男「旧校舎の伝わる六つの暗号?」 (179)

男(これは俺が体験した不思議な出来事である)

男(期間にして十二日。たった十二日間の事なのだが)

男(心に深く残る特別な日々になった)

男(全ての始まりは……そうだ)

男(夏休みまでに残り二週間を切ったあの日からだ)

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一日目 火曜日

――放課後

教師「これで帰りのHRを終わります」

委員長「気をつけ、礼」

ガタガタ ガタガタ
ワイワイ ガヤガヤ

男「……」ボケー

男(高校生になって三ヶ月)

男(学校にも慣れてきた今日この頃)

男(夏休みが目前に迫っていることもあって、クラスメイト達はどこか浮き足立ってるように見えるが……)

男(まぁ俺には関係のない話である)

男「さてと……」スクッ

友「男!この後、親睦も兼ねてクラスのやつら数人でカラオケ行くけど男もどう?」

男「ん?」

友「女子もいるよ!」

男「悪いけどパスするよ」

友「えーなんでさ!?」

男「俺がいても盛り下げるだけだし」

友「そんな事ないって!」

男「気を使うのも面倒だし」

友「かー!相変わらず冷めてんな~」

男「別に冷めてはないだろ」

友「そんでまた旧校舎に行くの??」

男「ああ、うん」

友「あんな薄気味悪いところよく行くよなぁ」

男「外観はな。中に入るとこれが意外と居心地がいいんだ」

友「その感覚がわからん!」

男「取り壊される前に堪能しておこうかと」

友「つか、フェンスがあるのにどうやって入り込んでるのさ?」

男「あー……それは――」

「おーい、行くぞー」

友「はいはーい!」

友「じゃあ男は不参加ってことでいいのね?」

男「ああ」

友「了解!じゃまた明日!」

男「おー」

――――
――

スタスタ

男(夏休みの間に取り壊しが決定した旧校舎)

男(その夏休みまでの残り二週間を切った)

男(それまでに心置きなく堪能しておきたい)

男(旧校舎の雰囲気と、そこから見える景色を)

男「……」キョロキョロ

男「よし、人の気配はなし」

男(旧校舎を囲むようにフェンスガードが設置されている、が)

男(裏手にあるこの一箇所だけは結束されてない)

男「しょっ、と」

ガシャン

男(だからこうやって侵入するのも容易なんだ)

スタスタ

男「お邪魔します」ペコリ

男(旧校舎の内部は木造を主体とした作りになっていて、どこか暖かさを感じる)

男(もちろん電気は通ってなく、明かりは窓から差し込む日の光だけなのだが……)

男(それがより一層幻想的な雰囲気を演出してくれている)

男(俺はこの雰囲気に心惹かれているんだ)

男(まぁ……経年劣化したコンクリートの外観は少し不気味である、それは否定しないが……)

男「でも……」ギシッ

男「木の床っていいよなぁ……」ギシギシ

――旧校舎 3-1

男(3-1の窓際の席。ここが特にお気に入りの場所だ)

男「よいしょっと」ストン

男「まだだいぶ時間があるな……」ゴソゴソ

男「……」スッ

ペラ ペラ
ペラ ペラ
…………
……

男「ん」

男(そろそろか?)チラッ

男「おおっ」

男(俺がここを気に入っている理由の一つ)

男「何度見ても……いい景色だなぁ」

男(そう、この場所から見る夕焼けはとても素晴らしい)

男(小高い山の上に位置するこの学校では、旧校舎のこの教室から街が一望できるのだ)

男「……」ジーー

男「……」ジーー

男「……」ジーー

男「ふむ」

男「さてと」ガタッ

男(旧校舎は日が暮れると真っ暗になるから、これ以上の長居は禁物だ)

男(撤退撤退っと)クルッ

??「……」ポロポロ

男「ふぁっ!!!???」ビクッ

??「……」ポロポロ

男「お、お、お、お、」パクパク

??「――さん……?」ポロポロ

男「お、お化けーーー!!!!」

??「!!??」ビクッ

男(ふ、ふ、ふ、振り返ったら目の前にセーラー服を着た女の人がっ!!)

男(誰かが近付いてきたら床が軋むから絶対気付くはずなのに!!気配がなにもなかった!!)

男(しかもめっちゃ泣いてるし!!怖っ!!)

??「……」ゴシゴシ

男「あわわわ」ビクビク

??「あれ?」ジーー

男「ひぃ!!」

??「似てるけど……違う……」

男「…………はい?」

??「知り合いに似てたから……驚かせてごめんなさいね」

男「は、はあ……」

男(あ、あれ?なんか普通の人っぽい……?)

男(いや!いやいや!!足音聞こえなかったし!見たことない制服だし!やたらと美人だし!怪しい要素満載じゃないか!!)

??「……」ジーー

男「うっ……」

??「ふふっ」

男「!?」

??「それにしてもお化けって……ふふふ」

男「だ、だっておかしいでしょ、こんな場所に人がいるなんて……」

??「それは君も同じじゃない?」

男「それは……」

??「安心して。私は死んでないから」

男「でもここの学校の生徒じゃないよね?」ジト

??「ここの生徒よ」

男「だってそのセーラー服。うちはブレザーだし」

??「あーこれは……」

男「……」

??「中途半端な時期に転入してきたから、制服はこのままでいいって」

男「転入……?」

??「ええ、私は三年の黒髪っていいます。よろしくね」

男「三年?」

黒髪「ええ」

男「……先輩でしたか、それは失礼しました」

黒髪「ところで君は?」

男「俺は一年の男っていいます」

黒髪「一年生か……だから幼い感じがしたのね……」

男「はい?」

黒髪「あっ!私に対しては敬語じゃなくてもいいよ!」ニコッ

男「え?いや、結構です」

黒髪「えー、硬いなぁ男くんは」

男「硬くて結構です」

黒髪「……」ジーー

男「……」

黒髪「……」ジーー

男「なにか?」

黒髪「ううん、気にしないで」ジーー

男(気にしないでと言われても……見つめすぎでしょ)

黒髪「あ!そうだ!」

男「ん?」

黒髪「なんで私がここにいるのか……知りたい??」

男(うわー……なんか面倒くさそうな流れになってきた……)

男(日も落ちてきてるし早いところ帰りたいんだけど……)

男(強行突破するか)

黒髪「ねえ?どう?知りたいでしょ??」

男「知りたくないです」

黒髪「えっ??」

男「暗くなってきてるからお先に失礼します」ササッ

黒髪「え?あれ?」

男「じゃあ」

スタスタ スタスタ

黒髪「あっ!ちょっと!もーー!!」

男「……」スタスタ

――――
――

男(あの人は一体なんだったんだ?)

男(一応普通の人っぽいけど……)

男(いや、普通ではないな)

男(綺麗な長い髪で整った顔立ち)

男(旧校舎の雰囲気と相まって、とても神秘的で……)

男(まぁ……)

男(だからこそ余計に怪しいんだよなぁ)

二日目 水曜日

――教室

友「は?セーラー服の三年生?」

男「ああ、見たことないか?」

友「んー……わっかんないなぁ……」

男「そっか」

友「同じ学年の人もまだ把握しきれてないのに、それが三年生じゃ特になぁ……」

男「悪い、気にしないでくれ」

友「でも男からそんな事聞いてくるなんて珍しいね」

男「そうか?」

友「そうだよ!いつも他人に興味なさそうにしてるじゃんか」

男「別に、そんな事はないけど……」

友「男はシャイボーイだからね」

男「いや……うーん」

友「あはは!」

――放課後 旧校舎前

男「うーーーむ」

男「また遭遇しそうな気がする……」

男「一人で過ごしたいんだけどなぁ……」

男「仕方ない、今日はこのまま帰――」

「――くーん!」

男「は?」チラッ

黒髪「男くーん!」ブンブン

男「えぇぇぇ……」

黒髪「早くおいでー!!」ブンブン

男(旧校舎の三階からめっちゃ手を振ってくる黒髪さんが……)

男(うわ、めんどくさっ)

男「あ!」

男(てか!!教師にバレたら大目玉くらうのにあんなに目立つことして!!)

男「っ!」タタタタタ

――旧校舎 3-1

男「はぁはぁ」

黒髪「そんなに急がなくてもいいのに」

男「はぁはぁ」

黒髪「それとも早く私に会いたかった、とか?」ニコニコ

男「あのさぁ……」

黒髪「ん?」

男「旧校舎は関係者以外立ち入り禁止!!」

黒髪「あら?」

男「それをあなたは大声で堂々と……何考えてんすか!?」

黒髪「それは……ふふ、ごめんなさいね」

男「ごめんなさいって……はぁ」

黒髪「でも立ち入り禁止の場所に出入りしてるなんて、男くんは悪い子ね」

男「それをあなたが言いますか」

黒髪「それもそうね」クスクス

男「ったく」

黒髪「男くんはどうして旧校舎にきてるの?」

男「……」

黒髪「ねえ、どうして??」ジー

男「う……」

男(なんでこの人はいちいち見つめてくるんだ?)

黒髪「……」ジー

男「はぁ」

男「ここから街が一望できますよね?」

黒髪「ええ……そうね」チラッ

男「夕焼けが綺麗なんですよ」

黒髪「え……」

男(うわ……引かれた……)

黒髪「……」

男「……」

黒髪「…………」

男「どうかしましたか?」

黒髪「いいえ、なんでもないわ」

男「あと、旧校舎の雰囲気が好きってのもあります」

黒髪「うんうん、わかるわかる!」

男「黒髪さんはどうしてここに?」

黒髪「私はここに用事があってね」

男「用事?」

黒髪「ええ」

男「立ち入り禁止の旧校舎に??」

黒髪「え、ええ……」

男「ふーん……」ジト

黒髪「ど、どうしてそんな目で見てくるの?」

男「だって転校生が旧校舎に用事って……ねぇ」ジト

黒髪「う……」

男「……」ジト

黒髪「ち、ちゃんとした理由があるの!」

男「理由??」

黒髪「旧校舎に伝わる六つの暗号って知ってる??」

男「旧校舎に伝わる六つの暗号……?」

黒髪「ええ」

男「いや……そんなの知らないし聞いた事もないです」

黒髪「私はその暗号を解き明かしたいの」

男「やっぱり怪しい……」ジト

黒髪「うっ……でも本当のことよ」

男「ふーん」ジト

黒髪「……」

男「で、暗号は解けたんです?」

黒髪「いいえ」ブンブン

男「……」

黒髪「さっぱり分からないわ」

男「そうですか」

黒髪「ちなみに暗号の一つは『黒3上2』ってやつなんだけど」

男「黒3上2……」

黒髪「ね?難しいでしょ?」

男「……」

黒髪「あっ……」ジー

男「……」

黒髪「ふふっ……」ジー

男「あの」

黒髪「はい?」

男「暗号が解ければ、旧校舎にはもう用無しですよね?」

黒髪「うん、そうなるね」

男(そうしたら邪魔されずに一人の時間を堪能できる)

男「……よし」

黒髪「?」

男「ついて来てください」スタスタ

黒髪「え??」

男「」スタスタ

黒髪「あ!ち、ちょっと!」

――旧校舎 3-2

男「よいしょっと!」ガタガタ

黒髪「黒板の前に机を運んで……何をする気なの?」

男「もしかしたら、と思って」ガタガタ

黒髪「??」

男「はい、じゃあこれに乗ってください」

黒髪「ええ!?なんで!?」

男「あ、制服の女性にそれは失礼だったか……」

黒髪「え?う、うん……」

男「じゃあ俺が代わりに」ヒョイ

黒髪「……?」

男「うわっ、埃だらけだな」

黒髪「ねぇどういうこと?ちゃんと説明してよー!」

男「あの暗号、もしかしたら3-2黒板の上じゃないかと思ったんです」キョロキョロ

黒髪「黒3上2……あ!!」

男「だけど……何もなさそうっすね。てか埃が邪魔だ」

ササッササッ

男「うおっ、ゲホゲホ!」

黒髪「わっ!すごい埃!!男くん大丈夫!?」

男「ゴホゴホ……んっ?なんだこれ?」ペリッ

男「紙きれ……違うこれは、和紙か?」ジー

黒髪「!!」

男「よいしょっと!」スタッ

黒髪「あ、あの!見せてくれる!?」

男「え?はい、どうぞ」スッ

黒髪「あー……そのまま見せてくれればいいから」

男「へ??」

男「えーっと、はい」スッ

黒髪「“の”……か」

男「なんですかね、これ」

黒髪「……」

男「暗号とこれは関係ないっぽいな……」

黒髪「ううん、きっとこの紙切れこそが暗号の示したモノよ」

男「なぜそう言い切れるんです?」

黒髪「そ、それは……」

男「それは?」

黒髪「なんとなく……?」

男「はあ?」

黒髪「……」

男(わけわからん)

