【ガルパン】西住みほ「私がマカロンが好きな理由」 (26)

 昔から『好きな食べ物は何か』と問われると、『特に無し』か
その場で思い付いた適当な食べ物を挙げることが多かった。

 でも、実は愛してやまない本当に好きな食べ物がある。ちょっと
口に出すのが恥ずかしくてなかなか人に言えないだけだ。

 それは『お姉ちゃんの作ったカレー』だ。

私の姉は家事が全然出来ない。戦車の腕前は並ぶ者のない天才なのだが、その他が
全くダメなのだ(こう言ったら沙織さんに「それを言ったらみぽりんだって相当な
ものだよ」と言われた。ちょっと納得がいかない)。

 母もかつては似たようなものだったらしい。父の言うことには、「あれでも大分
マシになった方だよ、まほもやっぱりしほさんの娘だなあ」とのことだが、あれで
大分マシならば、若い頃の母はどんなのだったのだろうか。

 小さい頃から戦車に関しては姉や母には敵わないと思って、せめてそれ以外の
ところで役に立ちたいと考えて父や菊代さんに頼んで料理や家事を教えてもらった。
おかげで大洗で一人暮らしを始めた際には大変役に立った(ちなみに父はとても
料理が上手い。学生時代の母はとても父の世話になったようで、「異性のハートを
掴むにはまず胃袋を掴め」という沙織さんの教えは正しいようだ)。

 でも、姉もカレーだけは上手に作れる。『好きこそものの上手なれ』という諺が
あるが、あれだけはお金をとってお客さんに出せるレベルだ。その他のことが全然
ダメなので余計に際立って見える。

 彼女はよく訓練の後や合宿の折などに、私や戦車道の仲間たちにカレーを作っては
振る舞ってくれていた。逸見さんなどは過剰なくらい褒め称えていたくらいだ。
惚れた弱みというやつだろうか。

 あれは確か私が15歳の頃だ、黒森峰女学園の学園艦が熊本に長期入港することになり、
私と姉はしばらくの間、実家から学校に通っていた。

 ある日、私はちょっとした失敗をしてしまい、帰宅したのはとっぷりと夜も更けた頃
だった。

 母にこっぴどく叱られ、夕食も摂らず空腹を抱えて惨めな気持ちのまま自室に帰ろう
とした時、姉に呼び止められた。

「みほ、お腹空いただろ?カレー作ったんだ。一緒に食べよう」

 姉の部屋の開いたドアから、カレーの香ばしい香りが漂ってきた。
私が帰ると連絡してから、あの短時間でどうやって作ったのかと思った
が、これは姉が時間や設備のない時に作ってくれる『さっと一手間カレー』
だった。

 片手鍋でタマネギやニンニクのみじん切りを炒めて、そこにレトルトの
カレーを開けて適当な調味料や香辛料を加えて軽く煮込む。姉が私と一緒に
父に習ったやり方だ。

 だが、その時姉が作ってくれたカレーはいつもと違う点が二つあった。
一つは付け合わせが何も付いていなかったこと。

 もう一つは普段よりだいぶ辛かったことだ。

 彼女がカレーを作ってくれる時は福神漬けなどの付け合わせが欠かせない。
幼い頃、カレーの付け合わせは福神漬けがいいからっきょうがいいかで口論に
なり、掴み合いの喧嘩に発展こともあった。その時は、時間なくて用意できなかった
のだと思った。

 相変らずとてもおいしかったが、いつもよりだいぶ辛く、一口食べただけで汗が
出てきた。かなり香辛料が効いているようだ。

「お姉ちゃん、これ、いつもより辛くない?」

「ああ、これに合わせてあるからな」

 彼女が取り出したのは皿一杯に盛られたマカロンだった。

「カレーを一口食べてからこれを食べてみて」

 姉に差し出されたマカロンを一口かじってみると辛味がすぅっと退いて、
その上で甘さがカレーのおいしさを引き立ててくる。

「お姉ちゃん、これ、すごくおいしいよ。こんなおしゃれなことよく知ってたね」

「まあ私もエリカからの受け売りなんだけどな」

「だと思ったよ、まあ逸見さんも赤星さんか直下さんあたりの受け売りなんだろうけど」

「それ、エリカが聞いたら怒るぞ」

 二人でカレーとマカロンを食べながら笑いあっていたら、失敗して落ち込んだこと
なんて忘れてしまっていた。心の底から彼女に感謝していた。

 あれから、いろいろな事があった。

 私のせいで姉や母だけではなく大勢の人に迷惑を掛けてしまったり、そのために私が
戦車道からも家からも学校からも、全てを捨てて逃げ出してしまったり、その結果、姉
と敵味方に分かれてしまったりした。

