽寺「ふん。どうだか」
うん。本当は大した事が書いてあるんだけど、それは秘密だ。言ったら殺される……
飛田「まぁまぁ言いじゃあないか。オレなんて可憐なレディの秘密を盗み見る事なんて出来ないから御影に投票しているしなッ!」
御影「よくないよ! 何してんのさ!?」
古河「少なくともオマエが言えた事ちゃうやろ!」
古河さんにド突かれてぶっ飛ぶ御影君。そりゃ、私と同じで私怨で入れたもんなあ……
御影「痛たたた……やったな! このチンピラ!」
古河「言うたな! このボンクラの役立たず!」
月神「二人とも、喧嘩は止めて!」
口喧嘩を始めそうな二人を、月神さんでは珍しく、強い勢いで制止する
とはいえ、それだけで止まる様な二人じゃない。手は出してないけどバチバチと睨み合いを続けている
月神「それで……私の秘密を知りたいのね?」
月神「私も、どんな秘密が渡されたのかは知っているわ。それはね……」
ぽつりぽつりと語り出す。月神さんの、少しだけ昔のお話を……
月神「まず、私の秘密についてなんだけど……家族が絡むの」
月神「それなら最初に、私の家族構成から話した方が良さそうね。私は、父と弟と暮らしているの」
瀬川「弟って幾つ!?」
スグル「そこは気になる所ですか……?」
月神「確か、小学6年生だから……12歳ね」
瀬川「やったぜ!」
御影「何がだよ!?」
重要な事だからね、私にとって! きっと月神さんに似た、可愛い子なんだろうなぁ~
竹田「で、その弟さんが秘密に関係あんのか?」
月神「いやそれは……ううん。関係していると言えば、しているわね」
瀬川「マジで!?」
月神「私がアイドルになる切欠は、スカウトだったの。街で買い物をしていたら、突然……」
古河「よくあるやっちゃな。で、そのスカウトからアイドルになったんやろ?」
月神「そうなんだけど……私、一度断っていたの」
月乃「……何故? アイドルに憧れる少女は多い。私も羨ましい」
朝日「そうなのぉ? でも月乃ちゃんは私の一番のアイドルだから大丈夫だよぉ」
月乃「……………………!」ゴンッ!
朝日「痛いよぉ……」
照れ隠しなのか違うのか、鉄拳が朝日君のこめかみを撃ち抜く。今鈍い音したけど大丈夫だよね?
困惑を隠せない皆。月神さんは大丈夫、と声をかけて、話を続けていく……
月神「……私の家は、あまり言いたくないけれど貧しい家だった。それでも、三人でなんとか暮らしてきたの」
月神「お母さんは、もういないから……」
照星「……事情は聞かないっすよ!」
月神「スカウトが来たのも、私がアルバイトをしている時だったの」
竹田「トップアイドルの原石もバイトする時代か、世知辛えなあ」
御影「あれ? お父さんいるんでしょ、バイトなんかしなくてもよくない?」
瀬川「女の子はお金が欲しいんだよ。貯めても貯めてもすぐに消えちゃうからね」
スグル「そ、そうなんですか……」
月神「そう。私はお金が欲しかったの……それに、レッスン代や衣装代なんて、とても払えない」
月神「……お父さん、体を壊して、ずっと車椅子で生活しているから」
陰陽寺「……………………」
月乃「…………それって」
月神「そうよ。私、動けないお父さんを置いてここに……アイドルとして来ているの」
泣きそうな、叫び出しそうな。月神さんの、無理に造った笑顔が痛々しい
家族を放置して、アイドルとして活動する事が、今でも苦しめているって理解出来るくらいには
飛田「だ……だがおかしいじゃあないかッ、最初のレッスン料等はどうしたのかねッ」
月神「事務所が払ってくれたの。私が必ず返してくれるって信じるから、今は投資するんだって」
月神「でも、それだけじゃ普段の生活もままならない……弟も、クラブを止めて内職をしているの」
月神「だから……私は諦めちゃいけない。家族や事務所の人。マネージャーさんの為にも、絶対に前を向き続けたい」
月神「それが、今の私に出来る恩返しだから……」
スグル「月神さん……」
瀬川「……それって、いざって時には私達を犠牲にしますよって事だったり?」
スグル「瀬川さん、そんな言い方……」
月神「そんな事はしないわ。だって、私の大切なクラスメイトなんですもの」
月神「私、ほとんど友達がいなかったの。ずっとアルバイトをしていたせいで……」
月神「だからクラスメイトの皆とこうして交流出来る事が、本当に楽しいの! ……お父さんには悪いと思っているけれどね」
バツの悪そうな顔で、控えめに微笑む
家族を置き去りにしたのに、自分が楽しんでもいいのか……そう考えているのかな
月神「……これで、私の秘密はおしまい。『家族を見捨てた』。それが私の知られたくない秘密……」
古河「せ、せやかてそんなん仕方無いやろ! そんなん言い出したらキリがあらへん!」
竹田「家族の為にアイドルやってんだろ? それに引け目を感じる事なんかねえだろう」
スグル「お父さんや弟さんも、月神さんを応援してくれているんでしょう?」
月神「それは……そうかもしれない、けど」
朝日「なら大丈夫だよぉ。これからもぉ姉弟で助け合っていけばいいと思うなぁ♪」
月乃「……お前が言うな」
朝日「酷いよぅ月乃ちゃあん……」
月神「……ありがとう。皆」
……なんかいい話になってるけど、これって結局月神さんしか得してなくない?
こんなはずじゃなかったのに……。もっとエグい秘密があるって信じていたのに!
……気を取り直して、今日も一日頑張ろーっと。私の秘密はバラさないようにね
※
暇だなぁ。どっか適当にぶらついて……
瀬川「……うわぁ!?何、今の!?」
なんか目の前に飛んできたんだけど!?
御影「あ~そっち行っちゃった……あれ? 瀬川さんどうかした?」
瀬川「どうかした?じゃないよ! 人の目の前に、得体の知れないもの飛ばさないでよ!」
朝日「瀬川さぁん。それゴムだよぉ」
瀬川「……ゴム?」
朝日「あっ……輪ゴムの事だよ……?」
瀬川「わかってるよ! 朝日君は何と勘違いしたと思っているの!?」
そんな事はわかってるよ。輪ゴムが飛んでくる事自体がおかしいんだって!
御影「竹田さんが作ってくれたんだ! 暇潰しに遊んでみたらってさ!」
朝日「これなんて凄いよぉ? 割り箸を飛ばしたり消しゴムを飛ばしたり出来るんだぁ」
瀬川「そう……」
そんなニチアサ玩具のバリエ違いみたいな……いや竹田さんは玩具屋だし得意だとは思うけど
朝日「良かったらぁ、瀬川さんも一緒に」
瀬川「遠慮しまーす」
御影「即答!?」
そういう子供のオモチャには興味ないんだよね。私小さい頃は塾通いばっかだったし
ここにいても面白くないな……別の所にいこうっと
※
『ダンスホール』
瀬川「あれ? 珍しいね、二人が一緒なんて」
スグル「はい。そうなんで……」
飛田「やあレディー! オレに会いに来てくれたのかい? スグル、お前は用済みだ。どこへなりとも消えるがいい」
哀れスグル君はお役御免となってしまった。何に付き合わされていたのかは知らないけど可哀想に……
瀬川「……飛田君。スグル君に何させてたの?」
スグル「なんでもスランプみたいで……僕にスランプを解消する手伝いをして欲しかったみたいです」
瀬川「ふーん……で、何すればいいの?」
飛田「とにかくオレの全てを称え、オレを誉めちぎればいいだけの簡単な仕事さ」
瀬川「ヨイショ要員かい!」
飛田「練習だッ、スグルカモンッ!」
スグル「はい! 飛田さん、カッコいいです!」
飛田「バカにしてるのかキサマァ! そんな見え透いたお世辞で、本当に喜ぶと思っているのか!?」
飛田「全くこれだから男は……オレの美しさを理解するだけの容量が足りていないな」
いやこれ結構難しくない? 気分良くなる様に褒めないとダメなんでしょ? 無理だよこれ!
瀬川「あっ、私用事を思い出した!」
スグル「え、瀬川さん!?」
申し訳ないけど、私には絶対無理っぽいんだよね。面倒臭いし
と、いう訳で……逃げるんだよぉ~!
飛田「ん? いないな……やむを得ん。スグル、続けろ」
スグル「うわぁぁぁ……!!」
※
古河「……で、結局食堂に戻ってきたん?」
瀬川「うん……」
輪ゴムをぶつけられたり無茶振りを要求され続けた結果、最終的に着いたのは食堂だった
照星さんが淹れてくれたお茶を流し込む。案外料理上手なんだね……
照星「自分は母親が病気だったっすからね。姉貴と自分が料理の担当だったんすよ」
照星「けど、姉貴の料理は薄味過ぎて……健康にはいいんすけどね……」
瀬川「だから味が濃いめなんだ……」
遠い目をする照星さん。気持ち濃い目のお茶をすすりながら、お茶請けのお菓子をかじる
古河「ウチもアニキや弟が料理せへえんからオカンが料理せへえん時はウチがやるわ。まあ二人には食わせへんけど」
瀬川「食べさせてあげようよ。兄弟なんだし……」
古河「働かんヤツに食わすメシは無いわ!」
照星「そう言えば、瀬川先輩には兄弟いないんすよね。前に聞いたっす」
瀬川「あ、そう言えば……」
あの時は臓腑屋さんも一緒にいたっけ……お姉さんがいるって言ってたけど、お姉さんは何していたんだろう
……まあ、これも嘘かもしれないけどね
照星「一人っ子って羨ましいっすねー。でも、何となく寂しくないっすか?」
瀬川「寂しくなんて無いっ!!!」
古河「ど、どないしたんや。そない大声だして」
瀬川「……ゴメン」
目を白黒する二人に頭を下げる。寂しいという言葉に、過剰に反応してしまった事に、激しい自己嫌悪が襲ってくる
……気まずい雰囲気が辺りに漂う。結局、話が弾む事はなかった
※
『月神の個室』
月神「……はい。これがその勾玉よ」
陰陽寺「………………………………」
月神「どう? それで間違いないかしら」
陰陽寺「ああ。邪魔をした、僕はもう戻る」
月神「待って、せっかく来たのだもの。お茶でもどうかしら?」
陰陽寺「必要ない」
月神「そ、そう……けど、あの勾玉。とても大切な物なのね」
陰陽寺「……お前には関係無い」
月神「……裏に刻まれていた名前は、お母さんの名前かしら?」
陰陽寺「お前には関係無い!」
月神「……ごめんなさい。無神経だったかしら」
陰陽寺「お前は……苦手だ。話していると、どうしても思い出す……」
陰陽寺「どうして、どうしてそんなに、”アイツ”によく似た目をしている……」
月神「……陰陽寺さん?」
陰陽寺「何でもない。もう僕に話しかけるな」
月神「……陰陽寺さん」
※
ハルカ『よい子の皆ー! ココロオド……』
ハルカ『ってあれ? 普段のイントロは? ていうか、心なしか何だか簡素になってない?』
ヨウ『ああこれの事か? 飽きたんだとよ。需要も無さそうだしやる意義が感じられないんだとよ』
ハルカ『め、メメタァーっ!』
ヨウ『まあそんな事はどうでもいいさ。重要なのは動機の方さ』
ハルカ『あ、もう動機って言っちゃうんだね。建前上は皆が仲良くなる為のミッションなのに』
ヨウ『そんな細かい部分に気づいてる奴いないぞ。という事だ。生徒諸君は体育館に来てくれ』
ハルカ『ゴールデンから週末に左遷されたせいで、尺が取れないんだよね……』
ヨウ『さて、唐突だが初の合言葉といこうか!』
『『鮮やかな!!』』
ハルカ『遥かな明日を!』ヨウ『見届k
※
※
『体育館』
モノクマ「うぷぷ。来たみたいだね……」
瀬川「いや、さっきのは何?」
打ち切られた……いや打ち切り所か投げやり過ぎる展開に唖然としながらここまで来たよ
まだ断末魔が耳にこびりついてるよ。あの悲壮な顔がまだ目に焼き付いてるよ
ほら、皆も気まずそうな顔してるよ……
モノクマ「昔ながらのやり方じゃ通用しなくなってきているからね……色々変えていかないと」
竹田「時代についていけなくなったってか。悲しい事言ってくれるじゃねえの」
月乃「……流行り廃りとは残酷なもの」
しみじみと語り出す竹田さん達。今のこの状況で、そんな悲しい話はやめて……
飛田「そんな事はどうでもいいッ、いったい全体、何の用件だと言うんだッ!?」
モノクマ「ああそうそう動機動機……。ところで、オマエラには会いたい人とかいない?」
……は? 会いたい人?
どうしてそんな事を急に……。いや、いないと言えば嘘になるけど
けど、その人にはもう会えない。だって……
スグル「会いたい人……」
月神「……それが、どうかしたのかしら?」
古河「まさかそれが動機言うんちゃうやろな!」
モノクマ「あったりぃ~! 今回コロシアイを勝ち抜いたクロには、クロが会いたい人にもう一度会わせて差し上げます」
モノクマ「微妙な別れ方をしたアイツも、二度と顔を見たくないアンチクショウにも、ボクプレゼンツの感動の再会をさせてみせま~す!」
……再会? それが動機になるの?
御影「な~んだ! 大したことないじゃん!」
駆村「そもそも、今更誰かに会う為だけに人を[ピーーー]奴なんている訳が……」
モノクマ「本当に? 【死んだ人にも会わせる】って言っても大したこと無いかな?」
瀬川「…………は?」
死んだ人にも? どういう事なの?穢土転生?
照星「死んだ人……。……嘘っす! 死んだらもう会えないんすよ!」
モノクマ「そう思うならご自由に! ボクは決して嘘なんて言わないよ!」
モノクマ「正真正銘、本人に会わせてあげるよ!コロシアイしてくれたらね!ぶひゃひゃひゃひゃ!」
嫌な高笑いを残して、モノクマは去っていった
コロシアイしたら会いたい人に会える。……それが既に死んでいる故人だとしても
その動機が私達にもたらすモノは、今の私には理解できなかったんだ
瀬川「……どう思う?動機」
硬直した空気に耐えきれなくなる。背中がむず痒くなる感覚がくすぐったい
でも、そろそろ辛くなってくる。取り合えず、何か話しかけてみる事にした
御影「どうって……死んだ人に会えるって、流石に有り得ないでしょ!」
月乃「……科学的にも、倫理的にも不可能」
朝日「私には月乃ちゃんがいるから大丈夫だよぉ」
月乃「………………………………」
瀬川「……だよねえ」
会いたい人がいる……。けど、それがイコール人を[ピーーー]動機になるかって言われると疑問だ
現に、皆はこの動機に対して何も驚異を感じていない。今回はモノクマも失敗したかな……
照星「あ、あの。もしかしたら、なんすけど……」
照星「それって天地先輩や吊井座先輩にも会えるって事なんすかね……?」
瀬川「……は?」
何を言ってるんだこの人は……頭がおかしいのかな?
照星「それに、デイビット先輩や臓腑屋先輩……」
照星「死んじゃった人達って事は、四人ともそうっすよね……?」
駆村「な……しっかりしろ!モノクマの言葉に惑わされるな!」
スグル「そうですよ!皆さんも言ってるじゃないですか。死んだ人にはもう会えないんです!」
照星「け、けど……自分、ずっと後悔してて、これでいいのかなって悩んでて……」
陰陽寺「……下らない。いつまでも死人に執着するなんて無駄な事を」
陰陽寺「死人は死人だ。人じゃない。そんな奴に会ったところで、何が出来る」
月神「……陰陽寺さん!」
陰陽寺「モノクマを信じるのは好きにすればいい。それでどうしようと僕の知った事じゃないからな」
照星「……………………」
つかつかと帰っていく陰陽寺さんに、項垂れる照星さん。それを遠巻きに眺める私達……
この動機……なにか一波乱ありそうな予感……!
※
私が会いたい人は、きっと私に会いたくないと思う
だって、私は、その人から【──】を奪い取ったから
いなくなった事をいい事に、好き勝手してきたんだから
だから、会いたいけれど会いたくない。そんな矛盾した想いを懐いている
ああ、でも───
もし、許されるなら、もう一度…………
※
※
瀬川「おはよー」
月神「おはよう。瀬川さん」
動機が語られた次の朝。食堂には、いつもと変わらない顔の皆が揃っていた
何て事無さそうな態度を見るに、気にしている人はいなさそう
照星「……。あ、おはようございますっす。先輩」
……いや、一人いた。陰陽寺さんにバッサリされた照星さんだ
まだあの二人に未練があるのかな……。見るからにしょげた表情は、見てるこっちも辛気臭くなるよ
古河「そないしょげんなや。あんなんウソに決まっとるで」
駆村「死人が蘇るなんて……時雄島では有り得ないしな」
御影「いやどこでも有り得ないから!?」
照星「……なんかごめんなさいっす。自分のせいで」
月神「そんな事ないわ。悪いのはモノクマ……けほっ、けほっ」
朝日「あれぇ?月神さん。もしかして風邪ぇ?」
月神「そうじゃないわ。少し、むせただけ……」
…………ドサッ
スグル「つ……月神さん!」
飛田「ノォオオオオオオウ!?何があったのだね!?」
月神「あ……ごめんなさい。少しふらついて……」
唐突に倒れ込んだ月神さん。少し。と言った割には結構辛そうな顔をしてるけど……?
というか、なんか息が荒いんだけど……??
月乃「……熱がある。今日は寝ていた方がいい」
月神「平気よ。私は皆のリーダーなんだもの。このくらい……」
駆村「体を壊したら元も子もないだろう?休む事だって仕事の内と島では言われているんだ」
月神「でも……」
照星「……だーい丈夫っす!自分、先輩の分まで頑張るっす!」
竹田「ぶっ倒れて死んじまう事の方がよっぽど怖えからなあ。好意ってのは素直に受け取っとくモンだぜ?嬢ちゃん」
月神「……そうね、今日は部屋で休む事にしましょう」
月神「けど、何かあったら遠慮せずに私に相談して。話を聞く事くらいなら出来るから」
古河「そんじゃ行くで。また倒れたら敵わんからな。ウチの肩貸したるわ」
ありがとう。と会釈して、月神さんは食堂から出ていった
流石に毒とかは無いよね……なんて、そんな事を考えながら一日は始まっていくのだった
スグル「月神さん、何事も無くて良かったですね」
瀬川「うん。倒れた時はビックリしたけど」
御影「いや~でも正直焦ったよ!何かあったらどうしようって」
月乃「……何も無いのが一番。ゆっくり休めば明日には治る」
のんびりとお茶をすすりながらさっきの一幕を思い返す
急にフラッと倒れたから、てっきり毒でも盛られたのかと……
スグル「でも、心配です。早く戻ってこれるといいですね」
瀬川「……どうして?月神さんはリーダーだから?」
スグル「それもありますけど……月神さんは皆の為に一生懸命ですから。きっと疲れも溜まっていたんでしょうし」
瀬川「ふーん……そっか」
スグル君の答えに適当な相槌で返す。まるで"お前とは違って"とでも言いたそうにしていたのは気のせいだと信じたい
月乃「……それに、直前に動機が出されて、疲弊していたのかも知れない」
月乃「……肉体での疲労と違って、精神の疲労は自覚しにくい。知らず知らずの内に蓄積していく」
月乃「……それが、今日に噴出しただけ」
少し遠く見ながら、月乃さんはそう呟いた
まるで、どこか遠くの過去を見つめる様に……
御影「あ~あ!でもどうせなら古河さんが倒れてくれれば良かったのになあ」
瀬川「えっ、何で?」
御影「だって怖いし、乱暴だしさぁ……この前の一件で、やたら当たりが強くなったんだよね」
スグル「確かに、前から御影さんにはキツかったですね」
御影「いるよねああいうチンピラ……どうせボクの事を動くサンドバッグか何かだと思ってるんだよ……」
月乃「……ちょっかいかけやすいだけでは?」
御影「はぁー……ボクはいずれビッグになる男だからね。その時に古河さんに泣き付かれても許さないからね!」
古河「ほーん。何をどう許さないんや」
御影「そりゃもうボクをパシりにしたり顎で使ったりうわあああああああああああ!!!!」
瀬川「あぁ……フラグだったね」
速攻回収と言わんばかりに登場した古河さん。逃げようとした御影君をむんずと掴み、その足を思いっきり踏みつけた
古河「んー?誰が倒れてほしかったん?言うてみいや」
御影「そこから聞いてたの!?ごめんなさああい!!!」
古河「謝って済むなら警察要らんのやこのボケぇええ!!!」
スグル「……大丈夫でしょうか。御影さん」
月乃「……死にはしないと思う。多分」
走り去る二人を眺めながら、のんびりとお茶請けをくわえる月乃さん
なんというか……うん……元気だなぁ……
※
古河「ったく。あのボケカスクソ野郎……」
駆村「また御影を追い回してたのか……」
あの後、散々御影君を虐めて満足したのかまた戻ってきた
今は皆で月神さんのご飯を作っている最中だ。お粥とかなら私も作れるって言ったけど、気持ちだけ受け取るってさ。ちぇ
竹田「御影の坊主も苦労するねえ。嬢ちゃんもよく坊主を虐めんの飽きねえなあ」
古河「あいつイジメんのおもろいねん」
瀬川「最低の答えだ……」
そんな理由でちょっかいかけられる御影君が不憫だ……。まあ自業自得なトコもあるんだけどね
駆村「あんまり御影を追い詰めるなよ?案外参っているかもしれないからな」
古河「はあ?アイツが?ありえへんありえへん」
古河「万一御影に何かあったとしても、ウチは絶対になんともならへんな!」
竹田「冷たいねえ。ま、若いモンにはそれが普通かもしれねえけどな。手加減はしてやれよ?」
古河「わーっとるって!ウチもそこまで酷い事はせえへん。少し殴ったりする程度やし」
瀬川「少し……?私はいぶかしんだ」
流石に暴力が原因でコロシアイになる訳無い……よね?
