七海やちよ「神浜を観光するわよ」 (65)
やちよ「ユメミルサクラのときに、あなたたち4人初めて揃って、いくつかの場所に行ったみたいだけど、その後は裁判やらなんやらでゴタゴタして、結局ちゃんと神浜を見て回れなかったんでしょう?」
やちよ「だから今日こそはしっかりと神浜を観光してもらうわよ。地元住民である私のガイド付きでね。あなたたちはもう立派な神浜の住人なんだから、これを機会に神浜がどういう所なのか知っておきなさいね」
いろは「はいっ! お願いしますっ!」
うい「しますっ!」
灯花「くふふっ。よろしくね~やちよお姉さまっ♪」
ねむ「僕たちの事を気に掛けてもらって恐悦至極だよやちよお姉さん」
ねむ「それと、僕はどうしても車椅子移動になってしまうから・・・。桜子、今日は色々とサポート頼むよ」
桜子「 |うん、任せて| 」
やちよ「それじゃまずは、有名なところで、中華街に行きましょうか」
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中華街
うい「わあっ、街並みの雰囲気が変わったっ! お店もいっぱいある! すごいね、お姉ちゃん!」
いろは「ガヤガヤしてうるさくない? 大丈夫? 人が多いからはぐれないようお姉ちゃんの手をちゃんと握っててね」
ねむ「異国情緒漂う場所だね。見慣れない世界が目の前に広がっていて興奮を覚えるよ」
灯花「う~ん・・・。そうなんだけど、人が多くて建物がぎっちりしてて・・・。こういう雑多とした感じは、わたくしはちょっと苦手かにゃ~・・・」
ねむ「雑多? ぬいぐるみやらサーバーやらが転がっている灯花の部屋に比べればよほど整然としているけどね」
灯花「ふーんだっ。床が抜けるんじゃないかってくらい、常識はずれな量の本を病室に持ち込んで部屋を雑多にしちゃったねむに言われたくないよーだっ」
ねむ「んっ? 今度は灯花の部屋の床を抜いてあげようか?」
うい「二人ともケンカしないでよ~っ!」
やちよ「神浜と言ったら、ここが全国的に有名ね。世界各地にある中華街だけど、ここの中華街は東アジアでは最大規模の広さよ。始まりは1859年の開港当時に設けられた中国人居留地とされているわ。その頃に三国志で有名な関羽を祭る関帝廟が建てられたのだけど、それは今のここ中華街にもあるわ」
いろは「150年以上の歴史があるんですねえ」
やちよ「ただね、中国に詳しい人に言わせると、この中華街は―――」
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美雨『中華街? ああ、あそこは中国と言うよりは雰囲気は台湾ネ』
美雨『本場の中国料理を味わいたかったら、西川口に行くといいヨ』
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やちよ「―――と言っていたわ」
ねむ「へえ。そう言われれば、あっちに台湾の国旗が飾ってあるね」
うい「台湾小籠包、台湾茶、台湾タピオカの看板もあるよ。どれもおいしそう!」
やちよ「なんでそうなっているかというと、ここは政治的、歴史的な背景が色々あって、台湾系と大陸系の人が入り混じって成り立っているの」
客引き「オ嬢チャン! オ嬢チャン! 肉マン甘栗オイシイヨ! 食ベッテ!」
うい「わっ? わっ」
桜子「 |急にういに近づかないでっ| 」ズイッ
うい「大丈夫だよ桜子ちゃん。あっ、甘栗、甘くていい匂いがして本当においしそうっ! やちよさん、食べてもいい?」
客引き「オ姉サン! オ姉サン! 食ベ放題! 安ヨ! イラッシャイイラッシャイ!」
いろは「わっ、わっ、えと・・・そ、それじゃあ、あの、やちよさん、ここで食事しませんか?」
やちよ「待ちなさい二人とも。確かに、食べ歩きや目を引く料理店に入るのもここ中華街の楽しみ方の一つではあるけど」
やちよ「私のお勧めは、まずは本当にここでしか食べられない超一流の中華料理を最初に口にすることよ。それを食べたうえでまだお腹に余裕があれば、他で食べ歩きとかをすればいいわ」
いろは「超一流の中華料理・・・! なんだかすごそうですね」
やちよ「ええ。今日は私が事前に予約したお店があるから、そこに直行するわ」
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スタッフ「いらっしゃいませ」ペコリッ
やちよ「予約していた七海ですが」
スタッフ「お待ちしておりました。2階の個室をご用意してありますので、どうぞこちらのエレベーターへ」
やちよ「どうも。それじゃみんな、行くわよ」
いろは「や、やちよさん・・・? ここって、本当に中華料理屋さんなんですか・・・?」ソワソワ...
うい「床が油っこくないし、中は広いし、耳が痛くなるくらいのいらっしゃいませがないし、オラオラ接客じゃないし、お客さんが透明じゃない・・・。わたしの知ってる中華料理屋さんと違う・・・怖い・・・」ビクビク...
灯花「ねー、やちよお姉さまー。こういうお店はドレスコードがあるんじゃないかにゃー?」
やちよ「大丈夫よ、そんなことまで気にしないで」
ねむ「ええと・・・。やちよお姉さん、僕は車椅子だけど入ってもいいのかな・・・?」
やちよ「それも大丈夫よ。予約するときに車椅子の人がいることをお店の人に伝えてあるからちゃんと応対してくれるわ」
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スタッフ「お待たせ致しました。国産魚介類を使用した海鮮チャーハンです」
灯花「前菜にスープにチャーハンに、お料理は全部いっぺんに出さないで、一品一品丁寧にお出ししてくれるんだ。サービスいーねー」
うい「あれ? これで普通盛り? お茶碗一杯くらいしかないよ。なんだか少ないね」
ねむ「んっ? ここは中華料理屋さんだよね。メニューにエビチリ酢豚がないけど」
いろは「あ、ああもう、みんな・・・なんでもかんでも万々歳基準で考えないで、恥ずかしいから・・・///」
やちよ「本当よ・・・。早く食べて頂戴・・・」
うい「うんっ、いただきまーす」パクッ
うい「んんっ?! なんて上品な味!」
灯花「グルタミン酸ナトリウムのまろやかな旨味!」ムシャコラ
ねむ「余韻を残す加速感・・・!」ハフッハフッ
いろは「あっ、本当だ、すごくおいしいですよ! 味は濃すぎず薄すぎず、それになんだろう、チャーハンなのに、かすかに甘みがあるような。でもこれは砂糖を使ったような甘みじゃないと思うし、どうやったらこんなに奥行きのある味わいになるんだろう。不思議」
やちよ「この味は真似しようとしても簡単にはできないでしょうね。だからこそ、ここでは正真正銘の100点中華料理が頂けるってわけね。万々歳の2倍よ」
やちよ(ただ、ここは料理一品一品がいいお値段がするのはもちろん、サービス料もかかったりして、会計は万々歳の5倍くらいになってしまうのがお財布に優しくないけれども・・・)
桜子「 |うい。チャーハンおいしい?| 」
うい「うんっ! すごくおいしい!」
桜子「 |私が作ったチャーハンよりおいしい?| 」
うい「うんっ! おいしい!」
桜子「 |そ、そう・・・・| 」ションボリ....
