高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「いつものカフェで」 (29)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「…………」テクテク

高森藍子「あっ。こんにちは、加蓮ちゃん♪ ……加蓮ちゃん? なんだか、すごく真剣な顔……」

加蓮「……」スワル

藍子「……!」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ぐにゃー」

藍子「突っ伏せちゃった……」

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レンアイカフェテラスシリーズ第135話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「1時間だけのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「ただいまと言えるカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんが」北条加蓮「アイドルではない時間に」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「普通のことをやるだけのカフェで」

藍子「そんなに、お疲れになっちゃうことがあったんですか?」

加蓮「ううん、何も……。オフだし。藍子の顔を見たらこうなっちゃった……」グデー

藍子「どういうことですか?」

加蓮「この前、写真を撮った時があったじゃん」

藍子「ありましたね」

加蓮「写真とか自撮りとかを撮ってファンに見せてあげて、藍子ちゃんは元気だよ、って教えてあげることなんて当たり前のことで――」

加蓮「でも、藍子が今よりもっとたくさんの人に知ってもらう為には、当たり前のこととか、みんな知っていそうなことを、1度確認した方がいいかな? って思ったの」

藍子「ふんふん」

加蓮「知ってるつもりになっているんじゃなくて、はじめまして、この子は藍子ちゃんです! って教えてあげるみたいにねっ」

藍子「それ、なんだか楽しそうっ。ごほんっ――はじめまして、加蓮ちゃん。高森藍子ですっ」

加蓮「……はじめましてなのに私の名前を呼んでどうすんの。知ってたらおかしいでしょ?」

藍子「あっ……。それなら、こうです。私は加蓮ちゃんのことを、テレビや、ラジオを聴いて知っていて――」

藍子「それとも、未央ちゃんや茜ちゃんから、加蓮ちゃんっていう子がいるよって教えてもらっていたというのも、面白いかもしれませんね」

加蓮「名前は知ってるけど出会うのは初めて、っていうヤツだね」

藍子「はい。これなら、おかしくはありませんよねっ」

加蓮「おかしくはないけど……。藍子より先に未央や茜と仲良くなってる私かぁ」

加蓮「……たはは。全く想像できないんですけど?」

藍子「そうでしょうか。加蓮ちゃん、よく茜ちゃんや私がいないところでも、未央ちゃんと仲良くしているみたいで……もちろん未央ちゃんや私がいないところで、茜ちゃんとも」

加蓮「うーん、それは今だからだけどさ」

藍子「…………」

加蓮「藍子?」

藍子「……むぅ」

加蓮「……。いや、あのね。それこそ今、こうしてカフェにいることが、未央や茜のいないところで藍子と仲良くしてるってことになるんだけど?」

藍子「……あ」

加蓮「ほら、やっぱり当たり前のことも1度確認しなきゃ」

藍子「そうみたい。足元や、目の前にある幸せを見落としていたら……その先にあるものもいつか、分からなくなってしまいそう」

加蓮「そこまで言うつもりはないけど……」

加蓮「……そもそもはじめましてって言う相手は私じゃないんだよ?」

藍子「え?」

加蓮「えっ、じゃなくて。これからアンタを応援してくれるようになるファンへの話!」

藍子「そうでしたね。これから出会ってくれるみなさん……。どんな方たちなのかな」

加蓮「きっと今までに会ったことのない人達だよ。中には藍子みたいに、お散歩が大好き! って子……は今もいるか」

藍子「お散歩仲間、いっぱいできちゃいましたからっ♪ 握手会やファンレターでも、いろんなところに行ったお話や、ちいさな幸せを見つけたお話……いろいろ、教えてくれるんですよ」

