隣に住んでる女大生「あの……魚醤作りすぎたんですけど」社会人男「魚醤!?」 (514)

男「え……魚醤?魚醤て……え?魚醤?」

女「はい!しょっつるとかナンプラーとかいうやつです」

男「……作れるの?」

女「作ってみたんですけどー、ごはん、もう食べちゃいました?」

男「いや、今日は仕事忙しくてまだだけど……」

女「あ、じゃあよければ、どうです?」

男「……え?魚醤なんだよな?」

女「魚醤ですけど?……?」

男「あれっこれ俺がおかしいの?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1594822921

男(なんなんだ……隣に美人女子大生が引っ越してきてなんだ俺にも春か遅い春かコノヤローとか思ってたら、魚醤?……魚醤ってなんだよ……)

男(あーそういやこの子が引っ越してきた時――……)

…………

女『隣に引っ越してきた女です!あのこれ!』スッ

男『ああ、引っ越しそばですか?』

女『いえそばはちょっと打つの難易度高かったんで、代わりにうどんを……』

男『えっなんで?え?いや、打ったの?』

…………

男(ってことあったなー……あったわー……)

男(変わった子だと思ってたけど、魚醤はなー……)

男「……いや魚醤てなんだよ」ハッ

女「え、魚醤ってのは魚で作った醤油みたいなもので――……」

男「いやそういう事じゃあなくってね」

女「あ、よければ見てみます?作ったの」

男「……いいの?」

女「はい。今抽出してましてー」

男「え、いや……え、こんなこと言うのもアレなんだけど」

女「?……はい」

男「……入っていいの?その……部屋」

女「?……はい。どうぞー?」

男(……いいんだ。いや別にヘンな気持ちはないけど……いいのか)

女「どうぞー。散らかってますけどー」ガチャッ

男「(何気に女の子の部屋とか、初めてだな……)お、おじゃまします……」

フワッ……

男(ああ……これが女の子の部屋……女性特有の、良いニオイが――……良い……よ……)

男「くっっっっっせえええええ!!!」ブフォッ!

女「もー、いきなりクサイっていうのなんて、デリカシーないですよー?」

男「いやクサイわ!!意味わからんくらいクサ……鬼くさい!なんッ……え?築地?築地かここは?」

女「築地て」

男「……築地を百倍に濃縮したニオイがする……!!」オエェ

女「ひっどい言われよう」

女「今、漬け込んだ魚醤のガラを煮込んでさらに汁を抽出してるんですよー」グツグツ

男「うわあ……この世のものとは思えない地獄のような鍋が煮えてる……」

女「弱火だしすぐ戻るつもりだったから火にかけたまま離れましたけど、実際料理する時は火にかけたまま離れないでくださいね?」

男「いや俺料理せんし……」

女「あとはこれを濾せば出来上がりですねー」

男「濾すのか……この地獄のような鍋を……!」

男「しかし……マジで魚醤とかどーやって作るんだ?作れるもんなの?」

女「割と簡単ですよ?まず、新鮮なイワシやらイカやらを洗います」

男「はあ」

女「水きって、重さの20~25%くらいの塩といっしょに、煮沸消毒した瓶にいれます」

男「ほお」

女「置きます」

男「うん」

女「出来ます」

男「うっそやん」

女「この時瓶のフタをずーっと閉めてると菌が活動出来なくてくさっちゃうんで、普段は開けとくといいですよ」

男「菌?」

女「なんか、魚の表面とか空気中にいる菌とかが頑張るおかげで、腐らずに発酵するらしいんですけど……」

男「ほお」

女「……詳しいメカニズムはあたしあんまりわかってなくって……」

男「おい本当に大丈夫なんだろうな?」

女「まあーなんにせよ、そうやって一年発酵させたら魚醤になるんすよ」

男「おい適当だな」

女「発酵する時に使ったイワシはアンチョビになるんですけど」

男「はあ」

女「ぶっちゃけ一年発酵させた魚を食う気にはなれないんで……ここに引っ越す前に実家で漬け始めたんですけど、家族にもアンチョビは止められましたし」

男「これ本当マジ大丈夫?リアルに大丈夫??」

女「なので一年発酵させて、ザルにあげた後のガラをですね。こうやって少量の水と一緒に煮込んで、エキス抽出してまして」

男「エキスを」

女「濾して混ぜて……整ったら完成です」

男「……くさいねえ」

女「まあ魚醤なんで」

男「……で、これを前にして仕事終わりの腹減った俺はどうすればいいんだ」

女「まあまあ、少しお待ち下さいよ」カサゴソ

男(……魚のガラ食わされるとかじゃあねーだろうな……)

女「まずー、にんにく玉ねぎニンジン、そしてパクチーをみじん切りにします」トントントントン

男「うわっ臭さにパクチーがプラスされた!!」

女「弱火のフライパンにごま油でにんにくをじっくり炒め、香りがついたら中火にして玉ねぎとニンジン、パクチーの茎の部分、ブタひき肉を入れて炒めます」ジャーッ

男(手際いいなぁ)

女「そこに、ごはんと卵投入」ガポン

男「おお、チャーハンか?」

女「コショウを少々ふって、強火で軽く炒めましたら……」ジャッジャッ

男「パクチーは気になるけど、美味そうじゃん」

女「ふふふ、ここで満を持して、自家製魚醤を垂らします!!」ドパー

男「まじかぁー……」

女「そしてお皿に盛りまして、パクチーの葉の部分をちらしましたら……」

トンッ

女「『タイかベトナムかそこらへん風!魚醤パクチーチャーハン』の完成です!」

ジャーン

男「……パクチーと魚醤が合わさってすげぇニオイがする……!」タラリ

女「さあさあ、遠慮せずぐいっと」

男「遠慮してるワケではないんだよ」

女「さあさあほらほら。さっさと食べる食べる」

男「……今さらだけど、なんで急にこんな料理を俺に?」

女「へ?ああ。まあ魚醤が結構大量に出来ちゃった、ってのと……」

男「うん」

女「……しょーじき初めて作るものなので、味とかお腹痛くならないかの感想ほしくて」

男「隣人を毒見役にするのってどうなのかなあ」

女「食べやすく料理にしましたんで、そこは感謝してほしいです」

男「なんか恩着せがましいなぁ……」

女「べ、べつにアンタのためにチャーハン作った訳じゃないんだからねっ!毒見してほしいだけなんだからねっ!」

男「ツンデレぶってもごまかされねぇよ」

女「……まあ、本当にムリってのなら別に食べなくてもいいんですけど……」シュン

男「あーちょっと待って。待ってね。色々追いついてないのよ。脳が」

女「脳が」

男(……可愛い女の子の手料理ってのは、男としてテンションは上がる。上がる……んだが、なんで初めて食う異性の手料理がハンバーグとかオムライスとかじゃあなく訳わからんチャーハンなんだよ……てかパクチーと魚醤……ナンプラー?タイかベトナムかどっちなんだよ。ベトナムっぽいけどタイでも両方使うよな?あれ?ニョクマムとかいうのも無かったっけ?すげえ気になってきた……けどそんなこといくら考えても目の前の料理はハンバーグやらオムライスやらには変わらねえんだよなぁ……くそ……)

男「ええい、ナムサン!」

バクッ!

女「おーいったー」

男「……」モグモグモグモグ……

男「……えっ、美味っ……」ビックリ

女「おーマジですかー。良かったー」

男「……うわ、なんだこれ……味付け、あの魚醤だけだよな?」

女「はい。あとコショウは少し入れましたけど」

男「……鍋に入ってたやつはメチャクチャ臭いんだけど、料理に使うと……濃い魚と、イカの出汁?みたいな味がする……」パクパク

男「パクチーも正直、切ってる時はカメムシみたいなニオイするけど、食べるとこの独特な風味が……魚醤に合う」モグモグ

女「ほうほう」

男「玉ねぎとひき肉っていうのもいいなあ……全然邪魔にならない感じだけど、この甘味が味をさらに引き立てるっていうか」

女「んー……味の感想は置いといて」

男「ん?」

女「お腹痛くなったりはしませんか?」

男「なんでそんな質問するようなのを人に食わすかなあ」

男「うまいようまい。ハラも痛くない」

女「ふむー、んじゃああたしも一口」アー

パクッ

女「……ふむふむ、なるほど……」

男「……どうなの?作った人からして味は」

女「意外と塩けが濃いですね。醤油の感覚で使うとしょっぱくなりすぎますか……少し抑えて塩で味整えるのがいいのかなあ。あと味がちょっと散らばっている感じがするから、合わせるような……レモン汁を垂らしたらいいかもしれないですね」

男「めっちゃガチやないか」

女「たしかレモン汁あったな……これをちょっと垂らして、と」タラーッ

パクッ

女「あー合う合う。やっぱり柑橘系のサッパリしたのが魚醤の濃さとパクチーの香りをつなぎ留めてくれますね」

男「どれどれ……」タラーッ

パクッ

男「……あ、ホントだ。すげえうまい」モグモグ

女「おかわり、どうです?」

男「ああどうも。いただきます」

モグモグモグ……

カランッ……

男「はー、食った食った。ごちそうさまです」

女「いえいえ。魚醤うまくいって良かったです……あ、飲み物でもどうです?」

男「あー悪いね。ご飯ご馳走になって、お茶まで……」

女「お茶というか、たんぽぽコーヒーですけど」

男「なんて?」

女「たんぽぽの根っこを洗って乾かした後、すり鉢で細かく砕いて煎ってたものです」サラッ

男「……タッパーの中に砂が入ってるようにしか見えん」

女「コーヒーと同じ感覚でドリップして飲むんです」コポコポ

男「……雑草じゃぁん?たんぽぽって」

女「ま、失礼な。ちゃーんと汚れていない場所のたんぽぽ採ってきてますよ。無農薬の畑の近くに生えてるのとか」

男「そういう事じゃあなくってね」

女「あと葉っぱや茎はおひたしや天ぷらにするとホロ苦くて美味しいですし」

男「食うんだあ……たんぽぽ食うんだあ……」

女「さ、どうぞ。たんぽぽコーヒーです」サッ

男「うーん……見た目はコーヒーだけど……」オソルオソル

ズッ……

男「……ん!なんていうか……麦茶?」

女「あーやっぱそんな感じしますよね」

男「コゲた麦茶っていうか、カラメルを混ぜた薄いコーヒーというか……しっかりしたコーヒーを求める人ならちょっと物足りないかもしれないけど、これはこれでアリだな」

女「こんな美味しいのがタダなんてお得ですよねえ」

男「……家計、厳しいの?」

女「いえ、別に?けどなんかタダって嬉しくないですか?」

男「まあわかるけど……」

男「なんかさ……女さん」

女「はい?」

男「家計の問題じゃあなくこーいうの作るって……なんで?って感じなんだけど」

女「あー」

男「俺は料理しないけど、食うだけならコンビニや袋ラーメンで十分だし……料理する人でも、こーいうのはあんまり作らないんじゃ?」

女「なんていうか……アレですよ」

男「どれ?」

女「…………知的好奇心?」

男「魚の汁や雑草が知的なのかな??」

女「こう……食べたことないものや、作れないようなのを、食べたり作ったりするの、楽しいじゃあないですか!」

男「んー……んー、そうかな?」

女「それが美味しかったらまた作りたいし、市販で買うより安いなら、なんかテンション上がりません!?」

男「まあ、安くあがるとテンション上がるのはわかる」

女「それに、男さんも、今日……」

女「おいしくて、楽しかったでしょ?」

男「……まあ、そうだけどさ」

女「なので、またお食事誘いますねっ!」ニッコリ

男(……なんかやべーのに巻き込まれた気がする)

…………

変な女子大生と社会人男の料理話です
一週間に一回くらいを目安にやっていけたらな、と……

現在進行形で醤作り始めてタイムリーなスレ発見

>>35
あたま おかしい

…………

テクテク……

男「……あー、やっと仕事終わった……昼おにぎりしか食ってねえよ……つかれた……」

テクテク……

男「肉、食いてえなあ……明日から休みだし、肉食いながらビールとか、ハイボールとか……」

テクテク……

男「……たまにはオシャレに、生ハムやクラッカー、オリーブ、チーズなんかが乗った皿を前にして、優雅に赤ワインでも楽しみたい……一人酒してえな……家にサバ缶くらいしかねーけど……」

ドンヨリ……

「おーい!男さーん!」

男「ぅえ?」

タッタッタ……

女「はぁ、はぁ……やっぱり男さんだ。今おかえりですか?」

男「女さん……もしかして同じ電車乗ってた?」

女「いえいえ。あたしはスーパー寄ってたんですよ。大学の帰りに」

男「ああ、近所のエオン系列の?」

女「いえ、そっちではなく、職人スーパーの方です」

男「……それ歩いて20分くらいないか?遠くね?」

女「エオン系列のスーパーは安定した食材や商品が並びますが、尖ったもんがないですからね。ちょっと高いし……それに比べて職人スーパーは、普通はあるはずのものがなくて『えっなんでそんなの置いてるの?』ってものが沢山あって楽しいです」

男「……もしかして、また何か変なの作ろうとしてる?」

女「んまっ、変なのとは失礼な。今回作るのはすさまじくオシャンティなものですよっ」

男「……オシャンティ……」

女「ふふふ、見てくださいよ、これっ!」

ガサッ

バァーン!

男「うおっ、すげぇでかい肉の塊……ブタ肉か?これ」

女「ふっふっふっふーっ。今回はこのブタ肉の塊を使ってですね……」

女「『生ハム』、作ってみようと思いますっ!」

男「……え、作れるもんなの?それ……?」

…………

…………

女「さーて、では作っていきましょうか」

男(……なんで俺は当然のようにこの子の部屋にいるんだろ)

女「まずは……しかし買っといてなんですけど、凄まじく大きいですね、これ」デーン

男「……今さらだけど、生ハムっつーか普通のハムもどうやって作るんだ?ていうかハムとベーコンの違いもよくわからん……」

女「ベーコンってのは豚バラ肉の塊を使っていて、塩漬けしたお肉を燻製にするものですねぇ」

男「ほーう?」

女「対してハムは比較的脂身の少ないお肉を使っていて、燻製以外の方法で仕上げたりしますね」

男「なるほど。茹でたりってことか」

女「そういう感じです」

女「なのでベーコンは脂のおかげで熱してもジューシーですけど、ハムはスカスカになっちゃうことが多いですかね」

男「つまり種類によって食べ方も変わる、と」

女「おおざっぱですけど、まあそうなりますかね」

男「……で、今回の生ハムってのは……」

女「お察しの通り、仕上げの加熱処理を行いません」

男「……生肉かあ……」

女「生ハムですって。立派な料理」

女「作り方も簡単なもんですよ。まずフォークを使って肉に小さな穴を開けまくります」ブスブス

男「……これにはなんの意味が?」

女「肉が大きすぎるんで、このままだと塩が中まで浸透しないんですよ」

男「あー、なるほど」

女「で、穴開け終わったら、コショウとバジルをすり込みます」スリスリ

男「おおー、なんか美味しそうじゃん」

女「そこに大量の塩をぶちまけー」ドサー

男「塩分過多で死ぬゥ!」

女「ざっくり言うと、この塩で肉の水分を抜ききることで、肉に潜む雑菌が生きられないようにする訳ですね。生き物が生きるには水が必要ですので」スリスリ

男「いやいやいや……そんだけ塩すり込んだらもうそれ塩の塊じゃん……」

女「最後に軽く塩抜きして、ギリギリ食べられるレベルに仕上げますよー。最初はとにかく肉の水分抜きたいのでこーします」スリスリ

女「……ちなみになんですけど」スリスリ

男「はい」

女「ネットで調べると、結構いろんな作り方ありまして……どれが正しいのかは正直よくわかりません」スリスリ

男「……はい?」

女「なので……まあ、自己責任……といいますか……」

男「……自己責任に隣人を巻き込まないでくれないかなあ……」

女「ふむ……塩すり込むとそれだけで結構水分出ますね」ボタボタ

男「コショウとバジルたいぶ落ちちゃったな……もったいない」

女「こんなものは気分なんで」

男「気分」

女「カレーにローリエ入れたらなんか美味しくなった気がする、アレです」

男「アレ」

女「塩落ちた所にさらに塩をぶっかけましてー」ザラザラ

男「もう真っ白でなにがなんだかわからん」

女「これをバットの網の上乗せて、落ちた水に浸からないようにします」ゴトッ

男「徹底的に水を避けるんだな」

女「天敵ですからね、水は。雑菌繁殖しまくりです」

女「あとはこれを一ヶ月ほど冷蔵庫で放置します」

男「一ヶ月!?」

女「はい。外が涼しくて空気乾燥してるなら日陰で干すのがいいんですけどー」

男「そんな長いこと生肉放置したら腐――……あ、腐らせるような雑菌は死ぬんだっけ」

女「ええ。なのでしっかり雑菌を殺すためにも、ハンパな時間より一ヶ月以上放置するのがいいんです」

女「毎日様子を見て塩が取れていたらつけ直して、一ヶ月経ったら塩抜き。食べられるくらいに塩分落として、もう一度乾燥させたら完成ですね」

男「長いな……今日明日じゃあ無理なのか」

女「まあ無理ですねぇ」

男「んー……生肉食うのは怖いが、今日生ハムでお酒飲んでみたかったから、残念だな」

女「ああ、この前作ったベーコンならありますけど、食べます?」

男「そんなのあんのかよ。そっちのがいいよ」

今回はここまでです

このSSで紹介している料理を作ったり食べたりしたとしても一切責任は持ちません
自己責任でオナシャス

>>1は魚醤や生ハムを作ったことあるの?

