勇者「新状態異常・熱中症」 (21)
勇者「あ~……暑い……」
女戦士「はい、勇者! 100Gね!」
勇者「あ、しまったっ! ……くそっ!」チャリンッ
魔法使い「この箱の中にも、だいぶお金が貯まったね」ジャラジャラ
女僧侶「なにしろ“あの言葉”をいったら、100Gの罰金ってルールですからね!」
女戦士「だけどこう気温が高いと、みんなあの言葉をいっちゃうのも無理ないよ」
勇者「もう……やめにしようか、このゲーム」
三人「賛成!!!」
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女戦士「ぐっ……」フラッ
勇者「どうした?」
女戦士「なんだか、気分が悪くなってきて……めまいも……」
勇者「もしかして、モンスターから毒でも浴びたのか!?」
勇者「僧侶、回復してあげてくれ!」
女僧侶「分かりました!」
女僧侶「光よ、体内を浄化したまえ……」パァァァ…
勇者(この呪文はどんな毒も癒やせるから、きっと……)
女戦士「ハァ……ハァ……」
女僧侶「おかしいですね……ちっとも治りません!」
勇者「ええ……!? どうしてだ!?」
魔法使い「うう……」ガクッ
勇者「魔法使い!? どうした!?」
魔法使い「僕も……なんだか急に体がだるくなって……」
女僧侶「私も……呪文を唱えてたら、手足が痺れてきて……」
勇者「み、みんな!」
勇者「……う」クラッ
勇者(俺も体の自由がきかなくなってきた……。頭がぼんやりする……)
勇者「まずい……このままじゃ全滅する!」
勇者「近くの町に急ごう!」
~ 町 ~
勇者「……なんだこれ」
グダー…
勇者「町の人が……みんな倒れてる!」
女戦士「どうなってんだよ、これ……」
魔法使い「見たところ僕たちと同じ症状だね……」
女僧侶「ダメです! やっぱり呪文が効きません!」パァァァ…
勇者「何かの状態異常であることは間違いなさそうだが……」
勇者「毒か? 麻痺か? 眠りか?」
女僧侶「でも、それらなら私の呪文で癒やせるはずですが……」
医者「これは……毒でも麻痺でも眠りでもありませんよ」
勇者「あなたは……医者!? では、これらの症状は一体なんなんですか?」
医者「これは……“熱中症”です」
勇者「熱中症?」
女戦士「なんだいそれ?」
医者「一言でいうなら、暑さに体が対応できず引き起こされる病気です」
医者「めまいや吐き気、筋肉がつる、といった症状が起こり、最悪の場合死に至ります」
魔法使い「死んじゃうの……!?」
医者「決して今に始まった病気ではないのですが……」
医者「今年、この大陸は気温が例年よりだいぶ高くなってますから」
医者「このように、町の人間ほぼ全員が熱中症になる、という事態が起こってしまったのです」
勇者「だけど、俺たちは普段からモンスターと戦って鍛えてるんだ」
勇者「たかが暑さぐらいで……」
医者「いえ、熱中症になる原因は気温や湿度という環境だけではなく」
医者「その人自身が激しい運動をしたり、疲労が蓄積したり、というところも大きいんです」
医者「そういう意味では、勇者さんたちは一般人より熱中症になるリスクが高いといえるでしょう」
医者「それでも、そうして動けているのは普段の鍛錬のたまもの、といったところでしょうか」
勇者「鍛えてどうにかなるものでもないのか……」
魔法使い「だけど、僕たちは魔王を倒すために旅を続けなきゃならない」
魔法使い「熱中症を予防するには、どうしたらいいの?」
医者「涼しい格好をして、こまめに水分を補給することです」
医者「それと、塩分の補給も忘れてはなりません」
女僧侶「塩分を? どうしてです?」
医者「体内の塩分は汗で流れ出てしまいますから」
医者「あとは、なるべく日差しを歩かないようにしたり」
医者「体調に異変を感じたらすぐに休息を取る、といった工夫も大切でしょう」
女戦士「もし、熱中症になっちゃったら、どうすればいいんだい?」
医者「症状の重さによって対処法は変わりますが……」
医者「意識の有無や呼びかけへの反応の有無などを確認して」
医者「すみやかに涼しい場所に運んだり、水分や塩分を補給させることです」
医者「重症だった場合は、医療機関に受診させましょう」
医者「熱中症は気づいたら手遅れ、というケースが多いのでとにかくためらわないことです」
女戦士「迷ったら熱中症だと思えってことだね……」
女僧侶「よく分かりました!」
勇者「さて、俺たちを襲った症状の正体が分かったところで……」
勇者「町のみんなを救わないと!」
女戦士「話してるうちにだいぶ回復してきたよ」
魔法使い「僕は魔法で水を呼び出します!」
女僧侶「皆さんの体力を回復させます! 熱中症に直接作用しなくても、効果はあるはず!」
勇者「うん、ただし、まだ気温は高いから無理はするな!」
勇者「俺たちまで完全にダウンしたらオシマイだからな!」
医者「私一人では手一杯になっていたのです。ありがとうございます……」
……
……
勇者「ふぅ……どうにか死者を出さずに済んだな」
女戦士「お年寄りや子供には危ない人もいたから、間一髪だったね」
魔法使い「しかし、熱中症か……恐るべき病気だね。新しい状態異常とでもいうべきかな」
女僧侶「いったいなぜ、こんなことになってしまったんでしょう?」
勇者「そんなの決まってるさ」
勇者「気温を高め、熱中症の脅威をここまで広げたのは、魔王の仕業だ!」
女戦士「魔王の……!」
勇者「だって、熱中症が広がれば、当然人間サイドには大きなダメージがあるし」
勇者「俺たちの冒険するスピードもどんどん落ちていくわけだからな」
勇者「何もしなくても、人類を追い詰めることができる」
魔法使い「そういうことか……」
女僧侶「ひどいことをしますね……」
勇者「だけど、俺たちは立ち止まるわけにはいかない」
勇者「非道なる魔王に、熱中症より熱い鉄槌を浴びせるために!」
勇者「おのれっ、魔王……ッ!」
……
……
魔王「あぢぃ~……」
側近「しっかりして下さい! 魔王様!」
側近「ああもう、こんな密室でぶ厚いマントをはおってるから、すっかり熱中症に……」
魔王「み、水……」
側近「どうぞ、塩水です!」サッ
魔王「……死ぬかと思った」
魔王「これというのも、勇者がとっととこの城に来ないのが悪いのだ……!」
魔王「おそらく、この異常な暑さによる私の自滅を狙っているのだろうが、そうはいかん!」
魔王「おのれ、勇者……ッ!」
おわり
皆さん熱中症には十分注意しましょう
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