姉「異世界の遊戯王で…」弟「ディアハして魔王を倒す?」 (104)

兵士「では、こちらがお二方の寝室となります。部屋の前には必ず兵士が待機しておりますので、何かありましたら遠慮なくお申し付けください!」

姉「は、はい…」

弟「あ、ありがとうございます…」

兵士「それでは、今日はごゆっくりお休みください」ペコリ


カチャ バタン




姉「………」

弟「………」




姉「なんで……こんなことに…」

弟「なっちゃったんだろう……お姉ちゃん」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1575120682

姉「あれだ、わかった、これは我らが母上の怨念なのよ」

弟「おんねん?」

姉「そう。『姉弟揃ってカードゲームにうつつを抜かすなんてあたしゃ情けないよ』なんて常々言うくらいの母だから、遊戯王を嗜む我ら姉弟を憎むあまりこんな異世界に送ってこらしめようとしたのよ。うん、そうに違いない」

弟「うーん、でもママならこんな異世界に送って懲らしめるなんて回りくどいことするくらいなら、手っ取り早く僕らが学校行ってる間にカード焼き捨てそうな気がする」

姉「……そりゃそうだけどさ。弟よ、今のは現実逃避も兼ねた冗談だからそんなマジレスしなくていいんだよ」

弟「そう? でもよくよく考えてみたら、他人を異世界に送るなんて力、ママに使えるとは思えないよね」

姉「よくよく考えなくても分かることでしょうに…そんな力がママにあったら、私は土下座してでも5D's次元に送ってもらうわよ」

弟「僕も行けるものならARC-Vの世界に行きたかったけど…でも実際僕らが来たのは、どうみても遊戯王の世界に見えないよね」

姉「ふと気がついたら、なぜか周囲にはファンタジーの魔術師みたいな格好したおっさん達が狂喜乱舞していて…」

弟「僕らのこと何一つ聞かないで、ザ・王様って感じの人の前に連れて行かれて…」

姉「『そなた達は魔王を倒す力を持った異世界の召喚士。どうかその魔獣を扱う力をもって、魔王を倒して欲しい』だなんて、ふざけんじゃないわよ! って感じよね…」

弟「そうだね…。そこは『召喚士』じゃなくて『決闘者(デュエリスト)』って言って欲しかったよね...」

姉「さてはあんた、あんまり深刻に思ってないな」

姉「そして、お誂え向きにデッキがしっかりとセットされている上に…」スッ

姉「………ああ、間違いなく、私のデッキだわ…ちょっと安心した。スリーブないのがすごい不安になるけど…」

弟「ちょっと待って僕も確認……って、これどう使うのー!? ボタンどこ!?」サワサワ

姉「ああ、ARCのやつはデッキもディスクの内部に収納してたわね…そう言えば」

弟「えーっと、どれがこれで…あ、あれか。で、あれがそれでそうなって…」ガチャガチャ


ガッガッガッ キュイーン!


弟「わっ! 動いた動いた! やった! デッキも出てきたし、カード置くところも出てきた!」

弟「凄い凄い! これがリアルソリッドビジョン!? 触れるし硬い! ちゃんとリアルだ!」キャッキャッ

姉「凄いのは分かったから、デッキを確認しなさいって」

弟「あ、うん。えっと……」ガチャン

弟「……………うん。間違いなく、僕愛用のデッキに間違いないよ」

姉「そう。それはよかったわね……というか」


姉「私達は、これでどうやって魔王を倒すのかしら?」

弟「へへ……だってさ、見てよお姉ちゃん。これ」ガチャ

弟「こんな本物っぽいデュエルディスクがいつの間にかついてたらさ…テンションもあがっちゃうよね」

姉「ああ、これね…」ガチャ

姉「…見た感じ、弟のはARC-Vのタイプよね? スタンダード次元で使われてたやつ…でも私のこれは……あ、もしかしてVRAINSで遊作が使ってた旧式ってヤツかしら?」

弟「言われてみれば…ってことは、その丸いとこにAiがいたりする!?」

姉「それは流石にないと思うわ…」

姉「そして、お誂え向きにデッキがしっかりとセットされている上に…」スッ

姉「………ああ、間違いなく、私のデッキだわ…ちょっと安心した。スリーブないのがすごい不安になるけど…」

弟「ちょっと待って僕も確認……って、これどう使うのー!? ボタンどこ!?」サワサワ

姉「ああ、ARCのやつはデッキもディスクの内部に収納してたわね…そう言えば」

弟「えーっと、どれがこれで…あ、あれか。で、あれがそれでそうなって…」ガチャガチャ


ガッガッガッ キュイーン!


弟「わっ! 動いた動いた! やった! デッキも出てきたし、カード置くところも出てきた!」

弟「凄い凄い! これがリアルソリッドビジョン!? 触れるし硬い! ちゃんとリアルだ!」キャッキャッ

姉「凄いのは分かったから、デッキを確認しなさいって」

弟「あ、うん。えっと……」ガチャン

弟「……………うん。間違いなく、僕愛用のデッキに間違いないよ」

姉「そう。それはよかったわね……というか」


姉「私達は、これでどうやって魔王を倒すのかしら?」

弟「え、そりゃあ…デュエルで倒すんじゃないの?」

姉「魔王がデュエルのルール知ってると思う?」

弟「え? 知ってるからこうして僕らが呼ばれたんじゃないの?」

姉「でも、見た感じこの世界ってデュエルなんて流通してなさそうじゃない?」

弟「うーん、確かに…王様も『決闘者』じゃなくて『召喚士』って言ってたし」

姉「……まあ、魔王だけデュエルを知ってて、最後はデュエルするって可能性はゼロとは言えないけど…」

弟「分かった! だったら一回やってみようよ!」

姉「へ?」

弟「デュエルディスクを使ってデュエルだよ! 魔王を倒す旅に出るならディスクの使い方と戦い方をしっかりマスターしとかなきゃね!」

姉「そ、そりゃ、そうだけど…まさかこの部屋でやる気!? もしリアルに実体化するデュエルだったら大惨事になるわよ!」

弟「もちろんここでやるわけじゃないよ。すいませーん!」ガチャ


兵士「はい! 何か御用でしょうか?」

弟「あの! 僕たち、召喚士としての技を互いに試してみたいんですけど…どこか、広くて頑丈な訓練できる場所…ありますか?」

兵士「あ、はい!それでしたら、おそらく第三修練場が空いているかと…部隊長に確認を取って参りますので、少々お待ちください!」ダダッ


弟「ありがとうございますー! …よかったね、使えるかもだって!」

姉「さっきまで兵士達にはあんなに緊張してたくせに、急に生き生きしだしたわね…」

姉(...でも……アニメの世界でしかあり得なかった、ソリッドビジョンのデュエルが実際にできるとしたら……)

姉(...ヤバい、私もワクワクしてきた。あのイルカのモンスターの顔がチラつくわ)

姉(家に帰れるかどうかは…死ぬほど心配なのにね…)

第三修練場


弟「いやあ、よかったねお姉ちゃん。快く貸してもらえて」

姉「そうね。それは素直に嬉しいんだけど…」


ザワザワ  ガヤガヤ  ヒソヒソ


姉「こんなにたくさんの兵士達に囲まれちゃ、落ち着かない…」

弟「うーん、仕方ないんじゃない? 僕らって、この人からしたら異世界人なんでしょ?」

弟「そりゃあ、目立ちもするよ」

姉「理屈は分かるけど、学校のラウンジの隅でカードゲームやってる人間には辛い視線なことにかわりないわよ…」

弟「レディースエーンジェントルメーン!...ってやった方がいいかな?」

姉「あんたはノリノリにも程があるわ」

弟「ま、ギャラリーのことはじゃがいもだとでも思ってさ! 早速デュエル始めようよ!」

姉「それはいいけど…どう動かすのよ、このデュエルディスク」

弟「それはさ、裏にこういうボタンが……あっ、お姉ちゃんと僕のじゃ次元が違う品なんだっけ」

姉「次元が違うというか番組が違うというか………あ」ピュイーン

姉「……動いた。ボタンが横にあったわ」

弟「お、やったね! じゃあ僕も……よっと!」ガッガッガッ キュイーン!



