【バンドリ】燐子「異世界で冒険……?」【安価】 (335)
バンドリの異世界転生風ファンタジー
安価と選択肢で進行
注意!
キャラ崩壊あり
無言で落ちたり、入ったり。まったり進行
今回の主人公、燐子に生えてたり、また他のキャラに……なんてこともあるのでご了承を
R板なので、そゆことあります
以上、危なそうな人はご注意を
まず最初のキャラメイク。
主人公の燐子について
職業 勇者(固定)
魔法(魔法の熟練度)↓1
物理(武器や格闘の熟練度)↓2
知識(主に保健体育的な知識、関心)↓3
コンマの一桁で判定。0は10扱い。二桁でゾロ目になった場合は測定不能、最強値扱いになります。
尚、戦闘システムなどはないので能力はストーリー上の描写などに係わります
リンコ 職業『勇者』
魔法 9(孤高のウィザード級)
物理 5(一般冒険者級)
知識 5(現代の並程度の知識)
次に仲間の異世界での設定。
今回はロゼリアから全員。あこはパートナー、高好感度。コンマ一桁で燐子との関係や立ち位置を判定。
二桁目で好感度判定。高いほど仲良し。パートナーの場合は最低8以上保証。
1 初対面
2 初対面
3 敵勢力の仲間
4 友人
5 幼馴染
6 家族
7 恋人(パートナー)
8 師匠
9 敵勢力の仲間
10 恋人(パートナー)
紗夜 ↓1
友希那 ↓2
リサ ↓3
紗夜 初対面 好感度8
職業『ナイト(NFOイベント時のタンク参照)』
友希那 家族 好感度3
職業『吟遊詩人』
リサ 幼馴染 好感度9
職業『僧侶(ヒーラー参照)』
あこ パートナー 好感度9
職業『ネクロマンサー』
で、初期のメンバーは決定です。
またすぐ設定の判定やらが出ますが、とりあえず本編開始です
燐子(……自分が目を閉じてるのが分かった)
燐子(ぼんやりとした自我への気づき。そして目覚め。……それはいつものこと)
燐子(けれどわたしはこの時、ちょっとした違いを感じていた)
燐子(……眠っていた筈なのに、というより今も眠っている筈なのに意識がはっきりしている。スイッチがオンになった照明みたいに、わたしは目覚めた状態になっている)
???「りんりーん……」
燐子(……あれ? あこちゃんの声?)
燐子(えっと……わたしは――あれっ?)
微睡みと目覚めの中間。心地よく漂っていた意識は違和感に急激に冷める。
そう。わたしは思い出せなかったのだ。自分が眠りに落ちたその時を。
眠っていていいのだろうか。例えるなら、二度寝の後に目覚し時計を止めたのを思い出したような悪寒。そんな感覚が身体を走り、わたしは身体を起こした。
燐子「……え?」
すると目に飛び込んできたのは見慣れない光景。どこかのキャンプ場のロッジみたいな木造見え見えな壁と天井に囲われた一室。わたしが寝ていた一人用のベッドの横、窓から見える景色は緑一色で……その窓の反対側、唯一わたしの知っている人物がそこに立っていた。
アコ「りんりん、やっと起きた?」
燐子「あ……あこちゃん?」
普段の姿と違うけど、間違いない。彼女は宇田川あこ。わたしの友達だ。
判定です。↓1のコンマ一桁が偶数ならあこに前世界の記憶がある
奇数なら記憶なしの状態
あこ 記憶あり
あこちゃんの姿はまるでNFOみたいな、現実離れしたものだった。紫色の髪はそのままにツインテールで、頭には悪魔の翼みたいな飾り。服はフリルの付いたブラウスにミニスカート。紫と白を基調にしたデザインで、彼女の言う聖堕天使のイメージに近いカラーリング。
目覚めて間もないわたしと違って事情を把握しているのか、その表情はいつもみたいに自信に満ち溢れていた。
アコ「りんりん、あこのこと覚えてる? ロゼリアでバンドしてて、それより前にも――」
燐子「う、うん。覚えてる……よ」
かと思いきや、喜びに満ちていた顔をパッと弱気に変えて、あこちゃんはわたしへすがるように問いかけてくる。
何かあった。それが簡単に分かっちゃうくらいに。
燐子「……何か、あった? というより……」
周囲を見回す。おかしなのはあこちゃんの様子だけじゃない。景色もそうだし、よく見てみればわたしの格好も変だった。あこちゃんみたいにNFOのわたしのキャラクターみたいな服装で……枕元には帽子も置いてある。
……お、おかしい。色々と。
超リアルなゲーム世界? それとも現実? なんて、まとまる筈のない思考が高速で回転する中、ぽかんとするわたしを前にあこちゃんが今度はキラキラと輝いた笑顔をして口を開く。
アコ「えっとね、りんりん。驚かないで聞いてね? あこ達――異世界転生しちゃったみたい!」
燐子「異世界、転生?」
アコ「うん」
こっくりと頷く。
異世界転生……最近よく聞くあれだよね? 異世界にやって来て冒険するっていう。もしそれが本当なら服装も窓の外の景色も納得なのだけれど、まだドッキリとか夢だとかその線の方が太そうだ。
アコ「あれっ? りんりん信じてないの?」
燐子「……? う、うん……あんまり」
私もまた首肯――するのだけど、違和感を覚える。なんだろう。あこちゃんの信じて当たり前、みたいな様子は。
アコ「えっと、りんりんはその――生まれ落ちる瞬間より授かりし、禁断の叡智がこう、ドバーと来てないの?」
燐子「来てない、かな……。あこちゃんは……違うみたい、だね……」
アコ「うんっ。すごいんだよ、目が覚めた途端ブワーッ、って!」
なるほど、つまりあこちゃんが目覚めた時にこの世界の知識、記憶が頭に雪崩込んできて……ということみたい。
あこちゃんが嘘を言う必要もないから、本当なのだろう。そしてもしそんな有り得ないことが真実なら、ここが別世界であっても納得できる。
テンションを上げて楽しそうに話すあこちゃんを、わたしは困った笑顔を浮かべて眺めつつ考える。
そういえば……最初のあこちゃんの言葉、前の世界の記憶がない誰かに会ったみたいだけど、それって誰だろう。
燐子「あこちゃん……この世界に来て、ちょっと……経つみたいだね……」
アコ「3日くらいかな。りんりんがいなくて寂しかったよー」
3日も……。じゃあ異世界って話は確定。頭は追いつかないけど……。
燐子「他にも……誰か、いたの?」
アコ「うん! えっとね――」
尋ねると、あこちゃんはウキウキした様子で考えはじめる。この世界に来た人は複数いるみたい。
前の世界の記憶の有無。つまりはこの世界の住人である同じ性格、容姿の別人とか、住人になりきってる転生した誰かがいる訳で……少し不安だ。
できるだけ、少ないといいけど……。
一気に記憶の有無判定。コンマ一桁が奇数なら無し。偶数なら有り。全員有りだった場合はこちらでランダムで一名記憶無しにします。
↓1 友希那の判定
↓2 紗夜の判定
↓3 リサの判定
リサのみ記憶なし。
初対面設定は記憶なしじゃないと面白味が……と思ったので、次からは記憶なしで突き進みます。
アコ「ロゼリアのみんなとは会ったよ。ユキナさんと、サヨさんと、リサ姉」
燐子「あ……みんないたんだ……」
少し安心。あこちゃんと二人きりなのはちょっと心細いから。にっこりと笑いながら語るあこちゃん。でも何か思い出したみたい。シュンと落ち込んだ様子を見せる。
アコ「でもね、リサ姉は記憶ないみたい。サヨさんのこと知らないって言ってるし、ロゼリアのことだってさっぱりで」
燐子「え……?」
今井さんの記憶が……? ムードメーカーたる彼女がバンドのことを、前の世界のことを覚えていないなんて……わたしが覚えていない、なんて場合より大ダメージではないだろうか。
アコ「だから今日、りんりん来てくれて嬉しかったんだー。ね、りんりん。みんなに会いに行こ?」
燐子「う、うん……」
あこちゃんに手を引かれ、わたしはベッドから降りようとする。――その時。
燐子「……っ?」
身体の異変に気づいた。あ、あれ? ……身体に、下半身に何か……有る筈のないものがあるような。でもそれが何なのか分からない……。
サーッと血の気が引いていくのが分かる。さり気なく、できるだけバレないように手をやり確認すれば――やはり、何かある。
え? え? なんで……?
アコ「りんりん?」
混乱していると、当然目の前のあこちゃんが気づく。突然静止し下半身に触れたわたしを見、首を傾げていた彼女だけど何かに気づくとにっこりと笑った。
アコ「もしかして……したくなっちゃった? ふふっ、あこはいいよ? りんりん」
燐子「……えっ?」
見たことのないあこちゃんの笑顔。妖艶な、色気のある笑みを浮かべた彼女に、思わずドキッとしてしまう。
燐子「あ、あこちゃん――っ、何……言って……」
『したく』……なんとなく意味を察してしまったわたしである。でもあこちゃんが私の身体のことを知ってる筈ないし、そういう意味で言ったわけじゃないのかもしれない。
理解が追いつかず困惑するわたし。するとすぐにあこちゃんが顔を真っ赤にさせた。
アコ「んっ? あ……あーっ! な、なんであこ、こんなこと! ご、ごめんねりんりんっ、変なこと言って」
燐子「……???」
これが漫画なら多分わたしの顔の近くにはハテナが一杯浮かんでいたことだろう。赤面したあこちゃんが、腕をバババとすごいドラムを叩くみたいに忙しなく動かしながら叫ぶ。自分でも意識してなかった発言みたい。……でも、意味は分かるみたい。
燐子「落ち着いて、あこちゃん……何が、あったの……?」
アコ「うぅぅ……。そのぅ……」
もじもじと、思考が落ち着いてくると恥ずかしがるあこちゃん。両手の人差し指をちょんちょんと合わせ、こっちをチラチラ見てくる。
和んでしまいそうな可愛らしい姿だけど、直後される衝撃的な発言にそうはいられなかった。
アコ「この世界のアコ、りんりんと恋人同士みたいなんだ……」
燐子「……!」
ピシャーンと雷に打たれたかのような強い動揺が走る。
……こい、びと? それでさっきの発言……。あ。分かった……。
アコ「それで、そういうことした記憶も頭にあって……ううぅ、恥ずかしい……」
つまり……そういうこと。
この世界のわたしは、あこちゃんとアレやコレをしている関係。それであこちゃんはついその設定に引っ張られてしまったみたい。
燐子「……あの、分かった……から。気にしないで……あこちゃん」
あこちゃんに手を出すなんてこの世界のわたしについて色々質問したいところだけど、みんなに会って現状を把握するのが優先。
わたしはあこちゃんを励まそうと微笑みを浮かべる。けれどどうしたのだろうか。まだもじもじと、何か言いたそうにしているあこちゃんは意を決した様子でわたしに近づき、手を取った。
アコ「ね、ねぇ、りんりん……。辛かったらあこ、ほんとにいいからね? りんりんの身体、魔力多くて――出さないといけないの、知ってるから」
燐子「えっ……」ゴクリ
……ゴクリって、わたし。
でも潤んだ目で頬を赤らめ、わたしを見つめるあこちゃんを見ていると……かわいいなって思ってしまう。
体質のせいもあったみたいだけど……手を出してしまう気持ちが分か――って、ダメダメ。
前の世界なら有り得ない感情だ。まるで自分にもこの世界の記憶があるみたい。
燐子「わたし……は……」
揺らぐ気持ち。頭がくらくらしてきたのを感じながら、わたしは答えた。
1 「……お願い……したいかな……」
2 「……みんなに会いに……行こう?」
↓1 選択肢を一つ選択
燐子「……みんなに会いに……行こう?」
アコ「うん……緊張するけど、りんりんのためなら――えっ? そ、そうなんだ」
あれ? あこちゃんがっかりしてる……? 若干呆れも入ってるような……。
アコ「そうだよね! りんりんも初めてのところだし、まずは色々見ておかないと」
燐子「う、うん……」
気のせいかな。傾げていた首を戻し、私はベッドから降りた。枕元の帽子を一応かぶって服を整える。すると今度は下半身だけではなく、全身の感覚の違いがはっきりと感じられた。
身体が軽い。魔力、とかあこちゃんは言ってたけど、そういう身体の仕組みも普通とは違うのかな。
アコ「まずはユキナさんかな。すぐ隣のお部屋にいるから」
燐子「隣……?」
身体の感覚を確かめていると、あこちゃんが歩き出す。友希那さん……ロゼリアの頼れるボーカル。冷静で自分にも他人にも厳しく、音楽に真正面から向き合う真摯さ――実力は勿論、そういうピンと張り詰めた、とにかく真っ直ぐな姿勢も尊敬できる人だ。
隣に、というのが引っかかるけど、ここってマンションみたいな場所なのかな。
ドアから出たあこちゃんに続いて部屋の外へ。その先は、おそらく廊下。人二人分くらいの横スペースの道で、ドアの前、手すりの下に一階が見える。
ここは二階らしい。マンションじゃなくて宿屋、かな?
燐子「……あこちゃん、ここって、誰かの……お家?」
アコ「りんりんのだよ。ここはりんりんとユキナさんのお家」
燐子「わたし……友希那さんと……一緒に……?」
あこちゃん、首肯。
……え、えっと、あこちゃんは私と恋人みたいな関係で、その上友希那さんと住んでる? この世界の私、遊んでる印象しかないんだけど……。
ユキナ「声がすると思ったら……本当に来たのね、リンコ」
ドアが開く音。私とあこちゃんの視線の先、隣の部屋から一人の少女が現れる。スラッとした華奢な身体に、鋭い視線。見知った姿にやっぱり安心してしまう私だった。
友希那さん……この世界で私と一緒に住んでるのは何でだろう……?
1 義妹
2 義姉
3 その他、家族関係から自由に
↓2 友希那は燐子の……? 選択肢から選択
『友希那は燐子の……義娘』
【義理の娘、ということで養子みたいな扱いで進めます。詳細を追加で安価】
『義娘になった理由は?』
1 小さい頃に両親が亡くなり、同居を始める。なんやかんやで母扱い
2 燐子とあこ、リサのいずれかがカップルとして身寄りのない彼女を保護
↓1 選択。二番の場合はあことリサのいずれかを選択
『ユキナのリンコの呼び方は?』
1 お母さん
2 ママ
3 リンコ
↓3 選択
『両親が亡くなり、同居を始める。なんやかんやで母扱い。呼び方はいつも通り』
燐子「は、はい……無事で、よかったです……」
気になる……。けど、聞いてる場合じゃないよね。返答をしつつ私は友希那さんの服装をそれとなく観察。NFOの吟遊詩人の格好によく似ている。腰回りを出し、大きなスリットの入ったスカートが目を引く、大人っぽい友希那さんに似合う女性らしくて上品な衣装だ。
帽子もそのままで、腰に琴を提げている。
このNFOでの共通点はどういうことなんだろう……。
色々考え込むわたしの横、あこちゃんが一歩近づいて面白そうな顔をして言う。
アコ「ユキナさんはね、りんりんの子供なんだよ」
燐子「子供? え……えぇっ!?」
遊んでる遊んでるとは思ったけど、一体誰との!? というより、わたしって何歳なの……?
ユキナ「……アコ。その話はやめなさい」
アコ「でも、本当ですよね? すごい笑顔でりんりんに甘えてるユキナさんの記憶が――」
ユキナ「や め な さ い」ゴゴゴゴゴ
アコ「は、はい……ごめんなさい」
あこちゃん、萎縮。威圧感を放っていた友希那さんだけど、混乱した私を見ると表情を和らげる。
ユキナ「ごめんなさい、リンコ。ええと……その様子だと、記憶は…… 」
燐子「はい……この世界の、記憶だけ……なくて……」
ユキナ「新しいパターンね」
顎に指を当て、ふむと頷く友希那さん。
アコ「だからアコ、説明しようと……」
ユキナ「うっ……。ごめんなさい。どのパターンにせよ、この世界の私を知っていると思っていたから、つい」
友希那さんが落ち込んだ様子のあこちゃんに謝る。
わたしも同年齢の知り合いを母親扱いしていた……なんて知ったら、すごく恥ずかしいだろうし、気持ちはよく分かる。知っているであろう相手にそんなことをまた説明するなんてしたくはないだろう。
ユキナ「ということは、これから説明を?」
あこ「はいっ。りんりん、重要な役ですから」
ユキナ「そうね……とりあえず、リビングへ」
重要な……? と疑問に思うけれど、訊く間もなく二人は歩き出す。廊下を進んで階段を降り、一階へ。するとそこには大きなテーブルと数個の椅子、台所らしきものが見え――おそらくリビングだろう。
友希那さんだけと暮らしているなら、大きすぎるくらい立派な家だ。家具もすごい。でもやっぱりそういう世界なのか、電化製品やコンセントの類いは見当たらない。
パッと見ただけで世界の差は一目瞭然だ。
ユキナ「座って、リンコ」
燐子「はい……」
ユキナさんが椅子の一つに座り、わたしとあこちゃんはその向かい側に。それから少しの間を置いて、友希那さんは口を開いた。
ユキナ「まず最初に、分かっているだろうけど……ここは私達のいた世界とは別の世界よ」
燐子「……」コクッ
ユキナ「ここに来た理由はよく分からないわ。ただ、死んだ、というわけじゃないと思う。ゲームとかの類いでもない。何かの理由で、私達は別世界に来た」
ユキナ「それぞれがこの世界で持つ設定を引き継いで」
設定。
あこちゃんがパートナーと言っていたり、友希那さんがわたしの子供だったりというのがそのことなのだろう。
ユキナ「前の世界の記憶の有無は人それぞれみたいね。現にリサはロゼリアのことも知らずに、この世界の住人になりきってるわ」
ユキナ「……まったくの別人、私達のように入れ替わってない可能性もあるのだけど」
アコ「でもそれはアコ達もですよね。前の世界の記憶だけ入ったのかも」
ユキナ「ええ。……とにかく、私達の身に何が起きたのか、分からないことが多い。むしろこの世界の知識と記憶の方が膨大ね」
……友希那さんも、わたし達がどうしてこうなったのか分からないみたいだ。ショックだけど……二人はもっと困っているのだろう。理解不能な状況に、記憶と知識が前と今の世界で一気に二倍に。容量がオーバーしかねない。
ユキナ「それで、私達のこの世界での設定だけれど……」
ユキナ「まず、リンコ。あなたは勇者。この世界を救うという選ばれた少女よ」
燐子「……。ゆ、勇者……?」
真顔で勇者とか選ばれた少女とか言ってる友希那さんにシュールさを覚えたわたしだけど、言葉の意味を理解し、すぐその重大さに気づく。
勇者。世界を救う。
さっき二人が言っていた重要な役というのは、このことのようだ。
でも、なんでわたしが……。
燐子「どうして、わたしが……」
ユキナ「選ばれたから、としか言い様がないわ。一年前、勇者の力に目覚め魔物を撃退し、その時アコと知り合ってパートナーに。それから修行をしつつ……」
アコ「なんだかんだ平和に暮らしてたんだー」
ユキナ「ええ。……特に二人は仲が良すぎるくらいに」
アコ「そ、そういうのはいいですからっ」
燐子「……子供、というのは……?」
ユキナ「……リンコを母扱いしていた。それだけよ」
友希那さん……すごく恥ずかしそうな顔をしてる。
ユキナ「この世界の私は幼い頃に両親を亡くしたみたい。それから同じ境遇のリンコと同居して、まぁ……甘えてた、みたいね」
ユキナ「リサとは変わらず幼馴染よ。この世界ではリンコも。両親のことは気にしなくて大丈夫。不思議と落ち着いているの。……この世界の記憶のおかげかしら」
燐子「……そう、ですか……」
両親……わたしの親もこの世界ではいないみたい。もし帰れなかったらこのまま会えない場合も……。少し、怖くなってきた。
ユキナ「次はサヨね。サヨは……城の騎士をしていたわ。記憶もあるけれど、私達とは初対面みたい」
燐子「騎士……な、なるほど……」
紗夜さんらしい。彼女もまたNFOに沿った職業みたいだ。今のところわたし達と関係性はないみたいだけど、沙夜さんなのだ。いずれ知り合うことだろう。
ユキナ「最後に……リサね」
アコ「うん……」
今井さん。ベース担当の、あこちゃんとはまた違ったバンドのムードメーカー。みんなの意見や想いをメンバーに伝え、説得する姿はある種ロゼリアのネゴシエーターとも言えるやも。
あこちゃん、友希那さんによると記憶がなくて、この世界の住人になりきってるみたいだけど……。
ユキナ「リサは……↓1」
↓1 この世界のリサの状態(燐子への好感度9準拠)。台詞でも説明でも
『ヘビーめ設定採用ですー』
ユキナ「……少し、分からないところがあるの」
燐子「……」
言葉や表情に出さないもののわたしは驚いた。
友希那さんが今井さんのことについて分からないと口にするなんて。幼馴染ということもあるけど、知ろうとする姿勢を見せるだろうし、こんな諦めたような口調で断定する筈はないのだ。
ましてや諦めるにしても、『少し』だなんて曖昧な言葉を使うとは。
余程複雑なのだろう。
燐子「そう……ですか……」
ユキナ「普段は教会で働いているわ。勇者の仲間になってからは仕事と修行、私達の面倒を見たり……現実より忙しなさそうね」
アコ「でもユキナさんも、りんりんのことも大好きで、アコにもよくしてくれるんだよ」
燐子「うん……今井さんらしい……」
根っこは変わらないみたいで安心した。直接会って話してみれば、今井さんがどうなってるかちょっとは分かるかな……。
ユキナ「一応、一通りはこれで話したかしら……」
アコ「そうですね。あっ、この世界についてまだじゃないですか?」
ユキナ「そうね、忘れていたわ」
あこちゃんに言われ、頷く友希那さん。台詞を整理しているようで数秒止まると彼女は口を開いた。そして早口で、
ユキナ「リンコ。この世界についてだけど……世界の名前はグランバウム。ドイツ語、らしいわね。何百年おきに勇者が選ばれ、魔王を倒す使命を課される……一言で言えばアコやリンコがやっていたゲームのような世界ね」
ユキナ「魔法や不思議な力が使えるし、科学の気配は無し。街の外に出れば魔物や盗賊が出る。弱肉強食の世界ね。加えて……ロゼリア以外のバンドの人達もこの世界に来ているわ」
燐子「それは……もしかして」
なんとなく予想ができた。ポッピンパーティーにパステルパルット、アフターグロウ……ロゼリアと接点も多い彼女達メンバー。わたしたちが来たということは、彼女達も……。
ユキナ「ええ。様々な役と職業、設定……街の外にも大勢いるみたい」
アコ「街の人、しょっちゅう噂してますよねー……。」
やっぱり、そういうこと。
これで死んだ線は薄くなったと思うけど……なおさら意味が分からなくなってきた。わたしたちはなんでこの世界に来たのだろう。わたしが選ばれた理由は?
燐子「……」
ユキナ「リンコ、大丈夫? 疲れたのなら時間を空けるけれど」
燐子「……あ。大丈夫、です……。わたし達は……何をしたら、いいんでしょうか……?」
説明は一通りされた。浮かぶ疑問は友希那さん達にも答えられないだろう。となると聞きたいのはこれからの目的。魔王を倒す、という大きな目的があるけれど、まだ挑むには早いだろうから。
ユキナ「そうね……リンコがこの世界に来たのだから、今から預言者に会いにいきましょう。それで何をするべきかきっと分かるわ」
アコ「あ、そうですね! 勇者が目覚めたなら、魔王の部下も来そうですし」
ユキナ「……それはあまり考えたくないわね」
とりあえず、預言者という人に会いに行くみたいだ。預言者……バンドの知り合い、なのかな。
出掛ける支度をする、とリビングから離れる友希那さんとあこちゃんを見送り、わたしは一人、椅子に座って考える。
燐子「勇者……わたしが……」
友希那さんとか、紗夜さんとか、他のバンドの人達も……もっと相応しい人がいるのに。
……いや、選ばれたのだからもう頑張るしかない。
元の世界に戻れるか、どうしてここに来たのか、分からないことだらけだけど……わたしはまだロゼリアで演奏していたい。
知るために、今立ち止まってる暇はないだろう。
燐子「……」コクッ
覚悟は決めた。何も分かってない状態で決意しただけで、多分簡単に揺らぐのだろうけど……それでも、やろうと決めた。
目標を決め、目覚めた当初よりも余裕のできた思考はぼんやりとこんなことを考えはじめた。
……預言者って誰だろう?
1 花園たえ
2 白鷺千聖
3 弦巻こころ
4 その他、四つのバンドメンバーから一人指名
↓1 預言者役を選択。設定も記載可。4番の場合はキャラ名も。コンマ一桁が初期好感度。
預言者役 白鷺千聖 高感度9(説明忘れてましたが現実、異世界共通)で決定
↓1~適当なところまで 現登場キャラ(リサを除く)の設定やリンコへの感情を募集
>>1の自己判断で採用、採用しないがありますが
2つとも採用しますーありがとうございます
燐子「……」キョロキョロ
アコ「すごいでしょ、りんりん。まるでNFOみたいだよね」
燐子「う、うん……すごく、綺麗……」
家を出てすぐ。私は周りの景色に心を奪われる。
窓から見えていた一面の緑。それは全て、一つのとてつもないサイズの大樹から伸びた枝で、街はその樹を中心に家やお店、教会らしき建物やお城などを並べ、さながら絵画のような美しさ。
わたしの家は樹から離れており、ちょうどそれがよく見える。この位置からも大樹の枝が伸びてるのだから、途方もない話だ。しないだろうけど、倒木しちゃったら辺り一面大変なことになりそう……。
アコ「ここは大樹の街。聖王国の首都で、りんりんの故郷だよ」
ユキナ「……これを見ると、本当に現実なのか分からなくなってくるわね」
二人の話を聞きながら、のんびりと道を歩く。舗装されていない地面を踏み、ひんやりとした空気を受けながら異世界ならではの景色を楽しむ。
これが、この世界の現実。目に肌に雰囲気に、『差』をまじまじと感じる。
燐子「預言者さんは……どこに……?」
ユキナ「お城よ。国お抱えの重要人物だから」
お城……。石造りの、そういう物語ではよく見る形状だ。距離が結構ある。行って帰ってくるだけでもかなり時間が経ってしまいそうだ。
燐子「あそこまで……。大変そう……」
アコ「大丈夫だよ、りんりん! りんりんも強くなってるはずだから」
燐子「強く……?」
身体が軽く感じるのは分かるけれど、それ以外はさっぱり……。
ユキナ「設定と同じようなものよ。身体能力や技能が目覚めた時に引き継がれているみたい」
燐子「……」
そんな、いいとこ取りみたいな……この世界のわたしに悪いような。
ユキナ「……罪悪感を抱くことはないと思うけど」
表情に出ていたのか、友希那さんが言う。ほんの少しだけ照れ臭そうな様子で。
ユキナ「巻き込まれたのだから利用くらいしないと割に合わないわ」
アコ「それに世界も救わないといけませんしね!」
ユキナ「ええ」
二人とも前向きだ。
世界を救う……。戦いになるんだよね……。わたしも遠慮しないで、最大限に力を活用するようにしないと。
??「おっ、三人揃ってどこ行くのー?」
燐子「あ……この声……」
のんびりしたペースで歩くわたし達へ声がかかる。遠くの景色から前方へ視線を向ける。道の左右に並ぶ家の間、その脇道から一人、女の子が歩いてきた。
ウェーブがかかったロングの茶髪。明るく人懐っこそうな愛らしい顔立ち。普段は派手目な格好をしているけれど親しみやすい雰囲気で、皆に気を配ってくれるロゼリアのお姉さん、お母さん的な存在、今井リサさんだ。
この世界での服装は、やはりNFOの時みたいなシスター衣装だ。緑と白の色がよく似合っている。
――さて、今井さんはのほほんとした笑顔で声をかけてきたのだけど……みるみるうちにその表情を変えて、足の動きを止めてしまう。
リサ「って、リンコ……な、なんで……?」
そう。真っ直ぐにわたしを見つめて、今にも泣き出しそうな顔をしている。訳が分からないで戸惑っていると、友希那さんがカチコチとした動作で片手を挙げた。
ユキナ「お、おはようリサ。少し報告が遅れてしまったけど、これから教会に向かうところだったの」
アコ「うんうん! 全然忘れてないよリサ姉!」
二人のぎこちなく、慌てて乱れまくりな口調に更に混乱するわたしである。今井さんにわたしがいたことを報告しないと駄目なのかな?
なんて、横目で二人を見ていると不意に今井さんがわたしに猛ダッシュ。
リサ「もう、リンコ! 3日もどこ行ってたの!?」ギュッ
燐子「――えあっ!?」
そのまま飛びついて抱擁。受け止めたけどびっくりして大きな声が出てしまった。
今井さん……この世界でもいい匂いがする。香水っぽいのにふんわり香る程度で、すごく女の子らしいというか……。
燐子「あ、あの……今井さん?」
リサ「――あっ、ごめん! つい安心して」バッ
燐子「えっ? ……あ、はい……」
ハッと我に帰りすぐ離れる今井さん。触ることが悪いこと、みたいな今井さんの様子にわたしは違和感を覚える。でも考えてみると元の世界でも今井さんに抱きつかれたことはなかったような。
遠慮している……のかな?