駆村「お、そろそろ出来そうだな。瀬川、持っていくか?」
瀬川「……何で私が?」
駆村「手伝いたいって言っていたじゃないか」
そうだった……下手な事は言うもんじゃないね。うん……
※
瀬川「はあ~。めんどくさ……」
こんな事になるなら素直に戻ってればよかった……お粥重いし……
朝日「あ、瀬川さぁん。どうしたのぉ?」
瀬川「朝日君に照星さん?珍しいね。二人が一緒なんて」
飛田「オレもいるぞッ!」
あ、本当だ。正直視界に入っていなかった
照星「そうっすか?ちょっとパトロールしてたんす。そしたら先輩達とばったり会ったんすよ」
朝日「それでちょっと話してたんだぁ。栄養管理学」
瀬川「ん?」
ええ羊羮……なんだって?
朝日「でも意外だったよぉ。二人とも頭がいいんだねぇ。勉強になったよぉ」
照星「健全な肉体は健全な食事からっす!自分もまだまだだと痛感したっす……」
飛田「このオレの美しさを保つ為。伸ばす為には労力は惜しまない!それこそがオレの流儀ッ!」
瀬川「お、おおう……」
最悪だ……私の預かり知らぬ所で、ヘンなグループが形成されている……!
照星「ところで、瀬川先輩は何持ってるんすか?」
瀬川「そうだ!私お粥持ってかないと!」
飛田「そうか!ならオレも一緒に」
瀬川「結構です!」
さっさと変人集団から逃げ出そう。……あれ?よく考えたらあの三人に押し付けとけばよかったんじゃない?
瀬川「……本っ当にツイてなーーーい!」
※
月神「……けほっ、ごほっ!」
瀬川「はーい。お粥持ってきたよー」
月神「あ、ありがとう。これ、瀬川さんが作ったの?」
瀬川「え?まあ皆と一緒に……」
本当は見てただけなんだけどね……。皆がそう言ったからそうしただけで嘘は言ってないしいいよね?
月神「ふふっ。瀬川さんは優しいのね」
瀬川「え、そう?当然の事をしただけだけど」
そもそも、皆から言われたから来ただけだし……
月神「そうやって、誰かの為に動ける事が凄いのよ」
月神「私も、貴女の事を信頼しているわよ?もし、私がまた倒れたら、その時は頼らせて貰うわ」
瀬川「……ありがと」
瀬川「お粥、食べ終わったら置いておいて。また取りに行くから」
月神「大丈夫よ。……ありがとう、瀬川さん」
瀬川「どういたしまして」
それだけ言って、部屋から出ていく。お粥のお皿は残したまま
瀬川「安心しなよ。リーダーは私がちゃんと受け継ぐからさ」
扉を閉める直前に、そんな事を小声で吐き捨てる。当然、聞こえない様にする為に
※
月神「けほっ、美味しい……」
月神「……陰陽寺さんも、隠れなくても良かったのに」
陰陽寺「あいつとは話したくない」
月神「もう。……瀬川さんはいい人よ?」
陰陽寺「どうだかな」
月神「そんなつっけんどんな態度はダメよ。もっと歩み寄らないと嫌われちゃうわ」
陰陽寺「知るか。嫌いたければ嫌えばいい」
月神「ダーメ。……けど、このお守りのお陰かしら。何だか、誰かに守って貰っているみたい」
月神「今は陰陽寺さんに守って貰っているけれどね」
陰陽寺「もう戻る」
月神「でも、いいの?私がずっとお守りを預かっていて」
陰陽寺「……ずっと僕の手元にあると、僕はそれに頼る。お前が持っていろ」
陰陽寺「お前は……アイツに似ている。顔も、声も、性格も違うのに……」ボソッ
月神「……?今、何か言った?」
陰陽寺「何でもない」
月神「そう?……じゃあね、陰陽寺さん」
※
古河「ほーん。じゃあ月神はもう平気なんやな?」
月乃「……熱も引いてきた。後は一晩眠れば収まるはず」
駆村「それはよかった。時雄島直伝の栄養豊富な粥だからな」
飛田「いやあ倒れた時はどうなるかと思ったが、オレの献身のお陰かすぐに治って良かったじゃあないかッ」
御影「えっ!?飛田クン何かしてたっけ!?」
あの後、何人かが代わる代わる様子を見に行っていたみたい
どうやら月神さんの容態は順調に回復しているようで、明日には復帰できるみたいだね
朝日「でも油断は出来ないよぉ。引き始めと治り始めはしっかりと様子を見ないとねぇ」
竹田「なら誰か看病について貰うか?男の俺達よりも、女子の方がいいだろう」
照星「はいはいはーい!自分やるっす!」
スグル「張り切りすぎてぶつけてませんでしたか……?」
月乃「……今回は別の人にしてもらう」
照星「そうっすか……」
駆村「じゃあ、誰かやってくれる人はいるか?いないなら適当に決めよう」
瀬川「……………………」
※
月神「……それで、瀬川さんが看病してくれる事になったの」
瀬川「うん。まあ……」
本当の所は、“ここでやるって言えば褒めてくれるかな”って考えでやってるんだけどね……
ありがとうとは言われたけど、褒めてはくれなかったな……誰も
月神「一応、熱は引いたけど……」
瀬川「でもまだ動けないでしょ?何かあるなら私も手伝うよ」
月神「ありがとう。けど今は大丈夫。ココアでも飲む?」
瀬川「朝日君が淹れてたやつ?飲む飲む!」
月神さんからコップを受け取って、それを喉に流し込む
う~ん。やっぱり朝日君のココア美味しいなあ……
瀬川「……ふぁあ。なんか眠くなってきちゃった。少しだけ寝てていい?」
月神「構わないわよ。ベッド使う」
瀬川「流石にそこまではね……少し仮眠とるだけだから、ベッドに突っ伏すだけでいいや」
月神「そう?お休みなさい」
瀬川「はーい……」
※
瀬川「……んっ。うぅん……」
瀬川「ん~……。よく寝た……」
ココアは眠りにいいって聞くけど、案外本当かもね……
月神「すぅ、すぅ……」
ありゃりゃ、月神さんも寝ちゃってる。まあこっちとしてはやり易いからいいけれどね
で、今何時?そんなに寝てないとは思うけど
瀬川「…………うわぁあああ!!!朝の6時じゃん!?!?」
月神「きゃっ!?どうしたの!?」
瀬川「ゴメン!一晩寝ちゃってた!」
月神「いいのよ、瀬川さんも疲れていたんでしょう?」
月神「私の為に色々と手を尽くしてくれたんだもの。この位、なんて事無いわ」
瀬川「ごめんなさーい……」
クラスメイトの部屋で寝落ちとか、恥ずかしくなってくる……
瀬川「じゃ、私部屋に戻って二度寝してきまーす……」
月神「せっかくだし、一緒に行かない?私、待っているから」
瀬川「……体調はいいの?」
月神「万全よ。よく眠れたもの」
瀬川「わかった。じゃあ少し待っててね」
※
瀬川「うぅ、寒い……眠い……」
月神「もう朝よ……?」
瀬川「私はエンジンかかるのが遅いの!」
ストレッチもして、顔も洗って……でも、それでもまだ体が怠い
そもそも私はスロースターターなの!朝はもっと寝てたいの!
竹田「うん?誰かと思ったら月神の嬢ちゃんに瀬川の嬢ちゃんか。体調はもういいのか?」
月神「はい、お陰さまで」
瀬川「竹田さん早くない?まだ6時過ぎだよ?」
竹田「そうかあ?それと、年取ると眠りが浅くなるんでね……」
瀬川「うわぁ、悲しい……」
月神「………………あら?今、そっちの方で何か動いた様な……」
瀬川「えっどこ?見えないけど……」
竹田「俺も見えなかったけどなあ。……俺がボケ始めた訳じゃねえよな?」
月神「気のせいだったのかしら……」
竹田「ま、何でもいいだろ。せっかくだ、オッサンも一緒に食堂に行かせて貰おうかね」
※
……数分後
スグル「あれ、古河さんに照星さん、珍しいですね」
照星「おはよっす!バッタリ会ったんすよね。運命っす!」
古河「ウチは普段遅めなんやけどな。なんか今日は目ぇ覚めてもうて」
照星「あ、スーグルん!一緒にいこっす!」
スグル「あははは……いいんですか?」
古河「別にええわ。ほなパパッといくで!」
スグル「はい!…………あれ?」
照星「どしたんすか?」
スグル「今、向こうで何か……」
古河「向こうって……花畑やん。気のせいと違うんか?」
照星「自分もよくわかんないっすね……」
スグル「……………………………………」
照星「あっ、スグルん!?どうしたんすか!?」
スグル「なんだか……嫌な予感がします……!」
瀬川「……な、なにこれ!?」
食堂の中は、メチャクチャに荒らされていた
椅子は倒され机は明後日の方向に吹き飛んでいる
足元には食器が散らばり、壁の至るところには傷がついている
月神「いったい、何が……?」
竹田「……オイ、嬢ちゃん。あれは何だ?」
瀬川「あれ。って……」
竹田さんが指差すその先、そこに倒れていたのは……
※
照星「スーグールーんー!本当にどうしたんすかー!?」
古河「こんな所に入り込んで、何がしたいんや!」
スグル「わからないです……けど、確かに見たんです!」
古河「何をや!」
スグル「……人間です!」
古河「ハァ!?」
瀬川「……ウソ、でしょ?」
仰向けに倒れていたその人は、既に息をしていなかった
深々と喉に突き刺さった銀の矢。一目で死んでいると確信する惨たらしい姿
竹田「なんてこった……」
月神「そんな……。そんな、どうして!!」
月神さんが叫ぶ。虚ろな目で天盖を見つめる、仲間だったモノの名前を
※
スグル「………………」
古河「はぁ、はぁ……オイコラスグル!人間なんかおる、わ……」
照星「先輩……?どうしたんすか? ……え?」
スグル「……どうして、貴女がここにいるんですか……」
月神「…………御影君っ!!」
哀しい叫びが響き渡る。超高校級の幸運、御影直斗君は、もうここにはいないんだって示すように
※
照星「陰陽寺、先輩……?」
古河「なんで……なんでや!なんで陰陽寺が死んどるんや!?」
※
……そして、これはまだ序の口で
この裁判が、私達にとって最大の試練になる事なんて、この時はまだ思ってもいなかったんだ
「死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を行います!」
「死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を行います!」
【Chapter3】
善悪インヤン双方の悲願 非日常編
※
~~~♪
ハルカ『良い子の皆……ココロオドルTVの時間だよ……』
ハルカ『………………はあ』
ヨウ『どうした?無駄に高いテンションだけがキャラを作っているお前にしては珍しい』
ハルカ『だってさあ……このコーナー、いる?』
ハルカ『ただでさえ視聴率取れてない番組の更に隅っこ……』
ハルカ『言うなれば、マイナー雑誌の巻末の打ち切りコースをひた走ってる様なものじゃん……』
ヨウ『真理ここに到ったか……』
ヨウ『言いたい事はよくわかる。というか俺も同意見だ』
ヨウ『しかし、やらないと給料が貰えないぞ』
ハルカ『そうだよね……合言葉だけ言って終わろうか』
『『鮮やかな……』』
ハルカ『遥かな明日を……』ヨウ『見届けよう』
ヨウ『ま、俺達の明日は無いんだがな』
※
※
モノクマ「うぷぷ……全員揃ったよね?」
モノクマ「今回は大変だよ!何せ二人も死んでるからね!」
アナウンスが鳴らされた後、私達は学園の正門前に全員が集められていた
死体がバラバラの位置にある都合で、一度別の場所に纏まらないと不平等だからね
飛田「な、何がなんだかわからんッ。どういう事だッ!」
駆村「二人も死んだ……本当なのか?」
照星「間違いないと思うっす。息も止まってたっすし……」
竹田「なんてこった。御影の坊主の他に、陰陽寺の嬢ちゃんまでくたばっちまったのか」
月神「嘘………………」
こぼすように呟く。私だって信じられないよ、あの陰陽寺さんが死んでいるなんて……
モノクマ「ま、ともかく殺ったものはしょうがないので、捜査頑張ってちょーだいな!」
竹田「捜査っつってもなぁ……どうするよ?」
竹田「前みてえに二人づつ見張りをつけると、捜査に割く人が足りなくなるぜ」
朝日「えっとお、十二人引く二で十人でぇ……そこから四人引くからぁ……」
スグル「六人ですね……二つの事件を並行して調べる事も考えると、かなり厳しいです」
月乃「…………私に、提案がある」
月乃「……二人組で捜査をすればいい。互いが互いを見張り合う形になる」
飛田「なるほど逆転の発想かッ!」
月神「そうね。……」
瀬川「大丈夫?月神さん、まだ本調子じゃないでしょ?」
月神「……正直、辛いわ」
月神「けど、ここで折れる訳にはいかない。亡くなった二人の為にも私は立ち上がらないといけないから……」
駆村「よし、皆いいな?それじゃあジャンケンで決めるぞ……」
「「じゃーん、けーん」」
「「ぽん!!」」
【捜査開始】
瀬川「よろしくね、月神さん」
月神「此方こそ。……頑張りましょう」
厳正なるジャンケンの結果、私は月神さんと組む事になった
なんだか最近、月神との縁ばっかりだなあ……
月神「早速、モノクマファイルを確認しましょう。二人分の量は少しキツイけれど……」
瀬川「はーい」
※
【モノクマファイル3】
被害者は陰陽寺 魔矢
死体発見現場は、彩海学園敷地内花園
死因は何らかの毒物の接種による中毒死
背中に何らかの刃物で突き刺さった形跡が残っている
【モノクマファイル4】
被害者は御影 直斗
死体発見現場は一階食堂
死亡推定時刻は夜の12時頃と見られる
争った形跡があり、喉には矢が突き刺さっている
※
瀬川「……惨いね」
月神「そう、ね……」
あまりに凄惨な状況に、思わず二人でため息を吐く
正直、逃げたいけど……逃げられないよね。絶対に
※
月神「陰陽寺さん……」
まず、私達は陰陽寺さんの方から調べる事にした
眠るように目を閉じ、だらんとしたその姿。生前の、あの刃の様な雰囲気は微塵も感じられない
別に、私は陰陽寺さんと仲良くないし、特に何かされた訳でもない。けれど……
あの氷の様な寒気の殺気が感じられない。その実感が、彼女の死が、肌に痛々しく伝わってきた
瀬川「……本当大丈夫?なんなら私が見るけれど」
月神「っ、平気……って言えば嘘になっちゃうけれど……」
月神「本音を言えば、泣きたい。どうしてって叫びたい……」
月神「けど、それは全てが終わった後。そうじゃないと、陰陽寺さんにバカにされちゃうから」
瀬川「ふーん」
月神さんと陰陽寺さん、そんなに仲良かったっけ?まあ単純にリーダーだからって言うのもありそうだけどね
でも、あの陰陽寺さんでも哀しんでくれる人がいる……。それが少しだけ、救いになるんじゃないかな……
瀬川「えーっと、背中に何か刺さった傷があるんだっけ?」
月神「よいしょっ……と。ごめんなさい、陰陽寺さん」
陰陽寺さんの死体を横にズラす。字面だけ見ると中々エグいけど、その手つきはこなれている
私達、もうこんなに死体の扱いになれたんだなぁ……
月神「……これの事ね。確かに何かが突き刺さった後があるわ」
指差す先には背中の赤黒く染まった部分。確かに、何かが背中に刺さったみたいな傷がある
瀬川「でも、これかなり小さくない?これが致命傷になる?」
月神「流石に私達じゃわからないわね……」
まさか、これが俗に言う秘孔ってやつ?でも、そんなの知ってそうなのはそれこそ陰陽寺さんくらいしか……
月神「……あら?これは何かしら」
瀬川「毛糸じゃない?でも、陰陽寺さんのマフラーのものじゃないと思う……」
月神「わかるの?」
瀬川「コスプレイヤーなんですけど!超高校級ですけど!」
瀬川「服に使われている糸くらい、パッと見れば断言出来るんですけど!」
月神「凄いわ!瀬川さん!」
……けど、この毛糸どっかで見たんだよなぁ。どこだっけ?
※
『食堂』
スグル「あ、瀬川さんに月神さん!」
竹田「なんでえ、陰陽寺の嬢ちゃんの方はいいのかい?」
月神「ええ。一度別の場所を調べようと思って」
一旦陰陽寺さんからは離れて、御影君の方へと来てみた
皆もこっちの捜査をしているみたいで、ほとんどの生徒はここにいるみたい
古河「……………………」
照星「古河先輩……。その、えっと……」
古河「……ハン!こんな所で勝手に死ぬなんてマヌケやな!」
古河「ま、どうせ御影や。ここで死なへんかっても適当に死んどったやろ!フン!」
瀬川「それはちょっと言い過ぎじゃ……」
古河「せ、せやから、別にウチは何とも思っとらへん……」
古河「うっ、ぐすっ……うぅう……!」
啜り泣く音が聞こえる。あの強気で勝ち気な古河さんが、御影君の死に泣いているんだ
竹田「嬢ちゃん。お前さん……」
照星「……先輩。絶対に勝つっすよ」
熱い決意が漲ってくる。今回の事件はきっと前までよりも白熱した裁判になる……
瀬川「……よし!頑張るぞ!」
月神「御影君、痛かったでしょうね……」
目を瞑り、頭を下げる月神さん。痛々しい喉の矢がいやに強く光るのが不気味だ
瀬川「これ、ダンスホールのアレだよね……」
月神「そうね……後で確認してみましょう」
胸や頭ならともかく、喉元を一発で撃ち抜くなんて相当なプロだねこれは……
でも、何でわざわざ弓矢で殺したんだろ?というか肝心の弓はどこに?
瀬川「月神さーん。そっちに弓無い?」
月神「待って……これ……」
瀬川「あった?」
月神「ねえ、これ……陰陽寺さんの竹刀じゃないかしら?」
瀬川「そっちかあ……」
刀じゃなくて弓を探していたんだけど……けど、どうしてここに陰陽寺さんの竹刀が?
あの陰陽寺さんが竹刀を忘れるなんて思えないけど……
瀬川「それにしても……酷い荒らされようだね……」
床にはお皿や割り箸、コップが散乱し、椅子や机はとんでもない方向に飛んでいっている
月神「きっと、必死に抵抗したんでしょうね……」
瀬川「うん……。うん……?」
確かに、殺されそうになったら抵抗するとは思う。けど、何か引っ掛かるような……?
瀬川「……あれ?あっ!?これだ!」
月神「ど、どうかした?」
瀬川「これだよ!あの毛糸!御影君のニットの毛だよ!」
質感、色、間違いない……けど、それがどうして陰陽寺さんについてたんだろ?
月神「……あら、これはココアかしら?」
瀬川「あ、そうだね。朝日君が淹れてくれてたヤツ」
あ~あ。溢れちゃって勿体無い……御影君にもかかってるし
これ美味しかったんだよね。まだ作り置きとかあるかな……?
月神「瀬川さん。そろそろ次の場所に行きましょう」
瀬川「は~い……。……ちぇっ」
※
瀬川「……これが、あの銀の矢だよね?」
月神「ええ。恐らく……」
凶器の出所を探るため、私達は凶器博物館ことダンスホールに足を運んでいた
今、私の握っているのがその銀の矢だ。案外軽いそれは、弓道というよりはアーチェリーに使わそうな短めの矢
鏃に当たる部分な無く、尖っているだけ。これは競技用の矢にはよくあるんだって。的に当たっても抜けやすいようになってるんだ
月神「そうなの……詳しいのね、経験があるの?」
瀬川「アーチャーはファンタジーの鉄板ジョブだからね!」
まあちょろっと嗜んだ程度なんだけどね。何が役立つかわからないよ本当……
駆村「お、お前達もこっちに来てたのか」
飛田「フフフ、このオレの」
瀬川「ねえ、肝心の弓はどこ?さっきから見当たらないけど」
飛田「ここにあるぞ!」
瀬川「持ってたんかいっ!」
道理で見渡しても無いと思った……。ってアレ?