 でも、彼女は私たちが再び窮地に陥った時、自分の立場も顧みず仲間と共に助けに来て
くれた。やっぱり彼女は世界で一番頼りになる私の自慢のお姉ちゃんだ。

 あれ以来、私は『好きな食べ物は何か』という問いに対し、マカロンと
答えることにしている。

 
「お姉ちゃんの作ったちょっと辛目のカレーに添えて」というのは相変らず秘密だが。



                          終

短くなったのでおまけ


『秘められた過去です!』


まほ「いやあ、わざわざ招いていただいてありがとう。君たちはみほに本当によくしてくれている、
心から感謝するよ。本当にありがとう」

沙織「いえいえ、こちらこそみぽり…みほさんにはよくしていただいて」

優花里「こちらこそ、ドイツに行かれるのでお忙しいのに来てくださってありがとうございます」

華「みほさんは隊長の仕事が済み次第こちらに来るのでもうしばらくお待ちください」

麻子「いつぞやは本当にありがとう、とても助かった。こちらこそ心から感謝している」

まほ「いや、済んだことだから気にしないでくれ。しかし、みほは本当にいい友達が出来たなあ、
転校したばかりの頃は、黒森峰以外の所でやっていけるのか、もう心配で心配で…」

沙織「あはは…」

優花里「本当にいいお姉さんですねえ」

まほ「みほは、みんなも知っての通り、家庭がちょっと複雑だったこともあって一時期荒れてたことがあって…」

沙織「ええっ!?」

華「荒れてたって…、もしかしてグレてたってことですか?」

まほ「ああ、かなりな」

優花里「に…西住殿に限ってそんな…」

麻子「意外だなあ」

沙織「荒れてたって、具体的にはどんな感じだったんですか?」

まほ「身内の恥を晒すようなことなのでここだけの話にして欲しいんだが…」

まほ「まず、男遊びが大好きだったんだ」

一同「えええええっ!!」

まほ「それも、男性を泣かせるようなことばっかりしていて…」

沙織「やだもーやだもーやだもー…」(ゲシュタルト崩壊中)

優花里「う…うわぁ…」

華「み…みほさんがそんな人だったなんて…」

麻子「ちょっと想像がつかないな」

~まほの脳内回想~

みほ(6歳)「ライダーっキぃぃぃック!」

近所の男児「うわああん!みほちゃんが蹴ったぁぁ!」

しほ「ちょっと!なんてことするの!ケンちゃんに謝りなさい!本当にこの子ったら男の子の
するような遊びばっかりやって…」

まほ(7歳)「…」

まほ「それに、あの歳で酒癖がすごく悪くて…」

沙織「えええっ!?」

華「確かに、九州の人って酒豪が多いってイメージがありますが…」

~まほの脳内回想~

みほ(10歳)「てやんでえバーロー!なにが戦車だ鬼ババア!」

しほ「ちょ、ちょっと、なんの騒ぎ?」

菊代「あ、奥様、ひな祭りなんでみほお嬢さまに甘酒差し上げたらあんなことに…」

しほ「この子ったら、将来が思いやられるわ…」

まほ(11歳)「…」

まほ「挙句の果てには警察のお世話になる有り様で…」

麻子「うひゃあ…」

優花里「まあそうなるでしょうね…」

~まほの脳内回想~

警官「あー君、こんな時間にこんなとこで何してるのかね」

みほ(15歳)「あ…あの…、ここ、どこでしょうか…。迷っちゃって…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

菊代「あの…、奥様、警察から迷子になったみほお嬢さまを保護したと連絡が…」

しほ「またぁ!?本当にあの子ったら何やってんの!」

まほ(16歳)「菊代さん、ちょっと台所借ります」

まほ「いろいろあったが、みほがこんなに立派に立ち直ってくれて…」

一同「…」

みほ「みんな、お待たせ!お姉ちゃん、大洗にようこそ!」

一同「…」

みほ「あ…あれ?みんなどうしたの?」

沙織「みぽりん!私、どんなことがあってもみぽりんの味方だからね!」

優花里「私もです!一人で悩まないでなんでもおっしゃってください!」

華「私たちで出来ることならなんでも力になりますから!」

麻子「そうだぞ、我々は仲間じゃないか」

みほ「…お姉ちゃん、何を言ったの?」

まほ「別に?」


                     終

おまけその2

『続・秘められた過去です!』


優花里「お母さん!お父さんってミュージシャンだったの!?(らぶらぶ作戦11巻参照)

好子「そうね、優花里には話してなかったけど、お父さん…淳五郎さんはインディーズで活躍してた
ミュージシャンで、お母さんはそのグルーピーだったの」

優花里「ええっ!」

好子「お父さんの出演してたハコ…ライブハウスはいつも満員だったわ。そんな時、ライブが終わった
後の楽屋に、レコード会社の人がスカウトに来たのよ」

優花里「そっ…それで!?」

好子「それでね、ビッグになるのが夢だったお父さんはその誘いに乗って、それでメジャーデビューが決まったの」

好子「メジャーになって最初のシングルは結構売れたの。でもその後が鳴かず飛ばずで…」

好子「ちょうどその頃お母さんはお父さんと暮らし始めた頃で、お父さん本当に悩んでいたわ。
口癖のように『一発屋にはなりたくない、一発屋では終わらない』って言ってたの」

好子「でね、一発屋になりたくなかったお父さんは理容師の免許を取って散髪屋になったの。で、出来たのがこの店よ」

優花里「お母さん…、さすがにウソでしょ?」

好子「…わかる?」



                                完

以上です。

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