【リトバス】理樹「ストーカーに狙われるようになった」 (40)

理樹(ある日、クドが枕の新調がしたいので買い物に付きあってほしいというのでその週の日曜日を待ってから一緒に街の方に出かける事となった)

日曜日

駅前

クド「わふー!今日はいい天気になってとても助かりました!絶好の買い物日和です!」

理樹「うん。ただ夕方からは雨が降るみたいだから早めに帰らないとね」

クド「そ、そうなんですか!?じゃあ早速回っていきましょう!レッツショッピング、なのですー!」

理樹「はははっ」

理樹(ちょうど中間試験も終わったのでクドのテンションはいつにも増して凄く高い)

バタッ

理樹「ん?」

理樹(後ろで大きな物音がした。振り返るとそこには白いワンピース姿の格好の女性が階段につまずいたのか寝そべるように倒れていた)

???「ッ・・・」

理樹(だが、その姿には何か違和感があった)

クド「わふっ!た、大変です理樹!あの人きっと怪我を・・・!」

理樹「えっ・・・あ、ああっ」

理樹(しかしその違和感の正体を掴むことより先に手助けするのが優先だった。僕はクドにはその場にいてもらい、その人に駆け寄った)

理樹「あ、あの・・・大丈夫ですか!?」

???「・・・・・・」

理樹(見た所、こけた拍子に擦りむいたのか膝から痛々しい血が流れていた。そして先ほど感じていた違和感はそれを見て何故か更に大きくなった)

理樹「た、大変だっ。これ使ってください!」

???「ありがとう・・・」

理樹「!!」

理樹(その人は声と共に顔を上げた。そして僕はその声を聴いた瞬間に先ほどまでの違和感の正体に気付いた。長い髪の毛、その恰好でそうは思わなかったけどこの声と体格は・・・!)

ワンピースの男「ございます・・・」

理樹(この人は・・・男だ!)

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理樹「うっ・・・!」

理樹(頭が一瞬真っ白になった。女性の格好はしているが顔は完全に男性で、年齢は30代といったところだろうか?顎には手入れされていない髭も生えていた。その男性はぎこちない笑みを浮かべて僕の差し出したハンカチを震える手で受け取った。まるで数年ぶりに人と会話をしているという風に)

理樹「あ・・・えっと・・・そ、そのハンカチは差し上げます・・・っ」

ワンピースの男「あ・・・」

ダダッ

理樹(僕はそれから失礼とは分かっていても怖くなってクドの方に速足で戻って行った。クドまでのわずかな距離がとても長く感じた)


・・・・・・


クド「リキ・・・さっきの人はどうでしたか・・・?」

理樹「えっと・・・その、大丈夫だってさ。とりあえず行こうかっ!」

クド「わふ?そ、そうですか・・・?」

理樹(明らかに動揺しているのがクドにも読み取れたようだ。しかし今は平静を取り戻すよりも早くこの場から逃げだしたかった僕はクドを置いていくかのような早歩きでショッピングモールへと歩いていった)



・・・・・・

ショッピングモール内

クド「リキ!ここです!私が行きたかったのは!」

理樹「ああ・・・」

理樹(モールに着く頃にはいくらか冷静になった。さっきまではかなり怖がってはいたが今思えば女装する男性なんてこの世界では珍しくないはずだ。そりゃ実際外で見かけることはほとんどないが、人には色んな趣味趣向、あるいは己の性の関係で世間とは少し違う自分を表現することもある。僕はそれに対する理解が足りなかったんだ。僕はクドと枕を品定めしながら心の中でぎょっという反応をした事に反省した)

クド「やっぱり蕎麦殻が一番ですねぇ~・・・リキ、聞いていますか?」

理樹「ん?ああ、聞いてるよ。僕もこれを機に枕買っちゃおうかな。前に枕に牛乳をこぼして捨てたっきり使ってなかったから」

クド「わふー!?枕なしで寝ていたんですか!?それはいけません!ぜひ買うべきです!」

理樹「はは・・・そうだよね」

クド「リキは普段どんな枕を使っていたんですか?」

理樹「ええっと僕はね・・・」

理樹(と、辺りを見回すために振り返った時だった)

理樹「!?」

ワンピースの男「・・・・・・」

理樹(いた。僕らがいる店の向かい側の店の入り口の前に彼は立っていた。しかもその視線は確実に僕を捉えていた。僕は本能的に彼を長く見つめずあくまで自然に___出来ていたかは怪しいが_____首をそのまま近くの商品棚に映し、クドとの会話を続けた)

理樹「あ、ああ・・・確かこれかな・・・」

クド「なるほど、低反発枕ですかー!これ触るとモチモチしていてとっても気持ち良いんですよねっ」

理樹「はは・・・」

理樹(一度気付くと不思議なことに一気に後ろから視線を感じた。まずい、あれは完全に僕を見ていた。さっきまで大人しかった心臓がまた激しく波打っていた)

理樹「じゃあこれを買おうかな・・・」

クド「わふ!?即決ですかー!?」

理樹「確かまったく同じものだったと思う。使い心地が良かったからこれにするよ」

クド「そ、そうですか・・・?じゃあ早速レジに持っていきましょー」


・・・・・・

ピッ

店員「1980円となります」

理樹「はい・・・」

理樹(あれからまだ例の彼は僕を見ているんだろうか?それが気になってしょうがなかった)

クド「あっ、リキ・・・実はまだ行きたいところがありまして・・・」

理樹「えっ?」

クド「実はヴェルカとストレルカの大好物のサラミがこのモールのペットショップに売ってて近場ではあまりないので少し寄ってもいいですか・・・?」

理樹「あ、ああ勿論っ。せっかくここまで来たんだからね。買わないと損だよね・・・」

理樹(はっきり言ってクドとの会話はほとんど上の空だった。それよりあまりに後ろが気になりすぎた。しかしいつまでも目を背けてはいられないので恐る恐る振り向いてみた)

理樹「・・・・・・」

理樹(・・・いなかった。先ほどの場所はおろか近くを見渡してもさっきの白いワンピース姿はどこにも見当たらなかった)

理樹「ほっ・・・」

クド「わふー?どうしたんですかリキ、ため息なんか・・・ハッ!も、もしかして買い物が退屈ですか!?ご、ごめんなしゃい・・・そーですよね、枕と犬さんのご飯なんて巡っても面白くないですよね・・・」

理樹(クドがナーバスモードに入った)

理樹「ち、違うよ!?ごめん今のはため息とかじゃないよ全然!いやあクドと二人で買い物は楽しいなあ!」

クド「そ、そーですか・・・?」

理樹「うんうん!」

クド「で、ではさっきのは・・・?」

理樹「え、ええと・・・その・・・」

理樹「・・・ゲップ?」

クド「・・・リキ汚いです」

ペットショップ

クド「あっ!ありましたー!わふー!これでストレルカ達もきっと喜んでくれます!」

理樹「お土産が出来てよかったね」

理樹(クドの喜ぶ顔を見ていくらか緊張感が解けた。が、それはつかの間の話だった)

理樹「そういえば鈴が最近モンプチが少なくなったとか言って・・・なっ!」

ワンピースの男「・・・・・・」

理樹(もはやこれで確定した。さっきはたまたま近くにいて、僕を見つけたから見ていたのだと思った。そう思いたかった。しかしその希望は店内に彼の姿を見つけることで打ち砕かれた)

チラッチラッ

理樹(はたから見ればインコの餌を品定めしているようにも見えるが、あれは明らかに僕に注意を向けていた。一度ならともかく二度も僕の前に現れるのは偶然では片付けられない。目的は完全に僕だ!)

