王馬「で、なんの話をしてたんだっけ?」
最原「…言われてみれば、なんだったろう」
王馬「しっかりしてよ」
最原「そこはお互い様でしょ」
モノクマ「もう!ふたりとも勝手に入り込んで何してんの!」ヒョコッ
最原「…やっぱり見付ける前に見付かっちゃったね」
王馬「だねー」
モノクマ「いや、ボクの質問に答えてくれない?」
王馬「逆に訊きたいんだけど、エグイサルが5体とも使用中の今、この場所で何が出来るって言うの?」
モノクマ「だったら尚更ここにいる意味なんて無いでしょ。全く、油売ってる暇があるなら事件のひとつやふたつ起こしてほしいもんだね!」プンスコ
王馬「はあ…分かった、出て行くよ。まだ探してない場所は幾らでもあるからいいもんね」
最原「寧ろなんで真っ先にこんな所へ来たんだんだよ…」
モノクマ「ほら、とっとと出てった出てった!」ガオー!
王馬「うわぁクマが怒ったぞ!食べられる前に逃げろー!」タッタッタッ…
最原「あ、ちょっと待ってよ王馬くん!」タッタッタッ…
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※ニューダンガンロンパV3の二次創作SSです
※キャラ(の人格)崩壊注意
※原作の致命的なネタバレがあります
※ついでに暴力描写も含みます
※ドントシンクだ!フィールだ!
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僕含む16人の超高校級がこの才囚学園とかいうらしい施設に閉じ込められてから、もう数週間は経つはずだ。
外に出るための交換条件として殺人を強いられているものの、未だにそれを実行する人は現れない。
僕たちは殺し以外の脱出する術を模索しながら、結果としては軟禁生活に甘んじていた。
最原「流れでここまで来ちゃったけど、なんで僕がキミを手伝う破目になってるんだよ」
王馬「今更だねー。そこはほら、最原ちゃんが持ち腐らせてる才能をオレが上手いこと使ってあげるよっていう、ね?」
最原「『ね?』じゃないだろ」
王馬「どうせ暇でしょ」
最原「探偵なんて暇な方がいいと思うけど」
王馬「否定しないっていう事は、つまりそういう事だよね」
最原「まあ、うん」
王馬「ならちょっとくらいオレの暇潰しに付き合ってくれたっていいじゃないか」
最原「可怪しいな、キミは『緊急事態だ!』って喚いて僕を寄宿舎から引っ張り出したのに」
王馬「嘘だって判ってるのになんだかんだで相手してくれる、最原ちゃんのそういう所は嫌いじゃないよ」
最原「帰っていいかな」
王馬「駄目。そこまで緊急性は無いにせよ、一大事が発生してるのは本当だし」
最原「一大事、ねぇ」
王馬「そ、最原ちゃんには行方不明になったオレを見付けてもらわないと困るんだよ」
最原「……嘘じゃなかったんだ、それ」
王馬「うん、マジ。大マジ」
最原「心当たりは?」
王馬「まずエグイサル格納庫でしょ、オレの部屋でしょ、研究教室でしょ…ぱっと思い付く場所は大体調べたね」
最原「そう言えばなんで格納庫の暗証番号を知ってたの?」
王馬「昨日、数字がびっしり書かれた紙切れを偶々拾ってさ。確証は無かったけどもしかしたらと思って試したらビンゴだったって訳」
最原「モノクマーズの誰かがメモを落としたのかな…」
王馬「それより、どこに行けば俺が見付かると思う?」
最原「さっきキミが挙げた場所にいなかったならもう見付からないんじゃない」
王馬「もー、諦めるのが早過ぎだよ!仮にも探偵がそれでいいの?」
最原「分かってるって。取り敢えず聞き込みしながら虱潰しに捜査するしかないよね」
王馬「捜査かぁ、なんかそれっぽいね」
最原「1度言ってみたかったんだよ。フィクションの探偵にはずっと憧れてたし」
─食堂─
ガタガタ… ガタンッ
王馬「ねぇ、真面目に探してる?」
最原「うん」
王馬「椅子やテーブルをいちいち引っ繰り返すのは効率悪いんじゃないの」
最原「ほら、見付けた」
王馬「どれどれ…って、モノクマメダルじゃん」
最原「こんな物でも手懸かりになるかも知れないし。いや、これが王馬くんそのものだって可能性すらある」
王馬「……」
最原「やあ、オレは王馬小吉だよ!」ウラゴエ
王馬「わーコインが喋ったー」
最原「なんてね、嘘だよ!オレは本当はただのコインなんだ」ウラゴエ
王馬「知ってる知ってる」
最原「じゃあ他の場所に行こうか。ここは大体調べたし、ふざけるのも飽きたし」
王馬「今度はちゃんとしてよね」
ギイッ
最原「あ」
王馬「どうしたの?」
最原「あそこに誰かいるね」
王馬「ホントだ。折角だから話し掛けてみようか。…おーい!」
キーボ「ああ…こんにちは。珍しい組み合わせですね」
最原「あれ?キーボくん、何か足りなくない?」
キーボ「実は頭部のパーツを紛失してしまったんです」
王馬「あー、あのアンテナみたいな奴っていうかアンテナね」
キーボ「もし見掛けたら教えてくれませんか。内なる声が聞こえないと不安で仕方無いんです」
王馬「はいはい、分かったよ。…ついでに訊きたいんだけどさ、キー坊はどこかでオレを見なかった?」
キーボ「王馬くんですか?」
最原「なんか、王馬くんが王馬くんを探してるみたいで」
キーボ「でしたら、それっぽい人が体育館の近くでうろうろしてましたよ」
王馬「へえ…キー坊が人様の役に立つなんて思ってもみなかったけど、訊いてみるもんだね」
最原「それじゃあ早速行ってみようか」
─体育館─
ザワザワ ガヤガヤ
王馬「うわあ、人が沢山いるねー」
最原「制服姿の人が殆どみたいだけど、みんな僕たちと同じ高校生なのかな?」
王馬「ねぇキミ、ちょっといい?」
モブ「なんだよ」
王馬「凄い人集りだけど、ここで何かあるの?」
モブ「お前らもオーディションを受けに来たんじゃないのか」
最原「オーディション?」
モブ「マジで知らねーの?だったらなんでこんな所に…」
キイィィィイン
最原「うわぁ?!」
王馬「うるさっ」
アナウンス『これより、第53回─』
キイィィィイン
アナウンス『─オーディション2次審査を開始します』
王馬「あ、確かに今オーディションって言ったね」
最原「でもなんのオーディションなんだろう?ハウリングに掻き消されて聞こえなかったけど」
モブ「見てりゃ判るさ」
ステージ手前には会議机と事務椅子が設置されていて、審査員と思わしき男女数人が着座している。
そして向かい合う形でずらりと並べられたパイプ椅子には、制服姿の少年少女たち。僕と王馬くんが座っているのは入り口の直ぐ近く──審査員席から最も離れた位置だ。
審査員「では、1番の方」
???「はーい」
番号を呼ばれて、ひとりの少年が立ち上がった。
市松模様のスカーフと上下真っ白な服は遠目にも目立つ。ブレザーでも学ランでもない、そのコスプレじみた奇妙な服装は明らかに浮いていた。
最原「あの人って…」コソッ
王馬「静かにしてて」ボソッ
審査員「貴方はどうしてこのオーディションに応募したんですか」
???「ダンガンロンパを知ったのは、友達から薦められてゲームを借りたのが切っ掛けです」
???「これが思った以上に面白くって、4徹して学校サボって完クリしました」
???「ダンガンロンパはオレにとっての青春なんです。それが現実になって、自分も出られるかも知れないって聞いて─」
???「クソ食らえだなって思いました」
???「あ、今話した事は嘘だから。ダンガンロンパとか知らないし、オレ」
???「それで…志望動機を言わなきゃいけないんだっけ?じゃあオレが採用されたらコロシアイとかいうふざけたゲームはぶっ潰してやるよ」
最原「どう思う?」
王馬「何をさ」
最原「1番の人、外見はキミにそっくりじゃないか。キーボくんが言っていたのも彼のことだろうね」
王馬「外見はね。でも、あんなのはとてもじゃないけどオレとは思えない。なんか発言が痛々しいし」
最原「そっか、無駄足だったみたいだね」
王馬「どうせ片っ端から探すんだしそんなに変わらないって。気を取り直してまだ見てない場所に行こう」
途中から実写になったんなら53回もオーディションやってないだろとかそういう狛けぇこたぁいいんだよ!