>>62
あります。しかし何故お腹壊さないのかはよくわかってないので自己責任で
基本的には自分の体験を書いていきたいですが、作ったことないのもしれっと書くかもしんないです

女「ええと、冷蔵庫に――……あった。これですこれ」

デェン

男「……ちなみにベーコンの作り方は?」

女「基本はそんなに変わらないですよ。これはソミュール液に一週間漬けてから、塩抜きして乾かして燻製にしましたけど」

男「ソミュール液?」

女「濃い塩水にワインやハーブ類、コショウ、にんにくなんかを加えて沸騰させたものです」

女「これに漬け込むことで肉の水分を抜いた上で、香りをつけることが出来るんですよ」

男「これも水分完全に抜いて、雑菌を殺すために使うのか?」

女「いえいえ、燻製にするものは水分多いと煙の香りがつかないんで、こうやってざっくり水分を抜くんです」

女「なのであまり長い時間塩漬けは出来ないので(腐るから)。一週間という短い時間であげちゃって、塩抜きして仕上げるんですよ」

男「へえー」

女「ベーコンは少しブ厚めに切ってー」

トンッ

女「フライパンでざっと焼いてー」

ジュウウ……

女「カラシを添えて、はいどうぞ」

バァーン

男「おおっ!う、うまそう……!」ジュルリ

女「ワインもありますよー。安物ですがー」トクトク……

男「いやあ悪いねえ。……ああ、ワインは市販なんだ」

女「……」ピクッ

女「……どういう意味でしょう?男さん?」

男「いや、女さんのことだから、ワインも作っちゃうのかなーと……」

女「酒税法ってあるんですよ。男さん」

男「……なんか聞いたことあるな」

女「簡単にいうと、お家でお酒作ったらダメなんですよ」

男「梅酒は?あれ家で作ってるけど」

女「あれは度数が最初から高いお酒で漬け込んでいるからセーフです」

女「例えば梅をミリンなんかに漬け込むと、発酵して度数ガン上がりするので酒税法違反です」

男「へえー……ってか発酵するんだ」

女「梅酒の表面に菌いますからね。そいつが発酵させます。この前魚醤作ったじゃないですか?」

男「うん」

女「あれはタンパク質を分解してアミノ酸に変える菌をうまいこと使っていて、梅の表面には糖分をアルコールに分解する菌がいるんですよ」

男「ほおー、なんかめっちゃ便利だなそれ」

女「ほら、パンを作る時に使う、イースト菌ってあるじゃないですか」

男「うん」

女「あれは炭水化物や糖分をアルコールと二酸化炭素に分解するので、生地がふくらんでふっくらパンが出来上がるんですよ」

男「生物の神秘だな……」

女「…………」

男「?……女さん?」

女「それでェ~~ですねえ……」

男「……うん」

女「例えば……例えばなんですけど!」

男「え、何?」

女「ここに……ぶどうジュースがあります。果汁100%」

男「……うん」

女「例えば、これにイースト菌を入れると、糖分が分解されてアルコールが出来るので、ワインが出来るわけですよ」

男「……理屈はそうみたいだけど……マジで?」

女「実際のワイン作りとは大きく違いますけどね。で、そんなに簡単にお酒が作れるとなると――……」

男「ああ……普通のお酒売れなくなるわな。だから酒税法ってのがあるわけか」

女「そういうことです」

女「それで……まあ、今まで話したこととは一切全く関係ないのですが」

男「うん」

女「あたしはうっかり……ついうっかり!ジュースのフタを開けたまま、隣で強力粉とイースト菌を混ぜてパンを作ってしまいました」

男「…………うん?」

女「粉は入らなかったと思うんですけどねぇ。もしかしたら……もーしーかーしーたーらー……他のものがガッツリ入った、か も」

男「……」

女「しかもあたしはその後、これを常温で放置してしまいました。菌は暖かい所で活動しやすいのに!!」

男「…………」

女「けどこれを捨てるのはもったいないですよねー。あーもったいないなー。飲んじゃおっかなー!あーあーもったいないしなー!!」

男「……………………」

男「……そ、そうだな!もったいないもったいない!飲んじまおうぜ!うんうん!」

女「じゃあぐいっといってしまいましょうかー!コップ出しますねー!」カチャカチャ

男「…………ダッポー……」ボソリ

女「人聞きの悪い。傷んだジュースを飲むだけですよ」

女「すでに濾してあるので、そのままいってくださいな」トクトクトク……

男「濾す?」

女「日本酒でいう『おり』ってやつです。増えた菌や内容物の塊が沈むんですよ」

男「はあー、そんなのあるんだ?」

女「まああたしはこれを普通に常温で放置していただけなんで、なんでそんなのが出来るのか一切全くわかりませんが」

男「そろそろ無理がある」

男「……見た目は普通だが」

女「自己責任でおねがいしまーす。うんいける」クピクピ

男「躊躇なく飲むなあ……先にベーコンいただいてもいい?」

女「どーぞどーぞ。冷めないうちに」

男「こっちは普通に美味しそうなんだよな……では失礼して」アーン……

パクッ!

男「……うおっ、なんだこれ……美味っ」モグモグ

女「うへへ、照れますねぇ」

男「スーパーで売ってるハーフベーコンなんかとは全然違う……煙の香りと、ハーブやガーリック、コショウの味がガッツリ効いてる」

モグモグ……

男「それに肉の脂が甘味となって……ベーコンっていうかステーキみたいだな。カラシもいいね。これつけて食うと、ハーブもいいけどやっぱ俺日本人だなーって感じするわ……あー美味い」モグモグ

女「今回はベーコンだけ焼きましたが、卵を落としてベーコンエッグや、バンズに挟んでベーコンハンバーガーってのもいいんですよ」

男「普通のベーコンエッグは酒のツマミにならないけど、これだけベーコンの存在感が強かったら十分ツマミになるな。……後で色々作ってもらってもいい?」

女「おまかせくださいなー……ふふっ」

男「ん、どした?」

女「いえ……自分の作った料理を美味しいって言ってもらえると……やっぱり、嬉しいもんですね」テレテレ

男「いやあ、実際美味いもんな。こんなもん初めて食うし。……いいお嫁さんになれるんじゃない?」

女「!……あ、あはは……」

男「……しかし……」

男「やはりこの話の流れだと、最悪ハラ壊しそうなこの謎ワインを飲まなきゃあならんのか」

女「ワインじゃありませーん。大人ジュースです」

男「あくまでしらばっくれるつもりか。……まあ、死にゃあしないだろうし……いただくよ。大人ジュース」

女「どーぞどーぞ」

男「…………」

グイッ

男「!……おお、甘くない……ていうか普通にワイ」

女「大人ジュース」

男「……大人ジュースの味がするわ……けどあれだね」

女「はい?」

男「なんていうか……失礼だけど、一瓶500円くらいの味だ」

女「まあそれは仕方ないですね。これウェル○使いましたけど、結構飲みやすくゴクゴクいけるじゃないですか。あれ」

男「……最近ジュース飲んでないからわからん」

女「甘味が抜けると薄っぺらい味になっちゃうんですよねぇ。だからといって重みのある味にしようとお高いジュース使うってのなら、普通に買ったほうがいいですし」

男「難しい所だな……しかしこの大人ジュース、ベーコンがしっかりとした味だからか、さくっと飲めるのが合うっちゃあ合う」ゴクゴク

女「気をつけてくださいね、結構ありますよ。パーセント」

男「みたいだな……5パーは超えてるか。10パーある?」

女「調べる方法がないのでわかんないですけど、たぶん」

男「あなどれねえなあ……元はジュースなのに」

女「今もジュースですって。大人ジュース」

男「……思ったんだけど」

女「はい」

男「糖分があれば大人ジュースになるって事は、極論砂糖水でもオッケー……」

女「可能ですね。香りがないので味は微妙だと思いますが」

男「そうだな、コーラとかサイダーとか普通のジュースなら割ったほうがいい」

男「けど……例えばジャムを水に溶かして作れば」

女「……勘がいいですね」ニヤリ

男「オレンジ大人ジュース、ブルーベリー大人ジュース、いちご大人ジュース……考えるだけで結構楽しいな」

女「前作ったんですけど、ゆず大人ジュースおすすめですよ」

男「なにそれうまそう。今あるの?」

女「あーごめんなさい。今はないのですが……代わりにこーいうの、どうでしょ?」

ドンッ

男「これは……なんか白い?白ぶどう?」

女「いえいえいえ……はちみつ1キロに水2リットル、そこにミント等ハーブを加えて、ついでにドライフルーツをもっさり漬け込み香り付け」

男「ほう?」

女「そしてそれにチョメチョメをした、はちみつ大人ジュースです!」

男「……やべえ、スカイリムで見たことあるやつだ」

女「あたしはクトゥルフ神話で見ました」

女「放置する時間を短めにして少し甘味を残しています」トクトクトク

男「ゲームで見るのを目の前にすると興奮するな」

女「わかります。ゲームとかアニメとかで出てくる美味しそうな料理って、作って食べてみたくなりますよねー」

男「作りはしないけど、食べてみたいね」

女「有名どころで言えば、カリオストロの城のミートボールスパゲッティとか」

男「うんうん」

女「もののけ姫の口移しで食べさせられる木の皮みたいなジャーキーとか」

男「それは食べたくない」

男「とりあえず、一口……」

ゴクッ

男「お、ちょっと甘いな……あーいい香りがする……ミントか、これ」

女「おいしー」ゴクゴク

男「スッキリした白ワインって感じだな。そこにほのかに残る甘みと風味……料理には合わせづらいかもしれないけど、食前や食後に楽しむのもいいな」

女「うふ、うふふふふ、おいしー!」ドボドボ

男「……女さん、飲み過ぎじゃない?」

女「あたしが作ったものなんでいーんですよーだ」ゴクゴク

男「まあそれもそうだけど……」

女「どんどんおつまみ出しちゃいましょー!ベーコンと一緒に作った、燻製たまごに燻製チーズ、燻製しょうゆもありますよー!」

男「最後のはただの調味料だ」

女「うへ、うへへへ……ねえねえねえねえ、男さん?」

男「ん、何?」

女「うへへ、呼んでみただけー♡」

男「……女さん酒好きみたいだけど、強くねえな?」

女「うふふふふー、ナイショー♡」

男(あ、これ面倒くさい酔い方するやつだ)

…………

…………

数時間後――……

女「――……でね!きょーじゅがね!『石川啄木すげえ!』っていうからぁー!……あのひとのがすごいよーって!」

男「はあ……誰です?」

女「……ぷーちんさん」

男「……なぜプーチン……」

女「なまえ……すごい」

男「……そ、そうすか……」

女「あはははは!あーたのしー!」バタバタ

男(やべえ疲れる)

女「ははは……あーあ。……ねえ、おとこさーん」

男「はい、なんすか?」

女「……きいてますかー!?おーとーこーさーん!!」グイグイ

男「聞いてる聞いてる、痛いから腕引っ張らないで」

女「あのねえ!あたしねえ!」グイグイ

男「声でけえなマジで。なんなんだホント」

女「あたし……またこーやって、飲んで遊びたいなぁ……」

男「……」

女「……」

男「……あー」

女「……」

男「…………俺が相手でよかったら……喜んで」

女「……」

男「…………女さん?」

女「……くかー……すぴー……」zzz……

男「……不用心すぎんだよなあ……くそ……」

…………

今回はここまでです

このお話はフィクションです
作中で行われている行動を行ったとしても一切責任もちませんし、神に誓って私は作中の行動を行っておりません

…………

男「〜〜♪〜……〜〜♪〜(口笛)」

テクテク

男「仕事も残業無しで終わったし、明日から休みだし。気分がいいぜぇ〜」

テクテク

男「今日は酒飲みながらこの前発売されたゲームやろっと。休みでもないとゆっくりプレイできねぇからなぁー」

テクテク……

女「ゴキゲンですね、男さん」ニュッ

男「うわっびっくりした!」

男「女さん……いきなり背後からどうしたんだ」

女「私はLです」

男「たしかに構図似てるけどもよ」

女「男さんーついに出来たんですよ。一ヶ月熟成させて塩抜きして乾燥させた、アレが!」

男「アレ……」

女「生ハム」

男「……すっかり忘れてたわ」

男「あーそーいやそんなんあったな……あったわ。忘れてた……ベーコンがメインになってた」

女「なので今日は生ハム実食会ですよ」

男「……今日じゃなきゃダメか?」

女「ええ。だって男さん、明日から土日でお休みでしょ?」

男「え?……うん。それが?」

女「お腹壊しても問題ないってことですよね」

男「なんで俺は毎回デッドオアアライブさまよわないといけないんだよ」

男「いや、今日はすげぇゲームやりたい気分でな……生ハム興味あるけどさぁ……」

女「ゲーム、ですか」

男「女さんがヘンなの食うのが趣味のように、俺にだって趣味くらいある」

女「別にヘンなの食べるのが趣味って訳ではないですよ。作ったり食べたりしたことないものを作って食べてみたいってだけで」

男「それが結局ヘンなものになるんだよ」

女「んー、しかし……そうですね。いつも男さんにはあたしの趣味に付き合ってもらってますし」

男「うんうん」

女「仕方ないですね。今回は――……」

男「わかってくれたか」

女「あたしが男さんの趣味に付き合いつつ、実食会もやりましょう」

男「なんでそうなる」

女「ではおじゃましますねー」イソイソ

男「待て待て待て待て!え!?俺ん家!?俺んとこ来るの!?」

女「あたしんとこゲーム機ないですもん。テレビすらないですよ」

男「テレビないの!?」

女「バラエティとか見ないですし、ニュースはスマホで十分ですし……」

男「おお……現代っ子だあ……」

男「オッケーわかった。俺がテレビとゲーム機持ってそっち行きゃいいんだな」

女「それならあたしが食材持っていったほうが早いですって。という訳で――……」

男「わかった!待って!せめて五分――三分!三分くれ!男の一人暮らしの部屋にズカズカ踏み入らんでくれええええぇぇ」

……………………

短いですが今回はここまでです
ちょっといそがしい

……………………

女「おっじゃまっしまーす……ほう、ここが男さん家」スタスタ

男「……掃除つかれた……」グッタリ

女「なんていうか……男の子のかおりがしますね」

男「魚醤くさい部屋のヤツに言われると新鮮だな」

女「おー、プロテインがあるプロテイン。筋肉つけたいんですか?」

男「ハラは割ろうと思ってるよ……あんまジロジロ部屋ん中見ないでね」

女「ベッドの下覗いていいですか?」ワクワク

男「リアルに何もないけど、なんか嫌だからダメ」

女「とりあえず冷蔵庫に色々置かせてもらいますねー」ガパッ

男「はいどうぞ」

女「……うわあ……お酒と野菜ジュースしかない……」

男「エナジードリンクもあるぞ」

女「普段何食べて生きてるんです?カスミ?」

男「誰が仙人じゃい」

男「普通にコンビニ弁当とかファミレスで外食とか……給料日前とかはたまにご飯炊くかな」

女「……その時おかずは?」

男「……ふりかけ」

女「…………」

男「やめろぉそんな目で見るな……安月給は大変なんだよぉ……!」

女「まあまあ今日はたくさん食べてくださいな」

男「女さんはよくもまあそんな色々買うお金あるよな」

女「本屋でのバイト代ほとんど全部料理に使ってますからね……趣味費です。趣味費」

男「趣味っつったって結構気が引けるっつーか」

女「いいんですよー。たまーに買いすぎて食材傷んだりしますし、食べてくれた方が助かります」

男「そんなもんなのか?」

女「今回のは毒見役ほしいですしねー」

男「ついに毒見を包み隠さず言いやがった」

女「ではとりあえず……かけつけ一杯。ビールいただきまーす」カショッ

男「待て待て待て待て」

女「?」

男「女さんはこれ。ノンアル」ハイ

女「ええー……飲みたいのに」

男「お前この前あんだけ酔っててよくそんなこと言えるな……」

女「はて……なんの話でしょうか?酔った覚えありませんけど」

男「酔ったら記憶なくなるタイプかよ」

男「せめて帰ってから飲んでくれないかな。今開けたのは俺が飲むから」

女「いいじゃないですかー酔ったってー」

男「良いワケねえだろ」ゴクッ

女「なんでですかー。あたしもお酒飲んで楽しみたいのにー」

男「なんか間違いあったらどうすんだよ」

女「……間違いってなんですか?」

男「……………………」ゴクゴクゴクゴク

女「ねーねー間違いってなんですかー?」グイグイ

男「うるせえうるせえ、生ハム食おうぜ生ハム!ビール無くなったしツマミ欲しいし!!」

女「むう、なんか引っかかりますが……仕方ないですね。メインといきますか」

ドデェン

男「これが生ハム……なんか、黒いな?」プシュッ

女「黒いですねぇ……二本目早いですね」

男「……塩かけて放置した生肉……」グビリ

女「塩漬けして熟成させた生ハムです。言い方大事」

男「言葉の問題じゃないんだよなー」

男「……確認しておくけど、生のブタ肉食うことのリスクは?」

女「そのリスク無くすために塩漬けしてるんですけどー」クピクピ

男「いいから。本当に生のブタを食うと、ぶっちゃけどんなリスクあんの?」

女「……有鉤条虫っていう寄生虫がいるんですけど」

男「き、寄生虫……ぎょう虫みたいなもんか」

女「最悪、脳みそ寄生されて死にます」

男「マジで最悪じゃねーか!」

男「えっ、ブタってそんな寄生虫持ってんの?こわっ」

女「一応日本では豚肉からの感染事例ないですよ」

男「……他の国では?」

女「タイで、豚肉ナマで食べる風習がある地域の女性が、全身寄生されちゃって、レントゲン写真が幼虫で真っ白になったり……中国で目から寄生虫摘出した人いたり、インドでは少年が脳みそやられて死んでたり……一昔前に韓国産キムチにこれの卵が付着していて大問題になりましたねぇ」

男「くっそ怖い」

女「やってて良かった塩漬け」

男「それでも怖いよ」

男「もしも……もしもよ?生き残りがいたりタマゴだから塩漬け効かなかったりしたら――……」

女「まあリスクがゼロとは言いませんよ。多少なりは何かしらあるかもです」

男「だったら――……」

女「けど……男さん」

男「?」

女「……興奮しません?」

男「えっどゆこと」

女「だって……ふふ……一ヶ月経った豚肉を、ナマで食べる……うふふふふ……ふひ……考えるだけでヘンな笑いでる……ひひ……」ウヒヒ

男「…………」

女「失敗した時のリスク、ハンパないですよこれ……それを乗り越えておいしいものを作れた時の快感……ふひひ……想像するだけでヤッバイ……」ケタケタ

男(こいつの性癖こえぇー……)

女「とにかく、うすーくスライスしていきますよー」スリーッ

フワッ……

男「!……うわ、なんか……すげえ良いニオイする」

女「アミノ酸のニオイ、ですかね?生や焼いた肉とは違う、食欲をそそるニオイ……」

男「アミノ酸、って……菌がタンパク質分解したやつよな?」

女「そうですね。熟成されて良いニオイです」

男「……生き物殺すために塩漬けしたのに、菌でタンパク質分解……?」

女「……そこは深く考えるのやめましょう」

(※軽く調べたけどよくわかりませんでした。詳しい人説明求む)

好塩菌……?