灯花「チャーハンもふかひれスープも煮込みお料理も、全部違う味付けだからいくらでも食べられちゃうよーっ」パクパク
ねむ「世の中にはこんなにおいしいものがあるなんて、入院している時には想像すらしなかったよ・・・。感動で涙が出てきそう」
やちよ「そんなに喜んでもらったら、こっちまで嬉しくなるわね」
やちよ「食事が終わったら、次は少し歩いて象の鼻パークに行くわよ」
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象の鼻パーク
うい「あっ! あのパネル知ってる! 夜になると紫色に光るんだよ!」
ねむ「アニメのエンディングでやちよお姉さんがここの側を立っていたね」
うい「そうそう。わあ、すごい、こういうのって『聖地巡礼』っていうんでしょ? なんだかここにいると、アニメの世界に入れたみたいで楽しくなっちゃうねっ!」
灯花「ねえ、お姉さまあ。せっかくだし、そこに立ってあのシーンを再現してみない? ついでなにかそれっぽいセリフを一言お願い」
いろは「えっ、私? う、うん、それじゃあやってみるね」トテトテ スタッ
いろは「・・・・・・コホンッ」
いろは「私の抹茶アイスがないわね・・・私の・・・」キリッ
うい「あははっ! 似てる似てる!」
ねむ「むふっw むふふっw」
灯花「くふーっw ベテランさんって普段そんなこと言ってるのーっ?!www」
桜子「 |・・・・・| 」ニコニコ
やちよ「あら、桜子。なんだか楽しそうね」
桜子「 |うん。あの子たちが楽しそうにしていると私も楽しいから| 」ニコニコ
やちよ「そう。ただ、何故だか私は楽しくないわ」ピキピキ
いろは「やちよさん、どうしてここは象の鼻パークっていうんですか?」
うい「象さんがいるの?」
やちよ「象がいるわけではないわ。向こうに伸びている防波堤を見て。あれを上から見ると象の鼻の形に似ているから、そう呼ばれているの」
いろは「確かに、そう見えなくもないですね」
やちよ「それとここはただ防波堤があるだけの場所ではないわ。ここは神浜の、いえ、日本の歴史を語る上で決して欠かせない重要な場所なの」
やちよ「幕末にペリー提督率いる黒船が日本に来航したのは学校で習ったわよね。日本はそれをきっかけにずっと続けていた鎖国を解いて開港した。その港がまさにここよ。この港から様々な西洋文化が日本に入ってきたわ。外国人も多く訪れて、外国人居留地も設けられた。さっき行った中華街もその一部ね。だから日本の近代化は神浜から始まったと言っても過言ではないのよ」
桜子「 |令が言ってた。明治時代の頃に、神浜が外国との玄関口として大きく機能していたって| 」
いろは「そうなんだ。すごいんですねえ神浜って」
やちよ「そうよ。すごいのよ神浜は。こういう経緯があるから『日本で初めての〇〇は神浜発祥』という物が多いんだから。その証拠に神浜のいたるところで○○発祥の地という記念碑を見つけることができるわ。例えばどんな物があるかというと、鉄道、ガス灯、灯台、パン、アイスクリーム、ビール、テニス、野球、吹奏楽、電話、競馬、水道、下水、石鹸工場―――」
いろは「わっ、わっ・・・・」
やちよ「ホテル、跨線橋、新聞、金星太陽面経過観測、リニアモーターカー、ミルキィホームズ、セラフィムコール―――」
いろは「うわぁ! すみません! 止まってください!」
灯花(神浜人って無駄に自尊心が強くて面倒臭いにゃー)
ねむ(めっちゃ早口で言ってそう)
やちよ「それじゃあ次は、今言った日本の鉄道発祥の地、桜木町に行きましょう」
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桜木町
いろは「わあっ、桜木町っていうその名前が素敵だなあって思いましたけど、その名の通り、桜並木が綺麗ですねえ」
桜子「 |・・・・私の方が大きいし綺麗だもん| 」
ねむ「ううん。お姉さんの天使の輪から流れるようにしだれる、この四季咲きの桜が一番綺麗だよ」 ニコッ (いろはの髪を撫で
いろは「も、もう、ねむちゃんったら・・・///」トゥンク
灯花「むーっ・・・。ねえねえ、お姉さま、そんなことよりあれを見ようよーっ。すごいんだから」グイッ
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ランドマークタワー
うい「うぁー・・・首を思いっきり上に向けないと一番上が見えないよお・・・!」
灯花「このランドマークタワーは遠くからでも見えるから、こういう建物があるのは前から知っていたけど、こうして近くで見ると・・・本当におっきーにゃー・・・」
ねむ「摩天楼とはこのことだね。こんな巨大な人工物が存在していることが信じられないよ。バベルの塔を想起させられるね」
やちよ「このランドマークタワーは神浜市を象徴する、70階建て、高さ296mの超高層ビルよ。中はショッピングモールやオフィス施設、ホテルなどになっているわ。69階部分は展望台になっていて神浜市を一望できるわよ。この通り大きくて目立つからゴジラに何度か壊されているわ」
やちよ「ちなみに、毎年8月になるとこの近くで花火大会が開かれるわ。綺麗な夜景を背景に見る花火は圧巻よ」
灯花「へー。この辺の高層ビルの高階層の一室を貸し切りにするからみんなで見に行こー」
やちよ「だけど今年はコロナの影響で花火大会は中止よ」
灯花「ええっ?! なにそれー! ざんねーん・・・」
やちよ「何年か前に1モキュが撮った写真を見せてあげるからこれで我慢して」
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花火
< ブロロォン....
うい「あっ、見て見てお姉ちゃん。あの車可愛いよ。綺麗な赤色で丸っとした形で」
いろは「そうだね。見慣れない車だけど外国の車かな?」
やちよ「あれはフェラーリね。安い車種でも3000万円くらいの高級車よ」
いろは「ふひゃっ?! さっ、さんぜんまん・・・?!」
うい「あわわ・・・」
やちよ「近くに高級外車の販売店がいくつかあるのよ。フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ、ロールス・ロイス、マセラティとか。だからああいう車が走っているのはこのあたりではよく見かけるわね」
ねむ「はー・・・。どうやったらあんな車に乗れるようになるのか想像もつかないよ・・・。高級車が走り回るここは本当に別世界のように感じるね・・・」
灯花「そーお? ああいう お車、うちにも何台かあった気がするよ。今度乗ってみる?」
ねむ「お昼のチャーハンの米粒を頬に付けた間抜け面を晒して、そんな成金めいたセリフを垂れる姿はこの上なく滑稽だね」
灯花「えっ?! ちょ、なんでもっと早く教えてくれないのーっ?!」グシグシ
ねむ「まあ、ウソなんだけど」
灯花「んにゃー! このバカねむーっ!!」プンスカ
うい「だからケンカしないでーっ!」
やちよ「今でこそここは、大企業の高層ビルが立ち並ぶビジネス街だけど、開港当時のこの辺りはまだ海だったのよ。鉄道を敷設するために埋め立て工事が始まって、その後は大きな造船所も作られて多くの就労者で賑わい始めたわ」
やちよ「空襲や大震災で苦しい時期もあったけど、先人たちの弛まぬ努力と苦労を経て、今ではこうして東京に並ぶ日本の経済を支える重要な地区になっている」
やちよ「そんな歴史を想いながらここに立つと、一市民としてはなんだか感慨深くなるわ」
やちよ「それじゃ、私が案内するのは次が最後よ。伊勢山皇大神宮に行くわ」
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伊勢山皇大神宮
いろは「わあっ、広くて立派な神社ですね。それに、すーぅ・・・。ヒノキのいい香り。心が落ち着く」
うい「さっきまでずっとビルばかりの都会に居たのに、ここだけは木に囲まれて、桜も綺麗で、鳥さんの声も聞こえてきて、のどかな場所だねっ」
やちよ「桜木町からここまで長い坂が続くから、車椅子の柊さんはちょっと心配だったのだけれど、桜子が頑張って押してくれたわね。大丈夫だった?」
桜子「 |問題ない。ねむが乗ってる車椅子は羽根より軽いからいくらでも押せる| 」
ねむ「助かるよ桜子。偉いね」
桜子「 |うん。もっと褒めて| 」
灯花「ねえねえ、やちよお姉さまっ。社殿が綺麗だけどここは新しい神社なの?」
やちよ「いえ、ここは古代の武蔵国の頃に、隣の戸部町で伊勢の神宮からの分霊をお迎えした古社が始まりとされているわ」
やちよ「神浜が開港をして様々な西洋文化が入ってきたことはさっき話したわよね。その頃の神浜は色んな所から色んな人が集まって来たからまとまりがなかったの。そこで、人々の心の拠り所になるためにと、ここに戸部の古社を遷座して1870年に創建されたのがこの伊勢山皇大神宮よ」
やちよ「創建当時は盛大に遷座祭が行われたそうよ。その時の興奮と高揚から生み出された一体感が、神浜市民を表す “ハマっ子” 気質の誕生と言われているわ」
灯花「ふーん。神浜人が無駄に自尊心が強いのはその頃からなんだねー」
やちよ「そして2018年に、創建150年の記念事業の一環として、伊勢の神宮より譲与された社殿で新本殿の造営がされたわ。今のここの社殿が新しいのはそのためね」
いろは「ここは昔から神浜にあって、神浜の歴史そのもののような神社なんですね」
やちよ「ええそうよ。神浜の目まぐるしく移り変わる歴史をずっと見守ってくださっている、市民にとってはとても大事な神社ね」
やちよ「それじゃみんなでお参りしていきましょうか」
いろは「はいっ」
パンパンッ
やちよ(2部も無事にアニメ化されますように)