─2階廊下─
王馬「その部屋が気になるの?」
最原「いや…」
王馬「それとも気になるのは中にいる人の方かな」
最原「別にそんなんじゃないって」
王馬「ふーん、そっかそっか」ニヤッ
最原「帰る」
王馬「悪かったって。ほら、入るよ」ガチャ
─超高校級のピアニストの研究教室─
ポーン… ポーン…
王馬「お邪魔するよ。ピアノの練習中にごめんね」
赤松「別に練習してた訳ではないからいいよ」
最原「もしかして、黒板に書かれてるアレ?」
赤松「よく分かったね」
最原「黒板を見ながら鍵盤弾いてたら探偵じゃなくても分かるよ」
赤松「何かの曲って感じでもないし、アレってなんなんだろう」
最原「やっぱり暗号じゃない?」
王馬「なるほどねー、じゃあなんて意味なの」
最原「そこまでは…解らないけど」
王馬「探偵なのに?」
最原「音楽系は苦手なんだよ」ムッ
赤松「…何しに来たの?」
王馬「そうだ、すっかり忘れるとこだった。赤松ちゃん、オレがどこにいるか知らないかな」
赤松「ここにいると思うよ」
王馬「え?いないでしょ」キョロキョロ
赤松「宇宙は薔薇に似ているって、聞いた事無い?」
最原「いきなり話が飛んだね」
赤松「最後まで聞いてってば。…それって言い換えれば宇宙の中に宇宙と同じ形をした物が存在するって事だよね。そして、鯛の中には鯛の形に似た骨がある」
王馬「それなら知ってるよ。鯛中鯛だっけ」
赤松「こういった例を見るに…王馬くんは王馬くんの中にいるんじゃないの?」
最原「理屈は解ったけど、どうやって確かめればいいんだろう」
王馬「中を見てみるしか無さそうだね」
最原「その方法を思い付けないから言ってるんだよ」
王馬「あはは、中を見るなんて簡単じゃないか」ガシッ
最原「痛っ…王馬くん?なんで僕の頭を掴─」
次の瞬間、視界が大きくブレた。間も無く脳に衝撃が走って、目の前が真っ白になった。最初は何がなんだか判らなかったけど、痛みが引くにつれて徐々に理解する。
最原「……な、んで」
王馬「人間も宇宙や鯛と同じかどうか、最原ちゃんの中身を見て判断しようかなって」
王馬「オレは、オレを見付けるためだったらなんでもする覚悟ではあるよ?でも確証も無いのに痛い思いをするのは嫌だからさ」
王馬「ちょっとだけ我慢してね」
言い忘れてましたが微妙に2のネタバレあります
僕は何度も頭を壁に叩き付けられた。何度も何度も何度も何度も何度も。当たり前だけどとにかく痛かった。それと、生温かくてぬるりとしたものが顔を舐めるように伝っていく感触が気持ち悪かった。
僕自身が僕の形をちゃんと留めているのかいよいよ心配になってきた頃、王馬くんは不意に手を止めた。
王馬「ちょっと思ったんだけど」
赤松「うん」
王馬「薔薇が宇宙に似ていたたとしても、それは宇宙そのものとは言えないよね」
王馬「鯛中鯛だって単なる骨の一部じゃん。しかもそこまで鯛っぽくもないし」
赤松「そう?」
どうやら物証を得るより先に、人間の中に人間はいないという結論に達したらしい。どうせならこんな馬鹿な事をする前に気付いて欲しかった。それとも態となのか。
王馬「最原ちゃーん、生きてるー?」
最原「……」
王馬「ただのしかばねのようだねー」ポイッ
最原「」ドサ
王馬くんは空になったペットボトルを捨てるような何気無さで僕の身体を放った。
頭痛が酷くてしばらく自力で立ち上がれそうにもなかったので、狸寝入りを決め込んで休む事にした。
赤松「うーん…私は私を探そうだなんて思った事無いからなあ。王馬くんの力にはなれないかも」
王馬「赤松ちゃんは自分を見失ったりしないんだね。だったらキミの事を教えてよ」
王馬「本当のキミの事を」
赤松「……面白い話じゃないけど」
王馬「構わないよ。つまらなくない方がいいのは確かだけどね」
赤松「期待はしないでよ」
王馬「はいはい」
赤松「…お母さんが音楽教室の先生をやってたからかな、物心付いた頃にはもうピアノに触ってたと思う。他のものにはあんまり関心を持てなかったけど─持てなかったから?ピアノを弾いてる時だけは本当に楽しかった」
赤松「でも続けていく内に色んな事があって、苦しさも味わうようになってさ。それまでずっと楽しいって気持ちだけで続けてきたから、途端に嫌気が差したの」
赤松「そうなって初めて他の事してみたいと思ったんだ。ピアノを弾かなくなって時間が出来たのと、何より退屈だったから」
王馬「そこでダンガンロンパにハマったの?」
赤松「うん。最初は映画だったな。クラスのみんなが見てたから私も見ようかな、ぐらいの軽い気持ちで。初めての映画だっていうのもあって凄く衝撃的だった」
王馬「それまで映画すら見た事無かったんだ」
赤松「関心を持てなかったからね。今思えば単なる食わず嫌いだったなあ」
王馬「なるほど。結局、ピアノは他のものと違って食わず嫌いする余地が無かっただけだったと」
赤松「……と、思うよ?」
王馬「似てないなぁ」
赤松「似せる気無いし」
王馬「ゲームやったの?」
赤松「原作に手を付けたのは最近だよ。初見は舞台」
王馬「先にゲームしないと駄目でしょ」
赤松「うん、やった後に痛感した。でもゲームはどうしても苦手で…」
王馬「初期ロンパはゲームが至高だよ。元がゲーム作品なんだから」
赤松「キミは2が好きなの?」
王馬「2っていうか2のチャプター5だね。個人的にアレは300以上の殺人の中でも屈指の事件だと思ってるよ。まだ完全に二次元だった頃の初期ロンパならではのギミックだよね。だからこそシリーズファンの好き嫌いも分かれ易い」
王馬「死体のエグさも初期にしては結構頑張った方で、当時のプレイヤーには衝撃的だったらしいよ。直前のロボで物足りなさを感じさせてからのアレだからね。まぁ今見たら大してグロくもないんだけど」
分かってない。全然分かってない。初期、特にゲーム作品のダンガンロンパはグロと悲惨な人間ドラマを、悪趣味さで茶化す事に依ってオブラートで包んでいるんだ。その薄皮1枚が要だっていうのに。初期ファンの癖にそんな事も理解できないのか。
赤松「で、なんの話をしてたか憶えてる?」
王馬「ああ、オレばっかり話してごめん」
赤松「いいよ。もう話せるようなエピソードも無いし。つくづく私の人生って薄っぺらかったね」
王馬「いやいや、参考になったよ。話しにくかったろうにどうもありがとう」
赤松「王馬くん、見付かるといいね」
王馬「そう簡単に上手くいけば苦労しないよ」
赤松「それにしても…最原くんは大丈夫なの?」
王馬「さあね」
誰かが近付く気配を感じた直後、脇腹に固いものが触れて思わず身体を強張らせてしまった。
王馬「ね、やっぱ気絶してないでしょ最原ちゃん。死んだフリ止めなよ」
バレてしまったなら仕方が無い。目を開けると王馬くんがローファーの爪先で僕を小突いてるのが見えた。なんとか重い頭をもたげてへらりと言ってみせる。
最原「もう起きた」
王馬「さっさと次行くよ」
最原「何もこんなになるまで打ち付けなくていいじゃないか。怪我しても帽子で隠せるからまだよかったようなものの」
努めて戯けたけど僕は内心ではびくびくしながらブレザーの袖で顔を拭った。血が滲みて、中のYシャツに真っ赤な染みが出来た。それは決して蛍光ピンクなんかじゃなかった。
─2階廊下─
最原「まだ探すの?」
王馬「探すよ。見付かってないもん」
最原「さっきので結論出たなって思ったんだけど」
王馬「アレは赤松ちゃんの持論じゃん。自分の事は結局自分で決めるしかないんだから、他人の意見なんて大して役に立たないって」
最原「だったらなんで態々聞き出したのさ」
王馬「飽くまで参考程度だよ」
最原「そうなると僕はキミの気が済むまで連れ回されるのか…」
王馬「当たり前田のクラッカー、だっけ」
最原「何それ?」
王馬「知らない」
最原「…………」
王馬「…………」
