樋口円香「プロデューサーを笑顔にするのがアイドルの仕事でしょ」 (25)


アイドルマスターシャイニーカラーズの二次創作SSです

人によっては百合に感じられる描写があるかもしれません

よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1604833226


──

透(アイドルって職業がある)

透(仕事は歌って踊ってみんなを笑顔にすること)

透(ファンを癒して幸せな気持ちにさせること)

透(そういう風に考えてた時期が私にもありました)

ガチャ

P「おはよう透」

透「おはよう、プロデューサー」

P「今日も一緒に頑張ろうな」

透「うん。そうだね」


──ライブ後──

透「ふぅ」

P「……透。なんださっきのアレは」

透「ん。アレ?」

P「投げキッスだよ。あんなの振り付けにないだろ」

透「あー、アレね。アドリブでやったんだよ。テレビでやってて。ほら、ファンサービス的な」

P「困るなそれは」

透「……困る? あぁ、イメージと違うから」

P「そうじゃなくて。ほら、嫉妬しちゃうじゃないか」

透「ええと……? 誰が誰に?」

P「プロデューサーが、ファンにだよ」


透「……」ポカーン

P「いいか透。アイドルって言うのは、何を差し置いてもプロデューサーを一番としなくちゃダメなんだ」

P「サービスも結構だが、それはプロデューサーに向けて行うべきで、ファンなんて二の次でいいんだよ」

P「透はまだアイドルの仕事を理解できていないみたいだな。もっとよく勉強した方がいいぞ」

透「……ごめん」

P「ははっ、いいさ。透はまだアイドルになりたてなんだから時には失敗もある。俺も大人だ、目をつむろう」

P「その代わりに……いいか?」

透「? 何その手」

P「パイタッチさ。言っておくけどこれはセクハラではなく伝統なんだぞ。さぁこっちに来てくれ」

透「……ん」


ピピピピピ

円香「定時になりましたよ。お帰りはあちらです」

P「ま、円香。……はは、もうそんな時間か」

円香「またのご来店お待ちしています」

…バタン

透「……ふぅ。ありがと樋口、助かった」

円香「助けたわけじゃない。定時を過ぎたらあいつはもうプロデューサーじゃない。ただそれだけ」

透「うん……パイタッチなんて無くなればいいのにねぇ」

円香「文句を言ってもしょうがないでしょ。私たちはそれで儲けてるんだから」


──

透(テレビをつけるとアイドルの特集をやっていた)

透(天海さんとか島村さんとか、有名らしいアイドルがインタビューに答えている)

透(彼女たちは言う)

透(ファンを笑顔にすることがアイドルの仕事だと)

プツン

透「あっ、見てたのに」

円香「こんなフェイクニュース見たって意味ない」

透「ニュースじゃなくてドキュメンタリー」

円香「どちらにしても、嘘にはかわりないから」


透「嘘なのかな」

円香「嘘に決まってる。ファンじゃなくて、プロデューサーを笑顔にするのがアイドルの仕事でしょ」

透「……」

円香「私たちは彼らとの疑似恋愛をこなすの。それが仕事で、そういう職種」

透「……そう。ねぇ、それって何だかまるでさ──」

円香「その先は禁句。事務所のルールを忘れたの?」

透「やべ」

円香「はぁ……ほら、帰るよ」

透「ん。わかった」

スタスタ


──翌日──

P「今日もよろしくな透!」

透「あ、うん。ええと名前は……」

透(違うや。呼び名は全部プロデューサーで統一しちゃっていいんだった)

透「……よろしくプロデューサー」

P「あぁ。一緒に頑張ろうな」

透「うん」


──昼休み──

透「……ん?」

透(同じ事務所の子が何やら集まっている)