理樹「・・・クド」

クド「はい、なんですか?」

理樹「それを買ったらすぐに出よう。部屋に戻る用を思い出したんだ」

理樹(出来る限りクドに緊張を悟られないように声を抑えて言った)

クド「そうなんですか?わ、分かりました。じゃあ急いで買ってきますね!」

理樹(本来ならもっと買い物を楽しみたかったであろうにクドには申し訳なかった。しかしこの状況ははっきり言って異常だ。僕はすぐにでも恭介や真人に会ってこのことを話したい)



・・・・・・


店員「ありがとうございましたー」

クド「お待たせしましたリキ!」

理樹「うん、じゃあ行こうか」

クド「はいっ」

理樹(店を出る時、不自然に見えないように振り返ると彼の姿は見える限りではどこにもいなかった)

夕方

駅への帰り道

理樹(モールではほとんど時間を使っていないように感じたが帰る事には夕焼けがうっすらと空を染めていた。あんなことが2度もあったので僕は後ろを何度も警戒していた)

理樹「ごめんね、僕の事情で帰ることになっちゃって・・・」

クド「いえ、そんな・・・元々リキが私の買い物に付きあってくれたから・・・。それにお目当てのものは全部買えたのでのーぷろぐれむ!なのですー!」

理樹(こんな状況ではクドのとびぬけた明るさだけが心の支えだった)

クド「ええと・・・そろそろ駅でしょうか・・・?」

理樹「うん、そのはず・・・」



ワンピースの男「・・・・・・」



理樹「!!!」

理樹(危うくもう少しで叫ぶところだった。彼が駅前にいた。あの最初に出会った階段のところで)

クド「・・・どうしたんですかリキ?急に足を止めて・・・」

理樹(彼はキョロキョロと何かを探すように辺りを見渡している。おそらく僕を探しているんだろう。目に留まりやすい格好でよかった・・・気付かなかったらもう少しで彼の視界に姿を現していた。僕は見つからないうちに慌てて後ろに身を隠した)

クド「リ・・・リキ・・・!」

理樹「クド。こっちに来て」

ギュッ

クド「わふっ!?」

理樹(僕はクドの肩を掴み僕の方へ身を寄せさせ、そのまま手を握って先ほど来た道へ引き返した)

タタタッ

クド「リ、リ、リ、リキ!あにょ、そにょ、これは・・・!?」

理樹(クドに構わず僕は目に留まって近くのファーストフード店に立ち寄った。そして適当なメニューを選んで2階の窓側に座った。クドの手をずっと握っていたのに気付いたのはそのあとだった)

店内

理樹「ふぅ・・・ここからならこっちを発見することはないかな・・・」

クド「あのぉ~・・・リキ・・・」

理樹「うん?」

クド「手・・・」

理樹「あっ!ご、ごめん!」

理樹(僕が慌てて手を離すとクドはもじもじとしながら握っていた手を残った方の手で触っていた)

クド「き、急にどうしたんですか・・・?」

理樹(とても恥ずかしかったのだろう、クドの顔はとても赤らめていた)

理樹「本当にごめん・・・ちょっと半ば混乱してて・・・」

理樹(僕は2階からとても小さいが明らかにそれと分かるワンピースを確認し、クドに向き合った)

理樹「クド、僕らがここに来る前、怪我をした人がいたよね」

クド「えっ?ああ、あの駅の・・・」

理樹「実はさっきまでクドには言わなかったんだけどさ・・・その人、ずっと僕らのことをつけてたんだ」

クド「!!」

理樹(そこでクドの顔も僕と同じように急に青ざめた)

クド「そ、それは・・・!」

理樹「なにが理由で僕らを付けているのか分からない・・・でも、もしその理由が僕の渡したハンカチを返すことだったり、なにかお礼が言いたいということなら直接その時僕らに言ってくるはずだ。でもあの人は僕のことをただじっと見つめるだけで何もしてこないんだ」

クド「なんでなんでしょう・・・あっ、ということはもしかしてさっきは駅の方に・・・?」

理樹「うん。そうなんだ・・・正直追ってくる理由は分からない。でもなんとなく彼に会うのは危険な気がする」

クド「か、彼・・・?」

理樹「あ、ああ・・・そうなんだよ。あの人男だった」

理樹(それを聞いたクドはますます恐怖におののいた)

クド「ど・・・どうしたら・・・まだ駅の方にいるんでしょうか・・・!?」

理樹(僕は無言で彼の方を見た。クドもそれに倣って僕の視線を辿る。彼は依然同じ位置で僕らを探しているようだった。彼を通り過ぎていく人たちは皆同じように見ては驚き、速足でその場を離れてく)

クド「ひっ・・・!」

理樹(クドが飛び上がった。でも他のお客さんの注目を集めてしまい、慌てて席に座りなおした)

クド「リ、リキィ・・・」

理樹(すがるような目で僕を見つめるクド。本当は僕も涙目になりたいところだったが、ここで僕まで怯えたらクドはものすごく怖がると思って我慢した)

理樹「・・・恭介たちに連絡しよう」

理樹(情けないかもしれないが今の僕にとってはこれが何よりの最善手だと思った)

続く(∵)

お、期待

プルルルル

ガチャ

恭介『おう理樹か、どうした?』

理樹(恭介ののんびりとした声が聞こえた)

理樹「あ、ああ恭介!実は困ったことになっちゃって…」

恭介『待て!当ててやろう』

理樹「へっ?」

恭介『確か能美と一緒に街の方まで遊びに行ったと言っていたな…ズバリゲーセンに寄って金を使い果たして切符代がなくなった!』

理樹「恭介…あの…」

真人『いやいや!筋トレ本で何を買いに行けばいいのか分からなくなっただ!』

理樹(今の会話を聴いていたのか真人まで通話に割り込んできた)

理樹「ま、真人……」

謙吾『いやいやいや!正解は能美とのデートで会話が繋がらなくなったから助けを求めに来たんだろう』

理樹「謙吾までいるの!?」

恭介『どうだ、この中に当たりはいるか?』

理樹(声から楽しそうな向こうの雰囲気が伝わってきた。僕も思わず今の状況を忘れて呆れるところだった)

クド「わ、わふ…リキ、いったい何を話しているんですか…?」

理樹「ハッ!そ、そうだよ恭介!僕らは今そんな大喜利をやってる場合じゃないんだ!今僕らは終われてるんだよ!」

恭介『追われてるだと?』

………………


理樹(恭介にあらざらい話した。あれだけおちゃらけていた恭介は話の最中で察したのか僕の話の腰を折る事はほとんどせず、話の中の不明瞭な点だけ聞き直すようになったからだ。これは恭介が真剣に話を聞いている時のサインだ)