瀬川「その弓、どこにあったの?」
飛田「ここにあったとも!」
駆村「不思議な事にな……。それに、この弓は相当強い。引ける人間は絞られるぞ」
月神「んっ……!……本当ね。私じゃびくともしない」
ピン。と張られた弦は月神さんを拒む様に不動だ。こんなの引ける人って……
※
月乃「……二人とも、毒を探しに?」
瀬川「まあそんな所……」
陰陽寺さんは毒殺されている。という事は毒薬が使われている事は最早確定だ
と、言う訳で毒薬がいっぱいある科学室にやってきたのだった
朝日「きっとこれだねぇ。一個無くなってたんだぁ」
瀬川「なになに、"どんな方法でも即死させる毒"……」
瀬川「……って、幾らなんでも名前が安直過ぎない!?」
これもう名前じゃなくて説明文じゃん!考えた人はな◯う系ラノベの読み過ぎか何か!?
月神「"浸透率の極めて高い猛毒です。水に溶かしても直接注射しても気体に変えても効果があります。無味無臭ですので飲み水にでも混ぜといてください"……」
瀬川「説明文もなんか適当だね……」
朝日「緩いよねぇ。けどぉ、こんな毒を使ってまで陰陽寺さんを殺したかったのかなぁ……」
月乃「……それに、あの魔矢が毒の混入したものを飲むとは思えない。知らないにしても、素直に受け取るなんて」
瀬川「だよねえ……」
警戒心の強い陰陽寺さんが誰かに渡されたものを安易に口にするかな……?もしそうだとしたら、かなり親しい人。とか……?
※
捜査はまあまあ順調かな……あ、古河さんに照星さんだ
丁度いいや、あっちの捜査状況も聞いておこっと
瀬川「あっ、古河さんに照星さん。おー……」
月神「しっ」
瀬川「むぐっ!?」
……よく見たら、二人はなんだか真剣な表情で向き合っている。何かあったのかな?
古河「……なぁ、照星」
照星「どうしたんっすか?」
古河「ウチな、正直御影や陰陽寺見とるとムカついてたんよ」
古河「いっつも自分勝手な事ばっか言うとるし、目ぇ離したらすぐどっか行くやん」
古河「せやけど……せやけど!何も、二人揃ってあっちに行かんでもええやろ……!」
古河「なあ、ウチはどうすればええんや?あんなに嫌いやったんに、どうしてこんなに辛いんや!?」
照星「……そうっすね。でも、二人とも行きたくて行っちゃったワケじゃないと思うっす」
照星「戦うっすよ、皆で!それで、真実を見つけるっす!」
照星「……まあ、自分あんまし頭良くないっすけど!」
古河「なんやソレ!」
月神「……そうね。全力で戦いましょう」
月神「そして、見つけるの。二人の殺された真相を」
月神「全員で戦えば、きっと掴み取れるはずだもの!」
……まあ、古河さんや照星さん。月神さんがクロの場合もあるんだけどね。言わないけど
瀬川「ねえねえ。捜査の方はどう?順調?」
古河「……スマン。進んでへん」
瀬川「あっ……」
照星「け、けど証拠は見つけたっすよ!ほら!」
手ぶらはマズイと思ったのか、慌てて何かを取り出してくる
月神「これは……ゴム紐?」
照星「工業用ゴム紐らしいっす。駆村先輩から聞いたっす!」
照星「なんでも普通のゴムよりも弾性があって、ちぎれにくいとか……工作室にあるそうっすよ」
瀬川「じゃあ、それはどこにあったの?」
照星「食堂っす!倒れた椅子の下に落ちてたんすけど……」
……食堂?なんでまたそんな所にそんな物が?
そんでもって、なんでそれが必要だったんだろう……?
キーンコーンカーンコーン
『うぷぷぷっ。二人分の事件の捜査は終わったかな?』
『終わっていてもいなくても、学級裁判は問答無用で進むのでご注意を!』
『さあ、ドキドキワクワクの最高にハイな学級裁判を始めたいと思いまーす!』
月神「とうとう、始まるのね……」
古河「……しゃっ!気合いいてれくで!」
瀬川「あ、その前に私着替えてくるから先に行ってて……」
古河「……あれ、着る意味あるんか?」
瀬川「あるよ!あれは私の勝負服なんだもん!」
発言力と集中力が当社比三倍、更に精神的スーパーアーマーもついて議論にはハイパームテキなんだから……!
月神「……ごめんなさい。私も少し用事があるの」
照星「月神先輩もっすか?なら先に待ってるっす!」
瀬川「どうかした?もしかして月神もお色直し?」
月神「ええ。少し……ね」
瀬川「???」
……まあなんでもいっか!さっさと着替えてこよーっと
※
瀬川「お待たせ~。待った?」
月神「いいえ、全然。……それにしても、凄い格好ね」
瀬川「それバカにしてるよね!?」
月神「そういうつもりでは無かったけど……ごめんなさい。私も動揺を隠せてないわね」
……言われてみると、確かに心なしか顔が青ざめている。きっと月神さんは今でも結構ムチャしてるんだ。病み上がりなら尚更
月神「今回の事件は異様だもの。アナウンスも二回鳴るし……」
瀬川「えっ、あれ二回鳴るものじゃないの?」
月神「そっか。瀬川さんは前の二つの事件では寝ていたから聴いていなかったのね」
いやそうなんだけど……確かにそうなんだけど、言い方!
月神「あのアナウンスは"死体を初めて見た三人が発見したら鳴らされる"らしいの」
瀬川「ふーん。……あれ?それって犯人は含まれるの?」
月神「フレキシブルに対応するとは聞いたけど……、多分、含まれていないと思うわ」
……なら、陰陽寺さんを見た三人と、御影君を見た私達にはある程度の潔白がある訳だ
何かに使えるかも知れないから、一応覚えていよっと
※
月神「……お待たせ。待たせてしまったかしら?」
スグル「いえ、全然!」
エレベーターの前で、既に集結した皆が待っていた
全員揃っているのに、その数が少ないと感じるのは、きっと母数自体が削れているからだろう
照星「よーし!気合い!入れて!行くっすよー!」
月乃「……あまり気負いするのも駄目。自然体でやればいい」
竹田「為せば成る。為さねばならぬ、何事も。ってな」
飛田「ぐぐぐッ、しかし二人分の事件だぞ。果たしてオレ達の手に負えるのかッ!?」
駆村「やるしかないだろ……生き残る為なんだからな……」
朝日「……頑張ろうねぇ。私も頑張るからぁ」
古河「……そっちで見とれよ。御影、陰陽寺」
……全員がエレベーターに乗り込むと、静かに、静かに真下へと落ちていく
それは死の宣告への猶予か、それとも精神統一の準備期間かはわからない。けど、私は今はいない二人の事を考えていた
御影 直斗君。緊張感の無い態度で、いつもヘラヘラとしていた彼はどうして死んでしまったのか
陰陽寺 魔矢さん。正直死んでざまあみろと思わなくもない位には仲が悪かったけど、それが良かった事なのかはわからない
善、悪、陰、陽。それをハッキリと示すんだ
ゴチャゴチャになって収拾がつかないくらい、暗く混沌とした裁判の中で
【Chapter3 善悪インヤン双方の悲願】
【コトダマ一覧】
【モノクマファイル3】
被害者は陰陽寺 魔矢
死体発見現場は、彩海学園敷地内花園
死因は何らかの毒物の接種による中毒死
背中に何らかの刃物で突き刺さった形跡が残っている
【モノクマファイル4】
被害者は御影 直斗
死体発見現場は一階食堂
死亡推定時刻は夜の12時頃と見られる
争った形跡があり、喉には矢が突き刺さっている
【陰陽寺の死体】
死体は花園の一角にあった
瀬川は気づかなかったが、月神は何故か一瞬だけ気づいた
【背中の傷】
背中の傷は小さく、穴のような形状をしている
【ニットの毛糸】
陰陽寺の衣服に付着していた毛糸。御影のニット帽に使われていたものである
【喉に刺さった矢】
矢は喉に深く突き刺さっており、外した様子は見られない
この一本以外は、全てダンスホールに仕舞われていた
【陰陽寺の竹刀】
常日頃から陰陽寺が持ち歩いていた、愛用の竹刀
陰陽寺の死体近くではなく、何故か御影の死体の近くに捨てられていた
ボロボロであるが手入れはよくされており、使用者の年期を感じさせる
【荒らされた食堂】
事件前後に荒らされたであろう食堂
椅子や机はふき飛んでおり、床にはコップ、スプーン、割り箸や皿が散らばっていた
【朝日のココア】
事件前に朝日が淹れていたココア。月神に渡したのもこれ
食堂に常備されていた
【銀の弓と矢】
弓は事件現場にはなく、ダンスホールに置かれていた
相当強い弓であるらしく、月神では引くことは出来なかった
【どんな方法でも即死させる毒】
科学室に置いてあった毒。一つ紛失しているため使用されたのはこの毒で間違いない
"浸透率の極めて高い猛毒です。水に溶かしても直接注射しても気体に変えても効果があります。
無味無臭ですので飲み水にでも混ぜといてください"
【工業用ゴム紐】
工作室にあったらしいゴム
伸縮性や弾性に優れ、ちぎれにくい
【死体発見アナウンス】
死体を初めて見た三人が発見したら鳴らされるアナウンス
フレキシブルに対応するらしいが、犯人は含まれないらしい
【アナウンスの順番】
陰陽寺の死体を発見したのは、瀬川、竹田、月神の三名
御影の死体を発見したのは、スグル、照星、古河の三名
Twitterにも貼りましたが暫くの間更新を無期限停止します
このスレの確認は行いますので、何かあれば随時お答えしていきたいと思います
【 学 級 裁 判 開 廷 】
ハルカ『ではでは、まずは始めに学級裁判の簡単なルール説明から始めまーす!』
ヨウ『学級裁判では、誰が犯人かを議論し、その結果はオマエラの投票により決定される』
ハルカ『正しいクロを指摘できれば、クロだけがオシオキ‥‥ですが!』
ヨウ『間違ったクロを指摘した場合はクロ以外の全員がオシオキされ、クロにはこの学園からの解放を約束しよう』
モノクマ「さーあ、今回は大変だよ!なにせ二つの事件を解決しないといけないからね!」
モノクマ「それでは脳汁ドバドバのマックス大興奮な学級裁判を……」
竹田「あー、その前に俺からも一つ聞いてもいいか?」
竹田「今回は二人死んでいる訳だけれどよ。もしクロが違った場合はどうすんだ?二人共当てないといけないのか?」
張り切るモノクマを制止して、竹田さんが疑問を呈する
クロが二人いたら……なんて想像したくもないけれど、実際その可能性は否定しきれないんだよね
モノクマ「んーそうだなぁ……なら、『先に殺したクロ』を当ててくれればいいや!」
モノクマ「後追いのノロマに人権なんか無いからね!」
スグル「酷い理由ですね……」
後出しのアイデアはパクり扱いされる。悲しいけれど、これって裁判なのよね……
けど、一人だけでいいなら気持ちは楽かな……
モノクマ「もういいよね!?では、フルスロットルで学級裁判を進めてくださーい!」
竹田「と、言う訳だ……。なら、話は早え」
駆村「先に殺したクロ……それを当てればいいのか」
スグル「ですが、それにはまず最初に『どちらが先に殺されたのか』を議論する必要があります」
スグル「極端な事は考えたくないですけど……後に殺したクロを答えてもダメですから」
そう。冷たいけれどそれがこのルールだ。御影君か陰陽寺さんのどちらかは、無駄死にだって事になるから
……けど、やっぱり納得するか、割り切れるかは別の問題だよね
照星「……でも、自分はどっちの事件の真相も知りたいっす!」
朝日「そうだよぉ。二人もいなくなっちゃったしぃ、どっちかを無視するなんて嫌だもんねぇ」
飛田「し、しかしだねッ、二つの事件を同時に議論するのは、我々には不可能ではないかッ!」
月乃「……同じ日に、同時に殺人が起きた。偶然とは思えない」
月神「繋がっている……って事かしら?」
一連の二つの事件は繋がっている。そう聞いた月神さんの言葉に、微かに頷く月乃さん
その反応に、皆の顔が引き締まる。特に古河さんに至っては……
古河「……繋がってようがなかろうが、同じ事や」
古河「どっちもまとめて締め上げればええんやからな……!」
月神「……冷静にね?」
燃える闘志が伝播する。今この瞬間、私史上最大の学級裁判の火蓋が切って落とされた……!
【ノンストップ議論 開始】
『コトダマ』
【モノクマファイル3】
【モノクマファイル4】
【陰陽寺の死体】
飛田「結局、先に殺されたのは……」
飛田「【魔矢の方】なのかね、【御影の方】なのかねッ!?」
駆村「どちらが先に殺されたのか……わからないのか?」
竹田「死体には【それらしいモンは無かった】な」
月乃「……状況からも、【判断出来ない】」
スグル「何か《時間が示されているもの》があれば……」
飛田「そんなものがあるというのかッ!スグルッ!」
照星「何かあったような気もするんすけどねー……」
《時間が示されているもの》←【モノクマファイル4】
瀬川「それに賛成だよっ!」
瀬川「御影君のモノクマファイルには、死亡推定時刻が書かれてあるはずなんだ」
瀬川「とりあえず、今はこれを目安に考えていけばいいんじゃないかな?」
スグル「は、はい!」
朝日「御影君の死亡時刻はぁ……夜の12時みたいだねぇ」
竹田「一応聞くが、この時刻にアリバイのある奴はいるか?」
問いかけられた質問に、返答する人はいない。そりゃ、そんな時間にアリバイがある人なんて……
月神「……私と、瀬川さんにはあると思うわ」
瀬川「えっ!?私!?」
月乃「……何故そこで驚く?」
いやだって身に覚えが……。あっ
瀬川「そっか。私達一晩同じ部屋にいたもんね」
月神「ええ。瀬川さんが付き添いで看病してくれたの」
……実際はただ寝ていただけなんだけどね。それは黙っとこ
竹田「……んじゃ、月神と瀬川の嬢ちゃんらにはアリバイがあるという事にしておくか」
古河「けど、それ以外にはあらへんしな……」
瀬川「でも、アリバイがわからなかったのも前進だよ」
瀬川「アリバイからじゃ犯人には辿り着けないって、わかったんだからね!」
朝日「それもそうだよねぇ。前向きに考えようよぉ」
駆村「じゃあ、次は何を議論する?犯人については今は考えてもわからないだろう」
スグル「では、丁度御影さんの事についてなので。僕から少し疑問があるんです」
月神「……何かしら?スグル君」
スグル「御影さんの殺害方法です。御影さんは、喉に矢を受けていましたよね?」
飛田「恐らく、それが原因で死んだんだろう……恐ろしいッ!」
スグル「ですが、そんな事を出来る人はいるんでしょうか……」
矢で射抜かれて死んだ……それは皆も共通して考えている事だ
それでも、スグル君が心配しているのは……多分、あの事かな?
1:食堂にいた事
2:喉を射られていた事
3:御影に矢は刺さらない事
2:喉を射られていた事
瀬川「これだね!」
瀬川「スグル君が言っているのは……御影君の喉を、正確に射抜かれていた事だよね?」
スグル「はい……」
古河「それの何がおかしいんや!喉やられたら死ぬやろ!」
駆村「いや……確かに無理だな」
古河「駆村ァ!オマエ頭おかしなったんか!?」
駆村「確かに喉を撃たれたら死ぬ。けどな……それを出来る人間は、果たして何人いる?」
朝日「私には無理かなぁ。弓なんて使った事無いよぉ」
他の皆も無理だと首を横に降る。そりゃそうだ。私達は超高校級でも、アーチェリーはド素人の集団なんだから……
スグル「素人が弓矢で正確に撃つ……それも、急所とはいえ喉という狭い部分をです」
月乃「……無理だと思う」
飛田「なら御影が動いていなければどうかねッ、例えば奴に薬を盛り動きを封じればッ!」
月神「それも……不自然だと思うわ」
月神「だって、御影君のモノクマファイルには“争った形跡がある”って書いてあるのよ?」
古河「争いながら弓で喉を撃つ……何者やねんソイツ!」
頭の中で、緑色の服を着たあんちゃんが御影君をボコボコにして弓矢を撃つ寸劇が繰り広げられる
ありえるかも!とはならず即座に却下。どんなアーチャーかって話だよね……
照星「むむむ、難しいっすね……」
竹田「普通に撃つんじゃあ無理なんだろ?なら手に持って突き刺したらどうよ」
古河「長ドスの要領でぶっ刺すんか?それなら簡単やろ!」
朝日「その方法ならぁ、誰でも出来るんじゃないかなぁ」
手持ちで力一杯突き刺す。確かにこれなら誰でも出来る。私にも出来る。けど、それだと別の問題が出ない?
瀬川「だとしてもおかしいよ。犯人はなんでわざわざ矢を凶器にしたの?」
飛田「食堂ならば包丁なりなんなりを使えばいいッ、使い辛い矢を凶器にする理由はあるのか?」
スグル「そうせざるを得ない理由があったから……ですかね?」
月乃「……どんな理由?」
スグル「わからないです……」
朝日「そうだよねぇ。どうしても弓矢で殺したかった理由でもあるのかなぁ」
弓矢で殺したかった……そんな理由が犯人にあったの?よっぽど腕前に自信があるとか?
ん?でもヘンだよ。だったらなんで……
【銀の弓と矢】
瀬川「これだよ!」
瀬川「本当に犯人は、弓矢での殺害を重視してたの?」
瀬川「そもそも、弓の方はダンスホールに置いてあるし……」
駆村「しかも、あの弓はかなり強い。引けるのは照星か、それこそ陰陽寺くらいだろう」
照星「自分、そんなにパワータイプに見えるっすか……?」
月乃「……なら、出来ない?」
照星「バカにしないでほしいっす!余裕っすよ!」
スグル「出来るんですね……」
ふんす!と胸を張る照星さん。前から思ってたけど照星さんって余計な一言で追い詰められる事を言うよね……
だけど、いくら引けても当たらなくっちゃ意味がない。御影君も殺されると思うなら動き回るだろうし……
竹田「……なあ、御影の坊主は置いておいて、次は一度陰陽寺の嬢ちゃんの方を考えてみねえか?」
竹田「陰陽寺の嬢ちゃんが先に殺された可能性もあるんだ。話してみるべきだと思うけどな」
月神「そうね……それじゃあ三人とも、最初に発見した時の状況を教えてくれるかしら」
古河「……せやな」
照星「……と、言っても自分達が言える事って無いんすよね」
照星「スグルんが見つけて、古河先輩と自分はその後を追っていただけっすからね」
駆村「スグルが見つけたのか?」
スグル「はい。なんだか気になって……」
月神「私も、どこか気になる所があった様な……」
瀬川「なんじゃそりゃ……幽霊じゃあるまいし」
後ろ髪を引く……だっけ?これはまた意味が違うか。そんな二人だけが気づくなんて事ある?普通
飛田「死体は触っていないだろうなッ?最初から花園の中にいたんだなッ!?」
古河「それは間違いあらへん!そもそもウチらは寄宿棟でおうて、そのまま一緒だったんや!」
竹田「それは俺達も同じだぜ。なあ?嬢ちゃん」
月神「ええ。私と瀬川さんも一緒だったけど、竹田さんも何かを動かしていた風には見えなかったわ」
朝日「どうして二人だけなのぉ?他の人達はぁ?」
瀬川「さっぱりわかりませんでしたー……」
竹田「同じくな。てっきり俺がボケたモンかと……」
照星「自分もっすね……」
古河「ウチもや!」
どうやら私だけじゃなくて、スグル君と月神さん以外は微塵も気づいていなかったみたい。……なんで?
