【鬼滅の刃】愛の言葉は必要か【ぎゆしの】 (28)

キメツ学園軸
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こちらと連作です
良ければどうぞ…
【鬼滅の刃】愛の言葉は私から【ぎゆしの】
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「お前、ちゃんと胡蝶に思ったこと伝えてるか?」

 同僚の宇髄天元に食事に誘われた。鮭大根のある店を探すと言って俺に気を使う宇髄に断りをいれる。

「大丈夫だ。鮭大根はなくてもいい」

 こう言ってはなんだが、鮭大根を置いてある店は珍しい。わざわざ探すとなると大変な時間がかかるだろう。春休み中の貴重な昼休憩をそんなことに使う必要はない。義勇はそう思って断りをいれた。

「なんでだよ、お前鮭大根好きだろ?前は毎日食ってたじゃねぇか」
「あぁ、確かにな…だが…もうその必要はない」
「はぁ?どういうことだよ?」

 納得いかないとばかりに宇髄が理由を尋ねるので、正直に答える。

「鮭大根は胡蝶が作ってくれるのが一番美味い」

 そう言うと、何故か宇髄は目を見開いた。まるで何かに驚いているようだった。その後、ため息をついて諦めたような表情に変わり、冒頭のセリフを口にしたのだ。

「お前、ちゃんと胡蝶に思ったこと伝えてるか?」
「…どういう意味だ?」
「どういう意味もクソもねえよ。そのままだ。お前のことだから、胡蝶の鮭大根が美味いことどころか最近は店で鮭大根食ってないことすら言ってないだろ?」
「…」
「図星かよ…」

 確かに胡蝶に言ったことはない。けれど、それはわざわざ言うほどのことだろうか。

「お前は本当…わかってねえな…いいか?女ってのはな、ちゃんと言葉で伝えてほしいものなんだよ!」
「いや、胡蝶にはきっと伝わっている」

 なんせ前世から、口下手な自分のことを散々フォローしてくれていたのだ。現世に生まれ変わった今でも、彼女は自分のことを理解してくれている。

「そういうことじゃねぇんだよ。いいか?全く同じ人間なんていないんだ。口で言わなきゃ伝わるわけねぇだろ?」
「…確かに」
「それによぉ、仮に伝わっていたとしても女っつうのは言ってほしいもんなんだよ」
「…そういうものなのか」

 宇髄は前世では三人の嫁を娶っていた。現世では流石に結婚こそできないが、それでも同じ三人と仲睦まじく生活しているらしい。そんな宇髄が言っているのだから間違いないのだろう。

「そりゃあお前らのことだから、普段の話の流れで察してるとは思うぜ?けどな、その敢えて言わなかった一言が大事に思う瞬間があるんだよ」
「…なるほどな」
「鮭大根が美味いことだって、伝えてんのか?少なくとも俺はお前からそんな台詞が聞こえて驚くくらいには、言ってなかったと思うぜ?」
「うっ…」

 確かに、胡蝶は俺の好物と知っているから鮭大根をよく作ってくれている。しかし、宇髄の言う通り、店で食べるより美味いと思っていることを伝えたことはなかった。

「『思ってたんだ』じゃ伝わらないんだぜ?そんなこと、お前ならわかっているはずだろう?」
「…」

 返す言葉もない。前世では結局死に別れてしまった。前世ほどではないかもしれないが、今世だって何が起こるかわからない。明日一緒にいられる可能性は100%ではないのだ。

「俺の気持ち…か…」

 仕事を終えた帰り道。義勇は一人呟く。思えば生徒として再会した時から、しのぶには多くの我慢をさせてしまっていた。教師と生徒だからと、付き合うのは卒業するまで待たせてしまったし、付き合ってからも口下手な義勇に合わせてくれるのはしのぶの方だ。
 元々溜め込みやすい性格で、油断をするとすぐに自分を犠牲にしようとする。そんな彼女のことを幸せにしたかった。前世から、自分のことより他人のことを大切にする彼女のことを何より大事にしたかった。それなのに、どうして鮭大根が美味いくらいのことを言ってやれなかったのだろうか。

「いや…違うな…」

 そうだ、鮭大根どころではない。ずっとずっと、しのぶには世話になりっぱなしだ。口下手を良いことに甘えてきてしまった。もっともっと言わなければいけないことがあるのではないか。

