――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「藍子。いいお知らせと残念なお知らせがあるんだけど、どっちから聞きたい?」
高森藍子「それは~……できれば、残念なお知らせは聞かないようにする、ということには、できませんか?」
加蓮「できません」
藍子「ですよね……。……加蓮ちゃんがお話したい方からでっ」
加蓮「うまく逃げたな?」
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レンアイカフェテラスシリーズ第132話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「癒やされるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「目先と足元を確かめ直すカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「日常的なカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「汗の跡が残る場所で」
お話の性質上、今回はほんのちょっとだけ短めです。
加蓮「じゃあいいお知らせから。藍子ちゃんに急なお仕事が入りました。新作カメラのキャンペーンだそうです」
藍子「わあっ……! もしかして、モバP(以下「P」)さんに相談してみたからかな……言ってよかったっ」
加蓮「相談したんだ」
藍子「はい。なかなかやりたいことって思いつかなくて……それで、自分の周りにあるものを、もう1回、確認し直してみたんです」
加蓮「藍子と言えばカメラだもんね」
藍子「でも、部屋にはいろいろなものを置いていたので、確認し直すことで、悩んじゃうことにもなってしまいました」
加蓮「贅沢な悩みだ」
藍子「サイドチェストの上に、加蓮ちゃんが置いたままにしていたマニキュア、中身が入ったままだったら、違う相談をしていたかも……」
加蓮「藍子にネイルのお仕事? 甘い甘い。それはまだ甘いよ」
藍子「ふふ。やっぱり?」
加蓮「せめて水着のグラビアを堂々と受けられるくらいにならなきゃ」
藍子「う……それは。……って、水着のことと、ネイルのお仕事って関係しているんですか?」
加蓮「……さすがに私も、プールや海ではネイルは外すなぁ」
藍子「そうですよね……?」
加蓮「さて、残念なお知らせですが」
藍子「ごくっ……!」
加蓮「1時間後にPさんが迎えに来るんだって」
藍子「1時間後に、Pさんが……えっ? それって、今から1時間後にってことですか?」
加蓮「今から1時間後に」
藍子「な、なるほど~。それは……あっ。それは確かに、ちょっぴり……ほんのちょっぴりだけっ。悪いお知らせかもしれませんね」
加蓮「せっかくオフの日を合わせたのにね。Pさんも空気読めてないんだー」
藍子「オフの日を合わせてくれたのも、Pさんですから」
加蓮「そうだけどね」
藍子「そうですか~……。1時間後……。1時間後……」
加蓮「そわそわする?」
藍子「……お仕事だって聞いたら、足のつけ根のあたりとか頭とかが、熱くなっちゃって……でも、迎えに来るのは1時間後なんですよね」
加蓮「1時間の間、藍子ちゃんは蒸し風呂状態だねー。どうする? クーラー、強くしてもらう?」
藍子「ううんっ。それは、わがままですから」
加蓮「そっか」
藍子「かわりに、加蓮ちゃんが気を紛らわせてください。何かお話とか、あとは――あっ、でも、アイドルのお話をされたら、もっと体が熱くなっちゃうかも……?」
加蓮「藍子。それは藍子がキラキラしているアイドルである限り、逃れられないことだよ。諦めなさい」
藍子「う~……。そわそわする~……。そういえば、以前、加蓮ちゃんにも似たことがありましたよね」
加蓮「あったねー。私の時は30分だっけ? ホントに急な撮影が入ったってヤツ」
藍子「懐かしいなぁ。そっか。あの時の加蓮ちゃんの気持ちって、こういうことだったんですねっ」
加蓮「……私、そこまでそわそわしてた覚えないんだけど」
藍子「そうでしたっけ」
加蓮「どっちかっていうと藍子に悪いなーって思ったり、あとお母さんにイライラしてたんじゃなかったっけ。あの時の私」
藍子「う~ん……。加蓮ちゃんは、はしゃいでいましたけれど……。そうそう。ドラマでの、自分の役について嬉しそうにお話してましたっ」