月乃「……どうして二人だけ?」
駆村「まさか、もう老眼が始まったのか……?」
古河「駆村ァ!女子相手になんて事言うんや!」
瀬川「竹田さんならともかく私達は違うって!」
照星「そうっすよ!自分達は花のティーンエイジャーっす!」
飛田「レディに対してなんたる不敬!万死に値するッ!」
月乃「……それは流石に擁護不可能」
駆村「わ、悪かった……時雄島では『うっかり見逃した』という使い方だからつい……」
スグル「そうなんですね……」
朝日「大丈夫だよぉ~面白い言い方だもんねぇ」
月神「元気出して、駆村君!」
竹田「おーい、誰か俺の事もフォローしてくれや……」
ショボくれている竹田さんは置いておいてなんで二人だけが……
古河「なんか妙な事でもしとったんやないか?」
月神「そんな事はしていないけれど……昨夜もココアを飲んで、すぐに寝たわ」
スグル「僕も少しだけ食堂でお菓子を食べていただけですよ」
朝日「それは私が証人になるよぉ?二人っきりでぇ、い~っぱいお話ししたもんねぇ」
月乃「………………は?」
スグル「ほ、本当に何でもないですから……!」
瀬川「……なんか、偶々みたいだね」
月神「そうね……」
なんだか無駄に時間を費やした気分……おのれ陰陽寺さんめ……
……陰陽寺さんと言えば、こっちもおかしな事が多いんだよね
瀬川「……これ以上御影君の事を話しても、何も進展しないんじゃない?」
駆村「そうだな……」
朝日「もう行き止まりって感じだもんねぇ」
瀬川「だからさ、次は陰陽寺さんの方を話してみない?こっちも気になる事は多いしさ」
飛田「うむッ御影なんてどうでもいい!魔矢の事を語り合おうではないか!!」
飛田「オレは、あのマフラーの下の意外と可愛らしい顔つきが素敵だと思うぞッ!!!」
竹田「本人が聞いてたら殺しに来そうだな……。そいつはよ」
よし、しれっと話題を変える事に成功した。後は、これから何を話すかなんだけど……
月神「……なら、私から少しいいかしら?」
一瞬の静寂を感じ取ったのか、月神さんが手を挙げる
どうぞ。と促されると、ほんの些細な事だけど。と前置きして話し始めた
月神「陰陽寺さんの死体は、どうして花園に置かれていたのか気になるの」
月神「花園で殺されたから。と言われてしまえばそれまでなんだけれど……」
スグル「それは幾らなんでも不自然ですよね……」
花畑に立つ陰陽寺さんを想像してみる。うん。確かに不自然だ
ふざけるとはともかく……警戒心の強い彼女が、誘われたからってホイホイと行くとは考えにくい
なら、ここは逆転の発想で……
瀬川「月神「なら、逆に誰かに運ばれてきたのかしら?」
瀬川「………………………………」
月神「え?せ、瀬川さん?」
照星「どうしたんすか?おあずけされたみたいな顔して」
古河「放っとき放っとき。どうせ下らん事考えとったんやろ」
盗られた……私の台詞盗られた……!
でも頭の中の事なんて証明できないし……いっぱい悲しい……
駆村「じゃあ、それを議論していくぞ……。いいよな?瀬川」
瀬川「はーい……」
【ノンストップ議論 開始】
『コトダマ』
【モノクマファイル3】
【陰陽寺の竹刀】
【銀の弓と矢】
駆村「陰陽寺はどうして花園にいたのか……」
月神「皆の意見を聞かせて欲しいの」
古河「【逃げてきた】……ワケちゃうよな。あいつに限って」
スグル「【やむを得ず】行ったのかもしれませんね……」
朝日「でもぉ、理由が何であれどうして夜にいったのかなぁ」
飛田「夜分に女が一人……危険でしかないッ!!」
スグル「自信があったと言われればそれまでですけど……」
照星「逆に《違う場所に行ってた》とか無いっすか?」
竹田「ほお?そいつはどんな理由だい」
照星「それは知らねーっす!」
スグル「言い切るんですか!?」
《違う場所に行ってた》←【陰陽寺の竹刀】
瀬川「その意見、フォローするね!」同意!
瀬川「照星さんの言う通り……陰陽寺さんは、最初は別の場所にいたんじゃない?」
照星「マジっすか!?」
瀬川「照星さんが言ったんでしょ!?」
古河「オマエが驚くんかい!」
目を見開いて大袈裟に驚く照星さん。自分で言った事には自信を持ってくれないと凄く困るんだけど!?
駆村「……一応聞いておくか。どこに居たかわかるのか?」
瀬川「一応って何で……まあいいや。食堂だと思うよ」
スグル「食堂って……」
朝日「御影君の死体があった場所……だよねぇ?」
瀬川「うん。ところで皆は陰陽寺さんのトレードマークである竹刀がどこにあるか知ってるかな?」
飛田「竹刀……?」
照星「そういえば……見てないっすね」
古河「そんなん、花園のどこかにあるんとちゃうか?」
駆村「あれだけ広いんだからな。紛れてもわからないだろう」
瀬川「ううん、食堂にあったんだ。崩された机と椅子の下敷きになっていてね」
《違う場所に行ってた》←【陰陽寺の竹刀】
瀬川「その意見、フォローするね!」同意!
瀬川「照星さんの言う通り……陰陽寺さんは、最初は別の場所にいたんじゃない?」
照星「マジっすか!?」
瀬川「照星さんが言ったんでしょ!?」
古河「オマエが驚くんかい!」
目を見開いて大袈裟に驚く照星さん。自分で言った事には自信を持ってくれないと凄く困るんだけど!?
駆村「……一応聞いておくか。どこに居たかわかるのか?」
瀬川「一応って何で……まあいいや。食堂だと思うよ」
スグル「食堂って……」
朝日「御影君の死体があった場所……だよねぇ?」
瀬川「うん。ところで皆は陰陽寺さんのトレードマークである竹刀がどこにあるか知ってるかな?」
飛田「竹刀……?」
照星「そういえば……見てないっすね」
古河「そんなん、花園のどこかにあるんとちゃうか?」
駆村「あれだけ広いんだからな。紛れてもわからないだろう」
瀬川「ううん、食堂にあったんだ。崩された机と椅子の下敷きになっていてね」
竹田「……ああ?食堂だと?」
月神「確かにあれだけ荒れていたら、見つからなくてもおかしくは無いと思うけど……」
竹田「待てよ。おかしいじゃねえか。あんだけ雁首揃えて見つけたのが瀬川の嬢ちゃんだけなんてよ」
駆村「確かにな……」
微かな、けれどハッキリとした疑念の目が私に刺さる。正直に話したのにこの仕打ち。許せない……
なんて、怒りは今は収めておいてどうしようか。正答したのに発言力が下がるなんて、私聞いてない!
月乃「……当時、私達はペアで行動していた。互いが互いに気をつけている分周囲への注意は散漫になる」
月乃「……普通ならその分をお互いが補えるけど、食堂は周囲が荒れていて物が溢れていた」
月乃「……これでは注視する物が増えて、周囲へ向ける集中力が切れても仕方がないと私は思う」
スグル「えーと……つまり、えっと」
朝日「瀬川さんしか見てないのはおかしな事じゃない……って事だよねぇ。月乃ちゃあん」
にこぉっと微笑みながら、最愛の妹へ兄としての慈愛に満ちた視線を向ける朝日君
その視線を控えめに言っても嫌悪感丸出しの蔑んだ視線を向ける妹である月乃ちゃん
我々の業界ではご褒美です……なんて言ってる場合じゃない!
瀬川「ほら!おかしくないじゃん!私嘘つきじゃないもん!」
駆村「そこまでは言ってないだろ……」
月神「陰陽寺さんは食堂にいた……それはわかったわ」
月神「なら逆に……御影君はどうして食堂にいたのかしら?」
結局はそこに行きつくのか。死んでも傍迷惑な……
スグル「そもそも、どちらが先に来たんでしょうか?」
朝日「陰陽寺さんと御影くん……二人が夜に一緒に話し合うのはちょっと想像できないかなぁ」
照星「カツアゲっすね。どう見ても……」
しれっと酷い事言われてるけど否定出来ない。どうしても穏健なイメージが沸かないのは単に陰陽寺さんの性格からかな……?
そうでなくても、単独行動の多い陰陽寺さんだ。下手な行動は自分の首を締めるだけなのに……
竹田「この際どっちが先に来たとかは関係ねえ。今重要なのはどっちが先に殺されたかだろ?」
月神「そんな言い方!」
瀬川「まあまあ今は話を聞こうよ……で、竹田さんはどっちだと思ってるの?」
ここで話を混ぜ返されると本当にワケわかんなくなる……なのでこうして月神さんにストップをかけて、竹田さんに話を振る
やおら頭を傾げると、真剣な表情を浮かべながら告げ始めた
竹田「そうさなぁ……殺された順番を逆算すればわかるんじゃねえか?」
瀬川「……はあ?」
質問したのはこっちなのに、何で質問されてるんだろう
質問には疑問文で答えろって、あの世代の人は学校で教わったのかな?
竹田「そんなおっかねえ顔で睨まねえでよ……そうすりゃわかんだろって話だろ?」
瀬川「わからないんですけど……」
月乃「……確かに、少し唐突な気分もする」
古河「年寄りは話をすぐ急かすからアカンわ……」
スグル「言い過ぎでは……?」
竹田「気にしちゃいねえよ。まずは二人が殺された凶器から話していこうや」
気にしていなさそうに話を始めた竹田さん。話を進めていく様に促されたけど……
駆村「凶器……?御影は喉の矢だろうが……」
月神「陰陽寺さんの方は、死因しかわかっていないわね」
陰陽寺さんの死因……確か、毒殺だよね?
それに使われた毒は、もうわかっているんだよね
【どんな方法でも即死させる毒】
瀬川「これだよ!」解!
瀬川「陰陽寺さんを殺した凶器って、どんな方法でも即死させる毒だよね?」
飛田「安直でつまらん名前だな」
照星「頭悪そうな名前っすね……」
おまいう……とは流石に言わないけれど、まあ概ね同意見かな
見てわかるを通り越して、名乗っちゃってるんだもんね……
瀬川「……説明いる?」
朝日「要らないかなぁ」
瀬川「ですよねー……」
古河「下らん事言うとらんではよ進めろや!」
繰り広げられる茶番にイライラがマックスになった古河さんがマジギレトーンで怒り始める
それに呼応するみたいに、周りから白い目で射抜かれた。これ私のせいなのかな……?
瀬川「まあ、何となく察してくれたとは思うんだけど、この毒はどんな方法でも即死させる毒なんだよね」
瀬川「何かに混ぜたり塗って刺したり……それはもう色々とね」
……そう考えると、陰陽寺さんがどこから毒を接種したのかはわかるはずだ
落ち着いて考えれば、わかるはずなんだ……!
【ノンストップ議論 開始】
『コトダマ』
【背中の傷】
【ニットの毛糸】
【陰陽寺の死体】
古河「毒殺なんは知っとるわ!」
古河「問題は毒がどこから入ったかって話やろ!」
朝日「毒をうっかり《飲んじゃった》のかなぁ~?」
飛田「霧状にして《吸い込んだ》のではないかね?」
月乃「……《打ち込まれた》のかもしれない」
照星「むむ、わかんないっすね……そもそも使用方法が雑過ぎるんすよ!」
照星「もっと【パスワードロックとかあればいいんすよ!】」
スグル「それはちょっとおかしいと思います……」
《打ち込まれた》←【背中の傷】
瀬川「その意見、フォローするね!」同意!
瀬川「私も月乃さんと同じで、毒は外部から打ち込まれたんだと思う」
瀬川「だって、陰陽寺さんの背中には何かが刺さったみたいな傷があったんだ。それ以外に考えられないよ!」
毒を含んでいる可能性のあるものを、あの陰陽寺さんが迂闊に口にするなんて有り得ない
なら、逆に有り得る可能性は?……決まってる。外側から打ち込まれた以外には存在しないんだ!
……それを踏まえて思考を組み立てていこう。この事件、どちらの死がその口火を切ったのか
……どちらが、巻き込まれたツイてない人なのかを
思考を全力でフルスロットルさせるんだ。真実に追い付く為にも……!
【ブレインドライブ START】
1【陰陽寺の死因は?】
A.どんな方法でも即死させる毒
B.銀の矢
C.竹刀
解 A.どんな方法でも即死させる毒
瀬川「これだよ!」解!
毒殺。と書かれている以上、それ以外の可能性は切り捨てても大丈夫だ……よね?
次は、どうしてその毒を接種したのかだけど……
2【陰陽寺の死の原因になったのは?】
A.花畑
B.竹刀
C.銀の矢
解 C.銀の矢
瀬川「これだよ!」解!
毒は外部から。そして背中の傷の状態を考えると、銀の矢に毒が塗られていたんだ
……なら、最初に殺されたのは
3【最初に殺害された被害者は?】
A.陰陽寺 魔矢
B.御影 直斗
A.陰陽寺 魔矢
瀬川「推理を繋げたよ!」CLEAR!
瀬川「最初に殺されたのは……陰陽寺さんの方だったんだ」
月神「……っ」
駆村「嘘だろう……?」
息を呑む音がざわついた裁判の中でもやけに耳に残る
私達の中で、最も強かった。最も死からは遠かった彼女が最初の被害者だったなんて信じられない
少なからず混乱の余波の響く中で……一人だけ、その最中で明確な意思を持つ声が裁判場を一刀の下に叩き割る
古河「……待てや。なら、なんで御影は死んだんや」
古河「アイツは……御影は、何で死ぬハメになったんや!!」
叫び出す激情は、古河さんの心の底から爆発するマグマの様に吹き出される
……そうだ。この事件は陰陽寺さんだけじゃない。通りすがりの一般人こと御影君も犠牲になっている
彼が死ぬ必要はあったの?どうして二人も?何故と何がこんがらがって、思考が追い付けずに、頭がヒリついて痛くなる
その先にある真実に、納得できるかはわからないけど……
それでも、進むんだ。犯人に一泡吹かせてやる為にも!
【学 級 裁 判 中 断 】
※
~~~♪
ハルカ『良い子の皆ー!ココロオドルTVの時間だよー!』
ヨウ『やたらの長い割には大した事無いでおなじみのこの番組も、そろそろ佳境に入る頃だな』
ハルカ『いやー長かったね。長寿シリーズとして確固たる地位を築けるまでもう少しの辛抱だよ!』
ヨウ『その前に打ち切りの危機だがな。視聴率取れないと俺達の首で償わされる羽目になるぞ?』
ハルカ『平気平気。どうせ打ち切っても後番組無いし!』
ハルカ『私達に支えられているっていう揺るぎ無い事実がある以上、何しても許されるからねー!』
ヨウ『スポンサーがキレてたぞ。テンポが悪くなるってな』
ハルカ『……………………』
ヨウ『…………………………』
『『鮮やかな!』』
ハルカ『遥かな明日を!』ヨウ『見届けよう!』
~~~
【 学 級 裁 判 再 開 】
古河「……ここから出るだけなら陰陽寺だけで良かったハズや」
古河「なんでや!?なんで、クロは御影まで殺したんや!?」
……悲痛な表情と震える声が、裁判の再起動を予感させる
理解不能で意味不明な、犯人への憤りを迸らせて
スグル「そうですよね。わざわざリスクを犯してまで、二人を殺すなんて有り得ません」
古河「ウチはハッキリさせたいんや。なんでアイツが死んだんか……話し合うてもええよな?」
竹田「あ?別に要らねえだろ?必要なのは陰陽寺の嬢ちゃんのクロだけだ」
古河「あぁ!?!?」
瀬川「ちょっ、古河さん落ち着いて……」
さらっと受け流そうとする竹田さんを、掴みかかって殴らんとする古河さん。その目には怒りの炎が燃えていた
月神「……私は、御影君についても話し合うべきだと思うわ」
月神「彼だって私達の仲間だもの。それにクロが別人だとしたらこの中に潜んでいる事になる……」
月神「それで咎められないなんて、そんなのおかしいわ。私達の出来る範囲で話し合いましょう?」
その炎を鎮める様に、月神さんが言葉を紡ぐ。冷たい、けれど確かな情熱を秘めた声で、私達を導いていく
朝日「そうだよねぇ。可哀想だもん……」
飛田「オレは別にどうでもいいが、そう言うならば……」
月乃「……死人にくちなしとは言うけれど、あるならばきっと悲しんでいるはず」
照星「『何でさー!』って言ってそうっすよね!御影先輩!」
スグル「あはは……らしいですよね」
脳内再生余裕な御影君の表情と声色。目を閉じなくても、その顔は私の頭の中にまだ残っている
残っている……というより、そう簡単に忘れ去られる程の時間は経っていなかったんだから当然だ
……本当に、この学園では泡みたいに人が消えていく
竹田「まあ別にいいんだけれどよ……で、何を話すんだよ?」
月神「何か案のある人はいるかしら?」
駆村「なら、俺から少しいいか?」
駆村「陰陽寺の方が先に矢で射抜かれていたんだよな?なら、どうして御影にも矢が刺さっているんだ?」
駆村「同じ矢を使うなんて、デメリットでしかない。矢が曲がれば軌道もズレるし、獲物の血で切れ味も鈍る……」
瀬川「あ、言われてみれば……」
月乃「……詳しいの?」
駆村「まあ、狩りに使う道具は一通りな……」
意外な特技を披露した所で、改めて考えてみる。陰陽寺さんを殺した後御影君を襲う為に矢を引き抜く……
……うん。無駄が多いね!幾らトロい御影君でも逃げられそうだ
古河「……なんか、アホやしい絵面やな」
竹田「そうさなぁ……」
駆村「そもそも、狩猟用の矢には中った獲物から外れない様に返しがついているんだ。釣り針にもあるだろ?」
駆村「あれと同じだよ。釣った魚が、餌だけ取って逃げないようにする為の工夫だからな」
飛田「やたらと詳しいじゃあないか。まさかとは思うが……」
駆村「こんなベラベラと喋るわけないだろっ!」
そりゃそうだ……なんてね。ブラフかもしれないけど、ここまで真剣に熱く語れるのはオタクの特徴だ
オタクを悪く言うのは許さないよ。私だってアニオタだもん!
瀬川「……じゃあ、犯人はどうしても矢で殺す必要があったって事なのかな?」
スグル「それか、凶器がそれしか無かったからか……」
月乃「……何にせよ、非合理的な発想である事は間違いない」
照星「そうっすよね……」
朝日「それじゃあ、次はその話を軸に議論しよっかぁ」
月乃「……朝日に音頭を取られるのも非合理的」
……朝日君の間の抜けた声とは裏腹に、裁判には着実に緊張感が満ちてきた
まるで錆びた機械に潤滑油を差し込んだみたいに、硬直してきた議論は再び回り出す
二人を死に追いやった理不尽なクロへと突き進み、確かな真相へと進むべく
【ノンストップ議論 開始】
『コトダマ』
【背中の傷】
【荒らされた食堂】
【喉に刺さった矢】
【銀の弓と矢】
月神「犯人はわざわざ、矢を凶器に選んだ……」
飛田「凶器ならば幾らでもあるッ。何故その様な事を!?」
照星「【凶器がそれだけだった】んすかねー?」
スグル「食堂の凶器を【取れなかった】とか……どうですか?」
月乃「……何にせよ、犯人は魔矢の背中から【引き抜いて】凶器に使ったのは不自然」
竹田「矢に【スペアが無かった】訳じゃあ無えしなあ」
スグル「もしくは、御影さんが油断していたから……」
スグル「【一瞬で殺せる状況】だったなら、有り得ない話でも無いと思います」
月神「不意討ちだった……という事かしら?」
スグル「後処理の際に出会したなら、【避けられない】と思うんですが……」
【一瞬で殺せる状況】←【荒らされた食堂】
瀬川「それは違うよっ!」論破!
瀬川「これは私の推理だけど……多分、御影君は不意討ちで殺されたんじゃないと思う」
スグル「えっ……どうしてですか?」
瀬川「現場になった食堂……あれ、凄く荒らされていたよね?」
瀬川「それこそ嵐が来たみたいに、ぐちゃぐちゃにさ」
古河「確かに、メチャメチャに荒れとったなあ」
月神「現場があれだけの状態で、気づかれた相手を静かに殺すのは無理があるわね……」
散乱した食器にテーブル。台風一過が通り過ぎたかの様な惨状が事件当時の荒れ具合を伝えてくる
あの陰陽寺さんを殺そうとしたんだから、きっと必死に抵抗もしたはず……
朝日「御影くんはぁ、争って殺されちゃったのかなぁ……?」
飛田「あの様な針金の如き肉体、簡単にへし折れるだろうよ」
駆紫「筋肉どころか、贅肉しかなさそうだしな……」
朝日「あは。御影くんぷにぷにだもんねぇ~」
古河「ホンマアホやなあアイツ……」
死しても尚公衆の面前でだらしないと貶される御影君には同情を禁じ得ない
けれど、争いがあった事を示す証拠はまだあったはず……
【モノクマファイル4】
瀬川「これだよ!」解!