……いつまでもむっつりと黙り合うのもどうかと思うし適当な話題を振ろう。
最原「最近読んだ小説で、ずっと気になってる事があるんだよね」
王馬「ふーん」
最原「語り手の男が旅行がてら昔住んでた家に立ち寄って、今の居住者に会うんだよ。話を聞けばその人は精神科医で、自宅療養してる統合失調症の奥さんに掛かり切りだっていう。結局世間話だけして直ぐ帰ったんだけど、忘れた頃に精神科医から男宛ての手紙が届く」
王馬「なんで住所知ってんの?怖っ」
最原「内容としては、奥さんが亡くなったから例の家を引き払うっていう報告から入って、死んだ時の状況説明だったり結婚前の思い出話だったりとか」
王馬「一度会っただけの人にそんな重い話されても困るんだけど」
最原「手紙を読み終えた男は胸騒ぎがして急いで例の家に向かう。で、その近辺の茂みに猟銃を持った精神科医を遠目に見付ける。それを見た男は怒って」
ゴン太「あ」
最原「あ?…ああ」
王馬「よっ、ゴン太」
ゴン太「お互い残念だったね、王馬くん」
王馬「残念って?」
ゴン太「ほら、ふたりとも脱落しちゃったから」
王馬「オレは脱落っていうか…まあいっか、そんな事は」
書き溜めが底を突きました
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ゴン太「ああ、王馬君を探してるんでしょ?さっきキーボ君から聞いたよ」
王馬「いやー話が早くて助かるね」
ゴン太「先に言っておくけど、僕はなんの役にも立てないと思うよ」
王馬「もしかして遠回しに『面倒だから関わりたくない』って言ってる?」
ゴン太「ううん、文字通りの意味で言ったつもり」
王馬「じゃあ協力してくれるよね」
ゴン太「僕に出来る範囲でよければ。…で、どうすればいいのかな」
王馬「そうだなぁ…じゃ、ゴン太から見たオレってどんな感じだったか教えて」
ゴン太「もっと質問を明確にしてくれないと答えにくいよ」
王馬「あんまり四角四面に考えてほしくないんだ。フィーリングに寄った素直な意見を求めてるから」
ゴン太「つまり、いい加減に答えるくらいで丁度いいって事?却って難しい気がするけど」
王馬「とにかく適当によろしく」
ゴン太「王馬君は…端的に言えば掴み所の無い人だよね」
王馬「うんうん、よく言われる」
ゴン太「敢えて本心を悟られないように振る舞う打算的な側面は確かにあったと思う。でも、それを踏まえた上でも王馬君の言動は支離滅裂過ぎる」
王馬「理屈だけで動く人間の方が珍しいと思うけど?オレは自分の気持ちに正直なだけだよ」
ゴン太「それは嘘…というより実情に即していないよね。なんてったって王馬君は筋金入りの天邪鬼なんだから」
ゴン太「人の頭も心もそれ自体がブラックボックスみたいなものだけど、王馬君の思考と感情は本当に理解に苦しむ。まぁその混沌こそが王馬君らしさと言われたら確かにそうなのかも知れない」
ゴン太「だとしたら、キミは何を以ってキミという存在の連続性ひいては斉一性を証明するのかな」
王馬「ねぇゴン太、怒ってる?」
ゴン太「会話において質問に質問で返すのは少しずるいけど、王馬君がどうしてそう思うのか答えてくれるかな」
王馬「…オレがキミの言葉で多少なりとも動揺したから、敢えて傷つけるような言い方をしたのかと思って」
ゴン太「心外だよ。いや、そう思われても仕方無いんだろうけど…僕としては極力感情論を排して分析だけ述べたつもりだよ」
ゴン太「とは言え、どちらにせよ僕の一意見である事に変わりはないんだよね。耳に痛い言葉っていうのは尤もらしく聞こえがちなものではあるけど、必ずしも的を射ているとは限らない。結論は、自分の気が済むまで惟てから出せばいいよ」
王馬「言われなくてもそうしてた。幸か不幸か時間だけなら無限にあるからね」
ゴン太「他に僕の口から聞きたい事があるならどうぞ」
王馬「そうだなー、じゃあ後ひとつだけ」
王馬「ゴン太はオレの事恨んでる?」
ゴン太「望んでダンガンロンパに参加した時点で恨みっこは無しでしょ」
王馬「やけに引っかかる物言いするじゃん」
ゴン太「白状すると根に持ってはいるよ。…キミがこれから先もたまにあの事件を思い出して、少しでも苦しめばいいって願うくらいには」
王馬「……」
ゴン太「ああそうだ、さっき入間さんが3階で彷徨いているところを見たよ。今ならまだその周辺付近にいるだろうから、捜しているなら直ぐ行った方がいいんじゃないかな」
最原「ありがとうゴン太くん、助かるよ」
王馬「最原ちゃんいたんだ。ずっと喋らないから、オレがゴン太と話し込んでる隙に逃げちゃったのかと」
最原「途中で放り出したら後が面倒だからね。口を挟める雰囲気じゃなかったからずっと黙ってただけだよ」
ゴン太「最原君も色々と大変だね」
更新久々過ぎてsageてしまった
ひとり善がりで衒学的で特に実の無い退屈な会話を切り上げて、僕たちは次の目的地へ向かった。
王馬「話の途中じゃなかったっけ。ほら、小説がどうのって」
最原「そうだね、どこまで話したんだったかな」
王馬「なんか手紙が来て…また昔住んでた家に行ってみたら精神科医が銃を持ってたって」
最原「ああ、なんだ。もうおしまいじゃないか」
王馬「え?そんなところで終わるの?」
最原「正確には、それを見た語り手が唐突に怒って精神科医と一言も交わさないままさっさと帰る。で、おしまい」
王馬「銃を突き付けられたから怒ったの?」
最原「違うよ。最後の場面は、男が精神科医を一方的に見付けただけで直接対面した訳じゃないからね」
王馬「だったら─」
最原「結局、どうして男が怒ったかは作中で示されてないんだ」
王馬「あーわからない事があるってそういう…」
最原「うん。よく憶えてるね」
王馬「バカにしないでよ。ていうか、それをオレに聞かせてどうしたかったのさ」
最原「特にどうするつもりも…。話の種にしようとしただけだから」
王馬「もっとマシな話題無かったの?別にいいけど」
最原「ごめん…」
王馬「いやいいよ、こっちこそなんかごめん。それはそうと、最原ちゃんはわからない事をわからないまま丸っと全部ほっといたりしないよね?」
最原「すっきりしない読了感で気持ちの据わりが悪かったから、取り敢えずパブサして他の人の感想や考察を見てみはしたんだよ。マイナーな作品だからか、はたまた僕の探し方が悪かったのかあんまりヒットしなかったけどね」
最原「精神科医は男を殺すつもりだったとか、男にジビエを振る舞おうとしていたとか…正直どれもしっくりこなくて余計にもやもやしただけだった」
王馬「最原ちゃんの解釈はどうなの?」
最原「うん、その話をしたいんだ。一応僕なりに考えを整理してみたから」
最原「手紙によると、精神科医とその奥さんは恋愛結婚で、言葉を選ばずに言うなら当初バカップルだった。でも奥さんが発症して人が変わったようになったせいで、精神科医は永久不変だと堅く信じていたお互いの愛情に自信を持てなくなった事が判るんだ」
王馬「病気さえ無ければバカップルのままだったかも知れないのに、ちょっと可哀想だね」
最原「きっとそれが普通の考えだよね。ただ、精神科医はそういう風には思っていなかった。奥さんの本格的な発症はせいぜい切っ掛けに過ぎなかったんだよ」
最原「人の心理がどれだけ複雑怪奇で不可解かなんて、精神科医なら嫌というほど知っているはずだけどさ。それでも蜜月時代は、奥さんだけは例外だと誤信していたんじゃないかな」
王馬「それが結末の解釈にどう関係するの?」
最原「『どう足掻いても他人の気持ちなんて理解出来ない』っていうのがこの話のテーマだと思うんだよね。だから読者には、精神科医の行動の意味も語り手が怒った理由もわかりっこない。そういう事なんじゃないかなって」
王馬「えー…」
最原「納得いかない?」