いろは(やちよさんとの赤ちゃんが元気に育ちますように)
うい(わたしもレナさんくらいに胸元パンパンに成長しますように)
灯花(ねむのひねくれた性格が直りますように)
ねむ(灯花のひねくれた性格が直りますように)
桜子( |この子たちの願い事が叶いますように| )
やちよ「はい。西のガイドは以上よ」
いろは「ありがとうございましたっ!」
うい「ましたっ!」
灯花「ありがと~、やちよお姉さまっ♪」
ねむ「とても楽しかったよ。ありがとう、やちよお姉さん」
やちよ「明日は南を都さんに案内してもらうのよね? 気を付けて行ってらっしゃいね」
いろは「はいっ!」
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翌日
ひなの「おうっ、来たなみんなっ」
いろは「今日はよろしくお願いします」ペコリ
灯花「くふふっ、よろしくね~、南のベテランさんっ♪」
うい「ひなのさんはいつも忙しそうにしているって桜子ちゃんから聞いているけど、大丈夫だった?」
ひなの「なに気にするな。君たちにはいつもがんばってもらってるから、その恩返しと思えばお安い御用だ」
ねむ「お噂はかねがね。体は小さいけど器は大きい、だね」
桜子「 |ひなのは体が小さいし地雷が多くてすぐ泣くしすぐ怒るし面倒くさい人だけど、いい人だから、先輩であることは気にしないで年下だと思って気軽に接していいよ| 」
ひなの「くぉらぁ~! 誰が小さいだっ! 誰だ桜子にそんなふざけたことを吹き込んだ奴は! ごちゃごちゃ言ってないでアタシについてこいっ!」
ひなの「まずは三渓園に行くぞっ!」
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三渓園
いろは「わあっ、素敵な日本庭園ですね。緑豊かな木々に、松に、大きい池に、そして三重塔があって」
うい「広~い! あっ! 見て見て、あそこにカメさんがいるよっ」
灯花「くふふっ。ちっさいカメさんだにゃ~」
ひなの「三渓園は、明治の頃に生糸貿易で財を成した実業家の原三渓が造園して、1906年に開園した日本庭園だ。原三渓は、日本が開港して以来急激に増えた外国文化に対して、古来よりの日本文化を守るという考えのもと、主に京都や鎌倉から、打ち捨てられそうな古い寺などをここに移築して保存したんだ」
ひなの「ちなみに、芥川龍之介や夏目漱石もここを訪れたらしいぞ」
ねむ「先の文豪たちはこの素晴らしい日本庭園から何を感じ取っただろうね。こうして彼らが訪れた同じ場所に立ち、彼らの中で生まれた情感に思いを巡らすだけで、同じ物書きとしてはいくらでも愉しめるよ」
桜子「 |桜がいっぱい咲いてる| 」
ひなの「ここは神浜でも有名な桜のスポットだからな」
ひなの「それと園内には茶屋があって、原三溪が考案した三溪そばや、甘味も楽しめるぞ。ここのお団子がまたおいしんだ。アタシのおすすめだ」
桜子「 |ひなのは花より団子。舌もお子様。データベースに追加した| 」
ひなの「追加すなっ!」
うい「ねえねえ、お姉ちゃん、パンフレットを見たんだけど、この先に松風閣っていう展望台があるんだって。眺めがよさそうだから行ってみたいっ」
いろは「そうなんだ。ひなのさん、そこに行ってみませんか?」
ひなの「あっ、ああ・・・そこは、ちょっとなあ・・・・」
いろは「? なにか良くないんですか?」
ひなの「あ、いや、確かに眺めは良いんだが、階段がそこそこ続くから車椅子は入れないんだ・・・」
ねむ「・・・・・・」
うい「あっ・・・」
いろは「そ、そうですか・・・。で、でも他にも色んな建物があるみたいだし、まずはそこを周りましょう!」
ひなの「あ、ああ、そうだな!」
ねむ「僕の事は気にしないでいいよ。待ってるからみんなで行って来たら?」
うい「えーと・・・」
いろは「そういうわけには・・・」
灯花「・・・・・・」
桜子「 |・・・大丈夫。ねむもそこまで行ける。こうすれば| 」ヒョイ
ねむ「えっ、わっ、ちょ、ちょっと桜子・・・?!」
ひなの「お、おい、抱きかかええて階段を上るつもりか・・・? 本当に大丈夫か・・・?」
桜子「 |問題ない。私ならねむを おはよう から おはよう までずっと抱きかかえていられる。むしろそうしたい。毎日。そうしてもいい? ねむ| 」
うい「すごい桜子ちゃん! さすがだね!」
桜子「 |うん。もっと褒めて| 」
ねむ「い、いや・・・人目があって僕が恥ずかしいんだけど・・・///」
いろは「ふふっ、大丈夫だよ ねむちゃん。みんなで一緒に行こう」
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三渓園 松風閣
灯花「とーちゃーく!」
うい「大きな工場がたくさんある!」
ひなの「南の海沿いは神浜の経済を支える重要な工業地帯だからな」
ねむ「・・・ついさっきまでここを訪れた文豪達に思いを巡らせていたのに、急に現実に引き戻された感覚だよ。古き良き時代を象徴する日本庭園と、大量生産大量消費を象徴する現代的工場が隣り合うこの光景はなんとも奇妙だね」
ひなの「まあ、奇妙と言えば奇妙かもしれないが・・・。ただ、ここは神浜の歴史を偲ぶことができるとてもいい場所なんだ」
ねむ「というと?」
ひなの「1923年、関東大震災があったことは知ってるか?」
ねむ「うん。知識としては」
ひなの「その大震災でこの辺りの街は一瞬にして瓦礫の山になってしまった。住処を失った人々は、この三渓園に逃れて生き延びたんだ。そして当時の経済界の中心人物だった原三渓が復興に多大な尽力をして、短期間で市の経済を立て直した」
ひなの「それからもう一つ。ここら一帯は江戸時代の頃から首都を防衛するための重要拠点なんだ。地図を見ればわかるが土地が東京湾に突き出している岬になっているからな」
ひなの「先の戦争でも、この近くに高射砲陣地や特攻兵器の基地が日本軍によって建てられた。だから米軍の空襲の標的にされてしまった」
ひなの「この三渓園は爆弾の直撃だけはなかったものの、園内は荒れ果ててしまった。原家は三渓園の復旧のため、園を市に売却するという苦渋の決断をし、それで復旧工事がなされて三渓園は息を吹き返したんだ」
ひなの「震災に戦争・・・。そういった苦難を乗り越え、三渓園は古き良き美を現代に残し、そして今は見ての通り、この周囲はたくさんの工場が建って平和に発展を遂げている。だから、そんな市の歴史を、ここから偲ぶことができるんだ」
ねむ「苦心惨憺の末、新しい時代が開拓されていったんだね。それを知るとこの光景もまた違った印象になるよ。歴史を知ると見え方が変わるという経験は面白いね」
ひなの「今の神浜は、イブやワルプルギスの夜で大きな被害を受けてしまった。だが、そんな苦難を乗り越えた神浜の歴史を、今と同じようにアタシらが偲ぶことができる日がいつか必ず来るだろう。今度はアタシらで新しい時代を開拓していくんだからなっ」
ねむ「・・・! それは町を破壊して罪悪感に圧し潰されそうな僕達に対する激励だね? まさかこんな流れで僕達を励ましてくれるなんて、これは完全に一本取られたよ」
灯花「くふふっ、ひなのお姉さまだーいすきっ!」
桜子「 |ひなのは優しくて頼れるお姉さん。データベースに追加した| 」
ひなの「おうっ! しっかり追加しておけっ!」
いろは「ふふっ」
うい「あははっ」
ひなの「さ、次へ行こう。シーサイドラインに乗って更に南に行くぞ」
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金沢シーサイドライン
ひなの「金沢シーサイドラインは、新杉田駅と金沢八景駅間のおよそ10㎞を結ぶ、海沿いの高架橋の上を走る新交通システムだ。ちょっと高い目線から車窓を楽しむことができるぞ。しばらくは工場ばかりの街並みだが、それを抜ければ海が広がっていい景色が見られる」
うい「へえ、乗るの楽しみ!」
ひなの「ちなみにだが、終点の金沢八景から一駅行ったところに金沢文庫という場所があってな」
うい「なにか特別な場所なの?」
ひなの「ああ、そうだ。神浜市民にとってはある意味とても特別なんだ。ういちゃん、ちょっと両人差し指を口の中に入れて横に広げて、『金沢文庫』と言ってみてくれないか」
うい「えっ? うん。えーと、口の中に指を入れて広げて・・・・」グイッ
うい「かなざわうんこ!」
うい「あ、あれ・・・?///」
灯花「くふふっ、ういったらおげひ~ん」
うい「ち、ちがうよ~っ、なんか勝手に言っちゃったの~っ」
ひなの「これは神浜じゃ定番のイタズラだ。いつ誰が最初に言い始めたかは分からないが、昔から親から子へ、または学校の先輩から後輩へ言い伝えられて、今では子供からお年寄りまで広く知られている超メジャーなイタズラなんだ」
ねむ「ふむ・・・。一見くだらないけど、歴史と伝統があると考えると、一つの郷土文化と言えなくもない。口伝だけで何故そこまで深く根付いたのか興味を引くね。いずれ深く考察してみたい」
いろは「・・・? 鉄道むすめ?」
ひなの「ああ、なんか少し前から妙に見かけるんだよな。各地の鉄道事業者に女性のイメージキャラクターをあてがっているんだとか」
ひなの「そのキャラクターのオリジナルグッズを駅構内の自販機で買えるぞ。キーホルダーとか缶バッジとか神浜のおいしい水(山梨県産)とかな」
いろは「へ、へえ・・・色々あるんですね」
ひなの「そろそろ車両に乗るか。朝の通勤ラッシュ時のシーサイドラインは半端じゃなく混雑するから、今日は比較的空いている昼頃に来たぞ。車椅子も問題なく乗れるだろう」
ねむ「ありがとう、ちゃんと考えてくれて」
うい「あれ? 運転席に運転手さんがいないよ?」
灯花「車掌さんもいない。ねー、乗る電車間違ってない?」