男「じゃあ次の暗号教えて下さい」

黒髪「え!?」

男「面倒だから一気に片付けようかと」

黒髪「……」

男「見た感じ大した暗号でもなさそうですし」

黒髪「えーと、あはは」ポリポリ

男「?」

黒髪「他の暗号は忘れちゃって、てへっ」

男「は?忘れた?」

黒髪「ええ。暗号を書いた紙は家に保管してあるんだけどね……」

男「……」

黒髪「ごめんね?」

男「じゃあ明日その紙を持ってきて下さい」

黒髪「そ、それは……ちょっと難しいかなぁ~、なんて……」

男「……」

男「じゃあ今日はもう用はないですね」

黒髪「うん、そうなるかな?」

男「どうぞお帰りください」

黒髪「え!?酷くない!?」

男「俺は一人でのんびり過ごしたいんです」

黒髪「えー!折角だからお話ししましょう!」

男「お断りします」

黒髪「むー!ていうか男くん!」

男「ん?」

黒髪「なんか私に冷たくない!?」

男「だって……得体の知れない人物だし」

黒髪「ががーん!ひ、ひどい……」

男「自分で“ががーん”なんて言う人、初めて見ましたよ」

黒髪「むー!女の子には優しくしないとモテないよ?」

男「モテなくて結構です」

黒髪「やっぱり君は全然似てないっ!!」

男「はあ??」

黒髪「むー」

男「……」ペラッ

黒髪「あー、つまんないなー」チラッ

男「……」ペラッ

黒髪「二人でいるのに読書始めるなんて人としてどうなのかなぁー?」チラッ

男「……」ペラッ

黒髪「ぶーぶー」

男「……」パタン

黒髪「!」

男「黒髪さん」

黒髪「なになに!?」キラキラ

男「うるさい」

黒髪「なっ……!!」

男「……」ペラッ

黒髪「もー知らない!私怒ったからね!」プンプン

男「……」ペラッ

黒髪「男くんが帰るまで私も絶対に帰らない!!」

男「どうぞご勝手に」ペラッ

黒髪「むー……」

男「……」ペラッ

黒髪「……」ジー

男「……」ペラッ

黒髪「……」ジー

男「……」パタン

黒髪「……」ジー

男「あの」

黒髪「ん??」

男「それ、やめてもらえません?」

黒髪「ふふっ、男くんは見つめられるのが弱いのね!」

男「……」

黒髪「あ!見て見て!日が落ちてきたわ!」

男「おお!」

黒髪「綺麗だねぇ」

男「そうですね……」

黒髪「なんかさ、夕焼け見てると感傷的な気分にならない?」

男「あーそれはわかる気がする」

黒髪「……」

男「そういえば昨日はなんで泣いてたんです?」

黒髪「え!?」

男「どうして号泣してたんですか?」

黒髪「な、内緒!」

男「はい?」

黒髪「秘密です!」

男「はあ……まぁ別にいいですけど……」

――旧校舎 入り口

黒髪「じゃあね!男くん!」

男「帰らないんですか?」

黒髪「え?もちろん帰るよ?」

男「……」

黒髪「ほら!一緒に出てくるところを誰かに見られたら大変じゃない?」

男「はあ」

黒髪「だから時間差で出ようと思って」

男「まぁどっちでもいいですけど」

黒髪「うん!またね」

男「失礼します」

黒髪「……」

――帰り道

男(黒髪さん)スタスタ

男(旧校舎)スタスタ

男(暗号)スタスタ

男(やっぱりなにか隠してるよな)スタスタ

?「――」スッ

男「え!?」ピタ

男(あれ!?今すれ違ったのは……!)

男「黒髪さん!?」

?「え??」クルッ

男「あ……」

?「なんですか?」

男「黒髪さん……じゃない……?」

?「え?」

男「す、すみません、人違いでした」

?「……」クルッ スタスタ

男(よく考えたら黒髪さんなわけがない)

男(俺の方が先に学校を出たんだ、ここですれ違うのはおかしい)

男(それに制服も髪の長さも違ってたし)

男(顔も黒髪さんよりもっと幼い感じだった)

男(だけど……雰囲気が似てたな)

男(黒髪さんの妹かなにかか?)

男(ん?)

男(幼い?似てる?)

男(なんか最近聞いたようなフレーズだな……)

男「ま、いっか」

三日目 木曜日

――朝 教室

友「なぁなぁ、お前の言ってたセーラー服の先輩ってどんな人なの?」

男「んー……普通っていえば普通なんだけど……うーん」

友「んで、可愛いの?」

男「まぁ……綺麗な人だと思う」

友「へー」ニヤニヤ

男「なんだよその顔」

友「旧校舎で先輩と逢引とは、男も隅におけないね」ニヤニヤ

男「そんなんじゃないから」

友「でも昨日の放課後も会ってたんだろ?」

男「まぁ……うん」

友「ほら!」ニヤニヤ

男「……」

友「あ、大丈夫!邪魔するつもりはないから安心して!」

友「それに、旧校舎に好んで行くのは男ぐらいだし!」

――昼休み

委員長「男くん、ちょっといいかしら?」

男「委員長?」

委員長「最初に謝っておくけど盗み聞きをするつもりはなかったの、ごめんなさい」

男「……なんの話?」

委員長「単刀直入に聞くわ。放課後、旧校舎に出入りしているの?」

男「なっ!?」

委員長「旧校舎は立ち入り禁止よ。もし出入りしているなら今後一切立ち入らないように」

男「……」

委員長「今回は私だけの注意に留めておくけど……もし今後も続くようなら先生方に報告させてもらうわ」

男「はぁ」

委員長「話は以上よ。それでは」

友「あちゃー、今朝の会話が聞かれてたか……ごめんね男」

男「んや、気にすんな」

友「委員長なぁ……堅苦しいんだよね」

男「ああ」

友「まぁそこが可愛いいんだけど!」

男「……」

友「で、今後どうするつもりなの?」

男「バレないように注意するよ」

友「結局行くんかい!」

男「もちろん」

友「男がそのつもりなら、俺もバレないように協力するよ!」

男「ああ」

友「男は安心してセーラー先輩と愛を育んでくれ!」

男「だからそういのじゃないっての!」

――放課後 旧校舎

男(周りの目に注意しながら来たから、バレてないはず)

男(今後は細心の注意を払って――)

黒髪「おーい!男くんー!」

男「げ」

黒髪「男くーん!」ブンブン

男(あの人は!また三階から大声で!!)

男「しー!!」

黒髪「??」

男「しー!!!」

黒髪「なあにーー??聞こえないわーー!!」

男「くそ!」

ダダダダダ

男「はぁはぁ!黒髪さん!」

黒髪「あら?」

男「一体どういうつもりですか!?」

黒髪「あ!そっかそっか、ごめんなさいね」クスッ

男「ったく……バレたら二人ともただじゃ済まないんですよ?」

黒髪「次から気をつけるわ」

男「はぁ……」

黒髪「でもまた会えたね」ニコニコ

男「……」

黒髪「ふふっ」

男「それで暗号の書かれた紙は持ってきましたか?」

黒髪「持ってきてないけど、一つ思い出したの!」

男「なぜ持ってこない……」

黒髪「じゃあ言うからちゃんと覚えてね」

男「はい」

黒髪「えーと……『叡智の楽園にて、案内人を導く光の元に潜む』だったかな?」

男「ん?……なんですかそれ?」

黒髪「さあ……なんの事だか私にはさっぱり!」

男「ふーむ……叡智の楽園ねぇ」

黒髪「……」ジー

男「……」

黒髪「……」ジー

男「見つめないでください」

黒髪「ふふっ」

男「とりあえず行ってみますか」

黒髪「え?もう分かったの!?」

男「いえ、おおよその場所くらいしか」

黒髪「すごーい!どこどこ!?」

男「叡智の楽園ってのは恐らく図書室ではないのかと」

黒髪「図書室!!」

男「行きましょう」

黒髪「はーい!」

――旧校舎 図書室

黒髪「ここの何処かにあるのよね?」

男「恐らく」

黒髪「棚以外なにもないね」

男「……」

黒髪「おまけに薄暗いし」

男「……」

黒髪「男くん何か分かりそう??」

男「『叡智の楽園にて、案内人を導く光の元に潜む』か」

男「うーん……」

黒髪「……」

男「探すにしてもこうも薄暗いとなぁ」

黒髪「電気が付けばいいのだけど」

男「電気……」

黒髪「?」

男「あ!」

黒髪「ん??」

男「黒髪さん、図書室の案内人って誰のことを指してると思いますか?」

黒髪「えーと、貸し出しとかしてる人、かな?」

男「うん。じゃあその人は普段どこにいます?」

黒髪「受付のカウンター?」

男「ですね」

黒髪「やったー!正解ー!ふふっ」

男「導く光はこれの事かと」スッ

黒髪「あ……照明!なるほど!」

男「そして、『導く光の元に潜む』とは」

男「よい、しょっ!」ガタッ

男「この電球ソケット周りの反射板が怪しいと思うんです……」ガサガサ

黒髪「……」

男「ビンゴ……!」ペリッ

黒髪「わぁ!!」

男「よいしょ、っと」スタッ

黒髪「すごい!すごいわ、男くん!!」

男「いえ……暗号というにはあまりにも簡単過ぎだと思います」

黒髪「それでも凄いわ!私には全然わからなかったもの!」

男「……じゃあ開きますよ」

黒髪「うん!」

男「……」スッ

黒髪「これは……『た』、だね」

男「これで見つけた和紙は二枚」

黒髪「ええ」

男「一枚目は『の』二枚目は『た』」

黒髪「……」

男「六つの暗号ってことは全部で六枚の和紙が隠されてるってことでいいんですか?」

黒髪「ええ、そうね」

男「じゃあ残りは四枚か」

男「この感じだと、六枚の和紙を集めるとなんらかのメッセージになる……のか?」

黒髪「うん。私はそれが知りたいの」

男「…………」

黒髪「どうしたの??」

男「いえ」

黒髪「あ!結構いい時間、今日も夕焼け見るのよね??」

男「あ、はい、もちろんです」

黒髪「じゃあ行きましょ」

男「はい」

――帰宅 通学路

男(やはりおかしい……)

男(転校生の黒髪さんがなぜ六つの暗号を知っているのか?)

男(さらに……隠されているのが和紙で、なんらかのメッセージだという事も知っていた)

男(そもそも黒髪さんの存在からして怪しい……)

男(俺は彼女を旧校舎以外の場所にいる所を一度も見ていない)

男(今日も旧校舎の前で解散したし、思い返せば今までも――)

「女ちゃん、今日も病院に行くの??」

女「うん」

男「え?」クルッ

男(あの子は……黒髪さんに雰囲気が似てる子……)

「じゃあ私はここで!また明日学校でね!」

女「うん!ばいばーい!」

男「……」ジー

女「……?」

男「あ」

男(しまった、思わず凝視してしまった!)

女「あなたは、昨日の……」ジト

男(“女ちゃん”って呼ばれてたっけ)

男(こうしてマジマジ見るとやっぱり黒髪さんに似てるなぁ……)

男(いっそ直接この子に聞いてみるか)

男「突然すみません、一つお尋ねしたいことがあります」

女「な……なんですか?」サッ

男(あー、すごい警戒されてる……まぁそれもそうか)

男「あなたに兄弟は……お姉さんはいませんか?」

女「は??」

男「あなたのお姉さんについて聞きたい事が――」

女「私は一人っ子です」

男(一人っ子?そんなバカな……他人の空似でここまで似るか?)

女「もういいですか?」

男「では……親族に“黒髪さん”って方は居ませんか?」

女「えっ!?」

男(この反応……もしかして!)