王馬「そりゃまあ、それだとなんでもアリになっちゃうし、投げっぱなしも同然じゃん」
最原「うーん、反論の余地は無いね。こんな話に長々付き合わせて悪かったよ」
王馬「いや─」
最原「あっ」
王馬「え、何?」
最原「あそこの部屋から女の子の声が聞こえてきたから、入間さんじゃないかって」
王馬「ああ…あんな所に行く人なんて限られてるしそうなんじゃない。入ってみようか」
誕生日に更新したかったけど無理でした。当日はゲーム起動してプレゼント大量に渡して祝った気になりました。
─コンピュータールーム─
カタカタカタカタ
入間「これを回避しても結局あのふたりが鉢合わせたら意味が無い……接触を避けるためには……」ブツブツ
王馬「集中してるみたいだね」
最原「うん」
王馬「なんか、話掛け辛いな」
最原「作業が終わるまで待つ?それがいつになるか検討も付かないのに?」
王馬「えっと、じゃあ先に他の場所を…」
最原「それだと2度手間になるでしょ。少しは僕の都合も考えてよ」
王馬「…ご、ごめん」
イライラする。思えば僕は、王馬くんのこういう煮え切らないうじうじした態度にいつもムカつかされてきたんだ。
衝動に任せて足払いをすると、王馬くんは不意を食ったのかいとも簡単に転けてしまった。ずっと下ばかり向いている癖に、全く反応出来ない鈍臭さが笑える。
起き上がれないよう透かさずお腹を足で強く抑え付けた。王馬くんは掠れた呻きを漏らした。強いて文字で表現するなら「あ」と「え」の混ざった「æ」、踏み潰された蛙の断末魔みたいな声。
僕がそのまま更に体重を掛けると王馬くんは咳き上げながら嘔吐いた。死なれたら僕のせいになって面倒なので、王馬くんの身体を蹴ってうつ伏せにしてやる。これで吐瀉物が喉に詰まる心配は要らない。
入間「おい最原。いい加減にしてやれよ」
最原「ああ入間さん、丁度よかった。王馬くんがキミに用があって来たんだよ」
入間「その当の本人、エラい事になってんじゃねーか」
入間さんが何か言いたげに僕を睨むので、向こうが切り出すまで僕は待った。しかし、間も無くして彼女は溜息を吐き王馬くんの方に向き直った。
入間「王馬、立てるか?」
王馬「う、うん。大丈夫…」
ふらつきながら立ち上がった王馬くんに、入間さんはハンカチを差し出した。
王馬「使ったら汚しちゃうけど?」
入間「んなもんくれてやるから洗って自分用にするかそのまま捨てとけ。ちなみに替えは倉庫に幾らでもあるぞ」
王馬「あ、そうなんだ…ありがとう」
王馬くんは受け取ったハンカチで口許と首辺りを拭った。
入間「つーか用があってここに来たんだろ?なんでアタシ放っぽって……ふたりでじゃれてんだよ」
最原「入間さんが忙しそうで話し掛けられないって王馬くんが言うから」
入間「それだけであそこまでしたのか?」
最原「うん」
入間「……」
最原「入間さんって、頭使わないで言いたい事は全部言うタイプなのかと思ってたよ」
入間「切っ掛けはともかく、認識を改められたようならよかったぜ」
正気のキャラが一人もいないから誰にも感情移入できない
まるで意味がわからんぞ
>>23
それこそこのssのキャラにめちゃくちゃ感情移入した!とか言われたら正気を疑うレベルですね
王馬「…入間さんはさっきまで何してたの?あんなに夢中になってさ」
入間「タイムマシンの設計図を書いてた」
最原「ゲームで遊んでただけだよね」
入間「冗談だって判ってるなら判ってるで少しぐらいノってくれたっていいだろ。…まあテメーにそんな期待する方が間違ってるか」
王馬「なんのゲーム?」
入間「正確にはゲームじゃなくてシミュレーターだな。コロシアイ学園生活のデータを入力して、どうすれば事件を防げたかとか考えつつ、色々と試行錯誤してたんだよ」
最原「入間さんの行動次第ではもっと難易度下がったと思うけど」
王馬「それでも能力がチートだから充分貢献度高かったよ。なんならハイスペック過ぎて運営に性格面でバランス調整されたまであるよね」
入間「その辺言い出したらオレ様に限らないからキリねーけどな。なんなら王馬もその類じゃねーか?」
王馬「ごめん…」
入間「今謝ったってしゃーねーだろ。運営の意向だとしたらオメーのせいでもねーし。…でもアタシ、オレ様や王馬の気持ちも少しだけ分かるような気がするんだよ」
最原「えっ正気?」
入間「テメーにだけは言われたくねーよ」
王馬「もう気にせず話進めていいよ」
入間「…普通はあんな状況に陥ったら混乱もするだろうし、強気に振る舞わなきゃ自分を保てないって奴もいるはずなんだよ。大なり小なりオレ様にも王馬にもそういうところがあったんじゃないか?思い出しライトの効果で、無理矢理コロシアイに参加させられたって誤認してた訳だからな」
入間「そう考えたら、王馬の事もなんかイマイチ憎めなくてな。どんな理由があろうと犯した罪がチャラになったりはしないし、非常事態下の言動に本性が露われるってのも正しいんだろうけど」
入間「如何にして環境に適応するかなんて、生き物には共通の課題だろ。だから、なんとなくその苦しみが理解出来る、ような気になっちまうんだよ。…いや、まずシチュエーションや深刻度合いが全然違うから、ふざけんなって言われそうだな」
王馬「ふざけんな」
入間「へ?」
ドンッ
入間「きゃあっ!」
最原「王馬くん?!」
王馬くんは突然入間さんを突き飛ばした。虚を衝かれた入間さんは可愛らしい悲鳴を上げたのち、当たり前のようにそのまま転んでしまった。王馬くんは被害者である入間さんにも声をかけた僕にも一瞥すらくれず、身を翻して逃げるように去っていった。
入間「あー痛…なんだよアイツ」
最原「入間さん、平気なの?」
入間「まあ、クソ痛いだけで動けないとかは全然ねーし」ヨロ…
入間「つーかアイツの用って結局なんだったんだ?」
最原「それなら気にしなくていいよ。王馬くん、当分キミには会いに来ないだろうから」
ただただ気不味かったし居座る理由も無いので、僕は入間さんに軽く挨拶だけしてコンピュータールームを後にした。
そのまま4階をひと巡りしたが王馬くんの姿は見当たらなかった。
もう真っ直ぐ自室に帰ってしまおうかとも思った。が、寮の中で王馬くんと鉢合わせると少し面倒臭い。状況的に約束を放っぽったと責められかねないのだ。
だからといって別にどうという事は無いが、彼自身の言動を棚上げして被害者面などされようものなら非常に胸糞が悪くなる。
最原「一応、探す振りだけでもしておこうか…」
何も真面目に探す必要は無い。適当に辺りをぶらついて、それを誰かに見てもらってアリバイにすればいい。
先にたまたま、王馬くん『を』探している方の王馬くんと会えれば合流という形になるだろうし、王馬くん『が』探している方の王馬くんと遭遇すれば…取り敢えず王馬くんの部屋の前まで連れて行けばいいだろうか。僕に出来るのは精々それくらいだ。
今までになんだかんだふたりであちこち学園の敷地内を見て回ったので、未確認の場所はそう多くない。取り敢えず僕は次の階層へ足を運んだ。
─5階廊下─
語弊を覚悟で結論から言うと、王馬くんはそこにいた。
最原「あの…お取り込み中、かな?」
王馬?「……ぅ……」
僕には王馬くんらしき人物がなんらかの罰を受けているように見えた。しかし、一切の理由も意味も無くただ苦しんでいるだけのようでもあった。実のところはどちらなのか、当然ながら傍目では判らない。
彼は、ライオンにも狛犬にも似ている奇妙な獣に胴体を噛み砕かれている。獣の牙が炎を纏っているので血は殆ど流れない。その分だけ掃除が楽そうでいいが、タンパク質の焦げる不快な臭いはどうにかならないものか。後で裏方がどうにでもしてくれるんだろうけど。
そんな状態の彼にまともな受け応えなんて出来るはずが無い。刺し貫かんばかりの鋭い視線でこちらを睨みながら歯を食い縛っていたから、そうでなくてもお喋りは出来なかったろうな、という気もしている。