加蓮「そうだったかなぁ。覚えてないや」
藍子「加蓮ちゃん、ずっと大忙しですもんね。しょうがないです」
加蓮「1つ1つのことは大切にしてるつもりだけど、時間の流れが早すぎて……。大切なものを抱え込むだけで、精一杯だよ。私」
加蓮「もし私が零しちゃってたら、藍子が拾って、どこかにしまってあげててね」
藍子「はい。大丈夫、覚えていますよ。加蓮ちゃんの……嬉しそうにお話する表情っ。あとは、すっごく充実しているって言った時の、加蓮ちゃんの弾んだ声も――」
加蓮「やっぱいいや。全部捨てて」
藍子「そんなことできませんよ~」
加蓮「やっぱりアンタはアンタのものを拾い集めてなさい。私の分は私が持っておくから……そうでもしないと、相変わらず人のことばっかりでしょ」
藍子「それも大丈夫っ。私のことも、ちゃんとしていますから。……ちゃんとできていますよね?」
加蓮「知らなーい。Pさんにでも聞けば?」
藍子「ああ、すねちゃった……。……くすっ♪ でも……そっか。加蓮ちゃんを、1人にさせちゃいますね」
加蓮「独りは慣れてるけどさ。なんか……ちぇっ、って感じ」
藍子「ちぇ、って感じ」
加蓮「ばーか」
藍子「ふふ。ごめんなさいっ」
加蓮「そこで嫌味ったらしくならないのが藍子だねー」
藍子「……いやみ?」
加蓮「忙しくてごめんなさーい。今をときめくアイドルですので! ……的な。うっわ、やっぱこういうの全然似合わない」
藍子「よく分かりませんけれど……自慢気になってしまう、ってことでしょうか」
加蓮「そういう感じー」
藍子「なるほど~。ちょっと、やってみますね」
加蓮「……うん?」
藍子「えっと。……わ、私は、すごいアイドルですからっ。ええと……とにかく、すごいんです!」
加蓮「…………」
藍子「そうじゃないですね。こういう時は、どんっ、と堂々として……それから、具体的なことを言うといいんでしたっけ」
藍子「ごほんっ。私は、すごいアイドルなんです。この前も、握手会をやらせて頂いて、たくさんのファンが会いに来て下さいました! いっぱいお話も聞かせてもらったし、応援してるよって言ってもらえて――」
加蓮「……分かった分かった。いいよもう」
藍子「それから……えっ? 分かりました。じゃあ次は、加蓮ちゃんの番ですねっ」
加蓮「は?」
藍子「え? だって、加蓮ちゃん、何かお話したいことがあるんじゃ……?」
加蓮「……??」
藍子「???」
加蓮「あー……もしかして、私が喋りたいと思ってるから藍子の話を遮ったって思ってる?」
藍子「そうですけれど……」
加蓮「分かった。現場に行く前に氷水をかぶっておきなさい」
藍子「……そんなことしたら風邪を引いちゃいます」
加蓮「バカは夏風邪を引かないから大丈夫よ」
藍子「どういう意味ですか~っ」
加蓮「氷水は冗談として、どう? 落ち着くことはできた?」
藍子「……そういえば、私、もうちょっとしたらPさんが迎えに来てくれて、キャンペーンのアイドルになるんですよね」
加蓮「そうだねー」
藍子「思い出したら、また熱く……。も~っ、加蓮ちゃんっ」
加蓮「ふふっ。せっかく忘れられてたのに」
藍子「あと何分くらいだろ……まだ40分くらいあります。なのに心臓がドキドキ言ってます……」
加蓮「慣れたことでも、それが起きるまでの待機時間とかが長ければ長いほど、必要以上にドキドキしちゃうもんね」
加蓮「藍子だって、ちょっとしたいいことなのに時間をおいて思い出したら、なんだかすごく大きかったことみたいに思えてきたり、そういう経験あるでしょ?」
藍子「確かに……。この前だと、目玉焼きを作ろうとして、卵を割って、その時に混ざっちゃった卵の殻が、綺麗に取り出せたんですっ。あの日は、1日ずっと嬉しかったなぁ……」
加蓮「……思ったよりものすごく小さなことだった」
藍子「加蓮ちゃんも、そういうことがあるんですねっ」
加蓮「んー、まぁ……。……なんか嬉しそうだね?」
藍子「はい。加蓮ちゃん、よく後ろ向きなお話や、ネガティブなことを言っちゃうことが……ふふ。最近は、そんなことはないのに。勝手にそう思い込んでしまいます」
加蓮「ま、シリアスをやらせたら業界トップの加蓮ちゃんですから♪」
藍子「それ以外でもトップになれているのに……。だから、そんな加蓮ちゃんから、いいこともあったんだって改めて教えてもらえると……なんだか、嬉しくなっちゃうな」
藍子「あっ。これが、私にとって今日の、ずっと思い出せる嬉しいことになりそう♪」