弟「じゃあ初期手札を……ん、アレ!?」グッグッ

弟「お姉ちゃーん! ドローができないよう!」

姉「へ? ……あれ、ほんとだ。ふしぎなちからでカードが固定されてるみたい」グッグッ

姉「またどっかにボタンあるのかしら…」

弟「………ひらめいた! 二人で『デュエル!』って叫んだらデュエルが始まるとディスクが認識して、ドローさせてくれるんじゃない?」

姉「ここにきて急にそんな音声認識機能なのかしら? これ」

弟「だってアニメでもそうじゃん。始まる時絶対『デュエル!』って叫ぶのはそういう仕様だからなんだよ! きっと!」

姉「………例えそうだとしても…やっぱり恥ずかしいわね。この衆人環視の中アニメみたいに叫ぶのは…」オドオド

弟「もー! いちいち恥ずかしがってちゃダメだよ! 僕はギリセーフかもしれないけど、世間一般じゃお姉ちゃんの年齢でカードゲームやってるだけでも充分恥ずかしいんだからね!」

姉「頼むからそれだけは言わないでくれ弟よ……」

姉「もう! こうなったらやけくそよ! デュエル!」

弟「デュエル!」


LP:8000
LP:8000



パッ パッ パッ パッ パッ

パッ パッ パッ パッ パッ


弟「ええ!?」

姉「わ!? な、何これ!? カードが……目の前に浮いてる!?」

弟「五枚…僕のデッキのカード…あ、これひょっとして初期手札じゃない? ほら、VRAINSの時もこんな感じでカードが浮いてたでしょ確か」

姉「つまり…手札を手に持たなくても、タッチするだけで使えるってこと? 妙に便利ね…これもう機械の技術というより魔法に近い気がするわ」

弟「じゃ、早速デュエルしてみようよ! 僕後攻ね!」

姉「ちょっと! 何しれっと勝手に決めてんのよ! 嫌がらせ!?」

弟「え、そりゃお姉ちゃんのデッキ相手だったら後攻とるでしょ」

姉「じゃなくて! これは真剣勝負じゃなくて上手く動くかのお試しみたいなもんでしょ! ならお互い動けるようにするべきでしょ! あんたのデッキは別に先攻でも動けるけど、私のデッキは先攻だと動くの超難しいんだから!」

弟「えー。僕は後攻の方が好きなのに……」

姉「大体、ジャンケンもしてないのに勝手に決め…………ん、ちょっと待って」


姉「…どうやって、先攻後攻決めるのかしら、これ」

弟「え? 言ったもん勝ちじゃないの? アニメでもそうじゃん」

姉「何でもかんでもアニメ通り……なのかしら? デュエル始める時もそうだったし…え、てことは私が先攻?」

弟「ほらほら! お姉ちゃん早くやってみて! モンスター出して出して!」キラキラ


姉「…はあ。分かったわよ。えーっとそれじゃ初手は…」チラ

姉「………」

姉「………」

姉「………」


姉「………ターンエンドで」

弟「………」




姉「………だから言ったじゃないの!」

弟「…うん、ゴメンなさい」

姉「うう…あの出張セットが規制されてなけりゃもうちょっと安定するのに…いや出張されたから規制されたというのも一理あるんだけど…でも本当に悪いのは出張じゃなくて本家のデッキが暴れたからであって…」ブサクサ

弟「…えっと、じゃあ僕のターンだね! ドロー!」シャキン

弟「え、うわ! 凄い! 凄いよお姉ちゃん! ドローって言っただけで目の前にカードが増えた!」

姉「あらそう、相変わらず便利な音声認識ね…」

弟「確かに便利だけど、カッコいいドローの動きができないだけが残念だなあ…」

姉「…実際に引いてなくても引いてる振りすりゃいいんじゃないかしら。それよりほら、あんた動けるの?」


弟「うん、いける……よっし、いくよ!」

弟「僕は……魔法カード《螺旋のストライクバースト》を発動! デッキからレベル7オッドアイズをサーチ!」

キュドーン!

弟「う、うわあ!?」

兵士達「ザワザワ」


姉(地面から赤い螺旋の竜巻みたいなものが……これが《螺旋のストライクバースト》ってこと?)

姉(天井にまで届いてるけど…特に天井が壊れている様子はないわね)

姉(特に現実に影響を与えるわけではないただのソリッドビジョンなのかしら…いや、モンスターやプレイヤーにダメージを与えるわけではない、単なるサーチ魔法だから無害なだけかもしれない…)

弟「……」ボーッ

姉「こら弟! 見惚れてないで何サーチするのか宣言しなさい!」

弟「……はっ。ご、ごめん。僕がサーチするのは、《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》!」

弟「よ、よし……いくぞ…いくぞ…」スゥー

弟「僕は! スケール4の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と、スケール8の《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》を、ベンデュラムスケールにセッティング!」キュイーン


キュイーン PENDULUM キュイーン

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン「シュワーン」
オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン「シュワーン」

弟「〜〜〜!!!」

弟「あ、ああ…うわあ……ほ、本物だ……本物の、オッドアイズが……」ウットリ


姉(アニメ通り、ペンデュラムスケールってあんなふうに青い柱にモンスターが浮く感じなのね)

姉(......ああでも、なんだろうこの感じ。…確かに、凄い…綺麗だわ)

姉(アニメの…画面越しでしか見れなかったこと。私達が生きてるうちには、決して現実に現れないであろう光景…)

姉(それがみれるなんて……思ってもみなかった…)

姉(......ちょっと、素敵じゃない)

3分後

姉「………はっ」

姉(やだ! 私も見惚れてた! デュエルの続きしないと!)

姉「こ…こらー! 弟!」

弟「…………」ウットリ

姉「起きなさい!」ツカツカツカ ポカリ

弟「痛! あ、ご、ごめん……つい…」

姉「や、私も人のことは言えないけど…でも、気をしっかり持ちなさい! いちいち見惚れて動き止めてたらデュエルになんないでしょ!」

姉「これからこのデュエルで戦っていくのなら、いくらでも見る機会あるんだから!」

弟「………うん、そうだね。よし…!」

弟「いくぞ! ぺ、ペンデュラム召喚!」

弟「来てくれ!《オッドアイズ・ウィザード・ドラゴン》と《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》!」



オッドアイズ・ウィザード・ドラゴン ATK2500
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン ATK2500


ギャオオオオオオン!!!
グォオオオオオオオ!!!

兵士達「オオ ザワザワ」


姉(うわあ…す、凄い迫力……)

姉(カードの通りの姿なのに…こうやって三次元で見るだけでこの身体中が竦むような感覚…)

姉(中学生の私だったらちびってたかも…)

姉(これが実際に………ん、実際に?)ピク


弟「はああああ……すごいなあ、かっこいいなあ…って、ハッ!」

弟「いけないいけない! 気をしっかり持たないと!」パンパン

弟「よし、それじゃあ……バトルフェイズ!」

姉「ちょちょちょちょちょっと! ちょっとストーーップ!!」


弟「どうしたの? お姉ちゃん」

姉「頼む、冷静になってくれ弟よ」

姉「この一般人の私が、あんな超巨大ドラゴンのダイレクトアタック受けたら死んじゃうよ!」


弟「そう? ライフ8000もあるんだから大丈夫じゃないの? こっちは二体合わせても5000だよ?」

姉「システム的な問題じゃなーい! 噛みつきかビームか突進か知らないけど、そのドラゴンから繰り出されるどんな攻撃を食らっても物理的に私がお亡くなりになるって言ってんの!」


弟「うーん、やっぱりそうなのかな。決闘者ならライフが尽きない限り死なないもんだと思ってたけど…」

姉「そういうのをにわかって言うのよ。あのね、アニメでも城之内がラーの翼神竜に焼かれちゃって、ライフが残ってるのに倒れて負けちゃったじゃない。しかも息をしてないくらいの重体で」

弟「なるほど…例え数字上のライフが残っていても、モンスターのダメージに体が耐え切れないと死んじゃう…と」

姉「そういうこと。そして私は間違いなく、このオッドアイズの攻撃で死ぬと思う…」

弟「でもさー…殴らないとデュエルにならないじゃない?」

姉「うっ、いやそうだけど…でも流石にそのドラゴン達はしょっぱなからハードル高いと思うのよ…」

姉「せめて最初は、もっとこう…優しそうなモンスターで…」

弟「優しそうなモンスター……そういえば、僕まだ召喚権使ってなかったね」

弟「じゃあこれ! 《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》を召喚!」


《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》 ATK1200


姉「うーん、攻撃翌力は確かに半分以下になったけども…」

姉(あの鋭い四本の顎のトゲも、長くしなる尻尾も…やっぱり怖いわ…)


弟「ようし、じゃあ今度こそバト…」

姉「待って待って! もう一回タンマ! やっぱり直接攻撃自体のハードルが高いと思う!」

姉「せめて……そうだ! 私がそっちがエンドしたら、私のターンでモンスター出すから! ここは一旦モンスター同士の戦闘で…」ピッ


ギュイーン


リバースカード セット!


姉「えっ?」

弟「んっ!?」

弟「あ、あれ? 僕まだターンエンド宣言してないのに? なんでお姉ちゃんカードセットできてるの?」

姉「わ、私にも…手札に触れちゃったら急に…」

弟「ジャッジー! …っている訳ないか」



姉「……ちょっと、試してみようかしら」

姉「…同じ列に《燈影の機界騎士》を自身の効果で特殊召喚!」



《燈影の機界騎士》「ヌゥン!」DEF3000



姉「…えっと、じゃあ…通常ドロー」ピッ

弟「え? え? どういうこと!? 今のドローフェイズのドロー? もうフェイズめちゃくちゃじゃない!」



姉(うーん…この無茶苦茶なフェイズ…少なくとも普通のデュエルじゃないわよね)

姉(やはり、この世界独自のルールがあるのかしら)

姉(デュエルでないデュエル……か)

弟「えっと……じゃ、さ」

弟「試しに僕、攻撃してみていい?」


姉「え? 燈影に?」

弟「そう。直接攻撃は怖くてもさ、モンスター同士の戦闘……しかも高い守備表示モンスターに突撃するなら、モンスターも破壊されないし」

弟「これなら試してみてもいいんじゃない?」

姉「……大丈夫? 遊戯王通りなら、あんたにもダメージ入るのよ?」

弟「だいじょーぶ! たがだか500ダメージ、耐えられないようじゃ魔王なんて倒せないでしょ!」ニッ

姉(ああ、この子はもう魔王倒す気マンマンなのね…)

姉「……わかった。じゃあ、やってみなさい」

弟「うん!」



弟「いけっ! 《オッドアイズ・ウィザード・ドラゴン》! 《燈影の機界騎士》に攻撃!」


オッドアイズ・ウィザード・ドラゴン「グオォォ…」キュィーン ATK2500
燈影の機界騎士 「ヌッ!」DEF3000


オッドアイズ・ウィザード・ドラゴン「グァァアアア!!」ズゴォ!!