女「……」

男「僕の知人である黒髪さんと、あなたがとてもよく似ていて……兄弟、もしくは親族の方ではと思いまして」

女「ええ!?私と……似てる……?」

男「はい」

女「人違いだと思います!!」

男「え?」

女「失礼します!!」タタタタ

男「あ……」

男「な、なにか怒らせるようなこと言っちゃったかな?」

男(でもあの反応は……なにか知ってそうな気がする)

男(明日、黒髪さんにも聞いてみよう)

四日目 金曜日

――放課後 旧校舎

黒髪「あ、男くん!今日は上から叫ばなかったのよ!偉いでしょ?」

男「そうですね」

黒髪「むー、君は愛想が悪いなぁ」

男「……」

黒髪「ほらもっと愛想良くして!」

男「……」

黒髪「とりあえず笑顔!」ニコッ

男「……」

黒髪「はい、男くんも!」ニコッ

男「はぁ」

黒髪「こら!笑顔は基本だぞ!」

男「言わせてもらいますが」

黒髪「なに?」

男「愛想が悪かったら暗号解きなんて手伝いませんよ」

黒髪「た、たしかに!」

男「じゃあ次の暗号を教えてください」

黒髪「次のは覚えるの大変だったなぁ……えっとねぇ」

男「なぜ暗号が書かれたメモを持ってこない……」

黒髪「『んしつ』と『けとの』と『ほっべ』」

男「はい?」

黒髪「この言葉が三行で並んでるの」

男「え?どういうことです?」

黒髪「メモ用紙があると分かり易いと思うわ」

男「はあ……それなら」ゴソゴゾ

黒髪「じゃあ説明するから書いていってね」

男「え?俺が?」

黒髪「ええ」

男「黒髪さんが書いた方が早いと思いますが」

黒髪「ふふ、こういうのは自分で書くことに意味があるのよ!」

男「……」

男「『んしつ
けどの
ほっべ』」

黒髪「そう!それ!」

男「……」

黒髪「わけわからないよね?」

男「……」

黒髪「これは男くんでも解くの大変なんじゃないかな?」

男(一見すると意味がなさそうな文字列)

黒髪「あ」

男(それにこの形……きっとこの形に意味があるはず)

黒髪「考えてる時の顔……本当あの人みたい」ボソッ

男(縦読み……ではない。斜めも違う)

黒髪「……」ジー

男(変則的な読み方なのか?例えば……)

黒髪「……」ジー

男「あ!!」

黒髪「え!?解けたの!?」

男「はい。間違いないと思います」

黒髪「もしかして……君って頭良い?」

男「いえ、普通です」

黒髪「ふふ、じゃあ教えてくれる?」

男「それはですね……」

黒髪「うんうん!」

男「あー……その前に」

黒髪「?」

男「もしこれで和紙を見つけたら、俺の質問にも答えてください」

黒髪「えっ……?」

男「嘘偽りなく、正直に答えると約束してください」

黒髪「……」

男「いいですか?」

黒髪「もしかして……えっちなコト……?」

男「ち、ち、違いますっ!!」

黒髪「ふふ、じゃあまずは暗号から済ませちゃいましょう」

――保健室

黒髪「あれ、ここって……保健室?」

男「そのはずですけど……」

男(なんで保健室にスコップが置いてあるんだ?工事関係者が置いていったのか?)

黒髪「ね、男くん、暗号はどういう事なの?」

男「あ、はい」スッ

んしつ
けどの
ほっべ

男「これを『ほ』から時計回りに読んでみてください」

黒髪「えーっと……『ほけんしつのべっど』」

黒髪「あ!!」

男「問題はベッドのどこにあるか、ですが……」

黒髪「すごい!君はなんていい子なの!偉いわ!」

男「なんすか、その子供を褒めるみたいな言い方」

黒髪「ふふふ」

男「えーっと、目につかない所に隠してあるはずなので」スッ

黒髪「ベッドの裏とかかしら?」

男「それはないと思います」

黒髪「どうして??」

男「ここのベッドは隙間が狭いので、隠す方も大変ですから」

男「あった」ペリッ

黒髪「ベッドの脚!」

男「はい、じゃあ開けますよ」

黒髪「う、うん」

男「」ピラッ

黒髪「今回は……『さ』!」

男「これで『の』『た』『さ』の三枚になりましたね」

黒髪「ええ」

男「……」

黒髪「これだけではまだ何かわからないわね」

男「そうですね」

黒髪「でも、ありがとう男くん」ニコッ

男「……」

黒髪「この調子で残りもよろしくね!」

男「……」

――旧校舎 3-1

男「では質問に答えてもらいますよ」

黒髪「そんなに真剣な顔して……そんなにえっちなコト聞きたかったの??」

男「茶化さないでください」

黒髪「ふふ、ごめんなさい」

男「ではまず、暗号によって隠された和紙は相当古いモノです」

男「転校生である黒髪さんがなぜ旧校舎の暗号の事を知っているんですか?」

黒髪「……」

男「正直に答えてください」

黒髪「……」

男「……」

黒髪「……」

男「黒髪さん!」

黒髪「ね、男くん……今日も綺麗な夕焼けよ」

男「そうですね……って、話を逸らさないでください」

黒髪「なんで暗号を知ってるか?だっけ?」

男「はい」

黒髪「ごめんね、今は答えたくないの」

男「なぜですか?」

黒髪「今それを教えてしまったら、私はここに居られないような気がして」

男「はい?どういうことですか?」

黒髪「暗号が全て解けたら……正直にお話します」

男「……」

黒髪「約束します。だから……もう少し付き合ってください」ペコ

男「他の人にも協力してもらえばもっと早く解決できるのでは?」

黒髪「ううん、男くんじゃなきゃ駄目なの」

男「え?」

黒髪「男くんと巡り会えたのは、きっと運命だと思うから」

男(悲しそうな顔であんな事を言われたら……何も言い返せなくなってしまう)

男(街で偶然会った“女”って子の事も聞けなかった)

男(全ての暗号を解くか……)

男「ここで解散ですか?」

黒髪「ええ、もう少し残ってから帰るわ」

男「そうですか」

黒髪「また明日ね」

男「明日は土曜日で学校休みですよ?」

黒髪「あ!そ、そっか!」

男「また月曜日ですね」

黒髪「月曜……」

男「はい。そして来週いっぱいで夏休みに入ります」

黒髪「……」

男「それまでに暗号を解かなければ……謎は残ったままココは取り壊されます」

黒髪「うん……」

男「ちゃんと協力しますから、黒髪さんは暗号を忘れずに!」

黒髪「うん……わかった!よろしくね、男くん!」

――校門前

委員長「随分遅いご帰宅だこと」

男「げ……委員長」

委員長「帰宅部の男くんがこの時間までなにを?」

男「……」

委員長「あ、答えなくても分かってるわ」

男「は?」

委員長「旧校舎から出てくる貴方を目撃したのよ」

男「!!」

委員長「この事は担任の先生に報告します」

男「ま、待ってくれ!」

委員長「はい?私は注意したよね?」

男「それはそうだが、理由があるんだ!」

委員長「理由?女子生徒と“逢引”することが?」

男「は?」

委員長「友くんがそう言ってたじゃない!」

男「違う!あれは友の嘘!逢引なんてしてないから!」

委員長「じゃあ一人旧校舎でなにをしてたのよ?」

男「夕焼けを見にいっていただけだ!」

委員長「夕……焼け……?」

男「……」

委員長「ぷふっ……男くんが夕焼けを?」

男「なんだよ、悪いか?」

委員長「いえ……ぷ、くくっ」

男(このまま教師に報告されるのはマズい)

男(なにか、なにか逃れる術は……)

男「そうだ!」

委員長「はい?」

男「委員長も一緒に見ないか?」

委員長「……へ?」キョトン

男「旧校舎から見える夕焼けはすごく綺麗なんだ」

委員長「え、で、でも――」

男「夏休みまで残り少ない、その綺麗な夕焼けを委員長と二人で見たいんだ」

委員長「ええ!?わ、私と……!?」

男「うん、委員長と……ダメか?」

委員長「え?で、でも……二人っきりでなんて……」

男「二人っきり……」

男(黒髪さんのことは……うん、その時考えよう)

男(とりあえず今を切り抜けなきゃ!)

男「月曜日の放課後、俺と一緒に旧校舎に行こう」

委員長「え?え??」

男「いいね、委員長」

委員長「う、うん……///」

男「じゃあまた来週ね」

委員長「わ、わかった……!」

男(よし、これで今すぐ教師に報告されることはないだろう)

男「……」

男(……あれ?)

男(これで良かったのか?)

五日目 土曜日

――朝 男宅

男(黒髪さんと委員長が遭遇したらどうしよう)

男(月曜までに黒髪さんに会って事情を説明できれば……)

男「うーん……そもそも俺って黒髪さんのこと全然知らないんだよなぁ」

ピロン

男「ん、メッセージか」スッ

友『今から会えないかな?』

男(友からお誘いが……特に予定もないし、いいかな)ポチポチ

男『いいよ』

友『じゃあ駅前のファミレス待ち合わせで!』

男『了解』

男「よし、行くか」

――駅前 ファミレス

友「やっほー男!」

男「おー」

友「急に呼び出してごめんね!」

男「いいよ、俺も暇してたし」

友「ならよかった」

男「でもどうした?」

友「実は気になって色々調べたんだよねー」

男「ん?なにを?」

友「男が言ってたセーラー服の先輩のこと」

男「!!」

友「いいか男、驚かないで聞いてくれよ」

男「ああ」コクン

友「いないんだよ」

男「は?」

友「ウチの学校にセーラー服の女子生徒は一人もいないんだ」

男「まじか……」

友「三年にも二年にもいなかったよ」

男「……」

友「つまり男が旧校舎で会ってる人は、ウチの学校の生徒ではないってこと」

男「可能性としては……他校の生徒か、それか――」

友「幽霊」

男「……」

友「……」

男「ははは!いやいや、そんなまさか」

友「……」

友「なぁ男」

男「ん?」

友「旧校舎でセーラー先輩と何をしてるんだ?」

男「なにって……」

男(友になら話してもいいか?)

男(黒髪さんの事を調べてくれたんだ、話すべきだろう)

男「セーラー服の先輩、黒髪さんと俺は……」

友「うん」

男「暗号を解いてる」

友「…………は?」

男「黒髪さんが解こうとしてる暗号を手伝ってるんだ」

友「……いや、意味がわからない!」

男「ってわけだ」

友「なるほど、旧校舎の六つの暗号ねぇ……」

男「ちなみに残り三つだ」

友「黒髪さん、だっけ?」

男「うん」

友「男から見て怪しいところはないの?」

男「あー……むしろ怪しいところだらけというか……なんというか」

友「ええ!?」

男「まず一つ、旧校舎の床は軋むのに足音がしない」

友「……」

男「次に、物に触れているのを見たことがない」

友「……」

男「更に、旧校舎から出ようとしない」

友「……」

男「……」

友「それ確定じゃん!!」

男「でも悪い人ではないんだ」

友「……」

男「幽霊……にしてはハッキリしすぎてるし」

友「いや!」

男「え?」

友「過去に旧校舎で亡くなった女生徒の幽霊!」

男「……」

友「未練を残して彷徨っているところに男と遭遇したんだよ!」

男「んー……」

友「間違いないって!」

男「なんなら友も来て確認する?」

友「は?嫌だ!!ムリムリ!!」

男「別に怖くないよ?」

友「俺マジでそういのムリなんだよ!!」

男「でも」

友「あー!もう俺帰るね!じゃあな男っ!!」

男「ええ……」

六日目 日曜日

――昼 市街地

男「ここは……」

男「総合病院……か。結構歩いたな」

男(散歩がてらに黒髪さんの事を考えてたらこんな所にまできてしまった)

男「帰りはバスでも――」

男「ん?」

男(病院の自動ドアから見覚えのある人が……)

女「え!?」

男「あ……ども」ペコ

女「な、なんでここに!?」

男「え?」

女「なんでここにいるの!?」

男「えと……散歩してた」

女「……」

男「?」

女「ちょっと来て下さい」

男「えぇぇ!?」

――公園 ベンチ

男(黒髪さんに似てる“女”って子に連れられて)

男(何故か並んでベンチに腰掛けている)

男(なんだこの状況)

女「初めてまして……ではないですよね」

男「あ、はい」

女「私は“女”っていいます」

男「あ、俺は“男”です」

女「男!?ウソ……そんなことって……」

男(ん??なんだその反応)

女「むむ……」ジロジロ

男「な、なんですか?」

女「いえ……」

男(本当なんなんだ!?)

男「えー、女さんはどうしてここにいるんですか?」

女「あの!私の方が年下なので敬語じゃなくていいです!」

男「あ、うん」

女「“さん”もやめてください」

男「わかった。じゃあ女ちゃん……どうしてここに?」

女「……答えたくないです」

男「じゃあ質問を変えるね。どうして俺の方が年上ってわかったの?」

女「そ、それは……」

男「……」

女「あ!制服!!」

男「へ?」

女「前に道であった時、あそこの高校の制服だったから……」

男「……」

女「私は中学生なので年上だと思ったんです」

男(後から取ってつけたような言い方だ……気になるな)

男「女ちゃんは中学生なんだ?」

女「はい。中学三年で男さんの一つ下です!」

男「あれ……どうして俺が高校一年って知ってるの?」

女「う……」

男「……」

女「ネ、ネクタイの色……?」

男(たしかに学年毎にネクタイの色は違うけど)

男(そんなに自信なさそうに言われたらなぁ)

男「まぁいいけど……」

女「男さん……前に会った時、“黒髪さん”と知り合いかどうか聞いてきましたよね?」

男「え!?うん、そうだけど……まさか知り合いなの!?」

女「そ、それは……」

男「……」

女「はい」コクン

男「!!!」

男「女ちゃん!黒髪さんについて聞きたいことがあるんだ!」

女「はい?」

男「彼女は実在するのか!?」

女「は、はい、実在してますけど……」

男「生きてる人間ってこと?」

女「当たり前じゃないですか!失礼ですね!」

男「ご、ごめん」

男(あれ?だとしたら……それはそれで疑問が……)

女「男さん!私からも色々質問したいのですが」

男「ん?」

女「男さんは、えと、黒髪さんとどうやって知り合ったんですか……?」

男「ああ。それは――」

男(女ちゃんは黒髪さんの知り合いだ)

男(今までの経緯を説明しておこう)

男(もちろん幽霊云々は置いておいて)

男「ってわけなんだ」

女「…………」

男「あれ?女ちゃん?」

女「…………」

男(驚いたような顔で固まってるぞ)

男(なんだ?……本当に黒髪さんと知り合いなのか?)