燃えたり煤けたりしてところどころ黒くなっているものの、推定王馬くんの服は元々白い拘束着──のようなデザインのコスプレ衣装らしい。脱力した両脚からだらりと飾りベルトが垂れている。
服装を観察してようやく思い出した。彼はオーディション会場の体育館にいた、王馬くんじゃない?王馬くんだ。そうなると目当ての王馬くんとは全く別物である可能性が高い。
???「最原ちゃん」ポン
最原「わっ?!」
いきなり肩を叩かれて驚いた。思わず振り返って、その人の正体が王馬くんである事を確認した。
彼からは仄かに合成グレープソーダの匂いがする。薄い要素とは言え、目の前の人物から王馬小吉っぽさを感じ取れて、少し安心した。
最原「なんだ、王馬くんか。……僕の知ってる王馬くんでいいんだよね、多分」
王馬「うん。キミはこんなところで何してたの?」
最原「僕の科白だよ。そっちがいきなり飛び出してどこかに行っちゃったから困ってたのに」
王馬「ああ、もう大丈夫だから心配しなくていいよ」
最原「別に心配はしてないよ。キミの事なら厭ってくらい分かってるから」
王馬「オマエにオレの何が分かるんだよ!」
最原「何にも分からない事を分かってるっていうか、思い知らされてるっていうか、諦めてるっていうか」
王馬「そんなんで知ったような口を利くなよ」
最原「それより、訊いておきたい事があるんだけど」
王馬「露骨に話を逸らしたね…。いや、訊くのは全然構わないよ」
最原「アレは王馬くんじゃないって事でいいの?」
僕は、相変わらず猛獣に噛り付かれている王馬くんっぽい人を指し示した。
王馬「体育館で会った人じゃん」
最原「だよね。なんでこうなったのか知らないけど」
王馬「オレ、あの人が喰われてる?ところをずっと観てたけどさぁ─」
最原「あ、じゃあ僕より先にここにいたんだね。観てたっていうのは、やっぱり見極めるため?」
王馬「ただグロいのが好きだから観てただけ」
最原「えぇ…」
王馬「血とか内蔵とか、赤くてぬらぬらしててなんかエロいんだよ」
最原「YouTubeで魚捌く動画を永遠に観てればいいのに」
王馬「そういう意味ではオレが観たいものとは違ったし、飽きたからもういいよ」
最原「どうせあの人の血は赤くないだろうしね」
王馬「というワケで、本来の目的を果たしに行こうか。次はあの部屋に入るよ」
書き込む時はいつも「文章分けるのめんどくせぇな」と思ってるんですが、掲示板を見返す度に「レス長っ…レシートじゃん」ってなります
─超高校級のコスプレイヤーの研究教室─
白銀「王馬君、最原君…待ってたよ」
キーボ「…………」
最原「キーボくん、頭どうしたの?」
王馬「言わんとしている事は判るけど、最悪レベルの語弊があるよ」
白銀「キーボ君が折れたアンテナを無くした件についてはもう聞いてるよね?どうせだからこの機会に新しいのを試してみようと思ったんだ」
そこでは、白銀さんがキーボくんの頭部にアンテナを取り付けていた。アンテナはアンテナでも、何故か直径20cmくらいのパラボラアンテナだけど。
キーボくんは直立不動で声も発さず、眼のパーツを青く光らせているだけである。
白銀「アナタがここに来た理由なら知ってるよ」
王馬「ずっと視てたもんね」
白銀「わたしだけじゃないよ。世界中の視聴者が、ずっとアナタたちの一挙一動一言一句に注目してたんだから」
白銀「つまり、マクロな視野を持ってコロシアイ学園生活を観測していた人が大勢いるって事なんだよ。王馬くんを見付けるには、そういった人たちからの情報提供が必要不可欠だと思わない?」
王馬「別に、そこまでは…」
白銀「折角だし貴重なご意見を聞いていきなよ」
そう言って白銀さんがキーボくんのボタンをカチカチ押すと、ずっと黙っていたキーボくんの口が開かれた。
キーボ「『正直王馬にはしてやられたな』『←言うほどしてやられた感あるか?』『結果的に盛り上がったしなあ』『なんやかや纏めたのは運営評価したい』『エモい雰囲気出して無理矢理締めたけど、結局厳密には誰が殺したのか判らず終いでモヤモヤする』『そこそこの技術使ってるらしいけど結局監視は人力だし色々と限界を感じる』『何が起こったか概ね判明した時点で私は満足したよ』『正直どっちがクロでもそんな変わんねーだろとしか。死ぬタイミングが少しズレれるだけじゃん』『別のクロ候補出てきた時は「おっ」と思ったんだけどな…』『王馬にも百田にも百春にも興味無いから5回目の裁判めっちゃどうでもよかった、そういう意味では王馬の掌の上だったかも知れん』『俺は毎回俺のつむぎが死なないか気が気じゃなかったぞ なお』『nmmnの話題は自重しろ』『最原くんの爪剥いでお守りに生爪剥がしたたい☆』」
最原「みんな好き勝手言ってるね」
王馬「ていうか半分くらいオレ関係無いし」
白銀「新しいアンテナ、まだ試作品だから検索の精度が甘いんだよ。要調整だね」
王馬「別にいいよ。期待してなかったし白銀ちゃんは気にしないで」
白銀「そうは言うけど、キミは不都合な真実から目を反らしたいだけじゃないの?」
王馬「…何が言いたいの」
白銀「わたしたちはもうとっくに王馬君を見付けてる。本当の王馬君はね、みんなそれぞれの心の中にいるの。波動関数が人の意識内で収束するのと同じだよ」
王馬「それはお前らが勝手な解釈をして決め付けてるだけだろ」
王馬「意識解釈に仮託するにしても、不特定多数の意識内にそれぞれ違うオレがいる状態って、とてもじゃないけど収束してるとは言えないでしょ」
王馬「実際に意識を持っている人間がたったひとりだとすれば話は別だけど。そんな存在がいるとしたらそれが誰じゃないといけないかは、解るよね?」
最原「一見大層な事言ってるようだけど、要するに本物の王馬くんは王馬くん自身が見付けないと駄目ってだけの話だよね」
王馬「うん」
白銀「そっか…それが王馬君の希望なんだね」
王馬「違うよ。決め付けるなって」
最原「僕は物理の授業取ってないし、シュレディンガーの猫に関してネットで軽く調べた程度の知識しか無いけど…白銀さんが言ってたようなやつはトンデモ扱いされてた憶えがあるな」
白銀「そりゃわたしだって本気で信じてるワケじゃないよ?そうだったら面白いなーってだけ。本当の意味で全ての真実に興味がある人なんて、一部の変人だけだよ」
白銀「況してやこの筋書きも登場人物も、ファンクションじゃなくてフィクションだっていうのに」
僕たちは反論らしい反論も出来ずに、ただ「キミたちにとってはそうなんだろうね」と言うのが関の山だった。
いつまでもこんな所にいたって仕様が無い。王馬くんを促して部屋を出た。まだ探していない場所は、後1箇所だけになっていた。
─螺旋階段─
最原「相変わらず長い階段だね…なんでエレベーターとかエスカレーターとか無いんだろう」
王馬「ねー。あのSFっぽい部屋へ行く唯一の手段がこんなに前時代的で許されるはずないよ」
最原「そういうロマンは割とどうでもいいかな。ここに限らずただ楽な移動手段が欲しい…」
王馬「だらしないなあ、探偵なんて足使ってなんぼでしょ」
最原「僕も使うべき場面では使うよ。ていうか王馬くんに探偵のあるべき姿を説かれたくない」
王馬「だって、オレのライバルとして相応しい探偵になってほしいから…」
最原「王馬くん……僕はキミのライバルになった憶えなんて一切無いんだけど」
王馬「奇遇だね!オレもだよ!」
最原「……」ガスッ
王馬「痛ぁ!」
少し前を行く王馬くんの背中に肘鉄を食らわせた。もちろん物理的な意味で。
最原「話は戻るんだけど」
王馬「自分の暴挙をさらっと流そうとしてるよこの人」
最原「最近読んだ小説の話をさっきしたよね」
王馬「想像より大分戻るね」
最原「なんで急にあんな話を…って思わなかった?」