女「とりあえず最初はスライスをそのままいただきましょう」

コトンッ

男「……皿に盛られると割と普通だが……自作ってのがなあ」

女「……ふひひ……流石に一口目はお酒の勢い欲しいですね……」

男「笑みが漏れとる」

女「楽しいですけど、やっぱ怖さもあります……一口!一口だけビールください!」

男「えー……まあいいか」ハイ

女「いただきまーす」クピッ

男「一口だぞ、一口」

女「…………」クピクピクピクピ……

男「一口だっつってんだろ!」

女「おーし気合はいった。もー気合はいりましたよー」プシュー

男「顔赤っ。そして残りのビール少なっ」チャポン

女「せーのでいきます?それとも1、2の3?」

男「あ、一緒に食うのは確定なんだ?」

女「じゃあ……あーんしてあげましょうか?」

男「体よく俺を毒見に使うんじゃない」

男「なんでもいいよ食おうぜ。もう諦めたよ……一口食ったらその後は勢いいらんだろ」

女「では……」

「「いただきまーす」」

男「…………」スッ

女「……いひひ……」

パクッ!

男「!!」

女「!!」

男「…………」モグモグ

女「…………」モグモグ

男「……」ゴクン

女「……」ゴクン

男「……生ハムだ……」ビックリ

女「生ハムですねえ……」ビックリ

男「ちょっと塩辛いけどマジで生ハム……生ハムの味がする」パクッ

女「かなりしっかりと生ハムですね……燻製もなにもしていないのに、生肉とは違う生ハムの香りというか……肉の旨味の香りがふんわりきます」モグモグ

男「うまいんだよな……かなり美味い。スーパーの生ハムと同じ風味するけど、なんていうか……重み?が違うっていうか」ゴクゴク

女「塩辛いのでスーパーの生ハム感覚では食べられませんね」

男「うん。ちびちび噛じる感じがいいな。それか他の……野菜とかチーズとかに合わせるとか」

女「ビールより赤ですね。赤ワイン」

男「それは思った。飲んでみたけど、ビールで流し込む味じゃないわこれ」

女「ふむふむ……問題なさそうですし美味しいのはわかりましたし、色々合わせてみましょうか」

男「おー、女さんの料理タイムか」

女「と言っても大したものはできませんよー」

男「あ、そうなの?」

女「酔ってて手元狂うとヤバいですし」

男「極力包丁は使わないでほしいね」

女「まずー……キュウリ」

男「キュウリ……キュウリ?」

女「洗ったキュウリを袋に入れて、麺棒とか包丁の柄とかで軽く叩き潰します」ゴシャッゴシャッ

男「ほう……生ハムにキュウリ?」

女「完成品を見ると『なるほど一本取られたワイ。フォッフォッフォ』となるはずですよ」

男「また俺が仙人になっている」

女「軽く潰したキュウリに、オリーブオイル少しと、甘くないヨーグルトをトロリ」トロー

男「キュウリにヨーグルト!?」

女「コショウとはちみつも入れましてー」トロトロー

男「絶対キュウリいらない。はちみつとヨーグルトだけでデザートがいい」

女「このはちみつがミソなんですよ」

女「ほら、聞いたことありませんか?はちみつとキュウリを合わせると――……」

男「……ああ、メロンの味がするってやつ?」

女「当たりです!混ぜたものをスライスした生ハムに乗せて、と……」

トロッ

女「完成!『ニアピン生ハムメロン〜たぶん脳も騙される、はず。きっと。メイビー〜』」

ジャーン

男「料理名自信なさげでやべえな」

女「ぶっちゃけ今日のお昼に思いついたので試してませんしね」

男「なぜ作った」

女「思いついたらとりあえずやってみたくなる。それが料理好きあるある」

男「……あるある、なのか?」

女「……あたし、昔ですね」

男「はあ」

女「おかしのじゃがりこあるじゃないですか。じゃがりこ」

男「うん」

女「『ただでさえ美味しいじゃがりこを、ごま油とニンニクで炒めてみたらハチャメチャ美味しい罪の味がするんじゃない!?』と思って、やってみたことありまして」

男「……結果は?」

女「120%炭で出来たコゲの塊が出来ました」ションボリ

男「……言葉で聞くと美味しそうなのになあ……ニンニクごま油」

女「炒めたのが大きな過ちでしたね……」

ちょっと長くなりそうなので分けます
今回はここまでで、明日か明後日に続き載せる予定です

作中の料理は基本的に自己責任でお願いします
自分で作った生肉を前にしたらヘンな笑い出るよ

http://imgur.com/StlONUp.jpg

>>136
原理としては塩で水を抜く事で、生物が生存出来ないレベルの水分量にすることを目的としてるんですよね
だから好塩とか関係ない気がするんですよ……なんでアミノ酸っぽくなるんだろうか

おつー
すげぇ…なんというかすげぇ…実際目の前にきたら本当壮観だろな…

ttps://www.amakaratecho.jp/ryouririka/05
熟成(筋繊維の酵素分解と水分が飛ぶことによる旨味成分の凝縮)…か…?

おつです
でも写真の肉は正直あんまり食べたくないかも…
実際に見たらもっと美味しそうなんだろうか
あと女ちゃんそれはなにフェチなんだ…

>>153
あー酵素か。それなら納得
菌じゃねえんだなあー。全然理解してなかった

>>154
実際目の前にしても美味しそうとはならんです
一年熟成させると白カビ生えて旨味も凝縮されるらしいですが……結構マジで自分で生ハム作ると「これ以上置いて大丈夫か?」ってなるんでチキンレース

すみません投下明日になります申し訳ない

女「これも実はですね、キュウリとはちみつは試したことあるんですよ」

男「ホント何でもやるなあ」

女「ただ、キュウリのシャキシャキ感と青臭さがはちみつとミスマッチすぎて、キュウリにはちみつかけて食べてるだけでした」

男「だってキュウリにはちみつだもん」

女「かなり無理して強いていうなら……メロンの皮、みたいな」

男「ランクの下がりっぷりがすげえ」

女「なので今回はキュウリのシャキシャキ感を消すため軽く潰して、青臭さ消すためヨーグルトにイン!」

男「ほお」

女「はちみつヨーグルトだとデザート強いのでオリーブオイルとコショウでなんとか生ハム側によせています」

男「とにかく……まあ、食ってみるか」

女「はい」

パクッ

男「……うーん……」シャグシャグ

女「……これは……」モグモグ

男「……キュウリ邪魔」

女「ヨーグルトで全然青臭さ消せてませんね。てかヨーグルトの酸味がプラスされてる感じが」

男「これならキュウリ単体に生ハム巻いてかじる方がいい」

女「なんとも上手くいかないものですねえ……」

男「うーん、やっぱ普通に食うのがいいのかな、生ハムって」

女「バケットに乗せたりオリーブと一緒に食べるのもアリですが……もう一つ試したい料理あるので、いいですか?」

男「お、何?」

女「まず、モッツアレラチーズを用意します」

男「あーそれは絶対美味いね」

女「それと、桃」

男「桃……もも?」

女「モッツアレラチーズは指である程度の大きさにちぎり、桃は皮をむいて食べやすい大きさに切ります」スッスッ

男「……もも?」

女「モッツアレラチーズ・桃・生ハムの順にサンドして、オリーブオイル、白ワインビネガー、コショウをパラリ」パラパラ

男「……うん……もも?」

女「上から細かく刻んだレモンの皮をパラりましたらー」パラリ

女「『トニオさんもビックリ!桃とモッツアレラのカプレーゼ』の完成です!」

ドジャァ〜ン

男「もも……桃が邪魔……!」プルプル

女「合うんですよ、桃とモッツアレラ」

男「絶対デザートじゃん!桃入れたらデザートじゃん!」

女「美味しいトマトだって『あまーい!』とか言うじゃないですか」

男「それは大前提に『トマトは野菜』ってのがあるもの……」

女「これは一昔前にTwitterで流行ったレシピだから実績ありますよ」

男「あ、そうなの?それ聞くとなんか安心する」

女「まあそのレシピには生ハム使ってなかったですけど」

男「ダメじゃん」

女「まあまあとにかく、食べる食べる」

男「ええー……なんかゲテモノレシピくさいんだけど……」オソルオソル

パクッ

男「……あれ、これめっちゃうまい」モグモグ

女「おおー、まじですか」

男「なんだこれ……上にかかってるのが桃のみずみずしさとチーズのさっぱりした味、生ハムの塩気と重い風味をつなぎとめてるような……レモンの皮もいい感じだ。口の中で全てがほぐれて合わさって、『これしかない!』って感じになる」モグモグ

女「なるほど、あたしも一口」

パクッ

女「……ほおー、これは美味しいですね」モグモグ

男「『桃とチーズとか正気か!?』と思ったけど、こうなると桃もフルーツっていう独自のくくりじゃなく、食材の一つだな……甘みが他の味引き立てるっつーか」

男「いやー最初はどうなることかと思ったけど、生ハムはうまいし料理も最高だし」ゴクゴク

女「男さーん、これここのスイッチ押したらいいんですか?」

男「えっちょっとなにゲームやろうとしてんの」

女「今日は男さんの趣味の、ゲームにあたしが付き合う日ですよー」

男「……そういやそうだった。普通に忘れてた」

女「で、あたし普通の本や漫画は結構読みますけど、ゲームやアニメはあまり知らなくてですね……これ、どういうゲームなんですか?」

男「『ゴースト・オブ・シマヅ』……」

女「ゴースト……なんです?」

男「プレイヤーは武士である主人公、『平子 寸(ひらこ ずん)』となって、戦国時代の野を駆け巡りテッペンを目指すゲームだ!この前発売されて世界中で大人気」

女「ほおー……武士なのですかー。サムライジャパンですね」

男「主人公の武士とは思えない徹底的に卑怯な戦法が人気の一つだ」

女「サムライとは」

男「その戦法を見たモブの『お侍様の戦い方じゃない……!』ってセリフがネット上で大人気」

女「なんか不安になってきました」

男「とはいえ俺も平日は仕事で忙しくてなー。プレイすんのはほとんど初めてだ」

女「ああ、そうなんですね」

男「とりあえず最初からやってみていいよ」

女「……え、あたしがゲームやるんですか!?」

男「うん」

女「…………爆発しません?」

男「何が?」

バァーン

女「……なんか始まりました」

男「とりあえず最初はチュートリアルになってるから」

女「ああそうなんですね。助かります」

男「『島津の退き口』ってのがあるんだけど」

女「ああー、なんか聞いたことありますね」

男「その島津の『妖怪首おいてけ』から逃げるのが最初のチュートリアル」

女「『妖怪』って何!?」

男「島津の気がくるったサムライから逃げるの」

女「主人公は島津側じゃないんですか!?タイトルに『シマヅ』って入ってんのに!!」

男「タイトルが敵側ってのも人気の一つなんだよ」

女「ま、まあいいです……とりあえず、どうすればいいんですか?」

男「草むらに隠れた状態で、XとA押すと――……」

女「はい」カチカチ

男「隠れた状態で、敵の向こうずねメッチャ刺しまくる」

女「すごく卑怯だ!!」グサグサー

女「ぎゃー!うあー!!え、え、これどうすればいいんです!?」

男「囲まれたら爆弾で敵コナゴナにして――……」

女「うおー!……ちょ、ノドかわいた」ゴクゴク

男「あ、そこ鉄砲で頭狙え」

女「侍なのに刀使ってない!」ポチポチ

男「あとはトラップで一網打尽にして――……」

女「ひい、ひい、……ふう……」ゴクゴク……

女「……あはははは!ぜーいんみなごろしにしてやりますよー!!」ケタケタ!!

男「え?……あ!こいつメッチャ酒飲んでる!!」

女「ビーム!びーむ!てからび――む!!」ポチポチ?ください

男「流石にビームは出ない」

女「むー、じゃあなにがでるんですかー!?……げろ?」

男「それは女さんがこれから出すモンだな……」

>>178
三行目ミスです
?以降無視してください

チュドーン!

女「……」

男「……」

GAME OVER ・ ・ ・

男「えー、あー……女、さん……?」オソルオソル

女「あはははは!げーむってたーのしー!!」バタバタ

男「あっ割と喜んでる」

女「おーし!おとこさぁん。きょーはですねー!」

男「え、あ、はい?」

女「あさまでげーむ、やりますよー!!」

男「勘弁してください」

…………

今回はここまでです
作中ゲームの主人公の名字ネタわかる人はたぶんすごいひと

>>178
この後一つ話抜けてました
今回ミスひどい





女「あはははは……はは……(声にならない笑い)……ッッッ……げろ……げろて……!!」バシバシ

男「あー女さん女さん、敵にめっちゃ囲まれてる」

女「びーむ!びーむ!」ポチポチ

男「出ねえって」

女「うわーすごいかこまれてる……」

男「言ったじゃん俺」

女「こーなったら……主人公もろともばくはつ!」

男「あ!そこ爆弾置いたら――……」

…………

ミーンミンミンミン……

男「……あつい……」グッタリ

男「冷房かけても暑いもんは暑いな……今年の夏異常だろ……ビール、ビール……」

ガパッ

男「……あー、ビールなくなったか。つまみもないしな……なんか買いに行くかぁ……暑いけど」

スタスタ

男「何食おうかな……何気にこの前食った生ハム、美味かったなあ……またああいう、店で食べたらちょっとお高めのを食ってみたいが……今月ピンチだしなあ……」ウーン

ガチャッ

女「あれ、男さん」

バッタリ

男「あー女さん。おはよう」

女「もうお昼ですよー」

男「昨日暑くてあんま眠れなくてさ……今起きたんだよ」

女「ほー、それでこれからお出かけですか?」

男「いや、ビール買ってきて飲みながらゲームでもしようかな、と」

女「……ダメ人間ですねぇ」

男「休みの日くらいダメでもいいじゃん」

男「女さんは――……」ジーッ

女「はい?」

男(……麦わら帽子に、バケツに、クーラーボックス……?釣りにでも行く気か?)