加蓮「愛されてるねぇ」

藍子「……え、えへへ」

加蓮「そこは照れるんだ」

藍子「愛されてる、って言われてしまうと、その……。私なら、応援してもらえる、って言っちゃうかも?」

加蓮「加蓮ちゃんは愛されてますから♪」

藍子「……ふふっ」

加蓮「ん、なんかシリアスモードの気配」

藍子「分かるんですか?」

加蓮「藍子だからね」

藍子「じゃあ私も、加蓮ちゃんだから分かりますっ」

加蓮「はいはい、藍子はもうちょっと分からないくらいでいいから」

藍子「え~っ」

藍子「愛されている加蓮ちゃん……うんっ。加蓮ちゃんが、そう言えることが……私のことのように、嬉しいです」

加蓮「今更だよ、もう」

藍子「でも、当たり前のことをもう1回振り返るのって、今さらのことを振り返るってことですよね?」

加蓮「……じゃあ、"アタシ"も振り返ろ。藍子なんて嫌い、大っ嫌い」

藍子「まあまあ。私も、加蓮ちゃんを愛してるひとっ――」

藍子「……」

藍子「……い、今のはその、なしじゃないですけれど、なしでお願いします」

加蓮「……うん、そうしよ」

藍子「ご、ごほんっ。こういう時は、何か注文をして気分を変えましょう。加蓮ちゃんは何がいい?」

加蓮「何にしよっかなー。ハロウィン限定メニューは……残念、まだみたい」

藍子「10月に入ってからかな? でも最近、事務所でもそろそろハロウィンに向けて準備しようってムードになっていますよね」

加蓮「ね。藍子は何かするの?」

藍子「私は……前にやらせてもらった、魔女の衣装で。ほんのちょっとだけ、お菓子をもらっちゃおうかな……って♪」

加蓮「お、大胆な藍子ちゃんの気配」

藍子「分かるんですか?」

加蓮「たぶんこれは私じゃなくても分かるよ」

藍子「ハロウィンの頃に、パレードに参加することになっているんです。事務所のお仕事として……ではないみたいですね」

加蓮「あー、言ってた言ってた。敢えて仕事じゃなくてフリー参加にして噂を流し、参加する子の半分くらは確定情報みたいにして、今プッシュしたいアイドルはサプライズ参加にする……だっけ?」

藍子「そんなに詳しく……」

加蓮「モバP(以下「P」)から、なんか悪だくみの気配が漂ってたの。問い詰めてみたら、嬉しそうに答えてくれたよ」

藍子「今日の加蓮ちゃんは、気配を感じとる気分なんですね」

加蓮「流行は取り入れていかなきゃ。発信側っていうのは持ち回りになりがちだし、いつだって私が発信源になるとは限らないもんね」

藍子「……すごい」

加蓮「え? ……あー……んー、なんだろ。役割的な……。やってたら分かるってヤツだよ」

藍子「やっていたら分かる……?」

加蓮「藍子だって、例えば撮影の時にスタッフさんが困ってたりしたら、何か言われなくても手伝ったりするでしょ? 収録が長引いてる時に、疲れてる子を癒やしたりあげてるでしょ?」

藍子「そうですね……私なりに、できることをやろうと心がけています」

加蓮「それだって、何回も撮影に参加してたら感じ取れたり、一緒にいる子だから分かったりじゃん。やってたら分かるってヤツ」

藍子「あ~。加蓮ちゃんにとっては、それが流行……」

加蓮「そ。だから藍子、すごいなって思ってくれるのは嬉しいけど、自分と比べて壁を感じたりしないの」

藍子「……あはは。ばれていましたか」

加蓮「そういう気配がした」

藍子「そうでした。今日の加蓮ちゃんは、そうですよね」

加蓮「……こーいう話をすると、加蓮ちゃんと藍子ちゃんは違うんですってなるから好きじゃないんだけどなぁ」

藍子「あ~……」

加蓮「違う人間なんだけどね?」

藍子「でも、同じ景色を見ています」

加蓮「カフェ?」

藍子「ふふっ。今はそう。今じゃない時も……ほんの少しだけ」

加蓮「早くここまで昇ってきなさいよ? ゆっくりでもいいけど、そのうち加蓮ちゃんが逃げちゃうかもよ」

藍子「はい。でも、逃げないでいてくれると嬉しいです。私は、私のペースで歩きたいから……」

加蓮「ん……」

加蓮「……話、逸れまくったけど。注文は?」

藍子「そうでした。でも……あははっ。気分を変えるって気持ちでは、なくなってしまいましたね」

加蓮「気分を変える気分」

藍子「では、その気持ちも変えてしまうために、注文をしましょう」

加蓮「気分を変える気分を変える気分?」

藍子「……それ以上はややこしくなるので、これでおしまいにしませんか?」

加蓮「たははっ。限定メニューに挑戦するって気分でもないし、いつものコーヒーでいいや」

藍子「加蓮ちゃんはいつものコーヒー。私は……私も、いつものコーヒーでっ」

加蓮「藍子は挑戦してもいいんだよ?」

藍子「その時は、加蓮ちゃんと一緒にしたいですから。すみませ~んっ」

加蓮「……ったく。そんな穏やかな顔で言われたら、1人でも頑張りなさい、なんて文句も言えないじゃん」

……。

…………。

加蓮「あー……」

藍子「――はい、よろしくお願いしますね。……加蓮ちゃん?」

加蓮「ううん。喋りだしたら案外いつも通りだなーって」

藍子「?」

加蓮「実はさ。最初に言った、藍子ちゃんを知ってもらおうっていう話なんだけど」

藍子「はいっ」

加蓮「藍子ちゃんプロデュース計画」

藍子「わ~……?」パチパチ

加蓮「っていうネーミングは、私はプロデューサーさんではないのでパスとして」

藍子「パスしちゃいましょう」

加蓮「名前は思いつかなかったけど、そういう感じの。要は、藍子ちゃんをたくさん知ってもらおうとか、そういう行動を心がける――心がけるって言ったらカタいね。藍子には、少しだけそうしてもらおうっていう計画」

藍子「なるほど~……。加蓮ちゃん、私はどうしたらいいですか?」

加蓮「それを昨日、移動時間中とか帰ってからとかにちょっとずつ考えてきたんだけど……」

加蓮「カフェに来るじゃん」

藍子「来ました」

加蓮「藍子の正面に座るじゃん」

藍子「座りますっ」

加蓮「力が抜けて全部頭から吹っ飛んだ」

藍子「ええぇ……」

加蓮「これも全部ゆるふわが悪いんだ。ハロウィンじゃないのに魔女の呪いなんだ……。ばかー」ツップセ

藍子「私、何もしてないのに……。あ、店員さん。ありがとうございます。……はい。加蓮ちゃんなら、疲れちゃったみたいで」

加蓮「私のことはほっといてー」ヒラヒラ

藍子「あはは……。店員さんが、珍しい顔をして見ていますよ」

加蓮「……珍しいって、何が?」

藍子「たぶん、加蓮ちゃんがぐんにゃりとなっていることがじゃないでしょうか。ですよね、店員さんっ」

加蓮「そんなのよくあることだし、店員さんに見られても今更だし。いいよー、好きなだけ見ていってー」

藍子「駄目ですよ~。店員さんには、店員さんのお仕事があるんですから」

加蓮「たまには休もうよ。ずっと働き詰めだと疲れちゃうよ。そしたらおもてなしも出来なくなっちゃうよー」

藍子「杏ちゃんみたいなこと言ってる。あっ、店員さんが駆けて行っちゃいました。……次のお客さんの注文に、急いでいったのかな?」

加蓮「ふふっ。加蓮ちゃんの誘惑は、店員さんにはキツすぎたかな?」

藍子「誘惑って……」ジトー

加蓮「藍子だって常時誰かを誘惑してるようなものじゃん」

藍子「私、そんなにいやらしい子じゃありませんっ!」

加蓮「やらしんだー。目を離せなくさせることだけが誘惑じゃないんだよ? それこぞ杏ちゃんみたいに、だらけさせたり休憩させるのも誘惑の1つ。なのに藍子ってば……ねぇ?」

藍子「……加蓮ちゃん。ほっぺたに机の跡がある顔、撮りますよ?」

加蓮「何その脅し。え、跡ついてる? マジで?」

藍子「ついています。はい、スマートフォンの画面。しっかり見てください」

加蓮「うわ、ホントだ。カッコ悪ー。これは見られたくないね。仕方ないなぁ、藍子ちゃんの言う通りにしよう」

藍子「私の言う通り……」

加蓮「……やっぱやらしいんだー」

藍子「えっ。……なんでそうなるんですか!」

加蓮「あははっ。コーヒー、いただきます♪ ……んっ。香りも味もいつも通り。シックな大人って感じだね。ほら、藍子も飲みなさいよ。飲んで、いつもの自分を取り戻そ?」

藍子「……」ズズ

藍子「……ふうっ♪ すぅ~、はぁ~……。よしっ。これでもう、加蓮ちゃんの……ゆうわく? には、負けませんから!」

加蓮「……なんかそれ、違うシーンで言わせたらすごいことになりそうだねぇ」

藍子「?」

加蓮「でも同時にアイドルのみんなからすごい顔で見られそう、っていうか何なら命の危険……。なんでもないでーす」

藍子「???」



□ ■ □ ■ □


「「ごちそうさまでした。」」

加蓮「コーヒーを飲んだら、すっかり冷静になれたね」

藍子「このカフェで頂くコーヒーは、いつもの何倍もリラックスできますよね」

加蓮「ねー」

藍子「くすっ」

加蓮「ということで。藍子ちゃんのプロデュース計画ー」

藍子「わ~?」パチパチ

加蓮「……違った。この名前はボツになったんだった。えーと、とにかくなんだか分からない計画ー!」

藍子「ふふ。あずきちゃんの言う大作戦みたいっ」

加蓮「あの子そんなにアホだっけ?」

加蓮「と言っても、こういうのってたぶん藍子の方が得意だと思うの」

藍子「私の方が……」

加蓮「誰でも知っていそうなこと、当たり前になったこと。それを改めて探して、みんなに教えてあげる。藍子ちゃんを知らないって子にも分かるようにね」

藍子「誰でも知っていて、当たり前なこと……。え~と、私はアイドルですっ」

加蓮「そうそう、まずはそこからっ」

藍子「好きなものは、お散歩と、写真を撮ること。特に、近所の公園によく行くんです。よく会う方とおしゃべりしたり、綺麗に咲いたお花を見つけたり……♪」

加蓮「って言うのを、みんなに。藍子のことを知らない人にも教えてあげたいの」

藍子「なるほど、こうすればいいんですね」

加蓮「知ってる人には、知ってるー! って言ってもらおうっ」

加蓮「それも1回じゃなくて――でも、同じことを何度も言ったらさすがに狙いすぎって思われるから……」

加蓮「いくつかのジャンルに分けてみたらいいかな。今言った自分のことと……そうだねー。やっぱりまずは、カフェのこと?」

藍子「カフェって、ここのこと?」

加蓮「ううん。カフェそのもの」

藍子「なるほど~」

加蓮「……好き勝手に喋ったら数週間くらい経ちそうだから、何を喋るのか決めて喋りなさいよ?」

藍子「……だめですか?」

加蓮「アンタ、日記コラムを書いて以降"長い尺を取ってもいい"ってことに甘えてない?」

藍子「ぎくっ」

加蓮「ったく。あれは藍子のことを知っていて、藍子ちゃんってのんびり屋さんだよねー、っていうのが分かってる、許されてるからできることなの」

藍子「確かに……初めて会う方に、ず~っと長いお話を続けたら、退屈しちゃうかも」

加蓮「そうそう。そんな何でも無い、どこが盛り上がりかも分からないような話をちゃんと聞いてくれる子なんて、私くらいなんだからねー?」

藍子「えっ? でも、歌鈴ちゃんや肇ちゃんもよく、お話を聞いてくれますよ?」