加蓮「……なんだかなぁ。バカみたいって思うけど、こうも喜ばれたら言えないじゃん」
加蓮「しかも、藍子が楽しそうにしてることが……とか思っちゃうし。私」
藍子「……? 加蓮ちゃん、さっきから小声で何を――」
加蓮「なんでもなーい。私達って幸せ者だねって話」
藍子「はいっ!」
加蓮「食いつき凄っ」
□ ■ □ ■ □
藍子「~~♪」パラパラ
加蓮(あれからもう少しのんびりして、気付いたらもう30分を切って……それどころか20分もないみたいだけど)チラ
藍子「~~~♪」パラパラ
加蓮(……ま、時間になったら教えてあげよっか。タイマーだけセットしとこ)ガサゴソ
加蓮「何か食べるの?」
藍子「せっかくカフェに来たんですから、何か注文しなきゃ。すみませ~んっ」
加蓮「わ、こら。私まだ決めてないのに!」
藍子「そうでしたね。ごめんなさい、店員さんっ。……あの、そこで待っていなくても、注文が決まった時に、またお呼びしますよ?」
加蓮「たはは。ずっとそこに立ってたらマネキンに間違われちゃうよ。まあカフェにマネキンはないけど」
藍子「ありますよ?」
加蓮「……あるの?」
藍子「店長さんが独自に考えたコーディネートを、マネキンに着せているカフェ。インテリアとして、置いているみたいです」
加蓮「コーデをかぁ。その店長さんが着ればいいじゃん」
藍子「そのカフェの店長さんは……ちょっとだけ、自分の見た目に自信がないみたいで」
加蓮「あぁ」
藍子「でも色々な服の組み合わせを試してみたり、いろんなゲームの……メイク? で、ファッションを試すのが好きだったって、お話されていました」
藍子「そんなある時、友だちの方から、マネキンを置いてみるのはどうか、って提案されたそうです」
加蓮「よく思いついたね、その友達の人」
藍子「提案してもらえたのにも、ちゃんと理由があるんですよ。……加蓮ちゃん、何だと思いますか?」
加蓮「お、クイズ? えーっと……。その人がアパレルデザイナーとか?」
藍子「おしいっ」
加蓮「惜しいんだ。じゃあ……マネキンそのものを作ってる人?」
藍子「せいかいですっ」
加蓮「へー。そんな人もいるんだね」
藍子「正解した加蓮ちゃんには、景品として……」ガサゴソ
藍子「景品として?」ガサゴソガサゴソ
藍子「……景品、ええと。景品として……」
加蓮「……ほったらかしにしてごめんね店員さん。そういう訳で、また後で注文するから、今はいいよ?」
藍子「店員さん? これは……わあっ。綺麗なバッジ♪ この波のバッジって、海沿いのカフェが、夏の間だけみなさんにお配りしている記念品ですよねっ」
加蓮「藍子ってホント、カフェのことならなんでも知ってるねー。……え、私にくれるの?」
藍子「正解した景品みたいですよ。よかったですね、加蓮ちゃんっ」
加蓮「……ふふっ。ありがと、店員さん。注文、私はココアでお願いしますっ」
藍子「じゃあ、私も!」
加蓮「藍子の分はミニサイズにしてあげてね。この子、後でたぶん車移動するし」
藍子「……?」
加蓮「いやいや……。だからこの後撮影なんでしょうが」
藍子「……あっ」
加蓮「忘れてたの……? そわそわするからって。不安だなぁ、もう」
藍子「ま、まあまあ。まかせてくださいっ」
加蓮「任せてられるか! そんなんだから、藍子のスケジュールが私に送られてくんのよっ」
加蓮「っていうかなんで藍子のスケジュールが私に送られてくんのよ! 何も考えないでカフェで一緒してるよって返信したけどさ、よく考えたらおかしいでしょ」
藍子「最近、アイドルのことで、加蓮ちゃんにも相談に乗ってもらったり、一緒に作戦会議をしたり……そのことをお話したからかもしれませんね」
加蓮「私が忙しかったらどうするつもりだったのよ、Pさんは……」
藍子「もしも加蓮ちゃんから返信がなかったら、私に直接連絡していたのかもしれません」
加蓮「……真面目に説明されるとそれはそれで笑えてくるわね」
藍子「あっ、店員さん。ココア、ありがとうございますっ」
加蓮「サンキュっ。あははっ! 藍子のコップ、すごくちっちゃい!」
藍子「本当っ。コップというより、カウンターに乗せるインテリアみたい」
加蓮「それもカフェで見た話?」
藍子「そうですよ。他にもカップや、大人の方が使われるジョッキ、それにお皿にコースターも。すべてミニチュアサイズで、カウンターの上に飾られているんです。面白かったなぁ……」
