ーとある孤島ー
まぶたを刺す強い日の光と潮の香りを運ぶ風に顔をくすぐられ、男はゆっくりとまぶたを開いた。
トレーナー「う、ここは…」
トレーナー「……ここは何処だ?」
土を枕にした睡眠は最悪で、全身が鈍い痛みを訴えている。
トレーナー「オレは何でこんなところに…… アレ?」
トレーナー「名前が思い出せない……」
記憶を辿ろうとして気がつく。ここにきた経緯どころか自分を思い出せないことに。
これまでの経緯を頭から掘り出だそうとする。しかし、置かれている現状が彼の視界に飛び込んできた。
トレーナー「!… おい、嘘だろ……」
人が倒れている。一人ではない、3人、4人。
いや、それ以上。
頭を動かすたびにまた、新たな人影がどんどん湧き出てくる。
トレーナー「おい、あんた、大丈夫か!」
???「う、ウーン……」
近くに倒れていた男に駆け寄り、トレーナーは肩を叩く。
目を覚ました男は、トレーナーと同様に困惑した表情を浮かべ、うろたえている。
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突然、サイレンが鳴り響いた。
海風に晒されて錆びた鉄塔。そこ括り付けられたスピーカーが歪み掠れた音楽を騒々しく響かせ、島を包み込む。
『皆さま、ご起床ください…… 皆さま、ご起床ください。これよりゲームの説明を致します』
トレーナー「ゲーム? 一体何のことだ……」
放送の音楽に起こされ、地面に伏した人々が徐々に意識を取り戻し、サイレンの音に騒然とする人々の声が重なった。
「おい!、ここは何処だよいったい!」
「あれ?、あれ? オレの荷物は?」
「誰か、誰か……」
人々の声を意に返さず、スピーカーは淡々と放送を流し続ける。
『参加者の方々は、速やかに管制塔にお集まりください。繰り返します、参加者の方々は………』
トレーナー「管制塔? ……あの建物のことか?」
目の前にある、腐ったフェンスが並ぶ先にあるコンクリートの平地のすぐそばにガラスの外れた低い塔が立っている。
先ほどまで倒れていた場所は滑走路脇の芝生だったようだ
トレーナー「ここは腹を決めて行くべきなのか……」
彼は服についた土汚れを払い、管制塔へ歩みを進める。
周囲のものもまた同様に、ゆっくりと建物へ集まり始めた。
ー管制塔一階ー
黒服「ゲーム参加者の皆さま、こちらにお集まりいただきお待ちください」
古く錆の匂いが臭う管制塔の一室。
黒服の嫌に丁寧な対応に促され、参加者は人の流れのままに部屋に集まり出した。
参加者「あのー、すみません。ここどこなんでしょうか?」
黒服「これから説明が始まります。しばらくお待ちください」
黒服の無機質な対応に口ごもる。
部屋の中は満杯になり、ざわめきの中から少しずつヤジが漏れ出したまさに、その時だった。
???「ポケットモンスター!! 縮めて、ポケモン!」
参加者「ーー!?」
暗転した室内、天井からはじかれたスポットライトの中に男が立つ。
???「この星の、不思議な、ふしぎな生き物」
???「山に、海に、空に…… 世界中の至る所で見ることが出来る」
???「ポケモンの数だけ夢があり、ポケモンの数だけの冒険がある!」
参加者「………」
???「そこで、君たちには新しい冒険の舞台を用意した……… そう!!!」
???「Pok?mon knows battle grounds の開催をここに宣言する!」
参加者たち「! ………」ポカン
???「ポケモン同様、縮めてPUBG。ン言いにくいならパブジィと呼称してくれたまえ諸君ゥン!」パチパチ
参加者の一人「あのー… これは一体どういうことでしょうか……?」
???「みんなは、ポケモントレーナー! これからキミたちがワクワク、テカテカする夢の冒険が始まるのさッ!」
トレーナー「ポケモントレーナー……」
トレーナー「そうだ思い出した…… 俺はポケモントレーナーなんだ……」
トレーナー「でも、どうしてだろう。今はその事しか思い出せない……」
???「まだ、実感が湧かない人も居るかなぁ?」
???「心配しないで! 気持ちが落ち着けば時期に分かることさ。そんなことより、先ずは自己紹介だ!」クルリ
カブト博士「僕の名前はカブト、3月生まれのナイスガイ!」
カブト博士「研究は主に、ポケモンと人類の行動科学、および社会科学!」
カブト博士「そして、これが……」スチャ……pon!