加蓮「…………」

藍子「いろんなお話をしちゃって、いろんな方向へ脱線してしまって、つい、長くなってしまうこともあるんですけれど……2人とも、楽しかったって言ってくれます♪」

藍子「あっ、でも未央ちゃんからはよく、もっと短くしなさい! って怒られちゃうっけ」

藍子「難しいなあ……。短くまとめたら、伝えられることがぜんぶ伝えられなくなっちゃうかも。お散歩の時に出会ったすてきな方のことも、ちゃんと紹介してあげたいし――」

藍子「加蓮ちゃん、どうしたらいいと思いますか?」

加蓮「…………」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「……。……ハァ。まっ、今更か」

藍子「えっと……?」

加蓮「それこそジャンルで分けたら? 今日はお散歩で見た景色のこと。その次の日は出会ったすてきな人のお話」

藍子「おぉ~」

加蓮「で、ついでにお土産を買って持っていってあげたらアイドル仲間のみんなが喜んでくれた話。そうすれば、他の子のファンも気にしてくれるかもね」

藍子「なるほどっ」

加蓮「……そっか。藍子って、よく考えてみたら話せることがホントにたくさんあるんだ」

藍子「そうでしょうか。……そうかもっ。いつもフリートークの時も、お話する内容を悩んでしまいますからっ」

加蓮「ふふ。嬉しい悩み?」

藍子「う~ん……。わりと、真剣な悩み?」

加蓮「あれ。藍子から嬉しい気配がしてたから、てっきり嬉しい悩みかなって思ったのに」

藍子「気配を読みたい気分が、終わっちゃったのかもしれませんね」

加蓮「じゃあ今の加蓮ちゃんの気分は?」

藍子「そうですね~……。じ~……」

加蓮「……」

藍子「じぃ~~」

加蓮「…………」

藍子「じいいぃ~~~」

加蓮「…………いつまで見てんのよ」

藍子「あんまりじっくり見られたくない気分?」

加蓮「それはアンタが見つめ続けてくるからなんですけど!?」

藍子「きゃっ。……ま、まあまあ。加蓮ちゃん、ひさしぶりに、にらめっこの勝負をしますか?」

加蓮「今それ提案する!? この感じで私が勝てる訳がないでしょっ」

藍子「やってみないと分かりませんよ~」

加蓮「くそう。藍子相手だから悪意が一切ないのが逆にウザい……!」

加蓮「話せることがたくさんあることを。それだけ、世界が広いっていうことを、今更――」

藍子「……、」

加蓮「ううん。"今更考えること"を、大事にしようって話だったよね」

加蓮「……考えるなら、前向きに考えたいな。羨ましいとか、妬ましいんじゃなくて。そんな藍子は、素敵なアイドルってこと」

加蓮「ま、アイドルと言うには身近すぎて……。どっちかっていうと、毎日喋りたくなるクラスメイト的な? そんなポジションなんだけどね」

藍子「お話したくなるクラスメイト、そんなアイドルってことですか?」

加蓮「……それ両立できる?」

藍子「どうでしょう。でも、そんな身近なアイドルでいたいなぁって思っちゃいます♪」

藍子「気軽に、いろんなことを話せて、私からもお喋りできて。いっぱいの時間を、一緒に楽しく過ごす……」

加蓮「……たははっ。そんなの偶像らしくない、って言いたいけど……それを誰よりも知ってるのが、私なんだよね」

藍子「そうですよ~。加蓮ちゃん、たくさん一緒の時間をすごしたんですから」

藍子「あっ。ということは、加蓮ちゃんも同じですね♪ 私にとって加蓮ちゃんは、いっぱいの時間をかけても、たくさんお話して、たくさん楽しい時間を過ごせる相手ですからっ」