恭介『…じゃあ今はその店の中で能美と一緒にいるんだな』

理樹「うん」

恭介『そのストーカーはまだそこにいるか?』

理樹「ストーカー……」

理樹(恭介から言われてハッとしたが冷静に考えればそうだ…僕らはよく対岸の火事として聞いていた『ストーカー』を相手にしているんだ)

理樹「え、ええっと…うん、まだ同じ場所にいるよ」

恭介『いいか理樹、決してそこから動くなよ。そして必ずストーカーを視界に入れておくんだ。トイレに行く時は能美に監視を代わってもらえ。俺らが行くまで待っててくれ」

理樹「えっ、恭介達が来るの!?」

恭介『そんなの当たり前だろ。もう向かってる』

理樹(まさかあの会話の中でもう二人に呼びかけて準備も済ませていたのか!いつの間に)

恭介『また追って連絡する』

理樹(そう言うと恭介は電話を切った)

クド「も、もしかして恭介さん達が来てくれるんですかっ」

理樹「ああ、そうみたいだね…」

理樹(この朗報にクドの緊張もいくらか解けたようだった。あのストーカー(これからはそう呼んでしまおう)は女性の格好をしていたとは言え僕らより年上だし身長も高かったからいざという時の本能的な恐怖があったが、真人や謙吾がいてくれたならたとえもし襲い掛かられたとしてもなんとかなるという安心感があった)

理樹(だがそれはすべてその3人と無事に合流出来たらの話だ)

理樹「いいかいクド、今は僕があの人を見張るけどもし僕がトイレだったりで席を離れる時はクドが代わりにあの人を見ておいてほしい」

クド「わ、わふ……とても怖いですが頑張ります!」

理樹(クドは先ほどから意識してあのストーカーから目を離していた。僕も出来るだけ目を逸らしたかったから恭介に言われるまでチラッと確認するくらいだった。クドを怖がらせないためにも例え行きたくなったとしてもトイレはなるべく我慢するつもりだ)

理樹「それにしても恭介達がここに来るまでどれくらいかかるかな…」

クド「そうですねぇ…ここから一駅分とは言え駅までが長いですから30分はかかるかもしれないです……」

理樹(僕はため息を吐きながらストーカーを見た。ここから向こうはかなり見えにくいとはいえ、今にもあの辺りを見回すストーカーの目がこちらを向いたらとぞっとする。今だから分かるが体格もあの服装には似つかわない…彼はいったい何故あんな格好をしているのか……)

理樹「やめよう…」

理樹(考えていても暗くなるだけだ)

理樹「ねえクド、何か最近の楽しかったこと話してくれない?」

理樹(クドは一瞬戸惑ったが、僕の意図に気付いてくれたようで出来るだけ明るい声色で話を始めてくれた。徐々に慣れてきたのかしばらくすると本当に楽しそうに語ってくれてクドの顔が見れないのが残念だった)

…………………

理樹(しばらくすると恭介から電話が来た)

ガチャ

恭介『もしもし?』

理樹「あ、恭介!」

恭介『もうそろそろ着きそうだ。まだ奴はそこに?』

理樹「うん…いるよ。ホームから出て西側の階段に。僕のいる店は分かる?」

恭介『ああ、謙吾が知ってる。合流したらすぐ移動するからな。会計はどっちかが済ませてくれ。トイレも行くなら今のうちだ』

理樹「分かった」


………………………………


クド「リキ、支払ってきました!」

理樹「ありがとう。これ僕のお代ね」

理樹(そうしていると電車が駅へ到着した)

理樹「あっ、多分あの電車だ」

クド「本当ですかっ!」

理樹(クドが嬉しそうに立ち上がって電車の方を見た)

クド「あっ!真人さん達がいました!」

理樹「えっ、よく分かるね!?……あっ、本当だ」

理樹(僕も視線を外して電車の方を見た。すると僕も案外すぐに見つけた。あの大柄な二人が窓に顔と手をべったりくっ付けるようにしてこちらを見ていたので結構簡単だった)

クド「おおーい!こっちです!」

理樹(クドが大きく手を振った。すると真人らもこっちを見つけたのかニカッと笑った。恭介だけは考え事をするようにストーカーのいる方面に目を向けていた)

理樹「ストーカー……あっ、そうだ」

理樹(安心していて監視することを忘れていた。慌てて目線を戻すと)


ストーカー「……………………ニカッ」


理樹「うわぁっ!!」

理樹(笑っていた。僕らの方を見て、あの最初にハンカチを渡した時とは違う、『上手くいった』といった具合の笑みを僕らに向けていた)

クド「リ、リキ……?」

理樹「まずいよクド、ここを離れなきゃ…」

クド「えっ?………ひっ!」

理樹(クドも彼を見て小さな悲鳴をあげた)

理樹「どうする……考えろ……」

理樹(向こうからここへはどれだけ走っても店の前で鉢合わせすることはない。だけど確実に僕らがその後どこへ向かうかは見られてしまうだろう。この街の中でクドを連れて撒ける程道に詳しい訳ではない……はっきりいってギャンブルだ)

クド「リ、リキ…ここから出ないんですか!?」

理樹(だからといってここでジッとしていても席がバレているから見つかる……ならば僕は……)

クド「………リ、リキ…あの……」

理樹「シッ、喋ったら見つかるよっ…」

クド「は、はいぃ…」

理樹(僕らは急いで店の別の席に移動させてもらった。ストーカーはあの後僕らの予想通りこっちに向かってきたのでもう外に出るという選択肢はなかった。だから2階から降りて1階の奥の席でそれぞれメニュー表で顔を隠す事にしたのだった)

理樹「…………っ」

理樹(恭介達にはメールで席の位置とストーカーに見つかった事を伝えた。もうここからはストーカーに見つかるか恭介達に見つけてもらうかのどちらかだった)

理樹(幸い一階の方が人は多く、上手く紛れているように見える。恭介ならもっと上手い方法を見つけるかもしれないがこのパニック状態の僕にはこれが精一杯の案だった)

クド「ハァ…ハァ…っ」

理樹(クドの緊張が怖いくらい伝わった。仮にあの男が目の前に来たなら僕がなんとしてでもクドは守らなきゃいけない。実際ストーカーには詳しくないのでああいう人間が出会ってすぐ直接的な暴行をしてくるかは分からないが、万が一の時は僕が勇気を奮わなくちゃならないんだ)

チャリーン…

クド「ううっ…!」

理樹(店の入店音がこれほど怖かったことはあるだろうか?全身の毛が逆立った。両手は血流が激しく流れているのが分かるほどジンジンする)

理樹「………っ」

理樹(とても様子を見たいが絶対に許されない。こちらから見えるということは向こうからも見えるからだ)

「「~~~~~!」」

理樹(店中のガヤで状況がまったく掴めない。時折りテーブルのすぐ向こうにいるクドの気配すら感じられない時すらある。もしかしたら、すぐ目の前にあのストーカーが立っていても……)