女「なんですかー?じっと見たりして」

男「いや……またなんか珍しいモンでもとって食うつもりなのかな、と」

女「おー、よくわかりましたね」

男「わからいでか」

女「ふふふ……実はですねぇ、今回は……高級食材をハンティングしようかと思いまして!」

男「高級食材……」

女「その名も『エクルビス』……おフランスではジュテームにボーノでボンジュールだそうです」

男「よく意味はわからんが、高級食材ってのは気になるな……(酒のつまみとして)」

女「お、では行きます?男さんもいっちゃいます?」

男「……うん、休みで暇だし、ご一緒しようかな」

男(女さんの格好的に魚介類は確定だろ……バケツ持ってるし。それで高級食材なら、タイとかアワビに似たものと見る。……ヘンなもんは来ないだろ……)

女「ではでは、狩り場までれっつらごーです」テクテク

男「海にでも行くのか?電車乗るならピタパ(※Suicaみたいなもん)持ってこないとな……」

女「いえいえ、歩いて十五分くらいですよ」

男「……ん?……そんなとこに海どころか、川もなんもないだろ」

女「田んぼはありますよ」

男「…………んん?」

…………

…………

ミーンミンミンミン

ジーワジーワ……

男「……田んぼまで来ましたが、暑いね」

女「よーし、ではビシバシ取っていきましょうかねー」

男「……もしかして、タニシでも食おうとしてる?」

女「そんなの食べるワケないじゃないですかー」アハハー

男「だよなあ!?まさかタニシなんか食わないよなぁ!?」

男(ぶっちゃけ少し怖かった)ドキドキ

女「はいこれ、男さんの釣り道具」ハイ

男「釣り?……ここに魚いんのか?」

女「魚ではないですねー」

男「……てか、釣り道具て……」

女「はい?」

男「……割り箸の先っぽにタコ糸つけて、そこに……ニボシくくりつけてるだけだが」

女「はい」

男「……なんかこれ、子供の頃に見た気がするなあ……」

女「おー男の子ですねー。あたしは初めてなんで本当に釣れるのかちょっとドキドキです」

男「……なあ、あのさあ……」

男「なに釣ろうとしてんの?」

女「ザリガニですけど?」

男「チクショウめ!!!!!」

男「お前ホンット……マジでさあ……食うモンないからってザリガニ食うヤツがどこにいんだよ!?」

女「食うものが無いわけじゃあないですよー。知的好奇心です」

男「ザリガニのどこが知的じゃい」

女「フランスでは高級食材なんですよ?それが田んぼの用水路にいるとか、もうこりゃあ取るしかないじゃないですかー」

男「アメリカザリガニじゃん!『アメリカ』!!よく知らんけど別の種類じゃねえの!?」

女「ザリガニはザリガニです」

男「おおーう、言い切りよった……」

女「ザリガニが生息している地域でザリガニ食わないのは日本くらいなもんらしいですよー。なんか変じゃないですか?それって」

男「いや普通だろ……」

女「オマール海老だってあれザリガニの仲間なんですよ?伊勢海老も結構近い仲間らしいですし」

男「……それ言ったら、甲殻類って節足動物だし……節足動物って虫と一緒じゃん?」

女「は?虫とエビは全く違うでしょ。男さんあんぽんたんなんですか?二度と虫の話しないでくれます?気持ち悪いです」

男「あれっ色々食うのに虫はアウトなの!?」

女「虫は違うでしょー虫はっ!あんなの地球外生命体ですっ!」バンバンッ

男「ザリガニとどう違うのかイマイチわからん」

女「何言ってんですか正気ですか!?ザリガニはエビでしょ!?」

男「まあエビってのはそこまで否定はせんけどさあ……けどザリガニだもん……」

女「……あくまで認めませんか」

男「認めないねー。こんなもん食わなくてもいいだろ。エビ食えばいいじゃん」

女「……簡単に言いますけど、スーパーで売ってるブラックタイガーエビって、インドネシアのマングローブ林を潰してエビの養殖池にして作ってるんですよ?9割日本の需要のためだけに」

男「む……」

女「地球環境のために~とか、産まれた星を守ろう~とか言いながら、世の中クーラーガンガンで、日本の文化で絶滅危惧種のウナギ食って、エビ好きだからインドネシアの自然を壊す……それって本当に、正しい世の中なんでしょうか?」

男「いや、まあ……そう言われるとつらいけど」

女「だからあたしは、声を大にして言いたい!」

男「はい」

女「地球環境を守りたいなら――……みんな、ザリガニ食おう!!」

男「それは話が違ってくる」

女「まーそういう難しいことは置いといて……釣りますか。ザリガニ」

男「……社会人にもなってザリガニ釣りかあ……てか、マジで食う気かあ……」

女「なんか乗り気じゃあないですねえ」

男「今までは一応、スーパーで買ったのを加工してたけど……野生のドブから取るわけじゃん」

女「野生のドブて……田んぼの用水路は結構綺麗ですよ」

男「なんかなあ……寄生虫とか大丈夫なん?」

女「大丈夫ですってー……あー、ですけどー」

男「ん?」

女「……ザリガニ触った手で目や口を触らないでくださいね?マジで」

男「それは大丈夫じゃあないやつだ」

男「マジか。マジで……マジにヤバいか」

女「問題ないです。あたしを信じて」

男「イマイチ信用ならんのだよキミは」

女「万が一のためにお薬は常備してますし」

男「ほお」

女「スマホは一瞬で救急車呼べるように設定しております」

男「無駄な設定であることを切に願うわ」

男(とはいえザリガニは子供の頃によく釣って遊んだしなー……そんなにヤバいものとは知らんかったが……)

女「ではではでは……目の前にニボシぶら下げたらハサミで掴むはずなんで、それをついーっと」

男「久々だなあこういうの……ていうか、いるの?ここ。ザリガニ」

女「そこの藻の下にウヨウヨいますよ」

男「どれどれ……うわホントだ。……こんなにいるもんなのか……」

男(……昔は当たり前のように見てたはずなのになあ……大人になってから、こうやって田んぼの用水路見るなんて初めてだ)

女「ふふふ、ではさっそく釣っちゃいますかー」チャポン

男「……」

ミーンミンミン……

女「お!掴んだ……掴みましたよ!」グイッ!

ポチャーン!

女「ああっ!……なんてアームの弱さだ」

男「UFOキャッチャーじゃないんだから」

女「どうすればいいんですか?男さぁーん……」

男「もっとゆっくり引き上げるんだよ。見てろよ……」

チャポン

グググッ

男「……よっし!釣れた!!」

女「おー大物ですよ!男さん!」

男「子供の頃は結構遊んだもんだからな……今日初めての女さんには負けないね」

女「むむ、じゃあ勝負しましょうか!?あたしが釣り勝負に負けたら……非常に残念ですが、釣ったザリガニ全部男さんに差し上げましょう」

男「クッソいらねえ」

シーオーシーオー……

女「……やった!釣れた!釣れましたよー!」

男「イテテ、挟まれた……こんにゃろう」

女「よし!もう一匹!……結構釣れるもんですねー」

男「警戒心ゼロだな。根こそぎいってやる」

ミーンミンミン……

男(なんか……夏休みに戻ったみたいだなあ……)

…………

…………

カナカナカナカナ……

男「……」

女「……」

クーラーボックス『ガサガサガサガサ……』

男「……ちょっと取りすぎたな」

女「正直キモいですね……」

今回はここまでです
交通系ICはピタパ

クーラーボックス『ガザガサガサ……』

男「……流石にこんなに食いきれないだろ。何匹か逃がすか?」

女「あ、それはダメです」

男「え?」

女「アメリカザリガニは要注意外来生物なんで……今はまた違う名前ですけど」

男「ああ、ブラックバスが小魚食うから生態系壊すみたいな、そういうやつか」

女「YES」

男「なんで英語……アメリカザリガニだからか?」

女「特定外来生物ではないので、飼育や運搬に罰則はありませんが……釣ったものをリリースするのは避けたほうがいいですね」

男「なるほどねえ……じゃあ食うしかないのか」

女「それかここで殺して埋めるかですねぇ」

男「それは……ちょっと可哀想だな」

女「何言ってんですか。ザリガニ一匹逃したら何百匹の生物が死ぬのやら」  

女「アメリカザリガニはまだマシな方ですけど、『ミステリークレイフィッシュ』っていうザリガニなんてマジでヤバいですからね」

男「なんじゃそら。『ミステリー』?」

女「『ミステリークレイフィッシュ』……SCPで言うと『Keter』クラスです」

男「人類終わるレベルじゃんそれ」

女「生態がマジでミステリーなんですよ。……このザリガニ、単為生殖します」

男「……つまり?」

女「メス一匹で卵を……『クローンの卵』を産んで、アッホみたいに増えるんですよ」

男「なにそれすげえ」

女「しかもコイツ身体が強いので、他のザリガニが死ぬ病原菌宿してもピンピンしてます」

男「……けど病原菌は撒き散らす、と」

女「コイツ一匹逃しただけで生態系は完全破壊されるでしょうね……とにかく、アメリカザリガニはまだそれに比べたらマシですが、一回捕まえたのなら安易に逃さないこと」

男「ううむ、言いたいことはわかるが……」

女「これから食べる訳ですし小さな情などいりません。……アメリカザリガニは食べられる部分少ないらしいですし、こんだけ取りすぎてもいけるでしょ」

男「まあ、余ったら冷凍とかもあるか」

女「ですねー」

男「……冷凍庫でアメリカザリガニ凍らしてる所、会社の同僚には見られたくねえなあ……」

女「あ、じゃあ余らないように、会社の同僚さんも呼んで、一緒にザリパします?」

男「する訳ねえだろ。あとザリガニパーティー略すな」

…………

…………

女「……さーて、お家帰ってきた所で、さっそく調理しますかぁ」

男「……なにか蠢く音がするクーラーボックスを持ち運んでる所、近所の人に見られなくて良かったわ」

女「そんな心配しなくて大丈夫ですよー」

男「俺は世間体気にするんだよ」

女「大家さんには許可取ってますし」

男「大家さんに許可取ってんの!?」

女「とりあえず、軽く流水で洗って鍋に入れますか」ジャーッ

男「あれ、泥抜きとかは?」

女「そんなのしなくっても死にはしないでしょ」

男「いやいやいや……ドロくさいの食いたくねえぞ」

女「比較的綺麗な所でとりましたし、頭や背ワタ取ればそういうクサさも大丈夫……な、ハズ」

男「自信持って言えよ、そこは」

女「ていうかですねえ……やりたくても出来ないっていうか……」

男「は?」

女「……ザリガニって結構センサイで、攻撃的なんですよねえ……」

男「うん……それが?」

女「こんだけ大量のんを泥抜きしようとして置いとくと……100%共食いして死骸だらけになるんですよ」

男「それは……見たくねえな……」

(※共食いをするのは若い個体だけだそうですが、大量に捕まえると起こり得る可能性はあります)

男「けど少し心配っていうか……」

女「一応、臭い消すために料理酒入れてみますか」

ジャッ

鍋『ガッシャンガッシャンガシャガシャガシャガシャ!!!!』

女「ウヒイ!!!!」ビクウッ!!

男「うおおおお……すげえ暴れっぷり……」

女「う、うおおおおお……今ので少し勢い削がれた……」ガクブル

男「大丈夫かよ……」

女「至近距離で暴れるザリガニの大群って、本気でSAN値削れる」

男「SCPなのかクトゥルフ神話なのかどっちなんだよ」

女「と、とにかく……水を塩を入れて、強火でグッツグツ茹でちゃいましょう」カチッ

ボォォォオオ……

鍋『ビチャン!ビチャン!ビチャ……』

男「……かなり猟奇的」

女「蓋を考えた人にノーベル賞あげたい」

男「……ていうか、沸騰してる所にブチこんだら良かったのでは?」

女「それでも跳ねると思うんですよねえ。捕り立てで生きがいいし」

男「……やはり泥抜き……絶食させるべきだったか」

女「共食いしないように見るのめんどいですし……まあいけますでしょ」

(※実際は3時間くらいでもいいので泥抜きする方が良いそうです)

女「とにかく!沸騰したら吹きこぼれないように10分置きます」

男「わりかし長いな」

女「寄生虫対策です。アメリカの基準でこのくらい茹でたら良いらしいですよ」

男「やっぱりヤバいの持ってんのかあ……」

女「中国はそういうの気にしないで、脱皮したてのザリガニを軽く加熱してパリパリした食感楽しむらしいですけど……イヤでしょ、寄生虫は」

男「あ、女さんってなんかそういうの気にせずバクバクいくと思ってたけど……イヤなんだ」

女「ヤバイと安全の紙一重は好きですが、安全には全力で考慮しますよ」

男「はあ」

女「……完全に安全に対して対抗策を取った上での、野生を食べるというアクションに対する、拭いきれないドキドキ感……うぇひ、うぇへへへへひひひ……♡」ガクガク

男(性癖が理解できない)

女「おっとっと……結構アクが出るな……」ヨソイヨソイ

男「なあ、俺なんかすることある?」

女「じゃあコップとお箸と、大きなお皿出してください。そっちの棚にありますので……大きなお皿は下です」

男「ほいほい」カパッ

女「その間にサラダでも作っておきますかねー。あとディップソースと、ザリガニ料理するための準備と……」テキパキ

男「俺3人分くらいの仕事を一人でしないでほしいなあ」

女「……よし!茹で上がったものをザルにあけて、お皿に盛れば……」

バァーン

女「『ザリガニの塩ゆで盛り』!完成です!」

ザリッ……

男「おおう……想像以上にすげえ見た目だ……!」ゴクリ……

男「赤くなってんのはエビとかカニとかと一緒だな……一匹で見ると割とイケそうな感じするが、大量で見るとなあ……目が多いよ、目が」

女「エビの調理前だってこんなもんですよ」

男「しかしなあ……ハサミがダメなのかな。これがエビとは違うってのを全力で出してる感じする……」

女「オマール海老はもっと立派なハサミありますって」

男「いや、ハンパなハサミがすげえ虫感あるのよ……サソリみたいな」

女「次虫の話したら、ハナからハサミ突っ込みますからね?」

男「ゴメンナサイ」

女「むー、いいですよ。あたしから食べます。ええっと、確かネットで見たカラの剥き方は……」

男「あーいやいや悪かった。俺も付き合うって……で、どうすりゃあいいの?これ」

女「……まず、頭をヒネるようにして、スポッと抜き取ります」グリグリ

男「ふむふむ……さっきまで生きてたのをこうしてイジるの、なんか新鮮だな……」グリグリ

男「……お!抜けた……ああ、これならエビっぽいな」

女「次に、背中とお腹の部分のカラを剥ぎ取ります」

男「ふむふむ……カラ硬っ」

女「エビとは全然違いますね。ヨロイみたい……イタタタタ」

男「これ尻尾の先は引きちぎっていいの?」

女「大丈夫です。FallGuysみたいにすぽーんと」

男「そのたとえはよくわからない」

女「あたしも動画見ただけなんで……」

男「……おお、カラ剥いたら完全にエビみたいな――……エビみたいな……」

ち ま ー ん

女「……」

男「……食える所すっくな!!?」

女「うおお、普通のエビの3倍はありそうな大きさなのに、食べられる所は普通のエビより少し小さいくらい……!」

男「スーパーで売ってるブラックタイガー、これより大きいの普通にあるぞ……」

女「あ、最後に背中をほじくって、背ワタを取ってください。ベリンとめくるようにやったら取れるはずです」

男「……さらに小さくなるなあ……」ホジホジ

男「……流石にここまで加工したら、紛うことなきエビだな……」

女「とりあえずディップソースとして、ケチャップ・レモン・わさびを混ぜたレッドソース、マヨネーズ・醤油・七味を混ぜたイエローソース、マスタード・はちみつを混ぜたハニーマスタードソースを用意しました」

男「……とにかく、食ってみるか……」

女「はい……」ドキドキ

「「いっただっきまーす」」

パクッ

男「……」モグモグ

女「……」グニグニ

ゴクン

男「……エビだ」

女「……カニかな?」

男「いや、エビ……カニ?」

女「いやエビですけど……カニっぽさも……」

男「……」

女「……エビですね」

男「……いや、カニかも」

女「やっぱカニ?」

男「いや、エビ……ううん?」

男「なんだろ、この独特の旨味……8割エビなんだけど、カニっぽさが2割見え隠れしてる」モグモグ

女「そして弾力がすごいですね……プリプリじゃあなくって、グニングニンみたいな……エビでもカニでもない食感」パクパク

男「意外と泥臭さがないのはビックリだ。普通にうまい……ちょっとクセあるけどな」

女「!!……男さん、試しに……背ワタつけたままかじってください」

男「ええ?……まあ、やるけど……」

パクッ……

男「……オオウ……ほのかにドロくせえ……!」オエエ

女「でしょー?でしょー??」

男「なんでそんなことやらすんだよお」

女「いや、背ワタ取る作業なかったらもっと楽に食べられるのになーと思って……やっぱり下処理は大切ですねえ」

男「うええ……ソースつけて口直し、と……」パクッ

女「取り急ぎ作ってみたソースはどうですかね?エビならいけるかと思いましたが……合いますかね?」

男「うーん……ケチャップベースは無難に合う感じだね。ビールにピッタリだし。……けどやっぱ日本人だとマヨネーズ・醤油・七味の合せ技がなーっ。本能に刷り込まれてるっていうか……定番だけど、これこれ、この味!ってなるな。……ハニーマスタードはちょっと、合わない」

女「あー確かに……長時間の塩茹でだと少し水っぽい感じするので、ハニーマスタードの甘みが薄まって気持ち悪い感じになりますね……」

男「そうそう」

女「……逆に言うと、油っこいものなら合う味……ってこと、ですかね?」

男「まあ、そんな感じかな」

女「ふむふむ、なるほど……」

女「ちょっと待ってくださいねーっ」

テキパキテキパキ

男「え、何――……殻剥くの早ッ!!」

女「定番の料理を試してみたいってのと……ディップソースに合うのを簡単にやってみますか」

男「ええ?」

女「まず、殻を剥いたザリガニを軽く洗った後、水気を切ってから片栗粉にまぶしてー」ポンポンッ

男「片栗粉?」

女「じゃっと熱した油で揚げます!!」

ジャアアーッ!