「…よし」

 帰ったら全部伝えよう。唐突かもしれない。ひょっとしたら上手く伝わらないかもしれない。けれど伝えずにはいられない。これまでの想いを、前世の分まで。
 さて、どんな言葉で伝えようか。あまり長々と話すべきではないな。簡潔に、それでいて気持ちが伝わる言葉を…
 そんな風に考えながら義勇はいつもの帰り道をゆっくりゆっくり歩いていった。

「話があるんだ」

 家に帰り、荷物を置く。しのぶはもう既に夕食も風呂も準備してくれている。けれど、その前に義勇は決心が鈍らないうちに日頃の想いを伝えようと心に決めていた。

「話…ですか?」

 けれどしのぶはどこか浮かない表情だ。まるで何かに怯えているかのようだ。なるほど、確かに宇髄の言っていることは正しかったらしい。俺はこんなにもしのぶを不安にさせていたのか。

「あぁ、いや、何、大した話ではないんだが…」

 いざ言うとなると、少し気恥ずかしく思ってしまい、言葉が詰まる。こんなことではいけない。しっかりと伝えなければ。呼吸を整えて、話を始めようとしたその瞬間からだった。

「わ、私も!義勇さんにお話があります!」

 なんとしのぶの方からも話があるという。なんだろう。この不安そうな表情…というより、青ざめているようにも見える…ひょっとして、もう手遅れなのだろうか。向こうは既に俺に愛想を尽かしてしまったのかもしれない。

「…そうか、だが俺から言わせてほしい」

 もしもそうだったとしても、ちゃんと今までの感謝は伝えよう。そうしないと、自分の中で納得ができない。

「い、嫌です!私からがいいです!」

 珍しい。いつもは折れてくれるしのぶが、自分の意見を通そうとするなんて…それほどまでに俺といるのはもう限界なのだろうか…そう思うと胸が締め付けられるけれど、だとすればこちらも尚更譲れない。フラれた後に気持ちを伝えられる程、強いメンタルは持ち合わせていないのだ。

「わかった…それならお互いに同時に言うと言うのはどうだ?」
「え?」

 我ながらバカげた提案だと思った。けれどしのぶも譲りそうにない。俺にとってはこれ以外にこの状況を解決する方法がわからない。こうするしかないのだ。

「…わかりました」

 そんなバカげた提案にしのぶは珍しく乗ってきた。そこまで俺に愛想が尽きたのか。もうしのぶの顔は涙が溢れて見ていられない。すまない、しのぶ。これだけ…これだけ言えば、俺はもうお前の目の前からは消えるから…だから、これだけは言わせてくれ…

「しのぶ…」
「義勇さん…」
「愛してる」
「愛しています…」
「「え?」」

 打ち合わせていたかのように、二人とも同じ言葉を言っていた。驚いたところに至っては本当に同時だった。

「しのぶ…俺に愛想を尽かしたんじゃ…」
「義勇さんこそ…他に好きな女の人ができたんじゃ…」
「何の話だ?」

 本当に何を言っているのかがわからない。そこで俺は宇髄の言葉を思い出す。なるほど、こう言う時に俺は一言足りなかったのだったな。

「俺はしのぶ以外の女を愛したことなどないが?」
「義勇さん!」

 言い終わるか終わらないかのうちにしのぶが抱きついてきた。わんわん泣いている彼女を俺は傷つけてしまったのだろうか。

「なるほどな…そんなことが…」
「うぅ…恥ずかしいです…」

 しのぶをなんとか泣き止ませ、お互いに事情を説明する。なんという偶然だろう。いや、それだけ自分たちのことを心配してくれている人が多いということか。感謝するべきことだな。

「しかし、確かに言ってみないとわからないものだな…まさか、しのぶが俺のことをそんなに浮気性だと思っていたとは…」
「ぎ、義勇さんだって!口に出してなかっただけで私が愛想を尽かした冷血女だと思ってたじゃないですか!」
「そこまでは言っていない」

 いや、これはお互いさまだな。宇髄の言う通り、言わなければ伝わらないこともあるのだ。

「ほら、もう夕食にしましょう!今日は鮭大根ですよ?」

 恥ずかしさを誤魔化すように顔を背けてしのぶが言う。そうだ、そういえばこれも言っていなかったな。

「しのぶ」
「はい?」
「いつもありがとう…しのぶの鮭大根が、一番美味い」
「…どういたしまして」

 相変わらず、しのぶはそっぽを向いたままだったが、真っ赤に染まった耳を見ると気持ちは伝わってくる。なあ、宇髄。確かに言わないと伝わらないこともあるけれど、こんな風に伝わることもあるっていうことも知ってるか?

終わり

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