瀬川「少なくとも、御影君と犯人が争った事は間違いないよ。モノクマファイルにも書いてあるし……」
モノクマ「再三言っておきますが、ボクはモノクマファイルにはウソは書きません!」
モノクマ「ゴキブリをカップ焼きそばに入らせない様に、ファイルに虚偽は紛れ込ませないって神経を使っているからね!」
飛田「例えが気持ち悪過ぎるッ!」
古河「アカン。メッチャ不安になってもうた……」
竹田「気持ちはわかるけどよ……嘘じゃあねえぞ?」
駆村「あれはそういうトッピングなんだろ?違うのか?」
朝日「ねえねえ月乃ちゃん。駆村くんってぇ……」
月乃「……もうツッコまない。絶対に」
一部にいる意味不明な事を言っている人は置いておいて、ファイルの信憑性については散々議論してきた事だ
今までに嘘が入っていた事は無かったし、これのお陰で事件が解けた部分もあるにはあるんだけど……
いい加減信用したいのは山々だけど、どうしても信じられない人っているもんね。残念だけど当然だよ
スグル「……待ってください。もしかしたら、犯人がわかるかもしれません!」
飛田「な、なんだとッ!?説明しろスグルッ!」
スグル「犯人が御影さんと争ったなら……」
スグル「当然、犯人にも争いの跡が残されているはずです」
スグル「ですから、今ここでその跡を確認すれば……」
飛田「でかした!よし脱いでくれ!レディの諸君!!!」
瀬川「変態だーーーーー!!!!!」
古河「やるわけあらへんやろ!ボケカス!」
月乃「……スグルには失望した」
照星「堕ちる所まで堕ちたっすね」
月神「それはちょっと……困るわ」
非難轟々を通り越した罵声が轟く。主に女子からの軽蔑の視線が、発言者のスグル君に向かって突き刺さる
可哀想に思える程のオーバーキルだけど仕方無い。大人しい子がいきなりハードな不良にクラスチェンジする位の衝撃だもん
スグル「え……あ!そういう意味はないです!本当です!」
駆村「スグルが女子達に向かって服を脱げと言うなんて予想もしなかったからな……」
竹田「坊主は若えからな。若気の至りって事で許されんだろ」
スグル「違いますから!そういうつもりじゃないんです!」
竹田「はぁ……しゃあねえな。脱げばいいのか?」
古河「言うとらへんわ!」
瀬川「いや別に脱がなくてもいいんだけど!?」
竹田「ここで脱ぐとただの変態だが、俺の身の潔白を証明するためだ。背に腹は変えられねえな」
竹田「……おら!刮目して見とけよ見とけよ!」
月神「嫌ぁあああああぁああああっ!!」
───そこにあったのは、筋肉だった
はちきれそうな胸板、丸太の様な腕、鬼神の如き背筋──
そして、それを包み込む……痛々しく巻かれた、包帯
竹田「……これが俺自慢のマッスルスーツだ。どうよ?」
古河「きゃあああっ!?はよ服を着んかいこのド変態!!」
照星「古河先輩意外と初心っすね……。にしてもよく鍛えられたいい筋肉っすよ。あれは……」
飛田「せ……背中に羽が生えている……」
瀬川「腹筋6LDKかーい!」
駆村「肩にでっかいカブトムシ乗せてんのかーい!」
月乃「……筋肉を見ると、何故かテンションが高くなる」
朝日「皆、どうしちゃったんだろうねぇ~」
筋肉は人の理性を狂わせる。皆も知っているね?
って、よく見たら所々痣が出来ている。という事は、竹田さんは怪我してる……!?
月神「……竹田さん。その傷はどういう事?」
竹田「ん?どの傷だ?この通り、今の俺は満身創痍でね」
古河「だからって裸を見せつけんなや!ホンマキモイねん!」
竹田「オイオイ嬢ちゃん。さっきからこっちをチラチラ見てただろ?見たけりゃあ見せてやるぜ?」
照星「そこまでにしておいてあげてほしいっす。古河先輩茹でダコみたいになってるっすから」
顔を覆う指の隙間から覗いていたのか、耳まで真っ赤に染めた古河さんが震えて叫ぶ
これ以上は本当に泣いちゃうから……と竹田さんに甚平を着直させて、話を進め始めた……
竹田「この傷はな、前からあったモンなんだよ」
月乃「……それはおかしい。今の身体の傷はどれも、最近ついたばかりの生傷だった」
朝日「わぁ。月乃ちゃんしっかりと見てたんだぁ」
月乃「黙れ」
竹田「これは前の学級裁判……臓腑屋の嬢ちゃんに負わされた傷なんだよ」
竹田「スグルの坊主と、御影の坊主を庇ってな……」
月神「あの時の……?」
スグル「それは間違いないと思います。僕は実際に、竹田さんに庇われましたから」
前回の学級裁判……臓腑屋さんの悪あがきで、私達は狂騒の渦に叩き込まれた
私も、すんでの所で天地さんの遺影を盾にして難を逃れていたけれど……その時に、降り注ぐガラスで身体の至る所を切ったのかな
朝日「竹田さんはぁ、嘘は言っていないと思うなぁ。私、前にも竹田さんの裸を見たことあるもんねぇ」
月乃「は?」
瀬川「詳しく」
スグル「そこに食いつくんですか……?」
朝日「スグルくんと一緒にお風呂に入ったんだけどぉ、その時に竹田さんも途中から来たんだもんね~」
瀬川「は?」
月乃「……詳しく」
照星「三人はどういう関係なんっすか……」
スグル「どんな関係でもありませんからっ!」
駆村「今はスグルと朝日についてはどうでもいいだろう?」
駆村「あ、これは独り言だが時雄島は同性愛に寛容だから移住するなら教えてくれよ」
スグル「しませんから!」
かつては儚げ美少年だったのに、今やすっかり弄られキャラと化したスグル君には私も同情を禁じ得ない
それはそれとして、いつの間に朝日君と仲良くなったの?
飛田「だが待てッ、ならばスグルと朝日は互いの裸を見ている訳だな?」
スグル「そ、そうなりますけど……」
竹田「一応言っておくが、俺は下にタオルを巻いてたからな」
飛田「どうだった?やはり男の身体だったのか?」
スグル「当たり前じゃないですか!男の人なのに線が細くて、肌もスベスベしてて綺麗でしたから」
瀬川「」(絶句)
朝日「スグルくぅん……ちょっと、恥ずかしいなぁ」
スグル「あっ……いや、えっと……」
照星「ひゅーひゅー!熱いっすねー!」
古河「オマエラそういう仲やったんか……」
竹田「まあ若いからな。色々あるよな。おう」
月神「……………………///」
スグル「本当に違うんですってばーーー!!」
「…………」ダンッ!!
月神「きゃっ!?」
スグル「ひっ!?」
月乃「……そんな下らない話はどうでもいい。重要なのは、争いの跡があるか無いかだけ」
朝日「月乃ちゃん、どうしたのぉ?そんなに機嫌悪く……」
月乃「…………」ダンッ!!
古河「目が据わっとるわ……」
……どうやら月乃さんの我慢は限界に達したみたいだ。机に叩き付けた拳はプルプルと震え、顔からも普段の雰囲気が消し飛ばされている
まあ、兄と別の男の子が仲良くしてるなんて当事者からすれば面白くないのもわかるけどね
月乃「……今すぐ身体に跡が無いか確かめる。全員服を脱いで」
照星「へ?いやそれはちょっと……」
月乃「脱げ」
わきわきと両手を揉みながら、私ににじり寄ってくる月乃さん
その目はさっきまでの剣呑な雰囲気じゃない。妖しい光を宿していて……
瀬川「えっ、ちょっと待って?ね?落ち着い……」
瀬川「あーーーーーーーーーーっ!?!?!」
※
モノクマ「オマエラ!エロはいけません!」
ハルカ『はーい幕でござーい!』ヨウ『ここから先は有料会員限定だ!散れ散れ!』
※
瀬川「うぅ……よ、汚された……」
飛田「マーヴェラス……」
古河「ウチ、もうお嫁に行かれへん……」
月乃「……ごちそうさまでした」
照星「やー激しかったっすね。自分も危うかったっす」
月神「凄かったわね。月乃さん……」
スグル「……はっ!?僕達に何が……」
駆村「なんだか記憶が飛んでいた様な……」
朝日「うぅん。別に気にしない方がいいと私は思うなぁ~」
やられた……敢えて漢字変換はしないけど、月乃さんに滅茶苦茶にひんむかれた……
幸いコスプレは崩れてない……というか崩れない様にどうやってやったのか。謎の技術が凄く気になる
……因みに男子もやったらしい。私は見てないけど
月乃「……確かめたけど、全員に争いの跡は無かった」
照星「あ、月乃先輩も無かったっすよ。自分が証人っす!」
瀬川「えぇ……今のはいったい何のための時間だったの……?」
無駄な時間を使ってしまった……そんな虚脱感が辺りを包み込む
月乃「……これで争いの跡が証拠にならない事が判明した」
瀬川「開き直り!?」
月乃「……案はスグルのもの。恨むならスグルにして」
スグル「そんなぁ!?」
朝日「でも、これでまた振り出しになっちゃったねぇ……」
スグル「うっ……」
朝日「あっごめんねぇ。別にスグルくんが悪いって訳じゃないからぁ」
大失態で大ダメージを負ったスグル君。自分の発言のせいとはいえ、ベコベコに凹んでいる姿は見てられない
そんな事よりも、確かにまた議論はやり直しになっちゃった。何度も何度もやり直しになる学級裁判には参るねホント……
月神「困ったわね……もう証拠になり得そうなものは……」
竹田「無さそうだよなぁ……」
駆村「確かに……もう全て出尽くしたのか……?」
古河「なんか無いんか!?なんでもええから出してぇな!」
飛田「何でもいいと言われても……ガッデェム!」
……必死の叫びも虚しく、裁判場にはなんの反応も響かない
照星「そもそも本当に争いはあったんすか?なんかもうそこから怪しい気が……」
朝日「モノクマがデタラメを書いたって事ぉ?」
ハルカ『嘘なんてついてないよ!約束するよ!』
ヨウ『議論が進まないのを俺達のせいにするのは心外だな』
暗中模索の結果は振るわず、私達の行く末も不透明だ
何か無いの?どこかに無いの?起死回生の打開策は───!
竹田「……いるじゃねえか。一人だけ調べられてねえ奴が」
月神「……え?」
竹田「これだけ探してもいねえんだ。だとしたら可能性があるのは一人だけだろ?」
重低音が地を揺るがす。竹田さんの深みのある声が、否応にも思考に喝が入れられる
瀬川「ホントに?誰の事言ってるの?」
竹田「応ともさ。尤も、今までの議論を根本からひっくり返す必要はあるけどな……」
頭をガリガリとかきながら独りごちる。その浮かない表情からは、本心を窺う事は出来なかった
でも、少なくとも適当に言った訳じゃない……。確固たる自信があって発言している事は理解できる
駆村「だけどそんな奴はいるのか?全員調べたよな?」
月乃「……私は夕に見てもらった」
照星「それは自分のテクニックにかけて断言するっすよ!」
瀬川「何の!?」
気になる言葉はこの際無視して……確かに全員に争った跡が無いか調べたのは間違いない
その上で、可能性があるのって誰?それに今までの議論を根本からひっくり返す必要って……?
一度、全てを逆転させよう。視点をクリアに、俯瞰させて
探しだすんだ……その人を……!
【争った可能性のある生徒は?】
【陰陽寺 魔矢(オンミョウジ マヤ)】
瀬川「貴女しか……いないよ!」解!
瀬川「月乃さんが調べた人……それはここにいる人だけだよね」
月乃「……? 勿論そう」
……もし、少しでも可能性があるならば
瀬川「逆に、ここにいない人は調べていないよね」
古河「何当然の事言うてんねん!まさか天地やデイビッド達がやった言うんか!?」
竹田「そうさなぁ……案外、それに近いかもしんねえな」
古河「はぁ!?」
……もし、この場にいない人が犯人だとしたら
飛田「まさか死体が殺したとでも言うつもりか?ふざけた事をほざくなッ!」
瀬川「でも、可能性がある人はもう一人しかいないよ」
……もし、“最初に殺されていた人が御影君だったら”?
瀬川「陰陽寺さん。争った可能性があるのは調べられていない人なら、彼女しかいない」
瀬川「最初に殺されていたのは……御影君だったんだ!」
古河「なっ……!?」
駆村「待ってくれ!おかしいだろ!?」
駆村「御影の矢には外した跡が無い。だからこそ最後に刺されたんだと結論が出たんだぞ!?」
そう。それがネックになっていたんだ。銀の矢の存在が、推理に大きく楔を打ち込んでいた
問題は、それを引き抜く程の推理が全く思い付かない事……
月乃「……争いはしたけれど、殺されてはいなかったのかも」
照星「どういう事っすか?」
月乃「……例えば、御影を負傷させた後に身動きを封じて、魔矢を殺害する」
月乃「……その後に、凶器を抜き取って御影を刺す。これなら、順序による矛盾は起こらない」
瀬川「そっか!その手があった!」
スグル「でも、どうやって動きを封じたんですか?」
古河「両手両足へし折ればええやろ!」
朝日「そこまでするならぁ、もう殺しちゃった方が早いと思うんだけどなぁ」
月乃さんの援護も虚しく、また議論の壁に突き当たる
言われてみればその通り。古河さんのアイデアはバイオレンス過ぎてあり得ないとは思うけど……
月神「道具があったんじゃないかしら?結束バンドとか……」
駆村「確かに手足を縛る道具があるなら容易いだろうが……」
飛田「そんなゴミクズは無かったはずだがッ?」
……手足を縛る道具、か。それなら多分アレだよね
【工業用ゴム紐】
瀬川「これだよ!」解!
丁度思い当たるものがある。それを見せれば……!
瀬川「なら……このゴム紐を使ったんじゃないかな?」
駆村「それは……!」
照星「作業室にあったやつっすね!」
飛田「なんだね?そのひょろながい糸は」
瀬川「飛田君。ちょっとこれ引きちぎってみてくれる?」
飛田「ハハハハハ。こんな紐切れ簡単に……」
飛田「………………………………………………………………」
手に持った紐を握りしめ、複雑そうな表情を浮かべている飛田君。その顔は徐々に苦くなっていく
照星「にひひっ、もしかして切れないんすかぁー?」
朝日「頑張れぇ~。頑張れぇ~」
飛田「グググ……なんだこれはッ!?伸びる上に硬いぞ!?」
瀬川「それは工業用に使われる特殊なゴム紐なんだって。少なくとも素手で引きちぎれないくらいには丈夫みたい」
説明を聞いて諦めたのか、飛田君はゴム紐を放り捨てる
それを慌てて拾い上げて私も引っ張ってみる。……私でも伸ばす事は出来るけど、ちぎるのは無理みたいだね
古河「せやけど、それが何や言うねん!この紐がどう陰陽寺に結び付く言うんや!」
竹田「話はこうだ。まず陰陽寺の嬢ちゃんと御影の坊主が食堂で争った」
月神「……え?」
竹田「そして、陰陽寺の嬢ちゃんは坊主を殺害。その隙を突き第三者が嬢ちゃんを殺した……」
……語られる筋書きは淀みなく、スラスラと答えられていく。否を唱える人が出るまでは
月神「待って!そんなのおかしいわ!」
竹田「……おかしい?何処がだよ、月神の嬢ちゃん」
月神「確かに、それは今までの矛盾が無くなるかもしれない。けど、新たに矛盾が生まれるわ」
古河「そうやそうや!その第三者って何モンやねん!」
朝日「結局ぅ、犯人は全くわかっていないしねぇ」
竹田「そうか?俺達が調べりゃいいのは『最初に殺したクロ』だろう」
月神「陰陽寺さんを犯人にしろって言いたいんですか……!?」
竹田「言いたいっつうかよ。事実、これまでの議論は陰陽寺の嬢ちゃんがクロだろう」
月乃「……これ以上の議論は必要無いと?」
月神「ここにいる、殺した人を見過ごせと言いたいの!?」
……この裁判では、最初に殺されていた人。つまりは御影君を殺した人を見つければいい
だから、クロが陰陽寺さんなら陰陽寺さんを指名すれば済む話
なんだけど……
スグル「確かに、そうかもしれませんけど……」
飛田「も、もういい投票だッ!一人だけでいいだろうッ!」
月乃「……状況的にも、疑う余地は少ない」
照星「んー……そうっすか?何だか引っ掛かる様な気も……」
月神「皆は、仲間を殺した人を放っておくの?」
駆村「それは……けど、後で追求すればいい話じゃないか?」
皆も、複雑で要り組んだ事件で疲弊してきている。体力自慢の照星さんですら、疲労の色を隠せていない
……正直な所、私だってここで終わらせたい。面倒臭いし
月神「……瀬川さん。貴女はどう思う?」
月神「貴女も……陰陽寺さんが、犯人だと思う……?」
か細い声に、すがる様な視線。いつでも気丈に振る舞っていた月神さんとは思えない程弱気な顔
私の考えは……
陰陽寺『僕は、僕は!』
陰陽寺『犯人じゃ、ない……!』
瀬川「私は……違うと思う」
月乃「……違う?」
瀬川「陰陽寺さんは、犯人じゃないと思う」
竹田「……ああ?」
スグル「瀬川さん……」
フラッシュバックするのは、かつて、私が一度犯人として処刑した女の子の顔
普段の印象は最悪で、今だって殺されてもおかしくない性格をしていると思っている
瀬川「えーっと、さ……」
でも、だけど!あの顔は、声は、嘘なんて全く無かったんだ
それを私は信じなかった。だから、私達は……
瀬川「今度こそ、陰陽寺さんを信じてあげたいかなって」
月神「……え?」
瀬川「……なんちゃって!」
竹田「……おい」
竹田「おいおい……おいおいおいおいおい!」
竹田「陰陽寺の嬢ちゃんを疑ったのは前の話だろう?今の話と何の関係があるってんだ?」
竹田「何の関係も無えだろうが!下らねえ情で議論をかき回すなんざ、青二才が粋がるんじゃあねえぞ!」
モノクマ『はいストーップ!これ以上の弁論は、この変形裁判場の中でやっちゃってくださーい!』
ハルカ・ヨウ『『いざ出陣!エイエイオー!』』
瀬川「…………ふーっ」
……身体の芯が昂って、頭の中がバチバチと弾けていく
今から戦うんだという感覚が、心の奥底で燻っていた闘争心を燃やしていく
少しだけ深呼吸。鼓動を整えて、眼前を見据える
まるで戦乱の武将みたいな面構えの竹田さんを筆頭に、議論に強いメンバーが私の敵になる
瀬川「……上等!」
敵は強い方が、難易度は高い方がより燃える。こういうのって主人公みたいだしね!
そう考えると、俄然やる気が沸いてくる。この議論で何を証明するのか、私だけが決められるんだ───!
駆村「陰陽寺よりも先に御影が殺されていた事は理解したよ」
駆村「その上で、犯行を行えたのは死んだ陰陽寺にしか可能性が無い事もな……」
照星「その可能性は犯人じゃなくて争った可能性っすよ!」
照星「確かに陰陽寺先輩しか調べられてねーっすけど、だからと言って陰陽寺先輩がクロだって決めつけられないっす!」
一撃。議論の中で凝り固まった偏見を、照星さんが組み伏せる
だけど、それだけでは終わりじゃない。矢継ぎ早に畳み掛ける異議はまだ止まない……
月乃「……けれど、魔矢の服に付着していた毛糸は、御影の被るニットのものだと判明している」
月乃「……ニット帽は被る物。毛糸が付着する程に、魔矢は御影にかなり接近していたはずでは?」
古河「あの陰陽寺に、御影の毛糸がくっつくほど密着する訳があらへんやろ!」
月乃「……けど、実際には付着していた」
古河「それは……えっと……。……せや!御影の死体を動かそうとしてたんちゃうか!?」
月乃「……何の為に?」
古河「そんなんウチが知るワケあらへんやろ!」
瀬川「開き直らないで!?」
ダメだ。古河さんは勢い派だから理論派の月乃さんとは相性が最悪過ぎる……なんとかしないと……
朝日「もしかしてぇ、動かそうとしたんじゃなくてぇ、確認したんじゃないかなぁ?」
月乃・古河「「は?」」
瀬川「この際誰でもいいよ!続けて朝日君!」
朝日「陰陽寺さんはぁ、天地さんの時もデイビットくんの時もすぐに駆け寄ったいたよねぇ」
朝日「だからぁ、今回も死体を見て、すぐに駆け寄ったんじゃないかなぁって思うんだけどぉ」
スグル「そっか……それなら陰陽寺さんを殺すのも容易になるかもしれませんね」
スグル「一瞬でも背後を取れれば、正面から相手をするよりも格段に動きやすいですから」
古河さんのせいでがら空きになったボディーを守るべく、朝日君とスグル君からの加勢が飛んでくる
なんとか首の皮が繋がったけど……
竹田「なら、モノクマファイルの記述はどうなんだよ?」
竹田「争いがあった事は間違いねえ。陰陽寺の嬢ちゃんじゃねえなら誰だって言うんだ?なあ」
……そう。この問題はどの道避けては通れない
そして、この答えは誰もが全く検討ついていないのだ
飛田「我々には争った跡が無い事は証明済みだッ!」
駆村「食堂もあんなに荒らされていたしな……」
月乃「……あれだけの跡が残っている以上、犯人にも相当に傷を負っているはず」
全員の意見はどれも正論。だからこそ打ち崩すのは難しい
鉄壁の正しさは難攻不落で。嘘の小細工なんて通じる訳がない
マズイ……。今度は私が大ピンチだ。
竹田「そら見ろ。証拠だけじゃねえ、現場が物語ってんだよ」
竹田「御影の坊主と陰陽寺の嬢ちゃんが争ったんだってな!」
瀬川「…………ん?ちょっと待って」
一瞬。ほんの一瞬だけ、竹田さんの話に違和感を感じた
微かな綻びを解き歪みを見つけ出す。竹田さんの話の違和感。その正体は……
月神「どうかしたの?瀬川さん。おかしな事は言っていないと思うけど……」
瀬川「いや、だって冷静に考えてさ……」
瀬川「御影君と陰陽寺さんで、勝負になると思う?」
竹田「…………ああ?」
瀬川「いや普通に考えてさ。御影君と陰陽寺さんで跡がつく程争えるのかなーって……」
スグル「……無理でしょうね」
朝日「無理だと思うなぁ」
月神「無理じゃないかしら……」
飛田「無理だろうッ」
駆村「無理じゃないか?」
月乃「……無理だと思う」
古河「無理やろそんなん!」
瀬川「ちょっとは信じてあげようよ。私が言い出しっぺなんだけどさ……」
全員からボロカスに否定される御影君には涙を禁じ得ない。私が原因?それは違うよ、多分ね!