ひなの「いや合ってる。シーサイドラインは完全自動運転だからな。運転手は基本的にいないんだ」
灯花「にゃーるほど。AIが運転してるってわけねー」
いろは「運転手さんがいなくてえーあいが運転する・・・? う、うーん、難しい・・・・」
うい「お姉ちゃん、ホントこういうの苦手だね」
ひなの「せっかくだから運転席に座ったらどうだ? 運転手気分で車窓を楽しめるからな」
うい「えっ?! いいのっ?! わたし座る!」
灯花「あっ! わたくしもわたくしも!」
いろは「あっ・・・それだとねむちゃんが・・・」
ひなの「あっ、す、すまない・・・。あそこは狭いから車椅子は入れないな・・・」
うい「う・・・ご、ごめんなさい・・・」
ねむ「・・・・いいんだよ僕のことは気にしないで。ん、デジャブだねこれは」
桜子「 |ねーむ| 」ヒョイ
ねむ「ああ・・・やっぱりこうなるんだね・・・」
ひなの「お、おい大丈夫か・・・? 結構揺れるときもあるが・・・」
桜子「 |問題ない。私はウワサだから吉田沙保里並みの体幹がある。どんな振動があろうと、ねむを落とすことは絶対にない| 」
ひなの「そうかならいいが、でも仮に本当に吉田沙保里並みの体幹があっても、良い子は真似しちゃだめだぞ。必ず手すりに捕まるか座席に座るように」
ひなの「それじゃこのままシーサイドラインに乗って、八景島シーパラダイスに行くぞ」
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八景島シーパラダイス
うい「海に浮かぶ大きな島、そしてそこにあるのはシーパラ!」
ひなの「ああ、シーパラは水族館にアトラクションにレストランやショッピングで一日楽しめるアミューズメントパークだ!」
うい「お姉ちゃんお姉ちゃんシーパラに来たよシーパラ!」
いろは「入院中にシーパラの話を聞いてずっと行きたがっていたもんね。今日はいっぱい楽しんでね」
うい「うん!」
灯花「くふふっ、ういったらはしゃいじゃって、かわいーにゃー」
ねむ「無邪気で微笑ましいね」
ねむ「・・・・桜子は僕達を見て何をニヤニヤしているんだい?」
桜子「 |そういう背伸びした目線の灯花とねむも楽しみでしょうがないって顔をしているのが、私にはとても嬉しい| 」ニコニコ
灯花・ねむ「・・・・っ////」プイッ
うい「ねえねえまずはどこに行くっ?」
ひなの「そうだな、まずはアトラクションの方を周ってみるか」
うい「アトラクションねっ。巨大立体迷路にジェットコースターに急流川下り! どれも面白そー!」
ひなの「手始めに、手軽にスリルを楽しめるバイキングに乗ってみるか!」
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バイキング
うい「大きな船の乗り物に乗ってゆらゆら揺られるあれだね!」
ひなの「ああっ、荒波に挑む海賊船のごとく激しく何度も跳ね上がるぞ!」
いろは「あ、あれに・・・乗るの・・・? 危なくない・・・?」
灯花「うげっ・・・・」
ねむ「確かに物凄い迫力があるね。面白そうだ。さあ、みんな乗ってきて。僕はみんなが悲鳴を上げるさまを下で優雅に眺めているから」
うい「ねむちゃん・・・・」
灯花「んー・・・。いーよそーいうの。ねむが乗れないんなら わたくしも乗らない」
ねむ「何を言っているのかな? せっかくここまで来たんだから体験できることは体験すべきだよ」
灯花「とにかくわたくしはいいのっ。乗らないっ」
うい「えと・・・やっぱりねむちゃんは乗れないの・・・?」
ひなの「いや大丈夫だ。アタシが事前にスタッフに確認している。シーパラのほとんどのアトラクションは、同伴者が同乗して補助すれば車椅子の人でも乗れるぞ。桜子、補助できるよな?」
桜子「 |もちろん| 」ワキワキ
ねむ「へえ・・・! それは素晴らしいね。それじゃあみんなで乗ろう!」
うい「わあ! やったやった! お姉ちゃん灯花ちゃん早く行こっ!」グイグイッ
灯花「えっ、ちょ、ま、待って・・・」
いろは「そ、そう、ちょっと待って・・・。お姉ちゃんやっぱり危ないと思うから・・・」
うい「危なくないよ! ほらっ、みんな楽しそうに乗ってるよ!」
梨花「きゃ~!^^」
れん「はっ、はっ・・・・」
衣美里「\\\GYAAAAAAAAAA!!!!!!!!!///」
灯花「ひっ・・・」
いろは「い、いや、あれは楽しんでいるんじゃなくて、怖がってるんじゃないかな・・・?」
いろは「あっ、ほら他にも面白そうなアトラクションあるよ。メリーゴーラウンドとかシーボートとか。そういう優しい乗り物に乗ろう? そっちなら危なくないし、ねっ?」
うい「う~っ・・・やだーっ・・・」
灯花「そ、そうそうお姉さまの言う通りだよ非道徳的な非合理的な非科学的な乗り物の一体何が楽しんだかあんなのに乗ったって脳のどこの神経もビビッとしないよっそういう無駄な事をしてる時間があったら魔法少女の力を使った力学法則を超越した無限の可能性によってもたらされる多次元宇宙の彼方の量子の世界がエキゾチック粒子によってひじきが甘辛に煮えたときのエネルギーが原子分解をうんたらかんたら―――」
ねむ「ああ、そういうこと。なるほどね。灯花は恐怖でだらしなく身震いしているんだ。あんな子供だましに怖がっちゃって、灯花はまだまだおしめの取れないお子様なんだねえ」ニヤ
灯花「―――は・・・は、はあああっ?! 怖くないしーっ!」
ねむ「別に灯花は乗らなくたって構わないよ。灯花抜きで乗るから。灯花にできないことをやってのける僕の雄姿を、君は下で指を加えて見上げてればいいんじゃないかな」
ねむ「あっ、そうだ、むふっ、この前三人で海に行った時みたいに、今度は灯花が僕たちをカメラに収めて、その写真に言葉を添えてくれるかな? むふヘヘッ」
灯花「んぬぅぁく~ぅっ・・・! うるさいうるさいうるさ~いっ!!!」
ひなの「ああもうっ! なにいつまでちんたらしてるんだ! お前ら全員さっさと乗ってこーいっ!」ドンッ
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スタッフ「皆さんしっかり手すりに捕まってくださいねー」
うい「どきどきっ♪」
ねむ「むふっ・・・。この胸の奥底から沸き上がる高揚感・・・。それに呼応するかのように全身に鳥肌が立つ感覚・・・。たまらないね・・・むふっ・・・むふっ・・・」ゾクゾク
いろは「ひ、ひぃ・・・乗っちゃった・・・・・」
灯花「お、お姉さま・・・た、たしゅけて・・・」ギュゥ...
桜子「 |・・・・・・| 」 (無表情
スタッフ「それでは出発です! いってらっしゃーい!」
↑↑グワンッ↑↑
うい「あはーっ! あははっ、あははははははーっ!!!」
ねむ「むふーっ! むふハハハ~ッッwwwww!!!!」
桜子「 |・・・・・・| 」 (無表情
↓↓グワンッ↓↓
いろは「きゃああああああ!!!!」
灯花「にゃぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!! Gが~っ!! Gがマイナスにぃっ、なってりゅぅぅぅぅ~!!!!」
桜子「 |・・・・・・| 」 (無表情
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ひなの「どうだ? 楽しかっただろう?」
うい「うんっ、すっごく! もう一回乗りたい!」
ねむ「言葉にできない程の快感を味わったよ」
いろは「は・・・はは・・・・」
灯花「ゔ・・・・うぇっ・・・・偏桃体が・・・刺激され過ぎて・・・アドレナリンが・・・過剰分泌されてるぅぇ・・・・・・・」フラフラッ....
ひなの「お、おい・・・大丈夫か?」
灯花「らいじょーぶ・・・」
ねむ「まるで生まれたての小鹿だね。転ぶ前に桜子に抱きかかえてもらったら?」
桜子「 |抱っこ歓迎中| 」スシザンマイ
ひなの「桜子はどうだった? スリルがあって面白かっただろう?」
桜子「 |ううん。スリルなんて感じなかったし、揺られるだけの事の何が面白いかも理解できなかった。でも、この子たちが面白そうにしていたから私も面白かった| 」
ひなの「そ、そうか・・・? ま、まあ、楽しみ方は人それぞれだよな・・・」
ひなの「よしっ、アトラクションを楽しんだら次は水族館に行こうか!」
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水族館
うい「イワシにサバにアジ、あっちがメバル。合ってる?」
いろは「うん、合ってるよ。ういもちゃんとお魚の名前を覚えてきたね」
桜子「 |いい子いい子| 」ナデナデ
うい「えへへっ。どのお魚さんも活きがよくておいしそう!」
ねむ「サメと一緒の水槽にいるけど、食べられたりしないのかな?」
灯花「あっちにはペンギンさんが居るよっ。陸ではよちよち歩いてるのに、水中だと空飛ぶ鳥さんみたいに物凄いスピードで泳いでる!」
うい「本当だっ、活きがよくておいしそう!」
ひなの「おっ、見てみろ、エイが腹を見せて泳いでるぞ」
灯花「くふふっ、エイのお顔って人面みたい」
ねむ「そうだね。しかも絶妙に間の抜けた表情だね。どっかのゆるキャラみたいだ」
ひなの「そう思うなら、『エイ 干物』で画像検索はしちゃ駄目だぞ」
ねむ「クリオネの展示もあるよ」
ねむ「クリオネって思っていたよりずっと小さいね。拡大で撮影された写真でしか見たことないから、こんなに小さいとは驚きだよ」
いろは「不思議で儚くて透明感があるのが、なんだか桜子ちゃんみたい」
うい「うんっ、桜子ちゃんの事はクリオネをモチーフにデザインしたんだよ」
灯花「小さくて、水の中で羽根をパタパタさせて、ぴょこぴょこ泳いでいてかわいー。妖精みたい」
