アイマス×プラネテス (45)

ミリマス×プラネテスのssです。

ニコニコ動画のアイドル・プラネテスにインスピレーションを受けて書いてみました。
初ssです。生暖かい目で見守ってくれると嬉しいです。

千早や志保の性格にかなり解釈違いがあるかもしれません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1594452646

千早「ええ、すごくよくなってきたと思うわ。」
志保・可奈「ありがとうございます!」

最近私たちはよく千早さんにレッスンを見てもらっている。
志保は事務所に入ってきたばかりの千早に似ている。何かあったら千早に相談するといい。
多分学べることは多いと思うぞ。
そうプロデューサーから言われ、千早さんにお願いしたらレッスンを見てもらえることになったのだ。志保ちゃんだけずるい!と言って可奈も一緒に見てもらうことになったのは予想外だったけど。

千早「それじゃ、私は次の仕事があるから、そろそろ行くわ。じゃあ二人とも、頑張ってね。」
可奈「えっ、あ、はい!ありがとうございました!」
志保「お忙しいのにありがとうございました。お仕事頑張ってください。」
千早「ええ、それじゃ。」

志保「やっぱり千早さんにレッスンつけてもらうのはためになるわね。」
可奈「そうだねー。でもやっぱり厳しいねえ。私もうへとへとだよ。
ねえ、志保ちゃん!帰りに新しくできた駅前のカフェに寄って行こうよ!」
志保「何言ってるのよ。ちょっと休んだらまた練習するわよ。教えてもらったことを忘れない内に復習しないと。」
可奈「ええー!?明日もレッスンあるんだよ?今日はもう十分やったよ、明日にしようよー」

正直、私ももう帰りたかった。今日は既に普段の倍は練習している。しかし・・・
『じゃあ二人とも、頑張ってね』
千早さんはそう言っていた。
『お疲れ様』でも『無理しないでね』でもなく、『頑張ってね』と。
きっと千早さんならまだ練習していくんだろう。
千早さんの普段の練習量はこんなものではないんだろう。
そう思うと、おちおち休んではいられない。

志保「そう、なら可奈一人で帰ればいいわ。私はまだ練習していくから。」
思わずきつい言い方になってしまった。
可奈「そ、そんな言い方ないじゃない。だって、今日は・・・」
志保「千早さんだって忙しいのに無理言って私たちのレッスンを見てもらってるのよ?
   ちゃんとしないと、千早さんに失礼だわ。」

可奈「っ!もういい!志保ちゃんのバカ!」
志保「ちょっと、可奈!」
そう言って可奈は飛び出していった。
私は間違ったことは言っていないと思う。
でも、『だって、今日は・・・』の後、なんて言おうとしていたんだろう。
なんで可奈はあんなに怒っていたんだろう。
志保「・・・あっ!」
そうだ、今日は私の新曲の決定のお祝いで、新しくできたカフェでケーキを食べる予定だったんだ。すっかり忘れてしまっていた。
明日可奈に謝らなくては、と思うと同時に、それにしても自分の言い分は間違っていないのではないか、と思ってもいた。