ドオォォォン ビリビリ

姉「うわっぷ!!」

弟「…っ!!」

LP8000→7500


姉(燈影がウィザードドラゴンの赤と緑のビームを防いで……ていうか、私なんて守備表示で受けている側なのにめっちゃ衝撃がくる!)

姉(やっぱり、これはリアルダメージが発生するってことで確定みたいね…)

姉「弟ー! 大丈夫ー!?」



弟「あ、うん……ちょっと痛かったけど、体は特に問題ないよ…」




姉「痛い? 今の衝撃で吹き飛ばされたの?」

弟「や、違うんだ。その…なんか体の内部から締め付けられるような痛みがきてさ…」

弟「多分…これはいわゆる『闇のデュエル』におけるダメージだと思う…!」

姉「そりゃ縁起でもないわね。『闇のデュエル』まんまだとしたら、あんたそのダメージあと15回受けたら死ぬってことになるわよ」

弟「そ、そっか……死んじゃうんだよね……あはは、そう考えると、確かに怖い…」

姉「…ちょっと、一回やめましょう。少なからず、デュエルディスクの使い方は分かったし」

弟「じゃ、多分さっきのディスク起動ボタンをもう一回押してみたら…」ポチ


オッドアイズ達 スゥ
手札 スゥ


弟「やっぱり。モンスターもペンデュラムスケールも、手札も消えていくよ…」

姉「はあ……それにしても、あまり時間が経ってないのに、結構疲れた気がするわ…」ポチ


燈影の機界騎士 スゥ
セットカード スゥ


弟「僕も疲れちゃったよ…生のオッドアイズ達を見て興奮しすぎちゃったのかな…」ハハ

姉「そうね。でもひょっとしたら、モンスターを召喚することにより気力的なもの消費されたり…ん?」


ザワザワ  ヒソヒソ  ジロジロ


姉「……早く、部屋に帰ろ!」

弟「え、う、うん…」

中断します。
もうちょっと書き溜めてからまたきます。

>>4はミスです。すいません。

お部屋


弟「ねえ、お姉ひゃん」モグモグ

姉「弟よ、母上がいないからって、口にモノを入れたまま喋るのはよしなさい。行儀が悪いぞ」

弟「ゴックン。あのさ、なんでさっきのデュエルはさ、フェイズもターンもメチャクチャに動けたんだろうね?」


姉「うーん、私も食べながら考えたんだけど…多分、デュエルってより、この世界だと『ディアハ』なんじゃないかなあって」

弟「ディアハ…遊戯王DMの記憶の世界でやってたアレ?」

姉「モグモグ ング。そう、簡単にいえば古代エジプトでやってたモンスター実体化させたリアルファイト」

姉「あのディアハの現代遊戯王版…ってことじゃないかなって思うのよ」

姉「アニメでやってたのは、モンスター召喚して指示を出して…どっちかといえばやってることはポケモンに近かったけど…」

姉「私達はそれに加えて、手札を使ってモンスターを展開したり、魔法罠で補助したりできる…みたいな感じじゃないからしら」

弟「《螺旋のストライクバースト》みたいに、魔法罠も実体化するのかなあ…ということは《ブラック・ホール》 とか発動したら…」ゾ~

姉「やな想像するわねあんた…まあ本物のブラックホールとかじゃなくて、ただモンスターを全破壊してくれるだけならいいんだけどね。どっちにしろ私達二人ともブラホ入れてないし、考えなくていいわよそんな想像」

弟「そういえばそっか。……うーん、ディアハ…かあ」

ガッ ガッ ガッ キュイーン!


弟「… デュエル!」パッ パッ パッ パッ パッ

LP:8000


姉「ちょちょちょ! あんたこの狭い部屋でドラゴン出すつもり!? やめてよシャレにならないから!」

弟「違う違う、試したいのはもっと別なこと! ドロー!」シャキン

弟「続けてもう一回…ドロー!」

シーン

弟「……ドロー! ドロー!」

シーン

弟「………うーん、やっぱり、連続でドローってできないみたいだね…」

姉「ああ、ドローの検証がしたかったのね…。確かにフェイズ無茶苦茶なディアハとはいえ、際限なくドローできたらもうなんでもありになっちゃうわよね…。エクゾディアとか」

弟「……ドロー!」シャキン

弟「あ! 二回目のドローできたよ! ね、お姉ちゃん、一回目のドローからどれくらい時間経った?」

姉「モグモグ……ンン。そうね。大体三分くらいじゃないかしら」

弟「三分…三分って確か、公式大会で考えていい時間とかじゃなかったっけ」

姉「『戦略考察時間』とか言われてるヤツね。三分が一応の1ターンと考えると…罠とかもセットしてから三分経たないと発動できない…とかあるかもね。とりあえず、検証終わったならしまいなさい」

弟「…ね、やっぱり誰かしょうかん…」

姉「ダ メ で す !」

弟「お願い! オッドアイズペルソナドラゴンならギリこの部屋にも収まると思うから…!」

姉「お前の見識なんかあてになるか! ドラゴン出されるだけでもこっちの心臓に悪いんだから!」

弟「そんなあ。ドラゴンで心臓悪くしちゃあ、魔王と対峙した時どうするの?」

姉「だから! 私は最初っから魔王倒す気なんて…」


コンコン


姉・弟「!!??」ビクッ


???「すまない。召喚士の方々。入室してもよいだろうか?」

女騎士「む。食事中であったか。これは失礼した」

姉「あ、いえいえお構いなく。ちょうど食べ終わったところでしたから」

弟「大変美味しゅうございました……」ペコリ

姉(騎士の格好をした女性……なんだろうこの…普通ならコスプレにしか見えないはずなのに、このコスプレにあらず的な雰囲気…)

姉(これが本職ってヤツの迫力なのかしら…)


姉「ええっと、それで…何か御用ですか?」

女騎士「…まずは、王から言伝を」

女騎士「三日後までには、魔王討伐のために出立せよとのことだ」

弟「み、三日……ですか!?」

姉「そんな…! ああいえ、その…私達、まだ今日この世界に来たばっかりで、あの…三日というのは、不安というか…」


女騎士「無論、右も左もわからぬこの世界に呼び出され、魔王を倒せと下知されたあなた方の心中は、お察しする」

女騎士「だからこそ、私がお二人に付いて、共に行くこととなった」

姉「へ?」

弟「え?」

女騎士「私も、あなた方の魔王討伐の旅へお供するということだ」

姉「え、そ、それは……」

弟「本当ですか! それ、凄くありがたいです! 流石に僕たちだけじゃ、この世界歩き回るの凄い不安でしたし!」

姉(や、そりゃその意味じゃありがたいけどさ…監視役がいるってことは、何をどうあがいても魔王討伐から逃れられないってことなのよね…)シクシク

女騎士「私は女騎士。あなた達の魔王討伐を、全力でサポートさせて頂く。召喚士のお二方、これからはよろしく頼む」

姉「こ、これはどうも…私は姉と申します」ペコ

弟「僕はその弟です。で、女騎士さん…1ついいですかー?」

女騎士「なんだろうか、弟君」

弟「この世界じゃ僕達は召喚士って呼ばれるかもしれないけど、本当の呼び名は『決闘者(デュエリスト)』って言うんです! だから、女騎士さんもそう呼んでくれると嬉しいです!」

女騎士「ふむ、決闘者(デュエリスト)か…不思議な響きの言葉だな。承知した」

姉(我が弟はデュエリストにプライド持ちすぎだ……まさか学校でも堂々と公言したりしてないでしょうね…)

次の日


弟「…今こそチャンス! 手札から《ペンデュラム・フュージョン》を発動!」

姉「あ、じゃチェーンで《星遺物の機憶》発動」

弟「げ」

姉「デッキから《紺碧の機界騎士》を《ペンデュラム・フュージョン》が発動した列に特殊。《星遺物の囁き》があるから《ペンデュラム・フュージョン》無効ね」

弟「くっそー! じゃ、手札から《オッドアイズ・フュージョン》を…」

姉「じゃあ紺碧の効果で《蒼穹の機界騎士》をこっちに動かして、それも無効になるわね」

弟「ああもうやだー! 次のターンに全部食らって終わりじゃん! 僕サレするー!」

姉「ふう…うまいこと回せてよかったわ。じゃもう一戦やる?」

弟「もちろん! 勝つまでやるからね! 今度こそは…」サッサッ シャッシャッ

コンコン

女騎士「失礼するぞ……何をやっているのだ、お二方は」ガチャ

姉「あ…女騎士さん」

弟「えっとですね…デュエリストの嗜み、みたいなものです!」

女騎士「ほう……見たところ、トランプのような遊戯か?」

姉「ええまあ…そんなとこです」

姉(この世界にもトランプはあるんだ...これは遊戯なのには間違い無いけど、その遊戯で敵を倒していかないといけないのよねえ)ハア

姉(あ〜〜〜〜、魔王なんて倒せるのかしら……死にたくないわ……)