男「!!……そうか……油っこさが足りないなら、足せばいいだけのこと!」

女「簡単ですが、これで塩茹でザリガニの弱さを克服出来るはずです!」

女「完成!『ザリガニの唐揚げ~三色のディップソースを添えて~』」

男「なんかぐるナイのゴチで出てきそうな名前になった」

女「これで三色ディップソースと合うはずです」

男「マヨネーズとハニーマスタードがほとんど同系色なんだけど」

パクッ

男「……おお、合う合う!カラッと仕上がった身にハニーマスタード合うわ。もちろん他のソースもすげえ良い。揚げるとさらに身がしっかりしてる感じするし……いけるな、これ」

女「ふふふ……そうでしょうそうでしょう」

男「これは全部完璧ビールに合うし……いやあ、最初ザリガニ食わされる時はどーかと思ったけど、タダでこんなの食えるって良いもんだな。ありがとう女さん」

女「ふふふふふふ……男さあん……」

男「……え、何?怖いんだけど」

女「あたしのバトルフェイズは――まだ終わっていませんよ!!」

ドン☆

男「何ぃーッ!?」

女「今のザリガニを食べて、こうは思いませんでしたか?……『スナック感覚でおつまみみたいだなあ』『やっぱメインにはなれないかあ』『メインの一品になるには塩茹でと唐揚げじゃあキツいわなあ』……と!」

男「……いやまあ、ちょっと思ったけど……え、どうすんの?」

女「まあ、ザリガニ使って普通にエビ料理作るだけですけど」

男「独創性低いな」

女「ザリガニ使ってるだけで独創性はマックスですよ」

男「それはそうだけどさあ」

女「とりあえずー、すり下ろしたしょうがとにんにくをたっぷりごま油で炒めまして」ジャオーッ

男「ほう」

女「そこに、スライスした玉ねぎとみじん切りした長ネギを中火でざっくり炒めます」ジャッジャッ

男「……ん?これは……」

女「チリソース・スイートチリ・ケチャップ・酒・水で溶かした鶏ガラスープを入れて……一回火を止めて、そこに水溶き片栗粉を少し投入」トペーッ

男「……なるほど」

女「さっき揚げておいたザリガニの唐揚げを入れて、強火でざっくりかき混ぜて……最後に酢をちょっぴり入れて、塩で味を整えたら……」

女「完成!『ザリチリ~ザリガニのチリソース和え~』」

ドバァ~ン

男「やっぱりエビチリか……『ザリチリ』って名前なんか食欲無くすな」

女「まあエビ料理といえば定番でしょう」

男「……味は?」

女「ド定番ですよ。どうぞ」

男「……まあ、もう普通に塩茹でとか唐揚げ食ってるしな……」

パクッ

男「お!うまっ……ああこれ、一番合ってるかも」モグモグ

女「うーん、白ごはん欲しくなりますねーっ!」パクパク

男「ザリガニの塩茹でだと少し感じてたクセもないし、この身の歯ごたえが食べごたえあるっ!あえてシャキシャキの食感残した玉ねぎもいいね……様々な食感のハーモニーは、エビだと表せられないんじゃないか……」

ガシッ!

ゴクゴクゴクゴク……!!

男「……っかーっ!!ビール、うまっ!!……こんなにうまかったか、ビール……マジで今、生きてて最高だわ……」グビグビ

女「……ふふふ……」

男「?……どうかした?女さん」

女「いえ……ちょっとね」

男「?」

女「『生命の最後』――『暴れる身体』――『赤いボディ』――『たくさんの目』!!そんな彼らを食べて……そして!『生きてて最高と思える』――……!!」

女「そう!!これらは――導いていたのですッ!!ザリガニを、一つの『答え』に!!――人類全てをッ!!」

ド ド ド ド ド ド ド

男「なッ――!?一体、『それ』」はッ!?

女「ふふふふふ……つまり――……ザリガニとは……『ザリガニを食べるということは』――!!」

女(『いのちの輝き』だということ――……!!)ホッコリ

ペカーン!

男「……なんか引っ張ったワリにタイムリーなネタで納得しちゃった――ッ!!」ガビーン!!

…………

今回はここまでです

毎回オチに困るのですが、今回は桐谷さんが強かったと自分でも思う。反省
オチの展開もう少し考えます

もう一つのスレの方は来週更新、できたらいいなあと思います

…………

男の仕事場――……

男「……」カタカタカタ

後輩「先輩ー。セーンパーイ」

男「んー?」カタカタ 

後輩「会社の打ち込みのヤツ、最初入る時のパスワード……なんでしたっけ?」

男「お前のID下4ケタ2回だ。……昨日言ったろ、それ」

後輩「あ、そうでしたそうでしたねー」ポチポチ

男「……あれ、くそ……計算合わん……」ポリポリ

後輩「えー、なんか計算ミスってるんじゃないっスかー?」

男「んー……どこだ?……」

後輩「もー、先輩けっこーオッチョコチョイな所あるんスからーっ」

男「……あ。ここか。…………おい後輩」

後輩「なんスか?」

男「……お前が昨日打ち込んだ所……計算ミスっとる」

後輩「……てへぺろ」

男「いい加減怒るよ、俺も」

男「あーもー忙しいのに……」カタカタカタ

後輩「……あれえ?ねーねー先輩せんぱーい」

男「今度はなんだよ」

後輩「あのですねー……」

同僚男「なあ男ーっ、この前の資料あれどうなったー?」

男「え?ああ、会社のフォルダ入れてるよー。パスいつものー」

同僚男「サンキュー」

上司「なー男君ー。○○社での見積もりなんだけど……」

男「はいはい?……これ高すぎでしょ。どっか間違えてますって」

上司「だよなあ」

男「あとで見ときますよ。書類借りときますね」

上司「おう。ありがとうなーいつも」

同僚女「ねえ男くんー、これどうやって作ったらいいの?」

男「ん、あー……これはちょっとややこしいけど、俺この本で勉強してやったら出来たわ。マーカーで印入れてるから、読みながらゆっくりやったらいいよ」

同僚女「ありがとう。助かるーっ」

男「んー。……で、後輩。なんか言ったっけ?」

後輩「あのー……画像のコピーってどうやるんですか?」

男「コントロールキーと――お前だけ質問のレベル低いんだよ!」

…………

…………

男「はあ……やっと昼休みか……今の案件しんどいなー」フゥ

後輩「それにしても先輩って、仕事バリバリできて凄いっスよねー!いやー尊敬しますよー!」

男「別に……そんなんじゃないって」

後輩「いやいや、同期や上司からも頼られて、ソツなくこなす感じ!いやーあたしも先輩みたいになりたいっスねー!」

男「あのなあ……俺みたいになんか、絶対なったらダメだからな?」

後輩「へ?」

男「俺はなあ……与えられた仕事だけきちーんとやって、それ以外は絶対しない。しんどいことはしたくない。出世とかもヤダ」

後輩「……ええ?」

男「ただ、のーんびり仕事やって給料もらって、刺激のない普通の生活できたらそれでいいんだよ……」

後輩「い、いやいや……全然違うじゃないっスか。言ってることとやってること」

男「……それがなあ……」

男「俺が初めて就いた時、仕事教えてくれた師匠がなあ……俺がなーんも知らないことをいい事に、普通新入社員がやらん仕事まで全部丸投げしてきてなあ……」

後輩「……うええ……」

男「しかも親切丁寧にきちーんと教えてくれるんだ」

後輩「あ、それは良いじゃないっスか」

男「そう。それはいいんだよ。すげえわかりやすかったし。……だから俺は知らず知らずのうちに師匠の仕事ほとんど全部覚えていって――……」

男「…………覚えきった時、師匠は寿退社しやがった」ギリッ

後輩「……あー……」

男「後に残ったのは師匠の仕事引き継いで、仕事バリバリ出来るようになってしまった俺だけだ。……俺の仕事の5割は同期がしないような仕事になってた」

後輩「大変っスね、それ」

男「そのくせ同期と給料かわんねえでやんの」

後輩「それはひどい」

男「師匠には世話になったし尊敬しているが、絶対ゆるさん」

後輩「まあまあ、いつか報われますって」

男「後輩、お前も事なかれ主義で『上に言われた仕事だからやるかぁー』とか考えてたら俺みたいになるぞ。気をつけろよ」

後輩「大丈夫っス!あたし、上に言われた仕事すら満足に出来ないんで!」

男「それはそれで駄目だからね?」

男「はあ、普通のなんもない生活がしたいのになあ……」

後輩「そんなこと言っちゃってー、先輩結構、刺激的な生活望んでるんじゃないっスかー?」

男「ないない絶対ない」

後輩「ホントっスかー?日常は刺激に飢えてたりして」

男「だからそんな事は――……」

『魚醤作ってみたんですけどー』アハハー

『生ハム、どうですかー?』ウフフー

『ザリガニ食べましょう、ザリガニ!』エヘヘー……

男「……ないって……そういう刺激はいらんって……そんなんじゃねえし……」ブツブツ

後輩「……なにやらお疲れの様子っスね……」

男「……お前がもうちょい仕事覚えてくれたら疲れもなくなるんだがなあ」

後輩「いやーあたしこういうの苦手でー」

男「どれ、何がわかんないんだよ。休み時間まだあるし、軽く教えてやる」

後輩「いやいや!そんな!先輩の手をわずらわす訳にはいきませんから!」

男「もうすでに午前中結構わずらったんだよ」

後輩「そんなー、せっかくのお昼休みに仕事の話やめましょうよー。それより!もっと明るいこと話しません?」

男「明るいことぉ?」

後輩「例えばー……今の案件片付いたら、打ち上げしましょうよ、打ち上げ!」

男「打ち上げなあ……ウチの部署は人それなりに多いし、まとまらんと思うぞ」

後輩「あ、じゃあじゃあ二人で飲みにいきません?」

男「……お前とぉ?」

後輩「はい!オシャレなバーとか連れてってくださいよぉー」

男「んー……オシャレなバー、ねえ……」

後輩「先輩知ってるでしょ?バーの一つや二つくらい!」

男「いや知らん」

後輩「マジっスか」

男「行かんもん、バーとか……たまに立ち飲み行くくらいで……」

後輩「っちゃー……ダメっスねそれ。ダメダメっス」

男「ダメダメっすか」

後輩「男たるものバーの一つや二つ、エスコート出来るくらいじゃあないとー」

男「えぇー……バーとか高いしオシャレな雰囲気ニガテだし……」

後輩「……モテませんよ?先輩」

男「ぐっ……」グサリ

男「いや俺はモテないわけではない……モテようとしないだけだ」

後輩「それはちょっと意味がわかんないっス」

男「……じゃあお前は知ってんのかよ、オシャレなバーとか」

後輩「いやー、あたしも疎いもので」ヘヘヘ

男「なんだ」

後輩「あたしは良いんですよ。先輩からバーに誘われる側ですから」

男「あっもう誘うの確定なんだ?」

後輩「先輩、モテたくないんスかー?女の子デートに誘う時、オシャレなお店知ってないと恥ずかしいっスよー?」

男「うぜえ……確かにそうかもしんないけどさ」

後輩「ふふふ、このあたしが一肌脱いであげますよー。先輩が決めた店、あたしの視点から採点してあげてもいいっスよー?」

男「……本音は?」

後輩「タダザケ ノミタイ」

男「お前はいつも正直だなあ……」

後輩「えへへ、照れるっスね」

男「ホメてないんだよ」

男(しかし、バーか……いつも料理ご馳走してもらってるお礼に、女さん誘ってみるのもアリ、か……?)

後輩「とにかく、練習だと思って!先輩、オシャレなバー連れてってくださいねー?」

男「ううーん……」

…………

…………

夕方――……

男「……って言われてもなあ……どーいった店がいいんだか……」テクテク

ガヤガヤ……

男「……バーってなんか地下に続く階段とかにあったりして、店内わかんないから入りづらいんだよなあ……中見せてほしい」

男「うーん……会社の人にどんな店がいいか聞くのもなあ……食べログ見るか?……後輩に煽りちらかされそうだな……」

テクテク……

女「……あれ?男さんじゃないですか」バッタリ

男「え?……あれ、女さん?」

女「奇遇ですねー町で会うなんて。お仕事終わりですか?」

男「うん。ちょっと一杯飲もうと思ってたんだけどね……ていうか、女さん」

女「はい?」

男(……なんかいつもよりシックでお洒落な服着てるな……)

男「女さんは、えーっと……どこかで遊んだ帰りとか?」

女「いえいえ。あたしもこれからお店に行く所でして」

男「店……」

女「ちょっと向こうに行った所にある、バーなんですけどー」

男「バー……(……彼氏、とかじゃあ……ないよな……)」

女「男さんは、どこのお店に行く予定なんですかー?」

男「いや、特に決めてない……ちょっと仕事場で色々あってね、お洒落なお店探してるんだけど」

女「あ、じゃあじゃあ、一緒にお店、どうです?」

男「……え、いいの?」

女「はい!」

男(……なんか、いつものパターンな気がするが……)

男(いや、待て待て待て……バーだろ?お洒落な。だったら変なことないだろ、うん……ないない。絶対ない。……ていうか、お洒落なお店探して女さん誘おうとか考えてたのに、女さん紹介の店とか本末転倒な気がしてそっちの方が問題な気が……)

女「?……どうしました?男さん」

男「いや、なんでもない……そうだ。いつもご馳走なってるし、今日俺奢るよ」

女「えー、そんないいですのに……いつもあたしに付き合ってもらって、あたしだって嬉しいんですよ?」

男「いいからいいから。お店どこ?」

女「こっちです。ここを真っ直ぐ行った所にあるビルの地下で――……」

テクテク……

女「……ついた。ここですよーここ」

男「ほう……」

『〜BAR・HEART〜』

男「バー・ハート……か」

カランカラーン……

バーテン「……いらっしゃいませ」ペコリ

男(おお……店内も凄くお洒落だ……)

女「お久しぶりですバーテンさん。バイト代入ったから来ちゃいました。……と言っても奢ってもらえることになりましたけど」

バーテン「お久しぶりです女さん。……あら、そちらの方は?」

男「あ。どうも……女さんのお隣さんの、男です」ペコリ

女「最近仲良くさせてもらってるんですよー」

バーテン「へえ、珍しい……というか、初めてのことですね。女さんにイイ人、なんて……」

男「いやいやそういうモンじゃないですから」

女「?……男さんは良い人ですよー」

男「君はよく意味をわかっていないようだね」

バーテン「ふふ、仲睦まじくていいですね……こちら、ドリンクメニューです」スッ

男「あ、どうも……」

男「へえ、メニューも多くて……一杯500円?バーにしては安いな」

女「このお店はお料理がメインな所ありますからねー」

男「ふーん?そうなんだ」

バーテン「失礼いたします。こちら、お通しです」コトン

男「おお、ジャーキーですか。これはまた美味しそうな……」

バーテン「ええ……」

バーテン「当店名物、『イノシシのジャーキー』でございます」

男「待って待ってちょっと待ってね」

バーテン「?……あら、女さんが連れてきたので、当店の説明は受けているかと」

男「いや、なんかなんとなくわかったよ……なんとなくわかってきたけど……またこういうのか、女さん……!」

女「お洒落でオススメのバーであることは間違いないですよーだ」

男「……ちょっと食事メニュー見せてもらえます?」

バーテン「ええ、どうぞ」スッ

男「……『鹿とイノシシ肉の合い挽きハンバーグ』……『アナグマのミニ鍋』……『鴨のディップソース添え』……『ウサギの唐揚げ』……」

女「ふふふ……このお店は!『ジビエ料理が食べられるバー』なんですよー!」

バァーン!