ガシッ

理樹(その時、僕の肩に手が乗った)

理樹「うわあっ」

理樹(慌ててその手の方を向くと……)

謙吾「俺だ理樹」

理樹「け、謙吾!」

恭介「真人、階段の方見とけよ」

真人「大丈夫、やっこさんはまだ降りてきてねえ」

クド「み、皆さん……来てくれたんですねっ」

理樹「恭介っ……」

恭介「まだ安心するのは早い、店を出るぞ……っ」

理樹(そういうと恭介と謙吾はクドと僕を間にして列を成すように先導した。真人は一番後ろでストーカーがこっちに来ないか見張りながら僕らの後を追う)

恭介「よし、出るぞ」

理樹(店の出入り口までたどり着いた時だった)

真人「まずい、こっちに気付いたっ…降りてきたぞ!」

恭介「構うな!走るぞ!」

理樹(恭介を無視して思わず振り返った)

ストーカー「………!」

理樹(やはり異様だった。このありふれた空間の中であの存在だけが浮いて見えた。他の客や店員の中であの男に気付いた誰もが一度見るとそのまま取り憑かれたように見つめていた。その理由は恐怖や好奇心など様々だったが)

チャリーン…





街道

恭介「こっちだ!」

理樹「えっ、そっちは駅の方向じゃないよ!?」

恭介「分かってる!」

理樹「ええっ!?」

理樹(恭介の向かう道は大きな車道の方だった。こっちはあまり詳しくはないが確か避難できそうな場所はなかったはずだ)

真人「うお!こっち向かってるくるぜ!」

理樹(やはりストーカーは追ってきた。少しだけ距離は空いていたが1分もしないうちに追いつかれる所だった)

恭介「真人!謙吾!」

謙吾「おう!」

ヒョイッ

クド「わ、わふー!?」

理樹(恭介の合図で謙吾がクドを担ぐように持ち上げた!)

理樹「ええっ!?」

真人「よっしゃあ!」

理樹(そのまますかさず僕もいきなり宙に浮いたかと思ったら真人にクドと同じく米俵を担ぐような要領で持ち上げられた)

理樹「嘘でしょ!?」

恭介「このままエスケープだぜ!!」

クド「なぁぁ~~!」

理樹(恐ろしい事に2人は僕らを持ち上げているにも関わらずさっきと同じ……いや、むしろ早いくらいの勢いで走り出した!)

ストーカー「……………」

ダダッ

理樹(しかし男の方も本格的にこちらを追い出した。想像していたとはいえ、本気でこちらを追う姿はとても恐ろしく見えた)

理樹「まずい……!」

理樹(流石の真人と謙吾でも僕らというハンデを負いながら引き離すのは無理がありそうだった。最初だけ引き離していたが、徐々に間隔を詰められつつある)

理樹「な、なんで駅の方にいかないの?このままだと追いつかれちゃうよ!」

恭介「いや!こっちでいい、こっちで合ってる!」

理樹「なにが……っ」

理樹(恭介の方を振り向くとその視線の先にはタクシーが止まっていた)

理樹「えっ!なんでこんな所に…!?」

恭介「ここに向かう途中に呼んでおいたんだ!」

理樹(タクシーの運転手は僕らを見るなり急ぎの用だと察したのか前もってドアを開けて待ち構えてくれた)

ダダッ

恭介「よし!乗り込め!」

謙吾・真人「「おお!!」」

理樹(恭介は助手席、僕らはそのまま突っ込むように後ろの席に乗り込むと、恭介は間髪入れずに運転手さんに目的地を伝えてタクシーを出してもらった)

ブルルルッ…

真人「ふぃ~疲れたぁ~~!」

謙吾「ふっ、なんだ今の距離でへばったのか?俺は全然余裕だぞ」

真人「はあ!?俺だって余裕だ!今のはホラ、あれだ…気が疲れたんだよ!理樹達を心配してな!」

恭介「そんな事よりさっきの奴はどうだ?」

理樹(後ろを見るとストーカーはさっきまでタクシーが停まっていた所で僕らの方を見て立ち尽くしていた)

理樹「ああ、なんとか諦めてくれ……」


ストーカー「~~~」


理樹「っ!?」


恭介「………どうした?」

理樹「……あっ、いや、なんでもない…もう向かっては来ないよ」

恭介「そうか……」

クド「び、びっくりしました……急に担がれてまるで神輿になった気分でした…!」

謙吾「ああ、悪かったな。あの時はああする方が速かったんだ」

理樹「…………」

運転手「それで次はどっちに行く?」

恭介「ええ、今度はぐるっと回って…」

理樹(それにしても凄い手腕だった…恭介は電話やメール越しの情報だけでここまで考えついたのか……確かにタクシーなら電車と違って素早く乗れる他に安全に僕らの向かう方向を悟られずに帰ることが出来る)

真人「にしてもよぉ、さっきのは流石にちょっと気味が悪かったな……人のことあんまり悪く言いたかないがありゃちょっとしたホラーだな…ううっ、怖え」

謙吾「バカ、あんな格好で狙われたら完全にホラーだ……にしても理樹は何故あの男に追われたんだ?別に悪い事はしていないだろう」

理樹「う、うん……そうなんだよね……」

クド「いえ、よく考えてみたんですがむしろ逆なんじゃないでしょーか……」

理樹「えっ、どういうこと?」

クド「多分、あの人はリキに親切にされたからお礼を言いたいんじゃないかと…」

謙吾「ほお?」

クド「た、確かに最初は怖かったんですけど、よくよく考えると私達に怒ってる様子はなかったし、もしかしたらただ凄くシャイなだけなんじゃないかって……」

理樹(クドの意見はとてもクドらしい優しい考えだった…しかし…)

真人「だったらいいんだけどな…ま、どのみちもう二度と会う事は……」

理樹「それは多分違うよクド」

クド「えっ?」

理樹「だってさっき……」

ストーカー『~~~』

理樹(さっき、立ち止まって僕らの方へ向けて言っていた口の動き…あれは……)

ストーカー『に・が・さ・な・い』

理樹「…って言ってたから…」

クド・真人「「ゴクリ……」」

謙吾「……だとしたらおそらく執着心だろうな」

理樹「なにか知ってるの?」

謙吾「ああ。実は昔、二木も似たような感じで男子生徒に付き纏われた事があってな」

クド「えっ、佳奈多さんがですか!?」

謙吾「ああ。だが、二木の性格は知ってるだろ?あいつはむしろその生徒に近付いて行って何故付き纏うのか問いただしたんだ」

真人「うわぁ、なんかあいつらしぃ~」

謙吾「するとそいつは以前、二木に親切にされた事から好きになったがどうアプローチしていいのか分からなかったからとにかく近くにいたかったらしい。もちろん奴はその後、反省文を書かせていたが」

理樹(なんだかその人に思わず同情するエピソードだったが、確かにそれならばあの男の行動にもうなずける。近くで見た感じだと明らかに人馴れしていなかったが、あの台詞からすると謙吾の言う通り僕に執着しているようにも見える)