瀬川「けど、皆の言う通りだよ。無理なんだ。御影君と陰陽寺さんが争い会うなんてさ」
瀬川「どうやったって、御影君が勝てる訳がないんだから!」
竹田「……だが、モノクマファイルはどうなんだ?」
瀬川「ちょっと聞いてみよっか。モノクマ、片方が反撃させずにボコボコにした場合はファイルにどう書くの?」
モノクマ「その場合なら『争った形跡』じゃなくて『暴行された形跡』って書くよ」
モノクマ「争いは同レベルの者としか発生しないしね!」
照星「納得するような、しないような理屈っすねー……」
瀬川「……ま、まあとにかく!これでわかったよね?」
瀬川「陰陽寺さんは争っていない……。少なくとも、今回の被害者でもある御影君とはね!」
……危なかった。この違和感に気づかなかったら、私は押し切られて負けていたはずだから
でもそれはあくまで気づかなかったら、の話。例え偶然でも、例え運が良かっただけだとしても……
瀬川「……これは、私達の勝利だよ!」
瀬川「これが私達の答えだよ!」全論破!!!
月神「……陰陽寺さんは、犯人じゃない」
月神「だって、彼女がそんな事をするなんて思えないもの!」
感情論1000%の月神さんの訴え。普通なら一笑に伏されて終了レベルの幼稚な弁論だけど、今回は違う
確固たる結論と、全員の認識。二つの要素が脆い言葉を強固にして、凝り固まった考えと裁判を打ち砕く
ボロボロと崩れ去る偏見。隙間から差し込む風は、皆の考えを変えていった
駆村「そう、だな……あいつはひねくれてはいたが、自分の正義に反する様な事はしなかった」
照星「そうっすよ!確かにちょっとツンツンしてるっすけど、陰陽寺先輩はいい人っすから!」
飛田「そ、そうだな……彼女も可愛らしいレディだからなッ!」
月乃「……私達は、魔矢に対して偏った考え方をしていた事は否めない。ごめんなさい」
朝日「大丈夫だよぉ。きっと陰陽寺さんも許してくれる……。と思うなぁ」
スグル「そこは自信を持ってくださいよ……」
月神「陰陽寺さん……。貴女を信じてくれる人はこんなにも多くいるの」
月神「貴女は……本当は優しい人だから……!」
竹田「……おいおい。なんだかハッピーエンドみてえになっているけどよお」
竹田「結局、犯人に繋がる手立てが無くなったんだろ?かなりヤベェ状況なんじゃあねえのか?」
瀬川「………………」
スグル「そう、ですよね……」
水を差す様な竹田さんの一声で、和やかな雰囲気が一気に現実に引き戻される。……また、振り出しだ
竹田「容疑者が全員いなくなったんだ。こりゃ相当厳しいぜ」
飛田「どどどどうするのだッ!?何か手がかりはッ!?」
照星「えーと、何か怪しいものとか無いんすか!?」
月乃「……争った。という事は犯人も少なからず傷を負っているのは間違いないはず」
駆村「まさかとは思うが御影が非力すぎて跡すら残せなかったんじゃないのか……?」
朝日「それなら跡は残らないよねぇ……」
古河「そんなん……そんなん……」
古河「……御影ェ!オマエ、最期までそんなんでええんか!?殺したヤツに一矢報いたろう思わないんか!?」
古河「悔しくないんか!?無様やと思わへんのか!?死んだ後までオマエ舐められとるんやぞ!?」
古河「何で……何でオマエより、ウチの方が悔しいんや……!」
古河「何とか言うてみいや!御影ぇーーーっ!!!」
無念の声。信じたいのに信じられない、そんな悲痛な声
普段の勝ち気な古河さんがあんな声を出すなんて。なんて片隅で思いながら御影君を偲ぶ
まさか、本当に争ったのに跡がつけられない訳が……
瀬川「……あっ!?」
月神「きゃっ!どうかした?瀬川さん」
無い。……無いんだ!そんな事は絶対に
争いは同レベルの者としか発生しない……なら、絶対に犯人にも傷がついているはず
でも、どうして見つからないの?見逃す様な傷とか……?でも、そうじゃないとしたら?
……だとしたら、犯人はきっとあの人だ
瀬川「……犯人の可能性のある人がわかったんだ」
古河「は!?」
空気がガラリと変わる。困惑や期待、猜疑の色を滲ませて
共通する感情は……犯人がわかるかもしれないという『興奮』だ
なら、皆の期待には応えないとね!この事件の犯人。御影君を殺した犯人を……
ここに釣り上げるんだ!
【御影と争った可能性のある生徒は?】
【竹田 紅重(タケダ ベニシゲ)】
瀬川「私達に争った跡は無い……それは間違いないよ」
瀬川「一人だけを除いては、ね」
話を切り出しながら睨み付ける。視線の向こうにいる人物は、気にもしていない素振りで頭をかいている
無関心っぷりにイラッとするけど、それ以外の人は、構わずに猜疑心を高めていた
月乃「……確かに、最初から怪我がある人の確認はしていない」
朝日「どれがそうなのかわかんないもんねぇ」
スグル「でも、その人って……」
月神「まさか、竹田さんがクロだと言いたいの!?」
竹田「おいおい……俺か?何だよ急に」
竹田「俺のこの傷は、臓腑屋の嬢ちゃんにつけられた傷だって説明しただろ?それ以上は無えよ」
けろりとした顔でスラスラと説明を始めた。まるであらかじめ答えを用意していたみたいに、淀みなく進んでいく
……白々しい。それが、今の竹田さんに対する率直な感想だ
瀬川「……なら、その包帯を解いてみてよ!」
瀬川「もし古い傷以外に新しい傷があるなら、それが御影君と争った証拠になるんだから!」
竹田「……………………」
竹田「応。いいぜ」
瀬川「え?」
あっけらかんと。それこそ拍子抜けすら感じさせる程あっさりと承諾した
ま、まあ違うなら違うでいいし……あ、やっぱり私が恥ずかしい思いするからダメ!
竹田「こんなんで疑いが晴れるなら安いモンよ。待ってな」
ザクッ
竹田「……うおっ!?痛つつつ!!」
月神「きゃあっ!」
照星「うわっ!?大丈夫っすか!?」
飛田「血が飛び散ったぞッ!どうしてくれるッ!」
竹田「痛つつ……悪い悪い。傷が開いちまって血みどろになっちまったぜ」
スグル「あ……傷跡が、血で見えなく……!」
竹田「すまねえな。まさかこうなるとは……これ以上傷を開く訳にはいかねえ。また巻かせて貰うぜ、瀬川の嬢ちゃん」
瀬川「……はーい」
……うやむやになったせいで、結局、竹田さんに争いの跡を見つける事は出来なかった
だけど、私は見逃さなかった。他の誰もが気づかなくっても、強く疑っていた私だけは
包帯を巻いて、服を着直した竹田さんは……嗤っていたんだ
竹田「ふー痛ぇ痛ぇ。包帯がくっついちまってたかね?」
月神「大丈夫ですか?」
月乃「……血で傷が見えなくなった。もう確認が出来ない」
竹田「ん?まあいいじゃねえか。細かい事は気にしすぎるモンじゃねえぜ」
いけしゃあしゃあと嗜める竹田さん。誰のせいでこうなってると思ってるの?
……このままじゃマズイ。なんとかして突破口を開かないと……!
瀬川「……い、いやー疑ってごめんなさい竹田さん」
瀬川「ところで、竹田さんは何か気になる所とかあったり……」
竹田「特に無えな」
即答された……竹田さんの発言から何かミスをしないか期待していたのに……!
どうしよう……正攻法で竹田さんを突破するのは至難の技だ
なら……この際仕方ない。“正しい攻め方”じゃない。私の得意な方法で追い詰めていくしかない……
……けど、嘘を出すには証拠が足りない。ここで下手な事を話せば、追い込まれるのは私の方なんだ
竹田「逆に聞くけどよ、瀬川の嬢ちゃんは何か無えのか?」
瀬川「ウ゛ぇっ!?」
カウンター!?まさか“竹田さんが怪しいと思います”なんて流石に言う訳にはいかないし……
どうする?どうする私……!
スグル「……確かに、竹田さんは怪我をしていました」
スグル「けど……酷く傷を負っていたのは、腕だったはずです」
瀬川「え?」
竹田「……ああ?」
朝日「あっ……そうだよねぇ。私も見てたけどぉあんなに身体に傷なんて無かったはずだもん」
月神「腕だけ……?でも、今は身体中にあるわ!」
竹田「んだとぉ……!」
思案していると、思わぬ援護。スグル君と朝日君が、竹田さんへの違和感を指摘する
二人の確かな証言には、少なからず衝撃を受けた様で。さっきまでの余裕綽々とした雰囲気は鳴りを潜めていた
駆村「二人とも、それは本当なのか!?」
古河「竹田ァ!どういう事や。なんで全身に傷があるんや!」
飛田「まさかまさかッ!御影から負わされた傷を誤魔化す為につけたのではッ!?」
月乃「……なら、さっきの血も自分で切った?」
瀬川「血で確認させない為にね!」
照星「さっきまでの沈黙は何だったんすか……」
どさくさ紛れに援護に射撃に加勢する。図々しい?チャンスはモノにしないとダメなんだよ!
竹田「おいおい……待てよ。おかしくねえか?そもそも……」
竹田「御影の坊主と陰陽寺の嬢ちゃんを殺したのは、同じ人間とは限らねえだろ?」
竹田「もし万一、俺が御影の坊主を殺したクロだとする」
竹田「だけどよお仮に陰陽寺の嬢ちゃんが先に殺されていたなら、それだと俺達が纏めてオシオキされるんだぜ?」
古河「何言うてるんや!さっきまでの議論で御影の方が先って結論が出たやろ!」
竹田「だがさっきは陰陽寺の嬢ちゃんのが先に殺されたって事になっていただろう」
竹田「これから結論が変わらないとは限らねえ。そうなった時に俺が犯人だって固定観念に囚われてちゃ話にもならねえ」
この人は……!さっきまでの議論を引き合いに出して、自分への疑惑を逸らそうとしているのは明白だ
ここで逃げられたら本当にマズイ。絶対に止めさせないと……!
月乃「……恐らく、犯人は同一人物」
スグル「え……?」
飛田「どういう事だ……ッ。説明してくれレディ!」
月乃「……魔矢にせよ御影にせよ、別人ならおかしな事がある」
……竹田さんを止めたのは、月乃さんの静かな声
小さく、儚げで、それでも秘めた意思の強さが、有無を言わせない空気を産んでいた
竹田「……おかしな事、ねえ。聞かせて貰おうじゃねえの」
聞かせて貰おう。なんて随分と余裕のある発言だ。そこにあるのは虚勢じゃない。確かな経験と実力に裏打ちされた余裕だけ
でも、私には竹田さんには無い武器がある。若さっていう唯一のね!だから自信を持って答えるんだ……
二人が別人に殺されたとしたら、不自然な事は……
1:同じ場所で殺されていた事
2:同じ凶器で殺されていた事
3:同じ時代に今生まれた仲間達よ
2:同じ凶器で殺されていた事
瀬川「これだよ!」解!
瀬川「同じ凶器で殺されていた事……。これって犯人が別人ならおかしな事だよね」
瀬川「わざわざ御影君から引き抜いて使わなくても、食堂には色々な凶器があるんだからさ」
月神「陰陽寺さんが殺して、その後誰かに殺された可能性は既に無い……つまり、凶器を奪う理由が無いの」
瀬川「御影君が先か陰陽寺さんが先かなんて、もうどうだっていい話なんだ……」
瀬川「どちらが先だろうと、犯人は一人なんだ。『誰が先に殺されたか』じゃなくて『誰が先に殺したか』が重要なんだ!」
ビシッと指を指し示して、勝ち誇って竹田さんに叩きつける
これで逃げ道は全て封じた。袋のネズミとはこういう事を言うんだろう。もう竹田さんに打つ手なんて……
竹田「そうか?俺にはこの事件の真相を明かす事が出来るぜ」
瀬川「ハァッ!?」
あるの!?この状況で!?詰みを通り越してチェックメイト。完全封鎖状態なのに!?
古河「う……嘘や!そんなのある訳……!」
朝日「でも聞いてみないとダメだよぉ。もしかしたらぁ本当に犯人じゃないかもしれないしねぇ」
月神「そうね……」
竹田「話がわかるじゃねえか。まあ聞いとけや」
竹田「まず、犯人は御影の坊主の動きを封じた」
竹田「その後で陰陽寺の嬢ちゃんを殺した……って話だよな?」
瀬川「そうだけど……だから竹田さんにしか争いの跡が無かったんでしょ!」
竹田「なら尚更おかしいじゃねえか!相手は他でもない。あの陰陽寺の嬢ちゃんだぜ?」
竹田「幾らちっとばかし鍛えているとはいえ……俺が、嬢ちゃんに勝てると思うか?」
スグル「あっ……!」
……追い込む事に必死ですっかり忘れていた。相手はあの陰陽寺さん。まともに近寄る事すら危険な人物だったって
竹田「つまり犯人は二人を相手にして勝てる実力のある人間っつう事になる……これが誰だか、わからない訳ねえよな?」
朝日「そんな人ぉ、この中には一人しかぁ……」
照星「……自分が犯人だって言いたいんすか」
ご名答。とばかりに笑う竹田さん。その顔はまるで、昔絵本で見た悪い王様を思い出させた
竹田「そういやあ嬢ちゃんは動機に一番反応していたよなあ?天地の嬢ちゃんや吊井座の坊主。会いたがってたよなあ?」
実力も、動機も、照星さんは満たしている。断言する竹田さんは歪んだ笑みを隠そうともせず勝ち誇る
まるで、ここまでの展開は読み通りだとでも言わんばかりに
瀬川「……まさか、今までの議論は照星さんに罪を被せる布石だったの!?」
……追い詰めたと思っていた。けど、本当は逆だったんだ
私達は追い詰められていた。竹田さんの仕掛けた罠によって……
全てはこの展開の為。照星さんを身代わりにして出し抜く為に
月乃「……一応の筋は、通っている」
竹田「そうだろう?だから言ったじゃねえか。決めつけるのは止めておけってな」
竹田「青い青い!物事はじっくりと考え、確かな結論で動かすものなのさ」
竹田「……なあ?嬢ちゃん?」
最後の一手。裁判を詰みに向かわせるための、致死の毒を議論に打ち込んだ
ここで照星さんが折れたら……終わりだ!
瀬川「待「舐めねーでほしいっすね」って!?」
私が話す直前に横入りされた。せっかく発言チャンスなのに……
割り込んで来た人は、竹田さんを見据えていた。強く、強く。罠すら踏み砕かんとする程の強い意思で
照星「誰かを殺して先輩達と会っても自分は嬉しくねーっす。寧ろ、罪悪感で苦しいっす」
照星「自分は吊井座先輩に『こんな事してほしくなかった』って言ったっす……。……なのに、自分が“こんな事”して、それで胸を張れる訳ねーじゃないっすか!」
照星「自分は絶対にここから出るっす……正々堂々。黒幕を捻り倒してっす!」
宣言する。その瞳の輝きはは、煌々と夜を照らす星の様だった
竹田「………………」
瀬川「そうだよ!照星さんがそんな事するはずないもん!」
スグル「それに、彼女が犯人だとしても貴方の傷はどう考えても不自然です」
古河「話を逸らして誤魔化そうとしたんやろ!」
月神「……一番疑わしいのは、竹田さんの方よ」
照らし出した一筋の光。それは私達を勇気づけて、正しい方向への道標となってくれる
逆に……間違いを犯した人には、裁きの光として降り注ぐ
朝日「竹田さぁん……本当に、貴方なのぉ?」
朝日「私ぃ、三人で一緒にお風呂入ってお話しして……すっごく楽しかったんだぁ」
スグル「僕も……竹田さんに話を聞いてもらって、嬉しかったんです。これは嘘なんかじゃありません」
スグル「だから、僕からもお願いします。どうか、本当の事を話してください……!」
照星「竹田先輩!どうなんすか!?二人の言葉を聞いてたなら答えてほしいっす!」
照星「誰かを信じるって、凄く辛い事なんっすから……!」
信頼する人の願う声、それこそが咎人を焼き尽くす純粋な炎。罪の意識を燃やさんと、更なる薪を放り込む
瀬川「どうなの!?ねえ、どうなの!?」
竹田「…………ふーっ」
……これだけの火の粉を浴びても、竹田さんは何の変わりもない
寧ろ、その目は冷めきっていた。つまらないドラマを見ている様な感情表現を放棄した表情で
竹田「ガキが……舐めてると潰すぞ」
反
竹田「その推理、ネジが飛んでるぜ!」
論
!
竹田「友情ドラマはそこまでだ。くだらねえんだよ」
竹田「ここからは大人らしく、クレバーに行かせて貰うぜ」
絶句。朝日君や照星さん。スグル君の思いすら、くだらないと切り捨てた
三人の表情は様々だ。困惑、敵意、……悲嘆
それすら置き去りにする程の勢いで議論は加速する。私はそれを、真っ向から捌いてみせる……!
【反論ショーダウン】
『コトノハ』
【朝日のココア】
【死体発見アナウンス】
【荒らされた食堂】
竹田「俺が犯人だとしたら……」
竹田「【陰陽寺の嬢ちゃんとやり合った】事になる」
竹田「俺は【勝てないんだよ】。陰陽寺の嬢ちゃんにな」
竹田「その真実を無視して話し続けた結果がこれだ!」
竹田「餓鬼共の甘さが今回の事態を招いたと言っても過言じゃあねえんだよ!」
瀬川「甘くなんてないよ……」
瀬川「私達は、真実に近づいているんだから……!」
竹田「現実を見ろ!まさか、陰陽寺の嬢ちゃんが俺に負けたとでも言うつもりか?」
竹田「陰陽寺の嬢ちゃんが弱かったとでも言うつもりか!?」
竹田「犯人は争った……この事実がある以上……」
竹田「【疑う理由なんざ無え】んだよ!」
【疑う理由なんざ無え】←【死体発見アナウンス】
瀬川「その反論、打ち切っちゃうね!」論破!
瀬川「ううん。竹田さんを疑う理由はまだあるよ」
瀬川「だって……アナウンスの矛盾があるんだから!」
咄嗟に思い出した剣を構える。荒れ狂う一太刀を受け止めて、肉薄する───!
瀬川「アナウンスは、三人が死体を初めて見ると鳴るんだよ」
瀬川「けど、もし御影君の死体を陰陽寺さんが見ていたらあの時になるのは不自然なんだ!」
瀬川「あの時、竹田さんは私達よりも早く死体を見ていたんだから、私が見て鳴らないといけないんだから!」
即興で組み立てたハリボテの反論。軋んで悲鳴を上げている程チープだけど、今の私にはこれが精一杯……!
瀬川「アナウンスの矛盾と身体の傷……二つの要素は竹田さんが犯人だって示しているんだ!」
竹田「グッ……!」
……届いた。でもまだ浅い。竹田さんにはまだ反撃の余裕がある
竹田「忘れたか!犯人と陰陽寺の嬢ちゃんが争った事をな!」
竹田「幾ら俺への疑惑を積み上げようが無駄なんだよこのクソメスガキが!」
瀬川「メスガキ!?」
竹田「いいか……この世は力で出来てんだ。力の無い言葉なんざカスにも及ばねえ」
竹田「力……そうだ、力だ!ねじ伏せる力!守り抜く力!」
竹田「見せてみろクソ餓鬼共!青いなりに相応しく、必死に振り絞って立ってみろや!」
割れんばかりの咆哮を放ち、仁王立ちして待ち構える。それは鋼鉄の城壁の様に、目の前に立ち塞がる。……これは、私が乗り越えるべき障害だ
なら、絶対に負ける訳にはいかない……どんな手段を使っても、飛び越えてやるんだから……!