加蓮「それは藍子がそうだからだよ? ……なーんか藍子、私以外でも良さそうみたいですし?」

藍子「……?」

加蓮「何でもないでーす。それにしても、時間をかけて楽しんでもらうって考えると、やっぱり地道にやってくしかないのかな。藍子ちゃんプロデュース計画……じゃなくて」

藍子「もう、名前はそれでいいと思います……」

加蓮「やだーっ。そこは譲れない!」

藍子「また変な意地を張って……。プロデュース、が駄目なら、トップアイドル、ならどうですか? あい――た、高森藍子のトップアイドル計画っ♪ なんて……」

加蓮「…………」

藍子「……やっぱりちょっと見栄を張りすぎですよね。他の名前にしましょうっ」

加蓮「や……。違う違う。藍子がそんなことを言うなんてって、改めてビックリしちゃった」

藍子「うぅ~。分かってますもんっ、私らしくないし、大きく言い過ぎたってことくらい!」

加蓮「違うってば。褒めてるの。藍子ちゃんトップアイドル計画……ふふっ。いいね、それ」

藍子「……私の口からは、ちょっと言いづらいので、加蓮ちゃんが言うようにしてくださいね」

加蓮「今はそれでいいよ。でもいつか堂々と言わせるから」

藍子「も~……」

加蓮「名前は壮大だけど、やってることは地味……ううん、地道なこと」

藍子「私のことを、また1から知ってもらって……応援してもらえる方を、いっぱい増やして♪」

加蓮「目指せトップアイドル」

藍子「そして、加蓮ちゃんの隣に並び立てるように♪」

加蓮「たははっ。それ、私の前で言う? 相当恥ずかしいんだけど」

藍子「さっきは私がすごく恥ずかしかったので、これで一緒ですねっ」

加蓮「くそう。原点に立ち戻るついでに、純粋無垢で騙し甲斐のある……じゃなくて。人の言うことを疑わなさそ……でもなくて」

藍子「加蓮ちゃん?」ジトー

加蓮「純粋で素直な子。そう、これ! 純粋で素直な子になってなさいよっ」

藍子「……もしかして、あれこれ考えていたのって、そうやってまた私のことをダマそうとして」

加蓮「違う違う違う! それはあくまでオマケっ。ちゃんと藍子がトップアイドルになれるように、そして応援して愛してくれる人を増やしたくて言ってるの」

藍子「よかった。……できれば、そのおまけの部分も否定してください」

加蓮「嘘はつきたくないしー」

藍子「そういうことじゃありません……」

加蓮「でも、1つ難しいなーって思うことがあってさ」

藍子「?」

加蓮「藍子の最大の魅力って、一緒にいるとゆるふわできることなんだよね」

藍子「ゆるふわできること」

加蓮「来た時だって、顔を見るだけで力が抜けちゃうし、対面に座ろうものならまるで魔女に力を吸われた村人みたいになるし」

藍子「……そんなこと言うなら、本当に加蓮ちゃんの力をぜんぶ吸い取っちゃいますよ」

加蓮「ほぉ? どうやって」

藍子「そうですね~。まずは、加蓮ちゃんに膝枕をしてあげます」

加蓮「私が悪かったです」

藍子「ええぇ……」

加蓮「まずは、って言いながら攻撃力が高すぎるのよっ。……ち、ちなみに他には何を考えてたの?」

藍子「私の部屋までついて来てもらって、リラックスできる音楽や、ハーブを用意してから……ゆっくりと頭を撫でて、ぐっすりと眠ったらふんわりとしたお布団をかけてあげて、」