王馬「うん、なんなら今も思ってる」
最原「それには一応理由があるんだよね。いや、本当に大した意味は無いんだけど」
最原「精神科医の奥さんは統合失調症になってから奇行に走るようになるんだ。発症したばかりの頃だったかな…奥さんが家のそこら中を必死になって荒らし回ってたんだよ。で、何をしてるのかっていうとどうも愛を捜していたらしい」
王馬「アイってloveの愛?」
最原「そうそのlove。私たちふたりの愛をどこに仕舞ったのかしら、なんて宣いながら自宅を徘徊するシーンが、凄く印象に残ってたんだ」
最原「そんなもの、最初からあったかどうかも判らないのに」
最原「あ、これは僕の感想じゃなくて精神科医の独白ね」
王馬「…キミの言わんとしている事は判ってるよ」
最原「うん」
王馬「だから、もう黙ってていいよ」
最原「じゃあまた話相手が欲しくなったら教えてね」
─超高校級の宇宙飛行士の研究教室─
百田「……」
百田くんはそれはもうあからさまに落ち込んでいた。一方的な用事で話しかけるのが多少躊躇われるくらいに。
王馬「やっほー百田ちゃん。元気?ではなさそうだね」
でもそんなのは王馬くんには関係無い。
百田「帰れよ」
王馬「そんなつれない態度取らないでよ。折角お土産持って来たのに」ガサゴソ
つジェリービーズ
百田「いらねー…」
王馬「お気に召さなかった?これ、観葉植物の土の代わりにも使えて便利なんだよ」
百田「態と言ってんのかテメー」ハァ
王馬「別に受け取ってくれなくてもいいよ、キー坊がこれ好きだったはずだし」
百田「だったら尚更なんでオレに渡そうとしたんだ」
王馬「話し掛けるきっかけにしただけだよ。まあキミはその辺は気にしなくていいから」
百田「ただ話し掛けるだけなのにそこまでする必要があるって事は、どうせ大した用も話題も無いんだろ」
王馬「そうだけど?」
百田「じゃあオレが付き合う義理ねーだろ」
王馬「あるよ。キミと話したって実績を達成しないと先に進めないんだよ」
百田「これ以上話す必要があるか?そもそもテメーがどうなろうとオレには関係無いだろうが」
王馬「えー、どうせここで時間を持て余してるだけなのに?」
百田「…相手してほしいなら文句より先に言う事があるんじゃないか。例えば、話題の提供とかよ」
王馬「じゃあさ、キミが意気消沈してる理由について訊いてもいい?」
百田「金」
王馬「そんな身も蓋も無い」
百田「金さえあればオレの人生はもっとマシだったのにって考えてたんだよ」
最原「百田くん…百田金斗になってるよ」
百田「やっと喋ったかと思ったらそれかよ。上手いこと言ったつもりか?」
最原「正直、うん」
百田「輝く星雲連合って知ってるか」
王馬「何それ、SFの話?」
百田「スピリチュアルの話だ」
王馬「それはまた随分…意外な方向性だね」
百田「離婚してから母親が傾倒してたんだよ。オレん家が貧乏だったの、そのせいもあったと思ってる」
最原「占い師が芸能人とかを洗脳して貢がせるケースって割と聞くけど、そういう感じかな…」
王馬「輝くなんちゃらって実際どういうものなの?」
百田「母親がよくオレに語り聞かせてたが、まっっったく理解出来なかった。あっちの言い分では、シリウス星系にいる宇宙人からお告げを受けて、魂のステージをより高い次元に引き上げるのが目的らしい」
王馬「シリウスって恒星だよね?燃えてる星にまともな生き物がいるの?」
百田「オレもそう考えたしなんなら母親に伝えたさ。まあ話にならなかったけどな。無理解な相手に対する苛立ちを、お互いに懐いただけだった」
王馬「だろうね」
百田「だからオレは、実際にシリウスまで行ってそんな生き物なんていないって証明したかったんだ」
王馬「それで宇宙飛行士になろうと思ったんだ?」
百田「殆ど思っただけで終わっちまったけどな。オレは元から勉強が得意な方じゃなかったし、それを覆せるだけの根性も無かった」
王馬「それは残念だなあ。本当に百田ちゃんが宇宙飛行士になったら、宇宙がどんな形をしているか見に行ってほしかったのに」
百田「…そもそもの目的も日に日にどうでもよくなって、いつしか自分がしようとしている事の不毛さに気付いたんだよ」
百田「その後は、とにかく親許から離れたいがために、勉強の傍らバイトで金を掻き集めてたな」
王馬「結構苦労してたんだね」
百田「まあな。ただ…金さえあればここまで苦しまずに済んだのにって思う反面、金があったところで特にやりたい事も無かったんだよ。基本オレの行動原理は、ストレスの原因をどうにかするためだしな」
百田「今なら解るが、だからオレはよりにもよってダンガンロンパを金稼ぎの手段にしたんだ。オーディションに落ちたらそれまで。採用されても死んだらそれまで。どう転んでも諦めがつく」
王馬「キミ、明らかにダンガンロンパが好きな感じじゃなかったもんね」
百田「自分っていうものが無いから、人生に価値を見出だせなかった。悪い意味で無敵な訳だ」
王馬「後悔してないの」
百田「してないぜ─と言いたいが、バ先で世話になったジイさん夫婦には悪い事しちまったかな。最後の最後まで必死に止めてくれたのを突っぱねて、結局ケンカ別れしたからよ」
王馬「でも、精々それくらいなんだね」
百田「覚悟してたしな。諸々引っ括めてロクでもない人生だったが、達成感というか妙な清々しさもある」
このssの物語はフィクションであり、登場する組織以下略
百田「初めてだったんだよ…未来に希望を持ったのは。超高校級の宇宙飛行士になってからというものの、世界は目に痛いくらい色鮮やかになった」
百田「少し前まで、勉強して知識を得ても別に宇宙を好きになれなかった。よく分からなくてなんだか怖いところだとすら思ってた。星空を見上げて、壮大さに心打たれた事すら無かった」
王馬「ダンガンロンパに参加してなければ、この先ずっと宇宙を好きになる機会なんて無かったかもね」
百田「ああ。宇宙はあんなに自由で、無限の可能性があるってのによ」
王馬「そうだね。今のオレたちには可能性なんて─」
百田「あるさ。テメーが信じさえすればな」
王馬「……」
百田「『実績を達成しないと先に進めない』んだったか?才囚学園の広さなんてたかが知れてるのに、どこかしら行くアテでもあるのかよ」
王馬「ううん、敷地内はもうひと通り見ちゃった」
百田「じゃあ次は宇宙だな!」
王馬「無茶言わないでよ」
百田「無茶かどうかはやってみてから判断したって遅くねーだろ」
王馬「百田ちゃんがひとりで悪足掻きするのは勝手だけど、それをオレに押し付けないでよね」
百田「ま、流石に宇宙は遠いが、少し近付くくらいだったら幾らでもやりようはある」
百田くんは徐ろに背を向けて歩き出し、プラネタリウム装置の脇にある円窓を開け放った。
百田「実はここから屋外に出られるんだ。場所が場所なだけに景色はアレだけどよ…宇宙に近付いたって思えば悪い気はしないぞ」
王馬「みんながみんな百田ちゃんみたいに単純じゃないんだよ」
百田「人を探してるんだろ?ならひと目で中庭全体を見渡せたら効率がよくなるんじゃないか?」
王馬「中庭も裏庭も他の建物もとっくに調べたんだって」
百田「もう1回調べてみろ。入れ違ってないとも見落としが無いとも限らねーんだから」
王馬「百田ちゃんの言う通りにするのはなんか癪だけど、そうするしか無いのも事実なんだよね。…じゃあちょっと行ってくる」
小柄な王馬くんは出入りには不便そうな円窓を難無く潜り抜けた。僕も後に続く。
少しひんやりした風が全身を撫でるように吹き上げる。高所恐怖症ではないが、周りに囲いが一切無く不安を感じる。
すっかり日が暮れて、どこもかしこも地明かりのアンバーに染まっている。仮に王馬くんかも知れない人が来ても、顔は遠くて判別し難いし髪や制服の色は普通と違って見えるしで困る─という事は無かった。