恭介「とにかく能美と理樹はもう街の方に出るのは控えろ。何か用があるなら俺達や他の友達に頼めよ」

理樹「う、うん…」

クド「わ、わふ…私も絶対行けないです……」

恭介「奴がどんな名探偵だろうと学校に引きこもってりゃバレる事はない。なに、どうせしばらくしたら流石に向こうもこっちの事は忘れるさ…どんな人間でも1日会っただけの他人の容姿をずっとは覚えられないさ)

理樹(よく見ると恭介達は制服ではなく私服だった。おそらく僕らがどこの学生か特定されないためだ。あの時点で僕らと合流するだけでなく逃げたその後の事も想定していたのか)

真人「おっ、言ってる間に学校が見えてきたぜ!」

謙吾「良かった、なんとか門限には間に合ったな」


…………………………………………



理樹(緊張が続いていたが僕らの部屋に戻ってようやく一息付けた。最初は楽しげな始まりだったが終わってみればとんでもない1日だった。もうこの事は出来る限り頭の中に封印したい限りだ)

……………………………………………


………………………


……



理樹「ほら行くよ真人!」

真人「お、おう!」

理樹(それはあの事件からしばらくしてからの事だった。僕は珍しく寝坊する真人を起こして慌ただしく学食に向かおうとしていた)

真人「準備完了!行くぜー!!」

ガチャッ

ダダッ

………パサッ

理樹「ああもう待ってよ!まだ鍵を閉めて……ん?」

理樹(部屋の鍵を閉めようとした時、ドアが何かに引っかかった。床を見ると何か布のような物がドアの下に挟まっていた)

理樹「なんだ?」

真人「おおーいどうしたんだよ理樹!早く行こうぜー!」

理樹(それをグイッと引っ張って取り出し、僕は戦慄した)

理樹「あ……ああ……!」

理樹(それは……僕があの男に渡したハンカチだった)

続く(∵)

乙。実際怖い

緊張感あっていいね、ホント怖いわ

食堂

来ヶ谷「なるほど。じゃあそのハンカチからこの場所が見つかったという訳だ」


理樹「うん…あれには名前が書いてあったから」

葉留佳「名前だけで何処にいるかまで特定って出来るんですネ……」

小毬「こ、怖いぃぃ~……!!くーちゃん大変だったねぇ……」

クド「は、はい…人生最大の恐怖だったのです……」

鈴「でも部屋まで来たってことは寮監視カメラで分かるじゃないのか?」

西園「いえ、監視カメラは男子寮の方には設置されていないと聞きました」

来ヶ谷「この学校はまだ古い。敷地内の警備システムなんて見回りさえかわせば楽々と理樹君の元まで辿り着けるだろう。……実際私も何度か学校を抜け出した事があるが問題はなかった」

恭介「そういえば俺もしょっちゅう門限過ぎてから部屋に戻っても全然バレなかったな」

葉留佳「2人ともなにやってんですカ!?」

理樹(しかしこれで僕はもう何処にいてもあのストーカーの影に怯えなくてはならないと言うことになってしまった)

真人「よく分かんねえけどよぉ、こういうのって警察に連絡してとっ捕まえたもらったらいいんじゃねえの?」

来ヶ谷「この段階じゃまだダメだ」

真人「なんでだよっ!」

来ヶ谷「敷地内にいる所を見たならまだしも『多分付き纏われてるかも』じゃ警察に出来るのはせいぜい学校の周りをパトロールするくらいだ。わざと存在をほのめかす程度で済ませているなら大した物だ」

真人「褒めてる場合かよ!じ、じゃあ学校に報告しようぜ」

来ヶ谷「うむ、そっちの方が多少は具体的に動いてくれるだろう」

恭介「とはいえ一応は警察にも行くぞ。万が一があった時、事前に説明しておいた方がスムーズに動いてくれるだろうからな」

理樹(その後は昨日あの場にいた恭介、真人、謙吾そしてクドと僕で授業を休み、学校と警察の方に行くこととなった)



理樹部屋

理樹「はぁ…ただいま……」

真人「ヒュウ~…なんだか警察と話するのって凄え疲れるな…結局カツ丼出なかったしよぉ」

理樹「カツ丼出るような事しないでね真人…」

理樹(警察にはそのストーカーの顔の似顔絵を作ってもらい、来ヶ谷さんの言う通りパトロールで学校の方も寄ってもらうことになった。最初は信じてもらえるか不安だったけど恭介達も証人だった事でその心配はなかった。ただ、この街でそういった人が現れたという報告は今までなかったという。ストーカー法というのはその本人が知っている人間かどうかで出来る範囲が全然違うと言っていた)

真人「肝心の証拠が元々理樹が持ってたハンカチだけなんだもんなあ…」

理樹「そうなんだよね……これだって厳密にはあの人が持ってきたって証拠じゃないし」

理樹(ただ相談実績を作るのは大事だと警察の人は言っていた。僕も相談しただけとは言え警察が味方についたというだけでいくらか安心出来た)

真人「そういえば学校の方はなんつってたっけ?」

理樹「ええっと不審者の張り紙を貼ったり、見回る警備員さんを増やすんだって。あとはすぐではないけど監視カメラもこの機にあちこちに付けていくって」

真人「なんだかいつの間にか大事になっちまったな」

理樹「うん…ここまでいくとなんだかむしろ悪い気がするなあ…」

真人「なに言ってんだ!もしお前らに何かあったらどうすんだよ!元にクド公なんか四六時中来ヶ谷が付きっきりなんだぜ?」

理樹(そう、来ヶ谷さんはこれ幸いとばかりに護衛と称してクドにべったりだった。なんだかあの人の方が危険人物のような気がする…)

真人「ま、出来る限りのことはやったんだ。後はなるようになるさ」

理樹「そうだよね…あんまり考えこんでてもダメだよね…」

理樹(それからシャワーに浴びるためにベッドの下の棚からバスタオルを取ろうとした時だった)

理樹「………あれ?」

真人「どうした?」

理樹「いや…なんだか引き出しが開かないんだ。何か挟まってるのかな」

真人「どれ…ん、本当だな。よぉし……うりゃ!」

理樹(真人が代わると持ち前の筋肉で勢いよく引き出しを開けた)

ガゴッ

理樹「なっ………!」

真人「ゲッ!?」

理樹(そこにあったのは大量の黒い髪の毛だった)





……………………………………


恭介「こりゃ本物の毛じゃない、人工毛のカツラだな」

謙吾「誰がこんなことを……」

真人「決まってんだろ!あんにゃろー俺らが留守の時を見計らってここまで来たんだ!」

恭介「重要なのは部屋の中にこれがあったことだ……犯人はどうやってここに入ってきた」

理樹「窓はきっちり閉まってたし鍵は僕と真人以外は持ってないはずだよ…」

恭介「ということは合鍵で入られたということだ……」

真人「クソッ、こうなりゃ部屋も安全じゃねえな……」

謙吾「しばらく俺と恭介のどっちかに理樹は避難した方がいいな。立て続けに理樹の方に入られているとは言え一応能美の方にも言っておこう」

恭介「いや、あっちは既に来ヶ谷の監禁状態にある」

謙吾「そうか…」

恭介部屋

恭介「じゃ、電気消すぞ」

理樹「うん……」

理樹(あの髪の毛はカツラ……ということはあの時も地毛じゃなかったと言うことだろうか?犯人が何故あんな物を入れたのかは分からないけど、このせいで僕はただ長い髪の毛の男の人を警戒すればいいという訳にはいかなくなった)