ひなの「流氷の妖精なんて言われたりもするしな」
ねむ「妖精ねえ。僕にとってはお姉さんこそが神浜に舞い降りた光の妖精だよ」ニコッ (いろはの手を取り
いろは「も、もう、ねむちゃんったら・・・///」トゥンク
ねむ「おっと失礼。お姉さんと過ごす時間が楽しくてつい本音が漏れてしまったよ」
灯花「むーっ・・・。ねえねえ、お姉さま、そんなことよりシロクマさんを見ようよっ。すごいんだから」グイッ
ザバッ ザバッ
うい「シロクマさんがすぐ目の前を泳いでる! わあっ、シロクマさんの毛並みってすっごいフサフサでモフモフだっ。ゴロジローちゃんのお腹の毛よりも、モフッとしてる!」
ねむ「うん、本当にモフモフだね。シロクマは本や映像で何度も見ているけど、この質感は実物を近くで見ないと分からないね。もっとじっくり見たい・・・あっ、向こうに行っちゃった」
うい「もう一回近くに来てくれないかな?」
ザバッ ザバッ
ねむ「おっ、来てくれた」
うい「モフモフッ♪」
ひなの「はははっ、繰り返し客の目の前を泳いでくれるし、その間はずっとこっちを見ているし、随分と営業上手なシロクマだなっ」
ひなの「ほらっ、隣の水槽ではセイウチが泳いでいるぞ」
うい「お、大きい・・・!」
灯花「お、大きすぎにゃい・・・? ちょっと怖い・・・」
ねむ「体長が3.5mあるということは、本からの知識で知ってはいたけれど・・・。実物は迫力が違うね・・・。まるでクジラだよ。こんな巨大な生き物が動き回っているのをこうして近くで見られるのは感動的だね」
ねむ「ふう・・・。ここに来てから感動しっぱなしだよ」
灯花「わたくしもっ。初めて見るものばかりだから神経が刺激されてドーパミンがいっぱい出てきた気がするー」
いろは「お魚や動物が本当に触れるくらいの近くで見られるから色んな発見があるよね」
うい「あっ、触れると言えば、シーパラではイルカさんに触ったり、一緒に泳いだりできるって聞いたことがある!」
ねむ「人が動物と触れ合い心を通わせる出来事を綴った物語には名著が多い。それは人にとって動物との交流は何ものにも代え難い素晴らしい体験だからだろう。是非とも僕もそのような時間を過ごしてみたいね」
いろは「うん、体験できることは体験しないとだよね。桜子ちゃんもいるし。ひなのさん、いいですか?」
ひなの「あー・・・い、いや・・・申し訳ない・・・。事前にスタッフには聞いたんだが、イルカと一緒に泳ぐプログラムに参加するには、自力で立てて、なおかつ泳げる人に限られているみたいでな・・・」
いろは「あっ・・・そうなんですか・・・。桜子ちゃんがいてもできないんですね・・・」
ねむ「 |そう・・・。それは残念だね・・・」
桜子「 |ねむも一緒に楽しめないなんて許せない。そんなふざけたルールは私が変えてくる| 」ジャキン
ひなの「やめないかバカっ!」
ねむ「いいんだ、本当に僕の事は気にしなくていいから。僕は待ってるからみんなで行ってきて。そして感じたことを後で僕にたくさん話してほしい」
いろは「う、う~ん・・・・・」
うい「ねむちゃん・・・」
灯花「はーあ。ハラタツ。『僕は待ってるからみんなで行ってきて』って、なんなのねむっ、その言い方。それじゃわたくしたちがねむを仲間外れにしている悪者みたいじゃない」
ねむ「むっ、なんだい灯花。僕にそんな意図はない。そんな風に解釈する君こそ、僕は気に食わないよ。本当にひねくれた性格だね君は」
灯花「ひねくれた性格してるのはねむの方でしょ。せっかくみんなで楽しんでたのに、それに水を差してさ」
ねむ「あのねえ・・・! 僕にそんな意図はないと言ってるじゃないかっ。僕はみんなのためを想って待っていると言ったんだっ。その僕の配慮を素直に受け取れない灯花の方こそ僕は腹立たしいよっ」
灯花「知らない。勝手怒ってれば?」
ねむ「灯花・・・っ!」
いろは「ちょ、ちょっと、落ち着いて二人とも・・・」
うい「だ、ダメだよ、ケンカは・・・」オロオロ
ひなの「あー・・・と、とりあえず今日の所はお開きにするかっ? また機会があったら色々案内してやるから、なっ?」
いろは「そ、そうですねっ、そうしましょうっ。どっちみち私たちみんな泳げないですしっ! 今日はありがとうございましたひなのさん!」
ひなの「おうっ。明日は十七夜に東を案内してもらうんだろ? 気を付けて行ってこいっ!」
いろは「はいっ!」
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翌日
十七夜「うむ、これで全員揃ったな」
いろは「今日はよろしくお願いします十七夜さん」ペコリ
うい「お願いしますっ!」
十七夜「むっ? そっちの二人はどうした?」
ねむ「ふんっ」プイッ
灯花「ふーんだっ」プイッ
桜子「 |みんなで仲良くしてほしいのに・・・| 」
十七夜「機嫌が悪いようだが、自分が何かしてしまったか?」
いろは「あ、い、いえっ、そんなことないです。ちょっと色々あって・・・」
十七夜「そうか。まあ、色々見て周れば気もまぎれるだろう」
十七夜「だが、最初に断っておくが、これから君たちを派手で目立った面白い場所には連れて行かないぞ。西や南と違って、東にそういった場所はそもそもないからな」
いろは「そうなんですか?」
十七夜「ああ。だがこれも社会勉強だと思って、今日は自分に付いてきてほしい」
十七夜「それでは最初に深谷通信所跡地行こう」
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深谷通信所跡地
うい「わぁっ! 広い! 見渡す限りの広い草原が広がってる!」
いろは「すごく開放的です。神浜にこんな広い場所があったんですね。あっ、富士山も見える」
十七夜「ああ、東側は開発が遅れているからな。そのおかげで良くも悪くも自然が残されている。だから西や南では見られない珍妙な野生動物をたまに見かける」
うい「あっ! なんか大きい鳥さんがいる!」
灯花「わたくし知ってる! あれはクジャクのメスだにゃー!」
ねむ「違うっ、オオミチバシリだ!」
桜子「 |雉だよ| 」
うい「あっ、あれってハクビシン?!」
灯花「アライグマだにゃー!!!!」
ねむ「イタチじゃないかな?!?!?!」
桜子「 |タヌキだよ| 」
十七夜「昔はイタチはもちろん、ウサギやキツネも見かけたんだがな。宅地開発が進んでからはほとんど見なくなったな。今は数少ない生き残りのハクビシンやタヌキがこの辺りで細々と生き残っている印象だな」
いろは「十七夜さん。向こうにすごく大きな五重塔みたいな建物がありますけど、あれはなんですか?」
十七夜「あれはホテルエンパイアという建物で、ドリームランドという遊園地だった場所にあったホテルだ」
いろは「遊園地、だった・・・?」
十七夜「ドリームランドは1964年に開園した遊園地だ。当初は日本のディズニーランドを目指すという構想に基づき、広大な敷地にボウリング場、プール、スケート場、周遊ヘリコプター、カラオケ、ショッピングモール、映画館まで備えた巨大レジャー施設だった」
十七夜「だが、周囲を見て分かる通り、この辺りは鉄道が無くアクセスが悪い。車やバスで来るにしても、県内屈指の渋滞地である原宿交差点を通らなければならない。そんな陸の孤島状態を解決するために、県の大動脈である東海道線の大船駅から、遊園地を結ぶモノレールを建設したんだが・・・」
十七夜「当時はモノレールブームだった。モノレールに乗れることを多くの者が期待した。なによりモノレールによって東京へのアクセスが格段に向上する。更にドリームランド以北への延伸の構想もあって、ドリームランド周辺は宅地開発が進み、そこへ大勢の移住者が来た」
十七夜「しかし、建設されたモノレールには技術的な欠陥があって、開業後1年足らずで運行停止処分を受けてしまった。その後もドリームランドは陸の孤島状態が続いた」
十七夜「それでも敷地の一部を売り払うなどしてなんとか経営は続けていたが、バブル崩壊に東京ディズニーランドや八景島シーパラダイスの開業で客足は更に遠のいて、2002年にドリームランドは閉園した」
いろは「そうなんですか・・・。それじゃあ、今はあのホテルだけが残っているんですね」
十七夜「ああ。だが今はホテルではなく大学の図書館として再利用されている」
十七夜「以前は本当の五重塔のようなひさしが、上下に幾重にも連なっていたんだが、落下の危険性があるということで全て取り払われることになった。だが、ドリームランドの趣を残してほしいという地元住民の要望があって、今はあのように一番上のひさしだけが残されている」
十七夜「そういった要望が出るほどには、地元住民のドリームランドに対する期待は大きく、そしてなにより多くの人に愛されていたんだ。日本で初のアトラクションも多数あって、遊園地としては楽しい場所だったしな」
ねむ「あの図書館は夢の跡ってことだね。ドリームランドというその名前も相まって、こうして見ていると哀愁が漂うよ」
十七夜「ああ、そうだな・・・。モノレールの問題さえなければ、ドリームランドは八景島シーパラダイスと並んで、神浜の二大レジャー施設として栄えて、東側はもっと活気があっただろうな」
いろは「そうですね、なんだか寂しいですね・・・」
(∪^ω^) わんわんお!
灯花「にゃぁ゙?! な、なにこの犬~っ?! 野生の犬までいるの~っ?!」
うい「あれっ? その子マメジちゃんじゃない?」
十七夜「うむ。マメジだな」
理子「十七夜お姉さん! こんにちはっ。ういちゃんも!」
うい「わ~っ、理子ちゃんだっ!」
十七夜「マメジの散歩か?」
理子「はいっ! ここに来るとマメジはいつも大はしゃぎなんですワン!」
(^ω^∪ ≡ ∪^ω^) わんわんお~っ! わんわんおうおうお~っ!!