王馬「うーん、誰もいないね」
そう、本当はここには誰もいない。バカバカしいと判っているのにいつまでこんな事を続けるのだろう。
彼の振る舞いも嘘そのものも悪ではない。だからこれは罰じゃない。強いて理由を挙げるなら単純に見苦しかったから僕は目の前の背中を突き飛ばした。
「でもさ、オレはもう何が起きても不思議じゃないと思うんだよね」
「たとえば…オレらが実はとっくに死んでいて、ここが死後の世界だったとしてもね」
>>40の科白は原作から引用しました
─中庭─
王馬「見付からないね」
最原「そうだね」
気不味い空気の最中、僕は所在無く学ランのボタンを弄った。
王馬「超高校級の探偵に頼ってもダメだったかー」
最原「ごめん。言い訳でしかないけど、僕はまだ未熟だから…」
王馬「そう言って、見付けてほしくないものは見付けた癖にね」
王馬くんは確かに校舎6階の高さから転落した。痛がる素振りを見せないのは、元々痛い振りをしていただけでとっくに肉体的な苦しみからは解放されているから。血のひと筋も流さないのは、それが何色か彼自身も判りかねているから。
最原「どうするの?」
王馬「そんな事訊かないでよ」
最原「なら訊き方を変えようか。僕はどうすればいいの?」
王馬「明日になったらまた手伝って」
最原「それがいいと思う。もう結構な時間だし、そろそろ東条さんが夕ご飯の支度を終わらせて呼びに来るだろうから」
王馬「今日の夕ご飯はなんだろうなー、楽しみだね」
最原「王馬くんは何が食べたい?」
王馬「んー…何も要らない」
最原「じゃあ東条さんは来ないよ」
王馬「そうだよ」
そのまま解散して、僕は寮の自室に戻る─はずだった。そうならなかったのは、急に王馬くんが「いた」と呟いて走り去ったのを僕が追い駆けたせいだ。
少なくとも今日はもう付き合う義理なんて無いんだけど、最初からそんなものは不要だったのだ。
王馬くんの言葉の意味、彼がどこへ向かっているのか、なぜ僕が彼を追うのか、その先に何が待っているのか、全部全部知っている。この短い旅の終点が近い事だって、勿論。
最奥へ向かうに連れ血の臭いが強くなっていく。
─エグイサル格納庫─
結局戻って来てしまった。
視界はほぼ一色に染まっている。気分が悪い。足許が覚束無い。
プレス機に手を突けば、滑り気と共に『それ』がべったりとへばり付く。鉄と酸化した脂の化学反応に因る金属的な臭気が鼻腔を刺す。
実のところ現場の臭いがどれ程のものだったかなんて知る由も無いんだけど、経験から類推は出来る。どうせ早死にするならあんな経験は一生に一度だってしたくなかった…なんて、今更泣き言吐いても仕様が無いけど。
王馬「ダンガンロンパを抜きにしても、オレはロクな死に方しないだろうなとは思ってたよ」
最原「理由は出自?生き方?」
王馬「それもある。でも1番は性格かな」
最原「性格かぁ。王馬くんはそれを見付けられなくて、さっきまで探してたんじゃないの?そもそもそんなもの本当にあるかも怪しいよね」
王馬「ここに辿り着くまでに会ったみんな─最原ちゃんも、赤松ちゃんも、ゴン太も、入間ちゃんも、百田ちゃんもあんな事言わないよね。そういうのを性格って言うんでしょ?別に、性格だけが人間の全てとも思わないしね」
最原「一旦キミの主張を受け入れるとしてだよ。…本当に、ああするしかなかったのかな」
王馬「そんな訳無いでしょ。オレがあのやり方以外思い付けなかっただけ」
最原「良くも悪くも─あるいはそういった判断を拒むような、とにかくキミにしか実行できない方法だった。それこそ王馬小吉が王馬小吉たる所以と言ってもいいかもね」
王馬「それって、つまり」
最原「あの時の生き様、そして死に様を演じた彼こそが、本物の王馬小吉だ」
僕は血に塗れた手でプレス機を指さした。それが何色かは判らない。黒ずんだ赤にも目に悪いくらい彩度の高いピンクにも見えてしまう。
王馬「これが…真実?」
最原?「さあね」
ずっと追っていた謎を解き明かしてみせた割にはいまいち盛り上がらない。見様見真似でやってみたはいいものの、やっぱりオレには探偵役なんて無理だったんだ。
最原のような何か「オレはオレの信じたいものを提示しただけ。真実なんてクソ食らえ、だろ?」
突然、暗闇に包まれた。違う。環境の変化ではなく視覚自体が失われたのだ。より正確に言うならそんなものはずっと前から無かった。視覚だけじゃない、聴覚も、触覚も、嗅覚も、味覚も。だってオレはもう死んだのだから。
ボディを透明にして誰にも気付かれなかったら意味が無いから、オレは半透明の幽霊になった。そして、見透かされて完全に役目を終えた。
全く未練が無いと言えば嘘になってしまう。でも死ぬまでにやれるだけのことはやったし、だからこそ自分の気持ちに折り合いを付けられたと思える。
これで、ようやく眠れる。
……本当に?もうとっくに肉体の縛りから逃れて、今となっては休息する必要なんて無くなっているのに?
オレの意識はプレス機のほんの僅かな隙間に留まり続けていた。困ったな、成仏ってどうすればいいんだろう。したいと思って出来るものでもないのかな。生前にもっとちゃんと宗教について学んでおくんだった。そういう問題なのか知らないけど。
それからどれほどの時間が経ったのだろう。客観的な実状は別として、オレは未だに時間という概念に囚われたままだ。…ああ、思い出した。だからオレはあんなくだらないごっこ遊びを始めたんだっけ。
まず一条の光があった。最初は見失いそうになるくらい細くて頼りなかったけど、ゆっくり広がって、やがて視界の端まで行き渡る。
見上げると、僕がプレス機のボタンを操作していた。
最原「王馬くん、そんな所で潰れてないでちゃんと王馬くんを探してよ。言い出しっぺはキミなんだからさ」
王馬「ごめんごめん、そろそろ別の場所に行こうか」
伸されて肉塊とも言えないような歪なタコせんべい様の物体になった王馬くんが、プレス機からぴょんと軽やかに飛び降りた。何色か形容し難い血が床に散る。
王馬「で、なんの話をしてたんだっけ?」
ありがとうございました
夜におまけを投下する予定です
おまけ【赤松楓の証言】
赤松「うぐっ……あ、あれ?」
赤松(気付けば、私は真っ暗闇の中に立ち尽くしていた。たったさっきまで処刑を受けていたはずなのに)
赤松(まだ首の辺りが苦しいような気がして思わずネクタイを緩めた…けど、そこで初めて身体の感覚が失われている事を知った)
赤松(試しに手の甲を思い切り引っ掻いてみると、皮膚がまるで破いた包装紙みたいに剥けてしまった。それでいて痛みはおろか触覚さえ無いのが却って怖い)
赤松「私、死んだのかな」
赤松(ここは地獄なんだろうか。もしかすると暗がりをひとりぼっちで彷徨い続ける事こそが私に課せられた罰なのかも知れない)
赤松(…考えても答えは出なかった。私は途方も無い現状から逃げ惑うように、ゆらりゆらりと漂い始めていた)
赤松(揺蕩っている内に、いつの間にか大きな観音開きのドアの前に辿り着いた)
赤松「なんで、こんな所に?」
赤松(腕を伸ばすと、手応えこそ無かったもののあっさりドアが開いた)
赤松(その先は映画館のような場所だった)
赤松(スクリーンには憶えのある風景が映っている。早々にいなくなった私の場合、閉じ込められていた期間が短いからそう何度も見た訳じゃないけど、インパクトの大きいあの外観は頭に焼き付いていた)
赤松(廃墟と見紛いそうなほどボロボロの建造物、鬱蒼とした木立、最果ての壁、全てを遥か上空から覆う檻─あの映像はなんだろう?私が死んだ後の地上の様子を映しているのか、それとも、)
赤松「あ」
赤松(がらんとした劇場の中にたったひとり、誰かの姿を見付けた。座席の狭間から後頭部が覗いただけではあるけど、多分、きっと『彼』だ)