女「そう……だったんですね……」

男「女ちゃん、疑うわけではないんだけど……本当に黒髪さんと知り合いなのか?」

女「はい……」

男「詳しくはどういった関係で?」

女「……」

男「……」

女「ごめんなさい……私もまだ頭が混乱してて……」

男「え……?それってどういうこと?」

女「ごめんなさい、失礼します」タタタタタ

男「ええええ!?」

――夜 男宅

男「あーわけわかんねー」ゴロン

男「情報を整理しよう」

男(黒髪さんは旧校舎に現れる自称高校三年生のウチの生徒で、旧校舎にある六つの暗号に挑んでいる)

男(しかし友によって、黒髪さんはウチの学校の生徒ではないことが判明した)

男(そして俺の感じた疑問から“幽霊”疑惑が浮上するも……)

男(黒髪さんと知り合いである女ちゃんによって、それも否定される……と)

男「……」

男「あー、わっかんねーなー!」

男「暗号なんかより、よほど難解だぞこれ!」

男「女ちゃんにしてもよく分からない」

男「病院に居たってことはどこか調子でも……」

男「……あれ?」

男「待てよ……今日は日曜だろ」

男「一般外来は休診のはず……まさか……!!」

男「入院患者との面会……!?」

男(女ちゃんは黒髪さんの面会の為に病院に訪れていた)

男(それなら女ちゃんが俺のことを知っている理由に説明がつく)

男(そうなると黒髪さんは病院から抜け出して旧校舎に?)

男(そんな事が可能なのか?)

男「すべての情報と照らし合わせると……それしかないよなぁ」

前半終了でキリがいいので本日はここまでです
暇つぶしに読んで頂ければ幸いです

七日目 月曜日
――教室

友「なぁ今日も旧校舎に行くつもりか?」

男「ああ、もちろん」

友「お前なぁ……呪われてもしらんぞ!」

男「黒髪さんの事もあるけど、暗号についても気になるし」

友「暗号ねぇ」

男「それに今日は委員長とも行く約束をしてるんだ」

友「委員長!?なんで!!?」

男「色々あるんだよ」

友「はあ?」

――放課後 旧校舎

委員長「なるほど、男くんはここから侵入しているのね」

男「うん」

委員長「でも……夕焼けまでまだ時間があるようだけど……」

男「いつもは読書して時間を過ごしてるんだよ」

委員長「読書……?なにもこんな不気味な場所でしなくても……」

男「じゃあ入るよ」

委員長「う、うん……」ビクビク

男(黒髪さんは……いた!!)

黒髪「あ!男くん……ってあれ?今日はお友達も一緒?」

男「やあ黒髪さん。彼女は委員長、俺のクラスメイトです」

委員長「え?え?え?」

黒髪「クラスメイトかー、女の子を連れてくるなんて……君もなかなかやるねぇ」ニヤニヤ

男「いやいや、そういうのじゃないですから」

黒髪「ふふ、ほんとうに?」

男「委員長にも紹介するね、彼女は黒髪さんといって――」

委員長「お、男くん……!!」

男「はい?」

委員長「あ、あなたは一体……だ、だれと話しているの??」

男「え」

委員長「な、なによこれ……気味が悪いわ……!!」

黒髪「…………」

男「何言ってんだよ委員長!そこにセーラー服の女の人がいるだろ?」

委員長「そ、そんな人いないわ!!」

男「!!!」

委員長「わ、私は帰ります!!」

男「待って!まさか先生に報告するつもりか!?」

委員長「当たり前じゃない!!」

男(まずい!このままじゃ!!)

黒髪「男くん、『もし報告するようなら貴女を呪うわ』と伝えてくれるかしら?」

男「ええっ!?」

男「委員長……」

委員長「な、なに!?」

男「黒髪さんが『報告するようなら貴女を呪う』って言ってる」

委員長「!!!?」

黒髪「……」スー

男(え?黒髪さんが委員長に近付いて)

黒髪「……」サワッ

男(首筋を撫でた!?)

委員長「ひぃぃ!!」ゾクゾク

男「今、黒髪さんが委員長の隣に……」

委員長「い、いやぁぁぁぁぁ!!」タタタタタ

男「……」ポカーン

黒髪「ふふ、大成功っ!」

男「ええぇぇ……」

男「突っ込みどころが多過ぎて何がなんだか……」

黒髪「ほんと不思議な事もあるのねぇ」

男「いやいや!元凶は黒髪さんですから!」

黒髪「ま、これで彼女が報告することはないんじゃないかしら」

男「まぁ……そうでしょうね」

黒髪「色々と聞きたいことがあるよね?」

男「はい」

黒髪「先に暗号を解いてからでいいかしら?」

男「え?で、でも……」

黒髪「お願い、時間がないの」

男「わかりました」

黒髪「ありがとう!!」

男「そのかわり!今日の暗号が解けたら今度こそ俺の質問に答えてください!」

黒髪「ええ。約束するわ」

男「それで暗号は?」

黒髪「『ようたときんたのついすとのうちら』」

男「……」

黒髪「それとたしか……狸のイラストが横に書いてあったわ」

男「狸……ああ、この暗号は簡単ですね」

黒髪「ええ!?本当に!?」

男「“た”を抜けばいいんです。タヌキなので」

黒髪「えーっと……『ようときんのついすとのうちら』??」

男「んー……タ行を抜いてみましょうか」

黒髪「う、うん……『ようきんのいすのうら』」

男「ようきんの椅子の裏……ようきんってなんだ?」

黒髪「洋琴……ピアノの事だわ!」

男「ピアノって洋琴っていうのか……初めて知った」

黒髪「ふっふーん」ドヤァ

男「いや、そんな誇らしげな顔されても……」

――旧校舎 音楽室

男「あったあった」ペリッ

黒髪「いえーい!今回は楽勝だったね!」

男「えーっと、『し』です」ヒラヒラ

黒髪「『し』かぁ……これで四枚だよね?」

男「『の・た・さ・し』です」

黒髪「あと二枚だけど……全部見つけなきゃ分からないかなぁ……」

男「そうですね、でもこの調子ならすぐ見つかりますよ」

黒髪「うん。それもこれも全部男くんのおかげよ、本当にありがとう」ペコリ

男「じゃあ聞かせてもらえますか?」

黒髪「うん」

男「ではまず、黒髪さん自身の事を聞かせてください」

黒髪「いつもの教室行かない?そこで話したいの」

男「……わかりました」

――旧校舎 3-1

男「じゃあお願いします」

黒髪「……」

男「アナタは一体何者なんですか?」

黒髪「……」

男「初めて会った時、アナタは自分で死んでないと言ってました」

黒髪「うん」

男「でも今のアナタはまるで……幽霊のようです」

黒髪「……」

男「聞かせてください」

黒髪「ええ」

黒髪「私は……私の本体は、街の総合病院で入院しているの」

男(やっぱり!!でも本体ってなんだ?)

黒髪「つまり私は生き霊?ってことになるのかな?多分、今の私はそんな感じの存在」

男「い、生き霊……!?」

黒髪「うん」

男「なぜ旧校舎の暗号を知っていたんですか?」

黒髪「……」

男「なぜ暗号を解きたいんですか?」

黒髪「……」

男「教えてください」

黒髪「それは……」スーー

男「!?」

黒髪「あ、あれ?意識が……!?」スー

男(意識?って、黒髪さんが透けていってる!?)

黒髪「あ!男くん……!」サー

シーーン

男「あ、あれ?」

男「黒髪さん!?」キョロキョロ

男「そんな……まさか……」

男「消え、た……?」

八日目 火曜日

――教室

男(昨日、黒髪さんが目の前で突然消えた)

男(生き霊だとかオカルトな話は一切信じてないけど)

男(目の前でそれが起きたら信じないわけにはいかないっつーか……)

男(他にもまだ疑問はあるんだ)

男(暗号も残り二つ。今日の暗号を解いたらまた黒髪さんに話を聞こう)

男(てか黒髪さんいるよな?)

男(まさかこのまま……)

――放課後 旧校舎 3-1

男「あれ?」

男「黒髪さーん!」

男「まさか……」

男「いや、どこかに行ってるの可能性も……」

男「夏休みまで残り少ないのに……このままじゃ暗号が……」

男「とにかく、探してみるか」

――――
――

男「ダメだ……どこにもいない」

男「本当にこのまま二度と現れないのか?」

男「……そんなこと……ない、よな?」

――帰り道

男「……」トボトボ

男「……」トボトボ

「――さん」

男「……」トボトボ

女「男さんってば!」

男「あ……れ?君は……女ちゃん?」


女「男さんに大事なお話があって、ここで待ってました」

男「大事な話……まさか黒髪さんのこと!?」

女「はい」

男「昨日は一緒にいたんだ……でも生き霊だって聞かされて、目の前で突然消えて」

女「……」

男「今日は旧校舎にも現れなかった……」

女「……」

男「女ちゃんは黒髪さんの事を知ってるんだよね?」

女「はい。私の知ってる全てをお話します」

男「全てを?」

女「なので少しお時間よろしいですか?」

男「あ、ああ」

――女宅 玄関前

女『すぐ戻ります、ここで待っててください』

男「とは言われたものの……」

男「まさか女ちゃんの自宅前で待たされるとは」

ガチャ

女「お待たせしました、どうぞお入りください」

男「え……?」

女「リビングでお話しします」

男「で、でも」

女「親は病院にいるので心配しなくても大丈夫ですよ」

男「病院に?」

女「それを含めてお話します」

男「わかった」

――女宅 リビング

女「どうぞソファに」

男「う、うん」

女「お茶です」

男「ありがとう……」

女「……」

男「それで話っていうのは?」

女「はい。まずは」

男「……」

女「これを見てもらえますか?」スッ

男「これは……」

女「家族写真です」

男「家族……写真?」

女「どうぞ」

男「まさか……この中に黒髪さんも写ってるのか?」

女「はい」コクリ

男「でも一人っ子だって……」

女「まずは見てください」

男「あ、ああ」

男(女ちゃん・両親・祖母の四人で写った写真だ)

男(黒髪さんの姿はない)

男「これのどこに黒髪さんが?」

女「……ここです」ピタッ

男「…………は?」

女「黒髪は……私の祖母の名前です」

男「…………」ポカーン

女「つまり男さんは旧校舎で私の祖母と会っていたんです」

男「え……?」

男「ええぇぇぇぇぇぇ!!!?」

男「……」

女「信じられませんよね?」

男「……」

女「入院中の祖母から男さんの話はよく聞いてました」

男「……」

女「私はてっきり変な夢でも見ているんだろうなぁって思ってたんですが……」

男「……」

女「実際に祖母の事を知る男さんが目の前に現れて……すごく驚きました」

男「……」

女「それから病院前で男さんの話を聞いて、さらに祖母に詳しい話を聞き確信したのです」

男「……」

女「祖母の話は本当なのだと」

男「……」

女「って聞いてますか!?」

男「女ちゃんのお祖母さんだったのか……」

女「はい」

男「そう考えると色々と辻褄が合うんだよな」

女「……」

男「それにしても驚いた……だって、ねぇ……」

女「本当に私もビックリですよ……信じられません」

男「ああ、本当に信じられない……」

女「いい情報を教えてあげましょうか?」

男「いい情報?」

女「祖母曰く、学生時代に恋をしてた人に似てるらしいですよ」

男「へ?誰が?」

女「男さんが、です」

男「マジっすか……」

女「どう?嬉しいですか??」ニヤニヤ

男「いやぁ……うん、ありがたいけど複雑です……」

女「ふふふ」

男「でもなんで昨日はいきなり消えてしまったんだ?」

女「それは……恐らく容態が悪化したからだと思います」

男「容態が!?嘘、だろ……」

女「私も昨日、親から電話で聞かされました」

男「!」

男「だから親は病院にいるって言ってたのか」

女「はい、何かあった時のために泊まり込みで病室にいます」

男「……」

女「男さん、お願いします!」

男「え?」

女「祖母が……おばあちゃんが生きているうちに暗号を全て解いてください!!」

男「それはもちろん、そのつもりだけど肝心な暗号が……」

女「次の暗号の事はおばあちゃんから事前に聞いてます!」

男「へ?それなら教えてくれたらすぐにでも!」

ヴーン ヴーン ヴーン ヴーン

女「あ、お母さんから電話が……」

男「ああ、どうぞ」

女「本当に!?よかったぁ……」

男「……」

女「うん。うん、わかった」

男「……」

女「はーい」ピッ

男「なんだって?」

女「おばあちゃんの容態、落ち着いたって!」

男「おお!よかった!」

女「なのでお母さん達はこれから帰ってくるみたいです!」

男「え?じゃあ俺がここにいたらマズイのでは?」

女「はい、私から家に上げて申し訳ないんですが」

男「ううん、貴重な話を聞けてよかったよ。すぐ帰るから」

女「あ!連絡先を交換しませんか?」

男「連絡先を?……そうだな。暗号のやりとりも出来るし、その方がいいね」

――男宅 自室

男「えーっと」

男(黒髪さんは女ちゃんの祖母で、俺が会ってたのは若い頃の黒髪さんで……)

男(つまりあの暗号は……黒髪さんが学生時代の頃のやつってことか)

男「……」

男(なんで黒髪さんはその暗号を解きたがってるんだ?)

男(生き霊になってまで未練があるって事なのか?)

男(女ちゃんは何か知ってんのかなぁ)

男「あー……頭が、パンクしそうだ……」ゴロン

男「……」ウトウト

男「女、ちゃんから……あん、ごうを……zzz」

九日目 水曜日

――教室

男(女ちゃんから暗号は送られてこなかった)

男(早く解いてって言ってたくせにどういうつもりだ?)

男(今日は旧校舎に黒髪さんは来るのかな)

男(容態は安定したっていってたから……もしかしたら)

友「男!」

男「ん?どうした?」

友「委員長に旧校舎の話をしたらブルブル震えだしたんだけど何があったんだ!?」

男「あーそれは……」

友「それは?」

男「幽霊と遭遇したから、かな」

友「ゆ、幽霊!?や、やっぱりそうなの!?」

男「うん」

友「うん、ってお前……」

男「あ、そうだ!」

友「ん?」

男「昔の卒アルって学校に保存してないかな?」

友「昔って、どれくらい?」

男「んー……六十年くらい前……かな?」

友「六十年!?てかその時代に卒アルなんて存在してるの!?」

男「いや、わからないけど」

友「昔の写真かぁ……ちょっと調べてみるわ」

男「おお!色々と悪いな!」

友「いんや、単純に昔の学校がどんなんだったか俺も気になるし」

男「もし見つけたらすぐに連絡してほしいんだけど」

友「はは、了解!」

男「頼んだ」

友「おう!」

――昼休み

男(女ちゃんからメッセージが届いたが……)


女『暗号は直接会って教えます!』

男『直接って……まさか旧校舎にくるつもり!?』

女『はい!』

男『ウチの生徒でもないのにどうやって……』

女『裏門がありますよね?』

男『あるけど……常時閉まってるよ』

女『むしろ好都合です!』

男『女ちゃん……暗号さえ教えてくれれば俺がなんとかするから』

女『放課後、裏門で待っててください♪』

男「……」

男「なんてこった……」

――放課後 裏門

女「よいしょっ!」スタッ

男「はぁ……」

女「早く旧校舎に向かいましょう!」

男「ああ、裏門からならすぐだから……こっちにだよ」

女「はいっ!」


――旧校舎 入り口

男「ここまできたら一安心かな」

女「へー……雰囲気ありますねぇ」

男「どうしてこんな無茶を!?」

女「だって……おばあちゃんの事だもん。私も力になりたいです」

男「……」

女「それに若い頃のおばあちゃんに会えるかもしれないし!」ワクワク

男「黒髪さんがいればね」

女「んー、楽しみだなぁー!!」

男「結局それが目的か……」

女「うんっ!」

――旧校舎 3-1

男(あれは……黒髪さん……!また会えた!)

男(窓の外を眺めててこっちには気付てないみたいだけど)

女「……」

男「女ちゃん、見える?あそこに黒髪さんがいるよ」

女「……あれが……おばあちゃん?」

男「よかった、ちゃんと見えるんだ」

黒髪「?」クルッ

男「!!」

黒髪「あら?あらあら?」

女「あっ!」

黒髪「女ちゃんも来たのね」ニコッ

女「ほ、本当に若い……」

黒髪「でしょ?ふふ」

女「わぁ……」

黒髪「どうどう?可愛い?」

女「すっごく可愛いし、すっごく美人!!」

黒髪「ふふふ、女ちゃんもとても可愛いよ」ナデナデ

スカッ

女「あ……」

黒髪「あー、触れないの忘れてた」

男「じゃあ暗くなる前に暗号を解いてしまいましょう」

黒髪「そうね」

女「おばあちゃんから聞いた暗号をメモで書いてきました!」スッ

男「それは助かる」

男「どれどれ……」

『えきざゅいねテバヨねいう』

男「……」

黒髪「これはさっぱり分からないのよねぇ」

男「これはって、黒髪さんはどの暗号もさっぱりじゃないですか」

黒髪「ががーん」

男「だからそれ古いですって」

女「ちょっと男さん!おばあちゃんに冷たくないですか!?」

男「え?」

黒髪「そうなのよ、いつもこんな調子で……」シクシク

女「おばあちゃん……可哀想……」

男「はいはい、嘘泣きはやめましょう」

女「でもこの暗号難しくないですか?」

男「……」

女「男さんはどんな暗号でも簡単に解いちゃうっておばあちゃんが言ってたけど」

男「……」

女「これは流石に――」

黒髪「しー」

女「え?」

黒髪「男くんは今、考え中だから」

女「う、うん」

男「……」

黒髪「……」ジー

女「あ、そっか……真剣な表情が似てるって前に言ってたよね」ヒソヒソ

黒髪「そうなの、カッコいいでしょ?」ヒソヒソ

女「えー、カッコいいかなぁ……?」

男「……」

女「……」ジー

黒髪「ふふっ」

男「……」

黒髪「……」ジー

女「……」ジー

男「……」

黒髪「……」ジー

女「……」ジー

男「あの……」

男「なんで二人してこっちを見てるんですか?」

黒髪「ふふ、私たちの事は気にしないで」

女「そうです!早く解いてください!」

男「もう解けました」

女「嘘っ!?」

黒髪「ね、男くんは凄いでしょ?」

男「黒髪さん、屋上まで案内してください」

黒髪「え?屋上?」

男「はい」

女「男さん」クイクイ

男「ん?」

女「暗号ってどうやって解いたんですか?」

男「あー、この暗号は一文字ズラして作られてるんだ」

女「一文字ズラして……?」

男「うん」

黒髪「どういうこと??」

男「まずこれが暗号の書かれたメモね」スッ

『えきざゅいねテバヨねいう』

男「で、これを五十音順に一文字づつズラすと……」カキカキ

『おくじょうのトビラのうえ』

男「と、なる」

女「おおー!」

黒髪「おおー!」

男「そういうわけで、屋上まで案内してください」

――旧校舎 屋上前

女「な、なんだか薄暗いですね」

男「外からの光がほとんど当たらない場所だからね」

黒髪「お化けがでそうで怖いわ……」

男「黒髪さんも似たようなモノじゃないですか」

黒髪「たしかに!えへへ……///」

男「今の照れる要素ありました?」

女「わぁ……」

黒髪「ん?女ちゃんどうしたの?」

女「男さんと若いおばあちゃんが仲良くしてるのってなんだか不思議だなぁ……って」

黒髪「ふふ、羨ましい?」

女「うん!私も若いおばあちゃんと仲良くなりたい!」

黒髪「!!」

黒髪「ね、ね、今の聞いた男くん!?」

男「はい?」

黒髪「可愛いでしょ、私の孫!!」

男「そうっすね」

黒髪「女ちゃんはね、とっても優しい自慢の孫なのよ」

女「だって私おばあちゃんのこと大好きだもん!」

黒髪「女ちゃん……私も大好きよ」ウルッ

女「おばあちゃん……」ウルッ

男「このトビラ……鍵が閉まってたらアウトだな……」ブツブツ

女「え……?」

男「いや、待てよ……職員室に鍵が保管してあるはず……でも使われてない旧校舎だしな……」ブツブツ

女「……」

男「いや、まずは開くかどうかの確認から――」

ガチャ

女「開きましたけど」

男「おお!よかった!」

女「ていうか!今とても感動的な雰囲気だったのに!」

黒髪「男くんはそういうところがあるのよねぇ」

男「ええぇぇ……」

――旧校舎 3-1

男「五枚目は『ら』です」

黒髪「これでついに残り一枚ね」

男「今まで見つけた順に並べると……」ササッ

男「『の・た・さ・し・ら』ですね」

黒髪「うーん、なんだろう?」

男「……」

女「あっ!!こ、これは!」

黒髪「え!?何かわかったの!?」

女「これって並び替えると『したのさら』もしくは『さらのした』になるよね!?」

男「……」

黒髪「本当だ……!」

女「『下の皿』じゃ変だから、『皿の下』かな?」

黒髪「皿の下?お皿のことかな?」

女「うん!きっとそうだよ!」

男「いや……まだ一枚残ってるんだ。決めつけるのは早いと思う」

女「で、でも!六枚のうち五枚は見つけたんです!」

女「ある程度の文章にはなるはず……!」

男「そこに一文字加わることで意味が大きく変わるから、文字の並び替えは全て揃ってから行うべきだよ」

女「うう、でも……」

黒髪「女ちゃん、ありがとう」

女「え?」

黒髪「私のために必死になってくれて……それだけで胸がいっぱいだよ」

女「おばあちゃん……」

男「黒髪さん、夏休みまでのタイムリミットは明後日の放課後までです」

男「今日を除くと残り二日しかない」

黒髪「残り二日……」

男「最後の暗号、もし分かるなら教えてください」

黒髪「……」

男「……」

黒髪「ごめんなさい……思い出せない」シュン

男「そうですか……」

黒髪「ごめんなさい……」

男「いえ……暗号は残り一つなので明日までに思い出してくれれば大丈夫です」

黒髪「明日……か」

女「わぁ……綺麗……!」

男「え?」

女「おばあちゃんの言ってた夕焼けってこの事だよね?」

黒髪「ええ、そうよ」

女「すごい……街も見渡せるし、すごく綺麗な景色……」

男「うん、この景色を見るために俺はここに通ってたんだ」

女「通いたくなる気持ちわかります!」

黒髪「…………」

女「――!」ニコニコ
男「――」

黒髪「男くんと女ちゃん……」

黒髪「まるで……」ジワッ

黒髪「……」ポロ

女「あれ?おばあちゃん?」クルッ

男(え?黒髪さんが……泣いてる?)

女「どうしたの!?大丈夫!?」

黒髪「いえ、違うの、これは……ただ懐かしくて」ゴシゴシ

男「懐かしい?」

黒髪「ええ……昔ね、よく“あの人”とここから夕焼けを眺めていたの」

男「あの人……」

黒髪「二人を見ていたらそれを思い出しちゃって」

女「おばあちゃん……」

黒髪「ふふ、歳を重ねると涙脆くなってだめね」

男(初めて会った頃に泣いてたのはそういう理由があったからか)

男(似ている俺に当時の面影を重ねたんだろう)

男「黒髪さん」

黒髪「はい?」

男「この和紙に書かれた文字は、黒髪さんに向けて書かれたメッセージですか?」

黒髪「ええ、そうよ」

男「やはりそうでしたか」

黒髪「転校する“あの人”にもらった手紙なの」

女「転校?おばあちゃんの好きな人って転校していなくなっちゃったの?」

黒髪「ええ」

男「その手紙がなぜこんな事に?」

黒髪「“あの人”はとても奥手な人でね、手紙も手渡しじゃなく机にそっと置かれていて……」

黒髪「それを私より先に同級生に見つかっちゃって、手紙の一部を切り取って隠されてしまったのよ」

男「ああ、それで暗号なのか……」

女「“あの人”も直接おばあちゃんに渡せばよかったのに」

黒髪「ふふ、本当にね。でもそれが“あの人”らしいというか……ふふっ」

男「それにしても、人の手紙に悪戯するなんて随分と悪趣味な」

黒髪「私と“あの人”の事が気に食わない男子がいてね」

女「ええー最っ低!その男子、絶対おばあちゃんの事を好きだったんだよ、そうに決まってる!」

男「ちなみにですが、“あの人”というのは後の旦那さんですか?」

黒髪「いいえ、違うわ」

男「そうですか……」

男「てか、女ちゃんはこの話を聞いて複雑じゃないの?」

女「へ?なぜです?」

男「今の状況は黒髪さんの過去の恋愛が絡みなわけで、孫の君からしたら複雑な気分じゃない?」

女「えー!素敵じゃないですか!それはそれ、これはこれ、です!」

男「そういうもんなのか……?」

女「そういうもんです!」

黒髪「ふふ、きっと叶わなかったからこそ私の中で美化されてしまった部分もあるのよ」

黒髪「だからこそずっと気になってしまっていてね」

男「……」

黒髪「二人とも、本当にありがとう」ペコ

女「え?」

黒髪「特に男くんには感謝してもしきれないわ」

男「突然どうしたんです?」

黒髪「多分、私がここに居られるのは今日で最後だと思う」

男「!?」

女「!!」

黒髪「なんとなくね、分かっちゃうのよ」

女「そ、そんな!だってまだ全部解いてないんだよ!?」

黒髪「女ちゃん、自宅にある私の引き出しを調べてみて」

女「え……?」

黒髪「暗号のメモはそこにあるはずだから」

女「なんで……そんなこと言うの……?」ジワッ

黒髪「ごめんね、女ちゃん」

男「黒髪さん……その……」

黒髪「ほら、男くんもそんな顔しないで」

男「……」

黒髪「私ね、こうやって男くんに会えて本当によかったと思ってるの」スー

男「え、黒髪さん!?」

女「嘘!?消えかけてる……!」

黒髪「大丈夫よ、この状態で会えなくなるだけだから」

女「おばあちゃん……」

男「意識を保てなくなってるって事ですか?」

黒髪「…………」

女「そんな……!」ポロ

黒髪「泣かないで女ちゃん」

女「ううぅぅ」ポロポロ

黒髪「男くん、後の事はお願いしていいかしら?」

男「わかりました。全ての暗号を解いて黒髪さんに直接伝えに行きます」

黒髪「えー、男くんに年老いた姿を見られるのは嫌だなー」

男「ダメです」

黒髪「むー」

男「なので約束してください」

黒髪「約束?」

男「全てが解決したら会いに行きます。だから……必ず待っていてください」

黒髪「男くん……」

男「お願いします」ペコ

黒髪「ふふ、わかった。待ってるね」

女「うう……」ポロポロ

黒髪「女ちゃんにも今日ここで会えてよかった……また病院でね――」サー

女「!!?」

男「……」

――帰り道

女「うん……うん……わかった……」

男「……」

女「……」ピッ

男「お母さんはなんて?」

女「病院から呼び出されたから行ってくるって……」

男「……」

女「おばあちゃん……大丈夫かな……?」ジワッ

男「それは……」

男(一昨日、黒髪さんが消えた時も容態が悪くなったからだ。今回もきっと……)

女「ねぇ、男さん……グスッ……大丈夫だよね?」

男「さっき……黒髪さんは……」

男「『この状態で会えなくなるだけ』と言っていた」

女「ぐすっ……うん……」

男「大丈夫とは言い切れないけど、黒髪さんの言葉を信じよう」

女「…………」

男「それに俺らにはやるべき事がある。そうだろ?」

女「うん……」

――夜 男宅

男「もしもし」

女『男さん!ありました!』

男「あったって……もしかして……」

女『はい!暗号です!!』

男「おお!」

女『今までの暗号もちゃんと書いてあるのでこれで間違いないと思います!』

男「さっそくだけど最後の暗号を教えてくれないか?」

女『それが……その……』

男「?」

女『口で説明するのが難しいので、画像を送ります』

男「うん、わかった」

ピロン

男「きたか……どれどれ」ピッ

男「ん……?」

男(太陽と蝶々の絵が書かれている……だけ?)

男(いや、本来ならそれ以外も何か書かれていたはずだが、文字が滲んでわからない状態になっている)

男(紙が不自然に皺になっているから、水か何かを溢してしまったんだろう)

男「手がかりはこの蝶々の絵だけ……か」

男「……」

男「太陽の下を飛んでいる蝶々……」

男「……」

十日目 木曜日

――教室

ザー ザー

男(まいったな……)

男(天気予報によると今日は一日雨だ)

男(天気が悪い日の旧校舎は……暗くて怖いから極力近付かないようにしてたが……)

男(そんな事も言ってられないよな、タイムリミットは明日だし)

男(それに黒髪さんの容態も気になる)

友「男!」

男「ん?」

友「この前の件だけどさ」

男(この前……卒アルのことか?)

友「昔の写真はいくつか発見したんだけど、卒アルは難しいかもしれない」

男「ああ……そっか」

友「役立てなくてごめんよ」

男「いや……調べてくれてありがとう、友」

――昼休み

ピロン

女『いよいよ今日で最後の暗号が解けますね!』

男(女ちゃんからのメッセージだ)

男『うん。後はなんとかするから、女ちゃんは黒髪さんの側にいてあげて』

女『イヤです!』

男『でも今日は雨だし』

女『暗号を解いて一緒に病院に行きましょう?』

男『わかった。でも本当にそれでいいの?』

女『もちろんです!それがおばあちゃんの願いですから!』

男『じゃあまた放課後』

女『はい!裏門で待っててくださいね』

――放課後 旧校舎前

女「な、なんていうか……あ、雨だとより一層雰囲気がありますね……」ジー

男「ああ。旧校舎の中はもっと凄いよ」

女「ええ!?」

男「電気が通ってないから薄暗いんだ。場所によっては真っ暗だし」

女「ふぇ!?」

男「おまけに懐中電灯も携帯のライトも使えない。バレる可能性があるからね」

女「……うう……そんなぁ……」

男「正直、俺一人じゃ心細かったから女ちゃんが来てくれて助かったよ」

女「ど、どうしてそれを早く言ってくれなかったんですか!?」

男「え?それを分かってて来たんじゃないの?」

女「そこまで深く考えてなかったです!」

男「暗号はもう解けてるんだ、すぐに済ませちゃおう」

女「は、はい」

――旧校舎 廊下

男「……」ギシギシ

女「ひっ!」ビクビク

男「……」ギシギシ

女「ひゃぅ!」ビクビク

男「大丈夫?」ギシ

女「は、はい」

ヒュー ガタガタ

女「ひぃぃぃ!!」ストン

男「……」

女「な、なんですか今の音は……」ビクビク

男「ただの風だよ。建て付けが悪いから物音がしただけで」

女「ううぅぅ……」

男「さ、行こう」

女「お、男さん……立てない……」

男「え?」

女「うう……」ギュッ

男(腕にしがみつかれてしまった……)

女「お、男さんはよく平然としてられますね」ビクビク

男「たしかに……意外と平気かも。俺以上に怖がってる人がいるからかな?」

女「むー」

男(あ、この表情……黒髪さんにそっくりだな)

女「で、でも……こうしてると少し落ち着きます」ギュッ

男「そ、そっか、なら良かった」

女「暗号は解けたんですよね?」

男「うん。太陽と蝶々の絵でしょ?」

女「はい」

男「太陽の光を浴びる蝶々、つまり光蝶」

女「こうちょう……あ!!」

男「うん、校長室にあると思うんだ」

女「校長室……」

男「でも残りの暗号が滲んで見えないから隅々まで探す事になる。そして恐らく校長室は……」

女「こ、校長室は?」

男「今日の天気だと真っ暗だと思うから覚悟しておいて」

女「ひぃぃぃ!」ギュッッッ

――旧校舎 校長室

男「いい?開けるよ?」

女「は、はい……」ギュッ

ガチャ

男「!!」

女「う、嘘……空っぽ……」

男「物が……何もない……」

女「ま、まさかメモごと捨てられちゃったの?」

男「その可能性はかなり高い……トビラには……」ゴソゴゾ

女「……」

男「何もない……」

女「そ、そんな……あと一枚だったのに……」

男「とりあえず中を調べてみよう」

女「う、うん……」

男「調べるまでもなく何もないな……」

女「……」

男「いや待てよ、蝶々の絵は校長室じゃなかった可能性も……」

女「あれ?」

男「太陽……蝶……」

女「男さん、少しだけ足元を照らしてもいいですか?」クイクイ

男「ん?まぁ足元ならいいよ」

女「……」スッ

ピカッ

男「?」

女「ねぇ男さん、これって……」

男「これは……」ペリッ

女「やっぱり!」

男「凄い!よく気が付いたね!」

女「えへへ~、お役に立てて良かったです」

男「あれ」カサッ

女「?」

男(なんだこの違和感は……)

女「と、とりあえず明るいところに移動しませんか?」ギュッ

男「そうだね」

――ファミレス

男「……」

女「じゃあ最後の紙を確認しましょう!」

男「ああ」スッ

女「あれ?この紙は……」

男「そうなんだ、これは“和紙”じゃない」

女「どうして……?まさか間違ってたの?」

男「わからない……けど床に貼り付けてあったことにも違和感がある」

女「……」

男「今まで隠してあった和紙とは違い、この紙が貼り付けてあった場所は元々何も置かれていない場所だった」

男「これじゃあまるで『見つけて下さい』と言ってるようなもんだ」

女「とりあえず中身を確認してみませんか?」

男「うん」

女「これは……『へ』?『く』?」

男「『く』……じゃないかな」

女「これで……全部揃いました、よね?」

男「ああ、釈然としないけどそう考えるしかない。じゃあ並べてみるね」ササッ

女「『の・た・さ・し・ら・く』」

男「これは……」

女「う~ここから更に並び替えですか……」

男「……」

女「これじゃあ六つの暗号というより七つの暗号だよぉ」

男「いや、女ちゃんがある程度解いてくれたから並び替えは苦労しなくて済みそうだよ」

女「え?」

男「これはきっと『さくらのした』だ」

女「さくらのした……桜の下!?」

男「ああ」

男「昨日『皿の下』って言ってたのがヒントになったよ」

女「わぁ……今日の私、役立ちまくってますね!」

男「うん、女ちゃんのおかげだよ」

女「ふひひ」ニコニコ

男「桜の木か……グラウンドの近くに一本あるな……」

女「きっとそこです!掘り起こしましょう!」

男「女ちゃん」

女「はい?」

男「黒髪さんって今いくつ?」

女「え?八十四ですけど……」

男「そうなると大体、六十五年前か」

女「六十五年前……数字にすると結構昔ですね」

男「うろ覚えだけど、今ある桜の木は移植されたって聞いたことがあるんだよなぁ」

女「ええ!?」

男「うーん……」

女「昔の写真とかあればいいんですけど、おばあちゃんの部屋にアルバムとかないかなぁ」

男「昔の写真……そうかそれだ!」

女「ふぇ?」

男「女ちゃん、ちょっと確認したい事があるから今日は解散しよう」

女「え??ど、どうしてですか?」

男「というか黒髪さんのお見舞いに行って、容態を確認してほしいんだ」

女「男さんは一緒に来ないんですか?」

男「俺は解決してから行くって約束したから」

女「……」

男「今日は女ちゃんが居てくれて本当に良かったよ、ありがとう」

女「あの……後で電話してもいいですか?」

男「もちろん、お互いわかった事を報告しよう」

友『もしもし!珍しいね男から電話してくるなんて』

男「ああ、ちょっと聞きたい事があって」

友『なになに?』

男「昔の学校の写真を見つけたって言ってたけど、あれって今手元にある?」

友『あー、あれは学校の図書室にあるよー』

男「図書室か……」

友『なになに、どうしたのさ?』

男「友が見た写真に、桜の木は写ってた?」

友『桜の木?んー……』

男「……」

友『ああ、たしか旧校舎と一緒に写ってたと思う』

男「旧校舎!?具体的にどの辺に!?」

友『どの辺だったかなぁ……実際自分の目で見た方が早いと思うぜ?』

男「ああ……うん……その通りだ、また明日な友」

――夜 男宅

男(明日が最終日だ)

男(なんとしても明日中に桜の下に埋まってる“何か”を手に入れなきゃいけない)

男(図書室にある昔の写真で桜の位置を確認して、人気がなくなった夜に桜の下を掘り起こす)

男(上手くやれるか?いや……)

男(なんとしてもやり遂げるんだ)

男(そして桜の下の“何か”を必ず黒髪さんに届ける)

男(問題は黒髪さんの容態だが……)

男(こればかりは女ちゃんから連絡を待つしかない)

ヴーン ヴーン ヴーン ヴーン

男「!!」

男「もしもし女ちゃん?」

女『男さん……』

男「その、黒髪さんは……どうだった?」

女『もってあと数日……いつどうなってもおかしくない状況だって……』

男「あ……」

女『……』

男「女ちゃんは今どこに?」

女『お父さん、お母さんと帰ってきました……』

男「じゃあ黒髪さんは今病室に一人?」

女『お医者さんができるだけ誰かそばに居るようにって……だから今日は親戚の人が一緒に泊まってくれてます……』

男「そっか……」

男「黒髪さんはずっと意識がない状態?」

女『いえ、たまに起きるけど……ずっと朦朧としてて……声も出せなくて』

男「食事は?」

女『とってないみたいです』

男(黒髪さん……声も出せないほど衰弱してるのか……)

女『男さんは……何かわかりましたか?』

男「うん。メッセージが示す桜の木は旧校舎にあった」

女『旧校舎に……?』

男「どの辺にあったかは……明日、学校の図書室に行かなきゃわからない」

女「明日……」

男「掘り出す作業は……夜になると思う。だから黒髪さんに届けるのはどんなに早くても明後日に……」

女『……』

男「俺は黒髪さんを信じてるよ。待ってるって約束してくれたから」

女『……』

男「だから女ちゃんも黒髪さんと一緒に待っててくれるかな?」

女『……』

男「……」

女『わかり……ました……』

男「ありがとう、じゃあ……また連絡するよ」

女『はい……』

十一日目 金曜日

――図書室

友「これこれ、この本に写真が載ってたよ」スッ

男「ああ」

友「じゃあ俺用事があるから行くけど、何かあればまた頼ってくれよな!」

男「友……サンキューな」

友「はは、じゃあね!」

男「ああ、また後で」

男「さて……」パサッ

男「……」ペラッ

男「……」ペラッ

男「あ!!」

男(あった!旧校舎と桜の写真!もっと別角度からのものはないか!?)ペラッ

男「……!」

男(これは……俺がよく夕焼けを見てた窓際の下か……)

男(ケータイで写真を撮っておこう)

――放課後 教室

男(大体の場所は把握できた)

男(あとはいつ掘り出すかだが、やはり人がいなくなった夜にするのが無難だろう)

男(今日が終われば夏休みが始まる)

男(それでも部活で残る生徒はいるだろうし、教師はもっと遅くまで残るだろう)

男(一旦帰宅して準備してから夜中に忍び込むか?)