理樹「うぅ……っ」

理樹(どこから来て何故僕をここまで付け狙うのか。正体が分からないものは暗闇と同じでそれだけでとても恐ろしい物として僕の不安をかき立てた)


……………………………


深夜

ギシッ…

恭介「………」

理樹(なかなか眠れないでいると恭介が上のベッドから降りてきた。トイレに行くんだろう)

ガチャッ

バタン

理樹「ハァ…ハァ……」

理樹(今日1日で色々あり過ぎたせいか誰かがちょっとでもいないだけでとても心細かった)






ギシッ…

理樹「ハッ……」

理樹(ようやく意識が遠のいたと思った頃、廊下の軋む音で目を覚ました)

理樹「恭介……?」

理樹(感覚的にはさっきと時間はあまり空いてないはずだ。まだ恭介が上に戻った様子もない)

ギシッギシッ……

理樹(足音がこっちに向かっている)

『……………』

理樹「………?」

理樹(その足音と共にとても微かだが声が聞こえた。はっきりと聞こえないため聞き耳を立てるとそれはどんどん大きくなって次第に聞こえてきた)

ギシッ

『……ん………………か?』


ギシッ

『…え……ん…………か?』


ギシッ

『…おえ…ん…い……か?』


理樹「………?」




ギシッ

『なおえくんいますか?』

理樹「!!!」

理樹(あの声だった。あの時の男の声だった)

理樹「う……う…う…!」

理樹(必死で口を手で押さえて何一つ音を立てないように身を潜めた。この時の怖さは誰にも想像出来ないだろう。思わず緊張で胃が逆流しそうになった)

『なおえくんいますか~?』

ギシッギシッ

理樹(おそらく僕を探しているんだろう。あの部屋にもう僕がいないと分かったのか、それとも僕がそう行動すると踏んだのかあのストーカーは僕が起きてると分かっててこうやってどこかの部屋から反応するのを待ってるんだ)

理樹「あぅ……ひぐっ………」

理樹(情けないことに少し涙が出てきた。もし真人や謙吾なら勢いよくドアを開けて今こそチャンスだとひっ捕えようとするんだろうが生憎僕にそんな勇気はない。ただ壁一枚を挟んだ驚異が向こうへ去ってくれる事を願うだけだ)


スン………


理樹「………?」

理樹(足音が消えた。いなくなったのか?)

ギッ

理樹(ずっと同じ体勢が辛かったので身を起こしたその時だった)

ガチャンッ

理樹(ドアが開いた)

理樹「ひっ!!」

恭介「うおっ……なんだ理樹か……まだ起きてたのか?」

理樹「き、恭介ぇ~~……っ!!」

ギュウッ

恭介「な、なんだぁ!?」

…………………………………


恭介「一応外も見て来たがいなかったな」

カランッ

理樹(恭介は金属バッドを置いて自分の机の椅子に座った)

理樹「そう……」

恭介「まったく、油断も隙もありゃしないな。見回りの数は増やしたって言ってるのにいったいどうなってんだ?」

理樹「本当…もうずっとこの調子だとボロボロになりそうだよ」

恭介「にしても……」

理樹「え?」

恭介「さっきは驚いたなあ。部屋に戻るなり急に抱きついてくるもんだから」

理樹「ち、ちょっと恭介!」

恭介「はっはっはっ!大丈夫、他のやつには言いやしねえよ」

理樹「もう…本当に怖かったんだからね!」

恭介「ああ……正直ここまで間髪入れずにちょっかいかけてくるのは洒落になんねえな……しかも奴自身はまったく姿は表さねえと来てやがる……かなり厄介だ」

理樹「もう明日の授業に出るのすら怖くなってきたよ……」

恭介「……とりあえず理樹はもう寝ろ。ちょっと俺は考える」

理樹「え?うん……」

理樹(そういうと恭介は椅子に座ったまま机に足を乗せてなにやら頭の中の事を整理していた)

恭介「……………なにかおかしい……」

理樹(恭介がずっと起きている印となるライトが自然と今度こそ僕を寝かせてくれた。そして今日も夜は更けていく……)



………………………………………………



…………………………


怖い
がっつりホラーじゃないか怖い



食堂

理樹(騒がしいはずの食堂は僕らの席だけとても静かだった)

真人「ま、マジかよ……」

クド「…………」

来ヶ谷「大丈夫だよ。私がいつもついてるじゃないか」

理樹(身体を小さく震わせるクドを来ヶ谷さんが優しくなだめた)

西園「……そういえば恭介さんはどちらに?」

理樹「ああ。それが恭介はこの件で調べることがあるって言って出ちゃった…また授業サボるつもりなのかな……」

西園「そうだったんですか……ではもう少し昨日の夜の話を詳しく教えていただけますか?」

理樹「え?今の話でだいたい言い終わったような……」

西園「いえ、たとえばベッドは一つの物を使ったのかとか恭介さんと寝る前どんな話をしたのかとか…」

理樹「絶対この話と関係ないよね!?」

「………にしても部屋まで侵入するのはいくらなんでもおかしいとは思わない?」

理樹「こ、この声は…!?」

佳奈多「こんにちは。大変だったわね」

理樹(いつのまにか僕の後ろに二木さんが立っていた)

葉留佳「お姉ちゃんも聞いたの?」

佳奈多「私だって元風紀委員よ?もちろん話は聞いてるわ」

謙吾「侵入するのがおかしいと言ったな。どういう意味だ?」

佳奈多「そのままの意味よ。直枝の言う人が部屋に入ることが出来るなんて本来あり得ないのよ」

葉留佳「そうなの?普通に合鍵とか使ったら入れると思うけど…」

来ヶ谷「いや、そんな事をする時間はない」

理樹(来ヶ谷さんが言った言葉に二木さんが反応した)

佳奈多「その通り。合鍵を作るタイミングなんてどこにもない。たとえストーカーが鍵を作る技術を持っていたとしてもね」

真人「んーと……どういうこと?」

佳奈多「ストーカーが部屋に入れたのは直枝達が朝出てから警察から帰ってきた夜までの事。長く見積もっても半日しかない。こんな短時間で元鍵無しの合鍵なんて作れっこないのよ」

葉留佳「あり、そーなの?よくアニメでぱぱっと作れてるイメージあったからつい簡単に出来るもんかなーって思ってた」

佳奈多「そんなものホイホイ出来たら鍵の意味ないでしょ……すぐ作ろうとしても寮長と学校側の持つマスターキーが必要なの。どっちも紛失された報告は来てないし」

謙吾「ではいったい犯人はどうやって理樹の部屋に入ったんだ。何故この学園内の包囲網を抜けて移動出来る?」

来ヶ谷「もしかしたらまだいるのかもな」

理樹「えっ?」

来ヶ谷「そのストーカーは最初から学園の何処かに隠れているかもしれないということだ」

理樹(その言葉に場の空気が凍った)