リサ「それで、3日も何してたの? 一人で出かけたりしないで、っていつも言ってるよね? 勇者なんだから」
リンコ「えっ……は、はい……っ、ごめんなさい……」
アコ「リ、リサ姉っ。りんりん一人で山ごもりしてたんだって」
リサ「……。は、はいっ?」
ユキナ「……それじゃリンコがとんだ変人よ」クイッ
アコ「ででも他に思いつかなくて!」
詰問される私を見かねてあこちゃんが助け舟を出してくれたのだろう。けれど三日間一人で山ごもりという、物理的アウトドアと精神的インドアに振り切った無理ありすぎな言い訳に今井さんが納得するわけがなく。あまりの突拍子のなさに今井さんがポカンとしてしまっている。
その間に今度は友希那さんが前に。ツッコミ代わりにあこちゃんの服を引っ張り、毅然とした態度でわたしの横に。
流石は友希那さん。三日間も空ける理由はわたしに思いつきそうもない。ここは頼れる彼女に任せるしかないだろう。
数秒たっぷり使って落ち着いて思考し、友希那さんはついに口を開いた。
ユキナ「リサ。本当は三日間、預言者――チサトと過ごしていたそうよ」
リサ「」ゼック
アコ「そっちのが絶対まずいですユキナさん!」
『なんで?』とあこちゃんのツッコミに疑問を抱くわたしだけど、すぐ意味を理解した。今井さんもわたしの体質を理解しているだろう。そしてそれはわたしが女の子に興味があることを理解しているということでもあり……。簡単に言えば男子高校生が女性の友人宅に三日間いたような話。
ユキナ「……どうして? 仲が良いじゃない、チサトと」キョトン
……うん、ユキナさん……らしい……。
リサ「へ、へぇーそうなんだー☆ アコってパートナーがいながらねぇー。3日もチサトと」
アコ「アハハ、ハハ……勇者はみんなそうみたいだからねー」
燐子「アハハー……」
あこちゃんと二人、棒読みの愛想笑いで乗り越えようと試みる。なんでだろう。悪いことも何もしてないのにすごく追い詰められた気分。この世界の設定、うらめしや。
リサ「アコがそう言うならいいけど……リンコ、アコのこともちゃんと可愛がってあげてよ?」
アコ「大丈夫! りんりんとはラブラブだから!」
リサ「ならよしっ☆」ビシッ
ユキナ「……」
多分、なんなのかしら……と思っているであろう友希那さんの真顔。そして三日間白鷺さんと一緒にいるということを自然に受け入れられ、あまつでさえ複数人での交際を許すような発言に困惑するわたしであった。
……え、白鷺さんとわたしそんなに仲良かった……のかな? 普通のクラスメイトくらいの認識でいたんだけど……。
リサ「色々聞きたいけど、どっか出かけるんだよね? どこ行くの?」
ユキナ「それは勿論……」
自然な会話の流れ。今井さんに尋ねられて、友希那さんは気づいたみたいだ。わたしも今気づいた。
三日間泊まり込んで、家に帰って、また白鷺さんの元を訪ねようとするわたしという存在に。
リサ「モチロン?」
アコ「ええと……チサトさんのところに」
リサ「ふーん、また行っちゃうんだー」
燐子「……こ、今度は、真面目な……理由です……」
リサ「つまり三日間は真面目じゃなかったと」
う、うう……っ、今井さんの視線がすごく痛い。
リサ「じゃ、アタシもついてく。勇者関連の用事でしょ?」
燐子「は、はい……」
アコ「これからのこと預言してもらうんだよねっ? そうですよね、ユキナさんっ」
ユキナ「ええ」コクコク
リサ「なーんか慌ててるのが気になるけど、まぁいっか☆ さ、行こ行こ」
三人『ふぅ……』
な、なんとか誤魔化せた……。わたしの評価に多大な被害をもたらして。歩き出す今井さんを見、わたし達三人はホッと息を吐く。
ユキナ「ボロボロで、なんとか勝利ね……」
アコ「勝ってます? これ」
燐子「……なんとなく。……ユキナさんが言っていたこと……分かったような、気がします……」
ユキナ「……距離を取っているでしょう?」
今井さんからちょっと離れて歩きつつ、わたしたちは彼女の様子について話す。
親しみやすいし面倒見がいいし、わたしの知るリサさんと見た目も性格も全く変わらない。でもどこか距離を取っていて、特に顕著なのがハグからの離れ方。
それと、あこちゃんとの仲にすごく気を遣ってるような……気のせいかもしれないけど。
アコ「アコ達の状態を察してたり……」
ユキナ「かもしれないわね。二つの記憶が混ざって、リサと温度差があるのかも。こちらの様子を察して、距離を取っている可能性も高いわ」
燐子「わたしは……完全に、この世界の記憶喪失状態ですし……」
……一度、じっくり話をするべきなのかもしれない。わたしは口下手だから、ロゼリアのみんなで。
目的がはっきりして、この世界にも慣れて、余裕ができたら……きっと。
今はしっかり頭の中にこの街の道を記憶させて前に進むとしよう。
城へは顔パスで入場。見張りの人に下げてもらった跳ね橋を通り、門をくぐって巨大な城の中へ。
許可のない一般人は入れないという城内は、独特の緊張感があって、そわそわと落ち着かない張り詰めた空気が流れている。
兵士さんらしい人や、騎士みたいな人、忙しなく動き回る強そうな人達を見るに、魔物関係で忙しいのかもしれない。
ユキナ「……ここね」
城内を歩くこと少し。一際豪華な扉の前に到着する。
預言者の白鷺さん……。彼女に前の世界の記憶はあるのだろうか。どんなことを預言されるのだろうか。
不安と緊張にゴクリと固唾を飲む。
友希那さん、今井さん、あこちゃんと続いてわたしも部屋へ。
呆れてしまいそうなほど広い部屋には、水晶の置かれたテーブルやソファー、その他家具が。ドアやカーテンで仕切られた場所もあり、預言者への優遇が見てとれた。
チサト「……あら」ガチャ
感心して眺めているとドアの一つからタイミングよく白鷺さんが顔を出す。彼女はわたし達を見ると……
↓1 チサトとリンコのこの世界での関係、もしくは設定
(ついでにコンマ一桁で記憶の有無を判定。偶数で有。奇数で無し)
姉妹に決定
↓1 更に追加でどんな姉妹かコンマ判定
コンマが01から40で燐子が姉で
41から80で千聖が姉
81から90で燐子が姉で、すごく仲良し(意味深)
91から99で千聖が姉ですごく仲良し(意味深)
ゾロ目の場合はパートナーに追加
57 千聖が姉
(義理の、ということになりますが)
チサト「リンコちゃん、それにみんなも。揃ってどうしたの?」
ふわふわとした薄い生地が何枚も重なった神秘的な白のローブを身につけ、頭に装飾の綺麗なカチューシャを付けた白鷺さん。
預言者らしい身長大の杖を持ち、こちらを見つめる彼女は首を傾げた。
ここへ初めて来たわたしの存在にリアクション無し。記憶がないと見て間違いないだろう。
サヨ「えっ、シロガネさんですか?」
……あ。この声は。
白鷺さんが出てきたドアから、彼女に続いて出てくる人物が。
氷川紗夜さんだ。NFO時の衣装に似た、胸当て、軽装の鎧、スカートを身につけ、ゲームの初期装備よりも豪華そうな盾と剣を背負っている。
彼女はわたしを見るとホッとした様子で息を吐いた。
サヨ「良かった……やっと来てくれましたか、シロガネさん」
燐子「遅れてしまって……すみません……」
サヨ「いえ。気にしないでください。みんな巻き込まれただけですから」
相変わらずキビキビしててかっこいい人だ。ただ心なしか不安そうな色が強いような。それも当然……だよね。異世界に来るなんて突飛な展開、彼女が受け入れることは難しいだろう。
……騎士の氷川さんがここにいるってことは、白鷺さんの護衛が仕事なのかな。
リサ「チサト。リンコが三日間お世話になったらしいね~。ありがと」
チサト「……三日間?」チラッ
三人『(無言の「合わせて」身振り手振り)』
チサト「え、ええ。まぁ姉として当然よ」
なんとなく察してくれたらしい白鷺さん。苦笑をしながら合わせて――ん? 姉?
さらっと口にされた言葉に首を傾げると、白鷺さんの視線がわたしへ。満面の笑みで彼女は続けた。
チサト「むしろもっと泊まっていってもいいわよ、リンコちゃん」
燐子「えっ? あ……はい……」
チサト「ふふふ、かわいいわね……」
聞き間違えじゃなかったみたい。接し方は前の世界と同じ感じだけど、こっちの世界の方がちょっとだけ親密な気がする。
アコ「りんりん。こっちの世界だとりんりん、チサトさんのことお姉ちゃんとして慕ってたみたい」
燐子「あ……そうなんだ……」
ストレートな好意の示し方に戸惑っているわたしへ、あこちゃんが耳打ちして教えてくれる。
ユキナ「魔法の師匠だからかしら。リンコはシラサギさんを信頼していて、シラサギさんはリンコを溺愛していたわ」
燐子「……溺愛だなんて……そんな……」
チラッと白鷺さんを見る。なんだか怖がりの小動物でも見るような笑顔で、ヒラヒラと手を振られた。
……溺愛、されてたのかも。
アコ「前の世界と変わらないですね、そこは」
ユキナ「そうね」
……そんなことはないと思うけど……。今の白鷺さん、わたしが近づいたら抱きしめくらいはしてきそうな雰囲気だし。
チサト「――さて。今日はお姉さんに何の用かしら、リンコちゃん」
燐子「……そ、その……これからのことに……ついて、教えてもらいたくて」
チサト「預言ということね。わかったわ」
わたしが用件を伝えると、白鷺さんの表情がスッと真面目に。預言者……その職業に相応しい落ち着いた雰囲気で、彼女はテーブルの前に歩いていく。その向かい側に立つ友希那さん達にならい、わたしも仲間達の横へ。
サヨ「預言、ですか。確かにシロガネさんがこちらの世界へ来たのなら、何かしら変化があるはずですね」
ユキナ「ええ。まずはそれを確かめるわ」
アコ「元の世界についても、何か言われるかもしれませんしね」
リサ「……? よく分かんないけど、そろそろ始まりそうだよ」
すぅと息を吐いて、吸ってと深く呼吸を繰り返し、集中をはじめる白鷺さん。不思議なことにわたしたちは自然と口数を減らし意識を彼女に向け、部屋はすぐに静寂に包まれた。
水晶が光り、白鷺さんがそれへ手をかざし……数分、だろうか。もっと長いかもしれないし、短かったかもしれない。白鷺さんが水晶から手を引くと、わたしたちはハッと我に帰る。
チサト「……終わったわ」
サヨ「どうでした? 神からのお言葉は」
神……。紗夜さんが真顔で言うと、友希那さんの時と同じく違和感がすごい。他の人が言っても、前の世界の常識だと危ない宗教感がすごいのだけど、この二人は特に。
チサト「……驚いたわ。昨日と違ってすごく具体的に教えてくれるものだから」
アコ「おおーっ。それで、何て言ってましたっ? 神様」
チサト「……では、神託を告げます」
白鷺さんが静かに説明をはじめる。目を閉じて語る彼女の姿は美しく、神秘的であった。
チサト「勇者、そして異界から訪れし分身達。世界をあるべき姿に戻す方法は、魔王を討伐するのみ。勇者とその仲間、五人の奏でる音が鍵を握る……。以上です」
思ったより短かったけど、それでも得られる情報は多い。そして嬉しい事実も判明した。
アコ「うーんと……つまりどういうこと?」
サヨ「おそらく、こういうことね。魔王を倒せば、世界は元に戻る。二つの世界を含めて。後半は説明するまでもないわ」
ユキナ「……これで、やるべきことは決まったわね」
今井さんがいるから、元の世界のことはぼかしているのだろう。でもあこちゃんも今の説明で分かってくれたみたいで、嬉しそうにガッツポーズを作っている。
わたしも、今の預言はそんな風な意味に受け取れた。魔王を倒せば、今この世界に居るはずのないわたし達は元のあるべき世界へ戻れる。
この世界へ来た理由は未だ分からない。でも魔王を倒せば帰れることは判明した。
リサ「リンコの仲間を探して、魔王、音のことを探るってところかな?」
ユキナ「そうね。けれど仲間はもう集まっている可能性が高いわ」
燐子「はい……」
勇者含めて五人。そして奏でる音。
多分、ロゼリアが関係している筈だ。今はその線が一番濃い。
ユキナ「……リンコ。勇者はあなた。世界のこと、私達のこと、鍵は全てリンコが握っているわ」
リサ「まあ、そうだよね。けど一人じゃないから」
サヨ「仲間は沢山いるようですし、安心してください。勿論、私もシロガネさんのことを護るつもりです」
アコ「りんりん、一緒に頑張ろうね!」
魔王を倒す。途方もない目的だけど……みんながいるなら、どうにかなるかもしれない。なんて、今のわたしなら思えてしまう。
臆病で自信のなかったわたしがここまで変われたのだ。みんながいるのなら、きっとどこまでだって。
リンコ「うん……。アコちゃん、みんな……よろしくお願いします……」
だから、覚悟を決めよう。
わたしはシロガネ リンコ。魔王を倒す、勇者。
まだまだ分からないことは多いけど……この世界での役割を果たしてみようと、そう思う。
※今回はここまで
次回はアコちゃんとの夜のシーンを書き溜めて一気に投下予定
それから異世界へ来たばかりのわたしに気を遣ってか、ユキナさんの指示で一行は解散。わたしとユキナさん、あこちゃんとイマイさんの四人でわたしの家に戻った。
明日から戦闘の訓練を始めたり、魔王や音の調査を始めたりと、本格的に元の世界へ戻るべく活動をはじめるらしい。
これからどうなるのか。慣れない環境の中で、ぼんやり考えながら家でゆっくりしていると、あっという間に夜。
イマイさんの作ってくれた夕食を食べ、彼女が自分の家に帰ると、わたし達は近所の銭湯で身体を洗い、寝る支度をはじめた。
はじめた……のだけど。
アコ「りんりん、お待たせっ」
リンコ「え? ……アコちゃ――っ!?」
突然入ってきたアコちゃんに度肝を抜かれた。
お風呂上がりはそんな格好していなかったのに、わたしの部屋の前で別れてから数分後くらいか。その間に着替えたのだろう、すごく薄いキャミソールを身に着けていた。
肩、首、胸元、湯上がりで火照った身体を大きく露出した、灰色のヒラヒラとした可愛らしいそれの下から透けて見える黒い下着。
キャミソールはスカートほどの丈はあり、下着姿よりは見える肌色が少ないのだけど……布越しに薄く見える肌色がいかがわしく見えてしまう。
わたしが着ているキャミソールとは全然違って大人っぽいというか、露骨にそういう様に見えるというか……。
アコ「どう……かな? あこ的にはかっこいいかなー、と思うんだけど。堕天使の力が我が衣を――包んで、ドンッ! みたいな」
リンコ「う、うん……。……似合ってるよ、アコちゃん」
アコ「そ、そうっ? よかったー。恥ずかしかったから、これ」
と言いつつ部屋の中を進み、ベッドへ腰掛けるアコちゃん。
この部屋にベッドは一つ。そしてここはわたしの部屋。さらにアコちゃんはわたしのパートナー。最後にアコちゃんの服装。
様々な要素から、これから起こるであろうことが予想できてしまう。
リンコ「えっと……アコちゃん? わたしたち……もしかして、同じ部屋で寝てるの……?」
アコ「ぅん……そう」
そして大胆な服装で恥じらい、もじもじしてるアコちゃんを見てると、その予想に期待してしまう自分もいる。
そんなことはいけないと分かっているのに。できるだけアコちゃんの顔を見るようにして、隣へ座る。
アコ「ねぇ、りんりん。嫌ならいいんだけど……」
いつもの明るさは抑えられ、しおらしい雰囲気の彼女は横のわたしへ身体を向ける。
恥ずかしさで赤面するあこちゃん。うるんだ瞳でわたしを見つめ、そしてわたしにそっと抱きついてきた。
アコちゃんの揺れるツインテールから香る石鹸の匂い。細くて小さいけれど、しっかり柔らかい女の子の身体。わたしの胸の上に顔を乗せ、甘えるみたいに首を傾げたアコちゃんは間近で囁く。
アコ「アコと……エッチなことしてくれる?」
リンコ「――」プツン
頭が真っ白、というのはこのことを言うのだろう。常識が守っていた理性が、身体に伝わる感触と視覚、聴覚への刺激で一気に吹っ飛んで、身体と思考が硬直する。
アコちゃんにこんなことされて、こんなこと言われたら……前の世界のわたしはどうしただろう。アコちゃんのことは好きだし、ずっと一緒にいたいと思う。
でもそれは、恋愛的なものなの……?
アコ「りんりん……」ジーッ
リンコ「……うん、アコちゃん……しよう……?」
アコ「りんりん……!」パアァ
うん、無理。耐えられない。
身体の異変に心が引っ張られてるのか分からないけれど、今はアコちゃんが愛おしくてたまらない。それにアコちゃんが勇気を出して誘ってくれているのだ。わたしも応えなくては。
リンコ「……」
――とは言ったものの、どうすればいいのやら。頷いた後に恥ずかしさが出てきて、どう始めたらいいのか分からなくなってきてしまった。
魔法の照明で部屋は明るいままだし……。
知識は情報社会の並程度にはあるはずなのに……悲しいかな、経験の無さがここにきて響く。
アコ「りんりん? どうしたの?」
リンコ「……アコちゃん……その、やり方が……分からなくて」カアア
経験なしの素人。困っていることを素直に答えると、アコちゃんはニッコリと笑う。
アコ「りんりんかわいいっ。それじゃあ、アコに任せて」
リンコ「――ふぇっ? んんっ……!?」
いきなり体重をかけられ、ベッドに倒される。そのままアコちゃんはヒョイとわたしの身体を持ち上げ、ベッドに寝かす。腕力も強くなっているみたい、なんてぼんやり考えているとわたしの上に覆いかぶさったアコちゃんが、キスをしてきた。
アコ「ん……っ」
唇を重ねる。言葉にするとたったそれだけのことだけど、アコちゃんの顔がすぐ間近にあって、彼女の吐息や唇の感触が伝わり、頭が興奮でぼんやりしてくる。
ただのキスだけでこんな気持ちいいなんて。なにもできず、されるがままのわたし。アコちゃんは一度目を開き、そんなわたしの表情を見るといたずらっぽく笑う。いつもは無邪気さを感じさせる表情だけど、今は色気もあって妖艶に見えた。
思わず見惚れるわたしへアコちゃんは再度唇を重ね、
アコ「ん、ちゅ……」
わたしの唇へ舌を入れてきた。驚く間もなくアコちゃんの唇はわたしの口の中へ侵入し、わたしの舌を撫で回すように動いてくる。
リンコ「ぁ――んっ……ふぁ、アコちゃ――んぁっ!?」
舌というのは思っていた以上に敏感で、彼女のがわたしを愛撫する度に身体が無条件にゾクゾクと震えてしまう。
未知の感覚に戸惑い、思わず彼女の名前を呼ぼうと口を開くとアコちゃんがタイミングを図ったみたいにグイと唇を押し付けてきた。
アコ「ちゅ……りんりん……っ、ジュル……っ、はぁ」
唾液を交換するような、とはこんなキスのことを言うのだろう。わたしの頬に手を添え、可愛がるように撫でながらわたしの口内をあちこち愛撫し、名前を囁くアコちゃん。
唾液が口の端から漏れていても気にせず、わたしを求めるように激しく長い口づけを続ける。当然息がずっと続くわけはなく、時折唇を離す時間もあるのだけど……その間もアコちゃんはわたしの身体を優しく触れ、休まる時間がない。
戸惑う心は初めての快楽に徐々に染められ、わたしとアコちゃんの喘ぎ声に唾液で立つ音が混ざるようになる頃には、わたしはもう自分から彼女を求めていた。
息苦しさにぼんやりした頭で、けれども身体は自然と彼女を受け入れ、彼女に合わせて動く。
アコ「はぁっ……はぁ……」
リンコ「ぁ……はぁ、ん……っ」
アコ「ん……りんりん、すごいうっとりしてる……。気持ちよかった?」
リンコ「……っ」コクコク
満足したらしいアコちゃんが唇を離した時にはもうほぼ限界で、高まりきった快感に頭が一杯。途中で止められたことに焦れったい気持ちでわたしはなんとか頷きつつ、無意識に刺激を求めて手を下半身へ伸ばす。
秘所に触れようと伸ばした手だが、そこで硬いものに触れる。スカートを持ち上げるほど大きく膨張したそれは、この世界に来てからわたしの身体に起こった異変、男性器だった。
アコ「……? あっ、りんりんのもうこんなに大きくなってるね」
嬉しそうに笑い、明るく言うアコちゃん。わくわく、なんて擬音が聞こえてきそうな様子で彼女は私の寝間着へ手をかけ――あっという間に下着だけの姿にさせてしまう。
そうなると嫌でも目に入ってしまう、反り立った肉棒。そういう漫画で見るようなサイズで、とても女性に付いているとは思えないほどグロテスクな見た目だ。平均以上、なのかな? 倒したらおへそに余裕で届きそう……。
アコ「えへへ、ダーイブッ!」パフッ
リンコ「ひゃっ……あ、アコちゃん……」
アコ「りんりんって本当にキレイだよね。おっぱいも大きいし……いいにおーいっ」
恥ずかしがるわたしの胸に顔を埋め、アコちゃんはご機嫌そうに笑う。あんまりそこの匂いはかいでほしくないんだけど……恥ずかしいから。
アコ「それに、ここ。記憶で覚えてるけど、すごい大っきいね」
リンコ「ひゃうっ、つ、掴まないで……っ」
アコちゃんの小さな手がわたしのそれを掴む。記憶のお陰か絶妙な力加減で、痛くはなくむしろ快感のみが伝わり思わず声が出てしまう。
初めての男性器への刺激。自分でもなるべく触らないでいたのだけど、思った以上に敏感だ。前の世界で、自分の女の子の部分を慰めた時よりも、強い快感かもしれない。
声や反応に出てしまうこと、女性であるはずのわたしに存在するわけのないものを見られていること。恥ずかしくて、わたしは拒絶するふうなことを言ってしまう。
本当は触ってほしくて、気持ちよくしてほしくて、そんな気持ちで一杯なのに。
アコ「へぇー……」
けれどアコちゃんは、わたしの反応を悲しむでもなく、むしろ楽しんでいるみたいだった。力が入らなくて弱々しくアコちゃんの肩を押すわたしに、アコちゃんはニヤニヤと笑う。
そしてわたしの男性器に添えた指をゆっくり根元から先へ動かしながら、わたしの手を掴む。それを自分の口元へ運び……指を口に咥えた。
わざと大きく口を開き、中を見せつけてからねっとりと舌と唇で撫で回す。
アコ「ん……っ、ちゅ……」
刺激はそれほどでもないのに、指をまるで口で奉仕するかのように舐め回すアコちゃんの姿は言い様のない淫靡さがあった。もしアコちゃんにアレを舐めてもらえたら……なんて期待で、わたしの男性器がピクッと跳ねた。
アコ「ねぇ、りんりん。どうしてほしい?」
リンコ「ふぁっ、ぁ……ん……ぅ」
アコちゃんの顔で下半身がどうなっているのか見ることはできない。けれども先端を刺激され、一際強い快感が身体を走る。そのまま頭の周囲を指で撫で回され、次第に粘着質な水音が立ち始める。
先走り、というやつだろうか。それが潤滑油の役割を果たし、敏感すぎる先端への刺激で与えられる微かな痛みすらもなくし、快楽の純度が増す。
これだけでも絶頂に至ってしまいそうなほど気持ちがいいのに、わたしの頭にはもっと気持ちよくなることしか思いは浮かばない。
わたしをからかうみたいなアコちゃんの表情。恥ずかしいのにわたしの思考は熱にうかされたみたいにぼんやりとしていて、彼女の愛らしい口元しか目に入らない。
リンコ「アコ、ちゃんの……口で……っ、んあっ」
アコ「口で?」
囁かれる声。指で絶えず与えられる小さな刺激に声を震わせながら、わたしはなんとか言葉を口にする。
リンコ「……だ、あっ――ん。出したい……っ」
アコ「うんっ。いいよ、りんりん」
元気よく答えるアコちゃん。その笑顔に嗜虐的な悦びを浮かばせて、なんだかとても嬉しそうな表情でわたしの手を開放。
アコ「りんりん可愛いね。そんなに射精したいんだ?」
リンコ「そ、それは……っ」
わたしの言葉を卑猥な表現で言い換えられ、思わず恥ずかしがってしまう。何も間違ってはいないのに。
アコ「ふふっ。冗談だよ、りんりん。今気持ちよくしてあげるね?」
わたしの反応が気に入ったのか、にやけつつアコちゃんが移動する。すると彼女の身体で見えなかった男性器が再び視界に入った。
大きさはそのまま。けれど先走りにより、先端がてらてらとしていて……なんだかいやらしい。
アコ「りんりんの……近くで見ると本当に大っきいね。記憶のアコは咥えてたけど――下手だったらゴメンね?」
リンコ「……う、うん……」
アコ「ん……りんりんのにおい……」
わたしのそれを間近で嗅ぎうっとりとした様子で呟くアコちゃん。記憶の影響か、抵抗感はないようでむしろ積極的だ。先程の焦らしや言葉責めも、この世界のわたしがされてきたことなのだろうか。
だとしたらすごい。もうわたしはこの時点でいっぱいいっぱいなのだから。
アコ「はむっ……」
リンコ「いっ――ひあっ!?」
大きく口を開け、先端を口に含む。口へ挿入するみたいに唇の間を通り、中へ。先っぽ全体が温かな口内に含まれ、舌の先が触れ――その瞬間、わたしは限界に至ってしまった。
強すぎる快感に腰が抜けてしまうかと思った直後に、更に身体を走る快楽の波。頭が真っ白になり、目の前がチカチカする。これまで我慢していた何かをアコちゃんに放ち、それまでの何倍もの気持ちよさが身体を震わせた。
アコ「んうっ!? ん……」
無意識に突き上げられた腰にアコちゃんが苦しそうに呻き、けれどもすぐ舌を動かし裏筋へ刺激を与えつつ吸い付く。
リンコ「ぁ……っ、あー……っ……ん、ぅ」
精液が吸い上げられるような感覚。うわ言のように喘ぐことしかできず、怖いほどの快楽に目をキュッと閉じて耐えるわたし。
射精なんて初めてだけど、特異な体質のせいか、異世界故か、女性としての絶頂にほぼ近く、余韻が後を引く。数秒の射精の後、わたしは放心状態。息切れ気味に荒い呼吸を繰り返し、目の前のいやらしい光景を眺める。
わたしのモノを口から抜き、白濁を見せつけるように口を開いたアコちゃんがそれを飲み、空っぽになった口内をアピール。
ぼんやりしているわたしを恍惚とした表情で眺めると、軽く頬にキスをした。
アコ「敏感でかわいいなぁ、りんりん。でも本番はまだなんだよねー」
言って、アコちゃんは未だ復活できていないわたしをよそに、次の行動を起こす。
アコ「本番前にもう一回出そっか?」
明るく言い放つアコちゃんはそのまま再びわたしの男性器に顔を近づけ――
アコ「あーっ……むっ」
またまた口の中へ。
ぽわぽわとしていた意識は突然の刺激に無理矢理覚醒させられる。
リンコ「やっ!? ぁ、アコちゃっ――あっ! 今は――っ」
絶頂後で感覚の鋭さが増した男性器に容赦なく与えられる、慣れない快感。身体を起こそうとするけれど、アコちゃんはその暇も与えずに頭を動かしはじめる。
咥えた直後にイケたほどの気持ちよさに、動き、擦られる快感がプラスされ、わたしはなす術がない。
アコ「じゅぷ……ん、ふ……っ」
唾液と先走り、アコちゃんの口から卑猥な音と声が聞こえ、わたしの耳に入ってくる。唇に扱かれ、ヌルヌルとした肉棒が見え、また咥え込まれを繰り返しその度にぞわぞわと身体が震え、だらしない声が口から発せられる。
リンコ「んぁっ、あ、アコちゃ――っ、すぐイッちゃ……ぁっ!」
言葉ではやめてほしいと抵抗するものの、身体は対照的にはしたなく腰を動かし男性器は射精後だというのに硬さを保ったまま。
次々と襲ってくる気持ちよさに混乱気味なわたしを見、アコちゃんは目を細めた。
アコ「ふ……っ、りんりん。いふでもふぁふぃていいから……ん、ちゅ」
そして頭の動きを止め、もごもごと舌動かしつつ喋る。いつものトーンで話すアコちゃんだけど、わたしを見つめるその目は明らかに楽しんでいて。
動きを止めたのもわたしがまたイク寸前だからと察したからか。それはさだかではないが、こちらをジッと見つめながらアコちゃんは緩く刺激を与え続ける。
絶頂から休みなく強い刺激を受け続け、今度はじわじわと限界へ導かれる。
リンコ「あっ、や……アコ、ちゃんっ――ぁ、気持ち、よすぎて――イッ、く……!」
再度身体を走る、上りつめる感覚。わたしが絶頂に達すると同時にアコちゃんはわたしの男性器から口を離し、手で扱いてくる。
リンコ「ん……あぁっ……ん……ふ」
精液が放たれる度、思考が白く染まっていく。うっとりとした顔でわたしの精液を顔に浴びたアコちゃんは白濁が放たれてる最中も手を動かし続け――最後に先端から漏れた液体を舐めとると、わたしの上に跨った。
リンコ「アコ……ちゃん……?」
アコ「りんりんがかわいくてついいじめちゃった。大丈夫? 疲れてない?」
どこか満足げな様子でアコちゃんは尋ねながら、自分についた精液を指で掬い、舐め取っていく。
リンコ「アコちゃん……、美味しくない――でしょ?」
苦いだけ、みたいなことを見たのを思い出し、わたしは心配してしまう。その気持ちとは反対に、美味しそうに精液を飲み、身体をゾクゾクと震えさせるアコちゃんに下半身のそれが硬さを取り戻したのだけど。
アコ「すっごく美味しいよ? 味は確かにまずいけど……」
やっぱりまずいんだ……。
アコちゃんはもう一度白濁を指で拭い、それを舐める。口の中に含み、しっかり味わってから飲み込む。うっとりした声をもらし、アコちゃんは恍惚とした様子で自分の身体を撫でる。
今にも自分を慰めそうな発情しきったアコちゃんの姿に、わたしは興奮してしまう。
アコ「りんりんの魔力が川……滝? ドドドーって流れ込んできて、触ったりするだけでも気持ちいいんだー」
リンコ「そう……なの?」
アコ「うんっ。ほら……」
アコちゃんがまたいたずらっぽく笑い、わたしの手を掴むと――彼女の秘部へとそれを持っていく。
リンコ「――ア、アコちゃん!?」
アコ「ん、りんりんの指……。ほら、ビショビショでしょ?」
湿った感触。よく見れば下着の黒が割れ目部分は濃くなっており、形がしっかり浮き出ている。太ももにも水滴が。
アコ「んっ……こういう時のりんりんに触ってるだけでも……」
リンコ「アコちゃん……」
眺めていると、アコちゃんの腰がちょっとずつ動いていることに気づいた。わたしの指で自分を慰めるように腰を押し付け、クチクチと小さな音が立つ。
そんな光景を見せられて我慢できるわけがなく、わたしは恐る恐る問いかけた。
リンコ「アコちゃん……続き、してもいい?」
アコ「――あっ、うん。アコもしたいから……」
腰の動きを止めて、アコちゃんは苦笑。少し後ろに下がり、わたしの肉棒がお腹の前へ来るようにする。
アコ「これ、入るのかな……記憶のアコはひいひい言ってたけど……」
リンコ「そういえば、アコちゃん……っ。そういう言葉……知ってるんだね……んっ」
射精、とか言われたときは興奮しちゃったけど、ちょっと複雑な気持ち……。腰を上げ、男性器に手を添えてあれこれ試行錯誤するアコちゃん。彼女はにっこりと笑い、
アコ「ネット社会だからね! それにアコも思春期だし興味あるから。……好きな人とこういうことしたいって」
リンコ「アコちゃん……」
そういうふうに思っててくれたんだ……。前の世界でもそうだったのかな。わたしに男の人のものがなくても……。
アコ「入れるね、りんりん」
リンコ「……う、うん。無理しないで、ね……」
暗い思考が頭に浮かびかけるも、今はアコちゃんとの行為にしか意識がいかず。先端が割れ目に触れると、わたしの頭はアコちゃんのことでいっぱいになってしまう。
アコちゃんと一線を越える……。今更だけどこれ、犯罪……なのかな。なんて思うけれど背徳感という興奮の材料にしかならない。
未だ硬いままのそれが、アコちゃんの割れ目へ沈んでいく。下着をちょっと横にずらし、扇情的な下着姿のままわたしを受け入れていくアコちゃん。
アコ「んっ、く……ふぁ」
リンコ「ひぅっ……」
わたしのお腹に手をついて、徐々に腰を下ろしていく。熱いアコちゃんの体温に先端が包まれ、強く締め付けられる。華奢な体格のせいか、わたしの大きなそれが狭い中をかき分け入っていき、隙間なく柔らかな中に締め付けられ、擦っていく……またすぐに射精してしまいそうなほど気持ちよく、わたしは自分の身体を抱きしめるようにしてなんとか耐えようとする。
件の魔力のせいもあるのか、快感のレベルが違う。
視覚的な刺激の強さもあるのだろう。アコちゃんの身体にわたしのものが入っていき、蜜が押し出されてわたしのそれを伝い――アコちゃんも気持ちいいのか、腰を下ろしながら舌を出して、深く呼吸をしている。
アコ「あ……っ。は、ひ……っ」
リンコ「アコ、ちゃん……。ぁん、大丈夫……っ?」
アコ「だ、大丈夫……っ。ちょっと気持ちよすぎて……」
声をかけるとアコちゃんは頭をブンブンと横に振り、幾分かしゃっきりした表情に戻る。それから再度、腰を下ろし……一度何かにぶつかる。それを越え更に奥へ。たっぷり時間をかけて一番奥まで入りきったようだ。
わたしのそれはまだ全部入りきってないけど……それでも挿入するというのは快感も興奮も別物で、頭がどうにかなってしまいそうだ。
アコ「~~っ! こ、ここまで……だよね?」
リンコ「う、うん……っ、多分……」
奥まで入りきり、前のめりのまま大きく震えたアコちゃんは緩んだ笑顔で首を傾げる。だらしない表情だけど……もしかして、挿れてイッちゃった……?