カブト博士「ご存知、ポケモン! この子はデスマスだね!」
カブト博士「ほら、デスマス。みんなに挨拶しよう!」ササッ
デスマス「………」ヨォ テメェラ ドイツモ コイツモ ウス イハンノウ シヤガッテ
デスマス「………」ブチコロ サレテェノカ クソドモガッ!
カブト博士「コ~ラ~ッ、イジワルくんのお口はチャックだよ!」プンプン!
参加者「………」ポカーン
カブト博士「そして君たちはポケモントレーナー」
カブト博士「ポケモンバトルで互いの絆を深め、より強いトレーナーとの対戦に挑んでいく」
カブト博士「私は、そんな君たちへのプレゼントとして新たな戦いの舞台を送ろうと思う」
参加者「なんだ……この音」ザワザワ
聞こえてきたのはエンジンの音だ。
参加者「おい、あれを見ろ!」
滑走路に降り立ったそれは、大型のプロペラ機。
4発のエンジンから響く空気の振動は古びた管制塔の窓を震わせ、天井から砂埃を降らせた。
カブト博士「あれが、君たちを決戦の地へ運ぶ飛行機さ」
要領が飲み込めないといった表情で唖然とする参加者たち。
トレーナー「あの……つまり……オレたちはこれからポケモンバトルをするんですか?」
ポケモントレーナー。そう言われてみると、自分はポケモントレーナーだという実感がどこからか湧いてくる。
カブト博士「その通り。ただし、ルールは少し違うけどね」
博士と名乗る男が手を鳴らすと、黒服たちが大きな台車を押して参加者たちの前に並んだ。
黒服「これよりゲームに使う支給品の配布を行います」
黒服「自身のプレートの番号が呼ばれたものはカバンを受け取り飛行機に乗り込んでください」
黒服「それでは1番の方……」
トレーナー「ナンバープレートってこれか……」
トレーナーは服につけられたナンバープレートを見る。
書かれたナンバーは47番だ。
他の参加者たちも同じ型のプレートをつけている。
47(トレーナー)「あのカバンの中身は何だろう」
名前を呼ばれた参加者たちがカバン、いわゆるウエストポーチを受け取り外の飛行機へと乗り込んでいく。
47「俺の番はまだ先か……」ソワソワ
参加者「あ、あの!」
参加者の人混みから手が上がる。
カブト博士「何でしょう。えー、ナンバー……61番さん」
手を上げ、指差されたのは、オドオドとした雰囲気の女の子だ。
61番「あの…わたし。ここに来るまでの記憶が無いんですけど……」
61番「それに、どうしてか自分の名前も思い出せなくて……」
カブト博士「ああ、そのことか」
カブト博士「君たちの記憶は一時的に封印させてもらったよ。機密保持の観点からね」
61番「そんな…… どうして……」
カブト博士「信用できないのは分かるよ。ただ……」
カブト博士「一つ言えるのは君たちは全員、自分の意思でここ
にいるってこと」
参加者はどよめく。
47番「(自分の意思だって……?! )」
カブト博士「誘拐だなんだと思っていただいて結構。だけど、この孤島から出るにはあの飛行機が必要だろう」
カブト博士「それに、あの飛行機にはその理由を載せてある。まあ、乗るかそるかは君たち次第さ」
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