男「普通のバーが良かったよお……!」

今回はここまでです
ジビエネタではなくまたゲテモノ系になるかもしれませんすみません
アナグマとかイノシシとか別に語るような味じゃあないし……

女「最近流行ってますものね、コンセプトバー」

男「コンセプトが攻めすぎだろ。なんだジビエて」

バーテン「ジビエはフランス語で、狩猟により得られた鳥獣を指します。畜産との対比で――……」

男「語源を聞いた訳じゃあないんだよ」

男「店名が『HEART』でお洒落な雰囲気なのになあ……」

バーテン「ああ、この店名もジビエに由来するんですよ」

男「へ?……心臓食べるとか、そういうこと?」

バーテン「いえいえ……いやまあ心臓ありますけど」

男「あるんだ」

女「鴨のハツ串くださーい」

男「食べるんだ」

バーテン「実は、ハート模様というのは外国由来ではなく、古来の日本にも同じ模様があるのです」

男「え、同じ模様が……日本に?」

バーテン「ええ。上下は逆さまですけど……この模様の事を『猪(い)の目模様』と言い、魔除けや厄除けとして彫られてきました」

男「『猪の目』……」

バーテン「その名の通り、イノシシの目の形に似せて彫られたものですね。……お寺や古墳をよく見てみると、意外とあるんですよ。猪の目模様」

男「へえ、そうなんですか……」

バーテン「たまーにテレビの旅番組とかで、『このお寺の瓦には、なんと!ハート模様が彫られてあるんです!見つけたら相思相愛になれるかも♡』とかいうのありますけど」

男「……ありますね。なんかそーいうの」

バーテン「『いやいや厄除けだよ!?君らがラブラブしながら見てるのイノシシの目を元にした魔除けだよ!?』って声を大にして言いたい」

男「まあ、うん……魔除けと言われるとハート模様の意味合い変わるなあ……」

女「ふむ、お寺だけに……『知らぬが仏』!」

男「…………」シラケーッ

バーテン「かなり大爆笑。カクテル一杯サービスしましょう」

女「わーい」

男「えっマジで?……どういうシステムなの?」

バーテン「とにかく、猪と言えばジビエの入口みたいなもの。……私共の店ではそれにあやかって、『HEART』という名前にしております」

男「なるほど……勉強になる」

バーテン「そして今日は28日……『ジ(2)』ビ『エ(8)』の日、と勝手に決めておりまして」

男「ふむ?」

バーテン「本日、当店では……あえて普通のジビエではないレアジビエ料理をお出ししています」

男「NA☆ZE☆DA」

男「ジビエの日なら普通のジビエ出しゃあいいじゃん!安くするとか!」

女「普通のジビエはいつでも食べられますしい。普段から結構お値打ち価格ですよ、ここ」

バーテン「一ヶ月に一度のお楽しみですよ。本日のお客様は、そういったものを楽しみにしている方ばかり」

男「……よく見ると、テーブル客の人……」チラッ

「ククク……野生の血が騒ぐぜ……」

「ヒヒヒ……今日はどういったものを食えるのかなア~~ッ」

「ジビエルーキーは帰ってヤギのオッパイでも飲んでな……」

男(……変な人ばっかだ)

女「まあ、男さんはザリガニ食にチャレンジしたばかりですので、ジビエ中級者ですよねえ」

男「いやそれは――……」

「何!?ザリガニ……だと……!」

「ヒヒヒ、やるじゃあねえか。ガキかと思ったのによ~~」

「寄生虫がヤバいだろうに、よくやるぜ……負けたぜ。ルーキー……フッ」

男「……なんか認められてる」

バーテン「ほう、ザリガニ食済みならば、ジビエ料理も問題ないですね」

男「イノシシ食ったの今日が初めてなんですけどね……おいしいわこのジャーキー」モグモグ

女「では早速ですけど……マスター、あたしは『例のアレ』……『特性カクテル』をいただきましょうか」フフフ……

バーテン「『例のアレ』ですね……しばしお待ち下さい」

ざわっ

「マジか……最初から飛ばすな、あの女……」

「躊躇しねえだと……怖いもの知らずが……!」

「『特製カクテル』……大したものですね」

ザワザワ……

男「……なに?スピリタス原液でも頼んだ?」

女「いえいえ。全くもって普通のものですよ」

バーテン「ええ、普通のものですね……」

コトン

バーテン「『マムシの生き血のワイン割り』です。どうぞ」

ドゲ――ェン

男「普通って何!?」

バーテン「今日は活きのいいマムシが入りましたからね」

男「うおおお……赤っ」

女「いやまあワインも赤いですしね」

男「いや違う、なんかドス黒くて重たい色の赤だよこれ」

バーテン「分離する前に、どうぞ」

男「分離て」

男「そもそもヘビの生き血て……なんか精力剤とかで名前は聞くけど、効能あんのか?」

バーテン「元々は、ヘビのペニス……つまり、おち○ぽがですね」

男「言い方!」

バーテン「根本から二つに分かれていて、二本あるんですよ。ヘビって」

男「……へえ……」

バーテン「しかもヘビのエッチは一日二日は繋がりっぱなし当たり前の超長期戦。それらを見て昔の人は、ヘビを精力剤に使おうと考えたのかもしれません」

男「……それって、科学的な効能は?」

バーテン「ぶっちゃけ血の方はないと思いますよ」

男「ぶっちゃけるね……」

バーテン「肉はアミノ酸たっぷりで効能あるかと思いますが――……」

「悪いな兄ちゃん、マムシの蒲焼きはいただいたぜ」モグモグ

「鳥みたいな感じで美味いぜ……」パクパク

「見た目から生臭そうな感じがするがそんな事は全くない。少し野性味を感じる鳥という感じだ」ガツガツ

男「いつの間にか食べてるし……」

女「えいっ」ゴクッ

男「うわ、一気にいったね……」

女「……うーん……」

男「どうなの?味は」

女「……ちょっとしょっぱい?」

男「そ、そうなんだ……」

女「あまり血の感じはしないですかねぇ。意外とスッとイケるというか」

男「そうか。俺はそれ遠慮しとこうかな……」

女「むふふふふ、マムシでテンション上がってきましたよー。バーテンさん、今日はどんなメニューが!?」

バーテン「そうですねえ……マムシの他には、カラスにイルカ、ワニ、ミシシッピアカミミガメ――……」

男「ミシシッピアカミミガメ!?」

バーテン「今朝、近所の池にいたのをひっ捕まえてきました」

男「しかもバーテンさんが取ったのかよ」

女「……前食べたんですけど、マズいんですよねぇ……」

男「食べたことあるの!?」

女「なんていうか……カメの水槽に溜まってる水の味、みたいな……」

男「……想像するだけで気分悪くなってきた」

バーテン「前回は茹で方と内臓の処理をミスしてたと思うんですよねぇ。そこを改善すれば――……」

「うおえええええ!このスープ不味ッ!!」

「カメの水槽の味がする!!」

バーテン「チッ、怖いから味見してなかったけど、駄目だったか」

男「テーブル客を毒味に使うなよ!!」

女「皮を剥いでから調理すると美味しいらしいですけどね」

バーテン「やっぱスープじゃあ駄目なんですかね。甲羅も皮も死ぬほど硬いから他の調理面倒なんですよねえ」

男「面倒て」

女「うーん、今日は普通にクセのなくて美味しいのを食べたい気分かなー」

バーテン「あら珍しい。いつもはガンガン攻めますのに」

女「いやほら……今日はビギナーの男さんがいますし」

バーテン「……ふふ、そうですね」

男「女さん的にはザリガニはビギナー食材なの?」

女「アカミミガメよりかは遥かに」

男「……それ言われるとなんとも言えねえな」

女「カラスもいいですけど、あれも肉が少し硬いんですよね」

男「いやそれより生ゴミつつく黒い鳥とか食いたくねえ」

バーテン「都市部で生ゴミを荒らすカラスとは別の種類ですよ。あれはハシブトガラスという種類で、食用になるのは田舎に住むハシボソガラスです」

男「……それどう違うの?」

バーテン「鳴き声とか」

男「結局カラスじゃねえか」

女「ハシボソの方が植物食傾向なんで、肉に臭みが少ないそうですよ」

男「あ、臭いことには臭いんだ?」

女「そんなイヤな風味はしないですけど、なんていうか……血の味というか、レバーみたいなクセがありますね」

バーテン「ハシブトなんて食えたものじゃあないですよ。マジでくっさいです」

男「なんで食ったことあるんだよ」

女「今日はあたしの好きな、アレをいただきましょうかねー」

バーテン「アレですね……少々お待ち下さい」

男「……本当にビギナー食材なの?」

女「当然。あたしはなぜアレが牛・豚・鶏に並ばないのか不思議でなりません」

女「高たんぱく・低脂肪で、ビタミンB2、B6、鉄分が豊富。生活習慣病に効き、肉はやわらかくそしてジューシー……」

男「ほう……言葉だけ聞くと魅力的だが」

女「あたしの大好きな食材!その名も――……」

女「カエルです」

ゲコーン

男「どこがビギナーじゃい!!!」

今回はここまでです
次でバー編終わりです

女「やっぱヘビの後はカエルですよね、カエル」

男「さっぱり意味がわからんが」

女「ヨーロッパではローマ時代からカエルを食べる習慣があったらしいですよ」

男「……日本では?」

女「全くないですね」

バーテン「大昔にはカエルを食べていたという記録残ってるそうですが、日本固有のカエルは小さくて食べるのに向いてないですからね。廃れてしまったようです。嘆かわしい」

男「嘆かわしいかな?これ」

女「『カエルの子はカエル』『カエルの面に水』『ヘビに睨まれたカエル』などなど、様々な言葉があるのに食文化が廃れてしまうなんて……これはもうあたし達で食べるしかないですね!」

男「そうはならんやろ……」

バーテン「ああ、そういえば知ってますか?『ヘビに睨まれたカエル』……あの言葉の真意」

男「はい?……カエルが恐怖で立ちすくむこと、でしょ?」

バーテン「実は、カエルはヘビが攻撃してきた瞬間に避けようとしていて、ヘビはカエルが逃げた後の着地点を攻撃しようとしている……お互いが『後の先』を狙う動きをしているのです」

女「へー。その結果、動くに動けない状況になるんですねー」

男「なんか熟練の格闘家みたいだな……」

バーテン「どうですこのカエルうんちく。合コンで話せばウケること間違いなし」

男「いや100パーすべると思う」

男「しかしヘビにカエルと……やっぱ爬虫類系は抵抗が少しあるかな」

女「……男さん、カエルは両生類です」

男「ううう、うっせえ。どっちも似たようなモンじゃん」

バーテン「まあわかりますよ。卵生の変温動物って、何考えてるかわからない目してますよね」

女「ウロコあったりヌメヌメしてたりしますし……まあ確かに抵抗ある人はあるのかもなー」

男「えーっと、女さん抵抗は――……」

女「美味しいから大丈夫ですよ?」

男「だよねー……」

バーテン「……そういえば男さんは、ニガテな食べ物はないのですか?」

男「え?……うーん……なんだろ……」

女「男さん結構好き嫌い少なそうですよねえ」

男「まあそうかもしれないな……強いて言うなら……おでんのコンニャクがニガテ」

バーテン「……何故?」

女「嫌う要素あります?コンニャク」

男「ブルンブルンして箸で千切れないから噛み付くしかないけど、熱くて歯の裏ヤケドするじゃん……あの感触も苦手だし……竹串ごと噛んじゃったらもう最悪……生きる気力無くす……」

バーテン「な、なるほど?」

女「よくわからないもんですねえ……」

バーテン「しかし、そういった苦手な物はあるのに、女さんの食事には付き合うのですね」

男「まあだいたい慣れましたし……結構あれですよ。意外と美味しいの多いっていうか」

女「おおー、わかってくれますか」

男「食べた結果ニガテってなるのはわかりますけど、食べる前から嫌ってたらいけないな、っていう……やっぱ何事もチャレンジですよねー」

バーテン「ほうほう、なるほどなるほど……」

バーテン「そういう事なら特別に、今回はカエルの姿焼きにしてみました」

ゲロリーン‼

男「なんで?」

バーテン「ゲテモノ愛好家からしたら、食べる前から過剰に嫌われるのも悲しいですが、一切抵抗なくパクパク食べられるとそれはそれで面白くないのですよ」

男「知らんがな」

女「おお……流石になかなかの迫力あるヴィジュアル……」

男「あれ、好きなんじゃないの?カエル」

女「普段は唐揚げですからねー。こーいうのは新鮮です」

バーテン「皮を剥いで内臓を取り除き、あとは塩コショウしてそのままグリルで焼いただけです」

男「……どこから食べればいいの、これ」

バーテン「頭は食べられないので、それ以外から」

男「選択肢多いなあ」

女「とりあえずインスタ映えインスタ映え」パシャパシャ

男「君のインスタは魔界にでもあるのかい?」

女「あたし左足からいただきますので、男さん右足どーぞ」

男「……なんかヤダなあ、このシェアの仕方は」

バーテン「ゆず胡椒やホースラディッシュも合いますので、どうぞ」コトン

女「あらお洒落ですねえ」

男「カエルの添え物じゃなければな」

ブチブチッ

男「……うーん、足だけ見たら鶏肉にも見えなくない、か……?」

女「まあ足なんてどの生物でも見た目そんなに変わらないですからね」

男「……なかなかジューシーで美味しそうなニオイもするけど……」

女「とにかく……」

男「ん」

「「いっただっきまーす」」

女「あーん」パクッ

男「……」パクッ

モグモグ……

女「ん、おいしーっ」

男「…………」グニグニ

女「どうです?男さん。カエルの味は?」

男「……待ってね、骨が……」

女「ああ、結構ありますからね。骨」

男「……うん、しかしこれは……」

男「鶏肉だ」ドーン

女「似てますよね、鶏に」

男「鶏のムネやササミみたいなのと……白身魚?みたいなさっぱりした味がする。しかもパサパサしてなくて柔らかく、うまいな……身離れも魚に近い、か?」

女「ゆず胡椒も良いですねぇ。しっくりきますよぉ」モグモグ

バーテン「こちら、お飲み物です」

コトン

女「おおー、ありがとうございます」

男「これは、なんていうカクテルで?」

バーテン「女さんはレッドアイ。男さんにはカミカゼをご用意しました」

男「カミカゼ……?」

バーテン「ウォッカベースにホワイトキュラソー……オレンジベースの甘いリキュールですね。それとライムを混ぜています。キリッとしていてこういったものに合うかと」

男「ん!そこまで甘くないんだな。結構好きかもしれない……肉に合いますね」

バーテン「男さんは、お酒お強いので?」

男「普通じゃあないですかねえ。楽しむ程度には飲めますよ」

バーテン「それは良かった」

女「うへへー。お酒もおいしくてカエルもおいしくて、さいこー♡げろげろげろりん!」

バーテン「女さん酒めっちゃ弱いんで、バーテンダーの仕事に張り合いないんですよ」

男「まだ二杯くらいしか飲んでないだろ女さん……」

バーテン「ミント水出しておきますね。これ飲ませてしばらくしたら落ち着くはずです」

女「うひひー、いつもすみまちぇんねえ。バーテンさーん」

バーテン「いえいえ……私も飲ませすぎてしまいましたね。申し訳ありません」

男「……そういえば、女さんってこの町に最近引っ越してきたけど……バーテンさんとはその頃からの知り合いなんですか?」

バーテン「いえ。昔からのご友人なんですよ」

男「あ、そうなんですか?」

バーテン「というより、女さんのお姉様にお世話になりましてね、昔」

男「へえ……女さんのお姉さん」

バーテン「懐かしいですね……右も左もわからないあの頃、本当にお世話になって――……」

…………

…………


『おいテン子ォ。キタ高の奴らマジナメてっからシメにいくぞ』

『うっすアネさん。ついていくっす』

・ ・ ・

『あ、コーヒーしばきてえけど金ねーわ。ちょっとカンパもらってくっか』

『うっすアネさん。私行ってくるっす』

・ ・ ・

『テン子ォ。腹減ったぞ。誰かパシらせてこいよ』

『うっすアネさん。僭越ながら弁当作ってきたっす』

・ ・ ・

『テン子ォ。オメーはマジに頼りになる舎弟だなあ』

『うっすアネさん。私テレるっす』

…………

…………

バーテン「懐かしいですねえ……あの頃が……」シミジミ

男「いい話っぽく言ってるけど過去に何があったんだアンタに!!」ガビーン!

…………

…………

後日――……

男「はあ……仕事しんどいなあ。今日も……」カタカタ

後輩「先輩、センパーイ」

男「なんだ?まーたなんかミスったか」

後輩「いえ、そうじゃなくってー……お店、どうなりました?いい店見つけたっスかー?」

男「……あー……それなんだけど……」

男「カラスにヘビにカエル……食える店って、どう思う……?」オソルオソル

後輩「何故オシャレなバーの話から魔女鍋の材料みたいな話に!!?」

…………

今回はここまでです
カエルはマジで美味しい。オススメ。味的には結構ウサギに似てるかもしれない……どっちも鶏に近い
Amazonでも買えるので食ってみようぜカエル

次回からちょっとゲテモノから料理系統に路線戻します
書いてて桐谷さんとか山賊ダイアリーとかと変わらねえなってなってきてたので

カエルは鶏肉に似てるって言われるけどだったら鶏肉で良いよねってなっちゃうな多分鶏の方が安いし
最近幅効かせてる大豆ミートも代替元の肉より凄く安いって訳じゃないしね

>>369
個人的には鶏肉より好きですよ、カエル
値段高いのはまあそりゃあ流通少ないですしねー。みんな食わないからそりゃあ高くなる

値段言い出したらブラジル鶏肉に勝てるのいませんし、食の多様性って大切だと思います
私の父は昆虫食に未来感じてたりしますしね。私はしませんけど

…………

男「……よし、今日の晩ごはんできたー……」

・ごはん
・みそしる
・つけもの

男「…………悲しい……」ショボン

男「仕方ねえよなあ……『プラスステーション55』発売決定しちゃったし……日本はもうちょい発売遅れるかと思ったけど思いの外早くて……まあそれは嬉しいんだけど」

ズズッ……

男「しかし二ヶ月後は想定してなかったなー……金貯めないとな。うーん……ミソが薄いぜ……」

パリパリ……

男「……漬物は味濃すぎて塩食ってるみたいだし……安物はダメだな……しかし食費削らないとなあ……外食高いし」

男「あああ……ここまでくると女さんのメシでも恋しくなるなあ……ザリガニ釣りに行くか?……いやなんかそこまでいくと色々捨てちゃってる気もするしなー……」

モグモグ

男「女さんが普通に美味しいごはん作ってくれたらなあ……なんか俺ヒモの思考みたいになってんな。いかんいかん。自分の欲で食費削ってるんだから、人の好意アテにしたらいかんぞ俺……洋食食いてえ……」

ピンポーン

男「!!……んぇ?」

ガチャ

女「おっはろーございます。男さん」

男「あー……こんばんは。女さん」

女「あのですね、晩ご飯食べちゃいました?」

男「今食ってた所だけど――……待った!!女さん待った!!」

女「ほえ?」

男「今回ばかりは受け取れねえー……俺にもプライドがある!!」

女「どういう事ですか、それ」

男「つまりだなー……」

カクカクシカジカ

シカクイムーブ

女「……なるほど。つまり自分の買いたいもののために今食費を削っている、と」

男「そう……そこで女さんからのおすそ分け受け取ったら、俺はそれを頼りにするダメ人間になってしまう!仮にも社会人が学生頼ったらダメだろ!」

女「……面倒くさいプライドですねえ」

男「男って生き物はプライドだけで真っ直ぐ立ってんだよ」

女「うーん、伝わらない」

男「右足がプラで左足がイドだ」

女「なおさら伝わらない」

男「っていうかそもそも!!女さんのおすそ分けってどーせゲテモンだろ!次はなんだ?タヌキやらパンダやらドラゴンやら食わすつもりか!?」

女「最後のは食べたくても食べられないですねえ」

男「あいッ……にく……今は、そーいうの……いらないから……マジでいらない、からッ!……いやホント……肉食えるならなんでも食いたいとか、思ってない、から!……この前のカエル案外美味かったとか思ってない……ほどこしなんかいらない……!」