そう考えるわたしも限界スレスレで、盛大に声が裏返ったけれども。
リンコ「あれ……?」
我慢我慢と頭の中で何度も唱えつつ、アコちゃんを眺めていると彼女の秘所、そこから赤い何かが男性器を伝い流れていることに気づく。
そういえば挿入の時……まさか。
アコ「あはは……アコ、初めてだったみたい。記憶の身体とは別なんだね」
リンコ「そんな……。痛くなかった……?」
アコ「全然平気! 気持ちよくてクラクラしちゃうくらいだったから!」
やっぱりあれはそういう反応だったんだ……。
アコちゃんの初めてをわたしが……。前の世界では有り得なかったこと。アコちゃんがそれを嬉しいと思ってくれてるなら、ちょっとこの世界に来て良かったなと思える。
アコ「りんりん、動くね?」
リンコ「う、うんっ……いいよ」
アコちゃんも我慢できないのか、話を早めに切り上げて確認を投げかけてくる。
アコちゃんの中……狭くてキツくて、ヌルヌルしてて……とっても気持ちがいい。すぐにでもイッてしまいそうだけど、せめてアコちゃんを少しでも満足させられるように耐えなきゃ。
アコ「それじゃあ……あっ、んうっ」
リンコ「ぁ、ひっ……!」
アコちゃんが腰を上げ、下げる。ジュプといやらしい水音がして、男性器と中が擦れ合う。柔らかいアコちゃんの中がまんべんなくモノを刺激し、腰が浮いてしまうほどの強烈な快感が与えられた。
アコ「んぁっ……これっ、すごい……」
うっとりとした声音でアコちゃんが喘ぐ。身体を少し後ろへ仰け反らせ、自分の胸に触れながら腰を回すようにして動く。グリグリと先端が奥に押し付けられ、溢れ出る愛液の立つ音が大きくなっていく。
リンコ「いっ、う――あぅ! アコちゃん、わたし――ひぁっ!」
アコ「りんりんっ、はぁ――はぁ、ぁんっ……いいよ、いつでも」
アコちゃんのタイミングで快感を与えられ、休むこともできない。挿れているのはわたしなのに、まるでアコちゃんに犯されているようだ。限界がまた近くなってきたわたしへ、アコちゃんは喘ぎ混じりに優しく言い、身体を前に。
わたしの胸に手を付いて、腰を上下に動かしながら慣れた手つきで揉んでくる。
二人の体温とアコちゃんの愛液でとろけてしまいそうな男性器から伝わる快楽と、アコちゃんの胸への愛撫。
されていることは分かってるのに、思考がまったく追いつかずわたしはただただ喘がされるだけ。
アコ「んっ、りんりんが出すところ、見ててあげるから……あっ、あっ、んぁ」
リンコ「あっ、ぁ――ん、く……イッちゃう! アコちゃん
に――出し――ああっ!」
スパートをかけるみたいにペースを上げられ、耐えられるわけもなく、わたしは達してしまう。無意識にアコちゃんの腰に手を添えて自分へ寄せ、彼女の奥へと精を放つ。
中に出す。その快感は言わずもがな、彼女を自分のものにしているのだという征服感が興奮を煽る。
アコ「あ……あぁ。りんりんの、熱い……」
リンコ「ん……ぁ、あ――っ」
彼女の中で男性器が跳ね、精液が放たれる。射精は一、二度目より長く続き途方もない快楽がわたしの思考能力を奪う。
わたしが出す度に彼女の中が、身体がビクビクと震えるのを感じた。アコちゃんの脱力しきった顔……。イッてくれてるのかな?
リンコ「はぁ……っ、ぁ……ん」
アコ「いっぱい……出したね、りんりん。気持よかったよ」
リンコ「う、うん……わたしも――ひぅ」
アコちゃんが腰を上げ、中からわたしのものを抜く。白濁がドロっと溢れ、彼女の太ももを伝う。あんなに溢れるほど……。
アコ「……あれっ? りんりん、またしたくなっちゃった?」
リンコ「……へっ?」
いやらしい光景に見惚れていたわたしは彼女の声で我に帰る。見てみればすっかり元通りなわたしの男性器が。……わたし、どれだけ元気なの……。
呆れるわたし。流石にアコちゃんも疲れるだろうと、寝ることを提案しようと口を開きかけたわたしへ、アコちゃんは顔を近づけてくる。
アコ「いいよ、いっぱいしよっかりんりんっ。アコも満足してないし……」
いい笑顔だけど、なんだか目にハートが見えるような……。
リンコ「アコちゃん……流石に休――んむっ!?」
アコ「ん、ちゅ……じゅる、ぷぁ……」
キスから、再び挿入。そうなるとわたしに抵抗する気力はなくなり……
リンコ「やっ、ぁ……あ、ん……ぁひっ――あぁ」
アコ「んっ、ぁ……りんりん、その顔可愛い……っ」
多分一桁を超えた回数、アコちゃんと身体を重ね続けた。わたしも、アコちゃんの体力もすごすぎると思う。
この世界のわたしが体力をつけていてくれて本当に有り難いと思った夜である。
※書きすぎました
次回から通常の進行に。
落ちるのと同時に最後に安価
↓1 翌朝に登場するキャラを一人指定(未登場のキャラでも、出てるキャラでも可。未登場の場合は設定も記載可)
記載忘れですが、
コンマ二桁目で記憶の有無、一桁目で好感度の判定を行います。今回は偶数なので記憶有。好感度は8とします。
書いていない設定以外はこちらで他キャラと関係つけたりしますのであしからず。
リンコ「……ん。うう」
めくるめく、という表現が似合う肉欲の夜を越えて、朝。心地よい疲労感と身体の重荷を払ったかのような身軽さを感じつつ、わたしは鳥の囀りを目覚ましに覚醒する。
??「なるほどー。勇者はリンコさんかぁ~」
リンコ「くぁ……ふぇ?」
無防備に欠伸を一つ。口を開いたわたしは、聞き慣れない声に固まる。こののんびりとした口調、聞いたことがあるような……。
??「あ、起きました? カーテン開けますねー」
わたしが起きたことに気づいたのだろう。変わらぬトーンでその人物は言うと、窓にかかっているカーテンを開いた。眩しい朝日に照らされ、姿を現したのは……青葉さん。
NFOで彼女の姿は見たことがなかったけれど……とても値段が高そうな服を身に着けている。
旅人用の茶色のマント、白シャツに茶のロングパンツ。一見すると地味に見えるけれど、素材は一級品。元の世界でも中々見ることができない質だ。
冒険者風の装いの彼女は、大きなリュックを背負っていた。商人……なのかな。
モカ「おー……。これはこれは」
リンコ「……?」
首を傾げる。青葉さんの視線はわたしの顔より下に向けられてるけど……あ。
アコ「すやすや……」
わたしの身体に抱きつき、胸に頬を寄せたアコちゃんが熟睡している。扇情的な下着姿で。わたしは裸で。
昨晩は……疲れていつの間にか寝ていたみたい。毛布かぶってないし、服着てないし……。
リンコ「こ、これは……そのっ……」
モカ「お邪魔しました、リンコさん」ペコッ
ほんのりと赤くなり、青葉さんがそそくさと部屋から出ていく。……この世界で初めて会った時にこの姿。タイミングが悪すぎた。
うまい言い訳が見つからず、パタンと閉まるドア。アオバさんの足音が遠ざかっていく。
……とりあえず、起きよう。
リンコ「……アコちゃん、起きて」
アコ「んぅ……? あ、りんりん。おはよー」
声をかけ、肩を揺するとアコちゃんはすぐ起きてくれる。眠そうに挨拶しながら枕に頬ずりをするみたく、わたしの胸へ顔を擦りつけてくる。
リンコ「ん……くすぐったいよ、アコちゃん……」
アコ「えへへ……。りんりんのおっぱい、やわらかーいっ」
ちょっとコンプレックス気味だったスタイルだけど……憧れるちゃんが気に入ってくれてるなら、少しは自信を持てそうだ。猫みたいに甘えてくる彼女の頭を撫で、癒やされ気分。
リンコ「アコちゃん……。あれから、わたし達……」
アコ「あっ! そうそう。りんりんごめんね?」
ハッとして、アコちゃんはわたしの上から横に。腕へ抱き着いて小首を傾げる。か、かわいい……。
リンコ「……ごめんね、って?」
アコ「アコ、調子に乗ってりんりんに10回くらいビュッてさせちゃって……最後りんりん気絶しちゃったから」
リンコ「……そ、そうなんだ……」
最後の曖昧な記憶はそれが影響してるのかな。アコちゃんが蕩けた顔でわたしの上で腰を振ってるのを見たのが最後の記憶で……きっとサキュバスに襲われた人ってこんな気持ちなんだろうなぁ……なんて。
でもすごい気持よかったことは覚えている。アコちゃんの身体にわたしのものを出し入れして……。
アコ「次はりんりんに動いてほしいなぁー」
リンコ「……それは、無理……かも」
入れるだけで腰が引けそうで精一杯なのに、動くだなんて。入れる側なのに攻められてるみたいな感じ方をしちゃうのは、今後のためにもどうにかしないと……。わたしもアコちゃんを最後まで満足させたいから。
まぁそれはそれとして……さっきアオバさんが来たことを伝えて、早く部屋の外に出ないと。
リンコ「アコちゃん……さっき……」
アコ「――あれっ? りんりんまた勃ってるよ?」
リンコ「――えっ? あぅっ!?」
説明しようとした途端、アコちゃんがおもむろにわたしの男性器を掴む。アコちゃんの細くて温かい手が触れた瞬間、身体に電流が走ったみたいにピクッと反応してしまう。
リンコ「あ、あのっ……アコちゃん、んっう――早く起きないと……っ」
アコ「早く? あ、もう朝ごはんの時間だよね。でもその前に……アコに朝のご飯(魔力)ちょうだいっ!」
リンコ「だ、ぁ……駄目、だよアコちゃ……くぁっ……」
だ、ダメ……頭がぼんやりしてきた。ちょっと擦られただけで抵抗できなくなっちゃうなんて。でもアコちゃんの技術もすごくて、何も考えられなくなってしまう。
アコ「じゅぷっ……れろ……あむ、ん」
リンコ「ひゃうっ! あっ、アコちゃん……っ!」
……その後、すぐ達したわたしの精液を綺麗にアコちゃんは平らげ、また続けようとする彼女をなんとか制止することに成功。急いで家の簡易的な水浴び場で身体を洗い……リビングへ向かうのだった。
ユキナ「……来たわね、二人とも」
リサ「おっはよー☆ アコ、うまくいったみたいだね」
リビングに行くとそこには既に二人……と、
モカ「さっきはどうもー」
微妙にぎくしゃくした動作のアオバさんがいた。無かったことにしてくれているのか、冷静な風を装ってくれる彼女にわたしも多くは語らず会釈。
記憶のないイマイさんが彼女がいることを受け入れているってことは、二人はこの世界では知り合いなのかな……?
アオバさんは前の世界の記憶がありそうだけど。
階段を降りた先で観察していると、アコちゃんが小走りでイマイさんのところへ向かっていく。
アコ「リサ姉のアドバイス、すっごい効いちゃったよ! ありがとう、リサ姉」
リサ「どういたしましてっ。けど、ユキナに聴こえちゃうくらい賑やかだったのは気をつけた方がいいかもね~」
アコ「えっ? あはは……ごめんなさい、二人とも」
ユキナ「私は……別にいいわ。お母――リンコが幸せなら」
モカ「えーと、話を再開しませんかー?」
わたしの部屋で目撃した関連の話を蒸し返され、困った様子のアオバさん。わたしとしても真面目な話をしたいところだけど……声、聞こえちゃってたんだ。
昨晩のはわたしの方が声、大きかっただろうし……ユキナさん、色々複雑な気分なんじゃ……。
バンドの仲間で、この世界では母親代わりの女性の夜の営み。……うん、言葉にしただけでも複雑さがよく分かる。
ユキナ「……そうね。リンコ、アコ。適当に座って」
リサ「じゃ、アタシご飯持ってくるね」
リンコ「はい……ありがとう、こざいます……」
着席。イマイさんがわたしとアコちゃんの朝食、パンとスープをテーブルに並べ、席に座ってからユキナさんは話をはじめた。
ユキナ「……今日は、情報をもらうためアオバさんに来てもらったの」
モカ「どうもー。アオバモカです。この世界では奴隷商人やってます」
リンコ・アコ『!?』
緩い口調で言い放たれた、ゆるくない単語。不意打ちみたいに叩きつけられた言葉に、わたしとアコちゃんは驚愕する。
ど、奴隷商人……? それって、ファンタジーでは悪役なイメージが……。
何秒かかけて脳内で処理していくと、段々と彼女が気の毒に思えてきてしまった。目を覚ましたらこの世界の自分は悪役でした、なんてどんな気持ちになるのだろうか。
リサ「あ。心配しないで二人とも。アオバさんってすごくいい人だからさ。そうですよねっ、アオバさん」
モカ「あははー……敬語はちょっと調子狂うなぁ」
硬直するわたしとアコちゃんへ、アオバさんのフォローを入れるイマイさん。どうやら二人は知り合いみたいだ。イマイさんの前の世界の記憶はないし、商人のモカさんと面識があるということ。
不思議に思っていると、それを察したのかユキナさんが語る。
ユキナ「アオバさんはやり手の商人として有名人なのよ。奴隷商人だけではなく、レストランや店の経営をしていて……この国随一の富豪と言っても過言ではないわ」
アコ「んー……あ、そういえばそんな話聞いたような」
モカ「まぁ、奴隷なんて言っているけど人材派遣みたいなものでアフターケアも万全ですしー」
リサ「うんうんっ」
人材派遣……。身寄りがなかったり、仕事につけない人に仕事を与えるってことだろう。それだけじゃなくてアオバさん自身も多岐に渡る事業をしていて、自ら仕事を作っている……のだろう。
よかった。単なる悪人、なんてことはなくて。
モカ「というわけで、リサさんに呼ばれてここに来た次第で~。魔王情報大量入荷してますよー」
リサ「アオバさん、仕事柄情報通だからさ。何か知ってるかなって思って」
ユキナ「それはいいのだけれど……。リサ、どこでアオバさんと知り合ったの?」
多分、ユキナさんは単純な疑問でその質問を投げかけたのだろう。元の世界の記憶もないのに、どうして奴隷商人などという職業のアオバさんに接点があるのか、と。
何気なくされた問いかけに意外な反応を見せたのはイマイさんだった。
リサ「えっ? それはそのー……」
……怪しい。この場にいる全員――いや、アオバさんを除く全員がそう思っただろう。あたふたと視線を泳がせる彼女は笑顔を浮かべたままおれこれと言い淀む。
知り合ったきっかけもそうだけれど、わたしはイマイさんとアオバさんの迅速すぎる対応にも違和感を覚えていた。預言を貰った昨日の今日で朝から来るだなんて。
わたしが勇者だからかな……? やっぱりみんなも早く元の世界へ帰りたいのだろう。
モカ「それはー、あたしの方から持ちかけたんです。やっぱり勇者さんに魔王を倒してもらいたいので。預言者のところへ行ったのは知ってたから、今日がいいかなーっとモカちゃん自慢の情報網で」
ユキナ「……なるほど、そうだったのね」
リンコ「……」
確かに有り得なくはない。でも、心底ホッとしてるイマイさんを見るとそれだけじゃないような気も……。
追求したい気持ちを抑え、わたしはパンをかじる。訊かれたくないことのようだから、話してくれるまで待つとしよう。
モカ「そしたら、イマイさんが大切な人、特にミナトさんとリンコさんのためにって――」
リサ「ちょ、アオバさんっ!」
モカ「あははー。冗談冗談」
リサさん、照れてる……。ユキナさんを大切な人、って他の人に言われてもあんなに取り乱すイメージはなかったから意外である。
モカ「というわけで、まず第一の情報から」
飄々と、その話は終わりと言わんばかりに話題を切り込む。ゆるい空気のままアオバさんは語る。
アオバ「この街の近く。魔王の仲間、↓1が守る遺跡に↓2があるらしいです」
↓1 登場済み以外のキャラで一人指名
コンマ一桁で好感度を判定。記憶は強制的になし
↓2 楽器(マイク、ギター、ベース、キーボード、ドラムの内一つ指定)
【キャラと楽器決定。職業も採用です。巴の好感度は4
執筆に入るので、その間また登場済みのキャラの設定を募集します。
異世界だけでなく現実世界の出来事なども大丈夫です
間が空いて申し訳ないです】
【各種設定ありがとうございます。全部取り入れていきますのでので】
モカ「ともちんが守る遺跡にベースの楽器があるらしいです」
トモエさんが守る遺跡に……?
ベース、ということは預言からわたし達が予想したことは外れていなそうだ。勇者のわたしを含めたロゼリアの奏でる音が鍵を握る……まずはベース、イマイさんの楽器。
トモエさんはそれが祀られている遺跡の守護者、といったところだろうか。
ユキナ「ウタガワさん……?」
アコ「おねーちゃんっ!? モカちん、どういうこと!?」
リサ「ちん!? すみません、モカさん! アコ、ちょっと世間知らずというか――」
ああ……記憶のないイマイさんが戸惑ってる。突拍子もなく偉い人をあだ名呼びしてタメ口で話し始めたら、わたしも絶対慌てるだろうなぁ……。
モカ「あーあー、だいじょーぶ大丈夫。モカちゃんはフレンドリー大歓迎ですので」
ユキナ「……それで、詳細は」
モカ「聖なる楽器が祀られた古代の遺跡に、暗黒騎士ともちんが陣取ってる感じでー……」
リンコ「え……敵?」
暗黒騎士という響きに呟くと、アオバさんは首肯。
敵……トモエさんは魔王側の人ということ。今までの友達たちは味方でいい人ばかりだったのに、こういうケースもあるらしい。
アコ「暗黒騎士……おねーちゃん、かっこいいジョブに就いてる……。流石異世界」
ユキナ「驚いたわね。ウタガワさんが敵に……」
リサ「……? ウタガワ? あれっ、アコと一緒の苗字?」
アコ「うん……おねーちゃんとは小さい頃に別れちゃったんだけど……」
リサ「あー。アコ、魔王軍幹部だったし……色々あったんでしょ?」
アコ「……おねーちゃんもあこも強かったから、別の隊に分けられてそれっきりで」
アコちゃんが少し暗い表情で答える。元の世界ではアコちゃんはトモエさんにべったりで、仲良しな姉妹だった。その記憶と異世界の記憶のギャップ……苦悩は計り知れない。自分が魔王軍にいたとなれば尚更――
リンコ「えっ!?」
ま、魔王軍幹部!? それこそどういうことなのアコちゃん!
アコ「あ、説明してなかったよね、りんりん」
驚いたわたしに気づいたアコちゃんはそっと耳打ち。
アコ「アコね、前はりんりんの敵で、失敗して魔王軍に処分されそうなところをりんりんに助けられたんだ。それから、ずっと一緒で……パートナーになったり……えへへ」
リンコ「そ……そうなんだ……」
ありがちと言えばありがちな展開……。
前の世界の友達が敵側にいる……アコちゃん、トモエさん、二人もいるのだから、彼女達以外にも有り得るかもしれない。
モカ「……とまぁ、今のところはこんな感じでー。最初から強敵なので気をつけてほしいですけど……できれば、早く目を覚ましてあげてほしいなぁーと」
ユキナ「……ええ。その気持ちは分かるわ」
アコ「うん! すぐ助けるよモカちん! おねーちゃんが敵役なんて絶対嫌がるだろうしっ」
リンコ「そう……だね。任せてください……アオバさん」
モカ「……ありがとー、みんな」
前の世界の記憶が戻るのか。まだ分からないことだらけたけど、音を集めるしかないのが現状。それにトモエさんが大きな罪を犯す前に止めてあげないと。トモエさんが悪い人じゃないのははっきりしているから。
リサ「……あの、さ」
みんなで一致団結、という雰囲気の中、不意に不安げな声が上がる。そちらへ視線を向けると、イマイさんが苦笑を浮かべてみんなを順番に見回していた。
この中で唯一、記憶がないイマイさん。ずっと違和感はあった筈だ。今朝の会話でそれがある程度の確信に変わってしまったのだろう。
リサ「みんな知り合いなの? 仲良さそうだけど……」
モカ「……」チラ
アコ「……」チラ
ユキナ「……」チラ
あ、あれ……? なんでみんなしてわたしを見るの?
急な連携を見せる仲間達に戸惑っていると、ユキナさんが立ち上がる。
ユキナ「少しリンコを借りるわよ」
リンコ「えっ? あ、ユキナさん……?」
そしてそのまま手を掴み、家の外へわたしを連れて行く。ぽかんとした顔の三人を取り残し、わたしとユキナさんはドアの向こうへ。
ユキナさんは手を離すとわたしへと振り向いた。
ユキナ「……私達はリンコの決断に従うわ」
そして一言、簡潔に告げた。
リンコ「……」
さっきの視線の意味はそういうことらしい。
わたしの決断に……。
リンコ「どうして……ですか?」
ユキナ「それが道理だと思ったからよ。今、前の世界での記憶がないと分かっているのはリサとシラサギさん。そしてこの世界での記憶がないのはリンコ、あなた一人だけ」
ユキナ「転生……なのかは正確には分からないけれど、前の世界でのことを話すと決めて一番影響を受け、与えるのが――」
……わたし。
そこで台詞は切られたけど、すぐにわかった。
話すと決めれば、わたしだけこの世界の記憶がない事実が発覚する。色々やりやすくなるだろうし、誤魔化す必要もなくなる。でもそれは、この世界のわたしと別人のわたしが入れ替わったのだと言っているようなもの。
逆に、話さないと決めれば嘘をつく必要が出てくる。うまくいけばいいけど、それがバレた時は……。
イマイさんから問われたのだ。もう曖昧にはしておけない。ここで決めておかないと……。
ユキナさんから託された選択。打ち明けるか隠し通すか。
リンコ「わたしは……」
1 打ち明ける
2 隠す
↓1 一つ選択
そしてついでに、ロゼリアパーティのライバルパーティ的なメンバーを決めようかと思います。
↓2から6でキャラ名を指定。 ↓2のキャラがパーティのリーダーに。
未登場のキャラに限ります。その投稿のコンマで好感度判定。ライバル位置なので記憶は強制的に無し。ボーカルやギターなど、演奏の担当は関係なし。
指名安価後の投稿でこれまでのような設定の追加も受け付けます。但し好感度準拠で、既に出ている設定と矛盾しそうなのは省いたりします
選択肢、キャラ把握です
パーティさんは人間側です。魔王討伐を狙う競争相手的な感じで
選択肢 2 「隠す」
ライバルパーティ
リーダー 美竹蘭(好感度9)
メンバー 市ヶ谷有咲(好感度1)
牛込りみ(好感度7)
奥沢美咲(好感度3)
大和麻弥(好感度7)
と決定。りみの職業は一応フライングなので外しておきました。何も投稿がなければ付け直しておきます
これから本編をまた書くので、その間よろしかったら設定があれば受け付けます
・登場済みキャラクターと簡単な設定
白金燐子
(主人公で勇者。生えてる。唯一の異世界記憶なし。魔法がかなり強く、物理面も並程度な万能型)
宇田川あこ
(ネクロマンサー。今のところ唯一のパートナー。元魔王軍。ドSさん。好感度9)
湊友希那
(吟遊詩人。種族は魔族。両親はおらず燐子と同棲。母親は猫系統の魔族で、魔族狩りにより亡くなる。普段はMでSな時も。好感度3)
今井リサ
(僧侶(ヒーラー)。元世界の記憶なし。友希那と燐子の幼馴染。元奴隷、現スパイ。過去にモカを主人としていたが、現在は燐子のため多重スパイとして暗躍。好感度9)
氷川紗夜
(ナイト。この世界では燐子らと初対面。千聖のお付きの騎士。異世界日菜と憎しみ合っている? 好感度8)
白鷺千聖
(預言者。燐子の魔法の師匠で義理のお姉さん。元世界の記憶なし。好感度9)
青葉モカ
(やり手の奴隷商人。リサとは元主従関係。好感度8)
・現在設定のみのキャラクター
宇田川巴
(暗黒騎士。元世界の記憶なし。魔王サイドの人間。好感度4)
氷川日菜
(詳細不明。異世界紗夜と憎しみ合っている)
・元の世界での出来事
「ガールズバンドの大会で他グループを抑えポピパが圧勝」
設定に名前が出ただけの氷川日菜ですが、よかったら職業や過去やら彼女の設定もどうぞ。ちょっと前の設定追加の投稿にゾロ目がありましたし、ボーナスとして好感度も自由に。
設定、登場キャラの見落としあったらすみません
リンコ「……話したく、ありません」
隠す。
それがわたしの結論だった。
この世界の記憶だけしか持たない人の気持ちを裏切りたくはないし、シロガネリンコはもう別の人間になりかわってしまったのだと開き直るようなことはしたくなかった。
そんなことをすれば、異世界のわたしに迷惑がかかるだろうし……それこそ、異世界のわたしの席を奪うような行為。
だから、わたしは異世界のわたしとして、記憶の事情は隠し通そうと思う。
ユキナ「……そう」
ユキナさんはこくりと頷いて、申し訳なさそうな顔をする。
ユキナ「ごめんなさい、リンコ。判断を押し付けてしまって」
リンコ「大丈夫……です。アコちゃんも、アオバさんも……同じ気持ちみたい、ですから……」
わたしとしても、押し付けられただなんて思えず。むしろわたしの決断に従ってくれる優しさが嬉しかった。彼女達も巻き込まれた立場なのに。
わたしが答えると、ユキナさんは微笑。けれど直後、目を鋭くさせる。
ユキナ「ただ、隠しておくのなら気をつけた方がいいわ」
リンコ「は、はい……。バレないように……」
ユキナ「ええ、それも大事ね。あともう一つ、バレた後のことも考えておきなさい。この余裕のない状態で、いつバレてもおかしくはないから」
リンコ「そう……ですね」
短い異世界生活の中で、異世界での記憶しか持たず、なおかつ異世界のわたしと仲の良い人もわかった。彼女たちにわたしの状態がバレた時、うまく誤魔化せないとどうなるのか……考えたくもない。
ユキナ「私やアコ、サヨもフォローするけれど……土壇場で必要なのはリンコ、張本人の言葉だから」
ユキナさんが腕を組み、真っ直ぐその眼差しを向けてくる。それは、バンドのことを話すユキナさんの表情とまったく同じ。高圧的に見えて、上手くできるだろうと期待を込めアドバイスしてくれている――不器用な優しさ。
ユキナ「特にリサ、シラサギさん、ミタケさんに対して……よく考えておいて」
リンコ「……? はい……分かりました」
ユキナ「……まぁ、いいわ」
何故個人名が? と首を傾げつつ頷くと、ユキナさんは心配げな顔で少しの間わたしを見つめ、小さくため息を吐く。
今、呆れられてたような……。
ユキナ「戻りましょう。リサを誤魔化さないと」
リンコ「あ……はい……」
いつもの毅然とした雰囲気に戻り、ユキナさんはドアを開いて家に戻る。わたしもそれに続き――不審がるリサさんをなんとか納得させ、その場は無事収まった。
ユキナ「アオバさんと仲良さげ? 気のせいよ。ウタガワさんのことは以前アコから聞いていたから知っていたわ」
リサ「んー……まぁ、それはいいけどさ、なんでリンコ連れていったの?」
ユキナ「それは……」
アコ「リ、リサ姉っ。ユキナさんもりんりんに甘えたい時があるんだよ」
ユキナ「!?」
リサ「あ、そっかー☆ ユキナもまだまだ甘えん坊なんだなぁ」
ユキナ「……そ、そうよ」
無事……なのかな。
アコちゃんに雷が落ちないように祈っておこう……。
○
それから朝食を終え、アオバさんがお店に戻り……30分くらいが経った。
ユキナ「……というわけで、しばらく各自自由に行動する時間を取るわ」
再びテーブルの席に座ったわたし達。遺跡攻略の準備を進めるべく、今は簡単な作戦会議中である。色々と話し合い、ユキナさんが述べたようにしばらく各々で行動することに決まった。
理由は一つ。勇者であるわたしがこの世界に疎いから。
土地勘無し、記憶なし、戦闘経験なし。高校生で、バンドをしていて、ゲームが好きで……といった元の世界のわたしと何ら変わらない状態で魔王軍に挑んで、どうなるかは言わずとも分かるだろう。
イマイさんがいるから、ユキナさんとアコちゃんに遠回しにその理由を説明されたけど……すぐ分かった。確かに今のわたしだと、敵の攻撃をまともに受けて倒れかねない。それどころか、一人だと目的地に無事着けるのかすらも危うい。
リサ「りょーかいっ☆ アタシも食糧とか旅の準備しておくから、ユキナ達もしっかり備えてね」
ユキナ「ええ。……それと、魔王討伐のメンバーだけれど、サヨも仲間に加えるわ」
リサ「サヨ? それって、チサトの騎士さん?」
アコ「うんっ。アコもサヨさんがいいと思うなー」
リサ「騎士が仲間になってくれるなら頼もしいかもね~。リンコは賛成?」
リンコ「はい……ヒカワさんを仲間に……したいです……」
できるだけロゼリアで行動した方がいいだろうから、やはりヒカワさんの参加も欠かせない。この世界では初対面みたいだから、ちょっと不思議な言動に思えるだろうけど。
リサ「大人気だなー、騎士さん。でも許可は貰ってるの?」
ユキナ「それは……まだね」
リサ「じゃあ、まず話しておかないと。チサトの護衛でもあるんだから」
これ以上ない正論である。わたし達はヒカワさんが協力してくれると確信を得ているけれど、シラサギさんのお付きの騎士なのだから、まずシラサギさんに許可を貰わないと。
リンコ「……これから、行きます……?」
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――とのことで、会議は終了。昨日と同じく四人で城へと向かうことに。
家を出て、街を歩き……お城の前に着くと、人だかりが目に入る。
大きな街だからか、今まで極端に人の密度が高い場所がなかったけど……あそこは……。
リンコ「あっ……」
アコ「? りんりん、どうし――あれっ? なんだろう、あの人混み。りんりん、通れそう?」
リンコ「……な、なんとか……頑張れば……」
リサ「大丈夫? 無理そうなら時間空けるよ?」
ユキナ「……リンコ、少し覚悟をしていた方がいいわ」
リンコ「え……?」
真面目な雰囲気の言葉に、アコちゃんから視線を前方へ。見れば人混みから五人、女の子がこちらへと歩いてきていた。
この人たちが人混みの中心――否、それを作り上げていたのだと一目で分かった。だって、その人達は……。
ラン「こんにちは、ミナトさん。リサさん、アコ、それに……勇者さん」
わたしの、つまり元の世界での友人達だったから。
ミタケさんにイチガヤさん、ウシゴメさん、オクサワさん、ヤマトさん。わたしが勇者なのだ。彼女達も特別な設定を得ているのだろう。となれば知名度もあって当然。
ミタケさんの台詞を読み取るに面識はあるみたいだけど、ミタケさん達に記憶はあるのかな?
アリサ「ランちゃん、こいつらに話しかける必要なんてないんじゃないか?」
リミ「あはは……いきなりごめんね」
ミサキ「どうもー……うちのリーダーがお騒がせしてます。いや、しますかな」
マヤ「ミタケさんもイチガヤさんも、できれば穏便に……。あっ、勇者のみなさん、お久しぶりです!」
……なさそう。
察するに、ユキナさんやアコちゃん達が異世界に来てから初めて会ったのだろうと分かるけど、それについてのリアクションが何もない。
元の世界の知り合い、ではなく、異世界での知り合いとしての挨拶が真っ先に出てくる点を考えるに、五人全員記憶は無いと考えていいだろう。
服装とか、装備とか、異世界のぎこちなさを感じさせる様子もないから……多分、間違いない。
どんな集まりかはさっぱりだけれど、五人はミタケさんをリーダーに活動しているらしい。それでミタケさんはわたし達に絡んできて……あれ? あまり……変わってない?
ユキナ「……なにをしていたの? お城の前で見世物にでもなっていたのかしら」
リンコ「……」
――んっ?
言葉の節々から分かるトゲに違和感を抱くわたし。ユキナさんの方を見ると、彼女は露骨に不快そうな顔をしてミタケさん達を睨んでいた。
対して、ミタケさんは余裕の笑み。
ここだけ逆転してる……。
過去にこの世界で何かあったのだろうか。困ったときのアコちゃんに話を聞こうと考えたわたしだけど、視線を動かした直後、周囲の変化に気づく。
さっきまで前方にあった人混みが、完璧にわたしたちを中心に移動している。
リンコ「あ、あの……っ……」
人が沢山。注目も集めている。頭が真っ白になっていくのを感じ、わたしは後退る。
うう……強くなった筈なのに、中身は少しも変わってない。心の中で自嘲していると、意外なことに挑発していたミタケさんが素早く動く。
ラン「あ、マズ……。 はい! みんな解散! 勇者と大事な話するから!」
どこからともなくマイクを取り出し、彼女は周りの人たちに声をかける。大ボリューム、と最初は感じた。けれど不思議とうるさくは思えず、『響いて』くる声が心地よく思えた。
不思議な声に感心している内に、見物人がわたし達の周囲から去っていく。ほんの僅かな時間でお城の前は前日と同じ雰囲気へ。
まるで魔法みたい。なんて思っていたもの少しの間で、ミタケさんの周りで武器を手に威圧感を放っている仲間たちを見て、ギャラリーの撤退速度に納得するわたしである。
こんなことをする人たちが人だかりを作っているのだから、相当な力量があるのだろう。勿論魅力も必要だろうけど……それが彼女達に有るのはよく知っている。
なにはともあれ、良かった……。あんな人数に囲まれて話だなんて、とてもできそうになかったから。
ホッと胸を撫で下ろしてわたしはミタケさんを見る。マイクを消した彼女は、わたしの視線に気がつくと咳払い。
ラン「ごほんっ。……相変わらず、勇者さんは群衆が苦手みたいですね。そんな調子で大丈夫ですか?」
……現実とちょっと変わって、優しさが分かり易い。
ミタケさんから絡んできてるからかな。怒ったような口調に真剣さが無くて、友人がちょっかいかけてくるような微笑ましさがある。
ユキナ「大丈夫よ。心配要らないからさっさと向こうに行きなさい」
アリサ「なんだとコラッ!」
リサ「ちょ、ユキナッ?」
マヤ「イチガヤさんも、抑えてくださいっ」
ただ、若干名真剣だけど……。
ユキナさんにイチガヤさん、二人とも他バンドのメンバーにこんな反応する人達じゃないのにどうしたのだろうか。特に前の世界の記憶があるユキナさんが、なんでミタケさんを敵視してるのかがよく分からない。
状況が分からずあたふたしていると、アコちゃんがわたしの服をクイクイと引っ張る。
アコ「ランちゃん、英雄の家系で、魔王討伐を狙ってるライバルパーティのリーダーなんだ。今までも何回もこんな言い合いしてて……」
リンコ「そう……なんだ……」
こそこそと二人で会話。ライバル……こっちの世界でもミタケさんとの関係はあんまり変わってないようだ。
ラン「ずいぶん嫌われてますね。……で、さっき言った大事な話ですけど」
リサ「あぁー、うんうん。どんな話?」
ユキナさんの衝突を押さえようとしているのだろう。リサさんが苦笑を浮かべながら話の先を促す。ピリピリ――といっても、ユキナさんとイチガヤさんだけで、他はおろおろおどおどしているのだけれど、ミタケさんは何事もないかのように平然としていた。
ラン「魔王討伐、どんな具合ですか? あたしはこの通り、自分の『楽器』……見つけましたけど」
パッとミタケさんの手に光が。次の瞬間彼女の手に先程のマイクが現れる。今度はスタンド付きで、ギターと服装を除けば前の世界でも見慣れた美竹蘭さんの姿がそこにあった。
楽器……。預言では勇者とその仲間の奏でる音が鍵を握ると言っていた。
ミタケさん――英雄と仲間達の楽器も存在し、魔王討伐に関連しえいるという話なのだろうか。もしそうだとすれば、彼女らが一歩リードしていることは間違いない。
ユキナ「だからちやほやされていたというわけね」
ミサキ「お城で報告したらあれやこれやと囲まれまして……」
リミ「困っちゃったよねぇ……」
リサ「はぇー、流石英雄さん。アタシ達も負けてられないね☆ ユキナっ」
ユキナ「――そうね」
……す、すごく悔しそうな顔。
ユキナさんのそんな顔、久しぶりに見たような……。
リサ「じゃあそういうことで、アタシ達お城に――」
ユキナさんの反応に困っているのか、リサさんが笑顔のまま話を打ち切ろうとする。ムスッとした表情のユキナさんをチラチラと見て、早足で城に向かい――
リミ「あれ? 勇者さん達……もう行くんですか?」
リサ「……」
ウシゴメさんの一言で綺麗に足を止めた。
……イマイさん、なんだかさっきよりも焦ってるように見える。いや、むしろ隠してた焦りが表面化したような……。ミタケさん達が見えた時から、仕草に落ち着きがないとは思っていたけれど。
リサ「ご、ゴメンナサイ……」
片言気味に謝ってる……。ウシゴメさんとこの世界での知り合いなのだろうか。
マヤ「そうですよ、勇者さん達。ここはお互いの理解を深めるためにもぜひ、ゆっくりお話でも……」
リミ「あ、私もシロガネさんのこと、聞きたいかも……」
新たな因縁らしきものも見つかってしまったけれど、友好的な人もいる。にっこりと笑いながらヤマトさんが一歩前へ出て、ウシゴメさんは――ジッと意味深な視線をわたしへ向けてくる。ただの笑顔に見えるけど……どうしてだろう、何か含みを感じてしまう。
アコ「いいですね! じゃあ、お話――」
アリサ「マヤさん、リミ。そんなの必要ないですから」キッパリ
ユキナ「そうよ、アコ。すべきことは他にいくらでもあるでしょう」
なんてことを考えている内にあっさり、親睦を深めようという提案は却下されてしまう。
絶対話し合うべきだとわたしは思う。でもユキナさんがここまで敵意剥き出しだと、軌道修正は難しいだろう。いつもならイマイさんが宥めつつ提案してくれるのだけど……今はウシゴメさんに萎縮してしまっている。
リンコ「……」
睨み合うユキナさんとイチガヤさん。敵対する二人におろおろするヤマトさん、アコちゃん。静観モードなオクサワさんにウシゴメさん、ミタケさん、イマイさん。
多分、今までもこんなやり取りをしてきたのだろう。わたしもさっきまでみたいに、ただおろおろ見ていたに違いない。
でも……魔王という共通の敵がいるのなら、協力するべき……だよね……。
そしてそのためにはこれまでと違う動きを――わたしが、自分から動き出さないと。
決意。自分に頷いて、わたしは勇気を出しおずおずと手を挙げ――
リンコ「……あ、あの」
ラン「なら――今ここで勝負してみません? シロガネさん。話をするより色々分かりますよ」
――見事なタイミングで遮られてしまった。それも衝撃的な発言で。
堂々とした佇まいで微笑を浮かべるミタケさんは、ジッとわたしを見据える。冗談、だなんて雰囲気ではない。街中で、しかも初戦闘。てきれば避けたいところであるが……。
リサ「――ええっ!? ラン、それは流石に……ほら、みんなもそう思うよねっ?」チラッチラッ
イマイさんも流石にこれは止めようと、必死に同意を求めている。何故かウシゴメさんをチラチラ見て。
リミ「……」
そしてウシゴメさんは完全にスルーです。笑顔のまま不自然に微動だにしません。
リサ「ううっ。ユ、ユキナ――」
ユキナ「……これはチャンスよ、リンコ。あなた、魔法の使い方は分かる?」
リンコ「……えっ」
ユキナさんが意外にも乗り気な様子を見せ、彼女に助けを求めようとしたイマイさんが、がっくりと項垂れた。
ユキナさんがこんな戦いに賛成? 本人がそう言っているのに、わたしは納得ができなかった。ユキナさんはわたしとミタケさんがこの場で戦うことに何らかの価値を見出している。他人への迷惑をないがしろにして。それは彼女らしくない急いた判断であった。
アコ「ユキナさん? ここだと危ないような……」
ユキナ「大丈夫よ。市民はさっきの声でいなくなったから、余程のことをしなければ問題にはならないわ」
心配するアコちゃんに即答するユキナさん。視線をミタケさんから逸らそうとはせず、態度もいつも通り。
後ろめたいこと、焦った気持ち、怒り、そういった気持ちは一切なく、さっき口にしたようにこれが本当のチャンスなのだと認識しているようだ。
ますますらしくない。
アコ「えっ、と……」
ユキナさんがこう言ったら自分では止められそうにない。そう察したであろうアコちゃんが助けを求めるべく視線を動かす。この場をなんとかできそうな人といえば、
アコ「あ! ミサキはどう思うっ? マヤさんも!」
オクサワさん。もしくはヤマトさん。
前の世界ならば全力で止めてくれるだろう頼れる二人だけど……。
ミサキ「え? 物騒だなと思うけど、あたしはミタケさんの指示に従うだけなんで」
マヤ「安全ならジブン、ちょっと見てみたい気も……」
記憶の有無って大切……と、思わず遠い目をしてしまう。
アコ「りんりん……ごめんね。止められそうにないや」
リンコ「う、うん……謝らないで……」
これで戦いに反対する人はいなくなってしまった。つまりはわたしはこれからミタケさんと戦わないといけない。
……ど、どうしよう。魔法の使い方もまだ分からないのに。
アコ「大丈夫だよりんりん。りんりんなら魔法名唱えるだけでも多分強いから」
リンコ「そう……なの?」
アコ「心に浮かんだ魔法名をええと……ババーンと唱えてドーン! だよ」
おろおろしていたわたしの心中を察したのか、アコちゃんが励ますように教えてくれる。
魔法の詠唱、名前を唱えるだけでも発動してくれるらしい。ということは、しっかりした手順を踏んだ発動方法もあるわけで。それは少し恥ずかしくないかな……?
アコ「なんなら素手でもそこそこ戦えると思うよ」
リンコ「それは……流石に……」
ラン「――話は決まったみたいですね」
戦いを止めようとする人物は皆無。わたし達を一周見回し、ミタケさんは一歩前へ。腰に差した剣に手をかけ、スッと彼女の纏う雰囲気が変わる。
見知った姿の筈なのに、今はとてつもなく強そうなオーラを感じた。
アリサ「勇者なんかやっちゃえ、ランちゃん」
ラン「うん。ま、あくまで模擬戦みたいなものだけど」
彼女の余裕がそう思わせるのか、わたしが彼女の魔力を感じ取っているのか、理由は分からないけど……魔王討伐の目標を掲げる勇者と張り合っているのだ。強者であることは間違いないだろう。
ラン「シロガネさん。前に」
リンコ「……」コクッ
怖い。怖い……けど、魔物や魔王側の人間が初戦の相手じゃないことは願ったり叶ったり。この戦いはこれから先の良い経験値になってくれることだろう。
頷いて、わたしは前へ。イマイさんの心配そうな視線に大丈夫という意味を込め小さく会釈をし、ミタケさんと対峙する。
一歩、二歩。友達たちの視線を受けて、中心に。緊張から杖を握る手に力を込めた直後、ミタケさんが肩を竦めた。
ラン「……意外ですね。ミナトさんはともかく、シロガネさんが乗るなんて」
リンコ「……」
呆れ、ともまた違う。ミタケさんは単にわたし――ひいてはロゼリアの仲間達が挑発に乗るとは思っていなかったようだ。
その気持ちはわたしにもよく分かる。今さっきまで、わたしもそう思っていたのだから。でも。
リンコ「みんなに……応えたかった……から……」
ユキナさんにイマイさん、アコちゃん。それに……ミタケさん。わたしの知らない『勇者』のわたしに少しでも追いつくために。わたしは、期待に応えたかった。
偽者だとか、本物はいなくなっただとか、思ってほしくないから。
だからこの機会を不安と恐怖なんてもので見逃すわけにはいかなかった。
ラン「……相変わらずですね。でも、だからあたしは……」
リンコ「……?」
ラン「いや、なんでもないです。はじめましょう」
首を振り、ミタケさんが構える。赤いメッシュの横から真剣な眼差しがわたしを貫く。
腰の剣に手をかける姿に、ライブ開始前の彼女の面影が重なった。どんな世界でも、みんな根っこは変わらない。怖かった筈なのにわたしはミタケさんの構えを見て、笑みを浮かべてしまう。
リンコ「……」スゥ
目を閉じて、杖を握った両手を前に。何度も繰り返し取ってきたポーズ。楽器はないけれどやることは同じ。
わたしができること全てを目の前にぶつける。頂点を目指して。
そう。どんな世界でも、変わらない。
自分の心が研ぎ澄まされていくのを感じる。わたしは自分が思うまま、頭に浮かんだ言葉を呟く。
リンコ「『メテオ』」
全員『――あっ』
……一瞬で、やってしまったとこの場にいた全員が理解した。
○
チサト「……それで、ノリに任せて最上級火炎魔法を発動。あわや大惨事というわけね?」
ラン・リンコ『はい……』
……お城の前で決闘をはじめて数分。わたしとミタケさんはついさっきまで対峙していた場所で、シラサギさんと向き合っていた。
ただしお互い立っているわけではなく、正座と仁王立ちという立ち位置で。誰が地べたに正座し、誰が立っているのか。それは語るまでもなく分かることだろう。
わたしが脳内ナレーションで盛り上がり、初手最上級魔法を発動。魔法でできた隕石がお城前に落下――しそうだったのを三人の友達が助けてくれた。
サヨ「まさかロゼリアでこんなトラブルが起きるとは……」
アリサ「私も完全に頭に血が上ってたけど、模擬戦で最上級魔法なんて。勇者はどんな教育されてるんですか?」
チサト「あはは……そんな教育したつもりはないのだけど……」
三人。ヒカワさんとイチガヤさん、シラサギさん。
お城からちょうど出てきたヒカワさん、シラサギさんが魔法に気づき、三人で協力してなんとかわたしの魔法は打ち消され、事なきを得た。
多分、何らかの強化の魔法をイチガヤさんとシラサギさんがヒカワさんにかけたのだろう。隕石を小さな盾で受け止めたヒカワさんは正真正銘無傷。服に汚れ一つ付いていない。
一人の人間が隕石を盾で受け止める。その光景を目の当たりにして、殺人を犯してしまったと血の気が引いたわたしだけど……被害がなくて心から安堵している。
と同時に、本当にファンタジーな世界に来てしまったのだと痛感した。
マヤ「いやぁ、危険でしたけどすごいものが見られて感激です!」
アリサ「魔法名詠唱で預言者とその近衛騎士、賢者の三人がかりでやっとって……腐っても勇者ってことか」
チサト「――あなた達も少しは反省するように。お城の前でこんな騒ぎを起こすだなんて、本来なら罪に問われておかしくはないのよ」
マヤ「は、はい……ごめんなさい」
腰に手を当て、ムッとした顔でいうシラサギさんにシュンとするマヤさん。異世界でほぼ別人の二人なのに関係性はそう変わらないようだ。
チサト「……はぁ。競い合うのは勝手だけれど、迷惑はかけないようにしなさい。お城の前で隕石降らすなんてもってのほかよ」
サヨ「すみません、シラサギさん。4人とは後で話しておきます」
チサト「……なんでサヨちゃんが謝るのかしら?」キョトン
サヨ「えっ? あっ――つい」
ミサキ「――今回はこっちも悪かったので、お互いリーダーと煽り役に注意ということで」
ラン「……すみません。無関係の人を巻き込むところでした」
リミ「アリサちゃん、あんまり勇者さん達を煽らないようにね?」
アリサ「いやいや、煽ってねーし。煽られて燃えただけだし」
マヤ「それはそれで駄目なような……」
チサト「……まぁ、勇者と英雄の一族を捕まえるわけにもいかないから今回は見逃すわ。今度は王に報告し、しかるべき罰を与えます」
アリサ「……すみませんでした」
頭を下げる英雄のパーティ。決闘は取り止め。話も終わり。彼女らは帰るつもりらしく、正座をしていたミタケさんも立ち上がる。
ラン「……シロガネさん」スッ
リンコ「は、はい……」
差し出された手を握ると、ミタケさんは優しくわたしを引き起こした。手を離し、彼女は真剣な顔つきでわたしをまっすぐ見てくる。
ラン「今日はどうしたんですか? いきなりあんな魔法発動して」
『シロガネリンコはそんなことをしない』。
ミタケさんの目が言わずともわたしへ伝えてくる。探りを入れられていることは容易に分かった。
当然だ。
勇者であり、預言者の元で魔法を習っていたわたしが、魔法の実力もそれなりなわたしが、本気の戦闘でもないのに全力を振るったのだ。
まるで魔法を初めて使うような加減のできなさ。怪しまれるに決まっている。事情を知らないミタケさんのパーティ、イマイさんは心配そうな視線すら送っている。
リンコ「それは……」
アコ「りんりん、ちょっとぼんやりしちゃったんだよね! ランちゃんあんまり気にしなくて大丈夫だよ」
ラン「ちゃん? ――っていうか、ぼんやりってレベルじゃないような」
ユキナ「もういいでしょう。用が済んだならさっさと帰りなさい」
更に追求しようとするミタケさんの前に、ユキナさんが割って入る。無言で睨み合う二人。会話を遮られたからか今度はミタケさんも挑発しかねない剣呑な雰囲気が広げられるが……クルッと彼女は踵を返す。
ラン「今日のところはそうします。……けど、ミナトさん。ただ焦るだけじゃ、あたし達に置いてかれますよ。今日の勇者の状態なら、尚更」
ユキナ「……」
ラン「――期待はしてますから。頑張ってください」
正論を言われ、反論できずに見送るユキナさん。ミタケさんの仲間はそれぞれ会釈をし彼女についていく。
自分の楽器。それが何なのかまだ分かっていないけれど、リードされていることは確か。その上勇者であるわたしはこの世界での記憶無し。戦いの記憶も無いし、その分圧倒的に不利。
どちらが優勢かは、簡単に分かること。言い返すことはできないだろう。
リンコ「……すみません、ユキナさん……。わたしが……」
ユキナ「――いえ。私が迂闊……違うわね。馬鹿だったわ。ごめんなさい」
サヨ「……何があったんですか? 勇者と英雄の一族に因縁があるのは常識ですが、まさかここで戦い始めるなんて」
リサ「あははー……まあ、さっき説明した通りかな。ユキナと向こうのアリサが煽り合って、ランが決闘を提案して」
アコ「で、りんりんがついすごい魔法を唱えちゃって」
サヨ「ええ、そこは分かります。分からないのはミナトさんです」
ヒカワさんの視線がユキナさんに向く。謝罪し、額に手を当てていたユキナさんは苦々しい表情で息を吐いた。
ユキナ「……」
リサ「……ユキナ? いつもああだよね、ランに対しては」
サヨ「え? あ……そういえばイマイさんは記憶――」
アコ「サヨさん! ちょっとお話が!」
わたしがこの世界での記憶がないこと。アコちゃんやユキナさん、ヒカワさん、アオバさん……前の世界の記憶を持っていること。
それら転生の話を、この世界の記憶のみしか持たない人には隠し通すと決めた。
朝、イマイさんに打ち明けなかったことでアコちゃんも察してくれたのだろう。慌ててヒカワさんの手を引き、耳打ちを始める。
サヨ「……なるほど。分かりました」
アコ「お願いしますね、サヨさん!」
サヨ「はい。……コホン」
身体をアコちゃんへ傾けていたヒカワさんは頷いて、体の角度を直すと小さく咳払い。
サヨ「シロガネさんとミタケさんの因縁は聞いていますが……ミナトさん、あなたがそこまでミタケさんを敵視する理由は? 同じ目的ならばわざわざぶつかる必要はないでしょう」
きっちり自分の立場、知り合ったばかりの騎士という要素を踏まえての問い。流石はヒカワさん。急な後出し設定も涼し気な顔でさらっとこなしてくれる。
イマイさんも怪しんでる様子はない。一安心しつつ、わたしは会話の成り行きを眺める。記憶のないわたしとしてもヒカワさんの疑問の答えが気になった。
イマイさん曰く、この世界のユキナさんはミタケさんのきとを敵視してたみたいだけど……前の世界の記憶がある状態でも、ユキナさんは変わらず刺々しく接していた。
そこには何か相応の理由がある筈で。
ユキナ「……。……特に、理由はないわ」
だから、ユキナさんが何かを隠しているとこの瞬間みんな理解したことだろう。
普段はあまり感情を表情に出さないユキナさんが、今はほんのりと頬を赤らめて、自分の服の裾をギュッと握り――あれ? なんだか恥ずかしそう?
シリアスな、重い理由だとわたしは勝手に想像していたけど、そうではないらしい。
アコ「えっと……ユキナさん、恥ずかしがってます?」
ユキナ「そ、そんなことないわ。気のせいよ」
サヨ「……。それで、結局どんな理由ですか? 話してくれると今後ミタケさんと付き合いやすくなると思いますが」
ユキナ「理由がある前提で話を進めているのは何故かしら」
やっぱり他の仲間達にもバレバレらしい。重くない理由と分かり、追求の遠慮がなくなっている。
必死に平静を装い、話を終わらせようとするユキナさんと質問を続ける二人。ユキナさんが怒ったりしないだろうかとわたしがハラハラしていると、三人のやり取りを微笑ましそうに見ていたイマイさんが不意に口を開いた。
リサ「もう、ユキナ。別に恥ずかしがることじゃないじゃん♪」
ユキナ「っ! ――リサ、お願いだから静かに」
イマイさんは知っているらしく、ユキナさんがハッとし素早く反応する。けれどイマイさんの言葉を止める術はなく――
リサ「リンコが心配なんだよね、ユキナは☆」
あっさり暴露されてしまう。
サヨ「そういうことですか。勇者の仕事を横取りされれば世間からなんて言われるか分かりませんし」
アコ「りんりん、ユキナさんのお母さんだもんね」
サヨ「そう、お母さん――えっ!?」
そして追撃。
顔を赤くさせ、表情からみるみる内に余裕がなくなっていくユキナさん。絶賛公開処刑中の彼女の肩にポンと優しく手を置く人物が。
チサト「姉として……分かるわ、ユキナちゃん」
最後のトドメが突き刺さり、ユキナさんは顔を両手で覆った。同級生を母親代わり。そのダメージは思った以上に大きいのだろう。あのユキナさんがここまで翻弄されるなんて。
撃沈したユキナさんが落ち着いてから、シラサギさんへ例の依頼を話す。
チサト「サヨちゃんを? 別にいいけど……どうして急に?」
リンコ「ヒカワさんは……多分、勇者の仲間なんです……」
あっさり了承されて拍子抜けしつつ、わたしは答える。五人。奏でる音。やはりそれはロゼリアのことだとしか思えない。
その辺りの事情を記憶のないシラサギさんに詳しく話せないから、直感だとしか言えないのが辛いけれど、とにかくヒカワさんには仲間に加わってもらわないと。
チサト「ふぅん……リンコちゃんがそう言うなら、多分そうなのね。勘を信じるわ」
これまたあっさりと。
預言者としての感覚か、それとも転生前の勇者の行いのお陰か。何にせよ話がスムーズに進むことは有り難い。
チサト「という話だけど、サヨちゃんは大丈夫? 魔王討伐の仲間になるなんて、過酷な道になるのは分かると思うけど」
サヨ「……はい。魔王討伐は私も叶えたいことですから。いつでも呼んでください」
リンコ「ありがとうございます……ヒカワさん……」
わたしの魔法を受け止めたヒカワさん。預言者の騎士ともなれば実力も申し分ないだろう。キリリとした表情の彼女がいつもよりも頼もしく見えた。
これで五人。ようやくスタート地点に立った。
ユキナ「一日でも早く、魔王を倒しましょう。勿論、その間各自練習を怠らないように」
アコ「そうですねっ。楽器も早く手に入れなくちゃ」
サヨ「楽器? 奏でる音のことですか」
リサ「うん。情報は掴んでるから、後は行くだけ。その時になったら声をかけるから準備しててね」
まだまだ不安なことはいっぱいあるけど……この五人ならなんとかなる筈。
それに五人だけじゃない。多分、他の友達たちもこの世界にいる。だからきっと大丈夫。
魔王を倒して、少しでも早く元に戻れるように。
わたしが勇者なんだから、頑張らないと……。
【遅れて申し訳ないです。
募集していたキャラ設定などは把握しました。記載は無かったですが、設定的にそちらの方が面白そうなので、日菜は記憶なしとします。
ここからしばらくキャラを指名してからの好感度上げ、キャラ別のストーリー進行となります
好感度を上げ、目指せ個別エンディング!
指名できるキャラは今のところ敵側にいる巴以外の本編に名前が出ているキャラです。日菜ちゃん含む。
では↓1で誰のストーリーを進めるかの安価を】
【遅れました! 大変申し訳ない】
ゾロ目2連続記念として高好感度のキャラが一人確定
↓1で未登場キャラの中から一人指名。コンマ末尾が奇数なら10。偶数なら9。ここはゾロ目関係なし
ついでに空いている、物語上必要になる重要な役柄へつくキャラを決めておこうかと
空いている役
1 女王(現在拠点となっている国の王。味方。記憶有無の判定をコンマ二桁目で。奇数なら無し)
2 魔王軍のお偉いさんその1(記憶なし)
3 魔王軍のお偉いさんその2(記憶なし)
4 魔王軍のお偉いさんその3(記憶なし)
未登場キャラ一覧
香澄、沙綾、たえ、ひまり、つぐみ、彩、イヴ、こころ、花音、はぐみ、薫
↓3~↓6で未登場キャラの中から一人指名。
↓3が女王役につくキャラ、↓4が魔王軍のお偉いさんその1……といった具合に、上から順に決めていきます。
同時に初期好感度の判定をコンマの一桁目で行います。
ここで選ばれなかったキャラも、後に自由枠として設定を募集するつもりなのでご安心を
彩ちゃん (役未定 好感度10)
女王役 こころ 記憶なし 好感度10
お偉いさん1 つぐみ 好感度3
お偉いさん2 たえ 好感度10
お偉いさん3 花音 好感度10
で、進みます。
これまでと同じように役が決定したこころ、つぐみ、たえ、花音にはキャラ設定の受付を開始します。
職業や武器、現世や異世界での燐子との関係など希望の設定があれば是非とも。なければ自分が流れで決めていきます。
ユキナ編 1話
城での騒動から一時間ほど経って。
みんなは早速遺跡捜索の準備のためそれぞれ出かけていった。イマイさんとヒカワさんは食糧や旅に必要な道具の調達。アコちゃんは……ネクロマンサーとして戦いの準備が必要らしく、わたしと別れどこかへ行った。
見送る時は気にならなかったけど、どんな準備なんだろう……? ネクロマンサーだから……死体とか霊魂だとか、ヘビーなものは持ってこない、よね? 世界が世界だから少し不安。
リンコ「……」ペラッ
――さて。
みんなが遠出のため思い思いの準備を始めた。そんな中、わたしは自室の中で本を読んでいた。何故か。その理由は単純明快で、やれることがないからだ。
外に慣れていないわたしが買い出しや準備に付き合っては迷惑だろうと、イマイさんやヒカワさんの誘いを断ったけど……その後のことをよく考えていなかった。
付いてきてくれる人がいなければわたしは何もできないのに。せめてアコちゃんがいてくれれば、街を歩いたりはできたかもしれないけど、彼女も当然準備があって。
色々空振りした結果が自室待機。こうなってしまうと、イマイさん達の買い出しに付いていった方が良かったような気がする。
わたしにはまだ外に慣れる以外にするべきことがたくさんあるのに。
リンコ「……」
慣れない自室のせいか、わたしの頭の中をグルグルととめどない思考が巡る。
すべきことがある状況で読書。落ち着かないのは当たり前で、本を捲るわたしの手は時
ユキナ編 1話
城での騒動から一時間ほど経って。
みんなは早速遺跡捜索の準備のためそれぞれ出かけていった。イマイさんとヒカワさんは食糧や旅に必要な道具の調達。アコちゃんは……ネクロマンサーとして戦いの準備が必要らしく、わたしと別れどこかへ行った。
見送る時は気にならなかったけど、どんな準備なんだろう……? ネクロマンサーだから……死体とか霊魂だとか、ヘビーなものは持ってこない、よね? 世界が世界だから少し不安。
リンコ「……」ペラッ
――さて。
みんなが遠出のため思い思いの準備を始めた。そんな中、わたしは自室の中で本を読んでいた。何故か。その理由は単純明快で、やれることがないからだ。
外に慣れていないわたしが買い出しや準備に付き合っては迷惑だろうと、イマイさんやヒカワさんの誘いを断ったけど……その後のことをよく考えていなかった。
付いてきてくれる人がいなければわたしは何もできないのに。せめてアコちゃんがいてくれれば、街を歩いたりはできたかもしれないけど、彼女も当然準備があって。
色々空振りした結果が自室待機。こうなってしまうと、イマイさん達の買い出しに付いていった方が良かったような気がする。
わたしにはまだ外に慣れる以外にするべきことがたくさんあるのに。
リンコ「……」
慣れない自室のせいか、わたしの頭の中をグルグルととめどない思考が巡る。
すべきことがある状況で読書。落ち着かないのは当たり前で、本を捲るわたしの手は時折止まってしまう。
リンコ「やれること、あるよね……」
ふと、とあることを思い出したわたしは本を閉じる。帽子を被り杖を取り、簡単な外出の用意をすると部屋の外へ。
時刻は昼前。廊下の窓から射し込む光に目を細め、わたしは早足でリビングへ。わたしが部屋に行く前と同じなら、多分ここに。
ユキナ「……リンコ。急いでどうしたの?」
木の香りに包まれた落ち着いた雰囲気のリビングで、大きなテーブルの席に座る人物が一人。湯気が立つカップを手に、優雅にコーヒーを飲む人物、ユキナさんはきょとんとした目をわたしへ向けた。
改めて見てみると、ユキナさんの衣装は大胆に思える。細い身体のラインがしっかり見える水着のような上半身の服に黒の薄いタイツ。お腹、腰回りが露出していて下半身も際どいスリットが入っており、黒のガーターとスラッとした太ももが見え――ているのだけど、全体的に上品に見えるのはユキナさんの大人びた雰囲気故か。
やっぱり記憶が大切なのかな。恥ずかしい、おかしい、露出が、なんて思わないから見ている人に違和感を与えない着こなしができるのだろう。
わたしの服装もゲームのアバターとしてよく見てはいるものの、実際着るとなると大胆だなぁ、なんて思っちゃったりするから、鏡で見ても違和感しかないのかも……。
ユキナ「リンコ?」
リンコ「――あ。だ、大丈夫です……。あの……ユキナさんに、お願いが……」
ついユキナさんの姿を観察してしまった。慌てて答え、わたしはユキナさんの向かい側へと座る。ほぼ無音のリビング。わたしから視線をそらして、ユキナさんはコーヒーを一口。自室とは違って、ここにはゆったりとした時間が流れているような気がした。
同じ、飾り気のない落ち着いたインテリアに広々とした間取り。なのに心が落ち着くような気持ちがするのは、仲間がいるからだろうか。
つくづくわたし一人で異世界に来る、なんてことにならなくて良かったと思う。
ユキナ「お願い?」
リンコ「……はい。街に出てみたくて……。時間、ありますか……?」
ユキナ「ええ。問題ないわ」
言って、ユキナさんは飲み物を一口。苦かったのか、カップを置いてからテーブル上の容器から砂糖を入れてかき混ぜる。
カップをジッと見つめつつ、彼女は口を開く。
ユキナ「今、ちょうど出かけようと思っていたところよ。リンコも誘って」
リンコ「そうなんですか……。何を……していたんですか?」
ユキナ「……少し、元の世界のことを思い出していたの」
元の。つまり日本のことを。
思い出すのは当然だけれど、それが外出に繋がる理由はよく分からず。わたしはユキナさんの言葉を待つ。ソーサーの上にスプーンを置き、彼女は顔を上げる。
いつの間にかユキナさんの雰囲気が変わっていることに、そこで気がついた。さらさらと流れる銀髪をかきあげ、彼女は琥珀色の瞳をわたしへ向ける。
ユキナ「……さっき、ミタケさんに会った時。私が我を失った理由がもう一つあったの。それが、イチガヤさんとウシゴメさん。ミタケさんの傍にいた彼女達よ」
リンコ「……?」
ユキナ「覚えているかしら。――『CiRCLE』での大会」
リンコ「大会……あっ」
そういえば、とわたしは『思い出す』。
CiRCLEで開催された高校生ガールズバンドの大会。友人達のバンド以外にも沢山の人たちが集まったその大会で、各賞を総なめし圧勝としか言えない成績を残したのがPoppin'Party。
祝福すべきことだけど……ロゼリアとして何も考える筈はなく。原因を解明して、反省すべきところがあれば改善していかなくてはいけない。大きな課題だろう。
リンコ「……」
とそこまで考えて、わたしはふと思う。
何故、こんなに苦い思い出を忘れてしまっていたのだろうか。思い返せば記憶が曖昧だ。その大会から先、自分がどうしていたのか正確に思い出せない。
その辺りの時間で異世界に来た、ということだろうか。
ユキナ「……やっぱり、リンコも今思い出したのね」
わたしの表情で察したのか、ユキナさんが小さく嘆息。やっぱりということはユキナさんも忘れていたのだろう。
ユキナ「私もついさっき思い出したの。ミタケさんに噛み付いた理由を考えていたら、頭に浮かんできたわ。ロゼリアを抑えて圧勝した彼女達に対して焦っていた、と」
ユキナ「……課題は多いわ。本来ならすぐにでも練習をしたいところだけれど、リサは記憶がないからそうもいかない。魔王討伐もすぐ元の世界に戻るために優先すべきこと。だから」
だから。その先はなんとなく察しがついたわたしだ。
おそらくはわたし達の楽器を手に入れるまでの繋ぎとして、楽器を購入――
ユキナ「働くわよ、リンコ」
リンコ「……えっ?」
勇者だから。立派な一軒家に住んでるから。
つい飛ばしていた前工程を口にされ、わたしは面を食らった。
働く……。
わたしもユキナさんも縁がなかったことだと思うけど……大丈夫かな……?
○
家を出て街へ。
元の世界と違い、街中でも自然の溢れるここは空気が美味しく景色が楽しい。広いおかげか街を歩く人もほどほどで、わたしの精神的にも優しい場所である。
キョロキョロと視線を動かしていたわたしは、ふと前を歩くユキナさんへ目を向ける。斜め後ろから見た彼女の横顔は、こんなファンタジーな世界でも相変わらず前を痛いほど見据えていて、少し眩しい。
この世界と元の世界の記憶。二つを持つというのにユキナさんはちっとも変わらなくて。
アコちゃんやヒカワさんもそうだけれど、強いな、と思ってしまう。
ユキナ「リンコ」
不意にユキナさんが口を開く。
大通り。人の声で賑やかな喧騒の中、彼女の声はすっと通る。
ユキナ「音楽は庶民でも楽しめる娯楽、趣味としてこの国では親しまれているわ。楽器も比較的安価で、値段の幅も広いから、私達でも買うことには困らないと思うわ」
リンコ「そう……なんですか。す、少し……安心しました……」
買うことには。という言葉に引っかかるものの、そこは一安心。専門的な知識に特別な材料が必要で、家や車を買うくらい高価、とか言われなくて良かった。
これから魔王を倒すのだ。合間合間でできるレベルでないと困ってしまう。
ユキナ「問題は楽器代に、家賃銭湯代食費が重なることね」
リンコ「……」
な、なるほど……『買うことは』の含みは、それ……。
世知辛い悩みにユキナさんの表情が若干しょぼくれて見える。
リンコ「勇者に援助は……ないんですか……?」
ユキナ「勿論あるわよ。けれどあの立派な家に住んでいるから……」
言わずもがな。ユキナさんにアコちゃん、わたし。三人が快適に暮らせるあの家は、街に並ぶ建物と比較しても立派な部類。その家賃ともなると想像に容易い。
ユキナ「今まではリンコと私、リサで魔物の討伐依頼をこなしたり、魔王軍を倒したり――特に問題はなかったわ。今もないのだけれど、楽器を買うとなると……」
リンコ「……苦しい、ですか……?」
問うと、ユキナさんは首を横に振る。
ユキナ「楽器を5つともなると、リサが確実に文句を言ってくるわ」
財布を握られた夫みたいなことを、ユキナさんはキリッとした顔で、前に来た後ろ髪を後ろへ流しつつ言った。
リンコ「……そ、そうなんですか?」
ユキナ「絶対よ。勇者一行の財布を預かってるのはリサだもの。理由を言ってお金を貰おうとした直後に説教されるわ」
断言。
まさか本当に財布を握られているとは。何か苦い思い出があるのか、ユキナさんは肩を竦める。
イマイさんには元の世界の記憶がない。そんな彼女に楽器を買いたい、それも出会ったばかりのヒカワさんにも、なんて言っても何かに影響された衝動買いと思われるのが関の山だろう。
それにしても、お説教……。
わたしとユキナさん、イマイさんはこの世界では幼馴染。付き合いが長く、かつイマイさんが私生活を支えてくれているこの世界ならではなリアクションであろう。
イマイさんの元の世界の記憶があれば、もう少し違う対応をしてくれるのかもしれないけれど。
しかし楽器分の負担を家計にかけるというのも心苦しいもの。稼げるというのなら自分達で稼いでしまった方がいいだろう。
リンコ「だから……自分達で、工面すると……」
ユキナ「そういうことね。今も自由に動けるのは私達だから。一緒に頑張りましょう、リンコ」
リンコ「は、はい……っ」
まさかユキナさんと一緒に働く日が来るなんて。この世界でもないと、そんな機会一回も来ないような気がする。
わたしは海の家でちょっとお手伝いしたくらいの経験だけど……ユキナさんはどうなんだろう。すごく堂々としてて緊張もしてなさそうだけど。
リンコ「それで……候補はありますか……? 働く場所の……」
ユキナ「心配しないで。きちんと考えてきたわ」
ユキナさんは視線を前に戻し、いつもの調子で淡々と答える。彼女の目が向けられている先、そこを見ると……。
1 アオバさんの商会の事務所
2 冒険者ギルド
↓1 どちらか一つ選択
【設定、受け付けました。出来事設定は現実世界のものはストップ。異世界のものは募集継続します。
それでまだ好感度を決定していないキャラがいますが、手間を減らすため……香澄、沙綾、ひまり、イヴ、はぐみ、薫の好感度未決定のキャラはここから下の>>1(私)の投稿のコンマ末尾で順番に判定します。好感度の記載をしてから、キャラ設定の募集をします。
では本編再開です】
見ると……立派な商会の事務所があった。
それは一見すると豪華な2階建ての豪邸。大きな門に広い庭、その奥には赤い色の屋根のお屋敷。沢山ある窓からは忙しなく人が行き来する影が窺える。
事務所だろうと一目で分かったのは看板にはアオバ商会事務所と書かれていたからだ。
リンコ「これは……ツルマキさんのお家を、思い出します……」
ユキナ「そうね。肩書に負けない立派な豪邸だわ」
リンコ「……ここでお仕事を?」
問うとユキナさんは首肯。
なるほど。大成功している商人のアオバさんなら、確かにわたし達へ回せるお仕事があるかもしれない。記憶もあるから元の世界基準でおかしな仕事をくれる可能性も低い。
世界に慣れていないわたし達にはうってつけの窓口だ。
ユキナ「場所を訊いておいてよかったわ。さ、入りましょう」
言い、全く物怖じせずに門に手をかけるユキナさん。周りには人がいないからそうするしかないのだけど、相変わらず度胸がすごい。
大きな門がユキナさんの細い腕であっさり開いていく。わたしはそれをちょっと離れて見ていたのだが――
メイド「お客様、ご用件はなんでしょう?」
いつの間にかユキナさんの隣にメイドさんが立っていた。声を聞いて初めて存在に気づくわたし達。揃ってびくっと体を跳ねさせる。
メイドさんの年齢は20代ほど、かな。薄く目を開いており、一見すると目を閉じているように見えてしまう。眠っているかのような表情で穏やかに話す――落ち着いた雰囲気の人だ。
メイド「……あら? 貴女はまさか……」
脳内の処理が追いつかず硬直するわたし達。すると、メイドさんの視線がわたしへ向く。薄っすら開いていた目を見開いて、彼女は何やら驚いた様子を見せる。
メイド「勇者様! よくぞいらしてくださいました。ささ、アオバの元へご案内します。お連れの方もどうぞ」
リンコ「……えっ? あ、用件は――」
異様にテンションを上げたメイドさんに手を掴まれ、わたしは門の中へと連行される。それまでの落ち着いた様子はどこへやら。メイドさんは片手で門を豪快に押して開き、わたしの言葉を聞く様子もなく庭の道を突き進んでいく。
ユキナ「……まぁ、好都合よね」
その後ろをユキナさんが肩を竦めて続く。
勇者と気づいたらこの態度。やっぱりわたしってかなり有名人?
メイド「この街に帰ってきた時には勇者様とまたお会いしたいと、モカ様は何度もお話しておりました。きっとお喜びになります」
リンコ「そ……そう、なんですか……」
どうもそういうわけではなく、アオバさん個人のお話らしい。口振りから察するに今朝家にやって来たということは知らないみたいだ。
あれこれとアオバさんのことを語るメイドさんに連れられ、庭を通り過ぎて事務所の中へ。中は意外と普通な印象で、豪華な装飾品があったりはせず必要最低限といった、まさに事務所な感じ。
中はメイドさんが何人も歩いていて、それ以外のしっかりした服装の男女もあちこちに。流石は街一番のビジネスマン。お昼すぎ頃ともなると忙しい盛りだろう。
メイドさんとすれ違う度頭を下げられ、あっという間に2階の奥へ。一際大きなドアの部屋の前で手を離される。
メイド「どうぞ中へ」
仰々しく頭を下げ、手でドアを示す。眠るような表情は変わらず、けれどウキウキした雰囲気が漂っているのが分かる。
なんてリアクションしたらいいか分からず、苦笑しつつわたしはドアへ。後ろのユキナさんを確認し、おずおずと開く。
リンコ「し、失礼、します……」
モカ「はーい。……あれー? リンコさんにユキナさん」
廊下と変わらず事務的な部屋の中にいたのは勿論、アオバさん。書類の置かれた大きなテーブルの前に座っており、いつもののほほんとした様子でこちらを見る。
ユキナ「こんにちは、アオバさん。ちょっとお話があって。今いいかしら」
モカ「勿論いいですけどー、どうしたんですか? 急ぎの用事で? あ、どうぞ座ってくださいー」
ドアを閉じて部屋の中へ。アオバさんに促され、テーブルの前にあるソファに座る。その向かい側のソファにアオバさんは腰掛けた。
ユキナ「ありがとう。――それで、早速だけれど。私達へ仕事をくれないかしら」
モカ「仕事?」
リンコ「その……バンドの練習をするために……楽器を」
モカ「あぁ~なるほど。ロゼリアは揃ってますしね」
羨ましいなぁ、と少し寂しげに呟くアオバさん。現状、メンバーが綺麗に揃っているのはロゼリアだけ。イコール、練習できるのもロゼリアだけ。記憶がないのもイマイさんだけだから、わたし達は恵まれている方だろう。
ユキナ「ええ。勿論、ウタガワさんの件は急いで解決するようにするわ」
モカ「あ、そこは信頼してますからお気になさらずー。けど楽器ならあたしが――」
と、そこで顔を上げるアオバさん。
彼女はユキナさんの表情を数秒見つめ、フッと笑う。真っ直ぐな彼女の瞳。そこに何を読み取れるのかは、横顔しか見えないわたしにも容易に察せる。
モカ「――そういう人じゃないですよね。分かりましたー。そういうことならモカちゃん、ご協力します」
ユキナ「ありがとう。助かるわ」
立ち上がり、アオバさんがテーブルのファイルを一冊手に取る。ソファに座りそれを開くと、彼女は数枚の書類をテーブルの上に。
モカ「じゃあ、この中から選んでくださいー」
リンコ「……」
置かれた書類を見る。
枚数は3枚。パッと見た限り、一枚にそれぞれ一つの仕事内容……つまり、紹介できるお仕事は今のところ三つらしい。
うーん……何がいいのかな……?
1 メイドさん一日体験
2 密室で女の子と話すだけ(意味深)の仕事
3 調教師のお手伝い
↓1 一つ選択
【と、ここで好感度判定の結果が出ましたのでまとめを
丸山彩 (すでに決定済み) 好感度10
香澄 好感度6
沙綾 好感度1
ひまり 好感度6
イヴ 好感度2
はぐみ 好感度7
薫 好感度8
以降、これらの7人のキャラ達の設定を募集します。好感度の高い(9以上)彩ちゃんは第二のパートナー設定など異世界、現世問わず親密な仲でもオーケーです。
ただし魔王軍の仲間、悪人がこれ以上増えると大変そうなのでできれば善人寄りに。しばらくして設定が無かったり、少なかったりしたら私の方で適当にやっておきます
キャラ設定は安価に含まず、安価を踏んだ場合は下にずれますのでご注意を】
【忘れてたことを追記
今回は元の世界の記憶の有り無しも設定に含めてもらって構いません。異世界で自分が犯罪をしていたり、逆に誰かを救っていたり、それについてそのキャラがどう思っているのか、なども含めて設定とします。
これも記載が無い場合勝手に決めます
設定、記憶の有無は基本早いもの勝ちで採用していきますー】
イヴ(記憶はない)
ランの義娘で呼び方は「ランママ」
ランの義娘だがランの事がお相手として大好きで狙っており、アリサとはライバル関係 またミサキのランに対する想いにも気がついている
リンコよりもランの方が勇者として相応しいと思っているのは同じ
【設定ありがとうございます。全て採用ですー。職業の指定などがない場合は、私が決めちゃいますのであしからず】
2 密室で女の子と話すだけ(意味深)の仕事
リンコ「あ、あの……これは何ですか?」
書類の中でわたしが気になったのは2つ目の仕事。
内容は密室で女の子と話すだけ。その割には給料が良くて、上の方を見る限り割の良い仕事だとしか思えない。
こんな仕事、誰でもやりたがるだろう。とてもその日尋ねてきた友人に紹介するようなものではない。
ユキナ「それは私も気になったわね。女の子と話をするだけ……どういうことかしら?」
モカ「あ。それは……」
やっぱり気になっちゃいます? と苦笑を浮かべるアオバさん。彼女は書類の最後の方、とある一文を指で示す。
ユキナ「『お客様との恋愛は自由』……?」
リンコ「……あ」
なんとなく察したわたしである。
ユキナ「……さっぱり分からないわ」
モカ「紹介しておいてなんですけどー……このお仕事は風俗です」
ユキナ「ふっ――!?」
や、やっぱり……。
頬を赤らめて狼狽えるユキナさんを遠い目で見つつわたしは思う。
話すだけにしては高給だし、プラス出来高なんて書いてあるし、そういうお仕事だというのはよく読めば分かる。
ユキナ「……。あの、アオバさん。そういう仕事を友人に紹介するのはどうなのかしら」
モカ「いやぁ、モカちゃんそういう商人ですしー。女の子にすぐ紹介できる仕事といったら、雑用か容姿、身体を使ったお仕事になっちゃって」
ユキナ「そ、そう……ね」
いきなり押しかけたものだから、反論はできず。頷いたユキナさんは若干肩を落とす。
リンコ「……あの。これを候補に……挙げた理由は……?」
記憶がある彼女が選んだ仕事だ。この世界の常識はよく分からないけれど、それなりの理由はあるはず。問うと、アオバさんは指折り数えて答える。
モカ「えっとー、まず二人ともかわいくて。相手は女の子だけだからちょっとは安心で。嫌ならお話してお酒飲むだけでもいい、ってルールにはなってて――って感じです」
リンコ「あ……そうなんですか……」
ゆるいお店、なのかな……?
ユキナ「それでも、その……するかもしれないのでしょう?」
モカ「みんなは何回か会ってから、っていうケースが殆どですしー。二人みたいに短期のつもりなら、被害もないかとー」
ユキナ「なるほど……」
聞いているとすごく好条件な気がしてきた。この世界の仕事をし慣れていないわたしでも、なんとかでき……いや、
リンコ「わたし……話せるかどうか……。それに、お酒は……」
まずわたしのコミュニケーション能力が不安すぎた。仕事の内容に気を引かれて、そっちをすっかり忘れてしまっていた。
モカ「いやいや、リンコさんなら無言でも大人気間違いなしですよー。お酒も法律ないですし」
ユキナ「……。けど、リンコは特殊な体質で単純に一言で女性とは……」
モカ「あ。それも知ってます。記載するのでそれも、もーまんたい――」
ユキナ「何で知っているの?」
首を傾げたユキナさんに、アオバさんが笑顔のまま静止する。
ユキナさんは知らないだろうけれど、今朝わたしはアオバさんに事後を目撃されていて……。それを思い出したのかアオバさんはみるみるうちに顔を真っ赤にさせる。
モカ「な、なんでもないですよー。気のせい気のせい。リンコさんから聞いてー」
リンコ「は、はいっ……。言いました……」
わたしもバレると恥ずかしい思いしかしない。アオバさんの言葉に全力で乗っかっておく。よく考えると自分の体質を不意に暴露する怪しい人物になりかけているのだが……もう言ってしまったのだから取り消せない。
モカ「それに女の子勇者の体質はこの世界では有名ですから~」
ユキナ「まぁ、そうね」
サラッと言われたけど、この世界の勇者ってそうなの……? ユキナさんが違和感なく頷いてるくらいだから、もしかしてみんな知ってる?
モカ「とにかく、何事も経験ですから、やってみますー?」
ユキナ「……そうね。今はお金が欲しいから……話すだけなら。リンコは?」
リンコ「……わ、わたしも……やってみます」
せっかくの紹介。それに楽器を早く手にしたいというのもあって、わたしは頷いてしまう。
喋るだけ、という点で安心してしまったのも理由の一つかもしれない。
モカ「それじゃあ、今からここに行ってくださいー。あたしの紹介って言えばすぐですから」
ユキナ「ありがとう。助かるわ」
リンコ「……ど、どうもありがとうございます……」
モカ「いやいや~。あたしも二人みたいな即戦力が来てくれて助かりましたー」
兎にも角にも、仕事は決まった。
アオバさんがサラサラッと書いた名刺大のカードをポケットに入れ、わたし達は彼女の部屋を後にした。
そこからはあっという間で、お店に着いたわたしたちはお風呂に入ってお化粧されて、用意された服を身に着けて――それぞれのお部屋に。
そしてやって来たお客さんは――
1 チサト
2 リサ
3 ココロ
4 アヤ
↓1 一つ選択
3 ココロ
リンコ「落ち着かない……」
宿屋さんみたいなお店に来てからしばらく。受付を通され、あれこれ準備させられたわたしはユキナさんと別れて、沢山ある部屋の一つに待機させられていた。
アオバさんのお店……のおそらくは沢山の内の一つ。ここ
はすごく高級店のようだ。雰囲気が落ち着いていて、建っている場所だってほぼ一等地に近い。
部屋のテーブルに置かれていたメニューに書かれている料理も、お酒も中々なお値段だ。そうなると当然、部屋も立派なもので。わたしの自室よりも広い部屋にはシャワーがあり、中心にピカピカに整備されたテーブルとソファー。棚にはお酒類が。そして部屋の隅――ダブルサイズ以上のベッドが置かれている。
照明は少なめで、わたしの服装を加えてとてもいかがわしい雰囲気になっていることだろう。お店側から渡された衣装は少し薄手なネグリジェ。黒色の、肩から谷間にかけて大きく露出したデザインのものだ。
普段のウィザード衣装とあまり露出の違いは無い。でも圧倒的に軽くて薄くて、全身スースーするような錯覚を覚えてしまう。
ユキナさんも同じような服を着ていて……すごく、インパクトが強かった。
リンコ「……誰が来るんだろう……あっ」
女の子同士のお店とは聞いたけど……どうなることか。
ソワソワ待機し続けること10分ほど。ついにドアがノックされた。コンコンと二回。しっかり間隔を空けて、落ち着いた叩き方である。
まだ夕方にもなっていないのにこの待ち時間で人が……? 思ったより人気店なのかもしれない。
リンコ「ど、どうぞ……っ」
ソファから立ち、声をかける。ドアはそのすぐ後に開いた。
ココロ「――入るわね」
声が聞こえた瞬間、わたしはハッとする。前の世界と印象は違うけれど、この声に聞き覚えがあった。
直後、目に映るのはドアから入ってきた人物。キラキラと眩しい腰ほどまである金髪。その輝きに負けないほど輝いたクリクリとした大きな目。まだ幼さを感じさせる、人形のように整った顔立ちに大人っぽい笑みを浮かべ――どことなく、色っぽい感じ。
私の知っているの彼女より一回りニ回り落ち着いた雰囲気の彼女は、この世界では結構な身分なのだろう。しっかりした素材の服と、きらびやかな装飾品が目を引く。
コルセットの付いた白のミニワンピース、その上から赤いマントを羽織り、頭にはちょこんと乗った王冠。マントのせいかそのイメージは薄まるけれど露出が多めで、肩も胸元も大きく出しており、コルセットで彼女の大きめな胸が強調されてつい目がいってしまう。
脚には長めのソックスにスカートから伸びる紐。健康的で柔らかそうな脚にぴったり張り付いたそれら。
少女らしい可愛い服装にちらちらと散りばめられた女性の要素。思わず見惚れてしまうほど、彼女に似合っていた。
ドアを閉め、部屋に入ってきたのは弦巻こころ。
この世界ではツルマキ・ココロ。わたしの友人の一人だ。雰囲気から察するに、おそらく記憶が無いのだろう。
リンコ「あ、あの……っ」
初めてのお客様がまさかの知り合い。それも再会がまだの、前の世界での友人。頭が追いつかずあたふたしていると、ツルマキさんは優しげな微笑を浮かべたままわたしへと近づいてくる。
ココロ「久しぶりねっ、リンコ」
そして聞き覚えのある口調で言い、わたしのことを抱き締めてきた。間近で香るツルマキさんのにおい。お互い薄い服から伝わる体温と感触に、わたしは反射的に身体を強張らせる。
ココロ「リンコがこのお店で働くって聞いて、お城からすぐ飛び出してきちゃったわ!」
リンコ「お、おしろ……っ?」
裏返った声で復唱。
お城。王冠。服装。それらの要素から考えるに……まさか、王様!? ――前の世界での印象と比べてあんまり違和感がないのがすごい。
ココロ「今日は一緒に呑んでくれるってことよね?」
リンコ「はい……そ、そうです……っ」
抱き締めたまま、わたしの肩に頭を乗せて間近で上目遣い。うう、かわいい……。ドギマギしながら答えていると、彼女の手が私の背中を撫でた。
色々耐えているところにくすぐったい刺激。びくっと身体を跳ねさせるわたしへ、ツルマキさんは謝って離れる。すごく嬉しそうな顔をして。
なんでだろう。こんなにかわいいのに……何か邪なものを感じる。何故かわたしの本能が警鐘を鳴らしているような。
ココロ「これがメニューね? それじゃあ、とりあえずこれを貰おうかしら」
わたしの近くに座り、ニコニコと笑いながら注文をはじめるツルマキさん。そこにはついさっき抱いた違和感は無く、わたしのよく知るツルマキさん、といった様子。
ホッと安心しながらわたしは部屋のドアを開け、外に待機していた従業員に注文を告げる。
すぐに品物はカートに載せられて届き、わたしはそれを中へ。ソファの横につけた。
ココロ「さ、リンコ。隣に座って?」
リンコ「はい……」
ツルマキさんの瞳に見つめられ、ちょっと顔が赤くなるのを感じるわたし。こんなに意識してしまうのは、わたしにあれが生えているから……?
言われるまま隣へ。カートからお酒とグラス二つを下ろしてテーブルに置く。
このお酒……ワインだ。それもメニューの中でも結構お高いものをボトルで。
ココロ「私が入れるわね」
リンコ「ど、どうも……」
面識があるみたいだから遠慮はしないでおこう。てきぱきと慣れた手際でワインを二つのグラスへ入れていくツルマキさん。
それを眺めながら、わたしはふと先程の言葉を思い返す。
『リンコがこのお店で働くって聞いて』。
……。あれ? つまりツルマキさん、わたしとそういうことがしたかったということ……?
ツルマキさんとわたしの関係性が気になってきた。でも今ここにユキナさん、アコちゃんはいない。会話や対応から考察していくしかないだろう。
多分、女王様相手に恋人云々は無いと思う。でもそれなりに親しくて、一緒に呑みたいと思っていてくれてたり……は、わざわざこのお店に来る理由にはならないだろう。
や、やっぱり……エッチなことを……?
ココロ「はい、注いだわよ。 ……どうしたのかしら? リンコ。ジッと見つめて」
リンコ「っ。……な、なんでも……ないです。ありがとうございます……」
グラスを差し出され、ハッと我に帰る。
いけない。つい良からぬ妄想をしてしまう。改めて考えればあのツルマキさんが、記憶がないとはいえ風俗を利用しようと喜々として訪れる筈がない。
忘れるようにしよう。すぐ間近にいる友人をそんな目で見てしまいそうだから。
ココロ「それじゃあ、早速――かんぱーい!」
リンコ「か、乾杯……」
テンション高めにグラスを合わせるわたしとツルマキさん。チラチラと彼女の呑む姿を確認しながら、わたしも真似て一口。
思ったより渋みも無く、甘さとアルコールの味が程よく主張してくる。ぶどうの香りが強く、味はぶどうジュースを大人の味に寄らせた様な感じ。飲み込む喉を中心に身体が温かくなっていくのを感じた。
リンコ「……美味しいです」
ココロ「あらリンコ、結構呑めそうじゃない。このチョコもどうぞ。一緒に食べると美味しいわよ」
リンコ「はい……いただきます……」
ワインと一緒にテーブルへ下ろしたチョコレートを一枚頬張る。それを食べてから再びワインを。ビターなチョコにワインの甘み。若干くどかったワインの味が緩和されたような……。
初めてだというのに呑み過ぎてしまいそう。気をつけないと。
↓1 リンコが酔うとどうなるか
↓2 ココロが――同上
笑い上戸だったり、積極的になったり、脱いだり――暴力的なものなどは最安価。
コンマで二桁で同時にお酒への耐性を判定
【リンコ 86 酒豪さん 眠気でぼんやり
ココロ 77 かなり強い 無口、積極的で脱ぎ癖
ゾロ目のボーナスはあと一回ほどゾロ目が出たら何かを考えておきます】
リンコ「……」
二杯目に口をつけても、あまり体調に変化はない。ただ少し身体が熱いくらいで『酔い』というものは感じなかった。もしかしたらもう酔っているのかもしれない。経験がないから分かっていないだけで。
ココロ「でもびっくりしたわ! いきなりリンコが働くって聞いたんだもの」
リンコ「それは、誰から……?」
ココロ「モカよ。彼女とはよく会うの」
まぁ、知ってる人がアオバさんくらいだからそうなるよね。グイグイとお酒を飲んでいくわたし達。ツルマキさんは本当に楽しそうだ。元の世界でもそうだったけれど、わたしといてこんなに楽しそうにされると少し不思議に思ってしまう。
ココロ「うちも働き手が欲しいし、仕事のない女の子に仕事を与えられるもの」
リンコ「なるほど……」
身寄りの無い子に仕事を。世界が変わって記憶が無くても、ツルマキさんはツルマキさんらしい。
幸せと笑顔を人々に与える。ハロハピらしさが感じられてわたしは少し安心する……のも束の間、ツルマキさんは見たことない緩んだ表情で笑う。
ココロ「あとはかわいい女の子を集めたいからかしら! おかげでハーレムもほぼ完成形ね!」
リンコ「っ!? けほっ、こほ……」
予想外な単語が飛び出し、ワインを口にしていたわたしは咳き込む。
ハーレム……? あ、あれ? なんだかツルマキさんがここへ駆けつけたこととか、一瞬感じた違和感の意味ってまさか――
ココロ「大丈夫? リンコ。急いで飲むと危ないわよ」
リンコ「あ、はい……ありがとうございます……」
そうじゃないです、とは言えず。ニコニコと笑いながらわたしの口を拭いてくれる彼女へお礼を告げる。
ツルマキさんが『わたしが驚いた』と思っていないことから察するに、以前わたしもハーレムの話を聞いていたのだろう。下手に追求すると『言ってなかったかしら?』と問われる可能性が高い。
ツルマキさんは鋭い人だから、そういうことはできるだけ避けないと。
リンコ「は、ハーレム……ですか……」
ココロ「ええ。リンコもどう? 休日だけでもあたしのものにならない?」
リンコ「えっ……?」
目の前、ハンカチを持ったツルマキさんはわたしをジッと見つめて小首を傾げる。
ストレートすぎる告白にわたしは目をぱちくりさせた。
ココロ「リンコの体質は理解してるわ。女の子しかいないし、リンコにもお得なはずよ! ね、ね! どうっ?」
そしてすごいグイグイくる……。しおらしい雰囲気から一変して目をキラキラ輝かせるツルマキさん。ハンカチをテーブルに置いて、わたしの肩に手を。
この世界のツルマキさんは女の子好きで、欲望に正直みたい。
リンコ「少し、考えさせてください……」
ココロ「っ! 本当にっ? やったわ!」
ワクワク、なんて音が聞こえてきそうな表情でツルマキさんが手を離す。そしてお祝いと言わんばかりにワインをぐいっと飲んだ。
嗚呼……多分、前のわたしはとりつく島もない状態だったんだ。
ココロ「リンコ、もう一つ追加で注文よ!」
リンコ「は、はい……分かりました……」
どうしよう。とても断りますとは言えない雰囲気に……。
ひとまず従って注文を従業員さんに通す。それから再びお酒を持って席へ。
ココロ「リンコもぐいぐい飲んでっ」
リンコ「えっ……あ、はい……」
いつの間にかツルマキさんは酔っていたみたいだ。空けたワインの半分をグラスに豪快に入れ、もう半分をわたしのグラスへ。
ほんのりと赤くなったツルマキさんにグラスを押し付けられ、わたしも彼女にペースを合わせて飲んでいく。
リンコ「……」チョコチョコ
休日だけ……ハーレムに……。
何度か反芻し考え、頭をぶんぶんと振る。
わたしは勇者。世界を救って元の世界に戻らないといけない。休日はないのだ。
そう。性にうつつを抜かすことも……
リンコ「……」ボーッ
リンコ「――っ」ハッ
あれ……? もしかして酔ってきたのかな……? 頭がぼうっとして眠くなってきた。頭の回転が遅くなってるのを自分でも感じる。ふわふわとした感覚が少し気持ちいいかもしれない。
ココロ「……流石に4本目は来るわね」
リンコ「……へっ?」
よ、4本目? 考えることに集中してそんなに空けてたの? ツルマキさんの言葉で僅かに我に帰る。テーブルを見ると――4本以上瓶が転がってるような。
まさかツルマキさんも相当酔ってるじゃ……と思い視線を向ける。
リンコ「――ツ、ツルマキさん……っ」
ココロ「……?」
するとそこにはマントを脱ぎ、コルセットをゆるめボタンを限界まで外したツルマキさんがいた。
上気した顔で首を傾げる彼女。幼い顔立ちに反し出るところは出たスタイルに、少し脚を動かせば下着が見えてしまいそうなスカート、そこから覗く脚。
無意識に凝視してしまうわたしへ、ツルマキさんはススッと身体を寄せる。
ココロ「リンコ……考えくれた?」
リンコ「あ、あの……その……っ」
ツルマキさんがわたしの腕を抱き締め、囁いてくる。普段と違う吐息混じりの短い言葉に背筋がぞくぞくと震えた。薄い服越しに触れる彼女の胸が、わたしの思考力を更に奪う。
お酒の席で間違いが……なんてよく聞くけれど、これは納得ができる。頭が真っ白になるのを感じながらわたしは口を開いた。
1 「休日だけなら……」
2 「ツルマキさんとだけが……いいです……」
3 「……zzz」スピー
↓1~ 一つ選択 先に2票入ったもので決定
【3選択】
リンコ「休日だけなら……」
自然とわたしはそう口にしていた。前の世界のわたしの対応を守って断ろうとすらしていたのに。でもその答えを導いたのは自分でも簡単に分かる。何故なら――
ココロ「本当……? すごく嬉しいわ」ムギュ
リンコ「え、えへへ……」
ツルマキさんの、恐らくは天然の誘惑にデレデレだったから。
アコちゃんとの初経験を終え、わたしは女の子を意識し過ぎていた。今日だってユキナさんを観察してしまったし、ツルマキさんのことだって……。
例えるなら今のわたしは、性に興味を持ち始めた未経験の男の子レベル。際どい姿を見ているだけでもドキドキしてしまうのに、こうしてトロンとした目で抱きつかれてはコロッといってしまうのが道理なのだ。
かといって彼女の身体に手を回す度胸も、口説こうとする勇気もない。こういうの……童貞、なんて言われるのかも。女性との経験はあるけど。
ココロ「……それなら、練習しましょ?」
リンコ「――えっ? んむ……っ」
腕を抱き締めたまま、不意にツルマキさんが手を伸ばす。彼女はそのままわたしに体重を預け、伸ばした手でわたしの頭を自分へと寄せる。そして口づけをした。
腕に感じる体温と感触が強まり、眠気が急速に冷めていく。
ココロ「ちゅ、んん……っ、ん」
ツルマキさんの舌がわたしの口内へ。口にしたもののせいか、彼女のキスの味はとても甘くアルコールの香りが理性を溶かす。
彼女の求めるようなキスに応え、わたしも彼女の口へ舌を。アコちゃんとした時のことを思い出して、優しく丁寧に刺激する。
ツルマキさんはぴくっと反応し、わたしの腕に身体を擦りつけるように動きはじめる。胸が、彼女の肌が腕を撫でる感触に興奮は高まり、わたしのそれが服の下から分かるほど起き上がった。
ココロ「ぷぁっ……はぁ、ん……♡」
一度口を離して間近で舌先を合わせる。もどかしい気持ちよさに頭を一杯にしていると、ツルマキさんが視線を下に向けニヤッと笑った。
リンコ「――ひうっ」
そのすぐ後、わたしのものへ快感が走る。見ればツルマキさんが手で裏筋を上下に撫でていた。
ココロ「すごく硬い……。練習をはじめるわね、リンコ。横になって」
あ、練習ってツルマキさんが……?
言われるままソファーに仰向けに。横の手すりに背中を預け、ツルマキさんはわたしの脚の間へ。ツルマキさんの前に硬くなりきったわたしのものが。彼女はそれを好奇心が抑えられないといった目で見つめ、スカートをわたしの捲った。
ココロ「本に出てくる通りね……硬くて……ちゅ。不思議な味」
女の子が好きで、男性のものは未体験。だから練習なのだろう。でもツルマキさんは躊躇なく顔を近づけ、先端へ口をつける。少量出ていた先走りを口に含み、真面目な顔でそんなことを呟いた。
ココロ「でも魔力が美味しいわ。リンコも可愛いし……」
リンコ「あぅっ……ぁ、ツルマキさ――っ」
髪をかきあげ、ツルマキさんがわたしのものを舌で舐める。テラテラとしたツルマキさんの舌がわたしのものを下から上になぞる。それだけで腰がぴくぴく跳ねてしまい、キスとは違う強烈な快楽が与えられる。
リンコ「はぁー……っ、んうっ、ぁ」
ココロ「……♡」
奉仕している間もツルマキさんはわたしの顔から目を離さず、わたしの感じている表情を見て楽しんでいるようだった。その上わたしの反応からあれこれ試行錯誤しているみたいで、段々と攻め方が変わってくる。
女の子との性経験の豊富さ故か、それともさっき口にした本のせいか。どちらにせよあっという間に限界まで上りつめてしまう。
ココロ「これはどうかしら……ちゅっ、ちゅる……」
リンコ「あぅ、気持ち――いっ、んっ」
根元は手で扱き、先端にキスを。時折舌で先を舐め回し……絶え間なく与えられる強弱のある刺激。緩急のある口と手による奉仕にわたしはうわ言みたいに呟く。
余裕はなく、もういつでもいってしまいそうだ。
ココロ「イキそう? それなら……」
パッと口と手を離すツルマキさん。魔力に当てられているのか若干息が荒い。彼女は手で身体を持ち上げ、わたしのお尻を膝の上に。そして、ボタンを外してはだけた胸の間にわたしのものを挟んだ。
唾液で湿った自身へすべすべしたツルマキさんの肌が密着する。それだけでも気持ちいいのに、指で形を変えるほど柔らかく弾力のある膨らみに挟まれて感覚的にも視覚的にも興奮が煽られる。
リンコ「そっ、れは……ぁ、ううっ……っ」
ココロ「すごい反応ね。……ふふっ、リンコのちょうだい?」
ツプッ、とツルマキさんの口へ先端が包まれる。そのまま舌で先端を舐め回し、胸を左右から手で押し付け――
リンコ「あっ、あっ――で、出るっ……出ちゃ、あぅっ」
我慢できる筈がなかった。
ぞくぞくと身体が震え、頭が快楽で一杯になる。体勢を変えてから数秒で果て、ツルマキさんの口へ精を放つ。一度、二度男性器が震え射精し、その間も彼女に搾りとるように胸で圧迫されて三、四度とツルマキさんの口を汚してしまった。
リンコ「ぁ……あぁ……っ」
精液があそこを通る度、まるで力を抜かれたみたいに脱力感が襲い同時に頭が真っ白になりそうなほど強い快感が走る。
ココロ「ん……っ。ぷは――いっぱい出たわね、リンコ」
出したものを全て飲み干し、うっとりとした表情のツルマキさん。口の端から漏れていた白濁を指で掬い、それも美味しそうに口にする。
ココロ「不味いって聞いたけど、そんなことないわね。リンコのはすっごく美味しいわ」
リンコ「そ、それは……よかった、です……」
絶頂の余韻が引かず、お酒のせいもあって余計意識がぼんやりしてしまう。このままソファーに横になって眠ってしまいそうだ。
ココロ「リンコ? まだ本番が残ってるわよ?」
リンコ「……ぇ?」
うとうとし始めたわたしの前にツルマキさんの手が。予想外に強い力で強引にわたしを起こし、ソファーから床に立たせる。
リンコ「えっと……ツルマキさん……?」
ココロ「ほら……今度はリンコから来て?」
戸惑うわたしを前に、ツルマキさんが服を脱いでソファーへとうつ伏せに寝る。セクシーな黒のガーターベルト。そのラインに彩られた脚に、形のいいお尻。黒い下着を指でずらし、その下にある濡れた秘部を見せつけてくる。
精液の魔力にあてられたのか、見れば下着もびしょびしょで既に準備は万端なようだ。
一度果てたわたしの男性器はすぐに元気を取り戻し、わたしは操られているかのようにふらふらとソファーの上へ。
アコちゃんの時は動く余裕もなかった、なんて頭になく、今のわたしはツルマキさんの中へ挿れることしか考えていなかった。
リンコ「ツルマキさん……っ」
ココロ「あっ♡ リンコのが当たってるわ」
先っぽを当てがい、ツルマキさんの横に手をついて背中に上から覆いかぶさるように挿入。お酒のせいか中の体温は熱いほど高く、今にも溶けてしまいそうだ。
ココロ「熱くて大きいのが――ふぁっ♡ 入って……っ」
リンコ「……っ、んぁ。はぁ……熱い……っ」
身体を反らせて悦ぶツルマキさんを抱き締め、押さえつけるように中へ。ツルマキさんの中は入り口がキツく、中は襞が絡みつくように優しく刺激してくる。
全て入りきった頃にはやっぱり余裕が皆無。腰に当たるお尻の感触にすら射精してしまいそうになってしまうわたしが、挿入の快感に耐えられる筈がない。
リンコ「っ――ツルマキさん……ごめんなさ――っ!」
ココロ「えっ? あ、中で――んあぁっ!」
ツルマキさんを抱き締め、さっきイッたばかりのわたしは再び達してしまう。中で精を放つ強い快感に思考力はなくなり、射精の度腰を突き出し、無意識に奥へと射精しようと身体が動く。
ココロ「あっ♡ も、もう出っ――ぁ、あーっ……♡」
ツルマキさんもその動きに合わせて甘い声を上げる。ギュッとソファーの手すりを握り、びくびくと身体を震わせて中がキツく締め上げてくる。
聞いたことのない声を上げ、精を受け入れる彼女。秘所からは蜜が溢れ射精が終わる頃には全身をぐったりさせていた。
ツルマキさんもイッたのかな……?
リンコ「はっ……ぁ。……大丈夫ですか? ツルマキさん……」
ココロ「……ぁ。大丈夫、よ。予想以上に気持ちよくて、あたしもすぐイッちゃったわ……」
荒い呼吸のツルマキさんが、余韻混じりのふにゃっとした声で答える。
多分、いや絶対に魔力のせい。中で出されて絶頂って、中毒性とか無いといいけど……。心配になってしまう。
ココロ「……続けて、リンコ」
リンコ「……えっ? でも連続は……」
ココロ「リンコにもっと気持ちよくしてもらいたいの……ダメかしら?」
リンコ「……は、はい……っ。頑張ります……」
肩越しに振り向いて上目遣いにおねだりしてくるツルマキさん。彼女の身体を気遣おうとする不安感はすっ飛んで、即答するとわたしは胸を押し付けた体勢のまま腰を引く。
リンコ「ん、ぅ……っ」
愛液と精液が絡み、刺激を増した中の感触。射精直後というのに数分も持たなそうな快楽に、声が漏れてしまう。
それでもできるだけは耐えなければ。歯をくいしばり、引いた腰を打ち付ける。卑猥な水音がはっきり立ち、ツルマキさんが嬌声を上げた。
ココロ「リンコの――っ、柔らかいおっぱいと、硬いおちんちん――あぁっ♡ おかしくなりそうっ♡」
リンコ「わたしも……です……っ」
何度も腰の動きを繰り返し、その度に気が遠くなるほどの気持ちよさがわたしの頭を揺さぶる。それでも身体は止まらずに、ツルマキさんを貪欲に求め続けた。
アコちゃんにされてる時は自分から動くなんてできないと思ったのに、意外と本能に任せていれば何とかなるのかもしれない。
どんどん近づいていく絶頂に、大きくなるツルマキさんの反応。女の子を犯している感覚に私の頭から理性は消え去る。
ただ中に、ツルマキさんに出したい。気持ちよくなりたい。
テクニックなんて頭になくただひたすら自分が気持ちよくなるために相手を貪る。そんな行為でもツルマキさんは強く感じてくれているようで、寝たまま自分の胸を愛撫し熱に浮かされるように激しい喘ぎ声と共に身体を捩らせる。
リンコ「あっ、ん――っ、また出ます……うっ」
ココロ「んあぁっ♡ 出してっ、中に――」
リンコ「は、いっ――イクッ――あ、んぅっ!」
今度は数分は耐えられただろうか。密着したまま腰を押し付け、中へ二度目の精を吐き出す。我慢して長く快感をためていたせいか、目の前がチカチカとするかのような感覚と共に白濁が出されツルマキさんの中を埋めていく。
ココロ「熱っ――ぁ、はぅん……♡ ん、ぅ……」
リンコ「はーっ……ぁ、うぁ……」
恍惚とした声でツルマキさんさんは射精に身体を震わせ、そして脱力させる。少しして、ようやく余韻の引いたわたしが身体を起こし中から男性器を抜くと、白濁が溢れ彼女の秘部を淫靡に彩った。
行為を終えて冷静になってくると……大変なことをしてしまったような気しかしない。勇者と女王が肉体関係というのは。
ココロ「……お疲れ様、リンコ。こっちに来て」
けれど彼女に手招きされて、わたしは思考をあっさり放棄してしまう。誘われるまま腕の中へ。すると彼女の胸に顔を寄せるように優しく抱き締められる。
ココロ「すごく素敵だったわ。大好きな人とこんなことができるなんて、リンコの体質に感謝……しな……」
リンコ「……ツルマキさん?」
胸の感触と、石鹸と女の子の甘い香りにどぎまぎしていると不意にツルマキさんの言葉が途切れた。
頑張って顔を上げツルマキさんの様子を見ると、すやすやと眠っていた。酔った上でこの過激な運動だ。眠ってしまっても無理はない。
わたしもかなり眠く――
ユキナ「リンコ!」ガチャ!
ユキナ「ここにツルマキさんが来ても話に……乗ら――」
ユキナ「……」
ユキナ「……リンコ」ヒクイコエ
――眠気が、一気に冷めた。
【書き溜めここまでですーまた続きは早ければ今日に】
それから20分ほどして。
場所は同じく、わたしの仕事場。
ユキナ「ツルマキさん……来たとは聞いたけれど、まさかこんなに進展が早いだなんて」
事後から後始末、わたしとツルマキさんの身体を綺麗にして彼女をベッドに寝かせ……再びソファーに。
わたしの向かいには同じくように座ったユキナさんが。落ち着いたところで、彼女は話をはじめた。
何故彼女がわたしの所へ来たのか。その理由はツルマキさんの『リンコ』への対応にあるらしい。
ツルマキさんは彼女自身が言っていた通りハーレムを作っていて、わたしのことも前からずっと誘っていた。ユキナさんはそんな彼女のことを敵視していて、母親――じゃなくて、家族のわたしを守るために頑張ってくれていたようだ。
前のわたしもその話に乗らないようにしていたらしい。
そこをわたしがあっさり陥落したものだから、ユキナさんは驚いたのだろう。
リンコ「……ごめんなさい、ユキナさん。まさか……そんな事情があるなんて……」
ユキナ「……謝らなくてもいいわ。説明も何もしなかったもの」
ため息を一つ。銀色の髪を手で撫で、複雑そうな視線を眠るツルマキさんへと向ける。
ユキナ「ただ彼女、ツルマキさんはリンコにリサ、マルヤマさんにアコにまで関係を知っている上で誘いをかけていたから……」
リンコ「……」
それだけ聞くと節操がなさすぎる……。ユキナさんが敵視するのもよく分かる。コロッと落ちたわたしが言うのもなんだけれど。
ユキナ「心配だけれど、今はそうした方がいいかもしれないわね。ツルマキさんと繋がるには」
リンコ「……どういうことですか?」
ユキナ「元の世界の知り合いがこの世界にいて、ロゼリアは勇者とその仲間。無関係とは思えないでしょう?」
リンコ「なるほど……」
確かにそうだ。その上楽器が鍵を握っているのだから、尚更。
ツルマキさんから視線を離し、ユキナさんはわたしを見る。真剣な目だ。それだけ元の世界に戻ることを必死に考えているのだろう。
ユキナ「何か分かるかもしれないし、いつでも会える状態が理想ね。記憶を得たり、取り戻してくれれば協力も期待できるわ」
リンコ「そう……ですね……。まだ分からないことが、多いですけど……」
それでも、選択肢を増やしておくというのは重要だ。
ユキナ「そういう点では今回のハーレム入りは歓迎するべき、なのかもしれないわ。アコやマルヤマさんが何て言うか分からないけれど」
リンコ「……。あの、ユキナさん」
スッと手を顔くらいの高さに挙げる。
さっきからちょこちょこ出てくる名前。元の世界では仲が良かった友達――丸山彩さん。彼女の名が出てくるタイミングがタイミングなだけに、わたしとの関係性が気になる。
リンコ「マルヤマさんも……この世界にいるんですか……?」
ユキナ「……ええ。リンコの第二のパートナー、ということになっているわ」
リンコ「だ、第二……!?」
この世界のパートナー、ということは二人目の恋人。あのアイドルのマルヤマさんが、わたしとそういう関係に? ……そ、想像がつかない……。
ユキナ「まぁ、その……アコが来るまでは一緒に暮らしていて、わたしもお世話になったわ。今は住み込みで錬金術士として修行してて、元の世界の記憶はないみたいね」
リンコ「そ、そうなんですか……。あの……この世界で複数の恋人は普通……なんですか……?」
ユキナ「珍しいだけで、嫌悪や疑問はないわね。アコもマルヤマさんと元の世界みたいに仲良くしていたわ」
そ、そうなんだ……。安心するようなしないような。この世界のわたし、本当にみんなから好かれててすごいなぁ……。
リンコ「……あと、ユキナさんは……誰からツルマキさんが来ることを……?」
ユキナ「あぁ、リサよ。私のところにはリサが来たの」
腕を組みつつ微笑して、さらっと答えるユキナさん。わたしの脳内に一瞬、ユキナさんとイマイさんの絡みが妄想されるが――多分話したりお酒を飲んだだけだろう。
ユキナ「慌てて入ってきてツルマキさんがリンコのところへ向かってる、って伝えてきたわ。あとわたしに説教を少し」
リンコ「イマイさんがツルマキさんのことを……」
ユキナ「アオバさんから招待ついでに聞いたらしいわね」
招待……?
アオバさん、もしかしてわたし達のために知り合いに声をかけてくれたのかな?
……でも、どうしてイマイさんはわたしのところへ直接来なかったんだろう。ユキナさんのことも心配だろうけど、わたしの所に向かってるって断言するくらいなのだから。それで警告するだけで、ここには来ないなんてイマイさんらしくは……。
少し気にかかるけど――全ては仕事を選び、そして選択をしたわたしの責任。イマイさんに疑問を抱くのはやめよう。
リンコ「……ユキナさんは、大丈夫でしたか? イマイさん以外の、お客さんは……」
ユキナ「いたけれど、アオバさんの言う通り話すだけだったわ。勿論、リサの時も」
リンコ「そ、そうですか……」
良かった。アオバさんの言ってたことは正しかったみたい。わたしがああなったのも、ツルマキさんが来たからなのだろう。
ホッと安心。でもわたしの向かい、ユキナさんは逆に申し訳なくなってしまったようで、眉をハの字にさせてシュンとする。
ユキナ「……リンコにだけ身体をはらせてしまったわね。ごめんなさい」
リンコ「そんな……っ、謝ることなんて……」
アオバさんを頼ったのはユキナさんだけど、そこから先は全部が全部わたしが選んだこと。手をしゃかしゃかと振り、わたしは否定する。
アオバさんの言う通りにお酒を呑んで、話して、それで終わりということもできたのだ。それをわたしがツルマキさんとあんな……気持ち良い……ムフフな……。
リンコ「……結果的には……得しかしてないような気がしますから……」
あんな経験できたのにお金を払わず、むしろ貰える。プラスと考えてしまうのは異常、なのかな?
ユキナ「そ、そう……。意外と女の子好きなのね、リンコ」
ユキナさん、若干引いていらっしゃる。
ユキナ「でもそれなら良かったわ。……さて、そろそろバイトも上がりね」
リンコ「え……? もうそんな時間……あ、本当ですね……」
ポケットから懐中時計を取り出し、ユキナさんが時刻を確認。わたしもそれを覗きこむと、そろそろお店の人に言われた時間を過ぎるところだった。
結局ツルマキさんにしか接客しなかったけど……これでどれだけのお給料が貰えることやら。
ユキナ「ツルマキさんはこのままにして……帰るわよ、リンコ」
リンコ「は、はい……」
このお店はしっかりしてるから大丈夫だろう。ぐっすり眠っているツルマキさんを置いて、わたしたちは部屋を出た。その後は再び身体を洗い、着替えて、仕事の報酬を受け取り――お礼をするべくアオバさんの事務所に向かうことになった。
そして再びアオバさんの事務所。その、彼女の自室。
紹介してもらった時と同じシチュエーションでソファーに座り、お話モード。時刻は夜ということもあり、忙しなかった事務所内も幾分か落ち着いた雰囲気。
アオバ「へぇー、それでそんなに稼いじゃったんですかー、リンコさん」
リンコ「少し、複雑ですけど……」
仕事の話を終え、アオバさんがふむふむと頷く。
あの後、従業員の人にツルマキさんとのことを割と細かく説明し、お給料を貰った。お酒もそうだけれどツルマキさんとの行為はかなり高額なようで、彼女が誘ったこともありびっくりするくらいの報酬が支払われることに。
結果が袋一杯の硬貨。楽器はこれでいくつ買えるのだろうか。
アオバ「当然の報酬ですよー。でもこころちゃんが真っ先に来るなんて、ちょっと意外だったかなぁ」
ユキナ「この世界でも元の世界でもそうなると思うけど……。それで、どうして複数人に招待を出したりしたのかしら?」
ユキナさんの目が鋭くなる。この世界のツルマキさんのことを彼女はあまりよく思っていない。ツルマキさんの性格のこともアオバさんは知っていた筈で、その上で招待をした。更にはイマイさんにも声がかかっていて、その他にも招待がいっている可能性も。
責めるような口調になるのも仕方がない。わたしもアコちゃんやロゼリアのメンバー、友達にそれをされたらどう思うことか。
暫しの間。バツが悪そうに苦笑したアオバさんは、ペコリと頭を下げてまずは謝罪。それから顔を上げ、ちょっとだけ真面目な表情を。
アオバ「それはー……みんなに平等にチャンスがあっていいんじゃないかなぁと思って」
……チャンス? 場違いに思われる単語が飛び出し、わたしは首を傾げた。わたしと話すだけでお店にお金を取られるのに、とても好機とは思えない。
ユキナ「……そんなところだと思ったわ」
思えない、のだけどユキナさんは納得したようだ。肩を竦めてため息を吐く。
アオバ「ランは来ないだろうから誘ってないんですけど……それでも、元は膠着状態だったのに、ここでは既に関係が出来上がってるなんてアレですからー」
リンコ「……?」
ユキナ「分かったわ。理由があるならいいの。私達は仕事を紹介してもらった立場だから」
……よ、よく分からないけど、丸く収まりそうだからそれでいいのかな。わたしはあんまり嫌な気にはなってないから。
アオバ「でも……おたえちゃんとカノン先輩は行方が分からなくて、誘えなかったのがモカちゃん心残り……」
ユキナ「……仕方ないことよ」
ユキナさんが首を横に振る。少しだけ、苦しそうな顔をして。
ユキナ「――今日はありがとう、アオバさん。お世話になったわ」
アオバ「いえいえー。また良かったら来てくださいね、二人共」
ぺこりと会釈程度に頭を下げ、ソファーを立つユキナさんに続いて立ち上がる。なんだかんだとあっという間に一日が終わってしまった。みんな、遺跡探索の準備は終わっただろうか。
ユキナ「どっと疲れるわね。大したことはしてない筈なのに」
リンコ「初めての仕事で……それも、あんなお仕事ですから……仕方ないです」
廊下に出て、出口へ向かう。夜だというのに事務所は明るく、天井から吊るされた照明が蝋燭の炎よりも眩しい光を放っている。仕組みは分からないが、お金がかかっていそうだ。
まだまだ物珍しい光景に、わたしは話しながら視線を忙しなく動かす。そしてふと、ユキナさんの横顔が寂しげな表情をしていることに気づく。
心配になってジッと見つめていると、ユキナさんはそれに気づいたみたいで視線を合わせる。
ユキナ「分かっていたけれど、この世界は格差が大きいわね。どうしようもない理不尽で家族を故郷を失って、人に捕まって……。その上種族による差も大きいわ」
リンコ「そう……ですね……」
ここの人達はまだアオバさんに再起の機会を与えられているものの、他の悪い人に攫われればどうなるか。考えたくもない話である。
少なくとも、今回のわたし達みたいな話してるだけでもいい女性相手の仕事なんてできないだろう。
ユキナ「改めて、感謝してるわ、リンコ。身寄りのなかった私を家族にしてくれて」
私を見つめ返し、ユキナさんが微笑む。ユキナさんもここにいる、他の場所にもいる奴隷の人達と同じような境遇……だったのだろう。それをわたしが一緒に暮らすようユキナさんを保護して、生活を始めた。
だから、ここやさっきの仕事場で見かけた奴隷の子達と自分とを重ねてしまったのだろう。
ユキナ「なんて言われても、リンコは困るだけよね」
リンコ「……あ、いえ……嬉しいです……」
あたふたしながら答えると、ユキナさんはフッと楽しそうに笑う。
母親、娘、前の世界の記憶。色々あってユキナさんとは距離感があったような気がしたけど、それも少し縮まったのかな?
事務所を出て門をくぐり街へ。外はすっかり暗くなっていて、人気もなくなっていた。大通りに近いこの事務所の周りはまだ明るいけれど、裏道は暗く物騒な雰囲気が強い。
ユキナ「思ったより時間がかかったわね。楽器はまた今度にして、今日は真っ直ぐ帰りましょう」
リンコ「はい……」
頷いて、視線を裏道から大通りへ。そこを真っ直ぐ進んで、街外れの方に行けばすぐ家に――
リンコ「――ユキナさんっ!」
不意に近づいてくる黒い何か。大通りからわたし達のいる道へ走り込んできた人影に、月明かりを反射して鈍く輝く物を見つけ無意識に叫ぶ。
その人影は真っ直ぐユキナさんへと向かっていた。
ユキナ「――!」
わたしが普段出さないボリューム。故にユキナさんは反射的に反応することができたようで、驚いた表情のまま本能的に近づいてきた影を避けようと身体を反らす。
そのすぐ横を白い刃が貫いた。ユキナさんが動いていなければ、彼女の首を突き刺していただろう。
明らかに命を狙った襲撃。こんな街中で、まさか魔王軍……?
リンコ「ユ、ユキナさん……大丈夫ですか……?」
ユキナ「ええ。助かったわ、リンコ」
不意打ち前と変わらないトーンで言い、ユキナさんは蹴りを放つ。と同時に腰の短剣を引き抜き、蹴り飛ばした襲撃者へと突きで追撃。が、蹴りでよろけた彼が大きく後ろへ下がったことにより、武器は空振り。
サラッと行われる反撃に、わたしは何の反応もできず見守ってしまう。
ユキナ「離れてて」
リンコ「は、はい……」
吟遊詩人である筈のユキナさんの近接戦闘に反応できなかった。戦闘は明日訓練しようとみんな言っていたけど、わたしは本当に戦えるのだろうか。なんて危惧を抱きつつユキナさんの後ろへ。
魔法使いが後ろに。ユキナさんはそれを守る位置に。単独の襲撃者にとって一番避けるべき状況となり、彼は怯んだ様子を見せる。
襲撃者は黒いローブにすっぽりと身体を包んだ、見るからに怪しい雰囲気の人物であった。ちらと見えた武器を握っている手元も隠れており、性別や顔はおろか戦闘の意志の有無も分からない。
ユキナ「あなた、魔王軍? こんな街中で――」
言っている途中で襲撃者が動き出した。素早い動き。でも直線的で、落ち着いて見ていれば十分対応できそうな気がした。
ユキナさんの対応も落ち着いたものだった。振ってきた腕を、ローブで見えないというのにあっさり掴み、引き、彼の武器を手ごと壁に叩きつける。痛そうな音と金属音。地面に彼が握っていたであろうナイフが転がり落ちる。それを確認し、背中に肘打ち。
わたしの知るユキナさんと対象的な動きに感心すると同時に、短剣を使う素振りがないことにホッとするわたしである。無防備な背中に腕ではなく、刃を突き立てることもできたであろうから。
ユキナ「答えないなら、眠ってもらうことになるわよ」
??「ぐっ……」
跪く彼へ静かに圧をかけるユキナさん。この世界では分からないけど、NFOなら吟遊詩人はサポート職。そんな彼女に格闘戦で圧倒されているのだ。勝ち目がないことは本人もよく分かっているだろう。
しかし意外にも襲撃者は引く様子を見せない。むしろユキナさんをフードの下から睨み、更に強い殺気を覗かせる。
??「お前が……お前が、私の故郷を……」
女性の声だった。怨嗟の込められた声にユキナさんが一歩後退る。
故郷……? その先はわたしには聞こえなかったけど、尋常ではない空気だ。人違いだとは思えないし、闇討ちをしかけてきたのだ。それ相応の理由があるはず。
そうなると、ユキナさんが彼女の故郷に何かをした? いや、そんなことは断じてないだろう。
襲われるような悪行をユキナさんがするわけ――
??「この、魔族が……」
ユキナ「……」
忌々しげに口にした襲撃者は立ち上がり、舌打ちと共に去っていく。彼女の敵意はユキナさんへと明確に向けられていた。ユキナさんの表情は背中しか見えないから知れないけれど、どんな顔をしているか……。
少なくとも、元の世界では殺意で不意打ちなんてされることはごく限られた状況だろうし、身体のことは勿論、心のことも心配だ。
それと、魔族とは何なのだろう。多分語感的に魔物、魔のもの――その血が入った人のことか。でもユキナさんが? 誤解だとしたらそれも問題だ。
リンコ「……。行きましたね……」
色々気になる点はあるが、今は戦いが激化しなくて済んで一安心だ。
ユキナ「――そうね。とりあえずは無事で良か――」
ユキナさんがわたしへと振り向いて、胸を撫で下ろし……硬直する。そのまま真顔でババッと手を動かして自分のポケットを確認。
リンコ「ユキナさん……?」
ユキナ「やられたわ……」
リンコ「やられ……? ――あっ」
少し前、事務所でユキナさんが預かってくれた、報酬の入った金貨袋を思い出す。まさか……。
ユキナ「盗まれたわ。まんまと」
リンコ「そ、そんな……」
今日一日の頑張り――正確にはツルマキさんの豪遊の代金が……たった数分で……!
ユキナ「……。こっちは大丈夫よ」
落ち込むわたしの前、ひょいと金貨袋を取り出す。あ、あれ? これが盗られていないということは、他に?
安心すると同時に、お金以上に大切な物が盗られた可能性も浮かびまだ気が抜けない。
リンコ「……何を盗られたんですか……?」
ユキナ「……」
金貨袋をしまい、再確認。けれどもやはり見つからないようで嘆息をもらす。
悲しみや戸惑い、色々な感情の混じった表情で数秒考え込み、言い辛そうに口を開く。
ユキナ「……形見よ。両親の」
リンコ「……!」
ユキナさんの亡くなったご両親の形見。それがどれだけ大切な物なのか分からないけれど、彼女の様子を見ればお金より大事なことは察することができた。
リンコ「追いましょう……今なら……」
ユキナ「……気にしないで。もう見失ったし、顔も見ていないもの」
リンコ「でも……っ」
でも。その先を言えずわたしは口を閉じる。見失った上に顔も見ていないし、彼女を追う手がかりも無い。そんな状況でこの時刻。目撃者もいないし、追跡は不可能だろう。
ユキナ「怪我が無くて良かったわ。さあ帰るわよ、リンコ」
リンコ「……は、はい」
くるっと背を向け、何事もなかったかのように歩き出すユキナさん。形見のこと、気にしていない筈がないのに何故あんなにも簡単に諦めてしまうのだろうか。
ユキナさんとちょっとは仲良くなれたかと思ったその日の帰り道。それから会話は無く、わたし達は静かに家路へとついた。
『ユキナ編一話終了。選択肢の結果を集計。ユキナの好感度が1上がりました』
『メインルート、一段階進行します』
ユキナさんとのバイトから翌朝。
あれからいつも通りの様子のユキナさんと、イマイさん、アコちゃんと夕食をとり、お風呂に行って就寝。何事もなく一日が終わった。
唯一、ツルマキさんとのことをアコちゃんに報告したら、むくれたアコちゃんに手と口で立て続けに容赦なく搾られた……くらいかな。やっぱり無許可でハーレム入りはまずかったみたい。
リンコ「……」ポヤー
リサ「リンコ? 大丈夫? ぼんやりしてるけど」
リンコ「……あ、はい……。大丈夫、です……」
自宅のリビング。朝食を食べながら物思いに耽っていたわたしは、イマイさんの声で我に帰った。
いつの間にか朝食をあらかた食べ終わっており、今はホットミルクをちょびちょび飲んでいたようだ。
ユキナ「……。アコ。夜にはしゃぎすぎじゃないかしら?」
そんなわたしの表情をチラッと見たユキナさんが、ほんのり赤くなりながら注意する。多分、また声が聞こえていたのだろう。ぼんやりの原因もそれだと思われたみたいだ。
アコ「そ、そうですかっ? アコ、そんなことないと思いますけど。ねぇ、りんりん?」
照れながら否定しようとするアコちゃん。
はしゃぎすぎ、という点については若干否定できない部分があるんだけど……この場でそんなことは言えず、わたしはコクコクと頷く。
するとイマイさんがにやけて、わたしへ耳打ちを。
リサ「おー、アコは昨晩のじゃ足りないと。魔力がつくもの食べないとね☆ リンコっ」
リンコ「……えっ、あの……」アタフタ
アコ「ちょっとリサ姉っ」
わざとみんなへ聞こえるボリュームで言い、イマイさんは嬉しそうに笑う。この世界のイマイさんは、わたしとアコちゃんが仲良くしてるのが嬉しいみたい。それをからかうのもまた、楽しいのだろう。
なごやかな朝食風景。話が一段落したところで、タイミングよく玄関のドアがノックされる。
リサ「ん? サヨかな」
出てくるねー、とイマイさんが小走りでドアへ。彼女が玄関を開くと、家へ入ってきたのは予想通りヒカワさん。
きっちりした騎士姿でイマイさんへ頭を下げ、中のわたしちと視線が合うと会釈をする。
サヨ「おはようございます。来るのが少し早かったですね」
ユキナ「おはよう。ちょうどいい時間よ。気にしないで」
皆、それぞれ挨拶を交わし席へ。
今日ヒカワさんがやって来たのは理由がある。遺跡へ遠出するにあたって、避けられないこと――戦闘。
記憶がある他の人はともかく、わたしは戦闘の経験なんて無い。だから今日は戦闘の訓練をしようと事前に決めていたのだ。
リサ「今日はありがとね、サヨ。わざわざ預言者の騎士様に訓練つけてもらえるなんて、中々貴重だよね」
サヨ「いえ。眉唾ものかもしれませんが、基礎はしっかり固めておいた方がいいですから」
チラ、とサヨさんの視線がわたしを捉える。それにわたしは頷くだけで返した。
イマイさんに記憶のことがバレないように、なんとか一人でも戦えるくらいにはならないと。今日はそのためにみんなが作ってくれた絶好の機会なのだ。頑張ろう。
ユキナ「――そうね。みんな、朝食を食べ終えたら準備して。すぐ街の外へ向かうわよ」
街の外……。わたしは正真正銘、この街を出るのは初めてだ。モンスターも出るらしいから気をつけよう。
緊張するわたしと対照的に、みんなの様子は落ち着いたもの。この世界の冒険者、特に勇者のパーティにとって今回の移動なんて近所のお店に行くくらい気軽なものなのだろう。
そう考えると、わたしはいつみんなに追いつけるのか……少し、不安になった。
朝食の残りを片付け、支度を終えるとわたし達は街の外へ。そして歩くこと数十分。街を囲む塀から出入りできる門の一つへと到着した。
どうやって作ったのか想像すらもできない巨大な扉。その前に立つ門番の兵士とヒカワさんが一言二言話すと、その扉が開く。
外に広がっていたのは一面の草原。遠くに見える山々。森。街の中も自然が多かったけれど、外は更に緑一色だ。穏やかな風景はゲーム序盤のフィールドといった印象。流石に街の近くには魔物の姿も無いようで、ちょっと安心。
リンコ「広いね……アコちゃん……」
アコ「うんっ。旅立ちの村の外を思い出すよね、りんりん」
アコちゃんも同じようなことを思うらしい。クスッと笑い合い、みんなの背中についていく。草原の向こう、ちょっと離れた位置に見えるのは大きな森。今日はあそこで泊まり込みで訓練をする予定だ。
キャンプ地として有名らしく、魔物の危険もほとんどなく色々と設備も整っているとのこと。街と違い気兼ねなく剣や魔法を振るうスペースもあり、まさに訓練するにはうってつけの場所だろう。
ユキナ「みんな、警戒を怠らないように」
リサ「はーい☆ サヨ、頼りにしてるね」
サヨ「はい。先頭は任せてください」
サヨさんを先頭。その左右斜め後ろにユキナさんとイマイさん。更に二人の後方にわたしとアコちゃん。何も言わずとも自然とその並びになり、移動がはじまる。
……考えてみると、後衛が多めなメンバーだ。これがRPGならヒカワさん以外の一人を前衛物理職に変えたいところ。あ、でもアコちゃんはわたしが格闘でも戦えるって言ってたから、魔法剣士的なポジションなのかな……?
それで強かったらしいから、勇者のわたしは余程の実力者なのだろう。おそらくは昨晩のユキナさんよりも遥かに強いレベルで。
ますます、追いつけるのか不安に――
リサ「リンコ、大丈夫? なんか緊張してない?」
リンコ「――えっ。あ、だ……大丈夫です……。ありがとうございます……イマイさん」
いつの間にか振り向いたイマイさんがわたしのことを心配そうに見ていた。ネガティブな思考を繰り広げていた頭を振り、わたしは彼女へ笑みを返す。
リサ「そっ、そう? ならいいけどね」
微妙に赤くなったイマイさん。薄い黒色の瞳を揺らし、わたしから目線を逸らす。それを誤魔化すように空笑いし自身のフードの下から流れる前髪をちょこちょこ弄ると、彼女は前へ顔を戻す。
若干挙動不審だけど、わたしに気を遣ってくれたみたい。
サヨ「……みなさん、前方に魔物が」
ほっこりする気持ちは、足を止めたヒカワさんの言葉によって緊張感へと変わる。目を凝らして見てみれば前方、こちらへと向かってきている何かが見える。
ユキナ「――草原ウサギね。リンコ、勇者の出番よ」
リンコ「……は、はい」
いわゆる序盤のモンスターなのだろう。みんな警戒して構えをとるものの、武器を手にする様子がない。そこで、完全未経験なわたしの出番と。
サヨ「シロガネさん。魔法ではなく剣でお願いします」
リサ「気をつけてねー、リンコ」
リンコ「……はい」コクリ
わたしが失態を晒した場合の保険として渡された剣。腰に差したそれをチラリと横目で確認し、わたしは頷く。
普段使わない武器を使用する縛り。イマイさんがいる場で初心者だから敵を譲るだなんて言えないから――と、サヨさんが考えてきてくれた作戦だ。
アコ「頑張って、りんりん!」
リンコ「うん……やってみる……」
今後のためにも、嘘を守り抜くためにも、強くならないと。アコちゃんへ頷いてヒカワさんの前に。
遠くにいたはずのモンスターは、すぐ私の目にはっきりとその姿が見える距離に。
草原ウサギ。その名の通り、どう見てもウサギな可愛らしいモンスターであった。モフモフしてて可愛らしくて、倒すのを躊躇してしまいそうだ。……わたしの腰の高さくらいの身長と、大きな鋭いツノが無ければ。
リンコ「……」スゥ
大きく、ゆっくりと呼吸。『リンコ』のお陰か敵を前にしているというに、不思議と緊張はない。
剣の柄を掴む。全力でこちらへと向かってくるモンスターを見据え、わたしは剣を抜いた。
こちらを仕留めようとする殺意が込められた敵の目。それをしっかり見つめ返し、構える。
接近。ウサギが地面を思い切り蹴り、飛び上がる。なんとかしなければ。そう思った直後、反射で身体が動き出した。
リンコ「――っ」
息を吐くと同時に剣を横に一振り。抜いた時にも思ったけど、振ろうとしても重さが殆ど感じられない。左から右へ素早く振られたそれはツノへと当たり、わたしに向かっていた先端を反らす。
初撃はそれだけ。力を横へと流されたモンスター。その前方に剣の刃を置き、返す刀で踏み込みながら剣を前方へ押し出すように振るう。
見た目通りウサギの身体は柔らかい。それでも前の世界とは比較にならない腕力で、わたしはあっさりとモンスターを両断してしまう。
出血もなく肉体の断面は真っ黒。ハリボテのような姿に違和感を抱くと、地面に落ちたウサギはすぐに煙になって消えた。後に残ったのはツノが一本だけ。
これがモンスター……。まるで作り物みたいだ。
リンコ「……」
ヒュッと剣を払い鞘へ。敵とはいえ生き物を一匹葬ったというのに罪悪感はこれっぽっちしかない。
リンコ「終わり……ました……」
振り向く。するとわたしをキラキラした目で見るイマイさん、アコちゃんや驚いた表情のユキナさんとヒカワさんが目に入った。
サヨ「勇者は武器の扱いも上手いと聞きましたが……。これは中々」
『前の世界とのギャップが』と、小さな声で付け足すヒカワさん。他の三人と違って、この世界でのわたしを詳しく知らないからだろう。キビキビ動いて武器を振り回すわたしに違和感しかないみたいだ。
実際動いていたわたしもそうなのだから、他人から見たら凄まじいギャップだろう。
ユキナ「よくやったわね、リンコ。剣は久しぶりなのに流石ね」
リサ「いやー、かっこいいね♪ 剣も本格的に練習したら?」
アコ「魔法と剣……光と闇を操る……ドーンッといいとこ取りなかっこよさだね、りんりん!」
リンコ関連の記憶がある三人にも、今のわたしの動きは新鮮味があったらしい。恥ずかしいくらいにべた褒めしてくれる。
昨晩ユキナさんの戦いを見ていた時は不安だったけど、これならわたしもそれなりに戦えるのかな……?
サヨ「……そろそろ目的地ですね。みなさん、行きましょう」
再びヒカワさんを前に移動が再開。
彼女の言う通り、前方に見えていた建物が大きくなってきた。川と森と木造の家々。山の麓、緑が広がる森の中に人の手で拓かれたであろう場所が見える。
あそこが……。
本当にキャンプ場みたいでワクワクしてしまう。
――あ。そういえばサヨさん、助っ人を呼んだって言ってたよね。誰だったかな……?
↓1~2 キャンプ場イベントの同行者を指名
(1レス1キャラずつで計2名。
魔王軍、日菜、こころ、は選択肢から除きます)
【遅れて申し訳ないっす!】
確か、ミタケさんとトヤマさんだった……よね?
ミタケさんはユキナさんとの関係性をヒカワさんが危惧して誘って――トヤマさんは、偶々会ったから声をかけた、のだとか。
なんでもこの世界のトヤマさんはセタさんと旅をしているらしく、一度別れると次何処で会えるかが分からない。そのためわたし達を覚えてもらえるよう交流を、あわよくば記憶を取り戻してもらって協力をこぎつけるのが狙いらしい。
ユキナ「……ここが私達のロッジね」
さて。あれから結構歩いて、受付を済ませたわたし達は森の中に建つ数軒のロッジの前にいた。
森といってもこの一帯はきちんと人の手で整備されているようだ。川が近くを流れており、その隣には釜などが置かれた調理場らしき屋根だけの小屋が。モンスターがいないのは勿論、木で道を舗装してあって周囲には雑草すらも見当たらない。ここだけ現代のキャンプ場のようだ。
アコ「おおーっ。三軒ありますけど、全部ですか?」
サヨ「ええ。ロゼリアと助っ人で計七人。ロッジに三人、または二人で三軒借りれば十分なはずよ」
リサ「うんうん。……一応聞くけどさー、部屋割って決めてる?」
サヨ「部屋割り?」
きょとんとした顔でサヨさんが復唱。合流したばかりで、この世界でのわたしの体質が完全に頭に入っていない彼女。勇者は両性かもしれないけれど、元の世界の『燐子』は違う。
そこに温度差があったみたいで、サヨさんは部屋割りをはっきり決めていなかったようだ。
サヨ「――あっ。あの、すみません。シロガネさんのこと、気を遣うのを忘れていましたね」
シロガネ「いえ……謝らなくても……。わたしが……気を遣わせちゃってるだけなので……」
リサ「サヨもリンコも気にし過ぎだって。たった一晩のことなんだから」
アコ「だよね、リサ姉。むしろ今まで交流が無い組み合わせの方がいいかも」
ユキナ「私は……できれば、助っ人の二人とは違う場所がいいわ」
みんなそれぞれなリアクション。
こういう時のまとめ役、イマイさんは困ったように笑って一歩前へ。
リサ「じゃあその助っ人さんも入れて相談しよっか。クジでもいいかもね」
サヨ「そうですね。全員が揃ってからで」
ひとまず話はまとまり、わたし達は適当にロッジの一軒の中へ。わたしの家とはまた違う木の香りを感じつつドアをくぐると、賑やかな声が聞こえてきた。ここのロッジで当たりみたいだ。
カスミ「へぇー、ランちゃんも歌が好きなの? 私も私も!」
ラン「好きっていうか、歌に適性があったから使ってるだけっていうか……。あと近い。少し離れて」
カスミ「えーっ? そうかな?」
ロッジのリビング。大きなソファーの中央で、二人が仲良さげに話していた。会話の内容は元の世界の出会ったばかりの頃を彷彿とさせるけれど、服装は大きく異なる。
ミタケさんは前に会った時と同じ服。白くて綺麗な脚が映える黒のショートパンツ。肩、脇、胸元も大胆に露出している、袖がセパレートで分かれたオフショルダーのシャツ。
腰に剣の鞘を取り付けるホルダーを巻いており、頭には花の――この世界にも蘭があるのかな? 蘭と思われる花のデザインの髪飾りを付けている。
ミタケさんらしい服装だけど、戦いに関しては身軽すぎて心配になってしまう。
トヤマさんのファッションもまた特徴的だ。
フリフリフワフワな――例えるなら、パステルパレットのアイドル衣装みたいな服。白を基調にしたフリルが付いている服に、リボンや柄で赤のアクセント。白のニーソックスに白い靴。前の世界と違って髪を下ろしていて、ちょっと大人びた印象だ。
ぱっと見、旅には向かない愛らしい服装。その上から何故か全身をすっぽり覆うローブを身に着けているのだから、謎が謎を呼ぶ。
今は座っているから中が見えているけど……普段は見せたくないのだろうか。
リサ「どーもー。遅れてごめんね」
ラン「――あ、リサさん。これで全員集合ですか」
サヨ「そうですね。お二人とも今回はありがとうございます」
荷物を玄関の横へ下ろして、わたし達は二人の向かいに座る。何時間も歩いてきた疲れはやっぱりあったみたいで、座った瞬間身体がずいぶんと楽になったような気がした。
――さて。これで一泊二日の修行を行うメンバーが揃った。まず挨拶かな? と周りの様子を窺っているとトヤマさんが口を開いた。
カスミ「……はじめまして、皆さん。私はトヤマカスミ。かの有名な英雄の娘と勇者、その仲間……こうして伝説のような方々のお姿を拝見できること、力になれること、とても嬉しく思います」キラキラ
全員『……』
まず記憶がある四人は思ったことだろう。誰だコレ、と。
姿勢を正し服を見せないようローブを直したトヤマさんは、ニコリと笑って胸の前で指先を合わせる。す、すごい。しおらしいトヤマさんの破壊力がこうも大きいとは。なんだか輝いて見える。
サヨ「……トヤマさん、完全に記憶が無いですね」
ユキナ「みたいね。光って見えるわ」
アコ「び、美少女オーラ全開ですね」
みんな同じことを思っていたのか、こそこそと内緒話。
元の世界とは真逆とも言える自己紹介。その違和感は、大きな身振り手振りと元気な声で喋るユキナさんを想像してもらえればよく分かると思う。
カスミ「……?」クビカシゲ
リサ「ちょっとみんな。ほら、早く自己紹介返す」
ユキナ「――あっ、ごめんなさい。そうね、まず私から……」
トヤマさんの変わり様に驚くのは、前の世界の記憶がある人だけ。記憶の無い三人に怪しまれては色々面倒だ。咳払いをするとユキナさんは至って平静に自己紹介をはじめた。
ユキナさん、イマイさん、ヒカワさん、一人一人順番に終え、最後にわたし。当然問題は何も起こらなかったのだけど……。
カスミ「ではこの方が勇者と……」
わたしの自己紹介が終わると、トヤマさんがキラキラとした目を向けてきた。仲間を見つけたみたいな嬉しそうな表情に、覚えのないわたしは戸惑ってしまう。
リンコ「は、はい……」
カスミ「うんうん、なるほどなるほど……噂通りの……」
興味津々な顔でこくこくと何度も頷くトヤマさん。ミタケさんとの会話もそうだし、好奇心、というか根っこの部分は全然変わっていないみたいで良かった。何が噂通りなのかは激しく気になるけど……。
ラン「……」ジーッ
リンコ「……?」
トヤマさんに凝視され、困って視線を泳がせていると、ふとミタケさんの様子に気づく。わたしをジッと見ていた彼女は、トヤマさんへ視線を動かし微笑を浮かべる。
微かな、色んな感情とも取れる表情だけれど、前の世界のミタケさんと同じなら――それは多分、『納得』の感情。トヤマさんの言葉に何か納得したことがあるらしい。
トヤマさんのローブを見ていたから……彼女がそれを着ている理由が分かった、とか? 他にローブで気づくこともないだろうから。
なんだろう……すごく気になる。
サヨ「……では、早速修行を始めましょうか」
ユキナ「そうね。時間が惜しいわ」
自己紹介を終えてすぐ二人が立ち上がる。ぼーっと思考を繰り広げていたわたしもつられてソファーから腰を上げた。
ラン「――それで、内容は決まってるんですか?」
サヨ「一応は。二人一組で、三組に分かれて、回復が得意なイマイさんとトヤマさんの片方は三組のサポートに回ってもらいます。修行の内容は相談して決めてください」
これは事前に聞いた通り。この初日の修行のチーム分けで、わたしは魔法の使い方を習得する。
そして2日目は助っ人も含めてわたしの技術面を強化。
身体能力、魔力しかないわたしが戦えるようにする。それがこの合宿の目的である。
リサ「てことで、早速チーム決めしよっか」
疑われずに魔法を教えてもらうなら、記憶のあるロゼリアの誰かがいいと思うけど……誰と組もうかな……。
↓1 誰とチームを組む?
(選んだ人物の好感度上昇。好感度が8以上のヒロインの場合、コンマ75以上で……)
『カスミと組む』
ゾロ目なのでボーナスを。
現メンバーで高好感度のキャラ(アコ、リサ、サヨ、ラン)から一人選択。そのキャラとのR-18なシーンが発生します。
さっきの安価で起こる可能性のあったイベントで、魔力のコントロールをうまくできなかった反動で発情状態のリンコをなんとか治めるようなシチュエーションです。希望シチュとかプレイ内容があれば、私ができる範囲で採用していきます
↓1 四人の中からキャラを一人指名
↓1~3くらい 希望シチュなどなど
選択 『ラン』
シチュの方も把握しました
彼女、トヤマさんなら前のわたしのことも人づてでしか聞いていないだろうから、大丈夫……だよね? それにトヤマさん自身のことも知っておきたい。今回の合宿で協力をこぎつけられなければ、彼女はまた旅に出てしまうことになるのだからせめて顔を覚えてもらわないと。
リンコ「あの……わたし、トヤマさんと……組みます」
ユキナ「……大丈夫なの? 無難にサヨやアコにしておけば……」
サヨ「いえ、いい選択かもしれません」
アコ「サヨさん、どういうことですか?」
イマイさんと話しているトヤマさん、ミタケさんと少し離れ、わたし達は作戦会議。心配そうにするアコちゃんとユキナさんに対し、ヒカワさんは感心した様子で頷く。
サヨ「トヤマさんなら前のシロガネさんのことも知らないでしょうし、イマイさん、ミタケさんと比べればやりやすい筈です。
それに……勇者という肩書きに反応していましたし、私達のことを印象付けたりするにはシロガネさんが一番だと思います」
ユキナ「なるほど、確かにそうね。加えて、前の世界の記憶がどうすれば手に入るのかも分からないから――」
アコ「勇者のりんりんに任せた方が良さそう、ってことですね!」
……確かに。わたしが勇者だと聞いた時の反応が頭から抜けていた。これで余計にトヤマさんと組む理由が増えたというわけだ。
顎に指を当て思案顔をしていたユキナさんは、一度コクリと頷き視線をわたしへ向ける。
ユキナ「リンコ、任せていいかしら」
リンコ「はい……頑張ります……」
ユキナさんに何かを任せられる。プレッシャーでもあるけれど、喜びの方が大きくて。わたしは握りこぶしに力を込めて首を縦に振る。そこへイマイさんがミタケさん、トヤマさんを連れてタイミングよくやって来た。
リサ「4人とも、話し合い終わった? こっちはランが――」
ラン「シロカネさん、あたしが調子見てあげますよ」
リサ「あはは。ランがリンコとやりたいってさ」
ラン「別にやりたいってわけでは。……まぁ、いいですけど」
ツンとした態度でそっぽを向くミタケさん。そんな彼女にイマイさんはどこか嬉しげだ。
わたしを指名……。ミタケさんはわたしに疑いを持ってそうだし、今は避けてたきたいところ。やはりここは話し合った通り……。
ユキナ「それについてだけど、ごめんなさい。リンコはトヤマさんと組んでもらうことにしたわ」
リサ「あ、そうなの? まぁリンコは魔法使い寄りだし、そっちの方がいいのかも。ランもそれでいい?」
ラン「……まあ」
不服そうだけど、ミタケさんも了承。そっぽ向いたまま頷き、ちらりとわたしを見る。
ラン「調子、取り戻してくださいよ、シロカネさん」
紫色の瞳にまっすぐ見つめられ、痛いところを突かれたわたしはドキッとしてしまう。うう……やっぱり不審に思われてるみたい……。
リンコ「えっと……メテオはしないように……努力します」
ラン「……そういうことにしておきます」
助け舟を待つのは疑いを深めるだけ。頭をフル回転させてなんとかわたしが答えると、ミタケさんは肩を竦めた。
あえて見逃されたような台詞である。これはますます、今回の合宿で感覚を掴まなければならなくなってしまった。元から命懸けの戦いではあるのだけど、こうして疑いを向けられるとどうしても焦ってしまう。
息苦しさを感じ、深く呼吸をするわたし。すると、隣にいたアコちゃんがわたしの手を握る。
アコ「りんりん、落ち着いて。大丈夫だよ、前のりんりんと今のりんりん、見た目も性格もすごくそっくりだし」
リンコ「うん……。ありがとう、アコちゃん……」
わたしの気持ちに気づいての励まし。アコちゃんの笑顔を見ていると、やっぱり落ち着く。柔らかい髪の毛を撫でてお礼を告げると、彼女はくすぐったそうに笑う。
ラン「……仲、いいですよね」
アコ「ふふーん、りんりんのパートナーだからね!」
ラン「え? すごい年の差……」
アコ「そ、そんなに開いてないから!」
多分身長で見られてるのかな……。二人のやり取りを眺め、微笑ましさに笑顔を浮かべる。
さっきまで感じていた不安はもう無くなっていた。アコちゃんはやっぱり頼りになるなぁ。
○
カスミ「えっと、私を選んでくれてありがとう、リンコさん」
それからロッジを出て、川を超えた先。みんなと別れ、わたし達のチームはキャンプ場の一番奥へ向かうことになった。魔法も使うだろうし、せっかくの機会だ。スペースは広めの方がいいだろう。
リンコ「いえ……こちらこそ、協力してもらって……」
カスミ「あぁ、それはいいんです! あの勇者様に会えてすっごく嬉しいですから!」
気が抜けているのか、それとも意図的なのか、トヤマさんの淑やかオーラはその輝きを潜め、今は前の世界とほぼ同じ状態。私の前、背中からも分かるくらいはしゃいだ歩き方で、ぴょこぴょこ跳ねる。
リンコ「『あの』……というと……?」
カスミ「――えっ? それはそのー、世界を救っている偉い人に会えて、ってことで」
なんだか歯切れが悪い。様子の変わり様に首を傾げていると、前を行く彼女が不意に立ち止まる。よく見ればいつの間にか目的地に到着していた。
くるっと振り向いたトヤマさんは、頬をほんのり赤くさせて決心したかのような表情で口を開く。
カスミ「それと、生えてる女の人に会えたから、つい嬉しくて……」
リンコ「生え……? ――えっ!?」
一瞬何のことか分からなかったけど、表情から察した。
つまりトヤマさんもわたしに付いているアレが生えているのだろう。
なるほど、わたしが勇者と聞いた時の反応はそれが理由か。勇者にアレがあるのは有名、みたい。……街の人たちはそんな素振りは見せないんだけど、恥ずかしい。
……ということは、まさか。
リンコ「……セタさんは、パートナー……ですか?」
カスミ「……」コクリ
一緒に旅をしているトヤマさんとセタさんが肉体関係を……。ウシゴメさんやウエハラさんが聞いたら卒倒しそう……。
リンコ「……」
トヤマさんとセタさんの絡み……。いけない、想像したら反応しちゃいそう。
カスミ「だからそういうことも相談したりできたら嬉しいなぁ、って」
リンコ「な、なるほど……そういうことなら……」
この世界ではわたしとトヤマさんのような人は少数派なのだろう。わたしも転生初日は混乱したし、相談したい気持ちはよく分かる。
わたしも今現在ですらアコちゃん、ツルマキさん、マルヤマさんと関係を持っているし、続いていくだろうから、そっち関連の情報が欲しいところ。拒む理由はない。
カスミ「本当ですかっ? わー、嬉しいなぁ!」
打ち解ける、印象付けることは成功、とみていいかな。ニコニコと笑うトヤマさんは可愛らしくはしゃいで、ストレートに嬉しさを口にする。こういうところ、アコちゃんに似てるなぁ。
カスミ「――っと、着きましたね。この辺りでどうです?」
リンコ「……大丈夫、そうです」
ヒカワさんに聞いた道を進んでいくと、開けた場所に出る。そこは周りを森で囲まれた、円形の広場みたいになっていた。ここでなら存分に特訓できることだろう。
とりあえず中心へ。トヤマさんと少し距離を開いて向き合い、わたしは口を開く。
リンコ「あの……トヤマさんは……魔法を使うとき、どうしています……?」
カスミ「えっ?」
リンコ「い、一応……参考に……」
カスミ「んーと……あ、そうだっ。詠唱も魔力の込め方も大事ですけど、やっぱり魔法はイメージですね」
リンコ「イメージ……」
イメージ。勿論大切なことなのだろうけど、いまいちピンとこなかった。メテオを発動した時はイメージなんて全然していなかったから。
カスミ「どんな魔法を発動させるのか、どんな効果を発揮させるのか、どんな力加減でどう動かすのか。その具体的なイメージが魔法のクオリティに関わりますから。
詠唱もそのイメージの補助を果たしていて、力加減に効果、魔力の動かし方――簡単に言えば、一つのイメージを普遍化させたものです」
……なるほど。つまり詠唱は答えの決まっている方程式のようなもので、プログラミングされたものを実行しているにすぎない、と。大まかに言えばそうなのだろう。
そしてその実行にはマシンの力――唱える人のスペックと、コードを打ち込む人の力量と必要なものと不要なものを見極める柔軟さが大きくかかわる。
さらにいえば、イメージと実力さえあれば詠唱無しでもあらゆる魔法を創り出し、唱えることができるのだろう。
わたしが『メテオ』という響きだけで、それを唱えてしまったように。
カスミ「――って、感じですね。どうですっ?」
リンコ「すごく……分かりやすかったです……」
分かりやすい説明に、普遍化、なんて前の世界のトヤマさんから出てくるとは思えない言葉。記憶の有る無しをまじまじと感じるけれど、この説明は有り難かった。
詠唱は魔法の安定性を高める。そしてイメージさえ掴めていれば詠唱無しでも発動できる。
シラサギさんやイマイさんには聞けなかった、初歩中の初歩……の理論なのだろう。
うん……このことを知った今なら、もっとうまく魔法を扱えそう。
カスミ「よかったー。私、感覚的なところが多くて。リンコさんに伝わったなら安心です!」
リンコ「ありがとうございました……。えっと……」
カスミ「修行、ですよね。何します?」
魔法を使う練習をしたい、と率直に言えば怪しまれてしまうかもしれないから……なんとか、わたしの状況がバレないような言い回しで……。
リンコ「……お互いに魔法の質を確かめませんか? 何事も基礎が大切ですから……唱えて、確認を」
カスミ「……」
リンコ「……」ダラダラ
黙り込むトヤマさんに、冷や汗をかくわたし。さ、流石に魔法が得意な勇者が言うようなことじゃなかったかな……? 気まずい沈黙は数秒続き、
カスミ「なるほど! いいですね!」
ぱあっと明るい笑顔を浮かべるトヤマさんに、胸を撫で下ろす。微塵も怪しむ様子が無いところに、元の世界の面影を感じてしまう。
カスミ「分かりましたっ。それじゃあ順番に」
リンコ「はい……。わたしはこの参考書から、魔法を選びますね……」
事前にヒカワさんから渡されていた本を、持ってきていた鞄から取り出す。
各属性の初級中級上級――幅広い魔法について記された物で、詠唱や効果その他細かいこともよく分かる優れもの、らしい。物凄く分厚くて、わたしの鞄の中をほぼ占領してしまっているのだけど。
カスミ「はいっ。私も見せてもらっていいですか?」
リンコ「……はい」
本を開いて、練習によさそうな魔法を探す。
異世界のわたしはユキナさんやアコちゃんの話によると、ほぼ属性を問わずに攻撃、補助と幅広い魔法を唱えられ、特に得意だったのが火の魔法だったらしい。
唯一苦手なのが回復系統の魔法。元々才能の要素が大きい分野なのもあって、わたしは簡単な怪我を時間をかけて回復する程度しか使えなかった、とか。
けれど唱えられる魔法の属性が1、2種類なのがこの世界の一般的な魔法使い。それを考えるとちょっと回復ができないだけで、属性を選ばず魔法を唱えられた勇者は別格の存在と言えるだろう。
わたしに別格と呼ばれるだけの実力があるといいけれど……。
リンコ「えっと……とりあえず手始めに……」
1 攻撃魔法
2 補助魔法
3 いかがわしい魔法
↓1、2、3 なんの魔法を練習する? 一つ選択
(初期リンコの習得する魔法となります。攻撃魔法が選ばれなかった場合は、一つ自動的に覚えます。魔法名や効果も記載可)
【遅れてまことにすみません!
今回の更新分はここまでです】
2 ドラゴンクレスト
対象に魔翌力で作り出した竜を象る兜を装備させる。この兜を装備しているものは攻撃翌力と防御力が上がる。ただし、軽度のバーサク状態になる。
一度魔法掛けると術者が倒れても魔翌力に込めた分は持続するほか、対象者が魔翌力を注ぐことで効果を延長できる。
【ありがとうございます。
魔法、一つ採用です。>>313の魔法練習に関する安価はまだ2つ募集してますので、是非とも】
1 ダークストーム
闇の風を巻き起こし相手を切り裂く
対人間様の魔法で魔物や魔族への効果は薄い
2(3?) ギャンブルヒール
大回復をする。運が悪いと爆発したり発情したりする
3 クンタクルミレワ
対象 自分自身
効果 胸から母乳が出る 母乳には魔翌力が含まれており魔翌力が多いほど質の良い母乳になる 当然母乳になった分の魔翌力は減る
【魔法どもです。はみ出たものも全て採用しますねー
続きを書き始めるので、明日以降投稿になるかと】
習得魔法更新
ドラゴンクレスト >>314
ダークストーム >>318
ギャンブルヒール >>319
クンタクルミレワ >>320
メテオ
リンコ「手始めに……これを……」
ドラゴンクレスト。火属性補助魔法の上級と記されている魔法だ。これを唱えられるなら、わたしもそれなりな実力を持っているということ。逆に言えば、以前の勇者ならこれくらいは簡単に唱えられていた筈だ。
カスミ「おぉー。これを手始め、なんて。流石リンコ先輩」
リンコ「相手がいる時しか練習できませんから……」
本の説明をしっかり読んで、詠唱の呪文を覚える。これでイメージも発動の手順もしっかり記憶できた。後は細かなコントロールだけ。
リンコ「……トヤマさん、いきますよ……?」
カスミ「はい! 一応武器を置いといて……離れて……よし。大丈夫ですよ!」
凶暴化する可能性を考慮したのだろう。武器の杖や荷物を置いて、それらから距離を取るトヤマさん。元気よく手を振る彼女へ頷いて、わたしは詠唱をはじめる。
リンコ「――」ブツブツ
集中、イメージ……。本に載っていた魔法の効果を詠唱に乗せて再現する……。
呪文によって魔力が身体から抜かれていくのが分かる。それがわたしの前で練られ、形になり、そして――
リンコ「……ドラゴンクレスト!」
完成する。わたしは叫び、手を前方のトヤマさんへとかざす。すると光が収束し、フードを外した彼女の頭の上に竜の頭部を模した兜が現れる。
赤く輝く、半透明のそれはまさしく本で見た通り……いや、ちょっと細かいところに模様が入ってたりするかな……? デザインが微妙に違うのは、わたしのイメージが影響しているのだろう。
カスミ「おお! すごいです、リンコ先輩! 魔力がぐおーっと」
効果も上々なようだ。ぴょんぴょんとテンション高めに跳ねる彼女を見て、ひとまず安心する。
攻撃魔力と防御の向上。魔法使いにはうってつけの補助魔法だろう。
カスミ「――ただ、やっぱり暴れたくなりますね」
勿論、便利で強力な魔法には代価も存在する。笑顔のまま若干の狂気を目に滲ませ、トヤマさんは手にしている杖をブンブンと振り回す。
強化と少しの暴走効果。魔法を唱える程度には頭が働くけれど、理性が薄まるらしい。
カスミ「と、とりあえず木に魔法を試し打ち……あ」
杖をピタッと止めたトヤマさんが危ないセリフを口にした瞬間、タイミングよく頭上の兜が消える。……魔力を少なめにしておいてよかった。
リンコ「成功、したみたいですけど……トヤマさん、大丈夫ですか……?」
カスミ「はい! ちょっと暴走しちゃいましたね」
フードを被り、恥ずかしそうにトヤマさんが笑う。本の通りの効果がしっかり現れ、消えた。これなら使用しても問題ないだろう。
使うタイミングを間違えたりしたら、大変なことになりそうだから、そこは気をつけておこう。
カスミ「じゃあ次……あ。リクエストいいですか?」
再び本を開き集合するわたし達。次はトヤマさんの番。本を彼女に差し出そうとすると、彼女は右手をピンと挙げた。
リンコ「リクエスト……?」
カスミ「せっかくなんで、魔法が得意な勇者様の腕前を見てみたいです!」
リンコ「それでいいなら……わたしは構いませんけど……」
むしろ魔法に慣れていないわたしには助かる話。1つ目は無事成功させたことだし、ここでレパートリーを少しでも増やしておきたいところだ。
わたしが答えると、トヤマさんは張り切った様子で渡された本をパラパラと開く。そしてとあるページで手を止めた。
カスミ「それじゃあ……闇の魔法をお願いします! 私、闇の魔法って唱えられなくて。見てみたいんです」
リンコ「はい……やってみます」
唱える前にその頁へしっかり目を通す。
ダークストーム。闇の風を巻き起こして相手を切り裂く中級闇魔法。その起源は魔物が使っていた魔法のようで、それを人間も唱えられるようアレンジしたものらしい。
人間に効果が高い反面、魔物や魔族への効果は薄い。わたしが覚えても、これを使うタイミングがあるのかは分からない。が、何事も挑戦。やってみて損はない筈。
リンコ「……いきます」
トヤマさんから離れ、詠唱を始める。
闇の旋風……アコちゃんが好きそうな魔法。人を切り裂く闇の力――悪人を無力化させるくらいの力加減で、やりすぎずに……。
リンコ「ダークストーム!」
杖を前に。直後、わたしの前方に小規模の風が吹く。吹き荒ぶ紫色の旋風は空を裂き、地面に痕を残して消滅する。
人に当たった時どうなるか。それは分からないけれど、とりあえずは成功していそうだ。
リンコ「……どうですか?」
カスミ「――すっごいです! リンコ先輩って闇の魔法もいつも唱えてるんですかっ?」
リンコ「そんなことは……ないですけど……」
キラキラと紫色の瞳を輝かせて、素早くわたしの前へやって来るトヤマさん。
予想外に大げさなくらい褒められ、わたしは戸惑ってしまう。トヤマさんの魔法のレベルによるけど、彼女から見てわたしの魔法は絶賛するくらいの腕前、なのかな。
初めて唱えた魔法で、おそらく経験者のトヤマさんに褒められた。わたしにも少しは魔法の才能があるのだと思ってもいいのだろう。
……わたし、ではなくて『勇者のリンコ』の才能をそのまま引き継いでいるだけなのかもしれないけど。
カスミ「……勇者様? どうしました?」
リンコ「あ……なんでも、ないです……」
カスミ「そうですか? んーと……次はどの魔法にしてもらおうかなー」
あ、次もわたしなんだ……。
リンコ「それなら……これ、唱えてみたいです……」
本をめくり、とある回復魔法を指差す。
勇者が苦手としていた回復魔法。けれどこのギャンブルヒールならば、簡単な難易度で大きな回復を期待できる。確率で小規模な爆発をしたり、発情したりとデメリットはあるのだけど。
それでも、成功するまで唱えられる余裕があるなら有用な魔法だと思うのだ。
カスミ「ギャンブルヒール……? 面白そうですね!」
リンコ「はい……。唱えられれば、回復が使えますから……」
カスミ「回復かぁ。光属性と水属性くらいでしか唱えられませんからね。リンコ先輩はその属性が唱えられなかったり?」
リンコ「いえ……。回復が苦手なだけで……」
カスミ「じゃあイメージの方ですね。よし、練習しましょう!」
本を鞄に。また彼女は少し離れて、ばっちこいと手を広げる。爆発したり発情したりする危険性を考えてるのかな……? 少し心配になるけど……。
リンコ「えいっ……! ギャンブルヒール……!」
遠慮せずトヤマさんの胸を借りることに。詠唱自体は問題なく、本のように光が放たれトヤマさんの周囲を回り、消える。
本によるとこの後、3通りの効果からランダムに魔法が発動するようだ。
リンコ「……」
発動する……ようだけど、シーンと静寂が数秒続く。緊張した面持ちのトヤマさんは棒立ちのままで、少ししてゆっくり首を傾げた。
カスミ「あのー……もしかして成功ですか?」
リンコ「……みたいです」
おそらく、回復が発動したから何も無いのだろう。なんだかハズレみたいなリアクションをしてしまうわたし達。すると突然、トヤマさんがバッと手を広げた。
何も言わずとも分かる。彼女が何を求めているのか。わたしは一度コクリと頷いて、杖をかざした。
リンコ「えいっ」ハツドウ
途端、ボンッと小さな破裂音。前をしっかり見ていたわたしには、何が起こったのか分かった。トヤマさんの前方、風船が割れたような小規模な爆発が起こり、彼女の身体を少量の魔力が叩きつけたのだ。
威力はゲーム序盤の雑魚敵――スライムの体当たりくらいだろうけど、音に驚いたところを魔力に叩かれたトヤマさんは綺麗に後ろ向きに倒れた。
カスミ「ナ、ナイス爆発……先輩」ヘヘヘ
何が彼女をここまでさせたのか……よく分からない。
○
また本を開いてしばらく。とあるページでトヤマさんが大きな声を上げた。
カスミ「あっ! 私これがいいと思います!」
またわたしへのリクエスト……。けれど後輩の望みを聞くのも、やぶさかではない。キラキラした目で彼女が指差す魔法を見てみる。 『クンタクルミレワ』。
対象は自分自身で、唱えた者の胸から母乳が出るようになるらしい。その母乳には魔力が込められており、身体に宿る魔力の量が多いほど質のよいものになるようだ。
元は孤児の世話であったり、母乳のでない母親が赤子を育てるため開発された魔法なのだが、今は性生活の充実に利用されることが多く――
リンコ「……」
よく見るとこの辺りのページ、それ系の魔法が多かった。避妊だったり、お尻の洗浄だったり、感度云々、真面目な文章なのに内容が完全に十八禁である。
リンコ「……あの、この手の魔法って……普通に、使われてたり……?」
カスミ「風俗でも、普通の家庭でも使ってますよ? ……リンコ先輩はアコと使わないんですか?」
ワクワク。そんな擬音が出てきそうな表情で、トヤマさんが詰め寄る。この世界のトヤマさんはその手の話に興味津々みたい。前の世界じゃ話題に上がることもなかったのに。
リンコ「えっと……あまり……」
カスミ「お、おぉー……子作りしちゃってるんですね……」
リンコ「っ!?」
一方わたしはその話題にあまり耐性が無いみたいだ。知る顔から出てきた聞き慣れない台詞に、顔が赤くなるのが分かった。
子作り……それはそうなんだけど、実際言われると罪悪感が……。って、今のセリフは元の世界に置き換えるとゴムを使ってない宣言みたいなもの……? き、気をつけないと。
リンコ「そ、それはともかく……っ。どうしてこの魔法を……?」
カスミ「え? それはですね」
あっさりと、苦し紛れの誤魔化しに乗ってくれるトヤマさん。彼女はにっこりと笑って言う。
カスミ「リンコ先輩から母乳が出たら……最強じゃないですか?」
リンコ「……」
何一つ理解はできなかった。
何も答えず真顔でいるわたしを見て、大体察したのだろう。トヤマさんは続ける。
カスミ「じゃあパートナーの……アコの母乳と聞いて、どうです?」
リンコ「……!!」
脳内にピシャーンと電流のようにイメージが走る。小柄でまだまだあどけないアコちゃんの、ぷっくらとした膨らみから流れる白濁液。それを見て恥じらうアコちゃんに、わたしを誘うように微笑むアコちゃんに、母性全開で微笑みアコちゃんにエトセトラ……。
そのワードを聞いた途端に、妄想が頭の中にあふれる。な、なるほど……母乳なんて考えたこともないけれど、なんかイイ……ような気が……。
リンコ「でも……わたしが対象で需要が……」
カスミ「いいえ……アコもリンコ先輩と同じように思ってるんですよ!」バーン
リンコ「……そ、そうなんですか……?」
アコちゃんも? そ、そうなのかな……?
でもわたしとアコちゃんはパートナー。恋人みたいなものだし、そういう興味があるのは当然のこと……なのかもしれない。あれだけエッチなことに積極的なアコちゃんを知っていると否定はできない。
リンコ「……分かりました。やってみます……」
カスミ「はいっ。――あ、唱えてみるだけでいいですからね」
リンコ「……はい」
目を閉じて集中。これまでの魔法よりも難易度は低いから、いつも通りやれば問題なく唱えられるだろう。短めの詠唱を終え、わたしは自分の身体にかすかな違和感を覚える。
↓1 リンコのソレの効果は……。 一つ選択
1 普通においしいだけ
2 魔力も傷も回復するエリクサー的な
3 催淫、感度上昇
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