女騎士「今日は、来るべき出立の日に備えて色々と準備をしたい。私は部屋の前にいるから、外出の準備ができたら声をかけてくれ」

服屋

弟「どう、お姉ちゃん? 変じゃないかな?」

姉「や、日本人的価値観しか持たない私に聞くんじゃないわよ。女騎士さんに聞きなさいな」

女騎士「うむ。これならこの土地における一般的な服装だ」

女騎士「あなた方の衣装は少しばかり目立つからな。あまり注目を浴びるのは好きではないのだろう?」

姉「ええ。それはそうですね…」

姉(女騎士さんと一緒にいても充分目立つと思うんだけど…)

弟「へへ、これで僕達もファンタジー世界の人間だね」

姉「左腕のデュエルディスクがその雰囲気を台無しにしてるけどね…」

数時間後

弟「うう……」ズッシリ

姉「弟よ…少しばかり持とうか?」

弟「大丈夫…僕は…男なんだから…これくらいの荷物......」

姉「強がるんじゃない、これからこの荷物を持って長旅なんだぞ。ほら半分は私のリュックに移しなさい」ヒョイヒョイ

弟「あ、ありがとう…お姉ちゃん」

女騎士「さて、帽子や外套、保存食糧に盃、水筒、火打ち石、ナイフや雨除けの小天幕等々、必要なものは買い揃えた」

女騎士「お二方は一度、荷物を部屋に置いてくるといいだろう」

姉「一度……ってことは、また何かすべきことがあるんですか?」


女騎士「ああ…またお二方は、この世界の魔物と相対したことは…ないだろう?」

更に1時間後 郊外

スライム「ピキー!」

弟「うわ……本当にスライムだ…」

姉「リアルだと可愛さ二割、不気味さ八割って感じね…」

弟「でも『チェンジ・スライム』よりは不気味じゃないと思う」

姉「また懐かしいモンスターの名前ね…あんなの基準にされても困るけど」


女騎士「スライムにはいくつか種類があるが、あのスライムは低級クラスの魔物だ」

女騎士「攻撃手段は、見た目以上の重さとスピードによる突進」

女騎士「その気になれば棒を持った子供でも退治できるが、それゆえに油断した子供の顔の上に乗っかって、窒息死させるような事故が年に何件か起こっている」

弟「怖い話ですね…それ」

女騎士「まずはああした低級魔物相手に、君たちの戦い方を見せてもらいたい。兵士達には大分話題が広まっているようだが、私はまだ目にしたことないでな」

弟「ようし、それなら僕が…」

姉「や、弟よ。ここは私にやらせてちょうだい」

弟「お姉ちゃん? なんか積極的だね?」

姉「積極的というより…今後死活問題になるかもしれないから、確認したいのよね」

姉「よし……」ピュイーン


姉「……デュエル!」パッ パッ パッ パッ パッ

LP:8000

女騎士「ほう…?」

スライム「ピキー!?」

弟「お姉ちゃん! 今の音でスライムに気づかれたみたいだよ!」

姉「分かってる! えーっと…それじゃ、このリバースカードをセット!」

リバースカード「ウィーン」

姉「そして…同じ縦列に《紅蓮の機界騎士》を特殊召喚!」バッ


紅蓮の機界騎士 「フンッ」ATK2300


スライム「ピピピキー!?」


姉(...よし! 特殊召喚できる!)

姉(あのスライム…あれもモンスター扱いで、私がカードをセットしたことで『同じ縦列にカードが2枚以上』の条件を満たすことになったってことかしら)

姉(出来る限り目測でスライムに近い位置にカードをセットしたけど、やっぱりちゃんと位置を合わせないと特殊召喚できないのかしら…そうだとやっぱり面倒だけど…)

スライム「ピピ-!!」ピョンピョン

弟「お姉ちゃん! スライム逃げちゃうよ!」

姉「え、あ、じゃあ……《紅蓮の機界騎士》で、あのスライムに攻撃!」



紅蓮の機界騎士 「オオオオオ!!」ブンッ

スライム「ピ……!」



ズガァンッ!






スライム「」

弟「うわっ…流石攻撃翌力2300……オーバーキル気味だね…」

姉(綺麗に真っ二つに割れて、紅蓮の一撃でできた地面の切れ込みに埋まって土に塗れてるスライムの姿……なかなかグロいわね)


女騎士「………これが、召喚士…いや、デュエリストの力か……」

弟「お姉ちゃん、ちょっとやり過ぎたんじゃない?」

姉「し、仕方ないでしょ! 私のデッキなんて基本的に大型しかいないんだから!」

女騎士「…いや、それにしても……素晴らしい力だった」

女騎士「召喚士というのは魔獣を扱うのが定席というものだが…そのような金属質ゴーレムを扱えるのも、異世界のデュエリストだから…ということか」

姉「そ、そうですねーあはは…」

姉(金属質ゴーレム……いや、そもそもコイツが機械なのかなんなのか、詳しい設定がまだよく分からないよね…マスターガイドでちゃんと解説されるのかしら…)



紅蓮の機界騎士「……」


姉(...というより、マスターガイドが発売する元の世界に私は帰れるのかしら…。はあ、そんなこと考えてたらますます気が滅入ってきたわ……)ハァ

女騎士「デュエリストの力はよく分かった……なるほど。君たちならば、あるいは本当に魔王を倒せるかもしれんな…」

弟「い、いやあ…それほどでも…」テレテレ

姉(なんもしてない弟がなぜ照れているのか…)

女騎士「そうだな……今日はもう帰って、休むといい」

弟「え、もうですか? まだお昼ちょっとなのに」

女騎士「出発まであまり日数もない。休める時にはしっかり休んで欲しいと思う。魔王城までの道のりは長いからな」

弟「そうですか……あ、それじゃあそろそろお昼ご飯の時間ですし、ご一緒にどこか外食するというのはどうですか? この辺の美味しいお店、教えてください!」

姉「こら! お金もないのに何を図々しいお願いしてんのあんたは!」パカ

弟「いたっ!」

女騎士「…気持ちは嬉しいが、私はこの後兵士達の調練があるのでな」

弟「そうなんですか…女騎士さんって、やっぱりエライ人なんですね!」

女騎士「……まあ、一応は。王国の第七部隊 部隊長を務めている」

弟「へえ! 部隊長さんですか! 凄いなあ、かっこいいですね!」

姉「……ん、女騎士さんが部隊長……なのに、私達の旅に一緒について行っていんですか?」


女騎士「ああ、まあ……。私は…な」

姉「?」

弟「?」

女騎士「……そうだな。どうしても知りたいなら…旅に出た後に、機会があれば話をしよう」

姉「あ、いえそんな…話したくないことなら、無理には…」

弟「そうですか! 楽しみに待ってますね!」

姉「おい弟コラ」

中断します。

そして一日飛んで…出立の日


弟「よっし……」キュッ

弟「お姉ちゃん! いよいよ……だね!」ニッコリ

姉「ああ……いよいよ…かあ」ゲッソリ


弟「世界の命運が、僕達の手にかかっているんだ…絶対、魔王を倒して、世界を平和にしよう!」

姉「弟よ。今一度確認するんだ。私たちの目的は『この世界を平和にすること』ではなく、『元の世界へ帰ること』だ。はい、復唱!」

弟「はい! 私たちの目的は『この世界を平和にして元の世界へ帰ること』です!」

姉「よろし……くない! 私たちはこの世界が平和になろうがどうでもいいから、元の世界へ帰ることだけを考えなさい!」

弟「ひどいよ! この世界がどうなってもいいなんて…世界の一つも救えなくて、ママにどう顔向けするっていうの!」

姉「ママなんか私達がいい企業に就職さえできれば喜んでくれるんだからヘーキなの!」






女騎士「お二方。そろそろ王への謁見の時間だ。準備はよろしいか?」

弟「はいっ!」

姉「はい…」

王「魔王が現れてから、三十年の月日が経つ……そしてその間に、奴の手によって二つもの国が滅ぼされた」

王「奴は…魔王は我々人類を弄んでおる。始めのうちは生かさず殺さずの攻勢を繰り返し…それに飽きたならば、唐突に巨大なる軍勢をもって滅しにかかるのだ」

王「我が国のみならず、全ての国の民が魔王の存在に怯えながら日々を過ごしておる。もはや奴の存在がある以上、人類の安息と発展は永久に訪れまい」

王「世界を救うために、そなた達の力が必要なのだ。勇敢なる召喚士の少年よ!」

弟「はっ!」

王「そなたには、我が国公認となる『勇者』の号を授ける。そして同じ力をその身に宿す少女よ!」

姉「はっ!」

王「そなたにも同じく、『女勇者』の号を授ける。異世界の召喚士達よ! 我が国を旅立つがよい! 必ずや魔王を討ち滅ぼし、人類を救うのだ!」


勇者「必ずや!」

女勇者「必ずや!」


王「女騎士よ。二人の勇者を導き、共に魔王討伐を成し遂げるのだ!」

女騎士「承りました。陛下。必ず任務を成し遂げて見せましょう」

勇者「勇者だなんて、照れるなあ」ウキウキ

女勇者「弟君がご機嫌なようで何よりだよ……というか、本当に王様のセリフが一言一句、女騎士さんの言う通りだったわね…。お陰で定型句を喋るだけでなんとか乗り切れた…」