赤松(私は自ずと『彼』との距離を少しずつ詰めていた。接近するにつれ、置いてきたはずの心臓が激しく鼓動しているかのような錯覚を催してきた)
赤松(知らんぷりをするのは楽だけどそれだけじゃいけない、向き合わなきゃいけない、受け止めなきゃいけない…わたしの罪を)
???「…っ…」
赤松(血塗れの頭を抱えた『彼』がそこにいた。私は『彼』の名前を呼ぶ)
赤松「天海くん」
天海「あ゙ぁっ…!」
赤松(何を言おうかと躊躇した隙に、天海くんが勢いよく私の襟許を掴んだ)
天海「…ぅして…どうして…」
赤松(天海くんに謝らなくちゃならないのに声が出なかった。首が絞 まると、くび られた時の 息ぐるしさが よみ が えって、)
???「赤松さん!」
赤松(何が起こっているんだろう)
???「俺に関してはホント気にする必要無いんで…えーっと…今はとにかく楽しい事でも考えるっす!」
赤松(天海くんが天海くんを羽交い締めにしている……ように見える)
血塗れの天海「離せ!」
血塗れじゃない天海「俺は赤松さんをこんなに怨んでなんかいないっす。『これ』はキミの罪悪感が生んだ幻っす」
赤松(正直、天海くんらしき人が何を言っているのかよく判らなかった。…だから自分はどうするべきなのかもいまひとつピンと来なかった)
血塗れじゃない天海「俺の憶測が正しければ、こいつを消せるのは赤松さんだけなんすよ」
赤松(混乱の最中、投げ掛けられた言葉をどうにか飲み込めるように咀嚼してみた)
赤松(取り敢えず瞑目して眼前の情報をシャットアウトする。天海くん?は楽しい事を考えろなんて言ってたっけ)
赤松(真っ先に浮かんだのは、初めて映画館に連れて行ってもらった時の思い出だった。お父さんが買ってくれたポップコーンの容れ物はまだ幼かった私には両腕で抱えなければならないほどの大きさで、食べ切れるのかと不安になったのを憶えている)
赤松(回想がそこまで及んだ時、間近で何かが破裂したような気配を感じて反射的に目を開けた)
赤松(『何か』は最初に現れた方の天海くんだった。彼は千々の肉片…ではなく、なぜか大量のポップコーンになって雨霰と散り掛かった)
天海「赤松さん、お腹空いてたんすか?」
赤松「そういう訳じゃないけど…」
天海「冗談っす。どうやらここでは、飢えや渇きも含めた身体の感覚全般が失われるみたいなんで」
赤松(私たちは苦笑いしながら、髪や服に付いたポップコーンをはたき落とした)
赤松「あ、ずっと気になってた事言っていいかな」
天海「どうぞ」
赤松「私たち、なんでお互いの姿を見たり声を聞いたり出来るんだろう?もう目も耳も無いはずなのに」
天海「確かに不思議っすよね。実際に見聞きしてるんじゃなくて魂で感じてるとか?」
赤松「なるほど。肉体的な感覚が無くなった代わりにいわゆる第六感?みたいなものがはたらいてるのかもね」
天海「そもそも感じてすらいないのかも知れないっすけど」
赤松「え?」
天海「あー、ちょっと大きめのひとり言っす。今のは気にしないでください」
赤松(天海くんの口振りは気になったけど、余り掘り下げてほしくなさそうだったのでもう触れない事にした)
赤松(そうだ。色々あってそれどころじゃなくなっていたけど、私は天海くんに謝ろうとしてたんだった。今なら、それが出来る)
赤松「天海くん。本当になんて言ったらいいか分からないんだけど─」
天海「あー…そうっすよね、赤松さんはまだ誤解してるんすよね」
赤松「誤解?」
天海「結論から言うと、俺を殺したのは少なくとも赤松さんではないっす」
赤松「えっ?!」
天海「…立ち話もなんだし取り敢えず座りません?このままでも疲れはしないっすけど、やっぱ落ち着かないんで」
赤松(それから天海くんは、図書室で何が起こったのか彼の知る範囲で教えてくれた)
天海「─とまあ、赤松さんの主張と擦り合わせつつ推論を交えて話すとこんなところっすかね。そういう訳で、キミが自責の念に駆られる必要は無いんすよ。悪いのは黒幕っすから」
赤松「だとしても…結局私が付け入る隙というか、切っ掛けを作ったせいのような…」
赤松「でも、天海くんがそう言ってくれて幾らか救われたよ。ありがとう…って言うのは、違うかも知れないけど」
天海「ならよかったっす」
赤松(そこで私はある可能性に気が付いた)
赤松(天海くんが示してくれた真相は、私にとって妙に都合のいいものだ。…しかしそれは本当に事実なんだろうか?私に優しい言葉をかけてくれた天海くんだけが本物だなんて保証は無いのに)
赤松「天海くん。まさかとは思うけど、キミって私の妄想だったりする?」
天海「うーん…結局そういう話になっちゃうんすね。まあ、疑う気持ちは分かるっすよ。実際俺もその可能性がちょっと頭を掠めましたし」
天海「でも、それって現状どっちにしても証明できないじゃないっすか。いつかはちゃんと考えなきゃいけない問題かも知れないけど、取り敢えず今は捨て置いてもいいかなって俺は思ってるっす」
赤松「…そうだよね。なんか野暮なこと言っちゃったかな」
天海「いえいえ、お気になさらず」
赤松(スクリーンは、私がいなくなった後の才囚学園を映し続けている。殺人事件が起こったせいで、みんなすっかり憔悴しているようだった。…何を感じて何を思っているのかいまいち読めない人もいたけど)
赤松(私は、なんだかずっと涙が止まらなかった。自分でもどんな気持ちで泣いているのかよく判らなかった。ただただ苦しさだけがあった)
天海「なんでもかんでも思い通りっていうのは、やっぱりそれはそれでつまらないもんすね」
赤松(天海くんは脳内イメージから具現化したのか、どこからともなくポップコーンを出してそれを食べてみせた)
天海「味や食感も記憶とか想像で補完すればまあまあなんとかなるっすよ。赤松さんもどうっすか?」
赤松「ありがとう…」
赤松(気を遣わせて申し訳無いと思いつつ、好意には甘える事にした。勧められるまま手を伸ばしたポップコーンは無味無臭だった。正直なところポップコーンの味を思い出すだけの余裕が無かった。でも、今の私に感覚があったとして、何を食べたって味なんて分かりっこなかっただろう)
赤松(天海くんはこんな状況でも冷静に見えた。あんまりにも私がめそめそしているから、自分が悲しむどころじゃなくなっているのかも知れない)
赤松(それから私たちは色んな話をした。示し合わせた訳じゃないけど、お互いになるべく楽しい話をするよう努めてていたと思う。まるで、現在進行形の惨劇から目を反らすかのように)
赤松(それからもコロシアイは続いた。スクリーンの映像は全く思い通りにならない辺り、全部が全部私の妄想ではないらしい。…贅沢を言うならもっと違う形で知りたかったけど)
赤松(誰か死んで少し経つと、その人が私たちのいる映画館にやって来た。組み合わせに依っては生前の禍根で多少揉めたし、それを抜きにしてもこの世界の特性上トラブルは絶えなかった。しかし、何があろうと学園でハプニングが起こると全員例外無くスクリーンに釘付けになった)
赤松(そういった大まかな流れを4回繰り返して、やがて最後の学級裁判が終わった。私は学園が瓦礫と化していく様を惚けたように見ていた。その頃には涙は枯れ果てていて、不思議と清々しい気持ちだった)
赤松(不意に出入口の扉が開かれる音がした。誰かが映画館にやって来たのか、はたまた出ていくのか)
赤松(私は振り返らなかった。確かめる必要が無くなったから)
ゴン太「ねぇ王馬君、どこ行くの?」
王馬「…ちょっと探し物をしに」
赤松(それきり王馬くんはいなくなってしまった。彼がどこへ行ってしまったのか、知る術は無い)
投下は以上です
読んでくださった方、レスしてくださった方、ありがとうございました
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