女「かなり未練タラタラじゃあないですか」

男「いや!マジで今は普通の食いたいからな!?そりゃあカエルくれるんなら食いたいけどさあ!今はマジで、普通の食いたい気分ですから!!女さんのゲテモノ差し入れなんていりません!ごめんなさい!こっちのプライドで無茶苦茶言ってるだろうけど、マジでゲテモノなら断る理由になるからねーッ!!」

女「……まあ、今回作ったの、普通のものではないですけど……」

女「カレー作りすぎちゃったんですよぉー」

男「なにそれー☆めっちゃたべた~~い♡」ワーイ

男「ぅはッ!!!……待て待て待て……女さんがそんなマトモなん作るワケねえ……」

女「すっごい言われよう」

男「食材はなんだ?マンドラゴラか?ケンタウロスか?それともマタンゴとか……」

女「なんで逐一ファンタジー突っ込むんですか」

男「だって!女さんの作るものって普通じゃあないだろ!?」

女「いやまあ、普通ではないですよ?」

女「燻製カレーなんですけどー」

男(めっちゃ美味そうな響き――……!!!)トゥンク

男「ううう……し、しかしそれを受け取ると俺のプライドは……!!」

女「……あーあー。作りすぎちゃって困ってるんだけどなー。これ受け取ってくれないと捨てちゃう事になるなあ……あーもったいない!誰かもらってくれないと、あたしこまるなー!」

男「……」

女「誰か……心優しい人が受け取ってくれないかなー!助けてくれないかなー!」

男「…………」

男「……いただき、ます……!」グスッ

女「はい。素直でよろしい。……せっかくですし、温めてあげますよ」

男「……拝啓、お母様。元気ですか?ワタクシはゲーム機を買うために年下のヒモとなりました……」トオイメ

女「なーにぶつぶつ言ってるんですか。おじゃましますよー」スタスタ

女「わ……なんか昭和の朝ごはんみたいな晩ごはん食べてますね」

男「仕方ないじゃん金貯めないとだし食材もないし」

女「せめて野菜とかですねえ……漬物は野菜カウントには難しいですよ」コトン

男「高いじゃん、野菜……」

女「うーん……豆苗とかどうです?あとは、ネギとか」カチッ

男「は?豆苗?ネギ……?」

女「……知らないんですか?豆苗とネギ」

男「豆苗はともかくネギ知らん人間がおるかいな。……そうじゃなくてさ、なんかぱっとしねーモン勧めるなあ、と……そんな安いイメージないし」

女「豆苗やネギは、根の部分を水につけていたら、また生えてくるんですよ」カチャカチャ

男「え、マジ?無限に食えるの?」

女「流石に無限には無理ですけど……今度豆苗の袋よーく読んでみてください。再収穫の仕方書いてますから。豆苗公式のテクニックですよ」グルグル

男「ほおー、それはちょっとお買い得だな……」

女「あたしも新しい本買いたい時、ニンジンのヘタから葉っぱ育てて食べたりしましたねえ……あとは食べられる雑草とってきたり、ナマズ釣ったり……」

男「君はオールウェイズたくましいね」

女「よし、温まった。食べかけのご飯、カレー皿に移しますよ」

男「おお、いつの間にかカレーの準備が出来てる……」

女「はい、燻製カレーです」

コトンッ

男「うお……なんか香りが独特……うまそう……」ゴクリ

女「この前ベーコン作る時はヒッコリーのチップ使ったんですけど、今回はさくらのチップ使ってみました」

男「ごめんよくわからない」

男「とにかく、ありがたくいただきます女サマ」ペコリ

女「よきにはからえー」

スク……

男「あれ?食材が細かい……?」

女「豚のミンチ使ってますので、それに合わせてニンジンじゃがいも玉ねぎも細かくしています」

男「ほおー……」

女「じゃがいもは一回油で揚げて表面固めて、煮崩れしないようにしてますねー。あとにんじんは鍋に入れる前に――……」

男「えっなんかすごい事してない?」

女「普通のことですよ。まあまあとにかくいただいてくださいな」

男「ん……いただきます」

パクリ

男「……うまっ……なんじゃこりゃ。もしかしてスパイスこだわってるとか?」モグモグ

女「いえいえ、市販のカレールーですよ」

男「今まで食べたことない味……というより、香りだな……」ガツガツ

男「いやー手間がかかってる味がするわ……すげえうまい」

女「あはは……そこまで手間かかってる訳じゃないですけどねえ」

男「いやいや野菜もそうだけど……燻製するには塩漬けして塩抜きして、ってやるんでしょ?すごい手間かかるじゃん」

女「出来たらそうしたほうがいいですけど、別に必須ではないですよー。少し無理矢理ですが、今回はバットにミンチを入れてガンガンに燻しました。結構香りつくもんですよ、それでも」

男「……しかしまあ、燻製自体が結構手間がかかるんじゃ……」

女「個人的には、蒸し料理よりかは楽なイメージですねえ……」

男「……割と五十歩百歩な気もするが、そんなもんなんか」

女「結構、燻製に難しいイメージ持ってる人多いですけど……道具なんてアマゾンで3、4000も出せば揃いますし、簡単ですよ燻製。フタして放っておくだけで出来ますし」

男「うーん……料理出来る人からしたらそうかもしれんけどさあ……」

女「難しく考えすぎですよ。料理なんて簡単簡単」

男「そうかねえ……」

女「料理出来たら楽しいですよー?……た・と・え・ば……男さんが今日食べようとしていた晩ごはん」

男「ん……みそ汁に漬物?」 

女「あーんな切り詰めたことしなくても、簡単に美味しいもの食べられるんですよ。……男さん、洋食食べたいとか、思いませんでした?」

男「思った。メチャ思った」

女「料理が出来れば、ほとんどなんの食材もなくとも……洋食だって!」

男「な――何い!つまり……それは……ッ!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

男「ほぼ空っぽの冷蔵庫から、ステーキを作り出す技術があるとでも――……!?」

ギャーン!!





女「…………流石にそれは無理です」

男「だよねえ」

女「ちょっと冷蔵庫、拝見しますねー」カパ

男「どーぞどーぞ」

女「……ほとんど何もないですけど……あ、たまごありますね。……あとは調味料がいくつか」

男「明日は卵かけご飯にしようとしてたからね」

女「冷蔵庫以外には――……パスタ?」

男「安いんだよな、パスタ。茹でて市販のソースかけたら一食100円切るし、お得」

女「ふむふむなるほど……小麦粉もありますが、これは?」

男「なんだっけ、昔田舎から送られてきたヤツだと思うけど……使い道わからん」

女「ふむふむ、なーるなる……」

女「ちょっと作ってみますか、洋食」ジャン

男「絶望的に何もないこの状況下で!?」

今回はここまでです

燻製について語れるほど作れるのなかった。基本燻して終わりだもん……

ドサッ

女「とりあえずあたしん家から足りない調味料と調理器具取ってきました」

男「結構あるなあ……これ買うだけで結構お金かかりそうなんだけど」

女「調理器具は100円ショップですし、調味料も一回分の値段考えたら微々たるもんですよ」

男「マジで?」

女「でじま」

男「……まじでじま」

女「まずは小麦粉からやっちゃいますか」

男「やっちゃうわけですか」

女「突然ですが」

男「はい」

女「……『ジャンクフードの王様』と言えば……なんだと思います?」

男「ええ?……ハンバーガーとか?」

女「……あ、そっかハンバーガーありましたね」

男「あれ?なんか想定してた答えと違うの言ったか俺」

女「あーじゃあ家!お家で食べるジャンクの王様は?」

男「んんー……なんだ?ポテチやポップコーンもジャンクフードっちゃあジャンクフードだが、『フード』ってより『お菓子』って感じだし……」

女「まあ王様ではないですよね」

男「家で食べるってことは、作れるジャンクフード?それか、注文――……」ハッ

男「もしかして……ピザ?」

女「ふふふ……正解です。今からこの小麦粉で、ピザ生地作っていきます」

男「作れるのか……頼んだら高いんだぞ、ピザ」

女「あたし頼んだことないんですよねぇ。逆に面倒くさくないですか?注文するの」

男「いや作る方が絶対めんどい」

女「本当なら小麦粉と強力粉を混ぜたほうがモチモチさっくりした生地になるんですけど、今回は小麦粉オンリーでいきますね」

男「……粉にも種類あるんだ」

女「ええ。パンやケーキ等もちもちふわふわさせたいなら強力粉で、クッキーみたいなサックリしたものなら薄力粉。オールマイティに使うなら小麦粉……みたいな感じですね」

男「……よくわからない」

女「例えるなら……『今のはメラゾーマ(強力粉)ではない、メラ(薄力粉)だ』……みたいな」

男「その例え絶対間違ってるって事だけはわかるぞ」

女「まずは小麦粉をボウルにどばばーっ」ザーッ

男「……分量は?」

女「適当ですねぇ。膨らみゃあいいんですよ」

男「……料理ってもっとしっかり量るもんだと思ってた」

女「ケーキとかならそうしますけどね。砂糖は扱い慣れてませんし失敗したら膨らまないし。……イースト菌は使い方さえ間違わなければ絶対膨らみますので」

女「小麦粉のはしっこに砂糖をスプーン2杯くらいと、イースト菌を投入」

男「おお、イースト菌……大人ジュースの!」

女「あれはウッカリ入っただけで、本来は生地の発酵に使うもんですからね」

男「ああ、二酸化炭素が出てふわふわするんだっけか……?」

女「まあだいたいそんなもんです」

女「粉400グラムに対して5グラム……でいいんだっけな。まあ気持ち多めの方が失敗はしづらいですね。適当で……ちょっとイースト菌くさくなるけど」

男「ふむ」

女「で、砂糖とイースト菌入れたボウルの反対側に、塩とオリーブオイルたらり」タラー

男「……なんで反対側に?」

女「イースト菌も生物ですから、塩には弱いんですよ。シントーアツとかなんとか」

男「浸透圧……なるほど」

女「けど砂糖だけだと生地の味にメリハリないですからね。苦肉の策」

男「今さらだけど、砂糖はなんで入れたの?」

女「イースト菌の栄養です。砂糖を入れることで膨らみやすくなるんですよ」

男「ああ……ジュースの糖分を分解してアルコール出来るんだったな」

女「炭水化物より糖質のほうが微生物にとって食べやすいですからね。少し砂糖入れることで、微生物の働きに勢いもたせるんですよ」

女「微生物……というか生き物は、『食べ物』『水』『温度』の3つが最低限生きるのには必須なんですよ……人間もそうですね」

男「……俺はゲームがないと死ぬが」

女「それは知りません……」

男「水はともかく、温度というと……そーいや大人ジュースん時も冷蔵庫じゃあなく室温で放置とかしてたな。今回も?」

女「今回はさらに失敗をふせぐために、40度くらいの熱めのお湯を粉に投入」ザーッ

女「この時入れすぎるとベッチャベチャになるので、少し少なめに入れます。最初は手にちょっぴりこびり付くくらいで、混ぜたら綺麗に一つにまとまるくらいがベストですね」コネコネ

男「あれやらないの?ほら……指にのせてクルクルーって回すやつ」

女「それは発酵終わった後ですし、結構難しいので回すのはやりませんねえ。代わりに、ぐぐーっと伸ばしたりボウルにベシベシ叩きつけたりします」ベシーン

男「これは何の意味が?」

女「小麦粉を鍛えてグルテンがどーたらこーたら、なんですけど……まあ正直よくわからないので、適当に」ペチコネ

男「……女さんって結構適当なの好きだよね」

女「毎日料理やってるといちいち測ったりしてらんないってのあるんですよね……適当が身についちゃってるっていうか」

女「一つにまとまったら、一回り大きなボウルに少々熱めのお湯を入れて、そこに生地の入ったボウルを浮かべます」プカリ

男「ああ、なるほど……これで温度をキープするんだ」

女「生地が膨らまない一番大きな理由は温度だと思うんですよねー。こうすることで膨らまない失敗はかなり減ると思いますよ」

男「へえー」

女「あとは生地が乾かないように表面を少し濡らして、ボウルにラップをかけて1時間ほど放置すれば生地の完成です」

女「では生地の完成を待っている間に、次の料理」

男「あ、まだあるんだ?」

女「まだまだいきますよー。さっき男さん家の棚からこんなの発見しました」ハイ

男「え?……ああ、カップスープのもとじゃん」

女「ええ。オニオンコンソメスープ。コップに入れてお湯を入れたら完成のお手軽なやつですね」

男「朝ごはんにパンと一緒に飲もうと思ってて……忘れてたなあ」

女「これと、ナマのお米を使います」

男「……コンソメ……チャーハン?みたいな感じ?」

女「もっとオシャレに」

男「ええ……なんだっけ、西洋がゆ……みたいなアレよな?」

女「リゾットですよ、リゾット!これとお米でイタリアのシェフもビックリのリゾットを作ります!」

男「……ジョジョの敵でいたよな、リゾット」

女「いますね。格好いいですよね」

男「あと……サイゼリアで食ったことある、と思う……」

女「男さん、食に無頓着ですよね……」

女「まずー、フライパンにバターとオリーブ油を入れて、そこににんにくを弱火で炒めて香りをつけます」チュワワ……

男「……俺んち普段マーガリンくらいしかありませんけど」

女「じゃあマーガリン単体でもいいですよ」

男「いいんだ」

女「ぶっちゃけ気分なんで、これ」

男「気分」

女「にんにくはともかく、バターとオリーブ油は油ならなんでもいいですよ」

男「にんにく無いんだよなあー」

女「コゲる前にナマのお米を入れまして、しゃしゃっと白くなるまで炒めます」ザッザッ

男「お米洗わないんだ?」

女「洗いませんよー。本場のイタリアンなリゾットも洗わずに使うらしいです。……で、炒めてる間に、お米の3倍くらいの量のコンソメスープを別に作っておきます」

男「えっと、コンロ一つしか――……」

女「カセットコンロ持ってきてますので、それで」

男「準備いいなあ」

女「お米が少し白くなったら、アツアツのコンソメスープを三分の一入れまして……」ツウー

ジャワー!

女「あとは強火にして、放置」

男「放置好きだねえ」

女「楽でしょ。放置。ていうかあんましイジるとお米の粘り気出ちゃうんで、いじっちゃダメなんですよ。……コゲつかないようにたまにかき混ぜますけど」

男「へえー……で、残りのスープは?」

女「水分なくなったらスープを足す、っていうのを繰り返すんですよ。スープなくなって水分飛んだら仕上げに味付けして完成ですねー」

女「その間にもう一品作っておきましょう」

男「な……まだ作れるのか?なんっもないのに」

女「パスタあるでしょー、パスタ」

男「あるね……けど具材ないよ?」

女「イタリアでは『絶望のパスタ』と呼ばれる料理があるんですけども」

男「ほう?」

女「家に全く食材がない時にお客さんが来ても、ささっと作ってお出し出来るパスタのことでして……」

男「すげえじゃん絶望が希望じゃん。ダンガンロンパじゃん」

女「まあ『ペペロンチーノ』の事なんですけどね」

男「……とうがらしとにんにくのやつか」

女「はい。ベーコンもあればいいんですけどー」

男「まあ……とうがらしとにんにく、無いね」

女「絶望以上に絶望ですよねえ」

女「なので、『絶望のパスタ』とタメはれる料理を作ります」

男「また聞いたこともない料理かな、それは」

女「……カルボナーラって知ってます?」

男「流石に知ってる」

女「それです」

男「……え、あれって生クリームやらなんやら必要なんじゃないの?」

女「実はですねぇ、生クリーム使うカルボナーラって、大量に作り置きした時に卵がカチカチに固まらないようにするためのもので……本来は入れないんですよ」

男「なんと……ズボラのために生クリーム使ってんのか」

女「諸説ありますけどね」

女「まずは、鍋にお湯を沸騰させて……塩どばーっ」ザザーッ

男「多ッ!そんな入れんの!?」

女「海水よりちょっと薄いくらい入れますよ。パスタの麺にしっかり味を付けるためです」

男「……よく知らないけど、お料理の本とかは小さじ一杯とかそんなんだった気が……」

女「パスタ茹でる時なぜ塩入れるのかというと、麺に味つけるためなんですよ。ソースの味が濃いミートスパならともかく、本来ならこーしてどっさり入れるんです」

女「で、沸騰したらそこに麺を――……あ、その前に、ピザ生地が良い感じですね」

男「あ、忘れてた。どれどれ……うお、すげえ膨らんでる!」

女「一旦鍋は火を止めて置いといて、ピザ生地を……ちぎって丸めてうすく伸ばしまーす」コネコネ

男「……なんかちょっと不格好だね」

女「食べられれば問題ないですよっ」

男「……貸してみ」

女「はい?」

男「こうして、こうして……」

コネコネコネ……

男「……お!これいい感じじゃない?」

マルーン!

女「!う、おお……美しい……綺麗にまんまる……!!」

男「いやー、子供の頃図工好きだったからなあ。うん」

女(……なんか、すごくクヤシイ……!!)ギリッ!