加蓮「人を天国に閉じ込めるのをやめろ!」

藍子「晩ご飯には、加蓮ちゃんの好きなものをいっぱい作って」

加蓮「続けるなっ! もう、だから藍子はいやらしいのよ。そうやってすぐに誘惑して!」

藍子「……そっか。これが加蓮ちゃんの言う、いろんな種類の誘惑なんですね」

加蓮「自分の攻撃方法を自覚し直すな! なんかちょっとずつ崖に追い詰められてる気分なんだけど、今!」

藍子「崖のはしっこになんて言ったら、危ないですよ~。こっちの広いところに来て下さい。落っこちちゃいますよ?」

加蓮「今なら喜んで崖下に身投げできそうだよ、もう……!」

加蓮「あのね。藍子。隙あらば私を天国に閉じ込めようとしたり、誘惑したりするのをやめなさい。アンタはアイドルでしょ? 私より先に、ファンと、ファンになってくれる子の方を見てなさいよ」

加蓮「……今だけは私のことを見てなくても、怒らないし、寂しいって思ったりもしないから」

藍子「大丈夫っ。みなさんのことも、ちゃんと見ています。でも、加蓮ちゃんは加蓮ちゃんですから♪」

加蓮「ハァ……」

加蓮「でさー……。私が言いたかったことって、藍子の最大の魅力を伝えるのって難しいねーって話なんだー……」

藍子「そういえば、そんなお話だったような……」

加蓮「藍子と一緒の空間にいる、ってなかなか難しいことでさ。テレビに映るアイドルって、無条件に少し遠く、綺麗な物で感じるし……LIVEは一緒に楽しめるけど、あれは特別中の特別って感じの世界だし」

藍子「私たちの活動の中でも、いちばん非日常ですよね」

加蓮「握手会か配信かなぁ。今度Pさんに相談してみよー」

藍子「お願いしまっ……ううん。私からも、相談してみます!」

加蓮「一緒にしてみる?」

藍子「はいっ」

加蓮「……うん、なんか私が巻き込まれそうな気がしたけど……ついでに藍子と一緒に何かやったら藍子ちゃん大好き同盟に囲まれそうな予感もするけど……」

加蓮「今回はいっか! じゃあ、次に事務所に行った時に話そっか」

藍子「私は、今日……今からでもいいですよ?」

加蓮「……今日は藍子の言うことにビックリさせられる日だね」

藍子「気配を感じる気分の日から、びっくりしちゃう気分の日に変わったのかもしれません」

加蓮「いや原因が藍子なんだってば。そっか……ふふっ。燃え続けてるんだね。藍子の灯火」

藍子「それって、加蓮ちゃんのおかげでもあるんですよ」

加蓮「私?」

藍子「加蓮ちゃんの顔を見たら……それがどこでも……事務所でも、カフェでも。頑張ろうって思えて、もう1歩、体が前に出ちゃうんです」

藍子「まだ……忘れたりはしませんよ。線香花火の日に、長い坂を上って、あなたの隣に並ぼうって決めたこと。その気持ちは、上りきるまでずっと、心の中にあるんですから」

加蓮「……うん。そっか」

藍子「はいっ」

加蓮「そこまで言われたら、今から――って言いたくなるんだけど」

藍子「……。加蓮ちゃん。嘘は、嫌いなんですよね?」

加蓮「酷い奴だよねー。藍子の気持ちを受け止めてなお、今日はのんびりしたいって思っちゃうなんて」

藍子「ううん。それが、私と加蓮ちゃんの時間ですから」

加蓮「あーあ。私も、誰かさんにつられてのんびり屋になっちゃった」

藍子「昔の私は、きっと加蓮ちゃんにそうなってほしいなって思ってました」

加蓮「おのれ魔女め。私にいくつ呪いをかければ気が済むのよ!」

藍子「……あと100個くらい?」

加蓮「やめろっ!」

藍子「ふふっ♪」


【おしまい】

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