加蓮「なんだか、小人の家みたいだね」
藍子「小人の……あっ、確かに。昔見た絵本みたい」
加蓮「ココア、いただきまーす。ずず……うんっ、甘いね♪」
藍子「ごくごく……。ふうっ。リラックスできる甘さ……♪」
加蓮「そういえばバッジかぁ……。どっかにつけよっかな」
藍子「せっかくですから、つけてあげてください」
加蓮「カバンにでもつけとこっと」カチャカチャ
加蓮「海沿いのカフェとか、ミニチュアが飾られたカフェとか……あとマネキン? カフェって、まだまだいっぱいあるんだね。行ってみたいなー」
藍子「ホントですかっ? じゃあ今度一緒に行きましょう!」
加蓮「き、急に乗り出してきたね。ま……藍子が連れてってくれるなら?」
藍子「もちろんです♪ ふふっ。また、加蓮ちゃんと一緒にカフェ巡りですね」
加蓮「えー、またあちこち行くの? 楽しいけど、あれちょっと落ち着かないよー」
藍子「大丈夫です。穴場のカフェも、ばっちりおさえていますから」
加蓮「じゃあ……3回に1回くらいはここでっ」
藍子「いいですよ。それに……ううん。加蓮ちゃんの行きたい時でいいんです。ここでゆっくりしたいなって思った時には、ここでゆっくり、時間を過ごしましょう?」
藍子「遠くまで歩いていくのも、楽しいですけれど……どこへ行くか決めるのは、その時の気分次第でもいいんです。無理に、とは言いませんから」
加蓮「藍子の話、これまでいっぱい聞いてきたつもりなのに。まだまだ知らないことってたくさんあるんだねー」
藍子「私もですよ。加蓮ちゃんとお話する度に、どんどん世界が広がっているみたい。前に聞いたお話でも、違った印象になったり……。だから私、お話を聞くのって好きなんです♪」
加蓮「私は藍子の話を聞きたいんだけどー?」
藍子「私だってそうですよ~。加蓮ちゃんのお話、もっともっと聞きたいな。私が話す番は……3回に1回くらいでっ」
加蓮「ハマった?」
藍子「えへへ。3回に1回くらい。なんだか、いい響きっ」
加蓮「ごめん、それはちょっと分かんない」
藍子「じゃあ、加蓮ちゃんにとっては4回に1回くらい?」
加蓮「そうじゃなくて」
加蓮「……、」チラ
加蓮「5分前。Pさん、表の通りまで来てくれるんだって。どう? もう出る?」
藍子「そうですね……。そうしますね。ココアの残りだけ、頂いて――」ゴク
藍子「ふうっ。……ねえ、加蓮ちゃんっ」
加蓮「うん。何?」
藍子「いつもは、3回のうちの2回。私が、加蓮ちゃんのお話を聞く番。でも……」
藍子「次に会う時は、3回のうちの1回にさせてください。今日あったこと――これから起こること。きっと、いっぱい加蓮ちゃんにお話したいなって、思うことになりますから!」
藍子「ううんっ。お話したいって思えるように、頑張ってきますっ」
藍子「……なんて言うと、ふふ。ちょっとだけ、アイドル失格かも」
加蓮「ホントだよ。ほら、ファンと、期待してくれているお客さんの方を向いてきなさい」
藍子「アイドルでいる間は、そうしています。だから……私が、あなたの友だちでいる時は、あなたにお話できるといいなって気持ちで……。私にとっては、どちらも私ですから!」
加蓮「……そっか。じゃあ楽しみに待ってるよ。アイドルの高森藍子ちゃん?」
藍子「……も~。加蓮ちゃんのいじわる」
加蓮「じゃあ、今回はお互い言いたいことはまだまだ足りないってことで」
藍子「それ以上は、楽しみにとっておきますね」
加蓮「行ってらっしゃい」
藍子「行ってきます!」
<店員さん、今日もありがとうございましたっ
<からんころーん
加蓮「ん? 着信……タイマー? そっか。タイマーをセットしてたんだった。いらなかったけどね」ガサゴソ
加蓮「アイドルでいる間、かぁ」
加蓮「5分前に行動……。そう考えると、カフェにいるのに私は半端にアイドルモードだったってことだ」
加蓮「今回は仕方ないとこあるんだろうけど、そういうとこ、藍子はすごいなぁ」
加蓮「それなのに、私を追いかけて……か」
加蓮「……ふふっ。藍子じゃないけど、むずむずしちゃうね」
加蓮「たまにはアイドルらしくなく、思いっきり甘えたり、どこかに遊びに誘ったりでもしよっかな? なんて、それは今じゃないっか」
加蓮「……だからー。店員さん? 気を遣おうとすんなっ。あっち行け、マネキンっ」シッシッ
【おしまい】
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