【ノンストップ議論(嘘) 開始】
『コトダマ』
【荒らされた食堂】
【陰陽寺の竹刀】
【喉に刺さった矢】
【アナウンスの順番】
月神「瀬川さんの話は……」
月神「竹田さんが犯人だという説得力があるわ」
竹田「説得力だあ?んなもんは何の意味も持たねえんだよ」
竹田「俺を犯人にしたけりゃあ、俺を打ち倒す程の力を見せてみるんだなあ!」
駆村「そうは言われても……何も……」
照星「何か無いんすか!?先輩を認めさせる証拠は!」
竹田「ハッ無駄だぜ、そんなモンは無え。諦めるんだな」
スグル「竹田さんの主張は、陰陽寺さんと争ったとしても勝てないという部分ですが……」
古河「アイツ、そんな弱かないしな……」
スグル「犯人と陰陽寺さんが【争った前提】がある以上、竹田さんを追及する事は難しいです」
竹田「がっははははは!若過ぎる、青過ぎる、未熟過ぎる!」
竹田「若造の浅知恵ごとき、俺の年期には程遠いんだよ!」
【争った前提】←【陰陽寺の【新品の竹刀】
瀬川「これで嘘憑きを暴くよ……!」偽証!
ずっと、議論は竹田さんのペースで動いてきた。それは、敷かれたレールを進んでいたみたいに
……それを変えるには、今しかない。最後までとっておいたこの嘘で、レールをひっくり返す……!
瀬川「そもそも……本当に犯人と陰陽寺さんは争っていたの?」
竹田「……何だと?」
瀬川「竹刀だよ。陰陽寺さんのトレードマークの、腰に下げた武器。彼女の命とも呼べるモノ」
照星「あのよく手入れされてるヤツっすね!自分も運動部っすけど、竹刀の手入れは大変なんっす」
照星「ちょっとでも怠ると刀を竹が裂けて、相手に大怪我させちゃうっすから」
朝日「道具はしっかり手入れしないとねぇ。使う人にとっては手足みたいなものだもん」
竹田「……それが何だってんだ。そんなチンケな竹棒が何の証拠になるってんだ!」
瀬川「現場に落ちていた竹刀は新品同然だったんだ。殺人現場はあんなに荒れていたのに!」
竹田「………………!!!」
愕然。カッと眼を見開いて、全身を激しく震わせる。全く予期していなかった反論は、正しく青天の霹靂だ
安全地帯を崩された焦りから、さっきまでの余裕はかき消えた
堅牢な砦も、微かな穴で崩壊する。嘘で塗り固めた要塞なら、嘘でしか打ち崩す事は出来ないんだ
それが出来るのは、私だけ。なら精一杯に舞ってみよう!
竹田「まだだ……それだけで認める訳にはいかねえ!」
竹田「竹田紅重!一世一代の大勝負といこうじゃあねえの!」
竹田「いざ!」
竹田「いざ!」
竹田「いざぁあぁああぁああぁあぁあああっ!!!」
【Re:理論武装】
竹田「争いが無かった?んなワケが無えだろうが!」
竹田「陰陽寺の嬢ちゃんと争ったからああなったんだ!」
竹田「俺がやったとでも言いてえのか?何の為にだよ?」
竹田「どう説明するつもりだ?説明してみろ、嬢ちゃん!」
……争いが無かった。それは私の嘘だけど、竹田さんの反応から遠くはないんだろう
だとしたら、食堂が荒らされていたのは竹田さんの自作自演になるけど……何の為に?
思い出すんだ、記憶の中から。ありもしない理由を探しに……!
──────────
『椅子や机はふき飛んでおり、床にはコップ、スプーン、割り箸や皿が散らばっていた』
御影「竹田さんが作ってくれたんだ! 暇潰しに遊んでみたらってさ!」
朝日「これなんて凄いよぉ? 割り箸を飛ばしたり消しゴムを飛ばしたり出来るんだぁ」
──────────
……なんだ。そうだったんだ
“凶器”は最初から……私達の目の前にあったんだ!
瀬川「……竹田さんにはわざと食堂を荒らす理由があったんだ」
瀬川「だってそれが……陰陽寺さんを殺す事と凶器。両方を隠す方法としては最適だったんだから!」
竹田「幻想妄想大いに結構!だがそんなものは笑止千万よ!」
竹田「んな摩訶不思議な方法があんなら、是非とも聞かせて貰おうとするか!」
竹田「食堂を荒らした理由、陰陽寺の嬢ちゃんを殺せた理由、どう説明するのかをな……!」
竹田「【俺が食堂を荒らした理由、説明出来るのか!?】」
【食堂を荒らした理由。陰陽寺を殺した凶器の正体は?】
1:箸
2:砲
3:割
4:鉄
解:割箸鉄砲
瀬川「さあ、これでエンディングだよ!」解!
瀬川「割箸鉄砲!これが陰陽寺さんを殺した凶器だよ!」
想定外の凶器の正体。それは凶器と呼ぶにはあまりにも馬鹿馬鹿しいモノで
それ故に、凶器とは全く結び付かなかったモノだった
飛田「わ……割箸鉄砲だとぉオオッ!?」
月乃「……だから、凶器に矢を選んだと?」
瀬川「食堂に落ちていた割箸は、割箸鉄砲として組み立てられていたものだったんだ。けど、割箸鉄砲がそのまま置いてあれば目立つよね?」
瀬川「だから、バラバラに分解して、折って床に撒いたんだ。争いがあった事を印象付けられる一石二鳥の隠し方だから!」
朝日「けどぉあの割箸鉄砲は普通のゴムだよぉ?それなのに人に刺さるのかなぁ」
瀬川「普通のゴムなら無理だよね。普通のゴムなら」
スグル「そっか。だから工業用の特別なゴム紐が必要だったんですね」
月神「拘束する為だけじゃない……。……いや、もしかしたら組み立てる時に余ったものを使ったのかもしれないわ」
瀬川「矢だけを持ってきたのは、弓は必要無かったから……」
瀬川「全部辻褄が合うんだよ。竹田さんが犯人だとしたら!」
完璧なロジック。穴を嘘で埋めた歪なものだけど……
これで皆を救えるなら、私はどれだけの嘘でもついてみせる
瀬川「これが、事件の真相だよ……!」
【クライマックス推理 開始】
Act.1
最初に、今回の事件を整理しようか
今回のは御影君と陰陽寺さん……二人の犠牲者が出たからね
犯人もどうして二人を殺したのかは知らないけど……多分、犯行を見られたとか、そんな理由だろうね
Act.2
まず、犯人が殺害したのは御影君だった
と言っても、現場の様子から見て計画性があったとは言い難いし……こっちは偶然だったんじゃないかな?
犯人は御影君を痛め付けて、動きを封じた。余ったゴム紐で手足を縛ってね
そして、そのまま放置したんだ。次の被害者を狙うための餌として利用する為に
Act.3
次の被害者……陰陽寺さんが食堂にやって来た。多分御影君の死を口実に呼び寄せたんじゃないかな
陰陽寺さんが御影君の死体に気を向けている内に……隠していた凶器で背中を撃ち抜いたんだ。矢には毒が塗ってあったから、彼女は即死したんだ
……こうして、簡単に二人の命を奪い取ったんだ
Act.4
犯行を終えた犯人は後始末を始めた。凶器……割箸鉄砲を分解してバラバラにした。犯行現場を食堂にしたのもその為だろうね
次に、食堂にあるものを軒並みひっくり返してグチャグチャにしたんだ。これは本当の凶器を誤魔化す他にも、争いがあったと偽装する目的もあったから
ひとしきり荒らし尽くすと、犯人は陰陽寺さんの死体を担いで外に出て、花畑に遺棄したんだ
Act.5
そして、部屋に戻ろうとした時に私と月神さんに会ったんだ
まさか帰るわけにもいかないから、私達と行動を共にして死体を発見した……。と同時期に陰陽寺さんの死体も見つかったんだ
このほんの少しのタイミングが、犯人を照らし出したんだから
瀬川「御影君、陰陽寺さん。二人の命を弄んだクロ……私は、絶対に許せないよ」
瀬川「その邪悪なクロは……貴方だよ!【超高校級の玩具屋】竹田 紅重さん!」
竹田「……ふーっ。やれやれ、餓鬼と見くびった俺の不覚か」
竹田「いや、それよりも……。何でもねえ。世迷い言だな」
竹田「俺も潮時か……短えなあ……」
……認めたのか、それとも諦めたのか。煙管をくわえたその顔に闘志は一切消えていた
心なしか、竹田さんが普段よりも子供に見えた。私達と同年代くらいなんだけど……
古河「ふざけんな……ふざけんなやぁああ!!」
照星「先輩!落ち着くっす!ここで殴っても何も変わんねーっすよ!」
古河「せやけど!せやけどなあ!ウチは許さへん!絶対や!」
月神「もう止めて……!止めてっ!」
月神「これ以上、憎しみをぶつけないで……!」
モノクマ「そうそう。議論も終わったし、やるべき事はやってよね!」
ハルカ『はいはーい!それでは皆さん、お手元のボタンで投票してくださーい!』
ヨウ『それでは、オマエラの投票結果は正しいのか、それとも不正解なのか!』
モノクマ「それでは……どっちがどっちなんだーーー!!!」
【投票結果】
・竹田 紅重 10票
【 学 級 裁 判 閉 廷 】
モノクマ「フッフゥゥ!大正解、なんと三連チャン!」
モノクマ「今回、御影 直斗クン。及び陰陽寺 魔矢さんを殺したのは、超高校級の玩具屋の竹田 紅重クンなのでしたーっ!」
古河「竹田ァァアアアーーーッ!!!」
モノクマ「ってうるさっ!急に大声を出さないでよ!ボクの耳は、落ちた時計塔の針の音すら聴こえる程ビンカンだから!」
ハルカ『時計塔程大きいなら誰でも聞こえない?』
ヨウ『黙ってろ。今回はシリアスだから空気を読め』
茶番で茶々を入れてくる連中は無視して、目の前で叫ぶ女の子に向き直る
女の子……照星さんが羽交い締めにしている古河さんのつんざく絶叫。そこに籠められた感情は憎悪
ここに学級裁判は終結した。解かなくたっていい謎を残して。……けど、それとこれとは話が別だ
問いには出てない答え合わせ。知らなくてもいいけれど、知らないと後味が悪くなる矛盾を解くための
月神「……どうして、大人である貴方がこんな事を!」
スグル「ここから出るだけなら、リスクを背負ってまで二人も殺害する必要は無かったはずです」
竹田「ふーっ……」
照星「……答えてほしいっす。竹田先輩!」
竹田「あー、そうだな……モノクマ、煙草吸っていいか?」
モノクマ「うぷぷ。本当は裁判場は完全禁煙なんだけど……ま、最期に一服くらいはさせてあげましょう!」
どうも。と一声だけかけて、手馴れた動きで煙管に刻まれた葉を流し込む
そして、懐から取り出したライターに火をつける。辺りに紫煙が漂う頃、重苦しく語り始めた
竹田「さて……どこから話すかね。二人も殺した事からか?」
竹田「ま、これに関しちゃ単純な理由だ。裁判に出てくる人数は少ねえ方がいいからな」
竹田「特に陰陽寺の嬢ちゃんは厄介だ。あの洞察力と集中力は侮れねえ。……だから、先んじて潰させて貰ったのさ」
語る言葉は淡々と。事務的な声色からは誤魔化しや偽りの意思は全く感じない
竹田さんは嘘をついていない。つまり、二人はただそれだけの為に……
古河「なんやソレ……なんなんやソレはぁあああっ!!」
照星「わっ!先輩!?」
駆村「止めるんだ古河!戻れ!」
激情でリミッターが外れたのか、本来なら絶対に敵わないはずの、照星さんを振り払う
憤怒を撒き散らしながら突き進む。その迫力は、竹田さんの胸ぐらを掴みかかっても、誰も手出しが出来ない程で
古河「先に潰したやと……?なら御影は何なんや。何と関係あらへんやろ。何でアイツが死ななアカンかったんや!?」
竹田「ツイてなかった。それだけだな」
けど、竹田さんは平然と答えた。古河さんの鬼気迫る怒号すら意に返さずに、微風の様に受け流して
竹田「まあ無駄死にでは無えだろう。陰陽寺の嬢ちゃんを誘き寄せる為のエサにはなったんだからよ」
古河「エ、サ……!?」
竹田「本命である嬢ちゃんを確実に仕留める為にはどうしたって必要だからな。ま、雑魚にも使い道はあるっつうこった」
古河「オマエはぁああアッ!!どこまで人をコケにすれば気が済むんやアアアァアッッ!!!」
バキッ!
スグル「……な」
竹田「……気は済んだか?嬢ちゃん」
古河「う……っ、痛、痛ぁ……!」
朝日「古河さん!?大丈夫!?」
月乃「……っ。何て事を………!」
飛田「貴様アアアア!レディに手を上げたな!?この恥知らずめがッッッ!!」
突然、古河さんが吹き飛ばされる。頬には赤黒く痣がつき、目は怒りではなく、痛みで涙が滲んでいた
対する竹田さんの手は、固く握りしめられていた。横に振った様な動きで制止した腕のその先で、岩の様な拳を作っていて
月神「酷い……!女の子を殴るなんて!」
瀬川「ふうん。図星を突かれたからって暴力に頼るんだ。少しは大人気ないと思わないの?」
竹田「何とでもいいな。青臭え餓鬼にはいいお灸だろうよ」
悪びれもせずに古河さんを見下ろす。その目からは、既に感情は消え去っていた
竹田「いいか。大人ってのはな、汚えんだ。目的の為なら何を犠牲にしようが、何を傷つけようが知った事じゃねえ」
竹田「成長するって事は、切り捨てる事なんだよ。覚えとけ」
冷酷に放つ言葉は吐き捨てるみたいで、どこか私の心の奥深くに突き刺さる
それはきっと……今の私達が、大人と子供の真ん中に立っているからだって思ったんだ
瀬川「……だったら、私は大人になんてなりたくない」
瀬川「何かを捨てないと大人になれないなら……ずっと子どものままでいいもん!」
モノクマ「……うぷぷぷぷ」
スグル「……動機は、なんなんですか」
スグル「もう何も言いません。ですがせめて、それだけは教えてください……!」
この場を支配する重圧に耐えかねたのか、絞り出す様にスグル君が問い掛ける
その声が届いたのか。それとも単に面倒になったのか……煙草を揺らしながら、竹田さんが口を開いた
竹田「わかってんだろう。俺にはな、どうしても会いてえ人間がいるんだよ」
スグル「…………そう、ですか」
モノクマは確かに言っていた。このコロシアイを勝ち抜けば、誰でも会いたい人間に会わせてみせると
けれど、そんなのは戯言だ。モノクマは“死んだ人”すら会わせてみせると言ったけど、そんなのが可能なのは黒魔術くらいだ
勿論そんな事は出来っこ無い。だから、そんなの信じるなんてあり得ない……
瀬川「……それは、御影君や陰陽寺さんを殺しても、私達全員を殺しても会いたい人なの?」
竹田「応とも。是が非でも、悪魔に魂を売ってでも……なんて、チンケな表現だがな」
断言するその顔は、強い決意を秘めていた。竹田さんの立場は私達のそれとは比べ物にならない程の力があるというのに
その全てを失ってでも、会いたい人……誰なんだろう?
照星「誰なんすか……その人って」
瀬川「そうだよ。ここまで話したなら、教えてくれたっていいでしょ?」
竹田「……ま、そうだな。冥土の土産に教えてやるか」
竹田「俺の会いたい奴は……姉貴の子供。俺の姪だよ」
駆村「姪……?」
月乃「……兄、もしくは姉の娘の事」
スグル「それって、駆け落ちしたお姉さんの。ですよね……?」
照星「駆け落ち!?初耳っす。そうなんすか!?」
飛田「待てッ!オレは姪がいた事すら知らなかったぞッ!?」
姪。という聞き慣れない単語が、重苦しい空気で静まり返っていた裁判場を再度ざわつかせる
というか私も知らなかったよ。スグル君なんで知ってるの?
竹田「一度。たった一度だけでいい。顔も声も、何も知らねえ血縁者に一目会いたいと願う事は傲慢かね?」
竹田「俺にとっちゃあ、その子供だけが姉貴の遺した希望なんだよ。何もかも置いていっちまった姉貴のな」
竹田「結局、何もしてやれなかったからなあ……せめて、その子だけでも俺は何かの助けになってやりたかったんだがなあ……」
一つ一つを刻むように、噛み締める様に呟く竹田さん。遠く、遠くを見つめるその目には、何が映っているんだろう
遠くにいった過去なのか、あり得たはずの未来なのか。それは本人の心の中。体験して、歩いてきた歴史の中に答えがある
……つまり、部外者の私達には絶対にわからないんだ。あれだけの激情をまとっていた古河さんすら、物思いに耽る竹田さんを怒鳴らない
どこか厳かで、何とも言えない静寂がまとわりつく。煙も薄く霞んでくる
モノクマ「うぷぷぷぷ……ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
モノクマ「あーっはっはっはっは!はーはははははっ!!!」
……そんないい感じな雰囲気を、このクマが見逃すはずもなく。汚いダミ声の哄笑が、嫌に五月蝿く聴こえたんだ
月神「モノクマ……!」
竹田「笑いたけりゃ笑えばいいさ。さっさとオシオキでも何でもすりゃあいい」
照星「い、いいんすか……?死んじゃうんすよ……?」
竹田「んなモンは最初から承知の上だ。負けたからってぎゃあぎゃあと喚くかよ。餓鬼じゃあるめえし、みっともねえ」
竹田「そら。やるならやっちまえ。逃げも隠れもしねえよ」
当然だ。と言わんばかりに、どかっと座り込む竹田さん。その堂々とした姿からは、一種の威風すら感じられる
だけど、モノクマは動かない。オシオキをするでもなく、かといって見逃すはずもなく……
モノクマ「うぷ、うぷぷぷぷぷ」
飛田「な、何なのだッ。薄気味悪い声をあげてからにッ!」
スグル「どこがおかしいんですか……!」
壊れたのか、気色悪い声を出し続けるモノクマ。流石に、これを不審に思った皆が問い詰めると……
モノクマ「うぷぷ。じゃあさ、竹田クンに聞いておきたい事があるんだけど」
竹田「ああ?」
モノクマ「竹田さんのお姉さんの名前って、何て言うの?」
瀬川「お姉さんの名前……?」
月乃「……それが、今必要?」
確かに、気にはなる。なるけど……何で今このタイミングで?
