【鬼滅の刃】愛の言葉は私から【ぎゆしの】 (37)
キメツ学園軸
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こちらと連作です
良ければどうぞ
【鬼滅の刃】愛の言葉は必要か【ぎゆしの】
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「しのぶ、ちょっとお話があります」
「は、はい…」
こう言われたのは久しぶりに姉さんとランチをしている時のことだった。元々仲の良い姉妹だったが、お互いに結婚してからは忙しく今日は久しぶりのランチ会だった。
「でね、実弥くんったら、『もうこれ以上はおはぎは…』って寝言言ってるのよ」
「へぇ、あの不死川先生がねぇ…意外かも…」
「けどね、その後すぐに『いや、きなこは別だろォ』って言ったの。それがおかしくっておかしくって」
「ふふっ…何その自分ルール…」
話題は自然とお互いの相手の話になってくる。姉さんもこんな風に不死川先生の他愛もない話をしてくれていた。
「けど、姉さんはいいわよね…相手が不死川先生だもの…」
「あら、冨岡くんだって優しいじゃない」
「優しいけど…」
だから私も、義勇さんの話をする。ただそれだけのつもりだった。けれど…
「でもね、本当に言葉が足りないのよ?この間だってそう、デートでふらっと居なくなったかと思ったら、全身ズタボロになって帰ってきたのよ?」
「えぇ!?」
「それで、理由を聞いたら『喧嘩した』としか言わないの…」
「そ、それ…どうしてなの?」
「そう思うわよね?そこからゆっくり話を聞いたの。一時間くらいだったかしら、それくらい話してやっと、私を盗撮してた人たちと揉めてたってことがわかったのよ…」
「えぇ!?」
姉さんが驚くのも無理はない。そんなことを当の本人に黙って勝手に解決しようとしてしまう。そんな不器用な人なのだ。
「本当に…もう少しちゃんと説明してほしいわよ…心配するこっちの身にもなってほしいわ…」
「うーん、けどそれは冨岡くんの優しさでしょう?」
「だけど!姉さんはいきなり自分の旦那さんが傷だらけで帰ってきたらびっくりしない!?」
「それは、びっくりするけど…」
「ね?そもそも普段から言葉が足りないのよ!この間だって、何を思ったのかアサリを大量に買ってきたのよ?」
「アサリを?どうして?」
「話を聞いたら『アサリは貧血に良い』としか言わないの。多分私がその時貧血気味だったからだと思うんだけど…それにしたって五キロも買ってこられても困るわよ!」
「そ、そんなに…」
「そうなの!もう本当にどうしようもない…」
そう言って私はため息をつく。そこからは似たような愚痴が口から自然に溢れ出てきた。基本的に義勇さんは口下手で会話がにがてだからこの手の話題には事欠かない。似たようなエピソードを五つほど披露した頃、姉さんが口を開いた。
「しのぶ、ちょっとお話があります」
「は、はい…」
いつになく神妙な面持ちで口を開いた姉さんに思わず敬語で返事をしてしまう。
「…まさかとは思うけれど、いつもこんな感じなの?」
「こんな感じって?」
「…冨岡くんのお話するときはいつもこんな感じ?」
「え、えぇ…まぁ…」
「はぁ…そう…まさかとは思ったけどね…」
ため息を吐きながら、姉さんは頭を抱える。どうやら私は何かをしでかしてしまったようだ。
「あのね、しのぶ。私はこれでも貴女のお姉さんだから、しのぶが素直じゃないこともわかってるし、近しく感じている人にほどツンツンした態度を取っちゃう性格もわかってるつもりよ」
「はぁ…」
あまり納得はいかないが、ここで反論すべきではないと感じ相槌を打つ。姉さんは続ける。
「だけどね、夫婦っていうのは元々他人なの。そりゃあ冨岡くんとは前世からの知り合いで、気心だって知れているけど、それでもこんな風に悪口を言われ続けて耐えられるかしら?」
「悪口って…そんなつもりは…」
「そうね、そんなつもり無いわよね…けどね?しのぶがこの数分の間に言った言葉を思い出してみて?」
「この数分の?」
「『もっとしっかりしてほしい』『どうしようもない』『なんでそうなるのかがわからない』」
「あっ…」
「ね?気づいたでしょう?」
なるほど、こう聞くと私の話は義勇さんの悪口に他ならない。
「そりゃあ一緒に暮らしてるんだもの。嫌なところの一つや二つはあるわよ。私だって実弥くんに思うところもあるもの。けどね、言い方や伝え方は気をつけなきゃダメよ?」
「うん…そうね…」
「たまには素直に『愛してる』って言ってあげてもいいんじゃない?」
「愛し…へ?」
唐突に飛び出してきた言葉に驚いて、つい情けない声を出してしまった。
「あら、私たちは結構頻繁に言ってるわよ?」
「嘘!?あの不死川先生が!?」
姉さんが言っているのはあまり違和感はないが、あの強面なんてものじゃない不死川先生が言っている姿が想像できない。どんな顔をして言っているのだろうか。
「だって言わないと伝わらないじゃない。私は必要だと思うわよ?」
「けど…そんなのがらじゃないし…」
私だけじゃない。義勇さんだって私にそんなことを言われた日にはビックリして目を丸くするだろう。
「あらそう、じゃあ無理強いはしないけど…」
しかし、次の姉さんのセリフを聞いた時、私の中で時間が止まった。
「知らないわよ?冨岡くんが誰かに取られても?」
まるで脳みそを直接殴りつけられたような衝撃が私を襲った。取られる?誰が?誰に?どうして?そんなことを考えているうちにいつの間にか楽しいランチ会は終わっていた。
「はぁ…」
気がつくと私はいつもの家路についていた。早く家に帰らなければ。義勇さんが帰ってくる前にこの気持ちを整理しておかなければならない。
「取られる…なんてこと…ないわよね?」
ただでさえ無口で無愛想な義勇さんのことだ。私が告白した時だって、どれ程苦労したことか。前世での知り合いだなんて、何のアドバンテージにもならなかった。そもそも義勇さんは浮気ができるような性分ではない。けど…
「もしも、本気だったら…?」
それなら充分にあり得る話だ。思い返せば、私が素直だった瞬間なんて、前世を含めても告白したあの時くらいだ。それまでもそれからも、彼の優しさに甘えて冗談や嫌味を言ってからかってばかりだった。もしも、そんな女に嫌気が差してしまったら?
「いや…いや…そんなの…いや…」
考えれば考える程、嫌な方向に考えてしまう。
「よし…」
姉さんのアドバイスを真に受けるわけではないけれど、今日くらいは素直になってみよう。たまには可愛い姿を見せてもバチは当たらないだろう。どんな言葉なら彼をつなぎ止められるだろうか。天然な彼にでもわかるようにしなければ…そんなことを考えながら、私は義勇さんの好きな鮭大根を作る。
「話があるんだ」
帰宅した義勇さんが、着替えもそこそこに私にそう伝える。
「話…ですか?」
いつにも増して真剣な表情。いつもなら、もっと余裕をもって聞けただろう。けれど、あんな話があった後では気が気でない。
「あぁ、いや、何、大した話ではないんだが…」
妙に歯切れが悪い。口下手ではあるが、言いたいことは誤解されても言う人なのに…そんなに言いにくいことなのだろうか…まさか本当に…捨てられてしまうのだろうか…
「わ、私も!義勇さんにお話があります!」
もしも本当に義勇さんに、他に好きな人ができたのならば、それを伝えられる前に言わなければならない。それでつなぎ止められるなんて思って無いけれど、フラれてからではとてもではないが伝えられないからだ。
「…そうか、だが俺から言わせてほしい」
珍しい。いつもは私がどんなワガママを言っても譲ってくれるのに…ねぇ、義勇さん、そんなに私のことを嫌いになってしまったんですか?
「い、嫌です!私からがいいです!」
溢れ出しくる涙が止められない。けれど、それを気にする余裕もない。泣くな、泣くな、面倒くさい女になったらダメ…いや、いっそこの場で大泣きしてみせようか。そうすれば、この人は私を忘れずにいてくれるかもしれない…けれど、それも全てこの言葉を伝えてからにしよう。
「わかった…それならお互いに同時に言うと言うのはどうだ?」
「え?」
驚いた。義勇さんの方からそんな提案をしてくるだなんて。そんなにも、私とは一緒にいられないのだろうか…こんなことになるのなら、もっと早く素直になっていれば良かった。姉さんみたいな人ならば、愛想を尽かされることもなかったのかな。
「…わかりました」
私は覚悟を決める。この後、どうしよう。行く宛なんてない…姉さんだって不死川さんと家庭をもっているのだ。転がり込むわけにはいかない。そんなことを考えながら、けれど、最後に自分の気持ちは伝えなければ。キュッと気合で涙を止める。最後くらいちゃんと伝えなければ…
「しのぶ…」
「義勇さん…」
「愛してる」
「愛しています…」
「「え?」」
打ち合わせていたかのように、二人とも同じ言葉を言っていた。驚いたところに至っては本当に同時だった。
「しのぶ…俺に愛想を尽かしたんじゃ…」
「義勇さんこそ…他に好きな女の人ができたんじゃ…」
「何の話だ?」
本当に驚いた顔をしている。違った?義勇さんは、私を嫌いになったわけじゃない?ダメだ、安心して涙が止められない。そんな私に、義勇さんは追い討ちをかけてきた。
「俺はしのぶ以外の女を愛したことなどないが?」
「義勇さん!」
言い終わるか終わらないかのうちに私は義勇さんに抱きつく。嬉しくて嬉しくてたまらない。今はともかく、彼がどこにも行かないことを、自分のものだと言うことを感じさせてほしかった。
「なるほどな…そんなことが…」
「うぅ…恥ずかしいです…」
しばらく義勇さんに抱きついて泣いた後、お互いに事情を説明する。なるほど、全ては宇髄さんのせいですか…全く、義勇さんが悩むわけです…次に会った時にはどうして差し上げましょうか…
「しかし、確かに言ってみないとわからないものだな…まさか、しのぶが俺のことをそんなに浮気性だと思っていたとは…」
「ぎ、義勇さんだって!口に出してなかっただけで私が愛想を尽かした冷血女だと思ってたじゃないですか!」
「そこまでは言っていない」
いや、宇髄さんだけのせいじゃない。確かに私も素直じゃなかった。少なくとも、自分で不安になる程度には気持ちを伝えていなかった。普段から義勇さんのことを口下手だのなんだの言っておきながら、この体たらくだ。
「ほら、もう夕食にしましょう!今日は鮭大根ですよ?」
気まずさを誤魔化したくて、顔も見ずに夕食の準備をする。そんな私に義勇さんはまたしても爆弾を落としてきた。
「しのぶ」
「はい?」
「いつもありがとう…しのぶの鮭大根が、一番美味い」
「…どういたしまして」
何これ、何これ、何これ、何これ、どうしてこの人はこんなことを言えるのだろう。普段は言葉が足りないどころの騒ぎじゃないくせに。どうして、こんな時にだけ私だって知らなかった、私の欲しい言葉をかけてくれるのだろう。
とりあえず、宇髄さんは許してあげようと思考をズラす私はやっぱり素直ではないのかもしれない。
終わり
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