うい「これだけ広い草原を走り回れたら楽しいよね」
十七夜「ここは犬の散歩の定番スポットだからな。ただ、ここもそろそろ開発の手が入るから、今後どうなるか・・・」
うい「この広い草原がなくなっちゃうの?」
十七夜「市の開発計画では、この広大な土地を利用して墓地やスポーツ施設が整備される予定らしい。その計画については賛否両論あるが・・・」
十七夜「少なくとも、この広大な草原がこれからもずっとこのままと言うことはなさそうだ」
うい「そうなんだ・・・。それはちょっと寂しいね」
理子「うん・・・。マメジを思いっきり遊ばせてあげられる場所は残ってくれると嬉しいんだけど・・・」
(∪´·ω·`) わんわんぉ・・・
十七夜「時代の移り変わりとともに、人も、土地も、移り変わりゆくものだからな・・・」
十七夜「さて、バスに乗って次へ行こう。いちょう団地へ向かう」
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いちょう団地
ねむ「はー・・・。ここから見えている大きい建物全部が団地なのかな・・・?」
十七夜「そうだ。いちょう団地は東京ドーム6個分の面積に、総戸数2000を超える、県内最大級の団地だ」
灯花「この建物全部に、人がたくさん住んでるってこと? 世の中にはこういう住宅もあるんだねー。ここだけ人口密度がすごそう」
通行人「~~~~」
通行人「~~~~」
うい「・・・・? 今の人たち外国人?」
十七夜「気が付いたか。このいちょう団地の住人は外国人が多い。ちょっとそこの看板を見てみろ」
うい「わっ、六か国語で文章が書かれてるよっ!」
灯花「日本語、英語、フランス語、中国語・・・あとはなんだろう・・・? わかんにゃい」
ねむ「干されている洗濯物を見ると、日本ではあまりみない柄の物が多いね」
いろは「向こうの小学校の壁には、いろんな国の絵が描かれているよ」
十七夜「近くに本格的なベトナム料理を提供している飲食店や、東南アジアの商品を置いてある商店もあるぞ」
いろは「へえ、そうなんですか。でも、どうしてこんなに外国人が多いんですか?」
十七夜「いちょう団地が入居開始した当初は、日本人が住む普通の団地だった。だが、1976年に南ベトナム共和国が崩壊し、そこに住んでいたベトナム、ラオス、カンボジア人たちが政治的理由から難民として日本に来て、紆余曲折あってここに移り住み、その頃から外国人居住者が増えてきた。今では東南アジアや南米出身の者もいる」
ねむ「そんな短い間に様々な国から人が一気に集まってしまったら、文化や習慣の違いとかで何かと軋轢が生まれそうだけど・・・?」
十七夜「ああ、最初の頃は大変だったらしい。騒音問題、異臭問題や、それに学校だ。学校では、否応にも様々の国の子供たちが顔を合わせる。子供たちや教員が戸惑うのはもちろん、保護者の中には外国人に悪い印象を持っている者もいた」
十七夜「だが、その反面、根気よく多文化共生を唱えて奔走した者や、外国人居住者に対して生活のルールを親切に教授し続けた者、積極的に居住者同士の交流ができる場を設けた者がいた。そういった者たちの努力の結果、子供たちが日本語を覚える頃には、多文化による対立はほとんどなくなっていた」
うい「わあっ、素敵だねっ!」
十七夜「ああ、それはとてもいいことだ。ただ、今も全くトラブルが無いと言う事はないがな。たまに外からちょっかいを出しに来る輩なんかもいる」
十七夜「だが、見ての通り、基本的には今は静かで平和な団地だ。これからもここはより平穏な住居地に向かって歩み続けるだろう」
ねむ「今は多文化共生ができている状態なんだね。そこまで至れた経緯をもっと詳しく掘り下げれば、これからのグローバル社会を円満に築くための大きなヒントが得られそうだ」
灯花「そーそー。これからの日本はこういう場所がどんどん増えていくだろーしねー」
十七夜「君たちは、グローバル社会だからと言って外国人を大勢受け入れることが最適な社会の在り方のように話しているが、本当にそうか?」
灯花「そーでしょー? 今の日本は人口が減っているんだから」
十七夜「人口が減っているからといって、外国から人を大勢入れたら、今の社会システムに負担がかかって、最悪は日本人も外国人も共倒れになったりはしないか? 現にここだって最初の頃は大変だったのだから」
灯花「い、いやでも、今はどこも人手不足なんだから、人を増やさないとそれこそ社会が回らないでしょ? ただでさえ今は景気が悪いし」
十七夜「日本は過去に、明治維新や昭和の高経済成長で短期的に大きく発展を遂げた。その頃は今より人口は少なかったにも関わらずにだ。昔出来たことなら、今でもみんなで知恵を出せば外国人に頼らなくても済む方法があるんじゃいないのか? 何故その議論を飛ばして、いきなり外国人に頼ることが先になるんだ?」
灯花「そ、それは・・・時代が違うし・・・」
十七夜「このいちょう団地はうまく多文化共生ができているが、それは先ほども言った通り、多文化共生を目指して弛まない努力をした者がいたからだ。そういう努力ができる者が全国的にいる保証はあるのか?」
十七夜「それに、今もここには全くトラブルが無いと言う事はない。それは、どうしても多文化共生を受け入れられない者が世の中に少なからずいるからではないか?」
十七夜「言葉・習慣・文化・生活様式・宗教観の違いに恐怖を感じる者だっている。そういった者に、グローバル化の時代だからと言って、多文化共生を押し付ける事を当たり前にしてしまっていいのか? それは公平で平等な社会と言えるか?」
灯花「う、う~ん・・・」
ねむ「・・・・・・」
うい「む、難しい・・・・」
十七夜「・・・・この件について今すぐ答えを出す必要はない。今日の目的はそれではないからな。次の場所に行こう」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
瀬谷駅
いろは「ええと・・・。落ち着いた感じの場所ですね・・・!」
灯花「電柱より高い建物がないにゃー」
ねむ「向こうに畑があるよ」
うい「こういう所を田舎? っていうのかな」
いろは「ちょ、ちょっとういっ、失礼だよそんな言い方・・・」
十七夜「別に気を遣わなくてもいいぞ。実際田舎だからな。この辺りは神浜の中でも特に最果てに位置しているから “神浜のチベット” などと揶揄されるような僻地だ」
十七夜「そんな田舎らしく、少し行ったところに農協の直売所があるぞ。神浜産のキノコや肉類、牛乳、野菜、果物などが売っている」
いろは「神浜産のキノコやお肉なんてあるんですね。スーパーじゃ全然見かけないのに」
ねむ「ここは、大企業の高層ビルが乱立して高級車が走り回っていた桜木町周辺とは天と地ほどの差があるね。同じ神浜とは思えないよ」
十七夜「誰でもそう思うだろうな。だが、同じ神浜だからこそ被る不利益もあったりするんだ。例えば住民税だ」
十七夜「神浜市の住民税の高さは、常に全国ランキングで上位に食い込む。それほどの高い住民税を東からも徴収しておきながら、税の使い道は、そのほとんどが西や南の整備に回される」
十七夜「そんな現実に不満を感じ怒り狂った東の住民たちは神浜から独立を企てたことがある。だが、市外の人間から『神浜に住んでいるの? よくわかんないけどなんかおしゃれだねっ!』と言われるのがまんざらでもないので、独立はやめることにした」
いろは「は、はあ・・・。なんか色々あったんですね・・・」
十七夜「さて、のどかな田園風景を見ながら旧上瀬谷通信施設まで行こう」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
旧上瀬谷通信施設
うい「わぁっ、すごいっ・・・! 一気に景色が開けた!」
ねむ「さっき行った深谷通信所跡地と同じか、それより広い草原だね」
いろは「どこまでも続く桜並木が素敵。たくさんの桜に包まれている景色が夢みたいに綺麗。草原も広がっているから、なんだかここは桜子ちゃんみたいだね」
灯花「桜の本数も広さも桜子より全然上だけどねー」
桜子「 |・・・・・っ| 」ムスッ
ぎゅうっ
いろは「わっ? どうしたの桜子ちゃん?」
桜子「 |・・・・・なんでもない| 」ギュッ...
ねむ「深谷通信所跡地に旧上瀬谷通信施設。何か関係があるのかな?」
十七夜「ああ、どちらも米軍の無線通信基地があった場所だ。冷戦中にソ連の通信を傍受したり、兵士の軍事訓練するための重要な拠点だった」
十七夜「それだけの重要拠点だから、電波障害を避けるために周辺地域の開発が制限されていた。この辺りの開発が遅れている原因の一つだな」
十七夜「自国の領土の一部を他国に接収されて、しかもその他国の都合で町の開発を遅らされるなど本来忌むべきことだが・・・。皮肉なことにそのおかげでこうして自然が維持されているのが現実だ。この辺りは深谷通信所跡地以上に、貴重な動植物や昆虫が未だに生息できている」
いろは「そうなんですね・・・。あっ、もしかして、深谷通信所跡地と同じくやっぱりここもこれから開発の手が入るんですか?」
十七夜「うむ。数年前に正式に米国からこの土地を返還されてから、市による開発計画が進んでいる」
十七夜「具体的には巨大なテーマパークを中心に、農業に触れ合える施設、公園、宿泊施設などが整備される予定だ。そして、交通手段として瀬谷駅からここまでを結ぶ、金沢シーサイドラインのような交通システムも建設計画にある」
十七夜「これが実現すると、道路を拡張したり高架橋を整備したりなどで、ここにある桜並木はほとんどが、あるいは全てが伐採されるだろうな・・・」
桜子「 |えっ、だ、ダメッ!| 」
いろは「桜子ちゃん・・・?」
桜子「 |・・・きっとここの桜たちは、長い間色んな人たちを見守っていて、色んな人たちの心に支えになっていたと思う・・・。桜ってそういう花だから・・・| 」
桜子「 |いろはが私以外の桜を見るのはイヤだけど・・・それでも、ここの桜は切っちゃ・・・ダメ・・・| 」
うい「・・・・・うん、そうだね。わたしもそう思うな」
灯花「言いたいことは分かるけど、しょーがないんじゃないかにゃー。さっきドリームランドの話があったでしょ。ちゃんとした交通手段があれば、東側はもっと活気があったはずだって」
灯花「そういう昔出来なかったことを、ここでもう一度やって、今まで遅れていた分の開発を加速させるのが、市の開発計画の意図なんじゃないのー?」
うい「で、でも、ここの自然の中には色んな命がいるんだよ・・・? 動物さんや虫さんは勇気をもって一生懸命生きているのに、そんな自然を壊すことはよくないんじゃないかな・・・?」
十七夜「自然を残すといえば聞こえはいいが、今現在、野生動物が農地を荒らしたり、人の住居に糞害をもたらしたりといった良くないこともあるが?」
うい「あ・・・そ、そうなんだ・・・」
十七夜「環君はどう思う?」
いろは「えっ? えと・・・う~ん・・・」
いろは「そうですね・・・。今すぐは何とも言えないです・・・。こういう場所があるということを、私は今日初めて知りました。だから、どうするのが一番良いのかは、今までの歴史とかをちゃんと調べて、そして近くに住んでいる人たちの意見を幅広く聞かないと分からないと思います」
いろは「そうすれば、自然を残しつつ開発を進められるようないい方法があるかもしれないし」
十七夜「うむ、その通りだ。今日自分が君たちを東に案内した理由は、そのことを分かってほしかったからだ」
十七夜「先ほどのいちょう団地で、自分は里見君の考えに反論したが、それは別に里見君の考えを否定したかったからじゃない。そういう考え方もあると知ってほしかったからだ」
十七夜「ここの土地利用についても同じだ。開発を進めるべきだという考えがある反面、自然を残すべきだという考えもある」
十七夜「こういうことに答えはない。逆に言えば人の数だけ答えがある。だがいつかは一つの答えを出さなければならない。そしてその答えは、最大多数の最大幸福とならなければならない」
十七夜「君たちは今までずっと入院をしていたんだろう。その間は、親や医療スタッフに支えられながらその日生きるのに必死で、噂を通してでしか、外の事、そして未来に目を向ける余裕はなかったかもしれない」
十七夜「だが今は違う。今は自身の意思で、自身の足で、自身の目で、こうして外に出て色々な物や人を見聞きすることができる。手に入りやすい情報だけで結論を出さないで、現場で現実を知って何が正しいかをじっくり考えることができる」
十七夜「そして、君たちは立派な神浜の住民だ。自分が今まで挙げてきた意見の対立を他人事だと思わず、しっかり考えて正しい答えを出して、それを主張できるようになってほしい。今後は、今のこの東のように、西に比べて不利益や不満を感じる者を多く出さないためにな」
十七夜「これからは、我々が神浜の新しい時代を築いていくのだから」
うい「う、うんっ・・・! それは大事だねっ」
ねむ「マギウスで好き勝手やっていた身からすると、耳が痛いね」
灯花「同じく・・・」
いろは「あはは・・・。で、でも、これだけのお話を聞かされると、やっぱり十七夜さんってすごいなあって思います」
十七夜「自分は昔から、ただでさえ不安定な東側のまとめ役をやっていて、七海や都とは何度も衝突して、その度に折衝を繰り返していたからな。嫌でもこうなった」
十七夜「さて、偉そうなことを延々述べてしまったが、せっかくここまで来たんだ。この広い場所を使ってみんなで思いっきり羽を伸ばして遊んでみたらどうだ」
桜子「 |うん。私の桜と草原じゃないのはイヤだけど・・・。いろはたちが楽しいなら我慢する。みんなで仲良く遊んで| 」
いろは「そうだね、何かして遊ぼっか」
うい「う、うん・・・。でもわたしたちずっと病院に居たから、こういう時どういう遊びをすればいいかよく分からないかも・・・」
いろは「そ、そう言われると、私も外で友達と遊んだ経験、あんまりないかも・・・」
灯花「んー・・・。かくれんぼとか?」
ねむ「こんなだだっ広い草原のどこに隠れる場所があるんだい? 穴でも掘る気かな? 少しは考えて発言をしてほしいね、自称天才さん」
灯花「ちゃんと考えて発言してるよ、バカねむっ」
ねむ「なに・・・? 僕のどこがバカだっていうのか説明を求めるよっ」
灯花「じゃーねむはどんな遊びをすればいいと思ってるのかにゃー?」
ねむ「えっ、うっ・・・う~ん・・・・。鬼ごっことか、ドロイケとかかな・・・?」
うい「遊び道具とか持ってきてないし、他に思いつかないね」
桜子「 |それじゃダメなの? 走り回って遊ぶのは私のウワサの内容通りだよ| 」
ねむ「いいんじゃないかな。僕は見ているだけで楽しいから、みんなで走り回って遊んでほしい」
灯花「・・・・・・っ~!」
灯花「・・・ああもうっ! いやだーっ!! 我慢できないーっ!!!」
ねむ「灯花・・・?」
灯花「昨日から本当に何なのっ、この大バカねむっ!!!」
ねむ「何を急に憤慨しているのかな? 理解に苦しむよ」
灯花「わたくしたち本当だったらもう病気で死んでいるんだよっ?! 何度試行を繰り返しても再現できない確率の奇跡を掴んでこうやってみんな揃って外に出られるようになったんだよっ?!」
灯花「入院しているときは、みんなで外を歩き回ることをあんなに夢見ていたのにっ!」
灯花「でもいざそれが実現すると、ねむは何かある度に一歩引いてる! なんでっ?!」
灯花「それがもう本当にムカツク! ハラタツ!! 頭にくるーっ!!!」
ねむ「・・・・・・」
ねむ「しょうがないでしょ、僕は見ての通り―――」
灯花「車椅子だからってそんなくだらない事言い訳にならないからっ!! 病院か家にしか居られなかった頃と比べたらはるかに自由でしょー!!」
ねむ「っ! 灯花っ!! なにがくだらないって・・・?!」
いろは「・・・・・・・」
うい「だ、ダメッ、二人ともケンカは―――」
いろは「待って、うい」
うい「えっ・・・? で、でも・・・」
いろは「いいから。待って」
うい「ううっ・・・」
ねむ「入院しているときに比べたら遥かに自由だなんて・・・そんなの分かってる! だけど車椅子じゃどうしたって僕はみんなの足を引っ張っちゃう・・・。僕は僕のせいで、せっかくのみんなの自由を制限したくない・・・!」
灯花「にゃーもーっ! わたくしの話聞いてたっ?! みんなで一緒であることに意味があるのっ! 足を引っ張っちゃうなら引っ張ればいいでしょ! わたくしだって、お姉さまも、ういも、そんなことで自由を制限されたなんて思わないから!」
ねむ「足を引っ張っていることは自由を制限してることじゃないかっ!? 灯花の言っていることは矛盾しているよっ!」
桜子「 |大丈夫だよ、ねむ。いつでも私がねむの足になるから。みんなで仲良く鬼ごっこやろう?| 」
ねむ「それはもう僕じゃなくて桜子じゃないか! 他人の足で鬼ごっこすることのなにが楽しいのっ?! 僕にみじめな思いをさせたいのっ?!」
桜子「 |そ、そんなつもりじゃ・・・| 」
十七夜「外野からすまないが、柊君は車椅子生活を悲観的に捉えすぎていないか? 世の中にはパラリンピックで金メダルを取る者もいれば、全身麻痺を抱えながら歴史に名を残す宇宙物理学者もいる」
十七夜「だから工夫をすれば柊君が望むような生活だってできるはず―――」
ねむ「そんな一部の成功例を出して なんでもかんでも できるはずだなんて、気軽に言わないでほしい! 車椅子生活がどれだけ大変か分かってるのっ?!」
十七夜「むっ・・・・」
ねむ「退院したらずっと行きたかった書店や図書館巡りも、車椅子だと全然できない・・・。移動は遅いし、狭いところには入れないし、段差は通れない、高いところにある本は取れない、他のお客さんに迷惑がかかる・・・・・・」
ねむ「桜子のサポートがあってもそれで全てが解決するわけじゃない・・・。昨日イルカと泳げなかったみたいに・・・」
ねむ「僕は自分の足で歩いているみんながうらやましくて仕方ない・・・!」
ねむ「車椅子生活を経験したこともない人間に僕の気持ちが分かる?! 分かないなら口出ししないでっ!」
十七夜「そ、そうだな・・・。失言だった、謝罪しよう・・・。だがな・・・」
ねむ「せっかく病院から出られたのに・・・僕の世界は狭いまま・・・。病室でずっと思い描いていた夢は潰えたまま・・・。僕だけ取り残されて、こんなの、悔しくて仕方がない・・・!」
十七夜「むぅ・・・・」
灯花「・・・・・」
うい「ねむちゃん・・・」
いろは「・・・・・・」
いろは「ねむちゃん。確かに、車椅子生活の大変さは私たちには分からないかもしれない。でもね、ねむちゃんの世界が狭いままだなんて言い方は、みんなに対して失礼じゃないかな?」
ねむ「どういう意味・・・?」
いろは「おとといは やちよさん、昨日はひなのさん、今日は十七夜さん。この三日間で神浜の色々な場所を見て周れたよね? それは やちよさん たちが ねむちゃん の事を考えて、車椅子の人でも行ける施設や時間帯を事前にしっかり調べて手配しくれたからだよね」
いろは「そうしてねむちゃんはどうだった? 今まで知らなかった事をたくさん知る事ができて楽しかったんじゃない? ねむちゃん、何度か笑っていたもの」
ねむ「それは・・・うん・・・」
いろは「確かに車椅子生活はねむちゃんにとって辛いことかもしれない。だけどね、それで自分だけが取り残されたと思って、夢を諦めて希望を無くしちゃうねむちゃんがいることの方が、私には辛い」
いろは「大事なのは、夢を叶えられない理由を探すことじゃなくて、夢を叶えられる理由を探すことじゃないかな? この三日間だけでも、やちよさんたちに支えられて、ねむちゃんの世界は広がったんだよ。そうやって、少しずつでも克服すればいい」
ねむ「そんなこと言ったって・・・僕はどうすれば・・・」
いろは「病室でいつか聞かせてくれた、ねむちゃんがやりたいこと、ねむちゃんが叶えたい夢を、もう一度私に聞かせて。そうしてその気持ちを強く持って。そうすればきっと道が拓けるから」
いろは「だから、聞かせて、ねむちゃんの夢を」
ねむ「・・・・・僕は」
ねむ「・・・僕は、世界を原稿用紙に物語を綴りたい」
ねむ「だけど、今の僕はその世界を知らなさすぎる」
ねむ「本物の中華料理があんなにおいしいなんて知らなかった。世界にはあれほどにおいしい料理はどれほどあるんだろう・・・」
ねむ「セイウチがあんなにクジラにみたいに大きいなんて知らなかった。本物のクジラはどれほど大きいんだろう・・・」
ねむ「遊園地のアトラクションがあんなにスリルがあるなんて知らなかった。世界にはもっとスリルのある遊びどれほどあるんだろう・・・」
ねむ「神浜の中だけでも、住民たちの間で色んな意見の対立があるなんて知らなかった。世界の色んな国では同じような問題をどうやって解決しているんだろう・・・」
ねむ「僕は誰よりも多くの本を読んで、誰よりも世界の知識があるつもりでいたけれど・・・」
ねむ「僕が思った以上に世界は広いし、僕の知らないことが多い。この三日間でそれを思い知らされた。机に向かって椅子に座っている日々だけを過ごしていたら決して気が付けなかった」
ねむ「だから・・・僕はもっと世界が知りたい・・・。色んなことに感動したい・・・。そして誰にも迷惑をかけない優しい物語を、世界中に具現化させて、僕が世界中から認められたい・・・」
ねむ「できるかな・・・? こんな体になってしまった僕にでも・・・・」
いろは「ねむちゃん」スッ
ぎゅう
ねむ「んっ、むっ・・・」
いろは「大丈夫。きっとできる。今すぐは無理でも、小さなことからできることを一つ一つ見つけていこう。私と一緒に」ナデナデ
うい「勇気を持って踏み出そうっ。苦しみと喜びは背中合わせで、勇気はその橋渡しをしてくれるのっ! みんなと一緒ならこの世界はなんでもできるんだからっ!」
灯花「べ、別に・・・ねむのためとかじゃないけど・・・わたくし、下半身不随の人でも歩いたり泳いだりできるパワードスーツの研究でも始めちゃおーかなー?」
ねむ「そうかい・・・。ふう・・・。なんとも不覚だよ」
ねむ「ここまでお姉さんに諭されて心が晴れた、そのきっかけが・・・灯花の発言からだなんてね」
灯花「・・・・あっそ」
ねむ「でも、ありがとう、灯花」ニコッ
灯花「・・・ふ、ふーんだっ///」プイッ
ねむ「ごめんね、みんな。せっかく僕たちは深淵から這い上がってきたのに、それから得られる人間としての幸福を享受しないことは実に愚かしい」
ねむ「僕はこれから前向きに生きるよう努めるよ。そしてそんな僕にみんなが足並みを揃えて生を付き合ってくれるというのなら、それはこれ以上ない幸福だ。お願いできるかな?」
いろは「もちろんだよっ」ニコッ
うい「わたし嬉しい。ねむちゃんと灯花ちゃんが変わってくれて」
灯花「変わったって、なにがー?」
うい「灯花ちゃんがねむちゃんの事を想って、みんなと一緒にいたいっていう自分の気持ちを声を荒げて言ってくれたり」
うい「そんな灯花ちゃんにねむちゃんが素直にお礼を言ったり」
うい「普段はケンカばかりなのに、なんだかね最近二人とも、好きって気持ちを素直に言えない ひねくれた性格 が直っているなあって思ってっ!」ニコッ
灯花・ねむ「「・・・・・っ////」」ウツムキ
ねむ「・・・でも、それが事実とするならば、それはきっと女神様のおかげだよ」ギュ (いろはの手を握り
いろは「?」
うい「女神様?」
ねむ「夜空で最も明るく輝くヴィーナスの如く美しい、神浜に権化した愛と美の女神のね」ニコリ (いろはを見つめ
いろは「へっ・・・? わ、私・・・っ?///」トゥンク
灯花「ちょ、そういうのはわたくしのセリフ―――」
ねむ「僕は今、至上の幸福を噛み締めている所だよ。お姉さんが僕に太陽のような熱いプロポーズをしてくれたから。お姉さんはこれから僕を連れて世界を舞台にしたハネムーンへと駆けてくれるんだよね?」
いろは「ふへっ?! 私そんなこと言ってな―――・・・い、言って・・・言ったことになる、のかなあ・・・?!///」
灯花「ダメダメダメだめーぇぇえッッ!!! お姉さまはわたくしと結婚するのっ! お姉さまだって玉の輿に乗りたいでしょーっ!!」グイッ
いろは「そ、そんなっ・・・気持ちは嬉しいけど、私にはやちよさんがいるから・・・///」モジモジ
十七夜「なに、心配するな。自分が市長になった暁には一婦多妻制くらいなんとかしてみせよう」
いろは「ええっ!?////」
いろは「 み ん な 環 に な る ! 」グジュバァ
桜子「 |・・・・・・・・・| 」
桜子( |町の至る所で桜が咲くこの季節。本当の春が始まったこの季節| )
桜子( |4人揃ってこの町で仲良く遊ぶ事をユメ見た日々を、こうして迎えることができたけれど、それは思い通りにならないことも多い| )
桜子( |けれどこの子たちはその度に困難を乗り越えられる。色んな人と出会い、助けられ、その度に色んな事を知っていく。ユメ見た日々は思った以上の変化がある| )
桜子( |世界を知って視野が広がって物事の見方が変わっていく| )
桜子( |ひねくれた性格がおとなしくなって大人に変わっていく| )
桜子( |神浜という町が長い歴史の中で変わっていったように、その中で住むこの子たちも時とともに変わっていく| )
桜子( |だけど私は変わらない。私はウワサ。ウワサは変わらないもの。ウワサにとって人の歩みは速すぎる)
桜子( |付いていけずに眺めるだけで、みんなどこかに去って行く。置いて行かれた私は、ただただジクジクと胸が痛むだけ| )
桜子( |この子たちが変わっていくたびに私は怖くなる。4人が仲良くして、それを見守る私、そういう関係までもが、いつか変わってしまうんじゃないかって| )
桜子( |もしそうなってしまったら、私にはなにもできないのかな・・・| )
桜子( |私だけ変われずに、取り残されちゃうのかな・・・| )
灯花「桜子はどーだったー?」
桜子「 |・・・・えっ? なにが?| 」
ねむ「今回のこの神浜観光についてだよ。桜子に付いてきてもらったのは、僕のサポートのためでもあるけど、別に目的もあったんだ」
桜子「 |そうなの?| 」
ねむ「うん。桜子には色んな経験を通して、人の心を理解できるようになってもらいたい」
ねむ「ウワサの外に出てから結構経つけど、そろそろなにか実感できるような変化はあるかい?」
桜子「 |・・・・・| 」
桜子( |私にも何か変化があるの? 色々な経験して私は変わってる?| )
桜子( |学校生活を通して友情を知って| )
桜子( |映画撮影を通して恋慕を知って| )
桜子( |ジャンヌ・ダルクの最期を調べて悲しい気持ちを知って| )
桜子( |神浜観光を通してみんなと知識や感動を共有した| )
桜子( |これで私も複雑な人の心を理解できるようになっているのかな?| )
桜子( |そもそも人の心ってなんだろう? 例えばそれは、ねむがことあるごとに いろは を口説きたい気持ちのこと?| )
桜子( |私もいろはの事は好きだけど、それは口説きたい気持ちとは違うのかな? ねむみたいに、私もいろはを口説けば何かわかるのかな?| )
桜子( |いろはぐらいの年齢の子が好みそうな口説き文句をデータベースから参照| )
桜子( |うん、やってみよう| )
桜子「 |いろは| 」
いろは「んっ?」
桜子「 |・・・・・・・・え、あ、あれ?| 」
いろは「どうしたの?」
桜子「 |・・・・あ、あの| 」
いろは「うん?」
桜子「 |・・・・その| 」
いろは「・・・?」
桜子( |こ、言葉が出ない・・・。な、なんで・・・?| )
桜子( |そ、それに、なんだろう・・・? さっきまで胸がジクジクと痛んでいたのに、今はそのジクジクを突然胸の内側から出てきた温かい何かが ドンッ と跳ね返している| )
桜子( |体は ぽやっ として、言う事を聞かない| )
桜子( |いろはを見れば見るほど、いろはの事を想って言葉を出そうと思えば思うほど、胸の内側から沸き上がってくる ドンッ が強くなる| )
桜子( |な、なに・・・? この 込み上げる感覚は・・・。わからない・・・| )
桜子「 |っ・・・・・・・| 」
いろは「?」キョトン
桜子「 |・・・・・| 」
桜子「 |・・・・・| 」
桜子「 |・・・・・| 」
いろは「桜子ちゃん?」
桜子「 |・・・・・・・・・・・////| 」ポッ
ポポポ ポ ポ ポンッ☆
十七夜「むっ?! な、なんだっ!? 満開の桜の上に、更に桜が開花しだしたぞ・・・?」
十七夜「大量の桜がうごめきながら増えていく・・・。まるで細胞の増殖を早送りで見ているようで、ちょっと不気味だな・・・」
うい「そ、それより大変! 桜子ちゃんの顔が赤い! まどか先輩にスカートの中を覗かれた時と同じくらい赤くなってる!」
いろは「本当だっ?! 大変! どうしたの桜子ちゃん?! どこか体調悪い? 大丈夫? 環になる?」
桜子「 |な、何も聞かないで・・・。良いことがあっただけだから| 」
桜子( |春は変化の季節| )
桜子( |私にも変化が訪れたみたい| )
おわり
ありがとうございました。
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