男(それともこのまま旧校舎に身を隠しておくか?)

男(旧校舎に身を隠すのは……少しばかり勇気がいるけど……)

男(でも……)

男「よし!」

――旧校舎 3-1

男「今日が晴れでよかった……」

男(よく考えたら夕焼けを見るのも今日で最後だもんなぁ)

男(夕焼けまで時間もあるし、久しぶりに読書でもするかな)ゴソゴゾ

男「……」ペラッ

男「……」ペラッ

男(ダメだ、本の内容が全然入ってこない)パタン

男(そりゃそうだ、以前とは状況が全然違うわけだし)

男「……」

――――
――

男「……」チラッ

男「おお、綺麗な夕焼けだ……」

男「……」

男(懐かしいな)

男(つい最近のことなのに、随分懐かしく感じてしまう)

男(あの時も夕焼けを見てて、帰ろうと振り返ったら……泣いてる黒髪さんがいて……)

男(もしかしたら……)

男(今振り返ればまた……)

男「……」

男「……」クルッ

シーン

男「はは、だよなぁ」

ギシッ ギシッ

男「え……」

男(床の軋む音!?)

ギシッ ピタッ

男(床の軋む音が……この教室の前で止まった……!)

男「……」ゴクリ

ヒョコ

女「あ、よかった~……居なかったらどうしようかと思ってました」

男「え……女ちゃん……?」

女「お邪魔します」ギシッ

男「はぁぁぁ」グター

女「ふぇ!?どうしました!?」

男「いや……ちょっと気が抜けただけだよ」

女「??」

男「ていうか、どうしてここに?」

女「男さんのことだから、もしかしたらって思ったんです」

男「もし俺がいなかったらどうするつもりだったのさ?」

女「その時は連絡してすぐに来てもらうつもりでした!」

女「わぁ……綺麗……」

男「……」

女「間に合ってよかった……今日で見納めですからね」

男「黒髪さんは?一緒に待っててって言ったよね?」

女「学校が終わってからすぐ会いに行きましたよ!」

男「え?」

女「おばあちゃんに、男さんのお手伝いしてくるねってちゃんと伝えました」

男「でも……夜まで、下手したら夜中までいる事になるんだよ?」

女「今日の病院のお泊まりはうちの両親なので、時間は大丈夫です!」

男「はぁ……」

女「ご迷惑でしたか?」

男「いや……一人だと心細いから正直かなり助かります」

女「それなら良かったです」ニコッ

男「でも女ちゃんも怖いんじゃないの?」

女「そりゃ怖いですよ、めちゃくちゃ怖いです」

男「それならなんで――」

女「おばあちゃんの為に私も出来る事をしたくて」

男「ああ……そっか」

女「それに……男さんと一緒なら……」

男「……」

女「……」

男「えと……もう少し日が落ちたら屋上に行こうと思ってる」

女「屋上?」

男「うん。屋上なら外だし暗くなっても怖くないかなって」

女「いいですね、大賛成です」

男「あまり明るいとバレちゃうかもしれないから、もう少し暗くなったら移動しよう」

――旧校舎 屋上

男「まだ本校舎の職員室は明かりがついてるな」

女「わぁ……見てください!夕焼けも綺麗でしたけどこの景色もすごく素敵です……」

男「たしかに……これはこれで趣きがあっていいね」

女「ふふっ、新たな発見ですね」

男「でも見つかる可能性があるから目立つ行動は控えるように!」

女「はーい」

男「じゃあしばらくここで待機で」

女「あ、お菓子持ってきたんですけど一緒に食べませんか?」ガサガサ

男「いいね、遠慮なく頂こうかな」

女「はいです!」

――夜 旧校舎 屋上

男(本校舎の電気は消え、校門の施錠もされた)

男(恐らく今帰った人が最後の一人のはず)

男「よし、これで人はいなくなった。一階に降りよう」

女「き、旧校舎の中を通るんですよね?」

男「うん、途中で保健室に寄るけど平気?」

女「保健室に??なんでです!?」

男「理由は不明だがスコップが置いてあるんだ。それを拝借しようと思ってね」

女「うぅぅ……わ、わかりました……」

男「もう人もいないし懐中電灯を使おう。そうしたら多少怖さも和らぐはず」

女「うう……それはそれで逆に怖いと思います!」

男「じゃあ、えと……俺の腕でよければまた貸すけど……」

女「あ、あの!手も……お借りして、いいですか?」

男「手?」

女「は、はい……ダメ、ですか……?」ウルッ

男(そんな目で見つめられたら断れないっての)

――夜 旧校舎 裏庭

男(手を繋いだままさらに腕にしがみつかれ、なんとか一階まで辿り着くことができた)

男「女ちゃん、そろそろ離れてもらっていいかな?」

女「あ!ご、ごめんなさい!!」

男「ううん、気にしないで」

女「はぅ……」

男「たしかこの辺りだと思うけど……」

男「それらしき跡がなにもないな」

女「そうですね……」

男「手当たり次第掘るしかないか……女ちゃんは地面を照らしてくれるかな?」

女「は、はい!」

男「よし、やるか!」

ザク ザク
ザク ザク

男「はぁはぁ……暑っつ!!」ダラダラ

女「男さん!私代わります!」

男「はぁはぁ、いや、大丈夫、だよ」

女「でも……」

男「結構広い範囲を掘ったはずなのに見つからないな」

女「そう、ですね……」

男「場所が違うのか?それかもっと深いところにあるのか?」

ガシャン

女「!?」

男「どちらにしろ手当たり次第掘るしかなさそうだ」

女「お、男さん!!」クイクイ

男「?」

女「誰か来ます!」

男「ええ!?」

男「女ちゃん、明かり消して」ボソッ

女「は、はい」カチ

男(こんな夜遅くに一体誰が!?)ドクンドクン

女「お、男さん……」ギュッ

男(まさか誰かが見回りに?いや、そんなはずは……)ドクンドクン

スタスタ スタスタ

男(足音が近付いてくる……)ドクンドクン

男(教師か?工事関係者か?それか肝試しにきた若者か?)

女「……」ビクビク

男「女ちゃん……」

男(気を強く持て、こんな時に俺がしっかりしないでどうする!)

??「誰だ?こんな所で何をしている!?」ピカッ

男「くっ!」

男(懐中電灯を向けられて相手の姿を確認できない……!)

??「何をしていると聞いているだろうが!」ピカッ

男「眩しいので照らすのを辞めてもらえますか?」

??「……お、お前は……それにその子も……」

男(え??)

男「女ちゃん、懐中電灯を貸して!」

女「は、はい!」スッ

カチッ

男「!」

男(白髪の……老人?)

男(学校関係者ではなさそうだけど……)

老人「お前ら……何故ここを掘っている?」

男「それは……」

女「わ、私たちは!おばあちゃんに頼まれて暗号を解いていただけです!」

老人「おばあちゃん……?暗号……?」

老人「……」

男(この老人……もしかして)

男「……」

女「男さん……」ギュッ

男「この子の言う通り、僕たちは旧校舎に残された六つ暗号を解いています」

老人「……それで?」

男「『桜の下』に何かがあるのまでは突き止めましたが、肝心な桜がどこにあるのかわからなくて」

老人「なるほど、だから闇雲に掘っていたというわけだな?」

男「はい」

老人「その制服……ここの学校の生徒か?」

男「彼女は違いますが、僕はここの学校に通っています」

老人「そうか……」

女「??」

男(会話の運びがスムーズだ)

男(やはりこの老人は……)

老人「ここを掘ってみるといい」スッ

女「え!?」

男「わかりました」ガッ

女「ええ!?」

ザクッ ザクッ

男(あれ……他の場所違って掘りやすい……)

ザクッ カツ

男「あ……何かに当たった」

女「ほ、本当ですか!?」

男「うん。今取り出してみるよ」サクサク

グイッ

男「これは……」

女「木箱……?」

男「…………」

女「これがおばあちゃんがずっと探し求めてたモノ……?」

老人「では私はこれで」スタスタ

女「え?」

男「待ってください!」

老人「……」ピタッ

女「男さん?」

男「ずっと疑問だったんです」

男「保健室に置かれたスコップも」

男「校長室の床に貼り直された“紙”も」

老人「……」

男「単刀直入に聞きます。暗号を作ったのはアナタですよね?」

女「ええーーー!!?」

老人「……どうしてそう思った?」

男「僕たちを見た時の反応とアナタの年齢から判断しました」

老人「……」

女「おばあちゃんの手紙を隠した人……」

老人「……」

男「僕はともかく、彼女は似てますから。若い頃の黒髪さんに」

老人「……」

男「黒髪さんをご存知ですよね?」

女「……」

老人「ああ。君の言う通りだよ」

女「!!」

老人「黒髪宛の手紙を隠し、暗号を作ったのは私だ」

男「やはりそうでしたか」

女「……」

男「今、この場にいるという事は……この木箱を回収しにきたんですよね?」

男「明日になれば取り出すことが不可能になってしまうから……」

老人「ああ、そうだよ」

老人「そうか、君が黒髪の孫か」

女「あ……は、はい」

老人「そして少年、君は……名前を伺ってもよろしいかな?」

男「“男”です」

老人「なるほど……奇妙な巡り合わせだな」

女「??」

男「あの……ありがとうございました」

老人「え?」

男「アナタのおかげで見つけることができました」

老人「なぜ礼を……元を辿れば私が――」

男「あの暗号のおかげで黒髪さんと、女ちゃんに出会えました」

女「男さん……」

男「アナタの学生時代の悪戯が六十年以上の時を超えて人と人を繋ぎあわせたんです」

老人「……」

男「そりゃ褒められた行為ではないですけど……少なくとも僕は感謝しています」

老人「……」

男「なので、ありがとうございました」ペコ

女「あ!えと、ありがとうございました」ペコ

老人「……!!」

老人「はっはっは、長生きはしてみるもんだ!」

老人「恨まれるならまだしも……まさか感謝をされるとはな」

女「恨むなんてそんな事……」

老人「気を使わなくても結構、黒髪も思う事があったから君たちに頼んだんだろう?」

男「そうですね」

女「でも!当時はわからないですけど、今は恨んでなんかいません!」

老人「……」

男「あの――」

老人「では私は先に失礼するよ」

女「え?」

老人「暗号を解いてくれてありがとう」ペコ

スタスタ

女「あ……」

男「……」

女「行っちゃいましたね」

男「うん」

女「男さん、あのおじいさんはなんで回収しにきたんですか?」

男「これは俺の推測なんだけど、罪悪感があったんじゃないかな」

女「罪悪感?今までずっとですか?」

男「それはわからないけど……暗号を解いてくれる人を待ち続けていたんだと思う」

女「……」

男「校長室の“紙”もそうだし、なによりも……この木箱だ」

女「木箱?」

男「六十年以上前に埋められたにしては綺麗だと思わない?」

女「ほ、本当だ!」

男「本来は別の箱に入っていたんだろうけど……六十年も経てば腐食してる可能性もある」

女「あのおじいさんが木箱に移し替えた……?」

男「うん。実際にこれを掘り出すとき土が柔らかかったんだ」

女「……」

男「定期的に確認しにきてたんだろう。保健室に置いたスコップを使ってね」

女「それでスコップがあったんですね……」

男「はぁぁぁぁ」ストン

女「えっ!?大丈夫ですか!?」

男「いや、ちょっと気が抜けちゃって……」

女「そっか……男さんはずっとおばあちゃんの為に頑張ってくれてましたからね」

男「むー」

女「お疲れ様です」ニコッ

男「疲れた、腹減った、シャワー浴びたい、眠い」

女「え?」

男「そして親に友達の家に泊まると言った手前、家には帰れない」

女「ええぇぇ!?」

男「とりあえず家まで送るから女ちゃんは帰った方がいいよ」

女「あ、あの!」

男「ああ、それは断る」

女「まだなにも言ってませんけど!?」

男「家に招待する気だろ?俺はネカフェに泊まるから大丈夫だよ」

女「え、でも年齢制限とかありませんでしたっけ?」

男「……」

女「??」

男(し、しまったーー!!)