葉留佳「ぎゃぁあああ!!ちょっと脅かさないでよ姉御ーーっっ!?」

佳奈多「だとしたら学校中を捜索しないと…」

来ヶ谷「とはいってもまだ想像の域を過ぎないからな」

小毬「お、屋上行けなくなっちゃったかも……」

理樹(みんなが動揺を隠せずにいる中、鈴が小さくつぶやいた)

鈴「……入ったんじゃなくて最初からいたんじゃないのか?」

理樹「えっ?」

鈴「ストーカー、見つからないってことはずっと理樹達の部屋にいるんじゃないのか?」

男子寮

ドタドタドタッ

男子寮長「おいこらお前ら!廊下を走るんじゃない!」

真人「うっせえ!こちらとら緊急事態だ!」

謙吾「おい理樹!あのハンカチを拾った時ちゃんと鍵はかけたのか!?」

理樹「お、覚えてない……あの時は呆然としてて……!」

真人「あんときゃ理樹に任せてたからな…俺も自信ねえ……!」

謙吾「真人は眠りが深いからたとえ部屋の中で物音がしたとしても気付かんだろうしな……」

真人「へいへい!どうせ俺はニブチンだよ!」

理樹(そんな事を言ってる間に僕らの部屋の前についた)

真人「あ、開けるぞ……」

謙吾「ああ……理樹は俺の後ろに」

理樹「う、うん……」

バンッ

理樹・真人部屋

真人「やいやい!隠れてんのは分かってんだぞ!大人しく出てきやがれぃ!」

シーン

真人「……………」

謙吾「……………」

理樹「……………」

理樹(物音は何一つなかった。人の気配はしなかったが、それでも僕らは細心の注意を払らわざるを得なかった)

…………………………………………



謙吾「………どうやらいないようだな」

真人「別に入ってきたって分かるようなもんもねーな」

理樹「うん、こっちも見つからない」

理樹(真人と謙吾が安堵のため息をついた)

謙吾「……鈴の推理、外れていてよかったな」

理樹「当たってたらもう二度とここで寝れなくなる所だったよ…」

真人「けどまだ学校に隠れてるかもって事なんだろ?」

謙吾「ああ。ここは能美達のように俺達も理樹と離れず行動した方が良さそうだ」

真人「って事は護衛だな!」

理樹(確かにどこから来るか分からない以上この2人といるのが僕にとっては本当に機能するか分からない鍵のかかった部屋より安全だ)

真人「はーなんかドキドキしてたから腹減ったな!飯行こうぜ」

理樹「今食べたばっかりでしょ!?」

放課後

廊下

理樹(それから僕らは休憩時間はもちろん、昼休みやトイレまでずっと一緒に行動していた)

真人「お、恭介からメールが来た」

謙吾「なんだって?」

真人「今日の練習はナシだってさ。俺達はまっすぐ帰れと」

謙吾「まあそれがいいだろうな。よし、今日は野球盤耐久レースとしゃれむか」

真人「おっ!いいねえ!じゃあ早速帰ろうぜ!」

理樹(2人は僕の不安が少しでもまぎれるようにと明るく振舞っていた。僕とはしては空元気だとしてもそれに乗るしかない)

理樹「よ、ようし!今日はいつもみたいにいかないよ!」

パシャッ

理樹(シャッターの音と同時に一瞬僕らの顔が光った)

真人「なんだ!?」

理樹(光った方向を見ると靴箱の方に人が走り去っていくのが見えた。服装まではよく見えなかったがその後ろ姿は・・・)

理樹「い、今・・・長い髪の毛が見えた・・・」

謙吾・真人「「ストーカーだ!」」

理樹(そういうと2人は一直線に後を追った)

理樹「ああ待って!」

ダダダッ

真人「待ちやがれコラーーッ!」

謙吾「俺達2人相手で逃げ切れると思わない方がいいぞ!」

???「・・・!!」





・・・・・・・・・・・

表庭

ガサッ

謙吾「茂みの中に隠れた!」

真人「よおし!」

ガササッ

ガシッ

真人「捕まえた!捕まえたぞ!」

謙吾「いいぞ、引っ張りだせ!」

真人「ふん、大人しくしろよぉ・・・」

モニュッ

真人「ん?なんだこの感触・・・」

???「キャーッッ」

パシンッ

真人「あいたぁ!?」

謙吾「ど、どうした!?」


・・・・・・・・・・・


靴箱

理樹「・・・まったく二人ともあっという間にいなくなっちゃうんだから・・・」

理樹(呆れたところでふと気づいた)

シーン

理樹「・・・誰もいない・・・」

理樹(そうだ、今ここには僕しかいない。あれだけ一緒にいた2人は向こうへ行ったし恭介は朝から一切見かけていない)

理樹「ど、どうしよう・・・ここで2人を待ってようか・・・?」

来ヶ谷『そのストーカーは最初から学園の何処かに隠れているかもしれないということだ』

理樹「・・・ゴクリ」

タタタッ

理樹「ヒッ・・・」

「ちょっと待ってよー!」

「アハハハッ」

理樹(一人でじっとはしていられない・・・でも部屋に行くのも勇気が・・・)

「おや、君は確か直枝君だね」

理樹「えっ?」

理樹(振り向くと用務員のお爺さんがいた。何度か学校で見かけたことのある人だ)

理樹「ああ、た、助かった!」

お爺さん「ええ?」

>>31
やり直し

ダダダッ

真人「待ちやがれコラーーッ!」

謙吾「俺達2人相手で逃げ切れると思わない方がいいぞ!」

???「・・・!!」





・・・・・・・・・・・

表庭

ガサッ

謙吾「茂みの中に隠れた!」

真人「よおし!」

ガササッ

ガシッ

真人「捕まえた!捕まえたぞ!」

謙吾「いいぞ、引っ張りだせ!」

真人「ふん、大人しくしろよぉ・・・」

モニュッ

真人「ん?なんだこの感触・・・」

???「キャーッッ」

パシンッ

真人「あいたぁ!?」

謙吾「ど、どうした!?」


・・・・・・・・・・・


靴箱

理樹「・・・まったく二人ともあっという間にいなくなっちゃうんだから・・・」

理樹(呆れたところでふと気づいた)

シーン

理樹「・・・誰もいない・・・」

理樹(そうだ、今ここには僕しかいない。あれだけ一緒にいた2人は向こうへ行ったし恭介は朝から一切見かけていない)

理樹「ど、どうしよう・・・ここで2人を待ってようか・・・?」

来ヶ谷『そのストーカーは最初から学園の何処かに隠れているかもしれないということだ』

理樹「・・・ゴクリ」

タタタッ

理樹「ヒッ・・・」

「ちょっと待ってよー!」

「アハハハッ」

理樹「せ、生徒か・・・」

理樹(もう一人でじっとはしていられない。でも部屋に行くのも勇気がいる。僕はいったいどうすれば・・・)