男「女さん、顔こえーよなんか」

女「ま、まあいいです。ではこれにピザソースとチーズ、と言いたい所ですがー」

男「……まあ、そんなもんはないわな」

女「ケチャップと粉チーズで代用しますねー」ヌリヌリ

男「……俺んち、普段粉チーズないけど」

女「そこはまあ、買ってください。普通のチーズはすぐカビちゃいますけど、粉チーズならわりかし保存ききますし、いいでしょ」

男「ああ、そういうのはありがたいね。よく食べ物ダメにするからなあ」

女「今回はケチャップに粉チーズだけですが、他にも色々お好きなものをトッピングしたら、オーブンで15分ほど焼けば完成です」ピッ

男「いやー……意外と簡単に出来るもんだな」

女「で、その間にリゾットのスープ足して、パスタも茹でちゃってー」

男「同時進行が多いなあ」

女「パスタが茹で上がるまでの間に、ソースを作っちゃいますね」

男「おお、ついにオシャレ料理のカルボナーラソースを……」

男「といっても、難しいんでしょう?」

女「えーっと……卵を一つ、ボウルに割ります」パカッ

男「うん」

女「黒胡椒と、粉チーズをたっぷり入れます」

男「うん」

女「……あとは、ここに茹で上がったパスタを入れたら、完成……」

男「衝撃の楽さだよ」

男「ウソでしょ……卵かけご飯とほっとんど変わらないんだけど!?」

女「本来ならパンチェッタ入れたりするんですけども、まあだいたいこんなんですよ」

男「……もしかして、料理って楽いのか……?」

女「やってみると意外と楽ですよお。そもそも人間って、毎日ごはんを食べるじゃあないですか」

男「まあ、うん」

女「たまーに凝った料理をするのもいいですが、楽にささっと食べられるレパートリーもいくつかあると楽しいですよ」

男「……これからは卵かけご飯よりカルボナーラだな……こっちのがなんか、ちゃんとしたモン食ってる気するわ」

女「ふふ、試してみてくださいね」

女「リゾットも水分飛んだみたいですし、仕上げに胡椒と粉チーズをぱらり」

男「粉チーズ大活躍だな」

女「これ入れるだけでイタリアン洋食度がグンと上がりますからねー。ちょっと味見……んん、少し塩を足して、と……」

男「ん?……うお、あ、あっ!女さん、パスタ吹きこぼれてる!」

女「え?あー……マーガリン入れ忘れてましたねえ」

男「なん……マーガリン?」

女「パスタ茹でる時にマーガリンを一欠片入れると、吹きこぼれなくなるんですよ。伊○家の食卓~」

男「女さん○東家世代じゃあねえだろ!ていうか吹きこぼれやっべえー!!」

ワーギャー……

…………

…………

女「……茹で上がったパスタをささっと卵ソースにからめて……ピザも焼き上がりましたし……お皿に出して、と……」

コトンッ

女「はい完成。『絶望のジャンク王・ピザ』に『絶望のカルボナーラ』、『絶望のリゾット』ですよー」

ジャーン!

男「おお……ほっとんど具材がないから彩りはないけど、俺の食ってた晩飯よりかはゴージャスだ……!」

女「まあ欲を言えばあたしも色々お野菜やお肉入れたかったですけどねー。自分で作る場合は色々足してアレンジしてみてください」

パクッ

男「ん!……しっかりピザの味するわ……パリパリってしてるね。美味しい」

女「ピザ生地は伸ばして冷凍しておけばトッピングして焼くだけで食べられるのでオススメですよー」

モグモグ……

男「カルボナーラ、昔食ったやつよりサッパリしてるな……もっとモッタリしてるイメージだった」

女「生クリーム入りのソースだったんでしょうねえ、それ。濃厚で美味しいですけど重たい感じしますよね」

男「これはサッパリしてるな……いくらでもイケる感じだ。ほとんど卵かけご飯なのに、醤油の代わりにチーズと胡椒入れるだけでこうも変わるもんか……」

男「サッパリといえば、このリゾットも……『西洋がゆ』って思ってたけどおかゆと全然違うな」

女「本場のリゾットっていうのは、お米をパスタみたいにアルデンテに仕上げるモンですからねー。少し芯が残ってる感じが良いでしょ?」

男「うん。ベチャベチャしてないんだよな。芯の残り方がすごく絶妙っつーか」

女「これにキノコやベーコン入れたり、コンソメスープの代わりにミルクやトマトソースなんかを入れたりしても美味しいですよー」

男「へえ、良さそうだなーそれ。今度やってみよ……」

モグモグ……

男「いやー、美味いわ。全部うまい。やっぱ女さん、天才だなー」

女「えへへ、テレますね。……まあさっきやってみた通り、案外簡単ですので、男さんもやってみてくださいな」

男「おう。……しかし……」

女「はい?」

男「…………作りすぎだよね」

女「……楽しくて、つい……」

…………

…………

次の日――……

男「あー……仕事だる……」カタカタ

後輩「先輩、セーンパーイっ」

男「んー?」

後輩「そろそろお昼っスよー。何か食べに行きません?」

男「いや……俺はいいよ」

後輩「えー、またコンビニ飯っスかー?身体に悪いっスよー?」

男「いや……俺弁当持ってきてるから」スッ

後輩「……え!?先輩、料理出来たんスか!?」

男「いや料理出来たっつーか、成り行きっつーか……」

後輩「……成り行き?」

男「…………」

カパッ

・ピザ
・リゾット
・カルボナーラ
(全て昨日の残り物)

男「…………」

後輩「……育ち盛りの学生だってこんなに炭水化物ばっかり食べないっスよ……」

男「やっぱそう思う?」

…………

今回はここまでです。遅くなって申し訳ないです……スピード上げたい
ゲテモノ書くか珍しい料理書くか後輩とのイチャイチャ書くかで迷う



なんでマーガリン入れると吹きこぼれないの?

>>447
そもそもなんで吹きこぼれるかというと、麺に含まれるデンプンが沸騰した時できる泡をつつんで割れなくなるので吹きこぼれるんですけど、
油を入れると乳化の作用でデンプンの膜が破れるので、吹きこぼれない……らしいです。詳しくはよくわからない……

申し訳ありません、更新少し遅れることになります
12月には更新できるかな、と……本当にすみません

本当に申し訳ないですが、1月後半に更新となります
ちょっと今回題材にしたいものを作ってみたくて、遅れます
今暫くお待ちください……

…………

ピンポーン

宅配業者「男さぁーん、お届け物っス〜〜ッ。アマゾンからー」

男「はいはーい」

ガチャッ

宅配業者「え、と……これかな?これっスね。はい、印鑑を……」

男「サインでもいいっすか?」

宅配業者「はいっス。んじゃここに……はい、はい。オッケーっす。あじゃじゃしたーっ」

男「どもーっす」

バタン……

男「……ふ、ふふ……ふふふ……!」

男「ついに来たぜこの時が……!今どきパソコンで調べりゃあいくらでも出てくるしダウンロード版買えばいいっていうのもあるが……やっぱBlu-rayのがテンション上がるぜ……!」

ガサガサ

男「今日でもう一週間も我慢してるからな……でかいの一発、決めてやんぜ!ふひひひひ……!」

ガサッ

男「…………は?」

コロンッ

男「……なんだこれ。こんなん買ってねえぞ……?」

男(プラスチックの試験管、に入った……粉?サラサラの白い粉?が……)

男「え、なにこれ怖い怖い」

ガサッ

男「えっと、俺のだよな?宛名…………あ!俺のじゃねえじゃん!」

男「思いっきり宛名が女さんの名前だ……うわーくそあいつ、間違えやがったか……」

男「…………」

シーン……

男「……え、女さん、これ何買ったの?」

男「女さんのことだから、またロクでもないもんだとは思うが……調味料か?いやそれならビンとかに入ってるよな?……?」

男「…………まさか――……!」ハッ!

男(女さん……普通の料理では満足出来ず……つ、ついに違法なブツに!?)

ガ――ン!

男(んなアホな……と思いたいが、『普通のモノでは満足出来なくなったんです!』っつって手を出した可能性……無くはない。無くはないぞ)

男「ていうか、そーでもないとこの薬品の説明がつかんし……鼻からか?鼻からいくのか?これは」

男(マズイな……俺はこれからどうすればいいんだろう……)

男「自首を促すか……警察に電話……もしかして指紋ついたのヤバかったかな?いや、女さんのためにもここは黙認して……しかし女さんの性格的には俺にコレを勧めそうだし……」ブツブツ

女「なーにブツブツ言ってんですか?」ヒョコッ

男「どうわああああああああビックリしたッ!!?」

男「なんッ……え?俺んち?ここ俺んちだよね?」

女「カギ開いてましたよー。不用心ですねえ」

男「なんで無言で入ってくるかなあ?」

女「一応ノックはしましたけど」

男「インターホンって知ってるかい?」

女「まあまあ、あたしと男さんの仲ですし」

男「親しき仲にも礼儀ありだよ、君ぃ」

男「で、不法侵入して何の用なの」

女「いやー……実はですね、郵便物が間違って届いたみたいで……」

男「あ!そうそう、俺の方に女さんのモン来てたんだけど……なんなの、これ」

女「あー……そうですよね。開けちゃいますよね。袋の大きさ似てますし……」

男「?」

女「いや……悪気は無かったんですけどね?」ガサッ……

女「『乳神♡松本みるくの ミルク♡ボンバイエ』……男さん、おっぱい好きなんですか?」ジトッ

男「ぐおおおおおおおおおおおやめろおおおおおおそのBlu-rayはああああああああああ」

女「いやー……勝手に見たのは悪かったですけどね。まあ、男さんもあたしの郵便物開けてますし?イーブンみたいなね?」

男「あの、まあ……ソウデスネ……」

女「で、で。……おっぱい星人なんですか?男さん」

男「まあ、その……なんつーか……」

女「……大きいのが好き、と」

男「……勘違いしないでほしいんだけどさ、女さん」

女「はい」

男「全人類の男はな……おっぱいが好きなんだよ!!」バン

女「……くくりが大きいですねえ……」

男「何も俺だけの話じゃあない……『貧乳が好き』とか『大きすぎると気持ち悪い』とかのたまう野郎は結構いるが……そんな奴らも!大きいおっぱいがあったら!!……『見る』ッ!!!」

女「……」

男「つまりは『引力』だッ!『リンゴ』がより大きい『地球』に向かって落ちるようにッ!!大きいおっぱいは、『引いてくる』ッ!視線だ!そして『心』ッ!!大きければ大きいほど、男の視線と心はブラック・ホールに飲み込まれる小星のごとく!!落ちるのだ……巨乳にズドンとな!!つまり……『つまり』ッ!!」

バ ン

男「俺は……俺だけが『おっぱい星人』な訳じゃあない。……全男性はッ!!オギャアと産声あげた時からッ!!『おっぱい星人』なんだよォォォオオッ!!」

ギャ――ンッ!!

女「…………」ジトッ

男「……チベットスナギツネみたいな目線やめてくれ……俺が悪かったから……」

女「ふーんだ。まあいいんですけどね。男さんがおっぱい星人でも」

男「だから俺だけじゃあ――……やめようこの話。俺が勝てねえ」

女「Blu-ray、お返しします」スッ

男「お返されます。……で、話戻すけどさあ」

女「おっぱいの話ですか?」

男「そこに戻すな。どんだけ食いついてくるんだスッポンかお前は」

男「そうじゃあなくって……女さんの頼んだこの粉……なんなの?」

女「ああ、レンネットですよ」

男「……若い子の中で流行ってんの?そーいうオクスリ」

女「いや流行ってはないですけど……オクスリ?」

男「……鼻から吸うの?それとも何かに溶かして血管からとか……」

女「……なんか物騒な勘違いしてるようですね……」

女「んー……そうだ男さん。スーパーに買い物行きません?」

男「え?いいけど……すぐそこのエオン系列のとこ?」

女「いえ、ちょーっと遠くのアンカースーパーに行きたいんですよ。そこにしか欲しいの売ってなくて」

男「ああ、あのお高めなスーパーね……」

女「そこで買ったものと、このレンネットを使って、楽しい料理を見せますよー」

男「あー……やっぱ調理に使うモンなのね……で、お高めなスーパーで何買うのよ」

女「ミルクです」

男「やっぱおっぱいに話戻ってるじゃん」

…………

今回はここまでです

松本菜奈実さんが好きです。おっぱい

…………

ウィーン

女「ふーっ、やっと着きましたねえ」

男「初めて来たわここ……うわ、果物たかっ。メロンあるぞメロン」

女「高級志向というか、良いものが多いですよね」

男「……女さんって、実はお金持ち?」

女「いやいや、普段はあたしもここで買い物しませんよ」

男「だよなあ。……お金持ちがタンポポ食ったりザリガニ食ったりしないだろうし」

女「それは別に個人の自由だと思いまーす」

女「さーてさて、お目当てのものはーっと」

男「ミルク……牛乳か。……別にここで買わなくても、コンビニなんかでも売ってると思うけどなあ」

女「あ、そうだ。男さん、今何食べたいですか?」

男「え?今……あー、なんだろ。……コロッケ、とか?」

女「じゃあ、玉ねぎとジャガイモとー」ヒョイヒョイ

男「……え?いや、なんで作る流れになった今?」

女「いや、また毒味……お食事してもらうんで、お詫びにと思いまして」

男「俺を治験のアルバイトか何かだと思ってない?」

女「あたしのコロッケはお店のより美味しいと家族からも好評ですよ」

男「それ言われると弱いなあー……」

女「パン粉とー、うん。こんなものかな。じゃあメインの物を」

男「牛乳?」

女「はい。これが買いたかったんです」

男「……なんか、高そうな牛乳だね……ビンかあ」

女「実際すこししますねえ」

男「ええと……『低温殺菌牛乳』?」

女「65℃ほどで30分、じっくりと時間をかけて殺菌された牛乳です」

男「へえー、30分……長いのか短いのかよくわからんけど」

女「めちゃくちゃ時間かけてますよ。ほら、こっちのはどこにでも売ってる牛乳ですけど、裏に書いてる殺菌の温度と時間、見てください」

男「ん?どれどれ……130℃で2秒……130℃で2秒!?」

男「ハチャメチャな温度でやってやがんだな……」

女「牛乳は雑菌多いですからねえ。ていうか、こーいうのは知ってるものかと」

男「……わりかし何でも美味しい美味しいっていうから、見ないなあこんなん……」

女「そうなんですか……で、対して低温殺菌はそんなハチャメチャ温度じゃないんで風味が飛ばなくって美味しいんですよ。日持ちしませんし高いですけどねー」

男「へー……美味しい牛乳欲しかったの?」

女「いえいえ、今回はこれじゃあないと作れないモンなので」

男「?」

女「あたしが買ってたレンネット……あれ、何だと思います?」

男「……ヤバいおクスリ」

女「違いますから」

男「えー?んじゃあ、えっと、言い方から察するにこれと牛乳混ぜるんだろ?だったら味付けに使うかー……なんかこう、牛乳を……牛乳の形変えるというか……」

女「惜しい、もう一息ですよ男さん」

男「……あー、固める……とか?」

女「正解です。レンネットは母乳の消化のため胃で作られる酵素のことで……牛乳を固める力があるのです」

男「……それ、なんで低温殺菌じゃあないとダメなの?」

女「ええと、たしか……牛乳の中のリン酸カリウム?と、なんとかイオン?が……熱くしすぎちゃうとギョーコ?しちゃって……」

男「ほおー、イオンか」

女「…………」

男「ん?女さん?」

女「まあ、そんな感じで……ぶっちゃけ、検索したら『低温殺菌牛乳じゃないと作れません!』って書いてたから、使います」

男「ええ……」

女「あたし文系なんですよ。ブンケー」

男「俺理系だからなあ……」

女「おっと男さん、そこから先は宗教戦争ですよ」

男「マジでか」

女「サインコサインとか言い出したらセクハラって騒ぎます」

男「サインコサインのどこにセクシャル要素が?」

女「『触(sin)わったろおかあ?ここ触(cos)ったろおかあ?舌(tan)でぇ?グヘヘ……』みたいな」

男「その想像力を他のところに回せばいいのに」

男「しかし……牛乳を固める?」

女「もうここまで言えばわかりますよね?あたしが何を作るのか!」

男「もしかして……チーズ?」

女「大当たりです!今回は美味しい手作りチーズ、作っていきますよー」

男「……あれって発酵食品じゃなかったっけ?」

女「そうですね。発酵食品です」

男「…………つまり、また腐らせるというか、放置する訳だよね?」

女「腐ってるんじゃあありませんー。放置ではなく熟成と言ってくださいな」

男「……また食うのに勇気いる系かあ……」ハァ

女「ドッキドキのワックワクこそあたしの生きる道!」ンフー!

男「鼻息荒くすんのやめてくれよお。俺目の前でテンション下がってんのにぃ」

女「まあまあ、今回はバクチの放置じゃありませんから」

男「ホントにい?」

女「ヘンな菌が生えたらヤバイって事は、ヘンな菌が生えなきゃいいって事……ですよね?」

男「うん……まあ、そういう事だけど」

女「つまり!普通に市販されているチーズと同じ菌ならオールオッケーじゃないですか」

男「まあ……そうだね」

女「なので、カマンベールチーズ買います」

男「……え、チーズ作るのにチーズ買うの?」

…………

今回はここまでです

下ネタSS書きたい

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 04:49:12   ID: S:bWyM9K

今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom