本田未央「泥棒は誰?」(49)
アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作SSです
よろしくお願いします
未央「クラスの友達によく言われる」
未央「未央はテレビでも教室でも変わりなく明るいね、と」
未央「そんな時、私は色々なことを考えながら結局『そうかもね』と笑ってごまかすのだけれど」
未央「果たしてこの世に二面性のないアイドルなんて存在するのだろうか」
──事務所──
凛「……」ポチポチ
未央「おはよー」
凛「あ、おはよう未央」
未央「しぶりん~。今日は一段と早いね。こんな早くからスマホでエゴサかい?」
凛「しないよそんなこと。寒くて目が覚めちゃったから、早く事務所に来ただけ」
未央「あはは、わかるわかる。最近めっちゃ寒いよね」
凛「明日なんて雪だってよ」
未央「まじか。どうしたもんかねぇ」
凛「どうにかしてよ未央」
未央「えー、どうにかだって? うーん晴乞いでもしてみる? 雨乞いよろしく」
凛「どんな風にやるの?」
未央「そりゃもうこーんな感じで踊るわけだよ」クイクイ
凛「うわぁ、豪雪になりそう」
未央「なんだとー!?」
アハハ
凛「寒いしコーヒーでも飲もっか」
未央「いいねいいね」
ゴポゴポゴポ
未央「あれ、コップ3つ出すの?」
凛「うん。そろそろ卯月も来るはずだから」
未央「しまむー? どうして来るってわかるの?」
凛「メールしてたんだ。ほら『私も向かってます』だって。ふふ、卯月ってばメールまで敬語使うんだから」
未央「……あぁ」
凛「未央?」
未央「ううん、なんでもない」
ゴポゴポゴポ
凛「……冬の日に飲むコーヒー、私好きだな」
未央「なんで?」
凛「外はすごく寒いのに、手に持ったコーヒーを通して自分の体が温かくなっていく感じが……なんていうか、世界から自分だけが切り取られた感じがして」
未央「おお~、名言ぽい台詞いただきました!」
凛「……別に、そんなつもりで言ったわけじゃないけど」
未央「えへへ。将来しぶりんの名台詞集を集めて本にしようかなぁ。きっと売れるぞ~」
凛「はいはい……もう、未央はすぐそうやって茶化すんだから」
ガチャ
卯月「おはようございます!」
凛「卯月。おはよう」
未央「おっはー!」
卯月「うふふ、未央ちゃん、明日を晴れにしてくれるって本当ですか?」
未央「へ?」
卯月「メール見たんですっ。ふふふ」スッ
コーンナカンジデ!
未央「わ、私の晴乞いダンス! いつの間に撮ってたの!」
凛「ふふ、やっぱり気づいてなかったんだ」クス
未央「……」
凛「ん? どうかした?」
未央「なんでもないよ! も~っ、そういうことかよーっ!グイグイ
凛「?」
凛『メールしてたから』
未央『……あぁ』
未央(あの時、一瞬走った胸の痛みの正体を、たぶん私はわかっていたけど──)
未央(それを認めてしまったら、きっといろんなものの見え方が歪んでしまう気がした)
凛「コーヒーできたみたい。みんなどうやって飲む? ちなみに私はブラックで飲むけど」
卯月「わぁ、凛ちゃんすごいです……」
凛「別に、普通でしょ」テレ
未央「しぶりーん! 私アイスにして飲む! 砂糖1つと氷たくさん入れてー!」
卯月「私は、お砂糖を2つで……」ゴニョゴニョ
凛「うん、わかった」
カラカラン ササー
未央「いただきまーす!」ゴクゴク
凛「この寒いのによくそんな豪快に飲めるね」
未央「こちとら誰かさんにやらされた晴乞いのせいで暑いぐらいなんですー!」
凛「はいはい、感謝してますよー」
卯月「ふー、ふー」
凛「卯月、まだ飲んでなかったの?」
卯月「えへへ、熱そうで……口の中火傷しちゃいそうなので。ふー」
凛「急がないでいいから、気をつけて飲んでね」
卯月「ありがとうございます。ふーふー」
凛「……ごめんね。未央もう舞台の稽古の時間だよね」
未央「あー、そういえばそうだった」
凛「先に行っていいよ。私が卯月が飲み終わるまで待ってるから」
卯月「ご、ごめんなさい……」
凛「別に謝らなくていいから」
未央「……それじゃ、お2人さんには悪いけど先に行くね!」
タタタ
未央「……」
未央(もし私がホットコーヒーを頼んでいたら)
未央(しぶりんは同じように私を心配したんだろうか)
──翌日・事務所──
未央「おはよー。いやぁマジで雪降らないとはね。私すごい!」
杏「おは~」
未央「杏ちゃん! おはよう、朝早く来てるなんて珍しいね」
杏「杏だって来たくなかったさ。でもこれはもう、杏が動かなくてはいけないほどの大事件だからね」
未央「事件? なんだか穏やかじゃないね」
杏「未央ちゃん……は犯人じゃなさそう。好物フライドチキンなぐらいだし」
未央「犯人? どゆこと?」
杏「実はね……この事務所に『飴泥棒』が出たんだよ!」ビシィ
未央「な、なんだってー。そりゃあ大事件だー」
杏「は? 棒読じゃん」
未央「飴だけにね」
杏「杏さ、ソファーの下にお菓子ボックスを隠してあるんだけどね、ここのところ毎朝飴が減っていってるんだよ」
未央「自分で食べているからじゃなくて?」
杏「杏も食べてるけど、減りが余分に多いの」
未央「ふーん。杏ちゃんが食べた量を忘れてるだけじゃないのー?」
杏「そんなわけないよ! 杏は仕事のスケジュールは忘れたことはあっても、自分の食べた飴の数は忘れたことはないぐらいなんだから!」
未央「記憶の優先順位おかしいでしょ!」
杏「とにかく、確実にこの事務所に飴泥棒がいるんだよ。そして疑いたくないけど……泥棒の正体はこの事務所を使っているアイドルの中の誰かに違いないのだ!」
──稽古場──
未央「ってことがあったんだよ~」
藍子「なるほど。飴泥棒ですか」
茜「盗みを働くような人が事務所にいるなんて信じられません!」
未央「まだ決まったわけじゃないけどね。杏ちゃんの勘違いって可能性もあるし」
藍子「未央ちゃん、飴泥棒探しを手伝ってあげたらどうですか?」
未央「えー?」
監督「本田ー、交番のシーンだ。出番だぞー」
未央「あ、はーい……」
藍子「飴泥棒の件。警察官役で出る今回の舞台の演技にもきっと役立ちますよ」
茜「そうです! 未央刑事の燃え上がるような正義感が必ずや犯人を追い詰めるはずです! ボンバー!」
──休憩時間──
未央「全く、あーちゃんもあかねちんも他人事なんだから……」
未央「ジュースでも買いにいこっかな~」
ガコン
未央「ん、向かいから歩いてくるのは……」
凛「卯月も休憩時間なんだ」
卯月「はい。もうクタクタです~」パタパタ
…サッ
未央(……な、なんで隠れたんだろ私)
凛「卯月、喉渇かない? ジュース買おっか」
卯月「はいっ。私もう冷たいの飲んじゃいますっ」
ガコン
凛「よいしょっと」
卯月「凛ちゃんは温かい飲み物を買ったんですね。暑くないんですか?」
凛「今は暑いけど……でも、外に出ればまたあの寒さが待ってると思うと、勝手に手が伸びちゃってさ」
卯月「ふふ、確かに今日の寒さを想像すると温かいものが飲みたくなりますね」
凛「うん。それに……冬の景色を見ながら温かい飲み物を飲むとすごく落ち着くんだ。なんていうか、その時間だけは周りの空間と切り離されてるみたいな気分になれて」
卯月「……」
凛「あっ……えっと、今のは」
卯月「その気持ち、よくわかります」
凛「え?」
卯月「朝の事務所で凛ちゃんから入れてもらったコーヒーを飲んだ時、私も同じことを感じましたから」
卯月「なんていうか、特別なんですよね。凛ちゃんのように上手に言えないんですけど……」
卯月「風邪で学校を休んだ時、布団にくるまりながら見たことのない朝のアニメを見ている、みたいな。そんなフワフワ中に浮かんでるみたいな、特別で心地よい気持ちになるんですよね」
凛「……」ポカーン
卯月「あ、あれ? 違いましたか? ごめんなさい、よくわかるなんて偉そうなこと言っちゃって……」
凛「いや……違くなんかないよ、一緒だよ。ただちょっと、驚いちゃっただけ」
卯月「本当ですかっ! えへへ、一緒の気持ちになれてよかったです」
凛「うん……」
凛「……ありがと」ボソ
卯月「えっ?」
凛「なんでもないよー。ほら、喉乾いてるんでしょ。早くジュース飲みなよ」
卯月「あっ、そうだった。いただきますっ」ゴク
凛「わ、卯月。そんな急に冷たいの飲んだら……」
卯月「……うー、頭がキンキンします」
凛「もう卯月ったら。ほらハンカチ」
卯月「あ、ありがとうございます。ふー……」
凛「気をつけてよね。今暑いからって、急に体冷やしたら体調おかしくするよ」
卯月「えへへ、すみません……」
凛「謝らなくていいから。ほら、あっちのベンチ座るよ」
卯月「はいっ」
ドサッ タタタタ…
凛「? 向こうの方から何か物音が」
卯月「見てください凛ちゃん。水の入ったペットボトルが落ちてます」
凛「本当だ。誰かがポイ捨てしたのかな」
卯月「でもこのお水、一口も飲まれてないですよ」
凛「ふーん……変なの」
──帰り道──
茜「文香さんとランニングの約束があるので、私はお先に失礼します!」
ダダダダッ
藍子「稽古のすぐ後なのに、茜ちゃんは元気ですねぇ」
未央「……」
藍子「未央ちゃん?」
未央「……」
藍子「未央ちゃーん」ツン
未央「わっ……あ、ごめんごめん! 私に話しかけてた?」
藍子「独り言だとも言うんですか」
未央「ごめんごめん。ちょっとぼーっとしててさ」
藍子「大丈夫ですか? 稽古の疲れですかねぇ」
未央「多分ね。警察官の役って思った以上に難しくて、途中から頭痛くなっちゃってさ~」
藍子「まあ、監督は色々厳しく言ってましたが、私は未央ちゃんの演技とても良かったと思いますよ」
未央「本当? サンキュ~、お世辞でも嬉しいよ」
藍子「お世辞じゃないです。未央ちゃんの実力はチーム全員が認めていますよ」
未央「いやぁそれは嘘だよ。今日だって小道具さんから「これ貸してやるから家でもっと練習してこい」って、警察官コス一式押し付けられちゃったし」ガサッ
藍子「それも期待されている証拠ですよ。そういった小道具を新人に貸し出すなんて滅多にないことだと思いますし」
未央「そうかなぁ。だったら、私のことを気に入ってないのは監督だけかぁ」
藍子「別に監督も、未央ちゃんのことが気に入らないわけじゃないと思いますけど……」
テクテク
藍子「……未央ちゃんの演技、本当に私はよかったと思うんですけどねぇ」
藍子「でも一方で、監督の言いたい事もわからなくはない気がして。もっともっと上に行って欲しいという意味で」
未央「だったらもっと具体的なアドバイスが欲しいよ。あの人『それじゃただの表面的な良い奴だ!』とか言って、全然論理的なこと言ってくれないし」
藍子「監督自身も未央ちゃんに、何が足りていないのかの正解を見い出せていないんだと思います。だから抽象的なことを言うしかなくなっちゃってるんですよ、多分」
未央「……私も正解がわからないんだから、監督のこととやかく言えないんだけどさぁ」
藍子「特に未央ちゃんの役は難しい設定がてんこ盛りですものね。大変です」
未央「はぁ、損な役をもらっちゃったもんだよ」
藍子「うふふ。一緒に頑張りましょう」
未央「全くもって、損な役だよ……舞台でも、現実でも」ボソ
藍子「?」
──翌日・事務所──
未央「おはよー……ん?」
未央「コーヒーカップが二つ……誰かが先に来てるのかな?」
ガサゴソ
未央「……!?」
未央(ソファーの裏から物音)
杏『実はね、この事務所にアメ泥棒が出たんだよ!』
未央(まじだったのか杏ちゃん!)
未央(燃え上がるような正義感……ではないけど、さすがにこの状況で何もしないわけにはいかないしなぁ)
未央「げ、現行犯逮捕だー! 神妙にお縄につけー!」グワッ
カシャン!
凛「うわっ!」
未央「えっ!?」
シーン
未央「しぶりん!? なにやってんの!?」
凛「な、何って、その……」コロン
未央「裂かれた袋に飴玉……言い逃れはできないぞ。アメ泥棒はしぶりんだったんだね!」
凛「ど、泥棒? 違う、私はただ──」
未央「身内から泥棒を出すなんて未央ちゃんは恥ずかしいよ! 詳しい事情は署の方で聞くからおとなしく連行されなさい!」グイッ
凛「だから違うんだって!」
未央「黙秘権か!」
凛「喋ってるよ!」
未央「──つまりあれか。毎朝飴を食べてたことは認めるが、杏ちゃんのものだとは知らなかったと」
凛「ソファーが共有のものなんだから、その下にあるお菓子もみんなのものだって普通思うでしょ」
未央「そう言われると杏ちゃんの管理ミスな気がするなぁ」
凛「はい、もういいでしょ。この手錠外してよ。ていうかなんで手錠なんか持ってるの……」
未央「んー……」
凛「どしたの?」
未央「待ってよ、しぶりんが人のものを盗ってる気がなかったってことはわかったけど、そもそもなんで飴を食べようと思ったの? しかもあんな隠れるみたいな感じで」
凛「……別に、気分でしょそんなの」
未央「そうかなぁ。しぶりんのイメージとは違うなぁ」
凛「いいから。早く手錠を外してよ、いつまで手を繋いでるつもり?」
未央「うーむ。どうにも腑に落ちないなぁ」
凛「未央」
未央「はいはい。今外しますよー。えーと、鍵、鍵は……ぁ」
凛「……」
未央「……」
凛「……未央?」
未央「……鍵がない」
凛「はーっ!?」
凛「鍵が無いって……無くしたって事!? 本気で言ってるの!?」
未央「どうしよう、このままじゃ……」
凛「そうだよこのままじゃ!」
未央「小道具さんに死ぬほど怒られる!」
凛「そっちか!」
未央「困った時のプロデューサーだ! 小道具さん連絡先知らないか聞いてみよう!」
プルルルル…
未央「もしもしプロデューサー? あのさ、手錠の鍵無くしちゃって……」
未央「小道具さんの連絡先か、ピッキングの天才の連絡先知らない? わたし的には後者の方がテンション上がるんだけど」
凛「こんな時にふざけないで!」
未央「うん、うん。そうなの? ……わかった。行ってみるよ」
未央「ありがとう。じゃあね」
ピッ
凛「プロデューサーはなんて?」
未央「連絡先はわからないけど、小道具のスペアなら倉庫にあるからそこに行ってみたらどうかって」
凛「小道具の倉庫? そんなのこの建物にあったっけ?」
未央「この建物じゃないよ。外に歩いて10分のところ」
凛「外、かぁ……」
未央(しぶりんが顔をしかませたのには理由があった)
未央(今日は朝からあいにくの雪だったのだ。晴れ乞ダンスをしなかったせいだろうか)
シンシン
凛「ねえ、もうちょっと詰めてよ」
未央「こらしぶりん。相合い傘はチームワークだよ。親しき仲にも礼儀あり。言い方ってもんがあるでしょ」
凛「……仲間思いの未央さん、もう少し左に寄ってください」
未央「嫌だね!」
凛「な、なんで断る……チームワークどこに行ったの」
未央「そんなものはね、正義と国家権力の前では無力なんだよ」
凛「悪徳警官め……」
ザクザク
未央「案外遠いね」
凛「二人三脚だから歩きづらいんだよ」
未央「正確には2人3腕だけどね」
凛「はいはい」
未央「……あのさ」
凛「うん?」
未央「……事務所、コーヒーカップ2つあったよね。あれってしぶりんと……もしかしてしまむー?」
凛「え? うん。なんでわかったの」
未央「しまむーとはどんな話をしてたの?」
凛「え、別に……取り留めのない話だよ。卯月がプロデューサーと会議に行くまでの雑談に付き合ってただけ」
未央「ふーん、そっか」
凛「?」
──倉庫──
凛「……この大量の段ボールの中から鍵を見つけなくちゃいけないのかぁ」
未央「まあまあ、犯した罪への償いだと思って頑張ろうよ」
凛「罪、犯したっけ?」
未央「私としぶりんと杏ちゃんが三分の一づつ悪いってことでいいじゃん。ほら、口じゃなくて手を動かすよ~」
凛「もう、調子いいんだから」
ガサゴソ
未央「いやぁそれにしてもこの大量の段ボールを触ってる感じは中学の文化祭を思い出しますなぁ」
凛「早速口を動かし始めたね」
未央「手も同時に動かせばいいの。そのために人間は口と手が別の位置にあるんだから」
凛「はいはい。もうそれでいいよ」
凛「で、文化祭がなんだって?」
未央「思い出すよねって話。この段ボールを無心で開ける作業とか、文化祭の準備そのものじゃん」
凛「あー、そうかもね」
未央「あーってそれだけ? 反応薄いなぁ。あんまり文化祭に思い入れないタイプなの?」
凛「思い入れがないわけじゃないけど……中学の時のことなんて、かなり昔のことのように思えるし」
未央「あはは、何言ってるの。私たちまだ高1じゃん」
凛「そうだけど……アイドルになってからの時間は、それまでの時間とは別物のように進んでいったから」
未央「……」
凛「……はいはい、また名台詞がどうとか言うんでしょ」
未央「ううん」
未央「その気持ち、わかるなぁって」
凛「……えっ?」
未央「私も中学の時から歌とか踊りとか大好きだったけど、舞台に立って同じことをしても、時間の感じ方は全然違ったから」
未央「楽しいことはあっという間に過ぎるって言うけどさ、楽しいだけじゃなく大変で中身があったから、私たちはこういう風に感じるんだろうね」
凛「……」
未央「しぶりん? おーい、聞いてる?」
凛「聞いてるよ。ていうか……聞いてたんだ、私の話」
未央「はい? いつも聞いてるに決まってるじゃん、何言ってるの?」
凛「あ……うん」
ガサゴソ
未央「にしても見つからないなぁ」
凛「そうだね」
──12時──
プルルルル
未央「もしもしプロデューサー? 倉庫で段ボールの中全部調べたけど、見つかんないよ。本当にこの倉庫にスペアの鍵があるの?」
未央「うん。うん……? Bって書いてあってけど、……え? そんなのあるの!?」
未央「聞いてないよ~……いや、ううん、責めてるわけじゃ……わかった。探してみるよ~」
ピッ
凛「プロデューサーはなんだって?」
未央「それが……鍵があるのは隣のA倉庫だって」
凛「!」
未央「通りで見つかんないわけだよねぇ」
凛「通りでじゃないよ。私1時からレッスンあるのに!」
未央「急いで探せばまだ間に合うって」
ガチャ
凛「……さっきよりは段ボールの数が少ないのが救いか」
未央「うんっ。急いで探せば30分ぐらいで終わりそうだね」
凛「未央、こっからは本当におしゃべり禁止だから」
未央「えー? 未央ちゃんコンピューターの計算ではおしゃべりしてても十分間に合う計算になっておりますぞ」
凛「ダメだよ。レッスンに遅れるわけにはいかないんだから」
未央「ほーい。せっかくしぶりんと2人じっくり話せる機会なのになぁ」
凛「話って……事務所で散々してるでしょ」
未央「そうだけど、そうだけどさ……」
凛「はい、おしゃべり終わり。黙々と鍵探すよ」
ガサゴソ
凛「……」
未央「……しぶりん」
凛「……」
未央「しぶりん」
凛「なに、黙々と探すって言ったでしょ」
未央「1つだけ、事務所に帰る前に話してもらえないかな」
凛「何を?」
未央「飴のことについて、本当のことを教えて欲しいんだ」
凛「本当のこと……?」
未央「鋭くない私でも、しぶりんが何かをごまかそうとしていることぐらいは分かるよ」
凛「……やけにこだわるよね。私がなんで飴を食べていたか、そんなに気になる?」
未央「うん。気になる」
凛「……」
未央「……」
凛「……さっきみたいな態度で、茶化さず聞いてくれるって約束してくれるなら、話してあげる」
未央「約束するよ」
凛「……」
凛「……苦かったんだ」
未央「え?」
凛「ブラックコーヒー、毎朝飲むのは苦くて」
凛「だけど卯月が……私がブラックコーヒーを飲むと、すごいって言ってくれるから」
凛「卯月が出て行った後に、毎朝1つ飴を舐めてた。それだけ」
未央「……」
凛「……」
未央「……ぷっ、ふふふ、あはははっ、あはははははっ」
凛「ちょ、未央。約束が違うじゃん!」
未央「あはは、ごめん、でも、茶化してるわけじゃなくてっ、あははははっ」
凛「もう……だから言いたくなかったのに」カァァ
未央「あはは、ふふ、……ふう、ごめんね。でもあまりに可愛らしい動機だったからさ」
凛「……バカらしい見栄だとは自分でも思うけどさ」
未央「バカでも見栄でもないよ、しぶりんの優しさだって私は思うな」
凛「……ねえ、口止めするようで悪いけど、卯月には」
未央「言わないよもちろん。これでも口は固いんだ」
凛「……」ジトー
未央「い、言わないって。今度は本当の本当だって! 今後もそういう相談、私にしてよ。その方が、お互いのためになるでしょ?」
凛「……うん。信じるよ未央」
未央「ふふ、ありがとしぶりん」
凛「……あ、こんなこと話してる場合じゃない。鍵探さないと」
未央「そうだったね。だいたい半分ぐらい探したかな。さて、次の箱を……」
凛「──あっ、この鍵。未央、これってもしかして!」
ヤッター! チョットミオ、バンザイシナイデヨ!
──数日後・事務所──
未央「……てなわけで、事件は解決しました!」バサー
杏「わぁ、飴の袋詰めだぁ! こんなにたくさん買ってきてくれたの?」
未央「しぶりんと割り勘してね。しぶりんも悪気があったわけじゃないんだ、許してあげてね」
杏「許すも何もお礼を言いたいぐらいだよ! こんなにたくさんの飴をもらって、杏ちょー得しちゃったじゃん!」
未央「喜んでくれたようで何よりだよ~。警察官はいつだって善良な市民の味方でありますからね!」ビシッ
杏「偉大なる未央警部に敬礼!」ビシッ
アハハ
未央「んじゃ、あーちゃんと帰りの約束があるから私はお先に失礼すんね~」
杏「んー。また明日ー」
チャリン
杏「……? 待って未央ちゃん、ポケットからなんか落としたよ?」
未央「え……あーっ! 無くした鍵がこんなところからでてきた! 杏ちゃんありがとう!」
杏「あ、うん」
未央「それじゃあバイビー!」バタン
杏「……」
杏(今、未央ちゃんが鍵をわざと落としたように見えたけど、気のせいかな?)
──エントランス──
藍子「……雪、積もってきたなぁ」
未央「あーちゃん!」タタタ…
藍子「あ、未央ちゃん。よかったぁ。先に帰っちゃったのかと思いましたよ」
未央「ごめんねーっ。事務所で少しおしゃべりしてて」
藍子「おしゃべり……もしかして、凛ちゃんとですか?」
未央「え、違うよ?」
藍子「あらそうなんですか。最近お2人は以前にも増して仲良くなりましたから、てっきりそうなのかなぁと」
未央「へ、へぇ。そう見えるんだ」テレッ
藍子「あはは。未央ちゃん顔が赤いですよ」
未央「そんなことないってば~!」
藍子「凛ちゃんのこと以外にも、演技もより上手くなりましたよね」
未央「えー、そうかな?」
藍子「そうですよ。この間の未央ちゃんの演技に監督さんびっくりしてましたから。『完璧だ、これこそリアルの正義だ!』って」
未央「ふふ、あんまり褒められると照れちゃうなぁ」
藍子「どうやってあの完璧な演技を作り上げたんですか?」
未央「いやぁ、別に大したことはやってないよ。ただ……」
藍子「ただ?」
未央「ただ、泥棒の気持ちになってみたんだ」
未央「……もしかしたら、泥棒だって好き好んで他人のものを盗んでるわけじゃないのかもって」
未央「泥棒には泥棒なりの動機があって、どうしても仕方ないから他人のものとかポジションを奪わざるを得ないんじゃないかなって」
未央「そういう風に考えたら、私にとっての正義ってなんだろうって悩んでいるうちに、演技にも良い意味で影響が出たんだと思うよ」
未央「しまむーには悪いことしちゃったけど」
藍子「?」
未央「……そういえば、手錠の鍵見つかったよ。スペアじゃなく本物の方。さっき杏ちゃんと一緒に見つけたんだ」
藍子「あっ、そうなんですか。よかったですねぇ、これで小道具さんもほっとすると思います。……叱られちゃうとは思いますが」
未央「あはは、叱られるのはしょうがないね。だって鍵を無くしたことは事実だもん」
未央「叱られて、謝って、反省して……そんでもって最後には笑うって決めてるんだ。後ろを見ていたって仕方ないからさっ」
藍子「……」
未央「あれ、私何か変なこと言ったかな?」
藍子「いいえ。そんな風に前向きに考えられるってことが、単純に偉いなぁって感心しちゃって」
藍子「未央ちゃんはすごいですね。いつも前向きで、いつも明るくて」
未央「……」
未央「そうかもね」フフッ
おわり
お疲れさまでした
見てくださった方、ありがとうございました
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