女騎士「何度も見てきたからな、あの手のセリフは…」

女勇者「…?」

勇者「それより…随分ひっそりと出発するんだね。僕、てっきり盛大に見送られるのかと…」

女勇者「ちょっと自意識過剰じゃない…? 私はそんなに持ち上げられるより、ひっそり出かける方が百倍いいわ…」

女騎士「………では、出発しよう。とりあえずは次の街まで、だな」

八時間後 次の町

女勇者「…あ……つ、着いた……の、ね…」ゼエゼエ

勇者「お姉ちゃん大丈夫ー?」

女勇者「いや、なんと、か……。途中休憩あったとはいえ、荷物持って朝からここまで歩き通したの、私の人生じゃ初めてよ…」

女勇者(弟もそんな運動得意じゃなかったはずなのにこの元気さは…男の子特有のエネルギーか、それとも異世界にきた興奮から発せられるアドレナリンのお陰か…)

女騎士「すぐに宿に向かい、休むとしよう。もう少しだけ踏ん張ってくれ」

女勇者「ふ、ふぁぁい…」ヨタヨタ

宿屋 女勇者の部屋

女勇者「ふいー! やーっと一息つけるわ…」ドサッ

勇者「おねーちゃーん! 遊びに行こー!」ガチャ

女勇者「弟よ。さっきまでのお姉ちゃんの様子を見た上でそんな要求をしてくるというのなら、私は1からお前を教育し直さなくてはならない……今はそんな気力すらないんだけど……」グッタリ

勇者「もったいないよお姉ちゃん! 明日にはもうこの町を出るんだから、色々見て回りたいじゃない!」

女勇者「どーしてもというのなら、女騎士さんと一緒に行きなさい…わたしゃしばらくこのベッドの上から動けないよ」

勇者「んー・・・じゃ、僕もベッドから動かなーい♪」ドサッ ゴソゴソ

女勇者「コラ! 人のベッドの中に潜り込むんじゃない!」ドン

勇者「ふぎゃ!」ドサ

勇者「酷いや。昔のお姉ちゃんは僕と一緒のベッドで寝てくれたのに…」シクシク

女勇者「残念ながら、あんたはもう女湯に入ることを許される年齢をとっくに超えている。よって女性のベッドに入ることも許されないのよ」

コンコン ガチャ

女騎士「邪魔するぞ。……勇者殿はなぜ、床に倒れているのだ?」

勇者「女騎士さーん…お姉ちゃんが酷いんですぅ…」ウルウル

女勇者「残念ながら世間ではお姉ちゃんのベッドに入ろうとしたお前の方が悪いと、そういうことになる」

勇者「お姉ちゃんったら分かってないなあ。ここは異世界だよ? 異世界の世間じゃ、お姉ちゃんのベッドに潜り込んだって…」

女騎士「む。確かに女性のベッドに潜り込むのは良くない行為だ。変態扱いされてもおかしくない。慎むといいだろう」

勇者「そんなことより女騎士さん! 聞きたいことがあるんだけど…」

女勇者「都合が悪くなるとこれなんだから」

女騎士「なんだろうか? 私に答えられることなら、なんでも」

勇者「えーっと…この街に来るまで、全然魔物に襲われなかったのが、僕的にちょっと不思議だったかなーって…」

女勇者(そういえば…延々歩いてるだけで、魔物の影も形もなかったわね…)

女騎士「街周辺にいる魔物は、今となっては人間を襲わないものばかりだ」

女騎士「人間を襲っては逆に退治され、また襲っては退治されを繰り返しているうちに、遺伝子レベルで人間を恐れるようになった魔物達ばかり。人間を容易に殺せるほどの力を持った魔物は、はるか昔に根こそぎまで駆逐済みだ…少なくとも、大きな街の周辺ではな」

勇者「え、それじゃあ…魔物に襲われる時って、どういう時なんですか?」

女騎士「例えば、街から遠く離れた郊外……君たちがスライムを倒した場所のようにな」

女騎士「それに夜。夜は魔物の活動も活発になる。普段は人間を恐れる魔物達も、この時ばかりは凶暴性も跳ね上がる」

女騎士「この街を出てから、次の街に行くまでには少し遠い。数日は野宿になるだろう……その時こそ、魔物を警戒しないといけなくなるだろうな」

女勇者「………」ビクビク

勇者「野宿…つまりキャンプですか! 僕まだやったことないんだよね…ワクワクする!」

女騎士「それに…小さな町が点在する地域などは、強力な魔物の駆逐が追いついていない場合が多い。そうした地域の住人は常に、魔物の襲撃に怯えながら暮らしているのだ」

女騎士「そして…そうした恐怖は、魔王の支配する地域に近づけば近づくほど激しいものとなる」


女勇者「………」ビクビク ビクビク

勇者「へえ、そうですか…大変なんですね…」

勇者「夜の方が危険…ということはやっぱり野宿するときは寝ずの番ですか?」

女騎士「そうだな。数時間交代で仮眠を取りつつ常に一人は起きて警戒する。それが野宿では必須となるだろう」

勇者「そっかあ…じゃあ遊びに行くのやーめた! 今日はたっぷり寝溜めしとかないと! じゃ、そういうことでおやすみー!」ボフッ

女勇者「ひ と の べ ッ ド で ね る な っ ち ゅ ー の !」ボガ

勇者「ふぎゃ! 分かった、分かったよお姉ちゃん。ちゃんと自分の部屋で寝るからさ…」

女騎士「おや、夕飯はいいのか? 既に宿屋の主人が一階で準備をしてくれているのだが」

勇者「食べまーす! お姉ちゃん! 先行ってるから早く来てねー!」ドタドタ

女勇者「ああもう気の早いヤツ…食べるならちゃんと手を洗ってからにしなさいねー!」

翌日 道中


勇者「………」テクテクテク

女勇者「………」テクテクテク

女騎士「………」テクテクテク



魔狼「ウオォォォン!!」バッ


勇者「え、えっ!?」

女勇者「う、うわあぁ!?」


女騎士「っ!」ズバシュ!

魔狼「オ…オォ……」バダ


勇者「……え?」

女勇者「あ、あれ…?」


女騎士「まさか、こんな開けた場所で私たちに襲いかかってくるとはな…」

女騎士「余程腹を空かせて切羽詰まっていた…というところか。さあ、先を急ごう」スタスタ


勇者「え、あ…はいっ!」タッタッタ

女勇者(……す、凄い…。なんだかよく分からないうちに、襲いかかってきた魔物を一瞬で切り捨てた…てか死体がグロい!)オエー

七時間後


女騎士「……よし。今日はこの辺りで休もう。日が落ちて暗くなる前に、野宿の準備をしなければな」

女勇者「しょ、承知…しまし、たぁ……」ゼェハァ ゼェハァ

勇者「道が歩きにくくて、足が痛いや…あ、女騎士さん! 準備手伝いますよ!」

女騎士「ああ、ありがとう。まず天幕を張りたいから、手頃な木を探して…」



女勇者「あー……つかれた……足もそうだけど主に腰が痛い…」ドサッ


ガサッ

女勇者「…ん?」

女勇者「今、そこの草むらで何か……」


赤猿「キッキー!」バッ

女勇者「うわっ…!?」

ザシュッ!


赤猿「…キ」バタリ

女騎士「…すまない。目を離していた。大丈夫か?」

勇者「お姉ちゃーん! 平気!?」

女勇者「え、あ……う、うん…」


勇者「この赤い猿も、魔物なんですか?」

女騎士「ああ、他生物の血を体に塗りたくることを習性とする厄介な魔物だ。戦闘能力はそれほどでもないが、とにかく好戦的でな…。これから暗くなると更に襲ってくる可能性がある。焚き火をして少しでも魔物を除けることも大事だな」

勇者「それじゃ…薪も集めてきましょうか?」

女騎士「いや、それは私が請け負う。勇者殿は天幕を張ってくれ」

勇者「はい!」


女勇者「……」

女勇者(なんだろう…私ったら……すごい、不甲斐ないわね…。まだちょっと、腰が引けちゃってる…)



焚き火 パチパチ

勇者「ハフハフ モグモグ」

女勇者「…あの、女騎士さん」

女騎士「うむ。なんだろうか。女勇者殿」

女勇者「その…ありがとうございます。何度も魔物に襲われて危ないところを助けていただいて…」

女騎士「…気にせずともよい。ああして不意打ちしてくる魔物の対処も私の役目の一つだ」

女騎士「私で対処できないほど強大な魔物となれば、お二方の力に頼らざるを得なくなるだろうが…」

勇者「モグモグゴックン。でもさ、確かにああやって魔物が突然襲いかかってきたら、大変だよね」

勇者「僕らはモンスターを出すために『デュエル!』ってやらないといけないから、ワンテンポ遅れちゃうし…」

女勇者「そうね…予めモンスターを出しておくとか、できるのかしら…。どうやら、このデュエルディスクで検証しないといけないことはまだまだありそうね…」ウーン

女勇者(...って、私は何を真剣に戦い方を考えてるの!?)ブンブン

女勇者(私はそもそも魔物とも魔王とも戦いたくなくて! 私が考えるべきは、元の世界に帰る方法でしょ!)ブンブン

勇者「?」

勇者「あ、そういえば女騎士さん! せっかくなので、あの話を知りたいです! ほら、どうして僕らの魔王討伐についていくことになったのかって話!」

女勇者(遠慮を知らないヤツ…どうしてついていくも何も、王様に言われたからって意外ないでしょうに…)

女騎士「………」

女勇者(? 何かしら……深刻…いや、何か考え込んでいるような…)

女騎士「そうだな…その質問に答える前に……まず、私からお二方に、聞きたいことがある…。ここなら、他の誰にも聞かれることはないからな」

勇者「?」

女勇者「?」





女騎士「お二方は……魔王討伐から逃げて平穏に暮らせる…と言ったら、どうする?」

中断します

勇者「ちょ、ちょっと女騎士さん!? 何を言って…」

女勇者「ちょっと女騎士さん。その話を詳しく」ズイッ


女騎士「…私は、忍びないと……思っただけだ。異世界で平和に暮らしていた若いお二方を、命懸けの戦いに向かわせることを、な」

女騎士「無理をすることはない。あなた方は、王に言われたことを全て忘れて静かに暮らす権利がある…そう、伝えたかったのだ」

女勇者「で、でも…そんな、王様に刃向かうような真似をして…大丈夫なんですか?」

女騎士「うむ、実はな…勇者が魔王を倒すことなど、王は期待など全くしておらん…だろうな」


勇者「え? それって…どういうことですか!? 魔王を倒さないと、世界が危ないんじゃ…!?」

女騎士「勇者殿の言う通り、魔王の力は脅威的だ。いずれ必ず打倒しなければならない存在なのは確かではある」

女騎士「だが今の王が…魔王討伐をさほど重要視していないのは、もはや周知の事実」


女勇者「それは…どうしてなんですか?」

女騎士「…順を追って説明しよう。魔王が現れたのは、最北にある荒れ果てた魔物の大地」

女騎士「魔王の正体については、異世界から現れた化物だとか、魔物の突然変異だとか学者が推測を並べ立てているが…とにかく、魔王は自在に魔物を操る力を持って、人間の国への侵攻を行うようになった」

勇者「そう言えば、王様が言ってましたよね。三十年で国が二つも滅んだって…」

女騎士「そう、魔王はこの三十年で国を二つも滅ぼした。だが、言い方を変えれば『三十年で国を二つしか滅ぼせていない』と、そう言う事もできる。少々強引だがな」

女騎士「我が国と魔王の支配領域との距離はそれなりに離れており、しかもその間には実質的な防衛線となる国二つも存在する。魔王の力を、十五年で一つの国を滅ぼすものと単純に計算すれば、我が国が滅ぶのは四十五年後ということになる」

女勇者「そう考えると…確かに」

勇者「ちょっと遠い話に…聞こえなくもないね」

女騎士「魔王の手によって滅ぼされた国は、国力の弱い北部周辺国であった事もあって、我が国を含む南部諸国は高を括っている。来たるべき時までにしっかりと軍備を整えておけば、あのような弱小国とは違い、魔王の侵攻を退けることなど容易である…と」

女騎士「今魔王討伐に躍起になっているのは、現在の魔王支配領域に最も近い某国くらいだろうな」

勇者「そっか…だから僕ら、盛大に見送られなかったのかな…」

女勇者「それじゃ…私たちみたいに勇者を派遣したりしなくても、いいんじゃないですか?」

女騎士「もちろん、わざわざ勇者を送り出すのは理由がある。近隣諸国との『協定』があるからだ」

勇者「協定…『停戦協定』とか、そんなのですか?」

女騎士「その通り。元々、我が国を含めた各国は、幾度も戦争を繰り返していた。それぞれ互いに国力はほぼ互角ながら、領土を奪われては取り返して、他国から背後を急襲されたかと思えば、また別の国と仮初の共闘したり…泥沼化していった戦争だった」

女騎士「そこで魔王という共通の敵が現れ、国一つを滅ぼしたという報告を機として、各国は条件付きの停戦協定を結んだ。至極簡単に言えば、『各国で協力して魔王を倒しましょう。それまでは戦争はお預け』という事だ」

女勇者(...創作物とかだと、よく聞く話ね)

勇者「じゃ、魔王なんて内心どうでもいいのに勇者を向わせているのは、その停戦協定があるからということですか?」

女騎士「その通り。魔王討伐に協力的な姿勢を見せなければ、それを理由に他国から袋叩きにされる恐れがある。王からしてみれば、今最も怖いのは魔王より近隣諸国だろうな」

女騎士「この三十年で、近隣諸国は幾人もの勇者を向わせた。我が国も、既に何人もの勇者パーティーが旅立っている。…無事に帰ってきた者は、一人もいないがな」

女勇者「……」ゾ〜

女騎士「こうして少人数を向わせて、魔王討伐というより暗殺まがいのことをさせるのも、近隣諸国の備えとしての軍勢を魔王退治のために消費することを嫌ったからだ。それでも、将来有望な数人の人間を失ってしまうことも事実。だから我が国の王はそれすらも嫌い、異世界の住人を勇者にしたてあげることにしたのだ。例え死んだとしても国の損失にならない、使い捨ての駒として…な」

勇者「………」


女騎士「時に、勇者殿。あなたはなぜ私が魔王討伐に加わることになったかを、知りたがっていたな」

勇者「え、あ、はい」

女騎士「簡単なことだ。私も、君たちと同じように…王にとっては、国にとっては、死んでも構わない人間だからだ」

勇者「そんな……だってあなたは、王国の部隊長って…」

女騎士「部隊長なんぞ…替えは容易に効く。既に我が部隊には、私に匹敵するほどの剣の使い手は育ってきている」

女騎士「私は実力で今の地位を勝ち取ったと自負してはいるが…部隊長の立場に立ってみて、初めて気づいたよ。女ごときが高い立場に立つことで、生じる反感の多さを…な」

勇者「………」

女騎士「更に都合の良いことに…私は孤児でな。まだ戦争が続いていた時期に、両親を失った。……例え死んだとしても、騒ぐような遺族は誰一人いないからな。捨て駒としては、ぴったりな人材というわけだ」フッ

女勇者「………それじゃ、女騎士さんは…魔王討伐から、逃げたくて……?」

女騎士「…いや、君たちがもし魔王討伐から逃げるというのなら、私一人で向かおうと思っている」

勇者「えっ!? それは…どうしてですか!? 王様に……国に、捨て駒にされちゃうんですよ!?」

女騎士「ああ、確かに国に私は捨て駒にされた。だが…身寄りのない私を引き取って、立派な騎士に育ててくれたのもまた国であり…王なのだ」

女騎士「命を国に救われたならば、私はその命を国に捧げることに悔いはない。…だが、お二方は違う。この国に…この世界に何一つ関わりのない人間だ」

女騎士「ここで逃げたところで、誰もお二人を責める人間は存在しない。この先の街ならば王都の人間にも気づかれずに暮らせずだろう。戦いに身を置くことなく…平穏に生きれるのだ」

勇者「……」

女勇者「……」


女騎士「今すぐ答えを出せとは言わない。道中にでも、じっくり考えて欲しい」










勇者「お断りします」

女騎士「何……?」

女勇者「弟!?」


勇者「僕たちは、魔王を倒さないといけないんです。『元の世界に帰るために』」


女勇者(………え?)


女騎士「…どういうことだろうか」

勇者「言葉通りです。女騎士さんは『平穏に暮らせる』と言っていましたが、僕らの目的はこの世界で平和に暮らしてこの世界で死ぬことじゃないんです。あくまで『元の世界へ帰ること』が僕らの目的なんです」

女勇者(コイツ…ちゃんと分かってはいたのね…。素でボケてた訳じゃなかったわね、流石に)

勇者「僕らを元の世界に返せる人たちといえば…当然、最初に僕たちを呼び寄せた魔術師さん達ですよね? でも、そのまま『僕たちを返してください!』ってお願いしたところで、多分聞いてくれないと思います。名目上とはいえ、僕たちは魔王を倒すために呼ばれたんですから」

勇者「でも逆に考えれば、魔王さえ倒せばお願いを聞いてくれるってことになりますよね? 人類を救った救世主みたいなもんなんだから、無視する事もできないと思います」

女騎士「…確かに一理ある。だが、魔王を倒すほどの力を持っていると知られれば、王がそう易々とお二方を返したがらぬかも知れん…何せ、魔王が倒れたとあればまた戦争が勃発する可能性が高いからな…」

勇者「その場合は簡単ですよ。『お願いを聞き入れてくれないなら他国に亡命する』って言えばいいんです。他国に行って軍事力として脅威になるかもしれないって考えたら、王からすればまだ元の世界に帰って貰った方がいいって思うんじゃないですか?」

勇者「もし僕らが魔王を倒せるくらい強くなっていたら、王様の兵士を振り切って他国に逃げ込むくらい、簡単にできそうですしね」ニヤリ

女勇者(コ、コイツ……いつの間にそこまで考えていたのよ? 普段何も考えてないように振る舞ってる癖に…)

女勇者(でも…認めたくないけどコイツ中学校の成績は昔の私より遥かにいいのよね…。地頭は良い上に、こんな非日常的状況には強いタイプってことかしらね…)

女騎士「女勇者殿は、どう考えている?」

女勇者「……今だから本音を言いますけど、私は戦うのが怖いです。正直、女騎士さんの提案にのりたいと思ってしまいました」

女勇者「でも…弟の言う通りです。私はこの世界に骨を埋めたくはないです。元の世界に帰れる手段があるというのなら…その、命を賭けてもいいと思えます。戦って…勝ちに行きたいと、思います」

女騎士「…そうか」

勇者「あ! あともう一個! 理由があります!」

女勇者「?」

勇者「女騎士さんは僕たちのことを『この国に…この世界に何一つ関わりのない人間』と言いましたが、それは違いますよ!」

女騎士「……?」

勇者「だって、僕たちは既に女騎士さんと充分に関わりあってるじゃないですか! 僕、女騎士さんに死んで欲しくないし、女騎士さんの生きるこの世界だって、守りたいと思います!」


女騎士「………!」

女騎士「……………」

女騎士「ははっ……初めてだな、そんなこと…言われたのは…」

女騎士「分かった……ならば、共に魔王討伐を成し遂げよう。必ずや」

勇者「必ずや!」ニッ

女勇者「…か、必ずや」


女騎士「さあ、二人とも。最初に仮眠をとってくれ。数時間後にどちらかを起こす」

女勇者「そうですか? それなら、私を起こしてください」

勇者「え、そう? 僕でも大丈夫だけど?」

女勇者「あんたは準備諸々を手伝ってたでしょ? 何もしてない私が最初の交代を務めるから、あんたはしばらくぐっすり眠りなさい」

勇者「うーん、分かった。じゃお言葉に甘えて…お休みなさーい」ゴロ

女勇者「えっと…じゃ、私も寝ます。交代の時間がきたら、お願いします」ゴロ

女騎士「ああ、分かった…」







女騎士「…………」

女騎士「……ありがとう」グスッ

中断します。

翌朝

女勇者「………」

女勇者「……う、う〜ん…はっ」ガバ

女勇者「そうか…そういえば、野宿してたんだっけ…」


女騎士「…女勇者殿、起きたか」

女勇者「あ、女騎士さん。おはようございます…ひょっとして、ちょっと長く寝ちゃってました?」

女騎士「いや、私も今さっき起きたところだ」

女勇者「そうですか………あ、そういえば…最後に見張ってたのは弟だったわね…」

女勇者(特に魔物に襲われる騒ぎは起きてないみたいだけど…大丈夫なのかしら。ひょっとして一人トイレ行ってる間にこっそり襲われたりとか…)キョロキョロ






勇者「でねー! お姉ちゃんったらそれで通算四回目なんだよ、定期なくしたの!」

貴竜の魔術師「へー! そうなんですか! ところでマスター、定期ってなんですか?」

勇者「定期ってのはね、一定区間を自由に行き来できる魔法のカードなんだ! 僕はまだ持つ必要はないんだけど、いずれは持たないといけないんだよね」

貴竜の魔術師「魔法ですかー、いいですね! 私、まだ半人前の魔術師だから、あまり魔法を使えなくて…」

勇者「だいじょーぶ! 君の効果のお陰で僕はたくさんのピンチを乗り越えられたんだから!」ニコ

貴竜の魔術師「…嬉しいです、マスター」ポッ



女勇者「」

女騎士「」

女騎士「…勇者殿、その娘は?」

勇者「あ、女騎士さーん! おはようございます!」

貴竜の魔術師「初めまして! この度マスターに召喚されました、貴竜の魔術師と申します! 今後も何度かお会いすることもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします!」ペコリ

女騎士「あ、ああ……私は女騎士。よろしく」


女勇者「ちょっと待て弟」グイッ

勇者「ぐえっ、お、お姉ちゃんそこ掴まないで息くるし」

貴竜の魔術師「マ、マスター!」


女勇者「あんたには大いなる説明責任がある。そこに正座して全てを吐きなさい、いいね?」ゴゴゴゴゴ

勇者「…はい」

貴竜の魔術師「は、はいぃ…」ウルウル

女勇者「……つまり、要約すると…」

女勇者「『表側守備表示での召喚ができるかとか、長い間召喚していられるのかとか色々実験してたら、召喚した貴竜の魔術師はなぜか普通に喋れたから、ずっと雑談に花を咲かせていた』と…」

勇者「そ、そういうこと…」エヘヘ

女勇者「ま、状況は理解したわ。とりあえず私の恥部をペチャクチャと喋り散らかした制裁は後で加えるとして…」

勇者「ひ、ひぃ…」ブルル

貴竜の魔術師「マ、マスターは悪くないです! 私がマスターにお話をせがんだから…」

女勇者「や、マスターの話は一旦置いといてね。私が聞きたいのはあなたの存在よ」

女勇者「あなたは…何? カードに宿る精霊とか、そういうのなの…?」

貴竜の魔術師「えっと、私…というより、召喚されるモンスター達はカード自体に宿ってるって訳では…ないです」

貴竜の魔術師「イメージとしては、マスターが私を召喚したことで、元の『私』からその一部がマスターの元へ現れた…みたいな感じです!」

女勇者「…よく分かるような、分からないような……ま、まあいいわ」

女勇者(それにしても…まさか実体化したモンスターと会話できるなんてね…)

女勇者(モンスターとお話できるとなると…戦闘破壊された時はやっぱり痛くて苦しいのか、シンクロ素材やリンク素材になった時はどんな感触なのかとか…好奇心で聞きたいことはそれなりにあるけど……やめときましょう。なんか怖いわ)

女勇者「と、とりあえず今のところは帰っていただいていいかしら? 出発の準備しないといけないんだから…」

勇者「んー、わかった。じゃあね! 貴竜!」ピッ

貴竜の魔術師「はい、マスター! 私の力が必要な時は、いつでも呼んでくださいねー!」シュン


女騎士「……あの少女も勇者殿が呼び出した者だったとはな…。彼女も戦えるのか?」

勇者「うーん、貴竜は確か攻撃翌力700しかないし…戦うというよりシンクロ素材やリンク素材にする方がメインですねー」

女騎士「素材…?」

女勇者「ああえっとですね! 彼女の力を使ってより強いモンスターを呼び出すとか、そういう意味です! 決してそんな生贄とリアル融合とかそういうグロい話じゃないので!」

女騎士「…? そうか」

女勇者「あのモンスターの話は一旦置いといて…弟、あんたはどれくらい貴竜の魔術師を召喚し続けてたの?」

勇者「どうだろ……三時間以上は話してたのかなあ」

女勇者「よくそこまで雑談に花が咲くもんだ…まあいいわ。そこまで召喚を続けられるなら、次の町まで移動中もなんかしら護身用のモンスターを召喚しておけば、突然の魔物の襲撃にも安心してられるかもれないわね」


勇者「え? じゃあ、連れ歩きする!? モンスターの連れ歩き! よーし、デュエル!」パッ パッ パッ パッ パッ

LP:8000

女勇者「え、ちょっとまだやりなさいとは一言も…」

勇者「ドロー! 僕はスケール4の《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》と、スケール8の《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》をペンデュラムスケールにセッティング!」


キュイーン PENDULUM キュイーン

オッドアイズ・ファントム・ドラゴン シュワーン
オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン シュワーン


勇者「揺れろ! 魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!」

勇者「ペンデュラム召喚! 来い、マイフェイバリットモンスター!」

勇者「雄々しくも美しく輝く二色のまなこ!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」



ギャオオオオオオ!!!

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK2500


女勇者「うっわ…いつ見てもやばい迫力ね」

女騎士「……ドラゴンか。国の兵士でもそうそうお目にはかかれない最上級魔物を、いともたやすく呼び寄せるとは…」

勇者「よーし、オッドアイズ! 襲いかかる魔物達から僕らを守ってくれ!」

オッドアイズ コクリ

女勇者「うわ、しかもちゃんと反応した……そうだ、モンスターに荷物持たせれば楽になるのでは…」ボソッ

勇者「あっ、お姉ちゃんオッドアイズはダメだからね! この子は戦わないといけないんだから!」

女勇者「耳聡いやつ…ていうか『この子』って何微妙に母性を働かせてるんだか」

女騎士「お言葉だが女勇者殿。貴女はまだ体力が思ったよりついていないように思える。あくまで私の提案だが、しばらくは自分自身で荷物を持って旅をすることで、体力をつけて体を鍛えてはどうだろうか?」

女騎士「魔物との戦いは、あなた方の言う『モンスター』に任せるとしても…咄嗟の時にモノを言うのはやはり自らの体だからな」

女勇者「……おっしゃる通りです。がんばります」シュン

勇者「じゃ、オッドアイズ連れ歩きの旅、いざしゅっぱーつ!」

女勇者「魔王討伐の旅、な」

中断します。

約八時間後


女騎士「よし、この辺りは野宿するのに良さそうだ。ここで準備をするとしよう」

女勇者「ハヒー…は、はい。分かりました…」

勇者「よし! ありがとうオッドアイズ! またねー!」ポチ

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン スゥ


女勇者「せっかく護衛に出てもらったけど、今日は全く魔物に襲われなかったわね…」

女騎士「比較的魔物の出る危険のある場所も通ったが…この巨体と威圧感を持つドラゴンだ。魔物も近づきたくはないだろう」

女勇者「なるほど、魔物避けになっていたってことね…。や、それにしても…」

〜回想〜


旅人「っっっっ!!!!????」

オッドアイズ「……」ドスドス


勇者「♪」フリフリ

女騎士「…」ペコリ

女勇者「あ、あはは…」

旅人「………」ビクビク ビクビク


〜糸冬〜


女勇者「偶然すれ違った人までめっちゃビビらせらせてたわよね…」

女勇者(ドスドス歩きする謎のドラゴンと、Pスケールという名の謎の青い柱を展開しながら歩く三人組…いくらファンタジー世界の住人でもビビるわな…)

女騎士「ふむ。ドラゴンを連れて歩くのは、魔物との襲撃をある程度予防するのにいいかもしれんが…下手したら、他の冒険者からなんかしら誤解されて、襲われることもないとはいえない…か」

女勇者「『ドラゴンを引き連れてる悪い奴ら』と誤解されて襲われて、挙句オッドアイズが反撃してその人を死なせでもしたら……うん、最悪ね」


勇者「うーん、そっか………あ、じゃあさ! 明日からはお姉ちゃんのモンスターを連れ歩きしようよ!」

女勇者「その連れ歩きって表現は相変わらずしっくりこないけど……でも、私の機界騎士だって他の人をビビらせるには充分でかいし怖いと思うわよ。そりゃ、人型なだけオッドアイズよりマシかも知れないけど…」

勇者「いや、大丈夫だよ! お姉ちゃんのデッキにもいるじゃない! 連れ歩いても違和感ない、普通の人間のモンスターがさ!」

女勇者「え? あ、あー……うん。そういえば…まあ…」

勇者「女騎士さーん! 小天幕の張り方、こんな感じでいいですかー?」

女騎士「ああ、ぴったりだ。飲み込みが早くて助かる」

勇者「へへ。お茶の子さいさいですよ!」ニコ


女勇者「…ドロー」ピッ

勇者「お姉ちゃーん、まだー?」

女勇者「まだまだ。今事故ってるんだから…」

勇者「そっかあ。やっぱり手札事故が一番怖いね。魔王の前で事故ったらどうしよう…」

女勇者「や、事故ってるのは対戦相手がいないせいで機界騎士のSS条件みたせないせいでもあるんだけど…」

女勇者「…ドロー。あ、引いたわ」

女勇者「手札から魔法カード《予想GUY》 を発動」

女勇者「デッキから《機界騎士アヴラム》を特殊召喚!」



\シュワーン/

機界騎士アヴラム ATK2000

アヴラム 「……」




アヴラム 「……」

アヴラム 「……貴女が、俺のマスターか」

女勇者「え、あ、はい」

女勇者(半分予想ついてたけど、やっぱり喋った……しかも、どっかで聞いたことあるような無いようなセリフを)

勇者「ほら、このモンスターなら一緒に連れ歩いても違和感なくない?」

女勇者「…まあ、確かにね」

アヴラム「……?」

女勇者「あ、えーっと……コホン。あなたを召喚したのは…その、私たちの護衛を頼みたくて……ね」

アヴラム「護衛? …それは、今からということか?」

女勇者「あ、いや…今呼び出したのは確認のためであって…本当に頼みたいのは昼間の護衛なんだけど…」

勇者「はいはーい! 僕、アヴラムさんに質問したいです!」ピョコ

アヴラム「…?」

女勇者「…既にモンスターと喋り慣れてるやつは遠慮がないわね…。質問するなら、まともなのにしなさいね…」

勇者「まともな質問だって! ね、アヴラムってやっぱりずっと起きていると眠くなったりする?」

アヴラム「……いや。俺は今この場にマスターのモンスターとして呼ばれている。デュエリストに呼び出されたモンスターは食事や睡眠などの生理現象は必要としない。だから、眠くなることはない」

女勇者「あ、そうなの…。人間とかじゃなく、分類としては『モンスター』っていう生き物って感じなのね……って、こんな質問して弟はどうしたいの? それともただ気になっただけ?」

勇者「そりゃあさ! モンスターが食事も睡眠も取らなくていいなら、夜の見張りを任せればいいじゃんって思って!」

女勇者「あ、ああ…なるほど。………ていうか、考えが合理的というか容赦ないというか…」

女勇者「いや、いくらアヴラムがモンスターという生き物だとしても、仮にも人間の姿をした人を一晩中寝ずの番でこき使うのは気が引けるわ…」

アヴラム「マスター。俺に気を使う必要はない。俺はマスターの命令に忠実に従うモンスターなのだから」

女勇者「え、あ…は、はあ……それなら、お願いしても…いい?」

アヴラム「…」コクリ


女勇者(……なんだろう。見た目、弟と変わらない歳に見えるけど…雰囲気が、その…威圧感?みたいな…)

女勇者(これが、モンスターとしての雰囲気なのか…それとも、何か…)



女騎士「話は、まとまったようだな」

アヴラム「……あなたは」

女騎士「申し遅れた。私は女騎士。この二人の勇者殿にお仕えする従者だ。心の隅で、記憶して頂けるとありがたい」

女勇者「いや、従者だなんて…。この人は、私たちの仲間よ」

勇者「そう! 女騎士さんは強くてかっこいい頼れるお姉さんなんだ!」

女騎士「………」カァ



アヴラム「…勇者。マスターが………」

アヴラム「そうか。分かった…。これからも、よろしく頼む」



勇者「グー…むにゃにゃ…うう……魔封じの芳香だけは…やめて……」ブツブツ

女騎士「……」グッスリ



女勇者「………うーん」

女勇者「……」ムックリ


焚き火 パチパチ

アヴラム「……どうした? マスター」

女勇者「あー……ちょっと、お手洗い……もとい、お花摘み…かな」フラリ

女勇者(うう…正直、まだ慣れないし…慣れたくないけど、慣れるしかない…いやだけど)

女勇者(弟が起きている間は意地でも我慢してたけど…モンスターのアヴラムなら一億歩譲ってセーフ…ああでもダメだ恥ずかしい…)



アヴラム「……気持ちは分かる。だが、あまり遠くには行かないほうがいい」

女勇者 ビク ッ

アヴラム「いざという時、守れなくなる。…耳は塞いでおくが、何か危険があったら、大声を出すといい」

女勇者「は、はい…」

女勇者(ううう…手洗いどころか…汚れた体を洗いたい…けど、
周辺に川もないっていうし…ガマンするしか…ないか)ハァ

女勇者(ファンタジー世界の人が旅をする時って…大変なのね…)フラリ


アヴラム「……」

焚き火 パチパチ


女勇者(ファンタジー世界の…人間……)

女勇者(星遺物世界……か…)

女勇者「……」

女勇者「……」スッ



アヴラム「……どうした、マスター?」

女勇者「あ、あー……えっと…」

女勇者(ヤバイ、無意識に隣座っちゃった。いや、ちょっと好奇心があるのも確かなんだけど…
え、聞いていいやつなのかな…これ…)





女勇者「…え…えーっと…」

アヴラム「……」


女勇者「アヴラム…は、さ………記憶は、あるの?」

女勇者「モンスターとしてじゃなく…『人間』としての…記憶が……」



アヴラム「全て、ある」




女勇者「す、全て……?」

アヴラム「産まれてから…幼少期を、星振の森で過ごして...」

アヴラム「世界を救うための、旅をしてから…『この姿』になった後も…」

女勇者「……え」






アヴラム「…旅と、戦いを続けたその果てに……『神』となった記憶まで…な」



女勇者「それ…って…」

女勇者(『この姿になった後も』…ってことは、《機界騎士アヴラム》としての記憶だけじゃなくて…)

女勇者(《天穹のパラディオン》や《双穹の騎士アストラム》の時代の記憶も…)

女勇者(それに『神』っていうのは……やっぱりよくネットの考察で言われていた、双星神a-vidaの…)ジー




アヴラム「……まだ、何か?」

女勇者「!」ハッ

女勇者「あ、い、いえ! お、お休みなさい!」アセアセ タッ

アヴラム「……お休み、マスター」




ゴロリ

女勇者(…同一人物のモンスターは、それぞれの記憶を全部共有してるってこと…なのかしらね)

女勇者(まだマスターガイドが発売されていなかったから詳しいことを知ってる訳じゃないけど…カードイラスト的に、あのアヴラムも相当な人生送ってるはずなのよね…見た目は弟の年齢なのに…)


女勇者(…ああ、ダメ。眠れなくなっちゃったわ…。うん、モンスターの人生を興味本位で聞くのは、やっぱりやめにしよう。…なんだか、私みたいな現代人が踏み込んじゃいけない領域な……気がする)

中断します。

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