「おや、君は確か直枝君だね」

理樹「えっ?」

理樹(振り向くと用務員のお爺さんがいた。何度か学校で見かけたことのある人だ)

理樹「ああ、た、助かった!」



お爺さん「うんにゃ。話は聞いてるよ。君も妙なことに巻き込まれたもんだねぇ・・・」

理樹「お願いです。僕と一緒に部屋まで来てくれませんか?情けない話ですが一人では心細くて・・・」

お爺さん「ううむ・・・困ったな。私はむしろ今から学校側に用事があるんだが・・・ああ、そうだ!彼なら手が空いてるはずだっ。おおーい!」

理樹(お爺さんはそういうと外の方に声をかけた。すると向こうから今度はもう少し若い用務員さんがやってきた)

用務員「・・・・・・」

お爺さん「ほら、彼がこの前学校の方から言われていた少年だ。すまないが彼を私の代わりに彼の寮まで送ってくれないか?」

理樹(そのマスクをした用務員さんは何を言うでもなく静かに頭を縦に振り、持っていた掃除道具を脇においた)

お爺さん「彼は私なんかより力持ちだからもし襲われてもずっと頼りになるだろう。それでいいかい直枝君?」

理樹「あ、ありがとうございます!すいません。それではよろしくお願いします・・・」

用務員「・・・・・・」

理樹(用務員さんは僕の言葉が聞こえたのかのっそりと寮に向かって歩き出した)

お爺さん「・・・ははは・・・あの人は新人でね、ちょっとシャイなんだ」

理樹(お爺さんはそういうと職員室の方に向かっていった)



・・・・・・・・・・


表庭

真人「いてて・・・ビ、ビンタ・・・?」

「どこ触ってるんですか変態!」

謙吾「・・・お、女?おい真人!この子はカツラなんかじゃない、本当の女の子だぞ!」

真人「にゃにい!?」

女子生徒「はぁ・・・はぁ・・・」

謙吾「だが誰だ君は?何故写真を撮った・・・?」

女子生徒「わ、私は新聞部の者です。最近学校で大きな噂となっているストーカー女装男の存在・・・その中心となっている直枝理樹さんのことを記事にしようと・・・」

真人「ま、紛らわしすぎるだろ・・・」

謙吾「勝手に写真を撮って逃げるなんてパパラッチとなにも変わらんぞっ」

女子生徒「私も最初はちゃんと質問しに行こうと思いましたよ・・・でもあなた方が殺気を出しながら直枝さんの近くにいるから全然近づけなかったんです!」

真人「へっ、あたりめーよ!理樹はこれからしばらくはずっと俺らと一緒に・・・一緒?」

謙吾「あっ!しまった!理樹をおいてきた!」

真人「や、やっべえ!!」

・・・・・・・・・・・・・・・


裏庭

夕方

用務員「・・・・・・」

理樹「・・・・・・」

理樹(特に会話をすることもないので物凄く気まずかった。そういう風に気を使っていたからだろう。僕は彼の案内する道が普通に向かうならまず行かない道筋であることにまったく気づいていなかった)

理樹「・・・あれ、こっちは焼却炉のほうだ・・・あ、あのすいません」

クルッ

理樹「ハッ!」

用務員「ど、どうかしましたか・・・」

理樹(振り向いたその顔には見覚えがあった。そしてこの声は・・・!)

理樹「ま、まさか・・・!」

用務員「・・・・・・ニコッ」

理樹(そして僕の怯えた様子で自分の正体が悟られたのを知ったのか、その男はマスクを取って僕にぎこちない笑顔を向けた)

理樹「ああ!やっぱり!」

ストーカー「ふふ・・・こんにちは・・・」

理樹(ゆっくりこちらに向いて歩いてきた)

理樹「お・・・お・・・」

「お前がストーカーだな」

ストーカー「!?」

恭介「よう、理樹!遅れて悪かったな」

理樹「恭介!」

理樹(裏庭のベンチの裏から恭介が現れた)

理樹「恭介!なんでこんなところに!?」

恭介「俺もこの用務員を探していたのさ。まさか理樹と一緒とは思わなかったけどな」

理樹「ど、どういうこと・・・?」

恭介「じっくり考えたんだ。このストーカーはどうやって鍵を手に入れ、理樹の部屋に忍び込んだのか。どうやってこの学校の中で自由に動けたのか」

理樹(それはあの二木さんも疑問に思っていことだった)

恭介「その二つの疑問を解決する事柄はたった一つ、ストーカー自身が元から学校の関係者側だという事だ。鍵の管理を任されていている張本人なら理樹のいる部屋も一発で分かるし、学校のどこにいても怪しまれることはない。だって学校内を巡回する張本人なんだからな」

理樹「そうか、じゃあ恭介は今日ずっとその中にストーカーがいないか確認して回っていたんだね」

恭介「ああ・・・なかなか当たりには恵まれなかったようだがな」

ストーカー「・・・っ!」

理樹「あっ!」

理樹(ストーカーは旗色が悪くなったと思ったのか反対方向に踵を返して逃げようとした)

ザッ

佳奈多「そうはさせないわ」

ヴェルカ「ガウガウッ!」

ストレルカ「グルル・・・」

理樹「二木さん!それにヴェルカとストレルカも!」

理樹(向こう側から挟み込むような形でヴェルカ達を率いた二木さんがやってきた)

佳奈多「ふふっ、今日だけ無理言って私もパトロールに復帰させてもらってたのよ」

理樹(二木さんはそういうと自慢げに風紀委員の腕章を見せつけて来た)

真人「おおーい!理樹ーーっっ!」

謙吾「大丈夫か理樹ーっ!」

理樹(すると後ろの方から真人たちが走ってきた)

恭介「・・・どうやらゲームセットのようだな」

ストーカー「・・・・・・っ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・




・・・


理樹(こうして事件は幕を閉じた。あの後あの男はそれまでの行動を白状し、ストーカー規制法と家宅侵入罪が適応された。まだ色々起きたばかりでよく分かってないけど恭介が言うにはもうあの男が僕の近くに来ることはないそうだ)

食堂

クド「わふー・・・これで本当に終わったんでしょうか・・・」

理樹「僕もなんだかまだ近くにいるような感覚が抜けないよ・・・」

小毬「そ、それなら明日おでかけしようよっ!ほら、くーちゃんも理樹君も駅前のパフェを食べたらきっと少しは気分も晴れるよっ」

クド「わふー!それは名案です!甘いものは幸福な気分にさせると聞いたことがありますっ!」

真人「おっ!どっか行くのか!?俺も連れてってくれよ!」

小毬「ようしっ!それじゃあ皆誘っていきましょー!」

真人・クド「「おーっ!」」

理樹(人は嫌な出来事ほどなかなか忘れられない。でもそうなった時の対処法は一つだけある。それはまったく別の良い思い出で早いうちに塗りつぶしてしまうことだ)


終わり

ちょー久々に描いた
ここまで見てくれてありがとう
また機会があれば(∵)


割とガチのホラーで怖かったが面白かったぜ!
次回作も期待してます、

乙。面白かった

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