真乃「そろそろテコ入れの時期だね」

灯織「そうだね。今回はセクハラのあるコミュが無いといいけど……」

透「何の話?」

真乃「ほわ。透ちゃん」

灯織「お、お疲れさまです」


透「何を話してたの。テコ入れがどうとか聞こえてきたけど」

真乃「あ……そっか。透ちゃんはまだ入って日が浅いからよく知らないんだね」

灯織「この時期になると人気の少ないアイドルに対して、ええと、恋愛要素の強いコミュが追加されるんです」

透「ふーん?」

灯織「それを嫌がる子も多くて……仕事なので文句を言っても仕方ないんですけどね」

真乃「でも……ふふふ。過激なものでなければ、良いものもたくさんあるんですよ」

真乃「当たっちゃった人は可哀想ですけど。いっそ楽しむというのも、この事務所でお仕事する上でのコツかも知れません」


──帰り道──

透(楽しむねぇ)

円香「……何ぼーっとしてるの」

透「え? してた?」

円香「してた」

透「そう。んーと、ほら。考え事だよ」

円香「ふっ。冗談言わないで」

透「ひど樋口。……はぁ、なんて言うかさぁ」

円香「ん?」

透「この世界、歪んでるなぁって」


円香「……歪んでる?」

透「アイドルはファンを笑顔にするのが仕事。でもそれは表向きで、本当はプロデューサーを好きでいないといけない」

透「アイドルはみんなプロデューサーのことが好き。でもそれは疑似恋愛で、本当の色恋沙汰はない」

透「だからといってプロデューサー以上に大切な人を作ってもいけない……何かさ、色んなことが歪んで絡まって、ぐちゃぐちゃになってる」

私「おかしな世界。でも、そこに存在しているのが私や樋口、そして事務所のみんななんだよね」

透「……ねぇ。私たちって一体何者なのかな」

円香「……。何って」

透「うん」

円香「人間でしょ」

透「……」


円香「人間。何、違うの?」

透「……ん。いや、違くない」

円香「人間だから、生きるためにお金が必要。お金を稼ぐためには仕事が必要。それだけ」

透「……」

円香「他に質問は?」

透「ううん。特にない」

円香「そう」

透「うん」

テクテク


透「……ねぇ樋口」

円香「はぁ。今度は何の──」

フニ

円香「!?」バッ

透「ふふふ。パイタッチ」

円香「な、ば、バカ。何急に」

透「急じゃないよ。10年以上前からある伝統らしい」

円香「…………。……全く」ハァ

透「ふふ。怒った?」

円香「怒ってない。呆れただけ」

透「それって違うもの?」

円香「全然違うでしょ」

ソッカ ソウ…

P「…………」


──事務所──

透(二日後、事務所に入るなり樋口が真っ青な顔で駆け寄ってきた)

透「どしたの」

円香「……落ち着いて聞いて」

透「うん」

円香「浅倉にテコ入れが入った」

透「え……?」


円香「はぁ。最悪。こんなことになるなんて……」

透「ん……。でもさ変じゃない? 自分で言うのもなんだけど、私って結構人気キャラだよね?」

円香「先週のやり取りが見られていたみたい」

透「先週?」

円香「ほら、帰り道の」

透「帰り道のどれ?」

円香「……」

透「……あ。おっぱい揉んだやつか」

ビシッ

透「い、痛いよ」

円香「うるさい」


透「で、何の話だっけ」

円香「テコ入れの話。私たちの関係を快く思わない人がそれを通報して、コミュに修正が入ったの」

透「……そう」

円香「どうする?」

透「ん。どうするって?」

円香「だから……今後について」

透「……。今後も人間は続けます」

円香「はぁ?」

透「人間だからお金が必要。お金のためには仕事が必要。だから仕事をする。違うっけ?」

円香「……。はぁ。違くない」


透「じゃ、行ってくる」

円香「ん」

スタスタ…

ピタ

円香「? 浅倉?」

透「……。ねぇ樋口」

円香「何」

透「私たちって、本当に人間なのかな?」


円香「……」

透「……」

円香「哲学的な話?」

透「ううん、現実的な話」

円香「人間じゃなかったら、何だって言うの」

透「商売道具」

円香「……最低」

透「うん」


透「……まぁ、せいぜい楽しんでくるよ」

円香「……いってらっしゃい」

透「うん。いってきます」



おわり


お疲れさまでした

見てくださった方、ありがとうございました


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