―次の日―

志保「・・・可奈」

可奈「志保ちゃん」

志保「あの、昨日は」

可奈「昨日はごめんなさい!」

志保「え・・・?」

可奈「その、志保ちゃんの邪魔しちゃったから。

新曲の発表も決まってレッスン頑張ろうとしてたのに、あんなこと言っちゃって・・・」

志保「いえ、そんな私の方こそごめんなさい。昨日、本当は私のお祝いをしてくれるはずだったんでしょう?私すっかり忘れてしまってて・・・」

可奈「そんな、仕方ないよ志保ちゃん最近ずっと忙しかったし、頑張ってたもん!
   昨日はあれからレッスンしていったの?」

志保「ええ、そんなに遅くまでじゃなかったけど・・・」

可奈「そっかあ、やっぱりすごいなあ志保ちゃんは。」


可奈「・・・私ね、やっぱりこれからは千早さんとのレッスンに参加するのはやめておくよ。」

志保「え・・・?そんな、どうして?」

可奈「やっぱり、足手まといだなあって。私は志保ちゃんや千早さんみたいにストイックにはなれないし。」

志保「そう・・・強制はできないものね。ええ分かったわ。」

可奈「ごめんね?志保ちゃんのことは応援してるよ!頑張ってね!」

志保「ふふ、ええありがとう。」

千早「今日はこのくらいにしておきましょうか。お疲れ様。」

志保「・・・いえ、私はまだ大丈夫です。」

千早「そうかしら。私にはもうかなり疲労が溜まってるようにみえるわよ。集中力も切れてきてるし。さっきの通しで注意した所、今の通しで直せてなかったでしょう?」

志保「それは・・・」

千早「闇雲に練習したって上達はしないわ。休むことも大切よ。

志保「はい、すみませんでした・・・」

千早「じゃあ、また今度ね。」

志保「あの、どうやったら千早さんみたいに最後まで集中してレッスンできるんですか?」

千早「え・・・?そうね、やっぱり気力だけではどうにもならないし、質の高いレッスンを長時間するには基礎体力が必要だと思うわ。」

志保「基礎体力、ですか・・・」

千早「ええ、例えば私は腹筋とランニングは毎日するようにしてるわ。」

志保「え、毎日ですか!?お仕事と、自主錬をやった後で!?」

千早「ええ、もちろん。」

志保「雨の日も?」

千早「ええ、台風や大雨の日はやらないけれど。」

志保「どうしてそこまで頑張れるんですか?」

千早「・・・そこまで、ってどこまでのことか分からないけれど、歌はわたしにとっての全てだから、歌の上達のためなら、私はなんだってするわ。」

志保「はあっ、はあっ」

千早さんと別れて家に帰った後、私はランニングに出かけていた。

足が痛い、胸が苦しい。でも

『痛くても苦しくても、それは足を止める理由にはならないでしょう?』

きっと千早さんならそう言うだろう。

余計な事は考えるな。ただ片方の足で地面を蹴って、もう片方の足を前に出す。

目的のためにやるべきことをやるんだ。

可奈「志保ちゃん、最近無理しすぎじゃない?」

仕事の後、残ってレッスンをしていこうとしている私に、可奈がそう声をかけた。

志保「大丈夫よ。全く無理なんてしてないから。」

可奈「でも、顔色悪いよ?昨日も仕事の後残ってレッスンしてたし・・・今日はもう帰らない?帰りに何か甘いもの食べていこうよ!」

   放っておいて
志保「心配しないで、わたしはこのぐらい、なんともないから。」

可奈「でも・・・」

志保「・・・」

可奈「そっか、分かった。でも何か辛いことがあるならなんでも相談してね!じゃあまた明日!」

志保「・・・ええ」

劇場に一人残り、レッスンをしていると、さっきの可奈の言葉を思い出した。

『無理しすぎじゃない?』

志保「無理、ですって?」ボソッ

無理なことなんて私には何一つないのよ。

トップアイドルになるためならなんだってするわ。他には何もいらない。

あなたたちみたいに遊んでる場合なんてないの。私はあなたたちとは違う。

志保「ふう、よしっ。」

レッスンを終え、少し休憩して帰り支度をしていると、プロギューサーがやってきた。

P「お疲れ、頑張ってるな。」

志保「プロデューサー。」

P「あまり根をつめすぎるなよ、って、言っても無駄か。」

志保「別に、このぐらい何ともないですから。」

P「ふーん?まあ、お前はそう言うだろうな。」

よっこらせ、と言いながらプロデューサーはレッスン場の床に腰を下ろした。

P「・・・初めて見たときから一生懸命で、まるで回り続けてないと倒れてしまう独楽みたいなやつだな、って思ってたよ。

 でもな、一人で回り続けられる時間なんて、たかが知れてるんだ。本当に強いのは、歯車みたいなやつだよ。

 他人からエネルギーをもらって、自分も他の誰かを回してやる。そんな風に周りと支えあったほうが効率的だろ?」

志保「・・・ご心配なく、私は止まったりなんかしませんから。」

P「でもなあ・・・」

志保「アイドルになれただけで満足しているような人達と足並みを揃えて、一体どこに行けるっていうんですか?」

そうだ、私はトップアイドルになりたいんだ。千早さんや、他の765ASのみんなみたいに。今の私にとっては、それこそ星のように遠い存在だ。そんな人達に追いつくには、生半可な覚悟ではいけない。本気で努力しなくちゃ。余分なものは切り捨てて、ただ一つの目的のために進んでいく。そう、ただただ上を目指して、宇宙に向かって飛んでいくロケットみたいに。そうしないと、星々の高みになんて手は届かない。

P「・・・志保、やっぱりお前無理してるだろ。千早と一緒にレッスンするようになってからか?お前、普段千早とどんな話をしてるんだ?」

志保「別に、プロデューサーには関係ないでしょう。それに私は無理なんてしてません。」

P「関係なくなんてない。千早にレッスンを見てもらった方がいいと言ったのは俺だからな。」

志保「そういえばそうでしたね。プロデューサーの判断は間違ってないと思いますよ。それじゃあ、私はもう帰ります。お疲れさまでした。」

P「あ、おい志保!」

バタン
P「ったく・・・」


志保は入ってきたばかりの千早と、向上心が強いところはよく似ている。

しかし、千早は自分がやりたいことに貪欲だったのに対して、志保は仕事なのだからこうあるべき、

というプロ意識が高すぎるように感じた。

それは決して悪いことではないが、周りと打ち解ける妨げになるかもしれないし、

常にあの調子では本人だって疲れてしまうだろう。

そう思って俺は千早とレッスンすることを進めたのだ。



千早が765プロに入ってきたばかりの頃のことを思い出す。

P「あのさ、千早は歌が好きなだけでアイドル活動にはそんなに興味がないことは分かってるよ。

 でも、うちはアイドル事務所だからさ、千早がどれだけ歌で勝負していきたいって言ったって、
 
 あくまでアイドルとして売り出していくしかないんだって。それは千早だって了承してくれてただろ?」

千早「もちろん、アイドルとして活動していくことは承知しています。でも、私は別にトップアイドルを目指すつもりはありませんから。」

千早が、何か文句でもあるんですか、とでも言いたげにぶっきらぼうに言い放つ。

P「別にアイドルとして頂点を目指せ、と言ってるわけじゃないよ。

 でも、なら、歌以外の能力を伸ばさずに、アイドルとして成功できると証明できるか?

 できないよな?それができるなら他の芸能事務所で歌手としてデビューしてる、そうだろ?」


千早が不快感をあらわにしてこちらを睨んでいる。

けど、千早のためにもこれははっきりさせておかなければならないだろう。

P「アイドル活動には興味がないが、アイドルとして活動する中で歌の技術を磨き、歌の仕事をしていきたい、という千早のスタンスも分かってるよ。
 でもこっちだって慈善事業じゃないんだ。アイドルとして仕事ができる見込みのないやつを養成することはできない。
 まずはアイドルとして一人前になってくれよ。そうすれば、そっちの要求も呑んでやれる。」


歌のレッスンを人質に取られているようなものだ。不服でも従う他ないということは理解しているのだろう。

千早「・・・はい。」

そういって千早は渋々ながらも頷いていた。

こういうところは志保とは正反対だ。

今でこそ千早は、ある程度のことを高いレベルでこなせて頼りになるしっかりした先輩、

という風に見えているかもしれないが、その根底にあるのは今でも変わらず、『歌のためならなんでもする』というスタンスだと、俺は思っている。

志保にも『仕事だから』『プロとして』ではなく、そういう自分のわがままのために頑張るという姿勢も身に着けて欲しいと思っていた。

なのに・・・

P「思った通りにはいかないもんだな・・・」

家に帰ってから、いつものようにランニングにでかける。

志保「はあっ、はあっ」

暗い夜道で、自分の荒い息遣いだけが聞こえる。

景色は見ない、足を止めたくなるから。

余計なことは考えない、前に進めなくなるから。

必要なのは、目的に向かって突き進む覚悟と、

その障害になるものは全て乗り越える、という燃えるような闘志だけだ。

プロデューサーが言っていたことを思い出す。

みんなと支えあう?

くだらない。私だって、一人になりたいわけじゃない。でも、それじゃ届かないんだ。

重力を振り切って上へ上へ進んでいくには、余分なものは切り捨てないと。

私は一人でだってこの暗い道を進んでみせる。仲良しこよしは自分の人生を生きる度胸のない人の言い訳だ。

いつだって最前線を生きている人が、車を作り、ロケットを作り、そして未来を作ってきたんだ。

志保「ケホッ、ゴホゲホッ」

考えながら走っていたら、いつもより走りすぎてしまった。息が苦しい。

志保(今日はもう寝ましょう。明日は休日だし、起きたらシャワーを浴びればいいわ。)



気付けば真っ暗な闇の中に私は立っていた。

志保「ここは…?皆はどこ?」

?「ここには誰もいないわよ。」

聞き覚えのある声が聞こえて、後ろを振り返った。

志保「私…?」

志保?「そうよ、当たり前じゃない。ここには私しかいない。

    あなたが望んだんでしょう?

    友達も仲間もいらない。余分なものを切り捨てて、たった一人で誰よりも、どこまでも高みに昇っていくって。」

目の前に立つ自分自身の問いかけに、私は応えた。

志保「・・・そうよ、私は望んだ。楽しいだけの仲間なんていらない。心地いいだけのぬるま湯なんていらない。

   暗く冷たい宇宙を突き進んでいくロケットのように、私は一人でだろうとただひたすらに上を目指すって決めたから。
   
   だって、そうじゃないと星の高みになんて手は届かないから。

   だって、そうでもしないとあの人みたいになんて 、なれないと思ったから。」


でも、こんなところで私は輝けるの?

こんなところで、一人きりで・・・

気が付くともう一人の私は消えていて、無性に心細さを感じて辺りを見渡すと遠くに千早さんの背中が見えた。


志保(良かった、まだ千早さんは私の前にいるんだ)

遠くを走る千早さんに必死に追いつき、声をかけた。

志保「千早さんっ・・・ッ」

でも振り返った千早さんの顔を見て、私はぎょっとした。

そこには見馴れたいつもの千早さんの笑顔はなく、真っ暗な空洞があるだけだった。

志保「ハッ」

気付けば見慣れた自分の部屋の、昨晩ランニングから帰ってきて倒れこむように眠ったベッドの上だった。

目が覚めても、心臓の鼓動が収まらなくて、息が苦しい。

昨日の夜ランニングウェアから着替えたのに、また汗がベッショリして気持ちが悪い。

ふと携帯電話に目をやると、着信が入っていた。春香さんからだ。

着信時刻は朝の8時で、今はなんと昼の12時を回っている。

Prrr
春香『はい!春香です!』

志保「あ、春香さん、おはようございます、北沢です。すみません、朝は電話でれなくて。」

春香『あ、志保ちゃん?ううん、こっちこそ朝からごめんね。今は電話大丈夫?』

志保「はい大丈夫です。何かご用でしたか?」

春香『ううん、用ってほどのことじゃないんだけど、ちょっと話したいことがあって。

   志保ちゃん、今日空いてる?』

春香さんに誘われて行ったのは、千早さんが出演する音楽イベントだった。

春香「あ!ほらもうすぐだよ、千早ちゃんの番!」

志保「そうですね・・・」

春香「どうしたの?なんだか元気ないみたいだけど・・・」

志保「いえ、そんなことは・・・」

正直、あまり気は進まなかった。

今朝の夢のせいだろう。今までよく知っていると思っていた千早さんのことがよくわからなくなってしまった。

今千早さんのステージを見ても、私は今までのように感動することができるのだろうか。

志保「あの、今日はどうして私をここに誘ってくれたんですか?」

春香「実はプロデューサーから、志保ちゃんが何だか悩んでるみたいだって聞いてね。

   千早ちゃんのライブみたら元気になるかなって。」

志保「・・・ありがとうございます。でも。私は・・・」

でも私はもう、自信がないんだ。私はあの人みたいにはできる気がしない。

私にはもう、あの人についていくことは、あの人の背中を追いかけることは、多分できない。


そう言おうとした私の言葉は歓声によってかき消されてしまった。

千早さんがステージに登場したのだ。

春香「あ!始まるよ!」

千早さんがマイクの前に立ち、音楽が流れ始める。曲は「蒼い鳥」だった。


今更観客として千早さんのステージを見ても・・・

そう思っていたが、彼女が歌い始めると、私はステージから目を離せなくなっていた。

志保「・・・すごい。」

それしか言葉が出てこなかった。歌がうまいことはわかっていたけれど、歌っている千早さんはこんなに綺麗だったのか。



群れを離れた鳥のように

明日の行き先など知らない

だけど傷ついて血を流したって

いつも心のまま ただ羽ばたくよ


光り輝くステージに立っているのにまるで一人暗闇に取り残されているような悲しさと、その中で毅然と立っている力強さが対照的だった。

何より千早さんの歌い方が・・・

「まるで歌うことでどうにか呼吸を続けてるみたいだろ?」

気付くと、隣にプロデューサーが来ていた。

P「劇場で歌ってるようなポップな曲も歌えないことはないけどな、こういう曲を歌ってる千早は、結構すごいぞ。」

プロデューサーの言葉通り、私はもうステージの千早さんから目が離せなくなっていた。

最初の曲が終わり、次の曲が始まる。「arcadia」だ。

一転して激しい曲調の音楽が流れ始める。


翔べ

海よりも激しく

山よりも高々く



私は風になる

夢の果てまで


まるで命を削って歌っているみたいだと思った。

どこまでも進んでいけるような力強さの中の、どこまで行っても振り払えないような寂しさ。

でも、それでもきっと千早さんは進んでいくんだろう。そう思った。

誰も見てくれてる人いないのか・・・

書き溜めてあるのでこのまま投下していきます。

春香「どうだった?」

千早さんのステージが終わって、春香さんがそう尋ねる。

プロデューサーはいつの間にかいなくなっていた。

きっと千早さんを労いに行ったのだろう。


歌によって生かされているような儚さも、命を燃やして歌っているような苛烈さも、どちらもとても千早さんらしくて、とても美しい歌声だった。

志保「・・・凄かったです。まるで、歌うことで自分の在り方を魅せているみたいで・・・」

そうか、だから千早さんの歌はこんなにも聞く人を揺さぶるのかもしれない。

志保「何というか、そのロケットみたいだなって。」

春香「ロケット?」

志保「その、暗闇をたった一人で突き進んでいく感じというか。余分なものが一切なくて、たった一つの目的のために洗練されている感じというか。」

そして自分はそれを地上で見ていることしかできない所も、とは口には出さなかった。

春香「ああ。そうだね確かに。」

春香さんが、うんうん、と頷く。

春香「千早ちゃんにとって、きっと歌うことと生きることは同じなんだよ。だから千早ちゃんの歌はあんなに純粋で、あんなに綺麗なんじゃないかな。」


そうか、そうかもしれない。

でも、やっぱりそれなら自分には無理だ。私にはそんな生き方はできなかったんだから。

Prrr
春香「あれ?メール、千早ちゃんからだ。」

春香「アンコール無しでもう終わりだって。混まないうちに外、出よっか。」

春香「ふー、外涼しいね。」

志保「・・・そうですね。」

もう少し待っていればプロデューサーが千早さんを事務所に送るついでに私たちも乗せていってくれるらしく、

私たちは今関係者用の駐車場で二人を待っている。

春香「あ!志保ちゃん見て!星、すっごくキレイだよ!」

春香さんが夜空を見上げて指を指した。

私もつられて上を見上げる。薄暗い駐車場だからだろうか。

都会だというのに、空には多くの星が輝いていた。

みとるで
プラネテス詳しくないけどけど、今調べて読んどる感じだわ

志保「夜空の星って、近いように見えても、実際はものすごく離れてるんですよね。」

あの宇宙で、ただ一人ひたすらに上を目指して進み続けた先の暗闇の中で、

孤独に耐えて輝き続けられる人だけがトップアイドルになれるんだろうか。

固い絆で結ばれているように見える765ASの皆もそうなのかもしれない。

地上にいる私たちからは隣り合って、星座を形作って夜空を彩っているように見えるけれど、本当は遠く離れていて、

一人一人がひとりぼっちでただ全力で輝いているだけなのかもしれない。そんなことを考えた。

春香「・・・どうかしたの?」

志保「実は、最近色々考えてたんです。」

仲良しこよしでなにができるのか。

その一瞬一瞬の自分の全力を出さずに回りと足並みを揃えて、一体どこにいけるというのか。

常に全力で進み続けて、古い自分を越えていく。そうでなくては上になんていけはしない。

余分なものを切り捨てて、ただ1つの目的のために作られたロケットのように進み続ける。

そうでなくては、第二宇宙速度を越えるエネルギーなんて出やしない。重力を振りきることなんてできないんだ。

でも、全てを捨てて辿りついた真っ暗な宇宙の中で、一体どうやって輝けばいいのか、分からなくなってしまったんだ。

千早さんのようになりたいと思っていた。なれる、とも思っていた。けれど自分は千早さんのことなんて何も分かっていなかったんだ。

目指していた姿を急に見失って、今まで自分がしてきたことが正しいのか、分からなくなってしまった。

>>26 ありがとう!
漫画のプラネテスも、レストPのアイドル・プラネテスも両方面白いのでお勧めです。

春香「志保ちゃん、志保ちゃんは今私たちがいるここは、どこだ思う?」

志保「ここ、ですか?駐車場ですよね?」

春香「ブッブー!不正解!」

志保「じゃあ・・・プロデューサーの車の前?」

春香「そうじゃなくて、もっと大きく考えて!」

志保「港区、ですか?」

春香「もっと!」

志保「東京都?」

春香「まだまだ!」

志保「日本?」

春香「いいね!その調子!」

志保「じゃあ・・・地球?」

春香「残念でしたー!正解は、宇宙です!」

志保「・・・はい?」

春香「志保ちゃんは、私たちが星みたいに遥か遠くの、宇宙にいると思ってる?

志保「・・・はい。」

春香「じゃあ、宇宙と地球の境目ってどこにあると思う?」

志保「それは・・・よくわかりませんけど。」

春香「私はね、境目なんてないと思ってるんだ。」

志保「え・・・?」

春香「無いんだよ、境目なんて。私も、志保ちゃんも、みんな宇宙の一部で、みんな繋がっているんだよ。

   私はそう思ってる。

   だからさ、志保ちゃんも勝手に壁なんて作らないで、ただ自分らしく頑張ればいいと思うよ。

   千早ちゃんみたいにはできなくても、きっと志保ちゃんらしさだって、他の人から見たら一番星みたいに輝いて見えるはずだから!」

どうかな?と照れ臭そうに笑いながら春香さんが言った。

志保「わ、分かりません。その、そんな風に考えたこと、今までありませんでしたから・・・」


春香「そっかぁ。まあまずは、もう一度よく千早ちゃんと向きあってみたらいいと思うよ。
   きっと今まで気づかなかった魅力を見つけられるよ!」

春香さんは嬉しそうにそう言った。

P「おう、お待たせ、二人とも。」

千早「見に来てくれてたのね。ありがとう、春香、北沢さん。」

春香「千早ちゃん!お疲れ様!ステージすごく良かったよ!」

志保「お、お疲れ様です、千早さん。」

P「よし、帰るか。みんな車に乗ってくれ。」


P「そういえば志保、少し、表情が柔らかくなったんじゃないか?何か心境の変化でもあったのか?」

運転席からプロデューサーが話しかけてくる。

志保「別に、心境の変化なんて言うほどのことじゃありませんけど・・・

   でも、そうですね、ちょっと今までの考え方を見直してみようかな、とは思えました。」

千早「そう、良かった。北沢さん、最近無理してるみたいだったから、心配してたのよ。」

助手席に座る千早さんがこっちを振り向きながら言った。

春香「ええー、千早ちゃんがそれ言う?」

私の隣に座る春香さんが、からかうように言った。

千早「何よ、それ、どういう意味?」

千早さんがむっとして聞き返す。

春香「だって千早ちゃんの方こそ、いつも無理ばっかりしてるじゃない。」

千早「そんなことないわよ。」

春香「新曲が出るたびに譜面を読み込むのに夢中で寝不足になったりしてるのに?」

千早「それは、だって仕方ないじゃない。練習しなくてもどうせ、気になってよく眠れないんだから。」

P「ハハハ。まあ、千早の場合は無茶してるように見えてもそんなに仕事に影響しないし、好きにやってくれればいいよ。

 最近は誰にも言わずに我慢したり、ため込んだりすることもないしな。」

志保「・・・あの、千早さんはどうしてそんなに歌のために頑張れるんですか?」

千早「そうね・・・昔の私なら、『私には歌しかありませんから』って答えてたでしょうけど、今は少し違うわ。」

千早「765プロのみんなも、39プロジェクトのみんなも大切な仲間だけれど、それとは全く別の所で、私は歌から離れられないのよ。」

千早「私ね、人にはそれぞれ、そこから逃れられない生き方、というものがあると思うの。」

千早「もちろん、そうとしか生きられない、という人もいれば、その方が自分らしくいられる、という人もいると思うけれど。」

千早「自分が正しいと思うことを主張せずにはいられない、沢山の人に自分を認めさせずにはいられない、周りを、みんなを愛さずにはいられない。」

千早「それは人によって色々だと思うけれど、きっと私は、自分の歌を磨き、高めていく以外の生き方はできないんだと思う。」

千早「だから、私はそのための努力を辛いと思ったことはないわ。自分がいるべき場所に行くためだもの。

   あなたも、自分の家へ帰るのに苦労したとしても、それを辛いとは思わないでしょう?」

志保「そうですね。千早さんにとって、歌はそのくらい大事なものだったんですね。」

P「まあ、でも、千早に歌の他にも大切なものができて、本当に良かったよ。事務所に入ってきたばかりの頃はどうなるかと思ったけどな。」

千早「そんなにひどかったですか?私。」

P「酷いというか、不安になったな。ああ、ほら、春香と二人で営業に行った日のことだよ。」

まだまだ二人とも駆け出しの頃の話だ。

確かその日は春香と千早とプロデューサーの俺で、朝から営業と挨拶回りに出ていた。

元々明るく人と話すことも苦手ではない春香はともかく、

千早はまだまだぎこちない営業スマイルを浮かべて愛想良く振る舞うことの連続でかなり疲れた様子だった。

P「二人ともお疲れさま。もうすぐ事務所だから、着いたら解散にしようか。」

本当なら事務所に帰った後にレッスンの予定が入っていたが、渋滞に巻き込まれ予定よりすっかり遅くなってしまったからだ。

千早「あの、少し練習していってもいいですか?」

帰りの車内でも疲れて口数が少なくなっていた千早がそう聞いてきて、正直驚いた。

すぐにでも家に帰って休みたいだろうと思ったのだ。

春香「え、千早ちゃん今からまだレッスンするの?」

と春香も驚いたように声をあげた。

出来れば一緒に練習していきたいけど、と残念そうに言っている。

P「ああ、別に構わないよ。でも春香はもう帰らないと、終電がなくなるだろ?」

春香「そうなんですよね・・・ごめん千早ちゃん、私はもう帰らなきゃ。」

千早「気にしないで。私がしたくてするだけだから。」

春香「そっかあ、でも無理しないでね?」

千早「・・・ええ、ありがとう、春香。」

そうこうしている間に事務所に到着した。

P「よし、二人とも着いたぞ。春香、お疲れさま。千早、俺はまだ事務所でしばらく仕事してるから、

 レッスン場は自由に使ってくれ。戸締まりは俺がしておくから終わったら勝手に帰っていいぞ。」

千早「ありがとうございます。」

春香「お疲れさまでした!お先に失礼します!」
春香「じゃあね千早ちゃん、また明日ー!」

千早「ええ、また明日。」

P「ふう・・・もうこんな時間か。」

仕事を一段落して、そろそろ帰ろうと思い、レッスン場の鍵を閉めに来たときだった。

P(ん?千早、まだ練習してたのか)

そろそろ帰るぞ、と声をかけようと中を覗いたが、そこで歌ってる千早の姿を見て、俺はそこから動けなくなった。

―なんて儚く、美しいんだろう。

自分が声をかけて、歌うのをやめてしまったらそのまま命の灯が消えてしまうのではないかと怖くなるほどだった。

まるで歌を歌うことでどうにか呼吸を続けているようだった。

千早「プロデューサー?」

こちらに気づいた千早に声をかけられて、我に返った。

千早「すみません、もう閉めますか?」

P「あ、ああ、いや、歌いたかったらもうちょっと使っててもいいぞ。」

千早「? 戸締まりをしに来たんじゃないんですか?」

P「ああ、いやまあ、そうなんだけど。」

千早「フフッ、なんですかそれ。珍しく歯切れが悪いですね。」

P「・・・満足できたか。」

千早「はい、ちょうどそろそろ帰ろうと思ってたんです。

   分からないところもでてきましたし、続きは明日、トレーナーさんと相談しながらにしようかと。」

P「・・・そうか、それなら良かった。」

千早「ありがとうございます。それでは、お先に失礼します。」

P「ああ、お疲れ。・・・気を付けてな。」

千早「?はい、プロデューサーもお疲れさまです。」

大好きな歌の練習を好きなだけやれたからだろう。

事務所に戻ってきたときよりむしろ元気になったように見えた。

前から千早の高い歌唱力を武器に売り出していこうとはおもっていたが、さっきの姿を見て、

絶対に千早を歌で食っていけるようにしてやらなければならない、と感じた。

彼女から歌を奪ってしまったら、一体どうなるんだろう。想像もしたくない。

そして同時に千早が765プロに入ってきてくれて本当に良かったとも思った。

彼女はアイドルとして売り出していくべきだ。

ただ歌を届けるだけではなく、さっきのような姿をもっと多くの人に見てもらい、もっと多くの人に愛されるべきだ。

『私には歌しかありませんから』

千早の言葉が思い返される。

最初この言葉を聞いたときは、自分には歌しか武器がない、という意味だと思った。

でもおそらく、本人も自覚していないかもしれないが、歌以外に一切興味がないことからでた言葉なのではないだろうか。

おそらく、歌が彼女にとってもっとも大切なものであるということは、これからも変わらないだろう。

それはそれで仕方ないし、いいことだと思う。

歌がもっとうまくなりたい、もっと自由に歌いたい、という望みにどこまでも懸命で貪欲で、ストイックなところに彼女の魅力があるのだろう。

しかしそれでも、アイドル活動を通して歌以外にも大切なものが増えていって欲しい、とそのとき俺は思ったんだ。

P「だからさ、最近千早が劇場で後輩たちと楽しそうにしてるのをみて、本当安心してるんだよ。」

千早「そうだったんですね。なんだかご心配をおかけしてたみたいで、すみません。」

P「そんな他人事みたいに・・・まあいいけど。」

春香「そうそう、千早ちゃんだってプロデューサーさんにいっぱい心配かけてるんだから、

   志保ちゃんも気にせず頼っちゃっていいんだよ。プロデューサーさんにも、私たちにも!」

千早「一番プロデューサーに迷惑かけてるのは春香じゃないかしら?」

春香「えー?何のことかなー?」のワの

志保「春香さんも昔何かあったんですか?」

P「まあまあ、それはまたいつか機会があれば話すよ。ほら、駅に着いたぞ。」

春香「あ!プロデューサーさん、ありがとうございます!」
春香「千早ちゃんお疲れ様!またね!」

志保「ありがとうございました。千早さんお疲れ様です。」

千早「ええ、二人とも、今日はステージを見に来てくれてありがとう。また明日。」

春香「今日は急に付き合ってもらっちゃってごめんね?どうだった?」

志保「いえ、そんな、すごく勉強になりました。誘っていただいてありがとうございます。」

春香さんが何かを待つようにこちらを見ている。

志保「明日からまた、頑張っていきます。自分らしく、無理せずに。」

春香「そっか、良かった!じゃあまたね、志保ちゃん!」

志保「お疲れ様です。ありがとうございました。」


目標のために、自分が大切だと思ってるものを切り捨てるのは、もうやめよう。

次に可奈に会ったら、お茶でもしながら今日見てきた千早さんのステージや、プロデューサーから聞いた昔の千早さんの話をしてあげよう。

きっと羨ましがるだろうな。

それから一緒にレッスンをしよう。そう、みんな一緒に。

苦悩や葛藤に比べて、それから解放される所って書くの難しいな。

志保が主人公なのか千早が主人公なのか分からなくなってきたけど、とりあえずこれで終わりです。

良かったら感想お願いします。。

「ちなみに歌うことでどうにか呼吸を続けているような」
っていうのは本多孝好の「dele2」の表現を使わせてもらいました。

千早に合いそうだなって。
そうでもないかな?

一応調べたけど、プラネテスの知識なくても読める感じか
http://www.planet-es.net/
春香さんのアドバイス面白いね。乙です

>>2
如月千早(16) Vo/Fa
http://i.imgur.com/pKTzdjr.png
http://i.imgur.com/RFRxkra.jpg
http://i.imgur.com/NuWmxBo.png
http://i.imgur.com/cE68np1.jpg

北沢志保(14) Vi/Fa
http://i.imgur.com/gVLQiiV.png
http://i.imgur.com/ZNFva6G.jpg

矢吹可奈(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/x1Dioqg.png
http://i.imgur.com/kQHQF7j.jpg

>>18
天海春香(17) Vo/Pr
http://i.imgur.com/XT5uMBF.jpg
http://i.imgur.com/2cfYBmz.jpg

ああ、ごめん、クロスオーバーではないんだ。
紛らわしかったですね、ごめんなさい。

読んでくれてありがとう!

ちはしほ良い

>>41

千早への憧れは静香の方が強いだろうけど、静香はこういう闇落ち(?)はしなさそうなんだよなぁ

人に読んでもらうのって難しいんだな

>>39
春香さんのアドバイスはプラネテスに出てくるユーリとネイティブアメリカンの問答と
ハチマキの「そうか、この世界に宇宙の一部じゃないものなんてないのか、
俺ですらも繋がっていて、それで初めて宇宙なのか」
っていう悟りから引用(?)してます。

初期沢かと思ったらすでに可奈呼びか
一匹狼部分が抜けきれなかったのかねぇ

>>44

可奈呼びになるのって結構精神的に成長してからなの?

劇場版とミリシタのイベントコミュとSSくらいでしかシアター組のことは知らないんだよなぁ
申し訳ない

できれば次ははるちはで書いてみたいと思ってる

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