竹田「んだよ急に……言って何かあんのかよ?」
モノクマ「言えないの?もしかして忘れちゃったとか?」
竹田「んな訳ねえだろうが。……ま、言ってやるよ」
竹田「竹田 玉緒。……玉露の玉に、鼻緒の緒で、玉緒だ」
月神「……え?」
朝日「わぁ、綺麗な名前ですねぇ」
飛田「さぞかし美しい女性なのだろう……。ッとそんな事は今はどうでもいいッ!」
飛田「それで竹田がなんなんだと言うんだッ!オレ達に何の関係があるというのかッ!?」
確かに、私はそんな女の人は知らない。というか、ほとんどの人に接点の無いはずの人なんだ
……けれど、何事にも例外はあるもので。一人だけ、その名前に反応した人がいた
月神「嘘、なんで、どうして……」
瀬川「あれ?月神さん、どうかした?」
スグル「もしかして、お知り合いでしたか……?」
月神「違う、違うわ。私は会った事はない……ないけど……!」
竹田「……?なんだ、嬢ちゃん。何かあるのか?」
真っ青に、血の気のた顔で竹田さんと手元を交互に見比べる月神さん。その表情を的確に表すとするならば……
───“絶望”。その理由は……彼女の震える唇から明かされた
瀬川「……月神さん。本当にどうしたの?何でそんな……」
月神「だって……!それは、竹田さんの言った名前は……!」
月神「この勾玉に書かれている名前と、全く同じなの……」
月神「……きゃっ!?」
駆村「月神っ!」
一陣の風が、月神さんに襲い掛かる。突風の主は愕然と、彼女が手に握りしめた何かを目を凝らして見つめていた
竹田「……おい、どういう事だ……?何故、月神の嬢ちゃんがそれを持っている……?」
掴みかかるその手は震えていて、まるですがる様にも見えた
徐に懐を探り、紐に括られた何かを見せる。確かめさせる様に私達の目の前に掲げた“それ”は……
……月神さんの持っている、深紅の勾玉と対になるかの様な光を放つ、純白色の勾玉だった
スグル「それは……!?」
照星「なんか、月神先輩のとそっくり……というか同じっす!」
月乃「……綺麗。二つとも、同じ人が造ったものだと思う」
朝日「月乃ちゃん。美術館好きだもんねぇ~」
月乃「……それとこれとは関係無い」
小さいながらも、淡く、力強く輝く勾玉。竹田さんと月神さんの二人の手の中で、揺られながら瞬いている
その光は紛れもなく同一のもの。あの二つの勾玉は、元は一人の人間が造ったものであるのは明白だった
月神「これは私のものじゃない……。陰陽寺さんが私の元に預けたものなの……!」
竹田「な……何でだ、何でだ!?何で陰陽寺の嬢ちゃんが!!」
モノクマ「うぷぷ。気になる?気になっちゃう?最後の最期で知りたくなっちゃう?」
モノクマ「いいでしょう!それではVTR、スターティン!」
問い掛ける竹田さんを煽る様な、ふざけた調子で嗤うモノクマ
砂嵐の映るモニター。突然に明るくなったそこに、過去が鮮明に映し出され始めた……
※
ハルカ『はーい!ハルカだよ!私達が解説するね!』
ヨウ『ヨウだ。暫く俺達の説明を聞いてもらおうか』
ハルカ『えー…まずは陰陽寺さんの過去から遡ってみよう!』
ハルカ『陰陽寺さんは幼い頃から剣道に打ち込んでいて、小さい時には県大会で優勝してるんだって!』
ヨウ『当然、中学に上がっても剣道は続けていたみたいだな。その時の写真がこれだ』
瀬川「わ……笑ってる!?あの陰陽寺さんが!?」
飛田「そら見た事かッ!彼女は絶対に笑うと可愛いはずだと前から言っていただろうにッ!」
スグル「初耳ですよ……」
月神「でも、本当に可愛いわ。……陰陽寺さんにも、こんな風に穏やかに笑える時期があったのね」
写真の陰陽寺さんには、あの剣呑な雰囲気は全く無い。寧ろ、年相応な柔らかな女の子の顔付きだ
ヨウ『そこで、陰陽寺は一人の女子と出会う。名前は……コンプライアンス的なアレがあるから少女とだけ言っておくぞ』
ハルカ『で、その子と陰陽寺さんは中学では同じクラスに同じ部活。つまり剣道部に入ったんだよね』
ハルカ『そこで、二人は腕を磨き合い、切磋琢磨を繰り返して晴れて親友となったのでーす!』
※
『ねえ!マヤはさ、高校でも剣道やるの?』
陰陽寺『僕は一応そのつもりだけど……。【──】は?』
『私も!でさ、私達の中学ってエスカレーター式でしょ?だからさ、私達で県大会、出ようよ!』
『それでそれで!二人で優勝しよ!ねっ?』
陰陽寺『……しょうがないなあ。うん、約束だよ』
※
ハルカ『けど、そんな二人には残酷な運命が待っていました』
ヨウ『それは中学二年の夏、インターハイの少し前の事……』
場面が変わる。雨の降る校舎の中、陰陽寺さんは傘の中で誰かを待っていた
※
陰陽寺『……遅いなあ、【──】。忘れ物かな』
陰陽寺『遅くまで待ってたら練習出来なくなるし……そろそろ僕は行こうかな……』
『あ……ごめん、マヤ。待ってた?』
陰陽寺『ううん、そんなに。それじゃあ練習に行こうか』
『…………。ねえ、マヤ、あのさ……』
陰陽寺『なあに?』
『……ううん、何でもない!さあ、練習に行くぞーっ!』
陰陽寺『どうしたの?やけにそんなに張り切って……あ、そろそろ夏のインターが近いから?』
陰陽寺『一緒に大会出るんだもんね。僕も頑張らないと』
『うん。そうだね……』
『ごめんね……』 陰陽寺『……?』
※
『あの子、死んじゃったって本当?家で睡眠薬を飲んだって』
『剣道部のホープだって、部長さんも喜んでたんだけどね……。陰陽寺さんも可哀想に』
『二人で県大会に出て優勝するんだって、陰陽寺さんと言っていたのに……どうして自殺なんて……』
陰陽寺『…………………………』
『……あの、貴女が陰陽寺さん?』
『あの子が、貴女だけに読んでほしいって……これを』
『あの子、陰陽寺さんの事が本当に大好きだったから……』
陰陽寺『…………ありがとうございます』
※
※
陰陽寺『……先生』
『……どうした、陰陽寺。【──】の事は残念だったな』
陰陽寺『一つだけ、聞かせてください』
陰陽寺『先生が……顧問が、【──】を追い詰めたんですか』
『何の事だ。私は剣道部の顧問として然るべき指導を……』
陰陽寺『ここには!貴方が脅迫したって!大会に出たいなら、顧問の言う事に服従するしか無かったって……!』
『ハッ、そんなものがいったい何だと言うんだ?』
陰陽寺『な……』
『仮にそこに書かれていた事が事実だとしても……【──】は、自ら進んで私に従ったんだ』
『【──】は本当にいい生徒だったよ……お前の、陰陽寺の名前を出せば何でも言う事を聞いてくれた』
『陰陽寺。お前も大会に出たいだろう?死んだ【──】の願いを叶えてやりたいと思うだろう』
陰陽寺『…………もう、いい』
『お前も私の言う事を聞け。そうすれば【──】の願いを、私が叶えさせてやろう』
陰陽寺『もう、いい…………!』
『【──】もそれを望んでいるんだ。私の力なら、中学だけでなく高校での推薦も……』
陰陽寺『もういい…………。もう、止めろ……!』
陰陽寺『お前が!僕の……ッ。僕の親友の名前を、口にするな…………ッ!』
※
『……顧問は全治二ヶ月。パイプ椅子で滅多打ちにするなんて』
陰陽寺『…………』
『正直、お前程の人が『インターハイから外された』だけで、ここまでの事をするとは思えないけど……』
『部としては、お前を許す事は絶対に出来ない。荷物を纏めて今すぐに出ていくんだ』
陰陽寺『……わかりました。けど、一つだけお願いがあります』
『なんだ?』
陰陽寺『【──】の竹刀を、僕にください』
『……お前はあいつの親友だったな。練習も熱心だったし……俺が許可を出す。持っていけ』
『残念だよ。二人もいなくなるなんて。お前達は、将来剣道部を背負って立てる人間だから尚更な……』
陰陽寺『……ありがとうございました。部長』
※
※
陰陽寺『…お母さん』
『話は全て聞きました。魔矢がした事、全て』
陰陽寺『どんな罰でも受け入れます。ですが、僕は間違った事をしたとは思っていません』
陰陽寺『これからは、僕の正義だけを信じる……それだけです』
『……魔矢。これを』
『不肖の弟の為に造ったものですが、結局渡す機会はありませんでした。代わりに、貴女に』
『“緋”の色は、魔除けの色。魔矢……貴女の道に、悪しき者が寄り付かない様に託します』
『希望ヶ峰学園からのお誘いも……“貴女をヒーローとして認可する代わりに、卒業した暁には剣道への復帰を認める”と』
『……頑張りなさい。魔矢。私の、可愛い娘……』
陰陽寺『……“玉緒お母さん”。ありがとうございます』
※
※
竹田「…………んだよ。これ」
過去のレコードを覗き見た。誰も彼もが、陰陽寺さんの凄絶な過去に心が追い付かない
けれど、それよりも悲惨な事は。……この中で最も混乱しているだろう人は
竹田「お母さんだと?陰陽寺の嬢ちゃんのか?俺の姉貴が?」
竹田「じゃあ、俺の姪は、俺の殺した陰陽寺の嬢ちゃんは……」
モノクマ「うぷぷっ、まだわからないのかなぁ?ならボクから直々に言ってあげるよ!」
モノクマ「オマエの探していた姪は!オマエの大切なお姉さんの愛娘は!」
モノクマ「ずっと近くにいた陰陽寺さんだって事なんだよ!」
竹田「嘘を吐くなあああああああああ!!!」
咆哮が轟く。耳と心をつんざく程の、大音量が皮膚を震わせる
その声はただの爆音じゃない。全ての感情がない交ぜになった瀑布が、裁判場を叩き割らんと響き渡る
探していた人が、自分の殺した相手だった
それも、それが大切な……お姉さんの娘。姪だったなんて、信じられないし、信じたくもないだろうから
竹田「じゃあ!俺がした事は!俺の殺した子供は!」
モノクマ「無駄死にだよ!全員揃って!」
モノクマ「御影クンも、陰陽寺さんも、勿論オマエも!」
モノクマ「ねえ今どんな気持ち?大切な人を無駄に殺したその気分はさぞ爽快だろうね!ぶひゃひゃひゃひゃ!!」
竹田「クソヤロウがあああああああ!!!!!」
絶叫。そうとしか形容出来ない声で竹田さんが吼える。血走る眼でモノクマを捉え、怒りの握り拳が炸裂……
竹田「………………」
スグル「……え?」
……しなかった。間に一髪、目と鼻の先。拳はモノクマの目の前で制止する
震える拳は絶望を滲ませて、けれどもそれは届かない。眼前でピタリと止められた拳を引っ込める
モノクマ「……おろ?いいの?殴ってもオシオキで帳消しに出来たのに、勿体無い」
竹田「……御影の坊主、陰陽寺の嬢ちゃん、古河の嬢ちゃん」
竹田「もう、三人も傷つけてんだ。これ以上の情けねえ真似、大人として……漢として、晒せるかよ」
平静を取り戻し、煙管を咥え直す。漂っていた既に紫煙は薄れていて、再度火を灯す素振りも見せようとしない
だらりと腕を下げたその姿は、まるで数百年もの齢を重ねた老木にも見えた。激昂に滾っていた相貌は、樹皮の様に深く刻まれた皺で覆われていた
竹田「もういい……やれ。けどその前に少し言わせて貰うぜ」
竹田「いいか、ちゃんと親孝行しろ。身体を大事にな。それと兄弟姉妹との連絡は欠かすなよ」
モノクマ「うぷぷ!ではではやっちゃいましょう!」
最期の言葉。人生を先に生きた人から、私達へと送られる遺言
前までの竹田さんとは比べ物にならない程のしゃがれた声で、一つ一つを噛み締める様に呟いていく
今にも消えそうな、灯火の様に……
竹田「人との繋がりってのは貴重なモンだ。無理に断ち切ろうとするんじゃあねえぞ」
モノクマ「今回は超高校級の玩具屋である竹田紅重クンにスペシャルなオシオキを用意いたしましたっ!」
竹田「じゃねえと……じゃねえとよ……」
竹田「俺みてえな、クソッタレた大人になっちまうからよ……」
モノクマ「では張り切って参りましょう。オシオキターーーイム!!!」
GAME CLEAR!
タケダ クンが クロに 決まりました
オシオキ を 開始 します
※
広い、広い砂利の地面。広大過ぎて座らせられた竹田さんが、まるで砂粒程の小ささに見える
その眼前にそびえ立つは大きな舞台。一匹には広すぎるその上で、モノクマが偉そうにふんぞり返っていた
これは確か江戸の裁判場……白州の場。竹田さんを裁いたつもりなのか、扇子をパタパタと扇いでいる
徐に扇子を頭上へ掲げると、奥から小さなモノクマがぞろぞろと沸いてくる。竹田さんを寝かせると、その両手と両足を縄で縛り上げた
縄を持ったモノクマは対極の四方に引っ張っていく。ギリギリと嫌な音を立てて軋む竹田さんは、見るからに苦しそうでいつ引きちぎれてもおかしくはない
大岡裁き……。親の子供を想う気持ちを利用した、ある意味では一番残酷な刑罰を、竹田さんは課せられたんだ
メリメリと音を立てる竹田さん。顔は真っ赤に、身体は宙に浮きながらもモノクマは引っ張るのを止めない……
……かに思われた。突然モノクマは縄を離す。竹田さんはそのまま地面に強かに墜落し、身体をしたたかに打ち付ける
よく見たら、引っ張っていた縄はいつの間にか砂利の中に埋もれている。まるで、何かに突き刺さっているみたいに
ゴゴゴ……と物々しい音が響く。砂利をかき分け現れたのは巨大なロボット。大の字に伸びていた竹田さんを飲みこみ、縛られていた手足と合体した
立った姿は正しく人形のロボット。慌てる様子から察すると竹田さんの動きと同調しているみたいだ
すると突然、同じ様に砂利の下から巨大な怪獣……まるでゴ◯ラもどきが召喚される様に表れた
なし崩し的に対面し会う両者。舞台の上ではモノクマと子モノクマが、ロボットのオモチャを持って応援していた
『ゆけゆけぼくらの竹田ロボ』
『超高校級の玩具屋 竹田紅重処刑執行』
取っ組み合う両者に、力の差は見られない。殴る蹴るの応酬は続き、一向に終わる気配は無い
……いや、怪獣の方が僅かに強い。口から火を吐す火炎の放射で鋼の身体は焼かれていく一方だから
やられていく竹田さんロボットに、子モノクマ達はハラハラと怯えるばかり……。それを見たモノクマは、手元に置かれた扇子を空高く掲げた
『合体!』
すると、何処からともなく赤のモノクマが降ってくる。赤モノクマは分解すると……竹田さんの両手両足と入れ替わった
関節部分から真っ赤なオイルを滴らせる竹田さんロボット。炎を物ともせずに殴りかかる。けど、四肢が別物だからか上手く殴れていないみたい
子モノクマはまた心配そうにオモチャを握り締める。モノクマはまた扇子を突きつけた
『変形!』
突然、竹田さんロボットが震え始める。腕は身体に収納される様に縮んでいき、足は肩につく位に開き出す
オイルで濡れた身体は既に全身が深紅に染まる程。変形し終えた姿は、まるでキャノン砲だ。頭に当たる部分には、白熱したエネルギーが集中し……
怪獣に向けて、放出した。爆炎と轟音が地を揺らす。これには流石に堪らず、フラフラとその巨体を震わせた
子モノクマは歓声をあげる。トドメと言わんばかりにロボットは変形を戻して、両手を怪獣に向けた
既にピクリとも動かないロボット。怪獣に向けた両手を……そのままロケットの様に放ち、巨大怪獣を貫いた
叫び声をあげて倒れる怪獣。既に動かなくなったロボット。子モノクマはオモチャをブンブンと振り回して大喜びだ
その光景が遠くになっていく。背景には『~終~』のテロップだけが残っていた
※
モノクマ「ひゃっはー!やっぱり変形ロボは最高だぜ!」
モノクマ「ああいうの何て言うんだっけ?漢の浪漫?女子風呂を覗く事だけが浪漫ではないのです!」
モノクマ「ま、ボクはクマだから関係無いけどね!ぶひゃひゃひゃひゃっ!!」
三度目のオシオキ。もう、皆も感覚が麻痺しているんだろう。誰も画面から目を反らさなかった
モノクマの戯れ言にも無反応。ただただ画面の中で朽ち果てた竹田さんだけを直視していた
それは竹田さんへの黙祷でもあり、散っていった二人への追悼でもある。矛盾している。けど、それが私達のやり方だから
……当然、モノクマ達には関係の無い話で。侮蔑に満ちた声で、三人の事を貶めていた
モノクマ「それにしても今回は酷い事件だったね!三人とも犬死にとかある意味前代未聞じゃない?」
モノクマ「ま、ボクとしては老害にバカと前科持ちっていう、社会のゴミがいなくなったからいいけどさ!」
誰も、モノクマに反論はしない。すればするだけ向こうが図に乗るだろう事は想定内だから
だから……耐えていた。懸命に下を向いて、やり過ごす様に
古河「…………笑うな………………!」
モノクマ「おろ?」
古河「アイツらを笑うんなら……ウチも笑えや!」
古河「オマエらみたいなヤツに、アイツ等を笑う権利なんざ無いんや!アホ!」
モノクマ「いいでしょう。お望み通りに笑ってあげるよ!」
モノクマ「アーッハッハッハッハッハ!はい復唱!」
ハルカ・ヨウ『『あーっはっはっはっはっは!!!』』
照星「モノクマーーーっ!!」
駆村「止めろ!二人とも、戻れ!」
笑えと言って、実際に笑う人は初めて見た。耳障りなノイズ、我慢の限界に達したのか古河さんと照星さんはモノクマに走りよって……止められた
古河「何でや!オマエは悔しないんか!?」
駆村「悔しいに決まっているだろう!?だけど、ここで俺達が感情に任せて行動したら……」
駆村「竹田さんが、本当に無駄死にになるだろ……」
照星「あ…………」
ハッとした顔。さっきまで生きていた、先人の言葉を思い出したんだ
拳を引っ込める古河さん。だけどその目は憎々しげにモノクマを貫いていた
モノクマ「……ふん、つまんないの。じゃ、待ったのー!」
月乃「……出来れば、二度と見たくは無いけれど」
瀬川「それに賛成かな……」
古河「…………………………」
月神「古河さん、その……」
どう言葉をかけようか考えあぐねている。古河さん、ああ見えて結構デリケートな所があるから……
月神さんがまごついていると、ふと古河さんから零れ落ちる
古河「……ウチなあ、アイツらの事、どうでもよかったんよ」
古河「なのに、陰陽寺が死んだ時メッチャビックリしたんよ。御影が死んだ時もな」
古河「なんでやろなぁ……どうでもよかったら、こんな気持ちにならへんやろうし……」
古河「『いなくなって寂しい』なんて、思わんのに……!」
朝日「ヘンな事じゃないよぉ……。皆、仲間だったもん」
スグル「それは、古河さんが優しいからですよ。誰かを思いやる優しい心が無いと、心が傷つく事なんてありませんから」
瀬川「うっ」
何気無いスグル君の一言が、私の心を傷付けた……これって私が優しいというよりは……いや止めとこう
スグル「それは、竹田さんもそうです。やった事は許されてはいけないと思いますが……」
飛田「無条件に断罪して良いものでは無いッ!そうでなければ学級裁判を正しいと認めてしまうからなッ!」
朝日「あ、スグルくんの台詞盗ったぁ~」
スグル「別にそれくらい気にしませんよ」
照星「セコいっすね……」
飛田「盗ってないッ!盗った前提で話をするなッ!!」
古河「……うっ、くく、くくく……っ」
駆村「古河……?」
古河「アハハハハっ!!」
瀬川「え?何?まさかこのタイミングで闇落ちでもするの?」
唐突に高笑いし始めた古河さん。皆もその奇行に釘付けだ
まさか、メンタルブレイクして闇落ちしたんじゃ……。そんな私の心配は、前を向いた彼女の顔で消え失せた
古河「オマエら……ホントこすい事すんなや!こんなん、ウチがウジウジしとったらダメやん!」
古河「もうグダグダ言うのは止め止め!安心せえ、ウチは立ち直った!普段通りや!」
月乃「……無理、してない?」
古河「しとらんしとらん。それに、ウチ気付いたんや」
古河「御影も、陰陽寺も、竹田も……ウチも、皆いい面もイヤな面もある。その方っぽだけを見る事なんて無理な事や」
古河「ただ、見てる面がどっちが多いかなんや。陰陽寺も竹田も、エエところがあったからいなくなって辛いんや」
古河「ま!御影は裏表無さすぎて、ウチにはボンクラの面しか見えへんかったけどな!」
古河「……ありがとな。皆」ボソッ
月神「……そうね。生きている皆も、死んでいった皆も同じ事を考えていた」
月神「ここから出たい。生きたい……そう必死に願っていたの」
瀬川「いい人も、悪い人も……ね」
口の中で思い付きを噛み潰す。空気を読む様に周りを見ると、古河さんの周囲は笑顔になっていた
死を悼んで貰える事。罪を赦して貰える人
真逆に見えて、実は似ている。私達にとっては、特に顕著だ
それは、どちらの願いも同じだからだ。『生きたい』という、ほんのささやかで確かな悲願
善、悪、陰、陽。全ての側面が願う切なる想い。当然の感情を押し潰し、それが溢れたら処罰される。私達は自分の手でディストピアを造っていく
そうやって自分を削っていく。それはどこでも……ここも、外の世界も同じ事
なら、どうしてこの学園から出る必要があるんだろう……?
そんな疑問すら消さないと、この世界では生きてはいけない。赦されないから我慢する
いつか、そんな我慢が無くなります様に……。それが、今の私の悲願。なのかな……
【CHAPTER3】
善悪インヤン双方の悲願 【END】
生徒総数:9
GET:紅白勾玉
三章を隣歩いた証。陰陽寺魔矢、及び竹田紅重の遺品
紅の色には破魔の祈りが、白の色には繁栄の祈りが込められている。元は一人の女性が大切な人間に捧ぐと決めたもの
本日はここまで。これで三章終了です
ここまで応援して下さり、誠にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします
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