――深夜 女宅

男「ごめん女ちゃん……図々しくシャワーまで借りちゃって」

女「全っ然!気にしないでください!!」

男(着替え持ってきておいて良かった……)

男(お互いシャワーを浴びて、コンビニの弁当を食べて、今に至るわけだが……)

女「?」

男(寝巻き姿の女ちゃんがとても可愛らしい……なんて口が裂けても言えない)

女「落ち着いた所で、木箱の中身を確認しちゃいましょう!」

男「うーん、勝手に見ていいのかな?元々黒髪さんに贈られたものだろ?」

女「孫の私がいいって言ってるからいいんです!」

男「それなら……いいのかな?」

女「じゃあ開けますよ?」

男「うん」

女「せーのっ!」パカッ

男「!」

女「これは……手帳、ですかね?」

男「ああ、随分と年季が入ってるな……ってそりゃそうか」

女「あの……隣に行ってもいいですか?」

男「ああ、一緒に見よう」

女「で、では失礼します」ストン

男「……じゃあ見てみようか」

女「はい、ご開帳です……!」ペラッ

男「え!?」

女「?」

男「う、嘘だろ……」

女「どうかしましたか?」

男「まさか……そんな事が……」

女「???」

男「はは、そうか……だから似てるって……少し考えれば分かる事だったのに……」

女「え……?この名前って、もしかして……」

男「ああ」

男「この手帳は……」

男「俺の祖父ちゃんの物だ」

女「男さんのお祖父さんって……今もお元気ですか?」

男「いや、もう亡くなってる」

女「あ……ごめんなさい」シュン

男「ううん気にしないで、俺が生まれる前にはもう亡くなってたから」

女「……」

男「とても寡黙な人だって聞いた事があるが……まさか黒髪さんと繋がりがあったとは」

女「だから旧校舎で会った人は『奇妙な巡り合わせ』って言ってたんですね」

男「ああ……」

女「……」

男「じゃあ続きを読もうか」

女「はい!」

――――
――

男(祖父ちゃんの手帳は、最初こそ取り留めの無い日常だったが)

男(黒髪さんと出会ったことを境に、次第に心惹かれていく心情が事細かく書かれていた)

男(祖父ちゃんは……迫る別れの日を惜しみ、同時に黒髪さんの幸せを心から願っていたんだ)

女「……」ポロポロ

男「……」

女「うう……切ないです……」ポロポロ

男「まぁ当時のことを考えれば仕方ないよ」

女「でも……グスッ」

男「それに二人が結ばれなかったおかげで、俺らが生まれたわけだから結果オーライということで」

女「グスッ……男さんって……」

男「ん?」

女「冷めてますよね」

男「うぐっ……現実的といってくれ」

女「明日、朝一でこれをおばあちゃんに届けましょう!」

男「……ああ」

女「おばあちゃん……喜んでくれるかな……」

男「……」

女「この手帳を見せたら、一気に回復ー!なんて、都合がいいですかね?」

男「……」ピト

女「ふぇ!?」

男「……」

女「お、男さん……ど、どうしたんですか……?」チラッ

男「zzz」

女「……あ、あれ?」

男「zzz」

女「寝ちゃった……?」

男「zzz」

女「……」

男「zzz」

女「……ずるいなぁ男さんは……」

女「あんなに一生懸命頑張って……すごく頼りになって……」

男「zzz」

女「ね、男さん……また、手を握ってもいいですか?」

男「zzz」

十二日目 土曜日

――朝 女宅

男「はっ!」パチッ

男「え?あれ?俺いつのまに……」

女「んん……」モゾ

男「!!」

男(す、すぐ隣で女ちゃんが……!)

女「ん?あ……お、おはようございます……///」モゾモゾ

男「お、おはよう……」

女「……」ジー

男「な、なにかな?」

女「ふふ、朝から男さんがいるって変な感じー」モゾモゾ

男「!」バッ

女「?」

男「さ、準備して黒髪さんの所に行こう!」

女「う、うん!」

――病院

男「黒髪さんの容態は……悪いままなんだね?」

女「はい……朝お母さんに電話して確認しました……」

男「今黒髪さんの病室には女ちゃんのご両親だけ?」

女「親戚のおじさんとおばさんも来てるみたいです」

男「マジか……俺が行ってもいいのかな……?」

女「何言ってるんですか!約束したのは男さんですよ?男さんが渡すべきです!」

男「そうだな……うん」

女「それに、お母さん達が何か言ってきても私が説き伏せます!」

男「うん、頼りにしてるよ」

――病室前

男「ふぅ……」

男(いよいよ黒髪さんと対面か……)

男(実際の黒髪さんと会うのは初めてだな)

男(緊張するけど……黒髪さんは約束通り待っていてくれた)

男「よし、いいよ」

女「はい。まずは私から行きますね?」

男「ああ、任せた」

女「任されました!」

ガラッ

女「おばあちゃん!」

女母「ああ、きたのね。おばあちゃんは今寝てるから静かに」

女「ね、おばあちゃん聞いて、今日は素敵なお客さんを連れてきたよ」

女母「お客さん?」

男(扉越しに薄ら会話が聞こえる……)

女父「女、誰のことを言ってるんだ?」

女「皆……今からすることは黙って見守っててほしいの」

女母「は?あんた突然何言ってるの?」

女叔父「女ちゃん、どういうことだい?」

女「おばあちゃんの願いなの!だから何も言わずに見守ってて!」

男「ふぅ……」ドクンドクン

男(行くか)

ガラガラ

男「失礼します」ペコ

女父「誰だ君は!?」

女「お父さん!!」

男「大丈夫だよ、女ちゃん」ニコッ

女「男さん……」

男「えと、男と申します」

男「突然の事で疑問もあると思いますが……僕は黒髪さんに大事な物を届けに参りました」

男「どうか、少しだけ時間を下さい」ペコ

「……」

女「男さん、おばあちゃんの元へ!」

男「ああ」

スタスタ

男(この人が……黒髪さん……)

男(見るからにやつれてて……)

男「くっ……」ジワッ

男(耐えろ!約束を果たす為にきたんだろ!)

男「黒髪さん」スッ

黒髪「……」

男「俺です、男です」

黒髪「……」

男「初めまして……と言ったらなんだな変な感じがしますね」

黒髪「……」

男「約束を果たしにきました」

黒髪「……」ピクッ

女「!!」

男「旧校舎の暗号、全部解きましたよ」

黒髪「……」

男「く……」ゴシゴシ

女「男さん……」ジワッ

男「あれから、大変だったんですよ?」

黒髪「……」

男「でも……女ちゃんと協力して何とか見つけることができました」

黒髪「……」

男「……」

黒髪「……」スゥ

女「あ!!」

男「!!」

男(目が開いた……!)

黒髪「……」チラッ

男「黒髪、さん……」ジワッ

黒髪「……」スッ

男(黒髪の手が……俺の方に!)

男「……」ギュッ

黒髪「……」

男「初めて、触れ合えましたね」ツー

黒髪「……」

女「うう……」ポロポロ

男「切り取られた手紙は『桜の下』でした」

黒髪「……」

男「そしてそこに……この手帳がありました」スッ

黒髪「……」ピクッ

男「……グスッ」

男「俺の祖父ちゃんから……黒髪さんに……」ポロ

黒髪「……」

男「すごく長い間、待たせちゃいましたけど……うう……」

男「俺から代わりにお渡しします」ポロポロ

黒髪「……」

男「う……く……」ポロポロ

女「……うう……」ポロポロ

黒髪「……」

男「手帳の内容は、女ちゃんに読んでもらってください」ゴシゴシ

黒髪「……」

男「最後に少しだけ……グスッ……俺の気持ちを言わせてください」

黒髪「……」

男「黒髪さんに会えて良かった……」

黒髪「……」

男「旧校舎から一緒に眺めた夕焼けは、一生忘れません」

黒髪「……」

男「ありがとうございました」

黒髪「……」ギュッ

男「!!」

黒髪「……」ツー

男「う……あ……黒、髪さん……」ポロポロ

黒髪「……」ギュッ

男「女ちゃん、後のことはお願い」ゴシゴシ

女「うぅぅ……」コクコク

男「黒髪さん、俺は行くよ……旧校舎はもう無くなっちゃうけど……また夕焼けを一緒に見ましょうね」

黒髪「……」

男「それでは……その、失礼します」

「……」

男「あの、突然お邪魔してすみませんでした」ペコ

――――
――

男(こうして俺の過ごした不思議な十二日間は幕を下ろした)

男(そしてそれから数日後、訃報の知らせが届いた)

男(最後はとても穏やかな顔をしていたらしい)

男(俺はきっとこれから先も一生忘れられないだろう)

男(夏休み前までの十二日間を)

男(旧校舎の六つ暗号を)

男(そして、黒髪さんの事を)

――四月 第二グラウンド

男(始業式のおかげで午前帰宅だから、夕方までかなり時間があるなぁ)

男(こういう時は……)

男「」ゴソゴゾ

男「……」ペラッ

男「……」ペラッ

男「……」ペラッ

スタスタ

男「……」ペラッ

男「……」ペラッ

女「じゃじゃーーん!」バッ

男「いらっしゃい。久しぶりだね、女ちゃん」

女「え!?なんで驚かないんですか!?私、今日からここの生徒ですよ!?」

男「前に君のお母さんから聞いたんだよ」

女「ええ!?」

男「あ、これは言っちゃいけないやつだった」

女「えええ!!男さんを驚かせる為に必死で猛勉強して入学したのに!!」

男「うん。合格おめでとう、女ちゃん」ニコ

女「はぅ……」

女「ていうか!私の家にきてるんですか!?」

男「ああ、ちょくちょく線香上げに行ってる」

女「なんで今まで黙ってたんですか!?」

男「だって前に……」

女『私、目標が出来たんです!!しばらくそっとしておいて下さい!!』

男「って言ってたじゃないか」

女「うぐぐ……たしかに言いましたけど……」

男「女ちゃんが頑張ってる事はご両親からよく聞いてたから、陰ながら応援してたよ」

女「いつの間にかウチの家族と仲良くなってるし……!」

男「まぁ……それだけ病室での一件がアレだったんだ」

女「皆ビックリしてましたからね」

男「……」

女「親戚の中で男さんは“黒髪婆さんが最後に愛した人”で有名ですし」

男「ああ、とても誇らしいよ」

女「む……」

女「旧校舎……第二グラウンドになっちゃったんですね」

男「ああ、でもこれはこれで気に入ってるんだ」

女「毎日来てるんですか?」

男「うん、雨の日以外は」

女「一人で?」

男「うん」

女「…………」

男「哀れんだ目で見ないでくれないかな?」

女「でも、これからは私が一緒に夕焼けを見てあげます!」

男「いや……そっちも予定があるだろうし、気が向いた時にきたらいいよ」

女「嫌です、毎日来ます!」

男「ええ……」

女「あ!それとこれ」スッ

男「ん?日記帳?」

女「これからは放課後、ここで交換しませんか?」

男「交換……日記?なぜそんな事を?」

女「ほら、面と向かって恥ずかしい事でも文章なら伝えられるじゃないですか」

男「えーと……それはつまり、そういう事で?」

女「はい!私は六十年以上待つ気も待たせる気もありませんから」ニコッ

男「……」

女「男さんは察しが良いので……とっくに気付いてましたよね?」

男「いや……さっぱりだ」

女「あー!嘘ついてる顔だー!」

男「まぁ、うん。薄々そうじゃないかなぁって思ってた」

女「私は男さんが何を考えてるのかさっぱり分かりませんけどね!」プクッ

男「俺は……うん、祖父ちゃん似らしいからね」

女「え?」

男「まぁ今の時代に敢えて交換日記するのも面白いかもしれないな」

女「え?それってつまり、そういう事ですよね?」

男「どう捉えてくれても構わないよ」

女「ふふっ、じゃあ好意的に受け取ります」

男「あ……」

女「??」

男「今の微笑んだ顔、黒髪さんにそっくりだった」

女「そりゃそうですよ!私はおばあちゃん似ですから」ニコッ

男「はは……うん、そうだな」

男「ねぇ女ちゃん」

女「はい?」

男「爺ちゃんと黒髪さん……かつて二人はこの場所で過ごしたんだよね」

女「はい、なんだか不思議ですよね」

男「うん。本当に……不思議な出来事だった」

女「離れ離れになってしまった二人の孫が、今こうして同じ場所にいることについて……男さんはどうお考えですか??」

男「それは……まぁ、運命めいたモノを感じているよ」

女「私もです」

男「俺たちはこれから……ここから始めよう」

女「はいっ!!」ガバッ

男「わわ!どうしたのさ突然!?」

女「ダメでしたか?」ギュッ

男「ダメ……じゃないです」

「ふふっ」

女「え!?」

男「今のって……まさか……」

女「おばあちゃん!?」

男「黒髪さん!?」


――終わり――

終わりです!

長々とお付き合いいただき、ありがとうございました

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